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関連審決 不服2015-9596
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事件 平成 27年 (行ケ) 10241号 審決取消請求事件

原告旭化成ファーマ株式会社
訴訟代理人弁理士細田芳徳 細田芳弘
訴訟復代理人弁理 士山本光 亀ヶ谷薫子
被告特許庁長官
指定代理人内藤伸一 關政立 井上猛 田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/11/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が不服2015-9596号事件について平成27年10月19日にした 審決を取り消す。
事案の概要
本件は,特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,新規性進歩性の有無(引用発明の認定,相違点及び効果に係る判断)である。
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「1回当たり100〜200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする,PTH含有骨粗鬆症治療/予防剤」とする発明につき,平成22年(2010年)9月8日を国際出願日として特許出願(請求項の数26)をし(パリ条約による優先権主張 平成21年(2009年)9月9日(本願優先日) ・日本国,国際公開番号WO2011/030774。甲3。,平成26年9月24日に )手続補正をした(本願補正,請求項の数1。甲4)が,平成27年2月18日付けで拒絶査定を受けたので,同年5月25日,拒絶査定不服審判請求をした(不服2015-9596号)。
特許庁は,平成27年10月19日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年11月4日,原告に送達された。
2 本願発明の要旨 本願補正後の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。 は, ) 本願補正書(甲4)に記載された以下のとおりのものである(なお,願書に最初に添付された明細書及び図面(甲3)を併せて「本願明細書」という。 。
)【請求項1】「 1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする,PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する,骨折抑制 のための骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,下記(1)〜(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とする,骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤;(1)年齢が65歳以上である(2)既存の骨折がある(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である。」 3 審決の理由の要旨 (1) 引用発明の認定 甲1(オステオポロシス・インターナショナル(Osteoporosis International) 1999, ,9(4) p.296-306)には,次の発明(引用発明)が記載されていると認められる。
「hPTH(1-34)の200単位を毎週皮下注射する,hPTH(1-34)を有効成分として含有する骨粗鬆症治療剤であって,厚生労働省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された,年齢範囲が45から95歳の被検者のうち,複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し,スコアの合計が4以上の場合の患者に投与される,骨粗鬆症治療剤。」 (2) 本願発明と引用発明との一致点及び相違点 ア 一致点「1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする,PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する,骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,特定の骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とする,骨粗鬆症治療ないし予防剤。」 イ 相違点 (ア) 相違点1「特定の骨粗鬆症患者」が,引用発明では, 「厚生労働省による委員会が提唱した診 断基準で骨粗鬆症と定義された,年齢範囲が45から95歳の被検者のうち,複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し,スコアの合計が4以上の場合の患者」であるのに対し,本願発明では「下記(1)〜(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者(1)年齢が65歳以上である(2)既存の骨折がある(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である。」である点。
(イ) 相違点2「骨粗鬆症治療ないし予防剤」について,本願発明では,さらに, 「骨折抑制のための」という事項が追加されている点。
(3) 判断 ア 新規性について 本願発明と引用発明の間に相違点は見出せない。
(ア) 相違点1について 引用発明の骨粗鬆症治療剤の投与対象となったH群の被検者の72人中に,本願発明にいう「下記(1)〜(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者(1)年齢が65歳以上である(2)既存の骨折がある(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である。」が,少なからず存在する蓋然性が高い。
この点で,両者は重複しているとするのが相当である。
(イ) 相違点2について 骨粗鬆症とは, 「骨量が減少し,緻密である骨の構造が変化するため,骨が脆くなり骨折しやすくなった病態」で,「骨密度測定を行い,骨量減少の程度を把握する。
治療後も定期的に測定し,効果を判定する」疾患として,本願優先日前から周知の 疾患である。してみると,骨粗鬆症治療剤が,骨を強くし,骨折しにくくするための治療剤であることは,本願優先日当時,当業者にとって自明の事柄であったといえるし,引用発明の骨粗鬆症治療剤のように,骨密度の有意な増加が見られたとされる骨粗鬆症治療剤においてはなおのこと,骨折しにくくするための治療剤であることは,自明の事柄であったといえる。
してみれば,引用発明にいう「骨粗鬆症治療剤」と本願発明にいう「骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤」の間に,実質的な差異はない。また,引用発明の骨粗鬆症治療剤の投与対象となったH群の被検者では椎体骨折が発生しなかったのであるから,この点からも,両者の間に実質的な差異はない。
進歩性について 仮に,相違点1及び2を相違点であると解したとしても,本願発明に,引用発明に対する進歩性は見出せない。
(ア) 相違点1について 本願発明にいう「(1)〜(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者」とは,要するに,より高齢であり,また,既に骨折の経験もあることから,転倒や骨折の危険性が高い骨粗鬆症患者であり,そのような患者こそ優先的に治療すべきであることは,当業者にとって自明である。してみれば,甲1のH群の被検者の中で,65歳以上で,骨折を有し,X線上の骨減少を示す患者に着目し,引用発明の骨粗鬆症治療剤を適用するものとすることに,当業者が格別の創意を要したものとはいえない。
(イ) 相違点2について 引用発明の骨粗鬆症治療剤が骨折しにくくするための治療剤であることは自明の事柄であったといえるのであるから,引用発明にいう「骨粗鬆症治療剤」を骨折抑制のためのものとすることに,当業者が格別の創意を要したものとはいえない。
(ウ) 本願発明の効果について 本願発明の効果は,PTHの投与量・投与間隔を特定することにより,安全性の高い骨折抑制/予防方法となること,及び,高リスク患者に対して特に効果を奏す ること,とされているものと解されるが,骨粗鬆症治療剤なるものは,種類により,また,患者の状態により程度の差はあっても,骨折を減らす効果を持つものであることは自明であり,引用発明の骨粗鬆症治療剤についても,甲1において,実際に被験者に投与し,腰椎BMDを有意に増加し,自覚症状に改善がみられ,第二中手骨は変化せずに一定に保たれ,椎体骨折の発生は0人だったことが記載されているのであるから,本願発明の効果は,甲1の記載から当業者が予測し得る範囲のものにすぎない。
(4) 結論 以上のとおり,本願発明は,引用発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。あるいは,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り) (1) 引用発明は,次のとおり認定されるべきである。
「hPTH(1-34)の200単位を毎週皮下注射する,hPTH(1-34)を有効成分として含有する腰椎BMD増加剤であって,厚生労働省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された,年齢範囲が45から95歳の被検者のうち,複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し,スコアの合計が4以上の場合の患者に投与される,腰椎BMD増加剤。(下線は,審決の 」認定と相違する部分を示す。) (2)ア 審決は,背部痛からなる自覚症状の改善と椎体骨折の発生数も認定の根拠とする。
しかしながら,甲 1 において,背部痛からなる自覚症状の改善は,投与量が異なる被検者群間で有意差がなく,PTH投与に起因する骨量増加に関連した症状改善 ではないとみるべきである。
また,甲1の著者は,PTH(1-34)が,中手骨の骨密度を減少させることなく,腰椎BMDを,48週という比較的短期間で有意に用量依存的に増加させたことから,PTH(1-34)に期待感を示したのであって,椎体骨折数の評価を考慮していない。甲1の試験では,プラセボとの対比試験を行っていないため,無治療であったらどの程度の骨折発生率であったのかは不明である。甲1では,薬の投与量と椎体骨折の発生数との間に有意な関係が認められなかったとされているのであって,甲1から,PTH(1-34)の骨折抑制効果を評価することはできない。
したがって,引用発明の認定において,背部痛からなる自覚症状の改善と椎体骨折の発生を考慮に入れるのは不適切である。
イ 「治療剤」といえるためには,ヒトに投与した場合の副作用面での評価も重要である。
甲1には,200単位投与での全副作用及び最頻度副作用の頻度が異常なほど高いことが記載されている。また,本願優先日当時,ラットでのhPTH(1-34)の骨肉腫の発生の危険性があったため,ヒトについても骨肉腫の発生の懸念が否定できない状況にあった。確かに,甲1においては,200単位の投与によって,100単位の投与と比べて,腰椎BMDが用量依存的に増加している(8.1%)が,この程度の増加率は,他の公知の骨粗鬆症治療剤と比べて特段に優れているわけではない。
前記腰椎BMDの達成と高頻度の副作用とを勘案すると,PTH(1-34)を200単位の投与量で週1回投与することは,治療剤としてのリスクベネフィットに見合うものとはいえず,臨床使用での用量として極めて不適当であると認識するのが,当業者にとって通常であり,これが有益な「骨粗鬆症治療剤」になり得るとは認識できない。
したがって,甲1において,200単位のPTH(1-34)の週1回間歇投与 が「骨粗鬆症治療剤」であるとの認定は,誤りである。
ウ 甲1には,PTHを大量に投与すると,ヒトでもBMDの増加がみられたが,ヒトで好ましい効果を奏する間歇投与法は未解決の問題である旨が記載されている。甲1は,PTH(1-34)の50単位,100単位又は200単位の用法・用量を検討しているが,これらの用量のうち,いずれの用量のPTH(1-34)による週1回間歇投与であれば骨粗鬆症治療に適する可能性があるかまでは開示されておらず,200単位の週1回間歇投与が骨粗鬆症治療に有用であるとは記載されていない。
したがって,甲1において,200単位のPTH(1-34)の週1回間歇投与が「骨粗鬆症治療剤」であるとの認定は,根拠がない。
エ 甲1の臨床試験における主要評価項目は腰椎BMDであり,腰椎BMD結果の用量依存性に基づき,特定用量である200単位投与による腰椎BMD増加効果も併せて開示されていることから,甲1には,200単位のPTH 「 (1-34)を含有する,腰椎BMD増加剤」が開示されているとみなすことも可能である。
2 取消事由2(相違点1に係る判断の誤り) 甲1では,H群72名の一部に本願発明の請求項 1 に記載された(1)ないし(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者(以下「3条件充足患者」という。)が含まれていたとしても,3条件充足患者と3条件非充足患者が識別不能に渾然一体となっている患者群として記載されており,甲1に接した当業者が,本願発明にいう3条件充足患者のみを取り出して認識することはできない。
H群の患者の中に3条件充足患者が存在することを推定することは許されないし,仮に推定が許されるとしても,甲1の記載から,これを推定することはできない。
3 取消事由3(相違点2,3に係る判断の誤り) (1) 相違点3の存在について 審決は, 「相違点3:本願発明では,骨粗鬆症治療ないし予防剤としての用量を200単位/週とするのに対し,引用発明の腰椎BMD増加剤では200単位/週が骨粗鬆症治療ないし予防剤の用量として選択できることの記載がない点」を看過している。
(2) 相違点2に係る判断について ア 骨粗鬆症疾患の病態に照らして,一律に「骨粗鬆症治療剤とは,骨を強くし,骨折しにくくするための治療剤であることは,本願優先日当時,当業者にとって自明の事柄」とするのは,科学的根拠を欠く。
骨折の発生は,骨密度というよりも骨強度が関係しているところ,骨密度の増加は,骨折抑制効果を直接もたらすものではない。
引用発明は,腰椎BMD増加剤にすぎず, 「骨密度を有意に増加できても骨折を抑制できない薬剤は存在していた」という本願優先日当時の技術常識を考慮すると,骨密度の有意な増加が見られたという事実をもって,骨折しにくくするための治療剤になるとの根拠とすることはできない。
イ 甲1の試験では,プラセボとの対比試験を行っていないため,無治療であったらどの程度の骨折発生率であったのかは不明であり,H群では椎体骨折が発生しなかったものの,200単位のhPTH(1-34)の週1投与による骨折抑制効果を評価することはできない。また,最終的に腰椎骨密度の解析が可能であった被験者は,H群中38名であり,この母集団から骨折抑制効果があったか否かは,到底評価できるものとはいえない。
