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関連審決 無効2014-800036
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事件 平成 28年 (行ケ) 10026号 審決取消請求事件

原告 強化土エンジニヤリング株式会社
原告強化土株式会社
両名訴訟代理人弁理士 久門享 久門保子
被告 有限会社シモダ技術研究所
訴訟代理人弁理士 安彦元 眞榮城繁樹
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/12/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2014−800036号事件について平成27年12月17日にした審決のうち,特許第5137153号の請求項1に係る発明についての審判請求を不成立とした部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
原告らの求めた裁判
主文同旨。
事案の概要
本件は,特許無効審判請求を一部不成立とした審決の不成立部分に対する取消訴訟である。争点は,進歩性判断(相違点における判断)の是非である。
1 特許庁における手続の経緯 被告は,名称を「グラウト注入方法及び装置」とする発明について,平成24年5月22日,特許出願(特願2012-116912号)をし,同年11月22日,その設定登録(特許第5137153号,請求項の数2)を受けた(甲23,本件特許)。
原告らが,平成26年3月7日に本件特許の請求項1及び2に係る発明について特許無効審判請求(無効2014-800036号)をしたところ(甲12),被告は,同年7月25日,訂正請求(本件訂正)をした(甲14)。
特許庁は,平成27年12月17日, 「訂正請求書に添付された明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正することを認める。特許第5137153号の請求項2に係る発明についての特許を無効とする。特許第5137153号の請求項1に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,平成28年1月4日,原告らに送達された。
2 本件発明1の要旨 本件訂正後の本件特許の請求項1の発明(本件発明1)に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,本件訂正後の本件特許の明細書及び図面を「本件訂正明細書」という。。
)「 少なくとも地盤中に設置された複数の注入孔を介してグラウトを同時に注入す るグラウト注入方法において, 注入ポンプによりグラウトが第1注入ホースを介して圧送されてくる分液盤内 の吐出口の入口に至るまでの第1区分と,上記分液盤内において分液されてそれ ぞれ同一断面積の吐出口を通過した上記グラウトを第2注入ホースを介して上記 複数の注入孔から地盤中に当該グラウトを注入するまでの第2区分とを形成し, 上記複数の吐出口の総断面積よりも,上記注入孔の総断面積を大きく設定し, 予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定し,上記第1区分中を流れるグラウトがそ の測定した地盤抵抗圧力よりも高い強制圧力となるように負荷することにより, 上記分液盤における複数の吐出口から当該グラウトを均等に分液し, 上記第2区分を流れるグラウトを上記注入孔を介して地盤抵抗圧力に基づいて 注入すること を特徴とするグラウト注入方法。」 3 審決の理由の要点 以下,本件訴訟での争点に関連する部分についてのみ摘示する。
(1) 証拠方法及び無効理由【証拠方法】 甲1:特許第3663113号公報 甲2:特開2003-27457号公報 甲4:「薬液注入工法による建設工事の施工に関する通達及び暫定指針」(建設省 官技発第160号,昭和49年7月10日)の写し 甲5: 「地盤工学・実務シリーズ11 地盤改良効果の予測と実際」社団法人地盤 工学会平成12年2月15日発行279〜285,311頁 甲6:「薬液注入工法による建設工事の施工に関する通達及び暫定指針」(建設省 技調発第110号の1・平成2年4月24日,建設省技調発第188号の 1・平成2年9月18日,建設省官技発第160号・昭和49年7月10 日)の写し 以下,上記各甲号証に記載の発明を,証拠番号に従い,それぞれ, 「甲1発明」のようにいう。
【無効理由】 @ 本件発明1は,甲1発明である。
A 本件発明1は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明することができた。
B 本件発明1は,甲1発明と甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明することができた。
(2) 引用発明の認定 ア 甲1発明の認定 甲1には,次の甲1発明が記載されている(明らかな誤記は,当裁判所において修正した。。
)「 地盤中に設置された複数の注入管路を通じて地盤注入液を同時に地盤中に注入 し,該地盤を固結する,制御部X,注入加圧部Y,注入液分配部Z,注入部Wお よび送液系Aから構成される地盤注入装置,及び,当該地盤注入装置を用いて行 う地盤注入工法であって, 地盤注入装置は, 注入液槽2からの注入液をグラウトポンプ1により加圧し,加圧注入液と して送液系Aを介して注入液分配部Zに送液する注入液加圧部Yと, 注入液加圧部Yから注入液分配部Zへの加圧注入液の送液系A,すなわち, 送液流量計f0および送液圧力計P0を備えた導管7と, 送液系A(導管7)と連結された加圧注入液分配容器6と,分配容器6か ら伸長するように備えられ,先端の連結部SOでそれぞれ複数の注入管路9, 9…9に通じ,分岐バルブV1,V2…Vi,Vn,およびオリフイスO1, O2…Oi,Onを装着し,分岐流量計f1,f2…fi,fnと分岐圧力計P 1,P2…Pi,Pnが装着される複数本の分岐管S,S…Sを備える注入液 分配部Zと, 送液流量計f0および送液圧力計P0,注入加圧部Y,分岐バルブV1,V 2…Vi ,Vn ,および分岐流量計f1 ,f2…fi ,fn と分岐圧力計P 1 , P2…Pi,Pnとそれぞれ信号回路によって接続された,操作盤X2,注入 記録盤X3およびデータ入力装置X4を注入監視盤X1に接続して構成され る制御部X,を備え, 注入管路9は複数本の細管10,10…10を固定板11,11…11を通し て結束して構成された結束注入管であって,各細管10,10…10は先端吐出 口12,12…12がそれぞれ軸方向の異なる位置に開口されたものであって, 地盤注入を施工するに際し,第1ステージにおいて注入に先立ち,注水試験を 行ってP-q曲線(曲線1),すなわち,P(注入圧力P)-q(注入速度ないし は流量?/分)曲線を出して,地盤が破壊する限界注入圧力Pr0および限界注入 流量qr0(注入速度)を知ることができ, 注入管路Tの本数nをn=100として,オリフイス口径=1.0mm とし,送 液流量計f0=150?/分とし,注入管路(T1〜T100)の第1ステージに位 置する吐出口から同時注入したところ,分岐圧力計P11は2kgf/cm2,分岐流量 計f11は1.5?/分,送液圧力計P0=30kgf/cm2を示したものであって,第1 ステージにおける注入前の透水試験ではq1r0=5?/分であり, 1r0=5kgf/cm P 2 であった, 地盤注入装置,及び,当該地盤注入装置を用いて行う地盤注入工法。」 イ 甲2発明の認定 甲2には,次の甲2発明が記載されている。
