関連審決 | 無効2014-800070 |
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事件 |
平成
27年
(行ケ)
10200号
審決取消請求事件
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原告 東洋アルミニウム株式会社 同訴訟代理人弁護士 平野和宏 同訴訟代理人弁理士 藤井淳 被告株式会社UACJ 同訴訟代理人弁護士 湯浅正彦 同 湯浅知子 同訴訟代理人弁理士 岩倉民芳 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/07/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2014-800070号事件について平成27年8月26日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は,平成19年12月14日,発明の名称を「プレススルーパックの蓋用包装用シート,その製造方法及びプレススルーパック」とする特許出願(特願2007-324047号。優先権主張:平成18年12月18日,日本。以下「本件優先権主張」という。)をし,平成24年12月14日,設定の登録(特許第5154906号)を受けた(請求項の数8。以下,この特許を「本件特許」という。 甲79)。 (2) 被告は,平成26年4月30日,本件特許の請求項1ないし8に係る発明について特許無効審判を請求し,無効2014-800070号事件として係属した。 (3) 原告は,平成27年4月24日,特許請求の範囲及び明細書の記載について訂正を請求した(請求項の数8。甲73。以下「本件訂正」という。)。 (4) 特許庁は,平成27年8月26日,本件訂正を認めた上で,「特許第5154906号の請求項1ないし8に係る発明についての特許を無効とする。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年9月3日,原告に送達された。 (5) 原告は,平成27年9月28日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし8の記載は,次のとおりである(甲73)。訂正箇所に下線を付した。以下,本件特許に係る発明を,請求項の番号に従って「本件発明1」などといい,本件発明1ないし8を併せて,「本件各発明」という。また,その明細書(甲73)を,図面を含めて「本件明細書」という。 なお,「/」は,原文の改行部分を示す(以下同じ。)。 【請求項1】調質が硬質材であるアルミニウム箔と,/前記アルミニウム箔の少なくとも一方の面への塗布層である,透明ないし半透明の下地層と,/前記下地層上に設けた白着色層と,/前記白着色層上に位置するバーコード部(ただし,レーザ発色層にレーザを照射することにより描画されるバーコード部を除く。)と,を備えるシートであって,前記バーコード部のバーコードサイズが公称0.169mm/モジュールである場合においてバーコード検証機で10回スキャンしたときのANSI規格で定められている総合評価がAであるシートを,前記バーコード部を市販のバーコードリーダーにより読み取るプレススルーパックの蓋に用いることを特徴とする,/プレススルーパックの蓋用包装用シート。 【請求項2】前記下地層が,前記バーコード部の読み取りの,少なくともシンボルコントラスト(SC)値を高めるためのものである,ことを特徴とする,請求項1に記載のプレススルーパックの蓋用包装用シート。 【請求項3】前記白着色層は,20重量%〜30重量%の白色顔料を含むことを特徴とする,請求項1または2に記載のプレススルーパックの蓋用包装用シート。 【請求項4】前記白着色層が,単位面積当たり1.0g/m 2〜4.0g/m2で前記アルミニウム箔上に設けられていることを特徴とする,請求項1〜3のいずれか1項に記載のプレススルーパックの蓋用包装用シート。 【請求項5】前記バーコード部は,フレーム処理されたグラビア版を用いて,印刷されていることを特徴とする,請求項1〜4のいずれかに記載のプレススルーパックの蓋用包装用シート。 【請求項6】前記バーコード部のインキ層の中心線から公称幅分を越えてはみ出たはみ出し幅ΔWが,その他の印刷部または裏面印刷部のインキ層の上記はみ出し幅ΔWと比較して,10%以上小さいことを特徴とする,請求項1〜5のいずれかに記載のプレススルーパックの蓋用包装用シート。 【請求項7】前記請求項1〜6のいずれかに記載のプレススルーパックの蓋用包装用シートを,ポケット部を有する収納シートの蓋に用いたことを特徴とする,プレススルーパック。 【請求項8】調質が硬質材であるアルミニウム箔の少なくとも一方の面に透明ないし半透明の下地層を塗布によって設け,さらに該下地層上に白着色層を設け,次いで,該白着色層上に,フレーム処理が施されたグラビア版によるバーコード印刷部を設けることを特徴とする,/前記バーコード印刷部を市販のバーコードリーダーにより読み取るプレススルーパックの蓋用包装用シートであって,前記バーコード印刷部のバーコードサイズが公称0.169mm/モジュールである場合においてバーコード検証機で10回スキャンしたときのANSI規格で定められている総合評価がAであるシート/の製造方法。 3 本件審決の理由の要旨(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,@本件各発明は,下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。),下記ウ及びエの引用例3及び4に記載された事項並びに周知技術に基づいて,いずれも当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,A@)本件発明1,2,5,6及び8は,下記イの引用例2の刷見本の円形状部分と同構造の蓋材の構成(以下「引用発明2」という。)及び周知技術に基づいて,A)本件発明3,4及び7は,引用発明2,引用例1に記載された事項及び周知技術に基づいて,いずれも当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,などというものである。なお,本件優先権主張に関し,本件各発明について同法41条2項の適用がないことは,当事者間に争いがない。 ア 引用例1:特開平10-24944号公報(甲2)イ 引用例2:昭和63年11月10日に日本製箔株式会社において作製された刷見本(甲12)ウ 引用例3:「医薬品用PTPアルミ箔のバーコード表示」「月刊 自動認識」日本工業出版株式会社(平成19年7月)40〜43頁(甲3)エ 引用例4:「医薬品情報とバーコード」株式会社薬事日報社(平成19年7月31日)56〜80頁(甲4)(2) 本件各発明と引用発明1との対比ア 引用発明1本件審決が認定した引用発明1は,以下のとおりである。 硬質性であるアルミニウム箔1と,/前記アルミニウム箔1と塗工層2との間に設けられる塩化ビニル系樹脂,エポキシ系樹脂等からなる樹脂組成物によるプライマー層と,/前記プライマー層上に設けた白色の前記塗工層2と,/前記塗工層2上に位置するグラビア印刷方式による商品名・内容物の取り出し方法などのマークや文字等の印刷層3と,/前記印刷層3を保護するオーバーコート層4と,を備える蓋材を,プレススルーパックの蓋に用いる,プレススルーパック用蓋材。 イ 本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点 本件審決が認定した本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は,以下のとおりである(相違点の符号は,審決に従う。以下同じ。)。 (ア) 一致点 調質が硬質材であるアルミニウム箔と,/前記アルミニウム箔の一方の面への塗布層である,下地層と,/前記下地層上に設けた白着色層と,/前記白着色層上に位置する印刷表示(ただし,レーザ発色層にレーザを照射することにより描画される印刷表示を除く。)と,を備えるシートを,プレススルーパックの蓋に用いる,プレススルーパックの蓋用包装用シート。 (イ) 相違点 相違点1:印刷表示について,本件発明1は「市販のバーコードリーダーにより読み取る」「バーコード部」であり,「バーコード部のバーコードサイズが公称0.169mm/モジュールである場合においてバーコード検証機で10回スキャンしたときのANSI規格で定められている総合評価がA」であるが,引用発明1は「商品名・内容物の取り出し方法などのマークや文字等」である点。 相違点A:下地層について,本件発明1は「透明の」と特定されているが,引用発明1は明らかでない点。 ウ 本件発明2と引用発明1との相違点 本件審決が認定した本件発明2と引用発明1との相違点は,前記相違点1及び相違点Aに加え,以下の点である。 相違点B:本件発明2は,「下地層が,前記バーコード部の読み取りの,少なくともシンボルコントラスト(SC)値を高めるためのものである」が,引用発明1は明らかでない点。 エ 本件発明3と引用発明1との相違点 本件審決が認定した本件発明3と引用発明1との相違点は,前記ウに加え,以下の点である。 相違点C:本件発明3は,「白着色層は,20重量%〜30重量%の白色顔料を含む」ものであるが,引用発明1は明らかでない点。 オ 本件発明4と引用発明1との相違点 本件審決が認定した本件発明4と引用発明1との相違点は,前記エに加え,以下の点である。 相違点D:本件発明4は,「白着色層が,単位面積当たり1.0g/m2〜4.0g/m2で前記アルミニウム箔上に設けられている」ものであるが,引用発明1は明らかでない点。 カ 本件発明5と引用発明1との相違点 本件審決が認定した本件発明5と引用発明1との相違点は,前記オに加え,以下の点である。 相違点E:本件発明5は,「バーコード部は,フレーム処理されたグラビア版を用いて,印刷されている」ものであるが,引用発明1は明らかでない点。 キ 本件発明6と引用発明1との相違点 本件審決が認定した本件発明6と引用発明1との相違点は,前記カに加え,以下の点である。 相違点F:本件発明6は,「バーコード部のインキ層の中心線から公称幅分を越えてはみ出たはみ出し幅ΔWが,その他の印刷部または裏面印刷部のインキ層の上記はみ出し幅ΔWと比較して,10%以上小さい」ものであるが,引用発明1は明らかでない点。 ク 本件発明7と引用発明1との相違点 本件審決が認定した本件発明7と引用発明1との相違点は,前記キに加え,以下の点である。 相違点G:本件発明7は,包装用シートを「ポケット部を有する収納シートの蓋に用いた」「プレススルーパック」であるが,引用発明1は明らかでない点。 ケ 本件発明8について 本件審決は,本件発明8について,本件発明1を引用する本件発明5の「包装用シート」の層構造を,順次,「製造方法」として特定したにすぎず,「製造方法」として特別の技術的特徴はない旨判断した。 (3) 本件発明1と引用発明2との対比ア 引用発明2本件審決が認定した引用発明2は,以下のとおりである。 質別Oであるアルミニウム箔と,/前記アルミニウム箔の一方の面への塗布層である,アンダーラッカーRLによるアンカーコート(AC)層と,/前記AC層上に設けた白の印刷層と,/前記印刷層上に位置する6C印刷による商品名,バーコード部等と,/前記印刷層上に設けたオーバープリント(OP)層と,/を備える蓋材であって,/前記バーコード部のバーコードサイズが0.33mm/モジュールである蓋材を,ババロアチョコレート容器の蓋に用いる,ババロアチョコレート容器の蓋材。 イ 本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点 本件審決が認定した本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点は,以下のとおりである。 (ア) 一致点 アルミニウム箔と,前記アルミニウム箔の一方の面への塗布層である,透明の下地層(AC層)と,前記下地層上に設けた白着色層(白の印刷層)と,前記白着色層上に位置するバーコード部(ただし,レーザ発色層にレーザを照射することにより描画されるバーコード部を除く。)と,を備えるシートであって,前記シートを容器の蓋に用いる,容器の蓋用包装用シート。 (イ) 相違点 相違点2:バーコード部について,本件発明1は,「市販のバーコードリーダーにより読み取る」「バーコード部のバーコードサイズが公称0.169mm/モジュールである場合においてバーコード検証機で10回スキャンしたときのANSI規格で定められている総合評価がA」であるが,引用発明2は「0.33mm/モジュール」である点。 相違点3:シートの用途について,本件発明1は,「プレススルーパックの蓋」であるが,引用発明2は「ババロアチョコレート容器の蓋」である点。 相違点4:アルミニウム箔について,本件発明1は,「調質が硬質材」であるが,引用発明2は「質別O」である点。 4 取消事由(1) 本件発明1の引用発明1に基づく容易想到性判断の誤り(取消事由1)(2) 本件発明1の引用発明2に基づく容易想到性判断の誤り(取消事由2)(3) 本件発明2ないし8の容易想到性判断の誤り(取消事由3) |
