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事件 |
平成
28年
(ネ)
10080号
特許権侵害差止等請求控訴事件
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控訴人日東精工株式会社 同訴訟代理人弁護士 藤本英二 富永夕子 金順雅 同補佐人弁理士 藤本英夫 西村幸城 被控訴人 株式会社G.Eプランニング 被控訴人田井精機株式会社 被控訴人 Y1 被控訴人 Y2 上記4名訴訟代理人弁護士 石川隆 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/11/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件控訴を棄却する。 12 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。 2 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して8860万5000円及びこれに対する平成26年12月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 |
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事案の概要(略称は,審級による読替えをするほか,原判決に従う。)
1 本件は,発明の名称を「スクリューポイント」とする特許第3365722号に係る特許権(本件特許権)を有する控訴人が,@被控訴人G.E及び被控訴人田井精機に対し,同被控訴人らの製造又は販売する原判決別紙イ号物件目録記載の製品(イ号物件)は本件特許権の特許発明の技術的範囲に属すると主張して,特許法100条1項に基づき,同製品の製造,販売等の差止め,同条2項に基づき,同製品の廃棄を求めるほか,本件特許権侵害の不法行為に基づき損害賠償を求めるとともに,A被控訴人株式会社G.Eの代表取締役である被控訴人Y1に対しては,取締役の任務懈怠につき重過失があると主張して会社法429条1項又は民法709条に基づき,被控訴人Y2に対しては,被控訴人株式会社G.Eの事実上の代表者として任務懈怠につき重過失があると主張して会社法429条1項の類推又は民法709条に基づき,それぞれ損害賠償を求めた事案である(被控訴人らに対する損害賠償請求は,被控訴人ら4名の共同不法行為として連帯請求の関係にある。)。 原判決は,本件特許は進歩性欠如の無効理由を有し,訂正によっても無効理由は解消されないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。 そこで,控訴人が原判決を不服として控訴したものである。なお,控訴人は,当審において,被控訴人らに対する差止請求並びに被控訴人田井精機,被控訴人Y1及び被控訴人Y2に対する損害賠償金の遅延損害金請求の一部を取り下げた。 2 前提事実 2以下のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」の第2の1記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決4頁9行目の「別紙」を「原判決別紙」と改め,以下も同様とする。 (2) 原判決5頁16行目から18行目を以下のとおり改める。 「本件特許については,平成27年12月25日,「本件訂正請求のとおり訂正することを認める。本件訂正発明を無効とする。」旨の審決がされた。控訴人は,この審決に対し取消しを求める訴えを提起し(当庁平成28年(行ケ)第10027号),現時点において,同審決は確定していない(乙21)。」3 争点原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。 |
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争点に関する当事者の主張
