関連審決 | 無効2014-800027 |
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事件 |
平成
27年
(行ケ)
10027号
審決取消請求事件
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原告X 訴訟代理人弁護士 小林幸夫 同 弓削田博 同 河部康弘 訴訟復代理人弁護士 藤沼光太 被告 一般財団法人NHKエンジニアリングシステム 被告日本放送協会 被告ら訴訟代理人弁護士 三村量一 同 岡田紘明 同 澤田将史 同補佐人弁理士 相田義明 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/04/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2014-800027号事件について平成27年1月6日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(争いがない。) 被告らは,発明の名称を「デジタル放送受信装置およびそのプログラム」とする特許第5113954号(平成24年8月23日出願〔優先権主張日平成24年6月11日(以下「本件優先日」という。,平成24年10月19日設定登録。以下 〕「本件特許」という。)の特許権者である。 原告は,平成26年2月18日,特許庁に対し,本件特許を無効にすることを求めて審判の請求をした。特許庁は,上記請求を無効2014-800027号事件として審理をした結果,平成27年1月6日, 「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を,同月16日,原告に送達した。 2 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲(請求項の数は3。)の請求項1ないし3の記載は,以下のとおりである(以下,請求項1ないし3に記載された発明をそれぞれ「本件特許発明1」などといい,これらをまとめて「本件特許発明」という。また,本件特許の明細書及び図面をまとめて「本件明細書」という。甲8)。 「【請求項1】 放送波を介して送信される暗号化されたコンテンツを,限定受信方式により再生するデジタル放送受信装置であって, 異なる限定受信方式を識別するために予め定めた限定受信方式記述子とアクセス制御記述子とを記述子領域に含んだテーブル情報であるPMTおよびCATと,前記異なる限定受信方式に対応する複数のメッセージ情報であるECMおよびEMMと,前記暗号化されたコンテンツとが少なくとも多重化された前記放送波を分離する多重分離手段と, この多重分離手段で分離されたテーブル情報から,前記アクセス制御記述子を分離し,当該アクセス制御記述子に記載されているパケット識別を抽出するアクセス制御記述子分離手段と, このアクセス制御記述子分離手段から抽出されたパケット識別に対応するECMおよびEMMを,前記多重分離手段で分離された複数のECMおよびEMMから抽出するフィルタリング手段と, このフィルタリング手段で抽出されたECMおよびEMMによって,スクランブル鍵を生成する限定受信制御手段と, この限定受信制御手段で生成されたスクランブル鍵を用いて,前記コンテンツを復号するデスクランブル手段と, を備えることを特徴とするデジタル放送受信装置。 【請求項2】 前記PMTおよびCATには,限定受信方式ごとに異なる予め定めた限定受信方式識別子が記載されたアクセス制御記述子が含まれ, 前記アクセス制御記述子分離手段は,前記アクセス制御記述子からさらに前記限定受信方式識別子を抽出し, 前記限定受信制御手段は,自身の限定受信方式を識別する限定受信方式識別子を出力するものであって, 前記アクセス制御記述子分離手段が抽出した限定受信方式識別子と,前記限定受信制御手段が出力する限定受信方式識別子とを比較する比較手段と, この比較手段によって両識別子が一致すると判定された場合に,前記フィルタリング手段で抽出されたECMおよびEMMを,前記限定受信制御手段に出力する切替信号出力手段と, をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のデジタル放送受信装置。 【請求項3】 放送波を介して送信される暗号化されたコンテンツを,限定受信方式により再生するデジタル放送受信装置において,コンピュータを, 異なる限定受信方式を識別するために予め定めた限定受信方式記述子とアクセス制御記述子とを記述子領域に含んだテーブル情報であるPMTおよびCATと,前記異なる限定受信方式に対応する複数のメッセージ情報であるECMおよびEMMと,前記暗号化されたコンテンツとが少なくとも多重化された前記放送波を分離する多重分離手段, この多重分離手段で分離されたテーブル情報から,前記アクセス制御記述子を分離し,当該アクセス制御記述子に記載されているパケット識別を抽出するアクセス制御記述子分離手段, このアクセス制御記述子分離手段から抽出されたパケット識別に対応するECMおよびEMMを,前記多重分離手段で分離された複数のECMおよびEMMから抽出するフィルタリング手段, このフィルタリング手段で抽出されたECMおよびEMMによって,スクランブル鍵を生成する限定受信制御手段, この限定受信制御手段で生成されたスクランブル鍵を用いて,前記コンテンツを復号するデスクランブル手段, として機能させるためのデジタル放送受信プログラム。」 3 審決の理由の要旨 (1) 審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。その要旨は,@本件特許発明は,地上デジタルテレビジョン放送運用規定「技術資料 ARIB TR-B14 4.7版」(甲1。以下「甲1文献」という。)に記載された発明であるということはできないから,特許法29条1項3号の規定に該当しない,A本件特許発明は,甲1文献に記載された発明並びに後記(2)の甲2ないし6の各文献に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから,特許法29条2項に該当せず,本件特許は同法123条1項2号の規定に該当しない,したがって,原告が主張する無効理由によって本件特許を無効とすることはできない,というものである。 (2) 上記各文献について ア 甲2:デジタル放送におけるアクセス制御方式標準規格「ARIB STD-B25 6.0版」(平成23年3月28日改定)(以下「甲2文献」という。) イ 甲3:デジタル放送における映像符号化,音声符号化及び多重化方式標準規格「ARIB STD-B32 2.2版」 (平成21年7月29日改定) (以下「甲3文献」という。) ウ 甲4:デジタル放送用受信装置標準規格(望ましい仕様) 「ARIB STD-B21 4.6版」(平成19年3月14日改定)(以下「甲4文献」という。) エ 甲5:デジタル放送に使用する番組配列情報標準規格「ARIB STD-B10 4.9版(平成23年3月28日改定)(以下「甲5文献」という。) オ 甲6:デジタル放送ハンドブック129頁奥付(平成15年6月20日発行)(以下「甲6文献」という。) (3) 審決が認定した甲1文献に記載された発明の内容 ア 甲1A発明 「放送信号を受信し,MULTI2と呼ばれる暗号化方式によってTSレベルでスクランブルされたコンテンツを限定受信方式により再生するデジタル放送受信機であって, 記述子タグが限定受信方式記述子を示し,限定受信方式識別子により区別されるCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子とが記述子領域に記載されたテーブルであるPMTおよびCATと,CA5方式とRMP方式のメッセージ情報であるECMおよびEMMと,TSレベルでスクランブルされたコンテンツとが多重化された放送信号を分離するTSデコード部と, TSデコード部で分離されたPMTおよびCATのテーブルからCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子を分離し,その限定受信方式記述子からECMおよびEMMが送出されるPIDを抽出し,その抽出されたPIDによりECMおよびEMMを分離し,分離されたCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子に対応するECMおよびEMMから,特定の限定受信方式記述子に対応するECMおよびEMMを抽出する制御部とを有し, 制御部は,抽出されたECMおよびEMMによって,コンテンツのスクランブルを解除する鍵を生成するものであって, さらに,コンテンツのスクランブルを解除する鍵によりTSレベルでスクランブルされたコンテンツの暗号化を解除するデスクランブラを有する,デジタル放送受信機。」 イ 甲1B発明 「甲1A発明のデジタル放送受信機において, 制御部は,PMTおよびCATに記載されるCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子に含まれる限定受信方式識別子が,受信機が保持する限定受信方式識別子と整合した値であれば,有効な限定受信方式と判断して受信処理を行う, デジタル放送受信機。」 ウ 甲1C発明 「放送信号を受信し,MULTI2と呼ばれる暗号化方式によってTSレベルでスクランブルされたコンテンツを限定受信方式により再生するデジタル放送受信機において,コンピュータを, 記述子タグが限定受信方式記述子を示し,限定受信方式識別子により区別されるCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子とが記述子領域に記載されたテーブルであるPMTおよびCATと,CA5方式とRMP方式のメッセージ情報であるECMおよびEMMと,TSレベルでスクランブルされたコンテンツとが多重化された放送信号を分離するTSデコード部, TSデコード部で分離されたPMTおよびCATのテーブルからCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子を分離し,その限定受信方式記述子からECMおよびEMMが送出されるPIDを抽出し,その抽出されたPIDによりECMおよびEMMを分離し,分離されたCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子に対応するECMおよびEMMから,特定の限定受信方式記述子に対応するECMおよびEMMを抽出する制御部, 制御部は,抽出されたECMおよびEMMによって,コンテンツのスクランブルを解除する鍵を生成するものであり, さらに,コンテンツのスクランブルを解除する鍵によりTSレベルでスクランブルされたコンテンツの暗号化を解除するデスクランブラ, として機能させるためのデジタル放送受信プログラム。」 (4) 本件特許発明1と甲1A発明,本件特許発明2と甲1B発明,本件特許発明3と甲1C発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。 ア 本件特許発明1と甲1A発明との一致点及び相違点 (ア) 一致点 「放送波を介して送信される暗号化されたコンテンツを,限定受信方式により再生するデジタル放送受信装置であって, 異なる限定受信方式を識別するために予め定めた複数の限定受信方式に係る記述子を記述子領域に含んだテーブル情報であるPMTおよびCATと,前記異なる限定受信方式に対応する複数のメッセージ情報であるECMおよびEMMと,前記暗号化されたコンテンツとが少なくとも多重化された前記放送波を分離する多重分離手段と, この多重分離手段で分離されたテーブル情報から,特定の限定受信方式に係る記述子を分離し,当該特定の限定受信方式に係る記述子に記載されているパケット識別を抽出する特定の限定受信方式に係る記述子分離手段と, この特定の限定受信方式に係る記述子分離手段から抽出されたパケット識別に対応するECMおよびEMMを,前記多重分離手段で分離された複数のECMおよびEMMから抽出するフィルタリング手段と, このフィルタリング手段で抽出されたECMおよびEMMによって,スクランブル鍵を生成する限定受信制御手段と, この限定受信制御手段で生成されたスクランブル鍵を用いて,前記コンテンツを復号するデスクランブル手段と, を備えることを特徴とするデジタル放送受信装置。」 (イ) 相違点 a 相違点1 PMTおよびCATに含まれる「複数の限定受信方式に係る記述子」が,本件特許発明1では,互いに記述子タグが異なる「限定受信方式記述子」と「アクセス制御記述子」であるのに対し,甲1A発明では,互いの限定受信方式識別子が異なる「CA5方式の限定受信方式記述子」と「RMP方式の限定受信方式記述子」である点。 b 相違点2 相違点1に伴い,両者のECMおよびEMMは,対応する「複数の限定受信方式に係る記述子」が異なる点。 c 相違点3 相違点1に伴って, 「特定の限定受信方式に係る記述子」を分離する「特定の限定受信方式に係る記述子分離手段」が,本件特許発明1では,「アクセス制御記述子」を分離する「アクセス制御記述子分離手段」であるのに対し,甲1A発明はそのようなものではない点。 