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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成27ワ1025 特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成27ワ23129 特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成25ワ8439 損害賠償請求事件 判例 特許
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事件 平成 28年 (ネ) 10003号 特許権侵害差止等請求控訴事件

控訴人日東紡績株式会社
訴訟代理人弁護士 浅村昌弘
同 松川直樹
補佐人弁理士金井建
同 井上洋一
被控訴人ユニチカ株式会社 (以下「被控訴人ユニチカ」という。)
訴訟代理人弁護士 山田威一郎
同 中村小裕
訴訟代理人弁理士 水谷馨也
補佐人弁理士田中順也
同 阿部清二
同 毛利裕一
被控訴人 株式会社ライフアートプランテック (以下「被控訴人LAP」という。) 1
訴訟代理人弁護士 西田正秀
同 神原浩
同 谷口宗彦
訴訟代理人弁理士 永田元昭
同 大田英司
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2017/01/18
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判(控訴の趣旨)
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは,原判決別紙物件目録記載の各製品を生産し,譲渡し,貸し渡し,若しくは輸入し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡若しくは貸渡しのための展示を含む。)をしてはならない。
3 被控訴人らは,その占有に係る原判決別紙物件目録記載の各製品及びその半製品を廃棄せよ。
4 被控訴人ユニチカは,控訴人に対し,3億0800万円及びこれに対する平成26年5月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を(被控訴人LAPと連帯して)支払え。
5 被控訴人LAPは,控訴人に対し,3億0800万円及びこれに対する平成26年5月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を(うち3億0800万円及びこれに対する同月17日から支払済みまで年5分の割合による金員については被控訴人ユニチカと連帯して)支払え。
事案の概要
本件は,発明の名称を「透明不燃性シート及びその製造方法」とする特許第5142002号の特許権(以下「本件特許権1」といい,同特許権に係る特許を「本 2 件特許1」といい,その願書に添付した明細書を「本件明細書1」という。)及び発明の名称を「透明不燃性シートからなる防煙垂壁」とする特許第5142055号の特許権(以下「本件特許権2」といい,同特許権に係る特許を「本件特許2」といい,その願書に添付した明細書を「本件明細書2」という。また,本件特許権1と本件特許権2を併せて「本件各特許権」といい,本件特許1と本件特許2を併せて「本件各特許」といい,本件明細書1と本件明細書2を併せて「本件各明細書」という。 の特許権者である控訴人が, ) 被控訴人LAPが製造する原判決別紙物件目録記載1の防煙垂壁(以下「本件防煙垂壁」という。)は,本件特許1の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る各発明(以下「本件発明1-1」ないし「本件発明1-3」という。 又は本件特許2の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る各発 )明(以下「本件発明2-1」ないし「本件発明2-4」という。また,本件発明1-1ないし1-3と本件発明2-1ないし2-4を併せて「本件各発明」という。)の技術的範囲に属し,被控訴人ユニチカが製造して被控訴人LAPに販売する原判決別紙物件目録記載2のシート(以下「本件シート」という。)は,上記のとおり本件各特許の直接侵害品である本件防煙垂壁の生産にのみ用いるもの又は本件各発明による課題の解決に不可欠なものであり,これについて間接侵害(特許法101条1号又は2号)が成立する旨主張して,被控訴人らに対し,特許法100条1項,2項に基づき,本件防煙垂壁及び本件シート(以下,両者を併せて「本件防煙垂壁等」という。)の生産,譲渡,貸渡し,輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出(以下,これらを併せて「譲渡等」という。)の差止め並びに本件防煙垂壁等及びその半製品の廃棄を求めるとともに,被控訴人らによる特許権侵害の共同不法行為が成立する旨主張して,民法709条,719条に基づき,損害賠償金3億0800万円及びこれに対する不法行為の後である各訴状送達日の翌日(被控訴人LAPについては平成26年5月16日,被控訴人ユニチカについては同月17日)から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払(ただし,同月16日の遅延損害金については連帯せず被控訴人LAPのみの支払)を求める事案である。
3 原審は,本件各発明についての特許は,特許法29条2項に該当し,訂正の対抗主張(再抗弁)も成り立たないから,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとして,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人は,原判決を不服として,控訴を提起した。
1 前提事実(争いのない事実等) 前提事実(争いのない事実等)については,次のとおり付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第2,2記載のとおりであるから,これを引用する(以下,原判決を引用する場合は, 「原告」を「控訴人」「被告」を「被控訴人」「別紙」を「原 , ,判決別紙」とそれぞれ読み替える。。
