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関連審決 不服2014-18222
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事件 平成 27年 (行ケ) 10213号 審決取消請求事件

原告 ゼネラル・エレクトリック ・カンパニイ
訴訟代理人弁護士 城山康文
同 山内真之
同 小山悠美子
訴訟代理人弁理士 重森一輝
同 荒川聡志
同 小倉博
同 黒川俊久
同 田中拓人
被告特許庁長官
指定代理人松下聡
同 槙原進
同 加藤友也
同 長馬望
同 田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/08/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 11 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2014-18222号事件について平成27年6月1日にし た審決を取り消す。
事案の概要
本件は,特許出願に対する拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消 訴訟である。争点は,進歩性判断の当否である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,平成19年7月27日,発明の名称を「ガスタービンエンジンア センブリ」とする特許出願をした(特願2007-195873号。以下「本 願」という。甲4)。
本願は,パリ条約優先権主張を伴う出願であり,その優先日は平成18 年(2006年)7月31日,優先権主張国は米国である。
(2) 原告は,平成23年10月4日付け,平成24年10月5日付け及び平成 25年10月15日付けで拒絶理由通知を受けたのに対し,平成24年4月 10日付け手続補正書(甲6),平成25年4月16日付け手続補正書(甲 9)及び平成26年4月17日付け手続補正書(甲12)でそれぞれ特許請 求の範囲の補正を行ったが,同年5月2日付けで拒絶査定を受けた(甲14)。
(3) 原告は,平成26年9月12日,拒絶査定に対する不服審判を請求した(甲 15)。
特許庁は,これを不服2014-18222号事件として審理し,平成2 7年6月1日,別紙審決書(写し)記載のとおり,「本件審判の請求は,成 2 り立たない。」との審決をした(出訴期間の付加期間90日。以下「本件審 決」という。)。
本件審決の謄本は,同月16日,原告に送達された。
(4) 原告は,平成27年10月13日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を 提起した。
2 特許請求の範囲 前記各補正後の特許請求の範囲(請求項の数は4)の請求項1の記載は,次 のとおりである(甲12。以下,この請求項1に記載された発明を「本願発明」 といい,本願の明細書〔甲4〕及び図面〔甲17〕を併せて「本願明細書」と いう。)。
「タービンエンジンアセンブリであって, 高圧圧縮機(14),燃焼器(16)及び高圧タービン(18)を含むコアガ スタービンエンジン(13)と; 前記コアガスタービンエンジンから軸方向後方に結合された低圧タービン(2 0)と; 前記コアガスタービンエンジンから軸方向前方に結合されたファンアセンブリ (12)と; 前記低圧タービンに結合されたブースタ圧縮機(22)と; 駆動軸(31)と歯車箱(100)との間に結合され,前記低圧タービン(2 0)及び前記ブースタ圧縮機(22)により発生されたスラスト荷重を土台へ 伝達するように構成された第1のスラスト軸受アセンブリ(110)と, 前記歯車箱(100)と前記ファンアセンブリ(12)との間に結合され,前 記ファンアセンブリにより発生されたスラスト荷重を土台へ伝達するように構 成された第2のスラスト軸受アセンブリ(120)と を具備し, 前記ファンアセンブリ(12)は,前記歯車箱(100)と前記駆動軸(31) 3 とを介して前記ブースタ圧縮機(22)に結合されて,前記駆動軸(31)が 第1の回転方向で回転するとき, 前記ブースタ圧縮機(22)が前記低圧タービンと共に第1の回転速度で前記 第1の回転方向に回転し, 前記ファンアセンブリ(12)が前記第1の回転速度とは異なる第2の回転速 度で第2の回転方向に回転するように構成され, 前記第1の回転方向は前記第2の回転方向と逆であり,前記第1の回転速度は 前記第2の回転速度より速く,前記第2の回転速度が常に前記第1の回転速度 の2分の1となるように,前記歯車箱(100)が2.0対1の歯車比を有し, 前記タービンエンジンアセンブリは,前記駆動軸と前記歯車箱との間に結合さ れた撓み結合部(108)をさらに有する ことを特徴とする,タービンエンジンアセンブリ。」3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであるが,その要旨 は,本願発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物である米国特許第48 27712号明細書(甲1。以下「刊行物1」という。)に記載された発明 (以下「引用発明」という。) 及び特表平9-512079号公報(甲2。
以下「刊行物2」という。)に記載された技術に基づいて当業者が容易に発 明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許 を受けることができず,したがって本願は拒絶すべきである,というもので ある。
(2) 本件審決が認定した引用発明,本願発明と引用発明との一致点及び相違点 は,以下のとおりである。
ア 引用発明 「ターボファンガスタービンエンジンであって,圧縮機手段14,燃焼器 手段16,第1のタービン手段18とを含むエンジンと, 4 圧縮機手段14,燃焼器手段16,第1のタービン手段18とを含むエンジンから軸方向の下流側に結合された第2のタービン手段20と, 圧縮機手段14,燃焼器手段16,第1のタービン手段18とを含むエンジンから軸方向の上流側に結合されたファンアセンブリ72と, 第2のタービン手段20に結合されたブースタ圧縮機手段と, 第2シャフト56の上流端とギアアセンブリ62との間に位置し,それぞれに固定されたスタブシャフト60を,ギアハウジング82に回転可能に支持するベアリング88と, ギアアセンブリ62とファンアセンブリ72との間に位置し,それぞれに固定されたシャフト70を,ギアハウジング82に回転可能に支持するローラベアリング84及びボールベアリング86とを具備し, ファンアセンブリ72は,ギアアセンブリ62と第2シャフト56を介してブースタ圧縮機手段に結合されており, ブースタ圧縮機手段は,第2シャフト56を介して第2のタービン手段20により駆動され, ブースタ圧縮機手段の回転数は,ファンアセンブリ72の回転数よりも高く,かつ,回転方向が逆であるターボファンガスタービンエンジン。」イ 本願発明と引用発明との一致点 「タービンエンジンアセンブリであって, 高圧圧縮機,燃焼器及び高圧タービンを含むコアガスタービン エンジンと, 前記コアガスタービンエンジンから軸方向後方に結合された低圧タービンと, 前記コアガスタービンエンジンから軸方向前方に結合されたファンアセンブリと, 前記低圧タービンに結合されたブースタ圧縮機と, 5 駆動軸と歯車箱との間に結合された軸受アセンブリと, 歯車箱とファンアセンブリとの間に結合された軸受アセンブリと を具備し, 前記ファンアセンブリは,前記歯車箱と前記駆動軸とを介して前記ブースタ圧縮機に結合されて,前記駆動軸が第1の回転方向で回転するとき, 前記ブースタ圧縮機が前記低圧タービンと共に第1の回転速度で前記第1の回転方向に回転し, 前記ファンアセンブリが前記第1の回転速度とは異なる第2の回転速度で第2の回転方向に回転するように構成され, 前記第1の回転方向は前記第2の回転方向と逆であり,前記第1の回転速度は前記第2の回転速度より速い, タービンエンジンアセンブリ。」ウ 本願発明と引用発明との相違点(相違点1) 「駆動軸と歯車箱との間に結合された軸受アセンブリ」に関し,本願発 明においては,「低圧タービン及びブースタ圧縮機により発生されたスラ スト荷重を土台へ伝達するように構成された」ものであるのに対して,引 用発明においては,低圧タービン及び前記ブースタ圧縮機により発生され たスラスト荷重をギアハウジング82(土台)へ伝達するものであるか不 明である点。
(相違点2) 「歯車箱とファンアセンブリとの間に結合された軸受アセンブリ」に関 し,本願発明においては,「ファンアセンブリにより発生されたスラスト 荷重を土台へ伝達するように構成」されたものであるのに対して,引用発 明においては,ファンアセンブリ72により発生されたスラスト荷重をギ アハウジング82(土台)へ伝達するものであるか不明である点。
6 (相違点3) 本願発明においては,「第2の回転速度が常に第1の回転速度の2分の 1となるように,歯車箱が2.0対1の歯車比」を有するのに対して,引 用発明においては,ギアアセンブリ62がそのような歯車比を有している か不明である点。
(相違点4) 本願発明においては,「タービンエンジンアセンブリは,駆動軸と歯車 箱との間に結合された撓み結合部をさらに有する」のに対して,引用発明 においては,第2シャフト56とギアアセンブリ62との間にそのような 撓み結合部を有するか不明である点。
4 取消事由 (1) 相違点3に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由1) (2) 相違点4に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由2)
取消事由に関する原告の主張
1 取消事由1(相違点3に関する容易想到性の判断の誤り)について (1) 相違点3について,本件審決は,引用発明においてギアアセンブリ62の 歯車比は,当業者が設計を行う際に適宜決定し得るものであるとして,これ を2.0対1とすることは当業者であれば容易になし得たことであると判断 した(本件審決15頁2〜12行目)。
しかし,本件審決の当該判断には以下のとおり誤りがある。
(2) 本願発明の歯車箱における歯車比の技術的意義 本願発明は,ガスタービンエンジンアセンブリに関するものである(本願 明細書・段落【0001】)。ガスタービンエンジンのエンジン効率を向上 させるためには,ファン効率を改善させるようにファンアセンブリを相対的 に低速で動作させつつ,同時に,タービン効率を改善させるために,高圧タ ービンを相対的に高速で動作させることが望ましい(同【0003】)。す 7 なわち,エンジン効率は,ファン効率とタービン効率という2つの変数によって定まるため,エンジン効率全体を向上させるためには,ファン効率に影響を与えるファン速度(ファンアセンブリの速度)と,タービン効率に影響を与える高圧タービン速度(高圧タービンの速度)とを,同時に最適化し,エンジン効率を最大化することが求められる。しかし,ファン速度と高圧タービン速度は,完全に独立な変数ではない。
すなわち,ガスタービンエンジンアセンブリにおいては,コアエンジンに入った空気が燃料と混合され点火されて高エネルギーガス流れを形成し,これが高圧タービンを通って流れ,高圧タービンを回転方向に駆動し,かつ圧縮機も回転方向に駆動する。同時に,ガス流れが高圧タービンを通って流れる間に膨張することで,低圧タービンの駆動が補助され,これが第2の駆動軸を介してファンアセンブリを回転方向に駆動する(同【0002】)。このように,高エネルギーガス流れが直接的に高圧タービンを回転駆動すると同時に,間接的にファンアセンブリをも駆動するため,両者の回転速度は,独立して決定することはできない。
ここで,低圧タービンとファンアセンブリとの間に歯車箱を設置することで,ファンアセンブリの動作速度を低下させることは可能である。しかし,ファンアセンブリの速度を低下させ過ぎると,ブースタ圧縮機へ搬送される気流の量が減少して,結局エンジン効率が低下し,これを防ぐためにはブースタ圧縮機の段を追加せざるを得ず,エンジンの総重量の増加や構造の複雑化,製造コストの増加という問題が生じる(同【0004】)。
以上のとおり,ガスタービンエンジンにおいては,エンジン効率を向上させるためにファン速度を低下させつつ高圧タービン速度を向上させるという要請があり,そのために歯車箱を低圧タービンとファンアセンブリとの間に設置することは可能であるものの,歯車箱の歯車比によっては,目的であるエンジン効率の向上が実現できず,また,エンジン効率が向上してもエンジ 8 ンの総重量の増加や構造の複雑化,製造コストの増加という問題が生じる, という課題が存在していた。
