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関連審決 不服2014-3838
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事件 平成 27年 (行ケ) 10122号 審決取消請求事件

原告ザ ジェネラルホスピタル コーポレイション
同訴訟代理人弁理士 正林真之 芝哲央 小菅一弘 岩池満 野芳徳
被告特許庁長官
同 指定代理人竹下和志 内藤真徳 山口直 山村浩 冨澤武志
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/05/11
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が不服2014−3838号事件について平成27年2月9日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文第1項と同旨
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 原告は,平成20年12月8日(優先権主張:平成19年12月7日,米国),発明の名称を「皮膚科学的治療のためのシステムおよび装置」とする特許出願(特願2010-537149号。以下「本願」という。甲4)をし,平成25年4月17日付けで拒絶理由通知(甲6)を受けたことから,同年8月23日付け手続補正書(甲7の2)により特許請求の範囲を補正した(以下「本件補正」という。。
) ? 原告は,平成25年10月24日付けで拒絶査定(甲8)を受けたため,平成26年2月28日,これに対する不服の審判を請求した(甲9)。
? 特許庁は,上記審判請求を不服2014-3838号事件として審理を行い,平成27年2月9日, 「本件審判の請求は,成り立たない。 との別紙審決書 」 (写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同月24日,その謄本が原告に送達された。なお,出訴期間として90日が附加された。
? 原告は,平成27年6月22日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件補正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりのものである(甲7の2)。以下,この請求項に記載された発明を「本願発明」といい,その明細書(甲4)を「本願明細書」という。なお,文中の「/」は,原文の改行箇所を示す(以下同じ。。
)【請求項1】光学的放射線を少なくとも1つの生物組織に加えるための装置であって,/化学反応に基づいて前記放射線を発生させるように構成された放射線装置,および,水フィルターを備え,/前記放射線装置は,封止された筐体および前記筐体の内部に設けられた可燃性材料を備え,/前記封止された筐体の外側表面の一部 は,前記生物組織に接するように構成され,/前記水フィルターは,前記可燃性材料と前記封止された筐体の外側表面の一部との間に設けられ,/前記水フィルターは,前記光学的放射線の一部を濾光し,且つ,前記生物組織を冷却するために構成され,/前記光学的放射線は,前記少なくとも1つの生物組織の少なくとも一部に生物学的影響をもたらす装置。
3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本願発明は,下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び下記イの引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができた,というものである。
ア 引用例1(甲1):米国特許出願公開第2004/0087889号明細書 イ 引用例2(甲2):特表2004-530464号公報 ? 本件審決が認定した引用発明1 光を皮膚の治療領域に送達するための治療処置装置であって,/着火性材料5の着火によって光を放出するインコヒーレント光源3を備え,/インコヒーレント光源3は,プリズム6を前部に備えた中空の容器,及び中空の容器の内部には着火性材料5を備え, /プリズム6の前端部の表面は,治療の間に皮膚に接触するものであって, /さらに,プリズム6及びプリズム6の側面のコーティングによって光をフィルタリングするように構成された,/光によって皮膚疾患の治療を行う治療処置装置。
? 本願発明と引用発明1との一致点及び相違点 ア 本願発明と引用発明1との一致点 光学的放射線を少なくとも1つの生物組織に加えるための装置であって,/化学反応に基づいて前記放射線を発生させるように構成された放射線装置,および,光学的フィルターを備え,/前記放射線装置は,封止された筐体および前記筐体の内部に設けられた可燃性材料を備え,/前記封止された筐体の外側表面の一部は,前 記生物組織に接するように構成され,/前記光学的フィルターは,前記光学的放射線の一部を濾光するために構成され,/前記光学的放射線は,前記少なくとも1つの生物組織の少なくとも一部に生物学的影響をもたらす装置である点 イ 本願発明と引用発明1との相違点 光学的フィルターが,本願発明においては,水フィルターであって,可燃性材料と封止された筐体の外側表面の一部との間に設けられ,光学的放射線の一部を濾光し,且つ,生物組織を冷却するものであるのに対して,引用発明1においては,インコヒーレント光源3のバルブ本体の前部に配置されたプリズム6及びプリズム6の側面のコーティングからなるものであって,光学的放射線の一部を濾光するものであるが,生物組織を冷却するものであるかまでは不明である点 ? 本件審決が認定した引用発明2 患者の皮膚の処置のため,ランプからの光を導波管を通じて患者の皮膚へ向けるための装置において,光スペクトルのフィルター処理を行なうためにフィルター6を設け,フィルター6を液体水フィルターとし,この水を冷却用にも使用すること 4 取消事由 本願発明の容易想到性の判断の誤り
当事者の主張
1 一致点の認定の誤り及び相違点の看過〔原告の主張〕 本件審決は,@引用発明1の「プリズム6の前端部の表面」が本願発明の「封止された筐体の外側表面の一部」に相当すること,A引用発明1の「プリズム6及びプリズム6の側面のコーティング」と本願発明の「水フィルター」とは,いずれも「光学的フィルター」であることにおいて共通することを前提に, 「前記封止された筐体の外側表面の一部は,前記生物組織に接するように構成され,/前記光学的フィルターは,前記光学的放射線の一部を濾光するために構成され」る点を一致点として認定したが,以下のとおり,同認定は,誤りである。
本願発明においては,皮膚等に接触する筐体の外側表面と可燃性材料との間に,筐体とは別の構成要件として水フィルターが配置されている。そして,本願発明の意義は, 「光学的放射線の一部を濾光し,且つ,生物組織を冷却する」水フィルターを直接皮膚に接触させず,同水フィルターを有する筐体の外側表面の一部を皮膚に接触させて冷却することにより,皮膚を損傷から保護することにある。
他方,引用発明1において,プリズム6及びプリズム6の側面のコーティングは,光学的フィルターの役割とともに,光源と治療面の間に一定の距離を保つ役割を果たしていることから,治療の間に直接皮膚に接触するものである。また,プリズム6に冷却機能を持たせることは,全く想定されていない。
本件審決は,本願発明の筐体と水フィルターが各別の構成要件であるのに対し,引用発明1のプリズム6が単一の部材であるという相違点を看過し,プリズム6が上記筐体と水フィルターに相当するとして前記一致点を認定したものであり,同認定は,誤りである。