「 地盤注入液5を地盤3中に設置された一本または複数本の注入管路2,2…2 を通して地盤3中に注入し,該地盤3を固結する地盤注入装置A及び工法であっ て, 地盤注入装置Aは,地盤注入液5を所定の圧力に加圧する注入液加圧部1と, この注入液加圧部1に連通され,前記注入液5を注入管路2に送液する導管6と, この導管6に設けられた絞り部7とから構成され, 注入液加圧部1は,地盤注入液5の絞り部7に至る送液系13に設けた注入液 リターンシステムRSであって,送液流量計f0および送液圧力計P0と,注入液 リターン装置RAを設け,所定の注入圧力P 0を保つように流量圧力制御装置1 0によってリターン装置RAを制御し,注入液の一部をリターン管路Rを通して 注入液槽4にリターンさせる注入液リターンシステムRS,及びポンプ14に設 けたインバータにより地盤注入液を所定圧力に加圧する流量圧力制御機能を有す るものであり, 送液系13と,導管6との間に分配装置11を設け,導管6,6…6を分配装 置11から伸長させ,導管6と注入管路2とは連結部12で連結され,さらに, 導管6には,分岐バルブV1,V2…Vi,Vn,さらには,圧力計(圧力検出器) 8,流量計(流量検出器)9を設けており,絞り部7は分配装置11から導管6 への出口に設け,注入管路2は複数本の細管32を結束してなり,各細管32, 32…32は先端吐出口33がそれぞれ軸方向の異なる位置に開口され, 地盤注入液5は絞り部7の上流側の高い圧力部から下流側の低い圧力部に噴射 されるが,加圧された地盤注入液5の注入圧力P0と注入される地盤3の注入圧 力P1nの差圧を充分に大きくとれば,絞り部7より下流側の各導管6,6…6 の注入圧力にばらつきがあっても,各導管6の吐出量(注入速度)は絞り部7の 面積が同じであればほぼ同一量となり,そして,吐出量は注入圧力P 0と絞り部 7の孔の面積によって定まるものである, 地盤注入装置A及び工法」 (3) 一致点の認定 本件発明1と甲1発明とを対比すると,両者は,次の点で一致する。
「 少なくとも地盤中に設置された複数の注入孔を介してグラウトを同時に注入す るグラウト注入方法において, 注入ポンプによりグラウトが第1注入ホースを介して圧送されてくる分液盤内 の吐出口の入口に至るまでの第1区分と,上記分液盤内において分液されてそれ ぞれ吐出口を通過した上記グラウトを,第2注入ホースを介して上記複数の注入 孔から地盤中に当該グラウトを注入するまでの第2区分とを形成し, 上記複数の吐出口の総断面積よりも,上記注入孔の総断面積を大きく設定した, グラウト注入方法。」 (4) 相違点の認定 本件発明1と甲1発明とを対比すると,両者は,次の点で相違する。
【相違点1】 吐出口が,本件発明1では,同一断面積であるのに対し,甲1発明では,同一断面積であるかどうか不明な点。
【相違点2】 本件発明1は,あらかじめ流量を決め地盤抵抗圧力を測定し,上記第1区分中を流れるグラウトがその測定した地盤抵抗圧力よりも高い強制圧力となるように負荷することにより,上記分液盤における複数の吐出口から当該グラウトを均等に分液し,上記第2区分を流れるグラウトを,上記注入孔を介して地盤抵抗圧力に基づいて注入するのに対し,甲1発明は,そのようなものか不明な点。
(5) 相違点の判断 ア 相違点1 @ しぼり弁を有する分岐バルブV11…V1nを同一しぼり度とすることが甲1に記載されているが(甲1の【0027】,これを,甲1発明のオリフィスO1, )O2…Oi,Onに適用することは,当業者であれば,容易に想起し得るから,甲1発明のオリフィスO1 ,O2…Oi,On のしぼり度を同一のしぼり度とすること,すなわち,オリフィスO1,O2…Oi,Onを同一断面積とすることは,当業者ならば容易になし得た程度のことである。
A 甲1発明及び甲2発明は,共に同一技術分野に属し,グラウトの流量や圧力の調整に関する発明であり,甲2発明の「面積が同じであ」る「絞り部7」は,本件発明1の「同一断面積の吐出口」に相当するから,甲1発明のオリフイスを,甲2発明の絞り部7と同様の同一断面積のものに替えることは,当業者ならば容易に なし得た程度のことである。
イ 相違点2 @ 甲1に記載の地盤注入の施工に先立ち行われる試験は,薬液を用いた試験ではなく,また,当該試験は,注入圧力と注入速度を適宜変えながら測定するものであるから,甲1発明において,実際の注入速度や注入圧は,当該試験から作成されたP-q曲線から適宜の数値を採用するものである。
そうすると,本件発明1の,あらかじめ決められた注入量とその注入量に対して測定した地盤抵抗圧力というものは,甲1には記載されていないといえる。
また,甲1に記載された当該試験やその他技術常識に基づいても,相違点2に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たとすることはできない。
A 甲2には,施工前の流量試験が,実際に注入を行う現場で薬液を注入して行われるものとは明確に記載されておらず,似た条件のその他の場所で行ったものや,透水試験等の一般的な土質試験を行うもの,さらに,水を注入して試験を行うもの等も考えられる。
B 甲5に記載された試験は,薬液に替わり水を用いた注入試験であり,また,本工事の現場で直接実施したかどうかまでは不明であるから,あらかじめ流量を決め地盤抵抗圧力を測定するものではない。
甲4及び甲6に記載された試験も,薬液を注入する現場に直接,薬液を注入して試験を行ったのか,水を注入して試験を行ったのか,又は現場に近い場所で試験を行ったのか,現場の土で透水試験等を行ったのか等各種考えられ,また,地盤抵抗圧力の測定が行われているか否かも不明であって,どのような試験が行われていたのか把握することができない。
したがって,あらかじめ流量を決め地盤抵抗圧力を測定することが,従来から周知な技術であるとは認められない。
C 以上から,原告らが提示した各文献には,本件発明1の「予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定する」ことは記載されておらず,また,当該文献から当業者が容 易に想起し得ることでもないことから,相違点2に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たこととすることはできない。
(6) まとめ 本件発明1は,甲1発明とはいえず,また,甲1発明に基づいて,又は甲1発明と甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
原告ら主張の審決取消事由
相違点2における認定判断を争う。
1 甲1発明の認定について 審決は,甲1には,本件発明1の「予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定し,」との構成が記載されていないと認定する。
しかしながら,甲1の【0074】 【図26】には,薬液を用いた場合の注入試験が記載されているといえる。甲1の【図26】は,実際の注水試験と薬液注入による試験のデータとの傾向性を示すものである。
そして,甲1の【図26】の横軸の「注入速度q(?/分)」は,単位時間における「流量」であり,本件訂正明細書の【0061】 【表1】によれば,本件発明1の「注入量」は毎分当たりの流量であるから,甲1の「注入速度」と本件発明1の「流量」(注入量)とは,直接対比することができるものである。
また,甲1の【図26】の縦軸の「注入圧力」は,地盤状況との関係で最適な注入速度を求めるものであって,地盤抵抗圧力によって決まるものであるから,間接的に地盤抵抗圧を測定していることになる。
そうすると,本件発明1においても,測定した地盤抵抗圧力に基づいてグラウト(薬液)の注入圧力を決め,それが不適切であれば,流量を変えて試験注入を行うか,あるいは,事前に求めておいた流量と注入圧力との関係から注入圧力を決定することになるはずであるから,甲1において,注入圧力と注入速度との関係から適 切な注入圧力を求めることとは,技術的に異なるものではない。
なお,本件発明1において,第1区分中を流れるグラウトの圧力を調整すれば,あらかじめ定められた「流量」は実現できているから,改めて「地盤抵抗圧力」を測定してその結果に従い更に圧力を調整する必要はなく, 予め流量を決め地盤抵抗 「圧力を測定し,」というのは無意味な規定になる。すなわち,本件発明1は,実際には,注入速度(単位時間当たりの流量)と注入圧力との関係を求めて,これを調整しているのである。
したがって,審決の甲1発明の認定又は甲1発明からの容易想到性の判断には,誤りがある。
2 甲2発明の認定について 審決は,甲2には,本件発明1の「予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定し,」との構成が記載されていないと認定する。
しかしながら,甲2には「流量試験」と記載されており(【0037】,そうであ )る以上,この試験が透水試験等の一般的な土質試験でないことは明らかであり,また,この流量試験を,水を注入して試験を行うものに限定解釈すべき理由もない。
本工事の現場以外の場所で試験を行うことが例外的であることを考慮すると,甲2の「流量試験」は本工事の現場で行われているものと解釈すべきである。そうすると,甲2には,実際に注入を行う現場で薬液を注入する試験が行われることが記載されている。
