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関連審決 不服2014-11039
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事件 平成 27年 (行ケ) 10253号 審決取消請求事件

原告 アプライドマテリアル ズ インコーポレイテッド
訴訟代理人弁理士 園田吉隆 小松徹郎
被告特許庁長官
指定代理人樋口信宏 清水康司 長馬望 田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/09/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が不服2014-11039号事件について平成27年8月11日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,特許出願に対する拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,@引用発明の認定の当否,A本願発明と引用発明との対比判断の当否,及びB相違点に関する判断の当否である。
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「水障壁封止方法」とする発明につき,平成21年2月17日を国際出願日(本件出願日)として特許出願(特願2010-550721号)をし(パリ条約に基づく優先権主張 平成20年3月13日(本願優先日) アメリカ合 ,衆国。甲2),平成25年5月7日に手続補正をした(本件補正。甲3)が,平成26年1月30日,拒絶査定を受けたので,同年6月11日,拒絶査定不服審判請求をした(不服2014-11039号)。
特許庁は,平成27年8月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同審決謄本は,同月25日,原告に送達された。
2 本願発明の要旨 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(本願発明)は,以下のとおりである(甲3)。
「基板と, 前記基板の上に配置される有機発光ダイオード部分と, 前記有機発光ダイオード部分上に配置される多層水障壁封止構造体とを含み, 前記多層水障壁封止構造体はシリコンを含む1以上の層及び炭素を含む1以上の層を含み, 前記多層水障壁封止構造体の各層は同一の厚さである, 有機発光ダイオード構造体。」 3 審決の理由の要点 (1) 引用発明の認定 特表2004-537448号公報(甲1。引用文献)には,次の発明(引用発明)が記載されているものと認められる。なお,引用発明の認定に際し,参考にした引用文献の記載箇所を,付記している。
「【0102】ガラス基板54を有するOLED52を密封し【0001】水蒸気を浸透させない【0102】多層障壁構造100をOLED52上に有するOLEDアセンブリであって, 【請求項1】当該多層障壁構造100は, 有機膜基板12と, 有機膜基板12上の多層浸透障壁とを含む多層障壁構造100であって,該多層浸透障壁が, 前記有機膜基板12の表面に接触する無機コーティング14と, 前記無機コーティング14の表面に接触する有機コーティング16とを含み, 【請求項6】前記無機コーティング14は厚さが45nmから350nmであり, 【請求項8】前記有機コーティング16は厚さが20nmから500nmであり, 【請求項14】前記無機コーティング14は,SiO2,SiOx,SiOxCy,Si3N4,SixNiyCz,SiOxNy,TiO2,TiOx,ZrO2,ZrOx,Al2O3,SnO2,In2O3,ITO,PbO,PbO2,B2O3,P2O5,酸化タンタル,酸化イットリウム,酸化バリウム,酸化マグネシウム,無定形炭素,硫黄,セレン,フッ化マグネシウム,フッ化カルシウム,酸化カルシウム,それらの混合物,それらの合金または化合物から成る群から選択される無機材料で作られる,OLEDアセンブリ。」 (2) 本願発明と引用発明との対比 (一致点) 「基板と, 前記基板の上に配置される有機発光ダイオード部分と, 前記有機発光ダイオード部分上に配置される多層水障壁封止構造体とを含み, 前記多層水障壁封止構造体は元素を含む1以上の層及び炭素を含む1以上の層を含む, 有機発光ダイオード構造体。」 (相違点1) 「元素を含む1以上の層」が,本願発明では「シリコンを含む1以上の層」であるのに対し,引用発明では「SiO2,SiOx,SiOxCy,Si3N4,SixNiyCz,SiOxNy,TiO2,TiOx,ZrO2,ZrOx,Al2O3,SnO2,In2O3,ITO,PbO,PbO2,B2O3,P2O5,酸化タンタル,酸化イットリウム,酸化バリウム,酸化マグネシウム,無定形炭素,硫黄,セレン,フッ化マグネシウム,フッ化カルシウム,酸化カルシウム,それらの混合物,それらの合金または化合物から成る群から選択される無機材料で作られる」層である点。
(相違点2) 「多層水障壁封止構造体の各層」の「厚さ」が,本願発明では「同一」であるのに対し,引用発明では,「無機コーティング14」の「厚さが45nmから350nm」であり,「有機コーティング16」の「厚さが20nmから500nm」である点。
(3) 相違点の判断 ア 相違点1について 引用発明において,「無機コーティング14」(本願発明の「元素を含む1以上の層」)は,「SiO2,SiOx,SiOxCy,Si3N4,SixNiyCz,SiOxNy,TiO2,TiOx,ZrO2,ZrOx,Al2O3,SnO2,In2O3,ITO,PbO,PbO2,B2O3,P2O5,酸化タンタル,酸化イットリウム,酸化バリウム,酸化マグネシウム,無定形炭素,硫黄,セレン,フッ化マグ ネシウム,フッ化カルシウム,酸化カルシウム,それらの混合物,それらの合金または化合物から成る群から選択される無機材料で作られる」層であり,引用文献の【0107】〜【0112】に記載された実施例では,特にSiO2を用いることが記載されている。
したがって,相違点1は実質的な相違点ではない。
あるいは,引用発明において,「無機コーティング14」として,上記各無機材料のうち「SiO2」,「SiOx」,「SiOxCy」,「Si3N4」,「SixNiyCz」,「SiOxNy」といった材料を用い,上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得た事項である。
