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関連審決 不服2014-19256
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事件 平成 27年 (行ケ) 10220号 審決取消請求事件

原告 株式会社ドクター中松創研
同訴訟代理人弁理士 鮫島信重
被告特許庁長官
同 指定代理人西村泰英
同 栗田雅弘
同 落合弘之
同 山村浩
同 冨澤武志
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/05/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2014-19256号事件について平成27年9月14日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は,平成24年7月17日,発明の名称を「殺傷犯罪防止刃物」とする特許出願をしたが(特願2012-158598号。請求項数1。以下「本願」と いう。甲1),平成26年7月14日付けで拒絶査定を受けた(甲6)。
(2) 原告は,平成26年9月26日,これに対する不服の審判を請求した(甲7)。
(3) 特許庁は,これを不服2014-19256号事件として審理し,平成27年9月14日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年10月7日,原告に送達された。
(4) 原告は,平成27年10月16日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載 平成26年3月24日付け手続補正書による補正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(甲3の2)。以下,上記補正後の請求項1に記載された発明を「本願発明」,本願発明に係る明細書(甲1)を,図面を含めて「本願明細書」という。
【請求項1】刃の機能を維持しつつ,刃物の先端に該刃物の軸と略垂直方向をなす,人体への食い込みを防止する円板状のストッパを設けたことを特徴とする殺傷犯罪防止刃物。
3 本件審決の理由の要旨(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本願発明は,下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び下記イの引用例2に記載された技術事項並びに下記ウの周知例に記載された従来周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本願は拒絶すべきものである,というものである。
ア 引用例1:特開2000-229182号公報(甲10)イ 引用例2:実願平4-74618号(実開平6-29324号)のCD-R OM(甲11)ウ 周知例:登録実用新案第3165846号公報(甲12)(2) 本件審決が認定した引用発明,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 引用発明 ナイフの切先に,刃先を下にしてみた場合に安全のため上下左右に張り出した半球抜け止め部材を設けたナイフ。
イ 本願発明と引用発明との一致点 刃物の先端に該刃物の軸と略垂直方向に広がる形状部分を有する部材を設けた刃物。
ウ 本願発明と引用発明との相違点(ア) 相違点1 本願発明では,「刃物」が「刃の機能を維持しつつ」先端に部材(=ストッパ)が設けられているとしているのに対して,引用発明の「半球抜け止め部材」が設けられた「ナイフ」では,刃の機能について特段の特定を伴っていない点。
(イ) 相違点2 本願発明の「刃物」に「設ける」とした「ストッパ」は,「人体への食い込みを防止する」とする特定,及びその形状として「円板状」との特定が付されているのに対して,引用発明の「半球抜け止め部材」は,「安全」でありかつ全体形状が「半球」とされている点。
4 取消事由容易想到性の判断の誤り(1) 相違点1に係る判断の誤り(取消事由1)(2) 相違点2に係る判断の誤り(取消事由2)
当事者の主張
1 取消事由1(相違点1に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 本件審決は,抜け止め部材を設けた引用発明においても,そのナイフとしての機能は維持されているということができるから,相違点1は実質的な相違点ではない旨判断した。
