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事件 平成 26年 (ネ) 10133号 損害賠償請求控訴事件
平成 27年 (ネ) 10060号 同附帯控訴事件

控訴人(附帯被控訴人) X
控訴人(附帯被控訴人) Y
上記両名訴訟代理人弁護士 杉山直人
同補佐人弁理士 白銀博
被控訴人(附帯控訴人) 有限会社トレナージュアカデミー
同訴訟代理人弁護士 大澤一記
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/10/05
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
控訴人(附帯被控訴人)らは,被控訴人(附帯控訴人)に対し,連帯して,236万0250円及びこれに対する平成25年7月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求をいずれも棄却する。
2 本件附帯控訴を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じて20分し,その1を控訴人(附帯被控訴人)らの負担とし,その余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
4 この判決は,第1項 に限り,仮に執行することができる。
1事実及び理由第1 申立て1 控訴の趣旨原判決中,控訴人(附帯被控訴人)らの敗訴部分を取り消す。
上記取消しに係る被控訴人(附帯控訴人)の請求をいずれも棄却する。
2 附帯控訴の趣旨原判決を次のとおり変更する。
控訴人(附帯被控訴人)らは,被控訴人(附帯控訴人)に対し,連帯して,5000万円及びこれに対する平成25年7月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
につき仮執行宣言第2 事案の概要等1 事案の概要(略称は,特に断らない限り,原判決に従う。)本件は,発明の名称を「音叉型治療器」とする発明に係る特許権(本件特許権。特許第4539810号。)を有する被控訴人(附帯控訴人。以下「被控訴人」という。)が,本件旧会社及び本件新会社が本件発明の実施品である本件治療器を販売・使用したことについて,本件旧会社及び本件新会社の取締役又は事実上の取締役であった控訴人(附帯被控訴人)ら(以下「控訴人ら」という。)には,下記の任務懈怠行為があったとして,控訴人らに対し,連帯して,会社法429条1項(平成18年4月30日までの任務懈怠行為については平成17年法律第87号による改正前の商法266条ノ3第1項)に基づく損害賠償金の一部である5000万円及びこれに対する弁済期(履行の請求をした日)の翌日である平成25年7月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
ア 本件旧会社に対する任務懈怠行為(損害賠償金は5099万2923円)(主位的主張)本件旧会社の被控訴人に対する特許法65条1項に基づく平2成17年4月1日から平成19年3月31日までの本件治療器の販売・使用に係る補償金の支払債務を,本件旧会社に履行させなかった行為(予備的主張)本件旧会社に,被控訴人との間の共同事業に係る合意に違反して,平成17年4月1日から平成19年3月31日まで,本件治療器を販売・使用させた行為イ 本件新会社に対する任務懈怠行為(損害賠償金は2549万6461円)本件新会社に,平成23年4月1日から平成24年3月31日まで,本件治療器を販売・使用することにより本件特許権を侵害させた行為原審は,@本件旧会社に対する任務懈怠行為については,本件旧会社が本件治療器を販売・使用したことは,本件旧会社と被控訴人との間の共同事業に係る合意に基づくものであり,同合意に違反するものでもないとして,控訴人らの任務懈怠行為を認めず,A本件新会社に対する任務懈怠行為については,本件新会社が本件治療器を販売・使用したことは,本件特許権を侵害するものであるとした上で,取締役を退任した日(平成23年6月30日)までの控訴人らの任務懈怠行為を認め,同年7月1日以降の事実上の取締役としての責任を認めず,被控訴人の請求のうち,控訴人らに対し連帯して635万6652円及び遅延損害金の支払を求める限度で認容したため,これを不服とする控訴人らが控訴し,同様に被控訴人も附帯控訴した。
2 前提事実原判決の「事実及び理由」の第2の1記載のとおりであるから,これを引用する。
3 争点本件旧会社に対する任務懈怠行為(争点1)本件新会社に対する任務懈怠行為(争点2)本件特許の無効理由の有無(争点3)損害額(争点4)第3 争点に対する当事者の主張31 原判決の引用当事者の主張は,下記のとおり,当審における当事者の主張を補充するほか,原判決の「事実及び理由」の第2の2のとおりであるから,これを引用する(ただし,引用に係る原判決中,「本件旧会社についての責任(争点1)」を「本件旧会社に対する任務懈怠行為(争点1)」と,「本件新会社についての責任(争点2)」を「本件新会社に対する任務懈怠行為(争点2)」と改める。)。
