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関連審決 無効2002-35331
関連ワード 考案者 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  遡及 /  出願変更 /  優先日 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 175号 審決取消請求事件
原告 環境工学株式会社
訴訟代理人弁護士 中島敏,弁理士 村田実,佐野邦廣
被告 日本ゼオン株式会社
訴訟代理人弁護士 水谷直樹,岩原将文,弁理士 西川繁明
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/05/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2002-35331号事件について平成15年3月25日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は,本件特許第2840061号「生態系保護用自然石金網」(出願遡及日:平成5年9月17日。平成5年9月17日に特許出願された特願平5-231591号(原々出願)を,平成8年5月22日に実用新案登録出願(実願平8-4437号)に出願変更し,さらに,同年7月24日に特許出願に出願変更したもの。設定登録日:平成10年10月16日)の特許権者であるが,被告は,平成14年8月6日,本件特許につき無効審判の請求をし(無効2002-35331),平成15年3月25日,本件特許に係る発明についての特許を無効とするとの審決があり,その謄本は同年4月7日原告に送達された。
2 本件発明の要旨 吸い出し防止用シートの上面に重合した金網又はメッシュ上に複数の自然石を敷き並べるとともに,同各自然石の下部に接着材を層着し,同接着材を介して前記自然石と金網又はメッシュと吸い出し防止用シートを一体成形してなることを特徴とする生態系保護用自然石金網。
(1) 審決の理由の要点 (1)-1 原々出願の出願日前に頒布された実公昭51-9135号公報(引用例。甲3)には,次の発明(引用発明)が記載されているものと認められる。
「中央部及び隣接縁部に貫通孔12,26,28を有する,コンクリート等をあらかじめ成形して成るブロックBと, 両端又は片端を把持して吊下したとき支持するブロックBの重量により破断されない程度の十分な強度を有する金属の網44と, 液体透過性で土壌粒子を通さない程度のメッシュを持ち地表表面形状に一致するような可撓性支持シート46とを, 上側から,ブロックB,金属の網44,可撓性支持シート46の順で,接着剤により一体化してなる, 植物繁茂による環境緑化が可能な,地表侵食防止用覆工マット材。」 (1)-2 対比・判断 本件発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「液体透過性で土壌粒子を通さない程度のメッシュを持つ可撓性支持シート46」,「吊下したとき支持するブロックの重量により破断されない程度の十分な強度を有する金属の網44」,「接着剤」,「接着剤により一体化」,及び「植物繁茂による環境緑化が可能な,地表侵食防止用覆工マット材」は,本件発明の「吸い出し防止用シート」,「金網」,「接着材」,「接着材を介して一体成形」,及び「生態系保護用金網」にそれぞれ相当する。そして,引用発明の「ブロック」も本件発明の「自然石」も共に,表面の侵食を防止するための「塊状表面部材」といえるから,両者は, 「吸い出し防止用シートの上面に重合した金網上に複数の塊状表面部材を敷き並べるとともに,同各塊状表面部材の下部に接着材を層着し,同接着材を介して前記各塊状表面部材と金網と吸い出し防止用シートを一体成形してなる,塊状表面部材を具備した生態系保護用金網。」 である点で一致し,以下の点で相違している。
相違点:「塊状表面部材」が,本件発明では「自然石」であるのに対し,引用発明では「コンクリート等をあらかじめ成形して成るブロック」である点 上記相違点について検討する。
