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事件 |
平成
27年
(ワ)
10913号
債務不履行損害賠償請求事件
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原告 P1 被告 P2 被告 P3 上記2名訴訟代理人弁護士 内田公志 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2016/05/23 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
被告らは,原告に対し,連帯して550万円を支払え。 |
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事案の概要
本件は,出願人を原告とし,発明の名称を「血栓除去用部材とそれを使用した血栓除去用カテーテル」とする米国特許出願の手続を行った被告らにおいて,クレーム補正に関する審査官からの電話連絡に対し,定められた期限までに,補正の書面を提出すべき義務又は口頭でクレーム補正に応諾する旨の連絡をすべき義務を怠り,これにより損害を被ったとして,原告が,被告らに対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害金550万円の連帯支払を求める事案である。 本件は,当初,神戸地方裁判所において審理され,同裁判所により原告の請求をいずれも棄却する旨の判決がされたが(同裁判所平成25年(ワ)第1175号事件),それに対する控訴審において,大阪高等裁判所は,民事訴訟法6条所定の専属管轄違反を理由に原判決を取り消し,事件を当庁に移送した(同裁判所平成27年 1(ネ)第2051号事件)。 なお,本件では,原告が加害行為の結果として主張する後記損害は我が国において発生した内容を含み,また,準拠法を日本法とすることにつき当事者間に争いがないので,法の適用に関する通則法17条本文,又は,同法21条本文により,いずれにせよ,日本法が準拠法となる。 1 前提事実等(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。) (1) 当事者 原告は,平成16年1月23日付けで我が国においてなされた,発明の名称を「血栓除去用部材とそれを使用した血栓除去用カテーテル」とする特許出願の出願人である(甲1)。 被告P2は,米国弁護士資格及び米国弁理士資格を有する者である。 被告P3は,日本弁理士資格及び米国弁理士資格を有する者である。 (2) 米国特許の出願 被告P2は,わが国においてなされた前記(1)の特許出願について,パリ条約に基づく優先権をアメリカ合衆国で主張して,平成17年1月21日,米国特許商標庁(USPTO,United States Patent and Trademark Office)に対し,原告の出願代理人として,原告を出願人とする米国特許出願(米国特許出願番号 11/038,427。 以下「本件出願」という。)を行い,被告P3は,被告P2の履行補助者として,本件出願の事務を行った。 (3) 審査官からのクレーム補正に関する電話連絡 被告P2は,原告との連絡役であったP4に対し,平成19年2月18日付けの電子メールを送信し,その中で,審査官から電話連絡を受け,本件出願のクレーム1をクレーム2の限定を含むものに補正し,クレーム2を削除することができるかを尋ねられたので,同月23日までに回答する必要がある旨を報告した。 これに対し,P4は,被告P2に対し,同月19日付けの電子メールを送信し,審査官からの提案を承諾する旨の原告の意向を伝えた(その後,被告らが同月23 2日までにクレーム補正の書面を提出しなかったことは当事者間に争いがない。他方で,被告らが同日までに口頭でクレーム補正に応諾する旨の連絡をしたか否かについては,後記のとおり,当事者間に争いがある。 。 ) (4) 非最終拒絶理由通知及びこれに対する応答書 平成19年3月7日付けで,非最終拒絶理由通知が,被告らの事務所宛てに発送され,同通知には,請求項1ないし20が係属しているところ,これらの請求項を拒絶するとされた(乙2)。 これに対し,被告P2は,同年6月7日付けで,同通知に対する応答書を提出し,その中で,本件出願のクレーム1に,クレーム2の限定を含む補正をし,クレーム2を削除する等の補正をする旨を記載した(甲22,31,乙1。応答書においてクレーム1に挿入された「a groove for aspirating the eliminated thrombus intoan inside of the catheter」との文言は,当初のクレーム2(甲30)に含まれていた文言と同一である。 。 ) これを受け,上記応答書に対応する最終拒絶理由通知が,同年9月7日付けで,発送され,請求項1,3,4,6及び8ないし20が係属しているところ,これらの請求項を拒絶するとされた(乙3)。 (5) 本件出願のその後の経過 その後も本件出願に係る手続が進められたが,被告らは,原告から,平成21年6月18日付けのファックスにより解任通知を受け,同年7月14日,米国特許商標庁において,解任通知が受理され,同月30日,代理人が変更された(甲6,乙8)。 同年10月7日,米国特許商標庁からの同年3月18日付けの連絡に対して回答が提出されなかったことにより,本件出願が放棄された旨の通知が発送された(甲6,乙14,22)。 2 争点 (1) 被告らが,審査官からのクレーム補正の電話連絡に対し,補正の書面を提 3出すべき義務又は口頭で応諾の連絡をすべき義務を怠ったか否か(争点1) (2) 被告らの注意義務違反と損害との間の因果関係(争点2) (3) 損害額(争点3) |
