関連審決 | 無効2014-800132 |
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事件 |
平成
27年
(ネ)
10067号
損害賠償請求控訴事件
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控訴人(一審原告) 株式会社遊気創健美倶楽 部 訴訟代理人弁護士 小松陽一郎 川端さとみ 森本純 山崎道雄 辻淳子 藤野睦子 大住洋 中原明子 補佐 人弁理士西教圭一郎 被控訴人(一審被告) 株式会社MTG 訴訟代理人弁護士 櫻林正己 弁理士 小林徳夫 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/09/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件控訴を棄却する。 -1-2 控訴費用は,控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,2500万円及びこれに対する平成26年5月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は,発明の名称を「美顔器」とする本件特許についての本件特許権(特許第4277306号)を有する控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人が製造,販売等を行っている被告各製品が,本件特許に係る発明の技術的範囲に属すると主張して,特許権侵害の不法行為に基づき,損害賠償金5億6174万4000円の一部である2500万円及びこれに対する平成26年5月14日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原審は,被告各製品は本件特許の請求項1記載の発明(本件発明)と均等なものとしてその技術的範囲に属するとはいえないとして,控訴人の請求を棄却した。 1 前提事実等 本件の前提事実等は,原判決の「事実及び理由」欄の第2,1に記載のとおりである。 2 争点 本件の争点は,原判決の「事実及び理由」欄の第2,2に記載のとおりである。 3 当事者の主張 当事者の主張は,以下に(1)控訴人の控訴理由とそれに対する被控訴人の反論,及び,(2)当審における当事者の補充主張を加えるほか,原判決の「事実及び理由」欄の第3に記載のとおりである。 (1) 控訴理由及び反論 (控訴人の控訴理由) ア 原判決の誤り 原判決は,争点(2)(被告各製品は本件発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するか)につき,均等の第4要件の充足性のみを判断し,かつ,本件特許の原出願時において,乙1発明に乙4発明を適用することで,被告各製品を容易推考であったとして,被告各製品が本件発明の技術的範囲に属することを否定した。 しかし,原判決は,被告各製品と乙1発明の相違点の認定を誤り,乙1発明と乙4発明との組合せ容易性に関する判断を誤った。 イ 「化粧水」と「化粧料」との相違 (ア) 乙1発明の「化粧料」は「化粧水」ではないから,被告各製品が炭酸混合「化粧水」を吹き付けるのに対し,乙1発明が「化粧料」を吹き付ける点も,相違点として認定されるべきである。 (イ) 一般に「化粧水」は,皮膚に付着したまま浸透して行き,顔肌に保湿効果を持たせ,顔肌に柔軟性,ハリ・ツヤを持たせるもので,肌環境を整えたり,美肌効果を指向するものであり,肌色を整えたり色を付与するためのメイクアップのためのものではない。これに対して, 「化粧料」は,主として顔や爪などの身体の部分に塗布して,色彩を施すことにより,魅力的な美貌を作るために用いる化粧品である。 「化粧水」と「化粧料」は,意味,使用目的,組成,使用態様,固化の有無などで全く異なるものである。 (ウ) 乙1発明の解決しようとする課題の記載からすれば,乙1発明の「化粧料」に「化粧水」は含まれない。 すなわち, 「化粧料の塗布にパフ,ブラシ,筆等の化粧道具を用いると,皮膚を摩擦して刺激を与え,また,化粧道具が皮膚と化粧料を往復することによって化粧料に雑菌が付着することがある。」という課題に関しては,化粧水は,使い捨てのコットン又は手で肌に使用されるので,雑菌の汚染の問題は生じない。 また,「全身又は広い面積に化粧料を塗布する場合,従来の化粧道具を用いると,非常に多くの手間が掛かる。」という課題に関しては,従来の化粧道具とは「パフ,ブラシ,筆等」を指すから,化粧水はその対象とされていない。化粧水は,全身に塗布するものではなく,顔肌やせいぜい腕に使用されるものであるから,非常に多くの手間が掛かるといった問題点を欠いている。 (エ) 乙1発明の作用効果の記載からしても,乙1発明の「化粧料」に「化粧水」は含まれない。 すなわち, 「皮膚を摩擦して刺激を与えることがなく,化粧料に雑菌が付着することがない」及び「全身又は広い面積に化粧料を塗布する場合,多くの手間がかからない。」という作用効果に関しては,上記(ウ)と同様,化粧水は当てはまらない。 また,「所望の色の化粧料を作って吹き付けることができる。」という作用効果に関しては,化粧水は顔肌に色を着けるものではないから,そのような作用効果を達成し得ない。 さらに, 「被化粧者が汗をかいている場合には,気体のみを噴射して発汗している皮膚に吹き付けることによって,発汗を押さえて皮膚を引き締め,化粧料を付着し易くすることができる。」という作用効果に関しては,化粧水では,顔が水で濡れていても,そのまま顔肌に浸透させることができるし,化粧水を使用する保湿のためのスキンケアでは,乙1発明の気体のみを噴射する構成は,顔肌を乾燥させるので,保湿の目的にもとる。 (オ) 乙1発明の構成が,吹付器内部で化粧料と高圧気体の導管をそれぞれ独立させているのは,化粧料が気体と接触すると比較的短時間で固化するからであり,乙1発明では,化粧水を使用することを予定していない。 ウ その他の相違点 (ア) 被告各製品が「炭酸混合化粧水」を生成してこれを顔肌に吹き付ける「美顔器」であるのに対し,乙1発明が「化粧料吹付装置」である点も,相違点として認定されるべきである。 (イ) 被告各製品は,炭酸水の,皮膚の角質層を通して浸透して皮膚の水分補給を行うとともに,皮膚から体内に吸収されて皮膚に近い毛細血管を広げて血液,体液の循環をよくして代謝促進を図り,水分を皮膚に浸透しやすくする経皮浸透促進効果も有しており,炭酸ガスの効用に着目した,霧状の炭酸混合化粧水を吹き付ける美顔器である。 これに対し,乙1発明は,顔肌に吹き付けるものとして「化粧料」を挙げているが,吹付材をこれに限定するものではない。また,炭酸ガスについての記載もあるが, 「化粧料」を噴出するための単なる「噴出手段・噴出媒体」として炭酸ガスを位置付けるものでしかない。さらに,炭酸ガスの成分に着目した記載はなく,炭酸ガスの成分を化粧水に溶かすという思想はない。 (ウ) 乙1発明は,仮に気体噴射口11からの高圧気体が不所望に遮断されると,化粧料噴射口4と気体噴射口11とが開口する器体2の前端面において,化粧料が固化,固着して吹付器1の再使用が困難になるという問題を解決するために,高圧気体の噴射量を常に一定値に保つ構成としている。また,乙1発明は,高圧気体の噴射量を常に一定値に保つことによって,被化粧者の皮膚からの発汗を抑え,皮膚の表面への化粧料の高い密着強度を維持する。 これに対し,被告各製品では,エア噴出調整用ダイヤルによって調整される炭酸ガスの噴出量,噴出度の大小は,炭酸混合化粧水の噴出量の大小にそれぞれ対応し,炭酸ガスの噴出調整によって,自動的に対応する噴霧量の炭酸混合化粧水を顔肌に付着させる。そのため,被告各製品では,炭酸ガスのみの噴射動作はないので,炭酸ガスの無駄な消費がなく,このことは,乙1文献には開示も示唆もされていない。 このように,被告各製品と乙1発明は,構成や技術思想に大きな差がある。 エ 組合せの困難性 (ア) 乙1発明と乙4発明の組合せ容易性を認めるための評価根拠事実は存在せず,乙1発明と乙4発明の組合せには,阻害要因が存在する。 (イ) 乙1文献の,「問題点を解決するための手段」の「本発明者は,上記の問題点を解決するために,化粧料を,手作業によって塗布する代りに,工業的に吹き付けることに気が付き,塗料を噴霧して吹き付けるのと同様な方法によって化粧料を噴霧して吹き付けることを考え付いたのである。 との記載は, 」 工業的に吹き付けることの例えとして塗料噴霧が挙げられているにすぎず,このようなわずかな記載をもって, 役者やモデルのような化粧姿を見せることを職業とする人の化粧に 「用いるのに適した化粧料の吹付方法」である乙1発明に,技術分野が全く異なる塗装装置のあらゆる技術が適用容易であることを示すものとはいえない。 (ウ) 被告各製品は,炭酸ガスの効用に着目して,霧状の炭酸混合化粧水を吹き付ける美顔器であり,積極的に炭酸混合化粧水を生成するものである。 これに対し,乙1発明においては,単に化粧料を工業的に吹き付ける思想のみで,炭酸ガスの効用に着目し,炭酸ガスと化粧水の混合化粧水を生成して,これを顔肌に吹き付ける「美顔器」といった技術思想は,開示も示唆もされていない。 したがって,仮に,乙1発明が「化粧水」「炭酸混合化粧水」及び「美顔器」を ,具備するとしても,乙1文献は,「炭酸混合化粧水」につき,「毛細血管に作用して該血管を拡張し,皮脂や汚れ等の残骸物を顔肌からソフト的に遊離させて取り除き,より若々しく美しい顔肌を指向する」という作用効果を実現する程度に有意なものとなることまでは開示も示唆もしていない。もちろん,乙4発明も,上記技術思想の開示はない。 したがって,乙1発明及び乙4発明に接した当業者といえども,乙1発明において,上記作用効果を奏することを企図して,炭酸混合化粧水を生成するため,使用目的も異なる乙1発明に乙4発明を適用する動機付けがあるとはいえない。 (エ) 乙1発明は,従来技術において,噴霧量の調整が困難,化粧料が短期間で消費される,長時間の間一定の状態で噴霧することができない,大気を汚染する,連続して吹き付けることができないといった問題を解決課題とするものである。 これに対し,乙4発明は,流体スプレーから吹き出す流体の流量を簡単な構造で調整できるようにし,さらに,塗料色を代えて使用する場合にも,キャップや吸い上げノズルの洗浄回数を減らしたり省略することのできる塗装スプレー装置を,安価に提供することを目的とするものである。 乙1発明と乙4発明は,このように,組合せ容易性を導く評価根拠事実が欠落している。 (オ) 乙1発明と乙4発明とを組み合わせることについては,阻害要因もある。 乙1発明においては,被化粧者の皮膚からの発汗を常に抑え,皮膚の表面への化粧料の高い密着強度を維持すべく,高圧気体のみの吹付けも予定している。ところが,乙4発明は,操作に伴い,必ず高圧気体と塗料が混合される。乙1発明に乙4発明を適用すると,主引用例である乙1発明が企図する上記高圧気体のみの吹付けが実現できなくなる。 オ 被控訴人の反論の根拠となる証拠についての反論 (ア) 乙8,22〜24,32,33,35〜40には,炭酸混合化粧水の保存方法・噴霧方法が不明なタイプ(乙22,32,36)か,あらかじめ炭酸ガスと化粧水を混合し密閉缶に保管するタイプ(乙8,23,24,33,35)の発明が開示されている。しかし,これらの発明には,炭酸混合化粧水に加えられる圧力がなくなると,化粧水と炭酸ガスとは徐々に分離してしまうという特質があり,調製後直ちに使用する必要があることを解決していないという問題点がある。なお,乙37〜40には,そもそも化粧水について言及がない。 また,上記乙8発明等は,本件発明及び被告各製品,乙1発明及び乙4発明とは構成や作用効果を異にしており,しかも,乙8発明等が持つ問題点及び当該問題点が乙1発明の構成で解決されることについては,全く示唆がない。 よって,上記乙8発明等は,乙1発明につき,炭酸ガスと化粧水をそれぞれ選択し,積極的に炭酸ガスを化粧水に溶かして「炭酸混合化粧水」を生成し噴霧すること及び炭酸混合化粧水について「毛細血管に作用して該血管を拡張し,皮脂や汚れ等の残骸物を顔肌からソフト的に遊離させて取り除き,より若々しく美しい顔肌を指向する」という作用効果を実現する程度に有意なものとすることの,動機付けとなるものではない。 (イ) 乙34には,炭酸ガスの血行促進作用等が記載され,また,パック兼美容液について記載があるのみで,乙1発明から本件発明のような炭酸混合化粧水を噴霧する美顔器に想到する動機付けの資料となるものではない。 (ウ) 乙2及び3には,炭酸ガスと化粧水をそれぞれ選択し,積極的に炭酸ガスを化粧水に溶かして「炭酸混合化粧水」を生成し噴霧すること及び炭酸混合化粧水について「毛細血管に作用して該血管を拡張し,皮脂や汚れ等の残骸物を顔肌からソフト的に遊離させて取り除き,より若々しく美しい顔肌を指向する」という作用効果を実現する程度に有意なものとすることに関する記載がない。しかも,これらに記載された発明は,使用時にボンベ自体を持ち上げる構成となっており,スプレーガンのみで炭酸混合化粧水を噴霧できる被告各製品とは,操作性において格段の差異がある。 したがって,これらの文献は,乙1発明から被告各製品に想到することの動機付けとなるものではない。 (被控訴人の反論) ア 争点(2)について,乙1発明と被告各製品との相違点は,原判決認定のものに尽きる。 (ア) 乙1発明において噴霧される「化粧料」には,化粧水が含まれている。 一般的な顔肌の化粧は, 「基礎化粧品」 (スキンケア化粧品)によるものと, 「メイクアップ用化粧品」 (仕上用化粧品)によるものとに大別され,化粧水は前者に含まれ,後者は肌色や肌の質感を美しくしたり,部分的に色味を加えるなど,美しく魅力的な容姿に見せるためのものである。「基礎化粧料」は,「基礎化粧品」と同義に使用されており,「化粧水」は「基礎化粧料」に含まれる。 また,乙1文献には,吹付けの対象として「基礎化粧料」が明記されており, 「基礎化粧料(基礎化粧品) の代表である 」 「化粧水」は当然のこととして含まれている。 乙1文献の実施例は, 「化粧料」として「メイクアップ化粧料」を使用した例を詳しく記載したものであり,乙1発明の「化粧料」をそれに限定するものではない。 控訴人は,化粧水にはパフ,ブラシ,筆等は用いられないから,皮膚の摩擦や雑菌の汚染の問題は生じず,乙1発明の課題は該当しない,と主張する。しかし,化粧水を付けるのにコットンを使用することがあり,化粧水に「パフ」を用いることが記載されている例もある(乙27,28)。よって,乙1発明の課題が該当しないとはいえない。 また,控訴人は,化粧水は全身に塗布するものではないから,塗布に非常に多くの手間がかかるという乙1発明の課題は該当しない,と主張する。しかし,身体への塗布を目的とした化粧水もあり,腕のみならず,足や首回り等身体の広い面積に塗布することも一般的である。よって,この点においても,乙1発明の課題が該当しないとはいえない。 (イ) 乙1文献には, 「化粧料」を吹き付ける気体として「炭酸ガス」 (炭酸ガスボンベ)を使用することが開示されている。 (ウ) 控訴人は,乙1発明は, 「化粧料」の中から「化粧水」を選択しつつ,高圧気体源の中から「炭酸ガス」を選択することの動機付けはなく, 「炭酸混合化粧水」を生成し,噴出することなど念頭にない,と主張する。 しかし,乙1文献には, 「化粧水」を含む「皮膚用の基礎化粧料」が開示され, 「気体」として「炭酸ガス」が例示されているから, 「化粧水」と「炭酸ガス」を選択して,炭酸ガスにより化粧水を噴出する構成は,開示されている。炭酸ガスに血行促進効果などがあることは,出願前,周知の事実であり,かつ,炭酸ガスを化粧料(化粧水)と混合させて使用することも周知である(乙8,22〜24,32〜40)。 また,炭酸ガスの血行促進効果等には言及していないものの,乙2及び3は,炭酸ガスと化粧水を混合して噴出する技術を開示している。 これらの技術常識,周知の作用効果,周知又は公知の技術からも,乙1文献開示の化粧料として代表的な基礎化粧料である「化粧水」を選択すること,また,血管拡張作用に着目して,乙1文献に開示の吹付け気体として「炭酸ガス」を選択することは乙1文献に開示されている事項にすぎず,少なくとも乙1文献開示事項に接した,前記の技術常識を有する当業者において,何らの困難性なく,容易に選択できる事項である。 イ 争点(2)について,乙1発明に乙4発明を組み合わせることは容易であるから,被告各製品は,均等第4要件を充足しない。 (ア) 乙4には,気体を噴射して塗料を噴霧して吹き付ける塗装スプレー装置に関する技術が開示されている。乙4発明の塗装スプレー装置1は,被告各製品のエアブラシと同じ構成であり,乙4には,被告各製品と乙1発明との相違点に係る構成が全て開示されている。 (イ) 乙1発明は,「炭酸ガス」を噴射して「化粧料」を噴霧して吹き付ける技術を開示するものである。そして乙4発明も,乙1発明の吹付器の原理と同じく, 「ガスの噴射を利用したベンチュリー効果」により,塗料を吸い上げてガスと混合して噴霧する技術であり,技術思想として共通するものである。 (ウ) 乙10及び25には,乙1発明及び乙4発明と同タイプの,塗装に用いるエアブラシが共に掲載されている。よって,乙1発明と乙4発明は,共に同じ原理を用いた同じ技術思想に基づくエアブラシ(吹付器)の発明であり,いずれも塗装にも用いられるものである。 (エ) 乙1文献には,塗装に用いる技術を化粧料の吹付け技術に適用する記載があることからも,乙1と同じ技術思想に基づき,塗装に用いる乙4発明を,炭酸ガスを用いた化粧料の吹付けに使用する動機付けが存在する。 (オ) 乙2,3及び6には,噴霧させる液体として「塗料(インク・絵具)」「化粧水(化粧料)「殺虫剤等の薬剤」が並列で記載されているから,気体を噴出 」して液体を噴霧する技術においては,発明の技術分野は,噴霧させる液体(具体的用途)ではなく,具体的構成として把握すべきであって,液体の種類の相違は技術分野の相違に影響を与えない。 (カ) 控訴人は,乙1発明においては,気体のみを吹き付ける構成が不可欠であると主張する。しかし,乙1文献では,実施例として記載されているにすぎず,発明の本質的部分についての記載ではないから,気体のみを吹き付ける構成が開示されているからといって,乙1発明の「化粧料」に「化粧水」が含まれないとはいえない。 (キ) 控訴人は,乙1発明はエアの流量調整を意図していないと主張する。 