関連審決 |
無効2015-800097 |
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事件 |
平成
28年
(行ケ)
10172号
審決取消請求事件
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原告X 同訴訟代理人弁護士 森博之 同訴訟代理人弁理士 稲葉良幸 佐藤宏樹 吉川雅也 被告株式会社ミクニ 同訴訟代理人弁理士 栗林三男 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2017/03/14 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2015-800097号事件について平成28年3月24日にした審決中,特許第4794769号の請求項1,3ないし5及び7に係る部分を取り消す。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,平成13年8月2日,発明の名称を「エンジン制御装置,ECU(ElectronicControlUnit)およびECUケース」とする特許出願をし,平成23年8月5日,設定の登録(特許第4794769号)を受けた(請求項の数7。以下,この特許を「本件特許」という。甲6)。 (2) 原告は,平成27年3月31日,本件特許の請求項1ないし7に係る発明について特許無効審判を請求し,無効2015-800097号事件として係属した。 (3) 被告は,平成27年7月31日,発明の名称を「エンジン制御装置およびECUケース」とし,請求項2及び6を削除することなどを内容とする訂正請求をした(請求項の数5。以下,この訂正を「本件訂正」という。甲7。なお,この訂正請求は,同年9月11日付け手続補正書(甲8)により,補正された。)。 (4) 特許庁は,平成28年3月24日,「特許第4794769号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。特許第4794769号の請求項2及び6に係る特許についての本件審判請求を却下する。特許第4794769号の請求項1,3ないし5及び7についての本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年4月1日,原告に送達された。 (5) 原告は,平成28年8月1日,本件審決中,本件特許の請求項1,3ないし5及び7に係る部分の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1,3ないし5及び7の記載は,次のとおりである(甲7)。以下,本件訂正後の請求項1,3ないし5及び7に記載された発明を,請求項の番号に従って「本件発明1」などといい,本件発明1,3ないし5及び7を併せて,「本件発明」という。また,その明細書(甲6〜8)を,図面を含めて「本件明細書」という。なお,「/」は,原文の改行箇所を示す(以下同じ。)。 【請求項1】スロットルボディと,/前記スロットルボディとは別工程において作成された,回路基板を有するECU(Electronic ControlUnit)を格納するECUケースと,/前記スロットルボディと前記ECUケースとを取り付けする取り付け手段と,/を備えたエンジン制御装置において,/前記ECUケースは,外部に突出する凸部状の突出部を備え,/前記突出部は,内部に設けられた凹部を備え,/前記凹部は,前記回路基板の一方の面に取り付けられたTPS(Throttle Position Sensor),吸気圧力センサおよび吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納し,/前記突出部は,前記ECUケースが前記スロットルボディに取り付けられるときに,前記スロットルボディに嵌合されることを特徴とするエンジン制御装置。 【請求項3】TPS(Throttle Position Sensor),吸気圧力センサおよび吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを有する回路基板を格納し,スロットルボディに取付けられるECUケースにおいて,/前記ECUケースは,外部に突出する凸部状の突出部を備え,/前記突出部は,内部に設けられた凹部を備え,/前記凹部は,前記回路基板の一方の面に取り付けられた前記TPS,前記吸気圧力センサおよび前記吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納し,/前記突出部は,前記ECUケースが前記スロットルボディに取り付けられるときに,前記スロットルボディに嵌合されることを特徴とするECU(Electronic Control Unit)ケース。 【請求項4】さらに,前記凸部を設けた面に各種データの入出力をおこなうための集合入出力端子を備えたことを特徴とする請求項3に記載のECUケース。 【請求項5】前記TPSを格納する前記突出部の前記凹部は,前記ECUケースが前記凹部内に突出して形成されたホール素子用突出部を備え,前記TPSを構成するステータとホール素子を前記ホール素子用突出部の内部に格納し,/前記ホール素子用突出部は,前記突出部が前記スロットルボディに嵌合されるとき,前記スロットルボディ側に備えられスロットル弁の開閉に応じて回動する磁石が設けられる部位に嵌合することを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。 【請求項7】前記TPSを格納する前記突出部の前記凹部は,前記ECUケースが前記凹部内に突出して形成されたホール素子用突出部を備え,前記TPSを構成するステータとホール素子を前記ホール素子用突出部の内部に格納し,/前記ホール素子用突出部は,前記突出部が前記スロットルボディに嵌合されるとき,前記スロットルボディ側に備えられスロットル弁の開閉に応じて回動する磁石が設けられる部位に嵌合することを特徴とする請求項3に記載のECUケース。 3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,@本件発明1及び3は,下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)と同一ではないから,特許法29条1項3号の規定に違反して特許されたものではない,A本件発明1,3ないし5及び7は,引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,同法29条2項の規定に違反して特許されたものではない,B本件発明1,3ないし5及び7は,下記イの引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)及び引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,同法29条2項の規定に違反して特許されたものではない,C本件発明は,後記(4)のとおり,その特許請求の範囲の記載が,同法36条6項2号に規定する要件(以下「明確性要件」ということがある。)を満たしている,などというものである。 ア 引用例1:特開2001-73828号公報(平成13年3月21日公開。 甲1) イ 引用例2:特開平5-263735号公報(甲2) (2) 引用発明1との対比について本件審決が認定した引用発明1,これと本件発明1及び3との一致点及び相違点は,以下のとおりである。 ア 引用発明1(ア) 引用発明1Aスロットルボディ11と,/スロットルボディ11とは別工程において作成された,センサ基板44及び素子基板45を格納するユニットハウジング46と,/スロットルボディ11とユニットハウジング46とを結合するクリップ又はビスと,を備えたエンジン制御装置において,/ユニットハウジング46は,内部に設けられる凸部状の突起部を備え,/突起部は,内部に設けられた凹部を備え,/凹部は,センサ基板44の一方の面に取り付けられたスロットルセンサSthの固定子40sの一部と,回転子40rの中心軸48の一部を収納し,/突起部は,ユニットハウジング46がスロットルボディ11に取り付けられるときに,スロットルボディ11に嵌合される,/エンジン制御装置。 (イ) 引用発明1BスロットルセンサSth及びブースト負圧センサSpbを有するセンサ基板44及び素子基板45を格納し,スロットルボディ11に取付けられる電子制御ユニットUを構成するユニットハウジング46において,/ユニットハウジング46は,内部に設けられる凸部状の突起部を備え,/突起部は,内部に設けられた凹部を備え,/凹部は,センサ基板44の一方の面に取り付けられて当該一方の面から突出したスロットルセンサSthの固定子40sの一部と,回転子40rの中心軸48の一部を収納し,/突起部は,ユニットハウジング46がスロットルボディ11に取り付けられるときに,スロットルボディ11に嵌合される,/ユニットハウジング46。 イ 本件発明1と引用発明1Aとの対比(ア) 一致点スロットルボディと,スロットルボディとは別工程において作成された,回路基板を有するECUを格納するECUケースと,スロットルボディとECUケースとを取り付けする取り付け手段と,を備えたエンジン制御装置において,ECUケースは,設けられる凸部状の突起部を備え,突起部は,内部に設けられた凹部を備え,突起部は,ECUケースがスロットルボディに取り付けられるときに,スロットルボディに嵌合される,エンジン制御装置。 (イ) 相違点a 相違点a「設けられる凸部状の突起部」に関して,本件発明1においては「外部に突出する凸部状の突出部」を備えるのに対し,引用発明1Aにおいては「内部に設けられる凸部状の突起部」を備える点。 