関連審決 | 不服2014-4686 |
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事件 |
平成
27年
(行ケ)
10187号
審決取消請求事件
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原告 エシコン・インコーポレイテッド 訴訟代理人弁理士加藤公延 押野宏 永田豊 大島孝文 福川晋矢 太田司 被告 特許庁長官 指定代理人久保克彦 栗田雅弘 長馬望 田中敬規 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/09/14 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日-1-と定める。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
特許庁が不服2014-4686号事件について平成27年5月11日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,特許出願拒絶査定不服審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。 争点は,進歩性判断(相違点の判断)の誤りの有無である。 1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「曲げ剛性を改良するために金属合金外科用縫合針を処理する方法」とする発明につき,平成20年12月3日を国際出願日として,特許出願をしたところ(本願。特願2010-539592号,パリ条約に基づく優先権主張,優先日・平成19年12月17日,優先権主張国・米国。請求項の数9。甲4),平成25年2月15日付けで拒絶理由通知を受け(甲5),同年5月14日,特許請求の範囲を補正する手続補正をしたが(本件補正。請求項の数6。甲3),同年11月6日付けで拒絶査定を受けたので(甲6),平成26年3月11日,拒絶査定不服審判請求をした(不服2014-4686号。甲19)。 特許庁は,平成27年5月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月26日,原告に送達された。 2 本願発明の要旨 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(本願発明)は,次のとおりである(甲3)。 「【請求項1】 金属合金外科用縫合針を処理する方法において, 金属合金ワイヤ針又はブランクを提供することと, 前記針又はブランクを,第1半径を有する初期屈曲形態に形成することと, 前記初期屈曲形態を,前記第1半径よりも大きい第2半径を有する最終屈曲形態に実質的に逆屈曲させることによって,前記針又はブランクを,最終的な所望の屈曲形態に形成することと, それにより,完成した屈曲している前記針又はブランクの曲げ剛性性質を改良することと, を含み, 前記ニードルブランクが,耐火金属合金を含む,方法。」 3 審決の理由の要点 (1) 引用発明の認定 特開昭63-123543号公報(刊行物1。甲1)には,次の発明(引用発明)が記載されている。 「 ステンレス鋼製手術用縫合針を曲げ加工する方法において, ステンレス鋼製の直状針材5を提供することと, 前記直状針材5を,所望の曲率半径よりも小さい曲率半径を有する湾曲針5a に形成することと, 前記湾曲針5aを,所望の曲率半径を有する湾曲針5bに実質的に逆屈曲させ ることによって,前記直状針材5を,最終目的とする湾曲針5bに形成すること と, それにより,完成した屈曲している針の曲げ剛性性質を改良すること, を含む方法。」 (2) 一致点の認定 本願発明と引用発明とを対比すると,次の点で一致する。 「 金属合金外科用縫合針を処理する方法において, 金属合金ブランクを提供することと, 前記ブランクを,第1半径を有する初期屈曲形態に形成することと, 前記初期屈曲形態を,前記第1半径よりも大きい第2半径を有する最終屈曲形 態に実質的に逆屈曲させることによって,前記ブランクを,最終的な所望の屈曲 形態に形成することと, それにより,完成した屈曲している前記ブランクの曲げ剛性性質を改良するこ とと, を含む,方法。」 (3) 相違点の認定 本願発明と引用発明とを対比すると,次の点が相違する。 本願発明の「ニードルブランク」 「耐火金属合金」 は を含むものであるのに対し,引用発明の「直状針材5」がそのようなものであるか明らかではない点。 (4) 相違点の判断 ア 特開平7-204207号公報(刊行物2。甲2)には,次の技術事項(刊2事項)が記載されている。 「 高い堅さと高い外科的降伏強度と良好な延性を示す無菌外科用針を製造するた めに,タングステンレニウム合金ワイヤーから外科用針を製造し,その際に所望 の半径を有する屈曲形態に形成する。」 イ 本願明細書(甲4)の段落【0015】によれば,刊2事項の「タングステンレニウム合金ワイヤー」は,耐火合金材料である。そして,刊2事項の「高い堅さと高い外科的降伏強度と良好な延性を示す無菌外科用針」は,外科用針一般に求められる性質であるから,引用発明においても求められる。また,刊2事項の「外科用針」を製造する方法は,「所望の半径を有する屈曲形態に形成する」点で,引用発明と共通する加工方法である。そうすると,引用発明の「直状針材5」の材料として,耐火合金を含むものを採用することは,刊2事項に基づいて当業者が容易に想到し得た事項である。 ウ 本願発明により得られる作用効果は,引用発明及び刊2事項から予測し得る範囲内のものであって,格別なものとはいえない。 (5) 結論 本願発明は,引用発明及び刊2事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,その他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。 |
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原告主張の審決取消事由(相違点の判断の誤り)
審決は,引用発明に刊2事項を組み合わせて容易想到である旨判断している。 しかし,この判断は,以下のとおり,引用発明に対して刊2事項を組み合わせることについて,動機付けがない上,阻害要因があることを看過したものであり,誤りである。 1 動機付けの欠如 従前使用されてきたステンレス鋼製の屈曲針は,剛性に課題があったが,刊行物2のような,屈曲ステンレス鋼針と比較して著しい剛性を有する,耐火金属合金を含む金属合金外科用縫合針の使用により,上記課題を解決していた。しかしながら,本願において,たとえ耐火金属合金を含む金属合金外科用縫合針(湾曲針)を使用しても,使用中に針屈曲の悪影響を受けるという課題が初めて見出された。そのような斬新な課題を認識していない状態では,そもそも課題の不存在により,引用発明においてステンレス鋼をタングステンレニウム合金に置換すること(引用発明に刊2事項を組み合わせること)を発想することがない。 2 阻害要因 タングステンレニウム合金は,引張強度が高い材料であるが,壊れやすい(脆い)という特性を有しており,一定以上の力が加わると,クラックが生じたり破断したりしやすいという特性を有する。