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事件 平成 26年 (ワ) 8137号 損害賠償請求事件

原告 JFE継手株式会社
同訴訟代理人弁護士 岩坪哲
同 速見禎
被告 株式会社ケーブイケー
同訴訟代理人弁護士 櫻林正己
同補佐人弁理士 小林徳夫
同 鈴木あかね
同 押見幸雄
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2016/06/23
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は,原告に対し,3億6300万円及びこれに対する平成26年9月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,発明の名称を「差込み式管継手」とする特許権を有する原告が,被告の製造,販売した配管用継手部材が当該発明の技術的範囲に属すると主張して,被告に対し,特許権侵害不法行為による損害賠償請求として,被告が得た利益の額に 1 相当する損害金3億3000万円と弁護士費用相当額3300万円を合計した3億6300万円及びこれに対する不法行為後であり,訴状送達の日の翌日である平成26年9月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがない。) (1) 当事者 原告及び被告は,それぞれ,継手製品を製造,販売する株式会社である。
(2) 原告の有する特許権 原告は,以下の特許(以下「本件特許」といい,本件特許に係る発明を「本件特許発明」という。また,本件特許の特許出願を「本件特許出願」といい,本件特許出願の願書に添付された明細書及び図面をまとめて「本件明細書」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する。
特許番号 第4268811号 発明の名称 差込み式管継手 出願日 平成15年1月29日 登録日 平成21年2月27日 訂正日 平成26年7月7日 特許請求の範囲 【請求項1】 継手本体に,弾性シールリング,抜止めリング,及びテーパ付リングを備えており,前記継手本体は軸心方向一端部に内外二重筒体を有し,内筒体は継手本体と一体に形成され,外筒体は,継手本体とは別体に形成されて,内筒体の外周との間に管差込み間隙を形成するよう継手本体に結合されており,前記内筒体の外周にはシールリング溝を形成し,このシールリング溝に,前記管差込み間隙内に挿入される管の外径よりも小さく,内径よりも大きい外径をもつ前記弾性シールリングが嵌め込まれており,前記抜止めリングは,前記外筒体の内部に配備され,内径部に前記 2 管の外周面に食い込む拡縮径変形自在な食込み歯を設けており,該食込み歯は食込み歯逃し用テーパと対向され,前記テーパ付リングは内径部に前方拡がり状のテーパを付けており,このテーパ付リングが前記内筒体の外周の前記弾性シールリングより軸方向外方部位と,前記外筒体の内周の前記抜止めリングより軸方向内方部位との間に,前記管の一端部で押されるまま前端部を前記管差込み間隙の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれていることを特徴とする,差込み式管継手。
(3) 構成要件の分説 本件特許発明構成要件に分説すると,以下のとおりである。
A 継手本体に,弾性シールリング,抜止めリング,及びテーパ付リングを備えており, B 前記継手本体は軸心方向一端部に内外二重筒体を有し,内筒体は継手本体と一体に形成され,外筒体は,継手本体とは別体に形成されて,内筒体の外周との間に管差込み間隙を形成するよう継手本体に結合されており, C 前記内筒体の外周にはシールリング溝を形成し,このシールリング溝に,前記管差込み間隙内に挿入される管の外径よりも小さく,内径よりも大きい外径をもつ前記弾性シールリングが嵌め込まれており, D 前記抜止めリングは,前記外筒体の内部に配備され,内径部に前記管の外周面に食い込む拡縮径変形自在な食込み歯を設けており,該食込み歯は食込み歯逃し用テーパと対向され, E 前記テーパ付リングは内径部に前方拡がり状のテーパを付けており,このテーパ付リングが前記内筒体の外周の前記弾性シールリングより軸方向外方部位と,前記外筒体の内周の前記抜止めリングより軸方向内方部位との間に,前記管の一端部で押されるまま前端部を前記管差込み間隙の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれていることを特徴とする, F 差込み式管継手。
3 (4) 被告の行為 被告は,別紙被告物件説明書記載の配管用継手部材(以下「被告製品」という。)を製造,販売している(ただし,同記載1(3)の配管用継手部材の存否には争いがあり,また,後記のとおり,同記載2「構成」については,一部争いがある。 。
) 被告製品において,管を挿入する継手部分の構成は同一である。
被告製品は,本件特許発明構成要件C,D及びFを充足する。
2 争点 (1) 被告製品は,本件特許発明技術的範囲に属するか(争点1) (2) 本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものであるか ア 乙3公報を主引例とする進歩性欠如(争点2-1) イ 乙6公報を主引例とする進歩性欠如(争点2-2) ウ 乙5公報を主引例とする進歩性欠如(争点2-3) エ 公然実施発明を主引例とする進歩性欠如(争点2-4) オ 乙23公報を主引例とする進歩性欠如(争点2-5) カ 乙25公報を主引例とする進歩性欠如(争点2-6) (3) 損害額(争点3)
争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告製品は,本件特許発明技術的範囲に属するか)について 【原告の主張】 (1) 被告製品の構成 被告製品の構成は,別紙被告物件説明書記載2「構成」のとおりである。
(2) 構成要件Aの充足性 被告製品のステンレス製挿入ガイドは先端がアール状に屈曲することにより前拡がりのテーパ面を形成しており,構成要件Aのテーパ付リングに相当する。また,三角パッキンはエチレン・プロピレン・ジエンゴム製であり,弾性を有し,構成要件Aの弾性シールリングに相当する。被告製品のステンレス製抜け止めリングは構 4 成要件Aの抜止めリングに相当する。
(3) 構成要件Bの充足性 「別」とは「わけること」との意味であり,内筒体が継手本体と「一体に形成される」,すなわち,わけずに形成されることとの対照において,外筒体が継手本体とは別体,すなわち,継手本体とわけて形成された部材であればよく,当該外筒体が接着剤で継手本体に固着されていようがいまいが,被告製品の外筒体が,継手本体と別体に形成され,継手本体と結合されていることに変わりはなく,本件明細書に記載された課題解決 【0004】 が可能で, ( ) 本件明細書に記載された効果 【0 (029】)を奏する。 したがって,外筒体を継手本体から取り外し可能とすることは要せず,被告製品は,構成要件Bを充足する。
(4) 構成要件C及びDの充足性 前提事実(4)記載のとおりである。
(5) 構成要件Eの充足性 被告製品の挿入ガイドの形状は ,テーパ状(略直線状)に ,十分な「前方拡がり状のテーパ(円錐状に直径が次第に減少している勾配) が設けられており , 」被告製品の挿入ガイドはテーパ付リングに相当する。
被告製品においては ,軸方向内方側の三角パッキンが「弾性シールリング」に相当する。弾性シールリングが複数存在する場合,テーパ付リングが,どれか一つの弾性シールリングより軸方向外方部位にあれば足りる。被告製品の挿入ガイド(テーパ付リングに相当)は,内筒体の外周の三角パッキン(弾性シールリングに相当)より軸方向外方部位と,抜け止めリングより軸方向内方部位との間にあり,被告製品は構成要件Eを充足する。
(6) 構成要件Fの充足性 前提事実(4)記載のとおりである。
【被告の主張】 (1) 被告製品の構成について 5 別紙被告物件説明書記載2「構成」のうち, 「外筒体は継手本体と別体に,内筒体は継手本体と一体に形成され,外筒体2と内筒体3との間に管差込み間隙4が形成されている。」とあるのは,「外筒体2は継手本体1とは別体に形成されて,外筒体2は継手本体1に所 定圧力 で螺 合さ れる ととも に接 着剤 で接 着され るこ とにより外筒体2が継手本体1から取り外しできないように固着され,外筒体2と内筒体3との間に管差込み間隙4が形成されている。」とすべきであり,また,「前記三角パッキン4より軸方向外方(管入口側)部位と,前記抜け止めリング5より軸方向内方(管挿入側)部位との間には,」とあるのは,「前記二つある三角パッキン4のうち,軸方向内方(管挿入側)寄りの三角パッキン4より軸方向外方(管入口側)部位で,かつ,軸方向外方(管入口側)寄りの三角パッキン4より軸方向内方(管挿入側)部位で,前記抜け止めリング5より軸方向内方(管挿入側)部位との間に,」とすべきであり,その余は認める。
(2) 構成要件Aの充足性について 本件特許発明の「テーパ」は「円錐状に直径が次第に減少している状態。また,その勾配」と定義されるから,円錐状すなわち直線ではない曲線(アール)は「テーパ」に含まれない。
被告製品の挿入ガイドは,先端がアール状に屈曲している点で「テーパ」ではないから,「テーパ付リング」に該当しない。
(3) 構成要件Bの充足性について 構成要件Bにおいて,内筒体が継手本体と「一体」であるのに対して,外筒体は継手本体と「別体」であることが明記されている。本件特許発明において「外筒体は,継手本体と別体に形成する」構成を採用した技術的意義を考慮すると,外筒体を内筒体から取り外すことにより管を継手本体から取り外すことができるように外筒体が継手本体に結合されていることを要する。
これに対し,被告製品では,外筒体は継手本体に所定圧力で螺合されるとともに,外れないように接着剤で固着されていて ,外筒体も管自体も継手本体から 6 取り外すことはでき ない。
(4) 構成要件Eの充足性について 本件特許発明の作用効果は, (前方拡がり状の)テーパ」が弾性シールリングを 「圧縮することによって,弾性シールリングに突っ掛かることなく管をスムーズに挿入できることにあるから,内筒体に弾性シールリングが複数ある場合,テーパ付リングは全ての弾性シールリングより軸方向外方部位にあることを意味する。
被告製品は二つの三角パッキンを有するが,挿入ガイド,特に先端のアール部は,軸方向外方の三角パッキンよりも内方に位置しており,構成要件Eを充足しない。
2-1 争点2-1(乙3公報を主引例とする進歩性欠如)について 【被告の主張】 以下のとおり,本件特許発明は,当業者が,本件特許出願前に頒布された特開2002-31282号公報(以下「乙3公報」という。 に記載された発明 ) (以下「乙3発明」という。 に, ) 特開2002-81587号公報(以下「乙4公報」という。)に記載された発明(以下「乙4発明」という。 ,特開2001-146991号公 )報(以下「乙6公報」という。)に記載された発明(以下「乙6発明」という。)及び特開平11-336964号公報(以下「乙7公報」という。)に記載された発明(以下「乙7発明」という。)を適用することによって,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許発明進歩性を欠き,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。
(1) 乙3発明 乙3公報には,以下の発明(乙3発明)が記載されている。
a1 継手本体2に,シール部材4,抜け止めリング8を備えているが,テーパ付リングがなく, b1 前記継手本体2は軸心方向一端部に内外二重筒体を有し,内筒体(挿入筒部3)は継手本体2と一体に形成され,外筒体(カバー14及び袋ナット10)は,継手本体2とは別体に形成されて,内筒体(挿入筒部3)の外周との間に管差 7 込み間隙を形成するよう継手本体2に結合されており, c1 前記内筒体(挿入筒部3)の外周には凹周溝7を形成し,この凹周溝7に,前記管差込み間隙内に挿入されるパイプ1の外径よりも小さく,内径よりも大きい外径をもつ前記シール部材4が嵌め込まれており, d1 前記抜け止めリング8は,前記外筒体(カバー14及び袋ナット10)の内部に配備され,内径部に前記パイプ1の外周面に食い込む拡縮径変形自在な歯部12を設けており, e1 該歯部12は歯部12逃がし用の空間を介して締付環体5の端面と対向されており, f1 前記内筒体(挿入筒部3)の外周の前記シール部材4は,前記外筒体(カバー14及び袋ナット10)の内周の前記抜け止めリング8より軸方向内方部位に,位置することを特徴とする, g1 管継手C。
(2) 本件特許発明と乙3発明との対比本件特許発明と乙3発明の相違点は,以下のとおりである。
ア 相違点1 本件特許発明はテーパ付リングを備え,当該テーパ付リングは内径部に前方拡がり状のテーパを付けており,このテーパ付リングが前記内筒体の外周の前記弾性シールリングより軸方向外方部位と,前記外筒部の内周の前記抜止めリングより軸方向内方部位との間に,前記管の一端部で押されるまま前端部を前記差込間隙の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれているのに対し,乙3発明は前記内筒体(挿入筒部3)の外周の前記シール部材4は前記外筒体(カバー14及び袋ナット10)の内周の前記抜け止めリング8より軸方向内方部位に位置するものの,テーパ付リングを備えていない点 イ 相違点2 本件特許発明の抜止めリングの食込み歯は,食込み歯逃し用のテーパと対向して 8 いるのに対し,乙3発明の抜け止めリング8の食込み歯(歯部12)の食込み歯逃し用の空間を介する対向面がテーパではない点 (3) 相違点に係る構成の容易想到性 ア 相違点1について 乙4発明のテーパ付リング22の構成を,乙3発明に適用して, 「挿入筒部3の外周のシール部材4より軸方向外方部位にテーパ24が管差込み間隙の内奥へ向くように」嵌め込むと,構成要件A,Fと同一となる。
ここで,乙3発明の管継手に挿入されるパイプ1の面取り加工と,乙4発明のテーパ付リング22とは,管継手内部に配置されたシール部材に対する突っ掛かりを抑制する点において作用,機能が共通する。
したがって,乙3発明に記載されるパイプ1の面取り加工に代えて,パイプ1への突っ掛かりを抑制する手段として乙4発明のテーパ付リング22を転用することは,当業者において,容易になし得る事項である。
イ 相違点2について 抜止めリングが,その拡縮径変形自在な食込み歯により管の外周面に食い込む機能を発揮するためには,管が挿入された時,その動きに追随して内方へ移動する食込み歯の動きを許容する空間を,食込み歯と対向する位置に設ける必要がある。その際,食込み歯と対向する当該空間の形状を食込み歯の拡径形状に沿うようテーパ状とするか,それ以外の形状にするかは,当業者における適宜の設計事項にすぎない。このことは,乙6公報,乙7公報に開示されているように,周知慣用技術でもある。
したがって,乙3発明の締付環体5の端面に,拡径する歯部12の内方への動きを許容する手段としてテーパ面を適用することは容易である。
(4) 本件特許発明の効果 原告は,本件特許発明の技術的意味について主張するが,本件特許発明は,原告の主張する効果を生じさせることを技術思想として発明されたものではない。原告 9 主張の効果は,原告が挙げた本件明細書の特定の実施例に限定した構成によってしか説明されない効果であり,いずれも本件明細書に記載された従来技術と課題や,その解決手段の記載に裏付けられておらず,本件特許発明の技術的意味として構成されたものではない。
また,部材費が上がっても組付費などが低減することにより総合的な単価が低下したり,あるいは単価は下がらないものの作業性が良くなる等のメリットを見出す場合もあり,一律に部材費のみが低ければいいとは決めつけられない。
テーパ付リングの位置を抜止めリングの軸方向外方としても,当業者が,継手長を短くして,部材費を減らし取回し性も良くしようとすれば当然に考慮することである。
