関連審決 | 不服2015-11234 |
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事件 |
平成
28年
(行ケ)
10098号
審決取消請求事件
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原告X 被告特許庁長官 指定代理人中田誠 小野忠悦 金子尚人 尾崎淳史 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2017/04/12 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
特許庁が不服2015-11234号事件について平成28年3月14日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,審理不尽及び新規性判断の誤りである。 1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「石碑型納骨室」とする発明につき,平成23年10月13日に特許出願(特願2011-239592号。以下「本願」という。)をし,平成25年7月22日,手続補正をした(乙1)。その後,原告は,平成26年7月28日付けで拒絶理由通知を受けたため(甲5),意見書を提出するなどしたが,平成27年2月24日付けで拒絶査定を受けた(甲6)。 原告は,同年5月28日,拒絶査定不服審判請求をし(不服2015-11234号。甲4),同日付けで手続補正(以下「本件補正」という。)をした(甲7)。 特許庁は,平成28年3月14日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同審決謄本は,同年4月6日,原告に送達された。 2 本願発明の要旨 本件補正後の特許請求の範囲のうち請求項2,3及び5の記載は,以下のとおりである(甲3,7,乙1。以下,請求項に係る発明を,それぞれ請求項の番号に応じて, 「本願発明2」などといい,これらを併せて「本願発明」という。また,本件補正後の本願の明細書及び図面をまとめて「本願明細書」という。。 ) 「【請求項2】 個人の情報の漏えいを防ぐことを特徴とする納骨室 【請求項3】 遺族に収納・管理をしやすくしたことを特徴とする納骨室」 「【請求項5】 通気性を高めた事を特徴とする納骨室」 3 審決の理由の要点 (1) 本願発明2について 本願発明2は,以下のとおり,特開平10-227157号公報(甲1。以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「刊行物1発明」という。)であるから特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものである。 ア 刊行物1発明の認定 「墓地の所定箇所に設置される下台石と,該下台石の上に重ね上げられる上台石,さらに,その上台石の上面略中央に立設される石碑本体からなる墓において,石碑本体が,扉部付きの遺骨安置空間部を有するものに形成される一方,上台石は,前記遺骨安置空間部の直下で上下に貫通する納骨道の形成されてなるものとなし,該上台石の納骨道に通じる下台石部分に,適宜大きさの納骨棺部が形成され,扉部は頑丈な錠前で施解錠できる構造である墓。」 イ 本願発明2と刊行物1発明との対比,判断 刊行物1発明の「墓」は,「石碑本体」が「遺骨安置空間部」を有し,「下台石部分」に「納骨棺部」が形成されるから,本願発明2の「納骨室」に相当する。 「個人の情報の漏えいを防ぐこと」に関し,本願明細書には,「扉は部外者が開ける事の無い様に施錠をし」(段落【0007】)と記載されるにとどまり,他に個人の情報の漏えいを防ぐことに関連すると認められる記載はないから,刊行物1発明の「遺骨安置空間部を有する」「石碑本体」の「扉部」が「頑丈な錠前で施解錠できる構造である」ことは,本願発明2の「個人の情報の漏えいを防ぐこと」に相当する。 したがって,本願発明2と刊行物1発明とは,「個人の情報の漏えいを防ぐ納骨室」で一致し,相違するところは認められない。 (2) 本願発明3について 本願発明3は,以下のとおり,刊行物1発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものである。 ア 刊行物1発明の認定 上記(1)アと同じ。 イ 本願発明3と刊行物1発明との対比,判断 刊行物1発明の「墓」は,「石碑本体」が「遺骨安置空間部」を有し,「下台石部分」に「納骨棺部」が形成されるから,本願発明3の「納骨室」に相当する。 「遺族に収納・管理をしやすくしたこと」に関し,本願の当初明細書には,「納骨室の開閉が遺族にできる事で管理し易く」(段落【0004】)と記載されるにとどまり,他に遺族に収納・管理をしやすくしたことに関連すると認められる記載はないから,刊行物1発明の「石碑本体が,扉部付きの遺骨安置空間部を有するものに形成される」ことは,本願発明3の「遺族に収納・管理をしやすくしたこと」に相当する。 本願発明3と刊行物1発明とは,「遺族に収納・管理をしやすくした納骨室」で一致し,相違するところは認められない。 (3) 本願発明5について 本願発明5は,以下のとおり,特開2002-106209号公報(甲2。以下「刊行物2」という。)に記載された発明(以下「刊行物2発明」という。)であるから特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものである。 ア 刊行物2発明の認定 「設置場所を地上とし,納骨室壁板に吸気と排気を成す換気孔を互いに位置する距離差を取り設けたことにより通気を良くした墓における納骨室。」 イ 本願発明5と刊行物2発明との対比,判断 刊行物2発明の「納骨室」は,本願発明5の「納骨室」に相当する。 刊行物2発明の「納骨室壁板に吸気と排気を成す換気孔を互いに位置する距離差を取り設けたことにより通気を良くした」は,本願発明5の「通気性を高めた事」に相当する。 