このようなタングステンレニウム合金の特性を知る当業者は,壊れやすいタングステンレニウム合金で作られた針又はニードルブランクを,所望の曲率半径よりも小さい曲率半径に一旦曲げ加工した後に,曲率半径を大きくする再加工をして所望の曲率半径の湾曲針を製造しようとすれば,針又はニードルブランクに破損や亀裂が生じることを予測する。そこで,当業者は,引用発明のステンレス鋼をタングステンレニウム合金に置換することは行わない。 刊行物2が開示しているのは,タングステンレニウム外科用縫合針が屈曲していてよいことであって,これをもって,タングステンレニウム外科用縫合針の製造工程として引用発明の工程を使用できると当業者が認識し得るものではない。また,刊行物2の段落【0012】にいう「良好な延性」は,針の使用時(外科操作時)における延性であって,針の製造時における延性を示すものではないし,使用時に良好な延性を有することから,使用時よりはるかに大きな力がかかる製造時にも良好な延性を有するということはできない。タングステンレニウム合金における延性は,合金の機械的変形(又は機械的加工)を通じて達成される高い転位密度を必要とするものであり,適切な機械的変形(又は機械的加工)が行われて縫合針となった際には十分な延性を有するが,機械的変形(又は機械的加工)前の合金(縫合針の製造時の合金)は十分な延性を有さずに,脆い。 国際公開第2010/100808号(甲7)に,刊行物2に開示された医療用針は,レニウムタングステン線から湾曲形状の縫合針などに成形するためにプレス加工や曲げ加工をする際に,クラックや割れが発生したりして,製品の製造歩留まりが大幅に低下するという問題があった旨,刊行物2に対する当業者の認識が記載されているとおり,従来,タングステンレニウム合金は,製造時の曲げ加工を行う際にクラックや割れが発生して,製品の製造歩留まりが大幅に低下することが知られていた。そこで,刊行物2のタングステンレニウム線を用いた手術用縫合針の製造において,通常の製造においても十分な延性が得られていないと考える当業者が,製品の最終形態の屈曲以上に大きく曲げる工程を有する引用発明を適用しようとしたはずがない。なお,甲7は,その優先日(及び公開日)が本願発明の優先日(本願優先日)より後であるが,甲7には,刊行物2に接した当業者が,本願優先日前に刊行物2が公知となった時から甲7の発明に至るまで,刊行物2のタングステンレニウム線が手術用縫合針の製造に対する十分な延性を有しないと継続して認識していたことが示されている。 タングステンに対して30重量%以下のレニウムを添加することで加工時の延性が改善されることは,特開昭59-25948号公報(乙8),特開2001-152274号公報(乙9)のほか,刊行物2によっても当業者に認識されることであるが,当業者は,レニウム添加によってある程度加工性が向上されたとしても,手術用縫合針の加工時における良好な延性があると認識し得るものではない。 |
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被告の反論
1 「比較的低い適用応力で塑性変形が開始する」ことの技術常識について 本願明細書(甲4)の段落【0005】の「・・・ 『非曲げ』モーメントが,屈曲針に加えられるとき,比較的低い適用応力で塑性変形が開始する」との記載から,本願発明の「曲げ剛性性質を改良すること」とは,曲げ加工により製造されて屈曲した縫合針に,曲げ加工方向とは逆方向へ曲げる力を作用させると,曲げ加工より小さな応力でも塑性変形が生じるとの課題を解決しようとするものであると解される。 ところで,曲げ加工よりも小さな応力でも塑性変形が生じるという上記現象は,宮川大海・坂木庸晃著, 「金属学概論」,朝倉書店,1989 年 7 月,p.140-141(乙5)にバウシンガー効果として示されているとおり,従来から周知の技術事項である。 J.W.ピュー, “タングステン製電球用フィラメントにおけるバウシンガー効果について” メタルージカル , トランザクションズ(冶金処理)A編,第11A巻,1980年 8 月,p.1487-1489(乙6)には,タングステンのほか,銅,α黄銅,脱炭素鉄,純鉄,炭素鋼,チタン,ジルコニウム,マグネシウムについてバウシンガー効果が生じることが記載され,乙5には,バウシンガー効果が「多結晶材料に広く認められ」と記載されており,タングステン単体やタングステンレニウム合金を含む通常の金属や合金が多結晶構造であることを勘案すると,バウシンガー効果は,程度の差こそあれ,さまざまな金属や合金で広く生じる現象であることは技術常識である。 そうすると,引用発明の「ステンレス鋼」や刊2事項の「タングステンレニウム合金」においてもバウシンガー効果が生じるであろうことは,当業者であれば,当然に理解し得る。 2 動機付けの欠如に対し 刊行物2の段落【0020】及び特開昭64-20856号公報(乙10)によれば,外科用針の曲げ強度を高めることは,当業者の間で当然に認識されている課題であり,そのために適した素材を選択することは,通常行われている事項であると理解できる。そして,特開平8-71075号公報(乙11)によれば,円弧状に湾曲した縫合針の素材として,刊行物1記載のステンレス鋼やタングステン合金は,従来から一般に用いられてきたものである。そうすると,刊行物1記載の引用発明に接した当業者が,曲げ強度を高めようとして,従来用いられたステンレス鋼よりも「曲げ強度が改良」された素材であるとして刊行物2に記載されたタングステンレニウム合金を,ステンレス鋼に代えて選択することは,上記の当然に認識されている課題を解決しようとして,上記の通常行っている曲げ強度向上の手段である材料の選択を,上記の従来より用いられている金属あるいは合金から選択したにすぎず,格別困難なことではない。 前記のとおり,バウシンガー効果は,タングステン合金を含む様々な金属や合金において広く認められる現象であるから,当業者であれば,刊行物2記載のタングステンレニウム合金においても,バウシンガー効果が生じることが予測できるところ,引用発明の加工方法によれば,バウシンガー効果による強度低下に伴う使用時の変形を改善することができる。また,近年普及してきたレーザを用いた手術においては,レーザが偶発的に照射された場合でも,耐火金属は熱衝撃に起因する破断等に対して耐性を示す。このような効果の点からも,引用発明の加工方法の対象として刊2事項の素材を選択することの動機があるといえる。 3 阻害要因に対し 乙8及び乙9によれば,タングステンに対して30重量%以下のレニウムを添加することで,加工の際に求められる延性が改善することは,技術常識である。そうすると,当業者は,刊行物2記載のタングステンレニウム合金から製造された外科用針が,少なくとも「・・・典型的には,所望の曲率半径を有するマンドレルの回りに巻くことによって,この針に所望の曲率を与える」との加工を可能とするための十分な延性を付与されたものであると理解できる。したがって,刊行物2記載のレニウムタングステン線は,十分な延性=加工性を有するといえ,曲げ加工を行い外科用針の完成品が得られることが刊行物2には記載されているから,刊2事項のタングステンレニウム合金を引用発明の方法で加工すること自体は可能であるといえ,刊2事項のタングステンレニウム合金を引用発明の加工方法にて加工することを阻害する事由があるということはできない。 |
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当裁判所の判断