〔被告の主張〕 ? 本件審決の認定について 本件審決は,引用発明1の「治療処置装置」(プリズム6を前部に備えた) , 「中空の容器」及び「プリズム6の前端部の表面」が,それぞれ,本願発明の「装置」「封 ,止された筐体」及び「封止された筐体の外側表面の一部」に相当する旨認定した上で,引用発明1の「プリズム6及びプリズム6の側面のコーティング」と本願発明の「水フィルター」とは,いずれも, 「装置」中で「光学的フィルター」としての機能を有するとの点で共通しているとし,同機能を奏する具体的構成について,本願発明においては,可燃性材料と封止された筐体の外側表面の一部との間に設けられた水フィルターであるのに対し,引用発明1においては,プリズム6及びプリズム6の側面のコーティングからなるものである点を含めて相違点を認定しており,これらの認定に誤りはない。
? 原告の主張について 原告は,本件審決は,本願発明における筐体と水フィルターが別の構成要件であることを看過している旨主張する。
まず,本願発明において, 「筐体の外側表面の一部」と「水フィルター」は別の構成要件であるが,筐体と水フィルターは,必ずしも別の構成要件であるとは限らない(【0023】。そして,前記?のとおり,本件審決は,本願発明において「筐体 )の外側表面の一部」と「水フィルター」が別の構成要件であることを踏まえて本願発明と引用発明1との一致点及び相違点を認定している。
2 相違点に係る容易想到性の判断の誤り〔原告の主張〕 本件審決は,@引用発明2の液体水フィルターが,光スペクトルのフィルター処理のための手段であることに加えて,皮膚を冷却するための手段であることを認定し,Aこれを前提に,当業者は,引用発明1に引用発明2を適用し,上記液体水フィルターを,光のフィルタリングを行うことに加えて皮膚を冷却するための手段として採用することを容易に想到することができ,かつ,B引用例1において装置の前端部に冷却手段を配置することが示唆されていることを前提に,当業者は,上記液体水フィルターを,装置の前端部又はこれに近接した部分である,着火性材料5とプリズム6の前端部の表面の一部との間に設けて,相違点に係る本願発明の構成を容易に想到することができた旨判断したが,以下のとおり,同判断は,誤りである。
? 引用発明2の認定について 引用発明2の装置においては,皮膚を冷却するための手段として,フィルターとは別に,冷却チップを備えた導波管が設けられている(【0078】〜【0083】等)。また,フィルターは,光の照射を受けて加熱され,光学特性等が変わってしまうので,フィルター自身を冷却するものであり(【0073】〜【0077】,皮膚 )を冷却するものではない。
このように,引用発明2の装置には,皮膚を冷却するための機構が別途設けられ ており,液体水フィルターで皮膚を冷却することは記載されていない。しかも,上記機構においては,大きな導波管が用いられ,皮膚を冷却するためにかなり大きい負の熱量が供給されるように構成されており,薄いフィルター6中に存在するわずかな氷では,上記導波管を挟んで反対側にある皮膚を冷却するには不十分である。
以上によれば,引用発明2の液体水フィルターが皮膚を冷却するための手段であるとした本件審決の認定は,誤りである。
? 引用発明1に引用発明2を適用することの容易想到性について 前記1〔原告の主張〕のとおり,引用発明1のプリズム6は,光学的フィルターの役割を果たすものであるから,皮膚の冷却のためのみに更に光フィルタリングを行う液体水フィルターを設けることを当業者が想到することはあり得ない。
さらに,引用発明1において,インコヒーレント光源3は,使い捨ての光源であることが前提とされているから,本願発明の構成とするために引用発明2の液体水フィルターをインコヒーレント光源3内に封止すれば,液体水フィルターも使い捨てにすることとなる。しかし,引用発明2においては,市場で入手可能な通常のアークランプを光源に使用しており,引用例2に同光源を使い捨てにする旨の示唆はなく,まして液体水フィルターを使い捨てにすることは,想定できない。
したがって,当業者が引用発明1に引用発明2を適用することを容易に想到し得たということはできない。
? 引用発明1に引用発明2を適用した場合の液体水フィルターの配置について 仮に,引用発明2の液体水フィルターが皮膚を冷却するための部材であり,引用発明1に引用発明2を適用することができるとしても,引用発明1の装置の前端部,すなわち,プリズム6よりも皮膚側に冷却手段を設けることができる旨の引用例1の【0046】の記載に従えば,引用発明2の液体水フィルターを,冷却手段として,引用発明1のプリズム6よりも皮膚側に配置することとなり,着火性材料5とプリズム6の前端部の表面の一部との間に配置するという本件審決認定に係る構成を導き出すことはできない。加えて,@前記?のとおり,引用発明2においては通 常のアークランプを光源に使用しており,外的に付加された引用発明2の液体水フィルターをアークランプの内側に配置することは想定し得ず,Aまた,引用発明2には導波管が存在するから,アークランプが封入されたガラス又はクリスタル管が皮膚に接することはなく,物理的観点からも,皮膚冷却手段としての液体水フィルターは「筐体の外側」に配置するほかはない。
したがって,引用発明1に引用発明2を適用しても,本願発明の「水フィルターであって,可燃性材料と封止された筐体の外側表面の一部との間に設けられ」という水フィルターの配置場所に係る相違点は解消されない。そして,同配置場所には,水フィルターに光フィルター機能及び冷却機能の両方を実現させ,@光フィルター及び冷却機構の厚みを減少させるとともに,A冷却機構が別体の光フィルターより外側に配置される場合と比較して皮膚に悪影響を与えず,内側に配置される場合よりも冷却効率を高め,さらに,B特性の異なる光フィルターの代替的な採用を可能とする技術的意義があるから,同配置場所に係る相違点は重大なものである。
〔被告の主張〕 ? 引用発明2の認定について 本件審決が認定した引用発明2の「フィルター6」としての「液体水フィルター」には,水及び固体状態の粒子の懸濁として形成されるフィルター(以下「懸濁フィルター」という。
【0076】)と「液体水フィルター」【0077】 ( )の双方が含まれ,以下のとおり,本件審決による引用発明2の認定に誤りはない。
ア 引用例2は,発明の名称を「光美容処置及び光皮膚処置のための装置及び方法」とする特許出願に係る公表特許公報であり,患者の皮膚の処理のため,ランプを利用するととともに,患者の皮膚と光学接触するように構成された導波管を含む装置(【請求項1】)について記載されている。そして,上記導波管は,効率的な光の患者の皮膚1への結合及び皮膚表面の冷却を与えるため,少なくとも処置中,該皮膚1と光学的及び熱的に接触するものとされており 【0025】, ( ) この皮膚表面の冷却は,光による多くのエネルギーの適用中に,表皮を損傷する危険性を抑制す るためにされている(【0042】【0055】【0060】【0078】。
, , , ) イ 懸濁フィルターの意義について (ア) 引用例2中, 【0076】の「フィルター6は,液体が凍結された際の…組織を損傷から保護する。」の意義は,@フィルター6が溶解すると,フィルター6の皮膚表面の冷却能力が失われてしまうので,さらに光を照射し続けると皮膚表面を損傷することが危惧されるが,フィルター6は,溶解すると高散乱板になることから,光を照射し続けたとしても,光が皮膚表面に到達する量が自動的に下がり,よって,皮膚表面が損傷から保護されるという,凍結液体を含むフィルター6の溶解時自動減光機能とともに,Aフィルター6の凍結液体が完全に溶解するまでの間は,凍結液体を含むフィルター6の熱容量により,導波管5の温度が0℃の周辺にとどまるので,その0℃周辺の(皮膚表面よりも相対的に)低い温度の導波管5が皮膚表面を冷却するという,凍結液体を含むフィルター6が導波管5とともに奏する,溶解までの皮膚表面冷却機能について説明するものである。