そこで,本願発明では,低圧タービンに結合されたファンアセンブリの回 転速度(第2の回転速度)が同じく低圧タービンに結合されたブースタ圧縮 機の回転速度(第1の回転速度)の2分の1となるように,ファンアセンブ リとブースタ圧縮機を介する歯車箱の歯車比を2.0対1と特定する構成を 採用し,エンジン効率の向上を図りながら,エンジンの総重量の増加や構造 の複雑化,製造コストの増加という問題を防止したものである。
(3) 刊行物1には,ギアアセンブリ62の歯車比を2.0対1とすることにつ いて記載も示唆もなく,かかる歯車比を採用することの動機付けも存在しな いこと 刊行物1には,ギアアセンブリ62についての記載はあるが,その歯車比 については何ら具体的な数値は記載されておらず,歯車比を2.0対1とす ることについての記載や示唆は,刊行物1上に一切存在しない。
むしろ,刊行物1では,ブースタ圧縮機の回転数が10000rpm台の ときにファンの回転数を3000rpm台とすることで,大幅な軽量化が実 現できると記載しており(甲1・明細書第6欄14〜19行目,抄訳3頁4 〜6行目参照),当該記載に接した当業者は,ギアアセンブリ62の歯車比 を,約3.3対1とすることが望ましいと理解するのであり,これを大幅に 変更して2.0対1と特定する動機付けを有するものではない。
また,そもそも刊行物1におけるファンの回転速度に関する記載としては,「ファンは,最大効率を得るため,その先端速度を低くすることを要求」すること(甲1・明細書第6欄1行目,抄訳2頁28行目)や,「ファンブレードの先端速度が,直接駆動した場合と比較して低減されており,これにより先端速度が高いことにより生じる騒音の問題を克服」できること(甲1・明細書第6欄10〜13行目,抄訳3頁2,3行目)の記載があるのみであ 9 る。すなわち,刊行物1では,ファンの回転速度を低下させることに重点が置かれている。他方で,本願明細書の段落【0004】で指摘されている,ファンアセンブリの速度を低下させ過ぎることによる弊害(ブースタ圧縮機へ搬送される気流の量が減少して,結局エンジン効率が低下し,これを防ぐためにはブースタ圧縮機の段を追加せざるを得ず,エンジンの総重量の増加や構造の複雑化,製造コストの増加を招く)については,何ら記載がない。
よって,刊行物1の記載に接した当業者は,ファンアセンブリの速度は低 いほど利点があると理解する(ただし,ファンアセンブリの速度として実効 的な速度の範囲内で,できる限り低い速度を選択することに利点があること を理解するとの意味であり,被告が指摘するようなファンアセンブリの速度 がゼロ又は極めてゼロに近いものが最も有利という意味ではない。)から, 歯車比を刊行物1で示唆された約3.3対1よりも大きくする動機付けはあ っても,これを小さくして2.0対1にすることの動機付けはない(むしろ, 減速歯車の歯車比をより小さいものとすることは,刊行物1に明記された課 題である最大効率の実現や騒音及び鳥の衝突による影響の軽減とは相反する から,当業者において引用発明の減速歯車の歯車比をより小さくすることに 対する阻害要因が存在する。)。
(4) 特開平2-245455号公報(甲3。以下「甲3公報」という。)の記 載に照らしても,相違点3は想到容易といえないこと 本件審決は,歯車箱の歯車比を2.0対1とすることは,例えば甲3公報 の記載(甲3・第5頁左下欄2〜13行目)に照らせば格別なことではない, と述べた(本件審決15頁7〜9行目)。
しかし,前述のとおり,刊行物1の記載に接した当業者は,歯車比を約3. 3対1よりも大きく(例えば4.0対1等)する動機付けを有することはあ っても,これを小さくする動機付けを有するものではない。よって,甲3公 報に,内側軸36と外側軸38の回転速度の比として2.0対1という数字 10 が開示されているからといって,引用発明におけるギアアセンブリ62の歯 車比を2.0対1とすることを,当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(5) 被告は,歯車比を2.0対1に限定したことから格別な効果が得られるも のではないと指摘する。
しかし,本願明細書の段落【0004】にあるとおり,従来技術において, 低圧タービンとファンアセンブリとの間に歯車箱を設置することで,ファン アセンブリの動作速度を低下させることは可能であったが,ファンアセンブ リの速度を低下させ過ぎると,ブースタ圧縮機へ搬送される気流の量が減少 して,結局エンジン効率が低下し,これを防ぐためにはブースタ圧縮機の段 を追加せざるを得ず,エンジンの総重量の増加や構造の複雑化,製造コスト の増加という問題が生じていたところ,本願発明は,かかる問題を解決する ための歯車比として2.0対1という具体的な構成を採用したものである。
すなわち,2.0対1という歯車比によって,ファンアセンブリの速度を 過度に低下させず,したがって,ブースタ圧縮機の段追加を避けることがで き,エンジンの総重量の増加,構造の複雑化及び製造コストの増加を避けら れるという効果が本願発明には認められるのであり,当該効果は本願発明の 進歩性を基礎付ける。
(6) 小括 以上のとおり,引用発明においてギアアセンブリ62の歯車比を2.0対 1とすることについて,刊行物1には記載も示唆もなく,また,動機付けも 存在しない。そして,本願発明の歯車比2.0対1という構成は,エンジン の総重量の増加,構造の複雑化及び製造コストの増加を避けるという効果を 与えるものである。
したがって,当業者であっても,引用発明において相違点3に係る発明特 定事項を採用することは,容易になし得たことではなく,これを想到容易で あるとした本件審決の判断には誤りがある。
11 2 取消事由2(相違点4に関する容易想到性の判断の誤り)について(1) 相違点4について,本件審決は,刊行物2に記載の技術は「駆動軸と歯車 箱との間に,シャフトのずれに適応するために撓み結合部を設けた」もので あるとの理解に基づき,引用発明に刊行物2に記載の技術を適用して相違点 4に係る本願発明の発明特定事項とすることは,当業者であれば容易になし 得たことであると判断した(本件審決15頁13〜23行目)。
しかし,本件審決の当該判断には以下のとおり誤りがある。
(2) 刊行物2に記載の技術における「柔軟区画」の技術的意義 刊行物2には,太陽歯車36とコンプレッサー・ドライブ・シャフト24 とを連結する太陽歯車カップリング32に波状柔軟区画62を設ける技術が 記載されている。波状柔軟区画62には,排液穴65を有する円筒リング6 4が含まれる。排液穴は,波状柔軟区画62の内部に油が漏れ,これが溜ま って回転不均衡を生じることを防ぐために,円筒リング64の全周にわたっ て配置されるものである(甲2・11頁10〜14行目)。
ここで,刊行物2に記載の発明は,遊星歯車列の構成要素を外部装置に連 結し,同時に,それらの間のずれに適応する簡素で信頼できる無給油のカッ プリング・システムを提供することを目的としており,そのため,遊星歯車 列の太陽歯車とリング・ギヤー・ハウジングが,平行ずれと角度ずれに適応 する波状断面を有するユニークなカップリングで外部シャフトに連結する構 成を採用している(甲2・8頁21〜27行目)。
すなわち,刊行物2に記載された波状柔軟区画62は,歯車列構成要素の 破損のリスク減少及び磨耗減少による歯車列のメンテナンスコストを減少さ せ,信頼性を向上させることを目的としている(甲2・9頁19,20行目)。
(3) 刊行物2に記載の技術における「柔軟区画」を引用発明に適用する動機付 けはないこと 他方,刊行物1は,スタブシャフト60に固定されるギアアセンブリ62 12 を開示している(甲1・明細書第3欄30,31行目,抄訳1頁27行目参 照)が,ギアアセンブリの構成要素とスタブシャフトとの間に柔軟性を有す る部材を配置することが望ましいとの記載や示唆は一切存在しない。また, ギアアセンブリ構成要素の破損のリスク減少及び磨耗減少といった問題の指 摘も,刊行物1には存在せず,課題の共通性は認められない。よって,引用 発明に刊行物2に記載の技術における「柔軟区画」を適用し,スタブシャフ ト60とギアアセンブリ62との間の回転トルクを吸収する部材とする動機 付けは存在しない。
仮に,被告が主張するように,構成要素破損という抽象的課題が当業者に おいて認識されていたとしても,当業者が,当該課題を解決するために,刊 行物2に記載の柔軟区画を採用する動機付けや,当該柔軟区画を,駆動軸と 歯車箱との間に配置するという具体的な構成を選択する動機付けは何ら存在 しない。
また,刊行物2記載のカップリングは,「平行ずれと角度ずれに適応する 波状断面を有するユニークなカップリング」(甲2・8頁25,26行目) であり,「歯車列縦軸を中心とする捻れに対して剛性であるが,垂直軸およ び左右軸を中心とする捻れに,そして三本の軸の全てに沿った並進(移行) に追従可能」(甲2・8頁28行目〜9頁2行目)であるという特殊なカッ プリング・システムである。一方,刊行物1には,かかる特殊なカップリン グ・システムを採用する動機付けとなる記載又は示唆は一切認められない。
(4) 小括 以上のとおり,刊行物2記載の技術における「柔軟区画」を引用発明に適 用する動機付けはなく,また,この点を措くとしても,刊行物2記載の特殊 なカップリングを引用発明に組み合わせることは想到容易ではなかった。
したがって,これを想到容易であるとした本件審決の判断には誤りがある。
被告の反論
13 1 取消事由1(相違点3に関する容易想到性の判断の誤り)に対し (1) 本件審決が述べるように,引用発明において,第2のタービン手段20, ブースタ圧縮機手段の回転を減速してファンアセンブリ72に伝達するため のギアアセンブリの62の歯車比は,タービンエンジンのバイパス比,ファ ンブレードの大きさと,それに伴うファンアセンブリにおけるファンの先端 部の速度などを考慮しつつ,ファンアセンブリにおいて最適な回転数が得ら れるように当業者がタービンエンジンの設計を行う際に適宜決定し得るもの である(本件審決15頁3〜7行目)。
ところで,刊行物1(甲1・第6欄1〜30行目・抄訳2頁27行目〜3 頁13行目)には,ファンの最大効率を得るためや,騒音,鳥の衝突による 衝撃を低減するために,ファンブレードの先端速度,ひいてはファンブレー ドの回転速度を低圧タービンのシャフト56によってファンアセンブリ72 を直接駆動した場合と比較して低減すること,そのために,低圧タービンの シャフト56がファンアセンブリ72を,ギアアセンブリ62を介して減速 して駆動することについて記載されており,減速して駆動することの一例と して,「ブースタ圧縮機の回転数が10000rpm台の時にファンの回転 数を3000rpm台とす(る)」(減速比約3.3対1)ことが記載され ている。
そして,刊行物1の記載である,「ファンは,最大効率を得るため,その 先端速度を低くすることを要求し,ファンは,コアエンジンの上流側に位置 し,ファンは,コアエンジンの効率低下に関係するコアエンジンのハブと先 端の直径比においての過剰な妥協を行うことなしに,低圧タービンによって 直接駆動することができない。・・・ファンブレードの先端速度が,直接駆 動した場合と比較して低減されており,これにより先端速度が高いことによ り生じる騒音の問題を克服している。」は,ファンブレードを低圧タービン のシャフト56によって直接駆動した場合と比較して,ファンブレードを減 14 速して駆動する場合の有利な効果について述べているのであって,原告が主張するように,「ファンアセンブリの速度が低いほど利点がある」と述べているわけではない。
そもそも,原告が主張するとおりに「ファンアセンブリの速度が低いほど利点がある」というのであれば,ファンアセンブリの速度がゼロまたは極めてゼロに近いものが最も有利ということになるが,その場合には,ファンアセンブリは単なる障害物となり,ファンアセンブリによって実用的な推進力が得られないと考えられることからみても,ファンアセンブリの速度は,ターボファンエンジンの実用的な運転領域に対応した低過ぎない速度が選択されることは明らかである。
すなわち,刊行物1に記載されている「ファンは,最大効率を得るため,その先端速度を低くすることを要求」すること等は,最大効率が得られる程度にまで低圧タービンのシャフト56によって直接駆動した場合と比較して,先端速度を低くするという意味であるといえる。
そして,ファンアセンブリを減速して駆動するタービンエンジンアセンブリにおいて,ファンアセンブリの速度が低いほど利点があるのではなく,ファンアセンブリが低過ぎない速度で駆動される場合に,効率の良い速度となることは,技術常識である。このことは,上記のようにファンアセンブリの速度がゼロに近い速度であるときには,ファンアセンブリは単なる障害物となってしまうことや,特表2005-513371号公報(乙1。以下「乙1公報」という。)の段落【0023】における「ギアードターボファンエンジンは,一般に,ファンおよび低圧タービンの間のギアセットを特徴とし,これが両要素を各々の最適な速度で運転することを可能にする減速装置の役目を果たす結果,エンジンの効率を向上させる。」との記載から明らかである。したがって,刊行物1の記載に接した当業者は,「ファンアセンブリの速度が低いほど利点がある」とは理解せず,ファンアセンブリの速度は低過 15 ぎない効率の良い速度にすべきであると理解するから,「刊行物1の記載に 接した当業者は,ファンアセンブリの速度は低いほど利点があると理解する」 という原告の主張は失当である。