1 本願発明について (1) 本願明細書(甲4)には,以下の記載がある。 【0001】〔発明の分野〕 本発明が関係する分野は,外科用縫合針,特に機械的特性を改良するためにステンレス鋼及びタングステン合金外科用縫合針を処理する方法である。 【0002】〔発明の背景〕 外科用縫合針及び外科用縫合針を製造する方法は,当該技術分野において周知である。外科用縫合針は,一般的に300及び400系ステンレス鋼(ステンレス鋼合金)等のような生体適合性合金から製造される。高分子材料,セラミックス,及び複合材料から外科用縫合針を製造することも知られている。金属合金の外科用縫合針は,種々の製造工程を使用して製造される。一般的に,金属合金は,ダイスを使用する従来の線引き法を使用してワイヤに引かれる。 ワイヤは次に個別のニードルブランクに切断される。ニードルブランクは,外科用縫合針の前駆物質であり,従来の外科用縫合糸に取り付けるために適した完成した外科用縫合針に形成されるために,一連の従来の機械,熱及び化学工程及び処理を受ける。機械工程には,矯正,屈曲,コイニング,研削等を含む。熱工程には,熱処理,時効硬化,焼きなまし等を含む。化学工程には,不動態化,研磨,エッチング,着色等を含む。 【0003】 外科用縫合針は,外科手術で使用されるときに最適に機能するために,種々の必須の機械的性質及び特性を必要とする。外科用縫合針及び付着する縫合糸は,組織を接近又は接合させるために使用されるため,これらの特性には,組織の貫通しやすさ,針先の鋭さ,剛性,降伏強度,極限強度,延性,生体適合性等を含む。 【0004】 当該技術分野において,改良された曲げ剛性を有する外科用縫合針に対する関心が高まってきた。曲げ剛性は,外科医が組織に針を通すにつれて力を受けるときに,針がその形を維持するように,特に屈曲した外科用縫合針において重要である。したがって,耐火合金材料から外科用縫合針を製造するために,当該技術分野において関心が寄せられてきた。そのような耐火合金材料の例としては,タングステンレニウム合金(W-Re)が挙げられる。W-Re合金は,400GPaを超える,並外れて高いヤング率を呈することが知られている。 【0005】 しかしながら,屈曲縫合針に形成されるとき,この並外れた弾性変形への抵抗は,実質的に減少する。「非曲げ」モーメントが,屈曲針に加えられるとき,比較的低い適用応力で塑性変形が開始する。 【0006】 外科用縫合針の曲げ剛性を改良するために,多数の試みがなされた。そのようなアプローチは,相対的な改善程度を生じさせたかもしれないが,これらのアプローチは,W-Re外科用縫合針の曲げ剛性を強化することが示されなかった。例えば,析出強化鋼合金が,鉄針の曲げ剛性を最大にするために使用された。外科用縫合針の形態は,曲げ剛性の増加を得るために,種々の形の長方形形状を組み込むために,変更された。もう1つの使用されたアプローチは,曲げにおける剛性を強化するために比較的小さな縫合を有する特大の外科用縫合鋼針の使用である。更にもう1つの,曲げ剛性を改良しようと試みる方法は,高い率を有する特定タイプの合金を選択することである。 【0007】 したがって,当該技術分野には,従来の屈曲ステンレス鋼針よりも著しく剛性であり,及び他のタングステン合金針と比較して改良された特性を有する金属合金,特にタングステン合金から作られた改良された外科用縫合針の必要性がある。 【0008】〔発明の概要〕 そのため,針屈曲の悪影響を除去し,及び曲げにおける剛性を実質的に強化する方法が開示される。 【0009】 本発明の新規な方法は,曲げ抵抗を改良するためにタングステン又はステンレス鋼合金(総して金属合金と称する)外科用縫合針を機械的に処理することを提供し,開示する。この方法では,金属合金針が,提供される。針は,第1半径を有する第1の初期屈曲形態に形成される。 針は次に,第1半径よりも大きい第2半径を有する第2の屈曲形態を形成するために必要な十分に有効な量に実質的に逆に屈曲され,それにより,完成した屈曲針の曲げ剛性性質を改良する。 【0010】 本発明の更にもう1つの態様は,上述された方法により処理された改良された性質を有する外科用縫合針である。 【0011】 結果として,外科医は,そのような金属合金縫合針を使用するときに並外れた制御及び操作からの恩恵を受けることができる。 【0014】〔発明の詳細な説明〕 本明細書において使用される以下の用語は,以下の意味を有するように定義される。 転位-原子及びひずみ場の位置ずれ(mis-registry)が起こる,原子構造中の線欠陥。 転位すべり-合金の塑性変形につながる転位運動。 屈曲-真っ直ぐな外科用縫合針を半径及び弧長を有するものに変形させる,あらゆる工程。 過剰屈曲-真っ直ぐな外科用縫合針を最終的な所望の半径及び弧長を超えて屈曲させる,あらゆる工程。 逆屈曲-外科用縫合針を過剰屈曲状態から最終的な所望の半径及び弧長に変形させる,あらゆる工程。 最終屈曲-使用に必要な所望の形状に適合する外科用縫合針の半径及び弧長。 注:いかなる屈曲工程においても,ワイヤの通常の「スプリングバック」が予想される。過剰屈曲及び逆屈曲は,所望の結果を達成するために実行されるときに,これを考慮する必要がある。 金属合金-2種以上の金属から構成される物質。 曲げ剛性(曲げにおける剛性)-屈曲縫合針の弾性変形に対する抵抗。 弾性変形-かかっていた応力を除去することによって回復可能な変形,ひずみ,又は変位。 長方形針本体-(完全に丸い設計の代わりに(正方形を含むことができる)平坦な対向側面を組み込む種々の針本体のデザイン。 マルテンサイト熱処理-オーステナイト(結晶構造FCC)をマルテンサイト(結晶構造BCT)に変換するための拡散しない変形。 最大曲げモーメント-曲げ試験(ASTM標準F-1840-98a)で針にかけられる最大のモーメント。 析出熱処理-第1位相のマトリックス中で第2位相の微細な相互分散析出物を形成するための熱処理。 析出強化された(Precipitation Strengthened)-生じる熱処理履歴及び性質を表す。 再結晶温度-1時間以内に合金の微細構造中に新規粒子が形成する温度。 単純引張-他の次元の束縛がない状態で,一次元方向にかかる張力。 熱処理-曲げ剛性改良を引き起こすための熱エネルギーの適用。 降伏曲げモーメント又は外科用降伏モーメント-針曲げ試験中(ASTM規格F-1840-98a)に塑性変形を開始するために必要なモーメントの量。 ヤング率-塑性変形の発現前に単純張力における(弾性ひずみによって割られる応力によって測定される)材料の剛性。 非曲げモーメント-屈曲縫合針をその屈曲に反して曲げるために必要なモーメント。 材料特性-材料のみの特性であり,針の形状及び表面特性がデータに影響を与えないような方法での試験により求められる。例として,ヤング率,(単純張力において試験されるとき)最大抗張力,及び微小硬度が挙げられる。 成分特性-材料特性,針形状,表面コーティング,及び試験方法の組み合わせによって由来し得る,針の特性。 【0015】 本発明の新規な方法は,種々の金属合金から作られる外科用縫合針の曲げ抵抗を改良するために使用できる。ステンレス鋼合金には,加工硬化のみによって実質的に強化されたもの(例えば,オーステナイトステンレス鋼),及び屈曲前に熱処理される,従来使用された400系並びにマルエージングステンレス鋼を含むが,それらに限定されない。耐火材料の例には,タングステン,レニウム,モリブデン,ニオブ及びタンタルから製造される合金を含む。ワイヤへの冷間引抜によって強化され,屈曲外科用縫合針に形成される,これらの元素の合金は,本発明の恩恵を受ける。