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関連審決 訂正2002-39234
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  均等 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  独立特許要件 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 157号 審決取消請求事件
原告 イビデン株式会社
訴訟代理人弁護士 木下洋平
同 弁理士 小川順三
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 出口昌哉
同 神崎潔
同 高橋泰史
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/06/16
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が訂正2002-39234号事件について平成15年3月18日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「電子回路部品搭載用基板」とする特許第3181193号発明(平成7年6月19日特許出願〔以下「本件特許出願」という。〕,平成13年4月20日設定登録,以下,その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。原告は,平成14年11月5日,本件特許出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載の訂正(以下「本件訂正」といい,本件訂正に係る明細書を「訂正明細書」という。)をする訂正審判の請求をし,特許庁は,同請求を訂正2002-39234号事件として審理した上,平成15年3月18日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月28日,原告に送達された。
2 訂正明細書の特許請求の範囲記載の発明の要旨 【請求項1】スルーホールを有するベース基板の一方の面の所定箇所に第1の接続端子群が密集した状態で形成され,その反対側の面の少なくとも外周部に第2の接続端子群が形成され,第1の接続端子群と第2の接続端子群とがスルーホールを介して電気的に接続されてなる電子回路部品搭載用基板において, 前記ベース基板は,樹脂製の基材からなり,この基板の第1の接続端子群が形成される側には,内層導体層と粗化面が形成された樹脂からなる絶縁層とが交互に積層され,内層導体層同士がバイアホールにて電気的に接続され,また内層導体層がスルーホールと電気的に接続されたビルドアップ多層配線層が形成されてなり,前記第1の接続端子群は,該ビルドアップ多層配線層の最外層に形成されるとともに,前記第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子は,バイアホールを介して前記ビルドアップ多層配線層の内層導体層と電気的に接続され,前記第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子よりも外側に位置する接続端子は,基板外周部に向かって延びる外層導体層に接続されてなることを特徴とする電子回路部品搭載用基板。
【請求項2】スルーホールを有するべース基板の一方の面の所定箇所に第1の接続端子群が密集した状態で形成され,その反対側の面の少なくとも外周部に第2の接続端子群が形成され,第1の接続端子群と第2の接続端子群とがスルーホールを介して電気的に接続されてなる電子回路部品搭載用基板において, 前記ベース基板は,樹脂製の基材からなり,この基板の両面には,内層導体層と粗化面が形成された樹脂からなる絶縁層とが交互に積層され,内層導体層同士がバイアホールにて電気的に接続され,また内層導体層がスルーホールと電気的に接続されたビルドアップ多層配線層が形成されてなり,前記第1の接続端子群及び第2の接続端子群は,それぞれ該ビルドアップ多層配線層の最外層に形成されるとともに,前記第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子及び第2の接続端子群を構成する各接続端子は,バイアホールを介して前記ビルドアップ多層配線層の内層導体層と電気的に接続され,前記第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子よりも外側に位置する接続端子は,基板外周部に向かって延びる外層導体層に接続されてなることを特徴とする電子回路部品搭載用基板。
(以下,【請求項1】,【請求項2】の発明を「訂正発明1」,「訂正発明2」という。) 3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,訂正発明1,2は,いずれも,特開昭56-114361号公報(審判第1引用例・本訴甲3,以下「第1引用例」という。),特開平2-268456号公報(審判第2引用例・本訴甲4,以下「第2引用例」という。),特開昭63-152159号公報(審判第3引用例・本訴甲5,以下「第3引用例」という。),特開平6-275959号公報(審判第4引用例・本訴甲6,以下「第4引用例」という。),特開平5-235546号公報(審判第5引用例・本訴甲7,以下「第5引用例」という。),特開平5-299846号公報(審判第6引用例・本訴甲8,以下「第6引用例」という。)及び特開平5-251511号公報(審判第7引用例・本訴甲9,以下「第7引用例」という。)記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許出願の際独立して特許を受けること(以下「独立特許要件」という。)ができるものではないから,本件訂正請求は,平成6年法律第116号による改正前の特許法126条3項の規定を満たすものとはいえないとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,第1引用例記載の発明(以下「第1引用例発明」という。)の認定を誤り(取消事由1),訂正発明1と第1引用例発明との一致点の認定を誤り(取消事由2),訂正発明1と第1引用例発明との相違点についての判断を誤り(取消事由3),また,訂正発明2の進歩性の判断を誤った(取消事由4)結果,訂正発明1,2が独立特許要件を欠くとの誤った判断をしたものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(第1引用例発明の認定の誤り) (1) 審決は,第1引用例(甲3)について,「ヘ> 第1引用例の第1図に示されている,半導体容器(2)の絶縁体層の表面(上面)には,導電体層(212)と共に,半導体装置(1)の各端子(11)と対応関係にある接続端子群が形成されているとみるべきであって,その形成の態様は,第3図に示されている配置状態からみて,『密集した状態』といえるし,同様に,半導体容器(2)の絶縁体層の裏面(下面)側の『少なくとも外周部』に,上記イの『各外部リード端子』(214)を接続するための『接続端子群』が形成されている」(審決謄本5頁最終段落〜6頁第1段落),「ト> 同じく第1図では,半導体装置(1)の各端子(11)と対応関係にある接続端子群のうちの,中央部に位置する接続端子はスルーホールを介して内層の導体層と接続され,外側に位置する接続端子は外周に向かって延びる外層導体層に接続されることが示されている」(同6頁第2段落)と認定したが,誤りである。
(2) 上記認定ヘについて,第1引用例の第3図は,第2図の拡大図であって,第1図とは無関係であり,第3図に示されているものが密集しているからといって,第1図の端子(11)も密集していることにはならない。また,第1図は,外周部分が省略された図面であり,「少なくとも外周部」に接続端子が形成されているかどうかが全く不明である上,第1図に開示されている3本のピンのうち裏面側の2本が,半導体装置(1)の直下にあり,外周に存在しているものとはいえない。
(3) また,上記認定トについて,第1引用例の第1図からは,訂正発明1の第1接続端子群に相当するもののうち,基板中央部に位置する接続端子よりも外側に位置する接続端子への接続を,ビルドアップ樹脂絶縁層の外表面に形成されている,基板外周部に向って延びる外層導体層に接続することによって果たすという構成を読み取ることはできない。半導体装置(1)よりも外側のピンにつながる配線の引き回しは,いったん内側へ寄せて,再び外側へ引き出されている。すなわち,最も右側に位置する接続端子は,外周導体によって外側へ引き出された後,再び内側に戻されており,ピンの一つの位置が,たまたま半導体装置(1)の直下から外れているからといって,直ちに,接続端子群が外周にあることにはならない。