争点に関する当事者の主張は,後記1のとおり訂正し,後記2のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第3記載のとおりであるから,これを引用する。 1 原判決の訂正(1) 原判決12頁1行目の「相違点2」 「相違点A」 を と,5行目の「相違点3」を「相違点B」とそれぞれ改める。 (2) 原判決13頁22行目の「相違点1ないし3」 「相違点1,同A及び同B」 をと改める。 (3) 原判決17頁7行目の「相違点1ないし4」を「相違点1,同4,同A及び同B」と改める。 2 当審における当事者の主張〔控訴人の主張〕(1) 本件発明1と乙2発明の課題の相違について本件発明1と乙2発明の解決しようとする課題及び効果が相違する。 本件発明1は,スクリューポイントの各部,すなわち本体部とねじ部に要求され 3る,それぞれ異なった性質を備えることを目的 (課題) とし,かかる効果を奏する。 しかし,乙2発明は,かかる点を目的 (課題) とはしておらず,またそうした作用効果を奏するものでもない。 すなわち,本件発明1と乙2発明とは,従来の技術としておねじ部を有するスクリューポイントを挙げている点では共通しているが,本件発明1は,あくまでも「おねじ部を有するスクリューポイント」であることを前提に,このスクリューポイントを本体部とおねじ部を司る無頭ねじ部品とに分けたものである。これに対して,乙2発明は,「おねじ部を有するスクリューポイント」を用いるのをやめ,その代わりに「めねじ部を有するスクリューポイント」を用いるようにしたものであって,この「めねじ部を有するスクリューポイント」において,各部で異なった性質を備えるようにするといったことは,乙2発明に一切開示,示唆されていない。 原判決は,スクリューポイントを本体部と無頭ねじ部品とによって構成するという本件発明1の解決手段の要素ないし「本体部,無頭ねじ部品を別個に製作してそれぞれに必要な性質を確保することができる」という本件発明1の解決結果の要素が入り込んだ誤った認定である。 (2) 本件発明1と乙2発明の効果の相違について ア 乙2発明は,「おねじ部を有するスクリューポイント」であることを前提とする本件発明1とは異なり,ロッド部材のおねじを利用することを前提に,「めねじ部を有するスクリューポイント」を用いるようにしたものである。そのため,乙2発明のスクリューポイントは,各部で異なった性質を備えるようにするといったことを目的としておらず,また,そうした作用効果を奏するものでもない。 しかも,乙2発明は,従来のスクリューポイントではこのスクリューポイントに設けてあるおねじ部が折れてしまうことを問題としているが,このおねじ部を継手ロッド側に設けた場合,継手ロッドに設けたおねじ部が折れてしまうおそれが生じることについては全く考慮していないものといえる。これに対し,本件発明1では,例えば無頭ねじ部品の靱性をロッド部材より高めることにより,スクリューポイン 4トのみならずこのスクリューポイントに連結されるロッド部材の折損をより積極的に防止することができるのであって,かかる作用効果は乙2発明では決して奏することはできない。 イ 本件発明2のように無頭ねじ部品の素材やその特性の限定をしていない本件発明1においても,破損の問題を解決することができる。まず,本件明細書の図5に示す従来のスクリューポイント52は,基端面におねじ52aが一体に突出成形されており,スクリューポイントに作用する応力が,スクリューポイント52の基端面とおねじ52aとの境界部分に集中しやすいため,スクリューポイント52は形状的に破損しやすいといえる。 これに対し,本件明細書の図2に示す本件訂正発明1のスクリューポイント1では,スクリューポイント1の本体部2自体に応力集中しやすい箇所が形成されず,また,本体部2に作用する応力は,この本体部2のめねじ3に面状に接する無頭ねじ部品4に分散されて伝達されるため,本体部2及び無頭ねじ部品4からなるスクリューポイント1は形状的に破損し難いといえる。したがって,本件発明1のスクリューポイント1において,例えば無頭ねじ部品4の素材や特性を本体部2と同一にした場合でも,従来のスクリューポイント52に比べて破損し難くなるのであるから,本件発明2のように無頭ねじ部品の素材やその特性の限定をしていない本件発明1においても,破損の問題を解決することができるといえる。 このように本件発明1は破損の問題を解決することができるという効果を奏するものであり,被控訴人らが本件発明1では破損の問題を解決できないと主張していることからも明らかなように,この効果は,出願時の技術常識から予測し得ない顕著な効果であって,かかる効果を奏することは本件発明1の進歩性を肯定する要素となる。 また,乙2発明では,本件発明1の上記顕著な効果を奏することはできない。なぜなら,乙2発明において,継手ロッドに設けられたおねじ部(すなわち継手ロッド)の素材や特性をスクリューポイントと同一にした場合,継手ロッドに一体に設 5けられたおねじ部は,従来のスクリューポイントに一体に設けられていたおねじ部と同様に折れやすいものとなることは明らかであるからである。 (3) 公知技術等について 乙16文献の「ロッドカップリング」及び米国特許第4332160号明細書の「結合部33」は,中央部の外径が両端のおねじ部分の外径よりも大きく,この中央部が実質的に頭部になっていると捉えられるので,無頭ねじではない。したがって,上記各文献の記載をもって,「一般的に,地質試験装置における継手(連結)手段として,無頭ねじ部品を用いることは,本件特許出願前から公知である。」とはいえない。また,乙4公報,乙5公報及び乙17公報にも,無頭ねじが開示されていない。 (4) 相違点2について 原判決は,相違点1の検討を行う前に相違点2の検討を行っている。相違点1の検討を棚上げした場合の相違点2がどのように認定されるものであるのかが全く不明であるから,相違点2についての原判決の判断は,具体的根拠が不明である。 (5) 相違点1について ア 地質試験装置における継手(連結)手段として無頭ねじ部品を用いることが公知であり,また,一般的に継手(連結)手段として無頭ねじ部品を用いることが周知であるとしても,「スクリューポイントの各部,すなわち本体部とねじ部に要求される,それぞれ異なった性質を備える」という本件発明1の技術的課題を解決するために,何らの課題も示唆されていない乙2発明記載の部材の構造が利用できることを着想することは容易でないことは明らかである。また,無頭ねじ部品は,あくまでもめねじとめねじを連結するために用いられるものとして公知ないし周知であるにすぎないから,おねじとめねじを連結する乙2発明に無頭ねじ部品を用いることは,当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 したがって,乙2発明において,ねじ部品とロッドとを別体に製作することは当業者が容易に着想し得たとの指摘には根拠がなく,仮に,乙2発明において,ねじ 6部品とロッドとを別体に製作することを当業者が容易に着想し得たとしても,そこから本件発明1に想到するには別異の動機付けが必要であって,そのような動機付けを各乙号証から得ることはできない。 また,仮に,乙2発明において,ねじ部品とロッドとを別体に製作することを当業者が容易に着想し得たものであるとしても,この場合,スクリューポイントに連結される継手ロッドは,両端にめねじを有することとなり,一端におねじ,他端にめねじが一体成形されたロッドに連結されることに限定した本件発明1とは異なるものとなる。 イ 本件発明1の無頭ねじ部品が,乙16文献のロッドカップリング等のように側方に突出して露出する頭部を有していると,この頭部は地中貫入時に礫土からの摩擦抵抗を受けるため,磨滅対策としてその硬度を高める必要が生じ,その結果,靱性を高めるのが困難となり,折れやすくなってしまう。しかし,本件発明1の無頭ねじ部品は,上記のような頭部を有していないので,靱性を高めることが容易である。そして,本件発明1の無頭ねじ部品が,上記のような頭部を有していないことは,本件明細書の図1,図2の記載から明らかである上,本件特許出願に対する平成14年5月14日付けの拒絶理由通知書の「図2を参照すると,ロッド部材210はスクリューポイント1に端面が接する状態で接続しており,」との指摘からも肯定される。なぜなら,本件発明1の無頭ねじ部品が,上記のような頭部を有している場合には,ロッド部材はスクリューポイントに端面が接する状態で接続しないからである。 ウ 本件発明1と乙2発明とでは,従来の技術としておねじ部を有するスクリューポイントを挙げている点では共通するが,乙2発明では,スクリューポイントからおねじ部を実質的に無くすという解決手段を採用したのであり,かかる解決手段を示す乙2公報は,スクリューポイントからおねじ部を実質的に無くさない解決手段を採用する本件発明1から当業者を遠ざけるものであり,ゆえに,乙2発明から出発して本件発明1に想到することは,乙2公報自体によって阻害されることにな 7る。 (6) 相違点3について ア 原判決は,相違点3は実質的な相違点とはいえないとする。 しかし,本件発明1のスクリューポイントは,ロッド部材に取り付けられることを前提とするものであり,この前提は,スクリューポイントの用途ないし使用方法を特定するものである。したがって,スクリューポイントの用途ないし使用方法を特定する上記前提を,相違点の認定にあたって,除外するべき理由はない。 イ 乙2発明のスクリューポイントの連結対象である継手ロッドについて,おねじとめねじの配置を逆にすることは,乙2発明のスクリューポイントの連結対象をロッドのめねじ部に変更することになる。