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事件 |
平成
27年
(行ケ)
10260号
審決取消請求事件
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原告株式会社後藤製作所 同訴訟代理人弁護士 橘高郁文 被告美和ロック株式会社 同訴訟代理人弁理士 三浦光康 栢原崇行 皆川由佳 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/09/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2015-800069号事件について平成27年11月25日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 被告は,平成14年8月5日(優先権主張:平成13年10月15日,日本国)発明の名称を , 「ロータリーディスクタンブラー錠及び鍵」とする特許出願をし,平成19年9月7日,設定の登録を受けた(特許第4008302号。請求項の数3。甲23。以下,この特許を「本件特許」という。。 ) ? 原告は,平成22年1月20日,本件特許の特許請求の範囲請求項1から3に係る各発明について特許無効審判を請求し,特許庁は,これを,無効2010-800013号事件として審理した(甲24。以下「前件審判」という。。 ) ? 被告は,平成23年10月27日,訂正審判を請求し,特許庁は,これを,訂正2011-390118号事件として審理した。特許庁は,同年12月20日,上記請求を認めるとの審決をし,同審決は,確定した(以下「本件訂正」という。 甲24)。 ? 特許庁は,平成24年8月21日,前件審判につき,請求不成立の審決をした(以下「前件審決」という。。 ) 原告は,前件審決の取消しを求める訴訟(平成24年(行ケ)第10339号)を提起した。 知的財産高等裁判所は,平成25年5月23日,請求棄却の判決をし(乙2。以下「前件判決」という。,同判決は,確定した。 ) ? 原告は,平成27年3月20日,本件特許の特許請求の範囲請求項2に係る発明について特許無効審判(以下「本件審判」という。)を請求した。 ? 特許庁は,上記審判請求を無効2015-800069号事件として審理し,平成27年11月25日, 「本件審判の請求は,成り立たない。 との別紙審決書 」 (写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同年12月3日,その謄本が原告に送達された。 ? 原告は,平成27年12月28日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の特許請求の範囲請求項2の記載は,次のとおりのものである(甲24)。以下,この請求項に記載された発明を「本件発明」といい,その明細書(甲23,24)を「本件明細書」という。 【請求項2】内周面の母線に沿って横断面形状が略V字形のカム溝を形成した外筒と,この外筒に回転自在に嵌合し,間隙を介して中心軸線方向に積層された複数の仕切板を設けると共に,中心軸線に沿って鍵孔を貫通させた内筒と,この内筒の母線に沿って延在し,内筒の外周部において半径方向に移動可能に案内されると共に,上記カム溝と係合する外側縁が外方に突出する方向に付勢されたロッキングバーとを有し,上記仕切板の間の各スロットに,中央部に前記内筒の中心軸線に関して点対称に形成された鍵孔を包囲し得る大きさの鍵挿通孔26を形成した環状ロータリーディスクタンブラーを挿設し,その実体部の1ヵ所を,内筒を軸線方向に貫通する支軸に揺動可能に軸支すると共に,鍵挿通孔を挟んで上記支軸と対峙するロータリーディスクタンブラーの実体部であり,円弧の一部をなす自由端部外側端縁に解錠切欠を形成し,一方,鍵挿通孔の開口端縁に,先端の移動軌跡が鍵孔に挿入されたリバーシブルである合鍵のブレードの平面部と干渉する係合突起を一体に突設し,各ロータリーディスクタンブラーをこの係合突起が合鍵に近接する方向に付勢すると共に,常態では内筒を軸線方向に貫通するバックアップピンに係止し,他方,これらのタンブラー群の係合突起の夫々が鍵孔に挿通された合鍵のブレードに形成された対応する窪みと係合したとき,各ロータリーディスクタンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するようにしたロータリーディスクタンブラー錠の合鍵であって,鍵孔に挿入されたときロータリーディスクタンブラーの突出量が一定である前記係合突起の先端と整合するブレードの平面部に,有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成し,この窪みが対応する前記係合突起と係合したとき,該タンブラー群が前記摺り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わることにより,各ロータリーディスクタンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するようにし,以て,合鍵と一体的に内筒を回動させたさせたとき(判決注:ママ),カム溝とロッキングバーとの間に生じる楔作用によりロッキングバーを内筒中心軸方向に移動させ,内筒を外筒に対し相対回動できるようにしたことを特徴とするロータリーディスクタンブラー錠用の鍵。 3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,@本件発明の特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとすることはできない,A本件発明は,下記アの引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び下記イからタに記載された発明又は周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない,というものである。 ア 引用例:特開平9-144398号公報(甲2) イ 実願昭54-27530号(実開昭55-128848号)のマイクロフィルム(甲1) ウ 英国特許出願公告第1417054号明細書(甲4) エ 米国特許第3928992号明細書(甲5) オ 実公平6-28616号公報(甲6) カ 実公昭55-32998号公報(甲7) キ 意匠登録第965697号公報(甲8) ク 意匠登録第1110356号公報(甲9) ケ 実願昭57-149628号(実開昭59-51958号)のマイクロフィルム(甲10) コ 実願平4-89007号(実開平6-51443号)のCD-ROM(甲11) サ 特開2000-96889号公報(甲13) シ 特開昭62-194374号公報(甲14) ス 実願平5-42779号(実開平7-14041号)のCD-ROM(甲15) セ 特開昭62-189269号公報(甲16) ソ 特開平6-346639号公報(甲17) タ 特開平9-41742号公報(甲18) ? 本件審決が認定した引用発明,本件発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。なお,文中の「/」は,原文の改行箇所を示す。 