関連審決 | 無効2014-800014 |
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事件 |
平成
27年
(行ケ)
10164号
審決取消請求事件
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原告ヒロセ電機株式会社 同訴訟代理人弁護士 田中伸一郎 同 高石秀樹 同 松野仁彦 同訴訟代理人弁理士 須田洋之 同 豊島匠二 被告 日本圧着端子製造株式会社 同訴訟代理人弁護士 加藤真朗 同 太井徹 同 池田聡 同 吉田真也 同 佐野千誉 同 金子真大 同 坂本龍亮 同訴訟代理人弁理士 正林真之 同 林一好 同 芝哲央 同 小菅一弘 同 岩池満 同 崎間伸洋 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/07/13 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が無効2014−800014号事件について平成27年7月10日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文と同旨 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は,平成25年4月9日,発明の名称を「電気コネクタ組立体」とする特許出願(特願2013-81080号。優先権主張:平成21年4月16日。日本国。以下「本件出願」という。)をし,平成25年9月13日,設定の登録(特許第5362136号)を受けた(請求項の数3。以下,この特許を「本件特許」という。)。本件出願は,平成22年1月21日に出願した特願2010-11225号を分割出願した特願2012-43761号の分割出願である(甲10)。 (2) 被告は,平成26年1月22日,本件特許の請求項1に係る発明について特許無効審判を請求し,無効2014-800014号事件として係属した。 (3) 原告は,平成27年2月25日,訂正請求をし,同年6月1日,この訂正請求を補正した(以下,補正後の訂正を「本件訂正」という。甲27,32)。 (4) 特許庁は,平成27年7月10日,補正を認めた上,「請求のとおり訂正を認める。特許第5362136号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月21日,原告に送達された。 (5) 原告は,平成27年8月18日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(甲32)。 以下,この請求項1に係る発明を「本件発明」という。また,その明細書(甲10,32)を,図面を含めて「本件明細書」という。なお,「/」は,原文の改行部分を示す(以下同じ。)。 【請求項1】ハウジングの周面に形成された嵌合面で互いに嵌合接続されるケーブルコネクタとレセプタクルコネクタとを有し,嵌合面が側壁面とこれに直角をなし前方に位置する端壁面とで形成されており,ケーブルコネクタが後方に位置する端壁面をケーブルの延出側としている電気コネクタ組立体において,/ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタの一方が,平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間しているロック突部を側壁面に有し,他方が前後方向で該ロック突部に対応する位置で溝部前縁と溝部後縁が形成されたロック溝部を側壁面に有し,該ロック溝部には溝部前縁または溝部後縁から溝内方へ突出する突出部が設けられており,ケーブルコネクタは,前方の端壁面に寄った位置で側壁に係止部が設けられ,レセプタクルコネクタは,前後方向で上記係止部と対応する位置でコネクタ嵌合状態にて該係止部と係止可能な被係止部が側壁に設けられており,上記ロック突部が嵌合方向で上記ロック溝部内に進入してケーブルコネクタが該ケーブルコネクタの前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢から嵌合終了の姿勢となったコネクタ嵌合状態では,上記姿勢の変化に応じて上記突出部に対する上記ロック突部の位置が変化することにより,該ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,上記ロック突部が上記抜出方向で上記突出部と当接して該ケーブルコネクタの抜出を阻止するようになっており,該ケーブルコネクタの前端部には前方へ突出する持上げ部が設けられていて,上記コネクタ嵌合状態で該持上げ部を抜出方向に持ち上げることにより,上記係止部と上記被係止部との係止可能な状態が解除されるとともに,上記ロック突部と上記突出部との上記当接可能な状態が解除されて,上記ケーブルコネクタの抜出が可能となることを特徴とする電気コネクタ組立体。 3 本件審決の理由の要旨(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本件発明は,下記アの引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び下記イないしオの周知例に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件発明に係る特許は無効にすべきものである,というものである。 ア 引用例:特開昭63-218174号公報(甲1)イ 周知例1:特開平6-124747号公報(甲2)ウ 周知例2:特開2003-36928号公報(甲3)エ 周知例3:実願昭63-80989号(実開平2-3676号)のマイクロフィルム(甲4)オ 周知例4:特開2000-252007号公報(甲5)(2) 本件発明と引用発明との対比ア 引用発明本件審決が認定した引用発明は,以下のとおりである。 ハウジング35とこのハウジング35に設けられた複数のコンタクト37とを有する一方のコネクタ31と/相手ハウジング39とこの相手ハウジング39の内部に設けられた複数の相手コンタクト41とを有し,また,相手ハウジング39の外部から導入されたケーブル44の一端が接続された相手コネクタ33と/を有した回転挿抜コネクタにおいて,/一方のコネクタ31のハウジング35は互いに間隔をおいて対向するよう延出した対の側壁47を有し,これらの側壁47の内面には,溝部49及び係止穴51がそれぞれ形成され,これらの溝部49は,側壁47の延出方向,即ち,コネクタ突合方向の軸線とほぼ直角方向にのびるように形成され,また,溝部49には,中間部分に肩部56及び,該肩部56が形成された面と対向する面から溝内方へ突出する突出部が形成され,このようなハウジング35の対の側壁47の間には,相手コネクタ33の相手ハウジング39が嵌込まれるものであり,さらに,ハウジング35は,上記対の側壁47の内面と直角をなす端部の内面を備え,/相手コネクタ33の相手ハウジング39は,対の側面及びこれと直角をなし,一方のコネクタ31のハウジング35の対の側壁47の間に嵌込まれた際にハウジング35の上記端部の内面に対面する端面を備え,上記対の側面には,それぞれハウジング35の溝部49に嵌込まれる回転中心突起53が形成され,さらに上記対の側面には,一方のコネクタ31のハウジング35の係止穴51に嵌込まれる係止突起60が上記端面に寄った位置に形成され,/相手コネクタ33は,一方のコネクタ31におけるコネクタ突合方向の軸線に対して或る角度を持った状態でその回転中心突起53を溝部49に肩部56で停止する深さまで挿入され,その後に,相手コネクタ33を反時計方向に回転させ,その結果,相手コネクタ33の係止突起60は,一方のコネクタ31の係止穴51に入り込み回転が停止すると共にロックされ,そして,このロックされた状態において,回転中心突起53は溝部49の上記突出部の下方に位置し,/さらに,相手コネクタ33を一方のコネクタ31から引抜く際には,相手コネクタ33を時計方向に回転した後に,回転中心突起53を溝部49にて案内しつつ上方に引き抜く/回転挿抜コネクタ。 イ 本件発明と引用発明との一致点及び相違点 本件審決が認定した本件発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。 (ア) 一致点 「ハウジングの周面に形成された嵌合面で互いに嵌合接続されるケーブルコネクタとレセプタクルコネクタとを有し,嵌合面が側壁面とこれに直角をなし前方に位置する端壁面とで形成されており,ケーブルコネクタが後方に位置する端壁面をケーブルの延出側としている電気コネクタ組立体において,/ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタの一方が,ロック突部を側壁面に有し,他方が前後方向で該ロック突部に対応する位置で溝部前縁と溝部後縁が形成されたロック溝部を側壁面に有し,該ロック溝部には溝部前縁または溝部後縁から溝内方へ突出する突出部が設けられており,ケーブルコネクタは,前方の端壁面に寄った位置で側壁に係止部が設けられ,レセプタクルコネクタは,前後方向で上記係止部と対応する位置でコネクタ嵌合状態にて該係止部と係止可能な被係止部が側壁に設けられており,上記ロック突部が嵌合方向で上記ロック溝部内に進入してケーブルコネクタが該ケーブルコネクタの前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢から嵌合終了の姿勢となったコネクタ嵌合状態では,上記突出部に対する上記ロック突部の位置が変化し,上記コネクタ嵌合状態で解除操作を行うことにより,上記係止部と上記被係止部との係止可能な状態が解除されるとともに,上記ロック突部と上記突出部との当接可能な状態が解除されて,上記ケーブルコネクタの抜出が可能となる電気コネクタ組立体。」である点。 (イ) 相違点1 本件発明では,ロック突部は,平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間しているのに対し,引用発明では,回転中心突起53は,そのような特定はない点。 (ウ) 相違点2 本件発明では,突出部に対するロック突部の位置の変化が,ケーブルコネクタの姿勢の変化に応じたものとされているのに対し,引用発明では,回転中心突起53は,相手コネクタ33は,一方のコネクタ31におけるコネクタ突合方向の軸線に対して或る角度を持った状態でその回転中心突起53を溝部49に肩部56で停止する深さまで挿入され,その後に,相手コネクタ33を反時計方向に回転させ,その結果,相手コネクタ33の係止突起60は,一方のコネクタ31の係止穴51に入り込み回転が停止すると共にロックされ,そして,このロックされた状態において,回転中心突起53は溝部49の上記突出部の下方に位置するものの,回転中心突起53の位置の変化が相手コネクタ33の姿勢の変化に応じたものとはされていない点。 (エ) 相違点3 本件発明では,コネクタ嵌合状態では,ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,ロック突部が上記抜出方向で突出部と当接して該ケーブルコネクタの抜出を阻止するようになっているのに対し,引用発明では,相手コネクタ33と一方のコネクタ31とがロックされた状態において,回転中心突起53は溝部49の突出部の下方に位置しているものの,相手コネクタ33が後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,回転中心突起53が上記抜出方向で突出部と当接して,上記相手コネクタ33の抜出を阻止するとはされていない点。 (オ) 相違点4 本件発明では,ケーブルコネクタの前端部には前方へ突出する持上げ部が設けられていて,コネクタ嵌合状態で解除操作が,該持上げ部を抜出方向に持ち上げることにより行われるのに対し,引用発明では,相手コネクタ33にはそのような持上げ部が設けられているとはされていなく,コネクタ嵌合状態で解除操作が,相手コネクタ33を時計方向に回転した後に,回転中心突起53を溝部49にて案内しつつ上方に引き抜くことにより行われる点。 4 取消事由本件発明に係る容易想到性判断の誤り(1) 本件発明と引用発明との一致点の認定の誤り(取消事由1)(2) 相違点1の判断の誤り(取消事由2)(3) 相違点2の判断の誤り(取消事由3)(4) 相違点3の判断の誤り(取消事由4)(5) 相違点4の判断の誤り(取消事由5) |
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当事者の主張
