関連審決 |
無効2013-800170 |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
27年
(行ケ)
10212号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告X 訴訟代理人弁理士 森厚夫 被告旭有機材株式会社 訴訟代理人弁理士 中島三千雄 中島正博 |
|
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/10/12 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
原告の求めた裁判
特許庁が無効2013-800170号事件について平成27年9月7日にした審決を取り消す。 |
|
事案の概要
本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消訴訟である。争点は,進歩性判断の是非である。 1 特許庁における手続の経緯 被告は,名称を「鋳型の製造方法」とする発明について,平成18年8月31日に特許出願(特願2006-235698号,請求項の数10)をし(甲6),平成25年3月8日,その設定登録(特許第5213318号,請求項の数10)を受けた(甲6,本件特許)。 原告が,平成25年9月6日付けで本件特許の請求項1〜10に係る発明についての特許無効審判請求(無効2013-800170号)をしたところ(甲10),被告は,同年11月29日付けで訂正請求(本件訂正)をした(甲18。本件訂正により請求項9は削除された。。 ) 特許庁は,平成27年9月7日,請求のとおり訂正を認める。 「 本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月17日,原告に送達された。 2 本件訂正発明の要旨 本件訂正後の本件特許の請求項1〜8,10に係る発明(以下,請求項の番号に従って「本件訂正発明1」のようにいい,本件発明1〜本件訂正発明8及び本件訂正発明10を併せて「本件訂正発明」という。また,本件訂正後の本件特許に係る明細書〔甲18〕を「本件訂正明細書」という。)に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。 (1) 本件訂正発明1「 予め加熱された鋳物砂にアルカリレゾール樹脂水溶液を混練乃至は混合して, 該鋳物砂の表面を該アルカリレゾール樹脂水溶液にて被覆すると共に,かかるア ルカリレゾール樹脂水溶液の水分を該鋳物砂の熱にて蒸散せしめることにより, 水分率が0.5%以下の,常温流動性を有する乾態の粉末状樹脂被覆砂を製造し, 次いで該粉末状樹脂被覆砂を,加熱された,目的とする鋳型を与える成形型内に 充填した後,水蒸気を通気させて,かかる成形型内で該粉末状樹脂被覆砂を硬化 せしめ,更に乾燥空気又は加熱乾燥空気を該成形型内に通気せしめることにより, 目的とする鋳型を得ることを特徴とする鋳型の製造方法。」 (2) 本件訂正発明2「 前記鋳物砂が,予め100〜140℃の温度に加熱されていることを特徴とす る請求項1に記載の鋳型の製造方法。」 (3) 本件訂正発明3「 鋳物砂とアルカリレゾール樹脂水溶液とを,減圧下において,混練乃至は混合 して,該鋳物砂の表面を該アルカリレゾール樹脂水溶液にて被覆すると共に,か かるアルカリレゾール樹脂水溶液の水分を蒸散せしめることにより,水分率が0. 5%以下の,常温流動性を有する乾態の粉末状樹脂被覆砂を製造し,次いで該粉 末状樹脂被覆砂を,加熱された,目的とする鋳型を与える成形型内に充填した後, 水蒸気を通気させて,かかる成形型内で該粉末状樹脂被覆砂を硬化せしめ,更に 乾燥空気又は加熱乾燥空気を該成形型内に通気せしめることにより,目的とする 鋳型を得ることを特徴とする鋳型の製造方法。」 (4) 本件訂正発明4「 前記鋳物砂が,予め加熱されていることを特徴とする請求項3に記載の鋳型の 製造方法。」 (5) 本件訂正発明5「 前記鋳物砂の加熱温度が,40〜90℃であることを特徴とする請求項4に記 載の鋳型の製造方法。」 (6) 本件訂正発明6「 前記水分の蒸散が,5分以内で行なわれる請求項1乃至請求項5の何れか1項 に記載の鋳型の製造方法。」 (7) 本件訂正発明7「 アルキレンカーボネート及び/又は有機エステルが,前記水蒸気の通気の後,前 記乾燥空気又は加熱乾燥空気の通気に先立ち,前記成形型内に導入されることを 特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載の鋳型の製造方法。」 (8) 本件訂正発明8「 前記水蒸気の通気の後,前記乾燥空気又は加熱乾燥空気の通気に先立ち,さら に,炭酸ガスが前記成形型内に通気せしめられることを特徴とする請求項1乃至 請求項7の何れか一つに記載の鋳型の製造方法。」 (9) 本件訂正発明10「 前記成形型が,100℃以上の温度に加熱されていることを特徴とする請求項 1乃至請求項8の何れか一つに記載の鋳型の製造方法。」 3 審決の理由の要点 以下,本件の争点に関連する部分について摘示する。 (1) 証拠方法及び無効理由【証拠方法】甲1:特開2000-61583号公報甲2:特開平8-164439号公報甲3: 「第4版 鋳型造型法」 社団法人日本鋳造技術協会, , 平成8年11月18日, 189〜193頁,217〜225頁甲5:特開2004-249339号公報 以下,上記各甲号証に記載の発明を,証拠番号に従い,それぞれ, 「甲1発明」のようにいう。 【無効理由】 @ 本件訂正発明1〜本件訂正発明6は,甲1発明と甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた。 A 本件訂正発明7,本件訂正発明8及び本件訂正発明10は,[1]甲1発明と甲2発明に基いて,又は,[2]甲1発明と甲2発明及び甲3発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた。 (2) 本件訂正発明1について ア 引用発明の認定 (ア) 甲1発明 甲1には,次の甲1発明が記載されている。 「 フラッタリーけい砂に,50トールの減圧下で70℃まで脱液を行った25℃ における粘度が30ポアズであるレゾール型フェノール樹脂粘結剤を混練して, 樹脂量が重量比で2%の湿状態のレジンコーテッドサンドを製造し,次いでレジ ンコーテッドサンドを,加熱された,目的とする鋳型を与える成形型内に充填し た後,水蒸気を通気させて,かかる成形型内でレジンコーテッドサンドを硬化せ しめ,更に鋳型を乾燥機に入れて乾燥せしめることにより,目的とする鋳型を得 る,鋳型の製造方法。」 (イ) 甲2発明 甲2には,次の甲2発明が記載されている。 「 予め加熱された珪砂(耐火骨剤)に水溶性有機粘結剤(アルカリレゾール樹脂) 水溶液を混合して,珪砂の表面を水溶性有機粘結剤にて被覆すると共に,かかる 水溶性有機粘結剤水溶液の水分を珪砂の熱と送風にて蒸散せしめることにより, 水分率が0.5%以下の,常温において乾体自由流動性を保持する有機粘結剤被 覆砂を製造し,次いで有機粘結剤被覆砂を,加熱された,目的とする鋳型を与え る金型内に充填した後,高い温度によって水蒸気や硬化剤となる分解ガスを発生 させて,かかる金型内で有機粘結剤被覆砂を硬化せしめることにより,目的とす る鋳型を得る,鋳型の製造方法。」 イ 一致点の認定 本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると,両者は,次の点で一致する。 「 鋳物砂にレゾール樹脂を混練乃至は混合して,該鋳物砂の表面を該レゾール樹 脂にて被覆した粉末状樹脂被覆砂を製造し,次いで該粉末状樹脂被覆砂を,加熱 された,目的とする鋳型を与える成形型内に充填した後,水蒸気を通気させて, かかる成形型内で該粉末状樹脂被覆砂を硬化せしめ,更に鋳型を乾燥せしめるこ とにより,目的とする鋳型を得る,鋳型の製造方法。」 ウ 相違点の認定 本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると,両者は,次の点で相違する。 【相違点1】 本件訂正発明1では, 「予め加熱された鋳物砂にアルカリレゾール樹脂水溶液を混練乃至は混合して,鋳物砂の表面をアルカリレゾール樹脂水溶液にて被覆すると共に,かかるアルカリレゾール樹脂水溶液の水分を鋳物砂の熱と送風にて蒸散せしめることにより,水分率が0.5%以下の,常温流動性を有する乾態の粉末状樹脂被覆砂を製造」するのに対して,甲1発明では,フラッタリーけい砂に, 「50トールの減圧下で70℃まで脱液を行った25℃における粘度が30ポアズであるレゾール型フェノール樹脂粘結剤を混練して,樹脂量が重量比で2%の湿状態のレジンコーテッドサンドを製造」する,つまり「鋳物砂に,50トールの減圧下で70℃まで脱液を行った25℃における粘度が30ポアズであるレゾール樹脂を混練乃至は混合して,樹脂量が重量比で2%の湿状態の粉末状樹脂被覆砂を製造」する点。 【相違点2】 本件訂正発明1では, 「乾燥空気又は加熱乾燥空気を成形型内に通気せしめる」のに対して,甲1発明では, 「鋳型を乾燥機に入れて乾燥せしめる」点。 エ 相違点の判断 (ア) 相違点1について @ 甲1発明の「50トールの減圧下で70℃まで脱液を行った25℃における粘度が30ポアズであるレゾール型フェノール樹脂粘結剤(レゾール樹脂)」は,水溶性であるが, 「25℃における粘度が30ポアズ」であるから,技術常識より,独立した運動性を失って固化した状態であるゲルとして存在しており, 「水溶液」の状態ではない。 A 甲2発明の水溶性有機粘結剤(アルカリレゾール樹脂)は,水溶液の状態である。 B アルカリレゾール樹脂が水溶液の状態であるかないかは,甲1発明及び甲2発明の前提技術になっているから,前提技術が異なる甲1発明と甲2発明とを組み合わせることは,当業者であっても想起し難い。 C 甲2発明の「予め加熱された珪砂(耐火骨剤)」に「水溶性有機粘結剤(アルカリレゾール樹脂)水溶液」を混合するなどして, 「常温において乾体自由流動性を保持する有機粘結剤被覆砂」を製造し,その後, 「高い温度によって水蒸気や硬化剤となる分解ガスを発生させ」ることは,従前の自明の技術であるとはいえない。 D 以上から,相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項を構成することは,甲1発明と甲2発明に基づいて容易に想起し得るとはいえない。 (イ) 相違点2について 相違点2に係る本件訂正発明1の発明特定事項を構成することは,甲1発明と甲2発明及び従前の手段に基いて,当業者であれば容易に想起し得る。 オ 小括 相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項を構成することが,甲1発明と甲2発明に基いて,当業者であれば容易に想起し得ることではないので,本件訂正発明1は,甲1発明と甲2発明に基いて当業者であれば容易に発明をすることができたものではない。 (3) 本件訂正発明2〜本件訂正発明8,及び本件訂正発明10について 本件訂正発明2〜本件訂正発明8,及び本件訂正10と甲1発明とを対比すると,少なくとも,相違点1で相違している。 そうすると,上記相違点1の判断と同じ理由から,本件訂正発明2〜本件訂正発明6は,甲1発明と甲2発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,また,本件訂正発明7,本件訂正発明8及び本件訂正発明10は,甲1発明と甲2発明に基いて,又は,甲1発明と甲2発明及び甲3発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 |
|
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(進歩性の判断の誤りその1) 原告は,審決の甲2発明の認定及び審決の認定する甲1発明(レジンコーテッドサンドが湿態であるもの)と甲2発明とを組み合わせることが容易でないとの審決の判断は,争わない。しかしながら,審決は,甲1の記載から下記甲1A発明(レジンコーテッドサンドが乾態)が認められることを看過したものであり,上記甲1発明を前提とする審決の進歩性判断には,誤りがある。 (1) 甲1発明の認定の誤り 審決は,甲1の記載(実施例3)から,甲1発明を認定する。 しかしながら,甲1の記載は,次のとおりである。 @ 【請求項1】には,フェノール系樹脂粘結剤を耐火骨材に混合して調製されるレジンコーテッドサンドを型内に充填し,この型内に水蒸気を吹き込んでフェノール系樹脂粘結剤を硬化させることを特徴とする鋳型の製造方法に関する発明が記載され, 【請求項2】には,耐火骨材の表面に被覆されたフェノール系樹脂粘結剤が室温において固形であることが記載されている。このように,甲1には,フェノール系樹脂粘結剤を耐火骨材に混合して,室温で固形のフェノール樹脂粘結剤を被覆したレジンコーテッドサンドを調製し,次いで,レジンコーテッドサンドを型内に充填した後,この型内に水蒸気を吹き込んでフェノール系樹脂粘結剤を硬化させることを特徴とする鋳型の製造方法に関する発明が記載されている。 