• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2015-800023
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 28年 (行ケ) 10005号 審決取消請求事件

原告X
訴訟代理人弁護士山本健策
同 草深充彦
訴訟代理人弁理士山本秀策
同 森下夏樹
同 ?谷剛志
被告ロート製薬株式会社
訴訟代理人弁護士塚原朋一
同 蝟{高廣
訴訟代理人弁理士長谷川芳樹
同 清水義憲
同 城戸博兒
同 吉住和之
同 坂西俊明
同 中塚岳
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2017/01/18
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2015−800023号事件について平成27年12月1日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
1事 実 及 び 理 由第1 請求主文同旨第2 事案の概要(認定の根拠を掲げない事実は争いがないか弁論の全趣旨により容易に認定できる事実である。)1 特許庁における手続の経緯等被告は,発明の名称を「眼科用清涼組成物」とする発明につき,平成17年6月7日を出願日(以下「本件出願日」という。)として,特許出願(特願2005−167147号。優先日を平成16年6月8日と主張するもの。以下「本件優先日」という。)をし,平成25年11月8日,特許第5403850号(請求項の数は6である。 として特許権の設定登録を受けた) (甲49。以下,この特許を「本件特許」という。。
)原告は,平成27年2月5日,本件特許の請求項1ないし請求項6に係る発明を無効とすることを求めて無効審判(無効2015−800023号。以下「本件審判」という。)を請求した(甲50)。
特許庁は,同年12月1日,本件審判の請求は成り立たない旨の審決をしたことから,原告は,平成28年1月8日,本件審決取消訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載(甲49)本件発明に係る特許請求の範囲(以下「本件特許請求の範囲」という。)の請求項1ないし6の記載は,以下のとおりである(以下,請求項1ないし6に係る発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明6」,これらを併せて「本件発明」,本件発明の明細書及び図面を併せて「本件明細書」,とそれぞれいう。。
)「【請求項1】a)メントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を,それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満,b)0.01〜10w/v%の塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化ナトリウム,2炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,硫酸マグネシウム,リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸二水素カリウムから選ばれる少なくとも1種,およびc)平均分子量が0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩を0.001〜10w/v%含有することを特徴とするソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するための眼科用清涼組成物。
【請求項2】さらに,非イオン性界面活性剤を0.001〜5w/v%含有する請求項1に記載の眼科用清涼組成物。
【請求項3】さらに,エデト酸又はその塩を0.0001〜1w/v%含有する請求項1又は2に記載の眼科用清涼組成物。
【請求項4】さらに,アミノエチルスルホン酸,グルタミン酸,アスパラギン酸カリウム,アスパラギン酸マグネシウム,グルタミン酸ナトリウム,グルコース又はトレハロースから選択される少なくとも1種以上の成分を,それらの総量として0.01〜5w/v%含有する請求項1乃至3に記載の眼科用清涼組成物。
【請求項5】点眼剤又は洗眼剤である請求項1乃至4に記載の眼科用清涼組成物。
【請求項6】a)メントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を,それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満,b)0.01〜10w/v%の塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,硫酸マグネシウム,リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸二水素カリウムから選ばれる少なくとも1種,および3c)平均分子量が0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩を0.001〜10w/v%含有することを特徴とするソフトコンタクトレンズ常用者用の眼科用清涼組成物。」3 審決の理由審決の理由は,別紙審決書(写し)に記載のとおりである。その要旨は,次のとおりである(以下,審決が引用する刊行物のうち,特開2003−183157号公報(甲1)は,「甲1公報」と,「一般薬 日本医薬品集」(じほう2003年7月発行)(甲4)は,「甲4刊行物」と,「新アスパライトフレッシュ添付文書(中新薬業)(甲7)は,」 「甲7刊行物」と,「新アスパクール添付文書(中新薬業)(甲8)」は,「甲8刊行物」と,「ピタール目薬添付文書(中新薬業)(甲9)は,」 「甲9刊行物」と,「新アスパライトフレッシュ,新アスパクール,ピタールの販売時期を示すウェブサイト(http://www.pref.toyama.jp/sections/1208/syonin.htmより2003年11月12日ダウンロードしたもの)(甲10)は,」 「甲10刊行物」と,特開2001−187733号公報(甲13)は,「甲13公報」と,それぞれいう。。
)@ 本件特許は,本件特許請求の範囲又は本件明細書の「平均分子量」等の記載に不備はなく,特許法36条6項2号明確性要件(無効理由1),同条4項1号の実施可能要件(無効理由2),同条6項1号のサポート要件(無効理由3)を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず,無効とすべきものではない,A本件発明は,甲1公報に記載された発明(以下「甲1発明」という。)と同一なものであるとはいえず,同法29条1項3号の規定に違反するものではなく,(無効理由4),又は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,同条2項に違反するものではなく(無効理由7−1),B 本件発明1及び3ないし6は,甲4刊行物及び甲7刊行物ないし甲10刊行物に記載された発明と同一なものであるとはいえず,同条1項3号に違反するものではなく(無効理由5),C 本件発明1及び3ないし6は,甲4刊行物及び甲7刊行物ないし甲10刊行物4によれば公然実施されたものと認められる発明と同一なものであるとはいえず,同項2号に違反するものではなく(無効理由6),D 本件発明は,甲13公報に記載された発明(以下「甲13発明」という。)に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,同条2項に違反するものではなく(無効理由7−2),E 本件発明は,「新スマイルコンタクトクール」に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,同項に違反するものではなく(無効理由7−3),F 本件発明は,「新アスパライトフレッシュ(中新薬業),」「新アスパクール(中新薬業),」「ピタール目薬(中新薬業)」に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,同項に違反するものではなく(無効理由7−4),以上によれば,本件特許は,無効とすべきものとはいえないというのである。
審決が認定した甲1発明の内容,本件発明1及び6と甲1発明の一致点及び相違点は,次のとおりである。
(1) 甲1発明の内容ア 「l−メントール0.03g/100mL,dl−カンフル0.003g/100mL,約20000〜25000の重量平均分子量を有するコンドロイチン硫酸ナトリウム2g/100mL,L−アスパラギン酸カリウム1g/100mL,塩化ナトリウム0.4g/100mL,エデト酸ナトリウム0.1g/100mLを含み,眼に対するDraize法により評価される刺激性が低く,清涼感及び清涼感の持続性が極めて高い点眼剤」(以下「甲1発明11」という。)イ 「l−メントール0.02g/100mL,dl−カンフル0.03g/100mL,d−ボルネオール0.01g/100mL,約20000〜25000の重量平均分子量を有するコンドロイチン硫酸ナトリウム0.5g/100mL,塩化ナトリウム0.44g/100mL,L−アスパラギン酸カリウム1g/100mL,ポリオキシエチレン(P=20)ソルビタンモノオレエート0.05g/100mL,エデト酸ナトリウム0.1g/100mLを含み,眼に対するDraize法により評価される刺激性が低く,清涼感及び清涼感の持続性が極めて高い5点眼剤」(以下「甲1発明17」という。)(2) 本件発明1と甲1発明11の一致点及び相違点ア 一致点「a)メントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を,それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満,b)0.01〜10w/v%の塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,硫酸マグネシウム,リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸二水素カリウムから選ばれる少なくとも1種,およびc)平均分子量が0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩を0.001〜10w/v%含有することを特徴とする眼科用清涼組成物。」イ 相違点本件発明1は,「ソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するため」の組成物であるのに対し,甲1発明11は,当該構成について特定されていない点(以下「相違点1」という。)(3) 本件発明1と甲1発明17の一致点及び相違点ア 一致点「a)メントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を,それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満,b)0.01〜10w/v%の塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,硫酸マグネシウム,リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸二水素カリウムから選ばれる少なくとも1種,およびc)平均分子量が0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩を0.001〜10w/v%含有することを特徴とする眼科用清涼組成物。」イ 相違点6本件発明1は,「ソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するため」の組成物であるのに対し,甲1発明17は,当該構成について特定されていない点(以下「相違点1’」という。)(4) 本件発明6と甲1発明11の一致点及び相違点ア 一致点「a)メントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を,それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満,b)0.01〜10w/v%の塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,硫酸マグネシウム,リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸二水素カリウムから選ばれる少なくとも1種,およびc)平均分子量が0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩を0.001〜10w/v%含有することを特徴とする眼科用清涼組成物。」イ 相違点本件発明6は,「ソフトコンタクトレンズ常用者用」の組成物であるのに対し,甲1発明11は,当該構成について特定されていない点(以下「相違点2」という。)(5) 本件発明6と甲1発明17の相違点ア 一致点「a)メントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を,それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満,b)0.01〜10w/v%の塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,硫酸マグネシウム,リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸二水素カリウムから選ばれる少なくとも1種,およびc)平均分子量が0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩を0.001〜10w/v%含有することを特徴とする眼科用清涼組成物。」7イ 相違点本件発明6は,「ソフトコンタクトレンズ常用者用」の組成物であるのに対し,甲1発明17は,当該構成について特定されていない点(以下「相違点2’」という。)第3 取消事由に関する当事者の主張主たる争点は,多岐にわたる取消事由のうち,取消事由1及び取消事由8であると整理され,当事者双方は,第1回口頭弁論期日において,甲141及び乙9に基づき,取消事由1及び8に関する主張を中心として技術説明を行った(第1回口頭弁論調書及び弁論の全趣旨)。