本願発明5と刊行物2発明とは,「通気性を高めた納骨室」で一致し,相違するところは認められない。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(審理不尽) 審決において,本願発明の発明内容は,請求項1ないし3及び5について審議されているけれども,原告は,請求項4を含め全ての請求項について審議を求めるので,審決の内容を認めることはできない。なお,審決が認定した手続の経緯は,理由が異なる拒絶理由通知書を含め,拒絶理由通知を繰り返していることやそれに対し原告が手続補正書と意見書を何度も提出していることを記載していないので,認めることはできない。このように拒絶査定の要素を机上で探し出し,拒絶理由通知を繰り返して,発明の域を狭める審査官の審査ひいては特許制度には大きな疑問がある。 2 取消事由2(本願発明2の新規性判断の誤り) 本願発明2は,独立した部屋である納骨室と安置室を重ねて構成され,天窓部を設け自然光を取り込み,二方向に空気の流れを作り,故人のお住まいと捉え居住環境を装備した「石碑型納骨室」であって,上下の部屋の仕切り石板を要し,扉をはじめ多角形に板で組まれたものであり,さらに,多くの思い出が入れられるであろう部屋の扉を施錠することで部外者が室内を見ることができないものである。本願発明においては,故人の住まいとして捉え,いかに故人が安堵できる環境を作れるかによって,遺族に癒やしを与えることができるかという観点から,室内環境を良くするために,天窓や通気口をこの部屋に設置することが考えられている。 本願の明細書の全文が特許を形作るものであると考えられるところ,本願発明2は,納骨室と安置室の二つの独立した部屋を重ねて構成されているものであり(段落【0007】,図2),既存の納骨堂には供養の年忌期間中の個人の部屋と捉えたものはなかった。本願発明2の「個人の情報の漏えいを防ぐ事を特徴とする納骨室」は,このように新規なものに設置したことに新規性があり,特殊性があるのである。 本願発明に対し,刊行物1発明では,石碑内部を同一空間としているため一つの扉で対応しており,まさに従来の納骨堂を主体に納骨する空間作りを考えている。 また,刊行物1発明には,本願発明2のように,故人の部屋という感覚はない。 刊行物1には,部材をくり貫き空間を形成するか,あるいは「複数個のブロック石を組み合わせる」との記載があることから,刊行物1発明は,このブロックを使用して軽量化,更には施工のしやすさ,素材の軽量化をしているところ,本願発明2は,上下の部屋の仕切り石板を要し,扉をはじめ多角形に板で組まれたものであるから,ブロックのような形状では組立てが難しい。刊行物1でいう納骨道は,「堂ではなく道である」とすれば,納骨堂の意味をなさないし,その他にも,刊行物1には,納骨棺はあっても納骨堂(納骨室)はない。 刊行物1に記載された「墓」という語は,埋葬・収蔵施設,又は,遺体・遺骨を納める場所全体を表す言葉となるところ,刊行物1には,石碑本体と納骨棺部をもって形成される墓と記載されている。刊行物1発明においては,石碑本体と納骨棺部を一体として捉えることが難しいから,本願発明の「石碑と納骨室を一体化した石碑」であると解することはできない。 本願発明は,地球的規模における環境への配慮について,従来型の石碑より使用石材を減量する工夫をしており,本願発明を構成する部材は,石板の利用で使用材を少なく,既存の先祖の石碑のリニューアルも含んでいる。これに対し,刊行物1の「台石の中を刳り貫く」とか「ブロック石を対応する箇所を避けて複数個置き構成し組み立てる」という考えは,従来の石碑をベースに考えた工法なので無駄の多いものとなる。本願発明は,石板材を使用することで,石の色合わせや傷のあった部材を廃棄処分にしてきた石材を再利用して,「石碑型納骨室」を作ることもできる。 本願発明は,石碑をくり貫きその空間に遺骨を納めたものではなく,石碑・納骨室・外柵を一体化したものである。 よって,刊行物1発明と本願発明2とは,同一であるとはいえない。 3 取消事由3(本願発明3の新規性判断の誤り) 本願発明3は,独立した部屋である納骨室と安置室を重ねて構成され,天窓部を設け自然光を取り込み,二方向に空気の流れを作り,故人のお住まいと捉え居住環境を装備した「石碑型納骨室」であって,上下の部屋の仕切り石板を要し,扉をはじめ多角形に板で組まれたものであり,さらに,飾りの空間と納めの空間のそれぞれに鍵を設置したことによって,収納しやすく,管理しやすくしたものである。 本願発明3の「遺族に収納,管理をしやすくしたことを特徴とした納骨室」は,新規なものに鍵を設置したことに新規性があり,特殊性がある。 よって,刊行物1発明と本願発明3とは,同一であるとはいえない。 4 取消事由4(本願発明5の新規性判断の誤り)について 本願発明5は,独立した部屋である納骨室と安置室を重ねて構成され,天窓部を設け自然光を取り込み,二方向に空気の流れを作り,故人のお住まいと捉え居住環境を装備した「石碑型納骨室」という新規なものに換気口を設置したものである。 刊行物2発明については,換気口は多種多様なところで使用されているものであるから,これを一般の部屋に取り付けることを特徴として特許の取得はできない。 本願発明5は,現存しなかったものに換気口をつけることで,よりいっそうの発明効果が上がるから,それは新規なものであるということができる。要するに, 「石碑型納骨室」という新規なものに設置したことに新規性があり,特殊性があるといえる。 よって,刊行物2発明と本願発明5とは,同一であるとはいえない。 |
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被告の主張