) (1) 原判決9頁19行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「(エ) 上記無効審判手続において,特許庁は,本件訂正1を認めた上,本件訂正発明1-1ないし1-3に係る特許を無効とする旨の審決をした。控訴人は,上記審決の取消しを求めて,知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起した。」 (2) 原判決10頁24行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「(エ) 上記無効審判手続において,特許庁は,本件訂正2を認めた上,本件訂正発明2-1ないし2-4に係る特許を無効とする旨の審決をした。控訴人は,上記審決の取消しを求めて,知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起した。」 (3) 原判決121頁(別紙訂正目録2)14行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「2G 全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下であり,」 2 争点及び争点に対する当事者の主張 争点及び争点に対する当事者の主張は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」の第2,3及び4記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決12頁4行目冒頭から13頁16行目末尾までを次のとおり改める。
「ア 争点1-1(本件防煙垂壁は構成要件1E・2Eを充足するか)について 本件各発明により規定される屈折率は,「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成 4 するガラス組成物」と「一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物」についてのものであるから,その屈折率の測定は,それらを生成するために用いられる前駆物質(原料)を対象とするものではない。本件各発明における「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」と「一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物」の屈折率を測定するためには,防煙垂壁を構成する透明不燃シートが,少なくとも一枚のガラス繊維織物とガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層が一体となって構成されているから,それぞれを粉体に分離して測定の対象とする必要がある(甲8の2)。
粉体の形態の屈折率の測定方法としては, 「JIS K 7142」のB法(ベッケ法)の原理を用いることが一般的であり(甲203),最も適した方法であるといえる。
本件シートにおけるガラスクロスを構成するガラス組成物及び硬化樹脂層を構成するビニルエステル樹脂の各屈折率は,JIS 「 K 7142」のB法(ベッケ法)に従って測定すると,前者は1.564ないし1.565,後者は1.570であり,両者の差は約0.005ないし0.006である。
また,控訴人は,本件シートが付着したパンフレットを入手し,再度測定を第三者に依頼した(甲8の2)。本件シートをガラス繊維粉体と樹脂粉体に分離し,それぞれ屈折率とアッベ数を測定したところ,上記樹脂粉体の屈折率は1.566,上記ガラス繊維粉体の屈折率は1.565であり,両者の差は0.001(0.02以下)であった(甲8の3)。
したがって,本件シートからなる本件防煙垂壁は,本件発明1-1ないし1-3の構成要件1E及び本件発明2-1ないし2-4の構成要件2Eを充足する。
イ 争点1-2(本件防煙垂壁は構成要件1F・2Fを充足するか)について 本件シートにおけるガラスクロスを構成するガラス組成物及び硬化樹脂層を構成するビニルエステル樹脂の各アッベ数は,前者は56.4,後者は28.5であり,両者の差は約27.9である。
また,上記アのとおり,控訴人は,本件シートが付着したパンフレットを入手し, 5 再度測定を第三者に依頼した(甲8の2) 本件シートをガラス繊維粉体と樹脂粉体 。
に分離し,それぞれアッベ数を測定したところ,上記樹脂粉体のアッベ数は35,上記ガラス繊維粉体のアッベ数56であり,両者の差は21(30以下)であった(甲8の3)。
したがって,本件シートからなる本件防煙垂壁は,本件発明1-1ないし1-3の構成要件1F及び本件発明2-1ないし2-4の構成要件2Fを充足する。
ウ 争点1-3(本件防煙垂壁は本件各発明の作用効果を奏しないことによりその技術的範囲に属しないといえるか)について 本件シート及び本件防煙垂壁は,照明の光を当てると青色の色彩を呈するものとはいえないし,仮に多少の青みを帯びるとしても,着色が抑えられたシートを提供するという本件各発明の作用効果を奏しない理由にはならない。
エ 小括 以上を前記前提事実(4)ウと総合すれば,本件防煙垂壁は,本件各発明の技術的範囲に属し,被控訴人LAPによる本件防煙垂壁の譲渡等は,本件各特許権の直接侵害を構成する。
【被控訴人らの主張】 ア 争点1-1(本件防煙垂壁は構成要件1E・2Eを充足するか)について 本件シートの樹脂組成物の屈折率に関する控訴人の測定方法は,本件各明細書(本件明細書1の段落【0095】及び【0096】,本件明細書2の段落【0096】及び【0097】)に記載された樹脂の屈折率の測定方法(A法)と相違する(少なくとも,本件各明細書の記載から, 「JIS K 7142」のB法であると解釈することは困難である。。そして,本件シートにおけるガラスクロスを構成するガラ )ス組成物と硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下であると認めることはできない。
したがって,本件シートからなる本件防煙垂壁は,本件発明1-1ないし1-3の構成要件1E及び本件発明2-1ないし2-4の構成要件2Eを充足しない。