【原告の主張】 (1) 乙3発明の認定は,否認する。正しくは,次のとおりである。
a1 継手本体2に ,シール部材4,抜け止めリング8,締付環体5及び拡径片6を備え, b1 前記継手本体2は軸心方向一端部に内外二重筒体を有し ,内筒体(挿入筒部3)は継手本体2と一体に形成され ,外筒体(カバー14及び袋ナット10)は,継手本体2とは別体に形成されて ,内筒体(挿入筒部3)の外周との間に管差込み間隙を形成するよう継手本体2に結合されており, c1 前記内筒体(挿入筒部3)の外周には凹周溝7を形成し ,この凹周溝7に, 前記管差込み間隙内に挿入されるパイプ1の外径よりも小さい前記シール部材4が嵌め込まれ ,外筒体(カバー14及び袋ナット10)の内部に締付環体5が配備され ,拡径片6は締付環体5より軸方向内方に配備され ,パイプ1を挿入可能な程度に締付環体5を拡径しており , d1 前記抜け止めリング8は ,前記外筒体(カバー14 及び袋ナット10)の内部に配備され ,内径部に前記パイプ1の外周面に食い込む拡縮径変形自在な歯部12を設けており, 10 e1 パイプ1を内筒体(挿入筒部3)に外嵌し ,挿入していくと,パイプ1の先端面が拡径片6を押圧し ,拡径片が締付環体5から離脱することで ,締付環体5がパイプ1の端部を弾発的な締め付け力で締め付ける f1 管継手C。
(2) 本件特許発明と乙3発明との対比について 以上に基づくと,本件特許発明と乙3発明の相違点は,以下のとおりである。
ア 相違点1 本件特許発明はテーパ付リングを備え ,当該テーパ付リングは内径部に前方拡がり状のテーパを付けており ,このテーパ付リングが前記内筒体の外周の前記弾性シールリングより軸方向外方部位と ,前記外筒部の内周の前記抜止めリングより軸方向内方部位との間に ,前記管の一端部で押されるまま前端部を前記差込み間隙の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれているのに対し,乙3発明はテーパ付リングを備えず ,締付環体5と拡径片6を備え ,パイプを内筒体(挿入筒部3)に外嵌し ,挿入していくと,パイプ1の先端面が拡径片6を押圧し ,拡径片が締付環体5から離脱することで ,締付環体5がパイプ1の端部を弾発的な締め付け力で締め付ける点 イ 相違点2 本件特許発明の抜止めリングの 食込み 歯は, 食込み歯逃がし用のテーパと対向しているのに対し ,乙3発明にはこのような構成について開示がない点 ウ 相違点3 本件特許発明の弾性シールリングは ,差込み間隙内に挿入される管の外径よりも小さく,内径よりも大きい外径をもつのに対し,乙3発明のシール部材は,差込み間隙内に挿入される管の外径よりも小さい外径をもつが ,管の内径より大きいか否か不明な点 (3) 相違点に係る構成の容易想到性について ア 相違点1について 11 (ア) 乙4発明には,そもそも,相違点1のうち「内筒体の外周の前記弾性シールリングより軸方向外方部位と ,前記外筒部の内周の前記抜止めリングより軸方向内方部位との間に ,・・・嵌め込まれている」構成については開示されておらず,そのように改変するよう組み合わせることは恣意的である 。
(イ) 乙3発明は,締付環体5でパイプ外周面から締め付け ,シール部材4をパイプ内周面に密着させる方式(締付環体方式)を採用 しており,パイプ端部の面取り加工によりシール部材4に 突っ掛かる不具合を解消しているとの開示はなく,実施品でも面取り加工をしないよう求めている のに対し,乙4発明は,弾性シールリングにより内周面を強く押さえ ることで,外周面側からの押さえつ けなしでシール性・止水性を維持する方式(内面シール方式)を採用しており,乙3発明と乙4発明とではパイプ挿入時の突っ掛かりの課題の有無が異なるから,乙4発明のテーパ付リングを乙3発明に適用する動機付けがない。
(ウ) 乙3発明では,パイプ1が差し込まれる管差込み間隙内に拡径片6が存在しているので,乙3発明に,乙4発明のテーパ付リングを採用すると ,テーパ付リングは, 拡径片6が障害となって管差込み間隙の内奥へ向けて軸方向内方へ移動することができなくなるから ,乙4発明を,乙3発明に適用するのには,阻害要因がある。
イ 相違点2について (ア) 乙3発明には「歯部12逃がし用の空間」が 開示されていないから,空間の形状が設計事項であるとの前提を欠く。
(イ) 乙6公報及び乙7公報にも ,食込み 歯は,食込み歯逃がし用のテーパと対向しているとの構成 は明示されておらず,周知慣用技術とはいえない。
また,乙3発明の抜け止めリングは ,それ自体,実用に耐える構成として完成されているから,あえて改変を加える動機付けはない。
ウ 相違点3について 12 乙3発明そのままであれば ,パイプがシール部材4に突っ 掛かる という問題点が生じないところ ,これにあえて,乙4発明の構成を適用し,シール部材の外径を挿入される管の内径よりも大きくすると ,パイプ挿入時にシール部材4に突っ掛かりが生じるという問題点が生じる。これを解消するためには ,わざわざパイプの面取りを施さなければならないという新たな課題が生じる。このような新たな課題を発生させるような改変を行う動機付けは見当たらない。
(4) 本件特許発明の効果について 本件特許発明において , あえて「テーパ付リングが前記内筒体の外周の前記弾性シールリングより軸方向外方部位と ,前記外筒体の内周の前記抜止めリングより軸方向内方部位との間に ・・・嵌め込まれている」と規定されている構成に接すれば,当業者は,ためらい挿入の防止,斜め挿入への対応,継手長の短縮等の効果が奏されること を理解できる。
具体的には,本件特許発明のように,軸方向外方から軸方向内方に向かって ,抜止めリング,テーパ付リング ,弾性シールリングの順に位置する 場合,最初に抜止めリングを通過するので ,使用者が一瞬ためらってパイプを一度引き抜こうとしても,引き抜きにくく ,そのまま管の挿入を継続する。このように ,上記の位置関係には,「ためらい挿入」防止という技術的意味がある。
また,軸方向外方 から軸方向内方に向かって ,抜止めリング ,テーパ付リ ング,弾性シールリングの順に位置する 場合,テーパ付リングが管軸に真っ直ぐの状態で弾性シールリングの直前に配置されているので , 「斜め挿入」されたとしても,所期のとおりテーパ付リングのテーパ部分が弾性シールリングに当接し,正常な挿入が可能となり やすい。パイプ端部が外筒と内筒の間や抜止めリングを通過することでテーパ付リングに接するまでにパイプの挿入が管軸に真っ直ぐになり,パイプが比較的真っ直ぐな状態でテーパ付リングに当接するので,この点でも正常な挿入が可能となり やすい。このように,本件特許発明には,斜め挿入へ対応するという技術的意味がある。
13 さらに,乙23発明の継手のような例外的な 構造があるものの, 一般的には,軸方向外方から軸方向内方に向かって ,抜止めリング,テーパ付リング ,弾性シールリングという順とする方が継手の長さを短くし やすく,本件特許発明には,継手長の短縮,部材費・加工費の削減という意味がある。
これに対し,乙23発明,乙4発明,乙5発明には,当業者が,ためらい挿入防止,斜め挿入への対応,継手長の短縮等を意図して当該構成へと改変する示唆はない。
2-2 争点2-2(乙6公報を主引例とする進歩性欠如)について 【被告の主張】 以下のとおり,本件特許発明は,当業者が,本件特許出願前に頒布された乙6公報に記載された乙6発明に,乙4発明を適用することによって,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許発明進歩性を欠き,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。
(1) 乙6発明 乙6公報には,以下の発明(乙6発明)が記載されている。
a2 継手本体2に,シール部材6,抜け止めリング8を備えているが,テーパ付リングがなく, b2 前記継手本体2は軸心方向一端部に内外二重筒体を有し,内筒体(挿入筒部3)は継手本体2と一体に形成され,外筒体(袋ナット10)は,継手本体2とは別体に形成されて,内筒体(挿入筒部3)の外周との間に管差込み間隙を形成するよう継手本体2に結合されており, c2 前記内筒体(挿入筒部3)の外周には凹周溝7を形成し,この凹周溝7に,前記管差込み間隙内に挿入されるパイプ1の外径よりも小さく,内径よりも大きい外径をもつ前記シール部材6が嵌め込まれており, d2 前記抜け止めリング8は,前記外筒体(袋ナット10)の内部に配備され,内径部に前記パイプ1の外周面に食い込む拡縮径変形自在な掛止刃12を設 14 けており, e2 該掛止刃12は掛止刃12逃がし用のテーパを介して締付環体4の端面と対向されており, f2 前記内筒体(挿入筒部3)の外周の前記シール部材6は,前記外筒体(袋ナット10)の内周の前記抜け止めリング8より軸方向内方部位に,位置することを特徴とする, g2 管継手C。
(2) 本件特許発明と乙6発明との対比 本件特許発明と乙6発明の相違点は,以下のとおりである。
本件特許発明はテーパ付リングを備え,当該テーパ付リングは内径部に前方拡がり状のテーパを付けており,このテーパ付リングが前記内筒体の外周の前記弾性シールリングより軸方向外方部位と,前記外筒部の内周の前記抜止めリングよりも軸方向内方部位との間に,前記管の一端部で押されるまま前端部を前記差込間隙の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれているのに対して,乙6発明は,前記内筒体(挿入筒部3)の外周の前記シール部材6が前記外筒体(袋ナット10)の内周の前記抜け止めリング8より軸方向内方部位に位置するものの,テーパ付リングを備えていない点 (3) 相違点に係る構成の容易想到性 乙4発明には,テーパ付リングが開示されている。そして,テーパ付リングを採用する時には,その目的はシールリングを保護することにあるから,シールリングより手前に配設する必要がある。同時に,管継手から落ちないようにする必要があるから,当然のごとく,抜け止めリングの内側に配設される。そのように乙4発明のテーパ付リング22の構成を乙6発明に適用して,挿入筒部3の外周のシール部 「材6より軸方向外方部位にテーパ24が管差込み間隙の内奥へ向くように」嵌め込むと,構成要件A,Fと同一となる。
ここで,乙6発明の管継手に挿入されるパイプ1の面取り加工と,乙4発明のテ 15 ーパ付リング22とは,管継手内部に配置されたシール部材に対する突っ掛かりを抑制する点において作用,機能が共通する。
したがって,乙6発明のパイプ1の面取り加工に代えて,パイプ1への突っ掛かりを抑制する手段として,乙4発明のテーパ付リング22を適用することは容易である。
【原告の主張】 (1) 乙6発明の認定は,否認する。正しくは,次のとおりである。
a2 継手本体2に ,シール部材6,抜け止めリング8,締付環体4及び拡径ワッシャー5を備え, b2 前記継手本体2は軸心方向一端部に内外二重筒体を有し ,内筒体(挿入筒部3)は継手本体2と一体に形成され ,外筒体(袋ナット10)は ,継手本体2とは別体に形成されて ,内筒体(挿入筒部3)の外周との間に管差込み間隙を形成するよう継手本体2に結合されており, c2 前記内筒体(挿入筒部3)の外周には凹周溝7を形成し ,この凹周溝7に, 前記管差込み間隙内に挿入されるパイプ1の外径よりも小さい前記シール部材6が嵌め込まれ ,外筒体(袋ナット10)の内部に締付環体4が配備され,拡径ワッシャー5は締付環体4に圧入され ,パイプを挿入可能な程度に締付環体4を拡径しており , d2 前記抜け止めリング8は ,前記外筒体(袋ナット10)の内部に配備され, 内径部に前記パイプ1の外周面に食い込む拡縮径変形自在な掛止刃12を設けており, e2 パイプ1を内筒体(挿入筒部3)に外嵌し ,挿入していくと,パイプ1の先端面が拡径ワッシャー5を押圧し ,拡径ワッシャー5が締付環体4から離脱することで ,締付環体4がパイプ1の端部を弾発的な締め付け力で締め付ける f2 管継手C。
16 (2) 本件特許発明と乙6発明との対比について以上に基づくと,本件特許発明と乙6発明の相違点は,以下のとおりである。
ア 相違点1 本件特許発明はテーパ付リングを備え ,当該テーパ付リングは内径部に前方拡がり状のテーパを付けており ,このテーパ付リングが前記内筒体の外周の前記弾性シールリングより軸方向外方部位と ,前記外筒部の内周の前記抜止めリングより軸方向内方部位との間に ,前記管の一端部で押されるまま前端部を前記差込み間隙の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれているのに対し,乙6発明はテーパ付リングを備えず ,締付環体4と拡径ワッシャー5を備え,パイプを内筒体(挿入筒部3)に外嵌し ,挿入していくと,パイプ1の先端面が拡径ワッシャー5を押圧し ,拡径片が締付環体4から離脱することで,締付環体4がパイプ1の端部を弾発的な締め付け力で締め付ける点 イ 相違点2 本件特許発明の抜け止めリングの 食込み歯は ,食込み歯逃がし用のテーパと対向しているのに対し,乙6発明にはこのような構成について開示がない点 ウ 相違点3 本件特許発明の弾性シールリングは ,差込み間隙内に挿入される管の外径よりも小さく,内径よりも大きい外径をもつのに対し,乙6発明のシール部材は,差込み間隙内に挿入される管の外径よりも小さい外径をもつが ,管の内径より大きいか否か不明な点 (3) 相違点に係る構成の容易想到性について相違点1ないし3に係る構成に容易想到性がないことは,争点2-1の【原告の主張】における相違点1ないし3の容易想到性に関する主張と同様である。
2-3 争点2-3(乙5公報を主引例とする進歩性欠如)について 【被告の主張】以下のとおり,本件特許発明は,当業者が,本件特許出願前に頒布された特開2 17 001-295966号公報(以下「乙5公報」という。)に記載された発明(以下「乙5発明」という。 に, ) 乙3発明,特開2000-320759号公報(以下「乙8公報」という。)に記載された発明(以下「乙8発明」という。)及び特開2001-208256号公報(以下「乙9公報」という。)に記載された発明(以下「乙9発明」という。)を適用することによって,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許発明進歩性を欠き,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。
(1) 乙5発明 乙5公報には,以下の発明(乙5発明)が記載されている。
a3 継手本体(本体13a)に,シール部材15,ロックリング29及びスリーブ31を備えており, b3 前記継手本体(本体13a)は軸心方向一端部に内外二重筒体を有し,内筒体(コア部14)は継手本体(本体13a)と一体に形成され,外筒体(キャップ13b)は,継手本体(本体13a)とは別体に形成されて,内筒体(コア部14)の外周との間に管差込み間隙を形成するよう継手本体(本体13a)に結合されており, c3 前記内筒体(コア部14)の外周には環状溝15aを形成し,この環状溝15aに,前記管差込み間隙内に挿入されるパイプ12の外径よりも小さく,内径よりも大きい外径をもつ前記シール部材15が嵌め込まれており, d3 前記ロックリング29は,前記外筒体(キャップ13b)の内部に配備され,内径部に前記パイプ12の外周面に食い込む拡縮径変形自在な規制片29bを設けており, e3 該規制片29bは規制片29bが変形できる空間を介して当接面24と対向され, f3 前記スリーブ31は内径部に前方拡がり状のテーパを付けており,このスリーブ31が前記内筒体(コア部14)の外周の前記シール部材15より軸方 18 向外方部位であり,前記外筒体(キャップ13b)の内周の前記ロックリング29より軸方向外方部位に,前記パイプ12の一端部で押されるまま前端部を前記管差込み間隙の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれていることを特徴とする, g3 継手。
(2) 本件特許発明と乙5発明との対比 本件特許発明と乙5発明の相違点は,以下のとおりである。
