関連審決 |
無効2014-800037 |
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事件 |
平成
27年
(行ケ)
10234号
審決取消請求事件
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原告日東紡績株式会社 訴訟代理人弁護士 浅村昌弘 同 松川直樹 訴訟代理人弁理士 金井建 同 井上洋一 被告ユニチカ株式会社 訴訟代理人弁護士 山田威一郎 同 中村小裕 訴訟代理人弁理士 田中順也 同 水谷馨也 同 阿部清二 同 毛利裕一 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2017/01/18 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が無効2014−800037号事件について平成27年10月1日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文同旨 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(争いがない。) 原告は,発明の名称を「透明不燃性シート及びその製造方法」とする発明に係る特許第5142002号(平成16年5月11日特許出願,平成24年11月30日設定の登録。以下,この特許を「本件特許」という。甲150)の特許権者である。 被告は,平成26年3月10日,特許庁に対し,本件特許を無効にすることを求めて審判の請求をした。特許庁は,上記請求を無効2014-800037号事件として審理をした。原告は,その審理の過程で,平成27年5月18日,本件特許の特許請求の範囲及び明細書について訂正の請求(以下「本件訂正」という。 をし, )さらに,同年8月6日,本件訂正に係る訂正請求書を補正する手続補正をした。 特許庁は,同年10月1日, 「請求のとおり訂正を認める。特許第5142002号の請求項1ないし3及び7に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は,被請求人の負担とする。」との審決をし,その謄本を,同年10月8日,原告に送達した。 2 特許請求の範囲の記載(甲150) 本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲のうち請求項1ないし3,7の記載は,以下のとおりである(以下,請求項1ないし3,7に記載された発明をそれぞれ「本件発明1」などといい,これらをまとめて「本件発明」という。また,本件訂正前の本件特許の明細書及び図面をまとめて「本件明細書」といい,本件訂正後のものを「本件訂正明細書」という。。請求項の分説及びアルファベット等の表示は裁判 )所による(審決と同じ)。なお,本件訂正により,請求項4ないし6は削除された。 「【請求項1】 A1.透明不燃性シートからなる防煙垂壁であって, B.該透明不燃性シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前記ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明不燃性シートであって, C.前記硬化樹脂がビニルエステル樹脂であり, D.前記ガラス繊維織物が30〜70重量%であり,前記一対の硬化樹脂層が70〜30重量%であり, F.前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下であり, G.前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差が30以下であり, H.全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下であり, I.輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えない透明不燃性シートであり, J.前記屈折率の値は,JIS K 7142に従って測定される測定値であり, O.前記ガラス繊維はEガラスからなる, K.防煙垂壁。 【請求項2】 A1.透明不燃性シートからなる防煙垂壁であって, B.該透明不燃性シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前記ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明不燃性シートであって, C.前記硬化樹脂がビニルエステル樹脂であり, D.前記ガラス繊維織物が30〜70重量%であり,前記一対の硬化樹脂層が70〜30重量%であり, F.前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下であり, G.前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差が30以下であり, H.全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下であり, I.輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えない透明不燃性シートであり, L.前記透明不燃性シートが,前記ガラス繊維織物中の隣接する経糸の間の隙間が0.5mm以下であり,又は,前記ガラス繊維織物中の隣接する緯糸の間の隙間が0.5mm以下であり, J2.前記硬化樹脂層の屈折率の値は,JIS K 7142のB法に従って測定される測定値であり,前記ガラス繊維織物を構成するガラス組成物の屈折率の値はJIS K 7142のB法におけるプラスチックをガラスに替えた方法に従って測定される測定値であり, O.前記ガラス繊維はEガラスからなる, K.防煙垂壁。 【請求項3】 A1.透明不燃性シートからなる防煙垂壁であって, B.該透明不燃性シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前記ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明不燃性シートであって, C.前記硬化樹脂がビニルエステル樹脂であり, D.前記ガラス繊維織物が30〜70重量%であり,前記一対の硬化樹脂層が70〜30重量%であり, F.前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下であり, G.前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差が30以下であり, H.全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下であり, I.輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えない透明不燃性シートであり, E.前記透明不燃性シートが,前記透明不燃性シート1m2当たり,前記一対の硬化樹脂層の重量が15〜500gの範囲であり, J4.前記屈折率の値は,JIS K 7142に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値であり, O.前記ガラス繊維はEガラスからなる, K.防煙垂壁。 【請求項7】 A1.透明不燃性シートからなる防煙垂壁であって, B.該透明不燃性シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前記ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明不燃性シートであって, C.前記硬化樹脂がビニルエステル樹脂であり, D.前記ガラス繊維織物が30〜70重量%であり,前記一対の硬化樹脂層が70〜30重量%であり, F.前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下であり, G1.前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差として,有効数字を少なくとも2桁でそれぞれ求めた前記ガラス組成物と前記樹脂組成物のアッベ数の差が30以下であり, H.全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下であり, I1.輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えない, P.ように成形される透明不燃性シートから選択される透明不燃性シートであり, E.前記透明不燃性シートが,前記透明不燃性シート1m2当たり,前記一対の硬化樹脂層の重量が15〜500gの範囲であり, L.前記ガラス繊維織物中の隣接する経糸の間の隙間が0.5mm以下であり,又は,前記ガラス繊維織物中の隣接する緯糸の間の隙間が0.5mm以下であり, J3.前記硬化樹脂層の屈折率の値は,JIS K 7142のB法に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値であり,前記ガラス繊維織物を構成するガラス組成物の屈折率の値は前記JIS K 7142のB法におけるプラスチックをガラスに替えた方法に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値であり, O.前記ガラス繊維はEガラスからなる, K.防煙垂壁。」 3 審決の理由の要旨 審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。その要旨は,本件訂正を認めた上で,@本件発明は,本件特許の出願前に頒布された刊行物である米国特許第5240058号明細書(甲1。訳文は甲212の3。以下「甲1文献」という。)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)及び特開平5-123869号公報(甲10。 「甲10文献」 以下 という。 に記載された発明 ) (以下「甲10発明」という。)又は「清野坦外2名,“ガラスクロス補強透明難燃シート(エスロンUTシート), ”40th FRP CON-EX’95 講演要旨集,社団法人強化プラスチック協会,1995年,B-27/1〜B-27/2頁」 (甲9。以下「甲9文献」という。)に記載された発明(以下「甲9発明」という。)並びに周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである,A本件発明は,米国特許第5090163号明細書(甲8。訳文は甲213。以下「甲8文献」という。)に記載された発明(以下「甲8発明」という。)及び甲10発明又は甲9発明並びに周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである,B本件発明は,甲9発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである,C本件発明は,甲10発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである,Dしたがって,本件発明についての特許は特許法123条1項2号に該当するから無効とすべきである,というものである。 審決が認定した甲1発明,甲8発明,甲9発明及び甲10発明並びに本件発明と甲1発明,甲8発明,甲9発明及び甲10発明の各一致点及び相違点は,以下のとおりである。 (1) 甲1発明 ア 甲1発明の内容 「a1 建築物の屋根デッキの下側から垂下された,樹脂で被覆したガラス繊維織物からなる, k1 煙封じ込めカーテン。」 (なお,甲1文献に従来例として開示された発明(以下「甲1発明の2」という。)については,「甲1発明に類似した構成を有し,「樹脂含浸ガラス繊維織物」を用いた「煙封じ込めカーテン」の発明が把握される。」と認定されている。) イ 本件発明1との一致点及び相違点 (ア) 一致点 A1’.樹脂で被覆したガラス繊維織物からなる防煙垂壁であって, B1’.該樹脂で被覆したガラス繊維織物が,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前記ガラス繊維織物の少なくとも一方の表面を被覆する樹脂層と,を含む K. 防煙垂壁。 (イ) 相違点 @ 相違点1-1 構成要件A1及びIに関し,本件発明1は, 「樹脂で被覆したガラス繊維織物」が「透明不燃性シート」であり「輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えない」ものであるのに対し,甲1発明では, 「樹脂で被覆したガラス繊維織物」について,このような特定がされていない点。 A 相違点1-2 構成要件F,G,H及びJに関し,本件発明1は, 「透明不燃性シート」の「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」と「一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物」との「屈折率の差が0.02以下」 「アッベ数の差が30以下」 で,であり,透明不燃性シートの「全光線透過率が80%以上」であり,かつ, 「ヘーズが20%以下」であり, 「屈折率の値は,JIS K 7142に従って測定される測定値」であるのに対し,甲1発明では, 「樹脂で被覆したガラス繊維織物」の「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」と「樹脂層を構成する樹脂組成物」との「屈折率の差」及び「アッベ数の差」が特定されておらず,かつ「樹脂で被覆したガラス繊維織物」の「全光線透過率」及び「ヘーズ」の値が特定されておらず,「屈折率」の測定方法が特定されていない点。 B 相違点1-3 構成要件B,C及びDに関し,本件発明1は,透明不燃性シートが「少なくとも1枚のガラス繊維織物と,ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む」ものであり, 「ガラス繊維織物を挟む一対の樹脂層」の「樹脂」が「ビニルエステル樹脂」であり, 「ガラス繊維織物が30〜70重量%であり,一対の硬化樹脂層が70〜30重量%」であるのに対し,甲1発明では,樹脂で被覆したガラス繊維織物が「ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層」を含むこと, 「樹脂」が「ビニルエステル樹脂」であること,及び「ガラス繊維織物と樹脂層との重量比」が特定されていない点。 C 相違点1-4 構成要件Oに関し,本件発明1は,ガラス繊維がEガラスであるのに対し,甲1発明ではそのように特定していない点。 ウ 本件発明2との一致点及び相違点 (ア) 一致点 一致点は,前記イ(ア)のとおりである(本件発明1と同じ)。 (イ) 相違点 相違点1-1ないし相違点1-4に加え,次の相違点1-5,1-6で相違する。 @ 相違点1-5 構成要件J2に関し,本件発明2は, 「屈折率の値は,JIS K 7142のB法に従って測定される測定値」であるのに対し,甲1発明では,このように特定されていない点。 A 相違点1-6 構成要件Lに関し,本件発明2は,透明不燃性シートが「ガラス繊維織物中の隣接する経糸の間の隙間が0.5mm以下であり,又は,ガラス繊維織物中の隣接する緯糸の間の隙間が0.5mm以下である」のに対し,甲1発明では,これらが特定されていない点。 エ 本件発明3との一致点及び相違点 (ア) 一致点 一致点は,前記イ(ア)のとおりである(本件発明1と同じ)。 (イ) 相違点 相違点1-1ないし相違点1-4に加え,次の相違点1-7及び相違点1-8でも相違する。 @ 相違点1-7 「透明不燃性シートが1m2当たり,一対の硬 構成要件Eに関し,本件発明3は,化樹脂層の重量が15〜500gの範囲である」のに対し,甲1発明では,このように特定されていない点。 A 相違点1-8 構成要件J4に関し,本件発明3は, 「屈折率の値は,JIS K 7142に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値」であるのに対し,甲1発明では,このように特定されていない点。 オ 本件発明7との一致点及び相違点 (ア) 一致点 一致点は,前記イ(ア)のとおりである(本件発明1と同じ)。 (イ) 相違点 相違点1-1ないし1-4,1-6,1-7に加え,次の相違点1-9ないし1-11でも相違する。 @ 相違点1-9 構成要件G1に関し,本件発明7は,ガラス組成物と樹脂組成物のアッベ数が,それぞれ有効数字を少なくとも2桁で求めたものであるのに対し,甲1発明では,これらが特定されていない点。 A 相違点1-10 構成要件J3に関し,本件発明7は,「硬化樹脂層の屈折率の値は,JIS K7142のB法に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値」であり, 「ガラス繊維織物を構成するガラス組成物の屈折率の値はJIS K 7142のB法におけるプラスチックをガラスに替えた方法に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値」であるのに対し,甲1発明では,このように特定されていない点。 B 相違点1-11 構成要件I1及びPに関し,本件発明7は,構成要件B,C,D,F,G1(G),H及びI1(I)を満たす透明不燃性シートのうちから,構成要件E,J3,L及びOを満たす透明不燃性シートから選択されるものであることを特定しているのに対し,甲1発明ではそのようなことを特定していない点。 (2) 甲8発明 ア 甲8発明の内容 a8 天井から主に垂直方向に下に伸びている,透明シートからなる煙シールドを含むカーテン煙幕組立品であって, b8 前記透明シートはプラスチックである k8 カーテン煙幕組立品。 イ 本件発明1との一致点及び相違点 (ア) 一致点 A8’.透明シートからなる防煙垂壁であって, B8’.該透明シートが,樹脂製品である K. 防煙垂壁。 (イ) 相違点 @ 相違点8-1 構成要件A1及びIに関し,本件発明1は, 「透明シート」 「透明不燃性シート」 がであり「輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えない」ものであるのに対し,甲8発明では, 「透明シート」についてそのようなことが特定されていない点。 A 相違点8-2 構成要件F,G,H及びJに関し,本件発明1は, 「透明不燃性シート」の「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」と「一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物」との「屈折率の差が0.02以下」 「アッベ数の差が30以下」 で,であり,透明不燃性シートの「全光線透過率が80%以上」であり,かつ, 「ヘーズが20%以下」であり, 「屈折率の値は,JIS K 7142に従って測定される測定値」であるのに対し,甲8発明では, 「透明シート」についてそのようなことが特定されていない点。 B 相違点8-3 構成要件B,C及びDに関し,本件発明1は, 「透明不燃性シート」が「少なくとも1枚のガラス繊維織物と,ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む」ものであり,「硬化樹脂がビニルエステル樹脂」であり,「ガラス繊維織物が30〜70重量%であり,一対の硬化樹脂層が70〜30重量%」であるのに対し,甲8発明では,「透明シート」についてそのようなことが特定されていない点。 C 相違点8-4 構成要件Oに関し,本件発明1は,ガラス繊維がEガラスであるのに対し,甲8発明ではそのように特定していない点。 ウ 本件発明2との一致点及び相違点 (ア) 一致点 一致点は,前記イ(ア)のとおりである(本件発明1と同じ)。 (イ) 相違点 相違点8-1ないし8-4に加え,次の相違点8-5,8-6で相違する。 @ 相違点8-5 構成要件J2に関し,本件発明2は, 「屈折率の値は,JIS K 7142のB法に従って測定される測定値」であるのに対し,甲8発明では,このように特定されていない点。 