6 イ 争点1-2(本件防煙垂壁は構成要件1F・2Fを充足するか)について 本件各明細書には,ガラス組成物の測定方法に関する記載はなく,樹脂組成物の屈折率の測定方法として記載されている「JIS K 7142」は, 「プラスチックの屈折率測定方法」であり,ガラス組成物の屈折率測定方法として規定されているものではない。ガラス組成物の測定方法については,出願当時, 「JIS K 7142」に記載されているA法と同様の測定原理である臨界角法,B法と同様の測定原理である浸液法だけでなく,Vブロック法や最小偏角法等も想定されるところ,その測定方法の違いによって測定値も相違することが知られている。控訴人の主張内容(本件各特許の無効審判において,控訴人は,本件各発明のガラス繊維の屈折率についてはVブロック法で測定されている旨主張している。 等に照らしても, ) 樹脂組成物の屈折率の測定方法として「JIS K 7142」が記載されていることをもって,ガラスの組成物の屈折率について,そのB法で測定されるべきものといえないことは明らかである。また,控訴人は, 「測定方法について限定のない」などの表現を用いて,屈折率及びアッベ数の測定方法には限定がないことを明言しているほか,部材の屈折率は本件シートの設計値であるとか,部材であるガラス組成物や樹脂組成物の屈折率を部材メーカー等から得ることを前提にしている発明であるとさえ主張している。
本件シートのガラス組成物のアッベ数については,本件シートのガラス組成物の原材料である「EFガラス原材料201012」をVブロック法により測定することが相当である(乙あ74) そして, 。 本件シートの製造に用いたガラスヤーン(糸)ECE225 1/0(22.5tex)」と同一のガラス組成物であるガラスマーブル「EFガラス原材料201012」のアッベ数は,Vブロック法に従って測定した屈折率に基づいて算出すると,63.1である。これと本件シートにおける硬化樹脂層を構成するビニルエステル樹脂のアッベ数(28.5)との差は,34.6であり,30を超える。
控訴人は,本件シートにおけるガラスクロスを構成するガラス組成物及び硬化樹 7 脂層を構成するビニルエステル樹脂の各屈折率及びアッベ数は,「JIS K 7142」のB法(ベッケ法)に従って測定すると(甲8),構成要件1F・2Fを充足する旨主張するけれども,上記に照らすと,その測定結果は本件各発明の技術的範囲の属否の判断に影響を与えるものではなく,構成要件1F・2Fを充足することを認めるに足りる証拠はないといえる。
したがって,本件シートからなる本件防煙垂壁は,本件発明1-1ないし1-3の構成要件1F及び本件発明2-1ないし2-4の構成要件2Fを充足しない。」 (2) 原判決16頁18行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「さらに,本件各発明が課題の一つとしている透過光の色付きは,ガラス繊維織物内におけるガラス繊維フィラメント間及び経糸と緯糸とが重なり合う織目部分において,経糸と緯糸の間に生じる隙間にガラス組成物とは屈折率やアッベ数の異なる物質が入り込むことにより生じる現象を指しているところ,提出された各文献は,全て当該現象が生じることのない板ガラスよりなる防炎垂壁についての文献であるから,透過光の色付きという課題を認識しようがない。」 (3) 原判決17頁1行目の「又は遮煙スクリーン」を削る。
(4) 原判決17頁3行目末尾に,行を改めて,次のとおり加え,同頁4行目の「(オ)」を「(ク)」と改める。
「(オ) 本件各発明では,シートを透明にするために,樹脂を被覆させたガラス繊維織物ではなく,含浸させたガラス繊維織物を使用していること,樹脂を被覆しただけのガラス繊維織物は透明とはなりえないこと,乙あ1発明は,あくまで天井に垂壁を取り付ける方法に関する発明であることなどを踏まえれば,乙あ1発明にいう「樹脂で被覆したガラス繊維織物」と本件各発明の「透明不燃性シート」との間に一致点はない。
(カ) 防炎垂壁を不燃性にするという周知の課題及び防炎垂壁を透明で無色にすることが好ましいという周知の課題の両方を満たす材料としては,そもそも不燃性であり,屈折率やアッベ数の異なる組成物間の境界面がないので適宜の調整を経る 8 までもなく透明で無色であることが明らかな「板ガラス」が好適であるから, 「防煙垂壁を透明で無色にすることが好ましい」という周知の課題を解決するために,乙あ1発明に乙あ10発明のウエルディングカーテン材を適用する理由はない。
また,主引例である乙あ1文献で開示されている樹脂被覆ガラス繊維織物を用いた防煙垂壁に, 「地震時に落下したら割れるという問題点」は既に解決していると考えるのであれば,副引例である乙あ9文献又は乙あ10文献に記載された発明を組み合わせる動機付けが検討されなければならない。乙あ1発明と組み合わせる動機付けがあり得る他の引例としては,施工者の取付容易性について記載されたものであるはずであるが,無効理由1の副引例とされる乙あ9文献又は乙あ10文献のいずれにおいてもそのような記載はない。乙あ1発明に副引例である乙あ9発明又は乙あ10発明を組み合わせる動機付けはない。
(キ) 本件各発明は,透明で,着色が抑えられ,不燃性で,落下して割れることが防止できるという,従来品では,同時に満たすことができなかった優れた特性を同時に実現できる防炎垂壁を得るという課題を設定した上で,当該課題を解決したことに格別な技術的意義が存在する。このことは本件各発明の実施品が商業的成功を収めていることからも明らかである。」 (5) 原判決24頁13行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「ガラス組成物の屈折率の測定方法には,@最小偏角法,A焦点移動による方法,B浸液法(液浸法,ベッケ法,B法ともいう。,C臨界角法(A法ともいう。,D ) )Vブロック法などがあり,各測定方法によって測定値も異なる数字になるものであるから,仮に,屈折率に「真の値」が存在するとしても,屈折率の値は測定方法によってまちまちとなり,何をもって「真の値」とするか確定しない。同じガラス組成物について,Vブロック法による測定値が浸液法(B法)による測定値と比べて最大で+0.0077になることに鑑みると,上記測定値の差異は,ガラス繊維を構成するガラス組成物と硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下との構成の充足性の判断に重大な影響を与える差異であり,単なる測定上の 9 誤差ということはできない。」 (6) 原判決25頁3行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「本件各発明にいう「ガラス繊維を構成するガラス組成物」の屈折率及び「硬化樹脂層を構成する樹脂組成物」の屈折率はいずれも,シートとなった状態におけるこれら物質の固有の「真の値」を意味するものであり,多義ではない。したがって,屈折率による数値限定により本件各発明を構成するガラス組成物及び樹脂組成物を指定する手法は,請求項の記載自体から明確であると考えられる。
