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事件 |
平成
27年
(行ケ)
10239号
審決取消請求事件
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当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/12/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告らの請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告らの求めた裁判
特許庁が無効2014-800029号事件について平成27年10月19日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,@訂正要件判断(目的要件,新規事項追加,実質的変更)の誤りの有無,A進歩性判断(相違点2及び5の判断)の誤りの有無である。 1 特許庁における手続の経緯 被告らは,名称を「船舶」とする発明について,平成19年9月13日を出願日(本件出願日)として特許出願(特願2007-238381号)をし,平成22年5月14日,その設定登録を受けた(特許第4509156号。請求項の数7。 本件特許)(甲28) 。 原告らが,平成26年2月24日に本件特許の請求項1ないし6に係る発明についての特許無効審判請求(無効2014-800029号)をしたところ,特許庁が平成27年1月23日付けで審決の予告をしたので,被告らは,平成27年3月30日付けで訂正請求をした(本件訂正。甲50の1ないし4,甲51)。 特許庁は,平成27年10月19日, 「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月22日,原告らに送達された。 2 本件訂正発明及び本件発明の要旨 本件訂正後の本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下,請求項の番号に従って「本件訂正発明1」のようにいい,併せて「本件訂正発明」という。)及び本件訂正前の本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下,請求項の番号に従って「本件発明1」のようにいい,併せて「本件発明」という。なお,別件無効審判請求事件(無効2011-800262号)における手続でなされた平成24年4月10日付け訂正請求(別件訂正。甲49の1,2)後のもの。別件訂正は,これを認容する平成26年5月2日付け審決の確定により,既に確定した。 の各特許請求の範 )囲の記載は,次のとおりである。 (1) 本件訂正発明(甲50の1,2。下線は,訂正箇所を示す。また,便宜上,原告らの構成要件の分説に従って,構成要件に分説して示す。) ア 本件訂正発明1「【請求項1】 A 船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンクと,バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置と,バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられ,機関室に設置されたバラストポンプとを備えている船舶であって, B 前記バラスト水処理装置は,前記取水口から取水したバラスト水を前記バラストタンクへ供給する前記バラスト水配管系統に対して,処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており, C-1 前記処理装置入口側配管及び前記処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ, C-2 これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ, D-1 前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点と,前記処理装置出口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点との間の前記バラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ, D-2 当該開閉弁は取水時と排水時に閉とされており, E さらに前記バラスト水配管系統には,前記バラストポンプの下流側で,かつ前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との前記連結点の上流側に,前記バラストポンプから前記バラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており, F バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の舵取機室内に配設され, G 前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置することにより,緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成することを特徴とする H 船舶。」 イ 本件訂正発明2「【請求項2】 I 前記バラスト水処理装置が第1処理ユニットと第2処理ユニットから成る分割構造をしており,前記第1処理ユニットが前記舵取機室内またはその空間に設けたデッキ上に配設され,前記第2処理ユニットが前記舵取機室の床面上に設置されていることを特徴とする請求項1に記載の船舶。」 ウ 本件訂正発明3「【請求項3】 J 前記バラスト水処理装置のバッファタンクとしてアフト・ピーク・タンク等の船尾部ボイドスペースが使用されていることを特徴とする請求項1または2に記載の船舶。」 エ 本件訂正発明4「【請求項4】 K 前記舵取機室は非防爆エリアであることを特徴とする請求項1に記載の船舶。」 オ 本件訂正発明5「【請求項5】 L 前記舵取機室はバラストポンプが設置される機関室に隣接していることを特徴とする請求項1に記載の船舶。」 カ 本件訂正発明6「【請求項6】 M 船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンクと,バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置と,バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられ,機関室に設置されたバラストポンプとを備えている船舶であって, N 前記バラスト水処理装置は,前記取水口から取水したバラスト水を前記バラストタンクへ供給する前記バラスト水配管系統に対して,処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており, O-1 前記処理装置入口側配管及び前記処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ, O-2 これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ, P-1 前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点と,前記処理装置出口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点との間の前記バラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ, P-2 当該開閉弁は取水時と排水時に閉とされており, Q さらに前記バラスト水配管系統には,前記バラストポンプの下流側で,かつ前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との前記連結点の上流側に,前記バラストポンプから前記バラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており, R バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアで,船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設され, S 前記バラスト水処理装置が前記吃水線より上方に位置することにより,緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成することを特徴とする T 船舶。」 (2) 本件発明(甲49の1,2) ア 本件発明1「【請求項1】 バラスト水の取水時または排水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去ま たは死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置を備えてい る船舶であって, バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の舵取機室内に配 設され, 前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置することを特徴とする船舶。」 イ 本件発明2「【請求項2】 前記バラスト水処理装置が前記舵取機室内またはその空間に設けたデッキに配 設されていることを特徴とする請求項1に記載の船舶。」 ウ 本件発明3「【請求項3】 前記バラスト水処理装置のバッファタンクとしてアフト・ピーク・タンク等の 船尾部ボイドスペースが使用されていることを特徴とする請求項1または2に記 載の船舶。」 エ 本件発明4「【請求項4】 前記舵取機室は非防爆エリアであることを特徴とする請求項1に記載の船舶。」 オ 本件発明5「【請求項5】 前記舵取機室はバラストポンプが設置される機関室に隣接していることを特徴 とする請求項1に記載の船舶。」 カ 本件発明6「【請求項6】 バラスト水の取水時または排水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去ま たは死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置を備えてい る船舶であって, バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアで, 船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設されているこ とを特徴とする船舶。」 3 審判における請求人(原告ら)の主張〜無効理由(進歩性欠如) 本件特許の請求項1ないし請求項6に記載された各発明は,その出願前において,甲1が記録された甲1の2及び3に記載された発明と,甲2ないし甲12の1の刊行物に記載の発明又は周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであり,進歩性を欠く。 4 審決の理由の要点 (1) 本件訂正の適否の判断(訂正事項1,2,10及び11関連) ア 訂正事項1,2,10及び11(下線部は,訂正部分を示す。) (ア) 訂正事項1 本件特許の特許請求の範囲における請求項1に,「【請求項1】 バラスト水の取水時または排水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置を備えている船舶であって, バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の舵取機室内に配設され, 前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置することを特徴とする船舶。」とあるのを,「【請求項1】 船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンクと,バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置と,バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられ,機関室に設置されたバラストポンプとを備えている船舶であって, 前記バラスト水処理装置は,前記取水口から取水したバラスト水を前記バラストタンクへ供給する前記バラスト水配管系統に対して,処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており, 前記処理装置入口側配管及び前記処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ,これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ, 前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点と,前記処理装置出口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点との間の前記バラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ,当該開閉弁は取水時と排水時に閉とされており, さらに前記バラスト水配管系統には,前記バラストポンプの下流側で,かつ前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との前記連結点の上流側に,前記バラストポンプから前記バラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており, バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の舵取機室内に配設され, 前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置することにより,緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成することを特徴とする船舶。」と訂正する。 (イ) 訂正事項2 本件特許の明細書の段落【0008】に,「【0008】 本発明は,上記の課題を解決するため,下記の手段を採用した。 本発明の請求項1に係る船舶は,バラスト水の取水時または排水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置を備えている船舶であって,バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の舵取機室内に配設され,前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置することを特徴とするものである。」とあるのを,「【0008】 本発明は,上記の課題を解決するため,下記の手段を採用した。 