A 相違点8-6 構成要件Lに関し,本件発明2は,透明不燃性シートが「ガラス繊維織物中の隣接する経糸の間の隙間が0.5mm以下であり,又は,ガラス繊維織物中の隣接する緯糸の間の隙間が0.5mm以下である」のに対し,甲8発明では,これらが特定されていない点。 エ 本件発明3との一致点及び相違点 (ア) 一致点 一致点は,前記イ(ア)のとおりである(本件発明1と同じ)。 (イ) 相違点 相違点8-1ないし8-4に加え,次の相違点8-7,8-8でも相違する。 @ 相違点8-7 「透明不燃性シートが1m2当たり,一対の硬 構成要件Eに関し,本件発明3は,化樹脂層の重量が15〜500gの範囲である」のに対し,甲8発明では,このように特定されていない点。 A 相違点8-8 構成要件J4に関し,本件発明3は, 「屈折率の値は,JIS K 7142に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値」であるのに対し,甲8発明では,このように特定されていない点。 オ 本件発明7との一致点及び相違点 (ア) 一致点 一致点は,前記イ(ア)のとおりである(本件発明1と同じ)。 (イ) 相違点 相違点8-1ないし8-4,8-6,8-7に加え,次の相違点8-9ないし相違点8-11でも相違する。 @ 相違点8-9 構成要件G1に関し,本件発明7は,ガラス組成物と樹脂組成物のアッベ数が,それぞれ有効数字を少なくとも2桁で求めたものであるのに対し,甲8発明では,これらが特定されていない点。 A 相違点8-10 構成要件J3に関し,本件発明7は,「硬化樹脂層の屈折率の値は,JIS K7142のB法に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値」であり, 「ガラス繊維織物を構成するガラス組成物の屈折率の値はJIS K 7142のB法におけるプラスチックをガラスに替えた方法に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値」であるのに対し,甲8発明では,このように特定されていない点。 B 相違点8-11 構成要件I1及びPに関し,本件発明7は,構成要件B,C,D,F,G1(G),H及びI1(I)を満たす透明不燃性シートのうちから,構成要件E,J3,L及びOを満たす透明不燃性シートから選択されるものであることを特定しているのに対し,甲8発明ではそのようなことを特定していない点。 (3) 甲9発明 ア 甲9発明の内容 a9 透明難燃シートからなるカーテン類であって, b9 前記透明難燃シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前記ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明難燃シートであって, e9 前記透明難燃シート1u当たり,前記一対の硬化樹脂層の重量が375g/uより小さい範囲であり, f9 前記透明難燃シートを構成するガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.005未満であり, h9 全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%である, i9 建築用薄物材料の難燃性試験JIS-A-1322防炎1級に合格し,かつ,建築工事用シートの溶接及び溶断火花に対する難燃性試験JIS-A-1323C種に合格している, k9 カーテン類。 イ 本件発明1との一致点及び相違点 (ア) 一致点 A9’.透明シートからなるカーテン類であって, B9’.該透明シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前記ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明シートであり, F.前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下であり, H.全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下である, K9’.カーテン類。 (イ) 相違点 @ 相違点9-1 構成要件A1及びJに関し,本件発明1は, 「防煙垂壁」であるのに対し,甲9発明は「防煙垂壁」であることが特定されていない点。 A 相違点9-2 構成要件A1及びIに関し,本件発明1は, 「透明シート」 「透明不燃性シート」 がであり「輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えない」ものであるのに対し,甲9発明では, 「透明シート」についてそのようなことが特定されていない点。 B 相違点9-3 構成要件G及びJに関し,本件発明1は, 「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」と「一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物」との「アッベ数の差が30以下」であり, 「屈折率の値は,JIS K 7142に従って測定される測定値」であるのに対し,甲9発明では, 「透明シート」についてそのようなことが特定されていない点。 C 相違点9-4 構成要件C及びDに関し,本件発明1は,硬化樹脂が「ビニルエステル樹脂」であり, 「ガラス繊維織物が30〜70重量%であり,一対の硬化樹脂層が70〜30重量%」であるのに対し,甲9発明では,硬化樹脂が「ビニルエステル樹脂」であるとは特定されておらず,かつ,ガラス繊維織物と一対の硬化樹脂層の重量比が特定されていない点。 D 相違点9-5 構成要件Oに関し,本件発明1は,ガラス繊維がEガラスであるのに対し,甲9発明ではそのように特定していない点。 ウ 本件発明2との一致点及び相違点 (ア) 一致点 一致点は,前記イ(ア)のとおりである(本件発明1と同じ)。 (イ) 相違点 相違点9-1ないし9-5に加え,次の相違点9-6,9-7でも相違する。 @ 相違点9-6 構成要件J2に関し,本件発明2は, 「屈折率の値は,JIS K 7142のB法に従って測定される測定値」であるのに対し,甲9発明では,このように特定されていない点。 A 相違点9-7 構成要件Lに関し,本件発明2は,透明不燃性シートが「ガラス繊維織物中の隣接する経糸の間の隙間が0.5mm以下であり,又は,ガラス繊維織物中の隣接する緯糸の間の隙間が0.5mm以下である」のに対し,甲9発明では,これらが特定されていない点。 エ 本件発明3との一致点及び相違点 (ア) 一致点 一致点は,前記イ(ア)のとおりである(本件発明1と同じ)。 (イ) 相違点 相違点9-1ないし9-5に加え,次の相違点9-8,9-9でも相違する。 @ 相違点9-8 「透明不燃性シートが1m2当たり,一対の硬 構成要件Eに関し,本件発明3は,化樹脂層の重量が15〜500gの範囲である」のに対し,甲9発明では,このように特定されていない点。 A 相違点9-9 構成要件J4に関し,本件発明3は, 「屈折率の値は,JIS K 7142に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値」であるのに対し,甲9発明では,このように特定されていない点。 オ 本件発明7との一致点及び相違点 (ア) 一致点 一致点は,前記イ(ア)のとおりである(本件発明1と同じ)。 (イ) 相違点 相違点9-1ないし9-5,9-7,9-8に加え,次の相違点9-10ないし9-12でも相違する。 @ 相違点9-10 構成要件G1に関し,本件発明7は,ガラス組成物と樹脂組成物のアッベ数が,それぞれ有効数字を少なくとも2桁で求めたものであるのに対し,甲9発明では,これらが特定されていない点。 A 相違点9-11 構成要件J3に関し,本件発明7は,「硬化樹脂層の屈折率の値は,JIS K7142のB法に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値」であり, 「ガラス繊維織物を構成するガラス組成物の屈折率の値はJIS K 7142のB法におけるプラスチックをガラスに替えた方法に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値」であるのに対し,甲9発明では,このように特定されていない点。 B 相違点9-12 構成要件I1及びPに関し,本件発明7は,構成要件B,C,D,F,G1(G),H及びI1(I)を満たす透明不燃性シートのうちから,構成要件E,J3,L及びOを満たす透明不燃性シートから選択されるものであることを特定しているのに対し,甲9発明ではそのようなことを特定していない点。 (4) 甲10発明 ア 甲10発明の内容 a10 透明難燃性シートからなる吊り下げ方式のウエルディングカーテンであって, b10 前記透明難燃シートが少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前記ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明難燃性シートであり, c10 前記硬化樹脂がビニルエステル樹脂であり, f10 前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.0002であり, h10 全光線透過率が91.8%であり,ヘーズが約14%であり, i10 JIS-A-1323に準拠して行った難燃性試験のB種試験及びC種試験のいずれにも適合している透明難燃シートである, k10 ウエルディングカーテン。 イ 本件発明1との一致点及び相違点 (ア) 一致点 A10’.透明シートからなるカーテンであって, B10’.該透明シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前記ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明シートであり, C.前記硬化樹脂がビニルエステル樹脂であり, F.前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下であり, H.全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下である, K10’.カーテン。 (イ) 相違点 @ 相違点10-1 構成要件A1及びJに関し,本件発明1は, 「防煙垂壁」であるのに対し,甲10発明は「吊り下げ方式のウエルディングカーテン」である点。 A 相違点10-2 構成要件A1及びIに関し,本件発明1は, 「透明シート」 「透明不燃性シート」 がであり「輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えない」ものであるのに対し,甲10発明では, 「透明シート」についてそのようなことが特定されていない点。 B 相違点10-3 構成要件G及びJに関し,本件発明1は, 「透明不燃性シート」の「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差が30以下」であり, 「屈折率の値は,JIS K 7142に従って測定される測定値」であるのに対し,甲10発明では, 「透明シート」についてそのようなことが特定されていない点。 C 相違点10-4 構成要件Dに関し,本件発明1は, 「透明不燃性シート」が「ガラス繊維織物が30〜70重量%であり,一対の硬化樹脂層が70〜30重量%」であるのに対し,甲10発明では,「透明シート」についてそのようなことが特定されていない点。 D 相違点10-5 構成要件Oに関し,本件発明1は,ガラス繊維がEガラスであるのに対し,甲10発明ではそのように特定していない点。 ウ 本件発明2との一致点及び相違点 (ア) 一致点 一致点は,前記イ(ア)のとおりである(本件発明1と同じ)。 (イ) 相違点 相違点10-1ないし10-5に加え,次の相違点10-6,10-7でも相違する。 @ 相違点10-6 構成要件J2に関し,本件発明2は, 「屈折率の値は,JIS K 7142のB法に従って測定される測定値」であるのに対し,甲10発明では,このように特定されていない点。 A 相違点10-7 構成要件Lに関し,本件発明2は,透明不燃性シートが「ガラス繊維織物中の隣接する経糸の間の隙間が0.5mm以下であり,又は,ガラス繊維織物中の隣接する緯糸の間の隙間が0.5mm以下である」のに対し,甲10発明では,これらが特定されていない点。 エ 本件発明3との一致点及び相違点 (ア) 一致点 一致点は,前記イ(ア)のとおりである(本件発明1と同じ)。 (イ) 相違点 相違点10-1ないし10-5に加え,次の相違点10-8,10-9でも相違する。 @ 相違点10-8 「透明不燃性シートが1m2当たり,一対の硬 構成要件Eに関し,本件発明3は,化樹脂層の重量が15〜500gの範囲である」のに対し,甲10発明では,このように特定されていない点。 A 相違点10-9 構成要件J4に関し,本件発明3は, 「屈折率の値は,JIS K 7142に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値」であるのに対し,甲10発明では,このように特定されていない点。 オ 本件発明7との一致点及び相違点 (ア) 一致点 一致点は,前記イ(ア)のとおりである(本件発明1と同じ)。 (イ) 相違点 相違点10-1ないし10-5,10-7,10-8に加え,次の相違点10-10ないし10-12でも相違する。 @ 相違点10-10 構成要件G1に関し,本件発明7は,ガラス組成物と樹脂組成物のアッベ数が,それぞれ有効数字を少なくとも2桁で求めたものであるのに対し,甲10発明では,これらが特定されていない点。 A 相違点10-11 構成要件J3に関し,本件発明7は,「硬化樹脂層の屈折率の値は,JIS K7142のB法に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値」であり, 「ガラス繊維織物を構成するガラス組成物の屈折率の値はJIS K 7142のB法におけるプラスチックをガラスに替えた方法に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値」であるのに対し,甲10発明では,このように特定されていない点。 B 相違点10-12 構成要件I1及びPに関し,本件発明7は,構成要件B,C,D,F,G1(G),H及びI1(I)を満たす透明不燃性シートのうちから,構成要件E,J3,L及びOを満たす透明不燃性シートから選択されるものであることを特定しているのに対し,甲10発明ではそのようなことを特定していない点。 |
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原告主張の取消事由
1 取消事由1(本件発明と甲1発明との一致点の認定の誤り(相違点の看過)) (1) 本件発明1について 審決は,「樹脂」「ガラス繊維織物」という用語が共通することのみに着目して, ,前記第2,3(1)イ(ア)のとおり,本件発明1と甲1発明の一致点を認定したものと推測される。しかし,本件発明1では,シートを透明にするために,樹脂を被覆させたガラス繊維織物ではなく,含浸させたガラス繊維織物を用いていること,樹脂を被覆しただけのガラス繊維織物は透明となり得ないこと,甲1発明は,あくまで天井に垂壁を取り付ける方法に関する発明であって,甲1文献には透明性について一切の説明がないことなどを踏まえれば,甲1発明にいう「樹脂で被覆したガラス繊維織物」と本件発明1の「透明不燃性シート」との間に重なりはないといえる。 また, 「coated」 (甲1)の一般的な解釈としては, 「被覆」を意味し「含浸」を意味することはないから(甲217-173頁) 甲1文献の記載内容をそのまま ,解釈すれば,被告がいうような解釈の余地はない。そもそも,甲1文献には,甲1発明が「コート法」で製造されたことを意味する記載はない。 なお,甲1文献には,従来例(先行技術)として,比較的重い樹脂含浸ガラス繊維を使用する煙閉じ込めカーテンも開示されている。しかし,甲1文献には,従来例(甲1発明の2)のシートについて「比較的重い樹脂含浸ガラス繊維」であること以外に具体的な説明はないことなどからすれば,甲1文献に記載された従来例(甲1発明の2)も「透明不燃性シート」ではないといえる。甲1文献における従来技術である「煙閉じ込めカーテン」 (甲1発明の2)に用いられる「樹脂含浸ガラス繊維織物」が, 「ガラス繊維織物内の空気が完全に取り除かれるよう(脱泡ないし脱気されるよう)に,ガラス繊維織物内に樹脂を充填させ」たシートであるとは考えられない。 したがって,甲1発明の「樹脂含浸ガラス繊維織物」と本件発明1の「透明不燃性シート」との間には部分的にせよ一致点がないことは明らかである。 (2) 本件発明2,3及び7について 本件発明2,3及び7についても,本件発明1と同様に,審決は一致点の認定を誤っている。 (3) 以上のとおり,審決は,本来,相違点として容易想到性を判断しなければならない構成を部分的な一致点と認定し,容易想到性を判断せずに,本件発明の進歩性を否定したのであるから,審決には,その結論に影響を及ぼす違法がある。 2 取消事由2(甲1発明を主引用発明とし,甲10発明を副引例とする本件発明の容易想到性についての判断の誤り) (1) 本件発明1について ア 審決は,@主引例にも副引例にも開示されていない「周知の課題」なるものを認定した上で,A各相違点について,当該「周知の課題」を解決するために副引例として甲10発明を採用し,Bこれによって解消しない点については「設計的事項」として,本件発明1は,甲1発明,甲10発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると判断した。 しかし,防煙垂壁を不燃性にするという周知の課題及び防煙垂壁を透明で無色にすることが好ましいという周知の課題の両方を満たす材料としては,甲10発明の「ウエルディングカーテン材」よりも「板ガラス」のほうが好適である。板ガラスであれば可燃性である樹脂が含まれていないため, 「適宜の調整」を経るまでもなく「不燃性」であるし,屈折率やアッベ数の異なる組成物間の境界面がないので, 「適宜の調整」を経るまでもなく「透明で無色」であることも明らかである。さらに,「ウエルディングカーテン材」は一般に目を保護するための着色を施すことが一般的である(甲10文献の段落【0018】,甲188)ことをも念頭に置けば,「防煙垂壁を透明で無色にすることが好ましい」という周知の課題を解決するために,甲10発明の「ウエルディングカーテン材」を適用する理由はない。 また,本件発明は, 「透明で,着色が抑えられ,不燃性で,落下して割れることが防止できるという,従来品では,同時に満たすことができなかった優れた特性を同時に実現できる防煙垂壁を得る」という課題を解決したものであるところ,本件特許の出願時においては,透明性を実現している防煙垂壁は板ガラスを用いたものしかなく,板ガラスは落下すれば割れるものであるから,審決が周知であるとする全ての課題を同時に解決する防煙垂壁が存在しなかった。本件特許の出願時の当業者は,防煙垂壁を不燃性にするという周知の課題及び防煙垂壁を無色にすることが好ましいという課題に適合させるために,防煙垂壁の材料としてはガラス板を採用しているのである。このように,各課題の解決に相反する関係があり,一部の課題を解決するにとどまる物しか存在しない状況下で,全ての課題を同時に解決するという課題を設定した上で,当該課題を解決する物を作り出した場合には, 「産業の発展に寄与」 (特許法1条)した以上,特許法における「発明」として,当然に保護されるべきである。 さらに, 「透過光の色付きを抑えたものにすることが好ましい」という課題を,甲2ないし甲7の各文献から認定することは不可能である。本件発明が課題の一つとしている「透過光の色付き」は,ガラス繊維織物内におけるガラス繊維フィラメント間及び経糸と緯糸とが重なりあう織目部分において経糸-緯糸間に生じる隙間にガラス組成物とは屈折率やアッベ数の異なる物質が入り込むことにより生じる現象を指しているところ,上記各文献は,上記現象が生じ得ない板ガラスよりなる防煙垂壁についての文献であるから,透過光の色付き」 「 という課題を認識しようがない。 