本件特許発明はテーパ付リングを備え,当該テーパ付リングは内径部に前方拡がり状のテーパを付けており,このテーパ付リングが前記内筒体の外周の前記弾性シールリングより軸方向外方部位と,前記外筒体の内周の前記抜止めリングより軸方向内方部位との間に,前記管の一端部で押されるまま前端部を前記管差込み間隙の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれているのに対し,乙5発明は,スリーブ31を備え,当該スリーブ31は内径部に前方拡がり状のテーパを付けており,このスリーブ31が前記内筒体(コア部14)の外周の前記シール部材15より軸方向外方部位に,前記パイプ12の一端部で押されるまま前端部を前記管差込み間隙の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれているものの,スリーブ31は,前記外筒体(キャップ13b)の内周の前記ロックリング29より軸方向内方部位にない点 (3) 相違点に係る構成の容易想到性 乙3発明の抜け止めリング8がシール部材4より軸方向外方部位に固定された外筒体(カバー14及び袋ナット10),締付環体5及び拡径片6の構成を,乙5発明に適用すると,構成要件Fと同一となる。
そして,乙5発明,乙3発明,乙8発明及び乙9発明の技術分野は共通しているところ,乙5発明において,ロックリング29の位置を変更することが周知慣用技術であることを示す乙8発明,乙9発明の技術思想の下,乙3発明のカバー14及び袋ナット10で固定される抜け止めリング8を適用して,ロックリング29をス 19 リーブ31より軸方向外方部位に変更することは容易である。
【原告の主張】 (1) 乙5発明の認定は,否認する。正しくは,次のとおりである。
a3 継手本体(本体13a)に ,シール部材15,ロックリング29及びスリーブ31を備えており, b3 前記継手本体(本体13a)は軸心方向一端部に内外二重筒体を有し,内筒体(コア部14)は継手本体(本体13)と一体に形成され ,外筒体(キャップ13b)は ,継手本体(本体13)とは別体に形成されて ,内筒体(コア部14)の外周との間に管差込み間隙を形成するよう継手本体(本体13a)に結合されており, c3 前記内筒体(コア部14)の外周には環状溝15aを形成し ,この環状溝15aに, 前記管差込み間隙内に挿入されるパイプ12の外形よりも小さく,内径よりも大きい外径をもつ前記シール部材15が嵌め込まれており , d3 前記ロックリング29は ,前記外筒体(キャップ13b)の内部に配備され,内径部に前記パイプ12の外周面に食い込む拡縮径変形自在な規制片29bを設けており ,該規制片29bは規制片29bが変 形できる空間を介して当接面24と対向され , e3 前記スリーブ31は軸線に対して直交して円環状に外方へ突出する鍔31aを備え, このスリーブ31が前記内筒体(コア部14)の外周の前記シール部材15より軸方向外方部位であり ,前記外筒体(キャップ13b)の内部に配備された前記ロックリング29より軸方向外方部位に ,前記パイプ12の一端部で押されるままに前端部を前記管差込み間隙の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれていることを特徴とする f3 継手。
(2) 本件特許発明と乙5発明との対比について 以上に基づくと,本件特許発明と乙5発明の相違点は,以下のとおりである。
20 ア 相違点1 本件特許発明はテーパ付リングを備え ,当該テーパ付リングは内径部に前方拡がり状のテーパを付けており ,このテーパ付リングが前記内筒体の外周の前記弾性シールリングより軸方向外方部位と ,前記外筒部の内周の前記抜止めリングより軸方向内方部位との間に ,前記管の一端部で押されるまま前端部を前記差込み間隙の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれているのに対し,乙5発明は ,軸線に対して直交して円環状に外方へ突出する鍔31aを備えるスリーブ31を備え , 当該スリーブ31が前記内筒体(コア部14)の外周の前記シール部材15より軸方向外方部位であり ,前記外筒体(キャップ13b)の内部に配備された前記ロックリング29より軸方向外方部位に ,前記パイプ12の一端部で押されるままに前端部を前記管差込み間隙の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれている点 イ 相違点2 本件特許発明の抜止めリングの食込み歯は , 食込み歯逃がし用テーパと対向しているのに対し,乙5発明はこのような構成を備えない点 (3) 相違点に係る構成の容易想到性について ア 相違点1について (ア) 乙3公報にはそもそもテーパ付リングが記載されておらず ,相違点1に係る構成の開示がない。
(イ) 止水方式について, 乙3 発明は締付環体方式,乙5発明は乙4発明と同様に内面シール方式であるところ,これらの シール性の確保の方法を重畳的に適用するのは非効率的であ るから,乙5発明に,乙3 発明の抜け止めリング8,締付環体5及び拡径片6の構成を適用する ことはあり得ない。
(ウ) 乙5発明に,乙3発明の抜け止めリング8,締付環体5及び拡径片6の構成を適用して,締付環体5がシール部材15に対応する位置で締付環体がパイプの外周面を締め付けると ,その部分に,金属筒のため外周からの締 21 め付けに強いと考えられ るスリーブ31も残存し,パイプを締め付ける力が相殺されてしまうから,スリーブ31と締付環体5 を組み合わせる動機付けはない。
(エ) 乙5発明のロックリングの位置を,入口側にあえて移行しても特にメリットが見当たらない反面,部品点数や組み立て工数が増加するデメリットがあるから,そのように改変する動機付けはない。
(オ) 止水方式が締付環体方式でない 乙8発明や乙9発明はいずれも乙3発明のような締付環体を用いたシール ,止水を実現するものではなく ,乙8発明や乙9発明の存在をもって ,乙5発明に乙3発明を適用することの説明とはなり得ない。
イ 相違点2について 乙5発明のロックリングは,それ自体,実用に耐える構成として完成されているから,あえてその改変をする動機付けはない。
2-4 争点2-4(公然実施発明を主引例とする進歩性欠如)について 【被告の主張】 以下のとおり,本件特許発明は,本件特許出願前に製造,販売されていた被告旧製品に係る発明等に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許発明進歩性を欠き,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。
(1) 被告旧製品の構成 喜多村合金製作所が,@遅くとも平成12年2月頃からOEM供給先での商品名を「エスロクイックMJ継手<ワンタッチタイプ>」として製造,販売し,同年8月頃から「インジケーター付きワンタッチジョイント」シリーズとして製造,販売した継手及びA平成13年11月頃から「クリアジョイント」シリーズとして製造,販売した継手(以下「被告旧製品」という。)は,以下の構成を備えている。
a4 オスネジ本体に,ゴム製で環状をなすパッキン,ロックリング及び挿 22 入ガイドを備えており, b4 前記オスネジ本体は軸心方向一端部に内外二重筒体を有し,管挿入部はオスネジ本体と一体に形成され,袋ナットは,オスネジ本体とは別体に形成されて,管挿入部の外周との間に管を挿入することのできる空間を形成するようオスネジ本体に結合されており, c4 前記管挿入部の外周には環状溝を形成し,この環状溝に,前記管を挿入することのできる空間内に挿入される管の外径よりも小さく,内径よりも大きい外径をもつ前記パッキンが嵌め込まれており, d4 前記ロックリングは,前記袋ナットの内部に配備され,内径部にロックリング全体の拡縮により前記管の外周面に食い込む拡縮径変形自在な食込み歯を設けており, e4 該食込み歯は食込み歯逃し用テーパと対向されておらず, f4 前記挿入ガイドは内径部に前方拡がり状のテーパを付けており,この挿入ガイドが前記管挿入部の外周の前記パッキンより軸方向外方部位と,前記袋ナットの内周の前記ロックリングより軸方向外側部位に,前記管の一端部で押されるまま前端部を前記管を挿入することのできる空間の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれていることを特徴とする, g4 差込み式管継手。
(2) 本件特許発明と被告旧製品の構成との対比 本件特許発明と被告旧製品の構成の相違点は,以下のとおりである。
ア 相違点1 本件特許発明は,抜止めリングが傾動により拡縮径変形自在な食込み歯を有し,抜止めリングに対向するテーパ部が存在するのに対し,被告旧製品は,ロックリングを使用し,そのような構成を有しない点 イ 相違点2 本件特許発明は,抜止めリングがテーパ付リングより外側に位置するのに対し, 23 被告旧製品は,抜止めリングがテーパ付リングより外側に位置していない点 (3) 相違点に係る構成の容易想到性 ア ロックリングを傾動により拡縮径変形自在な食込み歯を有する抜止めリングと置換し,逃し部を設けてそこをテーパとすること(相違点1)や,抜止めリングを外側に配置すること(相違点2)は,いずれも周知慣用技術である。
イ 相違点1及び2はいずれも乙6発明に開示されているところ,管継手に使用する抜止めリングとして,リング自体が拡縮径変形するタイプ(割りリングタイプ)と,内周面の食込み歯が傾動する内歯付き座金タイプ(ロックリング)があることは,乙20(実開昭53ー52423号公報)及び乙21(特開2002-122277号公報)に記載があり,それらのいずれも周知慣用技術であり,そのどちらを選択するかは当業者における設計事項である。そして,被告旧製品の抜止めリングを乙6発明の抜け止めリング8に変更するに伴い,乙7発明のように掛止刃12の傾動のため抜け止めリング8に対向するテーパを設け,乙8発明及び乙9発明のように抜け止めリングの位置を変更して外側に配置することは当業者における単なる設計事項である。
したがって,本件特許発明は,被告旧製品に係る発明等に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,進歩性がない。
【原告の主張】 (1) 被告旧製品 の公然実施性を認める ことはできず ,被告 の主張 する被 告旧製品の構成が存したことも確認できない。
(2) 仮に被告主張の本件特許発明と被告旧製品の相違点を前提としても,乙6発明や乙3発明 にはテーパ付リングの開示がなく ,相違点に係る構成が開示されていない。
また,乙6 発明 や 乙3 発明 は,被告旧製品とは異なり ,締付環体方式によるシール方式を採用しており ,被告旧製品と抜け止めの構成も異なることから ,テーパ付リングや被告旧製品の挿入ガイドのような構成と重畳的に適用する動 24 機付けを欠く。
さらに, ロックリングの位置のみをあえて乙6 発明や乙3 発明のように入口側に移動させる特段の効果が被告旧製品はもとより ,乙6発明や乙3発明等に記載されていないにもかかわらず ,これをあえて移動する動機付けはない。加えて,被告旧製品においてロックリングの位置を入口側に移動するには ,組立て工数や加工の手間が増え ,これを解消するためにさらに構成の改変を図らなければならない。得られるメリットが明らかではないのに ,あえて問題点や手間が増加するにもかかわらず構成の改変を図る動機付けはない 。
2-5 争点2-5(乙23公報を主引例とする進歩性欠如)について 【被告の主張】 以下のとおり,本件特許発明は,当業者が,本件特許出願前に頒布された特開平11-132374号公報(以下「乙23公報」という。)に記載された発明(以下「乙23発明」という。)に,乙4発明,乙5発明又は被告旧製品の構成,並びに,特開平11-153272号公報(以下「乙24公報」という。)に記載された発明(以下「乙24発明」という。 ,乙6発明又は乙7発明を適用することによって, )当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許発明進歩性を欠き,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。
(1) 乙23発明 乙23公報には,以下の発明(乙23発明)が記載されている。
a5 ソケット10に,O-リング18,保持リング15を備えているが,テーパ付リングがなく, b5 前記ソケット10は軸心方向一端部に内外二重筒体を有し,スリーブ11はソケット10と一体に形成され,キャップ17は,ソケット10とは別体に形成されて,スリーブ11の外周との間に管差込み間隙を形成するようソケット10に結合されており, c5 前記スリーブ11の外周には周溝12を形成し,この周溝12に,前 25 記管差込み間隙内に挿入されるパイプ30の外径よりも小さく,内径よりも大きい外径をもつ前記O-リング18が嵌め込まれており, d5 前記保持リング15は,前記キャップ17の内部に配備され,内径部に前記パイプ30の外周面に食い込む拡縮径変形自在な爪部14を設けており, e5 該爪部14は爪部14逃がし用の空間を介してソケット10の端面と対向され, f5 (テーパ付リングがなく)スリーブ11の外周の前記O―リング18は,前記ソケット10の内周の前記保持リング15より軸方向内方部位に位置することを特徴とする g5 パイプ継手。
(2) 本件特許発明と乙23発明との対比 本件特許発明と乙23発明の相違点は,以下のとおりである。
ア 相違点1 本件特許発明は,内径部に前方拡がり状のテーパを付けた「テーパ付リング」が前記内筒体の外周の前記弾性シールリングより軸方向外方部位と,前記外筒体の内周の前記抜止めリングより軸方向内方部位との間に,前記管の一端部で押されるまま前端部を前記管差込み間隙の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれているのに対し,乙23発明は,前記内筒体(スリーブ11)の外周の前記弾性シールリング(O-リング18)より軸方向外方部位と,前記外筒体(キャップ17)の内周の前記抜止めリング(保持リング15)より軸方向内方部位との間には,「テーパ付きリング」がない点 イ 相違点2 本件特許発明は,食込み歯は「食込み歯逃し用テーパ」と対向されているのに対し,乙23発明は,食込み歯(爪部14)は「食込み歯逃し用テーパ」と対向されていない点 (3) 相違点1に係る構成の容易想到性 26 乙23発明において,乙4発明,乙5発明,被告旧製品の構成を適用して,相違点1に係る本件特許発明の構成とすることは,当業者において容易に想到し得たことである。
ア 乙4発明の適用 (ア) 乙4発明の構成 乙4発明のテ-パ付リング22は,前端部の内周に外拡がり状のテーパ24を有し,管Pの一端部の端末部P´でテ-パ付リング22が管差込み間隙12の内奥方向へ押し込まれ,テ-パ付リング22のテ-パ24が内筒体5のシールリング溝13から突出している弾性シールリング2の外周部に当接し該リング2を圧縮させてシールリング溝13内に押し込みながら通過するものであり 【0020】 ( , 【0021】 ,本件特許発明の「テーパ付リング」に相当し,乙4発明には, ) 「内径部に前方拡がり状のテーパを付けているテーパ付リング」の構成, 「テーパ付リングが前記内筒体の外周の前記弾性シールリングより軸方向外方部位・・・に,前記管の一端部で押されるまま前端部を前記管差込み間隙の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれている」構成が開示されている。
(イ) 動機付け 乙23発明には,軸方向内方に配置されたシールリングによって漏水を防止し,軸方向外方に配置された抜止めリングによってパイプの抜けを防止する構成が開示されているが,スリーブ11の外周の周溝12に装着されたO-リング18とパイ 「プ30の内周面の密着のみによってシール性を確保する継手」であるから, 「シール性確保のためにO-リング18はパイプ30の内径よりも大きな外径をもつことが必須」となり,パイプ挿入時にパイプ30とO-リング18の突っ掛かりが発生する。乙23発明では,パイプ挿入時にパイプがシールリングに突っ掛かるという課題に対応するために,シールリングにシリコンや潤滑剤をコーティングすることが開示されている。