(2) また,刊行物1における,前記「ブースタ圧縮機の回転数が10000r pm台の時にファンの回転数を3000rpm台とす(る)」(減速比約3. 3対1)ことは,タービンエンジンのバイパス比,ファンブレードの大きさ と,それに伴うファンの先端部の速度などの条件により最適なファンブレー ドの速度が変わり得る状況において,ブースタ圧縮機の回転数とファンの回 転数の一例を単に示したにすぎない。
したがって,刊行物1に接した当業者は,タービンエンジンの設計を行う 際,ブースタ圧縮機の回転数とファンの回転数の具体的な数値から得られる 値,すなわち減速比について,両者の回転数が最適な値となるように,適宜 決定するべきものと認識するし,その際に減速比が約3.3対1よりも大き い範囲に限定されるとは認識しない。
そして,刊行物1の記載は,ファンアセンブリを,ギアアセンブリを介し て低圧タービンのシャフト56によって駆動することにより,低圧タービン によって直接駆動されるブースタ圧縮機をブースタ圧縮機にとっての最適な 回転数としつつ,同時に,ファンアセンブリもファンアセンブリにとっての 最適な回転数とすることで,ファンを最大効率で駆動しつつ,「ブースタ圧 縮機の段数を,コアエンジンへの空気流の圧の上昇を生みながら,低減」で き,さらに,騒音や鳥の衝突による影響を克服できることに関するものであ る。これらの効果は,低圧タービンのシャフト56の回転をギアアセンブリ により減速してファンアセンブリに伝達することにより,ブースタ圧縮機と ファンアセンブリの回転数をそれぞれの最適な回転数とすることが可能とな ることにより得られる効果である。
この点につき,前記乙1公報の記載(段落【0023】)によれば,低圧 16 タービンとファンアセンブリをそれぞれ最適な回転数とすることは当業者に よく知られた事項であって,特開2004-211895号公報(乙2。以 下「乙2公報」という。)の段落【0009】における「例示的な減速比は, 2:1から13:1である。」との記載(減速比として例示された範囲に2: 1を含んでいる。)及び甲3公報における歯車箱の歯車比を2.0対1とす ることに関する記載(5頁左下欄2〜13行目)を併せみると,減速歯車に より減速するに当たって,ファンアセンブリとブースタ圧縮機における最適 な回転数を各々検討した結果,減速比として2.0対1を選択することは格 別なことではない。また,本願明細書の記載をみても,「ファンアセンブリ 12が低圧タービン20の回転速度の約2分の1の回転速度で回転するよう に,歯車箱100は約2.0対1の歯車比を有する」ことが一実施形態とし て記載され,「そのため,本実施形態においては,ファンアセンブリ12は, 低圧タービン20の回転速度より常に遅い回転速度で回転する」ことも明記 されているが(段落【0013】),歯車比を2.0対1に特定したことの 効果は何ら示されていないのであるから,歯車比を2.0対1に限定したこ とから格別な効果が得られるものでもない。
(3) 原告は,さらに,刊行物1にはファンアセンブリの速度を低下させ過ぎる ことによる弊害について何ら記載がないと主張する。
しかしながら,刊行物1に記載されたガスタービンエンジンは,ファンア センブリの速度を低くし過ぎると,実用的な推進力が得られないばかりか, ファンアセンブリの下流にブースタ圧縮機が設けられる構造となっているこ とから,ブースタ圧縮機の入口での空気流量が減少してタービン効率が悪化 することは明らかであって,ファンアセンブリの速度を低くし過ぎた場合に 効率が低下すれば,それを避けるようにファンアセンブリがより高い速度と なるように減速比を設定することは当業者であれば当然に行い得ることであ る。
17 そして,本件審決において減速比を2.0対1とすることの周知例として 挙げた甲3公報(5頁左下欄2〜13行目)には,軸38(低圧タービンの 軸)と軸36(ファンと結合する軸)の回転速度の比は,コストや重量を考 慮して変更することができ,2.5対1から2対1とすることにより,「重 量が減りそして一層小型の減速歯車を得る」こと,及び該回転速度の最適な 比を,「特定エンジンの運転範囲内で各用途に対して選択できる」との記載 がある。
したがって,引用発明において,ギアアセンブリの減速比を前記周知例に 照らして2.0対1とする動機付けはあり,当業者であれば容易になし得た とした相違点3に係る審決の判断に誤りはない。
(4) また,仮に,引用発明におけるファンの減速比が「ブースタ圧縮機の回転 数が10000rpm台の時にファンの回転数を3000rpm台とす (る)」ものであって約3.3対1であることが前提であるとしても,ター ビンエンジンにおいて小型軽量化を行うことは自明の課題であるから,引用 発明においても,小型軽量化の課題は当然存するものと認められ,減速歯車 の減速比をより小さいものとすれば減速歯車の小型軽量化ひいてはタービン エンジン全体の小型軽量化が図れるのは明らかである。しかも,前記周知例 には,タービンエンジンにおいて「より一層小型の減速歯車を得る」ために 回転速度の比を2.5対1から2.0対1と,より小さい回転速度の比とす ることが示唆されており,少なくとも「一層小型の減速歯車を得る」という ことにおいて,回転速度の比を約3.3対1から,より小さい2.0対1と する動機付けはあるというべきであるから,相違点3に係る本件審決の判断 に誤りはないことに変わりはない。
2 取消事由2(相違点4に関する容易想到性の判断の誤り)に対し (1) 刊行物1の記載における第2シャフト56とギアアセンブリ62とは,刊 行物1のFig.1において図示されるように,互いに軸方向において接合 18 されたものであって,かつ,共に回転するものであるから,その構造から見て,平行方向及び角度方向のずれが生じると,ギアアセンブリの歯車構成要素の摩耗を加速(促進)して,運転中に構成要素が破損するという課題を内在することは,当業者にとって明らかである。
そして,本件審決における「刊行物2に記載の技術」は,「コンプレッサードライブシャフト24と遊星歯車列の太陽歯車36との間に,シャフトのずれに適応するための柔軟区画を有する太陽歯車カップリング32を介在させたタービン・エンジン10」であるところ,刊行物2の記載において太陽歯車カップリング32を設けることにより解決する課題は,歯車構成要素の摩耗を加速(促進)して,運転中に構成要素が破損するという課題である。
このことは,刊行物2の記載である「遊星歯車列の太陽歯車,遊星歯車キャリアーおよびリング・ギヤーの縦軸は,太陽歯車を回転させる外部シャフトの縦軸と同軸であることが理想的である。しかし,そのような完全同軸整合は,回転ハードウエアの不均衡,製造上の欠陥,および航空機の操縦(または運動)に起因するシャフトおよび支持枠の過渡一時的屈曲を含む多くの要因により稀である。その結果として生じる平行方向及び角度方向のずれ(misalignment)は,歯車の歯,遊星歯車を遊星歯車キャリアー内で支持している軸受,および前記キャリアー自体にモーメントおよび力を負荷する。負荷された力とモーメントは,歯車構成要素の摩耗を加速(促進)し,運転中に構成要素が破損する可能性を増す。構成要素の破壊は,どんな用途においても望ましくないことは自明であるが,特に航空エンジンでは望ましくない。
さらに,構成要素の摩耗が加速されると,頻繁な検査および部品交換が必要になり,その結果,エンジンおよび航空機の運転が不経済になりうる。」(7頁16行目〜8頁1行目)から明らかである。
そして,刊行物1の記載における第2シャフト56とギアアセンブリ62は,刊行物2記載の技術におけるコンプレッサードライブシャフト24と遊 19 星歯車列の太陽歯車36と,軸と歯車構成要素とを軸線方向において結合し た構造であって,共に回転することにおいて共通するものであって,両者は 平行方向及び角度方向のずれが生じると,ギアアセンブリの歯車構成要素の 摩耗を加速(促進)して,運転中に構成要素が破損するという課題において も共通するから,引用発明において刊行物2に記載の技術を適用する動機付 けは存在するといえ,「引用発明において,シャフトの軸線のずれなどに対 応するために,刊行物2に記載の技術を適用し,第2シャフト56とギアア センブリ70(判決注:ギアアセンブリ62の誤記と認める。)との間に撓 み結合部を設けることにより上記相違点4に係る本件発明(本願発明)の発 明特定事項とすることは,当業者であれば容易になし得たことである。」と した本件審決の判断に誤りはない。
なお,本願明細書には,「動作中,撓み結合部108は,歯車箱100と 駆動軸31との間で伝達される回転トルクを吸収し,それにより歯車箱10 0及び駆動軸31の双方の動作寿命を延ばすことができる。更に,撓み結合 部108は,エンジン動作中に歯車箱100と駆動軸31との整列を助ける ために利用されてもよい。」(段落【0012】)と記載されているが,回 転トルクを吸収し,歯車と駆動軸の動作寿命を延ばすと共に,動作中に歯車 箱100と駆動軸31との整列を助けるという効果は,刊行物2の前記記載 から明らかな効果であって,格別なものではない。
(2) 以上のとおり,原告主張の取消事由2は理由がない。
当裁判所の判断
1 本願発明について (1) 本願発明の特許請求の範囲の請求項1は,前記第2の2に記載のとおりで あるところ,本願明細書(甲4,17)には,発明の詳細な説明として,次 の各事項が記載されている(図面は別紙1のとおりである。)。
ア 技術分野に関し 20 「【0001】 本発明は,一般にガスタービンエンジンに関し,特に,ガスタービンエ ンジンアセンブリ及びそれを組立てる方法に関する。」イ 従来技術とその課題に関し 「【0002】 少なくともいくつかの周知のガスタービンエンジンは,ファンアセンブ リ,コアエンジン及び低圧タービン又は出力タービンを含む。コアエンジ ンは,少なくとも1つの圧縮機と,燃焼器と,高圧タービンとを含み,そ れらの構成要素は,互いに直列流れ関係で結合される。コアエンジンに入 った空気は,燃料と混合され且つ点火されて,高エネルギーガス流れを形 成する。高エネルギーガス流れは高圧タービンを通って流れ,高圧タービ ンを回転自在に駆動し,更に第1の駆動軸を介して圧縮機を回転自在に駆 動する。ガス流れは,高圧タービンを通って流れる間に膨張し,低圧ター ビンの駆動を補助する。低圧タービンは,第2の駆動軸を介してファンア センブリを回転自在に駆動する。
【0003】 エンジン効率を向上するためには,ファン効率を改善するようにファン アセンブリを相対的に低速で動作させると共に,タービン効率を改善する ように高圧タービンを相対的に高速で動作させることが望ましい。従って, 総エンジン効率を向上するために,ファン速度及び高圧タービン速度はい ずれも完全には最適化されない。
【0004】 そこで,ファンアセンブリの動作速度を低下するのを助けるために,少 なくとも1つの周知のガスタービンエンジンは,低圧タービンとファンア センブリとの間に結合された歯車箱を含む。しかし,ファンアセンブリの 速度を低下し,それによりファンアセンブリの効率を向上するために歯車 21 箱を利用すると,ブースタ圧縮機へ搬送される気流の量が減少してしまう。
その結果,適正な圧力を実現するために,ブースタ圧縮機に更に段が追加 される。それにより,エンジンの総重量が増し,エンジン構造が複雑にな り且つ/又はエンジンの製造コストが増加する。」ウ 課題を解決するための手段に関し 「【0005】 1つの面においては,タービンエンジンアセンブリが提供される。ター ビンエンジンアセンブリは,高圧圧縮機,燃焼器及びタービンを含むコア ガスタービンエンジンを含む。タービンエンジンアセンブリは,コアガス タービンエンジンから軸方向後方に結合された低圧タービンと,コアガス タービンエンジンから軸方向前方に結合されたファンアセンブリと,低圧 タービンと共に第1の回転速度で回転するように,低圧タービンに結合さ れたブースタ圧縮機とを更に含む。」エ 発明の実施の形態に関し 「【0007】 図1は,長手方向軸11を有するガスタービンエンジンアセンブリ10 の一実施形態を示した概略図である。ガスタービンエンジンアセンブリ1 0は,ファンアセンブリ12及びコアガスタービンエンジン13を含む。
コアガスタービンエンジン13は,高圧圧縮機14,燃焼器16及び高圧 タービン18を含む。本実施形態においては,ガスタービンエンジンアセ ンブリ10は,低圧タービン20及びブースタ圧縮機22を更に含む。