本発明の請求項1に係る船舶は,船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンクと,バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置と,バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられ,機関室に設置されたバラストポンプとを備えている船舶であって,前記バラスト水処理装置は,前記取水口から取水したバラスト水を前記バラストタンクへ供給する前記バラスト水配管系統に対して,処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており,前記処理装置入口側配管及び前記処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ,これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ,前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点と,前記処理装置出口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点との間の前記バラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ,当該開閉弁は取水時と排水時に閉とされており,さらに前記バラスト水配管系統には,前記バラストポンプの下流側で,かつ前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との前記連結点の上流側に,前記バラストポンプから前記バラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており,バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の舵取機室内に配設され,前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置することにより,緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成することを特徴とするものである。」と訂正する。 (ウ) 訂正事項10 本件特許の特許請求の範囲における請求項6に,「【請求項6】 バラスト水の取水時または排水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置を備えている船舶であって, バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアで,船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設されていることを特徴とする船舶。」とあるのを,「【請求項6】 船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンクと,バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置と,バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられ,機関室に設置されたバラストポンプとを備えている船舶であって, 前記バラスト水処理装置は,前記取水口から取水したバラスト水を前記バラストタンクへ供給する前記バラスト水配管系統に対して,処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており, 前記処理装置入口側配管及び前記処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ,これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ, 前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点と,前記処理装置出口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点との間の前記バラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ,当該開閉弁は取水時と排水時に閉とされており, さらに前記バラスト水配管系統には,前記バラストポンプの下流側で,かつ前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との前記連結点の上流側に,前記バラストポンプから前記バラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており, バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアで,船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設され, 前記バラスト水処理装置が前記吃水線より上方に位置することにより,緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成することを特徴とする船舶。」と訂正する。 (エ) 訂正事項11 本件特許の明細書の段落【0013】に,「【0013】 本発明の請求項6に係る船舶は,バラスト水の取水時または排水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置を備えている船舶であって,バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアで,船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設されていることを特徴とするものである。」とあるのを,「【0013】 本発明の請求項6に係る船舶は,船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンクと,バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置と,バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられ,機関室に設置されたバラストポンプとを備えている船舶であって,前記バラスト水処理装置は,前記取水口から取水したバラスト水を前記バラストタンクへ供給する前記バラスト水配管系統に対して,処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており,前記処理装置入口側配管及び前記処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ,これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ,前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点と,前記処理装置出口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点との間の前記バラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ,当該開閉弁は取水時と排水時に閉とされており,さらに前記バラスト水配管系統には,前記バラストポンプの下流側で,かつ前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との前記連結点の上流側に,前記バラストポンプから前記バラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており,バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアで,船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設され,前記バラスト水処理装置が前記吃水線より上方に位置することにより,緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成することを特徴とするものである。」と訂正する。 イ 判断 (ア) 訂正事項1及び10について 訂正事項1及び10は,訂正前の請求項1及び6に記載の発明において,バラスト水処理装置へのバラスト水の供給時期が択一的であったものを1つの時期に限定するもの,及び,バラスト水の取水,バラスト水処理装置への供給,排水に関する事項を具体的に特定するものであり,特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。 そして,訂正事項1及び10は,本件特許の願書に添付した明細書(本件明細書)の記載の範囲内においてされた訂正であり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 (イ) 訂正事項2及び11について 訂正事項2及び11は,明細書の段落【0008】及び【0013】の記載について,訂正事項1及び10による特許請求の範囲の訂正に伴い訂正するものであり,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであるので,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。 そして,訂正事項2及び11は,訂正事項1及び10の訂正に伴う訂正であり,前記(ア)のとおり,訂正事項1及び10が本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(本件明細書等)の記載の範囲内でされた訂正であり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないから,訂正事項2及び11も,本件明細書等の記載の範囲内でされた訂正であり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 (2) 無効理由(進歩性欠如)について ア 引用発明の認定 甲1(「環境に優しいバラスト水処理システム(バラスト水管理国際会議2006に向けて)」と題する文献)が記録された甲1の2(「第3回バラスト水管理に関する国際会議及び展示会(バラスト水管理国際会議2006) と題するCD-ROM) 」には,次の発明(検甲1発明)が記載されている。 「バラストタンクと,バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物を処理して除去するとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理システムと,バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入する流路とバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水する流路に設けられたポンプとを備えている船舶であって, バラスト水が供給される前記バラスト水処理システムが機関室(engine room)や舵取機室(steering room)といった非防爆エリア(non-hazardous area)に設置されている船舶」 イ 本件訂正発明1について (ア) 一致点の認定 本件訂正発明1と検甲1発明とを対比すると,次の点で一致する。 「船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンクと,バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置と,バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられたバラストポンプとを備えている船舶。」 (イ) 相違点の認定 本件訂正発明1と検甲1発明とを対比すると,次の点で相違する。 a 相違点1 本件訂正発明1は,バラストポンプが「機関室に設置された」と特定されているのに対して,検甲1発明のポンプの配置は,そのように特定されていない点。 b 相違点2 本件訂正発明1は, 「バラスト水処理装置は,取水口から取水したバラスト水をバラストタンクへ供給するバラスト水配管系統に対して,処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており,処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ,これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ,処理装置入口側配管とバラスト水配管系統との連結点と,処理装置出口側配管とバラスト水配管系統との連結点との間のバラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ,開閉弁は取水時と排水時に閉とされており, と特定されているのに対し 」て,検甲1発明は,そのような配管系統及び開閉弁の配置について特定されていない点。 c 相違点3 本件訂正発明1は, 「バラスト水配管系統には,バラストポンプの下流側で,かつ処理装置入口側配管とバラスト水配管系統との連結点の上流側に,バラストポンプからバラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており,と特定されているのに対して, 」 検甲1発明は,そのように特定されていない点。 d 相違点4 本件訂正発明1は,バラスト水が供給されるバラスト水処理装置が船舶後方の舵 「取機室内に配設され,」と特定されているのに対して,検甲1発明は,舵取機室内にバラスト水処理システムを配設することが選択的に例示されているにとどまり,また,その舵取機室が船舶後方にあることは特定されていない点。 e 相違点5 本件訂正発明1は, 「舵取機室は吃水線よりも上方に位置することにより,緊急時にバラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」と特定されているのに対して,検甲1発明は,そのように特定されていない点。 (ウ) 相違点についての判断 a 相違点1について 船舶において,バラストポンプを機関室に配置することは,本件出願日前に周知の事項である(甲9ないし甲11)。 検甲1発明を,相違点1に係る本件訂正発明1の構成とすることは,上記周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得る。 b 相違点2について 相違点2に係るバラスト水処理装置の配管系統及び開閉弁の配置は,証拠として提出された文献には開示されておらず(甲2ないし甲28) これらの文献から検甲 ,1発明を相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることが容易に想到し得るとすることはできない。 特開2007-44567号公報(甲30) 特開2002-192161号公報 ,(甲31),特開2005-21814号公報(甲32)及び特開2005-88835号公報(甲33)には,バラスト水処理装置の流路とこれをバイパスする流路との2つの流路を設け,それぞれの流路に弁を設けた配管構造が記載ないし示唆されている。 しかしながら,甲30ないし甲33に記載の配管構造におけるバラストタンクからバラスト水を排水する態様をみると,甲30ないし甲32のものは,2つの流路を同時に閉じることはできず,また,甲33のものは,バイパス流路(往路用配管51)の弁(バルブ707,709,7010)の動作については明らかではない。 