地表や水中において,その表面の侵食を防止する等のために塊状表面部材として自然石を敷き並べることは,古来から広く一般に行われてきた周知技術にすぎず,また,特開平4-166507号公報(甲4),特開平3-194011号公報(甲5),特開平3-144009号公報(甲6)にも,河床や護岸の侵食を防止する部材の一部に自然石を用いることが記載されており,引用発明のブロックに代えて自然石を採用して本件発明を当業者がなす点には,何らの困難性も認められず,奏する効果も予期し得る程度のものであって格別のものではない。
したがって,本件発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。以上のとおりであるから,本件発明の特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,同法123条1項2号に該当するから,無効とすべきものである。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(一致点認定の誤り,相違点の看過) (1) 一体成形とされている点について (1)-1 審決は,本件発明と引用発明とが,「吸い出し防止用シートの上面に重合した金網上に複数の塊状表面部材を敷き並べる」点,換言すれば,上側から,各塊状表面部材(ブロックB),金網,吸い出し防止用シートの順に配置されている点で一致すると認定するが,誤りである。
引用例には,2枚のシートのいずれか一方又は双方をフィルターシート(液体を通すが土壌粒子をほとんど通さない部材)として働くような寸法とすることができることが記載されているが,「吸い出し防止用シート」と「金網又はメッシュ」の二層を使用する場合,そのどちらを上に配置して「ブロックB」と接着するかは記載されておらず,せいぜい「どちらを上下に配置してもよい」とされているだけである。
(1)-2 審決は,本件発明と引用発明とが,「同各塊状表面部材の下部に接着材を層着し,同接着材を介して各塊状表面部材と金網と吸い出し防止用シートを一体成形して」なる点,すなわち,各塊状表面部材,金網,吸い出し防止用シートの三者が,接着剤により一体化されている点において一致していると認定したが,誤りである。
引用例には,「ブロックを接着剤により支持シートに固定する」ことが記載されているのみであって,ブロックBを接着するために用いる該接着剤をもって,ブロックBと2枚のシート44,46とを一体成形すること,又は,ブロックBと3枚のシート48,50,52とを一体成形することは,記載されていない。
引用発明は,第7図,第8図を参照すると,むしろ縫合等によりあらかじめ一体化された複層のシートを使用してこれとコンクリート製ブロックを接着するものと解され,一の接着材を用いて上記三者が一体成形されているものと理解することはできない。
(1)-3 審決は,原告の主張に対応して「金網を中間に介在させた場合には,接着材が金網の目を通してその上下のブロックと吸い出し防止用シートとを(金網を含めて)接着一体化させる機能を有することも当業者に明らかな事項」と付加説示している。しかし,そもそも引用例には,「金網を中間に介在させる」構成自体も明示されておらず,「網の目」が接着剤を通す大きさであることも記載されておらず,さらに接着材が「金網の目を通った」としても直ちに強固に「一体成形」するわけではないから,引用例には,接着剤を「層着」して前記三者を「一体成形」することが記載されているとは認められない。
(1)-4 したがって,引用発明は「塊状表面部材」と「金網又はメッシュ」と「吸い出し防止用シート」とを一体成形するものではなく,接着剤を「層着」するものでもない。これに対し,本件発明においては接着剤を「層着」することにより,接着剤は金網又はメッシュの網目を通して吸い出し防止用シートに至り,自然石を含む三者を一体成形するものである。この点においても,本件発明と引用発明とは根本的に相違する。
(2) 生態系保護用金網である点について 審決は,本件発明と引用発明とが,「生態系保護用金網」である点でも一致していると認定するが,誤りである。