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争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告らが,審査官からのクレーム補正の電話連絡に対し,補正の書面を提出すべき義務又は口頭で応諾の連絡をすべき義務を怠ったか否か)について 【原告の主張】 (1) 被告らが,審査官からの電話連絡に対し,補正の書面を提出すべき義務を怠ったこと 米国特許規則(37C.F.R. 連邦規則法典第37巻)§1.121(a)において,再発行出願以外の出願に関する補正について,書面による提出が義務付けられている。審査官が平成19年2月18日に被告P2に対して電話で伝えたクレーム補正は,特許の根幹をなすクレーム1及び2の補正であり,米国特許規則§1.121(a)が適用され,書面による補正手続がなされるべきである。特許審査便覧(MPEP,Manual ofPatent Examining Procedure,第5改訂,平成18年8月改正)1302.04 は,特許登録の段階において特許申請を登録して通すことを前提にした補正に関するものであり,代理人である弁理士の同意だけでも行える軽微な補正に限定され,特許の根幹をなすクレームの実体的な補正は予定していない。 本件では,特許登録の段階ではなく,審査前の段階において,審査官から補正提案がされており,その補正内容は実体的な補正であり,審査官補正の対象ではない。 原告が所属するP5と被告P2は,本件出願に関する契約を締結していたところ,被告らは,書面でクレームの補正の手続を行うべき義務を負っていた。被告P2が,P4に連絡し,原告の同意を確認したのは,代理人の同意で行える補正でないことが分かっていたからである。 それにもかかわらず,被告らは,期限である同月23日までにクレームを補正した書面を提出しなかったので,非最終拒絶理由通知を受け,同年6月7日になって 4初めて,正式に書面で補正手続をした。 このように,被告らは,再審査を繰り返して手数料を取得するため,補正の書面を提出すべき義務を怠り,米国特許規則§1.121(a)に違反した。 これに対し,被告らが実例として挙げた米国特許出願番号 11/065,578 の出願(以下「578出願」という。)の審査官補正は,特許に何ら影響のないクレーム14の削除であり,最終的には,公知物件,従来品に改良を加えた構成によって,付帯クレームの補正で登録されており,特許の根幹や実体をなすクレームの補正ではない。 また,審査官補正は,審査官が考えたクレームの補正案を出願人に提示して出願人の賛否を問うものであり,審査官の主導により行われるべきところ,578出願では,最終拒絶理由通知の後に期間延長し,被告P2が電話面接を要望したため,審査官が応諾して審査官面接を行っており,審査官補正に入る前に,被告P2があらかじめ書面でクレームの補正案を提出したものを審査官が審査官補正で補正したようにして登録していた。578出願の登録に至るまでの経過をみると,常に出願人側の要請に審査官が追随したことが分かり,特許審査便覧 1302.04 に相当する審査官補正がなされたとはいえない。 (2) 被告らが,審査官からの電話連絡に対し,口頭で応諾の連絡をすべき義務を怠ったこと 仮に,特許審査便覧 1302.04 に則って補正手続が行われるとしても,同 1302.04には,日付,面談方法の明記が定められ,同 713.04 によれば,電話によるインタビューの内容は,審査官との同意に達したか否かにかかわらず,記録されなければならない。この点,被告らは,審査官からの補正提案に対し,平成19年2月20日 に 電 話 で 同 意 通 達 を し た と 主 張 す る が , P A I R ( Patent ApplicationInformation Retrieval ) のTH (Transaction History )やIFW (Image FileWrapper)といった公的記録に記録されていない。被告らが同日に口頭で補正通達をしたのであれば,非最終拒絶理由通知に対する応答書によって再び補正をする必要はなかったはずである。 5 また,前記(1)のとおり,被告らが実例として挙げた578出願のクレーム補正は,審査官補正とはいえない。 加えて,原告の申立てを受けてなされた米国特許商標庁のOED (Office ofEnrollment and Discipline)からの通知には,懲戒処分がされなくとも,被告らの行為が違法であることが明記されている。 したがって,被告らは,審査官からの電話連絡に対し,口頭で応諾の連絡をすべき義務を怠った。 【被告らの主張】 (1) 被告らが,審査官からの電話連絡に対し,補正の書面を提出すべき義務を負わないこと 米国特許規則§1.121(g),特許審査便覧 1302.04 によれば,審査官補正の手続によってクレームの修正,変更ができ,578出願においても,クレーム14の制限をクレーム11に加え,クレーム14を削除する旨の審査官補正が行われている。 ここで,審査官補正によるクレームの補正行為にも,米国特許規則§1.121(a)が適用されるが,審査官補正を行う際に書面を作成しなければならないのは,審査官補正を行う当事者である審査官であって,出願人又はその代理人ではない。 また,原告の特許出願に関する審査官補正が検討されていた当時に効力を有していた特許審査便覧 1302.04 には,出願人の代理人が個人面接又は電話面接で,審査官補正の権限授与を行うことが予定されており,審査官から提案された審査官補正に対しては,その内容がクレームの修正を含むものであっても,単にこれを受諾する意思表示を電話又は面談で行えば,審査官が審査官補正を行うことができる。