1 取消事由1(本件発明と引用発明との一致点の認定の誤り)について〔原告の主張〕(1) 本件審決における認定 本件審決は,引用発明における嵌合過程について,回転中心突起53は,溝部49に肩部56で停止する深さまで挿入された位置から,溝部49の突出部の下方の位置まで突出部に対する位置が変化するから,引用発明の回転中心突起53と本件発明のロック突部の位置変化は,「ロック突部が嵌合方向でロック溝部内に進入してケーブルコネクタが該ケーブルコネクタの前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢から嵌合終了の姿勢となったコネクタ嵌合状態では,突出部に対するロック突部の位置が変化」するという限りにおいて一致する旨認定した。 (2) 引用発明における嵌合過程 相手コネクタ33は,コネクタ31におけるコネクタ突合方向の軸線に対して直角に近い急な角度を持った状態で,回転中心突起53が溝部49の肩部56に接するまで垂直下方に移動し,この直角に近い急な角度を持った状態で,更に溝部49の突出部の下方の位置まで水平方向に平行移動する(第3図の状態)。ここまでの過程において,相手コネクタ33の姿勢は,コネクタ31におけるコネクタ突合方向の軸線に対して直角に近い急な角度を持った状態のまま変わらない。 第3図の状態に至った後,引用発明における電気コネクタ組立体の嵌合が開始される。すなわち,円柱状の回転中心突起53が右端壁及び円弧状の突出部に接触しながら支持されて左回転方向に回転運動を行い,相手コネクタ33のコネクタ31への嵌合がなされる(第5図の状態)。 以上のとおり,相手コネクタ33がコネクタ31への嵌合のため,コネクタ31のハウジング35の側面47の内面と直角をなす端面とが初めて接触し,嵌合を開始する際には,相手コネクタ33の円柱状の回転中心突起53は既に右端壁及び円弧状の突出部に接触する位置にあるのであって,相手コネクタ33が上向き傾斜姿勢から嵌合終了姿勢に至るまでの嵌合過程においてスライド(平行移動)するものではない。よって,引用発明は,相手コネクタ33の姿勢の変化に応じて,回転中心突起53の突出部に対する位置が変化するものではないから,本件審決における一致点の認定は,誤りである。 〔被告の主張〕(1) 引用発明における嵌合過程 ア 基板に固定されているコネクタ31に相手コネクタ33を嵌合させる際,操作者は最後にコネクタ31に嵌め込まれることになる相手コネクタ33の第3図における左端上部などを保持しつつ,上方からコネクタ31に位置決めするのが普通である。コネクタ31と相手コネクタ33の位置を合わせた操作者は,相手コネクタ33をコネクタ31に嵌め込ませるために,コネクタ突合方向の軸線(第3図の水平面の方向)に対して或る角度を持って傾けた姿勢(上向き傾斜姿勢)で上方から押し込みつつ下方に降下させて,回転中心突起53を溝部49に挿入していく。 溝部49に回転中心突起53が挿入された後,溝部49の底である肩部56に回転中心突起53が当接するまで,操作者は相手コネクタ33の上部を支持して上向き傾斜姿勢で下方に降下させる。回転中心突起53が肩部56に当接すると,回転中心突起53には,相手コネクタ33が上向き傾斜姿勢であることから,そのまま下方へ降下させる操作に伴って後方(第3図における右方向)へ向かう力が加わる。 このため,回転中心突起53は肩部56上を略水平に右方向へ移動して,溝部49の後部である突出部の下方(第3図の位置)に至る。このとき,相手コネクタ33自身は,押し込まれつつ回転中心突起53がスライドするので,いわば滑って倒れるようにやや水平になるように姿勢が変化する。 溝部49の後部に至った回転中心突起53はそれ以上右方向に移動できないので,操作者の下方への操作に伴って相手コネクタ33は,回転中心突起53を支点として回転する。このため,相手コネクタ33は,第5図に示された嵌合終了姿勢となって,係止穴51と係止突起60が互いに係止して固定されることになる。 イ 以上のとおり,引用発明においては,相手コネクタ33が上向き傾斜姿勢で回転中心突起53が溝部49に挿入されてから,嵌合終了姿勢となった嵌合状態に至るまでの間に,回転中心突起53は,溝部49に肩部56で停止する深さまで挿入された位置から溝部49の突出部下方の位置まで,突出部に対する位置が移動する。よって,本件審決における一致点の認定に誤りはない。 (2) 原告の主張について 本件明細書において,ケーブルコネクタ10とレセプタクルコネクタ50の嵌合は,少なくともロック突部21がロック溝部57に進入したときには開始されているのであり(【0032】,【0034】,【0035】),本件明細書における「嵌合」の理解に従っても,引用発明の嵌合は,相手コネクタ33の回転中心突起53が溝部49に挿入される段階で既に開始されている。 2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 本件審決における判断 本件審決は,引用発明の回転中心突起53は,円滑な回転動作やコネクタの確実な嵌合に支障がでない限度で,その断面が円形以外の形状となるものも許容されるとした上で,本件発明のロック突部は,「平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間している」と特定されているものの,各平坦面部分の大きさを具体的に特定するものではないから,その断面の形状には,ほぼ円形のものも含まれ,引用発明の回転中心突起53と本件発明のロック突部とは,その形状及び構造に格別の差があるということはできないとして,相違点1は当業者が容易に想到することができたことである旨判断した。 しかし,以下のとおり,上記判断は,誤りである。 (2) 相違点1の容易想到性ア 本件発明のロック突部の形状等 (ア) 本件発明のロック突部は,平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間しているものであるから,円滑な回転動作等に支障が生じる形状である。また,本件明細書の図面(図1,3,5〜8)に示されたロック突部の断面はおよそ円形ではなく,円滑な回転動作等に支障が生じる形状となっているから,当業者が,ロック突部の断面の形状にほぼ円形のものも含まれると理解する余地はない。 以上のとおり,本件発明のロック突部の断面の形状に「ほぼ円形」のものが含まれるなどということはできず,引用発明の回転中心突起53の形状と異なるものであることは明らかである。 そもそも,各平坦面部分の大きさを具体的に特定するものではないから,その断面の形状には,ほぼ円形のものも含まれるという本件審決の判断に従えば,大きさを具体的に特定しない形状の特定は,実質的な相違点をもたらすものではないということに帰するが,このような結論は,不合理である。 (イ) 本件発明のロック突部における「平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間している」という構成は,断面形状が円形ではなく,平坦面部分を有する突部前縁及び突部後縁を持ち,例えば図7にあるように,嵌合終了時にロック溝部内に進入したロック突部21は,後端部が持ち上げられ,抜出方向に力がかかったときに,その後縁突部が断面円形ではないため,滑るようなことがなく,溝部57の溝部57Bとよく当接し,ケーブルコネクタが抜出しないことを確実にする,という技術的意義を有する。 上記技術的意義に照らしても,本件発明のロック突部の断面の形状に「ほぼ円形」のものが含まれるなどということはできない。 イ 引用発明は,従来の軸方向の挿抜コネクタを改良した回転挿抜コネクタに関するものであり,その課題を解決するには,回転中心突起53を中心として,ケーブル先端側を回動させることが必須である。そして,ケーブル先端側を回動させるためには,回転中心突起53は,回転に適した円柱形であることが必要である(第3図〜第6図)。 仮に回転中心突起53を矩形とした場合,引用発明の目的,すなわち,「従来は軸方向に行われていたコネクタの挿抜を,コネクタ31の溝部49と,この溝部49に所定の深さまで挿入された相手コネクタ33の回転中心突起53とを利用して,回転挿抜方式とすること」に反する結果となるから,当業者が,引用発明において,回転中心突起53に,スムースな回転を妨げる円形状以外の形状を採用することはない。 ウ そして,本件発明のロック突部における「平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間している」という構成は,前記ア(イ)のとおり,ケーブルコネクタのレセプタクルコネクタからの抜出を阻止することに資するという作用効果を奏するものである。 エ したがって,引用発明において,当業者が,相違点1に係る本件発明の構成とすることに容易に想到することができたとはいえない。 〔被告の主張〕 (1) 相違点1の容易想到性 ア 本件発明の特許請求の範囲の請求項1には,突部前縁と突部後縁にそれぞれ「平坦面部分を有する」ことが特定されているものの,それがどのような範囲に形成されているのか,あるいは,他の構成要素との関係でどのように形成されているのかについては,全く特定されていない。 したがって,本件発明には,形式的に平坦部分はあるが実質的には円形と差がないものや,コネクタの回転操作と全く関係しないものも含まれる。 イ 回転操作を行って嵌合固定するコネクタにおいて,支点となる構成部材が平坦面部分を有する形状とすることも,ごくありふれた形状である(甲5〜8)。 ウ したがって,引用発明において,相違点1に係る本件発明の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたことである。 (2) 原告の主張について ア 本件発明の特許請求の範囲には,突部前縁と突部後縁に単に「平坦面部分を有する」ことが特定されているだけであり,他の構成要件との関係等からそれがどのような機能を果たすのか何も導き出すことはできない。 また,本件明細書には,ロック突部の前縁と後縁に形成された平坦面が,回転運動に対して作用する機能など何も説明されていないし,「平坦」という言葉さえ存在しない。 したがって,本件発明のロック突部の断面の形状には,「ほぼ円形」のものも含まれる。 イ 円柱形の一部分に平坦面が形成されているからといって回動が妨げられるものではないし,回動の支点となる構成要素を円柱形以外の形状とすることも普通に採用されている構成であるから,引用発明において,回転中心突起53に,円形状以外の形状を採用することがないということはできない。 3 取消事由3(相違点2の判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 本件審決における判断 本件審決は,引用発明においても,相手コネクタ33の姿勢の変化に応じて,回転中心突起53は突出部に対する位置が変化するものといえるから,相違点2は実質的な相違点ではない旨判断した。 しかし,以下のとおり,上記判断は,誤りである。 (2) 相違点2は実質的な相違点であること ア 前記1〔原告の主張〕(2)のとおり,引用発明において,相手コネクタ33がコネクタ31に嵌合するために円柱状の回転中心突起53を左回転方向に回転運動するとき,回転中心突起53は,溝部49の右端壁及び円弧状の突出部に接触している。 ところで,引用発明は,相手コネクタ33の回転中心突起53を嵌合時と同位置に位置させた上で,相手コネクタ33を回転させることにより嵌合接続させるという回転挿抜コネクタであり,取付面に対して挿抜方向が直交する本件発明とは,嵌合の態様が全く異なるものであるところ,回転挿抜コネクタにおいて,回転軸を嵌合前に固定することは,当然のことである。 以上のとおり,引用発明において,相手コネクタ33の姿勢の変化に応じて,回転中心突起53は突出部に対する位置が変化するものではない。 イ 引用発明では,前記アのとおり,嵌合を開始する時には,回転中心突起53がコネクタの軸線方向に突出部の下方の位置にあるから,本件発明と異なり,コネクタ31を基板中央に配置することは,設計上不可能である。 ウ したがって,相違点2は,実質的な相違点である。そして,引用発明において,当業者が,相違点2に係る本件発明の構成とすることに容易に想到することができたとはいえない。 (3) 被告の主張についてア 引用例の記載 引用例には,嵌合過程において,回転中心突起53が右端壁及び円弧状の突出部に接触しながら回転運動することが明確に記載されていないとしても,第3図及び第5図から,相手方コネクタは,回転中心突起53をコネクタの軸線方向に突出部の下方の位置までスライドしているのでなければ回転できないことが理解される。 したがって,引用発明において,回転運動は,回転中心突起53が溝部49の突出部の下方の位置まで移動した第3図の状態の後に開始されるものであるところ,回転運動を開始する時点では,回転中心突起53が,コネクタの軸線方向に突出部の下方の位置になければならないことは明らかである。