(4) さらに,第1引用例の第1図記載の半導体容器の基板は,セラミック基板であることを必須の要件としているから,そのセラミック基板を含んだ半導体容器の基板と樹脂絶縁層とを同時に高温焼成することになるが,その結果として,当然,樹脂絶縁層は焼失してしまうため,厚い樹脂絶縁層を採用した場合に層数を少なくすることができ,小型化を実現できるとともに,外層導体層のはく離を防止することができるという訂正発明1の効果を得ることはできないから,第4引用例及び第5引用例に開示されたビルドアップ多層配線層の形成手法に適用する阻害要因を有するものである。審決は,第1引用例が,上記適用阻害要因,すなわち,セラミック基板であることを必須の要件としていることを看過したものである。
2 取消事由2(訂正発明1と第1引用例発明との一致点の認定の誤り) (1) 審決は,訂正発明1と第1引用例発明とを対比し,「第1引用例の・・・『複数の絶縁体層』(211)及び『絶縁体面に選択的位置を占めて形成された導電体層』(212)は,『スルーホールを通して両面の導電体層(212)間を接続する接続部』(213)が設けられているところから,訂正発明(注,訂正発明1)でいう『スルーホールを有するベース基板』に相当するものを含むといえる」(審決謄本6頁第4段落)とした上,両者の一致点として,「スルーホールを有するベース基板の一方の面の所定箇所に第1の接続端子群が密集した状態で形成され,その反対側の面の少なくとも外周部に第2の接続端子群が形成され,第1の接続端子群と第2の接続端子群とがスルーホールを介して電気的に接続されてなる電子回路部品搭載用基板において,前記第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子よりも外側に位置する接続端子は,基板外周部に向かって延びる外層導体層に接続されてなる電子回路部品搭載用基板」(同頁<一致点>)である点を認定したが,誤りである。
(2) 審決の認定した第1引用例発明は,「第1引用例(注,甲3)の上記イ[注,「従来のこの種の半導体装置を収容した容器構成の概要を第1図に示してある。この第1図において,(1)は半導体装置を示し,(11)はこの半導体装置(1)に設けられた各端子である。また,(2)は半導体容器を示し,(211)は通常,セラミックからなる複数の絶縁体層,(212)はこの絶縁体面に選択的位置を占めて形成された導電体層,(213)はこの絶縁体層(211)のスルーホールを通して両面の導電体層(212)間を接続する接続部,(214)は各外部リード端子である」との甲3の1頁左下欄最終段落〜右下欄第1段落の記載]並びに第1図に記載された発明」(審決謄本6頁第6段落),すなわち,従来例の発明であり,第1導電体層を印刷した複数枚のセラミック製グリーンシート(絶縁層となるもの)を一体に積層し,これを高温で焼成したものであるから,訂正発明1のような,その上に樹脂絶縁層を順次に積層してビルドアップ配線層を形成するためのベース基板が存在しているということはできない。一般に,ベース基板というには,その上に形成するビルドアップ多層配線層を順次形成できる程度の剛性が必要であり,ビルドアップ多層配線層が形成される時点では,少なくとも,自重で変形したり収縮しないなどの定形保持性が必要不可欠である。これに対し,グリーンシートは,セラミックの粉をバインダで固めたものであり,可とう性があるため,自重でたわんで大きく変形してしまうものである。しかも,グリーンシートは,焼結時に収縮するため,このことがビルドアップ層の形成を不可能にしている。すなわち,ベース基板の上に順次積層させて焼結させる場合,ベース基板としてガラスエポキシ基板のような収縮をしないものを用いるとすれば,収縮しないべース基板と収縮する絶縁体層とを積層することになるから,互いの収縮率が変わってしまい,べース基板のスルーホールとその上に積層される導電体層との間で位置ずれが生じ,電気的接続が得られなくなる。また,べース基板としてグリーンシートを採用したとしても,ビルドアップによって順次積層するとすれば,ベース基板に近い下層ほど何回も焼成することになるから,各絶縁体層ごとに収縮率が変わってしまい,べース基板のスルーホールとその上の導電体層との間で位置ずれが生じ,やはり電気的接続が得られない。したがって,第1引用例の第1図に示す多層セラミック基板の例では,複数のグリーンシートを一括して積層成形することが求められるものである以上,ベース基板を採用することはない。現に,第1引用例の第1図の説明は,すべて「絶縁体層(211)」として表記され,「ベース基板」に相当するような表記はない。
訂正発明1では,電子回路部品搭載用基板において,その片面ビルドアップ多層配線層の樹脂絶縁層の層数を減らすために,少なくとも,第1の接続端子群からの配線引き回しを,中央部に位置する端子からのものについては,バイアホールを介して,基板外周部に向って順方向に配線されている内層導体層を使って行う形態,及び中央部に位置する端子以外の端子からのものについては,ビルドアップ多層配線層の最外層(粗化された樹脂絶縁層)の表面において,基板外周部に向って延びる外層導体層を使って行う形態という役割の異なる2種類の配線形態を,一つの基板中に配設することにより,外周部への配線引き回しに必要な面積を少なくしている。この2種類の配線形態を形成するために,ビルドアップ多層配線層が必要となり,ビルドアップ多層配線層を形成するために,べース基板の採用が必要不可欠となっている。これに対し,第1引用例(甲3)の第1図のセラミック多層配線基板には,上記2種類の配線形態を形成するためのビルドアップ多層配線層とべース基板とのいずれもが存在せず,すべて絶縁体層で構築されている。
審決は,第1引用例発明と訂正発明1とは,ベース基板の存在で一致し,ビルドアップ多層配線層を形成することは言及がない点で相違する旨の認定をしたが,上記べース基板の存在意義を考慮すると,ベース基板が存在すれば,必然的にビルドアップ多層配線層も存在するはずであり,矛盾する認定というべきであり,このことは,第1引用例(甲3)の上記従来技術に関する,「従来例の構成では,収容すべき半導体装置(1)が異なった場合には,それぞれに異なった容器を準備する必要があり,殊に複数個の半導体装置(1)を収容するのには,半導体容器(2)自体の汎用性が著るしく損なわれるものであった。この発明(注,第1引用例発明)は,従来のこのような欠点に鑑み,半導体容器を2つの部分とし,一方を従来と同様ではあるが用途によらない共通の形状のもの,他方を従来よりも低温でかつ精度が高く用途に合わせた形状のものに構成したことを特徴としている」(1頁最終段落〜2頁第1段落)との記載からも理解できる。上記記載は,第1引用例の第1図記載のものが,導体層を有する複数のセラミック製絶縁体層を一括して一体に成形したものと考えられることから,汎用性が劣るといっているのであり,第1引用例の上記絶縁体層は,正しく単なる絶縁体層であって,べース基板といえるものではなく,このことは,第1引用例の第2図では,上記従来例の欠点を克服し,汎用性を付与するために,わざわざ多層配線部分(221)と信号線のような導電体層を持たないモジュール基板部分(21)とに分けて成る半導体容器を提案していることからも分かる。
3 取消事由3(訂正発明1と第1引用例発明との相違点についての判断の誤り) (1) 相違点1について ア 審決は,訂正発明1と第1引用例発明との相違点1として認定した,「ベース基板の素材に関し,訂正発明(注,訂正発明1)では,『樹脂製の基材』からなるとされているのに対し,第1引用例(注,甲3)では,『セラミック』の例示があるにとどまる点」(審決謄本6頁<相違点1>,以下「相違点1」という。)について,「第1引用例においても『通常,セラミックからなる複数の絶縁体層』(上記イ〔注,1頁左下欄最終段落〜右下欄第1段落の記載〕)と記載されており,上記基板材料として,セラミック以外のものを用いることが排除されているわけではないから,第1引用例記載の発明(注,第1引用例発明)において,ベース基板の素材として例示されているセラミックに代えて,樹脂製の材料を採用することは,当業者が容易になし得る設計事項といえる」(同7頁「(1)相違点1について」)と判断したが,誤りである。
