審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成27ネ10014特許権侵害行為差止請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成27ワ12416 特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成27ネ10108 特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成28ネ10046 特許権侵害差止請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成29ネ10010特許権侵害差止請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
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事件 |
平成
27年
(ワ)
12609号
特許権侵害差止請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2016/06/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成28年6月22日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官 平成27年(ワ)第12609 特許権侵害差止請求事件 口頭弁論終結日 平成28年4月22日 判 決 原 告 メルク・シャープ・アンド・ ド ー ム ・ コ ー ポ レ ー シ ョ ン 同訴訟代理人弁護士 窪 田 英 一 郎 同 柿 内 瑞 絵 同 乾 裕 介 同 今 井 優 仁 同 中 岡 起 代 子 同 石 原 一 樹 同訴訟復代理人弁理士 新 谷 紀 子 被 告 フ ァ イ ザ ー 株 式 会 社 同訴訟代理人弁護士 小 笠 原 匡 隆 同 三 好 豊 同 飯 塚 卓 也 被 告 補 助 参 加 人 マ イ ラ ン 製 薬 株 式 会 社 同 代 理 人 弁 護 士 田 中 浩 之 同 代 理 人 弁 理 士 大 門 良 仁 主 文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告 1 の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事 実 及 び 理 由 第1 請求 1 被告は,別紙被告製品目録記載の各製品を製造し,販売し又は販売の申出を してはならない。 2 被告は,前項の各製品を廃棄せよ。 第2 事案の概要 1 本件は,発明の名称を「5α−レダクターゼ阻害剤によるアンドロゲン脱毛 症の治療方法」とする特許第3058351号の特許権(以下「本件特許権」と いい,その特許を「本件特許」という。)を有する原告が,被告に対し,別紙被 告製品目録記載の各製品(以下,これらを併せて「被告各製品」といい,個別に は,同目録の番号に対応して「被告製品1」などという。)は,本件特許の願書 に添付した明細書(以下「本件明細書」という。 )の特許請求の範囲(以下,単 に「特許請求の範囲」ということがある。)の請求項1記載の発明(以下「本件 発明」といい,本件特許のうち本件発明に係るものを「本件発明についての特許」 という。)の技術的範囲に属し,かつ,存続期間の延長登録を受けた本件特許権 の効力は,被告による被告各製品の製造,販売及び販売の申出(以下「製造販売 等」という。)に及ぶ旨主張して,特許法100条1項及び2項に基づき,被告 各製品の製造販売等の差止め及び廃棄を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠等により容易に認められる 事実) (1) 当事者 原告は,医薬品の製造販売等を行う米国ニュー・ジャージー州法人である(弁論 の全趣旨)。 被告は,医薬品の製造販売等を行う株式会社である。 2 (2) 本件特許権及び存続期間の延長登録 ア 原告は,次の内容の本件特許の特許権者である(甲1,2)。 特 許 番 号 特許第3058351号 登 録 日 平成12年4月21日 出 願 番 号 特願平7−511986号 出 願 日 平成6年10月11日 優 先 日 平成5年10月15日(以下「本件優先日」という。) (優先権主張国:米国) 優 先 日 平成6年3月17日 (優先権主張国:米国) 発 明 の 名 称 5α−レダクターゼ阻害剤によるアンドロゲン脱毛症の治 療方法 特許請求の範囲 別紙特許請求の範囲記載1のとおり イ 原告は,別紙存続期間の延長登録の「出願番号」,「出願日」,「延長の期 間」及び「延長登録日」欄記載のとおり,本件特許権の存続期間の延長登録の出願 をし,その登録(以下,それぞれ,同別紙の番号に従い,「本件延長登録1」な どという。)を受けた。本件特許の原簿に記録された本件延長登録1及び同2の 理由となった各処分(以下,それぞれ,同別紙の番号に従い,「本件各処分1」 などという。)は,同別紙の「特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容」 欄記載のとおりである(甲1)。 (3) 本件特許に対する特許無効審判及び審決取消訴訟 ア 被告補助参加人が本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし同20に係る 発明についての特許を無効とすることを求めて,特許無効審判(無効2013−8 00194号。以下「本件無効審判」という。 )を請求したところ,平成26年 5月13日付けで,審決の予告がされた。 テバ ファーマスーティカル インダストリーズ リミティド(以下「テバ社」と 3 いう。)は,本件無効審判に参加を申請し(同月23日受付),同年8月13日 付けで,参加を許可する旨の決定がされた。 原告は,同月22日付けで,本件特許の特許請求の範囲を別紙特許請求の範囲記 載2(同別紙記載2における下線は訂正箇所を示す。)のとおり訂正することを内 容とする本件明細書の訂正(以下「本件訂正」といい,本件訂正のうち請求項1 に係る部分を「本件訂正1」という。同訂正後の特許請求の範囲の請求項1記載 の発明を「本件訂正発明」という。)を請求した。 特許庁は,@本件訂正は,訂正要件を満たす,A本件訂正発明は,別紙引用例記 載の各刊行物(以下,同別紙の番号に対応して「引用例1」などという。 )記載 の発明(以下,引用例の番号に対応して「引用例1発明」などという。)に基づ いて,当業者が容易に発明をすることができた,などと認定判断して,同年10月 15日,「請求のとおり訂正を認める。特許第3058351号の請求項1,2, 4ないし16,18ないし20に係る発明についての特許を無効とする。」との審 決(以下「本件無効審決」という。)をし,同月23日,その謄本が原告に送達 された(これに伴い,本件無効審決のうち,請求項3及び同17を削除する旨の訂 正〔本件訂正のうち,請求項3及び同17に係る部分〕を認めた部分は,確定し た。)。なお,出訴期間として90日が附加された。 (以上につき,甲1,3,4,乙14)。 イ 原告は,平成27年2月19日,被告補助参加人(本件無効審判の審判請求 人)及びテバ社(本件無効審判の参加人)を相手方として,知的財産高等裁判所に 本件無効審決の取消しを求める訴え(同裁判所平成27年(行ケ)第10033号) を提起したが,同裁判所は,平成28年4月20日,原告の主張に係る本件無効審 決の取消事由はいずれも理由がないとして,原告の請求を棄却する旨の判決(以 下「本件知財高裁判決」という。 なお,特許法179条ただし書は,特許無効審 判の審決に対する訴えにおいては,その審判の「請求人又は被請求人を被告としな ければならない」旨規定しているところ,本件審決は,特許を無効とするものであ 4 るから,その取消しを求める訴えについては,本件無効審判の「請求人」のみが被 告適格を有することになる。ここでいう「請求人」に同法148条1項の参加人 〔審判請求人として参加した者〕が含まれるか否かについては議論があるが,本件 知財高裁判決は,テバ社〔本件無効審判の参加人〕の被告適格を否定していない。) をした。 なお,本件知財高裁判決は,上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日 と定めており,本件口頭弁論終結時において,同判決は確定しておらず,したがっ て,本件無効審決も,請求項3及び同17を削除する旨の訂正(本件訂正のうち, 請求項3及び同17に係る部分)を認めた部分を除き,確定していない。 (以上につき,乙14) (4) 本件発明及び本件訂正発明の構成要件の分説 本件発明及び本件訂正発明を構成要件に分説すると,それぞれ,次のとおりであ る(以下,分説に係る各構成要件を符号に対応して「構成要件A」などとい う。)。 ア 本件発明 A 単位用量として0.05〜3mgの5α−レダクターゼ2阻害剤および B 医薬的に許容可能なキャリヤーより成る, C ヒトにおけるアンドロゲン脱毛症治療用経口剤型医薬組成物。 イ 本件訂正発明 A’ 単位用量として0.05〜1mgの5α−レダクターゼ2阻害剤および B 医薬的に許容可能なキャリヤーより成る, C ヒトにおけるアンドロゲン脱毛症治療用経口剤型医薬組成物。 (5) 被告の行為 ア 被告各製品の製造販売等 被告は,平成27年4月6日頃から,被告各製品を業として製造販売等している。 イ 被告各製品の構成 5 被告各製品1の構成を本件発明又は本件訂正発明との対比に必要な限度で分説す ると,次のとおりである(以下,分説に係る各構成を符号に対応して「構成 a1」 などという。)。 (ア) 被告製品1 a1 0.2mgのフィナステリドおよび b 無水乳糖,アルファー化デンプン,ステアリン酸マグネシウム等の添加 る, c 男性型脱毛症医療用の経口投与用錠剤 (イ) 被告製品2 a2 1mgのフィナステリドおよび b 無水乳糖,アルファー化デンプン,ステアリン酸マグネシウム等の添加 る, c 男性型脱毛症医療用の経口投与用錠剤 3 争点 (1) 被告各製品が本件発明の技術的範囲に属し,かつ,存続期間が延長された本 件特許権の効力が被告による被告各製品の製造販売等に及ぶか(争点1) ア 被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか(争点1ア) イ 存続期間が延長された本件特許権の効力が被告による被告各製品の製造販売 等に及ぶか(争点1イ) (2) 本件発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものと認め られるか(争点2) ア 本件発明についての特許に引用例1に基づく新規性欠如の無効理由があるか (争点2ア) イ 本件発明についての特許に引用例1又は引用例1ないし同5に基づく進歩性 欠如の無効理由があるか(争点2イ) ウ 本件発明についての特許に記載要件違反の無効理由があるか(争点2ウ) 6 (3) 本件訂正1は訂正要件を満たし,同訂正により無効理由が解消し,被告各製 品が本件訂正発明の技術的範囲に属し,かつ,同訂正後も存続期間が延長された本 件特許権の効力が被告による被告各製品の製造販売等に及ぶか(争点3) ア 本件訂正1は訂正要件を満たすか(争点3ア) イ 本件訂正1により無効理由が解消するか(争点3イ) ウ 被告各製品が本件訂正発明の技術的範囲に属するか(争点3ウ) エ 本件訂正1後も存続期間が延長された本件特許権の効力が被告による被告各 製品の製造販売等に及ぶか(争点3エ) 4 当事者の主張 別紙争点に対する当事者の主張記載のとおり 第3 当裁判所の判断 1 争点2イ(本件発明についての特許に引用例1又は引用例1ないし同5に基 づく進歩性欠如の無効理由があるか)及び争点3イ(本件訂正1により無効理由が 解消するか)について (1) 前記前提事実によれば,本件訂正発明は,本件発明における「単位用量とし て0.05〜3mgの5α−レダクターゼ2阻害剤」を「単位用量として0.05 〜1mgの5α−レダクターゼ2阻害剤」と限定したものであることが認められる ところ,前記前提事実,証拠(甲2ないし4,10ないし34,乙3ないし14) 及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の(2)ないし(8)において説示するとおり,本件 訂正発明は,進歩性を欠くものと認められる(本件無効審決は,これと同旨の認定 判断をしており,本件知財高裁判決は,同認定判断に誤りがある旨の原告の主張を すべて排斥している。)から,本件発明が少なくとも進歩性を欠き,本件訂正1に よっても当該無効理由が解消しないことが明らかである。