d 相違点4 相違点1に伴って, 「特定の限定受信方式に係る記述子分離手段」からの情報を用いる「フィルタリング手段」が,本件特許発明1では, 「アクセス制御記述子分離手段」からの情報を用いるのに対し,甲1A発明はそのようなものではない点。 イ 本件特許発明2と甲1B発明の一致点及び相違点 本件特許発明2と甲1B発明は,上記アの一致点及び相違点1ないし4に加えて,次の一致点及び相違点がある。 (ア) 一致点 「前記PMTおよびCATには,限定受信方式ごとに異なる予め定めた限定受信方式識別子が記載された特定の限定受信方式に係る記述子が含まれ, 前記特定の限定受信方式に係る記述子分離手段は,前記特定の限定受信方式に係る記述子からさらに前記限定受信方式識別子を抽出し, 前記限定受信制御手段は,自身の限定受信方式を識別する限定受信方式識別子を出力するものであって, 前記特定の限定受信方式に係る記述子分離手段が抽出した限定受信方式識別子と,前記限定受信制御手段が出力する限定受信方式識別子とを比較する比較手段と, この比較手段によって両識別子が一致すると判定された場合に,前記フィルタリング手段で抽出されたECMおよびEMMを,前記限定受信制御手段に出力する切替信号出力手段と, をさらに備える点。」 (イ) 相違点 a 相違点5 相違点1と関連して, 「特定の限定受信方式に係る記述子」は,本件特許発明2では「アクセス制御記述子」であるのに対し,甲1B発明では「CA5方式の限定受信方式記述子」と「RMP方式の限定受信方式記述子」である点。 b 相違点6 相違点1に伴って, 「特定の限定受信方式に係る記述子分離手段」が,本件特許発明2では, 「アクセス制御記述子分離手段」であるのに対し,甲1B発明はそのようなものではない点。 ウ 本件特許発明3と甲1C発明の一致点及び相違点 (ア) 一致点 「放送波を介して送信される暗号化されたコンテンツを,限定受信方式により再生するデジタル放送受信装置において,コンピュータを, 異なる限定受信方式を識別するために予め定めた複数の限定受信方式に係る記述子を記述子領域に含んだテーブル情報であるPMTおよびCATと,前記異なる限定受信方式に対応する複数のメッセージ情報であるECMおよびEMMと,前記暗号化されたコンテンツとが少なくとも多重化された前記放送波を分離する多重分離手段, この多重分離手段で分離されたテーブル情報から,特定の限定受信方式に係る記述子を分離し,当該特定の限定受信方式に係る記述子に記載されているパケット識別を抽出する特定の限定受信方式に係る記述子分離手段, この特定の限定受信方式に係る記述子分離手段から抽出されたパケット識別に対応するECMおよびEMMを,前記多重分離手段で分離された複数のECMおよびEMMから抽出するフィルタリング手段, このフィルタリング手段で抽出されたECMおよびEMMによって,スクランブル鍵を生成する限定受信制御手段, この限定受信制御手段で生成されたスクランブル鍵を用いて,前記コンテンツを復号するデスクランブル手段, として機能させるためのデジタル放送受信プログラム。」 (イ) 相違点 a 相違点7 PMTおよびCATに含まれる「複数の限定受信方式に係る記述子」が,本件特許発明3では,互いに記述子タグが異なる「限定受信方式記述子」と「アクセス制御記述子」であるのに対し,甲1C発明では,互いの限定受信方式識別子が異なる「CA5方式の限定受信方式記述子」と「RMP方式の限定受信方式記述子」である点。 b 相違点8 相違点7に伴い,両者のECMおよびEMMは,対応する「複数の限定受信方式に係る記述子」が異なる点。 c 相違点9 相違点7に伴って, 「特定の限定受信方式に係る記述子」を分離する「特定の限定受信方式に係る記述子分離手段」が,本件特許発明3では,「アクセス制御記述子」を分離する「アクセス制御記述子分離手段」であるのに対し,甲1C発明はそのようなものではない点。 d 相違点10 相違点7に伴って, 「特定の限定受信方式に係る記述子分離手段」からの情報を用いる「フィルタリング手段」が,本件特許発明3では, 「アクセス制御記述子分離手段」からの情報を用いるのに対し,甲1C発明はそのようなものではない点。 |
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原告主張の取消事由
以下のとおり,審決の判断には誤りがあるから,違法なものとして取り消されるべきである。 1 取消事由1(本件特許発明1と甲1A発明の対比,判断の誤り) (1) 甲1文献ないし甲5文献はいずれも一つの文献であること 甲1文献ないし甲5文献は,いずれもARIBのホームページでダウンロードでき,甲1文献が「技術資料(放送分野)一覧表」,甲2文献ないし甲5文献が「標準規格(放送分野)一覧表」に記載されており,一連一体となって放送分野の規格及び技術について定めるものである。 甲1文献の第一分冊(1/2)のまえがきには, 「標準規格」及び「技術資料」の位置づけについて,一般社団法人電波産業会は, 「 無線機器製造者,電気通信事業者,放送機器製造者,放送事業者及び利用者の参加を得て,各種の電波利用システムに関する無線設備の標準的な仕様等の基本的な要件を『標準規格』として策定している。 『技術資料』は,国が定める技術基準と民間の任意基準を取りまとめて策定される標準規格を踏まえて,無線設備,放送設備の適正品質,互換性の確保等を図るため,当該設備に関する測定法,解説,運用上の留意事項等を具体的に定めたものである。」としている。上記記載から分かるとおり,膨大な量に及ぶために分冊されているものの, 「標準規格」及び「技術資料」はこれらすべてが一体となってデジタルテレビの規格を構成するものであって,デジタルテレビに関わる様々な業者(テレビ製造メーカー,放送業者等)は,この規格全体を理解しなければデジタルテレビ事業に参入することができないから,規格全体が一つの発明,一つの文献であるというべきである。 (2) 本件特許発明1の新規性についての判断の誤り 本件特許発明において,審決が認定した相違点2ないし10は,全て相違点1に付随又は対応する相違点であるから,審決が認定した相違点1が実質的に本件特許発明1と甲1A発明の相違点であるか否かを検討すれば足りる。 本件特許発明1の特許請求の範囲には,「異なる限定受信方式を識別するために予め定めた限定受信方式記述子とアクセス制御記述子」とのみ記載されており,異なる限定受信方式を識別する手段について何らの記載もない。また,「限定受信方式記述子」と「アクセス制御記述子」によって異なる限定受信方式を識別できればよいという点の技術的意義は一義的に理解することができるし,特に誤記も存在しないから,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することは許されない。「限定受信方式記述子」と「アクセス制御記述子」は,異なる限定受信方式を識別することができる二つの記述子でありさえすれば該当するというべきである。 そして,甲1A発明には,「RMP方式の限定受信方式記述子」と「CA5方式の限定受信方式記述子」が用いられている。これらは異なる限定受信方式であり,互いを識別することができる記述子であるから,「RMP方式の限定受信方式記述子」を「限定受信方式記述子」,「CA5方式の限定受信方式記述子」を「アクセス制御記述子」と考えれば,本件特許発明1と甲1A発明は同一の発明ということができる。 したがって,本件特許発明1と甲1A発明は同一の発明ではないとした審決の判断には誤りがある。 2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)(1) 本件特許発明について,審決が認定した相違点2ないし10は,全て相違点1に付随又は対応する相違点であり,実質的には,相違点1についての判断を検討すれば足りる。そして,「限定受信方式記述子」自体は甲1A発明にも記載されているように目新しいわけではないから,記述子タグの値を「限定受信方式記述子」と異なるものに変更することこそが相違点1の本質であるといえる。 (2)ア 記述子タグは各記述子を識別するためのものであって,記述子タグの値を異なるものにすることで記述子同士を識別することは,記述子タグの機能からして当然に行うことができるから,当業者であれば誰でもこれを想到することができる。 また,限定受信方式記述子の構成上,識別子は記述子タグと限定受信方式識別子のみであり,限定受信方式記述子同士を識別する方法として,二つしかない識別子のうち,限定受信方式識別子ではなく,残るもう一つの識別子である記述子タグの値を変えることは,設計的事項にすぎず,さらに,審決の判断によれば,甲4文献及び甲5文献には,相違点1の本質である「アクセス制御記述子」を設けること(記述子タグの値を変更すること)が記載されているということができるから,アクセス制御記述子を想到する(記述子タグの値を変更する)ことは,当業者にとって容易であったといえる。 イ 甲1A発明と,相違点1の内容である記述子タグを変更するという技術は,ともに限定受信方式の区別の方法であって,両者の間には技術分野の共通性が認められる。そして,記述子タグの値の変更によって記述子同士を区別することは周知の事項であり,さらに,甲4文献において,「なお,BSデジタル放送用受信機等においては,伝送制御信号の記述子を書き込む領域により伝送された信号は,その記述子タグ(descriptor_tag)が,当該受信機が既に対応済みの記述子に割り当てられている記述子タグと異なっていれば,無視されるよう民間標準規格において規定されている。したがって,記述子タグを,デジタルコピー制御記述子については,既存の民間標準規格と合致するようにし,コンテント利用記述子については,民間規格を含めた他の既存の記述子とは異なる値とすれば,BSデジタル放送用受信機等に不具合を与えることはない。」と記載されているとおり,記述子タグの値の変更という手段を導入することに,特段の阻害事由は認められないことから,「アクセス制御記述子」を設けること,すなわち記述子タグの値を変更することは設計事項にすぎず,相違点1は当業者であれば容易に想到することができることであるといえる。 ウ ARIB規格には記述子タグが異なる記述子が多数存在していることからすれば,甲1A発明に「アクセス制御記述子」を設けること(記述子タグの値を変更すること)が,当業者にとって極めて普通に用いられるものであることは明らかであり,また,サイマルクリプト方式に対応していない受信機と対応している受信機を区別するために,アクセス制御記述子を設けることは,まさに選択の問題であって,そもそも,動機付けの問題ではないといえるから,動機付けの存否を検討するまでもなく,容易に想到することができる。 また,「限定受信方式識別子による区別」を「記述子タグによる区別」に置換することは,当業者の通常の創作能力の発揮として,普通に行われていることであって,動機付けの存否を判断するまでもなく,甲1A発明と甲4文献及び甲5文献を組み合わせることは容易に推考し得たことであるといえる。 さらに,ARIB規格に記載されている記述子タグの値を変更すること(「アクセス制御記述子」を設けること)は,慣用技術であるから,動機付けの有無を検討するまでもなく,甲1A発明と慣用技術たる記述子タグの値を変更することを組み合わせることができる。 (3)ア 本件特許発明の課題は,「従来のデジタル放送受信装置の受信に影響を与えない放送信号によって,新たな限定受信方式に対応することが可能なデジタル放送受信装置およびそのプログラムを提供すること」(段落【0011】)である。 そして,上記課題は,「従来のデジタル放送受信装置の受信に影響を与えない」ことと,「新たな限定受信方式に対応する」ことに分けることができる。 甲1文献には,「複数の限定受信方式が存在することになるので,その事が受信機の誤作動につながることのないように本書で規格化する。この場合はその方式の登場に際して新たな追加規格が策定されねばならない。」との記載があり,「従来のデジタル放送受信装置の受信に影響を与えない」という課題及び「新たな限定受信方式に対応する」という課題が記載されているといえる。また,甲1文献は,case2において,本件特許発明の課題である「従来のデジタル放送受信装置の受信に影響を与えない放送信号によって,新たな限定受信方式に対応することが可能なデジタル放送受信装置およびそのプラグラムを提供すること」を想定している。 次に,甲4文献には,「記述子タグが,当該受信機が既に対応済みの記述子に割り当てられている記述子タグと異なっていれば,無視される」と記載されているから,「従来のデジタル放送受信装置の受信に影響を与えない」との課題が記載されているといえる。 さらに,甲5文献には,「これらの拡張に際しては従来規格との互換性を考慮する必要があるが,受信機においては拡張信号によって従来機能に支障が生じないような設計が必要である。」との記載があり,「従来のデジタル放送受信装置の受信に影響を与えない」という課題が記載されているといえる。さらに,甲5文献には,「必要に応じたテーブルおよび記述子の追加あるいは記述子の伝送テーブルの追加など,規格の拡張を行うこともある。」