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関連審決 訂正2015-390023 訂正2015-3900023
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事件 平成 27年 (ワ) 8517号 特許権侵害差止請求事件

原告小橋工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 鮫島正洋
同 見憲
同 和田祐造
同 幸谷泰造
同訴訟復代理人弁護士 篠田淳郎
同訴訟代理人弁護士 高橋雄一郎
同訴訟代理人弁理士 林佳輔
同訴訟代理人弁護士 北島志保
同訴訟復代理人弁護士 阿部実佑季
被告松山株式会社
同訴訟代理人弁護士 小林幸夫
同 弓削田博
同 河部康弘
同訴訟代理人弁理士 樺澤聡
同 山田哲也
同訴訟復代理人弁護士 藤沼光太
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2016/05/25
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,別紙被告製品目録記載1のあぜぬり機を製造し,販売し,販売のために展示し,又は販売の申1出をしてはならない。
2 被告は,別紙被告製品目録記載1のあぜぬり機を廃棄せよ。
3 被告は,別紙被告製品目録記載2のディスクを製造し,販売し,販売のために展示し,又は販売の申出をしてはならない。
4 被告は,別紙被告製品目録記載2のディスクを廃棄せよ。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
6 この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
主文第1項ないし第4項と同旨
事案の概要
1 本件は,発明の名称を「畦塗り機」とする特許第5706569号の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。また,本件特許の願書に添付した明細書を図面と併せて「本件明細書」という。)を有する原告が,別紙被告製品目録記載1のあぜぬり機(以下「被告製品1」という。)は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲 (以下,単に「特許請求の範囲」ということがある。)の請求項1ないし同4(以下,単に「請求項1」などということがある。)記載の各発明(以下,これらをまとめて「本件各発明」といい,個別には,請求項の番号に応じて,「本件発明1」などという。また,本件特許のうち本件各発明に係るものを「本件発明1についての特許」などということがある。)の技術的範囲に属し,また,被告製品1の一部を構成するために用いられる別紙被告製品目録記載2のディスク(以下「被告製品2」という。)は,本件 2 各発明の実施品である被告製品1の「生産にのみ用いる物」(特許法101条1号)に当たるから,被告が被告製品1及び同2(以下,両者を併せて「被告各製品」という。)を製造し,販売し,販売のために展示し,又は販売の申出をすることは本件特許権を侵害し又は侵害するものとみなされる行為であると主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づき,被告各製品の製造,販売,販売のための展示及び販売の申出の差止めを求めるとともに,同条2項に基づき,被告各製品の廃棄を求めた事案である。
2 前提事実等(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実等) (1) 当事者 ア 原告は,農機及びその部品の製造販売並びにこれに付帯する一切の業務等を業とする株式会社である。
イ 被告は,松山式犂其他機械器具類の製作修繕及び販売,並びにこれに付帯関連する一切の業務等を業とする株式会社である。
(2) 本件特許権 ア 原告は,次の内容の本件特許権を有している(甲1,2,21,40,乙13ないし15)。
登 録 番 号 特許第5706569号 発 明 の 名 称 畦塗り機 出 願 日 平成26年8月19日(特願2014-166355号) (特願2014-78397号〔特願2001-2659 39号の分割である特願2012-25233号の更なる 分割〕の分割) 原 出 願 日 平成13年9月3日(原々々出願である特願2001-2 65939号の出願日) 公 開 日 平成26年11月13日(特開2014-209927号) 3 登 録 日 平成27年3月6日 特許請求の範囲 別紙特許第5706569号公報(写し)の【特許請求の 範囲】欄記載のとおり(請求項の数は,4である。) イ 本件発明1(請求項1記載の発明)を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説に係る各構成要件を符号に対応して「構成要件1A」などという。)。
1A:元畦を修復する整畦体を備えた畦塗り機であって, 1B:前記整畦体における側面修復体は,回転軸を中心として周方向に等間隔に 配設された複数の整畦板を相互に連結して構成され, 1C:隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片で前記隣接する整畦 板を相互に連結することにより,一体の前記側面修復体が構成され, 1D:前記隣接する整畦板の境界部分に段差部が形成され, 1E:前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の回転方向後 側の側縁が,直線状であり, 1F:前記連結片は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦 板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に 延在しない 1G:ことを特徴とする畦塗り機。
ウ 本件発明2(請求項2記載の発明)は,本件発明1(引用に係る請求項1記載の発明)の構成要件(構成要件1A,同1B,同1C,同1D,同1E,同1F及び同1G)に加え,次の構成要件(以下「構成要件2A」という。)を有する。
2A:前記複数の整畦板の基端部は,前記回転軸を中心とする取付け基部に取付 けられている エ 本件発明3(請求項3記載の発明)は,本件発明1(引用に係る請求項1記載の発明)の構成要件(構成要件1A,同1B,同1C,同1D,同1E,同1F及び同1G),又は本件発明2(引用に係る請求項2記載の発明)の構成要件(構 4 成要件1A,同1B,同1C,同1D,同1E,同1F,同1G及び同2A)に加え,次の構成要件(以下「構成要件3A」という。)を有する。
3A:前記側面修復体の外周縁を構成する各整畦板の外端が,円弧状部分と直線 状部分とを有する オ 本件発明4(請求項4記載の発明)は,本件発明3(引用に係る請求項3記載の発明)の構成要件(構成要件1A,同1B,同1C,同1D,同1E,同1F,同1G及び同3A〔請求項1を引用する態様〕,又は,構成要件1A,同1B,同1C,同1D,同1E,同1F,同1G,同2A及び同3A〔請求項2を引用する態様〕)に加え,次の構成要件(以下「構成要件4A」という。)を有する。
4A:前記隣接する整畦板の境界部分では,回転方向前側に位置する整畦板の外 端が,前記円弧状部分になっている (3) 被告の行為及び被告各製品の構成 ア 被告の行為 被告は,現在,業として,被告製品1及び同2を製造し,販売し,販売のために展示し,又は販売の申出をしている。
イ 被告製品1の構成 被告製品1は,型番によってトラクタの後部に装着するための機構の種類,電動仕様の有無,上面削り仕様の有無,クラッチジョイント仕様の有無,オフセット増量仕様の有無,ディスクのサイズ等が異なるものの,本件各発明と対比されるべき構成及び作用効果は,実質的に同一である。
被告製品1の構成を分説すると,次のとおりである(以下,分説に係る各構成を符号に対応して「被告構成1a」などという。)。
1a:元畦を修復するディスク部を備えたあぜぬり機であって, 1b:ディスク部におけるウィングディスクは,ディスク軸(ディスクジク)の 中心を通る回転軸を中心として周方向に等間隔に配設された8枚の整畦板 を相互に連結して構成され, 5 1c:隣接する整畦板は,連結部材によって相互に連結されることにより,一体 のウィングディスクが構成され, 1d:前記隣接する整畦板と整畦板との間に段差が形成され, 1e:前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の回転方向後 側の側縁が,直線状であり, 1f:前記連結部材は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整 畦板のディスク面の裏面及び回転方向後側に位置する整畦板のディスク面 の裏面にそれぞれ固定されており, 2a:前記複数の整畦板の基端部は,前記ディスク軸(ディスクジク)の中心を 通る回転軸を中心とする部材に取付けられ, 3a:前記ウィングディスクの外周縁を構成する各整畦板の外端が,円弧状部分 と直線状部分とを有し, 4a:前記隣接する整畦板の境界部分では,回転方向前側に位置する整畦板の外 端が,前記円弧状部分になっている 1g:ことを特徴とするあぜぬり機。
ウ 被告製品2の構成 被告製品2は,被告製品1の一部を構成するディスクであり(消耗部品),そのディスク径によって対応する被告製品1が異なるものの,本件各発明と対比されるべき構成及び作用効果は,実質的に同一であり,被告製品2を対応する被告製品1に使用した場合の構成は,被告構成1a,同1b,同1c,同1d,同1e,同1f,同2a,同3a,同4a及び同1gと一致する。
被告製品2は,上記のとおり,専ら被告製品1の一部を構成するために用いられるものであり,ほかに経済的,商業的又は実用的な用途はない。
エ 被告製品1は,構成要件1A,同1B,同1E,同1G,同3A及び同4Aを充足する(この点は,被告も争っていない。)。
3 争点 6 (1) 被告製品1は本件各発明の技術的範囲に属するか(争点1) ア 被告製品1は構成要件1Cを充足するか(争点1-1) イ 被告製品1は構成要件1Dを充足するか(争点1-2) ウ 被告製品1は構成要件1Fを充足するか(争点1-3) エ 被告製品1は構成要件2Aを充足するか(争点1-4) (2) 本件各発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点2) ア 無効理由1(新規性欠如。ただし本件発明1についての特許及び本件発明2についての特許に限る。)は認められるか(争点2-1) イ 無効理由2(進歩性欠如)は認められるか(争点2-2) ウ 無効理由3(補正要件違反)は認められるか(争点2-3) エ 無効理由4(分割要件違反による新規性又は進歩性欠如)は認められるか(争点2-4) オ 無効理由5(実施可能要件違反)は認められるか(争点2-5) カ 無効理由6(サポート要件違反)は認められるか(争点2-6) キ 無効理由7(明確性要件違反)は認められるか(争点2-7) ク 無効理由8(同一発明の同日出願。ただし本件発明2についての特許に限る。)は認められるか(争点2-8) 4 争点に対する当事者の主張 (1) 争点1(被告製品1は本件各発明の技術的範囲に属するか)について ア 争点1-1(被告製品1は構成要件1Cを充足するか)について 【原告の主張】 (ア) 構成要件1Cの充足性 被告製品1においては,隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた「連結部材」で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより,「ウィングディスク」を構成しているところ,被告製品1の「ウィングディスク」,「連結部材」は,それ 7 ぞれ,構成要件1Cにいう「側面修復体」,「連結片」に相当するから,被告製品1は,構成要件1C「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより,一体の前記側面修復体が構成され,」を充足する。
(イ) 被告の主張について 被告は,構成要件1Cにいう「連結片」について,「その基端部が整形板の回転方向前端面に連続して一体的になった連結片」と限定解釈すべきである旨主張する。
しかし,「連結」とは2つの部材をつなぎ合わせるという意味であり,「片」とは「ひときれ」という意味であるから,「連結片」は,特許請求の範囲の記載から,2つの部材をつなぎ合わせるひときれの部材であると解釈することができる。被告が主張するように,本件明細書の【図8】に図示された構成に限定解釈すべき理由はないし,そもそも,【図8】を見ても,「連結片」が「その基端部が整畦板の回転方向前端面に連続して一体的になった連結片」でなければならないとはいえない。
被告は,構成要件1Cにいう「境界部分」について,「重なり部分を有する境界部分のうちその重なり部分」と限定解釈すべきである旨主張する。しかし,「境界部分」は,特許請求の範囲の記載から,「隣接する整畦板の境界の部分」であって,これに沿って連結片が設けられ,かつ段差部が形成可能なものであれば足りると解するのが合理的である。被告が主張するように限定解釈すべき理由はない。なお,本件明細書には「重なり部分を有しない境界部分に沿って設けられた連結片」が記載されており,これが何ら記載されていないとする被告の主張は,誤りである。
【被告の主張】 (ア) 「連結片」について 構成要件1Cにいう「連結片」については,特許請求の範囲の記載のみではその意義が明確でない上,本件明細書の発明の詳細な説明における「連結片」について記載された唯一の文章を参酌しても,なおその意義が明らかではない。したがって,構成要件1Cにいう「連結片」は,本件明細書の【図8】に図示された構成,すな 8 わち,「その基端部が整畦板の回転方向前端面に連続して一体的になった連結片」と限定解釈すべきである。この解釈は,本件特許の原出願日に近接して原告がした別の出願に係る特許第4541608号公報(乙16)中の図面からも裏付けられる。
