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事件 |
平成
28年
(ネ)
10010号
特許権侵害差止請求控訴事件
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控訴人JX金属株式会社 (旧商号:JX日鉱日石金属 株式会社) 同訴訟代理人弁護士 高橋雄一郎 同 弁理士 望月尚子 被控訴人 田中貴金属工業株式会社 同訴訟代理人弁護士 飯村敏明 鈴木修 大平茂 大西千尋 磯田直也 森下梓 同 弁理士 松山美奈子 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/12/21 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,30万円及びこれに対する平成26年1月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 4 仮執行宣言 |
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事案の概要(略称は,特に断らない限り,原判決に従う。)
1 本件は,発明の名称を「非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット」とする発明に係る特許権(本件特許権)を有する控訴人が,原判決別紙被告製品目録記載の製品(被告製品)は,本件特許の特許請求の範囲請求項2,5,6及び8の発明(本件各発明。ただし,訂正後にあっては,請求項2,5及び6の発明(本件各訂正発明))の技術的範囲に属し,被控訴人による被告製品の製造及び販売等の行為は,控訴人の本件特許権を侵害すると主張して,被控訴人に対し,不法行為に基づく損害賠償金の一部である30万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成26年1月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。なお,控訴人は,損害賠償金の額は,主位的に特許法102条2項による推定額55万円であると主張し,予備的に同条3項による推定額14万3130円であると主張している。 原審は,被告製品は本件各発明の技術的範囲に属するものではなく,また,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるとして,控訴人の請求を棄却したため,控訴人が,原判決を不服として,本件控訴を提起した。 2 前提事実次のとおり原判決に付加するほか,原判決「事実及び理由」第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。 原判決4頁4行目末尾に,改行の上,「エ 特許庁は,平成27年11月24日,本件訂正の請求を認めず,「特許第4673448号の請求項1ないし8に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(乙62)をしたため,控訴人は,同年12月28日,同審決の取消しを求める審決取消訴訟を提起した。」を加える。 3 争点 原判決「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,引用に係る原判決中,「(3) 訂正の対抗主張の成否(サポート要件に係る無効理由についての予備的主張)」を「(3) 訂正の対抗主張の成否」と改める。)。 |
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争点に関する当事者の主張
1 原判決の引用 当事者の主張は,下記のとおり,当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第3記載のとおりであるから,これを引用する。 2 当審における当事者の主張 (1) 争点(1)イ(構成要件2-Cの充足性)について 〔控訴人の主張〕 被告製品において,ターゲット中に占める長軸と短軸の差が0〜50%である球形の合金相(B)の体積の比率は4%以上40%以下であるから,被告製品は,構成要件2-Cを充足する。 ア 「球形」の定義 (ア) 本件明細書等には,「球形」の定義として,「球形そのものを確認することが難しい場合は,相(B)の断面の重心と外周までの長さの最小値に対する最大値の比が2以下であることを目安としてもよい。」(【0018】)とあり,球形か否か判別が困難な場合は,相(B)の断面の重心と外周までの長さの最小値に対する最大値の比が2以下であるか否かで判断することが明記されている。 このように,重心と外周までの長さの最小値に対する最大値の比が2以下のものを「球形」と規定されていることから,相(B)の単位が,1つの外周で描けるか否かで定めることは当然に導かれる。 (イ) また,混合によって球形の粉末の形状が扁平になっていたとしても,相の重心から外周までの長さの最小値に対する最大値の比が2以下であれば,拡散が進みにくく,組成不均一な相(B)となりやすい。そこで,本件明細書等では,球形か否か判別が困難な場合において,「球形」の定義を,1つの外周で描けることで規定される相であって,該相の重心から外周までの長さの最小値に対する最大値の比が2以下のものとしているのである。したがって,相(B)の単位を,1つの外周で描けるか否かで定めることは,本件明細書等に記載された相(B)を「球形」とする技術的意義に合致し,本件明細書等の記載に沿うものである。 (ウ) したがって,「球形」か否か判別が困難な場合において,「球形の合金相(B)」として最大限認められる範囲は,1つの外周で描けることで規定される相であって,該相の重心から外周までの長さの最小値に対する最大値の比が2以下のものである。 イ 球形の合金相(B)の体積の比率 甲26陳述書のとおり,被告製品の球形の合金相(B)のターゲットに占める体積比率は,35.3%である。 すなわち,乙9報告書において,球形の合金相(B)の体積比率は45.12%とされているところ,乙9報告書において球形とされた相から,正しい「球形」の合金相(B)の基準(前記ア)に該当しない相(合金相番号10,11,12,13,14,16,30,31,32,34,35,41,45,48,51,52,53,54,58,61,62,63,66,67,68,70,77,78,79,80,81,83,85,86,87,93,97,99,104,106,108,110,111,113,117,118,122。なお,合金相番号については,原判決48頁の画像参照。以下同じ。)を除外すれば,その体積比率は35.3%になる。 乙9報告書において相を球形とした抽出基準は,相の重心から外周に向かって複数の線を引いたときに長さの比が2以下の組合せがありさえすればよいというものであり誤りであるから,球形の合金相(B)の体積比率を45.12%とした乙9報告書は誤りである。 ウ 被控訴人の主張について(ア) 被控訴人は,控訴人の「球形」の定義に関する主張に変遷がある旨主張するが,控訴人の「球形」の定義に関する主張は一貫しており,その比率の算出において,迅速な訴訟進行等を考慮して,被控訴人の主張に譲歩したものにすぎない。 (イ) また,被控訴人は,球形の合金相(B)について「Crが25mol%以上濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し,外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっている」という組成に限定されるべきであると主張するが,そもそも,特許請求の範囲に記載の発明の技術的範囲は,実施例の記載に限定解釈されるべきではない。 (ウ) さらに,被告製品は,アトマイズ粉末を焼結して製造されているところ,アトマイズ粉末を用いたターゲットの一断面で円形として観察される相の立体形状は,球形であると判断するのが技術的に正しいことなどからすれば,ターゲットの研磨面上観察される断面の画像から,当該粒子の立体形状を推定できない旨の被控訴人の主張は誤りである。 〔被控訴人の主張〕ア 主位的主張本件明細書等の記載に基づいて「球形の合金相(B)」を適切に解釈すれば,球形の合金相(B)は,「原料としてCoが60mol%,Crが40mol%の組成を有する球形粉末又はCoが40mol%,Crが60mol%の組成を有する球形粉末を添加して形成させ」ることによって得られる,「Crが25mol%以上濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し,外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっている」という組成に限定されるべきである。 そして,被告製品にはそのような「球形の合金相(B)」は存在しないから,その体積比率は0%である。被告製品は,構成要件2-Cを充足しない。 イ 予備的主張 (ア) 「球形」の定義 控訴人は,球形の合金相(B)の単位は,1つの外周で描けるか否かで定める旨主張するが,このような抽出基準は,本件明細書等には記載されていない。すなわち,本件明細書等の【0018】の記載は,「重心から外周までの長さの最小値に対する最大値の比が2以下である」といった「球形」該当性の判断基準を示したものであり,「球形」該当性が問題となる「合金相」自体の範囲を画する基準は何ら開示されていない。上記の抽出基準によって球形の合金相(B)の範囲を画することとすると,写真上同じ色でつながっている限り「1 つの外周で描ける」ことになり合金相の範囲がどこまでも際限なく広がっていくこととなる。 (イ) 球形の合金相(B)の体積の比率 被告製品の断面の画像(原判決48頁)に基づいて算定すれば,乙9報告書のとおり,被告製品の球形の合金相(B)のターゲットに占める体積比率は,45.12%である。 また,被告製品の別の断面の画像(乙6報告書の図6)に基づいて算定すれば,乙49のとおり,体積比率は54.4%になり,さらに,別の断面の画像(甲5報告書の図7)に基づいて算定すれば,乙50のとおり,体積比率は,42.9%,42.7%になる。 (ウ) そもそも,ターゲットの研磨面上観察される断面の画像から,当該粒子の立体形状が「球形」であるか否かを判定することも,その「直径」を測定することも不可能であるし,原料から推定することもできない。 (エ) さらに,原判決も指摘するとおり,球形の合金相(B)の抽出に関する控訴人の主張は一貫性がない。控訴人は,関連事件である別件訴訟(東京地方裁判所平成25年(ワ)第30799号)と比較しても,恣意的に球形の合金相(B)を抽出している。 (オ) したがって,被告製品の球形の合金相(B)のターゲット中に占める体積比率が40%以上であることは明らかであるから,被告製品は,構成要件2-Cを充足しない。 (2) 争点(2)ウ(無効理由3〔サポート要件違反〕)について〔被控訴人の主張〕ア 発明の詳細な説明に記載された本件各発明の課題解決手段本件明細書等の【0015】に「ターゲット組織に含まれる球形の合金相(B)が,中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相を形成していることが有効である。本願発明は,このようなターゲットを提供する。」と記載されていることから分かるように,本件明細書等は,「中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相」を必須の構成要件として開示していることが明らかである。 また,本件明細書等に具体的に開示されている球形の合金相(B)は,実施例に記載されている,原料としてCoが60mol%,Crが40mol%の組成を有する球形粉末又はCoが40mol%,Crが60mol%の組成を有する球形粉末を添加して形成させた結果得られた,「Crが25mol%以上濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し,外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっている球形の合金相(B)」のみであり,これ以外の球形の合金相(B)の具体的組成により発明の課題が解決可能であるか否かについては,本件明細書等を参酌しても不明である。 したがって,本件明細書等の発明の詳細な説明には,発明の課題を解決する手段として「球形の合金相(B)は,Co-Cr合金であって,中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成であるスパッタリングターゲット」であることが記載されており,このことを特定していない本件各発明に係る特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。 イ 控訴人の主張について控訴人の主張は,同一の自然法則の関与する全ての範囲にクレームの技術的範囲を拡張しようとするものであって,失当である。 (ア) 第1のメカニズム 本件明細書等の【0016】におけるメカニズムの記載は,本件明細書等の【0015】で開示された「中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相」という必須の構成要件を含むことにより,なぜ漏洩磁束が向上するのかについて,メカニズムの説明を試みようとしたものであって,かかるメカニズムを含むもの全てを課題解決手段として挙げる趣旨でないことは一見して明らかである。 (イ) 第2のメカニズム 第2のメカニズムも,第1のメカニズムと同様に「中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相」という構成要件を含有することによって漏洩磁束が増加する理由の説明を試みたものであって,単に相(A)に球形の合金相(B)を含有させればよいことの根拠となるものではない。 ウ 小括 以上のとおり,「球形の合金相(B)」が「Co-Cr合金であって,中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相(B)」であるスパッタリングターゲット以外の実施態様についてはサポート要件を満足するものではない。 〔控訴人の主張〕 ア 本件各発明が解決すべき課題は,ターゲット全体の組成を変えることなく,ターゲットの厚さも変えることなく,漏洩磁束を大きくすることである。 そして,以下のとおり,本件明細書等の発明の詳細な説明の記載によれば,Co及びCr等の各磁性の特質を知る当業者は,球形の合金相(B)の組成について限定がなくとも,本件各発明の上記課題を解決できると認識できるというべきである。 (ア) 第1のメカニズムa 球形の合金相(B)の存在によって漏洩磁束を高める第1のメカニズムは,本件明細書等の【0016】に記載されたとおり,球形の合金相(B)内の濃度変動が,格子歪みを生み出し,Co原子が持つ磁気モーメントについて互いに非平衡状態を取らせるというものである。 そして,球形の合金相(B)を構成する金属と相(A)を構成する金属に組成差がある場合,焼結によって,両者の構成元素が相互拡散して,その領域に濃度変動が生まれるから,球形の合金相(B)内における濃度変動は,相(A)と組成のうえで区別可能な,球形の合金相(B)を含有させるという構成によって実現されるものである。 