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事件 平成 27年 (ワ) 6812号 特許権侵害差止等請求事件

原告HUROM株式会社
同 訴訟代理人弁護士小島秀樹
同 菊池毅
同 赤塚洋信
同 訴訟代理人弁理士角田成夫
同 長内行雄
被告株式会社イーバランス
同 訴訟代理人弁護士多田郁夫
同 松本賢人
同 久保田真悟
同 補佐人弁理士鷲田公一
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2016/06/23
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,別紙被告製品目録記載のスロージューサーの製造,販売又は販売の申出をしてはならない。
2 被告は,別紙被告製品目録記載のスロージューサーを廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,200万円及びこれに対する平成27年4月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
-1 -5 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
6 この判決は第1項及び第3項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 主文第1項,第2項同旨 2 被告は,原告に対し,3000万円及びこれに対する平成27年4月8日か ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,原告が被告に対し,被告による別紙被告製品目録記載のスロージュ ーサー(以下「被告製品」という。)の販売等が,原告が独占的通常実施権及 び専用実施権を有する特許権の侵害に当たる旨主張して,特許法100条1項 及び2項に基づき被告製品の販売等の差止め及び廃棄を,民法709条及び特 許法102条2項に基づき損害賠償金3000万円及びこれに対する特許権侵 害行為の後の日である平成27年4月8日(訴状送達日の翌日)から支払済み まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求めた事案 である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨に より容易に認定できる事実) 当事者 原告は,スロージューサー(低速回転するスクリューによって食材を圧搾 することを特徴とする搾汁ジューサー)の販売等を目的とする株式会社であ る。原告は,韓国法人である株式会社ヒューロム(以下「原告の韓国本社」 という。)の100%子会社であり,原告の韓国本社が製造するスロージュ ーサー(このうち後記本件発明の実施品を以下「原告製品」という。)を日 本に輸入し販売している。
被告は,電化製品の販売等を目的とする株式会社である。
原告が行使する特許権ア Xは,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許出願の願書に 添付された明細書及び図面を「本件明細書」という。)の特許権者であり, 原告はXから本件特許権の専用実施権を設定され,平成26年12月3日 その登録を受けた。(甲1) 特許番号 第4580408号 発明の名称 搾汁ジューサー 出 願 日 平成19年6月4日 登 録 日 平成22年9月3日イ 本件特許権の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりである(以下, この発明を「本件発明」という。 。
