関連審決 |
無効2014-800155 |
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事件 |
平成
27年
(行ケ)
10247号
審決取消請求事件
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原告住友精化株式会社 訴訟代理人弁護士飯村敏明 山上和則 松本司 田上洋平 森下梓 訴訟復代理人弁護 士冨田信雄 訴訟代理人弁理士細田芳徳 被告株式会社日本触媒 訴訟代理人弁護士小松陽一郎 川端さとみ 森本純 山崎道雄 藤野睦子 大住洋 中原明子 訴訟復代理人弁護 士原悠介 前嶋幸子 訴訟代理人弁理士原謙三 福井清 黒田敏朗 長谷川和哉 小池隆彌 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2017/03/16 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が無効2014−800155号事件について平成27年11月10日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
主文同旨 |
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事案の概要
本件は,特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,@進歩性判断(相違点1の判断)の誤りの有無,Aサポート要件の判断の誤りの有無である。 1 特許庁における手続の経緯 被告は,名称を「紙オムツへの吸水剤の使用」とする発明について,平成11年2月25日にした国際出願(本件原出願。特願平11-49111号,パリ条約に基づく優先権主張,優先日・平成10年3月3日(本件優先日),優先権主張国・日本国)の分割出願として,平成21年3月31日,特許出願をし(特願2009-87378号),平成24年11月30日,その特許権(特許第5143073号。 請求項の数8)の設定登録を受けた(本件特許。甲13の2)。 原告が,平成26年9月12日に本件特許の請求項1に係る発明についての特許無効審判請求(無効2014-800155号)をしたところ(甲13の1),特許庁が平成27年4月8日付けで審決の予告をしたので(甲13の4),被告は,同年6月12日付けで訂正請求をした(本件訂正。甲13の5の1〜3)。 特許庁は,平成27年11月10日, 「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。 との審決をし, 」 その謄本は,同月19日,原告に送達された。 2 本件訂正発明の要旨 本件訂正後の本件特許の請求項1に係る発明(本件訂正発明)の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(甲13の5の1及び2。下線は,訂正箇所を示す。 また,便宜上,原告の構成要件の分説に従って,構成要件に分説して示す。 。 )A 吸水剤として下記の吸水剤を用いることを特徴とする,紙オムツへの吸水剤の使用。 B 2個以上の重合性不飽和基または2個以上の反応性基を有する内部架橋剤を共重合または反応させたポリアクリル酸ナトリウム塩部分中和物架橋体からなる吸水性樹脂を含みC 該吸水性樹脂はその表面近傍が前記ポリアクリル酸ナトリウム塩部分中和物架橋体のカルボキシル基と反応し得る表面架橋剤でさらに架橋処理されてなるものであり,かつ,D 該吸水性樹脂100重量部に対し0.0001〜10重量部の配合割合で,ジエチレントリアミンペンタ酢酸,トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸およびこれらの塩の中から選ばれるイオン封鎖剤が配合されてなる,E 吸水剤。 3 審判における請求人(原告)の主張 (1) 無効事由1及び2(進歩性欠如) 本件訂正発明は,甲1に記載された発明(甲1発明)を主引例として,甲2に記載された発明,更には甲3の1及び2,甲4の1及び2並びに甲5の1及び2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである(無効事由1)。 また,本件訂正発明は,甲6の1〜12及び甲7の記載を参酌すれば,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(無効事由2)。 したがって,本件訂正発明は,特許法29条2項により特許を受けることができない。 甲1:特開平8-337726号公報 甲2:特開平5-149号公報 甲3の1:特開昭63-146964号公報 甲3の2:特開平1-210463号公報 甲4の1:上野景平著「キレート滴定法」昭和47年6月15日改訂14版,株式会社南江堂発行,13〜26頁 甲4の2: 「第20版/総合カタログ」平成8年3月15日,株式会社同仁化学研究所発行,430〜431頁 甲5の1:特開平8-52203号公報 甲5の2:特開平8-127725号公報 甲6の1〜12:事実実験公正証書(1)〜(12) 甲7:平成26年9月10日,住友精化株式会社吸水性樹脂研究所A作成の陳述書 (2) 無効事由3(サポート要件違反) 特許請求の範囲(請求項1)の記載が,特許法36条6項1号の要件を満たしていない。 すなわち,本件訂正発明のイオン封鎖剤の配合割合について,下限値は0.0001重量部であり,本件訂正後の明細書(本件訂正明細書。甲13の5の3)にも,「0.0001重量部よりも少ないと耐尿性向上の効果が得られない。 ( 」 【0018】 と記載されているにもかかわらず, 0001重量部の実施例はない。 ) 0. 他方,上限値は10重量部であるにもかかわらず,実施例の上限値は,ジエチレントリアミンペンタ酢酸5ナトリウム(DTPA-5Na)では0.1重量部,トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸6ナトリウム(TTHA-6Na)及びシクロヘキサン-1,2-ジアミンテトラ酢酸(CyDTA)では0.01重量部にすぎない。 よって,本件訂正明細書において,イオン封鎖剤の配合割合の全範囲において,本件訂正発明の課題を解決したことをサポートする開示はないから,本件訂正発明の範囲まで拡張又は一般化できない。 4 審決の理由の要点 (1) 無効事由1及び2(進歩性欠如)について ア 甲1発明の認定 甲1には,次の甲1発明が記載されている。 「アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩等の水溶性ビニルモノマーに対して,重合開始剤として0.03〜0.4重量%の量の過硫酸カリウム,過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩を使用して重合した後に,ポリビニル化合物以外の架橋剤を生成ポリマーに対して0.001〜1重量%の範囲で添加反応させることによって得られた中和度が40〜90モル%であるポリアクリル酸塩架橋体の重合工程後,キレート化合物をポリアクリル酸塩架橋体100重量部に対し0.001〜10重量%の量で添加することによって製造された, 下記要件(1)〜(3)を具備する高吸水性樹脂の, 幼児用,大人用若しくは失禁者用使い捨ておむつにおける吸収体への使用。 (1)生理食塩水中30分膨潤後の遠心脱水法による吸水量が35g/g以上である。 (2)生理食塩水中15時間膨潤後の可溶分ポリマー量が高吸水性樹脂量に対して20重量%以下である。 (3)L-アスコルビン酸ナトリウムを0.05重量%溶解させた生理食塩水中15時間膨潤後の可溶分ポリマー量が高吸水性樹脂量に対して20重量%以下である。」 イ 一致点の認定 本件訂正発明と甲1発明とを対比すると,次の点で一致する。 「吸水剤として下記の吸水剤を用いることを特徴とする,紙オムツへの吸水剤の使用。 ポリアクリル酸ナトリウム塩部分中和物からなる吸水性樹脂を含み該吸水性樹脂は架橋剤で架橋処理されてなるものであり,かつ,該吸水性樹脂100重量部に対し0.0001〔判決注・「0.001」の誤記と認められる。〕〜10重量部の配合割合でイオン封鎖剤が配合されてなる,吸水剤。」 ウ 相違点の認定 本件訂正発明と甲1発明とを対比すると,次の点が相違する。 (ア) 相違点1 架橋剤で架橋処理される前の対象物であるポリアクリル酸ナトリウム塩部分中和物について,本件訂正発明は, 「架橋体」からなり「2個以上の重合性不飽和基または2個以上の反応性基を有する内部架橋剤を共重合または反応させた」ものであると特定するのに対し,甲1発明は, 「アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩等の水溶性ビニルモノマーに対して,重合開始剤として0.03〜0.4重量%の量の過硫酸カリウム,過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩を使用して重合し」て得られた「生成ポリマー」と特定する点。 (イ) 相違点2 架橋剤による架橋処理について,本件訂正発明は,吸水性樹脂の表面近傍が更に架橋処理されてなると特定するのに対し,甲1発明は,表面を架橋することに関し特に明記していない点。 (ウ) 相違点3 イオン封鎖剤(キレート化合物)の種類について,本件訂正発明は, 「ジエチレントリアミンペンタ酢酸,トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸およびこれらの塩の中から選ばれる」と特定するのに対し,甲1発明は,単に「キレート化合物」と特定する点。 エ 相違点1についての判断 (ア) 使い捨ておむつ等における吸収体において,内部架橋をすること,また,そのための具体的な手段として,@内部架橋剤を使用せず,重合開始剤である過酸化物や過硫酸塩を使用した自己架橋型や,A内部架橋剤を使用した内部架橋剤型があることは,当業者の技術常識である。 (イ) 甲1発明の「重合開始剤として0.03〜0.4重量%の量の過硫酸カリウム,過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩を使用して重合し」て得られた「生成ポリマー」は,甲1に「過酸化物及び過硫酸塩を用いる場合には,架橋反応も伴い」と記載されていることからも,いわゆる自己架橋型の内部架橋を有するものである。 (ウ) 自己架橋により内部架橋して得られた吸収体と,内部架橋剤を使用して内部架橋して得られた吸収体とを比較すると,両者はその分子構造が異なる。 そして,使い捨ておむつ等における吸収体には,体液の高い吸収倍率,優れた吸収速度,吸引力,少ない液戻り量,あるいは通液性,膨潤ゲルのゲル強度,ゲルブロッキングの防止といった,場合によっては相反するような複数の特性を兼ね備えることが必要とされるが,これらの特性は,上記分子構造の相違によって相互に複雑に影響を受けることとなり,その結果,両者の吸収体としての特性が変化するものと認められる。 (エ) そうすると,甲1発明に接した当業者は,甲1発明における自己架橋型の内部架橋に代えて,あるいは更に加えて,内部架橋剤型の内部架橋を適用しようとはしないはずである。 したがって,甲1発明から相違点1に係る構成を想到することは困難である。 (オ) 甲1の段落【0021】には,架橋剤を添加するに際しては, 「重合前」,「重合時」又は「重合後」に添加することができると記載されているが,この記載は,架橋剤を添加する時期が異なることを単に示しているにすぎず,いわんや,架橋剤をそれらの段階の複数で添加することを意味するものでもない(実際のところ,甲1の実施例1〜14は架橋剤を「重合後」に添加し,実施例15及び16は架橋剤を「重合前」に添加するものと認められ,架橋剤を「重合前」「重合時」又は「重 ,合後」のうちの複数の段階で添加する例は,甲1には全く記載されていない。。 ) したがって,段落【0021】は,甲1発明から相違点1に係る構成を想到することの示唆にはならない。 (カ) 甲1発明は,アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩等の水溶性ビニルモノマーを重合した後に,ポリビニル化合物以外の架橋剤を添加反応させることによってポリアクリル酸塩架橋体を製造するものである。 そうすると,甲1発明においては,当該「重合後」に架橋剤を添加したものに相当すると認められ,内部架橋剤の使用を意図していないものと認められるから,甲1発明において,内部架橋剤の使用に加えて表面架橋をするとの技術思想は存在しない。甲1発明において, 「重合後」に架橋剤を添加することに加えて,さらに,架橋剤を「重合前」あるいは「重合時」にも添加することは,当業者であっても容易とはいえない。 (キ) 仮に,高吸水性樹脂の製造において,2個以上の重合性不飽和基又は2個以上の反応性基を有する内部架橋剤を共重合又は反応させ,さらに,重合後に架橋剤を反応させることが周知技術であったと仮定しても,甲1発明において,さらに,2個以上の重合性不飽和基又は2個以上の反応性基を有する内部架橋剤を共重合又は反応させることの動機付けがあるとはいえない。 そして,それによりもたらされる,吸水性樹脂の吸水諸特性をバランスよく改善しつつ,尿を吸収したときの経時的な劣化の少ない,耐尿性に優れるという効果は当業者が予測し得るものであるとはいえない。 (ク) 甲1の記載や本件優先日の技術常識,請求人(原告)提出の証拠によっても,甲1発明の生成ポリマーが有する架橋構造が,2個以上の重合性不飽和基又は2個以上の反応性基を有する内部架橋剤を共重合又は反応させることにより生成した内部架橋構造と全く等価なものであって,これらの(内部)架橋生成手段が自由に置換可能なものであるとまではいえない。 オ 結論 以上のとおりであるから,相違点2及び3について検討するまでもなく,本件訂正発明は,甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2) 無効事由3(サポート要件違反)について ア 本件訂正明細書の記載によれば,本件訂正発明について,概ね次のとおりのことがいえる。 (ア) 尿吸収用途における吸収性物品,特に紙オムツへの吸水剤として,従来,ポリアクリル酸部分中和物架橋体等が知られていた。かかる吸水性樹脂に望まれる特性として,水性液体に接した際の高い吸収倍率や優れた吸収速度,通液性,膨潤ゲルのゲル強度,水性液体を含んだ基材から水を引き上げる吸引力等が挙げられるが,これらの特性間の関係は必ずしも正の相関関係を示さず,例えば,吸収倍率の高いものほど通液性,ゲル強度,吸収速度等の物性は低下してしまうという問題を有していた。