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事件 平成 28年 (行ケ) 10074号 審決取消請求事件

原告松山株式会社
同訴訟代理人弁護士 小林幸夫 弓削田博 河部康弘 藤沼光太 神田秀斗
同 弁理士 樺澤襄 樺澤聡 山田哲也
被告小橋工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 鮫島正洋 高見憲 和田祐造 幸谷泰造 篠田淳郎 高橋雄一郎 北島志保 阿部実佑季
同 弁理士 林佳輔 福永健司
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/12/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2015-800151号事件について平成28年2月16日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(1) 被告は,平成13年9月3日,発明の名称を「畦塗り機」とする発明について特許出願(特願2001-265939号。甲18)をした。
(2) 被告は,平成24年2月8日,手続補正書(甲20)を提出し(以下,この補正を「本件補正」という。),同年5月25日,特許権の設定登録(特許第5000051号。以下「本件特許」という。甲50)がされた。
(3) 被告は,平成27年3月11日,本件特許について訂正審判を請求し(訂正2015-390023号。以下「本件訂正」という。甲51の1〜3),特許庁は,同年4月22日,本件訂正を認める旨の審決をした(以下「本件訂正審決」という。甲51の4)。
(4) 原告は,平成27年7月17日,本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特許について無効審判を請求し,特許庁はこれを無効2015-800151号事件として審理した。
(5) 特許庁は,平成28年2月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月25日,原告に送達された。
(6) 原告は,平成28年3月24日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載(1) 本件特許発明 本件訂正前の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである。なお,文中の「/」は,原文の改行箇所を示す(以下同じ。)。
【請求項1】走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と,/この機枠に回転自在に設けられ,畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と,/この土盛体の後方に位置して,前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて,元畦を修復するドラム状の整畦体と,/を有する畦塗り機であって,/前記整畦体は,/回転しながら畦を形成する整畦ドラムを,回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し,/各整畦板の基端部は前記回転中心の取付け基部に取付けられ,/前記整畦板を連結部材で相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成した/ことを特徴とする畦塗り機。
(2) 本件訂正発明本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(甲51の2)。以下,この発明を「本件訂正発明」といい,訂正された明細書及び図面(甲51の3)を併せて「本件明細書」という(なお,本件明細書の内容は,出願当初明細書(甲18)及び設定登録時の明細書(甲50)と実質的な差異はない。)。
また,文中の下線部は,本件訂正による訂正箇所を示す。
【請求項1】走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と,/この機枠に回転自在に設けられ,畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と,/この土盛体の後方に位置して,前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて,元畦を修復するドラム状の整畦体と,/を有する畦塗り機であって,/前記整畦体は,/回転しながら畦を形成する整畦ドラムを,回 転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し,/各整畦板の基端部は前記回転中心の取付け基部に取付けられ,/隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより,一体の前記整畦ドラムが構成され,/各整畦板の境界部分に段差部を形成し,/前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の回転方向後側の側縁が,直線状であり,/前記連結部材は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しないことを特徴とする畦塗り機。
(3) 本件訂正発明における訂正事項ア 「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより,一体の前記整畦ドラムが構成され」ること(以下「本件訂正事項1」という。)イ 「前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の回転方向後側の側縁が,直線状であり,前記連結部材は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」こと(以下「本件訂正事項2」という。)3 本件審決の理由の要旨(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,@本件訂正は,@)特許法126条6項に違反してされたものではない,A)同条5項の規定に違反してされたものではない,B)同条1項ただし書に違反してされたものではない,A本件訂正発明は,@)下記アの引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)と同一であるとも,当業者が引用発明及び下記イないしオの周知例に記載された周知技術に基づいて容易に想到することができたものであるともいえず,A)実施可能要件,サポート要件及び明確性要件に違反してされたものでもないから,同条7項の規定に違反してされたものではない,というものである。
ア 引用例:特開平10-276504号公報(甲1)イ 周知例1:特開2001-61302号公報(甲9)ウ 周知例2:特開昭63-164801号公報(甲10)エ 周知例3:特公昭61-34761号公報(甲11)オ 周知例4:実公昭45-3845号公報(甲12)(2) 本件訂正発明と引用発明との対比 本件審決が認定した引用発明並びに本件訂正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 引用発明 走行車に付設されて進行され,その進行方向に順次畦を形成する畦形成機であって,/畦形成箇所に沿って移動され,畦形成箇所の旧畦の崩れた上面部および側面部に土を盛り上げ状態に連続的に供給する土盛装置と,土盛装置の移動方向の後方に設置される畦形成装置とを有し,/畦形成装置は,土を盛り上げ状態とされた畦形成箇所上を回転しながら通過させる円筒回転体と,円筒回転体の回転駆動力供給側に取り付けられた回転駆動力供給側にいく程径大となり円筒回転体の中央に向けた傾斜面を有するとともに,表面は放射状の分割片に分割され,分割片は進行方向に対して前進角を設けられ,隣接する分割片相互は逃げ角をもって連結されてなり,土を盛り上げ状態とされた畦形成箇所の側面を移動方向に強制的に順回転されて,畦の裾部に対して盛土を抱き込みながら,断続圧を加えて練り込み強固な畦を形成する円錐回転体とからなり,/複数の分割片は,周方向に等間隔に配設され,/隣接する分割片のうち,回転方向前側に位置する分割片の回転方向後側の側縁が,直線状である畦形成機。
イ 本件訂正発明と引用発明との一致点走行機体の後部に連結される,畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と,この土盛体の後方に位置して,前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて,元畦を修復するドラム状の整畦体と,を有する畦塗り機 であって,前記整畦体は,回転しながら畦を形成する整畦ドラムを,回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し,各整畦板の境界部分に段差部を形成し,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の回転方向後側の側縁が,直線状である畦塗り機。
ウ 本件訂正発明と引用発明との相違点(ア) 相違点1 本件訂正発明では,走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠を有し,この機枠に土盛体が回転自在に設けられるのに対し,引用発明では,畦形成機は,走行車に付設されるが,機枠を有しているか否かが不明である点。
(イ) 相違点2 本件訂正発明では,各整畦板の基端部は回転中心の取付け基部に取付けられるのに対し,引用発明では,円錐回転体は円筒回転体の回転駆動力供給側に取り付けられるが,その取付構造が特定されていない点。
(ウ) 相違点3 本件訂正発明では,隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材で隣接する整畦板を相互に連結することにより,一体の前記整畦ドラムが構成され,連結部材は,隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しないのに対し,引用発明では,分割片相互の連結構造が特定されていない点。
4 取消事由(1) 本件訂正を認めた判断の誤りア 実質的拡張変更の有無に係る認定判断の誤り(取消事由1)イ 新規事項追加に係る認定判断の誤り(取消事由2)ウ 訂正目的違反に係る認定判断の誤り(取消事由3)(2) 独立特許要件に係る認定判断の誤りア 新規性及び進歩性に係る認定判断の誤り(取消事由4) イ 実施可能要件に係る認定判断の誤り(取消事由5)ウ サポート要件に係る認定判断の誤り(取消事由6)エ 明確性要件に係る認定判断の誤り(取消事由7)
当事者の主張
1 取消事由1(実質的拡張変更の有無に係る認定判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 拒絶査定不服審判請求書(甲21)には,「2.補正の概要 この補正は,図面に記載している図4及び図5の実施形態をクレームアップすることを主として意図したものです。」と記載されている。上記記載から明らかなように,本件補正前には,何を用いて「整畦板」を連結するのかについて何ら特定されていなかったところ,被告自らが,本件補正(甲20)によって本件明細書の図4及び図5の実施形態をクレームアップすることで,図4及び図5に記載された「(複数の整畦板を1枚置きに連結する)連結部材」を用いることに限定した。つまり,不服審判請求書の「補正の概要」の記載は,整畦体の「連結部材」を,本件明細書の図4及び図5の実施形態のものに限定することを意図したものであり,それ以外の実施形態について権利付与の請求放棄を表明したものである。