審決が引用発明も「生態系保護用金網」であるとした理由は,引用例に,「ブロックの周縁部にも溝孔26,28が形成され,各ブロックの貫通孔12と,これら溝孔26,28により形成される貫通孔とによって,海水・河川水等がシート及びブロックを通って通過可能であり,植物を繁茂可能にしていることが当業者に明らかな事項である」というものであるが,引用発明は,コンクリート等のブロックを使用するものであり,これは強アルカリ性であって,一部の雑草が生育することはあっても水棲生物等の生育に適さないから,引用発明が「生態系保護用金網」であるということはできない。
2 取消事由2(相違点判断の誤り) (1) 審決は,「「塊状表面部材」が,本件発明では「自然石」であるのに対し,引用発明では「コンクリート等をあらかじめ成形して成るブロック」」である点のみを相違点として認定し,周知技術と特開平4-166507号公報等により,引用発明のブロックに代えて自然石を採用する点には,何らの困難性も認められず,奏する効果も予期し得る程度のものであって格別のものではないと判断したが,誤りである。
上述のとおり,本件発明と引用発明とは,接着剤を「層着」することにより,接着剤が金網又はメッシュの網目を通して吸い出し防止用シートに至り,自然石を含む三者が一体成形されるか否かの点においても根本的に相違するところ,審決は,この相違点を看過し判断していない。
(2) 引用発明は,ブロックに代えて自然石を採用することを排除するものであり,本件発明を示唆するものではない。
引用発明は,コンクリートスラブをワイヤで連結したコンクリート製の可撓性マットの改良として位置づけられているものであり,地表表面のほぼ全面をブロックで覆うようにすることを前提としている。このため,地表表面のほぼ全面を覆う観点から,前提としてコンクリート製等のブロックを使用することに限定し,それに伴って生じる不都合(非通水性,静水圧等)を,ブロックBに,中央導孔12,側面導孔14を形成することにより解消したものである。そのブロックに代えて自然石を採用することは,引用発明の本来の目的に反することになる。
引用例には,地表の侵食防止のための従来技術として,ナイロンシートの上に捨石を載せる構造,フィルター構造の割栗石や荒石を用いる構造が示された上で,自然石を用いることの欠点が,「ナイロンシートの上に捨石を載せる従来技術では,ナイロンシートが石の鋭い端部に耐え得るだけの強度を持たず,烈け易い」,「フィルタ構造の割栗石及び荒石は簡単に何処でも入手できない欠点があり固定し難く,維持費が高く」と指摘されている。このことは,自然石を用いることを積極的に排除するものである。自然石を積極的に排除してブロックを用いる引用発明において,ブロックに代えて,自然石の使用を想到することは困難というほかない。
自然石を排除する点について,審決は,原告の主張に対応して,引用発明が自然石を排除したのは,引用発明の優先日当時適当な「接着材が存在しなかった等」によるものであって「自然石」自体に起因するものでないと断定しているが,大石直四郎ほか「プラスチック材料講座D エポキシ樹脂」(日刊工業新聞社昭和39年8月30日5版発行,甲11)によれば,接着材として一般的なエポキシ接着材が石材の接着に使用されることが引用発明の出願前より公知である。審決の判断は,証拠によらない独断である。
引用発明は,技術課題の一つとして,多量の水又は流水等によって移動しないだけの十分な強度等の特性を確保する必要性を挙げ,その課題を達成するために,外力の作用に対し,ブロックBが規則的形状を有していることによって当接関係を多く確保することができ,該当接関係により外力を互いに助け合って受け止めることができるとしている。また,規則的なブロックBを更に「互いに近接して略々衝合するように隣り合わせて規則的に並列配置」させるものとしている。かかる引用発明に基づき,ブロックBに代えて,形状が不規則であって当接関係が安定しない自然石を用いることは,当接関係が不確定となって,上記技術的課題の達成が阻害されることとなるから,当業者が容易に想到できるものではない。