このような認定できない課題を含む課題を容易想到性の論理付けの理由としている点で審決が誤っていることは明らかである。 イ 甲1文献では,樹脂で被覆した繊維織物は,樹脂で含浸した繊維織物に比べて,軽く,組立て性に優れることが開示されている(甲172の3)のに対し,甲10発明は「樹脂で含浸した繊維織物」であるから(甲10文献の段落【0007】, )甲10発明のウエルディングカーテン材を安易に採用することはできない。 甲10文献には,施工者の取り付け容易性又は防煙垂壁の軽量化についての記載はないから,甲10発明のウエルディングカーテン材を甲1発明と組み合わせる動機付けはない。また,甲1文献は,防煙垂壁の取り付け方法に関する技術課題及びその解決手段を開示したものであって,審決が認定した「周知の課題」である「透明性」等の見栄えに関連する記載は一切ない。さらに,甲10文献には「透明性」が挙げられている(甲10文献の段落【0006】)ものの,あくまでウエルディングカーテン材としての透明性であって,同材は目の保護のため着色されることが前提となっている(甲10文献の段落【0018】)上に,溶接作業者の作業内容が外から確認できる程度の性能しか要求されていない。したがって,およそ製品の美観とは関係のない透明性である。 甲10文献の実施例1がガラス繊維織物と樹脂よりなる複合シートを開示しているとしても,当該シート(ガラス繊維織物と組み合わせられる樹脂)の種類が無数にある(甲9)ことを考慮すれば,甲10文献に,当該シートが甲1発明の煙封じ込めカーテンに使用できるとする記載がない以上,甲1発明に甲10発明を組み合わせる示唆がないことに変わりはない。 ウ 甲10文献には,実施例1が不燃性であると記載されていないことから,甲10文献の読み手が甲10発明を不燃性であると評価できないし,非発火性との記載のある甲1発明において用いられる素材を,あえて不燃性である蓋然性が高いという確証が与えられていない素材に代替することは,当業者であればむしろ避けるべきことであることを容易に理解するはずである。 甲1発明と甲10発明は,技術分野が異なる上に,これらを組み合わせることにつき示唆等がないことから,容易想到性があるとの評価を妨げる事実があるといえる。 エ 本件発明1は, 「透明で,着色が抑えられ,不燃性で,落下して割れることが防止できるという,従来品では,同時に満たすことができなかった優れた特性を同時に実現できる防煙垂壁を得る」という課題を設定した上で,当該課題を解決したことに,格別な技術的意義が存在し,進歩性が認められる。本件発明1の実施品に上記技術的意義があるがゆえに,商業的成功を得ている点からも明らかである。仮に,審決が防煙垂壁の透明性についての課題が周知であると認定した文献のうち最も新しい文献(甲3)の出願時である「平成9年9月12日」に全ての課題が周知になったと判断したと仮定しても,本件特許の原出願日まで7年近く,当該課題の解決の必要性が認識されていたことになる。つまり,少なくとも7年間もの「長い間その実現が望まれていたこと」になるところ,原告以外には,このような必要性を充足することはできなかったのである。このことは,本件発明に想到することの困難性を一層首肯するものである。 (2) 本件発明2,3及び7との相違点の判断について 本件発明1と構成が共通する部分に係る相違点については,本件発明1と同様の理由により,容易想到であるとはいえず,この点に関する審決の判断には誤りがある。また,審決は,本件発明2,3及び7との相違点の判断において,本件発明1と共通しない部分に係る相違点については,いずれも実質的な理由を説明しておらず,容易想到性の論理付けとして不適切なものであることは明らかである。 以上のとおり,審決の判断には誤りがあるから,取り消されるべきである。 3 取消事由3(甲1発明を主引用発明とし,甲9文献を副引例とする本件発明の容易想到性についての判断の誤り)(1) 本件発明1について ア 甲9文献は,その著者が開発したとする「ガラスヤーンクロスを芯材としこれに感光性難燃樹脂組成物を含浸」させて得られるシートに関して報告する文献である。甲9文献に記載されたシートに用いる樹脂組成物は,ガラスクロスの屈折率と一定の範囲内にある粘度屈折率を持ち,クロス内の空気を完全に脱泡し得る樹脂粘度をもち,長鎖分子を持ち,シートに成形した後の難燃性を維持できるという観点から決定する必要があり,当該決定には,少なくとも150種程の配合の探索実験が必要であるとされる。しかし,甲9文献は,決定した樹脂組成物について屈折率を開示するのみで,樹脂組成物の特定に必要な,原料の種類,配合比について一切開示していない。樹脂組成物に必須の原料と解される樹脂や硬化剤の種類だけでも数多くのものが知られていることを考えれば,甲9文献に接した当業者がその発明の存在や性質を確認できる程度に,発明の内容が開示されているとはいえず,したがって,甲9発明は引用発明としての適格性を欠く不適切なものであるから,甲9文献に記載されている事項を引用発明とすることはできない。 イ 審決は,本件発明1は,甲1発明,甲9文献に記載された技術的事項及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると判断したが,その判断手法は,甲10文献を副引例にした場合と同様である。しかし,上記判断は,@「周知の課題」の認定を誤っている点,A構成として相容れない甲1発明の「樹脂で被覆した繊維織物」に甲9文献の「ガラスクロス補強透明難燃シート」を適用している点,B各構成要件(相違点)について,あたかも独立に調整できるかのごとく認定している点,C審決の「周知の課題」の認定を前提にしても各証拠の記載内容や技術常識と矛盾する評価や判断をしている点,D容易想到性があるとの評価を妨げる事情が種々あるにもかかわらず考慮されていない点,E適格性に欠ける甲9文献を副引用例としている点等に誤りがあり,容易想到性の論理付けとして不適切である。 (2) 本件発明2,3及び7について 本件発明1と構成が共通する部分に係る相違点については,本件発明1と同様の理由により,容易想到であるとはいえず,この点に関する審決の判断には誤りがある。また,審決は,本件発明2,3及び7との相違点の判断において,本件発明1と共通しない部分に係る相違点については,いずれも実質的な理由を説明しておらず,容易想到性の論理付けとして不適切なものであることは明らかである。 (3) 以上のとおり,審決の判断には誤りがあるから,取り消されるべきである。 4 取消事由4(本件発明と甲8発明との一致点の認定の誤り(相違点の看過)) 審決は,本件発明と甲8発明との一致点を,前記第2,3(2)イ(ア)のとおり認定した。確かに,甲8文献には,甲8発明である「カーテン煙幕組立品」の部材として,プラスチックが記載されている。しかし,甲8文献には,単に「プラスチック」と記載されているのみで,前記のとおり,本件発明1の採用しているガラス繊維織物に樹脂を含浸させたシート(複合材料)との関連性について,一切記載されていない。技術常識として,「プラスチック」は,合成樹脂単体を指すことはあっても,ガラス繊維織物と樹脂との複合材料までを指すものではない。 したがって,本件発明と甲8発明の一致点として, 「該透明シートが,樹脂製品である」と認定した審決には誤りがある。 5 取消事由5(甲8発明を主引用発明とする本件発明の容易想到性についての判断の誤り) 甲1発明を主引用発明とする検討における,相違点1-1ないし1-4に関する審決の判断は,前記のとおり誤っており,その誤りは,主引用発明を甲1発明から甲8発明に変更しても治癒されるものではないから,取消事由2における原告の主張のとおり,甲8発明を主引用発明とする本件発明の容易想到性に関する審決の判断には誤りがある。 特に,相違点4-2については,甲8発明には単に「プラスチック」という,一般には単一の樹脂よりなる材料しか記載されていないのであるから,甲8文献の記載から,ガラス繊維織物と硬化樹脂という屈折率やアッベ数の異なる材料よりなる複合材料を想定した上で,さらに,透明で,着色のないという課題を設定して,両材料の屈折率やアッベ数を決定することは容易想到ではなく,これを単に「設計的事項」とするのは無理がある。 6 取消事由6(甲9文献の主引例としての適格性の判断の誤り) 甲9文献は,前記のとおり,引用文献としての適格性に欠けるものであり,甲9発明から,発明の進歩性欠如を論ずるに足る引用発明を認定することはできない。 したがって,甲9発明を主引用発明とする審決の判断は,存在しない発明をもとにした議論である以上,誤りがあることは明らかであり,取り消されるべきである。 7 取消事由7(本件発明と甲9発明との一致点の認定の誤り(相違点の看過))(1) 甲9文献には,屈折率にかかる不等式と,ヘイズ値にかかる不等式が並列に記載されているけれども,屈折率の差が0.005未満で,かつ,ヘイズが20%未満である構成が開示されているといえる記載はないから,審決の甲9発明の認定は,甲9発明が構成f5とh5を備えるとした点で誤っている。したがって,審決が,本件発明と甲9発明との一致点のうち,構成要件F及びHを一致点と認定した点には誤りがある。 (2) 審決は,甲9発明の「カーテン類」と本件発明の「防煙垂壁」とは,「カーテン類」である限りにおいて一致すると認定した。しかし,ウエルディングカーテンと防煙垂壁は全く異なるものである。また,甲9文献には,他の用途として,火災時に煙を閉じ込め,ないし封じ込める用途は一切触れられていないから,少なくとも甲9文献にいう「カーテン類」に防煙垂壁が含まれないことは明らかである。 したがって,審決が,構成要件A9,K9について,本件発明と甲9発明との一致点と認定した点には誤りがある。 8 取消事由8(甲9発明を主引用発明とする本件発明の容易想到性の判断の誤り)(1) 本件発明1について ア 審決は,甲9発明を防煙垂壁として使用し,相違点9-1ないし9-5に係る本件発明1の構成を満たす発明とすることは,当業者が容易になし得たことであると判断する。そして,その判断手法は,@防煙垂壁における周知又は公知の課題及び構成なるものを認定した上で,A上記@を防煙垂壁の材料として甲9発明を使用する動機付けとし,B当該「使用」で解消しない点については「設計的事項」とするものである。しかし,上記判断は,@防煙垂壁における周知又は公知の課題及び構成の認定を誤っている点,A各構成要件(相違点)について,あたかも独立に調整できるかのごとく認定している点,B周知の課題を前提にしても各証拠の記載内容や技術常識と矛盾する評価や判断をしている点,C容易想到性があるとの評価を妨げる事情が種々あるにもかかわらず考慮されていない点等,誤りを含んでいるものであって,容易想到性の論理付けとして不適切である。 イ 相違点9-1について 審決は,より重量の軽い甲9発明を使用することにも動機付けがあると認定しているが,板ガラスより軽い素材は無数にあり,あえて甲9発明を使用する動機付けはない。実際,甲1文献においては,施工のしやすさの観点から,甲9発明のような樹脂で含浸したガラス繊維織物ではなく,より軽い樹脂で被覆したガラス繊維織物を使用しており,施工のしやすさから甲9発明を使用する動機付けがないことは明らかである。 被告は,防煙垂壁に,防煙垂壁を不燃性にするという課題,防煙垂壁を透明で無色にすることが好ましいという課題,地震の際に破損落下が生じたため,それに対する対策が必要であるという課題及びガラスに代えて破損や落下のおそれがない材料を使うことについての示唆を同時に適用することができる理由を示していない。 仮に,上記の各課題を同時に考慮しても,防煙垂壁について,@防煙垂壁を不燃性にするという課題,A防煙垂壁を透明で無色にすることが好ましいという課題を解決するために最適である板ガラスについて,各文献(甲42ないし45)に開示された,落下を防止するための各対策を施すという動機付けしか導き出せず,審決がいうような甲9発明を防煙垂壁に適用するという動機付けが導けるわけではない。 (2) 相違点9-2ないし9-5について 審決は,相違点9-2ないし9-5は,相違点1-1ないし1-4と同様であり,同様の理由により容易想到であるとする。しかし,取消事由2で主張したとおり,審決の相違点1-1ないし1-4の判断は誤っており,この誤りは,主引用発明を甲9発明に変更しても治癒されるものではない。 (3) 本件発明2,3及び7の各相違点の判断について 審決は,本件発明2,3及び7の各相違点の検討において,本件発明1と構成が共通する部分に係る相違点については,本件発明1に対する検討内容と同様に容易想到であると判断する。しかし,この審決の判断は,本件発明1に対する上記主張内容と同じ理由により,不適切で誤ったものである。また,審決は,本件発明2,3及び7の各相違点の検討において,本件発明1と構成が共通しない部分に係る相違点については,いずれも設計的事項であるなどとして実質的な理由を説明しておらず,容易想到性の論理付けとして不適切なものであることは明らかである。 (4) 以上のとおり,審決は,甲9発明を主引用発明とする本件発明の容易想到性の判断を誤っており,取り消されるべきである。 9 取消事由9(本件発明と甲10発明との一致点の認定の誤り) (1) 本件発明1について 甲10文献の発明対象である「ウエルディングカーテン」は「溶接や溶断作業等において発生する火花を遮断して火災発生を予防できる」(段落【0001】)もので,溶接作業現場等で,作業者と監督者等との間を遮るために使用するものである(甲187,188)。一方,本件発明1の「防煙垂壁」は「建築物の火災時に発生する煙や有毒ガスの流動を妨げ,避難や消火活動が円滑に行えるよう」 「オフィスビル,ショッピングモール等の建築物」 「の天井に取り付けられる」ものである(本件訂正明細書段落【0002】ないし【0004】,甲130,140)。したがって,両者は,用途,機能,設置される場所,形状等,全ての点において相違しており,重なり合いは一切ないから,本件発明1の「防煙垂壁」とは, 「カーテン」である限りにおいて相当する」という審決の一致点の認定は誤っている。 また,審決は,甲10文献にビニルエステル樹脂を用いたウエルディングカーテン用材料が開示されていることのみをもって,「前記硬化樹脂がビニルエステル樹脂であり」という点を一致点であると認定したものと解される。甲10文献には,ビニルエステル樹脂についての記載があるものの,それは,ウエルディングカーテン材に使用する場合について記載されているにすぎず,防煙垂壁に使用する場合に対する言及はないから,甲10文献は防煙垂壁に用いられるビニルエステル樹脂については開示していないと解するべきである。 したがって,審決が,本件発明1と甲10発明との一致点として,構成C(前記硬化樹脂がビニルエステル樹脂であり)を認定した点には誤りがある。 以上のとおり,審決は,相違点を看過して一致点を認定し,容易想到性を判断せずに進歩性を否定したものであるから,この認定は,審決の結論に影響を及ぼす違法なものである。 (2) 本件発明2,3及び7について 本件発明1について主張したのと同様に,本件発明2,3及び7についても,甲10発明とは,構成A10’,C及びK10’の点で一致していない。 したがって,審決は,相違点を看過して一致点を認定し,容易想到性を判断せずに進歩性を否定したものであるから,この認定は,審決の結論に影響を及ぼす違法なものである。 10 取消事由10(甲10発明を主引用発明とする本件発明の容易想到性の判断の誤り) (1) 本件発明1について 審決は,本件発明1と甲10発明との各相違点は容易想到であると判断したが,取消理由3及び8で主張したとおり,その判断は誤っており,その誤りは,主引用発明を甲1発明又は甲9発明から,甲10発明に変更しても治癒されるものではない。 (2) 本件発明2,3及び7について 審決は,本件発明2,3及び7の各相違点の検討において,本件発明1と構成が共通する部分に係る相違点については,本件発明1に対する検討内容と同様に容易想到であると判断した。しかし,審決の判断は,本件発明1に対する上記主張と同じ理由により,不適切で誤ったものである。また,審決は,本件発明2,3及び7の各相違点の検討において,本件発明1と構成が共通しない部分に係る相違点については,いずれも設計的事項等であるとして実質的な理由を説明しておらず,容易想到性の論理付けとして不適切なものであることは明らかである。 (3) 以上のとおり,甲10発明を主引用発明とする本件発明の容易想到性の判断には誤りがあるから,審決は取り消されるべきである。 |
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被告の主張
1 取消事由1(本件発明と甲1発明との一致点の認定の誤り(相違点の看過))について (1) 本件発明1について 原告は,甲1発明の「樹脂で被覆したガラス繊維織物」と本件発明1の「透明不燃性シート」には一致点は全くない旨主張する。しかし, 「樹脂で被覆したガラス繊維織物」には,樹脂がガラス繊維織物に含浸している複合シートも包含される(乙1ないし3)。甲1発明の「樹脂で被覆したガラス繊維織物」は,コート法によって製造されているものであり,甲1発明においても,ガラス繊維織物に樹脂が含浸している。また,本件明細書によると,本件発明1は,ディッピング法ではなく,甲1発明で採用されているコート法と同じ原理の製法で製造されている。 したがって,甲1発明の「樹脂で被覆したガラス繊維織物」と本件発明1の「透明不燃性シート」とは, 「樹脂で被覆したガラス繊維織物」の点で一致すると認定した審決に誤りはない。 (2) 本件発明2,3及び7について 原告は,本件発明2,3及び7についても,甲1発明の「樹脂で被覆したガラス繊維織物」と本件発明2,3及び7の各発明の「透明不燃性シート」との間には一致点はない旨主張する。しかし,前記(1)のとおり,本件発明1と甲1発明が「樹脂で被覆したガラス繊維織物」で一致しているとの審決の認定には誤りはないから,本件発明2,3及び7についての審決の認定にも誤りはない。 2 取消事由2(甲1発明を主引用発明とし,甲10文献を副引例とする本件発明の容易想到性についての判断の誤り)について (1) 本件発明1について ア 原告は,防煙垂壁を不燃性にするという周知の課題及び防煙垂壁を透明で無色にすることが好ましいという周知の課題の両方を満たす材料としては,甲10発明のウエルディングカーテン材よりも,板ガラスの方が好適であるので,甲1発明に甲10発明のウエルディングカーテン材を適用する理由はない旨主張する。しかし,防煙垂壁の分野において, 「落下して割れることが防止できる」という周知の課題があることに鑑みれば,甲1発明の防煙垂壁(煙封じ込めカーテン)において使用されている「樹脂で被覆したガラス繊維織物」に代えて,あえて,落下したら割れるガラス板を採用することを当業者が着想するとは考えられない。 また,原告は,本件特許の出願時の当業者は,防煙垂壁を不燃性にするという周知の課題及び防煙垂壁を無色にすることが好ましいという周知の課題に適合させるために,防煙垂壁の材料としてガラス板を採用している旨主張する。しかし,本件発明1が,ガラス繊維織物と樹脂からなる複合シートを使用した防煙垂壁であることを踏まえると,当業者であれば,甲1文献に接した際に,防煙垂壁を不燃性にするという周知の課題及び防煙垂壁を無色透明にすることが好ましいという周知の課題に適合させ,ガラス繊維織物と樹脂からなる複合シートを不燃性で無色透明にするための技術的手段の解決のために,甲10発明のウエルディングカーテン材を採用することは当然に動機付けられるといえる。 イ 原告は,甲1発明と甲10発明は,技術分野を異にするから,甲1発明に甲10発明を組み合わせることは容易でない旨主張する。しかし,甲10発明は,甲1発明と使用する材料の構造が共通しており,防煙垂壁に要求される機能の点でも共通している。このような構造や機能の共通性に鑑みれば,透明かつ不燃性であることが求められるという防煙垂壁の周知の課題を解決するために,甲1発明に甲10発明を適用する動機付けは十分にあるといえる。 原告は,甲1文献は,ガラス板の取り付け方法に関する技術課題及びその解決手段を開示したものであって,審決が認定した「周知の課題」である「透明性」等の見栄えに関連する記載は一切ない旨主張する。しかし,周知の課題は,当該技術分野における周知事項等を踏まえて認定されるべきものであり,引用文献に明示的な記載があることはそもそも要求されないものである。 