タングステン-レニウム合金,更に具体的にはタングステン26%レニウムを使用することが特に好ましい。耐火金属合金は一般的に,耐火金属合金製造の技術分野で周知の従来の熱間引抜工程を使用してワイヤに引き抜かれる。従来のタングステン合金ワイヤ製造工程は,一般的に,原料化合物,一般的にパラタングステン酸アンモニウム及び過レニウム酸(perenic acid)をそれぞれ精錬することを介して微細なタングステン及びレニウムの粉末を生成するステップからなる。次に,目的の合金構成を達成するために,適切な比率でのタングステン及びレニウム粉末の圧密及び徹底した混合が行われる。圧密された粉末は,細長いロッド又はバーを形成するために,一軸又は静水圧冷間プレスを介して押圧される。バーは次に,密度を高くするために,高温で,例えば,一般的に2400℃を超えて焼結される。次にバーは,バー又はロッドを更に引き延ばすために高温(例えば,一般的に1500℃を超える)ロータリースエージング及び連続熱間スエージングを受ける。最後に,バーの直径を所望のワイヤ直径に減少させるために,バーは一般的に,例えばおおよそ700℃を超える,一連の熱間引抜ステップを受ける。任意に,ワイヤは,一般的には上昇した温度で,スピン矯正を受けるが,室温でも実行できる。 【0020】 屈曲外科用縫合針は,医師が針を,真っ直ぐな針よりも効率的に,ある種の媒体を通して操ることを可能にする。外科手術中の柔軟性及び使用の容易さを可能にするために,異なる屈曲及び屈曲の長さが外科用縫合針に使用される。 【0021】 以下は,本発明の実施において有用な,当技術分野で公知のいくつかの屈曲方法の記載である。用語ニードルブランク及び外科用縫合針は,本明細書で多くの場合において同じ意味で使用される。ニードルブランクは,完成外科用縫合針の前駆物質である部品の専門用語である。 本発明の工程は,ニードルブランク又は完成した外科用縫合針に使用できる。 【0034】 本発明の新規方法は,曲げにおける屈曲タングステン合金縫合針の剛性の増加を提供する。 本発明の方法において,機械的に屈曲し,次に逆屈曲することは,その極限曲げモーメントを著しく減少させることなく,屈曲金属合金縫合針の剛性を実質的に増加させる工程として識別された。本発明の方法の図式が図1に示される。漸進的屈曲が用いられ,選択方法は,少なくとも3つの屈曲ステップを使用する。図1に見られるように,工程は,実質的に真っ直ぐなニードルブランク又は針200で開始する(位置A)。次にブランク200は,初期の所望の半径R210(位置B)まで特定直径のマンドレルの周辺で屈曲され,屈曲が生成される。通常のワイヤスプリングバックにより,実際の半径はマンドレルの半径よりも大きいR215になる(位置C)。ニードルブランク200は,次に半径を半径R’220(位置D)に開放する逆の工程を使用して漸進的に「屈曲を除き」,最終的な所望の形状への半径R225(位置E)及び屈曲にスプリングバックされる。当業者は,結果が,一連の半径及び屈曲を試験することによって特定の針形態及び材料において最適化されることを認識するであろう。単一の屈曲,逆屈曲サイクルは,実質的に剛性を効率的に増加させるために十分である。サイクルの数は,ほぼいかなる数にも増加できる。制限要因は,再形成延性及び/又は工程の考察である。本発明の新規方法によって機械的に処理できる針の屈曲形態のタイプには,いかなるタイプの単一半径針,又はいかなるタイプの複数半径針形状も含む。 【図1】過剰屈曲/逆屈曲工程と称される本発明の機械的屈曲補剛工程の図式【0035】 「過剰屈曲」状態をもたらす本発明の初期屈曲工程に続き,針又はブランク10は,最終的な所望の屈曲を得るために,逆屈曲されねばならない。図8に見られるように,これは過剰屈曲針又はブランク10の内側に嵌ることを可能にする直径を有するマンドレル400(好ましくは鋼)を,過剰屈曲下針又はブランク10内に設置し,内半径R440を有するアンビルに対して部品を伸ばすことによって達成される。アンビルの内半径R440は,針又はブランク10の1つ又は複数の巻きにより,通常のスプリングバック後に結果として生じた屈曲が,最終的な所望の屈曲及び半径R450に一致するように設計される。図8を参照(実施例2)。 【図8】初期過剰屈曲,アンビル上でワイヤを巻く,挿入されたピン及び結果として生じた最終屈曲を示す,逆屈曲工程の図式【0036】 逆屈曲の代替的方法は,より大きなマンドレルが,針又はブランク内に設置されるために十分に屈曲が開放するように,過剰屈曲針又はブランクに荷重をかけることである。前述の機械的屈曲のいかなる標準方法も,通常のスプリングバックを可能にした後に,針又はブランクを最終的な所望の屈曲及び半径に逆屈曲させるために使用できるようになる。実施例1を参照。 【0037】 曲げにおける剛性は,縫合針の取り扱い及び性能の必須性質である。準拠した針は,組織貫通中に弾性的にたわみ,設置制御の喪失をもたらす。剛性針は,弾性たわみに抵抗し,それによって,意図されるように,高レベルの制御を提供するように方向付けることができる。従来の縫合針は,正方形又は長方形の針本体の提供,針の作製においての大きな直径のワイヤの使用,針を析出熱処理に晒すこと,及び針をマルテンサイト熱処理に晒すことを含むが,それらに限定されない種々の従来の方法で剛性を達成している。縫合針の本体は,針の慣性モーメント及び剛性を強化するために,I形ビームの形状に形成でき,針本体を他の高剛性/高強度の針本体設計に形成することが同様に知られている。 【0038】 あるいは,所与の縫合糸の大きさに関して,曲げにおける高剛性を達成するために,大きなサイズの針を,使用することができる。しかしながら,大きな縫合針は,組織外傷を引き起こす可能性が高く,その上,特に心臓血管用途において,大きめの穿刺孔から血液の漏出が生じ得る。 【0039】 最後に,針が形成された後に析出強化を受ける特別な構成の鋼合金が使用できる。これらの合金において,微細な析出物が,微細構造全体にわたって形成し,そして転位運動の阻害又はピン留めにより塑性変形の発現を遅延させる。同様に,AISI 420のようなステンレス鋼は,外科用縫合針に一般的に使用される。この分類の鋼は,マルテンサイトへの微細構造相の変化を伴う,熱処理によって強化される。強度及び硬度は増加するが,弾性率は影響を受けない。 【0040】 縫合針は,ほぼ例外なくステンレス鋼から生成され,前述の技術はすべて,針の強度を強化するために使用できると同時に,針は,それらが作られる鋼材料の固有の剛性又は弾性率によって限定される。いくつかの特殊針は,チタン,又はニチノールの合金から生成できるが,これらの代替材料は,鋼よりも更に低いヤング率を示す。鋼合金により達成可能な縫合針剛性を上回り,超える,相当な向上を実現するために,異なる高弾性率材料を使用することが必要である。 【0041】 タングステン合金は,並外れて高い剛性を,他の望ましい物理的性質に加えて示す。理論的ヤング率のみを考慮すると,タングステン合金は,400GPaを超える弾性率を示すが,鋼合金は,〜205GPaの弾性率を示す。しかしながら,この相当な剛性の改良は,完成した屈曲外科用縫合針における曲げ剛性の同等な改良に必ずしもつながらない。実際に,針製造中の従来の屈曲工程は,屈曲縫合針の曲げ剛性を減少させるように作用する応力を与える。曲げにおける並外れた剛性を実現するために,屈曲工程の悪影響を修正する方法が,必要である。 