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関連審決 無効2013-800213
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事件 平成 27年 (ワ) 34732号 損害賠償等請求事件

原告松山株式会社
同 訴訟代理人弁護士小林幸夫
同 弓削田博
同 河部康弘
同 藤沼光太
同 訴訟代理人弁理士樺澤聡
同 山田哲也
同訴訟復代理人弁護士 神田秀斗
被告小橋工業株式会社
同 訴訟代理人弁護士鮫島正洋
同 見憲
同 和田祐造
同 幸谷泰造
同 篠田淳郎
同 高橋雄一郎
同 北島志保
同 訴訟代理人弁理士林佳輔
同訴訟復代理人弁護士 阿部実佑季
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2016/11/16
権利種別 特許権
主文 1 原告の請求を棄却する。
12 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は,原告に対し,3億円及びこれに対する平成27年12月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 本件は,発明の名称を「農作業機の整地装置」とする特許第3009807号の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。また,本件特許の願書に添付した明細書〔特許請求の範囲を含み,無効審判事件(無効2013-800213)の平成26年9月29日付け審決(確定済み)により訂正されたもの。別紙2全文訂正明細書参照〕及び図面〔別紙1特許公報参照〕を併せて「本件明細書」という。)の特許権者であった原告が,別紙3被告製品目録記載の各製品(以下,同目録記載の番号に対応して「被告製品@」などといい,被告製品@ないし同?を総称して「被告各製品」という。)は,いずれも本件明細書の特許請求の範囲(以下,単に「特許請求の範囲」ということがある。)の請求項1記載の発明(以下「本件発明」という。また,本件特許のうち本件発明に係るものを「本件発明についての特許」ということがある。)の技術的範囲に属するから,被告による被告各製品の製造販売は,本件特許権を侵害する行為であると主張して,@特許権侵害不法行為による損害賠償請求権(対象期間は,平成24年7月1日から平成25年5月28日までである。)に基づき,被告に対し,損害賠償金4億7839万3219円のうち2億円及びこれに対する不法行為後の日である平成27年12月29日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めると共に,A実施料を支払うことなく本件発明を実施したことによる不当利得返還請求権(対象期間は,平成17年7月1日から平成24年6月30日までである。)に基づき,被告に対し,不当利得金5億0523万8533円のうち1億円及びこれに対する請求後の日である平成27年12月29日から支払済みまで 2 の民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 前提事実等(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実等) (1) 当事者 原告は,農業用作業機,食品包装機械等の製造,販売等を業とする株式会社である。
被告は,農業用機械及び部品の製造,販売等を業とする株式会社である。
(2) 本件特許権 原告は,平成25年5月28日をもって存続期間が満了した次の内容の本件特許権の特許権者であった。
特 許 番 号 特許第3009807号 登 録 日 平成11年12月3日 出 願 番 号 特願平5-127319 出 願 日 平成5年5月28日 公 開 番 号 特開平6-335304 公 開 日 平成6年12月6日 発 明 の 名 称 農作業機の整地装置 特許請求の範囲 別紙2全文訂正明細書の【特許請求の範囲】記載のとおり 本件特許については,特許無効審判(無効2013-800213。同事件において,原告が訂正請求をした。)の平成26年9月29日付け審決により訂正が認められており,同審決の確定により,本件特許の願書に添付された明細書(特許請求の範囲を含む。)が別紙2全文訂正明細書に記載のとおりのものとして,特許がされたものとみなされた(甲3,12の1,12の2,乙14)。
(3) 本件発明の構成要件の分説 本件発明を構成要件に分説すると,それぞれ,次のとおりである(以下,分説に係る各構成要件を符号に対応して「構成要件A」などという。)。
3 A:ロータリー作業体を回転自在に設けた機枠と, B:この機枠に設けられ前記ロータリー作業体の上方部を被覆したカバー体と, C:前記ロータリー作業体の後方部に位置して前記カバー体に上下動自在に取着 され前記ロータリー作業体にて耕耘された耕耘土を整地する整地体と, D:この整地体を支持するとともに先端部に係止突部を有する支持ロッドと, E:前記機枠に設けられ前記支持ロッドを介して前記整地体を整地作業位置及び 土寄せ作業位置に設定する整地体操作手段と, F:この整地体操作手段を駆動操作する正逆転用モータと, G:このモータを制御する遠隔操作用のスイッチと,を具備し, H:前記機枠は,トラクタに連結される連結マストを有し, I:前記正逆転用モータは,前記連結マストに固着されたブラケットに固定され ている J:ことを特徴とする農作業機の整地装置。
(4) 被告の行為 被告は,業として,平成15年頃から平成19年頃までの間に被告製品@ないし同Eを,同年頃から平成22年頃までの間に被告製品Fないし同Jを,同年頃から平成24年頃までの間に被告製品Kないし同Oを,同年頃から現在に至るまで被告製品Pないし同?を,それぞれ製造販売した。
被告各製品は,型番によって機体寸法及び代掻き爪の本数その他の仕様において異なる点があるが,本件発明と対比されるべき構成及び作用効果は,実質的に同一である。
被告は,被告各製品の構成a,d,g及びi(いずれも,後に定義する。)がそれぞれ本件発明の構成要件A,D,G及びIに相当し,被告各製品がこれらの構成要件を充足することを争っておらず,また,被告各製品が「農作業機の整地装置」であることを認めている。
3 争点 4 (1) 被告各製品は本件発明の技術的範囲に属するか(争点1) ア 被告各製品の構成(争点1-1) イ 被告各製品は構成要件B及び同Cを充足するか(争点1-2) ウ 被告各製品は構成要件E及び同Fを充足するか(争点1-3) エ 被告各製品は構成要件Hを充足するか(争点1-4) (2) 本件発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものと認められるか(争点2) ア 無効理由1(乙1号証を主引例とする進歩性欠如)は認められるか(争点2-1) イ 無効理由2(乙6号証を主引例とする進歩性欠如)は認められるか(争点2-2) ウ 無効理由3(甲18号証を主引例とする進歩性欠如)は認められるか(争点2-3) (3) 損害額及び不当利得額(争点3) 4 争点に対する当事者の主張 (1) 争点1(被告各製品は本件発明の技術的範囲に属するか)について ア 争点1-1(被告各製品の構成)について 【原告の主張】 (ア) 被告各製品の構成は,次のとおりである(以下,各構成を符号に対応して「構成a」などという。)。
a:耕耘部を回転自在に設けた機枠が設けられている。
b:aの機枠には,aの耕耘部の上方部を被覆したシールドカバーが設けられて いる。
c:aの耕耘部の後方部に位置してエプロンを介してbのシールドカバーに上下 動自在に取着されaの耕耘部にて耕耘された耕耘土を整地するレベラが設け られている。
5 d:アンダストッパを介してcのレベラを支持するとともに先端部に丸棒状の係 止突部を有するコントロールロッドが設けられている。
e:aの機枠には,dのコントロールロッドを介してcのレベラを整地作業位置 及び土寄せ作業位置に設定するレベラ操作手段が設けられている。
f:eのレベラ操作手段を駆動操作する正逆転用モータが設けられている。
g:fの正逆転用モータを制御する遠隔操作用のリモートコントローラのスイッ チが設けられている。
h:aの機枠は,オートヒッチアームを介してトラクタに連結されるマストを有 している。
i:fの正逆転用モータは,ボルトにてマストに固着されたモータベースに固定 されている。
j:被告製品は,農作業機の整地装置を有する製品である。
(イ) 被告各製品の「耕耘部」は本件発明の「ロータリー作業体」に,被告各製品の「シールドカバー」は本件発明の「カバー体」に,被告各製品の「レベラ」は本件発明の「整地体」に,被告各製品の「コントロールロッド」は本件発明の「支持ロッド」に,被告各製品の「レベラ操作手段」は本件発明の「整地体操作手段」に,被告各製品の「リモートコントローラのスイッチ」は本件発明の「スイッチ」に,被告各製品の「マスト」は本件発明の「連結マスト」に,被告各製品の「モータベース」は本件発明の「ブラケット」に,それぞれ相当する。
【被告の主張】 被告各製品の構成についての原告の主張(前記【原告の主張】(ア))のうち,構成aないし同d,同g,同i及び同jは認める。
構成eは否認する。被告各製品は「dのコントロールロッドを介してcのレベラを整地作業位置及び土寄せ作業位置に設定するレベラ操作手段」を有しない。
構成fにつき,被告各製品が正転又は逆転方向に駆動するモータを有すること及びコントロールロッドがロックから解除され又はロックされることは認め,その余 6 は否認する。
構成hは否認する。被告各製品のマストは,トラクタに連結しない。
イ 争点1-2(被告各製品は構成要件B及び同Cを充足するか)について 【原告の主張】 (ア) 構成要件B及び同Cの規定 構成要件Bは,「この機枠に設けられ前記ロータリー作業体の上方部を被覆したカバー体と,」と規定し,同Cは,「前記ロータリー作業体の後方部に位置して前記カバー体に上下動自在に取着され前記ロータリー作業体にて耕耘された耕耘土を整地する整地体と,」と規定している。
ここで,特許請求の範囲の文言も,本件明細書の他の記載部分も,「整地体」が「カバー体」に直接取着される構成に限定していないから,他の部材を介して「整地体」が「カバー体」に取着されていても,構成要件B及び同Cを充足すると解すべきである。
(イ) 被告各製品の構成 前記ア【原告の主張】(ア)で述べたとおり,被告各製品は「aの耕耘部の後方部に位置してエプロンを介してbのシールドカバーに上下動自在に取着されaの耕耘部にて耕耘された耕耘土を整地するレベラが設けられている」構成(構成c)を有する。被告各製品の「レベラ」が本件発明の「整地体」に,被告各製品の「シールドカバー」が本件発明の「カバー体」に,それぞれ相当する。