そうすると,甲30ないし甲33に記載の事項から,相違点2に係る本件訂正発明1の構成のうち, 「バラスト水処理装置は,取水口から取水したバラスト水をバラストタンクへ供給するバラスト水配管系統に対して,処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており,処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ」「処理装置入口側配管とバラスト水配管系統との ,連結点と,処理装置出口側配管とバラスト水配管系統との連結点との間のバラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ,との構成については本件出願日前に周知である 」といえたとしても,全ての開閉弁を「排水時に閉とされており,」との構成を含めて周知慣用の事項とはいえない。 したがって,検甲1発明に,甲30ないし甲33の記載事項を適用しても,相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることとはいえない。 c 相違点3について バラストポンプの吐出側に逆止弁を設けることは,本件出願日前に周知の事項といえる(甲34)。 そうすると,検甲1発明のバラストポンプの吐出側に逆止弁を設け,相違点3に係る本件訂正発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得る。 d 相違点4について 甲1の2及び特開2006-272147号公報(甲9)の記載から,バラスト水処理装置を既存の船舶にも設置する義務が発生することは,当業者には本件出願日前に周知の事項であったといえる。 また,舵取機室が船舶後方にあり,かつ,吃水線よりも上方に位置することは,本件出願日前に周知の事項である(甲2ないし甲5,甲19ないし甲27)。 そして,甲1の2には,舵取機室がバラスト水処理装置の設置区画の1つの推奨区画(候補)として取り上げられている。 そうすると,舵取機室が船舶後方に配設され,かつ,吃水線よりも上方に位置するという本件出願日前に周知の構造の船舶において,バラスト水処理装置を設置する区画として舵取機室を選択することは,当業者にとって容易に想到し得る。 したがって,検甲1発明を,相違点4に係る本件訂正発明1の構成とすることは,周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得る。 e 相違点5について 前記 d の相違点4で検討したとおり,検甲1発明のバラスト水処理装置を吃水線よりも上方に位置する舵取機室に配置することは,当業者が容易に想到し得ることであり,そのような配置としたときに,バラスト水処理装置内の水は,重力により自然に吃水線まで落下しようとする状態にあることは明らかといえる。しかし,その配置をもってして,緊急時に船外にまで排水することまでも明らかであるとはいえず,また,緊急時にバラスト水処理装置から船外に排水できるように構成することは,原告ら提出のいずれの証拠にも示されていない。 原告らは,相違点5は形式的な相違点にすぎないとも主張するが, 「舵取機室は吃水線よりも上方に位置すること」のみによりバラスト水を船外に排水できるものではなく,本件訂正発明1はそのための具体的な構成を備えることが必須であることは明らかであるので,相違点5は形式的な相違点にすぎないとはいえない。 そうすると,検甲1発明を,相違点5に係る本件訂正発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得るとはいえない。 ウ 本件訂正発明2について (ア) 一致点及び相違点の認定 本件訂正発明2と検甲1発明とを対比すると,前記イ(ア)と同様の点で一致し,前記イ(イ)の相違点1ないし相違点5と同様の点で相違することに加えて,次の相違点6で相違する。 (相違点6) 本件訂正発明2は,バラスト水処理装置が第1処理ユニットと第2処理ユニット 「から成る分割構造をしており,前記第1処理ユニットが舵取機室内またはその空間に設けたデッキ上に配設され,前記第2処理ユニットが舵取機室の床面上に設置されている」と特定されているのに対し,検甲1発明は,そのように特定されていない点。 (イ) 相違点6についての判断 検甲1発明において,バラスト水処理装置を複数のユニットに分割することは,当業者が適宜になし得ることといえる。 そして,前記イ(ウ)dの相違点4で検討したとおり,検甲1発明において,バラスト水処理装置を舵取機室内に配設することは当業者が容易に想到し得ることであり,舵取機室内におけるバラスト水処理装置を構成する各ユニットの配置は,当業者が適宜になし得る設計的事項といえる。 したがって,検甲1発明を,相違点6に係る本件訂正発明2の構成とすることは,当業者が容易に想到し得る。 エ 本件訂正発明3について (ア) 一致点及び相違点の認定 本件訂正発明3と検甲1発明とを対比すると,前記イ(ア)と同様の点で一致し,前記イ(イ)の相違点1ないし相違点5及び前記ウ(ア)の相違点6と同様の点で相違することに加えて,次の相違点7で相違する。 (相違点7) 本件訂正発明3は,「バラスト水処理装置のバッファタンクとしてアフト・ピーク・タンク等の船尾部ボイドスペースが使用されている」と特定されているのに対して,検甲1発明は,そのように特定されていない点。 (イ) 相違点7についての判断 舵取機室の下方に,アフト・ピーク・タンクが配置されている船舶は,本件出願日前に周知慣用である(甲4ないし甲6)。そして,バラスト水処理装置のバッファタンクとして利用する区画をどこにするかを検討する際には,船内で空いた空間であり,水を入れても支障のないボイドスペースを候補にあげることが容易に想像され,バラスト水処理装置が船尾部の舵取機室に設置されたものであれば,その際に船尾部のアフト・ピーク・タンク等のボイドスペースを選択することは,当業者であれば容易に想到し得る。 そして,本件訂正発明3による効果も,検甲1発明,周知慣用の事項から当業者が予測し得る範囲のものであって,格別のものとはいえない。 したがって,検甲1発明を,相違点7に係る本件訂正発明7の構成とすることは,周知慣用の事項に基づいて,当業者が容易に想到し得る。 オ 本件訂正発明4について 検甲1発明は,バラスト水処理システムが機関室や舵取機室といった非防爆エリ 「アに設置されている」ので,本件訂正発明4で特定される「舵取機室は非防爆エリアであること」との事項を有している。 本件訂正発明4と検甲1発明とを対比すると,前記イ(ア)と同様の点で一致し,前記イ(イ)の相違点1ないし相違点5と同様の点で相違する。 カ 本件訂正発明5について (ア) 一致点及び相違点の認定 本件訂正発明5と検甲1発明とを対比すると,前記イ(ア)と同様の点で一致し,前記イ(イ)の相違点1ないし相違点5と同様の点で相違することに加えて,次の相違点8で相違する。 (相違点8) 本件訂正発明5は,舵取機室はバラストポンプが設置される機関室に隣接してい 「る」と特定されているのに対し,検甲1発明では,そのように特定されていない点。 (イ) 相違点8についての判断 舵取機室は,一般に機関室に隣接して設けられており,本件出願日前に周知慣用の事項である(甲2ないし甲6)。 また,バラストポンプが設置される機関室を備えた船舶は,本件出願日前に周知である(甲9,甲10)。 前記イ(ウ)dの相違点4で検討したとおり,検甲1発明のバラスト水処理装置を舵取機室に配設することは,周知の事項に基づき当業者が容易に想到し得ることであり,その際,相違点8に係る本件訂正発明5のように,舵取機室を機関室に隣接させることも,周知慣用の事項に基づき,当業者が容易に想到し得る。 キ 本件訂正発明6について (ア) 一致点の認定 本件訂正発明6と検甲1発明とを対比すると,次の点で一致する。 「船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンクと,バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置と,バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられたバラストポンプとを備えている船舶。」 (イ) 相違点の認定 本件訂正発明6と検甲1発明とを対比すると,次の点で相違する。 a 相違点9 本件訂正発明6は,バラストポンプが「機関室に設置された」と特定されているのに対して,検甲1発明のポンプの配置は,そのように特定されていない点。 b 相違点10 本件訂正発明6は, 「バラスト水処理装置は,取水口から取水したバラスト水をバラストタンクへ供給するバラスト水配管系統に対して,処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており,処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ,これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ,処理装置入口側配管とバラスト水配管系統との連結点と,処理装置出口側配管とバラスト水配管系統との連結点との間のバラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ,開閉弁は取水時と排水時に閉とされており, と特定されているのに対し 」て,検甲1発明は,配管の構造及び開閉弁について特定されていない点。 c 相違点11 本件訂正発明6は, 「バラスト水配管系統には,バラストポンプの下流側で,かつ処理装置入口側配管とバラスト水配管系統との連結点の上流側に,バラストポンプからバラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており,と特定されているのに対して, 」 検甲1発明は,そのように特定されていない点。 d 相違点12 本件訂正発明6は,バラスト水が供給されるバラスト水処理装置が船舶後方の非 「防爆エリアで,船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設され,」と特定されているのに対して,検甲1発明は,舵取機室内にバラスト水処理システムを配設することが選択的に例示されているにとどまり,また,その舵取機室が船舶後方にあることは特定されていない点。 e 相違点13 本件訂正発明6は,バラスト水処理装置が吃水線より上方に位置することにより, 「緊急時にバラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」と特定されているのに対して,検甲1発明は,そのように特定されていない点。 (ウ) 相違点についての判断 a 相違点9ないし相違点11について 相違点9ないし相違点11は,前記イ(イ)の相違点1ないし相違点3と同じであるから,前記イ(ウ)aないしcの相違点1ないし相違点3の検討のとおりである。 b 相違点12について 甲1の2には, 「バラスト水処理装置」を設置する非防爆エリアとして舵取機室が例示されている。そして,一般に舵取機室が船舶の吃水線より上方,かつ,バラストタンクの頂部よりも下方に配設されていることは,本件出願日前に周知慣用の事項である(甲2ないし甲5)。 甲1の2及び甲9の記載から,バラスト水処理装置を既存の船舶にも設置する義務が発生することは,当業者には本件出願日前に周知の事項であったといえる。 このような背景の基に,バラスト水処理装置の船舶内非防爆エリアでの設置区画を検討するに当たり,当業者が考慮することは,設置できる空間が存在すること,バラストタンクへの配管・ポンプなどに既存のものをできるだけ利用すること等と想定されるところ,検甲1発明に接した当業者は,バラスト水処理装置を設置する区画として例示されている舵取機室か機関室の選択肢のうちの1つである舵取機室を選ぶことを,容易に想到し得る。 また,その舵取機室が吃水線より上方にあり,かつ,バラストタンクの頂部よりも下方にあることが周知慣用の事項であり,そのような周知慣用の事項に検甲1発明を適用することにより,舵取機室内にバラスト水処理装置を配設し,結果として,バラスト水処理装置は,船舶の吃水線より上方,かつ,バラストタンクの頂部よりも下方に配設されることになる。 そして,本件訂正後の明細書(本件訂正明細書。甲50の3)及び図面(本件訂正図面。甲50の4)の内容を総合すると,本件訂正明細書及び本件訂正図面には,バラスト水処理装置の配置区画として舵取機室以外の区画は特に示されておらず,示されているのは舵取機室のみであって,また,非防爆エリアについては,当該舵取機室は非防爆エリアであるから利点がある旨が記載されているのみであることからすると,本件訂正発明6において,本件訂正明細書に示された課題を解決し得る非防爆エリアは,本件特許の出願時には舵取機室以外は想定されていなかったものといえる。 以上によれば,上記したように非防爆エリアである舵取機室が吃水線より上方にあり,かつ,バラストタンクの頂部よりも下方にある周知慣用の船舶に,検甲1発明に基づきバラスト水処理装置を配設することにより,相違点12に係る本件訂正発明6の構成とすることは,当業者が容易に想到し得る。 c 相違点13について 検甲1発明のバラスト水処理装置を吃水線より上方に位置させることは,当業者が容易に想到し得る。 しかしながら,緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水で 「きるように構成すること」は,前記イ(ウ)eの相違点5で検討したとおり,当業者が容易に想到し得るとはいえない。 そうすると,検甲1発明を,相違点13に係る本件訂正発明6の構成とすることは,当業者が容易に想到し得るとはいえない。 |
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原告ら主張の審決取消事由