(3) 本件発明においては,自然石と金網又はメッシュ及び吸い出し防止用シートを一体成形し,たとえ自然石の下部の金網又はメッシュの網目及び吸い出し防止用シートの目を閉塞したとしても,特別に自然石に加工等を施すことなく,隣り合う自然石同士間に自然に水の通過面積を確保することができ,水通過機能の低下を抑えることができるのである。地表表面をほぼ全体的に覆うことによって,覆工マットとしての安定性を確保する引用発明と,必然的に大きな空間を形成することが明らかな自然石を使用する本件発明とは技術思想を異にするのは明らかであって,ブロックを自然石に代えることを,当業者が容易に想到できるとはいえない。
(4) 審決が「河川護岸工事において自然石を利用するのは周知技術である」としたものは,河川護岸工事現場において自然石を左右,上下に波形状に組み合わせ,石と石とが互いに突合,曳合,吊合,押合するよう敷設し,流水力等に対しても全体として一枚岩のように対抗できるようにする敷設技術(「石積」等。甲18)のことであり,その工事は特殊な技能工である「石工」によって行われていたものである。また,審決が,「護岸侵食防止部材の一部に自然石を用いるもの」として引用する特開平4-166507号公報,特開平3-194011号公報,特開平3-144009号公報(甲4〜甲6)は,「コンクリートブロックの台座に,自然石が一部同台座上面に突出するように定着して自然石根固ブロックを構成し,同根固コンクリートブロックを水底面に敷設して根固工を施工する」(甲4),「方形状の枠体コンクリートブロックの上端部に,自然石をコンクリート面より突出するように一体成形して護岸ブロックを構成する」(甲5),「自然石をコンクリートの中に埋めこむことによって基台と自然石を結合する」(甲6)ものであって,すべて「専ら表面の装飾用だけに自然石が定着された方形状のコンクリートブロック」すなわち「コンクリートブロック」の発明にほかならない。周知技術又は甲4〜甲6は,自然石をメッシュ及び/又はシートと結合することについては何ら示唆するものではない。
(5) 本件出願の平成5年(原々出願日)より30年以上前から,自然を保護する護岸工事の必要性が強調されていたにもかかわらず,引用発明の「自然石の使用は困難」とする認識と課題は,本件発明の完成に至るまで克服されていなかった(甲8〜甲10)。このことは,引用発明のコンクリート製ブロックを自然石に代えて護岸工事用工業製品とすることは審決が認定するような容易なものでは決してなかったことを示している。
3 取消事由3(本件発明の顕著な効果の看過) 本件発明は,下記のような特有の作用効果を有するが,審決は,かかる作用効果を看過している。
「吸い出し防止用シートの上面に重合した金網又はメッシュの上面に複数の自然石を敷並べるとともに,該自然石の下面に接着材を層着することにより接着材は金網又はメッシュの網目を潜通し,この結果,吸い出し防止用シートと,金網又はメッシュ及び自然石とが接着材により一体成形され,前記金網又はメッシュの可撓性によって自然な勾配の護岸を施工することができ,特に法肩部や法尻部の曲面施工が容易に行われることとなった。」(本件公報(甲2)【0012】) 接着材を「層着」して「金網又はメッシュ」を「自然石」と「吸い出し防止用シート」の中間に配置することによって,層着された接着剤が金網又はメッシュに対してストッパ(掛け止め部材)として作用し,強固な一体化がなされる(甲16,甲17)。そのため,自然石の流失が生起することがなく,強固な護岸を施工できる(同【0014】)。
自然石相互の自然空間は魚や虫の生息空間となり,更に該空間に土砂を充填することによって水棲生物等や植物の生息が可能でホタルが生息できるような自然護岸ができ,生態系の保護を図ることができる(同【0013】)。
本件発明は,自然石を使用した河川護岸工事用シートであって,工業製品として工場生産することを初めて可能としたものである。自然石を用いた護岸工事用シートを工業生産することは全く知られておらず,本件発明がパイオニア発明としての意義を有することは明らかである。本件発明は,護岸工事用シートを工業的に生産することにより,従来現場工事で必要とされた特殊技能工である「石工」による作業を不要とし,普通作業員による作業を可能とすることにより,工事費用の大幅な節減をも可能とした。
