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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成28ネ10031特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
平成27ネ10014特許権侵害行為差止請求控訴事件 判例 特許
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事件 平成 28年 (ネ) 10023号 特許権侵害差止等請求控訴事件

控訴人X
同訴訟代理人弁護士 工藤涼二
被控訴人興和株式会社
被控訴人興和創薬株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士 北原潤一
同 米山朋宏
同 補佐人弁理士中嶋俊夫
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/07/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決中,損害金の支払請求に関する部分を取り消す。
2 上記取消しに係る部分につき,被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して1億 1000万円及びこれに対する平成26年10月3日から支払済みまで年5分 の割合による金員を支払え。
1 3 控訴費用は被控訴人らの負担とし,その余の訴訟費用はこれを1000分し, その329を被控訴人らの負担とし,その余を控訴人の負担とする。
4 仮執行の宣言
事案の概要
1 本件は,発明の名称を「メニエール病治療薬」とする特許権を有する控訴人が,被控訴人らの製造販売に係る原判決別紙物件目録1ないし3記載のメニエール病改善剤(以下「被控訴人製品」という。)が上記特許権に係る発明の技術的範囲に属すると主張して,被控訴人らに対し,特許法100条1項及び2項に基づき,被控訴人製品の製造販売の差止請求及び侵害予防に必要な行為の請求をするとともに,民法709条に基づき,損害賠償金1億1000万円(特許法102条2項又は3項により算定した損害賠償金の一部である1億円と弁護士費用1000万円の合計額)及びこれに対する平成26年10月3日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
原審は,被控訴人製品は本件発明の構成要件A(「成人1日あたり0.15〜0.75g/kg体重のイソソルビトールを経口投与されるように用いられる」というもの)を充足するとはいえないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。これに対し,控訴人は,原判決中損害金の支払請求に関する部分を不服として控訴した。
2 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正し,後記第3の2において当審における控訴人の主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1から3まで(原判決2頁24行目から13頁16行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決中「原告」とあるのは「控訴人」と, 「被告」とあるのは「被控訴人」と,それぞれ読み替えることとし,原判決で用いられた略語はそのまま使用する。
当裁判所の判断
1 当裁判所も,被控訴人製品が本件発明の構成要件Aに規定する用途に使用するために製造販売されたものと認めることはできず,当該製造販売行為は本件発明 2 における特許法2条3項にいう「実施」に該当しないから,控訴人の損害金の支払請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり原判決を補正して,後記2において当審における控訴人の主張に対する判断を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」の1(原判決13頁18行目から18頁18行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決14頁13行目の「【0011】【0013】」を削除し,同頁15行 , ,目冒頭から20行目の「望まれている。」までを削除する。
(2) 同15頁1行目の「含む糖又は糖アルコールを」を削除する。
(3) 同頁12行目から13行目にかけての「大量投与は逆効果であり」を「主薬を従来よりも大量投与したところ逆効果であり」に改める。
(4) 同16頁1行目から2行目末尾にかけての「モルモットの体重その他の個体差や時間的推移に基づいて投与量を変化させた例はない。 を 」 「実験的内リンパ水腫モデル動物であるモルモットに対し,体重に基づいた投与(2.8g/kg体重,1.4g/kg体重)を行っているだけで,投与量を,内リンパ水腫の重篤度に応じて変化させる実験や,投与期間に応じて漸減する実験は行なわれていない。 に改 」める。
(5) 同頁3行目冒頭から同17頁16行目末尾までを次のとおり改めるとともに,同17頁17行目冒頭の「(6)」を「(5)」に改める。
「(4) 用途発明とは,既知の物質について未知の性質を発見し,当該性質に基づき顕著な効果を有する新規な用途を創作したことを特徴とするものであるから,用途発明における特許法2条3項にいう「実施」とは,新規な用途に使用するために既知の物質を生産,使用,譲渡等をする行為に限られると解するのが相当である。