2 当審における当事者の主張本件旧会社に対する任務懈怠行為(争点1)について〔被控訴人の主張〕ア 被控訴人は,本件旧会社に対し,本件発明を実施することを許諾していたが,平成18年6月21日,本件旧会社がその実施状況を報告しなかったことなどから,当該実施許諾契約を解除するとの意思表示をした。
イ すなわち,A側と控訴人周己側のエステティックに関する共同事業は,控訴人周己がこれを独善的に運営し,本件特許の出願手続も取り下げようとしたことなどから,平成17年の時点において既に完全に破たんしており,Aと控訴人周己の間に信頼関係はなかった。また,控訴人周己も,これを清算しようとしていた。
そして,A側と控訴人周己側との間では,平成18年6月21日に話合いが行われ,その中で,Aらは,控訴人周己に,本件治療器の製造販売を禁止する旨告げて,本件旧会社が本件発明の実施状況を説明報告しなかったことを理由に,本件発明の実施許諾契約を解除するに至った。
その後,被控訴人は,本件旧会社が本件発明を実施することに明確に抗議するとともに,老子製作所にも本件治療器の製作を中止するよう求め,また,A側と控訴人周己側との間では,弁護士を通じて,エステティックに関する共同事業において過去に発生した利益の清算についての交渉が行われた。
〔控訴人らの主張〕ア 本件旧会社は,被控訴人との間の本件発明の実施許諾契約に基づき,本件治4療器を販売・使用していたものであって,同契約は解除もされていない。
イ 本件旧会社は,被控訴人との間で,本件発明に関して特許権専用実施権設定契約書を作成し,Aらに,エステティックに関する共同事業の運営状況について報告等を行っていた。また,平成18年6月時点でA側と控訴人周己側の信頼関係は損なわれていたものの,双方の間では,同月以降も,エステティックに関する共同事業について協力関係を再構築した上で継続するための交渉が続けられていたほか,商標権や株式を持ち合う関係なども続いていた。また,A側は,商標権に関する主張をするのみで,本件発明に関する一切の営利行為を禁じる旨の書面等を送付することはなかった。
本件新会社に対する任務懈怠行為(争点2)について〔被控訴人の主張〕ア 控訴人らは,平成23年7月1日以降も,事実上の取締役として,本件新会社に対する任務懈怠行為の責任を負う。
イ すなわち,本件新会社は,控訴人ら及びその子らによる同族会社であり,その中心である控訴人周己が,本件新会社の業務の根幹である本件治療器の販売・使用等について指示し,被控訴人との間の本件紛争にも対応などすることにより,その業務を掌握している。また,本件新会社で稼働する施術者やAは,控訴人周己を本件新会社の責任者として対応している。さらに,本件新会社の取締役が新たに就任したのは平成23年10月8日であって,控訴人らが本件新会社の取締役を退任した旨の登記がなされたのも同年12月12日に至ってからである。
ウ したがって,控訴人らが,平成23年7月1日以降も,事実上の取締役としての責任を負うことは明らかである。また,少なくとも新たな取締役が就任した同年10月8日までや,退任登記がされた同年12月12日までは控訴人らは取締役としての義務を引き続き負っていたというべきである。
〔控訴人らの主張〕ア 控訴人らは,平成23年6月30日に本件新会社の取締役を退任しており,5その後は,本件新会社に対する任務懈怠行為の責任を負わない。
イ 控訴人周己は,取締役を退任した後は,施術者の指導育成や新たな治療法の研究開発等に従事しており,本件新会社の業務運営の意思決定は子らに委ねている。
また,控訴人周己は,本件新会社が小規模な同族会社であるから,治療器具の販売活動等にかかわっているにすぎない。さらに,控訴人周己は,従前の経緯から被控訴人との本件紛争にかかわっているものであって,これは本件新会社における意思決定等の実態とは無関係である。
損害額(争点4)について〔被控訴人の主張〕ア 本件新会社の平成23年4月1日から平成24年3月31日までの本件治療器の販売・使用による利益は,平成18年前後の2年間の利益の平均額である2549万6461円を下らない。
イ 本件新会社の平成23年4月1日から平成24年3月31日までの帳簿の記載は,@本件治療器の1台当たりの販売売上高が大幅に減少しているほか,販売数や施術数も大幅に減少していること,A同帳簿が控訴審になって提出されるに至ったこと,B本件新会社の利用者が振り込んだ金員が本件新会社の帳簿に正確に反映されていないことから,信用できるものではない。