との記載があり,規格の拡張には新たな限定受信方式を定めることも含まれるから,「新たな限定受信方式に対応する」との課題が記載されているといえる。 そして,甲4文献には,「BSデジタル放送用受信機等においては,・・・伝送された信号は,その記述子タグ・・・が,当該受信機が既に対応済みの記述子に割り当てられている記述子タグと異なっていれば,無視されるよう民間標準規格において規定されている。したがって,記述子タグをデジタルコピー制御記述子については,既存の民間標準規格と合致するようにし,コンテント利用記述子については,民間規格を含めた他の既存の記述子と異なる値とすれば,BSデジタル放送用受信機等に不具合を与えることはない」との記載がある。甲4文献の上記記載について,「デジタルコピー制御記述子」を「限定受信方式記述子」に,「コンテント利用記述子」を「アクセス制御記述子」に置き換えると,本件特許発明1そのものとなる。 このことから,本件特許発明の技術的思想は,甲4文献に表れている。 イ 上記アのとおり,甲1文献には,規格化されていない限定受信方式を将来導入する場合には,新たな追加規格の策定が必要であるという示唆がある。また,甲4文献及び甲5文献の記載からは,記述子を追加する場合には記述子タグが異なる 「記述子であれば既存のデジタル放送受信機に不具合を与えないという技術的事項」が読み取れるから,甲4文献及び甲5文献には,記述子タグの値を変更すれば既存のデジタル放送受信機(サイマルクリプト方式に対応していない受信装置)に不具合を与えないという本件特許発明1の課題が解決できることが記載されているといえる。 そして,「技術資料」は「標準規格」の応用部分を定めたものであって,「技術資料」たる甲1文献は「標準規格」たる甲4文献及び甲5文献を前提に作成されているから,甲1文献と甲4文献及び甲5文献の間には,技術分野の関連性,作用,機能の共通性が認められ,両者を結び付ける強固な動機づけが存在する。 よって,甲1A発明に甲4文献又は甲5文献に記載された技術事項を組み合わせることは容易であり,甲1A発明と甲4文献又は甲5文献に記載された事項を結びつけることにより,本件特許発明1の進歩性は否定されることになる。 ウ 甲1文献には,この場合は, 「 複数の限定受信方式が存在することになるので,その事が誤作動につながることのないように本書で規格化する。この場合はその方式の登場に際して新たな追加規格が策定されねばならない。(5-66頁)と記載 」されており,記述子そのものを区別するのは,その内部のデータ(例えば,限定受信方式識別子)ではなく,記述子タグであることは,技術常識であるから,当業者であれば,将来複数の限定受信方式が存在することとなった場合に,そのことが誤作動につながることのないように,記述子タグの値の変更によって記述子同士を区別すること等を行わなければならないことが容易に読み取れる。 エ 甲1文献には,case2について「この場合は,複数の限定受信方式が存在することになるので,その事が誤作動につながることのないように本書で規格化する。この場合はその方式の登場に際して新たな追加規格が策定されねばならない。」との記載があり,規格として完結していないことは明らかである。 また,甲5文献の「必要に応じたテーブルおよび記述子の追加あるいは記述子の伝送テーブルの追加など,規格の拡張を行なうこともある。(240頁)との記載 」から,アクセス制御記述子という記述子を追加することは,規格の拡張,新たな追加規格の策定であることは明らかであるから,本件特許発明1は,甲1文献に記載されたcase2に含まれる。 (4)ア 審決は,課題を見出すことの容易想到性の判断をもって相違点1を想到することの容易想到性の判断に代えているが,課題を見出すことの容易想到性について,「実際に既存の受信機を解析した結果,不具合の存在する受信機が現実に広く存在していたことを示す証拠」や「実際に原因の調査を実施した証拠」を要求し,課題を見出すことが容易想到であるかの判断をしていない。 また,不具合の存在する受信機が現実に広く存在していた以上,サイマルクリプト運用によっては既存の受信機の中でコンテンツを再生できない受信機が存在するという不具合はサイマルクリプト運用の試験を行いさえすれば誰であっても認識できる課題であり,サイマルクリプト方式に対応していない受信装置が存在するという事実に直面した当業者が課題の解決手段を想到できるか否かをもって,容易想到性を判断すべきである。本件特許発明1のような規格特許において,課題の発見を過度に重視して進歩性を認定する審決の判断は,公共放送局として他の当業者よりも先にサイマルクリプト運用の試験を行う機会を得た被告らの地位に特許権を与えたものに等しく,特許法本来の目的からも乖離した著しく不合理なものである。 イ 審決は,「甲第1号証には,規格化されていない限定受信方式を将来導入する場合には,新たな追加規格の策定が必要であるという示唆はある」と認定しながら,「甲第1号証には,限定受信方式識別子,すなわちCA_system_idによりサイマルクリプト方式に対応すること以上の記載はないから,甲1A発明は,本件特許発明1の課題である,従来のデジタル放送受信装置にサイマルクリプト方式に対応していない受信装置が多く存在するという課題に対応することは考慮されていないものである。」,「甲第1号証ないし甲第6号証には,従来のデジタル放送受信装置にサイマルクリプト方式に対応していない受信装置が多く存在するという問題に対応するために既存の規格を改変しなければならないという課題が見出されていない」としている。「既存の規格を改変しなければならないという課題」は,まさに甲1文献に示唆されている「新たな追加規格の策定が必要である」ということであるから,審決の判断は矛盾している。 ウ 審決が認めた「既存の規格を改変しなければならないという課題」は,まさに甲5文献に記載されている「必要に応じたテーブルおよび記述子の追加あるいは記述子の伝送テーブルの追加など,規格の拡張を行うこともある。 ということであ 」るから,審決の判断は矛盾している。 エ 審決は,本件特許発明1の課題を「従来のデジタル放送受信装置にサイマルクリプト方式に対応していない受信装置が多く存在するという課題」とし,事実状態にのみ焦点を当てて課題を不当に狭め,その技術的意味を無視している。 「従来のデジタル放送受信装置にサイマルクリプト方式に対応していない受信装置が多く存在する」という状態を解決するために必要なのは, 「現行の規格に対応していないデジタル放送受信装置においても,現行の規格と並行してデジタル放送を受信できるようにすること」という課題であり,甲1文献,甲4文献及び甲5文献のいずれにも上記課題が記載ないし示唆されているのである。 (5) 以上によれば,当業者が,相違点1に係る本件特許発明1の構成を採用することは容易に想到し得たものではないとの審決の判断には誤りがある。 |
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被告らの主張
1 取消事由1(本件特許発明1と甲1A発明の対比,判断の誤り) (1) 甲1文献ないし甲5文献について 審決は,甲1文献ないし甲6文献を全て組み合わせたとしても相違点1は解消されず,また,甲1文献ないし甲6文献の一連の技術から相違点1に容易に想到することができないとしているのであるから,仮に原告が主張するように甲1文献ないし甲6文献を一つの文献と解し得るとしても,そこから本件特許発明に容易に想到することができないという審決の結論には影響がない。 また,この点を措くとしても,甲1文献ないし甲5文献は,別個独立に作成・改定されている上に,それぞれの「まえがき」にも記載されているとおり,資料としての役割が全く異なるものである以上,これらを一つの文献と見ることは不可能である。 したがって,審決の判断は正当であり,原告の主張は理由がない。 (2) 新規性の判断について 原告は,@本件特許発明1における「限定受信方式記述子」と「アクセス制御記述子」の技術的意義について,これらにより異なる限定受信方式を識別できればよいという点の技術的意義は一義的に理解することができるから,本件明細書の記載を参酌することは許されない,A甲1A発明の「RMP方式の限定受信方式記述子」を「限定受信方式記述子」 「CA5方式の限定受信方式記述子」を「アクセス制御 ,記述子」と考えれば,本件特許発明1と甲1A発明は同一の発明といえる旨主張する。 しかし,原告の上記主張は,特許請求の範囲に記載された「アクセス制御記述子」の用語の解釈において,明細書等の記載からはおよそ採り得ない解釈を,特許請求の範囲の記載のみから強引に行おうとするものであり,明らかに失当である。 本件明細書の記載(段落【0037】ないし【0039】)によれば,本件特許発明の「アクセス制御記述子」は, 「記述子タグ」の値によって従来の「限定受信方式記述子」と区別できるものとして説明されていることが明らかである。そして,これにより,本件特許発明の効果を奏するのである(段落【0024】。 ) 本件特許発明の「限定受信方式記述子」「アクセス制御記述子」という用語は, ,それぞれの意味内容や相互の関係について,本件明細書の記載を参酌することなしに一義的に把握することは不可能であるから,原告の主張は失当である。 以上のとおり,新規性についての審決の判断に誤りはなく,原告の主張する取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)について (1) 原告が本件特許発明1の無効理由の主引用例としている甲1文献ないし甲5文献は,いずれもARIB規格として定められたものであり,規格として完結したものである。全ての受信装置がARIB規格を準拠していれば,甲1文献ないし甲5文献に記載された規格どおりにサイマルクリプト運用を行ったとしても限定受信方式記述子同士を識別することができるから,甲1文献ないし甲5文献は,ARIB規格に準拠していない受信装置の存在を前提にはしていない。そのため,当然ながら,甲1文献ないし甲5文献には,サイマルクリプト運用を行った場合にコンテンツを再生できない受信装置が存在するという不具合に関する記載は一切なく,甲1文献ないし甲5文献には,アクセス制御記述子を導入しようとする動機付けは存在しない。 本件特許発明は,複数の限定受信方式が並列的に運用される場面において,既存の受信装置の中にコンテンツを再生することができない受信装置が存在するという,これまで想定していなかった不具合が存在することを発見したものであるから,本件特許発明の課題(本件特許発明が必要とされる状況)を予測することが当業者にとって容易であったとはいえない。 サイマルクリプト運用下においてコンテンツを再生できない受信装置が存在するという不具合の存在が分かったとしても,その不具合の原因が一体何なのかは全く分からない状況であった。本件特許発明の発明者らは,その原因について検証を重ねることにより,その不具合が,一部の既存の受信装置においてサイマルクリプト運用への対応を様々な態様で怠っているために,当該受信装置に適合した限定受信方式に対応した限定受信方式記述子を選択することができないことに起因していることを突き止めたのである。このように,本件特許発明は,課題の解決に当たって,まず必要となる原因の特定という点においても,当業者にとって容易に想到することができるものではなかった。また,仮に,上記の原因を当業者が認識できたとしても,それは,当該受信装置が有する個別的な問題を解決しようとする契機となるにとどまる。すなわち,受信装置がARIB規格に準拠していないことでコンテンツ再生に支障を来していることが明らかになったのであれば,当業者は,当該受信装置を,ARIB規格に準拠するよう設計変更することによりこの問題を解決することを考えるのが通常である。 このように, 「アクセス制御記述子」を新たに導入した場合の本件特許発明による受信側の課題の解決方法についても,当業者が容易に想到することができたものではない。 (2) 原告の主張について ア 原告は,記述子タグの値を「限定受信方式記述子」と異なるものに変更することこそが相違点1の本質であると主張する。しかし,相違点1は,原告がいうような単純なものではなく,試行錯誤を重ねた結果たどり着いた「アクセス制御記述子」という本件特許発明の本質的部分そのものであって,本件特許発明の課題を捨象して捉えることは許されない。 また,仮にこの点を措いたとしても,そもそも,本件特許発明のアクセス制御記述子と限定受信方式記述子のデータ構成上の違いは,記述子タグの違いにとどまるものではない。本件明細書の段落【0037】【0038】【0069】【007 , , ,0】,図3によれば,アクセス制御記述子と限定方式記述子との間には,記述子タグ以外にもデータ構成上の違いが存在する。 イ 原告は,甲4文献及び甲5文献には,相違点1の本質部分である「アクセス制御記述子」を設けること(記述子タグの値を変更すること)が記載されているということができるとして,あたかも審決が甲4文献及び甲5文献に「アクセス制御記述子」が開示されていると認定したかのように主張している。 しかし,甲4文献及び甲5文献には,本件特許発明が限定受信方式を複数並列に運用するに当たって新たに導入することを提案している「アクセス制御記述子」について何ら記載がない。