しかしながら,(上述の)剛性を強化するための析出硬化を受けるタングステン合金は,現在存在しない。代わりにタングステン合金は,その強度を,主として,高い転位密度,及び応力が加えられるにつれ転位-転位相互作用を介して起こる天然の変形抵抗から得ると考えられる。 転位-転位相互作用から得られる強度は,固溶体強化によって補われ,レニウム原子近傍のひずみ場は,合金の塑性変形の原因である転位の滑りに更に抵抗する原子格子内の局所ひずみを引き起こす。縫合針の製造で使用される標準的な針屈曲工程中に,針の外側半径の材料は,残留圧縮力により残され,一方で針の内側半径の材料は,残留張力の状態で残される。臨床用途において,針が曲げ力に直面するとき,塑性降伏がこれらの残留応力の存在のために,未加工材料よりも低い曲げモーメントで起こる。要するに,これらの残留応力は,屈曲工程のために,下方縫合針の降伏モーメントの最終結果により,針の外面及び内面で,材料の圧縮及び引張降伏強度を直接減じている。本明細書に記載された複数の過剰屈曲/逆屈曲工程が,針の外面及び内面に位置するこれら残留応力の表れを最小限に抑えるか,除去するか,又は極端な場合に逆転させ,それにより縫合針の降伏モーメント及び有効曲げ剛性を増加させると考えられる。 【0042】以下の実施例は,本発明の実施の原理を実証する。 【0043】(実施例1) 本発明の新規な機械的処理工程により処理された耐火合金外科用縫合針内で生成された曲げ強度の改良を示すために,タングステンレニウム外科用縫合針が,以下のように作られた。 【0044】 ワイヤは,本開示において上述されたように形成された。ニードルブランクは,以上で引用した米国特許に記載された,従来の方法を使用して生成された。 【0045】 ニードルブランクは次に,以下のように本発明の新規な方法に従って機械的に処理された。 針は,0.328cm(0.129インチ)の半径に屈曲された。これは,所望の完成半径よりも遙かに小さい。針は次に,0.947cm(0.373インチ)の所望の半径に実質的に逆屈曲された。 【0046】 W-26%Re合金屈曲縫合針(直径0.020cm(0.008インチ))の曲げ性能に対するこの処理方法の効果は,図2のモーメント対角度のグラフに示される。 【図2】実施例1に記載された過剰屈曲/逆屈曲シーケンスの結果を示す曲げモーメント対角度のグラフ【0047】 図2の曲線は,異なる初期屈曲半径が,最終剛性にいかに影響を与えたかを示す。図6は, ママ屈曲シーケンス(半径0.928cm(0.129インチ)〜半径0.947cm(0.373インチ))に起因する実際の針形状を示す写真である。 【図6】実施例1に記載されたように試験を受けた屈曲シーケンスの実際の針屈曲(半径0.328cm(0.129インチ)〜半径0.947cm(0.373インチ))を示す写真【0048】 (実施例2) この実施例において,針はすべて,3又は4の漸進的屈曲ステップで初期半径に屈曲させた。 それらは,0.254cm(0.100インチ)〜0.483cm(0.190インチ)までの直径範囲を有するピンを使用して屈曲させた。屈曲ローラは,プラスチック又は鋼から製造できる。「逆屈曲」ステップが,小径鋼ローラにより実行され,通常のワイヤスプリングバックを考慮し,最終的な所望の針屈曲をもたらす,内半径を有する特定のアンビルに対して開いた針を屈曲させる(図8参照)。この工程は,初期合金,針本体形状,初期屈曲及び最終的な所望の屈曲に応じて,種々のステップ,アンビルの大きさ及びローラの直径により達成できる。 針は,W-26%Reニードルブランク(直径0.020cm(0.008インチ)のワイヤ)から作られた。結果は,表中に含まれる。 【表1】 (2) 前記(1)の記載によれば,本願発明の技術的意義について,次のとおり認めることができる。 屈曲した外科用縫合針において,曲げ剛性(屈曲縫合針の弾性変形に対する抵抗)は,外科医が組織に針を通すにつれて力を受けるときに,針がその形を維持するために重要である。そこで,タングステンレニウム合金のような耐火合金材料から外科用縫合針を製造することに関心が寄せられてきた。しかし,タングステンレニウム合金は,並外れて高いヤング率を呈することが知られているが,屈曲縫合針に形成されると,この並外れた弾性変形への抵抗は実質的に減少し,非曲げモーメント(屈曲縫合針をその屈曲に反して曲げるために必要なモーメント)が屈曲縫合針に加えられると,比較的低い適用応力で塑性変形が開始するという課題があった。 (【0004】【0005】【0014】【0041】 , , , ) 本願発明は,この針屈曲の悪影響を除去し,曲げ剛性を実質的に強化することを目的とする(【0008】。 ) そして,上記課題が,縫合針の製造で使用される標準的な針屈曲工程中に,針の外側半径の材料は残留圧縮力の状態で,針の内側半径の材料は残留張力の状態で残されるところ,これらの残留応力が,針の外面及び内面で,材料の圧縮及び引張降伏強度を直接減じていることから生じること,過剰屈曲(真っ直ぐな外科用縫合針を最終的な所望の半径及び弧長を超えて屈曲させる,あらゆる工程)及び逆屈曲(外科用縫合針を過剰屈曲状態から最終的な所望の半径及び弧長に変形させる,あらゆる工程)の工程が,これらの残留応力の表れを最小限に抑えるか,除去するか,又は極端な場合に逆転させ,それにより縫合針の降伏モーメント及び有効曲げ剛性を増加させることを見出した( 【0014】【0041】。 , ) そこで,本願発明は,上記課題を解決するための手段として,タングステンレニウム合金のような耐火合金材料を含む外科用縫合針において,針又はブランクを,第1半径を有する初期屈曲形態に形成した後,前記第1半径よりも大きい第2半径を有する最終屈曲形態に実質的に逆屈曲させて最終的な所望の屈曲形態に形成することとし,これにより,最初の屈曲により生じた針の残留応力をその後の逆屈曲により低減させて,針の曲げ剛性を増加させたものであると認められる。 2 引用発明について (1) 刊行物1(甲1)には,以下の記載がある。 「<産業上の利用分野> 本発明は手術用縫合針の曲げ加工方法に関するものである。」(1頁左下欄16-18行)「<発明が解決しようとする問題点> しかし,従来の方法で加工された湾曲針は使用していると,使用中に容易に変形してしまう欠点があった。 この容易に変形する現象について説明すると,次の通りである。 第3図(A)に示す如く,持針器1で持った直状針材2を曲げる為の力をAとし,同図(B)に示す如く曲げ加工された湾曲針3を元に戻す方向に曲げる力をBとし,曲げ加工された湾曲針3を更に加工方向に曲げる力をCとすると,これ等の力A,B,Cには次の様な関係が成立する。 (1)最初の数度曲げる(初期変形)間に於ける力の関係は次の如くである。 C≧A>B 然るに縫合針を実際に一番使用する状態はBであるので,一番力関係の悪い状態で使用することになる。 (2)上記の初期変形を過ぎた比例限界内変形に於ける力の関係は次の如くである。 即ち,力が一定量増加する角度の増加は力A,B,C共に相互の差がほとんど無くなる。この時点に於ける力の大小は既に本件特許出願人の出願に係る実公昭61-6886号公報等に明記されている如く,針の断面形状によって大きく左右されることが明らかである。 (3)ある角度以上になると,曲げる力A,B,Cは第4図に示す如く一定となる。この時の力A,B,Cは針の断面形状が同一であるならば力A,B,Cにあまり差がないことが明らかである。 第4図に示す曲げる力が小さい段階(イ)と,中間段階(ロ)と,曲げる力が大きい(ハ)の内で,本発明で問題となるのは曲げる力が小さい段階(イ)に関するものである。 