したがって,審決の甲2発明の認定には,誤りがある。
3 周知技術について (1) 審決における周知技術の認定について 審決は,本件発明1の「予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定し,」との構成が,従来から周知な技術であるとは認められないと認定する。
しかしながら,次のとおり,審決の認定には,誤りがある。
ア 甲5について 甲5に記載された試験が水注入試験だとしても,甲5には, 「試験注入は,本工事と同一の条件で実施することが本来必要であるが,薬液のかわりに水を用いた注入試験における注入圧と注入速度の関係から注入形態を予測する簡便な方法が近年提案されている。(280頁4〜8行目)との記載があり,これは,薬液を用いた注 」入試験が従来から普通に行われてきたことを意味する。また,甲5の水注入試験が,本工事の現場で直接実施したかどうかが不明だとしても,甲5の薬液注入工法における試験が,一般的に本工事の現場で実施することがないということが記載されているわけではない。注入試験を本工事の現場で実施することが最善であることは自明であり,本工事の現場で実施することは普通のことである。
なお,注入速度の差異によって地盤抵抗圧力が異なってくるとしても,本件発明1は,好ましい流量を実現するための強制圧力を決定するものであるから,甲5に記載された試験と同様に,所定の流量を実現できるように注入速度を変えていっているはずである。
イ 甲4及び甲6について 甲4及び甲6に記載の通達及び暫定指針に従って行われる建設工事において,薬液を注入する現場に,直接,薬液を注入して試験を行うことは,当然予測される。
常識的には,このような試験が普通である一方で,薬液の替わりに水を用いた試験を用いることを許容する記載はない。
また,甲4及び甲6には,地盤抵抗圧力の測定を行うとは直接には記載されていないが,地盤抵抗圧力の測定は,試験注入において特殊なものではなく一般的なものである。
そして,@甲4には,「3-2 現場注入試験 薬液注入工事の施工にあたっては,あらかじめ,注入計画地盤またはこれと 同等の地盤において設計どおりの薬液の注入が行われるか否かについて,調査 を行うものとする。(2頁下から7行〜下から5行目) 」 と現場注入試験が原則であるとの記載があり, また,A甲6には,「 当初設計量(試験注入等により設計量に変更が生じた場合は,変更後の設計量) を目標として注入するものとする。注入にあたっては,注入量-注入圧の状況及 び施工時の周辺状況を常時監視して,以下の場合に留意しつつ,適切に注入する ものとする。(5頁下から2行〜6頁2行目) 」と,間接的に地盤抵抗圧力を測定するとの記載がある。
(2) 周知例の追加について 本件発明1の「予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定し,」との構成が,従来から周知な技術であることを示す周知例を追加する。
ア 「正しい薬液注入工法」社団法人日本薬液注入協会編2002年1月3 1日244〜245頁(甲24)及び米倉亮三・島田俊介・木下吉友「恒 久グラウト注入工法」2000年8月18日株式会社山海堂143〜15 1頁(甲25) 甲24の244頁及び甲25の146頁には,二重管ストレーナ工法における注入速度範囲を毎分8〜20?とし,二重管ダブルパッカー工法における注入速度範囲を毎分6〜10?とするとの記載があり,これは,本件発明1の注入速度範囲である毎分6?を含んでいる(本件訂正明細書の【0057】。そして,本施工の薬液注入 )に先立って,本施工と同じ薬液(グラウト材)を試験注入し,圧力・流量の関係を確認して注入することは,従来から普通に行われている。
イ 島田俊介・佐藤武・多久実「最先端技術の薬液注入工法」理工図書平成 元年6月10日291〜293頁(甲26) 甲26の292頁の「表7・6 試験注入」には,シリカゾル系注入材シリカライザーを含む数種の薬液が用いられたことが示されている。
ウ 笹尾禎・須賀武・土谷覚・島田俊介「上越新幹線中山トンネル高山工区 における地盤注入工法の開発と適用」土木学会誌1980年9月号61〜 67頁(甲27) 甲27の66頁の図7〜9には,薬液としてシリカライザーをマンシェットチューブで注入した注入箇所において,注入前と注入後の浸透圧力と注入速度の関係などが示されている。
エ 特許第2552553号公報(平成8年11月13日発行)(甲28) 甲28の請求項3には, 各注入管路への注入量を地盤の注入抵抗圧に応じてそれ 「ぞれ所望の量に調整する」との記載があり,これは,本件発明1において, 「予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定し,」に相当するものである。
(3) 容易想到性について 上記(1)(2)のとおり,本件発明1の「予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定し,」との構成は,周知技術である。この「予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定し,」との構成それ自体には意味はなく,測定した地盤抵抗圧力に基づいてグラウト(薬液)の注入圧を決めることに意味があるのであって,薬液を注入する際に,地盤抵抗圧力が予想より大きくて薬液が入っていかない場合には,注入圧を高めて薬液の注入を確保し,逆に,地盤抵抗圧力が予想より小さく薬液の入り方が早すぎる場合には,注入圧を低くするというのは,ごく当然の事項である。そして,試験注入に基づいて本施工の注入圧を決定するに当たり,どのパラメータを指標として用いるかは,異なるパラメータ間での単純な換算の問題にすぎず,発明としての創作性を要する事項ではない。その上,「予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定し,」との構成の周知技術を,多点注入の技術に組み合わせても,相乗効果は何ら生じず,本件訂正明細書にも,「予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定し,」との構成をとったことの目的やその構成をとることについての特有の効果についての記載はない。
4 小括 以上から,本件発明1は,甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得た発明であるか,又は,甲1発明と甲2発明に基づいて,若しくは,甲1発明と甲2発明及 び甲4〜6等に顕れた周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得た発明である。
したがって,審決の相違点2の認定判断には,誤りがある。
被告の反論
1 甲1発明の認定について 原告らは,甲1には,「予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定し,」との構成が記載されていると主張する。
しかしながら,甲1発明は,本工事における適切な注入圧力を求めるために,本工事に先立って,あらかじめ注水試験(透水試験)を行い,流量と圧力を変化させてP-q曲線を求め,限界注入速度や限界注入圧力を推定しているものである。すなわち,限界注入圧力Prfを超えて注入しないと得られない値は,本工事の現場で測定されるはずのないことは明らかであり,また,直接,本工事の現場で薬液を使って注入圧力が求め得るのであれば,注水(透水)試験を行う必要がない。甲1の【図26】が必要となるのは,地盤改良の本工事の現場において注水試験しか行わないため,注水試験から得られた現地地盤における流量と圧力との関係から,実際に薬液を注入する場合の流量と圧力との関係を把握するためである(甲1の【0074】【0080】【0082】参照)。
一方,本件発明1は,地盤改良の本工事の現場において,グラウトを均等に分液するために,設定した流量での実際の地盤抵抗圧力を測定しているものである。
2 甲2発明の認定について 原告らは,甲2には,本件発明1の「予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定し,」との構成が記載されていると主張する。