ここで,この突っ掛かりの課題を解決するための周知の技術手段としてテーパ付 27 リングがある。すなわち,O-リングとパイプ内周面の密着のみによってシール性を確保する継手において,パイプがO-リングに突っ掛かるという問題があることは,乙4発明,乙5発明,特開2001-124258号公報(以下「乙14公報」という。)に記載された発明(以下「乙14発明」という。)等からも公知・周知の課題であり,かつパイプの先端にO-リングを圧縮する部材を配置して,O-リングを圧縮させることによりパイプによる突っ掛かりを防止することは乙4発明,乙5発明,被告旧製品から公知・周知の解決手段である。突っ掛かりの問題は広く当業者に認識された課題であり,その課題を解決する方法として,「肉盛り」, 「テーパ付リング」 「潤滑剤」など種々のものが工夫されており,当業者は,そのうちのど ,れかを適宜選択するとともに,必要に応じて,複数の突っ掛かり防止の手段を適宜併用している。
乙4発明では,管Pが弾性シールリング2に突っ掛からないために,従来のパイプの面取りに代えて「テーパ付リング22」を採用している。
乙23発明の「潤滑剤やシリコンコーティング」が突っ掛かりの問題を解決する手段であるとしても,潤滑剤やシリコンコーティングはパイプとの摩擦を低減できても,周溝12から突出するO-リング18を圧縮することはできず,突っ掛かりの問題の解消には不十分な可能性が高い。そこで,乙4発明,乙5発明,被告旧製品などに開示されている同様の課題を解決する手段の「テーパ付リング」を,当該「潤滑剤やシリコンコーティング」に代えて配置し,あるいは重畳的効果を意図して重ねて配置する動機付けがある。
乙4発明では,パイプの面取り加工が面倒という理由からテーパ付リングを追加しているのであり(乙4公報【0007】 ,本件特許発明も面取りをしないでいい )ようにテーパ付リングを採用している(本件明細書【0007】)ことからも分かるように,継手の部材や工数を増やしても使用者の作業を低減するという開発アプローチが存在する。また,現場での面取りは,施工の品質が安定しないという面があり,その解消も,実際上は重要なことである。これに対し,テーパ付リングを採用 28 すれば,面取りについての施工品質は安定し,手間も省け,作業は簡易となる。これらからすれば,乙23発明においても,例えば,施工品質を安定させ,使用現場での手間を省くなどの理由から,潤滑剤やシリコンコーティングに加えて,あるいはこれに替えて,テーパ付リングを使用ないし追加する動機付けがある。
(ウ) テーパ付リングを嵌め込む位置 テーパ付リングは,乙4発明,乙5発明,被告旧製品,乙14発明及びDE 100 65 225 A1ドイツ公開特許公報(以下「乙25公報」という。)に記載された発明(以下「乙25発明」という。)にあるように,パイプ挿入時に,パイプがシールリングに突っ掛からないように,先にシールリングを圧縮し,パイプをスムーズに差し込むための技術手段である。このテーパ付リングの配置位置は,テーパ付リングが全てのシールリングを覆う構成(乙5公報の図3,図5)も,テーパ付リングが複数のシールリングのうち一つだけ覆う構成(乙5公報の変形例, 【0041】,被告旧製品,乙14公報,乙25公報の図3の変形例, 【0011】)も,テーパ付リングが複数のシールリングの外方に配置され,パイプの挿入に伴ってテーパ付リングがシールリングを圧縮してパイプがシールリングに突っ掛からないように差し込む構成(乙4公報,乙5公報の変形例, 【0040】 もそれぞれ公知である。
) この点,乙23発明は,内径シールの管継手において,抜止めリング(保持リング15)をシールリング(O-リング18)の外方に配置することにより,シールリングの管内方に管の挿入状況を確認するための確認孔19を設けるという技術である。したがって,シールリングと抜止めリング(O-リング18と保持リング15)の位置関係は問題になっても,両者の間隔はいかなる長さであっても技術的には問題がない。そうすると,乙23発明の技術思想の範囲内で,保持リング15とO-リング18の間隔をどのように設定するかは,当業者において適宜定める事項にすぎない。そして,テーパ付リングがその機能を発揮するためには,テーパ付リングを,O-リング18(弾性シールリング)より軸方向外方に嵌め込むことは当然の事項であるし,保持リング15(抜止めリング)より軸方向外方へ嵌め込むか, 29 軸方向内方へ嵌め込むかは二者択一の設計事項にすぎない。
他方で,乙4発明のテーパ付リングは,抜止めリングとは機能的に関係がない反面,弾性シールリングを圧縮してスムーズに管を挿入させる部材であるから,弾性シールリングとの位置関係に注目する必要がある。しかるところ,乙4のテーパ付リングは,軸方向外方の弾性シールリングに接触して配置されている。この弾性シールリングとの位置関係を適用して,乙23発明に組み合わせれば,本件特許発明の構成となる。
これに対し,乙4発明において, 「シールリングの圧縮」のためのテーパ付リング22と「挿入したパイプの抜け止め」のためのロックリング3は,それぞれ異なる機能を有する部材であり,協働して何らかの機能を発揮するものではない。そうすると,乙4発明のテーパ付リング22を適用するに際し,ロックリング3を含めて適用する理由はなく,抜止めリングをテーパ付リングの内方あるいは外方のどちらに配置しても,抜止めリングはその機能を発揮する。
また,乙4公報には,装着したテーパ付リング22が軸方向外方へ不用意に抜け出ることのないよう配置することが記載されており 【0021】 , ( ) 乙23発明のうち管挿入間隙内に突出する保持リング15の爪部14に係合させればよい(保持リング15よりも軸方向内方)ことは当業者であれば容易に想到できる設計事項である。
さらに,乙23発明のパイプ挿入空間に突出している保持リング15を利用し,テーパ付リングを保持リング15とO-リング18の間に配置することは,乙23発明に既にある構成を活用することになり,原告が強調するコスト増加の問題もなく,当業者において当然試みることである。
加えて,乙4発明のテーパ付リング22の乙23発明への適用に当たっては,テーパ付リング22が継手から脱落しないように係止することは乙4発明に開示されている(【0029】【0030】 。また,乙4公報には,(テーパ付リング22を , ) 「コレット4の)切欠部14内の基端部に係合させて軸方向外方へ不用意に抜け出る 30 ことのないようにかつ位置決め状態に組み込まれる。 ( 」 【0021】)ことが記載されており,図1,図6では,テーパ付リング22を,弾性シールリング2と切欠部14の基端部との間で位置決め状態に組み込むという技術思想が開示されている(【0021】,図1,図6)。乙4発明のテーパ付リングを乙23発明に適用するに当たっても,乙23発明へ適用したテーパ付リング22の脱落防止のため,テーパ付リング22を,O-リング18と保持リング15との間で位置決め状態に組み込み,保持リング15の爪部14を係合させることは,当業者において容易に想到する一例である。原告が主張するように,キャップ17に乙4の切欠部14を設けて乙23発明の保持リング15の外方にテーパ付リングを組み付ける方法もあるとしても,パイプの突っ掛かり回避という課題解決のために,被告の主張する方法を選択することが阻害されることはない。
イ 乙5発明の適用 乙5発明は,パイプ12の内周面とシール部材15との間に介装される「スリーブ31」を備え(【0027】 ,その基端部外周縁の鍔部31aの内周は外方へ傾斜 )して拡径する「テーパ状」に形成されており,スリーブ31がシール部材15に引っ掛からずに移動させることができる(【0021】 【0034】 。
, ) また,乙5発明の変更例(【0040】)では,スリーブ31により両シール部材15を被覆しなくてもよいとの記載があり,この変更例では,パイプ12を挿入した際にスリーブ31がシール部材15に引っ掛からずに移動させることができ,本件特許発明の「テーパ付リング」に相当する。
乙5発明でも,パイプを継手本体への挿入の際にパイプ端面によりシール部材が傷ついたり,シール部材を押し出すという課題を解決するために,パイプ端部が係合可能な「(鍔部31aにテーパを形成した)スリーブ31」を採用して,パイプによるシール部材の破損等の問題を解決しており,乙5発明のスリーブ31を乙23発明に適用する動機付けが存在する。
乙5発明では,スリーブ31は両シール部材15を被覆しなくてもよいとの記載 31 からスリーブ31(鍔部31aにテーパが形成)はシール部材15の軸方向外方となる。そして,保持リング15よりも軸方向内方に位置させる構成を採用することは乙4発明と同様に設計事項である。また,乙5発明の【0040】には,スリーブ31をコア部14の係合面25からシール部材15までの長さに設定することが開示されており,乙5発明のスリーブ31を適用する際,スリーブ31の移動後に,スリーブ31がO-リング18上に残るような設計をすることはあり得ず,適切な長さに設定することは当業者であれば当然に行う設計事項である。
ウ 被告旧製品の構成の適用 被告旧製品では樹脂管の内周面とパッキンとの間に介装される挿入ガイドを備え,その鍔部の内周は外方へ傾斜して拡径するアールを有するテーパに形成されており,管を挿入した際に挿入ガイドによりパッキンを破損等することなく移動させることができ,挿入ガイドは,本件特許発明の「テーパ付リング」に相当する。
被告旧製品でも,樹脂管がパッキンをめくりあげたり傷つけたりするという問題を解決するために挿入ガイドを備え,樹脂管によるパッキンの破損等の問題を解決しており,乙23発明に適用する動機付けが存在する。そして,被告旧製品の挿入ガイドは,二つのパッキンのうち外方のパッキンを被覆しており,これを乙23発明に適用すると,挿入ガイドはO-リング18より軸方向外方で保持リング15よりも軸方向内方となる。
(4) 相違点2に係る構成の容易想到性 乙24発明には,乙23発明と同様のソケット10,保持リング14,爪13を備えたパイプ継手において,保持リング14の爪13と対向するソケット10の端面に「テーパ」が形成されている。この「テーパ」は,爪13が挿入されたパイプ40に押されて拡径する際にソケット10との干渉を防止するための逃し用である。
したがって,乙24発明には,本件特許発明の食込み歯と対向する「食込み歯逃し用テーパ」に相当する構成が記載されている。
また,食込み歯に対向する面を食込み歯逃がし用のテーパとすることは,乙6発 32 明の「抜け止めリング8」の対向面がテーパになっていること,乙7発明の「ロックリング34」の対向面がテーパ状の「傾斜面17」となっていることからも公知である。
さらに,乙23発明の保持リング15の爪部14と,乙24発明の保持リング14の爪13(乙6発明の抜け止めリング8,乙7発明のロックリング34)は,いずれも作用機能が共通するから,乙24発明の保持リング14,爪13及び対向するソケット10端面のテーパの構成を乙23発明に組み合わせる動機付けが存在する。乙6発明,乙7発明も,同様の理由により,組合せの動機付けが存在する。
したがって,乙23発明において,乙24発明,乙6発明,乙7発明の構成を適用して,相違点2に係る本件特許発明の構成とすることは,当業者において容易に想到し得たことである。
【原告の主張】 (1) 乙23発明の認定について e5「爪部逃がし用の空間」については,そのような用途の空間については乙23公報に特段の記載がない。
(2) 本件特許発明と乙23発明との対比について 以上に基づくと,本件特許発明と乙23発明の相違点は,以下のとおりである。
ア 相違点1 本件特許発明は,テーパ付リングを備え,当該テーパ付リングは内径部に前方拡がり状のテーパを付けており,このテーパ付リングが前記内筒体の外周の前記弾性シールリングより軸方向外方部位と,前記外筒体の内周の前記抜止めリングより軸方向内方部位との間に,前記管の一端部で押されるまま前端部を前記差込み間隙の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれているのに対し,乙23発明はテーパ付リングを備えない点 イ 相違点2 本件特許発明の抜止めリングの食込み歯は,食込み歯逃がし用のテーパと対向し 33 ているのに対し,乙23発明にはこのような構成について開示がない点 (3) 相違点1に係る構成の容易想到性について ア 乙4発明の適用について (ア) 乙4発明の構成について 本件特許発明において,テーパ付リング4が弾性シールリング2より軸方向外方部位と抜止めリング3より軸方向内方部位との間に嵌め込まれていることには,テーパ付リングの抜け止め防止という技術的意義もある。つまり,テーパ付リング4の外形は管の外形と略一致しているのに対し,抜止めリング3の内径は,管挿入時に管の外周面に食い込むように,管の外形より小さくなっている。そして,テーパ付リング4の外形は抜止めリング3の内径よりも大きいため,脱落しないようにテーパ付リング4が弾性シールリング2より軸方向外方部位と抜止めリング3より軸方向内方部位との間に嵌め込まれている。
他方で,乙4発明には,テーパ付リングが弾性シールリング及び抜止めリングの軸方向外方部位に配置された構成が開示されているにすぎず,相違点1に係る構成について開示がない。乙4発明にもテーパ付リングと弾性シールリング,抜止めリングとの位置関係について開示があるのであるから,テーパ付きリング及びテーパ付リングと弾性シールリング,抜止めリングとの位置関係の構成に係る相違点のあてはめをする際には,開示事項をそのまま利用するのが当然である。乙4発明のテーパ付リングは,弾性係止爪25で脱落防止されているから,本件特許発明のように脱落防止のために弾性シールリングより軸方向外方部位と抜止めリングより軸方向内方部位との間に位置させる必要はない。
(イ) 動機付けについて 乙23発明は,既にO-リングの差込み時の施工性について認識しており 【00 (18】 ,面取りをしなくても,シリコンコーティングや潤滑剤により,O―リング )の潤滑性を確保することで,O-リング差込み時の突っ掛かりの問題を解決している。
34 したがって,乙23発明に乙4発明のテーパ付リングを適用することは,O-リングのシリコンコーティング等によって既に解決されている施工性について,あえて部材費や工数を増やして同様の問題を解決しようとするものであり,当業者であればそのような不経済かつ不合理な改変は行わない。
乙23発明に接した当業者が認識する課題はパイプ先端位置がどこにあるかを確認することができない,という問題点であり,かかる課題を解決するために,乙23発明以外のパイプ先端位置がどこにあるかを確認するための構成を適用する動機付けは生じ得るかもしれないが,乙23発明において問題となっていない施工性を変更する動機付けは存在しない。
そもそも,乙23発明に乙4発明のテーパ付リングを追加すると,テーパ付リング部分だけ継手長が伸びるという問題点があり,取り回し性が劣化する。潤滑剤とシリコンコーティングにより既に施工性が確保された乙23発明の継手長を延ばしてまで乙4発明のテーパ付リングを適用する動機付けを欠く。
(ウ) テーパ付リングを嵌め込む位置について 乙23公 報の【0011】の記載から, 軸方向外方から軸方向 内方に向けて保持リング,O-リング,確認孔と配置 して,確認孔を最深部とすることで ,パイプの先端の差込みの完全性を確認できると考えていることが分かる。
他方で,乙4発明のロックリング3はコレット4と中空部15を介して一体として形成され,乙4発明の継手はコレット型を前提としているので ,コレット4及びロックリング3は軸方向に相当の長さが必要となる。このようなコレット4及びロックリング3のロックリングの位置を弾性シールリング等より軸方向外方に配置すると ,その分だけ継手 が長くなるので,継手の長さを短くするためにロックリング3を軸方向内方に配置していると理解できる。