(2) 本件明細書の【0023】には「図8(a),(b)に示す第5実施例の整畦ドラム27は,図5の第2実施例における整畦ドラム24の連結部材24c,24dに代えて…連結片27c,27cにより固着している。」との記載があり,本件明細書上,「連結部材」と「連結片」とが異なるものであることは明白である。
したがって,「連結部材」は,当該用語から一般的に想起される「(整畦板を)連結する部材」という意味ではなく,本件補正における「連結部材」は「連結片」を含むものではない。
(3) 被告は,本件明細書の図8の実施形態に相当する発明に係る分割出願(特願2014-166355号及び特願2015-38043号)では,請求項1において,「連結部材」ではなく,「連結片」という文言を用いており,被告自らが 「連結部材」と「連結片」とを区別している。
(4) 被告は,本件補正(甲20)において,「各整畦板を相互に連結して」とあったのを,「連結部材」及び「連結片」を含むような「連結手段」や「連結部位」等といった他の文言を用いることなく,「連結部材」という文言を用いて,「前記整畦板を連結部材で相互に連結して」と補正している。このことからも,本件補正後の整畦体は,「連結部材」を有している図4及び図5の第1及び第2実施例の整畦体に対応するものであって,「連結部材」を有していない図8の第5実施例の整畦体を包含するものではない。
(5) 被告が図4及び図5の実施形態の発明特定事項の一部であると主張する「各整畦板の基端部は前記回転中心の取付け基部に取付けられ」という構成は,図4及び図5のみならず,図4ないし図9の全ての実施形態が有する構成である。したがって「この補正は,図面に記載している図4及び図5の実施形態をクレームアップすることを主として意図したものです。」との記載は,図4及び図5の実施形態に限定する意思であったと解するのが相当である。
(6) 以上のとおり,本件訂正は,実質上,本件補正後の特許請求の範囲拡張又は変更するものであるから,違法である。
〔被告の主張〕(1) 本件訂正事項1は,本件訂正発明における「連結部材」や「整畦ドラム」の内容を減縮するにすぎないもので,特許請求の範囲のカテゴリーや対象を変更するものではない。
本件補正後の発明でも,「連結部材」は「(整畦板を)連結する部材」を意味するものでしかなく,第5実施例の整畦体の「連結片27a」が包含されるものであるから,本件審決の認定に誤りはない。
本件補正後の発明においては,「連結部材」につき,「前記整畦板を連結部材で相互に連結」することしか限定されておらず,「クレームアップ」とは,ある特定の請求項にその請求項の従属項や発明の詳細な説明,図面等に記載された発明特定 事項の限定を付加することを意味するにすぎず,不服審判請求書(甲21)の記載から,何ら図4及び図5の実施形態に限定されるものとは読めない。
本件明細書の【0023】の記載において,置き換えられるべき「連結部材24c,24d」は,図5の第2実施例に示された「連結部材24c,24d」であって,当該実施形態以外の連結部材15b,15c,固定杆25c,個体板26b,連結部材28b,28dは含まれていない。仮に,「連結部材」一般を「連結片」に置き換えるという趣旨であれば,【0023】の当該記載は,符号も付さず,「連結部材に代えて,…連結片により固着している」との記載となるべきであるが,そのように記載されず,あくまで図5の第2実施例における「連結部材24c,24d」に特定されている。したがって,【0023】の当該記載からは,「連結片27c,27c」と「連結部材24c,24d」が別個のものであることは読み取れるものの,「連結片27c,27c」と「連結部材」一般が異なるものであることは読み取れないし,ましてや「連結部材」が「連結片」を含むものでないことは読み取れるはずもない。
(2) 本件出願当初明細書でも「連結部材」は単に複数の整畦板を連結する意味でしか用いられていなかった。
本件発明の出願当初の請求項3ないし【0005】には,「上記複数の整畦板を,複数の連結部材により連結して整畦ドラムを形成した」とあるとおり,「連結部材」は,「上記複数の整畦板を」「連結」する部材という意味しかない。各実施形態の整畦板の連結構造(連結部材15b,15c,連結部材24c,24d,固定杆25c,個体板26b,連結片27c,27c及び連結部材28b,28d)は,「各整畦板を相互に連結」するものであるから,各実施形態の整畦板の連結構造は,いずれも請求項3ないし【0005】の「連結部材」に包含される。
(3) 本件補正は,本件明細書の図4及び図5の実施形態以外の実施形態を特許請求の範囲から除外する意図を有していたものとはいえない。
本件補正は,単に図面に記載している図4及び図5の実施形態の発明特定事項の 一部を「クレームアップ」,すなわち追加するもので,それ以外の実施形態を特許請求の範囲から除外する意図を有しなかったことは容易に理解できる。すなわち,本件出願当初明細書における請求項3ないし【0005】の「連結部材」と同様,本件補正後の発明でも,「連結部材」は単に「前記整畦板を…相互に連結」するものとして記載されているにすぎず,本件出願当初明細書と同様,図4及び図5の実施形態以外の実施形態を特許請求の範囲から除外する意図であったことは読み取れない。
本件明細書上,各実施形態の整畦板の連結構造は,いずれも,「各整畦板を相互に連結」するものであり「連結部材」に該当することは明らかであるばかりでなく,出願当初の特許請求の範囲や明細書でも,「連結部材」は,「各整畦板を相互に連結」するものとしか特定されていない。したがって,実施形態において「連結部材」と明記された整畦板の連結構造のみならず,「固定杆」,「個体板」及び「連結片」として示された整畦板の連結構造も,「連結部材」として記載されていることは明白である。
また,具体的にクレームアップしたのは,「各整畦板の基端部は前記回転中心の取付け基部に取付けられ,前記整畦板を連結部材で」という発明特定事項のみであり,これ以外に,図4及び図5の実施形態の「連結部材15b,15c」や「連結部材24c,24d」に固有の,他の実施形態の整畦板の連結構造には存在しない技術的事項は,追加されていない。このことは,本件補正に係る請求項1の「連結部材」が「複数の整畦板を1枚置きに連結する」との発明特定事項を含まないことからも明らかである。
(4) 分割出願の存在は本件訂正発明の「連結部材」に「連結片」が含まれないことの根拠とならない。
分割出願の特許請求の範囲において,同じ実施形態に記載の発明特定事項を異なる文言で特定することは通常行われることである。そして,「連結片」と「連結部材」を異なるものと被告が認識していたことを前提としても,そのことが,本件補 正において,特許請求の範囲に記載された「連結部材」から第5実施例の「連結片27c,27c」を除外したり,特許請求の範囲に記載された「連結部材」が第5実施例の「連結片27c,27c」の上位概念でないことを認めたりすることにはならない。
2 取消事由2(新規事項追加に係る認定判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 本件訂正事項1についてア 本件明細書には,「重なり部分に沿って設けた連結片」が記載されているのみで(【0023】),「境界部分(重なり部分を有しない境界部分)に沿って設けた連結片」は記載されておらず,本件訂正事項1は新規事項の追加に該当する。
すなわち,本件訂正事項1における「境界部分に沿って設けられた連結部材」という記載は,「重なり部分を有する境界部分のうちその重なり部分に沿って設けられた連結片」(別紙1の参考図1-1参照)に加え,「重なり部分を有しない境界部分に沿って設けられた連結片」(別紙1の参考図1-2参照)をも含むものである。
イ 被告は,重なり部分を有しない境界部分に沿って設けられた連結片をも,本件明細書に記載されていると主張する。
しかし,本件発明の作用効果として,【0030】には,「…整畦板の重なり部分により泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するのを少なくすることができる。」と記載されている。当該作用効果を奏するためには,整畦板が重なり部分を有することが,必須の構成である。
(2) 本件訂正事項2についてア 本件明細書の図4ないし図7の第1実施例ないし第4実施例の部材は,いずれも図8の第5実施例の「隣接する2枚の整畦板を連結する連結片」とは全く異なるものであって,その形状や大きさ等からしても第5実施例の連結片とは明らかに異なっている。したがって,「第1実施例ないし第4実施例において,連結部材はいずれも整畦板の整畦面の裏面に固定されていること」を根拠として,本件訂正事 項2は新規事項の追加に該当しないとした本件審決の判断には誤りがある。
イ 本件訂正事項2における「前記連結部材は,…回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」という否定的な記載は,連結片が回転方向後側に位置する整畦板の回転方向前端面(側端面)に一体に設けられた構成(別紙1の参考図2-1参照)に加え,連結片が回転方向後側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定された構成(別紙1の参考図2-2参照)をも含むものである。
本件明細書及び図面には,参考図2-1の構成しか記載されておらず,参考図2-2の構成については,記載も示唆もなく,しかも前記アのとおり,第1実施例ないし第4実施例の構成から導出できるものでもない。したがって,「前記連結部材は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との構成は,本件明細書又は図面から自ずと導き出される事項ではないから,本件訂正事項2は新規事項の追加に該当する。
ウ 連結片は,その基端部が整畦板の回転方向前端面,言い換えると整畦板の側端面に連続して一体的になったものであって,当該側端面から回転方向に向かって延出した構成となっている。このため,そもそも,連結片はその基端部を延ばすことができないものであるから,本件明細書及び図面には「延在」という概念が元々存在せず,本件明細書及び図面の記載から,「整畦面に延在しない」との構成を導出することはできない。また,先願(特願2001-263896号)との関係で「整畦面に延在しない」との構成が追加された経緯があったとしても,元々存在しない「延在」という概念を用いることは,当然許されることではない。なお,本件明細書及び上記先願の明細書(甲40)のどこをみても,「延在」という文言は見当たらない。したがって,連結片が隣接する整畦板のうち回転方向後側に位置する整畦板の側端面以外の面に対して「延在する/しない」という技術的思想は,本件明細書及び図面には元々なく,そのような技術的思想を本件明細書及び図面の記載から導出できないことも明らかである。よって,本件訂正事項2は新規事項の追加に該当する。
