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事件 |
平成
26年
(行ケ)
10155号
審決取消請求事件
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原告 キッコーマン株式会社 訴訟代理人弁護士塚原朋一 鰺坂和浩 弁理士長谷川芳樹 坂西俊明 阿部寛 池田正人 城戸博兒 吉住和之 中塚岳 訴訟復代理人弁護士 寺下雄介 本高廣 被告花王株式会社 訴訟代理人弁理士花田吉秋 中田聖士 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/10/19 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が無効2013−800113号事件について平成26年5月19日-1-にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
主文同旨。 |
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事案の概要
本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,進歩性判断及びサポート要件判断の当否である。 1 特許庁における手続の経緯 被告は,平成16年4月19日に出願され(特願2004-122603号。優先権主張:平成15年5月12日(本件優先日),日本),平成21年7月10日に特許権の設定登録がなされた特許(本件特許。特許第4340581号。発明の名称「減塩醤油類」)の特許権者である(甲69)。 原告は,平成25年6月27日,本件特許について無効審判請求をしたところ(無効2013-800113号),特許庁は,平成26年5月19日,「本件審判の請求は,成り立たない。審判費用は,請求人の負担とする。」との審決をし,同審決謄本は,同月29日に原告に送達された。 2 本件発明の要旨 本件特許の特許請求の範囲請求項1ないし5に記載された発明(本件発明。別件無効審判請求事件(無効2010-800228号)における手続でなされた平成23年3月4日付け訂正請求(本件訂正。甲14)後のもの。本件訂正は,平成24年6月6日に言い渡された当庁平成23年(行ケ)10254号事件判決の確定によって,既に確定した。)の要旨は,次のとおりである(以下,請求項の番号に応じて,例えば「本件発明1」などと表記する。また,本件訂正後の本件特許の明細書及び図面(甲14)を「本件明細書」という。 。 ) 【請求項1】 食塩濃度7〜9w/w%,カリウム濃度1〜3.7w/w%,窒素濃度1.9〜2.2w/v%であり,かつ窒素/カリウムの重量比が0.44〜1.62である減塩醤油。 【請求項2】 塩化カリウム濃度が2〜7w/w%である請求項1記載の減塩醤油。 【請求項3】 窒素濃度が1.9〜2.2w/v%である請求項1又は2記載の減塩醤油。 【請求項4】 更に,核酸系調味料,アミノ酸系調味料,有機酸塩系調味料及び酸味料から選ばれる1又は2以上の添加剤を含有する請求項1〜3のいずれか1項記載の減塩醤油。 【請求項5】 濃縮及び脱塩により窒素濃度を1.9〜2.2w/v%としたものである請求項1〜4のいずれか1項記載の減塩醤油。 3 審決の理由の要旨 審決は,本件発明につき,進歩性を認めるとともに,サポート要件違反はないと判断した。 (1) 原告の主張した無効理由 ア 進歩性欠如 本件発明は,甲1ないし3に記載された発明(甲1発明ないし甲3発明)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができない。 甲1:特公昭62-39978号公報 甲2:特開昭59-55165号公報 甲3:特公昭62-62143号公報 イ サポート要件違反 食塩濃度が9w/w%未満の場合について,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明1が課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されておらず,本件発明は,発明の詳細な説明に記載したものでないから,特許法36条6項1号の要件を満たしていない。 (ア) 本件明細書の記載を根拠とした主張 食塩濃度が9w/w%未満の場合に,塩味3以上で苦味3以下の減塩醤油が得られるか否かについては,本件明細書に「7〜9w/w%が好ましい」 【0009】 ( )旨記載されているが,具体的な実施例は示されていない。本件明細書の【表1】において,実施例1,実施例3及び実施例4の減塩醤油では,食塩濃度が上限の9w/w%であるにもかかわらず,塩味が3と評価されているが,カリウム濃度及び窒素濃度を固定したまま食塩濃度を本件発明1で規定される範囲内で減少させた場合,塩味が3と評価されるとは,本件明細書のその他の記載,及び,本技術分野における技術常識を参酌したとしても,理解できない。 (イ) 原告が行った試験例(甲11,12及び23)を根拠とした主張 比較例6,比較例13及び試験品F相当品について,二点識別試験により,塩味と苦みを評価したところ(甲11及び12) 塩味, , 苦味のいずれの点においても,少なくとも食塩濃度8.0w/w%以下の減塩醤油では,本件発明の課題を解決できていない。 (ウ) 被告が行った試験例(甲10)を根拠とした主張 被告による試験結果報告書(甲10)によれば,本件発明1に係る減塩醤油である試験品D(食塩濃度7.0w/w%,カリウム濃度1.1w/w%,窒素濃度2.00w/v%,N/K 1.61w/w)及び試験品E(食塩濃度7.1w/w %,カリウム濃度2.1w/w%,窒素濃度1.93w/v%,N/K0.80w/w)では,塩味がいずれも2であり,苦味がそれぞれ1及び2と評価され,いずれも塩味が3以上ではなく,本件発明の課題を解決できていない。 (エ) 本件発明4について 本件明細書【表2】において,塩味及び苦味は,【表1】と同様の評価がなされていない。 実施例12の減塩醤油は,甲11及び12で実際に評価した試験品F’の減塩醤油と比較して,食塩濃度が0.20w/w%高いが,カリウム濃度が1.60w/w%も低いから,少なくとも塩味に関しては試験品F’の減塩醤油が示した2未満(より1に近い。)である蓋然性が高い。そうすると,添加剤を1種のみ添加した場合,添加効果として「塩味感の向上」がみてとれない実施例15,実施例18及び実施例19の減塩醤油は,対照品である実施例12の減塩醤油と同等の塩味しか感じられないこととなり,本件発明の課題を解決できない。 (2) 審決の判断 ア 進歩性について (ア) 甲1発明の認定 「醸造法による醤油の製造に際し,塩化カリウムおよび塩化ナトリウムの総濃度が7〜20%(W/V)で,かつそのうち塩化カリウムの量が塩化カリウムおよび塩化ナトリウムの総重量の5〜50%であるような量の塩化カリウムと塩化ナトリウムの存在下に,仕込みを行なうか,または発酵,熟成を行なうことで製造された醤油。」 (イ) 本件発明1と甲1発明の対比(一致点) 「所定の食塩濃度w/w%,所定のカリウム濃度w/w%,所定の窒素濃度w/v%であり,かつ所定の窒素/カリウムの重量比である減塩醤油。」(相違点) 各成分の濃度等が本件発明1では,「食塩濃度7〜9w/w%」,「カリウム濃度1〜3.7w/w%」,「窒素濃度1.9〜2.2w/v%」であり,かつ,「窒素/カリウムの重量比が0.44〜1.62」であるのに対して,甲1発明では,発酵前の状態の食塩濃度及びカリウム濃度を導くことはできるが,発酵後の醤油に含まれる食塩濃度及びカリウム濃度の正確な濃度は不明であり,また,窒素濃度及び窒素/カリウムの重量比も不明である点。 (ウ) 判断 a 本件明細書の記載からすると,醤油に窒素を含む添加物を添加した場合にあっては,本件発明1でいう「窒素濃度」とは,添加物に含まれる窒素を含めて,「窒素濃度」というものと解される。本件発明1の「食塩濃度7〜9w/w%の濃度範囲」において「カリウム濃度1〜3.7w/w%,窒素濃度1.9〜2.2w/v%であり,かつ窒素/カリウムの重量比が0.44〜1.62」とすることは,それぞれの範囲が相互に関連しており,併せて臨界的意義を有しているといえる。 他方,甲1発明において,苦味のない醤油に寄与しているのは,特許請求の範囲の「塩化カリウムおよび塩化ナトリウムの総濃度が7〜20%(W/V)で,かつそのうち塩化カリウムの量が塩化カリウムおよび塩化ナトリウムの総重量の5〜50%であるような量の塩化カリウムと塩化ナトリウムの存在下」という条件であって,窒素濃度を変化させようとする技術思想を,甲 1 から導くことはできない。 食塩濃度を下げて減塩醤油を作ろうとする課題は周知であり, 1 発明において, 甲減塩醤油を作成するために,塩化カリウムと塩化ナトリウムの濃度を変化させようとするとしても,窒素濃度を変化させて,本件発明1の「窒素濃度1.9〜2.2w/v%であり,かつ窒素/カリウムの重量比が0.44〜1.62である減塩醤油」とすることは困難である。 b 甲2には,塩化カリウムを含有する醤油に核酸系調味料及び/又は 「アミノ酸系調味料を添加し,塩化カリウムの苦味を消失させることを特徴とする醤油の製造法。」という発明(甲2発明)が記載されていると認められるが,甲 1 発明では,第1表に記載のように,既に苦味が取れており,さらに,苦味を低減させようとする動機付けがない。しかも,甲 1 発明において,甲2発明を適用して「核酸系調味料及び/又はアミノ酸系調味料」を所定量添加できたとしても,添加した「核酸系調味料及び/又はアミノ酸系調味料」を窒素濃度に変換して,甲 1 発明の醤油に含まれる窒素濃度に加えるべく構成しないと本件発明1にならない。窒素濃度に注目する動機付けがなく,本件発明1の構成にすることは困難である。 甲1発明に甲2発明を適用することができたとしても,甲1及び甲2には,窒素濃度により塩味が増強することは記載されておらず,本件優先日前の技術常識を参酌しても,これを導くことができないから,本件発明1の「食塩濃度7〜9w/w%,カリウム濃度1〜3.7w/w%」において, 「窒素濃度1.9〜2.2w/v%であり,かつ窒素/カリウムの重量比が0.44〜1.62」とすることで,塩味の増強効果があることを,当業者が予測することは困難である。 c 甲3には,イオン交換膜により醤油を脱塩する低食塩醤油が記載されているが,甲1発明の醤油において,さらに,イオン交換膜による脱塩を行う動機付けがない。仮に,甲1発明に甲3発明を適用できたとしても,窒素濃度とカリウムによる苦味の関係,窒素濃度による塩味増強作用,及び,窒素/カリウムの重量比については,甲3や他の証拠方法に何ら記載がなく,本件発明1の構成に想到することは困難である。 d 原告の提出する他の証拠方法にも,カリウムによる苦味と窒素濃度の関係及び窒素濃度による塩味増強作用,及び,窒素/カリウムの重量比について,記載されていない。 e そうすると,本件発明1を特許法29条2項により特許を受けることができないものとすることはできない。そして,本件発明2ないし5は,請求項1を直接又は間接的に引用する下位概念の発明であるから,本件発明1と同じ理由により,無効とすることはできない。 イ サポート要件について (ア) 本件明細書の記載を根拠とした原告の主張について 本件明細書には,食塩濃度が9.0w/w%で,カリウム濃度が窒素重量比との関係で下限値(1.1w/w%)にある本件発明1に係る減塩醤油の塩味の指標が,本件明細書において本件発明1の課題が解決できるとされている指標の下限である3と記載されており(実施例3),また,食塩濃度が8.48w/w%でカリウム濃度が1.06w/w%の場合は,各種添加剤を配合した本件発明1に係る減塩醤油の塩味の指標が3.5と記載されている(実施例21)。