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事件 平成 28年 (ワ) 20818号 特許権侵害差止請求事件

原告株式会社むつ家電特機
同 訴訟代理人弁護士芦川淳一
同 五藤昭雄
同 訴訟代理人弁理士小林正治
同 小林正英
被告有限会社シンワ (以下「被告シンワ」という。)
被告進和化学工業株式会社 (以下「被告進和化学工業」という。)
上記二名訴訟代理人弁護士 高橋勇雄
同 後藤充隆
同 宮森惣平
同 訴訟代理人弁理士永井義久
同 下山冨士男
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2017/04/19
権利種別 特許権
主文 1 被告シンワは,別紙1イ号物件目録記載の連続貝係止具及びそれをロール状に巻いたロール状連続貝係止具を販売し,又は販売の申出をしてはならない。
2 被告進和化学工業は,別紙1イ号物件目録記載の連1続貝係止具及びそれをロール状に巻いたロール状連続貝係止具を製造し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。
3 被告シンワは,別紙1イ号物件目録記載の連続貝係止具及びそれをロール状に巻いたロール状連続貝係止具を廃棄せよ。
4 被告進和化学工業は,別紙1イ号物件目録記載の連続貝係止具及びそれをロール状に巻いたロール状連続貝係止具を廃棄せよ。
5 訴訟費用は,被告らの負担とする。
6 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
主文第1項ないし第4項と同旨
事案の概要
1 本件は,発明の名称を「連続貝係止具とロール状連続貝係止具」とする特許第4802252号の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。また,本件特許の願書に添付した明細書及び図面を併せて「本件明細書等」という。)の特許権者である原告が,別紙1イ号物件目録記載の各製品(以下,同目録の「写真1,2に示される連続貝係止具」を「被告製品1」〔なお,同目録の写真1は,係止具の連続体を20本の単位で切断した形態,写真2は,3本の単位で切断した形態の一部(中央部分)を示すものである。〕と,「その連続貝係止具を写真3,4に示されるようにロール状に巻いたロール状連続貝係止具」を「被告製品2」といい,被告製品1と同2を併せて「被告各製品」という。)は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲(以下,単に「特許請求の範囲」ということが 2 ある。)の請求項1,同2及び同3(以下,単に「請求項1」などということがある。)記載の各発明(以下,請求項の番号に応じて「本件発明1」などといい,本件特許のうち当該発明に対応するものを「本件発明1についての特許」などということがある。また,本件発明1ないし同3を併せて「本件各発明」という。)の技術的範囲に属するから,被告らが被告各製品を販売し若しくは販売の申出をし,また,被告進和化学工業において被告各製品を製造する行為は,いずれも本件特許権を侵害する行為であると主張して,特許法100条1項及び同条2項に基づき,被告シンワに対しては被告各製品の販売及び販売の申出の差止め並びに被告各製品の廃棄を,被告進和化学工業に対しては被告各製品の製造,販売及び販売の申出の差止め並びに被告各製品の廃棄をそれぞれ求めた事案である。
2 前提事実等(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実等) (1) 当事者 原告は,帆立貝等の養殖用資材,機器の製造販売等を主な業務とする株式会社である。
被告シンワは,帆立貝等の養殖用資材,機器の販売を主な業務とする特例有限会社(会社法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律2条1項)である。
被告進和化学工業は,ヘルメットなどの樹脂製品の製造販売を主な業務とする株式会社である。
(2) 本件特許権 ア 原告は,次の内容の本件特許権につき,本件特許の出願人であり,特許権者であったA(以下「本件特許の出願人」という。)から特定承継を受けた(平成23年9月28日受付)(甲1,2)。
特 許 番 号 特許第4802252号 登 録 日 平成23年8月12日 出 願 番 号 特願2009-31797号 3 出 願 日 平成21年2月13日 分 割 の 表 示 特願2006-144703号の分割 原 出 願 日 平成18年5月24日 公 開 番 号 特開2009-100778号 公 開 日 平成21年5月14日 発 明 の 名 称 連続貝係止具とロール状連続貝係止具 特許請求の範囲 別紙2特許公報の【特許請求の範囲】欄記載のとおり イ 本件発明1(請求項1記載の発明)は,次のとおり(以下,分説に係る各構成要件を符号に対応して「構成要件1A」などという。),構成要件1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G及び1Hに分説することができる。
1A:ロープと貝にあけた孔に差し込みできる細長の基材(1)と,その軸方向 両端側の夫々に突設された貝止め突起(2)と,夫々の貝止め突起(2) よりも内側に貝止め突起(2)と同方向にハ字状に突設された2本のロー プ止め突起(3)を備えた貝係止具(11)が基材(1)の間隔をあけて 平行に多数本連結されて樹脂成型された連続貝係止具において, 1B:前記多数本の貝係止具(11)がロープ止め突起(3)を同じ向きにして 多数本配列され, 1C:配列方向に隣接する貝係止具(11)のロープ止め突起(3)の先端が, 他方の貝係止具(11)の基材から離れて平行に配列され, 1D:隣接する基材(1)同士はロープ止め突起(3)の外側が可撓性連結材(1 3)で連結されず,ロープ止め突起(3)の内側が2本の可撓性連結材(1 3)と一体に樹脂成型されて連結され, 1E:可撓性連結材(13)はロープ止め突起(3)よりも細く且つロール状に 巻き取り可能な可撓性を備えた細紐状であり, 1F:前記2本の可撓性連結材(13)による連結箇所は,2本のロープ止め突 起(3)の夫々から内側に離れた箇所であり且つ前記2本のロープ止め突 4 起(3)間の中心よりも夫々のロープ止め突起(3)寄りの箇所として, 1G:2本の可撓性連結材(13)を切断すると,その切り残し突起(16)が 2本のロープ止め突起(3)の内側に残るようにした 1H:ことを特徴とする連続貝係止具。
ウ 本件発明2(請求項2記載の発明)は,構成要件1A,同1B,同1C,同1D,同1E,同1F,同1G及び同1H(本件発明1〔引用に係る請求項1記載の発明〕の構成要件)と,次の構成要件2Aに分説することができる。
2A:2本の可撓性連結材(13)の間隔が,貝係止具(11)が差し込まれる 縦ロープ(C)の直径よりも広い エ 本件発明3(請求項3記載の発明)は,構成要件1A,同1B,同1C,同1D,同1E,同1F,同1G及び同1H(本件発明1〔引用に係る請求項1記載の発明〕の構成要件),又は構成要件1A,同1B,同1C,同1D,同1E,同1F,同1G,同1H及び同2A(本件発明2〔引用に係る請求項2記載の発明〕の構成要件)と,次の構成要件3A及び3Bに分説することができる。
3A:連続貝係止具(14)が,シート(15)を宛がって又は宛がわずに,ロ ール状に巻かれた 3B:ことを特徴とするロール状連続貝係止具。
(3) 前訴和解 原告と被告らは,原告外1名と被告ら外3名との間の訴訟事件(当庁平成19年(ワ)第12683号商標権侵害差止等請求事件及び当庁平成20年(ワ)第10540号売掛金請求事件とが併合審理された訴訟事件)において,平成21年3月27日,次の条項を含む裁判上の和解(以下「前訴和解」という。)をした(和解条項における「原告ら」には本件の原告が,和解条項における「被告ら」には本件の被告らが,それぞれ含まれる。また,前訴和解にいう「別紙被告製品目録2記載の形体の帆立貝養殖用係止具」を「和解製品」という。)。
「2〔意匠権及び原告特許目録12(分割出願分)に基づく差止め関係〕 5 (1) ア 被告らは,別紙物件目録8及び9記載の帆立貝養殖用貝係止具の形体の 帆立貝養殖用貝係止具の製造等(判決注:製造,販売及び頒布を指す。)をし ない。
イ 原告らと被告らは,別紙被告製品目録2記載の形体の帆立貝養殖用貝係 止具が上記ア記載の帆立貝養殖用貝係止具に当たらないことを確認する。」「7〔原告ら商標(名称及びマーク),意匠(形体),特許(技術)〕(1) ア 被告らは,原告らに対し,別紙原告標章目録1から6及び同8,別紙原 告意匠目録並びに原告特許目録記載の商標権,意匠権,及び特許権について, その商標と同一又は類似の標章の使用,その意匠と同一又は類似の意匠の実施, その特許発明技術的範囲及び均等範囲に属する帆立貝養殖用貝係止具の実施 をしない。
イ 原告らと被告らは,別紙被告製品目録1記載の形体かつ色彩及び同2記 載の形体の帆立貝養殖用係止具が上記ア記載の意匠と同一若しくは類似の意匠 の実施に当たらず,又は,上記ア記載の特許発明技術的範囲及び均等範囲に 属する帆立貝養殖用係止具に当たらないことを確認する。
・・・(中略)・・・(2) 被告らは,今後,原告らが上記商標権,意匠権及び特許権に基づき被告らに 対し侵害訴訟の提起又は仮処分の申立てをした場合を除き,上記権利につき, 自ら又は第三者を用いて無効審判請求をしない。」「(別紙)原告特許目録 ・・・(中略)・・・ 12 連続貝係止具とロール状連続貝係止具 特願2009-031797」 6 「(別紙) 」 (以上につき,甲4,5) (4) 被告らの行為 ア 被告進和化学工業は,平成19年9月から現在に至るまで,業として,被告製品2を製造し,これらを被告シンワに販売している。
被告シンワは,平成19年9月から現在に至るまで,業として,被告製品2を販売し,販売の申出をしている。
イ 被告製品1は,別紙1イ号物件目録の写真1,2に示される連続貝係止具(貝係止具の連続体)である(なお,同目録の写真1は,貝係止具の連続体を貝係止具20本の単位で切断した形態,写真2は,貝係止具3本の単位で切断した形態の一部〔中央部分〕を示すものである。)。
被告製品2は,被告製品1を同目録の写真3,4に示されるようにロール状に巻 7 いた連続貝係止具である(したがって,被告製品1は,被告製品2の生産に用いられるものである。)。
ウ 被告らは,被告各製品が構成要件1A,同1B,同1C,同1H,同2Aを充足することを争っておらず,また,被告製品2が構成要件3A及び同3Bを充足することを争っていない。
エ 和解製品と被告製品1との各形状(貝係止具3本の単位で切断した形態の一部〔中央部分〕)を比較すると,別紙3「和解製品とイ号物件との対比写真」のとおりである(甲6)。
3 争点 (1) 被告各製品は本件各発明の技術的範囲に属するか(争点1) ア 被告各製品は構成要件1Dを充足するか(争点1-1) イ 被告各製品は構成要件1Eを充足するか(争点1-2) ウ 被告各製品は構成要件1Fを充足するか(争点1-3) エ 被告各製品は構成要件1Gを充足するか(争点1-4) オ 被告各製品は,本件各発明の作用効果を奏しないために,本件各発明の技術的範囲に含まれないといえるか(争点1-5) (2) 本件各発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものと認められるか(争点2) ア 無効理由1(進歩性欠如)は認められるか(争点2-1) イ 無効理由2(サポート要件違反)は認められるか(争点2-2) (3) 被告各製品に対する本件特許権の行使が,前訴和解の効力により否定されるか(争点3) 4 争点に対する当事者の主張 (1) 争点1(被告各製品は本件各発明の技術的範囲に属するか)について ア 争点1-1(被告各製品は構成要件1Dを充足するか)について 【原告の主張】 8 構成要件1Dは,「隣接する基材(1)同士はロープ止め突起(3)の外側が可撓性連結材(13)で連結されず,ロープ止め突起(3)の内側が2本の可撓性連結材(13)と一体に樹脂成型されて連結され,」と規定する。
これに対し,被告各製品においては,別紙1イ号物件目録の写真1,2に示されるとおり,隣接する基材(写真1,2において,横方向に直線上に伸びている太い部材)同士はロープ止め突起の外側が可撓性連結材において連結されておらず,ロープ止め突起の内側が2本の可撓性連結材と一体に樹脂成型されて連結されている。
したがって,被告各製品は,構成要件1Dを充足する。
【被告らの主張】 被告各製品において,可撓性連結材を切断機械(ピンセッター)により切断すると,下図における符号20のような形状となるから,切り残された可撓性連結材それ自体がロープ止め突起としての機能を果たし,下図の符号3の部材(原告の主張に係る「ロープ止め突起」,すなわち別紙1イ号物件目録の写真2において「ロープ止め突起」と付記されている部材)は,副次的な機能を果たすにすぎないものである。そうすると,被告各製品において本件各発明の「ロープ止め突起(3)」に相当するのは,原告の主張に係る「ロープ止め突起」ではなく,可撓性連結材(下図の符号20の部材)というべきである。