しかし,乙1発明の実施例で開示されている吹付器は,操作杆16の押し操作の加減により高圧気体の噴出量を調整し,回動操作により化粧料の吸出量を調整することができる。 (2) 当事者の当審における補充主張 ア 争点(2)のうち,均等第1要件について (控訴人) (ア) 本件発明の本質的部分は,炭酸ガスと化粧水とを混合して炭酸混合化粧水を生成し,顔肌に吹き付ける美顔器であることである。被告各製品は,構成要件B-1,B-2,C及びDを充足しないが,本件発明と被告各製品との相違は,炭酸ガスと化粧水が混合する位置,及び化粧水が化粧水カップから滴下されるか,汲み上げられるかである。よって,本件発明と被告各製品との相違点は,本件発明の本質的部分とは異なり,被告各製品は,本件発明の本質的部分を採用しているから,均等の第1要件を充足する。 (イ) これに対し,被控訴人は,発明の本質的部分は,従来技術には見られない新規な構成であることを要するが,上記本質的部分は,乙1文献及び乙8において開示された出願前に公知となった技術であると主張する。 しかし,本件発明は,例えば,本件明細書【0006】の記載にあるように「スプレー本体の噴出ノズルから霧状に噴出した炭酸成分の混合化粧水が顔肌の毛細血管に作用して該血管を拡張し,皮脂や汚れ等の残骸物を顔肌からソフト的に遊離させて取り除き,より若々しく美しい顔肌を指向することができ,而してその噴出量はその噴出調整用摘子にて使用者の所望に応じ適宜調整できる。というものであり, 」積極的に炭酸ガスの成分である二酸化炭素が溶けて炭酸イオンを含有する化粧水(=炭酸混合化粧水)を生成するものである。一方,乙1発明には,かかる作用効果を十分奏するほどの炭酸混合化粧水が得られることについては開示がない。その余の引用例でも,積極的に炭酸混合化粧水を生成し,これを顔肌に吹き付ける美顔器の開示はない。 (ウ) また,被控訴人は,乙8,22〜24において,炭酸ガスが血管拡張作用を有することに着目して,炭酸ガスを溶解した化粧水を顔肌に噴霧する技術が開示されている旨主張する。 しかし,乙8発明は,本件発明や乙1発明で忌避されたエアゾル機器でしかなく,その余の引用例(乙22〜24)も,使用前の製造段階から炭酸ガスと化粧水を混合するものでしかない。 これに対し,本件発明においては,炭酸混合化粧水は,霧状に噴霧され,使用直前に調製されるから,品質及び組成の経年変化がなく,保管が容易であり,美顔器の取扱いや使用も簡便となる等の格別の作用効果を奏する。 よって,本件発明の本質的部分は,乙8,22〜24において開示された技術とはいえない。 (被控訴人) 発明の本質的部分は,少なくとも,従来技術には見られない新規な構成であることを要するが,控訴人が本件発明の本質的部分と主張する点は,乙1発明にも見られるものである。 本件発明と乙1発明との唯一の相違点は,本件発明は,スプレー本体の導管内部で炭酸ガスと化粧水とが混合されて,噴出ノズル(内部混合で生成される炭酸混合化粧水が噴出されるものに限定される。 から炭酸混合化粧水が噴出される ) (内部混合)のに対し,乙1発明は, 「内部混合で生成される炭酸混合化粧水が噴出される噴出ノズル」を有さず, 「炭酸ガスを含む気体」の噴射口と「化粧水を含む化粧料」の噴射口とが独立存在し,これから噴出された「炭酸ガス」に「化粧水」が混合されて,炭酸混合化粧水が生成される(外部混合)点である。 よって,仮に本件発明の本質的部分を観念しようとしても,せいぜいスプレー本体の「導管内部」で炭酸ガスと化粧水とを混合して炭酸混合化粧水を生成する点にある,という程度のことしか考えられない。 しかし,被告各製品は,スプレー本体の「導管内部」で炭酸ガスと化粧水とを混合して炭酸混合化粧水を生成していない。すなわち,炭酸ガスと化粧水とをエアノズルの出口外側で混合している。その結果,本件発明の「炭酸混合化粧水を噴出する噴出ノズル」も備えない。 したがって,本件発明と被告各製品との上記相違は,本件発明の本質的部分に当たる。 イ 争点(2)のうち,均等第3要件について (控訴人) 均等の第3要件は,被告各製品の製造時に判断すべきものであるところ,本件特許の原出願時において炭酸ガスの効能に着目して炭酸ガスと化粧水とを用いる美顔器は皆無であったから置換容易ではなかったが,被告各製品の製造時点では,本件発明の実施品が公知であったから置換容易であった。 (被控訴人) 均等第3要件の置換容易性の判断は,抽象的な本件発明の技術思想において,当該構成を置き換えることが容易であるか否かを判断すべきものであり,後日,本件発明の実施品が控訴人製品として市場に出回ったとしても,それによって置換が可能になったり,容易になったりするようなものではない。 ウ 争点(2)のうち,均等第5要件について (被控訴人) 控訴人は,本件発明についての特許に係る無効審判請求事件(無効2014-800132号。本件無効審判請求事件)において,本件発明の内部混合の構成が,外部混合の構成を有する吹付器を備えた乙1発明とは作用効果においても相違する旨を主張する。 当該主張は,本件発明の技術的範囲を,内部混合の構成に限定し,外部混合の構成を意識的に除外する主張である。そして,被告各製品のエアブラシも,乙1発明と同様に炭酸ガスと化粧水とをそれぞれ独立した2つの吐出口から噴出する,外部混合の構成であるため,被告各製品は本件発明の技術的範囲から意識的に除外されている。 よって,被告各製品は,均等の第5要件を充足しない。 (控訴人) 被控訴人は,控訴人が本件無効審判請求事件において,本件発明の技術的範囲につき,内部混合の構成に限定し,外部混合である乙1発明の吹付器の構成を意識的に除外したとし,被告各製品も乙1発明と同様の構成であるため,同様に除外された旨主張する。 しかし,被控訴人が指摘する控訴人の主張は,乙1発明が「化粧水」ではなく「化粧料」しか噴霧しないことを前提に,目詰まりを防止するためにあえて2つの独立した導管・噴出口を有している旨指摘した上, 「炭酸混合化粧水」を噴霧する本件発明にはそのような複雑な構成を採用する必要がない旨指摘したにとどまる。 また,被告各製品のスプレーにおける導管及び噴出口は1つであって,乙1発明とは構成を異にするのであり,乙1発明を除外したことが被告各製品を除外したことにはならない。 