また,本件明細書等の【0015】には,球形の合金相(B)におけるCr濃度の分布状態は,焼結温度や原料粉の性状によって変化することを前提に,「球形の合金相(B)の存在」それ自体が「本願発明ターゲットの独特の組織構造を示す」と記載されている。 したがって,当業者は,相(A)に球形の合金相(B)を含有させるという構成により,球形の合金相(B)内の濃度変動を生じさせ,格子歪みを引き起こし,漏洩磁束を高める要因となることを理解できる。当業者は,【0015】に記載された球形の合金相(B)の具体的な組成のみを前提に,漏洩磁束が向上すると限定して理解することはない。 b そして,球形の合金相(B)内の濃度変動が格子歪みを引き起こすという観点で捉えた場合,当業者は,その濃度変動が,球形の合金相(B)においてCrの濃度が周辺部から中心部に向かって高くなる場合の濃度変動と,その逆であるCrの濃度が周辺部から中心部に向かって低くなる場合の濃度変動とで,技術的に異なるものと認識することはない。 (イ) 第2のメカニズム球形の合金相(B)の存在によって漏洩磁束を高める第2のメカニズムは,本件明細書等の【0017】に記載されたとおり,Crの濃淡を球形の合金相(B)内だけでなく,ターゲット全体でもCr濃度の高い領域を点在させるというものである。 そして,ターゲットの原料であるCo,Cr等のうち,Coは強磁性を示す金属であるから,Coの濃度が高い領域は,磁束は通過しやすいが,Cr濃度の高い領域は,Coの濃度が高い領域に比べて磁束は通過し難く,ターゲット内において,Coの濃度が高い領域は磁束が密となり,Crの濃度が高い領域は磁束が粗となる。 そうすると,磁束が均一な場合と比較して,その様な磁束の粗密がある場合は,全体のエネルギーが高くなるため,エネルギーを低くしようとして,磁束が内部を通過するより,外部に漏れ出た方がエネルギー的に安定になる。 したがって,当業者は,相(A)に球形の合金相(B)を含有させるという構成により,ターゲット内で磁束の粗密を作り出し,漏洩磁束を高める要因となることを理解できる。 (ウ) 本件各発明の課題との関係 a 本件各発明は,漏洩磁束を大きくすることを解決すべき技術的課題として,ターゲットの組織構造を調整するという新しい観点に基づき,ターゲット中に球形の合金相(B)を存在させるという新規な組織構造を採用することによって漏洩磁束を向上させるというものである。そして,優先権主張日前にこのような技術的思想を開示した先行発明はない。 そうすると,当業者は,球形の合金相(B)の具体的組成について限定がなくても,球形の合金相(B)を相(A)に分散させるという組織構造により,課題を解決できると認識できるというべきである。CoとCrの濃度範囲について,必ずしも実施例で具体的な測定結果をもって裏付けられる必要はない。 b また,本件各発明は,球形の合金相(B)に対応する磁性相の組成を特定のものに限定することで,より効率的に漏洩磁束を向上させることを目的したものではない。しかも,本件明細書等の実施例と比較例は,球形の合金相(B)を含有しているか否かのみで比較し,球形の合金相(B)の具体的組成に応じて漏洩磁束がどの程度大きくなるかについて比較するものはない。 したがって,本件明細書等の実施例は,出願時において出願人が,より効率的に漏洩磁束を高める観点で望ましいものとして記載したものにすぎないというべきである。 イ 小括 以上のとおり,当業者は,球形の合金相(B)の具体的組成について限定がなくとも,球形の合金相(B)をターゲットの中に占める体積の比率で4%以上40%以下含有することが規定されている本件各発明で,課題を解決できると認識できる。 よって,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載にサポート要件違反はない。 (3) 争点(3)(訂正の対抗主張の成否)について 〔控訴人の主張〕 ア 本件訂正は新規事項を追加するものではないこと (ア) 本件明細書等の【0016】には,「球形の合金相(B)には,少なからずCrの濃度が低い領域と高い領域が存在し,このような濃度変動の大きな場所では格子歪みが存在すると考えられる」との記載がある。 そして,Co濃度も球形の合金相(B)と相(A)とは異なり,相互拡散が生じるから,球形の合金相(B)には,少なからずCoの濃度が低い領域と高い領域も存在することも事実上記載されているといえる。 (イ) また,本件明細書等の【0018】には,「球形は,その重心から外周までの長さの最小値に対する最大値の比が2以下であると言い換えることもできる。 この範囲であれば,外周部に多少の凹凸があっても,組成不均一な相(B)を形成することができる。」との記載がある。 そして,組成不均一な相(B)とは,球形の合金相(B)を構成する元素に濃淡があることを意味している。 (ウ) さらに,本件明細書等の【0019】には,「上記数値範囲より小さい場合には,十分な焼結温度で高密度のターゲットを得ようとすると,金属元素同士の拡散が進み,Crの濃度分布をもつ球形の合金相(B)が形成され難くなる。」,【0035】には,「図2に示すように,EPMAの元素分布画像で白く見えている箇所が,当該元素の濃度の高い領域である。すなわち,球形の合金相の部分においてCoとCrの濃度が高くなっており,特にCrは周辺部から中心部に向かって,より濃度が高く(白っぽく)なっている。」との記載もある。 (エ) 以上のとおり,「前記球形の合金相(B)はCo濃度の高い領域と低い領域及びCr濃度の高い領域と低い領域をそれぞれ有している」という事項は,本件明細書等に記載されている事項であるから,新たな技術的事項を導入するものではない。本件訂正は,新規事項を追加するものではない。 イ 本件各訂正発明にサポート要件違反はないこと 本件各発明ですらサポート要件を満たすことに加え,本件訂正は,球形の合金相(B)について,「前記球形の合金相(B)はCo濃度の高い領域と低い領域及びCr濃度の高い領域と低い領域をそれぞれ有している」旨さらに限定するものであるから,本件各訂正発明は,球形の合金相(B)内において濃度変動が存在すること,球形の合金相(B)と相(A)とは組成が異なることが明確に示されている。 そうすると,当業者であれば,本件各訂正発明で,課題を解決することができると明確に理解できる。よって,本件各訂正発明に係る特許請求の範囲の記載にサポート要件違反はない。 〔被控訴人の主張〕 ア そもそも,本件訂正は新規事項の追加に当たり,許されない。 イ また,本件訂正は,特許請求の範囲に,球形の合金相(B)中にCo及びCrの濃度勾配が存在することのみを追加するにすぎない。したがって,前記(2)〔被控訴人の主張〕と同様に,本件各訂正発明も,課題を解決する手段である「球形の合金相(B)は,Co-Cr合金であって,中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成であるスパッタリングターゲット」であることが特定されていないから,本件各訂正発明に係る特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。 |
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当裁判所の判断