1 原告の主張審決には,記載不備に関する判断の誤り(取消事由1ないし7)及び新規性欠如又は進歩性欠如に関する判断の誤り(取消事由8ないし11)があり,これらは審決の結論に影響を及ぼすものであるから,審決は違法として取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(「平均分子量」についての記載不備に関する判断の誤り)について本件特許請求の範囲及び本件明細書に記載されている「平均分子量」には,「重量平均分子量」「粘度平均分子量」「数平均分子量」「z−平均分子量」等の様々な平, , ,均分子量が存在し,それぞれ定義及び測定方法が異なるから,同一物質であっても測定方法によって数値自体が大きく異なるものになる。それにもかかわらず,本件明細書には,上記にいう「平均分子量」の定義又は説明が一切なされていないから,「平均分子量」という記載はそれ自体明確であるとはいえない。この点につき,審決は,本件明細書及び技術常識によれば,本件特許請求の範囲及び本件明細書にいう「平均分子量」とは,「重量平均分子量」であると解することができると認定したものの,単に「平均分子量」と記載するのみでは,いずれの測定方法により定められた平均分子量であるかが明らかではないから,本件出願日当時の技術常識を考慮したとしても,上記にいう「平均分子量」が一義的に「重量平均分子量」であると8解することはできない。のみならず,本件明細書の発明の詳細な説明 【0021】( )には,「マルハ株式会社から販売されているコンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約0.7万等)等が利用できる。 と記載されているところ,」 当該記載にいう「平均分子量」は,「粘度平均分子量」を意味するから,本件発明の詳細な説明には,少なくとも「粘度平均分子量」のものも混在している。しかも,仮に本件特許請求の範囲及び本件明細書にいう「平均分子量」が「重量平均分子量」であるとしても,具体的な試験条件等によっても数値が変動し得るものであり,本件明細書には当該試験条件等の記載がないのであるから,平均分子量を一義的に特定できるものとはいえない。
したがって,当業者が「平均分子量」を一義的に理解することができない以上,「平均分子量」という本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載が特許法36条4項1号実施可能要件,同条6項1号のサポート要件及び同項2号の明確性要件のいずれにも違反しないとした審決の判断には誤りがある。
(2) 取消事由2(「0.01〜10w/v%」についての明確性要件に関する判断の誤り)について本件特許請求の範囲の請求項1には「0.01〜10w/v%の塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,硫酸マグネシウム,リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸二水素カリウムから選ばれる少なくとも1種」と記載されている。本件特許請求の範囲及び本件明細書のその他請求項には「総量」であるという記載があるにもかかわらず,上記「0.01〜10w/v%」の数値には「総量」であるという記載がない。そうすると,「0.01〜10w/v%」の数値が全成分の総量であるか各列挙された成分ごとの量であるかが不明である。
したがって,「0.01〜10w/v%」という本件特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号明確性要件に違反しないとした審決の判断には誤りがある。
(3) 取消事由3(平均分子量の範囲(0.5万〜4万)についての記載不備に関9する判断の誤り)について本件特許請求の範囲の請求項1には,「0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」と記載されているのであるから,本件明細書には,コンドロイチン硫酸又はその塩の分子量に係る範囲全体にわたり,本件発明の課題が解決されるように記載される必要がある。それにもかかわらず,本件明細書には,「平均分子量」が1万若しくは2万のコンドロイチン硫酸ナトリウム又はその混合物に関する測定結果しか存在せず(【0056】【表6】,それ以外の「平均分子量」に関する実施例の, )記載はないし,平均分子量の大小が所定の効果に対してどのような影響があるのかについても本件明細書には一切記載されていない。そうすると,本件明細書には,コンドロイチン硫酸又はその塩の分子量の範囲全体にわたり,本件発明の課題が解決されるように記載されているとはいえず,また,本件明細書は,当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。
したがって,「0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」についての本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載が特許法36条6項1号のサポート要件及び同条4項1号の実施可能要件のいずれにも違反しないとした審決の判断には誤りがある。
(4) 取消事由4(コンドロイチン硫酸又はその塩の濃度の範囲についての記載不備に関する判断の誤り)について本件特許請求の範囲の請求項1には,「コンドロイチン硫酸或いはその塩を0.001〜10w/v%含有する」と記載されているのであるから,本件明細書は,コンドロイチン硫酸又はその塩に係る濃度の範囲全体にわたり,課題が解決されるよう記載されていることが必要である。それにもかかわらず,本件明細書には,コンドロイチン硫酸ナトリウムの濃度が0.3〜0.5w/v%である場合における測定結果のみしか存在せず(【0056】【表6】,それ以外の濃度の場合における実施例, )の記載はないし,濃度の大小が所定の効果に対してどのような影響があるのかについても,本件明細書には一切記載されていない。そうすると,本件明細書には,コ10ンドロイチン硫酸又はその塩の濃度の範囲全体にわたり,本件発明の課題が解決されるように記載されているとはいえず,また,本件明細書は,当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。
したがって,「コンドロイチン硫酸或いはその塩を0.001〜10w/v%含有する」という本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載が特許法36条6項1号のサポート要件及び同条4項1号の実施可能要件のいずれにも違反しないとした審決の判断には誤りがある。
(5) 取消事由5(その他高分子の存在についての記載不備に関する判断の誤り)について上記(3)及び(4)のとおり,「平均分子量が0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩を0.001〜10w/v%」含有する組成物の場合であっても,サポート要件及び実施可能要件を充足しないのであるから,当該組成物に加えて,コンドロイチン硫酸或いはその塩とは異なる高分子を混合させた場合に,サポート要件及び実施可能要件を充足しないことも明らかである。
したがって,その他高分子の存在についての本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載が特許法36条6項1号のサポート要件及び同条4項1号の実施可能要件のいずれにも違反しないとした審決の判断に誤りはない。
(6) 取消事由6(塩化ナトリウムについての記載不備に関する判断の誤り)について本件特許請求の範囲の請求項1b)には,「0.01〜10w/v%の塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,硫酸マグネシウム,リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸二水素カリウムから選ばれる少なくとも1種」と記載されている。しかしながら,本件明細書には,塩化ナトリウム0.5w/v%についての実施例以外のものが存在しないし,本件出願日当時において塩化ナトリウム以外の無機塩類であっても眼科用組成物の清涼感に寄与することについての理論的な説明もなく,特定の濃度以外の11塩化ナトリウムが同様の効果を奏することも説明されていない。そうすると,本件明細書には,塩化ナトリウム以外の無機塩類につき,本件発明の課題が解決されるように記載されているとはいえず,また,本件明細書は,当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。
したがって,塩化ナトリウムについての本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載が特許法36条6項1号のサポート要件及び同条4項1号の実施可能要件のいずれにも違反しないとした審決の判断には誤りがある。
(7) 取消事由7(清涼組成物についての記載不備に関する判断の誤り)について本件特許請求の範囲の請求項1には「メントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を,それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満」と記載されている。しかしながら,本件明細書には,「l−メントール0.020g/100ml,d−カンフル0.005g/100ml,d−ボルネオール0.010g/100ml」という1種類の組合せによる効果が記載されるにとどまり,他の濃度の組合せでも同様の効果が奏されるとの技術常識も存在しない。メントール,カンフル,ボルネオールは,それぞれ独自の清涼化作用及び刺激作用を有するものであり,カンフル及びボルネオールはメントールが有する清涼感又は冷感を増強し又はその刺激性を弱める効果があることが認められ,また,メントールを0.03重量%以上配合する場合には,刺激や障害が起こりやすいことも本件出願日当時の従来技術として当業者が知るところである。これらの事情によれば,l−メントールを本件明細書の実施例で使用された0.020w/v%より多く含有させた場合に刺激を抑制できない蓋然性が高いといえる。そうすると,本件明細書には,「l−メントール0.020g/100ml,d−カンフル0.005g/100ml,d−ボルネオール0.010g/100ml」の1種類の組合せ以外の清涼化剤の組合せにつき,本件発明の課題が解決されるように記載されているとはいえず,また,本件明細書は,当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。
12したがって,清涼組成物についての本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載が特許法36条6項1号のサポート要件及び同条4項1号の実施可能要件のいずれにも違反しないとした審決の判断には誤りがある。
(8) 取消事由8(甲1発明に基づく新規性欠如又は進歩性欠如に関する判断の誤り)について甲1公報(【0028】)には,「本発明の眼科用組成物の用途としては,特に制限はないが,清涼感が良好で,更に清涼感の持続性も良好であると共に,清涼化剤等による,眼に対する刺激性が低いことから,特に点眼剤として配合されるのが好ましい。該点眼剤としては,医療用点眼剤でもよく,一般用点眼剤でもよく,またソフトコンタクトレンズ,ハードコンタクトレンズ等を装用した状態でも点眼可能である。また本発明の眼科用組成物の用途としては,洗眼剤,コンタクトレンズ装着液等も好ましい。」との記載がある。当該記載には,本件発明1と甲1発明の相違点1及び1’(「ソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するため」の組成物である点)に加え,本件発明6と甲1発明の相違点2及び2’ 「ソフトコンタクトレン(ズ常用者用」の組成物である点)についても開示されている。また,ソフトコンタクトレンズはハードコンタクトレンズと比較して特殊なところはなく,Draize法とパネラー法による評価法の相違は,同一事象を多面的に見るものにすぎず,質的相違はない。そうすると,本件発明は甲1発明と実質的に同一なもの又は当業者が甲1発明に基づき容易に想到することができたにもかかわらず,これを否定した審決の判断には誤りがある。
(9) 取消事由9(新アスパクール等に基づく新規性欠如又は進歩性欠如に関する判断の誤り)について本件発明は,「新アスパクール」(甲4,甲7ないし甲10)と,@成分,A成分の具体的な濃度が特定されていないこと,B成分(コンドロイチン硫酸或いはその塩)の平均分子量が明記されていないという点においてのみ相違し,「ソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するための眼科用清涼組成物」又は「ソフトコン13タクトレンズ常用者用の清涼組成物」という点は実質的に相違するものではない。
しかしながら,上記の相違点にいう濃度の相違は,一般用医薬品の眼科用医薬の使用濃度やメントール等の使用濃度の範囲で示される濃度を採用するものにすぎず,眼科用組成物における設計事項である。そうすると,本件発明は「新アスパクール」と実質的に同一なもの又は当業者が「新アスパクール」に基づき容易に想到することができたにもかかわらず,これを否定した審決の判断には誤りがある。
