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関連審決 不服2015-7466
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事件 平成 28年 (行ケ) 10118号 審決取消請求事件

原告 株式会社ドクター中松創研
訴訟代理人弁理士 鮫島信重
被告特許庁長官
指定代理人永田和彦 藤井昇 長馬望 田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/12/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が不服2015-7466号事件について平成28年4月12日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,新規性の有無(引用発明の認定誤り及び新規性判断の誤りの有無)である。
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「高効率プロペラ/スクリュー/ブレード」 (後に「高効率プロペラ」と補正された。)とする発明につき,平成25年3月12日(本願出願日)に特許出願(特願2013-48870号)をし(甲1),平成26年10月2日手続補正をした(甲9Bの2)が,平成27年3月24日付けで拒絶査定を受けた(甲10)。
原告は,同年4月21日,拒絶査定不服審判請求をし(不服2015-7466号。甲11A),同日付け及び同年6月18日付けで手続補正(以下,両者を併せて「本件補正」という。)をした(甲11Bの2,乙2。以下,本件補正に係る書面をまとめて「本件補正書」という。。
) 特許庁は,平成28年4月12日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同審決謄本は,同年5月11日,原告に送達された。
2 本願発明等の要旨 (1) 本件補正前の請求項1に係る発明(本願発明) 以下のとおりである は, (甲9Bの2)。
「風力発電機用プロペラであって,その羽板先端部に,遠心力流ストップ翼端渦流発生防止,流体囲い込み衝立ベーンを設けたことを特徴とする高効率プロペラ。」 (2) 本件補正後の請求項1に係る発明(本件補正後発明)は,以下のとおりのものである(甲11Bの2,乙2。本件補正に係る部分に下線を付した。。
) 「風力発電機用プロペラであって,その羽板先端部に,該羽板先端部の回転方向に沿う形で遠心力流ストップ翼端渦電流発生防止,流体囲い込み衝立ベーンを設けたことを特徴とする高効率プロペラ。」 3 審決の理由の要点 (1) 本件補正について 本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲,又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。よって,本件補正は,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により,却下すべきものである。
(2) 独立特許要件について 本件補正が,特許請求の範囲減縮を目的とする補正であると仮定した場合,本件補正後発明は,以下のとおり,特開2009-299650号公報(甲3。引用文献)に記載された発明(引用発明)及び引用文献の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないので,同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するものであり,本件補正は,同法159条 1 項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により,却下すべきものである。
引用発明の認定 「風力発電にも用いられるプロペラ型流体車であって,その翼1の翼端に翼1の面に垂直な翼端整流板2を,翼前面から翼背面に廻り込む流体の動きを妨げる障壁として付加することにより翼端失速を阻止するプロペラ型流体車。」 イ 本件補正後発明と引用発明との対比 (一致点) 本件補正後発明の「遠心力流ストップ翼端渦電流発生防止」は「遠心力流ストップ翼端渦流発生防止」の誤記であったと仮定すると,本件補正後発明と引用発明との一致点は, 「風力発電機用プロペラであって,その羽板先端部に,遠心力流ストップ翼端渦流発生防止,流体囲い込み衝立ベーンを設けた,高効率プロペラ。」である。
