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関連審決 無効2013-800233
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事件 平成 28年 (行ケ) 10011号 審決取消請求事件

原告株式会社高知丸高
同訴訟代理人弁理士 清原義博 北本友彦 今岡大明
被告 株式会社横山基礎工事
同訴訟代理人弁護士 小林幸夫 弓削田博 河部康弘 藤沼光太 神田秀斗
同訴訟代理人弁理士 久保司 尾関眞里子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/12/07
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2013-800233号事件について平成27年12月8日にし 1 た審決中,特許第4553629号の請求項1,5及び6に係る部分を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,平成16年5月12日,発明の名称を「掘削土飛散防止装置」とする発明について特許出願をし,平成22年7月23日,設定の登録(特許第4553629号)を受けた(請求項の数6。甲12。以下,この特許を「本件特許」という。)。
(2) 原告は,平成25年12月17日,本件特許について特許無効審判請求をし,無効2013-800233号事件として係属した(甲13)。
(3) 被告は,平成27年6月15日,請求項2ないし4を削除することを含む,本件特許に係る特許請求の範囲を訂正する旨の訂正請求をした(訂正後の請求項の数3。甲19。以下「本件訂正」という。なお,この訂正請求は,同年10月20日付け手続補正書により補正された(甲23)。)。
(4) 特許庁は,平成27年12月8日,「特許第4553629号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。本件審判の請求は成り立たない。請求項2ないし4についての本件審判請求を却下する。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月16日,原告に送達された。
(5) 原告は,平成28年1月15日,本件審決中,本件特許の請求項1,5及び6に係る部分の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の特許請求の範囲請求項1,5及び6の記載は,次のとおりである(甲23)。なお,「/」は原文の改行部分を示す(以下同じ。)。以下,請求項1,5及び6に係る発明を「本件発明1」などといい,併せて「本件各発明」という。
また,本件訂正後の明細書(甲23)を,本件特許の図面(甲12)を含めて「本件明細書」という。
2 【請求項1】地盤を掘削するための掘削ビットをハンマシャフトの先端に備えたダウンザホールハンマと,/前記ハンマシャフトの一端が連結され,前記ダウンザホールハンマを回転駆動するための回転駆動装置と,/前記回転駆動装置から垂下し,前記ダウンザホールハンマを囲繞するように設けられ,下端側から前記ダウンザホールハンマの掘削ビットが突き出るように形成されたケーシングと,/前記ダウンザホールハンマの掘削ビットによって削り出される掘削土が吹き上げられた際に通過するようになっており,前記ケーシングの内壁と前記ダウンザホールハンマとの間に形成された通路と,/前記ケーシングに形成され,前記通路を通り抜けて吹き上げられた掘削土を前記ケーシングの外側に排出するための排土口と,を有する掘削装置を用いた掘削施工において排出される前記掘削土が,当該掘削装置の周囲に飛散するのを防止するための掘削土飛散防止装置であって,/前記掘削土飛散防止装置は前記ケーシングの少なくとも一部を囲繞するように,前記回転駆動装置から前記ハンマシャフトに沿って垂下した状態で取り付け可能に構成された筒状部を含んでおり,筒状部は蛇腹状の側壁を有するように形成され,自在に伸縮できるように構成され,/また,前記掘削土飛散防止装置は前記排土口を介して前記ケーシングの外側へ排出された前記掘削土が衝突するようになっている衝突部を含んでおり,/前記排土口から所定距離離隔した状態で,前記衝突部が前記ケーシングの外側から前記排土口を臨むように設けられ,/前記掘削土飛散防止装置は,さらに,/蛇腹状の側壁を有する前記筒状部の下端近傍に,その一端が連結されたワイヤーと,/少なくとも掘削作業中において,垂下された状態の前記筒状部の上端から下端までの長さを調整するために,前記ワイヤーを自在に巻き取りまたは繰り出すことができるように構成されており,前記ワイヤーの他端が連結されている巻き取り装置と,を有しており,/前記巻き取り装置によって前記ワイヤーが巻き取られた際には,巻き取りに伴って前記筒状部が縮退し,/前記巻き取り装置によって前記ワイヤーが繰り出された際には,繰り出しに伴って前記筒状部が排土口のみならずケーシングを取り囲むことができる筒状部が伸展するようになっていて,/サイレ 3 ンサーとして機能するようにもした,/前記衝突部に衝突した前記掘削土は,当該掘削装置の周囲に飛散することなく,前記衝突部と前記排土口との間の間隙を介して,自重によって前記衝突部の下方へ向かって落下するようになっていることを特徴とする掘削土飛散防止装置。
【請求項5】前記掘削土飛散防止装置は,さらに,前記筒状部の下端に,当該筒状部を被固定体に対して着脱自在に固定するための固定用フランジを有しており,/前記被固定体は,地表部に設置されるようになっており,前記掘削土飛散防止装置の固定用フランジに対して固定されるようになっている固定部と,前記ケーシングの一部を囲繞する筒状部と,を含んでいることを特徴とする請求項1記載の掘削土飛散防止装置。
【請求項6】上記請求項1記載の掘削土飛散防止装置と,請求項5記載の掘削装置とを併用して掘削を行う方法であって,/前記掘削土飛散防止装置の衝突部がケーシングの外側から排土口を臨むように,当該掘削土飛散防止装置の筒状部を回転駆動装置からハンマシャフトに沿って垂下する状態で取り付け,/前記ケーシング内を挿通するダウンザホールハンマによって,所定位置の地盤を掘削し,/掘削作業の間に前記ケーシングの排土口から排出される掘削土を,前記掘削土飛散防止装置の衝突部に衝突させることによって,当該掘削土が自重によって衝突部の下方へ向かって落下するようにし,/前記ダウンザホールハンマの掘進に伴って,垂下された状態の前記筒状部を縮退させ,/掘削の間および/または掘削の終了後において,前記衝突部の下方の地表部に堆積した前記掘削土を排土処理することを特徴とする掘削方法。
3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。要するに,本件訂正を認めた上,@本件各発明は,明確であって,その特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たす,A本件発明1は,下記アの公知例1の記載に基づき,公然知られ,公然実施をされた発明ではなく,同法29条1項1 4 号及び2号の規定に違反して特許されたものではない,B本件各発明は,下記イの引用例2に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び下記ウないしキの引用例3ないし7に記載された発明等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,同条2項の規定に違反して特許されたものではない,C本件発明1は,下記クの公知例8の記載に基づき,公然知られ,公然実施をされた発明並びに下記ア及びウの公知例1及び引用例3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,同項の規定に違反して特許されたものではない,などというものである。
ア 公知例1:Aの宣誓供述書の写し(甲1) イ 引用例2:特開2001-32274号公報(甲2) ウ 引用例3:特開平11-294055号公報(甲3) エ 引用例4:雑誌「基礎工」1988年12月号(株式会社総合土木研究所,平成10年12月15日発行)の表紙,8〜12頁,奥付の写し(甲4) オ 引用例5:雑誌「基礎工」2000年10月号(株式会社総合土木研究所,平成12年10月15日発行)の表紙と奥付の写し(甲5) カ 引用例6:特開平11-107661号公報(甲6) キ 引用例7:特公昭57-7275号公報(甲7) ク 公知例8:Bの宣誓供述書(甲8) (2) 本件審決が認定した引用発明は,次のとおりである。
拡大ヘッド(H)及び拡大ヘッド(H)の直上に配置され,拡大ヘッド(H)に撃力を与えるハンマ機構(B)とで構成されている掘削装置(A)と,/掘削装置(A)と駆動部(D)とを接続するドリルロッド(11)と,/ドリルロッド(11)を介して掘削装置(A)を回転させる駆動部(D)と,/上端がチャック部(54)に設置され,ドリルロッド(11)並びに駆動部(D)がその内部に挿通され,掘削装置(A)の下端が中空コンクリート杭(1)の下端から覗くコンクリート杭(1)と,/圧縮空気(18)によって上方に押し上げられた土砂(17)が通過する,掘削装置(A)及びドリルロッド(11)と,中空コンクリート杭(1)と 5 の間の間隙(7)と,/圧縮空気(18)によって上方に押し上げられた土砂(17)が溢出する,チャック部(54)の空間と,を有する打設装置の蛇腹状の伸縮カバー(34)であって,/駆動部(D)のチャック部(54)上端から地表部に至り,カバー(34)の上方部内面が,チャック部(54)の土砂が排出されている部分から所定距離離隔してチャック部(54)の土砂が排出されている部分の周囲,及び,チャック部(54)の外周を被覆し,中間部及び下方部が,中空コンクリート杭(1)を囲繞するように設けられ,下端は掘削場所の周囲を覆うように設置されている蛇腹状の筒状部であり,/土砂(17)は,チャック部(54)の空間を通って中空コンクリート杭(1)から溢出し,カバー(34)と中空コンクリート杭(1)との間を通って落下する伸縮カバー(34)。
(3) 本件発明1と引用発明との対比 本件審決が認定した本件発明1と引用発明との一致点,相違点は次のとおりである。
ア 本件発明1と引用発明との一致点 地盤を掘削するための掘削ビットをハンマシャフトの先端に備えたダウンザホールハンマと,/前記ハンマシャフトの一端が連結され,前記ダウンザホールハンマを回転駆動するための回転駆動装置と,/前記回転駆動装置から垂下し,前記ダウンザホールハンマを囲繞するように設けられ,下端側から前記ダウンザホールハンマの掘削ビットが突き出るように形成されたケーシングと,/前記ダウンザホールハンマの掘削ビットによって削り出される掘削土が吹き上げられた際に通過するようになっており,前記ケーシングの内壁と前記ダウンザホールハンマとの間に形成された通路と,/前記通路を通り抜けて吹き上げられた掘削土を前記ケーシングの外側に排出する掘削土排出部と,を有する掘削装置を用いた掘削施工において排出される前記掘削土が,当該掘削装置の周囲に飛散するのを防止するための装置であって,/掘削土排出部から所定距離離隔した状態で,ケーシングの外側から掘削土排出部を覆うように設けられ,/掘削土は,当該掘削装置の周囲に飛散することなく,掘削土が周囲に飛散するのを防止するための装置と掘削土排出部との間の間隙 6 を介して,自重によって下方へ向かって落下するようになっている掘削土が,当該掘削装置の周囲に飛散するのを防止するための装置。