そうすると,本件各発明の「ロープ止め突起(3)」に相当する被告各製品の可撓性連結材は,それ自体が隣接する基材を連結しているから,被告各製品は,構成要件1Dの「隣接する基材(1)同士はロープ止め突起(3)の外側が可撓性連結材(13)で連結されず,ロープ止め突起(3)の内側が2本の可撓性連結材(13)と一体に樹脂成型されて連結され,」を充足しない。
9 イ 争点1-2(被告各製品は構成要件1Eを充足するか)について 【原告の主張】 (ア) 構成要件1E充足性 構成要件1Eは,「可撓性連結材(13)はロープ止め突起(3)よりも細く且つロール状に巻き取り可能な可撓性を備えた細紐状であり, と規定する。
」 ここで,「細紐状」とは,ロール状に巻くことができる程度に細い紐状のものを意味する。
これに対し,被告各製品における可撓性連結材は,ロープ止め突起よりも細く(甲21),かつロール状に巻き取り可能な可撓性を備えた細紐状であり,その上部が直線状,下部がハ字状であり,その下部に半球状又は略半球状の膨出連結部を備えたものである。
したがって,被告各製品は,構成要件1Eを充足する。
(イ) 被告らの主張に対し 被告らは,構成要件1Eの「可撓性連結材(13)」について,「当該連結材が,貝係止具の配列方向(基材1)と直交する方向に直線状に沿い,基材1を介して長く連続している」ことを要するなどと主張するが,特許請求の範囲にそのような限定はなく,被告らの解釈は失当である。
【被告らの主張】 (ア) 「ロープ止め突起(3)よりも細く」との要件を充足しないこと 仮に,被告各製品における前頁の図の符号3の部材(原告の主張に係る「ロープ止め突起」,すなわち別紙1イ号物件目録の写真2において「ロープ止め突起」と付記されている部材)が本件各発明の「ロープ止め突起(3)」に相当するとしても,構成要件1Eにいう「可撓性連結材(13)はロープ止め突起(3)よりも細く」とは,本件明細書等の【図8】からして,ロープ止め突起(3)よりも有意差をもって細いことを要すると解すべきところ,被告各製品の可撓性連結材は,原告の主張に係る「ロープ止め突起」と実質的に同じ太さであるから,被告各製品は,構成要件1Eの「可撓性連結材(13)はロープ止め突起(3)よりも細く」を充 10 足しない。
(イ) 「細紐状であり」との要件を充足しないこと「紐」とは,一般に物を縛るためなどに用いる細長いものを意味するところ,「細紐状」との限定は,本件特許の願書に最初に添付した特許請求の範囲(以下「出願時特許請求の範囲」という。)にはなく,本件特許の出願人がした平成21年8月10日付け手続補正書(乙7)に係る補正により加えられたものであり,同日付け意見書(乙8)では,同補正の根拠は本件特許の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下,これらを併せて「出願時明細書等」という。)の【図8】(a)(下図)などとされているところ,同【図8】(a)について,出願時明細書等は,縦ロープCと並行して基材1を介して連続する連結材を「丸紐状の可撓性連結材13」などと説明していること(段落【0026】等)などからして,構成要件1Eの「可撓性連結材(13)は・・・細紐状であり」とは,当該連結材が,貝係止具の配列方向(基材1)と直交する方向に直線状に沿い,基材1を介して長く連続していることを意味すると解される。
また,【図8】と実質的に同一の形態についての意匠出願手続(審決取消訴訟を含む。)における原告の主張及び裁判所の説示からして,可撓性連結材とロープ止 11 め突起とをもってほぼ三角形の空間を形成する必要があるというべきである(乙33,34)。
これに対し,被告各製品の可撓性連結材は,下の写真(貝係止具3本の単位で切断した形態の一部〔中央部分〕)に見られるように,可撓性連結材が原告の主張に係る「ロープ止め突起」寄りに傾斜しているため,可撓性連結材の根元部(基材の上部との接続部分)と先端部(基材の下部との接続部分)とが基材の横方向にずれており,貝係止具の配列方向と直交する方向に直線状に沿っておらず,基材を介して長く連続しているということもできない。また,原告の主張に係る「ロープ止め突起」とともにほぼ三角形の空間を形成しているということもできない。
したがって,被告各製品は,構成要件1Eの「可撓性連結材(13)は・・・細紐状であり」を充足しない。
ウ 争点1-3(被告各製品は構成要件1Fを充足するか)について 【原告の主張】 (ア) 構成要件1F充足性 構成要件1Fは,「前記2本の可撓性連結材(13)による連結箇所は,2本のロープ止め突起(3)の夫々から内側に離れた箇所であり且つ前記2本のロープ止め突起(3)間の中心よりも夫々のロープ止め突起(3)寄りの箇所として,」と規定する。
これに対し,被告各製品において,2本の可撓性連結材は,2本のロープ止め突起のそれぞれから内側に離れた箇所であって,かつ当該2本のロープ止め突起間の 12 中心よりもそれぞれのロープ止め突起寄りの箇所で,隣接する基材を連結している。
したがって,被告各製品は構成要件1Fを充足する。
(イ) 被告らの主張に対し 被告らは,ロープ止め突起の先端を基準として内側・外側を議論しているが,ロープ止め突起の先端を基準にすることに意味はないというべきであり,同主張は失当である。
【被告らの主張】 構成要件1Fは,「可撓性連結材(13)」による連結箇所が,「前記2本のロープ止め突起(3)の夫々から内側に離れた箇所」にあると規定する。
これに対し,被告各製品における可撓性連結材による連結箇所のうち,根元部(基材の上部)は,下の写真(貝係止具3本の単位で切断した形態の一部〔中央部分〕)に見られるように,原告の主張に係る「ロープ止め突起」の先端を基準とすると,同先端から当該「ロープ止め突起」の根元側,すなわち,外側に離れた箇所にある。
したがって,仮に,被告各製品における原告の主張に係る「ロープ止め突起」が本件各発明の「ロープ止め突起(3)」に相当するとしても,被告各製品は,構成要件1Fを充足しない。
エ 争点1-4(被告各製品は構成要件1Gを充足するか)について 【原告の主張】 (ア) 構成要件1G充足性 構成要件1Gは,「2本の可撓性連結材(13)を切断すると,その切り残し突 13 起(16)が2本のロープ止め突起(3)の内側に残るようにした」と規定する。
ここでの「内側」とは,貝係止具の軸方向の内側を指すというべきである。
これに対し,被告各製品において,2本の可撓性連結材を切断すると,その切り残し突起が2本のロープ止め突起の内側に残るようになっている。
したがって,被告各製品は構成要件1Gを充足する。
(イ) 被告らの主張に対し 被告らの主張のうち,ロープ止め突起の先端を基準として外側・内側を論ずることに意味がないことは,既に争点1-3において主張したとおりである。
また,被告各製品において,可撓性連結材がロープ止め突起の内側において基材と連結されている以上,その切断によって生じる切り残し突起が,ロープ止め突起の内側に残ることは明らかである。
被告らは,被告各製品の可撓性連結材の切り残し突起の高さがロープ止め突起よりも高くなるように切断した場合には,構成要件1Gを充足しないなどと主張するが,そのように切断された場合であっても,切り残し突起は,ロープ止め突起からみて貝係止具の軸方向の内側に残るのであるから,構成要件1Gを充足することに変わりはないというべきである。
【被告らの主張】 (ア) 構成要件1Gは,「可撓性連結材(13)」を切断した際の切り残し突起(16)が,「2本のロープ止め突起(3)の内側に残るようにした」と規定する。
ここで,構成要件1Gは,出願時特許請求の範囲には記載されておらず,本件特許の出願人がした平成23年6月27日付け手続補正書(乙18)に係る補正により加えられたものであり,同日付け意見書(乙19)は,同補正の根拠を出願時明細書等の段落【0026】及び【図8】(b)(下図)に求めているところ,上記段落【0026】及び【図8】(b)の記載を斟酌すると,@切り残し突起の左右方向の位置は,基材(1)の上側と下側とで同じ位置にあることを要し,また,A切り残し突起の突出長さは,ロープ止め突起(3)の突出長さと比して短いことを要 14 すると解すべきである。
(イ) これに対し,被告各製品の可撓性連結材の根元部(基材の上部)の連結部分は,原告の主張に係る「ロープ止め突起」の先端よりも外側にあり,可撓性連結材を切断した際に,切り残し突起も当該「ロープ止め突起」の先端を基準として外側に残るから,そもそも切り残し突起が「2本のロープ止め突起の内側に残る」とはいえない。
また,被告各製品の可撓性連結材の切り残し突起は,基材の上部と下部とで場所が異なるから,構成要件1Gに関する上記(ア)@の解釈を前提とすると,同構成要件を充足しない。
さらに,被告各製品の可撓性連結材を切断すると,下図のように原告の主張に係る「ロープ止め突起」(下図の符号3の部材)よりも背の高い切り残しとなる(被告各製品の切断方法は,争点1-5において後述する。)ことから,構成要件1Gに関する上記(ア)Aの解釈を前提とすると,同構成要件を充足しない。
以上の理由により,仮に,被告各製品における原告の主張に係る「ロープ止め突起」が本件各発明の「ロープ止め突起(3)」に相当するとしても,被告各製品は構成要件1Gを充足しない。
オ 争点1-5(被告各製品は,本件各発明の作用効果を奏しないために,本件各発明の技術的範囲に含まれないといえるか)について 【被告らの主張】 15 (ア) 本件各発明の作用効果 本件各発明の作用効果は,本件明細書等の記載によれば,「貝係止具11を一本ずつ切断するときに可撓性連結材13の一部が図8(b)のように切り残し突起16となって基材1に残って基材1から突出しても,図8(a)のように貝係止具11を縦ロープCに差し込むときに切り残し突起16が邪魔にならず,縦ロープCが2本のロープ止め突起3間におさまり安定する。又,貝係止具11を手で持って貝へ差し込むときに手(指)が切り残し突起16に当たらないため手が損傷したり,薄い手袋を手に嵌めて前記差込作業をしても手袋が破れたりしにくい。」(段落【0008】),「このようにすると貝係止具11を一本ずつ切断する場合に可撓性連結材13の一部が切り残されて図8(b)のように基材1に切り残し突起16が発生しても,それが縦ロープCへの差込時に邪魔になることがない。また,一本ずつ切断された貝係止具11を貝の孔に差し込むために手で持っても切り残し突起16の部分が手に当たらないため手が怪我したり,手に嵌めた作業用手袋が破れたりしにくい。」(段落【0026】)というものである。
(イ) 本件各発明の作用効果を奏する可撓性連結材の切断方法 ところで,本件各発明の構成要件1Gにいう「切り残し突起」は,本件特許の出願人がした平成23年6月27日付け手続補正書(乙18)に係る補正により加えられたものであり,同日付け意見書(乙19)は,同補正の根拠を出願時明細書等の段落【0026】及び【図8】(b)(下図)に求めていたところ,【図8】(b)では,切り残し突起16が,極めて短く記載されている。
そうすると,本件各発明は,「可撓性連結材(13)」を,下図の「切断@」及び「切断A」の2箇所で切断した場合にのみ,その作用効果を奏するというべきである。すなわち,例えば,「可撓性連結材(13)」を「切断@」の箇所のみで切断し 16 た場合には,切り残し突起が「ロープ止め突起(3)」よりも高く突出することとなって,当該切り残し突起部分が,縦ロープCへの差込時に邪魔になるとともに,手に当たって怪我したり作業用手袋が破れたりする可能性があるから,本件各発明の作用効果を奏しないのである。
(ウ) 被告各製品の切断方法 被告各製品は,切断機械(ピンセッター)を用いて切断することが予定されているものである。切断機械により被告各製品を切断する際には,上記「切断@」及び「切断A」のように,可撓性連結材を2箇所で切断することはできないから,必然的に「切断@」の部分でのみ切断することになるのである。
このように,切断機械で切断された被告各製品の形状は下図のとおりであり,切り残し突起(下図の20の部材)が原告の主張に係る「ロープ止め突起」(下図の3の部材)よりも高く突出することとなる。そうすると,本件各発明の作用効果であるところの,縦ロープへの差込時に邪魔にならないとか,切り残し突起が手に当たって怪我をしたり手袋が破れたりしにくいとの作用効果を奏しないことになる。
したがって,被告各製品は,本件各発明の作用効果を奏しないから,本件各発明の技術的範囲に含まれないというべきである。
【原告の主張】 被告らが主張する「切断@」でのみ可撓性連結材を切断した場合であっても,依然として切り残し突起はロープ止め突起の内側(貝係止具の軸方向に内側)に残るのであるから,この場合でも,貝係止具を手で持って貝に差し込む際に,切り残し 17 突起が手に当たらず,怪我をしたり手袋が破れたりしにくいとの作用効果を奏する。