したがって, 【0076】中の「この時間は,良好な冷却による皮膚の処置に使用され得る。」との記載の「冷却」は,皮膚表面の冷却を意味し,同記載は,液体が完全に溶解するまでの時間は,皮膚表面を良好に冷却しながら,皮膚への光エネルギーの適用を行うことができるとの意味であるから,懸濁フィルターは,皮膚冷却のための手段を指す。
(イ) 仮に, 【0076】中の上記「冷却」の対象が皮膚であるとまではいえないとしても,前記のとおり,フィルター6の凍結液体が完全に溶解するまでの間は,導波管5の温度が0℃の周辺にとどまる旨説明されており, 「皮膚(表皮)の冷却が必要ならば,導波管5は,照射の前,間及び/又は後に冷却され得る」との記載 【0 (025】 をも踏まえれば, ) フィルター6に熱的に接した導波管5が患者の皮膚を冷却することは,当業者にとって自明である。そうすると,当業者であれば,懸濁フィルターが,患者の皮膚に対して冷却効果をもたらすことを認識することができる。
ウ 【0077】に記載された「液体水フィルター」の意義について (ア) 【0077】は,【0076】の直後に記載されており,文脈に照らして,【0077】中の「冷却用」は,前記イ(ア)のとおり皮膚表面の冷却を意味する【0076】中の「冷却」と同義であると解すべきであり,そして, 【0077】中の「液体水フィルター」も,皮膚よりも十分に低い温度であれば,一定の皮膚冷却効果をもたらすことが可能である。よって, 【0077】に記載された「液体水フィルター」は,皮膚冷却のための手段を指す。
(イ) 仮に, 【0076】中の上記「冷却」の対象が皮膚であるとまではいえないとしても,【0077】に記載された「液体水フィルター」については,「冷却用」とされ,同文言と上記「冷却」とが同義であることに照らすと,通常,皮膚よりも十分に低い温度であることが想定されるから,前記イ(イ)と同様の理由により,当業者であれば, 【0077】に記載された「液体水フィルター」が,患者の皮膚に対して冷却効果をもたらすことを認識することができる。
エ 原告の主張について (ア) 原告は,引用例2には,皮膚を冷却するための機構が別途設けられている旨主張する。
引用例2の【0078】から【0082】において「冷却」との項があるものの,【0078】には,「提案装置において,…あり得る。」との一般的な記載があり,これは,懸濁フィルターの態様と一致するものであるから,原告の上記主張は,失当である。
(イ) 原告は,引用例2に別途設けられている皮膚を冷却するための機構においては,大きな導波管が用いられ,皮膚を冷却するためにかなり大きい負の熱量が供給されるように構成されており,薄いフィルター6中に存在するわずかな氷では,上記導波管を挟んで反対側にある皮膚を冷却するには不十分である旨主張する。
しかし,液体水フィルター等の冷却手段による冷却能力は,光の強さ,光の照射時間,導波管の長さ,導波管の熱容量,液体水フィルターの温度,治療開始時の導波管の温度等に依存するものであるから,当業者であれば,液体水フィルターによ って患者の皮膚を冷却する効果を実現するために必要な設計変更を行うことは可能なはずである。
(ウ) 原告は,引用発明2のフィルターは,光の照射を受けて加熱され,光学特性等が変わってしまうので,フィルター自身を冷却するものであり,皮膚を冷却するものではない旨主張する。
しかし,前記アからウのとおり,引用例2には,冷却対象として皮膚表面が記載されている。
また,引用例2には, 「吸収フィルターは光で加熱され,また冷却を要する。 【0 」 (075】 と記載されているにとどまり, ) 光学特性が変わってしまうから冷却を要するとまでは記載されていない。しかも,懸濁フィルターは,溶解して高散乱板になることが予定されているものであるから,高散乱板になることを防ぐために当該フィルター自身を冷却するものではない。水の光スペクトルについても, 「1.4μm付近及び1.9μm付近の水吸収帯域(図4参照)(なお, 」 「図4」は「図3」の誤記であると解される。)と記載されているにとどまり,「光美容処置及び光皮膚処置のための装置及び方法」という用途において,水の光スペクトルの温度依存性を考慮しなければならないことは開示されていない。
さらに,【0077】には,「光スペクトルをフィルターに通すため,厚さ1〜3mmの液体水フィルターが使用され得,この水は,冷却用にも使用され得る。」と記載されているところ, 「この水」は,液体水フィルターそのものである「水」を意味しているから,原告の主張によれば, 「この水」を冷却するために「この水」を用いるということになり,文理上不自然である。
加えて, 【0075】には,吸収フィルターを冷却するための手段として,例えば,間隙7の液体又は気体がフィルターを冷却することが記載されており,この記載は,フィルターを冷却するための手段がフィルターそのものではないことを意味するものであるから,原告の主張は同記載にも整合しない。
以上によれば, 【0077】中の「冷却用」の文言は,液体水フィルター以外のも のを冷却対象とするものと解すべきである。
そして,仮に,光の照射を受けてフィルター自身を冷却する必要があるとしても,その冷却をされた懸濁フィルターにより導波管を介して皮膚表面を冷却できることに変わりはない。
? 引用発明1に引用発明2を適用することの容易想到性について 以下のとおり,本件審決の判断に誤りはない。
ア 引用発明1のプリズム6の本質的作用は,光学的フィルターではなく,光を治療対象に向けて集光しガイドすることである。よって,プリズム6以外の構成によって光学的フィルターとしての機能を実現することが直ちに排除されるわけではない。また,引用例2においても,引用発明1のプリズム6と同様に光のガイド作用を行う導波管5が光学的フィルター機能を奏さなくてもよい旨が示唆されている(【0074】等)。したがって,引用発明1のプリズム6が有する光学的フィルターとしての機能を他の構成に担わせることは,格別のことではない。
イ 引用例1には,装置の前端部に冷却手段を配置することが有利であり,それによって患者が治療に伴う熱感や灼熱感を感じないように皮膚が冷却される旨が示唆されていることから,引用発明1において,患者に上記熱感等を知覚させないようにするために,引用発明2の皮膚冷却手段である液体水フィルターを採用するとともに,その液体水フィルターが光学的フィルターの機能を有していることを考慮して,同機能も担わせるように構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 原告の主張について(ア) 原告は,引用発明1のプリズム6は,光学的フィルターの役割を果たすものであるから,皮膚の冷却のためのみに更に光フィルタリングを行う液体水フィルターを設けることを当業者が想到することはあり得ない旨主張する。
しかし,本件審決は,引用発明1に引用発明2を適用することにつき,前記イのとおり,引用発明1において,皮膚冷却を行うために,プリズム6に代えて,これ が有する光学的フィルターとしての機能及びその前端部が皮膚に接する「筐体の外側表面の一部」としての機能を実現する具体的構成として,引用例2に記載された液体水フィルターと導波管とから成る構成を採用し,本願発明の構成とすることについて,当業者が容易に想到し得た旨判断したのであり,当業者が,引用発明1に,既存の光学的フィルターに加えて皮膚の冷却のためのみに重ねて光フィルタリングを行う液体水フィルターを設けることを容易に想到できた旨を述べたわけではなく,原告の主張は,本件審決を正解しないものである。
