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関連審決 無効2013-800159
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事件 平成 27年 (行ケ) 10201号 審決取消請求事件

原告 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
訴訟代理人弁護士堀籠佳典
訴訟代理人弁理士斎藤健治 藤田雅史 池上美穂
被告花王株式会社
訴訟代理人弁護士木村耕太郎
訴訟代理人弁理士中嶋俊夫 高野登志雄 村田正樹 山本博人 鈴木智久
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2017/01/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2013−800159号事件について平成27年8月21日にした審決のうち,請求項6及び8ないし16に係る部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
-1-3 訴訟費用はこれを10分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が無効2013-800159号事件について平成27年8月21日にした審決中,請求項9〜16について「請求のとおり訂正を認める。 との部分及び 」 「特許第5256370号の請求項2,5ないし16に係る発明についての審判請求は成り立たない。」との部分を取り消す。
事案の概要
本件は,特許無効審判請求に対する一部無効・一部不成立審決のうち一部不成立部分の取消訴訟である。争点は,@訂正要件(新規事項追加,目的要件,特許請求の範囲の実質的変更)判断の誤りの有無,A記載要件(実施可能要件,サポート要件,明確性要件)判断の誤りの有無,B進歩性判断(相違点5,8,9,10,12,14の容易想到性の判断)の誤りの有無である。
1 特許庁における手続の経緯 被告は,名称を「容器詰飲料」とする発明について,平成24年9月26日(本件出願日)を出願日として特許出願(特願2012-212900号,パリ条約に基づく優先権主張,優先日・平成23年9月27日(本件優先日),優先権主張国・日本国)をし,平成25年4月26日,その設定登録を受けた(特許第5256370号。請求項の数16。本件特許)(甲41) 。
原告が,平成25年8月29日に本件特許の請求項1ないし16に係る発明についての特許無効審判請求(無効2013-800159号)をしたところ,特許庁が平成26年12月26日付けで審決の予告をしたので,被告は,平成27年3月9日付けで特許請求の範囲の訂正を求めて訂正請求をした(本件訂正。甲95)。
特許庁は,平成27年8月21日, 「請求のとおり訂正を認める。特許第5256370号の請求項1,3,4に係る発明についての特許を無効とする。特許第5256370号の請求項2,5ないし16に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月31日,原告に送達された。
2 本件訂正発明及び本件発明の要旨 本件訂正後の本件特許の請求項1ないし16に係る発明(以下,請求項の番号に従って「本件訂正発明1」のようにいい,併せて「本件訂正発明」という。)及び本件訂正前の本件特許の請求項9に係る発明(本件発明9)の各特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(本件訂正後の本件特許の明細書を「本件明細書」といい,本件訂正前の明細書(甲41)を「訂正前明細書」というが,本件訂正は特許請求の範囲のみを訂正するものであるから,本件明細書と訂正前明細書の記載は同一である。。
) (1) 本件訂正発明(甲95。なお,下線は,訂正箇所を示す。) ア 本件訂正発明1【請求項1】 次の成分(A)及び(B):(A)イソクエルシトリン及びその糖付加物 0.03〜0.25質量%,(B)エタノール,1-プロパノール,イソプロパノール,1-ブタノール,イソブタノール,アミルアルコール,イソアミルアルコール,1-ヘキサノール,プロピレングリコール及びグリセリンから選択される1種又は2種以上の飲用可能な脂肪族アルコール 0.001質量%以上1質量%未満を含有し, pHが2〜5である容器詰飲料(成分(A)及び(B)が,酵素処理イソクエルシトリン15質量部に対してグリセリン20質量部及びエタノール20質量部からなる場合,並びに酵素処理イソクエルシトリン15質量部に対してグリセリン35 質量部及びエタノール20質量部からなる場合を除く)であって, 加熱殺菌後に容器に充填したものである,容器詰飲料。
イ 本件訂正発明2【請求項2】 製造直後の容器詰飲料のL*a*b*表色系におけるb*値が2.3,4.4,4.6,4.8,4.9,10.1,15.1又は15.6であり, 前記b*値が前記容器詰飲料を試料として光路長10mmの石英セルに入れて分光光度計により測定されたものであり,且つ, 成分(A)に対する成分(B)の質量比[(B)/(A)]が0.05〜30である,請求項1記載の容器詰飲料。
ウ 本件訂正発明3【請求項3】 果糖,ブドウ糖,麦芽糖,ショ糖及びマルトオリゴ糖から選択される1種又は2種以上を0.02〜1質量%含有する,請求項1又は2記載の容器詰飲料。
エ 本件訂正発明4【請求項4】 次の成分(A)及び(B):(A)イソクエルシトリン及びその糖付加物 0.03〜0.25質量%,(B)1-プロパノール,イソプロパノール,1-ブタノール,イソブタノール,アミルアルコール,イソアミルアルコール,1-ヘキサノール,プロピレングリコール及びグリセリンから選択される1種又は2種以上の飲用可能な脂肪族アルコール 0.001質量%以上1質量%未満を含有し, pHが2〜5である容器詰飲料(成分(A)及び(B)が,酵素処理イソクエルシトリン15質量部に対してグリセリン20質量部及びエタノール20質量部から なる場合,並びに酵素処理イソクエルシトリン15質量部に対してグリセリン35質量部及びエタノール20質量部からなる場合を除く)。
オ 本件訂正発明5【請求項5】 55℃で7日間保存した後の容器詰飲料のL *a*b*表色系におけるb*値から,製造直後の容器詰飲料のL * a*b * 表色系におけるb * 値を減じた値が2以下であり, 前記b*値が前記容器詰飲料を試料として光路長10mmの石英セルに入れて分光光度計により測定されたものである,請求項1〜3のいずれか1項に記載の容器詰飲料。
カ 本件訂正発明6【請求項6】 次の成分(A)及び(B):(A)イソクエルシトリン及びその糖付加物 0.03〜0.25質量%,(B)イソアミルアルコール,1-ヘキサノール及びプロピレングリコールから選ばれる少なくとも1種 0.001質量%以上1質量%未満を含有し, pHが2〜5である,容器詰飲料。
キ 本件訂正発明7【請求項7】 成分(B)がエタノール,1-プロパノール,イソプロパノール,1-ブタノール,イソブタノール,アミルアルコール,イソアミルアルコール,プロピレングリコール及びグリセリンから選択される1種又は2種以上の飲用可能な脂肪族アルコールであり, 成分(A)に対する成分(B)の質量比[(B)/(A)]が8.3〜30であり, pHが3.3〜5である, 請求項1〜3及び5のいずれか1項に記載の容器詰飲料。
ク 本件訂正発明8【請求項8】 成分(B)が1-プロパノール,イソプロパノール,1-ブタノール,イソブタノール,アミルアルコール,イソアミルアルコール,1-ヘキサノール及びプロピレングリコールから選択される1種又は2種以上の飲用可能な脂肪族アルコールであり, 加熱殺菌されたものである,請求項4記載の容器詰飲料。
ケ 本件訂正発明9【請求項9】 イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する加熱殺菌された容器詰飲料の色調変化抑制方法であって, 次の成分(A)及び(B)を,(A)イソクエルシトリン及びその糖付加物 0.03〜0.25質量%,(B)エタノール,1-プロパノール,イソプロパノール,1-ブタノール,イソブタノール,アミルアルコール,イソアミルアルコール,1-ヘキサノール,プロピレングリコール及びグリセリンから選択される1種又は2種以上の飲用可能な脂肪族アルコール 0.001質量%以上1質量%未満となるように配合し,pHを2〜5に調整する,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化抑制方法。
コ 本件訂正発明10【請求項10】 成分(A)と成分(B)を,成分(A)に対する成分(B)の質量比[(B)/(A)]が0.05〜30となるように配合する,請求項9記載の色調変化抑制方法。
サ 本件訂正発明11【請求項11】 成分(B)を,0.005質量%以上1質量%未満配合する,請求項9又は10記載の色調変化抑制方法。
シ 本件訂正発明12【請求項12】 成分(B)として,1-プロパノール,イソプロパノール,1-ブタノール,イソブタノール,アミルアルコール,イソアミルアルコール,1-ヘキサノール,プロピレングリコール及びグリセリンから選択される1種又は2種以上の飲用可能な脂肪族アルコールを使用し,成分(B)を0.01質量%以上1質量%未満配合する,請求項9〜11のいずれか1項に記載の色調変化抑制方法。
ス 本件訂正発明13【請求項13】 成分(B)として,1-プロパノール,イソプロパノール,1-ブタノール,イソブタノール,アミルアルコール,イソアミルアルコール,1-ヘキサノール及びプロピレングリコールから選択される少なくとも1種を使用し,成分(B)を0.01質量%以上1質量%未満配合する,請求項9〜11のいずれか1項に記載の色調変化抑制方法。
セ 本件訂正発明14【請求項14】 成分(B)として,イソアミルアルコール,1-ヘキサノール及びプロピレングリコールから選ばれる少なくとも1種を使用する,請求項9〜11のいずれか1項に記載の色調変化抑制方法。
ソ 本件訂正発明15【請求項15】 pHを3.3〜5に調整する,請求項9〜14のいずれか1項に記載の色調変化抑制方法。
タ 本件訂正発明16 【請求項16】 55℃で7日間保存した後の容器詰飲料のL *a*b*表色系におけるb*値から,製造直後の容器詰飲料のL * a*b * 表色系におけるb * 値を減じた値が2以下であり, 前記b*値が前記容器詰飲料を試料として光路長10mmの石英セルに入れて分光光度計により測定されたものである,請求項9〜15のいずれか1項に記載の色調変化抑制方法。
(以下,「L*a*b*表色系におけるb*値」を,単に「b*値」ということがある。
また,「55℃で7日間保存した後の容器詰飲料のL *a*b*表色系におけるb*値から,製造直後の容器詰飲料のL*a*b*表色系におけるb*値を減じた値」 「Δ を,b*値」又は「Δb*」ということがある。) (2) 本件発明9(甲41)【請求項9】 イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料の色調変化抑制方法であって, 次の成分(A)及び(B)を,(A)イソクエルシトリン及びその糖付加物 0.03〜0.25質量%,(B)炭素数2〜7の飲用可能な脂肪族アルコール 0.0004質量%以上1質量%未満となるように配合し,pHを2〜5に調整する,色調変化抑制方法。
3 審判における請求人(原告)の主張 (1) 無効理由1 請求項1に係る発明(本件発明1)は,甲1に記載された発明(甲1発明)と同一であり,新規性を有しない。
甲1:嶋林博「Technical Report 酵素処理イソクエルシトリ ンがFEMA GRASに認可される」Foods ( Food Ingredients J.Jpn.,Vol.210,No.8,2005,800頁〜805頁及び奥付) (2) 無効理由2 本件発明1は,甲12に記載された発明(甲12発明),甲13に記載された発明(甲13発明),甲14に記載された発明(甲14発明)と同一であり,新規性を有しない。
甲12:国際公開公報WO01/48091号パンフレット 甲13:特開2008-131888 甲14:鷲野乾「フラボノイド系天然抗酸化剤について」 (ニューフードインダストリー30巻12号38〜43頁,昭和63年12月1日発行) (3) 無効理由3 本件発明1は,甲1,甲12〜14,甲17〜19より,進歩性を有しない。
甲17:特開2009-280550 甲18:木村進ら「食品の変色の化学」1頁,平成7年10月30日発行 甲19:吉村麻紀子ら「肥満傾向および肥満者に対するエンジュポリフェノール(酵素処理イソクエルシトリン)配合飲料の体脂肪低減作用および安全性の検証」(薬理と治療36(10)(2008)919-930頁) (4) 無効理由4 請求項2に係る発明(本件発明2)は,甲1発明,甲12発明,甲13発明,甲14発明と同一であり,新規性を有しない。
(5) 無効理由5 本件発明2は,甲1,甲7〜14,甲20〜25より,進歩性を有しない。
甲7:特開2000-333653号公報 甲8:特開2008-173109号公報 甲9:特開2010-131008号公報 甲10:厚生労働省ホームページ「食品別の規格基準について」の「清涼飲料水」の項(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/jigyousya/shokuhin_kikaku/dl/01.pdf) 甲11:食品衛生小六法平成25年版261頁,1050〜1059頁及び奥付 甲20:手塚裕和「缶詰清涼飲料の製造と微生物管理」 (環境衛生と微生物検査の栞「es」No.41,2006年1月発行) 甲21:「缶・びん詰,レトルト食品のすべて」12,13,156〜159頁,平成19年5月11日発行 甲22:特開平02-086757 甲23:特開平08-112076 甲24:天然香料基原物質の解説385〜386頁,平成11年8月25日発行 甲25:試験報告書 (6) 無効理由6 請求項3に係る発明(本件発明3)は,甲1発明,甲12発明,甲13発明,甲14発明と同一であり,新規性を有しない。
(7) 無効理由7 本件発明3は,甲1,甲12〜14,甲17〜19より,進歩性を有しない。
(8) 無効理由8 請求項4に係る発明(本件発明4)は,甲1発明,甲12発明,甲13発明,甲14発明と同一であり,新規性を有しない。
(9) 無効理由9 本件発明4は,甲1,甲3,甲4,甲12〜14より,進歩性を有しない。
甲3:FOOD TECHNOLOGY(257) FEBRUARY, , 1965,155,157,161,171,174,176,191頁及び奥付 甲4:特開2005-15686号公報 (10) 無効理由10 請求項5に係る発明(本件発明5)は,甲14発明と同一であり,新規性を有しない。
(11) 無効理由11 本件発明5は,甲1及び甲12〜14,甲26より,進歩性を有しない。
甲26:試験報告書 (12) 無効理由12 請求項6に係る発明(本件発明6)は,甲1発明,甲12発明,甲13発明,甲14発明と同一であり,新規性を有しない。
(13) 無効理由13 本件発明6は,甲1,甲3,甲4及び甲12〜14より,進歩性を有しない。
(14) 無効理由14 請求項7に係る発明(本件発明7)は,甲13発明と同一であり,新規性を有しない。
(15) 無効理由15 本件発明7は,甲1,12及び14に対し進歩性を有しない。
(16) 無効理由16 請求項8に係る発明(本件発明8)は,甲1発明,甲12発明,甲13発明,甲14発明と同一であり,新規性を有しない。
(17) 無効理由17 本件発明8は,甲1,及び甲7〜14及び20〜23に対し進歩性を有しない。
(18) 無効理由18 本件発明9は,甲1発明,甲12発明,甲13発明,甲14発明と同一であり,新規性を有しない。
(19) 無効理由19 本件発明9は,甲1,及び甲7〜14及び20〜23に対し進歩性を有しない。
(20) 無効理由20 請求項10に係る発明は,甲1発明,甲12発明,甲13発明,甲14発明と同一であり,新規性を有しない。
(21) 無効理由21 請求項11に係る発明は,甲1発明,甲12発明,甲13発明,甲14発明と同一であり,新規性を有しない。
(22) 無効理由22 請求項12に係る発明(本件発明12)は,甲1発明,甲12発明,甲13発明,甲14発明と同一であり,新規性を有しない。
(23) 無効理由23 本件発明12は,甲1,3,4及び12〜14に対し進歩性を有しない。
(24) 無効理由24 請求項13に係る発明(本件発明13)は,甲14により新規性を有しない。
(25) 無効理由25 本件発明13は,甲1及び甲12〜14,甲26に対し進歩性を有しない。
(26) 無効理由26 請求項14に係る発明(本件発明14)は,甲1発明,甲12発明,甲13発明,甲14発明と同一であり,新規性を有しない。
(27) 無効理由27 本件発明14は,甲1,3,4及び12〜14に対し進歩性を有しない。
(28) 無効理由28 請求項15に係る発明(本件発明15)は,甲13により新規性を有しない。
(29) 無効理由29 本件発明15は,甲1,12及び14に対し進歩性を有しない。
(30) 無効理由30 請求項16に係る発明は,甲1発明,甲12発明,甲13発明,甲14発明と同一であり,新規性を有しない。
(31) 無効理由31 本件訂正発明の容器詰飲料は,エタノール,1-プロパノール,イソプロパノール,1-ブタノール,イソブタノール,アミルアルコール,イソアミルアルコール,1-ヘキサノール,プロピレングリコール及びグリセリンから選択される1種又は2種以上の飲用可能な脂肪族アルコールを含んでいる。
これに対し,本件明細書の実施例には,アルコールとしてエタノール,グリセリン,イソアミルアルコール及び1-ヘキサノールを用いた場合の容器詰飲料の保存前後でのΔb*値が記載されているにすぎない。本件明細書及び技術常識参酌しても,1-プロパノール,イソプロパノール,1-ブタノール,イソブタノール,アミルアルコール,プロピレングリコールといった脂肪族アルコールにおいても同様の色調変化抑制効果が発揮されるとは認められず,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし,一般化できるとはいえない。
よって,請求項1〜16に係る発明(本件発明)は,発明の詳細な説明に記載したものではないから,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
(32) 無効理由32 本件訂正発明の容器詰飲料は,飲用可能な脂肪族アルコールを0.001質量%以上1質量%未満含んでいる。
これに対し,本件明細書の実施例には,アルコールとしてエタノールを0.01質量%,0.10質量%もしくは0.50質量%,グリセリンを0.10質量%,0.50質量%もしくは0.60質量%,イソアミルアルコールを0.50質量%,1-ヘキサノールを0.50質量%配合した場合の容器詰飲料の保存前後でのΔb* 値が記載されているにすぎない。
出願時の技術常識に照らしても,本件明細書の記載からは,実施例6(0.01質量%)よりも更に1/10以下の水準である0.001質量%でも同様の色調変化抑制効果が発揮されるとは認められず,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし,一般化できるとはいえない。
よって,本件発明は,発明の詳細な説明に記載したものではないから,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
(33) 無効理由33 請求項1及び3は,発明の範囲が不明確であるため,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
(34) 無効理由34 平成25年11月18日付け訂正後の請求項5及び13は,発明の範囲が不明確であるため,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
(35) 無効理由35 請求項2,5,16は,記載要件を満たしていないものであり,特許法36条4項1号及び6項2号に規定する要件を満たしていない。
(36) 無効理由36 請求項9〜16は,記載要件を満たしていないものであり,特許法36条4項1号並びに6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない。
(37) 無効理由37 請求項9〜16は,記載要件を満たしていないものであり,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
(38) 無効理由38 請求項9〜16は,記載要件を満たしていないものであり,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
4 審決の理由の要点 (1) 本件訂正の適否の判断(訂正事項D4関係) ア 訂正事項D4 請求項9における「色調変化抑制方法」に「イソクエルシトリン及びその糖付加物の」との記載を付加する。
イ 判断 訂正事項D4は,訂正前の請求項9における「色調変化抑制方法」に「イソクエルシトリン及びその糖付加物の」との記載を付加するものであるから,特許請求の範囲減縮を目的とするものである。
そして, 「色調変化抑制方法」を「イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化抑制方法」とすることは,訂正前明細書段落【0007】に「フラボノール配糖体を始めとするポリフェノールは一般に酸化されやすいため,それを含有する飲料を長期間にわたって保存すると徐々に着色が進んで色調が大きく変化してしまう。
発明者は,酵素処理イソクエルシトリンを飲料に配合し,それを高濃度化するに従い色調変化が顕在化することを見出した。
・・・したがって,本発明の課題は,長期間保存しても色調変化のし難いイソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料を提供することにある。」と記載され,また実施例7,実施例12には,実施例1の飲料と比較して,サンメリンパウダーC-10の添加量が多いことのみ相違し,Δb*値,製造直後と保存後のb*値が実施例1の飲料よりも高い(表1)ことが示されていることに基づくものであるから,この訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,また,実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更するものではない。
(2) 無効理由5(本件訂正発明2の進歩性欠如)のうち,甲1を主引例とした場合について ア 引用発明1’の認定 甲1には,次の発明(引用発明1’)が記載されている。
「酵素処理イソクエルシトリン0.075重量%,エタノール0.10重量%,グリセリン0.10重量%を含有し, 『酵素処理イソクエルシトリン』に対する『エタノールとグリセリンの合計量』の質量比が,2.67である容器詰モデル飲料」 イ 一致点の認定 本件訂正発明2と引用発明1’とを対比すると,次の点で一致する。
「次の成分(A)及び(B):(A)イソクエルシトリン及びその糖付加物 0.075質量%,(B)エタノール,グリセリンの飲用可能な脂肪族アルコール 0.2質量%を含有し,成分(A)に対する成分(B)の質量比[(B)/(A)]が2.67である容器詰飲料」 ウ 相違点の認定 本件訂正発明2と引用発明1’とを対比すると,次の点が相違する。
(ア) 相違点2 本件訂正発明2では, 「加熱殺菌後に容器に充填したものである」ことが限定されているのに対し,引用発明1’では,そのような限定が明記されていない点。
(イ) 相違点3 本件訂正発明2では,(成分(A)及び(B)が,酵素処理イソクエルシトリン 「15質量部に対してグリセリン20質量部及びエタノール20質量部からなる場合,並びに酵素処理イソクエルシトリン15質量部に対してグリセリン35質量部及びエタノール20質量部からなる場合を除く) が限定されているのに対し, 」 引用発明1’では,そのような限定が明記されていない点。
(ウ) 相違点5 「製造直後の容器詰飲料のb *値が2.3,4.4,4.6, 本件訂正発明2では,4.8,4.9,10.1,15.1又は15.6であり,前記b*値が前記容器詰飲料を試料として光路長10mmの石英セルに入れて分光光度計により測定されたものであ」ることが限定されているのに対し,引用発明1’では,そのような限定が明記されていない点。
エ 相違点についての判断 (ア) 相違点2について 加熱殺菌した飲料を容器に充填する方式は,飲料の製造において広く採用されている技術常識であり,特にPETボトルのような耐熱性の低い容器詰飲料において 現実的な加熱殺菌の選択肢としては,加熱殺菌後に容器に充填する方法しかないのが技術常識である。
したがって,引用発明1’の容器詰モデル飲料を,実際の飲料とするに際し,保存性を高めるために,加熱殺菌処理を施した後,容器に充填することは,当業者が容易になし得ることである。
(イ) 相違点3について 甲1には,酵素処理イソクエルシトリンが食品添加物酸化防止剤であることが記載され,酵素処理イソクエルシトリンの製剤として,サンメリンAO-1007のほか,サンメリンAO-3000が記載されており,当該製剤の酵素処理イソクエルシトリン,エタノール,グリセリンの配合比も記載されている。
そうすると,引用発明1’の容器詰モデル飲料において,サンメリンAO-1007に代えて,サンメリンAO-1007の酵素処理イソクエルシトリン,エタノール,グリセリンの配合比を多少変更した製剤を添加すること,サンメリンAO-3000の配合比を多少変更した製剤を添加すること,さらに,サンメリンAO-1007とサンメリンAO-3000の配合比の間の値である,酵素処理イソクエルシトリン15重量%,グリセリン25重量%,エタノール20重量%の配合比のような酵素処理イソクエルシトリン製剤を調整して添加することは,当業者が容易に想到し得ることである。
(ウ) 相違点5について 「製造直後の容器詰飲料のb *値」に着目す 引用発明1’や,甲12〜14には,ることが何の記載も示唆もされておらず,いずれの甲号証をみても,飲料において,「製造直後の容器詰飲料のb*値」を限定する動機付けは存在しないから,引用発明1’において,「製造直後の容器詰飲料のb*値が2.3,4.4,4.6,4.8,4.9,10.1,15.1又は15.6であり,前記b*値が前記容器詰飲料を試料として光路長10mmの石英セルに入れて分光光度計により測定されたものであ」る容器詰飲料を得ることが,当業者が容易に想到するとはいえない。
甲26は,本件訂正発明2の容器詰飲料の製造直後のb*値が示されたものではない。
(3) 無効理由11(本件訂正発明5の進歩性欠如)について ア 甲1を主引例とした場合 (ア) 引用発明1の認定 甲1には,次の発明(引用発明1)が記載されている。
「酵素処理イソクエルシトリン0.075重量%,エタノール0.10重量%,グリセリン0.10重量%を含有する容器詰モデル飲料」 (イ) 相違点の認定 請求項1を引用する場合の本件訂正発明5と引用発明1とを対比すると,次の点が相違する。