ウ なお,本件新会社が,平成23年7月以降,本件治療器ではなく新たな治療器具を使用してエステティックを提供するようになったとしても,施術行為の内容が直ちに変わるわけではないから,新たな治療器具の使用によって得られた利益は本件特許権を侵害することにより得た利益とみるべきである。
〔控訴人らの主張〕ア 本件新会社の平成23年4月1日から6月30日までの本件治療器の販売・使用による利益は209万7618円である(計算式:211万7350円(販売売上高)+85万4000円(使用売上高)−87万3732円(仕入高))。
なお,平成23年7月1日以降の本件治療器の販売売上高は37万2000円,6使用売上高は0円である。
イ 控訴人周己は,本件治療器の治療効果が不十分であったことなどから,平成21年頃以降,本件治療器に替わる新たな磁気治療器及びそれを用いた施術方法を研究開発していた。そして,本件新会社は,平成23年7月以降,販売・使用の対象を,本件治療器から商品名をスパイラルフォースとする新たな磁気治療器に切り替え,本件治療器の販売・使用を止めている。このことから,本件治療器の販売数等が大幅に減少することになった。
また,本件新会社の平成23年4月1日から平成24年3月31日の帳簿は,税理士の作成した総勘定元帳の一部であり,確定申告の基礎にもなったものである。
控訴審になってから同帳簿の提出に至ったのは,控訴人らが,本件新会社に関する資料の開示を避けるとともに,和解による解決を望んでいたからである。したがって,同帳簿の記載は信用できるものである。
第4 当裁判所の判断当裁判所は,被控訴人の請求は,控訴人らの本件新会社に対する任務懈怠行為によって生じた損害賠償金236万0250円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度において理由があるが,その余の請求については,いずれも理由がないと判断するものである。
その理由は,以下のとおりである。
1 認定事実前提事実,証拠(甲32,乙1のほか各段落末尾掲記のもの。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
Aは,平成6年頃から整体師として稼働していた。被控訴人代表者であるB(以下「B」という。)は,Aの内妻である。
控訴人周己は,広告物の製作請負等を目的としていた本件旧会社の代表取締役であった。控訴人宝栄は,控訴人周己の妻である。(甲1)Aと控訴人周己は,平成12年6月頃から,Aがエステティックの施術者の7養成などの技術面を担当し,控訴人周己が経営面を担当するという役割分担のもとで,エステティックに関する共同事業を行うことを話し合うようになった。また,Aは,リンパ腺の腫れなどの症状を改善する器具として音叉を用いることを発案し,控訴人周己との間で,これを基にした事業展開も相談するようになった。
本件旧会社は,平成13年4月1日,その目的を健康美容関連のものへと変更するとともに,控訴人宝栄が代表取締役に就任し,A及びBらも,その役員に就任した。また,被控訴人が同月17日に設立され,Bが代表取締役に就任し,控訴人周己らも,その役員に就任した。(甲1,乙2の1)そして,控訴人周己は,弁理士に依頼するなどして,被控訴人の名義で,平成13年4月23日,Aの上記発案を基にした本件発明について,本件基礎出願(特願2001−124261号)を行い,さらに,同年5月15日には,「低周波を利用してなるマッサージ器」等を指定商品として,「MYANSER」と標準文字から成る商標について,登録出願(商願2001−43648号)をした。なお,同商標は,平成14年12月に商標登録された。(甲14,20,乙18,19)また,本件旧会社は,平成13年5月頃から,鋳物製造を行う老子製作所に対し,本件発明の実施品である本件治療器の試作品の製造を依頼するとともに,新たに店舗を開店し,エステティック業を行うようになった。(甲52,乙3〜7)Aらと控訴人周己らは,平成13年6月,ホテル海洋において,エステティックに関する共同事業の今後の事業展開について話し合った。
なお,「特許権専用実施権設定契約書」と題する平成13年7月1日付け契約書(乙37。以下「本件契約書」という。)が存在し,同契約書には,被控訴人を甲,本件旧会社を乙として,おおむね以下の記載があるほか,被控訴人名下には被控訴人名の印影がある(なお,被控訴人は,被控訴人名下の印影が被控訴人の印章によることを否認し,本件契約書の成立の真正を争っている。)。(乙37)ア 第1条(特許権の表示)甲は乙に対し,甲の所有する次の特許権(出願中)について,専用実施権を設定8する。
登録番号 特許出願番号 特願2001−124261発明の名称 マイアンサー(音叉型美容器具)イ 第2条実施権とその範囲)専用実施権の範囲は次のとおりとする。
実施内容 製造ならびに販売ただし,本件特許出願が特許庁にて拒絶された場合は,本件契約は無効とするウ 第3条実施料専用実施権設定の条件は次のとおりとする。