(10) 取消事由 10(甲13発明に基づく進歩性欠如に関する判断の誤り)について本件発明は,甲13発明と,@メントール類の濃度,Aコンドロイチン硫酸又はその塩の平均分子量,Bソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与すること,C清涼の特定がない点において相違する。しかしながら,本件発明における「平均分子量」の数値限定には技術的意義がないのであるから,「平均分子量」については実質的な相違点ではなく,メントール類が清涼剤として使用される点についても実質的な相違点ではないから,当業者は,甲13発明に基づき,刺激がなく清涼感が持続するという本件発明の効果を容易に想到することができるというべきである。
そうすると,本件発明は甲13発明に基づき容易に想到することができたにもかかわらず,これを否定した審決の判断には誤りがある。
(11) 取消事由 11(新スマイルコンタクトクールに基づく進歩性欠如に関する判断の誤り)について本件発明は,「新スマイルコンタクトクール」(甲3,甲5及び甲6)と,@メントール類の濃度,A塩化ナトリウム等の無機塩類を採用すること,Bコンドロイチン硫酸又はその塩の平均分子量,Cソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するという点において相違する。しかしながら,@ないしBの点は,いずれも設計事項にすぎず,Cの点も実質的に開示されているといえるから,当業者が容易に予測できるものである。そうすると,本件発明は「新スマイルコンタクトクール」に基づき容易に想到することができたにもかかわらず,これを否定した審決の判断に14は誤りがある。
2 被告の反論(1) 取消事由1(「平均分子量」についての記載不備に関する判断の誤り)について本件特許請求の範囲及び本件明細書には,高分子化合物の平均分子量につき一貫して「平均分子量」と記載されているから,当業者は「平均分子量」の意味が全て同じものであると理解するものと認められる。そして,本件明細書にいう「ポリビニル系高分子化合物」及び「セルロース系高分子化合物」の「平均分子量」は「重量平均分子量」であると認められる上,高分子化合物の各種物性と分子量の関係を示す場合等には,一般に「重量平均分子量」を用いることが多く,「数平均分子量」,「粘度平均分子量」等は,分子量分布の目安,高分子物質の試料の分子量の目安を示すにすぎないから,眼科用薬分野の当業者は,本件特許請求の範囲及び本件明細書にいう「平均分子量」 「重量平均分子量」が であると理解するものと認められる。
したがって,当業者は「平均分子量」が「重量平均分子量」であると理解するのであるから,「平均分子量」という本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載が特許法36条4項1号実施可能要件,同条6項1号のサポート要件及び同項2号の明確性要件のいずれにも違反しないとした審決の判断に誤りはない。
(2) 取消事由2(「0.01〜10w/v%」についての明確性要件に関する判断の誤り)について本件特許請求の範囲の請求項1にいう「0.01〜10w/v%」は,列挙される全成分の総量を意味することは明確である。仮にそれ自体明確でないとしても,本件明細書(【0014】)には,「本発明において眼科用清涼組成物中のこれらの無機塩類は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができ,その含有量は無機塩類の総量として,好ましくは0.01〜10%,より好ましくは0.1〜10%,特に好ましくは0.1〜5%程度である。」と記載されているのであるから,当業者は,本件明細書を参酌して「0.01〜10w/v%」を「総量」であると理解す15ることは明らかである。
したがって,「0.01〜10w/v%」という本件特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号明確性要件に違反しないとした審決の判断に誤りはない。
(3) 取消事由3(「平均分子量」の範囲(0.5万〜4万)についての記載不備に関する判断の誤り)について本件明細書によれば,0.5万ないし4万のコンドロイチン硫酸又はその塩が特に好ましいとされ 【0021】,( ) このうち平均分子量約1万ないし約2万のコンドロイチン硫酸ナトリウムを組み合わせた組成物が本件発明の効果(【0056】)を奏するのであるから,当業者は,平均分子量が0.5万ないし約1万又は約2万ないし4万のコンドロイチン硫酸又はその塩を組み合わせた組成物であっても,上記と同様の効果を奏することを容易に認識することができる。
したがって,「平均分子量」の範囲(0.5万〜4万)についての本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載が特許法36条4項1号実施可能要件及び同条6項1号のサポート要件のいずれにも違反しないとした審決の判断に誤りはない。
(4) 取消事由4(コンドロイチン硫酸又はその塩の濃度範囲についての記載不備に関する判断の誤り)について本件明細書の記載に接した当業者は,成分として「平均分子量が0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」それ自体を組み合わせれば,「ソフトコンタクトレンズを装用中においても,十分な清涼感を付与できる清涼組成物を提供」できると認識するのであるから,当業者は,好ましい含有量「0.001〜10w/v%」の成分を組み合わせても,もとより同程度の効果を奏し,本件発明の課題は解決できるものと認識するといえる。
したがって,「コンドロイチン硫酸或いはその塩を0.001〜10w/v%含有する」という本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載が特許法36条4項1号実施可能要件及び同条6項1号のサポート要件のいずれにも違反しないとした審決の判断に誤りはない。
16(5) 取消事由5(その他高分子の存在についての記載不備に関する判断の誤り)について上記(3)及び(4)のとおり,「平均分子量が0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩を0.001〜10w/v%」含有する組成物がサポート要件及び実施可能要件を充足しないという原告の主張は理由がないのであるから,当該主張を前提としてその他高分子の存在についての記載不備をいう主張も,その前提を欠く。
したがって,その他高分子の存在についての本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載が特許法36条4項1号実施可能要件及び同条6項1号のサポート要件のいずれにも違反しないとした審決の判断に誤りはない。
(6) 取消事由6(塩化ナトリウムについての記載不備に関する判断の誤り)について本件明細書の記載に接した当業者は,本件明細書(【表6】)にいう実施例19ないし21の組成物が,成分として塩化ナトリウムを組み合わせることにより,十分な清涼感が得られ,刺激がなく安全性が高いという効果(【0056】)を奏するものであると理解する。その上で,本件明細書(【0013】)には,「特に好ましい」無機塩類として塩化カリウム及び塩化ナトリウムが記載されているほか,本件特許請求の範囲の請求項1b)に掲げられたその他無機塩類が「好ましい」無機塩類として記載されている。そうすると,当業者は,「好ましい」無機塩類も,実施例19ないし21に開示された上記組成物と同様な効果を奏すると理解するものと認められる。
したがって,塩化ナトリウムについての本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載が特許法36条4項1号実施可能要件及び同条6項1号のサポート要件のいずれにも違反しないとした審決の判断には誤りはない。
(7) 取消事由7(清涼組成物についての記載不備に関する判断の誤り)について本件明細書の記載によれば,「メントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を,それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満」を17含有させれば,本件発明の効果 【0056】 を奏するとされている。
( ) メントール,カンフル,ボルネオールがそれぞれ清涼化剤として使用され得ることは当業者の技術常識であり,本件明細書には,「0.01w/v%以上0.1w/v%未満」の数値範囲で使用した場合の弊害は,何ら記載されていないのであるから,本件明細書の記載に接した当業者が「1種類の濃度組み合わせの清涼組成物の刺激性が,他の濃度でも回避できる」と理解することは明らかである。
したがって,清涼組成物についての本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載が特許法36条4項1号実施可能要件及び同条6項1号のサポート要件のいずれにも違反しないとした審決の判断に誤りはない。
(8) 取消事由8(甲1発明に基づく新規性欠如又は進歩性欠如に関する判断の誤り)についてマルハ株式会社から販売されているコンドロイチン硫酸ナトリウムが約20000〜25000の重量平均分子量を有することは明らかではないから,甲1発明11及び17は,コンドロイチン硫酸ナトリウム」「 と認定すべきである。そうすると,本件発明1が「平均分子量が0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸又はその塩」を組み合わせたものであるのに対し,甲1発明11及び17では平均分子量が特定されていない点についても相違点として認定されるべきである(以下,当該相違点を「相違点A」という。。そして,当業者が「ソフトコンタクトレンズを装用した状)態」で「清涼感が良好」となるための成分として「平均分子量が0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」を知っていたとは認められず,甲1公報の明細書にも,清涼感持続化剤として「平均分子量が0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」が適当である旨記載されていないから,「ソフトコンタクトレンズを装用した状態」で「清涼感が良好」な点眼剤とするため,当業者は,甲1発明11及び17のコンドロイチン硫酸ナトリウムを,「平均分子量が0.5万〜4万」のものとすることを容易に想到することはできない。
また,甲1発明の実施例11及び17の点眼剤を評価した裸眼の「専門パネラー18(健常者)」が「ソフトコンタクトレンズを装用した状態」又は「ソフトコンタクトレンズ常用者」であるとも記載されていないのであるから,上記にいう専門パネラーは,ソフトコンタクトレンズ装用者又は常用者とは,眼の状態が異なる別の者であって,それにより奏される効果は同一とはならない。しかも,ソフトコンタクトレンズを装用した状態では涙液交換率も低く,裸眼の状態とは異なるから,甲1公報に,当該点眼剤をソフトコンタクトレンズを装着した状態で点眼しても,「清涼感及び清涼感の持続性が極めて高い」ことが記載されているということはできない。
また,「ソフトコンタクトレンズを装用した状態」において,甲1発明11及び17の各成分,特にコンドロイチン硫酸ナトリウム及び塩化ナトリウムがどのように作用するのかは全く不明であるから,当業者は,ソフトコンタクトレンズを装用した場合の効果を予測することはできない。のみならず,本件明細書に記載されたソフトコンタクトレンズ装用者又は常用者に対する刺激と,甲1発明においてDraize法により評価される刺激は,そもそも質的に異なるものである。そうすると,本件発明は,甲1発明から予測し得ない効果を有するものというべきである。
したがって,本件発明が特許法29条1項3号又は同条2項の各規定に違反するものではないとした審決の判断に誤りはない。
これに対し,原告は,甲1公報に記載されているDraize法の眼刺激性が本件発明と同じであると主張する。しかしながら,Draize法はウサギを用いて角膜,虹彩及び結膜に生じる損傷の程度を評価する試験法であるから,甲1発明11及び17の「眼に対するDraize法により評価される刺激性」とは,眼の可逆的変化である「角膜,虹彩及び結膜に生じる損傷」であって,人間の眼の感覚(痛覚)を評価するものではない。したがって,ソフトコンタクトレンズ常用者を専門パネラーとした本件発明にいう「清涼感を超えた刺激感」という使用感と,Draize法によりウサギを用いて評価した「角膜,虹彩及び結膜に生じる損傷の程度」は質が異なる評価であるから,これを同一視する原告の主張は,失当である。
(9) 取消事由9(新アスパクール等に基づく新規性欠如又は進歩性欠如に関する19判断の誤り)について本件発明との相違点につき,原告は,「ソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するための眼科用清涼組成物」又は「ソフトコンタクトレンズ常用者用の清涼組成物」という点は実質的に相違するものではないなどと主張するものの,ソフトコンタクトレンズ装用者に対する用途と,それ以外の者に対する用途とは実質的にも相違するから,原告の主張は前提を欠く。
したがって,本件発明が特許法29条1項3号又は同条2項の各規定に違反するものではないとした審決の判断に誤りはない。審決の判断に違法はない。
(10) 取消事由 10(甲13発明に基づく進歩性欠如に関する判断の誤り)について甲13発明を構成するコンドロイチン硫酸ナトリウムは,粘度を増し,べとつきを低減するものであり,甲13公報には,ソフトコンタクトレンズを装用中においても,十分な清涼感を付与することは記載されておらず,しかもコンドロイチン硫酸又はそれらの塩やコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量についての記載が存在しない。そうすると,ソフトコンタクトレンズを装用中においても十分な清涼感を付与するという観点から,当業者が,粘度を増し,べとつきを低減するアミノ酸類のうち,特にコンドロイチン硫酸ナトリウムに着目することはないし,更にそれを平均分子量「0.5万ないし4万」のものにする動機付けもない。また,甲13発明のコンドロイチン硫酸ナトリウムは,上記のとおり「粘度が増し,べとつきが低減される」というものであり,コンドロイチン硫酸ナトリウムの分子量を変更することを示唆する記載もないから,当業者は甲13発明から本件発明の効果を予測することはできない。