b 相違点b本件発明1においては「凹部は,回路基板の一方の面に取り付けられたTPS,吸気圧力センサおよび吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納」するのに対し,引用発明1Aにおいては「凹部は,回路基板の一方の面に取り付けられたTPS,吸気圧力センサおよび吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納」しない点。 ウ 本件発明3と引用発明1Bとの対比(ア) 一致点TPS,吸気圧力センサおよび吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを有する回路基板を格納し,スロットルボディに取り付けられECUケースにおいて,ECUケースは,設けられる凸部状の突起部を備え,突起部は,内部に設けられた凹部を備え,突起部は,ECUケースがスロットルボディに取り付けられるときに,スロットルボディに嵌合される,ECUケース。 (イ) 相違点a 相違点c「設けられる凸部状の突起部」に関して,本件発明3においては「外部に突出する凸部状の突出部」を備えるのに対し,引用発明1Bにおいては「内部に設けられる凸部状の突起部」を備える点。 b 相違点d本件発明3においては「凹部は,回路基板の一方の面に取り付けられたTPS,吸気圧力センサおよび吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納」するのに対し,引用発明1Bにおいては「凹部は,回路基板の一方の面に取り付けられたTPS,吸気圧力センサおよび吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納」しない点。 (3) 引用発明2との対比について本件審決が認定した引用発明2,これと本件発明1及び3との一致点及び相違点は,以下のとおりである。 ア 引用発明2(ア) 引用発明2A スロットルボディ42と,/スロットルボディ42に取り付けられる,センサ基板12及びエンジン制御基板13を格納するベース47及びカバー17と,/スロットルボディ42にエンジン制御装置48を取り付けるねじと,/を備えるエンジン制御装置48。 (イ) 引用発明2Bセンサユニット9を有するセンサ基板12と,/センサ基板12を格納するベース47及びカバー17と,を備え,/スロットルボディ42に取り付けられる/エンジン制御装置48。 イ 本件発明1と引用発明2Aとの対比(ア) 一致点 スロットルボディと,スロットルボディとは別工程において作成された,回路基板を有するECUを格納するECUケースと,ECUケース及びスロットルボディを取り付けする取り付け手段と,を備えたエンジン制御装置。 (イ) 相違点e 本件発明1は,「ECUケースは,外部に突出する凸部状の突出部を備え,前記突出部は,内部に設けられた凹部を備え,前記凹部は,前記回路基板の一方の面に取り付けられたTPS,吸気圧力センサおよび吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納し,前記突出部は,前記ECUケースがスロットルボディに取り付けられるときに,前記スロットルボディに嵌合される」という構造を有するのに対して,引用発明2Aは,そのような構造を有しない点。 ウ 本件発明3と引用発明2Bとの対比(ア) 一致点 センサを有する回路基板を格納し,スロットルボディに取り付けられるECUケース。 (イ) 相違点a 相違点f 本件発明3は,「TPS,吸気圧力センサおよび吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを有する回路基板」を有するのに対し,引用発明2Bにおいては,「センサユニット9を有するセンサ基板12」を有する点。 b 相違点g 本件発明3は,「ECUケースは,外部に突出する凸部状の突出部を備え,前記突出部は,内部に設けられた凹部を備え,前記凹部は,前記回路基板の一方の面に取り付けられたTPS,吸気圧力センサおよび吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納し,前記突出部は,前記ECUケースがスロットルボディに取り付けられるときに,前記スロットルボディに嵌合される」という構造を有するのに対して,引用発明2Bは,そのような構造を有しない点。 (4) 明確性要件について 被告が提出した口頭審理陳述要領書(甲15)によれば,本件発明において,@「外部」とは,ECUケースの外部(外側)を意味すること,A基板とつながっていなくても「回路基板の一方の面から突出した部材」に該当するところ,図14において,ホール素子102が回路基板100の一方の面に取り付けられて一方の面 マ マから突出していて,この先端部にステータ110,磁石110及び(アウター)ヨーク112が配置されて構成されたTPSは,回路基板100の一方の面に取り付けられて,回路基板100の一方の面から突出している部材ということができることなどが明らかになった。 これらのことから,本件発明は明確性要件を満たしている。 4 取消事由(1) 引用発明1に基づく新規性及び進歩性に係る判断の誤り(取消事由1)ア 引用発明1の認定の誤り(取消事由1-1)イ 本件発明1の新規性及び進歩性に係る判断の誤り(取消事由1-2)(ア) 相違点の認定の誤り(イ) 新規性に係る判断の誤り(ウ) 進歩性に係る判断の誤りウ 本件発明3の新規性及び進歩性に係る判断の誤り(取消事由1-3)(ア) 相違点の認定の誤り(イ) 新規性及び進歩性に係る判断の誤りエ 本件発明4,5及び7の進歩性に係る判断の誤り(取消事由1-4)(2) 引用発明2に基づく進歩性に係る判断の誤り(取消事由2)ア 本件発明1の進歩性に係る判断の誤り(取消事由2-1)イ 本件発明3の進歩性に係る判断の誤り(取消事由2-2)ウ 本件発明4,5及び7の進歩性に係る判断の誤り(取消事由2-3)(3) 明確性要件に係る判断の誤り(取消事由3) |
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当事者の主張
1 取消事由1(引用発明1に基づく新規性及び進歩性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 取消事由1-1(引用発明1の認定の誤り)ア 本件発明における「外部」の意義本件明細書の発明の詳細な説明には,「外部」という用語の定義は記載されていない。しかし,本件発明1及び3の特許請求の範囲には,「前記ECUケースは,外部に突出する凸部状の突出部を備え,」,「前記突出部は,前記ECUケースが前記スロットルボディに取り付けられるときに,前記スロットルボディに嵌合される」ことが規定されているから,本件発明における「外部」とは,センサ基板の配置される方向にかかわらず,ECUケースにおいてスロットルボディに向かう方向であると解すべきである。 本件発明1及び3の特許請求の範囲には,突出部とECUとの位置関係は何ら規定されていないから,「外部」は,ECUが存在する方向とは逆方向の場合もあれば,ECUが存在する方向に,ECUが存在する内部を超えて存在する場合も含まれる。 イ 引用発明1の認定 引用例1において,ユニットハウジング46の突起部は,スロットルボディ11に取り付けられるときにスロットルボディ11に嵌合されるのであるから,ユニットハウジング46には,下方に突出する凸部状の突起部があり,該突起部はユニットハウジング46の「外部」に突出するものである。よって,本件審決が,ユニットハウジング46は,「内部に設けられる凸部状の突起部」を備える旨認定したのは,誤りである。 なお,本件審決は,引用例1におけるユニットハウジング46には,下方に突出する凸部状の突起部があるが,該突起部はユニットハウジング46の外部に突出するものではなく,ユニットハウジングの内部(内側)に設けられるものである旨判断した。一方で,本件審決は,明確性要件に係る判断において,ECUケース2の回路基板100側,すなわちECUケース2の内部(内側)に設けられているものを「突出部」と認定した。このように,本件審決は,本件発明の「外部」の用語の意義について,前者と後者で異なる解釈を採用するものであって,不当である。 (2) 取消事由1-2(本件発明1の新規性及び進歩性に係る判断の誤り) ア 相違点の認定の誤り (ア) 相違点aの認定の誤り 引用発明1Aは,前記(1)のとおり,「外部に突出する凸部状の突出部」を備えるから,本件審決における相違点aの認定は,本来一致点とされるべき点を相違点とするものであって,誤りである。 (イ) 相違点bの認定の誤り a 本件発明における「格納」の意義 本件明細書の発明の詳細な説明には,「格納」という用語の定義は記載されていない。しかし,本件明細書の【0054】には,【図15】において「ECUがECUケースに格納されている」ことが記載されている。そして,同図において,吸気温度センサ101は,ECUケース2(【図2】内のECUケース2自体のハッチング部分)内に一部は納まっているが,全ては納まっていない。このことから,本件明細書において,「格納」という用語は,一部が納まるという意味で使用されていることが分かる。また,【0037】には,回路基板100に取り付けられ電気的に接続された各種センサが凹部による空間に「格納」されることが記載されているが,【図15】の吸気温度センサ101,【図14】のTPSであるステータ110やホール素子102,磁石111,(アウター)ヨーク112,【図16】の吸気圧力センサ103は,いずれも凹部内にその一部は納まっているが,全ては納まっていない。 したがって,本件発明における「格納」は,全てが納まる場合に限定されるものではない。 なお,本件発明の特許請求の範囲の記載は,「前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納し,」であって,「前記回路基板の一方の面から突出した部材のうちのECUケースから突出する部分を格納し,」ではないし,特許請求の範囲に「前記突出部は,内部に設けられた凹部を備え,前記凹部は…」と記載されているように,「凹部」は,突出部の内部に設けられるものに限定されることが明らかであるから,被告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであって,失当である。 