原告は審決を正解していない。 ウ 甲1文献に記載された限定受信方式記述子に代えてアクセス制御記述子を導入することは,本件特許の出願当時,本件特許発明のアクセス制御記述子の存在が知られていたはずがないから,周知の事項であったとはいえない。したがって,甲1文献に記載された限定受信方式記述子に代えてアクセス制御記述子を導入することは設計事項とはいえない。 また,本件特許出願時に,本件特許発明における課題も,その課題の解決手段であるアクセス制御記述子の導入についても,いずれも全く知られていなかったのであるから, 「極めて普通に用いられるもの」などとはいえないし,所定の技術的課題に対し,複数の解決手段が知られているなどともいえない。 本件特許発明の本質である「アクセス制御記述子」を設けるという技術思想と記述子タグの値を変更するという技術思想は同義ではないのであるから,仮に記述子タグを変更するという技術思想がARIB規格に記載されていたとしても,アクセス制御記述子を設けることが記載されていたことにはならない。アクセス制御記述 「子」を設けることが慣用技術であるとする原告の主張も理由がない。 エ 原告は,審決が認定した「既存の規格を改変しなければならないという課題」は,まさに甲1文献に示唆されている「新たな追加規格の策定が必要である」ということであり,審決が認めた課題は,甲1文献において考慮されているとして,審決の判断には矛盾があると主張する。 しかし,審決は,単に抽象的に「既存の規格を改変しなければならないという課題が見出されていない」と認定しているわけではないから,何ら矛盾はない。 なお,原告は,甲5文献との関係でも全く同じ主張をしているが,以上の反論が同じく当てはまる。 原告は,本件特許発明の課題は「現行の規格に対応していないデジタル放送受信装置においても,現行の規格と並行してデジタル放送を受信できるようにすること」になると主張する。しかし, 「従来のデジタル放送受信装置にサイマルクリプト方式に対応していない受信装置が多く存在する」という課題に直面した場合に,当然に規格を変更して「現行の規格と並行してデジタル放送を受信できるようにする」という発想に至るものではないから,原告の上記主張は明らかに失当である。 原告は,甲1文献及び甲5文献等に課題が記載されていると主張する。しかし,甲1文献及び甲5文献の当該記載は,既存の「技術規格」ないし「技術資料」に準拠していることを前提に,新たなサービスの導入や規格の拡張を行う際の一般的な指針についてのものにすぎない。これに対し,本件特許発明は,一部の受信装置がARIB規格に準拠していないことに起因する不具合に対処しようとするものであって,この不具合は,甲1文献や甲5文献が想定していなかったものなのであるから,原告の上記主張は全くの的外れというほかない。 以上によれば,相違点1の容易想到性についての審決の判断に誤りはなく,原告が主張する取消事由2は理由がない。 |
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当裁判所の判断
当裁判所は,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,審決にはこれを取り消すべき違法はないと判断する。その理由は,以下のとおりである。 1 取消事由1(本件特許発明1と甲1A発明の対比,判断の誤り)について (1) 本件特許発明1について 本件明細書(甲8)の記載によれば,本件特許発明1は,次のとおりである。 ア 本件特許発明は,デジタル放送における複数の限定受信方式を並列運用する際に,自受信装置に適合する限定受信方式でコンテンツの暗号を復号するデジタル放送受信装置に関するものである(段落【0001】)。 イ 従来,地上デジタル放送におけるコンテンツ保護は,コンテンツのアクセス制御に関する機能を耐タンパモジュールであるICカード(CASカード)に実装し,ICカードと受信装置とを組み合わせることで,アクセス制限を行う限定受信方式(CAS:ConditionalAccessSystem)と,ICカードを使用せずに,ソフトウェア制御でコンテンツの暗号を復号する(スクランブル解除を行う)新方式の限定受信方式の2つの方式があり,これらを並列運用するための技術として,限定受信方 式 ご と の 限 定 受 信 方 式 記 述 子 を P M T ( ProgramMapTable ) や C A T(ConditionalAccessTable)という情報に複数並列に記載し,受信装置において,限定受信方式記述子に記載されている限定受信方式識別子により,自受信装置の限定受信方式に適合する限定受信方式記述子を分離し,当該限定受信方式記述子に記述されているパケット識別(PID)で,コンテンツを暗号化するスクランブル鍵等 を 特 定 す る た め の E C M ( EntitlementControlMessage ) や E M M(EntitlementManagementMessage)と呼ばれる情報を特定する,サイマルクリプト方式と呼ばれる技術が知られていた。 ここで,PMTやCATに限定受信方式記述子を複数並列に記載した場合,デジタル放送受信装置では,自受信装置の限定受信方式に適合する限定受信方式記述子を分離して,PIDを抽出する必要があるところ,従来のデジタル放送受信装置は,現状運用されているICカードを用いた限定受信方式を想定した設計となっているため,複数の限定受信方式記述子の中から必ずしも自受信装置に適合した限定受信方式記述子を分離して,PIDを抽出する設計となっていない受信装置が多く存在し,自受信装置に適合しない限定受信方式記述子から誤ったPIDを抽出することで,正しいスクランブル鍵を抽出することができず,映像/音声を正常に再生することができないという問題が存在した(段落【0002】〜【0010】)。 これに対し,本件特許発明は,従来のデジタル放送受信装置の受信に影響を与えない放送信号によって,新たな限定受信方式に対応することが可能なデジタル放送受信装置およびそのプログラムを提供することを課題とするものである(段落【0011】)。 ウ そして,上記課題を解決するために,本件特許発明1は,異なる限定受信方式を識別するために予め定めた限定受信方式記述子とアクセス制御記述子とを記述子領域に含んだテーブル情報であるPMTおよびCATと,前記異なる限定受信方式に対応する複数のメッセージ情報であるECMおよびEMMと,前記暗号化されたコンテンツとが少なくとも多重化された前記放送波を分離する多重分離手段と,この多重分離手段で分離されたテーブル情報から,前記アクセス制御記述子を分離し,当該アクセス制御記述子に記載されているパケット識別を抽出するアクセス制御記述子分離手段と,このアクセス制御記述子分離手段から抽出されたパケット識別に対応するECMおよびEMMを,前記多重分離手段で分離された複数のECMおよびEMMから抽出するフィルタリング手段と,このフィルタリング手段で抽出されたECMおよびEMMによって,スクランブル鍵を生成する限定受信制御手段と,この限定受信制御手段で生成されたスクランブル鍵を用いて,前記コンテンツを復号するデスクランブル手段と,を備えるデジタル放送受信装置,との構成を採用することにより,従来の限定受信方式とは独立して,新たな方式の限定受信方式に対応することができ,またこのとき,従来のデジタル放送受信装置では,限定受信方式記述子を参照することになるため,従来のデジタル放送受信装置の受信に影響を与えることがなく,くわえて,新たな限定受信方式を複数採用した場合であっても,個々の受信装置に対応する限定受信方式に対応したECM/EMMを確実に抽出することができるため,正しくコンテンツを再生することができ,さらに,限定受信方式を複数制御することができることで,1の限定受信方式のセキュリティ維持が困難な状態に陥ったとしても被害を最小限に抑えることができる,という作用効果を奏するものである(段落【0024】,【0025】)。 なお,本件明細書の【図3】は,限定受信方式を識別するための記述子のデータ構成図であって,(a)はアクセス制御記述子,(b)は限定受信方式記述子のデータ構成図である(段落【0026】)。 (2) 甲1文献の記載について 甲1文献(甲1)には次の記載がある 「まえがき 一般社団法人電波産業会は,無線機器製造者,電気通信事業者,放送機器製造者,放送事業者及び利用者の参加を得て,各種の電波利用システムに関する無線設備の標準的な仕様等の基本的な要件を「標準規格」として策定している。 「技術資料」は,国が定める技術基準と民間の任意基準を取りまとめて策定される標準規格を踏まえて,無線設備,放送設備の適正品質,互換性の確保等を図るため,当該設備に関する測定法,解説,運用上の留意事項等を具体的に定めたものである。 本技術資料は,地上デジタルテレビジョン放送の放送局での運用及び地上デジタルテレビジョン放送受信機の機能仕様について策定されたもので,策定段階における公正性及び透明性を確保するため,内外無差別に広く無線機器製造者,電気通信事業者,放送機器製造者,放送事業者及び利用者等の利害関係者の参加を得た当会の規格会議の総意により策定されたものである。」(まえがき頁無し)「2 引用文書 (1) 「地上デジタルテレビジョン放送の伝送方式」標準規格ARIBSTD-B31 (2) 「デジタル放送における映像符号化,音声符号化および多重化方式」標準規格ARIBSTD-B32 (3) 「デジタル放送に使用する番組配列情報」標準規格ARIBSTD-B10 (4) 「デジタル放送におけるデータ放送符号化方式と伝送方式」標準規格ARIBSTD-B24 (5) 「デジタル放送におけるアクセス制御方式」標準規格ARIBSTD-B25 (6) 「デジタル放送用受信装置」標準規格ARIBSTD-B21」(地上デジタルテレビジョン放送運用概要 1頁)「1.1 まえがき 地上デジタルテレビジョン放送受信機に対する限定受信方式に関する仕様は電波産業会標準規格「デジタル放送におけるアクセス制御方式」第1部受信時の制御方式(限定受信方式)(以下,ARIBSTD-B25第1部)で規定される。 本編は,ARIBSTD-B25第1部を基に,それを補足する形で運用上の送出運用規定と受信機仕様に対する要求仕様について規定した。したがって,本編に記載されていない事項に関してはARIBSTD-B25第1部を参照願いたい。」(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様【第一部】限定受信方式(CAS)運用規定及び受信機仕様 5-1頁)「4.8 限定受信方式記述子 4.8.1 機能 -CATに記載された場合はEMMを伝送するTSパケットIDを特定する。 -CATに複数の限定受信方式記述子が記述される場合がある。 -PMTに記載された場合はECMを伝送するTSパケットIDを特定する。 -PMTに複数の限定受信方式記述子が記載される場合がある。」(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第一部】 限定受信方式(CAS)運用規定及び受信機仕様 5-11頁)「5.1 受信機の構成 図5-1にCASに関わるハードウェア構成を示す。ここでは,あくまで仕様を説明するためのモデル構成であり,実際の構成は受信機の設計による。 図5-1 受信機の基本構成(1) チューナー部-制御部からの制御で放送信号の受信と選択を行い,伝送信号のパケット処理,エラー訂正処理を行う。 (2) デスクランブラ-制御部からの制御で,MULTI2方式による特定パケットのデスクランブルを行う。・・・(3) TSデコード部 -TS多重された信号から必要なパケットを分離し,放送番組信号の選択,各種多重データ(各種SIデータ,ECM,EMM等)の分離を行う。 (4) 映像音声デコード部 -映像,音声のデコードを行いモニタに出力する。 (5) 表示部 -ユーザーに対するメニュー,リスト,ICカード情報,自動表示メッセージ,メール,ICカードテスト,ICカード応答時のエラー等を表示するための画面提示手段,ユーザーインタフェースを搭載する。 (6) キー入力部 -リモコンからのキー入力処理を行う。 (7) 制御部 -受信機全体の制御を行う。特にCASに関しては,ICカードとの通信,放送信号から分離した各種データの処理,デスクランブラの制御,時刻カウント,表示処理制御,キー入力処理がある。」(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様【第一部】限定受信方式(CAS)運用規定及び受信機仕様 5-32,33頁) 「5.6 有効な限定受信方式(ICカードと放送波におけるCA_system_idの整合性確認) -複数の限定受信方式が運用される場合があるが,限定受信方式の区別はCA_system_idによって行う。 -有効な限定受信方式とは,電源オン時,またはICカードの挿入時にICカードとの初期設定条件コマンド/レスポンスによって得られるCA_system_idとPSI/SIで送られるCA_system_idとが一致したものを有効とする。 -複数のCA_system_idがCATやPMTに記載されている場合でもICカードとのコマンド/レスポンスで得られたCA_system_idと整合した値であれば,本編で定める受信機処理を行う。」