また,「片」とは,「わずかな,少ない」「薄く小さな切れ端」との意義を有し,本件明細書においても,「連結部材24c,24dに代えて・・・連結片27c,27cにより・・・」(段落【0024】)との記載があるから,「連結部材」と「連結片」とは区別されるべきものである(原告も,他の訴訟事件〔当庁平成27年(ワ)第14711号〕において,「連結片」が「連結部材」の下位概念であることを自認している〔乙19〕。)。したがって,本件発明1の「連結片」は,上記の意義に加えて,「隣接する整畦板同士をつなぎ合わせる小さな切れ端の部材であって,その長さが整畦板の側縁に比べてかなり短い部材」と解釈されるべきである。
以上に対し,被告製品1の「連結部材」は,その基端部が整形板の回転方向前端面に連続して一体的になっていないほか,細長い板状の部材であるから,構成要件1Cにいう「連結片」には当たらない。
(イ) 「境界部分」について 構成要件1Cにいう「境界部分」については,特許請求の範囲の記載のみではその意義が明確でない。そこで,本件明細書を参照すると,発明の詳細な説明には,「・・・ドラムの内側において,各整畦板27aの重なり部分27bに沿って設けた2つの連結片27c,27cにより固着している。」(段落【0024】)との記載があり,【図8】(a)には,隣接する整畦板27aの重なり部分27bに沿って設けられた連結片27cが図示されているが,「重なり部分を有しない境界部分に沿って設けられた連結片」については,何ら記載されていない。
また,本件明細書には,本件各発明の作用効果として,「整畦ドラムの隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し・・・整畦板の重なり部分により泥土が整畦ド 9 ラムの内側面に侵入するのを少なくすることができる。」(段落【0031】)との記載があるから,整畦面が重なり部分を有することは,本件各発明の作用効果を奏するために不可欠である。
したがって,構成要件1Cにいう「境界部分」とは,「重なり部分を有する境界部分のうちその重なり部分」と限定解釈すべきである。
以上に対し,被告製品1は,隣接する整畦板同士で重なり部分を形成していないから,「重なり部分を有する境界部分のうちその重なり部分」に沿って「連結片」が設けられるということもない。
(ウ) 小括 したがって,被告製品1は,構成要件1C「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより,一体の前記側面修復体が構成され,」を充足しない。
イ 争点1-2(被告製品1は構成要件1Dを充足するか)について 【原告の主張】 争点1-1で構成要件1Cについて主張したように,構成要件1Dにいう「境界部分」は,「隣接する整畦板の境界の部分」という意味であり,被告製品1においても,隣接する整畦板の境界の部分に段差が形成されているから,被告製品1は,構成要件1D「前記隣接する整畦板の境界部分に段差部が形成され,」を充足する。
【被告の主張】 争点1-1で構成要件1Cについて主張したように,構成要件1Dにいう「境界部分」は,「重なり部分を有する境界部分のうちその重なり部分」と限定解釈すべきところ,被告製品1は,隣接する整畦板同士で重なり部分を形成していないから,「重なり部分を有する境界部分のうちその重なり部分」に段差を形成しているということもない。
したがって,被告製品1は,構成要件1D「前記隣接する整畦板の境界部分に段差部が形成され,」を充足しない。
10 ウ 争点1-3(被告製品1は構成要件1Fを充足するか)について 【原告の主張】 (ア) 構成要件1Fの充足性 争点1-1で構成要件1Cについて主張したように,被告製品1の「連結部材」は,構成要件1Fにいう「連結片」に相当するところ,被告製品1の「連結部材」は,互いに隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板のディスク面の裏面に固定されているほか,回転方向後側に位置する整畦板のディスク面の裏面に固定され,表面,すなわち整畦面に延在していない。
したがって,被告製品1は,構成要件1F「前記連結片は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」を充足する。
(イ) 被告の主張について 争点1-1で構成要件1Cについて主張したとおり,構成要件1Fにいう「連結片」を「その基端部が整畦板の回転方向前端面に連続して一体的になった連結片」と限定解釈すべきではなく,連結片が回転方向前端面以外の面に対して「延在する/しない」などといった技術的思想を導き出すことができないとの被告主張は,その前提を欠くものであって,失当である。
【被告の主張】 争点1-1で構成要件1Cについて主張したとおり,構成要件1Fにいう「連結片」は,「その基端部が整畦板の回転方向前端面に連続して一体的になった連結片」と限定解釈すべきところ,連結片の基端部は整畦板の回転方向前端面に連続して一体的になっているのであるから,そもそも,連結片が回転方向前端面以外の面に対して「延在する/しない」などといった技術的思想を導き出すことができないというべきである。
したがって,被告製品1は,構成要件1F「前記連結片は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側 11 に位置する整畦板の整畦面に延在しない」を充足しない。
エ 争点1-4(被告製品1は構成要件2Aを充足するか)について 【原告の主張】 (ア) 構成要件2Aの充足性 構成要件2Aにいう「回転軸」とは,構成要件1Bに「回転軸を中心として周方向に等間隔に配設された複数の整畦板」とあるように,周方向に等間隔に配設された複数の整畦板の中心をいう。また,構成要件2Aにいう「取付け基部」とは,回転軸を中心として,整畦板の基端部が物理的に取り付けられる部位をいう。
そして,被告製品1における複数の整畦板の基端部は,ディスク軸の中心を通る回転軸を中心とする部材に取り付けられており,同部材は構成要件2Aにいう「取付け基部」に相当する。
したがって,被告製品1は,構成要件2A「前記複数の整畦板の基端部は,前記回転軸を中心とする取付け基部に取り付けられている」を充足する。
(イ) 被告の主張について 被告は,構成要件2Aにいう「回転軸を中心とする取付け基部」を「回転軸を中心とする円筒形状の上面修復体」に限定解釈すべきである旨主張する。しかし,本件明細書において,「取付け基部」と「上面修復体16」とは別個の構成として記載されており,被告製品1にも,原告の製造販売に係る本件各発明の実施品にも「取付け基部」に相当する部材が存することからすれば,「取付け基部」の構成は当業者にとって明確であって,「上面修復体」に限定して解釈されるべきではない。
仮に,被告の主張するとおり,構成要件2Aにいう「取付け基部」を本件明細書に具体的に記載された「上面修復体16」に対応するものに限定解釈したとしても,被告製品1において整畦板の基端部が取り付けられている部材は,元畦の上面を修復する部材の一部を構成しているのであるから,構成要件2Aの充足性は,何ら否定されるものではない。
【被告の主張】 12 (ア) 構成要件2Aにいう「回転軸を中心とする取付け基部」の意義は,争点2-7において主張するとおり明確ではないが,仮に,この点を措くとすれば,次の理由により,「回転軸を中心とする円筒形状の上面修復体」と限定解釈するほかはない。
すなわち,特許請求の範囲の記載によっては,「取付け基部」の何が回転軸を中心とするのか不明であり,「回転軸を中心とする取付け基部」の意義を一義的に理解できない。そこで,本件明細書を参照すると,発明の詳細な説明には,「整畦ドラムの回転中心には,・・・円筒形状の上面修復体16が設けられ」(段落【0017】)との記載があり,「上記整畦ドラム15は,上記図4の第1実施例のように,回転中心の取付け基部に・・・整畦板15aの基端部を・・・取付け」(段落【0021】)がある。また,【図4】には,上面修復体16a以外に,整畦板15aの基端部を取り付けている部材は図示されていない。
(イ) 被告製品1において,整畦板の基端部は,上面修復体とは異なる部材に取り付けられている(被告製品1を使用して畦塗りを行った結果,被告製品1において整畦板の基端部を取り付けている部材は,元畦の側面部分を修復しており,上面部分を修復していない。)から,被告製品1は,構成要件2A「前記複数の整畦板の基端部は,前記回転軸を中心とする取付け基部に取り付けられている」を充足しない。
(2) 争点2(本件各発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)について ア 争点2-1(無効理由1〔新規性欠如。ただし本件発明1についての特許及び本件発明2についての特許に限る。〕は認められるか)について 【被告の主張】 本件特許の原出願日より前に日本国内で頒布された特開平10-276504号公報(以下「乙1公報」という。)には,畦形成機に係る発明(以下「乙1発明」という。)が開示されているところ,本件発明1及び同2は,いずれも乙1発明 13 と異なるところがなく(少なくとも,周知技術〔乙20ないし乙23〕を斟酌すれば,乙1発明は,実質的に本件発明1及び同2と同一であるといえる。),新規性を欠くものであった(特許法29条1項3号)。
したがって,本件発明1についての特許及び本件発明2についての特許は,いずれも特許法123条1項2号の無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,被告製品1が本件発明1又は同2の技術的範囲に属することを理由として,本件特許権を行使することができない(同法104条の3第1項)。
【原告の主張】 被告は,乙1公報の記載事項のうち,図2ないし図4に図示された実施形態(以下「第1実施形態」という。)における構成と,図5及び図6に図示された実施形態(以下「第2実施形態」という。)における構成とをそれぞれ抜き出して「乙1発明」を把握しようとしているが,第1実施形態と第2実施形態とは,それぞれ別の発明であるから,被告による「乙1発明」の把握手法は,誤りである。
そして,第1実施形態は,「複数の整畦板」を備えない点及び「連結片」を備えない点において,本件発明1及び同2と異なり,第2実施形態は,隣接する整畦板が連結片により相互に連結されていない及び連結片が回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しないとの構成を有しない点において,本件発明1及び同2と異なる。また,第1実施形態,第2実施形態とも,複数の整畦板の基端部が回転軸を中心とする取付け基部に取り付けられていない点において,本件発明2と異なる。
したがって,乙1公報により本件発明1及び同2が新規性を欠くということはない。
イ 争点2-2(無効理由2〔進歩性欠如〕は認められるか)について 【被告の主張】 (ア) 本件発明1及び同2について 仮に,原告が主張するように,本件発明1及び同2が乙1発明と同一であるとは 14 いえないとしても,隣接する整畦板を連結する際に,固定強度の観点から,連結片の形状を適宜変更して整畦面の裏面に固定する程度のことは,当業者にとって設計的事項にすぎないから,本件発明1及び同2は,乙1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許法29条2項)。
したがって,本件発明1についての特許及び本件発明2についての特許は,いずれも特許法123条1項2号の無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,被告製品1が本件発明1又は同2の技術的範囲に属することを理由として,本件特許権を行使することができない(同法104条の3第1項)。
(イ) 本件発明3及び同4について 本件特許の原出願日より前に日本国内で頒布された特開2001-161107号公報(以下「乙2公報」という。)及び「ニプロあぜぬり機 UZ-300・AZ-350 SERIES 取扱説明書」(以下「乙3文献」という。 )には,「畦塗り機」に関し,それぞれ,「多角円錐状ドラムの外周縁を構成する各整畦面(又は側面修復体の外周縁を構成する各整畦板)の外端が円弧状部分と直線状部分とを有する」構成及び「隣接する整畦面の境界部分では回転方向前側に位置する整畦面の外端が円弧状部分になっている」構成が開示されているところ,これらの構成を乙1発明に適用することについては,「畦塗り機」という同一の技術分野に属している以上動機付けがあり,阻害要因はない。そうすると,本件発明3及び同4は,乙1発明並びに乙2公報に記載された技術又は乙3文献に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである(特許法29条2項)。
したがって,本件発明3についての特許及び本件発明4についての特許は,いずれも特許法123条1項2号の無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,被告製品1が本件発明3又は同4の技術的範囲に属することを理由として,本件特許権を行使することができない(同法104条の3第1項)。
15 【原告の主張】 (ア) 本件発明1及び同2について 争点2-1において主張したとおり,被告は,乙1公報に記載された発明の把握を誤っている。第1実施形態は,「複数の整畦板」を備えない点及び「連結片」を備えない点において本件発明1と異なり,第2実施形態は,隣接する整畦板が連結片により相互に連結されていない点及び連結片が回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しないとの構成を有しない点において,本件発明1と異なる。また,第1実施形態,第2実施形態とも,複数の整畦板の基端部が回転軸を中心とする取付け基部に取り付けられていない点において,本件発明2と異なる。
そして,乙1公報には,一連の部材で一体的に形成された円錐回転体が開示されているにとどまり,これを複数の整畦板を連結して円錐回転体を形成する構成に変更する動機付けはなく,同変更が設計的事項であるということはできない。また,乙1公報には,「連結片」が開示されておらず,その「連結片」の形状を適宜変更して本件発明1の「連結片」の形状とすることが設計的事項であるということもできない。