イ 第1引用例発明,すなわち,第1引用例の第1図の発明は,セラミックですべて一体成形したもので,汎用性に劣り,その結果として,汎用基板的な部分(用途によらないモジュール基板部分)と専用部分(用途に合わせた多層配線部分)とを分けて作る必要が生じたのである。だからこそ,第1引用例発明では,わざわざ,「通常,セラミックからなる複数の」と記載しているのであり,「セラミック以外のものを用いることが排除されているわけではない」としても,「樹脂基板」を指すことにはならない。審決は,第1引用例発明にベース基板が存在することを前提とした上で,その素材について,セラミックと樹脂との代替が容易であるとするものであるが,存在しないベース基板の素材を議論している点で,明らかに失当である。
そもそも,セラミックグリーンシートの一括積層法において,セラミックグリーンシートの使用に代えて,樹脂系材料を使うこと自体に無理がある。一般に,当業者がセラミックグリーンシートに代わる樹脂シートとして考えるとしたら,プリプレグ以外にはない。プリプレグは,昭和60年3月20日工業調査会発行「多層プリント配線板キーワード100」38頁〜47頁,94頁〜101頁(甲16,以下「甲16刊行物」という。)の96頁の図32.2及び97頁の図32.3にあるように,内装銅箔と積層し加熱プレスして,多層プリント配線板として使用されるものであり,プリプレグに,第1引用例の第1図のようなグリーンシート積層法に従い,バイアホールを形成して積層した場合,「樹脂がプレスで溶融軟化する」(甲16刊行物の39頁下から第2段落)ため,バイアホールと配線との間に樹脂が流れ込んで,接続することができなくなるから,通常は,上記図32.2及び甲16の97頁下から第2段落に記載されているように,各層にバイアホールを形成するのではなく,貫通孔を設け,その内周面めっきを施してスルーホールを形成し,このスルーホールを介して各層間の導通を確保している。すなわち,樹脂シート(プリプラグ)を使用する場合,セラミックグリーンシートの単純な一括積層法のようにして,バイアホールを介して層間接続を図る多層配線板を形成することはできないから,第1引用例発明の絶縁層を樹脂に代えることは,障害が大きすぎて到底できないことである。
(2) 相違点2について ア 審決は,訂正発明1と第1引用例発明との相違点2として認定した,「訂正発明(注,訂正発明1)では,ベース基板の第1の接続端子群を設ける側に『内層導体層と粗化面が形成された樹脂からなる絶縁層とが交互に積層され,内層導体層同士がバイアホールにて電気的に接続され,また内層導体層がスルーホールと電気的に接続されたビルドアップ多層配線層』が形成されるのに対して,第1引用例(注,甲3)の上記イ及び第1図では,『ビルドアップ多層配線層』を形成することに関する言及がない点」(審決謄本7頁<相違点2>,以下「相違点2」という。)について,「半導体容器基板の,『ベース基板』に対応する基板の表面に,上記周知の技術事項である『粗化面が形成された樹脂からなる絶縁層』を積層する,『ビルドアップ』による多層配線層を形成することは格別困難とはいえない」(同7頁〜8頁「(2)相違点2について」)と判断したが,誤りである。
イ 訂正発明1は,べース基板とは異なる第1引用例発明のようなものの上に,ビルドアップ多層配線層を順次に積層して形成するものではない。すなわち,訂正発明1は,1層から成るべース基板の上に,外層導体層を作るために,粗化面を有するビルドアップ多層配線層を順次に積層したものであり,このような構成は,第1引用例と周知の技術事項との組合せから導かれるものとはいえない。
(3) 相違点3について ア 審決は,訂正発明1と第1引用例発明との相違点3として認定した,「訂正発明(注,訂正発明1)では,第1の接続端子群は,『該ビルドアップ多層配線層の最外層』に形成されると共に『第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子は,バイアホールを介して前記ビルドアップ多層配線層の内層導体層と電気的に接続され』るのに対して,上記のとおり,第1引用例(注,甲3)の上記イ及び第1図では,『ビルドアップ多層配線層』を形成することに関する言及がなく,したがって,第1引用例記載の発明では第1の接続端子群が『該ビルドアップ多層配線層の最外層』に形成されることや,『第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子は,バイアホールを介して前記ビルドアップ多層配線層の内層導体層と電気的に接続され』ることについての言及はない点」(審決謄本7頁<相違点3>,以下「相違点3」という。)について,「第1引用例記載の発明(注,第1引用例発明)における『ベース基板』に対応する基板の表面に,『粗化面が形成された』樹脂からなる絶縁層を積層する,多層配線層を形成した場合には,当該粗化面が導電体層との接着性に優れるため,第1引用例の第2図に示されるような絶縁体層(222)を最外層に配置する必要がなくなり,「ビルドアップ多層配線層の最外層」には導電体層が配置されることになるから,当該最外層に,『第1の接続端子群が形成』されると共に,『第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子』が,『バイアホールを介して前記ビルドアップ多層配線層の内層導体層と電気的に接続され』る構成とすることは,第1引用例に関しての上記へ及びトの認定事項等を考慮すれば当業者が容易に想到できる設計事項といえる」(同8頁「(3)相違点3について」)と判断したが,誤りである。
イ 訂正発明1の特徴は,上記のとおり,役割の異なる2種類の配線形態を,一つの基板中に配設することにより,外周部への配線引き回しに必要な面積を少なくし,ひいては外周部への配線引き回しに必要となる樹脂絶縁層の層数を減らし,このことによって,基板の厚さを薄く,かつ,小型化し,さらに,外層導体であるために生ずるはく離の問題を,最外層樹脂絶縁層の表面を粗化するという方法により解決したことにある。訂正発明1の役割の異なる2種類の配線形態を,基板上に順次に積層したビルドアップ多層配線層の部分に形成することは,第1引用例や他の引用例の記載からうかがい知ることはできない。
ウ また,審決は,請求人(原告)の「第1引用例では,ビルドアップ用の絶縁層材料として,『表面平滑度が良好』なポリイミドが例示されていることをもって,第1引用例記載の発明(注,第1引用例発明)では,絶縁層『表面の粗化を否定』しているとして,訂正発明における『外層導体層』が(最上層として)形成される構成は第1引用例に示唆されていない」(審決謄本8頁下から第2段落)旨の主張に対し,「第1引用例(注,甲3)の第2図では,たしかに最上の導電体層(導体層)の上に更に最上層の『絶縁体層221』が形成される状態が示されているが,当該『絶縁体層221』を形成する技術的な意義についてみると,第1引用例(上記ニ)に,『(導電体層と)前記絶縁体層(221)との密着性をよくするためには,これらを多層構造にするのがよい』という記載があることから,上記の最上層の『絶縁体層』は,最上の導電体層と,当該導電体層が形成される絶縁体層との『密着性』の不足を補うための保護層として設けられていると解される」(同9頁第2段落)と認定したが,誤りである。
第1引用例には,「導電体層(222)としては,Mo,W,Cr,Cuなどの低抵抗金属を用いるのが望ましく,かつ前記絶縁体層(221)との密着性をよくするためには,これらを多層構造にするのがよい」(2頁右上欄最終段落〜左下欄第1段落)と記載されているが,この記載は,「上記最上層の『絶縁体層』は最上の導電体層と,当該導電体層が形成される絶縁体層との密着性不足を補うための保護層として設けられている」ことの根拠にはならない。一般に,CrやTiはポリイミドとの密着性に優れるが,Cuは密着性不足であることがよく知られており,一方で,Cuの方がCrやTiよりも低抵抗であることも知られているのであって,CrやTi層を形成し,その上にCu層を形成した多層構造とすることにより密着性と低抵抗を実現する方法が採用されている(特開昭60-214544号公報〔甲10〕)ことに照らすと,上記記載は,このことを説明しているにすぎないというべきである。したがって,上記の誤った認定を前提とした,「多層配線層の『ビルドアップ』に際して,周知の技術事項である『粗化面が形成された樹脂からなる絶縁層』を積層した場合には,最上の導電体層も当然に当該『粗化面』の上に形成され,導電体層と絶縁体層との密着性が向上することになるから,必ずしも,第1引用例の第2図に示されるような,最上層となる『絶縁体層221』を形成する必要はなくなるし,しかも,第1引用例第1図では,最上の導電体層を『外層導体層』とすることも開示されていることを考慮すれば,請求人(注,原告)の上記主張は合理的なものといえず,採用することはできない」(審決謄本9頁第3段落)とした判断も,誤りである。