a 相違点2 b 相違点3 c 相違点8 請求項1を引用する場合の本件訂正発明5では,55℃で7日間保存した後のL 「* a*b*表色系におけるb*値から,製造直後のL *a*b*表色系におけるb*値を減じた値が2以下であり,前記b*値が前記容器詰飲料を試料として光路長10mmの石英セルに入れて分光光度計により測定されたものである」ことが限定されているのに対し,引用発明1では,そのような限定が明記されていない点。
(ウ) 相違点8についての判断 引用発明1や,甲12〜14や,いずれの甲号証においても, 「55℃で7日間保存した後のb*値」に着目することが記載も示唆もされていないから,この点について特定することを当業者が容易に想到するとはいえない。
なお,請求項2又は3を引用する場合の本件訂正発明5も,引用発明1に対して相違点8を有するから,同様である。
イ 甲13を主引例とした場合 (ア) 引用発明13の認定 甲13には,次の発明(引用発明13)が記載されている。
「イソクエルシトリン及びその糖付加物0.05質量%,エタノール0.067質量%,グリセリン0.067質量%を含有するか,イソクエルシトリン及びその糖付加物0.1質量%,エタノール0.133質量%,グリセリン0.133質量%を含有する,ペットボトルに充填された飲料」 (イ) 相違点の認定 請求項1を引用する場合の本件訂正発明5と引用発明13とを対比すると,次の点が相違する。
a 相違点3 b 相違点8 ウ 甲14を主引例とした場合 (ア) 引用発明14の認定 甲14には,次の発明(引用発明14)が記載されている。
「イソクエルシトリン及びその糖付加物0.06重量%,エタノール0.08重量%,グリセリン0.08重量%を含有するか,又はイソクエルシトリン及びその糖付加物0.03重量%,エタノール0.04重量%,グリセリン0.04重量%を含有する,ジュースビンに詰められたモデルジュース」 (イ) 相違点の認定 請求項1を引用する場合の本件訂正発明5と引用発明14とを対比すると,次の点が相違する。
a 相違点2 b 相違点3 c 相違点8 (4) 無効理由13(本件訂正発明6の進歩性欠如)のうち,甲1を主引例とした場合について ア 引用発明1の認定 前記(3)ア(ア)のとおり,甲1記載の引用発明1は,次のとおりである。
「酵素処理イソクエルシトリン0.075重量%,エタノール0.10重量%,グリセリン0.10重量%を含有する容器詰モデル飲料」 イ 一致点の認定 本件訂正発明6と引用発明1とを対比すると,次の点で一致する。
「次の成分(A)及び(B):(A)イソクエルシトリン及びその糖付加物 0.075質量%,(B)飲用可能な脂肪族アルコール 0.2質量%を含有する容器詰飲料」 ウ 相違点の認定 本件訂正発明6と引用発明1とを対比すると,次の点が相違する。
(ア) 相違点1 本件訂正発明6では, 「pHが2〜5である」ことが限定されているのに対し,引用発明1では,そのような限定が明記されていない点。
(イ) 相違点9 本件訂正発明6では,(B)の飲用可能な脂肪族アルコールとして「(B)イソアミルアルコール,1-ヘキサノール及びプロピレングリコールから選ばれる少なくとも1種 0.001質量%以上1質量%未満を含有」するのに対し,引用発明1では,「エタノール0.10質量%,グリセリン0.10質量%を含有」する点。
エ 相違点についての判断 (ア) 相違点1について 甲2(試験報告書)には,引用発明1を認定した甲1の図5のモデル溶液を実際に調製し,pHを測定したところ,AO-1007を添加したモデル溶液は,pH3.0であったことが記載されていることから,引用発明1の容器詰モデル飲料は,pH2〜5の範囲内であると認められる。
したがって,この点は実質的な相違点ではない。
(イ) 相違点9について 引用発明1を認定した甲1の図5で配合されるサンメリンAO-1007及び甲1に記載されたサンメリンAO-3000は,酵素処理イソクエルシトリン,グリセリン及びエタノールを含むものであり,甲3,4,39等の他の甲号証を検討しても,これを他のアルコールに置き換えたり,これに他のアルコールを加える動機付けは存在しないから,引用発明1において, 「エタノール及びグリセリン」に代えて, 「イソアミルアルコール,1-ヘキサノール及びプロピレングリコールから選ばれる少なくとも1種」という特定の成分を含有させることが,当業者が容易に想到するとはいえない。
(5) 無効理由15(本件訂正発明7の進歩性欠如)について ア 甲1を主引例とした場合 (ア) 引用発明1’の認定 前記(2)アのとおり,甲1記載の引用発明1’は,次のとおりである。
「酵素処理イソクエルシトリン0.075重量%,エタノール0.10重量%,グリセリン0.10重量%を含有し, 『酵素処理イソクエルシトリン』に対する『エタノールとグリセリンの合計量』の質量比が,2.67である容器詰モデル飲料」 (イ) 相違点の認定 請求項1を引用する場合の本件訂正発明7と引用発明1’とを対比すると,次の点が相違する。
a 相違点2 b 相違点3 c 相違点10 請求項1を引用する場合の本件訂正発明7では,「成分(A)に対する成分(B)の質量比[(B)/(A)]が8.3〜30」であるが,引用発明1’では,(B) [/(A)]が2.67である点。
d 相違点11 請求項1を引用する場合の本件訂正発明7では, 「pHが3.3〜5である」ことが限定されているのに対し,引用発明1’では,そのような限定が明記されていない点。
(ウ) 相違点についての判断 a 相違点10について 甲1で配合されるサンメリンAO-1007は,成分(A)に対する成分(B)の質量比[(B)/(A)]は2.67であり,甲1に記載されたサンメリンAO-3000は,成分(A)に対する成分(B)の質量比[(B)/(A)]は3.67である。
引用発明1’は,酵素処理イソクエルシトリンをサンメリンAO-1007として添加するのみであり,酵素処理イソクエルシトリン,つまり,成分(A)イソクエルシトリン及びその糖付加物と成分(B)のグリセリン及びエタノールの質量比[(B)/(A)]を,サンメリンAO-1007の2.67や,サンメリンAO-3000の3.67よりも大幅に多い,最適な8.3〜30にしようという動機付けは存在しない。また,他の甲号証を参酌しても,そもそも,成分(A)に対する成分(B)の質量比[(B)/(A)]に着目することを,想到しない。
したがって,成分(A)に対する成分(B)の質量比[(B)/(A)]として,2.67に代えて,8.3〜30の成分(A)と成分(B)を含有させることは,当業者が容易に想到するとはいえない。
なお,請求項2,3,5を引用する場合の本件訂正発明7も,引用発明1’に対して相違点10を有するから,同様である。
b 相違点11について 引用発明1’の容器詰モデル飲料は,pHが3.0であるが(甲2),pHが3.3〜5の範囲にある飲料は多く知られており周知であるから,引用発明1’の容器詰モデル飲料のpH3.0を,pH3.0付近で,飲料として通常設定し得るpHであるpH3.3程度とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。
イ 甲13を主引例とした場合 (ア) 引用発明13’の認定 甲13には,次の発明(引用発明13’)が記載されている。
「イソクエルシトリン及びその糖付加物0.05質量%,エタノール0.067質量%,グリセリン0.067質量%を含有するか,イソクエルシトリン及びその糖付加物0.1質量%,エタノール0.133質量%,グリセリン0.133質量%を含有し, 『酵素処理イソクエルシトリン』に対する『エタノールとグリセリンの合計量』の質量比が,2.67である,ペットボトルに充填された飲料」 (イ) 相違点の認定 本件訂正発明7と引用発明13’とを対比すると,次の点が相違する。
a 相違点3 b 相違点10 ウ 甲14を主引例とした場合 (ア) 引用発明14’の認定 甲14には,次の発明(引用発明14’)が記載されている。
「イソクエルシトリン及びその糖付加物0.06重量%,エタノール0.08重量%,グリセリン0.08重量%を含有するか,又はイソクエルシトリン及びその糖付加物0.03重量%,エタノール0.04重量%,グリセリン0.04重量%を含有し,『酵素処理イソクエルシトリン』に対する『エタノールとグリセリンの合計量』の質量比が,2.67である,ジュースビンに詰められたモデルジュース」 (イ) 相違点の認定 本件訂正発明7と引用発明14’とを対比すると,次の点が相違する。
a 相違点2 b 相違点3 c 相違点10 d 相違点11 (6) 無効理由17(本件訂正発明8の進歩性欠如)のうち,甲1を主引例とした場合 ア 引用発明1の認定 前記(3)ア(ア)のとおり,甲1記載の引用発明1は,次のとおりである。
「酵素処理イソクエルシトリン0.075重量%,エタノール0.10重量%,グリセリン0.10重量%を含有する容器詰モデル飲料」 イ 一致点の認定 請求項4を引用する本件訂正発明8と引用発明1とを対比すると,次の点で一致する。
「次の成分(A)及び(B):(A)イソクエルシトリン及びその糖付加物 0.075質量%,(B)飲用可能な脂肪族アルコール 0.20質量%を含有する容器詰飲料」 ウ 相違点の認定 請求項4を引用する本件訂正発明8と引用発明1とを対比すると,次の点が相違する。
(ア) 相違点1 (イ) 相違点12 請求項4を引用する本件訂正発明8では, 「成分(B)が1-プロパノール,イソプロパノール,1-ブタノール,イソブタノール,アミルアルコール,イソアミルアルコール,1-ヘキサノール及びプロピレングリコールから選択される1種又は2種以上の飲用可能な脂肪族アルコール 0.001質量%以上1質量%未満を含有し」「 ,(成分(A)及び(B)が,酵素処理イソクエルシトリン15質量部に対してグリセリン20質量部及びエタノール20質量部からなる場合,並びに酵素処理イソクエルシトリン15質量部に対してグリセリン35質量部及びエタノール20質量部からなる場合を除く)」のに対し,引用発明1では,「エタノール0.10重量%,グリセリン0.10重量%」を含有する点。
(ウ) 相違点13 請求項4を引用する本件訂正発明8では, 「加熱殺菌されたものである」ことが限定されているのに対し,引用発明1では,そのような限定が明記されていない点。
エ 相違点についての判断 (ア) 相違点12について 引用発明1を認定した甲1の図5で配合されるサンメリンAO-1007及び甲1に記載されたサンメリンAO-3000は,酵素処理イソクエルシトリン,グリセリン及びエタノールを含むものであり,その他の甲号証を検討しても,これを他のアルコールに置き換えたり,これに他のアルコールを加えたりする動機付けは存在しないから,引用発明1において,「エタノール及びグリセリン」に代えて,「イソアミルアルコール,1-ヘキサノール及びプロピレングリコールから選ばれる少なくとも1種」という特定の成分を含有させることが,当業者が容易に想到するとはいえない。
(イ) 相違点13について 前記(2)エ(ア)のとおり,引用発明1の容器詰モデル飲料を,実際の飲料とするに際し,保存性を高めるために,加熱殺菌処理を施すことは,当業者が容易になし得ることである。
(7) 無効理由19(本件訂正発明9の進歩性欠如)について ア 甲1を主引例とした場合 (ア) 引用発明1’’の認定 ’ 甲1には,次の発明(引用発明1’’ ’)が記載されている。
「酵素処理イソクエルシトリンを含有する容器詰モデル飲料のアントシアニン系色素の深色・増色方法であって,酵素処理イソクエルシトリン0.075重量%,エタノール0.10重量%,グリセリン0.10重量%を添加する,アントシアニン系色素の深色・増色方法」 (イ) 一致点の認定 本件訂正発明9と引用発明1’’とを対比すると,次の点で一致する。
’「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料に関する方法であって,次の成分(A)及び(B)を,(A)イソクエルシトリン及びその糖付加物 0.075質量%,(B)エタノール,グリセリンの飲用可能な脂肪族アルコール 0.20質量%となるように配合」する点。
(ウ) 相違点の認定 本件訂正発明9と引用発明1’’とを対比すると,次の点が相違する。
’ a 相違点14 本件訂正発明9は, 「pHを2〜5に調整する,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化抑制方法」であるのに対し,引用発明1’’は, ’ 「アントシアニン系色素の深色・増色方法」である点。
b 相違点15 本件訂正発明9では,「加熱殺菌された」容器詰飲料であるのに対し,引用発明1’’では,そのような限定が明記されていない容器詰モデル飲料である点。
’ (エ) 相違点についての判断 a 相違点14について 甲1には, 「食品が光に暴露されると着色料や素材由来の色素成分が退色し, ・・ ・サンメリンAO-1007を添加することにより各種食品の変退色を防止することができる」と記載され,図3,図4の容器詰モデル飲料は,赤キャベツ色素やパプリカ色素の食用黄色5号や食用青色1号の天然着色料と合成着色料の退色防止効果を確認しており,退色防止に関与することは記載されているものの,イソクエルシトリン及びその糖付加物自体の色調変化抑制を見ているものではなく,着色料や色素の色調抑制を確認しているのみである。そして,甲1の図5は,イソクエルシトリン及びその糖付加物による,アントシアニン系色素の深色・増色効果を見ているものにすぎない。したがって,甲1に,イソクエルシトリン及びその糖付加物自体 の,色調変化を抑制することが記載されているとは認められない。
また,甲1の図3〜5には,クエン酸を含有するpH3.0のモデル飲料が記載されているが,pHを調整してイソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化抑制を行うことについては記載されていない。
甲1には,イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰モデル飲料は記載されているものの,アントシアニン系色素(赤キャベツ色素)の深色・増色(コピグメント効果)について記載されるのみで,いずれの甲号証を見ても,イソクエルシトリン及びその糖付加物自体の色調変化を抑制することについては記載も示唆もないから,この点について当業者は容易になし得るとはいえない。
さらに,本件明細書段落【0008】の記載によれば,pHを調整する工程が,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化抑制に関与することも考慮すると,引用発明1’’に,pHを調整する工程の記載がなく,また,pHを調整すること ’によってイソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化抑制作用を奏する旨の記載がない以上,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化抑制のためにpHを2〜5に調整する動機付けは存在しないから,引用発明1’’のイソクエルシト ’リン及びその糖付加物を含有する容器詰モデル飲料のpHを2〜5に調整することを,当業者が容易に想到するとはいえない。
b 相違点15について 前記(2)エ(ア)のとおり,引用発明1’’の容器詰モデル飲料において,保存性を高 ’めるために,加熱殺菌処理を施すことは,当業者が容易になし得ることである。
イ 甲12を主引例とした場合 (ア) 引用発明12’’の認定 ’ 甲12には,次の発明(引用発明12’’ ’)が記載されている。
「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する飲料形態の試験液のアントシアニンの安定化方法であって,イソクエルシトリン及びその糖付加物0.045重量%,エタノール0.06重量%,グリセリン0.06重量%を添加する,アントシアニ ンの安定化方法」 (イ) 一致点の認定 本件訂正発明9と引用発明12’’とを対比すると,次の点で一致する。
’「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する飲料形態の試験液に関する方法であって,次の成分(A)及び(B)を,(A)イソクエルシトリン及びその糖付加物 0.045質量%,(B)エタノール,グリセリンの飲用可能な脂肪族アルコール 0.12質量%となるように配合」する点。
(ウ) 相違点の認定 本件訂正発明9と引用発明12’’とを対比すると,次の点が相違する。
’ a 相違点14 本件訂正発明9は, 「pHを2〜5に調整する,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化抑制方法」であるのに対し,引用発明12’’は, ’ 「アントシアニンの安定化方法」である点。
b 相違点15 (エ) 相違点14についての判断 甲12の表1,表3では,安定性試験の結果として,イソクエルシトリンを安定剤として添加したアントシアニンの残存量は,41.4%と41.3%であったことが記載されていることから,甲12は,イソクエルシトリン及びその糖付加物による,アントシアニンの安定性効果を見ているものにすぎない。したがって,甲12には,イソクエルシトリン及びその糖付加物自体の,色調変化を抑制することが記載されているとは認められない。
また,甲12には,0.1Mのクエン酸緩衝液pH3.0に溶解して,飲料形態の試験液を作成することが記載されているが,pHを調整してイソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化抑制を行うことについては記載されていない。
甲12には,アントシアニンの安定性効果について記載されるのみで,いずれの 甲号証を見ても,イソクエルシトリン及びその糖付加物自体の色調変化を抑制することについては記載も示唆もないから,この相違点14は,当業者が容易に想到するとはいえない。
ウ 甲13を主引例とした場合 (ア) 引用発明13’’の認定 ’ 甲13には,次の発明(引用発明13’’ ’)が記載されている。
「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料のヘマトコッカス藻色素の耐光性向上方法であって,イソクエルシトリン及びその糖付加物0.05質量%,エタノール0.067質量%,グリセリン0.067質量%を添加するか,イソクエルシトリン及びその糖付加物0.1質量%,エタノール0.133質量%,グリセリン0.133質量%を添加する,ヘマトコッカス藻色素の耐光性向上方法」 (イ) 一致点の認定 本件訂正発明9と引用発明13’’とを対比すると,次の点で一致する。
’「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料に関する方法であって,次の成分(A)及び(B)を,(A)イソクエルシトリン及びその糖付加物 0.05質量%,(B)エタノール,グリセリンの飲用可能な脂肪族アルコール 0.134質量%を配合するか,(A)イソクエルシトリン及びその糖付加物 0.1質量%,(B)エタノール,グリセリンの飲用可能な脂肪族アルコール 0.266質量%を配合」する点。
(ウ) 相違点の認定 本件訂正発明9と引用発明13’’とを対比すると,次の点が相違する。
’ a 相違点14 本件訂正発明9は, 「pHが2〜5に調整する,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化抑制方法」であるのに対し,引用発明13’’は, ’ 「ヘマトコッカス 藻色素の耐光性向上方法」である点。
b 相違点15 (エ) 相違点14についての判断 甲13には,ヘマトコッカス藻色素の耐光性向上方法について記載され,飲料中に含まれるアスタキサンチン残存量を向上させる効果を有することが記載されているが,イソクエルシトリン及びその糖付加物自体の色調変化抑制を見ているものではない。
また,甲13には,クエン酸,クエン酸三ナトリウムを含有させることは記載されているものの,飲料を特定のpHにすることは記載されておらず,pHを調整してイソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化抑制を行うことについては記載されていない。
したがって,甲13に,pHが2〜5に調整する,イソクエルシトリン及びその糖付加物自体の,色調変化を抑制することが記載されているとは認められない。
甲13にはアスタキサンチン残存量を向上させる,ヘマトコッカス藻色素の耐光性向上方法について記載されるのみで,いずれの甲号証を見ても,イソクエルシトリン及びその糖付加物自体の色調変化を抑制することについては記載も示唆もないから,この相違点14は,当業者が容易に想到するとはいえない。
エ 甲14を主引例とした場合 (ア) 引用発明14’’の認定 ’ 甲14には,次の発明(引用発明14’’ ’)が記載されている。
「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有するジュースビンに詰められたモデルジュースの赤キャベツ色素とパプリカベースの退色防止方法であって,イソクエルシトリン及びその糖付加物0.06重量%,エタノール0.08重量%,グリセリン0.08重量%を添加するか又はイソクエルシトリン及びその糖付加物0.03重量%,エタノール0.04重量%,グリセリン0.04重量%を添加する,赤キャベツ色素とパプリカベースの退色防止方法」 (イ) 一致点の認定 本件訂正発明9と引用発明14’’とを対比すると,次の点で一致する。
’「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料に関する方法であって,次の成分(A)及び(B)を,(A)イソクエルシトリン及びその糖付加物 0.06質量%,(B)エタノール,グリセリンの飲用可能な脂肪族アルコール 0.16質量%を配合するか又は(A)イソクエルシトリン及びその糖付加物 0.03質量%,(B)エタノール,グリセリンの飲用可能な脂肪族アルコール 0.08質量%を配合」する点。
(ウ) 相違点の認定 本件訂正発明9と引用発明14’’とを対比すると,次の点が相違する。
’ a 相違点14 本件訂正発明9は, 「pHを2〜5に調整する,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化抑制方法」であるのに対し,引用発明14’’は, ’ 「赤キャベツ色素とパプリカベースの退色防止方法」である点。
b 相違点15 (エ) 相違点14についての判断 甲14には,サンメリンAO-1007を用いた赤キャベツ色素とパプリカベー 「スの退色防止効果の実例を図1と図2に示す。この図から明らかのようにこのフラボノイドはカロチノイド色素やアントシアニン色素に対して強力な退色防止効果を発揮した。 と記載され, 」 イソクエルシトリン及びその糖付加物を含むサンメリンAO-1007を添加することにより,赤キャベツ色素とパプリカ色素の退色を防止することができることは記載されているものの,イソクエルシトリン及びその糖付加物自体の色調変化抑制については確認されていない。したがって,甲14には,イソクエルシトリン及びその糖付加物自体の,色調変化を抑制することが記載され ているとは認められない。
また,引用発明14’’の方法は,クエン酸,クエン酸ソーダを配合することは ’記載されているが,飲料を特定のpHにすることは記載されておらず,pHを調整してイソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化抑制を行うことについては記載されていない。
甲14には,赤キャベツ色素とパプリカベースの退色防止方法について記載されるのみで,いずれの甲号証を見ても,イソクエルシトリン及びその糖付加物自体の色調変化を抑制することについては記載も示唆もないから,この相違点14は,当業者が容易に想到するとはいえない。
(8) 無効理由20〜30(本件訂正発明10〜16の新規性欠如・進歩性欠如)について 本件訂正発明10〜16は,請求項9を直接又は間接的に引用する下位概念の発明である。
そして,本件訂正発明9は,新規性がないとも,進歩性がないともいえないから,本件訂正発明9を更に限定した下位概念の発明である本件訂正発明10〜16についても,新規性がないとも,進歩性がないともいえない。
(9) 無効理由32(請求項1〜16のサポート要件違反) 本件明細書の実施例6では,エタノール0.01質量%を添加した場合のΔb*が確認されているが,このアルコール添加量は請求項12,13で特定された(B)の脂肪族アルコール添加量の範囲の下限値(0.01質量%)に一致し,請求項11の下限値(0.005質量%)の2倍,請求項1,4,6,9の下限値(0.001質量%)の10倍に相当する。
本件明細書の表1における実施例1(エタノール0.50%,Δb *1.3)は,実施例5(エタノール0.1質量%,Δb* 1.3)のエタノール添加量の5倍量を添加しているが,実施例5と同じΔb*1.3であり,実施例5のエタノール添加量の1/10である実施例6(エタノール0.01質量%,Δb*2.0)のΔ b*が0.7増加したことをもって,エタノールを0.001%添加したときのΔb*が2.7になるとは認められない。さらに,被告が甲43(審判乙2。実験成績証明書(2))として,エタノールを0.001%含有する容器詰飲料を作成し,測定したΔb*値も,2.7ではなく,2.2である。
エタノール添加量0.001%の容器詰飲料のΔb *値が,原告主張のように2.7だったとしても,被告が実験成績証明書(甲43)で行った2.2だったとしても,どちらも,(B)成分を添加していない比較例2のΔb*値(3.0)よりも色調変化は僅かながら抑制されている。また,エタノール0.01質量%を添加した容器詰飲料で色調変化抑制効果があれば,飲食品分野における当業者は, 01% 0.より多少少ない添加量であっても,容器詰飲料の色調変化抑制効果を有すると考えるのが自然である。
そうとすれば,実施例6で確認された(B)の添加量0.01%に対し,1/2,1/10程度の添加量でも,効果は0.01質量%(実施例6)添加の容器詰飲料より減少するものの,色調変化抑制効果を有するといえる。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明に(B)を「0.001質量%」配合し,色調変化抑制効果を確認する実施例が記載されていなくても,本件発明が,発明の詳細な説明において色調変化抑制という発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとはいえない。
(10) 無効理由35(請求項2,5,16の実施可能要件違反・明確性要件違反)について 甲65(審判乙24。測色色差計型番:ZE-2000(日本電色工業株式会社製)のユーザーズガイド)は,本件明細書の実施例で用いた「ColorMeter(測色色差計)ZE-2000(日本電色工業株式会社製)」のユーザーズガイドであって,ZE-2000 は,液体,フィルム,樹脂などの透過試料の透過色を測定する「透過試料室」と,固体,樹脂などの反射試料を測定する「反射試料台」があることが記載されている。