本件発明がパイオニア発明であることは,本件発明の公開後他社が本件発明に追随して自然石を利用した護岸製品を数多く特許出願している事実によっても裏付けられる(甲12)。また,本件発明の実施関連品は,市場で極めて好評を博し,本件発明関連品の急速な普及と商業的成功を収めており,本件発明の優秀性が実証されている。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点認定の誤り,相違点の看過)について (1) 原告は,引用例には,各塊状表面部材(ブロックB),金網,吸い出し防止用シートの順に配置する点,又は,ブロックBを接着するために用いる接着剤をもって,ブロックBと2枚のシート44,46とを一体成形する点が記載されていないと主張するので,以下,検討する。
(2) 引用例(甲3)には,以下の記載がある。
(イ)「第1図及び第2図に示す本考案の1実施例においては,10は支持シートを示し,この例では網を示す。この支持シート10上に隣り合って略々衝合せ配置に多数のブロックBを重ねる」(4欄25〜28行)(ロ)「各覆工マット材の各ブロックは接着剤でその支持シートに固定する。第3図は接着剤による固定方法の例を示す。ブロックBの底面と支持シート10間に介挿した接着剤33によりブロックBを支持シート10に固定する。接着剤33は第3図に示すごとく離間位置に,又は図示しないが各ブロックBの底部に一面に介挿する。」(6欄1〜7行)(ハ)「これまで支持シート10を網として記してきたが,支持シートは・・・・・・液体透過性の任意の他のシートのごとき任意所要の物質で製造できる。例えば,支持シートは金属スクリーン,金属網,膨張金属網目,プラスチックスの網又はスクリーン,あるいは天然繊維又は合成繊維から織成し又は網状としたシート又は任意の同様種類のシートから製造できる。シートは液体透過性である限り,織成せずに単にフェルト化した繊維のシートでも良い。ナイロン・・・・・・等の合成繊維のネット又はスクリーンは強度,取扱容易性及び耐劣化性のため特に望ましい物質である。
支持シートはブロックを支持するだけでなく,フィルタとしての機能をも兼ね備えるものである。例えば第1〜3図に示す例において,支持シート10の水透過性網目は液体の通過を許すが土壌粒子の通過をほとんど防止する寸法とすることができ本考案でフィルタ又はフィルタシートと称するは液体を通すが土壌粒子をほとんど通さない部材を意味する。従って支持シート10が,かかるシートをフィルタシートとして構成する網目を有する場合,地表から覆工マット材を通って上方に流れる水は土壌粒子を同伴しない。明らかにこのことは覆工マット材下方の地域に下側流水の原因である土壌欠如が生じないように防止する。」(7欄8〜34行)(ニ)「これまでの実施例では支持シートを一枚のシートとして示した。しかし支持シートは多数のシートを用いることができ,第7図に示すように2枚のシート44及び46を重ね合わせてもよく・・・・・・。シート44及び46のいずれか一方・・・・・・の網目は・・・・・・フィルターシートとして働くような寸法とすることができる。・・・・・・。これらのシートの任意の一者・・・・・・の強度をブロックを機械的に支持するのに十分なものとすれば足り,同時にそのいずれかのシートの網目をフィルタシートとして作用するに十分なほど小さくすればよい。」(11欄27〜42行)(ホ)「第7図又は第8図に示す構造の優れた一利点は,フィルタシートが例えばフェルトのごとく比較的弱い場合はブロックと強いシートとの間に配置し得る点である。」(11欄43行〜12欄2行) (3) 上記(ホ)の記載からすると,引用発明において,フィルターシートが比較的弱い場合にあっては,このシートをブロックと強いシートとの間に配置することが有利であると解される一方,上記(ニ)の記載,すなわち「シート44又は46のいずれか一方・・・・・・の網目は・・・・・・フィルターシートとして働くような寸法とすることができる。・・・・・・。これらのシートの任意の一者・・・・・・の強度をブロックを機械的に支持するのに十分なものとすれば足り,同時にそのいずれかのシートの網目をフィルタシートとして作用するに十分なほど小さくすればよい。」からすると,引用発明において,シート44又は46のうちいずれのシートを上方に配置するかについては,格別の技術的制約があるわけではなく,任意の配置が可能であると理解することができる。