さらに,本件無効審判請求事件の審決では,乙1発明等に積極的に炭酸混合化粧水を生成する技術思想がないことが主な根拠となっているのであり,上記控訴人の主張が採用されて特許の有効性が維持されたわけではない。 したがって,被告各製品は,均等の第5要件を充足する。 エ 争点(3)(本件発明についての特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか。)について (被控訴人) (ア) 主引用例である乙1発明において,「炭酸ガス」と「化粧水」を選択する動機付けがある。また,外部混合である乙1発明について,内部混合の技術である乙5発明〜乙7発明を組み合わせることが容易である。特に,本件発明のように炭酸ガスの効用に着目し,これで化粧水を噴霧したらいいのではないかという程度のアイデアに基づいて,乙1発明において「炭酸ガス」と「化粧水」を選択したとき,外部混合も内部混合も炭酸ガスと化粧水を混合して噴出するという作用機能は共通であるから,これを置換する動機付けがあることは明らかである。 (イ) 乙1において,「炭酸ガス」と「化粧水」を選択したことによる効果は,当業者において予測可能なものである。 本件明細書記載の発明の効果は,「請求項1により,スプレー本体の噴出ノズルから霧状に噴出した炭酸成分の混合化粧水が顔肌の毛細血管に作用して該血管を拡張し,皮脂や汚れ等の残骸物を顔肌からソフト的に遊離させて取り除き,より若々しく美しい顔肌を指向することができ,而してその噴出量はその噴出調整用摘子にて使用者の所望に応じ適宜調整できる。」である。炭酸ガスの血管拡張作用は技術常識であるから,本件明細書に記載された「顔肌の毛細血管に作用して該血管を拡張」する効果も,この技術常識を述べているにすぎない。 また,乙1発明も化粧料を気体により噴霧して吹き付けるから,前述の動機付けに基づいて「化粧水」と「炭酸ガス」を選択すれば,必然的に「霧状に噴出した炭酸成分の混合化粧水」が生成され,これが顔肌等に吹き付けられることにより,「顔肌の毛細血管に作用して該血管を拡張」するという本件発明と同一の作用効果が生じる。 さらに,乙32には,炭酸水は,血行促進に加え「皮脂溶解」の作用があること,乙33には,炭酸ガスは,血行促進に加え「角質除去」「洗浄効果」の効果があること,乙34には「角質を柔らかくして剥がれやすくすること」が開示されており,「皮脂や汚れ等の除去」も,炭酸ガスそれ自体の効果として技術常識である。「より若々しく美しい顔肌を指向することができ」るとは,これまでの炭酸混合化粧水を噴霧することによる「血行促進」,「皮脂除去」等の効果を,より包括的抽象的に表現したものにすぎない。 (控訴人) 上記(1)(控訴人の控訴理由)オと同じ。 |
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当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人の請求は棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおり,原判決を補正するほか,原判決「事実及び理由」欄第4に判示のとおりである。 1 原判決27頁20行〜28頁10行を,次のとおり改める。 「イ(ア) 本件特許の原出願日(平成19年4月10日)前である平成元年4月27日に頒布された刊行物である乙1文献には,以下の記載がある。 @「2 特許請求の範囲 高圧気体源に弁を介して接続した気体噴射口と,化粧料容器に弁を介して接続した化粧料噴射口とを近接して配置し,気体噴射口から気体を噴射することによって化粧料噴射口から化粧料を噴霧して吹き付けることを特徴とする化粧料の吹付方法。(1頁左下欄4〜10行) 」 A「<産業上の利用分野> 本発明は,化粧料を噴霧して吹き付ける方法に関する。特に,役者やモデルのような化粧姿を見せることを職業とする人の化粧に用いるのに適した化粧料の吹付方法に関する。(1頁左下欄12〜17行) 」 B「<従来の技術> 化粧料の噴霧吹付については,頭髪用化粧料を噴霧して吹き付けるエアゾル式噴霧缶と,香水を噴霧して吹き付けるポンプ式噴霧器が知られている。皮膚用の基礎化粧料やメイクアップ化粧料は,パフ,ブラシ,筆等の化粧道具を用いて塗布している。役者やモデル等の化粧姿を見せる職業人に皮膚用の基礎化粧料やメイクアップ化粧料を塗布する場合にも,パフ,ブラシ,筆等の化粧道具を用いている。皮膚用の基礎化粧料やメイクアップ化粧料を噴霧して吹き付けることは行なわれていないようである。(1頁左下欄18〜右下欄12行) 」 C「<発明が解決しようとする問題点> ところが,化粧料の塗布にパフ,ブラシ,筆等の化粧道具を用いると,皮膚を摩擦して刺激を与え,また,化粧道具が皮膚と化粧料を往復することによって化粧料に雑菌が付着することがある。また,全身又は広い面積に化粧料を塗布する場合,従来の化粧道具を用いると,非常に多くの手間が掛かる。そこで,これらの問題点を解決するため,エアゾル式噴霧缶又はポンプ式噴霧器を用いて,化粧料を噴霧して吹き付けることが考えられる。ところが,エアゾル式噴霧缶又はポンプ式噴霧器は,噴霧量の調整が困難であり,所望の通りに吹き付けることができない。また,手で持って噴霧するので,その大きさに制限があり,従って化粧料の容量に制限があり,化粧料が短期間で消費される。更に,エアゾル式噴霧缶は,使用に従って内部圧力が低下するので,長時間の間一定の状態で噴霧することができない。また,フロンガス等のエアゾル噴霧体を噴出するので,大気を汚染する問題がある。また,ポンプ式噴霧器は,手動ポンプを用いて間欠的に吹き付けるので,連続して吹き付けることができない。本発明の目的は,上記のような従来の問題点を解決することである。 <問題点を解決するための手段> 本発明者は,上記の問題点を解決するために,化粧料を手作業によって塗布する代りに,工業的に吹き付けることに気が付き,塗料を噴霧して吹き付けるのと同様な方法によって化粧料を噴霧して吹き付けることを考え付いたのである。(1頁右下欄13行〜2頁右上欄5行) 」 D「<発明の作用効果> 本発明の化粧料の吹付方法においては,化粧料を噴霧して吹き付けるので,パフ,ブラシ,筆等の化粧道具を必要としない。