したがって,本件発明1及び同2は,乙1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ) 本件発明3及び同4について 上記(ア)において主張したほか,乙2公報は,一連の部材によって一体的に形成された多角円錐状ドラムを備えた構成を開示するにとどまり,「多角円錐状ドラムの外周縁を構成する各整畦面の外端が円弧状部分と直線状部分とを有する」構成を記載していないこと,乙3文献は,複数の整畦板を略円錐形状の取付基板にボルト止めにより取り付ける構成を開示するにとどまり,「取付け基部」や連結片が回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない構成を記載していないことからすれば,本件発明3及び同4は,乙1発明並びに乙2公報に記載された構成又は乙3文献に記載された構成に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでは 16 ない。
ウ 争点2-3(無効理由3〔補正要件違反〕は認められるか)について 【被告の主張】 本件特許の出願人である原告は,本件特許の出願手続において,平成27年1月6日付け手続補正書(乙11参照)により,特許請求の範囲の請求項1に「前記連結片は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との構成(構成要件1F)を追加する補正(以下「本件補正」という。)をしたが,この補正事項(上記追加された構成)は,本件特許の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,これらを併せて「当初明細書等」という。)に記載されておらず,当初明細書等の記載から自明な事項でもないから,同補正は,新たな技術的事項を追加導入するものであって,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではなく,特許法17条の2第3項に規定する補正の要件を満たさないものであった。
したがって,本件各発明についての特許は,いずれも特許法123条1項1号の無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない(同法104条の3第1項)。
【原告の主張】 当初明細書等には,「図8(a),(b)に示す第5実施例の整畦ドラム27は,・・・整畦ドラム27のドラムの内側において,・・・連結片27c,27cにより固着している。」と記載されており(段落【0024】),連結片が回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏側に固定される構成が記載されている。また,【図8】(a),(b)では,連結片27c,27cが,隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に位置し,また,整畦面となる整畦板の表面に露出しておらず,連結片が回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない構成が記載されているといえる。
17 したがって,本件補正が補正要件を満たさないものであったということはない。
エ 争点2-4(無効理由4〔分割要件違反による新規性又は進歩性欠如〕は認められるか)について 【被告の主張】 請求項1における「前記連結片は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との構成(本件補正によって付加された構成),及び「境界部分に沿って設けられた連結片」という構成は,いずれも,本件特許の原出願(特願2014-78397号)の分割(本件特許の出願)直前の明細書,特許請求の範囲及び図面(以下,これらを併せて「原出願分割時明細書等」という。)に記載された事項の範囲内のものではない(前者については,争点2-3において主張したところと同様であり,後者については,原出願分割時明細書等には「重なり部分に沿って設けられた連結片」のみが記載されており,「境界部分(重なり部分を有しない境界部分)に沿って設けられた連結片」は記載されていない。)。そうすると,本件特許に係る出願(特願2014-78397号の分割)は,適法な分割出願(特許法44条1項1号)ではなく,その出願日は原出願日遡及しない。その結果,本件各発明は,本件特許の原出願(特願2014-78397号)に係る公開特許公報(平成26年7月10日に頒布された特開2014-128287号公報〔乙15〕)により新規性又は進歩性(特許法29条1項3号又は2項)を欠くこととなる。
したがって,本件各発明についての特許は,いずれも特許法123条1項2号の無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない(同法104条の3第1項)。
【原告の主張】 「前記連結片は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」 18 との構成(本件補正によって付加された構成),及び「境界部分に沿って設けられた連結片」は,いずれも,原出願分割時明細書等に記載された事項の範囲内のものである(前者については,争点2-3において主張したところと同様であり,後者については,原出願分割時明細書等の段落【0016】【0021】に,隣接する整畦板の境界部分に重なり部分を有しない整畦ドラムと,隣接する整畦板の境界部分に重なり部分を有する整畦ドラムとが,相互に置換可能な構成として記載されている。)。
したがって,本件特許は,適法な分割出願であって,本件各発明が本件特許の原出願(特願2014-78397号)に係る公開特許公報によって新規性又は進歩性を欠くということはない。
オ 争点2-5(無効理由5〔実施可能要件違反〕は認められるか)について 【被告の主張】 (ア) 請求項1には,「前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の回転方向後側の側縁が,直線状である」と記載されているが,側縁が直線状であることによりどのような技術的意義があるのか,本件明細書の発明の詳細な説明及び原出願日当時の技術常識を考慮しても理解できない。
(イ) 請求項1には,「前記連結片は,前記連結する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」と記載されているが,このような連結片の構成によりどのような技術的意義があるのか,本件明細書の発明の詳細な説明及び原出願日当時の技術常識を考慮しても理解できない。
(ウ) 請求項2には,「前記複数の整畦板の基端部は,前記回転軸を中心とする取付け基部に取付けられている」と記載されており,本件明細書の段落【0021】には,「上記整畦ドラム15は,上記図4の第1実施例のように,回転中心の取付け基部に・・・複数枚の整畦板15aの基端部を・・・取付け・・・」と記載されているが,【図4】には,「取付け基部」に符号が付されておらず,本件明細書の 19 その他の記載を考慮しても,「回転軸を中心とする取付け基部」がその部分を意味するのか理解できない。
(エ) 請求項3には,「前記側面修復体の外周縁を構成する各整畦板の外端が,円弧状部分と直線状部分とを有する」と記載され,また,請求項4には「前記隣接する整畦板の境界部分では,回転方向前側に位置する整畦板の外端が,前記円弧状部分になっている」と記載されているが,このような整畦板の外端の構成によりどのような技術的意義があるのか,本件明細書の発明の詳細な記載及び原出願日当時の技術常識を考慮しても理解できない。
(オ) 以上の点において,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,経済産業省令で定めるところにより当業者が本件各発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから,本件各発明についての特許は,実施可能要件に違反してされたものである(特許法36条4項1号)。
したがって,本件各発明についての特許は,いずれも特許法123条1項4号の無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない(同法104条の3第1項)。
【原告の主張】 実施可能要件を充足するには,明細書の記載及び出願時の技術常識に基づき当業者がその物を製造できれば足り,当該発明を構成する個々の構成要件の各々が技術上の意義を有することは要件とされないから,被告の主張は,その前提を欠くものである。
なお,請求項2にいう「回転軸を中心とする取付け基部」については,複数枚の整畦板の基端部が物理的に取り付けられる部材を指すことが明らかである。
カ 争点2-6(無効理由6〔サポート要件違反〕は認められるか)について 【被告の主張】 (ア) 請求項1における「前記連結片は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の 20 整畦面に延在しない」との構成(構成要件1F)は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載も示唆もされていない事項である。
(イ) 請求項1における「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片」との構成(構成要件1C)は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載も示唆もされていない事項である。
(ウ) 以上の点において,本件各発明は,発明の詳細な説明に記載したものではないから,本件各発明についての特許は,サポート要件に違反してされたものである(特許法36条6項1号)。
したがって,本件各発明についての特許は,いずれも特許法123条1項4号の無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない(同法104条の3第1項)。
【原告の主張】 争点2-3及び争点2-4において主張したとおり,「前記連結片は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との構成及び「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片」との構成のいずれも,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているものであるから,本件各発明についての特許がサポート要件に違反してされたということはない。
キ 争点2-7(無効理由7〔明確性要件違反〕は認められるか)について 【被告の主張】 (ア) 請求項1の「整畦板の整畦面」とは,整畦板のうちどの部分を意味するのか,本件明細書の発明の詳細な説明に記載がなく,不明確である。
(イ) 請求項1は,「整畦板の整畦面に延在しない」との否定的表現が使用されているために,その範囲が不明確である。
(ウ) 請求項1の「境界部分に沿って設けられた連結片」が,整畦板のどこに設けられ,整畦板のどこに固定されているのか,本件明細書の発明の詳細な説明に記載 21 がなく,不明確である。
(エ) 請求項2の「回転軸を中心とする取付け基部」がどの部分を意味するのか,本件明細書の発明の詳細な説明に記載がなく,不明確である。
(オ) 本件明細書には,「本特許発明は,以下の構成を特徴としている。・・・上記複数の整畦板を,複数の連結部材により連結して整畦ドラムを形成した」と記載され(段落【0004】【0005】),「本特許発明の畦塗り機の整畦ドラムによれば,・・・複数の整畦板を,複数の連結部材により連結して整畦ドラムを形成したので,複雑な形状の整畦ドラムであっても容易に製造することができる。」との作用効果が記載されているが(段落【0029】【0032】),「連結部材」や「整畦ドラム」といった語が特許請求の範囲に記載されていないことから,特許請求の範囲に記載されている構成と,この構成に基づく作用効果との関係が不明確である。
(カ) 本件明細書には,「本特許発明は,以下の構成を特徴としている。・・・整畦板は相互に所定の重なりを有し,その重なり部分に垂直段部を形成した。」と記載され(段落【0004】【0005】),「本特許発明の畦塗り機の整畦ドラムによれば,・・・隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し,その重なり部分に垂直段部を形成したので,土盛体により供給された泥土を,回転しながら各垂直段部により間欠的に叩打しながら泥土を固めて元畦に塗りつけ,良好な畦を形成することができる。しかも整畦板の重なり部分により泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するのを少なくすることができる。」との作用効果が記載されているが(段落【0029】【0031】),「重なり部分」や「垂直段部」といった語が特許請求の範囲に記載されていないことから,特許請求の範囲に記載されている構成と,この構成に基づく作用効果との関係が不明確である。
(キ) 以上の点において,本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし4は,特許を受けようとする発明が明確でなく,本件各発明についての特許は,明確性要件に違反してされたものである(特許法36条4項2号)。
22 したがって,本件各発明についての特許は,いずれも特許法123条1項4号の無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない(同法104条の3第1項)。
【原告の主張】 本件明細書の段落【0027】には,「その盛り上げた土壌を整畦体6の整畦ドラム15・・・の整畦面が偏心回転して畦法面を叩いて目的とする畦に成形する。」と記載されており,「整畦板の整畦面」が,畦法面に接触して畦を形成する面であることは明確である。
また,「整畦板の整畦面に延在しない」「境界部分に沿って設けられた連結片」「回転軸を中心とする取付け基部」との各構成が明確であることは,繰り返し主張したとおりである。