金額 出願中は製品本体の製造価額(消費税を含まない)の20%で販売量に応じた額とする。特許権取得日より製品本体の製造価額(消費税を含まない)の30%で販売量に応じた額とする。
第4条実施報告)乙は毎年決算月翌月末日までに前月月末までの販売数量を明記した報告書を甲に提出する。
第9条商標権)甲の所有する商標出願番号2001−043648[MYANSER]については本件に付随するものとする。
本件旧会社は,平成13年9月7日に老子製作所との間で本件治療器の製造契約を締結し,商品名をマイアンサーとする本件治療器の販売・使用を伴うエステティック業を本格的に行うようになった。(甲12,15〜17,乙8〜15)控訴人周己は,平成14年4月23日,弁理士に依頼するなどして,被控訴人の名義で本件特許を出願した。本件特許は,本件基礎出願を優先権主張の基礎として出願されたものであり,同年11月7日,国際公開された。(甲14,20)本件旧会社は,平成17年度には,本件治療器の販売によって約2753万円の,本件治療器を使用したエステティックの提供によって約915万円の売上高9を得るようになっていた。一方,本件旧会社が被控訴人にロイヤリティ名目で支払った金員は,同年度において約20万円であった。(甲9,10,乙39)Aは,平成18年頃には,本件治療器を販売・使用するエステティック業が順調であるにもかかわらず,利益配分が不十分であると感じるようになった。また,Aは,本件特許の出願手続を控訴人周己に任せていたものの,同手続に関する控訴人周己の説明に疑念を抱くようになった。一方,控訴人周己も,平成18年6月上旬には,Bに,A側と控訴人ら側の関係を解消しても構わない旨告げ,同月12日には,A及びBが本件旧会社の役員を退任した旨の登記手続がされた。(甲1,33,55〜58,64,乙43)そして,A及びBと控訴人周己は,平成18年6月21日,C弁護士の立会のもと,東京駅八重洲口地下の貸会議室において,エステティックに関する共同事業の利益配分等について話し合ったものの,本件特許が未だ設定登録されていなかったことなどから見解が相違し,口論になるなどして,話合いは決裂した。さらに,A及びBは,この際,控訴人周己から,本件契約書が存在することを告げられたが,被控訴人が本件契約書を作成したことを否定した。(甲33,49,58,64)その後,被控訴人は,控訴人周己から,同人が管理していた被控訴人の通帳等の返却を受けるとともに,本件契約書も受け取った。そして,Bは,平成18年7月3日頃,本件旧会社に対し,本件治療器の「製造,販売及びトリートメントは,商標権に係わりますので,禁止致します。」と記載された書面を送付するとともに,同年8月1日には,老子製作所に本件治療器の製造を止めるよう求めた。
(甲33,50,55,56,58,乙23)本件新会社が平成18年8月1日に設立され,控訴人らは取締役に就任した。
そして,本件新会社は,本件治療器の販売・使用を伴うエステティック業を行うようになった。(甲2,乙50,51,64,65,68,69,72,73,76,77,87,88)A側と控訴人周己側との間のエステティックに関する共同事業の利益配分に10関する話合いは,平成18年9月26日以降,双方弁護士を通じて行われるようになった。その中で,A側は,本件発明の実施によって得られた利益の分配を求めたものの,控訴人周己側は,本件特許の出願が拒絶される可能性があることから金員の支払を拒絶した。(甲64)本件特許は,平成22年7月2日,設定登録された。このため,A側と控訴人周己側との間で,双方弁護士を通じて本件発明の実施による金員の支払について,再度話し合われることになり,その中で,エステティックに関する共同事業を行うことについても具体的に協議されたものの,話合いは合意に至らなかった。(甲4,13,64,乙25,27,29)本件旧会社は,平成22年7月30日に解散手続が行われ,同年12月23日に清算結了した旨登記がされた。(甲1)控訴人らが平成23年6月30日付けで本件新会社の取締役を退任し,控訴人らの子が同年10月8日付けでその取締役に就任した旨の登記手続が,同年12月12日に行われた。(甲2)2 本件旧会社に対する任務懈怠行為(争点1)について主位的主張についてア 被控訴人の主張被控訴人は,本件旧会社に対し,本件発明の実施を許諾していたものの,平成18年6月21日,かかる実施許諾契約を解除したから,本件旧会社は被控訴人に対し特許法65条1項に基づく補償金の支払債務を負うことを前提に,控訴人らには任務懈怠行為があったと主張する。
そして,A側と控訴人周己側との間でエステティックに関する共同事業を行う前提として,被控訴人が,本件旧会社に対し,本件発明の実施を許諾したことは当事者間に争いがないところ,被控訴人が,平成18年6月21日,本件旧会社に対し,かかる本件発明の実施許諾契約を解除するとの意思表示をしたかについて検討する。