したがって,本件発明に ついての特許は,特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから,原 告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない(特許法104条の3)。 上記に反する原告の主張は,いずれも採用することができない。 7 (2) 引用例1(乙3)の記載によれば,同引用例には,引用例1発明として, 「0.5mg/日にて経口投与するフィナステライド(判決注:フィナステリドと 同義である。)およびリンゴのスライスより成る,禿げかかった成体雄 stumptail macaque サルにおいて5頭のうち4頭が頭皮毛髪重量の増加を示し,1頭は非応答 であり,当該サルにおける毛髪成長をミノキシジル単独によって誘導されるレベル まで刺激したことを示唆する,とされたもの。 」(以下,この内容の発明を特に 「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 (3) 前記前提事実及び上記(2)の認定事実に基づいて,引用発明と本件訂正発明 とを対比すると,両者は,「5α−レダクターゼ2阻害剤及び医薬的に許容可能な キャリヤーより成るもの」である点において一致し,次の3点において相違するも のと認められる。 ア 本件訂正発明は,「経口剤型医薬組成物」であるのに対し,引用発明は,経 口投与されるものではあるものの,「経口剤型医薬組成物」について特定されてい ない点(以下「相違点1」という。)。 イ 本件訂正発明においては,用途について,「ヒトにおけるアンドロゲン脱毛 症治療用」と特定されているのに対し,引用発明においては,そのような特定がな く,禿げかかった成体雄 stumptail macaque サルにおいて作用を確認している点 (以下「相違点2」という。)。 ウ 本件訂正発明においては,用量について,「単位用量として0.05〜1m g」と特定されているのに対し,引用発明においては,「0.5mg/日」と特定 されている点(以下「相違点3」という。)。 (4) 相違点1について検討するに,引用発明は,経口投与されるものであるとこ ろ,これを「経口剤型」の「組成物」とすることに,当業者が困難を要するもので はない。そして,引用発明のフィナステライドは,周知の医薬であるので,これを 含有する組成物は「医薬組成物」に他ならない。そうすると,引用発明を「経口剤 型医薬組成物」とすることは,本件優先日当時,当業者が容易になし得たものとい 8 える。 (5) 相違点2について検討するに,引用例1(乙3)には,同文献に記載の試験 において用いられた stumptail macaque が,「ヒト脱毛症の十分に確立したアン ドロゲン−依存性モデル」である旨記載されている。引用例1記載の試験は,ヒト 脱毛症の動物モデルによるものであり,該試験はヒトの治療薬を得ることを意図し たものということができるところ,フィナステライドの経口投与により,5頭の stumptail macaque のうちの4頭において頭皮の毛髪の重量を増加させたとの試験 結果から,フィナステライドについてヒトの治療薬としての適性を認識し,ヒトに おけるアンドロゲン脱毛症治療用という用途を想起することは,本件優先日当時, 当業者にとって何ら困難なことではなかったといえる。 (6) 相違点3について検討するに,本件訂正発明に係る技術分野において,治療 効果の向上や副作用の低減等を目的として,安全且つ有効な医薬の投与量を検討し てみることは当業者が適宜行うことにすぎないから,本件訂正発明において規定さ れるような単位用量を設定することは,本件優先日当時,当業者が容易になし得た ものといえるし,少なくとも,引用例2ないし同5において示された1mg前後あ るいはより少量の投与量を参考にしつつ,治療効果の向上や副作用の低減等を目的 として,安全且つ有効な医薬の投与量を検討し,本件訂正発明1において規定され る程度の単位用量を設定することは,当業者が容易になし得たものといえる。 (7) 本件訂正発明の効果について検討するに,本件明細書において実施例につい て記載された効果は,本件優先日当時,当業者の予測し得る程度のものと判断する のが相当であり,本件訂正発明において,当業者の予測を超えるような格別に顕著 な効果が生じるものと解することはできない。 (8) したがって,本件訂正発明は,本件優先日当時,引用発明(少なくとも,引 用発明及び引用例2発明ないし引用例5発明)に基づいて当業者が容易に発明をす ることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることがで きない(進歩性を欠く)というべきである。 9 2 結論 よって,その余の争点について検討するまでもなく,原告の本件請求は,いずれ も理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 嶋 末 和 秀 裁判官 鈴 木 千 帆 裁判官 天 野 研 司 10 (別紙) 被 告 製 品 目 録 1 フィナステリド錠0.2mg「ファイザー」 2 フィナステリド錠1mg「ファイザー」 以 上 11 (別紙) 特 許 請 求 の 範 囲 1 設定登録時 【請求項1】単位用量として0.05〜3mgの5α−レダクターゼ2阻害剤およ び医薬的に許容可能なキャリヤーより成る,ヒトにおけるアンドロゲン脱毛症治療 用経口剤型医薬組成物。 【請求項2】5α−レダクターゼ2阻害剤が17β−(N−t−ブチルカルバモイ ル)−4−アザ−5α−アンドロスト−1−エン−3−オンである請求項1に記載 の医薬組成物。 【請求項3】単位用量が0.5〜3mgである請求項1または2に記載の医薬組成 物。 【請求項4】単位用量が0.05〜1mgである請求項1または2に記載の医薬組 成物。 【請求項5】単位用量が1mgである請求項1または2に記載の医薬組成物。 【請求項6】アンドロゲン脱毛症が男性型禿頭症である請求項1〜5のいずれか1 項に記載の医薬組成物。 【請求項7】単位用量として0.5〜3mgの17β−(N−t−ブチルカルバモ イル)−4−アザ−5α−アンドロスト−1−エン−3−オンおよび医薬的に許容 可能な錠剤化成分より成る,アンドロゲン脱毛症治療用錠剤。 【請求項8】単位用量が1mgである請求項7に記載の錠剤。 【請求項9】錠剤化成分がリン酸カルシウム,ラクトース,トウモロコシデンプン およびステアリン酸マグネシウムから選択される請求項7に記載の錠剤。 【請求項10】結合剤,滑沢剤,崩壊剤および着色剤の1種または2種以上をさら に含有する請求項9に記載の錠剤。 