しかし,乙2発明の目的(課題)は,「スクリュウーポイントに従来設けられていた雄ねじ部をなくして,代わりにスクリュウーポイントに雌ねじ部を設けるとともに,継手ロッドに雄ねじ部を設けてこれらスクリュウーポイントと継手ロッドとを結合するように構成する」ことと明記されている。この記載は,明らかに,スクリューポイントの連結対象をロッドのめねじ部に変更することを排除するものであるとともに,乙2発明の目的(課題)に反するため 相違点1と同様に相違点3についても阻害事由があることは明らかである , 。 ウ そもそも,乙2発明においては,ロッド部材のめねじとおねじを上下どちら側に設けるかは重要な技術的事項である。すなわち,従来のスクリューポイントには,おねじが設けられ,これに対してロッド部材には下側にめねじ,上側におねじが設けられていたところ,乙2発明では,スクリューポイントにめねじを設け,これに対してロッド部材には下側におねじ,上側にめねじを設けたのである。そのため,乙2発明において,ロッド部材に設けるめねじとおねじの配置を逆にするということは,従来のスクリューポイントに逆戻りすることにほかならない。 したがって,ロッド部材同士の連結に際して,めねじとおねじを連結部における上下どちら側に設けるかは,当業者が適宜に決定し得る程度の事項であるということはできない。 8 (7) 本件特許発明のスクリューポイントの開発経緯と普及について ア 乙2公報の記載からすると,従来のおねじ一体型のスクリューポイントではおねじ部が折れやすいという問題点があることを,積水ハウス株式会社は平成元年9月25日以前から認識していたといえる。上記のように問題点を認識し,その解決手段をも提示していた同社にあっても,その約6年半後の平成8年4月19日の時点で スクリューポイントのねじ部の強度不足にいまだ悩まされていたのであり , ,上記問題点の解決が容易ではないことがうかがえる。また,上記問題点は,遅くとも平成3年5月16日には公知となっているが,それから本件特許の出願日までの約6年もの間,その抜本的な解決方法は何ら提示されてこなかったのであり,この点からも,上記の問題点の解決は容易とはいえない。これらのことは,本件発明1に進歩性があることを肯定する要素になる。 イ また,本件特許の出願人であり権利者でもある原告は,本件発明1の実施品であるスクリューポイントを販売開始後,5年以上にわたってその出荷本数を順調に伸ばしていったのであり(甲31の資料1),短期的には売上本数が伸びることのある価格設定の工夫や営業努力等のみでは説明がつかないこうした長期間にわたる商業的成功もまた,本件発明1に進歩性があることを肯定する要素になる。 〔被控訴人らの主張〕 (1) 本件発明1と乙2発明の課題の相違について 本件発明1と乙2発明は,本体部に設けたおねじ部分の折損を防ぐため,スクリューポイントの本体部に設けたおねじを無くして,本体部にめねじを設け,これに螺合するねじ部分として,本体部の硬い材質とは異なる鋼材を使用することで(本件発明1では無頭ねじ,乙2発明ではロッドに設けたおねじ),課題を解決したもので,課題と解決は同じである。 (2) 効果について 本件発明1と乙2発明は,スクリュー本体部の材料とスクリューポイントと螺合する部位の材料の相違によって,折損の防止という効果を奏している。無頭ねじを 9採用すれば,材質を問わず,発明の効果を奏する旨の控訴人の主張は失当である。 (3) 周知技術について中央部の外径が両端のおねじ部分の外径より大きいとしても,両端がおねじであり,めねじ同士を螺合する部材であれば,無頭ねじといえ,かかる技術は周知である。 (4) 相違点2について相違点1の検討を抜きにしては,相違点2を検討することはできない旨の控訴人の主張は争う。 (5) 相違点1について乙2発明において,ねじ部にスクリューポイントと異なる性質の材料を使用することは,当業者が適宜なし得ることである。そして,乙2発明の技術分野と共通する地質試験装置における継手手段として,無頭ねじ部品が用いられていることは,公知技術であり,一般的に継手手段として無頭ねじ部品を用いることは周知技術であるから,ねじ部品とロッド部品をそれぞれに必要な性質を確保するため,別体にすることは,当業者が容易に想到し得ることである。そして,ロッド部におねじ部を設けるのではなく,おねじ部を別体とすることで,無頭ねじ部品を用いて本体部のめねじとロッド部を連結することは,当業者が容易になし得ることである。 (6) その余の控訴人の主張は争う。 |
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当裁判所の判断