なお,本件各明細書に記載の「JIS K 7142」の「プラスチックの屈折率測定方法」にはA法とB法とが含まれるが,これらA法及びB法はいずれも「真の値」が存在する屈折率を測定する方法として規格とされたものである(乙あ28)。
JIS K 7142によれば,A法及びB法のいずれによっても,本件各発明における屈折率の「真の値」をほぼ同じ精確さで測定することができる。」
当裁判所の判断
当裁判所は,本件シートからなる本件防煙垂壁は,本件各発明の構成要件1F・2Fを充足せず,その技術的範囲に属するものとは認められないから,控訴人は,被控訴人らに対し,本件各特許権に基づく差止等の請求をすることができないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 争点1(本件防煙垂壁は本件各発明の技術的範囲に属するか)について (1) 本件各発明について 本件明細書1(甲2)には,次の記載がある(本件明細書2(甲4)にも同様の記載がある(図面については,別紙本件明細書図面目録参照)。
) ア 背景技術 「【0002】 建築基準法及び建築基準法施行令は,建築物の火災時に発生する煙や有毒ガスの流動を妨げ,避難や消火活動が円滑に行えるよう排煙設備を設けることを規定している。そして,排煙設備や遮煙設備の一環として,オフィスビル,ショッピングモ 10 ール等の建築物には防煙垂壁や遮煙スクリーンが設置されることが多い。
【0003】 防煙垂壁は,建築物の天井に取り付けられるので,一般的には,視野を妨げないように,透明な板ガラスが用いられている。また,遮煙スクリーンはエレベータ前などの天井部に設けた格納箱にポリイミド製フィルムの巻体を格納し,災害時にポリイミド製フィルムを引き出すことができるようにしている。板ガラスやポリイミド製フィルムは,不燃性に優れていて,火災の時にも燃えない。
【0004】 しかし,防煙垂壁としての板ガラスは,落下防止のための措置を施しても,落下して割れることがあった。例えば,平成15年5月26日18時24分頃,岩手,宮城県境沖を震源として発生した,M7,震度6弱の「三陸南地震」では,防煙垂壁ガラスの破損が報告されている。そこで,防煙垂壁として,板ガラス以外の素材のニーズがある。また,遮煙スクリーンとしてのポリイミド製フィルムは透明であるが,黄色味を帯びているため,更なる透明性の向上が望まれている。」 イ 先行技術文献 「【0005】 特許文献1は,不燃シート材を開示している。この不燃シート材では,ガラス繊維織物と樹脂層との屈折率の差について規定しておらず,不燃シート材は必然的に不透明である。そして,不透明な不燃シート材を防煙垂壁に用いる場合には,視野を妨げ,オフィス,商業施設等の美観を損ねるので,建築材料としては問題があった。そこで,透明で,不燃性に優れ,かつ,割れない建築材料が所望される。
【0006】 【特許文献1】特開2003-276113号公報[判決注:乙あ18]」 ウ 発明の効果 「【0015】 本発明の透明不燃性シートは,不燃性のガラス繊維織物を用い,かつ,硬化樹脂 11 層の重量が所定範囲内であるので,不燃性になる。ガラス繊維織物と硬化樹脂層との屈折率の差が0.02以下であるので,ガラス繊維織物を視認できなくなり,透明になる。また,ガラス繊維織物と硬化樹脂層とのアッベ数の差が30以下であるので,ガラス繊維織物と硬化樹脂層との界面で,可視光領域の散乱が少なくなり,着色も抑えることができる。」 エ 実施の形態 (ア) 透明不燃性シート10の説明 「【0018】 図1は,本発明の一実施態様の透明不燃性シートを示す。透明不燃性シート10は,ガラス繊維織物20と,ガラス繊維織物20を挟む一対の硬化樹脂層32,34とを含む。一対の硬化樹脂層32及び硬化樹脂層34は,ガラス繊維織物20の隙間を充填し,互いに連続している。」 (イ) ガラス繊維織物20の説明 「【0019】 ガラス繊維織物20では,複数の経糸22と,複数の緯糸24とが組み合わさっている。ガラス繊維織物とは,ガラス繊維を経糸及び緯糸に用いて,織った布をいう。ガラス繊維織物は,ガラスクロスと呼ばれることもある。・・・ 【0021】 ガラス繊維織物20中の隣接する経糸22の間の隙間28が0.5mm以下であることが好ましく,0.2mm以下であることが更に好ましい。また,ガラス繊維織物20中の隣接する緯糸24の間の隙間が0.5mm以下であることが好ましく,0.2mm以下であることが更に好ましい。ガラス繊維織物の経糸22又は緯糸24の隙間が狭い場合には,炎がガラス繊維織物を通過し難くなるからである。
