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事件 平成 25年 (ワ) 7478号 特許権侵害差止等請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2016/10/14
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成28年10月14日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官

平成25年(ワ)第7478号 特許権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日 平成28年8月17日

判 決

別紙当事者目録記載のとおり

主 文

1 被告E&E Japan株式会社は,原告に対し,38万円及び

これに対する平成25年4月24日から支払済みまで年5分の割合

による金員を支払え。

2 被告株式会社立花エレテックは,原告に対し,20万3000円

及びこれに対する平成25年4月24日から支払済みまで年5分の

割合による金員を支払え。

3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

4 訴訟費用は,原告に生じた費用の6分の1と被告E&E Jap

an株式会社に生じた費用の3分の1を被告E&E Japan株

式会社の負担とし,原告に生じた費用の6分の1と被告株式会社立

花エレテックに生じた費用の3分の1を被告株式会社立花エレテッ

クの負担とし,その余を原告の負担とする。

5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができ

る。

事 実 及 び 理 由

第1 請求の趣旨

1 被告E&E Japan株式会社は,原告に対し,124万円及びこれに対

する平成25年4月24日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分

の割合による金員(ただし,第2項の金員の限度で被告株式会社立花エレテ

ックと連帯して)を支払え。




2 被告株式会社立花エレテックは,原告に対し,被告E&E Japan株式

会社と連帯して,106万円及びこれに対する平成25年4月24日(訴状

送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は被告らの負担とする。

4 仮執行宣言

第2 事案の概要

本件は,発明の名称を「窒化ガリウム系化合物半導体チップの製造方法」と

する特許権(特許第2780618号)を有していた原告が,被告E&E

Japan株式会社(以下「被告E&E」という。)が輸入して被告株式会

社立花エレテック(以下「被告立花」という。)に販売し,被告立花におい

てこれを第三者に販売等した別紙物件目録記載の青色LEDは,上記特許権

の特許請求の範囲請求項1記載の発明の技術的範囲に属する製造方法により

製造されたものであると主張し,民法709条に基づく損害賠償として,被

告E&Eに対しては124万円(ただし,106万円の範囲で被告立花と連

帯して),被告立花に対しては被告E&Eと連帯して106万円,及びこれ

らに対する不法行為後の日(訴状送達の日の翌日)である平成25年4月2

4日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を

求めた事案である。

1 前提事実(当事者間に争いがない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣

旨により容易に認定できる事実)

(1) 当事者

ア 原告は,半導体及び関連材料,部品,応用製品の製造,販売並びに研究

開発などを業とする株式会社である。

イ 被告E&Eは,電子部品の輸出入及び販売等を業とする株式会社である。

ウ 被告立花は,各種電気機械器具,照明機械器具,電子応用機械器具等の

製造・販売,半導体素子等の輸出入及び販売等を業とする株式会社である。




(2) 原告の有していた特許権

原告は次の特許権を有していた(以下「本件特許権」といい,その特許

請求の範囲請求項1記載の発明を「本件発明」と,本件特許に係る明細書

及び図面を「本件明細書等」という。本件特許の特許公報を末尾に添付す

る。)。〔甲1,2〕

登録番号 第2780618号

発明の名称 窒化ガリウム系化合物半導体チップの製造方法

出願日 平成5年11月6日(特願平5−300940号)

公開日 平成7年5月19日(特開平7−131069号)

登録日 平成10年5月15日

存続期間満了日 平成25年11月6日

(3) 本件発明の内容

本件発明に係る特許請求の範囲の記載は末尾添付の特許公報該当欄記載の

とおりである。

(4) 構成要件の分説

本件発明を構成要件に分説すると,以下のとおりである(以下「構成要件

A」などと表記する。)。

A サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体を積層したウエハー

から窒化ガリウム系化合物半導体チップを製造する方法において,

B 前記ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側から第一の割り溝を

所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成すると共に,第一の割

り溝の一部に電極が形成できる平面を形成する工程と,

C 前記ウエハーのサファイア基板側から第一の割り溝の線と合致する位

置で,第一の割り溝の線幅(W1)よりも細い線幅(W2)を有する第

二の割り溝を形成する工程と,

D 前記第一の割り溝および前記第二の割り溝に沿って,前記ウエハーを




チップ状に分離する工程とを具備することを特徴とする

E 窒化ガリウム系化合物半導体チップの製造方法

(5) 本件特許の出願経過

ア 原告は,平成5年11月6日,本件特許出願をした。〔乙8〕

特許庁審査官は,平成9年8月5日付けで拒絶理由通知をした。

原告は,平成9年10月20日付けで本件特許出願につき手続補正

(以下「本件補正」という。)をするとともに,同日,特願平9−30

6394号(以下「別件分割出願」という。)を分割出願した。

本件補正において,原告は,特許請求の範囲請求項1の記載につき,

「サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体を積層したウエハー

から窒化ガリウム系化合物半導体チップを製造する方法において,前記

ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側から第一の割り溝を所望の

チップ形状で線状にエッチングにより形成すると共に,第一の割り溝の

一部に電極が形成できる平面を形成する工程と,前記ウエハーのサファ

イア基板側から第一の割り溝の線と合致する位置で,第一の割り溝の線

幅(W1)よりも細い線幅(W2)を有する第二の割り溝を形成する工

程と,前記第一の割り溝および前記第二の割り溝に沿って,前記ウエハ

ーをチップ状に分離する工程とを具備することを特徴とする窒化ガリリ

ム系(窒化ガリウム系の誤記であることにつき当事者間に争いがない。

以下「窒化ガリウム」と表記する。)化合物半導体チップの製造方法。」

(下線が補正箇所)とする補正を行った。〔乙7〕

平成10年4月3日,本件特許につき特許査定がされた。

イ 別件分割出願については,平成10年12月11日に,特許第2861

991号として設定登録がされ,平成11年2月24日に特許公報が発

行されたが,同年8月24日付けで異議申立て(平成11年異議第73

221号)がされたため,原告は,平成12年1月17日に訂正請求を




行い,同年4月30日付けで訂正請求書の補正を行い,同日,意見書

(乙15)も提出したが,同年6月16日付け異議決定により,特許が

取り消された。〔乙10〕

(6) 無効審判請求の経緯及び原告による訂正請求

ア 台湾法人である訴外エヴァーライト エレクトロニクス カンパニー

リミテッド(以下「エヴァーライト」という。)は,平成25年6月2

8日,本件特許の特許請求の範囲請求項1ないし4の発明につき,無効

審判請求(無効2013−800114号事件)をした。〔甲8〕

原告は,同年9月20日,そのうちの請求項1(本件発明)につき,

訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)をした。〔甲9〕

イ 特許庁は,平成26年9月19日,本件訂正請求の一部の訂正事項は本

件特許の明細書に記載した事項の範囲内の訂正とは認められず,これを含

む本件訂正請求は特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項

の規定に適合しないとして訂正を認めないとした上で,審判の請求は成り

立たないとの審決をした。〔甲21〕

これに対しては,エヴァーライトが,知財高裁に対し,審決取消訴訟

(知財高裁平成27年(行ケ)第10015号事件)を提起した。〔弁

論の全趣旨〕

知財高裁は,平成28年3月10日,上記事件につき,エヴァーライト

の請求を棄却する判決をした。〔甲26〕

ウ 原告は,本件において,本件訂正請求に基づく訂正の再抗弁を主張して

いたが,平成27年4月21日の弁論準備手続期日において,当該訂正

の再抗弁の主張を撤回した。

(7) 被告らの行為

ア 被告E&Eは,別紙物件目録記載1のLED(以下「イ号LED」とい

う。)及び同目録記載2のLED(以下「ロ号LED」といい,イ号LE




Dと併せて「被告LED」という。)を販売したことがある。

なお,被告LEDは被告E&Eが株式を保有するエヴァーライトが製造

した製品である。

被告LEDはいずれも青色発光するLEDであり,窒化ガリウム系半導

体チップを搭載している(以下,イ号LEDに搭載されたチップを「イ号

チップ」と,ロ号LEDに搭載されたチップを「ロ号チップ」と,これら

を併せて「被告チップ」という。)。〔弁論の全趣旨〕

イ 被告立花は,平成24年9月,株式会社イガラシ(以下「イガラシ」と

いう。)からLEDの購入に関する問い合わせを受け,同社との打ち合わ

せを経て,平成25年1月,被告E&Eからイ号LED1000個及びロ

号LED500個の譲渡を受けた上で,それらをイガラシに対して合計3

万円(各単価20円)で売却した。〔丙4の1の1ないし4の8の2,

8〕

(8) 被告チップの製造方法と本件発明の構成要件との関係

構成要件充足性

被告チップの製造方法(以下「被告方法」といい,このうちイ号チップ

製造方法を「イ号方法」,ロ号チップの製造方法を「ロ号方法」とい

う。)は,本件発明の構成要件A及びEを充足する。

イ 被告方法におけるLMA法の使用(構成要件C及びD関係)

本件発明のようなウエハーのサファイア基盤側の加工方法には,(物理

的)スクライブ,レーザースクライブ等の方法があり,このうち,レーザ

ースクライブには,LMA法(融解改質法。Laser Melting Alteration法。

甲20の137〜138頁)とアブレーション加工がある。

被告方法では,上記のうちLMA法が使用されている。

(9) 別件訴訟について

ア 原告は,当裁判所に対し,被告らが原告の有する特許第3972943




号(以下「別件特許権1」という。)及び特許第3786114号を侵害

していると主張して,特許権侵害差止等請求事件(当庁平成26年(ワ)

第8905号。以下「別件訴訟」という。)を提起した。原告は,別件訴

訟において,被告らが本件のイ号LEDを譲渡等する行為が上記各特許権

侵害する行為であると主張していた。

イ 同裁判所は,平成28年6月15日,被告らが本件のイ号LEDを譲渡

等する行為は別件特許権1を侵害する行為であると認め,被告E&Eに対

しては25万5000円(逸失利益10万5000円及び弁護士費用15

万円),被告立花に対しては15万2000円(逸失利益2000円及び

弁護士費用15万円)の支払を命じる一部認容判決を言い渡したところ,

被告らは,その後,上記認容額に遅延損害金を付した金額を原告に支払っ

た。〔乙74ないし76,丙10,11〕

(10) 本件特許の出願日前の先行文献の存在

本件特許の出願日(平成5年11月6日)の前には,以下の先行文献が存

在する。

ア 特開平5−129658号公報(乙2。発明の名称 窒化ガリウム系化

合物半導体発光素子,出願人 豊田合成株式会社他1名,出願日 平成3年

10月30日。以下「乙2公報」という。)

イ 実開平4−5064号(実開平5−59861号)のCD−ROM(乙

3。考案の名称 窒化ガリウム系化合物半導体素子,出願人 原告,出願日

平成4年1月13日。以下「乙3公報」という。)

ウ 特開平5−166923号公報(乙6。発明の名称 窒化ガリウム系化

合物半導体ウエハーの切断方法,出願人 原告,出願日 平成3年12月1

2日。以下「乙6公報」という。)