しかしながら,甲2には,「流量試験」についての説明は一切なく,「流量試験」が本工事の現場で行われる可能性が排除されていないからといっただけでは,結局,どのような試験が行われるのか不明なままであるにすぎない。むしろ,甲2には,「このような流量制御弁Cを用いることにより,施工前の流量試験に基づいて,あ らかじめネジ24を調整して所定の吐出量に設定することができ,また,注入中,注入状況に応じてネジ24をまわし,適宜に吐出量を調整することもできる。 との 」記載があり(【0037】,地盤抵抗圧力の違う分枝管において,流量制御弁Cを調 )整して,所定の吐出量に調整するために行う流量試験にすぎないと推測される。
3 周知技術について (1) 審決における周知技術の認定について 原告らは,本件発明1の「予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定し,」との構成が,従来から周知な技術であると主張するが,次のとおり,その主張は失当である。
ア 甲5について 甲5に原告ら主張の記載があるとしても,それは,薬液を用いた注入試験が行われていた可能性を排除できないだけであって,甲5が,実際の実験の例を紹介している文献にすぎないことからみて(279頁の11〜13行目参照),従来,現場においてグラウトを注入してP-q曲線を求めることが,普通に行われていたことを証するものではない。
仮に,注入すべき現場で薬液(グラウト)を注入してP-q曲線を求めることが公知であったとしても,甲5におけるP-q曲線を求めるための試験は,注入速度を徐々に増大させて測定するものである(280頁の下から11〜6行目)「薬液 。
注入の設計・施工指針」社団法人日本グラウト協会平成元年6月(甲9)の39頁1〜3行目によれば,このような場合と,本件発明1のように,いきなり一定量のグラウトを注入する場合とでは,測定した地盤抵抗圧力は異なるものであるから,本件発明1のような地盤抵抗圧力の測定方法が周知の事項であることの根拠とはならない。
イ 甲4及び甲6について 甲4及び甲6は,建設工事において薬液注入工法を行う場合の注意書き的なものであり,特定の試験結果が記載されているわけではない。また,これらの指針は,健康被害の発生と地下水等の汚染を防止する観点から,設計どおりの薬液の注入が 安全に実行可能であるか否を確認すべき旨を定めたものであり(甲6の8頁参照),本工事を行う地盤において実際に地盤抵抗圧力を測定することが行われていることを証するものではない。かえって,これらの指針では, 「注入計画地盤又はこれと同等の地盤において」現場注入試験を行うと規定されており(甲4の2頁,甲6の10頁),本工事の現場で現場注入試験を行わなければならないとはされていない。
(2) 周知例の追加について ア 甲24及び甲25に対して 甲24及び甲25の原告ら指摘の箇所には,薬液の設計注入量を設定する際に参考となる範囲が記載されているにすぎない。
イ 甲26に対して 甲26の原告ら指摘の箇所には,注入後透水試験の注入量も記載されており, 「試験注入」とは,試験的に薬剤を実際に注入して,注入圧力,ポンプ吐出量等を計測したことにすぎない。
ウ 甲27に対して 甲27の原告ら指摘の箇所には,岩盤のクラック(山岳トンネル)等の止水効果確認のための調査として試験注入を行い,薬液であるシリカライザーを注入した際の注入前と注入後の注入速度の関係を記録し,浸透圧力と浸透速度の関係が示されているにすぎない。
エ 甲28に対して 甲28の原告ら指摘の箇所には,注入抵抗圧に応じて注入管路への注入量を調整することが記載されているものであり,あらかじめ流量を定めてその流量における地盤抵抗圧力を測定することとは,順番が逆である。
(3) 容易想到性について 上記(1)(2)のとおり,本件発明1の「予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定し,」との構成は,周知技術ではない。この「予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定し,」との構成をとったのは,次の技術的理由からである。
すなわち,軟弱地盤の止水や地盤強化を目的としたケミカルグラウト(薬液)の注入には,通常,二連式プランジャーが用いられるが(本件訂正明細書【0052】参照),構造上,脈動を完全になくすことができず,常に一定の吐出量(流量)を確保することは非常に困難であり,さらに,精密度が高くないために,各吐出口からの吐出量に約5%のバラツキが生じる。また,実際の地盤は均一ではなく,注入圧力以外の注入条件(例えば,注入工法の違い,グラウトの性質の違い等)を含めて,ごくわずかな条件の違いにより,地盤抵抗圧力に差異が生じて各注入管の流量が変化してしまう(【0005】参照)。
そこで,本件発明1では,あらかじめ設計時に決めた流量で注入した際に,実測の各注入管の地盤抵抗圧力にどのようなバラツキ(差異)があっても,全ての地盤抵抗圧力より必ず高い強制圧力を負荷させることを絶対条件とすることによって【0 (045】【0047】参照),@複数の注入孔に同時に均等にグラウトを分液することが可能となり,作業効率を向上させることが可能となるという作用効果(【0023】参照)や,A1台又は少数の注入ポンプで,地盤抵抗圧力の差異にかかわらず,複数の注入孔に対して低流量(毎分3〜6?)の注入ができ,砂質土の間隙にグラウトをきめ細かく浸透させることができ,より注入効果を向上させることが可能となるという作用効果(【0024】参照)を奏するようにしたものである。
4 小括 以上から,本件発明1は,甲1発明,甲1発明と甲2発明,又は甲1発明と甲2発明及び周知技術に基づいては,当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって,審決の相違点2の認定判断には,誤りはない。
当裁判所の判断
1 認定事実 (1) 本件発明について 本件訂正明細書(甲14,23)によれば,本件発明は,次のとおりのものと認められる。
ア 技術分野 本件発明は,砂質土等の軟弱地盤の止水や地盤強化を図る上で好適なグラウト注入方法及び装置に関し,特に,1台の注入ポンプにより地盤中に設置された複数の注入孔を介してグラウトを同時に注入する上で好適なグラウト注入方法及び装置に関するものである。【0001】 ( ) イ 背景技術 従来より,地盤強化の観点から,地盤中に設置した注入管等の注入孔を介してグラウトを注入する方法が提案されている。地盤改良予定地が広い場合には,多数の注入孔を設けた注入管をその改良予定地に設置してグラウトを注入することになる。
その際,注入孔を設けた1本の注入管に対して1台の注入ポンプを用いて注入することが一般的であるため,注入管1本に1つの注入ポンプが必要となり,施工効率の低下及び施工コストの増大という問題や,低吐出量のポンプを用いるため,グラウトの流量が少なく,施工に多くの時間を要するという問題がある。
このため,1台の注入ポンプにより送出したグラウトを,何らかの手段を用いて複数に分液し,これを1つ又は複数(2つ以上)の注入孔を設けた注入管に同時に注入することが試みられているが,わずかな地質学的なパラメータの差によって注入圧力の差異が生じ,液流が大きく変化するため,複数の注入孔に対して均等な分液を実現することができないという問題があった。
(【0002】〜【0006】) ウ 解決課題 本件発明の目的は,1台又は少数の注入ポンプにより圧送されたグラウトを,分液盤を通じて複数に均等に分液し,地盤中に設置された1つ又は2つ以上の注入孔を設けた複数の注入管を介して,これら分液したグラウトを同時に注入することが可能なグラウト注入方法及び装置を提供することである。【0008】 ( ) エ 解決手段 本件発明は,注入ポンプにより圧送されたグラウトを,分液盤を通じ,複数に均等に分液して地盤中に同時に注入するグラウト注入方法及び装置である。【000 (9】) 注入ポンプから,第1注入ホースを介して,分液盤に至るまでを第1区分とし,分液盤内の吐出口から,第2注入ホースを介して,注入孔を設けた1本又は2本以上の注入管からグラウトが注入されるまでを第2区分とする。分液盤内の吐出口が2つ以上ある場合は,それぞれ同一面積であり,また,注入管には,1つ又は2つ以上の注入孔が設けられている。グラウトは,注入ポンプによって圧送され,第1注入ホースから分液盤に至ると,分液盤内において分液されて,吐出口から,第2注入ホースを介して注入管に至り,さらに,注入孔から地盤中に注入される。グラウトの注入は,流量(吐出量)を調整することによりされる。【0010】 ( ) 分液盤内の複数の吐出口の総断面積よりも,注入管の注入孔の総断面積が大きく設定される。