このように,減塩醤油の食塩濃度が本件発明1で特定される範囲で上限値に近い場合であっても,カリウム濃度が本件発明で特定される範囲で下限値付近の場合には,塩味の指標は本件発明1の課題が解決できるとする数値の下限付近であることから,食塩濃度が7w/w%台でカリウム濃度が本件発明で特定される範囲で下限値付近の減塩醤油の塩味の指標は,食塩濃度が9.0w/w%や8.48w/w%の上記減塩醤油の場合よりも,更に低くなるものと解される。 他方,本件明細書の【表1】において,窒素濃度が2w/v%付近にある比較例7及び14(K濃度 0w/w%,塩味1. , 5) 実施例3(K濃度 1.1w/w%,塩味3),実施例4(K濃度 1.6w/w%,塩味3),実施例1(K濃度 2.1w/w%,塩味3),実施例5(K濃度 2.1w/w%,塩味4),実施例6(K濃度 2.6w/w%,塩味4),実施例9(K濃度 3.7w/w%,塩味5),比較例23(K濃度 4.7w/w%,塩味5)の結果に照らすと,カリウム濃度が大きくなると塩味も強く感じる傾向にあることが分かる。このように,カリウムによる塩味の代替効果はカリウム濃度に依存するものと解され,また,本件明細書には,カリウム濃度が上限値の3.7w/w%にある本件発明1に係る減塩醤油(実施例7,9及び11)の塩味の指標は5で,通常の醤油よりも強い塩味であることも記載されている。 よって,本件明細書に接した当業者は,本件発明1において,食塩濃度が7w/w%台の減塩醤油であって,カリウム濃度が本件発明で特定される範囲で下限値に近い場合には,塩味が十分に感じられない可能性があると理解すると同時に,このような場合には,カリウム濃度を本件発明1で特定される範囲の上限値近くにすることで,減塩醤油の塩味を強く感じさせることができると理解するものと解される。 他方,窒素濃度は,苦味の抑制に寄与していることが理解される。本件明細書に接した当業者は,食塩濃度7w/w%台で本件発明1を実施しようとすれば,塩味を増すために本件発明1で特定される範囲の上限値近くにしたカリウム濃度に伴い生じる苦味を,窒素濃度を増やすことで解消することができると理解するものといえる。 本件明細書から,9w/w%の食塩濃度においては,食塩及び塩化カリウム(カリウム濃度)が塩味を付け,窒素濃度が塩味を増強すること,窒素濃度が苦味を低減させるという作用があることが理解される。 そうすると,「カリウム濃度」が塩味を付け,「窒素濃度」が塩味を増強し,苦味を低減させるという原理が本件明細書から読み取れ,食塩濃度が9w/w%において観察された現象が,食塩濃度7w/w%で観察されないという合理的な理由はないから,本件発明1で規定される範囲内で,カリウム濃度を増やし,窒素濃度を増やし,窒素/カリウムの重量比が0.44〜1.62とすることによっても,課題を解決できないとまではいえない。 よって,本件発明1の特許請求の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものといえる。 (イ) 原告が行った試験例を根拠とした原告の主張について 官能評価条件の異なる官能試験結果を同列に比較できないのであれば,甲12の二点識別試験が行われた官能評価条件と,本件明細書の【表1】で行われた官能評価条件は異なるから,甲12の結果と本件明細書の【表1】記載の評価を組み合わせることはできない。 本件明細書の実施例(【0022】)の脱塩方法は,電気透析を行いながら,塩分濃度が極端に低下することがないように食塩を添加し脱塩処理を繰り返すことで窒素濃度を高めるものであり,電気透析法の条件は,他の成分が除去されやすくなり得る塩分濃度が極端に低下する状態を避ける温和な条件であるといえる。電気透析条件の違いにより,各成分等の濃度等が全く同じに調製された醤油であっても,でき上がった醤油の他の成分が異なるものとなり,苦味や塩味といった官能評価も影響を受ける。 また,本件明細書の【表1】には,食塩9w/w%の減塩醤油について,各成分の濃度等が同じ,又は,ほぼ同じ実施例が記載されているが,原料となる醤油の種類により,各成分の濃度等が同じでも,官能評価が異なることが分かる。 したがって,本件発明1を課題が解決できるように実施するに際しては,各成分の濃度等が,本件発明1の特定事項の範囲内になるだけではなく,原料の選択や,電気透析の条件も適切なものとしなければならない。 甲11,12及び23の試験結果から,課題が解決できないことが導かれたとしても,原料となる醤油の選択や電気透析の条件が,課題の解決のために不適切であったにすぎず,これらの試験結果をもって,課題を解決できないとはいえない。 (ウ) 被告が行った試験例を根拠とした原告の主張について カリウム濃度に関し,本件明細書に接した当業者は,本件発明1において,食塩濃度が7w/w%台の減塩醤油であって,カリウム濃度が本件発明1で特定される範囲で下限値に近い場合には,塩味が十分に感じられない可能性があると理解すると同時に,このような場合には,カリウム濃度を本件発明1で特定される範囲の上限値近くにすることにより,減塩醤油の塩味を強く感じさせることができると理解するものと解される。すなわち,甲10の試験品Dのように,食塩濃度7w/w%,カリウム濃度1.1w/w%,窒素濃度2.00w/v%,窒素/カリウムの重量比1.61とした場合のように,カリウム濃度が本件発明1で規定される下限に近い1.1w/w%の試験品Dで塩味の評価が2となり,課題が解決できないことは,本件明細書から予想されるとおりの結果である。 このように,本件発明1で規定される「食塩濃度7〜9w/w%」「カリウム濃 ,度1〜3.7w/w%」「窒素濃度1.9〜2.2w/v%」及び「窒素/カリウ ,ムの重量比が0.44〜1.62」に含まれる全ての数値の組合せで課題が解決されなければならないと解すべきでない。 甲10の試験品Fのごとく,課題を解決する上で最も厳しい食塩濃度7w/w%であっても,本件発明1で規定される各成分等の範囲内で濃度等を調製すれば,課題が解決できることが示されているから,本件発明1は,食塩濃度7〜9w/w%」 「の範囲で,課題が解決できるものといえる。 (エ) 本件発明4について 本件明細書の【表2】は,各成分の濃度等をほぼ同じにし,様々な添加物を入れた場合の効果を無添加のものと比較して,添加物の効果を調べるものであるから,【表1】と同様の評価をする必要はない。 |
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原告の主張
1 取消事由1(サポート要件の判断の誤り) 審決は,本件発明の課題を明示的に認定していないが,本件明細書の記載から,「レギュラー品(通常品)に比べ若干弱いもの以上の塩味が感じられ,かつ,苦みをわずかに感じるか又はそれ以下の苦みしか感じない減塩醤油」を提供することであると解される(本件課題)。 本件明細書の発明の詳細な説明には,食塩濃度9w/w%,カリウム濃度2.1w/w%で塩味が3と評価される(実施例1)という記載があるが,かかる記載に接した当業者であれば,本件発明1の実施品である食塩濃度が7w/w%でカリウム濃度が1w/w%の減塩醤油は,塩味が2以下と評価され,本件課題を解決できないことを,当然に理解する。 したがって,本件明細書について,サポート要件適合性を肯定した審決の判断は明らかに誤りである。 (1) 審決は,本件明細書に接した当業者は,本件発明1において,食塩濃度が7w/w%台の減塩醤油であって,カリウム濃度が本件発明1で特定される範囲で下限値に近い場合には,塩味が十分に感じられない可能性があると理解すると判断した。これは,審決自身が,本件発明1に係る特許請求の範囲には,本件課題を解決できない範囲が記載されていることを認めているにほかならない。本件発明1の構成により本件課題を解決するのが, 「全く予想外」 (本件明細書【0013】)だったのであれば,当業者が,課題解決に関する記載や示唆がないのに,出願時の技術常識に照らし,当該発明の課題を解決できるとは認識できないはずである。 (2) 当業者は,食塩濃度を下限に設定した場合,カリウム濃度を上限にすれば,本件課題が解決されるとは理解できない。 窒素濃度は,本件課題を解決するために必要な要素であるから,窒素濃度にかかわらず,カリウム濃度を本件発明1で特定される範囲の上限値近くにすることにより,本件課題が解決されるということは,本件明細書から理解できない。 塩化カリウムによって感じられる塩味は,食塩よりも低いから,食塩濃度を9w/w%から7w/w%に下げても,カリウム濃度を1〜3.7w/w%の範囲の上限近くに調節すれば塩味の課題が解決されるというのは,当業者の技術常識に反している。 また,塩味,苦みの評価は,特定の成分の濃度だけで決まるものではなく,同じカリウム濃度であっても食塩濃度が高ければ苦みは小さくなるなど,食塩濃度とカリウム濃度の比によって苦みが決まるというのが,当業者の技術常識である。たとえ,カリウム濃度を本件発明1で特定される範囲の上限値近くにすることにより塩味が向上することが理解できたとしても,苦みの点で課題が解決できないことが,同時に理解される。 カリウム濃度を本件発明1で特定される範囲の上限値近くにしても,それにより本件課題が解決されないことは,甲11,12及び23からも明らかである。甲12では,試験品F(食塩濃度7.0w/w%)及び試験品F’ (食塩濃度8.0w/w%)の両方が,本件明細書中の比較例6相当品(塩味評価2:減塩醤油(食塩9w/w%)とレギュラー品(通常品)(食塩濃度14w/w%相当)の中間くらい)との比較において,統計上有意に塩味が弱いと評価されている。すなわち,試験品F及び試験品F’は,両方とも塩味は2未満と評価されるべきものである。 食塩は塩化カリウムよりも塩味に寄与する程度は大きいが,他方,カリウムには苦みがある。本件明細書にも,食塩濃度9w/w%系において,塩味3以上で苦み3以下にできることが予想外であったと記載されている【0012】。 ( )そうすると,食塩濃度9w/w%系で予想外の効果が,9w/w%未満でも得られることを当業者が理解できるはずがなく,課題が解決できると認識できるのは,9w/w%のみであって,クレームよりも著しく狭い。 実施例20ないし25に添加された各種調味料又は酸味料は,塩味の向上等の作用効果を奏するために十分な量であり,互いに相乗的に塩味を増強している。食塩濃度が9w/w%で調味料,酸味料が無添加の場合の実施例1,3及び4において塩味が3しかなく,カリウム濃度が2.10w/w%で調味料,酸味料が無添加の実施例1,比較例5及び12で塩味がそれぞれ3,1.5及び2しかないことからすると,調味料,酸味料を添加しなければ,実施例20ないし25の塩味が3未満になることは明らかである。したがって,当業者は,食塩濃度8.32〜8.50w/w%で各種調味料又は酸味料を含まない醤油は,本件課題を解決できないと理解する。 本件明細書の比較例6と実施例7を比較すると,窒素が食塩の10倍以上も塩味を増強する物質であることが示されていることになるが,窒素よりも食塩の方が塩味への寄与が大きいこと(甲9のFig.1),食塩と同等に塩味に寄与するものは見つかっていないこと(甲62〜64),本件明細書【0012】には窒素濃度を高くすると塩味が低下するといわれていると記載されていることからすると,かかる提示結果は,技術常識に反し,信用できない。 本件明細書の実施例1と実施例5では,食塩濃度とカリウム濃度が同じであるにもかかわらず,塩味が3,4と異なる値となっている。これは,発明の効果に必須の構成要件が不足していることを,端的に示すものである。 (3) 本件発明は,数値限定のみに特徴を有するものであり,顕著な作用効果を奏する場合にのみ特許登録を受けることができると解されるから,課題が解決されない(作用効果が奏されない)範囲においては,本来,特許を受けることが許されない。全ての数値の組み合わせで課題が解決されなければならないと解すべきでは 「ない。」とする審決の判断は,特許制度の趣旨に反している。 (4) 審決は,原告の行った実験結果(甲11,12及び23)についての評価も誤っている。 本件発明1では,原料となる醤油の選択や電気透析の条件等の適切な製造条件が特定されていないにもかかわらず,審決は,特許請求の範囲の記載に即して証拠を検討していない。 本件明細書には,「原料となる醤油」に関して,「市販の濃口醤油,および有機丸大豆の濃口醤油」と記載されているが,甲11及び12において使用した「キッコーマン社製有機丸大豆濃口醤油(商品名:特選有機丸大豆しょうゆ)」は「市販の有機丸大豆の濃口醤油」であって,本件明細書の記載及び出願当時の技術常識に照らして「適切」であることは明らかである。 また,電気透析法は,醤油中の他の成分にほとんど影響を与えず食塩のみを除去できる利点があり,食塩を添加し更に脱塩処理を行うことを繰り返しても,甲11のように食塩を最初に添加しても,原料となる醤油の成分が保存されることに変わりはない。したがって,甲11の減塩醤油の製造条件は適切なものであり,官能評価に影響を及ぼすものではない。実際,製造条件を被告のいう条件と全く同じにして製造した減塩醤油の官能評価をした結果(甲46,47)は,甲11等の結果とよく整合しており,甲11等が適切な条件下で製造されたことが裏付けられている。 甲46の試験品F,試験品F’と本件明細書の比較例6のデータは,技術常識とも合致する。 甲11,12及び23の試験結果によれば,本件発明1が本件課題を解決しないことは,十分に裏付けられている。したがって,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載は,サポート要件に適合しない。 (5) 審決は,本件発明の課題の把握も誤っている。 本件明細書に記載された比較例及び実施例を参照すると,塩味が「3:レギュラー品(通常品)に比べ若干弱い」以上であって,苦みが「3:わずかに感じる」以下の場合に課題が解決されていると評価されているから,本件発明1が解決する課題は,「レギュラー品(通常品)に比べ若干弱いもの以上の塩味が感じられ,かつ,苦みをわずかに感じるか又はそれ以下の苦みしか感じない減塩醤油」を提供することと解される。本件課題は「塩味が3以上であって,苦みが3以下の減塩醤油を作る」という絶対的な基準を満たす減塩醤油を得ることにあり,塩味が「増強される」とか,苦みが「低減される」などの定性的な問題ではない。本件明細書から,仮にカリウム濃度を増やせば塩味が「増強」され,窒素濃度を増やせば塩味が「増強」,苦みが「低減」されるという定性的な関係を読み取ることができたとしても,食塩濃度を減らせば塩味が低下するという技術常識を踏まえれば,食塩濃度を7.0w/w%にしたときに,カリウム濃度と窒素濃度を特許請求の範囲に記載された範囲で変更することにより,塩味が3以上で苦みが3以下になるとまでは,理解できない。 また,仮に,当業者が,食塩濃度を7.0w/w%にしたときに,本件発明1の範囲内でカリウム濃度と窒素濃度を増やし,窒素/カリウムの重量比を0.44〜1.62とすることによって,本件課題が解決される場合があると認識し得たとしても,カリウム濃度及び窒素濃度を具体的にいかなる値にすればよいかまでは,理解できない。 (6) 審決は,サポート要件の立証責任も誤っている。 審決は「食塩濃度が9%において観察された現象が,食塩7%で観察されない合理的な理由はないから・ ・課題を解決できないとまではいえない。 と判断したが, ・ 」サポート要件の存在は,特許権者である被告が証明責任を負うのであって,この点に関する審決の判断には誤りがある。 (7) 追加実験データ(甲10)を根拠として,サポート要件適合性を肯定することはできない。 カリウム濃度と窒素濃度を特許請求の範囲に記載された範囲で変更することにより,塩味が3以上で苦みが3以下になるという絶対的基準を満たすことは,本件明細書に接した当業者に理解できないから,かかる場合において,事後的データを根拠として本件明細書の記載を補うことはできない。 甲10の実施例7(試験品C)と比較例6を比較すると,窒素濃度が0.21w/v%上がるだけで塩味が2から5に上昇する一方で,比較例6(食塩濃度9.0w/w%,窒素濃度1.71w/v%)と試験品F(食塩濃度7.0w/w%,窒素濃度1.96w/v%)を比較すると,食塩濃度が2w/w%減少した場合でも窒素濃度が0.25w/v%上昇するだけで塩味が維持されており,食塩よりも窒素の方が塩味に与える影響が大きい結果となっており,技術常識からかけ離れている。 甲10のパネラーの能力,第三者性について記載がなく,被告が,原告と紛争中に保管期限が経過した生データを廃棄するなど,不自然な点があり,記載内容に疑義がある。 (8) 本件発明4に関する判断も誤りである。 本件課題は,レギュラー品 「 (通常品)に比べ若干弱いもの以上の塩味が感じられ,かつ,苦みをわずかに感じるか又はそれ以下の苦みしか感じない減塩醤油」を提供することである。 【表2】に記載された減塩醤油が,本件課題を解決できるかどうかを判断するに当たっては, 【表1】と同様,塩味が3以上で苦みが3以下になるという絶対的基準を満たすか否かを評価する必要がある。 2 取消事由2(進歩性判断の誤り) (1) 甲1発明の認定の誤り及びそれに伴う一致点・相違点の認定の誤り ア 甲1発明の認定 甲1発明は次のとおり認定されなければならない。 「塩化ナトリウム(食塩),塩化カリウム及び窒素を含む減塩醤油であって,塩化ナトリウム濃度及び塩化カリウム濃度が,下記式(I)(II)(III)かつ(I , ,V)を満たし,(I)Y≧-X+6.25(II)Y≦-X+17.86(III)Y≧(5/95)X(IV)Y≦X〔上記式中,「Y」は塩化カリウム濃度(w/w%)を表し,「X」は塩化ナトリウム濃度(w/w%)を表す。〕窒素濃度が0.49〜2.21w/v%であり,窒素/カリウムの重量比が0.093〜12.04である減塩醤油。」 イ 本件発明1と甲1発明の一致点・相違点 その結果,本件発明1と甲1発明の一致点・相違点は次のようになる。 (一致点) 「食塩(塩化ナトリウム),カリウムおよび窒素を含む減塩醤油。」(相違点) @ 相違点1 本件発明1が,食塩濃度7〜9w/w%,カリウム濃度1〜3.7w/w%であるのに対し,甲1発明では,塩化ナトリウム(食塩)濃度及び塩化カリウム濃度が下記式(I)(II)(III)かつ(IV)を満たし, , ,(I)Y≧-X+6.25(II)Y≦-X+17.86(III)Y≧(5/95)X(IV)Y≦X(ここで,「Y」は塩化カリウム濃度(w/w%)を表し,「X」は塩化ナトリウム濃度(w/w%)を表す。)である点 A 相違点2 本件発明1が,窒素濃度1.9〜2.2w/v%であるのに対し,甲1発明では,窒素濃度が0.49〜2.21w/v%である点 B 相違点3 本件発明1が,窒素/カリウムの重量比が0.44〜1.62であるのに対し,甲1発明では,窒素/カリウムの重量比が0.093〜12.04である点 ウ 甲1発明の認定の誤り 審決は,甲1発明の認定において,以下の点で誤っている。 まず,審決は,甲1発明における食塩濃度とカリウム濃度は不明であると認定したが,醤油の発酵の際には,原料となる大豆由来の油(大豆油)が分離し,比重が軽く発酵液表面を覆うため,発酵中に発酵液表面からの蒸発は考えにくく,食塩濃度又はカリウム濃度は,変化しないはずである。 また,窒素濃度は,甲1の第1表において記載された減塩醤油(実施例)にかかる「T.N.」の幅(1.75〜1.81)が,甲5に記載された「通常の醤油」の窒素濃度の幅(0.49〜2.21w/v%)に含まれていることから分かるように,減塩醤油の窒素濃度は, 「通常の醤油」の窒素濃度と比較して変わるものではない。したがって,甲1発明の減塩醤油の窒素濃度の範囲が0.49〜2.21w/v%に含まれることは,十分に把握できる。 さらに,窒素/カリウム重量比の値は,窒素濃度とカリウム濃度が決まれば自動的に決まるものであるから,不明ではない。また,「窒素/カリウムの重量比が0.44〜1.62」は,窒素濃度及びカリウム濃度がとり得る範囲をほとんど限定するものではなく,独立の技術的意味を持つものではない。 加えて,比重の値については,1.12が減塩醤油の平均比重として当業者の共通認識となっているし(甲5),単位換算に用いる比重としては1.12という値で代表することができる。 (2) 容易想到性の判断の誤り ア 甲1発明及び一致点・相違点を正しく認定した場合,本件発明1と甲1発明との違いは,数値を限定した点のみである。数値を限定する発明は,その内と外で顕著な効果の差が認められない限り,すなわち,臨界的意義が認められない限り,進歩性は認められない。本件発明1は,数値範囲の中に本件課題を解決できないものが含まれており,臨界的意義が認められないことは明らかである。それにもかかわらず,審決は本件発明1の数値範囲に臨界的意義を認め,進歩性を肯定しており,明らかな誤りがある。 イ 証拠の看過 甲8には「T.N1.5,1.6,1.7%,食塩14,15,16%の組合せの9種の醤油の官能検査では,塩味はT.Nの上昇とともに増加し…」という記載が,甲9には「塩から味の強さについては食塩濃度とは当然比例的であるが,窒素濃度が高いと塩からさも増して感じられている…。」という記載があり,「窒素濃度による塩味増強作用」について,他の証拠方法に記載がないという審決の認定は明らかに誤りである。 ウ 臨界的意義についての判断誤り 「窒素/カリウムの重量比が0.44〜1.62である」という構成要件により,窒素濃度及びカリウム濃度は,ほとんど限定されていない。また,同構成要件は,カリウム濃度が下限に近い時に窒素濃度が高いものを除くこととなっているが,窒素濃度を高くすることにより奏されるとされる本件発明の作用効果(本件明細書【0012】等)を勘案すると,同構成要件に技術的な意義は認められない。 本件発明1の数値範囲は,甲1発明にほぼ含まれ,本件発明1と甲1発明とは数値限定でしか相違しない。また,本件出願当時において,食塩,カリウム及び窒素の各濃度を調整する動機付けが存在するから,具体的な数値の最適化は通常の創作能力の発揮にすぎず,本件発明1の数値範囲を採用すること自体に困難性はない。 したがって,進歩性が認められるのは,本件発明1が甲1発明に対して顕著な効果を奏する場合,すなわち,本件発明1の特定する各成分の濃度等の数値範囲が,臨界的意義を有する場合に限られる。 しかしながら,本件発明1がその特許請求の範囲に記載された数値の全範囲にわたって効果を奏するといえない以上,臨界的意義も認められず,進歩性は認められない。 このことは,審決のとおりに甲1発明及び相違点を認定したとしても,変わりない。 |
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被告の反論