〔被告の主張〕(1) 本件訂正事項1についてア 本件補正後の請求項1の「連結部材」は,「整畦板を相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成する」ものであるところ,第5実施例では,「隣接する整畦板27aの重なり部分27bに沿って連結片27c,27cが設けられている」ことを踏まえると,「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材」という本件訂正事項1の構成は,自ずと導き出される事項にすぎない。
イ また,「重なり部分を有する境界部分のうちその重なり部分に沿って設けられた連結片」に加え,「重なり部分を有しない境界部分に沿って設けられた連結片」をも,本件出願当初明細書等に記載されている。したがって,仮に,本件訂正事項1が,「重なり部分を有する境界部分のうちその重なり部分に沿って設けられた連結片」に加え,「重なり部分を有しない境界部分に沿って設けられた連結片」をも含むことになるとの原告主張を前提としても,何ら新規事項の追加に該当するものとはいえない。
(2) 本件訂正事項2についてア 本件審決は,第1実施例ないし第4実施例の連結部材等のみを根拠に,「連結部材は…回転方向後側に位置する整畦板の…整畦面の裏面に固定され」との構成が読み取れると判断しているのではない。第1実施例ないし第4実施例の連結部材等において,整畦面の裏面に固定されていることのみならず,第5実施例でも,「回転方向前側に位置する整畦板27aの整畦面の裏面に固定され」ていることを根拠として,「回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され」との構成は,自ずと導き出される事項にすぎない。
イ 本件明細書【0023】には,連結片27c,27cを整畦ドラム27の内側,すなわち整畦板の整畦面の裏面に固定することによって,複数の整畦板を連結して一体の側面修復体を形成することが記載されているものの,その他に境界部分に設けられた連結片27c,27cをドラムの内側に固定する方法は特に限定され ていない。したがって,本件明細書の記載は,隣接する整畦板相互を連結片で固定する方法として,参考図2-1の構成のみならず,参考図2-2の構成を排除するものとはいえない。したがって,参考図2-2の構成を含むことを理由に,本件明細書等に開示がなかった新たな技術的事項が導入されたとはいえない。
ウ 本件明細書等の図8(a)によれば,「回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」連結部材(連結片27c)が記載されていることは明らかである。なお,「回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との文言が追加された経緯は,平成28年1月5日付け口頭審理陳述要領書(2)(甲57)記載のとおり,本件特許の分割出願(特願2014-166355号)の審査において,先願との構造上の差異を明らかにするために追加された文言と同様,上記先願との構造上の差異を明らかにするために行ったというものである。また,当該経緯から,「延在しない」との文言は,「延びて存在する」ものでないとの意義以上のものを含むものではない。
3 取消事由3(訂正目的違反に係る認定判断の誤り)について〔原告の主張〕 本件訂正事項1は,実質上特許請求の範囲変更するものであるから,「特許請求の範囲減縮」を目的とするものではなく,「誤記又は誤訳の訂正」又は「明瞭でない記載釈明」を目的とするものでもない。
〔被告の主張〕 本件訂正事項1は,本件明細書の図8に記載された実施形態(第5実施例)を包含する本件補正後の発明を,さらに本件明細書及び図面の第5実施例に係る記載に基づき限定するものであるから,特許請求の範囲減縮を目的とするものであり,実質上特許請求の範囲変更するものではない。
4 取消事由4(新規性及び進歩性に係る認定判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 引用発明の認定並びに本件訂正発明との一致点及び相違点の認定誤り ア 引用発明は,以下のとおり認定すべきである。
「トラクタの後部に三点リンクを介して着脱可能に連結される機枠11と,/この機枠11に回転自在に設けられ,畦塗り用の泥土を切削して旧畦箇所に供給する土盛装置21と,/この土盛装置21の後方に位置して,前記土盛装置21により供給された泥土を回転しながら旧畦に塗りつけて,旧畦を修復するドラム状の畦形成装置41と,を有する畦形成機であって,/前記畦形成装置41は,回転しながら畦を形成する円錐回転体43を,回転中心から外周側に向けて複数の板状で扇型の独立片からなる分割片44を周方向に等間隔に配設して形成し,/各分割片44の基端部は前記回転中心の第2従動回転軸35の先端の取付け基部に取付けられ,/隣接する分割片44の境界部分に沿って設けられた連結片で前記隣接する分割片44を相互に連結することにより,一体の前記円錐回転体43が構成され,/各分割片44の境界部分に段差部を形成し,/前記隣接する分割片44のうち,回転方向前側に位置する分割片44の回転方向後側の側縁が,直線状であり,/前記連結片は,前記隣接する分割片44のうち,回転方向前側に位置する分割片44の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する分割片44の整畦面に延在しない/畦形成機。」イ 引用例の【0017】には,生産性向上のために,「分割片44」を別個に製造可能な「独立片」とすることが記載されている。また,引用例の請求項3には「隣接する分割片相互は逃げ角をもって連結される円錐回転体」とあるが,「分割片取り付け盤」は必須の構成とされていない。さらに,引用例の請求項3には2つの実施形態の両方を含む発明が記載されており,引用例に接した当業者にとって,図3及び図4に示す実施形態において,この図3及び図4の分割片(一体片)を図5及び図6の分割片(独立片)に置き換える構成は自明な事項である。
ウ 本件訂正発明と引用発明とは全ての構成で一致しており,両者に何ら相違するところがない。よって,本件訂正発明は新規性に欠ける。
(2) 相違点2の容易想到性の判断の誤り 引用例の「円錐回転体43は…第2従動回転軸35の先端に…取り付けられ,…」(【0014】)との記載を踏まえて,引用例の図2をみると,円錐回転体の各分割片の基端部が回転中心の第2従動回転軸35の先端に取り付けられていることがみてとれる。したがって,本件審決が認定した引用発明において,相違点2に係る本件訂正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。
(3) 相違点3の容易想到性の判断の誤りア 引用例における「隣接する分割片44相互は逃げ角Bをもって連結される。
…bは逃げ面である。」(【0015】)との記載を踏まえて,引用例の図4をみると,隣接する分割片のうち回転方向前側に位置する一方の分割片の回転方向後端部と,回転方向後側に位置する他方の分割片の回転方向前端部とが,それらの間に位置する連結片(逃げ面bを有する片部分)で相互に連結されていること,及び,その連結片が隣接する分割片の境界部分に沿って設けられていることがみてとれる。
また,引用例には「図5,図6に図示される他の実施の形態では,円錐回転体43の分割片44はそれぞれほぼ扇型の独立片からなる。」(【0017】)との記載があり,本件審決認定の引用発明の「分割片」は,扇型の独立片であってもよい。
さらに,本件審決認定の引用発明の「円錐回転体」は,畦の裾部に対して盛土を抱き込みながら,断続圧を加えて練り込み強固な畦を形成するものであることを踏まえれば,隣接する分割片の相互を連結する連結片は,畦の形成に支障のない位置に固定されることは自明の事項である。
したがって,本件審決が認定した引用発明において,隣接する分割片間に位置する連結片を独立片に置換し,この置換の際に,その独立片を,隣接する分割片のうち回転方向前側に位置する分割片の整畦面の裏面に固定しかつ回転方向後側に位置する分割片の整畦面に延在しないようにして,相違点3に係る本件訂正発明の構成にすることは,当業者が容易に想到し得ることである。つまり,本件審決が認定した相違点3の構成は,当業者にとって単なる設計事項にすぎず,その相違点3の構成に基づく作用効果についても,本件訂正明細書には何ら記載がなく,引用発明の 効果からみて当業者が予測し得る範囲を超えるものではない。
イ 引用例の図4に記載された円錐回転体43は一体成形によるものであるが,周知例1ないし4のとおり,農作業機の技術分野では,回転しながら農作業する作業部材について,一連の部材で一体成形することに代えて,別個に製造した複数の分割部品を組み合わせて同一形状に製作することは,本件特許の出願前の周知技術である。したがって,引用発明において,上記周知技術を採用して相違点3に係る本件訂正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到することができる。
〔被告の主張〕(1) 引用発明の認定並びに本件訂正発明との一致点及び相違点の認定についてア 別件異議事件の決定書(甲59の2)において判断されたとおり,引用例の「図3に示された実施例の円錐回転体43は一体成形によるものであって,連結片によって隣接する分割片44相互を連結することにより構成されたものとは認められない」から,原告の主張する引用発明の認定は誤りである。
そもそも,引用例2の第2実施形態は請求項3に記載の発明に含まれないこと,第1実施形態の分割片(一体片)44を第2実施形態の分割片(独立片)44に置き換えた構成は,まさに第2実施形態そのもので,原告の主張する引用発明の構成ではない。
イ 仮に,周知例1ないし4から導き出される周知技術(回転しながら農作業する作業部材において,一連の部材で一体製作することに代えて,別個に製造した複数の分割部品を組み合わせて同一形状に製作すること)が存在することを前提としたとしても,原告の主張する引用発明が記載されているとはいえない。
第1実施形態における円錐回転体43に上記周知技術参酌したとしても,少なくとも本件訂正発明の「連結部材で前記隣接する複数の整畦板を相互に連結する」という構成及び「前記連結部材は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との構成を導くことができないから,これらの構成を引用発明が備 えていると認定することはできない。
また,第2実施形態における円錐回転体43は,隣接する分割片44相互が連結されていないため,「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより,一体の前記整畦ドラムが構成され」という構成を有さず,ビス46は「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材」に該当しない。さらに,第2実施形態における円錐回転体43は,各分割片44と分割片取り付け盤45とを貫通するようにそれぞれビス46で連結されているので,ビス46は,「回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され」という構成を有しない。よって,第2実施形態における円錐回転体43は,少なくとも「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより,一体の前記整畦ドラムが構成され」という構成要件と,「回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され」という構成要件に相当する構成を有しない。