(ウ) 小括 したがって,被告各製品は,構成要件B及び同Cをいずれも充足する。
【被告の主張】 被告各製品の「シールドカバー」が構成要件Bの「カバー体」に相当することは,争わない。しかし,被告各製品の「レベラ」が取着されている「エプロン」は,「シールドカバー」とは区別される別部材であって,「ロータリー作業体の上方部を被覆」していないから,構成要件Bの「カバー体」に相当せず,構成要件Cの「前記 7 カバー体」にも相当しない。
他方,被告各製品の「レベラ」は,「エプロン」(上記のとおり,「シールドカバー」とは別部材であって,本件発明の「カバー体」に相当しない。)に,上下動自在に取着されており, 「シールドカバー」 (本件発明の「カバー体」に相当する。)に取着されているものではないから,構成要件Cにいう「前記カバー体に・・・上下動自在に取着され(た)・・・整地体」に当たらない。
したがって,被告各製品は,構成要件B又は同Cを充足しない。
ウ 争点1-3(被告各製品は構成要件E及び同Fを充足するか)について 【原告の主張】 (ア) 構成要件E及び同Fの規定 構成要件Eは,「前記機枠に設けられ前記支持ロッドを介して前記整地体を整地作業位置及び土寄せ作業位置に設定する整地体操作手段と,」と規定し,同Fは,「この整地体操作手段を駆動操作する正逆転用モータと,」と規定する。
a 「整地作業位置」について 構成要件Eの「整地作業位置」とは,本件明細書の段落【0003】に「作業目的に応じた状態」との記載があること,同【0009】及び同【0029】に「上下回動自在の整地作業位置」との記載があること,当業者である被告も,本件発明と同一分野である農作業機に関する他の特許等出願において,「作業位置」と「作業状態」とを読み替えて使用していること(甲18ないし21)などからして,「整地体が上下回動自在となり,整地作業に応じた状態」と解すべきである。
b 「整地作業位置」や「土寄せ作業位置」への「設定」について 構成要件Eにおいて,「整地作業位置」や「土寄せ作業位置」に整地体を「設定」するというのは,支持ロッドをロックし,又はロック解除することにより整地体が「土寄せ作業に応じた状態」や「整地作業に応じた状態」になることをいうのであって,ロック又はロック解除によって整地体の場所が移動することを要するものではない。被告は,本件明細書の段落【0008】,同【0026】ないし同【00 8 28】等の記載を指摘するが,これらの記載は,特許請求の範囲の請求項2記載の発明に関する記載であって,本件発明の技術的範囲の解釈に影響するものではない。
c 「支持ロッドを介して」について 構成要件Eの「支持ロッドを介して」とは,「介する」との用語の語義(甲22)からしても,支持ロッドが,整地体操作手段と整地体との間にあるとの位置関係を特定したものと解すべきである。
d 「整地体操作手段」について 以上の解釈を前提とすると,構成要件E及び同Fの「整地体操作手段」とは,整地体との間に支持ロッドを有し,整地体を整地作業に応じた状態(上下回動自在となった状態)と土寄せ作業に応じた状態とに切替え設定することのできる手段をいうものと解すべきである。
(イ) 被告各製品の構成について a 被告各製品には,正逆転用モータとこれを制御するスイッチが設けられているところ,スイッチを操作すると,正逆転用モータが正方向又は逆方向に回動し,これに連結しているアームが回動し,これに軸支されたリンクが駆動し,ロック部が回動する。この動作により,コントロールロッドの先端に設けられた係止突部とロック部の係合凹部との係合又は解除が生じ,結果として,コントロールロッドがロックされ又はロック解除される。コントロールロッドがロックされると,レベラが土寄せ作業に応じた状態となり,コントロールロッドがロック解除されると,レベラが上下回動自在の整地作業に応じた状態となる。被告各製品を使用するに際しては,コントロールロッドのロック解除後に,手などを用いてレベラを移動させることはなく,整地作業を行うに際して当然行われるべき操作(作業機を降下させる操作)により,レベラは圃場に沿って回動し,整地作業を行うことができる。
したがって,被告各製品における上記アーム,リンク,ロック部からなる機構(レベラ操作手段)は,レベラ(「整地体」に相当する。)との間に位置するコントロールロッド(「支持ロッド」に相当する。)をロックし又はロック解除して,レベ 9 ラを土寄せ作業に応じた状態と整地作業に応じた状態とに切替え設定するものであるから,本件発明の「支持ロッドを介して前記整地体を整地作業位置及び土寄せ作業位置に設定する整地体操作手段」に当たる。
b 仮に,構成要件Eに関し,「整地作業位置及び土寄せ作業位置に設定」するとの点について,整地体の場所の移動を伴うことが必要であると解するとしても,次のとおり,被告各製品におけるレベラは,コントロールロッドのロック又はロック解除により,その場所が移動するから,被告各製品はやはり「支持ロッドを介して前記整地体を整地作業位置及び土寄せ作業位置に設定する整地体操作手段」を有する。
(a) 被告各製品において,コントロールロッドのロックを解除すると,レベラはわずかながらも上昇する。この意味において,レベラの場所が移動するということができる。
(b) 被告各製品において,整地作業位置にあるレベラは,作業機を持ち上げ,レベラが圃場面に接しない状態にした後にコントロールロッドをロックすると,土寄せ作業位置に移動する。他方,土寄せ作業中,すなわち,レベラが圃場面に接している状態でコントロールロッドのロックを解除すると,レベラは上方に回動して整地作業位置に移動する。この意味において,レベラの場所が移動するということができる。
(ウ) 小括 したがって,被告各製品は,構成要件E及び同Fをいずれも充足する。
【被告の主張】 (ア) 構成要件Eの解釈について a 構成要件Eは, 前記整地体を整地作業位置及び土寄せ作業位置に設定する」 「と規定するのであるから,文言上,整地体が,2つの異なる「位置」に設定される,すなわち,整地体の場所の移動を伴うことを要すると解するのが自然であって,例えば「整地作業位置」を「整地体が上下回動自在となり整地作業に応じた状態」な 10 どと読み替えることはできない。このことは,特許請求の範囲の文言上明確であるが,本件明細書の段落【0008】には,支持ロッドの「先端部の係止突部が支持体に係止されることにより抜け止めされ」た状態を「整地作業位置」という旨の記載があり,これと同【0027】及び【0028】の記載に照らせば,同状態に至るには,支持ロッドが抜け止めされるまで移動することを要し,この場合には当然に整地体の位置も移動することになるから(本件明細書の【図1】ないし【図3】も参照。),本件明細書の記載によっても,整地体の場所の移動を伴うことを要するとの解釈が裏付けられるというべきである。
b 構成要件Eは「支持ロッドを介して・・・設定する」と規定しているところ,「介して」という語が「設定する」に係っていることからすれば,整地体を「整地作業位置」及び「土寄せ作業位置」に設定するに際して,支持ロッドを介して整地体に何らかの作用が及ぼされなければ,「支持ロッドを介して・・・設定する」ということはできないと解すべきである。
(イ) 被告各製品の構成について 被告各製品において,コントロールロッドのロックを解除すると,レベラはわずかに上方に回動するが,それ以上には上方に回動せず,整地作業を行うに適した位置(整地作業位置)には移動しない。レベラを整地作業位置まで移動させるためには,ロック解除後に,作業機全体を降下させる,トラクタによりけん引するなど,レベラに外力を加える必要があり,この外力は,レベラに直接加えられるものであって,コントロールロッドを介して加えられるものではない。
さらに,被告各製品を用いた通常の土寄せ作業中にコントロールロッドのロックを解除しても,モータが拘束されて,レベラは整地作業位置に設定されないし,被告各製品を用いた通常の代かき作業(整地作業)中にコントロールロッドをロックする動作を行っても,レベラは土寄せ作業位置に設定されない(乙28ないし30)。
なお,原告は,レベラが圃場面に接しない状態でコントロールロッドをロックすると,レベラが土寄せ作業位置に移動するとし,他方で,レベラが圃場面に接した 11 状態でコントロールロッドのロックを解除すると,レベラが整地作業位置に移動すると主張するが,本件発明は,「整地作業位置」に設定する動作と「土寄せ作業位置」に設定する動作とをともに「整地体操作手段」が行う動作として並列的に記載しているのであるから,被告各製品が同動作をしているかを判断するには,圃場面に接しているか否かも含めて,同じ操作により位置が設定されることが立証されるべきである。
(ウ) 小括 以上のとおり,被告各製品は,コントロールロッドのロック又はロック解除により,コントロールロッドを介してレベラを「整地作業位置」や「土寄せ作業位置」に設定するものではなく,「支持ロッドを介して・・・設定する整地体操作手段」及び「この整地体操作手段」を有しないから,構成要件E及び同Fをいずれも充足しない。
エ 争点1-4(被告各製品は構成要件Hを充足するか)について 【原告の主張】 (ア) 構成要件Hの規定 構成要件Hは,「前記機枠は,トラクタに連結される連結マストを有し,」と規定する。
ここで,構成要件Hは,「連結マスト」が「トラクタ」に連結される態様について,直接連結される態様に限定していない。本件明細書にも,「連結マスト」が「トラクタ」に直接連結されるべき必要性や効果についての記載は見当たらない。よって,部材を介して「連結マスト」が「トラクタ」に連結されていても,構成要件Hを充足するものと解すべきである。
(イ) 被告各製品の構成 前記ア【原告の主張】(ア)で述べたとおり,被告各製品は「aの機枠は,オートヒッチアームを介してトラクタに連結されるマストを有している」構成(構成h)を有する。被告各製品の「マスト」が本件発明の「連結マスト」に相当する。
12 (ウ) 小括 したがって,被告各製品は,構成要件Hを充足する。
【被告の主張】 被告各製品のマストは,オートヒッチアームと連結しており,トラクタとは連結していないから,構成要件Hにいう「トラクタに連結される連結マスト」に当たらない。
したがって,被告各製品は,構成要件Hを充足しない。