また,甲61(審判乙20。化学大辞典編集委員会編,「化学大辞典3」,共立出 版株式会社,1960年発行),甲62(審判乙21。化学大辞典編集委員会編, 「化学大辞典5」,共立出版株式会社,1961年発行),甲63(審判乙22。日本分析化学会編,「機器分析実技シリーズ吸光光度法-有機編-」,共立出版株式会社,1984年9月1日発行),甲64(審判乙23。日本電色工業株式会社のホームページの「色と光の知識>役に立つ技術情報」 (https://www.nippondenshoku.co.jp/web/japanese/column/index.htm))の記載から, 「光路長」とは,溶液中に光を透過させる測定方法,すなわち「透過測定」における概念であり,反射光はセル表面で反射する光であり,反射測定」 「 には光路長という概念が存在しないという技術常識がある。
これらを考慮すれば,請求項2の「光路長10mmの石英セルに入れて分光光度計により測定されたもの」である「L *a*b*表色系におけるb*値」とは,「透過測定」により得られる値という意味であることは,当業者であれば直ちに理解できる。
したがって,光路長10mmの石英セルに入れて分光光度計により測定された」 「 ,「L*a*b*表色系におけるb*値」の記載がある請求項2,5,16は,特許法36条6項2号に規定する要件(明確性要件)を満たしている。
また,請求項2,5,16について,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者が実施をすることができる程度に発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されており,特許法36条4項1号に規定する要件(実施可能要件)を満たしている。
(11) 無効理由36(請求項9〜16の実施可能要件違反・サポート要件違反)について 本件訂正後の請求項9は,イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する加熱 「殺菌された容器詰飲料の色調変化抑制方法であって,次の成分(A) (B) ・ ・ 及び を,・となるように配合し,pHを2〜5に調整する,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化抑制方法」であって,イソクエルシトリン及びその糖付加物以外の物質を含有することを妨げるものではない。
本件明細書記載の実施例では,アスコルビン酸を含むサンメリンパウダーC-1 0を用いた飲料を作製しているが,アスコルビン酸が入っていない場合も,実施例に記載の方法と同様の方法により容器詰飲料を作製し,実施例と同様の色調変化測定方法と判定基準を用いることにより,当業者に過度な実験を強いることなく色調変化を測定することができる。
また,本件明細書の実施例において,実施例と同様に比較例においても,アスコルビン酸を含むサンメリンパウダーC-10を用いた容器詰飲料を作製し, (A)のイソクエルシトリン及びその糖付加物とともに(B)の飲用可能な脂肪族アルコールをそれぞれ特定量含有せしめ,更にpHを特定範囲内に調整することで,長時間にわたって保存しても色調が変化し難く,外観が保持されることを確認していることから,アスコルビン酸を含まないイソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料であっても,色調変化を抑制することが理解できる。
よって,本件訂正発明9は,実施可能ではない発明を含むものではなく,特許法36条4項1号に規定する要件(実施可能要件)を満たす。
また,本件明細書の発明の詳細な説明から,本件訂正発明9の上記課題が解決できることを当業者が認識することができるように記載された範囲を超えているとはいえない。
そして,本件訂正発明9は,当業者であれば理解でき,明確である。
よって,本件訂正後の請求項9〜16の記載は,特許法36条4項1号,同条6項1号,2号に規定する要件を満たさないということはできない。
(12) 無効理由37(請求項9〜16の明確性要件違反)について 本件明細書には, 「本発明者は,イソクエルシトリン及びその糖付加物とともにアルコール類をそれぞれ特定量含有せしめ,更にpHを特定範囲内に調整することで,長期間にわたって保存しても色調が変化し難く,外観が保持される飲料が得られることを見出した。( 」【0008】,及び「フラボノール配糖体を始めとするポリフェ )ノールは一般に酸化されやすいため,それを含有する飲料を長期間にわたって保存すると徐々に着色が進んで色調が大きく変化してしまう。本発明者は,酵素処理イ ソクエルシトリンを飲料に配合し,それを高濃度化するに従い色調変化が顕在化することを見出した。
・・・また,本発明の課題は,イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料の色調変化抑制方法を提供することにある。 ( 」 【0007】)なる記載がある。これらを考慮すれば,本件訂正発明9が「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する加熱殺菌された容器詰飲料の色調変化抑制方法であって,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化に起因する容器詰飲料の色調変化抑制方法」であることを,当業者であれば理解できる。
したがって,本件訂正発明9は,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化に起因する容器詰飲料の色調変化抑制方法であることは明らかであり,本件訂正発明9に係る特許は,特許法36条6項2号に規定された要件(明確性要件)を満たす特許出願に対してなされたものである。
また,本件訂正発明10〜16に係る特許も,同様の理由により,特許法36条6項2号に規定された要件(明確性要件)を満たす特許出願に対してなされたものである。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1-2(訂正事項D4に係る訂正要件についての判断の誤り) (1) 新規事項追加 審決は,訂正事項D4は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであると判断したが,誤りである。
すなわち,訂正前明細書の実施例で効果が確認されているのは,アスコルビン酸を含む「サンメリン?パウダーC-10(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)」を含有する容器詰飲料全体の色調変化抑制であって,イソクエルシトリン及びその糖付加物自体の色調変化抑制ではない。仮に審決のように, 「イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化抑制」が,イソクエルシトリン及びその糖付加物に起因する色調変化抑制を意味するものと解釈しても,訂正前明細書に記載された容器詰飲 料の色調変化抑制が,イソクエルシトリン及びその糖付加物自体の色調変化抑制のみによるものなのか,アスコルビン酸の色調変化抑制によるものなのかは,本件明細書の記載からは特定できないから,飲料に含まれる成分の1つにすぎない「イソクエルシトリン及びその糖付加物」の「色調変化抑制」が,訂正前明細書に記載された範囲の事項を超えていることに変わりはない。実際に,原告において実験をしてみたところ,甲40では,酵素処理イソクエルシトリンを含まない条件下で,アスコルビン酸が褐変化していることが確認され,甲69では,酵素処理イソクエルシトリンを含有し,アスコルビン酸を含有しない飲料にエタノールを添加した場合には,色調変化が抑制されないことが確認された。このことから,訂正前明細書の実施例で色調変化が抑制されているのは,アスコルビン酸であって,酵素処理イソクエルシトリン自体ではないことは明らかである。
したがって,本件発明9の効果の裏付けとすべき実施例に,イソクエルシトリン及びその糖付加物に起因する色調変化の抑制効果が開示されていないことから,イ 「ソクエルシトリン及びその糖付加物」の「色調変化抑制方法」という構成は,訂正前明細書に実質的に開示されていない。訂正事項D4は,新規事項追加に該当する。
(2) 特許請求の範囲の実質的変更等 審決は,訂正事項D4は,特許請求の範囲減縮を目的とするものであり,実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更するものではないと判断したが,誤りである。
すなわち,訂正事項D4は,請求項9における色調変化抑制の対象を,訂正前の「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料」から,訂正後の(イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料の)イソクエルシトリン 「及びその糖付加物」に変更するものであるが,前者と後者は,飲料全体の色調か,飲料に含まれる特定の成分の色調かという点で,色調変化抑制の対象が異なっており,かつ,後者が前者に包含されるという論理関係にもない。
したがって,訂正事項D4は,特許請求の範囲減縮を目的とするものではないし,訂正前の「容器詰飲料の色調変化抑制方法」という構成とは全く異なる特徴で ある, 「イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化抑制方法」という新たな特徴を追加するものであるから,実質上特許請求の範囲変更するものである。
2 取消事由2-1(本件訂正発明2と引用発明1’の相違点5の容易想到性についての判断の誤り) 審決は,相違点5に係る本件訂正発明2の構成は容易に想到し得ないと判断したが,相違点5は設計事項にすぎないから,誤りである。
すなわち,本件訂正発明2には,成分(A)及び(B)以外の成分について限定はないから,色素を適宜含有したものが含まれる。色素により飲料の色調をどのようなものとするかは需要者の好み等に照らして当業者が適宜決定する設計事項にすぎない。b*値は,飲料の黄色の度合いを表すパラメータの1つにすぎず,飲料の色調の決定に伴って,当業者により適宜決定されるものである。製造直後のb*値を本件訂正発明2で特定された値とすることにより,格別の効果が生じることの開示はない。
3 取消事由2-2(本件訂正発明5と引用発明1並びに引用発明13及び引用発明14との相違点8の容易想到性についての判断の誤り) 審決は,相違点8に係る本件訂正発明5の構成は容易に想到し得ないと判断したが,誤りである。
【表1】の成分を配合すること以外に,Δb *を所定 すなわち,本件明細書には,値とする格別の手段は開示されていないから,本件訂正発明5のΔb*に関する要件は,対象物が他の構成要件を備えること,あるいは,明細書に記載するまでもない設計事項程度のことを行うことにより,充足される(そうでなければ,記載要件違反がある。 。そして,本件訂正発明5のΔb *以外の構成要件である「請求項1 )〜3のいずれか1項に記載の容器詰飲料」の構成が容易想到であることは,審決認定のとおりであるから,本件訂正発明5は容易想到である。また,引用発明1の飲 料のアルコール含有量(エタノール及びグリセリンの合計)は0.20重量%であるから,本件明細書の実施例1,2,5,8及び9の開示(アルコール含有量0.10質量%〜0.60質量%で,Δb*=1.3〜1.5)に照らすと,引用発明1は相違点8の構成を備えているか,設計事項程度のことを行うことにより相違点8の構成が実現されることは明らかである。
被告は,本件訂正発明5のΔb*に関する要件が,本件訂正発明5の範囲を所望の作用効果(Δb*≦2)が得られた場合に限定するための要件であると主張するが,所望の作用効果(Δb*≦2)を得るための手段ではないから,それ自体が進歩性の根拠となるものではない。発明は課題を解決するための具体的手段を提供するものであり,単に願望を述べたにすぎないものは発明ではない。
本件訂正発明5のΔb*は,色調変化を定量化するために発明者が選択したパラメータにすぎず,パラメータの選択そのものを進歩性の根拠とすることはできない。
物の発明においては,構成が同じであれば,発明を区別することはできないのであって,検討事項や観察手段によって,本件訂正発明5と引用発明1を区別することはできない。
本件明細書には,ΔE*に代えて,Δb*を用いることの意義については,何ら記載されていないし,ΔE*=[(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2]1/2であるから,ΔE*が2以下であれば,Δb*の絶対値も2以下になるという関係にあり,物の発明の「ΔE*≦2」という特徴に進歩性が認められない以上,この要件を緩和した「Δb*≦2」という特徴も進歩性が認められる余地はない。
本件訂正発明5のΔb*は,下限を規定しておらず,Δb*が大きくマイナスとなる飲料も含まれ得ることからも,色調変化抑制の見地からの技術的意義はない。
甲38によれば,引用発明13ではΔb* =-0.5〜―7.9,引用発明14ではΔb*=-6.9〜-11.9であるから,相違点8は実質的な相違点ではなく,また,引用発明13及び引用発明14の飲料から酵素処理イソクエルシトリン,エタノール,グリセリンの配合比を多少変更した飲料についても,Δb*が2を下 回ることは明らかである。そして,取消事由2-1の相違点3についての判断と同様に,Δb*が2以下となる範囲で引用発明13及び引用発明14で用いられているサンメリンAO-1007に代えて,酵素処理イソクエルシトリン,エタノール,グリセリンの配合比を多少変更した製剤を添加すること,サンメリン?AO-3000の配合比を多少変更した製剤を添加すること,さらに,サンメリン?AO-1007とサンメリン?AO-3000の配合比の間の値である酵素処理イソクエルシトリン製剤を調整して添加することは,当業者が容易に想到し得ることである。
4 取消事由2-3(本件訂正発明6と引用発明1との相違点9の容易想到性についての判断の誤り) 審決は,相違点9に係る本件訂正発明6の構成は容易に想到し得ないと判断したが,誤りである。
すなわち,酵素処理イソクエルシトリンには,疎水性の化合物が含まれているところ,甲1において,「サンメリン?AO-1007」が「水溶性液体」と記載されていることから, 「サンメリン?AO-1007」のエタノール及びグリセリンが溶剤として使用されていることは明らかである。そして,甲74(特開2000-119975) 【0013】 甲75 の , (特開2007-124988) 【0018】 の ,甲76(特開2008-182924)の【0028】のとおり,エタノール及びグリセリンと,プロピレングリコールとは,食品添加物製造の認可を受けた溶剤として同列に列挙されている。そうすると,当業者であれば,甲1の「サンメリン?AO-1007」に溶剤として添加されているエタノール及びグリセリンに代えて,又はこれに加えてプロピレングリコールを配合することは容易に想到し得ることである。
また,イソアミルアルコール及び1-ヘキサノールは,飲料の分野において使用されるありふれた香料であるから,甲1に格別の動機付けの開示がなくても,これらの香料を甲1の飲料に添加することは当業者が容易に想到し得ることである。
5 取消事由2-4(本件訂正発明7と引用発明1’並びに引用発明13’及び引用発明14’との相違点10の容易想到性についての判断の誤り) 審決は,相違点10に係る本件訂正発明7の構成は容易に想到し得ないと判断したが,誤りである。
すなわち,飲料におけるエタノール等のアルコールの配合量をどうするかは,当業者が需要者の嗜好等に合わせて適宜選択することにすぎないし,イソクエルシトリンのようなポリフェノール成分に対しアルコールの配合量を多くすることも,本件発明が属する技術分野において真新しいことではないから(甲77) イソクエル ,シトリン及びその糖付加物に対し,溶剤又は香料成分であるアルコールの配合量を8.3〜30の範囲内とすることは当業者であれば容易に想到できる。甲77記載のケルセチンとイソクエルシトリン及びその糖付加物とは,基本的な性質や活性を決める基本骨格(ケルセチン)は同じである。
「こく味」で「4」の評価が得られたという効果も,何の「こく味」を測定しているのか不明であり,判断方法も極めて主観的な評価方法である上,飲料の「こく味」をどうするかは当業者が需要者の嗜好等に合わせて適宜選択するものである。
本件明細書の実施例には,アルコール配合量が0.50%よりも少ない場合に,こく味4が得られたことは記載されておらず,アルコール配合量が0.001%のときでも,(B)/(A) [ ]が8.3〜30の範囲内であれば,こく味が4以上となるかは極めて疑わしいし,ポリフェノール成分にアルコールを多く配合させること自体は技術常識であるところ(甲77) ポリフェノール成分としてイソクエルシトリ ,ンを選択すると格別の効果が生じることは本件明細書に開示されていないのであるから,相違点10の構成に当業者が予想し得ない顕著な効果があるとはいえない。
本件訂正発明7が本件訂正発明5に従属していることに基づく,本件訂正発明7と引用発明13’及び引用発明14’との相違点の容易想到性については,前記3(取消事由2-2)のとおりである。
6 取消事由2-5(本件訂正発明8と引用発明1との相違点12の容易想到性についての判断の誤り) 審決は,相違点12に係る本件訂正発明8の構成は容易に想到し得ないと判断したが,誤りである。
すなわち,前記4(取消事由2-3)のとおり,甲1の「サンメリン?AO-1007」に溶剤として添加されているエタノール及びグリセリンに代えて,又はこれに加えてプロピレングリコールを配合することは容易に想到し得ることである。
また,1-プロパノール,イソプロパノール,1-ブタノール,イソブタノール,アミルアルコール,イソアミルアルコール及び1-ヘキサノールは,飲料の分野において使用されるありふれた香料であるから,甲1に格別の動機付けの開示がなくても,これらの香料を甲1の飲料に添加することは当業者が容易に想到し得ることである。
7 取消事由2-6(本件訂正発明9と引用発明1’’並びに引用発明12’’ ’ ’,引用発明13’’ 引用発明14’’ ’, ’ との相違点14の容易想到性についての判断の誤り) 審決は,相違点14に係る本件訂正発明9の構成は容易に想到し得ないと判断したが,誤りである。
すなわち,甲1には,「図5.・・・pH3.0のモデル飲料(Brix13°,クエン酸0.2%,赤キャベツ色素0.05%)にサンメリン?AO-1007を添加する」との記載があり,添加後のモデル飲料は客観的にpH3.0に調整されているのであるし(甲2) pH調整に用いられるクエン酸が添加されているのであ ,るから, 「pHを2〜5に調整する」ことが記載されており,実質的な相違点ではなく,少なくとも容易想到である。仮に,成分を配合する工程とは別に,pHを調整する工程があるという意味で相違点と認められるとしても,別工程とするか否かは 単なる設計事項であり,当業者であれば容易に想到できる。
「イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化抑制」は,客観的な物理現象であって, 「用途」ではないから,本件訂正発明9と引用発明1’’とを「方法の用 ’途」で区別することはできないし,甲1には, 「イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化抑制」が記載されているから,実質的な相違点ではないか,少なくとも容易想到である。本件訂正発明9でも,甲1でも,対象飲料(「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する加熱殺菌された容器詰飲料」 が成分 ) (A)及び(B)の含有量並びにpHに係る本件訂正発明9の構成を備えることにより,イソクエル 「シトリン及びその糖付加物の色調変化」が「抑制」されるという物理現象が生じていることには変わりなく,これは観察者が対象飲料の何に着目しているかによって左右されるものではない。特許法103条によれば,方法の使用者が方法の発明構成要件充足を認識していなかったとしても 「色調変化抑制」 ( を認識せずに方法を使用していたとしても),方法の「使用」(実施)があったと解されるから,客観的に同一である「方法(の発明)」を使用者の主観によって区別することはできない。
引用発明1’’ ’ の飲料のアルコール含有量は0.20重量%であるから,前記3(取消事由2-2)のとおり,本件明細書の実施例に照らし,Δb*≦2(本件明細書の実施例6と同等かそれ以上に色調変化が抑制されている。)であり,「イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化」が「抑制」されている。引用発明13’’ ’及び引用発明14’ ’の飲料も,Δb*≦2であるから(甲38) 「イソクエルシ ’ ,トリン及びその糖付加物の色調変化」が「抑制」されている。
本件出願当時,イソクエルシトリン及びその糖付加物が褐変すること(甲27,28,80)も,pHを酸性にすることにより,イソクエルシトリン等のようにケルセチン骨格を有する化合物の安定性が高まること(甲81)も,既に知られていた。当業者が,このような技術常識を踏まえて,甲1の図5のモデル飲料(容器詰飲料)について,「pH3.0のモデル飲料」「サンメリン?AO-1007 , 0.5%添加」, 「安定化」などの記載に接すれば,甲1の図5のモデル飲料においても, 酸性条件下であることにより褐変せずに安定化している(色調変化が抑制されている)と理解するから,甲1の図5の飲料の色調変化が抑制されていることは,実質的に記載されている。
甲12〜14の飲料が「加熱殺菌された」ものであることは,明示的には記載されていないが,甲12〜14の各記載,糖類等の配合により腐敗しやすい性質を有していることから,明らかである。
8 取消事由2-7(本件訂正発明10〜16に係る容易想到性についての判断の誤り) 審決は,本件訂正発明9は,新規性がないとも,進歩性がないともいえないから,本件訂正発明9を更に限定した下位概念の発明である本件訂正発明10〜16についても,新規性がないとも,進歩性がないともいえないと判断したが,誤りである。
すなわち,前記7(取消事由2-6)のとおり,本件訂正発明9は進歩性がないから,審決の判断には誤りがあり,取り消すべき違法がある。
9 取消事由3-2(請求項2,5〜16に係るサポート要件の判断の誤り) 審決は,本件明細書に成分(B)を0.001質量%配合して,色調変化抑制効果を確認する実施例が記載されていなくても,本件訂正発明2,5〜16が,発明の詳細な説明において色調変化抑制という発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとはいえないと判断したが,誤りである。
すなわち,本件明細書は,Δb*=2.5である比較例3を,実施例ではなく比較例,すなわち色調変化が抑制されていない例として記載しているから,色調変化を抑制したといえるためには,少なくともΔb*が2.5よりも小さいことが必要である。しかるに,エタノールを0.001%添加したときのΔb*が2.5よりも小さいことを本件明細書から理解することはできないから,本件訂正発明2,5 〜16にはサポート要件違反がある。
成分(A)の配合量(イソクエルシトリン糖付加物等の製剤の配合量0.55質量%)及び成分(B)のアルコールの種類(エタノール)が共通する実施例1,5及び6,並びにエタノールを配合しない比較例2について,エタノールの配合量とΔb*の値は,次のとおりである。
エタノール配合量(質量%) Δb* 実施例1 0.50 1.3 実施例5 0.10 1.3 実施例6 0.01 2.0 比較例2 0 3.0 これによれば,エタノールの配合量が比較的多い領域(0.10〜0.50質量%)ではΔb*に変化はないものの,エタノールの配合量が比較的少ない領域(0〜0.10質量%)では,エタノール配合量の減少に伴い,Δb*が上昇するという傾向が見て取れる。そして,エタノールの配合量が0.001質量%というのは,実施例6(0.10質量%)よりも比較例2(0質量%)に非常に近い値であることから,当業者は,エタノールを0.001質量%配合した場合のΔb*は,比較例2のΔb*である3.0に近い値になり,比較例3のΔb*である2.5を超える値になるものと合理的に予想することができる。また,エタノールの配合量が0.01%以下の場合には,エタノール配合量の減少とΔb*の増加とが比例関係にあるとして,エタノール配合量が0.001質量%の場合のΔb*は2.92程度,エタノール配合量が0.005質量%の場合のΔb*は2.6程度になると合理的に推測することもできるのであり,本件明細書の発明の詳細な説明に開示された効果をこれらのエタノール配合量まで拡張ないし,一般化できるとはいえない。
10 取消事由3-3(請求項2,5,16に係る実施可能要件及び明確性要件の判断の誤り) 審決は, 「光路長」とは透過測定における概念であるから,当業者であれば,請求項2,5,16の「光路長10mmの石英セルに入れて分光光度計により測定されたもの」である「L*a*b*表色系におけるb*値」は,透過測定により得られる値であることを理解することができ,明確性要件及び実施可能要件を満たしていると判断したが,誤りである。
すなわち,甲63の7頁の図3-2のとおり,セルに照射された入射光は,セル表面で反射するだけでなく,セル内の溶液中で散乱するが,散乱した光は,あらゆる方向に進み,透過光側だけでなく,反射光側にも進む。したがって,セル内に格納した液体を反射測定した場合,検知する光には,セル表面で反射した光だけでなく,セル内の液体で散乱した光も含まれる。そして,液体中で散乱する光の量は,セルの厚みに影響されるから, 「反射測定」には光路長という概念が存在しないという判断は誤りである。実際,本件優先日以前から,同一のセルを用いて透過測定及び反射測定ができる分光光度計も,日本分光株式会社製の分光光度計V-550及び積分球装置ILV-471(乙4,甲104の1,2),Hunter Lab製の分光光度計「UltraScan VIS」 (甲105の1〜3)など,数多く存在していた。
また,飲料業界において,不透明な液体は反射測定を利用することが技術常識であるところ,請求項2,5,16は不透明な液体を権利範囲に含むから,反射測定を採用する可能性が十分にあるのであって,透過測定であることが一義的に明らかということはできない。
透過測定と反射測定とでは測定値が全く異なるところ,請求項2,5,16のb* 値又はΔb * は透過測定及び反射測定のいずれの方法で測定されたかについて規定されていないから,実施可能要件及び明確性要件を満たさない。
11 取消事由3-4(請求項9〜16に係る実施可能要件及びサポート要件の判断の誤り) 審決は,本件明細書記載の実施例では,アスコルビン酸を含むサンメリンパウダーC-10を用いた飲料を作製しているにもかかわらず,アスコルビン酸を含まないイソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料であっても,色調変化を抑制することが理解できるなどとして,本件訂正発明9〜16は,実施可能要件及びサポート要件を満たしていると判断したが,誤りである。