(イ) 原告は,引用発明1において,インコヒーレント光源3は,使い捨ての光源であることが前提とされているから,本願発明の構成とするために引用発明2の液体水フィルターをインコヒーレント光源3内に封止すれば,液体水フィルターも使い捨てにすることとなるが,引用発明2においては,市場で入手可能な通常のアークランプを光源に使用しており,引用例2に同光源を使い捨てにする旨の示唆はなく,まして液体水フィルターを使い捨てにすることは,想定できない旨主張する。
しかし,引用発明2の光源は「ランプ」であれば足り(【請求項1】,また,光源 )が使い捨てか否かであることと,液体水フィルターなどの光学的フィルターの構成とは,技術的に強い相関があるものではないから,引用発明2は,使い捨ての光源を使用することを排除するものではない。
? 引用発明1に引用発明2を適用した場合の液体フィルターの配置について ア 引用発明2における患者の皮膚に接触してその表面を冷却する導波管5と光学的フィルターである液体水フィルター6との位置関係につき,引用例2には,液体水フィルター6が導波管5の患者の皮膚に接触する部分とランプとの間にあることが記載されている。このことから,引用発明1において,引用発明2の皮膚冷却手段である液体水フィルターを採用するに当たっては,皮膚を効果的に冷却するために,液体水フィルターを,着火性材料5とプリズム6の前端部の表面の一部との間,すなわち,プリズム6の前端部の表面と対向する表面側(着火性材料5側)に設けることが自然である。
イ 原告の主張について (ア) 原告は,装置の前端部,すなわち,プリズム6よりも皮膚側に冷却手段を設けることができる旨の引用例1の記載に従えば,引用発明2の液体水フィルターを,引用発明1のプリズム6,すなわち,筐体の外側表面の一部の前側(生物組織側)に配置することとなる旨主張する。
しかし,引用例1には,プリズム6が皮膚に接触すること及びプリズム6を治療を行う面と光源との間の距離保持部材として機能させることが記載されており 【0 (033】【0034】,原告主張のとおりに液体水フィルターをプリズム6よりも , )前側(生物組織側)に配置すれば,プリズム6を皮膚から遠ざけることになり,距離保持部材としての機能も妨げることとなる。
(イ) 原告は,@引用発明2においては通常のアークランプを光源に使用しており,外的に付加された引用発明2の液体水フィルターをアークランプの内側に配置することは想定し得ず,Aまた,引用発明2には導波管が存在するから,アークランプが封入されたガラス又はクリスタル管が皮膚に接することはなく,物理的観点からも,液体水フィルターは「筐体の外側」に配置するほかはない旨主張する。
原告は,液体水フィルターの配置場所は引用例2に示された配置場所と同様の場所に限られるという前提に立ち,引用発明1のプリズム6と引用例2記載のランプが封入されたガラス又はクリスタル管とを対応させた上で,引用例2において液体水フィルターが同ガラス又はクリスタル管の外側に配置されているから,上記前提に照らせば,引用発明1に液体水フィルターを採用するに当たっては,プリズム6の外側に配置するしかない旨を主張しているものと解される。
しかし,引用発明1において,皮膚冷却の課題を解決するために引用発明2の液体水フィルターを採用するに当たっては,上記課題を解決できるように配置すれば足り,引用例2に記載された配置関係と同様とすることが基本とはいえるものの,それから少しでも異なれば配置できなくなるということはない。
また,引用例2における引用発明1のプリズム6に対応する構成は,皮膚に接触 する,光をガイドするという機能の観点から,導波管であるというべきである。引用発明2の光源がアークランプに限定されないことからも,上記構成を引用例2記載のランプが封入されたガラス又はクリスタル管とみることは,不自然である。
当裁判所の判断
1 本願発明について ? 本願発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2【請求項1】のとおりであるところ,本願明細書(甲4)には,おおむね,次の記載がある(下記記載中に引用する【図5C】については,別紙1参照)。
ア 技術分野 本発明は,皮膚科学的治療のために電磁放射線を用いる装置に関し,具体的には,例えば燃焼灯内の化学反応によって発生する光学的放射線を皮膚組織の標的部位に照射する装置に関するものである(【0002】。
) イ 背景技術 (ア) 老化,太陽露出,皮膚科学的疾患等に起因する皮膚異常の修復や改善の需要が高まっているところ,皮膚に電磁エネルギーを照射して皮膚異常を改善する特定の治療法は,皮膚の病態を改善する有益な応答をもたらすことができる。
特に,光学的放射線として提供されるエネルギーは,様々な皮膚科学的治療に用いられる。光学的放射線としては,可視スペクトル範囲の1種以上の波長を有する電磁放射線等が挙げられる。光学的放射線は生物組織によって吸収され,その吸収量は,放射線の波長及び強度,組織の特性等に依存する。生物組織内で光学的エネルギーが吸収されると,発熱,組織内の物理構造又は特定の生物機能の崩壊等により,有益な効果又は治療効果が生じる。
光学的放射線を使用する皮膚科学的治療としては,年齢によるシミ等の静脈性又は色素性の病変の減少等を挙げることができる。放射線は,一般に外部エネルギー源から放出されて組織の標的領域に与えられる。エネルギー源としては,各種のレーザー装置,電子閃光灯などが挙げられる(【0003】〜【0005】。
) (イ) 光学的エネルギーは,エネルギー源から,導波管や光ファイバー等の光学的装置を用いて皮膚組織へ向けることができ,さらに,関心のある標的領域上に集中させたり向けたりすることができる。光学的装置は,プリズム等も含んでよい【0 (006】【0007】。
, ) (ウ) エネルギーを皮膚組織に加えるための従来の装置には,多くの安全性の問題がある。例えば,レーザー装置等のエネルギー源は,過剰曝露の重大な危険性を呈し得る。
そこで,エネルギー源を用いる場合は,安全措置を講じることが多い。安全措置の例としては,レーザー又は他の外部エネルギー源を含む装置に,適用された放射線に対する皮膚組織の過剰曝露の危険性を下げる特定の条件下でエネルギー出力を調節等する制御手段を備えさせることなどがある。
これらの安全措置は,様々なエネルギー適用システムを煩雑なものにし,その費用を増大させる。治療に用いられる従来のエネルギー源は,さらなる安全措置を必要とすることもある。例えば,レーザー装置のエネルギー源は,装置の操作者及び治療される患者の眼の保護等を要する。このようなエネルギー源は,重大な電気的障害を呈し得る(【0008】〜【0010】。
) 光学的エネルギーを生物組織に提供する従来の装置は高価でもあり,経済的理由から,開業医等にとって利用が困難な場合もある。このような装置を用いて提供される治療は,患者や医療保険会社にとっても高価なものであり得るし,また,ある種の装置は,特定の治療にしか適していない。したがって,経済的理由,医療施設内の収納空間の制限などから,開業医が様々な治療を患者に提供するために様々な装置を持つことは非現実的である(【0011】。
) (エ) したがって,皮膚科学的異常の改善等のために,安全な治療,有効な治療及び経済的な治療を組み合わせる,皮膚組織に対する光学的放射線の適用のための装置を提供する必要がある(【0012】。
) ウ 発明の概要 (ア) 本発明の目的は,皮膚科学的異常を改善する安全かつ経済的な治療及び皮膚組織に対する光学的放射線の適用を伴う他の治療を容易にする装置を提供することである。本発明の別の目的は,エネルギー源等の設備に対する高額の金銭的投資やそのような設備を収容する大きな収納空間を必要とすることなく,開業医が1人でも様々な皮膚科学的病態を処理できるように,様々な治療に使用できる装置を提供することである。本発明のさらなる目的は,消費者が家庭で用いても十分安全な,皮膚科学的病態の治療装置を提供することである(【0013】 。