イ 本件発明1と引用発明との相違点 (ア) 相違点1 本件発明1は,掘削装置の掘削土排出部が「ケーシングに形成され」た「排土口」であり,/掘削土が掘削装置の周囲に飛散するのを防止するための装置が「排土口を介して前記ケーシングの外側へ排出された前記掘削土が衝突するようになっている衝突部を含んでおり,」「排土口」から所定距離離隔した状態で,「衝突部」がケーシングの外側から「排土口を臨むように設けられ」た「掘削土飛散防止装置」であって,/掘削土の落下が「衝突部に衝突した」掘削土は,当該掘削装置の周囲に飛散することなく「衝突部と前記排土口との間」の間隙を介して,自重によって「衝突部」の下方へ向かって落下するようになっているのに対して,/引用発明は,掘削土排出部が「チャック部(54)の空間」であり,/掘削土が掘削装置の周囲に飛散するのを防止するための装置が「駆動部(D)のチャック部(54)上端から地表部に至り,カバー(34)の上方部内面が,チャック部(54)の土砂が排出されている部分から所定距離離隔してチャック部(54)の土砂が排出されている部分の周囲,及び,チャック部(54)の外周を被覆し,中間部及び下方部が,中空コンクリート杭(1)を囲繞するように設けられ,下端は掘削場所の周囲を覆うように設置されている蛇腹状の筒状部」であり,/掘削土の落下が「チャック部(54)の空間を通って中空コンクリート杭(1)から溢出し,カバー(34)と中空コンクリート杭(1)との間を通って」落下である点。
(イ) 相違点2 本件発明1は,装置が「さらに,/蛇腹状の側壁を有する前記筒状部の下端近傍に,その一端が連結されたワイヤーと,/少なくとも掘削作業中において,垂下された状態の前記筒状部の上端から下端までの長さを調整するために,前記ワイヤーを自在に巻き取りまたは繰り出すことができるように構成されており,前記ワイヤ 7 ーの他端が連結されている巻き取り装置と,を有しており,/前記巻き取り装置によって前記ワイヤーが巻き取られた際には,巻き取りに伴って前記筒状部が縮退し,/前記巻き取り装置によって前記ワイヤーが繰り出された際には,繰り出しに伴って前記筒状部が排土口のみならずケーシングを取り囲むことができる筒状部が伸展するようになって」いるのに対し,引用発明はその特定がない点。
(ウ) 相違点3 本件発明1は,装置が「サイレンサーとして機能する」のに対し,引用発明はその特定がない点。
(4) 本件発明5と引用発明との対比 本件審決が認定した本件発明5と引用発明との一致点,相違点は次のとおりである。
ア 本件発明5と引用発明との一致点 本件発明1と引用発明との一致点と同じ。
イ 本件発明5と引用発明との相違点 (ア) 相違点1ないし3と同じ。
(イ) 相違点4 掘削土飛散防止装置が,本件発明5は,「筒状部の下端に,当該筒状部を被固定体に対して着脱自在に固定するための固定用フランジを有しており,/前記被固定体は,地表部に設置されるようになっており,掘削土飛散防止装置の固定用フランジに対して固定されるようになっている固定部と,ケーシングの一部を囲繞する筒状部と,を含んでいる」のに対し,引用発明はそうでない点。
(5) 本件発明6と引用発明との対比 本件審決が認定した本件発明6と引用発明との一致点,相違点は次のとおりである。
ア 本件発明6と引用発明との一致点 (ア) 本件発明1と引用発明との一致点と同じ。
8 (イ) 掘削土飛散防止装置と,掘削装置とを併用して掘削を行う方法であって,/掘削土飛散防止装置がケーシングの外側から掘削土排出部を覆うように,当該掘削土飛散防止装置の筒状部を回転駆動装置からハンマシャフトに沿って垂下する状態で取り付け,/前記ケーシング内を挿通するダウンザホールハンマによって,所定位置の地盤を掘削し,/掘削作業の間に掘削土排出部から排出される掘削土を,自重によって下方へ向かって落下するようにした掘削方法。
イ 本件発明6と引用発明との相違点 (ア) 相違点1ないし3と同じ。
(イ) 相違点5 併用する掘削土飛散防止装置が,本件発明6は,「請求項1記載の」ものであり,併用する掘削装置が,本件発明6は,「請求項5記載の」ものであるのに対し,引用発明はその特定がない点。
(ウ) 相違点6 掘削土飛散防止装置の取り付けが,本件発明6は掘削土飛散防止装置「の衝突部」がケーシングの外側から「排土口を臨む」ように取り付けなのに対し,引用発明はカバー(34)が「チャック部(54)の外周を被覆し,中間部及び下方部が,中空コンクリート杭(1)を囲繞するように設けられ」る点。
(エ) 相違点7 本件発明6は,掘削土が「前記掘削土飛散防止装置の衝突部に衝突させることによって,当該掘削土が」自重によって「衝突部」の下方へ向かって落下するのに対し,引用発明は「土砂(17)は,チャック部(54)の空間を通って中空コンクリート杭(1)から溢出し,カバー(34)と中空コンクリート杭(1)との間を通って落下」するものである点。
(オ) 相違点8 本件発明6は「ダウンザホールハンマの掘進に伴って,垂下された状態の前記筒状部を縮退させ,/掘削の間および/または掘削の終了後において,前記衝突部の 9 下方の地表部に堆積した前記掘削土を排土処理する」のに対し,引用発明はその特定がない点。
4 取消事由 (1) 本件各発明の明確性判断の誤り(取消事由1) (2) 本件発明1の新規性判断の誤り(取消事由2) (3) 引用発明に基づく本件発明1の進歩性判断の誤り(取消事由3) (4) 公知公然実施発明(甲8)に基づく本件発明1の進歩性判断の誤り(取消事由4) (5) 本件発明5の進歩性判断の誤り(取消事由5) (6) 本件発明6の進歩性判断の誤り(取消事由6) (7) 手続上の瑕疵(取消事由7)
当事者の主張
1 取消事由1(本件各発明の明確性判断の誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 本件審決は,掘削土飛散防止装置の「サイレンサーとして機能するようにもした」という発明特定事項は,単に,筒状部が,(例えば,網やフレームのような特殊なものではない)普通の筒状部であることを特定したにすぎず,「どのような構造であるかがまったく不明確である。」とはいえないと判断した。
(2) 普通の構造の筒状部がその内部で発生する騒音を減少する性質を有することは,技術常識である。その「筒状部」にあえて「サイレンサーとして機能するようにもした」という発明特定事項が訂正によって追加されたのであるから,訂正後の「筒状部」は何か特別な構造を有していると当然に解される。
しかし,「筒状部」が,サイレンサーとして機能するために,どのような構造,材質,形状を有しているかについて,本件明細書には一切記載がないから,「サイレンサーとして機能するようにもした」という発明特定事項は,不明確である。
(3) したがって,本件各発明の特許請求の範囲の記載を明確であると判断した本 10 件審決は誤りである。
〔被告の主張〕 既に「筒状部」が「サイレンサーとして機能する」以上,「筒状部」に,何か特別な構造を付加する必要はない。したがって,「筒状部」が,何か特別な構造を有していると解する余地はない。
よって,本件各発明の特許請求の範囲の記載は明確であって,本件審決に誤りはない。
2 取消事由2(本件発明1の新規性判断の誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 公知例1の記載から認定される公知公然実施発明 ア Aの宣誓供述書(公知例1。甲1)には,次の記載がある。
(ア) 筒状の伸縮可能な蛇腹部材が,遅くとも平成8年にはダウンザホールハンマ掘削装置において掘削土の飛散防止カバーとして用いられるようになっていた。
(イ) 蛇腹部材をダウンザホールハンマ掘削装置の掘削土飛散防止カバーとして使用する場合,蛇腹部材の下端部は地表部から浮かせた状態とするのが業界において一般的な使用態様であった。
イ そして,Aは宣誓の上で公知例1を作成したものであり,また,上記記載は,本件特許の出願日以前の証拠に基づくものであるから,信用できる。
(2) よって,本件発明1は,公知例1の記載から認定される公知公然実施発明であるから,本件発明1について新規性を有すると判断した本件審決は誤りである。
〔被告の主張〕 本件審決のとおり,公知例1は,10年以上前の記憶を元に作成されたものであるから,公知例1のみを根拠として原告が立証しようとする公知公然実施発明を認定することはできない。仮にAに対する証人尋問を行ったとしても,約18年も前の技術水準に関するものであって,記憶も薄れ,現在の技術常識が事後分析的に紛れ込むことは容易に予想できることなどから,その証言に信用性はない。
11 したがって,公知例1の記載から公知公然実施発明を認定できず,本件発明1について新規性を有すると判断した本件審決に誤りはない。
3 取消事由3(引用発明に基づく本件発明1の進歩性判断の誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 相違点2に関する本件審決の判断 相違点2に関する本件審決の判断は,オーガスクリューで掘削した場合,掘削された土砂は全て羽根上にのり,その羽根上の土砂を取り除くために,引用例6の掘削土飛散防止手段は,ジャバラ筒4下端を常時地面から略一定の高さHに維持しているのであるから,ジャバラ筒4下端を常時地面から略一定の高さHに維持するのはオーガスクリュー特有の事情に対応するものであると解した上で,オーガスクリューで掘削するものではない引用発明に,ジャバラ筒4下端を常時地面から略一定の高さHに維持する引用例6の構成を採用することは容易に想到し得ない,という趣旨のものである。
(2) 引用例6に記載された事項の適用 ア 課題,目的について (ア) 引用発明の課題,目的 引用例2には,「前記間隙(7)を通って中空コンクリート杭(1)の最上部まで押し上げられた土砂(17)は,チャック部(54)の図示しない空間を通って中空コンクリート杭(1)から溢出し,カバー(34)と中空コンクリート杭(1)との間を通って落下し,中空コンクリート杭(1)の周囲に堆積する。」(【0047】)と記載されており,引用発明は,中空コンクリート杭(1)の周囲に堆積した土砂を取り除くという課題を当然に有するものである。
(イ) 引用例6の課題,目的 オーガスクリューで掘削した場合においても,掘削土が全てオーガスクリューの羽根上に付着するのでなく,当然にオーガスクリューの周囲に堆積するから,羽根上の土砂を取り除くとともに地表部の周囲に堆積する土砂を取り除く必要がある【0 ( 12 002】,【0003】,【0009】,【0034】)。
したがって,引用例6の請求項1における「オーガ削孔作業中はジャバラ筒(4)の下端(E)を地面に対して略所定高さに維持する」という要件の目的は,オーガスクリューの羽根上の土砂の取除き作業だけでなく,オーガスクリューによる排出土砂の取除き作業も目的としていることは明らかである。また,引用例6に接した当業者は,オーガスクリューの羽根上の土を取り除くためだけでなく,ジャバラ筒の下方に堆積した排出土砂を取り除くためにも,ジャバラ筒の下端を略所定高さに維持すると当然ながらに理解する。