すなわち,請求項9〜16は,イソクエルシトリン等の色調変化に起因する飲料の色調変化を課題としながら,実施例においてはイソクエルシトリンではなくアスコルビン酸の色調変化の発生・抑制を観察しており(甲40,69),イソクエルシトリン等の色調変化抑制の効果を確認していないから,実施可能要件及びサポート要件に違反する。@L-アスコルビン酸等とAイソクエルシトリン等の双方を含有する飲料の色調からAイソクエルシトリン等のみの色調を分離して観察することはできないから,@L-アスコルビン酸等とAイソクエルシトリン等の双方を含有する飲料の色調変化の測定結果(本件明細書・【表1】)では,その一成分にすぎないAイソクエルシトリン等の色調変化の抑制という本件訂正発明の効果を確認できない。
被告は,原告の特許第3016835号公報(乙18)を,アスコルビン酸とイソクエルシトリン及びその糖付加物との共存下では,アスコルビン酸は褐変しないことを立証趣旨の1つとして,提出するが,上記特許の実施例2と本件明細書の比較例・実施例とでは,エタノールの含有量が全く異なるし(前者はエタノール30%含有,後者はエタノール0〜0.50%含有),保存条件も異なる(前者は25℃・4週間,後者は55℃・1週間)など,両者は実験条件が全く異なる。したがって,上記特許の実施例2の実験条件において,イソクエルシトリン及びその糖付加物の存在下で,アスコルビン酸を含む水溶液の褐変が観察されなかったからといって,これと全く実験条件の異なる本件明細書の比較例・実施例の各具体例においても,アスコルビン酸が褐変しているとか,褐変していないとかはいえないし,ましてや,本件明細書の比較例・実施例の全てにおいて,アスコルビン酸が褐変していないと は到底いうことができない。
12 取消事由3-5(請求項9〜16に係る明確性要件の判断の誤り) 審決は,当業者であれば,本件訂正発明9〜16が「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する加熱殺菌された容器詰飲料の色調変化抑制方法であって,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化に起因する容器詰飲料の色調変化抑制方法」であることを理解できるから,明確性要件を満たしていると判断したが,誤りである。
すなわち,請求項9の「イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化抑制方法」は,一見すると「イソクエルシトリン及びその糖付加物」自体の色調変化抑制方法を意味しているように見えるが,請求項9の「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する加熱殺菌された容器詰飲料の色調変化抑制方法であって」との記載,及び,本件明細書の段落【0060】以下の発明の効果の確認として,イソクエルシトリン等単体ではなく,他の成分(L-アスコルビン酸等)を含有する「サンメリン?パウダーC-10(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)」を添加した飲料全体の色調変化を測定する記載があることから,請求項9の「イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化抑制方法」が,『イエクエルシトリン及びその糖付 「加物』自体の色調変化抑制方法」を意味するのか, 「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料の色調変化抑制方法」を意味するのかが不明確である。
したがって,請求項9及びこれに従属する請求項10〜16は,特許法36条6項2号に規定された明確性要件を満たしていない。
被告の反論
1 取消事由1-2に対し (1) 原告は,甲40及び甲69の試験結果を根拠として,本件明細書の実施例で色調変化が抑制されているのは,アスコルビン酸であって,酵素処理イソクエル シトリン自体ではないから,本件発明9の効果の裏付けとすべき実施例にイソクエルシトリン及びその糖付加物に起因する色調変化の抑制効果が開示されていないと主張する。
しかしながら,そもそも,甲40及び甲69は,本件審判において審理判断されなかった事実に関する新たな証拠であるから,これらに基づいて審決の違法性を主張することは許されない。原告が審判事件弁駁書(乙8)において主張した「アスコルビン酸が酸化により黄色となることは周知の技術的事項である」という立証趣旨を超えて,甲40により「アスコルビン酸の色調変化がアルコールの添加により抑制されること」を主張したり,甲69により「アスコルビン酸を含有しない場合はエタノールを添加しても酵素処理イソクエルシトリンの色調変化が抑制されないこと」を主張することは,出願時の技術常識周知技術を立証するものではないことは明らかであり,本件審判において審理判断されなかった新たな無効原因を主張するものとして許されない。
また,仮に甲69に基づく主張が許されるとしても,乙2によれば,甲69の試験結果に信用性は認められないから,本件明細書の実施例で色調変化が抑制されているのはアスコルビン酸であるという事実はない。
(2) 訂正事項D4による請求項9の訂正では,訂正の前後を通じて,色調変化抑制方法の対象は, 「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料」であり,色調変化抑制の対象は,訂正の前後において何ら変わっていない。審決が認定するとおり,本件訂正発明9は,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化に起因する容器詰飲料の色調変化の抑制方法であると当業者であれば理解でき,本件訂正によって色調変化抑制の対象が「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料」から「イソクエルシトリン及びその糖付加物」に変更されたという事実はない。
したがって,訂正事項D4は,新規事項を追加するものではないし,特許請求の範囲を実質的に拡張変更するものではない。
2 取消事由2-1に対し 本件訂正発明2は,酵素処理イソクエルシトリン(イソクエルシトリン及びその糖付加物)を飲料に配合し,それを高濃度化するに従い,イソクエルシトリン及びその糖付加物に起因する色調変化が顕在化しやすいこと,また,かかる色調変化は低粘度の飲料の形態に特有の課題であることという,本件出願前に未知の課題が存在することを見出し,なされたものであり(本件明細書【0007】,発明の課題 )が新規である以上,このような容器詰飲料において,L *a*b*表色系におけるb*値に着目し,容器詰飲料の製造直後のL*a*b*表色系におけるb*値を採用することが,当業者にとって当然であるとはいえない。
そして,容器詰飲料の製造直後のb*値2.3,4.4,4.6,4.8,4.9,10.1,15.1又は15.6は,本件明細書の実施例において,イソクエルシトリン及びその糖付加物に起因する色調変化の課題が顕在化し,その色調変化を顕著に抑制できるという意義が具体的に裏付けられている数値である。本件訂正発明2は,特許請求の範囲の記載において,色素を含有するか否かについて限定がなく,本件明細書においても, 「本発明の目的を妨げない範囲内で」色素類などの添加剤を含有することができるものとしているが 【0032】, ( ) 容器詰飲料が色素を過大に含有することにより元から濃い色調の場合には,上記課題が顕在化しないから,そのようなものは本件訂正発明2には含まれない。相違点5に係る上記b*値は,この理を明らかにするものとして,格別の技術的意義があり,設計事項ではない。
これに対し,引用発明1’は,甲1の図5の容器詰溶液(サンメリンAO-1007,0.5%添加)に関するものであり,サンメリンAO-1007を添加することにより,アントシアニン系色素の深色・増色効果(コピグメント効果)を示すというにすぎず,イソクエルシトリン及びその糖付加物に起因する色調変化を抑制することが記載されているものでもなければ,そもそも溶液の色調の経時変化を観 察するものでもない。にもかかわらず,いかなる論法により,引用発明1’に基づいて当業者が本件訂正発明2の課題に想到し,これを解決しようという動機付けを得るというのか,全く不明である。
3 取消事由2-2に対し 本件訂正発明5におけるΔb*値が2以下という要件は,請求項1〜3を引用していることから,請求項1の構成要件に加えて,Δb*値が2以下であるという構成要件を加えて限定したものであり,高い色調安定性が得られた場合に発明を限定するものであって,格別の技術的意義が認められる。Δb*値が2以下という要件を実現するための手段は, 「適切な種類のアルコールを選択すること,アルコール濃度を高くすること,およびその組み合わせ」であり,そのことは当業者が本件明細書を読めば直ちに理解できる。したがって,原告主張のように, 「請求項1〜3のいずれか1項に記載の容器詰飲料」の要件を満たす容器詰飲料は, 「請求項1〜3のいずれか1項に記載の容器詰飲料」の構成を備えることにより,Δb*値が2以下であることになる,という関係にはない。
また,引用発明1に係る甲1の図5のモデル飲料は,酵素処理イソクエルシトリンの添加によるアントシアニン系色素(赤キャベツ色素)の深色・増色(コピグメント効果)を検討しているだけであり,イソクエルシトリン及びその糖付加物に由来する容器詰飲料の色調変化を検討しているものではない。すなわち,甲1の図5は,そもそも経時的な変化を検討しているわけではないから,容器詰飲料の性状の経時変化の観察手段として,容器詰飲料の黄色方向の彩度の保存による変化量を数値的に特定するために,55℃で7日間保存した後のb *値から製造直後のb*値を減じた値(Δb*値)を用いることが,引用発明1に接した当業者にとって当然であるとはいえない。
さらに,本件明細書の「『b*値』とは,色をL*a*b*表色系で表現したときに色相,彩度を表す座標値の一つであって,黄色方向の彩度を示す座標値である」, 「本 発明においては,色調変化したときに最も顕在化しやすいb*について規定するものである」【0035】 ( )という記載を参酌すれば,本件訂正発明5は,黄色方向,すなわち+b*方向への変化を抑制する技術であることは明らかであるから,-b*方向とならないことを当業者であれば十分理解することができる。
4 取消事由2-3に対し 「サンメリンAO-1007」及び「サンメリンAO-3000」は,エタノール及びグリセリンを溶媒とする液体製剤であるが,エタノール及びグリセリンは,主剤(イソクエルシトリン及びその糖付加物)を飲料等に均一に溶解させるための液体製剤の溶媒として使用され,しかも,イソクエルシトリン及びその糖付加物15質量部に対して,グリセリン20質量部及びエタノール20質量部,あるいは,グリセリン35質量部及びエタノール20質量部という特定の割合で使用されるものである。そして,本件出願前においては,このような特定の溶媒を特定の割合でイソクエルシトリン及びその糖付加物に対して配合したときに良好な液体製剤が得られることが知られていただけであるから,これら以外の他の溶媒を用いることが当業者にとって当然であるとはいえない。また,溶媒の目的で配合するのであれば,「サンメリンAO-1007」及び「サンメリンAO-3000」において,エタノール及びグリセリンを特定割合で配合し,原告主張のように「酵素処理イソクエルシトリンをなるべく多く溶解した状態で長期安定に保存できる」という良好な結果が既に得られている以上,これを他のアルコールに置換しようという動機付けがない。
甲74は,キノコからの色素の抽出に関するものであり,甲75は,スイカズラ属に属する植物から抽出物を得ることに関するものであり,甲76は,イオン交換樹脂に吸着したチョウマメ花色素を溶出することに関するものであって,いずれも色素自体を目的物として抽出する方法を開示するものであり,主剤を飲料等に均一に溶解させるための溶剤として有効であることが記載されているのではないから, 引用発明1とは有機溶媒(溶剤)の使用目的が異なる。したがって,引用発明1とこれらの公知技術を組み合わせることによって,引用発明1の溶剤(エタノール及びグリセリン)を他の溶剤(プロピレングリコール)に置換することが容易であるということにはならない。
さらに,本件出願前に,イソアミルアルコール及び1-ヘキサノールが飲料等の香り付けに有効であることが知られていたとしても,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化の抑制に有効であることは全く知られていなかった。同じアルコールであっても,飲料等の香り付けの目的で用いる場合と,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化の抑制という目的で用いる場合とでは,自ずと最適な含有量も異なるから,引用発明1の飲料において,イソアミルアルコール及び1-ヘキサノールを飲料の香り付けの目的で添加した場合に,当然に本件訂正発明6に規定する割合で成分(A)(B)を含有することになるとは限らない。
, 5 取消事由2-4に対し ケルセチンは,イソクエルシトリンのアグリコン(配糖体の糖以外の成分)であり,水にほとんど不溶であって(甲27),イソクエルシトリン及びその糖付加物とは,化学構造も,水を含む溶媒に対する性質も大きく異なる化合物である。そうすると,甲77には,ケルセチンを含有する飲料が記載され,アルコール中のケルセチン濃度を1〜15重量%(アルコール/ケルセチン=99〜5.6)とすることが開示されているとしても,当業者は,水を主成分とする「飲料」に関する発明に関する限り,ケルセチンに対するアルコールの当該比率を,イソクエルシトリン及びその糖付加物にそのまま適用可能であるとは考えないし,ケルセチンが飲料中に溶解していない甲77の「アイソトニック飲料」は,イソクエルシトリン及びその糖付加物が飲料中に溶解していることを当然の前提とする本件訂正発明7の「飲料」にも該当しない。
また,甲77には,アルコールとの質量比を8.3〜30という特定範囲内で含 有させることについて何の記載も示唆もなく,ケルセチンに対するアルコールの配合割合を質量比8.3〜30の範囲に限定したときに,どのような効果が奏されるかは,当業者でも容易に予測し得るものではない。本件明細書には,イソクエルシトリン及びその糖付加物と,アルコールとの質量比[(B)/(A)]を制御することにより,色調変化抑制,風味の点で好ましいことが記載され(【0028】,本件 )訂正発明7の実施例である実施例1〜3,9,10において,質量比[ B) (A) ( / ]を8.3〜30という特定範囲内とすることにより,他の実施例及び比較例と比較して,風味の重要な一要素である「こく味」の評点が「4」という最も高い評価結果が得られているから,本件訂正発明7において,質量比[(B)/(A)]を8.3〜30の範囲内とすることには,色調変化が顕著に抑制されることに加え,風味(こく味)が良好であるという格別の技術的意義が認められ,この点は,当業者が予測し得ない顕著な効果である。
6 取消事由2-5に対し 前記4(取消事由2-3)のとおり,本件出願前においては,エタノール及びグリセリンという特定のアルコールを特定の割合でイソクエルシトリン及びその糖付加物に対して配合したときに良好な液体製剤が得られることが知られていただけであるから,エタノール及びグリセリン以外の他のアルコールを用いることが当業者にとって当然であるとはいえない。
7 取消事由2-6に対し 甲1には,イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰モデル飲料が記載されているものの,アントシアニン系色素(赤キャベツ色素)の深色・増色(コピグメント効果)について記載されているだけで,いずれの甲号証を参酌してみても,イソクエルシトリン及びその糖付加物自体の色調変化を抑制することについては何の記載も示唆もないから,たとえ甲1の図5に関してクエン酸0.2%を配合 することが記載されているとしても,本件訂正発明9に係る相違点14は当業者が容易に想到し得たとはいえない。すなわち,甲1におけるクエン酸0.2%を配合する旨の記載は,アントシアニン系色素(赤キャベツ色素)の深色・増色(コピグメント効果)を最適化する目的のためにpHを調整することを示唆するにすぎず,結果としてたまたま引用発明1’’のモデル飲料がpH3.0である(甲2)とし ’ても,本件訂正発明9における「pHを2〜5に調整する」こととは,技術的意義が異なる。
甲1には,アントシアニン系色素(赤キャベツ色素)の深色・増色(コピグメント効果)のために酵素処理イソクエルシトリン(イソクエルシトリン及びその糖付加物)を添加する方法が開示されているだけであるし,甲12にも,アントシアニン系色素の安定化のために酵素処理イソクエルシトリンを添加する方法が開示されているだけである。同様に,甲13には,L-アスコルビン酸と酵素処理イソクエルシトリンを併用することにより,飲料中のアスタキサンチン(天然の赤橙色の色素)を安定化させる方法が開示されているだけであり,甲14には,カロチノイド色素やアントシアニン色素の安定化のために酵素処理イソクエルシトリンを添加する方法が開示されているだけであって,いずれも,イソクエルシトリン及びその糖付加物に由来する飲料の色調変化を抑制する方法を開示しているものではない。審決が, 「請求項9に特定された・・・用途は甲第1,12〜14号証に記載の用途と明確に区別できる」と認定したのは,上記の趣旨をいうものであって何ら誤りはない。
また,甲1,3,4,24,39,70〜76には,エタノールやグリセリン等を溶剤として用いること,あるいは,イソアミルアルコールや1-ヘキサノールを香料として用いることが記載されているが,イソクエルシトリン及びその糖付加物に由来する飲料の色調変化を抑制するためにアルコールを使用することは,何の記載も示唆もされていない。本件訂正発明9と上記各甲号証に記載の発明とは,アルコールを配合することの技術的意義(アルコールの用途)が全く相違しており,こ の点からも,方法発明として両者を明確に区別することが可能である。イソクエルシトリン及びその糖付加物は,本件訂正発明9ではそれ自体の色調変化が問題とされる対象物(課題)であるのに対し,引用発明1’’では課題解決の手段として飲 ’料に添加されるものであるし,また,アルコールの添加は,本件訂正発明9ではイソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化を抑制するという用途であるのに対し,引用発明1’’ではイソクエルシトリン及びその糖付加物を水に溶解させるた ’めの「溶剤」としての用途である。
原告は,引用発明1’’でもイソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化が ’結果的に抑制されていると主張するが,甲1にはそもそもイソクエルシトリン及びその糖付加物が色調変化することさえ開示されていない。原告の主張が,甲1には,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化がアルコールによって抑制されることは開示も示唆もされていないが,引用発明1’’の飲料においては「客観的事 ’象としては」色調変化が抑制されているという趣旨であれば,当業者が引用文献から読み取れないことは進歩性判断の基礎にはならない。
原告は, 「ケルセチン」と「イソクエルシトリン及びその糖付加物」とが水に対する溶解性において性質の大きく異なる化合物であることを無視し,あたかも類似の挙動を示すかのごとき前提で,ケルセチンについての周知事項がイソクエルシトリン及びその糖付加物についての周知事項であるかのように主張するが,そのような論法自体が誤りである上,甲27,28,80,81では,ケルセチンを含有する飲料が褐変することが周知であった事実さえ立証できていない。
8 取消事由2-7に対し 本件訂正発明9が進歩性を有するという審決の判断に何ら誤りはないから,本件訂正発明9を引用する本件訂正発明10〜16が進歩性を有することはいうまでもない。
9 取消事由3-2に対し 本件明細書によれば,アルコールを0.50質量%含有する実施例1〜4は,Δb*値が0.9〜1.5であるのに対し,アルコールを含有しない比較例2は,Δb*値が3.0であり,実施例1〜4は,比較例2に比してΔb *値がより低く抑えられているから,アルコールを含有する場合には,イソクエルシトリン及びその糖付加物による色調変化を顕著に抑制できることを理解できる。一方,比較例3は,実施例1〜4のアルコールに代えて,同量の酢酸エチルを含有するところ,比較例3のΔb*値は2.5であるから,酢酸エチルを含有する場合でも,アルコールを含有する場合ほどではないが,多少の色調変化抑制効果が奏されることを理解できる。そうすると,本件明細書の実施例は,アルコールを含有しない比較例2との比較により,酢酸エチルでも色調変化抑制効果が多少認められるものの(比較例3),アルコールを含有させることで,色調変化抑制効果が顕著に奏されるという技術的意義を具体的に裏付けるものであるから(実施例1〜4) 酢酸エチルを含有する比 ,較例3が「色調変化が抑制されていない例」として記載されているものではない。
原告の主張は,色調変化を抑制したといえるためには少なくともΔb*が2.5よりも小さいことが必要であることを前提とするが,その前提において誤りである。
また,エタノールを0.10質量%含有する実施例5は,Δb* 値が1.3であり,エタノールを0.01質量%含有する実施例6は,Δb*値が2.0であるから,実施例5に比してエタノールを1/10に低減した実施例6でも,色調変化を十分抑制できることを理解できる。そうすると,当業者であれば,本件明細書の実施例から,アルコールを含有する場合には僅かな量であってもイソクエルシトリン及びその糖付加物による色調変化を高水準で抑制できることを,十分理解できるから,エタノールを0.001質量%に更に低減したとしても,Δb*値はアルコールを含有しない比較例2の3.0よりも低く抑えられ,本件訂正発明の効果を示す範囲内となることを容易に推認することができる。そして,被告は,このことを甲43(審判乙2)の表Cにおいて,エタノールを0.001質量%含有する容器詰 飲料のΔb*値が2.2であることにより確認的に示した。
原告は,比較例2と比較例3は,いずれも「比較例」という名目である以上「等価」であるなどと主張するが,化学の分野においては,一般に発明の効果はゼロか100かではなく,むしろ実験条件の様々な組合せによってゼロと100との間に連続的に分布している。そこで,発明の効果に基づいて特許出願をするに当たり,発明の効果を一定以上奏する場合であっても,その発明の目的には適切でないと出願人が考えた場合には,それを特許請求の範囲からあらかじめ除外して特許出願することは通常行われており,特許出願の際にどの範囲を権利請求するか(例えば,発明の効果が80〜100となる構成を特許請求の範囲に記載し,発明の効果が60〜80となる構成は敢えて特許請求の範囲から除外するなど)は,出願人の自由である。本件訂正発明についても, 「アルコール」ではなく「酢酸エチル」であっても一定の発明の効果を奏していることは, 【表1】に接した当業者には明らかであるが,特許請求の範囲を「アルコール」のみに限定するか, 「酢酸エチル」を含むように記載するかは,出願人の自由であって, 「酢酸エチル」が一定の発明の効果を奏する以上,これが「実施例」となるように特許請求の範囲を記載しなければならないなどということはない。また,原告引用の知財高裁平成17年(行ケ)第10607号同18年6月29日判決(甲93)は,当初発明よりも劣る結果が出る「比較例」について,当初明細書において当初発明に属しない具体例(比較例)とされていたものが,当初発明に属する具体例(実施例)とされれば,第三者が不測の不利益を被ることから,当初明細書において比較例として記載されていたものを実施例とする補正は許されないと判示したものであり,被告の主張とは適用場面を異にするものである。
10 取消事由3-3に対し 甲62(審判乙21)の記載に照らしても,乙5の「光路長とは光がサンプルに入射し,出射するサンプルの厚さと定義されます」との記載からも,当業者が「光 路長」というときは,透過測定におけるセルの厚みを指しているものであり,反射測定には光路長という概念が存在しないとの審決の認定に誤りはない。甲63(審判乙22)の7頁の図3-2は,セルに光を透過させるに際してセル表面において反射光が生じることを示すものにすぎず,反射測定において,わざわざこのような形状のセルを用いて測定することが一般的であることを示すものではない。
反射測定は,一般的に下図に示すような実験装置を用いて,液体に光を入射してその反射光を受光して測定するものであり,光路長10mmの石英セルに光を入射させ,溶液中を透過した光を受光器で検出するという操作に該当しないことは明白である。
これに対して,透過測定は,溶液中を透過した光を受光器で検出するものであるため,下図に示すような,幅の特定された容器(セル)を用い,当該特定された幅のことを,当業者は「光路長」と呼ぶのである。
そうすると,「光路長」とは透過測定における概念であり,反射測定には光路長という概念が存在しないから,本件訂正発明2に係る「光路長10mmの石英セルに入れて分光光度計により測定されたもの」である「L*a*b*表色系におけるb*値」とは,透過測定により得られる値を意味することを,当業者であれば説明するまでもなく理解できる。
原告は,本件出願前において,同一セルを用いて透過測定と反射測定を測定可能な装置が存在したと主張するが,同一セルを用いて測定しても,透過測定では,セルに照射光を入射させて試料中を透過した光を受光器で検出するから,「照射光が試料中を通過する距離」は「セル厚み」と一致し,常に一定であるのに対し,反射測定では,照射光が試料中の光を反射する物質や背景にある板にぶつかった際に反射する光を受光器で検出するため,「照射光が試料中を通過する距離」が一定にならず,「セル厚み」と一致しない。したがって,当業者であれば,「光路長10mm」と表示されたセルが,仮に透過測定,反射測定のいずれにも使用可能であるとしても,それは,透過測定に使用した場合には,「照射光が試料中を通過する距離」=「セル厚み」が10mmという意味であり,反射測定に使用された場合には「10mm」の表示は適用されないと理解する。
11 取消事由3-4に対し 原告は,甲40や甲69の実験により,本件明細書の実施例において観察しているのは,イソクエルシトリンではなく,アスコルビン酸の色調変化の発生・抑制であることは確認済みであって,これにより,アスコルビン酸を含む容器詰飲料で発明の効果を確認したから,アスコルビン酸を含まない容器詰飲料でも発明の効果を得られるという審決の命題が成り立たないことは立証済みであることを理由として,本件明細書では,本件発明の課題として,イソクエルシトリン等の色調変化に起因する飲料の色調変化を問題としていながら,その実施例において,イソクエルシトリン等の色調変化抑制の効果を確認していないと主張する。