2 争点

(1) 被告方法は本件発明の技術的範囲に属するか




構成要件Bの充足性

(ア)「エッチングにより」の充足性

(イ)「第一の割り溝・・・と共に・・電極が形成できる平面を形成する」の充足



(ウ)「第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成する」の充足性

構成要件C及びD「第二の割り溝」の充足性

(2) 構成要件C及びD「第二の割り溝」についての均等侵害の成否

(3) 本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものか

ア 乙2公報に基づく新規性ないし進歩性欠如の有無

イ 乙3公報に基づく進歩性欠如の有無

ウ 本件補正における新規事項追加の有無

エ 乙6公報及び乙3公報に基づく進歩性欠如の有無

(4) 損害発生の有無及びその額

(5) 弁済の抗弁の成否

第3 争点に関する当事者の主張

1 争点(1)ア(ア)(構成要件Bの「エッチングにより」の充足性)について

〔原告の主張〕

(1) イ号方法は,サファイア基板上に窒化ガリウム系半導体を積層したウエハ

ーを,下記の模式図のように,その半導体層側から半導体層の一部をエッチ

ングで除去することにより,所定の形状のn型半導体層(水色部分)を露出

させる方法である。この露出面は,縦ストライプ部A1(約21μm幅:約

9μm+約12μm),横ストライプ部A2(約32μm幅:約17μm+約1

5μm)とn電極を形成する電極形成部A3が設けられるように形成される。

ロ号方法は,ストライプ部の幅が,縦ストライプ部A1では約51μm幅

(約24μm+約27μm)であり,横ストライプ部A2では約51μm幅

(約28μm+約23μm)であるほかは,イ号方法と同じである。




電極形成部 A3




C C

横ストライプ部 A2




縦ストライプ部 A1


n型半導体層の露出面形成後にウエハーを半導体層側から見た一部平面図

したがって,被告方法においては,ウエハーの窒化ガリウム系化合物半

導体層側に縦ストライプ部A1,横ストライプ部A2及び電極形成部A3

を含め,n型半導体が露出した部分をエッチングにより形成しているから,

構成要件Bを充足する。

(2) 被告らの主張に対する反論

被告らは,被告方法がエッチングを採用していない旨主張する。

被告チップのようなLEDチップを作成するに当たっては,特定領域の

半導体層の膜厚を部分的に薄くしたn電極形成面を形成するため,@特定

領域以外の領域のみ成長を続けさせて,特定領域の膜厚を薄くする「選択

成長」という方法か,A特定領域の半導体層を除去する「エッチング」と

いう方法のいずれかが用いられるが,実務的には,エッチングの方が工程

数は少ないこと,選択成長では結晶の面方位を考慮してマスクパターンを

作成する必要があること,選択成長ではウエハーの在庫の自由度が下がる

ことから,エッチングの方が選択成長よりも有利である。このため,LE

Dチップ量産時のn電極面形成工程において,通常,選択成長が採用され




ることはない。

また,被告チップは,エッチングに特有の形状を有している。すなわち,

被告チップの上面は,pn段差部の一部が丸みを帯びた滑らかな曲線形状

となっているが(甲17の5頁図3),選択成長では直線状になるのであ

って,曲線形状になることはない。また,pn段差部近傍の断面は,pn

段差部が湾曲した傾斜面となっているが(甲17の6頁図5),選択成長

では直線形状となるのであって,湾曲した傾斜面になることはない。さら

に,p電極形成面の凹凸は先鋭な形状であるのに対し,n電極形成面の凹

凸はエッチングにより削られたと考えられる丸みを帯びた形状である。

したがって,被告チップのn電極形成面はエッチングにより形成された

ものである。

〔被告らの主張〕

原告は,本件方法においてエッチングを用いたことの合理的な立証を行っ

ていない。

原告も,半導体層の形成方法として,エッチングと選択成長があることを

認めているところ,実務的にはたとえ通常は採用されない方法であるとして

も,特許権侵害を回避するために,不利な工程である選択成長を採用する可

能性は当然にあり得る。

また,原告は,被告チップがエッチングに特徴的な形状をしていると主張

するが,そのような形状は,選択成長により「第一の割り溝」を形成し,そ

の後,n電極形成面を形成するに当たってエッチングをしたことによって形

成された可能性もある。その場合,選択成長により形成された「第一の割り

溝」部分が,n電極形成面を形成するエッチングにより一定程度削られるこ

とは当然に起こりうることであって,被告チップのチップ外周部の割り溝が

エッチング特有の形状を有していても,「第一の割り溝」部分がエッチング

により形成されたとはいえない。




したがって,この点に関する原告の主張は失当である。

2 争点(1)ア(イ)(構成要件Bの「第一の割り溝・・・と共に・・電極が形成できる

平面を形成する」の充足性)について

〔原告の主張〕

(1) 被告方法は,ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側に縦ストライ

プ部A1,横ストライプ部A2及び電極形成部A3を含むn型半導体が露

出した部分をエッチングにより形成しているから,構成要件Bを充足する。

(2) 被告らの主張に対する反論

被告らは,別件分割出願に係る特許異議事件において提出された意見書

(乙15)の記載を引用し,n電極形成工程と割り溝形成工程とは別工程

となるのが技術常識であったから,被告方法においても,両工程が別工程

であった可能性があると主張する。

しかし,上記意見書(乙15)の記載は,エッチングにより割り溝の形

成とn電極領域の形成とを一つの工程で実施することを提案する前の事情

を説明するものにすぎず,本件発明が公開され,エッチングにより割り溝

の形成とn電極領域の形成とを一つの工程で実施する技術が公知となった

以上,それ以前の技術に関する乙15の記載は,被告らの主張を裏付ける

ものとはなり得ない。

〔被告らの主張〕

前記争点(1)ア(ア)〔被告らの主張〕において主張したように,被告方法の

工程としては,まず,選択成長により「第一の割り溝」が形成され,その後,

n電極形成面を形成するに当たってエッチングしている可能性がある。その

場合,被告方法は,構成要件Bの第一の割り溝とn電極領域の形成工程を

「共に」に行っていることにはならない。

また,割り溝の形成工程と電極形成領域の形成工程とは,別個に行うのが

技術常識であった。この点に関しては,原告が別件分割出願に係る特許異議




事件において提出した意見書(乙15)においても,一般にウエハーの切断

とn電極領域の形成とは別工程で行われる旨が述べられていることからも明

らかである。

3 争点(1)ア(ウ)(構成要件Bの「第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面

を形成する」の充足性)について

〔原告の主張〕

(1) 構成要件Bの「第一の割り溝の一部に」とは,「第一の割り溝の(全部で

はなく)一部の領域に」電極が形成できる平面を形成することを意味するも

のである。

そして,被告方法は,線状に形成された縦ストライプ部A1及び横ストラ

イプ部A2の一部領域に,略円弧状の電極形成部A3を形成しているから,

「第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成する」ものといえ,構

成要件Bを充足する。

(2) 被告の主張に対する反論

被告らは,線状にエッチングされた部分の内側に完全に取り込まれるよう

な位置に電極形成平面が形成される場合でなければ構成要件Bを充足しない

旨主張する。

しかし,本件明細書等における唯一の実施例である段落【0016】及び

【図4】のように,線状にエッチングされた部分に対し「水平方向にみて別

の平面」として電極形成平面を形成する場合が含まれるように解釈されるべ

きであるし,また,「一部に」との語の通常の用法からみて上記位置関係が

含まれないとする合理的理由はない。被告の主張では,段落【0016】及

び【図4】に記載された位置関係が含まれなくなるので,誤りである。

〔被告らの主張〕

構成要件Bにおいては,「線状」に形成された「第一の割り溝」の「一部」

に電極が形成できる平面を形成することが要求されている。しかるに,原告




の主張する被告方法において,線状に形成された縦ストライプ部A1及び横

ストライプ部A2には電極が形成できる平面は形成されていない。

この点に関して原告は,被告方法における電極形成部A3も「第一の割り

溝」に含まれると主張する。

しかし,「第一の割り溝」はチップの形状を決定するものであるから,電

極形成部A3のような半弧状部分を含まない形状である。仮に,原告が主張

するように,「第一の割り溝」に半弧状部分を含むとすると,「第二の割り

溝」は「第一の割り溝の線と合致する位置で」形成されなければならない以

上,「第二の割り溝」も半弧状部分が含まれるように形成されなければなら

ないが,原告の主張する被告方法の「断面V字状変質部B1及びB2」には

半弧状部分は形成されておらず,これを充足しないことになる。

したがって,被告方法は構成要件Bを充足しない。

4 争点(1)イ(構成要件C及びDの「第二の割り溝」の充足性)について

〔原告の主張〕

(1) 構成要件Cの充足性

被告方法は,ウエハーのサファイア基板側に,レーザースクライブによ

って,縦及び横に線状に延びた断面V字形状の変質部分(以下「断面V字

状変質部」という。)B1及びB2を形成する。この形成箇所は,半導体層

側に形成された縦ストライプ部A1及び横ストライプ部A2の位置にほぼ

対応している。また,断面V字状変質部B1及びB2の線幅は,縦及び横

ストライプ部A1及びA2よりも細い。





D


横変質部 B2



横ストラ
イプ部 A2


E E
上端から 横変質部
の距離 B2




縦変質部 B1
D

断面V字状変質部形成後にウエハーを半 断面V字状変質部形成後
導体層側から見た一部平面図 のウエハーのD−D断面図
(電極省略)

ところで,被告方法では,レーザースクライブ(LMA法)により切り込

みを形成している。レーザースクライブは,ダイヤモンド針等によるスクラ

イブとは異なり,サファイア基板に物理的に傷を入れるわけではない。しか

しながら,レーザー光の照射によって,もともとサファイア基板を構成して

いた単結晶サファイアが変質し,多結晶化した変質部がV字状に形成される

(甲20の図3及び図4(138頁))。すなわち,その変質部においては,

もともと存在した単結晶サファイアは存在しなくなったのであるから,単結

晶サファイアで構成されるサファイア基板に,単結晶サファイアの存在しな

い部分,すなわち「溝」が形成されたといえる。

したがって,被告方法は構成要件Cを充足する。

(2) 構成要件Dの充足性

被告方法は,ウエハーに外力を加えて,半導体層側に形成されたストライ

プ部とサファイア基板側に形成された切り込み(変質部)に沿って割ること





によって,青色LEDチップに分割,個片化する工程を有するから,構成要

件Dを充足する。

〔被告らの主張〕

本件明細書等の記載からすると,本件発明でいう「第二の割り溝」は,サ

ファイア基板を「削り取る」ことにより形成されたものでなければならない。

また,「溝」という用語の一般的な意味としても,物理的に「掘られている」

ことが前提となっている。

これに対し,LMA法の場合,サファイア基板にレーザーを照射しても,

照射された部分は,単に融解改質によって変質領域となるにすぎず,「消失」

することはない。このように,サファイア基板を「削り取る」ことや「掘る」

ことをしていない以上,「第二の割り溝」は形成されていない。

また,原告提出の証拠によっても,被告LEDのサファイア基板につき,

切り込み(変質部)が存在するように見えない。

したがって,被告方法は,構成要件C及びDを充足しない。

5 争点(2)(構成要件C及びD「第二の割り溝」についての均等侵害の成否)

について

〔原告の主張〕

(1) 仮に,被告方法が「第二の割り溝」の構成を備えていると認められないと

しても,被告方法は,ウエハーのサファイア基板側に,縦及び横の「線状の

変質部」を形成する。そして,以下のとおり,この「線状の変質部」は,本

件発明の「第二の割り溝」と均等なものとして,その技術的範囲に属する。

(2) 第1要件(非本質的部分)

ア 本件発明の窒化ガリウム系化合物半導体チップの製造方法では,サファ

イア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体を積層したウエハーにおいて,

半導体層側から第一の割り溝を形成し,サファイア基板側からスクライバ

ーなどによって第二の割り溝を形成し,第一の割り溝と第二の割り溝に沿




ってウエハーを割ることでチップ分離を行うが,その重要な特徴は,第一

の割り溝を電極形成平面と同時にエッチングによって形成し,第一の割り

溝の線幅W1を第二の割り溝の線幅W2よりも大きくしておく点にある。

すなわち,本件発明の本質的部分は,半導体層側に第一の割り溝を電極

形成平面と同時にエッチングにより形成する点と,半導体層側に形成され

る第一の割り溝の線幅を,サファイア基板側に形成される第二の割り溝の

線幅よりも大きくしておくという線幅の点にあるといえる。これに対し,

被告方法は,サファイア基板側に形成される第二の割り溝につき,ダイヤ

モンドスクライバー等による物理的スクライブに代えてレーザー光の照射

によるレーザースクライブを行うに当たり,物理的スクライブにおいて形

成される「割り溝」が,レーザースクライブにおいて形成される「線状の

変質部」に置換されたというだけにすぎないから,上記本質的部分に何ら

変更を加えるものでない。

したがって,被告方法は第1要件を充足する。

イ 被告らの主張に対する反論

被告らは,本件発明の課題はレーザースクライブには存在しない旨主張

する。

しかし,本件発明の具体的な課題は,サファイアを基板とする窒化物半

導体ウエハーをチップ状に分離するに際し,切断面が斜めに曲がり,p−

n接合界面まで切断されてチップ不良が出るという点を解決することにあ

るところ(本件明細書等の段落【0010】,【0012】参照),当該

課題は,ダイヤモンドスクライバー等による物理的スクライブであれ,L

MA法のレーザースクライブであれ,スクライビングにおけるブレーキン

グ工程においては等しく生じるものである。また,LMA法のレーザース

クライブの場合であっても,切断面が斜めに曲がる危険性はある。

したがって,被告らの上記主張は失当である。




(3) 第2要件(置換可能性

物理的スクライブに代えてレーザースクライブを行うに当たり,本件発明

の「割り溝」との構成を「線状の変質部」に置換したとしても,レーザース

クライブにおける「線状の変質部」が,スクライビングにおけるブレーキン

グの起点として機能することは,物理的スクライブにおける「割り溝」の場

合と全く異ならないから,「サファイアを基板とする窒化物半導体ウエハー

をチップ状に分離するに際し,切断面のクラック,チッピングの発生を防止

し,歩留良く,所望の形状,サイズを得るチップの製造方法を提供すること」

(本件明細書等の段落【0006】)等という,本件発明の目的及び作用効

果は達成される。

したがって,被告方法は第2要件を充足する。

(4) 第3要件(置換容易性

レーザースクライブが,従来の物理的スクライブの置換技術として発展し

てきたことに照らせば,被告チップが製造された当時,物理的スクライブに

代えてレーザースクライブを行い,それに伴い,本件発明の「割り溝」を

「線状の変質部」に置換することは,当業者にとって容易に想到し得ること

であった。

したがって,被告方法は第3要件を充足する。

(5) 第4要件(被告方法の公知技術との同一性または容易推考性)及び第5要

件(意識的除外等の特段の事情)

被告方法の構成が,本件特許出願時において当業者が公知技術から容易に

想到し得るものであったはずはない。また,出願手続において,本件発明の

第二の「割り溝」を,「線状の変質部」に置換した技術を意識的に除外した

などの事情も存在しない。

したがって,被告方法は第4及び第5要件を充足する。

〔被告らの主張〕




以下のとおり,原告の均等の主張は成り立たない。

(1) 第1要件(非本質的部分)

ア 本件発明における課題は,「切断面にクラックやチッピングが多数発生

し,しかもサファイア基板上の窒化物半導体層に加わるダメージも極めて

大きい」ということ,及び,「クラックやチッピングはなお残っており,

またスクライブの際に窒化ガリウム系化合物半導体の結晶性が傷む」とい

うことであるが,このような課題が生じるのは,従来技術のダイサーでの

ダイシング及びスクライバーによるスクライビングが「接触型」というも

のであったことに起因する。このような課題を解決するための本件発明に

おいては,クラックやチッピングを生じ得る「第二の割り溝」が形成され

ることも本質的なものであるといえる。

これに対し,レーザースクライビングは,「非接触」であるため,「ク

ラックやチッピング」は生ぜず,「窒化物半導体の結晶性を傷め」ること

もない。

イ また,本件発明では,ウエハーをチップにブレーキング(分割)する際,

「斜めになって割れ」てしまうという課題があるのに対し,LMA法のレ

ーザースクライビングでは,ほぼ垂直に分割されることから,このような

課題は存在しない。

ウ 以上のとおり,LMA法によるレーザースクライビングでは,本件発明

の課題が存在しないのであるから,本件発明の本質的部分を用いていない。

そうすると,本件発明と被告方法とは本質的部分において異なるから,

被告方法は第1要件を充足しない。

(2) 第2要件(置換可能性

上記(1)で主張したとおり,LMA法のレーザースクライビングでは,本

件発明の課題が存在しないから,「サファイアを基板とする窒化物半導体ウ

エハーをチップ状に分離するに際し,切断面のクラック,チッピングの発生




を防止し,歩留良く,所望の形状,サイズを得るチップの製造方法を提供す

ることにある。」という,本件発明の作用効果は存在しない。

したがって,被告方法は第2要件を充足しない。

(3) 第3要件(置換容易性

原告の引用する「LED革新のための最新技術と展望」と題する文献(甲

20)の「1−1 スクライビングのレーザー応用化」において,レーザー

スクライブについて「まだ,『高生産性』と『光量損失無し』を同時に提供

できる技術の確立には至っていない」(133〜134頁)と記載されてい

ることなどからすると,被告チップの製造時に物理的スクライブをレーザー

スクライブに「置換することが容易」であったとはいえない。

したがって,被告方法は第3要件を充足しない。

6 争点(3)ア(乙2公報に基づく新規性ないし進歩性欠如)について

〔被告らの主張〕

(1) 乙2公報に基づく新規性欠如

ア 本件特許出願日(平成5年11月6日)前の平成5年5月25日に頒布

された乙2公報に開示された発明(以下「乙2発明」という。)と本件発

明とを対比すると,次の点で一致する。

(一致点)

サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体を積層したウエハー

から窒化ガリウム系化合物半導体チップを製造する方法において,

前記ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側から第一の割り溝を

所望のチップ形状で線状に形成すると共に,第一の割り溝の一部に電極

が形成できる平面を形成する工程と,

前記ウエハーのサファイア基板側から第一の割り溝の線と合致する位

置で,第一の割り溝の線幅(W1)よりも細い線幅(W2)を有する第

二の割り溝を形成する工程と,




前記第一の割り溝および前記第二の割り溝に沿って,前記ウエハーを

チップ状に分離する工程とを具備する

ことを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体チップの製造方法

イ 本件発明と乙2発明とでは,本件発明においては,第一の割り溝をエッ

チングにより形成するのに対し,乙2発明においては,第一の割り溝に相

当する切れ込みをダイシングにより形成する点で,一応相違する可能性が

ある。

しかし,乙2公報においては,ダイシングにより形成する上記切れ込み

に第2の電極8のA1層8aが形成されている。この点,乙2公報におい

ては,他の実施例において,n層4に接続する第2の電極8のAl層8a

を形成するための「凹部21」について,反応性イオンエッチングにより

形成している。そうすると,乙2発明において,第2の電極8のAl層8

aが形成される「切り込み」を,ダイシングにより形成するのではなく,

反応性イオンエッチングにより形成することも,乙2公報に記載されてい

るに等しいといえる。

したがって,上記の相違する可能性がある点については,相違点ではな

く,実質的には乙2公報に記載されている事項であるから,本件発明と乙

2発明とは同一である。

ウ そうすると,本件発明は,乙2公報に記載の発明と同一であるから,特

許法29条1項3号の規定により特許を受けることができず,同法123

条1項2号の規定により無効にされるべきである。

(2) 乙2公報に基づく進歩性欠如

ア 仮に,上記(1)イの点が相違点であるとしても,乙2公報においては,他

実施例として,n層4に接続する第2の電極8のAl層8aを形成する

ための「凹部21」を,反応性イオンエッチングにより形成しているから,

乙2発明において,第2の電極8のAl層8aが形成される「切り込み」




を,ダイシングにより形成するのではなく,反応性イオンエッチングによ

り形成することは,当業者にとって極めて容易である。

イ また,仮に,本件発明の構成要件Dにおける「分離」と,乙2発明にお

ける「ダイシング」による「切断」とが相違点であるとしても,本件特許

出願当時,半導体素子において,基板側に細い溝を形成してチップを分離

するということは,特開昭62−105446号公報(乙4。以下「乙4

公報」という。),特開昭53−115191号公報(乙5。以下「乙5

公報」という。)に記載されるように周知技術であるから,乙2発明にお

いて,サファイア基板側に細い溝を形成して,チップを分離することは極

めて容易である。

ウ したがって,本件発明は,乙2発明及び周知技術等に基づいて当業者が

容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定

により特許を受けることができず,同法123条1項2号の規定により無

効にされるべきである。

〔原告の主張〕

(1) 本件発明の構成要件B,C及びDに関し,乙2発明との相違点は以下のと

おりであり,被告らの主張する相違点は誤っている。

(相違点1)(構成要件B関係)