そうであれば,「強度をブロックを機械的に支持するのに十分なもの」として金属網を選択し,金属網とフィルターシート(吸い出し防止用シートとして機能するものであることは,上記(ハ)の記載から明らかである。)とを重ね合わせたものを支持シートとして,ブロックを支持シートに接着する場合において,金属網をフィルターシートの上方に配置することも任意選択的に行い得ることは明白であり,引用例には,各塊状表面部材(ブロックB),金網,吸い出し防止用シートの順に配置する点が実質的に開示されているということができる。
(4) また,ブロックBは,ブロックBの底面と支持シート10間に介挿した接着剤33により支持シート10に固定されるから(上記(ロ)参照),ブロックBと支持シートの間に,接着剤の層が形成されることは明らかであり,ブロックBは,支持シート10に層着されるものであるということができる。
なお,本件特許請求の範囲の記載は「各自然石の下部に接着材を層着し,同接着材を介して前記自然石と金網又はメッシュと吸い出し防止用シートを一体成形してなる」(請求項1)というものであり,本件明細書(甲2)には「同各自然石3と前記金網又はメッシュ2との間に軟弾性の円筒状の型枠4が介装され,同型枠4内に例えばエポキシ樹脂系の接着材5が充填され,同接着材5が前記金綱又はメッシュ2の網目を透過することによって,自然石3及び金綱又はメッシュ2,並びに吸い出し防止用シート1とが一体成形され」(【0009】)と記載されており,これらの記載からすると「層着」とは,自然石と吸い出し防止シートとの間に接着剤の層が形成されることを意味すると解するのが相当である。「層着」が,接着剤の層の厚み等において特別の態様を意味していると認めることはできない。
そして,上方に配置した金属網と下方に配置したフィルターシートとを重ね合わせたものを支持シート10として用いる場合において,ブロックとフィルターシートとの間には金属網が位置することになり,ブロックの底面に施された接着剤によって,ブロックを支持シートに接着させると,金網の目を通して接着剤がフィルターシートにまで達することは自明のことであるから,接着材がブロックとフィルターシートとを(金網を含めて)接着一体化させることも,当業者にとって明らかな事項というべきであり,引用例には,ブロックBを接着するために用いる接着剤をもって,ブロックBと2枚のシート44,46とを一体成形する点も実質的に記載されていると認めることができる。
(5) 原告は,引用発明では,むしろ縫合等によりあらかじめ一体化された複層のシートを使用していると解すべきであると主張するが,引用例には,複層のシートをあらかじめ縫合等により一体化させておくことについての記載はないし,支持シートは液体透過性のものが用いられるのであるから(前記(2)の(ハ)の記載),複層のシートを支持シートとして用いた場合には,ブロックの下部に塗布した接着剤は,複層の支持シートのうち,上方に配置されたシートを通過して下方のシートに達すると解されるから,複層のシートをあらかじめ縫合等により一体化させておく格別の必要性はないというべきである。
原告は,また,引用発明は,アルカリ性を示すブロックを用いるもので,「生態系保護用金網」とはいえないと主張する。
しかし,引用例(甲3)には,(ヘ)「本考案マット材によれば,所要に応じ植物を繁茂させて環境緑化に役立たせることができる」(14欄38〜40行)(ト)「然し植物の繁茂で水流による地表の浸食が充分防止されるような場所では支持シート10及びブロックのいずれか一方又は双方を時日の経過と共に劣化する物質で製造できる。かかる場所ではブロックは単に植物が繁茂するのに十分な時間だけ持続すれば良いため,圧縮した混合肥料又は圧縮した台所塵芥のごとき有機物質からブロックを製造することさえできる。あるいはまた,覆工マット材内に水が均一に吸収されるのを助けるため,ブロックは植物生長を助ける湿分を保持し表面水の吸収を助ける多孔質物質からも製造できる。」(8欄12〜22行) との記載がある。これらの記載からすると,引用発明における覆工マットは,植物を繁茂させて環境緑化に役立たせることを目的とするものということができ,「生態系保護用金網」であることは明白である。コンクリートブロックがアルカリ性を示すことが,生物に対して何らかの影響を及ぼすことがあるにせよ,引用発明の金網において,植物が繁茂し得るのであれば,生態系を保護するものであるというのに差し支えはない。原告の上記主張は理由がない。