そこで,このような吸水性樹脂の吸水諸特性をバランスよく改良する方法として吸水性樹脂の表面近傍を架橋する技術が知られており,これまでに様々な方法が提案されていた。 しかしながら,これら表面処理により吸水諸特性のバランスは改善されてきてはいるものの,吸水性樹脂をおむつの吸収体に用いると経時的に吸水性樹脂が劣化し,通液性が低下したり,ゲル強度が低下し,おむつから尿が漏れてしまうという問題があった。当該吸水性樹脂の劣化は,吸水性樹脂の表面から起こり,可溶分が溶出し,通液性やゲル強度が低下するものであって,微量の金属イオンと尿中に含まれるL-アスコルビン酸により起きると考えられていた。 (イ) このような従来の課題を解決すべく,本件訂正発明は,吸水性樹脂の吸水諸特性をバランスよく改良すると共に,尿を吸収したときの経時的な劣化の少ない,耐尿性にも優れた吸収剤の紙オムツへの使用を提供するといった課題解決を図るものである。 (ウ) そして, 「2個以上の重合性不飽和基または2個以上の反応性基を有する内部架橋剤を共重合または反応させたポリアクリル酸ナトリウム塩部分中和物架橋体からなる吸水性樹脂を含み該吸水性樹脂はその表面近傍が前記ポリアクリル酸ナトリウム塩部分中和物架橋体のカルボキシル基と反応し得る表面架橋剤でさらに架橋処理されてなるもの」を用いることで,吸水性樹脂の吸水諸特性をバランスよく改良した吸水剤であることが理解できる。 また,例えば,実施例1〜4と比較例1とを対比することにより, 「該吸水性樹脂100重量部に対し0.0001〜10重量部の配合割合で,ジエチレントリアミンペンタ酢酸,トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸およびこれらの塩の中から選ばれるイオン封鎖剤が配合されてなる」ものを用いることで,劣化可溶性成分溶出量が少なく,耐尿性に優れた吸水剤となることが理解できる。 (エ) そうすると,当業者であれば,本件訂正明細書の記載から,紙オムツへの吸水剤の使用に際して,2個以上の重合性不飽和基または2個以上の反応性基 「を有する内部架橋剤を共重合または反応させたポリアクリル酸ナトリウム塩部分中和物架橋体からなる吸水性樹脂」を含み, 「該吸水性樹脂はその表面近傍が前記ポリアクリル酸ナトリウム塩部分中和物架橋体のカルボキシル基と反応し得る表面架橋剤でさらに架橋処理されてなるもの」であり,かつ, 「該吸水性樹脂100重量部に対し0.0001〜10重量部の配合割合」 「ジエチレントリアミンペンタ酢酸, で,トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸およびこれらの塩の中から選ばれるイオン封鎖剤が配合されてなる」 吸水剤を用いることで, , 吸水性樹脂の吸水諸特性をバランスよく改良すると共に,尿を吸収したときの経時的な劣化の少ない,耐尿性に優れた吸水剤の紙オムツへの使用を提供するといった課題の解決を図ることができることを認識できる。 イ したがって,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載は,当業者が本件訂正発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえるから,サポート要件を満たす。 ウ 本件訂正発明の課題は,前記のとおり,尿を吸収したときの経時的な劣化の少ない,耐尿性に優れた吸水剤の紙オムツへの使用を提供するものであると認められ,これは,本件訂正発明のイオン封鎖剤を配合した場合において,イオン封鎖剤を配合しない場合と比較しての効果があればよいものであると解される。 エ 本件訂正明細書の【0018】には,「使用量が10重量部を越えると,使用に見合う効果が得られず不経済になるばかりか,吸収量が低下するなどの問題が生じる。また,0.0001重量部よりも少ないと耐尿性向上の効果が得られない。 と記載されており, 」 本件訂正発明のイオン封鎖剤を実施例に記載されているもの以外の範囲の配合量で使用した場合に課題が解決できる旨が記載されている。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(相違点1の判断の誤り) (1) 機序の認定の誤り 審決は,内部架橋における自己架橋型と内部架橋剤型とでは,吸水性樹脂の分子構造が異なり,その結果,吸水性樹脂の吸水量等の吸水諸特性が変化すると認定したが,この機序の認定は,何らの証拠の裏付けがなく,化学上の学術知見から見れば誤ったものである。 すなわち,自己架橋型には,自己架橋に伴う架橋点しか存在しないのに対し,内部架橋剤型には,そのほかに内部架橋剤による架橋点も存在するため,自己架橋型と内部架橋剤型とで分子構造は異なる。しかし,このような分子構造の微細な差異は,吸水量等の吸水諸特性に影響を及ぼすものではない。 吸水諸特性(吸水量)に影響を及ぼすのは,フローリーの式〔吸水力=(イオンの浸透圧+高分子電解質の水との親和力)/橋かけ密度〕が示す架橋密度(網目の大きさ)である。自己架橋型と内部架橋剤型とでは,分子構造が異なるものの,架橋密度が同じなら,吸水量等の吸水諸特性は同じ傾向を示す。 (2) 甲1発明に関する認定の誤り 審決は,甲1の「本発明の高吸水性樹脂を製造するに際しては,重合前,重合時又は重合後に,公知の架橋剤を反応系に添加することができる。」との記載を,「架橋剤を添加する時期が異なることを単に示しているにすぎず」と解釈し,また,甲1発明の実施例1〜16には内部架橋剤型で表面架橋を併用するものが含まれていないことから, 「甲1発明において,内部架橋剤の使用に加えて表面架橋をするとの技術思想は存在しないといえる」と認定したが,誤りである, すなわち,内部架橋が内部架橋剤型で,かつ,表面架橋を施す技術,換言すれば,架橋剤を複数回添加する技術は,甲12の1,4,5,甲16の1〜6の各発明で開示され,甲15の2の学術文献でも紹介され,さらに,被告の本件訂正発明の分割出願前の本件原出願の審査過程の意見書(甲17の5)でも認められている,周知技術である。 また,架橋剤を「重合前または重合時」に添加すると内部架橋剤(内部架橋剤型)として添加し,「重合後」(吸水性樹脂形成後)に添加すると表面架橋剤として添加していることは,上記各証拠の発明の実施例の製法で示されている周知の知見である。そもそも,「重合後」(吸水性樹脂が形成された後)に添加しないと,吸水性樹脂の粒子の「表面」のみを架橋できないし,逆に「重合前または重合時」 (吸水性樹脂が形成される前)に添加しないと,吸水性樹脂の粒子の「内部」を架橋することはできない。 (3) 本件訂正発明に関する認定の誤り 審決は,構成要件Bの構成により, 「吸水性樹脂の吸水諸特性をバランスよく改善しつつ・・・耐尿性に優れるという効果」を奏した旨認定したが,誤りである。 すなわち,吸水量等の吸水諸特性のバランスを良好にすることは,構成要件B及びCの内部架橋を伴う表面架橋の構成を採用することで奏する効果であって,本件訂正明細書の【0003】【0004】でも,既にほぼ解決された課題として説明 ,されている。このことは,被告も本件特許の出願審査における意見書(甲17の4)で主張している。 これに対して,本件訂正発明の課題である「尿を吸収したときの経時的な劣化の少ない,耐尿性に優れるという効果」は,構成要件Dのイオン封鎖剤を配合する構成を採用したことで奏する効果であって,構成要件Bの内部架橋の構成とは直接には関係しない。 更にいえば,特定のイオン封鎖剤(ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)又はトリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸(TTHA))を選択したことにより,他のイオン封鎖剤を配合する場合と比較して吸水諸特性がバランスよく改善されるものでもない。 (4) 容易想到性の判断の誤り 審決は,本件訂正発明の技術分野で内部架橋に係る自己架橋型及び内部架橋剤型は技術常識であることを認めながら,甲1発明から相違点1に係る構成を想到する 「ことは困難である」「甲1発明において, , 『重合後に』架橋剤を添加することに加えて,さらに,架橋剤を『重合前』あるいは『重合時』にも添加することは,当業者であっても容易であるとはいえない。,自己架橋型と内部架橋剤型とが「全く等価 」なものであって,これらの(内部)架橋生成手段が自由に置換可能なものであるとまではいえない。」と判断するが,誤りである。 甲1発明から相違点1に係る構成を想到すること,すなわち,内部架橋につき,自己架橋型を内部架橋剤型に変更する程度のことは,甲16の1〜6に示すような設計的な変更事項であって,当業者が極めて容易に想到し得たものである。 さらに,甲18の1〜6は,当業者は自己架橋型より内部架橋剤型を採用することを示している。 2 取消事由2(サポート要件の判断の誤り) (1) 審決は,本件訂正発明を「吸水性樹脂の吸水諸特性をバランスよく改良すると共に,尿を吸収した時の経時的な劣化の少ない,耐尿性にも優れた吸収剤の紙オムツへの使用を提供するといった課題解決を図るものである。」と理解し,「イオン封鎖剤を配合した場合において,イオン封鎖剤が存在しない場合と比較しての効果があれば良いものであると解される。 と誤って認定した結果, 」 イオン封鎖剤を添加しない比較例と比較して耐尿性に優れている旨のデータが本件訂正明細書に示されているからサポート要件は充たされているという誤った判断に至った。 しかしながら,本件訂正発明は,その出願経緯や,耐尿性の向上のためイオン封鎖剤(キレート剤)を配合することは,出願時には周知技術,技術常識となっていたこと(甲1,2,3の1,2,5の1,2)からして,単にイオン封鎖剤を添加する構成を採用した発明ではなく,他のイオン封鎖剤と比較して耐尿性に優れる特定のイオン封鎖剤を選択した発明として進歩性を認められたものである。にもかかわらず,本件訂正発明のイオン封鎖剤と他のイオン封鎖剤との効果(耐尿性)の比較(「可溶性成分溶出量(%), 」「劣化可溶性成分溶出量(%)」の各データ)は,一切開示されていない。 (2) また, 「0.0001重量部」の添加により耐尿性に優れるかは,サポートされていない。 被告は,イオン封鎖剤を添加しなかった比較例1〜3の劣化可溶性成分溶出量が24.5%以上であるところ,イオン封鎖剤を添加した実施例1〜3のイオン封鎖剤の添加量と劣化可溶性成分溶出量との関係を,イオン封鎖剤の添加量を対数目盛間隔で表記したグラフにプロットすると,イオン封鎖剤が0.0001重量部の場合の劣化可溶性成分溶出量が17%程度であることを読み取ることができ,耐尿性に優れるとの効果はサポートされていると主張する。しかしながら,イオン封鎖剤の添加量と劣化可溶性成分溶出量との関係が上記グラフのような指数関係にあるという知見はなく,上記グラフからイオン封鎖剤が0.0001重量部の場合に劣化可溶性成分溶出量が17%程度になると予測することはできない。 さらに,トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸(TTHA)の実施例は,0.01重量部を配合した実施例4の1点だけしかなく,その100分の1の量である0.0001重量部を配合した場合の劣化可溶性成分溶出量は予測できない。 |
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被告の反論
1 取消事由1に対し (1) 機序の認定の誤りに対し 自己架橋型の架橋構造は,ポリマー同士がポリマーを介して架橋した網目構造であり,一方,内部架橋剤型の架橋構造は,ポリマー同士が内部架橋剤を介して架橋した網目構造であり,両者は,それぞれの架橋構造において,分子構造や網目の大きさが異なるのが一般的である。審決がいう「分子構造」とは,網目の大きさや架橋密度を含めた吸水性樹脂(ポリマー)全体の分子構造であると解釈すべきであり,このように解釈した場合,自己架橋型と内部架橋剤型とでは,異なる分子構造となるから,審決にいう「分子構造が異なる」との認定は正しいものといえる。 また,内部架橋剤型であったとしても,使用する内部架橋剤の構造,属性により大きく吸水諸特性が異なるのであり,単純に「フローリーの式」に従うというものではなく,異なる内部架橋剤により内部架橋された吸水性樹脂は,その分子レベルでの微細構造が異なることに起因して,吸水特性が異なるものである。まして, 「自己架橋型の架橋構造」を「内部架橋剤型の架橋構造」と同視することは不合理であり,失当である。 (2) 甲1発明に関する認定の誤りに対し 甲1の【0021】には,重合前,重合時,重合後それぞれの添加時期に架橋剤を加えることのメリットは一切記載されていない。また,甲1の実施例1は,重合後に架橋剤を加える実施例であり,実施例15及び16は,重合前に架橋剤を加える実施例であるが,いずれも物性(膨潤ゲルの安定性)が○になっている。このように,甲1には,あらゆる順序で架橋剤を添加できることが記載されているにすぎない。 また,甲12の4及び5には,単に「内部架橋剤による内部架橋」と「表面架橋剤による表面架橋」とを区別して使用しているのみであって,そもそも,重合後に架橋剤を加えたからといって,必ずしも吸水性樹脂の表面近傍が架橋されるとは限らず,「重合前又は重合時」に架橋剤を添加した場合には「内部架橋」になる一方,「重合後」に架橋剤を添加した場合には「表面架橋」になることを示す文献ではない。甲12の1には,そもそも「内部架橋」「表面架橋」といった用語は使われて ,いない。そして,原告指摘のいずれの甲号証にも, 「内部架橋剤の使用に加えて表面架橋をした」吸水性樹脂に,更に「イオン封鎖剤」を使用するという,本件訂正発明の特徴的な3つの構成を全て備える技術については,全く記載されていない。 さらに,甲1発明は,架橋剤の添加量は1重量%未満とされているように(甲1【0022】, )「架橋剤量を低減させる」又は「架橋剤をできるだけ使用しない」ことを前提とした発明(甲1【0004】〜【0005】)であるから,甲1発明において,内部架橋剤の使用に加えて表面架橋を施す」 「 という構成を採用すること自体,甲1発明の「架橋剤量を低減させる」又は「架橋剤をできるだけ使用しない」という技術思想と反する方向であって,阻害事由となる。甲1発明は, 「内部架橋剤の使用に加えて表面架橋をすること」を排斥しているといえる。 (3) 本件訂正発明に関する認定の誤りに対し 本件訂正明細書【0003】及び【0004】の記載は,吸水量等の吸水諸特性のバランスを良好にすることが既にほぼ解決された課題であると述べたものではない。また,本件訂正発明の課題は, 「内部架橋剤による内部架橋処理」と「表面架橋剤による表面架橋処理」とを併用して「吸水性樹脂の吸水諸特性(吸水量,荷重下吸水量)をバランスよく改良すること」を前提とした上で,さらに, 「表面架橋された吸水性樹脂が金属イオンと尿中に含まれるL-アスコルビン酸により劣化することを防止すること」であり,本件訂正発明は,その課題に対する具体的な解決手段を提供したものであるから,耐尿性だけでなく,吸水性樹脂の吸水諸特性(吸水量,荷重下吸水量)がバランスよく維持されていることも,本件訂正発明の効果である。 審決は,本件訂正発明の課題及び効果について,正しく認定しており,適切な判断に基づくものといえる。 また,本件訂正明細書の実施例では,吸水性樹脂の吸水諸特性のうち,「吸水量」及び「荷重下吸水量」が実際に評価されており 【0031】 【0034】 表1】, ( 〜 , 【 )例えば,イオン封鎖剤を添加した場合,安定性が向上しても吸水性能が低下する場合がある(甲3の1の比較例2及び実施例3)が,本件訂正発明では,特定のイオン封鎖剤の添加により,吸水諸特性に悪影響を与えることなく,耐尿性を向上させ得ることが示されている。 (4) 容易想到性の判断の誤りに対し 本件訂正発明は,(@)「内部架橋剤による内部架橋処理」と,(A)「表面架橋剤による表面架橋処理」とを併用した上で,さらに,(B)「特定の限られたイオン封鎖剤」を組み合わせた構成に特徴があり,かかる特徴的な構成ゆえに,(C)「吸水性樹脂の吸水諸特性 “吸水量” ( 及び“荷重下吸水量” をバランスよく維持しつつ, )尿による経時的な劣化の指標である“劣化可溶性成分溶出量”を低く抑え得る」という優れた効果を奏するものである。本件訂正発明の優先日の時点において,内部架橋技術,表面架橋技術及びイオン封鎖剤のそれぞれの技術は,公知技術であったが,これらの構成の全てを組み合わせることについては,原告主張のいずれの文献にも開示も示唆もされていない。このような本件訂正発明の特徴的な構成の組合せやその奏する効果について全く考慮せず,本件訂正発明の各構成要件につき個別に議論しようとする原告の主張は,失当である。 また,本件訂正発明は,内部架橋技術,表面架橋技術及び特定のイオン封鎖剤という各構成要素を組み合わせることにより,格別顕著に優れた効果を奏するものである。 したがって,本件訂正発明は,原告指摘のいずれの文献からも容易に想到し得るものではなく,その効果は格別顕著に優れたものであるから,十分に進歩性の特許要件を満たす。 2 取消事由2に対し (1) 本件訂正明細書の記載(特に【0002】〜【0004】【0007】【0 , ,008】【0012】【0014】【0028】 , , , )によれば,本件訂正発明の課題は,「内部架橋剤による内部架橋処理」と「表面架橋剤による表面架橋処理」とを併用して「吸水性樹脂の吸水諸特性(吸水量,荷重下吸水量)をバランスよく改良すること」を前提とした上で,更に「表面架橋された吸水性樹脂が金属イオンと尿中に含まれるL-アスコルビン酸により劣化することを防止すること」であり,本件訂正発明は,その課題に対する具体的な解決手段を提供したものと把握できる。 それゆえ,本件訂正発明のイオン封鎖剤を配合した場合において,イオン封鎖剤が存在しない場合と比較しての効果があればよいものである。 (2) 本件訂正明細書の【0018】には, 「・・・使用量が10重量部を越えると,使用に見合う効果が得られず不経済になるばかりか,吸収量が低下するなどの問題が生じる。また,0.0001重量部よりも少ないと耐尿性向上の効果が得られない。 として, 」 本件訂正発明のイオン封鎖剤を実施例に記載されているもの以外の範囲の配合量で使用した場合に課題を解決できる旨が明記されている。 また,本件訂正明細書【表1】 (吸水剤の性能評価結果)記載のとおり,イオン封鎖剤を添加しなかった比較例1〜3では,劣化可溶性成分溶出量が24.5%以上であるのに対し(グラフ1の赤色の破線),イオン封鎖剤を添加した実施例3(0.1重量部),実施例2(0.01重量部),実施例1(0.001重量部)では,劣化可溶性成分溶出量が11.3%,12.0%,13.8%と顕著に抑えられている。このイオン封鎖剤の添加量と劣化可溶性成分溶出量との関係をプロットすると(グラフ1の青色の四角) なだらかに安定した曲線となっており , (グラフ1の青色の実線),かかる曲線の外挿により,イオン封鎖剤が0.0001重量部の場合の劣化可溶性成分溶出量が17%程度であることが経験則上読み取れる。すなわち,イオン封鎖剤の添加量の減少に伴い劣化可溶性成分溶出量が漸増するが,イオン封鎖剤が0.0001重量部添加されていれば,十二分に効果を奏することが明白であり,当業者は,課題を解決できることを認識できる。 (グラフ1:本件訂正明細書記載の実施例におけるイオン封鎖剤添加量と劣化可溶性成分溶出量との関係) 30% 劣 25% 化 0.0001重量部 可 溶 添加量 0重量部 20% 性 比較例1 成 15% 分 溶 10% 出 実施例1 量 実施例3 ( 5% % 実施例2 ) 0% 0.0000001 0.000001 0.00001 0.0001 0.001 0.01 0.1 1 イオン封鎖剤添加量(対吸水性樹脂100重量部) |
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当裁判所の判断
1 本件訂正発明について (1) 本件訂正明細書(甲13の5の3)には,以下の記載がある。 ア 技術分野【0001】 本発明は吸水剤の使用に関する。更に詳しくは,尿吸収時の劣化の少ない,尿吸収用途における吸収性物品,特に紙オムツへの吸水剤の使用に関する。 イ 背景技術【0002】 近年,紙おむつ,生理用ナプキン,いわゆる失禁パッドなどの衛生材料には,その構成材として,尿や経血等の体液を吸収させることを目的として,吸水性樹脂(吸水剤)が幅広く利用されている。 このような吸水性樹脂としては,例えば,…逆相懸濁重合によって得られた自己架橋型ポリアクリル酸ナトリウム…,ポリアクリル酸部分中和物架橋体…等が知られている。 【0003】 かかる吸水性樹脂に望まれる特性としては,水性液体に接した際の高い吸収倍率や優れた吸収速度,通液性,膨潤ゲルのゲル強度,水性液体を含んだ基材から水を引き上げる吸引力等が挙げられる。しかしながら,これらの特性間の関係は必ずしも正の相関関係を示さず,例えば,吸収倍率の高いものほど通液性,ゲル強度,吸収速度等の物性は低下してしまうという問題を有している。 この様な吸水性樹脂の吸水諸特性をバランスよく改良する方法として吸水性樹脂の表面近傍を架橋する技術が知られており,これまでに様々な方法が提案されている。 …【0004】 しかしながら,これら表面処理により吸水諸特性はバランスは改善されてきてはいるものの,吸水性樹脂をおむつの吸収体に用いると経時的に吸水性樹脂が劣化し,通液性が低下したりゲル強度が低下し,おむつから尿が漏れてしまうという問題があった。吸水性樹脂の劣化は吸水性樹脂の表面から起こり,可溶分が溶出し,通液性やゲル強度が低下する。このような吸水性樹脂の劣化は微量の金属イオンと尿中に含まれるL-アスコルビン酸により起きると考えられている。 ウ 発明が解決しようとする課題【0006】 …本発明の目的は,尿を吸収したときの経時的な劣化の少ない,耐尿性に優れた吸水剤の紙オムツへの使用を提供することにある。 エ 課題を解決するための手段【0007】本発明者らは,上記目的を達成するため鋭意検討した結果,尿吸収用途における吸収性物品,特に紙オムツへの吸水剤の使用に際し,耐尿性に優れた下記の吸水剤を用いるようにすれば,上記課題を解決できることを見出し,本発明を完成するに至った。 即ち,本発明の紙オムツへの吸水剤の使用は,吸水剤として下記の吸水剤を用いることを特徴とする。 2個以上の重合性不飽和基または2個以上の反応性基を有する内部架橋剤を共重合または反応させたポリアクリル酸ナトリウム塩部分中和物架橋体からなる吸水性樹脂を含み該吸水性樹脂はその表面近傍が前記ポリアクリル酸ナトリウム塩部分中和物架橋体のカルボキシル基と反応し得る表面架橋剤でさらに架橋処理されてなるものであり,かつ,該吸水性樹脂100重量部に対し0.0001〜10重量部の配合割合で,ジエチレントリアミンペンタ酢酸,トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸およびこれらの塩の中から選ばれるイオン封鎖剤が配合されてなる,吸水剤。 オ 発明の効果【0008】 本発明によれば,尿による経時的な劣化や溶出成分の少ない吸水剤を,尿吸収用途における吸収性物品,特に紙オムツへの使用に容易に供することが出来る。 カ 発明を実施するための形態【0010】… 本発明で用いることのできる吸水性樹脂としては,水中において多量の水を吸収してヒドロゲルを形成するものであり,カルボキシル基を有していることが必要である。このような吸水性樹脂としては,ポリアクリル酸部分中和物架橋体,…等を挙げることができる。 【0011】 このような吸水性樹脂は一般に不飽和カルボン酸,例えばアクリル酸,メタクリル酸,マレイン酸,無水マレイン酸,フマール酸,クロトン酸,イタコン酸,β-ヒドロキシアクリル酸,β-アクリルオキシプロピオン酸およびこれらの中和物から選ばれる一種以上を必須に含む単量体成分を重合させることにより得られる。好ましい単量体成分は,アクリル酸,メタクリル酸およびこれらのリチウム,ナトリウム,カリウム等のアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩である。 本発明に用いることのできる吸水性樹脂は,必要により他の単量体を上記不飽和カルボン酸に併用して用い重合させてもよい。…【0012】 … また,吸水性樹脂は架橋剤を使用しない自己架橋型のものよりは,2個以上の重合性不飽和基や2個以上の反応性基を有する内部架橋剤をごく少量共重合または反応させたものが望ましい。例えば,…ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,…トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,…等の1分子中にエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物;…等が挙げられる。…【0013】 … 本発明の吸水性樹脂を得るために上記単量体を重合する際には,バルク重合や沈殿重合を行うことも可能であるが,性能面や重合の制御の容易さから,単量体を水溶液として,水溶液重合や逆相懸濁重合を行うことが好ましい。…重合後得られた含水ゲルはアルカリによって中和することもできる。 【0014】 … 本発明に用いる吸水性樹脂は,含水率(湿量基準)がたとえば1〜50%,好ましくは1〜20%,更に好ましくは1〜10%で粉体として取り扱えるものである。含水率が50%を越えると,表面架橋剤が吸水性樹脂内部まで浸透し過ぎるため,吸収倍率が低下するのみならず,加圧下での吸収特性が向上しない場合が有る。 本発明では,例えば,上記の様にして得られたカルボキシル基を有する吸水性樹脂に対して,イオン封鎖剤とカルボキシル基と反応し得る表面架橋剤を混合することにより,耐尿性の優れた吸水剤を得ることができる。 【0015】 本発明に用いられるイオン封鎖剤としては,以下の化合物が挙げられる。 …【0018】 これらイオン封鎖剤の中でも好ましくはカルボキシル基を3個以上有するアミノカルボン酸及びその塩であり,中でもジエチレントリアミンペンタ酢酸,トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸,シクロヘキサン-1,2-ジアミンテトラ酢酸,N-ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸及びその塩が,耐尿性の点で最も好ましい。 本発明において,上記イオン封鎖剤の使用量は,表面近傍の架橋に用いる表面架橋剤によって異なるが,通常,吸水性樹脂の固形分100重量部に対して0.0001〜10重量部,…の範囲である。使用量が10重量部を越えると,使用に見合う効果が得られず不経済になるばかりか,吸収量が低下するなどの問題が生じる。また,0.0001重量部よりも少ないと耐尿性向上の効果が得られない。 【0019】 本発明に用いることのできるカルボキシル基と反応し得る表面架橋剤としては,…プロピレングリコール,…1,4-ブタンジオール,…等の多価アルコール化合物;エチレングリコールジグリシジルエーテル,…等のエポキシ化合物;…等のアルキレンカーボネート化合物;…等が挙げられるが,特に限定されるものではない。 【0020】…これら表面架橋剤は,単独で用いてもよく,また,2種類以上を併用してもよい。…【0022】 吸水性樹脂に対する表面架橋剤の使用量は,…乾燥状態の吸水性樹脂100重量部に対して0.005〜10重量部の範囲内…とすればよい。…表面架橋剤の使用量が0.005重量部未満では,吸水性樹脂の表面近傍の架橋密度をほとんど高めることができない。また,表面架橋剤の使用量が5重量部より多い場合には,該表面架橋剤が過剰となり,不経済であるとともに,架橋密度を適正な値に制御することが困難となるおそれがある。 【0025】 本発明において,吸水性樹脂とイオン封鎖剤,及び表面架橋剤の混合はシクロヘキサン,ペンタン等の有機溶媒中に吸水性樹脂を分散させた状態で行ってもよいが,本発明の特徴を最大限に発揮させるためには,以下(1)〜(4)の方法などが好ましく例示できる。 (1)必要により水及び/または親水性有機溶媒を含むイオン封鎖剤と表面架橋剤とを予め混合した後,次いで,該混合物を吸水性樹脂に噴霧あるいは滴下混合する方法。 (2)吸水性樹脂に予めイオン封鎖剤又はイオン封鎖剤水溶液を混合した後,次いで必要により水及び/又は親水性有機溶媒を含む表面架橋剤を噴霧あるいは滴下する方法。 【0026】 (3)必要により水及び/又は親水性有機溶媒を含む表面架橋剤を吸水性樹脂に噴霧あるいは滴下混合した後,次いでイオン封鎖剤又はイオン封鎖剤水溶液を混合する方法。 (4)必要により水及び/又は親水性有機溶媒を含む表面架橋剤と添加剤を2本のノズルなどで,同時に吸水性樹脂に噴霧又は滴下混合する方法。 …【0027】… 本発明では,吸水性樹脂にイオン封鎖剤および表面架橋剤とを混合した後,好ましくはイオン封鎖剤と表面架橋剤とを予め混合し次いで吸水性樹脂に添加した後,更に加熱処理を行うことで吸水性樹脂の表面近傍を架橋させる。 【0028】 本発明で加熱処理を行う場合,…加熱温度が80℃未満では,…均一な架橋が達成されず,本発明の目的とする可溶性成分の溶出の抑制や加圧下の吸水特性の高い吸水剤が得られなくなる恐れがある。 … 上記のようにして吸水性樹脂の表面近傍を架橋することにより,吸水性樹脂内部から可溶性成分が溶出することを防ぐことができる。しかしながら,L-アスコルビン酸を含有する尿等を吸収すると,吸水性樹脂は,その製造工程やおむつの製造工程等において混入したり尿に含まれている微量の鉄や銅あるいはその他の重金属イオンとL-アスコルビン酸の作用により,主鎖や架橋構造の切断を受け経時的に劣化してしまう。特に吸水性樹脂の表面近傍は劣化を受けやすく,可溶性成分の溶出を抑制できなくなる。そのため,吸水性樹脂は尿吸収時に経時的にその吸収能が低下してしまう。本発明は,表面処理剤とイオン封鎖剤とを吸水性樹脂に混合することにより,吸水性樹脂の劣化,特に表面近傍付近の劣化を抑制し,可溶性成分の溶出を抑制するものである。 【0029】 加熱処理後,必要に応じ加熱物を篩でふるって本発明の吸水剤を得る。 本発明の吸水剤は,単一粒子のみならずその造粒物を含む。 …【0030】 吸水性樹脂に対する無機粉末の使用量は,吸水性樹脂および無機粉体の組み合わせ等にもよるが,吸水性樹脂100重量部に対し0.001〜10重量部の範囲内,より好ましくは0.01〜5重量部の範囲内とすればよい。吸水性樹脂と無機粉体との混合方法は,特に限定されるものではなく,例えばドライブレンド法,湿式混合法等を採用できるが,ドライブレンド法を採用するのが好ましい。 このようにして得られた吸水剤は,例えば,パルプ等の繊維質材料と複合化する(組み合わせる)ことにより,吸収性物品とされる。 吸収性物品としては,紙オムツが挙げられる。… キ 実施例【0031】 …実施例および比較例中の%は特に断りの無い限り重量%を,また部は重量部を意味するものとする。 なお,吸水剤の吸水量,荷重下吸水倍率,可溶性成分溶出量,人工尿中での可溶性成分溶出量は以下の方法により測定した。 (1)吸水剤の吸水量 吸水性樹脂0.2gをティーバッグ式袋(6cm×6cm)に均一に入れ,開口部をヒートシールした後,生理食塩水中に浸漬した。60分後にティーバック式袋を引き上げ,遠心分離機を用いて250Gで3分間水切りを行った後,該袋の重量W1(g)を測定した。また,同様の操作を吸水性樹脂を用いないで行い,その時の重量W0(g)を測定した。そして,これら重量W1,W0から次式に従って吸水量(g/g)を算出した。 【0032】 吸水量(g/g)=(W1-W0)/吸水性樹脂の重量(g)(2)荷重下吸水倍率 図1に示す測定装置を用いて荷重下吸水倍率を求めた。図1に示すように,測定装置は,天秤1,天秤1上に載置された所定容量の容器2,外気吸入パイプシート3,導管4,ガラスフィルター6,ガラスフィルター6上に載置された測定部5からなっている。容器2は,頂部に開口部2aと側部に開口部2bを有している。開口部2aには外気吸入パイプ3が嵌入されており,開口部2bには導管4が取り付けられている。また,容器2には所定量の0.9重量% 塩化ナトリウム水溶液(以下,生理食塩水と称す)12が入っている。外気吸入パイプ3の下端部は生理食塩水12中に没している。外気吸入パイプ3は,容器2内の圧力をほぼ大気圧に保つために設けられている。上記のガラスフィルター6は,直径55mmに形成されている。容器2及びガラスフィルター6は,シリコーン樹脂からなる導管4によって互いに連通している。 また,ガラスフィルター6は,容器2に対する位置および高さが固定されている。上記の測定部5は,濾紙7,支持円筒9,支持円筒9の底部に貼着された金網10,重り11とを有している。測定部5は,ガラスフィルター6上に,濾紙7,支持円筒9(つまり金網10)がこの順に載置されてなっている。金網10はステンレスからなり,その網目の大きさは400メッシュである。金網10の上面,すなわち,金網10と吸水剤15との接触面の高さは,外気吸入パイプ3の下端面3aの高さと等しくなるように設定されている。金網10上には,所定量の吸水剤が均一に散布される。重り11は,金網10,即ち吸水剤15に対して,0.7psiの荷重を均一に加えることができるように,その重量が調整されている。 【図1】【0033】 上記構成の測定装置を用いて荷重下吸水倍率を測定した。測定方法について以下に説明する。 容器2に所定量の生理食塩水12をいれる。容器2に外部吸入パイプ3を嵌入する等の所定の準備動作を行った。次に,ガラスフィルター6上に濾紙7を載置した。また,載置と平行して,支持円筒9内部,即ち,金網10上に,吸水剤0.9gを均一に散布し,この吸水剤15上に重り11を載置した。次いで,濾紙7上に,金網10,即ち吸水剤15及び重り11を載置した上記支持円筒9を,その中心部がガラスフィルター6の中心部に一致するように載置した。次いで,濾紙7上に支持円筒9を載置した時点から,60分間にわたって経時的に,該吸水剤15が吸水した生理食塩水の重量を天秤1の測定値から求めた。また,同様の操作を吸水剤15を用いないで行い,吸水剤以外の例えば濾紙7等が吸水した生理食塩水の重量を,天秤1の測定値から求め,これをブランク値とした。荷重下吸水倍率は以下の式より求めた。 【0034】 荷重下吸水倍率(g/g)=(60分後の吸水量―ブランク値)/吸水剤の重量(3)吸水剤の可溶性成分溶出量 100mlのビーカー中,吸水剤1gを人工尿25mlに膨潤させ,蓋をして37℃で16時間放置した。次いで膨潤したゲルを975mlの脱イオン水中に分散させ,1時間撹拌した後,濾紙で濾過した。得られた濾液をコロイド滴定により滴定し吸水剤の可溶性成分溶出量(%)を求めた。 人工尿の組成を以下に示す。 尿素 1.9% 塩化ナトリウム 0.8% 塩化マグネシウム 0.1% 塩化カルシウム 0.1%(4)人工尿中での吸水剤の劣化可溶性成分溶出量 100mlのビーカー中,吸水剤1gをL-アスコルビン酸0.005%含有人工尿25mlに膨潤させ,37℃で16時間放置した。次いで膨潤したゲルを975mlの脱イオン水中に分散させ,溶出した可溶分を脱イオン水でリンスした。1時間撹拌した後濾紙で濾過し,得られた濾液をコロイド滴定により滴定し吸水剤の劣化可溶性成分溶出量(%)を求めた。 【0035】 (参考例1) 37%アクリル酸ナトリウム水溶液67.0部,アクリル酸10.2部,ポリエチレングリコールジアクリレート(平均ポリエチレンオキサイドユニット数8) 079部及び水22. 0.0部を混合しモノマー水溶液を調製した。バット中で前記水溶液に窒素を吹き込み溶液中の溶存酸素を0.1ppm以下とした。 引き続き窒素雰囲気下前記水溶液の温度を18℃に調整し,次いで5%過硫酸ナトリウム水溶液0.16部,5%2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)塩酸塩水溶液0.16部,0.5%L-アスコルビン酸水溶液0.15部及び0.35%過酸化水素水溶液0.17部を順番に攪拌下滴下した。 【0036】 過酸化水素滴下後直ちに重合が開始し,10分後にモノマーの温度はピーク温度に達した。 ピーク温度は85℃であった。引き続きバットを80℃の湯浴に浸し,10分間熟成した。 得られた透明の含水ゲルをミートチョッパーで砕き,次いで180℃で30分間乾燥した。 乾燥物を粉砕機で粉砕し,500μmの篩を通過し105μmの篩上に残るものを分級し,吸水性樹脂(A)を得た。 (実施例1) 参考例1で得た吸水性樹脂(A)100部に,ジエチレントリアミンペンタ酢酸5ナトリウム0.001部,エチレングリコールジグリシジルエーテル0.05部,プロピレングリコール1部,水3部及びイソプロピルアルコール1部からなる組成液を混合し,180℃で40分熱処理して,吸水剤を得た。得られた吸水剤の性能評価結果を表1に示した。 【0037】 (実施例2) 実施例1においてジエチレントリアミンペンタ酢酸5ナトリウムを0.01部用いた他は実施例1と同様にして,本発明の吸水剤を得た。得られた吸水剤の性能評価結果を表1に示した。 (実施例3) 実施例1においてジエチレントリアミンペンタ酢酸5ナトリウムを0.1部用いた他は実施例1と同様にして,本発明の吸水剤を得た。得られた吸水剤の性能評価結果を表1に示した。 【0038】(実施例4) 実施例1においてジエチレントリアミンペンタ酢酸5ナトリウムに替えて,トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸6ナトリウム0.01部を用いた他は実施例1と同様にして本発明の吸水剤を得た。得られた吸水剤の性能評価結果を表1に示した。 (実施例5) 実施例1においてジエチレントリアミンペンタ酢酸5ナトリウムに替えて,シクロヘキサンジアミンテトラ酢酸0.01部を用いた他は実施例1と同様にして本発明の吸水剤を得た。得られた吸水剤の性能評価結果を表1に示した。 【0039】(比較例1) 実施例1においてジエチレントリアミンペンタ酢酸5ナトリウムを添加しなかった他は実施例1と同様にして比較吸水剤を得た。得られた比較吸水剤の性能評価結果を表1に示した。 (参考例2) 38%アクリル酸ナトリウム水溶液81.8部,アクリル酸7.7部,トリメチロールプロパントリアクリレート0.038部及び水9.8部を混合しモノマー水溶液を調製した。 【0040】 ジャケットを備えた双椀型ニーダー中で,前記水溶液に窒素を吹き込み溶液中の溶存酸素を除去した。引き続きモノマー水溶液の温度を22℃に調整した。 次いで,攪拌しながら10%過硫酸ナトリウム水溶液0.60部及び0.1%L-アスコルビン酸水溶液0.30部を添加した。添加後1分後にモノマー水溶液は白濁し始め温度が上昇し始めた。20分後ピーク温度に達し,更に攪拌しながら20分間熟成した。ピーク温度は96℃であった。 熟成終了後得られたゲルを取り出し,170℃で65分間乾燥した。乾燥後のポリマーを粉砕し850μmの篩で篩い,吸水性樹脂(B)を得た。 【0041】(実施例6) 参考例2で得た吸水性樹脂(B)100部にシクロヘキサンジアミンテトラ酢酸0.001部,エチレンカーボネート0.5部,水3部及びイソプロピルアルコール3部からなら組成液を混合し,得られた混合物を190℃で50分間加熱処理して,吸水剤を得た。得られた吸水剤の性能評価結果を表1に示した。 (実施例7) 実施例6においてエチレンカーボネートの代りに1,4-ブタンジオール0.5部を用いた他は実施例6と同様にして本発明の吸水剤を得た。得られた吸水剤の性能評価結果を表1に示した。 【0042】(比較例2) 実施例6においてシクロヘキサンジアミンテトラ酢酸を添加しなかった他は実施例6と同様にして,比較吸水剤を得た。得られた比較吸水剤の性能評価結果を表1に示した。 (比較例3) 実施例7においてシクロヘキサンジアミンテトラ酢酸を添加しなかった他は実施例7と同様にして,比較吸水剤を得た。得られた比較吸水剤の性能評価結果を表1に示した。 【0043】【表1】 (2) 前記(1)の記載によれば,本件訂正発明について,次のとおり,認められる。 すなわち,本件訂正発明は,尿吸収時の劣化の少ない,尿吸収用途における吸収性物品,特に紙オムツへの吸水剤の使用に関するものである(【0001】。 ) 近年,紙オムツなどの衛生材料には,その構成材として,尿等の体液を吸収させることを目的として,自己架橋型ポリアクリル酸ナトリウム,ポリアクリル酸部分中和物架橋体等からなる吸水性樹脂(吸水剤)が幅広く利用されているところ,かかる吸水性樹脂に望まれる特性としては,水性液体に接した際の高い吸収倍率や優れた吸収速度,通液性,膨潤ゲルのゲル強度,水性液体を含んだ基材から水を引き上げる吸引力等が挙げられるものの,これらの特性間の関係は必ずしも正の相関関係を示さず,例えば,吸収倍率の高いものほど通液性,ゲル強度,吸収速度等の物性は低下してしまうという問題を有しており,この様な吸水性樹脂の吸水諸特性をバランスよく改良する方法として吸水性樹脂の表面近傍を架橋する技術が知られており,これまでに様々な方法が提案されている(【0002】【0003】。しかし , )ながら,これら表面処理により吸水諸特性はバランスは改善されてきてはいるものの,吸水性樹脂をおむつの吸収体に用いると,経時的に,吸水性樹脂の表面から劣化が起こり,可溶分が溶出し,通液性やゲル強度が低下し,おむつから尿が漏れてしまうという問題があるところ,このような吸水性樹脂の劣化は微量の金属イオンと尿中に含まれるL-アスコルビン酸により起きると考えられている【0004】。 ( ) 本件訂正発明の課題は,尿を吸収したときの経時的な劣化の少ない,耐尿性に優れた吸水剤の紙オムツへの使用を提供することにあり(【0006】,具体的には, )本件訂正発明は,2個以上の重合性不飽和基又は2個以上の反応性基を有する内部架橋剤を共重合又は反応させたポリアクリル酸ナトリウム塩部分中和物架橋体からなる吸水性樹脂を含み該吸水性樹脂はその表面近傍が前記ポリアクリル酸ナトリウム塩部分中和物架橋体のカルボキシル基と反応し得る表面架橋剤でさらに架橋処理されてなるものであり,かつ,該吸水性樹脂100重量部に対し0.0001〜10重量部の配合割合で,ジエチレントリアミンペンタ酢酸,トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸及びこれらの塩の中から選ばれるイオン封鎖剤が配合されてなる吸水剤に係るものであり,該吸水剤を,尿吸収用途における吸収性物品,特に紙オムツに用いることにより,上記課題を解決するものである(【0007】【0031】 ,〜【0042】【表1】。 , ) そして,本件訂正発明は,尿による経時的な劣化や溶出成分の少ない吸水剤を,尿吸収用途における吸収性物品,特に紙オムツへの使用に容易に供することができるという効果を有するものである(【0008】。 ) 2 取消事由1(相違点1の判断の誤り)について (1) 甲1発明の認定 ア 甲1には,以下の記載がある。 (ア) 従来の技術及び発明が解決しようとする課題【0002】…幼児用,大人用若しくは失禁者用の使い捨ておむつ又は婦人用の生理用ナプキン等の吸収性物品における吸収体としては,近年,綿,パルプ,紙等の繊維質材料に高吸水性樹脂を複合化したものが用いられている。 【0003】また,最近は,使いやすさ,携帯性,物流の効率化等の観点から,…薄型化が進められており,そのためには…高吸水性樹脂の使用量を少しでも減らすことが好ましい。