4 取消事由4(本願発明の効果に係る判断の誤り) (1) 他のPTH(1-34)の投与からみた本願発明の効果の予測性について ア 骨折抑止効果について (ア) 甲1は,プラセボ群との対比試験ではなく,相対リスク(投与群の骨折の発生率(%)/プラセボ群の骨折発生率(%))を算出することはできず,骨折 抑止効果の有無の評価はできないのに対し,本願発明は,プラセボに対する骨折の相対リスク減少率は,投与が継続するにつれて増加し,骨折抑制効果が投与とともに顕著に増強した(【0132】)のであるから,本願発明には,甲 1 から予測できない顕著な効果がある。
(イ) 仮に,相対リスクとBMD増加率との間にある程度の関係があるとして,後記(2)の回帰直線から推定すると,甲1における腰椎BMDは48週で8.1%増加したとの記載から当業者が予測し得る程度は,相対リスクが約0.5程度である。一方,本願発明では,約6%程度のBMD増加率であっても0.21という極めて低い相対リスクを達成できており,この効果は,甲1から予測できるものではない。
なお,PTH(1-34)の連日投与試験(甲5の参考資料6,7)においては,約21か月の高用量(40μg/日)の連日投与で,相対リスクが0.31程度となるにすぎないのに対し,本願発明では,BMD変化率は6%程度であるのに,相対リスクを約17か月で約0.21まで低下できるのであるから,骨折抑制効果が顕著である(次の図参照)。
BMD増加率と骨折相対リスクとの関係 (PTH) 0.6 0.5 椎 Greenspanら 体 0.4 骨 Neerら 20μg 折 Neerら 40μg の 0.3 相 予測できない効果 対 リ 0.2 ス 本願200単位/週 72週時のBMD増加率 ク における相対リスク(表26、34より) 0.1 0 2 4 6 8 10 12 14 16 腰椎BMD増加率(プラセボとの差) (%) イ その他の効果について (ア)a 本願発明においては,皮質骨厚が,骨の外側ではなく,内側に増加する作用がみられる(甲3の【0051】。大腿骨の外側への肥厚は,関節面の面 )積増大を意味するが,軟骨細胞数は,骨の肥厚と比して増加しないため,軟骨細胞の損傷を介して関節の破壊を促進する可能性がある(同【0054】。大腿骨の内 )側への肥圧は,関節面の増大がなく,軟骨をより安定化させるものであるため,軟骨への負担を増やさずに関節破壊を実質的に促進させない可能性があり,連日投与のような従来法による骨粗鬆症治療と比較して関節に優しい治療である可能性がある(同【0055】。
) b 本願発明においては,軽度〜中等度の腎機能障害を有する患者と腎機能が正常な患者とが,リスク及びベネフィットのいずれにおいても同等であった(甲3の【0123】〜【0131】)から,軽度〜中等度の腎機能障害を有する患者と腎機能正常患者を区別する必要はなく,腎機能によって用量を調整する必要がない。
一方,甲1では,血清クレアチニンが2r/?より高いか又はBUNが30r/?より高い値を示し,腎機能の低下が示唆される患者は被験者から除外されており,腎機能障害を有する患者に適さないとみられていたことからみて,前記の安全面での効果は,甲1の開示から予想できないことである。
(イ) 骨粗鬆症は,生活習慣病の一種であり,長期療養が必要であるところ,3条件充足患者には,関節や腎機能に障害を持つ患者も相当数いることを考慮すると,前記(ア)a及びbの効果は,長期療養を可能とし,本願発明の骨折抑制効果を担保する上で重要な効果である。
本願発明の骨折抑制の効果を補佐する効果であり,甲1から予測もできない効果である。
(2) 他剤とも比較した本願発明の効果の予測性について 各種の骨粗鬆症治療薬に関する文献に記載された腰椎BMD増加率と椎体骨折の 相対リスク値をプロットし,その回帰直線を計算すると,次の図のとおりになる(甲5の参考資料8,9)。
BMD増加率と骨折相対リスクとの関係 (骨吸収抑制剤と本願発明) 甲1の200単位/週のBMD 8.1%の 椎 増加率から推定される相対リスク 体 骨 折 の 相 対 リ ス 予測できない効果 ク 本願200単位/週 48週時 のBMD増加率における 相対リスク(表26、34より) 腰椎BMD増加率(プラセボとの差) (%) 仮に骨密度と骨折抑制効果との関係があるとした場合,本願発明の評価結果は,この回帰直線から大幅に外れ,予測できないところに位置付けられるから,本願発明は,本願優先日当時に知られていた種々の治療剤からは予測できない顕著な骨折抑制効果を奏しているといえる。
5 取消事由5(本願発明の容易想到性判断の誤り) (1) 審決の判断について 相違点1と2は関連付けて検討すべきことであり,個別独立して評価するのは適切ではない。
これらの相違点を併せて検討すると,甲1には,3条件を充足する患者に限定した場合の骨折抑制効果は,何らの開示も示唆もない。甲1には,年齢の違い,脊椎骨折の有無,骨折数がどうであれ,薬物の応答は同程度であることが明示されており,年齢や既存骨折などを指標として,患者を分類して薬効を評価すべきとする教 示,示唆はなく,本願発明のように3条件充足患者に着目させる要素はないから,甲1に接した当業者にとって,多くの骨折リスクが知られている中で,3条件のみに限定する動機付けは存在しない。むしろ,これらの記載は,3条件のうち,(1)及び(2)の条件に着目することを否定する記載というべきであるから,阻害要因すらあるというべきである。
加えて,H群(200単位)の副作用発現率及び副作用脱落率は格段に高く,200単位のhPTH(1-34)による治療は,副作用が多すぎて,治療剤として認知し得るものとはいえない。また,200単位のhPTH(1-34)に,骨折抑制作用を認識することもできない。hPTH(1-34)の200単位の投与は,高齢で身体的にも弱っている患者に対して,特段のベネフィットもなく,単に副作用による肉体的苦痛を負わせることに帰するものであるから,そのような処方は,当業者であれば,当然に避ける。
したがって,当業者が格別の創意を要したものとはいえないとの審決の判断は誤りである。
(2) 動機付けについて 甲1の200単位のPTH(1-34)の週1回投与の臨床報告は,@48週という骨粗鬆症の臨床試験としては短期間であり,骨折への効果をみるにはあまりにも短いこと,A当初は200単位のH群に72名が割り付けられたものの,48週まで腰椎骨密度の解析が可能であった被験者は38名のみであり,その38名の骨密度解析結果に基づいて骨折抑制効果の有無や程度を評価することはできないこと,Bプラセボ群との対比がされておらず,骨折抑制効果を科学的に何ら評価し認識することはできないこと,C甲1は,骨折に関して,各群間の差は有意ではなかった」 「と記載しており,甲1に記載されたH群の骨折数が0の数値は意味ある数値として評価できないこと,D甲1の記載からは骨折抑制効果の評価はできないというのが骨粗鬆症の専門医の見解であり(甲11〜13),当業者の認識であるところ,そのような専門医の見解を無視して甲1から骨折抑制効果を無理やり読み取り,評価し ようとすること自体が,当業者の認識に基づかないものであり,本願発明を知った上での後知恵であること,E甲1の記載から,3条件充足患者のみを対象とした場合に見られる特有な効果を認識することはできないこと,F甲1に接した当業者にとって,多くの骨折リスクが知られている中で,3条件のみに限定する動機付けが存在しないこと,むしろ阻害要因すらあるというべきであること,GH群における副作用の発現率や脱落率の高さから,PTH(1-34)の週1回投与において200単位が用量として適切でないと専門医は認識していた(甲10,13)ことからみて,200単位を治療剤の用量として試みることは,当業者であれば避けることであったことを総合すると,本願発明における3条件充足患者に対して,不適切だと専門医が判定している高リスクの200単位を,しかも,骨折抑制効果が評価できていないにもかかわらず,骨折抑制のための治療剤として週1回投与することは,甲1からは何ら示唆されない。
したがって,甲1に接した当業者は,本願発明の着想を持つことに対し何ら動機付けられることはない。
(3) 本願発明が奏する予測できない顕著な骨折抑制効果について ア 本願発明は,@PTH200群では,早期に骨折抑制効果が発現し,投与継続に応じて効果が増強され,最終的に,48週以降は完全な骨折抑制効果を達成している。A試験を終了した72週の時点での骨折発生率は極めて低く,プラセボ群との隔たりは顕著であり,プラセボ群で発生する骨折の80%を抑制したといえる。B増悪椎体骨折は,ある時点と比較し次の時点では椎体変形の度合いが増した(すなわち,重症度が増した)椎体骨折といえ,その椎体変形の度合いの増加は患者のQOL低下につながることが知られているところ,本願発明では,3条件充足患者が治療前に既に有する椎体骨折が増悪することを顕著に抑制することができる。
これらの効果は,引用発明には開示も示唆もない。
イ なお,本願発明の効果については,前記4のとおりである。
(4) 小括 したがって,本願発明は,甲1に記載,示唆はなく,動機付けられないのであり,本願発明は,顕著な骨折抑制効果を奏するが,この効果は,甲1の記載も含め,優先日当時の技術水準からは全く予測できないほどに優れたものであり,新規性,進歩性を有する。
被告の反論
1 取消事由1について (1) H群の背部痛改善がPTH投与の起因する骨量増加に関連したものであるか否かという医薬の作用機作は,簡単な推測で決められるものではない。甲1において,H群(200単位)で,36%の背部痛改善があったことは事実であり,骨粗鬆症の重要な症状の1つが現に改善したのであるから,この事実を骨粗鬆症治療剤の認定の基礎の1つとすることに誤りはない。
また,H群での椎体骨折の発生が0人であったことは甲1に記載された事実であるから,この事実を骨粗鬆症治療剤の認定の基礎の1つとすることに誤りはない。
(2) 臨床試験における副作用は,実際に市販する医薬品の製造承認を受けるに当たっては考慮されるだろうが,甲 1 に引用発明が記載されていると認定することの妨げになるものではない。
特許性判断の実務上,医薬発明として認められるために必要な薬理試験結果は,臨床試験に限らず,動物実験又は試験管内実験でも足りるものと解されている。医薬としての効果が,臨床実験,動物実験又は試験管内実験によってある程度の蓋然性をもって明らかにされていれば,仮に臨床試験を行うと副作用がみられるとしても,実施可能な医薬発明として認定することとしている。そして,実施可能な医薬発明が刊行物に記載されていれば,これを引用発明として認定することに差し支えはない。
また,甲1は,「試験期間中を通じて,重篤な副作用をみられなかった。」として いるのであるから,原告が主張する副作用の発現は,甲 1 に引用発明が記載されていると認定することの妨げになるようなことではない。
(3) 甲1の記載に接した当業者にとって,200単位週1回投与が骨粗鬆症治療に有用であることは明らかである。
原告の引用する甲 1 の記載は,甲1の臨床試験を行う前の研究に対する甲1の著者の見解を示すものであり,200単位週1回投与の試験を行った後もなおPTH間歇用法は未解決のままであると述べたものではない。
(4) 「腰椎 BMD 増加剤」なる医学用語は存在せず,原告独自の見解に基づく造語にすぎない。
2 取消事由2について 本願発明の「1回当たり200単位」で「週1回投与」という用法・用量は,甲1に記載されたH群の用法・用量そのものであり,本願発明において刷新されたものではない。
甲 1 に記載の患者が3条件充足患者として表現されていなくても,3条件充足患者に該当する患者が H 群の患者の中に少しでも存在するといえれば,相違点1における本願発明の新規性は否定される。
そして,H 群の被検者72人中ほぼ43〜49人の被験者が,3条件充足患者であるから,本願発明の新規性は否定される。
すなわち,H群の被験者72人中71人が3条件充足患者の条件(3)を満たす。H群の中で骨折を有する被験者は43〜49人であるが,その大半は,実際には65歳以上の高齢者である。なぜなら,高齢者ほど骨粗鬆症の病歴が長くなり,病歴が長くなれば,骨折する機会が増えるのは自明の理であるからであり,また,骨粗鬆症は,骨密度の低下と骨質の劣化により骨強度が低下する疾患であるところ,加齢や閉経に伴い骨密度は低下し,骨強度は,骨密度と骨質により規定されるため,そのどちらが低下しても骨強度は低下し,骨折リスクは高まるとされるもの だからである。そうすると,結局,H群の被験者72人中ほぼ43〜49人の被験者が,3条件充足患者であると解するほかはない。
したがって,本願発明の患者と引用発明の患者は重複しており,相違しないというほかなく,審決における相違点1の判断に誤りはない。
3 取消事由3について (1) 相違点3について 原告の主張する相違点3の看過はない。
(2) 相違点2について 骨粗鬆症で典型的なほとんどの慢性痛は骨折から起こり,骨粗鬆症の予防と治療の目標は,骨量を温存し,骨折を防ぎ,痛みを軽減し,機能を維持することである(乙5)から,そのような骨粗鬆症疾患を治療する薬剤を,骨を強くし,骨折しにくくするための治療剤であると認定することに,誤りはない。
骨粗鬆症は,骨量(骨密度)が低下して骨の中身が空疎になる疾患であるから,骨量(骨密度)が低下すれば,骨折しやすくなることは自明であり,骨粗鬆症治療薬により,骨量(骨密度)の低下を食い止めたり,増加させたりして,正常な骨に近付けることができれば,程度の差はあっても,骨折を減らす効果を持つものであることは自明である。
また,プラセボを置いた特定の対比試験により有意差が出たかどうかにかかわらず,骨粗鬆用治療薬である以上,骨折抑制のためのものであり,程度の差はあっても,骨折を減らす効果を持つものであることは自明である。
したがって,本願発明の「骨折抑制のための」骨粗鬆症治療剤と,引用発明の骨粗鬆症治療剤との間に,実質的な差異はないから,審決における相違点2の判断に誤りはない。
4 取消事由4について (1) 他のPTH(1-34)の投与からみた本願発明の効果の顕著性について ア 骨折抑制効果について (ア) 骨粗鬆症は,骨密度が低下して骨の中身が空疎になる疾患であり,骨密度が低下すれば,骨折しやすくなることは自明であり,骨粗鬆症治療薬により,骨密度の低下を食い止めたり,増加させたりして正常な骨に近付けることができれば,程度の差はあっても,骨折を減らす効果を持つものであることは自明である。
ただ,骨折のリスクが低いとされる骨粗鬆症患者は,そうそう骨折などするものではないから,治療群とプラセボ群との間で,骨折抑制効果に有意な差が出ることはなかなかないであろうし,同様に,骨折のリスクが高いとされる骨粗鬆症患者でも,小規模,短期間の臨床試験では,そうそう骨折などするものではなく,やはり,治療群とプラセボ群との間で,骨折抑制効果に有意な差が出ることはなかなかないであろう。本願明細書の表34及び表35に示すデータは,大規模,長期間の臨床試験により骨折抑制効果に有意な差が出たデータを取得したものであり,骨折抑制効果に有意な差が出たデータを取得した点では,本願明細書に記載の試験は甲1 の試験と異なるが,それは,甲1でも当然にもたらされていた効果を単に目に見えるデータとして改めて取得しただけのことであり,3条件充足患者に対し何ら新たな効果をもたらしたものではない。
(イ) 甲1の患者には,3条件充足患者に加えて骨折リスクが低い患者も混ざっているところ,骨折リスクが低い患者では,治療群とプラセボ群との間で,骨折抑制効果に有意な差が出ることはなかなかないであろうから,治療群すなわち投与群の骨折発生率がプラセボ群の骨折発生率からあまり低下しないことになる。