本件発明では,第一の割り溝をエッチングにより線状に形成すると共

に,第一の割り溝の一部に電極が形成できる「平面」を形成するのに対

し,乙2発明では,第一の割り溝をダイシングにより線状に形成し,半

導体層の側面をそこに電極が形成できるように露出させる点

(相違点2)(構成要件C,D関係)

本件発明では,ウエハーのサファイア基板側から第一の割り溝の線と

合致する位置で,第一の割り溝の線幅(W1)よりも細い線幅(W2)

を有する第二の割り溝を形成し,前記第一の割り溝および第二の割り溝




に沿って,前記ウエハーをチップ状に分離するのに対し,乙2発明では,

第一の割り溝の線と合致する位置で,第一の割り溝よりも幅の狭いダイ

シングブレードによって切断する点

(2) 上記相違点1に関して,被告らは,乙2公報の図12(b)におけるダイ

シングによる切り込みと,エッチングによる凹部21のいずれにも電極8が

形成されていることを理由に,図12(b)の切り込みをエッチングで形成

することが開示されているに等しいと主張する。しかしながら,凹部21は

電極の形成のみを目的とし,深さもわずかであるのに対し,図12(b)に

おける切り込みはチップを切断する工程の一部であり,深さも深いから,乙

2公報に,切り込みをエッチングにより形成することが記載されているとは

いえない。また,乙2公報のダイシングによる切り込みをエッチングにより

形成したとしても,半導体層の側面が露出するだけで電極が形成できる「平

面」は形成されない。

したがって,相違点1は,乙2発明の凹部21の記載に基づき当業者が容

易に想到しえないものである。

上記相違点2について,被告らは相違点ではない旨主張するが,乙2公報

にはサファイア基板側からダイサーによるカットをすることは開示されてい

ない。それを措いても,乙2公報の段落【0035】の記載からすると,ダ

イサーによる2回目のカットによって,1回目のダイシングにより切り込み

が形成された部分(電極を含む)を一段階で切断している。2回目のカット

により図13(d)に示す状態を得ることは技術的に不可能であるし,仮に

得られるとしても,切り込みが形成された部分ではウエハーが完全に分離さ

れてしまうので「割り溝」とは呼べない。

また,被告らは,基板側に細い溝を形成してチップを分離することは乙4

ないし6の各公報に照らして周知技術であるから,乙2発明においてサファ

イア基板側に細い溝を形成してチップを分離することは極めて容易であると




主張する。

しかし,乙2公報に記載されたダイシングブレードで切断するのは,ハー

フダイスによる切り込み部に形成された電極8と残存しているサファイア基

板1の両方である。ダイサーはブレードで削るため,金属である電極8を切

断することができるが,乙4ないし6の文献で開示されるスクライバーでは,

展延性のある金属を割ることができない。したがって,乙2発明におけるダ

イシングブレードによる切断をスクライバーによる分離に置換することには

阻害要因があり,相違点2は当業者にとって容易想到とはいえない。

(3) 以上のとおり,本件特許には,乙2文献に基づく新規性欠如及び進歩性

如の無効理由は存しない。

7 争点(3)イ(乙3公報に基づく進歩性欠如)について

〔被告らの主張〕

(1) 本件特許出願日(平成5年11月6日)前の平成5年8月6日に頒布され

た乙3公報に開示された発明(以下「乙3発明」という。)と,本件発明と

を対比すると以下の相違点において相違し,その余については一致する。

(相違点)

本件発明では,第二の割り溝をウエハーのサファイア基板側から形

成する工程を具備するのに対し,乙3発明では,かかる工程があるか

不明である点

(2) 上記相違点に関しては,本件特許出願時において,基板上に半導体を形成

したウエハーについて,ウエハー側から幅広の溝を形成し,基板側から細い

幅の切れ込みを形成して,チップをカットすることは,乙4公報及び乙5公

報に開示されるように周知慣用技術であった。

そして,窒化ガリウム系化合物半導体発光素子においても,乙6公報に開

示されるように,ウエハーの基板側からスクライブすることは行われていた。

そうすると,エッチング部に沿ってウエハーをチップ状にカットする工程




を有する乙3発明において,ウエハーの半導体層側に形成された溝に一致さ

せるように,基板側に細い溝を形成してチップを分離するという乙4公報及

び乙5公報に開示された周知技術を適用し,サファイア基板側に溝を形成し

て,チップを分離することは極めて容易である。

したがって,本件発明は,乙3発明に基づいて当業者が容易に発明をする

ことができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受ける

ことができず,同法123条1項2号の規定により無効にされるべきである。

(3) 原告の主張に対する反論

ア 原告は,乙3公報につき,n電極を形成するエッチングの際に,ペレッ

トチェックのためにp型層を島状にエッチングしておくことは開示されて

いるが,それ以外のp層のエッチングは開示されていないと主張する。

しかし,乙3公報には,p型層3上にSiO2膜を形成しパターニング

したうえで,p型層3をドライエッチングすることが記載されている。

そして,乙3公報の【図9】の状態のウエハーをダイシングにより分離

して【図2】及び【図1】の状態の発光素子とするためには,ダイシング

(フルカット)するのであれば,エッチングされた部分を通るようにダイ

シングする必要がある。したがって,ウエハーから青色発光素子を得る工

程が記載された乙3公報に接した当業者は,当然【図9】において,エッ

チングされた部分を通るようにダイシングすると理解する。

したがって,原告の上記主張は失当である。

イ また,原告は,乙3発明に乙6公報に開示された技術を組み合わせても,

エッチングによって半導体層側に形成した第一の割り溝の線幅W1よりも

基盤側に形成した第二の割り溝の線幅W2を細くすることは導かれないと

主張する。

しかし,乙3発明に乙6公報に開示された技術を組み合わせた場合,ス

クライブの幅が非常に細くなることは自明である。これに加えて,乙3発




明のエッチング部分の幅とスクライブの幅との関係については,特開昭5

8−60558号公報(乙22。以下「乙22公報」という。),特開平

2−144932号公報(乙23。以下「乙23公報」という。),特開

昭62−14441号公報(乙24。以下「乙24公報」という。)等に,

十分な広さをもってスクライブライン(乙3発明のエッチング部分に相当

する)を形成することが開示されているように,分割時のダメージが及ば

ないようスクライブラインにある程度の幅を持たせることも当然のことで

あるから,スクライブの幅の方がエッチング部分の幅よりも狭いことは明

らかである。

したがって,原告の上記主張も失当である。

〔原告の主張〕

(1) 乙3公報には,n電極を形成するエッチングの際に,ペレットチェックの

ためにp型層を島状にエッチングしておくことと,ペレットチェック後にウ

エハーをダイシングによって切断してチップ化することが開示されるにすぎ

ず,ダイシング部分の詳細やチップ化工程について教示するものではない。

乙3公報の図1の線状部分はp型層をエッチングしたものであるが,p型

層をエッチングした線状部分をダイシングソーでカットしていることの開示

はない。仮に,【図1】,【図2】の外周線がダイサーによるダイシングの

境界線と解したとしても,境界線の外側にあるダイシング部分のダイシング

前の構造がどうなっているのかは不明であり,ダイシングされる部分がエッ

チングされている必然性はない。【図9】も,せいぜい周期的に配列された

チップをダイサーで分離するという抽象的な方法を当業者に理解させる程度

のものであり,ダイシング部分の詳細を示すものではない。

そうすると,被告らの主張とは異なり,乙3発明と本件発明との相違点は

次のとおりとなる。

(相違点1)(構成要件B関係)




本件発明が,ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側から第一の

割り溝を所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成するのに対し

て,乙3発明では,ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側からp

型層を所望のチップ形状にエッチングしたに過ぎず,ウエハーを切断す

る部分にエッチングによる「第一の割り溝」を形成することが開示され

ていない点。

(相違点2)(構成要件C・D関係)

本件発明では,ウエハーのサファイア基板側から第一の割り溝の線と

合致する位置で,第一の割り溝の線幅(W1)よりも細い線幅(W2)

を有する第二の割り溝を形成し,前記第一の割り溝および第二の割り溝

に沿って,前記ウエハーをチップ状に分離するのに対し,乙3発明では,

ダイシングソーでウエハーをチップ状に切断する点。

(2) 容易想到性

ア 本件発明は,相違点1及び2が密接に関連することにより低コストで歩

留りよくチップ化できるという効果を奏するものであるから,それら相互

の関係を考慮して容易想到性の判断をする必要がある。そして,乙4公報

及び乙5公報はGaAs系やGaP系ウエハーのチップ化に関する技術を

開示するものであるところ,サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半

導体を積層したウエハーでは,サファイアが極めて硬い物質であり,へき

開性を有しないため,GaAs系やGaP系ウエハーにおけるダイシング

やスクライブの技術を適用することはできなかったのであるから,そもそ

も乙4公報及び乙5公報で開示された技術を,乙3発明に組み合わせる動

機がない。仮に組み合わせても,乙4公報及び乙5公報で開示されるよう

に,半導体層側からダイシングによるハーフダイスを行い,基板側からス

クライブを行うことになるので,半導体層からの割り溝をエッチングによ

り形成することという相違点1に係る構成は導かれない。また,乙4公報




及び乙5公報は,半導体層側にダイシングにより形成した割り溝の線幅W

1が,基板側からスクライバーで形成した割り溝の線幅W2よりも太いこ

とは開示する。しかし,それは,通常,ダイサーの刃幅がスクライバーの

線幅よりも太いことによる必然的な結果を図に示したにすぎず,幅を任意

に制御できるエッチングによって割り溝を形成する場合に,その幅をどの

ように設定するかは何ら教示していない。

したがって,乙3発明に乙4公報及び乙5公報で開示される技術を組み

合わせたとしても,上記相違点1及び2は容易に想到しえない。

イ また,乙6公報はスクライブによる割り溝を開示するのみであるので,

これを乙3発明と組み合わせても,半導体層側からの割り溝を「エッチン

グ」により形成すること(相違点1)が導かれない。乙6公報にはウエハ

ーの基板側からスクライブする方法が開示されているが,半導体層からの

スクライブや半導体層及び基板側の双方からのスクライブが好ましい例と

されているので,不利な基板側からのスクライブを選択する動機はない。

仮に選択したとしても,乙3公報においてウエハー切断部分のp型層がエ

ッチングされているか不明であるから,やはり,上記の構成は導かれない。

また,乙6公報には,第一の割り溝の線幅W1よりも第二の割り溝の線幅

W2が細いことの開示(相違点2)もない。被告は,乙3公報の【図1】,

【図2】においてp型層の周囲にn型層が線状に露出している以上,エッ

チングによる溝(第一の割り溝)の幅W1よりも,ダイシングによってカ

ットする際に形成される溝(第二の割り溝)W2の幅が必然的に狭くなる

旨主張するが,p型層の面積を無駄なく確保する(すなわち,発光に寄与

しないエッチング領域を広くしない)という乙3公報の教示に従うと,乙

3発明に乙6公報で開示されたスクライブを組み合わせた場合には,エッ

チング領域を狭く(細く)するはずであるから,被告らの上記主張は成り

立たない。




ウ さらに,被告は,相違点2について,乙3公報の「ダイシングソーでカ

ット」という記載に接した当業者は,ダイシングソーでハーフカットして

外力で割ることも当然のこととして理解する旨主張する。

しかし,この点に関しては,ブレーキング工程の記載がない以上,フル

カットによる切断と理解すべきである。また,乙3公報にはサファイア基

板側からハーフカットを形成することの記載もない。さらに,乙3公報に

は,第一の割り溝の線幅W1よりも細い第二の割り溝の線幅W2が記載さ

れていない以上,相違点2は乙3発明と本件発明との相違点である。

(3) 以上のとおり,本件特許には,乙3公報に基づく進歩性欠如の無効理由は

存しない。

8 争点(3)ウ(本件補正における新規事項追加の有無)について

〔被告らの主張〕

(1) 原告が,平成9年10月20日付け手続補正書(乙7)において,第一の

割り溝を所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成すると「共に」

(@),第一の割り溝の「一部」(A)に電極が形成できる平面を形成する

工程とした補正は,新規事項の追加に当たる。

(2) すなわち,まず,上記@(以下「新規事項@」という。)について,本件

特許出願時における明細書(乙8。以下「当初明細書」という。)には,線

状の第一の割り溝を形成するという工程の後に,「さらに」(段落【001

6】),p型層3の隅部を半弧状に切り欠いた形状とすることが記載されて

いるにすぎず,「共に」の記載はない。線状部分と半弧状の切り欠き部分を

別個に形成するのが技術常識である(乙15〔別件分割出願に係る特許の異

議事件における原告の意見書〕)から,原告の主張は失当である。

(3) また,上記A(以下「新規事項A」という。)について,当初明細書(乙

8)には,第一の割り溝ではない,p型層3の隅部を半弧状に切り欠いた部

分にn層の電極を形成することが記載されているにすぎず(段落【001




6】),電極が形成できる平面が「第一の割り溝の一部」に形成される点の

記載はない。

このように,本件特許の請求項1に記載されている事項は,平成9年10

月20日付手続補正書(乙7)により新たに加えられた新規事項であるため,

本件特許出願は特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないも

のであり,特許法123条1項1号の規定により無効にされるべきである。

〔原告の主張〕

(1) 被告らの主張する新規事項@について

当初明細書の【図4】,段落【0008】,【0012】及び【0016】

の記載を参酌すれば,半弧状の切り欠き部分を,エッチングされる幅W1の

線状部分とは別の工程で取り除くと当業者が理解することはおよそあり得な

い。段落【0016】は,割り溝の形状を示すと同時にチップの形状も示し

ていると記載するように,割り溝の形状と半弧状の切り欠き部分を別個に,

記載の順序に形成することを説明するものではない,このように,同段落の

「さらに」は,単なる付加を意味し,別工程を意味するものではない。

(2) 被告らの主張する新規事項Aについて

「第一の割り溝の一部に」の意義は,「第一の割り溝の(全部ではなく)

一部の領域に」電極が形成できる平面を形成するということである。したが

って,当初明細書の段落【0016】及び【図4】に記載されているように,

線状の第一の割り溝とは別の平面として電極形成平面を形成することも「第

一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成する」ことに該当する。

(3) 以上のとおり,上記の事項はいずれも当初明細書に記載された事項であり,

新たな技術事項を導入するものではないから,新規事項の追加に関する被告

らの主張は失当である。

9 争点(3)エ(乙6公報及び乙3公報に基づく進歩性欠如)について

〔被告らの主張〕




(1) 本件特許の出願日より前の平成5年7月2日に頒布された乙6公報に開示

された発明(以下「乙6発明」という。)と本件発明とを対比すると,以下

の相違点1及び2において相違し,その余については一致する。

(相違点1)

本件発明では,第一の割り溝をエッチングにより形成すると共に,第

一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成する工程であるのに対

し,乙6発明では,第一の割り溝に相当する切れ込みをスクライブによ

り形成しており,また,第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を

形成するか否かが不明である点

(相違点2)

本件発明では,第一の割り溝の線幅(W1)よりも細い線幅(W2)

を有する第二の割り溝を形成しているが,乙6発明においては,線幅

の大小関係が明らかではない点

(2) 容易想到性

ア 相違点1について

第一の割り溝をエッチングにより形成することは特開昭62−2725

83公報(乙11。以下「乙11公報」という。)及び乙3公報に記載さ

れるように周知である。また,乙6公報のようなサファイア基板を用いた

GaN系LEDについて,n側の電極形成面をエッチングで形成すること

も特開平3−218625号公報(乙12。以下「乙12公報」という。)