) (イ) 本発明による装置の例示的実施形態を用いて前記(ア)の目的を達成することができる。当該実施形態において,化学反応により光学的放射線の1つ以上のパルスを発生するように構成された放射線源を設けることができ,放射線源は,燃焼灯又は同様のものであり得,可燃性材料のような反応性物質を含む,ガラス,プラスチック等で形成される封止筐体を含み得る(【0014】。
) 燃焼灯又は放射線源を支持又は封入し,かつ,燃焼灯又は放射線源を治療される組織から所定の距離に配置するために外被を設けることができる。代替的又は付加的に,可燃性材料等を含む筐体を外被にすることもできる(【0018】。
) 放射線源によって生成され,特定又は特定範囲の波長を有する放射線を減衰又は遮断するために,1つ以上のフィルターを設けることができる。例えば,治療される組織に影響を及ぼす紫外又は赤外の光学的放射線の量を減らすために,フィルターを設けることができる。代替的に,放射線源の筐体又は外被の一部を,このような濾光特性を提供する材料で形成してもよい(【0022】 。
) 放射線源によって生み出される赤外放射線の量を減らすために,水フィルターを設けてもよい。このような水フィルターは,当該筐体又は外被の一部として形成されるか,または,これに取り付けられてよい。当該水フィルターは,冷却又は冷凍され,それによって,一部の赤外放射線を濾光することに加え,治療される組織の冷却を提供し得る(【0023】。
) エ 発明を実施するための形態 (ア) 赤外範囲にある,燃焼灯100によって生み出された少なくとも一部の光学的放射線を減衰又は遮断するためにも,フィルター250を構成又は構築することができる。例えば,およそ900nmの波長,及び約1,100〜1,300nmの間の波長を有する,治療される組織に影響を及ぼす量の光学的放射線を減らすために,水フィルターを用いてよい。当該水フィルターは,少なくとも部分的に水で満たした浅い筐体または容器を含むことができ,これは光学的放射線源100と治療される組織280との間に設けられる。例えば,このような水フィルターを外被220の下部に取り付けることができる(【0045】。
) (イ) 例示的装置500の例解が【図5A】に示されている。例示的装置500は,可燃性フィラメント120及び雷管150を含む筐体を一緒に形成し得る,外側壁510及び底面520を含むことができる。装置500の下方に配置された皮膚組織280の領域に,あるパルスの光学的放射線を提供するために,例示的装置500を用いることができる(【0052】。
) 皮膚組織280の表面270と直接接触して配置されるように,装置500を構成することができる。そのために,装置500の底面520はおおよそ平坦であり得,代替的に,当該底面は,光学的放射線を受容することができる皮膚組織280の領域内にある皮膚表面270の輪郭に一致するように輪郭形成されてよい 【00 (53】。
) (ウ) 【図5C】に示されている例示的装置580は, 【図5A】に示されている装置500と実質的に同様である。装置580の底面520は,空洞部590を含むことができる。水フィルターを形成するために空洞部590を水で満たすことができ,当該水フィルターは,当該水フィルターを通過する赤外放射線を減らすか,及び/又は除去し得る。水で満たした空洞部590を含む例示的装置580を,冷凍庫の中で貯蔵することができる。その凍った水層は,装置580が治療される組織の上に配置され,かつ,光学的放射線パルスが可燃性材料120を活性化することによって発生される場合,組織の赤外濾光及び冷却の両方を提供することができ る(【0061】。
) ? 本願発明の特徴 ア 本願発明は,皮膚科学的治療のために電磁放射線を用いる装置に関し,具体的には,例えば燃焼灯内の化学反応によって発生する光学的放射線を皮膚組織の標的部位に照射する装置に関するものである(【0002】。
) イ 皮膚に電磁エネルギーを照射して皮膚異常を改善する特定の治療法は,皮膚の病態を改善する有益な応答をもたらすことができ,特に,光学的放射線として提供されるエネルギーは,様々な皮膚科学的治療に用いられる。光学的放射線は,生物組織によって吸収され,発熱,組織内の物理構造又は特定の生物機能の崩壊等により,有益な効果又は治療効果をもたらす。光学的放射線は,一般に,外部エネルギー源から放出されて組織の標的領域に与えられる(【0003】〜【0005】。
) 光学的エネルギーは,エネルギー源から,導波管や光ファイバー等の光学的装置を用いて皮膚組織へ向けることができ,さらに,関心のある標的領域上に集中させたり向けたりすることができる(【0006】【0007】。
, ) 従来の光学的装置には,過剰暴露等の安全性の問題があり,安全措置を講じることが多く,それによってエネルギー適用システムが煩雑になり,費用も増大する。
また,従来の光学的装置は高価なものであり,特定の治療のみに適するものもあることから,経済的理由,収納空間の制限等により,開業医が様々な治療を患者に提供するために様々な装置を持つことは,非現実的である【0008】【0011】。
( 〜 ) したがって,皮膚科学的異常の改善等のために,安全な治療,有効な治療及び経済的な治療を組み合わせる,皮膚組織に対する光学的放射線の適用のための装置を提供する必要がある(【0012】。
) ウ 本願発明の目的は,@皮膚科学的異常を改善する安全かつ経済的な治療及び皮膚組織に対する光学的放射線の適用を伴う他の治療を容易にする装置を提供すること,Aエネルギー源等の設備に対する高額の金銭的投資やそのような設備を収容する大きな収納空間を必要とすることなく,開業医が1人でも様々な皮膚科学的病 態を処理できるように,様々な治療に使用できる装置を提供すること,B消費者が家庭で用いても十分安全な,皮膚科学的病態の治療装置を提供することである 【0 (013】。
) エ 本件補正後の特許請求の範囲請求項1記載の構成により,前記ウの目的を達成することができる。上記構成のうち水フィルターは,冷却又は冷凍され,それによって,一部の赤外放射線を濾光するとともに,治療される組織の冷却を提供することができる(【0014】 【0018】 【0022】 【0023】 【0045】 , , , , ,【0052】【0053】【0061】【図5C】。
, , , ) 2 引用発明1について ? 引用例1(甲1)には,おおむね,以下のとおり記載されている(下記記載中に引用する【図1】については,別紙2参照)。
ア 本発明は,皮膚疾患の治療等のための治療処置装置に関するものである 【0 (001】。
) イ 本発明により,望まれる波長のバンド幅に収まる比較的低いエネルギーレベルの1つ又は複数の光パルスを提供できる使い捨ての光源を供給することが重要であることは,明らかである( 【0024】。
) ウ 本発明のさらに有利な実施形態において,プリズムは,さらに2つの重要な用途を有する。これらのうちの1つは,光源が治療を行う面から一定の距離を保つようにすることである。プリズムにある程度の厚みを持たせることにより,治療を行う面と光源との間の距離を保障することができる(【0033】。
) 実際の使用にあたって,このことは,治療の間に皮膚に接触することに適合した,比較的延長されたプリズムを伴った使い捨ての光源を備えることにより行われる。
ここで,プリズムは,治療領域に正確なエネルギーを送達することを可能とするための一種の距離保持部材として働く(【0034】。
) エ 装置の前端部において冷却手段を配置することも,有利である。フラッシュバルブが着火して光が放出されると熱が生じる。この熱は,フラッシュバルブ装置 の着火及び表皮層を通過する光の侵入によって生じる。冷却手段を装置の前端部に配置することにより,患者がこのような治療に伴う熱感や灼熱感を感じないように熱が冷却される(【0046】。