イ C弁護士作成に係る報告書の記載11C弁護士作成に係る報告書(甲64)には,Aらは,平成18年6月21日の話合いの際,控訴人周己に,「本件契約を解除し,今後一切本件発明品の使用をしてはならない」と言い渡した旨記載があるので,同記載の信用性について検討する。
まず,前記認定事実のとおり,Aらは,平成18年6月21日の話合いの後に,控訴人周己から本件契約書の送付を受けていることからすれば,本件契約書の送付後は,その内容を把握していたものと認められる。また,前記認定事実のとおり,A側と控訴人周己側との間では,同年9月26日以降,双方弁護士を通じて,エステティックに関する共同事業の利益配分に関する話合いも続けられていたものである。
このように,Aらは,本件発明の実施許諾と密接に関係する本件契約書の存在を十分に認識し,弁護士を通じた話合いも継続されたにもかかわらず,当該実施許諾契約を解除する旨の書面による通知は何ら行われていない。また,Aらは,本件契約書の存在を十分に認識した上で,控訴人周己側に,弁護士を通じて金員の支払を求めていたのであるから,本件発明の実施許諾契約に基づく実施料の支払を求めたものと解するのが自然であって,同契約の終了を前提とする過去に発生した利益の清算を求めていたことを窺わせる証拠もない。
また,前記認定事実によれば,A側と控訴人周己側との間のエステティックに関する共同事業は,本件発明の実施許諾契約と密接に関連するものといえるところ,かかる共同事業についての話合いは,平成22年7月に本件特許が設定登録された後も続けられおり,本件発明の実施許諾契約がその前提になっていたことが窺われる。
さらに,C弁護士作成に係る報告書(甲64)は,平成18年6月21日の話合いの時点から約10年が経過した平成28年4月8日に作成されたものである。
被控訴人が本件契約書を作成したか否かという重要な事実に関しても,上記報告書(甲64)には,平成13年6月にエステティックに関する共同事業の今後の事業展開について話し合われた後,控訴人周己からA側に本件契約書の作成に関する連12絡があり,平成18年6月21日の話合いも,本件契約書に記載された契約の存在を前提とするものであったという趣旨の記載があるのに対し,平成28年6月17日に同弁護士が作成した報告書(甲65)には,平成18年6月21日の話合いの後に,Aらは初めて本件契約書の内容を確認した旨記載があり,両者の間で明らかに変遷がある。
なお,平成18年6月21日の話合いの際に被控訴人が本件発明の実施許諾契約の解除の意思表示をしたことについては,実際の意思表示をしたとされるA作成の陳述書(甲32)においても,Aが「マイアンサーの使用は中止して下さい」と申し向けた旨記載があるにとどまっている。
このように,Aらは,遅くとも平成18年6月21日以降,本件発明の実施許諾と密接に関係する本件契約書の存在を十分に認識していたにもかかわらず,実施許諾契約を解除する旨の書面による通知を何ら行わずに,単に金員の支払を求めるにとどまっていることに加え,同契約に密接に関連するエステティックに関する共同事業についての話合いを継続して続けており,さらにC弁護士作成に係る報告書全体についても十分に信用できるものではない。
したがって,Aらが,平成18年6月21日の話合いの際に,控訴人周己に対し,本件契約を解除するとの意思表示をしたとのC弁護士作成に係る報告書の記載は,採用できない。
ウ そして,他に,被控訴人が,平成18年6月21日,本件旧会社に対し,本件発明の実施許諾契約を解除するとの意思表示をしたとの事実を認めるに足りる証拠はない。
エ 被控訴人の主張についてこれに対し,被控訴人は,平成18年6月時点において,Aと控訴人周己の間の信頼関係はなくなっており,同月21日以降は,本件旧会社が本件発明を実施することに明確に抗議するなどしており,その後は,エステティックに関する共同事業において過去に発生した利益の清算についての交渉が行われた旨主張する。
13確かに,前記認定事実によれば,平成18年6月21日の話合いの時点において,エステティックに関する共同事業について,A側と控訴人周己側との信頼関係はなくなっていたことは認められる。
しかし,A側と控訴人周己側との間のエステティックに関する共同事業は,本件発明の実施許諾契約に密接に関連するものの,その共同事業の内容や双方の協力の程度は明らかではないから,双方がエステティックに関して協力して事業を行っていくという抽象的な方針があったにとどまるというべきである。
したがって,エステティックに関する共同事業について,A側と控訴人周己側との間の信頼関係がなくなっていたとしても,それが直ちに,本件旧会社と被控訴人との間の本件発明の実施許諾契約の解消まで至るものということはできない。