原告は,甲10発明のウエルディングカーテン材について,目の保護のために着色が前提となっていること,溶接作業者の作業内容が外から確認できる程度の性能しか要求されないから,甲1発明に甲10発明を適用する動機付けはない旨主張する。しかし,前記のとおり,甲10発明のウエルディングカーテン材は, 「防煙垂壁を無色にすることが好ましい」という周知の課題を解決するためには,極めて好適な特性を備えており,甲1発明に,甲10発明のウエルディングカーテン材(繊維強化樹脂シート)を適用することに強い動機付けがあるといえる。 ウ 原告は,甲1発明の煙封じ込めカーテンと甲10発明のウエルディングカーテン材のいずれが不燃性に優れるかについて,甲1文献及び甲10文献から明らかでない旨主張する。しかし,審決の認定するとおり,甲10発明のウエルディングカーテン材は,難燃性であることが明示され,かつ高温の火花を貫通させることもないため,当業者であれば不燃性を満たしている蓋然性が高いと容易に認識できるものである。しかも,甲10発明のウエルディングカーテン材は実際に不燃性である(甲35)。したがって,甲10発明のウエルディングカーテン材は,不燃性を備えている可能性が高く, 「防煙垂壁を不燃性にするという周知の課題」の解決に好適であるといえる。 エ 原告は,商業的成功を本件発明の進歩性を肯定する根拠の一つとしている。 しかし,本件発明に係る製品が商業的な成功を収めているとの事実はなく,原告の主張はその前提を欠くものである。また,原告は,長い間実現が望まれていたことを本件発明の進歩性を肯定する根拠の一つとしている。しかし,原告の上記主張は,本件発明が,遅くとも,平成9年9月12日には周知であった課題に基づき,その時点の当業者であれば容易に考えることができた発明であることを自認する主張にすぎない。 (2) 本件発明2,3及び7について 前記のとおり,甲1発明を主引用発明とする本件発明1の容易想到性に関する審決の判断に誤りはなく,原告の主張はいずれも失当なものであるから,本件発明2,3及び7についての原告の主張も相当なものではない。 したがって,甲1発明を主引用発明とする本件発明2,3及び7の容易想到性に関する審決の判断にも誤りはない。 3 取消事由3(甲1発明を主引用発明とし,甲9文献を副引例とする本件発明の容易想到性についての判断の誤り)について (1) 甲9文献の副引例としての適格性 ガラス及び樹脂の種類や配合比については,付与すべき難燃性の程度に応じて設定できることが知られており,甲9文献に樹脂の種類や配合比が明示されていないことをもって,当業者が,甲9発明を製造できないということにはならない。甲9文献には,ガラスクロス補強透明難燃シートに関して,硬化条件(線速度,照射強度),残存モノマー%,残存二重結合,架橋密度,引張強度,引張伸び,直角引裂,重量,厚み等のデータが具体的に示されており,その性質を明確に確認できる程度に発明の内容が開示されている。 以上のとおり,甲9文献は引用文献としての適格性を欠くものではない。 (2) 相違点に関する容易想到性について 原告は,甲1発明に甲9発明を適用した容易想到性に関する審決の判断は,取消事由2と同様の理由によって,容易想到性の判断として不適切であると主張する。 しかし,取消事由2における原告の主張は失当なものであることは前記のとおりであるから,これを援用した原告の上記主張もまた失当であることは明らかである。 また,原告は,甲9文献の記載を根拠に,甲9発明は,透明性,屈折率,難燃性等を自由に調整できるものとはされていないと主張する。しかし,甲9文献の上記記載は,屈折率,難燃性の調整が可能であることを示唆する記載であり,透明性,屈折率,難燃性等の調整を行うことを否定する根拠にはなり得ない。 原告は,甲1文献の「樹脂で被覆した繊維織物」は,内部に空気を残存しており,どのようにガラス繊維織物や樹脂を選択しても透明にはならないものであるから,「樹脂で含浸した繊維織物」と透明性という点で相容れないものである旨主張する。 しかし, 「樹脂で被覆したガラス繊維織物」には,樹脂がガラス繊維織物に含浸している複合シートも包含されているから,原告の上記主張はその前提において誤りがある。したがって,甲1発明と甲9発明が構成,作用の点で相容れない発明であるとは到底いえない。 (3) 本件発明2,3及び7について 原告は,本件発明2,3及び7の容易想到性の判断に関しても,本件発明1と同様の理由により,不適切であると主張する。しかし,本件発明1の容易想到性に関する原告の主張はいずれも失当なものであるから,本件発明2,3及び7についての主張についても妥当性を欠く。したがって,本件発明2,3及び7の容易想到性に関する審決の判断に誤りはない。 4 取消事由4(本件発明と甲8発明との一致点の認定の誤り(相違点の看過))について (1) 本件発明1について 原告は,甲8発明のプラスチックには,ガラス繊維織物と樹脂との複合材料は含まれないなどとして,本件発明1と甲8発明の一致点の認定に誤りがあると主張する。しかし,プラスチックも,ガラス繊維織物と樹脂との複合材料も,「樹脂製品」であることは間違いないから,本件発明1と甲8発明の一致点に関する審決の認定には何ら誤りはないというべきである。 (2) 本件発明2,3及び7について 原告は,本件発明1と甲8発明の一致点に関する審決の認定に誤りがあることを根拠に本件発明2,3及び7と甲8発明の一致点の認定に誤りがあると主張する。 しかし,上記のとおり,本件発明1と甲8発明の一致点の認定には何ら誤りはないから,本件発明2,3及び7と甲8発明の対比に関する原告の上記主張は前提を欠くものである。 (3) したがって,原告が主張する取消事由4は理由がない。 5 取消事由5(甲8発明を主引用発明とする本件発明の容易想到性についての判断の誤り)について 原告は,甲8発明を主引用発明とする本件発明の容易想到性に関する審決の判断に誤りがある旨主張する。しかし,前記のとおり,取消事由2に関する原告の主張は失当なものであるから,これを援用した取消事由5の主張も同様に失当である。 また,相違点8-2については,プラスチックを,ガラス繊維織物と樹脂との複合材料に置換することが容易である以上,かかる置換を行った上で,屈折率やアッベ数を決定することも,当業者であれば容易になし得る設計的事項であるといえる。 したがって,本件発明は,甲8発明等に基づき容易に発明をすることができたものであるから,原告が主張する取消事由5は理由がない。 6 取消事由6(甲9文献の主引例としての適格性の判断の誤り)について 前記のとおり,甲9発明は引用発明としての適格性に欠けるものではないから,原告が主張する取消事由6は理由がない。 7 取消事由7(本件発明と甲9発明との一致点の認定の誤り(相違点の看過))について (1) 甲9発明の認定について 原告は,甲9文献には,屈折率の差が0.005未満でかつヘイズが20%未満である構成が開示されているわけではない旨主張する。しかし,構成要件Hは,ヘイズが20%以下であるから,原告が主張するように「ヘイズが20%未満」である構成が開示されていなくても,構成要件Hを充足することになる。また,甲9文献には,「ヘーズ値20〜30%」(B-27/2頁)であることが明示されているから,甲9発明は,構成要件F5’を備えつつ,ヘイズが20%であることが想定されていることは明白である。したがって,甲9発明が,構成要件F5’とHをともに充足しているという審決の認定に誤りはない。なお,甲9発明において,ヘイズを20%よりも更に低い値に設定しようとすることについても,周知の課題に鑑みれば,当然に動機付けられる事項である。 (2) 本件発明1と甲9発明の一致点の認定について 原告は,本件発明1と甲9発明との対比において,構成要件FとHを一致点と認定した点に誤りがある旨主張する。しかし,上記のとおり,甲9発明は,構成要件FとHをともに充足しているから,原告の上記主張は失当である。 また,原告は,甲9発明の「カーテン類」に防煙垂壁が含まれないことを理由として,本件発明1の「防煙垂壁」とは, 「カーテン類」である限りにおいて相当するとした審決の認定には誤りがある旨主張する。しかし,防煙垂壁の品名として「カーテン」という用語が使用されることもあるから(乙4),防煙垂壁をカーテン類として捉えることに何ら誤りはない。 8 取消事由8(甲9発明を主引用発明とする本件発明の容易想到性の判断の誤り)について (1) 相違点9-1について ア 原告は, 「地震の際に破損落下が生じたため,それに対する対策が必要であるという課題」について,「防煙垂壁を透明で無色にすることが好ましいとする課題」と同時に達成すべき課題として示唆されていない旨主張する。しかし,ガラス以外の素材の使用が示唆されており(甲42),当業者であれば,ガラス繊維織物と樹脂からなる複合シートに関する技術水準を持ち合わせているから,防煙垂壁にガラスを使用することを諦めた場合には,ガラス繊維織物と樹脂からなる複合シートを使用すれば,透明性を犠牲にせずとも,ガラスに近い外観の防煙垂壁が作れることは当然に認識できる。 イ 相違点9-2ないし9-5について 相違点1-1ないし1-4に関する審決の判断に誤りはないから,審決の相違点9-2ないし9-5の判断にも誤りはない。 (2) 本件発明2,3及び7について 本件発明1と甲9発明の相違点の容易想到性に関する審決の判断に誤りはないから,同様に,本件発明2,3及び7についての原告の主張はその前提を欠くものである。また,本件発明2,3及び7と甲9発明の一致点及び相違点についての審決の認定に誤りはなく,各相違点が設計的事項であるとした判断も極めて合理的なものであって,何ら誤りはない。 9 取消事由9(本件発明と甲10発明との一致点の認定の誤り(相違点の看過))について (1) 本件発明1について 原告は,審決が認定した本件発明1と甲10発明の一致点のうち,本件発明1の「防煙垂壁」とは「カーテン」である限りにおいて相当するとした点に誤りがある旨主張する。しかし,防煙垂壁の品名として「カーテン」という用語が使用されているから,防煙垂壁をカーテンとして捉えることに何ら誤りはない。また,審決は,本件発明1と甲10発明は,ともに透明シートからなるカーテンであり,そこに用いられる硬化樹脂がビニルエステル樹脂であることを共通点として認定しており,これを防煙垂壁に使用するか否かに関しては,一致点の認定の中では一切触れていない。 したがって,本件発明1と甲10発明の一致点の認定に誤りはない。 (2) 本件発明2,3及び7について 本件発明1と甲10発明の一致点の認定には何ら誤りはないから,本件発明2,3及び7と甲10発明の対比に関する原告の主張はその前提を欠くものである。 (3) 以上のとおり,審決の,本件発明と甲10発明の一致点の認定には何ら誤りはないから,原告が主張する取消事由9は理由がない。 10 取消事由10(甲10発明を主引用発明とする本件発明の容易想到性の判断の誤り)について 原告は,取消事由3及び8の主張を援用して,甲10発明を主引用発明とする本件発明の容易想到性に関する審決の判断に誤りがある旨主張する。 しかし,前記のとおり,取消事由3及び8に関する原告の主張は失当なものであるから,これを援用した取消事由10の主張も同様に失当である。また,原告は,本件発明2,3及び7に関する審決の容易想到性の判断にも誤りがある旨主張するが,本件発明2,3及び7と甲10発明の一致点及び相違点についての審決の認定に誤りはなく,各相違点が設計的事項であるとした審決の判断は極めて合理的なものであり,何ら誤りはない。 したがって,原告が主張する取消事由10は理由がない。 |
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当裁判所の判断
当裁判所は,原告の主張する取消事由2,3,5,8及び10はいずれも理由があるから,審決は取り消すべきであると判断する。その理由は,以下のとおりである。 1 本件発明について 本件訂正明細書(甲150)には以下の記載がある(図面について,別紙本件訂正明細書図面目録参照)。 (1) 背景技術 「【0002】 建築基準法及び建築基準法施行令は,建築物の火災時に発生する煙や有毒ガスの流動を妨げ,避難や消火活動が円滑に行えるよう排煙設備を設けることを規定している。そして,排煙設備や遮煙設備の一環として,オフィスビル,ショッピングモール等の建築物には防煙垂壁や遮煙スクリーンが設置されることが多い。 【0003】 防煙垂壁は,建築物の天井に取り付けられるので,一般的には,視野を妨げないように,透明な板ガラスが用いられている。また,遮煙スクリーンはエレベータ前などの天井部に設けた格納箱にポリイミド製フィルムの巻体を格納し,災害時にポリイミド製フィルムを引き出すことができるようにしている。板ガラスやポリイミド製フィルムは,不燃性に優れていて,火災の時にも燃えない。 【0004】 しかし,防煙垂壁としての板ガラスは,落下防止のための措置を施しても,落下して割れることがあった。例えば,平成15年5月26日18時24分頃,岩手,宮城県境沖を震源として発生した,M7,震度6弱の「三陸南地震」では,防煙垂壁ガラスの破損が報告されている。そこで,防煙垂壁として,板ガラス以外の素材のニーズがある。また,遮煙スクリーンとしてのポリイミド製フィルムは透明であるが,黄色味を帯びているため,更なる透明性の向上が望まれている。」 (2) 先行技術文献 「【0005】 特許文献1は,不燃シート材を開示している。この不燃シート材では,ガラス繊維織物と樹脂層との屈折率の差について規定しておらず,不燃シート材は必然的に不透明である。そして,不透明な不燃シート材を防煙垂壁に用いる場合には,視野を妨げ,オフィス,商業施設等の美観を損ねるので,建築材料としては問題があった。そこで,透明で,不燃性に優れ,かつ,割れない建築材料が所望される。 【0006】 【特許文献1】特開2003-276113号公報[判決注:甲18]」 (3) 発明の効果 「【0015】 本発明の透明不燃性シートは,不燃性のガラス繊維織物を用い,かつ,硬化樹脂層の重量が所定範囲内であるので,不燃性になる。ガラス繊維織物と硬化樹脂層との屈折率の差が0.02以下であるので,ガラス繊維織物を視認できなくなり,透明になる。また,ガラス繊維織物と硬化樹脂層とのアッベ数の差が30以下であるので,ガラス繊維織物と硬化樹脂層との界面で,可視光領域の散乱が少なくなり,着色も押さえることができる。」 (4) 実施の形態 ア 透明不燃性シート10の説明 「【0018】 図1は,本発明の一実施態様の透明不燃性シートを示す。透明不燃性シート10は,ガラス繊維織物20と,ガラス繊維織物20を挟む一対の硬化樹脂層32,34とを含む。一対の硬化樹脂層32及び硬化樹脂層34は,ガラス繊維織物20の隙間を充填し,互いに連続している。」 イ ガラス繊維織物20 「【0019】 ガラス繊維織物20では,複数の経糸22と,複数の緯糸24とが組み合わさっている。ガラス繊維織物とは,ガラス繊維を経糸及び緯糸に用いて,織った布をいう。ガラス繊維織物は,ガラスクロスと呼ばれることもある。・・・ 【0021】 ガラス繊維織物20中の隣接する経糸22の間の隙間28が0.5mm以下であることが好ましく,0.2mm以下であることが更に好ましい。また,ガラス繊維織物20中の隣接する緯糸24の間の隙間が0.5mm以下であることが好ましく,0.2mm以下であることが更に好ましい。ガラス繊維織物の経糸22又は緯糸24の隙間が狭い場合には,炎がガラス繊維織物を通過し難くなるからである。 【0022】 ガラス繊維織物中のガラス繊維としては,汎用の無アルカリガラス繊維(Eガラス),耐酸性の含アルカリガラス繊維(Cガラス),高強度・高弾性率ガラス繊維(Sガラス,Tガラス等),耐アルカリ性ガラス繊維(ARガラス)等があげられるが,汎用性の高い無アルカリガラス繊維の使用が好ましい。・・・ 【0034】 透明不燃性シート1m2当たり,1枚のガラス繊維織物の重量は20〜150g/m2であることが好ましい。1枚のガラス繊維織物の重量が150g/m 2を越える場合には,硬化樹脂の含浸速度が遅くなり,作業性が低下したり,含浸不良を起こすことがある。」 ウ 硬化樹脂層32,34の説明 「【0027】 図1では,硬化樹脂層32及び硬化樹脂層34が,ガラス繊維織物20を両側から挟んでいる。また,硬化樹脂層32及び硬化樹脂層34が,ガラス繊維織物20の隙間を充填し,互いに連続している。さらに,硬化樹脂層32及び硬化樹脂層34は,ガラス繊維織物20に接触している。・・・ 【0029】 硬化樹脂層は,ビニルエステル樹脂,不飽和ポリエステル樹脂,又はエポキシ樹脂などで構成されていることが好ましく,耐熱性,耐薬品性,機械的強度,硬化特性に優れている点で,ビニルエステル樹脂で構成されていることが更に好ましい。」 エ ガラス繊維織物と硬化樹脂の量比 「【0032】 本発明の一実施態様では,ガラス繊維織物20が20〜70重量%であり,一対の硬化樹脂層32,34が80〜30重量%である。ガラス繊維織物20が20重量%未満の場合には,硬化樹脂層32,34の量が多くなり,透明不燃性シートの不燃性が低下する。一方,ガラス繊維織物20が70重量%を越える場合には,硬化樹脂層32,34の厚さが薄くなり,ガラス繊維織物の模様が浮き出てしまう場合があり,また,透明不燃性シートの透明性が低下する。なお,後述の建築基準法の評価法に基づく発熱性試験において,変形,熔融,亀裂などの損傷を抑え,不燃性をさらに向上させ,不燃性の認定に合格する水準にするために,本発明の透明不燃性シートは,ガラス繊維織物20が30〜70重量%であり,一対の硬化樹脂層32,34が70〜30重量%であることが好ましい。」 オ 屈折率 「【0035】 本発明では,ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下である。このように屈折率の差が小さいので,不燃性シートが透明になる。屈折率とは,光が二つの媒質の境界で屈折するとき,入射角の正弦と屈折角の正弦との比をいう。屈折率は,両媒質中の光の速さの比に等しい。 【0036】 本発明では,ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物の屈折率は,特に制限がないが,例えば,1.4〜1.7の範囲であることが好ましく,1.5〜1.6の範囲であることが更に好ましい。なお,ガラス繊維を構成するガラス組成物が無アルカリガラスの場合には,屈折率を1.55〜1.57の範囲にすることができる。 【0037】 硬化樹脂層の屈折率測定方法は,JIS K 7142の「プラスチックの屈折率測定方法」(Determination of the refractive index of plastics)に従う。具体的には,ガラス繊維織物が含まれていない硬化性樹脂のフィルムを,ガラス繊維織物を含む場合と同じ条件で作成し,アッベ屈折計を用いて測定する。」 カ アッベ数 「【0038】 本発明では,ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差が30以下である。アッベ数は,透明体の色収差を評価する数値であり,可視光領域の散乱の評価に用いられる。材料のアッベ数Vは次のように定義される。 【0039】 【0040】 nD, nF , nC は材料の波長がそれぞれ D-589.2 nm, F-486.1 nm , C-656.3 nm の光に対する屈折率である。 【0041】 ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物のアッベ数は,特に制限がないが,例えば,35〜75の範囲であることが好ましく,50〜70の範囲であることが更に好ましい。」 キ 不燃性 「【0042】 本発明の透明不燃性シートは,輻射電気ヒ-タ-から透明不燃性シートの表面に50kW/m2 の輻射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2 以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2 を超えないことが好ましい。本発明の透明不燃性シートが,具体的にどの程度不燃性であるかを建築基準法における評価法に基づいて数値で示したものである。」 ク 全光線透過率,ヘーズ 「【0043】 本発明の透明不燃性シートは,全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが30%以下であることが好ましく,全光線透過率が85%以上であり,かつ,20%以下であることが更に好ましい。