) 「上部一側に投入口が貫通形成され,内部中央に回転軸孔が形成される蓋と, 前記蓋の下部に設けられ,底部には案内段が形成され,外部下端部には滓排出口と汁排出口とが離隔して形成され,中央下端部に貫通孔を持つ防水円筒が形成され,前記防水円筒の下部縁に前記汁排出口と連通する圧力排出路が形成されたハウジングと, 上部には前記回転軸孔に回転可能に挿入される上部回転軸が形成され,外面にはスクリュー螺旋が複数形成され,下端には上記圧力排出路に挿入されて回転する複数のスクリューギヤが形成された内部リングが下方に突出形成され,前記内部リング内側に前記防水円筒が挿入される下部空間が設けられ,下部中心には角形軸孔が形成された下部回転軸を備えたスクリューと, 外壁は,前記汁排出口へ汁を排出させるべく,網構造からなり,内部面には垂直方向に複数の壁面刃が備えられ,前記案内段に挿入されるように 形成された網ドラム, 前記ハウジングと前記網ドラムとの間に装着されて回転しながら,前記 網ドラムと前記ハウジングとを連続的に掃き出すブラシ付のブラシホルダ ーを備えた回転ブラシと, 前記防水円筒の貫通孔を介して前記角形軸孔に挿入される角形軸が備え られ,前記スクリューを低速に回転させる駆動部とを含み, 前記スクリューを収容するハウジングが前記駆動部の上側に垂直に固定 され,投入口に挿入された材料を圧着及び粉砕すると共に搾汁しながら滓 を排出することを特徴とする搾汁ジューサー。」ウ 本件発明は,以下の構成要件(以下,それぞれを「構成要件A」などと いう。)に分説される。
A 上部一側に投入口が貫通形成され,内部中央に回転軸孔が形成される 蓋と, B 前記蓋の下部に設けられ,底部には案内段が形成され,外部下端部に は滓排出口と汁排出口とが離隔して形成され,中央下端部に貫通孔を 持つ防水円筒が形成され,前記防水円筒の下部縁に前記汁排出口と連 通する圧力排出路が形成されたハウジングと, C 上部には前記回転軸孔に回転可能に挿入される上部回転軸が形成され, 外面にはスクリュー螺旋が複数形成され,下端には上記圧力排出路に 挿入されて回転する複数のスクリューギヤが形成された内部リングが 下方に突出形成され,前記内部リング内側に前記防水円筒が挿入され る下部空間が設けられ,下部中心には角形軸孔が形成された下部回転 軸を備えたスクリューと, D 外壁は,前記汁排出口へ汁を排出させるべく,網構造からなり,内部 面には垂直方向に複数の壁面刃が備えられ,前記案内段に挿入される ように形成された網ドラム, E 前記ハウジングと前記網ドラムとの間に装着されて回転しながら,前 記網ドラムと前記ハウジングとを連続的に掃き出すブラシ付のブラシ ホルダーを備えた回転ブラシと,F 前記防水円筒の貫通孔を介して前記角形軸孔に挿入される角形軸が備 えられ,前記スクリューを低速に回転させる駆動部とを含み,G 前記スクリューを収容するハウジングが前記駆動部の上側に垂直に固 定され,投入口に挿入された材料を圧着及び粉砕すると共に搾汁しな がら滓を排出するH ことを特徴とする搾汁ジューサー。
被告の行為等ア 被告は,平成25年頃以降被告製品を販売した。
イ 被告製品の構成を示す図は別紙図1〜18のとおりである。ただし,被 告は,上記各図中に用いられる「圧力排出路」(図16,17) 「圧力排 , 出路形成壁」(図2,6,11〜14,16,17) 「案内段」 , (図9), 「案内突起」(図9,14〜16)との名称及びその機能を争っている。
そこで,以下,上記「圧力排出路」を「果汁案内路」,上記「圧力排出路 形成壁」を「果汁案内壁」,上記「案内突起」を「位置決め突起」といい, 位置決め突起2個及びハウジング排出孔周壁の総称を上記「案内段」に代 え「位置決め突起等」という。
ウ 被告製品の構成は以下のとおりである。(甲11) a 被告製品は,上部一側に投入口が貫通形成され,内部中央に回転軸 孔が形成される蓋を有する。
b 被告製品は,前記蓋の下部に設けられ,底部に位置決め突起等が形 成され,外部下端部には滓排出口と汁排出口とが離隔して形成され, 中央下端部に貫通孔を持つ防水円筒が形成されたハウジングを有する。
c 被告製品は,上部には前記回転軸孔に回転可能に挿入される上部回 転軸が形成され,外面にはスクリュー螺旋が複数形成され,下端には 果汁案内路に挿入されて回転する複数のスクリューギヤが形成された 内部リングが下方に突出形成され,前記内部リング内側に前記防水円 筒が挿入される下部空間が設けられ,下部中心には角形軸孔が形成さ れた下部回転軸を備えたスクリューを有する。
d 被告製品は,外壁は前記汁排出口へ汁を排出させるべく網構造から なり,内部面には垂直方向に3本の壁面刃が備えられ,位置決め突起 等により位置決めされる網ドラムを有する。網ドラムの下部突端には 凸状の果汁案内壁が形成され,網ドラムをハウジングに装着すると, ハウジング底面,前記防水円筒及び前記果汁案内壁により果汁案内路 が形成される。