1 取消事由1(サポート要件の判断の誤り)に対し (1) 本件発明1 本件明細書には,食塩濃度が8.3〜9w/w%以外,例えば,食塩濃度が7w/w%台の減塩醤油について,カリウム濃度を1〜3.7w/w%,窒素濃度を1.9〜2.2w/v%,窒素/カリウムの重量比を0.44〜1.62とした場合に,本件発明1の課題が解決できることを,当業者が認識できるように記載されている。 ア 塩化カリウムは,塩化ナトリウムと同様な塩分の一種であり,塩化カリウムが食塩の塩味を代替する成分であることは,本件優先日当時における当該技術分野の技術常識である。よって,本件発明1に係る減塩醤油において,塩味に寄与する成分は,主として食塩及びカリウムであると解される。 そして,本件明細書には,食塩濃度が9.0w/w%で,カリウム濃度が窒素重量比との関係で下限値(1.1w/w%)にある本件発明1に係る減塩醤油の塩味の指標が,本件明細書において本件発明1の課題が解決できるとされている指標の下限である3と記載されており(実施例3),また,食塩濃度が8.48w/w%でカリウム濃度が1.06w/w%の場合は,各種添加剤を配合した本件発明1に係る減塩醤油の塩味の指標が3.5と記載されている(実施例21)。 このように,減塩醤油の食塩濃度が本件発明1で特定される範囲で上限値に近い場合であっても,カリウム濃度が本件発明で特定される範囲で下限値付近の場合には,塩味の指標が,本件発明1の課題が解決できるとする数値の下限付近であることから,食塩濃度が7w/w%台で,カリウム濃度が本件発明で特定される範囲で下限値付近の減塩醤油の塩味の指標は,食塩濃度が9.0w/w%や8.48w/w%の上記減塩醤油の場合よりも,更に低くなるものと解される。 他方,本件明細書の表1の,例えば,窒素濃度が2w/v%付近にある比較例7及び14(カリウム濃度0,塩味1. , 5) 実施例3(カリウム濃度1.1w/w%,塩味3),実施例4(カリウム濃度1.6w/w%,塩味3),実施例1(カリウム濃度2.1w/w%,塩味3),実施例5(カリウム濃度2.1w/w%,塩味4),実施例6(カリウム濃度2.6w/w%,塩味4),実施例9(カリウム濃度3.7w/w%,塩味5),比較例23(カリウム濃度4.7w/w%,塩味5)に照らすと,カリウム濃度と塩味の関係は,カリウム濃度が大きくなると塩味も強く感じる傾向にある。したがって,カリウムによる塩味の代替効果はカリウム濃度に依存するものと解され,また,本件明細書には,カリウム濃度が上限値の3.7w/w%にある本件発明1に係る減塩醤油(実施例7,9及び11)の塩味の指標は5で,通常の醤油よりも強い塩味であることも記載されている。 そうすると,本件明細書に接した当業者は,本件発明1において,食塩濃度が7w/w%台の減塩醤油であって,カリウム濃度が本件発明で特定される範囲で下限値に近い場合には,塩味が十分に感じられない可能性があると理解すると同時に,このような場合には,カリウム濃度を本件発明1で特定される範囲の上限値近くにすることにより,減塩醤油の塩味を強く感じさせることができると理解できる。 そして,被告の行った試験結果報告書(甲10)によれば,食塩濃度7.0w/w%,カリウム濃度3.7w/w%の場合(試験品F),塩味の指標は3であって,通常の醤油と比較して若干弱い程度の塩味が感じられる結果が示されており,食塩濃度が本件発明1の下限値である7w/w%付近で,カリウム濃度が本件発明1において特定された数値範囲の上限である3.7w/w%の減塩醤油は,本件発明1の課題が解決されている。すなわち,本件発明1において食塩濃度が本件発明の特定する食塩濃度の下限に近い場合であっても,塩化カリウムが食塩の塩味を代替する成分であるという技術常識に照らし,カリウム濃度を本件発明1が特定する数値範囲の上限付近とすることによって,本件発明1の課題を解決できると,当業者が理解できる。 なお,塩味等の官能評価は,原料醤油や電気透析条件の違いにより,振れがあると推測されるから,原告の実験結果(甲11,12及び23)で課題が解決できない結果が出ていたとしても,問題はない。 イ 本件明細書は,カリウム濃度を本件発明1が特定する数値範囲の上限付近とした場合に,苦みについての課題が解決できるように記載されている。 本件明細書の実施例2,7,9及び11には,食塩濃度が9w/w%の場合,カリウム濃度が本件発明1における上限値である3.7w/w%の場合であっても,窒素濃度及び窒素/カリウムの重量比が本件発明1の範囲内にある場合には,苦みをわずかに感じる程度であって,本件発明1が特定する数値範囲内であれば,苦みの低減という課題は解決されている。また,食塩濃度が7w/w%の場合に,カリウム濃度が本件発明1における上限値である3.7w/w%とした場合(試験品F)であっても,食塩濃度が9w/w%の場合と同様に,苦みはわずかに感じる程度であって,苦みの低減という課題は解決されている(甲10)。すなわち,本件明細書の記載から,本件発明1では,カリウム濃度を上限値とした場合であっても,食塩濃度,窒素濃度及び窒素/カリウムの重量比が本件発明1で特定する数値の範囲内であれば,カリウムを配合することによる苦みに関する課題は,解決されていると理解できる。 ウ 実施例12,20ないし25の塩味の推定について (ア) 食塩濃度と塩味評価の関係 本件明細書の【0027】の記載によると,食塩濃度と塩味の関係は以下のようになる(乙10参照)。 〔塩味の指標〕 1:(食塩9w/w%相当) 2:(食塩11.5w/w%相当) 3: 4:(食塩14w/w%相当) 5: すなわち,食塩濃度が2.5%の変化した場合の塩味評価の変化は評価結果1段階ないし2段階となる(乙10の図1,2参照)。 塩味の評価2と4より: (4-2)/(14%-11.5%)=2段階/2.5% 塩味の評価1と2より: (2-1)/(11.5%-9%) =1段階/2.5% これにより,塩味評価2〜4の範囲について,食塩濃度2.5%の変化が塩味評価2段階の変化に相当することを当業者は容易に認識できる(2段階/2.5%)。 (イ) 実施例20ないし25について 実施例20及び21は,実施例3で用いられている減塩醤油Fに,添加剤として,乳酸,クエン酸,リンゴ酸,コハク酸二ナトリウム,5′-イノシン酸二ナトリウム,グルコン酸ナトリウム及びグリシンを加えて調製したものとなっており,カリウム濃度,窒素濃度,窒素/カリウム比は,ほぼ同一である。また,実施例22,23と実施例4,並びに実施例24,25と実施例5の関係も同様である(乙10の【表1】参照)。 実施例5(塩味評価4)の食塩濃度が9.0w/w%であるのに対し,実施例25は食塩濃度が8.32w/w%である。ここで食塩濃度の塩味評価に及ぼす影響を上記関係(2段階/2.5%)より推算すると,実施例25において添加剤を加えない場合,すなわち添加剤の効果を除いた場合の塩味評価は下記のように推定される(乙10の図1参照)。 塩味評価の低下: 2×(9.0-8.32)/2.5=0.54段階相当 塩味評価 : 4-0.54=3.5 また実施例20ないし24について,添加剤の効果を除いた場合の塩味評価を同様に推定することができる(乙10の【表2】参照)。 実施例20(食塩濃度8.50w/w%):塩味2.6 実施例21(食塩濃度8.48w/w%):塩味2.6 実施例22(食塩濃度8.43w/w%):塩味2.5 実施例23(食塩濃度8.39w/w%):塩味2.5 実施例24(食塩濃度8.34w/w%):塩味3.5 実施例25(食塩濃度8.32w/w%):塩味3.5 実施例20ないし23については,塩味が3以下であるが,カリウム濃度を上限値近くにすれば,実施例12よりも食塩濃度が高いから,塩味が少なくとも3.4以上になると推認できる。 (ウ) 実施例12について 実施例12(食塩濃度8.20w/w%,カリウム濃度2.10w/w%,窒素濃度1.98w/v%,窒素/カリウム比0.81,添加剤無添加)は,実施例5(食塩濃度9.0w/w%,カリウム濃度2.1w/w%,窒素濃度1.97w/v%,窒素/カリウム比0.80,塩味評価4)とは,食塩濃度が異なるが,カリウム濃度,窒素濃度,窒素/カリウム比がほぼ同一である。 そこで,実施例12について,食塩濃度の塩味評価に及ぼす影響を上記関係(2段階/2.5%)より推算すると,実施例12の塩味評価は下記のように推定される(乙10の図2参照)。 塩味評価の低下: 2×(9.0-8.20)/2.5=0.64段階相当 塩味評価 : 4-0.64=3.4 (エ) 小括 実施例24及び25は,添加剤の効果を除いても塩味評価3以上であることが推定できる。また,実施例12(添加剤無添加)も塩味評価が3以上であることが推定できる。 エ したがって,本件発明1は,明細書の発明の詳細な説明に記載したものであり,サポート要件を満たすものということができる。 (2) 本件発明2 本件発明2は,減塩醤油中の塩化カリウム濃度を「2〜7w/w%」と特定するものであるが,塩化カリウム濃度が2w/w%の減塩醤油のカリウム濃度は1.1w/w%であり,また,塩化カリウム濃度が7w/w%の減塩醤油のカリウム濃度は3.7w/w%であるから,本件発明2は,本件発明1の減塩醤油のカリウム源を塩化カリウムに限定することと同義である。本件明細書では,カリウム源として塩化カリウムを使用して検討しており,また,本件発明の技術分野においては,塩化カリウムが食塩の塩味を代替する成分であることが技術常識であることから,本件発明1でいうカリウムを塩化カリウムに限定しても,本件発明2におけるサポート要件の判断は変わるところはない。 (3) 本件発明3 本件発明3は本件発明1又は2と同一の発明であり,サポート要件を満たす。 (4) 本件発明4 本件発明4は,本件発明1ないし3に,さらに,核酸系調味料,アミノ酸系調味料,有機酸塩系調味料及び酸味料から選ばれる1又は2以上の添加剤を含有するものである。本件明細書の表3に記載の各種調味料及び酸味料が添加された減塩醤油の塩味について,同様のカリウム濃度,窒素濃度及び窒素/カリウムの重量比を有する表1に記載の減塩醤油の塩味と比較すると,表3に記載された実施例20及び21が表1に記載の実施例3に,実施例22及び23が実施例4に,実施例24及び25が実施例5に,それぞれ対応するところ,いずれも,各種調味料及び酸味料が添加された減塩醤油は,食塩濃度が低下しているにもかかわらず,塩味の指標が上がっている。したがって,核酸系調味料,アミノ酸系調味料,有機酸塩系調味料及び酸味料から選ばれる1又は2以上の添加剤を含有する本件発明4に係る減塩醤油は,発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されている。 (5) 本件発明5 本件発明5は,本件発明1ないし4について,濃縮及び脱塩により窒素濃度を1.9〜2.2w/v%としたものに限定するものである。本件明細書には「窒素濃度を1.9w/v%以上にするには,通常の方法で醸造した醤油に,濃縮及び脱塩の工程を施すことにより達成できる。例えば,減塩濃縮法によって食塩を除去するとともに,水を主成分とする揮発成分での希釈率を調整する方法や,電気透析装置によって食塩を除去する際に起こるイオンの水和水の移動を利用して,窒素分も同時に濃縮する方法等がある。( 」【0013】)と記載され,実施例には「(1)減塩醤油の調製法 市販の濃口醤油,及び有機丸大豆の濃口醤油を電気透析装置により,脱塩処理を行なった。食塩濃度を8w/w%程度まで低下させた減塩醤油に食塩を添加し更に脱塩処理を行なうことを繰り返し,窒素濃度を高めた。( 」【0022】)と記載されている。そうすると,本件発明5の濃縮及び脱塩により窒素濃度を1.9〜2.2w/v%に限定することは,出願時の当業者の技術常識を参酌することにより,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているから,本件発明5はサポート要件を満たす。 2 取消事由2(進歩性判断の誤り)に対し (1) 甲1発明の認定 原告の甲1発明の認定は,(T)〜(TV)の不等式を作成するに当たり,「上記塩化カリウムおよび塩化ナトリウムの量は,仕込み時,発酵,熟成時における存在量であるため,当該製造法により得られる含塩調味料における塩化カリウムおよび塩化ナトリウムの含有量と同視できる。