本発明の透明不燃性シートが,具体的にどの程度透明であるかを数値で示したものである。・・・ 【0045】 透明不燃性シートのヘーズの測定方法は,JIS K 7105の「プラスチックの光学的特性試験方法」(Testing Methods for Optical Properties of Plastics)「6.4ヘーズ」に従 ,う。具体的には,積分球式測定装置を用いて拡散透過率及び全光線透過率を測定し,その比によって表す。 【0046】 【0047】 H:ヘーズ(%) Td:拡散透過率(%) Tt:全光線透過率(%)」 (5) 施工の一例 「【0112】 本発明の透明不燃性シートは,防煙垂壁又は遮煙スクリーンとして好適に用いることができる。 遮煙スクリーンは,例えば,エレベーターのドアの外側の上部に,丸めた状態で収納されている。そして,火災等の非常時に,遮煙スクリーンがエレベーターのドアの前に降下し,エレベーター中に煙が侵入するのを防止ないし低減する。」 2 取消事由1(本件発明と甲1発明との一致点の認定の誤り(相違点の看過))について (1) 甲1文献の記載 甲1文献(甲1。訳文は甲212の3)には,次の記載がある(図面2及び4は,別紙甲1文献図面目録参照)。 ア 好適な技術形態の説明 「簡素に上で述べたように,本発明によって提供されるカーテン封じ込めシステムは,建築物の屋根デッキの下側から垂下され,その端が床よりもはるかに上方の高さにある煙封じ込めカーテンに関する。そのようなシステムの主目的は,建物内の火によって発生した煙を小さな天井エリアに閉じ込め,自動的に始動した換気装置の手段によって,その煙の迅速な引き抜きを可能にすることである。(4頁下か 」ら9行以下) イ 従来技術 「従来技術の煙封じ込めカーテンシステムの描写が図2及び3に示される。 ・・・図2は,ルーフデッキ10に通常平行な方向に梁の中心線の各サイドに外側に突出する上部フランジ14を有する棒梁12に支持されたルーフデッキ10を例証している。煙閉じ込めカーテン20は,事前に三つの部分を通してあけられた穴に通って置かれた一連のネジ及びナット26によって山形鋼22と平鋼24の間のその上縁で留められる。カーテン20は,比較的重い樹脂含浸ガラス繊維織物からなり,基本的に垂直方向に垂れ下げられる。(5頁6行ないし16行) 」 ウ 実施例 「図4が,図2に示された建築物の屋根支持構造の同様の図を示す。フランジ14を有する棒梁12が,屋根デッキ10を支持しており,これらはすべて破線である。本発明のカーテンシステムが,垂直下向きに垂れ下がるようにフランジ14から垂下されて示される。ダブルジョーのばねクリップ162が上側管状棒124に取り付けられており,この上側の管状棒がカーテン120を保持しており,さらにこのカーテン120が下側棒128を垂下させている。 5頁28行ないし33行) 」 ( エ 実施例の続き 「カーテン120は比較的軽量な樹脂被覆ガラス繊維織物によって作られており,通常の低い圧力においては煙が実質的に通らない。本発明の実施例として有用な被覆ガラス繊維織物としては,Firesafe Products Incorporated(ニューヨーク,ニューヨーク州)の製造に係るSandel(登録商標)という織物がある。Sandel(登録商標)織物の仕様によれば,その織物は,最も重いもので1平方ヤードあたり8.6オンス未満であり,非発火性で,通気性は,0.0CFMである。(5頁36行ないし42行) 」 。 (2) 甲1発明の認定 上記(1)によれば,甲1発明は,前記第2,3(1)アのとおり, 「a1.建築物の屋根デッキの下側から垂下された,樹脂で被覆したガラス繊維織物からなる,k1.煙封じ込めカーテン。 であると認められるから, 」 審決の甲1発明の認定に誤りはない(争いがない)。 (3) 本件発明と甲1発明との対比 ア 甲1文献の前記記載によれば,甲1発明の「建築物の屋根デッキの下側から垂下された煙封じ込めカーテン」は,本件発明における防煙垂壁に相当することが認められる。 イ 甲1文献の「カーテン120は, ・・・樹脂被覆ガラス繊維織物によって作られており,通常の低い圧力においては煙が実質的に通らない。 との記載を考慮する 」と,甲1発明においては,ガラス繊維織物の布目を樹脂が塞ぐように被覆されていることが認められる。そして,本件発明における「ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層」は,織物と樹脂層との位置関係から,その樹脂層がそのガラス繊維織物を被覆する位置関係にあることは明らかであるといえる。 そうすると,審決が,甲1発明と本件発明とを対比して, 「A1’.樹脂で被覆したガラス繊維織物からなる防煙垂壁であって,B1’.該樹脂で被覆したガラス繊維織物が,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前記ガラス繊維織物の少なくとも一方の表面を被覆する樹脂層と,を含む,K. 防煙垂壁。」である点で一致していると判断したことに誤りがあるとはいえない。 ウ 原告の主張について 原告は,本件発明では,シートを透明にするために,樹脂を被覆させたガラス繊維織物ではなく,含浸させたガラス繊維織物を用いていること,樹脂を被覆しただけのガラス繊維織物は透明となり得ないこと,甲1文献には透明性について一切の説明がないこと等を踏まえれば,甲1発明の「樹脂で被覆したガラス繊維織物」と本件発明1の「透明不燃性シート」との間に一切の重なりはないから,審決には,本件発明1と甲1発明の一致点の認定に誤りがあると主張する。 しかし,審決は,本件発明1の構成要件Bの「少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前記ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明不燃性シート」は,「樹脂で被覆したガラス繊維織物」の一形態であるとして, 「樹脂で被覆したガラス繊維織物」を本件発明と甲1発明との一致点として認定した上で,本件発明が「透明不燃性シート」であることを,本件発明と甲1発明の相違点であると認定しているのである。原告の上記主張は,審決の認定を正解せずに, 「透明性」について相違点と認定されていないとの前提に立つものであると解される。 したがって,原告の上記主張は,その前提において誤っており,採用することができない。 3 取消事由2(甲1発明を主引用発明とし,甲10文献を副引例とする本件発明の容易想到性についての判断の誤り)について (1) 本件発明と甲1発明の相違点について 本件発明と甲1発明との相違点は,前記第2,3(1)イ(イ)のとおりである。 (2) 甲10文献の記載事項(甲10。表1は別紙甲10文献図面等目録参照) ア 利用分野及び従来技術 「【0001】 【産業上の利用分野】この発明は,溶接や溶断作業等において発生する火花を遮断して火災発生を予防できるウエルディングカーテン材に関する。 【0002】 【従来の技術】従来,ウエルディングカーテン材としては,軟質塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂製の透明シートならなるものが知られている・・・。しかし,この種のウエルディングカーテン材は,熱可塑性樹脂製であるため,燃焼したり,溶接や溶断作業の際に生ずるノロやスパッタ等の火花が貫通して孔があき易い。 【0003】溶接,溶断作業の際に生ずるノロやスパッタ等の火花の貫通を防止できるウエルディングカーテン材として,炭素繊維などの無機繊維の織物又は不織布,或いはガラス繊維の織物又は不織布にシリコン樹脂等をコーテイングしたものが用いられている。」 イ 従来技術の課題 「【0004】 【発明が解決しようとする課題】前者の熱可塑性樹脂製透明シートからなるウエルディングカーテン材のうち,軟質塩化ビニル樹脂製のものは,JIS-A-8952に定められた火災安全の評価基準に達している。しかし,この火災安全の評価基準は,シート自体が燃え広がることなくて火災に進展しないことが基準とされており,軟質塩化ビニル樹脂製シートからなるウエルディングカーテン材であっても,ノロやスパッタ等の高温の火花に触れると溶けて孔があき易い。そのため,その孔から火花が貫通して火災が発生する危険性があり,JIS-A-1323に規定されているようなより高度の火災安全基準には満足せず,使用範囲が限定されるものであった。 【0005】後者の炭素繊維等の無機繊維の織物,シリコ-ンでコーティングしたガラス繊維の織物又は不織布等からなるウエルディングカーテン材は,JIS-A-1323に規定されている火災安全の評価基準に満足するものであるが,不透明であるか,曇った状態であってその向こう側を見通すことができないという問題があった。そこで,覗き孔をあけ,そこに透明軟質塩化ビニル樹脂シートを貼って覗き窓を形成しているが,そのための手間と費用が嵩み,また,覗き窓部分は火花により孔があく危険性があった。」 ウ 課題を解決する手段 「【0007】 【課題を解決するための手段】この発明のウエルディングカーテン材は,光線透過性を有する無機繊維からなる織物又は不織布に難燃性熱硬化性樹脂組成物を含浸して硬化した繊維強化樹脂シートからなるウエルディングカーテン材であって,上記難燃性熱硬化性樹脂組成物の硬化後における屈折率Aと上記無機繊維の屈折率Bとの関係が,次式(1)を満足するものであり,かつ,繊維強化樹脂シートの平行光線透過率が全光線透過率の80%以上であることを特徴とするものである。 【0008】B+0.015≧A≧B-0.005 ・・・・・(1) 上記難燃性熱硬化性樹脂組成物に関しては,ハロゲン化アリールのアクリル誘導体もしくはハロゲン元素を含む不飽和ポリエステル樹脂,該誘導体もしくは不飽和ポリエステル樹脂を溶解し得る液状架橋剤,及び燐含有モノマーよりなり,ハロゲン元素が15〜50重量%,燐が1〜10重量%含有されているものであることが好ましい。そして,液状架橋剤に関しては,末端ビニル基を1〜3個含むアクリル系エステルのモノマーもしくはマクロモノマーからなるものであることが好ましい。」 エ 無機繊維材「【0010】この発明において,光線透過性を有する無機繊維の織物又は不織布としては,例えば,ガラス繊維のヤーンやロービングを平織り,綾織り,繻子織りなどした織物,ガラス繊維チョップドストランドマットなどのガラス繊維不織布などがあげられる。・・・ 【0015】この発明において,無機繊維及び難燃性熱硬化性樹脂組成物を硬化したものの屈折率は,JIS-K-7105に準拠して測定される20℃の屈折率をいう。この発明のウエルディングカーテン材は,所定の幅,長さに裁断したものを衝立方式や吊り下げ方式のカーテンとして使用されるものであるから,柔軟性があって屈曲性に富み,二次加工性がよいことが好ましい。このため,難燃性熱硬化性樹脂組成物に柔軟剤や難燃性可塑剤を添加するのが好ましい。」 オ 実施例 「【0022】 【実施例】以下,この発明のウエルディングカーテン材の実施例について説明する。 (実施例1)光線透過性を有する無機繊維の織物として,屈折率1.5555のガラスヤーン平織りクロス(幅500mm,厚さ100μm,目付け100g/u)を用い・・・低粘度の予備含浸液に浸漬含浸させ,十分に水切りした。 【0023】この予備含浸液を含浸させた平織りガラスヤーンクロスに,テトラブロモビスフェノールA-ビスアクリレート(臭素含有率42重量%)100重量部,テトラヒドロフルフリルアクリレート40重量部,ビスフェノールA-エポキシアクリレート(SP-2500,昭和高分子社製)20重量部,ジフェニル-2-メタクロイルオキシエチルホスフェート(燐含有率8.6重量%)20重量部,トリスジクロロプロピルホスフェート(難燃性可塑剤:燐含有率7.2重量%,塩素含有率48.6重量%)20重量部,光重合剤(ダロキュアー1173,メルク社製)2重量部からなる基本難燃性熱硬化性樹脂組成物を,クロス100gに対してほぼ280gの割合で塗布含浸させ,ローラーでよく予備含浸液と混ぜ合わせた。次いで,その両面に125μm厚さのポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)フィルムを被覆し,これを0.5mm間隔のローラー間に通して脱泡するとともに平滑化した後,紫外線を照射して硬化した。・・・ 【0036】このシートについて,JIS-K-7105に準拠して測定した,全光線透過率,平行光線透過率,平行光線透過率/全光線透過率及び像解明度(くし幅0.5mm),並びにJIS-A-1323に準拠して行った難燃性試験(B種試験:鋼板厚さ4.4mm,C種試験:鋼板厚さ3.2mm)の結果は表1に示すとおりであった。」 カ 段落【0037】の表1には, 「実施例1」のウエルディングカーテン材について,ガラス繊維の屈折率が1.5555,熱硬化性樹脂組成物硬化シートの屈折率が1.5557,繊維強化熱硬化性樹脂シート(ウエルディングカーテン材)が透明であること,全光線透過率が91.8%,平行光線透過率が78.6%,JIS-A-1323に準拠して行った難燃性試験のB種試験及びC種試験のいずれにも適合していることが記載されている。 「【0038】以上の結果から明らかなとおり,この発明のウエルディングカーテン材は,繊維強化樹脂シートに使用された熱硬化性樹脂組成物の硬化後における屈折率Aと無機繊維の屈折率Bとが,B+0.015≧A≧B-0.005の関係を満足し,難燃性繊維強化シートの平行光線透過率が全光線透過率の80%以上の透明性がある。」 キ 発明の効果 「【0039】 【発明の効果】この発明のウエルディングカーテン材は,以上のとおり,透明性があって,向こう側を見通すことができるばかりではなく,難燃性であって,溶接や溶断作業等において発生する高温の火花が貫通することがなく,火災発生を予防できる。」 (3) 各文献の記載事項 ア 甲8文献 甲8文献(甲8。全文訳は甲213)には次の記載がある。 (ア) 従来技術の説明 カーテン煙幕は,火災時に,オフィス,エレベータ,アトリウム又はその他のオープンエリアで煙が急速に立ち上がり,高層建築全体に広がることを防止するための装置である。その際,カーテン煙幕は,火災発生階より上の階から人々が避難し,設備を搬出するための時間を延ばす。さらに,ある種のカーテン煙幕のより日常的な利点として,天井をすっきりさせるのに役立つという点がある。 ・・・天井組立体で使用される1つのタイプのカーテン煙幕の構成では,煙シールドを構成するガラス又は透明なプラスチックのシートは,天井の面から垂直方向に下に伸びるように恒久的に設置される。(2頁6行ないし13行) (イ) カーテン組立品及び煙シールド カーテン煙幕組立品12は,シート状に形成されており,天井10から主に垂直方向に下に伸びている煙シールド14を含む。煙シールド14は,好ましくはガラス製であるが,プラスチック又は木のような他の天然又は合成材料でも使用してもよい。(カラム2の38行ないし40行) (ウ) 図4の説明(図4は省略) 図4に示す例において,煙シールドは実質的に透明であるが,これは全体又は一部が着色又は不透明であってもよい。(カラム5の67行ないしカラム6の1行) (エ) 記載4 本発明は,インテリアデザイナー又は建築家に,煙シールド14の材料及び外観を自由に選択するのを可能にする。実際,本発明の煙シールドは容易に変更し得るので,該シールド自体,インテリアデザインにおいて魅力的な要素となるように決められ得る,又は広告又は他のディスプレイを支えるために使用し得る。 (カラム6の2行ないし8行) イ 実公昭52-49208号公報(甲2。以下「甲2文献」という。) 「建物内の所要個所でその天井部から下方に垂設すべくなした防煙区画用垂れ壁であって,透明体で構成してあることを特徴とする防煙区画用垂れ壁」 (実用新案登録請求の範囲) 「本考案によるときは,防煙区画用垂れ壁を,透明体で構成してあるから次の効果を奏する。 @火災発生時に,この防煙区画用垂れ壁の一側から煙が天井面に沿って流動してきた場合,煙が防煙区画用垂れ壁上部に到達するまでに,この煙の存在を防煙区画用垂れ壁の他側からいち早く知り得る・・・火災がさほど進行していないまだ安全な段階において火災発生を発見でき,人身事故等の大惨事を未然に防止できる大なる効果がある。 A又,平常時についてみると,防煙区画用垂れ壁が上述のように透明体であることにより,これが不透明体であるものに比し照明による光を透過せしめて照明効果の低下を少なくできると共に,防煙区画用垂れ壁を透して向側を広く見透せ,空間を広く感じさせ得る利点がある。(1頁右欄19行ないし37行) 」 ウ 特開平11-76442号公報(甲3。以下「甲3文献」という。) 「垂れ壁本体5は,例えば,無色透明の板ガラス5aで構成する。このような板ガラス5aを用いれば,居住者に防煙垂れ壁の存在を意識させることがなく,天井1の近傍の見通しが確保できて圧迫感を生じさせない。( 」【0011】) エ 特公昭52-43014号公報(甲7。以下「甲7文献」という。) 甲7文献には次の記載があり,特公昭55-44984号公報(甲6)にも同旨の記載がある。 「この発明は,建築基準法によって,一定以上の広さの部屋の天井に,所定の幅の仕切り壁を垂設することが定められている防煙用仕切り壁の取付構造の改良に関する。上記仕切り壁は,天井下面に垂設されるものなので,通常は透明なガラス板を用いて室内の美観を損ねないようにしている。(1欄(1頁左欄)22行ないし 」28行) オ 特開2003-276113号公報(甲18。以下「甲18文献」という。)には,以下の記載がある。 (ア) 「輻射電気ヒ-タ-から基材の表面に50kW/m 2 の輻射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2 以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2 を超えない基材であって,前記基材が,ガラス繊維織物の少なくとも片面に樹脂層を設けて成り,該ガラス繊維織物の経糸および緯糸の密度合計が59本/25mm 以上であり,該経糸または緯糸の撚数が4回/25mm 以下であり,且つ該ガラス繊維織物の通気性が7cm3×cm-2×s-1 以下であることを特徴とする不燃シート材。」(請求項1) (イ) 平成12年6月1日施行された改正建築基準法に伴い,防火材料の性能規定化がなされ,不燃材料については,加熱開始後20分間,@燃焼しないものであること,A防火上有害な変形,溶融,き裂その他の損傷を生じないものであること,B避難上有害な煙又はガスを発生しないものであること,と定められた。さらに,前記@とAに関しては,さらに細かく発熱性試験が定められ,輻射電気ヒ-タ-から基材の表面に50kW/m2 の輻射熱を照射し,i)加熱開始後の20分間の総発熱量が8MJ/m2 以下,ii)加熱開始後20分間,防火上有害な裏面まで貫通する亀裂および穴がないこと,iii)加熱開始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2 を超えないこと,と定められた(【0002】【00 ,03】。 ) (ウ) 本発明に用いられるガラス繊維糸としては,汎用の無アルカリガラス繊維(Eガラス),耐酸性の含アルカリガラス繊維(Cガラス),高強度・高弾性率ガラス繊維(Sガラス,Tガラス等),耐アルカリ性ガラス繊維(ARガラス)等があげられるが,汎用性の高い無アルカリガラス繊維の使用が好ましい(【0009】。 ) (エ) 「本発明に用いられるガラス繊維織物の経糸および緯糸の撚数については,4回/25o以下が好ましい。即ち,4回/25o以上の経糸および緯糸を用いてガラス繊維織物を製織すると,ガラス糸としての集束性が高まり,バスケットホールと呼ばれる経糸と緯糸により囲まれたガラス糸のない部分の面積が大きくなり,該織物の通気性を7p3×p-2×s-1以下にする事が困難となるためである。「従 」って,更なる通気性の低下を図るためには,経糸または緯糸の少なくともどちらか一方に撚数が3回/25o以下の合撚糸を用いることが,特に好ましくなってくる。」(【0012】【0013】 , ) (オ) 「ガラス繊維織物の少なくとも片面に樹脂層を設けた不燃シート材を加熱すると,難燃性が非常に高いと言われている,フッ素樹脂・シリコーン樹脂であっても,その殆どは樹脂が熱分解を受け揮散してしまい,ガラス繊維織物の表面の樹脂がなくなり,ガラス繊維織物が現れてくる。