当裁判所は,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであって,本件訂正によってもその無効理由を解消することはできないから,控訴人の請求は棄却すべきものと判断する。 その理由は,以下のとおりである。 1 本件各発明及び本件各訂正発明(本件各発明等)について (1) 本件各発明に係る特許請求の範囲請求項2,5,6及び8は,原判決別添特許公報のとおりであり,本件各訂正発明に係る特許請求の範囲請求項2,5及び6は,原判決「事実及び理由」第2の2(6)記載のとおりであるところ,本件明細書等の発明の詳細な説明には,おおむね,次の記載がある。なお,控訴人は,本件明細書等の訂正は主張していない。 ア 技術分野 【0001】本発明は…特に垂直磁気記録方式を採用したハードディスクのグラニュラー磁気記録膜の成膜に使用される非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットに関し,漏洩磁束が大きくマグネトロンスパッタ装置でスパッタする際に安定した放電が得られ,かつ高密度で,スパッタ時に発生するパーティクルの少ないスパッタリングターゲットに関する。 イ 背景技術 【0002】…垂直磁気記録方式を採用するハードディスクの記録媒体では,磁気記録膜中の磁性粒子間の磁気的相互作用を非磁性材料により遮断,または弱めたグラニュラー膜を採用し,磁気記録媒体としての各種特性を向上させている。このグラニュラー膜に最適な材料の一つとしてCo-Cr-Pt-SiO2が知られており…一般に,Coを主成分とした強磁性のCo-Cr-Pt合金の素地中に非磁性材料であるSiO2が均一に微細分散した非磁性材粒子分散型強磁性材ターゲットをスパッタリングして作製される。 【0005】…上記の磁気記録膜の成膜では,生産性の高さからマグネトロンスパッタリング装置が広く用いられている。… 【0006】マグネトロンスパッタ装置の特徴は,ターゲットの裏面側に磁石を備えており,この磁石からターゲット表面に漏れ出てくる磁束(漏洩磁束)が,ターゲット表面近傍において電子をサイクロイド運動させて,効率良くプラズマを発生させることを可能としていることである。 ウ 発明が解決しようとする課題 【0008】一般に,上記のようなマグネトロンスパッタ装置で非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットをスパッタしようとすると,磁石からの磁束の多くは強磁性材であるターゲット内部を通過してしまうため,漏洩磁束が少なくなり,スパッタ時に放電が立たない,あるいは放電しても放電が安定しないという大きな問題が生じる。 この問題を解決するには,ターゲット中の非磁性材粒子の体積比率を増やすことや,Coの含有割合を減らすことが考えられる。しかし,この場合,所望のグラニュラー膜を得ることができないため本質的な解決策ではない。また,ターゲットの厚みを薄くすることで漏洩磁束を向上させることは可能だが,この場合ターゲットのライフが短くなり,頻繁にターゲットを交換する必要が生じるのでコストアップの要因になる。 【0009】…焼結の温度を下げると,同一の混合粉末を用いて,同一組成・同一形状のターゲットを作製する場合,漏洩磁束が大きくなるという知見を得た。しかし…ターゲットの相対密度が98%を下回ってしまうため,パーティクルの発生という新たな問題に直面した。 本発明は上記問題を鑑みて,漏洩磁束を向上させて,マグネトロンスパッタ装置で安定した放電が得られ,かつ,高密度でスパッタ時に発生するパーティクルの少ない非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットを提供することを課題とする。 エ 課題を解決するための手段 【0010】上記の課題を解決するために,…ターゲットの組織構造を調整することにより,漏洩磁束の大きいターゲットが得られることを見出した。また,このターゲットは,密度を十分高くすることができ,スパッタ時に発生するパーティクルを減少させることができるとの知見を得た。 【0014】本発明の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットでは,マトリックスとなる非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)を含むターゲット全体の体積において,球形の合金相(B)の占める体積比率を4%以上40%以下としているが,これは球形の合金相(B)の占める体積比率が,上記数値範囲より小さいときには,漏洩磁束の向上が少ないからである。また,上記数値範囲より大きいときには,ターゲットの組成にもよるが,該相(A)中で,相対的に非磁性材粒子の体積比率が増えるので,非磁性材粒子を均一に微細分散させることが難しくなり,スパッタ時にパーティクルが増加するといった,別の問題が発生するからである。 以上から,本願発明の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットは,体積比率で4%以上40%以下の球形の合金相(B)を有するものである。… 【0015】上記非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットにおいて,ターゲット組織に含まれる球形の合金相(B)が,中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相を形成していることが有効である。本願発明は,このようなターゲットを提供する。 すなわち,このようなターゲットでは,球形の合金相(B)は,中心部と外周部にかけて顕著な不均一性を有している。これは電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いてターゲットの研磨面の元素分布を測定すると明確に確認できる。 球形の合金相(B)におけるCr濃度の分布状態は,焼結温度や原料粉の性状によって変化するが,上記の通り,球形の合金相(B)の存在は,本願発明ターゲットの独特の組織構造を示すものであり,本願ターゲットの漏洩磁束を高める大きな要因となっている。 【0016】球形の合金相(B)の存在による漏洩磁束を高めるメカニズムは,必ずしも明確ではないが,以下のような理由が推測される。 第一に,球形の合金相(B)には,少なからずCrの濃度が低い領域と高い領域が存在し,このような濃度変動の大きな場所では格子歪みが存在すると考えられる。 格子歪みがあると,Co原子が持つ磁気モーメントは互いに非平衡状態をとるため,これらの磁気モーメントの向きを揃えるためには,より強力な磁場が必要となる。 従って,金属元素が均一に拡散し,格子歪みのない状態と比較すると,透磁率が低くなるため,マグネトロンスパッタ装置の磁石からの磁束は,ターゲット内部を通過する量が減って,ターゲット表面に漏れ出てくる量が増す。 【0017】第二に,球形の合金相(B)中のCr濃度の高い領域は,析出物として磁壁の移動を妨げていると考えられる。その結果,ターゲットの透磁率が低くなり漏洩磁束が増す。… さらに該相(B)中のCr濃度の高い領域は,母相である強磁性相内の磁気的相互作用を遮断するので,Cr濃度の高い領域の存在が漏洩磁束に影響を与えている可能性が考えられる。 【0018】ここで,本願発明において使用する球形とは…いずれも,長軸と短軸の差が0〜50%であるものを言う。…この範囲であれば,外周部に多少の凹凸があっても,組成不均一な相(B)を形成することができる。…同一体積では,球形の方が表面積が小さくなるので,周囲の金属粉(Co粉,Pt粉など)との拡散が進みにくく,組成不均一な相(B),すなわち中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相が容易に形成されるようになる。 【0019】また,球形の合金相(B)の直径は50〜200μmの範囲にあるのが好ましい。…上記数値範囲より小さい場合には,十分な焼結温度で高密度のターゲットを得ようとすると,金属元素同士の拡散が進み,Crの濃度分布をもつ球形の合金相(B)が形成され難くなる。従って,本発明においては,上記数値範囲内の直径を有する球形の合金相(B)が生ずるようにするのが望ましいと言える。 