b 本件発明1と引用発明1Aとの対比引用発明1Aにおいて,ユニットハウジング46の突起部の間には内部に設けられた凹部があり,「該凹部は,センサ基板44の一方の面に取り付けられたスロットルセンサSthの固定子40sの一部と,回転子40rの中心軸48の一部を収納」するものである。 そして,前記aのとおり,本件発明における「格納」は,全てが納まる場合に限定されるものではないから,引用発明1Aの上記構成は,本件発明1における「前記凹部は,前記回路基板の一方の面に取り付けられたTPS(ThrottlePosition Sensor),吸気圧力センサおよび吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納し」との構成に相当する。 よって,本件審決における相違点bの認定は,本来一致点とされるべき点を相違点とするものであって,誤りである。 イ 新規性に係る判断の誤り前記アのとおり,本件発明1と引用発明1Aとの間に相違点は存在しない。よって,相違点の存在を前提とした本件審決における本件発明1の新規性に係る判断は,誤りである。 ウ 進歩性に係る判断の誤り仮に本件発明1と引用発明1Aとの間に相違点があったとしても,本件発明1は,以下のとおり,引用発明1Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (ア) 甲3ないし5の記載から,突出部が内部に設けられた凹部を備える構成,該凹部が,回路基板の一方の面に取り付けられたTPSを含む回路基板の一方の面から突出した部材を格納する構成(すなわち,本件発明1における「外部に突出する凸部状の突出部」及び「格納」の構成)は,本件特許の出願日当時の技術常識であるということができる。 (イ) そして,甲3ないし5では,ロータを構成するシャフト5及びレバー7,ロータ5及びレバー7,レバー9は,ハウジング1又はハウジング7に支持されているが,ロータをスロットルポジションセンサ側に取り付けるか,スロットルボディ側に取り付けるかは,内燃機関の構成部品の配置を考慮して,当業者が二者択一に選択すべき事柄であり,本件発明のように,スロットルシャフト側にロータを取り付けるように構成することは,設計事項にすぎない。 (ウ) したがって,引用発明1Aにおいて,上記技術常識に基づいて,相違点a及びbに係る本件発明1の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到できたものである。 (3) 取消事由1-3(本件発明3の新規性及び進歩性に係る判断の誤り)ア 相違点の認定の誤り(ア) 相違点cの認定の誤り引用発明1Bは,前記(1)のとおり,「外部に突出する凸部状の突出部」を備えるから,本件審決における相違点cの認定は,本来一致点とされるべき点を相違点とするものであって,誤りである。 (イ) 相違点dの認定の誤り引用発明1Bは,本件発明3における「前記凹部は,前記回路基板の一方の面に取り付けられた前記TPS,前記吸気圧力センサおよび前記吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納し」との構成に相当する構成を有するから,本件審決における相違点dの認定は,本来一致点とされるべき点を相違点とするものであって,誤りである。 イ 新規性及び進歩性に係る判断の誤り (ア) 前記アのとおり,本件発明3と引用発明1Bとの間に相違点は存在しないから,相違点の存在を前提とした本件審決における本件発明3の新規性に係る判断は,誤りである。 (イ) 仮に本件発明3と引用発明1Bとの間に相違点があったとしても,前記(2)ウのとおり,本件発明3は,引用発明1Bにおいて,甲3ないし5に記載された技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4) 取消事由1-4(本件発明4,5及び7の進歩性に係る判断の誤り) ア 本件審決は,本件発明5は,本件発明1をさらに限定するものであるから,本件発明1と同様に,引用発明1Aに基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない旨判断した。 しかし,本件発明1は,引用発明1Aと同一であるか,あるいは,引用発明1Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたことは,前記(2)のとおりであるから,本件審決における本件発明5の進歩性に係る判断も誤りである。 イ 本件審決は,本件発明4及び7は,本件発明3をさらに限定するものであるから,本件発明3と同様に,引用発明1Bに基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない旨判断した。 しかし,本件発明3は,引用発明1Bと同一であるか,あるいは,引用発明1Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたことは,前記(3)のとおりであるから,本件審決における本件発明4及び7の進歩性に係る判断も誤りである。 〔被告の主張〕 (1) 取消事由1-1(引用発明1の認定の誤り)ア 本件発明における「外部」の意義本件発明の特許請求の範囲には,「前記ECUケースは,外部に突出する凸部状の突出部を備え,」との発明特定事項が規定されているが,ECUケースはその内部(内側)に回路基板を有するECUを格納しており,このECUが存在するECUケースの内部に対する文言として「外部」という文言が用いられていることから,上記発明特定事項が,突出部がECUケースからECUを格納するケースの内部(内側)に突出するのではなく,ECUケースから外部(外側)に突出するものであることを規定したものであることは明らかである。したがって,「外部」とは,ECUケースから外部(外側)を意味する。 かかる解釈は,本件明細書の実施形態の記載(【0039】,【図6】,【図8】)からも裏付けられる。 イ 引用発明1の認定ユニットハウジング46には,下方に突出する凸部状の突起部があるが,該突起部は,ユニットハウジング46の外部に突出するものではなく,ユニットハウジング46のセンサ基板44側に突出するものであるから,本件審決が,ユニットハウジング46は,「内部に設けられる凸部状の突起部」を備える旨認定した点に誤りはない。 (2) 取消事由1-2(本件発明1の新規性及び進歩性に係る判断の誤り)ア 相違点の認定の誤り(ア) 相違点aの認定前記(1)によれば,本件審決における相違点aの認定に誤りはない。 (イ) 相違点bの認定a 本件発明における「格納」の意義本件発明において,回路基板の一方の面から突出した部材(TPS,吸気圧力センサ及び吸気温度センサ等)の一部は,ECUケース内に格納されている。すなわち,本件発明の「前記凹部は,…前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納し,」との発明特定事項において,「前記凹部」は,回路基板の一方の面から突出した部材のうちECUケースから突出する部分を格納するものである。そして,「格納」という用語は,「しまい入れること」を意味するから,本件発明において「格納」とは,回路基板の一方の面から突出した部材のうちのECUケースから突出する部分を全部格納することを意味し,部分格納(一部格納)を含まないというべきである。 かかる解釈は,本件明細書の実施形態の記載(【0039】,【0054】)からも裏付けられる。なお,【図15】では,吸気温度センサ101が吸気温度センサ用溝(凹部)32からわずかに一部が突出しているように見えなくもないが,図面作成時における誤記にすぎない。そもそも,図面は,明細書に記載された発明について,その説明を補助するものにすぎないから,図面における上記記載を根拠に,「格納」に部分格納(一部格納)を含むと解すべきではない。 また,本件発明における「前記突出部は,内部に設けられた凹部を備え,」という構成要件において,「凹部」は「前記突出部の内部に設けられる」が,「凹部」は突出部の内部のみに設けられると限定されているわけではない。「凹部」は,上記のとおり,回路基板の一方の面から突出した部材のうちのECUケースから突出する部分を全部格納するものであり,そのようなECUケースから突出した部分を全部格納するために,本件発明は,「前記ECUケースは,外部に突出する凸部状の突出部を備え」,「前記突出部は,内部に設けられた凹部を備え」ることを規定しているのであるから,「凹部」とは,突出部によって形成される突出部の内部からECUケースに至る格納空間を意味するということができる。かかる解釈は,本件明細書の実施形態の記載(【0039】,【図10】,【図11】,【図14】,【図16】)からも裏付けられる。 上記「格納」及び「凹部」の意義は,本件発明の技術的意義からも裏付けられる。 すなわち,本件発明の技術的意義は,「回路基板の一方の面から突出したセンサ等の部材を格納するために,ECUケースに外部に突出する凸部状の突出部を設け,この突出部の内部に前記センサ等の部材を格納して保護するとともに,突出部の外部をスロットルボディに嵌合させることにより,エンジン制御装置全体としてより小型化を図る。」ことにあるのであるから,かかる意義に照らせば,本件発明において「格納」とは,「回路基板の一方の面から突出したセンサ等の部材のうちの,ECUケースから突出する部分を,突出部から外部に突出させずに格納する」ことであり,「凹部」とは,「回路基板の一方の面から突出したセンサ等の部材のうちの,ECUケースから突出する部分を,突出部から外部に突出させずに格納するために,突出部によって形成される格納空間」であると解するべきである。 