(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第一部】 限定受信方式(CAS)運用規定及び受信機仕様 5-35,36頁) 「A.1.2 複数限定受信方式の運用について 地上デジタルテレビジョン放送のコンテンツ保護について本書では,ARIBSTD-B25第1部準拠の限定受信方式を利用した方式を規定したが,将来において,これよりもコンテンツ保護に適したコンテンツ保護専用方式が登場した場合に,それを導入できるように複数の限定受信方式を運用可能な規定とした。規定の記載にあたっては,コンテンツ保護専用方式導入時に複数の限定受信方式記述子を運用しても,放送開始当初の受信機でも誤動作をおこさないために記載する目的を主として,コンテンツ保護専用方式に関する規定は,今後の検討結果次第であるため,記載せず複数の限定受信方式記述子,CAサービス記述子がCAT,PMTに配置可能な旨を規定した。 放送開始時点で販売される受信機においては,ARIBSTD-B25第1部準拠の限定受信方式のみが搭載されることが想定される。将来において,コンテンツ保護専用方式の導入が行われる場合,この受信機においてもコンテンツ保護を目的とした無料番組の視聴を可能とするため下記の運用イメージのように,ARIBSTD-B25第1部準拠のECMとコンテンツ保護専用方式準拠のECMの両方で同一のKsの伝送を行う運用としなければならない。」(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第一部】限定受信方式(CAS)運用規定及び受信機仕様 5-62頁) 「[限定受信方式] 日本のデジタル放送における限定受信方式は,その基本形式が省令の形で定められている。その基本要素を列挙すると以下のとおりである。 a) コンテンツはMULTI2と呼ばれる暗号方式によって,TSレベルでスクランブルされる。 b) スクランブルを解除する鍵はECMと呼ばれるテーブルで暗号化されて送出される。 c) ECMの暗号を解くための鍵はワーク鍵とよばれ,受信者別の識別子をもつEMMと呼ばれるテーブルで暗号化されて送出される。 d) 受信者別の識別子をもつEMMは,受信機内の受信者別の暗号鍵で復号される。 e) CATと呼ばれるテーブルは限定受信方式記述子をもち,この記述子は具体的な限定受信方式を示すCA_system_idとEMMが送出されるPIDを明らかにする。 f) PMTと呼ばれるテーブルも同じく限定受信方式記述子をもち,この記述子は具体的な限定受信方式を示すCA_system_idと,ECMとデスクランブルすべきES_PIDの関係を明らかにする。 限定受信方式とは上記の基本的な構成に基づくものである。 [ARIBSTD-B25第1部準拠方式] 省令に示される限定受信方式を,より具体的な方式にまとめられたものがARIBSTD-B25第1部であるが,関連情報に対する暗号方式が特定されていないこともあり,個別の限定受信方式を示すものではない。したがって限定受信方式の集合体である。しかしながらARIB規格は時代の推移によって改定されてゆくものであるから,何をもってARIBSTD-B25第1部準拠方式かをあらためて整理しておく必要がある。本書では,将来STD-B25第1部が改定されても決して変わることのない部分は何かを以下の点であると想定した。 a) 省令が示す限定受信方式に該当する部分 b) セキュリティモジュールとして,電気的にISO7816に準拠したICカードを用いた低速インタフェース方式であること c) ICカードのコマンド/レスポンスのうち現行の初期設定コマンドに完全準拠するもの [CA_system_id] 個別の限定受信方式を示す識別子である。 (図A-2における限定受信方式の範囲での識別子)」(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第一部】限定受信方式(CAS)運用規定及び受信機仕様 5-64,65頁)「上記の4つの概念と,将来導入されるかもしれない,放送におけるコンテンツ保護方式の関係を図A-2に示す。 図A-2 可能性のある放送におけるコンテンツ保護方式の位置づけ 本書では,将来策定されるかもしれない放送におけるコンテンツ保護方式を上記4つの場合に分類・想定し,各場合において,それまでに流布した受信機が可能な限り問題なく使用され続けるように,運用規格を策定した。 case1:これは,まったく未知の方式であり現時点でその備えをすることは不可能であり,また省令・ARIB規格の根本的策定を伴うものである。さらに本書の役割である限定受信方式の運用規格の範疇を超えるものである。したがって,このようなケースにおいては,それまでに流布した受信機が可能な限り問題なく使用され続けるようにするために,新たな規格の策定がその責務を負わねばならないと考える。 case2:この場合は,複数の限定受信方式が存在することになるので,その事が受信機の誤動作につながることのないように本書で規格化する。この場合はその方式の登場に際して新たな追加規格が策定されねばならない。 case3:この場合は,case2と同様に複数の限定受信方式が存在することになるので,その事が受信機の誤動作につながることのないように規格化する。 本書では,この場合にはその方式の登場に際して新たな規格の策定が不要であるように配慮した。 この場合に備えて,本書ではCA_system_idの具体的な番号の指定は行っていない。 case4:この場合は,地上デジタルテレビジョン放送のコンテンツ保護の方式が,BS/広帯域CSデジタル放送におけるコンテンツ保護と同様の運用をされることを意味し,特に大きな技術的懸念要素はない。 以上,地上デジタルテレビジョン放送の限定受信方式の運用規定を策定するに当たり,将来の放送におけるコンテンツ保護方式が新たに策定されるための備えとして検討した基本的考え方を述べるものである。」(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第一部】限定受信方式(CAS)運用規定及び受信機仕様 5-65,66頁)「1.1 まえがき 地上デジタルテレビジョン放送受信機に対する限定受信方式に関する仕様は電波産業会標準規格「デジタル放送におけるアクセス制御方式」(以下,ARIBSTD-B25)で規定される。 無料番組を対象とするコンテンツ保護方式には,ARIBSTD-B25第1部受信時の制御方式(限定受信方式)に規定する方式とARIBSTD-B25第3部受信時の制御方式(コンテンツ保護方式)に規定する方式があるが,本編第二部はARIBSTD-B25第3部に規定する方式について,それを補足する形で運用上の送出運用規定と受信機仕様に対する要求仕様について規定した。したがって,本編第二部に記載されていない事項に関してはARIBSTD-B25第3部を参照願いたい。 なお,本編第二部は,ARIBSTD-B25第3部に基づき,コンテンツ保護を伴う無料番組を対象とした方式(CA_system_id=0x000E 以下RMP方式)に関する記載である。従って,ARIBSTD-B25第1部に基づき,コンテンツ保護を伴う無料番組を対象とした方式の運用を実施する場合の記載については,本編第一部に記載されている方式(CA_system_id=5以下 CA5方式)を参照願いたい。RMP方式とCA5方式の同時運用(サイマルクリプト運用)については,本編第二部に記載している。」(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第二部】RMP方式運用規定及び受信機仕様5-79頁) 「サイマルクリプト運用 1つの番組に対して複数の限定受信(CAS)方式を並列運用する運用形態。種類が異なるCAS方式のECMやEMMを番組に付加して並列送信する。受信機は,いずれか一方のCAS方式に対応していれば受信可能となる。」(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第二部】RMP方式運用規定及び受信機仕様 5-82頁) 「4.6 限定受信方式記述子 4.6.1 機能 -CATに記載された場合は,CA_system_idに対応したEMMを伝送するTSパケットIDを特定する。 -PMTに記載された場合は,CA_system_idに対応するECMを伝送するTSパケットIDを特定する。」(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第二部】RMP方式運用規定及び受信機仕様5-87頁) 「4.14 サイマルクリプト運用 -コンテンツ保護を伴う無料放送をARIBSTD-B25第1部に準拠する方式(以下,CA5方式)とARIBSTD-B25第3部に準拠する方式(以下,RMP方式)の2方式でサイマルクリプト運用する場合に,送出側が遵守すべき運用事項を定める。 4.14.1 ECMの送出 コンテンツ保護を伴う無料番組ではECMを次のように送出する。 -コンテンツ保護を伴う無料番組においては,サイマルクリプト運用のために,CA5方式のECMとRMP方式の2種類のECMを並行して送出する。 -CA5方式のECMとRMP方式のECMの両方で同一のKsの伝送を行う。 -PMTには,CA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子を記載すること。CA5方式,RMP方式の記載順については規定しない。 -番組内のコンポーネントにスクランブルESとノンスクランブルESとが混在する場合を考慮し,PMTにおけるCA5方式とRMP方式の限定受信方式記述子の配置を以下のように定める。 1)それぞれの限定受信方式記述子をPMTの第1ループに必ず1つ配置する。この場合,番組内のすべてのコンポーネントに対しそれぞれのECMが適用される。 2)それぞれの限定受信方式記述子をPMTの第2ループには配置しない。 ただし,デフォルトES群以外でノンスクランブル運用する場合に限り,CA_PIDフィールドに無効なECM_PID=0x1FFFを記述したそれぞれの限定受信方式記述子を配置する。なお,第2ループに配置するCA5方式とRMP方式の限定受信方式記述子が指し示すESは同一である。 4.14.2 EMMの送出 1TS内でどのような種類の放送を運用するかにより,以下のように送出が変わる。 なおコンテンツ保護を伴う無料放送のためのEMMは,各アクセス制御方式の運用によって送出する場合と送出しない場合がある。RMP方式のEMMは必ず送出されるが,CA5方式のEMMは運用によって送出しない場合がありうる。」(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第二部】RMP方式運用規定及び受信機仕様 5-112頁)「5.1 受信機の構成 -図5-1にRMP方式に関わるハードウェア構成を示す。ここでは,あくまで仕様を説明するためのモデル構成であり,実際の構成は受信機の設計による。 図5-1 受信機の基本構成 (1) チューナ部 -制御部からの制御で放送信号の受信と選択を行い,伝送信号のパケット処理,エラー訂正処理を行う。 (2) デスクランブラ -制御部からの制御で,MULTI2方式による特定パケットのデスクランブルを行う。 -コンポーネントのスクランブルの判定は,TSパケットヘッダ中のtransport_scrambling_controlフィールドにしたがうこと。・・・ (3) TSデコード部 -TS多重された信号から必要なパケットを分離し,放送番組信号の選択,各種多重データ(各種SIデータ,ECM,EMM等)の分離を行う。 (4) 映像音声デコード部 -映像,音声のデコードを行いモニタに出力する。 (5) 表示部 -ユーザに対するデバイスID情報,ECM/EMM復号化時のエラー等を表示するための画面提示手段,ユーザインタフェースを搭載する。 (6) キー入力部 -リモコンからのキー入力処理を行う。 (7) 制御部 -受信機全体の制御を行う。 (8) RMPモジュール -TSデコード部より出力されるECM,EMMを入力とし,ECMの暗号復号処理機能,EMMの暗号復号処理機能,デバイス鍵更新処理機能,デバイス鍵更新アルゴリズム,不揮発性メモリ機能等を有することで,デスクランブルに必要な情報をデスクランブラに出力する機能を有するRMP方式にかかわる仮想的な機能モジュール。 -RMPモジュールは表5-1に示す共通データおよび表5-2に示す局個別データを保持し,管理する機能を有する。」(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第二部】RMP方式運用規定及び受信機仕様 5-114,115頁) 「5.4 有効な限定受信方式 -複数の限定受信方式が運用される場合があるが,限定受信方式の区別はCA_system_idによって行う。 -本編第二部で規定するRMP方式のCA_system_idの値は0x000Eである。 -本編第二部で定める受信処理を行う場合,複数のCA_system_idがCATやPMTに記載されている場合でも,本編第二部で規定するCA_system_idと整合した値であれば,有効な限定受信方式と判断する。」