オ 発明の効果 【0023】このように調整したターゲットは,漏洩磁束の大きいターゲットとなり,マグネトロンスパッタ装置で使用したとき,不活性ガスの電離促進が効率的に進み,安定した放電が得られる。またターゲットの厚みを厚くすることができるため,ターゲットの交換頻度が小さくなり,低コストで磁性体薄膜を製造できるというメリットがある。さらに,高密度化により,パーティクルの発生量を低減させることができるというメリットもある。 (2) 本件各発明等の特徴 前記(1)の記載によれば,本件各発明等の特徴について,以下の点が開示されている。 ア 本件各発明等は,垂直磁気記録方式を採用したハードディスクのグラニュラー磁気記録膜の成膜に使用される非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットに関するものである(【0001】)。 一般に,グラニュラー膜は,Coを主成分とした強磁性のCo-Cr-Pt合金の素地中に非磁性材料であるSiO2が均一に微細分散した非磁性材粒子分散型強磁性材ターゲットを,マグネトロンスパッタリング装置でスパッタリングして作製される。マグネトロンスパッタ装置の特徴は,ターゲットの裏面側に磁石を備えており,この磁石からターゲット表面に漏れ出てくる磁束(漏洩磁束)により,効率良くプラズマを発生させることを可能とするところにある(【0002】,【0005】,【0006】)。 イ マグネトロンスパッタ装置で非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットをスパッタしようとすると,磁石からの磁束の多くは強磁性材であるターゲット内部を通過してしまうため,漏洩磁束が少なくなるという問題がある(【0008】)。 この問題を解決するには,ターゲット中の非磁性材粒子の体積比率を増やすことや,Coの含有割合を減らすことが考えられるが,この場合,所望のグラニュラー膜を得ることができない。また,ターゲットの厚みを薄くすることで漏洩磁束を向上させることは可能だが,この場合ターゲットのライフが短くなる。焼結の温度を下げると漏洩磁束が大きくなるが,ターゲットの相対密度が下がり,パーティクルの発生という問題がある(【0008】,【0009】)。 ウ 本件各発明等は,漏洩磁束を向上させるとともに,パーティクルの発生の少ない非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットを提供することを課題とし,かかる課題の解決手段として,ターゲットの組織構造を調整したものである(【0009】,【0010】)。 具体的には,少なくとも,非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)の中に,全体との体積比率で4%以上40%以下の球形の合金相(B)を有するようにしたというものである(【0014】)。 エ 本件各発明等のように調整したターゲットは,漏洩磁束の大きいターゲットとなるほか,ターゲットの厚みを厚くすることができ,パーティクルの発生量を低減させることができる(【0023】)。 2 争点(2)ウ(無効理由3〔サポート要件違反〕)について (1) 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。 そして,被控訴人は,本件発明2の特許請求の範囲請求項2の記載は,「球形の合金相(B)は,Co-Cr合金であって,中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成であること」が特定されていない点で,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない旨主張する。 そこで,本件発明2であっても,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かについて検討する。 (2) 発明の詳細な説明に記載された発明の課題解決手段 ア 本件明細書等の【0018】の記載 本件明細書等の【0018】には,「組成不均一な相(B),すなわち中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相」との記載がある。 そして,前記1(2)のとおり,本件発明2は,少なくとも,非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)の中に,全体との体積比率で4%以上40%以下の球形の合金相(B)を有するようにターゲットの組織構造を調整したものであるところ,【0018】には,かかる合金相(B)の「球形」という文言の定義付けと,本件各訂正発明の技術的事項である合金相(B)が球形でなければならないことの理由付けがされている。その上で,「合金相(B)が球形であると…組成不均一な相(B),すなわち中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相が容易に形成されるようになる」と記載されている。 したがって,本件発明2の構成要件である合金相(B)が球形であることは,「中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相」を形成するために求められているものと理解できる。 イ 本件明細書等の発明を実施するための形態に関する記載 本件明細書等の発明を実施するための形態のうち【0027】には,球形の合金相(B)の原料粉末となるCo-Cr球形粉末のCr含有量について,「Co-Cr球形粉末は,ターゲットの組織において観察される球形の合金相(B)に対応するものである。Co-Cr球形粉末の組成はCrの含有量が25mol%以上70mol%以下とすることが望ましい。Co-Cr球形粉末の組成を上記範囲に限定する理由は,Crの含有量が上記範囲より少ないと,球形の合金相(B)中にCrが濃縮された領域が形成されにくくなり,漏洩磁束の向上が期待できない」と記載されている。 そして,原料粉末を焼結すると金属元素同士の拡散が進むところ,上記記載は,焼結によって,球形の合金相(B)中にCrが濃縮された領域を形成させるために,原料粉末となるCo-Cr球形粉末のCrの含有量が25mol%以上であることが望ましいとするものである。そして,球形の合金相(B)中にCrが濃縮された領域を形成させることを前提に,ターゲット全体としてCrの含有量が5mol%以上20mol%以下の合金の中で,Crの含有量を25mol%以上とする球形の合金相(B)を焼結させるのであるから,結果として,中心付近にCrが約25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相が形成されることが想定されるものである。 このように,結果として,中心付近にCrが約25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相が形成されることを想定して,本件明細書等の発明を実施するための形態には,原料粉末となるCo-Cr球形粉末のCrの含有量が25mol%以上であることが望ましいと記載されているということができる。 ウ 本件明細書等の実施例の記載 焼結後の球形の合金相(B)中のCrの濃度分布について,本件明細書等の実施例1ないし9に,どのような記載があるかについて検討する。 (ア) 実施例1ないし3 本件明細書等の実施例1ないし3には,球形の合金相(B)中のCrの濃度分布について,「球形の合金相では,Crが25mol%以上濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し,外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっていることが確認された。」