【0008】 ファンアセンブリ12は,回転翼円板26から半径方向外側へ延出する ファンブレード24のアレイを含む。エンジンアセンブリ10は,吸気側 28及び排気側30を含む。ブースタ圧縮機22及び低圧タービン20は, 第1の駆動軸31により互いに結合され,高圧圧縮機14及び高圧タービ 22 ン18は,第2の駆動軸32により互いに結合される。ファンアセンブリ12は,新規のフレーム126で支持され,減速歯車箱100を介して駆動軸31により駆動される。
【0009】 図2は,図1に示されるガスタービンエンジンアセンブリ10の一部を示した概略図である。図2に示されるように,ガスタービンエンジンアセンブリ10に入った気流をブースタ圧縮機22を経て下流側へ搬送するのを助けるために,ブースタ圧縮機22は,複数の周囲方向に互いに離間して配置された入口案内羽根(IGV)34を含む。本実施形態においては,ガスタービンエンジンアセンブリ10は,ブースタ圧縮機22から下流側に結合された複数の出口案内羽根(OGV)アセンブリ36を更に含む。
実施形態においては,ブースタ圧縮機22は,対応する回転翼円板44にそれぞれ結合された回転翼羽根42の段40を1つ〜3つ含む。本実施形態においては,ブースタ圧縮機22は,回転翼羽根42の2つの段40を含む。
【0010】 本実施形態においては,ブースタ圧縮機22は,駆動軸31を介して低圧タービン20に結合される。例えば本実施形態においては,ガスタービンエンジンアセンブリ10は,図2に示されるように,駆動軸31により駆動される第1の端部又は前端部52において複数のスプライン76を利用して結合され且つ第2の端部又は後端部54においては回転翼円板44に結合されるコーン又は円板50を含む。すなわち,ブースタ圧縮機22及び低圧タービンが同一の回転速度で第1の回転方向60に回転するように,ブースタ圧縮機22は低圧タービン20に結合される。特に,ガスタービンエンジンアセンブリ10は軸延長部70を含む。軸延長部70は,円板50に結合された第1の端部又は前端部72と,スプライン76を介 23 して駆動軸31に結合され,従って低圧タービン20にも結合された第2の端部又は後端部74とを含む。
【0011】 本実施形態においては,ファンアセンブリ12を回転させるのを助けるために,ガスタービンエンジンアセンブリ10は,ファンアセンブリ12と駆動軸31との間に結合された歯車箱100を更に含む。一実施形態においては,歯車箱100は,低圧タービン20及びブースタ圧縮機22がそれぞれ回転する回転方向60に関して逆の回転方向62にファンアセンブリ12を回転させるように構成された遊星歯車箱である。歯車箱100は,ほぼ環状体形を有し,駆動軸31の周囲に配置されて,ほぼ駆動軸31の周囲を取り囲んで延出するように構成される。図2に示されるように,歯車箱100は,支持構造102を含む。支持構造102は,歯車箱100がガスタービンエンジンアセンブリ10の内部のほぼ固定された位置に維持されるように,歯車箱100を支持する構造を形成する。歯車箱100は,軸延長部70を介して駆動軸31に結合された入力端104と,ファンアセンブリ12の駆動を補助するようにファンアセンブリ12に結合された出力端106とを含む。
【0012】 本実施形態においては,ガスタービンエンジンアセンブリ10は撓み結合部108を更に含む。歯車箱100と駆動軸31との間に軸方向支持構造及び半径方向支持構造の双方を形成するように,撓み結合部108は,入力端104と軸延長部70との間に結合される。例えば,動作中,撓み結合部108は,歯車箱100と駆動軸31との間で伝達される回転トルクを吸収し,それにより歯車箱100及び駆動軸31の双方の動作寿命を延ばすことができる。更に,撓み結合部108は,エンジン動作中に歯車箱100と駆動軸31との整列を助けるために利用されてもよい。
24 【0013】 一実施形態においては,ファンアセンブリ12が低圧タービン20の回転速度の約2分の1の回転速度で回転するように,歯車箱100は約2.0対1の歯車比を有する。そのため,本実施形態においては,ファンアセンブリ12は,低圧タービン20の回転速度より常に遅い回転速度で回転する。
【0014】 スラスト軸受アセンブリ110などの第1の軸受アセンブリは,駆動軸31及び/又は長手方向軸11の周囲に配置される。スラスト軸受アセンブリ110は,駆動軸31とコアガスタービンエンジン13のフレーム111とを結合し且つ/又は駆動軸31とフレーム111との間に装着される。スラスト軸受アセンブリ110は,駆動軸31に関して装着された半径方向に位置決めされた内レース112を含む。図2に示されるように,内レース112は,長手方向軸11に関して駆動軸31と共に回転自在であるように,駆動軸31に動作自在に結合された駆動軸延長部70に装着される。スラスト軸受アセンブリ110は,フレーム111に結合された半径方向外側のレース114を更に含む。外レース114は,歯車箱100により発生されるスラスト荷重及び/又は力を伝達するための土台として作用する。スラスト軸受アセンブリ110は,内レース112と外レース114との間に移動自在に配置された複数の軸受116などの少なくとも1つのローラ要素を更に含む。
【0015】 ファンアセンブリ12と歯車箱出力端106との間に,スラスト軸受アセンブリ120などの第2の軸受アセンブリが配置される。すなわち,スラスト軸受アセンブリ120は,ファンアセンブリ12を歯車箱100に動作自在に結合し,ファンアセンブリ12により発生されるスラスト荷重 25 及び/又は力が歯車箱100へ伝達されるのを防止するように作用する。
スラスト軸受アセンブリ120は,歯車箱出力端106に関して装着された半径方向に位置決めされた内レース122と,フレーム126に結合された半径方向外側のレース124とを含む。外レース124は,ファンアセンブリ12により発生されるスラスト荷重及び/又は力を伝達するための土台として作用する。スラスト軸受アセンブリ120は,内レース122と外レース124との間に移動自在に配置された複数の軸受128などの少なくとも1つのローラ要素を更に含む。フレーム126は,軸受128及び136から発生されるファンの半径方向モーメント,スラストモーメント及び転倒モーメントを搬送する。更に,フレーム126は,それらの荷重を外側エンジン構造及びエンジンマウントへ伝達する。フレーム126を使用することにより,フレーム111全体の軸方向寸法に関してフレーム111を最小にすることができ,その結果,エンジン系統の重量を最小限に抑えることができる。
【0016】 スラスト荷重及び/又は力をスラスト軸受アセンブリ120へ伝達した結果,ファンアセンブリ12に動作自在に結合された歯車箱100を介するスラスト荷重及び/又は力の伝達は阻止されるか又は制限される。別の実施形態においては,当業者に周知であり且つ本明細書の教示により指示される任意の適切な軸受アセンブリを軸受アセンブリ110及び/又は軸受アセンブリ120の代わりに,あるいはそれらに加えて使用できる。
【0017】 歯車箱出力端106をほぼ固定された半径方向位置に維持するのを助けるために,ガスタービンエンジンアセンブリ10は,ころ軸受アセンブリ130を更に含む。ころ軸受アセンブリ130は,歯車箱出力端106と支持構造102との間に結合される。特に,ころ軸受アセンブリ130は, 26 歯車箱出力端106に結合された回転内レース132と支持構造102に結合された静止外レース134及び内レース132と外レース134との間にそれぞれ配置された複数のローラ要素136を含む。
【0018】 本実施形態においては,スラスト軸受アセンブリ120及びころ軸受アセンブリ130は,ファンアセンブリ12及び歯車箱出力端106が支持構造102及び104に関して自在に回転できるように,ファンアセンブリ12に対して回転支持を行うのに好都合である。従って,軸受アセンブリ120及び130は,ガスタービンエンジンアセンブリ10の内部の相対的に固定された半径方向位置にファンアセンブリ12を維持するのを助ける。
【0019】 本実施形態においては,ガスタービンエンジンアセンブリ10は,ブースタ圧縮機22の上流側を油だめ170から密封する第1の1対のラビリンスシール190と,ブースタ圧縮機22の下流側を油だめ171から密封する第2の1対のラビリンスシール192とを更に含む。
【0020】 ガスタービンエンジンアセンブリ10を組立てるために,高圧圧縮機,燃焼器及びタービンを含むコアガスタービンエンジンが提供される。低圧タービンは,コアガスタービンエンジンから軸方向後方に結合され,ファンアセンブリは,コアガスタービンエンジンから軸方向前方に結合される。
次に,ブースタ圧縮機及び低圧タービンが第1の回転速度で回転するように,ブースタ圧縮機は低圧タービンに結合される。
【0021】 特に,駆動軸は低圧タービンに結合され,ファンアセンブリが第1の回転速度とは異なり且つ/又は第1の回転速度より遅い第2の回転速度で回 27 転するように,歯車箱は駆動軸とファンアセンブリとの間に結合される。
スラスト荷重を吸収するのを助けるために,歯車箱により発生されるスラ スト荷重が土台へ伝達されるように,第1のスラスト軸受アセンブリは駆 動軸と歯車箱との間に結合され,ファンアセンブリにより発生されるスラ スト荷重が土台へ伝達されるように,第2のスラスト軸受アセンブリは歯 車箱とファンアセンブリとの間に結合される。
【0022】 動作中,駆動軸31が回転すると,駆動軸延長部70は,歯車箱入力端 104を第1の回転方向60に回転させる。その結果,歯車箱出力端10 6は,第1の回転方向とは逆の第2の回転方向62に回転する。歯車箱出 力端106はファンアセンブリ12に結合されるため,駆動軸31は,歯 車箱100を介してファンアセンブリ12を逆の第2の回転方向62に, すなわち低圧タービン20及びブースタ圧縮機22の双方の回転方向とは 逆の方向に回転させる。一実施形態においては,油だめ170の中の潤滑 流体が歯車箱100の少なくともいくつかの部分を潤滑するために利用さ れるように,歯車箱100は油だめ170の中に配置される。例えば,動 作中,歯車箱100は,油だめ170の内部で絶えず潤滑される。」オ 発明の効果に関し 「【0023】 本明細書において説明されるガスタービンエンジンアセンブリは,ファ ンアセンブリの回転速度より速い回転速度でブースタ圧縮機を動作させる ことを可能にするために,駆動軸を介して低圧タービンに直接結合された ブースタ圧縮機を含む。更に,本発明のガスタービンエンジンアセンブリ は,低圧タービンとファンアセンブリとの間に結合された歯車箱を含む。
その結果,ファンアセンブリ及びブースタ圧縮機の双方の回転速度を最適 化できる。特に,ファンアセンブリにより発生される気流を最適化するた 28 めに,ファンアセンブリの速度を減速でき,また,ブースタ圧縮機の段の 数を最適化し且つタービン段の数を少なくするために,ブースタ圧縮機の 速度を増加できる。その結果,ファンブースタは低圧タービンの速度で駆 動されるので,ブースタ段の数が減少すると共に,タービン効率が向上す る。この効率の向上を電気補助航空機において出力を抽出するために使用 できる。」(2) 以上の記載によれば,本願発明は,次の特徴を有するものと認められる。
ア 本願発明は,ガスタービンエンジンアセンブリに関するものである(段 落【0001】)。
イ 周知のガスタービンエンジンは,ファンアセンブリと,コアエンジンと, 低圧タービンとを含む。コアエンジンは,少なくとも一つの圧縮機と,燃 焼器と,高圧タービンとを含み,これらの構成要素は,互いに直列に結合 される。コアエンジンに入った空気は,燃料と混合されて点火され,高エ ネルギーガス流れを形成する。高エネルギーガス流れは,高圧タービンを 通過するときに高圧タービンを回転させ,その回転が第1の駆動軸で圧縮 機に伝えられて圧縮機を回転させる。同時に,高エネルギーガス流れは, 高圧タービンを通過する間に膨張し,低圧タービンを回転させ,その回転 が第2の駆動軸でファンアセンブリに伝えられてファンアセンブリを回転 させる(同【0002】)。
ウ ガスタービンエンジンの効率向上のためには,ファンアセンブリを相対 的に低速で回転させてファン効率を改善するとともに,高圧タービンを相 対的に高速で回転させてタービン効率を改善することが望ましい。しかし, ファンアセンブリを回転させるのも,高圧タービンを回転させるのも,同 じ高エネルギーガス流れなので,ファンアセンブリの回転速度及び高圧タ ービンの回転速度を完全に最適化することはできない(同【0003】 。
) エ そこで,低圧タービンとファンアセンブリとの間に歯車箱を結合し,フ 29 ァンアセンブリの回転速度を低下させたガスタービンエンジンも周知であ る。しかし,ファンアセンブリの回転速度を低下させてファン効率を向上 させるために歯車箱を利用すると,ブースタ圧縮機へ搬送される気流の量 が減少する結果,適正な圧力を得るためには,ブースタ圧縮機に更に段を 追加しなければならず,エンジンの総重量の増加,エンジン構造の複雑化, エンジン製造コストの上昇という問題を招く(同【0004】)。