なお,発明の詳細な説明中の【課題を解決するための手段】の記載が,特許請求の範囲と厳密に一致していないからといって,特許請求の範囲に記載された構成と当該構成による作用効果が不明確となるものではない。本件明細書の記載を全体としてみれば,発明の詳細な説明に記載された「連結部材」「整畦ドラム」は,それぞれ特許請求の範囲における「連結片」「側面修復体」に相当することは明らかである。
ク 争点2-8(無効理由8〔同一発明の同日出願。ただし本件発明2についての特許に限る。〕は認められるか)について 【被告の主張】 本件特許の原々々出願である特願2001-265939号に係る特許第5000051号(発明の名称は,「畦塗り機」である。乙30)の特許請求の範囲(訂正2015-390023号の審決〔乙31の4〕による訂正後のもの〔乙31の2〕。)の請求項1に記載された発明(以下「同日出願発明」という。)は,次の2点において一応相違するほかは,同一である。
@ 同日出願発明は,「走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結され 23 る機枠」及び「機枠に回転自在に設けられ,畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に体を備えていない点。
A 同日出願発明給された泥土を回転しながら元畦に塗り付けて,元畦を修復するドラム状」であるのに対し,本件発明2は,元畦を修復するものである復するドラム状」であるか不明な点。
より供給された泥土を回転しながら元畦に塗り付けて,元畦を修復するドラム状」に構成することも,同様である(乙1,32ないし36)。
そうすると,上記@及びAの相違点に係る同日出願発明の構成は,周知技術に相当し,それによって同日出願発明が新たな効果を奏するものでもないから,これらの相違は,設計上の微差にすぎないというべきであり,同日出願発明と本件発明2とは,実質的に同一の発明であるといえる。ここで,同日出願発明と本件発明2との関係は,「同一の発明について同日に二以上の特許出願があつたとき」に当たるところ,同日出願発明については,既に特許されており,特許出願人による協議をすることはできないから,本件発明2についての特許は,特許法39条2項に違反してされたものである。
したがって,本件発明2についての特許は,特許法123条1項2号の無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,被告製品1が本件発明2の技術的範囲に属することを理由として,本件特許権を行使することができない(同法104条の3第1項)。
【原告の主張】 本件発明2は,「走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠」 24 に係る構成,「この機枠に回転自在に設けられ,畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体」に係る構成,「この土盛体の後方に位置して,前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけ」る構成,「ドラム状」の整畦体に係る構成を備えない点で,同日出願発明と異なっており,周知技術慣用技術を付加,削除,転換等を施したものではないから,両発明が実質的に同一であるということはできない。
したがって,本件発明2についての特許は,特許法39条2項に違反してされたものではない。
当裁判所の判断
1 本件各発明の意義 (1) 特許請求の範囲 本件特許の特許請求の範囲の記載は,前記認定事実に記載のとおりである。
(2) 本件明細書の記載 本件明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある(段落番号を【】により示す。)。
ア 技術分野 「本発明は,土盛体により切削されて元畦箇所に供給された畦塗り用の泥土を,回転しながら元畦に塗りつけて,元畦を修復するドラム状の整畦体を改良した畦塗り機に関する。」【0001】 イ 背景技術 「従来,走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と,この機枠に回転自在に設けられ,畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と,この土盛体の後方に位置して,前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて,元畦を修復するドラム状の整畦体(整畦ドラム)とを備えた畦塗り機が周知である。そして,整畦ドラムの泥土を回転しながら元畦に塗りつけ回転しながら畦の内側面を修復する側面修復体は,円錐状の円弧面または円錐状の 25 多段平面を有している。」【0002】 ウ 発明が解決しようとする課題 「上記従来の畦塗り機においては,整畦ドラムの側面修復体が円錐状の円弧面または円錐状の多段平面を有しており,しかも偏心回転しながら土盛体により供給された泥土を元畦に塗りつけて畦の内側面を修復するので,土盛体により切削されて元畦箇所に供給される泥土の状態によっては,所望の(十分な)元畦修復が行えない場合がある,という問題点があった。また,整畦ドラムは,円錐状の円弧面または円錐状の多段平面など有しているところから,その形状や製造上,作用等において改良すべき点があった。本発明は,上記の問題点を解決することを目的になされたものである。」【0003】 エ 課題を解決するための手段 「上記の目的を達成するために本発明は,以下の構成を特徴としている。
A.走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と,この機枠に回転自在に設けられ,畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と,この土盛体の後方に位置して,前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて,元畦を修復するドラム状の整畦体とを有する畦塗り機であって,前記整畦体は,回転しながら畦を形成する整畦ドラムを,回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し,各整畦板を相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成した。」【0004】 「B.上記整畦ドラムの隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し,その重なり部分に垂直段部を形成した。
C.上記複数の整畦板を,複数の連結部材により連結して整畦ドラムを形成した。」【0005】 「D.上記複数の連結部材を複数組のもので構成し,そのうちの少なくとも1組のものを整畦板に対し着脱可能とした。
E.上記複数組の連結部材のうち少なくとも1組のものを,整畦板に対する固着 26 位置を変更可能とした。」【0006】 「<作用>上記A.〜E.の構成により本発明の畦塗り機における整畦体(整畦ドラム)は,以下の作用を行う。
(1).回転しながら畦を形成する整畦ドラムは,回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し,各整畦板を相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成することで,整畦ドラムは土盛体により供給された泥土を,回転しながら各段差部により間欠的に叩打し,泥土を固めながら元畦に塗りつけ,従来の整畦ドラムに比べ良好な畦を形成する。」【0007】 「(2).整畦ドラムの隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し,その重なり部分に垂直段部を形成することで,土盛体により供給された泥土を,回転しながら各垂直段部により間欠的に叩打しながら泥土を固めて元畦に塗りつけ,良好な畦を形成でき,しかも整畦板の重なり部分により泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するのを少なくする。
(3).複数の整畦板を,複数の連結部材により連結して整畦ドラムを形成することで,整畦ドラムの製造が簡単となる。」【0008】 「(4).複数の連結部材を複数組のもので構成し,そのうちの少なくとも1組のものを整畦板に対し着脱可能とすることで,整畦ドラムの製造が容易となると共に,整畦板が損傷した場合には,その部分の補修が容易に行える。
(5).複数組の連結部材のうちの少なくとも1組のものを,整畦板に対する固着位置を変更可能とすることで,整畦ドラムの製造が容易となり,整畦板が損傷した場合には補修が容易となる。」【0009】 オ 発明を実施するための形態 「以下,本発明の実施の形態を添付の図面を参照して具体的に説明する。・・・」【0011】 「・・・また,整畦体6は,図4以下に示すが,その第1の実施例のものは図4(a),(b)に示すように,偏心回転しながら畦の内側面を形成する整畦ドラム 27 15の外周面に,回転中心から外周側に向けて,その回転方向に後退角を有して螺旋状に捻曲する複数(実施例では8枚)の整畦板15aを周方向に等間隔に形成し,各整畦板15aは,平面視でトロコイド曲線状の点が連続した曲面を有し,整畦ドラム15は,偏心回転しながら各整畦板15aを順に泥土に接して畦の内側面を形成するものである。各整畦板15aは大きさの異なる2枚の正方形状の連結部材15b,15cの各角部により相互(1枚置き)に溶接により連結して各整畦板15aの境界部分に段差部15dを形成し,整畦ドラム15の平面視外周縁を円形に形成している。上記2つの連結部材15b,15cのうち少なくとも連結部材15bは,整畦板15aに対して着脱可能の構成にしてもよいものである。」【0016】 「上記整畦ドラム15は,上記図4の第1実施例のように,回転中心の取付け基部に,平面視で内端側の幅が狭く,外端側の幅が次第に広くなる複数枚の整畦板15aの基端部を,隣接する整畦板15aが相互に所定の重なりを有するよう取付け,該整畦板15aの重なり部分に,図示しないが折返し部を設けて上下に固着し,前記重なり部分の隙間は内端側が狭く,外端側が広くなるよう,螺旋状の垂直段部を形成してもよいものである。」【0021】 「図5(a),(b)に示す第2実施例の整畦ドラム24は,図4の第1実施例の整畦ドラムとは,上面修復体16の回転中心と偏心して外周側に向けて,その回転方向後側をわずかに突出させて直線状の後退角を有して複数(8枚)の整畦板24aを周方向に等間隔に配設し,外周縁を非円形に形成したほかは,整畦ドラム15と同様の構成を有している。・・・」【0022】 「図6に示す第3実施例の整畦ドラム25は,8枚の整畦板25aにより重なり部分25bを有して形成されるドラムの内側に,4本の固定杆25cを上面修復体16の回転中心を通って放射方向に延びるようにして配設し,各固定杆25cの両端部を,上面修復体16を挟んで対向する整畦板25a,25aにそれぞれ固着している。そして,各重なり部分25bの回転方向後端部分に段部25dを形成し,ドラムの外周縁は円形をなしている。図7に示す第4実施例の整畦ドラム26は, 28 図4の第1実施例の連結部材15b,15cに代えてドラムの内側に8角形をなす1枚の個体板26bを設けて,この固定板26bの各部を各整畦板26aに固着し,上面修復体16のボス部に取り付けている。そして,各整畦板26aの境界部分に螺旋状の垂直段部26cを形成している。」【0023】 「さらに,図8(a),(b)に示す第5実施例の整畦ドラム27は,図5の第2実施例における整畦ドラム24の連結部材24c,24dに代えて,整畦ドラム27のドラムの内側において,各整畦板27aの重なり部分27bに沿って設けた2つの連結片27c,27cにより固着している。そして,各整畦板27aの境界部分に直線状の垂直段部27dを形成したものである。また,図9に示す第6実施例の整畦ドラム28は,図4の第1実施例の連結部材15b,15cに相当する連結部材28b,28dのうちの連結部材28bに,整畦板28aへの固着位置(角部)に着脱可能の取付け部28cを設けている。そして,取付け部28cにより固着された整畦板28aが損傷して,交換したり,補修したりする場合に取付け部28cを着脱するようにしている。また,この取付け部28cは整畦板に対する固着位置を変更可能であり,任意の整畦板28aに固着できる。」【0024】 「土盛体5では切削爪と土寄せ板により元畦の一部及び圃場の土壌を切削して元畦側に対して畦状に盛り上げ,その盛り上げた土壌を整畦体6の整畦ドラム(あるいは24,25,26,27,28のいずれか)の整畦面が偏心回転して畦法面を叩いて目的とする畦に成形する。また,水平円筒体16により整畦ドラムによって成形された畦の頂部を平らに成形する。」【0027】 「<効果> 以上説明したように本発明の畦塗り機の整畦ドラムによれば,請求項1〜5の構成により以下の作用効果を奏することができる。」【0029】 「(1).整畦体は,回転しながら畦を形成する整畦ドラムを,回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し,各整畦板を相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成したので,整畦ドラムは土盛体により 29 供給された泥土を,回転しながら各段差部により間欠的に叩打し,泥土を固めながら元畦に塗りつけ,従来の整畦ドラムに比べ良好な畦を形成することができる。特に,土盛体により供給される泥土の土質が悪い場合や含水率が適当でない場合でも,良好な畦を形成することができる。」【0030】 「(2).整畦ドラムの隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し,その重なり部分に垂直段部を形成したので,土盛体により供給された泥土を,回転しながら各垂直段部により間欠的に叩打しながら泥土を固めて元畦に塗りつけ,良好な畦を形成することができる。しかも整畦板の重なり部分により泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するのを少なくすることができる。」【0031】 「(3).複数の整畦板を,複数の連結部材により連結して整畦ドラムを形成したので,複雑な形状の整畦ドラムであっても容易に製造することができる。