また,乙4発明のテーパ付リングは,乙4公報の図5,図12から明らかなとおり,外径部もテーパ状となっており,弾性シールリングを乗り越えるときだけでなく,ロックリング3を乗り越えるときにも挿入が容易となる。したがって,ロック 35 リングや弾性シールリングより軸方向外方に位置している。そもそも,乙4発明のテーパ付リングは,パイプの端部の面取り加工に替わるものであり(【0031】 , )パイプ端部にもっとも近い,軸方向外方の位置に配置するのが本来的な構成である。
したがって,乙4 発明のテーパ付リングを乙23 発明に適用するとしても ,乙4発明と同様に, 保持リング15及びO-リング18より軸方向外方部位に配置するのが自然である。
また,乙23発明の継手は , パイプ差込み用のテーパを有するスリーブ11を有し, また, 保持リング15が特徴的なV字型となっていることから ,保持リング15の軸方向外方のスペースに余裕がある。この余裕がある部分にテーパ付リングを挿入しようとするのが当業者として自然である。
さらに,乙4発明のテーパ付リングの弾性係止爪は,その形状から明らかなとおり,内径側に畳まれる構造となっており,挿入抵抗は生じない。また,乙4発明のテーパ付リングは,その図から明らかなとおり,外径部もテーパ状となっており,単にパイプを挿入する場合に比して,ワッシャー16と保持リング15とを乗り越える際にパイプの挿入をスムーズとする効果がある。したがって,乙4発明のテーパ付リングの形状に鑑みれば,むしろ,乙23発明に乙4発明のテーパ付リングを適用するに当たって,保持リング15とO-リング18の軸方向外方部位に適用することこそ望ましい。
これに対し,乙4発明のテーパ付リングは,リングの周方向外側に弾性係止爪25を設けることで位置決めするものであるが,斜面状となった保持リングの先端に弾性係止爪25を止めると,係止爪が外れ,むしろテーパ付リングが脱落する懸念がある。また,保持リング15とO-リング18の間は狭く,このような狭い部分にテーパ付リングを組み付けるのも作業性が悪く,通常忌避されるべきものである。
継手の長さは,短ければ短いほど取り回しよく,部材費もかからず,好ましいところ,当業者があえて保持リング15とO-リング18の間隔を広げ,継手の長さを長くする必要性はない。
36 イ 乙5発明の適用について 乙5発明には,テーパ付リングに相当する部材が存在しない。
そして,乙5発明のスリーブを乙23発明に適用すれば,乙5発明のスリーブを管差込み間隙内奥に収納するため,また,スリーブ31が内奥へ移動後にO-リング18上に残らないようにするため,継手の全長が長くなる。潤滑剤とシリコンコーティングにより既に施工性が確保された乙23発明に,あえて継手の全長が長くなるにもかかわらず,乙5発明のスリーブ31を組み合わせる動機付けは存在しない。
仮に,乙5発明のスリーブ31の長さをより短くするため,乙23発明のスリーブ11(乙5発明のコア部14)の係合面を軸方向内方に設けるという改変を行うとしても,この場合,乙23発明のスリーブ11(乙5発明のコア部14)の外周とパイプの内周が接する部分が小さくなり,パイプの安定性が大きく損なわれる。
したがって,乙23発明に乙5のスリーブを仮に適用するとしても,組合せには阻害要因がある。
ウ 被告旧製品の構成の適用について 被告旧製品は,その構成が不明であり,公然実施性も疑わしく,また,テーパ付リングに相当する部材が存在しない。
2-6 争点2-6(乙25公報を主引例とする進歩性欠如)について 【被告の主張】 以下のとおり,本件特許発明は,当業者が,本件特許出願前に頒布された乙25公報に記載された乙25発明に,乙5発明又は被告旧製品の構成,及び,乙6発明又は乙7発明を適用することによって,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許発明進歩性を欠き,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものである。
(1) 乙25発明 乙25公報には,以下の発明(乙25発明)が記載されている。
37 a6 支持スリーブ12に,O-リング22,フックエレメント28及び保護部分20を備え, b6 前記支持スリーブ12は軸心方向一端部に内外二重筒体を有し,支持スリーブ12は一体に形成され,差し込みスリーブ14は,支持スリーブ12とは別体に形成されて,支持スリーブ12の外周との間にリング区間(管差込み間隙)を形成するよう支持スリーブ12に結合されており, c6 前記支持スリーブ12の外周にはノッチ13を形成し,このノッチ13に,前記リング区間内に挿入されるパイプの外径よりも小さく,内径よりも大きい外径をもつO-リング22が嵌め込まれており, d6 前記フックエレメント28は,前記差し込みスリーブ14の内部に配備され,内径部に前記パイプの外周面に食い込む,拡縮径変形自在か不明な食込み部を設けており, e6 フックエレメント28の食込み部はテーパと対向しておらず, f6 前記保護部分20は内径部に前方拡がり状のテーパを付けており(図3)又はテーパがなく(図1),前記保護部分20が前記支持スリーブ12の外周のO-リング22より軸方向外方部位と,前記差し込みスリーブ14の内周の前記フックエレメント28の食込み部より軸方向内方部位との間に,前記パイプの一端部で押されるまま前端部を前記リング区間の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれていることを特徴とする g6 接続装置10。
(2) 本件特許発明と乙25発明との対比 本件特許発明と乙25発明の相違点は,以下のとおりである。
ア 相違点1 本件特許発明は,テーパ付リングが内径部に「前方拡がり状のテーパ」を付けているのに対し,乙25発明(図1の態様)は,保護部分20は内径部に「前方拡がり状のテーパを付けていない」点。ただし,O-リング22を二つ配置して一つを 38 保護部分20で保護する構成(先に示した図)とした場合, 「保護部分20」のテーパは,本件特許発明の「内径部に前方拡がり状のテーパ」に相当するから,相違点1は存在しない。
イ 相違点2 本件特許発明の抜止めリングは,拡縮径変形自在な食込み歯を設け,食込み歯逃がし用テーパと対向しているのに対し,乙25発明は,フックエレメント28が拡縮径変形自在か不明な食込み部を設け,食込み部はテーパと対向していない点 (3) 相違点に係る構成の容易想到性 ア 相違点1について 乙25発明の保護部分20は,パイプ挿入時にパイプの端部によってO-リングの密閉面が傷つけられる問題を解決する手段であり,乙5発明の「スリーブ31」や被告旧製品の挿入ガイドも同様の課題を解決する手段であるから,保護部分20に,乙5発明の「スリーブ31」や被告旧製品1の「挿入ガイド」を組み合わせる動機付けが存在する。
また,一般的に挿入時に突っ掛かりが生じ得るような構成について,その突っ掛かりを防止するため,テーパ等を設けることは当業者の設計事項である。
イ 相違点2について 乙25発明のフックエレメント28は,パイプを押し込み方向とは反対の方向に引っ張ると, 「パイプ端部の外套材料と噛み合い,これに食い込み,パイプをしっかりと確実にその終端位置に保持する」という作用機能を奏するものであり,乙6発明,乙7発明の歯付座金リングと作用・機能が共通し,組合せの動機付けがある。
その際,パイプ挿入時に拡径する食込み歯と干渉しないよう,食込み歯の対向面をテーパ形状とすることは,当業者における単なる設計事項にすぎない。
【原告の主張】 (1) 乙25発明の認定は,否認する。正しくは,以下のとおりである。
a6 支持スリーブ12に,O-リング22,フックエレメント28及び保 39 護部分20を備え, b6 前記支持スリーブ12は軸心方向一端部に内外二重筒体を有し,支持スリーブ12は一体に形成され,差し込みスリーブ14は,支持スリーブ12とは別体に形成されて,支持スリーブ12の外周との間にリング区間(管差込み間隙)を形成するよう支持スリーブ12に結合されており, c6 前記支持スリーブ12の外周にはノッチ13を形成し,このノッチ13に,前記リング区間内に挿入されるパイプの外径よりも小さく,内径よりも大きい外径をもつ前記O-リング22が嵌め込まれており, d6,e6 前記フックエレメント28は,前記差し込みスリーブ14の内部に配備され,内径部に前記パイプの外周面に食い込むが,その形状は不明であり, f6 前記保護部分20は前方拡がり状のテーパがなく,前記保護部分20が前記支持スリーブ12の外周のO―リング22より軸方向内方部位に,前記パイプの一端部で押されるままに前端部を前記リング区間の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれていることを特徴とする g6 接続装置10。
(2) 本件特許発明と乙25発明との対比について 以上に基づくと,本件特許発明と乙25発明の相違点は,以下のとおりである。
ア 相違点1 本件特許発明は,テーパ付リングを備え,当該テーパ付リングは内径部に前方拡がり状のテーパを付けており ,このテーパ付リングが前記内筒体の外周の前記弾性シールリングより軸方向外方部位と ,前記外筒部の内周の前記抜止めリングより軸方向内方部位との間に ,嵌め込まれているのに対し ,乙25発明は前方拡がり状のテーパを備えない保護部分20が ,前記支持スリーブ12の外周のO―リング22より軸方向内方部位に嵌め込まれている点 イ 相違点2 本件特許発明の抜止めリングは,拡縮変形自在な食込み歯を設け,該食込み歯は 40 食込み歯逃がし用のテーパと対向しているのに対し,乙25発明のフックエレメント28は,具体的な構成が不明である点 (3) 相違点に係る構成の容易想到性について ア 相違点1について 乙25発明の保護部分20とO-リングとの位置関係と,本件特許発明のテーパ付リングと弾性シールリングの位置関係は異なっており,保護部分20の形状をどのように改変しても,相違点1の構成とはならない。
また,乙5発明にも,被告旧製品にも,本件特許発明のテーパ付リングの開示がなく,乙5発明や被告旧製品を乙25発明に適用しても,保護部分20はテーパ付リングの構成とはならない。
動機付けの点にしても,乙25発明は,既に,独特の保護部分20の形状や,あらかじめO-リングを保護部分で覆っておくことといった技術事項により,パイプ挿入時の問題を解消しており,あえて乙5発明や被告旧製品の構成を重畳的に適用する動機付けを欠く。
イ 相違点2について 乙25発明のフックエレメント28は,厚みがほとんどない,円筒状の形態である。そのような構造の部材に,乙6発明や乙7発明のような食込み歯を設けたとしても,対向面,すなわち,円筒状部分にテーパを設けることは必然ではなく,設計事項ともなり得ない。
3 争点3(損害額)について 【原告の主張】 被告は,少なくとも,本件特許の登録日である平成21年2月27日から約5年6か月の間,被告製品を年間3億円,合計16億5000万円を売り上げ,この売上げに係る被告の限界利益率は20%を下回らない。したがって,被告は本件特許権の侵害により少なくとも3億3000万円の利益を得ており,この侵害利益は,原告の損害と推定される。
41 また,原告は,本件訴訟のために少なくとも3300万円の弁護士費用の拠出を余儀なくされ,この損害は,被告による本件特許権侵害相当因果関係を有する。
したがって,原告が被った損害の合計額は,3億6300万円である。
【被告の主張】 否認する。
当裁判所の判断
事案に鑑み,まず,争点2-5(乙23公報を主引例とする進歩性欠如)について検討すると,当裁判所は,本件特許発明は,当業者が乙23発明,乙4発明及び乙24発明に基づいて容易に発明することができたものであり,進歩性を欠き,本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものであると判断する。
その理由は,以下のとおりである。
1 本件特許発明の要旨及び本件明細書の記載 本件特許発明は,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1により特定される,前提事実(2)記載のとおりのものであるが,本件明細書には次の記載があると認められる(甲2ないし5。なお,別紙本件明細書図面参照。また,以下では,各引用部分の引用符の記載を省略する。 。
) 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は,給湯・給水配管などに用いられ,管の一端部をシール状にかつ抜止め状に簡易迅速に差し込み接続できる差込み式管継手に関する。
【0002】 【従来の技術】 この種の差込み式管継手として,継手本体の内部に,差し込まれる管の外周面に密接する弾性シールリングと,管の外周面に食い込む食込み歯を一体に形成したコレットとが組み込まれているものがある(例えば,特許文献1参照。)。また,継手本体の内部に,差し込まれる管の外周面に密接する弾性シールリング,及びコレ 42 ットが組み込まれるが,管の外周面に食い込む爪部を有するロックリングはコレットと別体に形成されて組み込まれたものもある・・・。
【発明が解決しようとする課題】 しかるに,コレットを組み込む上記差込み式管継手では,組立て工数が増え,構造が複雑になり,コスト高にもなる。
本発明の目的は,このような問題を解決するためになされたもので,コレットレスにすることによって構造が比較的簡単でしかもコストが安価な差込み式管継手を提供することにある。
【0005】 【課題を解決するための手段】 本発明の差込み式管継手は,継手本体に,弾性シールリング,抜止めリング,及びテーパ付リングを備える。前記継手本体は軸心方向一端部に内外二重筒体を有し,内筒体は継手本体と一体に形成され,外筒体は,継手本体とは別体に形成されて,内筒体の外周との間に管差込み間隙を形成するよう継手本体に結合されている。前記内筒体の外周にはシールリング溝を形成し,このシールリング溝に,前記管差込み間隙内に挿入される管の外径よりも小さく,内径よりも大きい外径をもつ前記弾性シールリングが嵌め込まれている。前記抜止めリングは,前記外筒体の内部に配備され,内径部に前記管の外周面に食い込む拡縮径変形自在な食込み歯を設けており,該食込み歯は食込み歯逃がし用のテーパと対向されている。前記テーパ付リングは内径部に前方拡がり状のテーパを付けており,このテーパ付リングが前記内筒体の外周の前記弾性シールリングより軸方向外方部位と,前記外筒体の内周の前記抜止めリングより軸方向内方部位との間に,前記管の一端部で押されるまま前端部を前記管差込み間隙の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれているものである。
【0006】 43 一つの好適な態様として,本発明による差込み式管継手は,上記抜止めリングは管の挿入により押し開かれながら該管の外周面に食込む弾性を有する食込み歯を設け,上記外筒体は樹脂材で成形し,この外筒体に上記抜止めリングをインサート成形することができる。また,上記抜止めリングは線材からなって上記外筒体の内周の凹部に収容し,上記凹部の内周には,管が抜け出し方向に移動したときに上記抜止めリングに縮径方向の力を作用させる外窄まりテーパ状の押圧面を形成することもできる。
【0007】 上記構成の差込み式管継手によれば,管の一端部を管差込み間隙内に挿入するに伴い,テーパ付リングが管差込み間隙の内奥へ向けて軸方向内方へ押し込まれ,そのテーパ付リングのテーパで弾性シールリングが圧縮されながら内筒体のシールリング溝内に押し込まれるため,予め管の一端部の内周を面取り加工していなくても該管は弾性シールリングに突っ掛かることなくスムーズに挿入される。
【0008】 継手本体の管差込み間隙内に管の一端部を挿入すると,弾性シールリングにて管の内周面と内筒体の外周面との間がシールされ,抜止めリングの食込み歯が管の外周面に食い込む。これにより管が継手本体の管差込み間隙から抜け出るのを防止できる。
【発明の実施の形態】 【0013】 継手本体1は青銅鋳物等で筒状に形成されており,その軸心方向一端部に内外二重筒体5,6を有する構造としてある。そのうち,内筒体5は継手本体1と一体に形成されるが,外筒体6は,継手本体1とは別体に樹脂成形されて,その一端部内周に,継手本体1の外周に設けた雄ねじ7にねじ込まれる雌ねじ8を設けている。