と記載されている(【0035】,【0043】,【0051】)。 (イ) 実施例4ないし6,8及び9 本件明細書等の実施例4ないし6,8及び9には,球形の合金相(B)中のCrの濃度分布について,「球形の合金相の部分においてCoとCrの濃度が高くなっており,特にCrは周辺部から中心部に向かって,より濃度が高くなっていることが確認された。」と記載されている(【0059】,【0067】,【0075】,【0091】,【0099】)。 そして,これらの実施例4ないし6,8及び9においては,球形の合金相の中心付近のCr濃度は明記されていないものの,実施例2と比較すれば,これらの実施例における球形の合金相中のCrの濃度分布は,「Crが25mol%以上濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し,外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっている」ものと合理的に推定される。 すなわち,実施例2では,球形の合金相(B)の原料粉末として,「直径が50〜150μmの範囲にありCrを40mol%含有するCo-Cr球形粉末」 【0 (037】)を用い,「真空雰囲気中,温度1150℃,保持時間2時間,加圧力30MPaの条件」(【0040】)の焼結条件でターゲットを作製している。これに対し,実施例4ないし6,8及び9における球形の合金相の原料粉末は,いずれも「直径が75〜150μmの範囲にありCrを40mol%含有するCo-Cr球形粉末」(【0053】,【0061】,【0069】,【0085】,【0093】)であって,Crの濃度(40mol%)は同一で,直径の下限値(75μm)は実施例2の直径の下限値(50μm)を上回っており,焼結温度(【0054】,【0062】,【0070】,【0086】,【0094】)は,いずれの実施例においても,実施例2の焼結温度(1150℃)を下回り,その他の焼結条件(焼結時間,加圧力)は同一である。そして,Co-Cr球形粉末の直径が大きい程,体積に対する表面積の割合が小さくなることから,焼結時におけるCrの拡散は起こりにくく,また,焼結時の温度が低い程,焼結時におけるCrの拡散は起こりにくいものである。そうすると,実施例4ないし6,8及び9における球形の合金相(B)は,実施例2の球形の合金相(B)よりもCrの拡散が起こりにくいといえる。そして,実施例2では,「Crが25mol%以上濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し,外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっている」という球形の合金相(B)を作製するに至っていることからすれば,実施例4ないし6,8及び9の球形の合金相(B)中のCrの濃度分布もまた,「Crが25mol%以上濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し,外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっている」ものと推定できる。 (ウ) 実施例7 本件明細書等の実施例7には,球形の合金相(B)中のCrの濃度分布について,「球形の合金相の部分においてCoとCrの濃度が高くなっており,特にCrは周辺部から中心部に向かって,より濃度が高くなっていることが確認された。」と記載されている(【0083】)。 実施例7においては,球形の合金相の中心付近のCr濃度は明記されていない。 もっとも,実施例2と比較した場合,実施例7における球形の合金相の原料粉末は,「直径が75〜150μmの範囲にありCrを40mol%含有するCo-Cr球形粉末」(【0077】)であって,実施例2のCrの濃度(40mol%)と同一で,直径の下限値(75μm)は実施例2の直径の下限値(50μm)を上回っており,焼結条件のうち焼結時間,加圧力は同一である。一方,焼結温度(1300℃,【0078】)は,実施例2の焼結温度(1150℃)を上回る。そうすると,実施例7は,原料粉末の直径の下限値が大きい点では,実施例2よりもCrの拡散が起こりにくいといえる一方,焼結温度の点では,実施例2よりもCrの拡散が起こりやすいといえる。したがって,実施例7の球形の合金相(B)の濃度分布は,実施例2と同様に「Crが25mol%以上濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し,外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっている」とまではいえないものの,中心部のCrの濃度が25mol%を下回るか否かは明らかではなく,少なくとも,それに近い程度に濃縮されたものというべきである。 (エ) 以上のとおり,本件明細書等には実施例1ないし9の記載があるところ,その球形の合金相(B)中のCrの濃度分布について,実施例1ないし6,8,9には,いずれも「Crが25mol%以上濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し,外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっている」ものが記載されており,実施例7についても,下限値は不明であるもののCrが「濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し,外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっている」ものが記載されている。 エ 球形の合金相(B)について濃度変動の程度が小さい場合 他方,Crの濃度変動の程度が小さい球形の合金相(B)であっても,漏洩磁束の向上という本件発明2の課題を解決できるか否かは明らかではない。 例えば,Cr濃度について周囲から中心部に向かって低くなる濃度分布となるような球形の合金相(B)の場合を検討するに,かかる濃度分布とするためには,球形の合金相(B)について周囲から内部に向かってCrを拡散させる必要があるから,その製法は,球形の合金相(B)の原料粉末となる球形粉にはCrを含有させず,相(A)となる原料粉末中にCr粉末を含有させて混合粉を準備し,これを焼結することで,相(A)から,球形の合金相(B)にCrを拡散させることになる。 しかし,相(A)のターゲット中に占める体積の比率は60〜96%と,球形の合金相(B)に比べて大きいから,焼結前の相(A)中のCr濃度は比較的低いものとならざるを得ず,結果として,焼結によって金属元素同士の拡散が生じたとしても,球形の合金相(B)に生じるCrの濃度変動の程度は大きなものにはならず,そのような濃度分布によって漏洩磁束の向上を見込めるか否かについては不明である。このように,球形の合金相(B)の具体的組成の典型例として想定されるCr濃度が周囲から中心部に向かって低くなる濃度分布の場合に,本件発明2の課題を解決できるか否かは明らかではない。 また,その他,球形の合金相(B)において,単にCrの濃度変動があることのみで,漏洩磁束の向上に至ったことを示す具体例もない。 このように,本件明細書等の全ての記載を考慮しても,球形の合金相(B)について,Crの濃度変動の程度が小さい場合に,漏洩磁束の向上という本件発明2の課題を解決できるか否かは明らかではない。 