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当事者の主張
1 取消事由1(本件発明1の引用発明1に基づく容易想到性判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 引用発明1の課題等 ア 引用例1には,バーコード部を設けること及びバーコードリーダーによる読み取りについて,何らの記載も示唆もない。引用例1において,印刷されるものとして開示されているのは,「商品名・内容物の取り出し方法などのマークや文字等」にとどまる(【0014】)。 そして,引用発明1の課題は,視認性を高めることにある。この視認性は,目で見ることによる識別性の問題であって,バーコードリーダー等の機械読み取りによる識別性の問題ではない(【0007】〜【0010】)。 すなわち,引用発明1は,マークや文字等の印刷を人間が読み取る際に,これらがアルミニウム箔上に印刷されている場合,その印刷情報とともにアルミニウム箔からの反射光も肉眼に入ってくるため,その反射による眩しさ等により印刷情報が見づらくなるという点を問題点として捉え,そのような反射光による見づらさの問題を解消するために,「一色の塗工層」を設けたものである(【0008】,【0023】)。 イ 引用発明1は,前記アのとおり,あくまでも,文字やマーク等の肉眼で識別できる情報の読み取りやすさを向上させるものであり,その評価方法も実際の肉眼による評価が行われる。 (2) 引用発明1に基づく容易想到性ア 引用発明1にバーコード表示を適用する動機付けがないこと (ア) 引用発明1の課題である,文字やマーク等の印刷の視覚による識別性は,バーコードリーダーによるバーコードの読み取り性とは,全く別異の特性である。 しかも,文字やマーク等は視覚による認識性を課題とすることから,その評価方法も人の視覚に基づく試験がなされており,機械読み取りにより評価されるバーコードとは手法が全く異なる。 これに対し,バーコードは,肉眼ではなく,バーコードリーダーによる読み取りが行われるところ,バーコードリーダーは,そこから出てバーコードに当たって反射して戻ってくる光(拡散反射光)を検知する。したがって,アルミニウム箔上にバーコードが直接印刷されている場合,バーコードリーダーから出た光が鏡面反射となって,拡散反射光を受けることができず,検知することが困難になる。これが,バーコードを用いる場合の問題であり,かかる課題を解決するため,白着色層により拡散反射光を作り出し,それによりバーコードリーダーによる識別性を高めるのである。 以上のように,文字やマーク等を肉眼により識別する場合とバーコードリーダーにより識別する場合とでは,その読み取りの検出原理(肉眼に届いた光で識別するか,自ら光を放って拡散反射光を受けて識別するか)に違いがあるだけでなく,その検出性の問題が起きる原因(肉眼に反射光が入ることによる見づらさか,鏡面反射により拡散反射光がバーコードリーダーに戻ってこなくなることによる検出性の低下か)も本質的に異なる。言い換えれば,引用発明1では,反射光をなくすことを主眼とするのに対し,バーコードを有するPTP蓋材では反射光を作り出すことを目的とするのであり,両者は,正反対の課題を有する。加えて,肉眼による視認性とバーコードの読み取り性には,相関関係もない。 (イ) また,バーコード表示の実施が要求されているのは,医薬品の中でも「医療用医薬品」であって(引用例3),あらゆるPTP用蓋材ではない。 これに対し,引用発明1は,医薬品だけでなく,食品等も対象とするものである(なお,医薬品に限っても,その分類としては,「医療用医薬品」と「一般用医薬品」がある。)。 したがって,単に,医療用医薬品に関する官公庁の通達があったというのみで,直ちに,バーコードと関係のない発明である引用発明1に,バーコード表示を試みることが当然である,などということはできない。 (ウ) さらに,バーコードとその他の図柄とは,別の版で印刷される。仮にマークや文字とバーコードとが同じ工程で印刷されるとしても,引用発明1では,マークや文字の視認による識別性が評価対象とされるだけであり,バーコードの具体的な評価(特にANSI規格に基づく評価)にまで及ばない。むしろ,引用発明1のプライマー層の役割は,密着性の向上であるから,せいぜい密着性を評価するにとどまり,本件発明1の技術的思想に至るための必然性はない。 (エ) 以上によれば,たとえバーコードをPTP用蓋材に採用することが公知であったとしても,肉眼による識別性とは,原理,評価方法等が異なるバーコードリーダーによる読み取り性を評価するために,引用発明1にバーコード表示を適用する必要性や必然性はない。 また,そもそも,視認性を前提とする引用発明1において,その識別の原理,識別性の問題の発生原因,識別性の評価方法等が異なるバーコードを導入すれば,もはや引用発明1が体をなさなくなってしまうことに帰結するから,引用発明1において,バーコード表示を適用することには阻害要因がある。 (オ) 被告の主張について a バーコードの読み取り性は,本件発明1でも規定しているように,例えばANSI規格による品質により特定されるものであり,具体的には,本件明細書の【0041】や引用例3にも示されているとおり,@EDGE(エッジ判定),ARL/Rd(最大反射率/最小反射率),BSC(シンボルコントラスト,単位%),CMinEC(最小エッジコントラスト,単位%),DMOD(モジュレーション,単位%),EDef(欠陥,単位%),FDCD(デコード),GDEC(デコードの容易性,単位%),HMinQZ(最小クワイエットゾーン)の各項目を測定し,これにより評価されるものである。 したがって,バーコードをバーコードリーダーで読み取る場合の読み取りの困難性の原因として,@光量不足,A反射光の受光部への過剰入射,BSC値の小さいバーコードという,限定的な状況のみを前提とする被告の主張は失当である。また,バーコードの読み取り性は,SC値を含む9項目の総合評価で決定されるものであるから,SC値だけを取り上げて議論すること自体が,技術的な適切さを欠く。 b 引用発明1は,アルミニウム箔の光の反射をなくすことによって,マークや文字等の印刷を際立たせるものであり(【0008】),反射率の差を出して印刷を際立たせることを意図するものではない。 c 本件発明1と引用発明1とでは,たとえ同じ白着色層を形成したとしても,引用発明1では反射光を抑えるために白着色層が形成されるのに対し,本件発明1では反射光を作り出すために白着色層が形成されるのであるから,作用・機能が互いに異なることは明らかである。 引用発明1は,肉眼による識別(視認性)を前提とするものであり,引用例1には,バーコードによる読み取り性の評価基準の一つであるSC値を殊更高めることなど記載も示唆もされていない。 イ 引用発明1のプライマー層 (ア) 引用例1には「プライマー層」が記載されているが,このプライマー層は,専ら層間の密着性・接着性を高めることを目的とするものである(【0013】)。 引用例1には「視認性」の向上を目指してプライマー層を形成することについては,何らの記載もなく,ましてや,バーコードリーダーによる読み取り性との関係,バーコードによる読み取りにおける総合評価との関係についても,何らの記載も示唆もない。 (イ) また,引用例1では,プライマー層について,透明ないし半透明であることの指定はない。むしろ,引用例1には「アルミニウム箔の表面の光の反射をなくして,アルミニウム箔に施された商品名や内容物の取り出し方法などのマークや文字等の印刷を際立たせて,視認性を高めるPTP用蓋材を提供する」(【0008】)との記載があることから,当業者であれば,プライマー層として不透明なプライマーを採用するか,又は,着色顔料等を添加してプライマー層ができるだけ不透明になるように彩色しようとするのが自然である。したがって,引用例1には,プライマー層の透明性について,何らの記載も示唆もない。 (ウ) 以上のとおり,引用例1には,プライマー層により密着性を高めることが開示されているにすぎないから,引用発明1に基づき,透明ないし半透明の下地層を形成することによってバーコードのバーコードリーダーによる読み取り性の向上を目指すという本件発明1の構成を着想する契機がない。 ウ 引用例3及び4の記載等 (ア) 引用例3には,白ベタ層上にバーコードを採用することが開示されているが,引用例1の場合と同様,白ベタ層によるアルミニウム箔の金属光沢を隠蔽することが記載されているにすぎず,白ベタ層とアルミニウム箔との間に何らかの別の層を形成することや,その別の層によりANSI規格による総合評価をさらに改善できることについては,何らの記載も示唆もない。 また,引用例3には,バーコードを設けることが記載されているが,ここでのバーコードサイズは「公称0.254mm/モジュール」にとどまるものであって,より小さなバーコードサイズである「公称0.169mm/モジュール」において総合評価を高めようとすることについての発想はない。 以上によれば,引用例3には,バーコードリーダーによるバーコードの読み取り性の向上をねらって白着色層とアルミニウム箔の間に「透明ないし半透明の下地層」を形成することについての記載や示唆は一切ない。 (イ) 引用例4には,PTP蓋材にバーコードを設けることが記載されているものの,「透明ないし半透明の下地層」については一切記載がない。 また,引用例4においても,バーコードサイズは,0.25mm/モジュール(すなわち,公称0.254mm/モジュール)が推奨されているにすぎない。 以上によれば,引用例4には,バーコードリーダーによるバーコードの読み取り性の向上をねらって,少なくとも白着色層とアルミニウム箔の間に「透明ないし半透明の下地層」を形成することについての記載や示唆は一切ない。 (ウ) 被告の主張について 本件発明1の特徴は,「透明ないし半透明の下地層」をアルミニウム箔と白着色層との間に形成し,かつ,公称0.169mm/モジュールという小さいバーコードサイズでもANSI規格の総合評価がAとなる特性を有する点にあるから,「前記バーコード部のバーコードサイズが公称0.169mm/モジュールである場合においてバーコード検証機で10回スキャンしたときのANSI規格で定められている総合評価がAであるシート」という構成(以下「総合評価要件」という。)は,層構成と不可分一体の必須の要件である。 しかも,本件明細書にも記載されているとおり,小面積化・高密度化されたバーコードをバーコードリーダーにより精度よく読み取るという本件発明1に特有の着想ないし発想と密接に関わる事項でもある(【0004】,【0005】)。 したがって,本件発明1から,総合評価要件のみを取り出して,これが本件発明1の進歩性の判断に何らの影響も及ぼさないものであるとする被告の主張は,本件発明1の技術的思想の本質を無視するものであって,失当である。 エ 本件発明1の効果 引用例1には,視認による評価結果が示されているにすぎないから,当業者であっても,引用発明1にバーコード表示を適用したものが,本件発明1と同じ効果を奏するか否かを,引用例1や引用例3の文面から直ちに知ることはできない。 したがって,本件発明1の効果が,引用発明1にバーコード表示を適用することにより,当然に予測される範囲内のものであるということはできない。 オ 小括 以上によれば,本件発明1は,引用発明1,引用例3及び4に記載された事項並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 〔被告の主張〕(1) 引用発明1と引用例3及び4との関係等ア 技術分野の共通性 引用発明1は,PTPの蓋用包装用シートに関する発明であるところ,引用例3及び4も,PTPの蓋用包装用シートに関する事項が記載されており,いずれもアルミニウム箔からなる基材上に樹脂層等を積層したアルミニウム箔複合材に関するものであって,とりわけPTPの蓋用包装用シートとして全く同一のものを対象物としている。 以上のように,引用発明1と引用例3及び4とは,技術分野が関連している。 イ 課題の共通性 (ア) 肉眼で見る場合と,バーコードリーダーという機械で読み取る場合とでは,対象物についての情報の取得の仕方に相違があることは当然のことである。 ところで,肉眼で見て対象物が見えにくいという状況が生じるのは,主として,@光量不足,A反射光による眩惑,B対象物と周囲とのコントラスト不足が原因である。他方,バーコードをバーコードリーダーで読み取る場合に,その読み取りが困難となるのは,@光量不足,A反射光の受光部への過剰入射,BSC値の小さいバーコード等が原因となる。そして,肉眼における反射光による眩惑とは,人間における受光部たる目に反射光が過剰に入射することによって生じるものであり,また,逆にSC値の小さいバーコードとは,バーの部分とスペースの部分とのコントラストが少ないということであるから,肉眼による見えにくさの原因と,バーコードリーダーによる読み取りの困難性とは,その原因において同じものであるということができる。 