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事件 平成 27年 (ワ) 3187号 特許権侵害差止等請求事件

原告グローブライド株式会社
同 訴訟代理人弁護士高橋元弘
同 末吉亙
同 補佐人弁理士水野浩司
被告株式会社シマノ
同 訴訟代理人弁護士鎌田邦彦
同 村上光太郎
同 北井歩
同 毒島光志
同 補佐人弁理士小野由己男
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2016/09/08
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙被告製品目録記載の各魚釣用電動リール(以下「被告製品」と 総称し,目録記載の番号に応じ「被告製品1」などという。)を製造し,譲渡 し,若しくは輸出し,又は譲渡の申出をしてはならない。
2 被告は,被告製品を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,3850万円及びこれに対する平成27年2月19日 から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,原告が被告に対し,被告による被告製品の販売等が原告の特許権の 侵害に当たる旨主張して,特許法100条1項及び2項に基づき被告製品の販 売等の差止め及び廃棄を,民法709条及び特許法102条2項又は3項に基 づき損害賠償金3850万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(特許権侵 害行為の後の日)である平成27年2月19日から支払済みまで民法所定の年 5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(後記 の一部を除き当事者間に争いがない。) 当事者 原告は,釣用品,ゴルフ用品,テニス用品,サイクルスポーツ用品等の製 造・販売等を業とする株式会社であり,釣用品事業は「DAIWA」ブラン ドを中心に展開している。
被告は,自転車部品,釣具等の製造・販売等を業とする株式会社である。
原告の特許権 ア 原告は,次の特許権(以下「本件特許権1」といい,その特許を「本件 特許1」という。また,その特許出願の願書に添付された明細書及び図面 を「本件明細書1」という。)の特許権者である。
発明の名称 魚釣用電動リール 特許番号 第5641623号 出 願 日 平成25年7月30日 分割の表示 特願2011-152514の分割 原出願日 平成23年7月11日 登 録 日 平成26年11月7日 本件特許権1の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりであり(以下,この発明を「本件発明1」という。 ,下記の構成要件(以下,それ )ぞれを「構成要件1A」などという。)に分説される(なお,前後の方向は,リールを釣竿に取り付けた際の竿先の側を「前」という。本件明細書1段落【0011】参照。以下,他の発明についても同様である。 。
)「リール本体の左右側板間に設けられ,釣糸が巻回されるスプールと, 前記リール本体に設けられ,スプールを回転駆動する駆動モータと, 前記駆動モータの出力を調整する操作部材と, 前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと,を有する魚釣用電動リールにおいて, 前記操作部材は,前記制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で前記制御ケースに配設されるとともに,前記制御ケースに支持された支軸に前後方向に回転可能に装着されており,前記制御ケースには,操作部材の操作角度を検知する検知手段が設けられていることを特徴とする魚釣用電動リール。」 記1A リール本体の左右側板間に設けられ,釣糸が巻回されるスプールと, 前記リール本体に設けられ,スプールを回転駆動する駆動モータと, 前記駆動モータの出力を調整する操作部材と,前記駆動モータを制 御する制御部を収容した制御ケースと,を有する魚釣用電動リール において,1B 前記操作部材は,前記制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側 板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で前記制御ケー スに配設されるとともに,前記制御ケースに支持された支軸に前後 方向に回転可能に装着されており,1C 前記制御ケースには,操作部材の操作角度を検知する検知手段が設 けられている1D ことを特徴とする魚釣用電動リール。
イ 原告は,次の特許権(以下「本件特許権2」といい,その特許を「本件 特許2」という。また,その特許出願の願書に添付された明細書及び図面 を「本件明細書2」という。)の特許権者である。
発明の名称 魚釣用電動リール 特許番号 第5641624号 出 願 日 平成25年7月30日 分割の表示 特願2011-152514の分割 原出願日 平成23年7月11日 登 録 日 平成26年11月7日 本件特許権2の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりであり(以 下,この発明を「本件発明2」という。 ,下記の構成要件(以下,それ ) ぞれを「構成要件2A」などという。)に分説される。
「リール本体の左右側板間に設けられ,釣糸が巻回されるスプールと, 前記リール本体に設けられ,スプールを回転駆動する駆動モータと, 前記駆動モータの出力を調整する操作部材と, 前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと,を有する魚釣用電動リールにおいて, 前記操作部材は,前記制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側板の一方の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに,直径が10〜24mm,軸方向長さが2〜20mmの略円筒形状に形成され,その外表面の円弧領域が操作部として前記側板の上部の表面から露出している,ことを特徴とする魚釣用電動リール。」 記2A リール本体の左右側板間に設けられ,釣糸が巻回されるスプールと, 前記リール本体に設けられ,スプールを回転駆動する駆動モータと, 前記駆動モータの出力を調整する操作部材と,前記駆動モータを制 御する制御部を収容した制御ケースと,を有する魚釣用電動リール において,2B 前記操作部材は,前記制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側 板の一方の上部に前後方向に向けて回転可能に装着されるとともに, 直径が10〜24mm,軸方向長さが2〜20mmの略円筒形状に 形成され,その外表面の円弧領域が操作部として前記側板の上部の 表面から露出している,2C ことを特徴とする魚釣用電動リール。
ウ 原告は,次の特許権(以下「本件特許権3」といい,その特許を「本件 特許3」という。また,その特許出願の願書に添付された明細書及び図面 を「本件明細書3」という。)の特許権者である。
発明の名称 魚釣用電動リール 特許番号 第5641625号 出 願 日 平成25年7月30日 分割の表示 特願2011-152514の分割 原出願日 平成23年7月11日 登 録 日 平成26年11月7日 本件特許権3の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりであり(以 下,この発明を「本件発明3」といい,本件発明1及び2と併せて「本件 各発明」という。 ,下記の構成要件(以下,それぞれを「構成要件3 ) A」などという。)に分説される。
「リール本体の左右側板間に設けられ,釣糸が巻回されるスプールと, 前記リール本体に設けられ,スプールを回転駆動する駆動モータと, 前記駆動モータの出力を調整する操作部材と, 前記駆動モータを制御する制御部を収容した制御ケースと,を有する魚釣用電動リールにおいて, 前記操作部材は,前記制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側板の一方の上部に,親指を接触させて操作される外表面の円弧領域が露出するように前記側板の上部の表面に形成された凹所内に下方領域が収容されて前後方向に向けて回転可能に装着されていることを特徴とする魚釣用電動リール。」 記 3A リール本体の左右側板間に設けられ,釣糸が巻回されるスプールと, 前記リール本体に設けられ,スプールを回転駆動する駆動モータと,前 記駆動モータの出力を調整する操作部材と,前記駆動モータを制御する 制御部を収容した制御ケースと,を有する魚釣用電動リールにおいて, 3B 前記操作部材は,前記制御ケースの後方側で,少なくとも左右の側 板の一方の上部に,親指を接触させて操作される外表面の円弧領域が露 出するように前記側板の上部の表面に形成された凹所内に下方領域が収 容されて前後方向に向けて回転可能に装着されている 3C ことを特徴とする魚釣用電動リール。