しかし,本願発明は,刃物が外側方向に抜けることを防止するものであるのに対し,引用発明は,刃物が手前方向に抜けるのを防止するものであり,両者の技術的思想は,全く別異のものである。
したがって,本件審決における上記判断は,誤りである。
〔被告の主張〕 原告の主張は,相違点1が本願発明の「ストッパ」と引用発明の「半球抜け止め部材」との相違に係るものであることを前提とするものである。
しかし,本願発明の「ストッパ」と引用発明の「半球抜け止め部材」とに係る相違は,本件審決において,相違点2として扱われている。本件審決が認定した相違点1は,「刃の機能」の「維持」に関して,本願発明には特定があるが,引用発明には特段の特定がないこと,に係るものである。
したがって,原告の主張は,本件審決を正解しないものであって,失当である。
2 取消事由2(相違点2に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕 本件審決は,引用発明において,相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたことである旨判断した。しかし,上記判断は,以下のとおり,誤りである。
(1) 相違点2の容易想到性に対する判断について ア 本件審決は,引用発明において,人体への食い込みが防止されるとの作用・効果は,ナイフの先端が人体に対して押し付けられたとしても,半球抜け止め部材の人体に対して相対する断面により,ナイフが人体に対して侵入することを妨げることにより生じることは当業者にとって明らかである旨判断した。
イ しかし,そもそも引用発明は,刃物を手前方向に引くことを防止するものであって,前方に押すことを防止することを目的とするものではない。
また,引用発明の「半球抜け止め部材」は,「点」での接触に始まり,徐々に円形になり,かつ外形が円であるから(すなわち,人体との接触面積が小さく,かつ滑り込みやすい形状の傾斜となっているから),人体に食い込みやすい。これに対し,本願発明の「円板状のストッパ」は,人体に押し付けても,「面」で接触するから(すなわち,人体との接触面積が大きく,かつ傾斜がないから),人体に食い込むことはない。
ウ 以上のとおり,引用発明と本願発明とは,技術的思想としても,機能としても,全く異なるものであるから,引用発明において,「半球抜け止め部材」の形状に替えて,引用例2に記載された「円板状」を採用することは,当業者が容易に想到することができたということはできない。
(2) 原告の主張に対する審決の判断について 本件審決は,原告が@ナイフの先端に設ける部材について引用例1の示唆からは,その形状として長方形その他の正多角形等多くの候補があり,円板状を見いだすことは困難であること,A引用発明は,カッタを用いてカートンを解体するために使用するものであり,引用例2は,線の皮むき器であり,いずれも本願発明とは,その使用目的が異なる旨主張したのに対し,原告の上記主張は,本願発明と引用発明とに実質的な相違を生じさせるものではない旨判断した。
しかし,本件審決の上記論理は,全ての刃物が共通のものであるとするに等しく,妥当性を欠く。引用例1,2及び周知例は,それぞれ刃物の先端に特別の形状を持たせた各別の発明であって,これらが全て共通する同一の発明であるとの結論を導出するような本件審決の上記判断は,誤りである。
(3) 本願発明の作用効果に対する判断について 本件審決は,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用例2に記載された事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎない旨判断した。
しかし,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用例2に記載された事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものではなく,顕著なものである。
〔被告の主張〕 以下のとおり,本件審決における相違点2に係る容易想到性の判断に誤りはない。
(1) 相違点2の容易想到性について ア 引用発明のナイフも,本願発明と同様に「刃物」にほかならないから,それを前方に押すように操作することも,後方に引くように操作することも,操作者の意志一つで,いかようにも操作可能であることが明らかである。
そして,引用発明の切先aは鋭角であり,そのような切先は,刺すことができるゆえに危険であることを踏まえると,引用発明の半球抜け止め部材が,刺す危険を妨げる機能をもつことが明らかである(【0015】,【0030】)。