(2) 本件発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものと認められるか(争点2) ア 争点2-1(無効理由1〔乙1号証を主引例とする進歩性欠如〕は認められるか)について 【被告の主張】 (ア) 乙1発明 本件特許の出願前に日本国内で頒布された刊行物である実願昭51-104977号(実開昭53-23706号)のマイクロフィルム(乙1。以下「乙1文献」といい,同文献に記載されたトラクター用均平装置に関する発明を「乙1発明」という。)には,トラクター用均平装置に関し,次の発明が記載されている。
「土を整地する整地体と,この整地体を支持するともに先端部に係止突部を有する支持ロッドと,機枠に設けられ,前記支持ロッドを介して前記整地体を整地作業位置及び土寄せ作業位置に設定する整地体操作手段と,を具備し,機枠に含まれ,トラクタに連結される連結マストを有し,整地体操作手段を操作する手段であるハンドルは,前記連結マストに固着されたブラケットに固定されている農作業機の整地装置。」 (イ) 本件発明と乙1発明との対比 本件発明と乙1発明とを対比すると,両発明は,次の各点において形式的に相違するが,その余の点において一致する。
13 a 本件発明は,「ロータリー作業体を回転自在に設けた機枠と,この機枠に設けられ前記ロータリー作業体の上方部を被覆したカバー体と,前記ロータリー作業体の後方部に位置して前記カバー体に上下動自在に取着され前記ロータリー作業体にて耕耘された耕耘土を整地する整地体と」を具備するのに対し,乙1発明は,「ロータリー作業体」,「機枠」及び「カバー体」を有するかが不明である点(以下「相違点1-A」という。)。
b 本件発明は,「この整地体操作手段を駆動操作する正逆転用モータと,このモータを制御する遠隔操作用のスイッチと,を具備」 「前記正逆転用モータは, し,前記連結マストに固着されたブラケットに固定されている」のに対し,乙1発明は,整地体操作手段を操作する手段が「ハンドル」であり,この「ハンドル」が連結マストに固着されたブラケットに固定されており,「このモータを制御する遠隔操作用のスイッチ」を有しない点(以下「相違点1-B」という。)。
(ウ) 相違点についての検討 a 相違点1-Aについて (a) 乙1文献の第1図及び第2図には,本件発明の「ロータリー作業体」,「機枠」及び「カバー体」に相当する「ロータリ作業体」,「主枠」及び「カバー体」が実質的に記載されているから,相違点1-Aは実質的な相違点ではない。
(b) 仮に,相違点1-Aに係る構成が実質的な相違点であったとしても,本件特許出願当時,農作業機の整地装置にロータリー作業体,機枠及びカバー体を設ける構成は周知技術であったから(乙2ないし6),本件特許出願当時,当業者において,乙1発明に上記周知技術を適用して,又は乙2ないし6号証に記載された構成を適用して,相違点1-Aに係る本件発明の構成に想到することは容易であった。
b 相違点1-Bについて 本件特許出願当時,トラクタに取り付けた農作業機において,作業状態の切替え動作の駆動手段として正逆転モータを用い,当該モータを制御するスイッチを遠隔操作用にトラクタの運転席付近に設ける構成は,周知技術であった(乙7ないし1 14 2)。
乙1発明は,整地体の作業状態の切替え動作を確実に行うことのできる農作業機を目的とするものであるが,乙7ないし12号証に記載された構成も,作業の切替えを容易に行うことを課題の一部とするものであるから,本件特許出願当時,当業者において,乙1発明に上記周知技術又は乙7ないし12号証に記載された構成を適用する動機付けがあり,これにより,相違点1-Bに係る本件発明の構成に想到することは容易であった。
c 「係止突部」について 仮に,乙1文献に「先端部に係止突部を有する支持ロッド」との構成が記載されておらず,この点が本件発明と乙1発明の実質的な相違点であると認められたとしても,本件特許出願当時,農作業機の整地装置の支持ロッドの先端に係止突部を有する構成は周知技術であったから(乙2,3,6),本件特許出願当時,当業者において,乙1発明に上記周知技術を適用して,本件発明の構成に想到することは容易であった。
d 「固着されたブラケット」について 仮に,乙1文献に「連結マストに固着されたブラケット」との構成が記載されておらず,この点が本件発明と乙1発明との実質的な相違点であると認められたとしても,モータを連結マストに固着する態様として,ブラケットという別個の部材を用いるか,連結マストの一部に突出部を設けるかは,当業者が適宜設計することができる事項というべきであるし,本件特許出願当時,農作業機に用いる正逆転用モータを連結マストに固着されたブラケットを設けて固定する構成は周知技術であった(甲18,乙3,8,20,33ないし36)から,本件特許出願当時,当業者において,乙1発明に上記周知技術を適用して,本件発明の構成に想到することは容易であった。
(エ) 小括 以上によれば,本件発明は,本件特許出願当時,当業者が,乙1発明に上述した 15 周知技術若しくは公知の構成を適用し,又は適宜設計することにより,容易に発明することができたものである。
したがって,本件発明についての特許は,特許法123条1項2号の無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない(特許法104条の3第1項)。
【原告の主張】 (ア) 乙1発明の認定について 乙1文献の記載によれば,乙1発明は,次のとおり認定されるべきである。
「トラクターに連結される固定杆を有し,ロータリー作業体を回転自在に設けた機枠と,この機枠に設けられ,前記ロータリー作業体の上方部を被覆したカバー体と,前記ロータリー作業体の後方部に位置して主均平板を介して前記カバー体に上下動自在に取着され前記ロータリー作業体にて耕耘された耕耘土を整地する補助均平板を,連杆等を介して前記補助均平板を支持するとともに,先端部を前記固定杆に回動可能に取り付けられた突起に軸を介して回動可能に連結した軸筒と,前記機枠の前記固定杆に軸を介して回動可能に設けられ,前記軸筒を介して前記補助均平板を均し位置及び掻寄位置に設定する補助均平板操作手段(上部に水平枠を有する回動枠及びこの回動枠に一体的に固定された係合体からなる部分)と,この補助均平板操作手段と手動操作するハンドルとを具備し,前記ハンドルは,前記固定杆に前記軸を介して回動可能に設けられた前記補助均平板操作手段の回動枠の側面部に固定されている,トラクター用均平装置。」 (イ) 本件発明と乙1発明との対比 上記(ア)によれば,本件発明と乙1発明とは,少なくとも次の点において相違するというべきである。
a 本件発明は,「整地体を支持するとともに先端部に係止突部を有する支持ロッド」を有しているのに対し,乙1発明は,これを有しない点(以下「相違点1-a」という。)。
16 b 本件発明は,「この整地体作業手段を駆動操作する正逆転用モータと,」「このモータを制御する遠隔操作用のスイッチと,を具備し」ているのに対し,乙1発明は,そのような構成を有さず,「補助均平板操作手段を手動操作するハンドル」のみを有する点(以下「相違点1-b」という。)。
c 本件発明は,「前記正逆転用モータは,前記連結マストに固着されたブラケットに固定されている」のに対し,乙1発明は,そのような構成を有しない点(以下「相違点1-c」という。)。
(ウ) 相違点についての検討 a 相違点1-aについて 農作業機の中には,「先端部に係止突部を有する支持ロッド」との構成を有しないものもあるから,当業者であれば,当然に,支持ロッドの先端部に係止突部を設けるなどということはできない。また,乙1発明においては,ハンドルを操作することにより,軸筒が作動することから,先端に係止突部を設ける必要がない。
したがって,「支持ロッドの先端部に係止突部を設ける構成」が乙2,3及び6号証に開示されているとしても,乙1発明に同構成を適用する動機付けはなく,本件特許出願当時,当業者において,乙1発明に同構成を適用して,相違点1-aに係る本件発明の構成に想到することが容易であったとはいえない。
b 相違点1-bについて 乙7号証記載の「モータ」 均平板を単に上下に移動させるためのものであり, は,乙8ないし12号証記載の「モータ」等は,そもそも「整地体」以外の部材を動かすものである。
また,乙1発明のハンドルは,補助均平板操作手段を動かすために,作業者が手で握る棒状の部分であって,それ自体駆動力を有する正逆転用モータとは,その作用を含めて根本的に異なるものである。
したがって,乙1発明に,乙7ないし12号証記載の「モータ」等を適用する動機付けはなく,本件特許出願当時,当業者において,乙1発明にこれらの構成を適 17 用して,相違点1-bに係る本件発明の構成に想到することが容易であったとはいえない。
c 相違点1-cについて 被告の提出する証拠(乙8,10,11及び20)によっても,「農作業機に用いる正逆転用モータを連結マストに固着されたブラケットを設けて固定する」構成は開示されていないから,これが開示されていることを前提に,乙1発明からの容易想到性を論ずる被告の主張は,誤りである。
(エ) 小括 以上のとおり,本件発明は,本件特許出願当時において,当業者が乙1発明に被告の主張に係る周知技術や公知の構成を適用することにより容易に発明できたものではない。
したがって,被告主張の無効理由1は,成り立たない。
イ 争点2-2(無効理由2〔乙6号証を主引例とする進歩性欠如〕は認められるか)について 【被告の主張】 (ア) 乙6発明 本件特許の出願前に日本国内で頒布された刊行物である実願昭63-92229号(実開平2-14902号)のマイクロフィルム(以下「乙6文献」といい,同文献に記載された農作業機に関する発明を「乙6発明」という。)には,農作業機に関し,次の発明が記載されている。
「ロータリー作業体を回動自在に設けた本体フレームと,前記本体フレームに設けられ,前記ロータリー作業体の上方部を被覆するカバー体と,前記カバー体の後端部にゴム板を介して固着された第1の整地板と,第1の整地板と回動自在に軸着された第2の整地板とからなり,前記ロータリー作業体にて耕耘された耕耘土を整地する整地体と,前記整地体を支持するとともに先端部に係止部を有する上下動自在の吊持杆と,本体フレームの支枠に固着されたブラケットと,前記ブラケットに 18 回動自在に軸支され前記吊持杆の係止部に係合してこの吊持杆を上下動させるカム体と,このカム体の一端部を止着するとともに他端部を操作ボックス内の操作レバーに止着しこの操作レバーの前後動によって前記カム体を遠隔的に回動操作するワイヤーとを具備し,前記本体フレームに設けられたトップマストを有し,前記操作レバーが前後移動自在に挿入された操作ボックスが,支脚を介してトップマストに固定されていることを特徴する農作業機。」 (イ) 本件発明と乙6発明との対比 本件発明と乙6発明とを対比すると,両発明は,次の各点において形式的に相違するが,その余の点において一致する。