しかしながら,前記1(1)のとおり,甲40及び甲69は,審判手続において審理判断されなかった事実に関する新たな証拠であるから,本件訴訟において,これらの証拠に基づく審決の違法性を主張することは許されず,取消事由3-4は,本件訴訟の審理の対象にはならない。
仮に審理の対象になるとしても,前記1(1)のとおり,乙2によれば,甲69の実験結果に信用性は認められないから,原告の主張は,その前提において誤りがあり,失当である。
審決は, 「アスコルビン酸を含む」という条件において実施例と比較例は同一であるから,仮にアスコルビン酸を実施例及び比較例から除いても,アルコールの添加によってイソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化が抑制されるという傾向そのものは不変であると当業者は理解すると認定する。すなわち,審決は,アスコルビン酸が色調変化する可能性を理解した上で,アスコルビン酸を除けば,実施例と比較例のb*値やΔb*値の絶対値は変わるかもしれないけれども,絶対値は必ずしも重要でなく,アスコルビン酸の有無にかかわらず,アルコールの添加によってイソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化が抑制されるという傾向自体が不変であることを当業者が理解できると判断したものであり,その判断に誤りはない。
本件明細書の【表1】により,アスコルビン酸を含有するか否かにかかわらず,イソクエルシトリン及びその糖付加物に起因する色調変化の抑制という本件訂正発明9〜16の効果を確認することができる。
12 取消事由3-5に対し 審決認定のとおり,本件明細書の「本発明者は,イソクエルシトリン及びその糖付加物とともにアルコール類をそれぞれ特定量含有せしめ,更にpHを特定範囲内に調整することで,長期間にわたって保存しても色調が変化し難く,外観が保持される飲料が得られることを見出した。( 」【0008】)及び「フラボノール配糖体を始めとするポリフェノールは一般に酸化されやすいため,それを含有する飲料を長 期間にわたって保存すると徐々に着色が進んで色調が大きく変化してしまう。本発明者は,酵素処理イソクエルシトリンを飲料に配合し,それを高濃度化するに従い色調変化が顕在化することを見出した。
・・・また,本発明の課題は,イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料の色調変化抑制方法を提供することにある。( 」【0007】)という記載に徴すれば,本件訂正発明9が「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する加熱殺菌された容器詰飲料の色調変化抑制方法であって,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化に起因する容器詰飲料の色調変化抑制方法」であることは,当業者であれば,直ちに理解できる。
したがって,本件訂正発明9及びこれに従属する本件訂正発明10〜16は,特許法36条6項2号に規定された要件を満たす特許出願に対してなされたものであるから,審決の認定判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1-2(訂正事項D4に係る訂正要件についての判断の誤り)について (1) 前記第2の4(1)アのとおり,訂正事項D4は,訂正前の請求項9における「色調変化抑制方法」に「イソクエルシトリン及びその糖付加物の」との記載を付加するものであり,訂正前の請求項9を次のとおり訂正するものである(なお,下線は,訂正箇所を示す。。
) ア 訂正前の請求項9【請求項9】 イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料の色調変化抑制方法であって, ・・・となるように配合し,pHを2〜5に調整する,色調変化抑制方法。
イ 訂正事項D4による訂正後の請求項9【請求項9】 イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料の色調変化抑制方法であって, ・・・となるように配合し,pHを2〜5に調整する,イソ クエルシトリン及びその糖付加物の色調変化抑制方法。
(2) 訂正後の請求項9は, 「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料の色調変化抑制方法であって, との前提において, 」 当該容器詰飲料における色調変化を抑制する対象となる成分を,「イソクエルシトリン及びその糖付加物」と限定するものである。
そして,訂正事項D4による訂正前と訂正後の請求項9は,ともに「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料の色調変化抑制方法」の発明である点で共通しており,訂正前の請求項9は,当該容器詰飲料において色調変化を抑制する対象となる成分(抑制すべき色調変化をもたらす成分)が限定されていないのに対し,訂正後の請求項9は,当該成分を「イソクエルシトリン及びその糖付加物」と限定するものである。
したがって,訂正前の請求項9と訂正後の請求項9を対比すると,訂正事項D4により特許請求の範囲減縮されたものといえるから,訂正事項D4は,特許請求の範囲減縮を目的とするものである。
(3) また,訂正前明細書には, 「フラボノール配糖体を始めとするポリフェノールは一般に酸化されやすいため,それを含有する飲料を長期間にわたって保存すると徐々に着色が進んで色調が大きく変化してしまう」ところ,本件発明の発明者は,フラボノール配糖体の一種である「酵素処理イソクエルシトリンを飲料に配合し,それを高濃度化するに従い色調変化が顕在化することを見出」すとともに, 「酵素処理イソクエルシトリンを含有する飲食品において,色調変化は低粘度の飲料の形態に特有の課題であることが判明した」こと,したがって,本件発明9を含む本件発明の課題は,長期間保存しても色調変化のし難いイソクエルシトリン及びその糖付 「加物を含有する容器詰飲料を提供すること」及び「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料の色調変化抑制方法を提供すること」にあることが記載されている(【0002】【0007】 。
, ) このような記載によれば,本件発明が飲料に配合されているイソクエルシトリン 及びその糖付加物の色調変化に着目されてなされたものであり,その色調変化を抑制することが課題であることは明らかであり,訂正前明細書の「本発明の課題は,イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料の色調変化抑制方法を提供することにある。( 」【0007】,及び, ) 「本発明者は,イソクエルシトリン及びその糖付加物とともにアルコール類をそれぞれ特定量含有せしめ,更にpHを特定範囲内に調整することで,長期間にわたって保存しても色調が変化し難く,外観が保持される飲料が得られることを見出した。( 」【0008】)との記載は,いずれも,当該飲料に含まれるイソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化を抑制することにより,容器詰飲料の色調変化を抑制することを意味するものであると認められる。
したがって,訂正事項D4により, 「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料」における色調変化を抑制する対象となる成分を「イソクエルシトリン及びその糖付加物」に限定する訂正をすることは,当業者によって訂正前明細書の記載により導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではなく,訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。
また,上記訂正は,本件発明9の課題に含まれない新たな課題を解決するものではなく,実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更するものではない。
(4) 原告は,訂正前明細書の実施例で効果が確認されているのは,アスコルビン酸を含む「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料」全体の色調変化抑制であり, 「イソクエルシトリン及びその糖付加物」自体の色調変化抑制ではないから,イソクエルシトリン及びその糖付加物に起因する色調変化の抑制効果は開示されておらず, 「イソクエルシトリン及びその糖付加物」の「色調変化抑制方法」という構成は,訂正前明細書に実質的に開示されていないと主張する。
しかしながら,訂正事項D4による訂正が,訂正前明細書の記載により導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではなく,訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてするものであることは,前記(3)のとおりで ある。訂正前明細書における実施例として,イソクエルシトリン及びその糖付加物」 「の「色調変化抑制方法」が実質的に開示されているか否かは,特許法36条の記載要件に関する事項であって,訂正事項D4が新規事項追加に当たるか否かの判断を左右するものではない。
(5) また,原告は,訂正事項D4は,色調変化抑制の対象を「飲料全体の色調」から「飲料に含まれる特定の成分の色調」へと変更するものであり,後者が前者に包含されるという論理関係にもないから,特許請求の範囲減縮を目的とするものではないし,実質上特許請求の範囲変更するものであると主張する。
しかしながら,前記(2)のとおり,訂正事項D4による訂正前と訂正後の請求項9は,ともに「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料の色調変化抑制方法」の発明である点で共通しており,訂正前の請求項9は,当該容器詰飲料において色調変化を抑制する対象となる成分が限定されていなかったのに対し,訂正後の請求項9は,当該成分を「イソクエルシトリン及びその糖付加物」に限定するものであるから,訂正後の請求項9が訂正前の請求項9に包含されるものであることは明らかであり,訂正事項D4は,特許請求の範囲減縮を目的とするものである。また,訂正事項D4が実質上特許請求の範囲変更するものではないことは,前記(3)のとおりである。
(6) 以上によれば,取消事由1-2は,理由がない。
2 本件訂正発明について 本件訂正発明の無効理由に係る取消事由の検討に先立ち,本件訂正発明の意義を確認する。
(1) 本件明細書(甲41)には,以下の記載がある。
ア 技術分野【0001】本発明は,容器詰飲料に関する。
イ 背景技術【0002】 イソクエルシトリンは,ケルセチンの3位にグルコース1つがβ結合したフラボノール配糖体である。イソクエルシトリンは,強力な抗酸化活性を有し,色素の退色を防止することが知られており(特許文献1),また,抗動脈硬化,血流改善等の生体への作用も期待されている。
【0003】 しかしながら,イソクエルシトリンは水に難溶であるため生体外では有効に作用するものの,生体内における効果が十分ではなく,飲料等の水系の組成物としての利用が制限されるという問題あった。そこで,水への溶解性を改善すべく,イソクエルシトリンにでん粉質の存在下,糖転移酵素を作用させて得られる「酵素処理イソクエルシトリン」が提案されている(特許文献2)。「酵素処理イソクエルシトリン」は,イソクエルシトリンと,イソクエルシトリンのグルコース残基に1以上のグルコースをα-1,4結合で更に付加したα-グルコシルイソクエルシトリンとの混合物である。
【0004】 また,酵素処理イソクエルシトリンに含まれるα-グルコシルイソクエルシトリンの組成を分画により変化させて,経口吸収性を更に高めたケルセチン配糖体組成物も提案されている(特許文献3)。そして,最近になりイソクエルシトリンには肥満者の体脂肪を低減させる作用があることが見出され,飲料の形態で摂取させて効果があることが報告されている(非特許文献1)。
先行技術文献】【特許文献】【0005】【特許文献1】特開2008-131888号公報【特許文献2】特開平1-213293号公報【特許文献3】国際公開第2006/070883号パンフレット 【非特許文献】【0006】【非特許文献1】薬理と治療,第36巻,第10号,919〜930頁,2008年 ウ 発明が解決しようとする課題【0007】 イソクエルシトリンの生理作用を,より効果的に発現させるためには,酵素処理等によりイソクエルシトリンに糖を付加させてその摂取量及び体内吸収量を増やすことが有効であり,また,それを簡便に達成可能とする手段として飲料の形態とすることが挙げられる。
しかしながら,フラボノール配糖体を始めとするポリフェノールは一般に酸化されやすいため,それを含有する飲料を長期間にわたって保存すると徐々に着色が進んで色調が大きく変化してしまう。
発明者は,酵素処理イソクエルシトリンを飲料に配合し,それを高濃度化するに従い色調変化が顕在化することを見出した。また,高濃度の酵素処理イソクエルシトリンを含有する場合でも,低水分の食品や,ゼリー等の高粘度食品では色調変化が見られないとの知見を得た。
このように,酵素処理イソクエルシトリンを含有する飲食品において,色調変化は低粘度の飲料の形態に特有の課題であることが判明した。
したがって,本発明の課題は,長期間保存しても色調変化のし難いイソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料を提供することにある。また,本発明の課題は,イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料の色調変化抑制方法を提供することにある。
エ 課題を解決するための手段【0008】 本発明者は,イソクエルシトリン及びその糖付加物とともにアルコール類をそれぞれ特定量含有せしめ,更にpHを特定範囲内に調整することで,長期間にわたって保存しても色調が変化し難く,外観が保持される飲料が得られることを見出した。
【0009】 すなわち,本発明は,次の成分(A)及び(B):(A)イソクエルシトリン及びその糖付加物 0.03〜0.25質量%,(B)アルコール類 0.0004質量%以上1質量%未満を含有し,pHが2〜5である容器詰飲料を提供するものである。
また,本発明は,イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料の色調変化抑制方法であって,次の成分(A)及び(B)を,(A)イソクエルシトリン及びその糖付加物 0.03〜0.25質量%,(B)アルコール類 0.0004質量%以上1質量%未満となるように配合し,pHを2〜5に調整する,色調変化抑制方法を提供するものである。
オ 発明の効果【0010】 本発明によれば,長期間保存しても色調変化のし難いイソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料を提供することができる。また,本発明によれば,イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料の色調変化抑制方法を提供することができる。
カ 発明を実施するための形態【0011】 本発明の容器詰飲料は(A)イソクエルシトリン及びその糖付加物(以下,「イソクエルシトリン糖付加物等」とも称する)を0.03〜0.25質量%含有するものである。成分(A)の含有量は,色調変化抑制の点から,0.15質量%以下,更に0.12質量%以下,更に0.1質量%以下であることが好ましい。また,成分(A)の含有量は,生理効果の観点から,0.04量%以上,更に0.05質量%以上,更に0.06質量%以上が好ましい。成分(A)の含有量の範囲としては,0.04〜0.15質量%,更に0.05〜0.12質量%,更に0.06〜0.12質量%,更に0.06〜0.1質量%が好ましい。
【0012】 イソクエルシトリンは,ケルセチンの3位にグルコース1つがβ結合したものである(quercetin 3-O-β-D-glucopyranoside)。イソクエルシトリン糖付加物は,例えば,イソクエルシトリンに糖供与体(グルコース源)の存在下,糖転移酵素を作用させて得ることができ,イソクエルシトリンのグルコース残基に1以上のグルコースをα-1,4結合で更に付加したα-グルコシルイソクエルシトリンとなっている(FFI ジャーナル,Vol.209,No.7,2004,p.622-628;食品衛生学雑誌,Vol.41,No.1,p.54-60)。
【0013】 成分(A)は,より具体的には,下記式(1)において,グルコース残基数(n)が0であるイソクエルシトリンと,グルコース残基数(n)が1以上の整数(好ましくは1〜15の整数,より好ましくは1〜10の整数,更に好ましくは1〜8の整数)であるイソクエルシトリン糖付加物との混合物である。
【0014】【化1】【0015】〔式中,Glcはグルコース残基を示し,nは0又は1以上の整数を示す。〕【0016】 また,成分(A)中のイソクエルシトリン糖付加物/イソクエルシトリンの質量比は,水溶性の点から1以上であることが好ましく,更に2以上,殊更に4以上が好ましい。また,当該質量比は,製造効率の点から1000以下,更に500以下,更に100以下,更に50以下,更に25以下,更に10以下であることが好ましい。かかる質量比の範囲としては,1〜10 00,更に1〜500,更に1〜100,更に1〜50,更に1〜25,更に1〜10,更に2〜10,更に4〜10が好ましい。
【0017】 このような(A)イソクエルシトリン糖付加物等は商業的に入手可能であり,例えば,サンメリンAO-1007,サンメリンパウダーC-10等(以上,三栄源エフ・エフ・アイ社製)を挙げることができる。
【0025】 本発明の容器詰飲料は,(A)イソクエルシトリン糖付加物等をケルセチン換算で0.01〜0.1質量%となるように含有することが,色調変化抑制の観点から好ましく,更に0.06質量%以下,更に0.05質量%以下,更に0.04質量%以下であるのが好ましく,また生理効果の観点から,0.016質量%以上,更に0.021質量%以上,更に0.025質量%以上が好ましい。成分(A)の含有量の範囲としては,ケルセチン換算で0.016〜0.06質量%,更に0.021〜0.05質量%,更に0.025〜0.04質量%が好ましい。
【0026】 また,本発明の容器詰飲料は,色調変化を抑制するために,(B)アルコール類を含有する。
ここで,本明細書において「アルコール類」とは,鎖式炭化水素の水素原子を水酸基で置換した化合物の総称であり,水酸基を1個有する1価アルコールと,水酸基を2個以上有する多価アルコールを包含する概念である。但し,本明細書でいう「多価アルコール」には,糖アルコールが含まれない。
本発明で使用するアルコール類としては,色調安定性の観点から,炭素数1〜7の脂肪族アルコールが好ましい。具体的には,例えば,メタノール,エタノール,1-プロパノール,イソプロパノール等のプロパノール類,1-ブタノール,2-ブタノール,イソブタノール等のブタノール類,アミルアルコール,イソアミルアルコール,2-ペンタノール,3-ペンタノール,2-メチル-1-ブタノール,イソペンチルアルコール,ネオペンチルアルコール等のペンタノール類,1-ヘキサノール,2-ヘキサノール,3-ヘキサノール等のヘキサノール類,1-ヘプタノール,2-ヘプタノール,3-ヘプタノール,4-ヘプタノール等のヘプタ ノール類等の1価アルコール;エチレングリコール,プロピレングリコール,1,3-ブタンジオール,ネオペンチルグリコール,グリセリン,ジグリセリン,プロピレングリコール等の多価アルコール等を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも,より一層の色調変化抑制の観点から,エタノール,イソアミルアルコール,1-ヘキサノール,グリセリン及びプロピレングリコールから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0027】 本発明の容器詰飲料中の(B)アルコール類の含有量は0.0004質量%以上1質量%未満であるが,より一層の色調変化抑制の観点から,好ましくは0.9質量%以下,より好ましくは0.8質量%以下,更に好ましくは0.7質量%以下,殊更に好ましくは0.6質量%以下,そして,好ましくは0.001質量%以上,より好ましくは0.005質量%以上,更に好ましくは0.01質量%以上,更に好ましくは0.02質量%以上,更に好ましくは0.03質量%以上,更に好ましくは0.05質量%以上,殊更に好ましくは0.1質量%以上である。成分(B)の含有量の範囲としては,0.001質量%以上1質量%未満,更に0.001〜0.9質量%,更に0.005〜0.9質量%,更に0.01〜0.9質量%,更に0.02〜0.8質量%,更に0.03〜0.8質量%,更に0.05〜0.7質量%,更に0.1〜0.7質量%,更に0.1〜0.6質量%が好ましい。
このように,本発明の容器詰飲料は,いわゆるノンアルコール飲料とすることができる。ここで「ノンアルコール」とは,エタノール含有量が0質量%のみならず,適用される法規(日本にあっては酒税法)に定められた酒類に該当しないエタノール含有量も包含する概念である。
【0028】 本発明の容器詰飲料中の成分(A)と,成分(B)との含有質量比[(B)/(A)]は,色調変化抑制,風味の点から,好ましくは30以下,より好ましくは25以下,更に好ましくは20以下,更に好ましくは15以下,更に好ましくは10以下,そして,好ましくは0.05以上,より好ましくは0.1以上,更に好ましくは0.3以上,更に好ましくは0.5以上,更に好ましくは1以上である。かかる質量比[(B)/(A)]の範囲としては,0.05〜3 0,更に0.1〜25,更に0.3〜20,更に0.5〜15,殊更に1〜10であることが好ましい。
【0029】 更に,本発明の容器詰飲料には,甘味料を含有させることができる。・・・【0030】 また,本発明においては,所望により,炭酸飲料とすることも可能であり,炭酸ガスの適度な起泡性により,ソフト感及び清涼感を継続して付与して嗜好性を高めることができる。・・・【0031】 更に,本発明の容器詰飲料は,カリウムイオンを含有することができる。・・・【0032】 更に,本発明の容器詰飲料には,所望により,酸味料,香料(乳化香料を含む),ビタミン,ミネラル,酸化防止剤,起泡剤,泡安定剤,各種エステル類,色素類,乳化剤,保存料,調味料,果汁エキス,麦芽エキス,野菜エキス,花蜜エキス,品質安定剤等の添加剤を単独で又は2種以上を組み合わせて含有させることができる。なお,添加剤の含有量は,本発明の目的を妨げない範囲内で適宜選択可能である。
【0033】 本発明の容器詰飲料のpH(20℃)は2〜5であるが,より一層の色調変化抑制の観点から,3〜4が好ましい。
【0034】 本発明の容器詰飲料は,容器詰めされた状態において低粘度のものであることが好ましい。
例えば,ゼリー等の保形性を有する高粘度食品ではなく,容器を傾けるだけで流動して飲用できる程度の粘度のものであることが好ましい。具体的な粘度としては,振動式粘度計にて20℃で測定した場合に0.01〜500mPa・s,更に0.01〜400mPa・s,殊更0.01〜200mPa・sであることが好ましい。
【0035】 また,本発明の容器詰飲料は,色調安定性の観点から,55℃で7日間保存した後の容器詰 飲料のb*値から,製造直後の容器詰飲料のb *値を減じた値(Δb*)が,2以下,更に1.9以下,更に1.8以下,更に1.7以下,更に1.6以下,更に1.5以下であることが好ましい。ここで,「b*値」とは,色をL*a*b*表色系で表現したときに色相,彩度を表す座標値の一つであって,黄色方向の彩度を示す座標値である。L *a*b*表色系には,明度を示すL*と,赤色方向の彩度を示す座標値であるa*もあるが,本発明においては,色調変化したときに最も顕在化しやすいb*について規定するものである。なお,b*値の測定方法は,後掲の実施例に記載の方法にしたがうものとする。
【0036】 本発明の容器詰飲料は,例えば,成分(A)と成分(B)を配合し,各成分の濃度及びpHを調整して製造することができる。
【0037】 また,本発明の容器詰飲料に使用できる容器としては,ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル),金属缶,金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器,瓶等の通常の包装容器が挙げられる。
更に,容器に充填後,例えば,金属缶のような加熱殺菌できる場合にあっては適用されるべき法規(日本にあっては食品衛生法)に定められた条件で殺菌することができる。他方,PETボトル,紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては,あらかじめ上記と同等の殺菌条件,例えばプレート式熱交換器などで高温短時間殺菌後,一定の温度迄?冷却して容器に充填する等の方法が採用できる。また無菌下で,充填された容器に別の成分を配合して充填してもよい。
【0038】 以上,本発明の容器詰飲料について説明したが,イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料の色調変化抑制方法においても,上記と同様の構成を採用することができる。
実施例【0057】 7.色調変化の測定 分光光度計(形式 Color Meter ZE-2000,日本電色工業社製)を使用し,試料を光路長10mmの石英セルに入れてL*a*b*表色系のb*値を測定した。製造直後の容器詰飲料,及び55℃で7日間保存後の容器詰飲料のb*値から,Δb*(保存後のb*値-保存前のb*値)を求めた。
【0058】8.こく味の評価方法 専門パネル4名が各容器詰飲料を飲用し,そのこく味について下記の基準で評価し,その後協議により最終スコアを決定して評価値とした。なお,「こく味」とは,味の厚み(ボディ感)のことをいう。
【0059】評価基準 4:こく味が強い 3:こく味が若干ある 2:こく味がやや弱い 1:こく味が弱い【0060】実施例1〜12,比較例1〜3 表1に示す組成で調合し,次いで85℃で2分殺菌を行い,200mLのPETボトルに160mL充填して容器詰飲料を調製した。各容器詰飲料の成分分析及び評価結果を表1に併せて示す。
【0061】【表1】【0062】 表1から,(A)イソクエルシトリン糖付加物等とともに(B)アルコール類をそれぞれ特定量含有せしめ,更にpHを特定範囲内に調整することで,長時間にわたって保存しても色調が変化し難く,外観が保持されることが確認された。
【0063】実施例13 実施例1の処方において,4倍濃縮液となるようにイオン交換水を配合し,当該濃縮液を85℃で2分間殺菌を行い,次いで4倍希釈した際に炭酸ガスボリュームが2.5となるように,5℃に冷却した炭酸水を配合し,耐圧性PETボトルに充填し巻き締め後,65℃で20分殺菌して容器詰飲料を調製した。この容器詰飲料について,前記「色調変化」及び「こく味」の 評価を行ったところ,実施例1と同じ結果が得られた。