(第五編 地上デジタルテレビジョン放送限定受信方式運用規定及び受信機仕様 【第二部】RMP方式運用規定及び受信機仕様 5-115頁) (3) 甲1A発明の特徴 ア 上記(2)によれば,甲1文献は「技術資料」であり,「国が定める技術基準と民間の任意基準を取りまとめて策定される標準規格を踏まえて,無線設備,放送設備の適正品質,互換性の確保等を図るため,当該設備に関する測定法,解説,運用上の留意事項等を具体的に定めたもの」であって,「地上デジタルテレビジョン放送の放送局での運用及び地上デジタルテレビジョン放送受信機の機能仕様について策定されたもの」(まえがき)である。また,甲1文献には,その策定の目的について,「国が定める技術基準と民間の任意基準を取りまとめて策定される標準規格を踏まえて,無線設備,放送設備の適正品質,互換性の確保等を図るため,当該設備に関する測定法,解説,運用上の留意事項等を具体的に定めたものである」(まえがき)との記載があり,この場合の「無線設備,放送設備」とは,同「まえがき」における「地上デジタルテレビジョン放送受信機」を含む。 イ 上記アによれば,甲1A発明は,地上デジタルテレビジョン放送受信機の機能仕様に関するものであり,地上デジタルテレビジョン放送受信機等の設備の適正品質,互換性の確保等を図ることを目的とするものである。 そして,甲1A発明は,地上デジタルテレビジョン放送受信機等の設備の適正品質,互換性の確保等を図るために,受信したコンテンツのデスクランブルに必要な情報を格納したRMPモジュールを受信機の内部構成として有する受信時制御方式であるRMP方式と,受信したコンテンツのデスクランブルに必要な情報を格納したICカードを受信機の別構成として組み込んで用いる受信時制御方式であるCA5方式の2つの方式を用いて,1つの番組に対して種類が異なるECM(番組情報および制御情報からなる共通情報)やEMM(加入者毎の契約情報および共通情報の暗号を解くためのワーク鍵を含む個別情報)を付加して並列送信し,受信機はいずれか一方の受信時制御方式に対応していれば番組を受信可能とする,サイマルクリプト運用のための,地上デジタルテレビジョン放送受信機等に対して運用上要求される機能仕様として規定された構成を有する(第五編【第一部】5-3頁,5-35,36頁,第五編【第二部】5-79頁,5-82頁,5-114,115頁)。 (4) 甲1A発明の認定 甲1文献(甲1)の記載によれば,甲1A発明は以下のとおりであると認められる。 「放送信号を受信し,MULTI2と呼ばれる暗号化方式によってTSレベルでスクランブルされたコンテンツを限定受信方式により再生するデジタル放送受信機であって, 記述子タグが限定受信方式記述子を示し,限定受信方式識別子により区別されるCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子とが記述子領域に記載されたテーブルであるPMTおよびCATと,CA5方式とRMP方式のメッセージ情報であるECMおよびEMMと,TSレベルでスクランブルされたコンテンツとが多重化された放送信号を分離するTSデコード部と, TSデコード部で分離されたPMTおよびCATのテーブルからCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子を分離し,その限定受信方式記述子からECMおよびEMMが送出されるPIDを抽出し,その抽出されたPIDによりECMおよびEMMを分離し,分離されたCA5方式の限定受信方式記述子とRMP方式の限定受信方式記述子に対応するECMおよびEMMから,特定の限定受信方式記述子に対応するECMおよびEMMを抽出する制御部とを有し, 制御部は,抽出されたECMおよびEMMによって,コンテンツのスクランブルを解除する鍵を生成するものであって, さらに,コンテンツのスクランブルを解除する鍵によりTSレベルでスクランブルされたコンテンツの暗号化を解除するデスクランブラを有する,デジタル放送受信機。」 (5) 甲3文献ないし甲5文献の記載 ア 甲3文献(甲3)には,以下の記載がある。 「3.7 記述子の構成 別記第 1 限定受信方式記述子の構成 注1 記述子タグの値は,限定受信方式記述子を示す0x09 とする。 2 記述子長は,これより後に続くデータバイト数を書き込む領域とする。 3 限定受信方式識別子は,限定受信方式の種類を識別するために使用する領 域とする。 4 限定受信PIDは,関連情報を含むTSパケットのPIDを書き込む領域 とする。 5 本記述子は,CATの記述子領域又はPMTの記述子1若しくは記述子2 の領域で伝送するものとする。」(177頁) イ 甲4文献(甲4)には,以下の記載がある。 「6.6.2.2 伝送方式 デジタルコピー制御記述子及びコンテント利用記述子は,標準方式第3条第2項及び平成11年郵政省告示第865号(2.6GHz帯の周波数の電波を使用する衛星デジタル音声放送においては,衛星デジタル音声放送に関する電技審答申)に定める伝送制御信号の記述子を書き込む領域において伝送するものとする。 なお,BSデジタル放送用受信機等においては,伝送制御信号の記述子を書き込む領域により伝送された信号は,その記述子タグ(descriptor_tag)が,当該受信機が既に対応済みの記述子に割り当てられている記述子タグと異なっていれば,無視されるよう民間標準規格において規定されている。したがって,記述子タグを,デジタルコピー制御記述子については,既存の民間標準規格と合致するようにし,コンテント利用記述子については,民間規格を含めた他の既存の記述子とは異なる値とすれば,BSデジタル放送用受信機等に不具合を与えることはない。」(付録-1 285頁) ウ 甲5文献(甲5)には,以下の記載がある。 「3.番組配列情報の拡張 今後の放送展開や受信者の番組視聴慣習等により,より効果的でユーザフレンドリーな番組配列情報を実現するため,さらに工夫の余地もあるものと見られる。このような場合には,関係者の審議を経て,必要に応じたテーブルおよび記述子の追加あるいは記述子の伝送テーブルの追加など,規格の拡張を行なうこともある。これらの拡張に際しては従来規格との互換性を考慮する必要があるが,受信機においては拡張信号によって従来機能に支障が生じないような設計が必要である。」(第2部 番組配列情報における基本情報のデータ構造と定義 240頁) (6) 甲1文献ないし甲5文献が一つの文献であるとの原告の主張について 原告は,「技術資料」である甲1文献と「標準規格」である甲2文献ないし甲5文献は,すべてが一体となってデジタルテレビの規格を構成するものであって,デジタルテレビに関わる様々な業者(テレビ製造メーカー,放送業者等)は,この規格全体を理解しなければデジタルテレビ事業に参入することができないから,規格全体が一つの発明,一つの文献であるというべきである旨主張する。 確かに,甲1文献は,標準規格を踏まえて策定されたものであり,「運用概要」において「標準規格」である甲2文献ないし甲5文献を「引用文書」と定めていること,「第五編【第一部】」の「1.1まえがき」において,「本編に記載されていない事項に関してはARIBSTD-B25第1部を参照願いたい。」と,同様に,「第五編【第二部】」の「1.1まえがき」において,「本編第二部に記載されていない事項に関してはARIBSTD-B25第3部を参照願いたい。」と,それぞれ記載されていることから,甲1文献と,甲2文献ないし甲5文献とは,引用関係にある文書であることは認められる。 しかし,甲2文献ないし甲5文献は,「標準規格」であり,国が定める技術基準を補足して社団法人電波産業会(ARIB)が技術的な規定を行う民間の任意基準であるのに対し,甲1文献は,「技術資料」であり,「技術資料」とは,国の技術基準及び上記標準規格で規定される選択肢の中から,実際の事業者が運用する範囲と具体的な運用方法を規定するという性質のものであるから,両者は,使用目的が異なることを意図して作成されたものと認められる。さらに,このような使用目的の違いに加え,各文献の改定単位や時期を異ならせていることも考慮すると,あえて各文献を別文書として構成して作成し,利用者の便に供しているものであるとも解される。 したがって,上記引用関係にあることをもって,甲1文献と甲2文献ないし甲5文献を,一つの文献として取り扱うことはできない。 また,審決は,甲1A発明について,甲2文献ないし甲5文献に記載された事項で補って(甲1文献ないし甲5文献の記載事項全体を考慮して)認定していることが認められるし,原告の上記主張は,規格全体が一つの発明であり文献であるというものであり,審決の甲1A発明の認定の誤りをいうものではない。 以上によれば,審決の甲1A発明の認定に誤りはなく,「技術資料」である甲1文献と「標準規格」である甲2文献ないし甲5文献について,規格全体が一つの発明,一つの文献であるというべきであるとの原告の上記主張は採用することができない。 (7) 本件特許発明1と甲1A発明の対比,判断 ア 原告は,@本件特許の特許請求の範囲には,「異なる限定受信方式を識別するために予め定めた限定受信方式記述子とアクセス制御記述子」とのみ記載されており,異なる限定受信方式を識別する手段について何らの記載もなく,また,「限定受信方式記述子」と「アクセス制御記述子」の技術的意義は一義的に理解することができるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することは許されない,A「限定受信方式記述子」と「アクセス制御記述子」は異なる限定受信方式を識別することができる二つの記述子でありさえすれば該当するから,甲1A発明の「RMP方式の限定受信方式記述子」を「限定受信方式記述子」と,「CA5方式の限定受信方式記述子」を「アクセス制御記述子」と考えれば,本件特許発明1と甲1A発明は同一の発明といえる旨主張する。 イ しかし,本件特許の特許請求の範囲における「異なる限定受信方式を識別するために予め定めた限定受信方式記述子とアクセス制御記述子」との記載は,一義的かつ明確に意味を理解できるものとは認められない。すなわち,「限定受信方式記述子」については,甲1文献において,その機能が記載され(第五編【第一部】「4.8」),「CA_system_id」によって限定受信方式を区別するものと記載されているとおり(第五編【第一部】「5.6」),「限定受信方式記述子」は,標準規格及びその技術資料において明確にその意味が規定されている。また,甲3文献の前記記載によれば,その構成について,「記述子タグ」の値が「限定受信方式記述子を示す0x09」として規定されており,このことは一般に広く知られた技術事項であると認められる。 これに対し,「アクセス制御記述子」は,本件特許の特許請求の範囲の記載においてはその意味について定義されておらず,また,本件特許の優先日時において一般に広く知られた用語であるとも認められない。「アクセス制御記述子」は,その名称から,「限定受信方式記述子」とは異なる記述子とも理解することができるが,一方で,限定受信方式を識別する機能を有するものであるから,上記標準規格等で明確に定義された「限定受信方式記述子」に該当するとも理解できなくはない。 そうすると,本件特許の特許請求の範囲の記載のみからは,「アクセス制御記述子」の技術的意義を一義的に明確に理解することはできないから,本件特許発明1の構成の認定にあたっては,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌する必要がある。 ウ 「限定受信方式記述子」と「アクセス制御記述子」については,本件明細書の発明の詳細な説明の記載において,「すなわち,アクセス制御記述子分離手段11は,PMTが入力された場合,PMTの記述子領域に記載されている記述子の中から,予め定めた記述子タグの値でアクセス制御記述子を探索し,該当するアクセス制御記述子を分離する。」(段落【0034】),「記述子タグD1は,当該アクセス制御記述子を特定する予め定めた値を記述する領域である。」(段落【0038】),「このアクセス制御記述子と限定受信方式記述子とでは,記述子タグD1,E1の値が異なるため,両方の記述子がPMTやCATの記述子領域に並列して記載されている場合であっても,それぞれの記述子を区別することができる。」(段落【0039】)との記載がある。本件明細書の上記各記載を参酌すれば,本件特許発明1において,「限定受信方式記述子」と「アクセス制御記述子」とは,「異なる限定受信方式を識別する」ために異なる「記述子タグ」の値を有する構成が示されているから,「アクセス制御記述子」は,上記標準規格等上で明確に定義された「限定受信方式記述子」の範囲を超えるもの,すなわち,「限定受信方式記述子」とは記述子として異なるものであると理解することができる。 そして,本件明細書の記載によれば,本件特許発明1は,サイマルクリプト運用において「テーブル情報」に「限定受信方式記述子」と並列に記載する記述子として「アクセス制御記述子」を導入することにより,当該「アクセス制御記述子」に対応したデジタル放送受信装置は「アクセス制御記述子」を参照することで正しく受信することができ,また,サイマルクリプト運用において「テーブル情報」に複数の同じ「限定受信方式記述子」を並列に記載した場合では誤動作を起こしてしまうデジタル放送受信装置については,上記「アクセス制御記述子」という新たな記述子には対応していないから当該「アクセス制御記述子」を無視し,一方の「限定受信方式記述子」を参照することになるため受信に影響を与えない,という効果を奏するものである。 