したがって,本件発明が特許法29条2項の規定に違反するものではないとした審決の判断に誤りはない。
(11) 取消事由 11(新スマイルコンタクトクールに基づく進歩性欠如に関する判断の誤り)について20当業者は「ひんやり冷たいさし心地」という観点から「新スマイルコンタクトクール」が既に完成しているものであると認識するため,「新スマイルコンタクトクール」の複数の成分のうち,l−メントール,dl−カンフル,グリセリン,プロピレングリコール,コンドロイチン硫酸ナトリウムに着目してこれらの成分組成を変更しようとする動機付けはない。また,これと同様に「瞳をいたわる角膜保護成分」としてのコンドロイチン硫酸ナトリウムに着目し,これを変更する動機付けもない。
したがって,本件発明が特許法29条2項の規定に違反するものではないとした審決の判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断当裁判所は,原告の取消事由1及び取消事由8には理由があり,審決にはこれを取り消すべき違法があるものと判断する。その理由は,次のとおりである。
1 取消事由1(「平均分子量」についての記載不備に関する判断の誤り)について(1) 特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
原告は,本件特許請求の範囲及び本件明細書における「平均分子量」という記載が不明確であり,明確性要件を欠くと主張するので,以下検討する。
(2) 本件明細書の記載本件明細書(甲49)には,以下の事項が記載されている。
21「【技術分野】【0001】本発明は,ソフトコンタクトレンズ装用中に眼に適用することで,ソフトコンタクトレンズ装用時においても十分な清涼感を付与することができる眼科用清涼組成物に関する。
【背景技術】【0002】眼科用清涼組成物においては,メントールに代表される清涼化剤が配合される。
清涼化剤の配合は,快適な強さの清涼感を不快な刺激を伴うことなく付与できるよう処方設計することが重要であり,常時起こっている涙液交換,すなわち涙液による希釈と排出を被っても適度な強さの清涼感を付与できるだけの高濃度のメントールの投与が必要になる。しかしながら,過剰に高濃度のメントールは,点眼直後に清涼感を超えた強すぎる不快な刺激を伴うため,眼科用清涼組成物に配合できるメントール量にはおのずと限界がある。」「【0004】このように,メントール等の清涼化剤を単に増量することなく,十分な清涼感を持続させるとともにメントールの刺激性を改善する方法が示されている。しかしながら,これらの方法や点眼剤は,専らソフトコンタクトレンズを装用していない使用者,すなわち裸眼或いはハードコンタクトレンズを常用する使用者に対して清涼感を付与することを主目的として開発されており,ソフトコンタクトレンズ装用における特有の課題については何ら考慮されてはいない。
【0005】ところで,ソフトコンタクトレンズ装用においては以下のような特有の課題がある。
角膜は知覚神経に富む組織であり,角膜上皮における神経密度は皮膚の約300〜600倍といわれている。(非特許文献1)。したがって,使用者が清涼感を感じ22るかどうかは,角膜表面にメントールがどの程度接触したかに影響される。ハードコンタクトレンズ直径は角膜径よりも小さく,ハードコンタクトレンズを装用しても角膜周縁部が露出しているが,ソフトコンタクトレンズ径は,角膜よりも大きくソフトコンタクトレンズを装用すると角膜表面はソフトコンタクトレンズに覆われてしまう。そのため,ソフトコンタクトレンズ装用者は,裸眼の場合に比して格段に清涼感を感じにくい。
また,ソフトコンタクトレンズを装用中は,レンズ後面(角膜側)とレンズに覆われていない部分(結膜表面)との涙液交換率が極めて低下する。ハードコンタクトレンズでは,ベストフィッティングでの涙液交換率が健常眼の涙液メニスカスにおける涙液交換率と同程度の高値25.6±11.1(%/分)を示すが,ソフトコンタクトレンズでは,ベストフィッティングでの涙液交換率ですら,16.5±1.1(%/分)と低値を示す(非特許文献2 レンズと涙液交換率の低下)。そのため,メントールがソフトコンタクトレンズと眼表面の間隙にある涙液層を経て角膜中央部に到達するための涙液交換も著しく遅く,清涼感の感度低下を増長してしまう。
【0006】これまで,ソフトコンタクトレンズ装用中の眼に適用した場合においても,十分な清涼感を付与することができる眼科用清涼組成物は知られていなかった。また,ソフトコンタクトレンズ装用中にレンズ後面の涙液交換を促進する方法も,ほとんど知られていない。このようにソフトコンタクトレンズ装用中に所要の清涼感を一定時間持続させつつ,刺激を緩和することは極めて困難であった。
さらに,メントールなどの清涼化剤や,クロロブタノール等の局所麻酔作用剤,塩化ベンザルコニウム等の第4級アンモニウム塩などの防腐剤等,塩酸テトラヒドロゾリン,塩酸ナファゾリン,硝酸ナファゾリン等の血管収縮剤等のソフトコンタクトレンズに悪影響(吸着や変形)を及ぼすことが懸念される成分を含有する場合には,製剤設計が制限される。」23「【発明が解決しようとする課題】【0008】そこで本発明は,ソフトコンタクトレンズを装用中においても,十分な清涼感を付与できる清涼組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】【0009】本発明者らは,課題解決のために鋭意検討の結果,a)メントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を,それらの総量として0.01(w/v)%以上0.1(w/v)%未満,b)無機塩類,およびc)平均分子量が20万〜250万のヒドロキシエチルセルロース,平均分子量が5万〜50万のメチルセルロース,平均分子量が1万〜15万のポリビニルピロリドン,平均分子量が5万〜50万のコンドロイチン硫酸又はその塩,平均分子量が5万〜50万のヒドロキシプロピルメチルセルロース,平均分子量が1万〜30万のポリビニルアルコールから選ばれる少なくとも1種から選ばれる少なくとも1種を含有する眼科用清涼組成物が,ソフトコンタクトレンズ装用時の眼に適用しても刺激を伴うことなく十分な清涼感を付与することができることを見出し,本発明を完成するに至った。
【0010】本発明者は,かかる知見に基づいて開発されたものである。
すなわち,本発明は,下記(1)〜(12)に掲げる眼科用清涼組成物である。
(1)a)メントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を,それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満,b)無機塩類,およびc)平均分子量が20万〜250万のヒドロキシエチルセルロース,平均分子量が5万〜50万のメチルセルロース,平均分子量が1万〜15万のポリビニルピロリドン,平均分子量が5万〜50万のヒドロキシプロピルメチルセルロース,平均分子量が1万〜30万のポリビニルアルコール,又は平均分子量が0.5万〜5024万のコンドロイチン硫酸或いはその塩から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とするソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するための眼科用清涼組成物,(2) 平均分子量が20万〜250万のヒドロキシエチルセルロースを,0.001〜10w/v%で含有する(1)に記載の眼科用清涼組成物,(3) 平均分子量が5万〜50万のメチルセルロースを,0.001〜10w/v%で含有する(1)に記載の眼科用清涼組成物,(4) 平均分子量が1万〜15万のポリビニルピロリドンを,0.001〜10w/v%で含有する(1)に記載の眼科用清涼組成物,(5) 平均分子量が5万〜50万のヒドロキシプロピルメチルセルロースを,0.001〜10w/v%で含有する(1)に記載の眼科用清涼組成物,(6) 平均分子量が1万〜30万のポリビニルアルコールを,0.001〜10w/v%で含有する(1)に記載の眼科用清涼組成物,(7) 平均分子量が0.5万〜50万のコンドロイチン硫酸或いはその塩を,0.001〜10w/v%で含有する(1)に記載の眼科用清涼組成物,(8) さらに,非イオン性界面活性剤を0.001〜5w/v%含有する(1)乃至(7)に記載の眼科用清涼組成物,(9) さらに,エデト酸又はその塩を0.0001〜1w/v%含有する(1)乃至(8)に記載の眼科用清涼組成物,(10) さらに,アミノエチルスルホン酸,グルタミン酸,アスパラギン酸カリウム,アスパラギン酸マグネシウム,グルタミン酸ナトリウム,グルコース又はトレハロースから選択される少なくとも1種以上の成分を,それらの総量として0.01〜5w/v%含有する(1)乃至(9)に記載の眼科用清涼組成物,(11) 点眼剤又は洗眼剤である(1)乃至(10)に記載の眼科用清涼組成物,(12) a)メントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を,それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満,25b)無機塩類,およびc)平均分子量が20万〜250万のヒドロキシエチルセルロース,平均分子量が5万〜50万のメチルセルロース,平均分子量が1万〜15万のポリビニルピロリドン,平均分子量が5万〜50万のヒドロキシプロピルメチルセルロース,平均分子量が1万〜30万のポリビニルアルコール,又は平均分子量が0.5万〜50万のコンドロイチン硫酸或いはその塩から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とするソフトコンタクトレンズ常用者用の眼科用清涼組成物。
なお,本明細書中,特に言及しない限り,%はw/v%を意味するものとする。
【発明の効果】【0011】本発明の眼科用清涼組成物によれば,清涼化剤のなかでも特にメントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を単独または組み合わせて,それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満の限定された範囲内で含有したうえで,無機塩類を必須の構成成分として含有し,さらに,特定の分子量を有する特定の高分子を組み合わせて含有することを特徴とする,ソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するための眼科用清涼組成物を提供することができる。
これまで,ソフトコンタクトレンズ装用中に適用する点眼剤としては,人工涙液型点眼剤が広く用いられている。従来型の人工涙液型点眼剤では,十分な清涼感を付与したくてもメントールなどの清涼化剤がソフトコンタクトレンズに吸着することが安全面での弊害となり,高濃度のメントールを含有することができなかった。
また吸着の問題を解決してメントールを増量しても,ソフトコンタクトレンズ装用中の眼では,角膜が露出していないうえに涙液交換率が低下しているために,メントール等による刺激を受けることがなく清涼感の付与が困難であった。
本発明の眼科用清涼組成物によれば,眼に組成物を適用した直後から十分な清涼感が得られ,かつ刺激が緩和されているため,ソフトコンタクトレンズ装用者に快い清涼感を付与するための眼科用清涼組成物を提供できる。さらに,本発明によれ26ば,メントールを少量用いても十分な清涼感を付与することができ,刺激がなく安全性が高い眼科用清涼組成物を提供できる。
さらに,本発明の眼科用清涼組成物は,清涼化剤の刺激を伴うことなく清涼感を感じることができるので,例えばソフトコンタクトレンズ装用によって障害を有する眼となった,ソフトコンタクトレンズ常用者がソフトコンタクトレンズの装用中のみならずソフトコンタクトレンズを外した後の眼に清涼感を付与するためのソフトコンタクトレンズ常用者用の眼科用清涼組成物としても利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】【0012】本発明の眼科用清涼組成物は,メントール,カンフル又はボルネオールから選択される1種又は2種以上の化合物をそれらの総量として0.01%以上0.1%未満で含有する。」「【0013】本発明の眼科用清涼組成物は,無機塩類を必須成分として含有する。かかる無機塩類としては,…塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,硫酸マグネシウム,リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸二水素カリウムが好ましく,塩化カリウム,塩化ナトリウムが特に好ましい。
【0014】本発明において眼科用清涼組成物中のこれらの無機塩類は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができ,その含有量は無機塩類の総量として,好ましくは0.01〜10%…程度である。無機塩類が0.01%未満では,組成物を眼に適用した直後に十分な清涼感を感じにくく,10(w/v)%以上では,組成物を眼に適用した直後の清涼感が強くなりすぎる傾向があり使用者によっては刺激を感じる場合がある。
【0015】27本発明の眼科用清涼組成物では,特定の分子量を有する特定の高分子を組み合わせて含有することが必須の構成となる。すなわち,本発明では,平均分子量が20万〜250万のヒドロキシエチルセルロース,平均分子量が5万〜50万のメチルセルロース,平均分子量が1万〜15万のポリビニルピロリドン,平均分子量が5万〜50万のヒドロキシプロピルメチルセルロース,平均分子量が1万〜30万のポリビニルアルコール,又は平均分子量が0.5万〜50万のコンドロイチン硫酸或いはその塩から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする。
