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関連審決 不服2013-25515
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事件 平成 27年 (行ケ) 10188号 審決取消請求事件

原告 ラプトールファーマシューティカル インコーポレイテッド
訴訟代理人弁護士 山本健策 草深充彦 難波早登至 弁理士 長谷部真久
被告特許庁長官
指定代理人中島庸子 三原健治 井上猛 田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/09/21
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
-1-事 実 及 び 理 由第1 原告の求めた裁判特許庁が不服2013−25515号事件について平成27年5月8日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要本件は,特許出願に対する拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,実施可能要件(特許法36条4項1号)違反についての判断の当否である。
1 特許庁における手続の経緯原告は,名称を「環状受容体関連蛋白ペプチド」とする発明につき,平成20年3月21日を国際出願日(本件出願日)として,特許出願(特願2010−501126号)をし(パリ条約に基づく優先権主張 平成19年3月21日・アメリカ合衆国)(甲2),平成25年7月19日に手続補正をした(甲7)。
原告は,平成25年12月26日,拒絶査定不服審判請求をし(不服2013−25515号。甲10),同日,手続補正(本件補正。甲11)をした。
特許庁は,平成27年5月8日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同審決謄本は,同月20日,原告に送達された。
2 本願発明の要旨本件補正後の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(本願発明)は,以下のとおりである(甲11)。
「配列番号97に少なくとも70%同一である50個の連続するアミノ酸を含み,そして1x10−8M以下の結合親和性KdでCR含有蛋白に結合する,85アミノ酸長以下である環状RAPペプチドであって,該CR含有蛋白は,LDLR(P01130),LRP1(P98157),LRP1B(Q9NZR2),LRP2(P-2-98164),LRP3(O75074),LRP4(O75096),LRP5(O75197),LRP6(O75581),LRP8(Q14114),ソルチリン関連受容体,SorLA(Q92673),LRP10(Q7Z4F1),LRP11(Q86VZ4),LRP12(Q9Y561),FDC−8D6(CD320),VLDLR(P98155),TADG−15(ST14,Q8WVC1),TMPS3(P57727),TMPS4(Q9NRS4),TMPS6(Q8IU80),Q6ICC2,Q6PJ72,Q76B61,Q7RTY8,Q7Z7K9,Q86YD5,Q8NAN7,Q8NBJ0,Q8WW88,Q96NT6,Q9BYE1,Q9BYE2,Q9NPF0及びcorin(Q8IZR7)よりなる群から選択される,環状RAPペプチド。」3 審決の理由の要点本願明細書には,本願発明に包含される環状RAPペプチドとして,5個までのアミノ酸変異を有する数個のペプチドを製造したことが記載されているにとどまり,「配列番号97のアミノ酸配列に少なくとも70%同一である50個の連続するアミノ酸を含み,85アミノ酸長以下である環状RAPペプチド」であれば,「1x10−8M以下の結合親和性KdでCR含有蛋白に結合し,該CR含有蛋白は列挙された34個の群から選択される」ことの合理的な説明も記載されていない。
一方,受容体等に結合するペプチドは,その結合する領域の1〜数個のアミノ酸を変異させただけでも,受容体との結合親和性が変化することが本件出願日当時の技術常識であり,そのことは,本願明細書の実施例11(判決注:実施例1の誤記と思われる。)でも,RAPペプチドの1〜5個のアミノ酸を変異させただけで,各CR含有蛋白との結合親和性が変化したことからもうかがえる。
そうすると,「配列番号97のアミノ酸配列に少なくとも70%同一である50個の連続するアミノ酸を含み,85アミノ酸長以下である環状RAPペプチド」であって,「1x10−8M以下の結合親和性KdでCR含有蛋白に結合し,該CR含有蛋白は列挙された34個の群から選択される」という環状RAPペプチドを製造-3-するためには,本願明細書【0014】,【0019】,【0021】,【0022】及び【0239】の記載,並びに,アミノ酸配列から各CR含有蛋白との結合親和性を予測できないという本願出願日当時の技術常識を考慮すると,本願明細書の【0019】に示唆された「246,247,249,250,251,256,257,261,266,267,268,270,273,279,280,287,290,294,296,297,298,305,308,311,312,313」のいずれかの位置に,1〜15個(50個×30%)の変異を行い,列挙された34個のCR含有蛋白との結合親和性を調べるという,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要することは明らかである。
したがって,本願の発明の詳細な説明には,本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
第3 原告主張の審決取消事由1 審決は,実施可能要件(特許法36条4項1号)の判断を誤ったものであるから,取り消されるべきである。
2 取消事由1(過度の試行錯誤が不要であること)本願発明に係るペプチドを製造するに当たり,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤は必要ではない。
(1) 当業者は,変異しても受容体との結合親和性に影響を及ぼさない多数のアミノ酸を特定した上で,そのようなアミノ酸を除外してペプチドの製造及びその機能性の確認を行うことが可能であった。
本件出願日当時において,RAPペプチドの受容体結合部位がどこかという点は,当業者にとっての技術常識だったから,当業者は,1〜数個のアミノ酸を変異させても受容体との結合親和性が変化しないRAPペプチドの領域を容易に特定することができた。また,当業者は,どのアミノ酸残基が,多種多様な受容体との結合において重要な役割を担うのかに関する十分な知識を有していた。
-4-そして,アミノ酸のうち,受容体に結合する領域以外に存在するアミノ酸を変異させた場合には,受容体との結合親和性が変化しない。
よって,当業者は,本願発明に係るペプチドの製造に当たり,変異しても受容体との結合親和性に影響を及ぼさないアミノ酸を除外してペプチドの製造及びその機能性の確認の作業をすることが可能である。
したがって,本願発明に係るペプチドを製造するに当たり,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤は必要ない。
(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項35(請求項35)は,226,230,232,239,241,242,246,247,249,250,251,256,257,261,266,267,268,270,273,279,280,287,290,294,296,297,298,305,308,311,312,313,314又は315位でのアミノ酸配列の変異を記載している。また,本願明細書【0020】【0021】, ,実施例1(【0201】)及び表4は,アミノ酸残基のうち,改変されることがあり,かつ,LRP1,LRP2,マトリプターゼ,VLDLR,及びFDC−8D6に対する選択的結合を与える残基を記載している。
このことからも,当業者は,過度の試行錯誤をすることなく,請求項に包含されるペプチドを容易に合成し,受容体であるLRP1,LRP2,マトリプターゼ,VLDLR,及びFDC−8D6に対する結合親和性について容易に試験することができる。
(3) 本願明細書に記載されている本願発明に係るペプチドの製造方法は,当業者にとって負担となるものではない。
ア 本願明細書の実施例1及び【0209】〜【0227】に記載されているファージディスプレイ技術及びPCRによるランダム変異誘発を用いるランダム変異誘発スクリーニングは,本件出願日当時の常套の手法であり,慣用的な実験を超えるものとは解されていなかった(甲15〜17) したがって,。 本願発明には,-5-多数の(例えば,被告が主張するような最大で10 31個の)クローンが包含され得るが,この数のクローンをスクリーニングするための方法は,当業者が容易に実施可能であった。
変異の有無にかかわらず環状RAPペプチドを作製する方法は,本願明細書の【0153】〜【0158】に記載されるとおりである。
イ 例えば,開発業務受託機関(CRO)に委託すれば,本願発明に包含されるあらゆるペプチドを合成することが可能である。CROは,例えば,2週間程度の短期間に100個のペプチドを合成することが可能である。そして,個々のCR含有タンパクとの結合親和性を決定するスクリーニングは,本件出願日当時の技術常識参酌して本願明細書の記載を読んだ当業者が,2週間程度で実施することができる試験である。
したがって,本願発明の実施には,長時間も膨大な費用も必要ではない。
ウ 仮に,本願発明のペプチドについて網羅的に合成して試験した場合に長時間及び膨大な費用がかかったとしても,当業者は慣用的手法によって本願発明ペプチドの網羅的な合成及び試験を容易に行うことができるのだから,本願発明が実施可能要件を充足するという結論に変わりはない。
3 取消事由2(実施例が十分であること)本願明細書には,本願発明に係るペプチドの製造例が十分に記載されている。
(1) 「パーセント同一」の解釈について審決は,本願明細書においては本願発明に包含される環状RAPペプチドとして,5個までのアミノ酸変異を有する数個のペプチドしか製造されていないと認定するが,誤っている。
アミノ酸の変異には,アミノ酸残基の置換のみならず,アミノ酸残基の欠失も含まれる。そして,本件出願日当時の当業者は,アミノ酸配列相互の同一性を判断するに当たり,長いペプチドを全長として配列同一性を判断するという手法を用いていた(甲14)。仮に,短いペプチドを全長として配列同一性を判断すると,長いペ-6-プチドと,長いペプチドに含まれるわずか数残基の短いペプチドとの間の配列同一性が常に100%となるにもかかわらず,そのような短いペプチドは長いペプチドが有する機能を有しない蓋然性が高く,配列同一性が100%であるにもかかわらず,機能を保持していないペプチドが多数存在し,不合理である。