【請求項11】結合剤がデンプン,ゼラチン,天然糖,ゴム,カルボキシメチルセ 12 ルロース,ポリエチレングリコールおよびろうから選択される請求項10に記載の 錠剤。 【請求項12】滑沢剤がオレイン酸ナトリウム,ステアリン酸ナトリウム,ステア リン酸マグネシウム,安息香酸ナトリウム,酢酸ナトリウムおよび塩化ナトリウム から選択される請求項10記載の錠剤。 【請求項13】崩壊剤がデンプン,メチルセルロース,寒天,ベントナイトおよび キサンタンゴムから選択される請求項10に記載の錠剤。 【請求項14】アンドロゲン脱毛症が男性型禿頭症である請求項7〜13のいずれ か1項に記載の錠剤。 【請求項15】アンドロゲン脱毛症の治療に有用な経口投与に適した薬剤の製造の ための5α−レダクターゼ2阻害剤の使用であって,用量が0.05〜3mgであ る前記使用。 【請求項16】5α−レダクターゼ2阻害剤が17β−(N−t−ブチルカルバモ イル)−4−アザ−5α−アンドロスト−1−エン−3−オンである請求項15に 記載の使用。 【請求項17】用量が0.5〜3mgである請求項15または16に記載の使用。 【請求項18】用量が0.05〜1mgである請求項15または16に記載の使用。 【請求項19】用量が1mgである請求項15または16に記載の使用。 【請求項20】アンドロゲン脱毛症が男性型禿頭症である請求項15〜19のいず れか1項に記載の使用。 2 本件訂正後 【請求項1】単位用量として0.05〜1mgの5α−レダクターゼ2阻害剤およ び医薬的に許容可能なキャリヤーより成る,ヒトにおけるアンドロゲン脱毛症治療 用経口剤型医薬組成物。 【請求項2】5α−レダクターゼ2阻害剤が17β−(N−t−ブチルカルバモイ 13 ル)−4−アザ−5α−アンドロスト−1−エン−3−オンである請求項1に記載 の医薬組成物。 【請求項3】(削除) 【請求項4】単位用量が0.2mgである請求項1または2に記載の医薬組成物。 【請求項5】単位用量が1mgである請求項1または2に記載の医薬組成物。 【請求項6】アンドロゲン脱毛症が男性型禿頭症である請求項1〜5のいずれか1 項に記載の医薬組成物。 【請求項7】単位用量として0.5〜1mgの17β−(N−t−ブチルカルバモ イル)−4−アザ−5α−アンドロスト−1−エン−3−オンおよび医薬的に許容 可能な錠剤化成分より成る,アンドロゲン脱毛症治療用錠剤。 【請求項8】単位用量が1mgである請求項7に記載の錠剤。 【請求項9】錠剤化成分がリン酸カルシウム,ラクトース,トウモロコシデンプン およびステアリン酸マグネシウムから選択される請求項7に記載の錠剤。 【請求項10】結合剤,滑沢剤,崩壊剤および着色剤の1種または2種以上をさら に含有する請求項9に記載の錠剤。 【請求項11】結合剤がデンプン,ゼラチン,天然糖,ゴム,カルボキシメチルセ ルロース,ポリエチレングリコールおよびろうから選択される請求項10に記載の 錠剤。 【請求項12】滑沢剤がオレイン酸ナトリウム,ステアリン酸ナトリウム,ステア リン酸マグネシウム,安息香酸ナトリウム,酢酸ナトリウムおよび塩化ナトリウム から選択される請求項10記載の錠剤。 【請求項13】崩壊剤がデンプン,メチルセルロース,寒天,ベントナイトおよび キサンタンゴムから選択される請求項10に記載の錠剤。 【請求項14】アンドロゲン脱毛症が男性型禿頭症である請求項7〜13のいずれ か1項に記載の錠剤。 【請求項15】アンドロゲン脱毛症の治療に有用な経口投与に適した薬剤の製造の 14 ための5α−レダクターゼ2阻害剤の使用であって,用量が0.05〜1mgであ る前記使用。 【請求項16】5α−レダクターゼ2阻害剤が17β−(N−t−ブチルカルバモ イル)−4−アザ−5α−アンドロスト−1−エン−3−オンである請求項15に 記載の使用。 【請求項17】(削除) 【請求項18】用量が0.2mgである請求項15または16に記載の使用。 【請求項19】用量が1mgである請求項15または16に記載の使用。 【請求項20】アンドロゲン脱毛症が男性型禿頭症である請求項15〜19のいず れか1項に記載の使用。 以 上 15 (別紙) 引 用 例 1 引用例1(乙3) Arthur R. Diani et al., “Hair Growth Effects of Oral Administration of Finasteride, a Steroid 5α-Reductase Inhibitor, Alone and in Combination with Topical Minoxidil in the Balding Stumptail Macaque” (「禿げかかったStumptail Macaque における,ステロイド5α−レダクター ゼ阻害剤であるフィナステリド単独,又は局所用ミノキシジルと組み合わせた フ ィ ナ ス テ リ ド の 経 口 投 与 の 毛 髪 成 長 効 果 」 ) , Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism, 1992, Vol.74, No.2, pp.345-350 (平 成 4 年) 2 引用例2(乙4) Glenn J.Gormley et al., “Effects of Finasteride(MK-906), a 5α- Reductase Inhibitor, on Circulating Androgens in Male Volunteers” (「5αレダクターゼ阻害薬フィナステリド(MK−906)の男性ボランテ ィ ア に お け る 循 環 ア ン ド ロ ゲ ン へ の 効 果 」 ) , Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism, 1990, Vol.70, No.4, pp.1136-1141 ( 平 成 2年) 3 引用例3(乙5) John D. Mcconnell et al., “Finasteride, an Inhibitor of 5α-Reductase, Suppresses Prostatic Dihydrotestosterone in Men with Benign Prostatic Hyperplasia” (「5αレダクターゼの阻害薬フィナステリドは,良性前立腺 肥大症の男性において前立腺ジヒドロテストステロンを抑制する」), 16 Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism, 