a 本件発明は,「整地体操作手段を駆動操作する正逆転用モータ」を有するのに対し,乙6発明は,モータを有さず,操作レバーにより整地体操作手段を駆動操作する点(以下「相違点6-A」という。)。
b 本件発明は「モータを制御する遠隔操作用のスイッチ」を有するのに対し,乙6発明はこれを有しない点(以下「相違点6-B」という。)。
(ウ) 相違点についての検討 a 相違点6-A及び同6-Bについて 本件特許出願当時,トラクタに連結される農作業機の分野において,被操作対象を操作する操作手段を駆動操作する正逆転用モータ及び制御スイッチを設ける構成は周知技術であった(乙7ないし12)。
乙6発明は,簡単な構造によって遠隔的に整地体を作業目的に合わせた姿勢に調節設定できる操作性と作業性に優れた農作業機を目的とするものであるが,乙7ないし12号証に記載された構成も,手動操作よりも操作を容易にして操作性及び作業性を向上することを課題の一部とするものであるから,本件特許出願当時,当業者において,乙6発明に上記周知技術又は乙7ないし12号証に記載された構成を適用する動機付けがあり,これにより,相違点6-A及び同6-Bに係る本件発明の構成に想到することは容易であった。
19 b 「固着されたブラケット」について 仮に,乙6文献に「連結マストに固着されたブラケット」との構成が記載されておらず,この点が本件発明と乙6発明との実質的な相違点であると認められたとしても,モータを連結マストに固着する態様として,ブラケットという別個の部材を用いるか,連結マストの一部に突出部を設けるかは,当業者が適宜設計することができる事項というべきであるし,本件特許出願当時,農作業機に用いる正逆転用モータを連結マストに固着されたブラケットを設けて固定する構成は周知技術であった(乙8,20)から,本件特許出願当時,当業者において,乙6発明に上記周知技術を適用して,本件発明の構成に想到することは容易であった。
(エ) 小括 以上によれば,本件発明は,本件特許出願当時,当業者が,乙6発明に上述した周知技術若しくは公知の構成を適用し,又は適宜設計することにより,容易に発明することができたものである。
したがって,本件発明についての特許は,特許法123条1項2号の無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない(特許法104条の3第1項)。
【原告の主張】 (ア) 乙6発明の認定について 乙6文献の記載によれば,乙6発明は,次のとおり認定されるべきである。
「ロータリー作業体を回転自在に設けた本体フレームと,この本体フレームに設けられ前記ロータリー作業体の上方部を被覆したカバー体と,前記ロータリー作業体の後方部に位置してゴム板及び第1の整地板を介して前記カバー体に上下動自在に取着され前記ロータリー作業体にて耕耘された耕耘土を整地する第2の整地板と,この第2の整地板を支持するとともに先端部に係止ピンを有する吊持杆と,前記本体フレームに設けられ前記吊持杆を介して前記第2の整地板を代掻き作業の状態(整地作業位置)及び土引き作業の状態(土寄せ作業位置)に設定するカム体と, 20 操作レバー及びワイヤーからなり,前記カム体を手動操作する手動操作部と,を具備し,前記本体フレームは,トラクタに連結されるトップマストを有し,前記操作レバーは,操作ボックスの相対する側板間の支軸に前後方向回動自在に軸支されているとともに,前記ワイヤーは,一端部が前記カム体に固着されかつ他端部が前記操作レバーに固着されている農作業機の整地装置。」 (イ) 本件発明と乙6発明との対比 上記(ア)によれば,本件発明と乙6発明とは,少なくとも次の点において相違するというべきである。
a 本件発明は,「整地体操作手段を駆動操作する正逆転用モータと,このモータを制御する遠隔操作用のスイッチ」を有するのに対し,乙6発明は,そのような構成を有さず,カム体を手動操作する手動操作部(操作レバー及びワイヤーからなる部分)を有している点(以下「相違点6-a」という。)。
b 本件発明は,「前記正逆転用モータは,前記連結マストに固着されたブラケットに固定されている」のに対し,乙6発明は,そのような構成を有しない点(以下「相違点6-b」という。)。
(ウ) 相違点についての検討 a 相違点6-aについて 相違点6-aに係る本件発明の「整地体操作手段を駆動操作する正逆転用モータと,このモータを制御する遠隔操作用のスイッチ」との構成は,乙7ないし12号証のいずれにも記載されておらず,周知技術とも認められない。乙7号証記載の「モータ」は,均平板を単に上下に移動させるためのものであり,乙8ないし12号証記載の「モータ」等は,そもそも「整地体」以外の部材を動かすものである。
また,乙6発明の手動操作部(操作レバー及びワイヤーからなる部分)は,カム体を支軸を中心として回動させるために,作業者の手によって動かされる部分であって,それ自体駆動力を有する正逆転用モータとは,その作用を含めて根本的に異なるものである。
21 したがって,乙6発明に,乙7ないし12号証記載の「モータ」等を適用する動機付けはなく,本件特許出願当時,当業者において,乙6発明にこれらの構成を適用して,相違点6-aに係る本件発明の構成に想到することが容易であったとはいえない。
b 相違点6-bについて 相違点6-bに係る本件発明の「前記正逆転用モータは,前記連結マストに固着されたブラケットに固定されている」との構成は,被告が提出する乙7ないし12号証には記載も示唆もされておらず,周知技術とも認められないから,これらが認められることを前提に,乙6発明からの容易想到性を論ずる被告の主張は,誤りである。
(エ) 小括 以上のとおり,本件発明は,本件特許出願当時において,当業者が乙6発明に被告の主張に係る周知技術や公知の構成を適用することにより容易に発明できたものではない。
したがって,被告主張の無効理由2は,成り立たない。
ウ 争点2-3(無効理由3〔甲18号証を主引例とする進歩性欠如〕は認められるか)について 【被告の主張】 (ア) 甲18発明 本件特許の出願前に日本国内で頒布された刊行物である実願昭62-67005号(実開昭63-173006号)のマイクロフィルム(以下「甲18文献」といい,同文献に記載された代掻均平装置に関する発明を「甲18発明」という。)には,代掻均平装置に関し,次の発明が記載されている。
「代掻ロータを回転自在に設けた伝動フレーム,支持フレーム及びトップリンク連結部からなるフレームと,この伝動フレーム,支持フレーム及びトップリンク連結部からなるフレームに設けられ前記代掻ロータの上方部を被覆したシールドカバ 22 ーと,前記代掻ロータの後方部に位置して前記シールドカバーに上下動自在に取着され代掻ロータにて耕耘された耕耘土を整地する均平板と,この均平板を支持するとともに先端部にロック杆を有する操作ロッドと,前記操作ロッドを介して均平板を均平作業位置及び土寄せ作業位置に設定する,操作ハンドル,ピン,トグルばね及びストッパからなる均平板操作手段と,を具備し,前記伝動フレーム,支持フレーム及びトップリンク連結部からなるフレームは,トラクタに連結されるトップリンク連結部を有し,前記均平板操作手段は,前記トップリンク連結部に固着された支持部材に固定されていることを特徴とする代掻均平装置。」 (イ) 本件発明と甲18発明との対比 本件発明と甲18発明とを対比すると,両発明は,次の各点において形式的に相違するが,その余の点において一致する。
a 本件発明は,「この整地体操作手段を駆動操作する正逆転用モータ」を有するのに対し,甲18発明は,これを有しない点(以下「相違点18-A」という。 。
) b 本件発明は,「このモータを制御する遠隔操作用のスイッチ」を有するのに対し,甲18発明は,整地体操作手段は操作者により手動操作され,「このモータを制御する遠隔操作用のスイッチ」を有しない点(以下「相違点18-B」という。 。
) c 本件発明は,「前記正逆転用モータは,前記連結マストに固着されたブラケットに固定されている」のに対し,甲18発明は,このような構成を有しない点(以下「相違点18-C」という。)。
(ウ) 相違点についての検討 a 相違点18-Aないし同18-Cについて 本件特許出願当時,トラクタに連結される農作業機の分野において,作業状態の切替え動作の駆動手段として正逆転用モータを用い,当該モータを制御するスイッチを設けて,当該モータを固定する構成は,周知技術であった(乙7ないし12)。
甲18発明は,整地体の調節設定操作等の作業状態の切替え動作を簡単に確実に行うことのできる農作業機を目的とするものであるが,乙7ないし12号証に記載 23 された構成も,作業の切替えを容易に行うことを課題の一部とするものであるから,本件特許出願当時,当業者において,甲18発明に上記周知技術又は乙7ないし12号証に記載された構成を適用する動機付けがあり,これにより,相違点18-Aないし同18-Cに係る本件発明の構成に想到することは容易であった。
b 「固着されたブラケット」について 仮に,甲18文献に「連結マストに固着されたブラケット」との構成が記載されておらず,この点が本件発明と甲18発明との実質的な相違点であると認められたとしても,モータを連結マストに固着する態様として,ブラケットという別個の部材を用いるか,連結マストの一部に突出部を設けるかは,当業者が適宜設計することができる事項というべきであるし,本件特許出願当時,農作業機に用いる正逆転用モータを連結マストに固着されたブラケットを設けて固定する構成は周知技術であった(乙8,20)から,本件特許出願当時,当業者において,甲18発明に上記周知技術を適用して,本件発明の構成に想到することは容易であった。
(エ) 小括 以上によれば,本件発明は,本件特許出願当時,当業者が,甲18発明に上述した周知技術若しくは公知の構成を適用して,又は適宜設計することにより,容易に発明することができたものである。
したがって,本件発明についての特許は,特許法123条1項2号の無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない(特許法104条の3第1項)。
【原告の主張】 (ア) 甲18発明の認定について 甲18文献の記載によれば,甲18発明は,次のとおり認定されるべきである。