従って,化粧道具を用いる従来の方法とは異なり,皮膚を摩擦して刺激を与えることがなく,また,化粧料に雑菌が付着することがない。また,全身又は広い面積に化粧料を塗布する場合,化粧道具を用いる従来の方法とは異なり,多くの手間が掛からない。 また,本発明の化粧料の吹付方法においては,化粧料容器と化粧料噴射口の間の弁によって化粧料の噴霧量が調整されるので,エアゾル式噴霧缶又はポンプ式噴霧器を用いる方法とは異なり,化粧量の噴霧量の調整が容易であり,化粧料を所望の通りに吹き付けることができる。また,エアゾル式噴霧缶又はポンプ式噴霧器を用いる方法とは異なり,化粧料容器に吹付途中で化粧料を追加することができるので,化粧料を長期間吹き付けることができる。(2頁右上欄12行〜左下欄11行) 」 E「本例の化粧料の吹付方法に用いる化粧料の吹付装置は,図面に示すように,吹付器1と化粧料容器18及び高圧気体源19からなる。吹付器1は,図面に示すように,棒状の器体2の前部の軸芯位置に化粧料通路3を穿設し,化粧料通路3の前端を器体2の前端面に開口して化粧料噴射口4に形成し,化粧料通路3の基端側に化粧料供給口5を器体2の外周面に開口して設けている。化粧料通路3には,図面に示すように,ニードル弁の針軸6を挿入し,針軸6の先細状前端部を化粧料噴射口4から突出し,針軸6の後端の大径筒部7を器体2の筒状中央部に摺嵌し,器体2の筒状中央部に,針軸6の大径筒部7を前方に押圧する螺旋ばね8を設け,螺旋ばね8に抗して針軸6を後退させると,化粧料噴射口4が開口し,更に針軸6を後退させるに従って,化粧料噴射口4の開口面積が増大する構成にしている。器体2の後端には,図面に示すように,調整軸9を螺合して貫通し,調整軸9の前端部を針軸6の大径筒部7に摺嵌し,針軸6の後退によって針軸6の大径筒部7の底が調整軸9の前端に当接可能にして,前後動可能な調整軸9の前端の位置によって針軸6の後退量を調整可能に,従って,化粧料噴射口4の開口面積を調整可能に構成している。即ち,化粧料通路3の化粧料噴射口4と化粧料供給口5の間には,化粧料の噴霧量を調整するニードル弁の調整弁6を設けている。(2頁右下欄4行〜3 」頁左上欄12行) F 図面 G「器体2の化粧料通路3に近接した位置には,図面に示すように,気体通路10を穿設し,気体通路10の前端を器体2の前端面の化粧料噴射口4の回りに円環状に開口して気体噴射口11に形成し,気体通路10の基端を,器体2の中央部下側に突設した軸部12の下端に開口して,気体供給口13に形成している。 ・・・・即ち,気体通路10の気体噴射口11と気体供給口13の間には,ピボット弁の開閉弁14を設けている。(3頁左上欄13行〜右上欄10行) 」 H「即ち,操作杆16を下降させると,気体通路10の開閉弁14が開放し,操作杆16を後方へ回動させると,化粧料通路3の調整弁6が開放する構成にしている。 吹付器1の化粧料供給口5には,図面に示すように,液状の化粧料を入れる化粧料容器18を接続し,また,吹付器1の気体供給口13に,空気圧縮機,空気ボンベ,炭酸ガスボンベ,窒素ガスボンベ等の高圧気体源19を接続している。 この化粧料の吹付装置を用いて本例の化粧料の吹付方法を実施する場合,化粧料容器18に所望の液状化粧料を入れ,吹付器1の操作杆16を下降させる。・・・・ 気体噴射口11から気体が噴射すると,気体噴射口11に近接して配置された化粧料噴射口4の付近が負圧になり,化粧料通路3の調整弁6が開放すると化粧料噴射口4から化粧料が吸い出される状態になる。 次に,吹付器1の前端を被化粧者に向けて配置し,操作杆16を下降させたままの状態で後方へ回動する。 すると, ・・・化粧料容器18の化粧料が化粧料供給口5を経て化粧料通路3に流入し,その流入化粧料が開放中の調整弁6を経て化粧料噴射口4から噴霧されて被化粧者の皮膚に吹き付けられる。 化粧料噴射口4から噴霧される化粧料の流量を調整する場合は,調整軸9を前後動させて調整軸9の前端の位置を調整し,操作杆16を後方へ回動させたときの針軸6の後退量を調整して,化粧料噴射口4の開口面積を調整する。化粧料の吹付によって化粧料容器18の化粧料が少なくなれば,吹付後又は吹付途中に,化粧料容器18に化粧料を追加する。(3頁左下欄1行〜右下欄20行) 」 (イ) 乙1文献の,上記(ア)の記載によれば,以下のことが認められる。 乙1発明は,化粧料を噴霧して吹き付ける方法に関するものである(A)。 従来,化粧料の塗布にはパフ,ブラシ,筆等の化粧道具を用いていたが,皮膚を摩擦して刺激を与え,化粧道具が皮膚と化粧料を往復することによって化粧料に雑菌が付着し,広い面積に化粧料を塗布する場合には多くの手間がかかるという問題点があった(B,C)。また,エアゾル式噴霧缶又はポンプ式噴霧器を用いて化粧料を噴霧して吹き付ける場合,噴霧量の調整が困難であり,手で持って噴霧するので大きさに制限がある等の問題点があった(C)。 そこで,乙1発明は,上記の問題点を解決するために,化粧料を手作業によって塗布するのではなく,塗料を噴霧して吹き付けるのと同様な方法によって化粧料を噴霧して吹き付ける構成,具体的には上記E〜Hの構成を採用した(C,E〜H)。 これにより,乙1発明においては,皮膚を摩擦して刺激を与えることなく,化粧料に雑菌が付着することもなく,広い面積に化粧料を塗布する場合に多くの手間がかからず,化粧料の噴霧量の調整が容易であり,化粧料を長期間吹き付けることができるという効果を奏するものである(D)。 (ウ) 以上のことをまとめると,乙1文献には,以下の発明が記載されていると認められる(乙1発明)。 a 所定量の皮膚用の基礎化粧料を収納する化粧料容器18と, b-1 該化粧料容器18を接続すると共に,前記化粧料容器18から皮膚用の基礎化粧料が流入する化粧料通路3と炭酸ガスが流れる気体通路10を内蔵し,各通路は独立しており, b-2 且つ各通路3,10の先端にそれぞれ設けられた化粧料噴射口4及び気体噴射口11を有する b-3 吹付器1と, c 更に前記気体通路10に流入し,前記気体噴射口11から噴射することにより前記化粧料噴射口4から前記化粧料を吸い出すと共に噴霧させるための炭酸ガスを供給する炭酸ガスボンベ19と, d この炭酸ガスボンベ19と前記吹付器とを接続する手段と, e 而も前記吹付器に備えられた上記化粧料の噴出量を調整する調整軸9とで成した f 前記化粧料の吹付装置」 2 原判決29頁14行〜30頁10行を,次のとおり改める。 