第3図と第5図を比較しても,当業者において,回転中心突起53と右端壁との位置関係が変化していることを認識することはできない。 また,相手コネクタ33の回転中心突起53をコネクタ31の溝部49に挿入する際に,回転中心突起53を垂直方向に移動させた後に,溝部49の肩部56を右端まで水平移動させるという動作は,作業者において,一連の動作として行うことが可能である。 イ R面取り部 直方体同士がその周面で接触するにつき,一方の直方体の端部が「R面取り部」を有しないと,直方体の端部同士が衝突してしまい,回転運動ができない。「R面取り部」は,この不都合を避けるために設けられるものであって,この存在が,相手コネクタ33の回転により回転中心突起53が溝部右端に押し込まれることを示すものではない。 ウ 乙1の動作 乙1で用いられたサンプル模型と,引用例の第3図や第5図に示されたコネクタとでは,回転中心突起の径と溝部の幅との寸法比率等が全く異なっている。 したがって,乙1は,引用発明の動作内容を示すものではない。 〔被告の主張〕(1) 引用発明における回転中心突起のスライドと回転操作との関係 引用発明における嵌合過程は,前記1〔被告の主張〕(2)のとおりである。すなわち,回転中心突起53の溝部49の軸線方向のスライドは,嵌合過程における回転操作に応じて生じている。このことは,以下の点から明らかである。 ア 引用例の記載 引用例には,嵌合過程について「溝部49に挿入された回転中心突起53は,第3図に示すように,溝部49の中間部分の肩部56で停止する深さまで挿入される。」と記載されているが,第3図では,溝部49の中間部分ではなく,後端部分に回転中心突起53が位置するように描かれており,説明と一致していない。また,引用例の発明の詳細な説明に記載されているのは,溝部49に挿入された回転中心突起53は溝部49の中間部分である肩部56で停止すること,及び,その後反時計方向に回転させてロックさせることだけである。右方向に水平移動することや回転中心突起53を中心に円運動することの記載はない。 他方,上方から下方に向けて溝部49に挿入された回転中心突起53は,その突き当りである肩部56に衝突して必然的に停止することになるから,引用例の発明の詳細な説明に記載されたとおりの動作となるはずである。そして,引用例では,前記記載に続いて,「その後に,相手コネクタ33を反時計方向に回転させる。この結果,相手コネクタ33の係止突部60は,第5図に示すように…回転が停止すると共にロックされる。」と記載されているように,相手コネクタ33は,反時計方向に回転させてロックされる状態に至る。したがって,引用発明において,相手コネクタ33は,回転しながら摺動することになるのである。 なお,原告が主張するように,回転中心突起53を右方向に水平移動させ,その後に回転させるとなると,嵌合操作の作業工程として2工程になり,作業効率が低下することからも,そのような操作を行うはずがないことは明らかである。 イ R面取り部 引用例には,相手コネクタ33にR面取り部が存在することが記載されている。 R面取りは,相手コネクタ33をコネクタ31に対して密着して回転させるために,回転の障害となる部位を取り除くことにより形成される曲面であるから,相手コネクタ33の先端(左端)をコネクタ31のハウジングに密着させて押し付けるように回転させる意図があることは明らかであり,相手コネクタ33の回転により回転中心突起53が溝部右端に押し込まれることが,合理的に理解できる。しかも,第1図には,回転中心突起53の中心を半径とした曲面よりも明らかに曲率半径の小さなR面取りがされている様子が示されているから,コネクタ31と密着して回転を行った相手コネクタ33は,回転中心突起53が溝部49の後端(右端)に押し込まれ,より強固な固定が達成されると理解する。 ウ 乙1の動作 乙1は,引用例の記載に基づいて作製したサンプル模型を用いて,嵌合固定の様子を撮影した動画であるところ,乙1からも,相手コネクタの反時計回りの回転に従って,回転中心突起が溝部をスライドする動作になることが分かる。 (2) 相違点2は実質的な相違点でないこと 引用発明においても,前記(1)のとおり,相手コネクタ33の姿勢変化に応じて,回転中心突起53は突出部に対する位置が変化するものであるから,相違点2は,実質的な相違点ではない。 なお,本件審決では,引用発明の嵌合過程における,回転中心突起53を,肩部56上を略水平に右方向へ移動させつつ,相手コネクタ33を倒れるように姿勢変化させるための下方への操作を含め,「回転操作」と称している。 (3) 原告の主張について 引用発明のコネクタでも,ハウジング35,39の形状,ロック溝部49や回転中心突起53の配置位置などを調整することにより,嵌合過程における相手コネクタ33の傾斜角度を変更することは可能であるから,引用発明の構成であっても,コネクタ31を基板中央に配置して嵌合させることは,不可能ではない。 また,そもそも,コネクタを基板中央に配置することと本件発明とは,何の関係もない。 4 取消事由4(相違点3の判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 本件審決における判断 本件審決は,引用発明において,相手コネクタ33とコネクタ31とがロックされた状態において,回転中心突起53は,溝部49の突出部の下方に位置することにより,相手コネクタ33が後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,回転中心突起53が上記抜出方向で突出部と当接して,上記相手コネクタ33の抜出が阻止されるから,相違点3は実質的な相違点ではない旨判断した。 しかし,以下のとおり,上記判断は,誤りである。 (2) 相違点3は実質的な相違点であること ア 引用発明において,相手コネクタ33の後端側を持ち上げて反時計方向に回転させようとした場合,回転中心突起53は,溝部49内方へ突出する部分と当接するが,相手コネクタ33の上方への抜出は阻止されない。 すなわち,引用発明の回転中心突起53の形状は,基本的に円形状であり,せいぜい円滑な回転動作やコネクタの確実な嵌合に支障がでない限度で形状の変化が許容されているにすぎない。そして,回転中心突起53を回転可能に支持する溝部49内方へ突出する部分の内面も,回転中心突起53の形状に対応して,円形状(半円形状)である。そうすると,引用発明において,円形状の回転中心突起53と円形状(半円形状)に形成された出っ張り部分とが当接したところで,突出部分と回転中心突起53との間に,本件発明のような強い力に対抗できる実質的な引っ掛かりが形成されることはない。 イ さらに,回転中心突起53は,その略頂点付近において,突出部分と当接し得るにすぎない(第3図,第5図)。突出部分で回転中心突起53と当接し得るのは円弧形状の頂点までであり,円形で小さな回転中心突起53に上方への力が加われば,上方へ抜出してしまう。 ウ また,引用例において,回転中心突起53や溝部49は,「電気的絶縁材料」で形成されている。ここでいう「電気的絶縁材料」は,プラスチック等の樹脂を意味し,樹脂が金属等に比べて容易に変形することは周知の事実であるから,引用発明を小型コネクタに適用し,相手コネクタ33の後端側を持ち上げて反時計方向に回転させると,回転中心突起53や溝部49が変形してしまい,抜出を阻止できない。 エ 引用発明は,ケーブルが水平方向に引張られて嵌合が解除されることを防止する従来技術(第7図,第8図)を改良し,回転タイプにした発明であって,引用例には,ケーブルに垂直方向の力が加わったときの嵌合解除の問題については,何らの記載も示唆もない。 そのため,引用発明においては,回転中心突起53を円形とし,この回転中心突起53の回転を支える溝部49右上の部分は,回転中心突起53と同径の円弧の一部で回転中心突起53の円周の頂点までしかなく,回転中心突起53の上方を包み込むような形状は採用されていないのである。 オ 以上のとおり,相違点3は,実質的な相違点である。そして,引用発明において,当業者が,相違点3に係る本件発明の構成とすることに容易に想到することができたとはいえない。 〔被告の主張〕(1) 相違点3は実質的な相違点でないこと 引用発明においては,相手コネクタ33に,第5図の嵌合終了姿勢からケーブルに上方向への力が加わると,相手コネクタ33は,係止突起60を支点として回転しようとすることになる。しかし,回転中心突起53の上部には,コネクタ31の突出部が位置することになるから,コネクタ31あるいは相手コネクタ33が破壊されない限り,回転することはできず,抜出が阻止される。 したがって,相違点3は実質的な相違点ではない。 (2) 原告の主張について 引用例に「相手コネクタの回転中心突起に対応する溝部が係合しているため,コネクタあるいは相手コネクタが破壊しない限り,ケーブルを引張っても嵌合が外れることがない。」(3頁左下欄15〜19行)と記載されているとおり,引用発明は,ケーブルの引張りによる嵌合阻止が考慮され,十分な剛性を備えた材料で構成されているものである。また,引用発明の配置形状から上方への抜出が阻止されることも明らかである。 5 取消事由5(相違点4の判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 本件審決における判断 本件審決は,引用発明において,相手コネクタ33の前端部の前方へ突出する操作部(持上げ部)を設け,相違点4に係る本件発明の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到し得たことである旨判断した。 しかし,以下のとおり,上記判断は,誤りである。 (2) 相違点4の容易想到性 ア 引用例には,本件発明の「持上げ部」に相当する部材は,開示も示唆もされていない。 イ そして,引用発明は,従来の軸方向の挿抜コネクタを改良した回転挿抜コネクタに関するもので,時計方向への回転によって,嵌合状態を解除することを可能にした回転コネクタであるから,引用発明における嵌合状態の解除は,相手コネクタ33をコネクタ31に対して回転させれば十分であって,それ以外の操作は必要ない。 したがって,引用発明において,あえて「持上げ部」を設ける必要はないから,相違点4に係る本件発明の構成を備えるようにすることにつき,動機付けはない。 ウ 他方,本件発明では,基板の上に設けられる取付面に対して挿抜方向が直交するものであるところ,本件発明のように,コネクタ嵌合状態で係止部と係止可能な被係止部が側壁に設けられ,かつ,ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,ロック突部が抜出方向で突出部と当接してケーブルコネクタの抜出を阻止するようになるという限定がされると,取付面に直交する方向でケーブルコネクタをレセプトコネクタから抜出することは,およそ不可能であるから,本件発明において,取付面に直交する挿抜方向ではなく,回転方向の力を加える「持上げ部」は,不可欠な部材である。 エ 以上によれば,引用発明において,当業者が,相違点4に係る本件発明の構成を備えるようにすることに容易に想到することができたとはいえない。 〔被告の主張〕 (1) 相違点4の容易想到性 操作性を向上させるために操作部を操作対象となる機械要素に設けることは,あらゆる分野において一般的に行われている周知技術であり,コネクタ分野であっても,当然周知である(甲2〜5)。 したがって,引用発明において,操作部である持上げ部を相手コネクタ33に設けることは,当業者が容易に想到することができたことである。 (2) 原告の主張について 原告の主張は,引用発明では,嵌合状態の解除のために回転させれば十分であるから「持上げ部」を設ける必要はないとする一方で,本件発明では,回転方向の力を加えるために「持上げ部」を設けるとするものであり,矛盾している。 周知例1ないし4の操作部は,いずれもコネクタに回転方向の力を加えるための部材であり,回転を容易にするために,引用発明に周知の操作部の構成を適用することに困難性はない。 そもそも,当業者であれば,引用例の第1図にある相手コネクタ33の左端上部に設けられた突起を「持上げ部」(操作部)と理解する。 |
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当裁判所の判断