そもそも,肉眼であれ,バーコードであれ,対象物(文字やマークあるいはバーコード)に当たった光を肉眼あるいは受光部で受けて,その反射光によって対象物を認識していることは共通している。そのため,光量が不足するとその反射光も少なくなって対象物の認識が困難になるということにおいて,両者は,異ならない。 また,対象物が印刷されるアルミニウム箔は金属光沢を有しており,強い光が当たると強い反射光を生じるところ,この反射光が肉眼に入射すれば眩惑されて認識不能となり,バーコードリーダーの受光部に入射すれば,受光素子の飽和によって読み取り不能となるのであって,いずれも強い反射光が入射すれば対象物の識別が困難になることに相違はない。さらに,肉眼であれ,バーコードリーダーであれ,対象物を認識あるいは識別しようとする際に,SC値といわれる最大反射率と最小反射率の差が大きい方が,対象物を認識あるいは識別しやすいことも共通している。 (イ) 引用例1には,引用発明1の課題が,「アルミニウム箔に施された商品名や内容物の取り出し方法などのマークや文字等の印刷を際立たせて,視認性を高めるPTP用蓋材を提供することである。」と記載されているところ(【0008】),「印刷を際立たせる」とは,印刷された文字等を構成する部分の反射率とその周りの部分の反射率との差を大きくすることによって,明暗の差を大きく出させることを意味する。これは,SC値を向上させるということであり,引用例3及び4に示されたSC値の向上を図ることと同じことであって,引用発明1と引用例3及び4とは,SC値の向上を図るという具体的な課題においても共通している。 (ウ) 以上によれば,引用発明1と引用例3及び4の究極的な課題は,いずれも「医療事故防止」であり,それを具体化すれば,アルミニウム箔上の印刷内容を確実に識別できるようにすること,さらには,そのためにSC値すなわち最大反射率と最小反射率の差を大きくすることである。よって,両者には,課題の共通性がある。 ウ 作用・機能の共通性 引用発明1の白色の塗工層,引用例3の「白ベタ」及び引用例4の「白ベタ印刷」は,いずれもSC値を大きくするとの作用・機能を有している。他方,本件発明1における白着色層は,SC値を向上させる作用・機能を有しており,下地層は,そのSC値を更に向上させる作用・機能を有するものである(【0007】)。 したがって,本件発明1における白着色層,引用発明1の白色の塗工層,引用例3の「白ベタ」,引用例4の「白ベタ印刷」は,SC値を向上させる作用・機能を有している点で共通する。 (2) 引用発明1に基づく容易想到性ア 引用発明1にバーコード表示を適用する動機付け 医療用医薬品へのバーコード表示の実施については,厚生労働省医薬食品局安全対策課から,平成18年9月15日付けで日本製薬団体連合会等に出された,「医療用医薬品へのバーコード表示の実施について」という通知(薬食安発第0915001号)が基礎となっている(甲23。以下「本件通知」という。)。本件通知が発せられたことにより,医薬品包装部材に関連する当業者には,包装部材に「バーコード」表示を実施しなければならないという強い動機付けが生じる。 そして,引用例3及び4は,本件通知の要請をPTP用蓋材において実施する際に関連する事項を記載したものであるところ,引用例3及び4には,医薬品包装部材の一種であるPTP用蓋材にもバーコードを表示しなければならないこと及びそれに関連する技術的事項が記載されている。 本件通知の要請に対応したPTP用蓋材を開発しようとする当業者は,これまでのPTP用蓋材を基礎として,これに改良を加える検討をするのが通常であるところ,その基礎となる構成が,引用発明1に示されている。引用例1には,文字等のマークを印刷することが明記されているところ,バーコードも一種のマークであり,引用例1における「マーク」は,特にバーコードを除外しているものではない。他方で,「バーコード」を印刷したPTP用蓋材には,バーコードだけではなく,文字等の「マーク」も印刷されており,むしろ,文字等を含む「マーク」が必須である。 したがって,本件通知によってPTP用蓋材にバーコード表示を実施する義務を負うことになった当業者が,引用発明1の構成を基礎として改良を行う場合には,引用発明1にある「マーク」の一部を「バーコード」に変更する,又は「マーク」に加えて,「バーコード」を表示することになる。その際,当業者には,本件通知に対応したバーコードの具体例等が記載された引用例3及び4を参照し,これを引用発明1に適用する強い動機付けがある。 イ 引用発明1のプライマー層 (ア) 引用例1には,引用発明1のプライマー層が,密着性向上の目的のために設けられるものであることが記載されており,プライマー層が密着性向上に有効なことは技術常識である。他方,本件発明1の透明ないし半透明の下地層は,密着性向上効果を有する透明のプライマー層を含む概念であり,これを排除しているものではない。 (イ) また,引用例1に,プライマー層として列挙された樹脂は透明樹脂であり(甲6,7),引用発明1のプライマー層が,本件発明1における透明ないし半透明の下地層の要件を満たしていることも明らかである。その場合,白色層の下に存在する透明樹脂からなるプライマー層について,わざわざ顔料等を混入させて有色化することも考えられない。 (ウ) 引用例1には,プライマー層(透明層)によるバーコードの読み取り性に関する作用効果の記載はない。 しかし,バーコードの読み取り性については,プライマー層(透明層)単体で行うものではなく,バーコードを備えた完成した層構造に対してバーコード読み取り試験を行うことによって,初めて評価することができるものである。したがって,引用例1を基礎として,マークの一部をバーコードに変更したPTP用蓋材を作製した当業者は,当然実施する試験としてバーコードの読み取り性の評価を行い,結果的に,プライマー層(透明層)を含む引用発明1の積層構造による優れたバーコードの読み取り性を確認できる。 このように,当業者であれば,プライマー層の機能がバーコード読み取り性に有効であることの認識がなくても,引用発明1と引用例3及び4を組み合わせるだけで,本件発明1に記載された層構造を完成できるから,プライマー層の機能として,層の密着性以外にバーコード読み取り性に有効であることが文献中に記載されていなくても,そのことにより,本件発明1の容易想到性が否定されることはない。 ウ ANSI規格における総合評価Aの構成要件について 本件発明1における総合評価要件は,公知の規格に基づく選択をして,単にその規格に基づく結果を生じさせたものにすぎない。 ANSI規格における総合評価は,A〜D及びFとして規定されているところ(甲24),バーコードの読み取り性向上のために,総合評価として最高位のAグレードを選択することは,ごく自然なことであり,製造バラツキという変動要因を加味しつつ,当業者が適宜選択すべき設計的事項にあたる。そして,本件発明1は,総合評価Aを指向した上で,完成したPTPの蓋用包装用シートとしても,総合評価Aのもののみに限定したにすぎない。また,バーコードサイズの大小は,総合評価においては関係がなく,しかも「公称0.169mm/モジュール」というのも規格として公知であって,そのサイズの特定によって特段の作用・効果が発生することはない。 したがって,総合評価要件は,進歩性の判断に何らの影響も及ぼさない。 エ 本件発明1の効果 引用発明1のPTP用蓋材にバーコードが設けられれば,本件発明1と同一の層構造を有することになるから,これにより,当然に,バーコードを市販のバーコードリーダーによって精度よく読み取ることができるという効果を奏する。そして,そのバーコードについて,バーコード検証機によって読み取りやすさを検証するという,ごく当たり前の行為を行えば,その効果を確認することができる。 したがって,本件発明1の効果は,引用発明1にバーコード表示を適用することにより,通常予測される範囲内のものにすぎない。 オ 小括 以上によれば,本件発明1は,引用発明1,引用例3及び4に記載された事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 2 取消事由2(本件発明1の引用発明2に基づく容易想到性判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 引用発明2とPTP用蓋材との関係 本件発明1は,PTP用蓋材であるところ,PTP包装体は,指で内容物を押して蓋材を突き破ることにより内容物を取り出す包装形態であり,蓋材が指だけで破断できるように設計されている。すなわち,PTP用蓋材では,層構成をできるだけ少なくし,あるいは厚みを薄くし,印刷色もできるだけ少なくするように設計されている。 これに対し,引用発明2のババロアの蓋材は,アルミニウム箔(蓋材)が破断することを予定しておらず,むしろ破断しない強度が要求される包装形態である。すなわち,ババロアの蓋材では,破れにくくするように設計されている。 以上のとおり,引用発明2は,要求される機能,物性,層構成等がPTP用蓋材とは全く異なるものである。 (2) 相違点2の容易想到性 ア 本件発明1のPTP用蓋材は,公称0.169mm/モジュールでの読み取り性においてANSI規格による総合評価Aを有するものであり,ババロアのJANコードでは要求されない物性を備える。 これに対し,引用発明2のバーコードは,JANコードであり,一般のPTPの蓋材に用いられているバーコードよりもサイズが大きく,約0.33mmのモジュールサイズである。 引用発明2のバーコードは,モジュール寸法0.33mm幅であり,JANコードの規格では,基本寸法の0.8倍から2.0倍(モジュール寸法で0.264〜0.660mm)と規定されているから,引用発明2のバーコードをこれより小型化する要請などあるはずがない。 そして,引用例3及び4は,「医療用医薬品」を対象としたものであり,ババロアの蓋材のようなものを念頭に置いたものではないから,これらの記載に基づき,引用発明2において,バーコードサイズが公称0.169mm/モジュールのものにおける総合評価Aを実現することを当然に検討すべきであるということはできない。 以上によれば,引用発明2のバーコードについて,小さなバーコードサイズ(公称0.169mm/モジュール)での読み取り性においてANSI規格による総合評価Aを目指す蓋然性など全く存在しない。 したがって,引用発明2において,相違点2が容易に想到することができたということはできない。 イ 引用発明2には,下地層に対応する層(アンカーコート層)があるものの,その層の役割は,あくまで密着性を高めることにあり,バーコードリーダーによる読み取り性を高めることをねらったものではない。 したがって,引用発明2に基づき,透明ないし半透明の下地層を形成することによってバーコードのバーコードリーダーによる読み取り性の向上を目指すという本件発明1の構成を着想する契機がない。 ウ PTP用蓋材に印刷した小型サイズのバーコードの読み取り性を改善するために,わざわざ透明ないし半透明の下地層を採用することを,引用例1及び2から導くことはできない。 加えて,PTPシートに使われるアルミニウム箔は,何ら表面処理することなく使われるのが技術常識であったから,プレススルー性(錠剤やカプセルを取り出す際の蓋材の突き破りやすさ)を犠牲にしてまで,アンカーコートやプライマーコートを施す理由もない。 そうすると,仮に,引用発明2において,引用例3及び4のバーコード表示を適用するとしても,その際,引用発明2の密着性・接着性を高めるための下地層を排除するということも考えられないわけではない。 また,下地層を排除しなかったとしても,引用例3及び4は,「透明ないし半透明の下地層」の形成によって当該下地層がない場合に比してバーコードリーダーによるバーコードの読み取り性が向上することを示唆するものではないから,本件発明1の構成に容易に想到することができたものではない。 エ 以上のとおり,引用発明2において,相違点2が容易に想到することができたということはできない。 (3) 相違点3及び4の容易想到性 前記(1)のとおり,PTP用蓋材は,内容物を取り出す際に手指で容易に蓋材を破ることができる機能を付与することが必要であるのに対し,引用発明2のババロアの蓋材は,そのような機能を必要とせず,むしろ手指で容易に破くことができないという機能(強度等)が必要とされる。よって,両者は正反対の機能を有し,採用する層構成も本質的に異なる。 そうすると,引用発明2のアルミニウム箔複合材の構造をプレススルーパック包装に利用することが,単なる用途の変更にすぎないということもできないし,PTP用蓋材に転用する際に,アルミニウム箔を硬質性のものとすることが当然に考慮すべき事項であるということもできない。 したがって,引用発明2において,相違点3及び4が容易に想到することができたということはできない。 (4) 小括 以上によれば,本件発明1は,引用発明2及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 〔被告の主張〕(1) 引用発明2とPTP用蓋材との関係ア 技術分野の共通性 引用発明2は,アルミニウム箔からなる基材上に樹脂層等を積層したアルミニウム箔複合材であって,さらに,その上に印刷,特にバーコードが印刷されているものである。