A 【0013】には,粘結剤としてレゾール型のフェノール系樹脂を用いることが記載され, 【0018】には,アルカリ性の触媒を用いてレゾール型フェノール樹脂(アルカリレゾール樹脂)を調製することが記載されている。このように,フェノール系樹脂粘結剤としてアルカリレゾール樹脂を使用することが,甲1には記載されている。 B 【0026】【0027】【0029】には,加熱した耐火骨材に,溶剤に溶解したフェノール樹脂系粘結剤溶液を混合して,耐火骨材の表面に被覆したフェノール系樹脂粘結剤が室温で固形となった,粒状でさらさらしたレジンコーテッドサンドを製造することが記載されている。加熱した耐火骨材にフェノール樹脂系粘結剤溶液を混合すると,まず耐火骨材の表面がフェノール樹脂系粘結剤溶液で被覆され,次いで,フェノール樹脂系粘結剤溶液の溶剤が耐火骨材の熱で蒸散されるのは自明であり,レジンコーテッドサンドが粒状でさらさらしたものであれば, 【0005】に記載されたとおり,レジンコーテッドサンドは,常温で流動性を有する乾態であることが自明である。 C 【0033】 【0038】 【0041】 【0044】 【0048】 【0051】 【0054】には,レジンコーテッドサンドを加熱された型内に充填することが記載されており,また,この型は,目的とする鋳型を与えるものであることは自明である。 D 【0033】には,鋳型を乾燥機に入れて乾燥することが記載されている。 そうすると,甲1の記載からは,次の甲1A発明が認められる(下線部は,甲1発明との実質的な差異)。 「 予め加熱した耐火骨材にアルカリレゾール樹脂溶液を混合して,耐火骨材の表 面をアルカリレゾール樹脂溶液にて被覆すると共に,アルカリレゾール樹脂溶液 の溶剤を耐火骨材の熱で蒸散せしめることにより,常温流動性を有する乾態のレ ジンコーテッドサンドを製造し,次いでレジンコーテッドサンドを,加熱された, 目的とする鋳型を与える型内に充填した後,水蒸気を通気させて,型内でレジン コーテッドサンドを硬化せしめ,更に鋳型を乾燥機に入れて乾燥することにより, 目的とする鋳型を得る,鋳型の製造方法。」 以上から,審決の甲1発明の認定には,誤りがある。 (2) 一致点の認定の誤り 本件訂正発明1と甲1A発明とを対比すると,両者は,次の点で一致する。 「 予め加熱された鋳物砂にアルカリレゾール樹脂溶液を混練乃至は混合して,該 鋳物砂の表面を該アルカリレゾール樹脂溶液にて被覆すると共に,かかるアルカ リレゾール樹脂溶液の溶剤を該鋳物砂の熱にて蒸散せしめることにより,常温流 動性を有する乾態の粉末状樹脂被覆砂を製造し,次いで該粉末状樹脂被覆砂を, 加熱された,目的とする鋳型を与える成形型内に充填した後,水蒸気を通気させ て,かかる成形型内で該粉末状樹脂被覆砂を硬化せしめ,更に乾燥機に入れて乾 燥せしめることにより,目的とする鋳型を得るようにした鋳型の製造方法。」 以上から,審決の一致点の認定には,誤りがある。 (3) 相違点の認定の誤り 本件訂正発明1と甲1A発明とを対比すると,従前の相違点1とは異なり,両者は,次の点で相違する。 【相違点1@】 本件訂正発明1では,鋳物砂の表面をアルカリレゾール樹脂水溶液にて被覆するようにしているのに対して,甲1A発明では,鋳物砂の表面を被覆するアルカリレゾール樹脂溶液は水溶液であるといえない点。 【相違点1A】 本件訂正発明1では,アルカリレゾール樹脂水溶液の水分を鋳物砂の熱にて蒸散せしめるのに対して,甲1A発明では,鋳物砂の熱にて蒸散するのはアルカリレゾール樹脂溶液の溶剤であって,水といえない点。 【相違点1B】 本件訂正発明1では,水分率が0.5%以下の粉末状樹脂被覆砂を製造するのに対して,甲1A発明では,製造された粉末状樹脂被覆砂の水分率が0.5%以下であるといえない点。 【相違点2】 本件訂正発明1では,乾燥空気又は加熱乾燥空気を成形型に通気せしめるのに対して,甲1A発明では,鋳型を乾燥機に入れるようにしている点。 以上から,審決の相違点の認定には,誤りがある。 (4) 相違点の判断の誤り 甲2発明は,次の構成を有しており,相違点1@〜相違点1Bに係る本件訂正発明1の構成を有する。 「 予め加熱された鋳物砂にアルカリレゾール樹脂水溶液を混練乃至は混合して, 該鋳物砂の表面を該アルカリレゾール樹脂水溶液にて被覆すると共に,かかるア ルカリレゾール樹脂水溶液の水分を該鋳物砂の熱にて蒸散せしめることにより, 水分率が0.5%以下の,常温流動性を有する乾態の粉末状樹脂被覆砂を製造し, 次いで該粉末状樹脂被覆砂を,加熱された,目的とする鋳型を与える成形型内に 充填する,鋳型の製造方法。」 甲1A発明と甲2発明とは,あらかじめ加熱された鋳物砂にアルカリレゾール樹脂溶液を混練ないし混合して常温流動性を有する乾態の粉末状樹脂被覆砂を製造するという,粉末状樹脂被覆砂の製造方法の技術の点で共通し,粉末状樹脂被覆砂を製造するに当たって,常温において乾態自由流動性を保持することという共通の課題を有する(甲1の【0029】,甲2の【0011】参照)から,甲1発明において,粉末状樹脂被覆砂を製造する際に,甲2発明を適用する動機付けがある。 そうすると,相違点2は,審決が判断するとおり容易想到であるから,本件訂正発明1は,甲1A発明と甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた。 2 取消事由2(進歩性の判断の誤りその2) 前記のとおり,原告は,甲2発明の認定,及び甲1発明と甲2発明とを組み合わせることが容易でないとの審決の認定判断は,争わない。 しかしながら,甲1発明を前提とした審決の進歩性判断の過程には,次のとおりの誤りがあり,改めて,甲1A発明を前提とした進歩性判断がされるべきである。 @ 審決は,[1]甲1発明の 「50トールの減圧下で70℃まで脱液を行った25℃における粘度が30ポアズであるレゾール型フェノール樹脂粘結剤(レゾール樹脂)」は,独立した運動性を失って固化した状態であるゲルとして存在していると認定する。 しかしながら,審決が,溶質が溶解して溶液の粘度が30ポアズであるときはゲルであることの根拠として示した特開平2-112号公報(甲7)及び特表平11-512740号公報(甲8)の水性ゲルは,いずれも,液体である(甲7の3頁左上欄15〜17行目,甲8の7頁11〜12行目)。このほか,上記レゾール型フェノール樹脂粘結剤の粘度の程度である溶液の例がある(特公平6-25209号公報〔甲24の1〕の【請求項7】【請求項8】,特公平7-57785号公報〔甲24の2〕の【請求項4】,特開平6-80711号公報〔甲24の3〕の【請求項2】,特開2000-95821号公報〔甲24の4〕の【請求項3】。 ) A 審決は,上記レゾール型フェノール樹脂粘結剤は水溶液の状態ではない,と認定する。 しかしながら,上記レゾール型フェノール樹脂粘結剤は,溶剤(溶媒)となり得るものが水しかないことからみて,水溶液である。 B 審決は,上記レゾール型フェノール樹脂粘結剤(レゾール樹脂)が水溶液の状態でないということによって, 樹脂量が重量比で2%の湿状態のレジンコーテッ 「ドサンド」水蒸気を通気させ」 「 るという事項が一体的に構成されると認定し,他方,甲2発明のアルカリレゾール樹脂が水溶液の状態であるということによって, 予め 「加熱された珪砂(耐火骨剤)「常温において乾体自由流動性を保持する有機粘結剤 」被覆砂」 「高い温度によって水蒸気や硬化剤となる分解ガスを発生させ」るという事項が一体的に構成されていると認定する。 しかしながら,水溶液の状態でない場合でも乾態のレジンコーテッドサンドが得られるものであるから,水溶液の状態でないことと,レジンコーテッドサンドが湿状態であることとの間には,必然的な関係はない。 |