したがって,被告らの主張には理由がない。
(2) 争点2(本件各発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものと認められるか)について ア 争点2-1(無効理由1〔進歩性欠如〕は認められるか)について 【被告らの主張】 (ア) 乙20発明 本件特許の原出願日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2002-136241号公報(以下「乙20公報」という。)には,養殖帆立貝の掛止具に関する次の発明(以下「乙20発明」という。)が記載されている(なお,本件特許の原出願日前に日本国内において頒布された実用新案登録第3109948号公報〔以下「乙21公報」という。 にも実質的に同一の発明が開示されている。 。
〕 )「ロープ60と帆立貝61A,61Bの掛止孔63に挿入される尖鋭部4,6と,径方向外方に突出している規制片4a,6aと,軸部3の中間部周に軸方向に離間して径方向外方に『ハ』の字型に突設した抜け止め部31,32を備えた掛止具単体2が,平行し,隣接する各軸部3を軸方向に離間して連結した帯状掛止具21において,それら掛止具単体2は軸部3を軸方向に離間して2本の可撓性連結材28,29で連結され,帯状掛止具21はロール状に巻き回すことができる連続貝係止具。」 (イ) 本件発明1と乙20発明の対比 乙20発明の「ロープ60」は本件発明1の「ロープ」に,乙20発明の「帆立貝61A,61B」は本件発明1の「貝」に,乙20発明の「掛止孔63」は本 件発明1の「孔」に,乙20発明の「尖鋭部4,6と軸部3」は本件発明1の「基材(1)」に,乙20発明の「規制片4a,6a」は本件発明1の「貝止め突起(2)」に,乙20発明の「抜け止め部31,32」は本件発明1の「ロープ止め突起(3)」に,乙20発明の「掛止具単体2」は本件発明1の「貝係止具(11)」に,乙20発明の「帯状掛止具21」は本件発明1の「連続貝係止具」に,乙20発明の「可 18 撓性連結片28,29」は本件発明1の「可撓性連結材(13)」に,乙20発明の「切り離し部28a,29a」は本件発明1の「切り残し突起(16)」に,それぞれ相当する。
そうすると,本件発明1と乙20発明とは,次の各点において相違し(以下,番号に対応して「相違点@」などという。),その余の点において一致しているというべきである。
@ 貝係止具(11)(掛止具単体2)が可撓性連結材(13)(可撓性連結片28,29)で連結される箇所が,本件発明1ではロープ止め突起(3)の内側であってロープ止め突起(3)から離れた箇所であり,かつ2本のロープ止め突起(3)の間の中心よりもそれぞれのロープ止め突起(3)寄りの箇所であるのに対し,乙20発明ではロープ止め突起(3)(抜け止め部31,32)から離れた外側であって,ロープ止め突起(3)(抜け止め部31,32)から離れた場所である点。
A 本件発明1の連続貝係止具は,貝係止具(11)の基材(1)同士が可撓性連結材(13)で一体に樹脂成型されて連結しているのに対し,乙20発明は,その材質や一体に成型されているかが不明である点。
B 本件発明1の可撓性連結材(13)はロープ止め突起(3)よりも細い細紐状であるのに対し,乙20発明は可撓性連結材(13)(可撓性連結片28,29)の形状が不明である点。
C 本件発明1の可撓性連結材(13)を切断すると,その切り残し突起(16)がロープ止め突起(3)の内側に残るのに対し,乙20発明の可撓性連結材(13)(可撓性連結片28,29)を切断すると,その切り残し突起(16)(切り離し部28a,29a)はロープ止め突起(3)(抜け止め部31,32)の外側に残る点。
(ウ) 相違点に係る容易想到性について a 相違点@について 本件特許の原出願日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2004-20 19 8619号公報(以下「乙22公報」という。)には,乙20発明と同様の貝の係止具に関する発明について,基材をロープ止め突起の内側において1本の可撓性連結材で連結する構成,基材を2本の可撓性連結材で連結する構成,基材をロープ止め突起とは接しない可撓性連結材で連結する構成が開示されており,基材を連結する可撓性連結材が,ロープ止め突起との関係で内側・外側のいずれに位置してもよいことが示されている。そうすると,乙20公報及び乙22公報に接した当業者は,可撓性連結材の連結位置を適宜選択できたといえ,乙20発明においてロープ止め突起から離れた外側にある可撓性連結材を,ロープ止め突起の内側であってロープ止め突起から離れた箇所であり,かつ2本のロープ止め突起の間の中心よりもそれぞれのロープ止め突起寄りの箇所に設けるという,相違点@に係る本件発明1の構成とすることは,本件特許の原出願日当時,容易に想到し得たことである。
また,乙22公報には,ロープ止め突起が基材を連結する機能をも兼ねた構成と,ロープ止め突起が基材を連結していない構成の両方が開示されており,ロープ止め突起で基材を連結するかは,当業者が適宜選択できることが示されている。これを考慮すると,当業者において,乙22公報記載の構成のうち可撓性連結材がロープ止め突起の内側にある構成を選択した上で,ロープ止め突起をもっては基材を連結しない構成を採用してこれを乙20発明に適用し,相違点@に係る本件発明1の構成とすることは,本件特許の原出願日当時,容易に想到し得たことである。
さらに,乙22公報の【図27】には,ロープ止め突起の内側に1本の幅広の可撓性連結材を設ける構成が開示されているが,可撓性連結材を幅広とする目的は,横方向によじれないようにすることにあるというのであるから(段落【0052】 , )当業者において,乙22公報の【図27】の構成を選択した上で,幅広の可撓性連結材を2本の細紐状の可撓性連結材として横方向によじれないという目的を達成しつつ,これを乙20発明に適用し,相違点@に係る本件発明1の構成とすることは,本件特許の原出願日当時,容易に想到し得たことである。
b 相違点Aについて 20 乙20公報には,乙20発明とは異なる実施の形態(【図1】ないし【図5】)について,「掛止具単体2・・・及び帯状掛止具1は,可撓性連結材8・・・,9・・・を含んで全一体に合成樹脂で形成する。」(段落【0036】)との記載があり,かつ,乙20発明に対応する実施の形態(【図11】ないし【図15】)について,「図11〜図15は,図1〜図5の掛止具の他の実施形態を示す」旨が記載されている(段落【0050】)。したがって,当業者において,乙20発明の連結貝掛止具につき,貝係止具の基材同士が可撓性連結材で一体に樹脂成型されて連結するものとして,相違点Aに係る本件発明1の構成とすることは,本件特許の原出願日当時,容易に想到し得たことである。
c 相違点Bについて 乙22公報には,連結貝係止具において,隣接する基材2を,2本のロープ止め突起間において可撓性連結材8により連結し,これを可撓性のある紐とすることによって,曲がりやすくなり,連結貝係止具をロール状に巻きやすくなり,また切断もしやすくなる旨が開示されている(段落【0022】,【図6】)。また,可撓性連結材は剛性を必要としないことから,当業者において,資材コストを削減するために可撓性連結材を細くする動機付けがある。
したがって,当業者において,乙20発明の可撓性連結材の形状をロープ止め突起よりも細い細紐状として,相違点Bに係る本件発明1の構成とすることは,本件特許の原出願日当時,容易に想到し得たことである。
d 相違点Cについて 相違点@について主張したとおり,当業者において,乙20発明のロープ止め突起から離れた外側にある可撓性連結材を,ロープ止め突起の内側であってロープ止め突起から離れた箇所であり,かつ2本のロープ止め突起の間の中心よりもそれぞれのロープ止め突起寄りの箇所に設ける構成とすることは,本件特許の原出願日当時,容易に想到し得たものであるところ,かかる構成を採用した場合には,同可撓性連結材を切断した場合に,その切り残し突起はロープ止め突起の内側に残ること 21 となるから,当然に相違点Cに係る本件発明1の構成となるものである。
(エ) 本件発明2について 本件発明2は,引用に係る本件発明1の構成要件に加え,構成要件2Aの「2本の可撓性連結材(13)の間隔が,貝係止具(11)が差し込まれる縦ロープ(C)の直径よりも広い」を発明特定事項とするところ,乙20公報には,可撓性連結材の切り離し部8a,9a間にロープ60が位置する構成が開示されているから 【図 (5】),当業者において,乙20発明の可撓性連結材の間隔を,ロープの直径よりも広い構成とすることは,本件特許の原出願日当時,容易に想到し得たことである。
(オ) 本件発明3について 本件発明3は,引用に係る本件発明1又は同2の構成要件に加え,構成要件3Aの「連続貝係止具(14)が,シート(15)を宛がって又は宛がわずに,ロール状に巻かれた」及び同3Bの「ことを特徴とするロール状連続貝係止具」を発明特定事項とするところ,乙20公報には,連続貝係止具をロール状に巻く構成が開示されており(【図12】等),乙22公報には,連続貝係止具をロール状に巻く際にシートにあてがう構成が開示されているから(【請求項16】等),当業者において,乙20発明の連続貝係止具を,シートをあてがい,又はあてがわずにロール状に巻く構成とすることは,本件特許の原出願日当時,容易に想到し得たことである。
(カ) 小括 以上に検討したとおり,本件各発明は,いずれも,当業者において,乙20発明に乙22公報に開示された構成を適用することなどにより,本件特許の原出願日当時,容易に発明することができたものである。よって,本件各発明についての特許は,いずれも特許法29条2項に違反してされたものであり,特許法123条1項2号の無効理由があるから,特許無効審判により無効とされるべきものである。
したがって,原告は,被告らに対し,本件特許権を行使することができない(特許法104条の3第1項)。
22 【原告の主張】 被告らが先行文献として挙げる乙20公報,乙21公報及び乙22公報のいずれにも,2本の可撓性連結材による連結箇所を,2本のロープ止め突起のそれぞれから内側に離れた箇所であり,かつ前記2本のロープ止め突起の中心よりもそれぞれのロープ止め突起寄りの箇所とすることや,2本の可撓性連結材の切り残し突起が2本のロープ止め突起の内側に残るような構成は開示されていないし,かかる構成についての示唆もない。これらの公報に開示された連続貝係止具の構成をどのように組み合わせたとしても,本件発明1に係る構成には至らない。
被告らは,可撓性連結材の連結位置は,当業者が適宜選択できるなどと主張するが,本件特許の出願人が平成23年6月27日付け意見書(乙19)をもって主張したとおり,可撓性連結材の連結位置は,ロール状に巻き取る際の巻きやすさ,ロール状に巻かれた状態からの引き出しやすさ,引き出し時のよじれにくさ,ロープへの差し込みやすさ,ロープからの抜け難さと引き抜きやすさ,貝に貝係止具を差し込むときの作業者の怪我の防止などを勘案して,本件発明1の発明者が開発したものである。そして,本件発明1は,2本の可撓性連結材による連結箇所を,2本のロープ止め突起のそれぞれから内側に離れた箇所であり,かつ前記2本のロープ止め突起の中心よりもそれぞれのロープ止め突起寄りの箇所とし,2本の可撓性連結材の切り残し突起が2本のロープ止め突起の内側に残る構成を採用することにより,貝への差し込み時に,可撓性連結材の切り残し突起が手や手袋に刺さることがなく,また,貝係止具の姿勢を維持して隣接する貝係止具の間隔を維持することができ,ロール状に巻き,またロール状に巻かれた状態から引き出すときによじれにくいといった有利な作用効果を奏するものである。
以上のとおり,本件発明1は,本件特許の原出願日当時,当業者において乙20発明その他被告ら主張に係る公知技術に基づいて容易に発明できたものではなく,進歩性を有するというべきであり,本件発明2及び同3についても同様であるから,本件各発明についての特許が,特許法29条2項の規定に違反してされたというこ 23 とはなく,被告らの主張する無効理由1は成り立たないというべきである。
イ 争点2-2(無効理由2〔サポート要件違反〕は認められるか)について 【被告らの主張】 本件発明1の構成要件1Gは,「2本の可撓性連結材(13)を切断すると,その切り残し突起(16)が2本のロープ止め突起(3)の内側に残るようにした」というものであるところ,本件特許の出願人は,平成23年6月27日付け意見書(乙19)において,構成要件1Gを加えた補正の根拠は,出願時明細書等の段落【0026】及び【図8】(b)(下図)にあると説明しており,同図に示される以外の形態については,本件明細書等に開示も示唆もされていない。