縫合針の実際の使用に際しては,第5図に示す如く,持針器1で保持された湾曲針3に前述の曲げる力Bの力が少しだけ掛かるのが常である。従って通常は湾曲針3が図に示す如く肉体の組織4を通過する為の抵抗が持針器に掛かり,その力の一部が湾曲針3を外へ広げる方向(曲げる力B)に掛かる。 この曲げる力Bは通常に湾曲針3を屈曲させる時の力程に大きな力ではない。しかし,例えば2分の1円の湾曲を持った縫合針が通常の使用によって少し広がって2分の1円と8分の3円との中間的形状になってしまうことが多い等の問題点がある。 本発明は従来のこれ等の問題点に鑑み開発された全く新規な技術に関するものである。」(1頁右下欄10行―2頁右上欄18行)「 」「 」「 」「<問題点を解決するための手段> 本発明は,縫合針用のステンレス鋼製の針材を所望の曲率半径よりも小さい曲率半径に一旦曲げ加工した後で,少なくとも容易に曲率半径が大きくなる分だけ曲率半径を大きくして再加工するか,又は150℃乃至550℃以下の熱処理によって曲率半径が変化する分を見込んで曲げ加工をした後で,上記条件の熱処理で再加工するか,或いは上記二つの加工方法を併用することによって所望の曲率半径の湾曲針を製造することを特徴とした縫合針の曲げ加工方法である。 <作用> 本発明は上述の如く,所望の曲率半径よりも小さい半径に一旦曲げ加工した針材を大きな曲率半径になる如く再加工するか,又は所定の温度で加熱処理することによって再加工するか,或いはその両者の方法を併用するかして湾曲針を製造するので,簡単な工程によって初期変形が極めて少ない湾曲針を確実に大量生産することが出来る。」(2頁右上欄19行―左下欄17行)「<実施例> 既に湾曲針の特性については<発明が解決しようとする問題点>の項で詳述したが,一旦円弧状に曲げられた湾曲針3は元へ戻ろうとする内部応力を持っているので,第1図(B)及び第3図に示す如く,元へ戻す方向の力がこの湾曲針3に少し掛かって も容易に元の方向に変形する。但し,全く元の形状に戻るのではなく,少しだけ元の方向に変形し,この現象によって湾曲針3の湾曲度が変化する性質がある。 本発明に係る方法は前述の湾曲針3の特性に着目して発明されたものである。 (実施例1) 先ず本発明に於いては第1図(A)に示す如く,ステンレス鋼製の直状針材5を同図(B)に示す如く,目的とする湾曲針の曲率半径より小さくなるように必要以上に強く曲げた湾曲針5aを作成し,次に同図(C)に示す如く湾曲針5aが少なくとも容易に元へ戻る分の角度を再加工によって戻す方向に変形させてやり,最終目的とする湾曲針5bを製造する。」(2頁左下欄18行―右下欄18行)「上記実施例1の方法を実施したところ,前記第4図に例示した曲げる力Cを有する湾曲針5bを得ることが出来た。」(3頁左上欄16-18行)「 」「<発明の効果> 本発明に係る製造方法は上述の如き構成と作用とを有するので,湾曲針を簡単な工程で確実に大量生産することが出来,かつ本方法によって製造された縫合針は湾曲針の元に戻す方向(外方)に対する抵抗力を著しく大きくすることが出来,これによって縫合針を使用する際に掛かる湾曲を広げようとする小さな力によって容易に広がる初期変形をほとんど無くすことが出来る等の特徴を有するものである。」(3頁右上欄2-11行) (2) 前記(1)の記載によれば,刊行物1記載の引用発明について,次のとおり認めることができる。 従来の方法で加工された湾曲針は,使用に際して,持針器を介して曲げ加工を元に戻す方向の力Bが掛かると,持針器で持った直状針材を曲げるための力A及び湾曲針を更に加工方向に曲げる力Cよりも小さい力で,容易に変形してしまうという課題があった。 これは,一旦円弧状に曲げられた湾曲針が元へ戻ろうとする内部応力を持っていることに由来する。 引用発明は,上記課題を解決するために,縫合針用のステンレス鋼製の針材を所望の曲率半径よりも小さい曲率半径に一旦曲げ加工した後で,少なくとも容易に曲率半径が大きくなる分だけ曲率半径を大きくして再加工することによって所望の曲率半径の湾曲針を製造することを特徴とした縫合針の曲げ加工方法である。 そして,このような方法で製造した湾曲針は,曲げ加工を元に戻す方向に対する抵抗力を著しく大きくすることができ,これにより縫合針を使用する際に掛かる湾曲を広げようとする小さな力によって容易に広がる初期変形をほとんどなくすことができる。 以上によれば,引用発明は,次のとおりであると認められる。 「ステンレス鋼製手術用縫合針を曲げ加工する方法において, ステンレス鋼製の直状針材5を提供することと, 前記直状針材5を,所望の曲率半径よりも小さい曲率半径を有する湾曲針5aに形成することと, 前記湾曲針5aを,所望の曲率半径を有する湾曲針5bに実質的に逆屈曲させることによって,前記直状針材5を,最終目的とする湾曲針5bに形成することと, それにより,完成した屈曲している針の曲げ剛性性質を改良することと, を含む方法。」 3 刊2事項について (1) 刊行物2(甲2)には,以下の記載がある。 【特許請求の範囲】【請求項1】 高い引張り弾性モジュラスと高い引張り降伏強度を示す無菌外科用針において,タングステンで作られているか或はレニウム,ロジウムおよびイリジウムから成る群から選択される1種以上の金属を30重量%以下の量で含んでいるタングステン合金で作られている無菌外科用針。 【0001】【発明の背景】本発明は,外科用針に関するものであり,特に,堅さと曲げ強度と延性とが望ましく高い組み合わせを示す針に関する。 【0004】針を用いる時,この針に応力がかかる可能性がある,と言うのは,組織(例えば血管,目の角膜など)に 貫通させてその中にこの針を押し込む時に 用いる力は,この針をその組織の中に押し込みそしてその組織を貫通させる時の摩擦抗力に打ち勝つに充分でなくてはならないからである。この針を保持している地点からこの針のシャフトに沿ってこのような力をかけると,この針が曲がる危険性があるが,これはこの針のコントロールを失う原因となることから望ましくない。このことは,この針の胴体部分の堅さが比較的高くなくてはならないこと,即ちこの針が変形力を受けた時の曲がる傾向が低くそしてそれの構造を保持する傾向が高くなくてはならないことを意味している。・・・【0012】【発明の要約】高い堅さと高い外科的降伏強度と良好な延性を示す無菌外科用針をタングステンからか或はレニウム,ロジウムおよびイリジウムから成る群から選択される1種以上の金属を約30重量%以下の量で含んでいるタングステン合金から製造することができることをここに見い出した。・・・【0013】【発明の詳細な記述】組成として,本発明の無菌外科用針は,タングステンからか或はタングステンと第二成分(これはレニウム,ロジウムまたはイリジウムであるか,或はレニウム,ロジウムおよびイリジウムの2 種または3種全てである)との合金から作られている。好適には,他の元素は痕跡量以上の量で存在しておらず,より好適には,この針が含んでいるのはタングステンとその第二金属のみである。この第二成分は,この合金の約30重量%以下を構成しており,より好適には約3から約6%である。この第二成分が約3重量%の量で存在している合金を用いると満足される結果が得られた。 【0014】この針の直径は,微細外科で満足される使用を可能にするに有効な直径である。典型的には,この直径は約60ミル(1インチの1000分の1)未満,好適には約1.4から約12ミルまでである。