|
被告の反論
1 取消事由1(進歩性の判断の誤りその1)に対して 原告は,甲1の記載から,甲1A発明が認定できると主張する。 しかしながら,甲1A発明は,次のとおり,甲1から都合のよい表現のみを抽出し,さらに,本件訂正発明1から部分的に抽出した表現を加えたものであり,恣意的に創作されたものにすぎない。 @ 原告は,甲1A発明が, 「アルカリレゾール樹脂溶液」を用いるとする。しかしながら,甲1においては, 「レゾール型のフェノール系樹脂」や「レゾール型フェノール樹脂」なる表現は認められるものの, 「アルカリレゾール樹脂溶液」なる表現はもちろんのこと, 「アルカリレゾール樹脂」なる表現も,一切,使用されていない。 A 原告は,甲1A発明では, 「常温流動性を有する乾態のレジンコーテッドサンド」が得られるとする。しかしながら,甲1においては, 「常温流動性を有する乾態のレジンコーテッドサンド」なる表現は,一切,使用されていない。甲1の実施例3で得られるレジンコーテッドサンドが湿態状であることは,甲1の記載から明白である(【0036】【0040】。 ) 甲1の【0029】の記載は,そこに開示の鋳型の製造方法において用いられる各種のレジンコーテッドサンドについての,好ましい一つを示すにすぎないものであり,直ちに甲1発明に当てはまるものではない。現に,甲1には,常温において乾体自由流動性を保持するレジンコーテッドサンドだけではなく, 「湿態状の」と明記されたレジンコーテッドサンドについての記載もある(【0036】【0038】【0039】【0041】参照)。 以上のとおり,審決が認定する甲1発明は,甲1の記載からみて正当なものであって,審決の甲1発明の認定,相違点の認定判断には,誤りはない。 2 取消事由2(進歩性の判断の誤りその2)に対して @ 甲1発明の「50トールの減圧下で70℃まで脱液を行った25℃における粘度が30ポアズであるレゾール型フェノール樹脂粘結剤(レゾール樹脂) がゲル 」として存在するものでないことは,認める。 しかしながら,この誤りは,審決の結論に影響を与えるものではない。 A 原告は,上記レゾール型フェノール系樹脂粘結剤が,水溶液であると主張する。 しかしながら,周囲の気圧が50トールである場合の水の沸点とフェノールの沸点とにかんがみると,70℃まで脱液すれば,水の全部又は大部分が蒸発(気化)し,フェノールのみが残存しているはずであるから,上記レゾール型フェノール系樹脂粘結剤は,水溶液として認識されるものではない。 B 原告は,水溶液の状態でないことと,レジンコーテッドサンドが湿状態であることとの間には,必然的な関係はない,と主張する。 しかしながら,仮に,水溶液の状態でない場合でも乾態のレジンコーテッドサンドが得られるとしても,本件訂正発明1は,アルカリレゾール樹脂水溶液を用いて,常温流動性を有する乾態の粉末状樹脂被覆砂を製造するものであるから,甲1発明に基づいて本件訂正発明1の進歩性を否定することはできない。 |
|
当裁判所の判断
1 本件発明について 本件訂正明細書(甲18)によれば,本件訂正発明は,次のとおりと認められる。 (1) 技術分野 本件訂正発明は,鋳型の製造方法に係り,特に,常温流動性を有する乾態の粉末状樹脂被覆鋳物砂を用いた鋳造用鋳型の製造方法に関する。【0001】 ( ) (2) 背景技術 従来から,水溶性アルカリレゾール樹脂を,粘結剤(バインダー)として用い,その水溶液にて鋳物砂の表面を被覆して得られるレジン・コーテッド・サンド(RCS:樹脂被覆砂)により,目的とする鋳造用鋳型を製造する方法が知られている。 しかしながら,そのような鋳造用組成物にあっては,アルカリレゾール樹脂が,水溶液形態のバインダーとして用いられるため,粒状耐火材料に配合せしめられると,湿態(湿潤状態)の組成物となり,その取扱い性や鋳型成形型への充填性,保存期間等において,大きな問題を有するものであった。 このため,粉末状の水溶性アルカリレゾール樹脂(フェノラート樹脂)を水に接触させて硬化せしめることにより,目的とする鋳型を製造する方法が明らかにされている。そこでは,粉末状のバインダーが使用されているところから,乾態(乾燥状態)の鋳型材料(組成物)が得られるものの,粉末状のバインダーを製造するには,所定の樹脂水溶液を作製した後,それを固体状態まで脱水,濃縮する必要があり,コストアップを伴うという問題が新たに発生した。 (【0002】 【0004】 〜 ) (3) 解決課題 本件訂正発明の解決課題は,アルカリレゾール樹脂水溶液を用いつつ,経時変化が著しく少なく,かつ,充填性の良好な,常温流動性を有する乾態の粉末状乾燥鋳物砂組成物を製造し,これを用いて,鋳型強度の良好な鋳型を有利に製造する方法を提供することである。【0006】 ( ) (4) 解決手段・実施形態 @ 本件訂正発明の大きな特徴は,粘結剤としてアルカリレゾール樹脂水溶液を用いるととともに,そのようなアルカリレゾール樹脂水溶液にて鋳物砂の表面を被覆するに際して,その含有水分を同時に蒸散せしめるようにすることにより,常温流動性を有する乾態の粉末状樹脂被覆砂(アルカリ性の乾燥砂粒子)を,乾燥鋳物砂組成物として得るようにしたところである。【0019】 ( ) A 本件訂正発明は,上記(3)の課題を解決するために,あらかじめ加熱された鋳物砂にアルカリレゾール樹脂水溶液を混練ないしは混合して,鋳物砂の表面を該アルカリレゾール樹脂水溶液にて被覆するとともに,かかるアルカリレゾール樹脂水溶液の水分を鋳物砂の熱にて蒸散せしめることにより,水分率が0.5%以下の,常温流動性を有する乾態の粉末状樹脂被覆砂を製造し,次いで,粉末状樹脂被覆砂を,加熱された,目的とする鋳型を与える成形型内に充填した後,水蒸気を通気させて,かかる成形型内で粉末状樹脂被覆砂を硬化せしめ,さらに,乾燥空気又は加熱乾燥空気を成形型内に通気せしめることにより,目的とする鋳型を得るとの構成をとった。