ア 引用発明 内周面の母線に沿って横断面形状が略V字形のカム溝21を形成した外筒22と,/この外筒22に回転自在に嵌合し,間隙を介して中心軸線方向に積層された複数の仕切板23を設けると共に,中心軸線に沿って鍵孔24を貫通させた内筒部25と,/この内筒部25の母線に沿って延在し,内筒部25の外周部において半径方向に移動可能に案内されると共に,上記カム溝21と係合する外側縁が外方に突出する方向に付勢されたロッキングバー27とを有し,/上記仕切板23の間の各スロットに,中央部に点対称に形成された鍵孔24を包囲し得る大きさの鍵挿通切欠を形成したC字状のレバータンブラー29を挿設し,/その実体部の1ヵ所を,内筒部25を軸線方向に貫通する支軸31に揺動可能に軸支すると共に,鍵挿通切欠を挟んで上記支軸31と対峙するレバータンブラー29の実体部であり,円弧の一部をなす自由端部外側端縁に解錠切欠き28を形成し,/一方,鍵挿通切欠の開口端縁に,先端の移動軌跡が鍵孔24に挿入されたリバーシブルである合鍵のキー本体12の端縁部と干渉する係合縁部を設け,/各レバータンブラー29をこの係合縁部が合鍵に近接する方向にタンブラーばね32で付勢すると共に,常態では内筒部25を軸線方向に貫通するバックアップピン33に係止し,/他方,これらのレバータンブラー29群の係合縁部の夫々が鍵孔24に挿通された合鍵のキー本体12の端縁部に谷の底部3,3aを内に凸の曲面の傾斜面として形成された刻みと係合したとき,当該刻みに対応して各レバータンブラー29の揺動角度が変わって解錠切欠き28がロッキングバー27の内側縁と整合するようにしたレバータンブラー錠用の合鍵であって,/鍵孔24に挿入されたときレバータンブラー29の係合縁部と整合するキー本体12の部位に,谷の底部3,3aを内に凸の曲面の傾斜面として形成された刻みを形成し,この刻みが係合縁部と係合したとき,各レバータンブラー29の解錠切欠き28がロッキングバー27の内側縁と整合するようにし,/以て,合鍵と一体的に内筒部25を回動させたとき,カム溝21とロッキングバー27との間に生じる楔作用によりロッキングバー27を内筒部25中心軸方向に移動させ,内筒部25を外筒22に対し相対回動できるようにしたレバータンブラー錠用の鍵 イ 本件発明と引用発明との一致点 内周面の母線に沿って横断面形状が略V字形のカム溝を形成した外筒と,/この外筒に回転自在に嵌合し,間隙を介して中心軸線方向に積層された複数の仕切板を設けると共に,中心軸線に沿って鍵孔を貫通させた内筒と,/この内筒の母線に沿って延在し,内筒の外周部において半径方向に移動可能に案内されると共に,上記カム溝と係合する外側縁が外方に突出する方向に付勢されたロッキングバーとを有し,/上記仕切板の間の各スロットに,中央部に点対称に形成された鍵孔を包囲し得る大きさの鍵挿通部を形成したロータリータンブラーを挿設し,/その実体部の1ヵ所を,内筒を軸線方向に貫通する支軸に揺動可能に軸支すると共に,鍵挿通部を挟んで上記支軸と対峙するロータリータンブラーの実体部であり,円弧の一部をなす自由端部外側端縁に解錠切欠を形成し,/一方,鍵挿通部の開口端縁に,先端の移動軌跡が鍵孔に挿入されたリバーシブルである合鍵のブレードと干渉する係合部を一体的に突設し,/各ロータリータンブラーをこの係合部が合鍵に近接する方向に付勢すると共に,常態では内筒を軸線方向に貫通するバックアップピンに係止し,/他方,これらのタンブラー群の係合部の夫々が鍵孔に挿通された合鍵のブレードに形成された対応する窪みと係合したとき,各ロータリータンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するようにしたロータリータンブラー錠の合鍵であって,/鍵孔に挿入されたときロータリータンブラーの係合部と整合するブレードに対応する窪みを形成し,この窪みが対応する係合部と係合したとき,各ロータリータンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するようにし,/以て,合鍵と一体的に内筒を回動させたとき,カム溝とロッキングバーとの間に生じる楔作用によりロッキングバーを内筒中心軸方向に移動させ,内筒を外筒に対し相対回動できるようにした/ロータリータンブラー錠用の鍵である点 ウ 本件発明と引用発明との相違点 相違点1 本件発明は, 「内筒の中心軸線に関して」点対称に形成されている鍵孔を有する錠用の鍵であるのに対し,引用発明は,そのような鍵孔を有しない錠用の鍵である点 相違点2 本件発明は,鍵挿通部が「鍵挿通孔」であって,この「鍵挿通孔」を中央部に形成したロータリータンブラーが「環状ロータリーディスクタンブラー」である錠用の鍵であるのに対し,引用発明は,鍵挿通部が「鍵挿通切欠」であって,この「鍵挿通切欠」を中央部に形成したロータリータンブラーが「C字状のレバータンブラー」である錠用の鍵である点 相違点3 ロータリータンブラーの解錠切欠とロッキングバーの内側縁とを整合させるための構成について,本件発明では, 「ロータリーディスクタンブラー」の開口端縁に一体に「突出量が一定」に突設した「係合突起」の,その先端と,合鍵のブレード「平面部」に形成された「有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪み」との係合により,タンブラー群が摺り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応し 「て揺動角度が変わることにより」上記整合を行うものであるのに対して,引用発明では,「C字状のレバータンブラー」の開口端縁に一体に突設した「係合縁部」と,合鍵のブレードの端縁部と干渉して,当該端縁部に形成された対応する「キー本体12の端縁部に谷の底部3,3aを内に凸の曲面の傾斜面として形成された刻み」との係合により,当該刻みに対応して各レバータンブラー29の揺動角度が変わっ 「て」上記整合を行うものである点 なお,本件審決は,相違点3の本件発明に係る構成は,鍵としては, 「合鍵」の「ブレードの平面部に,有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪み」が形成されている,?さらに, 「ロータリーディスクタンブラー」の開口端縁に一体に「突出量が一定」に突設した「係合突起」の,その先端と係合する,合鍵のブレード「平面部」に形成された「有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪み」を有するから, 「鍵の窪みは,その深さとブレードの幅方向の位置が,揺動による円弧に沿ったものである」との構成と解され,引用発明は,これらの構成を備えていないと判断した。 4 取消事由 ? サポート要件(特許法36条6項1号)に係る判断の誤り(取消事由1) ? 本件発明の容易想到性の判断の誤り(取消事由2) |
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当事者の主張
1 取消事由1(サポート要件に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕 ? 本件特許の特許請求の範囲請求項2には,ロータリーディスクタンブラーの係合突起の先端と合鍵の窪みの底面とを当接させる旨が記載されている。この窪みについては,具体的形態を限定する記載がないことから,底面が傾斜しているものも水平なものも含むと解される。 本件発明においては,係合突起の突出量が一定であることから,係合突起の先端の位置が最下部になることは,ほとんどない。すなわち,別紙1のとおり,係合突起の先端が最下部となるのは,それぞれ,図1の上から3番目の図面,同図2の点Aのみであり,その余においては,係合突起の先端から左右いずれかにずれた箇所が最下部となっている。 合鍵の窪みの底面が水平なものについては,同底面と係合するのは,必然的に係合突起の最下部になる。したがって,この場合,合鍵の窪みの底面と係合するのは,係合突起の先端ではないこととなる。 本件明細書【0044】の記載によれば,突出量が一定である係合突起29の先端は,支軸23を中心に順次回動し,左右に揺れて傾動するものであるから,係合突起29の先端と窪み25の底面を当接させるためには,窪みの底面も傾動させ,傾斜したものにしなければならない。すなわち,上記記載には,底面が傾斜している窪みについて,係合突起の先端を当該窪みの底面と当接させる構成が示されているということができる。 しかし,本件明細書には,底面が水平な窪みについて,係合突起の先端を当該窪みの底面と当接させる構成は,記載されていない。 ? 以上によれば,本件発明に係る特許は,サポート要件に違反するものであるから,同特許につき,サポート要件に反しないとした本件審決の判断は,誤りである。 