下記(2)で述べるとおり,本願明細書に記載されるmRAP−14cは,3個のアミノ酸が変化した60アミノ酸の短縮型ペプチドだから,本願明細書には,配列番号97の71残基に対して57残基が同一であるペプチド,すなわち,80%の同一性を示すペプチドが具体的に記載されている。
(2) 本願明細書に記載されている本願発明に係るペプチドの製造例本願明細書の実施例3及び4は,様々なCR含有蛋白に結合する変異されたRAPペプチドの短縮型(mRAPc(75アミノ酸長),mRAPcko(75アミノ酸),mRAP−8c(67アミノ酸長),ヘプタイド(68アミノ酸長)及びmRAP−14c(60アミノ酸長))を示し,これらの変異されたRAPペプチドについて,そのそれぞれの受容体に対する結合親和性を示している。また,本願明細書は,ペプチドの長さ60〜75アミノ酸で変化させ,様々なアミノ酸変異を含めても,所望の受容体結合活性を有することを示す例を提供している。例えば,RAPの残基250−309と変異F250C,L308G及びQ309Cとを含むmRAP−14cは,配列番号97と比較して14の変化を有し(11アミノ酸残基短く,かつ,3つの置換変異を含む。,配列番号97に80%の同一性を有する。
)また,アミノ酸の変異には,アミノ酸残基の置換のみならず,アミノ酸残基の欠失も含まれるのであるから,本願明細書には,5残基よりも多くの残基を変異させたRAP改変体が記載されているというべきである。例えば,本願明細書に記載されるmRAP−14cは,3個のアミノ酸が変化した60アミノ酸の短縮型ペプチドであるから,合計14アミノ酸残基が異なるため,配列番号97の71残基に対して57残基が同一であるペプチド,すなわち,80%の同一性を示すペプチドである。
-7-さらに,本願明細書の実施例4は,本願発明に係るペプチドであるmRAP−14cが受容体LRP1に対して約21nMの結合親和性で結合することを示している。ヘプタイドは,RAPの246番目のアミノ酸残基〜313番目のアミノ酸残基に由来し,5つのアミノ酸置換(E246C,L247G,G280A,L311A,及びS312C)を含んでいる。すなわち,mRAP−14cは,配列番号97と8アミノ酸残基が異なり,約3.5nMの結合親和性で受容体であるLRP1に結合するペプチドであり,本願発明に係るペプチドである。
この他にも,多数のRAPペプチド変異体(例えば,mRAPc及びmRAPckoは75アミノ酸長であり,mRAP−8cは67アミノ酸長であり,ヘプタイドは68アミノ酸長であり,mRAP−14cは60アミノ酸長である。)と,種々のCR含有蛋白との組合せが本願明細書に記載されている。本願明細書の図9においても,RAPペプチド短縮型が結合親和性を増加させることが示されている。
以上のとおり,本願明細書には,本願発明に係るペプチドの製造についての実施例が数多く記載されており,本願発明は実施可能要件を満たしている。
4 取消事由3(審決が指摘する技術常識が存在していなかったこと)本件出願日において,審決において指摘されている「受容体等に結合するペプチドは,その結合する領域の1〜数個のアミノ酸を変異させただけでも,受容体との結合親和性が変化する」との技術常識は存在していなかった。
審決は,本件出願日当時,「受容体等に結合するペプチドは,その結合する領域の1〜数個のアミノ酸を変化させただけでも,受容体との結合親和性が変化する」との技術常識が存在していたことを前提として,本願発明に係るペプチドを取得するに際しては当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要となる旨認定している。
しかし,本願明細書の【0232】に「これら2部位以外では多様な置換パターンを有していた」との記載があることなどから明らかなように,受容体との結合親和性に影響を与えない多数のアミノ酸変異が存在することから,アミノ酸を変化さ-8-せることによって受容体との結合親和性が変化する蓋然性は高くなく,そのような技術常識が存在するとはいえない。なお,審決は,そのような技術常識が存在することの根拠として,本願明細書の実施例1を取り上げるが,実施例1は,本願明細書が受容体との結合親和性に影響を与えるアミノ酸変異の同定に焦点を当てたものであるため,結合親和性が変化した変異を同定して記載したにすぎず,これを一般化して,1〜数個のアミノ酸を変化させただけで受容体との結合親和性が変化するとの結論を導くことはできない。
本件出願日当時において,RAPペプチドの受容体結合部位がどこかという点は,当業者にとっての技術常識であった(甲18,20,21)から,当業者は,1〜数個のアミノ酸を変異させても受容体との結合親和性が変化しないRAPペプチドの領域を容易に特定することができた。また,当業者は,本件出願日当時,どのアミノ酸残基が,多種多様な受容体との結合において重要な役割を担うのかに関する十分な知識を有していた。
したがって,本件出願日当時,「受容体等に結合するペプチドは,その結合する領域の1〜数個のアミノ酸を変異させただけでも,受容体との結合親和性が変化する」との技術常識は存在していなかったから,本願発明に係るペプチドを取得するのに際して当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要になるとの結論を導くことはできない。
5 取消事由4(疾患又は障害の処置のための実施例等が記載されていること)(1) 本願明細書は,環状RAPペプチドをどのように細胞及び動物に投与するかを教示しており,当該ペプチドがインビトロで細胞に治療剤を送達し,インビボで取り込まれることを示している(実施例5【0262】,実施例6【0269】及び実施例8【0277】等)。
これらの結果は,標的とされた細胞型における受容体に対する環状RAPペプチドが,細胞型が関与する疾患を処置するのに有用であることを示唆している。
(2) また,本願明細書は,疾患におけるCR含有蛋白の関連性を教示している-9-(【0007】〜【0009】,【0079】〜【0087】参照)し,治療剤に結合された環状RAPペプチドによる治療が企図される疾患や,記載されている治療が有効であろう症状についても記載している 【0088】 【0115】( 〜 参照)。
そして,本願明細書中で実証された環状RAPペプチドの取り込みと,RAPペプチドを含むペプチドの疾患の治療のための投与に関する当該分野の技術常識とに鑑みれば,本願発明に係るペプチドを用いる疾患の治療については,十分に記載がなされているというべきである。
さらに,特表2007−526227号公報(甲8の5頁以下)【0011】,【0242】及び【0289】には,RAP融合蛋白質が酵素を線維芽細胞に送達することや,モデル血液脳関門系を横切って薬剤を中枢神経系に送達するトランスサイトーシスが記載されているし,RAPペプチドの投与方法は,本願明細書【0178】〜【0198】に記載されており,中枢神経系への投与は【0185】等に記載されている。
以上より,本願明細書には,疾患又は障害の処置のための本願発明の実施方法及び実施例が詳細に記載されている。
第4 被告の反論1 取消事由1について(1)ア 原告は,アミノ酸のうち,受容体に結合する領域以外に存在するアミノ酸を変異させた場合には,受容体との結合親和性が変化しないことを前提に,当業者は,本件出願日当時,RAP受容体結合部位がどこかということを特定することができ,どのアミノ酸残基がどの受容体との結合に関わるのかを知っていたから,本願発明に係るペプチドを製造するに当たり,どのアミノ酸残基に変異導入すべきかを理解していた,と主張する。
イ しかし,アミノ酸のうち,受容体に結合する領域以外に存在するアミノ酸を変異させた場合に,受容体との結合親和性が変化しないとはいえない。本願発- 10 -明のペプチドは,配列番号97に少なくとも70%同一である50個の連続するアミノ酸を含むものであるから,最大15個の変異を包含するものである。そして,本願発明の変異にはアミノ酸の挿入や欠失も含まれているから,たとえ結合親和性には直接関連しない部位の変異であるとしても,数個〜15個までのアミノ酸が,連続して,あるいは不連続で,挿入され及び/又は欠失された場合には,ペプチドの立体構造が変化して,その結果,受容体との結合親和性が変化しないとはいえない。また,本願発明には,アミノ酸の15個程度を連続して置換することにより,その変異させた部位が新たな受容体との結合部位となるような変異も包含されている。
原告の主張は,その前提を欠き,失当である。
ウ さらに,CR含有蛋白がRAPペプチドの受容体結合部位に特異的に結合する場合であっても,その結合親和性は強い場合と弱い場合とがある(特異的に結合しない場合は,そもそも結合親和性など関係ない。 。
)「結合特異性」と「結合親和性」とは,異なるものである。そして,「結合特異性」と「結合親和性」は,いずれもRAPペプチドの受容体結合部位のアミノ酸残基が関与するといえるが,結合「親和性」については,RAPペプチドの受容体結合部位だけでなく蛋白質全体の構造の影響も受けると考えられる。
そうすると,CR含有蛋白(LRP1)の特異的結合に関与するRAP側の結合ドメイン(RAPペプチドの受容体結合部位)について解明されたとしても,それに基づいて,「当業者は,1〜数個のアミノ酸を変異させても受容体との結合親和性が変化しないRAPペプチドの領域を容易に特定することができた」とはいえない。
(2) 原告は,請求項35に変異を導入すべきアミノ酸配列の位置を示し,本願明細書【0020】【0021】, ,実施例1【0201】及び表4に,改変されることがあり,かつ,特定のCR含有蛋白に選択的結合を与える残基を記載している,と主張する。
しかし,本願明細書の実施例で製造された9個のペプチドは,いずれも246,- 11 -247,249,250,251,256,257,266,270,280,296,309,311及び312の14個のいずれかの位置に,2〜5個のみの変異を有するものであり,しかも,結合するCR含有蛋白によってもその変異の位置が異なるものである。
したがって,本願明細書の上記実施例で製造された特定のペプチドは,「アミノ酸配列に30%までの変異を行ったRAPペプチド」のごく一部分にすぎない。そして,(1)で述べたとおり,「受容体等に結合するペプチドは,その結合する領域の1〜数個のアミノ酸を変異させただけでも,受容体との結合親和性が変化する」ことは,本件出願日当時の技術常識であるから,当業者は,上記の14個の位置のいずれかに2〜5個の変異を有するペプチド以外のものについても同様に,1×10 −8M以下の結合親和性KdでCR含有蛋白に結合するかどうか理解できるとはいえない。
また,本願明細書の実施例1,表4には,変異を導入して特定の受容体に対する結合特異性をもたらす残基を列挙しているが,上記(1)のとおり,結合特異性と結合親和性とは異なる。
(3) 原告は,本願明細書に記載されている,ファージディスプレイ技術及びPCRによるランダム変異誘発を用いるランダム変異誘発スクリーニングを用いた本願発明に係るペプチドの製造は,当業者にとって負担となるものではない,と主張する。