(6) したがって,引用例には,「上側から,ブロックB,金属の網44,可撓性支持シート46の順で,接着剤により一体化してなる」ものが記載されているということができ,引用発明について,「中央部及び隣接縁部に貫通孔12,26,28を有する,コンクリート等をあらかじめ成形して成るブロックBと,両端又は片端を把持して吊下したとき支持するブロックBの重量により破断されない程度の十分な強度を有する金属の網44と,液体透過性で土壌粒子を通さない程度のメッシュを持ち地表表面形状に一致するような可撓性支持シート46とを,上側から,ブロックB,金属の網44,可撓性支持シート46の順で,接着剤により一体化してなる,植物繁茂による環境緑化が可能な,地表侵食防止用覆工マット材。」とした審決の認定に,原告主張の誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(相違点判断の誤り)について (1) 引用例には,「液体透過性で土壌粒子を通さない程度のメッシュを持ち地表表面形状に一致するような可撓性支持シートと,上下方向に少なくとも一つの貫通孔を持った多数のブロックとを具備し,前記支持シート上に前記ブロックを互いに近接して略々衝合するよう隣り合わせてシートの少なくとも2辺の縁沿い部分に若干の余白を残して並列配置し,これらのブロックの各々を前記支持シートに接着剤により固定し,これにより液体が前記支持シート及びブロックを通って通過できるようにし,前記支持シートはその両端又は片端を把持して吊下したとき支持するブロックの重量により破断されない程度の十分な強度を有し,各ブロックはその側面部のいずれの部分においても隣接するブロックのいかなる部分とも掛合せず,各ブロックが支持シートのわん曲によって隣接するブロックに対し相対的に多少変位し得るように構成した地表侵食防止用覆工マット材。」(実用新案登録請求の範囲,14欄42行〜16欄5行)と記載されており,この記載からすると,ブロックは,「互いに近接して略々衝合するよう隣り合せて・・・並列配置」され,「各ブロックはその側面部のいずれの部分においても隣接するブロックのいかなる部分とも掛合せず,各ブロックが支持シートのわん曲によって隣接するブロックに対し相対的に多少変位し得る」のであるから,ブロック同士の間には,空間が形成されていると認められる。そうすると,引用発明が,地表表面のほぼ全面をブロックで覆うようにすることを前提としているということはできないし,当接関係を多くするため,ブロックBが規則的形状を有することを必要条件としていないことは明らかである。
他方,本件発明においても,地表表面のほぼ全面を自然石で覆う態様を採り得るのであるから,本件発明と引用発明とにおいて,地表表面の被覆態様に相違があるわけではない。
したがって,引用発明において,ブロックがほぼ地表表面のほぼ全面を覆っていることが,ブロックに代える自然石の採用を排除しているということはできない。
(2) 引用例の3欄20行〜4欄3行には,「本考案者は浸食を防止する場合,地表に次の特性を有する保護的覆工マット材を設けることにより,浸食を満足に制御し,上述の如き従来の諸欠点を解消し得ることを見出した。
(i) 覆工マット材が下の地表表面形状に合致し良好に接触し,これにより下側水流を防止するように十分可撓性であること。
(ii) 覆工マット材が多量の流水又はその波動作用により移動しないだけの十分な強度及び重量特性を有し,かつまたかかる特性をその部材の重量により供給できること。
(iii) 覆工マット材が表面水を下の地表にまで通過させること。すなわち良好な垂直方向排水性を保持すること。
(iv) 覆工マット材がその下方から上方へ水を通し,覆工マット材の下方に生じた静水圧を解消するものであること。このことは海又は河川の堤防及び岸壁に加わる水圧が大きな損害(スリップ浸食)を与えるので特に重要である。
(v) 覆工マット材下の地表が水の運動により運び去られないような手段を設けること。