1 取消事由1(審理不尽)について 本願発明2,3及び5が特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないものである以上,本願全体として拒絶を免れないものであったといわざるを得ないのであるから,審決がその余の請求項に係る発明について特許要件の判断をしなかったからといって,このことが直ちに違法であるということはできない。 したがって,審決が特許請求の範囲の請求項4を含む全ての請求項についての審理,判断をしていないことが違法であるという原告の主張には,理由がない。 2 取消事由2(本願発明2の新規性判断の誤り)について (1) 本願発明2の認定について 原告は,本願発明2は,独立した部屋である納骨室と安置室を重ねて構成され,故人のお住まいと捉え居住環境を装備した「石碑型納骨室」であるなどと主張する。 しかしながら,原告の上記主張は請求項2の記載に基づかないものである。なお,本願明細書の段落【0007】の記載に照らしても,本願発明2の「納骨室」を独立した二つの部屋を設けたものと解することはできない。 (2) 刊行物1発明の認定について 審決は,刊行物1の記載(請求項1,段落【0001】, 【0008】, 【0019】)を根拠に刊行物1発明を認定しており,その認定に誤りはない。 原告は,刊行物1発明は, 「そもそも故人の部屋という感覚はなく,納骨空間は一つであり,複数個のブロック石を組み合わせたものである」と主張する。しかしながら,原告の上記主張は,審決が認定した刊行物1発明が刊行物1に記載されていないと主張するものではなく,審決における本願発明2についての新規性の審理との関連においては直接関係のないことであり,結論を何ら左右しない。 (3) 本願発明2と刊行物1発明との対比,判断について 刊行物1発明の「墓」は,「石碑本体」が「遺骨安置空間部」を有し,「下台石部分」に「納骨棺部」が形成されるものであるから,本願発明2の「納骨室」に相当するものであるといえる。また,刊行物1発明の「遺骨安置空間部を有する」 「石碑本体」の「扉部」が「頑丈な錠前で施解錠できる構造である」とは,その作用効果を考慮すると,本願発明2の「個人の情報の漏えいを防ぐこと」に相当するということができる。なお,本願発明2の「個人の情報の漏えいを防ぐこと」に関し,本願明細書(乙1)には,「扉は部外者が開ける事の無い様に施錠をし」(段落【0007】 と記載されるにとどまり, ) 他に個人の情報の漏えいを防ぐことに関連すると認められる記載はなく,このことからも,刊行物1発明の上記構造は,本願発明2の「個人の情報の漏えいを防ぐこと」に相当するといえる。 よって,本願発明2と刊行物1発明とを対比し,両者は「個人の情報の漏えいを防ぐ納骨室」で一致し,相違するところは認められないとした審決の判断に誤りはない。 (4) したがって,審決の本願発明2の新規性の判断には誤りはなく,原告の主張には理由がない。 3 取消事由3(本願発明3の新規性判断の誤り)について (1) 本願発明3の認定について 原告は,本願発明3は,独立した部屋である納骨室と安置室を重ねて構成され,故人のお住まいと捉え居住環境を装備した「石碑型納骨室」であって,上下の部屋の仕切り石板を要し,扉をはじめ多角形に板で組まれたものであり,さらに,飾りの空間と納めの空間のそれぞれに鍵を設置したことによって,収納しやすく,管理しやすくしたものである旨を主張する。しかし,これらの主張は請求項3の記載に基づかないものである。 (2) 刊行物1発明の認定について 前記2(2)のとおり,審決の認定に誤りはなく,原告の主張は理由がない。 (3) 本願発明3と刊行物1発明との対比,判断について 刊行物1発明の「墓」は,「石碑本体」が「遺骨安置空間部」を有し,「下台石部分」に「納骨棺部」が形成されるから,本願発明3の「納骨室」に相当するものであるといえる。また,刊行物1発明は, 「石碑本体が,扉部付きの遺骨安置空間部を有するものに形成される」ところ,遺骨安置空間部に(開閉可能な)扉部を設けるような構造のものは,遺族にとって遺骨を収納,管理しやすくなるといえるから,本願発明3の「遺族に収納・管理をしやすくしたこと」に相当するといえる。 よって,本願発明3と刊行物1発明とを対比し,両者は, 「遺族に収納・管理をしやすくした納骨室」で一致し,相違するところは認められないとした審決の判断に誤りはない。 (4) したがって,審決の本願発明3の新規性の判断には誤りはなく,原告の主張には理由がない。 4 取消事由4(本願発明5の新規性判断の誤り)について (1) 本願発明5の認定について 原告は,本願発明5は,独立した部屋である納骨室と安置室を重ねて構成され,天窓部を設け自然光を取り込み,二方向に空気の流れを作り,故人のお住まいと捉え居住環境を装備した「石碑型納骨室」という新規なものに換気口を設置したものである旨を主張する。しかし,これらの主張は請求項5の記載に基づかないものである。 (2) 刊行物2発明の認定について 審決は,刊行物2の記載(請求項1,請求項3,段落【0001】【0007】 ,【0027】【0030】【0046】 , , )を根拠に刊行物2発明を認定しており,その認定に誤りはない。 原告は,刊行物2発明は,従来の納骨堂の換気についての提案であると主張する。 しかしながら,原告の上記主張は,審決が認定した刊行物1発明が刊行物1に記載されていないと主張するものではなく,審決における本願発明2についての新規性の審理との関連においては直接関係のないことであり,結論を何ら左右しない。 (3) 本願発明5と刊行物2発明との対比,判断について 刊行物2発明の「納骨室」は,本願発明5の「納骨室」に相当するものであるといえる。また,刊行物2発明の「納骨室壁板に吸気と排気を成す換気孔を互いに位置する距離差を取り設けたことにより通気を良くした」は,本願発明5の「通気性を高めた事」に相当するものであるといえる。 よって,本願発明5と刊行物2発明とを対比し,両者は,通気性を高めた納骨室」 「で一致し,相違するところは認められないとした審決の判断に誤りはない。 (4) したがって,審決の本願発明5の新規性の判断には誤りはなく,原告の主張には理由がない。 |
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当裁判所の判断