このように,審査官が行う審査官補正に,出願人又はその代理人が,当該審査官補正を受諾する場合には,口頭での意思表示で足り,米国特許規則§1.121(a)によって,出願人の代理人が補正書を提出しなければならないものではない。 本件において,被告P2が,審査官補正を提案した審査官に対して,審査官補正を受諾する旨の出願人の意向を伝える行為は,出願人の代理人によるクレーム補正 6に関する電話での権限授与であり,クレームの補正行為そのものではない。 したがって,被告らは,審査官からの電話連絡に対し,補正の書面を提出すべき義務を負うものではない。 (2) 被告らが,審査官からの電話連絡に対し,口頭で応諾の連絡をしたこと 審査官は,被告P2に対し,当初,本件出願のクレーム1について,クレーム2の限定を含むものに補正し,クレーム2を取り下げるのであれば,クレーム1とクレーム3ないし20は,特許可能であると,電話で,伝えた。被告P2は,平成19年2月18日付けの電子メールで,P4に対し,審査官からの審査官補正の提案について,出願人である原告の受諾の意向があるか否かを照会し,P4は,同月19日付けの電子メールで,原告が米国審査官からの審査官補正の提案を受諾する意向であることを伝えた。これを受け,被告P2は,同月20日,審査官補正を提案した審査官に対し,電話で権限授与の連絡をし,審査官補正を受諾する旨の原告の意向を伝えた。 ここで,578出願によれば,審査官補正が,実際に審査官の行為として有効になされた場合,電話面接での権限授与の事実は,特許査定及び手数料納付通知書に添付される特許可能通知に明記されるが,公式記録であるPAIRのIFWには,審査官が出願人又はその代理人から電話面接で権限授与を受けた経緯は記録されていない。 審査官補正は,出願を特許として通す場合に限って認められる手続であるところ,本件では電話連絡をした審査官の上司の判断により,審査官提案が撤回されて審査官補正がなされず,その後の審査においても特許可能通知がなされるには至らなかったため,被告P2が,審査官が求めた期限である同月23日までに,電話面接で権限授与の連絡を行ったことに関する公式記録は,存在しない。 これに対し,原告が指摘する特許審査便覧 713.04 は,審査官に考慮を求める事項を提示するために行われる面接に関するものであるところ,審査官からの審査官補正の許諾の問い合わせに返答することは,審査官に考慮を求めるものではなく, 7同 713.04 は適用されず,同 1302.04 に定める手続により処理される。 以上のとおり,被告らは,審査官からの電話連絡に対し,口頭で応諾の連絡をしており,口頭で応諾の連絡をすべき義務を怠ってはいない。 2 争点2(被告らの注意義務違反と損害との間の因果関係)について 【原告の主張】 被告らの行為により,原告は,国内外の企業とのライセンス交渉の機会を失い,大学病院と共同で特許製品の事業化をもくろんでいた開発を中止し,中国のメーカーを始め,東南アジアの華僑との業務推進の計画を中断した。 また,被告らの行為により,原告は,ベンチャー起業展開の起点を失い,日本特許及びEP特許の価値をも失った。 【被告らの主張】 審査官から,審査官補正を行う旨の連絡があったが,後日,審査官の上司により,当初に審査官補正として提案した内容の補正では,出願された発明を特許することができないと判断され,非最終拒絶理由通知が発送された。このように,平成19年2月23日の期限は,審査官が,審査官補正に対する出願人又はその代理人の承諾ないし権限の付与の表明を希望する期日であったところ,審査官補正の撤回及び非最終拒絶理由通知により無意味となった。 そして,非最終拒絶理由通知には,当初に審査官から電話連絡で提案を受けていた内容の補正で回避できる拒絶理由が含まれていたので,被告らは,本件出願のクレーム1に,クレーム2の限定を含む補正をし,クレーム2を削除する旨の補正を行い,この補正は有効に受理された。米国特許商標庁は,この補正を受理し,補正後のクレームを審査し,これらのクレームを拒絶する最終拒絶理由通知を発した。 被告らは,審査官補正提案の撤回後も,本件出願が登録されるように,拒絶理由回避のための最善の措置をとったが,審査官補正提案の補正では,そもそも,拒絶の原因を回避できなかった。また,被告らが本件出願の代理人であった間,本件出願が放棄と扱われることはなかったが,被告らの解任後,原告自らの手続の懈怠に 8より,本件出願が放棄として扱われた。 したがって,被告らの注意義務違反と原告の損害との間に因果関係は認められない。 3 争点3(損害額)について 【原告の主張】 原告は,被告らに支払った金額,米国特許出願に際して費やした経費等を含め,合計550万円の損害を被っており,その内訳は,別紙「損失内訳明細書」のとおりである。 【被告らの主張】 否認する。 |
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当裁判所の判断
当裁判所は,争点1について,被告らが,審査官からのクレーム補正の電話連絡に対し,補正の書面を提出すべき義務を負うと認めることはできず,また,口頭で応諾の連絡をすべき義務を怠ったと認めることはできないと判断する。 その理由は,以下のとおりである。 1 認定事実等 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実等が認められる。 (1) 米国特許規則の定め及び特許審査便覧の記載 ア 米国特許法においては,補正について,出願人が行う補正のほかに,審査官が行う審査官補正の制度がある。 (ア) 米国特許規則(37 C.F.R.§1.121)では,補正について,次のとおり定められている。 「(a) 再発行出願以外の出願に関する補正(Amendments)は,§1.52 に従い,指定された補正が行われることを指示する書類を提出することによって行われる。