ライブラリーの作製方法やスクリーニング方法が当業者によく知られた手段であること自体は,争わない。しかし,本願発明は,スクリーニング方法に関する発明ではなく,「環状RAPペプチド」という物の発明に関するものである。そして,実際に本願発明で特定される「配列番号97に少なくとも70%同一である50個の連続するアミノ酸を含み」「85アミノ酸長以下である」, 「環状RAPペプチド」で「1x10−8M以下の結合親和性Kdで」あって, ,列挙された34個の群から選択される「CR含有蛋白に結合する」という要件を満足する「環状RAPペプチド」- 12 -を提供(製造)するためには,候補となる無数ともいえる変異体を作製し,34種のCR含有蛋白質の種類ごとにスクリーニングを行うことが必要であって,そのようなことを審決では「当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要する」と判断したものである。
したがって,原告の主張にかかわらず,審決が本願明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満足しないと判断したことに,誤りはない。
(4) 原告は,CROは,例えば,2週間程度の短期間に100個のペプチドを合成することができるし,結合親和性を決定するスクリーニングも,2週間程度で実施することができるし,仮に,本願発明のペプチドについて網羅的に合成して試験した場合に長時間及び膨大な費用がかかったとしても,当業者は慣用的手法によって本願発明ペプチドの網羅的な合成及び試験を容易に行うことができるのであるから,本願発明が実施可能要件を充足するという結論に変わりがない,と主張する。
しかし,本願発明に係るペプチドを製造するためには,100個程度ではなく無数ともいえるペプチドを網羅的に合成し,その上で,所定の結合親和性Kdで,特定のCR含有蛋白に結合するかどうかを実際に確認するという,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行わなければならない。長時間及び膨大な費用がかかるのであれば,なおさら,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤というほかない。
2 取消事由2について(1) 原告は,本願発明の「50個の連続するアミノ酸」からなるアミノ酸配列との同一性を比較するアミノ酸配列が, 71個のアミノ酸からなる配列番号97の「全長」であるとの解釈を前提として,本願明細書には,@5残基よりも多くの残基を変異させたRAP改変体が記載されている,A配列番号97の71残基に対して57残基が同一であるペプチド,すなわち,80%の同一性を示すペプチドが具体的に記載されている,と主張する。
しかし,原告の上記主張のように解釈すると,本願発明の「50個の連続するア- 13 -ミノ酸」が,たとえ配列番号97の50アミノ酸からなる部分断片である場合であっても,それらのアミノ酸配列の同一性は50個/71個×100=70.4%となる。そして,両者のアミノ酸が1つ異なっただけでも,本願発明の「50個の連続するアミノ酸」の配列番号97との同一性は69%となってしまい,本願発明の「配列番号97に少なくとも70%同一である50個の連続するアミノ酸」に相当するアミノ酸配列は,71個のアミノ酸からなる配列番号97のアミノ酸配列の5「0アミノ酸からなる部分断片」のみとなってしまう。
また,本願発明の請求項1を引用する本件補正後の特許請求の範囲の請求項3には,「成熟RAPの251,256,257,266,270,279,280,296又は305位の何れか1つにおける変異を含む請求項1記載の環状RAPペプチド。」と,1つ以上の変異を含むことが記載されているから,本願発明の「50個の連続するアミノ酸」からなるアミノ酸配列との同一性を比較する対象が,「71個のアミノ酸からなる配列番号97の全長」であるという解釈は,合理的でなく,誤りである。
さらに,「パーセント同一性」について,【0061】には,「ポリヌクレオチド又はポリペプチド配列の2つ以上に言及する場合の「同一」又は「パーセント同一性」という用語は後述する配列比較アルゴリズムの1つを用いて,又は目視による検査により測定した場合に,最大一致となるように比較してアラインした場合に,同じであるか,又は同じであるヌクレオチド又はアミノ酸残基の特定のパーセンテージを有する配列又はサブ配列の2つ以上を指す。好ましくは,パーセント同一性は少なくとも約50残基長,少なくとも約100残基,少なくとも約150残基である配列の領域に渡って,或いは,比較する生体重合体の一方又は両方の全長に渡って,存在する。」と記載されている。そうすると,本願発明の「50個の連続するアミノ酸」からなるアミノ酸配列との同一性を比較する対象が「71個のアミノ酸からなる配列番号97の全長」であるという解釈は,成り立たず,当該同一性を比較する対象は,本願明細書に記載のとおり,「本願発明の50個の連続するアミノ酸配列と- 14 -対応する部分の配列番号97の領域」であると解釈すべきである。
したがって,本願明細書の実施例3及び4におけるヘプタイド及びmRAP−8cは,配列番号97に対して88%の同一性を有するものではなく,mRAP−14cは,配列番号97に対して80%ではなく94%の同一性を有することとなる。
(2) また,原告は,本願明細書には,本願発明に係るペプチドの製造についての実施例が数多く記載されているから,本願発明は実施可能要件を満たす,と主張する。
しかし,本願明細書には,本願発明に包含される環状RAPペプチドを3個製造したことが記載されており,3個は多数とはいえないばかりか,本願発明に包含される環状RAPペプチドのごく一部にすぎない。そして,「受容体等に結合するペプチドは,その結合する領域の1〜数個のアミノ酸を変異させただけでも,受容体との結合親和性が変化する」ことは,本件出願日当時の技術常識であるから,当業者は,上記の3個の環状RAPペプチド以外のものについても同様に,1×10 −8M以下の結合親和性KdでCR含有蛋白に結合するかどうかを理解できるとはいえない。そうすると,本願発明の環状ペプチドを製造するためには,無数ともいえるペプチドを網羅的に合成し,その上で,所定の結合親和性Kdで,特定のCR含有蛋白に結合するかどうかを実際に確認するという,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行わなければならない。
本願明細書で1〜2個のCR含有蛋白に結合したことが確認されているのは,最大5個のアミノ酸変異を有する(50個−5個)/50個×100=90%の同一性の環状RAPペプチドであり,90%以下の同一性の環状RAPペプチドで,かつ,1×10−8M以下の結合親和性KdでCR含有蛋白に結合するものは,本願明細書には具体的に記載されていない。
3 取消事由3について原告は,審決が認定した技術常識の内容が,受容体と結合しない領域でのアミノ酸を1〜数個変異させただけでも,受容体との結合親和性が変化する,というもの- 15 -だとして,これに反論する。
しかし,原告の主張は,審決が,1〜数個のアミノ酸を変異させる領域を受容体等に結合する領域と特定していることを無視したものであるから,失当である。
4 取消事由4について原告は,本願明細書には,疾患又は障害の処置のための本願発明の実施方法及び実施例が詳細に記載されていることも,本願発明が実施可能要件を満たすことの根拠となると主張する。
しかし,本願発明はペプチドに係るものであり,医薬に係るものではないから,本願発明についての実施可能要件の判断と,本願明細書には,疾患又は障害の処置のための本願発明の実施方法及び実施例が詳細に記載されていることは,直接には関係していない事項である。
また,本願発明について,本願明細書の発明の詳細な説明が,当業者が製造できるように明確かつ十分に記載されているかが争点であり,当業者が使用できるように記載されているかどうかは争点ではなく,審決でもこの点について言及していない。原告の主張は,審決の取消事由と関係しない。
5 結語以上のとおりであるから,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず,審決には,実施可能要件に違反するという判断についての,原告の主張するような誤りはないから,原告主張の取消事由は理由がない。
第5 当裁判所の判断1 本願発明について(1) 請求項35及び本願明細書(甲2,4,11)には,以下の記載がある。
【請求項35】成熟RAPの以下の位置,即ち:226,230,232,239,241,242,246,247,249,250,251,256,257,- 16 -261,266,267,268,270,273,279,280,287,290,294,296,297,298,305,308,311,312,313,314,または315の3つ以上における変異を含む請求項1〜34の何れか1項に記載の環状RAPペプチド。
【0002】(発明の分野)本発明は低密度リポ蛋白受容体関連蛋白(RAP)の環状ペプチド,例えばその類縁体,その組成物,およびそのような環状RAPペプチドを形成する方法および使用する方法に関する。
【背景技術】【0003】 ・・・受容体関連蛋白(RAP)は低密度リポ蛋白受容体(LDLR)ファミリーの殆ど全てのメンバーに結合する独特の39kDの蛋白である。小胞体およびゴルジ体に局在化することにより(非特許文献1),RAPはこれらのファミリーメンバーに対するシャペロンとして作用する。例えばRAPはこれらのコンパートメントないでLRPに堅固に結合することにより同時発現リガンドとの受容体の早期の会合を防止する(非特許文献2)。
【0004】自身のシグナル配列を含む完全長のヒトRAPは357アミノ酸である。成熟RAPは323アミノ酸を含有し,そのうち最後の4アミノ酸(HNEL)が小胞体貯留シグナリングを構成している。RAPは3つの弱い相同性を有するドメイン(d1,d2およびd3)よりなることが報告されている。3つのドメイン全てがLRPと結合できるが,d3が最高の親和性で結合する。・・・【0005】RAPのトランケーションおよび/または変異された型が研究されている。
・・・非特許文献9はLRPの種々のフラグメントへの結合に関してRAPd3(残基216−323)を試験している。
・・・非特許文献12はRAPの残基206〜323内にランダムな変異を有するクローンを含有するライブラリを構築し,そして,RAPの256位のリジンの変異または270位のリジンがRAPのLRPへの結合を根絶したことを報告している。
【0006】リポ蛋白受容体関連蛋白(LRP)受容体ファミリーは広範な種類の生理学的現象を媒介する細胞表面の,膜貫通蛋白のグループを含む。受容体は全- 17 -てLDLRに相同であり,そして同様のドメイン機構を共有しており,これにはLDL受容体クラスAドメインまたは補体型リピート(CR)が包含され,それは保存された蛋白配列の大型のファミリーの一部である。