1992, Vol.74, No3, pp.505-508 (平成4年) 4 引用例4(乙6) A. Vermeulen et al., “Hormonal Effects of an Orally Active 4- Azasteroid Inhibitor of 5α-Reductase in Humans” (「ヒトにおける5α レダクターゼの経口活性4−アザステロイド阻害剤のホルモン効果」) , The Prostate, 1989, Vol.l4, Issue 1, pp.45-53 (平成元年) 5 引用例5(乙7) M.OHTAWA et al., “Pharmacokinetics and biochemical efficacy after single and multiple oral administration of N-(2-methyl-2-propyl)-3- oxo-4-aza-5α-androst-1-ene-17β-carboxamide, a new type of specific competitive inhibitor of testosterone 5α-reductase, in volunteers” (「テストステロン5α−レダクターゼの新型特異的競合的阻害剤,N−(2 −メチル−2−プロピル)−3−オキソ−4−アザ−5α−アンドロスト−1 −エン−17β−カルボキサミドの単回及び複数回経口投与後のボランティア における薬物動態及び生化学的効果」) European Journal Of Drug Metabolism And Pharmacokinetics,1991, Vol.16, No.l, pp.15-21 (平成3 年) 以 上 17 (別紙) 争 点 に 対 す る 当 事 者 の 主 張 (1) 争点1(被告各製品が本件発明の技術的範囲に属し,かつ,存続期間が延長 された本件特許権の効力が被告による被告各製品の製造販売等に及ぶか)について 【原告の主張】 ア 争点1ア(被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか)について (ア) 被告製品1は,「0.2mgを1日1回経口投与する」とされているように, 単位用量が0.2mgであり,被告製品2は,「1日1mgを上限とする」とされ ているように,単位用量が1mgであるところ(甲7),フィナステリドは,「5 α−還元酵素U型阻害剤」(甲5),すなわち,5α−レダクターゼ2阻害剤であ る。したがって,被告製品1の構成a1及び被告製品2の構成a2は,いずれも本 件発明の構成要件A「単位用量として0.05〜3mgの5α−レダクターゼ2阻 害剤および」を充足する(なお,本件訂正発明の構成要件A’「単位用量として0. 05〜1mgの5α−レダクターゼ2阻害剤および」についても同様である。)。 (イ) 無水乳糖,アルファー化デンプン,ステアリン酸マグネシウム等の添加物は, 医薬的に許容可能なキャリヤーである。したがって,被告各製品の構成bは,本件 発明の構成要件B「医薬的に許容可能なキャリヤーより成る,」を充足する。 (ウ) 男性型脱毛症は,アンドロゲン脱毛症の一種であるから,男性型脱毛症医療 用の経口投与用錠剤は,ヒトにおけるアンドロゲン脱毛症治療用経口剤型医薬組成 物に該当する。したがって,被告各製品の構成cは,本件発明の構成要件C「ヒト におけるアンドロゲン脱毛症治療用経口剤型医薬組成物。」を充足する。 (エ) 以上より,被告各製品は,本件発明の構成要件を全て充足するから,本件発 明の技術的範囲に属する。 イ 争点1イ(存続期間が延長された本件特許権の効力が被告による被告各製品 の製造販売等に及ぶか)について 18 本件処分1及び同2の対象となった物は,「一般的名称 フィナステリド (finasteride)」であり,用量は,「0.2mg」(本件処分2)又は「1.0m g」(本件処分1),用途は,「男性における男性型脱毛症の進行遅延」である (なお,これらは,本件発明の技術的範囲に属するのみでなく,本件訂正発明の技 術的範囲にも属する。)ところ,被告各製品は,フィナステリドを有効成分とし, 用量が0.2mg(被告製品1)又は1.0mg(被告製品2)であり,男性にお ける男性型脱毛症の進行遅延を用途とするものであるから,存続期間が延長された 本件特許権の効力は,被告による被告各製品の製造販売等に及ぶといえる。 【被告の主張】 原告の主張は,いずれも,否認し又は争う。 (2) 本件発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものと認め られるか(争点2) 【被告の主張】 本件発明についての特許は,以下のいずれか理由により,特許無効審判により無 効とされるべきものと認められるから,原告は,被告に対し,本件特許権を行使す ることができない。 ア 争点2ア(本件発明についての特許に引用例1に基づく新規性欠如の無効理 由があるか)について (ア) 本件発明は,以下のとおり,本件優先日前に頒布された引用例1発明と実質 的に同一であり,新規性を欠く。したがって,本件発明についての特許は,特許法 29条1項3号(ただし,平成11年法律第41号による改正前の規定)に違反し てされたものである。 (イ) 引用例1には,「単位用量として1.8〜3mg程度の5α−レダクターゼ 2阻害剤及び医薬的に許容可能なキャリヤーより成るアンドロゲン脱毛症治療用経 口剤型医薬」に係る発明が実質的に記載されている。なぜなら,引用例1における 禿げか かっ た成体 雄 stumptail macaque (以 下 , 単 に「 サ ル 」 とい う こ と があ 19 る。)は,男性脱毛症のアンドロゲン依存性モデルとして確立しており,これに 対するフィナステライド(5α−レダクターゼ2阻害剤に該当する。)の投与量を ヒトに対する投与量に換算すると,「単位用量として1.8〜3mg程度」となり, また,同引用例における「リンゴのスライス」は,医薬的に許容可能なキャリヤー に該当するからである。 (ウ) 上記(イ)を前提に,本件発明と引用例1発明とを対比すると,@本件発明が 全体として「組成物」であるのに対し,引用例1発明については「組成物」である ことが明示されていない点,及びA本件発明が「ヒトにおける」医薬であるのに対 し,引用例1発明についてはサルを用いて作用効果を確認している点において,両 発明は,一応,相違するが,これらの点は,実質的な相違ではない。 