【0007】 ( ) そして,前記鋳物砂は,あらかじめ100〜140℃の温度に加熱せしめられていることが望ましい。【0008】 ( 【0024】) B アルカリレゾール樹脂水溶液の水分を迅速に蒸散せしめるための手段として,鋳物砂とアルカリレゾール樹脂水溶液との混練ないし混合操作を,減圧下において行えば,減圧作用によって,アルカリレゾール樹脂水溶液中の水分がより一層効果的に除去され得て,目的とする乾態の粉末状樹脂被覆砂を有利に得ることができる。 (【0009】【0025】【0026】) このような減圧下における水分の蒸散に際しては,鋳物砂をあらかじめ加熱しておくことにより,より一層効果的な水分の除去が可能となるが,加熱温度としては,水分の蒸散効率の観点から,一般に,40〜90℃,好ましくは50〜80℃程度の温度が採用されることとなる。【0010】 ( 【0027】) C アルカリレゾール樹脂水溶液の水分の蒸散は,樹脂の硬化が進む前に迅速に行われる必要があり,一般に5分以内,好ましくは2分以内に含有水分を飛ばして,乾態の粉末状樹脂被覆砂とする必要がある。【0023】 ( ) D 本件訂正発明においては,成形型内に充填された乾燥鋳物砂組成物の硬化は,水蒸気の通気のみによって行われ得るが,必要に応じて,アルキレンカーボネート及び/又は有機エステルを,通気せしめられる水蒸気と共に,又は,水蒸気とは別個に,乾燥空気又は加熱乾燥空気の通気に先立ち,成形型内に導入して,樹脂のより一層迅速な硬化を図るようにすることも可能である。 (【0013】 【0033】 【0034】【0036】) E 本件訂正発明においては,樹脂の硬化に寄与させるべく,炭酸ガスが,水蒸気と共に,又は,水蒸気とは別個に,乾燥空気又は加熱乾燥空気の通気に先立ち,成形型内に通気せしめられるようにされる。【0014】 ( 【0035】【0036】) F 鋳型の造型に際しては,かかる成形型が加熱されていることが望ましく,一般に,100℃以上の温度に,特に120〜150℃の温度に加熱されていることが,望ましい。このような温度に加熱された成形型を用いることによって,充填された乾燥鋳物砂組成物の硬化を,水蒸気によって,より一層効果的に進行せしめ得て,得られる鋳型の強度をより一層有利に向上せしめ得る。 (【0016】0031】 【 ) (5) 発明の効果 本件訂正発明によれば,@アルカリレゾール樹脂水溶液を用いた鋳型の製造に際して,目的とする鋳型を与える鋳物砂組成物(RCS)が,その製造時,直接に,水分率が0.5%以下の乾態の粉末状態において調製され得るので,[1]鋳物砂組成物の取扱い性が容易となること,[2]鋳物砂組成物の経時変化が著しく少ないので,長期保存が有利に実現され得ること,[3]成形型の成形キャビティ内への充填性が著しく向上し,複雑な形状の鋳型の造型も有利に実現されること,[4]得られた鋳型の強度を効果的に向上せしめ得ること,との効果を,A目的とする鋳型を与える成形型の成形キャビティ内に充填された鋳物砂組成物の硬化が,水蒸気の通気によって進行せしめられ得ることから,[1]従来の有機硬化剤を用いた場合のように高価な装置を必要としないこと,[2]環境にも悪影響を及ぼすことなく優れた特性を有する鋳型を得られること,との効果を,それぞれ奏する。【0017】 ( 【0018】【0028】〜【0030】) 2 取消事由1(進歩性の判断の誤りその1)について (1) 甲1の記載 甲1には,次の記載がある(下線部は,本判決による。。 ) ア 特許請求の範囲「 フェノール系樹脂粘結剤を耐火骨材に混合して調製されるレジンコーテッドサンドを型内 に充填し,この型内に水蒸気を吹き込んでフェノール系樹脂粘結剤を硬化させることを特徴 とする鋳型の製造方法。【請求項1】 」「 耐火骨材に混合して耐火骨材の表面に被覆されたフェノール系樹脂粘結剤が室温において 固形であることを特徴とする請求項1に記載の鋳型の製造方法。【請求項2】 」 イ 技術分野「 本発明は,鋳造に用いられる鋳型に関するものである。【0001】 」 ウ 従来技術「 この特殊鋳型の一つである熱硬化性鋳型には,シェルモールド法,小松KY法などがある。 これらの粘結剤にはフェノール樹脂が使用され,耐火骨材の表面を熱硬化性樹脂粘結剤で被覆して調製される常温で自由流動性を持ったレジンコーテッドサンドが用いられている。そして,ガスバーナーや電気ヒーターなどで250℃以上に加熱した型の表面にレジンコーテッドサンドを熱融着させて鋳型を作るダンプボックス方式や,あるいは加熱した金型のキャビティにレジンコーテッドサンドを吹き込んで粘結剤を熱硬化させて鋳型を作る方式がある。 しかしこの場合,生産性を向上させるために,型の温度をより高くする必要があるという問題があり,またこのように高温で加熱をすると,フェノール樹脂が硬化する際にその急激な反応に伴ってアンモニアガスやホルムアルデヒド,フェノールなどが発生し,作業環境の悪化を招くという問題がある。【0005】 」 エ 解決課題「 本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり,型をさほど高温に加熱する必要がなく,短時間で安定して鋳型を製造することができ,また有害化学物質を用いる必要なくしかも有毒ガスが発生することなく鋳型を製造することができる鋳型の製造方法を提供することを目的とするものである。【0009】 」 オ 解決手段「 本発明に係る鋳型の製造方法は,フェノール樹脂系粘結剤を耐火骨材に混合して調製されるレジンコーテッドサンドを型内に充填し,この型内に水蒸気を吹き込んで粘結剤を硬化させることを特徴とするものである。尚,本出願人はこの方法をスチームブロー成形法(Steamblow molding process)と呼んでいる。【0010】 」「 また請求項2の発明は,フェノール系樹脂粘結剤が室温において固形であることを特徴とするものである。【0011】 」 カ 実施形態「 本発明において粘結剤としては,レゾール型,ノボラック型,ベンジリックエーテル型などのフェノール系樹脂を用いるものであり,これらに硬化剤としてノボラック型,レゾール型のフェノール樹脂,ヘキサメチレンテトラミン,イソシアネート化合物などを,また硬化触媒として有機及び無機酸などをそれぞれ配合し,加熱硬化型の自硬化性にして使用することができるものである。【0013】 」「 フェノール系樹脂はフェノール類とホルムアルデヒド類を反応触媒の存在下で反応させることによって調製することができる。