一方,3条件充足患者では,本願明細書において,骨折抑制効果に有意な差が出るデータを取得しているから,投与群の骨折発生率がプラセボ群の骨折発生率から有意に低下することになる。そうすると,投与群の骨折発生率÷プラセボ群の骨折発 生率の割り算をすれば,骨折リスクが低い患者では,3条件充足患者に比べて,比較的大きい値になり,相対リスクが比較的大きい値になる。
してみれば,かかる骨折リスクが低い患者すなわち相対リスクが比較的大きい値になる患者も混ざっている甲1の患者における相対リスクに比較して,骨折リスクが低い患者が混ざっていない本願発明の3条件充足患者における相対リスクが小さくなることは,当然のことにすぎない。
イ その他の効果について 引用発明と本願発明の骨粗鬆症治療剤は,有効成分,用法・用量とも同じなのであるから,関節に優しいとか,腎機能によって用量調節が不要といった効果は,仮に存在するとしても,引用発明の患者においても,3条件充足のいかんによらず,当然に生じていたものであり,それらを改めて認識したことにより,本願発明に進歩性が生じるとすることはできない。
(2) 他剤とも比較した本願発明の効果の予測性について 原告の主張する回帰直線は,hPTH(1-34)以外の骨粗鬆症治療剤や,hPTH(1-34)を毎日投与することによる骨粗鬆症治療剤から得られたものである。
一方,本願発明に最も近い従来技術は,本願発明と有効成分,用法・用量,対象疾患が同じ甲1に記載の引用発明である。
特許性判断の実務上,特許を受けようとする発明の新規性,進歩性は,最も近い従来技術と比較して検討するものである。
原告の主張は,本願発明に最も近い従来技術である引用発明よりも遠い技術である,hPTH(1-34)以外の骨粗鬆症治療剤や,hPTH(1-34)を毎日投与することによる骨粗鬆症治療剤と比較した本願発明の効果を検討するものであり,失当である。
5 取消事由5について (1) 相違点1について ア 引用発明と本願発明は,相違点1では相違しない。
イ 仮に相違点1を相違点であると解するとすると,甲1のH群の被検者の中で,3条件充足患者に着目することが容易にできたか否かが問題となるが,3条件充足患者とは,要するに,より高齢であり,また,既に骨折の経験もあることから,転倒や骨折の危険性が高い骨粗鬆症患者であり,高齢であることや,既に骨折の経験があることは,明らかな骨折リスクである。骨折リスクは,多数のものがあるものの,その中で,これらに着目することが当業者において容易にできないはずはない。そして,3条件充足患者こそ優先的に治療すべき患者であることは当業者にとって自明であるから,引用発明の患者を3条件充足患者に限定することは,当業者が容易に想到することである。
また,8.1%の骨量増加が特段に優れているわけではないといえる根拠はない。転倒や骨折の危険性が高い患者であれば,副作用を甘受させても,最も効果の高い用法・用量によって治療していこうと考えることは,甲1の記載に接した当業者におけるごく自然な発想である。
(2) 相違点2について ア 引用発明と本願発明は,相違点2では実質的な差異はない。
イ 仮に相違点2を相違点であると解したとしても,引用発明にいう「骨粗鬆症治療剤」を骨折抑制のためのものとすることに,当業者が格別の創意を要したものとはいえない。
(3) 顕著な効果について 前記4のとおりである。
当裁判所の判断
1 本願発明について (1) 本願明細書(甲3)には,以下の記載がある。
【0001】 本発明はPTHを有効成分として含有する骨粗鬆症の治療剤ないし予防剤に関する。また,本発明はPTHを有効成分として含有する骨折抑制ないし予防剤に関する。特に本発明は,1回当たり100〜200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする,前記薬剤に関する。
【0002】 骨粗鬆症は「骨強度の低下を特徴とし,骨折のリスクが増大している疾患」である。現在,骨粗鬆症の治療剤の一つとしてPTH(・・・パラサイロイドホルモン)製剤が知られている。
【0004】 特許文献1(裁判所注:特開平8-73376号公報)は,骨粗鬆症患者に対して1週間に1回の頻度で26週間の投与期間にわたり1回の投与あたり100又は200単位のPTHを皮下投与することにより,当該骨粗鬆症患者の海面骨の骨密度を増加させかつ皮質骨の骨密度を減少させない骨粗鬆症の治療方法を開示している。
【0005】 このように,特許文献1は,これらの治療方法が単に骨密度の増加を誘導することを開示する一方,骨粗鬆症患者の骨強度を増大させること又は骨折のリスクを軽減させることが可能な治療方法であるか否かについて明示していない。・・・【0008】 ・・・非特許文献1〜3(裁判所注:非特許文献1は Current Osteoporosis Reports, Vol.6, 12-16, 2008,同2は CLINICAL CALCIUM, Vol.17, No.1, 48-55, 2007,同3は FORTEO(登録商標)teriparatide(rDNA origin)injection 750mcg/3mL, 2008)は,PTHの骨粗鬆症治療における高カルシウム血症の副作用事例等を開示しており,これらに開示の治療方法は安全性の面から十分ではないといえる。
【0009】 このような背景の下,安全性が高くかつ効能・効果の面で優れたPTHによる骨粗鬆症治療方法が求められていた。
【0012】 本発明の課題は,安全性が高くかつ効能・効果の面で優れたPTHによる骨粗鬆症治療ないし予防方法を提供することである。さらに,本発明の課題は,安全性の高いPTHによる骨折抑制ないし予防方法を提供することである。
【0013】・・・本発明者らは・・・PTHの投与量・投与間隔を限定することにより,効能・効果及び安全性の両面で優れた骨粗鬆治療ないし予防方法となることを見出した。また,PTHの投与量・投与間隔を特定することにより,安全性の高い骨折抑制/予防方法となることを見出した。
さらに,それらの方法において,高リスク患者に対して特に効果を奏することも見出した。
【0015】 本発明の骨粗鬆症治療剤は,安全性が高くかつ効能・効果の面で優れている。また,本発明の骨折抑制ないし予防剤は,安全性が高く,有用である。
【0019】I 有効成分 本発明の有効成分であるPTH…は,ヒト副甲状腺ホルモンであるヒトPTH(1-84) ,及び,ヒトPTH(1-84)と同等又は類似の活性を有する分子量約4,000〜10,000程度のペプチド類を包含する。
【0021】 ・・・ヒトPTH(1-34)は,ヒトPTH(1-84)のアミノ酸配列第1番目から第34番目からなる部分アミノ酸配列で示されるペプチドを意味する。
【0022】 ・・・本願明細書において,フリー体であるヒトPTH(1-34)はテリパラチド,テリパラチドの酢酸塩はテリパラチド酢酸塩と,それぞれ称されることもある。
【0023】 ・・・最も好ましいPTHとして,テリパラチド酢酸塩(実施例1)が挙げられる。
【0024】 II 他の薬剤との併用 本発明者らは,カルシウム剤併用下でのPTHに関し,骨折発生を主要評価項目とした二重盲検比較臨床試験を実施した結果,その効果は24または26週後という早期から発現され,さらに,有害事象として高カルシウム血症が確認されなかった(実施例1〜2)。従って,本発明に係る骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制/予防剤は,他の薬剤と併用することを1つの特徴とする。ここで,他の薬剤との併用とは,本発明に係る骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制/予防剤と本剤とは別のある薬剤(他の薬剤)を併用することを意味する。
【0030】 PTH投与患者のある一定の割合に,嘔吐,悪心,嘔気,胃もたれ,胃部不快感,胸焼けなどの消化器症状が一過的に観察されることが知られている・・・。
【0031】 本発明者らは,被験薬投与に伴う一過性の悪心・嘔吐に対する様々な制嘔剤の投与時期と有効性について試験した結果,プリンペラン・・・,ナウゼリン・・・,ガスターD・・・,ガスモチン・・・,タケプロンOD・・・および六神丸がPTH投与に伴う悪心または嘔吐に対して有効であることを確認した(実施例2)。従って,更なる他の薬剤としてこれらの制嘔剤を好ましく,ナウゼリン・・・,ガスモチン・・・および/または六神丸をより好ましく,挙げることができる。これらの制嘔剤の用法用量は患者の症状等に応じて医師等が適宜設定することができる。
【0032】III 投与期間・・・本発明者らは,投与期間を156または72週間として,骨折発生を主要評価項目とした二重盲検比較臨床試験を実施した。本試験において,当該投与による有意な骨折抑制効果を確認でき,その効果は24または26週後という早期から発現した(実施例1〜2)。さらに,投与後48週を超えてからの新規椎体骨折は認められなかった(実施例2)・・・また,本試験 。
において,有害事象として高カルシウム血症は確認されなかった(実施例1)。
【0033】 IV 投与量 本発明者らは,1回当たり100または200単位のPTHを用いた二重盲検比較臨床試験を実施した結果,当該投与による有意な骨折抑制効果と24または26週後という早期からの効果の発現を認め,一方で有害事象としての高カルシウム血症は確認されなかった(実施例1〜2)。
【0034】 従って,本発明は,その投与量として,1回当たり100〜200単位であることを特徴の1つとする。ここでPTHの1単位量は,自体公知の活性測定方法により測定可能である・ ・。
・投与量として,好ましく1回当たり100又は200単位,最も好ましく1回当たり200単位が例示される。
【0035】V 投与間隔 本発明者らは,1週間に1回の頻度でPTH投与する二重盲検比較臨床試験を実施した結果,当該投与による有意な骨折抑制効果と24または26週後という早期からの効果の発現を認め,一方で有害事象としての高カルシウム血症は確認されなかった(実施例1〜2)。したがって,本発明は,その投与間隔を隔週とすることを特徴の1つとする。
【0036】VI 投与経路 ・・・本発明者らは,PTHを皮下注射した結果,優れた効能・効果及び安全性を示すことを立証した(実施例1〜2)。従って,本発明は,その投与経路として皮下投与経路を好ましく例示可能である。
【0037】VII 対象疾患 本発明に係る骨粗鬆症は特に限定されず,原発性骨粗鬆症及び続発性骨粗鬆症のいずれをも含む。・ 本発明にかかる骨粗鬆症として骨折の危険性の高い骨粗鬆症を好ましく例示できる。
・・骨折の危険性の高い骨粗鬆症への本発明の適応は下記の高リスク患者への本発明の適応を意味 する。
【0038】 本発明者らは,原発性骨粗鬆症の患者を対象とした臨床試験において,本発明の効果・効能や安全性を確認した(実施例1〜2)。従って,本発明に係る骨粗鬆症として好ましく原発性骨粗鬆症を例示でき,最も好ましく退行期骨粗鬆症を例示できる。
【0039】 本発明者らは,続発性骨粗鬆症を誘発するステロイドを服用する原発性骨粗鬆症患者を対象とした臨床試験において,本発明の効果を確認した(実施例2)。従って,本発明に係る原発性骨粗鬆症患者として,続発性骨粗鬆症を誘発するステロイドを服用する原発性骨粗鬆症患者を好ましく例示できる。
【0040】 本発明者らは,合併症(糖尿病,高血圧,または高脂血症)を有する原発性骨粗鬆症患者を対象とした臨床試験において,本発明の効果を確認した(実施例2)。従って,本発明に係る骨粗鬆症患者として,糖尿病,高血圧および高脂血症の少なくともいずれか1の合併症を有する骨粗鬆症患者を好ましく例示でき,糖尿病,高血圧および高脂血症の少なくともいずれか1の合併症を有する原発性骨粗鬆症患者をさらに好ましく例示できる。
【0045】 本発明に係る骨折は特に限定されず,椎体骨折及び非椎体骨折のいずれをも含み(実施例1),骨粗鬆症・骨形成不全・骨腫瘍などを原因とする病的骨折,交通事故・打撲などを原因とする外傷性骨折のいずれをも含む。好ましくは,骨粗鬆症を原因とする骨折,さらに好ましくは骨粗鬆症を原因とする椎体骨折への適用を例示可能である。骨折の部位も特に限定されないが,典型的には,脊椎圧迫骨折,大腿骨頸部骨折,大腿骨転子間部骨折,大腿骨骨幹部骨折,上腕骨頸部骨折,橈骨遠位端骨折を挙げることもでき,特に脊椎圧迫骨折が例示され得る。
【0046】 本発明に係る骨折の回数は特に限定されず,単発骨折及び多発骨折のいずれをも含む。単発骨折とは,骨が1箇所だけ折れるまたは亀裂が入る病状を意味し,多発骨折とは,骨が2箇所 以上折れるまたは亀裂が入る病状を意味する。多発骨折における骨折数は特に限定されないが,2個〜4個へ適用される場合が好ましい。
【0047】 本発明に係る椎体骨折は新規骨折および増悪骨折のいずれをも含む。例えば,椎体全体の形態をみてその変形の程度はGrade分類されることができ,Grade0(正常),Grade1(椎体高約20〜25%減少,かつ,椎体面積10〜20%減少),Grade2(椎体高約25〜40%減少,かつ,椎体面積20〜40%減少),Grade3(椎体高約40%以上減少,かつ,椎体面積40%以上減少)とすることが一般的である。新規・増悪の区分はGenantの判定基準に従いGradeの増加パターンに沿って実施可能である。具体的には,Grade0からGrade1,2,または3への変化が認められた場合には新規骨折と診断され,Grade1からGrade2または3,Grade2からGrade3への変化が認められた場合には増悪骨折とみなすことができる。・・・【0048】 本発明者らは,既存骨折を有する患者を対象とした臨床試験において,本発明の増悪骨折抑制効果を確認した(実施例2)。従って,本発明においては,骨粗鬆症患者として,好ましく既存骨折を有する患者,さらに好ましく既存骨折およびその増悪骨折の可能性を有する患者への適用を例示できる。
【0049】 PTHの骨強度増強作用のメカニズムについては未だ不明な点が多い。骨強度は骨密度のみならず骨質の状態を反映するが,これは骨密度のみならず骨微細構造や石灰化など骨質要因が骨強度を規定することを意味する・・・。
・・・本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤は,従前の治療剤(特許文献2(裁判所注:WO00/10596号公報))と比較してこれらの点で優位である可能性が示唆された。
【0050】 特許文献2は,rhPTH(1-34)を骨粗鬆症患者に投与した結果,骨塩含有量(BMC)や骨塩密度(BMD)のみならず,腰椎や大腿骨等の骨面積を増加させたことを開示する。
骨面積の増加は骨が外側に向かって肥厚することを意味する。
【0051】 ところが,本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤を骨粗鬆症患者に投与した結果,皮質骨厚が骨の外側ではなく骨の内側に増加した。すなわち,骨全体の厚さは殆ど変化が認められなかった。本メカニズムは例えば下記に示される重要な臨床的意義を示すと考えられる。
【0052】(1)長管骨肥厚による関節破壊がない・・・【0056】(2)椎体肥厚による変形性脊椎症の増悪または発症がない・・・【0059】(3)変形性股関節症・変形性顎関節症を増悪または発症促進させない・・・【0060】 以上,(1)〜(3)を纏めると,関節痛,変形性脊椎症,変形性腰痛症,変形性股関節症,および変形性顎関節症の少なくともいずれか1の疾病を合併症として有する骨粗鬆症患者(好ましくはそのうち原発性骨粗鬆症患者)を本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤の適応患者として好ましく例示できる。