【0016】本発明に用いるヒドロキシエチルセルロースは公知の高分子化合物であり,平均分子量が20万〜250万のものが用いられ,より好ましくは50万〜200万,特に好ましくは80万〜150万のヒドロキシエチルセルロースを用いる。かかるヒドロキシエチルセルロースは市販のものを利用することができ,例えば住友精化株式会社から販売されているHEC−CF−G(平均分子量約40万) HEC−C,F−H(平均分子量約70万),HEC−CF−V(平均分子量約100万),HEC−CF−W(平均分子量約130万)HEC−CF−X, (平均分子量約150万),HEC−CF−Y(平均分子量約180万)等が利用できる。」「【0017】本発明に用いるメチルセルロースは公知の高分子化合物であり,平均分子量が5万〜50万のものが用いられる。さらに好ましくは平均分子量10万〜50万であり,特に好ましくは20万〜50万のメチルセルロースを用いる。かかるメチルセルロースは市販のものを利用することができ,例えば,メトローズSMシリーズとして信越化学工業株式会社から販売されている,SM−15(平均分子量約7万),SM−25(平均分子量約9万),SM−50(平均分子量約11万),SM−100(平均子量約12万),SM−400(平均分子量約17万),SM−1500(平均分子量約29万),SM−4000(平均分子量約36万) 等が利用できる。」「【0018】28本発明に用いるポリビニルピロリドンは公知の高分子化合物であり,平均分子量が1万〜15万のものが用いられる。さらに好ましくは平均分子量2万〜15万のポリビニルピロリドンを用いる。かかるポリビニルピロリドンは市販のものを利用することができ,例えば,コリドンシリーズとしてBASF株式会社から販売されている,コリドン25(平均分子量約3万),コリドン30(平均子量約5万),コリドン17PF(平均分子量約9万),コリドン90(平均分子量約12万)等が利用できる。」「【0019】本発明に用いるヒドロキシプロピルメチルセルロースは公知の高分子化合物であり,平均分子量が5万〜50万のものが用いられる。さらに好ましくは平均分子量10万〜50万であり,特に好ましくは20万〜50万のヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いる。かかるヒドロキシプロピルメチルセルロースは市販のものを利用することができ,例えば,メトローズSHシリーズとして信越化学工業株式会社から販売されている,60SH−15(平均分子量約7万) 60SH−25, (平均分子量約9万),60SH−50(平均分子量約11万),60SH−100(平均分子量約12万),60SH−400(平均分子量約17万),60SH−1500(平均分子量約29万),60SH−4000(平均分子量約36万)等が利用できる。」「【0020】本発明に用いるポリビニルアルコールは公知の高分子化合物であり,平均分子量が1万〜30万のものを用いる。さらに好ましくは平均分子量2万〜20万,特に好ましくは平均分子量2万〜15万のポリビニルアルコールを用いる。かかるポリビニルアルコールは市販のものを利用することができ,例えば,ゴーセノールシリーズとして日本合成化学株式会社から販売されている,ゴーセノールEG05(平均分子量約3万),ゴーセノールEG40(平均分子量約12万)等が利用できる。」「【0021】29本発明に用いるコンドロイチン硫酸又はその塩は公知の高分子化合物であり,平均分子量が0.5万〜50万のものを用いる。より好ましくは0.5万〜20万,さらに好ましくは平均分子量0.5万〜10万,特に好ましくは0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸又はその塩を用いる。かかるコンドロイチン硫酸又はその塩は市販のものを利用することができ,例えば,生化学工業株式会社から販売されている,コンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約1万,平均分子量約2万,平均分子量約4万等),マルハ株式会社から販売されているコンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約0.7万等)等が利用できる。
本発明において眼科用清涼組成物中のコンドロイチン硫酸又はその塩の含有量は,好ましくは0.001〜10%,より好ましくは0.01〜5%,特に好ましくは0.05〜3%程度である。」「【0032】本発明の眼科用清涼組成物としては,ソフトコンタクトレンズ装用中の眼やソフトコンタクトレンズ常用者に適用されるものであれば特に制限されることはないが,点眼剤(点眼薬),洗眼剤(洗眼薬)が好適である。」「【0035】また,本発明の眼科用清涼組成物には,発明の効果を損なわない範囲でその用途や形態に応じて,常法に従い,様々な成分や添加物を適宜選択し,一種またはそれ以上を併用して含有させてもよい。」「【0041】また,本発明の眼科用清涼組成物は,清涼化剤の刺激を伴うことなく清涼感を感じることができるので,例えばソフトコンタクトレンズ装用によって障害を有する刺激に敏感な眼に対して,ソフトコンタクトレンズを常用している使用者がソフトコンタクトレンズの装用中のみならずソフトコンタクトレンズを外した後の眼に清涼感を付与するための眼科用清涼組成物としても利用できる。
清涼化剤のなかでも特にメントール,カンフル又はボルネオールから選択される30化合物を単独または組み合わせて,その総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満の限定された範囲内で含有したうえで,無機塩類を必須の構成成分として含有し,さらに,特定の分子量を有する特定の高分子を組み合わせて含有することで,ソフトコンタクトレンズを常用することによって眼に障害を有して,刺激に敏感になった眼に適用した場合においても,適用直後から十分な清涼感が付与され,かつ,刺激が緩和されている使用感に優れた組成物を提供することができる。」「【実施例】【0042】以下に,試験例及び実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが,本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0043】実施例および比較例の調製試験に用いた各実施例及び試験例の調製は,表1〜6に示す処方に従った。具体的には,表1に記載の実施例1の調製方法を示す。ヒドロキシエチルセルロース(HEC−CF−G)を約100mLの精製水中にて攪拌溶解した(調製液A)。次に,ポリソルベート80,l−メントール,d−カンフル,d−ボルネオールを攪拌溶解した(調整液B) エデト酸ナトリウムと塩化ナトリウムを50mLの精製水に溶。
解し,調整液Aおよび調製液Bを加え,さらに精製水を加えてpHを調整して(pH=7.4),全体を200mlとした。さらに実施例1に従い,他の実施例及び比較例も調製した。
【0044】清涼感付与試験試験溶液を無菌的に濾過し,10mlずつ点眼容器に充填して,20名のソフトコンタクトレンズを常用している専用パネラーにおいて,ソフトコンタクトレンズを装用中又は裸眼時(ソフトコンタクトレンズを外した直後)に点眼した場合の,点眼直後及び点眼5分後,点眼10分後の清涼感の評価を行った。使用したソフト31コンタクトレンズは,グループIV(2ウイークアキュビュー(登録商標),ジョンソンエンドジョンソン株式会社)のソフトコンタクトレンズを用いた。
各パネラーには,清涼感について全く感じない場合を0点,十分に強い清涼感を感じる場合を6点として7段階評価してもらった。同様に眼刺激について全く感じない場合を6点,強い刺激を感じる場合を0点として7段階評価してもらった。パネラー全員の評価点を平均して,その平均値が0〜2点未満を×,2点以上3点未満を△,3点以上4点未満を○,4点以上6点以下を◎として表に結果を示す。」「【0052】試験の結果,ポリビニルピロリドン(平均分子量約3万)又は/及びポリビニルピロリドン(平均分子量約12万)を塩化ナトリウムと組み合わせて含有する本発明の実施例では眼に組成物を適用した直後から十分な清涼感が得られ,刺激がなく安全性が高いことが示された。また,ソフトコンタクトレンズを常用すると,涙液の減少や角膜表面に何らかの障害を惹起することが知られており,特にソフトコンタクトレンズを外した直後は,メントール等の清涼感に対して極めて過敏になっているが,この極めて過敏な眼に対しても刺激を伴うことなく十分な清涼感を付与することができることが確認された。」「【0054】試験の結果,ポリビニルアルコール(平均分子量約3万)又は/及びポリビニルアルコール(平均分子量約12万)を塩化ナトリウムと組み合わせて含有する本発明の実施例では眼に組成物を適用した直後から十分な清涼感が得られ,刺激がなく安全性が高いことが示された。また,ソフトコンタクトレンズを常用すると,涙液の減少や角膜表面に何らかの障害を惹起することが知られており,特にソフトコンタクトレンズを外した直後は,メントール等の清涼感に対して極めて過敏になっているが,この極めて過敏な眼に対しても刺激を伴うことなく十分な清涼感を付与することができることが確認された。
32【0055】【表6】【0056】試験の結果,コンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約1万)又は/及びコンドイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約2万)を塩化ナトリウムと組み合わせて含有する本発明の実施例では眼に組成物を適用した直後から十分な清涼感が得られ,刺激がなく安全性が高いことが示された。また,ソフトコンタクトレンズを常用すると,涙液の減少や角膜表面に何らかの障害を惹起することが知られており,特にソフトコンタクトレンズを外した直後は,メントール等の清涼感に対して極めて過敏になっているが,この極めて過敏な眼に対しても刺激を伴うことなく十分な清涼感を付与することができることが確認された。」(3) 本件発明の技術的特徴前記(2)の本件明細書の記載によれば,本件発明は,ソフトコンタクトレンズ装用33時においても十分な清涼感を付与することができる眼科用清涼組成物を提供するものである。従来から,メントール等の清涼化剤を増量することなく十分な清涼感を持続させるとともに,メントールの刺激性を改善した点眼剤については知られていたものの,これらの点眼剤は,専ら裸眼又はハードコンタクトレンズ常用者に対して清涼感を付与することを主たる目的として開発されたものである。そのため,これらの点眼剤は,ソフトコンタクトレンズ装用者が裸眼の場合と比較して格段に清涼感を感じにくいという,ソフトコンタクトレンズ特有の課題を考慮するものではなかった。
本件発明は,上記課題を解決して,ソフトコンタクトレンズの装用者又は常用者に対し十分な清涼感を付与する眼科用清涼組成物を提供するものである。本件発明によれば,ソフトコンタクトレンズ装用者に対し十分な清涼感を付与し,かつ,刺激がなく安全性が高い眼科用清涼組成物を提供するとともに,ソフトコンタクトレンズ常用者に対しても,ソフトコンタクトレンズの装用中のほか,ソフトコンタクトレンズを外した後の眼にも清涼感を付与する眼科用清涼組成物を提供するものである。
(4) 本件明細書における「平均分子量」の意義前提となる事実に証拠(後掲各証拠のほか,甲49〔本件明細書〕)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
ア 「平均分子量」という概念は,一義的なものではなく,測定方法の違い等によって,「重量平均分子量」「数平均分子量」「粘度平均分子量」等にそれぞれ区分, ,される(甲17)。そのため,同一の高分子化合物であっても,「重量平均分子量」,「数平均分子量」「粘度平均分子量」等の各数値は,必ずしも一致せず,それぞれ,異なるものとなり得る(甲27)。
イ 本件特許請求の範囲及び本件明細書には,単に「平均分子量」と記載されるにとどまり,上記にいう「平均分子量」が「重量平均分子量」「数平均分子量」「粘, ,度平均分子量」等のいずれに該当するかを明らかにする記載は存在しない。
34もっとも,本件明細書に記載された他の高分子化合物については,例えば,ヒドロキシエチルセルロース(【0016】,メチルセルロース() 【0017】,ポリビ)ニルピロリドン(【0018】)及びポリビニルアルコール(【0020】)の平均分子量として記載されている各社の各製品の各数値は,重量平均分子量の各数値が記載されているものであり,この重量平均分子量の各数値は公知であったから(甲58,61ないし67),当業者は,これらの高分子化合物の平均分子量は,重量平均分子量を意味するものと解するものと推認される。
ウ 次に掲げる事実によれば,高分子化合物の「平均分子量」は,本件出願日当時には,一般に「重量平均分子量」によって明記されていたことが認められる。
(ア) 特開平10−139666号公報(甲58【0027】)には,ポリビニルピロリドン(ポビドン)の「平均分子量」が「重量平均分子量」によって明記されている。
(イ) 特開2001−187731号公報(甲61【0006】,【0007】)には,ヒドロキシエチルセルロース,メチルセルロース,ポリビニルピロリドン,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ポリビニルアルコールの「平均分子量」 「重が量平均分子量」によって明記されている。
(ウ) 特開2002−154989号公報(甲62【0014】)には,セルロース系高分子化合物の「平均分子量」が「重量平均分子量」によって明記されている。
(エ) 特開2001−125052号公報(甲63【0009】)には,ポリビニル系高分子化合物及びセルロース系高分子化合物の「平均分子量」が「重量平均分子量」によって明記されている。
(オ) 特開2003−201241号公報(甲64【0016】)には,セルロース誘導体の「平均分子量」が「重量平均分子量」によって明記されている。
(カ) 特開2002−345929号公報(甲65【特許請求の範囲】)には,特定の構造を有するカチオンポリマーの「平均分子量」が「重量平均分子量」によって明記されている。