(原文及び訳文とも甲5。平成26年10月16日付けの被告らの第1準備書 」面4頁の訳文も同趣旨である。) 9 「(g) 審査官補正書(an examiner’s amendment)の形で米国特許商標庁によって行われる,クレームを含む出願明細書の変更は,挿入又は削除が行われるべき正確な個所を特定して審査官補正書に記載されている主題を挿入又は削除する明示の指図によって行うことができる。(b)(1),(b)(2)又は(c)の遵守は要求されない。(原文及び訳文とも甲5) 」 (イ) 特許審査便覧 1302.04 では,審査官補正について,次のとおり解説されている。 a 「 37 C.F.R.§1.121 は , 明 細 書 / ク レ ー ム へ の 補 正 を , 37C.F.R.§1.121(b)(1),(b)(2)又は(c)に従ってなされなければならないと修正されたが,そうすることが適切であれば,37 C.F.R.§1.121(g)は,当局が,審査官補正によりクレームを含む明細書の補正をする際には,審査促進及び時間の節約の為に,37C.F.R.§1.121(b)(1),(b)(2)又は(c)に従う必要なく,補正を許容するものである。」 (原文及び訳文とも乙4) b 「適正に署名された正式の審査官補正による場合,又は,以下に定める場合を除き,いかなる補正,抹消,行間書き込みも,明細書の記述部分本体,あるいは,その他の出願された特許明細書の紙になされてはならない。 もし出願ファイルが紙のファイルの場合には,非正式審査官補正は,明細書の記載部分の以下の明らかな間違いや脱落の訂正についてすることができ,出願の審査官によってペンでなされ,余白にイニシャルを書き,変更の全責任を負うと見做される。 (A) 綴りを間違えた文字 (B) 名詞と動詞の不一致 (C) 代名詞が一致しないケース (D) 図面とその説明で使用した関連記号の不一致。審査官が変更の適否を確認した時だけ文字は説明中で訂正しても良い。 (E) 逆の数字番号の訂正 10 (F) 見当違い又は省略したコンマ,不適当な挿入句,引用符等のような他の明白な文法上の誤り (G) 上に挙げたものと異なるか,又は文法上の本質に適った出願中の明らかな簡略文」(以上,原文は乙4。訳文は,柱書は平成26年12月22日付けの被告らの第2準備書面4頁,(A)ないし(G)は甲10。) c 「正式な審査官補正によりクレームを補正又は削除することは, (審査官が)出願を特許として通す場合で,出願人(又はその弁護士又は弁理士)が,電話又は個人面接にてかかる変更について権限を授与した場合に,許される。審査官補正には,その変更について権限が与えられたこと, (権限が与えられた)日と聞き取りをした方式(個人面接か電話面接か),及び,誰によりその権限を与えられたかが示されていなければならない。 (原文及び訳文とも乙4) 」 なお,上記のうち,「when passing an application to issue」に対応する「(審査官が)出願を特許として通す場合で」の部分は,甲11の訳文では, 「特許申請登録の段階に於いて」とされている。 d 「正式な審査官補正には,13.02 の定型文言及び 13.02.01 の定型文言を含んでいなければならない。期限の延長が必要な場合には,13.02.02 の定型文言が使用されなければならない。 13.02.01 審査官補正のための権限授与は,[2]に行われた,[1]との間での電話面接中に与えられた。 (原文及び訳文とも乙4) 」 イ また,特許審査便覧 713 では,面接等の記録に関して次の定めがある。 (ア) 「出願人,弁護士または弁理士が個人的に審査官の元に出向くこと,若しくは当事者が審査官と電話による会話,ビデオ会議,または,審査官と出願人,弁護士あるいは弁理士との間での電子メールにより,審査官に考慮を求める事項を提示することを,面接(interview)という。 (713,原文及び訳文とも乙17) 」 (イ) 電話によるいかなるインタビュー内容は出願において記録されなけれ 11ばならないとの趣旨の記載がある(713V,甲28)。 (ウ) 出願の実体に関する電話インタビューの内容に関する完全な調書は,審査官との同意に達したか否かにかかわらず,出願に記録されなければならない旨の記載がある(713.04,甲28)。 (2) 本件出願の経過 ア 前記前提事実等(3)のとおり,本件出願後の平成19年2月18日,被告P2は,P4に対し,次の電子メールを送信した。 「本件出願を担当する審査官から,昨日,我々は電話を受けました。審査官は,『本件出願のクレーム1について,特許性があるとは思えないが,クレーム2の限定を含むものに補正され,クレーム2を削除するのであれば,クレーム1とクレーム3〜20は,特許可能(allowable)である』との見解でした。 このような限定が許容できるか,見解を頂きたい。もしそうであれば,審査官に伝えれば,審査官は,出願を特許可能な状態にするために審査官による補正 (anExaminer’s Amendment)を用意します。 審査官は,当方の回答を,2007年2月23日までに受領することを要望しております。貴殿の回答を受け取ることを,私共はお待ちしております。 (原文は甲 」3,訳文は被告らの平成26年6月17日付け答弁書3頁。なお,甲3の訳文もほぼ同趣旨である。 。 ) イ これに対し,P4は,被告P2に対し,平成19年2月19日付けの電子メールを送信し,審査官からの提案を承諾する旨の原告の意向を伝えた。 ウ 前記前提事実等(4)のとおり,審査官からの回答期限後の同年3月7日付けで,係属中の請求項1ないし20の全てを拒絶する旨の非最終拒絶理由通知(乙2)が発せられた。