【0022】 ガラス繊維織物中のガラス繊維としては,汎用の無アルカリガラス繊維(Eガラス),耐酸性の含アルカリガラス繊維(Cガラス),高強度・高弾性率ガラス繊維(S 12 ガラス,Tガラス等),耐アルカリ性ガラス繊維(ARガラス)等があげられるが,汎用性の高い無アルカリガラス繊維の使用が好ましい。・・・ 【0034】 透明不燃性シート1m2当たり,1枚のガラス繊維織物の重量は20〜150g/m2であることが好ましい。1枚のガラス繊維織物の重量が150g/m 2を越える場合には,硬化樹脂の含浸速度が遅くなり,作業性が低下したり,含浸不良を起こすことがある。」 (ウ) 硬化樹脂層32,34の説明 「【0027】 図1では,硬化樹脂層32及び硬化樹脂層34が,ガラス繊維織物20を両側から挟んでいる。また,硬化樹脂層32及び硬化樹脂層34が,ガラス繊維織物20の隙間を充填し,互いに連続している。さらに,硬化樹脂層32及び硬化樹脂層34は,ガラス繊維織物20に接触している。・・・ 【0029】 硬化樹脂層は,ビニルエステル樹脂,不飽和ポリエステル樹脂,又はエポキシ樹脂などで構成されていることが好ましく,耐熱性,耐薬品性,機械的強度,硬化特性に優れている点で,ビニルエステル樹脂で構成されていることが更に好ましい。」 (エ) ガラス繊維織物と硬化樹脂の量比 「【0032】 本発明の一実施態様では,ガラス繊維織物20が20〜70重量%であり,一対の硬化樹脂層32,34が80〜30重量%である。ガラス繊維織物20が20重量%未満の場合には,硬化樹脂層32,34の量が多くなり,透明不燃性シートの不燃性が低下する。一方,ガラス繊維織物20が70重量%を越える場合には,硬化樹脂層32,34の厚さが薄くなり,ガラス繊維織物の模様が浮き出てしまう場合があり,また,透明不燃性シートの透明性が低下する。なお,後述の建築基準法の評価法に基づく発熱性試験において,変形,熔融,亀裂などの損傷を抑え,不燃 13 性をさらに向上させ,不燃性の認定に合格する水準にするために,本発明の透明不燃性シートは,ガラス繊維織物20が30〜70重量%であり,一対の硬化樹脂層32,34が70〜30重量%であることが好ましい。」 (オ) 屈折率 「【0035】 本発明では,ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下である。このように屈折率の差が小さいので,不燃性シートが透明になる。屈折率とは,光が二つの媒質の境界で屈折するとき,入射角の正弦と屈折角の正弦との比をいう。屈折率は,両媒質中の光の速さの比に等しい。
【0036】 本発明では,ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物の屈折率は,特に制限がないが,例えば,1.4〜1.7の範囲であることが好ましく,1.5〜1.6の範囲であることが更に好ましい。なお,ガラス繊維を構成するガラス組成物が無アルカリガラスの場合には,屈折率を1.55〜1.57の範囲にすることができる。
【0037】 硬化樹脂層の屈折率測定方法は,JIS K 7142の「プラスチックの屈折率測定方法」(Determination of the refractive index of plastics)に従う。具体的には,ガラス繊維織物が含まれていない硬化性樹脂のフィルムを,ガラス繊維織物を含む場合と同じ条件で作成し,アッベ屈折計を用いて測定する。」 (カ) アッベ数 「【0038】 本発明では,ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差が30以下である。アッベ数は, 14 透明体の色収差を評価する数値であり,可視光領域の散乱の評価に用いられる。材料のアッベ数Vは次のように定義される。
【0039】 【0040】 nD, nF , nC は材料の波長がそれぞれ D-589.2 nm, F-486.1 nm , C-656.3 nm の光に対する屈折率である。
【0041】 ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物のアッベ数は,特に制限がないが,例えば,35〜75の範囲であることが好ましく,50〜70の範囲であることが更に好ましい。」 (キ) 不燃性 「【0042】 本発明の透明不燃性シートは,輻射電気ヒ-タ-から透明不燃性シートの表面に50kW/m2 の輻射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2 以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2 を超えないことが好ましい。本発明の透明不燃性シートが,具体的にどの程度不燃性であるかを建築基準法における評価法に基づいて数値で示したものである。」 (ク) 全光線透過率,ヘーズ 「【0043】 本発明の透明不燃性シートは,全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが30%以下であることが好ましく,全光線透過率が85%以上であり,かつ,2 15 0%以下であることが更に好ましい。本発明の透明不燃性シートが,具体的にどの程度透明であるかを数値で示したものである。・・・ 【0045】 透明不燃性シートのヘーズの測定方法は,JIS K 7105の「プラスチックの光学的特性試験方法」(Testing Methods for Optical Properties of Plastics)「6.4ヘーズ」に従 ,う。具体的には,積分球式測定装置を用いて拡散透過率及び全光線透過率を測定し,その比によって表す。
【0046】 【0047】 H:ヘーズ(%) Td:拡散透過率(%) Tt:全光線透過率(%)」 オ 施工の一例 「【0112】 本発明の透明不燃性シートは,防煙垂壁又は遮煙スクリーンとして好適に用いることができる。 遮煙スクリーンは,例えば,エレベーターのドアの外側の上部に,丸めた状態で収納されている。そして,火災等の非常時に,遮煙スクリーンがエレベーターのドアの前に降下し,エレベーター中に煙が侵入するのを防止ないし低減する。」 (2) 構成要件1E・2Eの意義について 本件各発明の特許請求の範囲の記載のうち構成要件1E・2Eは, 「前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する 16 樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下であり,」とされているところ,ガラス組成物の屈折率について,繊維化する前のガラス組成物の屈折率をいうのか,ガラス繊維の屈折率をいうのかについては,特許請求の範囲の記載からは必ずしも明らかではない。さらに,このことは,構成要件1F・2Fの「アッベ数」についても,3波長の屈折率から算出される値であるところ 【0039】, ( ) 屈折率に基づいて算出されるアッベ数にも影響を与えるものであるといえる。