(相違点) 流体囲い込み衝立ベーンを,本件補正後発明では,「該羽板先端部の回転方向に沿う形で」設けたのに対して,引用発明では,翼端整流板をそのように設けたとの特定はなされていない点。
ウ 相違点についての判断 引用文献の図3,及び,図5の左側の図の内容からみて,翼の先端に該翼の先端部の回転方向に沿う形で構造物を設けることが合理的であるので,引用発明の翼端整流板2の形状を「該翼の先端部の回転方向に沿う形」として,相違点1に係る本件補正後発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
そして,本件補正後発明の効果について検討しても,引用発明,及び,引用文献の記載事項からみて格別顕著なものがもたらされるものではない。
(3) 本願発明について 本願発明は,以下のとおり,引用発明であるから,特許法29条1項3号の規定に該当し,特許を受けることができない。
引用発明の認定 上記(2)アと同じ。
イ 本願発明と引用発明との対比・判断 本願発明と引用発明とは, 「風力発電機用プロペラであって,その羽板先端部に,遠心力流ストップ翼端渦流発生防止,流体囲い込み衝立ベーンを設けた,高効率プロペラ。」の点で一致し,相違点は認められない。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り) (1) 引用発明は,引用文献の図3及び5に記載の発明(図3等発明)と認定されるべきである。審決が引用発明とする引用文献の図1に記載の発明(図1発明),及び,図2に記載の発明は, 【0012】【0013】の記載から,従来例にすぎな , いものと認められ,引用文献記載の発明とはいえない。
(2) 図3等発明は,引用文献においては,プロペラの先端部の翼端整流板を,翼先端を結ぶ円筒形にしたものである。これにより,整流板の前縁,後縁がなくなるので,整流板による渦乱流による騒音や損失を軽減することができるとされている。
しかし,プロペラ先端を円筒形にすると,遠心力が翼端整流板のために外に出られなくなり,渦流が発生する。そのため,プロペラは非常に不安定な動作をすることになり,正しく回転できず,効率が大幅に落ちる。また,図3等発明では,プロペラの外周を囲む形で円筒状の翼端整流板を設けるので,非常に重くなってしまう。
この結果,プロペラ部の揚力が低下する。このような不具合を防止するためには,プロペラをより高速で回転させる必要があり,燃費が著しく悪化する。
これに対して,本願発明によれば, 「プロペラ1の翼端部にプロペラ1の先端の回転軌道15に沿う円筒状の衝立ベーン11を設けたものである。発生する渦流6を衝立ベーン11で仕切ってしまえば,遠心力5によるプロペラ先端への流体の流れ5と翼上面の流れ8と下面の流れ9の差による減圧による押し上げ力が翼端で混合することを遮断し,セパレートするので,渦流6が発生しない。これによって,プロペラの発する余分な渦流エネルギがなくなり,抵抗も減り空気の囲い込みが増え,推力が増大し,プロペラの効力が飛躍的に向上する。 という顕著な効果があるもの 」である。
図3等発明のように,プロペラ先端を円筒状の翼端整流板で囲ってしまうと,本願発明の上記のような効果は生じない。
よって,図3等発明と本願発明とは,同一であるとはいえない。
2 取消事由2(新規性判断の誤り) 図1発明が本願発明と比較対照されるべきとしても,図1発明は,本願発明とは異なるものである。
(1) 図1発明は,風車のようなエネルギーを受ける側の回転体であるのに対し, 本願発明は,飛行機のプロペラやスクリューのようなエネルギーを出す側の回転体である。よって,図1発明と本願発明とは,目的が異なり,異なる構成の発明である。
(2) 審決は,図1発明を引用文献の【0018】【0026】を参照して認定 ,しているところ,同段落記載によれば,図1発明は,遠心力が翼端整流板のために外に出られなくなり,渦流が発生するものであって,本願発明とは遠心力の効果が異なる。
(3) 本願発明は,プロペラの回転角(ピッチ)を調整することにより,プロペラの最大の効率を得ることができるもの(可変ピッチプロペラ)であるのに対し,図1発明は,翼が円輪でつながっているので,可変ピッチプロペラには使用できない。