(甲35)との前提のほか,醤油の平均比 」重,窒素濃度などについて前提を設けている。しかしながら,甲1の記載から不明としかいえないような前提に基づいて,甲1発明の認定を行うことは,甲1発明の本質を歪めるものであり,不当である。 ア 甲1の製造法で得られた含塩調味料における塩化カリウム及び塩化ナトリウムの含有量は不明である。 甲1には, 「このようにして得られた熟成諸味,熟成諸味様物もしくは熟成味噌等は,そのままもしくは常法により圧搾,火入れ,製成等の処理を行って製品を得る。」と記載されているが,これは,少なくとも醤油には当てはまらない。醤油諸味がそのまま製品化されるはずはない。実施例1でも,醤油諸味を圧搾して,醤油諸味液汁を製造している。通常,醤油は,仕込み,発酵,熟成して得られる熟成諸味を,圧搾,火入れ,製成等の処理を行って,製品とされる。 このように,製造途中(仕込み又は発酵,熟成)の塩化カリウム及び塩化ナトリウムの含有量が開示されているとしても,更なる処理(例えば,圧搾,火入れ,おり引き)によって,組成成分の含有量が変動するから,直ちに,最終製品である醤油中の塩化カリウム及び塩化ナトリウムの含有量(濃度)が明らかとはいえない。 イ 甲1の第1表の分析値は,仕込みに用いた水溶液中の塩化カリウムと塩化ナトリウムの組成割合を示すにすぎず,醤油諸味液汁中の濃度の絶対値は不明である。 甲1には「・・・醤油麹を得た。ついで,このようにして得られた1区あたり800gの麹9区分を,夫々第 1 表記載の配合比の塩化カリウムおよび塩化ナトリウムを22%(W/V)となる如く溶解した水溶液1300mlと混合して仕込みを行なったのち,温度30℃で150日間常法により諸味管理を行ない,さらに圧搾を行なって1600mlの醤油諸味液汁(製品1〜6および対照1〜3)を夫々得た。 前記醤油諸味液汁について各成分分析値および窒素利用率の測定を行なったのち官能検査を行なった結果を第 1 表に示す。」と記載されているが,実施例1では,仕込みに用いた水溶液中の塩化カリウム及び塩化ナトリウム量が記載されているだけで,製造後の醤油諸味液汁中の塩化カリウム及び塩化ナトリウム量は不明である。さらに,実施例1では,製造中に醤油麹と混合されており,しかも,150日もの熟成工程で水分は蒸発し,加えて,圧搾工程で固形分を分離しており,醤油諸味液汁中の塩化カリウム及び塩化ナトリウム量は,仕込み量によって変化する。 ウ 甲1発明の技術的思想を無視して,一部の技術事項のみを抜き出し,これに他の文献の数値を結合して,引用発明を認定することは許されない。 甲1発明は,従来の含塩調味料を製造する技術では,芳醇な風味が醸成され難く,物料中の有用成分の分解,溶出等が不充分となり,また,有害な腐敗菌等が生育,増殖する等の問題点があったことから,これを解決するために,塩化カリウム及び塩化ナトリウムの総濃度が7〜20%(W/V) で,かつ,そのうち塩化カリウムの量が塩化カリウム及び塩化ナトリウムの総重量の5〜50%であるような量の塩化カリウムと塩化ナトリウムの存在下に,仕込みを行うか,又は,発酵,熟成を行って含塩調味料を製造すること(特許請求の範囲,1頁2欄23行〜2頁3欄7行)を技術的思想とするものである。このように,甲1においては,特定量及び特定量比の塩化カリウム及び塩化ナトリウムの存在下に仕込み,又は発酵,熟成を行って含塩調味料を製造することが,甲1発明の技術的課題と密接に関連した技術として開示されている。甲1では,醤油諸味液汁中の窒素成分について,甲1発明の技術的課題と関連した技術事項として開示されていない。 そうすると,甲1発明は,醸造法による含塩調味料の製造に際し,塩化カリウム及び塩化ナトリウムの総濃度が7〜20%(W/V) で,かつ,そのうち塩化カリウムの量が塩化カリウム及び塩化ナトリウムの総重量の5〜50%であるような量の塩化カリウムと塩化ナトリウムの存在下に,仕込みを行うか,又は,発酵,熟成,圧搾を行って含塩調味料を製造する発明である。ただ,通常,醤油諸味液汁は,この後,火入れして,おりを除去して製造するが,甲1ではこのような過程を経ていない(醤油諸味液汁は,厳密には醤油とは相違する。。 ) 特許法にいう「刊行物に記載された発明」とは,刊行物の記載から一般の当業者が了知しうる技術的思想をいうから,甲1発明の技術的課題と密接に関連していない,一部の技術事項(窒素濃度)を抜き出し,これに他の文献(甲5)の数値を持ち込み,甲1の窒素濃度を大幅に超えて,技術的思想として認定するのは,誤りである。 甲1には,含塩調味料として,濃口醤油,淡口醤油等の醤油が列挙され,甲5の第1表には,濃口,淡口等各種醤油の一般成分分析値が品種ごとに示され,この中で食塩濃度は,最小13.22%(再仕込),最大18.93%(淡口)となっており(いずれも食塩濃度9%以下の減塩醤油ではない。 ,全窒素濃度は,最小0.4 )9%(白),最高2.21%(溜)であることが記載されているが,甲5には,当該窒素濃度が甲1発明の技術的課題に関連する趣旨の記載はない。 したがって,甲5に窒素濃度が0.49〜2.21w/v%の範囲にある醤油が記載されていることを根拠として,甲1には窒素濃度が0.49〜2.21w/v%の範囲にある醤油が記載されていると解釈するのは,合理性を欠く。これは,独立した2つ以上の引用発明を組み合わせて,請求項に係る発明と対比したに等しい。 このことは,該窒素濃度を基にして算出した窒素/カリウムの重量比についても,同様である。 (2) 容易想到性の判断 ア 証拠の看過 乙7に示されているように「通常,醤油においては窒素濃度を高くするとまろやかな味になり,塩味が低下する」ことは,本件優先日当時,醤油業界の当業者にとって,技術常識である。乙8にも,醤油においてアミノ酸等の窒素濃度を高くするとまろやかな味になり,醤油の塩味をまろやかにすることが,記載されている。 甲8には,醤油の成分として食塩と窒素成分のみが記載されており,カリウム成分について何ら記載されていない。 甲9には, 「窒素濃度が高いと塩からさも増して感じられている」との記載があるが,これはあくまで通常醤油(食塩濃度14%,16%,18%)の極限定された範囲での知見であると理解され,食塩濃度9w/w%以下の減塩醤油には当てはまらない。また,甲9には,カリウム成分について何ら記載されていない。 したがって,本件発明の進歩性を肯定した審決の判断に誤りはない。 イ 臨界的意義 甲1には,食塩濃度7〜9w/w%の減塩醤油において,カリウム濃度,窒素濃度及び窒素/カリウムの重量比を特許請求の範囲において特定される範囲内とすることにより,減塩醤油の塩味の増強,カリウムの苦みの抑制,さらに,カリウムが存在する系で窒素濃度による塩味の増強という技術的思想については,何ら開示されていない。そして,本件発明1は,食塩濃度が7〜9w/w%と低いにもかかわらず塩味を十分に感じることができ,かつ,カリウム含量が増加した場合の苦みも低減でき,醤油感に優れた減塩醤油を得ることができるという顕著な作用効果を奏するものである。 したがって,本件発明の進歩性を肯定した審決の判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(サポート要件の判断の誤り)について (1) 本件発明1について ア 本件明細書(甲14)には,次のとおりの記載がある。 (ア) 技術分野【0001】 本発明は,食塩濃度が低いにもかかわらず塩味のある減塩醤油類に関する。 (イ) 背景技術【0002】 醤油は,日本料理だけでなく,各種の料理になくてはならない調味料として広く使用されている。一方,食塩の過多な摂取は,腎臓病,心臓病,高血圧症に悪影響を及ぼすことから,あらゆる飲食品が低食塩化されており,醤油等の液体調味料も減塩化がすすめられている。そして,例えば減塩醤油は,食塩濃度が9w/w%以下と定められている。 【0003】 このように食塩の摂取量を制限するには減塩醤油の使用が望ましい。しかし,減塩醤油は,食塩濃度が低いことから,いわゆる塩味が十分感じられず,味がものたりないと感じる人が多い。そのため食塩の摂取量制限が勧められている割には,減塩醤油の使用量は増加していない。 【0004】 減塩醤油の改良手段としては,様々な取り組みがなされている。例えば,食塩代替物として塩化カリウムを使用する方法があるが(特許文献1及び2) 同時に使用 ,するクエン酸塩の味の影響や,糖アルコールにより塩味もマスキングされてしまうという問題点がある。また,減塩醤油にトレハロースを添加する方法(特許文献3),カプサイシンを添加する方法(特許文献4),シソ葉エキスを添加する方法(特許文献5)では,それら添加物の風味を異味として感じてしまうという問題点がある。 低塩・淡色・高窒素にする方法(特許文献6)では,コク味の増強がみられるが塩味については言及されていない。更に,食塩を低減させた場合に塩味を増強する方法として,特定の有機酸,アミノ酸等を組み合わせて添加するという技術もある(特許文献7)。 (ウ) 発明が解決しようとする課題【0005】 これら従来の減塩醤油の風味を改良する取り組みは,それぞれ一定の効果を上げているが,未だ十分とはいえない。特に食塩濃度の低下と塩味の両立という点で十分とはいえない。 本発明の目的は,食塩濃度が低いにもかかわらず塩味のある減塩醤油類を提供することにある。 なお,本願における「減塩醤油」とは,製品100g中のナトリウム量が3550mg(食塩として9g)以下の「しょうゆ」,および「しょうゆ加工品」をいい,栄養改善法の病者用の特別用途食品に限定されるものではない。「しょうゆ」とは,日本農林規格に定めるところの液体調味料であり, 「しょうゆ加工品」とは,日本農林規格に適合する「しょうゆ」に調味料,酸味料,香料,だし,エキス類等を添加した, 「しょうゆ」と同様の用途で用いられる液体調味料をいう。ここで,本願で記載する「醤油」は,日本農林規格の「しょうゆ」と同一概念である。 (エ) 課題を解決するための手段【0006】 本発明者は,食塩濃度を9w/w%以下にしても塩味を感じさせる手段について検討してきた結果,食塩濃度を9w/w%以下と低くし,かつカリウム濃度を0.5〜3.7w/w%とした系では,窒素濃度を1.9w/v%以上にすることによって塩味がより強く感じられ,味の良好な減塩醤油類が得られることを見出した。 また窒素含量を1.9w/v%以上にすることによりカリウム含量が増加した場合の苦味が低減できることを見出した。更に食塩濃度を9w/w%以下,カリウム濃度0.5〜3.7w/w%かつ窒素濃度を1.9w/v%以上とした減塩醤油類に核酸系調味料,アミノ酸系調味料,有機酸塩系調味料,酸味料等を添加することによって,相乗的に塩味を増強でき,また醤油としての完成度もより高くなることも見出した。 【0007】 すなわち,本発明は,食塩濃度9w/w%以下,カリウム濃度0.5〜3.7w/w%かつ窒素濃度1.9w/v%以上である減塩醤油類を提供するものである。 また更に,本発明は,核酸系調味料,アミノ酸系調味料,有機酸塩系調味料及び酸味料から選ばれる1又は2以上の添加剤を含有する,食塩濃度9w/w%以下,カリウム濃度0.5〜3.7w/w%かつ窒素濃度1.9w/v%以上である減塩醤油類を提供するものである。 (オ) 発明の効果【0008】 本発明によれば,食塩濃度が9w/w%以下であるにもかかわらず,塩味を十分に感じることのできる減塩醤油類が得られる。 (カ) 発明を実施するための最良の形態【0009】 本発明の減塩醤油類の食塩濃度は9w/w%以下であるが,7〜9w/w%であることが好ましく,8〜9w/w%であることが特に好ましい。 