また,前記認定事実のとおり,平成18年6月21日の話合いの後に,Bは,本件旧会社に,本件治療器の「製造,販売及びトリートメントは,商標権に係わりますので,禁止致します。」との書面を送付し,老子製作所にも本件治療器を製造しないよう求めているものの,これらは,Aらと控訴人らとの間のエステティックに関して協力して事業を行っていくという抽象的な方針を解消するものと解することもでき,これらの事実も,直ちに本件発明の実施許諾契約が解除されたとの事実を推認させるものにはならない。
さらに,前記のとおり,A側と控訴人周己側との間の平成18年6月21日以降の交渉が,本件発明の実施許諾契約の終了を前提とした過去に発生した利益の清算についての交渉であったともいうことはできない。
なお,本件契約書の被控訴人名下の印影が被控訴人の印章によることを認めるに足りる証拠はなく,被控訴人の意思に基づき本件契約書が作成されたと認めることはできないものの,前記認定事実のとおり,被控訴人は,平成18年6月21日の話合いの後に本件契約書の送付を受け,その内容を把握できたにもかかわらず,本件発明の実施許諾契約を解除する旨の書面による通知をしていないものであるから,本件契約書が被控訴人の意思に基づくものであるか否かについては,本件発明14の実施許諾契約の解除の意思表示の有無に直接影響するものではない。
加えて,本件訴訟の経過に鑑みれば,被控訴人は,原審において「本件旧会社による本件発明の実施は,原告と本件旧会社の間の本件事業に係る合意に基づくものであったと認めることが相当であ」るとして,被控訴人が本件旧会社に対し補償金請求権を有すると認めることはできないと判断されたにもかかわらず,平成28年5月30日の当審における第9回弁論準備手続期日に至って,初めて,本件発明の実施許諾契約が解除された旨具体的に主張したものである。このような本件訴訟の経過に鑑みても,被控訴人が本件発明の実施許諾契約の解除の意思表示をしたとの事実を認めるのは困難というほかない。
よって,被控訴人の前記主張は,被控訴人が,平成18年6月21日,本件旧会社に対し,本件発明の実施許諾契約を解除するとの意思表示をしたとの事実を裏付けるものにはならない。
オ 小括以上によれば,被控訴人は,本件旧会社が本件発明を実施することを許諾していたものであって,かかる実施許諾契約が解除されたということはできない。
したがって,本件旧会社は被控訴人に対し特許法65条1項に基づく補償金の支払債務を負うということはできない。
予備的主張について被控訴人は,本件旧会社は,被控訴人との間で,被控訴人又はAの許諾を得ることなく本件発明を実施しない旨共同事業に係る合意をしたにもかかわらず,本件旧会社がかかる合意に違反して,本件治療器を販売・使用したことを前提に,控訴人らには任務懈怠行為があったと主張する。
しかし,づくものであって,違法とはいえない。そして,本件旧会社が,被控訴人に対し,被控訴人又はAの許諾を得ることなく本件発明を実施しない旨共同事業に係る合意をしたとの事実は,これを認めるに足りる証拠がない。よって,被控訴人の上記主15張は採用できない。
したがって,本件旧会社が被控訴人との間の共同事業に係る合意に違反して本件治療器を販売・使用したということはできない。
小括よって,争点1に関する被控訴人の主張によっては,控訴人らの本件旧会社に対する任務懈怠行為は認められない。
3 本件新会社に対する任務懈怠行為等(争点2ないし4)について本件新会社の行為ア 前記認定事実のとおり,本件新会社は,平成18年8月1日以降,本件治療器の販売・使用を伴うエステティック業を行っていたものであるところ,控訴人らは,本件新会社は,平成23年7月以降,エステティック業に利用する治療器具を,本件治療器から商品名をスパイラルフォースとする磁気治療器(以下「新型治療器」という。)に切り替え,本件治療器の販売・使用を止めた旨主張するから,以下検討する。
イ まず,平成23年7月以降,本件新会社がエステティック業に利用する治療器具の販売売上げは,帳簿上,本件治療器から新型治療器によるものへ変化しているほか(乙50) 本件治療器の製造契約を締結した老子製造所との間の取引額は,,同年4月1日から平成24年3月31日までの間において25万4277円にとどまり,その内容も,治療器具の取替部品や桐箱などの取引であって,本件治療器そのものの取引はなかったものである(甲53の2,乙60の1・2,63)。
また,控訴人周己は,平成23年8月11日に家庭用美容マッサージ器等を指定商品として,「スパイラルーフォース」及び「Spiral−Force」と標準文字から成る商標について登録出願をし,同月26日に新型治療器に関する特許について国際出願をしており(乙36,55,56,60の1・2),本件新会社は,遅くとも同年8月頃には,新型治療器に重点を置いていたことが窺える。
加えて,本件新会社の利用者も,平成23年には,控訴人周己から,エステティ16ック業に利用する治療器具が本件治療器から新型治療器に切り替えられる旨告知を受けている(甲28(3頁))。