【0064】 骨粗鬆症および腎障害は加齢とともにその有病率が上昇する。
・・・従って,腎障害を有する骨粗鬆症患者に対して有効かつ安全な薬剤を提供することは重要である。
【0067】・・・従前のPTH毎日投与では,中程度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群の11.76%の患者に投与後にやや高値である11.0mg/mlを超える血清カルシウムが認められていた・・・。ところが,本発明においては,中程度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群に本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤を投与した結果,11.0mg/mlを超える血清カルシウムが認められる患者は投与開始〜最終時まで全ての検査時において一人も見出すこと ができなかった(実施例2)。すなわち,有効性のみならず安全性の面でも,本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤が優れていると考えられる。従って,本発明の適用対象患者として,軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者および/または中等度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者を好ましく例示でき,さらに好ましくは軽度腎機能障害を有する原発性骨粗鬆症患者および/または中等度腎機能障害を有する原発性骨粗鬆症患者を例示できる。
【0068】 本発明に係る薬剤投与ないし治療方法が適用されるべき対象者・・・として,骨粗鬆症患者が例示され,或いは骨粗鬆症における骨折の危険因子を多くもつ骨粗鬆症患者に対して本発明の方法を適用し,或いは本発明の骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制ないし予防剤を投与することが望ましい。骨粗鬆症における骨折の危険因子としては,年齢,性,低骨密度,骨折既往,喫煙,アルコール飲酒,ステロイド使用,骨折家族歴,運動,転倒に関連する因子,骨代謝マーカー,体重,カルシウム摂取などが挙げられている・・・。しかして,本発明においては,下記(1)〜(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者(ないし対象者)を「高リスク患者」として定義する。
(1)年齢が65歳以上である(2)既存骨折がある(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である。
【0069】 ここで,骨密度とは,典型的には腰椎の骨塩量を指す。但し,腰椎骨塩量の評価が困難な場合では,橈骨,第二中手骨,大腿骨頸部,踵骨の骨塩量値により当該骨密度を示すことができる。また,若年成人平均値とは20〜44歳の骨密度の平均値を意味する。・・・本発明において骨萎縮度とはX線上骨量減少度を意味する。骨萎縮度は,骨萎縮なし,骨萎縮度I度,骨萎縮度II度,及び骨萎縮度III度に分類される。当該骨萎縮度における骨萎縮なしとは,正常状態を指し,具体的には,縦・横の骨梁が密であるため骨梁構造を認識することができない状態を意味する。骨萎縮度I度とは,縦の骨梁が目立つ状態を意味し,典型的には,縦の骨梁 は細くみえるがいまだ密に配列しており,椎体終板も目立ってくる状態を意味する。当該骨萎縮度における骨萎縮度II度とは,縦の骨梁が粗となり,縦の骨梁は太くみえ,配列が粗となり,椎体終板も淡くなる状態を意味する。当該骨萎縮度における骨萎縮度III度とは,縦の骨梁も不明瞭となり,全体として椎体陰影はぼやけた感じを示し,椎間板陰影との差が減少する状態を意味する・・・。骨萎縮度は,例えば,腰椎側面X線像から判定可能である。・・・【0070】 本発明においては,特に高リスク患者に対して本発明の方法を適用し,或いは本発明の骨粗鬆症治療ないし予防剤又は骨折抑制ないし予防剤を投与することが特に好ましい(実施例1) 。
【0072】VIII 製剤・・・一般的には,本剤は,PTH単独又は慣用の薬学的に許容される担体とともに注射剤等とされ得る。本剤の剤形として注射剤が好ましい。
【0077】(実施例1) 原発性骨粗鬆症と診断された男女の患者・・・に対して, ・・・5あるいは100単位のテリパラチド酢酸塩をそれぞれ週に1回間欠的に皮下投与した(それぞれを5あるいは100単位投与群とする)・・・ 。
【0078】・・・5または100単位投与群共に,カルシウム剤(1錠中に沈降炭酸カルシウムを500mg[カルシウムとして200mg]含有)を1日1回2錠投与した。
【0079】 骨粗鬆症患者は, ・・・骨折の危険因子の保有状況により,表-1に示す条件で区分して比較した。高リスク患者(以下,単に高リスク者と称することもある)は,年齢,既存の椎体骨折,骨密度あるいは骨萎縮度の3因子をすべて有するものと定義し,低リスク者はそれ以外のものとした。
【0080】[表1] 患者背景は表-2,3に示す通りであり,両群の背景に統計学的な有意差は認められなかった(p<0.05)。
【0081】[表2] [表3]【0083】 表-4,5に高リスク者,低リスク者の別での,投与群別の腰椎骨密度の推移を示した。高リスク者においては,100単位投与群の骨密度は投与開始時に比較し有意に高い骨密度の増加が認められ,5単位投与群と比較しても有意に高い値を示した(p<0.05)。一方低リスク者においては,投与開始時との比較および群間での比較において有意差は認められなかった(p>0.05)。
【0084】[表4]【0085】[表5]【0086】 表-6,7に高リスク者,低リスク者の別での,投与群別の新規椎体骨折発生の結果を示した。高リスク者においては,100単位投与群は5単位投与群に比べ骨折発生は有意に低かった(p<0.05)。一方低リスク者においては,群間で有意差は認められなかった(p>0.05)。
【0087】[表6]【0088】[表7]【0089】 表-8,9に高リスク者,低リスク者の別での,投与群別の26週毎の新規椎体骨折発生の 結果を示した。高リスク者においては,100単位投与群は5単位投与群に比べ,26週後から骨折発生を抑制した。一方,低リスク者においては群間の差は認められなかった。
【0090】[表8]【0091】[表9]【0092】 表-10,11に高リスク者,低リスク者の別での,投与群別の椎体以外の部位での骨折発生の結果を示した。高リスク者においては,100単位投与群は5単位投与群に比べ骨折発生は有意に低かった。一方低リスク者においては,群間で有意差は認められなかった。
【0093】[表10] 【0094】[表11]【0096】 ・・・原発性骨粗鬆症患者のうち,新規骨折の危険因子を有する患者において,テリパラチド酢酸塩を週1回100単位間欠的に皮下投与することによって,有意な腰椎の骨密度の増加が認められ,さらに新規椎体骨折の抑制が認められた。即ち,本発明の新規骨折の高リスク患者に対する,テリパラチド酢酸塩の週1回100単位投与は,有用な骨粗鬆症治療剤及び骨折抑制ないし予防剤となり得ることが確認された。
【0097】 また,投与期間中,本発明テリパラチド酢酸塩の週1回投与では,いずれの投与量においても高カルシウム血症の発症はなく,既に知られているテリパラチド酢酸塩の連日投与に比較し,有用であるものと考えられた。
【0098】(実施例2) 原発性骨粗鬆症と診断された男女の高リスク患者に対して, ・・・被験薬(1バイアル;1バイアルにテリパラチド酢酸塩200単位を含む注射用凍結乾燥製剤)または対照薬(1バイアル;1バイアルにテリパラチド酢酸塩を実質的に含まないプラセボ製剤)をそれぞれ生理的食塩水1mLで用時溶解して72週間にわたり週に1回の頻度で間欠的に皮下投与した。
【0099】 上記患者は,併せて,カルシウム剤2錠を1日1回夕食後に服薬した。・・・【0102】 被験薬および対照薬の投与例数は,それぞれ,290例(実施例において被験薬投与群と称することもある)および288例(実施例において対照薬投与群と称することもある)であり,投与総症例数は578例であった。ただし,試験の種類に応じてそれぞれの投与群の例数が異 なることがあり,例えば(n=**)や評価例数等の表現で示すことがある。
【0103】 骨評価としては,骨密度と骨ジオメトリー,骨折の発生の確認を実施した。
【0108】 骨折発生頻度は,椎体では,第4胸椎から第4腰椎までの正面,側面のX線撮影を開始時と以降24週毎に実施し, ・・・開始時と以降の時点のレントゲンフィルムを比較して,新規および増悪椎体骨折を評価した。また椎体以外の部位では,レントゲンフィルムでの確認で評価した・・・。
【0109】(A)椎体多発骨折に対する被験薬の有効性 ここで椎体多発骨折を新規の2箇所以上の椎体骨折と定義して,投与72週後における被験薬投与群(n=261)と対照薬投与群(n=281)それぞれにおける椎体多発骨折発生比率(例数)を比較したところ,対照薬投与群は2.1%(6例),被験薬投与群は0.8%(2例)であった。すなわち,被験薬は椎体多発骨折に対して抑制ないし予防効果を有することが示された。
骨折発生個数別の症例数を下記表に示す。
[表12]【0114】(D)被験薬投与に伴う悪心・嘔吐に対する処方検討 被験薬投与に伴う悪心・嘔吐に対する様々な処置薬の投与時期と有効性について試験した。
[表18]【0118】(F)増悪骨折に対する被験薬の有効性 増悪骨折に対する被験薬の有効性を試験した。その結果,下記の表のように,増悪骨折に対して被験薬は有効であることが示された。
[表20]【0125】(H-1)各患者群の背景因子の分布 各患者群の背景因子の分布は次のようになる。
[表24] - 37 - 【0131】(I)新規椎体骨折発生率の経時変化に対する被験薬投与の影響被験薬投与群を「PTH200群」,対照薬投与群を「P群」と表記した。
[表34] [表35]【0132】 上記の表が示すように,半年ごとの新規椎体骨折発生率は,P群では,いずれの区間も約5%でほぼ一定であった。それに対して,PTH200群では,投与期間が長くなるにつれて区間毎の発生率が低下しており,48週を超えてからの新規椎体骨折の発生はなかった。また,PTH200群の新規椎体骨折発生率は,24週以内,24週〜48週,48週〜72週のいずれの区間でもP群より低く,プラセボに対する相対リスク減少率(Relative Risk Reduction;RRR)は投与を継続するにつれて増加した。このように,本剤200単位の週1回投与は,新規椎体骨折の発生を早期から抑制し,24週後には既に骨折発生リスクをプラセボに対して53,9%低下させた。また,本剤による骨折抑制効果は,投与とともに増強する傾向が認められた。
【0133】 その他,骨折試験のFASにおいて,Kaplan―Meier推定法による72週後の椎体骨折(新規+増悪)発生率は,PTH200群3.5%,P群が16.3%であり,本剤200単位の発生率はプラセボ群より低かった(logrank検定,p<0,0001)。また,本剤200単位は,72週後には,椎体骨折(新規+増悪)の発生リスクをプラセボに比べて78.6%低下させた。半年毎の椎体骨折(新規増悪)発生率を群間で比較すると,24週以内,24週〜48週,48週〜72週のいずれの区間でも,PTH200群の発生率はP群より低かつた。
【0134】 (J)骨粗鬆症患者の尿中カルシウムおよび血清カルシウムに与える被験薬投与の影響 ・・・本試験で血清カルシウム上昇および低下の有害事象は認められなかった。
本試験でPTH200群はP群と比較して高Ca血症および高Ca尿症のいずれの発現も認められなかった。
【0135】 本発明の骨粗鬆症治療/予防及び骨折抑制/予防方法は効能・効果及び安全性の両面で優れ,本発明の骨折抑制方法は安全性が高く,いずれも骨粗鬆症等治療や骨折抑制/予防のために大きく貢献する画期的な医療技術である。従って,当該目的のための本発明の骨粗鬆症治療/予防剤及び骨折抑制/予防剤は,医薬品産業において極めて有用である。
(2) 前記認定事実(第2の2)及び前記の本願明細書の記載によれば,本願発明について,以下のとおり認められる。
本願発明は,PTHを有効成分として含有する骨粗鬆症の治療剤の技術分野に属するものである(【0001】。
) 骨粗鬆症の治療剤の1つとしてPTH(パラサイロイドホルモン)製剤が知られており(【0002】,特許文献1(特開平8-73376号公報)は,骨粗鬆症患 )者に対して1週間に1回の頻度で26週間の投与期間にわたり1回の投与当たり200単位のPTHを皮下投与することにより,当該骨粗鬆症患者の海面骨の骨密度を増加させ,かつ,皮質骨の骨密度を減少させない骨粗鬆症の治療方法を開示していた。
本願発明は,前記文献が,骨粗鬆症患者の骨強度を増大させること又は骨折のリスクを軽減させることが可能な治療方法であるか否かについて明示しておらず,また,非特許文献1(Current Osteoporosis Reports, Vol.6, 12-16, 2008) 同2 , (CLINICALCALCIUM, Vol.17, No.1, 48-55, 2007)及び同3(FORTEO(登録商標)teriparatide(rDNA origin)injection 750mcg/3mL, 2008)は,PTHの骨粗鬆症治療における高カルシウム血症の副作用事例等を開示しており,安全性の面から十分ではない 【0 ( 004】【0005】【0008】 , , )として,安全性が高くかつ効能・効果の面で優れたPTHによる骨粗鬆症治療方法を提供することを課題として 【0009】 ( , 【0012】)出願されたものであり,その内容は,前記第2の2記載のとおりである。
2 取消事由1について (1) 甲1発明について 甲1には,次の記載がある。
a ヒト副甲状腺ホルモン(1-34)の骨粗鬆症に対する間欠毎週投与の効果:3種類の投与量を用いた無作為化二重盲検前向き試験(296頁の表題)b 要約 ヒト副甲状腺ホルモンのアミノ末端ペプチド1-34(hPTH(1-34))の骨粗鬆症治療に対する効果を検討するために, ・・・骨粗鬆症患者220名を対象として無作為に二重盲検下にて3群に割り付け,hPTH(1-34)の50単位(L群),100単位(M群)または200単位(H群)を,毎週皮下注射し,骨形成促進剤としての可能性について検討した。・・・投与後48週目には,腰椎骨密度(BMD)はL,MおよびH群でそれぞれ,0.6%,3.6%および8.1%増加した。また,MとH群での薬物への応答はL群より有意に高かった・・・。腰椎測定の変動係数が1〜2.5%に留まることから,3.6%および8.1%の増加は有意であると思われる。ラジオグラメトリによる中手骨のBMDと皮層の厚さの測定では,有意な変化はみられなかった。
・・・各群の30〜40%で,背部痛の改善がみられた。試験期間中を通じて,重篤な副作用はみられなかった。