なお,継手本体1の軸心方向他端部の外周には雄ねじ9を切っており,この雄ねじ9には,図示しない雌ねじ付きの水栓やエルボなどがねじ込み接続される。
44 【0014】 抜止めリング3はステンレス製品であって,図2,図3に示すように,皿形断面の内径部に割り溝10を円周方向に等間隔に入れて弾性を有する拡縮径変形自在な食込み歯11を列設している。この抜止めリング3は外筒体6にインサート成形される。このインサート成形に際しては,例えば,予め全体が円筒状にかつ一端部の内周に食込み歯逃がし用のテーパ12を付けた形に樹脂成形したスペーサー13を用意し,このスペーサー13の一端部の端面に抜止めリング3を重ね合わせるとともに,抜止めリング3の外側にリテーナー14を重ね合わせた状態に金型内に保持したうえで,これらを外筒体6の射出成形すると同時に該外筒体6の内周に一体にインサート成形する。・・・ 【0017】 内筒体5の外周にはシールリング溝16を1本または2本以上(図示例では2本)設け,このシールリング溝16に,管差込み間隙15内に差し込まれるポリブテン管等よりなる樹脂製の管Pの外径よりも小さく,内径よりも大きい外径を持って管Pの内周面に密接するOリング等よりなる弾性シールリング2が嵌め込まれる。この嵌め込みは,外筒体6を継手本体1に結合する前に行うことにより容易に行える。
外筒体6は,弾性シールリング2の嵌め込み後に,継手本体1に結合される。
【0018】 テーパ付リング4はナイロン等の樹脂成形品であり,この内径部に前端部から後方に向かって漸次窄まる前方拡がり状のテーパ17を形成している。このテーパ付リング4は内筒体5の外周の弾性シールリング2より軸方向外方部位に位置するよう組み込まれる。
【0019】 次に,上記構成の差込み式管継手の使用態様を説明する。現場施工において,先ず,管Pは所要長さに切断される。この切断された管Pの一端部は,図4に示すように,内外筒体5,6間の管差込み間隙15内に挿入されるが,このとき管Pの一 45 端部が抜止めリング3の食込み歯11をテーパ12の方向へ押し開きながら挿入される。この挿入に伴い管Pの一端部でテーパ付リング4が管差込み間隙15の内奥方向へ押し込まれ,テーパ付リング4のテーパ17が内筒体5のシールリング溝16から突出している弾性シールリング2の外周部に当接し該リング2を圧縮させてシールリング溝16内に押し込みながら通過する。したがって,予め管Pの一端部の内周を面取り加工していなくても該管Pは弾性シールリング2に突っ掛かることなくスムーズに挿入することができる。
【0020】 管Pが継手本体1内に所定深さにまで挿入されると,管Pの内周面に弾性シールリング2が圧縮状に密接し,この弾性シールリング2により管Pの内周面と内筒体5の外周面との間がシールされるとともに,抜止めリング3の食込み歯11が管Pの外周面に食い込んだ管Pの抜止め状態が得られる。
【0021】 管Pが抜き出し方向に引っ張られると,管Pと共に同一方向に移動する抜止めリング3の内径部が縮径状に弾性変形して,管Pの外周面への食込み歯11の食込みが増すため,管Pの管差込み間隙15からの抜け出しが確実に阻止される。
【0029】 【発明の効果】 本発明によれば,管の一端部をシール状にかつ抜止め状に簡易迅速に差し込み接続できるうえに,コレットの無い構造にしたためにその構造,組立てが簡単になり,コストも低減されるというものである。
2 乙23発明について (1) 乙23公報には次の記載があると認められる(なお,別紙乙23図面参照。
また,以下では,各引用部分の引用符の記載を省略する。 。
) 【特許請求の範囲】 【請求項1】 46 パイプの差し込みを許容するスリ-ブを備えたソケットと,スリ-ブの外周に形成された止水機構と,保持リングと,ソケット係止されてこれを支持又は保持リングを絞め付けるキャップと,よりなることを特徴とするパイプ継手。
【請求項2】 止水機構がスリ-ブの外周に形成された1つ又は複数の周溝と当該周溝内に嵌合される止水リングからなる請求項第1項記載のパイプ継手。
【請求項3】 スリ-ブに形成された止水機構が保持リングよりも少なくとも深部側に存在させた請求項第1項記載のパイプ継手。
【請求項6】 パイプの差し込みを許容するスリ-ブを備えたソケットと,このスリ-ブの外周に止水機構として一つ又は複数の周溝を形成し,当該周溝内にO-リングを嵌合させると共に,ソケット内に保持リング,を順次配置し,それらを支持するキャップをソケットに係止し,前記周溝の少なくとも一つは保持リングよりも深部側に存在させ,かつこの深部側の周溝より深部側にて前記ソケットにパイプの先端の差し込みを目視する確認孔を備えたことを特徴とするパイプ継手。
発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明はパイプ継手に関するものであり,更に詳しくはパイプ用のワンプッシュ型継手の新たな継手を提供するものである。
【0005】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は以上のような従来のパイプ継手の欠点を改良せんとするものであり,パイプを挿入し易くしたパイプ継手を提供するものであり,更に言えば,ソケットに 47 パイプ先端の挿入位置の目視のための確認孔を形成できる新規なパイプ継手を提供することを課題としている。
【0006】 【課題を解決するための手段】 本発明のパイプ継手は,上記の課題を解決するために次の構造としたものである。
即ち,パイプの差し込みを許容するスリ-ブを備えたソケットと,スリ-ブの外周に形成された止水機構と,保持リングと,ソケット係止されてこれを支持又は保持リングを絞め付けるキャップと,よりなることを特徴とするパイプ継手にかかるものであって,通常は,前記止水機構がスリ-ブの外周に形成された一つ又は複数の周溝と当該周溝内に嵌合される止水リングからなる。そして,好ましくはスリ-ブに形成された止水機構が保持リングよりも少なくとも深部側に存在させるものである。
【0007】 そして,更に好ましくは,上記の構造のパイプ継手にあって,ソケットにパイプ差し込み確認孔を形成するものであり,特に,パイプ差し込み確認孔は,止水機構の位置と同等かこれよりも深部側に形成したものであるのがよい。
【0008】 ここで本発明の更に具体的構造について言えば,パイプの差し込みを許容するスリ-ブを備えたソケットと,このスリ-ブの外周に止水機構として一つ又は複数の周溝を形成し,当該周溝内にO-リングを嵌合させると共に,ソケット内に保持リングを順次配置し,それらを支持又は保持リングを絞め付けるキャップをソケットに係止し,前記周溝の少なくとも一つは保持リングよりも深部側に存在させ,かつこの深部側の周溝より深部側にて前記ソケットにパイプの先端の差し込みを目視する確認孔を備えたことを特徴とするパイプ継手である。
【0009】 【発明の実施の形態】 48 本発明のパイプ継手はパイプ差し込み用のスリ-ブを一体に形成したことによりパイプの差し込みが簡単になると共に,ソケット内に配置した保持リングの爪がパイプの外表面に食い込んで或いは締め付けることによって固定されることとなる。
そして,特にソケットに形成した確認孔によってパイプの先端の位置が目視できるようにしたものにあっては,パイプの差し込み不足を容易に発見できるもので,従って,パイプの差し込み不足による漏水の発生は皆無となったものである。
【0010】 上記の特徴は,スリ-ブをソケットと一体とし,更にO-リング等の止水機構をスリ-ブの外周に備えたことによってパイプの内周側にて止水機能を持たせることができたためであって,このため,パイプ先端の確認孔をソケットに開けることができることとなったものである。
【0011】 そして,好ましくはスリ-ブに形成した止水用のO-リング等が嵌合される周溝は少なくとも一つは保持リングよりも深部側に形成するのがよく,確認孔は更にこの保持リングと同等か或いはこれよりも深部側に備えるものであって,これによってパイプの先端の差し込みの完全性を確認できると共に,万一パイプの差し込みが不完全な場合であってもパイプの抜けがないままに水圧テストで確認孔より水の漏れが発見できることとなったものである。
【0013】 【実施例】 以下,本発明のパイプ継手の好ましい例をもって更に詳細に説明する。図1は本発明のパイプ継手の好ましい例を示す半裁図であり,図2はパイプとの差し込みが完了した際の半裁図である。
【0015】 このように,パイプ30はソケット10内に一体に形成されたスリ-ブ11に案内されて容易に差し込まれるものであって,パイプ30は保持リング15の内側に 49 形成した爪部14にて外周面が食い込まれて固定されることになる。ワッシャ-16はこの食い込みを保持するためのものである。尚,このワッシャ-16は場合によってはキャップ17と一体とされていてもよい。
【0016】 図例にあっては,スリ-ブ11の外周に止水機構12としてO-リング用の周溝120 が二つ(12 01 ,1202)備えられたものであり,これらはいずれも保持リング15の位置より深部側に形成されている。尚,符号18は周溝12 0 内に嵌め込まれたO-リングである。このO-リング18は一個でも又図例のように複数(18 1 ,18 2 )備えられていてもよく,複数使用される場合には,それだけ止水性が向上する。この場合にはスリ-ブ11に形成される周溝12 0 は勿論複数条形成される。
【0017】 尚,O-リング18が複数用いられる理由は,パイプ(樹脂)30の内周面は外周面程寸法精度はよくないため,そのばらつきによってO-リング18による止水性能は異なるので止水を完全にするためである。このO-リング18には例えば潤滑剤を吹きかけておくのがよいが,好ましくはシリコンコ-ティングされたものがよい。
【0018】 このようにO-リング18が複数用いられる場合,最初にパイプ30に当たる側のO-リング18 1 は深部側のO-リング18 2 よりもスリ-ブ11からの突出量(D)を小さくしておくべきである。かかる突出量(D)はO-リング18の外周とスリ-ブ11の外周との差であり,これが2mm程度,好ましくは1mm程度のものがよく,これが2mm以上では差し込み力が30kgf以上となり,施工性が悪くなる。
【0023】 【発明の効果】 50 本発明のパイプ継手にあっては,確認孔よりソケット内部を目視できることとなったため,パイプの差し込み不足が確認でき,より確実な施工が行えることとなったものである。
(2) 以上の記載によれば,乙23公報には次の発明(乙23発明)が記載されていると認められる。
「ソケット10に,O-リング18,保持リング15を備えており,前記ソケット10は軸心方向一端部に,内側に位置するスリーブ11と,外側に位置するキャップ17とを有し,スリーブ11はソケット10と一体に形成され,キャップ17は,ソケット10とは別体に形成されて,スリーブ11の外周との間に間隙を形成するようソケット10に固定されており,前記スリーブ11の外周にはO-リング18用の周溝12 0 を形成し,この周溝12 0 に,前記パイプ差込み間隙内に挿入されるパイプ30の外径よりも小さく,内径よりも大きい外径をもつ前記O-リング18が嵌め込まれており,前記保持リング15は,前記キャップ17の内部に配備され,内径部に前記パイプ30の外周面に食い込む拡縮径変形自在な爪部14を設けており,前記スリーブ11の外周の前記O-リング18にはシリコンコーティングや潤滑剤が施され,二つのO-リング18いずれも前記キャップ17の内周の前記保持リング15より深部側に形成されているパイプ継手。」 3 本件特許発明と乙23発明との対比 乙23発明における「ソケット10」は,その構成,機能及び技術的意義からみて,本件特許発明の「継手本体(1)」に相当し,同様に, 「O-リング18」は「弾性シールリング(2)」に,「保持リング15」は「抜止めリング(3)」に,「スリーブ11」は「内筒体(5)」に, 「キャップ17」は「外筒体(6)」に, 「間隙」は「管差込み間隙(15)」に, 「O-リング18用の周溝12 0」は「シールリング溝(16)」に,「パイプ30」は「管(P)」に,「爪部14」は「食込み歯(11)」に,「パイプ継手」は「差込み式管継手」に,それぞれ相当する。
そうすると,本件特許発明と乙23発明の一致点及び相違点は,以下のとおりに 51 認定される。
(1) 一致点 継手本体(1)(ソケット10)に,弾性シールリング(2)(O-リング18),抜止めリング(3)(保持リング15)を備えており,前記継手本体(1)(ソケット10)は軸心方向一端部に内外二重筒体を有し,内筒体(5)(スリーブ11)は継手本体(1)(ソケット10)と一体に形成され,外筒体(6) (キャップ17)は,継手本体(1)(ソケット10)とは別体に形成されて,内筒体(5) (スリーブ11)の外周との間に管差込み間隙(15)を形成するように継手本体(1)(ソケット10)に結合されており,前記内筒体(5)(スリーブ11)の外周にはシールリング溝(16)(O-リング 18 用の周溝12 0)を形成し,このシールリング溝(16)(O-リング18用の周溝12 0)に,前記管差込み間隙(15)内に挿入される管(P)の外径よりも小さく,内径よりも大きい外径をもつ前記弾性シールリング(2)(O-リング18)が嵌め込まれており,前記抜止めリング(3)(保持リング15)は,前記外筒体(6)(キャップ17)の内部に配備され,内径部に前記管(P)(パイプ30)の外周面に食い込む拡縮径変形自在な食込み歯(11)(爪部14)を設けていることを特徴とする継手 (2) 相違点 ア 相違点1 本件特許発明は, テーパ付リング 「 (4)を備えており, 前記テーパ付リング 「 」 (4)は内径部に前方拡がり状のテーパを付けており,このテーパ付リング(4)が前記内筒体(5)の外周の前記弾性シールリング(2)より軸方向外方部位と,前記外筒体(6)の内周の前記抜止めリング(3)より軸方向内方部位との間に,前記管(P)の一端部で押されるまま前端部を前記管差込み間隙(15)の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれている」のに対して,乙23発明は,そのようなテーパ付リングを備えていない点 イ 相違点2 52 本件特許発明の「食込み歯(11)」は,「食込み歯逃がし用テーパ(12)と対向され」ているのに対して,乙23発明の「爪部14」はそのようなテーパと対向されていない点 4 相違点1に係る構成の容易想到性 (1) 乙4発明について ア 乙4公報には次の記載があると認められる(なお,別紙乙4図面参照。
また,以下では,各引用部分の引用符の記載を省略する。 。
) 【0005】 【課題を解決するための手段】 本発明の請求項1に係る発明の差込み式管継手は,筒状の継手本体(1),弾性シールリング(2),ロックリング(3),コレット(4),及びテ-パ付リング(22)を備える。前記継手本体(1)は軸心方向一端部に内外二重筒体(5),(6)を有しており,そのうち内筒体(5)は継手本体(1)と一体に形成され,外筒体(6)は,継手本体(1)とは別体に形成されて,内筒体(5)の外周との間に管差込み間隙(12)を形成するよう継手本体(1)に着脱可能にねじ込み結合されている。前記内筒体(5)の外周にはシールリング溝(13)を設け,このシールリング溝(13)に,前記管差込み間隙(12)内に差し込まれる管(P)の内周面に密接する前記弾性シールリング(2)が嵌め込まれている。前記コレット(4)は前記外筒体(6)に内嵌され,前記管(P)を内部に挿通し,円周に軸方向に沿う切欠部(14)を列設した拡縮径変形自在な中空軸(15)と,この中空軸(15)の後端外周に張り出し形成されて前記外筒体(6)の開口端の外部へ突出する鍔部(16)とを有しており,このコレット(4)の中空軸(15)の先端に,前記管(P)の外周面に食い込む食込み歯(17)を有する拡縮径変形自在な前記ロックリング(3)が一体に形成されている。前記外筒体(6)の内周面には,前記管(P)が抜け出し方向に移動したときに前記ロックリング(3)に縮径方向の力を作用させる外窄まりテ-パ状の押圧面(19)が形成されている。前記 53 外筒体(6)の開口端部の外周面に雄ねじ(8)を切り,この雄ねじ(8)にロックナット(18)が前記鍔部(16)と接離するよう進退動自在に螺合されている。