(4).複数の連結部材を複数組のもので構成し,そのうちの少なくとも1組のものを整畦板に対し着脱可能としたので,複雑な形状の整畦ドラムの製造が容易になると共に,整畦板が損傷した場合には,その部分の補修や交換を容易に行うことができる。」【0032】 「(5).複数組の連結部材のうちの少なくとも1組のものを,整畦板に対する固着位置を変更可能としたので,複雑な形状の整畦ドラムでも製造が容易となり,整畦板が損傷した場合に,整畦板の補修や交換を容易に行うことができる。」【0033】 (3) 前記(1)及び(2)の記載によれば,本件各発明の概要は,次のとおりであると認められる。
ア 本件各発明は,土盛体により切削されて元畦箇所に供給された畦塗り用の泥土を,回転しながら元畦に塗りつけて,元畦を修復するドラム状の整畦体を改良した畦塗り機に関する。
従来の畦塗り機の整畦ドラムは,その側面修復体が円錐状の円弧面又は円錐状の多段平面を有しており,しかも偏心回転しながら泥土を元畦に塗りつけて畦の内側 30 面を修復するので,供給される泥土の状態によっては,所望の(十分な)元畦修復が行えない場合があった。また,従来の畦塗り機の整畦ドラムは,その形状や製造上,作用等において改良すべき点があった。
イ 本件各発明は,上記アに示した課題を解決するため,畦塗り機において,請求項1記載の発明(本件発明1)では,整畦体の側面修復体を,回転軸を中心として周方向に等間隔に配設された複数の整畦板を相互に連結し,各整畦板の境界部分に段差部を形成し,同連結に際しては,連結片を,隣接する整畦板の境界部分に沿って,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定し,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない態様で連結する構成とし,請求項2記載の発明(本件発明2)では,本件発明1の構成に加えて,複数の整畦板の基端部を,回転軸を中心とする取付け基部に取り付ける構成とし,請求項3記載の発明(本件発明3)では,本件発明1又は同2の構成に加えて,各整畦板の外端が円弧状部分と直線状部分とを有する形状とし,請求項4記載の発明(本件発明4)では,本件発明3の構成に加えて,回転方向前側に位置する整畦板の外端が,整畦板の境界部分で円弧状となっている形状とした。
ウ 本件各発明によれば,泥土の状態が適当でない場合でも良好な畦を形成できること,泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するのを少なくできること,複雑な形状の整畦ドラムであっても容易に製造できること,整畦板の補修や交換を容易に行えることなどの効果を奏する。
2 争点1(被告製品1は本件各発明の技術的範囲に属するか)について (1) 被告製品1の構成について 証拠(甲4ないし20,乙41)及び弁論の全趣旨によれば,本件各発明の技術的範囲に属するかの判断に関連する被告製品1の具体的構成は,次のとおりと認められる。
ア 被告製品1における「ウィングディスク」の具体的構成を上面図により図示すると,次の〔図1〕のとおりとなる。ここで,隣接する2枚の整畦板は,その境 31 界付近において,各整畦板の側縁と略同じ長さを有する細長い板状の連結部材(〔図1〕の赤色着色部分)により,相互に連結されている。
〔図1〕 回転方向 整畦板 (回転方向前側) 連結部材 整畦板 (回転方向後側) イ 被告製品1における隣接する整畦板相互の連結態様を部分拡大図により図示すると次の〔図2〕のとおりとなる。ここで,回転方向前側の整畦板(〔図2〕の下側に図示された整畦板)と回転方向後側の整畦板(同上側に図示された整畦板)とは,そのさかい目付近において段差を形成しているものの,重なり部分を有していない。両整畦板は,そのさかい目付近において,連結部材により相互に連結されているが,同連結部材は,回転方向前側の整畦板の裏面と,回転方向後側の整畦板の裏面とにそれぞれ固定されており,回転方向後側の整畦板のディスク面側に延びてはいない。
32 〔図2〕 整畦板(ディスク面) 整畦板(裏面) 段差 連結部材 ウ 被告製品1における整畦板の取付け態様を図示すると次の〔図3〕及び〔図4〕のとおりとなる。ここで,各整畦板の基端部(扇形状の整畦板の根本部分)は,「取付け基部」(〔図3〕〔図4〕の緑色着色部分)という部材にそれぞれ取り付けられている。「取付け基部」は,被告製品1のウィングディスクを回転させる回転動力の回転中心が,その「取付け基部」の中心を通っており,回転動力が「取付け基部」を介して各整畦板に伝えられて「ウィングディスク」が回転する。また,「取付け基部」には,「スパイラルローラー」(〔図4〕の紫色着色部分)がさらに取り付けられている。「スパイラルローラー」は,「ウィングディスク」と共に回転することにより,元畦の上面を修復し,「ウィングディスク」は,元畦の側面を修復する。他方,「取付け基部」も,「スパイラルローラー」及び「ウィングディスク」と共に回転して,元畦と接し,元畦の一部を修復するが,修復する部分は元畦の上面と側面との境界付近である。
33 〔図3〕 回転方向 取付け基部 基端部 回転軸 (ディスク軸) 〔図4〕 回転軸 (2) 争点1-1(被告製品1は構成要件1Cを充足するか)について ア 構成要件1Cは,「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより,一体の前記側面修復体が構成され,」とするところ,被告製品1における「ウィングディスク」は,構成要件1Cにいう「側面修復体」に該当するものと認められる(この点は,被告も争わないところである。)。
34 イ 「連結片」について (ア) 構成要件1Cにいう「連結片」とは,特許請求の範囲の記載に照らせば,隣接する整畦板を相互に「連結」する「片」であるといえるところ,「連結」とは「つらねむすぶこと。むすびあわせること。」という意義を有し(広辞苑第六版),「片」とは「ひときれ。きれはし。」という意義を有することから(広辞苑第六版〔甲22〕),「隣接する整畦板を互いに結び合わせるひときれの部材」という意味であると解するのが相当である。しかるところ,前記前提事実及び前記(1)に認定したところによれば,被告製品1の「連結部材」は,隣接する整畦板の各裏面にそれぞれ固定されて両整畦板を互いに結び合わせており,かつ,その形状からして「ひときれの部材」ということができる。そうすると,被告製品1の「連結部材」は,構成要件1Cにいう「連結片」に該当するものと認められる。
(イ) この点について,被告は,「連結片」については,特許請求の範囲の記載のみではその意義が明らかでなく,本件明細書の発明の詳細な説明中,「連結片」について記載された唯一の文章を参酌してもなお,その意義が明らかでないとして,本件明細書の【図8】に図示された構成を意味すると限定解釈すべきである旨主張する。しかし,上記のとおり,「連結片」の意義は,特許請求の範囲の記載自体から明確であって,その技術的範囲を確定するために本件明細書の記載を参照するにしても,その意義を一実施例として【図8】に図示された構成に限られると解すべき理由はない。
被告は,上記限定解釈の根拠として,本件特許の原出願日の3日後である平成13年9月6日に原告がした別の出願(特願2001-270226号。本件特許の原々々出願を分割したものではない。)に係る特許第4541608号公報(以下「乙16公報」という。)の記載や,本件明細書の段落【0024】の記載にも言及する。しかし,そもそも,本件特許とは別の出願に係る乙16公報の記載は,本件各発明の構成要件を限定解釈すべき根拠となるものではない(なお,乙16公報には,本件明細書の【図8】と略同一の図面である【図4】が記載され,【図4】 35 が示す実施例に係る部分拡大断面図として【図6】が記載されているところ,【図6】に図示された「連結片15c」は,回転方向後側の整畦板の回転方向前端面と一体となっており,かつ,回転方向前側の整畦板の裏面に固定されている構成となっていることが認められるが,本件明細書には,乙16公報の【図6】に相当する図面は,記載されていない。)。また,本件明細書の段落【0024】には,「図8(a),(b)に示す第5実施例の整畦ドラム27は,図5の第2実施例における整畦ドラム24の連結部材24c,24dに代えて,整畦ドラム27のドラムの内側において,各整畦板27aの重なり部分27bに沿って設けた2つの連結片27c,27cにより固着している。」(判決注:下線を付した。)との記載があるところ,本件明細書の【図5】に図示された「連結部材24c,24d」は,整畦ドラム24を構成するすべての整畦板を1つ又は2つの部材により一括して連結する部材であるから,本件明細書の段落【0024】の記載は,【図5】に図示されたような「すべての整畦板を一括して連結する連結部材」という構成に代えて,【図8】に図示された「隣接する整畦板を相互に連結すべく,当該隣接する2つの整畦板の境界付近に連結片を設ける」構成を説明する記載であるとはいえる。しかし,同記載をもって,特許請求の範囲における「連結片」との記載の意義を【図8】に図示された構成に限定解釈すべきものとは解されない。
したがって,「連結片」の意義を「その基端部が整畦板の回転方向前端面に連続して一体的になった連結片」とか,「隣接する整畦板同士をつなぎ合わせる小さな切れ端の部材であって,その長さが整畦板の側縁に比べてかなり短い部材」に限定解釈すべきであるとの被告主張は,採用することができない。
36 ウ 「境界部分」について (ア) 構成要件1Cにいう「境界部分」とは,特許請求の範囲の記載に照らせば,「隣接する整畦板の境界部分」であるといえるところ,「境界」とは,「物事のさかい目」という意義を有し(大辞林第三版〔甲38〕),「部分」という語が「全体の中の一ヵ所」をいう意義を有することから(広辞苑第六版),「隣接する整畦板のさかい目付近の箇所」という意味であると解するのが相当である。しかるところ,前記前提事実及び前記(1)に認定したところによれば,被告製品1の「連結部材」は,隣接する整畦板のさかい目付近の箇所に沿って設けられているのであるから,「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた」ものであるいうことができる。
(イ) この点について,被告は,「境界部分」については,特許請求の範囲の記載のみではその意義が明らかでない,本件明細書には,各整畦板により形成された「重なり部分」に沿って設けられた連結片が記載されているにとどまり,「重なり部分を有しない境界部分に沿って設けられた連結片」は記載されていない,整畦面が重なり部分を有することは,本件各発明の作用効果を奏するために不可欠の構成であるなどとして,「境界部分」は,「重なり部分を有する境界部分のうちその重なり部分」を意味すると限定解釈すべきである旨主張する。
しかし,上記のとおり,「境界部分」の意義は,特許請求の範囲の記載自体から明確であって,その技術的範囲を確定するために本件明細書の記載を参照するにしても,その意義を本件明細書に一実施例として記載された構成に限られると解すべき理由はない。
また,本件明細書の段落【0031】には,「整畦ドラムの隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し,その重なり部分に垂直段部を形成したので,土盛体により供給された泥土を,回転しながら各垂直段部により間欠的に叩打しながら泥土を固めて元畦に塗りつけ,良好な畦を形成することができる。しかも整畦板の重なり部分により泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するのを少なくすることができる。」 37 との記載があるが,本件明細書の<効果>欄(段落【0029】ないし【0033】)には,上記「泥土が整畦ドラムの内面側に侵入することを少なくすることができる」との効果のみならず,整畦板に垂直段部を形成したことによる効果や,複数の整畦板を複数の連結部材により連結したことによる効果なども記載されているのであって,本件各発明が解決しようとする課題である「所望の(十分な)元畦修復が行えない」ことや,「その形状や製造上,作用等において改良すべき点があった」ことを解決するために,「整畦板が重なり部分を有すること」が必須であるとはいえないし,ましてや「境界部分」を「重なり部分を有する境界部分のうちその重なり部分」に限定解釈すべきであるとは認め難い。
したがって,被告の主張は,採用することができない。
エ 争点1-1の小括 以上によれば,「隣接する整畦板のさかい目付近の箇所に沿って設けられたひときれの連結部材で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより,一体のウィングディスクが構成され」た被告製品1は,構成要件1C「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより,一体の前記側面修復体が構成され,」を充足するというべきである。
(3) 争点1-2(被告製品1は構成要件1Dを充足するか)について 構成要件1Dにいう「境界部分」とは,先に争点1-1について認定説示したとおり,「隣接する整畦板のさかい目付近の箇所」という意義を有するところ,前記認定事実によれば,被告製品1は,隣接する整畦板と整畦板との間,すなわち「境界部分」に段差が形成されていることが認められる。したがって,被告製品1は,構成要件1D「前記隣接する整畦板の境界部分に段差部が形成され,」を充足するというべきである。
(4) 争点1-3(被告製品1は構成要件1Fを充足するか)について 先に争点1-1について認定説示したところによれば,被告製品1の「連結部材」は,構成要件1Fにいう「連結片」に該当する。
38 そして,構成要件1Fにいう「整畦面」とは,特許請求の範囲の記載及び本件明細書の段落【0027】等の記載によれば,「整畦をする面」,すなわち,「整畦板の表面(側面修復体の外側部分を構成し,元畦と接する面)」を意味すると解される。