当裁判所も,本件特許は進歩性欠如の無効理由を有し,訂正によっても無効理由は解消されないから,控訴人の請求は棄却すべきものと判断する。 その理由は,以下のとおりである。 1 争点(1)(本件発明1は進歩性を欠くか。)及び(2)(本件発明2は進歩性を欠くか。)について(1) 本件明細書の記載は,原判決22頁9行目から25頁12行目記載のとおり,引用発明については,原判決25頁14行目から29頁6行目記載のとおりである 10から,これらを引用する。 (2) 本件発明と引用発明(乙2発明)との対比は,原判決30頁5行目の「相違点1ないし3」を「相違点1,同A及び同B」と改めるほかは,原判決29頁8行目から30頁6行目に記載のとおりであるから,これを引用する。 (3) 本件特許出願時の公知技術等は 原判決30頁8行目から37頁5行目に記 ,載のとおりであるから,これを引用する。 (4) 相違点1の容易想到性についてア 相違点1について本件発明と乙2発明との相違点1は,ねじ部について,本件発明は,「本体部の基端部に形成しためねじに無頭ねじ部品を一端が突出するように螺合し,この無頭ねじ部品をロッド部材のめねじに螺合して連結するように構成した」のに対し,乙2発明は,「雌ねじ部21に継手ロッド3の雄ねじ部31が螺合して連結するように構成した」ものであるというものである。 イ 本件発明1と乙2発明の課題について(ア) 本件発明1は,従来のスクリューポイントについて,本体部とおねじ部が一体で形成されていたため,本体部に必要な硬さとおねじ部に求められる強度及び靱性という性質の両立が困難であったところ,「ドリル状の本体部に対して無頭ねじ部品をロッド部材の接続部材とすることにより,貫入時に土砂に接する本体部とロッド部材との接続部材である無頭ねじ部品それぞれに必要な性質を確保可能としたもの」であると認められる。 (イ) 一方,乙2発明は,従来おねじを有するスクリューポイント本体部が硬い材料であるため,おねじが折れてしまう場合があったので,スクリューポイントにおねじを無くし,連結部をめねじ部として,このめねじ部に継手ロッドのおねじ部を連結するようにして,スクリューポイントの破損を防止したものである。 (ウ) したがって,本件発明1と乙2発明は,スクリューポイントに設けられたおねじ部が破損しやすいので,スクリューポイントに設けられたおねじ部をスクリ 11ューポイントとは別部材にするという共通の課題を有している。 ウ 無頭ねじ部品について 原告は,米国特許第4332160号明細書(乙9,10),乙16文献,乙4公報,乙5公報及び乙17公報においては,両端のねじの間の外径がねじ部分より大きく実質的に頭部になっているので,無頭ねじ部品は開示されていない旨主張する。 米国特許第4332160号明細書,乙16文献,乙4公報,乙5公報及び乙17公報に係るものは,ねじの間に拡巾部を有するものではあるが,軸の終端に頭部を設けたものではなく,めねじを有する2部材の連結に用いられ,めねじ部分の連結を図るものであるから,本件発明1における「無頭ねじ部品」に相当するというべきである。また,米国特許第4332160号明細書における部材33,乙16文献におけるロッドカップリングは,地質試験装置に係る継手において,めねじを有する2部材の連結を図り,一方のめねじを有する部材から他方のめねじ部品を有する部材へ動力を伝達する部材であるという点で,本件発明1における「無頭ねじ部品」と同様の作用効果を奏するものと認められる。さらに,乙3ないし乙5公報,乙7公報及び乙17公報によれば,継手(連結)手段として無頭ねじ部品を用いることは,周知技術であると認められる。 エ 乙2発明を主引例とする容易想到性について (ア) 本件発明1は,ドリル状の本体部に対して無頭ねじ部品をロッド部材の接続部材とすることにより,貫入時に土砂に接する本体部とロッド部材との接続部材である無頭ねじ部品それぞれに必要な性質を確保可能として,「スクリューポイント本体部」-「無頭ねじ部品」-「ロッド」による連結構造とした点に技術的意義がある。 そして,米国特許第4332160号明細書又は乙16文献には,地質試験装置に係る継手において,めねじを有する2部材の連結を図り,一方のめねじを有する部材からねじ部品を介して他方のめねじ部品を有する部材へ動力を伝達可能とした 12点が開示されている。さらに,乙3ないし乙5公報,乙7公報及び乙17公報によれば,一般に継手手段において,「無頭ねじ部品」(両端にねじがあり軸の終端に頭部のないねじ部品)を用いることは周知である。 