【0013】 ( ) 分液盤の吐出口から吐出されるグラウトが,強制圧力(大気中に放出しても第1区分内では圧力がかかった状態)を負荷できるだけの流量を注入ポンプで送り出すことにより,第1区分内の圧力を強制的に高めて分液盤に設けた複数の吐出口に均等に分液する。【0014】 ( 【0016】) 第1区分で均等に分液されたグラウトは,第2区分で地盤内の複数の注入管に設けた注入孔から放出され,地盤抵抗圧力(大気中に放出した場合に圧力が0の状態であり,地盤に注入する上で必要な圧力。一般にいう注入圧力。)に応じた圧力に推移しながら地盤に注入される。【0015】 ( 【0016】【0018】) オ 実施形態 グラウト注入装置20は,第1区分の圧力が,地盤抵抗圧力の1.5〜4倍の強制圧力で,第2区分の圧力が地盤抵抗圧力となるような構成であればよい。【002 (7】) イ方法は,2液を混合してグラウトを生成してこれを圧送する方法であり,ロ方法は,既に生成した一液のグラウトを圧送する方法である。【0028】 ( ) 1 調合槽 2 サクションホース 3 注入ポンプ 4,8 注入ホース 5 分液盤 51 分岐部 52 分岐路 6 コック 7 吐出口 9 流量圧力計 10 注入管 11 注入孔 12 地盤 20 グラウト注入装置 【図1】 【0072】 イ方法では,調合槽1aにA液(水ガラス),調合槽1bにB液(硬化剤)を調合する。注入ポンプ3a,3bは,互いに独立した別個のポンプとして構成されている場合に限定されるものではなく,これらを一体化させた二連式ポンプとして構成するようにしてもよい。このイ方法では,この注入ポンプ3aから排出されるA液,注入ポンプ3bから排出されるB液を,分液盤5に至る中間で合流混合し, (グ C液ラウト)として注入ホース4dを介して分液盤5へと送られることとなる。【00 (34】) ロ方法では,調合槽1c内で既にA液としての水ガラスと,B液としての硬化剤を混合してC液(グラウト)を製造,調合した後,サクションホース2c,注入ポ ンプ3cを介して注入ホース4cを通じて分液盤5へとグラウトを圧送することとなる。【0035】 ( ) 注入ポンプ3a〜3cから分液盤5(正確には吐出口7a〜7dの入口)に至るまでが,第1区分である。【0030】 ( ) 分液盤5(正確には吐出口7a〜7dの出口)から注入孔11a〜11dに至るまでが,第2区分である。【0033】 ( ) 第1区分中を流れるグラウトが強制圧力となるように制御することにより,分液盤における複数の吐出口からグラウトを均等に分液することを必須の構成要件としている。ここでいう強制圧力とは,1次的には,グラウトの吐出量(流量)と,複数の吐出口7a〜7dの総断面積によって決定される。 【0038】 ( ) 第2区分においては,第2区分を流れるグラウトを,注入孔11a〜11dを介して地盤抵抗圧力に基づいて注入することを必須の構成要件としている。【004 (1】) 第1区分内におけるグラウトの強制圧力は,第2区分の地盤抵抗圧力より高くすることが絶対的条件であり,目安としては,強制圧力が地盤抵抗圧力の1.1倍以上,望ましくは1.5〜2倍以上である。さらに,この強制圧力となるようにグラウトの流量を調整する。【0045】 ( 【0046】) 第1区分の強制圧力の設定は,あらかじ本注入と同1条件下で1台の注入ポンプ3と,分液盤5の1箇所で,1本の注入管4を用いて行い,第2区分の地盤抵抗圧力を確認する。そして,得られた地盤抵抗圧力値の1.5〜4倍となるように調整を行う。【0047】 ( ) カ 実施例 本件発明における第1区分の強制圧力の圧力値を設定するために行った実験は,次のとおりである。
注入管10は,先端を先鋭化させた閉塞状態とし,1つの注入孔11から水を出しながら打設し,その下端が地表下5mの位置となるように設置した。そして,注 入管10と地山の隙間にグラウトパッカーとしてセメントベントナイト液(100?当たりセメント25kg,ベントナイト6.3kg,水90?)を十分に充填した後,注入管10及び注入孔11内を水洗して開孔させ,注入管10の頭部を閉塞して逆流を防止した状態で7日間養生し硬化させた。実験は,1台の注入ポンプ3で分液盤5を通さず,強制圧力が負荷されない通常状態でグラウトを毎分6?で120?注入したところ,地盤抵抗圧力の最高値は0.25MPa であった。この値の4倍の1MPaを第1区分の強制圧力値として設定した。【0055】〜【0057】 ( ) 次に,第1区分の分液盤5の吐出口7の断面積を,第2区分の注入管10の注入孔11よりも小さくし,第1区分の強制圧力を1MPa になるように設定し,グラウトを注入したところ,次の表2の結果を得た。【0066】 ( 【0067】) 【表2】 表2のとおり,第2区分における4個の注入管10の地盤抵抗圧力よりも第1区分における強制圧力の方が高いため,地盤抵抗圧力の圧力差に関係なく分液盤5の吐出口7から,注入開始時より終了まで均等に分液されて第2区分に移行されていることが確認できた。第2区分内に移行したグラウトの地盤抵抗圧力の最終値には,差が生じているが,第1区分の強制圧力が1MPa と高いため,第1区分から吐出された注入量は,均等に,毎分6?で各注入管10の注入孔11から注入されている。
このように,本件発明を適用したグラウトの注入方法によれば,簡単な分液盤5 を利用するだけで,1台の注入ポンプ3で複数の注入孔11を同時に均等に分液して注入することができるため,少ない台数の注入ポンプ3で広範な面積にわたるグラウト注入による地盤強化を実現することができ,大幅な作業効率の向上や施工時の時間短縮をも図ることが可能となる。また,低吐出量できめ細かいグラウト注入が可能となるなど,有益な複数注入孔による同時注入を実現することが可能となる。
(【0068】〜【0071】) キ 発明の効果 本件発明は,@1台又は少数の注入ポンプで,地盤抵抗圧力の差異にかかわらず,複数の注入孔に同時に均等にグラウトを分液することが可能となり,作業効率を向上させることが可能となる,A複数の注入孔に対して,低流量(毎分3〜6?)の注入ができ,砂質土の間隙にグラウトをきめ細かく浸透させることができ,より注入効果を向上させることが可能となるとの効果を奏する。【0023】 ( 【0024】) (2) 甲1発明について 甲1によれば,甲1発明は,次のとおりのものと認められる。
ア 技術分野 甲1発明は,液状化防止工事あるいは大規模工事における急速施工のための地盤改良等,大容量土の地盤改良に係り,特に,改良すべき地盤に複数の注入管路を設置し,これら複数の注入管路から注入液を同時に,かつ,選択的に,更には,自動的に行う地盤注入装置及び地盤注入工法に関するものである。【0001】 ( ) イ 解決課題 近年,液状化防止工事等,大容量土の地盤改良の急速施工が要求されるようになった。この場合,経済性の点から注入孔間隔を広くとって,一本の注入管から大量の注入液を長時間にわたって注入することが必要である。
ところが,このような注入においては,注入液が分散して地表面や周辺に逸脱しやすく,均質な注入効果が得られにくかったり,注入中に土中でゲル化が進行して 地盤の注入条件が変化してしまい,注入効果も不確実になる。また,施工期間が長くなる。
そこで,甲1発明は,地盤中に設置した複数本の注入管路から,対象とする土層に注入液を注入して該地盤を改良するに際して,最適な設定流量ないしは設定圧力をもって,注入液を,同時に,かつ,自動的に注入し,これにより,広範囲の地盤を急速かつ確実に改良し,上記欠点を改良した地盤注入装置及びこの装置を用いた地盤注入工法を提供することを目的とする。【0008】〜【0012】 ( ) ウ 実施態様 【図1】 甲1発明に用いる装置は,地盤中に設置された複数の注入管路を通じて地盤注入 液を地盤中に注入し,地盤を固結する装置であり,制御部X,注入加圧部Y,注入液分配部Z,注入部W及び送液系Aから構成される。【0017】 ( ) 注入液加圧部Yは,注入液槽2からの注入液をグラウトポンプ1により加圧し,加圧注入液として,送液系Aを介して注入液分配部Zに送液する。【0018】 ( ) 注入液加圧部Yから注入液分配部Zへの加圧注入液の送液系A,すなわち,導管7には,送液流量計f0及び/又は送液圧力計P0が備えられる。【0029】 ( ) 注入液分配部Zは,複数本の分岐管S,S…Sを備える。これら分岐管S,S…Sは,それぞれ先端に注入管路9,9…9と連結する連結部SOを有する。また,注入液分配部Zには,送液系A(導管7)と連結された加圧注入液分配容器6を備えてもよい。