「多数の代掻爪を有する代掻ロータを回転自在に設けた機体と,この機体に設けられ前記代掻ロータの上方部を被覆したシールドカバーと,前記代掻ロータの後方部に位置してエプロンを介して前記シールドカバーに上下動自在に取着され前記代 24 掻ロータにて耕耘された耕耘土を整地する均平板と,この均平板を支持するとともに先端部にロック杆を有する操作ロッドと,前記機体に設けられ前記操作ロッドを介して前記均平板を均平作業状態(整地作業位置)と土寄せ作業状態(土寄せ作業位置)に設定するストッパと,このストッパを手動操作する操作ハンドルと,を具備し,前記機体は,トラクタに連結されるトップリンク連結部を有し,前記操作ハンドルは,前記トップリンク連結部に固着された支持部材にピンを介して回動可能に支持された前記ストッパに固定されている農作業機の整地装置。」 (イ) 本件発明と甲18発明との対比 上記(ア)によれば,本件発明と甲18発明とは,少なくとも次の点において相違するというべきである。
a 本件発明は,「整地体操作手段を駆動操作する正逆転用モータと,このモータを制御する遠隔操作用のスイッチ」を有するのに対し,甲18発明は,そのような構成を有さず,ストッパを手動操作する操作ハンドルを有する点(以下「相違点18-a」という。)。
b 本件発明は,「前記正逆転用モータは,前記連結マストに固着されたブラケットに固定されている」のに対し,甲18発明は,そのような構成を有さず,トップリンク連結部に固着された支持部材(ストッパを回動自在に支持する部材)を有する点(以下「相違点18-b」という。)。
(ウ) 相違点についての検討 a 相違点18-aについて 相違点18-aに係る本件発明の「整地体操作手段を駆動操作する正逆転用モータと,このモータを制御する遠隔操作用のスイッチ」との構成は,乙7ないし12号証のいずれにも記載されておらず,周知技術とも認められない。乙7号証記載の「モータ」は,均平板を単に上下に移動させるためのものであり,乙8ないし12号証記載の「モータ」等は,そもそも「整地体」以外の部材を動かすものである。
また,甲18発明の操作ハンドルは,ストッパをピンを中心として回動させるた 25 めに,作業者の手によって動かされる部分であって,それ自体駆動力を有する正逆転用モータとは,その作用を含めて根本的に異なるものである。
したがって,甲18発明に,乙7ないし12号証記載の「モータ」等を適用する動機付けはなく,本件特許出願当時,当業者において,甲18発明にこれらの構成を適用して,相違点18-aに係る本件発明の構成に想到することが容易であったとはいえない。
b 相違点18-bについて 相違点18-bに係る本件発明の「前記正逆転用モータは,前記連結マストに固着されたブラケットに固定されている」との構成は,被告が提出する乙7ないし12号証には記載も示唆もされておらず,周知技術とも認められないから,これらが認められることを前提に,甲18発明からの容易想到性を論ずる被告の主張は,誤りである。
仮に,当業者が,甲18発明の均平板操作手段を正逆転用モータによる駆動操作に置き換えることが容易に想到できたとしても,同モータをどこに固定するかについては,モータの駆動力を駆動対象物まで伝達する動力伝達手段の構成等を考慮して定めるべきであるから,駆動対象物たる均平板操作手段の至近にあることのみをもっては,相違点18-bに係る本件発明の構成には想到しない。
(エ) 小括 以上のとおり,本件発明は,本件特許出願当時,当業者が甲18発明に被告の主張に係る周知技術や公知の構成を適用することにより容易に発明できたものではない。
したがって,被告主張の無効理由3は,成り立たない。
(3) 争点3(損害額及び不当利得額)について 【原告の主張】 ア 不当利得額(5億0523万8533円) 被告は,平成17年7月1日から平成24年6月30日までの間に,業として, 26 本件発明の実施品である被告各製品を,原告に実施料を支払うことなく販売し,合計101億0477万0676円の売上をあげた。
過去の実施許諾の事例等からして,本件発明の実施料率としては,売上高の5パーセントが相当である。
そうすると,被告は,101億0477万0676円×0.05=5億0523万8533円について,法律上の原因なく利得を得て,これにより原告に同額の損失を及ぼしているというべきである。
損害額(4億7839万3219円) 被告は,平成24年7月1日から平成25年5月28日までの間に,故意又は過失により,業として,本件発明の実施品である被告各製品を製造販売し,合計4億7839万3219円の利益を受けた。
特許法102条2項の規定により,被告が受けた利益の額は,原告が受けた損害の額と推定される。
【被告の主張】 原告の主張は,いずれも否認し,又は争う。
当裁判所の判断
1 争点2-3(無効理由3〔甲18号証を主引例とする進歩性欠如〕は認められるか)について (1) 事案に鑑み,まず,争点2-3について検討する。
(2) 甲18発明の構成 ア 甲18文献の記載 本件特許の出願前に日本国内で頒布された刊行物である甲18文献には,次の記載がある(以下に示す頁数は,同文献中の「明細書」の頁数である。)。
「本考案は,トラクタの後部に3点リンクヒッチ機構を介して昇降可能に装着される代掻均平装置に関し,特に均平板を均平作業位置と土寄せ作業位置とに切換える切換え構造に関するものである。」(1頁ないし2頁) 27 「従来周知の代掻均平装置として,トラクタの後部に3点リンクヒッチ機構を介して昇降可能に装着され,代掻ロータの後方に均平板を均平作業位置と土寄せ作業位置とに回動可能に設け,この均平板に,均平板を両作業位置に制御する操作ロッドおよび操作レバーを設けたものが知られている。そして,均平板を両作業位置に切換えるためのストッパを操作レバーに設け,操作ロッドを制御するようにしている。」(2頁) 「ところで上記ストッパは,・・・作業者がトラクタに乗ったまま均平板の作業位置を切換えようとして代掻装置を3点リンクヒッチ機構により持上げ操作レバーによりストッパを作動しようとしても,均平板の重量がストッパに掛っているのでストッパを簡単には回動することができず,・・・等の問題点があった。」(2頁ないし3頁) 「本考案は上記の問題点を解消するためになされた・・・。」(3頁)「本考案の代掻均平装置は,作業者がトラクタに乗った状態で代掻装置を持上げ,操作レバーによりストッパを回動するだけで,均平板の均平作業位置から土寄せ作業位置へ,また,土寄せ作業位置から均平作業位置への切換えが行える。」(3頁) 「ロータリ代掻装置1の中央部にはミッションケース5が設けられ,このミッションケース5から前方に向け入力軸6を突出しており,この入力軸6には,トラクタのPTO軸から自在継手,伝道軸等からなる動力伝達機構を介して動力伝達が行われる。入力軸6には開閉可能の安全カバー7が設けられている。」(4頁) 「前記ミッションケース5で変速された動力はその左右の一方に設けた伝動フレームの外端部に設けたチエンケース8の上部に伝達され,このチエンケース8の下部とミッションケース5の他方に設けられた支持フレームの下部間に軸架した回転軸を回転駆動するようになっている。回転軸には多数の代掻爪9が取付けられて代掻ロータを構成しており,この代掻ロータが矢印方向に回転することにより代掻き作業が行われる。」(4頁ないし5頁) 「代掻ロータの上方はシールドカバー10により覆われており,このシールドカ 28 バー10の左右両側部にはサイドカバー11が設けられている。シールドカバー10の後端部左右方向中央位置には,エプロン12の上端部が上下方向および左右方向に回動可能に支持されており,このエプロン12の上端部の左右両側端から側方に摺動杆13を突出させ,この両摺動杆13をサイドカバー11に設けた上下方向の摺動孔14に挿通させ,エプロン12が摺動孔14の範囲で左右動可能になっている。」(5頁) 「前記エプロン12の下端部には均平板16の前端部が回動自在に枢支されており,また,均平板16の後部には櫛歯状レーキ17が枢着されている。エプロン12にはコンプレッションロッド18が設けられ,また,均平板16には二段に延びる操作ロッド19,19が設けられて機体前方まで達し,操作ハンドル20によってエプロン12,均平板16および櫛歯状レーキ17が均平作業状態と土寄せ作業 29 状態とに制御できるようになっている。」(5頁ないし6頁) 「前記操作ハンドル20の基部は,トップリンク連結部2から突設した支持部材22にピン23を介して枢支されたストッパ24に固着されている。このストッパ24と支持部材22に設けたばね係止ピン25,26間にはトグルばね27が架設され,ストッパ24をピン23に中心に回動したとき第4図に示すようにそれぞれの回動位置に保持されるようになっている。」(6頁) 「前記ストッパ24には,操作ロッド19の先端に設けたロック杆19aに係合する係合孔24aと,第1の滑り面24bと,第2の滑り面24cとが設けられている。そして,ロック杆19aがロックされない状態では操作ロッド19は前後に移動可能で均平板16は均平作業を行い,ロック杆19aをストッパ24によりロックすると均平板16およびレーキ17は土寄せ作業を行うようになっている。」(7頁) 30 「代掻作業が進んで圃場面に土の片寄りが生じている場合は,これを移動して均平する必要があるが,このときは3点リンクヒッチ機構により代掻装置1を持上げると,均平板16,レーキ17等の自重で操作ロッド19が引張られ,ロック杆19はストッパ24の第1の滑り面24bに当接する。そして,トラクタ側から操作ハンドル20を操作してストッパ24を回動させると,ロック杆19aと第1の滑り面24bとの当接が解除され,第2の滑り面24cと摺接しながら係合孔24aに係合してロック杆19aはロックされ,操作ロッド19,19を下方に移動させ,エプロン12,均平板16,レーキ17を下方に押下げた土寄せ状態に固定する。」(8頁ないし9頁) 「ロック杆19aのロックを解除するときは,3点リンクヒッチ機構により代掻装置1を持上げ,操作レバー20によりストッパ24を回動すると,まずロック杆19aと係合孔24aとの係合が解除され,次にロック杆19aは第2の滑り面24cにより押出されるようにして操作ロッド19を上方に移動し,この状態で3点リンクヒッチ機構により代掻装置を下降させると均平板16が接地して回動し,操作ロッド19を上方に押上げ,ロック杆19aはストッパ24の第1の滑り面24 31 bの上方まで移動して自在に摺動するようになり,均平板16,レーキ17により均平作業を行う。」(9頁ないし10頁) イ 甲18発明 (ア) 以上の甲18文献の記載によれば,甲18文献には,次の発明(甲18発明)が記載されているものと認められる。