そうすると,当業者であれば,引用発明のナイフが,手前に引くことを防止することに限らず,前方に押すことにより生じる危険も抑制するものであることを把握できるというべきである。
イ また,本件審決が認定した引用発明の「半球抜け止め部材」は,「半球」と記載されているとおり,引用例1の図3ではなく,図6(1),(2)のように,ナイフの最先端に位置する形状が「平面」とされた半球様のものであるから,刃物の最先端に位置する形状が平面とされた点に関して,本願発明の構成と引用発明の構成とに相違はない。
したがって,引用発明の「半球抜け止め部材」は,人体に押しつけても「面」で当たることになるから,本願発明と同様に,人体への食い込みを防止するとの作用効果を奏する「ストッパ」といえるものである。
ウ 以上によれば,本願発明と引用発明との間に,思想的・機能的な特段の相違はない。
(2) 原告の主張に対する審決の判断について 当業者であれば,引用発明のナイフが,前方に押すことにより生じる危険を抑制 することができるものであることを把握することができる。そして,当該危険の抑制のためには,刃物の先端の物体は,一定の大きさを有すれば足り,具体的形状は適宜選択できることが明らかである。しかも,本願明細書には,刃物の先端の物体の形状として,「円板状」に相当する丸型のほかに,孔明角型(図5,図6),リング状(図7,図8)及びアームの先端を上に曲げた形状(図9,図10)なども記載されているのであり,「円板状」を選択したことによる格別の技術的意義は見いだされない。
本件審決における原告の主張に対する判断部分(「なお書」)は,上記の理解を前提にして,原告の主張は,実質的な相違を生じさせるものではないとの判断を示したものであり,原告が主張するような帰結をもたらすものではない。
(3) 本願発明の作用効果に対する判断について 引用発明の「半球抜け止め部材」は,本願発明と同様に,人体への食い込みを防止するとの作用効果を奏する。
当裁判所の判断
1 本願発明について(1) 本願発明の特許請求の範囲の請求項1の記載は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,本願明細書(甲1)には,次のような記載がある(図3,4及び13については,別紙1本願明細書図面目録を参照。)。
ア 技術分野【0001】本発明は刃物に関する。
イ 背景技術 【0002】銃禁止の日本の犯罪の最大は刃物によるものであり,殺傷,おどし,ハイジャックなど刃物が使用された。従来の刃物は,容易に人を刺すことが出来,これ等犯罪を防止する工夫は今までになかった。
ウ 発明が解決しようとする課題 【0003】通常の刃物として使え,しかも人を刺すなど凶器としては使えない 刃物を創ること。
エ 課題を解決するための手段 【0004】刃は活かしながら刃物の先端部にストッパを設け,殺傷など,凶器として使用できないようにすること。
オ 発明の効果 【0005】ナイフによる殺傷事件の多い昨今,料理用,登山用など従来のナイフやハサミなど刃物の目的を果たしつつ,人を刺し殺す事が出来ないので,本発明により犯罪が画期的に減少する安全な社会,国家,人類のためになる上,犯罪による警察費用,病院費用等,公費,私費の節減にもつながる画期的な発明である。
カ 発明を実施するための最良の形態【0006】刃を活かしつつ,刃物の先端部にストッパを設ける。
実施例 【0007】…図3は本発明第1の実施例で,刃2の先端に体内に入らない丸型ストッパ4を設けた側面図である。図4は本発明実施例を正面から観た図である。
手前がストッパ4で,2が刃の先端である。図5は本発明の第2の実施例で,刃2の先端刃先の上部に体内侵入防止角型孔明ストッパ5を設けた側面図である。図6は本発明第二の実施例図5を正面から観た図で,軽量化の為にストッパ5に孔6を多数設けた実施例である。正面から見ると殺傷防止ストッパ5の下部に刃物2の先端が見える。図7は本発明の第3の実施例で,刃2の切先8を生かしつつ,切先8の上部にリング状ストッパ7を設け,これをアーム9及び9’で支持する本発明実施例の側面図である。図8は本発明第3の実施例図7を正面から見た図で,ストッパ7がリング状であるので軽いので,格納のための移動や包丁さばきが軽快になる。図9は本発明第4の実施例で,刃2の先端部は下刃2と上刃10があり,切先8を形成しているので,色々な加工をし易い刃物となっている上,ストッパ12があるので人を刺せない。刃物の上部先端にまっすぐ伸びたアーム11を設け,この先端を上に曲げストッパ12とする。図10は図9を正面から見た図で,この図で判 るようにこの第4の実施例は正面から見てフラットであり,積重ね可能で取扱いや収納スペース上便利である。図11は本発明第5の実施例で,飛出しナイフ(バネあり又はバネなし)である回転軸14を中心に葉刃15が飛出すが,刃先16より10ミリ程度下った処に三角形ストッパ17を設ける。ナイフを畳むとグリップ15の外に出てストッパ17に設けた凹み又は穴18はバネの無いナイフの場合,ナイフの刃15を引出すのにストッパ17の凹み又は穴18を持てるので便利である。