及び乙13の文献に記載されるように周知である。そうすると,乙6発明

において,第一の割り溝とn側の電極形成面を同時にエッチングで行って

いる乙3公報を適用することは容易想到である。

イ 相違点2について

乙6発明に,乙3公報記載のエッチングにより第一の割り溝を形成する

とともにn電極面を形成するという技術を適用すれば,乙3公報の【図




9】,【図1】,【図2】から,エッチングで形成した第1の割り溝より

も第2の割り溝の方が細いことになる。加えて,ウエハーの素子構造側の

割り溝よりもウエハー側の割り溝の線幅を細くしたものは,乙4公報及び

乙5公報に記載されているように周知である。

(3) 原告の主張に対する反論

この点に関して原告は,乙6発明に乙3公報で開示された技術を適用した

場合において,スクライブライン(本件発明のエッチングによる第一の割り

溝に相当する。)をスクライブの幅よりも広く設定する動機がない旨主張す

るが,争点(3)イについて主張したとおり,スクライブラインを十分な広さ

をもって形成することは乙22ないし24の各公報に記載されるように技術

常識であるから,エッチングによる溝幅をスクライブの溝幅よりも広くする

動機があることは明らかである。

また,原告は,乙6公報において同一のスクライバーが使用されているの

で,線幅も同一であると主張する。

しかし,サファイア基板とGaN層ではその硬度が異なるため,同一のス

クライバーを用いたとしても,スクライブ溝の線幅が同一となるとは限らな

い。

(4) 以上のとおり,本件発明は,乙6発明,乙3発明及び周知技術に基づいて

当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項

の規定により特許を受けることができず,特許法123条1項2号の規定に

より無効にされるべきである。

〔原告の主張〕

(1) 乙6公報では,GaN層側とサファイア基盤側の両方にスクライブライ

ンを形成して,ウエハーをチップ状に分離する方法が記載されているが,

両側で同一のスクライバーを用いているので,線幅は同一と理解される。

また,乙6公報には,エッチングにより半導体層側に電極形成平面を形成




する点の開示はない。

したがって,本件発明と乙6発明との相違点は次のとおりとなる。

(相違点1)

本件発明が,第一の割り溝をエッチングにより形成すると共に,第

一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成するのに対して,乙

6発明では,第一の割り溝をスクライバーにより形成しており,それ

と共に電極が形成できる平面を形成することが開示されていない点

(相違点2)

本件発明が,第一の割り溝の線幅(W1)よりも細い線幅(W2)

を有する第二の割り溝を形成するのに対し,乙6発明では,第一の割

り溝の線幅と第二の割り溝の線幅とが同一である点

(2) 容易想到性について

争点(3)イで主張したのと同様に,相違点1及び2については,互いに

関連して低コストかつ歩留りのよいチップ化が可能となるので,それらの

関係を考慮して判断する必要がある。そして,乙3公報には,n電極を形

成するエッチングの際に,ペレットチェックのためにp型層を島状にエッチ

ングしておくことと,ペレットチェック後にウエハーをダイシングによって

切断してチップ化することが開示されているにすぎず,エッチングにより半

導体層側に第一の割り溝を形成することや第一の割り溝の線幅については何

ら教示がない。

したがって,乙6発明に乙3公報で開示された技術を適用したとしても,

相違点1の構成を導くことはできない。

また,乙6発明に乙11公報で開示された技術を適用しても,乙6公報

に開示された溝の形成方法がスクライバーからエッチングに変わるだけで

あり,第一の割り溝の線幅W1よりも第二の割り溝の線幅W2の方が細い

という関係を導くことはできない。




この点に関して被告は,乙6発明に乙3公報記載の技術を適用すれば,

W1よりもW2が細くなることが明らかである旨主張する。

しかし,乙3公報のエッチング溝の線幅はダイシングのカット幅よりも

大きくするため幅が設定されているから,ダイシングに代えて乙6公報の

スクライブを採用した場合にまでその線幅が維持される必然性はなく,よ

って,W1よりもW2が細くなることを導くためには積極的な動機が必要

である。被告は,乙4公報及び乙5公報にW1よりもW2が細くなること

が開示されている旨主張するが,ダイサーの刃幅がスクライバーによる割

り溝の線幅より太いことに伴う必然的な結果にすぎず,幅を任意に制御で

きるエッチングによって割り溝を形成する場合の幅をどうするかについて

何ら教示しない。

また,被告らは,スクライブラインを十分な広さをもって形成すること

技術常識である(乙22ないし24の各公報)から,エッチングによる

溝幅をスクライブの溝幅よりも広くする動機付けがあることは明らかであ

る旨主張する。

しかし,乙22ないし24の各公報は,分割手段が直接当たる領域にチ

ップの動作領域が存在しないようにする技術であり,本件発明のように,

スクライバー等が基板裏面から当たる場合に,それと逆側の半導体層にお

いて広い線幅の割り溝を形成する技術とは異なる。

(3) 以上のとおり,本件特許には,乙6文献及び乙3公報に基づく進歩性欠如

の無効理由は存しない。

10 争点(4)(損害発生の有無及びその額)について

〔原告の主張〕

(1) 特許法102条2項の損害について

ア 本件特許の登録日である平成10年5月15日から現在までの被告E&

Eによる被告LEDの売上げの合計は,180万円を下らない。原告は,




特許法102条2項に基づき,被告らがその侵害行為により利益を受けて

いるときは,その利益の額について自己が受けた損害の額として賠償を請

求することができるところ,本件について被告E&Eが受けている利益は

被告LEDの販売額の10%に当たる18万円を下らず,原告は,被告E

&Eに対し,特許権侵害不法行為に基づく同額の損害賠償請求権を有す

る。

イ 本件特許の登録日である平成10年5月15日から現在までの被告立花

による被告LEDの売上げの合計は60万円を下らず,本件について被告

立花が受けている利益は,販売額の10%に当たる6万円を下らない。し

たがって,原告は,被告立花に対し,同額の損害賠償請求権を有する。

そして,被告立花は被告E&Eから被告LEDを仕入れてこれを販売

しているから,被告立花による被告LEDの販売によって原告が被った損

害については,被告E&Eは被告立花と連帯してこれを賠償する責任を負

う。

ウ なお,被告立花は,被告立花のイガラシに対するイ号LEDの販売につ

いて,原告がイガラシを介して購入したと主張するが,憶測にすぎない。

また,侵害行為によって直ちに逸失利益が発生して損害が確定するので,

被告立花がイ号LEDを回収するなどしても,発生した損害が消滅するこ

とはない。

(2) 弁護士費用について

被告らの侵害行為によって原告は本件訴訟を提起することを余儀なくされ

たところ,本件訴訟はもっぱら被告らの責めにより審理が遅延し,これによ

り原告の弁護士費用が嵩んだことは明らかであり,被告らの負担すべき原告

の弁護士費用は100万円が相当である。

〔被告E&Eの主張〕

(1) 否認ないし争う。




ただし,被告E&Eが被告LEDを販売等したことによって得た利益の額

が18万円であることは争わない。

(2) 原告は訴訟の遅延によって弁護士費用が嵩んだ旨主張するが,訴訟の遅延

は,原告の主張立証が不十分であることのほか,均等侵害の主張も提訴後1

年以上経過した後であるなど,もっぱら原告の責任によるものであるから,

原告の主張は失当である。

〔被告立花の主張〕

(1) 損害については否認する。

被告立花は,平成24年9月に,イガラシからイ号LED1000個の発

注を受け,その後,同社に対してこれを納品した。そうしたところ,同社は,

被告立花から購入した上記イ号LED1000個全部を原告に交付している

し,原告は,購入に関する被告立花とイガラシとの間のメールや納品書等も

有している。このような事実からすると,イガラシが上記イ号LED100

0個を購入した動機は,原告が訴訟提起するための証拠集めであったといえ

る。

また,被告立花は,原告により本件特許権に係る権利侵害警告がなされ

たことから,紛争を早期に解決するために,イガラシから103個のイ号L

EDを回収した。回収できなかったイ号LEDについても,原告が保有して

いるか,分析のために消費した。

原告による損害賠償請求が認められるためには,被告立花の行為により原

告に現実に損害が生じたこと,すなわち,特許権者の売上減少による逸失利

益の発生が必要である。ところが,上記のとおり,被告立花によるイ号LE

Dの販売は,原告自身がイガラシを介して発注したことに基づくものであり,

それらは被告立花が回収したか,原告が保有又は消費しており,第三者に販

売されたものはない。

(2) したがって,原告には,売上減少による逸失利益たる損害は発生していな




い。

なお,被告立花が上記回収等を行わなかったとした場合,被告立花の受け

た利益が販売額の10%であることは争わない。

(3) 原告は訴訟の遅延によって弁護士費用が嵩んだ旨主張するが,審理の遅延

については,原告による訂正の対抗主張や均等侵害の主張の追加が大きく寄

与しており,被告立花に責任はない。

11 争点(5)(弁済の抗弁の成否)について

〔被告らの主張〕

別件訴訟は,本件訴訟とは請求の基礎となる特許権は異なるが,侵害物件

(イ号物件)は本件訴訟のイ号LEDである。

被告らは,別件訴訟において,特許法102条2項に関して,原告がイ号

物件(本件のイ号LED)について原告の保有する9件の特許権を侵害する

と主張していることなどを根拠として,推定される損害額のうち95%相当

額については推定が覆滅されるべきである旨主張した。しかしながら,別件

判決では,被告らの上記主張は否定されており,本件発明を含む他の特許権

の寄与は否定されたといえる。

そうしたところ,被告E&Eは,平成28年6月21日,原告に対し,別

件判決に基づく損害賠償金元金25万5000円に平成26年4月23日か

ら年5%の金利2万7590円を付した合計28万2590円を支払った。

また,被告立花も,平成28年6月21日,原告に対し,別件判決に基づく

損害賠償金元金15万2000円に平成26年4月23日から年5%の金利

を付した合計16万8466円を支払った。

以上のとおり,被告らは,別件訴訟に関し,本件訴訟のイ号LEDについ

ての損害賠償債務を弁済しており,この損害賠償債務については本件特許権

侵害に基づく損害賠償義務も評価されていることから,その弁済の範囲で本

件の損害賠償債務も消滅した。




〔原告の主張〕

否認ないし争う。

第4 当裁判所の判断

1 本件発明の意義

(1) 本件発明の内容

本件発明の特許請求の範囲の記載は,別添特許公報のとおりであるところ,

本件明細書等には,以下の記載がある(【図2】及び【図3】については,

別添特許公報を参照。なお,原文に付された下線についてはこれを除い

た。)。

発明の詳細な説明

・「【産業上の利用分野】

本発明は,青色,緑色あるいは赤色発光ダイオード,レーザーダイオ

ード等の発光デバイスに使用される窒化ガリウム系化合物半導体チップ

製造方法に係り,特に,サファイア基板上に一般式In XAlYGa1-X-

Y N(0≦X<1,0≦Y<1)で表される窒化ガリウム系化合物半導体

(以下,窒化物半導体と記載する。)が積層された窒化物半導体ウエハ

ーをチップ状に切断する方法に関する。」(段落【0001】)

・「【従来の技術】

一般に発光ダイオード,レーザダイオード等の発光デバイスにはステ

ム上に発光源である半導体チップが設けられている。半導体チップを構

成する材料として,例えば赤色,橙色,黄色,緑色ダイオードの場合G

aAs,GaAlAs,GaP等が知られており,また青色ダイオード

であればZnSe,InAlGaN,SiC等が知られている。」(段

落【0002】)

・「従来,半導体材料が積層されたウエハーから,発光デバイス用のチッ

プに切り出す装置には一般にダイサー,またはスクライバーが使用され




ている。ダイサーとは一般にダイシングソーとも呼ばれ,刃先をダイヤ

モンドとするブレードの回転運動により,ウエハーを直接フルカットす

るか,または刃先巾よりも広い巾の溝を切り込んだ後(ハーフカット),

外力によってウエハーを割る装置である。一方,スクライバーとは同じ

く先端をダイヤモンドとする針の往復直線運動によりウエハーに極めて

細いスクライブライン(罫書線)を例えば碁盤目状に引いた後,外力に

よってウエハーを割る装置である。」(段落【0003】)

・「例えばGaP,GaAs等のせん亜鉛構造の結晶はへき開性が<11

0>方向にあるため,この性質を利用してスクライバーでこの方向にス

クライブラインを入れることにより簡単にチップ状に破断できる。」

(段落【0004】)

・「しかしながら,一般に窒化物半導体はサファイア基板の上に積層され

るため,そのウエハーは六方晶系というサファイア結晶の性質上へき開

性を有しておらず,スクライバーで切断することは困難であった。一方,

ダイサーで切断する場合においても,窒化物半導体ウエハーは,前記し

たようにサファイアの上に窒化物半導体を積層したいわゆるヘテロエピ

タキシャル構造であり格子定数不整が大きく,また熱膨張率も異なるた

め,窒化物半導体がサファイア基板から剥がれやすいという問題があっ

た。さらにサファイア,窒化物半導体両方ともモース硬度がほぼ9と非

常に硬い物質であるため,切断面にクラック,チッピングが発生しやす

くなり正確に切断することができなかった。」(段落【0005】)

・「【発明が解決しようとする課題】

窒化物半導体の結晶性を傷めずに,ウエハーを正確にチップ状に分離

することができれば,チップ形状を小さくでき,一枚のウエハーから多

くのチップが得られるので生産性を向上させることができる。従って,

本発明はこのような事情を鑑みてなされたもので,その目的とするとこ




ろは,サファイアを基板とする窒化物半導体ウエハーをチップ状に分離

するに際し,切断面のクラック,チッピングの発生を防止し,歩留良く,

所望の形状,サイズを得るチップの製造方法を提供することにある。」

(段落【0006】)

・「【課題を解決するための手段】

本発明の窒化物半導体チップの製造方法は,サファイア基板上に窒化

物半導体を積層したウエハーから窒化物半導体チップを製造する方法を

改良したものである。本発明の製造方法は,ウエハーの窒化物半導体層

側から第一の割り溝を所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成

すると共に,第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成する工

程と,ウエハーのサファイア基板側から第一の割り溝の線と合致する位

置で,第一の割り溝の線幅(W1)よりも細い線幅(W2)を有する第

二の割り溝を形成する工程と,前記第一の割り溝,および前記第二の割

り溝に沿って前記ウエハーをチップ状に分離する工程とを具備すること

を特徴とする。」(段落【0007】)

・「本発明の製造方法において,第一の割り溝を形成するには,最も好ま

しくはウエットエッチング,ドライエッチング等のエッチングを用いる。

なぜならエッチングが最も窒化物半導体表面,側面を傷めにくいからで

ある。ドライエッチングであれば,例えば反応性イオンエッチング,イ

オンミリング,集束ビームエッチング,ECRエッチング等の手法を用

いることができ,ウエットエッチングであれば,例えば硫酸とリン酸の

混酸を用いることができる。但し,エッチングを行う前に,窒化物半導

体表面に,所望のチップ形状となるように,所定の形状のマスクを形成

することは言うまでもない。」(段落【0008】)

・「次に,第二の割り溝をサファイア基板側に形成するには,エッチング,

ダイシング,スクライブ等の手法を用いることができる。第二の割り溝




はサファイア基板側に形成し,直接窒化物半導体層にダイサー,スクラ

イバー等の刃先が触れることはないので,この工程では第二の割り溝を

形成する手法は特に問わないが,その中でも特に好ましくはスクライブ

を用いる。なぜなら,スクライブは第二の割り溝の線幅を,第一の割り

溝の線幅よりも狭くしやすく,また,エッチングに比べて迅速に割り溝

を形成できる。さらに,ダイシングに比べて,ウエハー切断時にサファ

イア基板を削り取る面積が少なくて済むので,単一ウエハーから多くの

チップが得られるという利点がある。」(段落【0009】)