【0014】 」「 また反応触媒は,ノボラック型フェノール樹脂を調製する場合は,塩酸,硫酸,リン酸などの無機酸,あるいはシュウ酸,パラトルエンスルホン酸,ベンゼンスルホン酸,キシレンスルホン酸などの有機酸,さらに酢酸亜鉛などを用いることができる。またレゾール型フェノール樹脂を調製する場合は,アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物を用いることができ,さらにジメチルアミン,トリエチルアミン,ブチルアミン,ジブチルアミン,トリブチルアミン,ジエチレントリアミン,ジシアンジアミドなどの脂肪族の第一級,第二級,第三級アミン,N,N-ジメチルベンジルアミンなどの芳香環を有する脂肪族アミン,アニリン,1,5-ナフタレンジアミンなどの芳香族アミン,アンモニア,ヘキサメチレンテトラミンなどや,その他二価金属のナフテン酸や二価金属の水酸化物等を用いることもできる。【001 」8】「 ここで,上記のノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂は,それぞれ単独で使用する他,必要に応じて両者を任意の割合で混合して使用することもできる。【00 」19】「 ノボラック型フェノール樹脂の硬化剤としては,レゾール型フェノール樹脂,エポキシ樹脂,イソシアネート化合物,ヘキサメチレンテトラミン,トリオキサン,テトラオキサン,アセタール樹脂などを用いることができる。またレゾール型フェノール樹脂の硬化剤としては,ノボラック型フェノール樹脂,エポキシ樹脂,イソシアネート化合物,有機エステル,アルキレンカーボネートなどを用いることができ,レゾール型フェノール樹脂の硬化触媒としては,塩酸,硫酸等の無機酸や塩化アルミニウム,塩化亜鉛等の無機化合物や,ベンゼンスルホン酸,フェノールスルホン酸,キシレンスルホン酸等の有機酸などを用いることができる。【0020】 」「 またフェノール系樹脂粘結剤を希釈して使用する場合,希釈用の溶剤としてはアルコール類,ケトン類,エステル類,多価アルコールなどを用いることができる。【0021】 」「 さらに,フェノール系樹脂粘結剤には,粘結剤やこの粘結剤を用いて調製したレジンコー テッドサンドの吸湿性,製造した鋳型の吸湿性や強度の低下を小さくするために,エチレン ビスオレイン酸アマイド,エチレンビスステアリン酸アマイド,メチレンビスステアリン酸 アマイド,オキシステアリン酸アマイド,パルミチン酸アマイド,ステアリン酸カルシウム, ステアリン酸アルミニウム,ステアリン酸亜鉛などの脂肪族系ワックスや,カルナバワック ス,オレフィンワックス等の撥水剤,γ-アミノプロピルトリエトキシシラン,γ-(2- アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン,γ-グリシドキシプロピルトリメトシ キシラン等のカップリング剤を使用することができる。【0022】 」「 そして上記のフェノール系樹脂粘結剤をけい砂などの耐火骨材の表面に被覆することによ って,レジンコーテッドサンドを得ることができるものである。【0023】 」「 耐火骨材にフェノール系樹脂粘結剤を被覆するにあたっては,ドライホットコート法,コ ールドコート法,セミホットコート法,粉末溶剤法などで行なうことができる。【0024】 」「 ドライホットコート法は,固形のフェノール系樹脂粘結剤を130〜180℃に加熱した 耐火骨材に添加して混合し,耐火骨材による加熱によって固形フェノール系樹脂粘結剤を溶 融させて,フェノール系樹脂粘結剤で耐火骨材の表面をコートさせ,しかる後にこの混合を 保持したまま冷却することによって,粒状でさらさらしたレジンコーテッドサンドを得る方 法である。【0025】 」「 コールドコート法は,フェノール系樹脂粘結剤をそのままで,あるいはメタノールなどの 溶剤に溶解して液状になし,これを耐火骨材に添加して混合し,溶剤を揮発させたりするこ とによって,さらさらとしたあるいは湿態状のレジンコーテッドサンドを得る方法である。」 【0026】「 セミホットコート法は,上記溶剤に溶解した液状のフェノール系樹脂粘結剤を50〜90℃ に加熱した耐火骨材に添加混合することによってレジンコーテッドサンドを得る方法である。」 【0027】「 粉末溶剤法は,固形のフェノール系樹脂粘結剤を粉砕し,この粉砕粘結剤を耐火骨材に添 加してさらにメタノールなどの溶剤を添加し,これを混合することによってレジンコーテッ ドサンドを得る方法である。【0028】 」「 以上のいずれの方法においても粒状でさらさらした,あるいは湿態状のレジンコーテッドサンドを得ることができるが,作業性などの点においてドライホットコート法やセミホットコート法で得た,耐火骨材の表面に被覆したフェノール系樹脂粘結剤が室温で固体となった,粒状でさらさらしたレジンコーテッドサンドが好ましい。【0029】 」「 上記のように型1内にレジンコーテッドサンド2を充填した後,型1の注入孔4からホッパー7を外すと共に図1(c)のように水蒸気パイプ10を接続し,コック11を開いて型1の成形用空所3内に水蒸気を吹き込む。この水蒸気としては,飽和水蒸気をさらに加熱してその飽和温度以上に上げた過熱蒸気を用いることもできる。水蒸気は型1内に充填されたレジンコーテッドサンド2の粒子間を通過してレジンコーテッドサンド2を加熱した後,網5を通してベントホール6から排出される。このように水蒸気を吹き込むことによって,型1内のレジンコーテッドサンド2の全体を瞬時に加熱し,熱硬化性樹脂粘結剤の硬化を促進させると共に硬化に至らせることができる。従って,型1を高温に加熱しておく必要なく,水蒸気による加熱で熱硬化性樹脂粘結剤を硬化させることができるものであり,また型1内のレジンコーテッドサンド2の全体を水蒸気によって均一に短時間で加熱することができ,安定して短時間に熱硬化性樹脂粘結剤を硬化させることができるものである。しかも,硬化剤や硬化触媒のような有害化学物質の蒸気を型1内に吹き込む場合のような,作業環境を悪化させるようなこともなくなるものである。型1内のレジンコーテッドサンド2の熱硬化性樹脂粘結剤を硬化させるこの水蒸気としては,温度が110〜180℃程度,蒸気圧が1.5〜10kgf/cm2 程度のものが好ましく,このように比較的低温の水蒸気によって熱硬化性樹脂粘結剤を硬化させることができ,高温で加熱して熱硬化性樹脂粘結剤を硬化させる場合のような,急激な硬化反応に伴ってアンモニアやホルムアルデヒド,フェノールなどのガスが発生することを抑制することができるものであり,またこれらのガスが多少発生しても,水蒸気の水分に吸収されて洗い流され,作業環境を悪化させる臭気の発生を防ぐことができるものである。【0032】 」「 上記のように型1内に充填したレジンコーテッドサンド2の粘結剤を硬化させることによって,型1内で鋳型を成形することができるものであり,鋳型は型1を割ることによって取 り出すことができる。