このため,争点1-4において主張したとおり,構成要件1Gの「切り残し突起(16)」は,本件明細書等の【図8】(b)(出願時明細書等の【図8】(b)と同じ。)に示す形態に限られるというべきであるが,仮に,構成要件1Gの「切り残し突起」が,【図8】(b)の形態に限られず,例えば下図(平成23年6月27日付け意見書〔乙19〕の参考図1)の符号16のような形態のものまでも含むというのであれば,かかる形態は,発明の詳細な説明に記載されたものでも示唆されたものでもないから,本件発明1(並びに本件発明1の発明特定事項を引用する本件発明2及び同3)についての特許は,特許法36条6項1号の規定に違反して,発明の詳細な説明に記載されていない発明についてされたものであり,特許法123条1項4号の無効理由があるから,特許無効審判により無効とされるべきものである。
24 したがって,原告は,被告らに対し,本件特許権を行使することができない(特許法104条の3第1項)。
【原告の主張】 本件明細書等の段落【0026】には,「図8(a)の場合はハ字状の2本のロープ止め突起3の間を2本の可撓性連結材13で連結してあり,しかも,2本の可撓性連結材13をロープ止め突起3寄り箇所に配置して,2本の可撓性連結材13の間隔を縦ロープCの直径よりも広くしてある。このようにすると貝係止具11を一本ずつ切断する場合に可撓性連結材13の一部が切り残されて図8(b)のように基材1に切り残し突起16が発生しても,それが縦ロープCへの差込時に邪魔になることがない。」として,構成要件1Gに係る構成が明確に記載されている。
被告らは,例えば平成23年6月27日付け意見書(乙19)の参考図1の符号16のような形態までも含むとすれば,かかる形態は,発明の詳細な説明に記載されていないなどと主張するが,同形態であっても,切り残し突起は2本のロープ止め突起の内側に残ることに変わりはないのであるから,発明の詳細な説明に記載されていないということにはならないというべきである。
したがって,本件各発明についての特許が,特許法36条6項1号の規定に違反してされたということはなく,被告らの主張する無効理由2は成り立たないというべきである。
(3) 争点3(被告各製品に対する本件特許権の行使が,前訴和解の効力により否定されるか)について 【被告らの主張】 ア 前訴和解の和解条項第2項では,「原告特許目録記載12(分割出願分)」,すなわち,本件特許に係る出願と被告らが製造等する製品に関し,まず「(1)ア」において,「被告らは,別紙物件目録8及び9記載の帆立貝養殖用貝係止具の形体の帆立貝養殖用貝係止具の製造等をしない。」として,被告らが,連結材の形体が直線状である貝係止具の製造等をしない旨が約されている。ここで,「別紙物件目録 25 8及び9記載の帆立貝養殖用係止具」は,本件明細書等の【図8】(a)に図示されたものと同一である。
次に,前訴和解の和解条項第2項(1)の「イ」において,「原告らと被告らは,別紙被告製品目録2記載の形体の帆立貝養殖用貝係止具が上記ア記載の帆立貝養殖用係止具に当たらないことを確認する。」として,連結材の形体がロープ止め突起と同じ方向へ屈曲している貝係止具は,上記「別紙物件目録8及び9記載の帆立貝養殖用貝係止具」に「当たらない」旨,すなわち,本件各発明の技術的範囲に属しない旨が確認されている。
以上からすれば,原告と被告らとは,前訴和解において,連結材の形体に着目して,これが直線状のものについては製造等を停止し,ハ字状に屈曲したものについては,当時は出願段階にあった本件特許との関係においても,本件各発明の技術的範囲に属さないものとして,製造等を許容することを約したものと解すべきである。
このことは,前訴和解条項第2項のみならず,第7項(1)イの「原告らと被告らは,別紙被告製品目録1記載の形体かつ色彩及び同2記載の形体の帆立貝養殖用貝係止具が,上記ア記載の意匠と同一若しくは類似の意匠の実施に当たらず,又は,上記ア記載の特許発明技術的範囲及び均等範囲に属する帆立貝養殖用貝係止具に当たらないことを確認する。」との条項にも反映されている。
ここで,被告各製品は,連結材がロープ止め突起と同じ方向へ屈曲している点において,和解製品(「別紙被告製品目録2記載の形体の帆立貝養殖用貝係止具」)の形体と一致するから,原告は,和解製品が本件各発明の技術的範囲に含まれない旨を確認した前訴和解の効力により,被告各製品に対して本件特許権を行使することはできないというべきである。
イ 確かに,被告各製品は,厳密にいえば和解製品とは同一ではなく,前訴和解当時には存在していなかった製品であるが,被告各製品は,和解製品における連結材の連結部分の形状をわずかに変更したにすぎず,いまだ和解製品に具現された技術的思想を有しており,他方,本件各発明の技術的思想とは異なるものである。
26 そもそも和解とは,当事者間が互いに譲歩し,紛争をやめる合意をすることであり,その趣旨からすれば,製品の歩留まりの改善や和解後に発見された問題点を解決するために,和解製品として製造等が許容された製品について,一切の形体の変更をも認めない旨が合意されていたと考えるべきではない。この解釈は,前訴和解の和解条項第2項(1)イには,「上記ア記載の帆立貝養殖用貝係止具には当たらないことを確認する。」との記載があるのみで,「被告らは,被告製品目録2記載の帆立貝養殖用貝係止具以外の連続貝係止具は製造等することができない。」とか「被告製品目録2記載の帆立貝養殖用貝係止具のみ製造等することができる。」などとは記載されていないことからも裏付けられる。
【原告の主張】 ア 和解製品と被告各製品とは,別紙3(貝係止具3本の単位で切断した形態の一部〔中央部分〕の写真)にみるように,少なくとも,@和解製品の連結材の垂直部分の長さH1が,被告各製品の連結材の垂直部分の長さH2よりも短い点,A和解製品の連結材の傾斜部分の長さL1が,被告各製品の連結材の傾斜部分の長さL2よりも長い点,B被告各製品の連結材の根元には半球状又は略半球状の膨出連結部Xが設けられているのに対し,和解製品にはこのような膨出連結部は設けられていない点において異なっており,両者を同一製品ということはできない。そうすると,被告各製品は,前訴和解当時には存在していなかった製品であって,前訴和解での合意の対象に含まれていない。また,本件特許権も,前訴和解当時には登録されていなかったものである。
前訴和解の和解条項においては,被告らが特定の形体の帆立貝養殖用貝係止具の製造等を中止すること,また,和解製品が上記製造等を中止する帆立貝養殖用貝係止具には当たらないことが確認されたのみであり,それ以上のことは取り決められていない。
したがって,前訴和解当時に存在していなかった被告各製品への権利行使が,前訴和解によって否定されることはあり得ない。
27 イ 被告らは,原告と被告らとが,前訴和解において,可撓性連結材の形状に着目して,これが直線状のものについては製造等を停止し,ハ字状に屈曲したものについては,当時は出願段階にあった本件特許との関係においても,本件各発明の技術的範囲に属さないものとして,製造等を許容することを約したなどと主張するが,原告はそのような合意をしていないし,前訴和解の和解条項にもそのような記載はない。被告らの主張は,被告らによる勝手な解釈であって根拠のないものである。
当裁判所の判断
1 本件各発明について (1) 特許請求の範囲 本件各発明に係る特許請求の範囲の記載及びその分説は,前記前提事実(2)のとおりである。
(2) 本件明細書等の記載 本件明細書等には,次の記載がある(甲1)。
ア 技術分野 【0001】本発明は帆立貝,真珠貝,牡蠣,その他の貝(以下,まとめて「貝」という)の養殖に使用されるピン状の貝係止具と,20〜30本前後の貝係止具を一定間隔で連結して樹脂成型した連続貝係止具と,連続貝係止具をロール状に巻いたロール状連続貝係止具に関するものである。
イ 背景技術 【0002】帆立貝の養殖方法の一つとして耳吊養殖がある。これは海面近くに横向きに張った横ロープに,多数の帆立貝を取付けた縦ロープを縦向きに取り付けて海中に吊るす方法である。この場合,図13に示すように縦ロープCへの貝Bの取付けにはピン状の貝係止具Aが使用されている。貝係止具Aは樹脂成型されており細長基材の両端の夫々に貝止め突起Gがあり,基材の中央部に2本のロープ止め突起Eがある。貝係止具Aは縦ロープCに差し込み,貝Bにあけた孔に差し込んで貝Bを貝止め突起Gに係止する(特許文献1)。
28 ウ 発明が解決しようとする課題 【0004】海中に吊られた貝Bが波を受けて貝係止具Aを軸として回転したり揺れたりすると,貝係止具Aの貝止め突起Gが捩れて基材の寝床Iの上に倒伏し,貝Bが貝係止具Aの貝止め突起Gを乗り越えて矢印a方向に抜け落ちる(脱落する)ことがあり,場合によっては貝止め突起Gが切断して貝Bが脱落することがあり,養殖の歩留りが低下し,養殖業者の収益が減収する。
エ 課題を解決するための手段 【0005】本発明の請求項1記載の連続貝係止具は,ロープと貝にあけた孔に差し込みできる細長の基材1と,その軸方向両端側の夫々に突設された貝止め突起2と,夫々の貝止め突起2よりも内側に貝止め突起2と同方向にハ字状に突設された2本のロープ止め突起3を備えた貝係止具11が基材1の間隔をあけて平行に多数本連結されて樹脂成型された連続貝係止具において,前記多数本の貝係止具11がロープ止め突起3を同じ向きにして多数本配列され,配列方向に隣接する貝係止具11のロープ止め突起3の先端が,他方の貝係止具11の基材から離れて平行に配列され,隣接する基材1同士はロープ止め突起3の外側が可撓性連結材13で連結されず,ロープ止め突起3の内側が2本の可撓性連結材13と一体に樹脂成型されて連結され,可撓性連結材13はロープ止め突起3よりも細く且つロール状に巻き取り可能な可撓性を備えた細紐状であり,前記2本の可撓性連結材13による連 29 結箇所は,2本のロープ止め突起3の夫々から内側に離れた箇所であり且つ前記2本のロープ止め突起3間の中心よりも夫々のロープ止め突起3寄りの箇所として,2本の可撓性連結材13を切断すると,その切り残し突起16が2本のロープ止め突起3の内側に残るようにしたものである。請求項2記載のように,前記2本の可撓性連結材13の間隔は,貝係止具11が差し込まれる縦ロープCの直径よりも広くすることができる。
【0006】本発明のロール状連続貝係止具は請求項3記載のように,連続貝係止具14が,シート15を宛がって又は宛がわずに,ロール状に巻かれたものである。
オ 発明の効果 【0007】本発明の連続貝係止具は,貝係止具11が多数本,間隔をあけて配置されると共にロール状に巻回可能な可撓性連結材13で連結されて樹脂成型されているので,貝係止具が数千,数万本と多くなっても,ロール状に巻回して保管,搬送,ピンセッターへのセットができ,コンパクトにまとまるため保管に場所をとらず取り扱いに便利である。
【0008】本発明の連続貝係止具は,隣接する貝係止具11の2本のロープ止め突起3間が2本の可撓性連結材13で連結され,2本の可撓性連結材13は貝係止具11が差し込まれる縦ロープCの直径よりも広い間隔で2本のロープ止め突起3寄り箇所を連結するので,貝係止具11を一本ずつ切断するときに可撓性連結材13の一部が図8(b)のように切り残し突起16となって基材1に残って基材1から突出しても,図8(a)のように貝係止具11を縦ロープCへ差し込むときに切り残し突起16が邪魔にならず,縦ロープCが2本のロープ止め突起3間におさまり安定する。又,貝係止具11を手で持って貝へ差し込むときに手(指)が切り残し突起16に当たらないため手が損傷したり,薄い手袋を手に嵌めて前記差込作業をしても手袋が破れたりしにくい。
【0009】本発明のロール状連続貝係止具は,連続貝係止具14がロール状に 30 巻かれているので,保管,搬送,ピンセッターへのセットができ,コンパクトになるため保管に場所をとらず,取り扱いに便利である。また,シート15を宛がわずにロール状に巻くと巻かれた多数本の貝係止具11の貝止め突起2同士が絡まったり,基材1の端部が曲がったりして,引き出しにくいとか,一本ずつ分離しにくくなるといったことがあるが,シート15を宛がえばそのようなことはなく,連続貝係止具14の巻き戻し(引き出し)がスムースになり,自動ピンセッターでの切断,差込作業が容易になる。
カ 発明を実施するための形態 【0011】(貝係止具の参考例1)本発明の貝係止具の参考例を図1(a)(b)を参照して説明する。この貝係止具11は海中に吊るす縦ロープC(図13)のように貝Bの耳にあけた孔に差し込み可能な細長いピン状の基材1のほぼ中央部にロープ止め突起3が2本突設され,ロープ止め突起3よりも外側の両端部(差し込み端部)4寄りの位置に貝の抜けを防止する貝止め突起2が突設され,これら基材1,貝止め突起2,ロープ止め突起3が一体に樹脂成型されている。
【0012】図1(a)(b)の基材1の形状は丸ピンであるが,その形状は角ピン,他の形状とすることができる。図1(a)(b)の基材1は両端部4を先細りに成型して貝の孔に差し込み易くしてある。基材1のうち貝止め突起2と対向する面(基材内面)には基材1の中央部の外周面よりも一段低い凹部(寝床)17を設けて,貝係止具11を貝の孔に差し込むときに貝止め突起2が寝床17に押し倒されて貝止め突起2の部分が縦ロープC(図13)内を貫通し易くなるようにしてある。差し込み時に倒れた貝止め突起2は縦ロープCを貫通し終えたときも,貝の孔を貫通し終えたときも自己の弾性と復元力で自動的に起立して倒伏する前の元の状態に復元できる。