(ウ) 課題,目的の共通性 引用例6の掘削土飛散防止装置も,引用発明のカバー(34)も,土砂の飛散を防止することに変わりはない。また,引用例6の掘削土飛散防止装置には,オーガスクリューであっても,ジャバラ筒の下方に堆積した排出土砂を取り除くという課題があり,引用発明にも同様の課題がある。
なお,引用例6の掘削土飛散防止装置が有する複数の目的のうちの一部が,引用発明の目的と同一であれば,引用例6に記載された事項を本件発明1に適用することについて動機付けはあるというべきである。また,引用発明はダウンザホールハンマにより掘削し,引用例6はオーガスクリューで掘削するものであって,発生する土砂の量に差があるとしても,これは,引用例6に記載された事項を本件発明1に適用することに関係しない。
イ 阻害要因のないこと (ア) 引用発明においては,伸縮カバー(34)の上端はチャック部(54)に設置されており(【0042】),また中空コンクリート杭(1)の上端はチャック部(54)にチャックされている。つまり,中空コンクリート杭(1)の上端は伸縮カバー(34)の下端より上方に位置する。したがって,中空コンクリート杭(1)の打設が進行し,その杭頭部が伸縮カバー(34)によって囲繞されなくなることは構造上あり得ない。中空コンクリート杭(1)の杭頭部が囲繞されずに,結果として,大量の土砂と水が飛散する 13 に至るということはない。
(イ) 引用例6に記載された「略一定の高さH」とは,運転者が自由に操作できるから(【0022】),引用例6に記載された事項を適用した引用発明においても,騒音の漏れを防止する高さに調整することができる。したがって,引用発明に引用例6に記載された事項を適用しても,騒音の漏れの防止という引用発明の課題は達成できる。
ウ したがって,当業者は,引用発明における伸縮カバー(34)の内側に堆積した土砂を取り除くために,引用例6の土砂飛散防止手段を適用することを容易に想到することができる。
(3) 周知技術の適用 相違点2に係る構成は,公知例1,公知例8及び甲11から認められる周知技術である。
(4) 小括 したがって,引用発明において,相違点2に係る本件発明1の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到することができたものである。
よって,本件発明1は,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1について進歩性を有すると判断した本件審決は誤りである。
〔被告の主張〕 (1) 引用例6に記載された事項の適用 ア オーガスクリューを用いる掘削装置の特有の事情 (ア) 引用例6に記載された土砂飛散防止手段は,リーダレスオーガを用いる掘削措置に関するものであって,「削孔作業中は,オーガスクリュー3が上下動しながら降下して行くにかかわらずジャバラ筒4下端は常時地面から略一定の高さHに維持出来るため,削孔土砂の取除き,オーガスクリュー3の羽根上の土砂の除去作業は支障なく達成」するための構成を有している。
14 (イ) 引用例6に記載されたオーガスクリューを用いる掘削装置の飛散防止措置は,落下物が作業員等にぶつかることを防止するためのものであり 【0002】 , ( )引用発明におけるダウンザホールハンマを用いる掘削装置の飛散防止装置のように,積極的に土砂を落下させることを意図していない。
(ウ) 引用例6に記載された「削孔土砂の取除き」と「オーガスクリュー3の羽根上」の土砂の取除きを別の作業ということはできない。引用例6に記載された飛散防止装置は,「オーガスクリュー削孔中はスクリュー羽根上に土砂や石が取り残され,スクリューの上昇時にこれら土砂が上方から落下して工事現場は危険である。
…」(【0002】)というオーガスクリューに特有の課題と,「リーダレスオーガ削孔機のオーガスクリューにジャバラ筒を適用すれば,オーガスクリューの下降と共にジャバラ筒下端も下降し,オーガで削孔した土砂を取り除いたり,オーガスクリューの羽根上の土砂を取り除く作業ができなくなってしまう」(【0004】)というオーガスクリューに特有の課題を同時に解決したものであって,オーガスクリューを用いない引用発明の課題を解決したものではない。
(エ) ダウンザホールハンマを用いる掘削装置の飛散防止措置として,相違点2の構成が採用されるのは,ダウンザホールハンマは掘削土砂をすさまじい勢いで吹き上げるところ「…落下してくる大量の掘削土が,地表上で重なり合っている蛇腹部分の上に降り積もって,筒状部の縮退(すなわちワイヤーの巻き取り操作)を妨げるという事態が生じるのを防止することができる」からである(本件明細書の【0021】)。一方,オーガスクリューを用いる掘削装置においては,オーガスクリューを引き上げる際にスクリューの羽根の間に詰まった土砂を作業員が除去することで,掘削土砂が凄まじい勢いで落下して,地表上で重なり合っている蛇腹部分の上に降り積もることは起こらない(引用例6の【0002】,引用例7の2欄10行〜14行)。したがって,引用発明の飛散防止装置と,引用例6の飛散防止装置は,それぞれに特有の構成に起因する,異なる問題に対処するために取り付けられている。
15 (オ) よって,ダウンザホールハンマを用いる引用発明に,オーガスクリュー特有の事情を配慮して採用された引用例6に記載された土砂飛散防止手段を適用することはできない。
イ 阻害要因 引用発明に「ジャバラ筒4下端は常時地面から略一定の高さHに維持」するという引用例6に記載された飛散防止装置の構成を適用した場合,コンクリート杭の打設が進行して,杭の上端が高さHより下に下がった時点から,コンクリート杭頭部はジャバラ筒4によって囲繞されなくなり,その結果大量の土砂と水はジャバラ筒4によって飛散を防止できなくなるほか,ダウンザホールハンマによる騒音も漏れやすくなる。
ウ したがって,当業者は,引用発明に引用例6に記載された飛散防止措置を適用することを容易に想到することはできない。
(2) 小括 よって,引用発明において,相違点2に係る本件発明1の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到することができたということはできないから,本件発明1について進歩性を有すると判断した本件審決に誤りはない。
4 取消事由4(公知公然実施発明に基づく本件発明1の進歩性判断の誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 公知例8の記載から認定される公知公然実施発明 ア Bの宣誓供述書(公知例8。甲8)には,次の記載がある。
蛇腹部材をダウンザホールハンマ掘削装置の外周に被套して掘削土飛散防止装置とすることは,平成12年以前から業界の周知技術であった。
イ そして,Bは宣誓の上で公知例8を作成したものであり,また,公知例8の上記記載は,本件特許の出願日以前の証拠に基づくものであるから,信用できる。
(2) 容易想到性 16 公知例8の記載から認定される公知公然実施発明に,公知例1及び引用例3に記載された発明を適用し,又は,公知例1及び甲11から認められる周知技術を適用し,本件発明1の構成を備えるようにすることは当業者が容易に想到することができる。
(3) 小括 よって,本件発明1は,公知例8の記載から認定される公知公然実施発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1について進歩性を有すると判断した本件審決は誤りである。
〔被告の主張〕 本件審決のとおり,公知例8のみを根拠として,原告が立証しようとする公知公然実施発明を認定することはできない。仮にBに対する証人尋問を行ったとしても,約20年も前の技術水準に関するものであって,記憶も薄れ,現在の技術常識が事後分析的に紛れ込むことは容易に予想できることなどから,その証言に信用性はない。
したがって,公知例8の記載から公知公然実施発明を認定できず,本件発明1について進歩性を有すると判断した本件審決に誤りはない。
5 取消事由5(本件発明5の進歩性判断の誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 相違点4に関する本件審決の判断 本件審決は,引用発明に,引用例6に記載された事項と,引用例7に記載された事項とを同時に適用することは当業者が容易に想到することができないと判断したものである。
(2) 引用例7に記載された事項の適用 ア 前記3〔原告の主張〕(2)のとおり,引用発明に引用例6に記載された事項を適用することは容易に想到し得るから,引用例6に記載された事項が適用された引用発明に,引用例7に記載された事項を適用することについて検討する。
17 (ア) まず,引用例6に記載された事項が適用された引用発明に引用例7に記載された事項を適用することは,引用例6のジャバラ紐Sが取り付けられた,引用例2の伸縮カバー(34)の下端に,引用例7のアウターフランジ16を取り付けることであるから,構造上の阻害要因はない。なお,引用例6に記載された事項に引用例7に記載された事項を適用するものではないから,両者の間に「リーダ」があるか否かの違いがあるとしても,このことから阻害要因は生じない。
(イ) また,引用例7のアウターフランジ16は,保護カバー12の下方に設けられた取付部材26に固定することを目的としているから,引用発明のように掘削場所の周囲を覆うこと,つまり掘削場所の周囲を取付部材とし,これに,伸縮カバー(34)の下端に取り付けられたアウターフランジを固定することを容易に想到する。
そして,アウターフランジ16を掘削場所の周囲を覆うことに用いた場合に,同時に引用例6のように地面から略一定の高さHに維持することは不可能であるが,同時に行う必要はない。作業の状況に応じて,あるときにはアウターフランジ16を地面から略一定の高さHに維持して用い,あるときにはアウターフランジ16を掘削場所の周囲を覆って用いればよいのであって,当業者が容易に想到することである。
(ウ) 以上によれば,引用例6に記載された事項が適用された引用発明に,引用例7に記載された事項を適用することは,当業者が容易に想到する。
イ なお,杭の打設において打撃音を消音することは当然の普遍的課題として認識されているから(引用例2の【0002】),引用発明に消音効果を高めるためにフランジを設けることは,容易に想到できるものである, ウ したがって,引用発明において,相違点4に係る本件発明5の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到できるものである。
(3) 小括 よって,本件発明5は,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件発明5について進歩性を有すると判断した本件審決は誤 18 りである。
〔被告の主張〕 (1) 引用例7に記載された事項の適用 ア 引用発明に,引用例6及び7に記載された掘削土飛散防止装置という複数の副引用発明を適用することは,強力な示唆が存在する場合に限られるというべきである。そもそも,前記3〔被告の主張〕のとおり,引用発明に引用例6に記載された事項を適用することもできない。