(4) 訂正発明1の顕著な作用効果について 上記したところから明らかなように,訂正発明1の「高密度化及び小型化を達成することができる」(訂正明細書〔甲15添付〕の段落【0006】)との作用効果は,第1ないし第7引用例には開示されていない。また,審決は,第1の接続端子群から第2の接続端子群に向けて配線の引き回しを,下層の内層導体回路にバイアホールを介して接続させる配線形態と,樹脂絶縁層の表面層に形成した外層導体層を介して外周に向けて引き出す形態を同時に採用することと,層数を減らして小型化できることとの因果関係について,周知であることを示す証拠も提示せず,訂正発明1の作用効果について具体的な判断をしていないのであって,判断の遺脱がある。
4 取消事由4(訂正発明2の進歩性の判断の誤り) (1) 審決は,訂正発明2について,「訂正発明(注,訂正発明1)と同様に,上記第1〜第7引用例に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものといえる。また,上記のような『両面にビルドアップ多層配線層を形成する』構成を採用した場合,『反りを防止するため』の『ダミーのビルドアップ層が不必要』になる・・・のは当然のことであり,そのような当然のことをもって,格別の作用効果とみることはできない」(審決謄本9頁最終段落〜10頁第2段落)として進歩性を否定したが,誤りである。
(2) 訂正発明2は,訂正発明1の要旨構成を前提として,基板を挟む両側にビルドアップ多層配線層を有する点に特徴がある。すなわち,訂正発明2の特徴は,第1の接続端子群とベース基板の反対側の第2の接続端子群との接続に当たり,第1の接続端子群の中央部に位置するものは,この内層導体層を基板外周部に向けて配設される内層導体層を介して接続する形態と中央部に位置する接続端子よりも外側に位置する接続端子は粗化された最外層樹脂絶縁層上に形成した基板外周部に向って延びる外層導体層を使って接続する形態との,役割の異なる2種類の配線形態を採用することにより,配線引き回しの面積を増やすことなく,外周部への配線引き回しに必要となる層数を減らして小型化し,さらに,このような外層導体を採用することで生じる外層導体のはく離の問題をも解決したところにある。しかも,訂正発明2は,上記問題の解決を,反りの発生を抑制しつつ実現した点にも特徴がある。これに対し,第1ないし第7引用例には,基板の両側にそれぞれ積層形成されたビルドアップ多層配線層が最外層導体層を利用し,役割の異なる2種類の配線形態を一つの基板中に一緒に配設するという訂正発明2の構成については,記載も示唆もない。
被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(第1引用例発明の認定の誤り)について (1) 第1引用例(甲3)には,「第2図および第3図において,前記第1図と同一符号は同一または相当部分を示しており,この実施例では,従来と同様に・・・半導体容器(2)を構成させ,半導体装置(1)は多層配線部分(22)上の導電体層(222)に接続配置したものである」(2頁左上欄最終段落〜右上欄第1段落)と記載されるとともに,第1図においても,第2図及び第3図と同一の符号「(1)」により半導体装置が示されているところから,半導体装置自体の態様は,第1図に示されているものと第2図及び第3図に示されているものとの間で基本的に相違していないとみるべきである。そして,半導体装置の接続端子(電極)群は,通常は「密集した状態」で設けられるから,当該「半導体装置の接続端子群」と対応関係にある半導体容器(2)側の接続端子群も,同様に「密集した状態」となることは明らかである。また,そもそも半導体容器を形成する目的の一つは,上記の密集状態を緩和して比較的大きな面積にまばらな状態で配線パターンを形成することにより,下側の基板への実装(装着)を容易にすることにあるから,半導体容器(2)裏面(下面)側の「少なくとも外周部」に,各外部リード端子(214)を接続するための「接続端子群」が形成されるのは当然のことである。
(2) 第1引用例(甲3)の第1図には,半導体装置(1)の右側の端子(11)及び左側の端子(11)は,上側の絶縁体層(211)上に形成された外周側に向かって延びる導電体層(212)に接続されていることが明確に示されており,訂正発明1の第1接続端子群に相当するもののうち,基板中央部に位置する接続端子よりも外側に位置する接続端子への接続を,ビルドアップ樹脂絶縁層の外表面に形成されている,基板外周部に向って延びる外層導体層に接続することによって果たすという構成を読み取ることができる。また,ビルドアップ樹脂絶縁層について,審決は,第1引用例の第1図の記載のみから,ビルドアップ樹脂絶縁層に関する上記構成を読み取れるとしているわけではない。当該ビルドアップ樹脂絶縁層を設ける点については,第1引用例の第2図及びその関連記載並びに第4引用例(甲6)及び第5引用例(甲7)に開示されているような周知技術に基づいて,格別困難とはいえないとしているのである。
原告は,上記第1図の最も右側に位置する接続端子は,外周導体によって外側へ引き出された後,再び内側に戻されており,ピンの一つの位置が,たまたま半導体装置(1)の直下から外れているからといって,直ちに,接続端子群が外周にあることにはならないとも主張するが,基板下部の外部リード端子(214)の端子間間隔が,基板上部の半導体素子(1)の端子(11)の端子間間隔よりも明らかに大きくなっている以上,接続端子群の少なくとも一部は,基板外周部に存在することが明らかである。
(3) 原告は,第1引用例発明に第4引用例及び第5引用例に開示されたビルドアップ多層配線層の形成手法を適用すると,セラミック基板を含んだ半導体容器の基板と樹脂絶縁層とを同時に高温焼成する結果,樹脂絶縁層は焼失してしまうことになり,上記適用には阻害要因がある旨を主張する。しかしながら,セラミック基板に樹脂絶縁層を設ける場合は,セラミック部分はあらかじめ焼成しておけばよいのであるから,セラミック基板を使用することが樹脂絶縁層適用の阻害要因となることはない。
2 取消事由2(訂正発明1と第1引用例発明との一致点の認定の誤り)について (1) 訂正発明1のベース基板については,特許請求の範囲の【請求項1】に,「スルーホールを有するベース基板の一方の面の所定箇所に第1の接続端子群が密集した状態で形成され,その反対側の面の少なくとも外周部に第2の接続端子群が形成され,第1の接続端子群と第2の接続端子群とがスルーホールを介して電気的に接続されてなる」と記載され,ベース基板について,@「スルーホールを有する」こと,A「一方の面の所定箇所に第1の接続端子群が密集した状態で形成され」ていること,B「反対側の面の少なくとも外周部に第2の接続端子群が形成され」ていること及びC「第1の接続端子群と第2の接続端子群とがスルーホールを介して電気的に接続されてなる」ことの4要件を規定している。これを第1引用例(甲3)の第1図についてみると,同図に示されている「半導体容器(2)」を構成している基板は,「複数の絶縁体層(211)」,「導電体層(212)」,「接続部(213)」等からなるものであって(1頁右下欄第1段落参照),上記@〜Cの要件をすべて具備しているといえる。もっとも,訂正発明1では,請求項1の上記記載に続いて,ベース基板が「樹脂製の基材」から成る要件,ベース基板の「第1の接続端子群が形成される側には,内層導体層と粗化面が形成された樹脂からなる絶縁層とが交互に積層され,内層導体層同士がバイアホールにて電気的に接続され,また内層導体層がスルーホールと電気的に接続されたビルドアップ多層配線層が形成されてなり,前記第1の接続端子群は,該ビルドアップ多層配線層の最外層に形成される」要件が規定され,これらの要件は,第1引用例の第1図記載の「半導体容器(2)」の基板には欠けているが,審決は,これらの点は,相違点1及び2として認定している。
次に,第1引用例(甲3)の記載を検討すると,第2図及び2頁右上欄第2段落に記載されているように,従来例と同様の手段で,セラミックを基体とする絶縁体層(211)に導電体層(212)及び接続部(213)等から成るモジュール基板部分(21)を形成し,これに多層配線部分(22)をポリイミドなどの有機物で形成する場合,モジュール基板部分(21)は,多層配線部分(22)に対するベース基板,すなわち,原告主張に係る土台の機能を果たしているとみることができる。そして,第1引用例の第1図に記載される,従来の半導体容器(2)を構成する基板は,同第2図記載の従来例と同様の手段で形成したモジュール基板部分(21)と,構成が特に異なるところはないから,第1引用例の第1図記載の基板は,原告主張に係る層間絶縁層をビルドアップして形成する際に用いられる土台になり得るものを含んでいるということができ,第1引用例の第1図記載の半導体容器(2)を構成する複数の絶縁体層(211)と導電体層(212)は,スルーホールを有するベース基板を含むものということができる。