) オ この方法は,レーザーでない装置からのパルス状の光の出力を供給するステップから成る。インコヒーレント光源が用いられ,その光が,光パルスの形で皮膚の治療を行う領域に向けられる。反射板により光を集光し,プリズム等を通して光をフィルタリングし,必要に応じてプリズムの側面をコーティングすることによって,放出される光の波長は,550nmと1050nmとの間の範囲内に制御される(【0048】。
) カ 【図1】に,本発明による自己完結型のバージョンを例示する。電池1がこの例におけるエネルギー源であり,トリガー機構2が,電流を電池から使い捨てのインコヒーレント光源3へと導くワイヤ上のスイッチとして搭載されている。使い捨ての光源は,この実施例においては,ソケット4に装着される使い捨てのフラッシュバルブの形状である。トリガー機構2により電気的な導通を行うと,電流がフラッシュバルブ3へ導かれ,着火性材料5が着火されて光を放出する。この発明の実施例において,着火性材料の前部に搭載されたプリズム又は虹彩6を備える光源が示されている。着火性材料5の着火により放出される光の一部は,まっすぐにプリズム6を通じて治療領域(「治療領域6」は, 「治療領域」の誤記と思料する。)へと通過する。残りの光は,反射板7により反射され,プリズム6を通じて治療領域に導かれる。この構成により,着火性材料5の着火によって放出された実質的に全ての光が患者の治療領域に向かって導かれる。このことにより,システムで使用されるエネルギーレベルを比較的低いものにでき,患者にとってより安全なものとなる(【0059】。
) ? 引用発明1の認定 引用例1(甲1)には,本件審決が認定したとおりの引用発明1(前記第2の3?)が記載されていることが認められ,この点につき,当事者間に争いはない。
3 一致点の認定の誤り及び相違点の看過について ? 一致点について ア 原告は,本件審決が, 「前記封止された筐体の外側表面の一部は,前記生物組織に接するように構成され,/前記光学的フィルターは,前記光学的放射線の一部を濾光するために構成され」る点を一致点として認定したことにつき,誤りがある旨主張する。
イ 引用発明1の「中空の容器」は,その内部に着火性材料5を備えたものであるところ,本願発明の「封止された筐体」は,その内部に可燃性材料が設けられたものであり,着火性材料は可燃性材料に含まれる。よって,引用発明1の「中空の容器」は,本願発明の「封止された筐体」に相当する。そして,引用発明1の「プリズム6」は,「中空の容器」の前部に備えられたものであるから,「プリズム6の前端部の表面」は,本願発明の「封止された筐体の外側表面の一部」に相当する。
引用発明1の「プリズム6の前端部の表面」 「治療の間に皮膚に接触するもの」 は,であり,本願発明の「封止された筐体の外側表面の一部」は, 「生物組織に接するように構成され」ており,皮膚は,生物組織の一部であるから,上記「プリズム6の前端部の表面」と「封止された筐体の外側表面の一部」とは,生物組織に接するように構成されている点において共通している。
さらに,引用発明1の「プリズム6及びプリズム6の側面のコーティング」は,「光をフィルタリングするように構成された」ものであり,本願発明の「水フィルター」は, 「光学的放射線の一部を濾光」するために構成されたものであるから,上記「プリズム6及びプリズム6の側面のコーティング」と「水フィルター」とは,光学的放射線の一部を濾光する光学的フィルターである点において共通している。
以上によれば,本件審決が前記一致点を認定したことに誤りはない。
? 相違点について ア 原告は,本願発明において,水フィルターは,直接皮膚に接触させず,同水フィルターを有する筐体の外側表面の一部を皮膚に接触させて冷却する構成とされ ているのに対し,引用発明1において,プリズム6及びプリズム6の側面のコーティングは,直接皮膚に接触させ,また,プリズム6に冷却機能を持たせることは,全く想定されていないことを挙げ,本件審決につき,本願発明の筐体と水フィルターが各別の構成要件であるのに対し,引用発明1のプリズム6が単一の部材であるという相違点を看過し,プリズム6が上記筐体と水フィルターに相当するとした点において誤りがある旨主張する。
イ 本件審決は,前記第2の3?イのとおり,光学的フィルターが,本願発明においては水フィルターであり,引用発明1においてはプリズム6及びプリズム6の側面のコーティングからなるものである点を含め,相違点として認定した。
この点に関し,前記1?のとおり,水フィルターは,空洞部を水で満たすことによって形成されるものであり(【0061】【図5C】,光学的放射線の一部を濾光 , )する光学的フィルターの役割を果たすのは,上記の水そのものである。したがって,水フィルターを使用する場合,光学的フィルターとしての水フィルターの役割を果たすのは,水そのものであるから,水フィルターが筐体を兼ねることは不可能である。また,水フィルターと生物組織との間には,水を収納する空洞部を画定する壁が必ず存在するから,水フィルターを直接皮膚に接触させることはあり得ない。
本件審決は,本願発明の筐体と水フィルターがこのように別個のものであることを前提として,引用発明1のプリズム6につき,その機能に着目して,前記?のとおり,@「前端部の表面」は,本願発明の「封止された筐体の外側表面の一部」に相当し,生物組織に接するように構成されている点を一致点として認定し,A「プリズム6及びプリズム6の側面のコーティング」は,光をフィルタリングするように構成されており,本願発明の「水フィルター」と同様に光学的放射線の一部を濾光するために構成されているといえることから,光学的フィルターである点において一致していることを認定した上で,前記第2の3?イのとおり,B上記「水フィルター」と「プリズム6及びプリズム6の側面のコーティング」との間には,配置位置及び生物組織を冷却する機能の有無に係る相違点が存在することを認定したも のである。すなわち,本件審決は,引用発明1のプリズム6という単一の部材が,本願発明の筐体と水フィルターという別個の構成要件がそれぞれ有する機能に相当する機能を果たすものとして,上記相違点を認定しているのであるから,原告主張に係る相違点の看過の誤りはない。
4 容易想到性の判断の誤りについて ? 引用例2記載の液体水フィルターについて ア 引用例2記載の装置について 引用例2(甲2)の記載によれば,以下のとおり認められる(引用する【図1】については,別紙3参照)。
(ア) 皮膚科学処置のための装置 皮膚1の美容及び医療の皮膚科学処置のための例示装置Dは,@光源としての直線的管状アークランプであるランプ2,Aランプ2を封入する円筒断面のガラス又はクリスタルの管4,B管4の周囲に置かれる反射板3,Cガラス又は誘電体結晶から形成される導波管5及びDフィルター6を有する。
ランプ2と管4との間隙7は,液体又はガスで満たされる。反射板3は,基体上に高反射皮膜を含むことができ,上記基体は,湾曲管状部分を有し,また,平たん部を伸ばし,これは全側部において導波管5に達する(好ましくは,導波管5に一部重なる。。
) ランプ2からの光は,一部が反射板3によって反射され,この反射光とその余の直接光は,フィルター6及び導波管5を通って結合され,皮膚1に送出される(【請求項1】【請求項2】【0019】【0020】【0058】【図1】。
, , , , , ) (イ) 光スペクトルの変換 ランプ2からの光のスペクトルは,皮膚1の処置のために最適な所望の波長スペクトルに変換することができる。このスペクトルの変換は,@ランプ2のエンベロープ(外被)における光の吸収,A間隙7を満たす液体における光の吸収,B管4における光の吸収,C導波管5における光の吸収,Dフィルター6における光の吸 収又は有向散乱,E反射板3における光の吸収によって,又はこれらの組合せによって行われる(【0010】【0020】【0074】。