被告の行為等ア 被告は,被告製品の製造,販売及び販売の申出をしている。
イ 被告製品の構成は,別紙被告製品説明書記載のとおりである(ただし, 被告は,同別紙の1 bの下線部を「調整部材5は,ケース部材6の右側 延長部62Rの後部及び右側カバー72Rの後部に形成された開口8から, 外表面の円弧領域が操作部として上方及び後方に露出している。」とし, 同cの冒頭に「調整部材5の操作角度を検知するために,検出子9及び位 相検出部10が設けられている。」と付加すべき旨主張する。同別紙のそ の余の部分は当事者間に争いがない。 。
) 2 争点 被告製品が本件各発明の以下の構成要件を充足し,本件各発明の技術的範 囲に属するか(被告は,その余の構成要件の充足性を争っていない。なお, 被告製品1と2は,ハンドルの形状のみが相違し,その余の構造は同一であ る。また,被告製品1と3,2と4はそれぞれ構造が左右対称であるが,そ れ以外の構造は同一である。そのため,被告製品1〜4について本件各発明 の構成要件充足性は同様に論じられるが,以下,被告製品の構成につき 「右」又は「左」というときは被告製品1及び2のものをいい,被告製品3 及び4についてはこれと逆に解すべきことになる。) ア 被告製品の操作部材(別紙被告製品説明書の記載中「調整部材5」がこ れに相当する。)が,「その側板の表面から露出」(構成要件1B)し, 「前記側板の上部の表面から露出」(構成要件2B)し,「外表面の円弧 領域が露出するように前記側板の上部の表面に形成された凹所内に下方領 域が収容」(構成要件3B)されているか(操作部材の露出位置) イ 被告製品の操作部材が,「前記制御ケースの後方側で・・・制御ケース に配設」(構成要件1B)され,「前記制御ケースの後方側で,少なくと も左右の側板の一方の上部に・・・装着」(構成要件2B,3B)されて いるか(操作部材の配設位置) ウ 被告製品の操作部材の操作角度を検知する検知手段が制御ケース内に設 けられているか(構成要件1C) エ 被告製品が凹所を有するか(構成要件3B) 本件特許1〜3に無効理由(後記 の進歩性欠如以外のもの)等があるか ア 本件特許1 分割要件(特許法44条1項)の違反による進歩性欠如(同法29条 2項)ないし先使用権の成否(同法79条) 操作部材の配設及び装着についてのサポート要件(同法36条6項1 号)の違反 操作部材の配設位置についてのサポート要件及び明確性要件(同項2 号)の違反 補正要件(同法17条の2第3項)の違反イ 本件特許2 操作部材の配設位置についてのサポート要件及び明確性要件違反 操作部材の直径についてのサポート要件及び明確性要件違反ウ 本件特許3 操作部材の配設位置についてのサポート要件及び明確性要件違反 凹所についてのサポート要件及び明確性要件違反 本件特許1〜3に進歩性欠如の無効理由があるかア 本件各発明の課題及び解決手段が自明かつ周知であるかイ 本件発明1が以下の各発明に基づいて容易に想到し得るものであるか 特開2001-169700号公報(乙18。以下「乙18公報」と いう。)に記載された発明(以下「乙18発明」という。) 特開2003-92959号公報(乙17。以下「乙17公報」とい う。)に記載された発明(以下「乙17発明」という。) 特開2000-83538号公報(乙20。以下「乙20公報」とい う。)に記載された発明(以下「乙20発明」という。) 実願平1-132797号(実開平3-71769号)のマイクロフ ィルム(乙19。以下「乙19公報」という。)に記載された発明(以 下「乙19発明」という。)ウ 本件発明2が以下の各発明等に基づいて容易に想到し得るものであるか 乙18発明 乙17発明 乙20発明 魚釣用電動リール「Adventure電動 VS700AC Hi -POWER」(乙43。以下「VS700AC」という。) エ 本件発明3が以下の各発明等に基づいて容易に想到し得るものであるか 乙18発明 乙17発明 乙20発明 VS700AC 原告の損害額3 争点に関する当事者の主張 争点 ア(操作部材の露出位置。構成要件1B,2B及び3B)について (原告の主張) ア 被告製品においては調整部材が本件各発明の操作部材に該当するところ, この調整部材は,右側カバーの上部にその表面から調整部材の外表面の円 弧領域が操作部として露出した状態でケース部材に配設されるとともに, 外表面の円弧領域が露出するように右側カバーの上部の表面に形成された 開口に下方領域が収容されている。したがって,「その側板の表面から露 出」(構成要件1B) 「前記側板の上部の表面から露出」 , (構成要件2 B) 「外表面の円弧領域が露出するように前記側板の上部の表面に形成 , された凹所内に下方領域が収容」(構成要件3B)との各構成要件を充足 する。
イ 被告は,出願経過を根拠に,操作部材が側板の表面のみから露出した状 態のものに限定されると主張する。しかし,原告が補正をしたのは,操作 部材が制御ケースの後方で,側板の上部で側板の表面から露出するように 配設されたものであるとするとともに,操作部材を前後方向に回転可能に するものであることを明確にしたにすぎず,側板の表面のみから露出した 状態に限定する趣旨ではない。
(被告の主張) 構成要件1Bの「少なくとも左右の側板の一方の上部にその側板の表面か ら露出した状態で」との構成は,本件特許1の出願経過に照らし,操作部材 が側板の表面のみから露出した状態のものに限定されたと解すべきである。
また,構成要件2Bの「前記側板の上部の表面から露出している」との構成 及び構成要件3Bの「外表面の円弧領域が露出するように前記側板の上部の 表面に形成された凹所内に下方領域が収容」との構成についても,同様に, 操作部材が側板の表面のみから露出した状態に限られる。
これに対し,被告製品の調整部材は,ケース部材の右側延長部及び右側カ バーに形成された開口から露出しており,側板の表面のみから露出した状態 ではないから,構成要件1B,2B及び3Bをいずれも充足しない。
争点 イ(操作部材の配設位置。構成要件1B,2B,3B)について(原告の主張) 本件各発明の操作部材の配設位置は構成要件1B,2B及び3Bの文言に より明らかになっており,被告製品はこれら構成要件を充足する。本件明細 書1〜3記載の実施例を併せみれば,リール本体を上部から見た場合の制御 ケースの上面の前方・後方も確認できるから,配設位置の特定を欠くとの被 告の主張は失当である。
(被告の主張) 本件各発明においては,いずれもリールにおける制御ケースの位置につい て特定されておらず,リールにおける操作部材の配設位置が特定されていな い。したがって,被告製品が構成要件1B,2B及び3Bを充足するか否か が判断できず,これら各構成要件を充足するとは認められない。
争点 ウ(検知手段の配設位置。構成要件1C)について(原告の主張) 被告製品において,調整部材の操作角度は,検出子の位相検出部に対する 相対的な回転位相を検出することで検出されている。すなわち,被告製品に おいて構成要件1Cにいう操作角度検知手段に当たるのは位相検出部であり, これはケース部材の右延長部に形成された空間に収容されているから,被告 製品は構成要件1Cを充足する。
(被告の主張) 構成要件1Cは,制御ケース内に操作部材の操作角度を検知する検知手段 の全部が設けられていることを意味する。これに対し,被告製品における調 整部材の操作角度検出手段としては検出子及び位相検出部があり,検出子は 調整部材に形成された検出子収容部に装着されておりケース部材には設けら れていないから,被告製品は構成要件1Cを充足しない。
争点 エ(凹所の有無。構成要件3B)について(原告の主張) 構成要件3Bの「凹所」の意義は不明確なものでなく,被告製品の右側カ バーの開口は「凹所」に当たる。
(被告の主張) 構成要件3Bには「側板の上部の表面に形成された凹所」との記載があり, 本件明細書3の第2実施形態では,左側板上に形成され,操作部材の下方領 域が収容される孔が「凹所」として開示されている。他方,第1実施形態で は,操作部材の周囲を凹状にくぼませたものが「凹所」とされており,本件 明細書3においては「凹所」の意義が不明確である。したがって,被告製品 が構成要件3Bを充足するか否かは判断できず,少なくとも後者の意味での 凹所は有していない。