上記事項以外に情況に応じて,下記の附加的特性が必要である。
(vi) 覆工マット材上で水の過剰な運動が存在する場合,かかる運動を遅らせる手段とさらに覆工マット材の沈下を早める手段を設けること。
(vii) 車輌が覆工マット材上を通過する場合,この覆工マット材表面が適当に耐摩耗性があること。」 と記載されており,この記載からすると,ブロックに必要とされる条件は,液体が上下に通過できること,重量を有すること,隣接するもの同士は相対的に多少変位し得るものであることにあると認められる。
(3) 自然石が,従来より,護岸工事に広く用いられていることは,特開平4-166507号公報,特開平3-194011号公報,特開平3-144009号公報(甲4ないし甲6)にみられるように,周知のことと認められる。そして,自然石を並べれば,ブロックに求められている,液体が上下に通過できること,重量を有すること,隣接するもの同士は相対的に多少変位し得るものであることという条件(上記(2)の引用例の記載参照)を満たすことになることは明らかであるから,引用発明において,ブロックに代え,自然石を用いることは当業者ならば容易に想到し得ることというべきである。
(4) したがって,審決が,相違点に関して,「地表や水中において,その表面の侵食を防止する等のために塊状表面部材として自然石を敷き並べることは,古来から広く一般に行われてきた周知技術にすぎず,また,特開平4-166507号公報,特開平3-194011号公報,特開平3-144009号公報(甲4〜6)にも,河床や護岸の侵食を防止する部材の一部に自然石を用いることが記載されており,引用発明のブロックに代えて自然石を採用して本件発明を当業者がなす点には,何らの困難性も認められず,奏する効果も予期し得る程度のものであって格別のものではない。」と判断した点に誤りはない(効果の予測性については次の取消事由3についての項で判断)。原告主張の取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(本件発明の顕著な効果の看過)について 引用発明が,ブロックの下部に接着材を層着し,その接着材を介して前記ブロックと金網と吸い出し防止用シートを一体成形してなるものであると認められることは上述したとおりであり,本件発明と引用発明とでは,層着構造において相違するところがないといえるから,層着された接着剤が金網又はメッシュに対してストッパ(掛け止め部材)として作用する点は,引用発明においても備わっているというべきであり,本件発明において,層着による格別顕著な効果が奏されていると認めることはできない。
原告の主張する,金網又はメッシュの可撓性によって自然な勾配の護岸を施工することができ,特に法肩部や法尻部の曲面施工が容易に行われる,自然石の流出が防止できる,生態系の保護を図ることができるという本件発明の効果は,生態系保護用金網と評価できる引用発明に自然石を適用すれば奏されるものであり,このような効果をもって,格別顕著なものであると認めることはできない。
さらに,引用例には,「本考案マット材は工場で組み立てる(ブロックを支持シートに接着剤により固定する)ことにより大量生産できる」(6欄14〜16行)との記載があり,引用発明のものも工場生産することが可能であると認められるから,本件発明において初めて生態系保護用金網の工場生産が可能となったというものでもない。
原告主張のように,本件出願の公開後に多くの特許出願がされているとしても,そのことをもって本件発明がパイオニア発明であるとはいうこともできないし,商業的成功は,社会のニーズ,宣伝活動等によって大きく影響されるものである。原告主張のように,商業的成功のあったことをもってしても,本件発明により直接奏される効果であると認めることはできない。
よって,審決が,本件発明の効果について,「奏する効果も予期し得る程度のものであって格別のものではない。」と認定した点に誤りはなく,取消事由3も理由がない。
結論
以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 野輝久
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