前記で10ミリと例を述べたのは10ミリ程度の混入では身体は致命傷にならないからである。第12図は本発明第6の実施例でハサミ19の刃20の両先端21よりやや内側にストッパ22を設けたものである。先端21よりやや内側にストッパ22を設けたのはハサミの先端21を使って物を切る時に切り易いようにしたためである。上記の他,種々の変形も考えられるが,それらもすべて本発明に含まれるものである。図13は本発明刃物により人3を刺そうとした時の一例である。ストッパ4,5,7,13(判決注・「12」の誤記と認める。),18(判決注・「17」の誤記と認める。),23(判決注・「22」の誤記と認める。)により,人3に刃物2が突き刺さらない原理を説明している。
(2) 前記(1)の記載によれば,本願発明の特徴は以下のとおりであると認められる。
ア 本願発明は,刃物に関する(【0001】)。
従来の刃物は,容易に人を刺すことができるものであり,犯罪を防止するための工夫がなかった(【0002】)。
イ 本願発明は,通常の刃物として使うことができ,しかも人を刺すなど凶器としては使うことができない刃物を創ることを目的とし,その課題を解決するために,刃は活かしながら刃物の先端部にストッパを設け,殺傷など,凶器として使用することができないようにしたものである(【0003】,【0004】)。
刃を活かしつつ,刃物の先端部にストッパを設ける形態としては,刃2の先端に丸型ストッパ4を設けた例(第1の実施例),刃2の先端刃先の上部に体内侵入防 止角型孔明ストッパ5を設けた例(第2の実施例),刃2の切先8の上部にリング状ストッパ7を設けた例(第3の実施例),刃物の上部先端にまっすぐ伸びたアーム11を設け,この先端を上に曲げストッパ12とした例(第4の実施例),飛び出しナイフにおいて,刃先16より10ミリ程度下ったところに三角形ストッパ17を設けた例(第5の実施例),ハサミにおいて,刃20の両先端21よりやや内側にストッパ22を設けた例(第6の実施例)など,種々の変形が考えられるが,本願発明は,このうち,円板状のストッパを設けたことを特徴とするもの(第1の実施例に係るもの)である(【0006】,【0007】)。
ウ 本願発明によれば,従来のナイフやハサミなど刃物の目的を果たしつつ,人を刺し殺すことができないので,犯罪が画期的に減少する等の効果を奏する(【0005】)。
2 引用発明について (1) 引用例1(甲10)には,次のような記載がある(図3及び6については,別紙2引用例図面目録1を参照。)。
ア 発明の属する技術分野 【0001】本発明は,特に牛乳パックなどのカートンの解体に使用するのに好適なナイフに関する。
イ 従来の技術 【0002】図1に示すのは,刃1の一端部に握り部材21を備える一般用途向けナイフの概略図である。…図1に示すようなナイフを使用すると,牛乳パックは強度がないために注意して保持していても切断の力により容易に変形するので,十分に牛乳パック壁に刃11を差し込まないで中途半端に差し込んで切断すると,切断中に刃11が牛乳パック壁から不用意に外側あるいは切断方向に抜けてしまい怪我をする心配がある。また,刃11の長さも長く,鋭い切先aが露出しているのも危険である。
ウ 発明が解決しようとする課題 【0006】本発明は以上の問題点を鑑み,直線に切断するときはもちろん,…折れ曲がる二辺を連続して切断する場合にも牛乳パック壁から刃が不用意に抜ける心配がなく,また切先aが露出していなく,さらに安全をきして…図1のナイフのように鉛直下方向きに切断してほとんどその底まで切断することができ,さらに切断抵抗も従来からある一般用途向けナイフ以下となる牛乳パック解体用ナイフを提供することで,牛乳パックなどのカートンの解体作業が成人はもちろん,子供や老人にも安全且つ容易に行われるように改善することを課題とする。
エ 課題を解決するための手段 【0007】前記の課題を解決するために本発明は,刃の一端側に握り部材を備えるナイフに於いて,その刃の他端部位置に少なくとも刃の両側面からその側方に張り出すように形成され且つ切先を隠す抜け止め部材を設け,この抜け止め部材が牛乳パックなどのカートンの切断時に切断部に内側から当接し刃が外側に抜けない抜け止めとし働き,さらにそのカートンの角部を形成する一辺に沿って切断するときガイドとしても働くようにしたものである。