・・・CR配列はLDLRファミリーおよびII型膜貫通セリンプロテアーゼ(マトリプターゼ)ファミリーを包含する種々の異なる型の蛋白において観察されている。
【0009】CR含有蛋白がこれらのファミリーの一部のメンバーの独特の組織分布プロファイルとともに病態生理学的プロセスにおいて果たしている重要な役割は,これらの蛋白を有用な薬物標的としている。蛋白選択的薬物はターゲティングされた蛋白の機能に対して直接影響を及ぼすことができ,特定の疾患状態に対して蛋白が有している作用を裏付けている。或いは,薬物はターゲティングされた蛋白の組織分布を好都合に利用することにより,疾患を有する特定の組織に対して他の治療分子を効率的に送達することができる。哺乳類の生理学および病態生理学的特徴におけるCR含有蛋白の重要性の多大な証拠にも関わらず,LDLRまたはCR含有蛋白ファミリーの特定のメンバーに対して選択的に作用する薬物の例は殆ど無い。これらのファミリーの特定のメンバーに結合する分子を創生する能力は,そのような薬物を開発する手段を提供することになる。
【0011】哺乳類の生理学的特徴の全体に渡ってCR含有蛋白の広範な関与があるとすれば,RAPの本来の結合特性を保持しているか,または特定のCR含有蛋白に対して進歩した結合選択性を有し,かつ他の所望の特性,例えば進歩した安定性または生産製造の容易さを呈するRAPフラグメントおよび変異体の必要性が存在する。
【課題を解決する手段】【0014】補体型リピート(CR)は特徴的な折り畳み構造を採用している保存された蛋白配列の大型のファミリーである。CR含有蛋白はLDL受容体ファミリー,II型膜貫通セリンプロテアーゼ(マトリプターゼ)ファミリー,および他の蛋白,例えばFDC−8D6抗原(CD320)のメンバーを包含する。受容体関連蛋白(RAP)は高い親和性でこれらのCR含有蛋白の- 18 -多くに結合する。成熟RAPの323アミノ酸配列を配列番号95に示す。123アミノ酸長の成熟RAPのドメイン3のアミノ酸配列(アミノ酸201〜323)を配列番号96に示す。アミノ酸243〜313は配列番号97に示す。RAPのアミノ酸249〜303は配列番号98に示す。
【0015】本発明は高い親和性でCR含有蛋白に結合する環状RAPペプチド(類縁体または誘導体を包含)そのような環状ペプチドを含むコンジュゲートおよ,び組成物,およびそのようなペプチドの,例えばそのようなCR含有蛋白の阻害剤または増強剤としての,またはそのようなCR含有蛋白を発現する組織への診断薬または治療薬のターゲティング送達のための治療上または診断上の使用を提供する。
環状RAPペプチドは所望の特性,例えば進歩した親和性,CR含有蛋白に対する進歩した結合選択性,進歩した安定性,および/または製造の容易さを示す場合がある。
【0016】本発明の環状RAPペプチドは成熟RAPのアミノ酸配列,好ましくはドメイン3に基づいており,好ましくは123アミノ酸長未満であり,そして2つの非隣接アミノ酸の間に共有結合を含有する。一部の実施形態においては,共有結合はRAPペプチドの3次元構造を安定化させる。一部の実施形態においては,共有結合は約1×10 −8 Mかそれより低いKdでCR含有蛋白に環状RAPペプチドが結合するような結合親和性における進歩をもたらす(より低いことがより良好な親和性を意味する)・・・例示される実施形態においては,CR蛋白に対する。
結合親和性は約1×10−9,10−10,10−11,10−12,10−13,10−14M以下である。本発明は種々の大きさ,例えば約103, ・ 約85,・ ・, 約82, ・・ ・,または56アミノ酸長以下の環状RAPペプチドを提供する。一部の実施形態においては,共有結合は約76,・・・,または56アミノ酸の分だけ分離されたアミノ酸の間で形成される。
【0017】本発明の環状RAPペプチドは成熟ヒトRAP配列に基づいたアミノ酸配列を含んでよい(配列番号95)。1つの実施形態において,環状RAPペプ- 19 -チドのアミノ酸配列は成熟RAPのN末端から少なくとも200から243個までのアミノ酸を消失している。即ち,環状RAPペプチドは成熟RAPのアミノ酸1〜200,・・・または1〜248を消失していてよい。関連する実施形態においては,RAPペプチドアミノ酸配列はさらに,成熟RAPのC末端から少なくとも4から11個までのアミノ酸を更に消失している。即ち,環状RAPペプチドは成熟RAPのアミノ酸314〜323・ ・または312〜323を消失していてよい。
・別の実施形態においては,RAPペプチドアミノ酸配列は(a)少なくとも71アミノ酸長であり,そして(b)アミノ酸256〜270を含む成熟RAPの連続部分を含む。関連する実施形態においては,RAPペプチドアミノ酸配列は(a)少なくとも71アミノ酸長であり,そして(b)アミノ酸256〜270を含む成熟RAPドメインの連続部分を含む。環状RAPペプチドのための基本を形成してよいRAPの例示される部分は成熟RAP(配列番号95)のアミノ酸200〜323,・・・または249〜303を包含する。
【0018】本明細書に記載する通り,環状RAPペプチドはネイティブのRAPのものと同様(例えばネイティブのRAPと比較して約5倍差以下)のCR含有蛋白に対する親和性および選択性を呈するものとして製造できる。環状RAPペプチドは又ネイティブのRAPと比較してCR含有蛋白1つ以上に対して向上した親和性および/または改変された選択性を呈するものとして製造できる。1つの実施形態において,環状RAPペプチドは少なくとも約1.5倍,2倍,2.5倍,3倍,4倍,5倍,7倍,10倍,または20倍の向上した親和性(ネイティブRAPと相対比較して)および/またはLDLR(P01130),LRP1(P98157),LRP1B(Q9NZR2),LRP2(P98164),LRP3(O75074),LRP4(O75096),LRP5(O75197),LRP6(O75581),LRP8(Q14114),ソルチリン関連受容体,SorLA(Q92673) LRP10, (Q7Z4F1) LRP11, (Q86VZ4) LRP12, (Q9Y561),FDC−8D6(CD320),VLDLR(P98155),TAD- 20 -G−15(ST14,Q8WVC1),TMPS3(P57727),TMPS4(Q9NRS4),TMPS6(Q8IU80),Q6ICC2,Q6PJ72,Q76B61,Q7RTY8,Q7Z7K9,Q86YD5,Q8NAN7,Q8NBJ0,Q8WW88,Q96NT6,Q9BYE1,Q9BYE2,Q9NPF0およびcorin(Q8IZR7)よりなる群から選択されるCR含有蛋白に対する進歩した結合選択性を呈する。同様の結合選択性は,例えば特定のCR含有蛋白に対するペプチドの結合親和性の,少なくとも1つ他のCR含有蛋白に対するペプチドの結合親和性と相対比較した場合の比により計算してよい。ペプチドは他のCR含有蛋白1,2,3,4,5,6,7,または8つと相対比較した場合のCR含有蛋白に対する結合選択性を呈してよい。
【0019】本発明の環状RAPペプチドはネイティブのRAP配列を含んでよく,或いはネイティブの配列に対する変異を包含してよい。例示される実施形態においては,本発明の環状RAPペプチドは配列番号97または配列番号98の何れかと少なくとも60%,65%,70%,75%,80%,85%,90%,91%,92%,93%,94%,95%,96%,97%,98%または99%同一であるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態においては,環状RAPペプチドは約85アミノ酸長未満であり,配列番号98に少なくとも70%同一である50隣接アミノ酸を含み,そして約1×10−8M以下の結合親和性KdでCR含有蛋白に結合する。一部の実施形態においては,環状RAPペプチドは成熟RAPのアミノ酸200〜319,300〜319,または247〜257から選択される領域の何れか1つの内部の1,2,3,4,5,または6以上の位置において変異を包含する。
例示される実施形態においては,環状RAPペプチドは成熟RAP(配列番号95)の175,205,213,217,226,230,232,239,241,242,246,247,249,250,251,256,257,261,266,267,268,270,273,279,280,287,290,294,296,297,298,305,308,311,312,313,314,- 21 -または315よりなる群から選択される1,2,3,4,5,または6以上の位置において変異を包含する。他の実施形態において,環状RAPペプチドは以下の位置,即ち:205,217,249,251,256,257,266,270,294,296,297,305の3つ以上において変異を含む。他の実施形態において,環状RAPペプチドは成熟RAPの251,256および270位において少なくとも1つの変異を含有する。
【0020】1つの特徴において,環状RAPペプチドはマトリプターゼ蛋白に選択的に結合する。マトリプターゼ特異的なペプチドは成熟RAP(配列番号95)のアミノ酸243〜313または249〜303を含んでよく,そして更に,成熟RAPの251,256,257,266,270または280位の何れか1つにおいて変異を含有することを意図している。更に又,マトリプターゼ特異的RAPペプチドは成熟RAPの251,256,257,266,270および/または280位において少なくとも1,2,3,4,5または6つの変異を含有することを意図している。
【0021】別の実施形態においては,環状RAPペプチドはVLDLR蛋白に選択的に結合する。VLDLR特異的なペプチドは成熟RAP(配列番号95)のアミノ酸243〜313または249〜303を含んでよく,そして更に,RAPの251,256,270または296位の何れか1つにおいて変異を含有することを意図している。更に又,VLDLR特異的なRAPペプチドは成熟RAPの251,256,270および/または296位において少なくとも1,2,3,または4つの変異を含有することを意図している。
【0022】別の特徴において,環状RAPペプチドはFDC−8D6(CD320)蛋白に選択的に結合する。FDC−8D6特異的ペプチドは成熟RAP(配列番号95)のアミノ酸243〜313または249〜303を含んでよく,そして更に,RAPの251,256,270,279または305位の何れか1つにおいて変異を含有することを意図している。更に又,FDC−8D6特異的RAP- 22 -ペプチドは成熟RAPの251,256,270,279および/または305位において少なくとも1,2,3,4または5つの変異を含有することを意図している。