(2) 相違点2の容易想到性について引用例の【0014】及び図2の記載を見ても,円錐回転体の各分割片の基端部が回転中心の第2従動回転軸35の先端に取り付けられていることは記載も示唆もされていない。
(3) 相違点3の容易想到性について引用例の図4に示された円錐回転体43は一体成形によるものであって,連結片によって隣接する分割片44相互を連結することにより構成されたものではない。
原告は,引用例の【0017】の記載を基に,引用発明の「分割片」は扇形の「分割片」でもよいと主張する。しかし,当該原告主張が,図4に示される実施形態の円錐回転体43を,図5及び図6に示される扇形の「分割片」に置き換えてもよいという趣旨であるなら,誤りである。
引用発明において,隣接する分割片間に位置する連結片を独立片に置換し,この置換の際に,その独立片を,隣接する分割片のうち回転方向前側に位置する分割片 の整畦面の裏面に固定し回転方向後側に位置する分割片の整畦面に延在しないようにして,相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易に想到することができるものとはいえない。
5 取消事由5(実施可能要件に係る認定判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) @「整畦板の回転方向後側の側縁が,直線状」であること,及びA「連結部材は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」ことについては,本件訂正発明の課題(泥土の状態によっては所望の元畦修復が行えない場合があるとの課題や,整畦ドラムの形状や製造上,作用等において改良すべき点があるとの課題)との実質的な関係が不明であるから,その技術的意義を理解することができない。
(2) 本件明細書の【0020】には「図4の第1実施例のように,回転中心の取付け基部に…整畦板15aの基端部を…取付け」との記載があり,その図4の図示内容から判明するのは,「整畦板15a」の基端部が「上面修復体16」に取り付けられていることのみであって,「取付け基部」には符号もなく,「取付け基部」が当該図4中のどこのことなのか不明である。また,本件明細書における他の記載及び図面を参照しても,「取付け基部」がどこであるのか不明である。すなわち,本件明細書及び図面の全ての記載を参照しても,「回転中心の取付け基部」とはどの部分あるいはどの部材を意味するのか全く理解できない。したがって,本件訂正発明は,本件明細書及び図面の記載並びに技術常識に基づいて当業者がその物を製造できないものであるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件を満たしていない。
〔被告の主張〕 (1) 本件訂正発明が,「泥土の状態によっては,所望の(十分な)元畦修復が行えない場合がある」との課題解決のため,「各整畦板の境界部分に段差部を形成」 し,従来の整畦ドラムは「その形状や製造上,作用等において改良すべき」との課題解決のため,「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより,一体の前記側面修復体」を構成等するものと理解でき,本件特許の発明の詳細な説明に,当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていないとはいえない。
(2) 本件明細書の【0020】の「上記整畦ドラム15は…回転中心の取付け基部に,…複数枚の整畦板15aの基端部を,…取付け」との記載と,請求項1や図4の記載からすれば,本件訂正に係る請求項1における「回転中心の取付け基部」は,「整畦ドラム」の「回転中心」に位置する部材であると理解でき,当業者がその物を製造できないものとはいえない。
6 取消事由6(サポート要件に係る認定判断の誤り)について〔原告の主張〕前記2の〔原告の主張〕のとおり,本件訂正事項1及び同2は新規事項の追加に該当するものであり,本件特許の請求項1に記載された「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材で前記隣接する整畦板を相互に連結」し,「前記連結部材は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しないこと」は,本件明細書又は図面に記載されていない。したがって,本件訂正発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。
〔被告の主張〕前記2の〔被告の主張〕のとおり,本件訂正事項1及び同2のいずれも,新規事項の追加には該当しない。よって,原告の主張は前提を異にし,理由がない。
7 取消事由7(明確性要件に係る認定判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 「連結部材」について「整畦板の整畦面に延在しない」という否定的な記載であるため,隣接する整畦 板のうち回転方向後側に位置する整畦板に対する連結部材の固定箇所が明確ではなく,本件訂正発明の範囲が不明確となっている。また,本件明細書の発明の詳細な説明には,「整畦板の整畦面に延在しない」との構成及び「境界部分に沿って設けられた連結部材」との構成についての開示がなく,本件訂正発明は不明確である。
(2) 「重なり部分」「垂直段部」について「重なり部分」や「垂直段部」という文言は,本件明細書の特許請求の範囲中には記載がなく,その結果,特許請求の範囲に記載された構成とこの構成に基づく作用効果との関係が不明であるから,本件訂正発明は不明確である。
(3) 「取付け基部」について前記5の〔原告の主張〕のとおり,「回転中心の取付け基部」は,本件明細書の【0020】に「図4の第1実施例のように,回転中心の取付け基部に…整畦板15aの基端部を…取付け」と記載されているのみで,符号も付されておらず,図4中のどこのことなのか不明である。このため,本件明細書及び図面の全ての記載に照らしても,「回転中心の取付け基部」が,整畦ドラムの回転中心に位置するどの部分あるいはどの部材を指すのか判然としない。
分割出願の審査経過からも「取付け基部」は不明確であり,被告自らこれを認めた対応をしている。また,別件異議事件の決定によれば,「取付け基部」は「上面修復体」そのものを意味すると限定解釈しない限り,不明確である。
〔被告の主張〕(1) 「連結部材」について本件訂正事項1及び同2のいずれも,新規事項の追加には該当せず,「整畦板の整畦面に延在しない」との構成及び「境界部分に沿って設けられた連結部材」との構成は出願当初明細書に開示がある。よって,これら構成につき開示がないことを前提に,本件訂正発明が不明確であるとした原告主張は誤りである。
(2) 「重なり部分」「垂直段部」について明確性要件(特許法36条6項2号)は,本件訂正発明が明確であるか否かが問 題となるものであり,「垂直段部」や「重なり部分」が本件特許の特許請求の範囲に記載されていないからといって,本件訂正発明が不明確になるというものではない。
(3) 「取付け基部」について「回転中心の取付け基部」の構成が不明確であるとはいえない。本件審決において判断されたとおり,「回転中心の取付け基部」は,「整畦ドラム」の「回転中心」に位置する部材である。
別件分割出願の審査経過及び別件異議事件は上記判断を覆すものとはいえない。
当裁判所の判断
1 本件訂正発明について(1) 本件訂正発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2(2)記載のとおりであるところ,本件明細書(甲50,51の3。図面は別紙2参照)には,おおむね,次の記載がある。
ア 発明の属する技術分野本発明は,土盛体により切削されて元畦箇所に供給された畦塗り用の泥土を,回転しながら元畦に塗りつけて,元畦を修復するドラム状の整畦体を改良した畦塗り機に関する(【0001】)。
イ 従来の技術従来,走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と,この機枠に回転自在に設けられ,畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と,この土盛体の後方に位置して,前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて,元畦を修復するドラム状の整畦体(整畦ドラム)とを備えた畦塗り機が周知である。そして,整畦ドラムの泥土を回転しながら元畦に塗りつけ回転しながら畦の内側面を修復する側面修復体は,円錐状の円弧面または円錐状の多段平面を有している(【0002】)。
ウ 発明が解決しようとする課題 上記従来の畦塗り機においては,整畦ドラムの側面修復体が円錐状の円弧面または円錐状の多段平面を有しており,しかも偏心回転しながら土盛体により供給された泥土を元畦に塗りつけて畦の内側面を修復するので,土盛体により切削されて元畦箇所に供給される泥土の状態によっては,所望の(十分な)元畦修復が行えない場合がある,という問題点があった。また,整畦ドラムは,円錐状の円弧面または円錐状の多段平面など有しているところから,その形状や製造上,作用等において改良すべき点があった。本発明は,上記の問題点を解決することを目的になされたものである(【0003】)。
エ 課題を解決するための手段上記の目的を達成するために本発明は,以下の構成を特徴としている。
A.走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と,この機枠に回転自在に設けられ,畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と,この土盛体の後方に位置して,前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて,元畦を修復するドラム状の整畦体とを有する畦塗り機であって,前記整畦体は,回転しながら畦を形成する整畦ドラムを,回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し,各整畦板を相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成した(【0004】)。
B.上記整畦ドラムの隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し,その重なり部分に垂直段部を形成した。
C.上記複数の整畦板を,複数の連結部材により連結して整畦ドラムを形成した(【0005】)D.上記複数の連結部材を複数組のもので構成し,そのうちの少なくとも1組のものを整畦板に対し着脱可能とした(【0006】)。
オ 作用上記A.〜D.の構成により本発明の畦塗り機における整畦体(整畦ドラム)は,以下の作用を行う。
(1).回転しながら畦を形成する整畦ドラムは,回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し,各整畦板を相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成することで,整畦ドラムは土盛体により供給された泥土を,回転しながら各段差部により間欠的に叩打し,泥土を固めながら元畦に塗りつけ,従来の整畦ドラムに比べ良好な畦を形成する(【0007】)。