イ 相違点2について 引用発明において,「無機コーティング14」は「厚さが45nmから350nm」であり,「有機コーティング16」は「厚さが20nmから500nm」であり,引用発明において,「無機コーティング14」及び「有機コーティング16」が取り得る膜厚の範囲は,厚さ45nmから350nmの範囲で重複しているから,「無機コーティング14」及び「有機コーティング16」が実質的に同じ厚さを有していてもよく,引用発明において,「無機コーティング14」及び「有機コーティング16」の膜厚を同一とすることは,引用発明を具体化するに際して当業者が容易に想到し得た事項である。
(4) 本願発明の効果について 相違点1及び2に係る本願発明の発明特定事項により奏される効果について,格別顕著な点は見い出せない。
なお,相違点2に係る本願発明の発明特定事項により奏される効果に関して,本願明細書(【0031】参照)には,「多層水障壁封止構造体の各層は,実質的に同じ厚さを有してもよい。」と記載されているが,その構成をとることによる効果は記載されていない。また,「多層水障壁封止構造体の各層」の厚さを同じ厚さにすることで何らかの格別な効果を奏するという技術常識はなく,そのような効果は 当業者に自明なものでもない。
(5) まとめ 本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り) 引用発明は,有機層と無機層とを備える多層水障壁封止構造体において,有機層に,@無機コーティング内の欠陥の近くの浸透を阻止し,A有機コーティングに達した浸透物分子を広い表面積にわたって分散させるという,2つの機能を持たせている。そして,@の機能を持つ有機コーティングは,薄いほどよく(例えば,100nmよりも薄い。,Aの機能を持つ有機コーティングは,平均欠陥サイズよりも )厚い有機層(例えば,1000nmよりも厚い。)の方がよいとされている(【0064】。したがって,引用発明では,少なくとも2種類の厚さの有機層が必要であ )る。
引用文献では,厚い有機層は,装置の寿命を延ばす働きがあるとされているから(【0080】, 【0081】, ) 引用発明の多層障壁構造をOLEDの障壁として適用する場合には,数年の寿命が要求され,そのためには,薄い有機コーティング(例えば,100nm以下)以外に1μmよりも厚い有機コーティングを含む構成を出発点とするしかない。
上記のとおり,引用発明においては,有機層として少なくとも2種類の厚さの有機層が必要であるから,引用発明に相違点に係る本願発明の構成を適用することはできない。よって,本願発明が引用発明から容易想到であるという審決の判断は誤りである。
2 取消事由2(本願発明と引用発明との対比判断の誤り) (1) 審決は,引用文献の「有機膜基板12」を除いた,「無機コーティング1 4」及び「有機コーティング16」からなる層のみを,本願発明の「多層水障壁封止構造体」に相当すると認定した。
しかし,引用発明は,有機膜基板12と,当該有機膜基板層に接する無機コーティング14と,当該無機コーティング14に接する有機コーティング16から構成される多層構造であって,水蒸気及び酸素に対する浸透障壁を形成する(【0026】。また, ) 「可とう性包装技術分野では,ポリマー膜またはシートを薄い有機コーティング,たとえば金属酸化物コーティングで被覆し,ポリマー膜またはシートを基本的に酸素および水蒸気を浸透させないようにすることが知られている。【00 」(17】)との記載,及び,「本発明では,上記の文献に記載されている多層コーティングとは異なる多層コーティングについて説明する。本発明によれば,無機障壁コーティングは,基板に直接接触している。( 」【0023】)との記載によれば,引用発明は,有機膜基板12の存在を前提とした上で,その上に無機コーティング14,有機コーティング16を形成して,全体として浸透障壁を形成した多層構造体である。さらに,引用発明の構成要素である,有機膜基板12と,無機コーティング14と,有機コーティング16は,それぞれに固有の機能を有しており(【0058】〜【0060】,請求項1に記載されているとおり,いずれもが発明の必須の構成 )要素である。引用文献に記載の多層障壁構造(100)という用語は,有機膜基板12を含む多層構造を指すものとして用いられており(【0099】,図5),引用発明の「様々な装置に用いることのできる,水蒸気および酸素に対する浸透障壁を形成する多層構造を提供する」 (【0026】という課題との関連において考えるなら, )有機膜基板層のない多層浸透障壁は,引用文献に記載も示唆もされていない。引用発明の多層構造の障壁機能が有機膜基板層の浸透障壁機能を前提として成立していることは, 「基板は・ ・浸透をいくらか阻止する。
・ 基板と同様に,有機樹脂は, ・・・浸透をいくらか阻止する。薄い無機コーティングは, ・・・浸透が可能な領域を著しく制限し・・・」【0058】〜【0060】 ( )との記載,及び,多層構造の浸透を表す数式に関して, 「上記の数式は,被覆された膜における浸透が基板膜の拡散パラ メータおよび吸着パラメータに依存することを明確に示している。( 」【0043】)との記載によれば明確である。
したがって,引用発明の多層障壁構造は,有機膜基板12をその必須の構成要素として含めたものと理解すべきである。そして,有機膜基板12は,OLEDを直接搭載するためのガラス基板54とは別物である。
(2) 本願発明は, (有機発光ダイオードを支持する)基板と,基板上に配置された有機発光ダイオードと,厚さの同じ,シリコンを含む1以上の層と炭素を含む1以上の層を含む多層水障壁封止構造体を含む構造体に関するものであり,引用発明は,有機膜基板層と,多層浸透障壁とを含む多層構造に関するものである。本願発明と引用発明を比較すれば,基板有機発光ダイオードの部分をさておけば,引用発明は,少なくとも,本願発明の請求項には記載されていない有機膜基板層が記載されている点において異なる。
したがって,本願発明と先行技術とを対比するに当たっては,相違点のうちの1つとして,引用発明には有機膜基板層を含む多層構造が記載されているが,本願発明には有機膜基板層に相当するものがない点を認定した上で,引用文献に接した当業者にとって本願発明は想到容易であったかを判断すべきである。
審決は,本願発明の要素たる「炭素を含む層」を引用発明と対比するに当たって,引用発明の多層障壁構造から炭素を含む層である有機膜基板12を除外した上で,一致点及び相違点の認定をしたものであって,誤っている。