1 取消事由1(本件訂正の目的要件に関する判断の誤り) 審決は,訂正事項1及び10のうち,@訂正前の請求項1及び6に, 「船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンク」との事項を付加した点,A訂正前の請求項1及び6に,バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト 「水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられ,機関室に設置されたバラストポンプ」との事項を付加した点,B訂正前の請求項1及び6に, 「前記バラスト水処理装置は,前記取水口から取水したバラスト水を前記バラストタンクへ供給する前記バラスト水配管系統に対して,処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており,前記処理装置入口側配管及び前記処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ,これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ,前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点と,前記処理装置出口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点との間の前記バラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ,当該開閉弁は取水時と排水時に閉とされており,さらに前記バラスト水配管系統には,前記バラストポンプの下流側で,かつ前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との前記連結点の上流側に,前記バラストポンプから前記バラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており」との事項を付加した点,C訂正前の請求項1の「前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置する」との事項に「緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」との事項を付加し,訂正前の請求項6に「前記バラスト水処理装置が前記吃水線よりも上方に位置することにより,緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」との事項を付加した点について,特許請求の範囲の減縮を目的としたものである旨判断した。 しかし,訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものということができるためには,訂正前後の特許請求の範囲の広狭を論じる前提として,訂正前後の特許請求の範囲の記載がそれぞれ技術的に明確であることが必要であるが(知財高裁平成26年(行ケ)第10204号同27年3月11日判決・甲53),本件訂正発明は,以下のとおり,技術的に明確に記載されているとはいえないから,審決の判断は誤りである。 (1) 構成要件C-2及びD-2の追加を含む訂正事項1は,特許請求の範囲の 「減縮」に当たらない。 すなわち,構成要件C-2及びD-2は,開閉弁の取水時及び排水時における使用態様を特定しているにすぎないが,このような開閉弁の使用態様を記載しても,何ら「船舶」の構造や物性が限定されることはない。そうすると,構成要件C-2及びD-2は, 「船舶」という「物」をむしろ技術的に不明確にする記載であるから,これらを追加する訂正は,「特許請求の範囲の減縮」に当たらない。 構成要件O-2及びP-2の追加を含む訂正事項10も,同様である。 被告らは,構成要件C-2及びD-2は,取水時及び排水時におけるバラスト水の流路を,開閉弁の開・閉を規定することにより表現したものであるから,物の構成を客観的に特定する技術的に明確なものであると主張するが,流路は,ある時点における弁の使用態様(開閉態様)によって決まる,水が流れる経路のことでしかないから,物の発明の構成を特定したことにはならない。また,本件訂正発明1では,排水口が配管系統に対してどのように設けられているのか不明であるし,文言上明確に現れた配管系統においては,排水時において,全ての開閉弁が閉となっているから, 「バラスト水の流路がどのように構成されるか」は不明といわざるを得ない。 (2) 本件訂正発明1は,技術的に矛盾なく理解することができない。 すなわち,本件訂正発明1における「バラスト水処理装置」「バラスト水配管系 ,統」「処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管」及び3つの開閉弁の関係を特 ,定すると,以下の図1のようになるが,図2に示すとおり,本件訂正発明1に記載されたバラストタンク内のバラスト水の排水時における開閉弁の使用態様に従うと,本件訂正発明1では,排水ができない(つまり,実施できない。)という技術的矛盾をはらむ。本件訂正発明6についても,同様である。 審決は, 「開閉弁V2,V6及びV7が設けられていない適宜の配管経路」を想定することにより,技術的矛盾の問題は生じないとするが,誤りである。訂正後の発明は,第三者に対して,無用の損害,混乱を与えることのないように,訂正された特許請求の範囲に記載された事項に基づいて,それぞれの構成要件の関係が技術的に明確に理解できるように記載されるべきである(つまり,技術的に完結している必要がある。)し,適宜の配管経路を想定したのでは,V2,V6及びV7を閉にする技術的意義が没却されることになる。 処理装置入口側配管 処理装置出口側配管 (構成要件B) (構成要件B) V6 V7 逆止弁 V2 連結点 バラスト水配管系統(構成要件A) 開 開閉弁 閉 図1 構成要件C-1〜D-2の内容(開閉弁の状態は取水時) V6 V7 × V2 × (図2 排水時) (3) 構成要件Gの「ことにより,緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」という記載の追加を含む訂正事項1は,本件訂正発明を技術的に不明確にするものであるから, 「特許請求の範囲の減縮」に当たらない。 すなわち,構成要件Gの「舵取機室は吃水線よりも上方に位置する」ことと, 「緊急時に・・・バラスト水を船外に排水できるように構成する」こととの関係については, 「・・・ことにより」という文言がその前後に記載される事項に因果関係があることを規定するものであることや,本件明細書の段落【0009】及び【0033】でも,緊急時のバラスト水の船外排出については, 「舵取機室を吃水よりも上方に位置させること」を唯一の手段としていることからすれば, 「舵取機室を吃水線より上方に位置させること」が,緊急時のバラスト水船外排出の手段であると解釈することが正しい。しかし,前記記載の追加は,舵取機室を吃水線よりも上方に位置させることについての主観的利点を付加するものにすぎず,本件訂正発明の船舶の構成を何ら具体的に限定するものではないし,前記記載は,審決が採用したような誤った解釈を導く原因ともなる不明確な記載である。 審決は,構成要件Gについて, 「舵取機室は吃水線よりも上方に位置する」こととは別に, 「緊急時に船外にまで排水する」具体的な構成を備えていることを規定しているという誤った解釈をしているが,仮に審決の解釈を前提としても, 「緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」とは,いかなる構成を意味するのか,その文言から理解することはできず,本件明細書にも具体的な構成についての説明は一切ないから,訂正事項1は,本件訂正発明を技術的に不明確にする訂正である。 構成要件Sの同旨の追加を含む訂正事項10も,同様である。 2 取消事由2(本件訂正の新規事項追加に関する判断の誤り) 前記1(3)のとおり,審決は,構成要件Gについて,「緊急時に・・・バラスト水を船外に排水できるように構成する」ことは,舵取機室を吃水線よりも上方に位置させることとは別の,緊急時のバラスト水船外排出のための手段であると誤った解釈をしているが,仮に審決の解釈を前提とすると,そのような別途の緊急時のバラスト水船外排出のための手段は,何ら本件明細書に記載されていないから,構成要件Gの上記記載の追加を含む訂正事項1は,新規事項の追加に該当する。 構成要件Sの同旨の追加を含む訂正事項10も,同様である。 被告ら指摘の本件明細書の段落【0033】には, 「舵取機室が船舶の吃水より上方に位置すること」自体が,緊急時におけるバラスト水船外排水排出の手段であると理解できる記載がされているにすぎず,舵取機室は吃水線よりも上方に位置させ 「ることとは別の,緊急時のバラスト水船外排出の手段」は記載されていない。 3 取消事由3(本件訂正の実質的変更に関する判断の誤り) 審決は,訂正事項1及び10のうち,訂正前の請求項1及び6において,バラスト水処理装置へのバラスト水の供給について,「バラスト水の取水時または排水時に」とされていたのを, 「バラスト水の取水時に」と限定した点を除き,訂正前の請求項1及び6に限定を付加するものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない旨判断した。 しかし,以下のとおり,訂正事項1及び10に係る本件訂正は,目的(技術的課題) 構成及び効果の異同という点からも, , 第三者の利益を害するおそれという点からも,実質的変更に該当するものであり,審決の判断は誤りである。 (1) 特許法126条6項,134条の2第9項で規定される実質的変更に該当するか否かは,目的(技術的課題),構成及び効果を異にするかどうかという観点から判断されるべきである(知財高裁平成26年(ネ)第10109号同27年10月28日判決・甲56,東京高裁昭和53年(行ケ)第131号同55年8月27日判決等)。 本件発明1は,バラスト水処理装置を新造船及び既存の船舶のどこに設置するかという設置場所に関する問題を解決課題とするものであり,当該課題の解決手段も,「バラスト水処理装置を,船舶のどこに置くか」という点に尽きており,バラスト水処理装置を船舶後方の舵取機室内に配置し,かつ,当該舵取機室を吃水線よりも上方に位置させるという構成を採用することにより,当該課題を解決していた。そして,このような構成の採用により,「船体構造や船型を大きく変更することなく,船舶内の空間を有効に利用して種々のバラスト水処理装置を容易に設置することができる」【0009】「船舶後方の舵取機室」に関連した効果)「緊急時にバラス ( 。 ,ト水を容易に船外へ排水することができる」【0009】 「舵取機室が吃水線より ( 。 も上方に位置する」に関連した効果)という効果を奏するとされている。 これに対し,本件訂正発明1は,バラスト水処理装置に加え,@バラストタンク,機関室に設置されたバラストポンプ(構成要件A),Aバラスト水配管系統,開閉弁及び逆止弁(構成要件A,B,C-1,D-1,E),B排水時及び取水時における開閉弁の使用態様(構成要件C-2,D-2)を構成要件に追加したことによって,バラスト水処理装置の設置場所に関する発明ではなく,実質的にこれらの構成からなるバラスト水処理システムに係る発明になっている。そして,本件明細書には,本件訂正発明1のように,バラスト水処理装置とバラストタンク,バラストポンプ,バラスト水配管系統,開閉弁及び逆止弁の特定の関係を規定した発明につき,その解決課題や,どのような効果を奏するかについての明示的な記載はないが,本件訂正発明1は,バラスト水処理装置とバラストタンク,バラストポンプ,バラスト水配管系統,開閉弁及び逆止弁から構成されるバラスト水処理システムを搭載した船舶に係る何らかの課題を解決できるという効果を奏するものに変更されている。現に,被告らは,構成要件C及びDについては, 「バラスト水処理装置の故障等の場合に,V6及びV7を閉としV2を開とすることでバラスト水処理装置を介さずにバラストタンクに給水することもできるようにしつつ,平常の場合には,取水時には,バラスト水をバラスト水処理装置に供給して処理した後にバラストタンクへ供給し,排水時には,バラストタンクからバラスト水処理装置を介さずに処理済みのバラスト水を排水する」という技術的意義があると主張し,構成要件F及びGについては,「高い処理速度で(大量の)バラスト水を処理する・・・ことから,これを舵取機室等の船内に配設する場合(構成要件F)には,緊急時にはバラスト水処理装置内のバラスト水を迅速に船外に排出しなければならないという課題が生じる」と主張し,構成要件Eのバラスト水処理装置に向かう配管中に逆止弁を設ける技術的意義については, 「バラスト水処理装置が吃水線よりも上方に位置する(構成要件F,G)と水頭が生じるため,水頭からバラストポンプを保護するとともに,バラストポンプを駆動から停止にしたときなどに生じる,水頭によるバラスト水の逆流に基づく船外排出を防止するとの意義がある」と主張しており,これらの主張は本件明細書に裏付けられたものではないものの,訂正事項1に係る構成に関する解決課題や効果が,本件発明1の課題や効果からは説明できないものであることが理解できる。 以上のとおり,本件訂正発明1は,本件発明1とは,構成及び効果を異にする別個の発明であるから,訂正事項1は実質的変更に該当する。 訂正事項10についても,同様である。 (2) 特許法126条6項,134条の2第9項で規定される実質的変更に該当するか否かは,間接侵害の観点から,第三者の利益を害するおそれがあるか否かという点も勘案して判断されるべきである(前記知財高裁平成27年10月28日判決)。 そして,訂正事項1及び10を含む本件訂正を適法なものとして認めると,本件訂正により初めて追加された配管構造等に関し,これを生産する等の行為について特許法101条2号の間接侵害が成立する可能性があるから,特許時の特許請求の範囲の記載を信頼して行動した第三者の利益を害するおそれがある。例えば,既存の船舶の改造を業とするエンジニアリング会社が,バラスト水処理装置設置のための配管設備のエンジニアリングの委託を受け,いわば特注品として,訂正事項1により本件訂正発明1に追加された構成のうち,バラスト水処理装置及びバラストタンク以外の構成を備えたバラスト水配管系統等(バラストポンプ,処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管,開閉弁並びに逆止弁を含むもの)の組合せ(本件バラスト水配管系統等)を製造又は調達し,これを特許権者以外の第三者である上記船舶の所有者に販売(納入)した場合を想定すると,本件バラスト水配管系統等は,本件訂正発明1の対象となる「船舶」の生産に用いる物であり,また,汎用品ではなくいわば特注品であるから, 「広く一般に流通しているもの」であるとはいえないし,本件訂正発明1の課題の解決に不可欠なものである。そうすると,上記エンジニアリング会社の行為は,本件発明1との関係では特許法101条2号の間接侵害に該当しなかったにもかかわらず,本件訂正発明1との関係では同号の間接侵害に該当する可能性が高く,本件訂正の結果,訂正前であれば特許権侵害とならなかった行為が,特許権の設定登録の時に遡って侵害とみなされることになり,第三者に不測の不利益が生じることになってしまう。 よって,この観点からしても,訂正事項1及び10は,実質的変更に該当する。 4 取消事由4(本件訂正の訂正事項2及び11についての判断の誤り) 審決は,訂正事項2及び11について,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内でされた訂正であり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないと判断したが,誤りである。 すなわち,訂正事項2及び11は,訂正事項1及び10の訂正に伴い,対応する発明の詳細な説明の記載を訂正後の請求項1及び6と同様に訂正するものであるが,訂正事項1及び10に係る訂正は,前記1ないし3のとおり,不適法な訂正であるから,訂正事項2及び11は,明瞭でない記載の釈明を目的とするものではない。 また,前記2及び3のとおり,訂正事項1及び10に係る訂正は,新規事項の追加に該当するものであり,かつ,特許請求の範囲を実質的に変更するものであるから,訂正事項2及び11に係る訂正も,新規事項の追加に該当するものであり,かつ,特許請求の範囲を実質的に変更するものである。 5 取消事由5(相違点2の判断の誤り) 審決は,検甲1発明に,甲30ないし甲33に記載された事項を適用しても,相違点2に係る本件訂正発明1の構成を当業者が容易に想到し得るとはいえないと判断したが,誤りである。相違点2に係る本件訂正発明1の構成は,検甲1発明及び甲30ないし甲33に基づいて,当業者が容易に想到し得る。 すなわち,構成要件C-2及びD-2における「開閉弁は・・・排水時に閉とされ」 開閉弁の排水時における使用態様を規定しているに止まるから, は, 「物の発明」の構成としては「排水時に閉としうる開閉弁を備える」と理解すれば足りる。