オ まとめ以上のとおり,@本件発明2の構成要件である合金相(B)が球形であることは,「中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相」を形成するために求められているものと理解できること,A本件明細書等の発明を実施するための形態に関する記載は,中心付近にCrが約25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相が形成されることを想定していること,B本件明細書等に記載された実施例1ないし6,8及び9は,全て球形の合金相(B)について,「Crが25mol%以上濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し,外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっている」ものであり,かつ,実施例7に記載された球形の合金相(B)も,下限値は不明であるもののCrが「濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し,外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっている」ものであること,C球形の合金相(B)について,Crの濃度変動の程度が小さい場合に,漏洩磁束の向上という本件発明2の課題を解決できるか否かは明らかではないことからすれば,Crの濃度変動があるか否か不明であるだけではなく,さらに,その濃度変動の程度も何ら特定されていない球形の合金相(B)を含むターゲットは,当業者が本件発明2の課題を解決できると認識できる範囲のものということはできない。 なお,本件明細書等に記載された発明を実施するための形態も実施例も,いずれもCo-Cr合金である原料粉末を焼結するものであるが,本件明細書等の【0018】の記載は,球形の合金相(B)の組成をCo-Cr合金に限定しておらず,また,「周囲の金属粉(Co粉,Pt粉など)との拡散が進みにくく」と記載されていることからすれば,球形の合金相(B)について,Ptなどが含まれる合金も想定されているものである。そうすると,当業者は,発明の課題を解決するに当たり,球形の合金相(B)が,「Co-Cr合金」であることまで必要であると認識するということはできない。 (3) 控訴人の主張について ア 第1のメカニズム(【0016】)及び第2のメカニズム(【0017】) 控訴人は,本件発明2は,第1のメカニズムに関する記載(【0016】)及び第2のメカニズムに関する記載(【0017】)により,当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると主張する。 確かに,本件明細書等の【0016】及び【0017】に記載された第1及び第2のメカニズムによれば,定性的には,球形の合金相(B)中にCrの濃度が低い領域と高い領域の存在により生じた濃度変動があれば(第1のメカニズム),あるいは,球形の合金相(B)中に析出物としてCrが存在すれば(第2のメカニズム),ターゲットの透磁率は低くなると解することは可能である。 しかし,第1のメカニズムについては,ターゲットの透磁率を低くするために必要な格子歪みを発生させるためには,Crの濃度について「濃度変動の大きな場所」の存在が必要とされており,単にCrの濃度変動があれば足りると解することまではできない。そして,【0016】の記載からでは,定量的に,第1のメカニズムに関し,どの程度のCrの濃度変動を有する場所が,ターゲットの透磁率を低くするために必要な程度の「格子歪み」を発生させる「濃度変動の大きな場所」に該当するのかについて明らかではない。 また,第2のメカニズムについても「Cr濃度の高い領域」が必要とされており,Cr濃度が一定程度以上であることが求められており,単に析出物としてCrがあれば足りると解することまではできない。そして,【0017】の記載からでは,定量的に,どの程度のCr濃度であれば「Cr濃度の高い領域」に該当するのかについて明らかではない。 そうすると,球形の合金相(B)の存在により,第1のメカニズム及び第2のメカニズムによってターゲットの透磁率が低くなるとしても,当業者は,球形の合金相(B)のCrの濃度変動の程度を一切考慮せずに,球形の合金相(B)が存在するだけで,漏洩磁束が高められると認識するまでは至らないから,Crの濃度変動があるだけで,その濃度変動の程度が何ら特定されていない球形の合金相(B)を含むターゲットは,当業者が本件発明2の課題を解決できると認識できる範囲のものということはできない。 イ 本件明細書等の【0015】の記載 本件明細書等の【0015】には,「ターゲット組織に含まれる球形の合金相(B)が,中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相を形成していることが有効である。本願発明は,このようなターゲットを提供する。すなわち,このようなターゲットでは,球形の合金相(B)は,中心部と外周部にかけて顕著な不均一性を有している。…球形の合金相(B)におけるCr濃度の分布状態は,焼結温度や原料粉の性状によって変化するが,上記の通り,球形の合金相(B)の存在は,本願発明ターゲットの独特の組織構造を示すものであり,本願ターゲットの漏洩磁束を高める大きな要因となっている。」と記載されているところ,控訴人は,「球形の合金相(B)の存在」それ自体が「本願ターゲットの独特の組織構造を示す」とあるから,当業者は,上記記載の球形の合金相(B)の具体的な組成のみを前提に,漏洩磁束が向上すると限定して理解することはないと主張する。 しかし,【0015】には,「球形の合金相(B)におけるCr濃度の分布状態は,焼結温度や原料粉の性状によって変化するが,上記の通り,球形の合金相(B)の存在は,本願発明ターゲットの独特の組織構造を示すもの」とされ,「上記の通り,球形の合金相(B)の存在は」との文言は,「中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相を形成していることが有効である」とされる球形の合金相(B)の存在を受けたものである。そして,「球形の合金相(B)におけるCr濃度の分布状態は,焼結温度や原料粉の性状によって変化するが」との文言は,あくまでも「中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成」の範囲内で,Cr濃度の分布状態が変化するという趣旨のものと解するのが自然である。 したがって,【0015】の記載をもって,「球形の合金相(B)の存在」それ自体が「本願ターゲットの独特の組織構造を示す」と解釈するのは相当ではなく,控訴人の主張は採用できない。 ウ 本件発明2の課題との関係 控訴人は,本件発明2は,漏洩磁束を大きくすることを解決すべき技術的課題として,従来技術とは異なる新たな観点に基づき,ターゲット中に球形の合金相(B)を存在させるという新規な組織構造を採用することによって漏洩磁束を向上させるというものであるから,CoとCrの濃度範囲について,必ずしも実施例で具体的な測定結果をもって裏付けられる必要はなく,また,本件明細書等の実施例に記載された具体的な測定結果は,より効率的に漏洩磁束を高める観点から望ましいものとして記載されたものにすぎないなどと主張する。 確かに,本件発明2は,非磁性材粒子が均一に微細分散した相(A)の中に,球形の合金相(B)を有するようにしたという技術的事項を含むものであって,マグネトロンスパッタ装置でスパッタを行う非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットの分野において,このような組織構造を有する従来技術が存在したと認めるに足りる証拠はない。 