そこで,被告P2は,同月14日,P4に電子メールを送り,その中で, 「我々は審査官とコンタクトをとり,発明者がクレーム2をクレーム1に合せクレーム1に限定することに合意したことをアドバイスしました。残念ながら,コンタクトした時は既に審査官は彼の上司に少なくともクレーム1と2を reject す 12る ACTION を発行するよう指示されていました。他の審査官もクレーム2はpatentable ではないと信じたようです。」と連絡した(原文及び訳文とも甲12の1)。 そして,前記前提事実等(4)のとおり,被告P2は,同年6月7日付けで応答書(乙1)を提出して,前記アの審査官からの連絡内容を含む補正をしたが,同年9月7日付けで最終拒絶理由通知(乙3)が発せられ,前記前提事実等(5)のとおり,被告らの解任後,最終的に本件出願は放棄された扱いとされた。 エ 本件出願に係る出願経過記録(PAIR)には,TH(甲6)とIFW(乙14)があるが,いずれにおいても,審査官から被告P2に上記アの連絡をした記録及びそれに対して被告らが審査官に回答した記録は記載されていない。ただし,TH(甲6)では,同年12月4日と同月13日の記録の間に,上記の非最終的拒絶理由通知の翌日である同年3月8日の面接記録が記載されているが,米国特許商標庁は,IFWに記載がなければ同日の面談記録を提供できない旨回答した(原文及び訳文とも甲15,34)。 (3) OEDでの手続の経過 米国特許商標庁のOEDは,特許実務家の懲戒等を担当する部門であり,その部長は,「懲罰対象となりうるあらゆる事象の調査を行う権限がある」(米国特許規則§11.22(a))。そして, 「調査の終結に際し,OED部長は,(1)警告処分又は懲戒処分をすることなく調査を終了するか,(2)特許実務家に対する警告処分をするか,(3)懲戒委員会の許可を得て正式な査問手続を開始するか,(4)当該特許実務家との間の和解合意を締結して,米国特許庁長官にこれを提出するか,のいずれかの措置をとることができる。 (同§11.22(h)(1)) (以上,原文及び訳文とも乙9) 」 。 原告は,平成25年1月23日付けで,OEDに対し,被告らが上記(2)アの審査官の提案に対する適切な手続を怠ったとして苦情を申し立てた(乙6)。そこで,OEDは,同年4月1日付けで被告P2に対して答弁書の提出を求め(乙7),被告らは同年5月28日付けで答弁書を提出した(乙8)。そして,OEDは,同年8月5 13日付けで被告らに対し,「貴殿に対する処分は行いません。 , 」 「現在記録にある事実を注意深く取り調べた結果,登録懲戒部は本件につき更なる処置は行わないことになりました。従って,捜査は終了したものと見做され,ファイルは閉鎖します。」と通知し(原文及び訳文とも乙5の各号),原告にも,「私たちは本件調査の分析結果をだし,この件に関してはこれ以上の調査を行わないことで,ファイルを閉じることに決定しました。」と通知した(原文及び訳文とも甲13の各号)。 (4) 578出願の経過 ア 578出願は,被告P2が出願代理人となって平成17年2月25日に米国特許出願したものである(乙24)。 イ 578出願では,被告P2は,平成18年10月17日に最終拒絶理由通知書が発せられた後,平成19年1月29日,期間延長願を提出するとともに,最終拒絶理由通知書に対する応答書を提出して,その中で,クレーム1ないし10を削除し,クレーム11ないし19は以前に提出したままの内容とする補正をした(原文及び訳文とも甲35の各号,乙24)。 ウ その後,同年2月22日,クレーム11ないし13及び15ないし19について特許可能通知(Notice of Allowability)が発せられた。その査定の中で,審査官は,「審査官補正(EXAMINER’S AMENDMENT)」として,次の記載をした(原文及び訳文とも乙15)。 「記録のために審査官補正を以下のように記載する。変更及び/または追加が出願人に受け入れられないものである場合は,特許規則(37CFR)1.312 による補正をすることができる。そのような補正が確実に考慮されるには,特許料の納付以前に,提出しなければならない。 2007年2月9日にP2との電話面接により,審査官補正の権限が授与された。 出願は以下のように補正された。 クレーム11 9行 “tube for connecting”の後に--a proximal end of--を挿入する。 14 クレーム11 9行 “the outer needle hub”の後の“and”を削除し,--to thedistal end of--を挿入する。 クレーム11 11行 “the outer needle connector”の後に--for detachablyconnecting to the housing member--を挿入する。 クレーム11 18行 “opening at the”の後の“proximal”を削除し,--distal--を挿入する。 クレーム11 21行 “from the inner needle unit”の後に--and wherein thehousing member is provided with a hook-shaped member,the outer needle cap isprovided with a projecting portion and the housing member is detachablyconnected to the outer needle cap by engagement between the hook-shapedmember and the projecting portion--を挿入する。 クレーム14を削除する。」 