【0013】2本のロープ止め突起3は縦ロープCに差し込んだ貝係止具11が縦ロープCから抜けるのを阻止するためのものであり,基材1の外周に内向き斜めに突設されてハ字状になっている。図1のロープ止め突起3は基材1の長手方向中 31 央部の外径よりもやや細い丸棒状であるが,それ以外の形状,例えば,三角や四角の棒状とか楕円形の棒状等とすることもでき,太さもそれ以外とすることができる。
【0014】貝止め突起2は図2(a)に明示するように立ち上り部分(根元側)6から基材中央部側に向けて円弧状に湾曲して突設され,先端部5が下向きに湾曲している。先端部5は図2(b)〜(d)のように肉薄にして,海中に吊るしておくと自然に内側に曲がり易くなるようにしてあり,図2(b)では内面が,図2(c)では内面と外面の両面が,図2(d)では外面が肉薄に形成されている。
本発明における貝止め突起2の曲率半径は図示したものよりも大きくても小さくても,また,緩くても急でもよい。さらに,根元側6の曲率半径も図示したものより大きくても小さくてもよい。また,貝止め突起2の長さも貝が抜けない任意長に設定することができる。なお,貝止め突起2は薄片状とか他の形状にすることができる。これらは以下いずれの実施形態でも同様である。
【0023】(貝係止具の参考例5)本発明の貝係止具は図9(b)のように基材1のロープ止め突起3の反対側に補助ロープ止め突起20を突設したものでもよい。補助ロープ止め突起20はロープ止め突起3よりも短くしてあり,ロープ止め突起3の根元の内側でその先端とほぼ同じ位置に同じ間隔で突設されている。
【0025】(集合貝係止具の参考例)本発明の集合貝係止具は図7に示すように前記実施形態の貝係止具11を間隔をあけて多数本平行に配置し,それら貝係止具11の両端をレール状の剛性連結材12で連結して樹脂成型して一枚の集合貝係止具としたものである。剛性連結材12は太い角棒状にして剛性を持たせて,隣接する貝係止具11の間隔が変形しにくくなるようにすると共に,全体も変形しにくくなるようにしてある。剛性連結材12は角棒以外の形状とすることができるが角棒にすると自動切断差込機にセットする場合に横向きにして上下に積層したり,縦向きにして前後或は左右に重ねて配置したりするときに安定する。集合する貝係止具11の本数は任意とすることができるが,作業性,形状保持性等の面から20〜 32 30本程度が望ましい。
【0026】(連続貝係止具の実施形態1)本発明の連続貝係止具は図8(a)のように前記実施形態の貝係止具11を間隔をあけて数千〜数万本平行に配置し,上下に隣接する貝係止具11の基材1間を丸紐状の可撓性連結材13で連結して樹脂成型して図12(a)(b)のようにロール状に巻くことができるようにしたものである。図8(a)の場合はハ字状の2本のロープ止め突起3の間を2本の可撓性連結材13で連結してあり,しかも,2本の可撓性連結材13をロープ止め突起3寄り箇所に配置して,2本の可撓性連結材13の間隔を縦ロープCの直径よりも広くしてある。このようにすると貝係止具11を一本ずつ切断する場合に可撓性連結材13の一部が切り残されて図8(b)のように基材1に切り残し突起16が発生しても,それが縦ロープCへの差込時に邪魔になることがない。また,一本ずつ切断された貝係止具11を貝の孔に差し込むために手で持っても切り残し突起16の部分が手に当たらないため手が怪我したり,手に嵌めた作業用手袋が破れたりしにくい。
【0030】可撓性連結材13はロール状に巻くことができるものであれば前記実施形態以外の形状とすることができ,例えばテープ状の薄長片,角棒状や横長楕円の細長紐等とすることもできる。また,可撓性連結材13での連結箇所もロール状に巻くことができる位置であれば任意に選択することができる。例えば,図11のように間隔をあけて配置された貝係止具11の両端部先端間を図11の仮想線で示すように細紐状の可撓性連結材13で連結成型することもできる。
【0031】(ロール状連続貝係止具の実施の形態)本発明のロール状連続貝係止具は,図8(a),図9(a),図10(a),図11の連続貝係止具14を図12(a)のようにロール状に巻いたものである。この場合,連続貝係止具14に帯状のシート(シートより薄いフィルムを含む)15を添わせてロール状に巻いて,連続貝係止具14の巻層間にシート15を介在させてある。シート15には障子紙のような帯状の紙とか,コピー用紙のような質,厚さの紙を帯状に長くしたものと 33 か,帯状に長くした樹脂製のシート等を使用することができるが,使用後の廃棄処分の容易さから紙を使用するのが好ましい。シート15の幅は連続貝係止具14の幅と同程度のものが好ましい。シート15を介在させずに巻くこともできる。
【0033】本発明の連続貝係止具の使用方法は種々あるが,一例としてはロール状に巻いた連続貝係止具14をほどいてその一端を自動切断差し込み機にセットし,自動切断差し込み機により自動的に貝係止具11を一本ずつ切り離して縦ロープCに差し込み,ロープ止め突起3で縦ロープCから抜けないようにする。縦ロープCに差し込んだ貝係止具11の端部4を貝の耳に開口してある孔に差し込んで貝止め突起2をその孔を貫通させ,貝の耳を貝止め突起2によって係止する。貝係止具の長手方向他端を同様に貝の孔に差し込んで貝止め突起2に貝の耳を係止する。
(3) 本件各発明の概要 上記(1)及び(2)によれば,本件各発明の概要は,次のとおりと認められる。
ア 本件各発明は,貝の養殖に使用されるピン状の貝係止具と,貝係止具を一定間隔で連結して樹脂成型した連続貝係止具と,連続貝係止具をロール状に巻いたロール状連続貝係止具に関する(【0001】)。
従来の貝係止具において,貝が貝係止具を軸として回転するなどすると,貝止め突起がよじれるなどして貝が脱落し,養殖の歩留まりが低下するなどの課題があった(【0004】)。
イ 本件発明1は,構成要件1Aないし同1Hの構成を備える連続貝係止具であり,同構成を備えることにより,貝係止具を一本ずつ切断するときに可撓性連結材の一部が切り残し突起となって基材に残って突出しても,貝係止具を手で持って貝へ差し込むときに手(指)が切り残し突起に当たらないため手が損傷したり,薄い手袋を手に嵌めて作業しても手袋が破れたりしにくいとの効果を奏する(【0005】,【0008】)。
本件発明2は,構成要件1Aないし同1Hに加え,構成要件2Aを備える連続貝係止具であり,同構成を備えることにより,本件発明1の上記効果のほか,貝係止 34 具を縦ロープへ差し込むときや,貝係止具を手に持って貝に差し込むときに,切り残し突起が邪魔にならず,また,縦ロープが2本のロープ止め突起間におさまり安定するとの効果を奏する(【0005】,【0008】)。
本件発明3は,構成要件1Aないし同1H,又は構成要件1Aないし同1H及び同2Aに加え,構成要件3A及び同3Bを備えるロール状連続貝係止具であり,同構成を備えることにより,本件発明1又は同2の上記効果のほか,保管,搬送,ピンセッターへのセットができ,コンパクトになるため保管に場所をとらず,取扱いに便利であるなどの効果を奏する(【0006】,【0009】)。
2 争点1(被告各製品は本件各発明の技術的範囲に属するか)について (1) 争点1-1(被告各製品は構成要件1Dを充足するか)について ア 構成要件1Dは,「隣接する基材(1)同士はロープ止め突起(3)の外側が可撓性連結材(13)で連結されず,ロープ止め突起(3)の内側が2本の可撓性連結材(13)と一体に樹脂成型されて連結され,」と規定する。
ここで,構成要件1Dにいう「ロープ止め突起(3)」とは,構成要件1Aに係る特許請求の範囲の記載からして,細長の基材において,両端に突設された貝止め突起よりも軸方向内側に,貝止め突起と同方向にハ字状に突設された突起であることを要し,「ロープ止め突起」という語の意義からして,ロープに差し込んだ貝係止具を抜け止めすることを目的とする突起部分をいうと解される。
イ 被告製品2を生産するために用いられる被告製品1の構成は,別紙1イ号物件目録の写真1(ただし,係止具の連続体を20本の単位で切断した形態)及び同2(ただし,係止具の連続体を3本の単位で切断した形態の一部〔中央部分〕)のとおりであるところ(参考のため,写真2を次に引用する。),被告製品1における原告の主張に係る「ロープ止め突起」(以下,単に「ロープ止め突起」ということがある。)は,細長の基材の両端に突設された貝止め突起よりも軸方向内側に設けられ,貝止め突起と同方向にハ字状に突設されていることが認められる。そして,被告製品1の「ロープ止め突起」が,ロープに差し込んだ貝係止具を抜け止めする 35 作用を奏することは,被告らも(2次的又は副次的という表現を用いているとはいえ)争うものではない。したがって,被告製品1における「ロープ止め突起」は,構成要件1Dの「ロープ止め突起(3)」に当たるといえる。
ロープ止め突起 可撓性連結材 ウ これに対し,被告らは,被告製品1の可撓性連結材をピンセッターで切断すると,その切り残し部分の形状は下図の符号20のようになって,この場合には同切り残し部分が第1次的にロープを抜け止めするから,被告製品1において本件各発明の「ロープ止め突起(3)」に相当するのは「可撓性連結材」であると主張する。
しかしながら,被告製品1の可撓性連結材は,(切断される前は)基材と連結されているのであるから,「貝止め突起と同方向にハ字状に突設された突起」ということはできず,本件各発明の「ロープ止め突起(3)」に当たるということはできないし,切断された可撓性連結材の切り残し部分がロープを抜け止めすることがあったとしても,そのことのみをもって被告製品1における「ロープ止め突起」が, 36 本件各発明にいう「ロープ止め突起(3)」に当たらなくなるというものでもないから,被告らの上記主張は採用することができない。
エ 以上によれば,被告製品1における基材は,本件各発明の「ロープ止め突起(3)」に相当する「ロープ止め突起」の軸方向外側では連結されておらず,軸方向内側において,2本の可撓性連結材により連結されていると認められるから,被告製品1は,構成要件1Dを充足する。
(2) 争点1-2(被告各製品は構成要件1Eを充足するか)について ア 構成要件1Eは,「可撓性連結材(13)はロープ止め突起(3)よりも細く且つロール状に巻き取り可能な可撓性を備えた細紐状であり,」と規定する。
ここで,「細紐状」とは,「紐」という語が有する一般的な語義(物をしばったり束ねたりするのに用いる細長いもの。乙35,36)などからして,細長い形状を意味するものと解される。
イ 証拠(甲21)によれば,被告製品2を構成する被告製品1において,可撓性連結材の太さが0.7ミリメートルであるのに対し,ロープ止め突起の太さは0.8ミリメートルであることが認められる。また,被告製品1の構成は,別紙1イ号物件目録の写真1(ただし,係止具の連続体を20本の単位で切断した形態)及び同2(ただし,係止具の連続体を3本の単位で切断した形態の一部〔中央部分〕)のとおりであるところ(参考のため,写真2を次に引用する。),被告製品1の可撓性連結材は,わずかに屈曲しており,基材上部との連結点において膨出連結部を有するものの,いまだ細長い形状を有しているものと認められる。
37 ロープ止め突起 可撓性連結材 したがって,被告製品1における可撓性連結材は,ロープ止め突起よりも細く,かつロール状に巻き取り可能な可撓性を備えた細紐状のものであるといえるから,被告製品1は,構成要件1Eを充足する。
ウ これに対し,被告らは,構成要件1Eの「細紐状」との限定は,本件特許の出願人がした平成21年8月10日付け手続補正書(乙7)に係る補正により加えられたものであり,同日付け意見書(乙8)は,同補正の根拠を出願時明細書等の【図8】(a)に求めているところ,本件明細書等は,【図8】(a)(出願時明細書等の【図8】(a)と同じ。)に関し,縦ロープCと並行して基材1を介して連続する連結材を「丸紐状の可撓性連結材13」などと説明していることからして,構成要件1Eの「可撓性連結材(13)は・・・細紐状であり」とは,当該連結材が,貝係止具の配列方向(基材(1))と直交する方向に直線状に沿い,基材(1)を介して長く連続していることを意味すると主張する。
しかしながら,上記意見書は,特許請求の範囲に「可撓性を備えた2本の細紐状」との発明特定事項を付加する補正に際して,「可撓性を備えた2本の細紐状」の連結材が,出願時明細書等の【図8】(a)や段落【0026】等に開示されていることを補正の根拠とする旨を説明するにとどまり,本件各発明の技術的範囲を, 上記【図8】(a)に具体的に示される特定の構成そのもののみに限定する趣旨のも 38 のと解することはできないし,特許請求の範囲の記載上,連結材の形状を基材を介して長く連続することを要する旨の記載もないのであるから,被告らの上記主張は採用することができない。