【0010】 本発明の減塩醤油類のカリウム濃度は,食塩濃度を低下させる点及び味の点から0.5〜3.7w/w%であるが,1〜3.7w/w%であることが好ましく,1〜2.7w/w%であることがより好ましく,1〜2.2w/w%であることが特に好ましい。また,カリウムは塩味があり,かつ異味が少ない点から塩化カリウムであることが好ましい。塩化カリウムの場合の配合量は1〜7w/w%であることが好ましく,2〜7w/w%であることがより好ましく,2〜5w/w%であることが更に好ましく,2〜4w/w%であることが特に好ましい。 【0011】 食塩濃度とカリウム濃度を前記範囲に調整するには,例えば仕込水として食塩と例えば塩化カリウムの混合溶液を用いて醤油を製造する方法;塩化カリウム単独の溶液を仕込水として用いて得た醤油と食塩水を単独で仕込水として用いて得た醤油とを混合する方法;食塩水を仕込水として用いた通常の醤油を電気透析,膜処理等によって食塩を除去した脱塩醤油に塩化カリウムを添加する方法等が挙げられる。 【0012】 本発明の減塩醤油類の窒素濃度は,食塩濃度の低い醤油に塩味を賦与する点及び味の点で1.9w/v%以上が必要であるが,1.9〜2.4w/v%であることが好ましく,1.9〜2.2w/v%であることが特に好ましい。通常,醤油においては窒素濃度を高くするとまろやかな味になり,塩味が低下するといわれているところ,食塩濃度が低く,カリウムが含まれている醤油において,窒素濃度を高くすることにより,塩味が向上することは全く予想外であった。 【0013】 窒素濃度を1.9w/v%以上にするには,通常の方法で醸造した醤油に,濃縮及び脱塩の工程を施すことにより達成できる。例えば,減塩濃縮法によって食塩を除去するとともに,水を主成分とする揮発成分での希釈率を調整する方法や,電気透析装置によって食塩を除去する際に起こるイオンの水和水の移動を利用して,窒素分も同時に濃縮する方法等がある。また,通常より食塩分の低い減塩醤油をRO膜や減圧濃縮により,窒素濃度を高める方法や,逆に,たまり醤油,再仕込み醤油のような窒素濃度の高い醤油から脱塩することによる方法等がある。 【0014】 また,本発明においては,カリウム及び窒素の濃度が上記範囲となると共に,窒素/カリウムの重量比が0.5〜3.7,更に0.5〜1.2,特に0.6〜1.0の範囲とすることが塩味があり,かつ苦みが少ない点から好ましい。 【0015】 更に,本発明によれば,食塩濃度9w/w%以下,カリウム濃度0.5〜3.7w/w%かつ窒素濃度1.9w/v%以上である減塩醤油類に,核酸系調味料,アミノ酸系調味料,有機酸塩系調味料,酸味料等を添加することによって,相乗的に塩味を増強できる。また,塩味のみならず,苦味の低減,醤油感の増強などの効果もある。 【0016】 核酸系調味料としては,5′-グアニル酸,5′-イノシン酸等のナトリウム,カリウムあるいはカルシウム塩等が挙げられる。核酸系調味料の含有量は0.0〜0.2w/w%が好ましく,0.03〜0.1w/w%が特に好ましい。 【0017】 アミノ酸系調味料としてはグリシン,アルギニン,リジン,ヒスチジン,グルタミン酸あるいはこれのナトリウム塩又はカリウム塩等が挙げられる。アミノ酸系調味料の含有量は0.0〜1.05w/w%が好ましく,0.1〜0.5w/w%が特に好ましい。 【0018】 有機酸塩系調味料としては乳酸,コハク酸,リンゴ酸,クエン酸,酒石酸,グルコン酸等の有機酸のナトリウム塩,カリウム塩等が挙げられる。特にコハク酸二ナトリウム,グルコン酸ナトリウムが好ましい。これらの含有量は0.0〜0.3w/w%が好ましく,0.05〜0.2w/w%が特に好ましい。 【0019】 酸味料としては,乳酸,コハク酸,リンゴ酸,クエン酸,酒石酸等が挙げられる。 中でも乳酸,リンゴ酸,クエン酸が好ましく,特に乳酸が好ましい。乳酸の含有量は0.0〜2.0w/w%が好ましく,0.3〜1.0w/w%が特に好ましい。 また,リンゴ酸,クエン酸の含有量は0.0〜0.2w/w%が好ましく,0.02〜0.1w/w%が特に好ましい。 (キ) 実施例 a 実施例1〜11,26及び27,比較例1〜25【0022】実施例1〜11,26及び27,比較例1〜25(1)減塩醤油の調製法 市販の濃口醤油,及び有機丸大豆の濃口醤油を電気透析装置により,脱塩処理を行なった。食塩濃度を8w/w%程度まで低下させた減塩醤油に食塩を添加し更に脱塩処理を行なうことを繰り返し,窒素濃度を高めた。窒素濃度を様々に調製した減塩醤油に,それぞれ塩化カリウムを0,4,及び7w/w%添加し,更に食塩濃度が9w/w%となるように食塩及び水で調整することにより,塩化カリウム濃度及び窒素濃度の異なる減塩醤油を調製した。 【0023】(2)食塩濃度の測定法 食塩濃度はナトリウム濃度を測定し,これを食塩濃度に換算することにより求めた。ナトリウム濃度は原子吸光光度計(Z-6100形日立偏光ゼーマン原子吸光光度計)により測定した。 【0024】(3)カリウム及び塩化カリウム濃度の測定法 カリウム濃度は上述のナトリウム濃度測定のものと同じもので測定し,塩化カリウム濃度は,カリウム濃度から換算することにより求めた。 【0025】(4)窒素濃度の測定法 窒素濃度は全窒素分析装置(三菱化成TN-05型)により測定した。 【0026】(5)評価方法 得られた減塩醤油について,パネラー10名により塩味及び苦みを官能評価した。 また,塩味が3以上で,かつ苦みが3以下のものを◎,又は〇,それ以外のものを△,又は×とする総合評価も行った。得られた結果を表1に示す。 【0027】〔塩味の指標〕1:減塩醤油と同等(食塩9w/w%相当)2:減塩醤油とレギュラー品(通常品)(食塩14w/w%相当)の中間位3:レギュラー品(通常品)に比べ若干弱い4:レギュラー品(通常品)と同等5:レギュラー品(通常品)よりも強い【0028】〔苦みの指標〕1:なし2:ごくわずかに感じる3:わずかに感じる4:感じる5:強く感じる【0029】〔総合評価の判断基準〕◎:塩味があり,かつ苦味及び異味がない○:塩味が3以上で,かつ苦みが3以下であり,更に次の何れかに当てはまるもの ・塩味がやや弱く,苦味及び異味が少ない ・塩味がやや弱く,苦味及び異味がない ・塩味があり,苦味及び異味が少ない△:塩味が3以上,かつ苦味が3以下であるが,異味がある×:塩味が弱く,かつ/又は苦味・異味がある【0030】【表1】【0031】 表1から明らかなように,食塩濃度9w/w%以下,カリウム0.5〜3.7w/w%の場合,窒素濃度を1.9w/v%以上に調整すると塩味が増し,かつ苦みも抑制できることがわかる。 b 実施例12〜19【0032】実施例12〜19 表1の市販有機丸大豆醤油を脱塩処理した減塩醤油F96重量部に塩化カリウム4重量部を混合した(実施例12)。表2に示した量の調味料・酸味料を添加し,添加前の実施例12と風味の比較を行なった。その結果は表2に示したように,塩味の向上,苦味の減少,醤油感の向上などの効果がみられた。 【0033】【表2】 c 実施例20〜25【0034】実施例20〜25 表3に示す組成の減塩醤油を調製した。各種調味料,酸味料の添加により得られた減塩醤油は,食塩濃度が8.3〜8.5w/w%であるにもかかわらず,塩味が更に強く感じられた。また,苦味もより抑制され,醤油としての総合評価はより高いものとなった。 【0035】【表3】 イ 本件発明1の課題 上記本件明細書の記載によれば,本件発明1について,次のことがいえる。 本件発明1は,食塩濃度7〜9w/w%である減塩醤油において,カリウム濃度(1〜3.7w/w%),窒素濃度(1.9〜2.2w/v%)及び窒素/カリウムの重量比(0.44〜1.62)を,それぞれ数値範囲によって特定した発明である。 そして,食塩濃度が9w/w%以下と定められている減塩醤油は,塩味が感じられず,味が物足りないと感じる人が多く,食塩代替物として塩化カリウムを使用する方法等により,減塩醤油を改良する取組みがなされたが【0003】 0004】, ( 【 , )これら従来の減塩醤油の風味を改良する取組みは,特に食塩濃度の低下と塩味の両立という点で十分とはいえないという問題点があったことから,本件発明1は,かかる先行技術の課題を解決すべく,食塩濃度が低いにもかかわらず,塩味のある減塩醤油類を提供することを目的とする(【0005】)ものである。そうすると,本件発明1の目的は,食塩濃度が低いにもかかわらず塩味がある醤油を提供するものであるが 【0008】, ( ) 併せて, 「カリウム含量が増加した場合の苦味が低減」 (【0006】 されるようにすることによって, ) 改良された風味を有する醤油とするものといえる。 以上によれば,本件発明1が解決しようとする課題は,食塩濃度が7〜9w/w%と低いにもかかわらず塩味があり,カリウム含量が増加した場合の苦みが低減でき,従来の減塩醤油の風味を改良した減塩醤油を提供することであると認められる。 ウ 課題と官能評価との関係 (ア) 本件発明1に相当する実施例(実施例1〜11)は全て,塩味が3以上,苦みが3以下,総合評価が○以上であり,他方,本件発明1から外れるもの(比較例1〜25,実施例26,27)は,塩味,苦み,総合評価のいずれかが前記の官能評価を下回っている。 そうすると,本件発明1の課題における「食塩濃度が低い(7〜9w/w%)にもかかわらず塩味があり,カリウム含量が増加した場合の苦みが低減でき,従来の減塩醤油の風味を改良した」とは,具体的には, 「官能評価により,食塩14w/w%相当のレギュラー品(通常品)に比べ若干弱いかそれ以上の塩味であり(塩味3以上),苦みはあったとしてもわずかに感じる程度であり(苦み3以下),かつ,異味が少ないという評価(総合評価○以上)がされること」を意味するものと解される。 (イ) したがって,本件発明1が当該発明の課題を解決できることを,認識できるというためには,本件発明1に係る減塩醤油が,官能評価の結果,塩味と苦みについて上記値を満たし,総合評価においても上記評価をされるものと認識できることが必要である。 (ウ) なお,本件明細書の表1及び表3における官能評価の塩味に関する基準は,食塩濃度9w/w%相当の従来の減塩醤油と同等な場合を「1」,食塩濃度14w/w%相当のレギュラー品と同等な場合を「4」とし,減塩醤油とレギュラー品の中間位を「2」,レギュラー品よりも若干弱い場合を「3」,レギュラー品よりも強い場合を「5」としている(【0027】。そして,官能評価は10名のパネラ )ーの評価を平均した上で,0.5単位の近似値を算出したものと解されるが(【0026】【0030】【0035】参照) , , ,上記1から5までの指標は,醤油における食塩濃度又はそれに応じた塩味の程度に正比例した数値となっていない。また,5については塩味がレギュラー品と比較してどの程度強いかにかかわらず,一律5と評価されるため,塩分濃度に換算すると上限のない幅のある範囲に相当する数値といえる。さらに,食塩濃度が9w/w%相当の従来の減塩醤油よりも低い場合の塩味の指標は決められておらず,食塩濃度7w/w%相当の場合の塩味の評価も,食塩濃度9w/w%相当の減塩醤油より若干塩味を感じない場合の塩味の評価もどのように行うのか不明である。加えて,食塩濃度7〜9w/w%の間の減塩醤油の塩味が数値上区別されるか否か,1に達していないと感じたパネラーの評価がパネラーの平均値算出時にどのように反映されているかも,不明である。 エ 本件発明1についての課題解決 (ア) 課題解決の範囲 本件発明1は,食塩濃度7〜9w/w%である減塩醤油における風味の問題点を,カリウム濃度,窒素濃度及び窒素/カリウムの重量比を特定範囲とすることによって解決するものであるから,本件発明1が課題を解決できると認識できるためには ,食塩濃度7〜9w/w%の全範囲にわたって,請求項に記載された他の発明特定事項,すなわち,カリウム濃度,窒素濃度,窒素/カリウムの重量比の各数値を,適切に組み合わせれば,他の手段を採用しなくても,上記課題が解決できると認識できることが必要である。