前記テ-パ付リング(22)は,前記弾性シールリング(2)の外径よりも小さい内径を有しかつ前端部の内周面に外方へ拡がり状のテ-パ(24)を付けていて,前記内筒体(5)の外周の前記弾性シールリング(2)より軸方向外方部位と,前記コレット(4)の中空軸(15)の内周との間に,前記管(P)の一端部で押されるまま前記テ-パ(24)を前記管差込み間隙(12)の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれている。
【0006】 この請求項1に係る発明によれば,継手本体(1)の組立てに際し外筒体(6)を継手本体(1)にねじ込み結合する前の状態では,内筒体(5)の外周面が外部に露出状態にあるため,この内筒体(5)の外周に弾性シールリング(2)を容易に嵌め込むことができる。弾性シールリング(2)の嵌め込み後,外筒体(6)を継手本体(1)にねじ込み結合すれば,この内外筒体(5),(6)間に管差込み間隙(12)を形成するよう継手本体(1)を組み上げることができる。
【0007】 この組み上げた継手本体(1)の管差込み間隙(12)内に管(P)の一端部を差し込むに際し,現場施工で管(P)を所定長さに切断するときに管(P)の一端部の内周を外方へ拡がり状のテ-パに面取り加工しておけば,管(P)の一端部が内筒体(5)のシールリング溝(13)から突出する弾性シールリング(2)に突っ掛かることなくスムーズに差し込まれる。しかし,かかる面取り加工は面倒であり,そればかりか面取り屑が管(P)内に付着残存していると,継手本体(1)内でのシール部に異物として挟まるおそれがあるという不具合が生じる。そこで,上記構成のようにテ-パ付リング(22)をセットしておくと,管(P)の一端部を管差込み間隙(12)内に差し込むに伴い,テ-パ付リング(22)が管差込み間隙(12)の内奥へ向けて軸方向内方へ押し込まれ,そのテ-パ(24)で弾性シ 54 ールリング(2)が圧縮されながら内筒体(5)のシールリング溝(13)内に押し込まれるため,管(P)の一端部は弾性シールリング(2)に突っ掛かることなくスムーズに差し込まれる。とくに,管(P)の内周面に対する弾性シールリング(2)の密着度を高めるために弾性シールリング(2)のシールリング溝(13)からの突出量を増やした場合にも管(P)の一端部の差し込みが難なく行えて有利である。
【0008】 管(P)の一端部を差し込むと,弾性シールリング(2)にて管の内周面と内筒体(5)の外周面との間がシールされ,ロックリング(3)の食込み歯(17)が管(P)の外周面に軽く食い込む。次いで管(P)を抜き出し方向に引っ張ると,ロックリング(3)の外周面が外筒体(6)の外窄まりテ-パ状の押圧面(19)に当接することにより,ロックリング(3)が縮径して,管(P)の外周面への食込み歯(17)の食い込みが増す。これにより管(P)が継手本体(1)の管差込み間隙(12)から抜け出るのを防止できる。
【0009】 管(P)の差し込み後,管(P)を抜き出し方向に引っ張るとロックリング(3)及びコレット(4)が管(P)と共にそれと同一方向に後退移動し,このコレット(4)の後退により鍔部(16)がロックナット(18)から後方へ離れるが,このときロックナット(18)を外筒体(6)の外周面から抜け出る方向に回転移動させて鍔部(16)に当接させる。これによりコレット(4)が継手本体(1)内に押し込み前進するのを防止できる。したがって,不慮の外力の作用によりコレット(4)が継手本体(1)内に押し込まれてロックリング(3)の食込み歯(17)の管(P)への食い込みが解除されるのを防止でき,不慮に管(P)が継手本体(1)から抜け出るのを防止できる。差込みのやり直しなどに際して,管(P)を継手本体(1)から取り外すときは,ロックナット(18)を外筒体(6)の外周面上の元の位置に戻し,コレット(4)を前進させることにより食込み歯(17) (P) の管 55 への食込みが解除されるため,管(P)を継手本体(1)から取り外すことができる。
【0010】 請求項2に係る発明は,請求項1記載の差込み式管継手において,前記テ-パ付リング(22)はこれの外周に前記コレット(4)の切欠部(14)内の基端部に係合する弾性係止爪(25)を設け,この弾性係止爪(25)の係合により軸方向外方へ抜け出ることのないようにしたものである。これによれば,使用するまでにテ-パ付リング(22)が管差込み間隙(12)から不測に脱落するのを防止でき,またテ-パ付リング(22)の位置決めができる。この場合において,請求項3に記載の発明のように,テ-パ付リング(22)は樹脂成形品であって弾性係止爪(25)を一体に成形することができる。これにより樹脂製の弾性係止爪(25)を有するテ-パ付リング(22)を簡単に成形することができる。また,請求項4に記載の発明のように,テ-パ付リング(22)は板金素材で内リング部(26)とこの内リング部(26)の一端につながる外リング部(27)を有する断面V形状に形成され,内リング部(26)の内周面に前記テ-パ(24)が形成され,外リング部(27)に前記弾性係止爪(25)が切り起されたものとすることができる。
これにより金属製の弾性係止爪(25)を有するテ-パ付リング(22)を簡単に成形することができる。
【0011】 管差込み間隙(12)からテ-パ付リング(22)が脱落するのを防止する手段としては,そのほかに,請求項5に記載の発明のように,複数個の弾性変形自在な係止突起(31)を列設した脱落防止リング(30)が,前記テ-パ付リング(22)の後端面(22b)の内周寄り部位に前記係止突起(31)の先端を接当係合するように,前記内筒体5の外周のシールリング溝(13)より軸方向外方部位に設けた周溝(32)に嵌め込まれたものとすることができる。また,請求項6に記載の発明のように,内周に複数個の弾性変形自在な係止突起(31)を列設した脱 56 落防止リング(30)が,前記テ-パ付リング(22)の後端面(22b)の外周寄り部位に前記係止突起(31)の先端を接当係合するように,前記コレット(4)の中空軸(15)の後端側の内周に設けた内周溝(33)に嵌め込まれたものとすることもできる。これら脱落防止リング(30)によっても,使用するまでにテ-パ付リング(22)が管差込み間隙(12)から不測に脱落するのを確実に防止することができ,またテ-パ付リング(22)の位置決めができる。
【発明の実施の形態】 【0020】 図4,図5に示すように,テ-パ付リング22は樹脂成形品であり,管Pの外径より小さい外径を有し,かつ内筒体5に隙間少なく摺動可能に挿入されるとともに弾性シールリング2の外径よりも小径の中心孔23を有し,この中心孔23の軸方向一端の前端部の内周に外拡がり状のテ-パ24を形成している。テ-パ付リング22の後端部の外周には複数の弾性係止爪25をコレット4の切欠部14の円周方向ピッチに対応する定ピッチで,かつ径方向外方へ切り起す形で列設している。
【0021】 図1に示すように,テ-パ付リング22は内筒体5の外周の弾性シールリング2より軸方向外方部位にテ-パ24が管差込み間隙12の内奥へ向くように挿入される。その際,テ-パ付リング22の弾性係止爪25はコレット4の切欠部14内をスライド自在に,かつ該切欠部14内の基端部に係合させて軸方向外方へ不用意に抜け出ることのないようにかつ位置決め状態に組み込まれる。なお,継手本体1の軸方向他端部の外周には雄ねじ21を切っており,この雄ねじ21には,金属製で雌ねじ付きの水栓やエルボなどがねじ込み接続される。
【0022】 次に,図1に示す差込み式管継手の使用態様を図6ないし図10を参照にして説明する。現場施工において,先ず,ポリブテン管等よりなる樹脂製の管Pは所要長さに切断される。この切断された管Pの一端部は,図6に示すように,コレット4 57 の中空軸15に差し込む。この差込みに伴い管Pの一端部の端末部P´でテ-パ付リング22が管差込み間隙12の内奥方向へ押し込まれ,テ-パ付リング22のテ-パ24が内筒体5のシールリング溝13から突出している弾性シールリング2の外周部に当接し該リング2を圧縮させてシールリング溝13内に押し込みながら通過する。したがって,これに引き続いて移動してくる管Pの端末部P´は,図6中に破線Tで示すごとく面取りされていなくて軸心に対し直角に切断されたまま(実線状態)でも弾性シールリング2に突っ掛かることなくスムーズに差し込まれる。
図7のように,管Pが最も深く差し込まれた時点では,テ-パ付リング22は弾性係止爪25が外筒体保持ボス9の内周面に当接することにより畳まれた状態で管差込み間隙12の最奥部に納められる。管Pの端末部P´が最も深く差し込まれているか否かの確認は,管端末部視認用穴20から容易に確認することができる。
【0023】 継手本体1内に所定深さにまで差し込まれた管Pの内周面には弾性シールリング2が圧縮状に密接し,この弾性シールリング2により管Pの内周面と内筒体5の外周面との間がシールされる。また,このときロックリング3の食込み歯17が管Pの外周面に軽く食い込む。
【0024】 次いで,図8に示すように,管Pを抜き出す方向aに引っ張ると,管Pと共に同一方向に移動するロックリング3の外周面が外筒体6の押圧面19と当接することにより,ロックリング3が縮径して,管Pの外周面への食込み歯17の食込みが増す。このようにロックリング3の外周面が外筒体6の押圧面19と当接するとともにロックリング3の食込み歯17が管Pの外周面に食い込むことにより,管Pの管差込み間隙12からの抜け出しが阻止される状態となる。このとき,コレット4の鍔部16は外筒体6の開口端部及びロックナット18から後方へ離された状態となる。
【0027】 58 上記実施例では,予めテ-パ付リング22を継手本体1内に組み込んであるが,これに代えて,現場で管Pを管差込み間隙12内に差し込むときに始めて,そのテ-パ付リング22を内筒体5の外周の弾性シールリング2より軸方向外方部位に,テ-パ24が管差込み間隙12の内奥へ向くよう嵌め込み,しかる後,管Pの一端部を管差込み間隙12内に差し込んでテ-パ付リング22を上記のように軸方向内方へ押し込むこともできる。これにおいても,テ-パ付リング22のテ-パ24で弾性シールリング2が内筒体5の外周面に押し付けられるため,管Pの一端部は面取り不要にして弾性シールリング2に突っ掛かることなくスムーズに差し込むことができる。
【0029】 継手本体1内に予め組み込まれたテ-パ付リング22が継手本体1の管差込み間隙12から軸方向外方へ脱落するのを防止する手段としては,テ-パ付リング22に設けた弾性係止爪25をコレット4の切欠部14内に係合させるという上記実施例のものに代えて,次のような手段を採用することもできる。図14に示すように,テ-パ付リング22とは別体に,外周に複数個の弾性変形自在な係止突起31を所定間隔置きに列設したゴム等弾性材料からなる脱落防止リング30を形成し,この脱落防止リング30を図13に示すごとく内筒体5の外周のシールリング溝13より軸方向外方部位に設けた周溝32に嵌め込み固定する。そして,継手本体1内に組み込まれるテ-パ付リング22の後端面22bの内周寄り部位に前記係止突起31の先端を接当係合させることにより,テ-パ付リング22が継手本体1の管差込み間隙12から軸方向外方へ脱落するのを防止する。その際,係止突起31はテ-パ付リング22の後端面22bの内周寄り部位のみに接当係合させてあるので,そのテ-パ付リング22の後端面22bを差し込まれる管Pの端末部P´で押すときに係止突起31が邪魔になるようことはなく,管Pの端末部P´でテ-パ付リング22の後端面22bを支障なく押すことができる。また弾性変形自在な係止突起3 59 1の先端は,差し込まれる管Pの内面に対し撓み自在に擦接するので,管Pの差し込みに何等障害を来すことはない。
【0030】 上記脱落防止リング30は,図15に示すように,コレット4の中空軸15の後端側の内周に設けた内周溝33に嵌め込み固定することもできる。この場合,脱落防止リング30はこれの内周に複数個の弾性変形自在な係止突起31を所定間隔置きに列設する形に形成している。そして,係止突起31の先端をテ-パ付リング22の後端面22bの外周寄り部位に接当係合させる。これにおいても,係止突起31の先端はテ-パ付リング22の後端面22bの外周寄り部位のみに接当係合させてあり,また係止突起31の先端は管Pの外面に対し撓み自在に擦接するので,管Pの端末部P´でテ-パ付リング22の後端面22bを押しながら差し込むのに何等支障を来すようなことはない。
【0031】 【発明の効果】 本発明によれば,管の一端部をシール状にかつ抜止め状に簡易迅速に差し込むことができ,しかも継手本体に弾性シールリングを容易に組込むことができて組立て性にも優れる。特に,差し込まれる管の切断端部には敢えて面取り加工を施さなくても弾性シールリングを有する内筒体にテ-パ付リングを介してスムーズに差し込むことができるという利点がある。
イ 乙4発明の認定 (ア) 乙4公報のテーパ付リングについて 本件明細書の記載によれば,本件特許発明の「テーパ付リング」は,内径部に前方拡がり状のテーパを付けており,管の一端部を管差込み間隙内に挿入するに伴い,管差込み間隙の内奥へ向けて軸方向内方へ押し込まれ,そのテーパで弾性シールリングを圧縮しながら内筒体のシールリング溝内に押し込むものであり,これにより,あらかじめ管の一端部の内周を面取り加工していなくても該管は弾性シールリング 60 に突っ掛かることなくスムーズに挿入されるという作用を有するものであると認められる(【0005】,【0007】)。
他方,乙4発明の「テ-パ付リング22」は,前端部の内周に外拡がり状のテーパ24を有し,管Pの一端部の端末部P´でテ-パ付リング22が管差込み間隙12の内奥方向へ押し込まれ,そのテ-パ24が内筒体5のシールリング溝13から突出している弾性シールリング2の外周部に当接し,弾性シールリング2を圧縮させてシールリング溝13内に押し込みながら通過するものであり,これにより,管の一端部は面取り加工しなくても弾性シールリングに突っ掛かることなくスムーズに差し込まれる(【0007】【0020】【0021】【0022】 , , , )ものである。
したがって,乙4公報記載の「テーパ付リング22」は,その技術的意義から見て,本件特許発明の「テーパ付リング」に相当する。
そうすると,乙4公報には,次の発明(乙4発明)が記載されていると認められる。
「テーパ付リング22は内周に外拡がり状のテーパ24を形成しており,このテーパ付リング22が内筒体5の外周の弾性シーリング2より軸方向外方部位に,管Pの一端部で押されるまま前端部を管差込み間隙12の内奥へ向けて軸方向内方へ移動するように嵌め込まれている差込み式管継手。」 (イ) 原告の主張について 原告は,乙4公報では,テーパ付リング22が弾性シールリング2及びロックリング3の軸方向外方部位に配置されている構成が開示されているにすぎず,そのうち弾性シーリング2との位置関係だけを恣意的に抽出することは許されないとの趣旨を主張する。
そこで検討するに,乙4発明において,ロックリング3が弾性シールリング2より軸方向内方部位に配置される技術的意義は,管Pを奥まで差し込んだ後に抜き出し方向に引っ張る際に,管Pの移動に伴ってロックリング3が軸方向外方部位に移動し,外筒体6の外周面の外搾まりテーパ状の押圧面19に当接することにより,弾性シールリングの直上において管に食い込むようにして固定することにあると認 61 められる(【0008】【0009】【0023】【0024】 , , , ,図6ないし8)。また,テーパ付リング22が弾性シーリング2より軸方向外方部位に配置される技術的意義は,テーパ付リング22が弾性シーリング2をシーリング溝内に押し込んで管Pを弾性シーリング2に突っ掛かることなく差し込むことであると認められる(【0007】【0022】 。しかし,テーパ付リング22の機能とロックリング3 )の機能の関連性については,乙4公報に記載や示唆はなく,テーパ付リング22がロックリング3より軸方向外方部位に配置されることに特段の技術的意義を見出すことはできない。