オ 本願発明は,以上の課題を解決するために,駆動軸を介して低圧タービ ンに直接結合されたブースタ圧縮機と,低圧タービンとファンアセンブリ との間に結合された歯車箱とを含む。これにより,ファンアセンブリ及び ブースタ圧縮機の双方の回転速度を最適化することができる。特に,ファ ンアセンブリにより発生される気流を最適化するために,ファンアセンブ リの速度を減速させる一方で,ブースタ圧縮機の段の数を最適化し,かつ, タービン段の数を少なくするために,ブースタ圧縮機の速度を増加できる。
その結果,ブースタ圧縮機を直接回転させる低圧タービンの段を少なくし, タービン効率を向上させることができるという効果を奏する(同【002 3】)。
2 引用発明について (1) 刊行物1に前記第2の3(2)アのとおりの引用発明が記載されていること は,当事者間に争いがない。
(2) また,刊行物1(甲1)には,次の各記載がある(ただし,原告が提出し た翻訳文による。図面は別紙2のとおりである。)。
ア 「本発明は,高い推進効率,実質的に少ない重量および実質的に低い抵 抗を有するギア付きターボファンガスタービンを提供することを目的とす る。
したがって,本発明は,軸流方向に沿って連なっている,1個のファン, ブースタ圧縮機手段,圧縮機手段,燃焼器手段と,第1のタービン手段お 30 よび第2のタービン手段であって,第1のタービン手段は,第1の軸手段 を介して圧縮機を駆動するように適合され,第2のタービン手段は,第2 のシャフト手段を介してブースタ圧縮機手段を駆動するように適合され, さらに第2のタービン手段は,ファンを第2のシャフト手段とギア手段を 介して駆動するように適合されたものからなるターボファンガスタービン を提供する。」(甲1・明細書第1欄60行目〜第2欄4行目,抄訳1頁 2〜10行目)イ 「ターボファンガスタービンエンジン10は,図1と図2に示されてお り,コアエンジン12とファンアセンブリ72とからなる。コアエンジン 12は,軸流方向に沿って連なっている,圧縮機手段14,燃焼器手段1 6,第1のタービン手段18および第2のタービン手段20からなる。コ アエンジン12は,同軸コアケーシング22によって囲まれている。 (甲 」 1・明細書第2欄43〜48行目,抄訳1頁12〜16行目)ウ 「第1のタービン手段18のロータ36は,第1シャフト40を通して 圧縮機手段14のロータ28を駆動するようなされている。シャフト40 は,軸方向に離間したボールベアリング44とローラベアリング46によ って静止構造体42に回転可能に支持されている。静止構造体42は,圧 縮機手段14の静止翼ケーシング24と,タービン手段18の静止翼ケー シング32に固定される。シャフト40の上流端は,ベアリング47によ って回転可能に支持されている。」(甲1・明細書第2欄61行目〜第3 欄2行目,抄訳1頁18〜23行目)エ 「スタブシャフト60は,例えばスプライン結合または他の適切な手段 によってシャフト56の上流側の端部に固定されており,スタブシャフト 60は,ギアアセンブリ62を駆動する。ギアアセンブリ62は,スタブ シャフト60に固定され,かつ,駆動される太陽ギア64と,太陽ギア6 4に噛み合っており駆動される複数の遊星ギア66と,遊星ギア66に噛 31 み合っており駆動される環状ギア68と,からなる。環状ギア68は,ギ アアセンブリ62から上流側に延在するシャフト70に固定あるいは一体 化されている。シャフト70は,ファンアセンブリ72に固定されるとと もに,それを駆動する。」(甲1・明細書第3欄27〜38行目,抄訳1 頁25〜32行目)オ 「ファンアセンブリ72は,複数の径方向外方に延在するファンブレー ド76を設けたファンロータ74からなる。ファンアセンブリはコアエン ジン12の上流側に位置し,それと同軸上において回転するように配置さ れている。ファンロータ74は,スプライン結合,カービックカップリン グまたは,その他の適切な手段によりシャフト70に固定されている。フ ァンブレード76は,いかなる適切な形状であってもよいが,好ましくは, 広い翼弦を持つ層流超臨界翼型であり,好ましくは,ハニカム充填材を伴 ったチタンシートから形成されてもよい。
遊星キャリア78は,ギアアセンブリ62を囲むギアハウジング82に 固定されている。スタブシャフト60は,ベアリング88によってギアハ ウジング82に回転可能に支持されており,シャフト70は,軸方向に離 間して配置されたローラベアリング84とボールベアリング86によって ギアハウジング82に回転可能に支持されている。ギアハウジング82は, ファンアセンブリの下流に向かって,コアエンジン12へインレットダク ト92を通して空気を供給するための開口部を形成する複数の径方向に延 在する複数の翼90によって,エンジンケーシング22の上流端に固定さ れる。」(甲1・明細書第3欄42〜61行目,抄訳2頁2〜16行目)カ 「ブースタ圧縮機手段は,軸方向において,ファンアセンブリ72とコ アエンジン12との間に位置し,インレットダクト92の中で,コアエン ジン12へ供給される空気の圧力を高くする。ブースタ圧縮機手段は,複 数の半径方向外側に延在するブレード96を設けたブースタロータ94か 32 らなる。ブースタロータ94は,ブレード96を1段のみ備え,ブレード は,広い翼弦をもっており,空気流を接線方向に方向づける。ブースタロ ータ94は,円錐型のシャフト98を通して接続され,あるいは一体化さ れたスタブシャフト60によって駆動される。ブレード96の数は,先端 部が音速を超えて回ることにより生じる騒音の周波数が,可聴域を超える ものとなるように選定される。」(甲1・明細書第3欄62行目〜第4欄 6行目,抄訳2頁18〜26行目)キ 「ファンは,最大効率を得るため,その先端速度を低くすることを要求 し,ファンは,コアエンジンの上流側に位置し,ファンは,コアエンジン の効率低下に関係するコアエンジンのハブと先端の直径比においての過剰 な妥協を行うことなしに,低圧タービンによって直接駆動することができ ない。ギアアセンブリ62が,ファン72が要求する高い動力需要を,比 較的小径であって,比較的高回転である低圧タービンのシャフト56から 供給することを可能とするために含まれている。
ファンブレードの先端速度が,直接駆動した場合と比較して低減されて おり,これにより先端速度が高いことにより生じる騒音の問題を克服して いる。
また,ファンアセンブリは,回転数を低減して,鳥の衝突による影響が それほど深刻でなくなり,例えば,ブースタ圧縮機の回転数が10000 rpm台の時にファンの回転数を3000rpm台とすれば,大きく軽量 化した構造となりうる。
ブースタ圧縮機手段は,シャフト56,60そして98を通じて第2タ ービン手段20によって直接駆動されている。それに対して,ファンアセ ンブリ72は,ギアアセンブリ62を介して駆動されている。
ブースタ圧縮機は,故に,ファンアセンブリ72より高い回転数で駆動 されており,この例によると,逆方向であり,ブースタ圧縮機の段数を, 33 コアエンジンへの空気流の圧の上昇を生みながら,低減できる。このこと は,ガスタービンエンジンの長さ,重量,抵抗を低減することを生み出す。」 (甲1・明細書第6欄1〜30行目,抄訳2頁28行目〜3頁13行目)(3) (2)の記載によれば,刊行物1には,引用発明に関し,以下の点が開示され ているものと認められる。
ア 引用発明は,高い推進効率,実質的に少ない重量及び実質的に低い抵抗 を有するギア付きターボファンガスタービンである(前記(2)ア)。
イ ターボファンガスタービンにおいて,ファンの効率を最大化するには, ファン(ファンブレード)の先端速度を低下させる必要があるが,コアエ ンジンの上流側に位置するファンを低圧タービンで直接駆動するには,コ アエンジンのハブと先端との直径比について過剰な妥協をする必要があり, これは,コアエンジンの効率低下を招く(前記(2)キ)。
ウ 引用発明は,ギアアセンブリ62を含むので,(前記イの過剰な妥協を することなく,)ファンアセンブリ72に駆動に必要な動力を比較的小径 かつ比較的高回転である低圧タービン(第2のタービン手段20)のシャ フト(第2シャフト56)から供給することができる(前記(2)キ)。
エ 引用発明は,ファンアセンブリ72を低圧タービン(第2のタービン手 段20)で直接駆動した場合に比べてファンブレードの先端速度が低減さ れるので,ファンブレードの大きな先端速度に起因する騒音の問題を克服 することができる(前記(2)キ)。
オ 引用発明は,ファンアセンブリ72の回転数が低減する結果,鳥の衝突 による影響がそれほど深刻でなくなるので,例えばブースタ圧縮機の回転 数が10000rpm台のときにファンアセンブリ72の回転数を300 0rpm台にすれば,ファンアセンブリ72を大幅に軽量化することがで きる(前記(2)キ)。
カ 引用発明は,ブースタ圧縮機手段が第2シャフト56,スタブシャフト 34 60及び円錐型のシャフト98を通じて第2のタービン手段20によって 直接駆動されるのに対し,ファンアセンブリ72がギアアセンブリ62を 介して駆動されるので,ブースタ圧縮機がファンアセンブリ72より高い 回転数で,また,ファンアセンブリ72と逆方向に駆動され,少ない段数 でコアエンジンに向かう空気流の圧力を上げることができる結果,ガスタ ービンエンジンの長さ,重量及び抵抗を低減することができる(前記(2) キ)。
3 刊行物2記載の技術について (1) 刊行物2(甲2)には,次の各記載がある(図面は別紙3のとおりである。。
) ア 特許請求の範囲 「1. シャフトにより回転可能な太陽歯車と, リング・ギヤー・ハウジングに固定されたリング・ギヤーと, 遊星歯車キャリアー内に回転可能に取り付けられ且つ前記太陽歯車およ び前記リング・ギヤーのそれぞれと噛み合っている複数の遊星歯車と, を有する遊星歯車列のカップリング・システムであって, 前記太陽歯車を前記シャフトに連結する太陽歯車カップリングを有し, この太陽歯車カップリングは,前記太陽歯車と前記シャフトのずれに適応 するために非柔軟スピンドルに結合された少なくとも一つの波状柔軟区画 を有し, 前記リング・ギヤー・ハウジングを非回転機械的グラウンドに連結する リング・ギヤー・カップリングを有し,このリング・ギヤー・カップリン グは,前記リング・ギヤー・ハウジングと前記機械的グラウンドのずれに 適応するために非柔軟ハブに結合された少なくとも一つの波状柔軟部分を 有することを特徴とするカップリング・システム。 (2頁2〜14行目) 」 イ 発明の詳細な説明 (ア) 技術分野 35 「本発明は遊星歯車列に関し,特に,ギヤー・システム構成要素の信頼 性と耐久性を改善するために,前記歯車列の太陽歯車およびリング・ギ ヤーをそれぞれ回転軸および非回転機械的グラウンド(枠体,母体)に 柔軟(可撓)連結するカップリング(継手)システムに関する。本発明 は特に,信頼性,耐久性および単純性が大いに望ましい航空エンジンに おいて有用である。」(7頁4〜8行目)(イ) 発明の背景 「遊星歯車列は,二つの回転軸またはローター間で回転速度を減少,ま たは時により増加させる複雑な機構である。遊星歯車列は構成が簡素で あり,この点は,スペースが貴重である航空エンジンでの使用に関して 遊星歯車列は利点となる。
遊星歯車列で伝達される力およびトルクは,理想的な状態でさえも, 遊星歯車列構成要素におびただしい応力を加え,前記構成要素を破損お よび摩耗しやすくする。実際問題として,たいていの場合,状態は決し て理想的なものではなく,歯車構成要素に付加応力をかける。例えば, 遊星歯車列の太陽歯車,遊星歯車キャリアーおよびリング・ギヤーの縦 軸は,太陽歯車を回転させる外部シャフトの縦軸と同軸であることが理 想的である。しかし,そのような完全同軸整合は,回転ハードウエアの 不均衡,製造上の欠陥,および航空機の操縦(または運動)に起因する シャフトおよび支持枠の過渡一時的屈曲を含む多くの要因により稀であ る。
その結果として生じる平行方向及び角度方向のずれ(misalignment) は,歯車の歯,遊星歯車を遊星歯車キャリアー内で支持している軸受, および前記キャリアー自体にモーメントおよび力を負荷する。負荷され た力とモーメントは,歯車構成要素の摩耗を加速(促進)し,運転中に 構成要素が破損する可能性を増す。構成要素の破壊は,どんな用途にお 36 いても望ましくないことは自明であるが,特に航空エンジンでは望ましくない。さらに,構成要素の摩耗が加速されると,頻繁な検査および部品交換が必要になり,その結果,エンジンおよび航空機の運転が不経済になりうる。