b 本件発明1と引用発明1Aとの対比引用発明1Aにおいて,ユニットハウジング46の突起部の間には内部に設けられた凹部があり,「該凹部は,センサ基板44の一方の面に取り付けられたスロットルセンサSthの固定子40sの一部と,回転子40rの中心軸48の一部を収納」するものである。 そして,前記aのとおり,本件発明における「格納」は,回路基板の一方の面から突出した部材のうちのECUケースから突出する部分を全部格納することを意味し,部分格納(一部格納)を含まないから,引用発明1Aの上記構成は,本件発明1における「前記凹部は,前記回路基板の一方の面に取り付けられたTPS(Throttle Position Sensor),吸気圧力センサおよび吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納し」との構成に相当しない。 よって,本件審決における相違点bの認定に誤りはない。 イ 新規性に係る判断の誤り前記アのとおり,本件発明1と引用発明1Aとの間には相違点a及びbが存在する。よって,本件審決における本件発明1の新規性に係る判断に誤りはない。 ウ 進歩性に係る判断の誤り甲3ないし5は,本件発明における「外部に突出する凸部状の突出部」の構成を備えておらず,また,本件発明における「格納」の構成も備えていない。 したがって,引用発明1Aにおいて,相違点a及びbに係る本件発明1の構成を備えるようにすることは当業者が容易に想到できたものではない。よって,本件審決における本件発明1の進歩性に係る判断に誤りはない。 (3) 取消事由1-3(本件発明3の新規性及び進歩性に係る判断の誤り)ア 相違点の認定の誤り(ア) 相違点cの認定前記(1)によれば,本件審決における相違点cの認定に誤りはない。 (イ) 相違点dの認定引用発明1Bは,本件発明3における「前記凹部は,前記回路基板の一方の面に取り付けられた前記TPS,前記吸気圧力センサおよび前記吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納し」との構成に相当する構成を有しないから,本件審決における相違点dの認定に誤りはない。 イ 新規性及び進歩性に係る判断の誤り(ア) 前記アのとおり,本件発明3と引用発明1Bとの間には相違点c及びdが存在する。よって,本件審決における本件発明3の新規性に係る判断に誤りはない。 (イ) 前記(2)ウのとおり,引用発明1Bにおいて,相違点c及びdに係る本件発明3の構成を備えるようにすることは当業者が容易に想到できたものではない。よって,本件審決における本件発明3の進歩性に係る判断に誤りはない。 (4) 取消事由1-4(本件発明4,5及び7の進歩性に係る判断の誤り)ア 本件発明5は,本件発明1をさらに限定するものであるから,本件発明1と同様に,引用発明1Aに基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。よって,本件審決における本件発明5の進歩性に係る判断に誤りはない。 イ 本件発明4及び7は,本件発明3をさらに限定するものであるから,本件発明3と同様に,引用発明1Bに基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。よって,本件審決における本件発明4及び7の進歩性に係る判断に誤りはない。 2 取消事由2(引用発明2に基づく進歩性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 取消事由2-1(本件発明1の進歩性に係る判断の誤り) 本件発明における「外部」とは,センサ基板の配置される方向にかかわらず,ECUケースにおいてスロットルボディに向かう方向であると解すべきであり,「格納」は,全てが納まる場合に限定されるものではない。 本件審決における相違点eの認定は,「外部」や「格納」の意義について,上記と異なる誤った解釈に基づきされたものであって,誤りである。本件発明1は,引用発明2Aにおいて,引用例1及び前記1〔原告の主張〕(2)ウの技術常識に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。よって,本件審決における本件発明1の進歩性に係る判断は,誤りである。 (2) 取消事由2-2(本件発明3の進歩性に係る判断の誤り) 本件審決における相違点gの認定は,「外部」や「格納」についての誤った解釈に基づきされたものであって,誤りである。本件発明3は,引用発明2Bにおいて,引用例1及び前記1〔原告の主張〕(2)ウの技術常識に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。よって,本件審決における本件発明3の進歩性に係る判断は,誤りである。 (3) 取消事由2-3(本件発明4,5及び7の進歩性に係る判断の誤り) ア 本件審決は,本件発明5は,本件発明1をさらに限定するものであるから,本件発明1と同様に,引用発明2Aに基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない旨判断した。 しかし,本件発明1の進歩性に係る判断は,前記(1)のとおり,誤りであるから,本件審決における本件発明5の進歩性に係る判断も,誤りである。 イ 本件審決は,本件発明4及び7は,本件発明3をさらに限定するものであるから,本件発明3と同様に,引用発明2Bに基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない旨判断した。 しかし,本件発明3の進歩性に係る判断は,前記(2)のとおり,誤りであるから,本件審決における本件発明4及び7の進歩性に係る判断も,誤りである。 〔被告の主張〕(1) 取消事由2-1(本件発明1の進歩性に係る判断の誤り)本件発明における「外部」とは,ECUケースから外部(外側)を意味し,「格納」は,前記回路基板の一方の面から突出した部材のうちのECUケースから突出する部分を全部格納することを意味し,部分格納(一部格納)を含まない。 したがって,本件審決における相違点eの認定に誤りはない。そして,本件発明1は,引用発明2Aにおいて,引用例1及び甲3ないし5に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件審決における本件発明1の進歩性に係る判断に誤りはない。 (2) 取消事由2-2(本件発明3の進歩性に係る判断の誤り)本件審決における相違点gの認定に誤りはない。そして,本件発明3は,引用発明2Bにおいて,引用例1及び甲3ないし5に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件審決における本件発明3の進歩性に係る判断に誤りはない。 (3) 取消事由2-3(本件発明4,5及び7の進歩性に係る判断の誤り)ア 本件発明5は,本件発明1をさらに限定するものであるから,本件発明1と同様に,引用発明2Aに基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。よって,本件審決における本件発明5の進歩性に係る判断に誤りはない。 イ 本件発明4及び7は,本件発明3をさらに限定するものであるから,本件発明3と同様に,引用発明2Bに基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。よって,本件審決における本件発明4及び7の進歩性に係る判断に誤りはない。 3 取消事由3(明確性要件に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕 本件明細書の発明の詳細な説明には「外部」という用語の定義は示されていないから,何に対する又は何の「外部」であるのかを特定することができず,当該記載は明確でない。また,「回路基板の一方の面から突出した部材」がどのような部材であるのか,明確でない。したがって,本件発明は,明確性要件を満たしていない。 そうすると,本件審決における本件発明の明確性に係る判断は,誤りである。 〔被告の主張〕本件審決における本件発明の明確性に係る判断に誤りはない。 なお,本件審決は,前記第2の3(4)Aのとおり判断したが,このTPSは,非接触型のセンサであり,一体として機能するものであるから,基板と直接つながっていなくても「回路基板の一方の面から突出した部材」であるということができる。 |
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当裁判所の判断