【0024】上記した実施形態の何れかにおいて,RAPペプチドはペプチドのN末端またはその近傍におけるシステインおよびペプチドのC末端またはその近傍におけるシステインを含有してよく,これにより,2つのシステインの間のジスルフィド結合形成を介してペプチドの環化およびアルファヘリックスの安定化が可能となる。場合により,グリシンまたはプロリンがシステインおよびアルファヘリックスの間に介在してよい(例えばN末端におけるCys−GlyおよびC末端におけるGly−Cys)グリシンの導入は隣接する非ネイティブのヘリックス間のジ。
スルフィド結合に関するアルファヘリックスの切断を可能にする。
【発明を実施するための形態】【0036】(発明の詳細な説明)RAPは機能的には2尖端性であり,第1および第3のドメイン(d1およびd3)の両方が低ナノモル親和性においてLDLR内の補体型リピート(CR)の縦列対に結合する。
約110アミノ酸よりなるドメイン3は該当するCR対に対して最高の親和性を有することがわかっている。免疫原性を最小限とし,生産効率を最大限とし,そして力価を向上させるためには,受容体結合に直接参加するような配列にまでRAPを最小限化することが有用である。しかしながら,d3の安定な折り畳みは受容体接触表面の形成に直接参加しないRAP内の配列を必要とすることがわかっている。
d3のN末端領域およびd2のC末端領域内に存在するこれらの追加的な配列は,従って,安定な折り畳みおよび高親和性受容体結合を確保するために必要である。
単離されたd3は完全長RAPの範囲内においてはd3ほど堅固には受容体に結合しない。折り畳み安定化配列を欠いているd3のトランケーションされた型も又,受容体への結合は不良である。RAPd3およびLDLRCR34の間の複合体から誘導された構造的データは,RAPd3の受容体結合配列は可撓性のループにより連結された概ね等しい長さの2つの逆平行アルファヘリックス内に存在すること- 23 -を示している。対となったヘリカルアンサンブルは強力な逆時計方向の捻転を有しており,そして伸長した捻転「U」に近似している。
【0037】本発明は単一の分子内共有結合,例えばジスルフィド結合で安定化されたRAPd3の実質的にトランケーションされた型を提供する。分子内共有結合を有さないトランケーションされた未環化の型は,LRP1に対する低減した結合親和性を有する。これとは対照的に環状RAPペプチドは完全長RAPd3のものとは区別できない進歩した受容体結合親和性を有する。ネイティブRAP中に存在する大型のペプチド領域の代わりに単一の非ネイティブの共有結合を有するRAPd3のフラグメント内の3次元のヘリカルな構造を安定化させる能力は,進歩した親和性を与え,そして多くの利点をもたらす。本発明は,例えば固相ペプチド合成により,組み換え生物を必要とすることなく小型RAPペプチドの迅速な製造を可能とし,潜在的に低減された免疫原性を可能とし,そして活性剤へのコンジュゲーションの多大な容易性を可能とする。
【0046】「変異」という用語は本明細書においては,ペプチド配列におけるアミノ酸の挿入,欠失または置換を意味する。ネイティブまたは野生型のアミノ酸配列と相対比較して変異1個以上を有するペプチドは「類縁体」とみなされる。
【0049】「CR含有蛋白」とはCR1つ以上を含有する蛋白である。CR含有蛋白の非限定的な例はLDLR(P01130),LRP1(P98157),LRP1B(Q9NZR2),LRP2(P98164),LRP3(O75074),LRP4(O75096),LRP5(O75197),LRP6(O75581),LRP8(Q14114),ソルチリン関連受容体,SorLA(Q92673),LRP10(Q7Z4F1),LRP11(Q86VZ4),LRP12(Q9Y561),FDC−8D6(CD320),VLDLR(P98155),TADG−15(ST14/マトリプターゼ/MT−SP1,Q8WVC1),TMPS3(P57727) TMPS4, (Q9NRS4) TMPS6, (Q8IU80) Q6ICC2,,Q6PJ72,Q76B61,Q7RTY8,Q7Z7K9,Q86YD5,Q8- 24 -NAN7,Q8NBJ0,Q8WW88,Q96NT6,Q9BYE1,Q9BYE2,Q9NPF0およびcorin(Q8IZR7)を包含する。これらの蛋白の各を識別するユニプロットアクセッション番号レファレンスを提示する。
【0061】ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の2つ以上に言及する場合の「同一」または「パーセント同一性」という用語は後述する配列比較アルゴリズムの1つを用いて,または目視による検査により測定した場合に,最大一致となるように比較してアラインした場合に,同じであるか,または同じであるヌクレオチドまたはアミノ酸残基の特定のパーセンテージを有する配列またはサブ配列の2つ以上を指す。・・・【0153】E.環状RAPペプチドを製造する方法RAPペプチドは好ましくは,当該分野で知られた何れかの方法を用いて形成できる共有結合の形成を介して環化する。一部の実施形態においては,共有結合はペプチドのN末端におけるアミノ酸とC末端におけるアミノ酸との間で形成される。・・・【0154】天然に環化するRAPペプチドは,2つのシステインを所望の位置に挿入し,そしてシステインにジスルフィド結合を自然に形成させることにより,容易に作成できる。グリシンまたはプロリンをシステインに対して内部に(例えば最もN末端側のシステインに対してC末端側に,そして最もC末端側のシステインに対してN末端側に)挿入することによりRAPペプチドのネイティブの3次元構造の共有結合による構造的ひずみを最小限にすることができる。
【0156】更に又,環状構造は,架橋形成基,ペプチドのアミノ酸残基の側鎖,またはペプチドの末端アミノ酸残基と形成することができる。・・・【0158】・・・F.RAPペプチドの製造i.合成本発明のペプチドは従来の手法に従って溶液相固相,または液相のペプチド合成手法により合成できる。種々の自動合成装置が市販されており,そして既知のプロ- 25 -トコルに従って使用できる。・・・【0166】iv.細胞培養法キメラ蛋白コードDNAまたはRNAを含有する哺乳類細胞は,細胞の生育およびDNAまたはRNAの発現のために適切である条件下に培養される。・・・【0168】v.RAPペプチドの精製RAPペプチドは当該分野で良く知られている方法を用いながら逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)により精製できる。・・・・【0201】(実施例1)RAP変異体の形成および分析材料および方法・・・【0209】RAPファージディスプレイライブラリの製造−・・・【0212】RAPd3変異体ライブラリの製造−・・・【0215】ファージの製造−・・・【0216】ファージパニング−精製され,折り畳まれたCR蛋白を用いて・・・96穴プレートをコーティングした。 ・ファージライブラリをコーティングされた・ウェルに添加し,そして室温で2時間インキュベートした。次にウェルを・・・15回洗浄した。結合したファージを・・・溶離させ,・・・回収した。レスキューされたファージは一夜(16時間)30℃で液体培地中細胞を生育せることにより増幅した。・・・【0217】RAPd3蛋白の発現−・・・【0218】変異体RAPd3の配列復帰および野生型RAPd3のフォワード変異−・・・【0223】固相結合試験−精製し,再折り畳みしたCR蛋白(1μg)を・・・96穴プレートに結合させた。
・・・次にRAPリガンドを・・・固定化受容体と共にインキュベートした。
・・・ウェルを・・・洗浄し,そして結合したリガンドをポリクローナル抗RAP・・・で検出した。
・・・ウェルを洗浄した後,二次抗体,H- 26 -RPコンジュゲートヤギ抗ウサギIgG・ ・と共にインキュベートした。
・ 洗浄後,TMB基質溶液・ ・を添加してHRPを検出した。
・ 1NHClで発色を停止した。
マイクロプレート分光光度計・・・で450nmにおける吸収を計測した。データをプロットし,単一部位結合と仮定して非直線回帰によりKd値を誘導した・・・【0224】結果・・・【0231】ファージパニング系が親和性に基づいてRAP配列を単離するために使用できるかどうかを試験するために,野生型RAPを発現するファージのプリパレーションを,減衰したCR対結合能力を有することが予測される(55)変異体RAP(K256D,K270D)を発現するファージのプリパレーション中に1000倍希釈した。・・・【0232】RAP配列がアフィニティー選択によりファージディスプレイライブラリから単離できると結論したことにより・・・。4クローンの第2のグループは256位および270位に同一の置換(K256A,K270R)を有していたが,これらの2部位以外では多様な置換パターンを有していた。パニングの第5ラウンドの後,8無作為選択クローン中7つが以前に観察されたV175L,S213T,E217K,H249Y,E251K,K256A,K270Eの変異セットを有していた。この配列に関する全変異,即ち名称RAPv2AまたはMegaRAP1(配列番号93)は,変異体ライブラリを作成するために特に変異誘発した領域にあった。
【0234】次に,RAPd3およびMegaRAP1d3蛋白のLRP1CR3−5およびLRP2CR89への結合を試験した。親和性における相違への各MegaRAP1d3変異の相対的寄与度を理解するために,本発明者等は又,多くのMegaRAP1d3復帰変異株およびRAPd3フォワード変異体を作成し,それらは全て,MegaRAP1d3と野生型RAPd3の間の中間的な配列変異体を含んでいた(4アミノ酸C末端保持シグナルを欠失(配列番号92)(図5A)および5B,表2) …RAPd3は16nMの解離定数でLRP1CR3−5に結。
- 27 -合し,LRP2CR89に対する有意な親和性は示さず,図4に示したデータに合致していた。逆にMegaRAP1d3は見かけの解離定数38nMでLRP2CR89に結合したが,LRP1CR3−5には有意な親和性を有していなかった。