構成要素破損のリスクは,歯車列構成要素をより大きく,従ってより強くすることにより減少できる。サイズが増大すると,それに対応して拡大した表面に伝達力を分散させることにより,摩耗も減少する。しかし,サイズの増大は,航空エンジンでの使用に関して遊星歯車列の利点であるコンパクト性を相殺する。また,これによる重量増加もまた望ましくない。高強度材料および耐摩耗コーティングの使用も有益ではあるが,歯車列のコストが上昇することから,摩耗を減らす要求を少なくすることにならない。
ずれに起因する応力も,歯車列を回転軸または非回転支持体のような外部ディバイスに連結するたわみ継手の使用により減少できる。例えば,太陽歯車を駆動軸に連結しているたわみ継手は,たとえ駆動軸の中心が完全整合方位に対して斜めでも,または変位していても,太陽歯車が,それと噛み合っている遊星歯車に対して,その理想的方向の近くに留まるように曲がる。しかし,多くの先行技術の継手は,潤滑を必要とする多くの部品を含み,そして継手自体が摩耗しやすい。先行技術の継手には,高いトルクのかかる用途で有用となる,縦軸を中心とした捻れに対する,十分な剛性と強度が不足していることもある。中心のずれ,即ちアラインメントのくるいには,スプライン結合によっても対応できる。
しかし,スプライン結合部の接触しているスプライン刃間で起こる運動では,摩擦が大きく変動し,そして,そのような結合部の柔軟性を変動する。
これらの欠点に鑑み,遊星歯車列の構成要素を外部装置に連結し,同 37 時に,それらの間のずれに適応する簡素で信頼できる無給油のカップリ ング・システムが求められている。」(7頁10行目〜8頁23行目)(ウ) 発明を実施するための最良形態 「図1を参照すると,タービン・エンジン10は,その主要な構成部分 として,一つ以上のコンプレッサー12,13,コンプレッサーに動力 を供給する一つ以上のタービン14,15,燃焼室16,ファン18, 一次排気ノズル20,およびファン排気ノズル22を含む。各タービン から延びているシャフト24,25により,それぞれ対応するコンプレ ッサーを駆動する。コンプレッサーの一つの回転運動が,以下により完 全に説明するように,遊星歯車列26を通ってファン18へ伝達される。
遊星歯車列は,コンプレッサーの回転速度を,ファンの効率的な作動の ためにより適した速度に下げる。主要なエンジン構成部分は,理想的に は,中心縦軸28と同心である。」(10頁6〜14行目) 「図2は,図1の遊星歯車列26および,そのエンジンおよび本発明の カップリング・システムとの関係をより詳細に示す。コンプレッサー・ ドライブ・シャフト24の前端は,スプライン30により太陽歯車カッ プリング32の後端に連結されている。カップリング32の前端も,ス プライン34により,遊星歯車列26の太陽歯車36に連結されている。
シャフト24の回転運動は,このようにして太陽歯車36に伝達される。
太陽歯車は複数の遊星歯車と噛み合っており,図示された遊星歯車40 がこれらの遊星歯車を表わしている。
各遊星歯車は,ジャーナル・ピン44等の適当なベアリングにより回 転可能に遊星歯車キャリアー42内に取り付けられており,太陽歯車の 回転運動により各遊星歯車はその縦軸46を中心として回転する。各遊 星歯車は非回転リング・ギヤー48とも噛み合っている。ギヤー48は スプライン52によりリング・ギヤー・ハウジング50内に取り付けら 38 れている。リング・ギヤー・カップリング54がリング・ギヤー・ハウジングを機械的グラウンド(枠体,母体)に結合している。
実施例では,このグラウンドは,非回転のローラー・ベアリング支持体56であるが,ハウジングの,従ってリング・ギヤー48の回転に抵抗できればどんなグラウンドでも良い。遊星歯車は非回転リング・ギヤーと回転太陽歯車の両方に噛み合っているので,遊星歯車はその軸46を中心として自転するだけでなく,太陽歯車のまわりを回転し,それにより遊星歯車キャリアー42が軸28を中心として回転する。遊星歯車キャリアーの運動は,図示されない適当な手段によりファン18(図1)に伝達される。」(10頁15行目〜11頁8行目)「本発明のカップリング・システムは,太陽歯車カップリング32とリング・ギヤー・カップリング54を含む。太陽歯車カップリングは,非柔軟スピンドル60と少なくとも一つの波状柔軟区画62を有する。柔軟区画62に含まれる円筒リング64は排液穴65を有する。排液穴は,偶然に波状区画62の内部に漏れる油がその中に溜まって回転不均衡を生じないように,各リング64の全周にわたって配置されている。リング64はスピンドル60より大きい直径を有し,縦に間隔を置いたダイアフラム66,68によりスピンドルに結合されている。
ダイアフラムとスピンドルの接合部70もダイアフラムとリングの接合部72も,カップリング32の柔軟性を改善し,そして接合部における応力集中を最小にするために曲線断面外形を有する。太陽歯車36とシャフト24の角度ずれに対する適応(調節)には単一の柔軟区画で十分である。平行ずれに対する適応または角度ずれと平行ずれの組み合わせに対する適応には,縦に間隔を置いた二つ以上の柔軟区画が使用される。」(11頁9〜22行目)「本発明のカップリング・システムには,先行技術のカップリングでは 39 得られないユニークな作用効果がある。太陽歯車カップリングとリン グ・ギヤー・カップリングは,中心縦軸を中心とした捻れに関して剛性 であり,従って,この縦軸を中心とした高いトルクを伝達するか又はそ れに抵抗する。両カップリングの構成に使用される材料の弾性限度内で, 両カップリングは,左右軸および垂直軸を中心とした捻れに関して,そ して三軸の全てに沿った並進に関して柔軟である。
もし,例えば,ドライブ・シャフト(駆動軸)24が縦軸28とずれ ると,太陽歯車カップリングは曲がり,太陽歯車の中心軸が確実にその 理想方位に,またはその理想方位の近くにとどまることにより,太陽歯 車の歯と遊星歯車の歯の最適接触が維持される。たわみ継手が存在しな ければ,シャフト24のずれは太陽歯車の方位を変え,そして噛み合っ ている太陽歯車の歯と遊星歯車の歯に付加応力をかける結果となる。本 発明のカップリング・システムは,幾つかの先行技術に特有な多数構成 部分の機械的複雑性を伴わずに,そのような柔軟性を達成する。さらに, 本システムの両カップリングは潤滑を必要とせず,しかも半径方向にコ ンパクトである。」(15頁27行目〜16頁14行目)(2) (1)の記載によれば,刊行物2には,次の技術が記載されているものと認め られる(この点は,本件審決が認定するとおりである。)。
「コンプレッサー・ドライブ・シャフト24と遊星歯車列の太陽歯車36と の間に,シャフトのずれに適応するための柔軟区画を有する太陽歯車カップ リング32を介在させたタービン・エンジン10。」(3) また,(1)の記載によれば,刊行物2記載の技術について,以下の点が開示 されているものと認めることができる。
ア 刊行物2に記載の技術は,航空エンジンの遊星歯車列の太陽歯車及びリ ング・ギヤーをそれぞれ回転軸及び非回転支持体に柔軟連結するカップリ ング・システムに関するものである(前記(1)イ(ア))。
40 イ 遊星歯車列は,構成が簡素という利点を有するので,スペースが貴重な 航空エンジンに用いられる。
遊星歯車列の構成要素は,理想的な状態でも,その遊星歯車列で伝達さ れる力及びトルクによるおびただしい応力を受けるので,破損したり摩耗 したりしやすいが,大抵の場合,状態は理想的ではないので,付加的な応 力を受ける。例えば,遊星歯車列の太陽歯車,遊星歯車キャリアー及びリ ング・ギヤーの縦軸は,太陽歯車を回転させる外部シャフトの縦軸と同軸 であることが理想的であるが,そのような完全同軸整合は,回転ハードウ エアの不均衡や,製造上の欠陥や,航空機の操縦又は運動に起因するシャ フト及び支持枠の過渡一時的屈曲や,その他の多くの要因によりまれにし か実現しない。
その結果,平行方向及び角度方向のずれが生じ,歯車の歯,遊星歯車を 遊星歯車キャリアー内で支持する軸受,及び遊星歯車キャリアー自体にモ ーメント及び力がかかるため,遊星歯車列の構成要素は,摩耗が促進され, 運転中に破損する可能性が増す。
遊星歯車列の構成要素は,サイズを増して強くすれば,破損のリスクを 減らすことができるが,遊星歯車列の利点であるコンパクト性が損なわれ るし,重量の増加という望ましくない結果を招く。高強度材料及び耐摩耗 コーティングの使用は有益だが,遊星歯車列のコストが上昇する。
ずれに起因する応力は,遊星歯車列を回転軸又は非回転支持体に連結す るたわみ継手の使用によって減少させることもできるが,従来のたわみ継 手は,潤滑が必要な多くの部品を含む,摩耗しやすい,縦軸を中心とする 捻れに対する剛性及び強度が足りないなどの欠点を有する。中心のずれに は,スプライン結合で対処することもできるが,スプライン結合部の互い に接触するスプライン刃間で起こる運動では摩擦が大きく変動し,スプラ イン結合部の柔軟性が変動してしまう(前記(1)イ(イ))。
41 ウ 刊行物2に記載の技術は,前記イの欠点を解消するものである。すなわ ち,太陽歯車カップリングは,中心縦軸を中心とする捻れに関して剛性で あり,したがって,中心縦軸を中心とする高いトルクを伝達することがで きる一方,左右軸及び垂直軸を中心とした捻れ並びに三軸のすべてに沿っ た並進に関しては,使用された材料の弾性限度内で柔軟である。
例えば,コンプレッサー・ドライブ・シャフト24がずれると,たわみ 継手が存在しなければ,太陽歯車36の向きが変わり,互いに噛み合う太 陽歯車36及び遊星歯車40のそれぞれの歯に付加応力がかかることにな る。しかし,刊行物2に記載の技術では,太陽歯車カップリング32が曲 がることで,太陽歯車36の中心軸がその理想方位又はその近くにとどま るので,太陽歯車36の歯と遊星歯車40の歯との最適接触が維持される (前記(1)イ(ウ))。
4 取消事由1(相違点3に関する容易想到性の判断の誤り)について (1)ア 前記認定のとおり,引用発明はギア付きターボファンガスタービンに関 するものであるところ,一般に,ギア付きターボファンガスタービンは, ファンと低圧タービンとの間に減速ギア装置を設置したターボファンガス タービンであり,ファン及び低圧タービンをそれぞれ最適な回転速度で運 転することが可能になるという特徴を有する(このことは,乙1公報の段 落【0023】における「ギアードターボファンエンジンは,一般に,フ ァンおよび低圧タービンとの間のギアセットを特徴とし,これが両要素を 各々の最適な速度で運転することを可能にする減速装置の役目を果たす結 果,エンジンの効率を向上させる」との記載や,乙2公報の段落【000 2】における「高バイパスターボファンエンジンにおいては,タービンは, 減速ギア装置を通してファンを駆動するのが有利である。これによって, タービンは,タービン効率のよい相対的に早い速度で作動できると同時に, いっそうより大きな直径のファンは,ファン効率のよい相対的に遅い速度 42 で作動する。」との記載からも明らかである。)。
そして,ファンと低圧タービンとが機械的に結合されているにもかかわ らず,それぞれの回転速度を独立に決めることができるのは,減速ギア装 置の歯車比(減速比)を適切に選択することによって,低圧タービンの回 転速度とその低圧タービンによって駆動されるファンの回転速度との比を 任意に変更できるからであり,換言すれば,ギア付きターボファンガスタ ービンにおける減速ギア装置の歯車比(減速比)は,同タービンに用いる ファンと低圧タービンを選択した上で,当該ファン及び低圧タービンがそ れぞれ最適な回転速度で回転するように当業者が適切な値を設定すること ができるものである(本件審決が例示的に引用する甲3公報〔引用発明と 同じギア付きターボファンガスタービンに関するものと認められる。〕の 5頁左下欄11〜13行目においても,軸36の回転速度〔判決注:ファ ン部分12の回転速度〕と軸38の回転速度〔判決注:低圧タービン装置 が有する二重反転タービン20の回転速度〕との最適な比〔判決注:減速 歯車42の歯車比〕は特定のエンジンの運転範囲内で各用途に対して選択 できることが記載されている。)。
したがって,引用発明においても,ギアアセンブリ62の歯車比は,引 用発明に用いるファン(ファンアセンブリ72)及び低圧タービン(第2 のタービン手段20)がそれぞれ最適な回転速度で回転するように,当業 者が適切な値に設定できるものと認められる。
イ ところで,引用発明は,低圧タービンでファンを直接駆動しつつ,ファ ンブレードの先端速度を低下させてファンの効率を最大化しようとすると, コアエンジンの効率低下を招くという課題を解決するために,低圧タービ ン(第2のタービン手段20)とファン(ファンアセンブリ72)との間 にギアアセンブリ62を設けるという解決手段を採用し,回転数が比較的 高い低圧タービン(第2のタービン手段20)によってファン(ファンア 43 センブリ72)を低い回転数で回転させることで,ファンの効率を最大化 できるようにしたものである。