被告の反論
1 取消事由1に対して (1) 引用文献には,図1発明とは別に,プロペラの先端部の翼端整流板を,翼先端を結ぶ円筒形にした図3等発明が記載されているが,図3等発明は,審決において,引用発明として認定したものではない。そして,引用文献には, 「プロペラ型流体車」の図1発明も記載されており,審決は,これを引用発明と認定したのである。
(2) 図1発明は,図1の記載等からみて,翼端整流板を,翼先端を結ぶ円筒形にしたものではなく,複数の翼端整流板2を,それぞれ翼1の先端に互いに間を空けて付加したものであるから,遠心力が翼端整流板のために外に出られなくなり,渦流が発生するものではなく,円筒状の翼端整流板を設けるから非常に重くなって,プロペラ部の揚力が低下して,燃費が著しく悪化するものでもない。
図1発明は,翼端整流板を備えた翼を用いたことにより,翼端渦による騒音及び損失を低減するものであり,さらに,翼端整流板2を,翼前面から翼背面に廻り込 む流体の動きを妨げる障壁として付加することにより,前面の正圧部と背面の負圧部との間に仕切りがない翼端を通って,前面の正圧部の流体が背面の負圧部分へ廻りこみ,背面に接していた流線が翼面から剥がれてしまうために翼端失速がおきることを阻止するものである。
原告が主張する本願発明の顕著な効果は,図1発明が有する効果であり,格別なものではない。
2 取消事由2に対して 上記1と同じ
当裁判所の判断
1 本願発明について (1) 平成26年10月2日付け手続補正後の明細書及び図面(本願明細書。甲1,9Bの2)には,以下の記載がある。
【技術分野】 【0001】本発明は船舶に用いられるスクリューや飛行機や風力発電のプロペラのタービン・ブレードの高効率化の技術である。
【背景技術】 【0002】飛行機や船舶はその推進力をプロペラ又はスクリューに頼っている。風力発電はプロペラ等により発電機を回す。図1は公知のスクリューを示す図である。図に示す従来例は,4枚の幅広の羽根1が回転軸2に取り付けられている。羽根1の数は4枚に限るものではなく,任意の数であってよいが,公知の羽根1のエッジには何もない。
【0003】図2は風力発電用のプロペラの公知例を示す図である。図1の場合と同様に回転軸4に複数の長い羽根3が取り付けられており,翼端には何もない。
プロペラ又はスクリューについては,従来より多くの特許出願がなされている(例えば特許文献1〜特許文献3参照)。
【図2】 【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0005】従来のプロペラ,スクリューに関する技術は,特許文献1〜特許文献3に示したように,翼の根元の強度を強くしたり,翼の取り付け取り外しに便利な機構を付与する等,プロペラの材料を繊維強化プラスチック複合材を用いて強化する技術であり,プロペラの効率を向上させる本発明の技術については考慮されていない。
【0006】ところで,通常の飛行機の翼で翼の先端に翼端渦流が発生し,効率を下げていることが知られている。以下,翼端渦流の発生原理について説明する。
図3は翼端渦流発生の説明図である。回転軸2に取り付けられたプロペラ1が回転すると,該プロペラの先端部に図3に示すような渦流6が発生する。5は遠心力流である。この渦流6は,プロペラの効率を下げてしまう。
【図3】 【0007】図4は図3のA-A断面を示す図である。図のハッチングで示した 部分が翼1の断面1aを示している。例として「クラークY」を示す。翼1に当たる空気はリーディングエッジ7で上方向8と下方向9に分流する。上方向と下方向に分かれた空気流は翼1の後縁10で合流するが,分流8側の長さが,分流9側の長さより長いので後縁合流点までの速度が異なる。
【図4】 【0008】後縁合流点までに要する時間は同一であるから,8側の速度は9側より速くなる。従って8側の圧力が9側より低くなり,図で上の方向に空気が翼を押し上げる。これが翼の揚力16となる。この揚力16が翼端では翼1がないので,翼の1の下流9と上流8が合流し,同時に遠心力流5により翼端に飛ばされ,下から流れ9が上の流れ8を突き上げて渦流6(図3)を発生する。
