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事件 平成 28年 (ネ) 10034号 特許権侵害差止等請求控訴事件

控訴人 アキテーヌジャパン株式会社
同訴訟代理人弁護士 磯野清華 岡ア紳吾
被控訴人 株式会社ライフサポート
同訴訟代理人弁護士 渡邊徹 雨宮沙耶花 山下遼太郎
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/08/03
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,原判決別紙物件目録記載の製品(以下「被控訴人製品」という。)を譲渡し,又は譲渡の申出をしてはならない。
3 被控訴人は,被控訴人製品を廃棄せよ。
4 被控訴人は,控訴人に対し,2299万5738円及びこれに対する平成2 1 7年5月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事案の概要(略称は,審級による読替えをするほか,原判決に従う。)
1 本件は,発明の名称を「リクライニング椅子」とする特許第5255004号に係る特許権(本件特許権)を有する控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人による原判決別紙物件目録記載の製品(被控訴人製品)の譲渡又は譲渡の申出が本件特許権を侵害すると主張して,@特許法100条1項及び2項に基づき被控訴人製品の譲渡等の差止め及び廃棄を,A民法709条に基づき損害賠償金2299万5738円及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達日の翌日)である平成27年5月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原判決は,被控訴人製品は,本件特許発明の文言侵害に当たらず,その技術的範囲に属するということはできないとして控訴人の請求をいずれも棄却した。
そこで,控訴人が原判決を不服として控訴したものである。
2 前提事実原判決5頁3行目の「別紙図面」を「原判決別紙図面」と改めるほかは,原判決の「事実及び理由」の第2の1記載のとおりであるから,これを引用する。
3 争点原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。
争点に対する当事者の主張
争点に対する当事者の主張は,以下のとおり,構成要件1Iの充足性に関する当事者の主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるから,これを引用する。
〔控訴人の主張〕(1) 構成要件1Iの「滑らかに当接して徐々に停止する」とは,湾曲部と当接部の形状及び関係を機能的に規定したものである。すなわち,「その当接部材が座席 2 フレームの湾曲部に滑らかに当接」とは,「当接部材を減速させながら,これが湾曲部に沿ってスライド可能となるよう,当接部材の一部の領域のみを湾曲部の裏面に当接させる」ということができ,「徐々に停止する」とは,「当接部材の前面の一部の領域と当該湾曲部との間に生じる摩擦によって,当接部材の進行(スライド)スピードが減速し,これにより,当接部材が停止する」ものということができる。
被控訴人製品のストッパー部材は,側面視略L字型からなるところ,レッグレストフレームを前方に引き出した際,ストッパー部材の上端のみが湾曲部の裏面に当接し,ストッパー部材の他の領域は湾曲部の裏面に当接しないのであるから,構成要件1Iを充足する。
(2) 被控訴人提出の証拠(乙6〜8)は,ストッパー部材が湾曲部に当接した段階,すなわち,レッグレストフレームを完全に引き出すことなく,故意に途中で停止させているので,不当である。レッグレストフレームを最大限前方に完全に引き出す必要がある。
被控訴人製品のレッグレストフレームを前方に引き出していくと,まずストッパー部材の上端の角部が湾曲部に対して当接するが,この時点では,レッグレストフレームは停止しない。そして,ストッパー部材の角部と湾曲部が当接したまま,レッグレストフレームが湾曲部に案内されて,ストッパー部材が斜め下方向に1センチメートル程前進する(甲10,11)。したがって,被控訴人製品は,当接部材が滑らかに湾曲部に当接して徐々に停止するものであり,構成要件1Iを充足する。
〔被控訴人の主張〕 (1) 構成要件1Iの解釈についての控訴人主張は争う。
(2) 控訴人の主張は,レッグレストフレームが引き出され湾曲部から受ける力によって自然に減速し停止した段階に至った後で,引き出す方向を上方に変更してさらにレッグレストフレームを力強く引き出すという全く不要の操作を行うことによって,ストッパー部材が徐々に速度を落として停止する動き(=「滑らかに」) 3 を恣意的に作出しようとするものである。乙6〜8は,このことを客観的に明らかにするものであり,被控訴人が恣意的に作成したものではない。
被控訴人製品においては,座席フレームの湾曲部にレッグレストフレームのストッパー部材が当接して同フレームが停止するのであるから,構成要件1Iを充足しないことは明らかである。
当裁判所の判断
1 当裁判所も,被控訴人製品は,本件特許発明の文言侵害に当たらず,その技術的範囲に属するということはできないから,控訴人の請求はいずれも棄却すべきものと判断する。
その理由は,後記2のとおり控訴人の当審における主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第3の1記載のとおりであるから,これを引用する。
2 控訴人の当審における主張に対する判断 (1) 控訴人は,構成要件1Iの「その当接部材が座席フレームの湾曲部に滑らかに当接」とは,「当接部材を減速させながら,これが湾曲部に沿ってスライド可能となるよう,当接部材の前面の一部の領域のみを湾曲部の裏面に当接させる」ものと,「徐々に停止する」とは,「当接部材の前面の一部の領域と当該湾曲部との間に生じる摩擦によって,当接部材の進行(スライド)スピードが減速し,これにより,当接部材が停止する」ものと解すべきであると主張する。
しかしながら,控訴人主張のとおり解すべきであるとしても,「滑らかに当接して徐々に停止」は,当接部材が停止するまでの一連の動作を指すと解するのが相当であり,後記(2)のとおり,被控訴人製品は,レッグレストフレームを引き出す一連の動作の途中でレッグレストフレームが停止するのであるから,「その当接部材が座席フレームの湾曲部に滑らかに当接して徐々に停止」するものということはできない。
(2) 控訴人は,被控訴人製品は,ストッパー部材の上端の角部が湾曲部に当接し 4 た時点では,レッグレストフレームは停止せず,その後,レッグレストフレームが湾曲部に案内されて,ストッパー部材が斜め下方向に1センチメートル程前進するのであって,ストッパー部材が斜め下方向に前進することは,引き出しの最終段階において,フットレストが上方へ跳ね上がっていることからも見て取れるとして(甲9〜11),構成要件1Iを充足すると主張する。
証拠(甲9,乙7の1・2,8)によれば,被控訴人製品において,レッグレストフレームは,ストッパー部材の上部の角部ないし引き出し方向先端の角の部分が湾曲部に当接して停止すること,この状態からレッグレストフレームをさらに引き出すことも可能であるが,さらに引き出した状態で安定的に固定することは困難であることが認められる(なお,甲11によっては,上記認定は左右されない。)。
そして,控訴人の主張するとおり,さらに引き出した状態までの一連の動作を基に充足性を判断するとしても,被控訴人製品は,一連の動作の途中でレッグレストフレームが停止するのであるから,「その当接部材が座席フレームの湾曲部に滑らかに当接して徐々に停止」するものとはいえない。
(3) 以上のとおり,被控訴人製品が構成要件1Iを充足するとは認められない。
3 結論 したがって,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求は理由がないから,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当である。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 部眞規子
裁判官 古河謙一