a:多数の代掻爪9を有する代掻ロータを回転自在に設けた機体と, b:この機体に設けられ前記代掻ロータの上方部を被覆したシールドカバー10 と, c:前記代掻ロータの後方部に位置して前記シールドカバー10に上下動自在に 取着され前記代掻ロータにて耕耘された耕耘土を整地する均平板16と, d:この均平板16を支持するとともに先端部にロック杆19aを有する操作ロ ッド19と, e:前記機体に設けられ前記操作ロッド19を介して前記均平板16を整地作業 位置及び土寄せ作業位置に設定する操作ハンドル20及びこの操作ハンドル に固着されたストッパ24と, f:(甲18発明は,正逆転用モータを有さず,作業者が操作ハンドル20をト ラクタ側から回動操作するものとされる。) g:(甲18発明は,遠隔操作用のスイッチを有しない。),を具備し, h:前記機体は,トラクタに連結されるトップリンク連結部2を有し, i:前記ストッパ24は,前記トップリンク連結部2に固着された支持部材22 にピン23を介して枢支されている j:農作業機の整地装置。
(イ) 上記認定に関し,原告は,甲18発明において均平板16を整地作業位置と土寄せ作業位置に設定するのは「ストッパ24」のみであり,これに固着された「操作ハンドル20」は,ストッパ24を手動操作するものとして,本件発明の「正逆転用モータ」と対比されるべき構成として認定されるべき旨主張する。
32 しかしながら,本件発明における「正逆転用モータ」は,それ自体が駆動源となるものであるところ,甲18発明における駆動源は,「操作ハンドル20」ではなく,トラクタ側から「操作ハンドル20」を操作する作業者の手腕である。また,甲18発明において,操作ハンドル20とストッパ24とは固着されているから,操作ハンドル20とストッパ24とは一体として回動するものであって,「操作ハンドル20及びこの操作ハンドル20に固着されたストッパ24」 「均平板16」 がを「整地作業位置と土寄せ作業位置に設定する」と認定するのが自然というべきである。
(3) 本件発明と甲18発明との対比 ア 甲18発明の「多数の代掻爪9を有する代掻ロータ」が本件発明の「ロータリー作業体」に,甲18発明の「機体」が本件発明の「機枠」に,甲18発明の「シールドカバー10」が本件発明の「カバー体」に,甲18発明の「均平板16」が本件発明の「整地体」に,甲18発明の「ロック杆19a」が本件発明の「係止突部」に,甲18発明の「操作ロッド19」が本件発明の「支持ロッド」に,甲18発明の「操作ハンドル20及びストッパ24」が本件発明の「整地体操作手段」に,甲18発明の「トップリンク連結部2」が本件発明の「連結マスト」に,それぞれ相当するものと認められる。
イ 一致点 本件発明と甲18発明とは,「ロータリー作業体を回転自在に設けた機枠と,この機枠に設けられ前記ロータリー作業体の上方部を被覆したカバー体と,前記ロータリー作業体の後方部に位置して前記カバー体に上下動自在に取着され前記ロータリー作業体にて耕耘された耕耘土を整地する整地体と,この整地体を支持するとともに先端部に係止突部を有する支持ロッドと,前記機枠に設けられ前記支持ロッドを介して前記整地体を整地作業位置及び土寄せ作業位置に設定する整地体操作手段と,を具備し,前記機枠は,トラクタに連結される連結マストを有する農作業機の整地装置」である点において一致している。
33 ウ 相違点 本件発明と甲18発明とは,次の各点において相違する。
(ア) 本件発明は,「この整地体を駆動操作する正逆転用モータ」を有する(構成要件F)のに対し,甲18発明は,これを有さず,作業者が操作ハンドル20をトラクタ側から回動操作するものとされる点(以下「相違点1」という。)。
(イ) 本件発明は,「このモータを制御する遠隔操作用のスイッチ」を有する(構成要件G)のに対し,甲18発明はこれを有さない点(以下「相違点2」という。 。
) (ウ) 本件発明は,「前記正逆転用モータは,前記連結マストに固着されたブラケットに固定されている」構成を有する(構成要件I)のに対し,甲18発明はこのような構成を有さない点(以下「相違点3」という。)。
(4) 相違点に係る容易想到性の検討 ア 先行技術等について (ア) 本件特許の出願前に日本国内で頒布された刊行物である実願昭62-161459号(実開平1-66803号)のマイクロフィルム(乙7。以下「乙7文献」という。)には,均平板の高さ調整装置に関する考案について,次の記載がある(以下に示す頁数は,同文献中の「明細書」の頁数である。)。
「本考案は,田畑等の農地を均平にする均平板の高さ調整装置に関するものである。」(1頁) 「従来の技術・・・しかしながら,農作業の内容毎に均平装置をトラクタに対して取付けたりあるいは取外したりする作業が必要であり,均平装置自体の重量がかなり重いので,均平装置のトラクタに対する取付け及び取外し作業が大変であった。」(2頁) 「本考案の目的は,上述する欠点に対処して,均平板を上下に移動してトラクタより取外す必要がなく,作業の邪魔とならずに田畑等の農地の隅が耕せると共に,均平板による田の代掻きが行なえ,農作業の内容に合わせて均平板の移動が容易に行なうことができ,切換え操作も容易に行なうことが可能な均平板の高さ調整装置 34 を提供することにある。」(2頁ないし3頁) 「本考案の均平板の高さ調整装置は,端部をそれぞれ回動自在に軸着した平行四辺形リンク機構の一対を間隔を置いて互いに平行に配設し,前記一対の平行四辺形リンク機構の垂直移動リンクに均平板を装着し,前記垂直移動リンクに対向する固定リンクをリンク取付杆にそれぞれ一体に装着すると共に,前記リンク取付杆にモータを回動自在に装着し,前記モータの回転軸にねじ軸を連結し,前記一対の平行四辺形リンク機構の垂直移動リンクと固定リンクとを結合する移動リンク間に連結杆の両端をそれぞれ連結し,前記連結杆に移動体を回転自在に装着し,前記移動体のねじ取付孔に前記ねじ軸を螺着したことを特徴とする構成を有するものである。」(3頁) 「田畑を耕す時は,・・・切換作動スイッチSW4をモータMの正転側に操作すると,・・・均平板3が上方に移動して地面68より離脱し,トラクタ61を利用して田畑が耕される。」(13頁ないし15頁) 「田の代掻きを行なう時は,・・・切換作動スイッチSW4をモータMの逆転側に操作すると,・・・均平板3が下方に移動して地面68に当接し,均平板3による田の代掻きが行なわれる。」(15頁ないし17頁) (イ) 本件特許の出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開平4-45701号公報(乙10。以下「乙10公報」という。)には,トラクタにおけるロータリの姿勢制御装置に関する発明について,次の記載がある。
「前述した従来の姿勢調節装置は,ロータリーのポジシヨン設定の都度,作業者が手動で行うため操作が繁雑であり,迅速性に欠け作業性が良好ではない。そこで,姿勢調節装置を動力化し,自動制御するとともに,前記制御の応答性を可及的に迅速化して作業性を向上するために解決せられるべき技術的課題が生じてくるのであり,本発明は該課題を解決することを目的とする。」(1頁ないし2頁) 35 「前記ロータリ本体(2a)の後部と支持板(9)とは姿勢制御用シリンダ(10)を介して連結されている。前記姿勢制御用シリンダ(10)は第2図に示すようにシリンダ(11)にスクリユーロツド(12)を挿着し,該スクリユーロツド(12)をギヤ(13)(14)(15)を介してモータ(16)に結合している。
従って,モータ(16)の回転方向によりスクリユーロツド(12)に螺合したピストン(17)は伸長或は収縮し,前記トツプリンク(3)に結合した支持板(9)とロータリ本体(2a)との相対角度を変化させてロータリ本体(2a)の前後姿勢を調節する。」(2頁) 「又,モータ(16)のシヤフト(18)にはハンドル(19)を嵌着し,手動操作によつても調節可能となつている。そして,前記姿勢制御用シリンダ(10)と平行にストロークセンサ(20)を配設し,ロータリ本体(2a)の姿勢を電気的に検出するようにしている。前記モータ(16)並びにストロークセンサ(20)は,第1図に示すトラクタ(1)の制御装置(21)に接続される。」(2頁) 36 「前記制御装置(21)は,作業機の高さを調節するポジシヨンレバー(22),前記ロータリ(2)の姿勢調節を自動又は手動に切換える姿勢モードスイツチ(23) 手動にて前記姿勢制御用シリンダ , (10)を伸縮させる手動スイツチ(24),自動モード時のロータリ(2)の姿勢を設定する姿勢設定ダイヤル(25)が配設されている。」(2頁) イ 相違点1に係る容易想到性について (ア) 甲18発明は,前記(2)アのとおり,従来の代掻均平装置は,均平板を代掻作業位置と土寄せ作業位置とに切り換えるに際し,操作レバーに設けたストッパを回動させる構成を有していたが,均平板に相応の重量があることから,ストッパを容易に回動させることができないとの課題を有していたところ,かかる課題の解決手段として,ストッパに,操作ロッドのロック杆と係合又は係合解除する滑り面を設けるとの構成を採用することにより,作業者がトラクタに乗ったまま,操作レバーによりストッパを回動させて均平板を代掻作業位置と整地作業位置とに切り換える 37 ことができるとの作用効果を奏するものである。
他方,乙7文献には,相応の重量のある農地均平装置について,農作業の内容に合わせて均平板の高さを上下に移動する切換え操作を容易に行うべく,「正転側」と「逆転側」とに動作するモータ,すなわち,正逆転用モータの駆動力を利用して均平板を上下させる構成が開示されているものと認められる。
また,乙10公報には,トラクタにおけるロータリの姿勢制御装置に関し,モータの正逆転回転運動を利用してシリンダを通じてピストンを伸縮させ,ロータリの姿勢を調整する構成が開示されているが,回動運動を行うモータのシャフトにハンドルを嵌着し,手動によりハンドルを操作して姿勢を調整することもできる旨が明記されており,ハンドルを手動操作することによる回動運動と正逆転用モータによる回動運動とが相互に置換可能である旨の技術が開示されているものと認められる。
(イ) ところで,甲18発明と,乙7文献及び乙10公報に記載された技術とは,いずれもトラクタに設置される農作業機という共通の技術分野に属し,かつ,相応の重量を有する装置の位置の切換えを容易に行うことを課題とする点においても共通している。そして,前記(ア)のとおり,乙7文献には,正逆転用モータの駆動力を利用して,相応の重量を有する均平板の高さを上下に移動する切換え操作を容易に行うことができる旨が記載されていること,乙10公報に記載された構成によれば,ハンドルを手動操作することによる回動運動と正逆転用モータによる回動運動とが相互に置換可能である旨が開示されていることからすれば,甲18発明に接した当業者において,均平板を均平作業位置と土寄せ作業位置とに切り換えるために, 「作業者が(ストッパ24に固着された)操作ハンドル20をトラクタ側から回動操作する」ことに代えて,乙7文献や乙10公報に開示された「正逆転用モータによる回動運動」を適用し,これによりストッパを回動させ,相応の重量を有する均平板(整地体)の位置を切り換える構成とすることには,動機付けがあり,他方,そのような構成を採用することを妨げる事情は見当たらないということができる。