争点 ア(本件特許1の無効理由の有無等)について ア 分割要件違反による進歩性欠如ないし先使用権の成否 (被告の主張) 本件発明1は本件特許1の原出願(特願2011-152514)の願 書に添付された明細書(乙1)に記載されていないから,本件特許1は分 割要件を満たさない不適法なものである。したがって,その出願日は平成 25年7月30日から遡及せず,本件発明1は,原出願の公開特許公報又 は被告製品1に基づいて容易に想到し得たから,進歩性を欠く。
また,被告は,釣具等の事業において被告製品を独自に開発し,同日以 前に被告製品1を現に製造販売し,被告製品2〜4の製造販売等の準備を していたから,仮に被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するのであれ ば先使用権が成立する。
(原告の主張) 本件特許1の原出願の明細書には,操作部材が側板の表面から露出し, 支軸と一体となって制御ケースに対して回転可能に装着される構成が記載 されているから,本件特許1は分割要件に違反せず,進歩性欠如及び先使 用権をいう被告の主張はその前提を欠く。
イ 操作部材の配設及び装着についてのサポート要件違反(被告の主張) 本件明細書1には,操作部材が側板の表面から露出した状態で制御ケー スに配設される構成及び操作部材が支軸に回転可能に装着される構成(構 成要件1B)は記載されていない。したがって,本件発明1はサポート要 件に違反する。
(原告の主張) 争う。
ウ 操作部材の配設位置についてのサポート要件及び明確性要件の違反(被告の主張) 本件発明1は,リールにおける操作部材の配設位置について特定されて いないから,明確性を欠きサポート要件にも違反する。
(原告の主張) 争う。
補正要件違反(被告の主張) 平成26年6月12日受付手続補正書(乙6)による補正は,操作部材 が側板の表面から露出した状態で制御ケースに配設されること及び操作部 材が支軸に回転可能に装着されることという当初の明細書に記載のない構 成を加えるものであり,補正要件に違反する。
(原告の主張) 争う。
争点 イ(本件特許2の進歩性欠如以外の無効理由の有無)についてア 操作部材の配設位置についてのサポート要件及び明確性要件の違反 当事者の主張は本件発明1に係る前記 ウに同じ。
イ 操作部材の直径についてのサポート要件及び明確性要件の違反(被告の主張) 本件発明2は略円筒形状の操作部材の直径を10〜24mmと規定して いるが,操作部材の直径を規定したのみでは操作部材の操作性及び把持安 定性の向上という作用効果を奏することができるか明らかでない。
(原告の主張) 本件発明2の操作部材の構成は略円筒形状で回転可能に側板の上部の表 面から露出すると特定されており,側板の表面から露出する高さは直径の 半分以下となることが理解できるのであって,本件明細書2記載の実施態 様もこの範囲内のものであるから,サポート要件等の違反はない。
争点 ウ(本件特許3の進歩性欠如以外の無効理由の有無)についてア 操作部材の配設位置についてのサポート要件及び明確性要件の違反 当事者の主張は本件発明1に係る前記 ウに同じ。
イ 凹所についてのサポート要件及び明確性要件の違反 (被告の主張) 前記 (被告の主張)記載のとおり,本件発明3における「凹所」の意 味は不明確であり,サポート要件にも違反する。
(原告の主張) 争う。
争点 ア(本件各発明の課題の自明性等)について(被告の主張) 本件各発明の課題は,本件明細書1〜3によれば,釣竿とリール本体を片 手で容易に把持できるとともに,その手の親指でモータ出力を調整する操作 部材を巧みに操作でき,操作部材の操作中に急に大きな負荷がかかっても十 分な把持性を有する魚釣用電動リールを提供することにあるとされる。しか し,魚釣用電動リール,特に小型のリールは,竿とリール本体を片手で把持 しながらハンドルを巻き上げたり,クラッチ,モータ出力調節体等を指で操 作したりするものであり,竿とリール本体を把持した手の親指で操作部材を 操作することは古くから行われている。その際,リールの操作性の向上が課 題となることは自明であり,魚釣用電動リールの発明である多数の文献(乙 17,18,20〜22等)にこの課題が記載されている。
また,この課題を解決するため,リール本体を把持した手の親指の届く範 囲に操作部材を配置することは当然であり,これをリール本体の後方側で側 板の上部に配置することは周知技術である(乙17,18,20,21,2 4等)。さらに,操作部材の形態として,レバー式,ダイヤル式,スライド 式はそれぞれ周知であり,これらを互いに置換することも周知技術である (乙17,18,22,25〜27等)。これに加え,操作部材をリール本 体に対して前後方向に回転操作すること(乙18,20,28等),ダイヤ ル式の操作部材を略円筒状とし,機器からの飛び出しを抑えるためにその下 方領域を機器の内部に収容しその外表面の円弧領域を機器から露出させるこ と(乙17,18,28〜30等)もそれぞれ周知の技術である。結局,本 件各発明は課題及び作用効果を共通にする周知技術寄せ集めたにすぎず, いずれも進歩性を欠く。
(原告の主張) 本件各発明より前の小型電動リールは,釣竿やリールを把持していない側 の手で操作部材を操作することが前提となっており,被告の指摘する各文献 も,リール本体のみを保持した手(乙17,18,22,24)あるいは釣 竿のみを保持した手(乙20,21)で操作部材を操作するもので,釣竿と 共にリール本体を把持した手で操作部材を操作することを前提とした発明・ 技術は記載も示唆もされていない。これに対し,本件各発明は,本件明細書 1〜3の各段落【0006】「釣竿とリール本体を片手で容易に把持でき る」との記載や図8及び9が示すとおり,釣竿と共にリール本体を把持した 状態で操作部材を操作するものである。そして,釣竿とリール本体を片手で 容易に把持できるとともに,その手の親指でモータ出力を調整する操作部材 を巧みに操作でき,さらに,魚釣におけるあらゆるシーンに適宜対応でき, 操作部材の操作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有するとい う本件各発明の課題(本件明細書1〜3の各段落【0005】 【000 , 6】)は新規なものである。本件各発明は,@操作部材の装着位置を制御ケ ースの後方側で,側板の上部とする,A操作部材を側板の上部の表面から露 出した状態で装着する,B操作部材を前後方向に回転可能に装着するという 構成を全て採用することによりこの課題を解決したのであるから,その課題 及び解決手段は自明又は周知なものでない。
争点 イ(本件発明1の容易想到性)について ア 乙18発明に基づく進歩性欠如 (被告の主張) 乙18公報の図5及び6(b)に記載された乙18発明は,@操作部材 が制御ケースの前後方向の中央から少し後方側の前後方向の所定領域に配置されている点,A操作部材が制御ケースに配設されるとともに制御ケースに支持された支軸に装着されているかどうか不明である点,B操作部材が略円弧状にスライド可能に装着されている点,C操作部材の操作量を検知する検知手段が,角度を検知するものか,また,制御ケースに設けられているか不明である点が本件発明1と異なるが,その余の構成は本件発明1と一致する。なお,原告は相違点につき後記(原告の主張)の@のとおり主張するが,特許請求の範囲は原告主張のように一体的に記載されておらず,本件明細書1には原告主張の一体的な構成によって課題を解決しているとの記載もないので,相違点の把握として不適切である。
上記@について,親指が届きやすい操作部材の具体的配置はリールの大きさや形状等に応じて設計される設計事項であり,これを制御ケースの後方側に置くことは周知技術である(乙17,20,21,24)。上記Aについて,本件発明1の課題及び作用効果に照らすと,操作部材が制御ケースに配設されるとともに制御ケースに支持された支軸に装着されること自体に技術的意義はない上,回転操作する操作部材を支軸に装着するのは一般的であって(乙17,乙19),当業者は容易に想到できる。上記Bについても,本件発明1の課題及び作用効果に照らすと,操作部材が回転可能なダイヤル式であることに技術的意義はない。スライド式とダイヤル式が周知慣用な置換手段であることは前記 (被告の主張)のとおりであり,乙18公報の図3及び図4,乙17公報並びに乙20公報には回転可能な操作部材が記載されているから,当業者はこれを容易に想到できる。