オ 発明の実施の形態 【0010】…図3に示すナイフは,帯鋼を所定長さに切断して製造された刃13の一端部に握り部材23を備えている点は,図1に示した一般的なナイフと同じであるが,刃13の他端部に図3(1)の正面図に見える径が刃13幅より若干大きい扁平球状の抜け止め部材5を設けている点が異なる。…刃13の切先aは,抜け止め部材5により露出しないように覆われている。
【0014】抜け止め部材5が扁平球状であることから,抜け止め部材5が刃13の両側面から図3(2)に二つの矢印64と65で示されるその両側方に大きく張り出しているので,このナイフで牛乳パック3を切断中にナイフを意図的に前記矢印66で示す外側に引いても,切断位置にかかわらず刃13が切断部から外側にあるいは切断方向に抜ける心配はない。… 【0015】また,刃の切先aが露出していないのも安全である。さらに,刃1 3が外側に抜ける心配がないので,刃13の長さを切断に必要な最小長さに留めることができることも安全に大きく貢献する。… 【0018】次に抜け止め部材5について補足する。抜け止め部材5は,刃の一側面のみからその側方に張り出しているのは切断時のバランスが悪いので,図3(2)に二つの矢印64と65で示すように刃13の両側面からその側方に,切断中にナイフを意図的に前記矢印66で示した外側に引いても刃13が切断部から抜けない程度に張り出していることが必要である。さらに,安全のため切先が完全に隠れるように図3(1)に示す二つの矢印62と63方向に刃13より張り出していることが必要である。また,矢印61方向にもやはり安全のため刃13が完全に隠れるように張り出していることが好ましい。
【0021】また,それらの全形が必要なわけではなく,壁と内側から当接する当接部側がその形状であれば同じであるので,例えばそれらの半割り状であってもよい。その一例である第三の実施例を図6の概略図に示す。図6に於いて,図6(1)は正面図,図6(2)はその底面図を示し,当接部側が半割り状の抜け止め部材54であることを示す。
カ 発明の効果 【0030】抜け止め部材の働きにより,一方向に切断するときはもちろん,刃が折れ曲がり点を通過する場合にも刃が切断部から不用意に抜ける心配がないので,解体作業を安全且つ容易に行える。しかも鉛直下方向きに切断するのに適し,さらに切先も露出していないので,成人はもちろん子供や老人にも安心して使用できる。
【0031】また,抜け止め部材により切断時にカートンの切断部の角部を内側から外側に押圧できるので,切断されて形成される二辺が互いに開こうとし,その分切断抵抗が従来のナイフより減少する。
【0032】また,刃が不用意に切断部から抜ける心配がないので,刃の長さを切断に必要な最小長さに留めることができ,それによりさらに安全性が向上する。
(2) 引用例1に前記第2の3(2)アのとおりの引用発明が記載されていることは, 当事者間に争いがなく,前記(1)の記載によれば,引用例には,引用発明に関し,以下の点が開示されているものと認められる。
ア 引用発明は,牛乳パックなどのカートンの解体に使用するのに好適なナイフに関する(【0001】)。
一般用途向けナイフを使用すると,切断中に刃が牛乳パック壁から不用意に外側あるいは切断方向に抜けてしまい怪我をする心配があり,刃の長さも長く,鋭い切先が露出しているので危険である(【0002】)。
イ 引用発明は,前記アの問題点に鑑み,牛乳パック壁から刃が不用意に抜ける心配がなく,また切先が露出していない,牛乳パックなどのカートンの解体作業が成人はもちろん,子供や老人にも安全かつ容易に行われるように改善することを目的とし(【0006】),その課題の解決手段として,刃の一端側に握り部材を備えるナイフにおいて,その刃の他端部位置に少なくとも刃の両側面からその側方に張り出すように形成され,かつ切先を隠す抜け止め部材を設け,この抜け止め部材が牛乳パックなどのカートンの切断時に切断部に内側から当接し,刃が外側に抜けない抜け止めとして働き,さらにそのカートンの角部を形成する一辺に沿って切断するときガイドとしても働くようにしたものである(【0007】)。
そして,本件審決が認定した引用発明は,刃の他端部に設けた抜け止め部材の形状が半球状(球形の半割り状)である実施例(【0021】,図6)に係るものである。