, , ) (ウ) フィルター6 フィルター6は,@導波管5の表面,透明基体又は散乱媒体の上に形成された多層誘電体干渉コーティング,Aコールドフィルター又は非吸収フィルター(いわゆる多層誘電体フィルター) B電界に依存する吸収帯を有する半導体フィルム, , C液晶材料等から形成される散乱フィルター,D反射コーティング,E吸収フィルター(吸収媒体を用いたフィルター),Fスペクトル共振散乱体として実現される(【0010】【0021】〜【0023】【0074】。
, , ) (エ) 小括 以上によれば,引用例2には,本件審決が認定した引用発明2(前記第2の3?)のうち, 「患者の皮膚の処置のため,ランプからの光を導波管を通じて患者の皮膚へ向けるための装置において,光スペクトルのフィルター処理を行なうためにフィルター6を設け」ること及びそのフィルター6を吸収フィルターとすることが記載されているということができる。
イ 光スペクトルのフィルター処理について (ア) 引用例2の記載 引用例2には, 「光のフィルター処理」という項目につき,概要,以下のとおり記載されている。
a ランプの最適プロファイルドスペクトル(OPSL)は,ターゲットの処置によって決定される(【0073】。
) b 光スペクトルのフィルター処理は,提案装置の全ての最適な構成要素によって実現され得る(【0074】。
) c 吸収フィルターは,スペクトルの長波長部分を,短波長部分よりもより良く伝送する。これは,より深いターゲットの処置にとって好ましく,かつ表皮にとって安全である。あいにく,吸収フィルターは光で加熱され,また冷却を要する。そ のため,このフィルターをランプ2上又は管4内部に配置することが最も効率的である。これがその場合なら,間隙7内の液体又は気体がランプと同時にフィルターを冷却し,該ランプは主要な熱源である。フィルターは,間隙7内の液体又はランプ2若しくは管4が形成される材料に加えられた吸収ドープ(イオン,原子,分子,微結晶)として実現され得る。水フィルタリングが望ましい場合,間隙7内の流体は,所望により単独の又ドープされた水であり得る。油,アルコール等の他の流体も間隙7に使用され得る(【0075】。
) d フィルター処理は,屈折率に対する共振散乱を用いることで実行され得る。
例えば,波長λでの冷却液体の屈折率と一致する粒子66の屈折率を選ばせる。その際,波長での管における散乱は存在せず,そのため,伝送は最大である。波長がλから離調されると,屈折率の不整合が増加し,光の散乱及び吸光度の両方を強化する。構成要素7又は66の少なくとも一方の屈折率が,光のパワー又は温度の関数として変化する場合,この散乱媒体は,該組織における流束量を自動的に(自動)調節をすることができる。…フィルター6は,同じ原理を用いて実施され得る。…フィルター6は,液体が凍結された際の整合屈折率Δn≒0を有する液体(例えば水)及び固体状態の粒子の懸濁として形成され得る。この状態における光の散乱及び減衰は非常に低い。導波管5の温度(0℃周辺)は,液体が完全に融解(判決注:引用例2には「溶解」と記載されているが,ここでは,固相にある物質が加熱されて液相になる相変化を指すものと解されるから,正しくは,「融解」である。)するまでフィルター6の融解温度に留まる。この時間は,良好な冷却による皮膚の処置に使用され得る。液体中の媒体の屈折率及び結晶条件は,非常に異なる。そのため,融解後,液体6は,ビームの著しい減衰を有する高散乱板になる。6がその冷却能力を失うと,組織における流束量は,従って,自動的に下がり,組織を損傷から保護する(【0076】。
) e 1.4μm及び1.9μmで水のIR吸収ピーク付近の光スペクトルをフィルターに通すため,厚さ1〜3mmの液体水フィルターが使用され得,この水は, 冷却用にも使用され得る(【0077】。
) (イ) 液体水フィルターについて 前記(ア)によれば,引用例2には,吸収媒体として水を使用し,1.4μm及び1.9μmにある水のIR吸収ピークを利用した吸収フィルターである液体水フィルターが開示されている 【0077】。
( ) そして, 「吸収フィルターは光で加熱され,また冷却を要する。…フィルターは,間隙7内の液体…として実現され得る。水フィルタリングが望ましい場合,間隙7内の流体は,所望により単独の又ドープされた水であり得る。( 」【0075】)との記載に鑑みれば,引用例2には,@間隙7内の水を吸収フィルターとして用いる液体水フィルターとA【図1】のフィルター6を含む任意の場所に設ける液体水フィルターが開示されているものと解される。
したがって,引用例2には,本件審決が認定した引用発明2(前記第2の3?)のうち, 「フィルター6を液体水フィルターと」することが記載されているということができる。
ウ 皮膚の冷却について (ア) 引用例2記載の装置における冷却について 冷却に関し,引用例2には, 「導波管5は,効率的な光の患者の皮膚1への結合(結びつけ)及び皮膚表面の冷却を与えるため,少なくとも処置中,該皮膚1と光学的及び熱的に接触する。ランプの低平均電力(処置の低繰返し率を含む)では,装置構成要素(ランプ2,反射板3,吸収フィルター)の冷却は,自然対流によって与えられ得る。ランプの高平均電力では,追加の冷却は,冷却システム11(図2)によって与えられ得,該システムは,液体又はガスを例えばチャネル又は間隙7を通って流し,冷却された構成要素と流れている冷却剤,例えば間隙7の液体との熱的接触の結果として,この場合,冷却する。もし皮膚(表皮)の冷却が必要ならば,導波管5は,照射の前,間及び/又は後に冷却され得る。導波管5を冷却するための模範的な技術は,後述される。 【0025】 との記載があり, 」 ( ) 同記載によれば,引用例2記載の装置においては,@装置構成要素(ランプ2,反射板3,吸収フィ ルター)の冷却及びA皮膚の冷却を要することが認められる。そして,上記記載に加え,@装置構成要素の冷却に関し, 「ランプは,間隙7内のガスによって冷却され得,また,高い繰返し率及び高平均電力では,間隙7内の液体による。【0058】, ( 」 )「吸収フィルターは光で加熱され,また冷却を要する。…間隙7内の液体又は気体がランプと同時にフィルターを冷却し,該ランプは主要な熱源である。【0075】 ( 」 )との記載があり,他方,A皮膚の冷却に関しては,「表皮保護のための皮膚の冷却」が導波管の機能の1つとして明示されており(【0060】,さらに, ) 「冷却」という項目が設けられ(【0078】〜【0083】, )「提案装置において,皮膚冷却は,導波管5の冷却チップとの接触を通じて実施される。導波管5を冷却するためのいくつかの機構があり得る。( 」【0078】)との記載に続いて,導波管5を冷却するための複数の機構が具体的に紹介されている(【0078】〜【0083】。
) したがって,引用例2記載の装置においては,@装置構成要素の冷却には,ランプ2と管4との間隙7内の液体又は気体が用いられ,A皮膚の冷却は,導波管5の冷却により行われることが認められる。
(イ) 導波管の冷却について 前記(ア)のとおり, 「冷却」という項目の下,導波管5を冷却するための複数の機構が具体的に紹介されているところ,それらは,いずれもフィルター6を含む任意の場所に設けられた液体水フィルターの水及び間隙7内の液体又は気体を導波管5の冷却に使用するものではない。