(3) 本願発明と引用発明とを上記のとおり対比すれば,引用発明の有機膜基板は,少なくとも5000nmとなる(甲1【0068】)から,例えば,100nmよりも薄い有機層(甲1【0064】)と厚さが明確に異なり,多層障壁構造を構成する各層の厚さが均一とはなり得ない。
3 取消事由3(相違点に関する判断の誤り) 本願発明の多層水障壁封止構造体はシリコンを含む1以上の層及び炭素を含む1以上の層を含むものであるのに対して,引用発明の多層構造は無機コーティング 14,有機コーティング16と有機膜基板12を含むものなので,本願発明は,少なくとも,引用発明の有機膜基板12を含まない点において異なる。
そして,基本的に同じOLEDに対して,同じ課題を解決するための手段として,従来技術が必須の構成としていた有機膜基板12がなくても同様の目的を達し得ることを,他の文献等による示唆あるいは動機付けもなく容易に相当し得たと考えるべき根拠は存在しないから,引用発明に接した当業者が,容易に有機膜基板12のない多層水障壁封止構造体を想到し得ない。
被告の反論
1 取消事由1に対し (1) 審決は,「請求項1を引用する請求項6を引用する請求項8を引用する請求項14に係る発明をOLEDに適用した例」を引用発明として認定している。
引用文献の請求項1,6,8及び14の記載中で,有機コーティング16の厚さを規定しているのは,請求項8の「有機コーティング16は厚さが20nmから500nmである」という記載のみであって, (例えば,1000nmより厚い。「厚 )い有機コーティング」に相当する構成は,引用発明の認定の基礎として用いていない請求項11には記載されているものの,請求項1,6,8及び14には記載されていない。
したがって,引用発明において,原告が主張する「厚い有機コーティング」は,必須の構成ではない。
(2) また,発光ダイオードを有する有機発光装置について規定する請求項24は, 「厚い有機コーティング」を必須の構成とする請求項11のみを引用するものではなく,引用発明の認定の基礎とした請求項1を引用する請求項6を引用する請求項8を引用する請求項14をも引用するものであるから,引用文献の各請求項の記載から, 「厚い有機コーティング」を設けることが必須でない有機発光装置の発明を把握できる。
(3) 引用発明において「厚い有機コーティング」が必須の構成でない以上,異なる膜厚の有機コーティングを形成する必要はなく,引用発明において「無機コーティング14」及び「有機コーティング16」の膜厚を同一とすることに阻害要因はないから,審決における相違点2についての判断にも誤りはない。
2 取消事由2に対し 本願明細書の請求項1には,有機発光ダイオード構造体が, 「基板」「有機発光ダ ,イオード部分」及び「多層水障壁封止構造体」を「含む」と規定しているだけで,これら以外の構成要素の存否については任意であるから,前記3つの構成要素以外に他の構成要素を有するものも,本願発明に包含される。したがって,本願発明が「多層水障壁封止構造体」の外側や内側に他の層を形成することを排除するものではない。
審決が認定した引用発明の「多層浸透障壁」は, 「OLEDアセンブリ」の一構成要素であり, 「封止機能」を有する「多層構造体」だから,隣接する位置における「有機膜基板」の存在にかかわらず,引用発明の「多層浸透障壁」が本願発明の「多層水障壁封止構造体」に相当する。引用発明の「有機膜基板」は,本願発明で存否が任意とされている他の構成要素である。
よって,引用発明において「多層浸透障壁」を構成する「無機コーティング14」及び「有機コーティング16」の各層の厚さを同一にしたものは,たとえ当該各層の厚さと「有機膜基板12」の厚さが異なっているとしても,相違点2に係る本願発明の構成を具備していることになる。
審決の,本願発明と引用発明との対比判断に誤りはない。
3 取消事由3に対し 審決における引用発明の認定に誤りはなく,審決における本願発明と引用発明との対比にも誤りはなく,阻害要因は存在せず,相違点2についての判断にも誤りはない。したがって,本願発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることが できないとの審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 本願発明の認定 (1) 本願明細書(甲2)には,以下の記載がある。
【技術分野】 【0001】本発明の実施形態は一般に,有機発光ダイオード(OLED)構造体およびその製造のための方法に関する。
【背景技術】【0002】OLEDディスプレイは,液晶ディスプレイ(LCD)と比較して,それらのより速い応答時間,より大きな視野角,より高いコントラスト,より軽い重量,より低い電力,およびフレキシブル基板への従順性を考慮してディスプレイ応用で最近かなりの関心を獲得した。・・・ 【0003】ディスプレイデバイスの・・・制限される寿命は,有機またはポリマー材料の劣化および非発光ダークスポットの形成に起因することもある。材料劣化およびダークスポット問題は,水分および酸素侵入によって引き起こされることもある。
・・・いったん有機材料が水または酸素と反応すると,有機材料は,だめになる。
【0004】したがって,当技術分野では劣化しないまたは非発光ダークスポットを形成しないOLED構造体の必要性がある。そのような構造体を作製するための方法の必要性もまたある。
【発明を実施するための形態】・・・【0014】図2は,本発明の一実施形態によるOLED構造体200である。構造体200は,基板202を含む。一実施形態では,基板202は,フレキシブルなロールツーロール基板である。基板202は,ロールツーロール基板として述べられるが,ソーダ石灰ガラス基板,シリコン基板,半導体ウェハー,多角形基板,大面積基板,およびフラットパネルディスプレイ基板を含有する他の基板が,OLEDを作製するために利用されてもよいことが理解されるべきである。
【0015】基板202の上に,アノード204が堆積されてもよい。一実施形態では,アノード204は,クロム,銅,またはアルミニウムなどの金属を含んでもよい。
・・・アノード204は,約200オングストロームと約2000オングストロームとの間の厚さを有してもよい。
【0016】ホール注入層206が次いで,アノード204の上に堆積されてもよい。ホール注入層206は,約200オングストロームと約2000オングストロームとの間の厚さを有してもよい。一実施形態では,ホール注入層206は,フェニレンジアミン構造を有する直鎖オリゴマーを有する材料を含んでもよい。