〔被告の主張〕 ? 本件発明は,ロータリーディスクタンブラー錠用の鍵に関し,引用発明においては,鍵溝を鍵のブレードの側端縁に形成するのでその形成箇所を多くすることができず,鍵違いの数にも限界があるという点を解決すべき課題とするものである。 そして,本件発明は,上記課題を解決する手段として,鍵のブレードの平面部に複数種類の大きさと深さを備えた摺り鉢形の有底の窪みを形成し,上記鍵が鍵孔に挿入されると,上記窪みが対応するロータリーディスクタンブラーの係合突起の先端と係合し,前記摺り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応してタンブラー群の揺動角度が変わることにより,各ロータリーディスクタンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するという構成を採用した。そして,上記構成の採用によって,各ロータリーディスクタンブラーの係合突起をブレードの平面部の窪みの深さに応じてその中心位置をブレードの幅方向において微妙に変化させなくてはならないことから,合鍵の複製が困難になり,錠前としての安全性が向上するという効果を奏するものである。 当業者は,発明の詳細な説明から,少なくとも引用発明の問題点を認識し,本件発明につき,同問題点を克服するための課題解決手段を採用したものと理解し得るはずである。よって,本件発明に係る特許は,サポート要件に反するものではない。 ? 当業者を基準にすると,係合突起の「先端」の用語について,発明の課題との関係で合目的に解釈することは許されるものであり,常に1点の意味に解釈する必要はない。本件発明は,係合突起の先端が振り子式に円弧を描いて鍵のブレードの平面部に当接するものであることなどを考慮して,本件特許の特許請求の範囲請求項2の「係合突起の先端と整合するブレードの平面部に,有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成し」の全体の文脈を解釈すると, 「係合突起の先端と整合する」との文言は,窪みが係入する場所を特定する意義に解される。「先端」の用語をミクロ(1点)の意味に捉える原告の主張は,不当である。 2 取消事由2(本件発明の容易想到性の判断の誤り)について〔原告の主張〕 ? 甲第1号証には,突出量が一定に突設した係合突起を備えたタンブラーの構成が開示されている。すなわち,甲第1号証の第1図(願書添付のもの)のレバータンブラー1においては,鍵挿通切欠の開口端縁に凸状の係合縁部が右方向に突設している。さらに,同係合縁部の右側に,同係合縁部と同じ形状の右方向に突設した6本の曲線がほぼ同一間隔で描かれ,しかも,それらの先端(最も突設した箇所)は鍵穴h内に納まっている。これは,支軸3を基点に回動するレバータンブラー1の係合縁部のそれぞれが,鍵穴hに挿通された合鍵のブレードの各刻みと係合したとき,当該刻みの深さに対応して各レバータンブラー1の揺動角度が変わる状況を示すものにほかならない。これら各係合縁部の先端と支軸3の中心からの距離は,いずれも同一であり,よって,その突出量が一定であることは,明らかである。 そして,引用例には,甲第3号証(特公昭60-6432号公報)が引用されており(【0017】,それには,甲第1号証の考案を改良して同考案に係るレバータ )ンブラーを使用する旨が記載されている(4欄2〜5行)のであるから,引用発明に,上記のとおり甲第1号証に開示されている突出量が一定に突設した係合突起を備えたタンブラーの構成を適用することは,容易である。それによって,引用発明において,係合縁部の先端の突出量を一定にするならば,その係合縁部の先端が,キー本体の有底で複数種類の大きさと深さの凹みと係合することによって,回転するタンブラー群が凹みの深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度を変えることによりロータリーディスクタンブラーの解錠切欠とロッキングバーの内側縁とを整合することになり,相違点3に係る本件発明の構成に至る。 ? 甲第9から11,13から16号証には,平面部に有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを有する鍵が開示されている。このように傾斜した摺り鉢形の窪みを有する鍵が公知のものであったのであるから,引用発明の鍵の傾斜面を摺り鉢形とし,甲第9号証における上記窪みと同様の窪みとすることは,当業者にとって容易であったということができる。加えて,引用例には,ならい鍵切り機等により複製が不正に行われやすいという問題を解決するために,鍵の凹みの傾斜面を内に凸の曲面に形成したことに特徴がある旨記載されており,また,傾斜面を平面ではなく曲面にするとキーの不正な複製を一層難しくする旨が記載されているのであるから,傾斜面をより急な曲面として摺り鉢形とすることも,当業者にとって容易であったということができる。 以上によれば,引用発明の鍵の傾斜面の凹み(刻み)を周知の「平面部」の「摺り鉢形の窪み」に置換するという単なる設計変更程度の変更を行うことにより,本件発明の構成になる。 本件発明は,鍵の発明であり,鍵自体から,その錠であるタンブラーの形状及び動作機構を見分けられないことが多いのであるから,タンブラーの形状及び動作機構という錠の構造が本件特許出願当時に存在していた公知の鍵と異なることをもって,特許性を認めること自体,不合理である。 〔被告の主張〕 ? 本件発明と引用発明とは,課題認識の視点が異なるものということができる。 引用例には,ブレードの平面部に形成された有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを有効活用する,すなわち,各ロータリーディスクタンブラーの係合突起をブレードの平面部の窪みの深さに応じてその中心位置をブレードの幅方向において微妙に変化させなくてはならないことから,合鍵の複製が困難になり,錠前としての安全性が向上するという効果を奏するという本件発明の着眼点(技術的思想)が存在しない。 ? 甲第1号証は,各レバータンブラーの係合縁部が一定であることを直接的に示すものではない。 ? 引用発明は,従来のリバーシブルキーにおいて,平板状のキー本体の両側辺で対をなす刻みの谷の底部が,キー本体の平板面と直角に,かつ,キー本体の中心軸線を含む平面に関し互に平行になるように形成されていることなどから,鍵違い数の減少が余儀なくされるという課題を解決する手段として,前記刻みの谷の底部をキー本体の厚さ方向に傾斜させ,一対の谷の底部の傾斜を,キー本体の平板面と直角に,かつ,キー本体の中心軸線を含む平面に関し互に逆向きになるようにするとの構成を採用したものである。引用例において,上記キー本体の刻みを,ブレードの平面部に形成された摺り鉢形の窪みとすることが示唆されているとは認められない。 |
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当裁判所の判断