従って,野生型RAPd3およびMegaRAP1d3はこれらの2つの受容体フラグメントに対して反転した結合優先性を有している。2つのMegaRAP1d3復帰変異体であるT213SおよびK217EはLRP2CR89に対して僅かに向上した親和性を有しており,そしてLRP1CR3−5に検出可能に結合することは不可能なままであった。3つのMegaRAP1d3復帰変異体,Y249H,K251EおよびA256Kは何れの受容体フラグメントにも結合できず,MegaRAP1d3とLRP2CR89との間の相互作用のために変異が重要であり,そしてLRP1CR3−5への結合の途絶を個別に担っているわけではないことを示していた。興味深いことに,E270K復帰変異体はMegaRAP1d3よりも高い親和性で両方の受容体フラグメントに結合し,LRP2CR89に対しては8nM,そしてLRP1CR3−5に対しては142nMの見かけの解離定数を示していた。MegaRAP1d3変異体はLRP2CR89に対する親和性に基づいて選択されているため,この結果はすべての可能な配列変異体を説明するには不十分である出発ライブラリの多様性と合致している。或いは,MegaRAP1d3とMegaRAP1d3E270Kとの間の親和性の相違は反復パニングにおいて後者を優勢とするには不十分である場合がある。二重復帰変異体T213S,E270Kは本発明者等の試験においてはMegaRAP1d3とは区別不可能であった結合挙動を有していた。これらの位置における2つの単一部位復帰変異体はLRP2CR89に対して,そしてE270Kの場合はLRP1CR3−5に対しても向上した親和性を示すように観察されたため,この結果はこれらの復帰変異体に起因する結合作用に関する加法性の欠如,または,本発明者等の試験におけるこの親和性の範囲内における正確さの欠如を示している。K251E,E270K二重復帰変異体の結合挙動はE251K変異に対するLRP2CR89へのMega- 28 -RAP1d3の親和性の強力な依存性を示唆している。この復帰変異体と単一部位E270K復帰変異体との間のLRP2CR89の親和性における相違はほぼ20倍である。A256K,E270K二重復帰変異体はLRP2CR89への親和性の2倍の損失をもたらし,このフラグメントへの親和性に対してK256AMegaRAP1d3変異が有している中等度の正の作用を示唆している。しかしながら,この二重復帰変異体とE270K単一部位復帰変異体との間の最も顕著な相違はLRP1CR3−5への親和性におけるほぼ30倍の向上である。従って,MegaRAP1d3におけるK256Aの変異は2つの受容体フラグメントの間で区別するこの変異体の能力の重要な決定要因であり,LRP2CR89への親和性も同時に向上させつつLRP1CR3−5への親和性に負の影響を与えることによりその作用を発揮している。
【0237】スクリーニング法の一般性の試験として,ファージライブラリパニング実験を別のCR蛋白に対して実施した。単離した変異体の配列は表4および図8に示す通りである。先ず,RAPd3単独の変異体をコードするファージディスプレイライブラリを用いたパニングのための基質として,ヒトVLDLRの最後の3つのCRドメインを構成するVLDLRCR6−8を使用した。パニング5ラウンドの後,8無作為選択クローン中5つが同じ変異セット,即ち:R205S,E251R,K256L,K270E,R296L,G313Dを有していた。この配列変異体,VRAP1)d3を固相結合試験のために発現させた。VRAP1d3,MegaRAP1d3およびRAPd3のLRP1CR3−5,LRP2CR89およびVLDLRCR6−8への結合を比較した。同様の変異体配列,E251T,K256I,K270E,R296LをVLDLRCR78上で選択した。
発明者等は又,同じd3ライブラリを用いながらヒトマトリプターゼ由来の3つのCR対,MATCR12,MATCR23およびMATCR34上でパニングを行った。マトリプターゼ対に対するパニングの第6ラウンドによりファージライブラリを主要な配列に分割した。MATCR23上で選択した主要な配列はE251- 29 -G,K256R,K270Wであった。この変異体をMatRAP1(RAPvMA)と命名した。MATCR34上で選択した主要な配列はS232P,E239G,E246G,E251L,K256P,I266T,A267V,H268R,K270P,H273Y,R287H,H290Y,K298R,S312Fであった。この変異体をMatRAP2(RAPvMB)と命名した。パニング実験は又FDC−8D6抗原由来のCR対に対しても実施した。選択した主要な変異体はK256S,K270S,L271M,D279Y,V283M,K305T,K306Mであった。この変異体を320RAP1と命名した。
【0238】RAPd3配列変異体の長さを最小限化できる程度を試験するために,MatRAP1の逐次的にトランケーションされた切片をPCRにより作成し,発現させ,精製し,そして上記した通り結合に関して試験した(図9)・・・最良。
のトランケーションされた変異体はアミノ酸243〜313(71アミノ酸)よりなるものであった。親和性の向上におけるこの修飾の一般性を試験するために,本発明者等は320RAP1に対して同一のトランケーションを作成した。この変異体の得られたトランケーションされた型は完全長変異体と比較してFDC−8D6抗原対に対する親和性において3.5倍の向上で結合した・・・。
【0239】VLDLRCR78へのVRAP1d3(判決注:VRAP2d3の誤記。の結合に関する見かけの解離定数は44±9nMであることが測定された。
)次に本発明者等はLRP1CR3−5,LRP2CR89,LRP2CR2728,LRP2CR3031,LRP2CR34−36,LRP2CR3536,VLDLRCR78,VLDLRCR6−8,LRP6CR1−3,LRP6CR12,LRP6CR23,MATCR12,MATCR23およびMATCR34を包含する14のCR対またはトリプレットへの,各々80nMの濃度における,RAPd3,MegaRAP1d3,VRAP1d3,MatRAP1d3およびMatRAP2d3の結合を比較した(図7)。前回と同様,RAPd3はLRP1CR3−5に結合するのみであった。MegaRAP1d3はLRP2CR89のみに結- 30 -合した。VRAP1d3はCR78対を包含するトリプレットであるVLDLRCR78およびVLDLRCR6−8の両方に結合した。MatRAP1およびMatRAP2はMATCR12およびMATCR23の両方に結合したが,他のCR対にはその傾向は小さかった。
【0240】CR対およびトリプレット上のパニングに加えて,全体のCR対含有ヒト蛋白をRAPd3変異体ファージパニング操作法のための標的として使用した。これらの市販の蛋白はcorin,LRP6,FDC−8D6抗原および補体因子Iを包含していた。パニングは単離されたCR対およびトリプレットに関して記載したものと全く同様に実施した。
【0253】(実施例3)環状RAPペプチドの製造および特性化環状RAPペプチドを以下の通り製造し,そして結合親和性に関して特性化した。・・・【0254】固相結合試験は以下の通り実施した。・・・【0255】 ・・ ・mRAPc(配列番号99)の最小化型を作成するために, ・・・これらの置換はA242GおよびR314Gである。これらの部位におけるグリシンの導入は隣接する非ネイティブのヘリックス間のジスルフィド結合のためにヘリックス内に中断部をもたらすことを意図していた。次に2つのシステインをそれぞれヘリックス1および2におけるG242およびG314の前および後で置換することにより,ジスルフィド結合の形成を可能にした。これらの置換はE241CおよびI315Cであった。ヘリックス2のC315に対してC末端側にはそれ以外の残基は包含させなかった。
・・・ペプチドは固相合成中に分子内ジスルフィド結合形成により環化させた。mRAPcペプチドの線状化対照であるmRAPを得るために,両方のシステインをセリンで置換した。mRAPcの別の対照として,変異K256AおよびK270Eを有する以外は同一のペプチド,即ちmRAPckoを作成した。これらの変異はLRP1に対するRAPd3の親和性を有意に低下さ- 31 -せることが予めわかっている。
【0257】mRAP(配列番号107)およびmRAPckoはhrLRP1クラスターIIに対する計測可能な親和性を有していなかったが,mRAPcは10±2nMのKdでカルシウム依存的な態様において高親和性で結合した。この結合親和性はこの系においては完全長のRAPd3のものとは差がなかった(8±1nM) 更に又,。 マウスVLDLRの全エクトドメインへのペプチドの結合も計測した。結合親和性はやはり同等であり,解離定数はmRAPcでは5±1nMであり,そして完全長RAPd3では1±0.2であった。
【0258】(実施例4)別の環状RAPペプチドの特性化別の環状RAPペプチドを上記した通り開発し,そしてLRP1受容体に結合するその能力を試験した。
【0259】mRAP−8cペプチドを形成するために,アミノ酸246〜312のトランケーションされたRAPペプチド配列を利用し,そして以下のアミノ酸置換,即ち:E246C,L247GおよびL311GおよびS312Cを作成した。mRAP−8cペプチドは配列番号100に示す通りである。別のトランケーションされたペプチドmRAP−14cを作成するために,250位で始まり309位で終わるトランケーションされたRAPを使用した。以下のアミノ酸置換,即ち:F250CおよびL308GおよびQ309CをmRAP−14cに対して行った。ヘリックス1に由来するF250C側鎖は複合体の構造におけるヘリックス2において既に直接位置付けられているため,mRAP−14cの場合にはシステインの後にグリシンを置換させなかった。mRAP−14cの配列を配列番号101に示す。別のトランケーションされた環化ペプチドであるヘプタイドを開発した。
ヘプタイドの配列はRAPのアミノ酸246〜313から誘導した。以下のアミノ酸置換,即ち:E246C,L247G,G280A,L311A,およびS312Cを行うことによりヘプタイドを形成した。ヘプタイドの配列を配列番号103- 32 -に示す。
【0260】LRP1およびVLDLR受容体へのmRAP−8cおよびmRAP−14cペプチドの結合は上記した通り評価した。mRAP−8cは約4〜6nMの親和性(2つの別個の試験)でLRP1(クラスターII)受容体に結合したのに対し,mRAP−14cは約21nMの親和性で結合した。ヘプタイド環状ペプチドは約3.5nMの親和性でLRP1に結合した。
【0261】これらの結果は数種の異なる環状RAPペプチドが高親和性でLRP1受容体に結合できることを示している。
【図5−3】- 33 -【図6−3】【図7】- 34 -【図8】【図9】(2) 前記(1)によれば,請求項1及び本願明細書には,本願発明に関し,次のような開示があると認められる。
本願発明は,低密度リポ蛋白受容体関連蛋白(RAP)の環状ペプチド及びその- 35 -類縁体に関する(【0002】。
)CR含有蛋白は,特徴的な折り畳み構造である「補体型リピート(CR)」を含む蛋白であり,低密度リポ蛋白(LDL)受容体ファミリー,II 型膜貫通セリンプロテアーゼ(マトリプターゼ)ファミリー,FDC−8D6抗原(CD320)などの多数のメンバーを包含するものであるところ,その病態生理学的プロセスにおける重要な役割のため,有用な薬物標的とされている(【0006】【0009】【0, ,014】及び【0049】。
)他方,RAPは,LDL受容体ファミリーを含めたCR含有蛋白の多くに結合する蛋白であり,RAPを構成する3つの弱い相同性を有するドメイン(d1,d2及びd3)のうちd3が最高の親和性でCR含有蛋白に結合する。これまで,RAPのトランケーション(短縮型)及び/又は変異された型の結合特性について研究が行われている。なお,成熟RAPは323個のアミノ酸からなり(配列番号95),アミノ酸201〜323(配列番号96)がd3に相当し,d3のうちアミノ酸243〜313が配列番号97(71アミノ酸長)である(【0003】〜【0005】及び【0014】。