e 被告製品は,前記ハウジングと前記網ドラムとの間に装着されて回 転しながら,前記網ドラムと前記ハウジングとを連続的に掃き出すブ ラシ付のブラシホルダーを備えた回転ブラシを有する。
f 被告製品は,前記防水円筒の貫通孔を介して前記角形軸孔に挿入さ れる角形軸が備えられ,前記スクリューを低速に回転させる駆動部を 有する。
g 前記スクリューを収容するハウジングは前記駆動部の上面に垂直に 固定され,投入口に挿入された材料を圧着及び粉砕すると共に搾汁し ながら滓を排出する。
h 被告製品は,前記a〜gの特徴を有する搾汁ジューサーである。
2 争点 構成要件B及びC「圧力排出路」の充足性(文言侵害,均等侵害) 構成要件B及びD「案内段」の充足性(文言侵害,均等侵害) なお,被告は,被告製品が構成要件A,E〜Hを充足することを認めてい る。
原告の損害額3 争点に関する当事者の主張 争点 (構成要件B及びC「圧力排出路」の充足性)について(原告の主張) ア 本件明細書の段落【0072】の記載からは,構成要件B及びCの「圧 力排出路」とは,スクリューの内部リングと網ドラムの内部リング挿入口 との間の隙間に押し込まれ,圧力排出路に流入した水分を汁排出口に排出 する機能を有するものと解釈できる。また,本件発明に係る各部品を組み 付ける際,ハウジングはスクリュー及び網ドラムを収容し,ハウジング底 部においてこれらが接合する構成となっている。このような機能及び構造, さらに構成要件Bの文言に照らすと,本件発明における圧力排出路は,ハ ウジングにスクリューと網ドラムを組み合わせることによって形成される 空間である。
被告製品は,ハウジングにスクリュー及び網ドラムを配置すると,ハウ ジングの底面上で,防水円筒の下部外面,果汁案内壁の内面,内部リング の下面及び底部リングの下面との間に果汁案内路が形成されるから,これ は構成要件B及びCの「圧力排出路」に該当する。
イ 仮に,被告製品の果汁案内路が圧力排出路に当たらないとしても,以下 のとおり果汁案内路は圧力排出路と均等であり,被告製品は構成要件B及 びCを充足する。
被告製品ではスクリュー,網ドラム及びハウジングを組み合わせたと きに果汁案内路がハウジング内部に形成されており,この点で本件発明 の圧力排出路と相違はない。そして,圧力排出路は部材の構造や組合せ によっていかようにでも形成できるもので形成方法に技術的意義はない から,圧力排出路の形成方法は本件発明の本質的部分ではない。
被告製品の果汁案内路もスクリューの内部リングと網ドラムの内部リ ング挿入口との間の隙間から押し込まれた一部の水分を汁排出口に流出 させるもので,汁が駆動部に流入することを防止しながらも搾汁し得る という本件発明と同様の効果(本件明細書段落【0032】)を奏する から,本件発明の圧力排出路と置換可能である。
被告は,被告製品はハウジング底面を平坦化することで清掃が容易に なるから作用効果が異なる旨主張するが,ハウジングの清掃のしやすさ は原告製品と被告製品とで変わりない上,そもそもジューサーに求めら れる機能は搾汁であって清掃の容易性は主要な作用効果とはいえない。
圧力排出路は部材の構造や組合せ次第でいかようにでも形成できるも のであり,一つの部材で通路を設ける代わりに隣接する部材との組合せ によって通路を設けることは当業者でなくても容易に想到できる。
また,特開2012-183314号公報(甲26。以下「甲26文 献」という。)に記載された発明(以下「甲26発明」という。)は,ス ロージューサーという被告製品と同一の技術分野に属し,構造も極めて 類似している。そして,甲26発明においては,底部が平坦に構成され た搾汁ケース(ハウジングに相当)と排出ガイド部下面の下方に突出し た部分とブッシング(防水円筒に相当)の下部縁により搾汁の二次的, 補助的な流出経路となる通路が形成されているから,圧力排出路につい て被告製品の構成を採ることは容易である。また,搾汁機の隣接技術分 野である道路排水技術及びドレン排水技術においても被告製品の果汁案 内路に類似した構造が文献(甲28,29,31)に記載されている。
本件発明は公知技術と同一ではなく,当業者が本件特許の出願時に容 易に推考できたものではない。