高吸水性樹脂の使用量を減らしても吸収体の性能を高レベルに保つためには,高吸水性樹脂の単位重量あたりの飽和吸水量,遠心脱水後の吸水量を増大させる必要がある。 【0004】高吸水性樹脂の飽和吸水量,遠心脱水後の吸水量を増大させる処方としては,一般的には架橋剤量を低減させることが考えられる。しかしながら,架橋剤量を必要以上に低減すると,体液が高吸水性樹脂と接してその樹脂の劣化,分解が起こった場合,高吸水性樹脂の体液保持能力が低下してしまうという問題があった。 【0005】従って,本発明の目的は,体液(尿,経血,汗等)の吸収物性に優れるだけでなく,体液を吸収した状態でも分解・劣化しにくい吸収性物品の薄型化に極めて適した高吸水性樹脂及びこれを使用する吸収性物品を提供することである。 (イ) 課題を解決するための手段【0006】…本発明者らは,上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果,特定の要件を具備する高吸水性樹脂,及びこれを使用する吸収性物品が,上記目的を達成し得ることを見い出した結果,本発明を完成するに至った。 【0007】即ち,本発明は,下記要件(1)〜(3)を具備することを特徴とする高吸水性樹脂を提供するものである。 (1)生理食塩水中30分膨潤後の遠心脱水法による吸水量が35g/g以上である。 (2)生理食塩水中15時間膨潤後の可溶分ポリマー量が高吸水性樹脂量に対して20重量%以下である。 (3)L-アスコルビン酸ナトリウムを0.05重量%溶解させた生理食塩水中15時間膨潤後の可溶分ポリマー量が高吸水性樹脂量に対して20重量%以下である。 【0008】さらに,本発明は,かかる高吸水性樹脂を使用する吸収性物品を提供するものである。 【0012】上記要件(1)〜(3)についてそれぞれ説明すると,まず,上記要件(1)は,生理食塩水中30分膨潤後の遠心脱水法による吸水量が35g/g以上であることである。従来,幼児用,大人用若しくは失禁者用使い捨ておむつ又は生理用ナプキン等の吸収性物品における吸収体に用いられる高吸水性樹脂は,一般的に遠心脱水法による吸水量が30g/gあるいはそれ以下のものが多い。しかしながら,遠心脱水法による吸水量が35g/g未満の値を有する吸水性樹脂を使用した吸収性物品では,本発明が所望する水準の薄型化を達成することができない。従って,本発明においては,上記遠心脱水法による吸水量を35g/g以上とした。 【0013】次に,上記要件(2)は,生理食塩水中15時間膨潤後の可溶分ポリマー量が高吸水性樹脂量に対して20重量%以下であることである。該可溶分ポリマー量が20重量%を超える高吸水性樹脂が生理用ナプキン等の吸収性物品中に存在すると,吸水時にべとつきが生じ,液保持性が不十分となる。従って,本発明においては,上記可溶分ポリマー量を高吸水性樹脂量に対して20重量%以下とした。 【0014】上記要件(3)は,L-アスコルビン酸ナトリウムを0.05重量%溶解させた生理食塩水中15時間膨潤後の可溶分ポリマー量が高吸水性樹脂量に対して20重量%以下であることである。該可溶分ポリマー量が20重量%を超えると,該高吸水性樹脂を使用する吸収性物品を実際に使用した場合,該高吸水性樹脂が体液を吸収したとき,経時的に劣化,分解する傾向となる。従って,本発明においては,上記可溶分ポリマー量を高吸水性樹脂量に対して20重量%以下とした。 【0015】本発明の高吸水性樹脂の基本構造については特に制限はなく,例えば,ポリアクリル酸塩架橋体,…のようなカルボキシル基又はその塩を有する高分子化合物の部分架橋体…が挙げられる。特に吸水の性能の点からは,…ポリアクリル酸塩架橋体を用いることが好ましい。通常,これらの重合体及び共重合体に含まれるカルボキシル基は,好ましくは40〜90モル%,更に好ましくは50〜90モル%は,その水素原子がアルカリ金属で置換された状態にある。なお,これらの高吸水性樹脂は,各々単独で使用してもよく,または2種類以上を組み合わせて使用してもよい。 【0016】その構成単位にカルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有する高吸水性樹脂としては,一般に,水溶性ビニルモノマー,例えば,アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩の重合体又は共重合体であり,ポリアクリル酸及びその塩並びにポリメタクリル酸及びその塩を例示することが出来る。ポリアクリル酸塩や,ポリメタクリル酸塩としては,ナトリウム塩,カリウム塩を好ましく用いることができる。…アクリル酸重合体を中和してその塩にする場合には,アクリル酸重合体の中和度が,…40〜90モル%であることが好ましく,更に50〜90モル%であることが吸水物性及びコストの点から好ましい。 【0018】また,本発明の高吸水性樹脂が上記要件(1)及び(2)を具備する為には,高吸水性樹脂製造の際の開始剤の種類及び量,架橋剤の種類,量及び添加時期も重要な因子となる。以下,これらについて詳述する。 【0019】上記重合開始剤としては,一般にラジカル開始剤が用いられる。…【0020】これらの重合開始剤のなかでも,過硫酸カリウム,過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩…を用いることが特に好ましい。上記重合開始剤の添加量は,該重合開始剤の種類によっても異なるが,概ね上記水溶性ビニルモノマーに対して,好ましくは0.01〜1重量%であり,更に好ましくは0.02〜0.6重量%であり,一層好ましくは0.03〜0.4重量%である。上記添加量が0.01重量%に満たないと,残存未反応モノマーが増えてしまい,一方,上記添加量が1重量%を超えると,本発明の上記要件(1)の遠心脱水法による吸水量が35g/g以上であることを達成しにくくなるので上記範囲内とすることが好ましい。また,上記重合開始剤の中でも,特に過酸化物及び過硫酸塩を用いる場合には,架橋反応も伴い,添加量が多いと架橋反応が進みすぎ,上記要件(1)の遠心脱水法による吸水量が35g/g以上であることは達成できない。従って,過酸化物及び過硫酸塩を用いる場合には,その添加量を水溶性ビニルモノマーに対して0.03〜0.4重量%と少量にすることが好ましい。…【0021】本発明の高吸水性樹脂を製造するに際しては,重合前,重合時又は重合後に,公知の架橋剤を反応系に添加することができる。以下,かかる架橋剤について説明する。 【0022】上記架橋剤としては,例えば,…エチレングリコールグリシジルエーテル,ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル,ポリグリセリンポリグリシジルエーテルなどのポリグリシジルエーテル;エピクロルヒドリン,α-メチルクロルヒドリンなどのハロエポキシ化合物;グルタールアルデヒド,グリオキザールなどのポリアルデヒド;グリセリンなどのポリオール;エチレンジアミンなどのポリアミン…などを挙げることができる。上記架橋剤の添加量は,最終生成ポリマーの所望の性状に従い適宜調整し得るが,通常生成ポリマーに対して好ましくは0.001〜1重量%の範囲になる様に添加し,さらに好ましくは,0.005〜0.5重量%の範囲になる様に添加することが好ましく,一層好ましくは,0.01〜0.2重量%の範囲になる様に添加する。本発明の上記要件(1)の遠心脱水法による吸水量が35g/g以上であることを達成するには,遠心脱水法による吸水量が30g/g以下である吸水性樹脂と比較して,上記架橋剤の添加量を低減する必要があり,本発明の場合,上記範囲内が好ましく用いられる。更に,上記添加量が0.001重量%に満たないと,生理食塩水中膨潤後の可溶分ポリマー量が増えてしまい,本発明の上記要件(2)を満たさなくなる。一方,上記添加量が1重量%を超えると,遠心脱水法による吸水量が35g/g未満になることが多く,本発明の上記要件(1)を満たさなくなるので上記範囲内とすることが好ましい。 【0023】また,上記架橋剤の中でも,ポリビニル化合物以外の架橋剤を使用する場合には,重合後に架橋することができる。その場合,重合後に生成ポリマー中の含水率を制御し,架橋剤を添加することが好ましい。架橋剤を添加する際のポリマー中含水率によっても,遠心脱水法による吸水量は変化するが,本発明における最適な含水率は,架橋剤との兼ね合いで決まる。 即ち,遠心脱水法による吸水量が35g/g以上であることを達成するには,高含水率下では少ない架橋剤量,低含水率下では多い架橋剤量を用いることが好ましい。 【0029】本発明の高吸水性樹脂が上記要件(1)及び(2)を具備するための主な手段については,上述の通りである。一方,本発明の高吸水性樹脂が上記要件(3)を具備するためには,いかなる方法を用いてもよいが,下記@〜Cの方法のうちの少なくとも1つを行うことが有効である。 【0030】方法@ [高吸水性樹脂の重合工程中又は重合工程後,キレート化合物を高吸水性樹脂に添加する方法]【0031】ここで上記キレート化合物とは,例えば,多価カルボン酸誘導体,ヒドロキシカルボン酸誘導体,イミノジ酢酸誘導体,有機酸アミド誘導体,N-アシル化アミノ酸誘導体,リン酸エステル誘導体,ホスホン酸誘導体及び多価ホスホン酸誘導体並びにそれらのアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩等が挙げられるが,これらの例示に限定されるものではない。 【0038】上記キレート化合物の有効添加量は,該キレート化合物の種類,及び該キレート化合物を添加する前の高吸水性樹脂の性質によっても異なるが,高吸水性樹脂100重量部に対し概ね0.001〜10重量%であることが…好ましい。上記添加量が0.001%に満たないと,本発明の上記要件(3)を満たす効果は小さく,一方上記添加量が10重量%を超えても本発明の上記要件(3)を満たす効果は変わらない。 【0056】 〔吸収性物品〕次に,上記高吸水性樹脂を使用する,本発明の吸収性物品について説明する。 【0057】本発明の高吸水性樹脂は,…特に,幼児用,大人用若しくは失禁者用の使い捨ておむつ(フラットタイプまたはパンツタイプ)又は婦人用の生理用ナプキン(羽付又は羽なし)等の吸収性物品に非常に有効に用いられる。 (ウ) 実施例【0072】 〔実施例1〕攪拌機,還流冷却器,滴下ロート,窒素ガス導入管を付した1000ml4つ口フラスコにシクロヘキサン400ml,エチルセルロース(ハーキュレス製,商品名エチルセルロースN-100)0.625g(0.5重量%対生成ポリマー)を仕込み,窒素ガスを吹き込んで溶存酸素を追い出し,75℃まで昇温した。別のフラスコ中において,アクリル酸102.0gをイオン交換水25.5gで希釈し,外部より冷却しつつ,30wt%水酸化ナトリウム水溶液140gで中和した。次いで,過硫酸カリウム0.204g(0.2%対アクリル酸)を水7.5gに溶解させたものを添加溶解した後,窒素ガスを吹き込み水溶液内に残存する酸素を除去した。このフラスコ内容物を上記4つ口フラスコに1時間かけて滴下し,重合した。重合終了後,脱水管を用い,共沸脱水を行い,高吸水性樹脂の含水量を高吸水性樹脂100重量部に対して30重量部に調整した。その後,ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセ化成工業(株)製,商品名デナコールEX-512)0.04g(0.04wt%対アクリル酸)を水4gに溶解・添加し,75〜80℃で1時間反応させた。冷却後,シクロヘキサンをデカンテーションで除き,高吸水性樹脂含水物を得た。この高吸水性樹脂含水物(乾燥重量100g)を双腕型ニーダーに入れモノアルキルリン酸エステル(アルキル基炭素原子数16)の5%水溶液を20g(固形分で対高吸水性樹脂1重量%)噴霧添加し,十分攪拌混合し,次いで,80〜100℃で50Torrに加熱減圧下で乾燥させ,高吸水性樹脂組成物を得た。評価を行うに当たり,850μm以上の粒子を除いた。以下の実施例においても,同様の操作を行った。評価結果を表2に示す。 【0073】 〔実施例2〜14〕表2に示すように,分散剤の種類及び量,開始剤の種類及び量,架橋剤の量,架橋時の含水率,添加剤の種類及び量を変え,実施例1と同様の操作を行い,高吸水性樹脂組成物を得た。これらの高吸水性樹脂組成物について実施例1と同様に評価を行った。各々の評価結果を表2に示す。 【表2】【0075】 〔実施例15〕アクリル酸102.0gをイオン交換水25.5gで希釈し,外部より冷却しつつ,30wt%水酸化ナトリウム水溶液140gで中和した。次いで,ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセ化成工業(株)製,商品名デナコールEX-512)0.06g(0.06wt%対アクリル酸)を水4gに溶解したもの,および過硫酸カリウム0.204g(0.2wt%対アクリル酸)を水7.5gに溶解させたものを添加・溶解した後,窒素ガスを吹き込み水溶液内に残存する酸素を除去した。このフラスコ内容物をステンレスバットの中に流し込み,加熱乾燥機の中で窒素ガスを吹き込みながら,80℃で5時間静置重合し,その後減圧乾燥した。乾燥高吸水性樹脂を粉砕した後,双腕型ニーダーに入れクエン酸アルキルアミド(アルキル基炭素原子数18)の5%水溶液を10g(固形分で対ポリマー0.5重量%)噴霧添加し,十分攪拌混合し,次いで80〜100℃で50Torrに加熱減圧下で乾燥させ,高吸水性樹脂組成物を得た。この高吸水性樹脂組成物について実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表4に示す。 【0076】 〔実施例16〕架橋剤ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセ化成工業(株)製,商品名デナコールEX-512)を0.04g(0.04wt%対アクリル酸)にする以外は,実施例15と同様に行い高吸水性樹脂組成物を得た。この高吸水性樹脂組成物について実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表4に示す。 【表4】【0085】注1)分散剤EC;ハーキュレス製,エチルセルロースN-100AG;ドデシルグルコシド(糖縮合度1.25)ES;花王製,ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート,エマールE-27C(27%水溶液),実施例の添加量は水溶液換算。 