なお,上記応答書(乙24)と特許可能通知(乙15)の記載を対比すると,上記クレーム11の21行に挿入する文言は,応答書(乙24)において,クレーム14として従前提出したまま維持すると記載されていた文言と同一であるから,上記の審査官補正は,クレーム11についてクレーム14の制限を加えることを含む補正をした上で,クレーム14を削除するというものであると認められる。 エ 578出願のTH及びIFWには,上記の審査官補正について電話面接をした記録は記載されていない(甲35の各号,乙16)。 オ その後,同年5月18日に登録費(Issue Fee)が納付され,同年6月13日に登録通知(Issue Notification)がされた(甲35の各号)。 (5) 別件の米国特許出願番号 11/423,151(以下「151出願」という。)のTHには,平成23年1月18日に審査官補正対談,同月26日に審査官補正郵送との記載があり(甲32) 同出願のIFWには, , 同日に審査官対談要約の記録がある(甲33)。 2 被告らが,審査官からのクレーム補正の電話連絡に対し,補正の書面を提出 15すべき義務を負うか否か (1) 前記認定事実等(1)ア(ア)のとおり,米国特許出願手続における補正は,書類を提出することによって行われるが,審査官補正の場合には,米国特許商標庁(審査官)が審査官補正書を発行して行われると認められる。そして,前記認定事実等(1)ア(イ)c及びdのとおり,審査官補正は,出願人が電話又は個人面接にて権限を授与した場合に許されることから,審査官補正の場合には,出願人が補正の書面を提出する必要はないと認められ,前記認定事実等(4)のとおり,578出願での審査官補正でも電話面接による権限授与が行われているにとどまる。そこで,本件で,被告らが審査官からの連絡に対して補正の書面を提出すべき義務を負うといえるためには,審査官からの連絡が審査官補正の提案でなく,出願人による補正の促しであったことが必要となるので,まずこの点を検討する。 ア 前記認定事実等(2)アのとおり,被告P2は,P4に対する電子メールにおいて,審査官からの補正提案を許容する旨を審査官に伝えれば,審査官は審査官による補正を用意すると連絡しており,これによれば,被告P2は,審査官からの連絡を審査官補正の提案であると理解したと認められる。そして,同電子メールに記載された審査官の提案は,クレームを提案のように補正すれば,特許可能であるという内容を電話で伝えてきたものであるところ,これは,審査官補正が, 「出願を特許として通す場合」(又は「特許申請登録の段階に於いて」 , ) 「電話又は個人面接にてかかる変更について権限を授与した場合に」許されるものである(前記認定事実等(1)ア(イ)c)との定めにも適合している。そうすると,本件での審査官の提案は,審査官補正の提案であったと認めるのが相当である。 イ これに対し,原告は,本件での審査官からの連絡は,特許の根幹をなすクレーム1及び2の補正であり,このような特許の根幹をなすクレームの実体的変更は審査官補正ではできないものであるから,審査官からの連絡は審査官補正の提案ではないと主張する。 (ア) 前記認定事実等(1)ア(ア)(g),同(イ)a及び同cにおける米国特許規則の定 16め及び特許審査便覧の記載によれば,審査官補正においてクレームの補正を行えることが定められていると認められ,その範囲を制限する定めがあるとは認められないから,審査官補正においては,誤記の訂正等の形式的不備の是正にとどまらない実体的な変更を伴うクレームの補正も行うことができると認められる。 (イ) この点について,甲27の意見書は,審査官補正におけるクレームの補正は形式的不備の是正を予定しており,実体的な補正を予定していないと述べ,特許審査便覧 1302.04 の記載を指摘し,原告も同趣旨の主張をする。 a しかし,前記認定事実等(1)ア(イ)bのとおり,特許審査便覧 1302.04において,審査官補正として行えるのが同チャプターに定める(A)から(G)までの明らかな間違いや脱落の訂正に限られる旨が規定されているのは,出願ファイルが紙のファイルの場合の非正式審査官補正についてであって,適正に署名された正式の審査官補正による場合にはそのような限定は定められていない。したがって,審査官補正においてクレームの実体的補正はできないとの上記原告の主張及び甲27の記載は採用できない(なお,米国特許商標庁では,平成15年6月30日以降,全ての新たに出願される特許出願は,電子出願に変換され,電子的に処理される扱いとしており(乙10) 平成17年1月21日に出願された本件出願に係る出願ファ ,イルは紙ではないから,本件出願について非正式審査官補正をすることはできず,本件での審査官からの連絡は,正式の審査官補正の提案であったと認められる。 。 ) b また,前記認定事実等(4)のとおり,578出願においても,出願人の補正においてクレーム1ないし10が削除されたことを前提に,審査官補正において,クレーム11について内容上の補正を加えるとともにクレーム14を削除しており,本件での審査官からの提案と同様,冒頭のクレームを含めた実体的な変更を伴う補正がなされているということができるから,この例からしても,審査官補正ではクレームの実体的変更を伴う補正ができないとは認められない。 この点について,原告は,578出願のクレームの補正は,被告P2が提出した補正案に追随するものであり,審査官が補正内容を自発的に考える審査官補正の実 17例ではない旨主張するが,上記のとおり,審査官補正の内容は,被告P2が応答書において提案した補正とは異なっているから,上記主張は,採用することができない。 (ウ) また,原告は,審査官補正は前記認定事実等(1)ア(イ)cにおける甲11に よ る 訳 文 に あ る よ う に 「 特 許 申 請 登 録 の 段 階 に 於 い て 」 when passing an (application to issue)行われるものであるから,本件での審査官からの提案は審査官補正とは異なると主張する。 