・「また,第二の割り溝を形成する前に,サファイア基板側を研磨して薄

くすることが好ましい。研磨後のサファイア基板の厚さは200μm以

下,さらに好ましくは150μm以下に調整することが望ましい。なぜ

なら,窒化物半導体ウエハーは,サファイア基板の厚さが通常300〜

800μm,その上に積層された窒化物半導体の厚さが多くとも数十μ

mあり,そのほとんどがサファイア基板の厚さで占められている。しか

も,前記したように窒化物半導体は格子定数,および熱膨張率の異なる

材料の上に積層されているため,非常に切断しにくい性質を有している。

サファイア基板の厚さが厚すぎると,後に第二の割り溝を形成してウエ

ハーを分離する際,第一の割り溝と,第二の割り溝とを合致させた位置

で割りにくくなる傾向にある。つまり,図1のaの破線に示すように,

第一の割り溝線の中央線と,第二の割り溝線の中央線が一致した位置で

ウエハーをチップ状に分離できることが最も好ましいのであるが,ウエ

ハーの厚みが厚すぎると,その位置が,同じく図1のcの破線に示すよ

うに斜めになって割れ,p−n接合界面まで切断されて,目的としない

形状でチップ化されやすい傾向にある。従って,サファイア基板を前記

範囲内に研磨して薄くすることにより,前記割り溝の合致位置,つまり

目的とするチップ形状で,ウエハーをさらに分離しやすくすることがで




きる。基板の厚さの下限値は特に問わないが,あまり薄くすると研磨中

にウエハー自体が割れ易くなるため,実用的な値としては50μm以上

が好ましい。」(段落【0010】)

・「また基板を研磨して薄くする他に,図2に示すように,第二の割り溝

22をエッチング,ダイシング等の手法によって,サファイア基板1に

深く形成することにより,部分的にサファイア基板1の厚さを薄くして,

第一の割り溝11との切断距離を短くしてもよい。」(段落【001

1】)

・「【作用】

本発明の製造方法の作用を図面を元に説明する。図1ないし図4は本発

明の製造方法の一工程を説明する図である。図1はサファイア基板1の

上にn型窒化物半導体層2(n型層)と,p型窒化物半導体層3(p型

層)とを積層したウエハーの模式断面図である。それらの窒化物半導体

層側には所定のチップ形状になるように,第一の割り溝11を線状に形

成しており,さらに第一の割り溝11の線幅より狭い線幅の第二の割り

溝22を,第一の割り溝11の線の中央線と一致する位置で形成した状

態を示している。但し,この図では,第一の割り溝はp型層3をエッチ

ングして,n型層2を露出するように形成しており,第二の割り溝はス

クライブで形成している。図1に示すように,ウエハーは第一の割り溝

11と第二の割り溝22の中央線が一致した点,つまり破線aで示す位

置でまっすぐに切断できることが最も好ましいが,仮に破線bで示すよ

うに切断線が曲がっても,第一の割り溝11の線幅W1を,第二の割り

溝22の線幅W2よりも広く形成してあるため,切断位置がp−n接合

界面にまで及ばず,チップ不良がでることがない。」(段落【001

2】)

・「図2は第二の割り溝22をエッチング,またはダイシングにより形成




し,サファイア基板1をハーフカットした状態を示している。この図で

は第二の割り溝22の深さを深くして,第一の割り溝との切断距離を短

くすることにより,第一の割り溝の中央線と,第二の割り溝の中央線と

が一致した位置でまっすぐに割ることができる。」(段落【0013】)

・「図3は第一の割り溝11のエッチング深さを深くした状態を示してい

るが,この図も図2と同じく第一の割り溝11と,第二の割り溝22と

の切断距離を短くすることにより,割り溝が一致した位置でまっすぐに

切断することができる。このように割り溝を深く形成してチップを分離

する際には,割り溝11の底部と,割り溝22との底部との距離を20

0μm以下として,サファイア基板1の厚さを薄くすることが好ましく,

サファイア基板1の厚さを部分的に薄くすることにより,両割り溝が合

致した位置でまっすぐ切断できる。なお,割り溝22を深く形成するの

は,サファイア基板を研磨した後(200μm以上の厚さで研磨する場

合)でも,研磨する前でもかまわないが,スクライブによってその深さ

を深くするのは困難である。」(段落【0014】)

・「このように図2,図3では第一の割り溝11の深さ,第二の割り溝2

2の深さを深くすることにより,切断距離を短くしてまっすぐに割れる

ようにしているが,前述のようにサファイア基板1を研磨して,200

μm以下の厚さとすれば,図1のように第二の割り溝22をスクライブ

で形成しただけでも,ほぼまっすぐに割ることができる。なお基板を研

磨して200μm以下に調整すれば,第二の割り溝の深さを深くする必

要がないことはいうまでもない。」(段落【0015】)

・「図4は,図1に示すウエハーを窒化物半導体層側からみた平面図であ

り,第一の割り溝11の形状を示していると同時に,チップ形状も示し

ている。この図では,p型層3を予めn層の電極が形成できる線幅でエ

ッチングして,第一の割り溝11を形成し,さらにp型層3の隅部を半




弧状に切り欠いた形状としており,この切り欠いた部分にn層の電極を

形成することができる。」(段落【0016】)

・「このように,本発明の方法では,第一の割り溝11の線幅W1を,第

二の割り溝22の線幅W2よりも広くしているので,仮に切断線が斜め

となってウエハーが切断された場合でも,p−n接合界面まで切断面が

入らずチップ不良が出ることがなく,一枚のウエハーから多数のチップ

を得ることができる。そして,さらに好ましくウエハーのサファイア基

板を研磨するか,または第二の割り溝の深さを深くすることにより,所

望とする切断位置で正確に分離することができる。」(段落【001

7】)

イ 図面




(2) 以上によれば,本件発明は,サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半

導体(以下「窒化物半導体」ということがある。)が積層されたウエハーを

チップ状に切断する方法に関する発明であって(段落【0001】),従来

技術では,半導体材料が積層されたウエハーからチップを切り出すには,ダ

イサーを使用して,ブレードの回転運動によりウエハーを直接フルカットす

るか,ハーフカットした上で外力によってウエハーを割り,あるいは,スク

ライバーを使用して,対象のへき開性を利用してスクライブラインを引いた

後,外力によりウエハーを割る方法が用いられていたが(段落【0003】,




【0004】),窒化物半導体はへき開性を有しないサファイア基板の上に

積層されるため,スクライバーで切断するのが困難であり,また,ダイサー

で切断する場合でも,窒化物半導体がサファイア基板からはがれやすく,サ

ファイア基盤が硬いためクラック等が発生しやすいために正確に切断できな

いという課題があったことから(段落【0005】),本件発明においては,

ウエハーの半導体層から第一の割り溝を線幅W1として(これとともに,第

一の割り溝の一部に電極が形成できる平面をも)エッチングにより形成する

工程と,サファイア基盤側に第一の割り溝の線と合致する位置に第一の割り

溝の線幅W1よりも狭い線幅W2の第二の割り溝を形成する工程と,それら

の割り溝に沿ってウエハーを分離する工程を具備することにより(段落【0

007】),クラック等の発生を防止するとともに,ウエハーをまっすぐに

割ることが可能となるか,切断線が斜めとなってウエハーが切断された場合

でも,p−n接合界面まで切断面が入らずチップ不良が出ることがなく,一

枚のウエハーから多数のチップを得ることができるという効果を奏する発明

であると認められる (段落【0006】,【0012】ないし【001

7】)。

2 被告チップについて

証拠(甲6,7,17,18〔枝番省略〕)及び弁論の全趣旨によれば,被

告チップについて次のとおり認められる。

(1) イ号チップの形状等(甲6,17,18)

ア 半導体層側

イ号チップは,模式図である下記図1(1)−1ないし3のとおり,白

色のサファイア基板上に水色及びピンク色の窒化ガリウム系半導体層が積

層されている(ただし,白色のサファイア基板において「切り欠き」と記

載されている部分については,「切り欠き」ではなく,後記イのとおり

LMA法のレーザースクライブによる変質部分が残存したものであ




る。)。




半導体層は,図に水色で示したn型層とその上に位置するピンク色で示

したp型層の2段になっており,n型層の一部(上にp型層の存在しない

部分)が露出している。そして,n型層の露出面の一部には青色で示した

n電極が,p型層の上には赤色で示したp電極がそれぞれ形成されている。

半導体層を平面視すると,n型層の露出面は,周囲(四方)の略直線状

の部分(以下「直線部分」ということがある。)と,n電極が形成される

平面部分(以下「n電極形成面」ということがある。)から成っており,

直線部分とn電極形成面のn型層としての厚さ(高さ)は,ほぼ同一であ

る。

n型層の露出面のうち直線部分の幅は,チップの左端が約9μm,右端

が約12μm,上端が約17μm,下端が約15μmとなっている。

p型層は,長方形の隅を半弧状に切り欠いた形状であり,長方形の角に

相当する部分,半弧状に切り欠いた部分の端と長方形の辺との接点に相当




する部分のいずれも,直線状ではなく,丸みを帯びた形状をしている。

また,p型層とn型層との間には段差(以下「pn段差部」という。)

があるが,このpn段差部も,直線状ではなく,湾曲した傾斜面となって

いる。

イ サファイア基板側

サファイア基板の半導体層とは反対側の底面部分には,半導体層のn

型層の露出面のうち直線部分に対応する位置に,LMA法のレーザース

クライブによる断面V字形状の変質部分(断面V字状変質部)が残存して

おり,その幅は約5ないし8μmである。

そして,証拠(甲20)によれば,LMA法でサファイア基盤を加工

した場合,溶融領域が発生し急激な冷却で多結晶化し,この多結晶領域

は多数のブロックに分かれるが,加工領域中央に実質の幅が極端に狭い

境界が発生し,この表面に垂直な境界線の先端に応力集中するので割れ

やすくなることが認められる。

ウ ウエハーとチップの関係

上記のイ号チップの形状等に照らすと,イ号チップは,下記の模式図

のようなウエハーを形成した上で,これを割ることにより得られたもの

と認められる。





D


横変質部 B2



横ストラ
イプ部 A2


E E
上端から 横変質部
の距離 B2




縦変質部 B1
D

断面V字状変質部形成後にウエハーを半 断面V字状変質部形成後
導体層側から見た一部平面図 のウエハーのD−D断面図
(電極省略)

(2) ロ号チップの形状等(甲7,17,18)