・・・ 【0017】ホール輸送層208は,ホール注入層206の上に堆積されてもよい。ホール輸送層208は,約200オングストロームから約1000オングストロームの間の厚さを有してもよい。ホール輸送層208は,ジアミンを含んでもよい。一実施形態では,ホール輸送層208は,ナフチル置換ベンジジン(NPB)誘導体を含む。・・・ 【0018】発光層210は,ホール輸送層208の上に堆積されてもよい。発光層210は,約200オングストロームから約1500オングストロームの間の厚さに堆積されてもよい。発光層210のための材料は典型的には,蛍光性金属キレート錯体の類に属する。一実施形態では,発光層は,8-ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq3)を含む。
【0019】電子輸送層212は,発光層210の上に堆積されてもよい。電子輸送層212は,金属キレートオキシノイド化合物を含んでもよい。一実施形態では,電子輸送層212は,オキシン自体(また通例8-キノリノールまたは8-ヒドロキシキノリンとも呼ばれる)のキレートを含んでもよい。電子輸送層212は,約200オングストロームから約1000オングストロームの間の厚さを有してもよい。
【0020】電子注入層214は,電子輸送層212の上に堆積されてもよい。
電子注入層214は,約200オングストロームから約1000オングストローム の間の厚さを有してもよい。電子注入層214は,アルミニウムおよび少なくとも1つのハロゲン化アルカリまたは少なくとも1つのハロゲン化アルカリ土類の混合物を含んでもよい。・・・ 【0021】カソード216は,電子注入層214の上に堆積されてもよい。カソード216は,金属,金属の混合物,または金属の合金を含んでもよい。一実施形態では,カソード216は,マグネシウム(Mg),銀(Ag),およびアルミニウム(Al)の合金を含んでもよい。カソード216は,約1000オングストロームと約3000オングストロームとの間の厚さを有してもよい。電気的バイアスは,光が放出され,基板202を通って見えることになるように電源218によってOLED構造体200に供給されてもよい。・・・ 【0027】図4は,本発明の別の実施形態による封止層406を組み込むOLED構造体400である。OLED構造体400は,その上に堆積されるOLED部分404を有する基板402を含む。有機封止層406は,OLED部分404および基板402の上に堆積されてもよい。堆積の後,封止層406は,OLED部分404との界面と反対側の表面が実質的に平らであるように平坦化されてもよい。封止層406はこのようにして,OLED部分404の上の矢印「A」によって示されるような薄い部分および基板402のすぐ上の矢印「B」によって示されるような,薄い部分と比べてより厚い部分を有することになる。
【0028】封止層406より上側には,多層水障壁封止構造体が・・・堆積されてもよい。封止層406上に堆積される第1の層408は,シリコンを含んでもよく,矢印「D」によって示される厚さに堆積されてもよい。一実施形態では,第1の層408は,窒化シリコンを含んでもよい。一実施形態では,第1の層408は,約0.1ミクロンから約0.6ミクロン厚の間であってもよい。
【0029】第2の層410は,第1の層408の上に堆積されてもよい。第2の層410は,炭素を含んでもよい。一実施形態では,第2の層410は,約0.1ミクロンと約0.6ミクロンとの間の矢印「E」によって示されるような厚さを 有してもよい。第3の層412は,第2の層410の上に堆積されてもよい。第3の層412は,矢印「F」によって示されるような厚さに堆積されてもよい。一実施形態では,第3の層412の厚さは,約0.1ミクロンと約0.6ミクロンとの間であってもよい。第3の層412は,シリコンを含んでもよい。一実施形態では,第3の層412は,窒化シリコンを含んでもよい。
【0030】第4の層414は,第3の層412の上に堆積されてもよい。第4の層414は,炭素を含んでもよい。一実施形態では,第4の層414は,約0.1ミクロンと約0.6ミクロンとの間の矢印「G」によって示されるような厚さを有してもよい。第5の層416は,第4の層414の上に堆積されてもよい。第5の層416は,矢印「H」によって示されるような厚さに堆積されてもよい。一実施形態では,第5の層416の厚さは,約0.1ミクロンと約0.6ミクロンとの間であってもよい。第5の層416は,シリコンを含んでもよい。一実施形態では,第5の層416は,窒化シリコンを含んでもよい。
【0031】多層水障壁封止構造体の各層は,実質的に同じ厚さを有してもよい。
封止層406の存在は,追加の水障壁を提供し,封止層406が存在しない状況と比較して,多層水障壁封止構造体がより薄いことを許容する。封止層406がない場合には,第1の層408,第2の層410,第3の層412,第4の層414,および第5の層416はそれぞれ,約3ミクロンと約6ミクロンとの間の厚さを有することもある。多層水障壁封止構造体は,それがOLED部分404内の欠陥,微粒子または空隙を被覆する必要がないので,より薄くてもよい。
(2) 以上から,本願発明の概要は,以下のとおりである。
本願発明は,有機発光ダイオード(OLED)構造体に関する(【0001】。
) OLEDディスプレイは,液晶ディスプレイ(LCD)と比較して,より速い応答時間,より大きな視野角,より高いコントラスト,より軽い重量,より低い電力,及びフレキシブル基板への従順性を備えているため,最近,高い関心を集めている(【0002】。
) しかし,ディスプレイデバイスの寿命は,有機又はポリマー材料の劣化及び非発光ダークスポットの形成に起因することがあり,このような材料劣化及びダークスポット形成の問題は,水分及び酸素侵入によって引き起こされることがある 【00 (03】。
) したがって,当技術分野では,劣化しない又は非発光ダークスポットを形成しない長寿命のOLED構造体が必要とされている(【0004】。
) 本願発明は,このような必要性に鑑みてなされたもので,基板と,前記基板の上に配置される有機発光ダイオード部分(【0014】〜【0021】,図2)と,前記有機発光ダイオード部分上に配置される多層水障壁封止構造体とを含み,前記多層水障壁封止構造体は,シリコンを含む1以上の層及び炭素を含む1以上の層を含み(【0028】〜【0031】,図4),前記多層水障壁封止構造体の各層は同一の厚さである(【0031】,有機発光ダイオード構造体であり,上記の多層水障壁封 ) 止構造体により水分及び酸素の侵入が防止される。