(2) 原告は,セラミック製グリーンシートがベース基板とはなり得ない旨をるる主張するが,セラミック基板を焼成する前の素材であるグリーンシートが,有機系の樹脂材料から成る絶縁層をビルドアップして形成する際のベース基板になり得ないのは当然のことであり,被告も,そのこと自体は争わない。しかしながら,第1引用例(甲3)の上記(1)の記載によれば,従来例と同様の手段で形成されるセラミックを基体とする絶縁体層(211)に,ポリイミドなどの有機物で他方の多層配線部分(22)を形成するのであるから,セラミックを基体とする絶縁体層がベース基板となり得ることは明らかである。
3 取消事由3(訂正発明1と第1引用例発明との相違点についての判断の誤り)について (1) 相違点1について 審決が第2引用例(甲4)及び第3引用例(甲5)を挙げて指摘したように,半導体容器(パッケージ)を構成する基板材料としては,セラミック及び樹脂のいずれもが,通常のものとして採用され得るし,第1引用例(甲3)においても,「通常,セラミックからなる」(1頁右下欄第1段落)絶縁体層と記載され,セラミック以外のものを用いることが全く排除されているわけではないのであるから,第1引用例記載の絶縁体層の材料として,セラミックに代えて,樹脂製の材料を採用することは,当業者が容易にし得る設計事項というべきである。
(2) 相違点2について 第1引用例(甲3)には,「前記実施例では,モジュール基板部分(21)について,絶縁体層(211)が一層の場合を述べたが,従来例でのように絶縁体層(211),導電体層(212)を多層構造としてもよいことは勿論である」(2頁左下欄第2段落)との記載があり,ビルドアップによる多層配線層を形成するベース基板(上記「モジュール基板部分(21)」が相当する。)を,1層とすることについて示唆がある。そして,粗化面が形成された樹脂から成る絶縁層を,ビルドアップによって多層に形成することは,周知の技術事項であるから,第1引用例の第1図記載の半導体容器の基板に関して,ベース基板に対応する基板の表面に,粗化面が形成された樹脂から成る絶縁層を,ビルドアップにより順次積層して多層配線層を形成することは,格別困難であるとはいえない。
(3) 相違点3について ア 第1引用例(甲3)の第1図に「半導体装置(1)の各端子(11)と対応関係にある接続端子群のうちの,中央部に位置する接続端子はスルーホールを介して内層の導体層と接続され,外側に位置する接続端子は外周に向かって延びる外層導体層に接続される」(審決謄本6頁第2段落)構成が開示されている以上,原告主張に係る2種類の配線形態については,第1引用例に示唆があるというべきである。しかも,審決が「7.付記」で指摘した特開昭64-32662号公報(乙1)の第1図及び第2図並びに特開平1-248589号公報(乙2)の第3図ないし第5図には,多層配線層の最外層に,外層導体層を設ける構成の開示こそないものの,中央部に位置する端子からのものについては,バイアホールを介して基板外周部に向って順方向に配線されている内層導体層を使って行う形態が,中央部に位置する端子以外の端子からのものについては,多層配線層の基板外周部に向って延びる導体層を使って行う形態がそれぞれ開示されている。基板の表面に,粗化面が形成された樹脂から成る絶縁層を積層する,多層配線層を形成した場合には,最外層樹脂絶縁層の当該粗化面が導電体層との接着性に優れることは,技術常識から明らかであるから,第1の接続端子群のうちの外側に位置する接続端子から外周に向けて引き出す導体層を,当該最外層に形成する構成に想到することは容易というべきである。
イ 第1引用例(甲3)の「多層構造にするのがよい」旨の記載が「導電体層」に関するもので,「絶縁体層」について説明した記載ではないことは,原告の主張するとおりであり,審決に引用例の誤解に基づく記載があることは認める。しかしながら,第1引用例の「絶縁体層(221)との密着性をよくするため」との記載は,導電体層と絶縁体層との「密着性」が不足することがあることを示唆していることは明らかであるから,第1引用例の上記記載が,最上層の絶縁体層が,当該密着性の不足を補うための保護層として設けられていると解する根拠になり得ないものではない。しかも,粗化面が形成された樹脂から成る絶縁層を積層する場合は,最上の導電体層も,当該粗化面の上に形成することになるのであるから,導電体層と絶縁体層との密着性が向上し,第1引用例の第2図に示されるような,最上層となる絶縁層を,必ずしも形成する必要がなくなることは,当然予測し得ることである。
(4) 訂正発明1の顕著な作用効果について 多層配線層のビルドアップに際して,周知の技術事項である粗化面が形成された樹脂から成る絶縁層を積層した場合には,最上の導電体層も当然に当該粗化面の上に形成されることになって,導電体層と絶縁体層との密着性が向上するから,必ずしも,第1引用例(甲3)の第2図に示されるような,最上層となる絶縁体層(221)を形成する必要はなくなり,その結果として,層数を減らして小型化できることは,第1引用例の第1図で,最上の導電体層を外層導体層とすることが開示されていることからも,容易に予測し得ることである。
4 取消事由4(訂正発明2の進歩性の判断の誤り)について 原告主張に係るビルドアップ多層配線層が最外層導体層を利用し,役割の異なる2種類の配線形態を一つの基板中に一緒に配設する点に関しては,上記1ないし3のとおりである。そして,基板の両面にビルドアップ多層配線層を形成することについては,第4引用例(甲6)及び第5引用例(甲7)に開示があり,そのような基板を半導体容器に採用することが特段に困難というべき理由はないし,この採用に伴って,基板の両側にそれぞれ積層形成されたビルドアップ多層配線層が最外層導体層を利用するものとなることは,当業者の当然想到し得るところである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(第1引用例発明の認定の誤り)について (1) 原告は,第1引用例(甲3)の第3図は,第2図の拡大図であって,第1図とは無関係であり,第3図に示されているものが密集しているからといって,第1図の端子(11)も密集していることにはならず,また,第1図は,外周部分が省略された図面であり,「少なくとも外周部」に接続端子が形成されているかどうかが全く不明である上,第1図に開示されている3本のピンのうち裏面側の2本が,半導体装置(1)の直下にあり,外周に存在しているものとはいえないから,第1引用例について,「ヘ> 第1引用例の第1図に示されている,半導体容器(2)の絶縁体層の表面(上面)には,導電体層(212)と共に,半導体装置(1)の各端子(11)と対応関係にある接続端子群が形成されているとみるべきであって,その形成の態様は,第3図に示されている配置状態からみて,『密集した状態』といえるし,同様に,半導体容器(2)の絶縁体層の裏面(下面)側の『少なくとも外周部』に,上記イの『各外部リード端子』(214)を接続するための『接続端子群』が形成されている」(審決謄本5頁最終段落〜6頁第1段落)とした審決の認定は誤りであると主張する。
第1引用例(甲3)には,第1図に示される「従来例による半導体容器」,及び第2図とその拡大斜視図である第3図に示される「この発明に係わる半導体容器」に関して,「従来のこの種の半導体装置を収容した容器構成の概要を第1図に示してある。この第1図において,(1)は半導体装置を示し,(11)はこの半導体装置(1)に設けられた各端子である」(1頁左下欄最終段落〜右下欄第1段落),「第2図および第3図において,前記第1図と同一符号は同一または相当部分を示しており」(2頁左上欄第4段落)との記載があり,これらの記載によれば,第1引用例の第1図ないし第3図においては,いずれも同一符号が同一又は相当部分を示すのであるから,第1図の半導体装置(1)と第3図の半導体装置(1)は同一又は相当な装置であるということができ,これらが異なる構成の装置であると理解すべき理由はない。そして,半導体容器(2)上面の端子は,半導体装置(1)の端子(11)に対応して設けられるものであり,半導体装置の接続端子(電極)群は,通常は「密集した状態」で設けられるものであるところ,第3図に示されている配置状態からみて,「密集した状態」ということができる。また,第1図の半導体装置1の下面側に設けられる,外部リード端子を接続するための接続端子群の配置については,第1引用例には明確な記載はないが,第1引用例の半導体容器(2)は,半導体装置(1)の端子の密集して配置された状態を緩和して,外部リードに引き出すものであることは,図面の記載及び技術常識に照らし明らかである。また,第1図及び第2図には,半導体容器(2)の下面に外部リードが均等に配置されていることが図示されているから,第1引用例発明の半導体容器の下面側に配置される接続端子群は,下面一面に均等に配置されているものと認められる。したがって,原告の上記主張は,理由がない。