35(キ) 特開2002−20320号公報(甲66【0009】)には,塩基性アミノ酸のポリマーの「平均分子量」が「重量平均分子量」によって明記されている。
(ク) 信越化学工業株式会社作成に係る「医薬品添加剤メトローズ」と題するカタログ(甲67の6頁)には,ヒドロキシプロピルメチルセルロースの「平均分子量」が「重量平均分子量」によって明記されている。
(ケ) 特開平9−202731号公報(甲59【0026】【0041】ないし【0,048】)には,「平均分子量」は「重量平均分子量」であることが好ましいとされた上,コンドロイチン硫酸の「平均分子量」が「重量平均分子量」の測定方法である光散乱法(甲17)で算定されている。
(コ) 特開2002−3384号公報(甲60【0017】)には,「多糖類の平均分子量は,重量平均分子量で示すのが一般的である」と記載されている。
エ 次に掲げる事実によれば,マルハ株式会社(その後に同社の事業を承継したマルハニチロ株式会社を含む〔甲43〕 から販売されていたコンドロイチン硫酸ナ)トリウムの「重量平均分子量」は,本件出願日当時,2万ないし2.5万程度のものであったことが認められる。
(ア) 特開2004−196695号公報(甲28【0028】ないし【0030】,【0033】及び【0034】。以下,当該公報を「甲28公報」という。)には,マルハ株式会社製Lot.PUC−791のコンドロイチン硫酸ナトリウムの「平均分子量」が「重量平均分子量」の測定方法である光散乱法により測定され,その数値が「21,500」であると算定されている。また,マルハ株式会社製Lot.PUC−794及び790のコンドロイチン硫酸ナトリウムの「平均分子量」 「重が量平均分子量」の測定方法である光散乱法により測定され,その数値が「24,100」と算定されている。
(イ) 特開2004−263109号公報(甲29【0032】ないし【0035】,【0039】。以下,当該公報を「甲29公報」という。)には,マルハ株式会社製Lot.PUC−790(甲45)のコンドロイチン硫酸ナトリウムの「平均分子36量」が「重量平均分子量」の測定方法である光散乱法により測定され,その数値が「21,500」であると算定されている。また,マルハ株式会社製Lot.PUC−794のコンドロイチン硫酸ナトリウムの「平均分子量」 「重量平均分子量」がの測定方法である光散乱法により測定され,その数値が「21,200」と算定されている。
オ マルハ株式会社は,平成15年ないし平成16年頃,コンドロイチン硫酸ナトリウム(Lot.PUC−822,829,844,845,849,850及び855)の平均分子量につき,全て「粘度平均分子量」で測定してこれを販売しており,それ以外の測定方法によって算出したものは存在しない。また,上記の各製品の「粘度平均分子量」は6千ないし1万程度のものであったことが認められる。
(甲2)カ マルハ株式会社は,過去において,ユーザーからコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量について問合せがあった場合には,粘度平均分子量の数値を提供していたものであり(甲43),ユーザーには当業者が含まれると推認されるから,本件出願日当時,マルハ株式会社のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量として,同社のユーザーである当業者に公然に知られた数値は,粘度平均分子量の数値であったと認められる。
キ マルハ株式会社と生化学工業株式会社の2社は,本件出願日当時,コンドロイチン硫酸又はその塩の製造販売を市場において独占していた。
(5) 明確性要件違反について本件特許請求の範囲にいう「平均分子量が0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が,本件出願日当時,「重量平均分子量」「粘度平,均分子量」等のいずれを示すものであるかについては,本件明細書において,これを明らかにする記載は存在しない。もっとも,このような場合であっても,本件明細書におけるコンドロイチン硫酸あるいはその塩及びその他の高分子化合物に関する記載を合理的に解釈し,当業者の技術常識参酌して,その平均分子量が何であ37るかを合理的に推認することができるときには,そのように解釈すべきである。しかし,本件においては,次に述べるとおり,「コンドロイチン或いはその塩」の平均分子量が重量平均分子量であるのか,粘度平均分子量であるのかを合理的に推認することはできない。
前記(2)ないし(4)の認定事実によれば,本件明細書(【0021】)には,「本発明に用いるコンドロイチン硫酸又はその塩は公知の高分子化合物であり,平均分子量が0.5万〜50万のものを用いる。より好ましくは0.5万〜20万,さらに好ましくは平均分子量0.5万〜10万,特に好ましくは0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸又はその塩を用いる。かかるコンドロイチン硫酸又はその塩は市販のものを利用することができ,例えば,生化学工業株式会社から販売されている,コンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約1万,平均分子量約2万,平均分子量約4万等) マルハ株式会社から販売されているコンドロイチン硫酸ナトリウム, (平均分子量約0.7万等)等が利用できる。」という記載がされている。また,本件出願日当時,マルハ株式会社が販売していたコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量は,重量平均分子量によれば2万ないし2.5万程度のものであり,他方,粘度平均分子量によれば6千ないし1万程度のものであったことからすれば,本件明細書のマルハ株式会社から販売される上記「コンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約0.7万等)」にいう「平均分子量」が客観的には粘度平均分子量の数値を示すものであると推認される。
そして,マルハ株式会社は,本件出願日当時,コンドロイチン硫酸ナトリウムの製造販売を独占する二社のうちの一社であって,コンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量を粘度平均分子量のみで測定し,ユーザー(当業者を含む。以下同じ。)から問い合わせがあった場合には,その数値(6千ないし1万程度のもの)をユーザーに提供していたのであり,マルハ株式会社のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量として,同社のコンドロイチン硫酸ナトリウムを利用する当業者に公然と知られていた数値は,このような粘度平均分子量の数値であったと認められる。
38のみならず,本件出願日当時には,マルハ株式会社から販売されていたコンドロイチン硫酸ナトリウムの重量平均分子量が2万ないし2.5万程度のものであることを示す刊行物が既に複数頒布され,当該数値は,本件明細書にいう0.7万等という数値とは明らかに齟齬するものであることが認められる。これらの事情の下においては,本件明細書の「コンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約0.7万等)」という記載に接した当業者は,上記にいう平均分子量が粘度平均分子量を示す可能性が高いと理解するのが自然である。そうすると,当業者は,本件特許請求の範囲の記載について,少なくともコンドロイチン硫酸又はその塩に限っては,重量平均分子量によって示されていることに疑義を持つものと認めるのが相当である。
したがって,当業者は,本件出願日当時,本件明細書に記載されたその他高分子化合物であるヒドロキシエチルセルロース(【0016】,メチルセルロース() 【0017】,ポリビニルピロリドン() 【0018】)及びポリビニルアルコール(【0020】 については重量平均分子量で記載されているものと理解したとしても,) 少なくとも,コンドロイチン硫酸ナトリウムに限っては,直ちに重量平均分子量で記載されているものと理解することはできず,これが粘度平均分子量あるいは重量平均分子量のいずれを意味するものか特定することができないものと認められる。
以上によれば,本件特許請求の範囲にいう「平均分子量が0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が,本件出願日当時,「重量平均分子量」「粘度平均分子量」のいずれを示すものであるかが明らかでない以上,上記,記載は,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であり,特許法36条6項2号に違反すると認めるのが相当である。
(6) 被告の主張に対する判断ア 甲28公報及び甲29公報には,マルハ株式会社製のコンドロイチン硫酸ナトリウム(Lot.PUC−790等)の「重量平均分子量」の数値が記載されるにとどまり,その他測定方法による数値が記載されず,マルハ株式会社がコンドロイチン硫酸ナトリウムの「重量平均分子量」以外の平均分子量の値を当業者に提供39していたことはうかがわれないのであるから,当業者は本件明細書(【0021】)の「コンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約0.7万等)」の「平均分子量」が「粘度平均分子量」であると理解することはない旨主張する。しかしながら,前記(4)の認定事実のとおり,マルハ株式会社は,コンドロイチン硫酸ナトリウムを全て「粘度平均分子量」の数値で算定していた上,ユーザーから問合せがあればその数値を伝えていたのであるから,マルハ株式会社がそのコンドロイチン硫酸ナトリウムについて「重量平均分子量」以外の平均分子量の値を当業者に提供していないとする被告の主張は,その前提を欠く。かえって,甲28公報及び甲29公報において示されているコンドロイチン硫酸ナトリウムの「重量平均分子量」の数値は,甲28公報及び甲29公報各記載の各製品と本件明細書記載の製品が概ね同時期に販売されていたにもかかわらず,本件明細書にいうコンドロイチン硫酸ナトリウムの「平均分子量」の数値と大きく齟齬しているのであるから,当業者は,むしろ,上記各公報の測定方法と本件明細書の測定方法が異なるものと理解するのが自然である。したがって,被告の上記主張は理由がない。
イ 被告は,本件出願日当時,「重量平均分子量」が高分子の「平均分子量」として最も多い頻度で使用され,しかも「重量平均分子量」は,他のものとは異なり高分子の各種物性と関わりを有するものであるから,当業者は,本件特許請求の範囲にいう「コンドロイチン硫酸或いはその塩」の「平均分子量」を「重量平均分子量」であると理解するのが自然であるなどと主張する。
しかしながら,前記(4)の認定事実によれば,本件出願日当時,高分子の平均分子量は一般には「重量平均分子量」によって明記されていたことが認められるものの,マルハ株式会社の販売するコンドロイチン硫酸ナトリウムに限っては,そのユーザーには粘度平均分子量によって測定された平均分子量の数値が公然と示されていたのであり,同数値は,本件出願日前に頒布された複数の刊行物に記載されていた,同社のコンドロイチン硫酸ナトリウムの重量平均分子量の数値とは明らかに齟齬することからすれば,本件出願日当時の当業者にとっては,他の高分子化合物とは異40なり,少なくとも本件明細書に示された同社のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量が重量平均分子量か,粘度平均分子量であるかは不明であったものといわざるを得ない。
以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明と,当業者の技術常識から,これを合理的に解釈しようとしても,本件特許請求の範囲におけるコンドロイチン硫酸ナトリウムに係る「平均分子量」が「重量平均分子量」か「粘度平均分子量」を意味するかが不明であり,その数値範囲を特定することができないのであるから,本件特許請求の範囲の上記記載は不明確であるといわざるを得ない。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(7) まとめ以上によれば,「平均分子量」という本件特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号明確性要件に違反するものと認められるから,その余の点を判断するまでもなく,審決にはこれを取り消すべき違法があり,原告の取消事由1には理由がある。
2 取消事由8(甲1発明に基づく新規性欠如又は進歩性欠如に関する判断の誤り)について審決は,本件発明の「平均分子量」を「重量平均分子量」と解した上で,本件発明の要旨を認定し,本件発明は,甲1発明に基づき,当業者が容易に発明し得たものとはいえないと判断した。しかし,審決のこの判断も,次に述べるとおり,誤りである。
(1) 本件発明の要旨本件明細書によれば,本件発明の内容は,次のとおりであると認められる(甲49)。
ア 本件発明は,ソフトコンタクトレンズ装用中に眼に適用することで,ソフトコンタクトレンズ装用時においても十分な清涼感を付与することができる眼科用清涼組成物に関するものである(【0001】。眼科用清涼組成物においては,メント)41ールに代表される清涼化剤が配合されるところ,清涼化剤の配合は,快適な強さの清涼感を不快な刺激を伴うことなく付与できるよう処方設計することが重要であり,常時起こっている涙液交換,すなわち涙液による希釈と排出を被っても適度な強さの清涼感を付与できるだけの高濃度のメントールの投与が必要になる。しかしながら,過剰に高濃度のメントールは,点眼直後に清涼感を超えた強すぎる不快な刺激を伴うため,眼科用清涼組成物に配合できるメントール量にはおのずと限界がある。