2 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について (1) 引用文献(甲1)には,以下の記載がある。
【請求項1】 @)有機基板層と, A)有機基板層上の多層浸透障壁とを含む多層構造であって,該障壁が, a)該基板層の表面に接触する第1の無機コーティングと, b)第1の無機コーティングの表面に接触する第1の有機コーティングとを含む多層構造。
【請求項6】無機コーティングは厚さが45nmから350nmである,請求項1,2,または5に記載の多層構造。
【請求項8】有機コーティングは厚さが20nmから500nmである,請求項1,2,5,6,または7に記載の多層構造。
【請求項11】各有機コーティングは厚さが20nmから500nmであり,第2の浸透障壁の少なくとも1つの有機コーティングは,厚さが1μmよりも厚く最大で10μmである,請求項3,4,または9に記載の多層構造。
【請求項14】各無機コーティングは,SiO2,SiOx,SiOxCy,Si3N4,SixN yCz,SiOxNy,TiO 2 ,TiO x,ZrO2 ,ZrO x,Al 2O3,SnO2,In2O3,ITO,PbO,PbO2,B2O3,P2O5,酸化タンタル,酸化イットリウム,酸化バリウム,酸化マグネシウム,無定形炭素,硫黄,セレン,フッ化マグネシウム,フッ化カルシウム,酸化カルシウム,それらの混合物,それらの合金または化合物から成る群から選択される無機材料で完全にまたは基本的に作られ,この場合xは1から3までの整数を表し,yは0.01から5の範囲の数を表し,zは0.01から5の範囲の数を表す,請求項1から13のいずれか一項に記載の多層構造。
【技術分野】 【0001】技術分野 本発明は,水蒸気および酸素を浸透させない 構造,ならびにその構造を含む装置と,そのような構造および装置を製造する方法とに関する。
【背景技術】 【0002】背景技術 障壁コーティングは,重合材料に対する気体および蒸気の浸透度を数オーダー程度低減させることができる。このようなコーティングは,食品および薬品の包装ならびに電子用途においてガラスに代わることのできる材料を作製するのに用いられる。 ・ ・ 特に重要で要求のきびしい用途として, ・有機半導体に基づく発光装置または光起電力装置に関する用途がある。
【0003】有機発光ダイオード(OLED)装置は,透明な基板が透明な導電材料,たとえば,発光ダイオードの最下層として正孔注入電極を形成する酸化すずインジウム(ITO)で被覆される発光ディスプレイである。ダイオードの残りの層は,ITO層に隣接する層から始まり,正孔輸送層(HTL),電子輸送層(ETL),および電子注入電極を含む。
【0007】このようなOLEDは,効率が高く,最も重要な点としてコストの安いアクティブ有機ディスプレイの新しい世代を構成する。このようなディスプレイでは,透明な材料に密封された発光ダイオードのマトリックスによって高品質の画像が形成される。
【0008】ダイオードは,画素マトリックスを形成するようにパターン化され,この場合,単一画素接合部またはELが所与の色の光を放出する。現在までに設計されているすべての有機ディスプレイは,酸素または水分の影響を受ける要素,すなわち,有機半導体および電子注入金属を含んでいる。
【0009】したがって,ダイオードは,酸素および水蒸気に対する障壁を形成し,ダイオードの各層を覆う不浸透層と,好ましくは透明度が高く,不浸透性であり,酸素および水蒸気に対する障壁を形成する,覆われたダイオードの支持体によって保護する必要がある。
【0010】従来,支持体としてガラス板が選択されている。これは,ガラス板が優れた障壁および透明度特性を有するからである。一方,ガラス板は脆弱であり, 重量が重く,堅いという欠点を有している。
【0011】装置の不浸透保護層と支持材料の両方として,プラスチック膜の需要が高い。これは,プラスチック膜が可とう性であり,耐衝撃性が高く,重量が軽く,特に,従来用いられているバッチ処理とは異なり,ロール・ツー・ロール処理が可能であるからである。このようなプラスチック膜はもちろん,基本的に不浸透性であり,酸素および水蒸気の透過率が低いべきである。
【0015】したがって,問題は,基本的に酸素および水蒸気に対する障壁となり,エンベロープ機能に十分な小さい厚さになるように,かつ有機装置の商業的な製造,好ましくはロール・ツー・ロール処理に容易に使用できるように作製することができる可とう性のポリマー膜の開発である。
【0016】市場の要求を満たすために,OLED用のポリマー膜は,酸素分子および水分子の透過を,典型的な装置の寿命が少なくとも10,000時間になる程度に制限する必要がある。
【0017】可とう性包装技術分野では,ポリマー膜またはシートを薄い有機コーティング(判決注:「無機コーティング」の誤り),たとえば金属酸化物コーティングで被覆し,ポリマー膜またはシートを基本的に酸素および水蒸気を浸透させないようにすることが知られている。
・・・しかし,食品およびその他の産業における可とう性の包装の短い有効寿命において受け入れられる浸透性のレベルが・・・数年の寿命を有さなければならない有機発光ダイオードに基づく有機ディスプレイに対する厳密な要件を満たさないことは確かである。
【発明の開示】 【0026】発明の開示 本発明の目的は,様々な装置に用いることのできる,水蒸気および酸素に対する浸透障壁を形成する多層構造を提供することである。
【0027】本発明の他の目的は,そのような構造を組み込んだOLED装置などの装置を提供することである。
【0028】本発明の他の目的は,この構造および装置を作製する方法を提供す ることである。
【0049】図1〜4は,多層障壁コーティングで被覆された基板プラスチック膜のいくつかの構成を示している。この構造は,さらにOLED要素またはその他のディスプレイ要素を付着させるのに用いることができる。
【0050】図4に示されているように,矢印で示されている浸透方向に沿って見ると,浸透物は気相(たとえば,大気)から基板プラスチック膜12に入る。次いで,浸透物は,基板プラスチック膜12を通って拡散し,第1の無機コーティング14内の不連続部または欠陥(開口部)を通過する。次に,浸透物は,第1の有機コーティング16を通って拡散し,第2の無機コーティング14内の開口部を通過し,次いで,第2の有機コーティング16を通って拡散し,引き続き多層障壁コーティングを通過し,このようにして連続するコーティングを通過していく。