(2) 原告は,第1引用例(甲3)の第1図からは,ビルドアップ樹脂絶縁層の外表面に形成されている外層導体層に接続するという構成を読み取ることができず,また,同図の最も右側に位置する接続端子は,外周導体によって外側へ引き出された後,再び内側に戻されており,ピンの一つの位置が,たまたま半導体装置(1)の直下から外れているからといって,直ちに,接続端子群が外周にあることにはならないから,「ト> 同じく第1図では,半導体装置(1)の各端子(11)と対応関係にある接続端子群のうちの,中央部に位置する接続端子はスルーホールを介して内層の導体層と接続され,外側に位置する接続端子は外周に向かって延びる外層導体層に接続されることが示されている」(審決謄本6頁第2段落)とした審決の認定は誤りであると主張する。
しかしながら,審決が,同図に示される半導体容器にビルドアップ樹脂絶縁層が存在すると認定したものではないことは,その説示に照らして明らかであるから,ビルドアップ樹脂絶縁層に関する原告の主張は理由がない。また,第1引用例の第1図には,半導体装置(1)の端子(11)のうち,左外側にある端子は,半導体容器(2)の上面に設けられる導電体層(212)のうち,左側に延びる導電体層に接続され,右外側にある端子は,同じく導電体層(212)のうちの右側に延びる導電体層に接続されることが示されている。さらに,第1図の最も右側に位置する接続端子は,外周導体によって右側に延びる導電体層に接続された後,左側に延びる導電体層に接続されているが,同図は断面図であり,その図示自体から,上記左側に延びる導電体層が内側に延びているということはできず,同図の上記図示から,原告主張のように,最も右側に位置する接続端子は,外周導体によって外側へ引き出された後,再び内側に戻されていることを読み取ることはできない。したがって,「外側に位置する接続端子は外周に向かって延びる外層導体層に接続されることが示されている」とした上記審決の認定に原告主張の誤りはない。
(3) さらに,原告は,第1引用例(甲3)の第1図記載の半導体容器の基板は,セラミック基板であることを必須の要件としているから,そのセラミック基板を含んだ半導体容器の基板と樹脂絶縁層とを同時に高温焼成することになるが,その結果として,当然,樹脂絶縁層は焼失してしまうため,厚い樹脂絶縁層を採用した場合に層数を少なくすることができ,小型化を実現できるとともに,外層導体層のはく離を防止することができるという訂正発明1の効果を得ることはできないから,第4引用例(甲6)及び第5引用例(甲7)に開示されたビルドアップ多層配線層の形成手法に適用する阻害要因を有すると主張する。しかしながら,第1引用例の第2図及び第3図に,「従来例と同様の手段でセラミックを基体とする絶縁体層(211)に導電体層(212)および接続部(213)を配し」(2頁右上欄第2段落)たモジュール基板部分に多層配線部分を形成した半導体容器が図示されていることから示唆されるように,あらかじめ焼成したセラミック基板を用いれば,樹脂絶縁層を焼成する必要はないから,原告の上記主張が理由のないことは明らかである。
(4) 以上のとおりであるから,第1引用例発明の認定の誤りをいう原告の取消事由1の主張は,理由がない。
2 取消事由2(訂正発明1と第1引用例発明との一致点の認定の誤り)について (1) 原告は,審決の認定した第1引用例発明は,従来例の発明であり,第1導電体層を印刷した複数枚のセラミック製グリーンシート(絶縁層となるもの)を一体に積層し,これを高温で焼成したものであるから,訂正発明1のような,その上に樹脂絶縁層を順次に積層してビルドアップ配線層を形成するためのベース基板が存在しているということはできないと主張する。
そこで,訂正発明1の「ビルドアップ多層配線層」と「ベース基板」について検討すると,訂正発明1に係る特許請求の範囲の【請求項1】は,「スルーホールを有するベース基板の一方の面の所定箇所に第1の接続端子群が密集した状態で形成され,その反対側の面の少なくとも外周部に第2の接続端子群が形成され,第1の接続端子群と第2の接続端子群とがスルーホールを介して電気的に接続されてなる電子回路部品搭載用基板において(注,以下,上記部分を「第1段落」という。),前記ベース基板は,樹脂製の基材からなり,この基板の第1の接続端子群が形成される側には,内層導体層と粗化面が形成された樹脂からなる絶縁層とが交互に積層され,内層導体層同士がバイアホールにて電気的に接続され,また内層導体層がスルーホールと電気的に接続されたビルドアップ多層配線層が形成されてなり,前記第1の接続端子群は,該ビルドアップ多層配線層の最外層に形成されるとともに,前記第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子は,バイアホールを介して前記ビルドアップ多層配線層の内層導体層と電気的に接続され,前記第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子よりも外側に位置する接続端子は,基板外周部に向かって延びる外層導体層に接続されてなることを特徴とする電子回路部品搭載用基板(注,以下,上記部分を「第2段落」という。)」と記載されている。これによれば,「スルーホールを有するベース基板」は,第1段落では,「一方の面の所定箇所に第1の接続端子群が密集した状態で形成され,その反対側の面の少なくとも外周部に第2の接続端子群が形成され,第1の接続端子群と第2の接続端子群とがスルーホールを介して電気的に接続されてなる」と特定されるのに対し,第2段落では,「樹脂製の基材からなり」,「第1の接続端子群が形成される側には,内層導体層と粗化面が形成された樹脂からなる絶縁層とが交互に積層され,内層導体層同士がバイアホールにて電気的に接続され,また内層導体層がスルーホールと電気的に接続されたビルドアップ多層配線層が形成されてなり」,「前記第1の接続端子群は,該ビルドアップ多層配線層の最外層に形成される」と特定されるものである。
審決は,訂正発明1と第1引用例発明とを対比して,「スルーホールを有するベース基板の一方の面の所定箇所に第1の接続端子群が密集した状態で形成され,その反対側の面の少なくとも外周部に第2の接続端子群が形成され,第1の接続端子群と第2の接続端子群とがスルーホールを介して電気的に接続されてなる電子回路部品搭載用基板」(審決謄本6頁<一致点>)である点で一致するとしたのであるから,上記第1段落の特定事項を一致点として認定したことは明らかである。他方,原告主張に係る,訂正発明の「ベース基板」が,ビルドアップ多層配線層を形成するために必要なものであって,第1引用例の第1図に記載のものが,訂正発明1のような,上にビルドアップ多層配線層を設けたものとは異なるとの点は,上記第2段落の特定事項に基づくものであるところ,審決は,この点を相違点2として認定しているのであるから,原告の上記主張は,審決を正解しないものというほかなく,採用の限りではない。
(2) 原告は,ベース基板というには,その上に形成するビルドアップ多層配線層を順次形成できる程度の剛性が必要であるが,第1引用例発明のグリーンシートは,セラミックの粉をバインダで固めたものであり,可とう性があるため,自重でたわんで大きく変形してしまうものであると主張するので,第1引用例発明の半導体容器の基体(絶縁体層と導電体層からなる構成)が,その上に多層配線層を形成可能なベース基板になり得るものであるかについて検討する。
第1引用例(甲3)には,審決が第1引用例発明として認定した第1図に図示される半導体容器の改良として,第2図及び第3図に示される半導体容器が記載され,これは,「この実施例では,従来と同様に一層からなる絶縁体層(211),導電体層(212),接続部(213)および外部リード端子(214)によるモジュール基板部分(21)と,この基板部分(21)上に形成された絶縁体層(221),導電体層(222)およびスルーホールを通した接続部(223)による多層配線部分(22)とによって半導体容器(2)を構成させ」(2頁左上欄最終段落),「モジュール基板部分(21)は,特に用途に限定されることなしに,従来例と同様の手段でセラミックを基体とする絶縁体層(211)に導電体層(212)および接続部(213)を配し」(同頁右上欄第2段落),「この多層配線部分(22)の絶縁体層(221)は,表面平滑度が良好でしかも低温形成可能なポリイミドなどの有機物でも,あるいは比較的高温ではあるが後につづく熱処理に安定な低融点ガラスなどの無機物でもよく」(同),「モジュール基板部分(21)について,絶縁体層(211)が一層の場合を述べたが,従来例でのように絶縁体層(211),導電体層(212)を多層構造としてもよい」(2頁左下欄第2段落)というものである。これによれば,従来例である第1引用例発明と同様の手段で形成されたセラミックを基体とするモジュール基板部分の上に樹脂絶縁層を有する多層配線部分を形成した半導体容器が開示されており,これは,その上に多層配線層を形成可能なベース基板になり得るものであることが明らかである。