hPTH(1-34)の間欠的毎週投与によって,骨粗鬆症で腰椎のBMDが増加し,骨粗鬆症治療に有用であることを示唆していた。(296頁左欄1行〜右欄 7 行)c 序説 閉経後および退行期の骨粗鬆症を治療するためには,主にエストロゲン,ビスホスホネートおよびカルシトニンなどの骨吸収抑制剤に頼っている。ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(BMD)が増加するため,骨折予防は飛躍的に進歩したことから,骨形成の刺激によって,幾つ かの骨吸収抑制剤の迅速かつ時には一時的な効果が補完されることが考えられ,骨吸収抑制剤の骨同化効果が長期間にわたり,退行期骨粗鬆症,特に低回転型の疾患に対して注目すべき有効な治療となり得ることが期待できる。副甲状腺ホルモン(PTH)が骨形成促進作用を有することが動物・ ・ ・とヒト・ ・で示されており, ・ 特に間欠的投与でその効果が認められている。 ・ ・ ・予備試験の結果・ ・ ・を踏まえて本試験では,骨粗鬆症患者220名を対象として,hPTH(1-34)の50,100または200単位を毎週投与した時の効果をみるために,無作為化,前向き,二重盲検,多施設試験を実施した。主要評価項目は, ・・・腰椎BMDの評価とし,ラジオグラメトリによる中手骨皮質のBMD,および骨代謝回転の生化学的マーカーを副次評価項目とした。ここに挙げた濃度のhPTH(1-34)の1週1回投与が―これまでに検討されたことがない低濃度の間欠的投薬計画を意味するものだが―骨粗鬆症治療に便益性をもたらすかどうかを検討した。
(296頁右欄10行〜297頁左欄25行)d 試験対象 ・・・試験は,厚生省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された年齢範囲が45から95歳の被験者220名を対象として実施した。このシステムは,単に骨粗鬆症を非外傷性脊椎骨折が存在する,または脊椎骨折が2箇所に存在するものとして定義するのではなく,複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義するものである。スコアの計が4より高い場合(骨粗鬆症と定義)をこの治験への組み入れ基準とした。・・・X線上の骨減少は,腰椎の側面X線写真で骨梁の菲薄化,つまり(1)横骨梁欠損による縦骨梁の明瞭化, (2)縦骨梁が粗となるおよび(3)縦骨梁の減少が認められた場合とした。 X線上の骨減少は,BMDで若年成人の平均値から20%または2.5SDの減少に相当する。・・・X線上の骨減少度がグレード1から3,またはBMDが若年成人の平均値から2.5SD未満の場合はスコア3とした。椎体骨折が1箇所の場合はスコア1,骨折が2箇所以上の場合はスコア2とした。大腿骨頸部骨折がある場合はスコア3とし,橈骨遠位端骨折がある場合はスコア1とした。骨量減少の原因となる骨軟化症,原発性副甲状腺機能亢進症および腎性骨異栄養症などを除外するために,骨粗鬆症の診断を支持する因子として,正常血清カルシウム,リンおよびアルカリホスファターゼ値がスコア1であることとした。ただし,ひとつ以上の異常がある場合にスコア1を差し引いた。同様に,被験者が閉経前である場合に は,スコア1を差し引いた。(297頁左欄27行〜右欄12行)e hPTH(1-34)(テリパラチド酢酸塩)の調製と投与方法 ・・・予備試験の結果によると,hPTH(1-34)を100または200単位,26週間,1週1回投与したところ腰椎BMDが増加していた。そこで,試験期間を48週間に設定した。この期間は,骨折の危険性と不安が常にある患者を対象として通常の骨測定,血液と尿の採取を行っても脱落率が過度とならずに,十分な制御下で多施設試験を実施できる限界であると思われた。
・・・ (297頁右欄43行〜298頁左欄24行)f 自覚症状。
骨粗鬆症による痛みを休息時の自発性疼痛と運動時の痛みに分類して,治療後0,2,4,12,24および48週間目または試験終了時に以下に示すグレードに従って評価した。休息時の痛みは,以下のとおりのグレードで表示した。1:痛みなし,2:中等度の痛み,3:無視できないが耐えられる痛み,4:重度の耐え難い痛み。運動時の痛みは以下のとおりのグレードで表示した。1:痛みなし,2:中等度の痛み,3:運動を妨げる無視できない痛み,4:動けないほどの重度の痛み。患者は,自身の痛みの度合いをアナログ尺度で自己評価した。(298頁左欄34〜44行)g 骨所見。
(a)腰椎BMDの測定。
・・・患者の年齢が高いことから,脊椎BMDの前後方向の測定上,圧迫骨折とそれに伴う変化に加えて,脊椎の退行性変化が重大な支障となった。この理由から,L2,L3またはL4の骨棘や圧迫変形などの脊椎の退行性変化を有する被験者全員を,薬物の効果の根拠となるデータから除外した。このため,脊椎BMD測定における組み入れ前の脱落率が高くなった。
(b)中手骨BMDの測定。
非利き手側の第2中手骨のラジオグラメトリを実施・・・した。・・・ (c)椎体骨折の評価。
腰椎および胸部脊椎の側面X線写真は,それぞれL3とT8に焦点を合わせ,ひとりの放射線科医が椎体の圧迫骨折や変形を評価した。前縁高/後縁高の比率が25%以上減少および中央高/後縁高の比率が20%以上減少した場合を,有意な変形と定義した。
(298頁左欄45行〜右欄35行)h 副作用と有害事象の調査。
試験期間中の有害事象を記録し,詳細を検査した。総合的な経過の評価,重症度,治療および転帰に基づいて,有害事象を以下に示すグレードに分類した。
(1)試験薬剤が原因のもの, (2)試験薬剤が原因と考えられるもの, (3)試験薬剤が原因とは考えにくいもの, (4)試験薬剤が原因ではないもの。副作用は暫定的に(1)から(3)を含むものとした。
(298頁右欄54行〜299頁左欄3行)i 結果 表1は,試験への参加が許可された被験者における治験組み入れ基準の詳細をまとめたものである。
試験に当初登録した被験者220名を無作為に二重盲検下で割り付け[50単位投与群(L)に73名,100単位投与群(M)に75名および200単位投与群(H)に72名],そのうち41名は骨粗鬆症の診断基準に適合せず,また試験前に投与されていた薬の休薬期間が不十分であったため不適格とした。
正確なBMD測定を阻害する腰椎の退行性変化と圧迫変化を有する患者および指定時間以外に測定した患者を除外したところ,不適格者にはさらに64名が含まれた。このため,腰椎BMDに及ぼす効果の分析は被験者115名で実施した。内訳はL群で39名,M群で38名およびH群で38名であった(表2)。被験者61名が,副作用,中途での心変わりにより試験を拒絶,合併症の悪化などの理由で試験を完了できなかったが,最初の3ヵ月以内に脱落しない限り,分析グループに含むものとした。
被験者の治療開始時の特徴を各グループで比較したものを表3に示した。3群とも被験者が一様に分布していることを確認した。(299頁左欄10行〜300頁左欄3行) 表 1 本試験の参加者における組み入れ基準の詳細組み入れ基準 L群(50単位) M群(100単位) H群(200単位)骨密度減少 骨萎縮 グレード1 31 26 18 グレード2 19 29 26 グレード3 21 19 27 不明 2 1 1 DXA DPX ?0.831 5 7 3 <0.831 17 14 18 QDR ?0.711 25 17 11 <0.711 15 23 27 不明 1 0 0 XR ?0.701 2 4 1 <0.701 7 10 12 不明 1 0 0椎体骨折数 0 32 30 29 1 14 18 15 ?2 27 26 28 不明 0 1 0大腿骨骨折数 0 65 72 69 ?1 8 3 3橈骨遠位端骨折数 0 72 71 69 ?1 1 4 3総スコア =<2 0 2 0 3 2 2 1 4 14 13 13 ?5 57 58 58 表 2 本試験における各評価項目別の症例数群 総症例数 脱落 症状評価 腰椎BMD評価 中手骨BMD評価 (副作用による)L (50単位) 73 12 (3) 62 39 60M (100単位) 75 25 (10) 65 38 58H (200単位) 72 24 (16) 56 38 50合計 220 61 (29) 183 115 168表 3 各群の治療開始時の背景比較 L 群(50 単位) M 群(100 単位) H 群(200 単位) χ2 検定年齢(歳) 70.2±9.84 (73) 70.1±9.64 (75) 71.7±10.78 (72) NS体重(kg) 47.7±7.49 (73) 49.2±7.54 (75) 45.8±8.21 (72) NS身長(cm) 148.2±8.01 (73) 148.9±7.77 (75) 147.3±6.97 (72) NS閉経後年数 19.0±8.52 (73) 18.8±8.35 (75) 20.6±9.43 (72) NS椎体骨折数 1.86±2.65 (62) 1.62±1.89 (61) 1.82±2.65 (55) NS腰椎BMD (g/cm2) DPX 0.746±0.123 (13) 0.753±0.089 (10) 0.711±0.159 (11) NS QDR 0.719±0.103 (19) 0.723±0.140 (17) 0.640±0.132 (19) NS XR 0.637±0.115 (7) 0.680±0.130 (11) 0.556±0.064 (8) NS中手骨 BMD (濡S/D) 1.875±0.350 (60) 1.917±0.404 (58) 1.850±0.446 (50) NSデータは平均値±標準偏差、カッコ内は症例数j 自覚症状 主として背部痛からなる自覚症状は,L群で被験者52名中21名(40%),M群で被験者60名中18名(30%)およびH群で被験者47名中17名(36%)に,中等度またはやや改善がみられた。群間に有意な差は認められなかった(表4)(300頁左欄4〜10行) 。
表 4 自覚症状群 症例数 中等度 軽度 不変 悪化 U-検定 Fisher の 以上改善 改善 検定 中等度以上L (50単位) 52 21 (40) 16 (31) 14 (27) 1 (2)M (100単位) 60 18 (30) 28 (47) 14 (23) 0 (0) NS NSH (200 単位) 47 17 (36) 21 (45) 9 (19) 0 (0)カッコ内の数値はパーセントk 骨測定 試験期間48週間中の腰椎BMDにおける変化を図1に示した。腰椎BMDは,試験開始時と比較して,治療後24と48週目に用量依存的に増加し,L,MおよびH群でそれぞれ0.6%,3.6%および8.1%であった。・・・年齢が64歳以下と65歳以上,体重が49kg以下と50kg以上,閉経後10年未満,10から20年,20年以上,および脊椎骨折が0,1および2箇所以上を有するサブグループに被験者を分類して比較したところ,サブグループ間で薬物に対する応答は同程度であった。第2中手骨(皮質骨からなる)のX線写真上の骨密度には有意な差は何ら認められず,皮質骨と各群のX線写真上の骨量減少度が変化せずに一定に保たれていることを示していた。
L群で被験者3名,M群で5名およびH群で0名に椎体骨折が発生したが,各群間の差は有意ではなかった。(300頁左欄11行〜右欄最終行) 図1 腰椎BMD(平均値±SD)の治療週に対する変化率。点線で結ばれた□:50単位のPTHを投与した被験者(L群)のデータ,実線で結ばれた●:100単位のPTHを投与した被験者(M群)のデータ,破線で結ばれた◯:200単位のPTHを投与した被験者(H群)のデータ,・・・l 生化学的パラメーター ・・・表6は治療中に発生した副作用をまとめたものである。29例で,被験者が幾つかの症状のため試験から脱落した。副作用の総数はhPTH(1-34)の用量が増加するのに合致して増加したものの,重篤な有害事象は認められなかった。(301頁左欄1行〜右欄4行)表 6 被験者における治療期間中の副作用 L群(50単位) M群(100単位) H群(200単位)総症例数 73 75 72副作用発現例数a(%) 14 (3b) 14 (10b) 30 (16b) (19%) (19%) (42%)重症度と件数 軽度 中等度 計 軽度 中等度 計 軽度 中等度 計 8 6 14 13 10 23 19 18 37皮下出血 1 1全身潮紅 1 1顔面潮紅 1 1湿疹 1 1そう痒 1 1腰痛 1 1 1 1頭痛 1 1 2 3 3 2 2 4めまい 1 1 1 1 2 1 1悪心 3 1 4 5 2 7 9 6 15嘔吐 1 1 2 2 4腹痛 1 1 1 1おくび 1 1あくび 1 1口渇 1 1食欲不振 1 1熱感 1 1 1 1 2 1 1発熱 1 1 3 3脱力感 1 1 1 1全身倦怠感 1 1 1 1 1 2 3悪寒 1 1眠気 1 1a 臨床検査値異常を含むb 副作用による脱落症例数 m 考察 ・・・これまで,骨粗鬆症の治療には,主にエストロゲン,カルシトニンとビスホスホネートのような骨吸収抑制剤が投与されており,骨吸収を刺激する骨形成促進剤は低回転型骨粗鬆症に有効であると思われている。BMDの増加を予想をはるかに上回る程度に誘導する活性があるにも拘わらず,フッ化物に問題がない訳ではない。つまり,骨折発生率を減少させることができずに骨痛などの副作用を惹き起こす。しかし,PTHは依然として骨形成促進剤の候補として有望視されている。PTHを大量に投与すると,ヒトでもBMDの増加がみられたが,ヒトで好ましい効果を奏する間歇投与法は未解決の課題である。Aらが・・・骨粗鬆症患者12名を対象として多施設試験を実施したところ,hPTH(1-34)を7日間投与し21日間休薬するというサイクルを16回繰り返す間欠投与によって,全身のCaがやや増加したがさまざまな部位のBMDでは有意な増加はみられなかったと報告している。連日投与は,持続点滴に比べると間欠的であり,好ましい影響がみられた。
Reeve らによると・・・hPTH(1-34)約250単位を患者21名に6から24ヵ月間,連日投与したところ,重篤な副作用もみられず,血清アルカリホスファターゼが15%増加し,著明な骨増加がみられた。Bら・・・は,ホルモン補充療法を受けている閉経後の女性17名を対象として,hPTH(1-34)25μgを連日皮下注射投与する3年の無作為化対照試験を実施し,その結果をコントロールとしてホルモン補充療法単独を投与した女性17名と比較した。脊椎のBMDはPTH投与群で13.0%増加したが,コントロール群では有意な増加はみられなかった。PTHは他の試験では,エストロゲンと共に投与して効果があった・・・。
・・・hPTH(1-34)の単位体重当たりの生物学的活性は試験間でばらつきがあるようである。
・・・これまでの試験の多くに比べると,本試験で用いられた週1回の間欠投与の方が,hPTH(1-34)の総投与量を明らかに少なく抑えられる。hPTH(1-34)が中手骨(ほとんどが皮質骨からなる)の骨密度を減少させることなく,腰椎BMD(主に海綿骨からなる)を,48週という比較的短期間で有意に用量依存性に増加させたことから,hPTH(1-34)による骨粗鬆症治療はきわめて将来有望であると思われる。(301頁右欄5行〜303頁右欄23行) (2) 甲1発明の認定 ア 前記(1)aによれば,甲1は,3種類の投与量を用いた無作為化二重盲検前向き試験による,ヒト副甲状腺ホルモン(1-34)の骨粗鬆症に対する間欠毎週投与の効果に関する文献である。
そして,甲1には,同bのとおり,ヒト副甲状腺ホルモンのアミノ末端ペプチド1-34(hPTH(1-34))の骨粗鬆症治療に対する効果を検討するために,骨粗鬆症患者220名を対象として,無作為に二重盲検下にて3群に割り付け,hPTH(1-34)の50単位(L群) 100単位 , (M群)又は200単位(H群)を,毎週皮下注射し,骨形成促進剤としての可能性について検討したことが記載され,同dのとおり,前記試験は,厚生省による委員会が提唱した診断基準,すなわち,複数の因子をスコア化してスコアの計が4より高い場合を骨粗鬆症と定義する診断基準において骨粗鬆症とされた,年齢範囲が45歳から95歳の被検者220人を対象として実施したことが記載されている。