【0009】図5は本発明実施例であって,風力発電プロペラ又は航空機用プロペラ1の翼端部にプロペラ1の先端の回転軌道15に沿う円筒状の衝立ベーン11を設けたものである。発生する渦流6を衝立ベーン11で仕切ってしまえば,遠心力5によるプロペラ先端への流体の流れ5と翼上面の流れ8と下面の流れ9の差による減圧による押し上げ力が翼端で混合することを遮断し,セパレートするので,渦流6が発生しない。これによって,プロペラの発する余分な渦流エネルギがなくなり,抵抗も減り空気の囲い込みが増え,推力が増大しプロペラの効力が飛躍的に向上する。
【図5】 【課題を解決するための手段】 【0010】前記した課題を解決する本発明は,航空機又はプロペラや船舶用スクリュー又はタービンブレードの先端部に渦流発生を防止し,流体を囲い込むベーンを設ける。
【発明の効果】 【0011】風力発電や航空機のプロペラや船舶のスクリューのタービンブレードの効率を非常に簡単軽量小型な構造で向上することができる。また,他のいかなる方法よりも安価で,かさばらない。また,翼端の渦流が発生しないので,ノイズが発生せず,風力発電による近隣の苦情がなくなる。また,プロペラ端やスクリュー端が異物に当たった時,7プロペラ,スクリュータービンブレードの保護になる。
【0012】また,他の如何なる方法よりも安価で,かさばらない,空気が囲い込んで16ダクトも不要となり,コンパクトになり,屋外,屋内でも使用でき,風力入力効率が飛躍的に向上するので,風が弱くても発電することができる。通常,15m/sの風が必要なのに対し,本発明者が本発明を実験したところ,1.4m/sの風でも回転発電した。スクリューの場合,スクリューが海底などと接触してもスクリューが破壊から守られる。本文中,プロペラとあるのは図7のごとき縦型風当て式風力発電12も含まれる。この他,種々の変形が考えられるが,これらは全て本発明の範囲に含まれるものである。
【発明を実施するための形態】 【0014】図5は本発明第1の実施例の風力発電用プロペラであり,囲いこまれて効率が向上する。
【産業上の利用可能性】 【0015】風力発電で風が弱くても発電でき,通常風力で更に発電能力を高められる。また,プロペラ本体を小型化できる。航空機用プロペラや船舶用スクリューとして推進力を強くし,また同一推進力なら小型のプロペラ又はスクリューを用いることができる。タービンブレードとしてタービン効率を上げることができる。
(2) 以上から,本願発明の概要は,以下のとおりと認められる。
本願発明は,風力発電用プロペラの高効率化に関する(【0001】。
) 従来の風力発電用プロペラは,回転軸に複数の長い羽根を取り付けたものであり,羽根の翼端には何も取り付けられていない(【0003】,図2)。そのため,プロペラが回転すると,遠心力流が発生するとともに,プロペラの先端部に渦流(翼端渦流)が発生し,この渦流がプロペラの効率を低下させていた(【0006】,図3)。
本願発明は,風力発電用プロペラの先端部に渦流発生を防止し,流体を囲い込むベーン(衝立ベーン)を設けたものである(【0009】【0010】 , ,図5)。
本願発明に係る風力発電用プロペラは,渦流が発生しないので,プロペラの発する余分な渦流エネルギーがなくなり,抵抗も減り,空気の囲い込みが増え,プロペラの効率が飛躍的に向上するという効果を奏し(【0009】,また,風力発電用プ )ロペラの効率を非常に簡単軽量小型な構造で向上することができる,安価でかさばらない,ノイズが発生せず,風力発電による近隣の苦情がなくなる,プロペラ端が異物に当たったとき,プロペラの保護になる(【0011】,空気を囲い込んでダク )トも不要となり,コンパクトになり,屋外,屋内でも使用でき,風力入力効率が飛躍的に向上するので,風が弱くても発電ができる(【0012】,という効果を奏す )る。
2 引用発明について (1) 引用文献には,以下の記載がある(甲3)。
【技術分野】 【0001】この発明は,風車や水車あるいはスクリューやプロペラ(以下,これらを総じて「流体車」という。)によって流体からエネルギーを取り出し,あるいは推進軸にエネルギーを与えて推進力を得る効率を向上させる技術に関する。
【背景技術】 【0002】従来,風力発電や水力発電(以下,両者を総じて「流体力発電」という。,粉挽きや揚水などで,あるいはまた船舶や航空機の推進に流体 )車を使用してきた。このとき,一定の流速の流体から如何に多くのエネルギーを取り出せるか,あるいは一定のエネルギーから如何に大きな推進力を得られるか,という効率を向上させることに対し多くの努力が払われてきた。