これに対し,甲1A発明における「CA5方式の限定受信方式記述子」と「RMP方式の限定受信方式記述子」とは,いずれも「限定受信方式記述子」であって,同じ値の「記述子タグ」を有し,限定受信方式識別子が異なるというものであるから,上記標準規格等上で明確に定義された「限定受信方式記述子」の範囲内のもの,すなわち,記述子としては同一のものであるといえる。 そうすると,上記「CA5方式の限定受信方式記述子」と「RMP方式の限定受信方式記述子」は,いずれも本件特許発明1における「アクセス制御記述子」に相当するということはできない。 以上によれば,原告の上記主張は採用することができず,審決が,本件明細書の記載を根拠に,本件特許発明1の「アクセス制御記述子」は,記述子タグを異ならせることにより異なる限定受信方式を識別する機能を有する限定受信方式に係る記述子であると認定し,本件特許発明1と甲1A発明とは,「複数の限定受信方式に係る記述子」が,本件特許発明1では,互いに記述子タグが異なる「限定受信方式記述子」と「アクセス制御記述子」であるのに対し,甲1A発明では,(互いの記述子タグは異ならないけれども,)互いの限定受信方式識別子が異なる「CA5方式の限定受信方式記述子」と「RMP方式の限定受信方式記述子」である点において相違するとして,相違点1を抽出し,相違点1について,本件特許発明1の「限定受信方式記述子」と「アクセス制御記述子」と,甲1A発明の「CA5方式の限定受信方式記述子」と「RMP方式の限定受信方式記述子」は,明らかにその構成が異なるものであり,本件特許発明1は甲1A発明と相違するから,本件特許発明1は甲1A発明であるとはいえないと判断したことに誤りはない。 2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)について (1) 前記のとおり,本件特許発明1と甲1A発明の相違点1は,PMTおよびCATに含まれる「複数の限定受信方式に係る記述子」が,本件特許発明1では,互いに記述子タグが異なる「限定受信方式記述子」と「アクセス制御記述子」であるのに対し,甲1A発明では,(互いの記述子タグは異ならないけれども,)互いの限定受信方式識別子が異なる「CA方式の限定受信方式記述子」と「RMP方式の限定受信方式記述子」である点である。 原告は,本件特許発明の容易想到性について,相違点2ないし10は,全て相違点1に付随又は対応する相違点であり,実質的には,相違点1に係る本件特許発明1の構成は設計事項にすぎないか否か,甲1文献ないし甲5文献を組み合わせて相違点1に係る本件特許発明1の構成を想到することが容易か否かという点を検討すれば足りることを前提に,審決の相違点1の判断には誤りがある旨主張する。 そこで,以下,審決の相違点1の判断について検討する。 (2) まず,前記認定のとおり,本件特許発明1の「アクセス制御記述子」は,記述子タグを異ならせることにより異なる限定受信方式を識別する機能を有する限定受信方式に係る記述子であり,従来のデジタル放送受信装置の受信に影響を与えることなく,正しいコンテンツを再生することができるという効果を奏するものである。このような本件特許発明1の技術的特徴を考慮すると,甲1A発明において,相違点1に係る本件特許発明1の構成を採用することが設計事項であり容易想到であったというためには,甲1A発明の「RMP方式の限定受信方式記述子」の記述子タグを「CA5方式の限定受信方式記述子」の記述子タグと異なるよう変更すること,すなわち「RMP方式の限定受信方式記述子」の記述子タグを限定受信方式記述子の記述子タグ以外のものに変更すること(本件特許発明1におけるアクセス制御記述子を設けることに相当する。 が, ) 少なくとも本件優先日当時に周知技術であったといえなければならない。 この点,記述子の構成についての甲3文献の前記記載によれば,一般に,記述子の記述子タグに関しては,記述子の名称・内容に対応させて記述子タグを異なるものとすることは周知であったといい得る。 しかし,仮に,記述子の名称・内容に対応させて記述子タグを異なるものとすることが周知であったといえるとしても,記述子の記述子タグをその記述子の名称・内容に対応したものと異なる値の記述子タグに変更するということまでが,本件優先日当時において周知であったと認めるに足りる証拠はなく,そのことが技術常識であったということも認められない。 さらに,「限定受信方式記述子」の記述子タグを変更することについて検討するに,甲1文献には,「サイマルクリプト運用 1つの番組に対して複数の限定受信(CAS)方式を並列運用する運用形態。種類が異なるCAS方式のECMやEMMを番組に付加して並列送信する。受信機は,いずれか一方のCAS方式に対応していれば受信可能となる。」(第五編【第二部】5-82頁),「5.4 有効な限定受信方式 複数の限定受信方式が運用される場合があるが,限定受信方式の区別はCA_system_idによって行う。」(第五編【第二部】5-115頁)との記載があるように,複数の異なる限定受信方式を運用する際には,複数限定受信方式記述子の限定受信方式識別子(CA_system_id)を異ならせれば,受信機は,当該限定受信方式識別子をもって自身に適合した限定受信方式を識別でき,番組を正常に受信することが可能であることが認められる。 したがって,甲1文献の上記記載を前提とすれば,複数の異なる限定受信方式を並列運用するために,複数の限定受信方式記述子を情報に付加する場合においても,互いに限定受信方式識別子を異なるものとすれば足りるから,複数の異なる限定受信方式記述子において記述子タグをそれぞれ異なるものにすること,すなわち複数の異なる限定受信方式記述子について,一方の限定受信方式記述子の記述子タグを限定受信方式記述子の本来対応する記述子タグとは異なるものとすることは,当業者が普通に試みることであるなどとは認められない。 以上によれば,「限定受信方式記述子」の記述子タグを限定受信方式記述子の本来対応する記述子タグ以外のものに変更すること(「アクセス制御記述子」に相当する技術思想を採用すること)が本件優先日当時に周知技術であったとはいえず,甲1A発明において,限定受信方式記述子である「RMP方式の限定受信方式記述子」の記述子タグを,限定受信方式記述子の記述子タグ以外のものに変更することが設計事項であったということはできない。 (3) さらに,甲1A発明に基づいて相違点1に係る本件特許発明1の構成を容易に想到し得たといえるか,引用文献において,動機付けとなる記載や示唆があると認められるかについても引き続き検討する。 前記のとおり,甲1文献は「技術資料」であり,また,甲1A発明は,地上デジタルテレビジョン放送受信機等の設備の適正品質,互換性の確保等を図るという目的のために,サイマルクリプト運用のための,地上デジタルテレビジョン放送受信機等に対して運用上要求される機能仕様を規定したものである。すなわち,地上デジタルテレビジョン放送受信機等の設備が,品質上不適正であったり機能上互換性が失われたまま市場に提供されることで,事業者による地上デジタルテレビジョン放送事業の適正な運用が総合的に妨げられることのないよう対応を図るために, 「技術資料」である甲1文献は,標準規格を踏まえて,運用上要求される機能仕様を総合的に規定するという性質のものであるといえる。 そうすると,甲1A発明においては,サイマルクリプト運用下で,技術資料である甲1文献に記載された機能仕様に適合しない地上デジタルテレビジョン放送受信機等の設備が存在することにより,不具合が発生し,地上デジタルテレビジョン放送事業の適正な運用が妨げられるという事態は想定されていないものと解される。 また,甲1文献等には,サイマルクリプト運用下において,上記のような事態に対処すべきことが記載又は示唆されていない(前記のとおり,従来のデジタル放送受信装置は,現状運用されているICカードを用いた限定受信方式を想定した設計となっているため,複数の限定受信方式記述子の中から必ずしも自受信装置に適合した限定受信方式記述子を分離して,PIDを抽出する設計となっていない受信装置が多く存在し,サイマルクリプト方式を適用して,複数の限定受信方式記述子をPMTやCATに並列に記載された場合,自受信装置に適合しない限定受信方式記述子から誤ったPIDを抽出することで,正しいスクランブル鍵を抽出することができず,映像/音声を正常に再生することができないという問題が存在した。すなわち,審決が認定するとおり,従来のデジタル放送受信装置にサイマルクリプト方式に対応していない受信装置が多く存在するという問題があったが,このような事態に対処することが甲1文献等に記載ないし示唆されているとはいえない。)。 また,本件特許発明1の課題は,甲1文献においては想定していないものであり,実験等を通じて初めて着想し得る課題であるといえるから,本件優先日当時において,自明な課題又は容易に着想し得る課題であったともいえない。 そうすると,その他,引用文献において,相違点1に係る本件特許発明1の構成を想到する動機付けとなる記載や示唆があるとは認められないから,この点においても,甲1A発明において,相違点1に係る本件特許発明1の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たものということはできない。また,前記のとおり,限定受信方式記述子の記述子タグを限定受信方式記述子本来の記述子タグ以外のものに変更することが,本件優先日当時において周知技術であったとはいえないから,甲1A発明において,相違点1に係る本件特許発明1の構成を採用することは当業者が容易に想到し得たものということはできない。 以上によれば,本件特許発明1は当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから,特許法29条2項の規定に該当しない,とした審決の相違点1の判断に誤りはない。 (4) 原告の主張について ア 原告は,本件特許発明1と甲1A発明の違いは,記述子タグの値の違いのみであり,記述子タグの値を「限定受信方式記述子」と異なるものに変更することこそが相違点1の本質である旨主張する。 しかし,限定受信方式記述子の記述子タグを限定受信方式記述子本来の記述子タグ以外のものに変更することが,本件特許の優先日時において周知技術であったとはいえないことは前記認定のとおりであるから,仮に,記述子タグの値を「限定受信方式記述子」と異なるものに変更することが相違点1の本質であると理解したとしても,原告の上記主張は,相違点1に係る本件特許発明1の構成を容易に想到し得たとはいえないとの結論を左右するものではない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 イ 原告は,記述子タグは各記述子を識別するためのものであって,記述子タグの値を異なるものにすることで記述子同士を識別することは,記述子タグの機能からして当然に行うことができるから,当業者であれば誰でもこれを想到することができ,また,限定受信方式記述子の構成上,識別子は記述子タグと限定受信方式識別子のみであり,限定受信方式記述子同士を識別する方法として,二つしかない識別子のうち,限定受信方式識別子ではなく,残るもう一つの識別子である記述子タグの値を変えることは,設計事項にすぎず,さらに,審決の判断によれば,甲4文献及び甲5文献には,相違点1の本質である「アクセス制御記述子」を設けること(記述子タグの値を変更すること)が記載されているということができるから,甲1A発明においてアクセス制御記述子を想到すること(記述子タグの値を変更すること)は,当業者にとって容易であった旨主張する。 しかし,限定受信方式記述子の記述子タグを限定受信方式記述子本来の記述子タグ以外のものに変更することが周知技術であったとはいえないことは前記認定のとおりであり,記述子タグの値を異なるものにすることで記述子同士を識別するという技術を直ちに複数の限定受信方式記述子の場合にも適用することができるとはいえない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 ウ 原告は,甲1A発明と,相違点1の内容である記述子タグを変更するという技術は,ともに限定受信方式の区別の方法であって,両者の間には技術分野の共通性が認められる,また,記述子タグの値の変更によって記述子同士を区別することは周知の事項であり,さらに,甲4文献の記載によれば,記述子タグを変更することについて特段の阻害事由は認められないことから,「アクセス制御記述子」を設けること,すなわち記述子タグの値を変更することは設計事項にすぎず,相違点1は当業者であれば容易に想到できることである旨主張する。 しかし,仮に,甲1文献ないし甲5文献に記載された事項に技術分野の共通性があったとしても,限定受信方式記述子の記述子タグを限定受信方式記述子本来の記述子タグ以外のものに変更することが周知技術であったとはいえないことは前記認定のとおりであるから,甲1A発明において相違点1に係る本件特許発明1の構成を採用することは設計事項とはいえない。