さらに,本件治療器に関する本件特許が平成22年7月2日に設定登録されたことから,本件特許権の侵害を回避するために,本件新会社がエステティック業に利用する治療器具を切り替えようとするのも合理的である。
ウ したがって,本件新会社は,平成23年7月以降,エステティック業に利用する治療器具を,本件治療器から新型治療器に切り替え,本件治療器の販売・使用を止めたとの事実を認めることができる。もっとも,本件新会社は,同月19日及び同年8月9日に本件治療器を各1個販売した事実が認められる(乙50)。
エ よって,本件新会社は,平成18年8月1日以降,本件治療器の販売・使用を伴うエステティック業を行っていたが,平成23年7月以降は,利用する治療器具を切り替え,同月19日及び8月9日に本件治療器の販売をすることがあったものの,おおむね新型治療器の販売・使用を伴うエステティック業を行うようになったものというべきである。
構成要件の充足ア 本件治療器が,本件発明の各構成要件を充足し,その技術的範囲に属することは,当事者間に争いがない。
イ 一方,被控訴人は,新型治療器の構成を特定しておらず,これが本件特許の特許請求の範囲に記載された各発明の各構成要件を充足することを認めるに足りる証拠はない。なお,新型治療器は,本件発明とは異なる特許出願に係る発明の実施品であると認められる(乙36,60の1・2)。
また,被控訴人は,本件新会社が新型治療器を使用するエステティックの提供によって得た利益も,本件新会社が本件発明を実施することにより受けた利益とみるべきであると主張するが,新型治療器を使用するエステティックの提供が,本件発明を実施する行為であるということはできないから,同主張は採用できない。
本件特許の無効理由の有無17原判決の「事実及び理由」の第3の3のとおり,本件特許に控訴人ら主張の無効理由があるということはできない。
控訴人らの任務懈怠行為ア 本件新会社による本件発明の実施について被控訴人の許諾があったとの事実を認めるに足りる証拠はないから,本件新会社が,本件治療器の販売・使用をした行為は,本件特許権を侵害するものということができる。なお,控訴人らは,Aが,控訴人周己に対し,平成13年頃,控訴人周己が実質的に経営する会社が本件発明を実施することを許諾していたことなどを前提に,本件新会社による本件発明の実施は本件特許権の侵害にならないと主張する。しかし,前記認定事実のとおり,A側と控訴人周己側では,平成22年7月に本件特許が設定登録された後も,エステティックに関する共同事業についての話合いが続けられていたところ,この話合いの際に,本件新会社が被控訴人から本件発明の実施について既に許諾を受けていたことを前提とするやり取りがあったことを窺わせる証拠はないから,Aが平成13年頃に上記許諾をしたとの事実は認めることはできない。
そして,被控訴人は,そのうち,平成23年4月1日から平成24年3月31日までの行為を問題としているところ,本件新会社は,その期間のうち,平成23年4月1日から6月30日まで並びに7月19日及び8月9日に,業として,本件治療器を販売・使用したものである。
イ 平成23年4月1日から6月30日までの販売・使用に関する責任前記認定事実のとおり,控訴人らは,平成23年4月1日から6月30日までの間は,本件新会社の取締役であったものである。
そして,前記認定事実によれば,控訴人らは,本件特許が設定登録されたことを認識していたと認められるから,控訴人らは,本件特許権を侵害することを認識していたにもかかわらず,本件新会社に業として本件発明の実施品である本件治療器を販売・使用させたということができる。
したがって,控訴人らは,本件新会社が平成23年4月1日から6月30日まで18の間,本件治療器を販売・使用したことによって,被控訴人に生じた損害について,賠償する責任を負う。
ウ 平成23年7月19日及び8月9日の販売に関する責任前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,本件新会社は,平成23年7月,治療器具を変更したほかは,これまでのエステティック業と同様の形態で業務を継続していたことが認められる。
そして,控訴人周己は,平成23年9月28日時点において,専務取締役と肩書を付した上で,新型治療器の販売促進に関与することがあり(甲37),さらに,上記認定事実によれば,控訴人らの子は同年10月8日に本件新会社の取締役に就任したものの,同日までは本件新会社の取締役は不在であったことも認められる。
そうすると,控訴人らは,平成23年6月30日に本件新会社の取締役を退任した後も,少なくとも同年8月9日までは,本件新会社が本件治療器を販売したことによって,被控訴人に生じた損害について,賠償する責任を負うというべきである。