また,甲1には,同i及び表2のとおり,腰椎BMDに及ぼす効果の分析は,被検者115人で実施し,内訳は,L群で39名,M群で38名及びH群で38名であったことが記載され,同j,表4,k及び図1のとおり,腰椎BMDは,試験開始時と比較して,治療後24週と48週目に用量依存的に増加し,腰椎BMDは,L,M及びH群でそれぞれ0.6%,3.6%及び8.1%増加し,さらに,主として背部痛からなる自覚症状は,群間に有意な差は認められなかったもののH群で被検者47人中17人(36%)に中等度以上の改善がみられたこと,第2中手骨の骨密度には有意な差は認められなかったこと,群間に有意な差は認められなかったもののH群での椎体骨折の発生は0人だったことが記載され,同l及び表6のとおり,副作用の総数は,hPTH(1-34)の用量が増加するのに合致して増加したものの,重篤な有害事象は認められなかったことが記載されている。
さらに,甲1には,同mのとおり,hPTH(1-34)の週1回の間欠投与が,中手骨の骨密度を減少させることなく,腰椎BMDを,48週という比較的短期間で有意に用量依存的に増加させたことから,hPTH(1-34)による骨粗鬆症 治療は極めて将来有望であると思われると記載されている。
イ これらを総合すれば,甲1には,厚生省による委員会が提唱した,複数の因子をスコア化してスコアの計が4より高い場合を骨粗鬆症と定義する診断基準において骨粗鬆症とされた,年齢範囲が45歳から95歳の被検者に対し,hPTH(1-34)の200単位を毎週皮下注射したところ(以下,甲1に記載されたhPTH(1-34)のH群への投与,すなわち,hPTH(1-34)200単位の毎週皮下注射による投与を「甲1の200単位投与」といい,また,同様に,甲1に記載されたhPTH(1-34)のL群への50単位の投与を「甲1の50単位投与」,同M群への100単位の投与を「甲1の100単位投与」という。,被 )検者の腰椎BMDを8.1%増加させる一方,第2中手骨の骨密度は変化させず,椎体骨折の発生もなかったことが記載されていると認められ,甲1には,甲1の200単位投与の骨形成促進剤としての治療効果が記載されているといえる。また,甲1には,甲1の200単位投与の副作用はあったものの,重篤な有害事象は認められず,hPTH(1-34)による骨粗鬆症治療は極めて将来有望であると思われることが記載されていると認められ,甲1には,hPTH(1-34)の週1回の間欠投与によって骨粗鬆症を治療することを示唆する記載があると認められる。
なお,原告は,審判手続において, 「前記U相週1試験」の対象である日本人退行期骨粗鬆症患者の主な選択基準が,「厚生省シルバーサイエンス骨粗鬆症研究班の定める「退行期骨粗鬆症の診断基準(1989年)」で4点以上の患者」である(62頁)旨記載した参考資料を提出し(甲5),甲1の臨床試験は,第U相臨床試験に相当する(原告第2準備書面7頁)と主張しており,前記の「スコアの計が4より高い場合」は,「スコアの合計が4以上の場合」を意味するものと解される。
ウ 以上によれば,甲1には, 「hPTH(1-34)の200単位を毎週皮下注射する,hPTH(1-34)を有効成分として含有する骨粗鬆症治療剤であって,厚生省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された,年齢範囲が45歳から95歳の被検者のうち,複数の因子をスコア化することによって評価 して骨粗鬆症を定義し,スコアの合計が4以上の場合の患者に投与される,骨粗鬆症治療剤。」に係る発明が記載されているといえる。
エ ところで,証拠(後掲各証拠)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア)a 昭和63年(1988年) 厚生省シルバーサイエンス骨粗鬆症研究 ,班(班長C)は,次の退行期骨粗鬆症の診断基準を提唱した。
その内容は,次のとおりであった。(甲26) 【退行期骨粗鬆症の診断基準】(以下「昭和63年診断基準」という。) 点数1)骨量の減少あり 32)骨折あり 脊椎 1個 1 2個以上 2 大腿骨頚部 3 橈骨 13)閉経前の女性 -14)腰背痛あり 15)血清カルシウム,リン,AL-P値 正常 1 1項目の異常 0 2項目の異常 -1判定 確実 5点以上 ほぼ確実 4点 疑いあり 3点 否定的 2点以下 b 厚生省厚生科学研究費補助金シルバーサイエンス研究として昭和63年度に行われた「老人性骨粗鬆症の予防及び治療法に関する総合的研究」 (主任研 究者C,協力班員D)の研究報告(1989年(平成元年)3月)において, 「退行期骨粗鬆症の診断基準」の最終案が提案されたことが報告された。
その内容は,次のとおりである。(甲24) 【退行期骨粗鬆症の診断基準】(以下「平成元年診断基準」という。) 点数1)骨量の減少(+) 32)骨折あり 脊椎 1個 1 ≧2個 2 大腿骨頸部 3 橈骨 13)年齢 女性55歳未満 -1 男性75歳未満 -14)腰背痛あり 15)血清カルシウム,リン,AL-P値 正常 1 1項目の異常 0 2項目以上の異常 -1確実 合計5点以上ほぼ確実 合計4点疑いあり 合計3点否定的 合計2点以下除外疾患 原発性・続発性副甲状腺機能亢進症,慢性関節リウマチ,悪性腫瘍の骨転移,多発性骨髄腫,外傷続発性骨粗鬆症,骨軟化症 c さらに,平成5年(1993年)には,平成元年診断基準に関して,腰椎骨塩量のデータを加えた改訂版が出された(甲26)。
(イ)a 日本骨代謝学会は,骨粗鬆症診断基準検討委員会を作り,1995年度(平成7年度) 前記(ア)cの診断基準を見直し,原発性骨粗鬆症の診断基準を作 ,成した(甲25,26)。
その内容は,次のとおりである(甲25)。
【原発性骨粗鬆症の診断基準(1995年) (以下「平成7年度診断基準」とい 】う。)T X線上椎体骨折を認める場合 低骨量(骨萎縮度T度以上,あるいは腰椎骨密度値が若年成人平均値(YAM)の-1.5S.D.以下)を伴い,非外傷性椎体骨折を認めるものを骨粗鬆症とする。
U X線上椎体骨折を認めない場合 脊椎X線像 腰椎骨密度値(YAMを基準値とする)正 常 骨萎縮なし骨量減少 骨萎縮度T度 -1.5S.D.以下 *骨粗鬆症 骨萎縮度U度以上 -2.5S.D.以下* -1.5S.D.≧,>-2.5S.D. b 日本骨代謝学会は,平成8年度,骨粗鬆症診断基準検討委員会(委員長C)において検討した上,前記aの診断基準を改訂し, 「原発性骨粗鬆症の診断基準(1996年度改訂版)」を作成した。
その際,骨粗鬆症とは, 「低骨量で,かつ骨組織の微細構造が変化し,そのため骨が脆くなり骨折しやすくなった病態」と定義され,一般に,原発性骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症,老人性骨粗鬆症(これらを併せて退行期骨粗鬆症という。,特発性骨 )粗鬆症(妊娠後骨粗鬆症等)を指す。)と続発性(二次性)骨粗鬆症とに分類されるものとされていた。
その内容は,次のとおりである。(甲25) 【原発性骨粗鬆症の診断基準(1996年度改訂版)(以下「平成8年度診断基 】 準」という。)T X線上椎体骨折を認める場合 低骨量(骨萎縮度T度以上,あるいは骨密度値が若年成人平均値(YAM, (20〜44歳)の80%以下))で非外傷性椎体骨折のある症例を骨粗鬆症とする。
U X線上椎体骨折を認めない場合 脊椎X線像 骨密度値正 常 骨萎縮なし骨量減少 骨萎縮度T度 YAMの80〜70%骨粗鬆症 骨萎縮度U度以上 YAMの70%未満(注) 骨密度は原則として腰椎の骨密度値とし,腰椎骨密度値の評価が困難な場合にのみ橈骨,第二中手骨,大腿骨頸部,踵骨の骨密度値を用いる。
骨萎縮とは radiographic osteopenia(X 線撮影骨減少)に相当する。
c 日本骨代謝学会は,平成12年度,骨粗鬆症診断基準検討委員会(委員長C)において検討した上,平成8年度診断基準を改訂し, 「原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)」を作成した。
その際,骨粗鬆症とは, 「低骨量でかつ骨組織の微細構造が変化し,そのため骨が脆くなり骨折しやすくなった病態」と定義され,一般に,原発性及び続発性骨粗鬆症の2つに分類されるものとされていた。
その内容は,次のとおりである。(甲27) 【原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)(以下「平成12年度診断 】基準」という。) 低骨量をきたす骨粗鬆症以外の疾患または続発性骨粗鬆症を認めず,骨評価の結果が下記の条件を満たす場合,原発性骨粗鬆症と診断する。
T 脆弱性骨折(注1)ありU 脆弱性骨折なし 骨密度(注2) 脊椎 X 線像での骨粗鬆症化(注3) 正 常 YAMの80%以上 なし骨量減少 YAMの70%以上〜80%未満 疑いあり骨粗鬆症 YAMの70%未満 あり(注1) 脆弱性骨折:低骨量(骨密度がYAMの80%未満,あるいは脊椎X線像で骨粗鬆化がある場合)が原因で,軽微な外力によって発生した非外傷性骨折,骨折部位は脊椎,大腿骨頸部,橈骨遠位端,その他。
(注2) 骨密度は,原則として腰椎骨密度とする。ただし,高齢者において,脊椎変形などのために腰椎骨密度の測定が適当でないと判断される場合には大腿骨頸部骨密度とする。これらの測定が困難な場合は橈骨,第二中手骨,踵骨の骨密度を用いる。
(注3) 脊椎X線像での骨粗鬆化の評価は,従来の骨萎縮度判定基準を参考にして行う。
脊椎X線像での骨粗鬆化 従来の骨萎縮度判定基準 なし 骨萎縮なし 疑いあり 骨萎縮度T度 あり 骨萎縮度U度以上 オ 前記ウのとおり,甲 1 発明の認定における「厚生省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された」 「被検者」とは,複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義する診断基準により骨粗鬆症と診断された者であって,スコアの合計が4以上のものであるところ,前記エ(イ)a及びbのとおり,甲1が公表された1999年(平成11年)には,既に平成7年度及び平成8年度診断基準が存在していたが,これらはいずれもスコアを合計して評価する内容ではないこと,同(ア)bのとおり,平成元年度基準は,複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を診断するものであり,合計4点以上をほぼ確実としていることからすれば,甲1発明における「厚生省による委員会が提唱した診断基準」とは,平成元年診断基準であると認められる。
なお,甲1には,前記認定(1)dのとおり,正常血清カルシウム,リン及びアルカリホスファターゼ値がスコア1であるとしつつ,1つ以上の異常がある場合にはスコア1を差し引く旨や,閉経前の場合はスコア1を差し引く旨の記載があり,この内容は,平成元年診断基準ではなく,昭和63年診断基準と整合する。しかしながら,原告は,審判手続において, 「前記U相週1試験」の対象である日本人退行期骨粗鬆症患者の主な選択基準が,「厚生省シルバーサイエンス骨粗鬆症研究班の定める「退行期骨粗鬆症の診断基準(1989年) で4点以上の患者」 」 である(62頁)旨記載した参考資料を提出し(甲5),甲1の臨床試験は,第U相臨床試験に相当する(原告第2準備書面7頁)と主張しており,また,甲1に記載された「厚生省による委員会が提唱した診断基準」は,厚生省の診断基準を意味する(原告第4準備書面5頁)と主張しているのであって,これらを考え併せれば,原告は,甲1における「厚生省の診断基準」として,平成元年診断基準を主張しているものと解される。そして,被告は,甲1に記載された「厚生省による委員会が提唱した診断基準」が平成元年診断基準であることを積極的に争わない。これに,前記エ(ア)bのとおり,平成元年診断基準が昭和63年度の最終案であるとされていることを踏まえた上,前記のとおり認定する。
カ そして,前記オ及び弁論の全趣旨によれば,審決も,甲1発明の認定において, 「厚生省による委員会が提唱した診断基準」は,平成元年診断基準を意味するものであることを前提にしているものと認められる。
キ 以上によれば,審決における引用発明の認定には誤りはない。
(3) 原告の主張について ア 原告は,前記の甲 1 発明の認定のうち,「骨粗鬆症治療剤」という部分は, 「腰椎BMD増加剤」と認定されるべきである旨主張し,その理由として,@甲1発明の認定において,背部痛からなる自覚症状の改善及び椎体骨折の発生を考慮して, 「骨粗鬆症治療剤」と認定するのは不適切である,A「治療剤」といえるためには,ヒトに投与した場合の副作用も考慮し,リスクベネフィットに見合うもので ある必要があるところ,甲1の200単位投与は,腰椎BMDの増加率が特段優れているわけではないにもかかわらず,副作用が異常な高頻度で発生し,骨肉腫発生の懸念もあったから,リスクベネフィットに見合ったものではなく, 「治療剤」とはいえない,B甲1は,PTH(1-34)の50単位,100単位又は200単位の用法・用量を検討したものであり,このうちいずれの用量の週1回間歇投与が骨粗鬆症治療に適する可能性があるかまでは開示されていないから,甲1の200単位投与が「骨粗鬆症治療剤」とは認定できない,C甲1における主要評価項目は腰椎BMDであるから,甲1には, 「200単位のPTH(1-34)を含有する,腰椎BMD増加剤」が開示されているのであって, 「骨粗鬆症治療剤」が開示されているのではない旨主張する。
イ(ア) 前記@について a 確かに,甲1のPTH(1-34)の投与において,背部痛は,前記(1)jのとおり,各群の被検者に中等度又はやや改善がみられたものの,L群,M群,H群との間に有意な差は認められず,一方,腰椎BMDは,同kのとおり,L群0.6%,M群3.6%,H群8.1%と用量依存的に増加したのであるから,PTH(1-34)が骨に作用したことにより背部痛の改善がみられたとは評価できない。
また,椎体骨折についても,前記(1)kのとおり,各群間に有意な差は認められなかったといえる。
b(a) しかしながら,前記(2)アのとおり,L,M,Hの各群の腰椎BMDが,それぞれ0.6%,3.6%,8.1%と,用量依存的に増加したことが認められる。
(b) そして,前記(2)エ(イ)b及びcのとおり,平成8年度及び平成12年度診断基準の作成に際しては,骨粗鬆症とは,低骨量で,かつ,骨組織の微細構造が変化し,そのため骨が脆くなり骨折しやすくなった病態と定義されていたのであって,前記各診断基準においては,骨折がなくとも,脊椎X線像による骨萎縮 と骨密度値によっては,原発性骨粗鬆症と診断されることがある。また,メルクマニュアル第18版日本語版(2007年(平成19年)初版第3刷)において, 「骨粗鬆症は,骨密度(単位体積当たりの骨量)を減少させ,骨構造物を劣化させる進行性の代謝性骨疾患である。, 」「予防と治療は,・・・骨量を温存し新たな骨形成を刺激する薬物療法がある。, 」「予防と治療」 「目標は, の 骨量を温存し,骨折を防ぎ,痛みを軽減し,機能を維持することである。」との記載がある(乙5)。日本製薬工業協会医薬品評価委員会統計・DM部会(発行医薬出版センター)の「代替エンドポイントの評価」と題する部会資料(甲20,平成21年6月)にも, 「骨粗鬆症とは国際的に, 『低骨量と骨の微細構造の劣化が特徴的で,その結果骨の脆弱性が増加し,骨折を起こしやすい全身性の骨疾患』と定義されている」との記載がある(甲20)。