アルミニウム箔が光線を反射するのみで,光線を透過させないことから,基材となる当該アルミニウム箔上に設けられた層構造が問題となるという意味において,引用発明2は,PTPの蓋用包装用シートと技術分野が関連している。 イ 課題の共通性 引用発明2は,白い色の上に印刷された文字等やバーコードをその下地となる白色の部分から際立たせること,すなわち,SC値を向上させることを目的とするものである。 したがって,引用発明2と引用例3及び4は,SC値の向上という意味で課題が共通している。 ウ 作用・機能の共通性 引用発明2の白印刷部分がSC値を向上させる作用・機能を営んでいることは,当業者であれば,当然に理解する。 したがって,本件発明1における白着色層,引用発明2の白印刷部分,引用例3の「白ベタ」,引用例4の「白ベタ印刷」は,SC値を向上させる作用・機能を有している点で共通する。 エ なお,原告は,ババロアの蓋用シートとPTP蓋用包装用シートとでは,破れ強度において違いがあることを主張する。 しかし,引用例3に記載されたバーコードの読み取り性を向上させるという課題は,アルミニウム箔の外面の積層構造の光学特性に係るものであって,アルミニウム箔自体の調質や厚み等は,ここでは関係がない。 (2) 相違点2の容易想到性 ア JANコードは,バーコードの規格の一つにすぎず,どのような規格の,また,どのようなサイズのバーコードを使用するかは,単なる人為的な選択にすぎない。そして,そのバーコードの規格やサイズはPTPの蓋用包装用シートを製造するアルミニウム箔メーカーが選択・決定するのではなく,顧客が選択・決定するものである。しかし,いずれの規格のバーコードであれ,また,いずれの大きさのバーコードであれ,バーコードリーダーで読み取るものであり,その際,バーコードのバーを印刷した部分とその左右のスペース部分とのSC値の大小によってその読み取り性が大きく左右されることに変わりはない。したがって,引用発明2に使用されているバーコードの規格・寸法などは,進歩性の判断に影響を及ぼさない。 そして,引用発明2とPTP蓋用包装用シートとでは,そのアルミニウム箔自体は異なるものの,いずれもアルミニウム箔シート外面の層構造に係るものであるから,引用発明2の構造をPTP用蓋材に適用することが容易であることは明らかである。 また,引用発明2のバーコード部のサイズを「公称0.169mm/モジュール」にすることに困難性がないことも,単なる規格やサイズの人為的な選択にすぎないことから,明らかである。 さらに,引用発明2の構造をPTP用蓋材に適用した上で,総合評価のグレードとしてAを選択することは,当業者が適宜選択すべき設計的事項である。 以上によれば,引用発明2において,相違点2に係る本件発明1の構成を備えることは,当業者が容易に想到することができたことである。 イ 原告の主張について (ア) 引用発明2において,下地層は,単に密着性を高めるためにだけでなく,白を際立たせるために使用されていたことは明らかである。そして,白が際立つことは,最大反射率を大きくしてSC値を向上させ,バーコードリーダーによる読み取り性を高めることを意味する。 (イ) アンカーコートやプライマーコートを施すと,プレススルー性が低下するとの根拠はどこにもない。 引用発明2におけるプライマーコートの膜厚は,0.7〜1.5μmであるところ,PTPの蓋用包装用シートのアルミニウム箔の箔厚が一般的に20μmであることを考えれば,プライマーコートの膜厚の薄さは際立っており,引用発明2のプライマーコートをそのままPTPの蓋用包装用シートに転用しても,そのプレススルー性を低下させることにはならない。 (3) 相違点3及び4の容易想到性 アルミニウム箔の調質が何であれ,その外側の層構造をPTPの蓋用包装用シートに転用することは可能であるし,かかる転用は容易である。 したがって,引用発明2において,相違点3及び4に係る本件発明1の構成を備えることは,当業者が容易に想到することができたことである。 (4) 小括 以上によれば,本件発明1は,引用発明2及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 3 取消事由3(本件発明2ないし8の容易想到性判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 本件発明2ないし8は,本件発明1の構成要件を全て包含するものであるところ,前記1及び2の〔原告の主張〕と同様の理由により,本件審決における本件発明2ないし8の容易想到性判断は,誤りである。 (2) 本件発明5の容易想到性 引用例1には,バーコードを印刷することについて,何らの記載も示唆もないのであるから,バーコードとフレーム処理とを結びつける要因は存在しない。また,引用発明2において,印刷されているのはサイズ0.33mmのJANコードであり,わざわざフレーム処理を施したグラビア版を使う必要もなく,実際にも,バーコード検証機で10回スキャンしたときのANSI規格で定められている総合評価はBであるから(甲22),印刷精度もそれほど要求されていなかったことが分かる。 また,引用例3及び4,並びに甲8には,バーコードを印刷する際,フレーム処理を施した印刷版を用いて印刷することについての記載はない。 以上のとおり,引用発明1,2,引用例3及び4,並びに甲8には,バーコードとフレーム処理とを関連付ける記載も示唆もないから,相違点Eは容易に想到することができたものではない。 〔被告の主張〕 (1) 本件発明2ないし8は,本件発明1の構成要件を全て包含するものであるが,前記1及び2の〔被告の主張〕と同様の理由により,本件審決における本件発明2ないし8の容易想到性判断に誤りはない。 (2) 本件発明5の容易想到性 印刷手段としてフレーム処理を施したグラビア印刷という手法は,本件特許の出願前に,周知技術であった(甲8,乙9〜11)。 なお,バーコードであれ,文字やマークであれ,印刷である以上,印刷手段としてグラビア版を使用し,また,その際にフレーム処理を行うことが従来から周知であれば足り,バーコードの印刷において周知であることを要するものではない。この点を措いても,乙9には,グラビア版におけるフレーム処理が,バーコードをグラビア印刷する際に適用される技術であることが記載されている。 したがって,相違点Eは,周知技術に基づき,容易に想到することができたものである。 |
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当裁判所の判断
1 本件各発明について(1) 本件明細書等の記載 本件各発明に係る特許請求の範囲(請求項1〜8)は,前記第2の2記載のとおりであるところ,本件明細書(甲73)の発明の詳細な説明には,おおむね,次の記載がある(図1〜4,9及び表3については,別紙本件明細書図面目録を参照。)。 ア 技術分野 【0001】本発明は,プレススルーパックの蓋用包装用シート,その製造方法及びプレススルーパックに関し,より具体的には,薬品,食品,化粧品等の包装に用いられるプレススルーパックの蓋用包装用シート,その製造方法及びプレススルーパックに関するものである。 イ 背景技術 【0002】アルミニウム箔を基材に含むシート状包装体には,被包装物の品名等を表示する印刷表示が形成されるため,その包装体の接着性や機械的特性等とともに,その印刷された表示の視認性を向上させるべく各種の開発がなされてきた…。 包装用シート(包装体)に印刷される表示の内容は,被包装物の商品名などであるが,価格,メーカー等の情報も含めてバーコード化して表示されることが多い。上記包装用シートに表示されるバーコードを含めて従来のバーコードは,スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどのレジ(精算場所)で,手動または自動で,バーコードリーダーによりバーコードを読み取り,代金を計算し,あるいは在庫調整のためのデータ集計をするのに用いられてきた。 【0003】ところが最近,薬品の偽造防止,および薬品の取り違いや有効期間の超過等の医療事故を防止する観点から,PTP(プレススルーパック)等の薬品の包装体に,直接,より詳細な情報に対応するバーコードを印刷することが検討されている。厚生労働省医薬食品安全対策課から発表された実施案では,調剤包装単位(1次包装)ごとに上記情報内容のバーコード標記が必須とされている。このバーコードのデータの内容は,調剤包装単位ごとに変わらない不変情報(品名,価格,効能・効果等)が基本となるが,調剤包装単位ごとに変わる可変情報(製造番号,有効期限,生物由来情報等)も付加される予定である。従って,上記のバーコードには多くの情報が含まれるため,薬品等の包装用シートのバーコードには,バーコード部の小面積化の要求とともに,単位面積当たりの情報量を高める高密度化が求められている。 ウ 発明が解決しようとする課題 【0004】しかしながら,上記のような小面積化され,かつ高密度化されたバーコード部は,従来から用いられているアルミニウム箔を基材とする包装用シートに印刷された場合,市販のバーコードリーダーで間違いなく的確に読み取ることは容易ではない。このため,上記包装用シートに印刷された小面積・高密度バーコードを,市販のバーコードリーダーにより精度よく読み取ることができる包装用シートに関する技術開発が要望されている。 【0005】本発明は,上記のような小面積化・高密度化されたバーコードを市販のバーコードリーダーにより精度よく読み取ることを可能にしたプレススルーパックの蓋用包装用シート,その製造方法及びプレススルーパックを提供することを目的とする。 エ 課題を解決するための手段 【0006】本発明のプレススルーパックの蓋用包装用シートは,調質が硬質材であるアルミニウム箔と,前記アルミニウム箔の少なくとも一方の面への塗布層である,透明ないし半透明の下地層と,前記下地層上に設けた白着色層と,前記白着色層上に位置するバーコード部(ただし,レーザ発色層にレーザを照射することにより描画されるバーコード部を除く。)と,を備えるシートであって,前記バーコード部のバーコードサイズが公称0.169mm/モジュールである場合においてバーコード検証機で10回スキャンしたときのANSI規格で定められている総合評価がAであるシートを,前記バーコード部を市販のバーコードリーダーにより読み取るプレススルーパックの蓋に用いることを特徴とする。 【0007】アルミニウム箔単体に,直接,小面積化・高密度化したバーコードを印刷しても,市販のバーコードリーダーでは精度よく読み取ることはできない。 その技術的理由は,アルミニウム箔独特のグレー色,光の反射特性などの影響のために,バーコードの情報(バーの信号)がアルミニウム表面で鏡面反射し交錯・散乱し,バーコードリーダーの受光器で正確に読み取れないためである。アルミニウム箔の少なくとも一方の面に白着色層を設け,その白着色層にバーコードを印刷することにより,アルミニウム箔独特のグレー色と,光反射特性を抑え,小面積化・高密度化したバーコードを市販のバーコードリーダーで確実に読み取ることが可能となる。ここで,バーコードは,1次元バーコードでもよいし,2次元バーコードまたはマトリックス方式もしくはコンポジット方式のQRコード(登録商標)であってもよい。上記アルミニウム箔と白着色層との間には,透明または半透明の下地層を,塗布することで設ける。塗布層による下地層を介在させることにより,シンボルコントラスト(SC)値が増加し,バーコードの読み取り精度が向上する。これは,白着色層と下地層との界面で,入射光が一部反射し,その反射光が白着色層中の白色顔料(酸化チタンなど)に衝突し,光の散乱が促進されるため,結果として白着色層とバーコードとのコントラストが大きくなるためと考えられる。 【0008】上記の白着色層は,20重量%〜30重量%の白色顔料を含むのが好ましい。この構成により,白着色層の白着色を確実に発色させることができ,白着色層と印刷された黒色のバーコードとのコントラストをはっきりつけることができ,その結果,バーコードリーダーは,バーコードを明確に識別して読み取ることができる。… 【0009】また,上記の白着色層が,単位面積当たり1.0g/m2〜4.0g/m2でアルミニウム箔上に分布する構成をとることが好ましい。これにより,バーコードリーダーでバーコードを読み取る際,アルミニウム箔のグレー色や光反射特性の影響を抑え,白着色層とバーコードとのコントラストをはっきりつけることができる。… 【0010】上記アルミニウム箔と白着色層との間には,透明または半透明の下地層を介在させることができる。下地層を介在させることにより,シンボルコントラスト(SC)値が増加し,バーコードの読み取り精度が向上する。これは,白着色層と下地層との界面で,入射光が一部反射し,その反射光が白着色層中の白色顔料(酸化チタンなど)に衝突し,光の散乱が促進されるため,結果として白着色層とバーコードとのコントラストが大きくなるためと考えられる。 