上記Cについて,略円弧状に操作される操作部材において操作量を検知する手段としては回転量(角度)を検知するよう構成するのが通常であり,上記Bに係る構成が得られれば当然検知手段は操作角度を検知することになる。また,魚釣用電動リールにおいて電気部品の防水性の確保は自明か つ周知の課題であり,防水のため検知手段を制御ケースに収容することも 周知技術である(乙17,19,33,34)。
(原告の主張) 乙18発明は,@モータ出力調節体が制御ケースの左側方側に配置され るとともに,その操作部をリール本体の表面から露出した状態で略円弧方 向にスライド操作することによってモータ出力を調節するよう装着されて おり,本件発明1の「操作部材が制御ケースの後方側で,少なくとも左右 の側板の一方の上部にその側板の表面から露出した状態で前後方向に回転 可能に装着されている」との構成を有しない点,Aモータ出力調節体が制 御ケースに支持された支軸に装着されているか不明な点,B検知手段が角 度を検知するか,制御ケースに設けられているか不明な点で本件発明1と 相違する。
本件発明1は,上記@の点に係る本件発明1の構成全体で前記 (原告 の主張)の課題を解決している。したがって,乙18発明がこれを有して いないことが相違点として認定されるべきであり,被告主張のように操作 部材の配設位置と形態に分けて相違点を認定すべきではない。
上記@について,本件発明1の構成は被告指摘の文献のいずれにも開示 されていない。本件発明1の課題が新規なものであることは前記 (原告 の主張)のとおりであり,乙18発明に上記構成を採用する動機付けはな い。上記A及びBについて,本件発明1は,上記A及びBに係る構成を採 用することで構造が簡略化され,生産性及びメンテナンス性の向上を図る とともに,配線及び防水性の面でも有利になるという作用効果を有するも のであるが,乙17公報には防水性の確保が課題であるとは明記されてお らず,この点は周知技術でない。また,上記A及びBに係る構成を抽象的 にでも開示しているのは乙19公報のみであるが,これを乙18発明に組 み合わせても本件発明1の構成は得られない。
イ 乙17発明に基づく進歩性欠如(被告の主張) 乙17発明は,@操作部材が制御ケースの表面から露出した状態で配設 されている点,A操作部材が斜め方向に回動変位可能に装着されている点 が本件発明1と異なるが,その余の構成は本件発明1と一致する。なお, 上記アと同様,原告による相違点の把握は不適切である。
上記@について,本件発明1の課題及び作用効果に照らせば,操作部材 はリールの上部の表面から露出していれば足り,リールの外表面を成す制 御ケースや側板の大きさ,形状は設計事項にすぎない。また,乙18公報 及び乙20公報には操作部材が側板の表面から露出した状態で配置された 構成が記載されている。上記Aについて,操作部材を前後方向に回転操作 することは周知技術であり(乙18,20等),乙17発明における操作 部材の回転方向を前後方向とすることに支障はない。
(原告の主張) 乙17発明は,@操作部が制御ケースの上部に露出した状態で傾斜方向 に回転可能に装着されており,本件発明1の「操作部材が制御ケースの後 方側で側板の上部にその表面から露出した状態で前後方向に回転可能に装 着されている」との構成を有しない点,A操作部が制御ケース内に収容さ れた回動式バリアブルレジスタ(可変抵抗器)に支持された支軸に装着さ れている点で相違する。
上記@について,乙17発明に本件発明1の構成を採用する動機付けが ないことは上記ア(原告の主張)の@と同様である。また,乙17発明は, モータ出力調節体を側板の上方部や側板間に配設した部材の後ろ側に設け た乙18発明の課題を解決するため,操作部をあえて側板間の上面より突 出される構成としたのであるから,その操作部の配置について乙18発明 のように後方側とすることには阻害要因がある。上記Aについて,乙17 公報には防水性の確保が課題であるとの記載はないから,本件発明1の構 成を採る動機付けがない。
ウ 乙20発明に基づく進歩性欠如(被告の主張) 乙20発明は,@操作部材が側板に配設されるとともに,側板に支持さ れた支軸に装着されている点,A検知手段が側板に設けられている点が本 件発明1と異なるが,その余の構成は本件発明1と一致する。なお,前記 アと同様,原告による相違点の把握は不適切である。
上記@及びAがいずれも容易想到であることは前記ア(被告の主張)の A及びCの相違点と同様である。
(原告の主張) 乙20発明は,@出力調整レバーが側板及び枠板の外表面上に設けられ, 側板の後部周面上に配置されており,本件発明1の「操作部材が制御ケー スの後方側で側板の上部にその表面から露出した状態で前後方向に回転可 能に装着されている」との構成を有しない点,A出力調整レバーがポテン ショメータと,ポテンショメータのワイパを有する作動軸に回転可能に固 定される点,Bポテンショメータが右側の枠板と側板との間に収められ側 板の内面に固定されている点で相違する。
上記@については前記ア(原告の主張)の@と同様である。また,乙2 0発明はリール本体ではなくその後部の釣竿を把持する構成であるから, 上記@〜Bの各相違点について本件発明1の構成を採ると,リール本体の 後部の竿を把持した手の指でモータ出力調整手段を操作することができな くなるから,各相違点について本件発明1の構成を採用することには阻害 要因がある。
エ 乙19発明に基づく進歩性欠如(被告の主張) 乙19発明は,操作部材が制御ケースのほぼ中央に配置されている点が 相違するが,この相違点が容易想到であることは上記ア(被告の主張)の @と同様であり,それ以外の構成は本件発明1と一致する。原告の相違点 の把握が不適切であることは前記アと同様である。
(原告の主張) 乙19発明は,少なくとも,操作具がケースの下面にその一部をケース の側方に露出した状態で前後方向に回転可能に装着されており,本件発明 1の「操作部材が制御ケースの後方側で側板の上部にその表面から露出し た状態で前後方向に回転可能に装着されている」との構成を有しない点で 本件発明1とは異なる。そして,この点が容易想到といえないことは前記 ア(原告の主張)の@と同様である。また,上記相違点に係る乙19発明 の構成は,リールに手が触れた場合における操作具の誤操作を防止するこ とが目的であり,本件発明1の構成を採用するとこの目的は達成できない から,阻害要因がある。
争点 ウ(本件発明2の容易想到性)についてア 乙18発明に基づく進歩性欠如(被告の主張) 乙18発明は, 本件発明1に係る前記 ア(被告の主張)の@及びB と同じ点, 操作部材がスライドレバー形状で寸法が明記されておらずそ の外表面が突起状のつまみである点で本件発明2と異なるが,その余の構 成は本件発明2と一致する。
上記 の各点がいずれも容易想到であることは前記 ア(被告の主張) と同様である。上記 について,操作部材の形態をレバー式,スライド式 からダイヤル式に置換することが容易であることは前記 (被告の主張) のとおりであり,操作部材の大きさも,構成要件2Bが規定する大きさは 相当に幅があり,通常あり得る範囲を特定したにすぎないから当業者にと っては容易想到である。
(原告の主張) 乙18発明は,@前記 ア(原告の主張)の@と同じ点,Aモータ出力 調節体の操作部がスライドレバー形状で外表面が突起状のつまみであり, その寸法が不明な点で本件発明2と相違する。
上記@については前記 ア(原告の主張)の@と同様である。上記Aに ついては,本件発明2の課題及び作用効果が新規なものであることは前記 (原告の主張)のとおりであり,操作部材の形状や寸法はその課題解決 のために定めたものであるから設計事項ではなく,当該寸法等を記載した 文献等も存在しない。
イ 乙17発明に基づく進歩性欠如(被告の主張) 乙17発明は, 本件発明1に係る前記 イ(被告の主張)の@及びA と同じ点, 操作部材の寸法が明記されていない点で本件発明2と異なる が,その余の構成は本件発明2と一致する。
上記 の各点がいずれも容易想到であることは前記 イ(被告の主張) と同様である。上記 についても上記ア(被告の主張)の についてと同 様の理由で容易想到である。
(原告の主張) 乙17発明は,@前記 イ(原告の主張)の@と同じ点,A操作部の寸 法が不明な点で本件発明2と相違するが,これらの相違点が容易想到とい えないことは上記ア(原告の主張)と同様である。
ウ 乙20発明に基づく進歩性欠如(被告の主張) 乙20発明は,操作部材がレバー形状で寸法が明記されておらず,外表 面が円弧領域でない点で本件発明2と異なるが,その余の構成は本件発明 2と一致する。この相違点が容易想到であることは前記ア(被告の主張) の についてと同様である。