【0003】例えば,プロペラ型流体車では,流体からのエネルギーを高効率で取り出すには,同じ強さの流体速度なら,より高いトルクを発生させることが効率を高める最も有効な手段であることはいうまでもない。
【0004】トルクは,流体車の回転翼(以下,単に「翼」という。)の回転軸(以下,「公転軸」という。)からの距離とその点で翼が発生する回転方向に働く揚力の積の総和であるので,翼先端に行くに従って翼弦長を増やし(以下, 「逆テーパー翼」という。,先端部揚力を増やしてトルクの向上を図る翼を用いる工夫などがこの対 )策である。
【0005】ところが一方で,如何なる流体力学力的特長を備える流体車も共通して抱える悩みは,翼端に生じやすい渦による騒音や効率の低下,あるいは流線が翼面から剥がれてしまい,翼の揚力がなくなる現象(以下,「失速」という。)もまた翼端で生じやすい。翼端で生じた失速(以下,「翼端失速」という。)は,容易に翼全体に波及する。
【0011】翼が揚力を発生するのは前面と背面では,流速が異なり,面に働く動圧が異なるからであるが,前面の正圧部と背面の負圧部との間に仕切りが無い翼端を通って,前面の正圧部の流体が背面の負圧部分へ廻りこみ,背面に接していた流線が翼面から剥がれてしまうために翼端失速がおきる。
【0012】これを阻止するために,翼前面から翼背面に廻り込む流体の動きを妨げる障壁として,プロペラ型流体車については,図1に示すように翼1の面に垂直な薄板2(以下,「翼端整流板」という。)を,翼端に付加する方法がある。
【図1】翼端整流板を備えたプロペラ型流体車の正面図,斜視図,側面図。
【0013】垂直軸型流体車では翼の先端の位置を隣同士変えて,後ろから来る翼が,前の翼端で発生した渦による干渉によってその性能が削がれるのを防止するとか,あるいは図2に示すように翼端整流板を設けるといった工夫がなされてきた。
【図2】翼端整流板を備えた垂直軸型流体車の斜視図。
【0016】次に,流体力発電などでは,特に問題となるのが流体の速度の強弱 によるトルクの変動である。
【0017】これは,出力としての電力や周波数の変動となり大変扱いにくい変動として全体の効率に及ぼす影響も大きい。
【0018】この対策として図5に示すように翼の先端に回転慣性を増やすための重量物(以下,「フライホイル」という。)を付加する方法も考えられているが,このフライホイル自体が翼端の流体の乱れを生じさせる原因ともなる。
【図5】フライホイルを備えた,プロペラ型流体車の正面図,斜視図および垂直軸型流体車の斜視図。
【0026】翼端整流板の前縁・後縁の周りでも渦や乱流が発生するので,図3に示すとおりプロペラ型流体車では翼端整流板を翼の先端に接する該流体車の回転軸を中心軸に持つ円筒状の翼端整流板を連接して設けることで翼端整流板 3 自身に前縁・後縁をなくすることができる。(請求項2) 【図3】円筒状翼端整流板を備えたプロペラ型流体車の正面図,斜視図,側面図。
(2) 引用文献の上記(1)【0002】〜【0005】【0011】【0012】 , ,の記載によれば,引用発明について,以下のことが認められる。
引用発明は,風車,水車,スクリュー及びプロペラ(流体車)によって流体からエネルギーを取り出したり推進軸にエネルギーを与えて推進力を得たりする効率を向上させる技術に関する(【0001】。
) 従来,流体車は,風力発電及び水力発電(流体力発電),粉挽き,揚水,船舶・航空機の推進に使用されており,効率の向上に向けた多くの努力がされてきた 【00 (02】。例えば,プロペラ型流体車では,流体からのエネルギーを高効率で取り出 )すためには,同じ強さの流体速度なら,より高いトルクを発生させることが効率を高める最も有効な手段である(【0003】。
) 流体車には,翼端に生じやすい渦によって,騒音,効率低下,翼端失速が発生するという問題点があった(【0005】。翼端失速が発生するのは,翼前面の正圧部 )と翼背面の負圧部との間に仕切りがない翼端を通って,翼前面の正圧部の流体が翼背面の負圧部分へ廻り込み,翼背面に接していた流線が翼面から剥がれてしまうためである(【0011】。
) 引用発明は,翼端失速の発生を阻止するために,プロペラ型流体車の翼1の翼端 に,その翼1の面に垂直な薄板2である翼端整流板を,翼前面から翼背面に廻り込む流体の動きを妨げる障壁として付加したものである(【0012】,図1)。
引用発明は,翼端失速の発生を阻止できるという効果を奏する(【0012】。
) (3) よって,引用発明は,上記第2,3(2)アのとおり認定される。