)従来,特定のCR含有蛋白に対して,選択的に作用する薬物を開発する手段を提供するために(【0009】,RAP本来の結合特性を保持しているか,又は特定の)CR含有蛋白に対して進歩した結合選択性を有し,かつ,他の所望の特性,例えば,進歩した安定性又は生産製造の容易さを呈するRAPフラグメント及び変異体の必要性が存在していた(【0011】。
)そこで,本願発明は,高い結合親和性でCR含有蛋白に結合する環状RAPペプチドを提供することを課題としたものであり,その解決手段として,「配列番号97に少なくとも70%同一である50個の連続するアミノ酸を含み,85アミノ酸長以下である環状RAPペプチド」であって,請求項1に記載された34個の選択肢を有する群から選択されるCR含有蛋白に1×10 −8 M以下の結合親和性Kdで結合する環状RAPペプチドの構成を採用するものである(請求項1,0019】。
【 )- 36 -そして,本願発明に係る環状RAPぺプチドは,所望の特性,例えば,CR含有蛋白に対する進歩した結合親和性,結合選択性,安定性,及び/又は製造の容易さを示す場合がある。また,本願発明に係る環状RAPペプチドを,診断薬又は治療薬とコンジュゲートすることにより,CR含有蛋白を発現する組織への診断薬又は治療薬のターゲティング送達のために用いることができる(【0015】。
)例えば,マトリプターゼ蛋白に選択的に結合する環状RAPペプチドは,成熟RAPの251,256,257,266,270又は280位において1〜6の変異を含有し 【0020】,( ) VLDLR蛋白に選択的に結合する環状RAPペプチドは,成熟RAPの251,256,270又は296位において1〜4の変異を含有し【0021】,( )FDC−8D6蛋白に選択的に結合する環状RAPペプチドは,成熟RAPの251,256,270,279又は305位において1〜5の変異を含有する(【0022】。
)2 取消事由1(過度の試行錯誤が不要であること)について(1)ア 原告は,技術常識である「RAPペプチドの受容体結合に関与ないし影響を与えるアミノ酸残基」を変異させれば,容易に結合親和性の高いペプチドが得られるから,そのようなペプチドを製造し,その機能性の確認を行うためには過度な試行錯誤を要しない,と主張する。
イ 甲18〜21には,以下の記載がある。
(ア) 甲18(THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY ,Vol.276, No.31)「短縮型RAPタンパク質からの我々の発見に基づき,我々は,変異解析のために3つの配列モチーフ,R 203 LR 205 R 206(部位A),R 282 VSR 285 SR 287 EK 289(部位B),およびR 314 ISR 317 AR 319(部位C)を選択した。」(29342頁右欄6〜9行)「RAP内の塩基性集合変異の効果は,LRP結合活性に対して,ヘパリン結合活性と同様の傾向を示すが,それらは一般的に規模についてより厳格であった。・・・ヘパリンへのように,RAP内の部位Bでの変異の全体的な効果は,- 37 -そのLRP結合活性を最も減少させるようであった」(29342頁右欄34〜45行)また,表 II(29341頁)には,RAP内の「R 282 VSR 285 SR 287 EK 289 」のLRP結合への寄与が「++++」であることが記載されている。
(イ) 甲19(THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY Vol.278, No.20)「これらの目的は,RAPのランダム変異によって達成され,これにより,RAPのカルボキシル末端ドメインとLRPおよびヘパリンとの結合に必要である,カルボキシル末端ドメイン内にある2つの重大なリシン残基,リシン256およびリシン270が同定された。これらの2つのリシン残基のいずれかが変異したRAP分子は,それでもLRPに結合するが,アフィニテイは減少していた。」(17986頁左欄16〜23行)(ウ) 甲20(Molecular Cell 22)「RAPのドメイン2(D2;残基101−216)および3(D3;206−323)」(425頁左欄表1)「D3内の保存されたヒスチジンは,RAPのLRPへの結合に貢献することを示す。」(425頁右欄18〜19行)「我々は,いずれの保存されたヒスチジン部位での単一の変異単独では,RAPのLRPへの結合を変化させないことを見出し,これはヒスチジン残基に起因するpH依存性は,本質的に集合的なものであることを示唆していた。」(426頁左欄13〜16行)(エ) 甲21(米国特許第 8,236,753 B2 号)「いくつかの実施形態において,少なくとも1つのRAPドメイン中のヒスチジン残基の少なくとも1つ(例えば,1つ,2つ,3つ,4つ)は,疎水性残基,中性残基またはフェニルアラニンに置換される。・・・いくつかの実施形態において,ヒスチジン257またはヒスチジン259またはヒスチジン268またはヒスチジン290はフェニルアラニンに置換される。」(2欄25〜28,32- 38 -〜34行)「我々は次にRAP−D3の耐酸性形態および熱耐性形態は,LDLRのLA3−4モジュールペアを構成するポリペプチドとなお結合することを,それぞれのRAPタンパク質のLDLRについての結合アフィニティを中性pHで等温滴定型カロリメトリーによって測定することによって確かめた(図3および表1)。・・・低塩濃度(50mM NaCl)で,野生型RAP−D3とLA3−4について測定される解離定数は480±40nMであり,150mMのNaCl濃度では,値は1.2±0.1マイクロMに上がる。RAP−D3の3つのフェニルアラニン変異について,アフィニティは850±160nM(H257F/H259F;50mM NaCl),1.2±0.3nM(判決注:表1の記載からすれば,「nM」ではなく,「μM」の誤記。)(H269F(判決注:H268Fの誤記)/H290F;50mM NaCl)および850±160nM(RAP_D3−quad;技術的な理由のため,この滴定のためには,100mMのNaCl濃度が必要である)。」(29欄50〜67行)ウ 上記甲18〜21の記載によれば,原告主張のとおり,RAPにおける「282〜289」(甲18),「256,270」(甲19),「257,259,268,290のヒスチジン残基」(甲20,21)などのアミノ酸残基が,RAPペプチドとLRPやLDLRなどのCR含有蛋白との結合に関与ないし影響与えることが理解できる。しかし,これらのアミノ酸残基を変異させた場合に,CR含有蛋白への結合親和性が向上することは記載されておらず,むしろ低下すること(甲18,19,21)が記載されている。
そうすると,原告が主張するように,RAPペプチドの受容体結合に関与ないし影響を与えるアミノ酸残基がどこかということが技術常識であったとしても,そのアミノ酸残基を変異させた場合に,特定のCR含有蛋白との結合親和性の高いペプチドが得られるとは限らないから,当該ペプチドを得ることが容易であるとは認められない。
- 39 -したがって,原告の上記主張には,理由がない。
(2)ア 原告は,請求項35には,変異導入が可能な30以上のアミノ酸残基の位置が記載され,本願明細書の【0020】,【0021】,【0201】(実施例1)及び表4には,特定のCR含有蛋白に結合特異性をもたらす残基が記載されているから,当業者は,過度の試行錯誤をすることなく,本願発明のペプチドを合成して,CR含有蛋白との結合親和性について容易に試験することができる,と主張する。
イ しかし,上記(1)のとおり,RAPペプチドの受容体結合に関与ないし影響を与えるアミノ酸残基を変異させれば,容易に結合親和性の高いペプチドが得られるとは認められない。また,上記1(2)のとおり,【0020】〜【0022】では,特定のCR含有蛋白に結合特異性をもたらすアミノ酸残基の変異位置が開示されているが,アミノ酸残基の変異位置と結合親和性との関係については記載されておらず,特定のアミノ酸残基を変異させた場合に結合特異性があるからといって,当該残基からなるペプチドの結合親和性が本願発明の要件を満たすか否かは別の問題であり,この点については,別途,試験によって調査する必要がある。
ウ さらに,実施例1には,ファージパニング法を用い,RAPd3の多数の未環化の変異体を製造し,そのCR含有蛋白に対するKd値を測定して,短縮型変異体やアミノ酸を置換した変異体によって,CR含有蛋白に対するKd値や選択性がどう変化するかを調べた結果が記載されている。しかし,以下のとおり,これを参照しても,「85アミノ酸長以下である環状」のペプチドが,「配列番号97に少なくとも70%同一である50個の連続するアミノ酸を含」んでいれば,所定のKd値を満たすことを裏付けているとはいえない。
すなわち,実施例1では,RAPd3,並びに,MegaRAP1,VRAP2,MatRAP1,MatRAP2及び320RAP1という5つのRAPd3変異体(RAPd3の249,251,256,257,266,270,279,2- 40 -80,296及び305のいずれかの位置に4〜5個のアミノ酸置換を有するもの),あるいは,RAPd3とMegaRAP1の中間の変異を有する各種の変異体(213,217,249,251,256,270に1〜5個のアミノ酸置換を有するもの)を製造し,いくつかのCR含有蛋白に対するKd値などを測定している 【図(5−3】表2,【図6−3】表4,【図7】【図8】。これらの変異体は,請求項3, )5に例示された位置にアミノ酸変異を有するものであるが,変異前に比べて結合親和性が向上しKd値が1×10−8M(10nM)より小さくなる場合があるものの(例えば,RAPd3 E217K,RAPd3 E251K 【図5−3】( 表2),)CR含有蛋白に対して結合親和性がないものや,Kd値が1×10 -8Mを超えるものが多いことが示されている。
また,RAPd3とその変異体は,CR含有蛋白の種類によって結合親和性が顕著に異なることが示されている(【図7】【図5−3】表2), 。
さらに,MatRAP1は,その短縮型変異体によってCR含有蛋白に対する結合親和性が変化することから,アミノ酸長(配列番号97のどの範囲のアミノ酸配列を含むのか。)も結合親和性に影響することが示されている(【図9】。
)そうすると,実施例1の未環化RAPペプチドに関する多数の実験結果を参照することにより当業者が理解できることは,本願明細書に例示されたアミノ酸変異位置であっても,具体的なアミノ酸変異位置やアミノ酸長(配列番号97のどの範囲のアミノ酸を含むのか。 によって,) CR含有蛋白に対するKd値が低くなり結合親和性が高くなることもあれば,逆に,Kd値が高くなり結合親和性が低くなったり,更には結合親和性がなくなることもあり,加えて,CR含有蛋白の種類によってもKd値が顕著に異なることがある。