この場合,各分岐管S,S…Sは,分配容器6からそれぞれ伸長するように備えられ,加圧部Yからの加圧注入液を,分配容器6を介して各分岐管S,S…Sに分配する。【0019】 ( 【0054】) 分岐管S,S…Sは,それぞれ,分岐バルブV1,V2…Vi,Vn及び/又はオリフイスO1,O2…Oi,Onを装着し,さらに,必要に応じて分岐流量計f1,f2…fi,fn,及び/又は分岐圧力計P1,P2…Pi,Pn を装着する。【0 (028】) 地盤注入装置には,送液流量計f0及び/又は送液圧力計P0,注入加圧部Y,分岐バルV1,V2…Vi,Vn及び分岐流量計f1,f2…fi,fnと分岐圧力計P1,P2…Pi,Pn のいずれか一方又は両方とそれぞれ信号回路によって接続された,操作盤X2,注入記録盤X3及びデータ入力装置X4を,注入監視盤X1に接続して構成される制御部Xを備えた装置が用いられる。【0052】 ( ) 注入管路9は,複数本の細管10,10…10を固定板11,11…11を通して結束して構成された結束注入管である。各細管10,10…10は,先端吐出口12,12…12がそれぞれ軸方向の異なる位置に開口され,かつ,これら吐出口12,12…12には,ゴムスリーブ13,13…13が装着され,注入孔14に注入されたスリーブグラウト15中に埋設するように地盤8中に設置される。吐出 口12からの注入液は,固化したスリーブグラウト15を破って地盤8中に浸透,注入される。【0041】 ( ) 【図17】 甲1発明の地盤注入工法では,地盤8中に設置された複数の注入管路9,9…9を通じて,ほぼ同一深度の注入ステージに注入液を注入して,連続した版状の固結層,すなわち,図1の第一改良ブロックを形成し,この注入を繰り返し,例えば,この下層に更に版状の固結層,すなわち,第二改良ブロックを形成し,積層体とする。【0062】 ( ) 図14は,注入管路9として図17に示される複数本の細管10,10…10を束ねて構成される注入管路9を複数本地盤8中に設置し,分配容器6として多段型の分配容器6を用いた地盤注入の例である。注入管路9,9…9は軸方向に異なる位置の各吐出口12,12…12が地盤8中の土層の異なる第1〜第nステージのそれぞれに位置するように地盤8中に設置される。分配容器6は,連続した一個とすることもできる。【0069】〜【0071】 ( ) 【図14】 地盤注入を施工するに際し,例えば,第1ステージにおいて,注入に先立ち,注水試験を行って図26に示されるP-q曲線(曲線1) すなわち, (注入圧力P) , P-q(注入速度ないしは流量?/分)曲線を出す。図26は,注入圧-流量(毎分注入量)曲線である。図26において,O1点までは,注入速度と注入圧力は比例関係にあり,地盤破壊は生ぜず,完全な浸透注入となる。しかし,O 1〜O2点までは注入速度と注入圧力は比例関係になく,部分的に割裂は生じるが,地盤が破壊して注入液が逸脱する注入圧力の低下はみられない。このO2点の注入圧力を,限界注入圧Pr0,限界注水速度(流量)qr0とする。このようにして,地盤が破壊する限界注入圧力Pr0及び限界注入流量qr0(注入速度)を知ることができる。【0 (072】) (【図26】) また,注水試験と異なり,薬液を注入する場合,注入が進行するにつれて地盤は強化される。図26において,F1点までは直線関係にあり,F1〜F2点までの間は直線ではないが破壊には至っていない。したがって,F2点におけるPrfを限界圧力,qrfを限界注入流量とする。このようにして,最終的な限界注入圧力及び限界注入流量(注入速度)を,それぞれ,Prf及びqrfとして設定して,設計注入量(積算注入量)の注入をこの限界内で行うこととする。そして,この設計注入量が注入されたら,注入終了とし,もし設計注入量に達しないうちにこの限界注入圧力に達した場合には,その時点で注入を終了する。【0073】 ( ) ここで,注入管路Tの本数nをn=100として,オリフイス口径=1.0mm とし,送液流量計f0=150?/分とし,注入管路(T1〜T100)の第1ステージに位置する吐出口から同時注入したところ,分岐圧力計P11は,2kgf/cm2,分岐流量計f11は,1.5?/分,送液圧力計P0=30kgf/cm2 を示した。第1ステージにおける注入前の透水試験では,q1r0=5?/分であり,P1r0=5kgf/cm2であった。P1rf=7.5kgf/ cm2(P1r0の 1.5倍)と設定し,注入管路T11における計画注入量は, 11=100?と設定した。
Q 注入中のP1の注入圧力は3.0kgf/cm2以内,平均注入速度q1=1.5?/分で,100?の注入が完了した。
(【0074】) エ 発明の効果 甲1発明においては,制御部が,送液流量計及び/又は送液圧力計からの情報を受け,あるいは,各分岐管に装着された分岐流量計及び/又は分岐圧力計からの情報を受け,これら情報に基づいて,加圧部,あるいは,分岐管に装着された分岐バルブを制御し,送液を地盤状況に応じて自動的に行う。
したがって,地盤中に設置した複数本の注入管から,対象とする土層に注入液を注入して該地盤を改良するに際して,最適な設定流量ないしは設定圧力をもって注入液を同時に,かつ,自動的に注入し,これにより,広範囲の地盤を急速かつ確実に改良する。【0095】 ( 【0096】) (3) 甲2発明について 甲2によれば,甲2発明は,次のとおりのものと認められる。
ア 技術分野 甲2発明は,地盤注入液を地盤中に設置された注入管路を通して地盤中に注入し,該地盤を固結する地盤注入装置及び工法に係り,特に注入の際の圧力変化にもかかわらず,所定の吐出量で注入し,さらに,吐出量を注入情況に応じて任意に調整し得る地盤注入装置及び工法に係るものである。【0001】 ( ) イ 解決課題 地盤中に設置した複数の注入管路に1つのポンプから同時に注入する場合,各注入管路吐出口の地盤の注入圧力が異なれば,圧力の低い注入管路のみに注入液が吐出され,所定の注入量を複数の注入管路に同時に注入することができない。
また,1台のポンプから多数のオリフイス又は噴射口を介して多数の注入管に同時に注入液を送液する場合,個々の注入管における地盤抵抗圧の変化により,ポンプ圧力が変動してしまい,各注入管に所定の吐出速度で注入することが困難であるほか,いずれかの注入管の注入が終了した後,残りの注入管からの注入を,所定圧力及び吐出量を保ちながら行うことも困難である。
甲2発明の目的は,地盤注入の際の注入圧力の変化にもかかわらず,所定の吐出量で注入し得る地盤注入装置及び工法を提供することであり,さらに,液状化防止工事あるいは大規模工事における急速施工のための地盤改良等,大容量土の地盤改良に適し,特に,改良すべき地盤に複数の注入管路を設置し,これら複数の注入管路から注入液を同時に,かつ,選択的に,更には,自動的に注入し得る地盤注入装置及び工法を提供することである。【0006】〜【0011】 ( ) ウ 実施態様 甲2発明の地盤注入装置Aは,地盤注入液5を地盤3中に設置された一本又は複数本の注入管路2,2…2を通して地盤3中に注入し,該地盤3を固結する装置である。【0018】 ( ) 地盤注入装置Aには,地盤注入液5を所定の圧力に加圧する注入液加圧部1と,この注入液加圧部1に連通され,注入液5を注入管路2に送液する導管6と,この導管6に設けられた絞り部7とから構成される。 【0018】 ( ) 地盤注入液5の絞り部7に至る送液系13に,送液流量計f0及び/又は送液圧力計P0と,注入液リターン装置RAを有する注入液リターンシステムRSを設ける。注入液リターンシステムRSは,所定の注入圧力P0を保つように,流量圧力制御装置10によってリターン装置RAを制御し,注入液の一部を,リターン管路Rを通して注入液槽4にリターンさせる。【0019】 ( ) ポンプ14にインバータを設けることにより,最も適切な流量範囲(圧力範囲)内で,地盤注入液5を所定の流量ないしは圧力に調整することができる。【002 (2】) 送液系13と導管6との間に,分配装置11を設け,導管6,6…6を分配装置11から伸長させてもよい。また,連結部12で,導管6と注入管路2とが連結される。さらに,導管6には,分岐バルブV1,V2…Vi,Vn ,圧力計(圧力検出器)8,流量計(流量検出器)9を設けることができる。【0022】 ( ) 注入管路2は,複数本の細管32を結束してなり, 各細管32,32…32は,先端吐出口33がそれ ぞれ軸方向の異なる位置に開口され,削孔34に装 填されたスリーブグラウト35中に埋設するように 地盤3中に設置される。吐出口33からの地盤注入 液は,固化したスリーブグラウト35を破り,地盤 壁3aを通って地盤3中に浸透,注入される。