1 本願発明について (1) 本願明細書(乙1)には,以下の記載がある。 「【発明に属する技術分野】 【0001】 本発明は,お墓の理念を基にした納骨室・墓地外柵・石碑に関するもので,納骨室内環境と生産における石材使用量,更には墓所の小型化による霊園開発の抑止に繋げ自然環境への負担を和らげるもので,地球的環境の保全を基とした石材産業におけるお墓づくりの技術である。」 「【課題を解決する為の手段】 【0004】 課題である新規墓所確保,建墓使用石材料の削減,自然に優しい墓造りの為に今までの墓の形態である外柵・納骨室・石碑を小型一体化し,コンパクトにしてお墓一軒の使用面積を減らし,既存墓所区域内の空いた隙間を利用できるようにして墓所軒数を増やす。小型化によって使用石材を減らし,採石量や霊園開発を抑止する。 故人の扱いを重要に捉え,ご遺族が墓参の時に故人の遺品に触れる事も出来るようにして,故人を認識できる事でお墓と遺族,故人と遺族,先祖を繋ぐ為に石碑型納骨室を考案した。 【発明の効果】 【0005】 この発明により墓地区域内の今まで墓として使えなかった狭い空き地に建墓する事ができ,多くの墓を増設出来るようになり,お墓需要者の必要に応じられる様になる。また,建墓に必要な石材も少なくなり,需要者への負担は減少し,加工・施工に必要な労力や加工材料,輸送の為の重機・燃料も削減でき,自然界の山野の開発行為も減少させる事が出来る。更に,納骨室の開閉が遺族にできる事で故人と遺族の繋がりを深め命の連鎖を感じて命の尊さを伝えるお墓の本来の機能を認識する事が出来。都市部における墓事情に即した墓の形態にする事で都心部の深刻な墓不足に対し多くの遺族に墓を提供し,使用石材料を少なくする事で自然界に優しい産業となる。 「【発明を実施するための最良の形態】 【0007】 この石碑型納骨室は,石碑・納骨室・外柵を一体化して石材,或は長期に亘り変質しない材料で四方の壁・天井にも同材を持って形成し,複数の部屋も設ける事が出来る。取りあえず二部屋として紹介をする。下の部屋の底板は無く土間である。 ここは,長年供養して年忌を終えた方の遺骨を壺から出してこの土の中に還す場所である。一方上の部屋は直近で亡くなられた方を納め周囲を飾る事も出来る場所である。そのため,この部屋は遺骨を置く飾り棚や上部から自然光が降り注ぐ天窓を要し。通気性を考え通気口を設置し,扉は部外者が開ける事の無い様に施錠をし,更に押扉によって密閉さを保つ。また,下の部屋は湿度が高くなるので匂いの押さえの為に上下の部屋を仕切る。これは1枚の石板,或はこれに変わる不変材料で仕切る。」 【図2】 「【実施例】 【0008】 この石碑型納骨室は設置場所で組み立て施工は当然出来るが,設置場所によっては,予め工場で加工,組み立てを行い設置場所へは吊り上げ重機で完成品を設置する事も可能。入口の狭いお墓が寺墓地には多いので,この様な場所は一つ一つの部材として搬入する事も出来,現在の軽薄短小の事業形態の多い時代に合わせた考案である。」 (2) 本願発明の内容 前記(1)によれば,本願発明は,墓石・納骨室・墓地外柵に関するものであり(段落【0001】,本願明細書には,課題である新規墓所確保,建墓使用石材料,自 )然に優しい墓造りのために,本願発明は,請求項に記載の構成を採用し,都市部における墓事情に即した墓の形態にすることで,多くの遺族に墓を提供し,使用石材料を少なくすることで自然界に優しい産業となる,という効果を奏するものであること(段落【0004】)が記載されている。 2 取消事由1(審理不尽)について 原告は,審決において,本願発明の発明内容は,請求項1ないし3及び5について審議されているけれども,請求項4を含め全ての請求項について審議を求めるので,審決の内容を認めることはできないなどと主張する。 しかしながら,特許法は,一つの特許出願に対し,一つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて特許が付与されるという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは,特許法上予定されていない。したがって,一部の請求項に係る発明について特許をすることができない事由がある場合には,他の請求項に係る発明についての判断いかんにかかわらず,特許出願全体について拒絶査定をすべきことになる。本件において,審決は,本願発明2,3及び5について,特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないと判断しているのであるから,これによって本願が全体として同法49条2号に該当し,拒絶をすべきものになることは明らかである。そして,その審決の判断に誤りはないことは,後記のとおりであり,その他,手続上の瑕疵があるともいえないから,そうである以上,その他の請求項に係る発明について判断するまでもなく,本願は出願全体として拒絶されるべきであって,これと判断を同じくする審決に違法はない。なお,原告は,本願の審査手続の経緯等についても縷々主張するが,いずれも審判手続の適法性や審決の内容に影響を及ぼすものではなく,審決に違法があるということはできない。 よって,原告の上記主張は採用することができず,原告主張の取消事由1は理由がない。 3 取消事由2(本願発明2の新規性判断の誤り)について (1) 刊行物1発明について ア 刊行物1(甲1)には,以下の記載がある。 「【請求項1】 墓地の所定箇所に設置される下台石と,該下台石の上に重ね上げられる上台石,さらに,その上台石の上面略中央に立設される石碑本体からなる墓において,石碑本体が,扉部付きの遺骨安置空間部を有するものに形成される一方,上台石は,一個の石を刳り抜くか,あるいは,対応する箇所を避けて複数個のブロック石を平坦状に組み合わせるかの何れかによって,前記遺骨安置空間部の直下で上下に貫通する納骨道の形成されてなるものとなし,該上台石の納骨道に通じる下台石部分か,あるいは,下台石に設けた納骨道を介して前記上台石の納骨道に通じるようにしてなる当該下台石よりも下方部分の何れかに,適宜大きさの納骨棺部が形成されてなるものとしたことを特徴とする墓。」 