したがって,スウェーデン式サウンディング試験装置において,モータからロッド部材を経てスクリューポイントへ至る動力伝達経路中に,無頭ねじ部品を設けることは当業者が必要に応じて容易に想到し得るので,乙2発明において,めねじ部21に継手ロッド3のおねじ部31が螺合して連結する構成(スクリューポイントと継手ロッドとの直接連結構成)に代えて,本体部の基端部に形成しためねじに無頭ねじ部品を一端が突出するように螺合し,この無頭ねじ部品をロッド部材のめねじに螺合して連結する構成(無頭ねじ部品を介する連結構成)とすることは容易に想到することができると認められる。その際に,無頭ねじは,継手ロッドとスクリューポイントとを,ねじを用いて連結できればその機能を果たすものであるから,拡巾部を有することは必ずしも必要な構成ではなく,拡巾部を有さない周知の無頭ねじを採用することは設計事項にすぎないと認められる。 (イ) また,スクリューポイント2への接続を継手ロッド3の直接連結構成に代えて無頭ねじを介して連結する構成とすれば,スクリューポイントに連結される無頭ねじを,継手ロッド3のおねじ部31と同様に,従来のスクリューポイントのおねじにかかっていた回転力に耐え得る強度を有する材質のものとすることは,当然になし得る。 したがって,相違点1に係る本件発明1の構成は容易に想到することができる。 (ウ) 控訴人の主張について控訴人は,乙3ないし乙5公報,乙7公報及び乙17公報に記載の技術の乙2発明への適用の困難性を主張する。 しかし,上記各公報は,乙2公報に対する副引用例ではなく,あくまで一般の継手手段において「無頭ねじ部品」を用いる点が周知であることを示す証拠であり,本件発明1は「スクリューポイント本体部」-「無頭ねじ部品」-「ロッド」によ 13る連結構造であり,当該周知技術に照らして「無頭ねじ部品」を使用する連結構造が格別なものではない。よって,控訴人の上記主張は理由がない。 また,控訴人は,乙2発明は,スクリューポイントからおねじ部を無くすという解決手段を採用しているのであって,スクリューポイントからおねじ部を実質的に無くさない解決手段を採用する本件発明1の構成を採用することには阻害要因があると主張する。 しかし,前記イのとおり,乙2発明と本件発明1とはスクリューポイントに設けられたおねじ部をスクリューポイントとは別部材にするという共通の課題を有するのであって,前記ウのとおり,継手(連結)手段として無頭ねじ部品を用いることは,周知技術であるから,上記課題のもと,連結部材として周知技術の適用を試みることは,当業者が適宜なし得ることであり,阻害要因があるとは認め難い。 よって,控訴人の上記主張は理由がない。 オ 効果について(ア) 控訴人は,本件発明1の顕著な効果として,本件発明2のように無頭ねじ部品の素材やその特性の限定をしていない本件発明1においても,破損の問題を解決することができる旨主張する。 しかし,本件明細書には,「無頭ねじ部品4は靱性が高いため,このような曲げモーメント,引っ張り応力などに耐え得る。」(【0009】),「無頭ねじ部品には高い靱性を持たせて曲げモーメント,引っ張り応力などによる折損を防止するとともに,」(【0010】)と記載されているのであって,あくまで「無頭ねじ部品」が高い靱性を有しているとの理由で折損を防止する態様しか記載されていないのであるから,上記主張は本件明細書の記載に基づかないものである。 また,甲34(スクリューポイント応力解析シミュレーション結果報告)は,実際のスクリューポイントの使用条件下における応力を示したものでなく,本件発明1とJIS品及び乙2発明との差異(応力差)が顕著であるとはいい難く,本件発明1の構成のみで顕著な効果が生じるとは認め難い。 14 (イ) 控訴人は,おねじ部を継手ロッド側に設ける乙2発明では,継手ロッドに設けたおねじ部が折れてしまうおそれがあるので,乙2発明と比較して本件発明1は顕著な効果を奏すると主張する。 しかし,当業者であれば,前記イの課題に鑑みて,乙2発明における継手ロッド3のおねじ部31が,従来のスクリューポイントのおねじのように折れてしまわないように材質等を配慮することは当然であり,現に,おねじ部31は,従来のスクリューポイントのおねじにかかっていた回転力に耐え得る強度を有する材質(S45C,SS41等の鋼材:乙2の6頁の11〜12行)であると推認される。 したがって,控訴人の上記主張は理由がない。 カ 発明の困難性及び商業的成功について 控訴人は,従来のおねじ一体型のスクリューポイントではおねじ部が折れやすいという問題点が長年解決されなかったこと,及び本件特許の出願人であり権利者の商業的成功が,本件発明1に進歩性があることを肯定する要素になる旨主張する。 