【0064】実施例14 実施例1の処方において,更に塩化カリウムを0.02質量%(カリウムイオンとして0.0105質量%)添加した以外は実施例1と同様の操作を行い,容器詰飲料を調製した。この容器詰飲料について,前記「色調変化」及び「こく味」の評価を行ったところ,実施例1と同じ結果が得られた。
(2) 前記(1)によれば,本件訂正発明について,次のとおり認めることができる。
ア 本件訂正発明は,容器詰飲料に関する(【0001】。
) イ イソクエルシトリンは,ケルセチンの3位にグルコース1つがβ結合したフラボノール配糖体であるが,強力な抗酸化作用を有し色素の退色を防止することが知られており,抗動脈硬化,血流改善等の生体への作用も期待され,また,最近になり肥満者の体脂肪を低減させる作用があることが見出されている(【0002】【0004】。
, ) 水に難溶であるイソクエルシトリンについて,水への溶解性を改善し,また,生理作用をより効果的に発現させるために,イソクエルシトリンにグルコースを付加させて「酵素処理イソクエルシトリン」とし,飲料の形態とすることが挙げられるが【0003】 0007】,( , 【 )フラボノール配糖体を始めとするポリフェノールは,一般に酸化されやすいところ,酵素処理イソクエルシトリンを飲料に配合した場合,それを高濃度化するに従い色調変化が顕在化することを見出し,当該色調変化は低粘度の飲料の形態に特有の課題であることが判明した(【0007】。
) ウ そこで,本件訂正発明は,長期間保存しても色調変化のし難いイソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料を提供すること,並びに,イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料の色調変化抑制方法を提供することを解決課題とし(【0007】,当該課題を解決するために,イソクエルシ ) トリン及びその糖付加物とともにアルコール類をそれぞれ特定量含有せしめ,更にpHを特定範囲内に調整したものである(【0008】。
) エ そして,実施例において,イソクエルシトリン及びその糖付加物として,「サンメリンパウダーC-10(原告製)」を用いて,本件訂正発明の条件を満たす組成の容器詰飲料を調製し,その製造直後と55℃で7日間保存後の飲料のL *a*b*表色系の黄色方向の彩度を示すb *値を測定したところ,それらの差(Δb*)は2以下に収まり,色調変化が少なかったことが確認されている(表1)。
3 取消事由3-4(請求項9〜16に係る実施可能要件及びサポート要件の判断の誤り)について 本件訂正発明の無効理由に係る取消事由については,事案に鑑み,特許法36条の記載要件に係る取消事由3-4から検討する。
(1) 本件出願日当時のアスコルビン酸の色調変化に関する技術常識について ア 原告は,本件明細書の実施例においてはイソクエルシトリンではなくアスコルビン酸の色調変化の発生・抑制を観察しており,イソクエルシトリン等の色調変化抑制の効果を確認していないことを,実施可能要件及びサポート要件に違反する理由としていることから,まず,本件出願日当時のアスコルビン酸の色調変化に関する技術常識について検討する。
イ 証拠によれば,本件出願日前に頒布された刊行物において,L-アスコルビン酸(アスコルビン酸,ビタミンC)の色調変化について,次のとおりの記載がある。
(ア) 甲66(特開昭49-86524号公報) a「アスコルビン酸類及びその活性誘導体は特異な優れた生理作用により,・・・食品の強化栄養物として或は油脂,食品等の酸化防止剤としても用いられ極めて広範な用途に供されている。
然し乍らアスコルビン酸はその分子構造中にエンジオール基が存在し,特に2位及び3位の 炭素原子に結合したエノール基は容易に水素原子を失いケト型に互変異性する。従って酸化,熱,光に対して非常に不安定であり,斯かる傾向は酸素,金属イオン,PHにより大きく影響を受け・・・更に酸化が進んだ場合にはアスコルビン酸はジケトグロン酸,蓚酸,スレオニン等に分解着色し,著しい場合には炭化するに至る。(1頁右下欄5行〜2頁左上欄2行) 」「アスコルビン酸又はその誘導体は水分又はアルカリ雰囲気中に於いて不安定であり,斯かる状態下では分解しジケトグロン酸,蓚酸,スレオニン等に変化し着色を呈し,この傾向は35℃以上の高温になると特に顕著であり従来斯様な条件下に於ける安定化は極めて困難であった」(3頁左上欄2〜7行) b 実施例1には,アスコルビン酸1%水溶液を,37℃にて3ケ月間放置後の着色度(I.C.I法にて測定,選択座標法(等刺戟量間隔法)にて10座標法を用いY値の変化率で示す。)を測定したところ,20.5%であったことが記載されている。(3頁右上欄〜左下欄) (イ) 甲67(小関宏明ほか「ビタミンC水溶液の加温保管中に起こる分解と褐変に及ぼす各種糖質の影響」日本食品科学工学会誌48巻4号268〜276頁,2001年)「ビタミンCは,食品の各種成分中では不安定な栄養成分の一つとして知られており,貯蔵および加工処理の過程で酸化および分解を受け易い欠点がある。また,酸化・分解による生成物は,ジュース粉末などの褐変の原因物質となり,ビタミンCを含む各種の飲料において問題となることがある。これらの問題に応ずるように,ビタミンCの安定性について従来極めて多くの研究が行われており,その安定化を図る方法の一つとして糖質を添加する方法が古くから報じられている。
本研究では,ビタミンCを含有している各種の飲料を想定して,ビタミンCと糖または糖アルコールの混合溶液を一定温度で保管し,総ビタミンC量と褐変度の変化から糖アルコールによる抑制効果を明らかにしようと試みた。(268頁右欄1行〜269頁左欄10行) 」「要約 L-アスコルビン酸の20〜1000mg/100mlの水溶液を,15%(w/v)の糖質(糖類と糖アルコール)の添加の有無の下で,40〜60℃において3カ月間保管した。
・・・水溶液の褐変度を420nmでの吸光値の変化から検討し・・・た。得られた結果は以下に述べるとおりである。
(1) 保管時間の経過に伴って,総ビタミンC量は減少したが,供試濃度が高いほど,保管温度が低いほど,さらに保管ガラス容器中の空気容量が少ないほど,その減少速度が抑えられた。
(2) 加熱保管に伴ってビタミンC水溶液は褐変化するが,加熱初期の間は褐変化とビタミンCの酸化分解の速度の間に正の相関関係があった。
(3) 保管中におけるビタミンCの酸化分解は,糖質の添加によって僅かに抑制され,一方,褐変化はフルクトース,スクロース,異性化糖,グルコースによって促進されるものの,糖アルコール類の影響は受けなかった。
・・・ 以上の結果は,ビタミンCの褐変化は,Maillard 様の反応生成物に起因し,還元性の糖類によって促進され,糖アルコール類で逆に抑制されることを示している。(275左欄下から12 」行〜右欄21行) (ウ) 甲68(桜井芳人編「総合食品事典 ハンディ版 第六版新訂版」 (株式会社同文書院,平成7年)778〜779頁)「ビタミンC[Vitamin C] ・・・化学名はといわれているもので,無色の結晶であって,水によく溶け,爽快な酸味を呈する。ひじょうに酸化されやすく,酸化によって<デヒドロアスコルビン酸(酸化型ビタミンC)(dehydroascorbic acid)>になる。
・・・ビタミンCは熱,アルカリに弱いが,酸素のないところでは熱に対して安定である。(778頁左欄6行〜右欄3行) 」 (エ) 甲28(特開2006-188672号公報) a【0017】 本発明でいうラジカルスカベンジャーとは,反応中に生じるラジカルや活性酸素を効率的に捉えて消去するために使用される化合物であれば,いずれでもよく, ・・・例えば,アスコルビン酸,アスコルビン酸2-グルコシドなどのアスコルビン酸誘導体, ・ ・ ・ルチン,ナリンジン,ケルセチンなどのビタミンP類或いは・・・糖転移ルチン,糖転移ナリンジン,糖転移ケルセチンをはじめとするビタミンP類の誘導体・・・などを挙げることができ,・・・【0018】 また,α,α-トレハロースの糖質誘導体は, ・・・ラジカルスカベンジャー自身の酸化やメーラード反応などに起因する褐変や変色を抑制することから,ラジカルスカベンジャーを併用しても,それに由来する・・・着色や変色も抑制された高品質の飲食品・・・などを製造することができる。
【0051】<実験5><アスコルビン酸の褐変に及ぼすα,α-トレハロースの糖質誘導体の影響> アスコルビン酸は,ラジカルスカベンジャーとして利用されているものの,溶液状態や水分を含んだ状態では,容易に酸化されて褐変を生じることから,組成物に配合すると,当該組成物の品質低下の原因となる場合がある。そこで,アスコルビン酸の褐変に及ぼすα,α-トレハロースの糖質誘導体の影響を調べる実験を以下のようにして行った。
・・・対照として糖質無添加のL-アスコルビン酸水溶液を同様に調製した。それぞれの水溶液20mlを30ml容の試験管に入れスクリューキャップで密栓した後,50℃で14日間保存した。保存開始時,保存7日目,及び,保存14日目の水溶液について,光路1cmのセルを用いて,420nmの吸光度を測定し,着色度として表5にまとめた。
b 【表5】には,前記aの対照の着色度として,保存前が0.000,7日間保存が0.283,14日間保存が1.201と記載されている。
(オ) 甲1「三栄源エフ・エフ・アイ株式会社では,水溶性を高め,飲食品などの酸化防止に使用しやす くなった酵素処理イソクエルシトリンを主剤とした,3種類の酸化防止剤製剤を開発,製造,販売している。液体製剤としてサンメリン?AO-1007及びサンメリン?AO-3000と,粉末製剤として,酵素処理イソクエルシトリンにL-アスコルビン酸を配合したサンメリン?パウダーC-10とを取り揃えている(表1)。いずれの製品も,実用使用濃度では飲食品の風味や色合いに影響を与えずに使用することができる。
酵素処理イソクエルシトリンは,水や含水アルコールに対する溶解性が向上するとともに,ルチンの持つ光や熱,酸素に対する劣化防止効果も備えている。その為,飲料など水溶性が要求される色素の変退色防止やフレーバーの劣化防止に優れた効果を示す。 (800頁右欄下か 」ら5行〜801頁左欄10行)「5-4.L-アスコルビン酸の光劣化防止 水溶液中のL-アスコルビン酸は溶存酸素により急速に酸化を受け,デヒドロアスコルビン酸を経て分解する。また,光照射を受けても徐々に分解する。脱気したイオン交換水にL-アスコルビン酸が0.025%,クエン酸(結晶)が0.1%になるように溶かし,透明ガラス瓶に充填した後,フェードメーターで紫外線照射すると,照射時間とともにL-アスコルビン酸量は減少する。しかし,サンメリン?AO-1007を添加するとL-アスコルビン酸量の減少を食い止めることができた(図8)。
このように酵素処理イソクエルシトリンは様々な飲食品の劣化を抑制することができる。」(803頁右欄下から11行〜804頁左欄1行) (カ) 乙18(特許第3016835号公報,平成12年) a 【請求項1】アスコルビン酸またはその誘導体にフラボノイド配糖体を配合することを特徴とするアスコルビン酸またはその誘導体の褐変防止方法。
「アスコルビン酸は,アスコルビン酸自身の自動酸化による褐変反応が知られており,その使用方法が限定されている。一般に,アスコルビン酸単独の自動酸化では,アスコルビン酸がデヒドロアスコルビン酸,ジケトグロン酸を経由して,さらに脱炭酸,脱水反応を繰返して褐変重合物を生成することが知られている(例えば,日本食品工業学会誌,第 33 巻,第6号,456 頁〜462 頁,1986 年)。さらに,アミノ酸が共存すると,褐変反応の促進も見られる。(2頁3 」欄8行〜16行)「 フラボノイド配糖体のアスコルビン酸の褐変防止における作用機序は明らかではないが,アスコルビン酸の褐変は,自動酸化によるアスコルビン酸の還元型の消滅によって急速に起こることを考え合わせると,デヒドロアスコルビン酸,あるいは,ジゲトグロン酸以下の代謝経路に作用し,褐変反応を防止しているものと思われる。(2頁4欄35行〜40行) 」「実施例2 30%エタノール水溶液にアスコルビン酸 Na が 0.1%となるように調整したものにフラボノイド配糖体Aまたは,フラボノイド配糖体Bを濃度が 0.1%となるように溶解し 25℃で保存した。
フラボノイド配糖体を加えないものをブランクとし,1週間後,及び4週間後に褐変度,アスコルビン酸,デヒドロアスコルビン酸(酸化型アスコルビン酸)を測定した。褐変度については,肉眼での観察の他,色差計(日本電色工業株式会社製デジタル測色色差計 ND-504AA 型)にてL値を測定した。L値は明度に対応しており,大きな値ほど明度が高い。(3頁5欄12 」行〜4欄12行)「第2表で明らかなように,フラボノイド配糖体Aまたはフラボノイド配糖体B(判決注・いずれも「イソクエルシトリン及びその糖付加物」に相当する。)をアスコルビン酸 Na と共存させることによって,顕著なアスコルビン酸褐変防止効果がみられた。又,第3表で明らかなようにフラボノイド配糖体Aまたはフラボノイド配糖体Bをアスコルビン酸と共存させた場合,共存させない場合と比較して,実験開始4週間後でデヒドロアスコルビン酸が 10 倍以上も残存している。アスコルビン酸の褐変は還元型アスコルビン酸の消滅とともに急速におこるが,その原因として,デヒドロアスコルビン酸以下の褐変反応が考えられている。従って,デヒドロアスコルビン酸の次ステップへの反応を抑制していることは,フラボノイド配糖体のアスコルビン酸の褐変防止効果の一端を説明していると考えられる。」 (3頁5欄50行〜4頁8欄4行) b 第2表には,実施例2における実験開始4週間後のL値の減少率について,フラボノイド配糖体Aを配合したサンプルが41.5%,フラボノイド配 糖体Bを配合したサンプルが39.5%であったことが記載されている。(3頁) ウ 前記イによれば,本件出願日当時,L-アスコルビン酸は,酸化されやすく,熱やアルカリに弱い物質であり,水溶液中のL-アスコルビン酸は,溶存酸素,熱,光等により酸化・分解し,長期保存中に褐変することから,L-アスコルビン酸を含む飲料において,L-アスコルビン酸が褐変し,それに起因して当該飲料が色調変化することは技術常識となっていたと認められる。
(2) 本件出願日当時のケルセチン骨格を有する化合物の色調変化に関する技術常識について ア 証拠によれば,本件出願日前に頒布された刊行物において,ケルセチン骨格を有する化合物の色調変化について,次のとおりの記載がある。
(ア) 甲27(長沢千達ほか「タマネギの鱗茎の表皮から抽出したケルセチンの分離と精製」福島大学教育実践研究紀要29号11〜14頁,1995年)「タマネギ(Allium cepa)は・・・今日では,黄色を染める有用な染料植物の一つで,その色素は黄色のケルセチンである。(11頁左欄下から9行〜3行) 」「1 ケルセチンの性質 ケルセチン(C15H10O7)はフェノール化合物で,その構造からフラボノイド類に属する。
フラボノイドの名はラテン語の黄色を意味する flavus からきており,この類の多くは黄色の色素で広く植物に分布している。
フェノール性化合物は,金属イオンによって,Fe3+:暗緑色,Al3+:赤茶色,Cu 2+:金茶色,Su2+:柑子色のような呈色反応をするので,黄色以外の染色にも利用される。
溶媒に対する溶解性は,水にはほとんど不溶だが熱水には微溶である。エーテルには難溶であるが,アルコールには可溶で,70〜80%エタノールで抽出できる。酸性・中性の水溶液には難溶で,アルカリ性の水溶液には溶けて黄色を示す。
・・・ 2 色素試料液・・・ この二つのビーカーの隙間から,外皮が浸るだけの少量の80%エタノールを注いで,一昼夜放置する。これをろ過すると,濃いエタノール抽出液(試料色素)が得られる。
薄い試料液は黄色だが,常温で保存すると3〜4日で赤褐色に変色する。
・・・これは褐変といわれる現象と思われる。これには酵素的なものと非酵素的なものがあり,酵素的なものは抽出液中の他の成分が酵素によってキノン類に変化し,重合して褐色化するためといわれる。」 (11頁左欄下から2行〜12頁左欄25行)「IV 分離ケルセチンの検討・・・ 文献によれば,エタノール溶液の最大吸収波長は375nmである。得られたケルセチンのスペクトルでは,375nmではないが標準とした市販ケルセチンと同じく370nmであった。波形が300から330nmで少し大きいのは,抽出後少し時間経過したために,褐変あるいは空気酸化によるものと思われる」(13頁左欄3行〜右欄7行) (イ) 甲17(特開2009-280550号公報)【請求項1】オリーブ葉抽出物と,酵素処理イソクエルシトリンまたは酵素処理ルチンを含有することを特徴とするチロシナーゼ活性阻害剤。
【0041】酵素処理イソクエルシトリンの使用量は,例えば,果物等の食品の場合,0.0008〜1040ppm(固形換算)・・・が含有されていればよい。・・・1040ppmを超える添加では着色の問題が生じるので好ましくない場合がある。
【0043】本発明のチロシナーゼ阻害剤は, ・・・食品などに配合することができ,また,変色防止等を目的とした食品の処理にも使用することもできる。例えば, ・・・飲料(スープ,コーヒー,茶類,ジュース,ココア,アルコール飲料,ゼリー状ドリンク等)・・・にも用いることができる。
(ウ) 甲80(Igor G. Zenkevich ほか“Identification of the Products of Oxidationof Quercetin by Air Oxygen at Ambient Temperature”Molecules,2007,12,654-672)「 ケルセチン[3,5,7,3’,4’-ペンタヒドロキシフラボン,5,7,3’,4’-テトラヒドロキシフラボノール(1)]およびそのグリコシド[・・・とりわけ3-O-ルチノシド(ルチン)]は,様々な植物抽出物から単離される,最も多く報告されている天然フラボノイドである・・・。(655頁,Introduction,第1パラグラフ) 」「簡単な手順を使用して,空気による1の実験的酸化を行った。最長で3.5時間の間,周囲温度において空気を1の水-エタノール溶液(pH≒8〜10)中にバブリングし,様々な時点において周期的に反応媒体のHPLC分析を行った。
・・・空気酸素による1の酸化後,赤色から褐色への溶液の強い着色が生じる。(659〜660頁にまたがるパラグラフ) 」 (エ) 甲28 前記(1)イ(エ)のとおり。
(オ) 甲1 前記(1)イ(オ)のとおり。
(カ) 甲19(吉村麻紀子ほか「肥満傾向および肥満者に対するエンジュポリフェノール(酵素処理イソクエルシトリン)配合飲料の体脂肪低減作用および安全性の検証」薬理と治療36巻10号919〜930頁,2008年)「【第2試験;エンジュポリフェノール12週間継続摂取の体脂肪に及ぼす影響】・・・3 試験飲料 被験飲料は,エンジュポリフェノール275mgを配合した飲料を用いた。対照飲料は,エンジュポリフェノールを配合しない飲料とし,いずれも350mL容量のペットボトル飲料とした。・・・4 摂取方法とスケジュール・・・試験飲料摂取開始時(0週)の検査実施後,対照飲料あるいは被験飲料を1日1本,1 2週間継続摂取させた。(921頁右欄5〜23行) 」「結論・・・ 以上より,エンジュポリフェノール275mg配合飲料は,安全であり,1日1本,12週間継続摂取することにより,体脂肪低減作用が期待できることが明らかとなった。(929頁 」右欄21行〜930頁左欄6行) (キ) 乙18 前記(1)イ(カ)のとおり。
イ 前記アによれば,本件出願日当時,ケルセチンは黄色色素であり(甲27)ケルセチン骨格を有する酵素処理イソクエルシトリンを果物等の食品に対して ,1040ppmを超える量添加すると,着色の問題が生じることから(甲17),酵素処理イソクエルシトリンの含有量が多くなると,それによる着色が生じることが認識されていたと認められる。
また,ケルセチンは,酸化等により褐変することが知られており(甲27,80),アスコルビン酸,ケルセチン,糖転移ケルセチン等は活性酸素を消去するラジカルスカベンジャーとして機能すること,及び,ラジカルスカベンジャー自身の酸化やメーラード反応に起因する褐変や変色が生じること(甲28)が知られていたことから,ケルセチンや糖転移ケルセチンは,褐変が生じ,色調変化することも認識されていたと認められる。
しかし,酵素処理イソクエルシトリンは,アスコルビン酸等の他の成分の酸化防止や色素の変退色防止のため,あるいは,体脂肪低減のために,飲料に添加することは知られていたものの(甲1,甲19,乙18),酸化防止剤としての実用使用濃度では飲料の色合いに影響を与えないと認識されており(甲1) 飲料に添加された ,場合の条件において,イソクエルシトリン及びその糖付加物自体が色調変化し,飲料の色調が変化することについて,直接記載した証拠は見出せない。
(3) 本件出願日当時の技術常識小括 前記(1)及び(2)によれば,本件出願日当時,アスコルビン酸の褐変により飲料が色調変化するという技術常識があったものの,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化に起因して,飲料の色調が変化することは技術常識とはなっていなかったと認められる。
(4) サポート要件について ア 本件明細書の発明の詳細な説明には,前記2(1)のとおりの記載があり,本件訂正発明9〜16の解決課題は,容器詰飲料に含まれるイソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化を抑制することにより,当該飲料の色調変化を抑制する方法を提供することであると認められる。
イ 本件明細書には,フラボノール配糖体を始めとするポリフェノールは一 「般に酸化されやすいため,それを含有する飲料を長期間にわたって保存すると徐々に着色が進んで色調が大きく変化してしまう。本発明者は,酵素処理イソクエルシトリンを飲料に配合し,それを高濃度化するに従い色調変化が顕在化することを見出した。( 」【0007】)と記載されている。他方,本件明細書の実施例・比較例では,イソクエルシトリン及びその糖付加物の製剤として, 「酵素処理イソクエルシトリン15重量%,L-アスコルビン酸10重量%,メタリン酸Na0.1重量%,及び糖類74.9重量%」からなるサンメリンパウダーC-10(甲1の表1参照)を用いており,実施例・比較例の全てにおいてイソクエルシトリン及びその糖付加物に加えて,L-アスコルビン酸も含まれている。
そして,前記(3)によれば,本件出願日当時,アスコルビン酸の褐変により飲料が色調変化するという技術常識があったものの,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化に起因して,飲料が色調変化することは技術常識とはなっていなかったと認められる。
このような技術常識を有する当業者が,本件明細書の記載に接した際には, 【0007】に記載された「顕在化した色調変化」,すなわち,比較例において観察された b*値の変化(Δb*)は,L-アスコルビン酸の褐変に起因する色調変化を含む可能性があると理解し,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化のみを反映したものであると理解することはできないと解される。
そうすると,実施例において,アルコール類を特定量添加しpHを調整することにより,比較例に比べて飲料の色調変化が抑制されていることに接しても,当業者は,比較例の飲料の色調変化がL-アスコルビン酸の褐変に起因する色調変化を含む可能性がある以上,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化が抑制されていることを直ちには認識することはできないというべきである。
そして,本件明細書の実施例のb*値の変化(Δb*)は,0.9〜2.0であって,0ではないことから,L-アスコルビン酸に起因するb *値の変化(Δb*)はアルコール類の添加によってもマイナスに転じること(製造直後よりも黄色方向の彩度が減じて青色方向に傾くこと)がないものと仮定しても,当業者は,実施例における飲料全体の色調変化の抑制という結果から,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化の抑制を認識することはできないというほかない。
また,前記(1)イ(オ),(カ)bのとおり,本件出願日当時,イソクエルシトリン及びその糖付加物が水溶液中のL-アスコルビン酸の分解を抑制することが知られていたものと認められる。しかし,乙18によれば,イソクエルシトリン及びその糖付加物に相当するフラボノイド配糖体A又はBの配合によるアスコルビン酸を含む30%エタノール水溶液のL値の減少率の抑制の程度は,これらを配合しない場合を100%として41.5%又は39.5%に止まり,L値の減少率を0%としたものではない(すなわち,L値の減少が解消していない。)し,明度を示すL値(L*値)の変化を示すものであって,本件明細書で測定している黄色方向の彩度を示すb*値の変化を示すものでもなく,また,エタノールの含有量も本件明細書の実施例・比較例(0.01〜0.50質量%)とは大きく異なるから,当業者において,本件明細書の実施例・比較例の条件において,L-アスコルビン酸に加え,イソクエルシトリン及びその糖付加物が配合されていることから,L-アスコルビン酸の 褐変が生じない(したがって,本件明細書の実施例・比較例の飲料の色調変化には,L-アスコルビン酸の褐変に起因する色調変化は含まれない。と理解するものとは )いえない。
ウ 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願日当時の技術常識に照らして,本件訂正発明9〜16は,容器詰飲料に含まれるイソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化を抑制することにより,当該容器詰飲料の色調変化を抑制する方法を提供するという課題を解決できるものと,当業者が認識することができるとはいえない。
エ 被告は,甲40及び甲69は,審判手続において審理判断されなかった事実に関する新たな証拠であるから,本件訴訟において,これらの証拠に基づく審決の違法性を主張することは許されず,取消事由3-4は,本件訴訟の審理の対象にはならないと主張する。
しかしながら,被告も自認するとおり(前記第4の1(1)),原告は,審判事件弁駁書(乙8)において「アスコルビン酸が酸化により黄色となることは周知の技術的事項である」ことを指摘して本件訂正発明9〜16がサポート要件及び実施可能要件を欠くと主張しているから(20〜21頁), 「アスコルビン酸が酸化により黄色となることは周知の技術的事項である」ことを根拠として,本件訂正発明9〜16がサポート要件及び実施可能要件を満たす旨の審決の判断が誤りであることを主張することは当然に認められ,取消事由3-4は,そのような主張を含むものと認められる。