1 本件発明について(1) 本件明細書等の記載 本件発明に係る特許請求の範囲の請求項1は,前記第2の2記載のとおりであるところ,本件明細書(甲10,32)の発明の詳細な説明には,おおむね,次の記載がある(下記記載中に引用する図1及び3については,別紙本件明細書図面目録を参照。)。 ア 技術分野 【0001】本発明は,ハウジングの周面に形成された嵌合面で互いに嵌合接続されるケーブルコネクタとレセプタクルコネクタとを有する電気コネクタ組立体に関する。 イ 背景技術 【0002】このような電気コネクタ組立体としては,例えば,特許文献1に開示されているコネクタが知られている。この特許文献1の電気コネクタ組立体では,嵌合面が側壁面とこれに直角な端壁面とで形成されており,ケーブルコネクタが後方の端壁面をケーブルの延出側としている。 【0003】特許文献1では,レセプタクルコネクタは内側に向く側壁面に嵌合突部を有しケーブルコネクタの嵌合時に,該ケーブルコネクタの嵌合凹部に上記嵌合突部が係止してコネクタの抜けを図るロック手段を形成している。該ロック手段は,ケーブルの延出側となる後部の位置で,上記側壁面に設けられている。さらに,この側壁面には前部に斜面からなるカム面が両コネクタに設けられていて,コネクタ嵌合後,ケーブルを後方に引くと,その力が上記両コネクタのカム面で上方向,すなわち,コネクタ抜出方向の力の成分を生ずるようになっていて,この力によって上記ロック手段でのロック力に抗して,コネクタの抜出を容易としている。 ウ 発明が解決しようとする課題 【0005】このような特許文献1のコネクタにあっては,ケーブルコネクタのケーブルを後方に引く力が,意図的に加えられる場合は勿論のこと,不用意に加えられたときでも,上記カム面での抜出方向の力の発生により,ロック手段が解除されてコネクタが抜出されてしまう,すなわち意図せぬ外れを生じてしまう,ということを意味する。 【0006】ケーブルコネクタにあってはケーブルに不用意な力,しかも,抜出方向成分をもつ力が加えられてしまうことがしばしばある。かかる不用意な力がケーブルに作用すると,特許文献1のコネクタでは,単純なケーブル延出方向の力であっても,上記カム面の働きによって上方向の成分の力が発生しコネクタを抜出してしまう。また,ケーブルに作用する不用意な力に,もともと上向き成分を伴っていると,上記抜出の傾向はさらに強くなる。 【0007】本発明は,このような事情に鑑み,ケーブルコネクタのケーブルに不用意な力が作用しても,そして,その力が上向き方向の成分を伴っても,ケーブルコネクタを意図的に抜出させない限り,外れない電気コネクタ組立体を提供することを課題とする。 エ 課題を解決するための手段 【0008】本発明に係る電気コネクタ組立体は,ハウジングの周面に形成された嵌合面で互いに嵌合接続されるケーブルコネクタとレセプタクルコネクタとを有し,嵌合面が側壁面とこれに直角をなし前方に位置する端壁面とで形成されており,ケーブルコネクタが後方に位置する端壁面をケーブルの延出側としている。 【0009】かかる電気コネクタ組立体において,本発明では,ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタの一方が,平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間しているロック突部を側壁面に有し,他方が前後方向で該ロック突部に対応する位置で溝部前縁と溝部後縁が形成されたロック溝部を側壁面に有し,該ロック溝部には溝部前縁または溝部後縁から溝内方へ突出する突出部が設けられていて,上記ロック突部が嵌合方向で上記ロック溝部内に進入してケーブルコネクタが該ケーブルコネクタの前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢から嵌合終了の姿勢となった後は,上記姿勢の変化に応じて上記突出部に対する上記ロック突部の位置が変化することにより,該ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,上記ロック突部が上記抜出方向で上記突出部と当接して該ケーブルコネクタの抜出を阻止するようになっており,該ケーブルコネクタの前端部にはコネクタ嵌合状態でレセプタクルコネクタの前方の端壁面の位置から前方へ突出する持上げ部が設けられていて,該持上げ部を抜出方向に持ち上げることにより該ケーブルコネクタの抜出が可能となっていることを特徴としている。 【0010】ケーブルコネクタは,前方の端壁面に寄った位置で側壁に係止部が設けられ,レセプタクルコネクタは,前後方向で上記係止部と対応する位置で該係止部と係止可能な被係止部が側壁に設けられていてもよい。 オ 発明の効果 【0013】本発明は,以上のように,ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタの一方がその側壁面にロック突部,そして他方がその側壁面の対応位置にロック溝部を有し,上記ロック突部が嵌合方向で上記ロック溝部内に進入してケーブルコネクタが嵌合終了の姿勢となった後は,該ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,上記ロック突部が上記ロック溝部の突出部に当接して該ケーブルコネクタの抜出を阻止するようにしたので,ケーブルコネクタの後端から延出しているケーブルを不用意に引いても,そしてその引く力がたとえ上向き成分を伴っていても,ロック突部がロック溝部の突出部に当接して,ケーブルコネクタはレセプタクルコネクタから外れることはない。ケーブルを引く不用意な力は,多くの場合,上記の上向き成分を伴っており,このような力に対して,本発明は確実に対処可能となる。 カ 発明を実施するための形態 【0022】上記ロック突部21は,図1そして図3(A)に見られるように,突部前縁21A,突部後縁21Bとを有し,両者21A,21Bは,コネクタ嵌合方向,すなわち図1にて下方に向けコネクタの後端側へ傾斜しており,本実施形態では互いに平行となっている。突部前縁21Aの上方には斜部21Cが形成されている。また,ロック突部21の下縁は,相手コネクタとの嵌合を容易とするテーパ部21Dが形成されている(図1参照)。 【0025】上記側壁53は,凹部52の内方に向く側壁面53Aの後部位置にロック溝部57そして,前部位置には係止溝部58が形成されている。 【0026】ロック溝部57は,溝部前縁57Aと溝部後縁57Bとの間で上下方向に貫通して形成されている。上記溝部前縁57Aの上部には,後方へ向け溝内に突出する突出部59が設けられている。該突出部59は,ロック溝部57の入口側すなわち上縁部に,テーパ部59Aを有している。該突出部59は,このテーパ部59Aよりも下の部分が下方に延びる垂直部59Bをなしているが,この形は特に重要ではなく,本実施形態では,上記テーパ部59Aを有する突出部59となっていればよい。上記溝部前縁57Aは突出部59の下方に位置する部分が下方に向く垂直前縁をなしているが,この垂直前縁もその形は自由であり,上記突出部59の下方に既述のロック突部21を収容する空間を形成していればよい。上記ロック溝部57の溝部後縁57Bは,ロック溝部57の入口から下方に向け前方へ傾く案内傾斜部57B-1とその下方に位置する垂直部57B-2とを有している。上記案内傾斜部57B-1は,上下方向で,上記突出部59よりも下方位置にまで及んでいる。 【0028】ロック突部21は,ケーブルコネクタ10が,図3(A)に示されるような嵌合終了時の姿勢,すなわちケーブルコネクタ10の上面,下面そしてケーブルがいずれも水平方向に延びていて前端がもち上がっていない姿勢のときに,突部前縁21Aの最前方位置と突部後縁21Bの最後方位置との距離Aが該ロック突部21の前後方向幅として最大値をとる。これに対して,レセプタクルコネクタ50のロック溝部57は,前後方向における溝幅としては,突出部59の後端位置と垂直部57B-2の位置との間の前後方向での距離Bが最小値である。本発明では,上記距離B<距離Aとなっている。すなわち,図3(A)の姿勢で上記ケーブルコネクタ10をそのまま降下させても,ロック突部21はロック溝部57の奥部までは進入できないことを意味しており,コネクタの嵌合ができない。しかしながら,図3(A)にも見られるように,ロック突部21の突部前縁21Aと突部後縁21Bはいずれも嵌合方向先方に向け後端側へ傾いていて,しかも両者は平行なので,この傾いている角度の分だけを,前端側にもち上げられる上向き傾斜させた姿勢とすれば,そのときの突部前縁21Aと突部後縁21Bとの距離A’そして上記距離Bとの関係は,距離A’<距離B<距離Aという関係となることができる。さらに,本発明では,この距離A’は,レセプタクルコネクタ50における距離Bに対して,距離A’<距離Bの関係にあるので,したがって,上記ケーブルコネクタ10の前端側がもち上がっている上向傾斜の姿勢では,上記ロック突部21はロック溝部57の奥部まで進入可能となる。さらに,該ロック溝部57は突出部59よりも下方部分が上記ロック突部21を収容するに足りる空間を形成しているので,上記ロック突部21は,水平状態のケーブルコネクタ10の姿勢に戻ることが可能となる。このことは,この水平状態の姿勢において,ロック突部21は,ケーブルコネクタが嵌合方向とは逆方向に抜出されようとしても,距離B<距離Aの関係で,上記突出部59と干渉して,抜出できないことを意味する。 【0032】次に,図2ないし図4を参照しつつ本実施形態のケーブルコネクタ10とレセプタクルコネクタ50の嵌合接続の要領を説明する。…図2ないし図4のいずれにおいても,(A)はコネクタ嵌合前,(B)は嵌合途中,(C)は嵌合終了時を示している。 【0033】(1)先ず,端子30にケーブルCが結線されたケーブルコネクタ10を,図2(A),図3(A),図4(A)に見られるように,正規の嵌合終了時の姿勢,すなわち,ケーブルコネクタ10が水平姿勢でケーブルCが後方へ水平に延出している状態で,相手コネクタたるレセプタクルコネクタ50の上方位置へもたらす。 【0034】(2)しかる後,ケーブルコネクタ10をそのままの姿勢で降下せしめる。この姿勢でのケーブルコネクタ10のロック突部21における前後方向での距離Aは,図3(A)に見られるごとく,同方向でのレセプタクルコネクタ50のロック溝部57の幅(距離B)よりも大きいために,上記姿勢のままでは,ロック突部21はこのロック溝部57の奥部までは進入できない。したがって,該ロック突部21はロック溝部57の溝部前縁57Aと溝部後縁57Bの少なくとも一方に当接する(図3(B)における二点鎖線の姿勢)。 【0035】ケーブルコネクタ10は,(1)でレセプタクルコネクタ50の上方位置にもたらされるとき,図3(A)の水平姿勢をとらずに,上向き姿勢をとってそのまま降下して図3(B)の実線の姿勢となるように降下してもよい。 【0036】(3)次に,ケーブルコネクタ10の前端側をもち上げるように,該ケーブルコネクタ10を上向き姿勢とする。この上向き姿勢では,ロック突部21の前後方向における突部前縁21Aと突部後縁21Bとの間の距離A’は距離Aよりも小さくなっていて,該ロック突部21はその突部後縁21Bが上記溝部後縁57Bの案内傾斜部57B-1に案内されてロック溝部57内への進入が進行し,ロック溝部57の奥部まで到達する(図3(B)における実線の位置及び姿勢)。 このとき,ロック突部21の突部前縁21Aに形成されている斜部21Cの下端は,図3(B)における実線で示されているように,上下方向で,突出部59の下縁よりも下方に位置している。 【0037】(4)しかる後,ケーブルコネクタ10を嵌合終了の姿勢,すなわち,図3(A)における姿勢と同じとなるように,ケーブルコネクタ10の前端側を降下させる。該ケーブルコネクタ10は,ロック突部21側を中心として突部後縁21Bの最後方位置がロック溝部57の溝部後縁57Bの垂直部57B-2に当接しながら時計方向に回転し,上記上向き姿勢が解除されて,水平となって嵌合終了の姿勢をとる(図3(C)参照)。上記回転の際,斜部21Cは,突出部59の下縁に近接した状態で,溝部前縁57Aに近づき,上下方向では突出部59と干渉する位置,すなわち,ロック位置にきている。 【0038】(5)一方,ケーブル10がその前端側が降下するように回転する際,ケーブルコネクタ10の係止部22はレセプタクルコネクタ50の被係止部60を乗り越えて該被係止部60の下側に位置し,被係止部60に対して係止される。 又,ケーブルコネクタ10の端子30の一対の接触片35間にレセプタクルコネクタ50の端子61が進入し,両者は電気的に接続される。 【0039】(6)このように嵌合が終了してレセプタクルコネクタ50に対して接続されたケーブルコネクタ10は,嵌合後に不用意な後方への力がケーブルCに受けても,しかもその不用意な力が上向き成分を伴っていても,ロック突部21がロック溝部57の突出部59と当接するのでケーブルコネクタ10は嵌合終了時の水平姿勢を保って,あるいは前端側が下方に向く下向き姿勢をとるだけであり,ケーブルコネクタ10は抜出されてしまうことはない。