イ また,引用例7のアウターフランジ16を掘削場所の周囲を覆うことに用いた場合に,同時に引用例6のように,ジャバラ筒を地面からほぼ一定の高さHに維持することは不可能であるところ,引用例6に記載された掘削装置には,作業の状況に応じて使用方法を変えることは記載されていないから, 作業の状況に応じて, 「あるときはアウターフランジ16を地面からほぼ一定の高さHに維持して用い,あるときにはアウターフランジ16を掘削場所の周囲を覆って用いればよい」などとするのは,事後分析的思考の典型例である。
さらに,引用例6に記載されたリーダレスオーガによる掘削装置においては,ジャバラ筒の下端をリーダの下端に固定することはできないから(【0004】),これにリーダを用いる引用例7の掘削装置を組み合わせることはできない。
ウ 本件発明5においてフランジを設けたのは,「筒状部を被固定体に対して固定しない場合と比較すると,ケーシング等を伝わって響き渡るダウンザホールハンマによる打撃音をより効果的に消音することが可能になる」からである(【0022】)。一方,引用例2,6及び7のいずれにも,ダウンザホールハンマの打撃音を消音することについての言及はない。そうすると,引用発明に,消音効果を高めるためにフランジを設けることを想到することは困難である。
エ したがって,当業者は,引用発明に引用例7に記載された飛散防止措置を適用することを容易に想到することはできない。
(2) 小括 19 よって,引用発明において,相違点4に係る本件発明5の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到することができたということはできないから,本件発明5について進歩性を有すると判断した本件審決に誤りはない。
6 取消事由6(本件発明6の進歩性判断の誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 相違点8に係る容易想到性の判断 前記3〔原告の主張〕(2)のとおり,引用発明における伸縮カバー(34)の内側に堆積した土砂を取り除くために,引用例6に記載された土砂飛散防止手段を適用することは,容易に想到することができる。
したがって,引用発明において,相違点8に係る本件発明6の方法を備えるようにすることは,当業者が容易に想到できるものである。
(2) よって,本件発明6は,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件発明6について進歩性を有すると判断した本件審決は誤りである。
〔被告の主張〕 前記3〔被告の主張〕と同様に,引用発明において,相違点8に係る本件発明6の方法を備えるようにすることは,当業者が容易に想到することができたものではない。
よって,本件発明6は,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではないから,本件発明6について進歩性を有すると判断した本件審決に誤りはない。
7 取消事由7(手続上の瑕疵)について 〔原告の主張〕 (1) 公知公然実施発明の認定について ア 本件審決の判断 本件審決は,10年以上前の記憶を元に作成された公知例1のみを根拠に原告が 20 立証されているとする事実を認定することはできない,立証内容について反対尋問の機会も設けられていないことを考慮すれば,公知例8のみを根拠として,原告が立証されていると主張した事実を認定することは妥当でないなどとして,公知例1及び公知例8の記載は,公知公然実施発明と認定できるものではなく,これらを根拠として,本件各発明の特許を無効にすることはできないと判断した。
イ 審理不尽 公知例1及び公知例8に記載された事実は,本件各発明の無効理由を判断するのに必要な資料であり,かつ,審判官の心証を覆す蓋然性もある。
また,原告は,平成26年12月8日の口頭審理の際,A,Bの証人尋問に応じる用意があることを口頭で表明した。書面による申出をしなかったのは,本件特許を無効とする旨の審決予告(甲18)がされたからにすぎない。
したがって,審判合議体は,原告に証人尋問の申出を促すべきであったし,職権でも証人尋問を行うべきであった。また,原告は,口頭で証人尋問の申出を行ったということができるから,これを採用すべきであった。しかし,審判合議体は,これらをせずに,上記アのとおり判断したものであるから,本件審決には,審理不尽の違法があり,取り消されるべきである。
(2) 補正を許可しなかった決定について ア 株式会社平林製作所作成に係るパンフレット(平成12年10月発行。以下「本件パンフレット」という。甲11) 本件パンフレットには,掘削土飛散防止装置の写真が掲載されているところ,その構成は,「蛇腹状の側壁を有する筒状部がケーシングを囲繞するようにハンマシャフトに沿って垂下して取り付けられており,掘削土飛散防止装置には筒状部の下端に連結されたワイヤーの巻き取り装置が備えられ,このワイヤーによって巻き取られた際には筒状部が縮退し,ワイヤーが繰り出された際には筒状部が伸展するようになっている掘削土飛散防止装置」というものであって,本件発明1と全く同じ構成を有している。
21 イ 本件審決の判断 原告は,平成27年3月9日付け上申書(甲17)とともに,本件パンフレットを新たな証拠として提出した。しかし,審決予告(甲18)において,かかる上申書における主張及び証拠の追加は,審判請求書の要旨を変更するものであるから,当該補正は許可しない,と判断された。
ウ 補正を許可しなかった違法 (ア) 上記補正により審理を不当に遅延させるおそれはない。また,審決予告の段階で,上記補正が許されないと,その後の訂正請求の構成に応じて,請求の理由を補正することもできなくなる。したがって,上記補正を許可しなかった決定は誤りである。
(イ) そうすると,審判合議体は,本件パンフレットを証拠として採用して,審理すべきであったにもかかわらず,補正を許可しなかったことにより,これを審理しなかったのであるから,本件審決には,判断遺漏の違法がある。
そして,本件パンフレットには,本件発明1と全く同じ構成を有する掘削土飛散防止装置の写真が掲載されており,かかる違法は,審決の結論に影響を及ぼすものであるから,本件審決は,取り消されるべきである。
〔被告の主張〕 (1) 公知公然実施発明の認定について 審判官には,職権で証拠調べをしなければならない義務も,当事者に対して証人尋問の申出を促さなければならない義務も存在しない。また,原告は,特許法施行規則の定める証人尋問の申出も行っていない。さらに,原告には証人尋問の申出を行う十分な機会が与えられていた。
したがって,本件審決に審理不尽の違法はない。
(2) 補正を許可しなかった決定について 補正許可は,審判長の裁量により行われるものであり(特許法131条の2第2項),審判長は補正許可決定をしなければならない義務を負わないから,補正を許 22 可しなかったことが審決取消事由にならないことは明らかである。
また,本件パンフレットに掲載された写真には,「ダウンザホール併用工法」と記載されているのみで,本件発明1の構成に関する説明は皆無であるから,当該写真に映っている装置が,本件発明1と全く同じ構成を有する掘削土飛散防止装置であるということはできない。
当裁判所の判断
1 本件各発明について (1) 本件各発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2記載のとおりであるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,おおむね,以下の記載がある(下記記載中に引用する図1〜4は,別紙1本件明細書図面目録参照)。
ア 技術分野 【0001】本発明は,ダウンザホールハンマを用いた掘削施工において排出される掘削土が,当該掘削装置の周囲に飛散するのを防止するための掘削土飛散防止装置に関する。
イ 背景技術 【0002】硬質地盤や岩盤等を掘削する上で優れた掘削能力を備えているという観点から,従来より,削孔機械としてダウンザホールハンマが広く一般的に用いられている。… 【0007】しかしながら,上述したダウンザホールハンマを用いての従来の掘削作業には,以下のような問題があった。
【0008】すなわち,ダウンザホールハンマを用いた従来の掘削作業においては,打撃破砕による掘削となる施工原理から発生するくり粉状の掘削土が,ケーシングに形成された排土口を介して,施工現場の周囲に飛散するようになっている。
したがって,ダウンザホールハンマ自体は硬質地盤や岩盤に対して優れた掘削能力を備えてはいるものの,施工現場の周辺環境を,飛散した掘削土によって汚染してしまうという問題点があった。
23 【0009】また,ケーシングには排土口が形成されているため,ダウンザホールハンマの打撃作用によって生じる打撃音は,当該排土口を通じて周囲に響き渡ることとなる。しかも,ケーシングやハンマシャフト等は金属製である(或いは金属製部品を多く含む)ため,掘削ビットを連続して打撃する際に生じる打撃音は緩和されることなく,金属製部品を介して周囲に響き渡ってしまう。そのため,騒音問題や上記汚染問題を考慮すると,優れた掘削能力を備えているにも関わらず,ダウンザホールハンマを利用した掘削作業は,都市部(たとえば住宅密集地やオフィスビルの密集地など)においては積極的に起用し難いという問題点があった。
ウ 発明が解決しようとする課題 【0010】そこで,上述した問題点に鑑み,本発明の目的は,ダウンザホールハンマによる掘削によって排出されるくり粉状の掘削土が施工現場の周囲に飛散することを防止するとともに,従来と比較してダウンザホールハンマ使用時における騒音を緩和することを可能にする装置を提供することによって,優れた掘削能力を備えたダウンザホールハンマの適用範囲を拡大することにある。
エ 課題を解決するための手段 【0012】@ 上記目的を達成するために,本発明に係る掘削土飛散防止装置は,/地盤を掘削するための掘削ビットをハンマシャフトの先端に備えたダウンザホールハンマと,/前記ハンマシャフトの一端が連結され,前記ダウンザホールハンマを回転駆動するための回転駆動装置と,/前記回転駆動装置から垂下し,前記ダウンザホールハンマを囲繞するように設けられ,下端側から前記ダウンザホールハンマの掘削ビットが突き出るように形成されたケーシングと,/前記ダウンザホールハンマの掘削ビットによって削り出される掘削土が吹き上げられた際に通過するようになっており,前記ケーシングの内壁と前記ダウンザホールハンマとの間に形成された通路と,/前記ケーシングに形成され,前記通路を通り抜けて吹き上げられた掘削土を前記ケーシングの外側に排出するための排土口と,を有する掘削装置を用いた掘削施工において排出される前記掘削土が,当該掘削装置の周囲に飛散 24 するのを防止するための装置であって,/前記排土口を介して前記ケーシングの外側へ排出された前記掘削土が衝突するようになっている衝突部を含んでおり,/前記排土口から所定距離離隔した状態で,前記衝突部が前記ケーシングの外側から前記排土口を臨むように設けられ,/前記衝突部に衝突した前記掘削土は,当該掘削装置の周囲に飛散することなく,前記衝突部と前記排土口との間の間隙を介して,自重によって前記衝突部の下方へ向かって落下するようになっている。