また,本件訂正発明1は,特許請求の範囲に記載されていない適宜の配管経路を想定した場合にのみ排水が可能になるものであり, 「全ての開閉弁を排水時に閉とする」との構成が技術的意義を有するとは理解できない。 そして,甲33の「バルブ70 7,709,7010」は,バラスト水排出時には,開であってもよいが,閉であってもよいから,排水時に閉としうる開閉弁」 「 であり,構成要件C-2及びD-2に規定される「開閉弁は・・・排水時に閉とされ」の要件(つまり,全ての開閉弁を排水時に閉とすること)が記載されている。審決認定のとおり,バラスト水処理装置の流路とこれをバイパスする流路との2つの流路を設け,それぞれの流路に弁を設けた配管構造自体は,甲30ないし甲33に記載されているとおり周知であるから,相違点2は,検甲1発明に,甲30ないし甲33に記載された事項を組み合わせることにより,当業者が容易に想到し得る。 また,審決は,訂正要件に関し,本件訂正発明1に明示的に現れていない「V2,V6及びV7が設けられていない適宜の配管経路」を想定すれば,全ての開閉弁を排水時に閉とすることとの関係で,技術的矛盾は生じないとしたのであるから,全ての開閉弁を排水時に閉とするとの構成についても,引用発明に「V2,V6及びV7に該当する開閉弁が設けられていない適宜の配管経路を想定した場合において,排水時に開閉弁を閉としうる」ことが読み取れれば,当該構成が記載されていると判断するべきである。そして,甲30ないし甲32には,審決認定のとおり,構成要件B,C-1及びD-1に係る配管構造が記載されているところ,当業者であれば,適宜の配管経路を想定すれば,V2,V6及びV7に相当する3つの開閉弁全てを排水時に閉とし得ることは明確に読み取ることができるから,相違点2は,検甲1発明に,甲30ないし甲33に記載された事項を組み合わせることにより,当業者が容易に想到し得る。 仮に,構成要件C-2及びD-2をその文言どおりに使用態様として解釈したとしても,前記1(2)のとおり,これらの構成要件は技術的意義を有しないものであるから,そのような技術的意義を有しない構成に基づいて,本件訂正発明の進歩性を認めるべき理由はない。 6 取消事由6(相違点5の判断の誤り) 審決は,検甲1発明を,相違点5に係る本件訂正発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得るとはいえないと判断したが,誤りである。 すなわち,前記1(3)のとおり,相違点5に係る本件訂正発明1の構成要件Gは,「舵取機室を『吃水線より上方に位置させること』という手段により,緊急時にバラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」と解釈すべきであるが,審決認定のとおり,検甲1発明において,バラスト水処理システムを舵取機室内に設け,かつ,舵取機室を吃水線より上方に位置させることは,甲2ないし甲5及び甲19ないし甲27に記載された周知技術に基づいて当業者が容易になし得るものである。そうすると,検甲1発明において,舵取機室を「吃水線より上方に位置させる」ことを,当業者が周知技術に基づいて容易に想到し得るのであるから,これにより, 「緊急時にバラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成」することも,同様に当業者が容易に想到し得る。 また,仮に,構成要件Gについて, 「緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように」するための「具体的な構成」が必要であるという審決の解釈を前提としても,当該「具体的な構成」が,本件明細書に明示的な記載はなくても,その記載があるのと同視できる程度に当業者に自明な周知慣用手段であるというのであれば,引用例に明示的な記載はなくても,相違点5は,検甲1発明及び技術常識から容易想到である。洋上を航行する船舶において,緊急時における船外への排水という課題は,安全性の観点から周知の課題であるから(甲64),そのような課題を認識している当業者がその解決のために検甲1発明に周知慣用手段を適用することは,容易に想到し得る。 7 取消事由7(本件訂正発明2ないし6に関する進歩性判断の誤り) 審決は,本件訂正発明2ないし5と検甲1発明との相違点2及び5について,本件訂正発明1についての判断で「既に検討済みである」として,当業者が容易に想到し得ない旨判断したが,前記5及び6のとおり,本件訂正発明1に係る相違点2及び5の判断は誤りであるから,本件訂正発明2ないし5に係る相違点2及び5の判断も誤りである。 また,審決は,本件訂正発明6と検甲1発明との相違点2については,本件訂正発明1についての判断で「既に検討済みである」として,相違点13については,相違点5と同じであるとして,当業者が容易に想到し得ない旨判断したが,前記5及び6のとおり,本件訂正発明1に係る相違点2及び5の判断は誤りであるから,本件訂正発明6に係る相違点2及び13の判断も誤りである。 |
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被告らの反論
1 取消事由1に対し (1) 物の発明に係る特許請求の範囲の記載は,物に関する技術的思想を特定するものであり,その方法に,物の「構造」や「物性」のみで特定しなければならないなどという制約はなく,審査基準においても,作用・機能・性質・特性・方法・用途・その他の様々な表現方式を用いることが認められている。 また,原告らが「使用態様」を規定したにすぎないと非難する開閉弁の開・閉についての記載は, 「取水時」及び「排水時」の各場合において,バラスト水の流路がどのように構成されるかを,開閉弁の開・閉を規定することによって表現したものであるから,バラスト水処理装置を備えた船舶という物の構成を客観的に特定するものであり,技術的に明確である。 (2) 本件訂正発明は,バラストタンクを備えた船舶であればバラスト水配管系統(取水経路と排水経路が存在する。 を必ず備えていることを前提とした発明であ )り(構成要件A),本件訂正により「前記取水口より取水したバラスト水を前記バラストタンクへ供給する前記バラスト水配管系統」 (取水経路)の構成を特定することによって,訂正前に元々可能であった排水が訂正後にできなくなるという技術的矛盾を生じるはずがない。審決が, 「バラスト水の排水は,開閉弁V2,V6及びV7が設けられていない適宜の配管経路から行えばよく,前記開閉弁が共に閉状態になるとしても,これをもって排水が不可能となるとはいえない」と正しく認定するとおりであり,本件明細書等には,具体的な排水系統の構成の例として,図3も開示されている。 原告らは,排水口を備えない配管系統図を作成して主張するが,本件訂正発明は,「バラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水する」バラスト水配管系統(構成要件A)を備えるものであり,原告ら作成の配管系統は,本件訂正発明とは無関係である。 (3) 構成要件Gは,バラスト水処理装置を舵取機室内に配設する場合(構成要件F)に, 「前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置すること」を利用して,すなわち,重力「により,緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように」するための具体的な「構成」を備えることを規定したものであり,その意義は技術的に明確である。そして,実際の船舶において, 「バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の舵取機室内に配設され,前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置することにより,緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できる」構成(構成要件F及びG)として,具体的にどのような構造を採用するかは,当業者において適宜決定し得るものであり,特許請求の範囲においてその構成を具体的態様として記載しなければ発明が不明確となるというものではない。 2 取消事由2に対し 「緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」とした訂正事項は,本件明細書の段落【0033】に基づくものであり,本件訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 すなわち,同段落には, 「舵取機室9は,船舶の吃水より上方に位置するため,緊急時においてはバラスト水を容易に船外へ排水できるという利点もある。と記載さ 」れているが,単にバラスト水処理装置を設置する「舵取機室9は,船舶の吃水より上方に位置する」というだけでは,バラスト水を船外に排水することはできないから, 「緊急時においてはバラスト水を容易に船外へ排水できるという利点」が,バラスト水処理装置を設置する「舵取機室9は,船舶の吃水線より上方に位置する」こと,すなわち,重力により「緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように」するための具体的構成を備えることによって得られるということは,同段落に記載されているに等しい事項である。 3 取消事由3に対し (1) 特許法126条6項の趣旨は,訂正の効果が特許出願の時点まで遡って生じることから,訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなると,第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるので,これを防止することにある。そこで, 「実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するもの」か否かは,訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれるか否かによって判断するのが相当である。 そして,訂正事項1及び10に係る本件訂正は,本件発明1及び6から,択一的記載の要素を削除し,これに新たな構成要件を直列的に付加するものであって,訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることはないから,特許請求の範囲の拡張・変更には当たらない。 また,発明の目的が訂正における発明の実質的変更に影響を及ぼすかという点はさておき,本件特許に係る発明の目的,すなわち解決課題は,本件訂正の前後を通じて変わっていない。訂正事項1及び10は,多種多様な船舶に対して多種多様なバラスト水処理装置を船内適所に容易に設置可能とするという共通の解決課題を目的とし,当該解決課題の下で,より具体的な構成を特定しているものであり,本件発明1及び6の課題を何ら変更するものではない。 (2) 原告らは,本件訂正による間接侵害の拡大を問題にするに当たり,前記知財高裁平成27年10月28日判決に依拠しているが,同判決は,発明の対象を「経皮吸収製剤」という物の発明から「経皮吸収製剤保持シート」という物の発明に変更するという訂正事項について,仮に,物の発明の対象を変更する訂正が許されるとすれば,間接侵害が成立する範囲が異なるものとなり,一般第三者の利益を害するおそれがあると述べたにすぎず,発明の対象を変更せずに構成要件の要素を直列的に付加した場合にも間接侵害の成立範囲が広がるなどとは述べていないから,原告らの主張の根拠となるものではない。 また,原告ら主張の本件バラスト水配管系統等が,単なる部品の集まりを意味するものであれば,それらはいずれも「日本国内において広く一般に流通しているもの」であるから,バラストポンプ,配管,開閉弁,逆止弁等を全て組み立てたものを指していると解されるが,実際の船舶では,船舶の内部の構造(床や壁,既設の機器や配管,配線等)の関係でスペースに限りがあるから,船外で組み立てた配管等をそのまま船内に持ち込んで設置することは不可能であり,配管等をばらばらの状態で船内に持ち込み,船内内部の形状・構造に応じて,現場で,切断・曲げ・溶接等の加工をしながら調整をして組立・取付工事を行うのが通常である。原告ら主張のエンジニアリング会社が配管等を全て組み合わせたものを製造して納入するという想定事例は,現実にはあり得ない空想事例にすぎない。 さらに,本件訂正発明では, 「配管」「開閉弁」及び「逆止弁」が,船舶の「バラ ,ストタンク」「バラストポンプ」や「バラスト水処理装置」に対して,本件訂正発 ,明が規定するように設置等されることにより,発明の課題を解決する構成となるのであるから,原告ら主張の本件バラスト水配管系統等は,そのように設置等されていない以上,その譲渡等について特許法101条2号の間接侵害は成立しない。 加えて,原告ら主張の本件バラスト水配管系統等が,本件訂正発明の「発明による課題の解決に不可欠なもの」に当たるとすれば,本件訂正により訂正前の課題がなくなるわけではないから,本件バラスト水配管系統は, 「バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の舵取機室内に配設され,前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置すること」を特徴とする本件発明の「発明による課題の解決に不可欠なもの」を含んでいるはずであり,本件訂正により,同号の間接侵害の成立範囲は広がっていない。このことは,独立請求項と,これに構成要件を直列的に付加した従属項における間接侵害の成立範囲の広狭について,従属項の方が間接侵害の成立範囲が広くなるという見解が存在しないこととの均衡からも明らかである。 4 取消事由4に対し 前記2及び3のとおり,訂正事項1及び10は,新規事項を追加するものでなく,実質的変更に該当するものでもないから,同様の理由により,訂正事項2及び11も,新規事項を追加するものでなく,実質的変更にも該当しない。 5 取消事由5に対し 構成要件C-2の「これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ, 及 」び構成要件D-2の「当該開閉弁は取水時と排水時に閉とされており,」は,開閉弁(V6,V7及びV2)の取水時及び排水時の開閉を規定したものであり,これと異なる意味に解すべき理由はない。原告らの主張は,特許請求の範囲に明記された「排水時には閉とされ」との記載を無視し,これを「排水時に閉としうる」と読み替える誤ったクレーム解釈に基づくもので,理由がない。甲33に記載されているのは,排水時にバルブ70 6,708が閉となることだけであり,バルブ70 7,709,7010が排水時に閉であることは記載されていない以上,構成要件C-2及びD-2における全ての開閉弁は「排水時に閉とされ」との構成が記載されているとはいえない。 また,審決が正しく認定するとおり,甲30ないし甲32に,相違点2に係る,全ての開閉弁は「排水時に閉とされ」の構成は,記載されていない。原告ら主張の「適宜の配管経路」なるものは,甲30ないし甲32には記載されていない上,甲30ないし甲32に記載された配管経路はそれ自体で完結した経路であるから,適 「宜の配管経路」なるものが存在する必然性もない。審決は,バラストタンクからのバラスト水の排水に関しては,本件訂正発明では, 「バラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水する」バラスト水配管系統(構成要件A)が存在することを前提に,その具体的な経路は「開閉弁V2,V6及びV7が設けられていない適宜の配管経路」を想定すればよいと判断したものであって,規定されてもいない「適宜の配管経路」なるものをあえて想定する判断など行っていない。 