まず,上記@の点については,微少量の薬物を過不足なく適切に経口投与するた めに,医薬的に許容可能なキャリヤーを配合して,「組成物」態様の製剤とするこ とは,医薬分野における常識であり,このことは,投与対象がヒトであるか,ヒト 以外であるかによって変わるところがないから,引用例1発明において,フィナス テライドが適宜のキャリヤーとともに「組成物」の態様で経口投与されたことは, 当業者にとって自明であるといえる。 また,上記Aの点については,動物モデルによる効果確認試験は,ヒトの治療薬 を意図した試験であり,当業者は,当該試験によって得られた優位の結果から,ヒ トの治療薬としての適性を認識するものであることからすれば,引用例1にも,ヒ トの脱毛症に対する治療薬の研究を目的とする意図が示されている。したがって, 引用例1に示されたヒト男性型脱毛症の動物モデルとして周知のサルによる脱毛症 治療の有意な結果は,ヒトにおけるアンドロゲン(男性型)脱毛症の治療薬として の適応を実質的に開示したに等しい。 イ 争点2イ(本件発明についての特許に引用例1又は引用例1ないし同5に基 づく進歩性欠如の無効理由があるか)について (ア) 仮に,本件発明と引用例1発明とが実質的に同一であるとまではいえないと 20 しても,以下のとおり,本件発明は,引用例1発明に基づいて当業者が容易に発明 をすることができたものであるか,あるいは,引用例1発明ないし引用例5発明に 基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,進歩性を欠く。し たがって,本件発明についての特許は,特許法29条2項に違反してされたもので ある。 (イ) 本件発明と引用例1発明との相違点として,次の3点を認めるべきであると しても,両発明は,その余の点において一致しており,この3点に係る本件発明の 構成は,いずれも当業者が容易に想到することができたものであって,本件発明は, 引用例1発明に基づいて,あるいは,引用例1発明ないし引用例5発明に基づいて, 当業者が容易に発明をすることができたというべきであるからである。 本件発明は,「経口剤型医薬組成物」であるのに対し,引用例1発明は,経口投 与されるものではあるものの,「経口剤型医薬組成物」について特定されていない 点(以下「相違点@」という。)。 本件発明においては,用途について,「ヒトにおけるアンドロゲン脱毛症治療用」 と特定されているのに対し,引用例1発明においては,そのような特定がなく,禿 げか か った 成 体雄 stumptail macaque ( サル ) にお い て作 用 を確 認 して い る点 (以下「相違点A」という。)。 本件発明においては,用量について,「単位用量として0.05〜3mg」と特 定されているのに対し,引用例1発明においては,「0.5mg/日」と特定され ている点(以下「相違点B」という。)。 (ウ) 相違点@について検討するに,引用例1発明は経口投与されるものであり, これを「経口剤型」の「組成物」とすることに当業者が困難を要するものではない し,フィナステライドは周知の医薬であり,これを含有する組成物は「医薬組成物」 にほかならないから,引用例1発明を「経口剤型医薬組成物」とすることは,当業 者が容易に想到し得たといえる。 (エ) 相違点Aについて検討するに,サルは,男性脱毛症のアンドロゲン依存性モ 21 デルとして確立しているところ,引用例1における試験は,ヒトの治療薬を得るこ とを意図したものであるから,5匹のサルのうちの4匹において頭皮の毛髪の重量 を増加させたとの結果により,「ヒトにおけるアンドロゲン脱毛症治療用」との用 途は,実質的に開示されたか,少なくとも当業者が容易に想到し得たといえる。 (オ) 相違点Bについて検討するに,本件優先日当時,フィナステライドの投与に は副作用が発現するおそれがあったから(乙11,12),当業者は,できるだけ 低い投与量で男性型脱毛症に用いたいと考えたはずであり,単位用量を抑えるとい う動機付けがあった。現に,引用例1でも,血清DHT生成阻害効果に大きな差が ないことを確認した後,少ない投与量(0.5mg/日)が選択されている。さら に,引用例1において,フィナステライドの経口投与による血清DHTの抑制によ り,禿頭症を逆行させ,アンドロゲン性脱毛症もしくは予防する効果が得られるこ とが示唆されているところ,引用例2ないし同5には,1日当たり0.04mgか ら1mgの投与量であっても,血中のDHTが大幅に減少することが記載されてい ることからすれば,当業者は,投与量を引用例2ないし同5に記載された程度に少 量にしても,ヒトの毛髪成長効果が得られるであることに容易に想到することがで きたといえる。 ウ 争点2ウ(本件発明についての特許に記載要件違反の無効理由があるか)に ついて (ア) 実施可能性要件違反 本件発明の「アンドロゲン脱毛症治療用経口剤型医薬組成物」としての医薬効果 を実証するために必須の薬理試験結果が,本件明細書の発明の詳細な説明において 示されていない。また,本件発明に係る「0.05〜3mg」の単位投与量のうち, 発明の詳細な説明において具体的説明が試みられているのは,実施例4及び同5に おける「0.2mg」,「1.0mg」及び「5mg」のみであり,0.05mg という低用量において所期の効果が奏されることの説明はない。それゆえ,当業者 といえども,発明の詳細な説明に基づいて,本件発明を容易に実施することができ 22 ない。このように,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明を容易に 実施することができる程度に記載されていないから,特許法36条4項(ただし, 平成6年法律第116号による改正前の規定)に適合していないというべきであり, 本件発明についての特許は,同項に違反してされたものである。 (イ) サポート要件違反 上記(ア)で主張したところによれば,本件発明は,実質的にみて,本件明細書の 発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。したがって,本件明細書の特許 請求の範囲の請求項1は,特許法36条5項1号(ただし,平成6年法律第116 号による改正前の規定)に適合していないというべきであり,本件発明についての 特許は,同号に違反してされたものである。 (ウ) 発明の構成に欠くことができない事項の記載がないこと 本件明細書の特許請求の範囲の請求項1における「単位用量として0.05〜3 mg」との記載だけでは,有効投与量が特定されたとはいえない。患者に対する投 与量を特定するには,その単位用量がいかなる時間単位の用量であるかが記載され ている必要がある。したがって,請求項1は,発明の構成に欠くことができない事 項が記載されておらず,特許法36条5項2号(ただし,平成6年法律第116号 による改正前の規定)に適合していないというべきであり,本件発明についての特 許は,同号に違反してされたものである。 【原告の主張】 被告の主張に係る無効理由は,いずれも認められず,本件発明についての特許が 特許無効審判により無効とされるべきものとはいえない。 ア 争点2ア(本件発明についての特許に引用例1に基づく新規性欠如の無効理 由があるか)について (ア) 本件発明と引用例1発明とは,少なくとも次の5点において相違する(本件 訂正発明についても,少なくとも次の5点において引用例1発明と相違する。)か ら,両発明が実質的に同一であるとの被告主張は,誤りである。 23 (イ) 第1に,引用例1には,「アンドロゲン脱毛症治療用」経口剤型医薬が開示 されていない。すなわち,同引用例は,フィナステライドの経口投与が5頭のサル のうち4頭において頭皮の毛髪の重量を増加させたことを示したが,一方で,非応 答体を含む5頭全体のデータを解析すると,フィナステライドの単独処理群の毛髪 重量の増加は対照群と比べて統計学的に有意ではないことを示した。そのため,当 業者は,同引用例の試験結果から,フィナステライドが,サルにおける毛髪成長を ミノキシジル単独によって誘導されるレベルまで刺激したことを示唆するとは理解 しないと考えられる。したがって,同引用例には,フィナステライドがサルにおけ る毛髪成長をミノキシジル単独によって誘導されるレベルまで刺激したことの開 示・示唆はなく,「アンドロゲン脱毛症治療用」経口剤医薬は記載されていない。 (ウ) 第2に,引用例1には,「5α―レダクターゼ2阻害剤」が開示されていな い。すなわち,同引用例には,「5α−レダクターゼ阻害剤であるフィナステライ ド」についての開示はあるが,フィナステライドが「5α−レダクターゼ2阻害剤」 として作用していることについての開示はない。 (ウ) 第3に,引用例1には,「経口剤型医薬組成物」の開示がない。すなわち, 同引用例には,フィナステライドを臨床的に使用する際,アンドロゲンの全身性の 変化を回避するため,経口投与ではなく,皮膚に塗布する方法で使用することが記 載されており,「経口剤型の医薬組成物」の開示はない。 (エ) 第4に,引用例1には,「ヒト」におけるアンドロゲン脱毛症治療用医薬組 成物の開示がない。すなわち,サルとヒトは異なり,同引用例からヒトのアンドロ ゲン脱毛症の治療薬としての適性を判断することはできない。 (オ) 第5に,引用例1には,「単位用量として0.05〜3mg」の5α−レダ クターゼ阻害剤は開示されていない。同引用例におけるサルの実験結果をヒトに適 用することはできない。また,同引用例の試験において,体重15.4kgのサル に0.5mgのフィナステライドを投与したとみるべき根拠はない(なお,仮に, 同引用例における stumptail macaque に投与された単位用量をヒトに適用した場 24 合に導かれる体重60kgのヒトに投与される単位用量が1.8〜3.0mgであ るとの被告の立論によったとしても,本件訂正発明の「単位用量として0.05〜 1mg」と重複する範囲とはならない。)。 イ 争点2イ(本件発明についての特許に引用例1又は引用例1ないし同5に基 づく進歩性欠如の無効理由があるか)について (ア) 被告は,本件発明が引用例1発明に基づいて当業者が容易に発明をすること ができたものであるか,あるいは,引用例1発明ないし引用例5発明に基づいて当 業者が容易に発明をすることができた旨主張する。 しかし,本件発明と引用例1発明とは,少なくとも上記アで指摘した5点におい て,相違する。 また,被告の主張に係る相違点@ないしBについて検討すると,以下のとおり, 当業者が各相違点に係る本件発明の構成に想到することは,困難であったというべ きであるし,本件発明には,本件優先日当時の技術水準から予測される範囲を超え る顕著な効果が認められる。 (イ) 相違点@について検討するに,本件優先日当時の技術水準からすると,アン ドロゲン脱毛症の治療にフィナステライドを用いることには阻害要因が存在したと いえるし,上記技術水準及び引用例1の記載事項からすれば,仮に,同引用例に接 した当業者がフィナステライドをアンドロゲン脱毛症の治療に用いることを試みた としても,アンドロゲンの全身性の変化を回避するため,局所適用を選択したはず であって,経口投与を選択することには阻害要因があった。したがって,引用例1 発明を「経口剤型医薬組成物」とすることが容易であったとはいえない。 (ウ) 相違点Aについて検討するに,本件優先日当時の技術水準に照らせば,当業 者は,引用例1の記載から,フィナステライドが禿頭症のサルに有意な増毛作用を 持つことを認識できなかったし,上記技術水準からすれば,そもそも,5α−レダ クターゼに関し,サルでのデータから単純にヒトでの効果を予測することはできな い旨認識されていたというべきであるから,フィナステライドをヒトのアンドロゲ 25 ン脱毛症の治療に用いる動機付けはなかった。したがって,当業者が引用例1発明 に基づいてフィナステライドをヒトのアンドロゲン脱毛症治療用に使用するという 用途を想起することは,困難であったといえる。 (エ) 相違点Bについて検討するに,本件優先日当時の技術水準からすれば,前記 のとおり,フィナステライドをアンドロゲン脱毛症の治療に用いようとする場合, 当業者であれば,安全性の面から,経口剤ではなく,局所製剤を選択したというべ きであるから,フィナステライドの経口投与量を検討する動機付けは,存在しなか ったというべきであるし,仮に,フィナステライドの経口投与量を検討するとして も,フィナステライドを1mg以下の用量で用いることは,治療効果の面から阻害 されたものと解される。また,引用例2ないし同5に示される1mg以下の用量を アンドロゲン脱毛症の治療に用いる投与量として採用する動機付けはなく,引用例 1発明とこれらを組み合わせることは困難であったというべきである。 (オ) 本件明細書の発明の詳細な説明における実施例4及び同5の記載等によれば, 本件発明(特に,本件訂正発明)は,本件優先日当時の技術水準から予測される範 囲を超えた顕著な効果を奏するものであり,進歩性を有するものというべきである。 