(2).整畦ドラムの隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し,その重なり部分に垂直段部を形成することで,土盛体により供給された泥土を,回転しながら各垂直段部により間欠的に叩打しながら泥土を固めて元畦に塗りつけ,良好な畦を形成でき,しかも整畦板の重なり部分により泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するのを少なくする。
(3).複数の整畦板を,複数の連結部材により連結して整畦ドラムを形成することで,整畦ドラムの製造が簡単になる(【0008】)。
(4).複数の連結部材を複数組のもので構成し,そのうちの少なくとも1組のものを整畦板に対し着脱可能とすることで,整畦ドラムの製造が容易となると共に,整畦板が損傷した場合には,その部分の補修が容易に行える。
(5).複数組の連結部材のうちの少なくとも1組のものを,整畦板に対する固着位置を変更可能とすることで,整畦ドラムの製造が容易となり,整畦板が損傷した場合には補修が容易となる(【0009】)。
カ 発明の実施の形態以下,本発明の実施の形態を添付の図面を参照して具体的に説明する。
図1〜図3において,符号1は図示しないトラクタの後部に設けられたトップリンク及び左右一対のロアリンクにより昇降可能に連結され,トラクタのPTO軸から動力を受けて土盛体5及びドラム状の整畦体6を回転駆動し,圃場において土盛体5により畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給し,該土盛体5により供給された泥土を整畦体6により元畦に塗りつけて元畦を修復する整畦作業を行う畦塗り機である。この畦塗り機1は,前記トップリンク及びロアリンクに連結されるトッ プマスト2及びロアリンク連結部3を,機枠4から前方に突出させた左右一対のヒッチフレーム11に設け,土盛体5及びその後方に設けられる整畦体6は,機枠4により連結されて左右方向に配設されている(【0010】)。
土盛体5は,図示しないが,ロータリ軸(回転軸14)の軸周に複数本の切削爪と土寄せ板を放射方向に装着すると共に,上側をカバーにより覆い,元畦の一部及び圃場の土壌を切削して元畦に対して畦状に盛り上げる周知のロータリ切削装置からなるものである。また,整畦体6は,図4以下に示すが,その第1の実施例のものは図4(a),(b)に示すように,偏心回転しながら畦の内側面を形成する整畦ドラム15の外周面に,回転中心から外周側に向けて,その回転方向に後退角を有して螺旋状に捻曲する複数(実施例では8枚)の整畦板15aを周方向に等間隔に形成し,各整畦板15aは,平面視でトロコイド曲線上の点が連続した曲面を有し,整畦ドラム15は,偏心回転しながら各整畦板15aを順に泥土に接して畦の内側面を形成するものである。各整畦板15aは大きさの異なる2枚の正方形状の連結部材15b,15cの各角部により相互(1枚置き)に溶接により連結して各整畦板15aの境界部分に段差部15dを形成し,整畦ドラム15の平面視外周縁を円形に形成している。上記2つの連結部材15b,15cのうち少なくとも連結部材15bは,整畦板15aに対して着脱可能の 構成にしてもよいものである(【0015】)。
上記整畦ドラム15は,上記図4の第1実施例のように,回転中心の取付け基部に,平面視で内端側の幅が狭く,外端側の幅が次第に広くなる複数枚の整畦板15aの基端部を,隣接する整畦板15aが相互に所定の重なりを有するよう取付け,該整畦板15aの重なり部分に,図示しないが折返し部を設けて上下に固着し,前記重なり部分の隙間は内端側が狭く,外端側が広くなるよう,螺旋状の垂直段部を形成してもよいものである(【0020】)。
図5(a),(b)に示す第2実施例の整畦ドラム24は,図4の第1実施例の整畦ドラム15とは,上面修復体16の回転中心と偏心して外周側に向けて,その 回転方向後側をわずかに突出させて直線状の後退角を有して複数(8枚)の整畦板24aを周方向に等間隔に配設し,外周縁を非円形に形成したほかは,整畦ドラム15と同様の構成を有している。即ち,整畦ドラム24は,平面視で回転中心から先端側に向けて内端側の幅が狭く,外端側の幅が次第に広くなる直線状の側縁を有する8枚の整畦板24aを,回転方向後側をわずかに突出させて平面視外周縁が非円形になるように設け,各整畦板24aは,隣接する整畦板24aが相互に所定の重なり部分24bを有するよう連結部材24c,24dにより固着している。そして,各整畦板24aの重なり部分24bに,垂直段部24eを形成したものである(【0021】)。
図6に示す第3実施例の整畦ドラム25は,8枚の整畦板25aにより重なり部分25bを有して形成されるドラムの内側に,4本の固定杆25cを上面修復体16の回転中心を通って放射方向に延びるようにして配設し,各固定杆25cの両端部を,上面修復体16を挟んで対向する整畦板25a,25aにそれぞれ固着している。そして,各重なり部分25bの回転方向後端部分に段部25dを形成し,ドラムの外周縁は円形をなしている。図7に示す第4実施例の整畦ドラム26は,図4の第1実施例の連結部材15b,15cに代えてドラムの内側に8角形をなす1枚の個体板26bを設けて,この固定板26bの角部を各整畦板26aに固着し,上面修復体16のボス部に取付けている。そして,各整畦板26aの境界部分に螺旋状の垂直段部26cを形成している(【0022】)。
さらに,図8(a),(b)に示す第5実施例の整畦ドラム27は,図5の第2実施例における整畦ドラム24の連結部材24c,24dに代えて,整畦ドラム27のドラムの内側において,各整畦板27aの重なり部分27bに沿って設けた2つの連結片27c,27cにより固着している。そして,各整畦板27aの境界部分に直線状の垂直段部27dを形成したものである。また,図9に示す第6実施例の整畦ドラム28は,図4の第1実施例の連結部材15b,15cに相当する連結部材28b,28dのうちの連結部材28bに,整畦板28aへの固着位置(角部) に着脱可能の取付け部28cを設けている。そして,取付け部28cにより固着された整畦板28aが損傷して,交換したり,補修したりする場合に取付け部28cを着脱するようにしている。また,この取付け部28cは整畦板に対する固着位置を変更可能であり,任意の整畦板28aに固着できる(【0023】)。
キ 発明の効果以上説明したように本発明の畦塗り機の整畦ドラムによれば,請求項1〜5の構成により以下の作用効果を奏することができる(【0028】)。
(1).整畦体は,回転しながら畦を形成する整畦ドラムを,回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し,各整畦板を相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成したので,整畦ドラムは土盛体により供給された泥土を,回転しながら各段差部により間欠的に叩打し,泥土を固めながら元畦に塗りつけ,従来の整畦ドラムに比べ良好な畦を形成することができる。特に,土盛体により供給される泥土の土質が悪い場合や含水率が適当でない場合でも,良好な畦を形成することができる(【0029】)。
(2).整畦ドラムの隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し,その重なり部分に垂直段部を形成したので,土盛体により供給された泥土を,回転しながら各垂直段部により間欠的に叩打しながら泥土を固めて元畦に塗りつけ,良好な畦を形成することができる。しかも整畦板の重なり部分により泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するのを少なくすることができる(【0030】)。
(3).複数の整畦板を,複数の連結部材により連結して整畦ドラムを形成したので,複雑な形状の整畦ドラムであっても容易に製造することができる。
(4).複数の連結部材を複数組のもので構成し,そのうちの少なくとも1組のものを整畦板に対し着脱可能としたので,複雑な形状の整畦ドラムの製造が容易となると共に,整畦板が損傷した場合には,その部分の補修や交換を容易に行うことができる(【0031】)。
(5).複数組の連結部材のうちの少なくとも1組のものを,整畦板に対する固着位 置を変更可能としたので,複雑な形状の整畦ドラムでも製造が容易となり,整畦板が損傷した場合に,整畦板の補修や交換を容易に行うことができる(【0032】)。
(2) 本件訂正発明の特徴前記(1)の記載によれば,本件訂正発明の特徴は,以下のとおりのものと認められる。
ア 本件訂正発明は,土盛体により切削されて元畦箇所に供給された畦塗り用の泥土を,回転しながら元畦に塗りつけて,元畦を修復するドラム状の整畦体を改良した畦塗り機に関する(【0001】)。
イ 従来の畦塗り機においては,整畦ドラムの側面修復体が円錐状の円弧面又は円錐状の多段平面を有しており,しかも偏心回転しながら土盛体により供給された泥土を元畦に塗りつけて畦の内側面を修復するので,土盛体により切削されて元畦箇所に供給される泥土の状態によっては,所望の(十分な)元畦修復が行えない場合がある,という問題点があった。また,整畦ドラムは,円錐状の円弧面又は円錐状の多段平面など有しているところから,その形状や製造上,作用等において改良すべき点があった(【0002】,【0003】)。
ウ そこで,本件訂正発明は,上記問題点を解決するために,走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と,この機枠に回転自在に設けられ,畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と,この土盛体の後方に位置して,前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて,元畦を修復するドラム状の整畦体とを有する畦塗り機であって,前記整畦体は,回転しながら畦を形成する整畦ドラムを,回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し,各整畦板を相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成し,また,複数の整畦板を,連結部材により連結して整畦ドラムを形成した(【0004】,【0005】)。
エ さらに,本件訂正発明においては,隣接する整畦板の境界部分に沿って設け られた連結部材で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより,一体の前記整畦ドラムが構成され,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の回転方向後側の側縁が直線状であり,前記連結部材は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しないように構成することが追加して特定された(前記第2の2(2))。