( 」【0015】) 「本発明で用いられる不燃シート材の樹脂層の樹脂量については,膜材料等の建築材料向けには300〜700g/uが好ましく,且つ不燃シート材の全体の厚さが,0.45o以上になるように成形されることが好ましい。( 」【0018】) カ 特開2003-73973号公報(甲40。以下「甲40文献」という。) (ア) 表1及び表2 防水・不燃性膜材について,ガラス繊維織布の両面に塩化ビニル樹脂をコーティングした実施例1ないし5(表1)は,「塩化ビニル樹脂と可塑剤の合計乾燥質量」が約350g/uであり,甲18文献と同様の燃焼性試験を実施した結果が「合格」であったのに対し,比較例5は, 「塩化ビニル樹脂と可塑剤の合計乾燥質量」が約450g/uであり,燃焼性試験に「不合格」であった。 (イ) 「比較例5においては防水性樹脂被覆層の中に占める,塩化ビニル樹脂と可塑剤の合計乾燥重量が400g/uを超えているため,総発熱量が8MJ/uを超え,更に,最高発熱速度も10秒を超えて200kw/uを超えていた。 (8頁左 」欄6行ないし10行) キ 国際公開第03/064535号(甲11。以下「甲11文献」という。) 甲11文献には,アッベ数に関し,次の記載がある。 「樹脂とガラスとのアッベ数が近いと広い波長領域において両者の屈折率が一致し,広い波長領域で高い光線透過率が得られる。(8頁16行ないし18行) 」 ク 特開平5-294671号公報(甲12。以下「甲12文献」という。) (ア) アッベ数は,透明媒質体の光の分散に関する性質を規定する量のことであり,PC樹脂(判決注・ポリカーボネート樹脂)のアッベ数は,約30である。PC樹脂とガラス繊維のアッベ数が大きく異なると,Nd より紫外域に近づいた波長における屈折率,例えば光源波長486.1μmにおける屈折率(以下,NF という),及びNd より赤外域に近づいた波長における屈折率,例えば光源波長656.3μmにおける屈折率(以下,NC という)が大きく異なることになる。このようなPC樹脂と,ガラス繊維からなる樹脂成形体に対し,白色光が照射されると,例えばNF やNC の波長において,PC樹脂とガラス繊維の界面で光線が散乱し,このため樹脂成形体に色付きが発生する(【0010】ないし【0012】 。 ) (イ) 表から明らかなように屈折率とアッベ数がPC樹脂のそれらと近似しているNo.1と2の試料からなるガラス繊維を用いた樹脂成形体は,良好な透明性を有し,しかも色付きも認められなかった。しかしながらアッベ数がPC樹脂のそれと大きく異なるNo.3の試料からなるガラス繊維を用いた樹脂成形体は,良好な透明性を有していたが,色付きが認められた(【0025】【0026】。 , ) (ウ) 表1及び2から,@実施例である試料No.2のガラス繊維のアッベ数は45であり,PC樹脂のアッベ数31との差が14であること,この場合には,色付きが生じないこと,A比較例である試料No.3のガラス繊維のアッベ数は53であり,PC樹脂のアッベ数31との差が22であること,この場合には,色付きが生じることが認められる。 (4) 相違点の検討 ア 相違点1-1について 相違点1-1は,構成要件A1及びIに関し,本件発明1は, 「樹脂で被覆したガラス繊維織物」が「透明不燃性シート」であり「輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m 2を超えない」ものであるのに対し,甲1発明では, 「樹脂で被覆したガラス繊維織物」について,このような特定がされていない点である。 甲1発明の煙封じ込めカーテンは,防煙垂壁に相当するものであり,本件特許の出願当時,@防煙垂壁において,これを不燃性のものにすることは,周知の課題であったこと(甲15。平成12年6月1日施行改正建築基準法(2年目施行)の解説),また,A甲18文献の前記記載によると,輻射電気ヒーターから試験体の表面に50kW/uの輻射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/u以下であり,かつ加熱開始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/uを超えないことを不燃性材料の規格(以下「不燃性規格」という。)とすることは周知のものであったことが認められる。また,甲2,甲3,甲7,甲8各文献の前記記載によれば,防煙垂壁は,透明なものが,防災上も美観上も優れていることが,本件特許の出願当時において,当業者の技術常識であり,防煙垂壁を透明にすること(透過光の色付きを抑えたものにすること)が好ましいという課題も本件特許の出願当時に周知であったことが認められる。 そして,甲10発明のウエルディングカーテン材は透明ではある。しかし,甲10文献には,同ウエルディングカーテン材が不燃性規格を満たすものであるか否かについてはその記載がなく,甲10発明のウエルディングカーテン材が不燃性規格を満たすかどうかは不明である。防煙垂壁において,不燃性規格を満たすべきことが周知の課題であったことからすると,当業者が,甲1発明の防煙垂壁として,甲10発明のウエルディングカーテン材を組み合わせる動機付けに乏しいといわざるを得ない。 審決は,この点について,甲10発明の「ウエルディングカーテン材」は, 「難燃性であって,溶接や溶断作業等において発生する高温の火花が貫通することなく,火災発生を予防することができる」(甲10文献の段落【0039】)ものであるから,その実施例1の「ウエルディングカーテン材」は,相違点1-1に係る本件発明1の構成要件である「不燃性」を満たしている蓋然性が高く,これは,原告が甲10文献の実施例1の樹脂を再現し,甲18文献に記載された発熱性試験と同等の「不燃性試験」を行った結果(甲35)によって,支持されている,と判断した。 しかし,甲10発明のウエルディングカーテン材が難燃性で,高温の火花が貫通することがないものであるとしても,不燃性規格は,前記のとおり,輻射電気ヒーターから試験体の表面に50kW/uの輻射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/u以下であり,かつ加熱開始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/uを超えないことであるから,このような加熱開始後20分間の発熱性試験をクリアするものかどうかは,甲10文献から明らかであるとはいえない。そして,甲10文献からこの点が明らかではない以上,同ウエルディングカーテン材が不燃性規格を満たす蓋然性が高いとまではいえず,当業者が甲10文献の実施例1の再現実験をして,同ウエルディングカーテン材が不燃性規格を満たしているかどうかを確認するのが当然であるということもできない(なお,被告が実施した甲35の実験についても,甲10文献の実施例1で使用されるガラス繊維織物は,厚さが100μm,目付100g/uのものであるのに対し,甲35の実験において,甲10発明の再現に使用したガラス繊維織物は,厚さが90μm,目付104.5g/uのものであることなど,甲10文献の実施例1に忠実な再現実験と直ちにいうこともできない。。 ) 以上によれば,審決の上記判断は,採用することができない。 イ 相違点1-2について 相違点1-2は,構成要件F,G,H及びJに関し,本件発明1は, 「透明不燃性シート」の「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」と「一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物」との「屈折率の差が0.02以下」で,「アッベ数の差が30以下」であり,透明不燃性シートの「全光線透過率が80%以上」であり,かつ,「ヘーズが20%以下」であり,「屈折率の値は,JIS K 7142に従って測定される測定値」であるのに対し,甲1発明では, 「樹脂で被覆したガラス繊維織物」 「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」 「樹 の と脂層を構成する樹脂組成物」との「屈折率の差」及び「アッベ数の差」が特定されておらず,かつ「樹脂で被覆したガラス繊維織物」の「全光線透過率」及び「ヘーズ」の値が特定されておらず,「屈折率」の測定方法が特定されていない点である。 甲10文献の段落【0022】【0023】及び表1の記載によれば,甲10文 ,献には, 「ウエルディングカーテン材」の発明の実施例1として, 「屈折率1.5555のガラスヤーン平織りクロス」 「基本難燃性熱硬化性樹脂組成物と予備含浸液」 に,とを含浸させ紫外線硬化させたシートであって,「基本難燃性熱硬化性樹脂組成物と予備含浸液との全組成物を硬化させた硬化物の屈折率」が「1.5557」であるシートが,「透明」であり,「全光線透過率」が「91.8%」であり,「平行光線透過率」「78.6%」 が であることが記載されている(なお,全光線透過率91.8%, 「平行光線透過率78.6%」はヘーズ値としては約14%を意味する。。 )そうすると,甲10文献の実施例1の「ウエルディングカーテン材」について,同文献には,相違点1-2に係る本件発明1の構成のうち, 「シート」の「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」と「一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物」との「屈折率の差が0.02以下」 (屈折率の差は0.0002(1.5557-1.5555))であること(構成要件F)及び透明不燃性シートの「全光線透過率が80%以上」であり,かつ, 「ヘーズが20%以下」であること(構成要件G)が開示されていると認められる。 しかし,甲10発明のシートが「透明」であったとしても,相違点1-2のうち「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差が30以下」であるとの構成を満たすかどうかについては明らかではない。 したがって,甲1発明に甲10発明のシートを組み合わせたとしても,本件発明1の「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差が30以下」との構成を得るとまでいうことはできない。 審決は,甲10発明のウエルディングカーテン材が透明であること,樹脂とガラスとのアッベ数の差を小さくすると透明性が高まり,色付きが抑えられることが本件特許の出願時に周知の技術であったことからすると,甲10発明のウエルディングカーテン材が「アッベ数の差が30以下」との構成を満たしている蓋然性が高く,仮にそうでないとしても,そのような構成にすることは適宜の設計事項であると判断した。しかし,甲10文献においては,そのウエルディングシートにおける樹脂組成物とガラス組成物とのアッベ数の差については特段の記載がないのであるから,「アッベ数の差が30以下」との構成を満たしている可能性があるとしても,その構成の記載があるに等しいとまでいうことはできない。 よって,甲1発明と本件発明1の相違点1-2に係る構成は,甲1発明に甲10発明の透明難燃性シートを組み合わせることにより得られる構成であるとまでいうことはできないから,この相違点にかかる構成は,当業者が容易に想到し得たものであると判断した審決の判断には誤りがある。 なお, 「ガラス繊維を構成するガラス組成物」と「硬化樹脂層を構成する樹脂組成物」との「前記屈折率の値は,JIS K 7142に従って測定される測定値」であるとの本件訂正が, 「ガラス繊維を構成するガラス組成物」について,新規事項の追加であり,これを認めた審決の判断にも誤りがあることは,後記12のとおりである。 ウ 相違点1-3について 相違点1-3は,本件発明1においては,構成要件B,C及びDに関し,透明不燃性シートが「少なくとも1枚のガラス繊維織物と,ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む」ものであり, 「ガラス繊維織物を挟む一対の樹脂層」の「樹脂」 「ビニルエステル樹脂」 が であり, 「ガラス繊維織物が30〜70重量%であり,一対の硬化樹脂層が70〜30重量%」であるのに対し,甲1発明においては,樹脂で被覆したガラス繊維織物が「ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層」を含むこと, 「樹脂」が「ビニルエステル樹脂」であること,及び「ガラス繊維織物と樹脂層との重量比」が特定されていない点である。 甲10文献の実施例1に記載された「基本難燃性熱硬化性樹脂組成物」には,テトラブロモビスフェノールA-ビスアクリレートが主成分として含まれており,これはビニルエステル樹脂に属するものと認められる。また,甲10文献に記載された実施例における製造方法(段落【0022】ないし【0024】)からすると,甲10発明において,ガラス繊維織物を挟む一対の樹脂層が形成されていることは明らかであるといえる。 しかし,相違点1-3のうち「ガラス繊維織物が30〜70重量%であり,一対の硬化樹脂層が70〜30重量%」との構成については,甲10文献の実施例1では,ガラス繊維織物100gに対し難燃性熱硬化樹脂組成物は280gの割合であるから(【0023】,その割合は,ガラス繊維織物が26.3重量%であり,熱硬 )化樹脂組成物が73.7重量%であると認められる。 したがって,甲1発明に甲10文献の実施例1のウエルディングカーテン材を組み合わせたとしても,本件発明1の「ガラス繊維織物が30〜70重量%であり,一対の硬化樹脂層が70〜30重量%」との構成を得ることはできない。 エ 以上によれば,甲1発明に甲10発明ないし甲10文献の実施例1のウエルディングカーテン材を組み合わせることについては,その動機付けに乏しく,また,仮にこれを組み合わせたとしても,本件発明1の構成を得ることはできず,本件発明1は,甲1発明及び甲10発明から容易に想到し得たものということはできない。 (5) 本件発明2,3及び7について ア 本件発明2,3及び7と甲1発明との相違点 本件発明2と甲1発明とを対比すると,相違点1-1ないし1-4に加え,相違点1-5及び1-6でも相違すること,本件発明3と甲1発明とを対比すると,相違点1-1ないし1-4に加え,相違点1-7及び1-8でも相違すること,本件発明7と甲1発明とを対比すると,相違点1-1ないし1-4並びに相違点1-6及び1-7に加え,相違点1-9ないし1-11でも相違することが認められる。 イ 相違点1-1ないし1-3について 相違点1-1ないし1-3については,甲1発明に甲10発明及び周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易に想到することができるとはいえないことは前記に認定判断のとおりである。 よって,その余の相違点について判断するまでもなく本件発明2,3及び7は,甲1発明と甲10発明及び周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易に発明することができたものと認めることはできず,この点に関する審決の判断は誤りである。 (6) 被告の主張について ア 被告は,本件発明1がガラス繊維と樹脂からなる複合シートを使用した防煙垂壁であることを踏まえると,当業者であれば,甲1文献に接した際に,防煙垂壁を不燃性にするという周知の課題及び防煙垂壁を無色透明にすることが好ましいという周知の課題に適合させ,ガラス繊維織物と樹脂からなる複合シートを不燃性で無色透明にするための技術的手段の解決のために,甲10発明のウエルディングカーテン材を採用することは当然に動機付けられるといえる,また,甲10発明は,甲1発明と使用する材料の構造が共通しており,防煙垂壁に要求される機能の点でも共通しているから,このような構造や機能の共通性に鑑みれば,透明かつ不燃性であることが求められるという防煙垂壁の周知の課題を解決するために,甲1発明に甲10発明を適用する動機付けは十分にあるといえる,などと主張する。 しかし,甲1発明に甲10発明ないし甲10文献の実施例1のウエルディングカーテン材を組み合わせることについては,同ウエルディングカーテン材が不燃性規格を満たすかどうかが甲10文献から明らかではない以上,その動機付けに乏しく,また,仮にこれを組み合わせたとしても,本件発明1の構成を得ることはできず,本件発明1は,甲1発明及び甲10発明から容易に想到し得たものということはできないのは前記認定のとおりである。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 イ 被告は,甲10発明のウエルディングカーテン材は,難燃性であることが明示され,かつ高温の火花を貫通させることもないため,当業者であれば不燃性を満たしている蓋然性が高いと容易に認識できるものであり,しかも,甲10発明のウエルディングカーテン材は実際に不燃性であるから(甲35) 甲10発明のウエル ,ディングカーテン材は,不燃性を備えている可能性が高く, 「防煙垂壁を不燃性にするという周知の課題」の解決に好適であるといえる旨主張する。 しかし,甲10発明のウエルディングカーテン材が難燃性で,高温の火花が貫通することがないものであるとしても,不燃性規格をクリアするものかどうかは,甲10文献から明らかであるとはいえない以上,同ウエルディングカーテン材が不燃性規格を満たす蓋然性が高いとまではいえず,当業者が甲10文献の実施例1の再現実験をして,同ウエルディングカーテン材が不燃性規格を満たしているかどうかを確認するのが当然であるということもできないのは前記認定のとおりである。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 4 取消事由3(甲1発明を主引用発明とし,甲9文献を副引例とする本件発明の容易想到性についての判断の誤り)について (1) 本件発明と甲1発明の相違点について 本件発明と甲1発明との相違点は,前記第2,3(1)イ(イ)のとおりである。 (2) 甲9文献の記載事項 甲9文献(甲9)には,ガラスクロス補強透明難燃シートに関し,次に示す事項が開示されている。 ア 「ガラスクロス補強透明難燃シート(エスロンUTシート)(B-27/1 」頁,1行目「表題」) イ 「感光性樹脂はこれまで薄膜的に使用される事が一般的で,シート状物等にし日用品や,二次構造材として使用することはほとんどなかった。 ・・・我々は数年前から製品化研究に着手して来たが,その一環としてガラスクロスを芯材にし,柔軟で透明な又,火花を貫通させない難燃性を有するシートを開発し,上市する運びとなったのでここに報告する。(B-27/1頁, 」 「1.はじめに」) ウ 「架橋性樹脂シートの弱点である強度を補強する為,今回はガラスヤーンクロスを用いた。これにより引張強度は約100MP程度になり,シートを単独で使用するに充分な強度となった。火花を貫通させない透明且つ柔軟なと言う市場要求があり,技術的興味とマッチしたので開発したが,用途としては単にカーテン類に留まらず種々考えられる。(B-27/1頁, 」 「2.透明難燃シート(エスロンUTシート)について」) エ 「ガラスヤーンクロスを芯材としこれに感光性難燃樹脂組成物を含浸,脱泡し所定の厚みに調整して紫外線硬化したもので架橋物であるため耐熱性に優れる。」(B-27/1頁,「2-1 技術的要点」の1)) オ 「ガラスと樹脂組成物との屈折率をある範囲内に調整し,又,クロス内の空気を完全に脱泡することで透明が維持される。……屈折率の許容範囲はガラスの屈折率GD(ここでは D20 1.556)とすると GD+0.015>GD>GD-0.005 となる。」 (B-27/1頁, 「2-1 技術的要点」の2)) (判決注:「>GD>」における「GD」は,「樹脂組成物の屈折率」の誤記と認める。) カ 表2 キ 製品の特徴の1「難燃性である。 溶接等の火花を貫通させない。……建築用薄物材料の難燃性試験 JIS-A-1322 防炎1級 に合格 建築工事用シートの溶接及び溶断火花に対する難燃性試験JIS-A-1323C種に合格」(B-27/2頁,「2-2 製品の特徴」の1)) ク 製品の特徴の2 「透明である 又透明着色が可能である。 ヘイズ値20〜30 無着色シートでの全光線透過率89%」(B-27/2頁,「2-2 製品の特徴」の2)) ケ 製品の特徴の4 「耐熱性がある 加熱分解温度(JIS-K-7120) 350℃ 常用熱風使用温度 160℃」(B-27/2頁,「2-2 製品の特徴」の4)) コ 製品の問題点の3 「繰返し折曲に弱い(MIT400回) 但し直径100mmのドラムでの巻き上げテストでは10万回クリアー(続行中) 従って巻き上げカーテンには使用可能 ,と思われる.