ウ 争点2ウ(本件発明についての特許に記載要件違反の無効理由があるか)に ついて (ア) 実施可能性要件違反の主張について 本件優先日当時の周知技術等(@男性部分禿頭症を含むアンドロゲン脱毛症がア ンドロゲン過剰作用の結果であること,5α−レダクターゼの作用によりTから変 換されるDHTがこのアンドロゲン活性の主要メディエーターであること,それゆ え,5α−レダクターゼの作用を阻害してDHTの生成を抑制することによりアン ドロゲン過剰作用を緩和させることができること,ADHT濃度が5α−レダクタ ーゼの作用を阻害する5α−レダクターゼ阻害剤の活性を測定するためのパラメー タとして広く用いられていたこと〔引用例1ないし同5でも,5α−レダクターゼ 阻害剤の活性を測定するためにDHTの濃度が測定されている。〕,Bフィナステ 26 ライドは,DHT濃度を減少させることによりアンドロゲン過剰症状の一つである 良性前立腺過形成治療に有効であることが知られており,米国等では,良性前立腺 過形成の治療薬として既に市販されていたこと)に照らせば,実施例5は,「数値 データと同視すべき程度の客観的な記載」であるといえるし,実施例4及び同5を 含む本件明細書の発明の詳細な説明は,5α−レダクターゼ2阻害剤0.05mg /日を投与した場合の具体的な試験結果を記載していなくても,0.05mg/日 などの低用量についても,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,そ の発明の目的,構成及び効果が記載されているといえる。 以上より,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明を容易に実施す ることができる程度に記載したものというべきであって,本件発明についての特許 は,特許法36条4項(ただし,平成6年法律第116号による改正前の規定)に 違反してされたものではない。 (イ) サポート要件違反の主張について 上記(ア)で述べたとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の効果 を実証するに足りる薬理試験結果が示されている。 また,本件発明の課題は,女性及び男性部分禿頭症を含むアンドロゲン脱毛症や 他のアンドロゲン過剰症状の治療において,患者にできるだけ最低量の医薬化合物 を投与して治療効力を維持することにある。そして,上記(ア)のとおり,本件明細 書の発明の詳細な説明では,5α−レダクターゼ2阻害剤0.05mg/日の用量 は,5α−レダクターゼ2阻害剤0.2mg/日の用量と同じように作用し,同等 の効果が得られるものとして認識されており,5α−レダクターゼ2阻害剤0.2 mg/日がアンドロゲン脱毛症の主要メディエーターである頭皮組織におけるDH T含量を大幅に低下させるという実施例5記載の試験結果から,当業者であれば, 5α−レダクターゼ2阻害剤0.05mg/日も同様に頭皮組織におけるDHT含 量を大幅に低下させることができることを予測することができる。したがって,当 業者は,発明の詳細な説明の記載から,5α−レダクターゼ2阻害剤0.05mg 27 /日を投与することにより,できる限り少ない用量でアンドロゲン脱毛症の治療効 力を維持するという本件発明の課題が解決できると認識することができる。 以上より,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明について,その課題を解 決できると当業者が認識できる範囲のものとして記載されているから,本件発明は, 発明の詳細な説明に記載されているというべきであり,本件発明についての特許は, 特許法36条5項1号(ただし,平成6年法律第116号による改正前の規定)に 違反してされたものではない。 (ウ) 発明の構成に欠くことができない事項の記載がないとの主張について 本件明細書の発明の詳細な説明では,すべての投与量について「mg/日」の単 位が付されていることから,これらの記載と併せて読めば,特許請求の範囲の請求 項1における「単位用量」が,1日当たり1回の投与量であることは明らかである。 したがって,本件発明についての特許は,特許法36条5項2号(ただし,平成6 年法律第116号による改正前の規定)に違反してされたものではない。 (3) 争点3(本件訂正1は訂正要件を満たし,同訂正により無効理由が解消し, 被告各製品が本件訂正発明の技術的範囲に属し,かつ,同訂正後も存続期間が延長 された本件特許権の効力が被告による被告各製品の製造販売等に及ぶか)について 【原告の主張】 ア 争点3ア(本件訂正1は訂正要件を満たすか)について 本件訂正1は,本件特許の特許請求の範囲の請求項1に「単位用量として0.0 5〜3mgの5α−レダクターゼ2阻害剤」とあるのを,「単位用量として0.0 5〜1mgの5α−レダクターゼ2阻害剤」と訂正することを内容とするものであ って,同訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とし,同訂正前の本件明細書の特許 請求の範囲及び発明の詳細な説明に記載した事項の範囲内においてするものであり, 他方,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しないから,訂 正要件を満たしている。 イ 争点3イ(本件訂正1により無効理由が解消するか)について 28 前記(2)の【原告の主張】において述べたところによれば,仮に,本件発明につ いての特許について進歩性欠如の無効理由があるとしても,本件訂正1により解消 したものといえる。 ウ 争点3ウ(被告各製品が本件訂正発明の技術的範囲に属するか)について 前記(1)の【原告の主張】のアにおいて述べたところによれば,被告各製品は, 本件訂正発明の技術的範囲に属するといえる。 エ 争点3エ(本件訂正1後も存続期間が延長された本件特許権の効力が被告に よる被告各製品の製造販売等に及ぶか)について 前記(1)の【原告の主張】のイにおいて述べたところによれば,本件訂正後も, 存続期間が延長された本件特許権の効力が被告による被告各製品の製造販売等に及 ぶといえる。 【被告の主張】 原告の主張は,否認し又は争う。 本件訂正1によっても,被告の主張に係る本件発明についての特許の無効理由が 解消するものではない。 以 上 29 |