オ そうすることで,整畦体は,回転しながら畦を形成する整畦ドラムを,回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し,各整畦板を相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成したので,整畦ドラムは土盛体により供給された泥土を,回転しながら各段差部により間欠的に叩打し,泥土を固めながら元畦に塗りつけ,従来の整畦ドラムに比べ良好な畦を形成することができる。特に,土盛体により供給される泥土の土質が悪い場合や含水率が適当でない場合でも,良好な畦を形成することができ,また,複数の整畦板を,複数の連結部材により連結して整畦ドラムを形成したので,複雑な形状の整畦ドラムであっても容易に製造することができる(【0007】,【0008】,【0029】,【0031】)。
2 取消事由1(実質的拡張変更の有無に係る認定判断の誤り)について (1) 本件訂正の内容 本件訂正前の特許請求の範囲請求項1の記載は,前記第2の2(1)のとおりである。
本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,前記第2の2(2)のとおりである。
本件訂正は,「整畦板を連結部材で相互に連結して」を「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより,一体の前記整畦ドラムが構成され」に訂正することを含むものであるところ,上記の本件訂正事項1は,「連結部材」や「整畦ドラム」の内容を減縮するものであって,実質上特許請求の範囲拡張し,変更するものとはいえない。
(2) 原告の主張について ア 原告は,本件明細書においては,各実施例ごとに整畦板を連結する部材の名称を使い分けていること,本件補正書と同時に提出された拒絶査定不服審判請求書における「この補正は,図面に記載している図4及び図5の実施形態をクレームアップすることを主として意図したものです」との記載からすれば,本件補正によって,「連結部材」は,図4及び図5の「連結部材」に限定され,それ以外の実施形態について権利付与の請求放棄が表明されたと主張する。
(ア) 本件補正の経緯についてa 出願時の特許請求の範囲は,以下のとおりである(甲18)。
【請求項1】走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と,この機枠に回転自在に設けられ,畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と,この土盛体の後方に位置して,前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて,元畦を修復するドラム状の整畦体とを有する畦塗り機であって,/前記整畦体は,回転しながら畦を形成する整畦ドラムを,回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し,各整畦板を相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成したことを特徴とする畦塗り機。
【請求項2】上記整畦ドラムの隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し,その重なり部分に垂直段部を形成したことを特徴とする請求項1記載の畦塗り機。
【請求項3】上記複数の整畦板を,複数の連結部材により連結して整畦ドラムを形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の畦塗り機。
【請求項4】上記複数の連結部材を複数組のもので構成し,そのうちの少なくとも1組のものを整畦板に対し着脱可能としたことを特徴とする請求項1,2又は3記載の畦塗り機。
【請求項5】上記複数組の連結部材のうちの少なくとも1組のものを,整畦板に対する固着位置を変更可能としたことを特徴とする請求項1,2,3又は4記載の畦塗り機。
b 平成23年5月30日付け拒絶理由通知書(甲22)において,請求項1な いし5は,特開2001-095307号公報(甲23)に記載された発明であり,又はこれから容易に想到することができたとして,特許法29条1項3号又は同条2項に当たる,請求項5は同法36条6項2号に規定する要件を満たしていない,などという内容の拒絶理由が通知された。
c 平成23年7月6日付手続補正書(甲19)によって補正された後の特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである。なお,下線部は,補正された箇所を示す(以下同じ)。
【請求項1】走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と,/この機枠に回転自在に設けられ,畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と,/この土盛体の後方に位置して,前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて,元畦を修復するドラム状の整畦体と,/を有する畦塗り機であって,/前記整畦体は,/回転しながら畦を形成する整畦ドラムを,回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し,/各整畦板を相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成した/ことを特徴とする畦塗り機。
【請求項2】上記整畦ドラムの隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し,その重なり部分に垂直段部を形成した/ことを特徴とする請求項1記載の畦塗り機。
【請求項3】上記複数の整畦板を,複数の連結部材により連結して整畦ドラムを形成した/ことを特徴とする請求項1又は2記載の畦塗り機。
【請求項4】上記複数の連結部材を複数組のもので構成し,そのうちの少なくとも1組のものを整畦板に対し着脱可能とした/ことを特徴とする請求項1,2又は3記載の畦塗り機。
【請求項5】削除d 平成23年11月1日,本件出願について拒絶査定がされた。
e そこで,原告は,平成24年2月8日付けで拒絶査定不服審判を請求するとともに(甲21),同日付けで特許請求の範囲請求項1以下のとおり補正した(甲 20。本件補正)。
【請求項1】走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と,/この機枠に回転自在に設けられ,畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と,/この土盛体の後方に位置して,前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて,元畦を修復するドラム状の整畦体と,/を有する畦塗り機であって,/前記整畦体は,/回転しながら畦を形成する整畦ドラムを,回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し,/各整畦板の基端部は前記回転中心の取付け基部に取付けられ,/前記整畦板を連結部材で相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成した/ことを特徴とする畦塗り機。
なお,拒絶査定不服審判請求書(甲21)には,以下の記載がある。
「審判請求人は,本審判請求書と同日に提出した補正書によって請求項1に記載された発明を補正致しました。
この補正は,図面に記載している図4及び図5の実施形態をクレームアップすることを主として意図したものです。
請求項1に記載された発明と特開2001-095307号公報とを比較すると以下の相違点があります。
相違点1「各整畦板の基端部は前記回転中心の取付け基部に取付けられ」ている点。
上記公報の図5及び図6から分かるように,各整畦板の基端部は回転中心の取付け基部に取付けられてはいないものと思料いたします。」(イ) 本件訂正前(本件補正後)の発明について本件補正前の請求項1においては「各整畦板を相互に連結して」とされていたのが,本件補正後には「前記整畦板を連結部材で相互に連結して」とされ,整畦板を相互に連結するものが「連結部材」であると特定された。そして,「連結部材」とは,2つ以上の物を連結する部材一般を指すと解されるところ,本件明細書の記載 には,本件補正の前後を通じて,整畦板を相互に連結するための部材として,第1及び第2実施例(図4及び図5)の「連結部材」,第3実施例(図6)の「固定杆」,第4実施例(図7)の「個体板」,第5実施例(図8)の「連結片」,第6実施例(図9)の「連結部材」というように,様々な形態が開示されている。本件補正に際し,いずれかの実施例を削除することもなかったのであるから,本件補正において特定された「連結部材」とは,整畦板を相互に連結するための部材一般を指すと解するのが相当である。
このように,本件明細書の記載に照らせば,本件補正後においても,第5実施例(図8)等の実施形態は,本件補正における「連結部材」に含まれると解するのが相当である。さらに,拒絶査定不服審判請求書における前記記載を考慮するとしても,被告は,整畦板の基端部が回転中心の取付け基部に取り付けられていることを明らかにするために本件補正を行ったことがうかがえ,図4及び図5の実施形態をクレームアップすることを「主として」意図したにとどまるのであるから,本件補正によって,図4及び図5以外の実施形態を放棄したものとは認め難い。
イ 原告は,第5実施例に関する記載(【0023】)からみても,本件明細書においては,「連結部材」と「連結片」とが異なるものとして使い分けられていると主張する。
しかし,「連結部材」は,2つ以上の物を連結する部材一般を指すと解され,第1及び第2実施例における「連結部材」に限らず,他の実施例における「連結する部材」をも含んだ意味で「連結部材」という用語を上位概念として用いることが不合理ということはできない。また,「第1実施例の連結部材15b,15cに代えて…1枚の個体板26bを設けて」(【0022】)及び「第2実施例における整畦ドラム24の連結部材24c,24dに代えて,…2つの連結片27c,27c」(【0023】)との記載は,第1及び第2実施例において使用されている「連結部材」に代えて,これと異なる形状の連結部材である「個体板」あるいは「連結片」を用いるという趣旨に解するのが自然である。
ウ 原告は,本件明細書の図8の実施形態に相当する発明に係る分割出願(特願2014-166355号及び特願2015-38043号。甲7,8)の特許請求の範囲の記載において,整畦板を連結する部材が「連結片」とされていることからすれば,被告自らが「連結部材」と「連結片」とを区別して用いていると主張する。
しかし,上記分割出願の特許請求の範囲の記載において「連結片」という用語を用いているからといって,「連結片」と「連結部材」がそれぞれ異なるものを指す語として明確に使い分けられているとまでいうことはできず,本件出願において,その上位概念たる「連結部材」という用語を何らかの定義をせずに用いることが許されないということはできない。
エ 原告は,2つ以上の物を連結する部材を示す用語は「連結部材」に限られないところ,あえて「連結部材」という用語を用いたことからすれば,第1及び第2実施例以外の実施例の整畦体は包含されないと主張する。
しかし,各実施例における連結するための部材を総称するものとして,「連結部材」という一般的な用語を用いることが不合理とはいえない。