「【0001】 【発明の目的】この発明は,地盤に埋設または埋設状に形成した納骨棺の上に下台石および上台石を重ね上げ,さらに,上台石の上面に石碑本体を立設するようにした形式の墓の改良に係り,特に,三十三回忌法要を済ませ,清浄本然を遂げた遺骨を,未だその時期に達しない遺骨と別にし,先祖の霊と一つにして安置できるようにする新規な構造の墓と,それを使用した新規な納骨方法とを提供しようとするものである。」 「【0006】・・・本願発明者は,これまで長年に渡って墓石に係わり続けてくる中で得ることができたこの知見の重大さに鑑み,つぶさに開発,研究に着手し,鋭意試作,実験を繰り返してきた結果,遂に所期の目的どおり,三十三回忌の法要を終えた遺骨と,そこ迄には至らないその他の骨壷や位牌とが混在されず,教義に従って正しい弔いが可能となり,しかも,いつでも清潔な環境の中で平安に安置され続けることができかるようにするという,最も有り得べき姿の墓の実現化に成功したものであり,以下では,図面に示すこの発明を代表する実施例と共に,その構成を詳述することとする。 【0007】 【発明の構成】図面に示すこの発明を代表する実施例からも明確に理解されるように,この発明に包含される墓は,基本的に次のような構成から成り立っている。 即ち,墓地の所定箇所に設置される下台石と,該下台石の上に重ね上げられる上台石,さらに,その上台石の上面略中央に立設される石碑本体からなる墓において,石碑本体が,扉部付きの遺骨安置空間部を有するものに形成される一方,上台石は,一個の石を刳り抜くか,あるいは,対応する箇所を避けて複数個のブロック石を平坦状に組み合わせるかの何れかによって,前記遺骨安置空間部の直下で上下に貫通する納骨道の形成されてなるものとなし,該上台石の納骨道に通じる下台石部分か,あるいは,下台石に設けた納骨道を介して前記上台石の納骨道に通じるようにしてなる当該下台石よりも下方部分の何れかに,適宜大きさの納骨棺部が形成されてなるようにした墓である。」 「【0019】なお,この扉部は,大切な遺骨を安置しておく上で,当然頑丈な錠前で施解錠できる構造のものとして建て付けられていなければならず,また,石碑本体の開口縁との間の全縁部に渡って,仏事で石碑本体に清め水を掛ける所作を伴うことと,長年に渡って自然の風雨に晒されることとを配慮して,それら雨水の侵入を防止するための有効な手段,例えばゴム製または合成樹脂製の弾性シール材を取り付けたり,あるいは,それらの目的で従来から採用されている公知の水切り構造のものに形成すべきである。」 「【0025】 【実施例1】図1の墓の側面図に示される事例は,この発明に包含される墓の代表的な一実施例を示すものである。地中に埋設され,中央に納骨棺底部を形成された平板状の基礎81上に,下台石3,上台石4,および石碑本体5を積み上げ,該石碑本体5内には忌明けの法要のときに骨壷を安置する扉部52付きの遺骨安置空間部51を形成し,下台石3の内部に弔い上げの法要のときに納骨する納骨棺部2を形成し,上台石4には,該遺骨安置空間部51と納骨棺部2とを繋ぐ納骨道41を形成している。下台石3の前上部には,香炉33や,花立34,34等が載置されている。基礎81は,コンクリート製であり,墓地の所定箇所に,所定の厚さ寸法の水平な四角形平板状に打設されている。該基礎81は,地中に埋設されており,その中央部付近を上下に貫通して地中8に繋げ,さらに,砂利を敷き詰めることにより納骨棺底部を形成している。」 「【0037】 【効果】以上のとおり,この発明の墓,およびそれを使用した納骨方法によれば,石碑本体内に納骨棺部とは別の遺骨安置空間部を備え,四十九日の法要のときと略同時期に行われる納骨式には,扉部を開いて遺骨安置空間部の安置棚部に骨壷を納めた後,扉部を閉じ,その後,そのままの状態で折々の法要を営み,遂に三十三回忌の法要を迎えたときには,それまで安置棚部に納められていた骨壷を取り出し,厳かに納骨棺部内に遺骨を納め,土に帰っていく儀式を執り行なうことができるようにしたので,忌明けの法要のときと,弔い上げの法要のときでは,遺骨の納め先が歴然と変わり,特に参列者にとって,夫々の仏事の違い,重要性を明確に認識することができるという大きな特徴を奏するものとなる。」 イ 刊行物1発明の特徴 刊行物1発明は,墓に関するものである(段落【0001】。 ) 刊行物1発明は,地盤に埋設または埋設状に形成した納骨棺の上に下台石および上台石を重ね上げ,さらに,上台石の上面に石碑本体を立設するようにした形式の墓の改良に係り,特に,三十三回忌法要を済ませ,清浄本然を遂げた遺骨を,未だその時期に達しない遺骨と別にし,先祖の霊と一つにして安置でき,しかも清潔な環境の中で平安に安置され続けるようにする新規な構造の墓を新たに提供することを目的とするものである(段落【0001】【0006】。 ) 刊行物1発明は,墓地の所定箇所に設置される下台石と,該下台石の上に重ね上げられる上台石,さらに,その上台石の上面略中央に立設される石碑本体からなる墓において,石碑本体が,扉部付きの遺骨安置空間部を有するものに形成される一方,上台石は,前記遺骨安置空間部の直下で上下に貫通する納骨道が形成されてなるものとなし,該上台石の納骨道に通じる下台石部分に,適宜大きさの納骨棺部が形成され,扉部は頑丈な錠前で施解錠できる構造である墓,との構成を採用することにより,石碑本体内に納骨棺部とは別の遺骨安置空間部を備え,四十九日の法要のときと略同時期に行われる納骨式には,扉部を開いて遺骨安置空間部の安置棚部に骨壷を納めた後,扉部を閉じ,その後,そのままの状態で折々の法要を営み,遂に三十三回忌の法要を迎えたときには,それまで安置棚部に納められていた骨壷を取り出し,厳かに納骨棺部内に遺骨を納め,土に帰っていく儀式を執り行なうことができるようにしたので,忌明けの法要のときと,弔い上げの法要のときでは,遺骨の納め先が歴然と変わり,特に参列者にとって,夫々の仏事の違い,重要性を明確に認識することができ,また,大切な遺骨を安置しておくことができる,という効果を奏するものである 【請求項1】 段落 ( , 【0007】, 【0019】 0037】。 , 【 ) ウ 刊行物1発明の認定 以上によれば,刊行物1発明は,前記第2,3(2)アのとおり認定される。 (2) 本願発明2と刊行物1発明の対比,判断について 本願発明2は, 「個人の情報の漏えいを防ぐことを特徴とする納骨室」であるところ,本願明細書には,「個人の情報の漏えいを防ぐ」ことについて, 「この石碑型納骨室は,石碑・納骨室・外柵を一体化して石材,或は長期に亘り変質しない材料で四方の壁・天井にも同材を持って形成し,複数の部屋も設ける事が出来る。取りあえず二部屋として紹介をする。下の部屋の底板は無く土間である。ここは,長年供養して年忌を終えた方の遺骨を壺から出してこの土の中に還す場所である。一方上の部屋は直近で亡くなられた方を納め周囲を飾る事も出来る場所である。そのため,この部屋は遺骨を置く飾り棚や上部から自然光が降り注ぐ天窓を要し。通気性を考え通気口を設置し,扉は部外者が開ける事の無い様に施錠をし,更に押扉によって密閉さを保つ。・・・」(段落【0007】)との記載があるものの,その他,「個人の情報の漏えいを防ぐこと」に関して,何ら具体的な記載はない。 そうすると,本願明細書には, 「個人の情報を漏えいすることを防ぐこと」について, 「納骨室」に「長年供養して年忌を終えた方」の「遺骨」や「直近でなくなられた方」のものを納め, 「納骨室」の「扉」を部外者が開けることのないように施錠をすることで, 「長年供養して年忌を終えた方」 「直近でなくなられた方」 や である「個人」の「情報の漏えいを防ぐこと」ができることが記載されていると認められるから, 「個人のものを納める納骨室の扉に施錠をする」構造は,本願発明2の「個人の情報の漏えいを防ぐこと」との構成に含まれるものとして開示されているということができる。 他方,刊行物1発明は, 「墓地の所定箇所に設置される下台石と,該下台石の上に重ね上げられる上台石,さらに,その上台石の上面略中央に立設される石碑本体からなる墓において,石碑本体が,扉部付きの遺骨安置空間部を有するものに形成される一方,上台石は,前記遺骨安置空間部の直下で上下に貫通する納骨道の形成されてなるものとなし,該上台石の納骨道に通じる下台石部分に,適宜大きさの納骨棺部が形成され,扉部は頑丈な錠前で施解錠できる構造である墓。」であり,刊行物1発明の「遺骨安置空間部」を有する「墓」は,本願発明2の「納骨室」に相当する。そして,上記「扉部」は,それを付された「石碑本体」の「遺骨安置空間部」を有する「墓」の構成の一部であるとともに, 「頑丈な錠前で施解錠できる構造」であり,「遺骨安置空間部」に安置される「遺骨」は個人のものであるといえるから,刊行物1には,刊行物1発明として, 「遺骨」を安置する「扉部付きの遺骨安置空間部」が「頑丈な錠前で施解錠できる構造」であることが開示されているものと認められる。 前記のとおり, 「個人のものを納める納骨室の扉に施錠をする」構造は,本願発明2の「個人の情報の漏えいを防ぐこと」との構成に該当することに照らせば,刊行物1発明の「遺骨」を安置する「扉部付きの遺骨安置空間部」が「頑丈な錠前で施解錠できる構造」であることは,本願発明2に含まれるものと解される。 したがって,本願発明2は,刊行物1発明と同一のものと認められるから,両者が「個人の情報の漏えいを防ぐ納骨室」で一致し,相違するところは認められないとした審決の新規性の判断に誤りはない。 (3) 原告の主張について ア 原告は,本願発明2は,納骨室と安置室の二つの独立した部屋を重ねて構成されているものであり,故人の部屋と捉え居住環境を装備した「石碑型納骨室」であること,既存の納骨堂には供養の年忌期間中の個人の部屋と捉えたものはなかったことを前提に,刊行物1発明は,従来の納骨堂を主体に納骨する空間作りを考えており,本願発明2のように,故人の部屋という感覚はないから,本願発明2の「個人の情報の漏えいを防ぐ事を特徴とする納骨室」は,新規なものに設置したことに新規性があり,特殊性があるなどと主張する。 しかし,本願の請求項2には,個人の情報の漏えいを防ぐ事を特徴とする納骨室」 「との記載があるのみで,本願発明2を特定する事項として,原告が主張するような納骨室と安置室の二つの独立した部屋を重ねて構成される「石碑型納骨室」であることや「故人の部屋」であることは何ら特定されていないから,そのことを理由に,本願発明2が新規なものであり,刊行物1発明と異なる構成であるとの原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。 したがって,本願発明2が, 「石碑型納骨室」であることなどを前提とする原告の上記主張は,本願発明2の発明特定事項に基づかないものであるから,採用することができない。 イ 原告は,刊行物1に記載された「墓」という語は,埋葬・収蔵施設,又は,遺体・遺骨を納める場所全体を表す言葉となるところ,刊行物1には,石碑本体と納骨棺部をもって形成される墓と記載されており,刊行物1発明においては,石碑本体と納骨棺部を一体として捉えることが難しいから,本願発明の「石碑と納骨室を一体化した石碑」であると解することはできない旨主張する。 しかしながら,本願の請求項2には,本願発明2を特定する事項として,原告が主張するような「石碑と納骨室を一体化した石碑」であることは何ら特定されていないから,そのことを理由に,本願発明2が新規なものであり,刊行物1発明と異なる構成であるとの原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 ウ 原告は,刊行物1でいう納骨道は, 「堂ではなく道である」とすれば,納骨堂の意味をなさないし,その他にも,刊行物1には,納骨棺はあっても納骨堂(納骨室)はないなどと主張する。 しかしながら,刊行物1の前記記載によれば,刊行物1の「納骨道」は,刊行物1発明である「墓」の一部を構成するものにすぎず,納骨するための場所としての「遺骨安置空間部」や「納骨棺部」は別途備えていることが認められ,このような納骨する場所は「納骨室」(納骨堂)ということができる。 