しかし,まず,前記認定事実等(4)のとおり,578出願では,審査官補正が特許可能通知の際に行われており,その後の登録の際に行われているわけではないことからすると,審査官補正が甲11の訳文の文字どおりに「特許申請登録の段階に於いて」行われるものであるとはいえず,乙4の訳文どおりに「出願を特許として通す場合で」と解する方が実例に沿っている。また,仮に甲11の訳文の趣旨を「特許可能通知の段階において」と理解するとしても,審査官補正が出願人から権限を授与された場合に許されるものである以上,578出願に見られるように,特許可能通知に先立って出願人に対して補正内容の提案をすることが必要となる。そして,本件では,被告P2がP4に送った電子メール(前記認定事実等(2)ア)のとおり,審査官は提案した補正がされれば特許可能であると連絡してきたのであるから,審査官からの連絡は,特許可能通知を発する前段階の行為として審査官補正の提案をしてきたものであると理解することが十分可能である。したがって,本件での審査官からの提案が,特許審査便覧にいう審査官補正を提案するものでないとは認められず,原告の上記主張は採用できない。 (2) 小括 以上によれば,本件における審査官からの電話連絡は,本件出願のクレーム1をクレーム2の限定を含むものに補正し,クレーム2を削除する審査官補正を提案し,それを許容することができるかを尋ねるものであると認められるから,被告らは,これに対する応答として,電話面接を通じて審査官補正を受諾する旨の出願人であ 18る原告の意向を伝えることによって,クレーム補正についての権限授与を行うことができるということができ,被告らが,審査官からのクレーム補正の電話連絡に対し,補正の書面を提出すべき義務を負うと認めることはできない。 3 被告らが,審査官からのクレーム補正の電話連絡に対し,口頭で応諾の連絡をすべき義務を怠ったか否か (1) 本件において,被告らは,P4を通じて,クレーム補正を承諾する旨の原告の意向を知らされていたから,審査官からのクレーム補正の電話連絡に対し,口頭で応諾の連絡をすべき義務を負っていたと認められる。 (2) そこで,被告らがこの義務に違反したかを検討するに,被告らは,平成19年2月20日に電話で審査官補正に応諾する旨を連絡した旨主張し,前記認定事実等(2)ウのとおり同年3月14日のP4宛ての電子メールでもその旨を述べているのに対し,原告は,前記認定事実等(2)エのとおり本件出願に係るTH(甲6)とIFW(乙14)のいずれにも,審査官からの電話連絡に対して口頭で応諾の連絡をしたとの記録が残っていない点を指摘する。そして,原告は,審査官に対して口頭で応諾の連絡をしたのであれば,THやIFWにその旨が記録されるはずである旨主張し,特許審査便覧 1302.04 には,日付,面談方法の明記が定められ(前記認定事実等(1)ア(イ)c),特許審査便覧 713.04 によれば,電話によるインタビューの内容は,審査官との同意に達したか否かにかかわらず記録されなければならない(前記認定事実等(1)イ)と主張し,甲28の意見書では,特許審査便覧 713 に基づいて,被告らが,審査官からの電話連絡に対して期限までに応諾の連絡をしなかったと考えられる旨が指摘されている。 この点,確かに,他の米国特許出願の例をみると,前記認定事実等(5)のとおり,151出願においては,THやIFWに審査官補正に関する面接の記録が残されている。しかしながら,他方で,前記認定事実等(4)ウ,エのとおり,578出願の特許可能通知(乙15)には,平成19年2月9日に被告P2との電話面接により,審査官補正の権限が授与された旨が記載されているものの,同出願のTHやIFW 19には,その旨の記録がされていない。また,審査官との面接は全て記録されるはずであるから審査官に対する口頭での応諾の連絡が記録されるはずであるとの原告の主張によれば,本件出願についても,その前提となる審査官からのクレーム補正の電話連絡も記録されるべきであると考えられるが,本件出願に係るTHにもIFWにもそのような記録はされていない。これらの点からすると,審査官補正に関する面接がTHやIFWに記録されないこともあり得ると考えられるところであり,特に本件出願については,結局,審査官補正がなされなかったこともあって,審査官からのクレーム補正に関する電話連絡やそれに対する応諾の連絡が記録されなかった可能性も否定できない。 また,前記認定事実等(1)ア(イ)cの特許審査便覧 1302.04 の内容によれば,権限授与の日付及び聞き取りの方式が示されなければならないのは,実際に審査官補正がなされた場合であり,記録方法としては578出願のように特許可能通知に記録を残す方法も現に存在している。また,前記認定事実等(1)イのとおり,特許審査便覧 713 には,出願人等が審査官に電話による会話等により審査官に考慮を求める事項を提示することを, 「面接」と定められているところ,審査官補正の提案は,審査官に考慮を求めるものではなく,特許審査便覧 713.04 は適用されない。 以上からすれば,本件出願に係るTHやIFWに記録されていないことをもって,被告らが審査官からの電話連絡に対して口頭で応諾の連絡をしなかったと認めることはできない。 (3) また,原告は,被告らが審査官に対して応諾の連絡をしなかったために,本件出願について平成19年3月7日に非最終拒絶理由通知が出されたと主張する。 しかし,単に審査官補正に対する提案に応諾しなかったために非最終拒絶理由通知が出されたのであれば,被告らが同提案どおりの補正をすれば拒絶理由が解消されたはずであるが,前記前提事実等(4)のとおり,被告らが非最終拒絶理由通知に応答して同提案どおりの補正をしたにもかかわらず,拒絶理由は解消されずに最終拒絶理由通知が発せられるに至っている。