オ 原告は,被告が図4及び図5の実施形態の発明特定事項の一部であると主張する「各整畦板の基端部は前記回転中心の取付け基部に取付けられ」という構成は,図4及び図5のみならず,図4ないし図9の全ての実施形態が有する構成であるから,「図4及び図5の実施形態をクレームアップすることを主として意図したものです。」との記載は,図4及び図5の実施形態に限定する意思であったと解するのが相当であると主張する。
しかし,本件補正は,拒絶理由解消のためになされたと推認され,かかる目的のもとでは,図4及び図5の実施形態に限定する必要があるとはいい難いから,被告が,上記記載によって,これら実施形態に限定する意思を有していたとは認め難い。
カ 以上のとおり,原告の上記主張はいずれも理由がなく,本件補正によって,特許請求の範囲が,第1及び第2実施形態(図4及び図5)に対応するものに限定 され,第5実施例(図8)が特許請求の範囲から除外されたと認めることはできない。
(3) 小括したがって,「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより,一体の前記整畦ドラムが構成され,」とする本件訂正は,特許請求の範囲拡張又は変更するものとはいえないから,取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(新規事項追加に係る認定判断の誤り)について(1) 本件訂正事項1について原告は,仮に,本件補正によって,第5実施例等が除外されていなかったとしても,本件訂正発明の作用効果(【0030】)に照らし,整畦板が重なり部分を有することは必須の構成であるところ,本件訂正事項1は,整畦板が重なり部分を有することを特定していないので,新規事項を追加するものであると主張する。
しかし,「整畦板は相互に所定の重なりを有し」との構成は,当初明細書の請求項2において記載されていた事項であり,当初明細書の請求項1においては不可欠の構成とされていないこと,請求項2は本件訂正によって削除されたことからすれば,【0030】記載の効果は,本件訂正発明に不可欠のものということはできない。
したがって,本件訂正事項1が,整畦板が重なり部分を有しない形態をも含むものであったとしても,新規事項の追加には当たらないというべきである。
(2) 本件訂正事項2についてア 本件訂正事項2は「前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の回転方向後側の側縁が,直線状であり,前記連結部材は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」というものである。
イ 原告は,仮に,本件補正によって,第5実施例等が除外されていなかったと しても,本件訂正事項2は,別紙1の参考図2-1だけでなく,参考図2-2の形態をも含むものであるから,新規事項を追加するものであると主張する。
しかし,連結部材は,整畦板を相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成するものであり,整畦体は,泥土を元畦に塗りつけて,元畦を修復するものであることからすれば,連結部材は,泥土の塗りつけに支障のない位置に設けられるべきものである。そして,本件明細書の「第5実施例の整畦ドラム27は,図5の第2実施例における整畦ドラム24の連結部材24c,24dに代えて,整畦ドラム27のドラムの内側において,各整畦板27aの重なり部分27bに沿って設けた2つの連結片27c,27cにより固着している。そして,各整畦板27aの境界部分に直線状の垂直段部27dを形成したものである。」との記載(【0023】)及び図8を併せ考慮すれば,第5実施例における連結片27c,27cは,隣接する整畦板27aのうち,回転方向前側に位置する整畦板27aの整畦面の裏面に固定されるとともに,回転方向後側に位置する整畦板27aの側端面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の表面に露出していないことが認められる。
したがって,本件訂正事項2の「前記連結部材は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との構成は,本件明細書の上記記載から自明な事項であるというべきである。
また,本件明細書には,連結部材が,回転方向後側に位置する整畦板の裏面に固定される構成を,殊更に排除していることをうかがわせるような記載は認められないから,本件訂正事項2が,別紙参考図2-2の形態をも含むものであるとしても,新規事項の追加には当たらないというべきである。
ウ 原告は,本件明細書には,連結部材が隣接する整畦板のうち回転方向後側に位置する整畦板の側端面以外の面に対して「延在する/しない」という技術的思想は何ら開示されていないから,本件訂正事項2は新規事項の追加に当たると主張する。
しかし,本件訂正事項2は,連結部材の整畦板への連結方法を,本件明細書から自明な事項に基づいて特定するものであるから,本件明細書に何ら開示されていない技術的思想に基づくということはできない。
エ したがって,原告の上記主張はいずれも理由がない。
(3) よって,本件訂正は新規事項の追加に当たらず,取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(訂正目的違反に係る認定判断の誤り)について前記2及び3のとおり,本件訂正は,実質上特許請求の範囲拡張又は変更するものでないし,新規事項を追加するものでもない。そして,本件訂正事項1及び同2の具体的内容からすれば,本件訂正は,特許請求の範囲減縮を目的とするものである。
よって,本件訂正は,訂正要件を満たしており,取消事由3は理由がない。
5 取消事由4(新規性及び進歩性に係る認定判断の誤り)について(1) 引用発明についてア 引用例(甲1。図面は別紙3参照)には,おおむね,以下のとおり記載されている。
(ア) 発明の属する技術分野この発明は,畦形成機に係る。詳細には,走行車に付設されて進行され,その進行方向に順次畦を形成する畦形成機に係る(【0001】)。
(イ) 発明が解決しようとする課題しかしながら,従来の畦形成機では,内側回転体および外側回転体とも表面は円滑面からなっていたため,圃場の土質の種類によってあるいは圃場の土が乾燥しているときは,畦側面の締め込み力が弱いという課題を有した(【0003】)。
(ウ) 課題を解決するための手段この発明は,…畦形成箇所に沿って移動され,畦形成箇所に土を盛り上げ状態に供給する土盛装置と,土盛装置の移動方向の後方に設置される畦形成装置とを有し,畦形成装置は,土を盛り上げ状態とされた畦形成箇所上を回転しながら通過させる 円筒回転体と,円筒回転体の回転駆動力供給側に取り付けられ回転駆動力供給側にいく程径大となり円筒回転体の中央に向けた傾斜面を有するとともに,表面は放射状の分割片に分割され側面視ジグザグ状からなる円錐回転体とからなることを特徴とする畦形成機,…畦形成箇所に沿って移動され,畦形成箇所に土を盛り上げ状態に供給する土盛装置と,土盛装置の移動方向の後方に設置される畦形成装置とを有し,畦形成装置は,土を盛り上げ状態とされた畦形成箇所上を回転しながら通過させる円筒回転体と,円筒回転体の回転駆動力供給側に取り付けられ回転駆動力供給側にいく程径大となり円筒回転体の中央に向けた傾斜面を有するとともに,表面は放射状の分割片に分割され,分割片は進行方向に対して前進角を設けられ,隣接する分割片相互は逃げ角をもって連結される円錐回転体とからなることを特徴とする畦形成機,を提供する(【0004】,【0006】,【0007】)。
…円錐回転体は,回転駆動力供給側にいく程径大となるとともに,表面は放射状の分割片に分割されているため,畦の裾部に対して盛土を抱き込みながら,断続圧を加えて練り込むので強固な畦を形成する。更に,分割片は進行方向に対して前進角を設けられ,隣接する分割片相互は逃げ角をもって連結される場合は,畦の裾部に対して盛土を抱き込みながら,断続圧を加えて練り込むので強固な畦を形成する。
又,分割片は進行方向に逃げ角を有して断続圧を繰り返す場合は,粘性の強い土が付着しようとしても,直ちに剥離されるので土の付着が成長することもない(【0008】)。
(エ) 発明の実施の形態円錐回転体43の表面は放射状の分割片44に分割される。分割片44は図4に図示されるように,側面視ジグザグ状となり,進行方向fに対して前進角Aを設けられる。隣接する分割片44相互は逃げ角Bをもって連結される。aは,土との当接面,bは逃げ面である(【0015】)。
そのため,走行車であるトラクタの進行にともない,土盛装置21および畦形成装置41は移動される。すると,土盛装置21により畦形成箇所Hに土を盛り上げ 状態に供給する。すなわち,畦形成箇所Hの旧畦の崩れた上面部および側面部に土が盛り上げ状態に連続的に供給される。円錐回転体43は,回転駆動力供給側すなわち走行車側にいく程径大となるとともに,表面は放射状の分割片44に分割され,分割片44は進行方向に対して前進角Aを設けられ,隣接する分割片44相互は逃げ角Bをもって連結されるため,土盛には当接面aがまず当接し,畦の裾部に対して盛土を抱き込みながら,断続圧を加えて練り込むので強固な畦を形成する。又,分割片は進行方向に逃げ角Bを有して断続圧を繰り返すので,粘性の強い土が付着しようとしても,直ちに剥離されるので土の付着が成長することもない(【0016】)。
図5,図6に図示される他の実施の形態では,円錐回転体43の分割片44はそれぞれほぼ扇型の独立片からなる。45は分割片取り付け盤であり,ステンレス製等の金属製からなる。分割片取り付け盤45は表面が円滑な円錐台状からなり,その表面に分割片44の端部を相互に重複させながらビス46で取り付ける。ビス46で分割片取り付け盤45に取り付けられた分割片44とビス46の上に重ねられた隣接する分割片44とで当接面a,逃げ面bを構成し,かつ相互の間で前進角A,逃げ角Bを構成する。この実施の形態では分割片44は別個に製造可能となるので生産性が向上する(【0017】)。
(オ) 発明の効果 畦の裾部に対して盛土を抱き込みながら,断続圧を加えて練り込むので強固な畦を形成する(【0019】)。
引用発明の認定 (ア) 引用例(甲1)には,本件審決が認定したとおりの引用発明(前記第2の3(2)ア)が記載されていることが認められる。
(イ) 原告は,引用例には,「隣接する分割片44の境界部分に沿って設けられた連結片で前記隣接する分割片44を相互に連結することにより,一体の前記円錐回転体43が構成され,」との構成が開示されていると主張する。
しかし,引用例の【0015】には,「円錐回転体43の表面は放射状の分割片44に分割される。分割片44は図4に図示されるように,側面視ジグザグ状となり,進行方向fに対して前進角Aを設けられる。隣接する分割片44相互は逃げ角Bをもって連結される。aは,土との当接面,bは逃げ面である。」と記載されるのみで,分割片44が連結片により相互に連結することは記載されていない。仮に,図3及び図4に開示される円錐回転体43の「当接面a」部分が「分割片44」に相当し,「逃げ面b」部分を「連結片」であると考え,そのように呼ぶとしても,そもそも,図3及び図4に開示される円錐回転体は,ジグザグ状に形成された一体のものであり,複数の隣接する独立片をつなぎ合わせたものではない。