1 本件発明について ? 本件発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2【請求項2】のとおりであるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,おおむね,次の記載がある(甲23,24。下記記載中に引用する図面については,別紙2参照)。 ア 発明の属する技術分野 この発明は,新規なロータリーディスクタンブラー錠に関する(【0001】。 ) イ 従来の技術 シリンダ錠には種々の型式のものがあるが,本出願人(判決注:被告)の主力製品であり,比較的安全性が高いと認められているシリンダ錠に,レバータンブラー錠がある(【0002】。 ) このレバータンブラー錠は, 【図1】及び【図2】に示すように,@内周面の母線に沿ってカム溝1を形成した外筒2と,Aこの外筒に回転自在に嵌合し,間隙を介して中心軸線方向に積層された複数の仕切板3,3を設けるとともに,B中心軸線に沿って鍵孔4を貫通させた内筒5と,Cこの内筒5の母線に沿って延在し,内筒の外周部において半径方向に移動可能に案内されるとともに,上記カム溝1と係合する外側縁が外方に突出する方向に付勢されたロッキングバー6とを有している(【0003】。 ) また,仕切板の間の各スロット7に,レバータンブラー11が挿設されている。 レバータンブラー11は,全体の形状が略C字形であり,一端部を揺動自在に軸支され,自由端部外側端縁には,ロッキングバー6の内側縁を受け入れる解錠切欠9が形成されている。レバータンブラー11は,鍵孔に挿入された鍵の側端縁と干渉する方向に付勢され,常態では,内筒を軸線方向に貫通するバックアップピン8に係止されている(【0004】。 ) そして,これらのタンブラー群のそれぞれが鍵孔に挿通された合鍵の対応する鍵溝と係合したとき,各レバータンブラー11の解錠切欠9がロッキングバー6の内側縁と整合する(図示せず)ように構成されている(【0005】。 ) したがって,合鍵を鍵孔4に挿入して内筒5を外筒2内で相対的に回動させると,カム溝1とロッキングバー6との間に楔作用が生じ,これによって,ロッキングバー6が内筒中心軸方向に移動できるようになり,すなわち,シリンダ錠が解錠状態となって,内筒5が解錠方向に回動する(【0006】。 ) 通常のレバータンブラー錠においては,@複数の仕切板3,3,Aキーガイド12及びBテールピース13を装着したテールプラグ14 【図1】 ( 参照) 【図 を,3】に示す第1リテーナー15及びこれと面対称となる第2リテーナー(図示せず)を介して一体に結合して内筒5を構成する(【0007】。 ) すなわち,リテーナー15は,円筒(内筒5)の一部を成すものであり,前端に抜け止めのフランジ16が形成され,かつ,その母線に沿って複数個の縦長の矩形の受入れ孔17,17が形成された板状体である。 フランジ16に最も近いものと遠いものを除く各受入れ孔17には,仕切板3の外周部に形成された挿入片18(【図4】)を挿入し,反対側の図示しない第2リテーナーと共に,これら複数の仕切板3,3を一体的に結合する。なお, 【図4】の22は,ロッキングバー6用の案内溝である フランジ16に最も近い受入れ孔17には,キーガイド12の外周面に形成された挿入片18と同様の挿入片(図示せず)を挿入する。同様に,リテーナー15の内端(【図3】の右端。フランジ16から最も遠い受入れ孔17が位置する。)にテールプラグ14(【図1】参照)を装着する。 以上のように構成された内筒5を外筒2と嵌合させることにより,内筒5が分解しないように包持する。なお,内筒5の内端には,リテーナー15のフランジ16と同様の抜け止めの機能を有する蛇の目状のストッパー板19が装着され,止め輪21で固定されている(【0008】〜【0011】。 ) ウ 発明が解決しようとする課題 前記イのように構成されたレバータンブラー錠は,所期の機能を発揮し,特にロッキングバー6が内筒の回動時にクリック感を呈するので使用感に優れ,また,ピッキングが困難であることから,住宅の扉口用の錠前として多用されている 【0 (012】。 ) しかし,一方では,レバータンブラー11の形状が略C字形であることから,剛性が比較的小さく,強い力で異鍵を回すと変形する場合が絶無であるとはいえない(【0013】。 ) また,鍵孔内に挿入される合鍵の本体部(以下「ブレード」という。)の側端縁に鍵溝を形成することから,鍵溝の形成箇所を多くすることができず,したがって,鍵違いの数にも限界がある(【0014】。 ) さらに,鍵の断面形状が上下非対称であることから,ブレードの裏表に関係なく鍵孔に挿入できるリバーシブルの鍵を作れないなど,いまだ改良の余地がある 【0 (015】。 ) そこで,この発明は,タンブラーの剛性が大きくて丈夫であり,リバーシブルの鍵が可能であって,しかも鍵違いも大きい,新規のロータリーディスクタンブラー錠及びその鍵を提供することを目的としている(【0016】。 ) エ 課題を解決するための手段 請求項2に記載の発明は,前記ウの課題を解決するためのものである(【0018】。 ) オ 実施例 【図1】から【図4】に示す従来のレバータンブラー錠と,この発明によるロータリーディスクタンブラー錠との大きな違いは,@タンブラーの形状が環状であること及びA合鍵において,ブレードの側端縁に鍵溝を形成するのではなく,平面部及び端縁部に窪みを形成したことの2点である(【0019】。 ) 【図5】は,この発明の一実施例によるロータリーディスクタンブラー錠のスロット7を示し,このスロット7は,従来のレバータンブラー錠におけるスロットと同様に,フランジ16が付いたリテーナー15によって相互に結合された複数の仕切板3,3間に形成されている(【0020】。 ) また, 【図5】においては,内筒の中心軸線に沿って形成された鍵孔4を間に挟むようにして,上方には支軸23が,下方にはバックアップピン8が,それぞれ内筒5を鍵孔に平行に貫通するように設けられている(【図1】参照。【0021】。 ) 鍵孔4(合鍵24)の断面形状を内筒5の中心軸線に関して点対称としたのは,合鍵の裏表に関係なく,合鍵を鍵孔4に挿入できるリバーシブルキーにするためである(【0025】。 ) そして,この発明によるロータリーディスクタンブラー錠の施解錠操作に用いられる合鍵24は, 【図6】及び【図7】に示すように,鍵孔4に挿入される本体部(ブレード)の先端が円弧状に成形され,かつ面取りされるとともに, 【図6】に示す平面部及び【図7】に示す端縁部の所定の箇所に窪み25が形成されている(【0026】。 ) この窪み25の断面形状は,例えば【図5】の合鍵24の断面形状において点線で示すように,また, 【図6】及び【図7】に示すように,有底の逆台形であり,複数種類の深さ(図示の実施例では4種類)がある(【0027】。 ) 他方, 【図1】及び【図2】に示す従来のレバータンブラー錠等においては,ブレードの側端縁に,窪みではなく,V字形の鍵溝が形成されていることは,周知のとおりである(【0029】。 ) 各スロット7,7には, 【図8】に示すように,中央部に鍵孔4を包囲し得る大きさの鍵挿通孔26を形成した環状のロータリーディスクタンブラー27が挿設されている。上記「環状」とは,鍵挿通孔26を包囲するロータリーディスクタンブラー27の実体部が閉曲線を成すことを意味しており,ロータリーディスクタンブラー27の外形は,図示のように略円形である(【0031】【0032】。 , ) 各ロータリーディスクタンブラー27は,その実体部の1ヵ所(図示の実施例では上端部)を支軸23(判決注:「支軸22」は,明白な誤記。以下同様。)によって揺動可能に軸支されており,自由端部(【図8】で下端部)の内側縁及び外側縁の双方とも支軸23を中心とする円弧状に成形されている【0033】 0034】。 ( 【 , ) ロータリーディスクタンブラー27の自由端部外側縁の所定の角度位置には,例えば矩形の解錠切欠9が形成されている 【0035】。 ( ) この解錠切欠9の形成角度位置は,前記合鍵の窪み25の深さに応じて,例えば4種類あり,これによってロータリーディスクタンブラー錠の鍵違いを得るようにしている(【0036】。 ) ロータリーディスクタンブラー27の自由端部内側縁は,バックアップピン8の下端をかすめるように形成され,その【図8】における左端部には係止段部28が形成されている(【0037】。 ) 一方,鍵挿通孔26の開口端縁には, 【図8】に示すように,先端の移動軌跡が合鍵24のブレードの平面部と干渉する係合突起29が一体に突設されている【00 (39】。 ) そして,各ロータリーディスクタンブラー27は,従来のレバータンブラー錠と同様に,薄い板ばねによるタンブラーばね31の弾力により,その係合突起29が合鍵24に近接する方向に付勢されている(【0041】。 ) 【図8】に示すように,鍵孔4に合鍵24が挿入されていない場合には,各ロータリーディスクタンブラー27の係止段部28がバックアップピン8に弾接するように係止され,各ロータリーディスクタンブラー27は, 【図8】に示す角度位置に係止される(【0042】。 ) 鍵孔4に合鍵24が挿入され,各ロータリーディスクタンブラー27の係合突起29が対応する合鍵の窪み25に係入したとき, 【図10】に示すように,全ロータリーディスクタンブラー27,27の解錠切欠9,9がロッキングバー6の内側縁と整合するように,係合突起29の突出量,窪み25の深さ及び解錠切欠9の角度位置が設定されている(【0043】。 ) 図示の実施例では,係合突起29の突出量を一定にしておき,換言すれば,支軸23の中心に関し係合突起29の先端の位置を一定にしておき,係合突起29の先端が合鍵のブレードの窪み25に係入してその底面に当接したとき,窪み25の深さに応じてロータリーディスクタンブラー27の揺動角度を変化させ, 【図8】に示す複数の解錠切欠9,9の内選択されたものをロッキングバー6の内側縁に整合させるようにしている(【0044】。 ) 上記のように構成されたこの発明の一実施例によるロータリーディスクタンブラー錠は,鍵孔4に合鍵24を挿入していない場合,あるいは合鍵とは異なる異鍵を鍵孔4に挿入した場合,少なくとも1枚のロータリーディスクタンブラー27の解錠切欠9がロッキングバー6の内側縁と角度的にずれる【図8】 ( 参照。0047】。 【 ) この状態で内筒5を回そうとすると,ロッキングバー6とカム溝1との間に生じる楔作用により,ロッキングバー6がカム溝1から押し出されようとするが,その動きはロータリーディスクタンブラー27の自由端部外側縁に阻止されて内筒5を回すことはできない。すなわち,このロータリーディスクタンブラー錠は解錠されない(【0048】。 ) 鍵孔4に合鍵24が挿入された場合には, 【図10】に示すように,全ロータリーディスクタンブラー27,27の解錠切欠9,9がロッキングバーの内側縁と整合する(【0049】。 ) この状態で内筒を回すと,従来のレバータンブラー錠と同様に,内筒5と外筒2との相互回動によって,ロッキングバー6の内筒中心軸線方向の移動が可能になり,このロータリーディスクタンブラー錠は解錠されることになる(【0050】。 ) カ 発明の効果 以上の説明から明らかなように,この発明は,タンブラーの形状を環状にしたので,従来のレバータンブラー錠と比較してタンブラーの剛性を格段に向上させることができ,錠前としての強度及び安全性を向上させることができる(【0070】。 ) また,従来のレバータンブラー錠における合鍵と異なり,ブレードの端縁部に形成されたV字形の鍵溝ではなく,窪みの深さによって鍵違いを得るようにしたので,一の窪み25と隣接する他の窪み25の間隔を従来の鍵溝間のそれより短くすることができる(【0071】。 ) 換言すれば,規格によって外形寸法に制約がある内筒においてタンブラーの数を増大させることができ,その分鍵違いを多くすることができる。例えば,従来のレバータンブラー錠には高々7枚のタンブラーしか入らなかったが,この発明によるロータリーディスクタンブラー錠においては11枚入る【図6】 ( 参照。0072】。 【 ) また,ロータリーディスクタンブラーの係合突起の突出量を一定にする場合でも,あるいは変化させる場合でも,窪みの深さに応じてその中心位置をブレードの幅方向,あるいはブレードの端縁部の幅方向において微妙に変化させなくてはならないので,合鍵の複製が困難になり,錠前としての安全性が向上するなど,種々の効果を奏する(【0074】。 ) ? 本件発明の特徴 前記?によれば,本件発明の特徴は,以下のとおりである。 ア 本件発明は,新規なロータリーディスクタンブラー錠に関するものである(【0001】。 ) イ 従来,レバータンブラー錠は,比較的安全性が高いものと認められてきたシリンダ錠であり 【0002】, ( ) 特にロッキングバー6が内筒の回動時にクリック感を呈するので使用感に優れ,また,ピッキングが困難であることから,住宅の扉口用の錠前として多用されてきた(【0012】。 ) ウ しかし,従来技術には,@レバータンブラー11の形状が略C字形であることから,剛性が比較的小さく,強い力で異鍵を回すと変形する場合が絶無であるとはいえない(【0013】,A鍵孔内に挿入される合鍵の本体部(ブレード)の側端 )縁に鍵溝を形成することから,鍵溝の形成箇所を多くすることができず,したがって,鍵違いの数にも限界がある(【0014】,B鍵の断面形状が上下非対称である )ことから,ブレードの裏表に関係なく鍵孔に挿入できるリバーシブルの鍵を作れない(【0015】)などの問題点があった。 そこで,本件発明は,タンブラーの剛性が大きくて丈夫であり,リバーシブルの鍵が可能であって,しかも鍵違いも大きい,新規のロータリーディスクタンブラー錠及びその鍵を提供することを目的としている(【0016】。 ) エ 本件発明は,前記ウの課題を解決するための手段として,特許請求の範囲請求項2に記載の構成を採用した(【0018】。 ) オ 本件発明は,@タンブラーの形状を環状にしたので,従来のレバータンブラー錠と比較してタンブラーの剛性を格段に向上させることができ,錠前としての強度及び安全性を向上させることができる 【0070】, ( ) A従来のレバータンブラー錠における合鍵と異なり,ブレードの端縁部に形成されたV字形の鍵溝ではなく,窪みの深さによって鍵違いを得るようにしたので,一の窪み25と隣接する他の窪み25の間隔を従来の鍵溝間のそれより短くすることができ,したがって,タンブラーの数を増大させ,その分鍵違いを多くすることができる(【0071】【007 ,2】,Bロータリーディスクタンブラーの係合突起の突出量を一定にする場合,窪 )みの深さに応じてその中心位置をブレードの幅方向,あるいはブレードの端縁部の幅方向において微妙に変化させなくてはならないので,合鍵の複製が困難になり,錠前としての安全性が向上するなど,種々の効果を奏する(【0074】。 ) 2 取消事由1(サポート要件に係る判断の誤り)について ? 原告は,本件特許の特許請求の範囲請求項2に記載された「先端」が特定の1点としての頂点のみを指すことを前提に(別紙1参照),本件明細書には,底面が水平な窪みについて,係合突起の先端を当該窪みの底面と当接させる構成は,記載されていない旨主張する。 ? 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲請求項2には,ロータリーディスクタンブラーの係合突起と合鍵との関係につき, 「鍵挿通孔の開口端縁に,先端の移動軌跡が鍵孔に挿入されたリバーシブルである合鍵のブレードの平面部と干渉する係合突起を一体に突設し」「これらのタンブラー群の係合突起の夫々が鍵孔に挿通された合鍵のブレー ,ドに形成された対応する窪みと係合したとき」「鍵孔に挿入されたロータリーディ ,スクタンブラーの突出量が一定である前記係合突起の先端と整合するブレードの平面部に,有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成し,この窪みが対応する前記係合突起と係合したとき」との記載がある。 しかし,「窪み」の具体的形状及び「先端」の具体的意義についての記載はない。 ? 本件明細書の記載 本件明細書には,ロータリーディスクタンブラーの係合突起と合鍵との関係につき,「鍵挿通孔26の開口端縁には,【図8】に示すように,先端の移動軌跡が合鍵24のブレードの平面部と干渉する係合突起29が一体に突設されている。【00 」(39】, )「この係合突起29は,【図9】に示すように,先端の移動軌跡がブレードの端縁部と干渉するように,突設位置をずらせて突設する場合もある。 ( 」 【0040】, )「鍵孔4に合鍵24が挿入され,各ロータリーディスクタンブラー27の係合突起29が対応する合鍵の窪み25に係入したとき,( 」【0043】, )「図示の実施例では,係合突起29の突出量を一定にしておき,換言すれば,支軸23の中心に関し係合突起29の先端の位置を一定にしておき,係合突起29の先端が合鍵のブレードの窪み25に係入してその底面に当接したとき,窪み25の深さに応じてロータリーディスクタンブラー27の揺動角度を変化させ,( 」【0044】, )「係合突起が係入する合鍵の窪み25,25」【0046】 ( )との記載がある。 