1 本件発明について 本件発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2記載のとおりであるところ,本件明細書(甲6〜8)の発明の詳細な説明の記載によれば,本件発明の特徴は,以下のとおりである。なお,本件明細書には,別紙本件明細書図面目録【図1】,【図7】,【図10】,【図14】,【図15】のとおり,図面が記載されている。 (1) 本件発明は,エンジン制御装置及びECUケースに関する(【0001】)。 スロットルボディとECUとを一体化する従来技術として,例えば,スロットルボディの吸気管壁に一体化されたECU(コントロールボックス)を備え,その中に固定された基板と,その基板に配設された圧力センサ,温度センサなどを設けたもの,センサ類をスロットルボディに一体的に配設し,複数のセンサの出力信号を集合出力端子として備えたもの,電子式制御装置,絞り機構,スロットル調整モータ,再生弁(パージ弁)空気量センサを前組立てした構成ユニットとしてスロットルスリーブに形成されるケーシングに収納したものなどがあった(【0002】〜【0004】)。 しかし,上記従来技術では,@スロットルボディとECUケースを一体化して成形してしまうと,ECUケースは特に精度を要求されないにもかかわらず,スロットルの全閉精度を確保するために,スロットルボディに適した材料にする必要があり,全体として高価になってしまうという問題,スロットルボディにECUケースを一体に形成する場合は,金型の構造が複雑となり,一度に複数個の成形が困難になることからコスト高となるという問題,スロットルボディとECUケースを一体化させてしまうと,ECUケースにおける,ECUに対する各種情報を入出力するため及び電源を供給するための集合入出力端子の設置場所が制限されてしまい,全体として,エンジン制御装置の占める空間が大きくなり,他の装置の設置の自由度を少なくしてしまうという問題,通常スロットル弁の近傍に設置される従来のTPSでは,燃料などの液体が付着しやすく,それによってセンサが誤作動するという問題などがあった(【0005】〜【0008】)。 (2) 本件発明は,前記(1)の問題点を解決するため,小型化及び低コスト化を実現するエンジン制御装置及びECUケースを提供することを目的とし,かかる課題の解決手段として,特許請求の範囲の請求項1,3ないし5及び7に記載の各構成を採用したものである(【0009】,【0010】,【0022】,【0024】)。 (3) 本件発明1及び3の構成によれば,スロットルボディとECUケースとを取り付けた際に両者間に生じる空間にECUケースの突出部を納めることができ,エンジン制御装置全体として,より小型化を図ることができるとともに,ECUケースのスロットルボディとの取付け面と反対側の面を最小限の幅で平坦にすることができるという作用効果を奏する(【0017】)。 本件発明4によれば,さらに,集合入出力端子自体の空間及びその集合入出力端子に接続される配線のための空間を一体化されたスロットルボディとECUケース自体との間に確保することができるという作用効果を奏する(【0023】)。 本件発明5及び7によれば,ステータ及びホール素子をECUケース内に格納することによって,防水処理がなされ,液体が付着することによるホール素子の出力異常を防止することができるという作用効果を奏する(【0025】)。 (4) 本件発明は,前記(3)のとおり,別体であるスロットルボディとECUケースとをできるだけ空間ができないように取り付けるので,小型化及び低コスト化を同時に実現することが可能なエンジン制御装置及びECUケースが得られるという効果を奏する(【0058】)。 2 取消事由1(引用発明1に基づく新規性及び進歩性に係る判断の誤り)について(1) 引用発明1について引用例1(甲1)の記載によれば,引用例1には引用発明1に関し以下の点が開示されているものと認められる。なお,引用例1には,別紙引用例1図面目録【図3】,【図4】のとおり,図面が記載されている。 ア 引用発明1は,エンジンの吸気ポートに連なる吸気道を有するスロットルボディと,その吸気道でエンジンの吸気量を制御するスロットルバルブと,エンジンに供給する燃料を噴射する燃料噴射弁とを備えた,エンジンの吸気装置の改良に関する(【0001】)。 従来の吸気装置では,スロットルセンサはスロットルボディに,燃料噴射制御用素子は,スロットルボディとは異なる部位に設置される電子制御ユニットにそれぞれ設けられていたので,スロットルセンサと電子制御ユニットとをそれぞれ設置するスペースを個別に確保しなければならず,スペース効率が悪く,吸気装置のコンパクト化が困難であり,また,スロットルセンサ及び電子制御ユニット間の配線作業のため相応の組立て工数を要するなどの問題があった(【0003】)。 イ 引用発明1は,前記アの問題を解決することができるエンジンの吸気装置を提供することを目的とし(【0004】),かかる課題の解決手段として,エンジンの吸気装置において,スロットルバルブの開度を検知するスロットルセンサと,少なくともこのスロットルセンサの出力信号に基づいて燃料噴射弁の燃料噴射量を制御する燃料噴射制御用素子とを組み入れた電子制御ユニットを,スロットルボディに取り付け(第1の特徴),前記スロットルセンサを,スロットルバルブの開度に連動して回転する回転子と,この回転子と対向してこの回転子の回転角度を電気信号に変換する固定子とから構成するとともに,その固定子を電子制御ユニットのセンサ基板に設け,そのスロットルセンサと反対側のセンサ基板の背面側に燃料噴射制御用素子を配設した(第2の特徴)ものである(【0005】,【0007】)。 ウ 電子制御ユニットのスロットルボディへの取付けについて,以下の形態が開示されている(【図3】,【図4】)。 (ア) スロットルボディ11には,盆状の制御ユニット取付け部43が一体成形されており,これに電子制御ユニットUが取り付けられる。電子制御ユニットUは,制御ユニット取付け部43の底面に対面するセンサ基板44と,このセンサ基板44の背面に重ねて配置される素子基板45と,これら基板44,45を収容するユニットハウジング46とから構成される(【0031】)。 (イ) センサ基板44には,スロットルセンサSthの回転子40rの中心軸48が回転自在に嵌合する支持孔49が設けられるとともに,回転子40rの回転角度を電気信号に変換する固定子40sが形成される(【0032】)。 (ウ) センサ基板44の下面には雄形接続端子51aが突設され,これと接続される雌形接続端子51bが制御ユニット取付け部43の底面に設けられる(【0034】)。 (エ) 電子制御ユニットUのスロットルボディ11への取付けに際しては,予めセンサ基板44を素子基板45の下面に重ねて,接続端子80a,80bを相互に接続しておき,ユニットハウジング46をスロットルボディ11の制御ユニット取付け部43に印籠嵌合すれば,センサ基板44及びスロットルボディ11の接続端子51a,51bが相互に接続される。この状態でユニットハウジング46と制御ユニット取付け部43との当接面を溶着する。又は,ユニットハウジング46及び制御ユニット取付け部43は,クリップやビス等により相互に分離可能に結合しておくこともできる(【0040】)。 (オ) スロットルバルブ20の端面に溶着された合成樹脂製のキャップ38には連結軸39が一体成形されており,この連結軸39に,スロットルバルブ20の開度を検知するスロットルセンサSthの回転子40rの連結筒41が嵌合される(【0028】)。 エ 引用発明1は,第1の特徴に係る構成を備えることにより,スロットルセンサ及び燃料噴射制御用素子をユニット化して,スロットルボディにコンパクトに取り付けることができるため,スロットルボディの他には電子制御ユニットのための設置スペースを用意する必要がなくなり,スペース効率が向上して吸気装置のコンパクト化を図ることができ,また,スロットルセンサ及び燃料噴射制御素子間の配線の簡素化をも図ることができるという作用効果を奏する(【0006】,【0073】)。 また,第2の特徴に係る構成を備えることにより,センサ基板の広い背面側に燃料噴射制御用素子を自由に配設することが可能であり,そのレイアウトを所望のとおりに行うことができるという作用効果を奏する(【0008】,【0074】)。 (2) 取消事由1-1(引用発明1の認定の誤り)ア 原告は,本件審決が,引用発明1について,ユニットハウジング46は,「内部」に設けられる凸部状の突起部を備える旨認定したのに対し,ユニットハウジング46には,下方に突出する凸部状の突起部があり,この突起部はユニットハウジング46の「外部」に突出するものであることが認定されるべきである旨主張する。 イ 本件発明における「外部」の意義について(ア) 本件発明は,ECUケースが「外部」に突出する凸部状の突出部を備えることを発明特定事項とするものである。 特許請求の範囲の記載からは,ECUケースに備えられた凸部状の突出部は,「外部」に突出するものであって,その内部に凹部を備え,ECUケースがスロットルボディに取り付けられるときに,スロットルボディに嵌合されるものであることが分かる。 「外部」という用語は,一般に「物事のそと側」を意味するところ(広辞苑第6版),本件明細書には,かかる用語の意義について格別に定義した記載は存しない。 他方,本件明細書には,前記1のとおり,本件発明は,小型化及び低コスト化を実現するエンジン制御装置及びECUケースを提供することを目的とし,特許請求の範囲の請求項1及び3の構成によれば,スロットルボディとECUケースとを取り付けた際に両者間に生じる空間にECUケースの突出部を納めることができ,エンジン制御装置全体としてより小型化を図ることができるとともに,ECUケースのスロットルボディとの取付け面と反対側の面を最小限の幅で平坦にすることができるという作用効果を奏するものであることが記載されている。かかる目的,作用効果からは,突出部が突出する「外部」を,特に回路基板を有するECUとの位置関係において限定すべき理由はない。 以上によれば,突出部が突出する「外部」とは,ECUケースがスロットルボディに取り付けられるときに,スロットルボディとの取付け面側を意味するものと解すべきである。 (イ) 被告の主張について被告は,特許請求の範囲では,ECUケースはその「内部」に回路基板を有するECUを格納しており,このECUが存在するECUケースの「内部」に対する文言として「外部」という文言が用いられているから,突出部がECUケースからECUを格納するケースの内部(内側)に突出するのではなく,ECUケースから外部(外側)に突出するものであることが規定されていることは明らかであって,「外部」とは,ECUケースから外部(外側)を意味するものと解すべきである旨主張する。 しかし,特許請求の範囲の「回路基板を有するECU…を格納するECUケース」との文言は,ECUケースが回路基板を有するECUを格納するものであることを規定するにとどまり,回路基板を有するECUとの位置関係において,これが位置する側を「内部」,その逆側を「外部」と規定するものであるということはできない。 