ロ号チップの形状等も,上記(1)のイ号チップと同様であるが,n型層の

露出面の直線部分の幅が異なっており,チップの左端が約24μm,右端が

約27μm,上端が約28μm,下端が約23μmとなっている。

3 争点(1)ア(ア)(構成要件Bの「エッチングにより」の充足性)について

(1) 被告チップがエッチングと選択成長のいずれにより第一の割り溝に相当す

るn型層露出面を形成したかが争われているところ,証拠(甲17)及び弁

論の全趣旨によれば,半導体層の一部の厚さを他の部分よりも薄くする場合

には,エッチングを採用すると,薄くなった部分と厚い部分との境界が丸み

を帯びるのに対し,選択成長を採用すると,境界は直線状の形状となること,

同様に,エッチングを採用すると,pn段差部が湾曲した形状となるのに対

し,選択成長を採用すると,pn段差部の斜面はGaN結晶の特定の面に対

応するため,特定の傾斜角を有する直線形状となることが認められる。





これを被告チップについてみるに,上記2(1)アで認定したとおり,被告

チップは,p型層の角に相当する部分や,p型層とn型層との段差部分がい

ずれも丸みを帯びている。

したがって,被告チップのn型層露出部分は,エッチングの方法により形

成されたと認めるのが相当である。

(2) 被告らの主張に対する判断

この点に関して被告らは,被告チップの丸みを帯びた形状について,まず

「第一の割り溝」を選択成長で形成し,その後に,n電極形成面をエッチン

グで形成したことによって形成された可能性があると主張する。

しかしながら,上記2で認定したとおり,被告チップのn型層の露出面は,

直線部分とn電極形成面とで,その厚さ(高さ)がほぼ同一である。そうす

ると,被告らの主張する方法を採用した場合,選択成長により形成された直

線部分の厚さと,これとは別にエッチングにより形成するn電極形成面の厚

さを揃えるための調整を要することになるが,技術常識に照らし,そのよう

な調整が行われるとは考え難いから,被告チップが被告らの主張する方法で

製造されたとは認められない。

したがって,被告らの上記主張は採用することができない。

(3) 以上のとおり,被告方法は,構成要件Bの「エッチングにより」を充足す

る。

4 争点(1)ア(イ)(構成要件Bの「第一の割り溝・・・と共に・・・電極が形成できる

平面を形成する」の充足性)について

(1) 被告チップのn型層の露出面は,直線部分とn電極形成面とで,その厚さ

(高さ)がほぼ同じであるという上記2の認定事実に照らすと,直線部分と

n電極形成面は,エッチングにより同時に形成されたものと認めるのが相当

である。

(2) 被告らの主張に対する判断




この点に関して被告らは,争点(1)ア(ア)と同様に,「第一の割り溝」を選

択成長で形成し,その後に,n電極形成面をエッチングで形成した可能性が

あるから,構成要件Bの「共に」を充足しない旨主張するが,前記3(2)で

説示したのと同様の理由から,被告らの上記主張は採用することができない。

また,被告らは,割り溝の形成工程と電極形成領域の形成工程とは別個に

行うことが技術常識であると主張し,別件分割出願に係る異議事件において

原告が特許庁に提出した意見書(乙15)にも同趣旨の記載があるとする。

しかしながら,上記意見書(乙15)の記載によれば,当該意見書におい

ては,一般的な半導体素子の製造方法では割り溝の形成工程と電極形成領域

の形成工程とは別工程である旨が記載されているものの,親出願である本件

特許出願においてはn電極の形成工程とウエハー切断のための第一の割り溝

の形成工程とを一体化することが可能となる旨説明されていることが認めら

れる。そうすると,そのような本件発明の開示後についてまで,割り溝の形

成工程と電極形成領域の形成工程とが別工程で行われることが技術常識であ

ると認めることはできず,被告らの上記主張も採用することができない。

(3) 以上のとおり,被告方法は,構成要件Bの「第一の割り溝・・・と共に・・・一

部に電極が形成できる平面を形成する」を充足する。

5 争点(1)ア(ウ)(構成要件Bの「第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面

を形成する」の充足性)について

(1) 構成要件Bにおける「一部に」の意義

構成要件Bには,「第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成す

る」との記載がある。本件発明に係る特許請求の範囲の記載によれば,構成

要件Bでは,「第一の割り溝を所望のチップ形状で線状にエッチングにより

形成すると共に」,「第一の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成す

る」ところ,構成要件Cに「第一の割り溝の線」という記載があることを併

せ考慮すると,第一の割り溝には,少なくとも「線」の部分と「電極が形成




できる平面」の部分が存するのであって,「線状」に形成される第一の割り

溝にはそれらの部分が含まれるものと解される。また,「電極が形成できる

平面」に関しては,上記のとおり,「第一の割り溝の一部に」としか特定さ

れておらず,「線」の部分の一部である(線の部分に内包される)という限

定はされていないのであって,第一の割り溝全体のうちの一部に形成されて

いれば足りると解される。このことは,本件明細書等においても,「電極が

形成できる平面」につき,段落【0016】において,【図4】における半

弧状の切り欠き部分にn層の電極を形成することができる旨の記載しかなく,

【図4】には,W1の幅の「線」の部分とこれに隣接する半弧状の切り欠き

部分が一体として記載されていることにも合致する。

したがって,構成要件Bの「電極が形成できる平面」は,第一の割り溝の

全体のうちの一部に形成されていれば足りるのであって,「線」の部分に内

包される必要はないと解するのが相当である。

(2) 充足性

これを被告チップについてみるに,争点(1)ア(ア)及び(イ)において判示し

たとおり,被告方法では,被告チップの直線部分とn電極形成面とをエッチ

ングにより同時に形成しているものと認められるところ,直線部分とn電極

形成面とは区分されていない形状であるから,それらの全体が構成要件Bの

「第一の割り溝」に,その一部であるn電極形成面が構成要件Bの「電極が

形成できる平面」に該当するものと認められる。

したがって,被告チップのn電極形成面は,「第一の割り溝」の「一部」

にエッチングにより形成されたものであると認めることができる。

(3) 被告らの主張に対する判断

この点に関して被告らは,「第一の割り溝」はチップ形状を決定するもの

であるから,半弧状であるn電極形成面を含まない,これを含むとすると対

応する第二の割り溝に半弧状部分が形成されていないなどと主張する。




しかし,本件発明の実施例である本件明細書等の段落【0016】及び

【図4】の記載に照らすと,チップ形状を示し,かつ,第二の割り溝と対応

するのは,第一の割り溝のうち「線」の部分であることは,当業者であれば

容易に理解できるといえるのであり,仮に被告の主張通りであるとすると,

上記実施例が本件発明の技術的範囲に含まれないことになり,妥当でない。

したがって,被告らの上記主張は採用することができない。

(4) 以上のとおり,被告方法は,構成要件Bの「第一の割り溝の一部に電極が

形成できる平面を形成する」を充足する。

6 争点(1)イ(構成要件C及びDの「第二の割り溝」の充足性)について

(1) 「第二の割り溝」の意義

「第二の割り溝」における「溝」の意義について検討するに,本件発明に係

る特許請求の範囲の記載には,「第二の割り溝」における「溝」の形状を示

す記載はなく,本件明細書等においても,「溝」の形状に関する定義はない。

乙26(大辞林第2版)によれば,一般に,「溝」とは細長く掘ったもの

や細長い窪みを指すことが認められ,また,本件明細書等においても,エッ

チング,ダイシング又はスクライブ等の手法を用いることができるとされ

(段落【0009】),【図1】ないし【図3】においても,第二の割り溝

22として,窪みの形状が記載されている。

そうすると,第二の割り溝における「溝」とは,周囲よりも窪んでいる細

長い形状の部分を指すものと認めるのが相当である。

(2) 充足性

これを被告方法についてみるに,被告方法が,サファイア基板側の加工

法として,LMA法のレーザースクライブを採用していることは,当事者間

に争いがない。

そして,原告の主張によっても,サファイア基板に対してLMA法のレー

ザースクライブが行われると,元々存在していた単結晶サファイアが変質し,




多結晶化した断面V字形状変質部,すなわち,多結晶化した物質が存在して

おり,周囲よりも窪んだ状態にはなっていないのであるから,そのような部

分が本件発明における第二の割り「溝」に該当すると認めることはできない。

(3) 原告の主張に対する判断

この点に関して原告は,単結晶サファイアが存在しない部分が「溝」に該

当する旨主張するが,本件特許の特許請求の範囲の記載においても,本件明

細書等においても,「第二の割り溝」について,単結晶サファイアが存在し

ない部分を指すことを示す記載はないし,たとえ構造が異なるものであって

もそこに物質が存在する以上,その部分を窪んだ部分と認めることはできな

いというべきである。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

(4) 以上のとおり,被告方法は,構成要件C及びDの「第二の割り溝」を充足

しない。

7 争点(2)(構成要件C及びD「第二の割り溝」についての均等侵害の成否)

について

(1) 特許請求の範囲に記載された構成中に他人が製造等する製品又は用いる方

法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても,@

その部分が特許発明の本質的部分ではなく(以下「第1要件」という。),A

その部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達す

ることができ,同一の作用効果を奏するものであって(以下「第2要件」と

いう。),Bそのように置き換えることに,特許発明の属する技術の分野に

おける通常の知識を有する者(当業者)が,対象製品等の製造等の時点にお

いて容易に想到することができたものであり(以下「第3要件」という。),

C対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者

がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく(以下「第4要件」

という。),かつ,D対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請




求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき

(以下「第5要件」という。)は,対象製品等は,特許請求の範囲に記載され

た構成と均等なものとして,特許発明技術的範囲に属するものと解するの

が相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号平成10年2月24日第

三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。

(2) 上記のとおり,被告方法は,本件発明の構成要件A,Eに加えて,構成

要件Bも充足するが,「第二の割り溝」ではなく,その位置にLMA法の

レーザースクライブによる変質部を形成している点で,本件発明の構成要

件C及びDと相違する。そこで,以下,LMA法のレーザースクライブに

より変質部を形成する被告方法が,本件発明の「第二の割り溝」を用いる

場合と均等なものといえるかについて検討する。

(3) 第1要件について

特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲

記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的

部分であると解すべきである。

そして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づ

いて,特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許発

明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的

思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定さ

れるべきである。すなわち,特許発明の実質的価値は,その技術分野に

おける従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれ

ば,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に

明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきである。

ただし,明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されて

いるところが,出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合

には,明細書に記載されていない従来技術も参酌して,当該特許発明




従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定さ

れるべきである。そのような場合には,特許発明の本質的部分は,特許

請求の範囲及び明細書の記載のみから認定される場合に比べ,より特許

請求の範囲の記載に近接したものとなり,均等が認められる範囲がより

狭いものとなると解される。

また,第1要件の判断,すなわち対象製品等との相違部分が非本質的

部分であるかどうかを判断する際には,上記のとおり確定される特許発

明の本質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかを判断し,こ

れを備えていると認められる場合には,相違部分は本質的部分ではない

と判断すべきであり,対象製品等に,従来技術に見られない特有の技術

的思想を構成する特徴的部分以外で相違する部分があるとしても,その

ことは第1要件の充足を否定する理由とはならないと解すべきである

(知的財産高等裁判所平成28年3月25日(平成27年(ネ)第100

14号)特別部判決参照)。

イ 本件特許請求の範囲は前記第2,1(4)のとおりであり,本件明細書等

の記載は前記1(1)のとおりであるところ,本件発明は,サファイア基板

上に窒化ガリウム系化合物半導体が積層されたウエハーをチップ状に切

断するに当たり(段落【0001】),ウェハーを切断する従来技術と

しては,一般に,刃先をダイヤモンドとするブレードの回転運動により,

ウエハーを直接フルカットするか,または刃先巾よりも広い巾の溝を切

り込んだ後(ハーフカット),外力によってウエハーを割る装置である

ダイサー,又は,同じく先端をダイヤモンドとする針の往復直線運動に

よりウエハーに極めて細いスクライブライン(罫書線)を例えば碁盤目

状に引いた後,外力によってウエハーを割る装置であるスクライバーが

使用されていたところ(段落【0003】),サファイア基板は硬く,

へき開性を有しないため,従来技術のスクライバーを用いる方法では切




断するのが困難であり,ダイサーを用いる方法でもクラック等が発生し

やすく,正確に切断できないという課題があったことから(段落【00

05】),本件発明においては,ウエハーの半導体層から線幅W1の第

一の割り溝をエッチングにより形成すること,サファイア基板側に第二

の割り溝を形成すること,第二の割り溝について第一の割り溝の線と合

致する位置とすること,第二の割り溝の線幅W2を第一の割り溝の線幅

W1よりも狭くすること,それらの割り溝に沿ってウエハーを分離する

という工程を採用することで(段落【0007】),クラック等の発生

を防止するとともに,ウエハーをまっすぐに割ることが可能となるか,

切断線が斜めとなってウエハーが切断された場合でも,p−n接合界面

まで切断面が入らずチップ不良が出ることがないので,一枚のウエハー

から多数のチップを得ることができるという効果を奏するようにしたも

のである(段落【0006】,【0012】ないし【0017】)。

また,本件明細書等には,「第二の割り溝」を形成する方法について,

手法は特に問わないとしており,エッチング,ダイシング,スクライブ

等の手法を用いることが可能であるとされ,このうち,線幅を狭くする

ことが可能であるなどの理由から,スクライブが特に好ましいとするに

とどまっており(段落【0009】),「第二の割り溝」に関して,そ

の形成の方法は特に限定されていない。

そして,本件においては,本件明細書等に従来技術が解決できなかっ

た課題として記載されているところが,出願時の従来技術に照らして客

観的に見て不十分であるという事情は認められない。

以上のような,本件特許の特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明

細書記載の従来技術との比較から導かれる本件発明の課題,解決方法,

その効果に照らすと,本件発明の従来技術に見られない特有の技術的思

想を構成する特徴的部分は,サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物




半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当たり,半導体層

側にエッチングにより第一の割り溝,すなわち,切断に資する線状の部

分を形成し,サファイア基板側にも何らかの方法により第二の割り溝,

すなわち,切断に資する線状の部分を形成するとともに,それらの位置

関係を一致させ,サファイア基板側の線幅を狭くした点にあると認める

のが相当であり,サファイア基板側に形成される第二の割り溝,すなわ

ち,切断に資する線状の部分が,空洞として溝になっているかどうか,

また,線状の部分の形成方法としていかなる方法を採用するかは上記特

徴的部分に当たらないというべきである。

ウ 被告方法は,前記2で認定したように,サファイア基板上に窒化ガリ

ウム系化合物半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当た

り,半導体層側にエッチングにより切断に資する線状の部分を形成し,

サファイア基板側にもLMA法のレーザースクライブによって切断に資

する線状の変質部を形成するとともに,それらの位置関係を一致させ,

サファイア基板側の線幅を狭くしているのである。

そして,前記2(1)イで説示したとおり,LMA法でサファイア基板

加工した場合,溶融領域が発生し急激な冷却で多結晶化し,この多結

晶領域は多数のブロックに分かれるが,加工領域中央に実質の幅が極端

に狭い境界が発生し,この表面に垂直な境界線の先端に応力集中するの

で割れやすくなることが認められる。

そうすると,被告方法は本件発明の従来技術に見られない特有の技術

的思想を構成する特徴的部分を共通に備えているものと認められる。

したがって,本件発明と被告方法との相違部分は本質的部分ではない

というべきである。

エ 被告らの主張に対する判断

この点に関して被告らは,LMA法のレーザースクライブについて,




対象と「非接触」であるため,クラック等が発生せず,かつ,ほぼ垂直

に分割されることから,本件発明の課題自体が存在しないことになり,

そのような方法を用いたとしても,本件発明の本質的部分に当たらない

旨主張する。

そして,乙14(再公表特許第2006/062017号。以下「乙

14文献」という。)の段落【0039】には,【図9】,【図10】

に関して,LMA法により形成された変質領域に隣接する正常領域のブ

レイク面が略垂直である旨の記載がある。

しかしながら,他方で,乙14文献の段落【0043】等には,同じ

【図9】,【図10】に関して,デフォーカス値によっては,正常領域

のブレイク面の垂直方向につき多少の傾斜や段差が存在する旨の記載も

あるのであって,LMA法のレーザースクライブであるからといって,

切断面が斜めになることで不良品が生じるという本件発明の課題が発生

しないと認めることはできない。

したがって,被告らの上記主張は採用することができない。

オ 以上のとおりで,被告方法は,均等の第1要件を充足すると認められ

る。

(4) 第2要件について

ア 前記(3)で検討したところによれば,本件発明は,半導体層側にエッチ

ングにより第一の割り溝を形成し,サファイア基盤側にも第二の割り溝,

すなわち,切断に資する線状の部分を形成するとともに,それらの位置関

係を一致させ,サファイア基盤側の線幅を狭くすることで,切断線が斜め

となってウエハーが切断された場合でも,p−n接合界面まで切断面が入

らずチップ不良が出ることがないなどといった作用効果を奏するものと認

められる。

イ これに対し,被告方法は,本件発明の第二の割り溝を,LMA法のレー




ザースクライブにより形成された線状の変質部に置換したにすぎず,前記

2(1)イで説示したとおり,線状の変質部の存在が切断に資することに変

わりなく,また,第一の割り溝と位置関係が一致し,第一の割り溝の線幅

より狭いという構成によって,切断線が斜めとなってウエハーが切断され

た場合でも,p−n接合界面まで切断面が入らずチップ不良が出ることが

ないという作用効果を奏するものと認められ,本件発明と同一の作用効果

を奏するものである。

ウ この点に関して被告らは,被告方法について,LMA法のレーザースク

ライブを用いると本件発明の課題が生じないと主張するが,上記(3)で説

示したとおり,当該主張は採用することができない。

エ したがって,被告方法は,均等の第2要件を充足すると認められる。

(5) 第3要件について

ア 前記(3)で判示したとおり,本件発明においては,第二の割り溝の形成

方法は特に限定されていないものの,スクライブが好ましいとされていた。

これに対し,証拠(甲19,20,乙14)によれば,LMA法のレー

ザースクライブは,従来技術であるダイヤモンドの針を使用して溝を形成

する物理的なスクライブや,レーザーを使用して溝を形成するアブレーシ

ョン法のレーザースクライブに対する新たな技術として開発された技術で

あると認められる。

このように,本件発明における第二の割り溝の形成方法として,溝を形

成する従来のスクライブが好ましい方法として記載されており,LMA法

のレーザースクライブが,従来技術である溝を形成するスクライブの置換

技術である以上,スクライブ等の方法による第二の割り溝の形成を,LM

A法のレーザースクライブによる線状の変質部の形成に置換することは容

易であったと認められる。

イ この点に関して被告らは,LMA法のレーザースクライブについて,高




生産性と光量損失なしという要請の双方を同時に提供できる技術の確立に

至っていなかったこと(甲20)から,置換は容易ではなかったと主張す

る。

しかしながら,被告らの主張によっても,高生産性と光量損失なしとい

う要請の双方が同時に提供できないというにすぎず,溝を形成するスクラ

イブの置換技術として開発済みであったことに変わりはないから,置換

容易であるとする上記アの判断を左右するものではない。

ウ したがって,被告方法は,均等の第3要件を充足すると認められる。

(6) 第4要件及び第5要件について

均等の法理の適用が除外されるべき場合である第4要件及び第5要件につ

いては,対象製品等について均等の法理の適用を否定する者が主張立証責任

を負うと解するのが相当であるところ,本件において,被告らは,第4要件

及び第5要件について何ら主張していない。

したがって,被告方法は第4要件及び第5要件を充足すると認められる。

(7) 以上のとおり,被告方法の「線状の変質部」は,構成要件C及びDの「第

二の割り溝」と均等なものとして,その技術的範囲に属する。

8 争点(3)ア(乙2公報に基づく新規性ないし進歩性欠如)について

(1) 乙2公報の内容

乙2公報には,次の記載がある。

発明の詳細な説明

・「【産業上の利用分野】本発明は青色や短波長領域発光の窒化ガリウム

系化合物半導体発光素子に関する。」(段落【0001】)

・「【実施例】以下,本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。図1

は,本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子を適用した発光ダイ

オードの構成を示す断面図である。発光ダイオード10はサファイア基

板1を有しており,そのサファイア基板1上には 500ÅのAlNのバッ




ファ層2が形成されている。そのバッファ層2の上には ,膜厚約

2.5μm のn型GaNから成るn層4が形成されている。さらに,n層4

の上に膜厚約 0.2μm の半絶縁性GaN から成るi層5が形成されてい

る。そしてi層5の表面からi層5を貫通しn層4に達する凹部21が

形成されている。この凹部21を覆うようにn層4に接続する金属製の

n層4のための第2の電極8が形成されている。この第2の電極8と離

間してi層5上に錫添加酸化インジウム(以下ITOと略す)から成る

透明導電膜のi層5のための第1の電極7が形成されている。第1の電

極7の隅の一部分には取出電極9が形成されている。その取出電極9は

Ni 層9bとAu 層9cとの2層で構成されている。又,第2の電極8

はn層4に接合するAl 層8aとNi 層8bとAu 層8cとの3層で構

成されている。この構造の発光ダイオード10のサファイア基板1の裏

面にはAl の反射膜13が蒸着されている。」(段落【0017】)