注2)開始剤KPS;過硫酸カリウムV-50;和光純薬製,2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ハイドロクロライド注3)親水性ポリマーPEI(600);日本触媒製,ポリエチレンイミン,エポミン SP-006PEI(7万);日本触媒製,ポリエチレンイミン,エポミン SP-1000PAlAm(1万);日東紡績製,ポリアリルアミンPAA-L注4)添加剤【0086】【化1】 (エ) 発明の効果【0090】…以上,詳述した通り,本発明の高吸水性樹脂は,吸収物性に優れるだけではなく,尿,経血,汗用の体液を吸収した状態でも分解/劣化しにくく,幼児用,大人用若しくは失禁者用の使い捨ておむつ又は婦人用の生理用ナプキン等の吸収性物品に特に有効に用いられ,しかも薄型吸収体に極めて適したものである。 イ 前記アの記載によれば,甲1には,@「体液(尿,経血,汗等)の吸収物性に優れるだけでなく,体液を吸収した状態でも分解・劣化しにくい吸収性物品の薄型化に極めて適した高吸水性樹脂及びこれを使用する吸収性物品を提供すること」を課題とすること(【0005】,A「 ) (1)生理食塩水中30分膨潤後の遠心脱水法による吸水量が35g/g以上である」こと,(2)生理食塩水中15時間 「膨潤後の可溶分ポリマー量が高吸水性樹脂量に対して20重量%以下である」こと,及び「(3)L-アスコルビン酸ナトリウムを0.05重量%溶解させた生理食塩水中15時間膨潤後の可溶分ポリマー量が高吸水性樹脂量に対して20重量%以下である」ことの3要件を具備することを特徴とする高吸水性樹脂(【0007】)及び「かかる高吸水性樹脂を使用する吸収性物品」 (【0008】 が上記課題を達成し得 )ること(【0006】,B上記高吸水性樹脂が, ) 「吸収物性に優れるだけではなく,尿,経血,汗用の体液を吸収した状態でも分解/劣化しにくく,幼児用,大人用若しくは失禁者用の使い捨ておむつ又は婦人用の生理用ナプキン等の吸収性物品に特に有効に用いられ,しかも薄型吸収体に極めて適したものである」 ( こと【0090】)が記載されている。 そして,高吸水性樹脂の基本構造について, 「ポリアクリル酸塩架橋体,…のようなカルボキシル基又はその塩を有する高分子化合物の部分架橋体…が挙げられ」ること,及び「特に吸水の性能の点からは,…ポリアクリル酸塩架橋体を用いることが好ましい」こと(【0015】,並びに, ) 「構成単位にカルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有する高吸水性樹脂としては,水溶性ビニルモノマー,例えば,アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩の重合体又は共重合体であ」ること,及び「アクリル酸重合体を中和してその塩にする場合には,アクリル酸重合体の中和度が,…40〜90モル%であることが好まし」いこと(【0016】)が記載されている。 また,重合開始剤として「過硫酸カリウム,過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩…を用いることが特に好ましい」こと,及び「過硫酸塩を用いる場合には,架橋反応も伴い,添加量が多いと架橋反応が進みすぎ,上記要件(1)の遠心脱水法による吸水量が35g/g以上であることは達成できない」ため, 「その添加量を水溶性ビニルモノマーに対して0.03〜0.4重量%と少量にすることが好ましい」こと(【0020】)が記載されている。 さらに, 「高吸水性樹脂を製造するに際しては,重合前,重合時又は重合後に,公知の架橋剤を反応系に添加することができる」こと(【0021】, )「架橋剤の中でも,ポリビニル化合物以外の架橋剤を使用する場合には,重合後に架橋することができる」こと(【0023】,及び「架橋剤の添加量は,最終生成ポリマーの所望の )性状に従い適宜調整し得るが,通常生成ポリマーに対して好ましくは0.001〜1重量%の範囲になる様に添加」すること(【0022】)が記載されている。 加えて,本発明の高吸水性樹脂が上記要件 「 (3)を具備するために」 (【0029】, )「高吸水性樹脂の重合工程中又は重合工程後,キレート化合物を高吸水性樹脂に添加する」こと(【0030】, )「キレート化合物の有効添加量は,…高吸水性樹脂100重量部に対し概ね0.001〜10重量%であることが…好ましい」こと(【0038】)が記載されている。 以上によれば,甲1には,審決認定のとおり,以下の甲1発明が記載されていると認められる。 「アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩等の水溶性ビニルモノマーに対して,重合開始剤として0.03〜0.4重量%の量の過硫酸カリウム,過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩を使用して重合した後に,ポリビニル化合物以外の架橋剤を生成ポリマーに対して0.001〜1重量%の範囲で添加反応させることによって得られた中和度が40〜90モル%であるポリアクリル酸塩架橋体の重合工程後,キレート化合物をポリアクリル酸塩架橋体100重量部に対し0.001〜10重量%の量で添加することによって製造された, 下記要件(1)〜(3)を具備する高吸水性樹脂の, 幼児用,大人用若しくは失禁者用使い捨ておむつにおける吸収体への使用。 (1)生理食塩水中30分膨潤後の遠心脱水法による吸水量が35g/g以上である。 (2)生理食塩水中15時間膨潤後の可溶分ポリマー量が高吸水性樹脂量に対して20重量%以下である。 (3)L-アスコルビン酸ナトリウムを0.05重量%溶解させた生理食塩水中15時間膨潤後の可溶分ポリマー量が高吸水性樹脂量に対して20重量%以下である。」 (2) 本件訂正発明と甲1発明の対比について 前記認定によれば,本件訂正発明と甲1発明とは,審決認定のとおり,前記第2の4(1)イの点で一致し,同ウの相違点1〜3で相違する。 (3) 紙オムツ等に使用される吸収体に関する技術常識について ア 審決認定のとおり,本件優先日当時,一般に,使い捨ておむつ等における吸収体において,内部架橋をすること,また,そのための具体的な手段として,内部架橋剤を使用せず,重合開始剤である過酸化物や過硫酸塩を使用した自己架橋型や,内部架橋剤を使用した内部架橋剤型があることは,当業者の技術常識であったことは,当事者間に争いがない。 イ(ア) 紙オムツ等に使用される吸収体について,本件優先日前に頒布された刊行物には,次の記載がある。 a 甲16の1(特開平5-43610号公報)【0002】【従来の技術】近年,吸水性樹脂は紙おむつ,生理綿等の衛生材料…等様々な分野で利用されている。…【0023】…吸水性樹脂含水ゲル(A)は,架橋剤を使用せずに得られる自己架橋型のものでも,重合性不飽和基および/または反応性官能基を有する架橋剤を吸水性樹脂含水ゲル(A)のゲル強度が所望の基準に達する範囲で用いて得られるものでもよい。 【0024】これらの架橋剤の例としては,例えばN,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド, (ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート,…等が挙げられ,これらのうち反応性を考慮して,1種または2種以上を用いることができる。 【0025】…また,これらの吸水性樹脂含水ゲル(A)を重合するにあたっては,重合開始剤として過硫酸アンモニウム,過硫酸カリウム,過硫酸ナトリウム,…等の水溶性ラジカル重合開始剤を用いればよいが,それらの中でも過硫酸アンモニウム,過硫酸カリウム,過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩を用いることが吸水性樹脂微粉末(B)を混合した後重合率をさらに高める上で好ましい。 【0094】【発明の効果】本発明の方法によって得られる吸水性樹脂は,…衛生材料…をはじめ,幅広い分野の使用に非常に優れたものとなる。 b 甲16の2(特開平5-112654号公報)【0002】【従来の技術】吸水性樹脂としては,架橋ポリアクリル酸塩…等が知られており,生理用ナプキン,紙おむつ等の衛生用吸収剤…等の広い用途に応用されている。 【0023】本発明の含水ゲル状重合体は,架橋剤を使用せずに得られる自己架橋型のものでも,重合性不飽和基および/または反応性官能基を有する架橋剤を得られる吸水性樹脂の諸特性が所望の基準に達する範囲で用いて得られるものでもよい。通常その使用量は単量体成分に対して,0.001〜1.0モル%,好ましくは0.01〜0.5モル%である。 【0024】これらの架橋剤の例としては,例えばN,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド,…等を具体的に挙げることができ,これらのうち反応性を考慮して,1種または2種以上を用いることができる。 【0026】これらの単量体成分を重合させるにあたり,重合開始剤として,過硫酸アンモニウム,過硫酸カリウム,…等の水溶性ラジカル重合開始剤を用いればよい。 c 甲16の3(特開平5-247225号公報)【0002】【従来の技術】吸水性樹脂としては,架橋ポリアクリル酸塩…等が知られており,生理用ナプキン,紙おむつ等の衛生用吸収剤…等の広い用途に応用されている。 【0023】本発明の含水ゲル状重合体は,架橋剤を使用せずに得られる自己架橋型のものでも,重合性不飽和基および/または反応性官能基を有する架橋剤を得られる吸水性樹脂の諸特性が所望の基準に達する範囲で用いて得られるものでもよい。…【0024】これらの架橋剤の例としては,例えばN,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド, (ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート,…等を具体的に挙げることができ,これらのうち反応性を考慮して,1種または2種以上を用いることができる。 【0026】これらの単量体成分を重合させるにあたり,重合開始剤として,過硫酸アンモニウム,過硫酸カリウム,…等の水溶性ラジカル重合開始剤を用いればよい。 d 甲16の4(特開平8-57311号公報)【0032】吸水性樹脂前駆体は,複数の重合性不飽和基や,複数の反応性基を有する架橋剤と反応または共重合させることにより,その内部が架橋されていることが好ましい。また,吸水性樹脂前駆体は,架橋剤を必要としない自己架橋型であってもよい。上記の架橋剤としては,具体的には,例えば,N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド, (ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート,…等が挙げられる。これら架橋剤は,単独で用いてもよく,また,2種類以上を混合して用いてもよい。上記例示の化合物のうち,複数の重合性不飽和基を有する化合物を架橋剤として用いることがより好ましい。 …【0034】また,上記重合反応における重合開始時には,例えば,過硫酸カリウム,過硫酸アンモニウム,過硫酸ナトリウム,…等のラジカル重合開始剤,…等を用いることができる。 …【0054】【作用】…上記の吸収体は,例えば,高機能化かつ薄型化が望まれている紙オムツや生理用ナプキン…等の衛生材料等の吸収性物品に特に好適に用いることができる。… (イ) 前記(ア)によれば,本件優先日当時,紙オムツ等に使用される吸収体を,内部架橋剤を使用せず,重合開始剤である過硫酸塩を使用した自己架橋型として製造することと,内部架橋剤を使用した内部架橋剤型として製造することとは,当業者が任意に選択可能な技術であったということができる。 ウ(ア) 紙オムツ等に使用される吸収体について,本件優先日前に頒布された刊行物には,次の記載がある。 a 甲16の5(特開平9-12613号公報)【0025】 (架橋剤)本発明では第一段目及び第二段目以降に必要に応じて架橋剤を使用することができる。必要に応じてとは,本発明においては例えばモノマー条件(モノマーの種類,モノマーの水溶液中の濃度,中和度等)によって架橋剤が存在しなくてもいわゆるモノマー自身による自己架橋が生起し,これにより吸水性樹脂が形成し得るためである。しかしながら,要求される性能,例えば吸水能,吸水速度等の如何によっては架橋剤が必要な場合もある。本発明で使用される架橋剤としては,重合性不飽和基及び/又は反応性官能基を2個以上有する架橋剤が挙げられる。 …【0028】 (水溶性ラジカル重合開始剤)本発明に使用される重合開始剤は水溶性ラジカル重合開始剤である。その例としては,…過硫酸カリウム,過硫酸ナトリウム,過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩,…である。…【0084】【発明の効果】本発明によれば,…従来にはない上記のような特徴を有する造粒物が極めて平易な操作にて低コストにて製造することができる。そしてこのようなものは,例えば,紙おむつや生理用ナプキン,土壌用保水剤に適したものである。 b 甲16の6(特開平9-77810号公報)【0024】 (架橋剤)本発明では第一段目及び第二段目以降に必要に応じて架橋剤を使用することができる。必要に応じてとは,本発明においては例えばモノマー条件(モノマーの種類,モノマーの水溶液中の濃度,中和度等)によって架橋剤が存在しなくてもいわゆるモノマー自身による自己架橋が生起し,これにより吸水性樹脂が形成し得るためである。しかしながら,要求される性能,例えば吸水能,吸水速度等の如何によっては架橋剤が必要な場合もある。本発明で使用される架橋剤としては,重合性不飽和基及び/又は反応性官能基を2個以上有する架橋剤が挙げられる。 …【0027】 (水溶性ラジカル重合開始剤)本発明に使用される重合開始剤は水溶性ラジカル重合開始剤である。その例としては,…過硫酸カリウム,過硫酸ナトリウム,過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩,…である。…【0061】【発明の効果】本発明によれば,…従来にはない前記のような特徴を有する造粒物が極めて平易な操作にて低コストにて製造することができる。そしてこのようなものは,例えば,紙おむつや生理用ナプキン,土壌用保水剤に適したものである。 c 甲18の1(特開平1-318021号公報)「〔産業上の利用分野〕 本発明は,吸水および保水材料として有用な吸水性樹脂成形物の製造方法に関する。