【0013】A 上記@記載の掘削土飛散防止装置において,好ましくは,前記掘削土飛散防止装置は筒状部を含んでおり,/前記筒状部は,前記ケーシングの少なくとも一部を囲繞するように,前記回転駆動装置から前記ハンマシャフトに沿って垂下した状態で取り付け可能に構成されており,/前記衝突部は,前記筒状部の一部から構成されている。
【0014】B 上記A記載の掘削土飛散防止装置において,好ましくは,前記筒状部は,蛇腹状の側壁を有するように形成され,自在に伸縮できるように構成されている。
【0015】C 上記B記載の掘削土飛散防止装置は,好ましくは,さらに,/蛇腹状の側壁を有する前記筒状部の下端近傍に,その一端が連結されたワイヤーと,/少なくとも掘削作業中において,垂下された状態の前記筒状部の上端から下端までの長さを調整するために,前記ワイヤーを自在に巻き取りまたは繰り出すことができるように構成されており,前記ワイヤーの他端が連結されている巻き取り装置と,を有しており,/前記巻き取り装置によって前記ワイヤーが巻き取られた際には,巻き取りに伴って前記筒状部が縮退し,/前記巻き取り装置によって前記ワイヤーが繰り出された際には,繰り出しに伴って前記筒状部が伸展するようになっている。
【0016】D 上記A乃至Cの何れかに記載の掘削土飛散防止装置は,好ましくは,さらに,前記筒状部の下端に,当該筒状部を被固定体に対して着脱自在に固定するための固定用フランジを有しており,/前記被固定体は,地表部に設置され 25 るようになっており,前記掘削土飛散防止装置の固定用フランジに対して固定されるようになっている固定部と,前記ケーシングの一部を囲繞する筒状部と,を含んでいる。
【0017】E また,上記目的を達成するために,本発明に係る方法は,上記C記載の掘削土飛散防止装置と,上記C記載の掘削装置とを併用して掘削を行う方法であって,/前記掘削土飛散防止装置の衝突部がケーシングの外側から排土口を臨むように,当該掘削土飛散防止装置の筒状部を回転駆動装置からハンマシャフトに沿って垂下する状態で取り付け,/前記ケーシング内を挿通するダウンザホールハンマによって,所定位置の地盤を掘削し,/掘削作業の間に前記ケーシングの排土口から排出される掘削土を,前記掘削土飛散防止装置の衝突部に衝突させることによって,当該掘削土が自重によって衝突部の下方へ向かって落下するようにし,/前記ダウンザホールハンマの掘進に伴って,垂下された状態の前記筒状部を縮退させ,/掘削の間および/または掘削の終了後において,前記衝突部の下方の地表部に堆積した前記掘削土を排土処理するようになっている。
オ 発明の効果 【0018】上記@に記載の本発明によれば,掘削土飛散防止装置の衝突部には,排土口を介してケーシングの外側へ排出された掘削土が衝突するようになっている。
そして,衝突部に衝突した掘削土は,衝突部と排土口との間の間隙を通って,自重によって下方へ落下するようになっている。したがって,掘削装置の排土口から排出される掘削土は,掘削装置の周囲に飛散することない。その結果,本発明によれば,施工現場周辺の環境が掘削土で汚染されるという事態が生じるのを効果的に防止することが可能になる。
【0019】上記Aに記載の本発明によれば,衝突部を含んで構成される筒状部は,回転駆動装置からハンマシャフトに沿って垂下した状態で取り付けられるようになっており,しかも,取り付けた状態でケーシングを囲繞するようになっている。
このように,ケーシングを囲繞するように掘削土飛散防止装置を取り付けることに 26 よって,排土口のみならずケーシングを取り囲むことができる。これにより,筒状部が一種のサイレンサーとして機能するので,掘削ビットを打撃する際に生じる打撃音を筒状部の内側である程度消音することができ,従来と比較して掘削時の騒音を緩和することが可能になる。その結果,本発明によれば,掘削土の飛散に起因する汚染問題を解決することができるだけでなく,打撃音に起因する騒音問題を解決することもできるので,優れた掘削能力を有するダウンザホールハンマを都市部において積極的に起用することができるという優れた効果が達成される。
【0020】上記Bに記載の本発明によれば,筒状部の側壁は自在に伸縮できるように蛇腹状に形成されているので,たとえば施工後における収容時や施工現場への搬送時において,掘削土飛散防止装置をコンパクトに縮退させた状態において収容・搬送することが可能となる。また,施工現場における使用時においては,掘削土飛散防止装置を必要に応じて素早く伸展(または縮退)させることが可能となる。
【0021】上記Cに記載の本発明によれば,掘削土飛散防止装置は巻き取り装置を備えており,ワイヤーを巻き取りまたは繰り出すことによって,垂下された状態の筒状部の上端から下端までの長さを調整できるようになっている。これにより,たとえばワイヤーの巻き取り・繰り出し操作を通じて蛇腹部分(筒状部)の伸縮を繰り返すことによって,落下して来る途中で筒状部の内壁に付着した掘削土を効率的に払い落とすことが可能になる。また,ダウンザホールハンマの掘進に伴って筒状部の長さを調整することができるので,蛇腹部分(筒状部)の下端側が地表上で重なり積もることを防止することが可能になる。これにより,落下してくる大量の掘削土が,地表上で重なり合っている蛇腹部分の上に降り積もって,筒状部の縮退(すなわちワイヤーの巻き取り操作)を妨げるという事態が生じるのを防止することができる。その結果,掘削作業中は常に筒状部を縮退させることができるので,必要に応じて当該筒状部の内側で堆積した掘削土を,たとえばバックホウを利用して(或いは人手を利用して)排土処理することが可能になる。さらに,地表部に降り積もる掘削土によって,筒状部の内壁側が汚れることを防止することもできる。
27 【0022】上記Dに記載の本発明によれば,掘削土飛散防止装置の筒状部の下端には,当該筒状部を被固定体に対して着脱自在に固定するための固定用フランジが設けられている。そして,上記被固定体は,ケーシングの一部を囲繞する状態で地表部に設置されるようになっている。したがって,回転駆動装置から垂下した状態で取り付けられる筒状部の下端を,この被固定体に対して固定することによって,ケーシング(地上側に突き出た部分の全体)を筒状部と被固定体との組合せで取り囲むことができる。その結果,筒状部を被固定体に対して固定しない場合と比較すると,ケーシング等を伝わって響き渡るダウンザホールハンマによる打撃音をより効果的に消音することが可能になる。
【0023】上記Eに記載の本発明によれば,掘削作業の間にケーシングの排土口から排出される掘削土は,掘削土飛散防止装置の衝突部に衝突して,自重によって当該衝突部の下方へ落下するようになっている。しかも,掘削作業の間は,垂下された状態の筒状部は,ダウンザホールハンマの掘進に伴って縮退されるようになっている。このような方法によれば,ケーシングの排土口から排出される掘削土が掘削装置の周囲に飛散することないので,施工現場周辺の汚染を効果的に防止することが可能になる。また,ケーシングを囲繞する筒状部が一種のサイレンサーとして機能するので,打撃に伴う掘削時の騒音を緩和することが可能になる。さらに,掘進に伴って筒状部を縮退させることによって,落下してくる大量の掘削土が,地表上で重なり合っている蛇腹部分の上に降り積もって,筒状部の縮退を妨げるという事態が生じるのを防止することができる。さらに,落下してくる大量の掘削土は,衝突部(掘削土飛散防止装置)の下方でまとまって堆積するようになっているので,掘削土の排土処理を迅速に行うことが可能になる。
カ 発明を実施するための最良の形態 (ア) 掘削装置の構成の概略 【0026】図1及び図2に示すように,掘削装置5は,主として,ダウンザホールハンマ50と,回転駆動装置(アースオーガ)60と,ケーシング70と,排 28 土口73と,通路80と,を有している。
(イ) 掘削土飛散防止装置の構成 【0033】次に,図2に基づいて,第1実施形態に係る掘削土飛散防止装置1aの構成について説明する。
【0034】掘削土飛散防止装置1aは,略円筒状に形成された円筒部(筒状部)11を有している。円筒部11は,当該円筒部の一部から成る衝突部13を内壁側に含んでいる。この衝突部13には,排土口73を介してケーシング70の外側へ排出された掘削土が衝突するようになっている。また,上記円筒部11は,図示するように側壁が蛇腹形状を成すように形成され,自在に伸縮できるように構成されている。
【0035】上述した構成を有する掘削土飛散防止装置1aは,回転駆動装置60からハンマシャフト53に沿って垂下した状態(すなわちハンマシャフト53とほぼ並行に垂下した状態で) ケーシング70を囲繞するように取り付けられる。
で,当該掘削土飛散防止装置1aを掘削装置5に取り付けた状態においては,衝突部13が,排土口73から所定距離離隔した状態で,ケーシング70の外側から排土口73を臨むようになっている。
(ウ) 掘削土飛散防止装置の作用 【0036】掘削作業の間,掘削ビット55によって削り出された掘削土は,ハンマシャフト53内を通り抜けて来た圧縮エアによって吹き上げられる。吹き上げられた掘削土は,圧縮エアの流れに乗って通路80を通り抜け,排土口73を介してケーシング70の外側に排出される。この際,掘削土は圧縮エアの流れに乗って排土口73から勢いよく出て来るので,排土口73から排出された掘削土が衝突部13(すなわち円筒部11の内壁)に衝突することとなる。そして,衝突部13に衝突した掘削土は,掘削装置5の周囲に飛散することなく,衝突部13と排土口との間の間隙15を介して,自重によって衝突部13の下方へ向かって落下するようになっている。
29 (エ) 第2実施形態 【0040】次に,図3に基づいて,第2実施形態に係る掘削土飛散防止装置1bの構成について説明する。… 【0041】掘削土飛散防止装置1bは,掘削装置5に取り付けた状態における円筒部11の長さ(回転駆動装置60から垂下させた状態における円筒部11の上端から下端までの長さ)を調整可能に構成されている… 【0042】第2実施形態において,掘削土飛散防止装置1bは,円筒部11に加えて,巻き取り装置17とワイヤー19とを有している。ワイヤー19の一端は,蛇腹状の側壁を有する円筒部11の下端近傍に連結されている。巻き取り装置17は一例として回転駆動装置60に取り付けられており,また,当該巻き取り装置17には上記ワイヤー19の他端が巻き取り・繰り出し可能に連結されている。
【0043】上述した構成によれば,掘削作業中において,巻き取り装置17の所定操作を通じてワイヤー19を自在に巻き取りまたは繰り出すことができるので,必要に応じて,垂下された状態の円筒部11の上端から下端までの長さを調整することが可能になる。そして,巻き取り装置17によってワイヤー19が巻き取られた際には,図3(B)に示すように巻き取りに伴って円筒部が縮退し(縮みながら退く),また,巻き取り装置によってワイヤーが繰り出された際には,図3(A)に示すように繰り出しに伴って円筒部11が伸展する(伸び広がる)ようになっている。」 (オ) 第3実施形態 【0045】次に,図4に基づいて,第3実施形態に係る掘削土飛散防止装置1cの構成について説明する。… 【0046】掘削土飛散防止装置1cは,使用時において円筒部11の下端が排土受け装置に対して固定されるように構成されている点を除いて,第2実施形態に係る掘削土飛散防止装置1bと同様の構成を有している。… 【0047】第3実施形態において,掘削土飛散防止装置1cは,掘削装置5と 30 排土受け装置(被固定体)20との組合せとともに使用されるようになっている。