しかし,「先端」の具体的意義についての記載はない。また,「窪み」の具体的形状についても, 【図5】から【図7】及び【図10】に図示されている以外,記載されていない。 ? 前記?のとおり,本件特許の特許請求の範囲請求項2において,ロータリーディスクタンブラーの係合突起の先端と合鍵の窪みの底面とを当接させることは,直接には記載されていない。上記請求項中, 「鍵孔に挿入されたときロータリーディスクタンブラーの突出量が一定である前記係合突起の先端と整合するブレードの平面部に,有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成し,この窪みが対応する前記係合突起と係合したとき」の記載を,ロータリーディスクタンブラーの係合突起の先端と合鍵の窪みの底面とを当接させる趣旨と解したとしても,「先端」の意義につき,必ずしも原告が主張するような特定の1点としての頂点のみを意味するものと解することはできない。かえって,上記請求項における「前記係合突起の先端と整合するブレードの平面部」との記載からは, 「先端」につき,特定の1点としての頂点のみではなく,ある程度の範囲をもった先の部分と解するのが自然である。また,本件発明においては,合鍵に複数設けられた有底の摺り鉢形の窪みを,各ロータリーディスクタンブラーに設けられた各係合突起と係合させることによって,各ロータリーディスクタンブラーを揺動させ,各ロータリーディスクタンブラーに設けられた解錠切欠をロッキングバーの内側縁に整合させることにより,解錠するものであり,住宅の扉口の開閉に使用することを想定していること【0012】 (参照)も考慮すると,上記係合に当たっては,係合突起の先の部分が合鍵の窪みの底面に当接すれば足り,係合突起の頂点が同底面に当接することまでは必要がないものと考えられる。 以上によれば,原告の主張は,前提において誤りがあり,採用できない。 ? 小括 したがって,原告主張の取消事由1は,理由がない。 3 取消事由2(本件発明の容易想到性の判断の誤り)について ? 前件審決について ア 前記第2の1のとおり,原告は,本件発明を含む本件特許の特許請求の範囲請求項1から3に係る各発明についての特許無効審判を請求し,特許庁は,請求不成立の審決(前件審決)をした。 前件審決は,引用例(甲2)を主引用例として,本件審決が認定した引用発明と同一の引用発明を認定し,本件発明と引用発明との一致点及び相違点についても,本件審決と同一の認定をした上,相違点3につき,甲第2,6から18号証及び前件判決記載の引用例15から24に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない旨の判断をした(乙2)。 イ 前記第2の1のとおり,原告は,前件審決の取消しを求める訴訟を提起したが,知的財産高等裁判所は,請求棄却の判決(前件判決)をし,同判決は,確定した。これによって,前件審決も確定した。 ? 特許法167条について ア 特許法167条は,特許無効審判の審決が確定したときは,当事者及び参加人は,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができないと規定している。同条の趣旨は,排他的独占的権利である特許権(同法68条)の有効性について複数の異なる判断が下されるという事態及び紛争の蒸し返しが生じないように特許無効審判の一回的紛争解決を図るために,当事者及び参加人に対して一事不再理効を及ぼすものと解される。 先の特許無効審判の当事者及び参加人は,同審判手続において無効理由の存否につき攻撃防御をし,また,特許無効審判の審決の取消訴訟が提起された場合には,同訴訟手続において当該審決の取消事由の存否につき攻撃防御をする機会を与えられていたのであるから,「同一の事実及び同一の証拠」について狭義に解するのは,紛争の蒸し返し防止の観点から相当ではない。 イ この点に関し,平成23年法律第63号による改正前の特許法167条においては,一事不再理効の及ぶ範囲が「何人も」とされており,先の審判に全く関与していない第三者による審判請求の権利まで制限するものであったことから,同一 「の事実及び同一の証拠」の意義を拡張的に解釈することについては,第三者との関係で問題があったということができる。しかし,上記改正によって第三者効が廃止され,一事不再理効の及ぶ範囲が先の審判の手続に関与して主張立証を尽くすことができた当事者及び参加人に限定されたのであるから,同一の事実及び同一の証拠」 「の意義については,前記アのとおり,特許無効審判の一回的紛争解決を図るという趣旨をより重視して解するのが相当である。 ウ 原告は,本件審判において,本件発明につき,引用例(甲2)を主引用例とし,これに記載された発明及び甲第1,4から11,13から18号証に記載された発明又は周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張した。 しかし,前記?のとおり,確定した前件審決においても,引用例(甲2)が主引用例とされており,また,甲第6から18号証が副引用例とされていた。 したがって,本件審判における原告の前記主張は,確定した前件審決と同一の主引用例に基づいて本件発明の容易想到性を主張するものであり,主引用例以外の証拠についても,上記のとおり前件審決において副引用例とされていた甲第6から18号証に加え,甲第1,4及び5号証を追加したにすぎない。 このように,確定した前件審決と主引用例が同一であり,まして,多数の副引用例も共通し,証拠を一部追加したにすぎない本件審判の請求は, 「同一の事実及び同一の証拠」に基づくものと解するのが,前記アの特許法167条の趣旨にかなうものというべきである。 以上によれば,本件審判における原告の前記主張は,確定した前件審決と「同一の事実及び同一の証拠」に基づくものであるから,特許法167条に該当し,許されない(この点に関し,本件審決が,本件審判において前件審判時に証拠として提出されなかった甲第4,5号証が提出され,前件審判時に主張されなかった回動するタンブラー錠用の鍵において摺り鉢形の窪みを有した鍵が周知であることが主張されたことをもって,前件審判と同一の証拠に基づく審判請求とはいえない旨判断したことは,誤りである。 。したがって,上記主張を排斥した本件審決の判断が誤 )りであるという取消事由は,それ自体,失当というべきである。 ? 本件発明の容易想到性について 前記?ウのとおり,本件審決は,本件発明が引用例に基づいて容易に想到できる旨の原告の主張につき,特許法167条に反しない旨の判断をしており,原告は,同判断を前提として,本件審決による本件発明の容易想到性の判断には誤りがある旨主張しているものと解される。そこで,念のため,以下,取消事由2について判断を加える。 ア 引用発明の認定 引用例の特許請求の範囲には,以下のとおり記載されている。 【請求項1】任意数のC字状のレバータンブラーに当接して各レバータンブラーを解錠位置に整合変位させるための選択された深さの刻みを,平板状のキー本体の両側辺に設けたレバータンブラー錠用のリバーシブルキーにおいて,キー本体の両側辺における対をなす刻みの谷の底部はキー本体の厚さ方向でともに傾斜させてあり,一対の谷の底部の傾斜は,キー本体の平板面と直角をなしかつキー本体の中心軸線を含む平面に関し互に逆向きにしてあることを特徴とするリバーシブルキー。 引用例の発明の詳細な説明には,おおむね,以下のとおり記載されている(下記記載中に引用する【図1】〜【図5】については,別紙3参照)。 a 発明の属する技術分野 この発明は,レバータンブラー錠用のリバーシブルキー及びその製作方法に関するものである(【0001】。 ) b 従来の技術 従来のレバータンブラー錠用のリバーシブルキーには,キー本体の両側辺で対をなす刻みの形状等のため,ならい鍵切り機等により複製が不正に行われやすいこと,レバータンブラー錠でC字状のレバータンブラーを裏表逆に入れても,同じリバーシブルキーによって施解錠可能であるから,鍵違いの数の減少が余儀なくされることなどの課題があった(【0004】【0005】。 , ) c 発明が解決しようとする課題 この発明は,キー本体の刻みの形状を新規なものに変えることによって複製をしにくくし,かつ,鍵違いの数の減少を排除することを目的とする(【0006】。 ) d 課題を解決するための手段 この発明は,上記cの課題を解決するために,特許請求の範囲請求項1記載の構成を採用した(【0008】。 ) e 発明の実施の形態 ? この発明のリバーシブルキー1が差し込まれて用いられるレバータンブラー錠2は, 【図3】〜【図5】に示すように,@内周面の母線に沿ってカム溝21を形成した外筒22と,Aその外筒22に回転自在に嵌合し,間隙を隔てて列設された複数の仕切板23を備えるとともに,B前後方向に鍵孔24を貫通させた内筒部25と,Cその内筒部25の母線に沿って延在し,内筒部25の半径方向に移動可能に装着されるとともに,押しばね26により外方に向け付勢されたロッキングバー27とを有する(【0012】。 ) ? 仕切板23が形成する複数のスロット内に,それぞれの先端部分にロッキングバー27を選択的に受け入れる解錠切欠28を形成したC字状のレバータンブラー29を支軸31で枢着し,各レバータンブラー29は,鍵孔24に差し込まれるキーの側辺部と干渉する方向にタンブラーばね32で付勢される(【0013】。 ) レバータンブラー錠は,合鍵が鍵孔24に挿入されたとき,これらのタンブラー群29のそれぞれが鍵孔24に挿通された合鍵の対応する刻みと係合し,各タンブラーの解錠切欠28がロッキングバー27の内側縁と整合するようにしてある【0 (014】。 ) その状態で合鍵を回すと,カム溝21とロッキングバー27との間に生じる楔作用によりロッキングバー27が内筒半径方向に移動するので,バックアップピン33を含み,前方のキーガイド34,仕切板23,周囲を囲むリテーナ35及び後方の尾栓36等からなる内筒部25が,全体として解錠方向又は施錠方向に回動することができる(【0015】。 ) ? 【図1】は,つまみ11及び平板状のキー本体12から成るリバーシブルキーである(【0011】。 ) この発明に係るリバーシブルキーの特徴は,キー本体12の両側辺に共に設けた刻みにある 【0018】。 ( ) キー本体12の両側辺において中心軸線lと直角をなす平面上で対をなすようにして設けた刻みの谷の底部3,3aは, 【図2】に明示するように,キー本体12の厚さ方向でともに傾斜させてあり,一対の谷の底部3,3aの傾斜は, 【図2】に示す平面P,すなわち,キー本体12の平面板14,14と直角をなし,かつ,キー本体12の中心軸線1を含む平面に関し,互いに逆向きにしてある 【0019】。 ( ) さらに,図示例では,傾斜させた各谷の底部3(3a)は,内に凸の曲面に形成してある。底部3(3a)の傾斜面をこのように曲面にすると,キーの不正な複製を一層難しくするが,その傾斜面は平面としてもよい(【0021】。 ) ? キー本体12の各刻みにおける底部3(3a)の傾斜面は,それが対応するタンブラー29の正面形の違いに応じて形成される。例えば,図2】 【 に示すように,切削前のキー本体に対し,ある定点Aを通る直線がその定点Aを中心として角度を変えたとき,キー本体(12)の一側辺の稜線とぶつかる直線AOを基準として,角度を変える直線がキー本体(12)をよぎる角度的深さd1,d2,…dnを対応するタンブラー29の種類に応じて選択し,その深さdnの刻みを切削する。 【図2】で示す谷の底部3,3aの深さはd2である(【0022】。 ) ? 【図5】に示すレバータンブラー29は,C字状をなすように装着されており,また, 【図6】に示すレバータンブラー29は,同じ列で正面形が同じものを表裏を逆にして逆C字状をなすようにして装着してある。 【図5】のC字状のタンブラー29は,本発明のキーにおける長さ方向の所定位置の刻みで押されて解錠切欠28が解錠位置に至っているが, 【図6】の逆C字状のタンブラー29は,同じキーを用いても,傾斜している刻みの底部3aの浅い部分が衝接することになる。そのために,従来のリバーシブルキーとは異なり,解錠切欠28は解錠位置を占めることにはならず,内筒部25は外筒22に対し回動不能である。このことは本発明のキーがリバーシブルであるにもかかわらず,鍵違い数の減少を排除していることを示している(【0024】〜【0026】。 ) f 発明の効果 この発明のリバーシブルキーによれば,両側辺の刻みにおける対をなす谷の底部を互いに逆向き傾斜面に形成してあるから,不正な複製を困難にするほか,リバーシブルにしたことによる鍵違いの数の減少を排除できる効果を奏する。また,前記底部の斜面を曲面としたものは,不正な複製を更に難しいものとする 【0037】 ( ,【0038】。 ) 前記 及び によれば,引用例には,本件審決が認定したとおりの引用発明(前記第2の3?ア)が記載されているものと認められる。 そして,引用例には,引用発明につき,以下のとおり開示されているものと認められる。 a 引用発明は,レバータンブラー錠用のリバーシブルキーに関するものである(【0001】。 ) b 従来のレバータンブラー錠用のリバーシブルキーには,キー本体の両側辺で対をなす刻みの形状等のため,ならい鍵切り機等により複製が不正に行われやすいこと,レバータンブラー錠でC字状のレバータンブラーを裏表逆に入れても,同じリバーシブルキーによって施解錠可能であるから,鍵違いの数の減少が余儀なくされることなどの課題がある(【0004】【0005】。 , ) c 引用発明は,キー本体の刻みの形状を新規なものに変えることによって複製をしにくくし,かつ,鍵違いの数の減少を排除することを目的とする【0006】。 ( ) d 引用発明は,上記cの課題を解決するために,支軸31で揺動可能に枢着されたC字状のレバータンブラー29等を備えた錠の合鍵として,キー本体12の端縁部に谷の底部3,3aを内に曲面の傾斜面として形成された刻みを形成するなどの構成とし,合鍵が鍵孔24に挿入されたとき,各レバータンブラー29が,対応する上記各刻みと係合することにより,各刻みの底部までの長さに応じて揺動角度を変えて揺動することによって,各タンブラーの解錠切欠28とロッキングバー27の内側縁とを整合させて解錠することができるようにしたものである(【請求項1】【0008】【0011】〜【0015】【0018】【0019】【002 , , , , ,1】【0022】。 , ) e 上記dの構成により,不正な複製を困難にするほか,リバーシブルにしたことによる鍵違いの数の減少を排除できるなどの効果を奏する(【0024】〜【0026】【0037】【0038】。 , , ) イ 本件発明と引用発明との相違点について 本件発明と引用発明との間には,本件審決が認定したとおりの相違点1から3(前記第2の3?ウ 〜 )が存在するものと認められる。 前記1によれば,本件発明においては,環状ロータリーディスクタンブラーの実体部の1か所を,内筒を軸線方向に貫通する支軸に揺動可能に軸支していることから,環状ロータリーディスクタンブラーは,支軸を中心に揺動するものである。 また,係合突起及び解錠切欠の突設位置についてみると,環状ロータリーディスクタンブラーの鍵挿通孔の開口端縁に係合突起を一体に突設し,鍵挿通孔を挟んで支軸と対峙する自由端部外側端縁に解錠切欠を形成している。 他方,合鍵に関する構成についてみると,合鍵のブレードの平面部に形成された複数種類の大きさと深さを備える有底の窪みが環状ロータリーディスクタンブラーの突出量が一定である係合突起と係合したとき,タンブラー群が窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わる。そして,前記のとおり,環状ロータリーディスクタンブラーがその実体部を軸支する支軸を中心に揺動することから,環状ロータリーディスクタンブラーの鍵挿通孔の開口端縁に突設された係合突起と係合する合鍵の窪みは,鍵の幅方向の中心に近いものほど深くなる。