・「次に,図6に示すように,フォトレジスト12およびSiO2 層11

をマスクとして,真空度0.04Torr,高周波電力0.44W/cm2 ,CCl2 F2 ガ

スを10ml/ 分の割合で供給し,反応性イオンエッチングによりi層5を

貫通しn層4に達する凹部21を形成した。また,エッチング後,続い

てArでドランエッチングした。そして,フォトレジスト12およびSi

O2 層11をフッ酸で除去した。」(段落【0023】)

・「次に,試料の上全面全体に,イオンプレーティングにより透明導電膜

のITO層を約1000Åの厚さに形成した。そして,そのITO層の上に

フォトレジストを塗布した。フォトリソグラフにより,第1の電極7の

形成部分のフォトレジストが残るように,フォトレジストを所定形状に

パターン形成した。」(段落【0024】)

・「次に,残ったフォトレジストをマスクとして下層のITO層の露出部

をエッチングした。そして,フォトレジストを除去した。これにより,




図7に示すようにエッチングで残ったITO層から成る第1の電極7が

形成された。次に,試料の上全面全体に蒸着によりAl 層を約2000Åの

厚さに形成した。そのAl 層の上にフォトレジストを塗布して,フォト

リソグラフにより,そのフォトレジストが,第2の電極8の形成部分が

残るように,所定形状にパターン形成した。次に,そのフォトレジスト

をマスクとして下層のAl層の露出部をエッチングし,フォトレジスト

を除去した。これにより,図8に示すように,n層4に接続する第2の

電極8のAl 層8aが形成された。」(段落【0025】)

・「このような発光ダイオード10bは,図12,図13に示す工程で製

造することができる。図12の(a) に示すように,サファイヤ基板1上

に,上述した製造方法により,順次,AlNから成るバッファ層2,高

キャリヤ濃度n+ 層3,低キャリヤ濃度n層4a,i層5を製造した。

次に,図12の(b) に示すように,図12の(a) の多層構造のウェーハ

に対して太い刃物(例えば, 250μm 厚)を用いたダイシングによりi

層5から低キャリヤ濃度n層4a,高キャリヤ濃度n+ 層3,バッファ

層2,サファイヤ基板1の上面一部まで格子状に所謂ハーフカットにて

切り込みを入れた。」(段落【0033】)

・「次に,図7及び図8に示したのと同じ工程により,ITOから成る第

1の電極7と,第2の電極8のAl 層8aを,図13の(c) に示すよう

に形成した。さらに,図9に示す工程により,取出電極9のNi 層9b,

Au 層9c及び第2の電極8のNi 層8b,Au 層8cを形成した。」

(段落【0034】)

・「次に,図13(d) に示すように,細い刃物(例えば, 150μm 厚)を

用いたダイシングにより,格子状に第2の電極8が形成されてた切り込

みが入れられている部分において,サファイヤ基板1を格子状に切断し

た。このようにして,図11に示す構造の発光ダイオード10bを製造




することができる。」(段落【0035】)

イ 図面




【図6】 【図8】




【図13(d)】

(2) 上記(1)の記載によれば,乙2公報には,「サファイア基板1上に窒化ガ

リウム系化合物半導体(n層4,i層5)を積層した窒化ガリウム系化合

物半導体発光素子に関して(段落【0017】),太い刃物(例えば,

250μm 厚)を用いたダイシングにより,窒化ガリウム系化合物半導体層側

からサファイヤ基板1の上面一部まで格子状に所謂ハーフカットにて切り

込みを入れ(段落【0033】),そこに第2の電極8を形成し(段落

【0034】),その次に,細い刃物(例えば, 150μm 厚)を用いたダ

イシングにより,格子状に第2の電極8が形成された切り込みが入れられ

ている部分において,サファイヤ基板1を格子状に切断する発光ダイオー

ドの製造方法(段落【0035】)」という乙2発明が開示されているも

のと認められる。

(3) 乙2文献に基づく新規性欠如の有無について

ア 本件発明と乙2発明との対比




上記(1)及び(2)によれば,本件発明と乙2発明とは次の点で相違してい

ると認められる。

(相違点1)

本件発明では,第一の割り溝をエッチングにより線状に形成すると共に,

第一の割り溝の一部に電極が形成できる「平面」を形成するのに対し,乙

2発明では,第一の割り溝をダイシングにより線状に形成し,半導体層の

側面をそこに電極が形成できるように露出させる点

(相違点2)

本件発明では,ウエハーのサファイア基板側から第一の割り溝の線と合

致する位置で,第一の割り溝の線幅(W1)よりも細い線幅(W2)を有

する第二の割り溝を形成し,前記第一の割り溝および第二の割り溝に沿っ

て,前記ウエハーをチップ状に分離するのに対し,乙2発明では,第一の

割り溝の線と合致する位置で,第一の割り溝よりも幅の狭いダイシングブ

レードによって切断する点

イ 相違点1について

この点に関して被告らは,乙2公報には他の実施例として,第2の電極

8を形成するための「凹部21」を反応性イオンエッチングにより形成す

ることが開示されているので,上記(2)の記載における「切り込み」をエ

ッチングにより形成することも開示があると主張する。しかし,上記(1)

の記載によれば,乙2公報において,太い刃物を用いたダイシングにより

形成される「切り込み」は,単に第2の電極8を形成する目的で形成され

るのではなく,ウエハーからチップを分割するために,サファイア基板の

上面一部にまで達するように,所謂ハーフカットとして形成されるもので

ある。これに対し,乙2公報の別の実施例(段落【0023】ないし【0

025】,【図6】,【図8】)においては,第2の電極8を形成するた

めに,n層4(半導体層の一部)に達する凹部21をエッチングにより形




成することが開示されるにとどまるのであって,この凹部21はウエハー

からチップを分離するためのものではない。

したがって,乙2公報において,太い刃物を用いたダイシングにより形

成される「切り込み」につき,これをエッチングにより形成するという技

術的事項が開示されているとは認められない。

ウ 相違点2について

また,上記(1)によれば,細い刃物(例えば, 150μm 厚)を用いたダ

イシング(段落【0035】)は,図13(d)にかかわらず一段階でなさ

れるものであって,それによってサファイア基板を切断するためのものと

認められるから,サファイア基板側に本件発明にいう「第二の割り溝」が

形成されることにもならない。

エ 以上のとおり,本件発明が乙2発明に基づき新規性を欠く旨の被告らの

主張は理由がない。

(4) 乙2文献に基づく進歩性欠如の有無について

ア 被告らは,相違点1に関し,上記(3)イで主張したのと同様に,乙2公報

には他の実施例として,第2の電極8を形成するための「凹部21」を反

応性イオンエッチングにより形成することが開示されているので,当業者

にとって,上記相違点は容易に想到し得ると主張する。

しかし,上記(3)イで説示したとおり,乙2公報において半導体層から

ダイシングにより形成される「切り込み」は,ウエハーからチップを分割

するための所謂ハーフカットとして行われるのに対し,別の実施例におけ

るエッチングにより形成される凹部21は,第2の電極8を形成するため

のものであって,そこからチップを分離するためのものではなく,その形

成の目的等が異なるから,上記「切り込み」の形成方法としてエッチング

を適用する示唆も動機付けもなく,上記相違点が容易に想到し得るとはい

えない。




イ また,被告らは,相違点2に関し,本件発明の構成要件Dにおける「分

離」と,乙2発明における「ダイシング」による「切断」とが相違点であ

るとしても,基板側に細い溝を形成してチップを分離することは,乙4公

報や乙5公報に記載されるように周知技術であったから,上記相違点につ

いても容易想到である旨主張する。

しかし,上記(1)で認定したとおり,乙2発明では,細い刃を用いたダ

イシングによって,第2の電極8が形成された部分を切断しており,第2

の電極8に支障を生じさせない切断方法を採用する必要があると解される

ところ,被告らが主張する基板側に細い溝を形成してチップを分離する技

術的事項を適用した場合,細い溝を形成した上での「分離」の際に,第2

の電極8に支障が生じる可能性も否定できないから,乙2発明に被告らが

主張する周知技術を適用することが容易であるとは認められない。

(5) 以上のとおりで,その余の点について判断するまでもなく,争点(3)アに

関する被告らの主張は理由がない。

9 争点(3)イ(乙3公報に基づく進歩性欠如)について

(1) 乙3公報の内容

乙3公報には,次の記載がある。

ア 考案の詳細な説明

・「本考案の一実施例を示す窒化ガリウム系化合物半導体素子の平面図を

図1に表す。この窒化ガリウム系化合物半導体素子はサファイア基板1

上にn型層2,およびp型層4(判決注:p型層3の誤記と思われる。)

を順に積層した後,エッチングによりp型層3の一部を取り除き,n型

層2を露出させ,n型層2の上部とp型層3の上部とに電極を蒸着によ

り設けたものである。しかもp型層3を円弧状にエッチングすることに

より,p型層の面積を無駄なく確保しており,さらにp型層3の表面に

p型層3と電気的に接触した線状電極6を設けることにより,電流がp




型層に均一に広がる様になっている。」(段落【0010】)

・「【実施例】以下,一実施例に基づき,図面を参照しながら本考案を詳

説する。サファイア基板1上にTMG(トリメチルガリウム)−アンモ

ニアを用いMOCVD法により,厚さ3μmのn型GaN層2,および

厚さ0.5μmのp型GaN層3を順に積層した。その断面図を図4に

示す。」(段落【0015】)

・「パターニングの施されたSiO2層が現れたウエハーのp型層3をド

ライエッチングした。その断面図を図8に示す。」(段落【0019】)

・「残留するSiO2層を,前述のフッ酸溶液に浸漬することによって除

去した後,蒸着およびリフトオフ法により,図9に示すように,p型電

極5(線状電極6)とn型電極4を付け,ペレットチェックをウエハー

状態で行った後,ダイシングソーでカットして本考案の青色発光素子を

得た。なお,p型電極5および線状電極6はフォトレジストをp型層上

に形成した後,蒸着によって同時に形成した。」(段落【0020】)

イ 図面




(2) 上記(1)によれば,乙3公報には,「サファイア基盤1上に窒化ガリウム

系化合物半導体(n型層2,p型層3)を積層した窒化ガリウム系化合物半

導体素子に関して(段落【0010】),p型層3側からエッチングにより,

チップの周囲に相当する線状部分とn型電極を形成することのできる円弧状

の平面部分を形成し(段落【0010】,【0019】,【0020】,




【図1】,【図9】),エッチングされた線状部分の最も外側をダイシング

ソーでカットして青色発光素子を得る方法(段落【0020】,【図1】,

【図9】)」という乙3発明が開示されているものと認められる。

(3) 乙6公報の内容

乙6公報の発明の詳細な説明には,次の記載がある。

ア 特許請求の範囲

・「サファイア基板上に一般式GaXAl1-XN(0≦X≦1)で表される

GaXAl1-XN(0≦X≦1)系化合物半導体が積層されたウエハーを

チップ状に切断する方法において,前記サファイア基板の厚さを100

〜250μmとし,さらに,前記ウエハーの基板側,もしくは窒化ガリ

ウム系化合物半導体層側,またはその両側をスクライブして切断するこ

とを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体ウエハーの切断方法。」

(【請求項1】)

発明の詳細な説明

・「【実施例】以下本発明の切断方法を実施例で詳説する。

実施例1]@ 厚さ350μm,大きさ2インチφのサファイア基板

上に,n型GaN層とp型GaNを合わせて5μmの厚みで成長させた

発光ダイオード用のGaNウエハーの基板を,研磨器により研磨して1

20μmとする。さらに,基板側に粘着テープを貼付し,スクライバー

のテーブル上に張り付け,真空チャックで固定する。テーブルはx軸

(左右),y軸(前後)に動き,180度水平に回転可能な構造となっ

ている。

A 次に,スクライバーのダイヤモンド刃でGaN層をスクライブする

ことにより,テーブルに張り付けたGaNウエハーのGaN層に350

μmピッチのスクライブラインを引く。ダイヤモンド刃が設けられたバ

ーはz軸(上下),y軸(前後)方向に移動可能な構造となっている。




ダイヤモンド刃の刃先への加重は100gとし,スクライブラインの深

さを深くするため,同一のラインを5回スクライブすることにより,2

0μmの深さにする。

B スクライブラインを引いた後,テーブルを90度回転させ,Aと同

様にして350μmピッチで,先ほど引いたスクライブラインと直行す

るラインを20μmの深さで引く。

C 碁盤目状にスクライブラインを引いたGaNウエハーをテーブルか

ら剥し取り,サファイア基板側からローラーにより圧力を加えて,押し

割ることにより350μm角のGaNチップを得た。このようにして得

られた350μm角のGaNチップより外形不良によるものを取り除い

たところ,歩留は95%以上であった。」(段落【0014】)

・「[実施例2]@ 実施例1に同じ。

A 実施例1と同様にしてGaN層から150μmピッチのスクライブ

ラインを入れる。但しスクライブ回数は2回とし,深さは8μmとする。

B 実施例1と同様にテーブルを回転させ,スクライブ回数2回で,直

行するスクライブラインを引く。

以上のようにしてGaN層にスクライブラインを引き終えた後,サファ

イア基板に貼付した粘着テープを溶剤により取り去った後,再びスクラ

イブラインの入ったGaN層に粘着テープを貼付し,同様にスクライバ

ーのテーブル11に設置する。この際スクライバーの刃先の軌跡が先ほ

ど引いたGaN層のスクライブラインと一致するように刃先を一致させ

る。後はA〜Bの工程と同様にして,基板側にも碁盤目状のスクライブ

ラインを引く。

C 実施例1と同様にしてGaNウエハーを150μm角のチップに切

断したところ,同じく歩留は95%以上であった。」(段落【001

5】)




(4) 本件発明と乙3発明との対比

前記(1)及び(2)によると,本件発明と乙3発明とは,次の(一致点)で

一致し,(相違点)において相違するものと認められる。

(一致点)

サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体を積層したウエハー

から窒化ガリウム系化合物半導体チップを製造する方法において,

前記ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側から第一の割り溝を

所望のチップ形状で線状にエッチングにより形成すると共に,第一の割

り溝の一部に電極が形成できる平面を形成する工程と,

前記第一の割り溝に沿って,前記ウエハーをチップ状に分離する工程

とを具備することを特徴とする

窒化ガリウム系化合物半導体チップの製造方法である点

(相違点)