ここで,型1内に吹き込んだ水蒸気が凝縮することを防止するために, 型1を予め加熱しておいてもよい。また水蒸気によって鋳型内に含有されることになる水分 を除去するために,鋳型を乾燥機などに入れて乾燥するようにしてもよい。【0033】 」 キ 実施例 @ 実施例1「 反応容器にフェノール752重量部,37%ホルマリン875重量部,ナフテン酸鉛1.5 重量部を仕込み,約60分を要して還流させ,そのまま3時間反応させた。このものを常圧 で110℃まで脱水した後,50トールの減圧下,120℃まで脱液を行ない,半固体状の ベンジリックエーテル型フェノール樹脂を得た。得られたこの樹脂700重量部に芳香族炭 化水素系溶剤(エクソン化学株式会社製「ソルベッソ150」)を300重量部加えて溶解さ せ,25℃における粘度が70センチポアズのフェノール系樹脂粘結剤を得た。 次に,フラッタリーけい砂10kgをワールミキサーに入れ,このフェノール系樹脂粘結 剤200gを加えて90秒間混練し後,ワールミキサーから払い出すことによって,液量が 重量比率で2%の湿態状のレジンコーテッドサンドを得た。 次に,図1(a)のような直径50mm,高さ50mm の円筒状の成形用空所3を設けた型1を 用い,レジンコーテッドサンド2をホッパー7から1kgf/cm2の空気圧で10秒間吹き込むこ とによって,図1(b)のように型1に吹き込み充填した。次いでこの型1に図1(c)のように水 蒸気パイプ10を接続し,温度151℃,蒸気圧5kgf/ cm2 の水蒸気を60秒間吹き込んだ 後,直ちに型1から脱型することによって,直径50mm,高さ50mm の円筒状の評価用鋳 型を得た。【0035】〜【0037】 」 A 実施例2「 型1を予め100℃に加熱して用いるようにした他は,実施例1と同様にして評価用鋳型 を得た。【0038】 」 B 実施例3「 反応容器にフェノール752重量部,37%ホルマリン973重量部,水酸化リチウム6 重量部を仕込み,約60分を要して65℃まで昇温させ,そのまま3時間反応させた。この ものを50トールの減圧下,70℃まで脱液を行なうことによって,25℃における粘度が 30ポアズのレゾール型フェノール樹脂のフェノール系樹脂粘結剤を得た。 このフェノール系樹脂粘結剤を用い,後は実施例1と同様にして評価用鋳型を得た。 【0 」 039】【0040】 C 実施例4「 型1を予め100℃に加熱して用いるようにした他は,実施例3と同様にして評価用鋳型 を得た。【0041】 」 D 実施例5「 反応容器にフェノール940重量部,37%ホルマリン405重量部,シュウ酸3.76重 量部を仕込み,約60分を要して還流させ,そのまま3時間反応させた。このものを常圧で 180℃まで脱液することによって,25℃における粘度が80ポアズのノボラック型フェ ノール樹脂のフェノール系樹脂粘結剤を得た。【0042】 」 E 実施例6「 型1を予め100℃に加熱して用いるようにした他は,実施例5と同様にして評価用鋳型 を得た。【0044】 」 F 実施例7「 反応容器にフェノール940重量部,37%ホルマリン649重量部,シュウ酸4.7重量 部を仕込み,約60分を要して還流させ,そのまま120分間反応させた。このものを常圧 で内温160℃まで脱水を行なった後,100トールで減圧脱水を行なうことによって,軟 化点が95℃のノボラック型フェノール樹脂のフェノール系樹脂粘結剤を得た。 次に,145℃に加熱したフラッタリーけい砂30kgをワールミキサーに入れ,このフ ェノール系樹脂粘結剤を450g加えて30秒間混練した後,ヘキサメチレンテトラミン6 7.5gを450gの水に溶解させたものを添加し,砂粒が崩壊するまで混練した。 次いでさらにステアリン酸カルシウム30gを添加し,30秒間混練した後にこれを払い 出してエアーレーションを行ない,樹脂量が重量比で1.5%のさらさらしたレジンコーテッ ドサンドを得た。 このレジンコーテッドサンドを用いる他は,実施例1と同様にして評価用鋳型を得た。尚,この実施例では,水蒸気の吹き込み時間を15秒,30秒,60秒の三段階に設定してそれぞれ行なった。【0045】〜【0047】 」 G 実施例8「 型1を予め100℃に加熱して用いるようにした他は,実施例7と同様にして評価用鋳型を得た。尚,この実施例では,水蒸気の吹き込み時間を15秒,30秒,60秒の三段階に設定してそれぞれ行なった。【0048】 」 H 実施例9「 反応容器にフェノールを680重量部,37%ホルマリンを680重量部,ヘキサメチレンテトラミンを101重量部仕込み,約60分を要して70℃まで昇温させ,そのまま5時間反応させた。このものを100トールで90℃まで減圧脱水を行なった後,バットに払い出し,冷却することによって,軟化点が80℃のレゾール型フェノール樹脂のフェノール系樹脂粘結剤を得た。このフェノール系樹脂粘結剤を用い,ヘキサメチレンテトラミンを使用しない他は,実施例7と同様にして樹脂量が重量比で1.5%のさらさらしたレジンコーテッドサンドを得た。 このレジンコーテッドサンドを用いる他は,実施例1と同様にして評価用鋳型を得た。尚,この実施例では,水蒸気の吹き込み時間を15秒,30秒,60秒の三段階に設定してそれぞれ行なった。【0049】 」 【0050】 I 実施例10「 型1を予め100℃に加熱して用いるようにした他は,実施例9と同様にして評価用鋳型を得た。尚,この実施例では,水蒸気の吹き込み時間を15秒,30秒,60秒の三段階に設定してそれぞれ行なった。【0051】 」 J 実施例11「 実施例7で得たノボラック型フェノール樹脂135g,実施例9で得たレゾール型フェノール樹脂315gを混合してフェノール系樹脂粘結剤として用いるようにした他は,実施例9と同様にして樹脂量が重量比で1.5%のさらさらしたレジンコーテッドサンドを得た。 このレジンコーテッドサンドを用いる他は,実施例1と同様にして評価用鋳型を得た。尚,この実施例では,水蒸気の吹き込み時間を15秒,30秒,60秒の三段階に設定してそれぞれ行なった。【0052】 」 【0053】 K 実施例12「 型1を予め100℃に加熱して用いるようにした他は,実施例11と同様にして評価用鋳型を得た。尚,この実施例では,水蒸気の吹き込み時間を15秒,30秒,60秒の三段階に設定してそれぞれ行なった。