被告製品が本件発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識 的に除外されたものに当たるなど特段の事情はない。
(被告の主張) ア 構成要件Bの文言解釈上,圧力排出路は凹状ハウジングの底部に形成さ れた凸型防水円筒の下部縁に形成されていることが明らかである。また, 本件明細書の記載(段落【0055】 【0056】 【0072】 , , )からは, 圧力排出路は網ドラムの内側で下方に流れ落ちる果汁を汁排出口に導くた めに防水円筒の下部縁に連なって形成され,かつ,汁排出口と連通する形 状の,ハウジングの底面に形成された凹部であることが分かる。
一方,被告製品のハウジングの底部は平坦であり,網ドラムがハウジン グにセットされたときに初めて,ハウジングに対向する網ドラム突端に形 成された凸状の果汁案内壁とハウジングの底面とにより果汁案内路が形成 される構成であるから,圧力排出路を有さず,圧力排出路に挿入されて回 転することを予定する複数のスクリューギヤも有しないことになる。した がって,被告製品は構成要件B及びCを充足しない。
被告製品は,果汁や果物滓がこびりついた場合の清掃を容易にするため, 「上から流れ落ちる汁を受ける部材に汁流路を形成する」という通常の発 想を転換して,圧力排出路や案内段のような凹凸を排しハウジング底面を 平坦化したもので,本件発明とは根本的に技術思想が異なる。
イ 原告は均等侵害を主張するが,これも以下のとおり理由がない。
搾汁しながら滓を排出する形態の本件発明においては,果汁と滓とを 分離しそれぞれ汁排出口と滓排出口とに案内するハウジングがあって初 めてジューサーとして機能するのであり,圧力排出路を形成したハウジ ングが果汁を汁排出口に案内する構成は本件発明の成立と不可分の重要 部分である。したがって,被告製品と本件発明は,発明の本質的部分に おいて相違している。
上記アのとおり,被告製品はハウジングの底部を平坦にし網ドラムの 果汁案内壁により果汁案内路を形成することで格段に清掃しやすくなる という新たな効果を得ることができ,本件発明と作用効果は同一でない。
置換容易性判断においては,当業者であれば誰しもが,特許請求の範 囲に明記されているのと同じように認識できる程度の容易さを要すると 解すべきところ,ハウジング底面に圧力排出路を構成する本件発明と, ハウジングの底部を平坦にし果汁案内壁で果汁案内路を形成する被告製 品との相違は,発想の転換ともいうべき根本的なものであることは上記 アのとおりであって,そもそも置換を論じること自体適当でなく,その 置換が当業者にとって容易であったとは考えられない。
原告の指摘する甲26発明は,搾汁スクリュー部,回転搾汁網部,搾 汁ケースの構成が被告製品と異なるほか,排出ガイド部という独自の部 品が存在し,その構成上,汁はブッシングの下部縁付近には流出しない ため圧力排出路を設ける必要がない。現に甲26文献には圧力排出路あ るいは圧力排出路形成壁について何ら記載がなく,原告が圧力排出路で あるという空間は単なるギヤの隙間である。
争点 (構成要件B及びD「案内段」の充足性)について(原告の主張) ア 本件明細書の段落【0056】の記載からは,構成要件B及びDの「案 内段」とは網ドラムの底部をハウジングに案内固定するため突出形成され た部材であると解釈することができる。
被告製品においては,ハウジングに網ドラムを配置する際,底部リング の外面が位置決め突起を介してハウジングに案内され,網ドラムに設けら れた網ドラム排出孔周壁がハウジング排出孔周壁を介してハウジングに案 内される。すなわち,網ドラムは,位置決め突起等に案内されながらその 間に挿入されハウジングの内側に配置されるから,被告製品は構成要件B 及びDの「案内段」を有する。
仮に被告の主張のように,案内段は,圧力排出路の周りに円形に突出形 成された凸部であり一定の幅を有することが要するとしても,被告製品の 位置決め突起等は,果汁案内路の周りに凸型に突出形成され,網ドラムの 底部リングの形状に沿った円形の一部を構成し,その円形の空間に網ドラ ムの底部リングが挿入されるようになっている。さらに,位置決め突起等 は一定の幅を持っているから,案内段に当たる。