かかる引用発明を具体化しようとすれば,使用するファンアセンブリ7 2及び第2のタービン手段20を具体的に選択(設計)しなければならず, それらの回転数も,それぞれの性能を十分に発揮させるという観点から具 体的に決定される必要がある。しかし,引用発明では,使用すべきファン アセンブリ72及び第2のタービン手段20について,それらの回転数も 含めて何ら特定されていないため,使用するファンアセンブリ72及び第 2のタービン手段20の選択(設計)は,引用発明を具体化しようとする 当業者に任されることになる。
ここで,引用発明は,単に前記の課題を解決できるだけでなく,特定の 効果(前記第5の2(3)エ〜カ)を奏するものとされているから,引用発明 を具体化しようとする当業者は,引用発明が奏するこれらの効果を認識し た上で,その効果を損なったり,その効果と矛盾したりすることのないよ うに,使用するファンアセンブリ72及び第2のタービン手段20を選択 (設計)すると認められる。
ウ そこで,引用発明が奏する効果とファンアセンブリ72及び第2のター ビン手段20との関係について検討するに,以下のことが指摘できる。
第1に,引用発明は,ファンアセンブリ72を第2のタービン手段20 で直接駆動した場合に比べてファンブレードの先端速度が低減されるので, ファンブレードの大きな先端速度に起因する騒音の問題を克服することが できるという効果を奏する(前記第5の2(3)エ)。
ここで,ファンブレードの先端速度はファンアセンブリ72の回転数に 比例するから,引用発明が奏する騒音抑制の効果は,(第2のタービン手 段20で直接駆動した場合に比べて)ファンアセンブリ72の回転数が低 減されることそれ自体によるものであって,それ以上に,同回転数を何ら 44 かの具体的な値に特定することによるものではない。
第2に,引用発明は,ファンアセンブリ72の回転数が低減する結果,鳥の衝突による影響がそれほど深刻でなくなるので,例えばブースタ圧縮機の回転数が10000rpm台のときにファンアセンブリ72の回転数を3000rpm台にすれば,ファンアセンブリ72を大幅に軽量化することができるという効果を奏する(前記第5の2(3)オ)。
ここで,ファンアセンブリ72の軽量化をもたらすのは,その回転数の低減であり,その回転数の低減は,第2のタービン手段20とファンアセンブリ72との間にギアアセンブリ62を設けたことによって生ずる。要するに,引用発明が奏するファンアセンブリ72の軽量化という効果は,(第2のタービン手段20で直接駆動した場合に比べて)ファンアセンブリ72の回転数が低減されることそれ自体によるものであって,それ以上に,同回転数を何らかの具体的な値に特定することによるものではない。
したがって,ブースタ圧縮機の回転数が10000rpm台のときにファンアセンブリ72の回転数を3000rpm台にすることは,飽くまで例示にすぎないというべきであり,ブースタ圧縮機の回転数は10000rpm台に限られるものではないし,ファンアセンブリ72の回転数も3000rpm台に限られるものではない。このことは,引用発明における前記回転数のくだりにわざわざ「例えば」との文言が付されていることや,前記甲3公報に,引用発明とは異なる回転数(回転速度),すなわち,ファン部分12を駆動する軸36の回転速度を2000rpmとし,ブースタ圧縮機14を駆動する軸38の回転速度を5000rpmとする例が記載されている(5頁左上欄2〜19行目。かかる例は飽くまで例示であって限定の意味でないことも明記されている。)ことなどからも明らかである。
第3に,引用発明は,ブースタ圧縮機手段がファンアセンブリ72より 45 高い回転数で,また,ファンアセンブリ72と逆方向に駆動され,少ない 段数でコアエンジンに向かう空気流の圧力を上げることができる結果,ガ スタービンエンジンの長さ,重量及び抵抗を低減することができるという 効果を奏する(前記第5の2(3)カ)。
ここで,引用発明のブースタ圧縮機手段は,第2のタービン手段20に 結合され,第2のタービン手段20で直接駆動されるから,ブースタ圧縮 機手段がファンアセンブリ72より高い回転数で駆動されるのは,第2の タービン手段20がファンアセンブリ72より高い回転数で駆動されるか らにほかならない。そして,第2のタービン手段20がファンアセンブリ 72より高い回転数で駆動されるのは,ファンアセンブリ72の回転数が 第2のタービン手段20で直接駆動した場合に比べて低減される結果,第 2のタービン手段20の回転数の方が相対的に高くなるからである。すな わち,引用発明が奏するガスタービンエンジンの長さ,重量及び抵抗の低 減の効果は,(第2のタービン手段20で直接駆動した場合に比べて)フ ァンアセンブリ72の回転数が低減されることそれ自体によるものであっ て,それ以上に,同回転数を何らかの具体的な値に特定することによるも のではない。
エ 以上のとおり,引用発明が奏する効果は,いずれも,第2のタービン手 段20とファンアセンブリ72との間にギアアセンブリ62を設けた結果, 第2のタービン手段20で直接駆動した場合に比べてファンアセンブリ7 2の回転数が低減されることそれ自体によるものであって,それ以上に, 同回転数を何らかの具体的な値に特定することによるものではない。
そうすると,引用発明を具体化しようとする当業者は,第2のタービン 手段20とファンアセンブリ72との間にギアアセンブリ62を設けるこ とにより,第2のタービン手段20で直接駆動した場合に比べてファンア センブリ72の回転数が低減されていれば,課題を解決でき,また,効果 46 を奏すると理解する一方で,ファンアセンブリ72及び第2のタービン手 段20の回転数については,少なくとも引用発明による課題解決及び引用 発明が奏する効果の観点からは,何らかの具体的な値に特定する必要はな いと理解するものといえる。
したがって,当業者は,引用発明を具体化する際,使用するファンアセ ンブリ72及び第2のタービン手段20の回転数を何らかの具体的な値に 特定しなければならないとは考えず,それらを,ターボファンガスタービ ンのバイパス比や,ファンアセンブリ72のファンブレードの大きさなど, ターボファンガスタービンの効率に影響を及ぼす様々な観点に基づいて適 宜選択(設計)するものと認められる。
そして,そのようにして選択(設計)されたファンアセンブリ72及び 第2のタービン手段20については,それぞれ自ずと最適な回転数が決ま ることになるが,それらの最適な回転数が具体的にどのような値になると しても,それは,当業者がファンアセンブリ72及び第2のタービン手段 20を適宜選択(設計)したことの単なる結果にすぎず,また,ギアアセ ンブリ62の歯車比も,前記アのとおり,選択(設計)されたファンアセ ンブリ72及び第2のタービン手段20がそれぞれ最適な回転速度で回転 するように,当業者が適切な値に設定できるものであるから,その具体的 な値も,当業者がファンアセンブリ72及び第2のタービン手段20を適 宜選択(設計)したことの単なる結果として得られるものにすぎないもの である。
オ 他方,本願発明の歯車箱の歯車比(2.0対1)に,従来のそれにはな い格別の技術的意義が認められるかという点を検討してみても,かかる歯 車比は,甲3公報が示す2.5対1又は2.0対1(5頁左下欄2〜11 行目)や,乙2公報が示す2対1ないし13対1(段落【0009】)と いった,ギア付きターボファンガスタービンの減速ギア装置に関する従来 47 の歯車比からかけ離れた特異なものとは認められず,また,本願明細書に は,「一実施形態においては,ファンアセンブリ12が低圧タービン20 の回転速度の約2分の1の回転速度で回転するように,歯車箱100は約 2.0対1の歯車比を有する。そのため,本実施形態においては,ファン アセンブリ12は,低圧タービン20の回転速度より常に遅い回転速度で 回転する。」(段落【0013】)との記載があるものの,ファンが低圧 タービンより低速で回転することは前記従来の歯車比を採用した場合も同 様であるから,この記載を参酌しても,本願発明の歯車箱の歯車比(2. 0対1)に,従来の歯車比にはない格別の技術的意義があるということは できない。そして,本願明細書において,ほかに歯車箱の歯車比を2.0 対1と特定したことの技術的意義をうかがわせる記載は見当たらない。
カ 以上によれば,本願発明の歯車箱の歯車比(2.0対1)は,引用発明 を具体化しようとする当業者がファンアセンブリ72及び第2のタービン 手段20を適宜選択(設計)したことの単なる結果として得られるものに すぎないというべきである。
そうすると,引用発明のギアアセンブリ62の歯車比を2.0対1とす ることは,当業者が容易になし得たことであり,その結果,ファンアセン ブリ72の回転速度がブースタ圧縮機及び第2のタービン手段20の回転 速度の2分の1となることも明らかである。
したがって,相違点3に係る本願発明の構成は,当業者が容易に想到し 得るものというべきである。
(2) 原告の主張について ア 原告は,本願発明の歯車箱の歯車比に認められる技術的意義について, 要旨次のとおり主張する。
すなわち,ガスタービンエンジンにおいてはエンジン効率の向上のため にファンアセンブリの回転速度を低下させつつ高圧タービンの回転速度を 48 向上させるという要請があり,そのために歯車箱を低圧タービンとファンアセンブリとの間に設置してファンアセンブリの回転速度を低下させることは可能であるものの,@歯車箱の歯車比によってはファンアセンブリの回転速度が低下し過ぎてブースタ圧縮機へ搬送される気流の量が減少し,結局エンジン効率が低下するため,これを防ぐためにブースタ圧縮機の段を追加せざるを得ず,エンジンの総重量の増加,構造の複雑化,製造コストの増加という問題が生じていたので,A本願発明は低圧タービンに結合されたファンアセンブリの回転速度が同じく低圧タービンに結合されたブースタ圧縮機の回転速度の2分の1となるように歯車箱の歯車比を2.0対1と特定することで,エンジン効率の向上を図りながら上記の問題を防止したものである,というのである。
しかしながら,次のとおり,かかる原告の主張は本願明細書の記載に基づくものではなく失当である。
前記@の点に関し,本願明細書(段落【0004】)の記載によれば,ブースタ圧縮機へ搬送される気流の量が減少し,ブースタ圧縮機の段を追加しなければならなくなるのは,ファンアセンブリの回転速度を低下させるために歯車箱を利用するからである。すなわち,ブースタ圧縮機へ搬送される気流の量が減少する原因は,歯車箱を利用してファンアセンブリの回転速度を低下させたことそれ自体にあるのであって,原告が主張するように歯車箱の歯車比によってファンアセンブリの回転速度が低下し過ぎることにあるのではない。
したがって,歯車箱の歯車比によって前記@の問題(課題)が生じるとの前提は誤りである。
前記Aの点に関し,本願明細書(段落【0023】)の記載によれば,本願発明がファンアセンブリの回転速度を下げてファンアセンブリによって発生される気流を最適化すると同時に,ブースタ圧縮機の回転速度を上 49 げてブースタ圧縮機の段の数を最適化することができるという効果を奏す る結果,ブースタ圧縮機の段の追加が不要になり,エンジンの総重量の増 加,構造の複雑化,製造コストの増加という問題を防止できるのは,ブー スタ圧縮機を駆動軸で低圧タービンに直接結合する一方,ファンアセンブ リと低圧タービンとの間に歯車箱を結合したからであって,原告が主張す るように歯車箱の歯車比を2.0対1と特定したからではない。
また,前記のとおり,本願明細書(段落【0013】)には,歯車箱の 歯車比を2.0対1としたことでファンアセンブリ12が低圧タービン2 0の回転速度より常に遅い回転速度で回転するかのような記載があるが, ファンアセンブリ12は,歯車箱の歯車比を2.0対1と特定した場合に 限らず,歯車箱の歯車比が1より大きければ,低圧タービン20の回転速 度より常に遅い回転速度で回転することが明らかであるから,歯車箱の歯 車比を2.0対1と特定したことの技術的意義がこの点にあるとは認めら れない。そして,本願明細書において,ほかに歯車箱の歯車比を2.0対 1と特定したことの技術的意義をうかがわせる記載が見当たらないことは 前記のとおりである。
したがって,前記Aのとおり,歯車箱の歯車比を2.0対1と特定する ことによって前記@の問題(課題)を解決したとする点もまた誤りである。
以上のとおり,原告の主張は,前記@Aのいずれの点においても,本願 明細書の記載に基づかないものであるから,失当である。
イ 原告は,刊行物1にはブースタ圧縮機の回転数が10000rpm台の ときにファンの回転数を3000rpm台とすることで大幅な軽量化が実 現できる旨の記載があり,この記載に接した当業者はギアアセンブリ62 の歯車比を約3.3対1とすることが望ましいと理解するから,これを大 幅に変更して2.0対1と特定する動機付けがないと主張する。
しかしながら,かかる原告の主張も失当である。