本件発明では,「前記ウエハーのサファイア基板側から第一の割り溝

の線と合致する位置で,第一の割り溝の線幅(W1)よりも細い線幅

(W2)を有する第二の割り溝を形成する工程」を有し,第一の割り溝

及び第二の割り溝に沿って,前記ウエハーをチップ状に分離する工程を

具備するのに対し,乙3発明では,それらの工程があるか不明である点

(5) 容易想到性について

上記相違点について検討する。

ア 被告らは,半導体層側に幅広の溝を形成し,基板側に細い溝を形成して

チップを分離することは,乙4公報や乙5公報に記載されるように周知技

術であったと主張する。

乙4公報や乙5公報の記載によれば,これら各公報には,従来のSi,

GaAs,GaAsP,GaP,GaAlAs等の半導体基板上に形成さ

れた半導体素子について,P層側からダイシングによりハーフダイスを行




い,基板の裏面からダイシングラインと一致するようにスクライブを行い,

その上でウエハーを割ってチップを分離する技術的事項が開示されている

ことが認められる。

しかし,上記の技術的事項については,本件発明や乙3発明のようなサ

ファイア基板上に半導体層を積層した窒化ガリウム系化合物半導体ウエハ

ーではなく,本件明細書等(段落【0003】,【0004】)にも記載

される従来技術,すなわち,硬いサファイア基盤を用いないGaAs等の

半導体結晶素子に関するものである。

したがって,上記の技術的事項を基板等の性質の異なる乙3発明に適用

することが容易であるとはいえない。

イ また,被告らは,窒化ガリウム系化合物半導体について,サファイア基

板側をスクライブして切断する技術的事項は,乙6公報に開示されていた

と主張する。

確かに,前記(3)で認定したところによれば,乙6公報には,サファイ

ア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体を積層したウエハーに関して,サ

ファイア基板側,半導体層側,あるいはその双方からスクライブして切断

するという技術的事項が開示されている。

しかし,乙3発明のp型層3側にエッチングで形成される線状部分につ

いては,乙3公報の図に線状(【図1】の平面図)又は溝状(【図9】等

の断面図)の記載があるのみであって,その線幅については何ら記載がな

く,また,乙3公報に,線状部分に関する記載ではないものの,エッチン

グの範囲に関連して「p型層3を最大限確保する」ことを推奨する記載が

あることに照らすと(段落【0013】),当業者としては,線状部分の

線幅もできる限り少なくするよう理解するものと認められる。

そうすると,乙3発明に乙6公報で開示されたサファイア基板側からス

クライブしてウエハーからチップを切断する方法を適用したとしても,半




導体層側からエッチングにより形成される線状部分の線幅(W1)とサフ

ァイア基板側からスクライブにより形成される線幅(W2)との関係は明

らかでないというべきであり,上記の相違点のうち,「第一の割り溝の線

幅(W1)よりも細い線幅(W2)を有する第二の割り溝」の構成には至

らないというべきである。

ウ さらに,被告らは,乙22ないし24の各公報に,十分な広さをもって

スクライブライン(乙3発明のエッチング部分に相当する)を形成するこ

とが開示されているように,分割時のダメージが及ばないようスクライブ

ラインにある程度の幅を持たせることも当然のことであるから,スクライ

ブの幅の方がエッチング部分の幅よりも狭いことは明らかである旨主張す

る。

しかし,乙22ないし24の各公報の記載によれば,これら各公報には,

ウエハーからチップを分割するに際し,分割手段(スクライバーやダイサ

ー)が直接当たる領域について,加工のずれに対応し,あるいは加工の影

響が半導体素子の作動領域に及ばないようにするために,分割するための

領域(チップ間の間隙でもあり,スクライブラインなどと呼ばれる。)と

してスクライブやダイシングの幅よりも広い領域(スクライブラインの幅)

を確保しておく必要があるという技術的事項が開示されているにとどまる

ものと認められる。このように,これらの各公報においては,スクライバ

ー等の分割手段が直接当たる側に相応の幅を確保するための技術的事項が

開示されるにとどまり,分割手段がウエハーの基板側に当たる場合に,逆

の半導体側により広い線幅の溝を形成する技術的事項を開示するものでは

ないから,これを乙6発明に適用したとしても,半導体層側のエッチング

部分の線幅よりサファイア基板側のスクライブによる線幅が細くなるとい

う構成は導かれない。

なお,乙24公報の記載によれば,同公報には,ウエハーの分割に際し,




主表面側に幅W1の溝を,裏面側に幅W2の溝をそれぞれ形成し,W2を

W1よりも大きく設定するという技術的事項が開示されていると認められ

る。このように,裏面側の溝幅W2の方がW1よりも大きく設定される以

上,これを乙6発明に適用したとしても,裏面に相当するサファイア基板

側の溝幅の方が,主表面に相当する半導体層側のエッチング部分の線幅よ

りも大きくなってしまい,相違点2に係る本件発明の構成には至らない。

エ 以上のとおり,本件発明は,乙3発明及び周知技術に基づいて当業者が

容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6) 以上のとおりで,争点(3)イに関する被告らの主張は理由がない。

10 争点(3)ウ(本件補正における新規事項追加の有無)について

(1) 被告らは,原告が本件補正において,本件発明の構成要件Bに関して,第

一の割り溝をエッチングにより形成するのと「共に」電極が形成できる平面

を形成するという内容の補正(新規事項@)と,第一の割り溝の「一部に」

電極が形成できる平面を形成するという内容の補正(新規事項A)を行った

ことは,当初明細書に記載のない新規事項の追加に当たると主張するので,

以下,検討する。

(2) 本件特許に係る当初明細書の内容

当初明細書(乙8)には,電極が形成できる平面に関して,次の記載があ

る。

発明の詳細な説明

・「図4は,図1に示すウエハーを窒化物半導体層側からみた平面図であ

り,第一の割り溝11の形状を示していると同時に,チップ形状も示し

ている。この図では,p型層3を予めn層の電極が形成できる線幅でエ

ッチングして,第一の割り溝11を形成し,さらにp型層3の隅部を半

弧状に切り欠いた形状としており,この切り欠いた部分にn層の電極を

形成することができる。」(段落【0016】)




・「【発明の効果】

(略)また図1に示すように第一の割り溝を形成すれば,第一の割り溝

の表面に電極を形成することもできる。」(段落【0027】)

イ 図面




(3) 上記(2)で認定した当初明細書の段落【0016】では,【図4】は【図

1】の平面図であり,第一の割り溝11の形状を示すとされており,その

【図4】において「半弧状に切り欠いた」部分も含めた一体的な形状でn型

層2の露出部分が記載されていることに照らすと,段落【0016】及び

【図4】には,第一の割り溝11に「半弧状に切り欠いた」部分が含まれ得

ること,また,「半弧状に切り欠いた」部分を含めてエッチングにより一体

として形成することが記載されているものと認められる。

(4) この点に関して被告らは,当初明細書の段落【0016】において,「さ

らに」という文言が使用されていることから,その前に記載された「第一の

割り溝11」の形成と,その後に記載された「半弧状に切り欠いた」部分と

は,別個に,先後関係をもって形成されるものであり,かつ,「半弧状に切

り欠いた」部分は「第一の割り溝11」の一部ではない旨主張する。

しかし,段落【0016】の記載と【図4】の記載を総合して斟酌すれば,

段落【0016】の「さらに」は,「第一の割り溝11」に関する付加的な

説明を意味するものと解されるのであって,先後関係を示すものとは解され

ないから,被告らの上記主張を採用することはできない。




(5) 以上のとおり,被告らの主張する新規事項@及びAはいずれも新規事項の

追加には当たらず,争点(3)ウに関する被告らの主張は理由がない。

11 争点(3)エ(乙6公報及び乙3公報に基づく進歩性欠如)について

(1) 本件発明と乙6発明との対比

前記9(3)で認定した乙6公報の記載によれば,同公報には,「サファイ

ア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体を積層したウエハーを切断する方法

であって,前記ウエハーの半導体層側から線状にスクライブし,また,サフ

ァイア基板側からも半導体層側のスクライブラインと一致するようにスクラ

イブし,それらのスクライブラインに沿ってチップに切断する製造方法」で

ある乙6発明が開示されていると認められる。

(2) そうすると,本件発明と乙6発明とは,次の(一致点)で一致し,(相違

点1)及び(相違点2)において相違することになる。

(一致点)

サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体を積層したウエハー

から窒化ガリウム系化合物半導体チップを製造する方法において,

前記ウエハーの窒化ガリウム系化合物半導体層側から第一の割り溝を

所望のチップ形状で線状に形成する工程と,

前記ウエハーのサファイア基板側から第一の割り溝の線と合致する位

置で,第二の割り溝を形成する工程と,

前記第一の割り溝および前記第二の割り溝に沿って,前記ウエハーを

チップ状に分離する工程とを具備することを特徴とする

窒化ガリウム系化合物半導体チップの製造方法である点

(相違点1)

本件発明が,第一の割り溝をエッチングにより形成すると共に,第一

の割り溝の一部に電極が形成できる平面を形成するのに対して,乙6発

明では,第一の割り溝をスクライバーにより形成しており,それと共に




電極が形成できる平面を形成することが開示されていない点

(相違点2)

本件発明が,第一の割り溝の線幅(W1)よりも細い線幅(W2)を

有する第二の割り溝を形成するのに対し,乙6発明では,そうであるの

か不明である点

(3) 容易想到性について

被告らは,相違点2に関して,乙3公報の【図9】,【図1】,【図2】

の記載からすると,乙6発明に乙3発明を適用すれば,第一の割り溝の線幅

よりも第二の割り溝の線幅の方が細くなる旨主張する。

しかし,上記9で説示したとおり,乙3公報の図面にはエッチングにより

形成される線状部分の線幅については何ら記載がなく,段落【0013】の

記載から,当業者としては,線状部分の線幅もできる限り少なくするよう理

解するものと認められることに照らすと,半導体層側からエッチングにより

チップの周囲に相当する線状部分とn型電極を形成することのできる円弧状

の平面部分を形成する乙3発明を適用したとしても,半導体層側のエッチン

グ部分の線幅よりもサファイア基板側のスクライブの線幅が細くなるという

構成は当然には導かれないというべきである。

また,被告らは,乙3発明のエッチング部分に相当するスクライブライン

を十分な広さをもって形成することは,乙22ないし24の各公報に記載さ

れるように周知技術であると主張する。

しかし,前記9で説示したとおり,乙22ないし24の各公報に開示され

た技術的事項によっても,半導体層側のエッチング部分の線幅よりサファイ

ア基板側のスクライブの線幅が細くなるという相違点2に係る本件発明の構

成には至らない。

(4) 以上のとおり,その余の相違点について判断するまでもなく,争点(3)エ

に関する被告らの主張は理由がない。




12 争点(4)(損害発生の有無及びその額)について

(1) 被告E&Eの販売等に係る特許法102条2項損害額

特許法102条2項の適用に関して,本件特許の登録日である平成10年

5月15日から現在までの間に,被告E&Eが被告LEDの販売等により得

た利益が18万円であることは,原告と被告E&Eとの間において争いがな

い。

したがって,被告E&Eによる被告LEDの販売等に係る特許法102条

2項の損害額は18万円と認められる。

(2) 被告立花の販売等に係る特許法102条2項損害額

ア 被告立花が,平成25年1月,イガラシに対して,イ号LEDを100

0個,ロ号LEDを500個,いずれも単価20円(合計3万円)で販売

したことは前提第2,1(7)イのとおりである。また,当該売上げに係る

被告立花の限界利益率が10%であることは,当事者間に争いがない。

この点に関して原告は,本件特許の登録日である平成10年5月15日

から現在までの間における被告立花による被告LEDの売上が合計60万

円を下らない旨主張する。

しかし,本件全証拠を精査しても,被告立花が,上記の合計3万円を超

えて被告LEDを販売した事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって,被告立花の販売等に係る特許法102条2項損害額は3

000円(3万円×0.1=3000円)と認めるのが相当である。

イ 被告立花の主張に対する判断

この点に関して被告立花は,上記アにおけるイ号LED1000個の販

売について,原告が証拠収集のためにイガラシを介して発注したことに基

づくものであり,販売されたイ号LEDについても,被告立花が回収した

か,原告が保有又は消費しており,第三者に販売されたものはないので,

原告には売上減少による逸失利益たる損害は発生していないと主張する。




確かに,証拠(甲6の1,丙4の4,4の6,4の8の1,7の1ない

し7の9の2)によれば,原告がイ号LEDの構成を分析するために用い

た試料が1000個入りの袋に入っており,被告立花がイガラシに販売し

たイ号LEDの個数と一致すること,また,被告立花とイガラシとの間で

イ号LEDの販売に関して交わされた電子メール,発注書,納品書等を原

告が入手しており,これを別件訴訟に証拠として提出したことは認められ

る。

しかし,イ号LEDの市場における販売数量や流通経路は明らかではな

く,上記の事実のみから直ちに,原告がイガラシを介してイ号LEDを購

入したとまで認めることはできず,その一部を原告が消費又は保有してい

ると認めることもできない。また,証拠(丙8)によれば,被告立花がイ

ガラシからイ号LED103個の返品を受けた事実は認められるが,販売

後の事情にすぎず,これにより既に発生した損害に消長を来すものと解す

ることはできない。

したがって,被告立花の上記主張は採用することができない。

ウ 原告の主張に対する判断

原告は,被告立花の販売等に係る損害について,被告E&Eも連帯して

支払う義務がある(共同不法行為を主張するものと解される。)旨主張す

る。

しかし,原告の主張は,被告立花が被告LEDを被告E&Eから仕入れ

て販売したというにとどまり,被告らの共謀や客観的共同関連性について

の主張はなく,また,これを認めるに足りる証拠もない。

したがって,被告立花の販売等に係る損害について被告E&Eが連帯責

任を負う旨の原告の主張は理由がない。

エ 以上のとおり,被告立花の販売等に係る特許法102条2項の損害とし

て,被告立花は,原告に対し,3000円の損害賠償義務を負うというべ




きである。

(3) 弁護士・弁理士費用

本件事案の内容,審理経過など,本件に表れた事情を総合すると,侵害

為と相当因果関係のある弁護士・弁理士費用は,被告らそれぞれに対し各2

0万円と認めるのが相当である。

(4) 合計

以上のとおり,上記(1)ないし(3)の合計額は,被告E&Eにつき38万円,

被告立花につき20万3000円となる。

13 争点(5)(弁済の抗弁)について

被告らは,本件のイ号LEDをイ号物件とする別件訴訟の判決で命じられ

た損害賠償額を弁済しており,その損害賠償債務において本件特許権の侵害

に基づく損害賠償義務も評価されているから,上記弁済により,その範囲で

本件における損害賠償債務も消滅する旨主張する。しかし,別件判決(乙7

4)によれば,別件訴訟は,本件特許権とは異なる別件特許権1の侵害に係

る損害賠償の支払を命じたものであると認められる。すなわち,本件訴訟と

別件訴訟とでは訴訟物が異なるから,たとえ本件訴訟と別件訴訟における侵

害物件がイ号LEDの範囲で重なるとしても,別件訴訟の訴訟物に係る弁済

により当然に本件訴訟における損害賠償義務が消滅するとはいえない。加え

て,別件判決においては,イ号物件(本件のイ号LED)が原告の他の特許

権に係る発明の技術的範囲に含まれるかどうかや,含まれるとした場合の寄

与の程度が判然としないことから,推定の覆滅には十分でないと判断された

のであって,別件訴訟における原告の損害と本件訴訟における損害とが共通

することを認定したものでもない。

したがって,被告らの上記主張は採用することができない。

14 結論

以上によれば,原告の請求は主文掲記の限度で理由があるのでその範囲で




認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。



東京地方裁判所民事第40部




裁判長裁判官



東 海 林 保




裁判官



瀬 孝




古谷健二郎裁判官は,差支えのため,署名押印することができない。




裁判長裁判官



東 海 林 保





(別紙)

当 事 者 目 録



原 告 日 亜 化 学 工 業 株 式 会 社



同訴訟代理人弁護士 古 城 春 実

同 宮 原 正 志

同 牧 野 知 彦

同 加 治 梓 子

同訴訟代理人弁理士 鮫 島 睦

同 山 尾 憲 人

同 田 村 啓

同 玄 番 佐 奈 恵



被 告 株 式 会 社 立 花 エ レ テ ッ ク



同訴訟代理人弁護士 井 上 裕 史

同 佐 合 俊 彦

同 田 上 洋 平



被 告 E&E Japan株式会社



同訴訟代理人弁護士 黒 田 健 二

同 吉 村 誠





(別紙)

物件目録



被告らが輸入,譲渡,譲渡の申出等を行っている下記の青色LED。







1 1254−15ASUBC/XXXX−XX−X(XXX)

2 7344−15ASUBC/XXXX−XX−X(XXX)



ただし,上記のXには,任意の英数字が入る。




(別添「特許公報」は省略)






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