この排土受け装置20は,図4に示すように地表部に設置されるようになっており,固定部21と筒状部23とを有している。排土受け装置20の上端側に位置する固定部21は,後述する掘削土飛散防止装置1cの固定用フランジ18に対して重ね合わされ且つ固定されるようになっている。また,排土受け装置20の筒状部23は,ケーシング70の一部(地表から突き出た部分の一部)を囲繞するようになっている。
【0048】一方,掘削土飛散防止装置1cは,円筒部11,巻き取り装置17及びワイヤー19に加えて,固定用フランジ18を有している。固定用フランジ18は,円筒部11の下端に設けられている。この固定用フランジ18を介して,掘削土飛散防止装置1cの円筒部11は,排土受け装置20に対して着脱自在に固定されるようになっている。着脱自在に固定するための手段は特に限定されず,ボルト締めによる手段であってもよく,或いはその他の一般的に利用されている着脱自在固定機構を利用することも可能である。
(2) 前記(1)の記載によれば,本件明細書には,本件各発明に関し,以下の点が開示されていることが認められる。
ア 本件各発明は,ダウンザホールハンマを用いた掘削施工において排出される掘削土が,当該掘削装置の周囲に飛散するのを防止するための掘削土飛散防止装置に関するものである(【0001】)。
イ 硬質地盤や岩盤等を掘削する上で優れた掘削能力を備えているという観点から,削孔機械としてダウンザホールハンマが広く一般的に用いられている。しかし,ダウンザホールハンマを用いての従来の掘削作業では,打撃破砕によって発生するくり粉状の掘削土が,ケーシングに形成された排土口を介して,施工現場の周囲に飛散するため,施工現場の周辺環境を,飛散した掘削土によって汚染してしまうという問題点や,ダウンザホールハンマの打撃作用によって生じる打撃音が,排土口を通じて周囲に緩和されることなく響き渡ってしまうという問題点があった(【0 31 002】,【0007】〜【0009】)。
ウ 本件各発明は,ダウンザホールハンマによる掘削によって排出されるくり粉状の掘削土が施工現場の周囲に飛散することを防止するとともに,従来と比較してダウンザホールハンマ使用時における騒音を緩和することを可能にする装置を提供することを課題とするものである(【0010】)。
エ 本件各発明は,上記課題を解決するために,請求項1,5及び6記載の構成又は方法を採用したものである(【0012】〜【0023】)。
本件発明1は,特に,掘削土飛散防止装置において,巻き取り装置によって自在に巻き取り又は繰り出されるワイヤーによって,蛇腹状の筒状部を伸展させるという構成を採用したことにより,@ワイヤーの巻き取り又は繰り出し操作を通じて蛇腹部分の伸縮を繰り返して,落下してくる途中で筒状部の内壁に付着した掘削土を効率的に払い落とすことが可能になったほか,Aダウンザホールハンマの掘進に伴って筒状部の長さを調整することで,蛇腹状の筒状部の下端側が地表上で重なり積もることを防止することが可能になり,これにより,落下してくる大量の掘削土が,地表上で重なり合っている蛇腹部分の上に降り積もって,筒状部の縮退(すなわちワイヤーの巻き取り操作)を妨げるという事態が生じるのを防止し,その結果,掘削作業中は常に筒状部を縮退させることができ,必要に応じて当該筒状部の内側で堆積した掘削土を,バックホウや人手を利用して排土処理することが可能になり,さらに,地表部に降り積もる掘削土によって,筒状部の内壁側が汚れることを防止できるという効果を奏するものである(【0015】,【0021】,【0040】〜【0043】)。
また,本件発明5は,筒状部の下端に,固定用フランジを付け,これに被固定体を着脱自在に固定し,当該被固定体を地表部に設置するとともに,ケーシングの一部を囲繞させるという構成を採用することによって,地上側に突き出たケーシングの全体を筒状部と被固定体との組合せで取り囲み,その結果,筒状部を被固定体に対して固定しない場合と比較すると,ケーシング等を伝わって響き渡るダウンザホ 32 ールハンマによる打撃音をより効果的に消音することが可能になるという効果を奏するものである(【0016】,【0022】,【0045】〜【0048】)。
2 取消事由1(本件各発明の明確性判断の誤り)について 原告は,本件特許の請求項1に記載された「サイレンサーとして機能するようにもした」との発明特定事項が不明確であると主張する。
しかし,「サイレンサーとして機能するようにもした」とは,「消音機能を有するようにもした」ということを意味するものであって,これが,第三者に不測の不利益を及ぼすような不明確な記載であるということはできない。
そして,普通の構造の筒状部がその内部で発生する騒音を減少する性質を有することが技術常識であるとしても,本件発明1は,掘削土飛散防止措置として,ケーシングの一部を囲繞するように筒状部を取り付けるなどの構成を採用することにより,「サイレンサーとして機能するようにもした」ものであって(【0013】,【0019】 , ) かかる発明特定事項は,この点に技術的意義を有するものである。
したがって,「サイレンサーとして機能するようにもした」という発明特定事項が記載されていることをもって,「筒状部」が何か特別な構造を有していると解されるものではなく,これを前提とする原告の主張は理由がない。
以上のとおり,本件発明1における「サイレンサーとして機能するようにもした」との発明特定事項は,不明確であるとはいえず,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載が明確性要件に違反するということはできない。これを引用する本件発明5及び6の特許請求の範囲の各記載も,明確性要件に違反するものではない。
よって,取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(本件発明1の新規性判断の誤り)について 原告は,本件発明1は,公知例1の記載から認定される公知公然実施発明であると主張する。しかし,公知例1には,巻き取り装置によりワイヤーを巻き取ったり,繰り出したりする構成についての記載はないから,公知例1から認定され得る公知公然実施発明が,かかる構成を備えた本件発明1であるということはできない。
33 したがって,取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(引用発明に基づく本件発明1の進歩性判断の誤り)について (1) 引用発明について ア 引用例2(甲2)には,おおむね,以下の記載がある(下記記載中に引用する図1は,別紙2引用例図面目録を参照)。
(ア) 特許請求の範囲 【請求項1】地中埋設用の中空コンクリート杭の下端より掘削装置の掘削部分を突出させ,中空コンクリート杭の下方の地盤を掘削しつつ中空コンクリート杭を掘削孔に埋設するコンクリート杭の打設方法であって,… (イ) 産業上の利用分野 【0001】本発明は,既製の中空コンクリート杭の埋込み工法或いは鉄筋カゴを使用した杭の現場打設工法並びに該工法に使用される打設装置及び前記打設装置の2段拡大ヘッドの改良に関するものである。
(ウ) 従来の技術 【0002】既製の中空コンクリート杭或いは鉄筋カゴを使用した杭の現場打設工法の施工については,騒音や振動等の公害防止の観点から打ち込み工法に代わり,各種の低公害の埋込工法が開発されている。… (エ) 発明の詳細な説明 【0024】以下,本発明を図示実施例に従って説明する。図1は本装置の概略断面図で,大略,杭打ち機(Ku),掘削装置(A),掘削装置(A)を作動させる駆動部(D),掘削装置(A)と駆動部(D)とを接続するドリルロッド(11),掘削装置(A)の先端から圧縮空気(18)を噴出させる圧縮空気供給部(E),掘削装置(A)の先端から硬化材(8)を噴出させる硬化材供給装置(F)とで構成されている。
【0026】駆動部(D)は,ドリルロッド(11)を介して掘削装置(A)を回転させる駆動モータ(53),中空コンクリート杭(1)の先端をチャックするチャック部(54),チャック部(54)を昇降させる油圧シリンダ機構(55),油圧シリンダ機構(55)に合わせ 34 て伸縮する伸縮ロッド部(56)とで構成されている。
【0027】掘削装置(A)は,拡大ヘッド(H)及び拡大ヘッド(H)の直上に配置され,拡大ヘッド(H)に撃力を与えるハンマ機構(B)とで構成されている。
【0042】コンクリート杭(1)は中空杭であるから,ドリルロッド(11)並びに駆動部(D)がその内部に挿通され,掘削装置(A)の下端が中空コンクリート杭(1)の下端から覗いており,拡大羽根(10)が中空コンクリート杭(1)の下端に掛る事なく拡縮出来るようになっている。また,中空コンクリート杭(1)の外周は蛇腹状の伸縮カバー(34)にて覆われており,その上端はチャック部(54)に,下端は掘削場所の周囲を覆うように設置されている。
【0043】この状態で,駆動部(D)の駆動モータ(53)を回転させ且つ圧縮空気を供給してハンマ機構(B)を作動させる。駆動モータ(53)の回転によって掘削装置(A)が回転し,これによって拡大羽根(10)は収納凹所(12)から出,その先端の軌跡が中空コンクリート杭(1)の外径(d)とほぼ同径に開き掘削を開始する。ここで,掘削孔(3)の内径(D1)が中空コンクリート杭(1)の外径より少し大きい場合はセメントミルクを両者の間隙に充填し,逆に間隙がない場合は中空コンクリート杭(1)を圧入していく。この時中空コンクリート杭(1)を回転させると圧入がより容易となる。
【0044】同時に作動するハンマ機構(B)のピストン(62)は掘削装置(A)に下向きの撃力を与え,ボタンビット(25)にて地盤(2)を連続的に破砕する。… 【0047】更に,本体部(20a)から上向きに開口している分岐孔(22b)は,分岐孔(22c)からの圧縮空気(18)によって上方に押し上げられた土砂(17)を掘削装置(A)及びドリルロッド(11)と,中空コンクリート杭(1)との間の間隙(7)を通って更に上方に押し上げる作用をする。そして前記間隙(7)を通って中空コンクリート杭(1)の最上部まで押し上げられた土砂(17)は,チャック部(54)の図示しない空間を通って中空コンクリート杭(1)から溢出し,カバー(34)と中空コンクリート杭(1)との間を通って落下し,中空コンクリート杭(1)の周囲に堆積する。
【0048】このようにして掘削を行っていくのであるが,掘削の進展と同時に 35 中空コンクリート杭(1)の掘削孔(3)への圧入が同時進行する。即ち,掘削孔(3)の孔底が掘削されると,油圧シリンダ機構(55)が作動してシリンダロッドを伸長させる。
これによりチャック部(54)は押し下げられ,チャック部(54)に固定されている中空コンクリート杭(1)は掘削孔(3)内に圧入されていく。
イ 前記アの記載によれば,引用例2には,前記第2の3(2)のとおり引用発明が記載されていることが認められる。