6 取消事由6に対し 審決が正しく判断するとおり,バラスト水処理装置を吃水線よりも上方に配置したからといって,そのことのみをもって「緊急時」にバラスト水処理装置内のバラスト水を船外に排出できるわけではなく,重力により排水できる流路を構成する配管系統その他の具体的構成を備える必要があることは明らかである。そして,検甲1には,重力により緊急時に排水できるよう工夫をすることの記載も示唆もなく,その他の甲号証にも,緊急時にバラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成することは記載されていないし,このような緊急時の排水という課題に言及した記載すらない。したがって,相違点4についての「検甲1発明のバラスト水処理装置を吃水線よりも上方に位置する舵取機室に配置することは,当業者が容易に想到し得る」との審決の認定を前提としても,審決が,検甲1発明を相違点5に係る本件訂正発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得るとはいえないと判断した点に,誤りはない。 原告らは,緊急時におけるバラスト水処理装置内のバラスト水の船外排出の必要性という課題が周知であったと主張するが,原告ら指摘の甲64には,バラスト水管理条約で要求されている「バラスト水処理装置」についての記載も, 「バラスト水処理装置」内のバラスト水の船外への緊急時排水の記載もないから,理由がない。 7 取消事由7に対し 原告らは,審決における本件訂正発明1の相違点2及び5の判断が誤りであるから,本件訂正発明2ないし6の相違点2,5及び13の判断も誤りであると主張するが,前記5及び6のとおり,本件訂正発明1の相違点2及び5についての審決の判断に誤りはないから,本件訂正発明2ないし6の相違点2,5及び13についての審決の判断にも誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(本件訂正の目的要件に関する判断の誤り)について 原告らは,本件訂正発明は,技術的に明確に記載されているとはいえないから,訂正事項1及び10は特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるとした審決の判断は誤りである旨主張する。 しかしながら,以下のとおり,本件訂正後の請求項1の記載は技術的に明確であるから,これが技術的に明確でないことを理由として,訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的としたものでないということはできない。そして,本件訂正発明1は, 「バラスト水処理装置」によって「バラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させる」時期について,択一的に「バラスト水の取水時または排水時」と記載していたものを限定的に「バラスト水の取水時」と記載し(構成要件A),また,「バラストタンク」及び「バラスト水配管系統に設けられ,機関室に設置されたバラストポンプ」についての記載を追加し(構成要件A),構成要件Bないし構成要件Eについての記載を追加し,さらに, 「緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」との記載を追加し(構成要件G),それらの記載により特定される事項によって本件発明1を限定したものである。すなわち,本件訂正発明1は,本件訂正前の請求項1の択一的記載の要素を削除し,本件訂正前の請求項1の記載に発明を特定するための事項を追加することによって,本件発明1を限定したものである。以上のことは,本件訂正発明6についても同様のことがいえる。 そうすると,訂正事項1及び10は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。これと趣旨を同じくする審決の判断に誤りはなく,取消事由1は理由がない。 (1) 構成要件C-2及びD-2の追加について ア 本件訂正発明1では,本件訂正によって構成要件C-1及びD-1が追加されて, 「バラスト水処理装置」「バラスト水配管系統」「処理装置入口側配管」 , , ,「処理装置出口側配管」及び3つの「開閉弁」の相互の関係が特定されるとともに,構成要件C-2及びD-2が追加されて,それら3つの「開閉弁」の「取水時」及び「排水時」における状態(開か閉か)が特定されている。具体的には,3つの「開閉弁」のうち,構成要件C-1の「処理装置入口側配管」 (装置入口側配管。本件訂正図面の処理装置入口側配管15aに相当。)に設けられた「開閉弁」(装置入口側開閉弁。本件訂正図面の開閉弁V6に相当。)及び「処理装置出口側配管」(装置出口側配管。本件訂正図面の処理装置出口側配管16に相当。 に設けられた ) 「開閉弁」(装置出口側開閉弁。本件訂正図面の開閉弁V7に相当。)は,いずれも「取水時には開」「排水時には閉」とされる(構成要件C-2) , 。また,構成要件D-1の「処理装置入口側配管と・・・バラスト水配管系統との連結点」 (装置入口側連結点)と,「処理装置出口側配管と・ ・バラスト水配管系統との連結点」 ・ (装置出口側連結点)との間の「バラスト水配管系統」 (連結点間配管。本件訂正図面のバラスト水配管14cに相当。)に設けられた「開閉弁」(連結点間開閉弁。本件訂正図面の開閉弁V2に相当。)は,「取水時と排水時に閉」とされる(構成要件D-2)。 このように,構成要件C-1及びD-1により,装置入口側開閉弁,装置出口側開閉弁及び連結点間開閉弁(本件各開閉弁)が設けられる位置を, 「船舶」に設けられた「バラスト水処理装置」「バラスト水配管系統」「処理装置入口側配管」及び , ,「処理装置出口側配管」との関係で明確に把握することができる。そして,構成要件C-2及びD-2により, 「取水時」及び「排水時」における本件各開閉弁の状態(開か閉か)を明確に把握することができる。そうすると,構成要件C-2及びD-2は, 「取水時」及び「排水時」における本件各開閉弁の状態を明確に特定するものであり,構成要件C-2及びD-2の記載それ自体には,何ら不明確な点は存在しない。 イ ところで,本件訂正発明1では,装置入口側開閉弁及び装置出口側開閉弁は,いずれも「取水時には開」 「排水時には閉」とされるから,バラスト水は, ,「取水時」には,装置入口側連結点から装置入口側配管を通って「バラスト水処理装置」に入り,装置出口側配管を通って装置出口側連結点から「バラスト水配管系統」に出ることができるのに対し, 「排水時」には,装置入口側配管及び装置出口側配管を通ることができない。これは,実質的には,装置入口側連結点から装置入口側配管,「バラスト水処理装置」,装置出口側配管を経て装置出口側連結点に至る配管系統(処理装置配管系統。本件訂正図面の処理水配管系統15に相当。)が,「取水時」にはバラスト水の流路に組み込まれ, 「排水時」にはバラスト水の流路に組み込まれないことを意味する。 また,本件訂正発明1において,連結点間開閉弁が「取水時と排水時に閉」とされることは,実質的には,連結点間配管が「取水時」及び「排水時」にバラスト水の流路に組み込まれないことを意味する。 このように,本件各開閉弁の位置を特定した上で, 「取水時」及び「排水時」における本件各開閉弁の状態(開か閉か)を特定した結果,処理装置配管系統が「取水時」にはバラスト水の流路に組み込まれ, 「排水時」にはバラスト水の流路に組み込まれないこと,連結点間配管が「取水時」及び「排水時」にバラスト水の流路に組み込まれないことが特定される。 ウ そうすると,構成要件C-1,C-2,D-1及びD-2は,本件各開閉弁が設けられる位置を特定するとともに, 「取水時」及び「排水時」における本件各開閉弁の状態を特定することにより,本件訂正発明1に係る「船舶」 「取水時」 が,にはバラスト水の流路に組み込まれ, 「排水時」にはバラスト水の流路に組み込まれない処理装置配管系統を備えるとともに, 「取水時」及び「排水時」にバラスト水の流路に組み込まれない連結点間配管を備えることを特定するものと理解することができる。 そして,本件訂正発明1に係る「船舶」は,そのようなバラスト水の流路の構成を可能とする処理装置配管系統及び連結点間配管を備えるものとして,明確に理解することができ,また,そのような処理装置配管系統又は連結点間配管を備えないその他の「船舶」から明確に区別することができるから,本件訂正発明1は, 「船舶」という「物」の発明として明確である。 エ 原告らは,本件各開閉弁の使用態様を特定しても「船舶」の構造や物性が限定されることはなく,取水時及び排水時におけるバラスト水の流路を特定するとしても,バラスト水の流路は単にバラスト水が流れる経路であって, 「船舶」を構成する部材ではないから, 「船舶」という物の発明の構成を客観的に特定することにはならず,構成要件C-2及びD-2は「船舶」という「物」をむしろ技術的に不明確にするものであると主張する。 しかしながら,前記ウのとおり,構成要件C-2及びD-2は,構成要件C-1及びD-1と併せて,船舶」 「 に設けられる本件各開閉弁の位置を特定するとともに,「取水時」及び「排水時」における本件各開閉弁の状態(開か閉か)を特定することにより,本件訂正発明1に係る「船舶」が, 「取水時」にはバラスト水の流路に組み込まれ, 「排水時」にはバラスト水の流路に組み込まれない処理装置配管系統を備えるとともに, 「取水時」及び「排水時」にバラスト水の流路に組み込まれない連結点間配管を備えることを特定するものであることを,明確に理解することができる。 そして,本件訂正発明1に係る「船舶」がそのような処理装置配管系統及び連結点間配管を備えることが特定されているということは, 「船舶」の構造がそのような構成を備えるものに限定されていることに他ならないから,構成要件C-2及びD-2は,構成要件C-1及びD-1と併せて,「船舶」の構造を限定するものであり,「船舶」という物の発明の構成を客観的に特定するものということができる。 原告らの主張は,理由がない。 (2) 本件訂正発明1の技術的矛盾の有無について ア 本件訂正発明1の構成要件Aによれば,本件訂正発明1に係る「船舶」は, 「バラストタンク」と「バラスト水処理装置」と「バラスト水配管系統に設けられ,機関室に設置されたバラストポンプ」とを備える。 そして,「バラスト水配管系統」は,「バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水する」ものである。また, 「バラスト水配管系統」 「バラスト水を吸入し」 が ,「バラスト水を排水する」ための原動力は, 「バラスト水配管系統に設けられ,機関室に設置されたバラストポンプ」によって供給されることが明らかである。 そうすると,「バラスト水配管系統」には,「取水口」から「バラストポンプ」を経て「バラストタンク」に至る配管系統(取水管路) 「バラストタンク」 と, から「バラストポンプ」を経て「排水口」に至る配管系統(排水管路)とが存在する(なお,取水管路と排水管路とは,構造的に完全に分離されている必要はなく,取水と排水を同一のポンプで行う場合(特開2007-44567号公報(甲30)段落【0007】【0015】 , )などには,一部の配管を共有してもよい(本件訂正図面のバラスト水配管14b及び14e参照。。 ))ものと認められる。 したがって,構成要件Aは,本件訂正発明1に係る「船舶」が,取水管路と排水管路とを含む「バラスト水配管系統」を備えることを特定するものである。 イ そして,前記(1)のとおり,処理装置配管系統は,取水管路の一部を構成するが,排水管路の一部を構成するものではなく,連結点間配管は,取水管路及び排水管路のいずれの一部をも構成しないことが理解できる。 ウ 以上のとおり,本件訂正発明1は,技術的に矛盾なく理解することができる。 エ 原告らは,本件訂正発明1に記載されたバラストタンク内のバラスト水の排水時における本件各開閉弁の使用態様に従うと,前記第3の1(2)の図2のとおり,本件訂正発明1では,排水ができないという技術的矛盾をはらむと主張する。 しかしながら,原告らの主張は,本件各開閉弁が設けられた処理装置配管系統及び連結点間配管によって排水することはできないことをいうにとどまるが,前記ウのとおり,本件訂正発明1においては,構成要件Aにより特定された排水管路により排水することが予定されており,構成要件C-2及びD-2により本件各開閉弁が設けられた処理装置配管系統及び連結点間配管はこの排水管路に含まれないことが明らかにされているものと理解できる。すなわち,本件訂正発明1においては,処理装置配管系統及び連結点間配管を含まない排水管路を備えることが特定されている。審決が「バラスト水の排水は,開閉弁V2,V6及びV7が設けられていない適宜の配管経路から行えばよく」としたのは,恣意的な配管経路を想定したものではなく,本件訂正発明1が備えることを要求する上記排水管路を正しく指摘したものと理解することができ,他方,原告ら作成の上記図2は,上記排水管路を備えることを無視したものであり,失当である。 また,上記のとおり,構成要件C-2及びD-2において,排水時に本件各開閉弁を閉にすることが規定されている技術的意義は,本件各開閉弁が設けられた処理装置配管系統及び連結点間配管が排水管路に含まれないことを明らかにすることにあるから,審決のように,本件各開閉弁が設けられていない(すなわち,本件各開閉弁が設けられた処理装置配管系統及び連結点間配管を含まない)排水管路による排水を考慮することは,上記技術的意義に沿うものであって,上記技術的意義を没却するものではないことは明らかである。 原告らの主張は,理由がない。 (3) 構成要件Gの記載の明確性について ア 構成要件Gにおいて, 「舵取機室」内に配設された「バラスト水処理装置」が「吃水線よりも上方に位置する」ことが特定されていることに加え,本件訂正明細書の「舵取機室9は,船舶の吃水線より上方に位置するため,緊急時においてはバラスト水を容易に船外へ排水できるという利点もある。 ( 」【0033】)という記載に照らせば,「緊急時においてはバラスト水を容易に船外へ排水できるという利点」は, 「バラスト水処理装置」内の「バラスト水」が重力の作用により吃水線まで自然に落下し得る状態にあることに起因することが明らかである。そして,本件訂正明細書の上記記載は,「バラスト水処理装置」が「吃水線よりも上方に位置する」ことにより, 「バラスト水処理装置」内の「バラスト水」が重力の作用により吃水線まで自然に落下し得る状態にあるので,緊急時においてはバラスト水を容易に船外 「へ排水できる」という作用効果を奏することをいうものと理解することができる。 しかしながら, 「バラスト水処理装置」内の「バラスト水」が重力の作用により吃水線まで自然に落下し得る状態にあるとしても,船内に設置された「バラスト水処理装置」内の「バラスト水」を「船外に排水」するのであるから, 「緊急時においてはバラスト水を容易に船外へ排水できる」という作用効果を奏するためには, 「バラスト水処理装置」が「吃水線よりも上方に位置する」だけでは足りず,緊急時に開放されて「バラスト水処理装置」から船外の吃水線に至る「バラスト水」の流路となる管路(緊急排水用管路)が必要不可欠であることは明らかである。 