そうすると,前記(2)のとおり,刊行物1から墓に関する刊行物1発明を認定し,本願発明2と刊行物1発明は,「納骨室」で一致すると判断した審決に誤りはなく,原告の上記主張は採用することができない。 エ 原告は,本願発明は,地球的規模における環境への配慮について,従来型の石碑より使用石材を減量する工夫をしており,本願発明を構成する部材は,石板の利用で使用材を少なく,既存の先祖の石碑のリニューアルも含んでいるのに対し,刊行物1発明では,従来の石碑をベースに考えた工法なので無駄の多いものとなること,本願発明は,石板材を使用することで,石の色合わせや傷のあった部材を廃棄処分にしてきた石材を再利用して,石碑型納骨室」 「 を作ることもできるから,石碑をくり貫きその空間に遺骨を納めたものではなく,石碑・納骨室・外柵を一体化したものであることなどを主張する。 しかしながら,本願の請求項2には,本願発明2を特定する事項として,原告が主張するような「石板」であることは何ら特定されていないから,そのことを理由に,本願発明2が新規なものであり,刊行物1発明と異なる構成であるとの原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 オ 原告は,その他縷々主張するが,いずれも審判手続の適法性や審決の内容に影響を及ぼすものではなく,審決に違法があるということはできないから,原告の主張は採用することができない。 (4) 以上によれば,原告主張の取消事由2は理由がない。 4 取消事由3(本願発明3の新規性判断の誤り)について 本願発明3は, 「遺族に収納・管理をしやすくしたことを特徴とする納骨室」であるところ,前記のとおり,刊行物1発明の「遺骨安置空間部」を有する「墓」は,本願発明2の「納骨室」に相当する。そして,刊行物1発明の「墓」についても,「扉部付きの遺骨安置空間部」を有する「石碑本体」を構成とするものであるから,刊行物1には,刊行物1発明として, 「納骨室に扉を設けた構造」であることが開示されているものと認められる。 一般に,納骨室に開閉が可能な扉を設けることによって,遺族が遺骨を納骨室に収納し,良好な状態で管理する上で利便性が高まることが認められるから,刊行物1発明の「納骨室に扉を設けた構造」は,本願発明3の「遺族に収納・管理をしやすくしたこと」との構成に含まれるものと解することができる。本願の当初明細書(甲3)に「今までの墓の形態が外柵・納骨室・石碑であったがこれらを全て一体化することで狭い場所に建墓する事が出来。その上,建墓に必要な石材は少なく・納骨室の開閉が遺族にできる事で管理し易く墓が狭いので草の刈り取りの必要もなくなる。 ・・・」 (段落【0004】)と記載されていたことも(本件補正により, 「管理」に関する記載は削除された。,このことを裏付けるものであるといえる。 ) したがって,本願発明3は,刊行物1発明と同一のものと認められるから,両者が「遺族に収納・管理をしやすくした納骨室」で一致し,相違するところは認められないとした審決の新規性の判断に誤りはない。 原告は,本願の請求項3の「遺族に収納,管理をしやすくしたことを特徴とする納骨室」というのは,飾りの空間・納めの空間にそれぞれ鍵を設置したことによって収納しやすく・管理しやすいとしたものであるから,新規な物に設置したことに新規性があり,特殊性がある旨主張する。 しかしながら,本願の請求項3には, 「遺族に収納,管理をしやすくしたことを特徴とする納骨室」との記載があるのみで,本願発明3を特定する事項として, 「飾りの空間・納めの空間」であることは何ら特定されていないから,そのことを理由に,本願発明3が新規なものであり,刊行物1発明とは異なる構成であるとの原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。 したがって,本願発明3が,「飾りの空間・納めの空間にそれぞれ鍵を設置した」ものであることなどを前提とする原告の上記主張は,本願発明3の発明特定事項に基づかないものであるから,採用することができない。 以上によれば,原告主張の取消事由3は理由がない。 5 取消事由4(本願発明5の新規性判断の誤り)について (1) 刊行物2発明について ア 刊行物2(甲2)には,以下の記載がある。 「【請求項1】 墓における納骨室の設置場所を従来の雨水が浸入し溜まり易い地下から地上とし納骨室を構成する石材やコンクリートに吸水防止剤を塗布し太陽の光を採り入れ,風を通し,竹炭を配置したことを特徴とする墓における納骨室。」 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は納骨室内の除湿,除菌,消臭を図り虫の発生を防ぐため太陽の光を採り入れ,風を通し竹炭を配置する。又,コンクリートや石材に吸水防止剤を塗布し外部からの水の浸入を防ぐ墓における納骨室に関するものである。」「【0003】従来の工法によるものは雨水が浸入し密閉された場所であるが為に結露による水滴の溜まりも手伝って納骨室は湿気が充満し空気は淀み異臭が漂っています。ジメジメした納骨室はカビ,コケ,の温床となりゴキブリ,ムカデ,ダンゴ虫,毛虫などの虫が住み着いています。納骨室は従来からもともと水が溜まりやすい欠点がありましたが特に納骨室に安置している骨壷の多くは上薬を塗った瀬戸焼で出来ているので通気が悪く気温の変化及び湿気のため結露を起こしています。 カルシュウム成分のお骨は特に空気中の水分を吸うので水が満ちてしまい,水瓶の中にお骨が在るという状態です。この骨壷の水は永久に出ることはなく溢れ続けます。」 「【0007】 【発明が解決しようとする課題】本発明は墓における納骨室に関するもので,その目的とするところは納骨室が暗くて,汚い,臭い,というイメージを払拭させ死後も清潔な場所で陽に当り,風の通る中で四季を感じ,小鳥のさえずりを聞きながら快適に永遠の眠りに就きたい,ご先祖様もそのような状態で居させてやりたい,という心情的な見地から発明した物である。」 