(2) 本件発明1と引用発明の対比 前記1の本件発明1と前記(1)の引用発明を対比すると,本件発明1と引用発明の相違点は,相違点1ないし3(前記第2の3(3)イ)であることが認められる。そこで,取消事由3のうち,まず,引用発明において,相違点2に係る本件発明1の構成を備えるようにすることを,当業者が容易に想到することができたか否かについて検討する。
(3) 引用例6に記載された発明(以下「引用発明6」という。)の適用 ア 引用例6(甲6)に記載された事項 引用例6には,おおむね,以下の記載がある(下記記載中に引用する図1は,別紙2引用例図面目録を参照。)。
(ア) 発明の属する分野 【0001】本発明は,リーダレスオーガを用いる作業方法に関するものであり,リーダレスオーガに土砂飛散防止用のジャバラを装着して削孔作業を行い,オーガを取外して他の作業機に仕様換えした際にも,オーガ駆動部がジャバラを装着したまま受け台上に載置しておき,次のオーガ削孔作業に容易に仕様換え出来るようにするものである。
(イ) 従来の技術 【0002】土木建築基礎工事としての地盤改良工事や杭材の立込み又は打込み工事にあっては,オーガスクリューで削孔するが,オーガスクリュー削孔中はスクリュー羽根上に土砂や石が取り残され,スクリューの上昇時にこれら土砂が上方か 36 ら落下して工事現場は危険である。さらに,工事現場に面した車道や歩道等にこれら土砂が落下して第3者災害を招くおそれもある。
【0003】従って,リーダ式オーガ削孔機にあっては,土砂飛散防止用のジャバラ筒でオーガスクリュー外周を覆い,ジャバラ筒の下端をリーダに取付けた支持具などで支持し,ジャバラ筒下端と地表との間を2〜3m間隔に保持したままジャバラ筒上端をオーガスクリューと共に上下動させ,スクリュー羽根からの落下土砂をジャバラ筒で飛散防止しながら,ジャバラ筒下端の下方では削孔土砂の取り除きや羽根上の土砂の取り除き作業を行っている。
【0004】しかし,リーダレスオーガ削孔機にあっては,ジャバラ筒の下端を地上からの定位置に保持する箇所が無いため,オーガスクリューの外周にジャバラ筒を適用することは不可能であった。若し,リーダレスオーガ削孔機のオーガスクリューにジャバラ筒を適用すれば,オーガスクリューの下降と共にジャバラ筒下端も下降し,オーガで削孔した土砂を取り除いたり,オーガスクリューの羽根上の土砂を取り除く作業が出来なくなってしまう。
(ウ) 発明が解決しようとする課題 【0008】本願発明は,リーダレスオーガ削孔機に新規なジャバラ筒保持手段を適用することにより,従来のリーダ式オーガ削孔機同様の土砂飛散防止手段の適用を可能とし,従来のリーダレスオーガ削孔機の重大な欠陥であった土砂飛散の問題を根本的に解消し,リーダレスオーガ削孔機の施工分野を画期的に拡大するものである。
(エ) 課題を解決するための手段及び作用 【0009】例えば図1に示す如く,オーガスクリューを覆うジャバラ筒4の上端をオーガ駆動部2に係止し,オーガスクリュー3の削孔上下動に対応してジャバラ筒4の下端を逐次上下動させ,オーガ削孔作業中はジャバラ筒4の下端Eを地面に対して必要高さHに維持する。従って,削孔作業中はオーガスクリュー3の上部はジャバラ筒4によって覆われているため,オーガスクリュー上に取り残された土 37 砂又は薬液混じりの土砂はジャバラ筒を伝って落下し,地面で跳ね上ることもなく,オーガスクリュー3の上部からの土砂の飛散は完全に防止されると共に,オーガスクリュー3の下部はオーガスクリュー3の上下動にかかわらず略所定高さHだけ露出しているため,オーガスクリュー3による排出土砂の取り除き作業も,スクリュー羽根上の土砂の取り除き作業も支障なく実施出来る。従って,リーダレスオーガ削孔機であるにかかわらず,大型機械のリーダ式オーガ削孔機同様の機能及び安全性が発揮出来る。
【0010】また,オーガスクリュー3の上下動に対応したジャバラ筒4の下端Eの上下動を,ジャバラ筒4の下端に固定したジャバラ紐Sの機台からの操作による捲上げ,捲戻しによって行うため,ジャバラ筒4下端を作業に適した必要高さに機台から自由に制御出来,削孔土砂取り除き作業員の要望に自在に応えることが出来,作業能率の向上が計れる。
【0013】本願装置発明は,自走車体に旋回可能且つ俯仰可能に配置した可動腕機構の先端アーム1に取付けたオーガ駆動部2にジャバラ筒吊下板6を取付け,オーガスクリュー3を覆うジャバラ筒4の上端を該吊下板6に係止すると共に,ジャバラ筒4の下端Eに固定した複数本のジャバラ紐Sを,それぞれジャバラ筒4外周の案内リング43に挿通して該吊下板6の案内部r 1,r2,r3,r4を介して均斉に引上げ,引下げ可能とした。
【0022】…尚,明細書中で言うジャバラ筒下端の「略所定高さH」の意味は,運転者が土砂取除き作業等の作業性を考慮して適宜保持する高さであり,運転者が自由に操作する高さである。
(オ) 実施例 【0033】次いで,ジャバラ筒4をオーガスクリュー3の外周に垂下被覆し,各ジャバラ紐Sを各紐ローラr,案内ローラr′及び偏向ローラgを経由して紐集束装置7の紐集束部Aを経た直後で係止具(フック)Jに固定し機械本体上のワイヤロープS0の先端のループに係止した。従って,作業開始の状態では,図1に示 38 す如く,オーガスクリュー3の先端が接地する状態であって,ジャバラ筒4の下端は地面からの所定高さ(約2m)Hであり,各ジャバラ紐S0は先端アーム1の先端近傍で1本のワイヤロープS0に接続され,ワイヤロープS0は機械本体側の先端アーム1上の先端ガイド11,及び中間ガイド12を経て,ウインチ13に捲付け可能に取付けられている。
【0034】オーガ駆動部2の作動によってオーガスクリュー3が削孔を開始し,オーガスクリュー3の地中への没入及び引上げによってオーガ駆動部2が上下動するにつれ,運転台からの操作によってウインチ13の捲上げ,捲戻しによってジャバラ筒4の下端を逐次上下動させる。従って,削孔作業中は,オーガスクリュー3が上下動しながら降下して行くにかかわらずジャバラ筒4下端は常時地面から略一定の高さHに維持出来るため,削孔土砂の取り除きや,オーガスクリュー3の羽根上の土砂の除去作業は支障なく達成出来た。
イ 引用発明6について開示された事項 前記アによれば,引用例6には,引用発明6について,以下の点が開示されていることが認められる。
(ア) 引用発明6は,削孔機械としてオーガスクリューを用い,掘削装置を支えるためにリーダを用いるものではないリーダレスオーガ削孔機によって削孔作業を行う際に用いられる飛散防止手段に関するものである(【0001】)。
(イ) 地盤改良工事や杭材の打込み工事等にあっては,オーガスクリューで削孔するが,オーガスクリュー削孔中はスクリュー羽根上に土砂や石が取り残され,スクリューの上昇時にこれら土砂が上方から落下して工事現場は危険である。そして,リーダ式オーガ削孔機にあっては,土砂飛散防止用のジャバラ筒でオーガスクリュー外周を覆い,ジャバラ筒の下端をリーダに取り付けた支持具などで支持し,ジャバラ筒下端と地表との間を2〜3m間隔に保持したままジャバラ筒上端をオーガスクリューと共に上下動させ,スクリュー羽根からの落下土砂をジャバラ筒で飛散防止しながら,ジャバラ筒下端の下方では削孔土砂の取除きや羽根上の土砂の取除き 39 作業を行っている。一方,リーダレスオーガ削孔機のオーガスクリューにジャバラ筒を適用すれば,オーガスクリューの下降と共にジャバラ筒下端も下降し,オーガで削孔した土砂を取り除いたり,オーガスクリューの羽根上の土砂を取り除いたりする作業が出来なくなってしまうという問題があった【0002】【0004】。
( 〜 ) (ウ) 引用発明6は,リーダレスオーガ削孔機に新規なジャバラ筒保持手段を適用することにより,従来のリーダ式オーガ削孔機同様の土砂飛散防止手段の適用を可能とし,従来のリーダレスオーガ削孔機の重大な欠陥であった土砂飛散の問題を解消することを課題とするものである(【0008】)。
(エ) 引用発明6は,上記課題を解決するためのものであって,蛇腹状の側壁を有する筒状部の下端近傍に,ワイヤーの一端を連結し,少なくとも掘削作業中において,垂下された状態の筒状部の上端から下端までの長さを調整するために,ワイヤーを自在に巻き取りまたは繰り出すことができるように巻き取り装置にワイヤーの他端を連結し,巻き取り装置によってワイヤーが巻き取られた際には,巻き取りに伴って筒状部が縮退し,巻き取り装置によってワイヤーが繰り出された際には,繰り出しに伴って筒状部が伸展するようになっていることを特徴とする掘削土飛散防止装置である(【0013】,【0033】,【0034】)。
ウ 引用発明6を組み合わせる動機付け (ア) 目的の相違 a 引用発明6の目的 前記イのとおり,引用発明6は,リーダレスオーガ削孔機に新規なジャバラ筒保持手段を適用することにより,従来のリーダ式オーガ削孔機と同様の土砂飛散防止手段の適用を可能とするものである。
従来のリーダ式オーガ削孔機は,土砂飛散防止用のジャバラ筒でオーガスクリュー外周を覆い,ジャバラ筒の下端をリーダに取り付けた支持具などで支持し,ジャバラ筒下端と地表との間を2〜3m間隔に保持したままジャバラ筒上端をオーガスクリューと共に上下動させるという土砂飛散防止手段を有していたところ,リーダ 40 式オーガ削孔機と同様の土砂飛散防止手段をリーダレスオーガ削孔機に適用するには,「リーダレスオーガ削孔機は,ジャバラ筒の下端を地上から定位置に保持する箇所が無いため,オーガスクリューの外周にジャバラ筒を適用することが不可能であった。若し,リーダレスオーガ削孔機のオーガスクリューにジャバラ筒を適用すれば,オーガスクリューの下降と共にジャバラ筒下端も下降し,オーガで削孔した土砂を取り除いたり,オーガスクリューの羽根上の土砂を取り除く作業が出来なくなってしまう。」(【0004】)という問題があったものである。
そうすると,引用発明6のリーダレスオーガ削孔機において採用された,新規なジャバラ筒保持手段,すなわちワイヤーの一端を筒状部の下端近傍に連結し,他端を巻き取り装置に連結させるという構成は,ジャバラ筒下端と地表との間を所定の高さに保持することにより,堆積土砂の取除きや,オーガスクリューの羽根上の土砂の取除き作業を行うためのものである。
よって,引用発明6の掘削土飛散防止装置は,堆積土砂の取除きや羽根上の土砂の取除き作業を行うことを目的とするものということができる。
b 引用発明の目的 引用例2に記載された発明は,「既製の中空コンクリート杭或いは鉄筋カゴを使用した現場打設杭の施工に当たって従来困難とされていた地中に存在する…中間難掘層の掘削・貫通,又は岩盤等の支持層の穿設を容易に行う事の出来る工法とその工法を実施する装置並びに該装置に使用される拡大ヘッドの開発」を解決課題とするものであるところ(【0003】),引用発明における伸縮カバー(34)は,かかる穿設の際に使用されるものとして記載されている 【0042】 【0047】 。
( , ) そして,引用例2には,伸縮カバー(34)の構成について「中空コンクリート杭(1)の外周」を覆うものであって,「上端はチャック部(54)に,下端は掘削場所の周囲を覆うように設置されている」ものであると記載され(【0042】),その作用については,押し上げられた土砂(17)は,「カバー(34)と中空コンクリート杭(1)との間を通って落下し,中空コンクリート杭(1)の周囲に堆積する」との記載がある 41 にとどまる(【0047】)。一方,引用例2には,周囲に堆積した土砂(17)の除去に関する記載はなく,さらには,堆積した土砂の除去作業と伸縮カバー(34)との関係に関する記載もない。