50 すなわち,そもそも,本願発明の歯車箱の歯車比(2.0対1)が,引用発明を具体化しようとする当業者がファンアセンブリ72及び第2のタービン手段20を適宜選択(設計)したことの単なる結果として得られるものにすぎないことは,前記(1)で検討したとおりであるから,本件において,歯車比の選択に関する動機付けを問題にする必要があるのかは疑問であると言わざるを得ない。
この点を措くとしても,ブースタ圧縮機の回転数が10000rpm台のときにファンアセンブリ72の回転数を3000rpm台にすることが飽くまで例示にすぎないこと(したがって,ブースタ圧縮機の回転数は10000rpm台に限られるものではないし,ファンアセンブリ72の回転数も3000rpm台に限られるものではないこと)は,前記(1)ウのとおりである。したがって,かかる記載に接した当業者が,ギアアセンブリ62の歯車比を約3.3対1とすることが望ましいと理解することはない。
もっとも,鳥の衝突による影響は,鳥とファンアセンブリ72との相対速度が大きいほど深刻になると解されるから,鳥の衝突による影響がそれほど深刻でなくなるのは,ファンアセンブリ72の回転数が第2のタービン手段20で直接駆動した場合に比べて低減されるからではなく,3000rpm台(又はそれより低い値)という特定の値までに低減されるからであると解する余地はある。
しかし,その場合でも,鳥の衝突による影響を考える際に問題になるのは,ギアアセンブリ62の歯車比ではなく,ファンアセンブリ72の回転数それ自体である。そして,ファンアセンブリ72はギアアセンブリ62を介して第2のタービン手段20によって駆動されるから,ファンアセンブリ72の回転数が第2のタービン手段20の回転数とギアアセンブリ62の歯車比との組合せによって決まることは技術常識といえる。そうすると,刊行物1の前記記載に接した当業者は,第2のタービン手段20の回 51 転数とギアアセンブリ62の歯車比との組合せを変えて,ファンアセンブ リ72の回転数それ自体を3000rpm台又はそれより小さくすること が望ましいと理解することはあるとしても,ギアアセンブリ62の歯車比 のみに着目し,それを約3.3対1とすることが望ましいと理解するとは 認められない。
したがって,いずれにしても原告の主張は失当である。
ウ 原告は,刊行物1には,「ファンは,最大効率を得るため,その先端速 度を低くすることを要求」すること(甲1・明細書第6欄1行目,抄訳2 頁28行目)や,「ファンブレードの先端速度が,直接駆動した場合と比 較して低減されており,これにより先端速度が高いことにより生じる騒音 の問題を克服」できること(甲1・明細書第6欄10〜13行目,抄訳3 頁2,3行目)が記載されているのみであり,ファンの回転速度を低下さ せることに重点が置かれている一方で,本願明細書の段落【0004】で 指摘されている,ファンアセンブリの速度を低下させ過ぎることによる弊 害(ブースタ圧縮機へ搬送される気流の量が減少して,結局エンジン効率 が低下し,これを防ぐためにはブースタ圧縮機の段を追加せざるを得ず, エンジンの総重量の増加や構造の複雑化,製造コストの増加を招く)につ いては記載がないから,刊行物1に接した当業者はファンアセンブリの速 度は低いほど利点があると理解するのであり,したがって,歯車比を刊行 物1で示唆された約3.3対1よりも大きくする動機付けはあっても,小 さくして2.0対1にする動機付けはなく,むしろ阻害要因が存在する旨 主張する。
しかし,かかる原告の主張も失当である。
すなわち,刊行物1の記載は,ファンの効率を最大化したり騒音を抑制 したりするためにはファンの先端速度を低くする必要があるというもので あるところ,ファンの先端速度はファンの回転数に比例するから,当業者 52 は,ファン効率の最大化や騒音抑制のためにファンの回転速度を低下させる必要があることを理解すると認められることは事実である。
しかし,ファンの先端速度はファンの直径にも依存するから,ファンの回転数を具体的な値(3000rpm台)に特定すること自体がファンの効率の最大化や騒音の抑制といった効果を奏するわけではない。その意味でも刊行物1に記載されたブースタ圧縮機の回転数(10000rpm台)及びファンの回転数(3000rpm台)はいずれも例示にすぎず,それらから算出される歯車比(約3.3対1)もまた例示にすぎないというべきである。
一方,引用発明のファンアセンブリ72はギアアセンブリ62を介して第2のタービン手段20によって駆動されるから,ファンアセンブリ72の回転数が第2のタービン手段20の回転数とギアアセンブリ62の歯車比との組合せによって決まることは技術常識といえる。そうすると,刊行物1の上記記載に接した当業者は,第2のタービン手段20の回転数とギアアセンブリ62の歯車比との組合せを変えて,ファンアセンブリ72の回転数を小さくすることが望ましいと理解することはあるとしても,ギアアセンブリ62の歯車比のみに着目し,それを約3.3対1又はそれより大きくすることが望ましいと理解するとは認められない。
そして,ファンの先端速度を低くし過ぎれば,実用的な推進力が得られないばかりか,ファンアセンブリの下流に設けられたブースタ圧縮機の入口での空気流量が減少してタービン効率が悪化するのは論理的に明らかなのであるから,ファンの先端速度を低くすることが望ましいといっても,それには限度があることも明らかである。したがって,刊行物1に,ファンアセンブリの速度を低下させることの弊害について具体的な記載がないとしても,引用発明を実施しようとする当業者がファンアセンブリの速度を低くすることのみに着目して歯車比を決定するとは到底考えられないの 53 であって,この点からしても,原告の主張は失当である。
以上によれば,歯車比を刊行物1で示唆された約3.3対1よりも大き くする動機付けはあっても,これを小さくして2.0対1にする動機付け はなく,むしろ阻害要因が存在するとの原告の主張が失当であることもま た明らかである。
(3) 小括 以上の次第であるから,相違点3に係る本願発明の構成は,当業者が容易 に想到し得るものであるとした本件審決の判断に誤りはなく,取消事由1に 関する原告の主張は理由がない。
5 取消事由2(相違点4に関する容易想到性の判断の誤り)について (1)ア 引用発明は,ギア付きターボファンガスタービンであり,ギアアセンブ リ62を備えるものである。ここで,ギア付きターボファンガスタービン が航空機のジェットエンジンの一種であることは技術常識であり,また, 刊行物1における引用発明のギアアセンブリ62は,太陽ギア64と複数 の遊星ギア66と環状ギア68とからなる旨の記載(前記2(2)エ)から明 らかなように,具体的には遊星歯車列である。そうすると,引用発明は遊 星歯車列を備える航空エンジンにほかならない。
他方,刊行物2に記載の技術は,航空エンジンの遊星歯車列の太陽歯車 及びリング・ギヤーをそれぞれ回転軸及び非回転支持体に柔軟連結するカ ップリング・システムに関するものである(前記3(3)ア)。
したがって,引用発明と刊行物2に記載の技術とは,いずれも遊星歯車 列を備える航空エンジンに関するものであり,技術分野が共通するものと 認められる。
イ ところで,航空エンジンの遊星歯車列の構成要素は,その遊星歯車列で 伝達される力及びトルクによるおびただしい応力を受けて破損したり摩耗 したりしやすいだけでなく,太陽歯車,遊星歯車キャリアー及びリング・ 54 ギヤーの縦軸と太陽歯車を回転させる外部シャフトの縦軸とが同軸である という理想的な状態がまれにしか実現せず,その結果として生じる平行方 向及び角度方向のずれによる付加的な応力を受けて摩耗が促進され,運転 中に破損する可能性が増すという課題を有する。そこで,@遊星歯車列の 構成要素のサイズを増して強くして破損のリスクを減らす,A遊星歯車列 を回転軸又は非回転支持体に連結するたわみ継手を使用してずれに起因す る応力を減少させる,Bスプライン結合を使用して中心のずれに対処する といった対策が考えられていたが,それぞれ欠点がある(前記3(3)イ)。
刊行物2に記載の技術は,これらの欠点を解消するものであり(前記3 (3)ウ) 航空エンジンの遊星歯車列の構成要素の摩耗を抑制して運転中の , 破損の可能性を減らすものである。
そうすると,刊行物2に記載の技術に接した当業者は,刊行物2に記載 の技術は遊星歯車列を備える航空エンジンへの適用を意図したものである と理解することが明らかである。
ウ 前記アのとおり,引用発明は遊星歯車列を備える航空エンジンであり, 刊行物2に記載の技術の適用対象そのものである。したがって,刊行物2 に記載の技術を引用発明に適用することは,引用発明と刊行物2に記載の 技術とに接した当業者にとって自明のことといえる。
エ 引用発明の「第2シャフト56」及び「ギアアセンブリ62」は,それ ぞれ刊行物2に記載の技術の「コンプレッサー・ドライブ・シャフト24」 及び「遊星歯車列」に相当し,引用発明の「ギアアセンブリ62」は太陽 ギア64(刊行物2に記載の技術の「遊星歯車列26の太陽歯車36」に 相当する。)を有するから,引用発明に刊行物2に記載の技術を適用する と,引用発明の「第2シャフト56」と「ギアアセンブリ62」の太陽ギ ア64との間に,シャフトのずれに適応するための柔軟区画を有する太陽 歯車カップリング32を介在させることになる。
55 その結果,引用発明は,相違点4に係る本願発明の構成を備えることに なると認められる。
オ 以上によれば,相違点4に係る本願発明の構成は,引用発明と刊行物2 に記載の技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものといえる。
(2) 原告の主張について ア 原告は,@刊行物1は,スタブシャフト60に固定されるギアアセンブ リ62を開示している(甲1・明細書第3欄30,31行目,抄訳1頁2 7行目参照)が,ギアアセンブリの構成要素とスタブシャフトとの間に柔 軟性を有する部材を配置することが望ましいとの記載や示唆は一切存在せ ず,また,ギアアセンブリ構成要素の破損のリスク減少及び磨耗減少とい った問題の指摘もしておらず,課題の共通性は認められないから,引用発 明に刊行物2に記載の技術における「柔軟区画」を適用し,スタブシャフ ト60とギアアセンブリ62との間の回転トルクを吸収する部材とする動 機付けは存在しない,A刊行物2記載のカップリングは,「平行ずれと角 度ずれに適応する波状断面を有するユニークなカップリング」(甲2・8 頁25,26行目)であり,「歯車列縦軸を中心とする捻れに対して剛性 であるが,垂直軸および左右軸を中心とする捻れに,そして三本の軸の全 てに沿った並進(移行)に追従可能」(甲2・8頁28行目〜9頁2行目) であるという特殊なカップリング システムである一方で, ・ 刊行物1には, かかる特殊なカップリング・システムを採用する動機付けとなる記載又は 示唆は一切認められない,などと主張する。
イ しかしながら,次のとおり,原告の主張はいずれも失当である。
すなわち,刊行物1に記載された発明(引用発明)に,刊行物2に記載 の技術を適用することが当業者にとって容易想到か否かは,刊行物1の記 載のみによって決まるものではない。
そして,前記(1)アないしオのとおり,刊行物2に記載の技術に接した当 56 業者は,刊行物2に記載の技術は遊星歯車列を備える航空エンジンへの適 用を意図するものであると理解する一方,引用発明は遊星歯車列を備える 航空エンジンであり,刊行物2に記載の技術の適用対象そのものであるか ら,刊行物2に記載の技術を引用発明に適用することは,引用発明と刊行 物2に記載の技術とに接した当業者にとって自明のことというべきである。
この点は,刊行物2に記載されたカップリングが,原告が指摘するとおり 特殊なものであったとしても,何ら左右されるものではない。
よって,刊行物1の記載に動機付けや示唆があるかどうかのみを問題に する原告の主張は失当であり,採用できないというべきである。
また,原告は,構成要素破損という抽象的課題が当業者において認識さ れていたとしても,当業者が当該課題を解決するために刊行物2に記載の 柔軟区画を採用する動機付けや,当該柔軟区画を駆動軸と歯車箱との間に 配置するという具体的な構成を選択する動機付けは何ら存在しないとも主 張するが,刊行物2に記載の技術の適用対象そのものである引用発明に, 刊行物2の発明を適用する動機付けは十分にあるというべきであるから, この主張も失当である。
(3) 小括 以上の次第であるから,相違点4に係る本願発明の構成は,当業者が容易 に想到し得るものであるとした本件審決の判断に誤りはなく,取消事由2に 関する原告の主張は理由がない。
6 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由1及び2はいずれも理由がなく,本件審 決に取り消されるべき違法はない。
よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
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