本実施形態では,コネクタの前端側にて,ケーブルコネクタ10の係止部22とレセプタクルコネクタ50の被係止部60が係止し合っているので,ケーブルコネクタ10に前端側をもち上げようとする多少の力が作用しても,前端側が上向き姿勢をとることがなく,したがってロック突部21と突出部59との干渉とも相俟って,ケーブルコネクタ10の抜出が確実に阻止される。 【0040】(7)ケーブルコネクタ10を意図的に抜出するときには,ケーブルコネクタ10の前端に設けられた持上げ部19に比較的大きな力を上方向に向け作用させる。この力は,ケーブルコネクタ10の係止部22とレセプタクルコネクタ50の被係止部60との間の係止力に抗して,この係止を解除し,ケーブルコネクタ10を前端側がもち上がる上向き姿勢にもたらす。この姿勢は,図3(B)における実線の姿勢と同じであり,ロック突部21は突出部59と干渉することがなくロック溝部57の外部へ上昇でき,ケーブルコネクタ10の抜出が可能となる。 (2) 前記(1)の記載によれば,本件発明の特徴は,以下のとおりである。 ア 本件発明は,ハウジングの周面に形成された嵌合面で互いに嵌合接続されるケーブルコネクタとレセプタクルコネクタとを有する電気コネクタ組立体に関する(【0001】)。 従来の電気コネクタ組立体では,レセプタクルコネクタは内側に向く側壁面に嵌合突部を有し,ケーブルコネクタの嵌合時に,該ケーブルコネクタの嵌合凹部に上記嵌合突部が係止してコネクタの抜けを図るロック手段を形成しており,ロック手段は,ケーブルの延出側となる後部の位置で,側壁面に設けられ,この側壁面には前部に斜面からなるカム面が両コネクタに設けられていて,コネクタ嵌合後,ケーブルを後方に引くと,その力が上記両コネクタのカム面で上方向,すなわち,コネクタ抜出方向の力の成分を生ずるようになっていて,この力によって上記ロック手段でのロック力に抗して,コネクタの抜出を容易としている(【0002】,【0003】)。そのため,コネクタのケーブルを後方に引く力が,意図的のみならず,不用意に加えられた場合であっても,カム面での抜出方向の力の発生により,ロック手段が解除されてコネクタが抜出されてしまう,ケーブルに作用する不用意な力に上向き方向の成分を伴っていると,コネクタの抜出の傾向が更に強くなるという問題があった(【0005】,【0006】)。 イ 本件発明は,前記アの問題に鑑み,ケーブルコネクタのケーブルに不用意な力が作用しても,そして,その力が上向き方向の成分を伴っても,ケーブルコネクタを意図的に抜出させない限り,外れない電気コネクタ組立体を提供することを課題とし(【0007】),かかる課題の解決手段として,特許請求の範囲請求項1に記載の構成を採用したものである(【0008】〜【0010】)。特に,ロック機構については,@ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタの一方が,平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間しているロック突部を側壁面に有し(【0022】),A他方が前後方向でロック突部に対応する位置で溝部前縁と溝部後縁が形成されたロック溝部を側壁面に有し(【0025】),Bロック溝部には溝部前縁または溝部後縁から溝内方へ突出する突出部が設けられ(【0026】),Cロック突部が嵌合方向でロック溝部内に進入し,ケーブルコネクタが前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢から嵌合終了の姿勢となったコネクタ嵌合状態では,上記姿勢の変化に応じて,突出部に対するロック突部の位置が変化する(【0028】),という構成を採用することにより,ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたときであっても,ロック突部が抜出方向で突出部と当接し,ケーブルコネクタの抜出を阻止するようにしたものである(【0032】〜【0040】)。また,ケーブルコネクタの前端部に前方へ突出する持上げ部を設け,コネクタ嵌合状態の解除では,上記持上げ部を抜出方向に持ち上げることにより,ケーブルコネクタの前端側が持ち上がった上向き姿勢となることで,突出部に対するロック突部の位置が元に戻り,ロック突部における抜出方向の突出部との当接が解除され,ロック溝部の外部へ上昇させることによるケーブルコネクタの抜出が可能となるようにしたものである(【0040】)。 ウ 本件発明によれば,ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタの一方がその側壁面にロック突部,そして他方がその側壁面の対応位置にロック溝部を有し,上記ロック突部が嵌合方向で上記ロック溝部内に進入してケーブルコネクタが嵌合終了の姿勢となった後は,ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,上記ロック突部が上記ロック溝部の突出部に当接してケーブルコネクタの抜出を阻止するようにしたので,ケーブルコネクタの後端から延出しているケーブルを不用意に引いても,そしてその引く力がたとえ上向き成分を伴っていても,ロック突部がロック溝部の突出部に当接して,ケーブルコネクタはレセプタクルコネクタから外れることはない という作用効果を奏する(【0013】)。 2 引用発明について (1) 引用例(甲1)には,次のような記載がある(第1及び第3〜第6図については,別紙引用例図面目録を参照。)。 ア 特許請求の範囲 1.第1の絶縁体に第1のコンタクトを組込んでなる第1のコネクタ要素と,第2の絶縁体に第2のコンタクトを組込んでなる第2のコネクタ要素とを含むコネクタにおいて,上記第1の絶縁体は上記第2のコネクタ要素の側面に対向するよう延出した側壁を有し,該側壁は,その延出方向に対し実質的に直角にのびて一端が縁部にまで至る溝部を有し,上記第2の絶縁体は上記溝部に挿入された回転中心突起を側面に有し,さらに上記第1及び第2のコンタクトは,上記回転中心突起を支点とした上記第1及び第2の絶縁体の相対的回動により対外に接触・離間されるものであることを特徴とする回転挿抜コネクタ。 2.特許請求の範囲第1)項記載の回転挿抜コネクタにおいて,上記第1及び第2の絶縁体間を上記第1及び第2のコンタクトの接触状態でロックするロック装置を備えたことを特徴とするもの。 イ 産業上の利用分野 本発明は,一方のハウジングを他方のハウジングに対し回動させることで接続又は切離しの作用を得ることのできるコネクタに関する。(1頁右下欄6行〜8行)ウ 従来例 (ア) 通常のコネクタは,軸方向の挿抜によって電気的な接続又は切離しを得るようになっている。そのコネクタは,第7図に示すように,一方のコネクタ1と,このコネクタ1に着脱可能に嵌合する他方のコネクタ(以下相手コネクタと呼ぶ)3とを有している。一方のコネクタ1は,電気絶縁材料によって作られたハウジング5と,このハウジング5に組込まれたピンコンタクトのような複数の導電性のコンタクト7とを有している。ハウジング5の一側には溝部9が形成されている。 (1頁右下欄10行〜19行) (イ) ハウジング5の溝部9には,相手コネクタ3が着脱可能に嵌合される。相手コネクタ3は電気絶縁材料によって作られた相手ハウジング15と,この相手ハウジング15の内部に組込まれたソケットコンタクトのような複数の導電性の相手コンタクト(図示せず)とを有している。…このような相手コネクタ3はハウジング5のコンタクト7の接触部11の軸心に沿った方向(即ち,コネクタ突合方向)に動かされることで一方のコネクタlに対し挿抜される。かくして相手コンタクトと接触部11とを,1対1に接続させることができる。(2頁左上欄5行〜18行) (ウ) 相手ハウジング15の上面には,第8図に示すように,ロックレバー19が形成されている。このロックレバー19は一端が相手ハウジング15の上面に接続されたものである。ロックレバー19の上面には,突起部21が形成されている。 突起部21はハウジング5の溝部9の内面から上面にまで貫通して形成された係止穴23に係止される。これによりハウジング5と相手ハウジング15とは嵌合状態にロックされる。また,コンタクト7と相手コンタクトとはロックレバー19を下向きに押すと突起部21が係止穴23から離脱して引き抜きが可能である。(2頁左上欄19行〜右上欄10行)エ 発明が解決しようとする問題点 しかしながら,このようなコネクタによれば,挿入が不完全であるとロックレバー19の突起部21が相手の係止穴23に止まらないため,後にケーブル17を引張るような時,コネクタ1から相手コネクタ3が外れてしまうという問題がある。 また,係止穴23とこれに対応する突起部21とを設けるためにハウジング5や相手ハウジング15の所要スペースが大きくなり,したがって,特に高密度化を必要とするコネクタとしては不向きである。それ故に本発明の目的は,確実な嵌合を得ることができ,かつ小型化が可能なコネクタを提供することにある。(2頁右上欄16行〜左下欄8行)オ 問題点を解決するための手段及び作用 本発明によれば,第1の絶縁体に第1のコンタクトを組込んでなる第1のコネクタ要素と,第2の絶縁体に第2のコンタクトを組込んでなる第2のコネクタ要素とを含むコネクタにおいて,上記第1の絶縁体は上記第2のコネクタ要素の側面に対向するよう延出した側壁を有し,該側壁はその延出方向に対し実質的に直角にのびて一端が縁部にまで至る溝部を有し,上記第2の絶縁体は上記溝部に挿入された回転中心突起を側面に有し,さらに上記第1及び第2のコンタクトは,上記回転中心突起を支点とした上記第1及び第2の絶縁体の相対的回動により互いに接触・離間されるものであることを特徴とする回転挿抜コネクタが得られる。(2頁左下欄10行〜右下欄3行)カ 実施例 (ア) 第1図は本発明の回転挿抜コネクタの一実施例を示している。図示の回転挿抜コネクタは,一方のコネクタ31(第1のコネクタ要素)とこのコネクタ31に挿抜可能にして嵌合する相手コネクタ(第2のコネクタ要素)33とを有している。一方のコネクタ31は,電気絶縁材料によって作られたハウジング(第1の絶縁体)35と,…とを有している。また,相手コネクタ33は電気絶縁材料によって作られた相手ハウジング(第2の絶縁体)39と…とを有している。相手コンタクト41には,第2図に示すように,相手ハウジング39の外部から導入されたケーブル44の一端が接続されている。…一方のコネクタ31のハウジング35は互いに間隔をおいて対向するよう延出した対の側壁(その一方のみを47で示した)を有している。これらの側壁47の内面には,溝部49及び係止穴51がそれぞれ形成されている。これらの溝部49は,側壁47の延出方向,即ち,コネクタ突合方向の軸線とほぼ直角方向(実質的に直角方向)にのびるように形成されている。 また溝部49には中間部分に肩部56が形成されている。このようなハウジング35の対の側壁47の間には,相手コネクタ33のハウジング39が嵌込まれる。一方,相手コネクタ33のハウジング39の対の側面には,それぞれ,ハウジング35の溝部49に嵌込まれる回転中心突起53が形成されている。これらの突起53はまた肩部56に当接するものである。さらに相手コネクタ33のハウジング39の対の側面には,一方のコネクタ31のハウジング35の係止穴51に嵌込まれる係止突起60が形成されている。(2頁右下欄5行〜3頁右上欄9行) (イ) 次に,第3図及び第6図をも参照して回転挿抜コネクタの嵌合について説明する。先ず,相手コネクタ33は一方のコネクタ31におけるコネクタ突合方向の軸線に対して或る角度を持った状態でその回転中心突起53をハウジング35の溝部49に挿入される。溝部49に挿入された回転中心突起53は,第3図に示すように,溝部49の中間部分の肩部56で停止する深さまで挿入される。この状態では,コンタクト37の接触部39と相手コンタクト46とは,第4図に示すように,互いに軸方向を異にしている。その後に,相手コネクタ33を反時計方向に回転させる。この結果,相手コネクタ33の係止突起60は,第5図に示すようにコネクタの係止穴51にしっかりと入り込み回転が停止すると共にロックされる。即ち,係止突起60と係止穴51とが協働してロック装置を構成する。その際,コンタクト37の接触部39と相手コンタクト41のソケット部46とは,第6図にも示すように,回転しながら摺動し嵌合接触する。さらに,相手コネクタ33をコネクタ31から引抜く際には,相手コネクタ33を時計方向に回転した後に,溝部49にて案内しつつ上方に引き抜く。(3頁右上欄10行〜左下欄12行)キ 発明の効果 以上実施例により説明したように,本発明の回転挿抜コネクタによれば,コネクタの両側に,相手コネクタの回転中心突起に対応する溝部が係合しているため,コネクタあるいは相手コネクタが破壊しない限り,ケーブルを引張っても嵌合が外れることがない。また,回転挿抜コネクタは,大きな形状のロックレバーや係止穴を必要としないため小型化が可能である。