むしろ,特許請求の範囲には,「外部」に突出する凸部状の突出部は,その内部に設けられた凹部に,TPS,吸気圧力センサ及び吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む回路基板の一方の面から突出した部材を格納することが規定されているところ,本件明細書では,突出部の内部に設けられた凹部も「ECUケースの内部」であると表現されている(【0039】)。すなわち,本件明細書では,ECUケースの内部を回路基板を有するECUが位置する側か否かで,「内部」や「外部」と区別するものではないことが明らかである。 ウ 引用発明1の認定の誤りの有無について前記(1)のとおり,引用発明1において,ユニットハウジング46はスロットルボディ11の制御ユニット取付け部43に取り付けられるところ,【図3】及び【図4】の記載によれば,ユニットハウジング46が備える凸部状の突起部は,ユニットハウジング46がスロットルボディ11に取り付けられるときに,スロットルボディとの取付け面側に突出するものであると認められる。 したがって,引用発明1は,「外部に突出する凸部状の突出部を備える」から,本件審決が,引用発明1を「ユニットハウジング46は,内部に設けられる凸部状の突起部を備え,」と認定したのは,誤りである。 (3) 取消事由1-2(本件発明1の新規性及び進歩性に係る判断の誤り)ア 相違点の認定の誤りについて(ア) 相違点aの認定前記(2)によれば,本件発明1と引用発明1Aとは,「設けられる凸部状の突起部」に関し,「外部に突出する凸部状の突出部を備える」点で一致する。よって,本件審決が両発明の相違点として,相違点aを認定した点は誤りである。 (イ) 相違点bの認定a 本件発明における「格納」の意義について? 本件発明は,突出部の内部に設けられた凹部に,回路基板の一方の面に取り付けられたTPS,吸気圧力センサ及び吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を「格納」することを発明特定事項とするものであるが,特許請求の範囲の記載からは,「格納」の意義が一義的に明らかであるとはいえない。 「格納」とは,一般に「しまい入れること」(広辞苑第六版)を意味するところ,本件明細書には,「格納」について格別に定義した記載は存しない。他方,本件明細書には,前記1のとおり,本件発明は,小型化及び低コスト化を実現するエンジン制御装置及びECUケースを提供することを目的とし,スロットルボディとは別工程において作成された別部材であるECUケースに,外部に突出する凸部状の突出部を設け,突出部の内部に設けられた凹部に,回路基板の一方の面に取り付けられたTPS等の少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を「格納」し,ECUケースがスロットルボディに取り付けられるときに上記突出部がスロットルボディに嵌合されるようにした構成を採用することにより,スロットルボディとECUケースとを取り付けた際に両者間に生じる空間にECUケースの「突出部」を納めることができ,エンジン制御装置全体としてより小型化を図ることができるとともに,ECUケースのスロットルボディとの取付け面と反対側の面を最小限の幅で平坦にすることができるという作用効果を奏するものであることが記載されている。 本件発明の上記課題及び作用効果に照らせば,本件発明は,スロットルボディとは別工程において作成された別部材であるECUケースに外部に突出する凸部状の突出部を形成することによって,ECUケース内に,回路基板の一方の面から突出した部材の全体を入れ納め,スロットルボディとECUケースとを取り付けた際に,両者間に生じる空間にECUケースの「突出部」を納めることをその課題解決手段とするものであることが理解できる。 このことは,本件明細書に,各図面に加え,「ECUケース2の外部へ突出した各突起部(凸部)は,ECUケース2の内部に溝部(凹部)を設けることやTPS用突出部27のように円筒状に外部に突出する壁を設けることによって形成されている。そして,ECUケース2の内部に設けられた溝(凹部)による空間には,後述する回路基板100に取り付けられ電気的に接続された各種センサ…が格納される。したがって,上記各溝(凹部)は,上記各種センサおよびその他の電子部品のサイズに基づいてその大きさ(幅,深さ)が決定される。」(【0039】),「具体的には,TPS用突出部(凸部)27は,…ローター9の形状に合わせ,かつスロットルボディ1とECUケース2とを取り付けた際にローター9がTPS用溝(凹部)21に組み付けることができるような位置に配置する。」(【0040】),「また,センサ用突出部以外の突出部であれば,スロットルボディ1の形状に基づいて決定される。より具体的には,スロットルボディ1とECUケース2とを取り付けた際の両者の空間を利用して,突出部(凸部)がその空間に収まるような位置を選択して配置する。したがって,上記空間ができるだけ少なくなるように各突出部(凸部)を配置するのが望ましい。」(【0041】)などと,突出部の形状(その内部の凹部の形状)が,そこに納められる部材の形状によって決定されるものであることを前提とした記載があることからも裏付けられる。 以上によれば,回路基板の一方の面から突出した部材を「格納」するとは,回路基板の一方の面から突出した部材の全体を入れ納めることを意味するものと解すべきである。 ? 原告の主張について原告は,【図15】の吸気温度センサ101,【図14】のTPSであるステータ110やホール素子102,磁石111,(アウター)ヨーク112,【図16】の吸気圧力センサ103は,いずれも凹部内にその一部は納まっているが,全ては納まっていないことから,本件発明における「格納」は,一部を納めることを意味するものである旨主張する。 しかし,【図15】の吸気温度センサ101,【図14】の磁石111は,凹部からスロットルボディとの取付け面側にとび出ている部分はごく僅かで,おおむねその全体が突出部に設けられた凹部内に納まっていると表現可能なものである。図面から部材のごく僅かな部分が凹部内に納まっていないように看取されることをもって,直ちに,本件発明における「格納」の意義を,一部を納めることを意味すると解すべきであるとはいえない。 また,突出部の内部に設けられた凹部もECUケース内を構成する空間の一部であるところ,本件発明は,凹部がECUケースの備える突出部の内部に設けられた空間であることを規定するだけで,ECUケース内を構成する空間のうちどの領域までが凹部であるのかを規定するものではない。そして,本件発明が,前記?のとおり,スロットルボディとは別工程において作成された別部材であるECUケースに外部に突出する凸部状の突出部を形成することによって,ECUケース内に,回路基板の一方の面から突出した部材の全体を入れ納め,スロットルボディとECUケースとを取り付けた際に,両者間に生じる空間にECUケースの「突出部」を納めることをその課題解決手段とするものであることに照らせば,凹部を,ECUケース内を構成する空間のうち原告が主張する領域,すなわち突出部を構成する部材で囲まれた領域のみに限定して解釈する必要はないというべきである。【図14】のTPSであるステータ110やホール素子102,(アウター)ヨーク112,【図16】の吸気圧力センサ103等の部材は,いずれもECUケース内にその全体が入れ納められていることが看取されるところ,これらの部材の一部が,突出部を構成する部材で囲まれた領域に納まっていないからといって,前記?の解釈が左右されることはない。 b 本件発明1と引用発明1Aとの対比引用例1の【図3】の記載によれば,ユニットハウジング46の突起部の間には内部に設けられた凹部があり,その凹部内に,素子基板45及びセンサ基板44が収容され,さらに,センサ基板44の一方の面に取り付けられたスロットルセンサSthの固定子40sの一部と,回転子40rの中心軸48の一部及びブースト負圧センサSpbの一部が位置しているものの,スロットルセンサSth及びブースト負圧センサSpbの大部分は,凹部内には納まっておらず,これから突出している。 したがって,引用発明1Aの「凹部は,センサ基板44の一方の面に取り付けられたスロットルセンサSthの固定子40sの一部と,回転子40rの中心軸48の一部を収納し」との構成は,本件発明1における「前記凹部は,前記回路基板の一方の面に取り付けられたTPS(Throttle Position Sensor),吸気圧力センサおよび吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納し」との構成に相当しない。よって,これと同旨の本件審決における相違点bの認定に誤りはない。 イ 新規性に係る判断の誤りについて(ア) 前記アのとおり,本件発明1と引用発明1Aとは,相違点bにおいて相違する。 (イ) ところで,本件発明1は,前記ア(イ)のとおり,小型化及び低コスト化を実現するエンジン制御装置及びECUケースを提供することを目的とし,スロットルボディとは別工程において作成された別部材であるECUケースに外部に突出する凸部状の突出部を形成することによって,ECUケース内に,回路基板の一方の面から突出した部材の全体を入れ納め,スロットルボディとECUケースとを取り付けた際に,両者間に生じる空間にECUケースの突出部を納めることをその課題解決手段とし,これにより,スロットルボディとECUケースとを取り付けた際に両者間に生じる空間にECUケースの突出部を納めることができ,エンジン制御装置全体としてより小型化を図ることができるとともに,ECUケースのスロットルボディとの取付け面と反対側の面を最小限の幅で平坦にすることができるという作用効果を奏するものである。 したがって,本件発明1において,相違点bに係る構成は,固有の作用効果を奏するものであって,単なる設計的事項にすぎないものであるということはできないから,相違点bは実質的なものである。 (ウ) 以上によれば,本件発明1と引用発明1Aとは同一でない。 よって,本件審決における本件発明1の新規性に係る判断には,結論において誤りはない。 