また,甲4文献の上記記載は, 「デジタルコピー制御記述子」と「コンテント利用記述子」という異なる記述子において異なる記述子タグとすることについてのものであるから(異なる内容の記述子を前提に記述子タグによって記述子を区別する技術について記載されている。 ,このこ )とをもって複数の限定受信方式記述子における記述子タグのいずれかを限定受信方式記述子の本来の記述子タグと異ならせることが記載ないし示唆されているとはいえない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 エ 原告は,ARIB規格には記述子タグが異なる記述子が多数存在していることからすれば,引用発明と組み合わせる「アクセス制御記述子」を設けること(記述子タグの値を変更すること)が,当業者にとって極めて普通に用いられるものであることは明らかであり,また,サイマルクリプト方式に対応していない受信機と対応している受信機を区別するために,アクセス制御記述子を設けることは,まさに選択の問題であって,そもそも,動機付けの問題ではないといえるから,動機付けの存否を検討するまでもなく容易に想到することができる旨主張する。 しかし,ARIB規格において記述子タグが異なる記述子が多数存在するとしても,単に,記述子ごとに異なる記述子タグが対応することを示しているにすぎないのであるから,このことをもって複数の限定受信方式記述子における記述子タグを互いに異ならせること(すなわち「アクセス制御記述子」を設けること)が,当業者にとって極めて普通に用いられるものであるとはいえない。また,仮に,設計事項を検討する際に動機付けは必要ではないとしても,限定受信方式記述子の記述子タグを限定受信方式記述子本来の記述子タグ以外のものに変更することが周知技術であったとか,設計事項であったとはいえないから,原告の上記主張は,甲1A発明において相違点1に係る構成を採用することが容易に想到し得たものではないとの結論を左右するものではない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 オ 原告は,「限定受信方式識別子による区別」を「記述子タグによる区別」に置換することは,当業者の通常の創作能力の発揮として普通に行われていることであって,動機付けの存否を検討するまでもなく,甲1A発明と甲4文献及び甲5文献に記載された事項を組み合わせることは容易に推考し得たことである旨主張する。 しかし,限定受信方式記述子の記述子タグを限定受信方式記述子本来の記述子タグ以外のものに変更することが周知技術であったとはいえないことは前記認定のとおりであるから,甲1A発明において,「限定受信方式識別子による区別」を「記述子タグによる区別」に置換することが,当業者の通常の創作能力の発揮として,普通に行われていることとはいえない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 カ 原告は,ARIB規格に記載されている記述子タグの値を変更すること 「ア (クセス制御記述子」を設けること)は,慣用技術であるから,動機付けの有無を検討するまでもなく,甲1A発明と慣用技術たる記述子タグの値を変更することを組み合わせることができる旨主張する。 しかし,限定受信方式記述子の記述子タグを限定受信方式記述子本来の記述子タグ以外のものに変更することが周知技術であったとはいえないことは前記認定のとおりであるから,仮に,慣用技術について動機付けの問題が不要であるとしても,甲1A発明において,相違点1に係る本件特許発明1の構成を採用することが,容易に想到し得たということはできない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 キ 原告は,@甲1文献には, 「規格化されていない限定受信方式を将来導入する場合には,新たな追加規格の策定が必要であるという示唆」があり,A甲4文献及び甲5文献には,記述子タグの値を変更すれば既存のデジタル放送受信機(サイマルクリプト方式に対応していない受信装置)に不具合を与えないという本件特許発明1の課題が解決できることが記載されている,B「技術資料」である甲1文献と「標準規格」である甲4文献及び甲5文献の間には,技術分野の関連性,作用,機能の共通性が認められ,両者を結び付ける強固な動機づけが存在する,Cよって,甲1A発明に甲4文献又は甲5文献に記載された技術事項を組み合わせることは容易であり,甲1A発明と甲4文献又は甲5文献に記載された事項を結びつけることにより,本件特許発明1の進歩性は否定されることになる旨主張する。 しかし,甲4文献の「BSデジタル放送用受信機等においては,伝送制御信号の記述子を書き込む領域により伝送された信号は,その記述子タグ(descriptor_tag)が,当該受信機が既に対応済みの記述子に割り当てられている記述子タグと異なっていれば,無視されるよう民間標準規格において規定されている。 したがって,記述子タグを,デジタルコピー制御記述子については,既存の民間標準規格と合致するようにし,コンテント利用記述子については,民間規格を含めた他の既存の記述子とは異なる値とすれば,BSデジタル放送用受信機等に不具合を与えることはない。」との記載は,あくまで異なる内容の記述子( デジタルコピー制御記述子及びコンテント利用記述子)を前提に,記述子同士を区別する技術についものであるから,限定受信方式における記述子の記述子タグ変更のための技術についてまで示しているものではない。また,甲5文献も,前記のとおり,番組配列情報についての規格拡張の可能性とその場合の留意事項に関するものであるから,同様に限定受信方式における記述子の記述子タグ変更のための技術についてまで示しているものではない。よって,甲4文献及び甲5文献に本件特許発明1の課題が解決できることが記載されているとはいえない。 また,甲1文献のcase2に関する記載は,基本形式が省令の形で定められている限定受信方式の中で,case3の「ARIB STD-B25第1部準拠方式」ではない限定受信方式,すなわち, 「ARIB STD-B25第1部」規格で規定されていない新たな限定受信方式でより好ましいものが将来導入される場合には,運用にあたっては上記「ARIB STD-B25第1部」で規定されていない以上は当然に上記「ARIB STD-B25第1部」で追加規格として策定する必要があるというものであると解され,当時の受信機の多くがサイマルクリプト方式に対応していないことをもって規格の拡張を行う必要があることまで示しているものではないことは,前記認定のとおりであり,甲1A発明と甲4文献及び甲5文献に記載された技術事項を組み合わせる動機付けとはなり得ない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 ク 原告は,甲1文献には,「この場合は,複数の限定受信方式が存在することになるので,その事が受信機の誤作動につながることのないように本書で規格化する。この場合はその方式の登場に際して新たな追加規格が策定されねばならない。」(5-66頁)と記載されており,記述子そのものを区別するのは,その内部のデータ(例えば,限定受信方式識別子)ではなく,記述子タグであることは,技術常識であるから,当業者であれば,将来複数の限定受信方式が存在することとなった場合に,そのことが誤作動につながることのないように,記述子タグの値の変更によって記述子同士を区別すること等を行わなければならないことが容易に読み取れる旨主張する。 しかし,仮に,記述子そのものを区別するのが記述子タグであることが技術常識であったとしても,記述子の記述子タグをその記述子の内容と異なる記述子タグに変更することまでが技術常識であったとは認められず,甲1文献の記載に接した当業者であれば,複数の限定受信方式が存在することとなった場合には,通常は,誤動作が生じないようにするために,サイマルクリプト運用に沿って,異なる限定受信方式識別子によって,異なる限定受信方式記述子同士を区別しようと発想するものと解される。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 ケ 原告は,甲1文献には,case2について「この場合は,複数の限定受信方式が存在することになるので,その事が受信機の誤作動につながることのないように本書で規格化する。この場合はその方式の登場に際して新たな追加規格が策定されねばならない。 との記載があり, 」 規格として完結していないことは明らかである,また,甲5文献の「必要に応じたテーブルおよび記述子の追加あるいは記述子の伝送テーブルの追加など,規格の拡張を行なうこともある。(240頁)との記 」載から,アクセス制御記述子という記述子を追加することは,規格の拡張,新たな追加規格の策定であることは明らかであるから,本件特許発明は,甲1文献に記載されたcase2に含まれる旨主張する。 しかし,甲1文献のcase2に関する上記記載は,その時点における受信機の多くがサイマルクリプト方式に対応していないことをもって規格の拡張を行う必要があることまで示しているものではないことは前記認定のとおりであり,規格の不完全性をいうものではない。また,甲5文献の上記記載は,番組配列情報についての規格拡張の可能性とその場合の留意事項に関するものであり,限定受信方式における規格拡張の必要性まで示しているものではないことは,前記認定のとおりである。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 コ 原告は,審決は,課題を見出すことの容易想到性の判断をもって相違点1の容易想到性の判断に代えているところ,課題を見出すことの容易想到性について,「実際に既存の受信機を解析した結果,不具合の存在する受信機が現実に広く存在していたことを示す証拠」や「実際に原因の調査を実施した証拠」を要求し,課題を見出すことが容易想到であるかの判断をしていない,不具合の存在する受信機が現実に広く存在していた以上,サイマルクリプト運用によっては既存の受信機の中でコンテンツを再生できない受信機が存在するという不具合はサイマルクリプト運用の試験を行いさえすれば誰であっても認識できる課題であるから,サイマルクリプト方式に対応していない受信装置が存在するという事実に直面した当業者が課題の解決手段を想到できるか否かをもって容易想到性を判断すべきである旨主張する。 しかし,審決は,@相違点1に係る本件特許発明1の「限定受信方式記述子」と記述子タグが異なる「アクセス制御記述子」を設けることは,甲2発明ないし甲6発明には示されておらず,甲2発明ないし甲6発明から直接「アクセス制御記述子」を導き出すことはできない,A「アクセス制御記述子」を設けることが,当業者の通常の創作能力の発揮による設計の最適化であるとか,設計の変更が技術の単なる寄せ集めともいえないことから,当業者が相違点1に係る「アクセス制御記述子」を容易に導き出すことができたものとはいえないなどとして,甲1A発明において,相違点1に係る本件特許発明1の構成を採用することが容易想到とはいえないと判断しているのであり,審決が,課題を見出すことの容易想到性の判断をもって相違点1の容易想到性の判断に代えているとはいえない。また,従来のデジタル放送受信装置にサイマルクリプト方式に対応していない受信装置が多く存在するという問題が,甲1文献ないし甲5文献に記載も示唆もされておらず,かつ,本件優先日当時においてすでに広く知られているなど自明または容易に着想できる課題であるともいえない以上,サイマルクリプト運用の試験を行いさえすれば誰でも認識できる課題であったということもできない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 サ 原告は,その他,審決の判断には種々の矛盾がある旨主張する。 しかし,原告の上記主張は,本件特許発明1の課題が「現行の規格に対応していないデジタル放送受信装置においても,現行の規格と並行してデジタル放送を受信できるようにすること」であることを前提にするものであるから,いずれも採用することができない。 (5) まとめ 以上によれば,審決の相違点1の容易想到性の判断には誤りがないから,原告の主張する取消事由2は理由がない。 なお,本件特許発明2は,本件特許発明1の構成を前提とするものであり,また,本件特許発明3は,本件特許発明1と実質同様の構成を備えるものであるから,本件特許発明1と同様の理由により,本件特許発明2及び本件特許発明3についての新規性及び進歩性判断における原告の主張は理由がない。 |
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結論
以上のとおり,原告の各取消事由の主張はいずれも理由がなく,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 設樂一 |
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裁判官 | 岡田慎吾 |
裁判官 | 大寄麻代 |