そうすると,構成要件Gの「緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」は,本件訂正発明1に係る「船舶」が緊急排水用管路を備え,それによって「緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できる」ようになっていることを特定するものと認められる。 イ 以上によれば,構成要件Gは, 「バラスト水処理装置」が「吃水線よりも上方に位置する」こと,これにより生じる重力の作用を利用して「バラスト水処理装置」内の「バラスト水」を船外の吃水線に向けて流下させることができる緊急排水用管路が存在することを特定し,それによって「緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できる」ようになっていることを特定するものと理解することができる。そして,そのような緊急排水用管路の具体的な構成は,本件訂正明細書に記載されてはいないものの,例えば,緊急時に開とされる開閉弁を備え, 「バラスト水処理装置」から船外に通じる排水管など,当業者に自明な適宜の配管で足りると認められる。 このように,構成要件Gの記載は,技術的に明確に理解することができるから,本件訂正発明1を技術的に不明確にするものではない。 ウ 原告らは,構成要件Gの「ことにより,緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」という記載の追加は,舵取機室を吃水線よりも上方に位置させることについての主観的利点を付加するものにすぎず,本件訂正発明の船舶の構成を何ら具体的に限定するものではないし, 「舵取機室は吃水線よりも上方に位置する」ことと, 「緊急時に・・・バラスト水を船外に排水できるように構成する」こととの関係について,審決が採用したような誤った解釈を導く原因ともなる不明確な記載であると主張する。 しかしながら,前記のとおり,構成要件Gは, 「バラスト水処理装置」が「吃水線よりも上方に位置する」こととは別に,これにより生じる重力の作用を利用して「バラスト水処理装置」内の「バラスト水」を船外の吃水線に向けて流下させることができる緊急排水用管路が存在することを特定するものであり,その具体的な構成は,本件訂正明細書に記載がなくても,当業者であれば,自明な適宜の配管として理解することができる。このように,訂正事項1による構成要件Gの上記記載の追加は,主観的利点を付加したものではなく,船舶の構成を特定したものである。 また,前記アのとおり,当業者であれば, 「舵取機室」内に配設された「バラスト水処理装置」が「吃水線よりも上方に位置する」ことが「緊急時においてはバラスト水を容易に船外へ排水できるという利点」をもたらすのは,重力の作用を利用することによると理解するとともに,船内に設置された「バラスト水処理装置」内の「バラスト水」を「船外に排水」するためには,そのようなバラスト水処理装置が吃水線より上方に位置することとは別に,緊急時に開放されて,重力の作用を利用して船内の「バラスト水処理装置」から船外に至る「バラスト水」の流路となる管路が必要であることを当然に理解することができ,構成要件Gの「前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置することにより,緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成することを特徴とする」という文言は,そのような理解と矛盾するものではないと認識することができる。当業者は,構成要件Aにより,本件訂正発明1の「バラスト水処理装置」は, 「バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させる」ものであり,取水したバラスト水を内部に保持することができる構造であるとも理解でき,当業者において,そのような構造の「バラスト水処理装置」が船内に配設されているにもかかわらず,これが吃水線よりも上方に位置することのみによって,その内部に保持されている「バラスト水」が「船外に排水できる」と理解するということなどおよそ考えられないというべきであり,構成要件Gの記載をもって,審決が採用した正しい解釈のほかに,原告らが主張したような誤った解釈を導く原因ともなる不明確な記載であるということはできない。 当業者であれば,重力の作用を利用して「バラスト水処理装置」内の「バラスト水」を船外の吃水線に向けて流下させることができる緊急排水用管路の具体的な構成について,本件訂正明細書に記載がなくても,自明な適宜の配管として理解することができることは,既に述べたとおりである。 原告らの主張は,理由がない。 2 取消事由2(本件訂正の新規事項追加に関する判断の誤り)について (1) 本件明細書には,「本発明は,・・・舵取機室9が,船舶におけるバラスト水処理装置20の最適な設置場所であることを見いだしたものである。 ( 」 【0032】, )「舵取機室9は,船舶の吃水線より上方に位置するため,緊急時においてはバラスト水を容易に船外へ排水できるという利点もある。( 」【0033】)と記載されている。これらの記載から,バラスト水処理装置を舵取機室に設置すると,舵取機室が船舶の吃水線より上方に位置するため,緊急時においてはバラスト水処理装置内のバラスト水を容易に船外へ排水できるという利点があるという技術的事項(本件技術的事項A)を理解することができる。 そして,本件技術的事項Aから,この利点をもらたす原因が,バラスト水処理装置が吃水線より上方に位置する結果,バラスト水処理装置内のバラスト水が重力の作用により吃水線まで自然に落下し得る状態になっているという事実にあることは明らかである。そうすると,本件明細書の「緊急時においてはバラスト水を容易に船外へ排水できるという利点もある。( 」【0033】)との記載は,バラスト水処理装置が吃水線よりも上方に位置する結果,バラスト水処理装置内のバラスト水が重力の作用により吃水線まで自然に落下し得る状態にあるので,それを利用してバラスト水を容易に船外へ排水できることをいうものと認められる。 しかしながら,バラスト水処理装置内のバラスト水が重力の作用により吃水線まで自然に落下し得る状態にあるとしても,船内に設置されたバラスト水処理装置内のバラスト水を船外に排水するのであるから,実際に緊急時にバラスト水を船外へ排水するためには,バラスト水処理装置が吃水線よりも上方に位置するだけでは足りず,緊急時に開放されてバラスト水処理装置から船外の吃水線に至るバラスト水の流路となる管路,すなわち緊急排水用管路が必要不可欠である。 そうすると,本件明細書の前記記載からは,本件技術的事項Aに加えて,緊急排水用管路を設け,重力の作用を利用してバラスト水処理装置内のバラスト水を船外の吃水線に向けて流下させるという技術的事項(本件技術的事項B)を理解することができる。そして,そのような緊急排水用管路の具体的な構成は,例えば,緊急時に開とされる開閉弁を備え,バラスト水処理装置」 「 から船外に通じる排水管など,当業者に自明な適宜の配管で足りると認められる。 (2) 他方,構成要件Gが特定する事項は,前記1(3)イのとおりであり,これは,本件技術的事項A及びBに他ならない。 したがって,構成要件Gが特定する事項は,本件明細書に記載した事項であり,本件訂正のうち,構成要件Gに係る部分は,当業者によって本件明細書の記載により導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである。 本件訂正のうち,構成要件Sに係る部分も,同様であるから,取消事由2は,理由がない。 (3) 原告らは,審決の解釈を前提とすると,舵取機室を吃水線よりも上方に位置させることとは別の,緊急時のバラスト水船外排出のための手段は,本件明細書には何ら記載されていないから,構成要件Gの「緊急時に・・・バラスト水を船外に排水できるように構成する」との記載の追加を含む訂正事項1は,新規事項の追加に該当すると主張する。 しかしながら,前記(1)のとおり,本件明細書には,「舵取機室9は,船舶の吃水線より上方に位置するため,緊急時においてはバラスト水を容易に船外へ排水できるという利点もある。 ( 」 【0033】)と記載されているところ,当業者であれば,「舵取機室」内に配設された「バラスト水処理装置」が「吃水線より上方に位置する」ことが「緊急時においてはバラスト水を容易に船外へ排水できるという利点」をもたらすのは,重力の作用を利用することによると理解するとともに,船内に設置された「バラスト水処理装置」内の「バラスト水」を「船外へ排水」するためには,そのようなバラスト水処理装置が吃水線より上方に位置することとは別に,緊急時に開放されて,重力の作用を利用して船内の「バラスト水処理装置」から船外に至る「バラスト水」の流路となる管路,すなわち緊急排水用管路が必要であることを当然に理解することができ,その具体的な構成も,自明な適宜の配管として理解することができる。 以上のとおり,本件訂正のうち,構成要件Gに係る部分は,本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり,これと趣旨を同じくする審決の判断に誤りはない。 原告らの主張は,理由がない。 3 取消事由3(本件訂正の実質的変更に関する判断の誤り)について (1) 特許法は,特許無効審判において願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正を請求することを認める一方(134条の2第1項本文) その訂正 ,は,特許請求の範囲の減縮(同項ただし書1号)を含む所定の事項を目的とするものに限って許されるものとし,さらに, 「実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであってはならない」としている(134条の2第9項,126条6項)。 これは,訂正を認める旨の審決が確定したときは,訂正の効果は特許出願の時点まで遡って生じ(134条の2第9項,128条),しかも,訂正された明細書,特許請求の範囲又は図面に基づく特許権の効力は不特定多数の一般第三者に及ぶものであることに鑑み,特許請求の範囲の記載に対する一般第三者の信頼を保護することを目的とするものであり,特に,134条の2第9項で準用する126条6項の規定は,訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなると,第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるため,そうした事態が生じないことを担保する趣旨の規定であると解される。 また,特許権を侵害するものとみなされる行為(101条1号ないし6号)の範囲が訂正によって異なるものとなり,訂正前は特許権を侵害するものとはみなされなかった第三者の行為が,訂正後は特許権を侵害するものとみなされることになれば,特許請求の範囲の記載を信頼する一般第三者の利益を害することは明らかであるから,そのような訂正は,134条の2第9項で準用する126条6項の規定の趣旨に反するというべきである。 そこで,134条の2第9項で準用する126条6項の規定の趣旨や,平成6年法律第116号による特許法の改正は,あらゆる発明について目的,構成及び効果の記載を求めるのではなく,技術の多様化に対応した記載を可能とし,併せて制度の国際的調和を図ることを目的として,同法律による改正前の特許法36条4項が発明の詳細な説明の記載要件として規定していた「発明の目的,構成及び効果」を削除したにとどまり,同法126条2項の実質上特許請求の範囲を拡張・変更する訂正の禁止の規定は,実質的改正はされていないこと(甲60)を踏まえて,以下,検討する。 (2) 原告らは,訂正事項1及び10に係る本件訂正は,実質上特許請求の範囲を変更するものであると主張するので,本件訂正前の明細書である本件明細書(甲49の3)を参照すると,本件明細書には,以下の記載がある。 ア 発明が解決しようとする課題【0005】 ところで,上述したバラスト水処理装置は,荷役の進行と略同時に吸入または排水されるバラスト水を処理するものであるから,高い処理速度(たとえば,大型原油タンカーの場合には7000m3/hr 程度)が求められる。このため,バラスト水処理装置自体が大型化する傾向にあり,船舶にバラスト水処理装置の適当な設置場所を確保することは,下記の理由により困難な状況にある。 【0006】(1)バラスト水処理装置は,電気や薬剤などを使用する高度な処理レベルが求められるため,海洋環境下での波浪・風雨に対する耐食性を考慮すると,甲板等の船外よりも船内に設置することが好ましい。 (2)バラスト水処理装置を船内に配置する場合,貨物積載量の確保や可燃性貨物の積載に伴う危険区画等を考慮すると,船体中央部分に配置することを避け,船首または船尾に配置することが望ましい。 (3)一般的な船舶設計では,バラストポンプ等の機器類は船尾の機関室に配置される。このため,船首にバラスト水処理装置を配置すると,船尾のバラストポンプ近傍に設けられた取水口から船首まで長距離の配管が必要となる。 【0007】 このように,今後設置が義務づけられるバラスト水処理装置について,船体設計の大幅な変更を必要とせず,しかも,新造船に設置する場合はもとより,既存の船舶を改造して設置する場合にも容易に適用可能な構造の船舶が望まれる。すなわち,新造船や既存船の区別がなく,しかも,タンカー(LPG船,LNG船,油送船等),貨物船(コンテナ船,ロールオン/ロールオフ船,一般貨物船等)及び専用船(ばら積貨物船,鉱石運搬船,自動車運搬船等)等のように多種多様な船舶(特に一般商船)に対して,多種多様な方式のバラスト水処理装置を船内適所に容易に設置可能とする構造の船舶が望まれている。 本発明は,上記の事情に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,多種多様な船舶に対して,多種多様な方式のバラスト水処理装置を船内適所に容易に設置可能とする船舶を提供することにある。 イ 課題を解決するための手段【0008】 本発明は,上記の課題を解決するため,下記の手段を採用した。 本発明の請求項1に係る船舶は,バラスト水の取水時または排水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置を備えている船舶であって,バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の舵取機室内に配設され,前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置することを特徴とするものである。 【0009】 このような船舶によれば,バラスト水処理装置を船舶後方の舵取機室内に配設するようにしたので,船体構造や船型を大きく変更することなく,船舶内の空間を有効に利用して種々のバラスト水処理装置を容易に設置することができる。 また,上記の船舶において,前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置するので,緊急時にバラスト水を容易に船外へ排水することができる。 (3) 前記(2)の記載によれば,本件発明1について,次のとおり,認められる。 すなわち,本件発明1は,バラスト水処理装置については,今後設置が義務付けられるにもかかわらず,船舶にその適当な設置場所を確保することが困難な状況にあり,船体設計の大幅な変更を必要とせず,しかも,新造船に設置する場合にも,既存の船舶を改造して設置する場合にも容易に適用可能な船舶が望まれていたことに鑑み,多種多様な船舶に対して,多種多様な方式のバラスト水処理装置を船内適所に容易に設置可能とする船舶を提供することを目的とするものである(【0005】〜【0007】。 ) そして,本件発明1は,この課題を解決するために,船舶後方で,吃水線よりも上方に位置する舵取機室内に,バラスト水処理装置を配設するという手段を採用した(【0008】。 ) その結果,バラスト水処理装置を船舶後方の舵取機室内に配設したことから,船体構造や船型を大きく変更することなく,船舶内の空間を有効利用して種々のバラスト水処理装置を容易に設置することができ,また,バラスト水処理装置を配設した舵取機室が吃水線よりも上方に位置することから,緊急時にバラスト水を容易に船外へ排水することができるという効果を奏する(【0009】。 ) (4) これに対し,訂正事項1は,@「バラスト水処理装置」によって「バラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させる」時期を, 「バラスト水の取水時または排水時」という択一的な記載から「バラスト水の取水時」という限定的な記載に変更し(構成要件A),A「バラストタンク」及び「バラスト水配管系統に設けられ,機関室に設置されたバラストポンプ」についての記載を追加し(構成要件A),B構成要件Bないし構成要件Eについての記載を追加し,さらに,C「緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」との記載を追加する(構成要件G)ものであり,それによって「船舶」の発明である本件発明1を限定し,同じく「船舶」の発明である本件訂正発明1とするものである。 これらのうち,@バラスト水処理装置へのバラスト水の供給時期が択一的であったものを1つの時期に限定した点は,本件発明1に新たな構成を付加するものではなく,本件発明1の課題に含まれない新たな課題を解決するものではないことは明らかである。 Aバラストタンク,バラスト水配管系統及びバラストポンプの記載を追加した点は,本件発明1に新たな構成を付加するものであるが,本件発明1は,バラスト水処理装置を備えた船舶の発明であり,バラスト水処理装置を備えた船舶において,バラスト水を積載するバラストタンク,バラスト水の配管系統,バラスト水の取水と排水のためのバラストポンプが備えられていることは周知の事項であるから(甲30〜甲33) これらの記載の追加は, , 本件発明1の課題に含まれない新たな課題を解決するものではない。 B構成要件Bないし構成要件Eについての記載を追加した点は,本件発明1に新たな構成を付加するものであるが,本件発明1は,バラスト水処理装置を備えた船舶の発明であるところ,構成要件Bないし構成要件Eは,バラスト水処理装置を備えた船舶において備えられているバラスト水配管系統の構成について,バラスト水処理装置が装置入口側配管及び装置出口側配管を介してバラスト水配管系統と連結され(構成要件B),装置入口側配管,装置出口側配管,連結点間配管に設けられた本件各開閉弁と,取水管路の一部を構成するが排水管路の一部を構成しない処理装置配管系統,取水管路も排水管路も構成しない連結点間配管を備え(構成要件C-1,C-2,D-1,D-2),バラストポンプと装置入口側連結点との間のバラスト水配管系統に設けられた,バラストポンプから装置入口側連結点へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁を備えること(構成要件E)を特定して,本件発明1において多種多様に構成することが可能であったバラスト水配管系統の構成を限定しているものであって,本件訂正明細書を踏まえて,構成要件Bないし構成要件Eの構成を検討しても,その構成の追加により本件発明1の課題に含まれない新たな課題を解決するものとは認められない。 C「緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」との記載を追加した点は,本件発明1に緊急排水用管路という新たな構成を付加するものであるが,前記(2)のとおり,本件発明1の緊急時にバラスト水を容易に船外へ排水することができるという効果を,当業者にとって自明な構成により具体化したものにすぎないから,その構成の追加により本件発明1の課題に含まれない新たな課題を解決するものとまでは認め難い。 (5) また,本件発明1及び本件訂正発明1は,物の発明であるが,訂正事項1の内容からすれば,特許法101条1号及び3号の間接侵害の成立範囲が訂正事項1により左右されることはおよそ考え難い。 原告らは,訂正事項1により同条2号の間接侵害の成立範囲が広がる可能性があり,具体的には,訂正事項1により追加された配管構造等に関し,これを生産する等の行為について同条2号の間接侵害が成立するおそれがあると主張するが,訂正事項1により同条2号の間接侵害の成立範囲が広がるものとは認められない。すなわち,同条2号の間接侵害は,発明の対象である「物の生産に用いる物」のうち「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に限って成立するものであり,その成立範囲は,その発明の構成要件中の本質的部分を実現するために不可欠な部品に限られるというべきであるが,前記(4)のとおり,訂正事項1により,本件発明1の課題に含まれない新たな課題が,本件訂正発明1の課題となったものとは認められない。 したがって,たとえ原告ら主張の本件バラスト水配管系統等を現実的に想定できたとしても,訂正事項1が,本件訂正発明1の課題に本件発明1の課題と異なる新たな課題を追加するものではない以上,その課題の解決に不可欠なものの範囲,すなわち,その発明の構成要件中の本質的部分を実現するために不可欠な部品の範囲も,本件訂正発明1と本件発明1とで異なるものではないというべきであるから,訂正事項1により同条2号の間接侵害の成立範囲が広がるものとは認められない。 (6) そして,以上の検討は,訂正事項10についても同様に当てはまる。 以上によれば,訂正事項1及び10に係る本件訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないと認められる。これと同旨の審決の判断は正当であり,取消事由3は,理由がない。 4 取消事由4(本件訂正の訂正事項2及び11についての判断の誤り)について 原告らは,訂正事項1及び10は,取消事由1ないし3のとおり,不適法な訂正であるから,訂正事項2及び11は,明瞭でない記載の釈明を目的とするものではないと主張するが,前記1ないし3のとおり,取消事由1ないし3はいずれも理由がないから,原告らの主張は,その前提を欠き,理由がない。 また,原告らは,訂正事項1及び10は,取消事由2及び3のとおり,新規事項の追加に該当し,特許請求の範囲を実質的に変更するものであるから,訂正事項2及び11も,新規事項の追加に該当し,特許請求の範囲を実質的に変更するものであると主張するが,前記2及び3のとおり,取消事由2及び3はいずれも理由がないから,原告らの主張は,その前提を欠き,理由がない。 以上によれば,取消事由4は,理由がない。 5 取消事由6(相違点5の判断の誤り)について (1) 事案に鑑み,取消事由5に先立ち,取消事由6を検討する。 (2) 相違点5に係る本件訂正発明1の構成である構成要件Gが,バラスト水処理装置が配設された「舵取機室は吃水線よりも上方に位置すること」に加え,これにより生じる重力の作用を利用して「バラスト水処理装置」内の「バラスト水」を船外の吃水線に向けて流下させることができる緊急排水用管路が存在することを特定し,それによって「緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できる」ようになっていることを特定するものであることは,前記1(3)イのとおりである。 しかるに,検甲1発明において,バラスト水処理システムを吃水線より上方に位置する舵取機室に設置し,相違点4に係る本件訂正発明1の構成とすることは,審決認定のとおり,当業者が容易に想到し得ることであるとしても,舵取機室に設置したバラスト水処理装置が吃水線より上方に位置することを利用して,緊急時にバラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成することは,甲1の2に記載も示唆もされておらず,当業者にとって周知であったとも認められない。 そうすると,検甲1発明において,舵取機室を吃水線より上方に位置させることは当業者にとって容易想到であるとしても,その結果として生じる利点を活用し,バラスト水処理システムから緊急時にバラスト水を容易に船外に排水するために,重力の作用を利用してバラスト水処理システム内のバラスト水を船外の吃水線に向けて流下させることができる緊急排水用管路を設け,相違点5に係る本件訂正発明1の構成(構成要件G)とすることまで,当業者にとって容易想到であるということはできない。 (3) 原告らは,まず,相違点5に係る本件訂正発明1の構成要件Gは, 「舵取機室を『吃水線より上方に位置させること』という手段により,緊急時にバラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」と解釈すべきこと,すなわち,緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるよ 「うに構成する」ことは,主観的利点を付加するものであって船舶の構成を具体的に限定するものではないことを前提に,検甲1発明において,バラスト水処理システムを舵取機室内に設け,かつ,舵取機室を吃水線より上方に位置させることは,周知技術に基づいて当業者が容易になしうることは,審決認定のとおりであるから,これにより,緊急時にバラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるよう 「に構成」することも,同様に当業者が容易に想到し得ると主張する。 しかしながら,原告ら主張の構成要件Gの解釈が誤りであることは,前記1(3)のとおりであるから,原告らの主張は,その前提を欠き,理由がない。 (4) また,原告らは,審決のように,構成要件Gについて, 「緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように」するための「具体的な構成」が必要であるとしても,その「具体的な構成」が,本件明細書に記載があるのと同視できる程度に当業者に自明である周知慣用手段であるというのであれば,洋上を航行する船舶において,緊急時における船外への排水という課題は周知の課題であるから,当業者は検甲1発明に当該周知慣用手段を適用することは容易に想到し得ると主張する。 しかしながら,構成要件Gの緊急排水用管路の具体的な構成が本件訂正明細書に記載があるのと同視できる程度に当業者に自明である周知慣用手段であるとされるのは,本件訂正明細書には,「本発明は,・・・舵取機室9が,船舶におけるバラスト水処理装置20の最適な設置場所であることを見いだしたものである。」(【0032】, )「舵取機室9は,船舶の吃水線より上方に位置するため,緊急時においてはバラスト水を容易に船外へ排水できるという利点もある。 ( 」【0033】)と記載されており,これらの記載に接した当業者は, 「緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」という技術的事項を理解できるからである。 これに対し,相違点5の容易想到性の判断においては,甲1の2に接した当業者が,甲1の2の記載等に基づき, 「緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」という技術的事項を認識することができたかを検討する必要がある。 そして,舵取機室に設置したバラスト水処理装置が吃水線より上方に位置することを利用して,緊急時にバラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成することは,甲1の2に記載も示唆もされておらず,当業者にとって周知であったとも認められないことは,前記(2)のとおりである。また,原告らの引用する甲64(財団法人日本海事協会発行「2006 鋼船規則 鋼船規則検査要領 D編 機関」には, ) バラスト処理装置内のバラスト水の船外排出に関する記載はなく,緊急時にバラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水することが周知の課題であったことを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,当業者が,検甲1発明において, 「緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」ことを技術課題として認識していないわけであるから,その解決のための具体的な構成が周知慣用手段であるとしても,検甲1発明にこれを適用して相違点5に係る本件訂正発明1の構成とすることが容易想到であるということはできない。 原告らの主張は,理由がない。 (5) 以上によれば,取消事由6(相違点5の判断の誤り)は,理由がないから,取消事由5(相違点2の判断の誤り)を判断するまでもなく,検甲1発明を主引例として本件訂正発明1の進歩性欠如を肯定することはできないとした審決の判断に誤りはない。 6 取消事由7(本件訂正発明2ないし6に関する進歩性判断の誤り)について 原告らは,審決の本件訂正発明1に係る相違点2及び5の判断は,取消事由5及び6のとおり,誤りであるから,本件訂正発明2ないし5に係る相違点2及び5の判断も誤りであると主張するが,前記5のとおり,取消事由6は理由がないから,その余の点を判断するまでもなく,検甲1発明を主引例として本件訂正発明2ないし5の進歩性欠如を肯定することはできないとした審決の判断に誤りはない。 また,原告らは,審決の本件訂正発明1に係る相違点2及び5の判断は,取消事由5及び6のとおり,誤りであるから,本件訂正発明6に係る相違点2及び13の判断も誤りであると主張する。しかしながら,前記5のとおり,取消事由6は理由がないから,相違点13は,相違点5と同様に容易想到であるということはできない。したがって,その余の点を判断するまでもなく,検甲1発明を主引例として本件訂正発明6の進歩性欠如を肯定することはできないとした審決の判断に誤りはない。 以上によれば,取消事由7は,理由がない。 7 結論 以上によれば,原告ら主張の取消事由は,いずれも理由がない。 よって,原告らの請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
(別紙)当事者目録原告ジャパンマリンユナイテッド株式会社原告川崎重工業株式会社原告佐世保重工業株式会社原告住友重機械マリンエンジニアリング株式会社原告内海造船株式会社原告株式会社名村造船所原告函館どつく株式会社原告三井造船株式会社原告株式会社新来島どっく原告常石造船株式会社原告サノヤス造船株式会社原告株式会社大島造船所原告今治造船株式会社原告尾道造船株式会社原告株式会社JMUアムテック原告株式会社臼杵造船所原告南日本造船株式会社原告四國ドツク株式会社原告福岡造船株式会社原告JFEエンジニアリング株式会社原告一般社団法人日本船主協会原告ら訴訟代理人弁護士北原潤一原告ら訴訟代理人弁理士加藤志麻子中村佳正被告三菱重工業株式会社被告株式会社日立製作所被告ら訴訟代理人弁護士古城春実堀籠佳典被告ら訴訟代理人弁理士藤田考晴川上美紀中村守以上 |
裁判長裁判官 | 清水節 |
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裁判官 | 片岡早苗 |
裁判官 | 古庄研 |