この点,証拠(乙あ90ないし93)及び弁論の全趣旨によると,ガラス繊維は溶けたガラスを冷却して作製されるものであるところ,同じ組成のガラスでありながら,繊維とした場合その性質が変わってくること,また,ガラスを急冷した場合と徐冷した場合とでも屈折率が異なることが認められる。また,証拠(甲11,25,31,乙あ27ないし29,75,89)及び弁論の全趣旨によると,a 一般に,ガラス組成物やプラスチック等の屈折率の測定方法として,@最小偏角法(プリズム状に加工した試料に入射する光の入射角を走査して,分光器を用いて入射光と屈折光との偏角の最小値を求める方法) A焦点移動による方法 , (光学顕微鏡などの集光観察系の対物側に平行平板試料を挿入したときの焦点の移動量からの屈折率を求める方法),B浸液法(対象物を粉砕して粉末状にし,その試料粉末を屈折率浸液に浸し,光学顕微鏡で粒子と浸液との境界に発生するベッケ線現象を観察して測定する方法。液浸法,ベッケ法,B法ともいう。 ,C臨界角法(ガラス融液又は樹 )脂組成物から作成した板状又はフィルム状の試料片を屈折率既知の標準プリズムの上面に置き,標準プリズムと試料との界面にほぼ平行に光を照射し,アッベないしプルフリッヒ屈折計で測定する方法。A法ともいう。,DVブロック法(Vブロッ )クプリズム上に同ブロック状の試料を載せ,プリズムの壁面の法線上から光を入射し,屈折率を算出する方法)などがあること,b 測定方法が異なれば,測定値も異なる数字になる(例えば,同じ試料であっても,A法によるか,B法によるかによって,測定値は異なる数字となる。ことがあり, ) c 同じガラス組成物について,Vブロック法による測定値が浸液法(B法)による測定値と比べて最大で+0.0 17 077になることもあること,d a,bの事実は本件各出願当時から知られていたことが認められる。
そこで,構成要件1E・2Eについて,本件各明細書の記載を参酌して判断する。
ア 本件明細書1(甲2)には,次の記載がある(本件明細書2にも同様の記載がある。。
) (ア) 「【0035】 本発明では,ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下である。このように屈折率の差が小さいので,不燃性シートが透明になる。屈折率とは,光が二つの媒質の境界で屈折するとき,入射角の正弦と屈折角の正弦との比をいう。屈折率は,両媒質中の光の速さの比に等しい。
【0036】 本発明では,ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物の屈折率は,特に制限がないが,例えば,1.4〜1.7の範囲であることが好ましく,1.5〜1.6の範囲であることが更に好ましい。なお,ガラス繊維を構成するガラス組成物が無アルカリガラスの場合には,屈折率を1.55〜1.57の範囲にすることができる。
【0037】 硬化樹脂層の屈折率測定方法は,JIS K 7142の「プラスチックの屈折率測定方法」(Determination of the refractive index of plastics)に従う。具体的には,ガラス繊維織物が含まれていない硬化性樹脂のフィルムを,ガラス繊維織物を含む場合と同じ条件で作成し,アッベ屈折計を用いて測定する。」 (イ) 実施例 「【0080】 日東紡績(株)から販売されているガラス繊維織物(商品名 WEA116E) 18 を200mmx200mmの正方形に裁断した。このガラス繊維織物は,American Society for Testing Material(ASTM)のガラス繊維織物の規格2116に対応する。
【0081】 このガラス繊維織物は,日東紡績(株)から販売されているガラス繊維,ECE225を経糸及び緯糸として織ったものである。・・・ 【0083】 ガラス繊維,ECE225は,Eガラスからなり,フィラメント直径は約7μmである。Eガラスの屈折率は,1.558であり,アッベ数は58である。Eガラスの組成は,52〜56重量%のSiO 2,12〜16重量%のAl 2O3,15〜25重量%のCaO,0より多く6重量%以下のMgO,並びに,0より多く1重量%以下のNa2O及びK2Oを含む。Eガラスの密度は,2.58g/cm3であり,引張強度(23°C)は3.43GPaである。・・・ 【0095】 油化シェル(株)製エポキシ樹脂,エピコート1001を95重量部,エピコートA154を5重量部,和光純薬(株)製ジシアンジアミドを5重量部,広島化成製イミダゾールを0.2重量部,及び,メチルセルソルブを20重量部をスターラーにて30分間,攪拌し,未硬化のエポキシ樹脂ワニスを得た。そして,得られたエポキシ樹脂ワニスにガラス繊維織物を浸漬し,余分なエポキシ樹脂ワニスをステンレス鋼棒でかき落とし,エポキシ樹脂ワニス50重量%,ガラス繊維織物50重量%に調整した。その後,130°Cの熱風乾燥機にて10分間加熱し,半硬化状態のシートを得た。
【0096】 この半硬化状態のシートを鏡面加工した2枚のステンレス鋼板の間に挟み,170°Cに温度調節した平面熱圧プレスにセットし,面圧力490N/?で加熱加圧成形を行い,エポキシ樹脂を完全に硬化させ,不燃性シートを得た。なお,この硬 19 化条件にて,ガラス繊維織物を用いなかった場合には,硬化したエポキシ樹脂シートの屈折率は1.52であった。・・・ 【0098】 日東紡績(株)から販売されているガラス繊維織物(商品名 WLA240)を用いた。このガラス繊維織物は,日東紡績(株)から販売されているガラス繊維,ECG75を経糸として,ECG37を緯糸として織ったものである。
・・・ガラス繊維,ECG75及びECG37は,何れもEガラスからなり,フィラメント直径は何れも約9μmである。」 (ウ) 表1 イ 前記アによると,本件各明細書には,樹脂組成物の屈折率について「硬化樹脂層の屈折率測定方法は,JIS K 7142の「プラスチックの屈折率測定方法」(Determination of the refractive index of plastics)に従う。具体的には,ガラス繊維織物が含まれていない硬化性樹脂のフィルムを,ガラス繊維織物を含む場合と同じ条件で作成し,アッベ屈折計を用いて測定する。と記載されていることが認められる。
」 したがって,樹脂組成物の屈折率については,「JIS K 7142」(甲203)に規定されたA法(板状またはフィルム状試験片に適用)とB法(粉末状,ペレット状,顆粒状サンプルに適用)のうち,アッベ屈折計を用いるとされるA法により測定される 20 ことが記載されていると認められる。