(4) 本願発明と引用発明とを対比すると,一致点及び相違点は,上記第2,3(2)イのとおりと認められる。すなわち,本願発明と引用発明との相違点は,認められない。
3 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について 原告は,図1発明は従来例にすぎないから,引用発明は,図3等発明と認定されるべき,と主張する。
そこで検討するに,特許法29条1項は,産業上利用することができる発明は原則として特許を受けられるが,出願された特許発明が,既に公知,公用,文献等により公知とされた発明である場合には,特許を受けることができない旨を規定し,いわゆる新規性喪失事由を限定列挙するところ,このように同項が新規性喪失事由を定めた趣旨は,既に公開された発明と同一の技術思想に新たに特許権を付与してインセンティブを与えても産業の発達に資することがなく,これを特許権として保護することは,かえって技術の発展を阻害するからである。そうすると,同項3号にいう「特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明」とは,頒布された刊行物に接した当業者において,特別の思考を要することなく当該発明を認識しこれを実施し得る程度に記載されたものであればよいと解されるから,当該刊行物が公開特許公報である場合,公開の対象となった当該特許発明のみならず,その公報に技術思想として記載された従来技術も,それが当該技術を認識し実施し得る程度に記載されていれば,同号にいう「刊行物に記載された発明」に当たるというべきである。
本件において,原告の主張する図1発明,すなわち引用発明は,上記2(2)のとおりに理解され,当該発明は,当業者が特別の思考を要することなく,これを認識し 実施し得る程度に引用文献に記載されているといえるから,特許法29条1項3号にいう「刊行物に記載された発明」に当たると認められる。当該発明が引用文献において「背景技術」として記載されていることは,上記認定を妨げるものではない。
原告の主張には,理由がない。
4 取消事由2(新規性判断の誤り)について (1) 原告は,引用発明(原告主張の図1発明。以下同じ。)は風車のようなエネルギーを受ける側の回転体であるのに対し,本願発明の飛行機のプロペラはスクリューのようなエネルギーを出す側の回転体であるから,両者は目的及び構成を異にする,と主張する。
しかし,本願発明は,請求項に「風力発電機用プロペラ」と明記されているから,飛行機のプロペラや船舶のスクリューではなく,むしろ,風を受けて回転する部材に係るものである。一方,引用発明は, 「風力発電にも用いられるプロペラ型流体車」であって,エネルギーを受ける側の回転体に係るものである。よって,本願発明と引用発明とが,原告の主張するように,目的及び構成を異にするとはいえない。
原告の主張には,理由がない。
(2) 原告は,審決が,図1発明を,引用文献の【0018】【0026】を参 ,照して認定しているところ,同段落の記載によれば,引用発明は遠心力が翼端整流板のために外に出られなくなり,渦流が発生するから,本願発明とは遠心力の効果が異なる,と主張する。
しかし,審決は,引用発明の認定に当たり,引用文献の【0018】【0026】 ,の記載も引用しているが,引用発明自体の認定は,図1に基づいて行ったものであるところ,上記両段落は,引用文献の図3及び5に関する記載であるから,審決が同記載の効果を引用発明が有すると認定したものではないことは明らかである。
原告の主張は,失当である。
(3) 原告は,本願発明は可変ピッチプロペラであるのに対し,引用発明は翼が円輪でつながっており,可変ピッチプロペラには使用できない,と主張する。
しかし,引用発明は,前記2(3)の認定のとおり,引用文献の図1に記載された翼端整流板を備えたプロペラ型流体車に係るものである。原告主張の,翼が円輪でつながっている構成は,引用文献の図3に関する発明(同文献の請求項2に記載の発明)が有するものである。
原告の主張は,その前提を誤っており,理由がない。
結論
以上のとおり,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 片岡早苗
裁判官 古庄研
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