そうすると,引用発明の伸縮カバー(34)は,押し上げられた土砂(17)を,中空コンクリート杭(1)との間を通って落下させ,中空コンクリート杭(1)の周囲に堆積させるという土砂の飛散を防止する目的を有するものということはできるものの,堆積土砂の取除き作業等を行うことを目的とするものということはできない。
c このように,引用発明6の掘削土飛散防止装置は,堆積土砂の取除きや羽根上の土砂の取除き作業を行うことを目的とするものである一方で,引用発明の伸縮カバー(34)がこのような目的を有するということはできない。
(イ) 使用態様の相違 a 引用発明6の使用態様 引用例6には「オーガスクリュー3の削孔上下動に対応してジャバラ筒4の下端を逐次上下動させ,オーガ削孔作業中はジャバラ筒4の下端Eを地面に対して必要高さHに維持する。」(【0009】),「作業開始の状態では…ジャバラ筒4の下端は地面から所定高さ(約2m)Hであり」(【0033】),「削孔作業中は,オーガスクリュー3が上下動しながら降下していくにかかわらずジャバラ筒4下端は常時地面から略一定の高さHに維持出来る」 【0034】 と記載されている。
( ) そうすると,引用発明6の掘削土飛散防止装置におけるジャバラ筒4は,削孔作業中,下端と地表との間に所定の高さを有するものである。
b 引用発明の使用態様 引用例2には,伸縮カバー(34)の「下端は掘削場所の周囲を覆うように設置されて」おり(【0042】,「土砂(17)は…中空コンクリート杭(1)から溢出し,カバー(34)と中空コンクリート杭(1)との間を通って落下し,中空コンクリート杭(1)の周囲に堆積する」(【0047】)と説明されている。
そうすると,引用発明の伸縮カバー(34)は,掘削時,下端が掘削場所の周囲を覆 42 うように設置され,接地しているものである。
c このように,引用発明6の掘削土飛散防止装置のジャバラ筒4は,削孔作業中,下端と地表との間に所定の高さを有するのに対し,引用発明の伸縮カバー(34)は,掘削時,下端が掘削場所の周囲を覆うように設置され,接地しており,使用態様が相違する。そして,作業中,筒状部の下端を所定の高さに維持することを前提とした引用発明6の掘削土飛散防止装置を,筒状部の下端を接地させる引用発明に適用することは直ちに想到できるものではない。
(ウ) 動機付けについて 以上のとおり,引用発明6の掘削土飛散防止装置は,堆積土砂の取除きや羽根上の土砂の取除き作業を行うことを目的とするものである一方で,引用発明の伸縮カバー(34)がこのような目的を有するということはできないほか,引用発明6の掘削土飛散防止装置のジャバラ筒4と,引用発明の伸縮カバー(34)とは,作業中,下端が接地しているか否かで使用態様も異なるものであるから,引用発明6の掘削土飛散防止装置を引用発明の伸縮カバー(34)に組み合わせようとする動機付けは存しないというべきである。
したがって,引用発明において相違点2に係る本件発明1の構成を備えるようにすることを,引用発明6に基づいて当業者は容易に想到することができない。
(エ) 原告の主張について a 原告は,引用発明は,中空コンクリート杭(1)の周囲に堆積した土砂を取り除くという課題を当然に有するものであると主張する。
確かに,引用例2に記載された打設方法又は打設装置において,掘削土砂はカバー(34)内に堆積していくことになる。しかし,前記(ア)bのとおり,引用例2には,周囲に堆積した土砂(17)の除去に関する記載はなく,さらには,伸縮カバー(34)と堆積土砂の関係に関する記載もない。
そうすると,引用例2に記載された打設方法又は打設装置において,掘削土砂がカバー内に堆積することになったとしても,掘削作業を続けるために堆積した土砂 43 を除去することが,引用発明において解決すべき課題であると認識できるものではない。
b 原告は,引用発明6の掘削土飛散防止装置も,引用発明の伸縮カバー(34)も,土砂の飛散を防止することには変わりがない旨主張する。
確かに,引用発明6の掘削土飛散防止装置は,「従来のリーダレスオーガ削孔機の重大な欠陥であった土砂飛散の問題を根本的に解消」するものである(【0008】)。
しかし,前記(ウ)のとおり,引用発明6の掘削土飛散防止装置と引用発明の伸縮カバー(34)の目的は相違し,筒状部が接地しているか否かという使用態様も相違するから,引用発明6の掘削土飛散防止装置が,土砂の飛散を防止する機能を有するものであったとしても,これらの相違を捨象して,引用発明6の掘削土飛散防止装置を引用発明に適用することが容易になるものではない。
また,前記(ア)aのとおり,引用発明6のワイヤーに関する構成は,削孔作業中に筒状部を所定の高さに保持することにより,堆積土砂の取除きや羽根上の土砂の取除き作業を行うことを目的とするためのものであって,筒状部の高さ保持のために採用された構成であるから,引用発明6の掘削土飛散防止装置からワイヤーに関する構成だけを取り出すことはできない。したがって,引用発明6の掘削土飛散防止装置が土砂の飛散を防止するという機能を有していたとしても,このことを根拠に,引用発明6の掘削土飛散防止装置のうちワイヤーに関する構成だけを引用発明に適用することを容易に想到できるものではない。
したがって,引用発明6の掘削土飛散防止装置と引用発明の伸縮カバー(34)が,いずれも土砂の飛散を防止するという機能を有していたとしても,これをもって,引用発明6を引用発明に容易に適用できるものにはならない。
(4) 周知技術の適用 原告は,相違点2に係る構成は,公知例1,公知例8及び甲11(本件パンフレット)から認められる周知技術である旨主張する。
44 しかし,相違点2は,ワイヤーの巻き取りにより筒状部を縮退させ,ワイヤーの繰り出しにより筒状部を伸展させるというものであるところ,公知例1及び公知例8には,巻き取り装置によりワイヤーを巻き取ったり,繰り出したりする構成についての記載はなく,これらをもって,かかる構成を備えた掘削土飛散防止装置が周知であったと認めることはできない。
また,甲11(本件パンフレット)に,相違点2に係る構成の全てが記載されているとは認められない。そもそも,本件パンフレットは,その存在のみから周知技術を認定できるものではなく,本件パンフレットに係る原告の主張は,周知技術の名を借りて新たな引用例に基づく主張をするものといわざるを得ないから,失当である。
したがって,引用発明に,公知例1,公知例8及び甲11(本件パンフレット)から認められる周知技術を適用して相違点2に係る構成に至ることが容易である旨の原告の主張は採用できない。
(5) 小括 以上のとおり,引用発明において,相違点2に係る本件発明1の構成を備えるようにすることを,引用発明6又は周知技術を適用することにより当業者は容易に想到できるものではない。また,引用例6のほか,引用例3ないし5,7の全ての記載を考慮しても,引用発明において,相違点2に係る本件発明1の構成を備えるようにすることを,当業者が容易に想到することができたということはできない。
よって,本件発明1は,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではないから,本件発明1について進歩性を有すると判断した本件審決に誤りはなく,取消事由3は理由がない。
5 取消事由4(公知公然実施発明に基づく本件発明1の進歩性判断の誤り)について 原告は,公知例8の記載から認定される公知公然実施発明に,公知例1及び引用例3に記載された発明を適用し,又は,公知例1及び甲11(本件パンフレット) 45 から認められる周知技術を適用し,本件発明1の構成を備えるようにすることは当業者が容易に想到することができると主張する。
しかし,前記4(4)のとおり,公知例8には,巻き取り装置によりワイヤーを巻き取ったり,繰り出したりする構成についての記載はないから,公知例8から認定され得る公知公然実施発明に,これと同じく,かかる構成についての記載のない公知例1及び引用例3を適用しても,ワイヤーの巻き取りにより筒状部を縮退させ,ワイヤーの繰り出しにより筒状部を伸展させるという本件発明1の構成には至らない。
公知例1及び甲11(本件パンフレット)からも,かかる構成が周知技術であったとは認められない。
したがって,取消事由4は理由がない。
6 取消事由5(本件発明5の進歩性判断の誤り)について 本件発明5は,本件発明1の構成を限定するものであるところ,本件発明1は当業者が引用発明に基づき容易に発明をすることができたものではないから,本件発明5も,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。取消事由5は理由がない。
7 取消事由6(本件発明6の進歩性判断の誤り)について 前記4と同様に,本件発明6は,引用発明の掘削土飛散防止装置を備えた掘削装置による掘削方法に基づいて容易に発明をすることができたものではないから,本件発明6について進歩性を有すると判断した本件審決に誤りはなく,取消事由6は理由がない。
8 取消事由7(手続上の瑕疵)について (1) 審理不尽について 原告は,公知例1及び公知例8に記載された事実は,本件各発明の無効理由を判断するのに必要な資料であり,かつ,審判官の心証を覆す蓋然性も有するものであるから,審判合議体は,原告に証人尋問の申出を促すべきであったし,職権でも証人尋問を行うべきであった,また,原告が口頭で行った証人尋問の申出を採用すべ 46 きであったと主張する。
しかし,前記3ないし7のとおり,公知例1及び公知例8に記載された事実を前提としても,本件各発明に係る特許は無効にされるべきものではないから,本件審判の手続において,審判合議体が公知例1及び公知例8の作成者の証人尋問について,原告にその申出を促したり,職権でこれを行ったりする義務を負っていたということはできない。また,審判の口頭審理調書(甲16)には,原告が口頭で証人尋問の申出を行った旨の記載はないから,原告が口頭審理において口頭で証人尋問の申出をしたと認めることもできない。
したがって,審判の審理不尽に関する原告の主張は,その前提を欠き,失当である。
(2) 補正を許可しなかった違法について 原告は,平成27年3月9日付け上申書(甲17)とともに,甲11(本件パンフレット)を新たな証拠として提出したにもかかわらず,審判合議体が補正を許可しなかった決定が誤りであると主張する。
しかし,上記上申書及び本件パンフレットの記載によれば,原告は,要旨を変更する審判請求書の補正をしたものと認められるところ,当該補正が,審理を不当に遅延させるおそれがないことが明らかなものということはできず,また,特許法131条の2第2項各号に該当する事由があったと認めることもできないから,当該補正を許可しなかった決定に誤りはない。原告の主張は採用できない。
9 結論 以上によれば,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 部眞規子
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