イ 仮に位置決め突起等が案内段に当たるといえなくても,@ 案内段は網 ドラムがハウジングに組み付けられる際にその位置を決めるものにすぎず 本件発明の主題である搾汁機能と関係がないこと,A 位置決め突起等に よって網ドラムがハウジングに組み付けられる際の位置を決められること, B 位置決め突起等は網ドラムの位置を定めるための構成としてごく一般 的なものにすぎず技術的な特徴も見いだせないから,当業者が容易に思い 付くものであること,C 被告製品は本件発明の技術を用いている点にお いて公知技術と同一ではなく当業者が本件特許の出願時に容易に推考でき たとはいえないこと,D 被告製品の構成が本件発明の出願手続において 特許請求の範囲から意識的に除外された等の事情はないことからすれば, 位置決め突起等は案内段と均等である。
(被告の主張) ア 構成要件Bの文言上,案内段はハウジングの底部に形成されるものであ る。また,本件明細書の記載(段落【0056】)からすれば,案内段と は,網ドラムの底部リングが挿入されて固定できるようハウジングの底部 に形成された圧力排出路の周りに円形に突出形成された凸部である。さら に,「段」という表現からは,網ドラム底部を支えるよう一定の幅を持つ 形状であると解される。
これに対し,被告製品においては,前記 (被告の主張)記載のとおり, ハウジングの底部の平坦化を目指し,ハウジング底面の中間ギヤ近傍に, 一対の最小サイズの位置決め突起を設け,ハウジング排出孔周壁と合わせ て3点のみで網ドラムの位置決めをする構成としたもので,案内段は存在 しない。
イ 原告は均等侵害を主張するが,@ 本件発明において案内段で網ドラム を固定するのは,網ドラムの外側をハウジングブラシが回転して網目を継 続して洗浄し,連続使用の場合の解体洗浄を省く効果を期してのことであ るから(本件明細書段落【0035】 ,案内段は本件発明の作用効果の中 ) 核を担う部材であり本件発明の本質的部分であること,A 被告製品はハ ウジング底部に圧力排出路が存在せず,位置決め突起等は圧力排出路周辺 に形成されていないから置換可能ではないこと,B 案内段から位置決め 突起等への変更が容易想到である旨の原告主張は合理的証拠に基づかない ことに照らし,失当である。
争点 (原告の損害額)について(原告の主張) ア 原告製品は,従前,原告を含む4社によって日本で販売されていたが, 原告は,平成25年8月21日,特許権者から黙示的に本件特許権の独占 的通常実施権の許諾を受け,以後独占的に原告製品を販売し,さらに,平 成26年12月3日,本件特許権の専用実施権の登録を受け,以後専用実 施権者として原告製品を日本で販売している。
イ 被告は,平成25年頃から本件の口頭弁論終結までの間に,被告製品を 少なくとも5000個販売したと考えられるところ,被告製品の販売価格 は約1万円,利益率は約30%であり,被告の利益は1500万円を下ら ない。原告が独占的通常実施権を有していた期間と専用実施権を得て以降 の期間の長さに照らすと,独占的通常実施権に基づく損害額は1000万 円,専用実施権に基づく損害額は500万円である(特許法102条2 項)。
ウ 本件は特許訴訟という専門性を有するほか,外国人である特許権者や原 告の韓国本社との連絡を要するという特殊性もあり,本件訴訟追行に当た り相当な弁護士費用及び弁理士費用の額は1500万円である。
(被告の主張) ア 原告が本件特許権の独占的通常実施権の許諾を受けたことは否認する。
原告製品を販売していたのが原告のみであるとしても,それは事実上のこ とにすぎない。
イ 被告による被告製品の販売期間は平成25年10月22日〜平成27年 1月27日,販売個数は合計2723個,仕入額は合計1846万173 0円,売上額は合計1529万2077円であり,被告は被告製品の販売 により利益を得ておらず,かえって316万9653円の損失が生じてい る。
ウ 弁護士費用については争う。
当裁判所の判断
1 争点 (構成要件B及びC「圧力排出路」の充足性)について 文言侵害の成否 本件発明の構成要件Bは,「中央下端部に・・・防水円筒が形成され,前 記防水円筒の下部縁に前記汁排出口と連通する圧力排出路が形成されたハ ウジング」というものである。また,本件明細書には,「ハウジングに圧力 排出路を構成し」との記載がある(発明の効果。段落【0032】 。以上 ) の特許請求の範囲の文言及び本件明細書の記載からは,圧力排出路はハウ ジング自体に汁が流れる通路として形成されるものであることが明らかで あるところ,被告製品のハウジング底面における防水円筒の下部縁付近は 平坦であり,通路と評価できるものは何ら形成されていない(別紙図9, 17,甲11)。したがって,被告製品は圧力排出路を有さず,構成要件B 及びCを文言上充足しない。