したがって,添加することによって相乗的に塩味を増強できる,あるいは,塩味のみならず,苦みの低減,醤油感の増強などの効果もある「核酸系調味料,アミノ酸系調味料,有機酸塩系調味料,酸味料等」【0015】 ( )を添加しない状態において,上記課題が解決できると認識できるか否かを検討する必要がある。 (イ) 実施例と比較例からの把握 a 調味料・酸味料の添加のない表1から把握できる各成分と塩味,苦み等との関係 実施例1と実施例5は,異なるベース醤油を用いて,食塩濃度,カリウム濃度,窒素濃度,窒素/カリウムの重量比の各数値は全く同じとなるように製造した醤油であるが,塩味が前者は3,後者は4となっている。このように,ベース醤油が異なると,発明特定事項の数値が同じでも,官能評価の数値が異なることが理解できるから,発明特定事項と官能評価の数値との関係は,ベース醤油が同じ実施例・比較例の中で検討する必要がある。 (a) 食塩濃度と塩味との関係 本件明細書の塩味の指標(【0027】)によれば,最も塩味が弱い場合が,従来の減塩醤油(食塩濃度9w/w%相当)と同等の1,最も塩味が強い場合が,レギュラー品(食塩濃度14w/w%相当)よりも強い5であり,食塩濃度が9w/w%から増加するにつれ塩味が強くなることが理解できる。 しかしながら,上記のとおり,食塩濃度が9w/w%より低い場合の塩味の指標は設けられておらず,また,1から5の指標は,食塩濃度に正比例した数値ではない。 したがって,本件発明1に含まれる減塩醤油であって,食塩濃度9.0w/w%で塩味が4又は5であるものを,食塩濃度を7.0w/w%まで低下させた場合に,塩味が3以上の評価となるのか,あるいは,それを下回る評価となるのかを判断できる根拠となるものはない。 (b) カリウム濃度と塩味・苦みとの関係 ベース醤油が市販有機丸大豆醤油で,食塩濃度9.0w/w%,窒素濃度2w/v%付近の実施例及び比較例を,カリウム濃度の低いものから順に並べると,次のとおりである。 カリウム濃度 塩味 苦み 比較例14 0 w/w% 1.5 1 実施例3 1.1w/w% 3 1 実施例4 1.6w/w% 3 1 実施例5 2.1w/w% 4 2 実施例6 2.6w/w% 4 2 実施例9 3.7w/w% 5 3 上記の比較例と実施例によれば,食塩濃度9.0w/w%,窒素濃度2w/v%付近の条件においては,カリウム濃度が下限値付近の1.1w/w%の場合は塩味3,苦み1であるが,カリウム濃度が上限値の3.7w/w%に増えると,塩味5,苦み3となっていることが示されており,カリウム濃度が高くなると塩味と苦みをいずれも強く感じる傾向にあることが理解できる。 (c) 窒素濃度,窒素/カリウムの重量比と塩味・苦みとの関係 ベース醤油が市販有機丸大豆醤油で,食塩濃度9.0w/w%,カリウム濃度2.1w/w%の実施例及び比較例を,窒素濃度の低いものから順に並べると,次のとおりである。 窒素濃度 窒素/カリウム 塩味 苦み 総合評価 比較例12 1.86w/v% 0.75 2 2 × 実施例5 1.97w/v% 0.80 4 2 ○ 実施例8 2.06w/v% 0.82 4 2 ○ 実施例10 2.15w/v% 0.86 4 2 ○ 実施例26 2.34w/v% 0.86 3 2 △ なお,下線部(比較例12,実施例26の窒素濃度)は,本件発明1の数値範 囲外である。 また,ベース醤油が市販有機丸大豆醤油で,食塩濃度9.0w/w%,カリウム濃度3.7w/w%の実施例及び比較例を,窒素濃度の低いものから順に並べると,次のとおりである。 窒素濃度 窒素/カリウム 塩味 苦み 総合評価 比較例13 1.82w/v% 0.42 3 4 × 実施例7 1.94w/v% 0.44 5 3 ○ 実施例9 2.02w/v% 0.46 5 3 ○ 実施例11 2.11w/v% 0.47 5 3 ○ 実施例27 2.28w/v% 0.47 4 3 △ なお,下線部(比較例13,実施例27の窒素濃度,比較例13の窒素/カリ ウム)は,本件発明1の数値範囲外である。 上記の実施例と比較例によれば,食塩濃度9.0w/w%の場合には,窒素濃度が本件発明1の範囲に含まれる1.94〜2.15w/v%の範囲であれば,本件発明1の範囲から外れるものに比べて,塩味が向上すること,また,苦みはカリウム濃度が上限の3.7w/w%であっても苦み3に抑えられることが理解できる。 しかしながら,本件発明1の窒素濃度の範囲内で,窒素濃度がより高くなると,塩味が強くなる,苦みが抑えられるという傾向があるとは認められない。 また,窒素/カリウムの重量比のみが本件発明1の範囲から外れる例は記載されていないから,窒素/カリウムの重量比が官能評価に与える影響を,直ちに理解することはできない。 b 食塩濃度が9.0w/w%の場合について(本件発明1に含まれる実施例1〜11,本件発明1に含まれない実施例26,27,比較例1〜25) 本件明細書の表1には,食塩濃度が9.0w/w%の場合について,多数の実施例と比較例が記載され,カリウム濃度が1.1〜3.7w/w%,窒素濃度1.93〜2.15w/v%,窒素/カリウムの重量比0.44〜1.62の範囲内とすれば,塩味が3以上,苦みが3以下で,総合評価が○となることが記載されているから,本件発明1のうち食塩濃度が9.0w/w%の場合は,課題が解決できると認識できる。 c 食塩濃度が8.13〜8.21w/w%の場合について(本件発明1に含まれる実施例12と,これに調味料・酸味料を添加した実施例13〜19) 表2には,実施例12として,食塩濃度が8.20w/w%であって,カリウム濃度2.10w/w%,窒素濃度1.98w/v%,窒素/カリウムの重量比0.81とした減塩醤油が記載されている。 また,表2には,実施例12に対して,90%乳酸(0.80w%) クエン酸 , (0.05w%) DL-リンゴ酸 , (0.05w%) コハク酸二ナトリウム , (0.16w%),5’-イノシン酸二ナトリウム(0.08w%),グルコン酸ナトリウム(0.20w%)又はグリシン(0.10w%)を添加した結果,食塩濃度が8.13〜8.21w/w%となった実施例13ないし19について,無添加の実施例12と風味の比較を行い,各調味料・酸味料の添加効果(例えば, 「塩味感の向上」 「苦味減少」「旨み増強」など)を確認しており,これらの各調味料・酸味料の添加量は,塩味や苦み等について実際に影響を与える程度のものであることが理解できる。 しかしながら,表2には,得られた減塩醤油の塩味,苦み,総合評価については何ら記載されていないため,実施例12ないし19に関する記載から,食塩濃度を9w/w%から8.13〜8.21w/w%へ下げた場合に塩味の評価がどのように変化するかを推認することはできないし,食塩濃度8.13〜8.21w/w%において,調味料・酸味料を添加しない場合の塩味,苦み,総合評価はどの程度かを推認することもできない。 したがって,食塩濃度が8.13〜8.21w/w%において,調味料・酸味料を添加しない場合には,カリウム濃度を約2.10w/w%から上限値の3.7w/w%としても,塩味が3以上,苦みが3以下,総合評価が○以上という評価が得られ,本件発明1の課題が解決できるものと,直ちには認識することはできない。 d 食塩濃度が8.32〜8.50w/w%の場合について(調味料・酸味料の添加のある実施例20〜25) 表3には,実施例20ないし25として,食塩濃度が8.32〜8.50w/w%であって,カリウム濃度1.06〜2.11w/w%,窒素濃度1.92〜1.95w/v%,窒素/カリウムの重量比0.78〜1.59とし,さらに,乳酸,クエン酸,リンゴ酸,コハク酸二ナトリウム,5’-イノシン酸二ナトリウム,グルコン酸Na,グリシンから選ばれる複数の調味料・酸味料を加えた減塩醤油が記載され,塩味が3.5〜4.5であり,苦みが1,総合評価が○又は◎であることが記載されている。 実施例20(食塩濃度8.50w/w%)をみると,塩味3.5,苦み1,総合評価○とされているが,添加された乳酸,クエン酸,コハク酸二ナトリウム及び5’-イノシン酸二ナトリウムの量は,それぞれ単独でも塩味感の向上あるいはそれに加えて苦みを減少できる量とほぼ同じ量であり(表2参照) それらを同時に添加し ,ているために,調味料や酸味料を添加していない場合よりも相当程度,塩味は向上し,苦みは減少していると認められる。他方,これらの調味料・酸味料が,どの程度,塩味向上や苦み減少に寄与しているのかを推認できる具体的な根拠はない。したがって,実施例20において,調味料・酸味料を添加しない場合には,カリウム濃度を1.06w/w%から上限値の3.7w/w%としても,塩味が3以上,苦みが3以下,総合評価が○以上という評価が得られ,本件発明1の課題が解決できるものと,直ちには認識することはできない。 次に,実施例25(食塩濃度8.32w/w%)をみると,実施例21,23と比べて,乳酸,コハク酸二ナトリウム及び5’-イノシン酸二ナトリウムの添加量を徐々に少なくしても,塩化ナトリウムに代えて塩化カリウムを加えることで,塩味を増やしつつ苦みを抑えることができることを認識できるが,実施例25で加えた添加剤の量は少なくなく,それらを同時に添加しているために,調味料や酸味料を添加していない場合よりも相当程度,塩味は向上し,苦みは減少していると認められることは,実施例20と同様である。したがって,実施例25において,調味料・酸味料を添加しない場合には,カリウム濃度を2.11w/w%から上限値の3.7w/w%としても,塩味が3以上,苦みが3以下,総合評価が○以上という評価が得られ,本件発明1の課題が解決できることを,直ちには認識することはできない。 その他の実施例21ないし24についても,実施例20と実施例25と同様である。 e 以上によれば,本件発明1に関し,本件明細書の実施例・比較例から,課題を解決できることが認識できることが直接示されているのは,食塩濃度が9.0w/w%の場合のみである。 (ウ) 食塩濃度の下限値である7w/w%の場合に,本件発明1の課題を解決できることを当業者が認識できるか 本件発明1が課題を解決できると認識できるといえるためには ,食塩濃度7〜9w/w%の全範囲にわたって,上記課題が解決できると認識できることが必要であるところ,食塩濃度が下限値の場合が,食塩による塩味を最も感じにくく,課題解決が最も困難であることは明らかであるから,食塩濃度が下限値の7w/w%である場合について検討する。 a 表1に基づく検討 (a) 前記(イ)のとおり,本件明細書の実施例・比較例から,食塩濃度を9.0w/w%から減少させた場合に,調味料・酸味料を添加しない状態で,塩味がどの程度低下するのかを把握することはできない。 そうすると,食塩濃度9.0w/w%,カリウム濃度が上限値の3.7w/w%である実施例7,9及び11(塩味5,苦み3,総合評価○)から,食塩濃度を低くして7.0w/w%とした場合に,塩味が5という評価からどの程度まで低下するのかを把握することはできず,窒素濃度と窒素/カリウムの重量比を調節しても,塩味が3以上となるものと推認することはできない。 (b) 本件明細書の表1において,比較例14,実施例3,4,5,6,9をみると,食塩濃度9.0w/w%,窒素濃度2w/v%付近の場合に,カリウム濃度が下限付近の1.1w/w%から上限の3.7w/w%まで増加すると,カリウム濃度の増加に依存して,塩味が3から5と向上している。 