(3頁左下欄14行〜右下欄1行) (2) 前記(1)の記載によれば,引用例には,前記第2の3(2)アのとおりの引用発明が記載されているものと認められ,引用発明に関し,以下の点が開示されているものと認められる。 ア 引用発明は,一方のハウジングを他方のハウジングに対し回動させることで接続又は切離しの作用を得ることのできるコネクタに関する(前記(1)イ)。 従来から,コネクタ1のハウジング5の一側に形成された溝部9に相手ハウジング15を有する相手コネクタ3が着脱可能に嵌合されるコネクタにおいて,突起部21を形成したロックレバー19を相手ハウジング15の上面に形成し,突起部21をハウジング5の溝部9の内面から上面まで貫通して形成された係止穴23に係止させることにより,ハウジング5と相手ハウジング15とを嵌合状態にロックできるコネクタが知られており,このコネクタは,軸方向の挿抜によって電気的な接続又は切離しを得るものであった(前記(1)ウ)。 しかし,このようなコネクタは,挿入が不完全であると突起部21が相手の係止穴23に止まらないため,後にケーブル17を引っ張る時に,コネクタ1から相手コネクタ3が外れてしまうなどの問題があった(前記(1)エ)。 イ 引用発明は,前記アの問題に鑑み,確実な嵌合を得ることができ,かつ小型化が可能なコネクタを提供することを目的とし,かかる課題を解決する手段として,第1のコネクタ要素と,第2のコネクタ要素とを含むコネクタにおいて,第1のコネクタ要素の絶縁体は第2のコネクタ要素の側面に対向するよう延出した側壁を有し,側壁はその延出方向に対し実質的に直角に延びて一端が縁部にまで至る溝部を有し,第2のコネクタ要素の絶縁体は溝部に挿入された回転中心突起を側面に有し,第1及び第2のコネクタ要素の各コンタクトは,上記回転中心突起を支点とした第1及び第2のコネクタ要素の各絶縁体の相対的回動により互いに接触・離間されるという構成を採用した(前記(1)エ,オ)。 引用発明は,実施例に係るものであり,コネクタ31のハウジング35の対の側壁47に溝部49及び係止穴51を形成し,相手コネクタ33のハウジング39の対の側面にこの溝部49に嵌め込まれる回転中心突起53と係止穴51に嵌め込まれる係止突起60が形成され,溝部49はコネクタ突合方向の軸線とほぼ直角方向に伸びるようにされ,中間部分に肩部56が形成されて,回転中心突起53は溝部49の中間部分に形成された肩部56に当接するように構成されている。そして,コネクタ31と相手コネクタ33を嵌合させる場合,まず,コネクタ31に対して角度を持った状態で相手コネクタ33の回転中心突起53を溝部49の肩部で停止する深さまで挿入し,その後に,相手コネクタ33を回転させ,相手コネクタ33の係止突起60をコネクタ31の係止穴51に入り込ませてコネクタ31と相手コネクタ33を嵌合させる(前記(1)カ)。 ウ 引用発明によれば,コネクタの両側に,相手コネクタの回転中心突起に対応する溝部が係合しているため,コネクタあるいは相手コネクタが破壊しない限り,ケーブルを引張っても嵌合が外れることがないなどの作用効果を奏する(前記(1)キ)。 3 取消事由1(本件発明と引用発明との一致点の認定の誤り)について (1) 原告は,引用発明は,相手コネクタ33の姿勢の変化に応じて,回転中心突起53の突出部に対する位置が変化するものではないから,本件審決における一致点の認定は,誤りである旨主張する。 (2) 引用発明における嵌合過程 ア 引用例には,前記2(1)カ(イ)のとおり記載されており,この記載及び第3図ないし第6図から,以下の事項が理解できる。 (ア) 相手コネクタ33のハウジング39の側面に設けられている回転中心突起53が挿入されるコネクタ31のハウジング35の溝部49は,「コネクタ突合方向の軸線とほぼ直角方向にのびるように形成され」,「中間部分に肩部56が形成されている」ものである。そして,第3図ないし第5図において,コネクタ突合方向は,紙面の左右方向となり,これに対して直角方向とは紙面の上下方向をいうから,溝部49は,紙面の上下方向に延びるように形成されており,中間部分に形成される肩部56は,紙面の左右方向,すなわちコネクタ突合方向のうちケーブル44側に溝部49を曲げるように形成されていることが分かる。 (イ) コネクタ31と相手コネクタ33とを嵌合させるには,まず,相手コネクタ33は,コネクタ31のコネクタ突合方向の軸線に対してある角度を持った状態,すなわち,前端が持ち上がって上向き傾斜姿勢にある状態で,相手コネクタ33の回転中心突起53をコネクタ31の溝部49に肩部56で停止する深さまで挿入する。 そうすると,溝部49は,コネクタの突合方向に対し直交する方向に延びるように形成されているから,相手コネクタ33の回転中心突起53もコネクタの突合方向に対し直交する方向に挿入されるが,肩部56において溝部49が折れ曲がるように形成されているため,肩部56で形成される溝部49の底面に回転中心突起53が当たり,ここで停止状態となる。 (ウ) しかし,この状態のままで,相手コネクタ33を,回転中心突起53を中心に反時計回りに回転させると,相手コネクタ33の先端とコネクタ31のハウジングとの衝突の具合によっては,相手コネクタ33をコネクタ31からコネクタ突合方向に直交する溝部方向に動かすことになり,両者の嵌合状態が解除されてしまうことから,引用発明では,この状態で相手コネクタ33を回転させるのではなく,回転中心突起53を肩部56に沿って動かすことで,相手コネクタ33をコネクタ31に対してコネクタ突合方向のケーブル44側にずらした状態にして,相手コネクタ33をコネクタ突合方向に直交する溝部方向に動かすことができないようにした上で,その後,回転中心突起53を中心に相手コネクタ33を回転させていることが分かる。回転中心突起53を回転させる前の状態が第3図に示されており,引用発明では,この状態において,相手コネクタ33を回転させ,コネクタ31を嵌合状態とする(第5図)。 イ 以上によれば,引用発明において,相手コネクタ33は,回転中心突起53が溝部49に形成された肩部56のケーブル44側に当接している状態(第3図の状態)では,コネクタ突合方向の軸線に対してある角度をもった状態,すなわち,相手コネクタ33の前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢にある状態であり,この状態から相手コネクタ33を回転させ,嵌合終了状態(第5図の状態)にしているものということができる。 (3) 本件発明と引用発明との対比 ア 本件発明においては,前記1(2)のとおり,ロック突部が嵌合方向でロック溝部内に進入してケーブルコネクタの前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢から,嵌合終了の姿勢となったコネクタ嵌合状態では,ケーブルコネクタの姿勢の変化に応じて,突出部に対するロック突部の位置が変化するものである。 これに対し,引用発明においても,前記(2)のとおり,溝部49の突出部に対する回転中心突起53の位置が,相手コネクタ33の前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢のまま,回転中心突起53を肩部56に沿って動かすことで変化する点(相違点2)を措けば,相手コネクタ33を,前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢にある状態で,その回転中心突起53をコネクタ31の溝部49に挿入させたときと,嵌合終了の姿勢となったコネクタ嵌合状態とでは,溝部49の突出部に対する回転中心突起53の位置が変化しているということができる。 そうすると,引用発明においても,ロック突部が嵌合方向でロック溝部内に進入してケーブルコネクタがケーブルコネクタの前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢から嵌合終了の姿勢となったコネクタ嵌合状態では,突出部に対するロック突部の位置が変化するものであるということができるから,この点において,本件発明と引用発明とは一致する。 イ 原告の主張について 原告は,相手コネクタ33がコネクタ31への嵌合のため,相手コネクタ33のハウジング39の対の側面と直角をなす端面と,コネクタ31のハウジング35の側面47の内面と直角をなす端面とが初めて接触し,嵌合を開始する際には,相手コネクタ33の円柱状の回転中心突起53は既に右端壁及び円弧状の突出部に接触する位置にあるのであって,引用発明において,相手コネクタ33が上向き傾斜姿勢から嵌合終了姿勢に至るまでの嵌合過程においてスライド(平行移動)するものではないから,引用発明は,相手コネクタ33の姿勢の変化に応じて,回転中心突起53の突出部に対する位置が変化するものではなく,本件審決における一致点の認定は,誤りである旨主張する。 しかし,本件審決は,本件発明と引用発明との相違点として,前記第2の3(2)イ(ウ)のとおり,相違点2を認定しており,引用発明が,相手コネクタ33の姿勢の変化に応じて,回転中心突起53の突出部に対する位置が変化するものであると認定しているわけではない。そして,引用発明における嵌合過程は,前記(2)のとおりであり,相手コネクタ33は,回転中心突起53が溝部49に形成された肩部56のケーブル44側に当接している状態(第3図の状態)では,コネクタ突合方向の軸線に対してある角度をもった状態,すなわち,相手コネクタ33の前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢にある状態であり,この状態から相手コネクタ33を回転させ,嵌合終了状態(第5図の状態)にしているものということができるが,これを前提としても,前記アのとおり,ロック突部が嵌合方向でロック溝部内に進入してケーブルコネクタがケーブルコネクタの前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢から嵌合終了の姿勢となったコネクタ嵌合状態では,突出部に対するロック突部の位置が変化するものであるということができる。 (4) 小括 以上によれば,本件審決における本件発明と引用発明との一致点の認定に誤りはない。よって,取消事由1は,理由がない。 4 取消事由2(相違点1の判断の誤り)について (1) 相違点1の容易想到性 ア 本件発明のロック突部は,特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間している形状のものである。そして,本件発明は,前記1(2)のとおり,ロック機構について,@ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタの一方が,平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間しているロック突部を側壁面に有し,A他方が前後方向でロック突部に対応する位置で溝部前縁と溝部後縁が形成されたロック溝部を側壁面に有し,Bロック溝部には溝部前縁または溝部後縁から溝内方へ突出する突出部が設けられ,Cロック突部が嵌合方向でロック溝部内に進入し,ケーブルコネクタが前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢から嵌合終了の姿勢となったコネクタ嵌合状態では,上記姿勢の変化に応じて,突出部に対するロック突部の位置が変化する,という構成を採用することにより,コネクタ嵌合状態にある間は,ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたときであっても,ロック突部が抜出方向で突出部と当接し,ケーブルコネクタの抜出を阻止するようにしたものである。 他方で,本件発明は,特許請求の範囲及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載において,ロック突部の突部前縁及び突部後縁が有する平坦面部分について,その大きさ,両面の離間の程度やその成す角度,ロック溝部やその突出部など他の構成との関係などについては,特に規定していない。 そうすると,本件発明のロック突部は,平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間している形状を有し,ケーブルコネクタのケーブルに上向き方向の成分の力が作用しても,ロック突部が抜出方向でロック溝部の突出部と当接することにより,ケーブルコネクタの抜出を阻止するものであれば足り,その断面形状には,円形に近似するような,角数の多い多角形状も含まれるものと解される。 