しかし,本件発明1が進歩性を有するかどうかは,先行技術との比較で決まるのであって,課題が長年解決されなかったことや商業的成功があるからといって,進歩性が認められるものではなく,証拠(甲31)を考慮しても,進歩性は認め難く,控訴人の上記主張は理由がない。 キ 小括 したがって,本件発明1は,乙2発明,乙16文献又は米国特許第4332160号明細書記載の発明並びに乙3ないし乙5公報,乙7公報及び乙17公報によって認められる周知技術を組み合わせることによって,容易に想到することができたものである。 (5) 相違点2の容易想到性について ア 相違点2について 本件発明2と乙2発明との相違点2は,本件発明2は,「本体部は硬度が高くなるよう構成し,また無頭ねじ部品は高い靱性を有するように構成したことを特徴と 15する」のに対し,乙2発明は,「スクリューポイント2(スクリューポイントの本体部)」は「クロムモリブデン鋼,セラミック等の固い材料」からなり,「継手ロッド3は,S45C,SS41等の鋼材からなる」というものである。 イ 相違点2の容易想到性について (ア) 乙2公報について 乙2公報には,「この土質貫入試験杆は,ハンドル1と,クロムゼリブデン鋼,セラミック等の固い材料からなる捩り角錐形状のスクリュウーポイント2と,前記ハンドル1と振り角錐形状のスクリュウーポイント2との問に配され,S45C,SS41等の鋼材からなる複数本の継手ロッド3…と …とからなるものである 」 , 。 (6頁7-15行)と記載されている(「クロムゼリブデン鋼」は,「クロムモリブデン鋼」の誤記であると認められる。)。 したがって,スクリュウーポイント2(本体部)をクロムモリブデン鋼,セラミック等の固い材料,接続される継手ロッド3をS45C,SS41等の鋼材を用いているので,スクリューポイント本体部が接続部材に対して硬度が高くなるよう構成した点が記載されているものと認められる。 (イ) 「スウェーデン式サウンディング試験方法 JIS A 1221-1995」(財団法人日本規格協会,平成7年6月30日発行。乙12。以下「乙12文献」という。)には,次のとおり記載されている。 3.1スウェーデン式サウンディング試験機… (1)スクリューポイント スクリューポイントは,摩耗しにくい特殊鋼製で,… (2)ロッド ロッドは,鋼製で,… 4.規格の解説… (2.1)スクリューポイント…強さが大きく,摩耗しにくい材質であることが必要である。したがって,材質は焼入れが可能なもので,S-50-C以上の高炭素鋼,又はSK-2以上の炭素工具鋼などを使用すればよい。… (2.3)ロッド…材質は機械構造用炭素鋼を使用する。…また,連結部に強じ 16ん特殊鋼を用いたり,…連結部の強さを増加させる試みがなされている。 前記のとおり,乙12文献には,スクリューポイントを摩耗しにくい特殊鋼製,ロッドを鋼製とすること,スクリューポイントは強さが大きく,摩耗しにくい材質であることが必要であること,焼入れが可能なもので,S-50-C以上の高炭素鋼,又はSK-2以上の炭素工具鋼などが適切であること,ロッドは材質を機械構造用炭素鋼とすること,連結部に強じん特殊鋼を用いて連結部の強さを増加させる試みがなされていることが記載されている。 したがって,乙12文献には,スクリューポイント本体部が接続部材に対して硬度が高くなるよう,接続部材がスクリューポイント本体部に対して高い靱性を有するように構成した点が記載されているものと認められる。 (ウ) 相違点2の容易想到性について 前記(4)で述べたとおり,相違点1に係る本件発明1の構成は,容易に想到することができ,無頭ねじをスクリューポイント本体部とロッド部材の間に介して連結する構成とすれば,無頭ねじがスクリューポイント本体部の接続部材となり,接続部材に必要な力学的性質(硬度及び靱性)を有するものとすることは自明である。したがって,当業者であれば,前記(ア)及び(イ)並びに乙19文献記載の事項(原判決引用に係る「事実及び理由」の第4の1(4)ク)を踏まえ,相違点2に係る本件発明2の構成とすることは容易に想到することができる。 ウ 小括 したがって,本件発明2は,乙2発明,乙12文献及び乙19文献記載の事項を組み合わせることによって,容易に想到することができたものである。 2 争点(3)(訂正の再抗弁の成否)について (1) 本件訂正発明 ア 本件訂正発明1及び2の構成要件は,原判決別紙対比表2の「本件訂正発明1の分説」及び「本件訂正発明2の分説」に記載のとおりである。 