そして,本件訂正発明9〜16は,被告も自認する「L-アスコルビン酸を含有する飲料が経時変化により褐変すること」という事実(被告第2準備書面3頁,被告第3準備書面16頁)を考慮すると,甲40及び甲69を検討するまでもなく,被告が立証責任を負担するサポート要件の充足を認めることができないことは,前示のとおりである。なお,被告は, 「イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料が,L-アスコルビン酸の非存在下においても色調変化を生じ,その 色調変化がアルコールによって抑制されること」を立証趣旨として,乙14の実験成績証明書を提出するが,乙15(技術説明資料)及び本件訴訟の経過に照らすと,乙2の実験成績証明書と同様に,甲69の信用性を弾劾する趣旨であり,本件明細書において開示が不十分な発明の効果を実験結果によって補充しようというものではないと解される(仮に,乙14が,甲69の信用性を弾劾するにとどまらず,これによりイソクエルシトリン及びその糖付加物を含有し,L-アスコルビン酸を含有しない容器詰飲料の色調変化を立証する趣旨であったとしても,そのような立証は,本件明細書の記載から当業者が認識できない事項を明細書の記載外で補足するものとして許されない。。被告の主張は,理由がない。
) オ 被告は, 「アスコルビン酸を含む」という条件において実施例と比較例は同一であることを理由として,サポート要件の充足を認めた審決の趣旨は,アスコルビン酸を除けば,実施例と比較例のb*値やΔb*値の絶対値は変わるかもしれないけれども,アスコルビン酸の有無にかかわらず,アルコールの添加によってイソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化が抑制されるという傾向自体は不変であることを当業者が理解できると判断したものであり,その判断に誤りはないと主張する。
この点について,審決は,アルコールを添加した実施例と,アルコールを添加しない比較例の双方に,L-アスコルビン酸が含まれているとしても,このような実施例と比較例の色調変化によって,L-アスコルビン酸の非存在下におけるイソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化に対するアルコール添加の影響を理解することができると判断するところ,L-アスコルビン酸が褐変し,容器詰飲料の色調変化に影響を与え得るという本件出願日当時の技術常識を踏まえると,このように判断するためには,少なくともL-アスコルビン酸の褐変(色調変化)はアルコール添加の影響を受けないという前提が成り立つ場合に限られることは明らかであるが,そのような前提が本件出願日当時の当業者の技術常識となっていたことを示す証拠はない。したがって,本件明細書の実施例と比較例の実験結果をまとめた【表 1】により,イソクエルシトリン及びその糖付加物に起因する色調変化の抑制という本件訂正発明9〜16の効果を確認することはできない。なお,念のため付言すれば,以上の検討は,特許権者である被告が,本件明細書において,イソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化がアルコールにより抑制されることを示す実験結果を開示するに当たり,同様に経時的な色調変化を示すことが知られていたL-アスコルビン酸という不純物が含まれる実験系による実験結果のみを開示したことに起因するものであり,そのような不十分な実験結果の開示により,本件明細書にイソクエルシトリン及びその糖付加物の色調変化がアルコールにより抑制されることが開示されているというためには,容器詰飲料の色調変化に影響を与える可能性があるL-アスコルビン酸の褐変(色調変化)はアルコール添加の影響を受けないということが,本件明細書において別途開示されているか,その記載や示唆がなくても本件出願日当時の当業者が前提とすることができる技術常識になっている必要がある。したがって,特許権者である被告において,本件明細書にこれらの開示をしておらず,また,当該技術常識の存在が立証できない以上,本件明細書にL-アスコルビン酸という不純物を含む実験系による実験結果のみを開示したことによる不利益を負うことは,やむを得ないものというべきである。
カ 以上によれば,取消事由3-4のうち,サポート要件の判断の誤りをいう点は,理由がある(実施可能要件の判断の誤りをいう点は,必要がないから,判断しない。。
) 4 取消事由3-2(請求項2,5〜16に係るサポート要件の判断の誤り)について 本件訂正発明9〜16にサポート要件違反があることは,前記3のとおりであるから,取消事由3-2のうち,本件訂正発明2,5〜8に係る点に限って,検討する。
(1) 本件明細書の【0007】によれば, 「長期間保存しても色調変化のし難い イソクエルシトリン及びその糖付加物を含有する容器詰飲料を提供すること」が,本件訂正発明2,5〜8の課題であると認められる。
そして,本件明細書には, 「長期間保存しても色調変化のし難い」ことの明確な指標について説明はないものの,請求項2,5〜8に記載の条件を満たす実施例1〜12 (B) ( アルコール類の含有量0.01〜0.50質量%)は,製造直後と55℃で7日間保存後の容器詰飲料のb*値の差(Δb*)が0.9〜2.0であり,当該請求項の条件を満たさない比較例1〜3はΔb*が2.5〜5.8である。また,本件明細書には,Δb*が2以下であることが好ましいと記載され(【0035】 , )Δb*が2以下であることを「長期間保存しても色調変化のし難い」ことの必須の要件とするものではない。
そうすると,少なくとも,本件明細書の色調変化の指標であるΔb*が,比較例1〜3の中で最も少ない比較例3の2.5よりも少ないときには,当業者は,本件訂正発明2,5〜8の課題が解決されたと認識するものといえる。
(2) そして,前記第3の9のとおり,本件明細書の実施例のうち,イソクエルシトリン糖付加物等の製剤(サンメリンパウダーC-10)の配合量が0.55質量%,すなわち,成分(A)であるイソクエルシトリン及びその糖付加物の含有量が0.083質量%(=製剤0.55質量%×製剤中の酵素処理イソクエルシトリン15重量%)であり,成分(B)のアルコールとしてエタノールを添加している実施例について,エタノールの添加量とΔb*の値を見ると,次のとおりである。
エタノール添加量(質量%) Δb* 実施例1 0.50 1.3 実施例5 0.10 1.3 実施例6 0.01 2.0 比較例2 0 3.0 これによれば,原告指摘のとおり,実施例1(0.50質量%),実施例5(0.10質量%),実施例6(0.01質量%),比較例2(0質量%)とエタノールの 添加量が減少するのに伴って,Δb*は,1.3,1.3,2.0,3.0と徐々に大きくなっていることから,エタノールの添加量が実施例6と比較例2の間の数値である0.001質量%になった場合のΔb*は,3.0に近い数値となる可能性があり,2.5未満となるかは不明であるといわざるを得ない。
しかしながら,成分(B)のエタノールの添加量が0.50質量%である実施例について,成分(A)であるイソクエルシトリン及びその糖付加物の含有量とΔb* の値を見ると,次のとおりである。
イソクエルシトリン及びその糖付加物含有量(質量%) Δb* 実施例12 0.345(=2.30×15重量%) 1.8 実施例7 0.323(=2.15×15重量%) 1.5 実施例1 0.083(=0.55×15重量%) 1.3 これによれば,実施例12(0.345質量%),実施例7(0.323質量%),実施例1(0.083質量%)とイソクエルシトリン及びその糖付加物の含有量が減少するのに伴って,Δb*は1.8,1.5,1.3と徐々に小さくなっている。
そうすると,当業者は,エタノールの添加量が下限値の0.001質量%である場合においても,イソクエルシトリン及びその糖付加物の含有量を下限値の0.03質量%とすれば,Δb*が2.5未満となる蓋然性は非常に高いと理解することができる。
(3) そうすると,本件訂正発明2,5〜8において,エタノールの添加量が下限値の0.001質量%である場合には,イソクエルシトリン及びその糖付加物の含有量を下限値の0.03質量%とすれば,Δb*が2.5未満となり,当該発明の課題を解決できるものと,当業者が認識することができるといえる。
取消事由3-2のうち,本件訂正発明2,5〜8に係る点は,理由がない。
5 取消事由3-3(請求項2,5,16に係る実施可能要件及び明確性要件の判断の誤り)について (1) 請求項2には「製造直後の容器詰飲料のL*a*b*表色系におけるb*値が2.3,4.4,4.6,4.8,4.9,10.1,15.1又は15.6であり, 前記b*値が前記容器詰飲料を試料として光路長10mmの石英セルに入れて分光光度計により測定されたものであり」と記載され,請求項5及び請求項16には,「55℃で7日間保存した後の容器詰飲料のL *a*b*表色系におけるb*値から,製造直後の容器詰飲料のL*a*b*表色系におけるb*値を減じた値が2以下であり, 前記b*値が前記容器詰飲料を試料として光路長10mmの石英セルに入れて分光光度計により測定されたものである」と記載されている。
そして,請求項2の各b*値は,実施例1〜12の全ての各b*値(製造直後のもの)をそのまま記載したものであり,実施例以外の発明の詳細な説明には,b*値の具体的な数値について記載されていない。
また,請求項5,16のΔb*については,本件明細書の【0035】に「本発明の容器詰飲料は,色調安定性の観点から,55℃で7日間保存した後の容器詰飲料のb*値から,製造直後の容器詰飲料のb*値を減じた値(Δb*) 2以下,・ が, ・ ・更に1.5以下であることが好ましい。・・・なお,b*値の測定方法は,後掲の実施例に記載の方法にしたがうものとする。」と記載されている。
そうすると,請求項2,5,16におけるb*値及びΔb*は,実施例において用いられた測定方法による数値を指すものと理解することができる。
(2) そこで,本件明細書の実施例をみると, 【0057】には, 「分光光度計(形式 Color Meter ZE-2000,日本電色工業社製)を使用し,試料を光路長10mmの石英セルに入れてL*a*b*表色系のb*値を測定した。製造直後の容器詰飲料,及び55℃で7日間保存後の容器詰飲料のb *値から,Δb*(保存後のb*値-保存前のb*値)を求めた。」と記載されている。
そして,前記分光光度計である日本電色工業社製の ZE-2000 のユーザーズガイド(甲65)を見ると,前記分光光度計には, 「透過試料室」と「反射試料台」とがあり, 「透過試料室」では, 「透過試料『液体,フィルム,樹脂』などの透過色を測定」 し,「反射試料台」では,「反射試料『固体,樹脂』などの測定」をすることが記載されている(1〜2頁)。
また,「4 測定」の記載のうち,「4-1 『反射測定の場合』(7〜10頁) 」の項目には,サンプルの形状に応じて試料台,見口を使用すること,装置の上面に設置されている試料台にサンプルを置いて測定することが記載されており,付属品として,次のイラストのとおり, 「30φ試料台」や「30φ見口」等と並んで, 「粉末,ペースト用試料台F(測定用)」と,それに適合すると思われる略円柱状の中空体で,上面が開口している「丸セル」が記載されている(4頁)。
さらに, 「4-3 透過測定『●液体の場合,○樹脂・フィルムの場合』(15〜 」20頁)の項目には,次のイラストのとおり,略直方体状の中空体で,上面が開口している角セル(オプション)に試料を入れ,試料バサミにセットしたものを,透過試料室に入れて蓋をして測定することが記載されている。
以上の記載によれば,実施例で使用した「光路長10mmの石英セル」とは,透過試料室に入れる「角セル」を意味していると認められる。
(3) また,飲料等の液体の色を測定する場合,液体が透明なときは透過測定,液体が不透明なときは反射測定を行うのが通常であり(乙5等) 本件明細書の実施 ,例で用いた容器詰飲料は,その組成からみて透明な液体であると認められることから,当業者であれば透過測定を行うことが通常であるといえる。これは,両当事者が行った実施例の効果を確認する実験(甲40,69,乙2,乙14)においても透過測定が行われていることからも裏付けられる。
(4) さらに,化学大辞典5(甲62)には, 「セルあつみ ―厚み,液層長,光路長・・・被測定溶液を満たした吸収セルにおいて,光が通過する部分の液層の厚 さをいう。(397頁)と記載されており,一般に「光路長」とは, 」 「光が通過する部分の液層の厚さ」をいうことから,透過測定においてよく用いられる用語であると解される。
(5) そうすると,本件明細書の実施例の透明な容器詰飲料を測定する場合には,当業者であれば透過測定を選択するのが通常であり,実施例における「光路長10mmの石英セル」は,ユーザーズガイドに記載された透過測定に用いられる場合の「角セル(オプション)」を意味するものと解されることから,実施例では,「透過測定」を行ったものと認められる。
(6) したがって,請求項2,5,16におけるb *値及びΔb*は,実施例と同じ「透過測定」により測定された数値であることが理解できるから,請求項2,5,16の記載は明確であるし,本件訂正発明2,5,16に係る本件明細書の記載は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができる。
(7) 原告は,光路長という概念は反射光にも存在するし,請求項2,5,16は,反射測定を行うのが通常である不透明な液体を権利範囲に含むから,請求項2,5,16のb*値及びΔb*値は,透過測定により測定されたものであることが一義的に明らかであるとはいえないと主張する。
しかしながら,請求項2, 16におけるb*値及び Δb*が, 5, 実施例と同じ「透過測定」により測定された数値であると理解されることは,前記のとおりである。
また,請求項2,5,16が不透明な液体を明確に排除するものでないことは,原告主張のとおりであるが,本件明細書の【0032】には,色素類や果汁エキスなどの添加剤の含有量は,本発明の目的を妨げない範囲内で適宜選択可能である。
「 」と記載されているから,当業者は,請求項2,5,16に係る容器詰飲料は,実施例と同じ透過測定が可能な容器詰飲料であると理解するものといえ,請求項2,5,16が不透明な液体を明確に排除していないことを根拠として,これらの請求項のb* 値及びΔb *が反射測定により測定された可能性があると理解するものとはい えない。原告の主張は,理由がない。
(8) 以上によれば,取消事由3-3は理由がない。
6 取消事由2-1(本件訂正発明2と引用発明1’との相違点5の容易想到性についての判断の誤り)について (1) 引用発明1’について ア 甲1には,以下の記載がある。
「三栄源エフ・エフ・アイ株式会社では,水溶性を高め,飲食品などの酸化防止に使用しやすくなった酵素処理イソクエルシトリンを主剤とした,3種類の酸化防止剤製剤を開発,製造,販売している。液体製剤として,サンメリン?AO-1007及びサンメリン?AO-3000と,粉末製剤として,酵素処理イソクエルシトリンにL-アスコルビン酸を配合したサンメリン?パウダーC-10とを取り揃えている(表1)。いずれの製品も,実用使用濃度では飲食品の風味や色合いに影響を与えずに使用することができる。
酵素処理イソクエルシトリンは,水や含水アルコールに対する溶解性が向上するとともに,ルチンの持つ光や熱,酸素に対する劣化防止効果も備えている。その為,飲料などの水溶性が要求される色素の変退色防止やフレーバーの劣化防止に優れた効果を示す。また,食品中に含まれている油脂や乳成分などの劣化防止にも効果があり,脂質酸化防止用途での採用も活発化している。
」(800頁右欄下から5行〜801頁左欄13行,801頁表1)「5-1.色素の変退色防止,安定化 食品が光に暴露されると着色料や素材由来の色素成分が退色し,色素によっては退色と同時にオフフレーバーが生じる。しかし,サンメリン?AO-1007を添加することにより各種食品の変退色を防止することができる。
図3,図4に天然着色料(赤キャベツ色素,パプリカ色素)及び合成着色料(食用黄色5号,食用青色1号)に対するサンメリン?AO-1007の退色防止効果を示す。
また,フラボノール化合物である酵素処理イソクエルシトリンをアントシアニン系色素液に添加すると,フラボノールと類似の構造をしたアントシアニン系色素と分子間で会合して安定化し,増色効果や深色効果(コピグメント効果)を示す(図5)。
」(802頁左欄6〜19行,図3〜5)「 近年,食品から摂取するフラボノイドなどの抗酸化成分が生体内に吸収され,抗酸化作用を示すことが明らかにされてきており,このようなポリフェノール成分の機能性を期待した多数の飲食品やサプリメント製品が多数販売されている。
種々の生理機能効果が期待される酵素処理イソクエルシトリンは,食品の酸化防止剤としてだけでなく,サプリメント製品などの健康食品素材としての添加も有望視されている。(80 」 5頁右欄17〜25行) イ 前記アの記載によれば,甲1には,審決認定のとおり,以下の引用発明1’が記載されていると認められる。
「酵素処理イソクエルシトリン0.075重量%,エタノール0.10重量%,グリセリン0.10重量%を含有し, 『酵素処理イソクエルシトリン』に対する『エタノールとグリセリンの合計量』の質量比が,2.67である容器詰モデル飲料」 (2) 本件訂正発明2と引用発明1’の相違点について 前記認定によれば,本件訂正発明2と引用発明1’とは,審決が正しく認定するとおり,少なくとも前記第2の4(2)ウの相違点5(以下に再掲)において相違する。
『製造直後の容器詰飲料のb *値が2.3,4.4,4.6,「本件訂正発明2では,4.8,4.9,10.1,15.1又は15.6であり,前記b*値が前記容器詰飲料を試料として光路長10mmの石英セルに入れて分光光度計により測定されたものであ』ることが限定されているのに対し,引用発明1’では,そのような限定が明記されていない点。」 (3) 相違点5の容易想到性について ア 後掲証拠によれば,本件優先日当時の技術常識に関し,飲食品の色調をL*a*b *表色系におけるL*値(明度),a*値(赤色方向の彩度),b*値(黄色方向の彩度)により,色相や色差を測定することは技術常識であり(甲35,甲100の1等),また,飲料の製造直後と,更に特定条件で保存した後のL *,a*,b*を測定し,それらの差(ΔL*,Δa*,Δb*)やΔE*(={(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2}1/2)に基づいて飲料の色調変化を確認することは,当業者が必要に応じて通常行っていた周知技術であり(甲102の1ないし3) 特に黄色方 ,向の色調に着目する場合には,b*値のみを測定することも行われていた(甲99の5,甲99の6)ものと認められる。
イ そして,引用発明1’に係る容器詰モデル飲料は,前記(1)アの甲1の記 載のうち, 「アントシアニン系色素の深色・増色効果」に関する図5の「AO-1007,0.5%添加」という記載と,表1のサンメリンAO-1007に係る「成分・重量%」欄の「酵素処理イソクエルシトリン15,グリセリン20,エタノール20」という記載に基づき認定されたものであることからすれば,前記アの技術常識を有する当業者において,引用発明1’に係る容器詰モデル飲料における酵素処理イソクエルシトリンの添加によるアントシアニン系色素の深色・増色効果の程度を確認するために,酵素処理イソクエルシトリン添加前の飲料の色調と,酵素処理イソクエルシトリン添加後の飲料の色調を,L *a*b*表色系により測定すること自体は,容易に想到し得るものと認められる。
しかしながら,引用発明1’の容器詰モデル飲料は,本件訂正発明2との対比のために必要な限度で認定した前記(1)イの認定においては,色調に関する限定はされていないものの,上記のとおり,既にアントシアニン系色素(赤キャベツ色素0.05%)が添加されているものであり,甲1の図5の写真からも見て取れる赤紫色様の色調からすれば,L*a*b*表色系において,敢えて赤色方向の彩度を示すa*値を採用せず,黄色方向の彩度を示すb*値を採用することを,当業者が容易に想到することができたということはできない。ましてや,既にアントシアニン系色素が添加されている引用発明1’の容器詰モデル飲料のb*値を,更に適宜の色素を添加するなどの方法により,相違点5に係る特定の数値(下限値は2.3,上限値は15.6であり,相応の幅がある。)に調整することは,容易に想到し得ないものというほかない。
ウ 原告は,本件訂正発明2には,色素を適宜含有したものが含まれ,色素により飲料の色調をどのようなものとするかは需要者の好み等に照らして当業者が適宜決定する設計事項にすぎないと主張する。
しかしながら,引用発明1’を主引用発明とする限り,前記イのとおり,引用発明1’の容器詰モデル飲料には既にアントシアニン系色素が添加されているのであるから,これに更に色素を添加すること自体,何らかの動機付けが必要というべき であるし,既に赤紫色様のアントシアニン系色素が添加されている飲料について,敢えて赤色方向の彩度を示すa*値を採用せず,黄色方向の彩度を示すb*値を採用することには,格別の動機付けが必要というべきであって,引用発明1’の容器詰モデル飲料の色調が設計事項とはいえない。原告の主張は,理由がない。
エ 以上によれば,取消事由2-1は,理由がない。
7 取消事由2-2(本件訂正発明5と引用発明1並びに引用発明13及び引用発明14との相違点8の容易想到性についての判断の誤り)について (1) 本件訂正発明5と引用発明1との相違点8の容易想到性について ア 前記6(1)アの記載によれば,甲1には,審決認定のとおり,以下の引用発明1が記載されていると認められる。
「酵素処理イソクエルシトリン0.075重量%,エタノール0.10重量%,グリセリン0.10重量%を含有する容器詰モデル飲料」 イ 前記認定によれば,請求項1を引用する場合の本件訂正発明5と引用発明1とは,審決が正しく認定するとおり,少なくとも前記第2の4(3)ア(イ)の相違点8(以下に再掲)において相違する。
「請求項1を引用する場合の本件訂正発明5では,55℃で7日間保存した後のL 『* a*b*表色系におけるb*値から,製造直後のL *a*b*表色系におけるb*値を減じた値が2以下であり,前記b*値が前記容器詰飲料を試料として光路長10mmの石英セルに入れて分光光度計により測定されたものである』ことが限定されているのに対し,引用発明1では,そのような限定が明記されていない点。」 ウ 引用発明1は,前記6(1)イの引用発明1’と同じく甲1に記載されているものであり,引用発明1’から「酵素処理イソクエルシトリン」に対する「エタノールとグリセリンの合計量」の質量比に関する発明特定事項を除いたものである。
そこで,前記6(3)イと同様の理由により,引用発明1の容器詰モデル飲料において,酵素処理イソクエルシトリン添加前の飲料の色調と,酵素処理イソクエルシト リン添加後の飲料の色調を,L *a*b*表色系により測定すること自体は,容易に想到し得るものとしても,既にアントシアニン系色素(赤キャベツ色素0.05%)が添加されているのに,敢えて赤色方向の彩度を示すa*値を採用せず,黄色方向の彩度を示すb*値を採用することを,当業者が容易に想到することができたとはいえない。また,引用発明1が記載された甲1には,酵素処理イソクエルシトリンの添加によるアントシアニン系色素の深色・増色(コピグメント効果)について,酵素処理イソクエルシトリン及びアントシアニン系色素が添加された引用発明1の飲料を特定の条件で保存した後の色調を観察して,経時的変化を確認することは,図5にも本文にも記載も示唆もされていないから,55℃で7日間保存した後の色調を測定することを,当業者が容易に想到することができたということは困難である。さらに,甲1には,色素の一般的な課題として変退色防止や安定化という課題があることは記載されているものの,アントシアニン系色素が添加された引用発明1に係る容器詰モデル飲料について,褐変の抑制や着色防止といった課題があることの記載や示唆はないから,仮に55℃で7日間保存した後の色調を測定することを想到し得たとしても,その測定値と製造直後の色調に係る測定値との差を一定の数値以下とするという構成を,当業者が想到することは困難といわざるを得ない。
したがって,引用発明1において,相違点8に係る本件訂正発明5の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
そして,請求項2又は3を引用する場合の本件訂正発明5も,引用発明1に対して相違点8を有するから,同様である。
エ 【表1】の成分を配合すること以外に,Δb * 原告は,本件明細書には,を所定値とする格別の手段は開示されていないから,本件訂正発明5のΔb*に関する要件は,対象物が他の構成要件を備えること,あるいは,本件明細書に記載するまでもない設計事項程度のことを行うことにより,充足される(そうでなければ,記載要件違反がある。)と主張するが,仮に記載要件違反があるのであれば,それは別個の無効理由として主張すべきものであって,特許請求の範囲に明記された構成 要件を,記載要件違反を回避することを理由として否定することはできないから,理由がない。
オ 原告は,引用発明1の飲料のアルコール含有量(エタノール及びグリセリンの合計)は0.20重量%であるから,引用発明1は相違点8の構成を備えているか,設計事項程度のことを行うことにより相違点8の構成が実現されることは明らかであると主張する。
しかしながら,前記ウのとおり,引用発明1の飲料には,既にアントシアニン系色素が添加されているのであり,これが色調に影響を与えることは明らかであるから,アントシアニン系色素が同量添加されているわけではない本件明細書の実施例の数値を参照してみても,Δb*が2以下であることが開示されているとはいえない。原告の主張は,理由がない。
カ 原告は,本件訂正発明5のΔb* に関する要件は,所望の作用効果を得るための手段ではないし,色調変化を定量化するために発明者が選択したパラメータにすぎないから,進歩性の根拠となるものではないと主張する。
しかしながら,特許法29条2項は,特許出願前に当業者が同条1項各号に掲げる発明に基づいて容易に発明をすることができたときは,その発明については,特許を受けることができないと規定しているのであるから,本件訂正発明5が進歩性を欠くものであるか否かは,同条1項各号に掲げる発明として原告が引用した引用発明1に基づいて,当業者において,本件訂正発明5と引用発明1との相違点8に係る構成が容易に想到できたか否かを判断すべきものである。そして,引用発明1から上記構成を容易に想到し得ないことは,前記ウのとおりである。原告の主張は,理由がない。
キ 原告は,本件訂正発明5のΔb*は,下限を規定しておらず,Δb*が大きくマイナスとなる飲料も含まれることから,色調変化抑制の見地からの技術的意義はないと主張する。
しかしながら,仮に原告主張のとおり,本件訂正発明5のΔb* の数値範囲の中 に,色調変化抑制の見地から技術的意義が認められない部分が含まれていたとしても,直ちに当該数値範囲の全部の技術的意義が失われるものではないし,引用発明1において,Δb*が2以下であるという相違点8に係る本件訂正発明5の構成を,当業者が容易に想到し得るということもできない。原告の主張は,理由がない。