「【0021】 【発明の実施の形態】発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1において墓本体1の下方に納骨室7が構成されています。・・・ 【0027】納骨室壁板後面部9の縦方向で下台6に近い納骨室内部と外部を通じる位置に穴開け加工を施し,吸気と排気を成す換気孔14を設けます。……当該換気孔14は納骨室7を構成する周壁の納骨室壁板に設置しますが,換気孔14は図3に示す通り吸気と排気を成す距離差が大きく開く程空気の循環作用が良好となるので(図1)に示している換気孔14は納骨室7の天井に近い納骨室壁板後面部9の上方に設けています。」「【0030】納骨室壁板右側面部10と納骨室壁板左側面部11の内部と外部を通じる位置に穴開け加工した吸気と排気を成す換気孔14を設け,納骨室壁板左側面部10の換気孔14は縦方向の上方に,納骨室壁板左側面部11の換気孔14は縦方向の下方に設けています。前述の空気の循環作用が良好と成るようにしたものです。」「【0046】納骨室内部と外部を通ずる納骨室壁板に吸気と排気を成す換気孔を互いに位置する距離差を取り設けたことにより通気を良くし空気の淀みと湿気の滞留をなくし結露を防止することができる。」 イ 刊行物2発明の特徴 刊行物2発明は,墓における納骨室に関するものである(段落【0001】。 ) 刊行物2発明は,納骨室が暗くて,汚い,臭い,というイメージを払拭させ死後も清潔な場所で陽に当り,風の通る中で四季を感じ,小鳥のさえずりを聞きながら快適に永遠の眠りに就きたい,ご先祖様もそのような状態で居させてやりたいとの心情を実現することを目的とするものである(段落【0007】。 ) そこで,刊行物2発明は,設置場所を地上とし,納骨室壁板に吸気と排気を成す換気孔を互いに位置する距離差を取り設けたことにより通気を良くした墓における納骨室,との構成を採用し,通気を良くし空気の淀みと湿気の滞留をなくし結露を防止することができる,という効果を奏するものである(【請求項1】,段落【0030】【0046】。 , ) (2) 以上によれば,刊行物2発明は,第2,3(3)アのとおり認定することができる。 (3) 本願発明5と刊行物2発明との対比,判断について 本願発明5は, 「通気性を高めた事を特徴とする納骨室」であるところ,本願明細書には, 「通気性を高めた事」について, 「取りあえず二部屋として紹介をする。 ・ ・ ・そのため,この部屋は遺骨を置く飾り棚や上部から自然光が降り注ぐ天窓を要し。 通気性を考え通気口を設置し,扉は部外者が開ける事の無い様に施錠をし,更に押扉によって密閉さを保つ。 (段落【0007】 」 )との記載があり,その他,「通気性を高めた事」について,何ら具体的な記載はない。 そうすると,本願明細書には, 「通気性を高めた事」について,扉を閉めた「密閉」状態での納骨室の一定の通気状態を前提として,その上で, 「通気口」を設置することで,「通気性を高めた」ことが記載されていると認められるから,「通気口を設置する」との構造は,本願発明5の「通気性を高めた事」との構成に含まれるものとして開示されているということができる。 一方,刊行物2発明は, 「設置場所を地上とし,納骨室壁板に吸気と排気を成す換気孔を互いに位置する距離差を取り設けたことにより通気を良くした墓における納骨室。」であり,「吸気と排気を成す換気孔を互いに位置する距離差を取り設けた」ことで,「吸気と排気を成す距離差が大きく開く程空気の循環作用が良好とな」り(【0027】, )「空気の循環作用が良好と成るように」【0030】 ( )したものであって, 「通気を良く」するものであるといえるから,刊行物2には,刊行物2発明として,「納骨室壁板に吸気と排気を成す換気孔を互いに位置する距離差を取り設けたことにより通気を良くした」構造が開示されているものと認められる。 前記のとおり, 「通気口を設置する」との構造は,本願発明5の「通気性を高めた事」との構成に該当することに照らせば,刊行物2発明の「納骨室壁板に吸気と排気を成す換気孔を互いに位置する距離差を取り設けたことにより通気を良くした」ことは,本願発明5に相当するものと解される。 したがって,本願発明5は,刊行物2発明と同一のものと認められるから,両者が「通気性を高めた事を特徴とする納骨室」で一致し,相違するところは認められないとした審決の新規性の判断に誤りはない。 原告は,本願発明5は,独立した部屋である納骨室と安置室を重ねて構成され,天窓部を設け自然光を取り込み,二方向に空気の流れを作り,故人のお住まいと捉え居住環境を装備した「石碑型納骨室」という,現存しなかった新規なものに換気口を設置したものであるのに対し,刊行物2発明については,換気口は多種多様なところで使用されているものであるから,これを一般の部屋に取り付けることを特徴として特許の取得はできないなどと主張する。 しかしながら,本願の請求項5には,「通気性を高めた事を特徴とする納骨室」との記載があるのみで,原告が主張するような「石碑型納骨室」であることは特定されていないから, 「石碑型納骨室」であることを理由に,本願発明5が新規なものであり,刊行物2発明とは異なる構成であるとの原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。 したがって,本願発明5が, 「石碑型納骨室」であることなどを前提とする原告の上記主張は,本願発明5の発明特定事項に基づかないものであるから,採用することができない。 |
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結論
以上のとおり,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 清水節 |
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裁判官 | 中島基至 |
裁判官 | 岡田慎吾 |