そうすると,乙4公報におけるテーパ付リング22の意義について,技術的関連性を有する弾性シーリングとの関係でのみ把握することは不合理ではなく,原告の上記主張は採用できない。
(2) 組合せの動機付けについて ア 乙4のテーパ付リング22は,管継手において,管Pを差し込む際に,そのテーパで弾性シールリングが圧縮されながら内筒体のシールリング溝内に押し込まれるため,管Pを面取りしなくとも,管Pが弾性シールリングに突っ掛かることなくスムーズに差し込まれるという技術的意義を有するものである 【0007】 ( ,【0022】 。
) また,乙23発明のシリコンコーティングや潤滑剤も,管継手において,パイプ30を差し込む際に,O-リング18に突っ掛かるという課題を解決するものである(【0017】 。
) そうすると,このような技術分野の共通性,課題ないし技術的意義の共通性からすると,乙23発明に乙4発明を適用する動機付けは存在するというべきである。
イ 原告の主張について この点について,原告は,乙23発明において,パイプ30を差し込む際にO-リング18に突っ掛かるという課題は,シリコンコーティングや潤滑剤によって既に解決されているから,さらに部品数等を増やして乙4発明を適用する動機付けは 62 存しないと主張する。
しかし,乙23公報の【0018】においては, 「突出量(D)はO-リング18の外周とスリーブ11の外周との差であり, ・・・これが2mm以上では差し込み力が30kgf以上となり,施工性が悪くなる。」との問題点が指摘されており,これは,乙23発明のシリコンコーティングや潤滑剤では施工性が不十分な場合があるとの趣旨であると理解することができる。そして,乙4発明のテーパ付リング22は,前記のとおり,弾性シールリング2を圧縮させてシールリング溝13内に押し込むものであるので,パイプが突っ掛かることなく差し込むことができ,シリコンコーティングや潤滑剤では施工性が不十分な場合であっても課題を解決できるものである。そうすると,乙23発明のシリコンコーティングや潤滑剤に加えて,あるいは,シリコンコーティングや潤滑剤の代わりに,乙4発明のテーパ付リングを適用する動機付けがあると認められるから,原告の上記主張は採用できない。
(3) 乙4発明のテーパ付リングの適用位置について ア そこで,乙23発明に乙4発明を適用する場合にテーパ付リングを嵌め込む位置について検討する。
乙4発明のテーパ付リングは,前記のとおり弾性シールリングより軸方向外方部位に設けられるものであるが,これを乙23発明に適用する場合には,嵌め込み位置は,@O-リング18より軸方向外方部位で保持リング15より軸方向内方部位か,A保持リング15より軸方向外方部位,のいずれかとなる。
ところで,管継手の内部に嵌め込まれる部材が管内部から脱落しないようにすることは,当然の技術的課題といえるところ,乙4公報では,テーパ付リングの抜け止め対策として,コレット4に切欠部を形成したもの 【0010】 【0021】 ( , ,図1)と,脱落防止リング30を形成したもの(【0011】,【0029】,【0030】図13,図15)が記載されており,既存部材に脱落防止機能を兼用させることと,別途脱落防止リングを設けることの両者が示唆されている。そうすると,乙23発明に乙4発明のテーパ付リングを適用するに当たり,既存の部材に脱落防 63 止機能を兼用させる観点から,@の位置に嵌め込むようにすることは,当業者が上記の記載に基づいて容易に想到することができたというべきである。
イ 原告の主張について (ア) 原告は,乙4発明のテーパ付リングを乙23発明のO-リング18と保持リング15との間に配置する構成は乙4公報に記載されていないと主張するが,そうであるとしても,当業者が容易にその構成を想到することができたと考えられることは,上記のとおりである。
(イ) また,原告は,乙4発明のテーパ付リングを乙23発明のO-リング18と保持リング15との間に配置するには,継手の長さを伸ばす必要が生じ,不合理であると主張する。
しかし,まず,乙23公報の図1及び図2を前提とするとしても,乙4発明のテーパ付リングを乙23発明のO-リング18と保持リング15との間に配置するに当たり,乙4公報の図1,図13及び図15にあるように,乙23発明における二つのO-リング18のうち,軸方向外側部位にあるO-リング18にテーパ付リングのテーパを有する前部が越えるように設置すれば,あえて継手の長さを伸ばす必要はない。
また,乙23発明において,O-リング18と保持リング15の間隔をどの程度にするかに技術的意味を見出すことはできず,仮に継手の長さを伸ばす必要があるとしても,それによって乙23発明の目的を達成できなくなるということもないから,そのことが阻害事由になるとはいえない。
むしろ,乙4発明のテーパ付リングを乙23発明の保持リング15の軸方向外方に配置する場合には,テーパ付リングが保持リング15を通過する際の挿入抵抗が生じ,挿入抵抗の回数が増加するから,乙4発明をそのように適用する方が不自然である。この点について原告は,乙4発明のテーパ付リングの形状から,このような挿入抵抗の増加はないと主張するが,テーパ付リングが保持リング15に接触する以上,強さはともかく挿入抵抗は当然生じるから,原告の主張は採用できない。
64 以上から,原告の上記主張は採用できない。
(ウ) 原告は,本件特許発明において,テーパ付リングが弾性シールリングより軸方向外方部位と,抜止めリングより軸方向内方部位との間に嵌め込まれていることには, 「ためらい挿入の防止」等の有利な効果があると主張するところ,この趣旨は,そのような有利な効果があることから,テーパ付リング,弾性シールリング及び抜止めリングの位置関係を上記ア@のようにすることを当業者が容易に想到し得たものではないという点にあると解される。
a そこで検討するに,まず,「ためらい挿入の防止」については,それにより解決されたという課題は,抜止めリングが弾性シールリングよりも軸方向内方に存する場合に,管が抜止めリングに達しないまま引き抜かれると,抜止めがされず,再挿入もできないというものである。これに対し,乙23発明では,既に保持リング15はO-リング18の軸方向外方に配置されているのであるから,そもそも「ためらい挿入の防止」が前提とする課題が存しない。そうすると,「ためらい挿入の防止」は,既に乙23発明に内在している効果であるから,これを理由にテーパ付リングを上記ア@の位置に配置することの容易想到性を否定することはできない。
b 次に,「斜め挿入への対応」については,これは,テーパ付リングの先端が弾性シーリングを越えた位置にある場合には,管が斜め挿入されて,テーパ付リングに力が不均一に掛かった場合でも,テーパ付リングが弾性シールリングに突っ掛かることがないというものである。しかし,乙4公報には,テーパ付リングの前部が弾性シールリングを越えた位置にあるものが記載されているから,この効果は,既に乙4発明によって予想されるものである。そうすると,これを理由にテーパ付リングを上記ア@の位置に配置することの容易想到性を否定することはできない。
c また,「継手長の短縮,部材費・加工費の削減」については,原告は,甲30において,「図1 変更前」と「図2 変更後」を例示して,図2にお 65 いて,テーパ付ガイドを抜止めリングの軸方向外方に配置した場合には,内筒の長さを3mm 程度伸長することが必要になったとしている。しかし,図1の場合と図2の場合とで,シールリングと抜け止めリングの間隔を同じにする必要はなく,この間隔を短縮することも可能であるから,これは,テーパ付リングを上記ア@の位置に配置した構成によって直ちに奏する効果であるとはいえない。
d したがって,原告の上記主張は採用できない (4) 以上によれば,乙23発明に乙4発明を適用し,相違点1に係る構成に至ることは,当業者が容易に想到し得ることである。
5 相違点2に係る構成の容易想到性 (1) 乙24発明について ア 乙24公報には次の記載があると認められる(なお,別紙乙24図面参照。また,以下では,各引用部分の引用符の記載を省略する。 。
) 【特許請求の範囲】 【請求項1】 パイプの差し込みを許容するソケットと,このソケット内に深部側よりパイプが差し込まれる小径段部と大径段部とを備え,この大径段部内に深部側より保持リング,バックアップリング,O-リングが順次配置されたパイプ継手であって,前記各リングの内側をスライドする角部を備えたコアをパイプの先端にて押し込んでなり,当該角部が大径段部内のO-リング内周表面にまで達した長さとしたことを特徴とするパイプ継手。
発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明はパイプ継手に関するものであり,更に詳しくはパイプ用のワンプッシュ型継手の新たな継手を提供するものである。
【0010】 66 【実施例】 以下,本発明のパイプ継手を具体例をもって更に詳細に説明する。図1は本発明のパイプ継手の例を示す半裁図であり,パイプの差し込みが中途の場合の例である。
この図は逆に言えばパイプの差し込みが不完全な場合を表すこととなる。図2はパイプとの差し込みが完了した際の半裁図である。
【0011】 さて,パイプの差し込みを許容する砲金製ソケット10には深部側よりパイプが差し込まれる小径段部11と大径段部12とを備え,この大径段部12内に深部側より爪13を備えた保持リング14,バックアップリング15,O-リング16が順次配置された構造であり,これらを支持するようにソケット10に刻設された雄ねじ17にキャップ18が螺合されて組み立てられるものである。
【0012】 部31が大径段部12内のO-リング16の内周表面にまで達した長さとしたものである。尚,保持リング14と角部31との関係にあっては爪13を構成するスリット14 0 内をスライドさせるのがよく,バックアップリング15と角部31との関係にあっては,場合によっては内周側に窪みを設けてこの内部を角部31がスライドさせることができる。
【0013】 そして,先端にスリ-ブ41を嵌め込んだパイプ40がソケット10内に差し込まれると,パイプ40の先端によってコア30がソケット10の深部側に押し込まれ,これに伴い角部31が各リング14,15,16の内側をスライドして差し込みが完了することとなる。勿論,パイプ40がソケット10内に完全に差し込まれた場合には保持リング14の内側に形成した爪13にてパイプ40の外周面が食い込まれて固定し,バックアップリング15はこの食い込みを保持するためのものである。尚,O-リング16はには例えば潤滑剤を吹きかけておくのがよいが,好ましくはシリコンコ-ティングされたものがよい。
67 イ 乙24発明の認定 以上の乙24公報の記載によれば,保持リング14は,その内側に形成した爪13がスリット14 0 によって構成され(【0012】 ,パイプ40がソケット10内 )に完全に差し込まれた上記爪13がパイプ40の外周面に食い込む(【0013】)とされていることから,拡縮自在に構成されていると認められる。
また,図1及び図2(別紙乙24図面)からすると,ソケット10においては,爪13の先端部に対向する位置にテーパが設けられていると認められる。
そうすると,乙24公報には次の発明(乙24発明)が記載されていると認められる。
「保持リング15は,キャップ18の内部に配備され,内径部にパイプ40の外周面に食い込む拡縮径変形自在な爪部13を設けており,爪13はソケットのテーパと対向しているパイプ継手。」 (2) 相違点2に係る構成の容易想到性について 乙23発明と乙24発明は,いずれも,パイプを挿入した際に,保持リングの爪がパイプの外表面に食い込んで固定される管継手(パイプ継手)であるところ,このような保持リングにおける拡縮変形自在な爪は,パイプの挿入時に,爪の先端部がパイプの挿入につれて軸方向内方に動くこととなるから,爪の軸方向内方に,その先端部を逃がすための空間が必要になることは自明である。そして,そのための空間をどのような形状のものとするかに特段の技術的意義は認められないから,当業者が適宜選択し得る設計的事項であるといえ,乙24発明では,この空間の形状がテーパによって形成されている例が示されていると認められる。
そうすると,乙23発明のソケット10に必要に応じてテーパを設け,相違点2の構成に至ることは,当業者が容易に想到し得ることである。
6 以上によれば,本件特許発明は,当業者が乙23発明,乙4発明及び乙24発明に基づいて容易に発明することができたものであり,進歩性を欠き,本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものである。
68
結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求には理由がないから,主文のとおり判決する。
追加
69 (別紙)被告物件説明書1名称・仕向け先等(1)「iジョイント」シリーズと称し,後記構成を有する配管用継手部材(品名の例示)オスネジアダプターメスネジアダプターユニオン継手エルボユニオンエルボユニオン(短尺タイプ)バルブ付アダプター(逆止弁付)座付給水栓エルボ座付メスネジアダプター媒介エルボ床立上アダプター45°床立上アダプター給水栓エルボユニットエルボユニットエルボセットチーズソケットソケットエルボソケット背板固定止水栓(樹脂ハンドル付)背板固定止水栓背板固定止水栓(分岐用)自立止水栓(キッチン・洗面用)70 自立止水栓(分岐用)自立止水栓(トイレ用)エルボジョイント(分岐用)エルボジョイントエルボジョイント(アングル止水栓付)外壁取出金具ランドリー混合栓ランドリープラグプレハブヘッダープレハブヘッダー(両端めねじタイプ)プレハブヘッダー用1Pファスナーアダプターエルボファスナーアダプターバルブ付ファスナーアダプター(分岐用)バルブ付ファスナーアダプター(主管用)オスネジエルボバルブ付アダプターHIVP接続継手HIVPエルボ接続継手減圧弁用エルボユニオン減圧弁用アダプター水栓ボックス型用エルボ吸気弁付自立止水栓(キッチン・洗面用)吸気弁付背板固定止水栓吸気弁付自立止水栓(トイレ用ストレート止水栓)吸気弁付自立止水栓(トイレ用アングル止水栓)71 吸気弁付エルボジョイント上記各品名のポリブテン管専用(2)被告が積水ハウス株式会社又は積水化学工業株式会社に納入する,後記構成を有する配管用継手部材(3)被告がその他業者に納入する,後記構成を有する配管用継手部材2構成図示するとおり,継手本体1は,軸心方向の端部に内外二重の金属製の外筒体2及び内筒体3を有し,外筒体は継手本体と別体に,内筒体は継手本体と一体に形成され,外筒体2と内筒体3との間に管差込み間隙4が形成されている。
内筒体3には,その外側に,隣接して軸方向二重の溝が各穿設され,挿入される管の外径より小さく,内径より大きい,エチレン・プロピレン・ジエンゴム製の三角パッキン4,4が各溝に嵌め込まれている。
外筒体2の内部には,ステンレス製の環状部材である抜け止めリング5が装着され,割溝状とされることにより内径部に挿入される管の外周面に食い込む保持爪5aを構成し,該保持爪は拡縮径変形が自在な食込み歯となっており,該食込み歯は,前記外筒体の管差込口付近に設けられた食込み歯逃し用テーパ6と対向している。
前記三角パッキン4より軸方向外方(管入口側)部位と,前記抜け止めリング5より軸方向内方(管挿入側)部位との間には,前端部が管の一端部で押されると管差込み間隙の内奥に向けて移動するように,先端屈曲面において内径部側が前方拡がり状のテーパ状をなす挿入ガイド7が,上記二重の三角パッキン4のうち内奥側の三角パッキンに接触せず(図1),又は,該三角パッキン4の一部に挿入ガイド7の一部が接触した状態で(図2),嵌め込まれている。該挿入ガイド772 は,前記二重に嵌着された各三角パッキン4,4のうちの,内奥側の三角パッキンの軸方向外方部位に位置している。
以上73 3図面被告製品の管挿入継手部分一部破断面図図1(挿入ガイド7が三角パッキン4に接触しない)5a2157646643図2(挿入ガイド7の一部が三角パッキン4の一部に接触する)5a215764664374 (別紙)本件明細書図面75 (別紙)乙23図面76 (別紙)乙4図面77 78 79 (別紙)乙24図面80
裁判長裁判官 松宏之
裁判官 田原美奈子
裁判官 林啓治郎