この点につき,原告は,本件発明における圧力排出路とは,ハウジングに スクリューと網ドラムを組み合わせることによって形成される空間である 旨主張するが,上記判示に照らし採用できない。
均等侵害の成否ア 特許請求の範囲に記載された構成中に特許権侵害訴訟の対象とされた製品と異なる部分が存する場合であっても,@ 上記部分が特許発明の本質的部分ではなく(第1要件),A 上記部分を当該製品におけるものと置き換えても特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって(第2要件),B そのように置き換えることに特許発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が当該製品の製造時点において容易に想到することができたものであり(第3要件),C 当該製品が特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考することができたものではなく(第4要件),かつ,D 当該製品が特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない(第5要件)ときは,当該製品は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明技術的範囲に属するものと解すべきである(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。
本件発明における圧力排出路と被告製品における果汁案内路の構成は,前者がハウジングの中央下端部に形成された防水円筒の下部縁に汁が流れる通路として形成されているのに対し,後者がハウジングと網ドラムを組み合わせたときにハウジングの底面及び防水円筒の下部縁と網ドラムの下方に突設された果汁案内壁とで形成される点(別紙図17)で異なっている。原告は,被告製品の果汁案内路の構成が上記各要件を満たし圧力排出路と均等である旨主張するので,以下検討する(なお,被告は上記第4要件及び第5要件を争っていない。 。
)イ 第1要件(発明の非本質的部分)について 本件明細書には要旨以下の記載がある。(甲2) a 本件発明は,従来技術の問題点を解決し,食材の味を損わず,かつ, 食材の種類にかかわらず排出口によく排出できるようにすること, 搾汁を迅速に行い,ハウジング内部にとどまることなく下方によく 流出させること,作業時の揺れや衝突をなくすこと,材料を押圧す ることなしに食材が進んで流入するようにし,機器の連続的な使用 を可能とすることを目的とする。(発明が解決しようとする課題。段 落【0009】〜【0012】)b ハウジングに圧力排出路を構成し,これを汁排出口と連通するよう に構成することによって,汁(水分)が駆動部に流入されることを 防止しながら搾汁し得る。また,スクリューに外部リングを形成す ることによって滓の排出をより円滑に行い,かつ,網ドラムに円形 突起を形成することによって滓が圧力排出路に流入されることを最 小化する。(発明の効果。段落【0032】 【0033】 , )c 網ドラムの底部リングで粉砕済みの食材が最終的に圧縮されて脱水 され,この過程で大部分の水分(汁)は網ドラムの外壁の網目を介 して外部に流出され汁排出口に排出されるが,一部はスクリューの 内部リングと網ドラムの内部リング挿入孔との間の隙間に押し込ま れて,圧力排出路に流入され,これと連通する汁排出口に排出され る。仮に圧力排出路が汁排出口に連通するように形成されていなけ れば,上記隙間に押し込まれた水分(汁)は防水円筒を超えて貫通 孔と角形軸との間の隙間からハウジングの外に流出し,駆動部のモ ータや減速機を汚染したり外部表面に汁が漏出したりするおそれが ある。(実施例。段落【0072】 【0073】 , )d スクリューギヤは圧力排出路に挿入されて回転する。羽根状のスク リューギヤは,圧力排出路に流出される高粘度の汁を効率よく汁排 出口に強制排出させる。