イ 引用発明は,前記2(2)のとおり,軸方向の挿抜によってではなく,一方のハウジングを他方のハウジングに対し回動させることで接続又は切離しの作用を得ることのできるコネクタであって,コネクタ31に形成された溝部49に挿入される相手コネクタ33の回転中心突起53を支点として相手コネクタ33を回転させて,コネクタ31と相手コネクタ33を嵌合させるものである。 上記のとおり,引用発明の回転中心突起は,相手コネクタ33を回転させる際の支点(回転中心)となるものであること,回転を円滑に行うためには,その支点の断面は円形状であることが好ましいこと及び引用例の第3図には回転中心突起53の断面がほぼ円形状に描かれていることに照らせば,基本的には,その断面の形状として円形が想定されているものといえる。 しかし,引用発明において,回転中心突起の回転は,相手コネクタ33は,その前端が持ち上がって上向き傾斜姿勢にある状態(第3図)から,コネクタ31と嵌合した状態(第5図)までの,せいぜい90度以内のものにすぎず,引用例には,回転中心突起53やその断面の形状が円形に限られるものであることについては何らの記載も示唆もないから,その断面の形状は,円形に限られず,相手コネクタ33の円滑な回転動作やコネクタ31との嵌合に支障がない限り,円形以外の形状にすることも許容されるものと解される。 ウ 引用発明においては,前記イのとおり,回転中心突起53の形状は,相手コネクタ33の円滑な回転動作やコネクタ31との嵌合に支障がない限り,その断面の形状を円形以外の形状にすることも許容されるものと解されるところ,相手コネクタ33の円滑な回転動作やコネクタ31との嵌合に支障がない範囲で,回転中心突起53の形状を適宜変更し,その断面が,円形に近似するような,角数の多い多角形状となるものとすることは,当業者の通常の推考の範囲内のことであるということができる。 そして,本件発明のロック突部の形状には,その断面形状が,円形に近似するような,角数の多い多角形状となるものも含まれるものと解されることは,前記アのとおりである。 したがって,引用発明において,相違点1に係る本件発明の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたことである。 (2) 原告の主張について ア 原告は,本件発明のロック突部は,平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間しているものであるから,円滑な回転動作等に支障が生じる形状であり,当業者が,ロック突部の断面の形状にほぼ円形のものも含まれると理解する余地はない旨主張する。 しかしながら,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)において,ロック突部の形状が,円滑な回転動作に支障が生じる形状のものであることは特定されてない。 そして,角数が多い多角形状であれば,「平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間している」にもかかわらず,円滑な回転運動等に支障が生じないことは明らかである。 したがって,「平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間しているロック突部」の形状には,角数の多い多角形状が含まれ,かつ,これらの角数の多い多角形状は,円形と形状において近似しているということができるから,本件審決が「ほぼ円形」を含むと認定したことに,誤りはない。 イ 原告は,本件発明のロック突部における「平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間している」という構成は,例えば図7にあるように,嵌合終了時にロック溝部内に進入したロック突部21が,後端部が持ち上げられ,抜出方向に力がかかったときに,その後縁突部が断面円形ではないため,滑るようなことがなく,溝部57の溝部57Bとよく当接し,ケーブルコネクタが抜出しないことを確実にする,という技術的意義を有する旨主張する。 しかし,本件発明の特許請求の範囲には,「嵌合終了時にロック溝部内に進入したロック突部21が,後端部が持ち上げられ,抜出方向に力がかかったときに,その後縁突部が,断面円形でないため滑るようなことがない」との事項は,何ら記載されておらず,また,ロック突部の「平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間している」構成と,「ロック突部が抜出方向で突出部と当接」することや「溝部57の溝部57Bとよく当接し,ケーブルコネクタが抜出しないことを確実にしている」こととの関係についても,本件明細書の発明の詳細な説明には記載されていない。 したがって,原告の上記主張は,本件明細書の記載に基づかないものである。 ウ 原告は,引用発明において,回転中心突起53に,スムースな回転を妨げる円形状以外の形状を採用することはない旨主張する。 しかし,前記アのとおり,角数が多い多角形状であれば,円滑な回転運動等に支障が生じないことは明らかであるから,引用発明において,相手コネクタ33の円滑な回転動作やコネクタ31との嵌合に支障がない範囲で,回転中心突起53の形状を適宜変更し,その断面が円形に近似するような角数の多い多角形状となるものとすることは,当業者の通常の推考の範囲内のことである。 (3) 小括以上によれば,取消事由2は,理由がない。 5 取消事由3(相違点2の判断の誤り)について (1) 本件審決は,引用発明においても,相手コネクタ33の姿勢の変化に応じて,回転中心突起53は突出部に対する位置が変化するものといえるから,相違点2は実質的な相違点ではない旨判断した。 (2) 引用発明について しかし,前記3(2)のとおり,引用発明において,相手コネクタ33は,回転中心突起53が溝部49に形成された肩部56のケーブル44側に当接している状態(第3図の状態)では,コネクタ突合方向の軸線に対してある角度をもった状態,すなわち,相手コネクタ33の前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢にある状態であり,この状態から相手コネクタ33を回転させ,嵌合終了状態(第5図の状態)にしているものであるから,引用発明における「回転中心突起53」の位置変化は,回転操作により行われるものではなく,回転操作の前に行われている。したがって,引用発明は,相手コネクタ33の姿勢の変化に応じて,回転中心突起53の溝部49の突出部に対する位置が変化するものであるということはできない。 (3) 相違点2が実質的な相違点であるか否かについて ア 特許請求の範囲(請求項1)には,本件発明が,@コネクタの嵌合の場面においては,コネクタ嵌合状態では,ケーブルコネクタの姿勢の変化に応じて突出部に対するロック突部の位置が変化することにより,ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,ロック突部が抜出方向で突出部と当接してケーブルコネクタの抜出を阻止するようになっており,Aコネクタの嵌合を解除する場面においては,コネクタ嵌合状態でケーブルコネクタの前端部に設けられた持上げ部を抜出方向に持ち上げることにより,係止部と被係止部との係止可能な状態が解除されるとともに,ロック突部と突出部との当接可能な状態が解除されて,ケーブルコネクタの抜出が可能となるものであることが規定されている。 そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,前記1(1)のとおりの記載があり,【0040】には,「ケーブルコネクタ10を意図的に抜出するときには,ケーブルコネクタ10の前端に設けられた持上げ部19に比較的大きな力を上方向に向け作用させる。この力は,…ケーブルコネクタ10を前端側がもち上がる上向き姿勢にもたらす。この姿勢は,図3(B)における実線の姿勢と同じであり,ロック突部21は突出部59と干渉することがなくロック溝部57の外部へ上昇でき,ケーブルコネクタ10の抜出が可能となる。」と記載されている。 そうすると,本件発明は,嵌合では,ケーブルコネクタの前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢から嵌合終了の姿勢への姿勢の変化に応じて,突出部に対するロック突部の位置が変化することにより,ロック突部が抜出方向で突出部と当接してケーブルコネクタの抜出を阻止する一方,嵌合の解除では,ケーブルコネクタの前端側が持ち上がる上向き姿勢となることで,突出部に対するロック突部の位置が元に戻り,ロック突部における抜出方向の突出部との当接が解除され,ロック溝部の外部へ上昇させることによるケーブルコネクタの抜出が可能となるという作用を奏するものであると認められる。 イ これに対し,引用発明は,嵌合の終了姿勢では,回転中心突起53が溝部49に形成された肩部56のケーブル44側に当接している状態にあるため,本件発明と同様に抜出を阻止する作用を奏しているものの,嵌合の解除姿勢では,回転中心突起53が溝部49に形成された肩部56のケーブル44側に当接されたままであるため,溝部49の突出部の回転中心突起53に対する干渉はなくなっておらず,相手コネクタ33の姿勢を上向き姿勢とするだけでは,相手コネクタ33の抜出はスムーズに行い得ない。 仮に,引用発明において,溝部49の突出部,すなわち,溝部49に形成された肩部56のケーブル44側の形状(角度)をなだらかなものとするならば,回転中心突起53が溝部49に形成された肩部56のケーブル44側に当接したままであっても,抜出可能とすることはできるものの,このような構成とした場合には,本来の嵌合状態での抜出阻止の作用を減じてしまうことになる。 ウ 以上によれば,本件発明において,相違点2に係る構成は,固有の作用を奏するものであって,単なる設計的事項にすぎないものであるということはできない。 したがって,相違点2は実質的なものである。 (4) 被告の主張について ア 被告は,引用例には,溝部49に挿入された回転中心突起53は溝部49の中間部分である肩部56で停止すること及びその後,回転中心突起53を反時計方向に回転させてロックさせることのみが記載され,回転中心突起53を右方向に水平移動することや回転中心突起53を中心に円運動することの記述はない,回転中心突起53を右方向に水平移動させ,その後に回転させるとなると,嵌合操作の作業工程として2工程になり,作業効率が低下することから,そのような操作を行うはずがない,などと主張する。 しかし,引用例には,回転中心突起53を支点として反時計回りに回転させると,それに従って,回転中心突起53が,溝部49内を右方向にスライドし,溝部49の突出部の下の位置まで移動するものであることを示す明示的な記載は全くない。 他方,引用例には,「先ず,相手コネクタ33は…或る角度を持った状態でその回転中心突起53をハウジング35の溝部49に挿入される。溝部49に挿入された回転中心突起53は,第3図に示すように,溝部49の中間部分の肩部56で停止する深さまで挿入される。…その後に,相手コネクタ33を反時計方向に回転させる。」と記載されているところ,第3図からは,回転中心突起53が,溝部49の中間部分の肩部56で停止する深さまで挿入され,かつ,右方向への水平移動が終了した状態にあることが見て取れる。 そうすると,引用例には,回転中心突起53を溝部49の中間部分である肩部で停止する深さまで挿入した後右方向に水平移動することについて,明示的な記載はないものの,当業者は,引用発明では,相手コネクタ33を反時計方向に回転させる前に,回転中心突起53の溝部49の肩部56内での右方向への水平移動が行われるものと理解するということができる。 そして,引用例の全体を通じて見ても,回転中心突起53の溝部49の肩部56内での右方向への水平移動の後に,相手コネクタ33の回転が行われるとの理解は,他の記載部分と何ら矛盾しない。被告は,回転中心突起53を右方向に水平移動させ,その後に回転させるとなると,嵌合操作の作業工程として2工程になり,作業効率が低下する旨主張するが,引用例には,回転中心突起53を右方向に水平移動するという操作を省略することによる作業効率の向上については,何らの記載も示唆もないから,引用例の前記記載にもかかわらず,当業者であれば,回転中心突起53を支点として反時計回りに回転させると,それに従って,回転中心突起53が,溝部49内を右方向にスライドし,溝部49の突出部の下の位置まで移動するものであると理解するということはできない。 以上によれば,引用例に,回転中心突起53を支点として反時計回りに回転させると,それに従って,回転中心突起53が,溝部49内を右方向にスライドし,溝部49の突出部の下の位置まで移動するものであること,すなわち,「相手コネクタ33の姿勢変化に応じて」,回転中心突起53が,溝部49に肩部56で停止する深さまで挿入された位置から溝部49の突出部下方の位置まで突出部に対する位置が移動するものであることが開示されているということはできない。 