しかるところ,前記前提事実及び前記(1)に認定したところによれば,被告製品1の「連結部材」は,回転方向前側の整畦板の裏面と,回転方向後側の整畦板の裏面とにそれぞれ固定されており,回転方向後側の整畦板のディスク面(ウィングディスクの外側部分を構成し,元畦と接する面)側に延びて存在してはいない(すなわち,「延在しない」)のであるから,被告製品1は,構成要件1F「前記連結片は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」を充足するというべきである。
(5) 争点1-4(被告製品1は構成要件2Aを充足するか)について ア 構成要件2Aにいう「回転軸を中心とする取付け基部」とは,本件各発明が畦塗り用の泥土を回転しながら元畦に塗り付けて元畦を修復するドラム状の整畦体を備えた畦塗り機に係る発明であること(本件明細書の段落【0001】等),「基部」という語が「基礎となる部分。ねもと。どだい。」との意義を有すること(広辞苑第六版)からして,「回転するドラム状の整畦体の回転中心となる軸(必ずしも部材としての「軸」に限られない。)を中心とする部材であって,特定の部材を取り付ける根本となる部材」という意味であると解される。
しかるところ,前記前提事実及び前記(1)に認定したところによれば,被告製品1の「取付け基部」は,ウィングディスクを回転させる回転動力の回転中心が,その中心を通っており,かつ,各整畦板が取り付けられる根本となる部材であることが認められる。
イ この点について,被告は,「回転軸を中心とする取付け基部」については,特許請求の範囲の記載のみではその意義が明らかでないところ,本件明細書には, 39 上面修復体16a以外に,整畦板15aの基端部を取り付けている部材は図示されていないとして,「回転軸を中心とする取付け基部」は,「回転軸を中心とする円筒形状の上面修復体」を意味すると限定解釈すべきであり,被告製品1における「取付け基部」は,上面修復体とは異なる部材である(元畦の側面部分を修復しており,上面部分を修復しない)から,これに当たらない旨主張する。
しかし,上記のとおり,「回転軸を中心とする取付け基部」とは,「回転するドラム状の整畦体の回転中心となる軸(必ずしも部材としての「軸」に限られない。)を中心とする部材であって,特定の部材を取り付ける根本となる部材」をいうことが特許請求の範囲及び本件明細書の記載から明らかであり,整畦板を取り付けるという機能のほかに,元畦の上面部分を修復する機能を必須とするものであると解すべき根拠はない。
なお,本件明細書の段落【0021】には,「上記整畦ドラム15は,上記図4の第1実施例のように,回転中心の取付け基部に・・・整畦板15aの基端部を・・・取付け」があり,【図4】には,「上面修復体16a」とは独立した「取付け部材」なる部材が独立して図示されているわけではないが,これらの記載をもって,「取付け基部」につき,直ちに元畦の上面部分を修復する機能を必須とするものであると解することは,相当とは認め難い。
したがって,被告の主張は,採用することができない。
ウ 争点1-4の小括 以上によれば,「ウィングディスクを回転させる回転動力の回転中心が,その中心を通っており,かつ,各整畦板が取り付けられる根本となる部材」である取付け基部を有する被告製品1は,構成要件2A「前記複数の整畦板の基端部は,前記回転軸を中心とする取付け基部に取り付けられている」を充足するというべきである。
(6) 争点1の小括 前記前提事実及び上記認定説示したところによれば,被告製品1は,本件各発明の構成要件をすべて充足し,本件各発明の技術的範囲に属するものと認められる。
40 3 争点2(本件各発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)について (1) 争点2-1(無効理由1〔新規性欠如。ただし本件発明1についての特許及び本件発明2についての特許に限る。〕は認められるか)及び争点2-2(無効理由2〔進歩性欠如〕は認められるか)について ア 本件特許の原出願日より前に日本国内で頒布された乙1公報には,次の記載がある(引用に際し,乙1公報中の段落番号等を【】で示す。)。
「【特許請求の範囲】 【請求項1】 畦形成箇所に沿って移動され,畦形成箇所に土を盛り上げ状態に供給する土盛装置と,土盛装置の移動方向の後方に設置される畦形成装置とを有し,畦形成装置は,土を盛り上げ状態とされた畦形成箇所上を回転しながら通過させる円筒回転体と,円筒回転体の回転駆動力供給側に取り付けられ回転駆動力供給側にいく程径大となり円筒回転体の中央に向けた傾斜面を有するとともに,表面は放射状の分割片に分割される円錐回転体とからなることを特徴とする畦形成機。
【請求項2】 畦形成箇所に沿って移動され,畦形成箇所に土を盛り上げ状態に供給する土盛装置と,土盛装置の移動方向の後方に設置される畦形成装置とを有し,畦形成装置は,土を盛り上げ状態とされた畦形成箇所上を回転しながら通過させる円筒回転体と,円筒回転体の回転駆動力供給側に取り付けられ回転駆動力供給側にいく程径大となり円筒回転体の中央に向けた傾斜面を有するとともに,表面は放射状の分割片に分割され側面視ジグザグ状からなる円錐回転体とからなることを特徴とする畦形成機。
【請求項3】 畦形成箇所に沿って移動され,畦形成箇所に土を盛り上げ状態に供給する土盛装置と,土盛装置の移動方向の後方に設置される畦形成装置とを有し,畦形成装置は,土を盛り上げ状態とされた畦形成箇所上を回転しながら通過させる円筒回転体と,円筒回転体の回転駆動力供給側に取り付けられ回転駆動力供給側にいく程径大となり円筒回転体の中央に向けた傾斜面を有するとともに,表面は放射 41 状の分割片に分割され,分割片は進行方向に対して前進角を設けられ,隣接する分割片相互は逃げ角をもって連結される円錐回転体とからなることを特徴とする畦形成機。」 「【発明の属する技術分野】 この発明は,畦形成機に係る。詳細には,走行車に付設されて進行され,その進行方向に順次畦を形成する畦形成機に係る。」【0001】 「【従来の技術】 従来の畦形成機としては,例えば「畦形成機」(特開平6ー22604)が知られている。同「畦形成機」では,畦形成装置は,畦と直交する軸縁回りに回転する円筒状の回転具を備える。回転具は,回転体の内外端部に,円筒体の中央に向けた傾斜面を有する円錐面を有する内側回転板を設ける。または内側回転板とともに,同じく内側回転体に対向させて円筒体の中央に向けた傾斜面を有する外側回転板を連設してなる。そして牽引車の進行長さは,回転体の円周と単位時間当たりの回転体の回転数の積より小である。そして,畦上面を通過する円筒状回転具と畦側面を通過し畦側面を形成する円錐面を有する内側回転板および/または外側回転板とからなる畦形成装置の回転体の周速を,走行車の走行速度より早く設定し,スリップ作用によって畦側面を堅く締め固めようとするものである。」【0002】 「【発明が解決しようとする課題】 しかしながら,従来の畦形成機では,内側回転体および外側回転体とも表面は円滑面からなっていたため,圃場の土質の種類によってあるいは圃場の土が乾燥しているときは,畦側面の締め込み力が弱いという課題を有した。」【0003】 「【課題を解決するための手段】 この発明は,」【0004】 「畦形成箇所に沿って移動され,畦形成箇所に土を盛り上げ状態に供給する土盛装置と,土盛装置の移動方向の後方に設置される畦形成装置とを有し,畦形成装置は,土を盛り上げ状態とされた畦形成箇所上を回転しながら通過させる円筒回転体と,円筒回転体の回転駆動力供給側に取り付けられ回転駆動力供給側にいく程径大 42 となり円筒回転体の中央に向けた傾斜面を有するとともに,表面は放射状の分割片に分割される円錐回転体とからなることを特徴とする畦形成機,」【0005】 「および,畦形成箇所に沿って移動され,畦形成箇所に土を盛り上げ状態に供給する土盛装置と,土盛装置の移動方向の後方に設置される畦形成装置とを有し,畦形成装置は,土を盛り上げ状態とされた畦形成箇所上を回転しながら通過させる円筒回転体と,円筒回転体の回転駆動力供給側に取り付けられ回転駆動力供給側にいく程径大となり円筒回転体の中央に向けた傾斜面を有するとともに,表面は放射状の分割片に分割され側面視ジグザク状からなる円錐回転体とからなることを特徴とする畦形成機,」【0006】 「および,畦形成箇所に沿って移動され,畦形成箇所に土を盛り上げ状態に供給する土盛装置と,土盛装置の移動方向の後方に設置される畦形成装置とを有し,畦形成装置は,土を盛り上げ状態とされた畦形成箇所を回転しながら通過させる円筒回転体と,円筒回転体の回転駆動力供給側に取り付けられ回転駆動力供給側にいく程径大となり円筒回転体の中央に向けた傾斜面を有するとともに,表面は放射状の分割片に分割され,分割片は進行方向に対して前進角を設けられ,隣接する分割片相互は逃げ角をもって連結される円錐回転体とからなることを特徴とする畦形成機,を提供する。」【0007】 「【発明の実施の形態】 この発明の実施の形態の平面図をあらわす図1,同側面一部拡大断面図をあらわす図2,同畦形成装置の一部拡大斜視図をあらわす図3,同円錐回転体の一部拡大端面図をあらわす図4,同他の実施形態の畦形成装置における円錐回転体の一部拡大正面図をあらわす図5,同他の実施形態の畦形成装置における円錐回転体の一部拡大端面図をあらわす図6にしたがって説明する。」【0009】 43 「41は,畦形成装置である。畦形成装置41は,土盛装置21のトラクタによる牽引移動方向の後方に設置される。畦形成装置41は,円筒回転体42と円錐回転体43からなる。・・・」【0013】 「円錐回転体43はステンレス製からなり,図3に図示されるように回転駆動力供給側すなわちトラクタ側にいく程径大となる全体としてはほぼ円錐台状からなり,円筒回転体42の回転駆動力供給側すなわち円筒回転体42よりも機枠11寄りで,第2従動回転軸35の先端に円筒回転体42の中央に傾斜面を向けて取り付けられ,第2従動回転軸35の回転により土を盛り上げ状態とされた畦形成箇所Aの機枠11側側面を移動方向に強制的に順回転される。・・・」【0014】 「円錐回転体43の表面は放射状の分割片44に分割される。分割片44は図4 44 に図示されるように,側面視ジグザク状となり,進行方向fに対して前進角Aを設けられる。隣接する分割片44相互は逃げ角Bをもって連結される。aは,土との当接面,bは逃げ面である。」【0015】 「そのため,走行車であるトラクタの進行にともない,・・・畦形成箇所Hの旧畦の崩れた上面部および側面部に土が盛り上げ状態に連続的に供給される。円錐回転体43は,回転機動力供給側すなわち走行車側にいく程径大になるとともに,表面は放射状の分割片44に分割され,分割片44は進行方向に対して前進角Aを設けられ,隣接する分割片44相互は逃げ角Bをもって連結されるため,土盛には当接面aがまず当接し,畦の裾部に対して盛土を抱き込みながら,断続圧を加えて練り込むので強固な畦を形成する。又,分割片は進行方向に逃げ角Bを有して断続圧を繰り返すので,粘性の強い土が付着しようとしても,直ちに剥離されるので土の付着が成長することもない。」【0016】 「図5,図6に図示される他の実施の形態では,円錐回転体43の分割片44はそれぞれほぼ扇型の独立片からなる。45は分割片取り付け盤であり,ステンレス製等の金属製からなる。分割片取り付け盤45は,表面が円滑な円錐台状からなり,その表面に分割片44の端部を相互に重複させながらビス46で取り付ける。ビス46で分割片取り付け盤45に取り付けられた分割片44とビス46との上に重ねられた隣接する分割片44とで当接面a,逃げ面bを構成し,かつ相互の間で前進角A,逃げ角Bを構成する。この実施の形態では分割片44は別個に製造可能となるので生産性が向上する。」【0017】 イ 上記アの記載によれば,乙1公報には,次の2つの実施形態を有する発明(乙1発明)が記載されているものと認められる。
(ア) 第1実施形態 1a:旧畦を修復する畦形成装置41を備えた畦形成機であって, 1b:前記畦形成装置41における円錐回転体43は,第2従動回転軸35を中 心として周方向に等間隔に放射状に配設された分割片44が側面視ジグザ 45 グ状となるよう複数の当接面aと複数の逃げ面bとが相互に連結して構成 され,1c:(第1実施形態に関し,乙1公報には,分割片44の境界部分に沿って設 けられた連結片に関する記載はない。)1d:前記隣接する分割片44と分割片44との境界部分に逃げ面bが形成され,1e:前記隣接する分割片44のうち,回転方向前側に位置する分割片44の回 転方向後側の側縁が,直線状であり,1f:(第1実施形態に関し,乙1公報には,回転方向前側に位置する分割片4 4の整畦面の裏側に固定され,回転方向後側に位置する分割片44の整畦 面に延在しない連結片に関する記載はない。)1g:畦形成機。
(イ) 第2実施形態1a:旧畦を修復する畦形成装置41を備えた畦形成機であって,1b:前記畦形成装置41における円錐回転体43は,第2従動回転軸35を中 心として周方向に等間隔に放射状に配設された独立した分割片44が分割 片取り付け盤45に連結して構成され,1c:前記隣接する分割片44は,それぞれ,分割片44の端部を相互に重複さ せながら,分割片44の端部をビス46で取り付けることにより,一体の 前記円錐回転体43が構成され,1d:ビス46で分割片取り付け盤45に取り付けられた分割片44とビス46 の上に重ねられた隣接する分割片44とで当接面a,逃げ面bを構成し,1e:前記隣接する分割片44のうち,回転方向前側に位置する分割片44の回 転方向後側の側縁が,直線状であり,1f:(第2実施形態に関し,乙1公報には,回転方向前側に位置する分割片4 4の整畦面の裏側に固定され,回転方向後側に位置する分割片44の整畦 面に延在しない連結片に関する記載はない。) 46 1g:畦形成機。
ウ 前記前提事実及び上記イで説示したところによれば,乙1発明(第1実施形態と第2実施形態とを含む。以下この段落において同じ。)の「畦形成装置41」は,本件発明1の「整畦体」に該当し,乙1発明の「畦形成機」は,本件発明1の「畦塗り機」に該当し,乙1発明の「円錐回転体43」は,本件発明1の「側面修復体」に該当し,乙1発明の「第2従動回転軸35」は,本件発明1の「回転軸」に該当し,乙1発明の「分割片44」は,本件発明1の「整畦板」に該当するところ,乙1発明と本件発明1とは,少なくとも次の点において,相違するものと認められる。