(ウ) したがって,甲18発明において,均平板を均平作業位置と土寄せ作業位置 38 とに切り換えるために「作業者が(ストッパ24に固着された)操作ハンドル20をトラクタ側から回動操作する」との構成に代えて,乙7文献や乙10公報に開示された「正逆転用モータ」を適用して,その回動運動により(ストッパを回動させ),均平板(整地体)を駆動操作する構成(相違点1に係る本件発明の構成)にすることは,当業者が容易に想到することができたことである。
(エ) この点について,原告は,乙7文献記載の「モータ」は,単に均平板を上下に移動させるものにすぎず,また,乙10公報記載の「モータ」は整地体を操作するものではないから,これらの「モータ」を甲18発明に適用する動機付けがないと主張する。
しかし,乙7文献及び乙10公報に,「モータ」が「整地体を整地作業位置と土寄せ作業位置に設定する整地体操作手段を駆動操作する」との記載がないとしても,前記(イ)のとおり,甲18発明と乙7文献及び乙10公報に記載された技術とは,いずれもトラクタに設置される農作業機という共通の技術分野に属し,かつ,相応の重量を有する装置の位置の切換えを容易に行うことを課題とする点においても共通しているところ,前記(ア)のとおり,甲18発明は,代掻均平装置において均平板の位置を切換設定するストッパを容易に回動させるべく,ストッパに,操作ロッドのロック杆と係合又は係合解除する滑り面を設けるとの構成を採用しているものであって,そこでは,均平板を均平作業位置と土寄せ作業位置とに切換設定するストッパをいかに容易に回動させるかという課題が明確に意識されている。そして,既に述べたとおり,乙7文献には,正逆転用モータの駆動力を利用して,相応の重量を有する均平板の高さを上下に移動する切換え操作を容易に行うことができる旨が記載されていること,乙10公報に開示された上記構成によれば,ハンドルを手動操作することによる回動運動と正逆転用モータによる回動運動とが相互に置換可能である旨が開示されていることからすれば,これらの開示に接した当業者は,甲18発明において課題として認識されている「均平板を均平作業位置と土寄せ作業位置とに切換設定するストッパをいかに容易に回動させるか」という課題を解決し得る 39 ものとして,乙7文献や乙10公報に記載された「モータ」を甲18発明に適用する動機付けがあるということができる。
したがって,原告の主張は採用することができない。
ウ 相違点2に係る容易想到性について 乙10公報には,前記ア(イ)のとおり,モータを接続する制御装置をトラクタ(の運転席付近)に設け,これにモータを駆動操作するスイッチを設ける構成が開示されている。
ここで,既に述べたとおり,甲18発明と乙10公報に記載された技術とは,いずれもトラクタに設置される農作業機という共通の技術分野に属し,かつ,相応の重量を有する装置の位置の切換えを容易に行うことを課題とする点においても共通しているところ,甲18発明の「作業者が操作ハンドル20をトラクタ側から回動操作する」との点を乙10公報に開示された「正逆転用モータによる回動運動」に置換し,これにより相応の重量を有する均平板(整地体)の位置を切り換える構成とした場合に,作業者が,トラクタに乗車したまま均平板(整地体)の位置を切り換えることができるよう,甲18発明に,乙10公報に開示された「モータを駆動操作するスイッチを運転席付近に設ける」構成を適用することには,動機付けがあり,他方,そのような構成を採用することを妨げる事情は見当たらないということができる。
したがって,甲18発明に「正逆転用モータによる回動操作」により均平板(整地体)の位置を切り換える構成とした場合,甲18発明に,乙10公報に開示された「モータを駆動操作するスイッチを運転席付近に設ける」構成を適用して,モータを制御する遠隔操作用スイッチを有する構成(相違点2に係る本件発明の構成)にすることは,当業者が容易に想到することができたことである。
エ 相違点3に係る容易想到性について 甲18発明に「正逆転用モータによる回動操作」により均平板(整地体)の位置を切り換える構成とした場合には,当該正逆転用モータを機体のいずれかの部位に 40 固着させる必要があることは明らかであるところ,当業者は,当該モータとの設置部位と設置態様を適宜選択して設計することができるといえ,当該モータがストッパ24を回動させるために設けられることからすれば,機体のうち,ストッパ24の近傍にあるトップリンク連結部2に当該モータを固着することは,モータの動力を伝達する機構を設計する上でも合理的であり,「機械部品同士を結合させるための支持具・取付け金具」(乙16)であるブラケットを用いて固着する構成と併せて,これらの構成(相違点3に係る本件発明の構成)は,当業者が適宜選択,設計して容易に想到することができたことである。
オ 小括 以上によれば,本件発明は,本件特許出願当時,当業者が,甲18発明に対し,乙7文献や乙10公報に示された公知の構成を適用し,又は適宜設計することにより,容易に発明することができたものであると認められる。
(5) まとめ したがって,本件発明についての特許は,特許法123条1項2号の無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない(特許法104条の3第1項)。
2 争点1(被告各製品は本件発明1の技術的範囲に属するか)について 上記1のとおり,本件発明についての特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができないというべきであるが,事案に鑑み,被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かについても,検討しておく。
(1) 争点1-3(被告各製品は構成要件E及び同Fを充足するか)について ア 構成要件Eの解釈について (ア) 構成要件Eは,「前記機枠に設けられ前記支持ロッドを介して前記整地体を整地作業位置及び土寄せ作業位置に設定する整地体操作手段と,」と規定する。
この点について,原告は,「整地作業位置」とは,「整地体が上下回動自在とな 41 り,整地作業に応じた状態」をいい,この「整地作業位置」及び「土寄せ作業位置」に「設定する」とは,支持ロッドをロックし,又はロック解除することにより,整地作業に応じた状態」 「土寄せ作業に応じた状態」 や になることをいうのであって,整地体の場所の移動を伴うことを要するものではないと主張し,また,「支持ロッドを介して」とは,支持ロッドが整地体操作手段と整地体との間にあるとの位置関係を特定したものであると主張する。
これに対し,被告は,「整地作業位置」及び「土寄せ作業位置」への「設定」は,整地体が2つの異なる「位置」に設定される,すなわち,整地体の場所の移動を伴うことを要すると主張し,また,「支持ロッドを介して・・・設定する」とは,支持ロッドを介して何らかの作用が整地体に及ぼされることをいうと主張する。
(イ) そこで検討するに,特許発明技術的範囲は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきである(特許法70条1項〔ただし,平成14年法律第24号による改正前の規定〕)。
本件明細書の特許請求の範囲には,「前記整地体を整地作業位置及び土寄せ作業位置に設定する」(判決注:下線を付した。)と記載されているところ,「位置」とは,通常,「ある人・物・事柄が,他との関係もしくは全体との関係で占める場所,あるいは立場」という意義を有する(広辞苑第六版)のであるし,技術的意義を考慮するとしても,整地体は,整地作業をする際には,圃場を均すために圃場面に対して略平行になると考えられるのに対し,土寄せ作業をする際には,土をかき寄せるために圃場面に対して垂直又はある程度の角度をもって接すると考えられるのであるから,「整地作業位置」と「土寄せ作業位置」とでは,整地体の「場所」が異なるものと解するのが自然である。
また,本件明細書の特許請求の範囲には,「前記機枠に設けられ前記支持ロッドを介して前記整地体を整地作業位置及び土寄せ作業位置に設定する整地体操作手段」(判決注:下線を付した。)と記載されているところ,同記載は,文言の係り結びからして,「整地体操作手段が,支持ロッドを介して,整地体を各位置に設定する」 42 旨を記載していると解される。そうすると,支持ロッドは,単に整地体操作手段と整地体との間に存在するというのみならず,整地体操作手段が整地体を各位置に設定するに際して,整地体操作手段からの作用を整地体に伝達する機能を果たしているものと解するのが自然である。
(ウ) 次に,特許請求の範囲以外の本件明細書の記載等を参照する(特許法70条2項〔ただし,平成14年法律第24号による改正前の規定〕)。
a 本件明細書の段落【0007】ないし同【0009】には,「整地作業位置」に関し,次の記載がある。
「【作用】本発明の農作業機の整地装置では,整地作業を行う場合には,スイッチをONしてモータを動作させると,このモータの正転方向の回転駆動により係合体が支軸を中心として回動され,この係合体の係合凹部が支持体の支軸から外れる方向に向かって回動され,この係合凹部が支持体の支軸から外れるとともに,この係合凹部の一側部にて支持体の支軸が押動される。」「そして,この支持体を有する回動体がブラケットの支軸を中心として回動され,この回動体の係合部が支持ロッドの先端部の係止突部から外れ,この支持ロッドのロックが解除され,この支持ロッドは支持体に対して軸方向に進退自在の状態になるが,この際,支持ロッドは先端部の係止突部が支持体に係止されることにより抜け止めされる。」「また,支持ロッドのロックが解除されることにより,この支持ロッドに支持された整地体は土寄せ作業位置から上下回動自在の整地作業位置に切替え設定される。 (判決注: 」下線を付した。) b また,本件明細書の段落【0010】ないし同【0012】には,「土寄せ作業位置」に関し,次の記載がある。