ウ 引用発明によれば,@抜け止め部材の働きにより,刃が切断部から不用意に抜ける心配がないので,解体作業を安全かつ容易に行うことができ,しかも鉛直下方向きに切断するのに適し,さらに切先も露出していないので,成人はもちろん子供や老人も安心して使用できる,A抜け止め部材により切断時にカートンの切断部の角部を内側から外側に押圧できるので,切断されて形成される二辺が互いに開こうとし,その分切断抵抗が従来のナイフより減少する,B刃が不用意に切断部から抜ける心配がないので,刃の長さを切断に必要な最小長さに留めることができ,そ れによりさらに安全性が向上するとの作用効果を奏する(【0030】〜【0032】)。
3 取消事由1(相違点1に係る判断の誤り)について (1) 本願発明においては,「刃物」が「刃の機能を維持しつつ」先端に部材が設けられているのに対し,引用発明においては,ナイフの刃の機能について特段の特定がされていない。
しかし,刃物をその通常の用途,すなわち物を切断したり削ったりするという用途に用いるためには,刃の機能が維持されていることは,当然のことである。
そうすると,本願発明の刃物に相当する引用発明のナイフにおいても,刃の機能が維持されていることは当然のことであるから,相違点1は実質的な相違点とはいえない。
(2) 原告は,本願発明は,刃物が外側方向に抜けることを防止するものであるのに対し,引用発明は,刃物が手前方向に抜けるのを防止するものであり,両者の技術的思想は,全く別異のものであるから,本件審決における相違点1に係る判断は,誤りである旨主張する。
しかし,本件審決が認定した相違点1は,刃の機能の維持に関し,本願発明にはその特定があるが,引用発明には特段の特定がない点に係るものであり,原告の上記主張は,本件審決を正解しないものであるといわざるを得ない。
(3) 以上によれば,取消事由1は,理由がない。
4 取消事由2(相違点2に係る判断の誤り)について(1) 相違点2の容易想到性 ア 引用発明は,前記2(2)のとおり,牛乳パックなどのカートンの解体作業を安全かつ容易に行われるように改善することを目的とし,その課題の解決手段として,刃の一端側に握り部材を備えるナイフにおいて,その刃の他端部位置に少なくとも刃の両側面からその側方に張り出すように形成され,かつ切先を隠す抜け止め部材を設けたものである。
イ 引用例2の記載 (ア) 引用例2(甲11)には,おおむね以下のような記載がある(図1は,別紙2引用例図面目録2参照)。
この考案は,刃物の先端に皿状のストッパーを設けた,キヤプタイヤコードの皮剥き器である。(3頁2行〜3行) 本案は,この欠点を除くために,考案されたもので,これを図面について説明すれば,図1は本案の斜視図で,刃物の先端に,皿状のストッパーを設け,途中で折曲げその一端に,柄を取り付けたものである。(3頁7行〜9行) ストッパーがあるため,芯線の被覆を傷つけることはなく,更に刃物が表面被覆から,作業中に抜ける危険がない。
尚,図1は折曲げた構造だが,真っ直ぐでも差し支えない。(3頁17行〜19行) (イ) 前記(ア)の記載によれば,引用例2には,刃の一端側に握り部材を備え,その刃の他端部位置に,刃先を隠すことができるように,円板状のストッパを設けるという技術事項が記載されているものと認められる。
ウ ところで,引用発明は,ナイフを用いたカートンの解体作業を安全に行うことができるようにすることをその目的に含むものであることに加え,周知例(甲12)にも「通常,包丁及びナイフは切る及び,刺すなどの機能を有しており,冷静に考えると,極めて危険なものである。」(【0004】),「通常,包丁及びナイフはその機能性ゆえ,先端は鋭利な形状になっており,このことからも極めて危険極まりない。」(【0008】),「先端に突起物を装着する事により,犯罪を未然に防ぐ効果がある。」(【0011】)などと記載されているように,ナイフの刃の先端が露出していると人の殺傷につながりかねないことは,当業者が普通に認識している周知の事項であるということができる。
そして,引用例1には,カートンの解体作業を安全かつ容易に行われるように改善するという課題の解決手段として,ナイフの刃の他端部位置に少なくとも刃の両 側面からその側方に張り出すように形成され,かつ切先を隠す抜け止め部材を設けることが記載されているところ,前記イのとおり,本願の出願日前に,刃の端部に刃先を隠すことができるように設ける部材の形状として,円板状のストッパが知られていたことに照らせば,引用発明において,その抜け止め部材の形状を,「上下左右に張り出した半球状」に代えて,「刃の両側面からその側方に張り出すように形成され,かつ切先を隠す形状」に該当する一形態である「円板状」のものとすることは,当業者において,適宜設計することができ,これを容易に想到することができたものということができる。
エ そして,安全のため刃の端部にその切先を隠すことができるように設けられた円板状の抜け止め部材が,刃物が人体に食い込むことを防止するものであることは,明らかである。