・・・【0017】本発明の外科用針は,高い堅さと高い曲げ強度と良好な延性(これらの言葉に関しては上で定義した)のユニークな組み合わせによって特徴づけられる。本発明の針に関するワイヤー引張り降伏強度は一般に少なくとも約250,000psiである。引張り降伏強度が高いことは,曲げ強度がより高いことを反映していると共に,本発明の針は永久的な変形を受けることなく,起こり得る変形応力に耐える能力を有することを示していることから,有効である。 【0018】本発明の針に関するワイヤーはまた,ユニークに高い引張り弾性モジュラスを示す。本発明の針に関するワイヤー引張り弾性モジュラスは一般に少なくとも約45x10 6 psiである。この引張り弾性モジュラスが高いことは,堅さがより高いことを反映していると共に,本発明の針は必要以上のたわみを受けることなくそれらの形状を保持することによって,起こり得る変形応力に耐える能力を有する点で,望ましいものである。 【0019】本発明の針に関するワイヤー張力におけるパーセント伸びは一般に少なくとも2%である。パーセント伸びが高いことは,延性がより高いことを反映していると共に,本発明の針は破壊を受けることなく,使用中の曲げに耐える能力を有することを示していることから,有効である。・・・【0020】図1を参照して,本発明に従う組成を有する2本の針を,ASTM 45500合金ステンレス鋼から製造された市販のステンレス鋼針と比較する目的で,曲げ角に対する荷重の関係を示す。これらの3つの曲線から,通常の外科使用で遭遇 し得る荷重において本発明の組成物の方が有意に高い堅さを示すといった事を確かめることができるのと同様,曲げ強度が改良されることを確かめることができる。追加的に,本発明の組成物は破壊を生じることなく84度の曲げに耐えることができ,これは,外科医が針を外科的に使用している間に曲げをもたらす過剰な力をその針に受けさせるかもしれないことに関する安全ファクターを与えるものである。これらの2つのサンプルを,実施例1に挙げる如く試験した。 【図1】3種の外科用針組成物に関する,曲げ角に対する荷重のグラフ【0023】次に,典型的には,所望の曲率半径を有するマンドレルの回りに巻くことによって,この針に所望の曲率を与える。 【0027】【実施例】実施例1図2に示すブロック図に従って真っすぐな針を加工した。下記の2つの組成物:タングステンワイヤーおよびタングステン-3%-レニウムワイヤー(両方とも最終直径は10ミル)から製造した本発明の針に関して,曲げ試験を実施した。最終直径が10ミルである,商業的に入手可能なASTM 45500合金ステンレス鋼ワイヤーから製造した針に関してもまた曲げ試験を実施した。 【0028】上述した論評「Tensile and Bend Relationships...」(これの教示は引用することによって本明細書に組み入れられる)の中に詳述されている装置を用いてこれらの曲げ試験を実施した。全体で84度のタワミを通して固定針を曲げた。0.100インチのモーメントアーム(moment arm)を用いた。各針にかかる荷重を連続して電気的に測定した。このようにして,曲げ角(度で表すX軸)の関数として荷重(ポンドで表すY軸)を示す永久チャート記録(permanent chart recording)を生じさせた。図1は,3本の試験針全てから得られた結果を示している。 【0029】針が示す堅さである,たわみに対する抵抗力を,曲げモジュラスで特徴づけた。その荷重/タワミ曲線の線形-弾性直線部分の傾きがこの曲げモジュラスを限定している。外科用針材料に関する曲げ試験の直線部分は,一般に,そのタワミ の最初の10度の中に含まれている。従って,曲げモジュラスが高いことは,支持可能な力がより大きいことと,生じるたわみが小さいことを示している。本発明のタングステン針に関する曲げモジュラスは1度当たり0.071ポンドである。タングステン-3%-レニウム針に関する曲げモジュラスは1度当たり0.073ポンドである。ASTMグレード45500合金ステンレス鋼製針に関する曲げモジュラスは1度当たり0.042ポンドのみである。従って,本発明の針が示す堅さは,市販の針材料で出来ている針が示す堅さよりも約70%高い。 【0030】強い材料により大きな荷重をかけると,針の曲げ,即ち永久的な変形が生じる。外科的降伏強度を用いて曲げに対する抵抗力を特徴づける。その荷重/タワミ曲線が線形から外れる点である,永久的変形が始まる所で,この降伏強度を測定する。外科手術中に初めて見られる感知できる程の針変形は,その降伏点を約2度越えた地点で起こる。これを外科的降伏点と呼び,これを,その荷重/タワミ曲線の線形-弾性部分に平行な1つの線から2度外れる交点として定義する。従って,外科的降伏強度が高いことは,この針が何らかの永久的形状変化を受ける前に 支持可能な力がより高いことを示している。本発明のタングステン針に関する外科的降伏強度は0.526ポンドである。タングステン-3%-レニウム針に関する外科的降伏強度は0.504ポンドである。ASTMグレード45500合金ステンレス鋼に関する外科的降伏強度は0.462ポンドである。従って,本発明の針が示す強度は,市販の針合金で出来ている針が示す強度よりも約15%高い。 (2) 前記(1)の記載によれば,刊行物2には,次のとおりの事項(刊2事項)が記載されていると認められる。 「高い堅さと高い外科的降伏強度 と良好な延性を示す無菌外科用針を製造するために,タングステンレニウム合金ワイヤーから外科用針を製造し ,その際に所望の半径を有する屈曲形態に形成する。」 4 取消事由(相違点の判断の誤り)について (1) 本願発明と引用発明の対比について 前記認定によれば,本願発明と引用発明とは,屈曲した外科用縫合針の材料となる金属が相違するものの,いずれも,従来の屈曲縫合針においては,曲げ加工を元に戻す方向の力が掛かると,直状針材を曲げるときに比べてより小さい力で塑性変形してしまうという課題を解決するために,最終的な所望の半径を超えて過剰に屈曲させた後,これと逆方向に屈曲させて最終的な所望の半径に形成することとし,これにより,最初の屈曲により生じた針の残留応力(内部応力)をその後の逆方向への屈曲により低減させて,屈曲した外科用縫合針の曲げ剛性を高めるという技術的思想を有する点で共通するものであり,審決が正しく認定するとおり,前記第2の3(2)の点で一致し,同(3)の点(本願発明の「ニードルブランク」は「耐火金属合金」を含むものであるのに対し,引用発明の「直状針材5」はそのようなものであるか明らかではない点。)で相違する。 (2) 引用発明と刊2事項の組合せについて ア 乙10には,湾曲した外科用針について(第1図)「針の重要な機械的 ,特質は延性,鋭利性及び曲げ強度である。 ・・・曲げ強度は針が使用中の曲げに耐えられるために重要なものである。 ・・・本発明は或種の高強度合金が,発明者の知る限りどんな他の外科用針よりも強力である外科用針として加工するのに使用できるという発見に基づいたものである。 と記載されており 」 (1頁右下欄19行-2頁左上欄9行),前記2(1)の刊行物1の記載及び前記3(1)の刊行物2の記載を併せ考慮すると,屈曲した外科用縫合針において使用中の塑性変形を防止するために曲げ剛性(曲げ強度)を高めることは,屈曲した外科用縫合針一般に求められる課題であり,刊行物1及び刊行物2に共通する課題であることが認められ,また,曲げ剛性(曲げ強度)の向上に適した材料を選択することは,当業者が上記課題を解決するために通常行うことであると認められる。 