(原告の主張) 乙20発明は,@前記 ウ(原告の主張)の@と同じ点,A出力調整レ バーが平板状のつまみ部と補強部により構成されており,その寸法が不明 な点で本件発明2と相違するが,これらの相違点が容易想到といえないこ とは前記ア(原告の主張)と同様である。
エ VS700ACに基づく進歩性欠如(被告の主張) 平成14年に発売されたVS700ACは,リールを片方の手で把持し その手の親指で操作部材を操作する操作性の向上という点で本件発明2と 課題及び作用効果を共通にしており,@操作部材がレバー形状であり,円 筒形状の操作部材としては寸法が特定できず,外表面が円弧領域でない点, A操作部材が側板の上部の表面に露出している点で本件発明2と異なるが, その余の構成は本件発明2と一致する。
上記@が容易想到であることは前記ア(被告の主張)の についてと同 様であり,上記Aについても,単なる設計事項であり,容易想到であるこ とは明らかである。
(原告の主張) VS700ACは,@操作部材(パワーレバー)がレバー形状であり, 側板上部の周面上に湾曲面を設けるとともに,この湾曲面の周面上に装着 されている点,A操作部材がレバー形状であり,回転の中心点からレバー の端部までが横方向23mm(直径換算で46mm),軸方向の長さが3 5mmであり,外表面が円弧領域でない点で本件発明2と相違する。
上記@については前記 ア(原告の主張)の@と,上記Aについては上 記アのAと同様である。
争点 エ(本件発明3の容易想到性)についてア 乙18発明に基づく進歩性欠如(被告の主張) 乙18発明は, 本件発明1に係る前記 ア(被告の主張)の@及びB と同じ点, 操作部材の外表面が突起状のつまみであり下方領域の収容態 様が不明である点で本件発明3と異なるが,その余の構成は本件発明3と 一致する。
上記 の各相違点がいずれも容易想到であることは前記 ア(被告の主 張)と同様である。上記 について,操作部材の露出する外表面の形状は 設計者が操作性の便宜を考え適宜設計するものであり,円弧形状も突起状 のつまみも一般的である。また,操作部材においてダイヤル式とスライド 式が周知慣用な置換手段であることは前記 (被告の主張)のとおりであ り,ダイヤル式の操作部材の下方領域が凹所に収容される構成は,乙18 公報及び乙17公報に記載されている。
(原告の主張) 乙18発明は,@前記 ア(原告の主張)の@と同じ点,Aモータ出力 調節体の操作部が突起状のつまみであり,下方領域の収容態様が不明であ る点で本件発明3と相違する。
上記@については前記 ア(原告の主張)の@と同様である。上記Aに ついては,本件発明3の課題及び作用効果が新規なものであることは前記 (原告の主張)のとおりであり,モータ出力調節体の収容態様や操作部 の形状はその課題解決のために定めたものであるから設計事項ではない。
イ 乙17発明に基づく進歩性欠如(被告の主張) 乙17発明は,本件発明1に係る前記 イ(被告の主張)の@及びAと 同じ点で本件発明3と異なるが,これらが容易想到であることは前記 イ (被告の主張)のとおりであり,その余の構成は本件発明3と一致する。
(原告の主張) 乙17発明は,@前記 イ(原告の主張)の@と同じ点,A操作部が制 御ケースに透孔を形成して下方領域が収容されている点で本件発明3と相 違するが,上記@については前記 イ(原告の主張)の@のとおりである。
上記Aについては,上記ア(原告の主張)のとおり本件発明3の課題及び 作用効果は新規であるから,容易想到とはいえない。
ウ 乙20発明に基づく進歩性欠如(被告の主張) 乙20発明は,操作部材の外表面の形状がつまみ部と補強部を有するレ バー形状である点で本件発明3と異なるが,前記ア(被告の主張)の に ついてと同様にこの点は容易想到であり,その余の構成は本件発明3と一 致する。
(原告の主張) 乙20発明は,@前記 ウ(原告の主張)の@と同じ点,A出力調整レ バーが側板及び枠板の外面上に設けられ,平板状のつまみ部と補強部によ り構成されている点で本件発明3と相違する。
上記@については前記 ア(原告の主張)の@のとおりであり,上記A については上記ア(原告の主張)のAと同様である。
エ VS700ACに基づく進歩性欠如(被告の主張) VS700ACは,@操作部材の外表面の形状がレバー形状である点, Aアクセルレバー(操作部材)が側板の内側方に下方領域が収容されてい る点で本件発明3と異なるが,これらの相違点が容易想到であることはい ずれも前記ア(被告の主張)の についてと同様であり,その余の構成は 本件発明3と一致する。
(原告の主張) VS700ACは,@前記 エ(原告の主張)の@と同じ点,Aパワー レバーがレバー形状であり,側板上部の周面上に湾曲面を設けるとともに, この湾曲面の周面上に装着した点で本件発明3と相違する。
上記@については前記 エ(原告の主張)の@のとおりであり,上記A については前記ア(原告の主張)のAについてと同様である。
争点 (原告の損害額)について (原告の主張) ア 被告が,平成26年11月7日〜平成27年1月31日の間に被告製品 を販売した売上額は1億円を下らず,被告の利益率は35%を下らない。
したがって,特許法102条2項に基づく原告の損害は少なくとも350 0万円となる。また,本件特許1〜3の実施料率は合計で6%を下らない。
したがって,同条3項に基づく原告の損害は少なくとも600万円となる。
原告は,上記両請求のうち高額なものを選択的に請求する。
イ 本件の弁護士・弁理士費用は350万円を下らない。
(被告の主張) いずれも争う。
当裁判所の判断
1 争点 ア(操作部材の露出位置。構成要件1B,2B及び3B)について 証拠(甲7,8の1〜4,9の1〜4)及び弁論の全趣旨によれば,被告 製品において,調整部材5は,別紙被告製品説明書の図1,2,4及び6に 示されたとおり,その外表面の円弧領域の上方及び後方が操作部として開口 8から露出し,その余の部分は開口8の内部に収容されていること,開口8 は平面視ほぼ縦長の長方形で,その左辺はリール本体1の上面に位置するケ ース部材6の延長部62Rにより,その余の3辺は右側板7Rのうち右側カ バー72Rにより形成されること,右側カバー72Rの上部はケース部材6 の上面とほぼ同じ高さであることが認められる。そして,被告製品の調整部 材が本件各発明の操作部材に,右側カバーが側板に相当するから,被告製品 の調整部材は側板の上部の表面から露出しているということができる。
これに対し,被告は,本件各発明における操作部材は側板の表面のみから 露出したものに限定されると主張する。
そこで判断するに,本件各発明の特許請求の範囲の文言上,操作部材の露 出位置は側板上部の表面と規定されるにとどまり,被告主張のような限定が あるとみることは困難である。また,被告が指摘する特許出願の経過をみて も,原告による補正は,操作部材が側板又はその周辺の部材の表面から露出 するとされた構成を,拒絶理由通知に引用された公知技術(操作部材が側板 の周辺の部材から露出するもの。乙17)と区別するため,側板の表面から 露出する構成としたものと認められる(乙2,4〜7,9〜12,14〜1 6)。そうすると,この補正により上記認定の被告製品におけるような露出 位置が本件各発明の技術的範囲から除外されたと解することは相当でない。
したがって,被告の主張は失当というべきである。
2 争点 イ(操作部材の配設位置。構成要件1B,2B,3B)について 本件各発明において,操作部材の配設位置は,制御ケースの後方側で,左右 の側板の一方の上部であって,その側板の表面から露出する位置とされている。
そして,被告製品の調整部材の配設位置は別紙被告製品説明書の図1〜3のと おりであり,これらの構成要件を充足すると認められる。
これに対し,被告は,リールにおける制御ケースの位置が特定されていない ため,リールにおける操作部材の配設位置が特定されていない旨主張する。し かし,本件各発明においては,操作部材の配設位置は制御ケースとの関係で規 定されており,リールとの関係で特定されなければならないと解すべき理由は ないから,被告主張を採用することはできない。
3 争点 ウ(検知手段の配設位置。構成要件1C)について 本件発明1の「検知手段」は,特許請求の範囲の記載上,操作部材の操作 角度を検知するものであって,制御ケースに設けられるとされている。
被告製品においては,別紙被告製品説明書1 c及び図4のとおり,検出 子9が調整部材5に形成された検出子収容部5dに装着され,位相検出部1 0がケース部材6の一部に形成された空間に収容されており,検出子の位相 検出部に対する相対的な回転位相を位相検出部が検出することにより調整部 材の操作角度を検知している。そうすると,位相検出部が操作部材の操作角 度を検知する手段であり,これが制御ケースに相当するケース部材内に設け られていることは明らかであるから,被告製品は構成要件1Cを充足すると 解すべきである。