また,下記2に実施例3及び4について述べるとおり,未環化RAPペプチド(mRAP)がCR含有蛋白に結合親和性がなくても,その両末端をシステインに置換して環化したもの(mRAPc)は所定のKd値を満たす場合があるから,実施例1における多数の変異体におけるアミノ酸配列とそのKd値との関係が,そのまま- 41 -環状RAPぺプチドにも応用できると推認することは困難である。
(3) 原告は,本願明細書に記載されたファージディスプレイ技術及びPCRによるランダム変異誘発を用いるランダム変異誘発スクリーニングを用いた本願発明に係るペプチドの製造は,開発業務受託機関を利用することもできるから,当業者にとって負担となるものではない,と主張する。
しかし,本願明細書には,変異導入が可能なアミノ酸残基の位置が記載されていることを考慮しても,本願発明は,「50個の連続するアミノ酸」のうち最大15個(50個×30%)のアミノ酸の変異までが許容されるものであり,変異の種類には,挿入,欠失又は置換がある(【0046】)から,なお,これらの条件を満たすアミノ酸配列は,極めて多数に及ぶものである。そうすると,多数のペプチドを製造してスクリーニングする方法が確立されており,開発業務受託機関に委託して時間や手間を短縮することができるとしても,そのような実験を膨大な回数繰り返して,本願発明に含まれる環状RAPペプチドを製造することは,当業者にとって過度な試行錯誤を要するといわざるを得ない。
よって,原告の主張には,理由がない。
3 取消事由2(実施例が十分であること)について(1) 原告は,本願発明の「50個の連続するアミノ酸」からなるアミノ酸配列との同一性を比較するアミノ酸配列が, 71個のアミノ酸からなる配列番号97の「全長」であるとの解釈を前提として,本願明細書には,@5残基よりも多くの残基を変異させたRAP改変体が記載されている,A配列番号97の71残基に対して57残基が同一であるペプチド(mRAP−14c),すなわち,80%の同一性を示すペプチドが具体的に記載されている,と主張し,その根拠として,11アミノ酸残基短く,3つの置換変異を含んだmRAP−14cの全長(60アミノ酸長)と,「71個のアミノ酸からなる配列番号97の全長」とを比較し,mRAP−14cは配列番号97のアミノ酸配列と80%同一であると計算する。
しかし,配列番号97のアミノ酸配列と比較するアミノ酸配列は,本願発明の請- 42 -求項1の文言からは,「50個の連続するアミノ酸」としか特定されないから,mRAP−14cの全長とすることはできない。
また,上記1(1)のとおり,本願明細書【0061】には,「パーセント同一性」という用語は,2つのアミノ酸配列を最大一致となるように比較してアラインした場合に,同じであるアミノ酸残基の特定のパーセンテージを有する配列又はサブ配列の2つ以上を指す,と記載されているから,「配列番号97に少なくとも70%同一である50個の連続するアミノ酸を含む」とは,環状RAPペプチドにおける「50個の連続するアミノ酸」が配列番号97における「対応する配列」と比較して少なくとも70%同一であることを意味しているといえる。
そうすると,原告の上記主張の前提となるパーセント同一の解釈は誤っており,原告の主張はその前提を欠くから,失当である。
(2)ア 原告は,本願明細書には,本願発明に係るペプチド製造についての実施例3及び4,並びに図9にRAPペプチド短縮型が結合親和性を増加させることが記載されているから,本願発明は実施可能要件を満たす,と主張する。
イ 本願明細書の実施例3及び4において,mRAPc,mRAPcko,mRAP−8c,mRAP−14c及びヘプタイドの5つの環状ペプチドが製造されている。
mRAPc(配列番号99,甲1「配列表」38頁)は,成熟RAPペプチドの241,242,314及び315の位置に,環化のためのシステインの導入を含めたアミノ酸置換を行った(合計4個)もので,75アミノ酸長の環状ペプチドである(【0255】。mRAPcは,配列番号97と100%同一である50個の連)続するアミノ酸を含む。
mRAPckoは,成熟RAPペプチドの241,242,256,270,314及び315の位置に,環化のためのシステインの導入を含めたアミノ酸置換を行った(合計6個)もので,75アミノ酸長の環状ペプチドである(【0255】。
)mRAPckoは,配列番号97と98%同一である50個の連続するアミノ酸を- 43 -含むものである。
mRAP−8c(配列番号100,甲1「配列表」38頁)は,成熟RAPペプチドの246,247,311及び312の位置に,環化のためのシステインの導入を含めたアミノ酸置換を行った(合計4個)もので,67アミノ酸長の環状ペプチドである(【0259】。mRAP−8cは,配列番号97と100%同一である)50個の連続するアミノ酸を含むものである。
mRAP−14c(配列番号101,甲1「配列表」39頁)は,成熟RAPペプチドの250,308及び309の位置に,環化のためのシステインの導入を含めたアミノ酸置換を行った(合計3個)もので,60アミノ酸長の環状ペプチドである(【0259】。mRAP−14cは,配列番号97と100%同一である50)個の連続するアミノ酸を含むものである。
ヘプタイド(配列番号103,甲1「配列表」40頁)は,成熟RAPペプチドの246,247,280,311及び312の位置に,環化のためのシステインの導入を含めたアミノ酸置換を行った(合計5個)もので,68アミノ酸長の環状ペプチドである(【0259】。ヘプタイドは,配列番号97と98%同一である5)0個の連続するアミノ酸を含むものである。
このうち,hrLRP1クラスターII 又はマウスVLDLRに対するKd値が1×10−8M以下であることが確認され,本願発明の所定のKd値を満たすと認められるものは,mRAPc,mRAP−8c及びヘプタイドの3つである 【0257】( ,【0260】。また,mRAPcの線状化(未環化)対照であるmRAPは,hr)LRP1クラスターII に結合親和性を有していないが,環化により,CR含有蛋白に対する結合親和性が向上することが示されている(【0257】。
)他方,mRAPckoは,mRAPcの256と270のアミノ酸を置換したペプチドで,hrLRP1クラスターII に対する結合親和性を有しておらず(【0257】,また,mRAP−14c(60アミノ酸長)は,本願発明の所定のKd値)を満たす上記3つのぺプチド(mRAPc,mRAP−8c及びヘプタイド。67- 44 -〜75アミノ酸長)よりも若干短いペプチドで,hrLRP1クラスターII に対するKd値が21nM(2.1×10−8M)であり,本願発明の所定のKd値を満たさないものであった(【0260】。
)そうすると,実施例3及び4の記載から,CR含有蛋白に結合親和性を有しない未環化RAPペプチドを環化させると,所定のKd値を満たす場合があることが示されているものの,85アミノ酸長以下である環状RAPペプチドが,配列番号97と非常に同一性の高いアミノ酸配列を有していても,アミノ酸の置換位置,アミノ酸長,又は配列番号97のどの範囲のアミノ酸配列を含むのかによって,所定のKd値を満たさない場合があることが具体的に示されている。また,実施例に示された環状RAPペプチドのうち所定のKd値を満たすものは,67〜75アミノ酸長のもののみで,76〜85アミノ酸長又は66アミノ酸長以下のものは示されていない。さらに,実施例によって示された環状RAPペプチドのうち所定のKd値を満たすものは,配列番号97に98%〜100%という高率で同一である50個の連続するアミノ酸を含んでいるもののみである。
ウ 図9には,未環化RAPペプチドのアミノ酸長及び配列番号97のどの範囲のアミノ酸配列を含むのかが,CR含有蛋白との結合親和性に影響することが示されている。しかし,上記2(2)ウのとおり,図9に示されたアミノ酸配列とKd値との関係が,そのまま環状RAPペプチドにも応用できるというものではない。
エ したがって,「85アミノ酸長以下である環状」のペプチドが,「配列番号97に少なくとも70%同一である50個の連続するアミノ酸を含」んでいれば,所定のKd値を満たすことを裏付けるのに十分な実施例が記載されているとはいえない。
4 取消事由3(審決が指摘する技術常識が存在していなかったこと)について原告は,受容体との結合親和性に影響を与えない多数のアミノ酸変異が存在することから,審決の「受容体等に結合するペプチドは,その結合する領域の1〜- 45 -数個のアミノ酸を変異させただけでも,受容体との結合親和性が変化することが本願出願時の技術常識」であるとの指摘は誤りであると主張する。
しかし,審決の上記指摘は,ペプチドが受容体等に「結合する領域」における変異をいうものであり,当該領域以外に受容体との結合親和性に影響を与えない多数のアミノ酸変異が存在することを否定するものではない。
よって,原告の主張には理由がない。
5 取消事由4(疾患又は障害の処置のための実施例等が記載されていること)について原告は,本願明細書には,疾患又は障害の処置のための本願発明の実施方法及び実施例が詳細に記載されていることも,本願発明が実施可能要件を満たすことの根拠となると主張する。
しかし,本願発明について,本願明細書の発明の詳細な説明が,当業者が製造できるように明確かつ十分に記載されているかを判断するに当たって,発明を実施した物を製造した後の使用についての記載は直接関係しないから,疾患又は障害の処置のための記載によって本願発明の実施可能要件を根拠付けることはできない。
原告の主張には,理由がない。
6 小括以上より,@RAPペプチドの受容体結合に関与ないし影響を与えるアミノ酸残基がどこかということが本件出願日当時の技術常識であり,その結合する領域のアミノ酸残基を変異させれば,受容体との結合親和性が変化することが本件出願日の技術常識であったとしても,そのアミノ酸残基を変異させた場合に,結合親和性を向上させる手法は明らかでなく,また,A本願発明で特定されるアミノ酸配列は,50個の連続するアミノ酸のうち最大15個のアミノ酸の変異(挿入,欠失又は置換)を許容するものであって極めて多数に及ぶ一方,B本願明細書に記載された本願発明の実施例はわずか3個であって,その内容も,環化のためのシステインの導入を含めた4,5個のアミノ酸置換を行った,「67〜75アミノ酸長の環状」のぺ- 46 -プチドで,「配列番号97に100%または98%(1個の変異)同一である50個の連続するアミノ酸」を含む,配列番号97と非常に同一性の高いアミノ酸配列を有しているものにすぎないから,本件出願日当時の当業者は,本願発明の環状RAPペプチドを製造するために,膨大な数の環状RAPペプチドを製造して34個のCR含有蛋白との結合親和性を調べるという,期待し得る程度を超える試行錯誤を要するものと認められる。
したがって,本願発明は実施可能要件を欠くものであり,原告の取消事由には,理由がない。
第6 結論以上のとおり,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部裁判長裁判官清 水 節裁判官片 岡 早 苗裁判官古 庄 研- 47 -
事実及び理由
全容
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