【0052】PETなどのプラスチック基板膜の拡散係数はすでにかなり低い。
本発明によってこのような膜上に直接無機障壁コーティングを付着させると,浸透度も何オーダーも低下する。しかし,従来技術と同様に,このような膜をまず,より高い拡散係数を示すより浸透度の高い有機コーティングで被覆すると,障壁性能が低下する。
【0055】図1〜4は,後でOLEDまたは他の電子装置を付着させるのに用いることのできる,障壁で被覆されたプラスチック基板を示している。図5から8は,すでに不浸透性の基板(図6)上に付着しているOLED(図5から7)または他の電子装置(図8)を密封する多層コーティングの構成を示している。図5から7は,ガラス上に作製されたOLEDを示している。一般に,図5から7は,他の剛性または可とう性の基板上に作製された他の装置を示す場合もある。ここで,無機コーティング14は,浸透方向に沿って見た場合,プラスチック膜,すなわち有機基板12にも接触する。このプラスチック膜は,図1から4の基板であっても,上下逆さまに配置され接着剤によって固定された構造全体であっても,たとえば,拡散係数の小さい硬化可能な樹脂の,厚いマルチマイクロメール・トップコート保 護層であってもよい。
【0056】図7は,すでに本発明によって作製された可とう性の障壁-基板上に付着させられ,同じ種類の障壁-基板を用いて密封され,上下逆さまに配置され,接着剤を用いて接着されたOLED装置を示している。
【0064】本発明の構造における有機コーティングは,果たすべき2つの役割を有し,すなわち,(T)無機コーティング内の欠陥の近くの浸透を阻止し,(U)有機コーティングに達した浸透物分子を広い表面積にわたって分散させる。役割(T)の場合,有機層は薄いほどよく(たとえば,100nmよりも薄い) 役割 , (U)の場合,平均欠陥サイズよりも厚い有機層の方がよい(たとえば,1000nmよりも厚い)。厚い有機コーティング(厚さが1000nmを超える)が多層障壁内に埋め込まれた中間層であり,かつ厚い有機コーティングが,有機構造に接触する第1の無機層に接触しないことが特に好ましい。
【0065】 ・・・薄い無機コーティングの場合・・・コーティングは厚いほどよいが,コーティングが厚くなりすぎ,たとえば350nmを超えた場合,応力が作用し始め,応力によるひび割れのために障壁が劣化する。
【0066】好ましい実施形態の詳細な説明 多層障壁は,無機材料と有機材料の交互のコーティングで構成され,無機障壁構成コーティングは有機基板に直接接触する。
【0072】b)多層障壁コーティング・・・ 【0076】 ・・・無機コーティングは・・・より好ましくは45nmから350nmである。
【0077】浸透物の曲がりくねった経路および分布を形成するのに好適な,各有機コーティングの厚さは・・・好ましくは20nmから50nm(判決注: 「500nm」の誤り)である。
【0078】厚さが90nmよりも薄いかまたは1100nmよりも厚い有機コーティングを使用すると特に有利である。
【0080】厚さが1100nmよりも厚いとき,障壁システムの内部に達する少量の浸透物を広い表面積にわたって拡散させることは,装置の寿命の点で有利である。このために,多層障壁の内側の有機コーティングを好ましくは,平均欠陥サイズよりも厚くし,すなわち,1μmよりも厚くすべきである。
【0081】他の特に好ましい態様では,無機コーティングはそれぞれ厚さが10nmから350nmであり,有機コーティングはそれぞれ厚さが20nmから500nmであり,少なくとも1つの有機コーティングは好ましくは,厚さが1μmよりも厚い。
【0087】本発明の多層無機/有機障壁構造は,プラスチック膜基板と,少なくとも1つの無機コーティングおよび少なくとも1つの有機コーティングを含む多層障壁とを含み,基板上に付着させた多層無機/有機障壁システムは,85℃および50%RHで100時間よりも長い時間にわたって「カルシウム試験」に合格する。
【0088】本発明の多層浸透-障壁構造は通常,ASTM法F1927およびD3985によって測定され,2cm3/m2日よりも低く,好ましくは0.01cm3/m2日よりも低い酸素浸透度を有する。
【0090】この構造は,高障壁包装材料,ディスプレイ,光起電力装置,発光装置,医療装置,保護コーティングなどを製造する際に用いることができる。
【0091】c)無機コーティング より堅い材料を形成する適切な無機コーティングは,SiO2,SiOx,SiOxCy,Si3N4,SixNyCz,SiOxNy,TiO2,TiOx,ZrO2,ZrOx,Al2O3,SnO2,In2O3,PbO,PbO2,ITO,酸化タンタル,酸化イットリウム,酸化バリウム,酸化マグネシウム,フッ化マグネシウム,フッ化カルシウム,酸化カルシウム,その他の金属酸化物およびハロゲン化物,P2O5,Be2O3,その他の非金属酸化物,無定形炭素,硫黄,セレン,それらの混合物,合金,または化合物から成る群から選択される無機材料で完全にまたは基本的に作られる。この場合,xは好ましくは1から3 の範囲の整数を表し,yは,好ましくは0.01から5の範囲の数を表し,zは,好ましくは0.01から5の範囲の数を表す。
【0096】多層障壁内の層の数は有意であり,層の最小数は2つである。これよりも多い層における浸透度は一般により低くなるが,依存性は線形ではなく,多層プラスチック内の拡散に関する規則に従わない。・・・ 【0097】通常,層の最大数は101であり,好ましくは層数は5から11であり,無機コーティングと有機コーティングの両方を含む。
【0098】図面の詳細な説明 図1を参照すると,多層障壁構造10は,無機コーティング14および有機コーティング16を有する有機膜基板12を含み,矢印は浸透方向を示している。無機コーティング14は,基板12の表面18に直接接触する。
【0099】図2において,多層障壁構造100は,有機膜基板12と,基板12に直接接触する無機コーティング14と,コーティング14上の有機コーティング16と,コーティング16上の第2のコーティング114とを含んでいる。