さらに,係合突起の突出量が一定であることから,係合突起の先端と支軸の中心との距離が一定であり,それによって,タンブラー群の係合突起と係合する合鍵の窪みの位置と深さ,すなわち,各環状ロータリータンブラーの各係合突起と係合する合鍵の各窪みの位置と深さの軌跡は,支軸を中心とする円弧に沿ったものとなる。 以上によれば,本件発明は,前記第2の3 ?「合鍵」の「ブレードの平面部に,有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪み」が形成されている,?さらに, 「ロータリーディスクタンブラー」の開口端縁に一体に「突出量が一定」に突設した「係合突起」の,その先端と係合する,合鍵のブレード「平面部」に形成された「有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪み」を有するから, 「鍵の窪みは,その深さとブレードの幅方向の位置が,揺動による円弧に沿ったものである」との構成を備えている。 前記アによれば,引用発明においては,ロータリータンブラーであるC字状のレバータンブラー29の実体部の1か所を,内筒部25を軸線方向に貫通する支軸31に揺動可能に軸支していることから,C字状のレバータンブラー29は,支軸を中心に揺動する。合鍵と係合する係合縁部は,C字状のレバータンブラー29に設けられた鍵挿通切欠の開口端縁に設けられており,解錠切欠28は,鍵挿通切欠を挟んで支軸31と対峙する自由端部外側端縁に形成されている。 他方,合鍵の構成についてみると,合鍵のキー本体12の端縁部に谷の底部3,3aを内に凸の曲面の傾斜面として形成された刻みが,C字状のレバータンブラー29の係合縁部と係合したとき,刻みに対応して揺動角度が変わる。 しかし,本件発明と異なり,レバータンブラー29の係合縁部と係合する合鍵の刻みがキー本体12の端縁部に設けられており,また,係合縁部の突出の有無及び量は不明であるから,合鍵の複数の刻みの位置と深さの関係は,不明といわざるを得ない。 以上によれば,引用発明は,前記 の構成を備えておらず,よって,本件審決による相違点の認定に誤りはない。 ウ 相違点3に係る容易想到性について 前記第2の3?のとおり,本件審決は,引用発明,甲第1,4から11,13から18号証に記載された発明又は周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない旨判断した。 甲第1号証に記載された発明について 後記 のとおり,甲第1号証に突出量が一定に突設した係合突起を備えたタンブラーの構成が開示されているとは認められず,仮にそのような構成が開示されていて引用発明に適用したとしても,相違点3のうち,係合突起の突出量以外の相違は,同適用によっておのずから解消されるものではなく,依然として残る。 甲第4及び5号証について 甲第4号証における錠は,環状ロータリーディスクタンブラーであるセキュリティ・メンバー21が,その組み合わされるキャリア22のボス22aの中心軸線の周りを回動するもの,甲第5号証における錠は,環状ロータリーディスクタンブラーであるロッキングディスク58が,これを受け入れるロックシリンダー16の中心軸線の周りを回動するというものである。他方,前記アのとおり,引用発明における錠は,C字状のレバータンブラー29が,その実体部の1か所を軸支する支軸31を中心に揺動するというものである。 このように,甲第4及び5号証における各錠の動作機構は,各環状ロータリーディスクタンブラーを軸支する支軸がなく,よって,そのような支軸を中心に揺動するものではなく,ボス22aないしロックシリンダー16の中心軸線の周りを回動するという点において,引用発明における錠の動作機構とは,大きく異なるものである。そして,引用発明の鍵並びに甲第4及び5号証記載の鍵は,いずれも各錠に対する合鍵に係るものであるから,各錠の動作機構の相違に応じて各鍵の構成も異なってくる。 上記のとおり,甲第4及び5号証は,各錠の動作機構において引用発明と大きく異なり,この相違に応じて鍵の構成も異なるものと考えられるから,甲第4及び5号証記載の錠ないし鍵の技術を引用発明に適用することは,それ自体,当業者において想定し難いものというべきである。 また,本件審決が認定した相違点3の本件発明に係る鍵としての構成??が開示されているとは認められない。 以上によれば,前記審決の判断に誤りはない。 エ 原告の主張について 原告は,甲第1号証に記載された発明には,突出量が一定に突設した係合突起を備えたタンブラーの構成が開示されており,これを引用発明に適用することは容易であり,同適用によって相違点3に係る本件発明の構成に至る旨主張する。 しかし,甲第1号証に係合縁部の突出量についての記載はなく,突出量が一定に突設した係合突起を備えたタンブラーの構成が開示されているとは認められない。 仮に,そのような構成が開示されていて,これを引用発明に適用したとしても,相違点3のうち,係合突起の突出量以外の相違は,同適用によっておのずから解消されるものではなく,依然として残る。 原告は,甲第1号証に記載された発明の鍵の傾斜面の凹み(刻み)を周知の「平面部」の「摺り鉢形の窪み」に置換するという設計変更程度の変更を行うことにより,本件発明の構成になる旨主張する。 しかし,本件発明と引用発明は,いずれも各錠に対応する合鍵に係る発明であり,鍵に設けられる窪みないし刻みは,それに対応する錠を解錠させるためのものとして錠の動作機構と密接に関連するものであるから,錠の動作機構を捨象して,鍵の窪みないし形状のみによって容易想到性を判断することはできない。 原告は,本件発明は,鍵の発明であり,タンブラーの形状及び動作機構という錠の構造が本件特許出願当時に存在していた公知の鍵と異なることをもって,特許性を認めること自体,不合理である旨主張する。 しかし,前記 のとおり,本件発明及び引用発明は,いずれも鍵の発明ではあるものの,それぞれの錠に対応する合鍵としての発明であるから,錠の構造を捨象して,鍵の形状のみによって容易想到性を判断することはできない。 ? 小括 以上によれば,原告主張の取消事由2は,理由がない。 4 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由にはいずれも理由がなく,よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
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(別紙1)図1図2(別紙2)本件明細書(甲23)掲載の図面従来のレバータンブラー錠の一例を示す縦断面図【図1】の横断面図リテーナーの外観斜視図仕切板の正面図この発明の一実施例によるロータリーディスクタンブラー錠の横断面図でタンブラーを外した状態を示す。 この発明の一実施例によるロータリーディスクタンブラー錠の合鍵の平面図この発明の一実施例によるロータリーディスクタンブラー錠の合鍵の側面図この発明の一実施例によるロータリーディスクタンブラー錠の横断面図で,合鍵のブレードの平面部に当接する係合突起を設けたタンブラーを装着した状態を示す。 【図8】と同様のロータリーディスクタンブラー錠の横断面図で,鍵穴に合鍵が挿入された状態を示す。 (別紙3)甲第2号証掲載の図面【図1】リバーシブルキーの実施例を示す平面図【図2】【図1】のTT-TT線による拡大断面図【図3】【図1】のキーを差し込んだ状態におけるレバータンブラー錠の一例を示す縦断側面図【図4】【図3】のレバータンブラー錠からキーを抜き取った状態におけるTX-TX線における横断面図【図5】【図3】のレバータンブラー錠のX-X線における横断面図 |
裁判長裁判官 | 部眞規子 |
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裁判官 | 古河謙一 |
裁判官 | 鈴木わかな |