これに対し,被告は,検出子も検知手段であり,検出子はケース部材に設 けられていないから,被告製品は構成要件1Cを充足しない旨主張する。し かし,上記のとおり位相検出部が検知手段に当たると認められる以上,検出 子の配設位置は上記判断に影響しないと解すべきである。
4 争点 エ(凹所の有無。構成要件3B)について 本件発明3の「凹所」は,特許請求の範囲の記載上,側板の上部の表面に形 成され,操作部材の下方領域が収容されるものとされており,本件明細書3に は,本件発明3の実施形態として,表面から落ち込むように形成された半円状 のくぼみ(段落【0020】 【0021】 , ,図5)と,表面を下方に向け切り 欠いた開口(段落【0037】,図12)が開示されている。
一方,被告製品には,左辺をケース部材の延長部により,その余の3辺を右 側カバーにより形成した開口が設けられ,その中に調整部材の下部が収容され ていることは前記1のとおりであり,上記実施形態のうち開口に相当するもの が存在すると解することができる。したがって,被告製品は構成要件3Bの 「凹所」を備えていると認められる。
5 争点 ア(本件各発明の課題の自明性等)及び同イ (本件発明1の乙18 発明に基づく進歩性欠如)について以上によれば,被告製品はいずれも本件各発明の技術的範囲に属すると認められるところ,被告は本件特許1〜3には無効理由があり,原告が本件特許権1〜3を行使することはできない(特許法104条の3第1項)旨主張するので,まず,乙18発明に基づく本件発明1の進歩性欠如について判断する。
本件発明1と乙18発明との対比ア 本件発明1の要旨は,前記前提事実 アの特許請求の範囲の記載のとお りである。
イ 乙18公報(段落【0029】,図5及び6(b))には,乙18発明 として,「リール本体の左右側板間に設けられ,釣糸が巻回されるスプー ルと,前記リール本体に設けられ,スプールを回転駆動する駆動モータと, 前記駆動モータの出力を調整するモータ出力調節体と,前記駆動モータを 制御する制御部を収容した制御ケースと,を有する魚釣用電動リールにお いて,前記モータ出力調節体は,前記制御ケースの前後方向のほぼ中央で, 左側板の上部にその側板の表面から露出した状態で前記制御ケースに配設 され,前後方向に略円弧状にスライド操作するように装着されており,こ の部分にモータ出力調節体の移動量を示す目盛りが設けられていることを 特徴とする魚釣用電動リール。」が記載されている。乙18発明のモータ 出力調節体は本件発明1の操作部材に相当する。
ウ これらを対比すると,本件発明1と乙18発明は,(A)操作部材の配 設位置が,制御ケースの後方側か,ほぼ中央か(前者が本件発明1,後者 が乙18発明。以下同じ。 , ) (B)操作部材の形態が,ダイヤル式(回転 可能なもの)か,略円弧状のスライド式か,(C)操作部材が,制御ケー スに支持された支軸に装着されているか,不明であるか,(D)操作部材 の移動量を検知する手段が,制御ケースに設けられ角度を検知するもので あるか,不明であるかの各点(以下,それぞれを「相違点A」などとい う。)で相違し,その余の構成は一致するということができる。
なお,相違点A〜Dは,前記第2の3 ア(被告の主張)の@,B,A 及びCにそれぞれ対応する。また,相違点C及びDは同(原告の主張)の A及びBにそれぞれ対応する。原告は,同@のとおり,相違点A及びBに 関して,本件発明1の操作部材が「制御ケースの後方側で,側板の上部に, 側板の表面から露出した状態で,前後方向に回転可能に装着されている」 という構成が一体となって課題を解決しているのに対し,乙18発明のモ ータ出力調節体は「制御ケースの左側方側で,左側板の表面から露出した 状態で,その操作部を略円弧方向にスライド操作するように装着されてい る」という構成であるから,その全体を相違点と認定すべき旨主張する。
しかし,操作部材が側板の上部にその表面から露出した状態で装着され, これが前後方向に移動するという構成は両者に共通しており,これらを相 違点とみることはできないから,上記のとおり相違点A及びBを認定する のが相当である。ただし,原告の主張する構成の一体性に関しては,容易 想到性の判断において考慮することとする。
相違点の容易想到性ア 本件明細書1には,本件発明1の課題,解決手段等に関し,以下の趣旨 の記載がある。(甲2) 魚釣用電動リールは,従来,釣竿を船縁に装着された竿掛けに置いた ままの状態で仕掛けの放出から巻き取りまで行えるように構成したもの が多いが,最近では,手持ち状態で操作が行えるように工夫されたもの が知られている。魚釣用電動リールのスプールを巻き取り操作する(モ ータ出力を連続的に可変操作する)ための操作部材を様々な位置に配置 することが知られており,例えば,リール本体の側方の前方側にスライ ドレバー式の操作部材を前後方向に移動可能に支持したもの,リール本 体の後方に回転式の操作部材を回転可能に支持したもの,制御ケースの 上面から円板状の操作部材の一部を露出させ,上方から親指を押し付けながら回転操作するものが開示されている。(背景技術。段落【0002】 【0003】 , ) 最近の魚釣用電動リールでは,ルアーフィッシングに用いられる魚釣用リールと同様,手持ち状態で操作することが可能なタイプも望まれているが,従来の操作部材の配置を工夫した電動リールでは,操作性の面で更に改良すべき余地がある。すなわち,釣竿とリール本体を把持する片手の親指での操作と把持の両面で満足できるものとなっておらず,特に,釣竿とリール本体を把持する片手でモータの出力調整操作をあらゆるシーン(単なる仕掛け回収のような巻き取りや,魚を誘う場合に応じた複雑な巻き取り操作等)に適宜対応できるものとなっていない。また,急激な魚の引きに対して把持状態が不安定になったり,親指が届いても,力を入れることができない位置に操作部材があり,所望の巻き取り状態が得られない可能性もある。本発明は,これらの問題に着目してされたものであり,釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるとともに,その手の親指で操作部材を巧みに操作でき,更には,操作部材の操作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有する魚釣用電動リールを提供することを目的とする。(発明が解決しようとする課題。段落【0005】 【0006】 , ) 上記目的を達成するため,本発明は請求項1記載の構成を採用した。
この魚釣用電動リールでは,釣竿とリール本体を把持する片手の掌の一部が本体の側板にフィットした状態で,操作部材に親指が届き,操作した際の力を十分に伝えることができる。また,操作部材は,略前後方向に回転可能に支持されているため,露出部分を少なくしても操作領域を確保することができるとともに,把持している手の親指で回転操作した際,親指が左右にずれることがなく把持安定性が高くなる。(課題を解 決するための手段。段落【0007】 【0008】 , ) 本発明によれば,釣竿とリール本体を片手で容易に把持できるととも に,その手の親指で操作部材を巧みに操作でき,更には,操作部材の操 作中や急に大きな負荷がかかっても十分な把持性を有する魚釣用電動リ ールが得られる。(発明の効果。段落【0009】)イ 乙18公報によれば,乙18発明の課題,解決手段等は,次のとおりで ある。(乙18) 一般的に魚釣用電動リールには,スプールを巻取駆動させるモータの 出力を調節するモータ出力調節体が設けられており,これを前後方向に 回転操作してモータ出力を連続的に増減変更することによって,釣場の 状況に応じた釣糸巻取操作を行うことができる。(従来の技術。段落 【0002】) 本発明の目的は,手動魚釣操作と電動魚釣操作の切換を容易かつ誤操 作することなく確実に行うことができるとともに,リール本体の重量バ ランスの偏寄を緩和させた魚釣操作性に優れた魚釣用電動リールを提供 することにある。(発明が解決しようとする課題。段落【0005】) モータ出力調節体をスプールの回転軸芯より上方側に配置したことに よって,釣人がリール本体を握持した状態で,かつ,指や手の無理のな い姿勢でモータ出力調節体を変位操作することができ,この結果,釣場 の状況に応じたモータ出力の幅広い増減調節が可能となる。モータ出力 調節体をリール本体の反ハンドル側で後方側の上部に回転可能に取り付 けても同様の作用効果を得ることができる。モータ出力調節体を,回転 操作式ではなく,スライド操作式に構成してもよい。この場合,スライ ドを直線方向に操作する形態や,略円弧方向に操作する形態を適用する ことが可能である。このモータ出力調節体の傍らにはその移動量を示す 目盛りが設けられている。(発明の実施の形態。段落【0026】 【0 , 028】 【0029】 , ,図5,6(a),6(b)) 別の実施形態では,スプールの後方の側板間に前後方向に回転操作可 能なモータ出力調節体を設けており,このモータ出力調節体はリール本 体を保持した手の指の操作によって容易に回転可能である。リール本体 内には,リール本体の側板内に設けられた円筒状のモータ出力調節体の 回転量によって変化する抵抗値を制御装置へ入力するポテンショメータ が設けられている。(同。段落【0032】 【0033】 , ,図8)ウ 以上に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認めら れる。