【0054】 」 ク 発明の効果「 上記のように本発明は,フェノール系樹脂粘結剤を耐火骨材に混合して調製されるレジンコーテッドサンドを型内に充填し,この型内に水蒸気を吹き込んで粘結剤を硬化させるようにしたので,水蒸気によって型内のレジンコーテッドサンドの全体を瞬時に加熱してフェノール系樹脂粘結剤を硬化させることができ,型を高温に加熱しておく必要なく,安定して短時間に鋳型を造型することができるものであり,しかも硬化剤や硬化触媒のような有害化学物質の蒸気を型内に吹き込む場合や,型を高温に加熱してフェノール系樹脂粘結剤を硬化させる場合のような,有害物質によって作業環境を悪化させるようなことがなくなるものである。【0068】 」「 また請求項2の発明のように,耐火骨材に混合して耐火骨材の表面に被覆されたフェノール系樹脂粘結剤が室温において固形である場合には,粒状でさらさらしたレジンコーテッドサンドを得ることができ,鋳型を製造する際の作業性が良好になるものである。【0069】 」 (2) 甲1発明の認定について 上記(1)の記載によれば(下線部参照),審決の認定と同様に,次の甲1発明を認めることができ,審決の甲1発明の認定には誤りはない。 「 フラッタリーけい砂に,50トールの減圧下で70℃まで脱液を行った25℃ における粘度が30ポアズであるレゾール型フェノール樹脂粘結剤を混練して, 樹脂量が重量比で2%の湿状態のレジンコーテッドサンドを製造し,次いでレジ ンコーテッドサンドを,加熱された,目的とする鋳型を与える成形型内に充填し た後,水蒸気を通気させて,かかる成形型内でレジンコーテッドサンドを硬化せ しめ,更に鋳型を乾燥機に入れて乾燥せしめることにより,目的とする鋳型を得 る,鋳型の製造方法。」 また,この甲1発明は,実施例3,4に基づくものであるところ,甲1の記載から認められる発明中,本件訂正発明1に最も構成が近接するものであって,本件訂正発明1と対比する引用発明として,甲1発明を選択した審決の認定にも誤りはない。すなわち,実施例1,2は,ベンジリックエーテル型フェノール樹脂を,実施例5〜8は,ノボラック型フェノール樹脂を,実施例9,10は,アンモニアレゾール樹脂を,実施例11,12は,ノボラック型フェノール樹脂とアンモニアレゾール樹脂を混合したものを,それぞれ,用いたものであり,フェノールとホルムアルデヒドとをアルカリ(土類)金属の水酸化物を触媒として反応させて得られたレゾール型フェノール樹脂を用いているのは,実施例3,4のみである。 (3) 原告の主張について 原告は,甲1の記載から次の甲1A発明が認められると主張する(下線部は,甲1発明との実質的な差異)。 「 予め加熱した耐火骨材にアルカリレゾール樹脂溶液を混合して,耐火骨材の表 面をアルカリレゾール樹脂溶液にて被覆すると共に,アルカリレゾール樹脂溶液 の溶剤を耐火骨材の熱で蒸散せしめることにより,常温流動性を有する乾態のレ ジンコーテッドサンドを製造し,次いでレジンコーテッドサンドを,加熱された, 目的とする鋳型を与える型内に充填した後,水蒸気を通気させて,型内でレジン コーテッドサンドを硬化せしめ,更に鋳型を乾燥機に入れて乾燥することにより, 目的とする鋳型を得る,鋳型の製造方法。」 ところで,発明とは,自然法則を利用した技術思想の創作であり,自然法則上の制約からも,また,発明者の創作意図としても,一まとまりの技術事項として構成されるものであるから,明細書などの同一の文献の中に,発明の各構成要素が複数の候補から選択できるものとして記載されているような場合であっても,その選択肢の組合せの全ての類型が,当然に,当該文献に発明の構成として開示されているものと解することはできない。そして,引用文献である甲1には,上記(1)のとおり,あらかじめ加熱したフラッタリーけい砂を用い,また,さらさらしたレジンコーテッドサンドを得たとする実施例7〜12が記載されているが,いずれも,アルカリレゾール樹脂を用いたものではない。したがって,甲1には,あらかじめ加熱したフラッタリーけい砂にアルカリレゾール樹脂のフェノール樹脂粘結剤を加えて常温流動性を有する乾態のレジンコーテッドサンドを得た発明は,記載されていないというべきである。 原告は, 【0024】〜【0029】には,粒状でさらさらしたレジンコーテッドサンドを得ることができることや,そのようなレジンコーテッドサンドが好ましいとの記載があることから,アルカリレゾール樹脂を用いた乾態のレジンコーテッドサンドが開示されていると主張する。 しかしながら, 【0024】〜【0029】の記載は,耐火骨材にフェノール系樹脂粘結剤を被覆する方法として一般的に可能なものを列記しただけであって,この部分から,直ちに,甲1に記載のいかなるフェノール系樹脂粘結剤にどのような被覆方法を選択すべきかが判明するわけではなく,また,当然に,甲1に記載のどのフェノール系樹脂粘結剤にも全ての被覆方法が選択できるとの趣旨と理解できるものでもない。上記のとおり,具体的に乾態のレジンコーテッドサンドが得られたとする実施例中には,アルカリレゾール樹脂を用いたものが含まれていないのであるから,これを用いた乾態のレジンコーテッドサンドを得る具体的な手段が記載されていない以上,甲1から,当業者が,アルカリレゾール樹脂を用いて乾態のレジンコーテッドサンドを得る技術を読み取れるものではない(すなわち,当業者は,常温流動性を有する乾態のレジンコーテッドサンドを開示する甲1の請求項2係る発明には,アルカリレゾール樹脂を用いてレジンコーテッドサンドを得る技術は包含されていないと理解する。。 ) そうすると,原告の上記主張は,採用することができない。 (4) 小括 以上のとおり,甲1から甲1A発明を認定することはできないので,甲1A発明に基いて,審決の一致点・相違点の認定及び相違点の判断の誤りをいう原告の主張は,前提を欠くものとして失当である。 そうすると,審決には,原告の主張する誤りは認められない。 したがって,取消事由1は,理由がない。 3 取消事由2(進歩性の判断の誤りその2)について 上記1に認定判断のとおり,アルカリレゾール樹脂のフェノール樹脂粘結剤を加えて常温流動性を有する乾態のレジンコーテッドサンドを得たとする甲1A発明は,甲1に認められず,湿状態のレジンコーテッドサンドを得たとする甲1発明のみが,甲1に基づいて認められる,そして,原告自らが,このような湿状態のレジンコーテッドサンドを得たとする甲1発明と,前記第2,3(2)ア(イ)のとおりの,常温において乾体自由流動性を保持する有機粘結剤被覆砂を得たとする甲2発明とは,組合せができないものであると主張する。 そうすると,上記1の認定判断の下においては,原告自身が審決の結論の誤りを主張していないことに帰する。 したがって,取消事由2は,理由がない。 |
|
結論
以上のとおり,取消事由は,いずれも理由がないから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 清水節 |
---|---|
裁判官 | 中村恭 |
裁判官 | 森岡礼子 |