(実施例。段落【0055】 【0075】 , , 【図4】) 上記 の本件明細書の記載によれば,圧力排出路の存在は本件発明が 解決すべき課題と直接関係するものではない。もっとも,本件発明の 効果等に関する上記 b,cの記載をみると,圧力排出路は,食材が 網ドラムの底部で最終的に圧縮され脱水される過程で生じる一部の汁 が防水円筒を超えてハウジングの外に流出するのを防ぐことを目的と するものであり,汁を排出するための通路をハウジング底面において 防水円筒の下部縁に形成することは発明の本質的部分であるとみる余 地がある。しかし,上記の効果を奏するためには,上記通路が防水円 筒の下部縁に存在すれば足り,これをどのような部材で構成するかに より異なるものではない。そうすると,上記の異なる部分は本件発明 の本質的部分に当たらないと解するのが相当である。
ウ 第2要件(置換可能性)について 前記イ のとおり,本件発明における圧力排出路は,食材が網ドラム の底部で最終的に圧縮されて脱水される過程で生じる一部の汁が防水 円筒を超えてハウジングの外に流出するのを防ぐものである。また, これにスクリューギヤが挿入されて回転することにより,高粘度の汁 を効率的に排出することができる。
他方,前記前提事実 ウdの被告製品の構成及び別紙図17のとおり, 被告製品のハウジングにスクリュー及び網ドラムを配置すると果汁案 内路が形成され,これが汁排出口と連通して,搾汁された汁の一部を 汁排出口へ案内する機能を果たすと認められる。また,被告製品のス クリュー下部に形成されたスクリューギアは,果汁案内路に挿入され て回転する(甲11)。そして,網ドラムはハウジングの上方から配置 されるものであり,果汁案内壁とハウジング底面との間に隙間が生じ ることもあり得るところ,その場合には当該隙間から汁が果汁案内路 の外側に流出するから,果汁案内路に流入した汁が内周側の防水円筒 を超えてハウジング外部に流出することはないものと考えられる。し たがって,被告製品の果汁案内路は本件発明の圧力排出路と同一の作 用効果を奏するということができる。
以上のとおり,被告製品の果汁案内路は圧力排出路と同一の作用効果 を奏するものとして,置換可能と評価するのが相当である。
これに対し,被告は,被告製品はハウジング底面を平坦化することに より清掃を容易にするという新たな効果が生じているから置換可能と はいえない旨主張する。しかし,仮にそのような効果が生じるとして も,ハウジング底面の清掃容易性は本件発明の前記課題とは無関係で あり,これをもって第2要件の充足性を否定することはできない。
エ 第3要件(置換容易性)について 本件明細書には,本件発明の実施例として,ハウジングに形成された 圧力排出路の外側のハウジング底面の上部に網ドラム底部に形成され た底部リングを載置し,その内周面と圧力排出路の外周面が上下に一 体となって,これと防水円筒の外周面により圧力排出路の上方に続く 空間を形成し,そこにスクリュー下方に突出形成された内部リング及 びその下端のスクリューギヤが挿入される例が記載されている(段落 【0045】 【0052】 【0056】 【図3A】 【図3B】 。この , , , , ) とき,水分(汁)の一部が内部リングと網ドラムの内部リング挿入孔 (底部リングの内側に当たる。)との間の隙間に押し込まれ,圧力排出 路に流入する(段落【0072】 ,すなわち,底部リング(網ドラ ) ム)内壁からそのまま圧力排出路の外周側の内壁を伝って圧力排出路 に流入しており,上記実施例において網ドラムの一部は圧力排出路の 外周側の壁の役割を果たしているといえる。また,本件発明と同じ技 術分野に属する搾汁機において,搾汁ケース(本件発明のハウジング に相当する。)のブッシング(同防水円筒に相当する。)の下部縁に流 路を形成せず,搾汁ケースの底部のこの部分を平坦にしたものは被告 製品の製造販売時に公知であったと認められる(甲26)。そうすると, 本件明細書の前記記載に接した当業者にとって,上記実施例の網ドラ ムないし底部リングを下方に伸長して圧力排出路の外周側の壁に代え るとともに,この部分のハウジングの底面を平坦にすることによって, 圧力排出路の外周側の壁全体を網ドラムで形成することに思い至るの は容易であるというべきである。