「土寄せ作業を行う場合には,スイッチをONしてモータを動作させると,このモータの逆転方向の回転駆動により係合体が支軸を中心として前記の場合とは反対方向に回動され,この係合体の係合凹部が支持体の支軸に向かって回動され,この係合凹部が支軸に係合されるとともに,この係合体にて支持体を有する回動体がブ 43 ラケットの支軸を中心として前記の場合とは反対方向に連動されて復帰回動される。」「そして,この回動体の係合部が支持ロッドの先端部の係止突部に係合されるとともに,この回動体の係合部にて支持ロッドの係止突部が軸方向に向かって押動され,この支持ロッドが支持体に沿って押し戻され,この支持ロッドの係止突部がブラケットに当接されることにより,この回動体及び係合体にて支持ロッドがロックされる。」「また,支持ロッドがロックされることにより,この支持ロッドに支持された整地体は整地作業位置から土寄せ作業位置に切替え設定される。」(判決注:下線を付した。) c 本件明細書には,「【図1】本発明の一実施例を示す農作業機の整地装置の側面図である。【図2】同上支持ロッドをロックした状態の整地体操作機構部の側面図である。【図3】同上支持ロッドのロックを解除した状態の整地体操作機構部の側面図である。」として,次の図面が記載されている。
44 d 本件明細書の上記記載等によれば,本件明細書は,「整地作業位置」について,支持ロッドのロックが解除され,整地体が上下に回動自在とはなるが,支持ロッドの先端部の係止突部が支持体に係止されることにより抜け止めされ,このために,特定の位置以降は,整地体の下方への回動は制限されるものと説明する一方,支持ロッドが押し戻されてロックされることにより,整地体は「土寄せ作業位置」に設定されると説明している。ここで,支持ロッドがロックされることにより整地体も回動しなくなるのであるから,支持ロッドが押し戻される場合には,整地体もこれに伴って移動するものと考えられる(特許請求の範囲の「支持ロッドを介して・・・設定する」との文言とも符合する。)。
このことは,上記図面のうち,「支持ロッドをロックした状態」,すなわち,「土寄せ作業位置」に設定したときの「支持ロッド26」と「整地体14」の位置関係(【図1】の実線記載部分と【図2】参照)と,「支持ロッドのロックを解除した状態」,すなわち,「整地作業位置」に設定したときの「支持ロッド26」と「整地体14」の位置関係(【図1】の破線記載部分と【図3】参照)とを対照すればより明らかとなる。
e なお,原告は,本件明細書の上記記載部分などは,いずれも特許請求の範囲の請求項2記載の発明に関する記載であるとして,本件発明の技術的範囲の解釈に影響するものではないと主張するが,上記に認定した本件明細書の段落【0007】ないし同【0012】は,本件明細書で開示する発明(当然,本件発明を含むものである。)の【作用】欄として記載された部分の全てであり,特許請求の範囲の請求項2記載の発明についてのみ説明したものとは解されないし,本件発明について上記記載と異なる機序により作用を奏することをうかがわせるような記載は,本件明細書には見当たらない。また,本件明細書には,実施例がひとつしか記載されておらず,上記に認定した本件明細書の図面に記載されたものと異なる機序により作用を奏することをうかがわせるような記載は,やはり本件明細書には見当たらない。
したがって,本件発明の特許請求の範囲の記載を解釈するに際して,本件明細書の 45 段落【0007】ないし同【0012】や図面を参酌することは,むしろ当然というべきである。
(エ) 特許請求の範囲を含む本件明細書の記載等の上記検討結果からすれば,構成要件E(「前記機枠に設けられ前記支持ロッドを介して前記整地体を整地作業位置及び土寄せ作業位置に設定する整地体操作手段と,」)は,整地体操作手段が整地体を整地作業位置及び土寄せ作業位置へ設定するに際して,整地体操作手段から支持ロッドに作用を及ぼし,この作用が整地体に伝達されることにより,整地体の場所が,異なる場所(「位置」)に移動することを規定しているというべきであり,かかる作用を及ぼすものが「整地体操作手段」に当たると解するのが相当である。
(オ) これに対し,原告は,「整地作業位置」とは「整地体が上下回動可能な状態となり,整地作業に応じた状態」と解すべきと主張し,これと「土寄せ作業位置」との設定に際して,整地体の場所の移動を伴うことを要するものではないと主張する。
そもそも,特許請求の範囲に明確に「位置」と記載しているものを,あえて「状態」と読み替えるべき根拠は,本件明細書には見当たらないというべきである(原告が主張する段落【0003】は,発明が解決すべき課題に関する記載であって,本件発明が有する構成の説明ではないし,同【0009】及び同【0029】の記載は,整地体の場所の移動を伴うことを要するとの解釈と矛盾しないというべきである。)。
ところで,本件明細書の段落【0012】は,「支持ロッドがロックされることにより,この支持ロッドに支持された整地体は整地作業位置から土寄せ作業位置に切替え設定される。」として,支持ロッドをロックすると,整地体が「土寄せ作業位置」に切替え設定されると明確に記載しているが,原告は,このように支持ロッドがロックされることにより設定された「土寄せ作業位置」にある整地体が,いかなる位置にあるかを具体的に主張していない。すなわち,原告の主張によれば,「土寄せ作業位置」とは,「整地体が整地作業に応じた状態」をいうのであろうが,本 46 件明細書が「支持ロッドは先端部の係止突部が支持体に係止されることにより抜け止めされる」(段落【0008】)と記載する状態(すなわち,整地体が「整地作業位置」に設定された状態)から「整地体が整地作業に応じた状態」に設定される際に,整地体が移動するか否かについては何ら主張していない。
しかし,「土寄せ作業に応じた状態」とは,土を寄せる作業を行うに適した状態ということであるから,整地作業を行う場合よりも,整地体が圃場面に対して垂直又はある程度の角度をもって接し,かつ,整地体が固定されている必要があると考えられるが,この場合の整地体の位置が,「整地体が上下回動自在となり,整地作業に応じた状態」の位置と一致するためには,「トラクタにより作業機全体を持ち上げ,整地体が自重により下方に回動したが,支持ロッドの先端部の係止突部が支持体に係止されることにより抜け止めされているために,又は整地体が圃場面に接しているために,これ以上整地体が下方へ回動しない位置」にあるときに支持ロッドがロックされ,ロックされた際の整地体の位置がロックする前の整地体の位置と変わらなかった,という場合を想定しなければならないが,本件明細書には,トラクタによる作業機全体の持上げ動作を含め,そのような場合を想定した記載は何らうかがわれない。
そうすると,本件明細書の段落【0012】が,「支持ロッドがロックされることにより,この支持ロッドに支持された整地体は整地作業位置から土寄せ作業位置に切替え設定される。」と記載しているのは,やはり整地体の場所が移動していることを意味していると解するのが素直というべきである。
したがって,原告の主張は採用することができない。
イ 被告各製品について (ア) 被告各製品において,コントロールロッドのロックを解除すると,レベラがごくわずかに上方に回動するが(甲13の1),この回動は,コントロールロッドのロックを解除した際のはずみといって差し支えないほどのごくわずかな回動であって,それ以上に上方に回動することはなく,「位置」が設定されて移動したもの 47 とは評価することができないものであるし,その際のレベラの位置は,整地作業位置(整地作業に適した位置)であるとはいえない。
(イ) 次に,被告各製品は,@コントロールロッドをロックしてレベラを圃場に当接させた状態でコントロールロッドのロックを解除すれば,レベラが上方に回動することがあり(甲13の2),また,Aコントロールロッドのロックを解除し,レベラがそれ以上下方には回動しない状態とした上,作業機全体を十分に持ち上げてコントロールロッドをロックすれば,レベラは下方に回動する(当事者間に争いがない。)。
しかしながら,上記@の場合において,レベラは,コントロールロッドのロックが解除されたことにより上下回動自在となったところ,圃場面に接していることから,圃場面から上方への作用を受けて上方に回動し,整地作業位置(整地作業に適した位置)となった(作業者がレベラを圃場面に押し付けるような作業をし,レベラが圃場面から作用を受けている状態で,作業者がコントロールロッドのロックを解除したことにより,レベラが移動し,整地作業位置となった)ものというべきであって,モータの回動運動から伝達された作用がコントロールロッドに及ぼされてこれがレベラに伝達されることによりレベラが移動したものではないから,「支持ロッドを介して・・・整地作業位置・・・に設定」するもの(整地体操作手段にて整地作業位置に設定するもの)には当たらない。
また,上記Aの場合にレベラの場所が移動することは確かであるが,特許請求の範囲の請求項1は,「前記整地体を整地作業位置及び土寄せ作業位置に設定する整地体操作手段と,この整地体操作手段を駆動操作する正逆転用モータ」と規定しており,本件明細書の段落【0007】ないし同【0012】の記載からしても,本件発明は,整地体を整地作業位置に設定する動作と土寄せ作業位置に設定する動作とを対の運動(モータの正逆運動)により制御・操作されるものと規定していることが明らかである。しかるところ,上記Aの場合(コントロールロッドのロックを解除し,レベラがそれ以上下方には回動しない状態とした上,作業機全体を十分に 48 持ち上げてコントロールロッドをロックし,レベラが下方に回動した状態)とした後,更にコントロールロッドのロックのロックを解除しても,上記(ア)のとおり,レベラは,ごくわずかにしか上方に回動せず,これをもって「位置」が設定されて移動したものと評価することはできないというべきであるから,上記Aの事実のみをもって,被告各製品が「支持ロッドを介して前記整地体を整地作業位置及び土寄せ作業位置に設定する」ものであるということはできない。
ウ 小括 以上によれば,被告各製品においては,本件発明の「整地体」に相当するレベラは,本件発明の「支持ロッド」に相当するコントロールロッドに及ぼされる作用が伝達されることによって,「整地作業位置」と「土寄せ作業位置」という2つの異なる場所に移動するものではない。
したがって,被告各製品は,「前記機枠に設けられ前記支持ロッドを介して前記整地体を整地作業位置及び土寄せ作業位置に設定する整地体操作手段」を有さず,構成要件Eを充足しないというべきである。
(2) 争点1の小括 以上によれば,その余の構成要件充足性を検討するまでもなく,被告各製品は,本件発明の技術的範囲に属するものとは認められない。
3 結論 以上によれば,その余の争点について検討するまでもなく,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 嶋末和秀
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