次に,被告らは,上記【図8】と実質的に同一の形態の貝係止具の意匠登録出願の手続(審決取消訴訟を含む。)における原告の主張や裁判所の説示から,本件各発明にいう可撓性連結材(13)は,ロープ止め突起(3)とともにほぼ三角形の空間を形成する必要があるなどとも主張するが,かかる事情によって本件各発明の技術的範囲を殊更限定して解釈すべきものとは解し難いというべきであって,被告らの上記主張は採用することができない。
さらに,被告らは,構成要件1Eにいう「可撓性連結材(13)はロープ止め突起(3)よりも細く」とは,本件明細書等の【図8】からして,ロープ止め突起よりも有意差をもって細いことを要すると解すべきとも主張するが,本件各発明の技術的範囲が【図8】に具体的に示される特定の構成そのもののみに限定されると解されないことは上記のとおりであり,特許請求の範囲上も,可撓性連結材がロープ止め突起に比してどの程度細いことを要するかについては何らの限定もないから,被告らの上記主張は採用することができない。
(3) 争点1-3(被告各製品は構成要件1Fを充足するか)について ア 構成要件1Fは,「前記2本の可撓性連結材(13)による連結箇所は,2本のロープ止め突起(3)の夫々から内側に離れた場所であり且つ前記2本のロープ止め突起(3)間の中心よりも夫々のロープ止め突起(3)寄りの箇所として,」と規定する。
ここで,本件各発明は,前記1(3)で述べたとおり,貝係止具を一本ずつ切断するときに可撓性連結材の一部が切り残し突起となって基材に残って突出しても,貝係止具を手で持って貝へ差し込むときなどに手(指)が切り残し突起に当たらないため手が損傷したり,薄い手袋を手に嵌めて作業しても手袋が破れたりしにくいとの効果を奏するものであるところ,可撓性連結材の連結箇所がロープ止め突起から「内 39 側」に離れた箇所とすることの技術的意義は,かかる構成を採用することにより,貝係止具を手で持って作業する際に,可撓性連結材が切断されて切り残し突起が基材上に残存していたとしても,ロープ止め突起が障壁となって手が当該切り残し突起に当たりにくくなることにあると解される。そうすると,可撓性連結材の連結箇所がロープ止め突起から「内側」に離れた箇所にあるとは,当該連結箇所が,ロープ止め突起からみて,基材の軸方向内側に位置することを意味するものと解するのが相当である。
イ 被告製品2を構成する被告製品1の構成は,別紙1イ号物件目録の写真1(ただし,係止具の連続体を20本の単位で切断した形態)及び同2(ただし,係止具の連続体を3本の単位で切断した形態の一部〔中央部分〕)のとおりであるところ(参考のため,写真2を次に引用する。),2本の可撓性連結材と基材とが連結する箇所(膨出連結部)は,ロープ止め突起からみて,基材の軸方向内側に位置しているものと認められる。また,膨出連結部が,2本のロープ止め突起の間の(基材の軸方向)中心よりもそれぞれのロープ止め突起寄りに位置していることも明らかである。
膨出連結部 ロープ止め突起 可撓性連結材 したがって,被告製品1は,構成要件1Fを充足する。
ウ これに対し,被告らは,可撓性連結材による連結箇所のうち,根元部(基材 40 の上部,上記写真にいう「膨出連結部」)は,ロープ止め突起の先端を基準とすると,同先端からロープ止め突起の根元側,すなわち,外側に離れた箇所にあると主張する。
しかしながら,既にみた可撓性連結材の連結箇所がロープ止め突起から「内側」に離れた箇所とすることの技術的意義(貝係止具を手で持って作業する際に,可撓性連結材が切断されて切り残し突起が基材上に残存していたとしても,ロープ止め突起が障壁となって手が当該切り残し突起に当たりにくくなること)からして,連結箇所がロープ止め突起の「内側」にあるかの判断に際して,殊更ロープ止め突起の「先端」を基準にする必要はないというべきであるから,被告らの上記主張は採用することができない。
(4) 争点1-4(被告各製品は構成要件1Gを充足するか)について ア 構成要件1Gは,「2本の可撓性連結材(13)を切断すると,その切り残し突起(16)が2本のロープ止め突起(3)の内側に残るようにした」と規定する。
ここで,切り残し突起(16)が2本のロープ止め突起(3)の「内側」に残るようにすることの技術的意義は,上記(3)アで述べたとおり,かかる構成を採用することにより,貝係止具を手で持って作業する際に,可撓性連結材が切断されて切り残し突起が基材上に残存していたとしても,ロープ止め突起が障壁となって手が当該切り残し突起に当たりにくくなることにあると解されるから,可撓性連結材を切断した際の切り残し突起が2本のロープ止め突起の「内側」に残るとは,当該切り残し突起が,ロープ止め突起からみて,基材の軸方向内側に位置することを意味するものと解するのが相当である。
イ 被告製品2を生産するために用いられる被告製品1の構成は,別紙1イ号物件目録の写真1(ただし,係止具の連続体を20本の単位で切断した形態)及び同2(ただし,係止具の連続体を3本の単位で切断した形態の一部〔中央部分〕) のとおりであるところ(参考のため,写真2を次に引用する。),2本の可撓性連結 41 材と基材とが連結する箇所は,基材の上部・下部とも,ロープ止め突起からみて,基材の軸方向内側に位置しているものと認められる。したがって,可撓性連結材が切断されて切り残し突起が残ると,当該切り残し突起は,いずれもロープ止め突起からみて,基材の軸方向内側に位置することが明らかである。
膨出連結部 ロープ止め突起 可撓性連結材 したがって,被告製品1は,構成要件1Gを充足する。
ウ これに対し,被告らは,構成要件1Gの「2本の可撓性連結材(13)を切断すると,その切り残し突起(16)が2本のロープ止め突起(3)の内側に残るようにした」との限定は,本件特許の出願人がした平成23年6月27日付け手続補正書(乙18)に係る補正により加えられたものであり,同日付け意見書(乙19)は,同補正の根拠を出願時明細書等の段落【0026】及び【図8】(b)(下図)に求めているところ,上記段落【0026】及び【図8】(b)の記載を斟酌すると,@切り残し突起の左右方向の位置は,基材1の上側と下側とで同じ位置にあることを要し,また,A切り残し突起の突出長さは,ロープ止め突起の突出長さと比して短いことを要すると解すべきなどと主張する。
42 しかしながら,上記意見書は,特許請求の範囲に「2本の可撓性連結材(13)を切断すると,その切り残し突起(16)が2本のロープ止め突起(3)の内側に残るようにした」との発明特定事項を付加する補正に際して,可撓性連結材の切り残し突起が2本のロープ止め突起の内側に残る構成が,出願時明細書等の段落【0026】及び【図8】(a)に開示されていることを補正の根拠とする旨を説明するにとどまり,本件各発明の技術的範囲を,上記【図8】(a)に具体的に示される特定の構成そのもののみに限定する趣旨のものと解することはできないし,特許請求の範囲の記載上,切り残し突起の左右方向の位置が基材1の上側と下側とで同じ位置にあることを要するとか,切り残し突起の突出長さがロープ止め突起の突出長さと比して短いことを要する旨の記載もないから,被告らの上記主張は採用することができない。
(5) 争点1-5(被告各製品は,本件各発明の作用効果を奏しないために,本件各発明の技術的範囲に含まれないといえるか)について 被告らは,要するに,被告各製品は切断機械(ピンセッター)を用いて切断し,個別の貝係止具となることが想定された製品であるところ,被告各製品を切断機械で切断した場合には,可撓性連結材の切り残し突起が下図の符号20のようにロープ止め突起よりも高く突出することとなり,貝係止具をロープに差し込むなどの作業時に,当該切り残し突起が邪魔になり,また,手に当たって怪我したり作業用手袋が破れたりする可能性があるから,被告各製品は,本件特許発明の作用効果を奏しないと主張する。
しかしながら,前記1(3),2(3)ア及び2(4)アなどで述べたとおり,本件各発明は,可撓性連結材による基材の連結箇所を2本の各ロープ止め突起からみて軸方向 43 内側の箇所とし,可撓性連結材を切断した際の切り残し突起も2本の各ロープ止め突起からみて軸方向内側に残るような構成を採用したことにより,貝係止具を手に持って作業する際に,ロープ止め突起が障壁となって手が当該切り残し突起に当たりにくくなり,ひいては手が損傷したり,薄い手袋を手に嵌めて作業しても手袋が破れたりしにくいとの効果を奏することを特徴とする発明と認められるところ,被告各製品においても,可撓性連結材による基材の連結箇所を2本の各ロープ止め突起からみて軸方向内側の箇所とし,可撓性連結材を切断した際の切り残し突起も2本の各ロープ止め突起からみて軸方向内側に残るような構成となっているのであるから,貝係止具を手に持って作業する際に,ロープ止め突起が障壁となって手が当該切り残し突起に当たりにくくなるのであって,本件各発明の作用効果を奏しないということはできない。
なお,被告らの主張するとおり,被告各製品の可撓性連結材を切断した際に,その切り残し突起がロープ止め突起よりも高く突出した場合には,これが突出しない場合と比べて,切り残し突起が手に当たる可能性が高くなることが考えられるものの,そのことをもって,被告各製品が本件各発明の作用効果を奏しないと断ずることはできないというべきである。
したがって,本件各発明の作用効果を奏しないことを理由として,被告各製品が本件各発明の技術的範囲に属しないとする被告らの主張は採用することができない。
(6) 争点1の小括 以上によれば,被告製品1は,本件発明1及び同2の構成要件を全て充足し,また,被告製品1をロール状に巻いた被告製品2は,本件発明3の構成要件を全て充足するものと認められるから,被告製品1は本件発明1及び同2の各技術的範囲に属し,被告製品2は本件発明3の技術的範囲に属するものと認められる(なお,以下のとおり,本件発明3についての特許が特許無効審判により無効とされるべきものとは認められず,被告ら主張のその余の抗弁も成り立たないから,被告製品2が本件発明1及び同2の技術的範囲に属するか否かについては,判断を要しない。 。
) 44 3 争点2(本件各発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものと認められるか)について (1) 争点2-1(無効理由1〔進歩性欠如〕は認められるか)について ア 乙20公報に記載された発明の構成 (ア) 乙20公報の記載 本件特許の原出願日前に日本国内において頒布された刊行 物である乙20公報(特開2002-136241号公報)には,次の記載がある(各項目末尾の【】は,乙20公報の段落番号等を指す。)。
「本発明は,養殖帆立貝をロープに掛止する掛止具に関する。」【0001】 「請求項6は,樹脂等で形成された棒状の軸部の先部に,尖鋭な先部挿入部及び抜け止め部を備え,該軸部の後部には尖鋭な後部挿入部及び抜け止め部を備える養殖帆立貝の掛止具であって,前記掛止具単体の軸部の中間部周に,軸方向に離間してロープの抜け止め部を径方向外方に一対突設し,前記掛止具単体を,該掛止具単体の軸部が平行するように多数並設し,前記各掛止具単体の各ロープ抜け止め部と抜け止め部を備える前後の挿入部との軸部間を可撓性連結片で連結し,前記多数の掛止具単体を前記可撓性連結片で帯状に連結したことを特徴とする。 【0022】 」 「請求項7は,請求項6において,前記一対のロープの抜け止め部は,軸部の径方向に同方向で,軸方向に互いに向い合う「ハ」の字型であることを特徴とする。」【0024】 「図11〜図15は,図1〜図5の掛止具の他の実施の形態を示す図で,図6〜図9の変更された実施の形態を示す図である。2…は掛止具単体,4,6は両端部の尖鋭部,4a,6aは規制片,3は軸部,5,7は先細り部である。軸部3の中間部周に,軸方向に離間してロープ60の抜け止め部31,32を径方向外方に2個突設する。」【0050】 「抜け止め部31,32は,軸部3から径方向の同方向で,軸方向に互いに向い合うように「ハ」の字型に突設する。抜け止め部31,32は,各係止具単体2… 45 の夫々の軸部周に,同様に設けられる。各掛止具単体2…は,前記と同様に近接して平行し,抜け止め部31,32は同方向を向いて配置される。隣接する各軸部3の上記した抜け止め部31,32の軸方向外方部分周を,複数本,図示例では軸方向に離間して2本の可撓性連結片28,29で連結する。」【0051】 「以上により図11に示すように帯状掛止具21を構成し,図12は,帯状掛止具21をロール状に巻回したロール状掛止具30を示した。図13は帯状掛止具2…の一部の拡大図であり,図14は切り離した掛止具単体2を示した。図14で示すように,切り離された掛止具単体2は,軸部3周に「ハ」の字型の抜け止め部31,32が突設されている。ロープ60の径方向に貫通して設けた掛止穴に掛止具単体2を挿入する際,一方の抜け止め部31,又は32が撓んで挿入され,「ハ」の字型の抜け止め部31と32間にロープ60が臨み,抜け止め部31,32で掛止具単体2の抜け止めを確実に行う。」【0052】 「図15は,ロープ60への掛止具単体2の掛止,掛止具単体2への帆立貝61A,61Bの掛止状態を示し,図では理解の便宜上,片側の帆立貝を外して示した。