(【0001】【0002】, )イ 他方,メントール等の清涼化剤を単に増量することなく,十分な清涼感を持続させるとともにメントールの刺激性を改善する方法が示されている。しかしながら,これらの方法や点眼剤は,専らソフトコンタクトレンズを装用していない使用者,すなわち裸眼又はハードコンタクトレンズを常用する使用者に対して清涼感を付与することを主目的として開発されており,ソフトコンタクトレンズ装用者における特有の課題については何ら考慮されてはいない。 【0004】( )ウ すなわち,ソフトコンタクトレンズ装用においては,以下のような特有の課題がある。角膜は知覚神経に富む組織であり,角膜上皮における神経密度は皮膚の約300〜600倍といわれている。したがって,使用者が清涼感を感じるかどうかは,角膜表面にメントールがどの程度接触したかに影響される。ハードコンタクトレンズの直径は角膜径よりも小さく,ハードコンタクトレンズを装用しても角膜周縁部が露出しているが,ソフトコンタクトレンズ径は,角膜よりも大きくソフトコンタクトレンズを装用すると角膜表面はソフトコンタクトレンズに覆われてしまう。そのため,ソフトコンタクトレンズ装用者は,裸眼の場合に比して格段に清涼感を感じにくい。
また,ソフトコンタクトレンズを装用中は,レンズ後面(角膜側)とレンズに覆われていない部分(結膜表面)との涙液交換率が極めて低下する。ハードコンタクトレンズでは,ベストフィッティングでの涙液交換率が健常眼の涙液メニスカスにおける涙液交換率と同程度の高値25.6±11.1(%/分)を示すが,ソフト42コンタクトレンズでは,ベストフィッティングでの涙液交換率ですら,16.5±1.1(%/分)と低値を示す。そのため,メントールがソフトコンタクトレンズと眼表面の間隙にある涙液層を経て角膜中央部に到達するための涙液交換も著しく遅く,清涼感の感度低下を増長してしまう。【0005】( )エ これまで,ソフトコンタクトレンズ装用中の眼に適用した場合においても,十分な清涼感を付与することができる眼科用清涼組成物は知られていなかった。また,ソフトコンタクトレンズ装用中にレンズ後面の涙液交換を促進する方法も,ほとんど知られていない。このようにソフトコンタクトレンズ装用中に所要の清涼感を一定時間持続させつつ,刺激を緩和することは極めて困難であった。そこで,本件発明は,ソフトコンタクトレンズを装用中においても,十分な清涼感を付与できる清涼組成物を提供することを課題とするものである。【0006】【0008】( , )オ 本件発明の発明者らは,課題解決のために鋭意検討の結果, メントール,a)カンフル又はボルネオールから選択される化合物を,それらの総量として0.01(w/v)%以上0.1(w/v)%未満,b)無機塩類,c)平均分子量が20万〜250万のヒドロキシエチルセルロース,平均分子量が5万〜50万のメチルセルロース,平均分子量が1万〜15万のポリビニルピロリドン,平均分子量が5万〜50万のコンドロイチン硫酸又はその塩,平均分子量が5万〜50万のヒドロキシプロピルメチルセルロース,平均分子量が1万〜30万のポリビニルアルコールから選ばれる少なくとも1種から選ばれる少なくとも1種を含有する眼科用清涼組成物が,ソフトコンタクトレンズ装用時の眼に適用しても刺激を伴うことなく十分な清涼感を付与することができることを見いだし,本件発明を完成するに至った。
本件発明の眼科用清涼組成物によれば,清涼化剤のなかでも特にメントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を単独または組み合わせて,それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満の限定された範囲内で含有した上で,無機塩類を必須の構成成分として含有し,さらに,特定の分子量を有する特定の高分子を組み合わせて含有することを特徴とする,ソフトコンタクトレンズ装43用時に清涼感を付与するための眼科用清涼組成物を提供することができる。 【00(09】【0011】, )カ これまで,ソフトコンタクトレンズ装用中に適用する点眼剤としては,人工涙液型点眼剤が広く用いられている。従来型の人工涙液型点眼剤では,十分な清涼感を付与したくてもメントールなどの清涼化剤がソフトコンタクトレンズに吸着することが安全面での弊害となり,高濃度のメントールを含有することができなかった。また吸着の問題を解決してメントールを増量しても,ソフトコンタクトレンズ装用中の眼では,角膜が露出していない上に涙液交換率が低下しているために,メントール等による刺激を受けることがなく清涼感の付与が困難であった。本件発明の眼科用清涼組成物によれば,眼に組成物を適用した直後から十分な清涼感が得られ,かつ,刺激が緩和されているため,ソフトコンタクトレンズ装用者に快い清涼感を付与するための眼科用清涼組成物を提供できる。また,本件発明によれば,メントールを少量用いても十分な清涼感を付与することができ,刺激がなく安全性が高い眼科用清涼組成物を提供できる。さらに,本件発明の眼科用清涼組成物は,清涼化剤の刺激を伴うことなく清涼感を感じることができるので,例えばソフトコンタクトレンズ装用によって障害を有する眼となった,ソフトコンタクトレンズ常用者がソフトコンタクトレンズの装用中のみならずソフトコンタクトレンズを外した後の眼に清涼感を付与するためのソフトコンタクトレンズ常用者用の眼科用清涼組成物としても利用できる。 【0011】( )キ また,本件発明の眼科用清涼組成物は,清涼化剤の刺激を伴うことなく清涼感を感じることができるので,例えばソフトコンタクトレンズ装用によって障害を有する刺激に敏感な眼に対して,ソフトコンタクトレンズを常用している使用者がソフトコンタクトレンズの装用中のみならずソフトコンタクトレンズを外した後の眼に清涼感を付与するための眼科用清涼組成物としても利用できる(【0041】。
)ク 試験溶液を無菌的に濾過し,10mlずつ点眼容器に充填して,20名のソフトコンタクトレンズを常用している専用パネラーにおいて,ソフトコンタクトレ44ンズを装用中又は裸眼時(ソフトコンタクトレンズを外した直後)に点眼した場合の,点眼直後及び点眼5分後,点眼10分後の清涼感の評価を行った。使用したソフトコンタクトレンズは,グループIV(2ウイークアキュビュー(登録商標),ジョンソンエンドジョンソン株式会社)のソフトコンタクトレンズを用いた。各パネラーには,清涼感について全く感じない場合を0点,十分に強い清涼感を感じる場合を6点として7段階評価してもらった。同様に眼刺激について全く感じない場合を6点,強い刺激を感じる場合を0点として7段階評価してもらった。パネラー全員の評価点を平均して,その平均値が0〜2点未満を×,2点以上3点未満を△,3点以上4点未満を○,4点以上6点以下を◎として表に結果を示す。
(【0044】)ケ 試験の結果,ポリビニルピロリドン(平均分子量約3万)又は/及びポリビニルピロリドン(平均分子量約12万)を塩化ナトリウムと組み合わせて含有する本件発明の実施例では眼に組成物を適用した直後から十分な清涼感が得られ,刺激がなく安全性が高いことが示された。また,ソフトコンタクトレンズを常用すると,涙液の減少や角膜表面に何らかの障害を惹起することが知られており,特にソフトコンタクトレンズを外した直後は,メントール等の清涼感に対して極めて過敏になっているが,この極めて過敏な眼に対しても刺激を伴うことなく十分な清涼感を付与することができることが確認された。【0052】( )コ 試験の結果,ポリビニルアルコール(平均分子量約3万)又は/及びポリビニルアルコール(平均分子量約12万)を塩化ナトリウムと組み合わせて含有する本件発明の実施例では眼に組成物を適用した直後から十分な清涼感が得られ,刺激がなく安全性が高いことが示された。また,ソフトコンタクトレンズを常用すると,涙液の減少や角膜表面に何らかの障害を惹起することが知られており,特にソフトコンタクトレンズを外した直後は,メントール等の清涼感に対して極めて過敏になっているが,この極めて過敏な眼に対しても刺激を伴うことなく十分な清涼感を付与することができることが確認された。【0054】( )45【表6】サ 試験の結果,コンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約1万)又は/及びコンドイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約2万)を塩化ナトリウムと組み合わせて含有する本件発明の実施例では眼に組成物を適用した直後から十分な清涼感が得られ,刺激がなく安全性が高いことが示された。また,ソフトコンタクトレンズを常用すると,涙液の減少や角膜表面に何らかの障害を惹起することが知られており,特にソフトコンタクトレンズを外した直後は,メントール等の清涼感に対して極めて過敏になっているが,この極めて過敏な眼に対しても刺激を伴うことなく十分な清涼感を付与することができることが確認された。 【0056】( )(2) 甲1発明の要旨甲1公報によれば,甲1発明の内容は,次のとおりであると認められる(甲1)。
ア 甲1発明は,眼科用組成物に関し,テルペノイド類と,水溶性高分子と,局所麻酔剤とを含有することにより,良好な清涼感を付与でき,清涼感が持続すると共に刺激性が低く,特に点眼剤用,洗眼剤用及びコンタクトレンズ装着液用等に好46適な眼科用組成物を提供するものである(【0001】。
)イ 上記の課題を解決するための手段は,以下のとおりである。
(ア) テルペノイド類と,水溶性高分子化合物と,局所麻酔剤とを含有することを特徴とする眼科用組成物である。
(イ) テルペノイド類が,メントール類,カンフル類,ボルネオール類,ゲラニオール,シネオール,リナロール,ユーカリ油,ベルガモット油,ウイキョウ油及びローズ油から選択される少なくとも1種である。
(ウ) 水溶性高分子化合物が,メチルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,カルボキシビニルポリマー,ヒアルロン酸ナトリウム及びコンドロイチン硫酸ナトリウムの少なくとも1種である。
(エ) 局所麻酔剤が,クロロブタノール,リドカイン,塩酸リドカイン,塩酸ジブカイン及び塩酸オキシブプロカインの少なくとも1種である。
(オ) 点眼剤用,洗眼剤用及びコンタクトレンズ装着液用の少なくともいずれかに用いられる眼科用組成物である。
(カ) 水溶性高分子化合物が,清涼感持続化剤である眼科用組成物である。
(キ) テルペノイド類と,水溶性高分子化合物と,局所麻酔剤とを配合することを特徴とする清涼感持続化方法である。【0007】( )ウ 水溶性高分子としては,具体的には,以下の市販品を好適に使用することができる。例えば,メチルセルロースであれば,信越化学工業(株)製メトローズSM(粘度グレード15,25,100,400,1500,4000,8000),ヒドロキシプロピルメチルセルロースであれば,信越化学工業(株)製のメトローズ60SH(粘度グレード15,50,100,400,1500,4000,8000),65SH(粘度グレード50,400,1500,4000),90SH(粘度グレード100,400,4000)ヒドロキシエチルセルロースであれば,,住友精化(株)製のフジケミHEC(CF−G,CF−H,CF−V,CF−W,47CF−X,CF−Y),ポリビニルアルコールであれば,日本合成化学工業(株)製のゴーセノール(EG−05,EG−25,EG−30,EG−40),ポリビニルピロリドンであれば,BASF社製のKollidon(12PF,17PF,25,30,90F),カルボキシビニルポリマーであれば,Goodrich社製のカーボポール(981,980,974P,974−NF,941,940,934P,910),ヒアルロン酸ナトリウムであれば,キューピー(株)製のヒアルロンサン(HA−AM,HA−QA) マルハ, (株)製のヒアルロン酸,ナトリウム「マルハ」(点眼用)(平均重合度1500〜3000),コンドロイチン硫酸ナトリウムであれば,マルハ(株)製の局外規コンドロイチン硫酸ナトリウム等の市販品が挙げられる。【0012】( )エ 甲1発明の眼科用組成物の用途としては,特に制限はないが,清涼感が良好で,更に清涼感の持続性も良好であるとともに,清涼化剤等による,眼に対する刺激性が低いことから,特に点眼剤として配合されるのが好ましい。当該点眼剤としては,医療用点眼剤でもよく,一般用点眼剤でもよく,またソフトコンタクトレンズ,ハードコンタクトレンズ等を装用した状態でも点眼可能である。また,甲1発明の眼科用組成物の用途としては,洗眼剤,コンタクトレンズ装着液等も好ましい。
(【0028】)オ 【表1】のとおり,眼科用組成物(点眼剤)を調製(配合量:g/100mL)し,容器に充填した後,点眼直後の清涼感,当該清涼感の持続性及び眼刺激性について各々評価した。なお,点眼直後の清涼感及び当該清涼感の持続性は,専門パネラーによる官能試験により評価した。眼刺激性については,厚生省科学研究報告(昭和45年)における点眼用保存剤粘膜刺激性短期試験方法に準じて行なった。
各々の評価においては,下記評価基準に従い評価した。 【0031】ないし【00(35】)<評価基準>−点眼直後の清涼感−485:清涼感を非常に強く感じる。
4:清涼感を強く感じる。
3:清涼感を感じる。
2:清涼感が殆ど感じられない。
1:清涼感が感じられない。
−清涼感の持続性−◎:清涼感が,10分以上持続して感じられる。
○:清涼感が,5分以上10分未満持続して感じられる。
△:清涼感が,1分以上5分未満持続して感じられる。
×:清涼感が,1分未満で感じられなくなる。
−眼刺激性−◎:Draize法による平均評点が0点以上2点未満である。
○:Draize法による平均評点が2点以上4点未満である。
△:Draize法による平均評点が4点以上6点未満である。
×:Draize法による平均評点が6点以上である。
【表1】49(3) 甲1発明の認定の誤りについて被告は,甲1発明 【0012】 には( ) 「コンドロイチン硫酸ナトリウムであれば,マルハ(株)製の局外規コンドロイチン硫酸ナトリウム等の市販品が挙げられる。」と記載されているものの,コンドロイチン硫酸ナトリウムの重量平均分子量が特定されていないから,本件発明と甲1発明の相違点は,審決認定に係る相違点の他に,本件発明1は「平均分子量が0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩を組み合わせたもの」であるのに対し,甲1発明では平均分子量が特定されていないという点についても,相違点Aとして認定されるべきであるなどと主張する。