イ そして,乙11には,腹腔鏡下手術に用いられる縫合針が有している円弧状に湾曲した針本体2について, 「構成材料としては,例えば,ステンレス鋼,チタン,ニッケル,タングステンおよびこれらの合金のような従来より針に用いられている種々の金属材料が挙げられる。と記載されており【0022】 0024】, 」 ( 【 , )前記3(1)の刊行物2の記載を併せ考慮すると,タングステン合金は,ステンレス鋼とともに従来から屈曲した外科用縫合針に用いられている金属材料であることが認められる。 ウ そうすると,屈曲した外科用縫合針の曲げ剛性(曲げ強度)を高めるという課題を解決するために,当業者が,引用発明において,その外科用縫合針の材料である「ステンレス鋼」に代えて, 「ASTM 45500合金ステンレス鋼から製造された市販のステンレス鋼針」よりも「曲げ強度が改良される」と記載されている刊2事項の「タングステンレニウム合金」を選択することは,当業者における通常の創作活動の範囲内のものであると認められる。また,科全書 9」,小学館,1995 年 7 月,p57(乙1),特開2006-120411号公報(乙2),米国特許出願公開第2006/0271067号明細書(乙3),吉武進也・中村治方著,「現代溶接技術大系≪第12巻≫」,昭和 55 年 1 月,p28(乙4)によれば,耐火金属は,一般に高融点金属を指し,刊2事項の「タングステンレニウム合金」は耐火金属合金であると認められる(なお,前記第2の3(4)イのとおり,審決は,刊2事項の「タングステンレニウム合金ワイヤー」が耐火合金材料であることを認定するに当たり,刊行物2や他の証拠の記載ではなく,本願明細書の記載に依拠しているが,適切でない。。 ) エ 他方,甲7には, 「特許文献1〔判決注・刊行物2〕に開示された医療用針は, ・・・レニウムタングステン線から湾曲形状の縫合針などに成形するためにプレス加工や曲げ加工を実施する際に,クラックや割れが発生したりして,製品の製造歩留りが大幅に低下するという問題があった。 と記載されているが, 」 その優先日は平成21年3月2日であり,公開日は平成22年9月10日であって,本願優先日(平成19年12月17日)当時から,既に当業者において,刊2事項の「タングステンレニウム合金」には湾曲形状の縫合針などに成形する際にクラックや割れが発生するなどして製造歩留りが大幅に低下するという課題がある,という上記記載の内容が認識されていたものであるか否かについては明らかでなく,これにより本願優先日当時の当業者が刊2事項の「タングステンレニウム合金」に上記課題があったことを認識していたものと認めることはできない。 刊2事項の「タングステンレニウム合金」は, 「所望の半径を有する屈曲形態に形成する」ものであるところ,本件証拠上,甲7のほかに刊2事項の「タングステンレニウム合金」に上記課題があったことを示す証拠は見当たらないし,所望の半径よりも小さい半径に過剰に屈曲させた後,所望の半径に実質的に逆屈曲させるという引用発明の加工方法が,刊2事項の「所望の半径を有する屈曲形態に形成する」ことと質的に相違するものであることを示す証拠も見当たらないことからすれば,本願優先日当時の当業者は,刊2事項の「タングステンレニウム合金」は屈曲した外科用縫合針の加工の際に求められる十分な延性を有していると認識するものといえ,これを引用発明の「ステンレス鋼」に代えて適用することに阻害要因があるものということはできない。 オ 以上によれば,本願発明は,当業者が引用発明及び刊2事項に基づいて容易に想到し得たものであると認められる。 (3) 原告の主張について ア 原告は,耐火金属合金を含む金属合金外科用縫合針(湾曲針)を使用した場合にも使用中に針屈曲の悪影響を受けるという課題は,本願により初めて見出されたものであり,そのような課題を認識していない状態では,引用発明のステンレス鋼をタングステンレニウム合金に置換することを発想することがなく,引用発明に刊2事項を組み合わせる動機付けがない旨主張する。 しかしながら,屈曲した外科用縫合針には,使用中の塑性変形を防止するために曲げ剛性(曲げ強度)を高めるという一般的な課題がある上,これは刊行物1及び刊行物2に共通の課題でもあり,この課題を解決するために材料の選択(置換)を行うことも,その材料としてタングステン合金を使用することも,通常行われていることであって,引用発明に刊2事項を組み合わせる動機付けがあることは,前記(2)で説示したとおりである。原告は,刊行物2のような耐火金属合金を含む金属合金外科用縫合針(湾曲針)のみを対象としてその曲げ剛性(曲げ強度)に課題を見出さなければ,当業者は,曲げ剛性(曲げ強度)を向上させることを目的とした創作活動を行わないものであるかのように主張するが,前記3(1)の刊行物2の記載のとおり,屈曲した外科用縫合針の曲げ剛性(曲げ強度)の向上という課題は,血管や目の角膜を含む人体の組織に外科用縫合針を貫通させた際に針のコントロールを保つために必要となるものであるから,当該課題の解決の観点から,当業者は,引用発明を出発点としてその材料を刊2事項と置換することは容易に想到し得るものと認められる。原告の主張は,採用できない。 イ 原告は,タングステンレニウム合金は,壊れやすい(脆い)という特性を有しており,一定以上の力が加わると,クラックが生じたり破断したりしやすいという特性を有するから,このような特性を知る当業者は,刊2事項のタングステンレニウム合金を引用発明の方法で加工すると針又はニードルブランクに破損や亀裂が生じることを予測するものであり,引用発明に刊2事項を組み合わせることには阻害要因がある旨主張する。 しかしながら,前記(2)で説示したとおり,原告主張の阻害要因は認められない。 なお,原告主張のとおり,刊2事項の「タングステンレニウム合金」には湾曲形状の縫合針などに成形する際にクラックや割れが発生するなどして製造歩留りが大幅に低下するという課題があるという甲7の記載内容が,本願優先日(平成19年12月17日)当時から既に当業者に認識されていたものであったと仮定しても,金属加工において,クラックや割れは通常の製造工程でも十分起き得るものであり,当業者がこれを踏まえて金属材料の成分,粒度,種々の加工条件等を変更するなどして試行を繰り返すことは,通常の創作活動の範囲内であるということができるし,乙9には,ランプ用フィラメントに用いられる二次加工用タングステン素材の課題を解決するために,線径(直径)36〜163μmの二次加工用タングステン素材を調整し,コイリング(巻回)したことが記載されており(【0034】ないし【0039】,外科用縫合針の線径(刊行物1には記載がないが,刊行物2では好適に )は約1.4から約12ミル(約35.56μmから約304.8μm)とされている。 に匹敵する微細な線材による加工が行われているから, ) 当業者が甲7の上記記載内容の認識から直ちに引用発明の「ステンレス鋼」を刊2事項の「タングステンレニウム合金」に置換することを断念するものとは認め難く,甲7の上記記載内容の認識を踏まえても,原告主張の阻害要因は認められない。 5 結論 以上によれば,原告主張の取消事由は理由がない。 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 清水節 |
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裁判官 | 片岡早苗 |
裁判官 | 古庄研 |