【0100】図3において,多層障壁構造200は,所定の順序に付着させたいくつかの異なる無機および有機コーティング層を有し,特に,第1の無機コーティング14は,基板12に接触し,有機コーティング16は無機コーティング14に接触し,第1の無機コーティング14と同じ材料の第2の無機コーティング114 は有機コーティング16と接触し,第2の種類の無機コーティング24は第2の無機コーティング114を被覆し,第2の種類の有機コーティング26は無機コーティング24に接触し,コーティング14および114と同じ種類の最後の無機コーティング214は,有機コーティング26に接触し,矢印は浸透方向を示している。
【0101】図4において,多層障壁構造300は,無機コーティング14と有機コーティング16との7つの交互の層をプラスチック膜基板上に含み,矢印は浸透方向を示している。無機コーティングはすべて,有機コーティング16と同じ種類である。
【0102】図5において,OLEDアセンブリ50は,ガラス基板54を有するOLED52を密封する図2の多層障壁構造100を有している。構造100は,OLED52上に密封カバー56を形成し,矢印は拡散方向を示している。
【0103】図6は,構造100の無機コーティング14と,保護層58と,低仕事関数電極層60と,電子輸送有機層62と,正孔有機層64と,透明導電電極,たとえば,インジウム酸化すずITO66と,薄膜トランジスタ(TFT)を含む典型的なアクティブ・マトリックス・ディスプレイの概略的に示されている他の構成要素68とを有する図5のOLED52(図5の磁化された部分(判決注「図5の拡大された部分」の誤り))の概略図である。ガラス基板は修飾することができ,たとえばSiNコーティングで不動態化することができる。
【0104】図7は,ガラス基板54を持つOLED52を密封する多層障壁構造400を有する,他の態様におけるOLEDアセンブリ150の概略図である。
構造400は,OLED52上に密封カバー156を形成し,プラスチック膜12上に複数の無機コーティング14および有機コーティング16を有している。接着剤構成層402,たとえば,硬化可能な接着剤樹脂は構造400をOLED52に結合しており,矢印は拡散方向を示している。
【0105】図8において,一対の多層障壁構造500および600は可とう性の電子装置70を密封している。構造500は,図1と同様に無機コーティング14と有機コーティング16の多層障壁を含む底部障壁を,有機膜基板12,すなわち可とう性のプラスチック膜基板上に形成している。
【0106】構造600は,それぞれ可とう性のプラスチック基板22上のコーティング14および16とは異なる無機コーティング24および有機コーティング26の多層障壁と,構造600を装置70に結合する接着供与層402,たとえば,硬化可能な接着剤樹脂とを含む頂部障壁システムを形成しており,矢印は拡散方向を示している。
【0108】実施例T この実施例では,ポリエチレンテレフタレート(PET)膜の表面上に順次付着させた無機層(実施例ではSiO2と呼ばれるプラズマ付着シリカ)と有機層(プラズマ重合ヘキサメチルジシロキサンPP-HMDSO)の 多層構造を含む高障壁材料の作製について説明する。
【0111】・・・PET/SiO 2/PP HMDSO/SiO2/PP HMDSO/SiO2の5層高障壁材料の最終構造を得た。連続する層の厚さは表1に示されている。
【0113】実施例U この実施例では,ポリエチレンテレフタレート(PET)膜の表面上に順次付着させた無機層(プラズマ付着シリカ)と有機層(プラズマ重合ヘキサメチルジシロキサンPP-HMDSO)の多層構造を含む高障壁材料の作製について説明する。
【0116】・・・PET/SiO 2/PP HMDSO/SiO2/PP HMDSO/SiO2の5層高障壁材料の最終構造を得た。連続する層の厚さは表2に示されている。
【0118】実施例V この実施例では,ポリシクロオレフィン膜基板の表面上に順次付着させた無機層(プラズマ付着シリカ)と有機層(プラズマ重合ヘキサメチルジシロキサンPP-HMDSO)の多層構造を含む高障壁材料の作製について 説明する。
【0119】 ・ ・ 連続する層の厚さは実施例Iに示されている厚さと同様である。
・ 【0121】実施例W 上記の実施例TおよびUに示されているパラメータと同様のパラメータを用いて,2種類のサンプル,すなわち,a)PET/SiO2/PP-HMDSO,およびb)PET/PP-HMDSO/SiO 2を作製した。
【0122】・・・タイプbのサンプルの場合は約3cm 3/m2 日であったが,タイプaのサンプルの場合は計器の感度限界(すなわち,0.1cm 3/m2日)に近い透過率であることが分かった。このことは,PET基板に直接接触するSiO2 コーティングを含む2層構造が,中間プラズマ・ポリマー(PP HMDSO)層上にSiO2コーティングを付着させた構造よりも小さいOTR値を示すことを明確に示している。
(2) 以上から,引用発明の概要は,以下のとおりである。
引用発明は,水蒸気及び酸素を浸透させない構造を含む装置に関する(【0001】。
) 有機発光ダイオード(OLED)は,効率が高く,新しい世代の低コスト有機ディスプレイを構成するところ 【0007】, ( ) 現在までに設計されている全ての有機ディスプレイは,OLEDに酸素又は水分の影響を受ける有機半導体及び電子注入金属を含むため(【0008】,酸素及び水蒸気に対する障壁を形成し,OLEDの )各層を覆う不浸透層と,好ましくは透明度が高く,不浸透性であり,酸素及び水蒸気に対する障壁を形成する支持体によって,OLEDを保護する必要がある 【00 (09】。
) 不浸透保護層と支持材料の両方として,従来のガラス板に代わり,プラスチック膜の需要が高いが(【0011】,プラスチック膜は,金属酸化物コーティングで被 )覆しても,酸素及び水蒸気に対する浸透性のレベルが,数年の寿命を有さなければならないOLED有機ディスプレイに求められる要件を満たすことができない【0 (015】〜【0017】。
) そこで,引用発明は,水蒸気及び酸素に対する浸透障壁を形成する多層構造を組み込んだOLED装置を提供することを目的とする(【0026】【0027】。