図で理解し得るように,抜け止め部31,32間にロープ60が臨み,掛止具単体2の軸方向への移動を規制し,ロープ60への掛止具単体2の抜け止めを行っていることが理解できる。」【0053】 46 (イ) 乙20公報の上記(ア)の記載によれば,乙20公報には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる(なお,本件特許の原出願日までに日本国内で頒布された刊行物である乙21公報にも,同一の発明が記載されているものと認められる。)。
1a:ロープと貝にあけた孔に差し込みできる軸部と,その軸方向両端側の夫々 に突設された尖鋭部と,夫々の尖鋭部よりも内側に尖鋭部と同方向にハ字 状に突設された2本の抜け止め部を備えた掛止具が軸部の間隔をあけて平 行に多数本連結されて樹脂等で形成された帯状掛止具において, 1b:前記多数本の掛止具が抜け止め部を同じ向きにして多数本配列され, 1c:配列方向に隣接する掛止具の抜け止め部の先端が,他方の掛止具の軸部か ら離れて平行に配列され, 1d:隣接する軸部同士は抜け止め部の軸方向外方部分において2本の可撓性連 結片により連結され, 1e:可撓性連結片はロール状に巻き取り可能な可撓性を備えており, 1f:前記2本の可撓性連結片による連結箇所は,抜け止め部の軸方向外方部分 として, 1g:(乙20公報には,可撓性連結片の切り残し突起に関する記載はない。) 1h:ことを特徴とする帯状掛止具。
イ 引用発明と本件発明1との対比 47 (ア) 引用発明の「軸部」は本件発明1の「基材(1)」に,引用発明の「尖鋭部」は本件発明1の「貝止め突起(2)」に,引用発明の「掛止具」は本件発明1の「貝係止具(11)」に,引用発明の「帯状掛止具」は本件発明1の「連続貝係止具」に,引用発明の「可撓性連結片」は本件発明1の「可撓性連結材(13)」に,それぞれ相当するものと認められる。
(イ) 一致点 引用発明と本件発明1とは,「ロープと貝にあけた孔に差し込みできる細長の基材(1)と,その軸方向両端側の夫々に突設された貝止め突起(2)と,夫々の貝止め突起(2)よりも内側に貝止め突起(2)と同方向にハ字状に突設された2本のロープ止め突起(3)を備えた貝係止具(11)が基材(1)の間隔をあけて平行に多数本連結されて樹脂成型された連続貝係止具において,前記多数本の貝係止具(11)がロープ止め突起(3)を同じ向きにして多数本配列され,配列方向に隣接する貝係止具(11)のロープ止め突起(3)の先端が,他方の貝係止具(11)の基材から離れて平行に配列され,隣接する基材(1)同士が2本の可撓性連結材(13)で連結され,可撓性連結材(13)はロール状に巻き取り可能な可撓性を備えていることを特徴とする連続貝係止具。 である点において一致している。
」 (ウ) 相違点 引用発明と本件発明1とは,次の各点において相違する。
a 本件発明1において,隣接する基材(1)同士は,ロープ止め突起(3)の「外側」ではなく,「2本のロープ止め突起(3)の夫々から内側に離れた箇所であり且つ前記2本のロープ止め突起(3)間の中心よりも夫々のロープ止め突起(3)寄りの箇所」において,2本の可撓性連結材(13)で連結されているのに対し,引用発明の隣接する軸部同士は,抜け止め部の「軸方向外方部分」において,2本の可撓性連結片により連結されている点(以下「相違点1」という。) b 本件発明1において,隣接する基材(1)同士は,2本の可撓性連結材と一体に樹脂成型されているのに対し,引用発明の隣接する軸部同士は,2本の可撓性 48 連結片と一体に樹脂成型されているか不明である点(以下「相違点2」という。) c 本件発明1において,可撓性連結材(13)は,「ロープ止め突起(3)よりも細く」かつ「細紐状」であるのに対し,引用発明の可撓性連結片がかかる形状を有するか不明である点(以下「相違点3」という。) d 本件発明1において,2本の可撓性連結材(13)を切断すると,その切り残し突起(16)が2本のロープ止め突起(3)の内側に残るのに対し,引用発明では,可撓性連結片を切断した際の切り残し突起は,抜け止め部の「軸方向外方部分」に残る点(以下「相違点4」という。もっとも,この点は,相違点1に係る構成の差異に伴い必然的に発生する相違点であり,相違点1と実質的に異なるものではない。) ウ 相違点についての検討 (ア) 相違点1について a 本件特許の原出願日前に日本国内で頒布された刊行物である乙22公報(特開2004-208619号公報)には,次の記載がある(【】は,同公報の段落番号〔平成15年7月29日付け手続補正書による補正後のもの。〕を示す。)。
「本発明は帆立貝,真珠貝,その他の貝の養殖に使用される貝係止具を多数本連結して連続成型した連結貝係止具と,連結貝係止具をロール状に巻いたロール状連結貝係止具に関するものである。」【0001】「本発明の第1の連結貝係止具はロープ及び貝の孔に差込み可能な細長の基材に,ロープからの基材の抜けを規制する第一のロープ止め突起と,第二のロープ止め突起とが突設され,両ロープ止め突起は基材の周方向反対側に突設され,基材のうち第一,第二のロープ止め突起よりも軸方向外側に貝の抜けを規制する貝止め突起が突設された貝係止具が多数本連続し,それら多数本の貝係止具は隣接する二本の貝係止具の第一のロープ止め突起と第二のロープ止め突起同士が連結され,連結された貝係止具がロール状に巻き取り可能なものである。」【0009】「本発明の第2の連結貝係止具はロープ及び貝の孔に差込み可能な細長の基材に, 49 ロープからの基材の抜けを規制する第一のロープ止め突起と,第二のロープ止め突起とが突設され,両ロープ止め突起は基材の周方向反対側に突設され,基材のうち第一,第二のロープ止め突起よりも軸方向外側に貝の抜けを規制する貝止め突起が突設された貝係止具が多数本連結され,それら多数本の貝係止具は隣接する二本の貝係止具の第一のロープ止め突起と第二のロープ止め突起同士が連結片を介して連結され,連結片は可撓性ある薄片又はロープ止め突起よりも小径の可撓性のある細長軸であり,連結された貝係止具がロール状に巻き取り可能なものである。」【0010】 「本発明の連結貝係止具は前記第1又は第2の連結貝係止具において,・・・第一のロープ止め突起と第二のロープ止め突起が共に内側向きの斜め直線状であり , ママ両ロープ止め突起の先端部同士が外側広がりのV時 状に連結され,その連結は先端部同士が直接又は連結片を介して連結され,連結片は可撓性のある薄小片又は可撓性のある紐とすることができる。第一のロープ止め突起と第二のロープ止め突起が共に内側に突出する弧状に湾曲し,両ロープ止め突起の先端部同士が内側に突出する半円弧状に連結され,その連結は先端部同士が直接又は連結片を介して連結され,連結片は可撓性のある薄片又は可撓性のある紐とすることができる。 【0011】 」 「本発明の連結貝係止具は,前記連結貝係止具において,隣接する基材が第一,第二のロープ止め突起間において可撓性連結材によって連結され,可撓性連結材を可撓性のある薄片又は可撓性のある紐又は可撓性のあるテープ状片とすることもできる。隣接する基材が,第一のロープ止め突起と貝止め突起との間,第二のロープ止め突起と貝止め突起との間で可撓性連結材によって連結され,可撓性連結材は可撓性のある薄片又は可撓性のある紐又は可撓性のあるテープ状片とすることもできる。隣接する基材を第一,第二のロープ止め突起と貝止め突起との間で可撓性連結材によっても連結し,可撓性連結材を可撓性のある薄片又は可撓性のある紐又は可撓性のあるテープ状片とすることもできる。隣接する基材を基材の両端において可撓性連結材によって連結し,可撓性連結材を可撓性のある薄片又は可撓性のある紐 50 又は可撓性のあるテープ状片とすることもできる。・・・」【0012】 「・・・本発明の連結貝係止具の第10の実施例を図11に基づいて説明する。
この連結貝係止具の基本的構造は図9の連結貝係止具と同じであり,異なるのは,隣接する基材2を,二本ずつある第一,第二のロープ止め突起3,4の内側において可撓性連結材8によって連結すると共に可撓性連結材8を夫々のロープ止め突起3,4と一体に連結し,可撓性連結材8を可撓性のある紐としたことである。・・・」【0030】 b 以上によれば,乙22公報には,連続貝係止具について,平行に配列された基材同士を連結する構成として,@基材の上下に突設されたロープ止め突起同士を連結する構成,A基材の上部に突設されたロープ止め突起と基材とを連結する構成,Bロープ止め突起の先端を基材と連結すると共に,更に可撓性連結材によって基材同士を連結する構成が,それぞれ開示されており,また,C前記Bの場合において,2本の可撓性連結材は,ロープ止め突起と一体成型されており,2本の可撓性連結材による連結箇所を,ロープ止め突起からみて軸方向内側とする構成が開示されているものと認められる。
したがって,乙22公報に開示された基材の連結に関する構成のうち,上記Cの構成から,殊更,可撓性連結材がロープ止め突起と一体成型されているとの部分を捨象して,2本の可撓性連結材による連結箇所をロープ止め突起からみて軸方向内側とするとの構成のみを取り出した上,これを引用発明に組み合わせれば,相違点1に係る本件発明1の構成に至るとはいえる。
c ここで,乙20公報及び乙22公報は,いずれも連続貝係止具に係る発明が記載されたものであり,両者の技術分野は共通するものではある。しかしながら, 51 前記1(3)でみたとおり,本件発明1は,構成要件1Aないし同1Hの構成を備えることにより,貝係止具を一本ずつ切断するときに可撓性連結材の一部が切り残し 突起となって基材に残って突出しても,貝係止具を手で持って貝へ差し込むときに手(指)が切り残し突起に当たらないため手が損傷したり,薄い手袋を手に嵌めて作業しても手袋が破れたりしにくいとの効果を奏するものであるところ,かかる作用効果に対応する課題(可撓性連結材を切断した際に突出して残る切り残し突起が,作業時に作業者の手に当たり,怪我をしたり手袋が破れたりするとの課題)については,乙20公報及び乙22公報のいずれにおいても記載されておらず,その示唆もない。また,かかる課題が本件特許の原出願日において周知の課題であったことを認めるに足りる証拠もなく,上記課題が自明のものと認めるべき事情も見いだせない。
そうすると,当業者といえども,乙20公報及び乙22公報に接することにより上記課題を意識することができたとはいえないから,当該課題を解決するために,乙22公報に開示された基材の連結に関する構成から,2本の可撓性連結材による連結箇所をロープ止め突起からみて軸方向内側とするとの構成のみを取り出した上,これを引用発明に組み合わせる動機付けがあるとは認められないというべきであり,本件証拠を検討しても,上記組合せに想到する動機付けとなるべき他の事情も見当たらない。また,かかる事情に照らせば,可撓性連結材による連結位置を当業者において適宜選択し得たとか,これらが設計的事項にすぎないなどということもできない。
d 被告らは,乙22公報の記載から,ロープ止め突起で基材を連結するかは当業者が適宜選択できるから,当業者は,乙22公報のうち可撓性連結材がロープ止め突起の内側にある構成を選択した上で,ロープ止め突起をもっては基材を連結しない構成を採用してこれを引用発明に適用して相違点1に係る構成とすることが容易想到であったなどと主張するが,上記cで判示したところに照らせば,乙22公報記載の機材の連結に関する構成のうち,可撓性連結材がロープ止め突起の内側に 52 ある構成を採用しつつ,ロープ止め突起をもっては基材を連結しない旨の改変を加える動機付けは認められないというべきである。
また,被告らは,乙22公報にはロープ止め突起の内側に1本の幅広の可撓性連結材を設ける構成が開示されているところ,当業者は,同構成を採用した上で,1本の幅広の可撓性連結材を2本の細紐状の可撓性連結材とし,これを引用発明に適用して相違点1に係る構成とすることが容易想到であったとも主張するが,同様に,1本の幅広の可撓性連結材を設ける構成を採用しつつ,これを2本の細紐状の可撓性連結材に変える動機付けは認められないというべきである。
e したがって,本件特許の原出願日当時,当業者が,引用発明に乙22公報記載の基材の連結に関する構成から,殊更その一部のみを取り出した上,これを適用し,又は適宜選択するなどして,容易に相違点1に係る本件発明1の構成に想到し得たということはできない。
(イ) 小括 以上によれば,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明1は,本件特許の原出願日当時,当業者が引用発明その他被告らの主張に係る公知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない(なお,被告らは,乙21公報に乙20公報と実質的に同一の発明が開示されている旨の主張もするが,上述したところによれば,乙21公報記載の発明に乙22公報記載の構成を適用し,又は適宜選択するなどして,本件発明1を容易に発明することができたなどということはできない。)。