「(イ) 控訴人は,乙1発明の「基礎化粧料」には「化粧水」が含まれないことも,被告各製品と乙1発明の相違点として認定されるべきである,と主張する。 しかし,色材を含む化粧品は「仕上化粧品」と呼ばれることもあること(甲9,56頁),Fタームにおいて,「基礎化粧料」と「メーキャップ化粧料」とは区別されており, 「化粧水」は「基礎化粧料」の下位のターム, 「ファンデーション」は「メーキャップ化粧料」の下位のタームとされていること(甲16,乙16,, )「基礎化粧料」の一種として「化粧水」が位置付けられる例があること(乙18〜21)からすれば, 「化粧水」は,乙1文献の上記イで引用したBに記載された「基礎化粧料」に含まれると解され,かつ,乙1文献のB及びCの記載からすれば, 「化粧料」の語は, 「基礎化粧料」と「メイクアップ化粧料」とを含む概念として使用されているものと解するのが相当である。よって,乙1発明の「基礎化粧料」には, 「化粧水」が含まれる。 控訴人の主張には,理由がない。 また,控訴人は,乙1発明の「基礎化粧料」に「化粧水」が含まれない理由として,@「化粧料の塗布にパフ,ブラシ,筆等の化粧道具を用いると,皮膚を摩擦して刺激を与え,また,化粧道具が皮膚と化粧料を往復することによって化粧料に雑菌が付着することがある。」という課題,及び,「全身又は広い面積に化粧料を塗布する場合,従来の化粧道具(パフ,ブラシ,筆等)を用いると,非常に多くの手間が掛かる。」という課題に対して,化粧水はコットン又は手で使用されるから,そういった課題は生じないこと,並びに,A化粧水は,全身に塗布するものではないから,非常に多くの手間がかかるという問題点を欠くこと,を挙げる。 しかし,@化粧水を肌に着けるときに使用する「コットン」と, 「パフ」とは,別の部材と認められる(甲20〜26(枝番を含む。)ものの,乙1文献において化 )粧料を塗布するのに用いられる道具として示された「パフ,ブラシ,筆等」 (上記イのC,D)は, 「等」が付されていることから,例示にすぎず,コットンを除外する趣旨ではないものと解される。また,コットンは,繊維の刺激で肌に傷をつけるという問題点がある(甲8)から,コットンを用いずに化粧水を吹き付けることにより,乙1発明の「皮膚を摩擦して刺激を与えることを避ける」という効果も生じる。 さらに,A顔以外の身体に用いる化粧水(ボディーローション)も存在する(乙30,31)から,化粧水であっても,全身に塗布するために多くの手間がかかるという問題点を欠くとはいえない。 控訴人の主張には,理由がない。 (ウ) さらに,控訴人は,被告各製品は,炭酸ガスの効用に着目して,霧状の炭酸混合化粧水を吹き付ける美顔器であるのに対し,乙1発明は,単なる噴出手段として炭酸ガスを位置づけた吹付装置である点も,相違点として認定されるべきであると主張する。 しかし,炭酸ガスにより化粧水を噴霧すれば当然に炭酸ガスと化粧水とが混合されるから,炭酸混合化粧水が顔肌に噴霧されることは自明であるというべきである。 そうすると,乙1文献には,炭酸ガスの効能に関する記載等が存在しないとしても,「化粧水と炭酸ガスとを混合して炭酸混合化粧水を生成し,これを顔肌に吹き付ける美顔器」という構成が開示されていると認めることができ,単なる吹付装置とはいえないから,控訴人主張の点を,相違点ということはできない。 控訴人の主張には,理由がない。」 3 原判決34頁18〜23行を,次のとおり改める。 「また,控訴人は,上記乙1文献の「問題点を解決するための手段」の記載は,工業的に吹き付けることの例として塗料噴霧が挙げられているにすぎず,技術分野が全く異なる塗装装置のあらゆる技術が適用容易であるとはいえないし,乙1発明は,炭酸混合化粧水を生成して,これを顔肌に吹き付ける美顔器といった技術思想を持たず,乙4発明もこのような技術思想を持たないから,毛細血管に作用して血管を拡張し,皮脂や汚れ等の残骸物を顔肌からソフト的に遊離させて取り除き,より若々しく美しい顔肌を指向するという作用効果を奏することを企図して,炭酸混合化粧水を生成するため,使用目的も異なる乙1発明に乙4発明を適用する動機付けがあるとはいえない,と主張する。 しかし,上記乙1文献の記載は,化粧料吹付け装置とは異なる技術分野であった塗料を噴霧する技術を化粧料の吹付けに応用することに着眼したことを明示している上,乙4発明は乙1発明と同様に,高圧ガスを用いて塗料(乙1発明では化粧料)を噴霧させるものである。また,本件特許の原出願日前に頒布された以下の文献@〜Eの記載からすれば,化粧水に血行促進のために炭酸ガスを含有させることは,本件特許の原出願日前の周知技術と認められるから,炭酸混合化粧水を顔肌に用いるために,乙1発明に乙4発明を適用することは容易であったというべきである。 @ 平成15年2月26日に頒布された特開2003-54662号公報(乙8)には,噴射剤を炭酸ガスとしたエアゾール化粧料に関する発明が開示されており【請 (求項2】,化粧料原液に溶解した炭酸ガスは,皮膚や頭皮中の毛細血管の血管拡張 )作用を有し,エアゾール化粧料のマッサージ効果と血行促進効果とを増強させる【0 (022】)とされている。 A 平成15年10月2日に頒布された特開2003-277218号公報(乙22)には,遊離炭酸等を含んだ皮下の血行を促進する化粧水に関する発明が開示されており 【請求項11】, ( ) 成分中の炭酸ガスが角質層に浸透すると血行を促進する(【0008】)とされている。 B 平成3年2月26日に頒布された特公平3-14284号公報(乙23)には,水性化粧料に炭酸ガスを配合した化粧料に関する発明が開示されており(特許請求の範囲)「水性化粧品に炭酸ガスを配合すると,使用時血管拡張作用を示すだ ,けでなく,皮膚に対し刺激を与え,快適な使用感が得られる」 (1頁左欄12〜15行)「炭酸ガスを配合することのできる水性化粧料としては,水分含量が比較的多 ,い化粧料,例えば,化粧水,乳液,ヘアローション,ヘアトニック,シャンプー,リンス等が挙げられる。