イ 被告は,相手コネクタ33のR面取り部の存在から,相手コネクタ33の回転により回転中心突起53が溝部右端に押し込まれることは嵌合操作の円滑性等の観点から見て合理的に理解できる旨主張する。 しかし,引用例には,引用発明において,R面取り部が,相手コネクタ33の回転により回転中心突起53を溝部49の右端に押し込む作用を期待して設けられているものであることについて,記載も示唆もない。 他方,R面取り部には,コネクタ31のハウジング35の側面47の内面と直角をなす端面と相手コネクタ33の先端下部とが衝突しないようにする作用も期待できるから,R面取り部の存在のみを根拠として,当業者であれば,引用発明が相手コネクタ33の回転により回転中心突起53を溝部49の右端に押し込むものであると当然に理解するということはできない。 ウ 被告は,乙1を見れば,回転中心突起53が肩部で停止した状態となった後,相手コネクタ33を反時計回りに回転させる操作,すなわち,相手コネクタ33を嵌合方向(上方向から下方向)に押し込む操作を行うと,相手コネクタ33は,押し込まれつつスライドするので,いわば滑って倒れるように姿勢が水平方向に変化し,回転中心突起53は肩部56上を略水平に右方向(軸線方向)へ移動して,溝部49の後部である突出部の下方に至り,相手コネクタ33をコネクタ31からコネクタ突合せ方向に直交する溝部方向に動かすことにはなり得ないこと,などを挙げ,引用発明においては,相手コネクタ33を回転中心突起53を支点として反時計回りに回転させると,それに従って,回転中心突起53が溝部内をスライドすると考えるのが自然であり,この場合,回転中心突起が嵌合方向で溝部内に進入した後,嵌合終了時までの間に,相手コネクタ33の姿勢変化に応じて,回転中心突起53は,溝部49に肩部56で停止する深さまで挿入された位置から溝部49の突出部下方の位置まで突出部に対する位置が移動するものであるから,相違点2は実質的な相違点ではない旨主張する。 しかし,乙1で用いられたサンプル模型と,引用例の第3図や第5図に示されたコネクタとでは,回転中心突起の径と溝部の幅との寸法比率,回転中心突起や溝部が設けられた位置などの点が相当に異なるものである。 よって,乙1から,引用発明において,回転中心突起53が肩部で停止した状態となった後,相手コネクタ33を嵌合方向(上方向から下方向)に押し込む操作を行った場合,相手コネクタ33をコネクタ31からコネクタ突合せ方向に直交する溝部方向に動かすことにはなり得ないなどということはできないし,乙1をもって,引用例の第3図及び第5図を見た当業者が,回転中心突起53を支点として反時計回りに回転させると,それに従って,回転中心突起53が,溝部49内を右方向にスライドし,溝部49の突出部の下の位置まで移動するものであると理解することが裏付けられているということもできない。 したがって,乙1の内容は,前記アの認定を左右しない。 エ 以上によれば,引用発明は,回転中心突起が嵌合方向で溝部内に進入した後,嵌合終了時までの間に,相手コネクタ33の姿勢変化に応じて,回転中心突起53は,溝部49に肩部56で停止する深さまで挿入された位置から溝部49の突出部下方の位置まで突出部に対する位置が移動するものであるということはできない。 (5) 小括 以上のとおり,相違点2は実質的な相違点であるところ,本件審決には,引用発明において,相違点2に係る本件発明の構成を備えることは容易に想到することができたことは,示されていない。 そして,本件審判手続における被告の主張(甲16,24,28)を参照したとしても,引用例には,溝部49の突出部に対する回転中心突起53の位置の変化を相手コネクタ33の姿勢の変化に応じたものとすることについて,記載も示唆もなく,また,引用発明と周知例4及び甲6ないし8に記載された各コネクタとでは,その構造や形状が大きく異なるから,引用発明において,上記各コネクタの嵌合過程における突起部と突出部との位置関係を適用しようとする動機付けがあるということはできないし,仮に適用を試みたとしても,引用発明において,相違点2に係る本件発明の構成を備えることが容易に想到することができたとは認められない。 したがって,本件審決における相違点2の判断の誤りは,本件審決の結論に影響を及ぼすものである。よって,取消事由3は,理由がある。 6 取消事由4(相違点3の判断の誤り)について(1) 相違点3について 引用発明において,相手コネクタ33とコネクタ31とがロックされた状態においては,回転中心突起53は溝部49の肩部56のケーブル側,すなわち,突出部の下方の位置にあるから,相手コネクタ33がその後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,回転中心突起53は,抜出方向で溝部49の突出部と当接し,これにより,回転中心突起53の抜出方向への移動が制限されることになる。 引用発明における上記作用は,本件発明でいう,「ケーブルコネクタの抜出を阻止するようになって」いることにほかならない。 したがって,相違点3は実質的な相違点であるということはできない。 (2) 原告の主張について ア 原告は,引用発明の回転中心突起53の形状は,基本的に円形状であり,せいぜい円滑な回転動作やコネクタの確実な嵌合に支障がでない限度で形状の変化が許容されているにすぎず,回転中心突起53を回転可能に支持する溝部49内方へ突出する部分の内面も,回転中心突起53の形状に対応して,円形状(半円形状)であるから,円形状の回転中心突起53と円形状(半円形状)に形成された出っ張り部分とが当接したところで,突出部分と回転中心突起53との間に,本件発明のような強い力に対抗できる実質的な引っ掛かりが形成されることはないなどと主張する。 しかし,前記4(1)のとおり,本件発明のロック突部は,平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間している形状を有し,ケーブルコネクタのケーブルに上向き方向の成分の力が作用しても,ロック突部が抜出方向でロック溝部の突出部と当接することにより,ケーブルコネクタの抜出を阻止するものであれば足り,その断面形状には,円形に近似するような,角数の多い多角形状も含まれるものと解される。 また,本件発明は,ロック溝部が,側壁面の前後方向でロック突部に対等する位置に溝部前縁と溝部後縁が形成されたものであること及びその突出部が,溝部前縁又は溝部後縁から溝内方へ突出するものであることを規定するのみで,ロック溝部やその突出部についても,その形状や大きさ,ロック突部の突部前縁及び突部後縁が有する平坦面部分との関係などについては,特に規定してないから,ロック溝部の突出部の形状には,円形(半円形)に近似するようなものも含まれるものと解される。 そうすると,本件発明におけるロック突部とロック溝部の突出部との引っ掛かりにより形成されるケーブルコネクタの上方への抜出を阻止する力と,引用発明における回転中心突起53と溝部49の突出部との引っ掛かりにより形成される相手コネクタ33の上方への抜出を阻止する力とは,その程度において格別の差があるということはできない。 イ また,原告は,回転中心突起53や溝部49は,プラスチック等の樹脂で形成されているところ,樹脂は容易に変形するものであるから,相手コネクタ33の後端側を持ち上げて反時計方向に回転させると,回転中心突起53や溝部49が変形してしまい,抜出を阻止できない旨主張する。 しかし,本件発明は,その特許請求の範囲において,ケーブルコネクタやレセプタクルコネクタの材料について何ら特定するものではないから,材料の持つ機械的強度の点において,本件発明におけるケーブルコネクタの上方への抜出を阻止する力と,引用発明における相手コネクタ33の上方への抜出を阻止する力とに,差があるということはできない。 (3) 小括以上によれば,取消事由4は,理由がない。 7 取消事由5(相違点4の判断の誤り)について (1) 相違点4について 本件審決は,引用発明において,相手コネクタ33の前端部の前方へ突出する操作部(持上げ部)を設け,相違点4に係る本件発明の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到し得たことである旨判断した。 しかし,相違点4は,本件発明では,ケーブルコネクタの前端部には前方へ突出する持上げ部が設けられているのに対し,引用発明では,相手方コネクタ33にはそのような持上げ部が設けられているとはされていないというのみならず,コネクタ嵌合状態で解除操作が,本件発明では,上記持上げ部を抜出方向に持ち上げることにより行われるのに対し,引用発明では,相手コネクタ33を時計方向に回転した後に,回転中心突起53を溝部49にて案内しつつ上方に引き抜くことにより行われるという点も含むものである。 (2) 相違点4の容易想到性 ア 本件発明は,前記5(3)のとおり,嵌合では,ケーブルコネクタの前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢から嵌合終了の姿勢への姿勢の変化に応じて,突出部に対するロック突部の位置が変化することにより,ロック突部が抜出方向で突出部と当接してケーブルコネクタの抜出を阻止する一方,嵌合の解除では,ケーブルコネクタの前端部に前方へ突出するように設けられた持上げ部を抜出方向に持ち上げることにより,ケーブルコネクタの前端側が持ち上がる上向き姿勢となることで,突出部に対するロック突部の位置が元に戻り,ロック突部における抜出方向の突出部との当接が解除され,ロック突部における突出部との干渉がなくなり,ロック溝部の外部へ上昇させることによるケーブルコネクタの抜出が可能となるという作用を奏するものであると認められる。 イ これに対し,引用発明は,前記5(2)のとおり,嵌合状態において,相手コネクタ33の姿勢の変化に応じて,回転中心突起53の溝部49の突出部に対する位置が変化するものであるということはできず,また,同(3)のとおり,嵌合の解除状態において,相手コネクタ33を時計方向に回転しただけでは,回転中心突起53が溝部49に形成された肩部56のケーブル44側に当接されたままであるため,溝部49の突出部の回転中心突起53に対する干渉はなくなっておらず,相手コネクタ33の姿勢を上向き姿勢とするだけでは,相手コネクタ33の抜出はスムースに行い得ない。引用発明においては,相手コネクタ33のコネクタ35からの抜出を可能とするには,相手コネクタ33の姿勢を上向き姿勢とした上で,コネクタ31の端部内面へ向かう突合方向に引っ張るような力を相手コネクタ33に加えることで,回転中心突起53を溝部49の肩部56の後部にある突出部の下方の当接位置(第3図の位置)から溝部49の直下の肩部56の位置にスライドし,回転中心突起53と溝部49の突出部との当接を解除する操作が,別途必要である。 ウ 以上によれば,仮に操作性を向上させるために操作部を操作対象となる機械要素に設けることや,コネクタの分野ではコネクタの前端部に前方へ突出する持上げ部を設けることが周知であったとしても,引用発明において,相手コネクタ33の前端部に前方へ突出する持上げ部を設けただけでは,相違点4に係る本件発明の構成には至らない。そして,本件発明において,相違点4に係る構成は,コネクタ嵌合状態の解除操作について固有の作用を奏するものであって,単なる設計的事項にすぎないということはできない。 さらに,引用発明において,相手コネクタ33の前端部に前方へ突出する持上げ部を設けたとしても,上記持上げ部で,相手コネクタ33をコネクタ31の端部内面へ向かう突合方向にスライドさせる操作を行うことが,左右端部に持上げ部を設けて,この操作を行う場合に比べ,容易になるものではなく,操作性の向上に寄与するということはできない。そうすると,引用発明において,コネクタの前端部に前方へ突出する持上げ部を設けることにつき,動機付けがあるということもできない。 エ したがって,引用発明において,相違点4に係る本件発明の構成を備えることに,当業者が容易に想到することができたということはできない。 (3) 小括 以上のとおり,本件審決における相違点4の容易想到性の判断は,誤りである。 よって,取消事由5は,理由がある。 8 結論 以上によれば,本件発明が引用発明及び周知例1ないし4に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた旨の本件審決の判断は,誤りである。よって,原告の本訴請求は理由があるから,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 部眞規子 |
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裁判官 | 柵木澄子 |
裁判官 | 片瀬亮 |