オ したがって,引用発明において,引用例2に記載された技術事項を適用して,相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたことである。
(2) 原告の主張について ア 原告は,引用発明は,刃物を手前方向に引くことを防止するものであって,前方に押すことを防止するのを目的とするものではなく,また,引用発明の「半球抜け止め部材」は,「点」での接触に始まり,徐々に円形になり,かつ外形が円なので,人体に食い込みやすいものであるから,引用発明と本願発明とは,技術的思想としても,機能としても,全く異なるものであり,引用発明において,「半球抜け止め部材」の形状に替えて,「円板状」を採用することは,当業者が容易に想到することができたということはできない旨主張する。
しかし,本願発明は,前記1(2)のとおり,通常の刃物として使うことができ,しかも人を刺すなど凶器としては使うことができない刃物を創ることを目的とし,その課題を解決するために,刃は活かしながら刃物の先端部にストッパを設け,凶器として使用することができないようにしたものであって,刃物を前方に押すことを 防止するのを目的とするものではない。本願発明と引用発明とは,刃物が前方に押された際に,刃の先端が人体に食い込み,これを傷付けるということがないように,その端部に部材(ストッパ)を配置したという技術的思想において共通するということができる。
また,本件審決が認定した引用発明は,刃の他端部に設けた抜け止め部材の形状が半球状(球形の半割り状)である実施例(【0021】,図6)に係るものであるところ,図6を参照すれば,引用発明の抜け止め部材は,全体が半球状の形状であり,ナイフの握り部材側から見て手前側に球面部分が,奥側に円形の平面部分が配置されていることが見て取れる。そうすると,本願発明と引用発明とは,刃物が人体に押し付けられても,「面」で接触するため人体に食い込むことがないという機能において共通するということができる。
イ 原告は,ナイフの先端に設ける部材について,引用例1の示唆からは,その形状として長方形その他の正多角形等多くの候補があり,円板状を見いだすことは困難であり,また,引用発明は,カッタを用いてカートンを解体するために使用するものであり,引用例2は,線の皮むき器であり,いずれも本願発明とは,その使用目的が異なる旨主張する。
しかし,引用例1には,刃の他端部位置に設ける抜け止め部材の形状として,「少なくとも刃の両側面からその側方に張り出すように形成され,かつ切先を隠す」ものであることが記載されており(【0007】),引用例2に記載された「円板状」のストッパは,刃の両側面からその側方に張り出すように形成され,かつ切先を隠す形状のものであって,上記引用例1に記載された形状に相当するものであるから,引用発明において,引用例2に記載された技術事項を適用し,抜け止め部材の形状を円板状のものとすることは,当業者が容易に想到することができたものということができる。
また,引用発明も,引用例2に記載された発明も,いずれも,刃物をその構成として備えるものであって,かつ,その刃物は,通常の用途,すなわち物を切断する という用途に用いるものであるから,これらが本願発明とその用途や使用目的を異にするものであるということはできない。
したがって,本件審決が,原告の上記主張は本願発明と引用発明とに実質的な相違を生じさせるものではない,としたことに,誤りはない。
ウ 原告は,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用例2に記載された事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものではなく,顕著なものである旨主張する。
しかし,引用発明において,引用例2に記載された技術事項を適用して,相違点2に係る本願発明の構成とした場合,刃の端部にその切先を隠すことができるように設けられた円板状の抜け止め部材は,刃物が人体に食い込むことを防止する作用を奏する。
したがって,本願発明が奏する,刃物の目的を果たしつつ,人を刺し殺すことができないので,犯罪が画期的に減少する等の効果は,引用発明において,引用例2に記載された技術事項を適用して,相違点2に係る本願発明の構成とした場合に,通常予測される範囲内のものである。
(3) 以上によれば,取消事由2は,理由がない。
5 結論よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 部眞規子
裁判官 柵木澄子
裁判官 鈴木わかな