ウ 進歩性に係る判断の誤りについて(ア) 引用発明1は,エンジンの吸気装置の改良に関し,従来の吸気装置では,スロットルセンサはスロットルボディに,燃料噴射制御用素子は,スロットルボディとは異なる部位に設置される電子制御ユニットにそれぞれ設けられていたので,スロットルセンサと電子制御ユニットとをそれぞれ設置するスペースを個別に確保しなければならず,スペース効率が悪く,吸気装置のコンパクト化が困難であり,また,スロットルセンサ及び電子制御ユニット間の配線作業のため相応の組立て工数を要するなどの問題があったことから,この問題を解決することができるエンジンの吸気装置を提供することを目的とし,かかる課題の解決手段として,エンジンの吸気装置において,スロットルバルブの開度を検知するスロットルセンサと,少なくともこのスロットルセンサの出力信号に基づいて燃料噴射弁の燃料噴射量を制御する燃料噴射制御用素子とを組み入れた電子制御ユニットを,スロットルボディに取り付け,前記スロットルセンサを,スロットルバルブの開度に連動して回転する回転子と,この回転子と対向してこの回転子の回転角度を電気信号に変換する固定子とから構成するとともに,その固定子を電子制御ユニットのセンサ基板に設け,そのスロットルセンサと反対側のセンサ基板の背面側に燃料噴射制御用素子を配設したものであり,これにより,@スロットルセンサ及び燃料噴射制御用素子をユニット化して,スロットルボディにコンパクトに取り付けることができるため,スロットルボディの他には電子制御ユニットのための設置スペースを用意する必要がなくなり,スペース効率が向上して吸気装置のコンパクト化を図ることができ,また,スロットルセンサ及び燃料噴射制御素子間の配線の簡素化をも図ることができるという作用効果,Aセンサ基板の広い背面側に燃料噴射制御用素子を自由に配設することが可能であり,そのレイアウトを所望のとおりに行うことができるという作用効果を奏するものである。 (イ) 原告は,本件発明1は,甲3ないし5に記載された技術常識に基づいて引用発明1Aから容易に想到できた旨主張する。 しかし,甲3ないし5は,スロットルバルブに取り付けられるスロットルポジションセンサに関するものであり,これらの文献には,スロットルポジションセンサの構造が開示されているにすぎず(甲3【0013】〜【0021】,【図1】。 甲4【0009】〜【0017】,【図1】。甲5【0008】〜【0012】,【図1】。),スロットルポジションセンサ等のセンサの出力信号に応じて,燃料噴射量制御等のエンジン制御スロットルバルブ等を制御するECU(電子制御ユニット)を組み入れたECUケースの構造について開示するものではない。スロットルポジションセンサのハウジングとECUケースとは,技術的に異なる意義を有する構成であって,甲3ないし5の記載から,プリント基板につながるホール素子や,センサの要素の一部であるロータや磁石が,スロットルポジションセンサのハウジング内に格納されていることが見て取れるとしても,かかる記載をもって,ECUケースにおいて,相違点bに係る構成,すなわち,ECUケースが備える突出部の内部に設けられた「凹部は,回路基板の一方の面に取り付けられたTPS,吸気圧力センサおよび吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納」する構成が,本件特許の出願日当時の技術常識であったということはできない。そして,他に上記構成が本件特許の出願日当時の技術常識であったことを認めるに足りる証拠はない。 (ウ) 以上によれば,引用発明1Aにおいて,相違点bに係る本件発明1の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到できたものであるということはできない。 よって,本件発明1は,引用発明1Aに基づき容易に発明をすることができたものではないから,本件審決における本件発明1の進歩性に係る判断には,結論において誤りはない。 (4) 取消事由1-3(本件発明3の新規性及び進歩性に係る判断の誤り)ア 相違点の認定の誤りについて(ア) 相違点cの認定前記(2)によれば,本件発明3と引用発明1Bとは,「設けられる凸部状の突起部」に関し,「外部に突出する凸部状の突出部を備える」点で一致する。よって,本件審決が両発明の相違点として,相違点cを認定した点は誤りである。 (イ) 相違点dの認定前記(3)ア(イ)によれば,引用発明1Bは,本件発明3における「前記凹部は,前記回路基板の一方の面に取り付けられた前記TPS,前記吸気圧力センサおよび前記吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納し」との構成に相当する構成を有しない。よって,本件審決における相違点dの認定に誤りはない。 イ 新規性及び進歩性に係る判断の誤りについて(ア) 相違点dは,相違点bと同一であるから,前記(3)イと同様の理由により,本件発明3は引用発明1Bと同一でない。 よって,本件審決における本件発明3の新規性に係る判断には,結論において誤りはない。 (イ) また,前記(3)ウと同様の理由により,引用発明1Bにおいて,相違点dに係る本件発明3の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到できたものであるということはできない。 よって,本件発明3は,引用発明1Bに基づき容易に発明をすることができたものではないから,本件審決における本件発明3の進歩性に係る判断には,結論において誤りはない。 (5) 取消事由1-4(本件発明4,5及び7の進歩性に係る判断の誤り) ア 本件発明5について 本件発明5は,本件発明1の発明特定事項を全て含み,さらに他の限定を付加したものである。しかるに,前記(3)のとおり,本件発明1は,引用発明1Aに基づき容易に発明をすることができたものではないから,本件発明5も,引用発明1Aに基づいて容易に発明をすることができたものではない。 したがって,本件審決における本件発明5に係る進歩性判断にも,結論において誤りはない。 イ 本件発明4及び7について 本件発明4及び7は,本件発明3の発明特定事項を全て含み,さらに他の限定を付加したものである。しかるに,前記(4)のとおり,本件発明3は,引用発明1Bに基づき容易に発明をすることができたものではないから,本件発明4及び7も,引用発明1Bに基づいて容易に発明をすることができたものではない。 したがって,本件審決における本件発明4及び7に係る進歩性判断にも,結論において誤りはない。 (6) 小括 以上によれば,取消事由1は,理由がない。 3 取消事由2(引用発明2に基づく進歩性に係る判断の誤り)について (1) 引用発明2について ア 引用例2(甲2)の記載によれば,引用例2には引用発明2に関し以下の点が開示されているものと認められる。 (ア) 引用発明2は,エンジンの燃料噴射弁等を制御する,エンジンルームに搭載可能とした吸入空気流量センサ一体型のエンジン制御装置に関する(【0001】)。 従来から,エンジン制御装置をエンジンルーム内に搭載して吸入空気流量センサと一体的に組み込むものが提案されており,また,吸入空気量センサとエンジン制御回路とを一体化して吸気ボディの外壁に設けるものも存したが,従来技術には,@吸入空気量センサの出力信号は,摺動子,集電子,導電板を介してエンジン制御ユニット側のプリント基板へ接続されており,接続部が多く信頼性に乏しい,Aポテンショメータ収納部のスペース占有率が高く,これが吸気ボディと回路基板間に位置するため,装置全体の寸法が高くなり,また,装置に用いるパワートランジスタ等が吸気通路から離れるため放熱上も不利となり好ましくない,Bプリント基板をポテンシヨメータ室に収納するとき,プリント基板に取り付けられたコネクタが邪魔になり斜め上よりプリント基板を傾けて挿入するしか方法はなく,コネクタ周りの防水性の確保が難しく,また,組立て作業性も煩わしさが伴うなどの問題があった(【0002】,【0006】〜【0009】)。 (イ) 引用発明2は,前記(ア)の問題に鑑み,吸入空気量センサ一体型のエンジン制御装置の小形化を図り,これに用いる発熱部品の冷却効果を高め,しかもセンサと配線基板の接続を簡単にして信頼性を高め,配線基板収納部のシールを確実に行うことを目的とするものである(【0010】)。 (ウ) 引用発明2は,前記(イ)の課題の解決手段として,次の構成を有する。すなわち,アイドルスピードコントロールバルブとそれを制御する為のアクチュエータ46及びスロットルバルブ38とスロットル開度センサ45等で構成されたスロットルボディ42の外壁に取付部14’を設け,この取付部14’に設けた空気流量計一体型のエンジン制御装置であって,ベース47にエンジン制御基板13,センサ基板12,センサユニット9を搭載し,カバー17でふたをしたユニットタイプのエンジン制御装置48をスロットルボディ42に着脱自在に取り付け,また,ベース47のうちセンサ基板12が位置する箇所の裏側には放熱板40’が形成され,センサ基板12には空気流量計の駆動回路のほかにエンジン制御回路側の発熱性を有する電子部品を集約して配置し,さらに,スロットルボディ42の取付部14’には,部品取付のための穴c,穴d,パッキン49が形成され,エンジン制御装置を取り付けた場合に,センサユニット9が穴dに挿入セットされ,穴dに放熱板40’が差し込まれて吸気通路に臨む構成とした(【0058】〜【0061】)。そして,制御装置48は,スロットルボディ42からねじ等により取付けと取外しができるようになっている(【0062】)。 (エ) 引用発明2は,前記(ウ)の構成を採用することにより,吸入空気量センサ一体型のエンジン制御装置の小形化を図り,これに用いる発熱部品の冷却効果を高め,しかもセンサと配線基板の接続を簡単にして,かつ接続を短くしてノイズ耐量を高め,しかも制御装置収納部のシールを確実に行うことが可能となるという作用効果を奏する(【0063】)。 