【0011】上記のバーコード部は,フレーム処理されたグラビア版を用いて,印刷されている構成とすることができる。これにより,バーコードの個々のバーのインキ層(乾燥状態)の周縁において,はみ出しや凹みなどの凹凸がなく,周縁が滑らかな直線または曲線で画された,意図したとおりの正確なバーコードを得ることができる。このため,市販のバーコードリーダーを用いて,信頼度の高い読み取りを行うことができる。ここで,フレーム処理とは次のものをいう。すなわち,上記バーコード部を印刷する際に用いるグラビアロールは表面にセルと呼ばれる窪みを短ピッチで面状に配列して版孔を形成し,そこにインキを溜めて印刷箇所にインキを転移して印刷を行うのであるが,フレーム処理とは,周縁(エッジ部)の1列または数列のセルの寸法を小さくするか,または上記セル寸法を小さくした上でセルのピッチを短くすること,あるいは周縁(エッジ部)の一列または数列のセルに代えて幅の狭い(5〜20μm程度)直線状の溝を設けることをいう。… 【0012】上記のバーコード部のインキ層の中心線から公称幅分を越えてはみ出たはみ出し幅ΔWを,その他の印刷部または裏面印刷部のインキ層の上記はみ出し幅ΔWと比較して,10%以上小さくすることができる。この構成により,市販のバーコードリーダーによっても,正確な読み取りを行うことが可能となる。… 【0013】本発明のプレススルーパックは,上記のいずれかのプレススルーパックの蓋用包装用シートを,ポケット部を有する収納シートの蓋に用いたことを特徴とする。 【0014】上記の構成により,プレススルーパックの状態で,蓋用シートとして用いられた包装用シートに表示されたバーコードを市販のバーコードリーダーを用いて精度よく読みとることが可能となる。 【0015】本発明のプレススルーパックの蓋用包装用シートの製造方法は,調質が硬質材であるアルミニウム箔の少なくとも一方の面に透明ないし半透明の下地層を塗布によって設け,さらに該下地層上に白着色層を設け,次いで,該白着色層上に,フレーム処理が施されたグラビア版によるバーコード印刷部を設けることを特徴とする,前記バーコード印刷部を市販のバーコードリーダーにより読み取るプレススルーパックの蓋用包装用シートであって,前記バーコード印刷部のバーコードサイズが公称0.169mm/モジュールである場合においてバーコード検証機で10回スキャンしたときのANSI規格で定められている総合評価がAであるシートの製造方法である。 オ 発明の効果 【0017】本発明によれば,市販のバーコードリーダーを用いて,高い信頼性で小面積化・高密度化したバーコードを読み取ることができるプレススルーパックの蓋用包装用シート,その製造方法およびプレススルーパックを得ることができる。 カ 発明を実施するための最良の形態 【0018】図1は,本発明において下地層を除いた場合における,参考例として示すプレススルーパックの蓋用包装用シート10を示す斜視図である。また,図2は,図1の包装用シート10の断面図である。包装用シート10は,後で説明するプレススルーパックの蓋の役割を果たすが,プレススルーパックを形成した状態で外から見えるように,図1に示すように,バーコード部5と,薬品名,成分含有量,錠剤の取出し方法等を表示するその他の印刷部9とが設けられている。これらバーコード部5およびその他の印刷部9は,下地をなす白着色層3上に印刷され,そしてオーバープリント層13で覆われている。… 【0020】包装用シート10の基材となるアルミニウム箔1には,公知のアルミニウム箔を用いることができ,特に限定されるものではないが,厚み5μm〜50μm,アルミニウム純度98.0〜99.9重量%のアルミニウム箔を好ましく用いることができる。…調質(質別)も硬質材(H材(JISH0001) ,半硬 )質材,軟質材(O材(JISH0001))のいずれも使用可能である。特に,プレススルーパックの蓋に用いられる場合には硬質材が好ましい。… 【0021】上記アルミニウム箔1の少なくとも片面(好ましくは艶面)に設ける白着色層3は,公知の白インキを使用することが可能であるが,好ましくは酸化チタニウム,酸化亜鉛,硫化亜鉛,硫酸バリウム等の白色顔料を含むのがよい。白色顔料の含有量は固形分基準で白着色層中20重量%〜30重量%とするのが好ましい。白着色層3中の白色顔料の含有量が20重量%未満の場合には,発色に乏しくなり,バーコードの読み取り精度が落ちるおそれがある。… 【0022】上記の白色顔料と,合成樹脂とを主成分とする白着色層3は,単位面積当たり1.0g/m 2〜4.0g/m2が好ましく,さらに好ましくは1.5g/m2〜3.0g/m2で,アルミニウム箔1上に設けられるように,アルミニウム箔1上に塗装する。… 【0023】上記の白着色層の単位面積当たりの付着重量により,バーコードリーダーでバーコードを読み取る際,アルミニウム箔のグレー色や光反射特性の影響を抑え,白着色層とバーコードとのコントラストをはっきりつけることができる。 … 【0024】図3は,本発明のプレススルーパックの蓋用包装用シートを示す断面図である。図3に示すように,上記アルミニウム箔1と白着色層3との間には,透明または半透明の下地層2を介在させることができる。下地層2を介在させることにより,シンボルコントラスト(SC)値が増加し,バーコードの読み取り精度が向上する。その理由は,図4に示すように,白着色層3と下地層2との界面で,入射光が一部反射し,その反射光が白着色層3中の白色顔料20(酸化チタンなど)に衝突し,光の散乱が促進されるため,結果として白着色層3とバーコードとのコントラストが大きくなるためと考えられる。すなわち,アルミニウム箔1で反射して戻る光が,下地層2から白着色層3に入る際に屈折する光線と,上記の反射光とは方向が異なるので,上記白色顔料20による散乱の効果が大きく促進されると考えられる。言い換えれば,白着色層3における散乱促進効果が,下地層2によって高められたと言える。下地層2の厚みは,特に制限されるものではないが,0.3〜5.0μm程度が好ましい。0.3μm未満では均一な層を形成するのが困難になり下地層の効果が得られないおそれがある。一方5.0μmを超えてもさらなる効果の向上は認められず,印刷不良,偏肉などの不都合を生じるおそれがある。 下地層2を形成する手段は特に制限されるものではないが,上記同様グラビアロールコーター,カーテンフローコーター,オフセット印刷,UV塗装などでアルミニウム箔1に塗布すればよい。下地層2の成分は透明または半透明であれば特に制限はないが,透明または半透明の樹脂,例えばニトロセルロース系,アクリル系,エポキシ系,塩化ビニル系,ポリプロピレン系の透明樹脂を用いることができる。また,これらの樹脂には,少量の酸化けい素またはその他の体質顔料を添加しても同様の効果を得ることができる。 【0025】バーコード部5のバーコード印刷は,通常,グラビア版を用いてグラビア印刷される。すなわち,ロール面に設けたセル(凹部)にインキを溜めて,そのインキをバーコード印刷部5に転移させる。転移は,直接,グラビア版から白着色層に転移させてもよいし(直接式),間にゴムロールを介在させてグラビア版から一度ゴムロールに移し,それを白着色層3上に転移させてもよい(オフセット式)。 …その他の印刷部9,および裏面印刷部16も,必要に応じて任意の色でグラビア印刷される。 【0026】バーコード部5を印刷する際,印刷の流れ方向と,バーコードの線(バー)とを平行に印刷する場合,印刷で発生する印刷ひげ(印刷部から延び出た数ミリ単位のひげ状の印刷不良)や,ドクターすじ(非印刷部に発生したすじ状の印刷不良),にじみ等によって,バーコードの線間隔が,埋められることは殆どない。 しかし,バーコードの線(バー)を印刷方向と垂直方向に印刷した場合には,上記の印刷不良によってバーコードの線間隔が埋められ,バーコードの正確な読み取りができなくなる等の問題が発生する。この解決のために,グラビア版にフレーム処理を施す。フレーム処理を施すことにより,バーコード部に対応するグラビア版の部分をドクター刃でかきとるとき,エッジ部でドクター刃の切れが良くなり,印刷時のひげ,ドクターすじ,にじみ等の印刷不良をなくし,バーコードの読み取り精度を高めることができる。 【0030】上記の包装用シート10によれば,黒着色層のバーを含むバーコード部5の下地に白着色層3を配置するので,バーコードと下地とのコントラストを高めることができる。この結果,小型化・高密度化されたバーコードであっても,市販のバーコードリーダーにより精度よく読み取ることができるようになる。 キ 実施例2 【0037】次に実施例2により,本発明における下地層2(図3参照)の作用効果について検証した結果を説明する。本発明例Sでは,アルミニウム箔1(厚み:20μm,材質:8079硬質材)の上に下地層2を形成し,さらに下地層の上に白着色層3を形成し,その白着色層3(固形分基準で酸化チタン顔料22〜23重量%含有:厚み1.5μm)の上に,バーコードサイズ(公称0.169/モジュール(線の太さ:最小0.1〜最大0.81mm,スペース:最小0.2〜最大0.53mm)のバーコード部5を,フレーム処理を施したグラビア版を用いてグラビア印刷により設けた。この実施例2では,バーコードの線(バー)に沿う方向(流れ方向)に印刷した場合で評価した。…試験体の包装用シートの具体的な構造は以下のとおりである。 (本発明例S):オーバープリント層13/バーコード部5/白着色層3/下地層2/アルミニウム箔1/熱接着層17 白着色層3の形成に用いる白インキは,酸化チタン顔料を含有したインキ(株式会社T&K TOKA製,マトリックス樹脂:ポリプロピレン系樹脂)を用いた。 下地層2には,株式会社T&K TOKA製のポリプロピレン系透明樹脂を用いた。 バーコード用の黒インキには,市販のカーボンブラック顔料を含んだインキ(大日本インキ化学工業株式会社製:カーボンブラック顔料の固形分中含有量(乾燥状態での顔料量):33重量%,マトリックス樹脂:ニトロセルロース系樹脂)を用いて,インキ層(乾燥状態)の厚みは約1μm〜2μmに形成した。乾燥後のインキ層の単位面積当たりの重量は,約1g/m 2 〜2g/m 2 である。オーバープリント層(以下OP層という)13は,マット剤を含有しないクリアOP層(株式会社T&K TOKA製:アクリル系樹脂)を用いた。厚みは約1μm〜2μmとし,単位面積当たりの塗布重量(乾燥後の重量)は,約1g/m2〜2g/m2とした。熱接着層は,塩化ビニルの熱接着性樹脂で形成され,単位面積当たりの乾燥後の重量は,約3g/m2〜4g/m2とした。なお,各層の成形は全てグラビアロールコート方式によって行った。 【0038】本発明例Tでは,本発明例Sの下地層2に大日本インキ化学工業株式会社製ニトロセルロース系半透明樹脂(酸化けい素約4重量%含有)を用いた以外は,本発明例Sと同様に試験体を作製した。 【0039】参考例Uでは,本発明例Sの下地層を設けずにアルミニウム箔上に直接白着色層3を形成した以外は,本発明例Sと同様に試験体を作製した。 【0040】また,比較例(比較例V)として下地層も白着色層も設けずにアルミニウム箔1の上に,直接,バーコード部5を設けた。下地層および白着色層を形成しない点を除いて本発明例Sと同様に試験体を作製した。 (比較例V):オーバープリント層13/バーコード部5/アルミニウム箔1/熱接着層17 【0041】バーコードの読み取りやすさを評価するためのバーコード検証機(バーコードの読み取り性評価装置)には,ムナゾウ株式会社製 TruCheck 401-RLを用いた。スキャン回数は10回とし,ANSI規格等で定められているEDGE(エッジ判定),RL/Rd(最大反射率/最小反射率),SC(シンボルコントラスト,単位%),MinEC(最小エッジコントラスト,単位%),MOD(モジュレーション,単位%),Def(欠陥,単位%),DCD(デコード),DEC(デコードの容易性,単位%),MinQZ(最小クワイエットゾーン)の各評価項目を測定し,同規格に準拠した評価クラス(A,B,C,D,Fの5段階:Aが最高品質)で評価した。Overall ANSI Grade は総合評価であり,表1および表2は,このOverall ANSI Grade を表示したものである。実施例2における測定結果を表3に示す。 【0042】別紙本件明細書図面目録の表3のとおり 【0043】表3によれば,比較例Vは総合評価Fで最低クラスの品質であり,バーコードの読み取り精度が悪いことを示している。これに対して,本発明例では総合評価Aとなっており,本発明例SおよびTは,バーコードサイズが小さい場合(バーコードサイズが0.169mm/モジュールの場合)においても最高品質のAを示していることが判る。本発明に基づくバーコードの読み取りやすさの向上は歴然としている。 ク 産業上の利用可能性 【0045】本発明の包装用シートは,小型化・高密度化されたバーコードを,市販のバーコードリーダーを用いて精度よく読み取ることができるので,この分野の品質管理等に貢献することが期待され,特に薬の取り違い防止,有効期限の管理,偽造防止等に役立つ。 (2) 前記(1)の記載によれば,本件各発明の特徴は,以下のとおりである。 