(B-27/2頁, 」 「2-4 製品の問題点」の3)) サ 表3 「通常品」の重量が「328g/m2」であり, 表3には, 「引裂強度補強品」の重量が「375g/m2」であることが記載されている(B-27/2頁)。 (3) 相違点の検討 ア 相違点1-1について 相違点1-1は,構成要件A1及びIに関し,本件発明1は, 「樹脂で被覆したガラス繊維織物」が「透明不燃性シート」であり「輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m 2を超えない」ものであるのに対し,甲1発明では, 「樹脂で被覆したガラス繊維織物」について,このような特定がされていない点である。 甲1発明の煙封じ込めカーテンは,防煙垂壁に相当するものであり,本件特許の出願当時,防煙垂壁において,これを不燃性のものにし,不燃性規格を満たすべきことは周知の課題であったことは前記認定のとおりである。また,防煙垂壁は,透明なものが,防災上も美観上も優れていることが,本件特許の出願当時において,当業者の技術常識であり,防煙垂壁を透明にすること(透過光の色付きを抑えたものにすること)が好ましいという課題も本件特許の出願当時に周知であったことも前記認定のとおりである。 そして,甲9発明のガラスクロス補強透明難燃シートは透明ではある。しかし,甲9文献には,同シートが不燃性規格を満たすものであるか否かについてはその記載がなく,甲9発明のシートが不燃性規格を満たすかどうかは不明である。防煙垂壁において,不燃性規格を満たすべきことが周知の課題であったことからすると,当業者が,甲1発明の防煙垂壁として,甲9発明のシートを組み合わせる動機付けに乏しいといわざるを得ない。 審決は,この点について,甲9発明の「ガラスクロス補強透明難燃シート」は,「難燃性である。火花を貫通させない。(前記(2)キ)ものであるから,相違点1- 」1に係る本件発明1の構成要件である「不燃性」を備えている蓋然性が高く,仮に,不燃性を備えていないとしても,当該不燃性を備えるようにすることは,当業者が適宜なし得る単なる設計的事項である,と判断した。 しかし,甲9発明のシートが難燃性で,火花が貫通することがないものであるとしても,不燃性規格は,前記のとおり,輻射電気ヒーターから試験体の表面に50kW/uの輻射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/u以下であり,かつ加熱開始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/uを超えないことであるから,このような加熱開始後20分間の発熱性試験をクリアするものかどうかは,甲9文献から明らかであるとはいえず,同シートが不燃性規格を満たす蓋然性が高いとまではいえない。 以上によれば,審決の上記判断は,採用することができない。 イ 相違点1-2について 相違点1-2は,構成要件F,G,H及びJに関し,本件発明1は, 「透明不燃性シート」の「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」と「一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物」との「屈折率の差が0.02以下」で,「アッベ数の差が30以下」であり,透明不燃性シートの「全光線透過率が80%以上」であり,かつ,「ヘーズが20%以下」であり,「屈折率の値は,JIS K 7142に従って測定される測定値」であるのに対し,甲1発明では, 「樹脂で被覆したガラス繊維織物」 「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」 「樹 の と脂層を構成する樹脂組成物」との「屈折率の差」及び「アッベ数の差」が特定されておらず,かつ「樹脂で被覆したガラス繊維織物」の「全光線透過率」及び「ヘーズ」の値が特定されておらず,「屈折率」の測定方法が特定されていない点である。 甲9文献の前記記載によれば,甲9発明のガラスクロス補強透明難燃シートについて,同文献には,相違点1-2に係る本件発明1の構成のうち,シートの「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」と「一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物」との「屈折率の差が0.02以下」 (屈折率の差は0.005未満のものが記載されいている。)であること(構成要件F)及びシートの「全光線透過率が80%以上」であり,かつ, 「ヘーズが20%以下」であること(構成要件G)が開示ないし示唆されていると認められる。 しかし,甲9発明のシートが「透明」であったとしても,相違点1-2のうち「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差が30以下」であるとの構成を満たすかどうかについては明らかではない。 したがって,甲1発明に甲9発明のシートを組み合わせたとしても,本件発明1の「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差が30以下」との構成を得ることはできない。 審決は,甲9発明のシートが透明であること,樹脂とガラスとのアッベ数の差を小さくすると透明性が高まり,色付きが抑えられることが本件特許の出願時に周知の技術であったことからすると,甲9発明のシートが「アッベ数の差が30以下」との構成を満たしている蓋然性が高く,仮にそうでないとしても,そのような構成にすることは適宜の設計事項であると判断した。しかし,甲9文献においては,そのシートにおける樹脂組成物とガラス組成物とのアッベ数の差については特段の記載がないのであるから, 「アッベ数の差が30以下」との構成を満たしている可能性があるとしても,その構成の記載があるに等しいとまでいうことはできない。 以上によれば,甲1発明と本件発明1の相違点1-2に係る構成は,甲1発明に甲9発明の透明難燃性シートを組み合わせることにより得られる構成であるとまでいうことはできないから,この相違点にかかる構成は,当業者が容易に想到し得たものであると判断した審決の判断には誤りがある。 なお, 「ガラス繊維を構成するガラス組成物」と「硬化樹脂層を構成する樹脂組成物」との「前記屈折率の値は,JIS K 7142に従って測定される測定値」であるとの本件訂正が, 「ガラス繊維を構成するガラス組成物」について,新規事項の追加であり,これを認めた審決の判断にも誤りがあることは,後記12のとおりである。 ウ 相違点1-3について 相違点1-3は,本件発明1においては,構成要件B,C及びDに関し,透明不燃性シートが「少なくとも1枚のガラス繊維織物と,ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む」ものであり, 「ガラス繊維織物を挟む一対の樹脂層」の「樹脂」 「ビニルエステル樹脂」 が であり, 「ガラス繊維織物が30〜70重量%であり,一対の硬化樹脂層が70〜30重量%」であるのに対し,甲1発明においては,樹脂で被覆したガラス繊維織物が「ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層」を含むこと, 「樹脂」が「ビニルエステル樹脂」であること,及び「ガラス繊維織物と樹脂層との重量比」が特定されていない点である。 甲9文献の前記記載によれば,甲9発明の「ガラスクロス補強透明難燃シート」の樹脂は硬化樹脂であることは認められるけれども,これがビニルエステル樹脂であるかどうかは明らかではない。また,ガラス繊維織物と樹脂との重量比についても, 「ガラス繊維織物が30〜70重量%であり,一対の硬化樹脂層が70〜30重量%」かどうかについても明らかではない。 したがって,甲1発明に甲9発明の「ガラスクロス補強透明難燃シート」を組み合わせたとしても,本件発明1の「樹脂」が「ビニルエステル樹脂」であり, 「ガラス繊維織物が30〜70重量%であり,一対の硬化樹脂層が70〜30重量%」との構成を得ることはできない。 エ 以上によれば,甲1発明に甲9発明のガラスクロス補強透明難燃シートを組み合わせることについては,その動機付けに乏しく,また,仮にこれを組み合わせたとしても,本件発明1の構成を得ることはできず,本件発明1は,甲1発明及び甲9発明から容易に想到し得たものということはできない。 (4) 本件発明2,3及び7について ア 本件発明2,3及び7と甲1発明との相違点 本件発明2と甲1発明とを対比すると,相違点1-1ないし1-4に加え,相違点1-5及び1-6でも相違すること,本件発明3と甲1発明とを対比すると,相違点1-1ないし1-4に加え,相違点1-7及び1-8でも相違すること,本件発明7と甲1発明とを対比すると,相違点1-1ないし1-4並びに相違点1-6及び1-7に加え,相違点1-9ないし1-11でも相違することが認められる。 イ 相違点1-1ないし1-3について 相違点1-1ないし1-3については,いずれも甲1発明に甲9発明及び周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易に想到することができるとはいえないことは前記に認定判断のとおりである。 よって,その余の相違点について判断するまでもなく本件発明2,3及び7は,甲1発明と甲9発明及び周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易に発明することができたものと認めることはできず,この点に関する審決の判断は誤りである。 5 取消事由4(本件発明と甲8発明との一致点の認定の誤り(相違点の看過))について (1) 甲8発明の認定 甲8文献の前記記載によれば,甲8発明は,前記第2,3(2)アのとおり,「天井から主に垂直方向に下に伸びている,透明シートからなる煙シールドを含むカーテン煙幕組立品であって,前記透明シートはプラスチックであるカーテン煙幕組立品。」であると認められる。 (2) 本件発明と甲8発明の対比 本件発明と甲8発明を対比すると,甲8発明の「天井から主に垂直方向に下に伸びている」 「ガーテン煙幕組立品」は,本件発明の「防煙垂壁」に相当し,甲8発明の「透明シート」と,本件発明の「透明不燃性シート」とは, 「透明シート」である限りにおいて一致する。また,甲8発明と,本件発明の「少なくとも1枚のガラス繊維織物と,ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明不燃性シート」とは,「樹脂製品」である限りにおいて一致するものと認められる。 そうすると,審決が,甲8発明と本件発明との一致点を「A8’.透明シートからなる防煙垂壁であって,B8’.該透明シートが,樹脂製品である K. 防煙垂壁。」と判断したことに誤りがあるとはいえない。 原告は, 「該透明シートが,樹脂製品である」点を本件発明と甲8発明の一致点とした審決には誤りがある旨主張する。しかし,本件発明と甲8発明のプラスチックは,いずれも樹脂製品であるとはいえるから,原告の主張は採用することができない。 したがって,取消事由4は理由がない。 6 取消事由5(甲8発明を主引用発明とする本件発明の容易想到性についての判断の誤り)ついて (1) 本件発明1について ア 本件発明1と甲8発明との相違点は,前記第2,3(2)イ(イ)のとおりである。 イ 甲8文献の記載事項は,前記3(3)アのとおりである。 ウ 相違点の検討 審決は,本件発明1と甲8発明の相違点8-1ないし8-4は,相違点1-1ないし1-4と同様であるところ,防煙垂壁を不燃性にするという周知の課題及び防煙垂壁を透明でかつ無色にすることが好ましいという周知の課題に適合させるため,甲8発明の「透明シート」に代えて,甲9発明の「ガラスクロス補強透明難燃シート」又は甲10発明の「ウエルディングカーテン材」を採用し,その際,透明性,強度,不燃性等を考慮して,アッベ数の差,樹脂層の重量,ガラス繊維織物と樹脂の重量比等を適宜調整し,相違点8-1ないし8-4に係る本件発明1の構成を満たす発明とすることは,当業者が容易になし得たことであると判断した。 本件訂正明細書の記載によれば,本件発明は,火災時に発生する煙や有毒ガスの流動を妨げるため,建築物の天井に取り付けられる防煙垂壁に関する発明である。 防煙垂壁については,透明で,不燃性に優れ,かつ割れない建築材料が所望されていたところ,本件発明は,上記課題を解決するべく,防煙垂壁を,ガラス繊維織物と,これを挟む一対の硬化樹脂層とを含む透明不燃性シートにより構成し,当該透明不燃性シートにおいて,ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス繊維組成物と硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差,アッベ数の差,全光線透過率,ヘーズ,発熱性試験の結果等について,最適値を特定したものであると認められる。 これに対し,甲8発明は, 「天井から主に垂直方向に下に伸びている,透明シートからなる煙シールドを含むカーテン煙幕組立品であって,前記透明シートはプラスチックであるカーテン煙幕組立品」であるところ,甲8文献には,カーテン煙幕組立品としてプラスチックのみからなるシートを採用することは開示されていると認められるものの,カーテン煙幕組立品を,ガラス繊維織物とこれを挟む一対の硬化樹脂層とを含むシートにより構成することについては,記載も示唆もされていない。 また,防煙垂壁を不燃性にするという周知の課題及び防煙垂壁を透明でかつ無色にすることが好ましいという周知の課題があることを考慮しても,甲9発明及び甲10発明のシートは,いずれも溶接及び溶断による火花の貫通を防ぐためのシートであり,防煙垂壁(カーテン煙幕組立品)に関するものではなく,不燃性規格を満たすものであるか否かも不明であるから,甲8発明において,当業者が,カーテン煙幕組立品の材料として,ガラス繊維織物とこれを挟む一対の硬化樹脂層とを含むシートにより構成される甲9発明又は甲10発明を用いることを試みるものとは認められない。 したがって,甲8発明と本件発明1の相違点8-1ないし8-3に係る構成は,甲8発明のプラスチックのみからなるシートを,ガラス繊維織物とこれを挟む一対の硬化樹脂層とを含むシートに置換しようとする動機付けがあるとは認められないから,甲8発明に甲9発明又は甲10発明の透明難燃性シートを組み合わせることにより,当業者が容易に想到し得たものであると判断した審決の判断には誤りがある。 エ 被告は,甲8発明のプラスチックを,ガラス繊維織物と樹脂との複合材料に置換することが容易である以上,かかる置換を行った上で,屈折率やアッベ数を決定することも,当業者であれば容易になし得る設計的事項であるといえる旨主張する。しかし,甲8発明のプラスチックのみからなるシートを,ガラス繊維織物とこれを挟む一対の硬化樹脂層とを含むシートに置換しようとする動機付けがあると認めることはできないのは前記認定のとおりであるから,被告の上記主張は採用することができない。 オ 以上によれば,本件発明1は,甲8発明と甲9発明又は甲10発明及び周知技術から容易に想到し得たものということはできない。 (2) 本件発明2,3及び7について ア 本件発明2,3及び7と甲8発明との相違点 本件発明2と甲8発明とを対比すると,相違点8-1ないし8-4に加え,相違点8-5及び8-6でも相違すること,本件発明3と甲8発明とを対比すると,相違点8-1ないし8-4に加え,相違点8-7及び8-8でも相違すること,本件発明7と甲8発明とを対比すると,相違点8-1ないし8-4並びに相違点8-6及び8-7に加え,相違点8-9ないし8-11でも相違することが認められる。 イ 相違点8-1ないし8-3について 相違点8-1ないし8-3については,甲8発明に甲9発明又は甲10発明及び周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易に想到することができるとはいえないことは前記に認定判断のとおりである。 よって,その余の相違点について判断するまでもなく本件発明2,3及び7は,甲8発明と甲9発明又は甲10発明及び周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易に発明することができたものと認めることはできず,この点に関する審決の判断は誤りである。 したがって,原告が主張する取消事由5は理由がある。 7 取消事由6(甲9文献の主引例としての適格性の判断の誤り)について 甲9文献の前記記載によれば,甲9発明は,前記第2,3(3)アのとおり,「透明難燃シートからなるカーテン類であって,前記透明難燃シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前記ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明難燃シートであって,前記透明難燃シート1u当たり,前記一対の硬化樹脂層の重量が375g/uより小さい範囲であり,前記透明難燃シートを構成するガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.005未満であり,全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%である,建築用薄物材料の難燃性試験JIS-A-1322防炎1級に合格し,かつ,建築工事用シートの溶接及び溶断火花に対する難燃性試験JIS-A-1323C種に合格している,カーテン類。 であると認めら 」れる。そうすると,審決が,甲9発明として,同旨の内容を認定した点に誤りがあるとはいえない。 原告は,甲9文献に接した当業者がその発明の存在や性質を確認できる程度に発明の内容が開示されているとはいえないから,甲9発明は引用発明としての適格性を欠く不適切なものであり,甲9文献に記載されている事項を引用発明とすることはできない旨主張する。しかし,甲9文献には,前記の内容の発明が開示されていると認められるから,原告の上記主張は採用することができない。 したがって,取消事由6は理由がない。 8 取消事由7(本件発明と甲9発明との一致点の認定の誤り(相違点の看過))について 本件発明と甲9発明の一致点について検討するに,防煙垂壁について「カーテン」という語が用いられることがあるから,甲9発明の「カーテン類」と本件発明の「防煙垂壁」は「カーテン類」である限りで一致し,甲9発明の「透明難燃シート」と本件発明の「透明不燃性シート」とは「透明シート」である限りにおいて一致する。 また,甲9発明において, 「ガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.005未満」であるから,本件発明の「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下」を満たし,甲9発明の「ヘーズが20%」との構成は,本件発明の「ヘーズが20%以下」を満たすものと認められる。 そうすると,審決が,甲9発明と本件発明とを対比して, 「A9’.透明シートからなるカーテン類であって,B9’.該透明シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前記ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明シートであり,F.前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下であり,H.全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下である,K9’.カーテン類。」である点で一致していると判断したことに誤りがあるとはいえない。 原告は,本件発明と甲9発明の一致点の認定に誤りがある旨主張するけれども,前記認定に照らし,原告の主張は採用することができない。 したがって,取消事由7は理由がない。 9 取消事由8(甲9発明を主引用発明とする本件発明の容易想到性の判断の誤り)について (1) 本件発明1について ア 相違点9-1について 相違点9-1は,構成要件A1及びJに関し,本件発明1は, 「防煙垂壁」であるのに対し,甲9発明は「防煙垂壁」であることが特定されていない点である。 