原告は,グリーンシートをあらかじめ焼成して用いたり,収縮しない基板を使用しても,更らに別のグリーンシートを積層して焼成すれば,収縮率の差異によりバイアホール形成孔の位置合わせができないなどとも主張するが,審決は,ビルドアップ多層配線層をセラミックグリーンシートを焼成して形成すると認定したものではないから,原告の主張は,審決を正解しないものであり,失当である。
(3) 以上のとおりであるから,訂正発明1と第1引用例発明との一致点の認定の誤りをいう原告の取消事由2の主張は,理由がない。
3 取消事由3(訂正発明1と第1引用例発明との相違点についての判断の誤り)について (1) 相違点1について ア 原告は,第1引用例発明では,わざわざ,「通常,セラミックからなる複数の」と記載しているのであり,「セラミック以外のものを用いることが排除されているわけではない」としても,「樹脂基板」を指すことにはならないから,相違点1,すなわち,「ベース基板の素材に関し,訂正発明では,『樹脂製の基材』からなるとされているのに対し,第1引用例では,『セラミック』の例示があるにとどまる点」(審決謄本6頁<相違点1>)について,「第1引用例においても『通常,セラミックからなる複数の絶縁体層』(上記イ〔注,1頁左下欄最終段落〜2頁第1段落の記載〕)と記載されており,上記基板材料として,セラミック以外のものを用いることが排除されているわけではないから,第1引用例記載の発明において,ベース基板の素材として例示されているセラミックに代えて,樹脂製の材料を採用することは,当業者が容易になし得る設計事項といえる」(同7頁「(1)相違点1について」)とした審決の判断は誤りであると主張する。
イ しかしながら,審決は,第1引用例(甲3)の半導体容器の「複数の絶縁層」が「樹脂基板」であると認定したものではなく,樹脂製の材料を採用することが容易にし得る事項であると判断したものであるから,第1引用例の第1図記載のものが「樹脂基板」を指すことにはならないという原告の主張は,そもそも当を得ないものである。また,審決が認定した第1引用例の半導体容器は,「(2)は半導体容器を示し,(211)は通常,セラミックからなる複数の絶縁体層」(1頁右下欄第1段落)というものであるが,一般に,半導体容器がセラミック製に限られず,樹脂製のものもあることは,第2引用例(甲4)及び第3引用例(甲5)に記載されているとおりであるから,上記「通常,セラミックからなる複数の絶縁体層」との記載は,一般的に使用される材料であるセラミックを挙げたにすぎないものと解すべきであり,第1引用例の半導体容器の材料がこれに限られるものでないことは明らかである。原告は,第1引用例の第1図の発明は,セラミックですべて一体成形したもので,汎用性に劣り,その結果として,汎用基板的な部分(用途によらないモジュール基板部分)と専用部分(用途に合わせた多層配線部分)とを分けて作る必要が生じたのであるとも主張するが,樹脂製の基板であったとしても,汎用性の課題は生ずるのであるから,第1引用例発明がセラミックに限られるとの根拠とはならない。
ウ 原告は,セラミックグリーンシートの一括積層法において,セラミックグリーンシートの使用に代えて,樹脂系材料を使うこと自体に無理があるとも主張するが,審決は,第2引用例(甲4)及び第3引用例(甲5)を引用して,第1引用例発明の半導体容器を構成する基板材料として樹脂を使うことが容易にし得ると判断したのであって,原告が主張するようにセラミックグリーンシートの一括積層法においてグリーンシートの使用に代えて樹脂系材料を使うことが容易であると判断したものではないから,原告の上記主張も理由がない。
エ 以上によれば,相違点1についての審決の判断に,原告主張の誤りがあるということはできない。
(2) 相違点2について ア 原告は,訂正発明1は,べース基板とは異なる第1引用例発明のようなものの上に,ビルドアップ多層配線層を順次に積層して形成するものではなく,1層から成るべース基板の上に,外層導体層を作るために,粗化面を有するビルドアップ多層配線層を順次に積層したものであり,このような構成は,第1引用例(甲3)と周知の技術事項との組合せから導かれるものとはいえないから,相違点2,すなわち,「訂正発明(注,訂正発明1)では,ベース基板の第1の接続端子群を設ける側に『内層導体層と粗化面が形成された樹脂からなる絶縁層とが交互に積層され,内層導体層同士がバイアホールにて電気的に接続され,また内層導体層がスルーホールと電気的に接続されたビルドアップ多層配線層』が形成されるのに対して,第1引用例の上記イ及び第1図では,『ビルドアップ多層配線層』を形成することに関する言及がない点」(審決謄本7頁<相違点2>)について,「半導体容器基板の,『ベース基板』に対応する基板の表面に,上記周知の技術事項である『粗化面が形成された樹脂からなる絶縁層』を積層する,『ビルドアップ』による多層配線層を形成することは格別困難とはいえない」(同7頁〜8頁「(2)相違点2について」)とした審決の判断は誤りであると主張する。
イ 審決が,訂正発明1のベース基板に相当するものとして認定した第1引用例(甲3)の第1図の構成は,「複数の絶縁体層」及び「絶縁体面に選択的位置を占めて形成された導電体層」(審決謄本6頁第4段落)から成り,1層から成るベース基板ではないが,訂正発明1は,ベース基板が1層から成るものに限定するものではなく,多層構造を有するものを含むから,ビルドアップ多層配線層を順次積層して形成するものが訂正発明1と構成上相違するとはいえない。また,仮に,訂正発明1のベース基板が1層から成るものであるとしても,第1引用例には,第1図の半導体容器の改良として,第2図及び第3図に,ベース基板に相当する「一層からなる絶縁体層」の上に多層配線層を形成することが開示されているから,第1図の絶縁体層上にビルドアップ多層配線層を順次積層する場合,絶縁体層を1層から形成することは容易に想到し得ることである。
ウ 以上のとおりであるから,相違点2についての審決の判断に,原告主張の誤りがあるということはできない。
(3) 相違点3について ア 原告は,訂正発明1の役割の異なる2種類の配線形態を,基板上に順次に積層したビルドアップ多層配線層の部分に形成することは,第1ないし第7引用例の記載からうかがい知ることはできないから,相違点3,すなわち,「訂正発明(注,訂正発明1)では,第1の接続端子群は,『該ビルドアップ多層配線層の最外層』に形成されると共に『第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子は,バイアホールを介して前記ビルドアップ多層配線層の内層導体層と電気的に接続され』るのに対して,上記のとおり,第1引用例の上記イ及び第1図では,『ビルドアップ多層配線層』を形成することに関する言及がなく,したがって,第1引用例記載の発明では第1の接続端子群が『該ビルドアップ多層配線層の最外層』に形成されることや,『第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子は,バイアホールを介して前記ビルドアップ多層配線層の内層導体層と電気的に接続され』ることについての言及はない点」(審決謄本7頁<相違点3>)について,「第1引用例記載の発明(注,第1引用例発明)における『ベース基板』に対応する基板の表面に,『粗化面が形成された』樹脂からなる絶縁層を積層する,多層配線層を形成した場合には,当該粗化面が導電体層との接着性に優れるため,第1引用例の第2図に示されるような絶縁体層(222)を最外層に配置する必要がなくなり,「ビルドアップ多層配線層の最外層」には導電体層が配置されることになるから,当該最外層に,『第1の接続端子群が形成』されると共に,『第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子』が,『バイアホールを介して前記ビルドアップ多層配線層の内層導体層と電気的に接続され』る構成とすることは,第1引用例に関しての上記へ及びトの認定事項等を考慮すれば当業者が容易に想到できる設計事項といえる」(同8頁「(3)相違点3について」)とした審決の判断は誤りであると主張する。