架橋により水不溶性化され,高度の膨潤性を有するポリアクリル酸系吸水性樹脂が紙おむつなどの吸水剤として用いられ,また農園芸および土木用途の吸水保水剤などに利用分野が拡大している。(1頁右欄3〜9行) 」「重合開始剤として,過硫酸アンモン,過硫酸カリおよびそれに亜硫酸ソーダなどの還元剤を組合わせたレドックス系開始剤,…が用いられる。 架橋の導入は公知の方法で行われる。過酸化物開始剤を用いると,自己架橋が生ずるが,架橋度が一般に不足するので,架橋剤が添加される。(3頁左上欄13〜19行) 」 d 甲18の2(特開平2-153907号公報)「従来技術 近年,高吸水性ポリマーは,生理用品や紙おむつ等の衛生材料分野のみならず,…農園芸用途等にも実用化されつつあり,今後,応用範囲はさらに拡大されていくと思われる合成ポリマーである。(1頁右欄11〜17行) 」「架橋剤上記アクリル酸系モノマーは,何ら架橋剤を使用しなくても,ある程度の自己架橋が生じて高吸水性ポリマーとなるが,吸水諸性能をバランス良く保つためには,このモノマー水溶液に架橋剤成分を加える必要がある。架橋剤成分としては,分子内に2個以上の重合性不飽和基を有し,かつ前記アクリル酸系モノマーと共重合性を示す水溶性化合物,例えばN,N'-メチレンビスアクリルアミド…が一般的であり,且つ好ましい。(3頁右下欄3〜14行) 」 e 甲18の3(特開平2-199104号公報)「(従来の技術) 近年,自重の数十〜数百倍もの水を吸収する吸水性樹脂が開発され,生理用品,使い捨て紙おむつ等の吸水剤として…用途開発が進められている。(2頁左下欄1〜6行) 」「本発明において無機化合物(A)の存在下に水溶性単量体(B)を重合・架橋して吸水性樹脂を得るに際し,架橋剤を用いず自己架橋させることもできるが,得られる重合体の架橋密度を自由自在に制御できることから,単量体成分中に架橋剤を加えておくことが好ましい。 このような架橋剤としては,例えばビニルベンゼン,エチレングリコールジ(メタ)アクリレー卜,…が挙げられ,これらの一種または二種以上を用いることができる。… 架橋剤の使用量としては,好ましくは水溶性単量体(B)に対してモル比で0.3以下の範囲である。0.3を越える多量では,得られる重合体の架橋密度が大きくなりすぎて吸水能が低下する傾向がある。(5頁左上欄13行〜左下欄19行) 」 f 甲18の4(特開平3-20314号公報)「(従来の技術) 近年,自重の数十から数百倍もの水を吸収する吸水性樹脂が開発され,生理用品,使い捨ておむつ等の吸水剤として…用途開発が進められている。(2頁左上欄11〜17行) 」「本発明では,前記単量体混合物(I)を単量体混合物(I)に対して0.001〜5.0 mol%の架橋剤(U)の存在下に重合して架橋重合体を得るが,架橋剤(U)は,単量体混合物(I)を重合する際の架橋密度を制御して高吸水性の架橋重合体を得るために必須のものである。架橋剤(U)の不存在下での重合においても単量体混合物(I)は一部自己架橋するが,吸水剤として一般に使用可能な程度にまで高吸水性の架橋重合体とはならない。架橋剤(U)の種類や使用量を適宜選択して使用することにより,より耐塩性に優れた吸水剤を得ることができる。 本発明における架橋剤(U)としては,例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,…等の1分子中にエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物があげられ,これらの1種または2種以上を用いることができる。 架橋剤(U)の使用量は,前記単量体混合物(T)に対して0.001〜5.0 mol%である。5.0 mol%を超える量では,得られる架橋重合体の架橋密度が大きくなりすぎて吸水能が低下する傾向がある。逆に0.001mol%未満の少ない量では,架橋密度が小さすぎて水性液体を吸収した後の架橋重合体にべとつきが生じ,初期の吸水速度が著しく低下する。(4頁左上欄9行〜左下欄3行) 」「 以上のようにして得られた本発明の吸水剤は,吸水速度が速く非常に優れた耐塩性を有するため,汗・血液・尿等の体液や,…多価金属イオン濃度の非常に高い水性液体でも短時間で多量に吸収することができる。(5頁左下欄2〜9行) 」 g 甲18の5(特開平2-253845号公報)「(従来の技術) 近年,自重の数十から数百倍もの水を吸収する吸水性樹脂が開発され,生理用品,使い捨ておむつ等の吸水剤として…用途開発が進められている。(2頁左上欄1〜6行) 」「本発明では,前記単量体混合物(I)を単量体混合物(I)に対して0.001〜5.0mol%の架橋剤(U)の存在下に重合して架橋重合体を得るが,架橋剤(U)は,単量体混合物(I)を重合する際の架橋密度を制御して高吸水性の架橋重合体を得るために必須のものである。架橋剤(U)の不存在下での重合においても単量体混合物(I)は一部自己架橋するが,吸水剤として一般に使用可能な程度にまで高吸水性の架橋体とはならない。架橋剤(U)の種類や使用量を適宜選択して使用することにより,より耐塩性に優れた吸水剤を得ることができる。 本発明における架橋剤(U)としては,例えば,エチレングリコールジ(メタ)アクリレート,…があげられ,これらの1種又は2種以上を用いることができる。… 架橋剤(U)の使用量は,前記単量体混合物(I)に対して0.001〜5.0mol%である。5.0mol%を超える量では,得られる架橋重合体の架橋密度が大きくなりすぎて吸水能が低下する傾向がある。逆に0.001未満の少ない量では,架橋密度が小さすぎて水性液体を吸収した後の架橋重合体にべとつきが生じ,初期の吸収速度が著しく低下する。(3頁 」右下欄4行〜4頁右上欄20行)「 以上のようにして得られた本発明の吸水剤は,非常に優れた耐塩性を有するため,汗・血液・尿等の体液や,…多価金属イオン濃度の非常に高い水性液体でも多量によく吸収することができる。(5頁左下欄2〜8行) 」 h 甲18の6(特開平4-36304号公報)「<従来技術> 近年,高吸水性ポリマーは,生理用品や紙おむつ等の衛生材料分野のみならず,…農園芸用途等にも実用化されつつあり,今後,応用範囲はさらに拡大されていくと思われる合成ポリマーである。…」(1頁右欄13〜19行)「架橋剤 上記アクリル酸系モノマーは,何ら架橋剤を使用しなくても,ある程度の自己架橋が生じて高吸水性ポリマーとなるが,吸水諸性能をバランス良く保つためには,このモノマー水溶液に架橋剤成分を加える必要がある。架橋剤成分としては,分子内に2個以上の重合性不飽和基を有し,かつ前記アクリル酸系モノマーと共重合性を示す水溶性化合物,例えばN,N'-メチレンビスアクリルアミド,N,N'-メチレンビスメタクリルアミド等のビスアクリルアミド類が一般的であり,且つ好ましい。(3頁左下欄9〜20行) 」 (イ) 前記(ア)によれば,本件優先日当時,前記イ(イ)のとおり,紙オムツ等に使用される吸収体を,自己架橋型として製造することと,内部架橋剤型として製造することとは,当業者が任意に選択可能な技術であったが,当業者には,自己架橋型の内部架橋は一般に吸水剤として使用するには架橋度が不足すること(甲18の1,4,5),他方,内部架橋剤型の内部架橋は,要求される性能(吸水能,吸水速度等)が自己架橋型では不十分な場合に用いることができ(甲16の5,6),吸水諸性能をバランスよく保つために必要であり(甲18の2,6),得られる重合体の架橋密度を自由に制御できること(甲18の3)が,既に知られていたものと認められる。 そうすると,本件優先日当時,自己架橋型の内部架橋と比較して,内部架橋剤型の内部架橋には,例えば,吸収体の架橋密度を制御し,吸水諸性能をバランスよく保つことができる等の利点があることが,当業者の技術常識であったということができる。 エ(ア) 紙オムツ等に使用される吸収体について,本件優先日前に頒布された刊行物には,次の記載がある。 a 甲12の5(特開平9-124710号公報)【請求項1】アクリル酸および/またはそのアルカリ金属塩を主成分とする親水性不飽和単量体を,内部架橋剤,および,亜燐酸および/またはその塩の存在下で水溶液重合させて吸水性樹脂前駆体を得た後,該吸水性樹脂前駆体が有するカルボキシル基と反応可能な表面架橋剤を混合して加熱処理することを特徴とする吸水性樹脂の製造方法。 【0003】しかしながら,一般的な吸水性樹脂は,無加圧下での吸収倍率は高いが,加圧下での吸収倍率に劣る。そのため,近年ニーズが高まってきている大人用の紙オムツのように,使用時に高荷重がかかる吸水性物品に用いた場合には,充分な吸収性能を発揮することができない。そこで,無加圧下での吸収倍率を高く維持したまま,加圧下での吸収特性,特に高加圧下での吸収倍率に優れた樹脂が求められている。 【0037】このようにして得られた吸水性樹脂前駆体は,ある程度の無加圧下吸収倍率,高加圧下吸収倍率,および耐尿性を有しているが,本発明における好ましい範囲を満たしていない。従って,無加圧下吸収倍率および高加圧下吸収倍率がともに高く,かつ耐尿性に優れた吸水性樹脂を得るためには,さらに表面架橋剤を用いることにより,該吸水性樹脂前駆体の表面近傍の架橋密度を内部よりも高くする必要がある。…【0047】本発明にかかる吸水性樹脂が,非常に優れた耐尿性と,無加圧下および高加圧下でともに高い吸収性能とを示す要因は定かではないが,以下の2つの要因の相乗効果によるものであると推測される。即ち,第一の要因としては,モノマーの重合を,内部架橋剤,および,亜燐酸(塩)の存在下で水溶液重合によって行うことにより,最適な架橋間分子量を有するネットワークが形成されることが考えられる。第二の要因としては,特定の表面架橋剤によってこの様な吸水性樹脂前駆体に表面処理を施すことによって,さらに吸水性樹脂の表面近傍に,架橋密度勾配を付与することができるということが考えられる。 【0072】従って,本発明の吸水性樹脂は,乳幼児用紙オムツや生理用ナプキンに好適であるばかりでなく,近年ニーズが高まりつつある高荷重がかかる大人用オムツ等の衛生材料に好適に用いることができる。 b 甲12の4(特開平9-67522号公報)【0025】実施例1アクリル酸200g,架橋剤としてメチレンビスアクリルアミド0.3g,イオン交換水600gを混合して重合性単量体水溶液を調整し,この混合液を断熱重合可能な重合槽に投入した。 …含水率2.2%の吸水性樹脂粒子(a)を得た。あらかじめポリグリセロールポリグリシジルエーテル…の混合液に溶解して表面架橋剤溶液を作成した。吸水性樹脂粒子(a)60gを容量2リットルの家庭用ジュサーミキサーに入れ,攪拌しながら上記表面架橋剤溶液3.5gを添加して十分混合した。…【0038】上記効果を奏することから,本発明の方法で得られる吸水性樹脂は,吸収性当材,衛生材料(子供および大人用の紙おむつ,生理用ナプキン,失禁用パッド,紙タオル,手術用アンダーパッド等)などの人体に接する用途…など,種々の用途に有用である。 c 甲12の1(特開昭59-62665号公報)「…本発明の方法により得られた高吸水性ポリマーは特に多量の尿をすみやかに吸収しなくていけない紙おむつの分野及び血液を吸収しなくてはいけない生理用ナプキンの分野で有利に用いることができ, “もれ”や“不快感”を残すことがなくなる事を可能とし得る。(3頁右下欄 」10〜16行)「実施例-5 実施例-4に準じて重合を行なった。但しモノマー水溶液中のモノマー濃度を35%とし,更に N,N’-メチレンビスアクリルアミド0.003gを加えた。重合後共沸脱水によりポリマー中の水分量を27%にコントロールしたのち,ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(n=9)0.15gを水1mlに溶解した水溶液を60℃で添加,この温度に3時間保持した後シクロヘキサンを除去し,ポリマーを80°〜110℃で減圧下に乾燥し,吸水ポリマーを得た。(4頁左下欄3〜14行目) 」 (イ) 前記 (ア)によれば, 「重合時」に内部架橋剤を添加させると共に, 「重合後」に表面架橋剤を添加すること(甲12の5)「架橋剤としてメチレンビスアク ,リルアミド」を混合した「重合性単量体水溶液」等により得られた「吸水性樹脂粒子」に, 「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル」を含む「表面架橋剤」を添加すること(甲12の4),周知の架橋剤である「N,N’-メチレンビスアクリルアミド」を加えて「重合後」に,周知の架橋剤である「ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル」を添加すること(甲12の5)が記載されているから,本件優先日当時,紙オムツ等に使用される吸収体を,内部架橋剤と表面架橋剤とを併用して製造することは,当業者の周知技術であったということができる。 (4) 相違点1の容易想到性について ア 前記(2)のとおり,本件訂正発明と甲1発明とは,相違点1(架橋剤で架橋処理される前の対象物であるポリアクリル酸ナトリウム塩部分中和物について,本件訂正発明は, 「架橋体」からなり「2個以上の重合性不飽和基または2個以上の反応性基を有する内部架橋剤を共重合または反応させた」ものであると特定するのに対し,甲1発明は, 「アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩等の水溶性ビニルモノマーに対して,重合開始剤として0.03〜0.4重量%の量の過硫酸カリウム,過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩を使用して重合し」て得られた「生成ポリマー」と特定する点)において相違するが,甲1発明の「アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩等の水溶性ビニルモノマーに対して,重合開始剤として0.03〜0.4重量%の量の過硫酸カリウム,過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩を使用して重合し」て得られた「生成ポリマー」は,甲1に「過硫酸塩を用いる場合には,架橋反応も伴」うことが記載されている(【0020】)ことからすると,自己架橋型の内部架橋を有するものである。 他方,本件訂正発明は, 「2個以上の重合性不飽和基または2個以上の反応性基を有する内部架橋剤」を用いた内部架橋剤型の内部架橋を有するものである。 