ク 原告は,ΔE*が2以下という構成に進歩性が認められない以上,この要件を緩和したΔb*が2以下という構成も進歩性が認められる余地はないと主張する。
しかしながら,仮にΔb*が2以下という構成が周知の構成であったとしても,前記ウのとおり,アントシアニン系色素が添加された引用発明1に係る容器詰モデル飲料について,褐変の抑制や着色防止といった課題があることの記載や示唆はないのであるから,引用発明1にΔb*が2以下という構成を適用することを,当業者が容易に想到し得るということはできない。原告の主張は,理由がない。
(2) 本件訂正発明5と引用発明14との相違点8の容易想到性について ア 甲14には,以下の記載がある。
「3.フラボノイドによる天然色素の退色防止効果 赤キャベツ,ブドウ果皮,紫トウモロコシ,ハイビスカス,ベリー類やシソ等に含まれるアントシアニン色素やニンジン,パプリカ,クチナシ,アナトー等に含まれるカロチノイド色素等天然色素の殆んどは原料植物体から抽出,精製すると不安定になる傾向が認められる。アントシアニン色素は空気,熱,光,金属イオンの存在下で酸化または還元され退色する。また,カロチノイド色素も光,空気,熱,金属イオンの存在下で容易に異性化して変色したり,干し草様の匂いを伴って酸化分解することはよく知られている。
アントシアニン色素の安定化の研究は古くから行われ,フラボノイドの存在下で安定化するとされている。最近に到り,NMR,CD,超遠心分離法等の機器分析の進展に伴ないその機構の解析が進められ,アントシアニン色素とフラボノイドがサンドイッチ状構造の会合状態を取ることにより安定化することが明らかにされた。
ニンジン色素やパプリカ色素等のカロチノイド色素の退色防止にもフラボノイドは非常に効 果を発揮する。しかし,フラボノイドは油に不溶で,水に溶けにくく,かつ容易に結晶が析出する等ハンドリングが悪いため,多くの特徴を有するにもかかわらず利用されることが少なかった。当社ではこの様な欠点を改良する目的で水に対しての溶解度を飛躍的に向上させた抗酸化効果,退色防止効果及び香味変化防止効果の強いフラボノイドの開発に成功し,サンメリンAO-1007の商品名で上市した。サンメリン AO-1007を用いた赤キャベツ色素とパプリカベースの退色防止効果の実例を図1と図2に示す。
この図から明らかのようにこのフラボノイドはカロチノイド色素やアントシアニン色素に対して強力な退色防止効果を発揮した。サンメリンAO-1007はカロチノイドやアントシアニン色素に限らず,ラックやコチニール等のアントラキノン系色素,ベニバナのカルコン系色素,ビートレッドのベタシアニン系色素,紅麹のアザフィロン系色素等広範囲の天然色素の退色,変色防止に有効である。サンメリン AO-1007を飲料,製菓,加工食品,調味料等に使用した場合,退色,変色の防止と同時に酸敗,香味変化防止等種々の有益な効果を発揮した。
- 108 - 」(41頁右欄13行〜42頁右欄1行,図1,図2) イ 前記アの記載によれば,甲14には,審決認定のとおり,以下の引用発明14が記載されていると認められる。
「イソクエルシトリン及びその糖付加物0.06重量%,エタノール0.08重量%,グリセリン0.08重量%を含有するか,又はイソクエルシトリン及びその糖付加 物0.03重量%,エタノール0.04重量%,グリセリン0.04重量%を含有する,ジュースビンに詰められたモデルジュース」 ウ 前記認定によれば,請求項1を引用する場合の本件訂正発明5と引用発明14とは,審決が正しく認定するとおり,少なくとも次の相違点8において相違する。
「請求項1を引用する場合の本件訂正発明5では,55℃で7日間保存した後のL 『* a*b*表色系におけるb*値から,製造直後のL *a*b*表色系におけるb*値を減じた値が2以下であり,前記b*値が前記容器詰飲料を試料として光路長10mmの石英セルに入れて分光光度計により測定されたものである』ことが限定されているのに対し,引用発明14では,そのような限定が明記されていない点。」 エ 引用発明14に係るジュースビンに詰められたモデルジュースは,前記アの甲14の記載のうち, 「赤キャベツ色素の退色試験」に関する図1の「サンメリンAO-1007」の「添加量1/250」「添加量1/500」という記載, , 「パプリカ色素の退色試験」に関する図2の「サンメリンAO-1007」の「添加量1/250」「添加量1/500」という記載と,前記6(1)アの甲1の表1のサン ,メリンAO-1007に係る「成分・重量%」欄の「酵素処理イソクエルシトリン15,グリセリン20,エタノール20」という記載に基づき認定されたものである。
そうすると,前記6(3)アの技術常識を有する当業者において,光照射による赤キャベツ色素とパプリカ色素の退色防止効果を有するとされるサンメリンAO-1007の添加により,引用発明14の赤キャベツ色素とパプリカ色素が添加された飲料について,光に暴露される典型的な場面の1つである保存中の光の影響による赤キャベツ色素とパプリカ色素の退色がどの程度防止されるかを確認するために,製造直後の飲料の色調と,特定の条件で保存した後の飲料の色調を,L*a*b*表色系により測定し,その差について確認することは,当業者における通常の創作活動の範囲内のものであるとみる余地がある。
しかしながら,引用発明14のジュースビンに詰められたモデルジュースは,本件訂正発明5との対比のために必要な限度で認定した前記イの認定においては,色調に関する限定はされていないものの,上記のとおり,赤キャベツ色素又はパプリカ色素が添加されているものであり,サンメリンAO-1007の添加による退色防止効果を確認する目的で作成されたものである。したがって,当業者において,その製造直後の飲料の色調と,ある条件で保存した後の飲料の色調とをL *a*b*表色系により測定し,その差を確認することを想到し得たとしても,退色防止効果の確認という目的に沿って,製造直後の飲料の色調を示す値(例えば,b*=5.0)から保存後の飲料の色調を示す値(例えば,b*=3.0)への減少の幅(例えば,Δb*=-2.0)をできるだけ抑制すること(例えば,Δb*は-2以上0以下)を志向するものであるから,本件訂正発明5において,着色防止効果をみる指標として規定されたΔb*が「2以下」との構成を想到することは容易ではないといわざるを得ない。
したがって,引用発明14において,相違点8に係る本件訂正発明5の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
そして,請求項2又は3を引用する場合の本件訂正発明5も,引用発明14に対して相違点8を有するから,同様である。
オ 原告は,甲38によれば,引用発明13の飲料はΔb* =-0.5〜-7.9,引用発明14の飲料はΔb*=-6.9〜-11.9であるから,相違点8は実質的な相違点ではなく,また,引用発明13及び引用発明14の飲料から酵素処理イエクエルシトリン,エタノール,グリセリンの配合比を多少変更した飲料についても,Δb*が2を下回ることは明らかであると主張する。
しかしながら,甲13にも,甲14にも,Δb*が原告主張のような数値であることの記載や示唆はなく,当業者が,引用発明13及び14の飲料のΔb*が2以下であることを認識することはできないから,相違点8は,実質的な相違点であり,原告の主張は,理由がない。
(3) 本件訂正発明5と引用発明13との相違点8の容易想到性についての判断の誤り)について ア 甲13には,以下の記載がある。
【請求項1】ビタミンC並びに,酵素処理イソクエルシトリン,ミリシトリン,クロロゲン酸,ルチン,イソクエルシトリン,ロスマリン酸,ロスマノール,カルノソール,カテキン類,酵素処理ルチン,没食子酸からなる群の1種以上を添加することを特徴とするヘマトコッカス藻色素の耐光性向上方法。
【0002】ヘマトコッカス藻色素は, ・・・から採取されるカロテノイド系色素であり,主成分はアスタキサンチンである。
【0003】 アスタキサンチンとは,水酸基を持つカロテノイド即ちキサントフィルの一種であり,ヘマトコッカスなどの藻類をはじめ,オキアミ,エビ,カニなどの甲殻類,サケ,タイ,コイ,金魚などの魚類,ファフィア酵母などに多く存在する天然の赤橙色の色素である。
【0006】 しかしながら,ヘマトコッカス藻色素の色調の変化,特に日光や蛍光灯の照射により生じる光による劣化を防止する方法については,未だに満足のいく解決策が開示されていないのが実情である。
【0008】 本発明によれば,様々な食品に添加したヘマトコッカス藻色素の耐光性を向上させ,食品をヘマトコッカス藻色素により赤色に着色した際に,太陽光や蛍光灯の照射を受けることによる色調の劣化,即ちヘマトコッカス藻色素量の減少を抑制することが可能となる。
【0021】・・・酵素処理イソクエルシトリンは含量15質量%の三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製サンメリンAO-1007を使用した。
【0022】飲料の処方 (部) 果糖ブドウ糖液糖 8 クエン酸(無水) 0.1 クエン酸三ナトリウム 0.04 ビタミンC 所定量 酵素処理イソクエルシトリン 所定量 ヘマトコッカス藻色素 0.1 イオン交換水にて全量 100【0023】 上記処方により得られた飲料を200ml容ペットボトルに充填し,次の条件に曝してアスタキサンチンの残存率を測定した。
【0026】実験2 酵素処理イソクエルシトリンの添加効果VC 添加量 : 0,100 (ppm)酵素処理イソクエルシトリン添加量 : 500,1000 (ppm)光照射装置:キセノンフェードメーターXWL-75R(スガ試験機(株)製)照射エネルギー : 265Langley,533Langley【0034】 表2の結果より,ビタミンCと酵素処理イソクエルシトリンを併用することにより,両者による相乗効果から,飲料中に含まれるアスタキサンチンの残存率を,飛躍的に向上させることが可能となることが明らかとなった。
イ 前記アの記載によれば,甲13には,審決認定のとおり,以下の引用発明13が記載されていると認められる。
「イソクエルシトリン及びその糖付加物0.05質量%,エタノール0.067質 量%,グリセリン0.067質量%を含有するか,イソクエルシトリン及びその糖付加物0.1質量%,エタノール0.133質量%,グリセリン0.133質量%を含有する,ペットボトルに充填された飲料」 ウ 前記認定によれば,請求項1を引用する場合の本件訂正発明5と引用発明13とは,審決が正しく認定するとおり,少なくとも次の相違点8において相違する。
「請求項1を引用する場合の本件訂正発明5では,55℃で7日間保存した後のL 『* a*b*表色系におけるb*値から,製造直後のL *a*b*表色系におけるb*値を減じた値が2以下であり,前記b*値が前記容器詰飲料を試料として光路長10mmの石英セルに入れて分光光度計により測定されたものである』ことが限定されているのに対し,引用発明13では,そのような限定が明記されていない点。」 エ 引用発明13に係るペットボトルに充填された飲料は,前記アの甲13の記載のうち, 【0021】【0022】【0023】【0026】の記載に基づき , , ,認定されたものであり,ヘマトコッカス藻色素量の光照射による減少を,酵素処理イソクエルシトリンの添加により抑制する実験に供されたものであり,酵素処理イソクエルシトリンとともに,赤橙色の色素であるアスタキサンチンを主成分とするヘマトコッカス藻色素を含有している。
そうすると,前記6(3)アの技術常識を有する当業者において,光照射によるヘマトコッカス藻色素量の減少を抑制することが可能であるとされる酵素処理イソクエルシトリンの添加により,引用発明13のヘマトコッカス藻色素が添加された飲料について,光に暴露される典型的な場面の1つである保存中の光の影響によるヘマトコッカス藻色素量の減少,すなわち「色調の劣化」(甲13【0008】)がどの程度防止されるかを確認するために,製造直後の飲料の色調と,特定の条件で保存した後の飲料の色調を,L *a*b*表色系により測定し,その差について確認することは,通常の創作活動の範囲内のものであるとみる余地がある。
しかしながら,前記(1)ウと同様の理由により,既に赤色の着色に利用される(甲 13【0008】)ヘマトコッカス藻色素が添加されているのに,敢えて赤色方向の彩度を示すa*値を採用せず,黄色方向の彩度を示すb*値を採用することを,当業者が容易に想到することができたとはいえない。また,前記(2)エと同様の理由により,色調の劣化,すなわち退色の防止の確認を目的として,色調の経時的な変化を確認するのであるから,本件訂正発明5において,着色防止効果をみる指標として規定されたΔb*が「2以下」との構成を想到することは,容易ではないといわざるを得ない。
したがって,引用発明13において,相違点8に係る本件訂正発明5の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
そして,請求項2又は3を引用する場合の本件訂正発明5も,引用発明13に対して相違点8を有するから,同様である。
(4) 小括 以上によれば,取消事由2-2は,理由がない。
8 取消事由2-3(本件訂正発明6と引用発明1との相違点9の容易想到性についての判断の誤り)について (1) 前記認定によれば,本件訂正発明6と引用発明1とは,審決が正しく認定するとおり,少なくとも前記第2の4(4)ウの相違点9(以下に再掲)において相違する。
「本件訂正発明6では, (B)の飲用可能な脂肪族アルコールとして,(B)イソア 『ミルアルコール,1-ヘキサノール及びプロピレングリコールから選ばれる少なくとも1種 0.001質量%以上1質量%未満を含有』するのに対し,引用発明1では,『エタノール0.10質量%,グリセリン0.10質量%を含有』する点。」 (2) 前記6(1)アのとおり,甲1では, 「酵素処理イソクエルシトリンを主剤とした,3種類の酸化防止剤製剤を開発,製造,販売している」として, 「液体製剤として,サンメリン?AO-1007及びサンメリン?AO-3000と,粉末製剤とし て,酵素処理イソクエルシトリンにL-アスコルビン酸を配合したサンメリン?パウダーC-10とを取り揃えている(表1)」とのみ紹介して,表1にこの3種類の製剤の成分・重量%を記載しているが,サンメリンAO-1007の成分であるエタノール及びグリセリンについては,これ以上の格別の記載はない。そうすると,「液体製剤」であるサンメリンAO-1007及びサンメリンAO-3000には含まれる一方, 「粉末製剤」であるサンメリンパウダーC-10には含まれていないエタノール及びグリセリンについては, 「液体製剤」と「粉末製剤」の差異に起因する成分であり,酵素処理イソクエルシトリンを「液体製剤」とするための溶媒として用いられているものと認められる。
(3) そこで,本件優先日当時の酵素処理イエクエルシトリンの溶媒に関する技術常識について検討する。
ア 甲22(特開平2-86757号公報)には,果汁入り飲料に,酵素処理イソクエルシトリンに相当する,以下の式(1)で表される水易溶性フラボノイド類を添加して,濁り,オリの発生を防止する方法が開示されているが, 「フラボノイド類の飲料への添加方法については特に制約はなく粉末で添加してもよく,水またはエタノール,グリセリン,プロピレングリコール等の水に任意の割合で溶解する有機溶剤と水との混合溶剤に溶解した溶液を添加してもよい。と記載されている 」(特許請求の範囲,実施例1,2頁左下欄下から5行〜末行) イ 甲23(特開平8-112076号公報)には,食品の変退色防止のために,ルチン(酵素処理ルチンである酵素処理イソクエルシトリンも含む。)をプロピレングリコールに溶解しておいたものを用いることが記載されている(請求項1,2,4,6,【0006】。
) ウ 前記ア及びイによれば,本件優先日当時,飲食品に添加するための酵素処理イソクエルシトリンの溶媒として,エタノールやグリセリンと同様に,プロピレングリコールを用いることは周知であったと認められる。
(4) 以上によれば,引用発明1において,酵素処理イソクエルシトリンの溶媒であるグリセリンとエタノールに代えて,同様に酵素処理イソクエルシトリンの溶媒として周知であったプロピレングリコールを同量程度使用することは,当業者が容易に想到することができたものと認められる。
(5) 被告は,本件出願前においては,エタノール及びグリセリンという特定の溶媒を特定の割合でイソクエルシトリン及びその糖付加物に対して配合したときに良好な液体製剤が得られることが知られていただけであるから,これら以外の他の溶媒を用いることが当業者にとって当然であるとはいえないし,溶媒の目的で配合するのであれば,サンメリンAO-1007及びサンメリンAO-3000において,エタノール及びグリセリンを特定割合で配合し,原告主張のように「酵素処理イソクエルシトリンをなるべく多く溶解した状態で長期安定に保存できる」という良好な結果が既に得られている以上,これを他のアルコールに置換しようという動機付けがないと主張する。
しかしながら,プロピレングリコールは,イソクエルシトリン及びその糖付加物の溶媒として,エタノール及びグリセリンと同様に周知であったことは,前記(3)のとおりであるし,甲1には,エタノール及びグリセリンについて格別の記載はなく,溶媒以外の効用を果たすとか,他の溶媒よりも優れているというような,他の周知の溶媒を用いることをためらわせるような記載もないことは,前記(2)のとおりである。そうすると,引用発明1のエタノール及びグリセリンに代えて,プロピレング リコールを同量程度用いることは,当業者における通常の創作活動の範囲内のものと認められる。被告の主張は,理由がない。
(6) 以上によれば,取消事由2-3は,理由がある。
9 取消事由2-4(本件訂正発明7と引用発明1’並びに引用発明13’及び引用発明14’との相違点10の容易想到性についての判断の誤り)について (1) 本件訂正発明7と引用発明1’との相違点10の容易想到性について ア 前記認定によれば,請求項1を引用する場合の本件訂正発明7と引用発明1’とは,審決が正しく認定するとおり,少なくとも前記第2の4(5)ア(イ)の相違点10(以下に再掲)において相違する。
「請求項1を引用する場合の本件訂正発明7では,『成分(A)に対する成分(B)の質量比[(B)/(A)]が8.3〜30』であるが,引用発明1’では,(B) [/(A)]が2.67である点。」 イ 引用発明1’では,サンメリンAO-1007を用いていることから,イソクエルシトリン及びその糖付加物(A)と脂肪族アルコール(B)との質量比が2.67となっている。
そして,前記8(2)のとおり,サンメリンAO-1007に配合されたエタノールとグリセリンは,酵素処理イソクエルシトリンを溶解させて液体製剤とするための溶媒として使用されるものであるから,酵素処理イソクエルシトリンを溶解させることができれば,必要以上の脂肪族アルコールを用いる動機付けはない。
引用発明1’が記載されている甲1には,同様にエタノール及びグリセリンを酵素処理イソクエルシトリンの溶媒として使用した液体製剤としてサンメリンAO-3000が記載されているが,サンメリンAO-3000における酵素処理イソクエルシトリン(A)と脂肪族アルコール(B)の質量比も3.67にすぎず,本件訂正発明7における質量比の下限値8.3の半分にも満たない。
また,原告が引用する甲77には,飲料中における懸濁ケルセチンを安定化させ るに当たり,ケルセチンを高温のアルコールに溶解させて,1〜15wt%のケルセチンを有する可溶化ケルセチン溶液を形成し,可溶化形成することが記載され,実施例1では,温度150℃において,1.0gのケルセチンを20gのグリセロールに溶解させたケルセチン溶液を調製し,次いで,この可溶化ケルセチン溶液を,pH5において強く混合しながら,ジェランガムを含有する水溶液にゆっくりと添加して,0.5%のケルセチンを含有する均一な分散液を得て,この濃縮されたケルセチン分散液を飲料に添加し,飲料中に懸濁させたことが記載されている。しかしながら,ケルセチンは水に難溶性であるのに対し,酵素処理イソクエルシトリンは水に対する溶解性が改善されたものであるから,最終的に飲料において均一に混合するために必要とされる溶媒の量が,ケルセチンと酵素処理イソクエルシトリンと同程度であるとは考えられない。
したがって,引用発明1’において,溶媒の含有量を3倍以上増加させて,(B)/(A)を8.3〜30とすることを,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
そして,請求項2,3又は5を引用する場合の本件訂正発明7も,引用発明1’に対して相違点10を有するから,同様である。
ウ 原告は,飲料におけるエタノール等のアルコールの配合量をどうするかは,当業者が需要者の嗜好等に合わせて適宜選択することにすぎないし,イソクエルシトリンのようなポリフェノール成分に対しアルコールの配合量を多くすることも,本件訂正発明が属する技術分野において真新しいことではないから(甲77),イソクエルシトリン及びその糖付加物に対し,溶剤又は香料成分であるアルコールの配合量を8.3〜30の範囲内とすることは当業者であれば容易に想到できると主張する。
しかしながら,甲77記載のケルセチンに関する溶媒量を,ケルセチンとは水に対する溶解性が異なる酵素処理イソクエルシトリンの溶媒量として用いることができないことは,前記イのとおりである。
また,前記2(1)のとおり,本件明細書には,成分(A)と成分(B)の含有質量比は,「色調変化抑制,風味の点」から,数値範囲を限定したものであり(【0028】, ) これが8.3〜30の範囲内のときは,その範囲外のときとは異なり, 「風味」の一種である「こく味」が最高評価の「4」となること 【0058】 【0061】 ( 〜 )が開示されているから,需要者の嗜好等に合わせて適宜選択される設計事項ということはできない。
原告の主張は,理由がない。
(2) 本件訂正発明7と引用発明13’との相違点10の容易想到性について ア 前記7(3)アの記載によれば,甲13には,審決認定のとおり,以下の引用発明13’が記載されていると認められる。
「イソクエルシトリン及びその糖付加物0.05質量%,エタノール0.067質量%,グリセリン0.067質量%を含有するか,イソクエルシトリン及びその糖付加物0.1質量%,エタノール0.133質量%,グリセリン0.133質量%を含有し, 『酵素処理イソクエルシトリン』に対する『エタノールとグリセリンの合計量』の質量比が,2.67である,ペットボトルに充填された飲料」 イ 前記認定によれば,本件訂正発明7と引用発明13’とは,審決が正しく認定するとおり,少なくとも次の相違点10において相違する。
「本件訂正発明7では,『成分(A)に対する成分(B)の質量比[(B)/(A)]が8.3〜30』であるが,引用発明13’では,(B)/(A) [ ]が2.67である点。」 ウ 前記7(3)アのとおり,引用発明13’でも,サンメリンAO-1007を用いていることから,イソクエルシトリン及びその糖付加物(A)と脂肪族アルコール(B)との質量比が2.67となっている。
そうすると,前記(1)の引用発明1’についての検討と同様の理由により,引用発明13’において,相違点10に係る本件訂正発明7の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(3) 本件訂正発明7と引用発明14’との相違点10の容易想到性について ア 前記7(2)アの記載によれば,甲14には,審決認定のとおり,以下の引用発明14’が記載されていると認められる。
「イソクエルシトリン及びその糖付加物0.06重量%,エタノール0.08重量%,グリセリン0.08重量%を含有するか,又はイソクエルシトリン及びその糖付加物0.03重量%,エタノール0.04重量%,グリセリン0.04重量%を含有し,『酵素処理イソクエルシトリン』に対する『エタノールとグリセリンの合計量』の質量比が,2.67である,ジュースビンに詰められたモデルジュース」 イ 前記認定によれば,本件訂正発明7と引用発明14’とは,審決が正しく認定するとおり,少なくとも次の相違点10において相違する。
「本件訂正発明7では,『成分(A)に対する成分(B)の質量比[(B)/(A)]が8.3〜30』であるが,引用発明14’では,(B)/(A) [ ]が2.67である点。」 ウ 前記7(2)アのとおり,引用発明14’でも,サンメリンAO-1007を用いていることから,イソクエルシトリン及びその糖付加物(A)と脂肪族アルコール(B)との質量比が2.67となっている。
そうすると,前記(1)の引用発明1’についての検討と同様の理由により,引用発明14’において,相違点10に係る本件訂正発明7の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(4) 小括 以上によれば,取消事由2-4は,理由がない。
10 取消事由2-5(本件訂正発明8と引用発明1との相違点12の容易想到性についての判断の誤り)について (1) 前記認定によれば,請求項4を引用する本件訂正発明8と引用発明1とは,審決が正しく認定するとおり,少なくとも前記第2の4(6)ウの相違点12(以下に 再掲)において相違する。
「請求項4を引用する本件訂正発明8では, 『成分(B)が1-プロパノール,イソプロパノール,1-ブタノール,イソブタノール,アミルアルコール,イソアミルアルコール,1-ヘキサノール及びプロピレングリコールから選択される1種又は2種以上の飲用可能な脂肪族アルコール 0.001質量%以上1質量%未満を含有し』『 ,(成分(A)及び(B)が,酵素処理イソクエルシトリン15質量部に対してグリセリン20質量部及びエタノール20質量部からなる場合,並びに酵素処理イソクエルシトリン15質量部に対してグリセリン35質量部及びエタノール20質量部からなる場合を除く)』のに対し,引用発明1では,『エタノール0.10重量%,グリセリン0.10重量%』を含有する点。」 (2) 引用発明1において,酵素処理イソクエルシトリンの溶媒であるグリセリンとエタノールに代えて,同様に酵素処理イソクエルシトリンの溶媒として周知であったプロピレングリコールを同量程度使用することが,当業者が容易に想到することができたものであることは,前記8の取消事由2-3において検討したとおりである。
(3) 以上によれば,取消事由2-5は,理由がある。
11 結論 以上によれば,原告主張の審決取消事由のうち,@訂正要件に関する取消事由1-2は理由がなく,A記載要件に関する取消事由は,請求項9〜16に係る取消事由3-4(サポート要件違反の点)は理由があり,取消事由3-2(請求項2,5〜8に係る点)及び取消事由3-3は理由がなく,B進歩性に関する取消事由は,請求項6に係る取消事由2-3,請求項8に係る取消事由2-5は理由があり,請求項2に係る取消事由2-1,請求項5に係る取消事由2-2,請求項7に係る取消事由2-4は理由がない。
よって,審決のうち,請求項6及び8ないし16に係る部分を取り消し,原告の その余の請求は棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 片岡早苗
裁判官 古庄研
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