しかしながら,本件明細書には,当業者において,カリウム濃度の増加(1.1w/w%→3.7w/w%)による塩味の向上が,食塩濃度の減少(9.0w/w%→7.0w/w%)による塩味の低下を補うに足りるものであることを認識するに足りる記載はないし,このことが技術常識であることを示す証拠も見当たらない。 そうすると,食塩濃度が9.0w/w%,カリウム濃度が下限値に近い1.1w/w%である実施例3(窒素濃度1.99w/v%,窒素/カリウムの重量比1.62,塩味3,苦み1,総合評価○)において,食塩濃度を7.0w/w%に下げても,カリウム濃度を上限値の3.7w/w%まで増加させれば,塩味が3以上,苦みは3以下となり,総合評価も○となるものと,推認することはできない。 (c) その他本件明細書の表1の実施例・比較例を検討しても,食塩濃度7.0w/w%の場合に,塩味が3以上,苦みが3以下,総合評価が○以上という評価が得られ,本件発明1の課題を解決できることを認識することができる記載は認められない。 b 表2及び表3に基づく検討 表2及び表3記載の各実施例に基づいて,食塩濃度が8.13〜8.21w/w%又は8.32〜8.50w/w%において,調味料・酸味料を添加せず,カリウム濃度を上限値の3.7w/w%とした場合に,塩味が3以上,苦みが3以下,総合評価が○以上という評価が得られ,本件発明1の課題が解決できることを,直ちに認識することができないことは,前記(イ)c 及び d のとおりである。 そうすると,更に食塩濃度を7.0w/w%まで下げた場合において,塩味が3以上,苦みが3以下,総合評価が○以上という評価が得られることを,表2及び表3に基づいて合理的に推認できないことは明らかである。 (エ) 小括 以上によれば,本件発明1のうち,少なくとも食塩が7w/w%である減塩醤油について,本件出願日当時の技術常識及び本件明細書の記載から,本件発明1の課題が解決できることを当業者は認識することはできず,サポート要件を満たしているとはいえない。 (2) 本件発明2ないし5について 本件発明2ないし5は,本件発明1を引用する発明であり,本件発明1と同様に,食塩濃度は7〜9w/w%である。 特に,本件発明4は,本件発明1,2又は3において, 「更に,核酸系調味料,アミノ酸系調味料,有機酸塩系調味料及び酸味料から選ばれる1又は2以上の添加剤を含有する」ものである。 本件明細書の【0006】の記載を参酌すると,本件発明4は,本件発明1の食塩濃度,カリウム濃度,窒素濃度及び窒素/カリウムの重量比を特定範囲とする減塩醤油に加えて,調味料 酸味料を添加することにより,相乗的に塩味を増強でき, ・ 「また醤油としての完成度もより高くなる」というものであるから,本件発明1がサポート要件を満たす前提で,更に調味料・酸味料を添加して塩味を増強し,醤油としての完成度をより高くするものである。 したがって,本件発明1のうち,少なくとも食塩が7w/w%である減塩醤油について,サポート要件を満たしているとはいえない以上,同様に,本件発明2ないし5のうち,少なくとも食塩が7w/w%である減塩醤油について,サポート要件を満たしているとはいえない。 (3) 審決について ア 審決は,カリウム濃度が上限値の3.7w/w%にある本件発明1に係る減塩醤油(実施例7,9及び11)の塩味の指標は5で,通常の醤油よりも強い塩味であるから,当業者は,食塩濃度が7w/w%台の減塩醤油の場合には,カリウム濃度を本件発明1で特定される範囲の上限値近くにすることにより,減塩醤油の塩味を強く感じさせることができると理解すると判断した。 しかしながら,本件明細書では,調味料や酸味料を添加しない状態で食塩濃度を9w/w%から下げた場合の塩味を何ら確認しておらず,食塩濃度が7w/w%の場合の塩味がどの程度となるかに関する手がかりは全くないから,食塩濃度が7w/w%の場合にカリウム濃度を上限値近くにしたからといって,具体的な技術的裏付けをもって,塩味が3以上となり,減塩醤油の塩味を強く感じさせることを理解できるとは認められない。 イ 審決は,「カリウム濃度」が塩味を付け,「窒素濃度」が塩味を増強し,苦みを低減させるという原理が本件明細書から読み取ることができ,食塩濃度が9w/w%において観察された現象が,食塩濃度7w/w%で観察されないという合理的な理由はないと判断した。 しかしながら,上記原理だけから,食塩濃度を低下させた場合における具体的な塩味や苦みの程度を推測することはできないし,特定の味覚の強化,弱化が他の味覚に影響を与えずに独立して感得されるという技術的知見を示す証拠も見当たらない。本件発明の課題が解決されたというためには,本件明細書において設定した,塩味が3以上,苦みが3以下,総合評価が○以上という評価を達成しなければならないが,本件発明のうち食塩濃度が7.0w/w%の場合に,上記の評価を達成でき課題が解決できることを,本件明細書の記載から認識することはできない。 (4) 被告の主張について ア 被告は,本件明細書の発明の詳細な説明に「本発明の減塩醤油類の食塩濃度は・・・7〜9w/w%であることが好ましく」【0009】 ( )と記載され,具体的には,実施例において,数値範囲を満たす減塩醤油が,塩味が強く感じられ,味が良好であって苦みも低減されることが記載されているから,サポート要件違反はない旨主張する。 しかしながら,本件発明のうち,当該発明の課題を解決できることを具体的に示しているのは,上記(1)エのとおり,食塩濃度が9w/w%の場合のみである。食塩濃度が7w/w%まで低下した場合の塩味や苦みを推認するための技術的な根拠が,本件明細書に記載されておらず,また,どの程度になるかということについての技術常識もない以上, 【0009】の「7〜9w/w%であることが好ましく」という一般的な記載のみをもって,食塩濃度の全範囲において発明の課題を解決できることについての技術的な裏付けある記載があると認めることはできない。 したがって,被告の主張は,採用することができない。 イ 被告は,塩化カリウムが食塩の塩味を代替する成分であることは,本件優先日当時における当該技術分野の技術常識であり,本件明細書の表1において,窒素濃度が2w/v%付近である,比較例7,14,実施例3,4,1,5,6,9,比較例23に照らすと,カリウムによる塩味の代替効果はカリウム濃度に依存するものと解され,また,本件明細書には,カリウム濃度が上限値の3.7w/w%にある本件発明に係る減塩醤油(実施例7,9及び11)の塩味の指標は5で,通常の醤油よりも強い塩味であることも記載されているから,本件発明において,食塩濃度が7w/w%台の減塩醤油の場合には,カリウム濃度を本件発明で特定される範囲の上限値近くにすることにより,減塩醤油の塩味を強く感じさせることができると理解するものと解される旨を主張する。 しかしながら,カリウム濃度を増加させれば塩味の強化が推測できるだけでは,本件発明の効果を奏することを明細書上記載したことにはならない。本件明細書には,調味料や酸味料を含まずに食塩濃度を9w/w%から減少させたときの塩味の評価については何ら示されていないし,食塩濃度が7w/w%の場合において,どの程度のカリウムを加えれば塩味の指標が3以上となり,かつ,苦みも3以下となるかということについて,予測する手がかりとなる記載も,また,それに関する技術常識もないから,上限値のカリウム濃度は,2w/w%分の塩分濃度の減少を補うに足りるか,その場合の苦みはどうなるか不明というほかない。 したがって,被告の主張は,採用することができない。 ウ 被告は,被告の行った試験結果報告書(甲10)によれば,試験品F(食塩濃度7.0w/w%,カリウム濃度3.7w/w%,窒素濃度1.96w/v%,窒素/カリウムの重量比0.46)は,食塩濃度13.1w/w%の対照品と同じ塩味であり,塩味の指標は3,苦みの指標は3であるという結果が示されており,食塩濃度が下限値である7w/w%付近で,カリウム濃度が上限である3.7w/w%の減塩醤油は,本件発明の課題が解決されていることが示されている旨主張する。 しかしながら,本件明細書には,食塩濃度が7w/w%の場合において,どの程度のカリウムを加えれば塩味の指標が3以上となり,かつ,苦みも3以下となるかということについて,予測する手がかりとなる記載がなく,また,それに関する技術常識もないから,上記試験結果報告書記載の結果は,本件明細書の記載から当業者が当然に認識できた結果ということはできず,また,他の原料醤油を用いた場合においても同等の結果が生じるか否かについての確証もなく,上記試験結果報告書のみに基づいて,本件発明がサポート要件を満たすということはできない。 したがって,被告の主張は,採用することができない。 エ 被告は,実施例20ないし25等から本件発明1についての塩味等を推認でき,課題が解決できることを理解できる旨を主張する。すなわち,塩味評価2〜4の範囲について,食塩濃度2.5%の変化が塩味評価2段階の変化に相当することを根拠として,実施例12の塩味は3.4,実施例24,25の調味料・酸味料を添加していない場合の塩味は3.5と推定できること,及び,調味料・酸味料を添加していない場合の塩味が2.5又は2.6と推定できる実施例20ないし23はカリウム濃度を上限値近くまで増加すれば,塩味が3.4以上になることが合理的に推認できることから,これらの実施例は本件発明1のサポートとして明細書に記載されているといえる旨を主張する。 しかしながら,被告の主張は,食塩濃度と塩味評価(指標)との関係が正比例すること,塩味と苦みは相互に作用しないことを前提とするものであるところ,前記(1)ウ(ウ)のとおり,塩味の官能評価の指標は,食塩濃度に正比例するように設定されていないし,各味覚が互いに干渉しないという技術常識を示す証拠も見当たらないから,被告の上記主張は,その前提において誤りがあり,採用できない。 オ なお,被告は,本件出願日(平成16年4月19日)後の平成22年度日本調理科学会において,本件発明に係る技術を用いた醤油の実際の調理での減塩効果を発表したことに関する書証(乙5の1,乙5の2)を提出し,本件発明がサポート要件を充足することの根拠とする。 しかしながら,乙5の1,乙5の2は,本件出願日当時の技術常識を当然に示すものではない。また,仮に,これらが本件出願日当時の技術常識を推認させるものであるとしても,乙5の1の醤油Aの減塩効果をグラフ化した陳述書である乙5の2によれば,乙5の1における醤油Aの食塩濃度は8.6w/w%であって,本件発明のうち食塩濃度が7w/w%の場合に課題が解決できること示すものではない。 また,研究発表要旨集である乙5の1には, 「塩化カリウムと酸性アミノ酸を配合することによって,従来の濃口醤油とほぼ同等の塩味を持ち,ナトリウム(Na)摂取量の軽減を図る事が出来る減塩醤油(以下,醤油Aとする)を調整し,市販の濃口醤油に対する減塩効果を検討した。」と記載され,単なる窒素濃度ではなく,窒素を含有する成分の中でも特に「酸性アミノ酸」に着目していること,苦みや異味について評価していないことからみても,窒素源を酸性アミノ酸とすることが特定されていない本件発明において,課題を解決できることを裏付けるものとは認められない。 したがって,被告の上記証拠をもって,サポート要件を充足するということはできない。 2 小括 以上によれば,取消事由2について判断するまでもなく,審決は違法なものとして取り消されるべきである。 |
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結論
以上のとおり,原告の請求は理由がある。 よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 清水節 |
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裁判官 | 片岡早苗 |
裁判官 | 古庄研 |