これに対し,被告は,ハウジングの底部を平坦にした被告製品は本件 発明と根本的に相違する旨主張するが,以上の説示に照らしこれを採 用することはできない。
オ 以上のとおり,被告製品の果汁案内路は本件発明の圧力排出路と均等で あるということができる。
2 争点 (構成要件B及びD「案内段」の充足性について) 構成要件Bは「底部には案内段が形成され・・・たハウジング」,構成要 件Dは「前記案内段に挿入されるように形成された網ドラム」というもの であるから,特許請求の範囲の文言上,案内段はハウジングの底部に形成 され網ドラムが挿入されるものである。また,案内段については,本件明 細書上,網ドラムの底部リングが挿入されて固定できるように圧力排出路 の周りに円形に突出形成される旨記載されるのみである(実施例。段落 【0056】 【図2】 【図4】 。そして, , , ) 「案内」とは人などをその所定の 場所に導いていくことを,「段」とは平面の高さが連続していないことを意 味する平易な語であるから,本件発明における案内段とは,ハウジングの 底部に突出形成された部材であって,そこに網ドラムを挿入することで網 ドラムを所定の位置に固定するものであると解される。
そこで被告製品における位置決め突起等をみると,これらはいずれもハ ウジングの底面に突出形成された部材である(別紙図9,甲11)。また, 証拠(甲10,11)及び弁論の全趣旨によれば,網ドラムはハウジング に上から取り付けられること,取付けの際,網ドラムの底部に突出形成さ れた果汁案内壁及び網ドラム排出孔周壁が,それぞれ位置決め突起及びハ ウジング排出孔周壁の内側に沿うよう位置を合わせてはめ込まれ,網ドラ ムはそれ以外の位置に動かせないこと,網ドラムがはめ込まれた状態にお いて,果汁案内壁の下端はハウジング底面に達し,網ドラム排出孔周壁の 下端はハウジング排出孔周壁の内側直下に形成されたハウジング排出孔に 差し込まれることが認められる。
以上の事実によれば,位置決め突起等はハウジング底面に突出形成され, 網ドラムが予定された位置に取り付けられ固定されるための部材である。
また,はめ込まれた網ドラムの下端は位置決め突起等の上端を超えてハウ ジング底面まで至っており,「挿入される」とみることができるものである。
そうすると,位置決め突起等は本件発明の案内段に当たると認められるか ら,被告製品は構成要件B及びDを充足する。
これに対し,被告は,案内段は圧力排出路の周りに円形に突出形成され た凸部であり,網ドラム底部を支えるよう一定の幅を持つ形状であること を要するところ,被告製品の位置決め突起等はこれに当たらない旨主張す る。しかし,被告が根拠とする本件明細書の段落【0056】は本件発明 の実施例についての記載にすぎず,上記 の判示に照らし,案内段がそれ 自体円形であること及び圧力排出路の周りに形成されることが必須とは解 されない。また,位置決め突起等が一定の幅を有することは明らかであり (別紙図9,甲11),被告の主張は採用できない。
3 争点 (原告の損害額)について 前記1及び2で判示したとおり被告製品は本件発明の技術的範囲に属す るところ,原告は,被告が被告製品の販売により1500万円の利益を得 たとして,特許法102条2項に基づき同額の損害賠償を請求する。これ に対し,被告は,被告製品の販売により316万9653円の損失が生じ ており,利益は得ていないと主張するところ,原告はこれに具体的に反論 せず原告主張を裏付けるに足りる証拠も提出しない。以上によれば,被告 が本件特許権の侵害行為により利益を得たと認めることはできないから, 独占的通常実施権の有無等の点について判断するまでもなく,原告の上記 請求は理由がないことになる。
本件事案の内容,経緯等に照らすと,本件において被告に負担させるべ き弁護士及び弁理士費用の額は200万円が相当であり,原告の被告に対 する本件特許権侵害による損害賠償請求はその限度で理由がある。
4 結論 よって,主文のとおり判決する。なお,主文第2項についての仮執行宣言は相当でないから,これを付さないこととする。
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官 藤原典子
裁判官 萩原孝基
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