また,引用例には,図5及び図6にて「円錐回転体43の分割片44はそれぞれほぼ扇型の独立片からなる」ものが開示されている(【0017】)が,図5及び図6に開示される実施の形態については,分割片44は,円錐台状の分割片取り付け盤45の表面に,「分割片44の端部を相互に重複させながらビス46で取り付ける。ビス46で分割片取り付け盤45に取り付けられた分割片44とビス46の上に重ねられ」るものであり,ビス46自体「連結片」と呼ぶには適当とはいえないものであるところ,そもそも,ビス46は隣接する分割片44を相互に連結するものではない。
したがって,いずれにしても,引用例は,「隣接する分割片44の境界部分に沿って設けられた連結片で前記隣接する分割片44を相互に連結することにより,一体の前記円錐回転体43が構成され」たものとはいえないから,原告主張に係る引用発明の認定は採用できない。
(ウ) また,原告は,引用例には,「前記連結片は,前記隣接する分割片44のうち,回転方向前側に位置する分割片44の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する分割片44の整畦面に延在しない」との構成が開示されていると主張する。
しかし,引用例に係る構成は,複数の隣接する独立片を連結する連結片を有した ものではないから,上記構成が開示されているとはいえず,この点においても,原告主張に係る引用発明の認定は採用できない。
(エ) よって,本件審決における引用発明の認定に誤りはない。
ウ 引用発明の特徴前記アの記載によれば,引用発明の特徴は,以下のとおりのものと認められる。
(ア) この発明は,畦形成機に係る(【0001】)。
(イ) 従来の畦形成機では,内側回転体及び外側回転体とも表面は円滑面からなっていたため,圃場の土質の種類によってあるいは圃場の土が乾燥しているときは,畦側面の締め込み力が弱いという課題を有した(【0003】)。
(ウ) そこで,引用発明では,上記課題を解決するために,畦形成箇所に沿って移動され,畦形成箇所に土を盛り上げ状態に供給する土盛装置と,土盛装置の移動方向の後方に設置される畦形成装置とを有し,畦形成装置は,土を盛り上げ状態とされた畦形成箇所上を回転しながら通過させる円筒回転体と,円筒回転体の回転駆動力供給側に取り付けられ回転駆動力供給側にいく程径大となり円筒回転体の中央に向けた傾斜面を有するとともに,表面は放射状の分割片に分割され側面視ジグザグ状からなる円錐回転体とからなるように,または,表面は放射状の分割片に分割され,分割片は進行方向に対して前進角を設けられ,隣接する分割片相互は逃げ角をもって連結される円錐回転体とからなるように,構成した(【0004】,【0006】,【0007】,【0015】〜【0017】)。
(エ) そうすることで,円錐回転体は,回転駆動力供給側にいく程径大となるとともに,表面は放射状の分割片に分割されているため,畦の裾部に対して盛土を抱き込みながら,断続圧を加えて練り込むので強固な畦を形成する。更に,分割片は進行方向に対して前進角を設けられ,隣接する分割片相互は逃げ角をもって連結される場合,畦の裾部に対して盛土を抱き込みながら,断続圧を加えて練り込むので強固な畦を形成する。又,分割片は進行方向に逃げ角を有して断続圧を繰り返す場合,粘性の強い土が付着しようとしても,直ちに剥離されるので土の付着が成長す ることもない(【0008】,【0019】)。
(2) 本件訂正発明と引用発明との相違点について 前記(1)イのとおり,本件審決の引用発明の認定に誤りはなく,本件訂正発明と引用発明との間には,前記第2の3(2)ウのとおり,相違点1ないし3が認められる。
したがって,本件訂正発明が新規性に欠けるものでないことは明らかである。
(3) 相違点3の容易想到性について ア 引用発明は,図3及び図4に開示されるジグザグ状に一体に形成された円錐回転体と,図5及び図6に開示される扇型の独立した複数の分割片で形成され,円錐台状の分割片取り付け盤の表面に,分割片の端部を相互に重複させながらビスで取り付けて形成された円錐回転体との実施の形態を有したものである。
イ そもそも引用発明には,円錐回転体を独立した複数の分割片で形成することが開示されているから(図5及び図6),引用発明について,原告主張に係る周知の技術(農作業機の技術分野において,回転しながら農作業する作業部材について,一連の部材で一体製作することに代えて別個に製造した複数の部品を組み合わせて同一形状に製作すること。周知例1ないし4)を採用する動機付けがあるとはいえない。仮に,ジグザグ状に一体に形成された円錐回転体である実施の形態(図3及び図4)に対して,原告主張に係る周知の技術を採用したとしても,せいぜい円錐回転体を複数の片に分割して形成することを導くことができる程度であり,分割片と連結部材とに分割すること,まして,分割片相互の具体的な連結構造については,全く導出することができない。
したがって,引用発明において,相違点3に係る本件訂正発明の構成とすることは,当業者が容易になし得たとすることはできない。
ウ 原告は,隣接する分割片の相互を連結する連結片は,畦の形成に支障のない位置に固定されることは自明の事項であるから,引用発明において,隣接する分割片間に位置する連結片を独立片に置換し,この置換の際に,その独立片を,隣接する分割片のうち回転方向前側に位置する分割片の整畦面の裏面に固定しかつ回転方 向後側に位置する分割片の整畦面に延在しないようにして相違点3に係る本件訂正発明の構成にすることは,当業者が容易に想到することができたと主張する。
しかし,引用例に開示される2つの実施形態を組み合わせたとしても,図4に開示される実施の形態において,「逃げ面b」と「当接面a」とを分割して片を形成することができる理由はない。そもそも,2つの実施の形態を組み合わせる動機はなく,また,組み合わせた際に導出されるものは,結局,引用例に開示された2つの実施の形態であり,それ以外の別の形態,例えば,「逃げ面b」を独立片として形成することを導くことはできない。さらに,「逃げ面b」を独立片として形成させた際,その独立片を連結片として,「当接面a」を独立片として形成させたものに対する具体的な固定の仕方については,到底導くことはできない。
エ 以上のとおり,相違点3を容易に想到することができたとは認められない。
(4) 小括よって,その余の点を判断するまでもなく,取消事由4は理由がない。
6 取消事由5(実施可能要件に係る認定判断の誤り)について(1) 本件明細書の【0003】ないし【0005】,【0007】及び【0008】の記載から,本件訂正発明は,「泥土の状態によっては,所望の(十分な)元畦修復が行えない場合がある」との課題を解決するために,解決手段として「各整畦板の境界部分に段差部を形成」するものであり,また,従来の整畦ドラムは「その形状や製造上,作用等において改良すべき点がある」との課題を解決するために,解決手段として「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより,一体の前記側面修復体」を構成等するものであると理解できるから,本件特許の発明の詳細な説明に当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていないということはできない。
(2) 本件明細書には,「上記整畦ドラム15は,上記図4の第1実施例のように,回転中心の取付け基部に,平面視で内端側の幅が狭く,外端側の幅が次第に広くなる複数枚の整畦板15aの基端部を,隣接する整畦板15aが相互に所定の重なり を有するよう取付け…」(【0020】)と記載されており,当該記載並びに請求項1及び図4の記載に照らせば,本件特許の請求項1に記載された「回転中心の取付け基部」は,「整畦ドラム」の「回転中心」に位置する部材であると理解することができる。そして,本件訂正発明は,本件明細書の記載並びに技術常識に基づいて,当業者がその物を製造できないものともいえない。よって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が,本件訂正発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとすることはできない。
(3) よって,取消事由5は理由がない。
7 取消事由6(サポート要件に係る認定判断の誤り)について 原告は,本件訂正は新規事項を追加するものであり,本件訂正発明が本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないと主張する。
しかし,前記3のとおり,本件訂正は新規事項を追加するものではないから,原告の主張は前提を異にする。
よって,取消事由6は理由がない。
8 取消事由7(明確性要件に係る認定判断の誤り)について(1) 「連結部材」について 原告は,「整畦板の整畦面に延在しない」との構成及び「境界部分に沿って設けられた連結部材」との構成について開示がなく,本件訂正発明は不明確であると主張する。
しかし,前記2のとおり,本件補正後の請求項1における「連結部材」は,整畦板を連結するための部材一般を指し,本件明細書にある「連結部材24c,24d」や「連結片27c,27c」等を広く含むものであるから,その意味は明確である。
そして,「境界部分に沿って設けられた連結部材」については,本件明細書の第5実施例(図8)を見れば,その意味は明確であるし,「整畦板の整畦面に延在しない」については,前記3のとおり,本件明細書において開示されているので,その意味は明確である。
(2) 「重なり部分」「垂直段部」について原告は,「重なり部分」や「垂直段部」という文言は,本件明細書の特許請求の範囲中には記載がなく,その結果,特許請求の範囲に記載された構成とこの構成に基づく作用効果との関係が不明であるから,本件訂正発明は不明確である旨主張する。
しかし,そもそも,本件訂正発明は,上記「重なり部分」及び「垂直段部」という事項を特定したものではないところ,本件訂正発明において,「整畦ドラムは土盛体により供給された泥土を,回転しながら各段差部により間欠的に叩打し,泥土を固めながら元畦に塗りつけ,従来の整畦ドラムに比べ良好な畦を形成する(【0007】)」という作用効果を奏するに当たり,上記「重なり部分」及び「垂直段部」という事項は必須とはいえないから,それら事項による特定がないことをもって,本件訂正発明が不明確であるとはいえない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3) 「取付け基部」について原告は,本件訂正発明の「回転中心の取付け基部」という事項について,本件明細書の【0020】に「図4の第1実施例のように,回転中心の取付け基部に…整畦板15aの基端部を…取付け」と記載されているのみで,符号も付されておらず図4中のどこのことなのか不明であり,本件明細書の全ての記載に照らしても,「回転中心の取付け基部」が整畦ドラムの回転中心に位置するどの部分あるいはどの部材を指すのか判然としないから,本件訂正発明は明確でない旨主張する。
しかし,前記6で述べたとおり,「回転中心の取付け基部」は,整畦ドラムの回転中心に位置する部材であると理解できるから,本件訂正発明における「回転中心の取付け基部」が不明確であるとはいえない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(4) 小括以上によれば,取消事由7は理由がない。
9 結論以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 部眞規子
裁判官 古河謙一
裁判官 鈴木わかな
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