そこで検討するに,甲1公報(【0012】)には,「マルハ(株)製の局外規コンドロイチン硫酸ナトリウム等の市販品が挙げられる。」と記載されているのであるから,甲1公報の実施例では,マルハ(株)製の局外規コンドロイチン硫酸ナトリウムが使用されたことは明らかである。そして,証拠(甲28,29,43)及び弁論の全趣旨によれば,@ マルハ株式会社は,コンドロイチン硫酸ナトリウムを「局外規コンドロイチン硫酸ナトリウム」と称して販売していたこと,A 甲28公報には,マルハ株式会社製Lot.PUC−791のコンドロイチン硫酸ナトリウムの「平均分子量」が「重量平均分子量」の測定方法である光散乱法により「21,500」であると算定され,また,マルハ株式会社製Lot.PUC−794及び790のコンドロイチン硫酸ナトリウムの「平均分子量」 「重量平均分子量」がの測定方法である光散乱法により「24,100」と算定されたこと,B 甲29公報には,マルハ株式会社製Lot.PUC−790(甲45)のコンドロイチン硫酸ナトリウムの「平均分子量」が「重量平均分子量」の測定方法である光散乱法により「21,500」であると算定され,また,マルハ株式会社製Lot.PUC−794のコンドロイチン硫酸ナトリウムの「平均分子量」 「重量平均分子量」がの測定方法である光散乱法により「21,200」と算定されていること,C これらの事実によれば,平成14年から平成15年頃にかけてマルハ株式会社により販売されていたコンドロイチン硫酸ナトリウムの「重量平均分子量」は,2万ない50し2万5千程度であったと認められること,D 甲1発明の出願日は平成13年12月19日であるのに対し,甲28公報に係る発明の出願日は平成14年12月18日,甲29公報の発明に係る出願日は平成15年3月3日であって,上記各出願日はいずれも近接していること,以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば,甲1発明の実施例で使用されたマルハ株式会社の「局外規コンドロイチン硫酸ナトリウム」の「重量平均分子量」は,ロット番号が必ずしも明らかではないものの,甲28公報及び甲29公報に係るマルハ株式会社のコンドロイチン硫酸ナトリウムと同様に,2万ないし2万5千程度であったと推認するのが相当であり,これを覆すに足りる証拠はない。そうすると,甲1発明に係る審決の認定に誤りはないものと認められる。
したがって,被告の上記主張は,採用することはできない。
(4) 本件発明1についてア 相違点1及び1’に係る容易想到性の判断について前記(2)の認定事実によれば,甲1公報 【0028】 には,( ) 「該点眼剤としては,医療用点眼剤でもよく,一般用点眼剤でもよく,またソフトコンタクトレンズ,ハードコンタクトレンズ等を装用した状態でも点眼可能である。」と記載されており,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズの装用者にも適用し得ることが示唆されているのであるから,当業者は,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するために用いることを容易に想到することができたものと認められる。
イ 作用効果の存否について特許出願に係る発明の構成が,公知技術である引用発明に他の公知技術周知技術等を適用することによって容易に想到することができる場合であっても,上記発明の有する効果が,当該引用発明等の有する効果と比較して,当業者が技術常識に基づいて従来の技術水準を参酌した上で予測することができる範囲を超えた顕著なものであるときは,上記発明はその限度で従来の公知技術等から想到できない有利51な効果を開示したといえるから,当業者は上記発明を容易に想到することができないものとして,上記発明については,特許を受けることができると解するのが相当である。
これを本件についてみると,前記(1)の認定事実によれば,本件発明は,ソフトコンタクトレンズ装用者に十分な清涼感を付与し,かつ,刺激がなく安全性が高い眼科用清涼組成物を提供するものであり,本件明細書(【0055】【表6】)に記載されている実施例19ないし21において,ソフトコンタクトレンズ装用中の点眼直後の清涼感は◎と評価され,かつ,ソフトコンタクトレンズ装用中の点眼直後の刺激も○又は◎と評価されている。
しかしながら,本件明細書(【0044】)には「各パネラーには,清涼感について全く感じない場合を0点,十分に強い清涼感を感じる場合を6点として7段階評価してもらった。同様に眼刺激について全く感じない場合を6点,強い刺激を感じる場合を0点として7段階評価してもらった。パネラー全員の評価点を平均して,その平均値が0〜2点未満を×,2点以上3点未満を△,3点以上4点未満を○,4点以上6点以下を◎として表に結果を示す。 と記載され,」 清涼感及び刺激の評価において,◎と評価された場合であっても,7段階評価における中央値付近の「4」の評価が含まれている。そうすると,上記評価から,直ちに本件発明1の奏する効果が甲1発明と比較して予測できないほど顕著であると推認することはできず,その他に,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ装用時に適用した場合と比較して,本件発明1が奏する効果が当業者の予測を超える顕著なものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。のみならず,前記(2)の認定事実によれば,甲1発明の点眼剤は,目に対する刺激性が低く,良好な清涼感を付与することができ,かつ,清涼感の持続性の高いものであり,前記アのとおり,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズの装用者にも適用し得ると示唆されているのであるから,これらの記載に接した当業者は,甲1発明の点眼剤につき,ソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するために用いた場合に,裸眼時やハードコンタクトレンズ装52用時と同程度に,眼に対する刺激性が低く,良好な清涼感を付与することができ,清涼感の持続性が高いものであることを十分に予測することができる。しかも,甲1発明の点眼剤の効果と本件発明の効果は,そもそも清涼感を付与し刺激性が低いという同種のものにすぎず,本件明細書には,ハードコンタクトレンズ装用時における清涼感との比較評価等が一切記載されていないのであるから,本件優先日当時の技術常識を考慮しても,具体的にどの程度の清涼感の差異があるのかは不明である。
したがって,本件発明1の有する効果が予測することができる範囲を超えた顕著なものであると認めることはできない。
(5) 本件発明2ないし5について上記によれば,本件発明1は,当業者が甲1発明に基づき容易に想到することができたものというべきである。したがって,これと異なる判断をした上で,単に本件発明1が容易想到ではないことを理由として本件発明2ないし5が容易想到ではないとした審決の判断は,その前提において誤りがあるから,これを取り消すべき違法があるものと認められる。
(6) 本件発明6についてア 相違点2及び2’に係る容易想到性の判断について前記(4)アと同様に,前記(2)の認定事実によれば,甲1公報 【0028】 には,( )「該点眼剤としては,医療用点眼剤でもよく,一般用点眼剤でもよく,またソフトコンタクトレンズ,ハードコンタクトレンズ等を装用した状態でも点眼可能である。」と記載され,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズの装用者にも適用し得ることが示唆されているのであるから,当業者は,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ常用者に用いることも容易に想到することができたものと認められる。
イ 作用効果の存否について前記(4)イのとおり,特許出願に係る発明の構成が,公知技術である引用発明に他の公知技術周知技術等を適用することによって容易に想到することができる場合53であっても,上記発明の有する効果が,当該引用発明等の有する効果と比較して,当業者が技術常識に基づいて従来の技術水準を参酌した上で予測することができる範囲を超えた顕著なものであるときは,上記発明はその限度で従来の公知技術等から想到できない有利な効果を開示したといえるから,当業者は上記発明を容易に想到することができないものとして,上記発明については,特許を受けることができると解するのが相当である。
これを本件についてみるに,本件発明は,ソフトコンタクトレンズ装用者のみならず,その常用者に対しても,十分な清涼感を付与し,かつ,刺激がなく安全性が高い眼科用清涼組成物を提供するものであり,本件明細書(【0055】【表6】)に記載されている実施例19ないし21において,ソフトコンタクトレンズを外した直後の点眼直後の清涼感は◎と評価され,かつ,ソフトコンタクトレンズを外した直後の点眼直後の刺激は○ないし◎と評価されている。
しかしながら,本件明細書(【0044】)には「各パネラーには,清涼感について全く感じない場合を0点,十分に強い清涼感を感じる場合を6点として7段階評価してもらった。同様に眼刺激について全く感じない場合を6点,強い刺激を感じる場合を0点として7段階評価してもらった。パネラー全員の評価点を平均して,その平均値が0〜2点未満を×,2点以上3点未満を△,3点以上4点未満を○,4点以上6点以下を◎として表に結果を示す。 と記載され,」 清涼感及び刺激の評価において,◎と評価された場合であっても,7段階評価における中央値付近の「4」の評価が含まれている。そうすると,上記評価から,直ちに本件発明6の奏する効果が甲1発明と比較して予測できないほど顕著なものであると推認することはできず,その他に,本件発明6が奏する効果が,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ常用者に適用した場合と比較して,当業者の予測を超える顕著なものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。のみならず,前記(2)の認定事実によれば,甲1発明の点眼剤は,目に対する刺激性が低く,良好な清涼感を付与することができ,かつ,清涼感の持続性の高いものであり,前記アのとおり,甲1発明の点眼剤54をソフトコンタクトレンズの装用者にも適用する旨の示唆がされているのであるから,これらの記載に接した当業者は,甲1発明の点眼剤につき,ソフトコンタクトレンズ常用者に使用した場合でも,裸眼時やハードコンタクトレンズ装用時と同程度に,眼に対する刺激性が低く,良好な清涼感を付与することができ,清涼感の持続性が高いものであることを十分に予測することができる。しかも,前記(4)イのとおり,甲1発明の点眼剤の効果と本件発明の効果は,そもそも清涼感を付与し刺激性が低いという同種のものにすぎず,本件明細書には,ハードコンタクトレンズ装用時における清涼感との比較評価等が記載されていないのであるから,本件優先日当時の技術常識を考慮しても,具体的にどの程度の清涼感の差異があるのかは不明である。
したがって,本件発明6の有する効果が予測することができる範囲を超えた顕著なものであると認めることはできない。
(7) 被告の主張に対する判断について被告は,甲1公報には,甲1発明が本件発明1及び6と同じ効果を奏することが示唆されていない上,本件発明の専門パネラーによる「清涼感を超えた刺激感」という使用感と,甲1発明にいうDraize法によりウサギを用いて評価した「角膜,虹彩及び結膜に生じる損傷の程度」は,質の異なる評価であるから,甲1発明をソフトコンタクトレンズ装着者又は常用者に使用した場合に,当業者は本件発明1及び6と同様の効果を奏するものと予測することはできないなどと主張する。
そこで検討するに,確かに,甲1発明においてDraize法により評価される刺激性は「角膜,虹彩及び結膜に生じる損傷の程度」であるといえるから,本件発明にいう専門パネラーの使用感と同一であると認めることはできない。しかしながら,甲1発明においては,上記試験に加え,清涼感の持続性について専門パネラーによる官能試験も併せて実施されており,専門パネラーが当該官能試験において不快な刺激を感じたとすれば,専門パネラーが清涼感を感じることがないことは明らかである。そうすると,Draize法による試験又は専門パネラーによる官能試55験に関する記載に接した当業者は,甲1発明についても,不快な刺激を伴うことなく清涼感を付与することができると理解するのが自然である。そもそも本件発明の奏する効果が顕著であるというためには,当該効果が本件明細書に記載されているか,あるいは,当業者が技術常識を踏まえ本件明細書の記載から読み取ることができるものであることが必要である。しかるに,前記(4)イ及び(6)イに説示したとおり,甲1発明の点眼剤の効果と本件発明の効果は,いずれも清涼感を付与し刺激性が低いという同種のものにすぎず,本件発明1及び6が奏する効果が,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ装用者又は常用者に適用した場合と比較して,当業者の予測を超える顕著なものであることを認めるに足りる的確な証拠はないのであるから,本件発明の奏する効果が顕著であると認めることはできない。その他に被告の当審における主張を改めて十分検討しても,被告の主張は,具体的な裏付けを欠くまま本件発明の顕著な効果等をいうものにすぎず,上記判断を左右するに至らない。
したがって,被告の上記各主張は,採用することができない。
第5 結論以上によれば,原告の取消事由1及び取消事由8には理由があり,その余の点を判断するまでもなく,原告の本訴請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部裁判長裁判官 設 樂 一56裁判官 中 島 基 至裁判官 岡 田 慎 吾57
事実及び理由
全容
  • この表をプリントする