釣竿に取り付けて使用する魚釣用電動リールは昭和46年頃から販売 されている。当初は大型で重量があり,専ら釣竿を船縁等に固定して釣 糸を巻き上げるために使用されていたが,その後,小型化,軽量化が進 むとともに,状況に応じた釣糸の巻き取り操作といった機能を備えるよ うになった。そして,遅くとも平成11年頃から,リールを装着した釣 竿を片手で把持し,その手の親指で巻き上げ速度の調節等の操作をする ことのできる電動リールが複数商品化され,「片手でアクセル&クラッ チ」 「1ハンドアクションで攻める大きさ」など片手で操作可能であ , る旨宣伝されていた。(甲16,乙39〜43,46〜48,51,5 2) 魚釣用電動リールにはモータ出力の調節等のための操作部材が設けら れており,リールを装着した釣竿を片手で把持する場合,把持した手の 親指で操作部材を操作することが求められる。そのため,電動リールに 関しては,本件特許1の出願日(原出願日である平成23年7月11日。
以下,本件特許2及び3についても同じ。)より前に,「リールを保持 した状態を維持しながら手の親指の自然な移動操作でモータ出力を調節 操作し易い魚釣用電動リールを提供すること」 「ハンドル側の手でハ , ンドルを回動しながら他方の釣竿のリール後部を把持した手でモータ出力調整を行いつつ釣糸を巻き取ることができ(ること)」等を課題又は効果とする発明が複数公開されていた。(乙17,18,20〜22) 魚釣用電動リールにおける操作部材の配設位置は発明又は商品ごとに様々であるが,リールを装着した釣竿を片手で把持するものに関しては,リール本体ないし制御ケースの後方側,左右いずれかの側板の上部など,把持した手の親指の先が届きやすい位置に設けるものが本件特許1の出願日前から複数開示されていた。(乙17,18,21,23,24,38) 魚釣用電動リールの操作部材の形態としては,円筒状又は円板状の部材を回転させるダイヤル式のもの,つまみ等を直線ないし円弧方向に移動させるスライド式のもの,把手等を円弧状に動かすレバー式のもの,ボタンを押し下げるボタン式のものが本件特許1の出願日前から使用されており,レバー式の操作部材に代えてダイヤル式又はスライド式のものを用いるなどこれらを相互に置換することができる旨が同出願日前に公開された複数の公開特許公報に記載されている。(乙17,18,22,25〜27) 上記ダイヤル式の操作部材は,前後,左右又は斜め方向に回転するよう構成されており,その多くは回転する部材の一部のみがリール本体から外部に露出し,その余の部分は内部に収納されている。また,同部材がリール本体の内部において支軸に装着される構成のものが開示されている。(乙17,19,28) 本件特許1の出願日前に開示された魚釣用電動リールの考案又は発明として,操作具の設定位置を検知する手段を,海水等の浸入を防止するため,密封型のケースの内部に設けたもの,約120度の範囲にわたって回転可能に取り付けられたモータ出力調節レバーの作動量(変位量) を検知するためのポテンショメータを,リール本体に組み付けられた水 密収納部内に設けたものがある。(乙19,34)エ 上記認定の事実関係に基づき,まず,相違点A(操作部材の配設位置) 及びB(操作部材の形態)について検討する。
本件発明1と乙18発明は,いずれもリールを装着した釣竿を片手で把 持し,その手の親指で操作部材を操作することが想定された魚釣用電動リ ールに関する発明であり,操作性の向上という課題を共通にすると認めら れる(前記ア ,イ )。そして,操作部材を制御ケースの後方側,側板 の上部等の指先が届きやすい位置に設けること(前記ウ ),ダイヤル式 の操作部材を使用すること及びこれとスライド式の操作部材が置換可能な こと(同 )がそれぞれ周知の技術であったと認められることからすれば, 乙18発明における操作部材の配設位置を制御ケース後方側の側板の上部 とし,その形態をダイヤル式とすることは,魚釣用電動リールの技術分野 における当業者にとって容易であったと解するのが相当である。
これに対し,原告は,本件発明1の課題は新規なものであり,@操作部 材の装着位置を制御ケースの後方側で側板の上部とする,A操作部材を側 板の上部の表面から露出した状態で装着する,B操作部材を前後方向に回 転可能に装着するという構成を全て採用することにより課題を解決したの であるから,これらの構成を一体のものとして相違点を認定すべきであり, これは容易想到でない旨主張する。そこで判断するに,本件明細書1記載 の本件発明1の課題(前記ア )のうち釣竿とリール本体を把持した片手 の親指で操作部材を巧みに操作するとの点は,上記イ 並びにウ 及び によれば,乙18発明と共通し,電動リールの技術分野において従前から 認識されていた課題ということができる。また,操作中や急に大きな負荷 がかかっても十分な把持性を有するとの点は,魚釣用リールという物品の 性質上,当然に要求される事柄と解されるから,課題が新規であるとの原 告の主張は採用し難い。さらに,本件発明1の操作部材の配設位置及び形 態については,上記@〜Bの構成を全て備えた電動リールが本件特許1の 出願日前に存在しなかったとしても,相違点A及びBを除いては乙18発 明の構成と一致していること,これら相違点に係る本件発明1の各構成を 備えた電動リールが存在していたことは前記認定のとおりであり(前記ウ 及び ),これらの構成を組み合わせることに阻害要因があることはう かがわれない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
オ 次に,相違点Cについてみるに,相違点Bに係る乙18発明の操作部材 をダイヤル式とした場合には,この操作部材を何らかの形で電動リールに 装着すべきことになる。そして,回転可能な部材は支軸に装着する構成を 採るのが一般的と解されること,ダイヤル式の操作部材がリール本体の内 部で支軸に装着される構成が開示されていたこと(前記ウ ),リール本 体の構造上その内部で支軸が装着され得る箇所は制御ケース,側板の内面 等に限られることを考慮すると,制御ケースに支持された支軸にダイヤル 式の操作部材を装着する構成を想起することは当業者にとって容易なもの であると考えられる。
カ さらに,相違点Dについてみるに,モータ出力の調整等をする操作部材 の操作性を向上させるという本件発明1の目的(前記ア )からして操作 部材の作動量(変位量)を検知することが求められるところ,操作部材が ダイヤル式である場合はそのために角度を測定することが簡便であると解 される。そして,乙18公報に記載された別の実施形態ではポテンショメ ータが設けられていること(前記イ ),リール本体の密封された箇所に 検知手段を設ける構成が周知であったこと(前記ウ )からすれば,乙1 8発明において相違点Bにつきダイヤル式の操作部材を採用した場合に, 制御ケース内に角度を検知する手段を設けることは当業者であれば容易に 想起し得る事項と考えられる。
キ 以上のとおり,相違点A〜Dにつき本件発明1の構成を採用することは いずれも容易であると認められる。そして,操作性の向上という課題に照 らせば,これらの構成を組み合わせることに十分な動機付けがあるとみる ことができる。
以上によれば,本件発明1は容易に発明をすることができたと認められる から,本件特許1には進歩性欠如の無効理由があり,原告は被告に対し本件 特許権1を行使することができないと判断するのが相当である。
6 争点 ウ (本件発明2の乙18発明に基づく進歩性欠如)について 被告主張の本件特許2の無効理由についてみるに,以下のとおり,本件発明 2は乙18発明に基づき進歩性を欠くと認められるから,原告は被告に対し本 件特許権2を行使することができない。
本件発明2と乙18発明との対比 ア 本件発明2の要旨は,前記前提事実 イの特許請求の範囲の記載のとお りである。