これに対し,ガラス組成物の屈折率については,いくつかの測定方法があり,測定方法が相違すると測定値も異なることがあることは前記認定のとおりであるけれども,本件各特許の特許請求の範囲の記載では,ガラス組成物の屈折率の測定方法が特定されていないし,また,本件各明細書における発明の詳細な説明にも,ガラス組成物の屈折率の測定方法は明記されていないことが認められる。
もっとも,このような場合であっても,本件各明細書におけるガラス組成物等の屈折率に関する記載を合理的に解釈し,当業者の技術常識参酌して,ガラス組成物の屈折率の測定方法を合理的に推認することができるときには,そのように解釈すべきである。
まず,前記アの本件各明細書の記載においては,特に,ガラス繊維織物に織られたガラス繊維の品番ECE225,ECG75,ECG37等が特定されているのに対し,そのガラス繊維であるECE225,ECG75,ECG37等の屈折率が表示されていないこと,その原料であるEガラスの屈折率が1.558であると表示されており,表1におけるガラス繊維織物の屈折率にもその1.558が用いられていることなどを考慮すると,本件各発明における「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」の「屈折率」は,ガラス繊維の屈折率を測定して得られたものではなく,繊維化する前のガラス組成物(原料)の屈折率であると認めるのが相当である。なお,Eガラスにも各種品目があり,Eガラスの屈折率については,1.548(乙あ93),1.560(乙あ11)のものもあるところ,本件各明細書においては,Eガラスの中でも,屈折率が1.558のものが用いられたものと推認することができる。また,本件各明細書には,硬化樹脂の屈折率の測定方法についての記載があるのに対し,ガラス組成物の屈折率の測定法についての記載がないのは,ガラス組成物について,商品データベース(甲26)などから,その屈折率が得られることから,独自に測定する必要性がないことによるということができる。前記のとおり,実測によらないガラス組成物の屈折率は,実際のシー 21 ト状態となったガラス繊維の屈折率とは一致しない可能性はあるけれども,上記で認定した「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」の商品カタログ等における「屈折率」を採用することで,硬化樹脂に埋め込まれたガラス繊維を分離して,屈折率を測定する煩雑さを回避することができることを考慮すると,このような定め方も不合理であるとはいえないし,本件明細書の表1によれば,ガラス繊維の原料であるEガラス組成物の屈折率である1.558を用いた上で,硬化樹脂との界面の透明性を確保することが可能となっていることが認められる。
以上によれば, 「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」の「屈折率」は,繊維化する前のガラス組成物の屈折率を指すものと認めるのが相当である。また,前記認定のとおり, 「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物の屈折率」は,素材メーカーが製品とともに公表したものであることを前提とすると,ガラス組成物の屈折率は「JIS K 7142」 (プラスチックの屈折率の測定方法)で測定されたものと解することはできず,むしろ,ガラス組成物(Eガラス)について素材メーカーが一般に採用する合理的な屈折率の測定方法により測定されたものと解するのが自然な解釈であるといえる。そして,素材メーカーがEガラスについて商品データベースにおいて表示している屈折率は,小数点以下第3位のものが多いことからすると(甲26,乙あ11,93),少なくとも有効数字が小数点以下第4位まで測定できる測定方法である必要がある。また,証拠(甲45,乙あ27,89,108)及び弁論の全趣旨によれば,小数点以下第4位まで測定できる測定方法としては,精度の高い最小偏角法(精度は約1×10-5)と,次に精度が高いVブロック法(精度は約2×10-5)及び臨界角法(精度は1×10-4 )のいずれかであると認められるところ,このうち表示される屈折率が上記のとおり小数点以下第3位のものが多く,最も精度の高いものまで要求されないことや,Vブロック法による測定が最も簡便であって,試料の作成も容易であること(乙あ89)を考慮すると,素材メーカーがEガラスについて一般に採用する合理的な屈折率の測定方法は,Vブロック法であると推認するのが相当である。現に,本件に 22 おいて,控訴人及び被控訴人ユニチカが,本件シートや本件各発明の実施品のガラス組成物の屈折率を,専門機関に依頼した上で,Vブロック法で測定していること(甲24,乙あ74,97の1)も,このことを裏付けるものである。
なお,本件各明細書には,樹脂組成物の屈折率については, 「JIS K 7142」に規定されたA法により測定されることが記載されていること,ガラス組成物の屈折率の測定方法については明確な記載がないものの,「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」の「屈折率」としては,繊維化する前のガラス組成物の屈折率が記載されており,その測定方法は前記のとおりVブロック法であると推認されることからすると,樹脂組成物の屈折率の測定方法については, 「JIS K 7142」の「B法」を追加する本件各訂正は新規事項の追加であり,ガラス組成物の屈折率の測定方法については, 「JIS K 7142」を追加し,あるいはその「B法」を追加する本件各訂正はいずれも新規事項の追加である。
したがって,本件各訂正請求は,特許法126条1項訂正要件に反するものであり,本件各訂正請求を認めた審決は未だ確定していないことからすれば(当裁判所に顕著な事実である。,本件においては,本件防煙垂壁が本件各発明の技術的範 )囲に属するか否かについて,本件各訂正請求の内容を考慮せずに判断すべきである(仮に,本件各訂正請求を認める審決が確定すると,本件各訂正発明は,特許法123条1項8号の無効理由を有するものとなる。。