イ 引用発明2の認定について(ア) 上記アによれば,引用例2には,前記第2の3(3)ア(ア)の引用発明2Aが記載されているものと認められる。よって,本件審決が本件発明1と対比すべきものとして,引用発明2Aを認定した点に誤りはない。 (イ) また,上記アによれば,引用例2には,以下の発明が記載されているものと認められる。 引用発明2B’:センサユニット9を有するセンサ基板12を格納し,スロットルボディ42に取り付けられるエンジン制御装置48を構成するカバー17及びベース47。 (ウ) なお,本件審決は,前記第2の3(3)ア(イ)のとおり,本件発明3と対比すべきものとして,引用発明2Bを認定した。本件審決が認定した引用発明2Bと引用発明2B’とは,表現に差異があるものの,その実質において異なるものではない。 (2) 取消事由2-1(本件発明1の進歩性に係る判断の誤り)ア 相違点eの認定について原告は,本件審決における相違点eの認定は,本件発明における「外部」や「格納」の意義についての誤った解釈に基づくものであって,誤りである旨主張する。 しかし,引用発明2のエンジン制御装置48は,センサ基板12及びエンジン制御基板13を格納するベース47及びカバー17が,「外部に突出する凸部状の突出部を備え,前記突出部は,内部に設けられた凹部を備え,前記凹部は,回路基板の一方の面に取り付けられたTPS,吸気圧力センサおよび吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納」するものでなく,また,内部に凹部を設けた突出部を有しないから,「前記突出部は,前記ECUケースがスロットルボディに取り付けられるときに,前記スロットルボディに嵌合される」ものでもない。 したがって,本件発明における「外部」や「格納」の解釈いかんにかかわらず,本件審決における相違点eの認定に誤りはない。 イ 相違点eの容易想到性について原告は,本件発明1は,引用例1及び甲3ないし5に記載された技術常識に基づいて引用発明2Aから容易に想到できた旨主張する。 しかし,前記2(3)アのとおり,引用例1には,ECUケースが備える突出部に設けられた「凹部は,回路基板の一方の面に取り付けられたTPS,吸気圧力センサおよび吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納」するという構成は開示されていない。 また,前記2(3)ウのとおり,甲3ないし5の記載から,ECUケースが備える突出部に設けられた「凹部は,回路基板の一方の面に取り付けられたTPS,吸気圧力センサおよび吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納」するという構成が,本件特許の出願日当時の技術常識であったということはできない。そして,他に上記構成が本件特許の出願日当時の技術常識であったことを認めるに足りる証拠はない。 したがって,引用発明2Aにおいて,引用例1に基づいて,「ベース47及びカバー17」が外部に突出する凸部状の突出部を備え,前記突出部は内部に設けられた凹部を備えるように構成することができたとしても,「前記凹部は,回路基板の一方の面に取り付けられたTPS,吸気圧力センサおよび吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納」するという構成を備えるようにすることが,当業者が容易に想到できたものであるということはできない。 よって,本件発明1は,引用発明2Aにおいて,引用例1及び甲3ないし5に基づき容易に発明をすることができたものではないから,本件審決における本件発明1の進歩性に係る判断に誤りはない。 (3) 取消事由2-2(本件発明3の進歩性に係る判断の誤り) ア 相違点gの認定について 本件発明3と引用発明2B’とを対比すると,両者は相違点gにおいて相違する。 なお,相違点gの認定が本件発明における「外部」や「格納」の解釈いかんにかかわらないことは,前記(2)アと同様である。 よって,本件審決における相違点gの認定に誤りはない。 イ 相違点gの容易想到性について 相違点gは,相違点eと同一であるから,前記(2)イと同様の理由により,引用発明2B’において,引用例1及び甲3ないし5に基づき,相違点gに係る本件発明3の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到できたものであるということはできない。 よって,本件発明3は,引用発明2B’において,引用例1及び甲3ないし5に基づき容易に発明をすることができたものではないから,本件審決における本件発明3の進歩性に係る判断に誤りはない。 (4) 取消事由2-3(本件発明4,5及び7の進歩性に係る判断の誤り) ア 本件発明5について 本件発明5は,本件発明1の発明特定事項を全て含み,さらに他の限定を付加したものである。しかるに,前記(2)のとおり,本件発明1は,引用発明2Aにおいて,引用例1及び甲3ないし5に基づき容易に発明をすることができたものではないから,本件発明5も,引用発明2Aにおいて,引用例1及び甲3ないし5に基づき容易に発明をすることができたものではない。 したがって,本件審決における本件発明5に係る進歩性判断にも,誤りはない。 イ 本件発明4及び7について 本件発明4及び7は,本件発明3の発明特定事項を全て含み,さらに他の限定を付加したものである。しかるに,前記(3)のとおり,本件発明3は,引用発明2B’において,引用例1及び甲3ないし5に基づき容易に発明をすることができたものではないから,本件発明4及び7も,引用発明2B’において,引用例1及び甲3ないし5に基づき容易に発明をすることができたものではない。 したがって,本件審決における本件発明4及び7に係る進歩性判断にも,誤りはない。 (5) 小括 以上によれば,取消事由2は,理由がない。 4 取消事由3(明確性要件に係る判断の誤り)について (1) 原告は,本件明細書の発明の詳細な説明には「外部」という用語の定義は示されていないから,何に対する又は何の「外部」であるのかを特定することができず,本件発明の特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たさない旨主張する。 しかし,前記2(2)イのとおり,特許請求の範囲及び明細書の記載から,本件発明において「外部」とは,ECUケースがスロットルボディに取り付けられるときに,スロットルボディとの取付け面側を意味するものと理解することができる。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 (2) 原告は,「回路基板の一方の面から突出した部材」がどのような部材であるのか明確でないから,本件発明の特許請求の範囲は明確性要件を満たさない旨主張する。 ア 特許請求の範囲(請求項1及び3)には,「前記凹部は,前記回路基板の一方の面に取り付けられたTPS,吸気圧力センサおよび吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材を格納し」と記載されている。 イ 本件明細書の【0039】には,ECUケースの内部に設けられた溝(凹部)による空間には,回路基板に取り付けられ電気的に接続された各種センサ及び同様に回路基板に取り付けられ電気的に接続されたその他の電子部材(例えばコンデンサなど)が格納されることが記載されている。また,【0047】には,非接触型のTPSについて,TPSを構成する構成部分の一部がECUケース2の内部に備えられ,他の一部がECUケース2を挟んでその外部に設けられること,実施形態として,具体的には,図10ないし12において,ステータ110がECUケースの内部に備えられており,ステータの空洞部分に回路基板に取り付けられたホール素子102が挿入される形態が記載されている。そして,非接触型のTPSは,ステータ,磁石,(アウター)ヨーク,ホール素子等でセンサが構成されるものであるところ,【0050】,【0051】,【図14】には,TPS用溝(凹部)21にローター9及びローター9の内側面に固定された磁石111が挿入された状態となっており,(アウター)ヨーク112がTPS用溝(凹部)21のローター9の外側に挿入された状態となっていることが記載されており,ステータ110及びホール素子102と,磁石111及び(アウター)ヨーク112が,ECUケース2を挟んで組み付けられていることが記載されている。 本件明細書の上記記載によれば,本件発明における「前記回路基板の一方の面から突出した部材」とは,回路基板に取り付けられ電気的に接続された部材であって,前記回路基板の一方の側面から突出して配置されているものを意味するが,複数の構成要素からなる各種センサや電子部材の場合に,必ずしも当該センサや部材を構成する構成要素の全部が回路基板に直接に接続されていることを意味するものではないことが理解できる。 なお,特許請求の範囲には,「前記回路基板の一方の面に取り付けられたTPS,吸気圧力センサおよび吸気温度センサの少なくとも一つのセンサを含む,前記回路基板の一方の面から突出した部材」と規定されているが,TPSは,全ての構成要素がそろって初めてセンサとして機能するものであるから,「TPS…を含む」と上記のように記載したからといって,「前記回路基板の一方の面から突出した部材」の意義が不明確になるというものでもない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 (3) 小括以上によれば,本件審決における明確性要件に係る判断には,結論において誤りはない。 5 結論以上によれば,原告の本訴請求は理由がないから,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 部眞規子 |
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裁判官 | 柵木澄子 |
裁判官 | 片瀬亮 |