イ 乙18発明は,前記5 イの構成に加え,「モータ出力調節体の外表面 の突起状のつまみが操作部として側板の表面から露出している」との構成 を備えている。(乙18) ウ これらを対比すると,本件発明2と乙18発明は,前記5 ウの相違点 A及びBに加え,本件発明2の操作部材が直径10〜24mm,軸方向長 さ2〜20mmの略円筒形状に形成され,その外表面が円弧領域であるの に対し,乙18発明の操作部材は外表面が突起状のつまみであり,その寸 法が明記されていない点(以下「相違点E」という。)で相違し,その余 の構成は一致すると認められる。
相違点の容易想到性 ア 本件発明2の課題等に関する本件明細書2の記載は本件明細書1とほぼ 同旨であり(甲2,4),相違点A及びBについては,前記5 エのとお り,容易想到であると解することができる。
イ 相違点Eについてみるに,スライド式の操作部材をダイヤル式とするこ と,ダイヤル式の操作部材を略円筒形状としてその外表面の一部を露出さ せることは本件特許2の出願日前に周知であったと認められる(前記5 ウ 及び )。操作部材の直径及び軸方向長さの範囲については,本件明 細書2に直径を10〜24mm,軸方向長さを2〜20mmとした場合に 操作性が良好である旨の記載はあるものの(段落【0025】 ,上記範 ) 囲未満又は超過の場合と比較した実験結果等は示されていない(甲4)。
また,操作部材は,リールを装着した釣竿を片手で把持した際にその手の 親指で操作されることから(同 ),直径及び軸方向長さは指先の可動域 及び親指の幅に応じておのずから限定されるところ,直径及び軸方向長さ に係る上記数値範囲は,親指の大きさ(乙36の1・2参照)から通常想 定される範囲を規定したにとどまると解される。
ウ 以上によれば,相違点A,B及びEにつき本件発明2の構成を採用する ことはいずれも容易であり,操作性の向上という課題に照らし,これらの 構成を組み合わせることに動機付けがあるものと認められる。したがって, 本件発明2は容易に発明をすることができたと判断すべきである。
7 争点 エ (本件発明3の乙18発明に基づく進歩性欠如)について 本件特許3についても,以下のとおり,乙18発明に基づき進歩性を欠くと 認められるので,原告による本件特許権3の行使を認めることはできない。
本件発明3と乙18発明との対比 ア 本件発明3の要旨は,前記前提事実 ウの特許請求の範囲の記載のとお りである。
イ 乙18発明は,前記5 イ及び6 イの構成を備えているが,モータ出 力調節体の下方領域の収容態様は不明である。
ウ これらを対比すると,本件発明3と乙18発明は,前記5 ウの相違点 A及びBに加え,本件発明3の操作部材の下方領域が側板の表面に形成さ れた凹所内に収容されているのに対し,乙18発明の操作部材の収容態様 が不明である点(以下「相違点F」という。)で相違し,その余の構成は 一致すると認められる。
相違点の容易想到性 ア 本件発明3の課題等に関する本件明細書3の記載は本件明細書1とほぼ 同旨であり(甲2,6),相違点A及びBについては,前記5 エのとお り,容易想到であると解することができる。
イ 相違点Fについてみるに,ダイヤル式の操作部材において,回転する部 材の一部のみをリール本体から外部に露出し,その余の部分を内部に収納 することは本件特許3の出願日当時周知の技術であったと認められる(前 記5 ウ )。そうすると,乙18発明の操作部材に代えてダイヤル式の ものを採用した場合,これが装着される側板の上面に凹所(その意義につ いては前記4参照)を形成し,この凹所内に下方領域を収容することは, 当業者において当然に想起される事項であると考えられる。
ウ 以上によれば,相違点A,B及びFにつき本件発明3の構成を採用する ことはいずれも容易であり,これらの構成を組み合わせることに阻害要因 があることもうかがわれないから,本件発明3は容易に発明をすることが できたと判断するのが相当である。
8 結論 よって,原告の請求はその余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
別紙被告製品目録以下の製品名で特定される電動リール1フォースマスター4002フォースマスター400DH3フォースマスター4014フォースマスター401DH以上 別紙被告製品説明書1.被告製品1(1)被告製品1の構成aリール本体1と,リール本体1の右側に回転可能に設けられたハンドル2と,スプール3と,スプール3を回転駆動するモータ4と,調整部材5と,ケース部材6と,を備えた魚釣用電動リールである。
リール本体1は,右側板7R(右枠板71R及びそれを覆う右側カバー72R)と左側板7L(左枠板71L及びそれを覆う左側カバー72L)と,を有している。
スプール3は,右側板7Rと左側板7Lとの間に設けられ,釣糸が巻回される。
ケース部材6は,リール本体1の上部に設けられている。ケース部材6は,リール制御部を収容する収容部61と,収容部61から後方に延びる左右の延長部62L,62Rと,を有している。
b調整部材5は,円板部5aと,円板部5aの側方において円板部5aに連続して形成されたテーパ部5bと,円板部5a及びテーパ部5bの外周表面の一部に形成されたレバー部5cと,を有している。円板部5aは,直径約14.9mm,軸方向長さが5.7mmである。テーパ部5bは,1mmの幅で直径が約14.9mmから約12mmに漸次変化している。レバー部5cは,円板部5a及びテーパ部5bの外表面から約0.9mm突出している。
調整部材5は,略円筒形状に形成されており,ケース部材6の後方側で,右側カバー72Rの上部にその右側カバー72Rの表面から調整部材5の外表面の円弧領域が操作部として露出した状態でケース部材6に配設されるとともに, 親指を接触させて操作される外表面の円弧領域が露出するように右側カバー72Rの上部の表面に形成された開口8に下方領域が収容され,ケース部材6の後部の外側面に立設された突起62Raに前後方向に回転可能に装着されている。また,調整部材5の外表面の露出部以外は,右側延長部62R及び右側カバー72Rによって覆われている。
ケース部材6の右延長部62Rを構成する側壁の後部には,ハンドル2側に突出する円筒状の突起62Raが側壁と一体で形成されており,この突起62Raに調整部材5が回転可能に設けられている。
c検出子9は,調整部材5に形成された検出子収容部5dに装着されている。
位相検出部10は,ケース部材6の右延長部62Rに形成された空間62Rbに収容されており,検出子9の位相検出部10に対する相対的な回転位相,すなわち調整部材5の操作角度を検出する。
dことを特徴とする魚釣用電動リール。
(2)図面の説明図1は被告製品1の外観斜視図である。
図2は被告製品1の平面図である。
図3は被告製品1を後方から見た正面図である。
図4は被告製品1をスプール軸に沿って切断した断面図,及びその一部拡大図である。
図5は被告製品1の分解斜視図である。
図6は被告製品1の調整部材の取付構造を示す分解斜視図である。
図7は被告製品1のスプール軸と直交する方向に切断した断面図である。
2.被告製品2被告製品1が,ハンドルアーム2aの一端にのみハンドル把手2bが設けられているのに対して,被告製品2は,ハンドルアーム2aの両端にハンドル把手2bが設けられたダブルハンドルである点で相違する。他の構成は被告製品2と被告製品1とは同一である。
3.被告製品3被告製品1が,ハンドル2が右側に設けられているのに対して,被告製品3は,ハンドルが左側に設けられており,被告製品1と左右対称に構成されている。被告製品3を構成する部材が左右対称に配置されていること以外は,被告製品1と同じである。
(調整部材5は,ケース部材6の左側延長部62Lの後部及び左側カバー72Lの後部に形成された開口8から,外表面の円弧領域が操作部として上方及び後方に露出している。また,調整部材5の外表面の露出部以外は,左側延長部62L及び左側カバー72Lによって覆われている。)4.被告製品4被告製品2が,ダブルハンドルが右側に設けられているのに対して,被告製品4は,ダブルハンドルが左側に設けられており,被告製品2と左右対称に構成されている。被告製品4を構成する部材が左右対称に配置されていること以外は,被告製品2と同じである。
(調整部材5は,ケース部材6の左側延長部62Lの後部及び左側カバー72Lの後部に形成された開口8から,外表面の円弧領域が操作部として上方及び後方に露出している。また,調整部材5の外表面の露出部以外は,左側延長部62L及び左側カバー72Lによって覆われている。)以上
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官 中嶋邦人
裁判官 藤原典子
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