(1頁左欄21行〜右欄3行)とされている。 」 C 平成11年6月29日に頒布された特開平11-171755号公報(乙24)には,炭酸ガスを含有する化粧料に関する発明が開示されており 【請求項1】, ( )「従来より,炭酸ガスは血行拡張作用を有することが知られており, ・・・皮膚の血行を促進させる目的で,炭酸ガスを配合した化粧料も知られている」 (【0002】, )「本発明者らは鋭意研究を行った結果,炭酸ガスとともに多価アルコールを溶媒として高濃度で用いれば,炭酸ガスを高濃度に含有することができ,高い血行促進効果が得られるとともに,その効果が持続する化粧料が得られることを見出し,本発明を完成した。( 」【0004】, )「本発明の化粧料は,通常の方法に従って製造することができ,例えば化粧水,乳液,ヘアローション,ヘアトニック,シャンプー,リンス等のいずれの剤形にもすることができる。( 」【0015】)とされている。 D 平成15年2月7日に頒布された特開2003-34612号公報(乙32)には,遊離炭酸を含む炭酸経皮吸収用組成物からなる化粧水に関する発明が開示されており(【請求項2】, )「炭酸ガスを含む水が人体の血行を促進することは古くから良く知られており,特に全身の血行を良くするために炭酸泉に入浴することが古くから行われている。これは炭酸ガスの経皮からの侵入により毛細管床の増加及び拡張が起こり皮膚の血行を促進するためと考えられている。このような炭酸ガスの特徴を利用して化粧水,養毛・育毛料やパック剤に用いることが提案されている。」(【0002】, )「本発明の炭酸経皮吸収用組成物は血行促進作用による顔の肌の健康,美容のために用いられる基礎化粧水として,具体的には肌に潤いをもたらす,しみやそばかすの改善,にきびの改善,日焼けの改善,美白効果,シワの改善などが挙げられる。( 」【0024】とされている。 E 平成11年8月24日に頒布された特開平11-228334号公報(乙35)には,炭酸ガスを含有する化粧料に関する発明が開示されており 【請求項1】, ( )「炭酸ガスは血管拡張作用を有することが知られている。化粧料用途でも例えば水性化粧料に炭酸ガスを配合して耐圧容器に密封した化粧料・・・,二重構造のエアゾール容器の内袋内に炭酸ガスを含有する原液が封入されているエアゾール製品 ・ ・・等が知られている。( 」【0002】, )「本発明の化粧料は,炭酸ガスを安定的に保つために,耐圧容器に密封された非自己噴射型のものにするのが好ましい。その方法としては,例えば化粧料を耐圧容器に入れ,これに高圧の炭酸ガス又はそれを含む混合ガスを封入する方法,耐圧容器に炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩を含ませた化粧料を入れ,これにpH調節剤を加えて炭酸ガスを発生させ,直ちに密封する方法,あるいは化粧料とドライアイスペレットを容器内に入れて密封する方法等が採用されるが,特に高圧ガスを封入する方法が好ましい。( 」【0022】, )「本発明の化粧料は,例えば化粧水,乳液,ヘアローション,ヘアトニック,シャンプー等のいずれにもすることができる。( 」【0028】)とされている。 さらに,控訴人は,@乙1発明は,放出される高圧気体が常に一定であるのに対し,乙4発明は,スプレー本体で気体の流量調整を行うから,構成や技術思想に大きな差異がある,A乙1発明の解決課題は噴霧量の調整,化粧料を長時間一定の状態で噴霧する,大気を汚染せず連続して吹き付けるというものであるのに対し,乙4発明の目的はスプレーから吹き出す流体の流量を簡単な構造で調整し,塗料の色を代える場合に部品の洗浄回数を減らすというものであるから,組合せ容易性を導く評価根拠事実がない,B乙1発明は気体のみの噴出を予定しているのに対し,乙4発明はガスと塗料の混合を前提とすることから,乙1発明に乙4発明を適用することには阻害要因がある,と主張する。 しかし,@乙1発明の解決課題は,上記2(1)イ(イ)のとおり,パフ等の化粧道具を用いずに広い面積に手間をかけずに化粧料を塗布すること等である。同イ(ア)Dのとおり,乙1発明においても化粧料の噴霧量を調整することは必要と認識されているが,これを,化粧料の流量を調節することによって行うのか,気体の流量を調節することによって行うのかは,設計事項にすぎない。したがって,乙1発明において,放出される高圧気体が常に一定であることが,同発明の課題解決に必須の前提とはいえないから,この点における乙4発明との差異が,容易想到性を否定する根拠とはならない。 A乙1発明の解決課題には,上記イ(イ)のとおり,噴霧量の調整を容易に行うことが含まれており,乙4発明の目的にも,スプレーから吹き出す流体の流量を簡単な構造で調整することが含まれているから,両発明の課題には共通する面があり,組合せ容易性を導く評価根拠事実がないとはいえない。 B乙1発明の解決課題は,パフ等の化粧道具を用いずに広い面積に手間をかけずに化粧料を塗布すること等であるところ,気体のみの噴出は,この課題を解決するものではなく, 「被化粧者が汗をかいている場合には,気体のみを噴射して発汗している皮膚に吹き付けることによって,発汗を押えて皮膚を引き締め,化粧料を付着し易くすることができる。(乙1の2頁左下欄19行〜右下欄2行)という副次的 」な効果に資するものにすぎない。また,吹き付ける化粧料が化粧水の場合には,通常,発汗を押さえて皮膚を引き締める必要性が低いから,乙1発明において,気体のみを噴出する構成が不可欠とはいえない。したがって,化粧水を吹き付ける場合に,乙1発明に乙4発明を適用することに阻害要因があるとはいえない。 控訴人の主張には,理由がない。」 4 以上によれば,その余の点を検討するまでもなく,控訴人の請求には理由がないから,これを棄却した原判決の判断は相当である。 よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 清水節 |
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裁判官 | 片岡早苗 |
裁判官 | 古庄研 |