イ 審決は,第1引用例(甲3)の第1図に「半導体装置(1)の各端子(11)と対応関係にある接続端子群のうちの,中央部に位置する接続端子はスルーホールを介して内層の導体層と接続され,外側に位置する接続端子は外周に向かって延びる外層導体層に接続されることが示されている」(審決謄本6頁第2段落)と認定した上,この認定を前提として,相違点3に係る構成について,「当業者が容易に想到できる設計事項」であると判断したものであるが,第1引用例の上記記載によれば,原告主張に係る2種類の配線形態について,第1引用例に示唆があるものと認められるところ,第1引用例発明の認定自体に誤りがないことは,上記1のとおりである。そして,基板の表面に,粗化面が形成された樹脂から成る絶縁層を積層する多層配線層を形成した場合には,最外層樹脂絶縁層の「当該粗化面が導電体層との接着性に優れる」ことは,技術常識に照らし明らかであるから,第1の接続端子群の外側に位置する接続端子から外周に向けて引き出す導体層を,当該最外層に形成することは,容易に想到し得ることである。したがって,第1引用例発明において,ベース基板に相当する絶縁体層の表面に,ビルドアップ多層配線層を形成した場合,第1の接続端子群を,ビルドアップ多層配線層の最外層に形成し,第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子は,バイアホールを介して該ビルドアップ多層配線層の内層導体層と電気的に接続し,前記第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子よりも外側に位置する接続端子は,基板外周部に向かって延びる外側導体層に接続することは,当業者が容易に想到できる設計事項であるというべきである。
ウ 原告は,審決が「5.請求人(注,原告)の主張に対する当審の見解」の項において引用する第1引用例(甲3)の「多層構造にするのがよい」(2頁左下欄第1段落)との記載は,導電体層に関するものであり,絶縁体層について説明した記載ではないから,「第1引用例(注,甲3)の第2図では,たしかに最上の導電体層(導体層)の上に更に最上層の『絶縁体層221』が形成される状態が示されているが,当該『絶縁体層221』を形成する技術的な意義についてみると,第1引用例(上記ニ)に,『(導電体層と)前記絶縁体層(221)との密着性をよくするためには,これらを多層構造にするのがよい』という記載があることから,上記の最上層の『絶縁体層』は,最上の導電体層と,当該導電体層が形成される絶縁体層との『密着性』の不足を補うための保護層として設けられていると解される」(審決謄本9頁第2段落)とした審決の認定は,誤りであると主張する。
第1引用例の上記記載が導電体層に関するもので,絶縁体層について説明した記載ではなく,審決に引用例の誤解に基づく記載があることは,被告の認めるところである。しかしながら,「粗化面が形成された樹脂からなる絶縁層」を積層する場合は,最上の導電体層も当該「粗化面」の上に形成することになるのであるから,導電体層と絶縁体層との密着性が向上することとなり,また,第1引用例記載のように,導電体層自体を多層化すれば絶縁体層との密着性は,更に向上することとなる。そうであれば,第1引用例の第2図に図示されるような最上層となる絶縁層は,必ずしも形成する必要がないことが明らかであるから,「多層配線層の『ビルドアップ』に際して,周知の技術事項である『粗化面が形成された樹脂からなる絶縁層』を積層した場合には,最上の導電体層も当然に当該『粗化面』の上に形成され,導電体層と絶縁体層との密着性が向上することになるから,必ずしも,第1引用例の第2図に示されるような,最上層となる『絶縁体層221』を形成する必要はなくなるし,しかも,第1引用例第1図では,最上の導電体層を『外層導体層』とすることも開示されていることを考慮すれば,請求人の上記主張は合理的なものといえず,採用することはできない」(審決謄本9頁第3段落)とした審決の判断に,原告主張の誤りはない。
(4) 訂正発明1の顕著な作用効果について 原告は,訂正発明1の「高密度化及び小型化を達成することができる」(訂正明細書〔甲15添付〕の段落【0006】)との作用効果は,第1ないし第7引用例には開示されておらず,また,審決は,第1の接続端子群から第2の接続端子群に向けて配線の引き回しを,下層の内層導体回路にバイアホールを介して接続させる配線形態と,樹脂絶縁層の表面層に形成した外層導体層を介して外周に向けて引き出す形態を同時に採用することと,層数を減らして小型化できることとの因果関係について,周知であることを示す証拠も提示せず,訂正発明1の作用効果について具体的な判断をしていないのであって,判断の遺脱があると主張する。しかしながら,第1引用例発明の半導体容器の基板上に,周知の技術事項である「粗化面が形成された樹脂からなる絶縁層」を積層し,ビルドアップ多層配線層を形成すること,また,この形成に際して,第1の接続端子群を,ビルドアップ多層配線層の最外層に形成し,第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子は,バイアホールを介して該ビルドアップ多層配線層の内層導体層と電気的に接続し,第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子よりも外側に位置する接続端子は,基板外周部に向かって延びる外側導体層に接続することは,当業者が容易に想到し得ることは,上記(2),(3)で検討したとおりである。そうであれば,原告主張に係る訂正発明1の作用効果も,当業者が容易に予測し得ることであり,上記2種類の配線を構成することも容易にし得ることであるということができるから,原告の上記主張も理由がない。
(5) 以上のとおりであるから,相違点3についての審決の判断に,原告主張の誤りがあるということはできない。
4 取消事由4(訂正発明2の進歩性の判断の誤り)について (1) 原告は,訂正発明2の特徴は,第1の接続端子群とベース基板の反対側の第2の接続端子群との接続に当たり,第1の接続端子群の中央部に位置するものは,この内層導体層を基板外周部に向けて配設される内層導体層を介して接続する形態と中央部に位置する接続端子よりも外側に位置する接続端子は粗化された最外層樹脂絶縁層上に形成した基板外周部に向って延びる外層導体層を使って接続する形態との,役割の異なる2種類の配線形態を採用することにより,配線引き回しの面積を増やすことなく,外周部への配線引き回しに必要となる層数を減らして小型化し,さらに,このような外層導体を採用することで生じる外層導体のはく離の問題をも解決したところにあり,しかも,上記問題の解決を,反りの発生を抑制しつつ実現したものであるが,第1ないし第7引用例には,基板の両側にそれぞれ積層形成されたビルドアップ多層配線層が最外層導体層を利用し,役割の異なる2種類の配線形態を一つの基板中に一緒に配設するという訂正発明2の構成については,記載も示唆もないから,「訂正発明(注,訂正発明1)と同様に,上記第1〜第7引用例に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものといえる。また,上記のような『両面にビルドアップ多層配線層を形成する』構成を採用した場合,『反りを防止するため』の『ダミーのビルドアップ層が不必要』になる・・・のは当然のことであり,そのような当然のことをもって,格別の作用効果とみることはできない」(審決謄本9頁最終段落〜10頁第2段落)として訂正発明2の進歩性を否定した審決の判断は誤りであると主張する。
(2) しかしながら,ビルドアップ多層配線層が最外層導体層を利用し,役割の異なる2種類の配線形態を一つの基板中に一緒に配設するという訂正発明2の構成については,上記1ないし3で検討したとおり,第1引用例発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。そして,審決指摘のとおり,基板の両側にビルドアップ多層配線層を形成する構成については,第4引用例(甲6)及び第5引用例(甲7)に開示があり,その構成を半導体容器に採用し,基板の両側にそれぞれ積層形成されたビルドアップ多層配線層が最外層導体層を利用するものとなることも当業者の当然想到することである。
(3) 以上のとおりであるから,訂正発明2の進歩性の判断の誤りをいう原告の取消事由4の主張は,理由がない。
5 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,訂正発明1,2の進歩性を否定し,独立特許要件を欠くとした審決の判断に誤りはなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 早田尚貴