ア 本件各発明は,プレススルーパックの蓋用包装用シート,その製造方法及びプレススルーパックに関し,具体的には,薬品,食品,化粧品等の包装に用いられるプレススルーパックの蓋用包装用シート,その製造方法及びプレススルーパックに関する(【0001】。 ) 従来,アルミニウム箔を基材に含むシート状包装体には,被包装物の品名等を表示する印刷表示が形成されるため,その包装体の接着性や機械的特性等とともに,その印刷された表示の視認性を向上させるべく各種の開発がなされてきたが,包装用シート(包装体)に印刷される表示の内容は,バーコード化して表示されることが多い(【0002】。最近では,薬品の偽造防止及び薬品の取り違いや有効期間の )超過等の医療事故を防止する観点から,PTP(プレススルーパック)等の薬品の包装体に,直接,より詳細な情報に対応するバーコードを印刷することが検討されており,厚生労働省医薬食品安全対策課から発表された実施案では,調剤包装単位ごとに情報内容のバーコード表記が必須とされている状況にあるが,このバーコードには多くの情報が含まれることになるため,薬品等の包装用シートのバーコードには,バーコード部の小面積化の要求とともに,単位面積当たりの情報量を高める高密度化が求められている(【0003】。しかし,小面積化され,かつ高密度化さ )れたバーコード部は,従来から用いられているアルミニウム箔を基材とする包装用シートに印刷された場合,市販のバーコードリーダーで間違いなく的確に読み取ることは容易ではないという問題があった(【0004】)。 イ 本件各発明は,前記アの問題に鑑み,小面積化・高密度化されたバーコードを市販のバーコードリーダーにより精度よく読み取ることを可能にしたプレススルーパックの蓋用包装用シート,その製造方法及びプレススルーパックを提供することを目的とし(【0005】,かかる課題を解決する手段として,特許請求の範囲の )請求項1ないし8の構成を採用した(【0006】〜【0015】【0018】【0 , ,020】〜【0026】 。特に,アルミニウム箔独特のグレー色,光の反射特性な )どの影響のために,バーコードの情報がアルミニウム表面で鏡面反射し交錯・散乱し,バーコードリーダーの受光器で正確に読み取れないことから,アルミニウム箔の少なくとも一方の面に白着色層を設け,その白着色層にバーコードを印刷することにより,アルミニウム箔独特のグレー色と,光反射特性を抑え,小面積化・高密度化したバーコードを市販のバーコードリーダーで確実に読み取ることを可能にし,アルミニウム箔と白着色層との間には,透明又は半透明の下地層を塗布することで設けることにより,シンボルコントラスト(SC)値が増加し,バーコードの読み取り精度の向上を図った(【0007】,【0030】)。 本件各発明の実施例について,バーコードの読み取りやすさを評価するため,バーコード検証機を用いて,スキャン回数を10回として,ANSI規格に準拠した評価を行ったところ,本件各発明の実施例では,総合評価がAとなっており,バーコードサイズが小さい場合(バーコードサイズが公称0.169mm/モジュールの場合)においても,最高品質のAを示していた(【0037】〜【0043】。 ) ウ 本件各発明によれば,市販のバーコードリーダーを用いて,高い信頼性で小面積化・高密度化したバーコードを読み取ることができるプレススルーパックの蓋用包装用シート,その製造方法及びプレススルーパックを得ることができるので(【0017】 ,特に薬の取り違い防止,有効期限の管理,偽造防止等に役立つ )(【0045】。 ) 2 取消事由1(本件発明1の引用発明1に基づく容易想到性判断の誤り)について (1) 引用発明1について ア 引用例1の記載 引用例1(甲2)には,おおむね,次の記載がある(図1〜3については,別紙引用例1図面目録を参照。)。 (ア) 特許請求の範囲 【請求項1】内容物収納用の凹部が形成されている合成樹脂製の底材と該底材における内容物収納用の凹部を閉塞する蓋材とからなるプレススルーパックにおいて,蓋材としてアルミニウム箔を用い,該アルミニウム箔面に印刷層の下塗りとして,一色の塗工層が施してあることを特徴とするプレススルーパック用蓋材。 【請求項2】前記下塗りとしての一色の塗工層が,商品名・内容物の取り出し方法などの印刷層を際立たせ,視認性を高める層であることを特徴とする請求項1に記載するプレススルーパック用蓋材。 【請求項3】前記アルミニウム箔は,厚さ15〜30μmである硬質性のアルミニウム箔であることを特徴とする上記の請求項1または2に記載するプレススルーパック用蓋材。 (イ) 発明の詳細な説明a 発明の属する技術分野 【0001】本発明は,プレススルーパック(以下「PTP」という)用蓋材に関し,更に詳しくは,医薬品等の錠剤の包装体に使用されるPTP用蓋材に関するものである。 b 従来の技術 【0002】従来,医薬品等の錠剤を内容物とする包装体としては,種々の包装形態のものが知られているが,その中の一つとして,内容物収納用の凹部が賦形されている合成樹脂製の底材と該底材における内容物収納用の凹部を閉塞する蓋材とからなり,蓋材として押圧破断が容易なアルミニウム箔を使用したPTPが知られている。 【0003】このPTPは,包装体における合成樹脂製の底材を内容物を介して押圧することによって蓋材を破断し,包装体内の錠剤等の内容物の取り出しを行うものである。 【0005】…蓋材には,厚さ15〜30μm程度のアルミニウム箔にヒートシール層を形成するとともに,所望に応じて,商品名,製造・販売会社名,PTP内の内容物の取り出し方法を表示するマークや文字等の印刷層を形成した積層シートが利用されている。 【0006】…上記の蓋材への所望に応じたマークや文字の印刷層は,アルミニウム箔の地色をいかした構成となっており,いろいろな色相の単色の印刷が施されている。 c 発明が解決しようとする課題 【0007】ところで,このアルミニウム箔を使用した蓋材への所望に応じたマークや文字等の印刷の本来機能としては,使用者がPTP内の医薬品等の内容物を目で見て明確に区別できることにあるが,従来のものは,アルミニウム箔の地色をいかした構成となっていることが影響し,アルミニウム箔表面における光の反射により,アルミニウム箔に施されたマークや文字等の印刷を見づらくしているという問題がある。その結果,投薬間違いや服薬間違いの問題が内在している。 【0008】そこで本発明は,蓋材であるアルミニウム箔の表面の光の反射をなくして,アルミニウム箔に施された商品名や内容物の取り出し方法などのマークや文字等の印刷を際立たせて,視認性を高めるPTP用蓋材を提供することである。 d 課題を解決するための手段 【0009】本発明者は,上記のような問題点を解決すべく種々研究した結果,内容物収納用の凹部が形成されている合成樹脂製の底材と該底材における内容物収納用の凹部を閉塞する蓋材とからなるPTPにおいて,蓋材としてアルミニウム箔を用い,該アルミニウム箔面に印刷層の下塗りとして,一色の塗工層を施すことによって,商品名・内容物の取り出し方法などのマークや文字等の印刷が際立ち,視認性が高まることを確認して,本発明を完成させたものである。 【0010】すなわち,本発明は,内容物収納用の凹部が形成されている合成樹脂製の底材と該底材における内容物収納用の凹部を閉塞する蓋材とからなるPTPにおいて,蓋材としてアルミニウム箔を用い,該アルミニウム箔面に印刷層の下塗りとして,一色の塗工層が施してあることを特徴とするPTP用蓋材に関するものである。 e 発明の実施の形態 【0011】…上記の本発明において,アルミニウム箔としては,硬質性であって,厚みが15〜30μmのものを使用することができる。すなわち,アルミニウム箔としては,軟質性のものと硬質性のものがあるが,軟質性のものは,硬質性のものに比較して,機械的強度が劣るため,PTP用蓋材といった本目的には,内容物を保護する観点から適していない。また,硬質性のものであっても,15μmより薄いものは,ピンホールが内在しており,上記軟質性のものと同様な理由で適していないし,逆に30μmより厚いものは,機械的強度が強くなり過ぎることにより,PTPの本来機能である押圧破断が困難になる一方で,経済性の点でも悪くなる。 【0012】…上記の本発明において,アルミニウム箔面に印刷層の下塗りとして設ける一色の塗工層は,全面ベタの塗工層であってもよいし,商品名・内容物の取り出し方法などのマークや文字等の印刷絵柄部分のみのパート塗工層であってもよい。しかし,パート塗工層の場合は,必ず該パート塗工層の方が,商品名・内容物の取り出し方法などのマークや文字等の印刷絵柄部分より大きく設定しておく。 塗工層は,グラビア印刷・グラビアコート・ロールコート法等を適宜選択して形成する。また,使用する塗工液としては,例えば,塩化ビニル系樹脂,ニトロセルロース系樹脂,エポキシ系樹脂,アクリル系樹脂,ウレタン系樹脂,メラミン系樹脂,エステル系樹脂等の一種ないしそれ以上のビヒクルに所望の着色顔料および,その他の所望の添加剤を任意に加えて充分に混練してなる樹脂組成物を用い,上記の印刷法ないしコーティング法で印刷ないし塗工することにより,該樹脂組成物による塗工層を得ることができる。上記において,樹脂組成物によるドライの場合の塗工量としては,0.1〜5g/m2位の範囲内であることが好ましい。 【0013】…上記方法は,アルミニウム箔に直接塗工層を設ける方法であるが,アルミニウム箔と塗工層との間に,必要ならば,例えば,各層の密着性等を高めるためにプライマー層等を設けることができる。プライマー層としては,例えば,塩化ビニル系樹脂,ニトロセルロース系樹脂,エポキシ系樹脂,アクリル系樹脂,ウレタン系樹脂,メラミン系樹脂,エステル系樹脂等の一種ないしそれ以上のビヒクルに所望の添加剤を任意に加えて充分に混練してなる樹脂組成物を用い,上記の印刷法ないしコーティング法で印刷ないし塗工することにより,該樹脂組成物によるプライマー層を得ることができ,そのドライの場合の塗工量としては,1mg〜1g/m2位が好ましい。 【0014】しかるのちに,本発明においては,上記の一色の塗工層の上に,商品名・内容物の取り出し方法などのマ-クや文字等の印刷を施す。該印刷は,塩化ビニル系樹脂,ニトロセルロース系樹脂,エポキシ系樹脂,アクリル系樹脂,ウレタン系樹脂,メラミン系樹脂,エステル系樹脂等の一種ないしそれ以上のビヒクルに所望の着色顔料および,その他の所望の添加剤を任意に加えて充分に混練してなる樹脂組成物を用い,グラビア印刷方式で印刷することで得られる。これに使用する着色顔料は,一般的には有彩色を用い,塗工層に使用する着色顔料は無彩色,基本的には白色を用いる。… 【0018】前記のような視認性の高いPTP用蓋材の層構成について,図面を用いて示すと,図1,図2は本発明のPTP用蓋材の層構成を示す断面図である。 まず,本発明にかかるPTP用蓋材は,図1に示すように,アルミニウム箔1の片面に,商品名・内容物の取り出し方法などの印刷を際立たせ,視認性を高める塗工層2を設け,該塗工層2の上に,商品名・内容物の取り出し方法などの印刷層3を設け,更に,該印刷層3の上に,該印刷層3を保護するオーバーコート層4を設け,他方,上記アルミニウム箔1の他方の面に,内容物収納用の凹部が賦形されている底材を該蓋材で閉塞するための接着剤層5を形成した構成からなるものである。 f 発明の効果 【0024】本発明のPTP用蓋材は,実施例のような塗工層を設けることで,アルミニウム箔の地色に直に,商品名・内容物の取り出し方法などのマークや文字等の印刷を施す場合に比較して,極めて優れた視認性を得ることができる。これにより,従来の蓋材が内在していた投薬間違いや服薬間違いの問題を全く皆無にすることができる。 イ 引用例1に前記第2の3(2)アのとおりの引用発明1が記載されていること及び本件発明1と引用発明1とが,前記第2の3(2)イのとおりの相違点1及び相違点Aにおいて相違することは,当事者間に争いがない。そして,前記アの記載によれば,引用発明1について,引用例1には以下の点が開示されている。 (ア) 引用発明1は,プレススルーパック(PTP)用蓋材に関し,詳しくは,医薬品等の錠剤の包装体に使用されるPTP用蓋材に関する(【0001】)。 従来,医薬品等の錠剤を内容物とする包装体として,内容物収納用の凹部が賦形されている合成樹脂製の底材と該底材における内容物収納用の凹部を閉塞する蓋材とからなり,蓋材として押圧破断が容易なアルミニウム箔を使用したPTPが知られており,このPTPの蓋材には,所望に応じて,商品名,製造・販売会社名,PTP内の内容物の取り出し方法を表示するマークや文字等の印刷層を形成した積層シートが利用されている(【0002】〜【0005】)。しかし,このアルミニウム箔を使用した蓋材への所望に応じたマークや文字等の印刷の本来機能としては,使用者がPTP内の医薬品等の内容物を目で見て明確に区別できることにあるが,従来のものは,アルミニウム箔の地色を生かした構成となっていることが影響し,アルミニウム箔表面における光の反射により,アルミニウム箔に施されたマークや文字等の印刷を見づらくしているという問題があった(【0006】,【0007】)。 (イ) 引用発明1は,前記(ア)の問題に鑑み,蓋材であるアルミニウム箔の表面の光の反射をなくして,アルミニウム箔に施された商品名や内容物の取り出し方法などのマークや文字等の印刷を際立たせて,視認性を高めるPTP用蓋材を提供することを目的とし(【0008】),かかる課題を解決する手段として,内容物収納用の凹部が形成されている合成樹脂製の底材と該底材における内容物収納用の凹部を閉塞する蓋材とからなるPTPにおいて,蓋材としてアルミニウム箔を用い,該アルミニウム箔面に印刷層の下塗りとして,一色の塗工層を施すという構成を採用し,商品名・内容物の取り出し方法などのマークや文字等の印刷を際立たせ,視認性を高めるものである(【0009】,【0010】)。 より具体的には,アルミニウム箔としては,硬質性であって,厚みが15〜30μmのものを使用し(【0011】),アルミニウム箔面に印刷層の下塗りとして塗工層を設け(【0012】),また,アルミニウム箔と塗工層との間に,必要ならば,各層の密着性等を高めるためにプライマー層等を設け,プライマー層としては,例えば,塩化ビニル系樹脂,ニトロセルロース系樹脂,エポキシ系樹脂,アクリル系樹脂,ウレタン系樹脂,メラミン系樹脂,エステル系樹脂等の一種ないしそれ以上のビヒクルに所望の添加剤を任意に加えて充分に混練してなる樹脂組成物を用い(【0013】),塗工層に使用する着色顔料は無彩色,基本的には白色を用い,一色の塗工層の上に,商品名・内容物の取り出し方法などのマ-クや文字等の印刷をグラビア印刷方式で印刷する(【0014】)。 (ウ) 引用発明1によれば,アルミニウム箔の地色に直に,商品名・内容物の取り出し方法などのマークや文字等の印刷を施す場合に比較して,極めて優れた視認性を得ることができ,これにより,従来の蓋材が内在していた投薬間違いや服薬間違いの問題を全く皆無にすることができる(【0024】)。 (2) 相違点1についてア 引用例3及び4の記載等(ア) 引用例3 引用例3(甲3)には,おおむね以下の記載がある(第1図については,別紙引用例3図面目録参照。)。 a 近年,医療過誤や薬の処方ミスによる事故の報告件数が増加するにつれ,それらの対策としてバーコードによる識別が進められている。米国では,患者の安全性確保と誤投薬の防止を目的として最小投薬単位(unit-does)の識別が必要と判断し,FDA(米国食品医薬局)は,2004年から2年かけ,全ての医薬品にNDCコード(全米医薬品コード)による標準バーコードをつけることを義務化した。日本では2006年9月に厚生労働省医薬食品局安全対策課より「医療用医薬品へのバーコード表示の実施について」が発表になり,それを受けて2006年11月に日本製薬団体連合会(日薬連)が「医療用医薬品新コード表示ガイドライン」を発表した。同ガイドラインでは後述のように医薬用PTPアルミ箔が該当する「内用薬」(生物由来製品を除く)についても調剤包装単位まで表示項目を示している。それには実施時期は明確化されてないが,すでに大手医薬品メーカを中心に実施に向けて検討が始まっている。(40頁左欄) b 同ガイドラインでは,調剤包装単位,販売包装単位および元梱包装単位に分けて示しており,錠剤やカプセルなどを包装するPTP(Press Through Pack)アルミ箔は調剤包装単位に属する。その表示項目は,…商品コードのみ必須としているが,有効期間および製造番号は任意表示とし,医薬品メーカの判断に委ねている。(40頁右欄) c 商品コードは,RSS Limited(表示スペースなどの都合でモジュールを下げる必要がある等読み取り上不都合が発生する可能性があるなどの場合,RSS 14Stacked)で表示,製造番号や有効期限などの変動情報を表示する場合は2次元シンボル…での表示を用いることとしている。また,モジュール幅についてはコード表示の再現性とバーコードリーダでの識別性を考慮し,0.25mmを推奨している。さらにコードシンボルに含まれる情報全ての項目を目視文字(ヒューマンリーダブル)表示することを推奨しており,…コードシンボルの下などコードと一体となる位置に表示するよう指示されている。(41頁左欄) d 現行のPTPアルミ箔は,第1図左のような構成になっているが,一般的なバーコードリーダは拡散反射光を捉える光学的配置になっている。アルミ箔の金属光沢面は鏡面反射になっているところから直接反射光となり現行のPTPアルミ箔にバーコードを印刷しても読み取りは困難である。これを解消するためには第1図右のようにアルミ箔の金属光沢面に白色のベタ印刷を行い,その上にバーコードを重ね刷りすることになる。尚,使用するインキ等は従来品をそのまま使用できる。 只,後述の変動情報を印刷する場合は,使用するインキ等に合わせたオーバープリント(OP)層に変更する必要がある。(41頁左〜右欄) e 日薬連のガイドラインでは「ANSI X3.182印刷品質ガイドライン」…に対して総合グレードC以上を推奨するとしている。(42頁左欄) f …アルミ箔の金属光沢は読み取りに悪影響を及ぼすため白ベタ印刷で隠蔽する必要がある。隠蔽の程度が悪いと反射率が低下しバーコードとの明度差であるシンボルコントラスト(SC)が得られず総合グレードの判定の低下につながることがある。… 第4図は,検証機…でRSS Limitedを検証した実例である。…同検証機は,1つのバーコードを10回スキャンし7項のパラメータ毎にグレードを判定する。…この場合はB(3.2)グレードとなっている。(42頁左〜右欄) g 白ベタの良否は,主にシンボルコントラスト(SC)に現れるが,ムラがなければスキャン毎の値は全て同じになることが大半である。従って,白ベタの程度が悪いSCの欄が全てB(総合グレード3以下)あるいはC(同2以下)となり,後者の場合は推奨されているCグレードの確保が困難となる。この点から確実にBグレード以上を確保するために白ベタ印刷の2回コートを推奨する。(42頁右欄)(イ) 引用例4引用例4(甲4)には,おおむね以下の記載がある。 a …PTP包装という包装形態は,医療機関等で調剤及び投薬される内服固形製剤の最小包装の1形態であり,最も多くの量が流通している形態でもある。…PTPシートは取扱い易いだけでなく,その表示については取違え防止や患者の服用間違え防止等も考慮した視認性の高い表示が望まれている。さらに近年,取違え事故に代表される医療過誤防止を目的としたバーコード表示への関心が高まり,2006年9月15日に“医療用医薬品へのバーコード表示実施について”(医食安発0915001号)が厚生労働省医薬食品局安全対策課より通知された。(56頁) b バーコード表示は,医療現場における患者と薬の整合性を高め,取り違えを防止し,医療過誤を防ぐことが最大の目的とされている。また,万が一薬害が発生した場合のトレーサビリティ(追跡調査)も目的のひとつと考えられている。厚生省のガイドライン…では,表示対象を医療用医薬品とし,包装形態及び医療用医薬品の種類に応じて,商品コード,有効期限,製造番号,数量をコード化し表示することになっている。(69頁) c …ガイドラインでは,コードシンボルの印字サイズをコード表示の再現性とコードリーダーでの識別性を考慮し,モジュール幅0.25mmを推奨している。 ただし,印字幅が不足する場合は,0.17mm以上で極力大きくすることとしている。(71頁) d 平成18年9月15日に厚生労働省から通知された,「医療用医薬品へのバーコード表示の実施について」(薬食安発第0915001号)は,その目的が医薬品の取り違え事故の防止及びトレーサビリティの確保であることから,実施要領などが具体的に組み込まれたものとなった。表示対象は医療用医薬品であることが明示され,PTPシートは「調剤包装単位」に分類されている(表1)。ここで一般的なPTPシートは,内用薬(生物由来製品を除く)に含まれるので,商品コードは必須表示,有効期限や製造番号は任意表示とされている。商品コードのみの場合,バーコードはRSSリミテッドを用いることとされ,表示面積が小さい場合はRSS-14スタックも使用可とされている。表2はRSSコードの表示例として示されたものである。…バーコードのサイズは,読み取り性においてレベル「C」以上が求められることと印刷の品質を考慮し,モジュール幅0.25mmが推奨されている。(77〜78頁) e 医薬品の取り違え事故防止を最大の目的としてPTPシートへのバーコード表示が進められているが,PTPシートへバーコードを表示すると,目視での確認がしづらくなることも予想される。小さなシートに誤飲防止のケアマークとリサイクルマーク,そしてバーコードが入り,アルミ地も読み取り精度を確保するための白ベタ印刷が標準化されれば,アルミ側からの判別は今まで以上に困難となることが容易に想像できる。(78頁) f アルミの表面色においては,これまでの素地色(シルバー)では読み取り性が悪く,白ベタ印刷の上にバーコードを表示することが望ましい。二度塗りを施したより白色を強調したシートのほうが,読み取り性において若干良くなるデータも出ている。(80頁) (ウ) なお,引用例3及び4で言及されている平成18年9月15日に厚生労働省から通知された「医療用医薬品へのバーコード表示の実施について」(薬食安発第0915001号)には,以下の記載がある(甲23)。 「医療用医薬品へのバーコード表示については,有識者からなる医療安全対策検討会議における医療安全推進総合対策に関する報告を踏まえ,その標準化について検討を進めてきたところです。今般,医療用医薬品の取り違えによる医療事故の防止及び医療用医薬品のトレーサビリティの確保の観点から,別紙のとおり,医療用医薬品へのバーコード表示の実施要項を取りまとめましたので,各製造販売業者にあっては,本実施要項に従い適正にバーコード表示を行うよう,貴会会員企業に対する周知徹底をよろしくお願いします。」 (エ) 以上によれば,引用例3及び4には,@医薬品の取り違えによる事故防止及び医薬品のトレーサビリティーの確保の観点から,厚生労働省により本件通知が発せられ,医療用医薬品へのバーコード表示が求められるようになったこと,APTPアルミニウム箔の金属光沢面は鏡面反射になっていることから,PTPアルミニウム箔にバーコード印刷しても読み取りは困難であり,これを解消するために,アルミニウム箔の金属光沢面に白色のベタ印刷を行い,その上にバーコードを重ね刷りすること,Bバーコード印刷において,ANSI規格で総合グレードC以上が推奨されていること,Cガイドラインでは,コードシンボルの印字サイズをコード表示の再現性とコードリーダーでの識別性を考慮し,モジュール幅0.25mmを推奨しているが,印字幅が不足するような場合は,0.17mm以上で極力大きくすることとされていることが記載されているものと認められる。 イ 相違点1の容易想到性 (ア) 引用発明1は,前記(1)のとおり,医薬品等の錠剤の包装体に使用されるPTP用蓋材に関するものであり,従来のPTP用蓋材は,アルミニウム箔の地色を生かした構成となっていることが影響し,アルミニウム箔表面における光の反射により,アルミニウム箔に施されたマークや文字等の印刷を見づらくしているという問題があったことから,蓋材であるアルミニウム箔の表面の光の反射をなくして,アルミニウム箔に施された商品名や内容物の取り出し方法などのマークや文字等の印刷を際立たせて,視認性を高めるPTP用蓋材を提供することを目的とし,かかる課題を解決する手段として,アルミニウム箔面に印刷層の下塗りとして,一色の塗工層を施すという構成を採用し,これにより,商品名・内容物の取り出し方法などのマークや文字等の印刷を際立たせ,視認性を高めるものであり,塗工層に使用する着色顔料としては,基本的に白色を用いることが予定されているものである。 他方,引用例3及び4には,前記アのとおり,@医薬品の取り違えによる事故防止及び医薬品のトレーサビリティーの確保の観点から,厚生労働省により本件通知が発せられ,医療用医薬品へのバーコード表示が求められるようになったこと,APTPアルミニウム箔の金属光沢面は鏡面反射になっていることから,PTPアルミニウム箔にバーコード印刷しても読み取りは困難であり,これを解消するために,アルミニウム箔の金属光沢面に白色のベタ印刷を行い,その上にバーコードを重ね刷りすることが記載されている。そして,「市販のバーコードリーダーにより読み取」ることのできる「バーコード部」(バーコード表示)は,本件特許の出願日前に周知の技術である。 そうすると,医療用医薬品の包装体に使用されるPTP用蓋材の分野の当業者であれば,アルミニウム箔面に印刷層の下塗りとして白色の塗工層を備える引用発明1において,周知のバーコード表示の実施を試みることは,当業者が当然に検討すべき事項であるということができる。 そして,引用発明1において,従来から存在する目視用の「商品名・内容物の取り出し方法などのマークや文字等」の表示に加え,バーコード表示を付加しようとすれば(引用例3及び4においても,マークや文字等の表示に加えバーコード表示を実施する例が記載されている。),バーコード表示のためのスペースは限られたものとならざるを得ないことが普通に想定される。