エ 争点2-1についての小括 上記のとおり,本件発明1は,本件特許の原出願日当時,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められないところ,本件発明2は本件発明1の構成要件発明特定事項として引用しており,本件発明3は本件発明1又は同2の構成要件発明特定事項として引用しているものであるから,本件発明2及び同3も,本件特許の原出願日当時,当業者が引用発明に基づいて容易に発 53 明することができたものと認めることはできない。したがって,被告らの主張する無効理由1は認められない。
(2) 争点2-2(無効理由2〔サポート要件違反〕は認められるか)について ア 被告らは,仮に,構成要件1Gの「切り残し突起(16)」が,本件明細書等の【図8】(b)に示す形態に限られず,例えば下図(平成23年6月27日付け意見書〔乙19〕の参考図1)の符号16のような形態のものまでも含むというのであれば,かかる形態は,発明の詳細な説明に記載されたものでも示唆されたものでもないから,本件発明1(並びに本件発明1の構成要件発明特定事項として引用する本件発明2及び同3)についての特許は,発明の詳細な説明に記載されていない発明についてされたものとして,サポート要件違反の無効理由があると主張する。
イ 特許請求の範囲の記載が,発明の詳細な説明に記載したもの(特許法36条6項1号)といえるか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁平成17年(行ケ)第10042号同年11月11日特別部判決参照)。
ウ 本件特許の特許請求の範囲の請求項1には,前記前提事実(2)のとおり,連続貝係止具において,「隣接する基材(1)同士はロープ止め突起(3)の外側が可撓性連結材(13)で連結されず,ロープ止め突起(3)の内側が2本の可撓性連結材(13)と一体に樹脂成型されて連結され,可撓性連結材(13)はロープ止 54 め突起(3)よりも細く且つロール状に巻き取り可能な可撓性を備えた細紐状であり,前記2本の可撓性連結材(13)による連結箇所は,2本のロープ止め突起(3)の夫々から内側に離れた箇所であり且つ前記2本のロープ止め突起(3)間の中心よりも夫々のロープ止め突起(3)寄りの箇所として,2本の可撓性連結材(13)を切断すると,その切り残し突起(16)が2本のロープ止め突起(3)の内側に残るようにした」旨が記載されている。
エ 本件明細書等の発明の詳細な説明には,次の記載がある(末尾の【】は,段落番号を示す。)。
「本発明の連続貝係止具は,隣接する貝係止具11の2本のロープ止め突起3間が2本の可撓性連結材13で連結され,2本の可撓性連結材13は貝係止具11が差し込まれる縦ロープCの直径よりも広い間隔で2本のロープ止め突起3寄り箇所を連結するので,貝係止具11を一本ずつ切断するときに可撓性連結材13の一部が図8(b)のように切り残し突起16となって基材1に残って基材1から突出しても,図8(a)のように貝係止具11を縦ロープCへ差し込むときに切り残し突起16が邪魔にならず,縦ロープCが2本のロープ止め突起3間におさまり安定する。又,貝係止具11を手で持って貝へ差し込むときに手(指)が切り残し突起16に当たらないため手が損傷したり,薄い手袋を手に嵌めて前記差込作業をしても手袋が破れたりしにくい。」【0008】 「(連続貝係止具の実施形態1)本発明の連続貝係止具は図8(a)のように前記実施形態の貝係止具11を間隔をあけて数千〜数万本平行に配置し,上下に隣接する貝係止具11の基材1間を丸紐状の可撓性連結材13で連結して樹脂成型して図12(a)(b)のようにロール状に巻くことができるようにしたものである。
図8(a)の場合はハ字状の2本のロープ止め突起3の間を2本の可撓性連結材13で連結してあり,しかも,2本の可撓性連結材13をロープ止め突起3寄り箇所に配置して,2本の可撓性連結材13の間隔を縦ロープCの直径よりも広くしてある。このようにすると貝係止具11を一本ずつ切断する場合に可撓性連結材13の 55 一部が切り残されて図8(b)のように基材1に切り残し突起16が発生しても,それが縦ロープCへの差込時に邪魔になることがない。また,一本ずつ切断された貝係止具11を貝の孔に差し込むために手で持っても切り残し突起16の部分が手に当たらないため手が怪我したり,手に嵌めた作業用手袋が破れたりしにくい。」【0026】 オ 上記に認定したところによれば,本件明細書等の発明の詳細な説明には,2本の可撓性連結材による連結箇所を,2本のロープ止め突起の間で,かつ,2本のロープ止め突起寄りの箇所とする構成により,可撓性連結材を切断したときに切り残し突起が残ったとしても,貝係止具を縦ロープへ差し込むときに切り残し突起が邪魔にならず,また,貝係止具を手で持って貝へ差し込むときに手(指)が切り残し突起に当たらないため手が損傷したり,薄い手袋を手に嵌めて前記差込作業をしても手袋が破れたりしにくいとの作用効果を奏することが明確に記載されている。
そうすると,本件明細書等の発明の詳細な説明に接した当業者において,本件発明1に係る特許請求の範囲に記載された構成,すなわち,2本の可撓性連結材(13)による連結箇所を,2本のロープ止め突起(3)のそれぞれから内側に離れた箇所であり,かつ,2本のロープ止め突起(3)間の中心よりもそれぞれのロープ止め突起(3)寄りの箇所とする構成を採用することにより,可撓性連結材(13)を切断した際の切り残し突起(16)の高さにかかわらず,本件発明1に係る課題を解決できると認識できることは明らかであるから,本件発明1が,発明の詳細な説明に記載されていないものということはできない。同様の理由により,本件発明2及び同3が,発明の詳細な説明に記載されていないものということはできない。
したがって,被告らの主張する無効理由2は認められない。
(3) 争点2の小括 以上のとおり,本件特許について,被告らの主張する無効理由はいずれも認められないから,原告による本件特許権の行使が,特許法104条の3第1項の規定により許されないということはない。
56 4 争点3(被告各製品に対する本件特許権の行使が,前訴和解の効力により否定されるか)について 被告らは,原告及び被告らが当事者として含まれていた前訴和解の和解条項第2項(1)に,「被告らは,別紙物件目録8及び9記載の帆立貝養殖用貝係止具の形体の帆立貝養殖用貝係止具の製造等をしない。」とあり,他方で「原告らと被告らは,別紙被告製品目録2記載の形体の帆立貝養殖用貝係止具が上記ア記載の帆立貝養殖用係止具に当たらないことを確認する。」とあるのは,原告及び被告らが,前訴和解において,連続貝係止具の連結材の形体に着目して,これが直線状のものについては被告らにおいて製造等を停止し,これがハ字状に屈曲したものについては,当時は出願段階にあった本件特許との関係においても,被告らにおいて製造等することを原告が許容することを約したものと解すべき旨主張し,このことは前訴和解の和解条項第7項「原告らと被告らは,別紙被告製品目録1記載の形体かつ色彩及び同2記載の形体の帆立貝養殖用貝係止具が,上記ア記載の意匠と同一若しくは類似の意匠の実施に当たらず,又は,上記ア記載の特許発明技術的範囲及び均等範囲に属する帆立貝養殖用貝係止具に当たらないことを確認する。」にも反映されているなどと主張する。
しかしながら,そもそも前訴和解は,原告が本件特許権に基づき被告らによる製品の製造等の差止め等を求めたものではなく,前訴和解の時点では,本件特許に係る特許査定もされておらず(なお,原告は,本件特許に係る特許出願の出願人ではないから,前訴和解の時点で,原告に同出願に係る権利につき,いかなる処分権限があったのか不明であるが,この点はひとまず措く。),また,被告各製品も存在していなかったものである。そして,前訴和解の和解条項第2項は,上記のとおり,被告らが,原告に対し,「別紙物件目録8及び9記載の帆立貝養殖用貝係止具の形体の帆立貝養殖用貝係止具の製造等をしない」ことを約し,他方で,原告及び被告らの間で,形状を確認した具体的な和解製品(「別紙被告製品目録2記載の形体の帆立貝養殖用貝係止具」。別紙3の〔写真A〕参照)が,「上記ア記載の帆立貝養 57 殖用貝係止具に当たらないことを確認」しているにとどまり(なお,「各製品の実際の形体,色彩については,和解の席上,被告らから原告らに交付された製品実物つきの被告製品目録2により確認された」旨が,前訴和解の別紙被告製品目録2にも特掲されているところである。),被告らが主張するように,将来にわたって被告らが製造等する連続貝係止具についても,その可撓性連結材の形状に着目し,これが直線状のものとハ字状のものとを峻別して,ハ字状のものについては原告は権利行使しないことを約したとまで解することは困難というほかはない。
被告らは,一般的な和解の趣旨からして,製品の歩留まりの改善や和解後に発見された問題点を解決するために,和解製品として製造等が許容された製品について,一切の形体の変更をも認めない旨が合意されていたと考えるべきではないとも主張するが,上記のとおり,前訴和解の和解条項では,個別に特定された具体的な和解製品について被告らが製造等をしないとされた製品に当たらないことを確認するにとどまっており,将来の形体等の変更を見越した条項は存在しないところ,将来被告らが製造等する製品であって,上記和解製品と異なる形体の製品についてまで,原告と被告らとの間で権利行使の対象としない旨が合意されたと認めることはできないというべきである(前訴和解の和解条項第7項(2)においても,「被告らは,今後,原告らが上記商標権,意匠権,及び特許権に基づき被告らに対して侵害訴訟の提起又は仮処分の申立てをした場合を除き,上記権利につき,自ら又は第三者を用いて無効審判請求をしない。」と規定され,原告による本件特許権の行使は,少なくとも和解条項上は制約されていない。)。
以上のとおり,前訴和解は,原告と被告らとの間において,具体的な形体を有する和解製品について,(当時は出願段階にあった)本件特許権を含む知的財産権の行使をしない旨が約されたにとどまるというほかないところ,被告各製品は,可撓性連結材の形状及びこれと基材との連結態様において,和解製品と異なる構成を有することは,前記前提事実(別紙3を含む。)のとおりであるから,被告らによる被告各製品の製造販売等に対する原告の本件特許権の行使が,前訴和解の効力によ 58 り否定されるということにはならない。
したがって,被告らの主張は採用することができない。
なお付言するに,当裁判所は,平成29年1月26日の本件第3回弁論準備手続において,当事者双方から,主張及び立証が完結した旨を聴取の上,弁論準備手続を終結し,同日の本件第2回口頭弁論において弁論を終結したものである。しかるところ,被告らは,平成29年2月14日付け弁論再開申立書,同月20日付け弁論再開申立補充書及び同年3月2日付け第6準備書面(弁論再開申立補充書2)を提出し,特に本争点について審理不尽があるなどと主張して,口頭弁論の再開を申し立てた。しかしながら,そもそも上記各書面に記載された事由を本件口頭弁論終結前に主張等することができなかったとは認められない上,上記各書面の記載内容及びこれらに添付された資料を精査しても,本件において口頭弁論を再開する必要があるものとは認められない。
5 結論 以上のとおり,被告製品1は,本件発明1及び同2の技術的範囲に含まれ,被告製品2は,本件発明3の技術的範囲に含まれるから,被告進和化学工業が業として被告各製品を製造し,販売し,又は販売の申出をすること,並びに,被告シンワが業として被告各製品を販売し,又は販売の申出をすることは,いずれも原告が有する本件特許権を侵害する行為となる(なお,前記前提事実のとおり,被告進和化学工業は,被告製品2の製造,販売及び販売の申出をし,被告シンワは,被告製品2の販売及び販売の申出をしているところ,被告製品2は,被告製品1をロール状に巻いたロール状連続貝係止具であるから,被告進和化学工業が被告製品1を製造していることは明らかであり,被告らが被告製品1の販売及び販売の申出をするおそれがあることも明らかである。また,仮に,被告らにおいて,被告製品2の在庫を廃棄し,販売及び販売の申出を中止したとしても,被告らは,本件訴訟において,被告各製品が本件各発明の技術的範囲に含まれないとか,本件各発明についての特許が無効であるなどと主張して原告の請求を争っているのであるから,被告進和化 59 学工業が被告各製品を製造し,被告らが被告各製品の販売及び販売の申出をするおそれが直ちに消失するものではない。)。
したがって,原告は,特許法100条1項に基づき,被告らの上記行為の差止めを求めることができ,また,同条2項に基づき,被告各製品の廃棄を求めることができる。
よって,原告の請求はいずれも理由があるから,これらを認容することとし,主文のとおり判決する(被告各製品の廃棄を命じる主文第3項及び第4項については,仮執行宣言を付すことは相当でないので,これを付さないこととした。)。
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官 天野研司
裁判官 笹本哲朗
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