【0 ( 085】) 地盤注入液5は,絞り部7の上流側の高い圧力部 から下流側の低い圧力部に噴射される。この場合, 加圧された地盤注入液5の注入圧力P0と注入され る地盤3の注入圧力P1n の差圧を充分に大きくと れば,絞り部7より下流側の各導管6,6…6の注 入圧力にばらつきがあっても,各導管6の吐出量(注 入速度)は絞り部7の面積が同じである限り,ほぼ同一量となる。そして,吐出量は,注入圧力P0と絞り部7の孔の面積によって定まる。【0020】 ( ) 分配装置11中の加圧された地盤注入液5を絞り部7(オリフイス)から噴出する場合に,オリフイスの口径を2.0mm 又は2.5mm とし,リターンシステムRSを用いて,オリフイスよりも上流側の液圧を所定圧力に保ち,オリフイスよりも下流側の液圧(地盤抵抗圧力)を種々変化させたときのオリフイスからの流量f(?/分)の変化は,図2及び図3のとおりである。液圧P0が地盤抵抗圧力Pよりも充分に高いときには,流量fは液圧PとオリフイスOの口径によって定まり,また,液圧Pが変動しても,流量fはほとんど変動しない。液圧P0とPとの差がある範囲内に小さくなると,流量fは急速に低下することがわかる。一般に,液圧P0 は20〜100kgf/cm2とし, 0とPの差は5kgf/cm2以上, P 好ましくは,10kgf/cm2 が望ましい。【0023】 ( 【0024】) エ 発明の効果 甲2発明においては,注入液を,注入液加圧部から導管を経て注入管路から地盤中に注入するに際して,この注入を絞り部に絞りの指示を与えながら行って導管中の液圧を所望の圧力に保持し得る。したがって,各導管から注入管路に送液される 注入液の吐出量及び/又は吐出圧力を所望の範囲に保持するとともに,複数の導管のいずれかが注入を停止しても,残りの各分岐管の吐出量及び/又は吐出圧力を所望の範囲に保持する。【0109】 ( 【0110】) 2 取消事由(相違点2の認定判断の誤り)について (1) 甲1発明の認定について 前記1(1)によれば,審決による甲1発明の認定自体に,誤りは認められない。
原告らは,甲1の【0074】 【図26】には,本件発明1の「予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定し, との構成が記載されていると主張するところ, 」 この構成の意義が,本工事の現場において,薬液を用いて地盤抵抗圧力を測定するものであることは,当事者間に争いのあるところではない。
そこで,検討するに,相違点1に係る本件発明1の構成は,次のとおりである(分説は,本判決による。以下同じ。。
)(a) 予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定し,(b1) 上記第1区分中を流れるグラウトがその測定した地盤抵抗圧力よりも高い強制圧力となるように負荷することにより,上記分液盤における複数の吐出口から当該グラウトを均等に分液し,(b2) 上記第2区分を流れるグラウトを上記注入孔を介して地盤抵抗圧力に基づいて注入すること 上記相違点1に係る本件発明1の構成に対応する部分として,審決が甲1発明中に認定した部分は,次のとおりである(【0072】【0074】参照)。
(A1) 地盤注入を施工するに際し,第1ステージにおいて注入に先立ち,注水 試験を行ってP-q曲線(曲線1),すなわち,P(注入圧力P)-q(注 入速度ないしは流量?/分)曲線を出して,地盤が破壊する限界注入圧力Pr 0および限界注入流量qr0(注入速度)を知ることができ,(B1) 注入管路Tの本数nをn=100として,オリフイス口径=1.0mm と し,送液流量計f0=150?/分とし,注入管路(T1〜T100)の第1ス テージに位置する吐出口から同時注入したところ,分岐圧力計P11は2kgf/cm 2 ,分岐流量計f11は1.5?/分,送液圧力計P0=30kgf/cm2を示したも のであって,第1ステージにおける注入前の透水試験ではq1r0=5?/分で あり,P1r0=5kgf/cm2であった, ところで,甲1の【0072】〜【0074】 【図26】の記載によれば,甲1記載の発明の地盤注入工法は,審決が認定する(A1) (B1)のほか,次のとおりの構成を有することも認められる(一部,(B1)との重複がある。 。
)(A2) 限界注入圧力Pr0及び限界注入流量(注入速度)qr0に基づいて,薬 液(注入液)を注入する場合の限界注入圧力Prf及び限界注入流量(注入 速度)qrfを設定し,各注入管路に送液された注入液の注入圧力P及び流 量qが上記限界注入圧力Prf及び限界注入流量(注入速度)qrfの限界内 となるようにし,(A3) 第1ステージにおける注入前の透水試験でP1r0=5kgf/cm2であった ことから,この1.5倍の限界注入圧力Prf=7.5kgf/cm2を,また,注入 管路T11における計画注入量を,Q11=100?とそれぞれ設定し,(B2) 注入中のP1の注入圧力は3.0kgf/ cm2以内,平均注入速度q1=1.5? /分で,限界注入圧力Prf=7.5kgf/cm2に達することなく,注入管路T11 における計画注入量Q11=100?の注入を完了した。
本件発明1の「地盤抵抗圧力」とは, 「注入圧力」のことであり(本件訂正明細書【0018】, )「流量」とは,単位時間当たりの流量(注入量)を意味するものと認められる(本件訂正明細書【0057】,審判事件答弁書〔甲13〕の4枚目,口頭審理陳述要領書〔甲17〕の3枚目参照)。上記記載によると,甲1発明も,注入圧力Pを設定するために,限界注入圧力Prfを用いている。しかしながら,上記記載によっても,限界注入圧力Prfとは,地盤破壊防止等のための上限値であって(甲5の281頁,甲7の35頁,甲10の27頁参照),甲1発明は,地盤抵抗圧 力(注入力圧力)を限界注入圧力Prfの限界内で設定するものにすぎず,本件発明1のように,地盤抵抗圧力(注入圧力)を,あらかじめ流量を決めて測定したものとは認められない。
したがって,甲1に,本件発明1の(a)の構成が記載されているとは認められない。
なお,原告らは,本件発明1において,第1区分中を流れるグラウトの圧力を調整すれば,あらかじめ定められた「流量」は実現できているから,改めて「地盤抵抗圧力」を測定してその結果に従い更に圧力を調整する必要はないと主張するが,本件発明1は,測定した地盤抵抗圧力を基準として,それよりも高い強制圧力となるように第1区分中を流れるグラウトを負荷するものであって,かつ,その構成を有するものに特定されているのであり,上記強制圧力を設定した後に更に圧力の調整をするものではない。
原告らの主張は,いずれも,採用することができない。
(2) 周知技術の認定について 事案にかんがみて,周知技術の認定について,まず,検討する。
ア 文献の記載 以下の文献には,次のとおりの記載がある @ 甲4「3-2 現場注入試験 薬液注入工事の施工にあたっては,あらかじめ,注入計画地盤またはこれと同等の地盤 において設計どおりの薬液の注入が行われるか否かについて,調査を行うものとする。」 (2 頁) A 甲5「 浸透注入を実現させるには,試験注入を行い,注入形態を確認することが最も確実である。
試験注入は,本工事と同一の条件で実施することが本来必要であるが,薬液のかわりに水を 用いた注入試験における注入圧と注入速度の関係から注入形態を予測する簡便な方法が近年提案されている。 (280頁) 」「 群注入における注入条件は表-5.8のとおりで,一点注入でのP〜q曲線で良好な固結形状が得られた条件下と同一の緩結材,注入速度である。(284頁) 」 B 甲6「 薬液注入工法に係る条件明示事項等について … 2. 施工計画打ち合わせ時等に請負者から提出する事項 … (1) 工法関係 @ 注入圧 A 注入速度 … 」(7頁)「3-2 現場注入試験 薬液注入工事の施工にあたっては,あらかじめ,注入計画地盤又はこれと同等の地盤に おいて設計どおりの薬液の注入が行われるか否かについて,調査を行うものとする。(1 」 0頁) C 甲9「F 現場注入試験 現場注入試験は対象地盤に適合する薬液や注入工法などを設定し,目的とする効果が発 揮できるのかどうか調査し,設計に反映させるために行うものであるが,ケースとしては 次の2通りがあり,いずれの場合においてもできるだけ本施工に近い条件で実施する必要 がある。
… ケース2 設計したものが現場にマッチするかどうかを確認する。