したがって,控訴人らは,本件新会社が平成23年7月19日及び8月9日に本件治療器を販売したことによって,被控訴人に生じた損害について,賠償する責任を負う。
エ 以上によれば,本件新会社が平成23年4月1日から6月30日までの間,本件治療器を販売・使用したこと,並びに,同年7月19日及び8月9日に本件治療器を販売したことによって,被控訴人に生じた損害について,控訴人らは,本件新会社に対する任務懈怠行為があったものとして,賠償責任を負うというべきである。
損害額ア 特許法102条2項の適用の可否証拠(甲4,27,32)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,整体業を行うに当たり,本件治療器を使用することがあったと認められ,被控訴人には,本件新会社の侵害行為がなかったならば,利益を得られたであろうという事情があるか19ら,被控訴人の損害額の算定につき,特許法102条2項の適用が排除される理由はないというべきである。
イ 本件治療器を販売・使用したことによる本件新会社の利益本件新会社の平成23年度の帳簿(乙50〜52)には,本件新会社は,平成23年4月1日から6月30日までの間,本件治療器の販売によって211万7350円の売上げを得たこと,本件治療器を使用したエステティックの提供によって85万4000円の売上げを得たこと,及び,本件新会社のその間の仕入高は87万3732円であったことを示す各記載がある。
そして,これらの帳簿上の各記載に加え,弁論の全趣旨によれば,本件新会社は,平成23年4月1日から6月30日までの間,本件治療器を販売・使用することにより,209万7618円(販売売上高211万7350円+使用売上高85万4000円−仕入高87万3732円)の利益を得たことが認められる。
また,上記帳簿には,本件新会社が,平成23年7月19日及び8月9日に,本件治療器の販売によって37万2000円の売上げを得たことを示す記載がある。
そして, は70.6%(209万7618円/(211万7350円+85万4000円))であるから,本件新会社は,同年7月19日及び8月9日に,本件治療器を販売することにより,26万2632円(販売売上高37万2000円×70.6%)の利益を得たものと認められる。
これに対し,被控訴人は,本件治療器の販売・使用売上高が大幅に減少していることなどから,本件新会社の帳簿の上記記載は信用できないと主張するが,前記認定のとおり,本件新会社は,平成23年7月以降,治療器具を本件治療器から新型治療器へ切り替えており,平成23年度の本件治療器の売上高を過去の売上高と比較することはできないから,被控訴人の前記主張は採用できない。
また,被控訴人は,本件新会社の平成23年度の帳簿は控訴審になってから提出されるに至ったことから,同帳簿の記載は信用できないと主張するが,本件訴訟の20経過に照らせば,同帳簿が控訴審になってから提出されたことをもって,その記載の信用性を否定することはできない。
さらに,被控訴人は,本件新会社の利用者が振り込んだ金員が本件新会社の帳簿に正確に反映されていない旨主張する。しかし,各利用者作成に係る陳述書(甲59〜61)の記載によっても,各利用者が振り込んだ金員の趣旨やその処理内容は不明であるから,同主張も本件新会社の帳簿の記載の信用性の判断を左右しない。
ウ 被控訴人の損害額本件新会社は,本件治療器の販売・使用により 236万0250円の利益を得たものであるから,被控訴人が受けた損害額は,236万0250円と推定される(特許法102条2項)。
なお,控訴人らは,本件発明が本件治療器の販売売上げに寄与した程度は5%であり,使用売上げに寄与した程度は2.5%である旨主張する。上記推定を覆滅させる事情については,控訴人らにおいて主張立証すべきところ,これらの売上げに寄与したとされる本件新会社の施術者の知識,技術等の具体的内容は明らかではなく,上記推定を覆滅するに足りる事由があるとは認められない。
エ 以上によれば,本件新会社が平成23年4月1日から6月30日までの間並びに7月19日及び8月9日に,本件治療器を販売・使用したことによって,被控訴人に生じた損害の額は,236万0250円であると認められる。
4 結論よって,被控訴人の請求は,控訴人らに対し連帯して損害賠償金236万0250円及びこれに対する平成25年7月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,本件控訴に基づき,上記の趣旨に沿って原判決を変更し,本件附帯控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部21裁判長裁判官 部 眞 規 子裁判官 柵 木 澄 子裁判官 片 瀬 亮22
事実及び理由
全容
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