これらの事実及び弁論の全趣旨によれば,本願優先日において,骨粗鬆症は,骨が脆くなり骨折しやすくなった病態であると解されており,骨折がなくても,骨量が減少し,骨の構造が変化して,骨が脆くなり骨折しやすくなった病態であると解されていたことが認められる。
(c) 原告は,この点,2000年(平成12年)には,米国国立衛生研究所(NIH,National Institutes of Health)のコンセンサス会議が,骨粗鬆症の定義を,骨強度の低下を特徴とし, 「 骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」と改めたのであって,骨密度のみでは骨強度を評価することはできず,骨密度を増加させても骨折抑制効果が得られるものではなく,骨粗鬆症を治療することにはならない旨も主張する。
確かに,米国国立衛生研究所のコンセンサス・ステートメントには, 「骨粗鬆症とは,骨強度の低下が,骨折のリスクを増大しやすくなるという特徴を有する骨格疾患と定義される。, 」「骨強度は,二つの主要な特徴(骨密度と骨質)の統合を反映する。」との記載があり(甲18),前記部会資料(甲20)にも, 「近年の骨粗鬆症の治療においては,骨密度の増加のみならず,骨質の改善の重要性も認識されている。
なお,骨粗鬆症治療薬として20年前に開発されたフッ素化合物は,骨密度は大きく増加させるものの骨折抑制には殆ど効果がなかった・・・ために,FDAは骨密度を代替エンドポイントとした試験結果をもって薬剤を容認する方針を変更し,第V相試験においては真のエンドポイントである骨折を評価項目とした臨床試験を求めるようになった・・・。」との記載がある(甲20)。
しかしながら,前記ステートメントには, 「骨強度の約70%が骨密度で,残りの30%は骨吸収及び骨形成といった骨代謝回転等の骨質で説明される」旨も記載されている(甲5(24頁),甲18)。また,前記部会資料(甲20)には, 「ただし,骨密度は代替エンドポイントとして日米欧の規制当局からは認められており,新薬の承認申請の際には,骨密度を代替エンドポイントとして第U相試験を行い用量反応性を検討し,第V相試験においては真のエンドポイントである骨折を評価項目としてプラセボまたは実薬対照試験を行うのが一般的となっている。」とも記載されている(甲20)。さらに,骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会(日本骨粗鬆症学会 日本骨代謝学会 骨粗鬆症財団,委員長 C)編集の「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年(平成23年)版」 (甲6の参考資料5)には, 「骨粗鬆症は,骨密度の低下と骨質の劣化により骨強度が低下する疾患である。, 」「骨強度は,骨密度と骨質により規定されるため,そのどちらが低下しても骨強度は低下し,骨折リスクは高まる。」と記載されている(甲6)。
これらの事実及び弁論の全趣旨によれば,本願優先日において,当業者は,骨粗鬆症においては,骨密度の低下は骨折リスクを増大させるものであり,骨密度の増加は骨折リスクを軽減させるものと理解していたことが認められる。
そもそも,証拠(甲6)及び弁論の全趣旨によれば,現在のところ,ヒトの生体において骨強度を測定する有効な方法は見当たらないことが認められるのであって,人の生体における骨強度は,その約70%を説明するという骨密度の値と,骨折の発生率から推し量るほかないものである。
以上によれば,本願優先日において,当業者は,一般に,骨粗鬆症においては, 骨密度の増加させることは,骨折リスクを軽減させることであって,骨粗鬆症を治療することであると認識していたことが認められるのであって,甲1の200単位投与は,骨粗鬆症と診断された被検者を対象とし,該被検者の腰椎骨密度を8.1%増加させたとされているのであるから,本願優先日当時において,当業者は,甲1の200単位投与を,骨粗鬆症治療剤」 「 と認識することができるというべきである。
(イ) 前記Aについて a 甲1には,前記(1)mのとおり,「PTHは依然として骨形成促進剤の候補として有望視されている。, 」「本試験で用いられた週 1 回の間欠投与の方が,hPTH(1-34)の総投与量を明らかに少なく抑えられる。hPTH(1-34)が中手骨・・・の骨密度を減少させることなく,腰椎BMD・・・を,48週という比較的短期間で有意に用量依存性に増加させたことから,hPTH(1-34)による骨粗鬆症治療はきわめて将来有望であると思われる。と記載されている。
」 一方,甲1には,前記(1)lのとおり,H群では,中等度の顔面潮紅1,中等度の腰痛1,軽度の頭痛2,中等度の頭痛2,中等度のめまい1,軽度の悪心9,中等度の悪心6,軽度の嘔吐2,中等度の嘔吐2,中等度の腹痛1,中等度の食欲不振1,軽度の熱感 1,軽度の発熱3,軽度の脱力感1,軽度の全身倦怠感1,中等度の全身倦怠感2,中等度の悪寒 1 の合計37件,副作用発現例数30,副作用による脱落症例数16(42%)であり, 「副作用の総数はhPTH(1-34)の用量が増加するのに合致して増加したものの,重篤な有害事象は認められなかった」と記載されている。
そして,前記1(1)のとおり,本願明細書には,hPTH(1-34)は,他の薬剤との併用が可能であること(【0024】,PTH投与患者のある一定の割合に, )嘔吐,悪心,嘔気,胃もたれ,胃部不快感,胸焼けなどの消化器症状が一過性に観察されることが知られていること(【0030】),制嘔剤であるプリンペラン等の薬剤がPTH投与に伴う悪心又は嘔吐に対して有効であることを確認したこと【0 (031】【0114】 , )が記載されているのであって,これらの事実及び弁論の全趣 旨によれば,本願優先日当時,相当数の制嘔剤が存在し,hPTH(1-34)との併用が可能であると解されていたことが認められる。
以上によれば,甲1に記載された副作用の内容は,当業者が,本願優先日当時,それ自体重篤と考えるようなものではなく,また,制嘔剤との併用による対処を想定できるものであるから,甲1の200単位投与を骨粗鬆症の治療として行うことを断念させるに足りる記載が,甲 1 にあるとはいえない。
b また,本願優先日当時,PTH(1-34)につき,ラットでの骨肉腫の発生の懸念があったとしても,甲1の200単位投与は,甲 1 において,実際にヒトに対して行われており,当時,ヒトに対する投与につき,骨肉種の発生の懸念が多大であったとは推認できず,その後,本願優先日までの間に,PTH(1-34)の比較的大量の投与によるヒトの骨肉腫発生の危険性が指摘されたことを認めるに足りる証拠もないから,仮に,上記懸念が認められるとしても,当業者が,甲1の200単位投与を骨粗鬆症の治療として行うことを断念させるに足りるものではない。
(ウ) 前記Bについて 甲1には,前記(1)mのとおり,「PTHを大量に投与すると,ヒトでもBMDの増加がみられたが,ヒトで好ましい効果を奏する間歇投与法は未解決の課題である。」との記載があるが,その記載の後に, 「…これまでの試験の多くに比べると,本試験で用いられた週1回の間欠投与の方が,hPTH(1-34)の総投与量を明らかに少なく抑えられる。hPTH(1-34)が中手骨…の骨密度を減少させることなく,腰椎BMD…を,48週という比較的短期間で有意に用量依存性に増加させたことから,hPTH(1-34)による骨粗鬆症治療はきわめて将来有望であると思われる。」と記載されている。
そして,甲1には,hPTH(1-34)の50単位,100単位,200単位の週1回の間歇投与が記載されており,腰椎BMDを短期間で有意に用量依存的に増加させたというのであるから,甲1には,甲1の200単位投与が,従来の骨粗 鬆症の治療方法よりも有望である旨が記載されているといえる。
(エ) 前記Cについて 腰椎BMDを増加させることも骨粗鬆症の治療と評価できることは前記(ア)のとおりである。
(オ) 小括 以上のとおりであって,原告の前記主張は,採用できず,原告主張の取消事由1は,理由がない。
3 取消事由2について 審決は,前記第2の3(2)イ(ア),同(3)ア(ア)のとおり,相違点1について,引用発明でいう「厚生労働省(裁判所注:厚生省の誤記と認める。)による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された,年齢範囲が45から95歳の被検者のうち,複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し,スコアの合計が4以上の場合の患者」の中には,本願発明にいう「下記(1)〜(3)の全ての条件」を満たす骨粗鬆症患者が少なからず存在する蓋然性が高い点で,両者は重複しているとするのが相当であるとし,本願発明と引用発明の間に相違点は見出せないと判断する。
しかしながら,前記の引用発明の患者,すなわち,甲1のH群の患者中に,前記の本願発明にいう患者が少なからず存在する蓋然性があるとしても,前記2(1)認定の甲1の記載事項から,H群の患者中,前記の本願発明の患者とそれ以外の患者を識別し,前記の本願発明の患者のみを取り出して甲1の200単位の投与の結果のみを読み取ることはできない。
確かに,前記の甲1のH群の患者中に前記の本願発明にいう患者が全て含まれていれば,論理的には,甲1発明は,部分的には,本願発明と一致する(本願発明を全て含む。)ことになるが,前記のとおり,甲 1 に,前記の本願発明の患者を識別するに足りる記載がなく,前記の本願発明にいう患者のみを取り出して甲 1 の200 単位の投与の結果のみを読み取ることができず,そのため,甲1のH群の患者中,前記の本願発明にいう患者のみの甲 1 の200単位の投与の結果から,本願発明と同じ内容の発明の認定ができるか否かは,定かではない以上,相違点1において,甲1発明と本願発明とが同じ内容の発明である(本願発明が甲1発明に含まれる。)ということはできない。
したがって,相違点1に係る新規性についての審決の判断には誤りがあり,原告が主張する取消事由2には理由がある。
ただし,審決は,本願発明の進歩性についても判断しており,本願発明が甲 1 発明に対して新規性を有していたとしても,進歩性を有していなければ,結局のところ,本願発明は特許を受けることができないという審決の結論に誤りはないことになるから,後記のとおり,進歩性判断を検討する。
4 取消事由3について (1) 相違点2について 審決は,前記第2の3(2)イ(イ),同(3)ア(イ)のとおり,相違点2について,骨粗鬆症治療剤とは,骨を強くし,骨折しにくくするための治療剤であることは,本願優先日当時,当業者にとって自明の事柄であったといえるし,甲 1 発明の骨粗鬆症治療剤においてはなおのこと,骨折しにくくするための治療剤であることは自明の事柄であったといえるから,甲 1 発明にいう「骨粗鬆症治療剤」と本願発明にいう「骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤」との間に実質的な差異はないと判断する。
しかしながら,甲1には,前記2(1)kのとおり,椎体骨折の発生数は,L群,M群,H群の間で有意差がなかったと記載されており,また,甲1には,被験薬と対照薬との比較も記載されていないから,当業者が,甲1から直ちに, 1 発明が 甲 「骨折抑制」の効能を有することを把握することはできないというべきであり,相違点2は,実質的な相違点とすべきものである。
したがって,審決の相違点2に係る判断には誤りがあり,原告が主張する取消事由2には,相違点2に係る判断においても,理由がある。
ただし,前記3のとおり,審決は,本願発明の進歩性についても判断しており,後記のとおり,進歩性判断を検討する。
(2) 相違点3について 原告は,相違点3として, 「本願発明では,骨粗鬆症治療ないし予防薬としての用量を200単位/週とするのに対し,引用発明の腰椎BMD増加剤では200単位/週が骨粗鬆症治療ないし予防剤の用量として選択できることの記載がない点」が存在すると主張するが,前記2のとおり,甲 1 発明は,甲1の200単位投与が骨粗鬆症治療剤であることを内容とするものであると認められる。
したがって,原告の主張する相違点3の存在は認められない。
5 取消事由5について 取消事由4は,効果についての主張であり,取消事由5は,主に動機付けについての主張であるので,取消事由5を先に検討する。
(1) 相違点1について ア 前記第2の3(2)イ(ア)のとおり,相違点1は,特定の骨粗鬆症患者」 「 が,甲 1 発明では,「厚生労働省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された,年齢範囲が45から95歳の被検者のうち,複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し,スコアの合計が4以上の場合の患者」であるのに対し,本願発明では「下記(1)〜(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者(1)年齢が65歳以上である(2)既存の骨折がある(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である。」である点であり,前記3のとおり,この点は実質的な相違点であるといえる。
イ また,甲1発明の「厚生労働省による委員会が提唱した診断基準」「厚 (生労働省」は「厚生省」の誤記であると認める。)とは,前記2(2)オのとおり,平成元年診断基準であると認められるから,甲1発明の「特定の骨粗鬆症患者」は,平成元年診断基準で合計4点以上の者のうち,年齢範囲が45歳から95歳の者ということになる。
ウ 一方,本願発明の「骨粗鬆症患者」については,弁論の全趣旨によれば,本願明細書における実施例1の「原発性骨粗鬆症と診断された」 「患者」が平成8年度診断基準で原発性骨粗鬆症と診断された患者であることは,当事者間に争いはなく,また,原告は,本願明細書における実施例2の「原発性骨粗鬆症と診断された」「患者」は,平成12年度診断基準で原発性骨粗鬆症と診断された患者であると主張し,被告はこれを積極的に争わないこと,原告は,本願発明の「骨粗鬆症患者」がいかなる診断基準により骨粗鬆症と診断された者であるかについては特に主張せず,本願発明の骨粗鬆症は, 「原発性骨粗鬆症だけではなく,続発性骨粗鬆症をも包含する」(原告第4準備書面7頁)として,「本願発明では骨粗鬆症を『骨強度の低下を特徴とし,骨折のリスクが増大している疾患』と定義している。」と主張している(同書面6頁)ことが認められる。
本願明細書(甲3)には,前記1(1)のとおり,「骨粗鬆症は『骨強度の低下を特徴とし,骨折のリスクが増大している疾患』である。( 」【0002】, )「本発明に係る骨粗鬆症は特に限定されず,原発性骨粗鬆症及び続発性骨粗鬆症のいずれをも含む。・・・」【0037】 ( )と記載されている。