そうすると,相違点1は, 「架橋剤で架橋処理される前の対象物であるポリアクリル酸ナトリウム塩部分中和物について,本件訂正発明は, 『2個以上の重合性不飽和基または2個以上の反応性基を有する内部架橋剤』を用いた内部架橋剤型の内部架橋を有するものであるのに対し,甲1発明は,自己架橋型の内部架橋を有するものである点」(相違点1’)において相違するということができる。 イ そして,本件優先日当時,前記(3)イ(イ)のとおり,紙オムツ等に使用される吸収体を,自己架橋型として製造することと,内部架橋剤型として製造することとは,当業者が任意に選択可能な技術であり,同ウ(イ)のとおり,自己架橋型の内部架橋と比較して,内部架橋剤型の内部架橋には,例えば,吸収体の架橋密度を制御し,吸水諸性能をバランスよく保つことができる等の利点があることが,当業者の技術常識であったものと認められる。 そうすると,本件優先日当時の当業者には,甲1発明において,使い捨ておむつや生理用ナプキン等の吸収性物品に用いられる高吸水性樹脂に一般に求められる,架橋密度を制御して吸水諸性能をバランスよく保つ等の課題を解決するために,自己架橋型の内部架橋に代えて,内部架橋剤型の内部架橋を採用する動機があったものということができる。 また,相違点1’に係る容易想到性の判断は, 「架橋剤で架橋処理される前の対象物であるポリアクリル酸ナトリウム塩部分中和物」について,自己架橋型の内部架橋に代えて,内部架橋剤型の内部架橋を採用することが容易想到であるかを検討すべきものであるから,後に「架橋剤で架橋処理される」こと(表面架橋)が予定されていることが内部架橋剤型の内部架橋を採用することの妨げとなるかを検討しても,前記(3)エ(イ)のとおり,本件優先日当時,紙オムツ等に使用される吸収体を,内部架橋剤と表面架橋剤とを併用して製造することは,当業者の周知技術であったと認められるから,後に表面架橋が予定されていることが内部架橋剤型の内部架橋を採用することを阻害するとはいえない。同様に,甲1に内部架橋剤と表面架橋剤とを併用する旨の記載がなかったとしても,当業者が,甲1発明において,「重合後」に架橋剤を添加することに加えて,更に架橋剤を「重合前」又は「重合時」にも添加することを想到することが困難であったとも認められない。 したがって,甲1発明において,自己架橋型の内部架橋とすることに代えて,内部架橋剤型の内部架橋とすることは,当業者が容易に想到し得るものと認められる。 そして,前記(3)イ(ア)及びウ(ア)のとおり,本件優先日前に頒布された刊行物には,「2個以上の重合性不飽和基」を有する内部架橋剤を用いること(甲16の5,6,甲18の2,4,6)「2個以上の反応性基」を有する内部架橋剤を用いること(甲 ,16の5,6)が記載され,また, 「2個以上の重合性不飽和基」を有する内部架橋剤である「N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド」及び「ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート」の一方又は双方が具体的に記載されていること(甲16の1〜4,甲18の6)からすれば,内部架橋剤として, 「2個以上の重合性不飽和基または2個以上の反応性基を有する内部架橋剤」を選択することは,本件優先日当時の当業者が,適宜なし得ることであったということができる。 ウ よって,甲1発明において,相違点1’に係る本件訂正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることであるといえるから,相違点1に係る本件訂正発明の構成とすることも,当業者が容易に想到し得るものと認められる。 (5) 被告の主張について ア 被告は,自己架橋型の架橋構造と内部架橋剤型の架橋構造とでは,分子構造や網目の大きさが異なるのが一般的であるから,審決における「分子構造が異なる」との認定は正しいものといえ,また,内部架橋剤型であったとしても,使用する内部架橋剤の構造,属性により大きく吸水諸特性が異なるのであり, 「内部架橋剤型の架橋構造」同士においても,内部架橋剤の種類の違いによる分子レベルでの微細構造の違いによって吸水諸特性が異なるのであるから,いわんや「自己架橋型の架橋構造」を「内部架橋剤型の架橋構造」と同視することは不合理である旨主張する。 しかしながら,前記(4)イのとおり,本件優先日当時,紙オムツ等に使用される吸収体を,自己架橋型として製造することと,内部架橋剤型として製造することとは,当業者が任意に選択可能なものであると共に,当業者が,自己架橋型よりも内部架橋剤型を選択する動機があったということができる。当該吸収体において,自己架橋型の架橋構造と内部架橋剤型の架橋構造との分子構造が異なり,その結果,双方の吸水諸特性に相違が生じることがあるとしても,両者が共に選択可能な製造技術である以上,その置換は容易なものといわなければならない。被告が,自己架橋型の架橋構造と内部架橋剤型の架橋構造とが同視できる技術でなければ容易に置換できないと主張するのであれば,それ自体失当といえる。 なお,被告指摘の甲106の「図2.10 橋かけ剤の共重合量と吸水力」,乙5の「図3.9 グリシジルエーテルによるグラフト重合体の橋かけ」は,複数の架橋剤の添加量と吸水力との関係を示すものであって,使い捨ておむつ等における吸収体が備えるべき吸水諸特性が,自己架橋型の吸収体と内部架橋剤型の吸収体との間の分子構造の違いに大きく依存することを示すものではなく,その余の証拠によっても,使い捨ておむつ等における吸収体が兼ね備えるべき吸水諸特性が,自己架橋型の吸収体と内部架橋剤型の吸収体との間の分子構造の違いに大きく依存することは認められない。そうすると,自己架橋型の吸収体と内部架橋剤型の吸収体との間に分子構造の違いがあるとしても,この点が,甲1発明において,自己架橋型の内部架橋とすることに代えて,内部架橋剤型の内部架橋とすることを妨げるものとはいえない。 しかも,吸収体の網目の大きさ,すなわち,架橋密度は,自己架橋型か,内部架橋剤型かの違いのみによって左右されるものではなく,例えば,前記(1)アのとおり,甲1には,重合後に架橋剤を添加する実施例1〜14と,重合前に架橋剤を添加する実施例15,16が記載されているところ,重合開始剤の添加量が過剰だと架橋反応が進みすぎ,遠心脱水法による吸水量が高くなりにくいこと(【0020】,架 )橋剤の添加量は,最終生成ポリマーの性状に従い適宜調整することができ,遠心脱水法による吸水量を高めるためには添加量を低減する必要があり,添加量が過剰だと遠心脱水法による吸水量が高くなりにくいこと(【0022】)が記載されているように,吸水量は重合開始剤や内部架橋剤の添加量にも左右されるものであり,所望の性状に合わせてそれらの添加量を調整すべきものと認められる。そうすると,自己架橋型と内部架橋剤型の架橋密度の相違が,甲1発明において,自己架橋型の内部架橋とすることに代えて,内部架橋剤型の内部架橋とすることを妨げるものとも認められない。 被告の主張は,理由がない。 イ 被告は,甲1には,あらゆる順序で架橋剤を添加できることが記載されているにすぎないし,原告指摘のいずれの甲号証にも, 「内部架橋剤の使用に加えて表面架橋をした」吸水性樹脂に,更に「イオン封鎖剤」を使用するという,本件訂正発明の特徴的な3つの構成を全て備える技術については記載されていない上,甲1発明は,架橋剤量を低減させる,又は架橋剤をできるだけ使用しないことを前提とした発明であるから,甲1発明において, 「内部架橋剤の使用に加えて表面架橋を施す」という構成を採用することは,甲1発明の上記前提に反するものであって阻害事由となる旨主張する。 しかしながら,相違点1は,相違点1’に換言できるところ,甲1発明において,自己架橋型の内部架橋とすることに代えて,内部架橋剤型の内部架橋とすること,及び,その内部架橋剤として「2個以上の重合性不飽和基または2個以上の反応性基を有する内部架橋剤」を選択することが容易想到であり,相違点1’に係る本件訂正発明の構成が容易想到であるといえることは,前記(4)のとおりであって,相違点1の容易想到性の判断に当たり,甲1発明において,内部架橋剤,表面架橋剤に加え,イオン封鎖剤を併用することの容易想到性を検討,判断すべき必要があるものとは認められない。 また,前記(1)アのとおり,甲1には,吸収性物品の薄型化のために高吸水性樹脂の使用量を減らすことが記載され(【0003】【0005】,架橋剤の添加量が1 , )重量%を超えると,生理食塩水中30分膨潤後の遠心脱水法による吸水量が35g/g以上であるという要件を満たさなくなるので,架橋剤の添加量は1重量%以下とすることが好ましいことが記載されているものの(【0022】,他方,架橋剤の )添加量を必要以上に低減すると,高吸水性樹脂の体液保持能力が低下してしまうという問題があることも記載され(【0004】,架橋剤の添加量が0.001重量% )に満たないと,生理食塩水中膨潤後の可溶分ポリマー量が増えてしまい,生理食塩水中15時間膨潤後の可溶分ポリマー量が高吸水性樹脂量に対して20重量%以下であるという要件を満たさなくなることも記載されており(【0022】,結局,架 )橋剤の添加量については,通常0.001〜1重量%の範囲になるように添加し,更に好ましくは,0.005〜0.5重量%の範囲になるように添加し,一層好ましくは,0.01〜0.2重量%の範囲になるように添加することが記載されている(【0022】。そうすると,甲1発明が,架橋剤の添加量を低減させる,又は架 )橋剤をできるだけ使用しないことを前提とした発明であるとはいえない。 被告の主張は,理由がない。 ウ 被告は,本件訂正発明の課題は, 「内部架橋剤による内部架橋処理」 「表 と面架橋剤による表面架橋処理」とを併用して「吸水性樹脂の吸水諸特性(吸水量,荷重下吸水量)をバランスよく改良すること」を前提とした上で,さらに, 「表面架橋された吸水性樹脂が金属イオンと尿中に含まれるL-アスコルビン酸により劣化することを防止すること」であり,本件訂正発明は,その課題に対する具体的な解決手段を提供したものであから,耐尿性だけでなく,吸水性樹脂の吸水諸特性(吸水量,荷重下吸水量)がバランスよく維持されていることも,本件訂正発明の効果であって,審決は,本件訂正発明の課題及び効果について正しく認定しており,適切な判断に基づくものといえるなどと主張する。 しかしながら,前記1(2)のとおり,本件訂正発明は,吸水性樹脂の吸水諸特性をバランスよく改良する方法である表面架橋という従来技術を用いることを前提とし,吸水性樹脂を紙オムツの吸収体として用いた際の,上記吸水性樹脂の経時的な劣化を減らし,耐尿性に優れた吸水剤を提供するために, 「2個以上の重合性不飽和基または2個以上の反応性基を有する内部架橋剤を共重合または反応させたポリアクリル酸ナトリウム塩部分中和物架橋体からなる吸水性樹脂」 「吸水性樹脂100重 や,量部に対し0.0001〜10重量部の配合割合で,ジエチレントリアミンペンタ酢酸,トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸およびこれらの塩の中から選ばれるイオン封鎖剤」を用いるものであるといえる。 したがって,吸水性樹脂の吸水諸特性をバランスよく改善しつつ,尿を吸収したときの経時的な劣化が少なく,耐尿性に優れるという本件訂正発明の効果は,相違点1’に係る「2個以上の重合性不飽和基または2個以上の反応性基を有する内部架橋剤」を用いることのみにより奏される効果とはいえず,相違点2に係る表面架橋の有無や,相違点3に係るイオン封鎖剤の種類が大きく影響すると推認される(前記1(1)のとおり,本件訂正明細書には,吸水性樹脂の劣化が微量の金属イオンと尿中に含まれるL-アスコルビン酸により起きると考えられていること【0004】, ( )相違点3に係る特定のイオン封鎖剤が耐尿性の点で最も好ましく,イオン封鎖剤の使用量が0.0001重量部よりも少ないと耐尿性向上の効果が得られないこと(【0018】)が記載されている。。そうすると,相違点1に係る本件訂正発明の )構成の容易想到性を判断するに当たって,本件訂正発明の他の構成(相違点)に基づく効果も含めて検討することは相当でなく,この点は,本件訂正発明全体の有する効果として別途検討すべきものといえる。 被告の主張は,理由がない。 エ 被告は,本件訂正発明が,(@)「内部架橋剤による内部架橋処理」と,(A) 「表面架橋剤による表面架橋処理」とを併用した上で,さらに, (B) 「特定の限られたイオン封鎖剤」を組み合わせた構成に特徴があり,かかる特徴的な構成ゆえに,(C)「吸水性樹脂の吸水諸特性(“吸水量”及び“荷重下吸水量”)をバランスよく維持しつつ,尿による経時的な劣化の指標である“劣化可溶性成分溶出量”を低く抑え得る」という優れた効果を奏するものであって,このような本件訂正発明の特徴的な構成の組合せやその奏する効果について考慮せず,本件訂正発明の各構成要件につき個別に議論することは失当であると主張する。 しかしながら,前記第2の4のとおり,審決は,本件訂正発明と甲1発明との相違点として,相違点1〜3を認定した上で,相違点2及び3について判断せずに,相違点1のみ判断しているのであるから,その取消訴訟である本件訴訟において,審決が判断していない相違点3に係る「特定の限られたイオン封鎖剤」やこれに基づく効果等に関する判断をすることは許されない。 被告の主張は,理由がない。 (6) 小括 以上によれば,甲1発明において,相違点1に係る本件訂正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得るものと認められ,これと異なる審決の判断には誤りがある。 そして,前記第2の4のとおり,審決は,甲1発明において,相違点1に係る本件訂正発明の構成を想到することが困難であることから,相違点2及び3について検討するまでもなく,本件訂正発明は甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないと結論付けたものであるから,上記相違点1に係る審決の判断の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすものであるといえ,取消事由1は理由がある。 |
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結論
よって,取消事由2について判断するまでもなく,審決にはその結論に影響を及ぼす違法があるから,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 清水節 |
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裁判官 | 片岡早苗 |
裁判官 | 古庄研 |