したがって,当業者において,バーコード表示のサイズは,その機能を担保しうる限り,バーコード表示のためのスペースに応じて,適宜選択される設計的事項であるということができるところ,医療用医薬品に使用されるバーコードとして,「公称0.169mm/モジュール」であるバーコードサイズは,当業者にとって従来周知の技術である(引用例4,甲24)。 さらに,バーコードを読み取りやすいものとすることは当然のことであり,バーコードリーダーで,付与されたバーコードを正確に読み取ることのできる限りにおいて,バーコードの読み取りの精度をどの程度のものとするかは,当業者が適宜設定する事項であるから,引用発明1において,「公称0.169mm/モジュール」のバーコード表示を試みる際,そのバーコード表示を,「バーコード検証機で10回スキャンしたときのANSI規格で定められている総合評価」において,最高品質である「A」のものとすることは,設計的事項にすぎないということができる。 (イ) そして,本件発明1は,前記1(2)のとおり,アルミニウム箔上に透明ないし半透明の下地層を,下地層上に白着色層を,白着色層上にバーコードを含む印刷層を設ける層構造を採用することにより,バーコードの読み取り性能を高めるものであるところ,引用発明1も後記のとおり本件発明1と同様の「透明な下地層」を設けた層構造を有しているから,当業者において「透明な下地層」の効果を意識するか否かにかかわらず,引用発明1にバーコード表示を実施すれば,結果として,本件発明1と同様に,バーコードの読み取りに関して高い読み取り性能を得ることができるものである。 (ウ) 以上によれば,引用発明1において,引用例3及び4に記載された事項を踏まえ,相違点1に係る本件発明1の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到することができたことである。 (3) 相違点Aについてア 周知技術(ア) 甲6の記載 甲6(「塩化ビニル樹脂」日刊工業新聞社,昭和47年2月20日)には,塩化ビニル塗料の長所として,無色透明であることが記載されている(396頁)。 (イ) 甲7の記載 甲7(「エポキシ樹脂」日刊工業新聞社,昭和44年5月30日)には,通常硬化エポキシ樹脂,可撓性付与硬化エポキシ樹脂,のいずれも透明度が「透明〜半透明」であることが記載されている(17頁)。 (ウ) 甲55の記載 甲55(富士インキ工業株式会社の証明書,平成27年7月17日)には,塗料のベース樹脂として用いられるニトロセルロース系樹脂,アクリル系樹脂,ウレタン系樹脂及びエステル系樹脂は一般的に透明であることが記載されている。 (エ) 甲56の記載 甲56(メラミン樹脂が透明であることを示すホームページ出力資料)には,アミノ樹脂(尿素樹脂,メラミン樹脂)について,アミノ樹脂には,尿素樹脂やメラミンなどがあり,尿素樹脂は,透明で耐熱性,接着性に優れ,メラミン樹脂は,透明で耐薬品性に優れている旨の記載がある。 (オ) 以上によれば,塩化ビニル系樹脂,ニトロセルロース系樹脂,エポキシ系樹脂,アクリル系樹脂,ウレタン系樹脂,メラミン系樹脂及びエステル系樹脂が透明な樹脂であることは,当業者にとって,従来から周知の技術事項であると認められる。 イ 相違点Aが実質的な相違点であるか 引用発明1の下地層(プライマー層)について,引用例1には,「プライマー層としては,例えば,塩化ビニル系樹脂,ニトロセルロース系樹脂,エポキシ系樹脂,アクリル系樹脂,ウレタン系樹脂,メラミン系樹脂,エステル系樹脂等の一種ないしそれ以上のビヒクルに所望の添加剤を任意に加えて充分に混練してなる樹脂組成物」によるものであることが記載されている(【0013】)。 そして,塩化ビニル系樹脂やエポキシ系樹脂がいずれも「透明」であること,例示される「ニトロセルロース系樹脂,アクリル系樹脂,ウレタン系樹脂,エステル系樹脂」,「メラミン系樹脂」も「透明」であることは,前記アのとおり,従来から周知の技術事項である。 そうすると,引用発明1の下地層は「透明」であると理解されるから,相違点Aは,実質的な相違点とはいえない。 (4) 原告の主張について ア 原告は,たとえバーコードをPTP用蓋材に採用することが公知であったとしても,肉眼による識別性とは,原理,評価方法等が異なるバーコードリーダーによる読み取り性を評価するために,引用発明1にバーコード表示を適用する必要性や必然性はなく,また,そもそも,視認性を前提とする引用発明1において,その識別の原理,識別性の問題の発生原因,識別性の評価方法等が異なるバーコードを導入すれば,もはや引用発明1が体をなさなくなってしまうことに帰結するから,引用発明1において,バーコード表示を適用することには阻害要因がある旨主張する。 しかし,前記(2)イのとおり,引用例3及び4には,@医薬品の取り違えによる事故防止及び医薬品のトレーサビリティーの確保の観点から,厚生労働省により本件通知が発せられ,医療用医薬品へのバーコード表示が求められるようになったこと,APTPアルミニウム箔の金属光沢面は鏡面反射になっていることから,PTPアルミニウム箔にバーコード印刷しても読み取りは困難であり,これを解消するために,アルミニウム箔の金属光沢面に白色のベタ印刷を行い,その上にバーコードを重ね刷りすることが記載されていることからすれば,医薬品等の錠剤(これには,当然,医療用医薬品が含まれる。)の包装体に使用されるPTP用蓋材に関し,アルミニウム箔面に白色の塗工層を施した層構成を有する引用発明1において,周知のバーコード表示の実施を試みることは,当業者が当然に検討すべき事項であるということができる。そして,このことは,上記@の状況下においては,引用発明1の課題がマークや文字等の印刷を際立たせて視認性を高めることにあったとしても,異ならないというべきである。 また,肉眼による視認性において,反射光がないと対象物が見えなくなることは明らかであるから,引用発明1は,過剰な反射をなくし,適度な反射光を提供するものであるということができる。他方,バーコードリーダーによる読み取り性において,過剰な反射は,かえってバーコードリーダーの読み取り性を悪くするものであるから,本件発明1も,引用例3及び4に記載された事項も,拡散反射光を増加させ,局所的な強い反射を抑えて全体的に適度な反射光を提供するものであるということができる。そうすると,肉眼による識別性の向上も,バーコードリーダーによる読み取り性の向上も,適度な反射光を提供するという点において共通しており,引用発明1と,本件発明1や引用例3及び4に記載された事項との課題が本質的に異なるものであるということはできないから,引用発明1において,バーコード表示を適用することに阻害要因があるということはできない。 イ 原告は,引用例1には,プライマー層により密着性を高めることが開示されているにすぎないから,引用発明1に基づき,透明ないし半透明の下地層を形成することによってバーコードのバーコードリーダーによる読み取り性の向上を目指すという本件発明1の構成を着想する契機がない旨主張する。 しかし,引用発明1の「プライマー層」に使用される塩化ビニル系樹脂やエポキシ樹脂等の材料は全て,透明な材料として普通に知られているものである。他方,本件発明1の「下地層」は,単に「透明ないし半透明」と特定されるのみであり,本件明細書には,この「下地層」から「プライマー層」が除外されることや「下地層」が層間の密着性・接着性の機能を有しないものである旨の記載もない。そうすると,引用発明1の「プライマー層」は,本件発明1の「下地層」に相当するものであると認められるところ,引用発明1において,バーコード表示を実施した際に,既にある「プライマー層」を設けないように構成しなければならない理由もない。 以上のとおり,引用発明1は,本件発明1と同様の「透明な下地層」を設けた層構造を有しているから,当業者において「透明な下地層」の効果を意識するか否かにかかわらず,引用発明1にバーコード表示を実施すれば,結果として,本件発明1と同様に,バーコードの読み取りに関して高い読み取り性能を得ることができる。 したがって,引用例1に,透明ないし半透明の下地層とバーコードのバーコードリーダーによる読み取り性の向上との関係を示す記載や示唆があるか否かにかかわらず,引用発明1において,相違点1に係る本件発明1の構成を備えることは容易に想到することができたことである。 ウ 原告は,引用例3及び4には,バーコードを設けることが記載されているが,ここでのバーコードサイズは「公称0.254mm/モジュール」にとどまるものであって,より小さなバーコードサイズである「公称0.169mm/モジュール」において総合評価を高めようとすることについての発想はない旨主張する。 しかし,前記(2)イのとおり,当業者において,バーコード表示のサイズは,その機能を担保しうる限り,バーコード表示のためのスペースに応じて,適宜選択される設計的事項であるということができるところ,医療用医薬品に使用されるバーコードとして,「公称0.169mm/モジュール」であるバーコードサイズは,当業者にとって従来周知の技術であり,さらに,引用発明1において,「公称0.169mm/モジュール」のバーコード表示を試みる際,バーコードを読み取りやすいものとすることは当然のことであり,バーコードリーダーで,付与されたバーコードを正確に読み取ることのできる限りにおいて,バーコードの読み取りの精度をどの程度のものとするかは,当業者が適宜設定する事項であるから,そのバーコード表示を,「バーコード検証機で10回スキャンしたときのANSI規格で定められている総合評価」において最高品質である「A」のものとすることも,設計的事項にすぎないということができる。 エ 原告は,引用例1には,視認による評価結果が示されているにすぎないから,当業者であっても,引用発明1にバーコード表示を適用したものが,本件発明1と同じ効果を奏するか否かを,引用例1や引用例3の文面から直ちに知ることはできず,本件発明1の効果は,引用発明1にバーコード表示を適用することにより,当然に予測される範囲内のものであるということはできない旨主張する。 しかし,前記(2)イのとおり,本件発明1は,アルミニウム箔上に透明ないし半透明の下地層を,下地層上に白着色層を,白着色層上にバーコードを含む印刷層を設ける層構造を採用することにより,バーコードの読み取り性能を高めるものであるところ,引用発明1も本件発明1と同様の「透明な下地層」を設けた層構造を有しているから,当業者において「透明な下地層」の効果を意識するか否かにかかわらず,引用発明1にバーコード表示を実施すれば,結果として,本件発明1と同様に,バーコードの読み取りに関して高い読み取り性能を得ることができるのであって,「バーコード部のバーコードサイズが公称0.169mm/モジュールである場合においてバーコード検証機で10回スキャンしたときのANSI規格で定められている総合評価がAである」ことも,当業者が適宜設定する設計的事項にすぎないから,本件発明1の効果は,引用発明1において相違点1に係る本件発明1の構成を備えることにより予測される範囲内のものである。 (5) 小括 以上によれば,本件発明1は,引用発明1,引用例3及び4に記載された事項,並びに周知技術に基づき,容易に発明をすることができたものである。 よって,取消事由1は,理由がない。 3 取消事由3(本件発明2ないし8の容易想到性判断の誤り)について (1) 原告は,本件発明2ないし8は,本件発明1の構成要件を全て包含するものであるから,取消事由1及び2と同様に,本件審決における本件発明2ないし8についての容易想到性の判断も誤りである主張する。 しかし,前記2のとおり,本件発明1は,引用発明1,引用例3及び4に記載された事項,並びに周知技術に基づき,容易に発明をすることができたものである。 (2) また,原告は,本件発明5について,引用例1,3及び4,並びに甲8には,「バーコードを印刷する際において,フレーム処理を施した印刷版を用いて印刷すること」についての記載はないから,本件審決における本件発明5の容易想到性の判断は,誤りである旨主張する。 しかし,グラビア印刷は,印刷手段として当業者にとって周知の技術であり,また,グラビア版において印刷精度の向上のためにフレーム処理を施すことは,従来から普通に行われていることである(引用例1,甲8,乙9〜11)。 そうすると,バーコード表示の実施を試みる場合を含め,引用発明1の印刷手段として,かかる周知技術を適用することは,当業者において,適宜選択し得る事項にすぎない。 (3) そして,原告は,本件審決における本件発明2ないし8の容易想到性の判断が誤りであるとする理由に関し,前記(1)及び(2)の点を主張するほかは,その余の相違点の容易想到性について何ら主張していない。よって,取消事由3は,理由がない。 4 結論 以上によれば,取消事由1及び3は理由がないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求は理由がない。よって,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 部眞規子 |
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裁判官 | 柵木澄子 |
裁判官 | 片瀬亮 |