甲9文献の前記記載によれば,甲9発明のシートは溶接及び溶断による火花の貫通を防ぐためのシートであり,その応用展開として,電子部品材料,家電製品の部品,自動車部品材料等があることは認められる。また,甲9発明のシートが建築用薄物材料の難燃性試験JIS-A-1322防炎1級に合格していることを考慮すると,建築用薄物材料として用いられることは想定されているといい得る。しかし,甲9文献には,甲9発明のシートが,火災時に発生する煙や有毒ガスの流動を妨げることを目的として建築物の天井に取り付けられる防煙垂壁に用いられることについては記載も示唆もされていないし,同シートが不燃性規格を満たすものであるか否かも不明である。 そうすると,防煙垂壁を不燃性にするという周知の課題及び防煙垂壁を透明でかつ無色にすることが好ましいという周知の課題があることを考慮しても,当業者が,溶接等における火花の貫通を防ぐためのカーテン類である甲9発明から防煙垂壁を想起し,その材料として,甲9発明のシートを用いることを想到するものとは認められない。 したがって,甲9発明を防煙垂壁として用いようとする動機付けが認められないから,甲9発明において,相違点9-1に係る本件発明1の構成に容易に想到し得たものと認めることはできない。 被告は,防煙垂壁についてガラス以外の素材の使用が示唆されているから(甲42),ガラス繊維織物と樹脂からなる複合シートに関する技術水準を持ち合わせている当業者であれば,防煙垂壁にガラスを使用することを諦めた場合には,ガラス繊維織物と樹脂からなる複合シートを使用すれば,透明性を犠牲にせずとも,ガラスに近い外観の防煙垂壁が作れることは当然に認識できるなどとして,甲9発明を防煙垂壁に用いる動機付けがある旨主張する。しかし,防煙垂壁についてガラス以外の素材の使用が示唆されているとしても,甲9文献には,甲9発明のシートを防煙垂壁に用いることについては記載も示唆もされておらず,甲9発明を防煙垂壁として用いようとする動機付けが認められないことは前記認定のとおりである。したがって,被告の上記主張は採用することができない。 イ 相違点9-2ないし9-5について 相違点9-1については,甲9発明に基づき,当業者が容易に想到することができるとはいえないことは前記に認定判断のとおりである。 よって,その余の相違点について判断するまでもなく,本件発明1は,甲9発明に基づき,当業者が容易に発明することができたものと認めることはできず,この点に関する審決の判断は誤りである。 (2) 本件発明2,3及び7について ア 本件発明2,3及び7と甲9発明との相違点 本件発明2と甲9発明とを対比すると,相違点9-1ないし9-5に加え,相違点9-6及び9-7でも相違すること,本件発明3と甲9発明とを対比すると,相違点9-1ないし9-5に加え,相違点9-8及び9-9でも相違すること,本件発明7と甲9発明とを対比すると,相違点9-1ないし9-5並びに相違点9-7及び9-8に加え,相違点9-10ないし9-12でも相違することが認められる。 イ 相違点9-1について 相違点9-1については,甲9発明に基づき,当業者が容易に想到することができるとはいえないことは前記に認定判断のとおりである。 よって,その余の相違点について判断するまでもなく本件発明2,3及び7は,甲9発明に基づき,当業者が容易に発明することができたものと認めることはできず,この点に関する審決の判断は誤りである。 したがって,原告が主張する取消事由8は理由がある。 10 取消事由9(本件発明と甲10発明との一致点の認定の誤り(相違点の看過))について (1) 甲10発明の認定 甲10文献の前記記載によれば,甲10発明は,前記第2,3(4)アのとおり, 「透明難燃性シートからなる吊り下げ方式のウエルディングカーテンであって,前記透明難燃シートが少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前記ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明難燃性シートであり,前記硬化樹脂がビニルエステル樹脂であり,前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.0002であり,全光線透過率が91.8%であり,ヘーズが約14%であり,JIS-A-1323に準拠して行った難燃性試験のB種試験及びC種試験のいずれにも適合している透明難燃シートである,ウエルディングカーテン。」であると認められる。 (2) 本件発明と甲10発明の対比 防煙垂壁について「カーテン」という語が用いられることがあるから,甲10発明の「吊り下げ方式のウエルディングカーテン」と本件発明の「防煙垂壁」は「カーテン」である限りで一致し,甲10発明の「透明難燃シート」と本件発明の「透明不燃性シート」とは「透明シート」である限りにおいて一致する。 また,甲10発明において, 「ガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.0002」であるから,本件発明の「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下」を満たし,甲10発明の「全光線透過率が91.8%であり,ヘーズが約14%」との構成は,本件発明の「全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下」を満たすものと認められる。 そうすると,審決が,甲10発明と本件発明とを対比して,「A10’.透明シートからなるカーテンであって,B10’.該透明シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前記ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明シートであり,C.前記硬化樹脂がビニルエステル樹脂であり,F.前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下であり,H.全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下である,K10’.カーテン。」である点で一致していると判断したことに誤りがあるとはいえない。 原告は,本件発明と甲10発明の一致点の認定に誤りがある旨主張するけれども,前記認定に照らし,採用することができない。 したがって,取消事由9は理由がない。 11 取消事由10(甲10発明を主引用発明とする本件発明の容易想到性の判断の誤り)について (1) 本件発明1について ア 相違点10-1について 相違点10-1は,構成要件A1及びJに関し,本件発明1は, 「防煙垂壁」であるのに対し,甲10発明は「吊り下げ方式のウエルディングカーテン」である点である。 甲10文献の前記記載(段落【0003】)によれば,甲10発明のシートは溶接及び溶断による火花の貫通を防ぐためのシートであることが記載されているものの,火災時に発生する煙や有毒ガスの流動を妨げることを目的として建築物の天井に取り付けられる防煙垂壁に用いられることについては記載も示唆もされていないし,同シートが不燃性規格を満たすものであるか否かも不明である。 そうすると,防煙垂壁を不燃性にするという周知の課題及び防煙垂壁を透明でかつ無色にすることが好ましいという周知の課題があることを考慮しても,当業者が,溶接等における火花の貫通を防ぐための吊り下げ方式のウエルディングカーテンである甲10発明のシートから防煙垂壁を想起し,その材料として,甲10発明のシートを用いることを想到するものとは認められない。 したがって,甲10発明を防煙垂壁として用いようとする動機付けが認められないから,甲10発明において,相違点10-1に係る本件発明1の構成に容易に想到し得たものと認めることはできない。 被告は,防煙垂壁についてガラス以外の素材の使用が示唆されているから(甲42),ガラス繊維織物と樹脂からなる複合シートに関する技術水準を持ち合わせている当業者であれば,防煙垂壁にガラスを使用することを諦めた場合には,ガラス繊維織物と樹脂からなる複合シートを使用すれば,透明性を犠牲にせずとも,ガラスに近い外観の防煙垂壁が作れることは当然に認識できるなどとして,甲10発明を防煙垂壁に用いる動機付けがある旨主張する。しかし,防煙垂壁についてガラス以外の素材の使用が示唆されているとしても,甲10文献には,甲10発明のシートを防煙垂壁に用いることについては記載も示唆もされておらず,甲10発明を防煙垂壁として用いようとする動機付けが認められないことは前記認定のとおりである。したがって,被告の上記主張は採用することができない。 イ 相違点10-2ないし10-5について 相違点10-1については,甲10発明に基づき,当業者が容易に想到することができるとはいえないことは前記に認定判断のとおりである。 よって,その余の相違点について判断するまでもなく本件発明1は,甲10発明に基づき,当業者が容易に発明することができたものと認めることはできず,この点に関する審決の判断は誤りである。 (2) 本件発明2,3及び7について ア 本件発明2,3及び7と甲10発明との相違点 本件発明2と甲10発明とを対比すると,相違点10-1ないし10-5に加え,相違点10-6及び10-7でも相違すること,本件発明3と甲10発明とを対比すると,相違点10-1ないし10-5に加え,相違点10-8及び10-9でも相違すること,本件発明7と甲10発明とを対比すると,相違点10-1ないし10-5並びに相違点10-7及び10-8に加え,相違点10-10ないし10-12でも相違することが認められる。 イ 相違点10-1について 相違点10-1については,甲10発明に基づき,当業者が容易に想到することができるとはいえないことは前記に認定判断のとおりである。 よって,その余の相違点について判断するまでもなく本件発明2,3及び7は,甲10発明に基づき,当業者が容易に発明することができたものと認めることはできず,この点に関する審決の判断は誤りである。 したがって,原告が主張する取消事由10は理由がある。 12 本件訂正の適否について 本件訂正により,屈折率の測定方法に関して,請求項1には「J.前記屈折率の値は,JIS K 7142に従って測定される測定値であり,」との構成要件が,請求項2には「J2.前記硬化樹脂層の屈折率の値は,JIS K 7142のB法に従って測定される測定値であり,前記ガラス繊維織物を構成するガラス組成物の屈折率の値はJIS K 7142のB法におけるプラスチックをガラスに替えた方法に従って測定される測定値であり,」との構成要件が,請求項3には「J4.前記屈折率の値は,JIS K 7142に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値であり,」との構成要件が,請求項7には「J3.前記硬化樹脂層の屈折率の値は,JIS K 7142のB法に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値であり,前記ガラス繊維織物を構成するガラス組成物の屈折率の値は前記JIS K 7142のB法におけるプラスチックをガラスに替えた方法に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値であり, との構成要件が, 」 それぞれ付加されている。 審決は,本件訂正のうち,屈折率の測定方法に関する訂正事項について,本件明細書,特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項の範囲内の事項といえるから,特許法134条の2第9項が準用する同法126条5項の規定に適合するとして,本件訂正を認める旨の判断をした。しかし,審決を取り消すに当たり,本件訂正を認めた審決の判断も,次に述べるとおり,誤りであることを付言する。 まず,樹脂の屈折率については,本件特許の特許請求の範囲(登録時のもの)の記載において,屈折率の測定方法が特定されていないところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,「硬化樹脂層の屈折率測定方法は,JIS K 7142の「プラスチックの屈折率測定方法」(Determination of the refractive index of plastics)に従う。具体的には,ガラス繊維織物が含まれていない硬化性樹脂のフィルムを,ガラス繊維織物を含む場合と同じ条件で作成し,アッベ屈折計を用いて測定する。(段落【0037】 」 )と記載されていることが認められる。そうすると,樹脂組成物の屈折率については,「JIS K 7142」 (甲203)に規定されたA法(板状またはフィルム状試験片に適用)とB法(粉末状,ペレット状,顆粒状サンプルに適用)のうち,アッベ屈折計を用いるとされるA法により測定されることが記載されていると認められる。したがって,樹脂組成物の屈折率の測定方法について「JIS K 7142」のB法への訂正を認めた審決の判断は誤りである。 これに対し,ガラス組成物の屈折率については,いくつかの測定方法があり,測定方法が相違すると,測定値も異なることがあること(甲27ないし29,50,101,111,125,162),ガラス繊維は溶けたガラスを冷却して作製されるものであるところ,同じ組成のガラスでありながら,繊維とした場合その性質が変わってくること,また,ガラスを急冷した場合と徐冷した場合とでも屈折率が異なること(甲51ないし54)が認められる。しかし,本件訂正前の本件特許の特許請求の範囲の記載では,ガラス組成物の屈折率の測定方法が特定されていないし,また,本件明細書における発明の詳細な説明にも,ガラス組成物の屈折率の測定方法は明記されていないことが認められる。 もっとも,このような場合であっても,本件明細書におけるガラス組成物の屈折率に関する記載を合理的に解釈し,当業者の技術常識も参酌して,ガラス組成物の屈折率の測定方法を合理的に推認することができるときには,そのように解釈すべきである。 まず,本件明細書においては,特に,ガラス繊維織物に織られたガラス繊維の品番ECE225,ECG75,ECG37等が特定されているのに対し,そのガラス繊維であるECE225,ECG75,ECG37等の屈折率が表示されていないこと(段落【0081】【0093】,その原料であるEガラスの屈折率が1. , )558であると表示されており(段落【0083】,表1におけるガラス繊維織物 )の屈折率にもその1.558が用いられていることなどを考慮すると,本件発明における「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」 「屈折率」 の は,ガラス繊維の屈折率を測定して得られたものではなく,繊維化する前のガラス組成物(原料)の屈折率であると認めるのが相当である。なお,Eガラスにも各種品目があり,Eガラスの屈折率については,1.548(甲54) 1. , 560(甲11)のものもあるところ,本件明細書においては,Eガラスの中でも,屈折率が1.558のものが用いられたものと推認することができる。また,本件明細書には,硬化樹脂の屈折率の測定方法についての記載があるのに対し,ガラス組成物の屈折率の測定方法についての記載がないのは,ガラス組成物について,商品データベース(甲126)などから,その屈折率が得られることから,独自に測定する必要性がないことによるということができる。前記のとおり,実測によらないガラス組成物の屈折率は,実際のシート状態となったガラス繊維の屈折率とは一致しない可能性はあるけれども,上記で認定した「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」の商品カタログ等における「屈折率」を採用することで,硬化樹脂に埋め込まれたガラス繊維を分離して,屈折率を測定する煩雑さを回避することができることなどを考慮すると,このような定め方も不合理であるとはいえないし,本件明細書の表1によれば,ガラス繊維の原料であるEガラス組成物の屈折率である1.558を用いた上で,硬化樹脂との界面の透明性を確保することが可能となっていることが認められる。 以上によれば, 「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」の「屈折率」は,繊維化する前のガラス組成物の屈折率を指すものと認めるのが相当である。また,前記認定のとおり, 「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物の屈折率」が素材メーカーが製品とともに公表したものであることを前提とすると,ガラス組成物の屈折率は「JIS K 7142」 (プラスチックの屈折率の測定方法)で測定されたものと解することはできず,むしろ,ガラス組成物(Eガラス)について素材メーカーが一般に採用する合理的な屈折率の測定方法により測定されたものと解するのが自然な解釈であるといえる。そして,素材メーカーがEガラスについて商品データベースにおいて表示している屈折率は,小数点以下第3位のものが多いことからすると(甲11,54,126),少なくとも有効数字が小数点以下第4位まで測定できる測定方法である必要がある。また,証拠(甲27,50,58)及び弁論の全趣旨によれば,小数点以下第4位まで測定できる測定方法としては,精度の高い最小偏角法(精度は約1×10-5)と,次に精度が高いVブロック法(精度は約2×10-5)及び臨界角法(精度は1×10-4)のいずれかであることが認められるところ,このうち表示される屈折率が上記のとおり小数点以下第3位のものが多く,最も精度の高いものまで要求されないことや,Vブロック法による測定が最も簡便であって,試料の作成も容易であること(甲50)を考慮すると,素材メーカーがEガラスについて一般に採用する合理的な屈折率の測定方法は,Vブロック法であると推認するのが相当である。現に,本件において,控訴人が,本件各発明の実施品のガラス組成物の屈折率を,専門機関に依頼した上で,Vブロック法で測定していること(甲124)も,このことを裏付けるものである。 以上のとおり,本件明細書には,樹脂組成物の屈折率については,「JIS K7142」に規定されたA法により測定されることが記載されていること,ガラス組成物の屈折率の測定方法については明確な記載がないものの,「ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物」の「屈折率」としては,繊維化する前のガラス組成物の屈折率が記載されており,その測定方法は前記のとおりVブロック法であると推認されることからすると,樹脂組成物の屈折率の測定方法については,「JIS K 7142」 「B法」 の を追加する本件訂正は新規事項の追加であり,ガラス組成物の屈折率の測定方法については,「JIS K 7142」を追加し,あるいはその「B法」を追加する本件訂正はいずれも新規事項の追加である。 したがって,樹脂組成物及びガラス組成物の屈折率の測定方法に関する上記各訂正事項については,本件明細書,特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項の範囲内の事項ということはできず,特許法134条の2第9項が準用する同法126条5項の規定に適合しないものというべきであるから,本件訂正を認めた審決の判断には誤りがあるといわざるを得ない。 13 まとめ 以上によれば,原告の主張する取消事由2,3,5,8及び10は理由があるから,本件発明は各引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとの審決の判断には誤りがあり,これらの誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであると認められ,審決は違法であるから取り消さざるを得ない。また,審決を取り消すに当たり,本件訂正は,上記のとおり,訂正要件を満たさないものであることを付言する。 |
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結論
以上のとおり,原告の本件請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 設樂一 |
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裁判官 | 岡田慎吾 |
裁判官 | 中島基至 |