以上によれば,本願発明の「骨粗鬆症患者」は, 「骨強度の低下を特徴とし,骨折のリスクが増大している疾患」に罹患している者であり,診断基準による特定はされていないことが認められるのであって,本願発明の「特定の骨粗鬆症患者」は,「骨強度の低下を特徴とし,骨折のリスクが増大している疾患」に罹患している者のうち, (1)年齢が65歳以上であり, (2)既存の骨折があり, (3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,及び/又は,骨萎縮度が萎縮度I度以上である 者をいうことになる。
これを,実施例1及び2の対象患者の診断基準のうち,より本願優先日に近い平成12年度診断基準と比べると,本願発明の「特定の骨粗鬆症患者」は,まず,続発性骨粗鬆症患者が含まれている点で異なる上,原発性骨粗鬆症患者については,@65歳未満の者を除外し,A脆弱性骨折がない者を除外し,ただし,脆弱性骨折がなくともほかの原因による骨折がある者は加わっており,B骨密度が若年性成人平均値の80%以上であり,骨萎縮がない者を除外したことになると解される。
エ 前記1(1)のとおり,本願明細書には,実施例1及び2以外の実施例の記載はないところ,前記各実施例は,いずれも原発性骨粗鬆症と診断された者を対象とするものである(【0077】【0098】。
, ) そして,本願明細書には,前記1(1)のとおり,実施例1において, 「高リスク者」,すなわち, (1)年齢が65歳以上であり, (2)既存の椎体骨折があり, (3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,及び/又は,骨萎縮度が萎縮度I度以上である者とそれ以外の者を区分したことが記載されている(【0080】)が,前記「高リスク者」を定義する3つの条件のうち,年齢のみに違いがあり,既存の椎体骨折及び骨密度・骨萎縮度等の他の条件は同一である母集団の患者同士を比較した結果,既存の椎体骨折の有無のみに違いがあり,年齢及び骨密度・骨萎縮度等の他の条件は同一である母集団の患者同士を比較した結果,骨密度又は骨萎縮度のみに違いがあり,年齢,既存の椎体骨折の有無等の他の条件は同一である母集団の患者同士を比較した結果については,記載されておらず,しかも,投与されたのは,テリパラチド酢酸塩,すなわちhPTH(1-34)の酢酸塩の5単位又は100単位の週1回の間欠的投与であって,200単位の投与ではない。
また,本願明細書には,前記1(1)のとおり,実施例2について,200単位のhPTH(1-34)の酢酸塩又はプラセボ製剤の週1回投与であり,椎体骨折に対する有効性についての記載があり(【0109】【0131】〜【0133】,各患 , )者群の背景因子についての記載もある(【0125】)ものの,年齢の最小値がPT H200群においてもP群においても65歳とされていることからすると,他の条件は同じで,年齢64歳未満と65歳以上との患者群の比較は行われていないことが認められ,また,既存の椎体骨折の個数の記載はあるものの,既存の骨折一般についての特段の記載はなく,既存の椎体骨折の有無のみに違いがあり,年齢及び骨密度・骨萎縮度等の他の条件は同一である母集団の患者同士を比較した結果は記載されておらず,腰椎骨密度,大腿骨頸部骨密度,大腿骨近位部 total 骨密度の記載はあるが,他の条件は同じで,その値が若年成人平均値の80%未満と80%以上との患者群の比較は行われていないことが認められ,骨萎縮度についても,他の条件は同じで,骨萎縮度がT度である患者群と骨萎縮がない患者群との比較は行われていないことが認められる。
以上によれば,本願発明における(1)年齢が65歳以上である, (2)既存の骨折がある, (3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,及び/又は,骨萎縮度が萎縮度I度以上であるという条件は,それぞれ,各条件を満たさない者と比較して,投薬の有効性を分析した結果,定められた条件であるとはいえない。
オ 高齢者の医療の確保に関する法律においては,65歳以上が高齢者とされている(同法32条)のであって,前記(1(2)エ)のとおり,既存の骨折の有無は,各診断基準において一貫して診断の要素とされてきたこと,平成12年度診断基準において,骨密度が若年成人平均値の80パーセント以上であることは,骨密度が正常であり,低骨量ではないことの要素とされていること,骨萎縮度T度以上であることは,脊椎X線像での骨粗鬆症化の疑いありとの評価と一致するとされていることからして,前記(1)〜(3)の各条件とは,要するに,高齢者であって,既に骨折の経験があり,骨密度に異常があり,及び/又は,脊椎X線像で骨粗鬆症化の疑いのある所見があり,正常とはいえない者であり,骨強度の低下を特徴とし, 「骨折のリスクが増大している疾患」に罹患している者のなかでも,特にこのような条件を満たす者は,他の罹患者より,重篤な病態であり,骨折のリスクがより増大している状態であるといえる。
なお,原告は,甲1発明の「骨粗鬆症患者」と本願発明の「骨粗鬆症患者」が異なる旨を主張するが,前記認定(イ,ウ)のとおり,甲1発明の骨粗鬆症患者は,どのような診断基準の下に原発性骨粗鬆症患者と診断された者か特定できるが,本願発明の骨粗鬆症患者は, 「骨強度の低下を特徴とし,骨折のリスクが増大している疾患」に罹患している者というだけで,診断基準は特定されておらず,原発性か続発性かも特定されていないが,本願明細書の実施例の記載は,原発性骨粗鬆症患者に対するものに限られているし,医学の進歩を踏まえて骨粗鬆症の診断基準の内容が変更されても,それは診断基準の変更であって,疾患としての骨粗鬆症の同一性を変更するものではない。
以上によれば,本願発明は,骨粗鬆症患者のうち,より重篤な病態で,骨折のリスクがより増大している者を対象に,甲1と同じ用量・頻度で同じ薬剤を投与するものであり,その対象者の各条件が,それぞれ各条件を満たす者の群と満たさない者の群とにおける投与結果を比較して,投薬の有効性を分析した結果,定められた条件であるといえないのであって,結局,甲1発明に基づいて,甲1の200単位投与の対象者を,本願発明の対象者とすることにつき,当業者の格別の創意を要したものとはいえない。
(2) 相違点2について 甲1には,前記2(1)cのとおり,「・・・骨粗鬆症を治療するためには,主にエストロゲン・・・などの骨吸収抑制剤に頼っている。ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(BMD)が増加するため,骨折予防は飛躍的に進歩した・ ・ 。
・」との記載があり,当業者は,甲1から,骨密度の増加が骨折予防に寄与することを理解できる。
また,甲1には,同kのとおり, 「腰椎BMDは,試験開始時と比較して,治療後24と48週目に用量依存的に増加し,L,MおよびH群でそれぞれ0.6%,3.6%および8.1%であった。」との記載があり,同mのとおり,「PTHは依然として骨形成促進剤の候補として有望視されている。, 」「PTHを大量に投与すると, ヒトでもBMDの増加がみられた」「hPTH(1-34)が中手骨・・・の骨密 ,度を減少させることなく,腰椎BMD・・・を,48週という比較的短期間で有意に用量依存性に増加させたことから,hPTH(1-34)による骨粗鬆症治療はきわめて将来有望であると思われる。」との記載があり,前記(1)オのとおり,骨粗鬆症は,重篤化すればするほど骨折のリスクが高くなるといえるから,骨粗鬆症治療の根幹は,骨折リスクの低減であり,また,前記2(3)イ(ア)b(c)のとおり,骨密度は,骨強度を約70%説明するものであり,骨密度の増加は,骨折リスクを低減させるものといえるから,当業者は,甲1の200単位投与による骨密度の増加に,つまり,甲1発明の骨粗鬆症治療剤の投与の結果に,骨折抑制の効果を期待すると認められるのであって,甲1発明にいう「骨粗鬆症治療剤」を,骨折抑制のためのものとすることに,当業者の格別の創意を要したものとはいえない。
(3) まとめ 以上によれば,本願発明は,当業者が甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものといえるのであって,この点に係る審決の判断に誤りはない。
(4) 原告の主張について ア 原告は,本願発明の容易想到性を否定し,@甲1の記載から,多くの骨折リスクが知られている中で,3条件のみに限定する動機付けがあるとはいえず,むしろ阻害事由がある,A甲1の200単位投与は,副作用が多すぎ,骨折抑制作用は認められず,当業者は,甲1の200単位投与の処方を避けるなどと主張する。
イ(ア) しかしながら,原告の前記ア@の主張については,前記(1)のとおりであり,採用できない。
また,同Aの主張についても,前記2(3)のとおりであり,採用できない。
(イ) 原告は,他にもるる主張するが,前記2〜4についての原告の主張内容と重複しており,既に判示したとおりであるから,採用できない。
ウ したがって,原告の前記主張は,採用できず,原告主張の取消事由5は,理由がない。
6 取消事由4について (1) 効果の顕著性について ア 前記認定5(1)オのとおり,甲1発明の骨粗鬆症患者は,どのような診断基準の下に原発性骨粗鬆症患者と診断された者か特定できるが,本願発明の骨粗鬆症患者は, 「骨強度の低下を特徴とし,骨折のリスクが増大している疾患」に罹患している者というだけで,診断基準は特定されておらず,原発性か続発性かも特定されていないが,本願明細書の実施例の記載は,原発性骨粗鬆症患者に対するものに限られているし,医学の進歩を踏まえて骨粗鬆症の診断基準の内容が変更されても,それは診断基準の変更であって,疾患としての骨粗鬆症の同一性を変更するものではないことからすれば,甲1発明と比較した本願発明の効果については,原発性骨粗鬆症患者であって, (1)年齢が65歳以上である, (2)既存の骨折がある, (3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,及び/又は,骨萎縮度が萎縮度I度以上であるという条件の全てを満たす者にPTH(1-34)の200単位の投与をすることにより奏される効果と,前記(1)〜(3)の条件のいずれか又は全てを満たさない者にPTH(1-34)の200単位の投与をすることにより奏される効果とを対比すべきである。
イ この点,前記5(1)エのとおり,本願明細書(甲3)記載の実施例1及び2においては,いずれも前記(1)〜(3)の全ての条件を満たす原発性骨粗鬆症患者の群と,前記各条件のいずれか又は全てを満たさない原発性骨粗鬆症患者の群とを投与対象とした場合の比較の結果は記載されていない。また,本願明細書のその余の記載中にも,前記結果は記載されていない。
したがって,本願明細書の記載から,200単位のPTH(1-34)又はその塩を週1回投与する対象を,前記(1)〜(3)の全ての条件を満たす原発性骨粗鬆患者とした場合に奏される効果と,前記各条件のいずれか又は全てを満たさない原発性骨粗鬆患者とした場合に奏される効果との差異を確認することができない。
そうすると,甲1には,甲 1 の200単位投与につき,骨折抑制効果があること を直接認めるに足りる記載がなく,本願明細書には,これを直接認め得る記載があるとしても,その効果が,前記(1)〜(3)の全ての条件を満たす原発性骨粗鬆症患者に限って生じ,前記各条件のいずれか又は全てを満たさない原発性骨粗鬆症患者には生じないことを,本願明細書から読み取ることはできないのであって,本願明細書から,甲1発明に対する本願発明の奏する効果の顕著性を認めることはできない。
ウ(ア) また,本願明細書には,大腿骨の内側への肥厚につき,前記(1)〜(3)の全ての条件を満たす原発性骨粗鬆患者に200単位のPTH(1-34)を投与した場合に奏される効果と,前記各条件のいずれか又は全てを満たさない原発性骨粗鬆患者に200単位のPTH(1-34)を投与した場合に奏される効果とに,差異があったことを認めるに足りる記載はなく,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,大腿骨の内側への肥厚をもって,甲1発明に対する本願発明の顕著な効果と認めることはできない。
(イ) さらに,腎機能障害についても,本願明細書には,前記(1) (3) 〜の全ての条件を満たす原発性骨粗鬆患者であって軽度又は中等度の腎機能障害を有するものに200単位のPTH(1-34)を投与した場合に奏される効果と,前記各条件のいずれか又は全てを満たさない原発性骨粗鬆患者であって軽度又は中等度の腎機能障害を有するものに200単位のPTH(1-34)を投与した場合に奏される効果との差異を認めるに足りる記載はなく,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,腎機能障害を有する患者への適応をもって,甲1発明に対する本願発明の顕著な効果と認めることもできない。
エ 他に甲1発明に対する本願発明の奏する効果の顕著性を認めるに足りる証拠はない。
オ したがって,甲 1 発明に対する本願発明の奏する効果の顕著性を認める ことはできないのであって,この点に係る審決の判断に誤りはない。
(2) 原告の主張について ア 原告は,本願発明の顕著な効果として,@本願発明は,プラセボ群との対比において,投与が継続するにつれて増加し,骨折抑制効果が顕著に増強したこと,A本願発明の骨折抑制効果は, 「BMD増加率と骨折相対リスクとの関係 図 (PTH) の回帰直線からみて, 」 甲1から予測される効果を上回ること,Bまた, 「B 図MD増加率と骨折相対リスクとの関係(骨吸収抑制剤と本願発明) の回帰直線から 」みて,甲1から予測される効果を上回ることを主張する。
イ(ア) しかしながら,進歩性を検討するに当たり,効果の顕著性は,公知の引用発明とされた甲1発明との対比において検討されるべきことは,前記(1)アのとおりであって,プラセボ群との対比における効果を,進歩性を検討するに当たっての顕著な効果とみることはできない。
(イ) また,弁論の全趣旨によれば,図「BMD増加率と骨折相対リスクとの関係(PTH)」の回帰直線は,甲1発明以外の文献に基づき,作成されたことが認められ,前記(ア)のとおり,進歩性を検討するに当たり,効果の顕著性は,公知の引用発明とされた甲1発明との対比において検討されるべきであるから,前記の他の文献との対比における効果を,進歩性を検討するに当たっての顕著な効果とみることはできない。
(ウ) さらに,弁論の全趣旨によれば,図「BMD増加率と骨折相対リスクとの関係(骨吸収抑制剤と本願発明)の回帰直線も, 」 甲1発明以外の文献に基づき,作成されたことが認められるから,前記の他の文献との対比における効果を,進歩性を検討するに当たっての顕著な効果とみることもできない。
ウ 以上によれば,原告の前記主張は,採用できず,原告主張の取消事由4は,理由がない。
結論
以上によれば,原告が主張する取消事由2には理由があり,また,同3のうち相違点2に係る部分にも理由があるものの,その余の部分には理由がなく,本願発明は,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないといえる。
そうすると,審決は,進歩性を否定した点において誤っておらず,取消事由2には理由があり,また,同3のうち相違点2に係る部分にも理由があるとしても,審決の「本件審判の請求は,成り立たない。」との結論に影響を及ぼすものではないから,原告の請求は棄却すべきものといえる。
以上の次第で,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 中村恭
裁判官 森岡礼子
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