しかし,前記アのとおり,定性的には,球形の合金相(B)中にCrの濃度が低い領域と高い領域の存在により生じた濃度変動があれば,あるいは,球形の合金相(B)中に析出物としてCrが存在すれば,ターゲットの透磁率は低くなると解することは可能であるものの,球形の合金相(B)が存在するだけで,漏洩磁束をどの程度高められるかについては明らかではなく,必要とする程度に漏洩磁束を高めるには,球形の合金相(B)のCrの濃度変動の程度をも考慮せざるを得ないというべきである。 よって,このような濃度変動の程度を斟酌しない控訴人の主張は,採用できない。 エ 本件明細書等の【0018】の記載 本件明細書等の【0018】には,「ここで,本願発明において使用する球形とは…いずれも,長軸と短軸の差が0〜50%であるものを言う。…この範囲であれば,外周部に多少の凹凸があっても,組成不均一な相(B)を形成することができる。…同一体積では,球形の方が表面積が小さくなるので,周囲の金属粉(Co粉,Pt粉など)との拡散が進みにくく,組成不均一な相(B),すなわち中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相が容易に形成されるようになる」と記載されており,「組成不均一な相(B)」として,「すなわち中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相」と説明されている。 したがって,当業者は,本件発明2の課題を解決するに当たり,「組成不均一な相(B)」との記載をもって,球形の合金相(B)中においてCrの濃度変動等があれば十分であると認識するとはいえない。 オ 本件明細書等の【0035】の記載 本件明細書等の【0035】には,「図2に示すように…球形の合金相の部分においてCoとCrの濃度が高くなっており,特にCrは周辺部から中心部に向かって,より濃度が高く(白っぽく)なっている。…球形の合金相では,Crが25mol%以上濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し,外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっていることが確認された。」と記載されており,球形の合金相(B)の部分において「CoとCrの濃度が高くなっている」とされた後に「球形の合金相では,Crが25mol%以上濃縮されたCrリッチ相が中心付近に存在し,外周に近づくにつれてCrの濃度が低くなっていることが確認された」と説明されている。 したがって,当業者は,本件発明2の課題を解決するに当たり,「球形の合金相の部分においてCoとCrの濃度が高くなっており」との記載をもって,球形の合金相(B)中においてCrの濃度変動等があれば十分であると認識するとはいえない。 カ 本件明細書等の【0019】の記載 本件明細書等の【0019】には,「球形の合金相(B)の直径は50〜200μmの範囲にあるのが好ましい。…上記数値範囲より小さい場合には,十分な焼結温度で高密度のターゲットを得ようとすると,金属元素同士の拡散が進み,Crの濃度分布をもつ球形の合金相(B)が形成され難くなる。」と記載されているところ,控訴人は,「Crの濃度分布をもつ球形の合金相(B)」との記載があることから,球形の合金相(B)中の濃度分布が任意である旨記載されていると主張する。 しかし,本件明細書等の【0018】には「ここで,本願発明において使用する球形とは,真球,擬似真球,扁球(回転楕円体),擬似扁球を含む立体形状を表す。」と記載された上で,【0019】には「また,球形の合金相(B)の直径は50〜200μmの範囲にあるのが好ましい。」と記載されているのであるから,【0019】は,【0018】で指摘された球形の合金相(B)の大きさに関する記載であることは明らかである。そして,【0018】では球形の合金相(B)について「中心付近にCrが25mol%以上濃縮し,外周部にかけてCrの含有量が中心部より低くなる組成の合金相」と記載されているのであるから,【0019】 「C のrの濃度分布をもつ球形の合金相(B)」とは,【0018】に記載された球形の合金相(B)の具体的組成を前提とするものといえる。 したがって,当業者は,本件発明2の課題を解決するに当たり,「Crの濃度分布をもつ球形の合金相(B)」との記載があることをもって,球形の合金相(B)中においてCrの濃度変動等があれば十分であると認識するとはいえない。 (4) 小括以上のとおり,Crの濃度変動があるか否か不明であるだけではなく,さらに,その濃度変動の程度も何ら特定されていない球形の合金相(B)を含むターゲットは,当業者が本件発明2の課題を解決できると認識できる範囲のものということはできないから,Crの濃度変動の有無及びその程度を何ら特定しない球形の合金相(B)を含む特許請求の範囲請求項2に記載された本件発明2は,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。また,このような球形の合金相(B)を含むターゲットが,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。 したがって,本件発明2に係る請求項2の記載は,サポート要件を満たしているとはいえないから,本件発明2に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。 また,本件発明5,6及び8も,サポート要件を満たしているとはいえない請求項2を引用する発明を含むものであるから,本件発明5,6及び8に係る特許も特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。 3 争点(3)(訂正の対抗主張の成否)について(1) 本件各訂正発明に係る無効理由(サポート要件違反)について本件訂正は,球形の合金相(B)内においてCrの濃度変動があることを特定するものの,その濃度変動の程度を特定するものではない。 そして,Crの濃度変動があることが特定されたとしても,前記2で検討したとおり,その濃度変動の程度が何ら特定されていない球形の合金相(B)を含むターゲットでは,当業者が本件訂正発明2の課題を解決できると認識できる範囲のものということはできない。したがって,Crの濃度変動の程度を何ら特定しない球形の合金相(B)を含む本件訂正後の特許請求の範囲請求項2に記載された本件訂正発明2は,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。また,このような球形の合金相(B)を含むターゲットが,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。 したがって,本件訂正発明2に係る本件訂正後の特許請求の範囲請求項2の記載は,サポート要件を満たしているとはいえないから,特許無効審判により無効にされるべきであり,本件訂正の請求によっても,無効理由を解消することはできない。 また,本件訂正発明5及び6も,サポート要件を満たしているとはいえない請求項2を引用する発明を含むものであるから,特許無効審判により無効にされるべきであり,本件訂正の請求によっても,無効理由を解消することはできない。 (2) 小括 よって,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の訂正の対抗主張は,理由がない。 4 結論 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求は理由がないから,これを棄却した原判決は相当である。 よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 部眞規子 |
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裁判官 | 柵木澄子 |
裁判官 | 片瀬亮 |