前記イ(ア)dのとおり, 【0076】には,光スペクトルのフィルター処理の一態様として,フィルター6を, 「液体が凍結された際の整合屈折率Δn≒0を有する液体(例えば水)及び固体状態の粒子の懸濁として形成」することが記載されており(懸濁フィルター),上記記載の後に「導波管5の温度(0℃周辺)は,液体が完全に融解するまでフィルター6の融解温度に留まる。この時間は,良好な冷却による皮膚の処置に使用され得る。」と記載されていることから,懸濁フィルターは,導波管5の冷却により皮膚を冷却するものと認められる。
(ウ) 液体水フィルターによる冷却について a 懸濁フィルターとの関係について 懸濁フィルターについては,前記イ(ア)dのとおり,【0076】には,「フィルター処理は,屈折率に対する共振散乱を用いることで実行され得る。例えば,波長λでの冷却液体の屈折率と一致する粒子66の屈折率を選ばせる。…液体中の媒体の屈折率及び結晶条件は,非常に異なる。そのため,融解後,液体6は,ビームの著しい減衰を有する高散乱板になる。6がその冷却能力を失うと,組織における流束量は,従って,自動的に下がり,組織を損傷から保護する。」との記載があることから,懸濁フィルターは,屈折率に対する共振散乱を利用したスペクトル共振散乱体であると解される(前記ア(ウ))。したがって,懸濁フィルターにおいて,これに入射した波長λの光の透過率は,主として波長λにおける凍結した液体(氷)と固体粒子との屈折率の差に応じて決まるものと認められる。
他方,液体水フィルターは,水を吸収媒体として用いる吸収フィルターであるから,これに入射した波長λの光の透過率は,主として波長λと水の赤外線吸収ピークとの差に応じて決まるものと認められる。
以上のとおり,スペクトル共振散乱体である懸濁フィルターと吸収フィルターの一種である液体水フィルターとは,明らかに動作原理を異にする。
また, 【0076】の上記記載のとおり,懸濁フィルターは,凍結した液体が融解すると光を著しく減衰させる高散乱板になるのであるから,光スペクトルのフィルターとして作用するのは,液体の凍結時のみであり,融解後は同フィルターとして作用しない。したがって,懸濁フィルターは,液体状のものをフィルターとして使用するものではない。
以上によれば,液体水フィルターと懸濁フィルターとは,別個のものであるということができる。
b 本件審決が認定した引用発明2における液体水フィルターは,フィルター6の場所に設けられたものであるが,その水を皮膚の冷却に用いることは,引用例2 に記載も示唆もされていない。なお,前記イ(イ)のとおり,液体水フィルターには,間隙7内の水を吸収フィルターとして用いるものもあるが,引用例2には,間隙7内の水についても,これを皮膚の冷却に用いることは,記載も示唆もされていない。
また,この点に関し,液体水フィルターについては, 「厚さ1〜3mmの液体水フィルターが使用され得,この水は,冷却用にも使用され得る」【0077】 ( )との記載があるところ,液体水フィルターには,間隙7内の水を吸収フィルターとして用いるものとフィルター6を含む任意の場所に設けられるものがあるが,@前記ウのとおり,装置構成要素の冷却には,間隙7内の液体が用いられること,Aいずれの液体水フィルターについても,1〜3mmの厚さに薄く広げられた水が導波管5の冷却を介して皮膚1を冷却する効果をもたらすとは必ずしもいい難いことから,上記「冷却用」 ランプなどの装置構成要素の冷却用を意味するものと考えられる。
は, c 以上のとおり,液体水フィルターは,皮膚を冷却するものということはできない。
したがって,本件審決が認定した引用発明2(前記第2の3?)のうち, 「患者の皮膚の処置のため,ランプからの光を導波管を通じて患者の皮膚へ向けるための装置において,光スペクトルのフィルター処理を行なうためにフィルター6を設け,フィルター6を液体水フィルターと」することは認定できるが,この水を 「 (皮膚の)冷却用にも使用すること」までは認定することができない。
? 引用発明1に引用例2に記載された発明を適用することについて 引用例2に記載された発明は, 「患者の皮膚の処置のため,ランプからの光を導波管を通じて患者の皮膚へ向けるための装置において,光スペクトルのフィルター処理を行なうためにフィルター6を設け,フィルター6を液体水フィルターとすること」であり,この液体水フィルターの水を皮膚の冷却用に使用することは,認められず,したがって,仮に引用発明1の「プリズム6及びプリズム6の側面のコーティングからなる光学的フィルター」を引用例2に記載された液体水フィルターに替えたとしても,光学的フィルターが生物組織を冷却するという相違点に係る本願発 明の構成に至らない。
? 被告の主張について ア 被告は,本件審決が認定した引用発明2の「フィルター6」としての「液体水フィルター」には,懸濁フィルターと「液体水フィルター」【0077】 ( )の双方が含まれ,本件審決は,当業者であれば,引用例2に記載された「冷却用」との文言が患者の皮膚の「冷却用」を意味するものと認識することができ,仮に,そうではないとしても,液体水フィルターが患者の皮膚に対する冷却効果をもたらすことは認識することができると把握した上で,液体水フィルターを患者の皮膚を冷却するための手段として認定したのであり,同認定に誤りはない旨主張する。
しかし,前記?のとおり, 【0077】の「液体水フィルター」と懸濁フィルターとは明らかに動作原理を異にする上, 「液体水フィルター」が間隙7内の水を吸収フィルターとし,光スペクトルのフィルターとして常時作用するのに対し,懸濁フィルターが上記作用をするのは液体の凍結時に限られるという相違があることから,両者は全く別個のものである。引用例2においても,両者は明確に分けて記載されており,懸濁フィルターについて記載された【0076】中,「液体水フィルター」という文言は見られず,また,両者の上位概念として「液体水フィルター」という文言が使用されている例もない。
以上に鑑みると,本件審決が認定した引用発明2の「液体水フィルター」は, 【0077】の「液体水フィルター」を指し,懸濁フィルターはこれに含まれないと解するのが自然である。そして,前記?のとおり「液体水フィルター」は,皮膚を冷却するものということはできない。
イ 被告は,液体水フィルター等の冷却手段による冷却能力は,光の強さ,光の照射時間,導波管の長さ,導波管の熱容量,液体水フィルターの温度,治療開始時の導波管の温度等に依存するものであるから,引用発明2のフィルター6を液体水フィルターとした場合,当業者であれば,液体水フィルターによって患者の皮膚を冷却する効果を実現するために必要な設計変更を行うことは可能である旨主張する。
この点に関し,引用例2において,液体水フィルターについては, 「厚さ1〜3mmの液体水フィルターが使用され得」ると記載されており(【0077】,前記?ウ )(ウ)のとおり,そのように薄く広げられた水が導波管の冷却を介して皮膚を冷却する効果をもたらすとは必ずしもいい難い。しかし,水に入射した光の透過率は水の層が厚くなるほど低下することに鑑みると,上記厚さは,皮膚の美容及び医療の皮膚科学処置という装置Dの目的(【0019】)を達成するのに必要な光の量を確保する観点から定められたものとみることができるから,皮膚を冷却するために液体水フィルターをより厚いものにすると,光の透過率が低下し,上記目的を達成する装置Dの機能を損なう結果になる。よって,当業者において,原告主張に係る設計変更を行うことが可能であると直ちにいうことはできない。
? 小括 以上によれば,本願発明は,引用発明1及び引用例2に記載された発明に基づいては容易に想到することができるということはできず,本件審決の判断は,誤りである。
5 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由には理由があり,本件審決は取消しを免れない。
よって,原告の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 部眞規子
裁判官 鈴木わかな
裁判官 片瀬亮