) (3) 争点1-1(本件防煙垂壁は構成要件1E・2Eを充足するか)について 控訴人は,本件シートから得たガラス組成物及びビニルエステル樹脂の粉末試料について,その屈折率を「JIS K7142」のB法(ベッケ法)により測定したところ,「前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差」は0.006(0.001)であったから,本件シートからなる本件防煙垂壁は構成要件1E・2Eを充足する旨主張する。
しかし,前記認定のとおり,構成要件1E・2Eの「ガラス繊維織物中のガラス 23 繊維を構成するガラス組成物」の「屈折率」は,繊維化する前のガラス組成物の屈折率を指すものと認めるのが相当であるから,本件シートから得たガラス組成物及びビニルエステル樹脂の粉末試料について,屈折率を「JIS K7142」のB法(ベッケ法)により測定した結果によっては,ガラス組成物の屈折率は明らかにならないといわざるを得ない(繊維化する前後で,ガラス組成物の屈折率は異なり,さらに測定方法によっても屈折率が異なることは前記認定のとおりである。。
) もっとも,控訴人及び被控訴人らのいずれの測定方法によっても,ガラス組成物と樹脂組成物の屈折率の差(構成要件1E・2E)は, 「0.02以下」を大きく下回るものであり(甲8,62,乙あ97の1),上記屈折率の差が0.02の場合には,白濁が生じ透明性が劣ることは技術常識であるといえるところ(乙あ10,11),本件シートは透明であると認められるから(乙あ31,70),本件防煙垂壁が構成要件1E・2Eを充足する可能性は高いものといい得る。
(4) 争点1-2(本件防煙垂壁は構成要件1F・2Fを充足するか)について 控訴人は,本件シートから得たガラス組成物及びビニルエステル樹脂の粉末試料について,屈折率を「JIS K7142」のB法(ベッケ法)により測定した上で,その屈折率等により,ガラス組成物及び樹脂のアッベ数を算出したところ,それぞれ56.4及び28.5で,アッベ数の差は27.9であり(甲8),再度実験した結果によってもアッベ数の差は21であったから(甲8の2,8の3),アッベ数の差は30以下となり,構成要件1F・2Fを充足する旨主張する。
しかし,前記認定のとおり,構成要件1E・2Eの「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」の「屈折率」は,繊維化する前のガラス組成物の屈折率を指すものと認めるのが相当であるから,本件シートから得たガラス組成物及びビニルエステル樹脂の粉末試料について,屈折率を「JIS K7142」のB法(ベッケ法)により測定した結果によっては,ガラス組成物の屈折率は明らかにならず,したがって,アッベ数についても明らかにならないのであり,本件シートが構成要件1F・2Fを充足していることの立証はないものといわざるを得ない。
24 かえって,証拠(乙あ97の1)及び弁論の全趣旨によれば,本件シートの製造に使用したガラスヤーン(糸) 「ECE225 1/0(22.5tex)」の原料と同一のガラス組成物であるガラスマーブル「EFガラス原材料201012」について,Vブロック法を用いて有効数字を小数点以下第3位として四捨五入して屈折率を測定し,その屈折率によってアッベ数を算出したところ,その数値は63.1であったことが認められる。そして,樹脂組成物のアッベ数については,控訴人が測定した28.5(甲8)を前提とすると,本件シートからなる防煙垂壁は, 「前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差」が34.6であるから,その差が「30以下であり,」との構成要件1F・2Fを充足すると認めることはできない。
そして,本件各発明は, 「ガラス繊維織物と硬化樹脂層とのアッベ数の差が30以下であるので,ガラス繊維織物と硬化樹脂層との界面で,可視光領域の散乱が少なくなり,着色も抑えることができる。( 」【0015】)との効果を奏するのに対し,本件シートからなる本件防煙垂壁は,透明ではあるが,無色透明というよりは,やや青色を帯びており(乙あ70の2),この点で,本件各発明の効果を奏しているということも困難である。
控訴人は,本件各発明により規定される屈折率は, 「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」と「一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物」についてのものであるから,その屈折率の測定は,それらを生成するために用いられる前駆物質(原料)を対象とするものではない旨主張する。しかし,本件各明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,本件各発明における「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」の「屈折率」は,ガラス繊維の屈折率を測定して得られたものではなく,繊維化する前のガラス組成物(原料)の屈折率であると認められることは前記認定のとおりであり,ガラス繊維の原料であるEガラス組成物の屈折率である1.558を用いた場合でも,硬化樹脂との界面の透明性を確保することが可能となっていることも前記認定のとおりである。したがって,控訴人の上 25 記主張は採用することができない。
以上によれば,本件シートからなる本件防煙垂壁が,構成要件1F・2Fを充足すると認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。
2 本件シートからなる本件防煙垂壁は,本件各発明の構成要件1F・2Fを充足せず,したがって,本件各発明の技術的範囲に属するものとは認められない。
3 結論 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求はいずれも理由がなく,控訴人の請求を棄却した原判決は結論において相当であるから,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 設樂一
裁判官 岡田慎吾
裁判官 中島基至
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