… 一般的にはケース2の設計通りの効果が発揮できるかどうかを現位置で小規模に行うこ とが多い。
この場合は,設計通りの仕様ならびにそれに近い何種類かのケースを考えて下図のパタ ーンで,効果の差を見る例が多い。この場合,設計通りの効果が得られなければ,改めて 再検討を行って,再度数パターンでの現場試験が必要となる。
一般には掘削直前の立坑等を利用して行い,注入後の効果確認を経て,さらに掘削視認 している。(33頁) 」 D 「耐久グラウト注入工法施工指針」社団法人日本グラウト協会平成24年3 月(甲10)「G 現場注入試験 現場注入試験は,対象地盤に適合する注入材や注入方式などを設定し,目的とする注入 効果が期待できるか否かを確認し,施工に反映させるために行うものである。
【解説】 現場注入試験は,対象となる土層条件に対して,最適な注入材料,施工方法,範囲や注 入量など,施工計画の基本資料となるように行う。設計仕様をもとに現場注入試験計画を 作成し,現場注入試験を実施する。この結果から協議により施工仕様を決定する。そのた め,現場注入試験はできるだけ本施工に近い条件で実施するのが望ましい。
試験方法は,施工計画書の内容が現場に適するかどうかを確認するため,施工仕様は設 計どおりまたはそれに近い数種類のパターンを比較して効果の差を見る例が多く,基本的 には対象範囲外で行う。
注入速度は限界注入速度試験で確認し,注入率,注入量,注入孔間隔等は現場注入試験 後に調査ボーリングを実施し各種試験により確認をおこなう。(14頁) 」「3. 限界注入速度(qcr)試験法 … 限界注入速度は,実際使用する薬液を用いて求めることが理想であるが,薬液がゲル化 して実験結果の解釈が難しくなること,大量の薬液が注入されるため本工事に影響を及ぼ すことが考えられる。このため,本試験では薬液の代わりに水を用いて注入試験を行う。」 (27頁) E 甲25「6.1 注入圧力の管理 …この圧力管理を効果的に行うためには,試験注入を行って現地地盤における注入圧力の 初期状態を確認しておく必要がある。(143頁) 」「6.2 注入速度の管理 注入速度は,注入材の地盤中での注入形態(浸透注入・割裂注入)を左右する因子の一つ であって,注入効果に密接な関係がある。…注入速度が遅すぎると,注入効果がよくても経 済効果が伴わなくなったりするので,最適な注入速度を選定することが大切である。
標準的な注入速度として,(社)日本薬液注入協会では表6.1のような値を示しており,通 常は6〜20?/min で施工することが多い。…限界注入速度の考え方を述べたが,この基本的 な考え方は,経済性をも考慮して割裂浸透注入をするという立場をとっている。経験上定め た表6.1の値もこの割裂浸透注入をとっているものと考えるべきであろう。(145〜14 」 6頁) F 甲26 注入施工(293頁)に先立ち,注入施工と同じ注入材(シリカライザー)を 用いて試験注入を行い,流量や注入圧力等の注入条件を確認すること(292頁 の表7・6)が記載されている。
イ 検討 上記各記載のとおり,地盤注入の施工前に地盤抵抗圧力(注入圧力)を測定する ことは,通常のことであり,その地盤抵抗圧が工事現場のものでなければならないのは当然であるから,その測定は,注入対象範囲内そのものであるかはともかくとして,工事現場と認められる範囲で行われているといえる(本件発明1も,注入対象範囲内そのもので地盤抵抗圧力が測定される場合に限定されるものではない。。
)そして,前記(1)のとおり,本件発明1の「流量」は,単位時間当たりの注入量(注入速度)のことであるところ,建設省(国土交通省)の通達等である上記Bに,施工計画時に「注入速度」を定めなければならないと記載されていることや,業界団体の指針である上記Dにも,施工計画時に注入速度が定まっていることを前提とする記載があることからみて,「流量」(注入速度)は,工事現場の状況等によって変更される余地はあるとしても,注入施工の前にあらかじめ定まっているものと理解できる。そして,「流量」(注入速度)と地盤抵抗圧力とは関連しているから(甲1の【図26】,甲2【図2】【図3】参照),地盤抵抗圧力を測定することは,所定 )の「流量」(注入速度)を前提にしたものである。
また,地盤抵抗圧の測定が,薬液を用いて行うことが通常であるか,あるいは,水を用いて行うことが通常であるかが上記各記載からは明確ではないにしても,上記各記載は,薬液を用いて地盤抵抗圧の測定を行うことを排除はしていない。かえって,上記Aには, 「薬液のかわりに水を用いた注入試験における注入圧と注入速度の関係から注入形態を予測する簡便な方法が近年提案されている。 との記載があり, 」この記載の当然の前提として,従来から,薬液を用いた注入試験が広く行われていたことがうかがわれる。
以上からすると,本件発明1の「(a)予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定し,」との構成,すなわち,注入施工に先立ち,同じ注入材(グラウト)を用いて現場試験注入を行い,あらかじ流量を決めて注入圧力(地盤抵抗圧力)を測定することは,本件特許の出願時点において,測定方法の一つとして当業者に広く知られていた周知の事項であったと認められる。
ウ 被告の主張について 被告は,仮に,注入すべき現場で薬液(グラウト)を注入してP-q曲線を求めるとしても,注入速度を徐々に増大させる場合と本件発明1のように一定量のグラウトを注入する場合とでは,測定した地盤抵抗圧力は異なると主張する。
しかしながら,注入速度を徐々に増大させた場合の地盤抵抗圧力が測定できるということは,ある特定の注入速度における地盤抵抗圧力の測定ができることが当然の前提になっているから,後者のような測定,すなわち,本件発明1の地盤抵抗圧力の測定が周知技術であるとの認定の妨げとはならない。
そのほかの被告の主張も,上記アの記載に照らして,採用することができない。
エ 小括 以上から,本件発明1の「(a)予め流量を決め地盤抵抗圧力を測定し,」との構成が,周知技術ではないとした審決の認定には,誤りがある。
(3) 容易想到性について 本件発明1は,前記(1)のとおり,(a)(b1)(b2)の構成を有しているところ,試験注入において,地盤抵抗圧力をどのように測定するかという点と,本施工において,測定された地盤抵抗圧力をどのように用いてグラウト注入を行うかという点は,それぞれ独立の技術的事項であるから,少なくとも,地盤抵抗圧力をどのように測定するかという(a)の構成と,本施工において,測定された地盤抵抗圧をどのように用いるかという(b1) (b2)の構成とは,その容易想到性を別々に考慮してよいものである。そうすると,上記(2)イのとおり,本件発明1の(a)の構成は,周知技術であるから,地盤抵抗圧力(注入圧力)を限界注入圧力Prfの限界内で設定する甲1発明において,その注入圧力の決定について,周知技術である相違点2に係る本件発明1の(a)の構成を採用することは,当業者が適宜なし得ることである。
また,前記(1)のとおり,甲1には,審決が甲1発明を構成するものとして認定する(A1) (B1)の構成のほか, (A2) (A3) (B2)の構成が開示されている。
本件発明1の「地盤抵抗圧力」に相当する甲1発明の分岐圧力計P11の圧力値は, 2kgf/cm2 であり,本件発明1の「地盤抵抗圧力よりも高い強制圧力」に相当する甲1発明の送液圧力計P0の圧力値は,30kgf/cm2であるから,甲1発明においては,地盤抵抗圧力よりも高い強制圧力となるようにグラウトが負荷されている。そうすると,甲1の(A1)〜(A3)(B1)(B2)の構成は,本件発明1の(b1) (b2)の構成を開示しているものといえる(審決も,本件発明2に係る無効理由の判断中で,甲1発明の(A1) (B1)に相当する構成が,本件発明1の(b1)(b2)に相当する本件発明2の構成に相当すると判断している。。
) 以上によれば,本件発明1の(b1)(b2)の構成が,甲1の記載に基づいて,当業者において容易に想到できるものであることも,明らかであり,審決の相違点2の判断には,誤りがある。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,取消事由には,理由がある。
結論
以上のとおり,取消事由は理由があるから,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 中村恭
裁判官 森岡礼子
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