(ア) 第1実施形態と本件発明1との相違点 a 本件発明1は,「前記整畦体における側面修復体は,回転軸を中心として周方向に配設された複数の整畦板を相互に連結して構成され」る(構成要件1B)のに対し,第1実施形態の円錐回転体43は,第2従動回転軸35を中心として周方向に等間隔に放射状に配設された分割片44が側面視ジグザグ状となるよう複数の当接面aと複数の逃げ面bとが相互に連結して構成されている点(以下「相違点1-1」という。) b 本件発明1は,「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより,一体の前記側面修復体が形成され」る(構成要件1C)のに対し,第1実施形態には,かかる構成を有する連結片に関する記載はない点(以下「相違点1-2」という。)。
c 本件発明1は,「前記連結片は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」(構成要件1F)のに対し,第1実施形態には,かかる構成を有する連結片に関する記載はない点(以下「相違点1-3」という。)。
(イ) 第2実施形態と本件発明1との相違点 a 本件発明1は,「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片で前 47 記隣接する整畦板を相互に連結することにより,一体の前記側面修復体が形成され」る(構成要件1C)のに対し,第2実施形態では,隣接する分割片44が,それぞれ分割片44の端部を相互に重複させながら,分割片44の端部をビス46で取り付けることにより,一体の前記円錐回転体43が構成される点(以下「相違点2-1」という。)。
b 本件発明1は,「前記連結片は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」(構成要件1F)のに対し,第2実施形態には,かかる構成を有する連結片に関する記載はない点(以下「相違点2-2」という。)。
(ウ) 上記検討したところによれば,本件発明1は,乙1発明と同一であるとは認められないし,本件発明2は,本件発明1の発明特定事項に加え,構成要件2Aを発明特定事項とするものであるから,乙1発明と同一であるとは認められない。
エ この点に関し,被告は,乙1公報の段落【0017】において,生産性向上のために「分割片44」を別個に製造可能な「独立片」とすることが記載されていることや,【請求項3】において,「分割片取り付け盤45」が必須の構成要件とされていないこと,また,本件特許の原出願日当時の周知技術(乙20ないし乙23)などから,乙1公報には,【図4】の「b」部分(逃げ面bを有する片部分)を「連結片」とする構成が実質的に記載されていると主張する。
しかし,乙1発明の第1実施形態における円錐回転体43は,【図3】の記載や段落【0017】の記載(「この実施の形態〔判決注:第2実施形態を指す。〕では分割片44は別個に製造可能となる」)からして,側面視ジグザグ状となるように折り曲げられ,一体に成形されたものと認めるのが相当であって,仮に,乙1公報の段落【0017】の記載及び第2実施形態に関する記載,被告が周知技術の根拠とする文献(乙20ないし乙23)の記載に照らし,乙1発明の第1実施形態における円錐回転体43を複数の分割片44により構成することが当業者にとって自明であったとしても,これら複数の分割片44を「境界部分に沿って設けられた連 48 結片で相互に連結する」構成や,「連結片は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との構成までもが自明であったとは認められない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
オ 相違点に係る本件発明1の構成の容易想到性について (ア) 乙1公報の前記ア及びイの記載等によれば,乙1発明は,従来の畦塗り機において内側・外側回転体が共に円滑面となっていたことから,土質によっては畦側面の締め込み力が弱くなるとの課題に鑑み,従来の畦形成機における円錐回転体の表面について,@放射状の分割片に分割される形状,A放射状の分割片に分割され側面視ジグザグ状からなる形状,B放射状の分割片に分割され,分割片は進行方向に対して前進角を設けられ,隣接する分割片相互は逃げ角をもって連結される形状とし,畦の裾部に対して盛土を抱き込みながら,断続圧を加えて練り込む作用によって強固な畦を形成する効果を奏するほか,分割片が進行方向に逃げ角を有して断続圧を繰り返す作用により,粘性の強い土が付着しようとしても土の付着が成長することもないとの効果を奏するものであると認められる。また,乙1公報には,円錐回転体の分割片をそれぞれほぼ扇型の独立片とし,これらを表面が円滑な円錐台状の分割片取り付け盤に,端部を相互に重複させながらビスで取り付ける構成を採用することにより,分割片が別個に製造可能となり,生産性が向上する旨が記載されているものと認められる。
(イ) そうすると,相違点1-1に係る本件発明1の構成のうち,整畦体における側面修復体を,回転軸を中心として周方向に配設された複数の整畦板を連結する点については,乙1公報に記載されているといえるとしても,これらの複数の整畦板を相互に連結する点については,乙1公報には,記載も示唆もないというべきである。
また,相違点1-2,同1-3,同2-1,同2-2に関し,乙1公報には,円錐回転体について,前記イのとおり,@側面視ジグザグ状となるように折り曲げら 49 れ,一体に成形されている構成や,A分割片をそれぞれほぼ扇型の独立片とし,これらを表面が円滑な円錐台状の分割片取り付け盤に,端部を相互に重複させながらビスで取り付ける構成は,開示されているといえるとしても,分割片をそれぞれ独立片とした上で,これらを境界部分に沿って設けられた連結片で相互に連結する構成や,同連結片が,回転方向前側に位置する分割片の裏面に固定され,回転方向後側に位置する分割片の整畦面に延在しない構成については,記載も示唆もないというべきである。
そして,本件発明1における連結片の構成については,前記1に認定したところによれば,複雑な形状の整畦ドラムであっても容易に製造できること,整畦板の補修や交換を容易に行えることなど,独自の技術的意義を見いだすことができ,分割片に係る上記構成が,当業者にとって単なる設計的事項にすぎないと認めることは困難である。
(ウ) 以上によれば,当業者が,乙1発明に基づいて,相違点1-1,同1-2及び同1-3に係る本件発明1の構成の全て,又は相違点2-1及び同2-2に係る本件発明1の構成の全てに容易に想到し得たものと認めることはできない。
カ 争点2-1及び争点2-2の小括 以上のとおり,本件発明1は,乙1発明と同一であるということはできず,また,本件特許の原出願日当時,当業者において,乙1発明に基づいて容易に発明をすることができたものとも認められない。
また,本件発明2,同3及び同4は,いずれも本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから,本件発明1が乙1発明と同一でなく,また,乙1発明に基づいて容易に発明をすることができたものとも認められない以上,本件発明2,同3及び同4についても(本件発明3及び同4に関しては,乙1発明に対し,乙2公報記載の技術又は乙3文献記載の技術を適用することが論理付けられるか否かを検討するまでもない。),乙1発明と同一であるとか,本件特許の原出願日当時,当業者において,乙1発明に基づき容易に発明をすることができたものとは認められ 50 ない。
したがって,本件各発明についての特許が,被告の主張する無効理由1及び同2によって,特許無効審判により無効にされるべきものとはいえない。
(2) 争点2-3(無効理由3〔補正要件違反〕は認められるか)について ア 被告は,本件補正が当初明細書等に記載した事項の範囲内でされたものでないから,特許法17条の2第3項に規定する補正の要件を満たさないものであったと主張する。
イ(ア) 本件補正に係る平成27年1月6日付け手続補正書(乙11参照)について説明した同日付け上申書(乙12)には,次の記載がある。
「(2)補正の説明 ・・・連結片が,「前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏側に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」こと(以下「発明特定事項3」と言います。)。・・・発明特定事項3は,連結片の構成を具体的に規定するものです。この発明特定事項3は,本願出願当初の明細書[0024],図8等の記載に基づいています。」 (イ) 当初明細書等には,次の記載がある(甲2)。
「【0024】 さらに,図8(a),(b)に示す第5実施例の整畦ドラム27は,図5の第2実施例における整畦ドラム24の連結部材24c,24dに代えて,整畦ドラム27のドラムの内側において,各整畦板27aの重なり部分27bに沿って設けた2つの連結片27c,27cにより固着している。そして,各整畦板27aの境界部分に直線状の垂直段部27dを形成したものである。・・・」「【0027】 51 土盛体5では切削爪と土寄せ板により元畦の一部及び圃場の土壌を切削して元畦側に対して畦状に盛り上げ,その盛り上げた土壌を整畦体6の整畦ドラム15(あるいは24,25,26,27,28のいずれか)の整畦面が偏心回転して畦法面を叩いて目的とする畦に成形する。・・・」 (ウ) 上記(イ)の記載によれば,当初明細書等には,「整畦面」が整畦法面を叩く整畦ドラムの面,すなわち各整畦板の表面を意味すること(段落【0027】)とともに,連結片が回転方向前側に位置する整畦板の裏側(整畦面と反対側)に固定される構成(段落【0024】),及び連結片が回転方向後側に位置する整畦板の整畦面(表面)に延びて存在していない構成(【図8】)が開示されていると認められる(なお,当初明細書等には,連結片27cによる各整畦板27aの連結の態様について,回転方向後側に位置する整畦板の裏側に固定される構成を殊更に排除していることをうかがわせるような記載は認められない。)。
そうすると,本件補正により付加された「前記連結片は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との構成は,当初明細書等の段落【0024】,【0027】及び【図8】などの記載から自明な事項であるというべきである。
したがって,本件補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内でされたものというべきであり,本件各発明についての特許が,被告の主張する無効理由3によって,特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。
(3) 争点2-4(無効理由4〔分割要件違反による新規性又は進歩性欠如〕は認められるか)について ア 被告は,本件各発明における「前記連結片は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との構成(構成要件1F)及び「境界部分に沿って設けられた連結片」(構成要件1C)が,いずれも原出願分割時明細書等に記載 52 された事項の範囲内のものでないから,本件各発明についての特許は,適法な分割出願に係るものとはいえず,その結果,出願日の遡及が認められないため,本件各発明は,本件特許の原出願(特願2014-78397号)に係る公開特許公報(特開2014-128287号公報〔乙15〕)により,新規性又は進歩性を欠くと主張する。
イ しかし,証拠(甲2,乙15)及び弁論の全趣旨によれば,原出願分割時明細書等における記載中,「前記連結片は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との構成に関係する段落【0024】,【0027】及び【図8】などの記載は,当初明細書等の段落【0024】,【0027】及び【図8】などの記載と同じであることが推認できるから,争点2-3において認定説示したところと同様の理由により,同構成は,原出願分割時明細書等の上記記載から自明な事項であるというべきである。
また,「境界部分に沿って設けられた連結片」との構成についても,原出願分割時明細書等の段落【0024】及び【図8】の記載から自明な事項であると認められる。
ウ 以上によれば,本件各発明についての特許は,適法な分割出願に係るものでないとは認められないから,被告の主張する無効理由4によって,特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。
(4) 争点2-5(無効理由5〔実施可能要件違反〕は認められるか)について ア 被告は,@請求項1における「前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の回転方向後側の側縁が,直線状である」ことの技術的意義,A請求項1における「前記連結片は,前記連結する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」ことの技術的意義,B請求項2における「回転軸を中心とする取付け基部」がどの部分を指すのか,C請求項3における「前記側面修復体の外周縁を構 53 成する各整畦板の外端が,円弧状部分と直線状部分とを有する」ことの技術的意義について,いずれも本件明細書の発明の詳細な説明及び原出願日当時の技術常識を考慮しても理解できないとして,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,経済産業省令で定めるところにより当業者が本件各発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく,本件各発明についての特許は,いずれも実施可能要件に違反してされたものであると主張する。