そうすると,本件出願に関しては,前記認 20定事実等(2)ウにおける被告P2の電子メールのとおり,審査官補正の提案後に,米国特許商標庁内部で本件出願に対する方針の変更があった可能性が否定できないから,非最終拒絶理由通知が出されたからといって,被告らが審査官補正の応諾の連絡をしなかったとは認められない。 (4) また,原告は,前記認定事実等(2)エのとおり,本件出願のTHにおいて,非最終拒絶理由通知の翌日である平成19年3月8日の面談が記録されていることから,これは,審査官補正への応諾を怠っていた被告らが,非最終拒絶理由通知に接して,あわてて審査官と面談したものであると主張する。 しかし,前記認定事実等(2)エのとおり,その面談の記載は,同年12月の記録の間に記録されており,しかも米国特許商標庁はその面談記録を提供できないと回答しているのであるから,何らかの誤記である可能性を否定できない上,仮に上記記録が正しいものであるとしても,その記載をもって直ちに原告の上記主張を推認することもできない。したがって,原告の上記主張は採用できない。 (5) 以上によれば,被告らが審査官からのクレーム補正の電話連絡に対して口頭で応諾の連絡をしなかったと認めるに足りる証拠はなく,被告らが口頭で応諾の連絡をすべき義務を怠ったと認めることはできない。 4 その他の原告の主張の検討 (1) OEDの手続 前記認定事実等(3)のとおり,原告は,平成25年1月,米国特許商標庁のOEDに対し,被告らが本件出願に際して適切な手続をしなかったとして申し立て,OEDは,同年8月,被告らの行為に関する申立てについて,被告らに対する処分を行うことなく,調査を終了する旨を通知した。 この通知は,前記認定事実等(3)の「警告処分又は懲戒処分をすることなく調査を終了する」措置をとったことを意味すると考えられる。このように,OEDは,警告処分又は懲戒処分をすることなく調査を終了しており,また,その調査結果について明らかにしているわけでもないから,OEDの調査結果に基づいて,被告らが 21原告の主張する注意義務に違反したか否かを判断することはできないというべきである。 これに対し,原告は,OEDから原告に対する通知(甲13の各号)では, 「米国特許商標庁に対して(を前にして)実務を行うP2(注:甲13の2ではP3)のような個人,弁理士は,その行動に於いて,プロとしてのUSPTOの職務規定にある弁理士行動懲戒規範を犯しているので懲罰されねばなりません。 (訳文は甲1 」3の各号。原文は,甲13の1では「An individual who practices before theUSPTO,such asP2(注:甲13の2ではP3), is subject to being disciplined forviolating the Disciplinary Rules of the USPTO Code of ProfessionalResponsibility.」とされている。)として,被告らの行為が違法であることが明記されていると主張する。しかし,被告らは,当該箇所の正しい訳文は, 「P2(注:甲13の2についてはP3)のような,USPTOにおいて実務を行う個人は,専門家の責任に関する米国特許商標法の懲戒規則に違反した場合には,懲戒されることがある。 であると主張しており 」 (平成26年10月16日付けの被告らの第1準備書面7頁) これによれば, , 被告らが懲戒規則ないし懲戒規範に違反した旨は記載されていないことになる。そして,OEDから被告らに対する通知(乙5の各号)には,原告が主張する趣旨の文章は記載されておらず,上記の被告らの主張の訳文と同趣旨の文章のみが記載されているところ,仮にOEDが被告らの懲戒規則ないし懲戒規範違反を認定したのであれば,その旨を原告に対する通知にのみ記載し,被告らに対する通知に記載しないのは不合理であるから, OEDの原告に対する通知において記載されている文章を,原告が主張する意味であると認めることはできないというべきである。したがって,原告の上記主張は採用できない。 (2) 平成28年3月20日付け「原告第三準備書面」の指摘 なお,原告が本件の口頭弁論終結後に提出した平成28年3月20日付け「原告第三準備書面」での指摘についても検討しておくと,同準備書面には,578出願では,当初から,新規性のあるクレーム1ないし19で正常な特許申請をしていれ 22ば特許登録がされていたはずであるところ,被告P2は,まず公知クレーム1ないし10のみで申請した後,公知クレームを残したまま,特許の本旨であるクレーム11ないし19を追加するなどし,特許審査便覧 1302.04 を悪用して同 714 により期間延長の手続を行い,公知クレーム1ないし10を削除して登録に至っており,不必要な費用を詐取した旨が記載されている。 しかし,原告が指摘する事情は,審査官補正によって実質的な変更を伴うクレーム補正を行えるか否か,電話面接によって審査官補正の権限授与を行えるか否か,口頭での応諾の連絡がIFWやTHに記録されるかといった点と関係するものではなく,上記の判断を左右することはない。 |
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結論
以上によれば,被告らに原告主張の不法行為が成立するとは認められないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求にはいずれも理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 松宏之 |
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裁判官 | 田原美奈子 |