, ) 引用発明は,ガラス基板54を有するOLED52を密封し,水蒸気を浸透させない多層障壁構造100をOLED52上に有するOLEDアセンブリであって, 当該多層障壁構造100は,有機膜基板12と,有機膜基板12上の多層浸透障壁とを含む多層障壁構造100であって, 該多層浸透障壁は,前記有機膜基板12の表面に接触する無機コーティング14と,前記無機コーティング14の表面に接触する有機コーティング16とを含み(【0102】【0001】 , ,請求項1,図5,6), 前記無機コーティング14は,厚さが45nmから350nmであり(請求項6,【0076】,前記有機コーティング16は,厚さが20nmから500nmであ )り(請求項8,【0077】, ) 前記無機コーティング14は,SiO 2,SiOx,SiOxCy,Si3N 4,SixNiyCz,SiOxNy,TiO2,TiOx,ZrO2,ZrOx,Al2O3,SnO2,In2O3,ITO,PbO,PbO 2,B2O3,P2O5,酸化タンタル,酸化イットリウム,酸化バリウム,酸化マグネシウム,無定形炭素,硫黄,セレン,フッ化マグネシウム,フッ化カルシウム,酸化カルシウム,それらの混合物,それらの合金又は化合物からなる群から選択される無機材料で作られる(請求項14,【0091】,OLEDアセンブリである。
) 引用発明では,多層障壁構造100が水蒸気及び酸素に対する浸透障壁となるため,上記の目的が達成される。
(3)ア 原告は,引用文献の【0064】を根拠に,引用発明における「有機コーティング16」には,異なる2つの役割があり,それに応じて2種類の厚さが必要となるにもかかわらず,審決は,この点を看過して引用発明を認定した,と主張する。
しかし,引用文献の【0064】に「有機コーティングに達した浸透物分子を広 い表面積にわたって分散させる。 役割を果たすとされる 」 「平均欠陥サイズよりも厚い有機層」である,例えば,1000nmよりも厚い有機コーティングを有する構成は,引用文献の請求項11に記載されているものの,引用発明の認定の基礎となった,請求項1,6,8及び14には記載されていない。そして,審決が,上記請求項のみを基礎として引用発明を認定したことに,格別の問題はない。なお,引用文献の【0064】の記載は,「有機層は薄いほどよく」「平均欠陥サイズよりも厚い有機層の方がよい」と好ましい態様を示すにとどまっている。
したがって,引用発明において,2種類の厚さの有機層が必須であると解することはできない。
イ また,原告は,引用発明の多層障壁構造をOLEDの障壁として適用する場合には,薄い有機コーティング以外に,装置の寿命を延ばす働きがある厚い有機コーティングを含む構成を出発点とするしかない,と主張する。
しかし,原告がその根拠とする引用文献の【0080】及び【0081】には,厚い有機コーティングが1μmよりも厚いことが好ましい旨が記載されているにとどまり,必須の事項として記載されているわけではない。
また,引用文献の請求項1,6,8及び14の記載中で,有機コーティング16の厚さを規定しているのは,請求項8の「有機コーティングは厚さが20nmから500nmである」という記載のみであって,「厚い有機コーティング」(例えば,1000nmより厚い。)に相当する構成は,上記アのとおり,引用発明の認定の基礎として用いていない請求項11には記載されているものの,請求項1,6,8及び14には記載されていない。したがって,引用文献では,原告が主張する「厚い有機コーティング」を含む構成が示されてはいるが,引用発明では,これを必須の構成としていないから,厚い有機コーティングを含む構成を出発点とするしかない,とはいえない。
ウ よって,取消事由1には,理由がない。
3 取消事由2(本願発明と引用発明との対比判断の誤り)について (1) 原告は,審決が,引用発明の有機膜基板12は炭素を含む層であるにもかかわらず,これを除いた有機コーティング16のみを,本願発明の「炭素を含む層」に相当するとして,本願発明と引用発明とを対比判断したことは,誤っている,と主張する。
(2)ア 審決は,引用発明の有機膜基板12を,本願発明の「多層水障壁封止構造」に含めず, 「基板」又は「有機発光ダイオード」でもない,本願発明の請求項1に記載されていない任意の構成であるとして,本願発明と引用発明を対比したものである。
イ 本願発明の有機発光ダイオードは,請求項1の文言上, 「基板」「基板の ,上に配置される有機発光ダイオード部分」及び「有機発光ダイオード部分上に配置される多層水障壁封止構造体」を「含む」ものである。
「基板」の下, 「基板」と「有機発光ダイオード部分」との間, 「有機発光ダイオード部分」と「多層水障壁封止構造体」との間,及び, 「多層水障壁封止構造体」の上に何らかの構成を有することを排除するものではない。本願明細書には, 「多層水障壁封止構造」の基板と反対側に特段の構造を有しないことに何らかの効果その他の意味があるとの示唆もない。
また,本願明細書【0027】は,上記1のとおり,「基板」「有機発光ダイオード部分」又は「多層水障壁封止構造体」に含まれない, 「封止層406」が存在するものを本願発明の実施形態としており, 封止層406」 「有機」 「 は 封止層であり 【図 (4】 ,水障壁機能を有する( ) 【0031】)ものである。したがって,本願発明は,「多層水障壁封止構造体」に含まれないが, 「有機」の層であって水障壁機能を有しない構成を有していてもよいものである。
ウ 上記イのとおり,本願発明は,「基板」「有機発光ダイオード」及び「多層水障壁封止構造」以外の構成が存在することを排除していないし,当該他の構成は「有機」であって,水障壁機能を有していてもよい。そうすると,本願発明は,本願明細書【図4】のような,「多層水障壁封止構造」と「基板」との間に,「有機発光ダイオード」を包み込むような態様ではなく, 「多層水障壁封止構造」 「基板」 の 側とは反対側に「有機」であって水障壁機能を有する構造があることをも許容すると解するのが相当である。
したがって,審決が,引用発明の「有機膜基板12」を,本願発明の「多層水障壁封止構造」に含めず,本願発明と引用発明とを対比したことに,誤りはない。
(3) 以上より,取消事由2には,理由がない。
4 取消事由3(相違点に関する判断の誤り)について 原告は,本願発明は,引用発明の有機膜基板12を含まない点において相違し,当該相違点は容易想到ではないから,審決は,相違点に関する判断を誤った,と主張する。
しかし,3(2)イ及びウのとおり,本願発明は,「多層水障壁封止構造体」に含まれない「有機」の水障壁機能を有する構造が, 「多層水障壁封止構造」の「基板」の側とは反対側に存在することも許容するから,引用発明の有機膜基板12を含む実施態様も,本願発明に含まれている。原告の主張は,その前提を欠く。
よって,取消事由3にも理由がない。
結論
以上のとおり,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 片岡早苗
裁判官 古庄研