これを本件についてみるに,上記(2)及び(3)によれば,本件発明は,作用発現までに長時間要するという従来のメニエール病治療薬の課題を解決するために,既知の物質であるイソソルビトールの1日当たりの用量を従来の「1.05〜1.4g/kg体重」から,構成要件Aにいう「0.15〜0.75g/kg体重」という 3 範囲に減少させることによって,血漿AVPの発生を防ぐなどして迅速な作用を発現させるとともに,長期投与に適したメニエール病治療薬を提供するというものである。そうすると,本件発明は,イソソルビトールという既知の物質について投与量を減少させると血漿AVPの発生を防ぎ,かえって内リンパ水腫減荷効果を促進させるという未知の性質を発見し,当該性質に基づきイソソルビトールの投与量を減少させることによって,即効性を有しかつ長期投与に適するメニエール病治療薬としての顕著な効果を有する新規な用途を創作したことを特徴とするものであるから,本件発明は,イソソルビトールという既知の物質につき新規な用途を創作したことを特徴とする用途発明であるものと認められる。
そして,前記第2の1(3)イの前提事実によれば,被告製品の添付文書及びインタビューフォームにおける用法用量は,1日体重当り1.5〜2.0mL/kgを標準用量とするものであって,かえって,本件明細書にいう従来のイソソルビトール製剤の用量をも超えるものであるから,構成要件Aによって規定された上記用途を明らかに超えるものと認められる。
以上によれば,被告は,イソソルビトールについての上記新規な用途に使用するために,これを含む被告製品を製造販売したものということはできないから,被告製品を製造販売をする行為は,本件発明における特許法2条3項の「実施」に該当するものと認めることはできない。」 (6) 同頁22行目から23行目末尾にかけての「前記(4)において説示したところに反する。」を次のとおり改める。
「前記(4)のとおり,本件発明は,イソソルビトールという既知の物質につき新規な用途を創作したことを特徴とする用途発明であるから,被告製品の製造販売が本件発明の「実施」に該当するというには,当該製造販売が新規な用途に使用するために行われたことを要するというべきである。しかしながら,前記第2の1(3)イの前提事実によれば,被告製品の添付文書及びインタビューフォームにおける用法用量は,1日体重当り1.5〜2.0mL/kgを標準用量とするものであって,本 4 件発明の構成要件Aにいう用途とは明らかに異なるものであり,そのほかに被告製品の製造販売が当該用途に使用するために行われたことを認めるに足りる証拠もない。したがって,原告の主張は,用途発明の意義を正解しないものであって,独自の見解というほかなく,採用することができない。」 (7) 同18頁17行目の末尾に「原告は,要するに,被告製品は1回の服用に1包限り使用されることを前提として,当該用法用量が構成要件Aを充足する旨主張するものであるが,当該用法用量は,上記(4)のとおり,被告製品の添付文書等の記載の用法用量に反するものであるから,当該用法用量で使用することを前提として被告製品が製造販売されたと認めることはできない。原告の主張は,被告製品の用法用量とは異なる前提に立つものであって,採用することができない。 を加える。
」 2 当審における控訴人の主張について 控訴人は,本件発明がイソソルビトールに糖アルコールを限定して分割出願されたものであるにもかかわらず,本件発明にイソソルビトール以外の糖アルコールをも含むと認定して本件明細書に関する事実を誤認した上,本件発明の課題を正確に把握せずに構成要件Aを限定解釈した原判決には,特許法70条1項についての法令解釈の誤りがある旨主張する。
しかしながら,前記のとおり補正の上引用する原判決が説示するとおり,本件発明は用途発明であるから,本件発明の「実施」に該当するには,当該用途に使用するために被控訴人製品が製造販売されたことを要するところ,被控訴人製品の添付文書及びインタビューフォームによれば被控訴人製品は上記用途と異なる用途に使用するために製造販売されたことが認められるのであるから,控訴人の上記主張は,上記判断を左右するものではない。そのほかに控訴人の当審における主張を改めて十分検討しても,その実質は原判決の結論に影響のない事項についての違法をいうもの,又は原審と同種の主張を縷々繰り返すものであって,結局のところ用途発明の意義を正解しないものに帰するにすぎない。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
5 なお,控訴人は,本件口頭弁論終結後に,平成28年7月8日付け準備書面(1)を提出した上,控訴人の本人尋問の申出をするとともに,被控訴人興和株式会社作成に係る医薬品インタビューフォーム(甲83)を証拠として提出するために口頭弁論の再開の申立てをした。しかしながら,上記証拠は,そもそも被控訴人製品に係るものではなく,その実質は原審と同種の主張を繰り返すものにすぎず,そのほかに上記準備書面(1)における主張を改めて十分検討しても,控訴人本人及び上記証拠を取り調べなければ手続的正義の要求に反するということはできない。したがって,当裁判所は,口頭弁論の再開は命じないこととした。
結論
以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,控訴人の請求は理由がなく,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 設樂一
裁判官 中島基至