イ しかしながら,前記1において認定説示したとおり,本件各発明は,畦塗り用の泥土を回転しながら元畦に塗り付けて元畦を修復するドラム状の整畦体を改良した畦塗り機に関し,従来の畦塗り機の整畦ドラムでは,供給される泥土の状態によっては,所望の(十分な)元畦修復が行えない場合があり,また,その形状や製造上,作用等において改良すべき点があるとの課題が存したところ,本件発明1では,整畦体の側面修復体を,回転軸を中心として周方向に等間隔に配設された複数の整畦板を相互に連結し,各整畦板の境界部分に段差部を形成し,同連結に際しては,連結片を,隣接する整畦板の境界部分に沿って,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定し,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない態様で連結する構成とし,本件発明2では,本件発明1の構成に加えて,複数の整畦板の基端部を,回転軸を中心とする取付け基部に取り付ける構成とし,本件発明3では,本件発明1又は同2の構成に加えて,各整畦板の外端が円弧状部分と直線状部分とを有する形状とし,本件発明4では,本件発明3の構成に加えて,回転方向前側に位置する整畦板の外端が,整畦板の境界部分で円弧状となっている形状としたものであり,これにより,泥土の状態が適当でない場合でも良好な畦を形成できること,泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するのを少なくできること,複雑な形状の整畦ドラムであっても容易に製造できること,整畦板の補修や交換を容易に行えることなどの効果を奏するものと認められる。
また,既に争点1-4について認定説示したとおり,「回転軸を中心とする取付け基部」とは,「回転するドラム状の整畦体の回転中心となる軸を中心とする部材 54 であって,特定の部材を取り付ける根本となる部材」をいうことが特許請求の範囲及び本件明細書の記載から明らかである。
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者が本件各発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているというべきであるし,当業者であれば,本件明細書の記載及び原出願日当時の技術常識に基づいて,本件各発明に係る物を作ることができたと認めるのが相当である。
ウ したがって,本件各発明についての特許が,被告の主張する無効理由5により,特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。
(5) 争点2-6(無効理由6〔サポート要件違反〕は認められるか)について ア 被告は,@請求項1における「前記連結片は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との構成(構成要件1F)及びA請求項1における「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片」との構成(構成要件1C)は,本件明細書の発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていないとして,本件各発明は,発明の詳細な説明に記載したものではなく,本件各発明についての特許は,サポート要件に違反してされたものであると主張する。
イ しかしながら,既に争点2-3及び同2-4について認定説示したところと同様の理由により,「前記連結片は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏面に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しない」との構成及び「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片」との構成は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から自明な事項であると認められる。
ウ したがって,本件各発明についての特許が,被告の主張する無効理由6により,特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。
(6) 争点2-7(無効理由7〔明確性要件違反〕は認められるか)について ア 被告は,@請求項1における「整畦板の整畦面」は,整畦板のうちどの部分 55 を意味するのかが不明確である,A請求項1は,「整畦板の整畦面に延在しない」との否定的表現が使用されているために,その範囲が不明確である,B請求項1における「境界部分に沿って設けられた連結片」は,整畦板のどこに設けられ,整畦板のどこに固定されているのかが不明確である,C請求項2における「回転軸を中心とする取付け基部」は,どの部分を意味するのかが不明確である,D本件明細書の発明の詳細な説明に記載のある「連結部材」「整畦ドラム」という語が,特許請求の範囲には記載されていないから,特許請求の範囲に記載されている構成と,この構成に基づく作用効果の関係が不明確である,E本件明細書の発明の詳細な説明に記載のある「重なり部分」や「垂直段部」という語が,特許請求の範囲には記載されていないことから,特許請求の範囲に記載されている構成と,この構成に基づく作用効果との関係が不明確である,などとして,本件特許の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が不明確であり,本件各発明についての特許は,明確性要件に違反してされたものであると主張する。
イ しかしながら,上記@及びAについては,既に争点1-3について認定説示したとおり,「整畦板の整畦面」とは,「整畦をする面」,すなわち,「整畦板の表面(側面修復体の外側部分を構成し,元畦と接する面)」を意味することが,特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載から明らかであるし,「(連結片が)整畦板の整畦面に延在しない」とは,上記「整畦面」の解釈からして,連結片が(回転方向後側に位置する)整畦板の表面に「延びて存在しない」(連結片が整畦板の表面に固着される構成を除く)ことを意味することが明らかである。上記Bについては,既に争点1-2について認定説示したとおり,「境界部分」とは,「隣接する整畦板のさかい目付近の箇所」という意義を有するものと認められるから,連結片が設けられるべき箇所が不明確となるものではない。上記Cについては,既に争点1-4について認定説示したとおり,「回転軸を中心とする取付け基部」は,「回転するドラム状の整畦体の回転中心となる軸を中心とする部材であって,特定の部材を取り付ける根本となる部材」という意義を有するものと認められるから, 56 「取付け基部」は明確である。また,上記D及びEについては,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された「連結部材」「整畦ドラム」及び「垂直段部」は,それぞれ特許請求の範囲における「連結片」「整畦体」及び「段差部」に対応することは本件明細書の記載から明らかであるし,発明の詳細な記載に記載のある「重なり部分」が特許請求の範囲に記載されていないことをもって,直ちに本件各発明の構成要件が不明確になると認めることは,困難というほかない。
以上によれば,本件特許の特許請求の範囲の記載において,特許を受けようとする発明が明確でないものということはできない。
ウ したがって,本件各発明についての特許が,被告の主張する無効理由7によって,特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。
(7) 争点2-8(無効理由8〔同一発明の同日出願。ただし本件発明2についての特許に限る。〕は認められるか)について ア 被告は,本件特許の原々々出願である特願2001-265939号に係る特許第5000051号の特許請求の範囲の請求項1(訂正2015-3900023号事件の審決により訂正されたもの)に係る発明(同日出願発明)は,本件発明2と同一の発明であるところ,同日出願発明は既に特許されており,特許出願人による協議をすることができないから,本件発明2について特許を受けることはできないと主張する。
イ そこで検討するに,証拠(乙30,31の1ないし4)によれば,特許第5000051号の特許請求の範囲(上記審決により訂正されたもの)の記載は,次のとおりである。
「【請求項1】 走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と,この機枠に回転自在に設けられ,畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と,この土盛体の後方に位置して,前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて,元畦を修復するドラム状の整畦体と,を有する畦塗り機であって,前記整畦体は,回転しながら畦を形成する整畦ドラムを,回転中心 57 から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し,各整畦板の基端部は前記回転中心の取付け基部に取付けられ,隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材で前記隣接する整畦板を相互に連結することにより,一体の前記整畦ドラムが構成され,各整畦板の境界部分に段差部を形成し,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の回転方向後側の側縁が,直線状であり,前記連結部材は,前記隣接する整畦板のうち,回転方向前側に位置する整畦板の整畦面の裏側に固定され,回転方向後側に位置する整畦板の整畦面に延在しないことを特徴とする畦塗り機。」 ウ 同日出願発明と本件発明2とを対比すると,次のとおり相違するものと認められる。
(ア) 同日出願発明は,「走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠」を備えるのに対し,本件発明2は当該構成を備えるか不明である点。
(イ) 同日出願発明は,「この機枠に回転自在に設けられ,畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体」を備えるのに対し,本件発明2は当該構成を備えるか不明である点。
(ウ) 同日出願発明の「整畦体」は,「この土盛体の後方に位置して,前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけ」るのに対し,本件発明2の「整畦体」がかかる構成を備えるか不明である点。
(エ) 同日出願発明の「整畦体」は,「ドラム状」であるのに対し,本件発明2の「整畦体」がかかる構成を備えるか不明である点。
エ 以上のとおり,同日出願発明は,本件発明2とは異なり,「整畦体」の構成を具体的に限定しているほか,「整畦体」以外の畦塗り機を構成する他の構成を具体的に特定しているのであって,被告が本件特許の原出願日当時の周知技術を示すとする文献(乙1,32ないし36)によっても,これらの相違点に係る構成が,単なる周知技術慣用技術の付加,削除,転換等にすぎないものと認められないから,同日出願発明と本件発明2とが実質的に同一の発明であるということはできな 58 い。
したがって,本件発明2についての特許が,被告の主張する無効理由8によって,特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。
(8) 争点2の小括 以上の検討によれば,本件各発明についての特許は,いずれも被告主張の理由により特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないから,原告による本件特許権の行使が特許法104条の3第1項により封じられるものではない。
4 結論 (1) 以上のとおり,被告製品1は,本件各発明の構成要件をすべて充足し,本件各発明の技術的範囲に属するから,被告が業として被告製品1を製造し,販売し,販売のために展示し,又は販売の申出をする行為は,本件特許権を侵害する行為である。
また,前記認定事実によれば,被告製品2は,被告製品1を構成する消耗部品であるディスクであって,社会通念上,経済的,商業的又は実用的に他の用途を想定することができないから,被告製品2は,本件各発明の技術的範囲に属する被告製品1の「生産にのみ用いる物」と認められる。したがって,被告が業として被告製品2を製造し,販売し,販売のために展示し,又は販売の申出をする行為は,本件特許権を侵害する行為とみなされる(特許法101条1号)。
そうすると,原告は,被告に対し,特許法100条1項に基づき,本件特許権を侵害する行為である被告製品1の製造,販売,販売のための展示及び販売の申出の各行為を差し止めることができ,本件特許権を侵害する行為とみなされる被告製品2の製造,販売,販売のための展示及び販売の申出の各行為を差し止めることができる。また,特許法100条2項に基づき,被告製品1及び被告製品2の廃棄を求めることができる。
(2) なお,被告は,本判決の言渡しを予定した口頭弁論期日(平成28年5月25日)の2日前である同月23日,当裁判所に対し,被告は同年4月をもって被告 59 各製品の生産を中止し,同年5月25日までに販売も中止する予定であり,ウェブサイトからも製品情報を閲覧できないようにした,被告製品1に装着されていたディスクを取り外して順次切断廃棄処分をしているなどと主張し,侵害の停止及び予防の必要性は完全に喪失することになるから,原告の請求はいずれも棄却されるべきであるとして,口頭弁論再開申立書を提出した。
しかしながら,同申立書に添付の参考資料を検討したとしても,本件の口頭弁論終結時に認められた本件特許権の侵害のおそれはなお残存しているものと認められるから,本件について口頭弁論を再開する必要はないというべきである。
(3) 以上によれば,原告の請求にはいずれも理由があるから,これらを認容することとし,主文のとおり判決する(なお,被告製品1及び被告製品2の廃棄を求める仮執行宣言は,相当でないのでこれを付さないこととする。)。
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官 鈴木千帆
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