イ 本件訂正発明1は,主として,本件発明1の構成要件Aの「地質の調査を行 17う試験に際して所定の長さのロッド部材先端に取り付けられ,」を,構成要件A′の「スウェーデン式サウンディング試験に際して,一端に有底のめねじ,他端におねじが一体成形された所定の長さのロッド部材のめねじに取り付けられ,ロッド部材のおねじに他のロッド部材のめねじを連結して延長可能に構成され,」に訂正したものである。 ウ また,本件訂正発明2は,本件発明2の構成要件E「本体部は硬度が高くなるよう構成し,また無頭ねじ部品は高い靭性を有するように構成したことを特徴とする」を,構成要件E′「本体部は無頭ねじ部品に対して硬度が高くなるよう構成し,また無頭ねじ部品は本体部に対して高い靭性を有するように構成したことを特徴とする」に訂正したものである。 (2) 本件訂正発明の容易想到性 ア 本件訂正発明と乙2発明との相違点 (ア) 本件訂正発明1は,相違点1に加えて次の相違点3の2点で乙2発明と相違している。 相違点3:ロッド部材同士の連結構造(おねじとめねじ)について,本件訂正発明1は,「他端におねじが一体成形された…ロッド部材のおねじに他のロッド部材のめねじを連結して延長可能に構成され」ているのに対し,乙2発明は,「他端に雌ねじ部32が設けられた」,「継手ロッド3の雌ねじ部32に他の継手ロッド3の雄ねじ部31を連結して延長可能に構成され」ており,連結部におけるロッド部材に設けたおねじとめねじの配置が 本件発明と乙2発明とでは逆の関係である点 , 。 (イ) なお,本件訂正発明2における構成要件E′については,本件発明2における構成要件Eと実質的に同じ構成を表しているにすぎないから,この部分の訂正によって新たに検討すべき相違点は生じず,本件訂正発明1に従属して本件訂正発明1の全ての発明特定事項を含んでいる本件訂正発明2は,相違点1及び相違点3に,相違点2を加えた3点で乙2発明と相違しているといえる。 イ 相違点3の容易想到性 18(ア) 前記1で述べたとおり,相違点1に係る本件発明1の構成は,容易に想到することができ,スクリューポイントへの接続を継手ロッドの直接連結構成に代えて無頭ねじを介して連結する構成とすれば,おのずと無頭ねじに接続される継手ロッドの接続部分はめねじとなり,他端部分はおねじとなり,そのおねじに接続される他のロッド部材の接続部分は,めねじとなるものと認められる。すなわち,相違点1に係る本件訂正発明1の構成を採用すると,乙2発明における継手ロッドのおねじとめねじの配置が逆になることは自明である。よって,相違点3に係る本件訂正発明1の構成,「他端におねじが一体成形された」「ロッド部材のおねじに他のロッド部材のめねじを連結して延長可能に構成され」るという構成に至る。 (イ) 控訴人は,乙2発明の目的(課題)は,「スクリューポイントに従来設けられていたおねじ部を無くして,代わりにスクリューポイントにめねじ部を設けるとともに,継手ロッドにおねじ部を設けてこれらスクリューポイントと継手ロッドとを結合するように構成したものである」から,スクリューポイントの連結対象をロッドのめねじ部に変更することは上記目的に反し,阻害要因があると主張する。 しかし,前記1(4)イのとおり,乙2発明の課題は,スクリューポイントに設けられたおねじ部が破損しやすいので,スクリューポイントに設けられたおねじ部をスクリューポイントとは別部材にするというものであるから,継手ロッドのおねじ部をめねじ部に変更することが上記目的に反するとはいえず,阻害要因があるとの控訴人の主張は理由がない。 (ウ) したがって,相違点3は容易に想到することができる。 (3) 小括以上から,本件訂正請求後の本件訂正発明においても,本件発明における無効理由が解消されておらず,したがって,訂正要件の充足の検討をするまでもなく,訂正の再抗弁は認められない。 3 結論以上によれば,本件特許は,特許法123条1項2号に該当し,特許無効審判に 19より無効にされるべきものと認められるから,同法104条の3第1項により,控訴人は本件特許権に係る権利を行使することができないというべきであるので,控訴人の被控訴人らに対する請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がなく,これと同旨の原判決は相当である。 よって,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 部眞規子 |
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裁判官 | 古河謙一 |
裁判官 | 鈴木わかな |