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事件 平成 27年 (ワ) 8755号 特許権侵害差止等請求事件

原告株式会社上海調林
同 訴 訟代理人弁護士高橋賢一
同 訴 訟代理人弁理士吉井剛 吉井雅栄
被告株式 会社ドウシシャ
同 訴 訟代理人弁護士小松陽一郎 川端さとみ 森本純 山崎道雄 藤野睦子 大住洋 中原明子
同 補佐人弁理士谷口俊彦
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2016/04/21
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙被告製品目録1及び2記載の各飲料用容器(以下,同目録1記 載の各飲料用容器を「被告製品1」,同目録2記載の各飲料容器を「被告製品 2」とそれぞれ総称する。)を製造し,輸入し,譲渡し,又は譲渡のための展 示をしてはならない。
2 被告は,被告製品1及び2を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,9900万円及びこれに対する平成27年4月11日 から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,発明の名称を「飲料用容器」とする特許権を有する原告が,被告に 対し,被告による被告製品1及び2の譲渡等が特許権侵害に当たると主張して, @特許法100条1項及び2項に基づく被告製品1及び2の譲渡等の差止め及 び廃棄,A民法709条,特許法102条2項(主位的)又は3項(予備的)に 基づく損害賠償金9900万円(内金請求)及びこれに対する不法行為の後の 日(訴状送達の日の翌日)である平成27年4月11日から支払済みまで民法 所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨に より容易に認められる事実) (1) 当事者 ア 原告は,家庭用日用雑貨品の製造,販売等を業とする株式会社である。
イ 被告は,家庭用雑貨等の製造,販売,輸出入等を業とする株式会社であ る。
(2) 原告の特許権(甲1,2) ア 原告は,平成26年5月8日に株式会社タフコ(以下「タフコ」という。) から次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」と, その特許出願の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」とい う。)を承継し,現在はその特許権者である。
特許番号 第4143383号 出 願 日 平成14年10月31日(特願2002-318614号) 登 録 日 平成20年6月20日発明の名称 飲料用容器イ 本件特許権の特許請求の範囲請求項1及び2の記載は,次のとおりであ る(以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」,同2に係る発明を「本 件発明2」という。)。
(ア) 請求項1 「 容器本体の上部に筒状の飲口部を突設し,この飲口部を閉塞する閉 塞蓋を容器本体の上部に枢着部により起伏回動開閉自在に設けると共 に,この閉塞蓋は開放起動する方向に回動付勢されるように構成し, この閉塞蓋に係止して閉塞蓋を閉塞状態に保持する係止部を,前記容 器本体の上部であって前記枢着部の反対側部に設け,この係止部の閉 塞蓋への係止状態を押動することで解除する解除押動部を容器本体に 設けて,この解除押動部を押動すると閉塞蓋が自動開放起動するよう に構成した飲料用容器において,前記容器本体の上部に取付用凹所を 設け,前記解除押動部に前記係止部を一体に形成すると共に,この解 除押動部を前記取付用凹所に配して枢着して,この解除押動部を押動 することで係止部が起動回動して前記閉塞蓋への係止状態が解除され るように構成し,前記解除押動部に対して接離スライド移動するスト ッパ部を設け,このストッパ部は,前記容器本体の上下方向にスライ ド移動するように構成すると共に,前記解除押動部に接近スライド移 動することでこの解除押動部に当接して解除押動部の押動作動を阻止 する構成とし,この解除押動部とストッパ部とは前記容器本体の上部 位置に設けて,この容器本体を携帯した手の指でストッパ部をスライ ド操作した後,同じ指で解除押動部を押動操作し得るように構成した ことを特徴とする飲料用容器。」 (イ) 請求項2 「 容器本体の上部に筒状の飲口部を突設し,この飲口部を閉塞する閉 塞蓋を容器本体の上部に枢着部により起伏回動開閉自在に設けると共 に,この閉塞蓋は開放起動する方向に回動付勢されるように構成し, この閉塞蓋に係止して閉塞蓋を閉塞状態に保持する係止部を,前記容 器本体の上部であって前記枢着部の反対側部に設け,この係止部の閉 塞蓋への係止状態を押動することで解除する解除押動部を容器本体に 設けて,この解除押動部を押動すると閉塞蓋が自動開放起動するよう に構成した飲料用容器において,前記容器本体の上部に取付用凹所を 設け,前記解除押動部に前記係止部を一体に形成すると共に,この解 除押動部を前記取付用凹所に配して枢着して,この解除押動部を押動 することで係止部が起動回動して前記閉塞蓋への係止状態が解除され るように構成し,この解除押動部に対し前記容器本体の上下方向にス ライド移動するストッパ部を設けると共に,このストッパ部は,解除 押動部に対し上方へスライド移動することで解除押動部の下部に接し て解除押動部を押動できないように阻止する構成とし,この解除押動 部とストッパ部とは,前記容器本体の上部位置に設けて,この容器本 体を携帯した手の指でストッパ部をスライド操作した後,同じ指で解 除押動部を押動操作し得るように構成したことを特徴とする飲料用容 器。」ウ 本件発明1及び2は,以下の構成要件に分説される(以下,それぞれの 構成要件を「構成要件1A」などという。)。
(ア) 本件発明1 1A 容器本体の上部に筒状の飲口部を突設し, 1B この飲口部を閉塞する閉塞蓋を容器本体の上部に枢着部により 起伏回動開閉自在に設けると共に, 1C この閉塞蓋は開放起動する方向に回動付勢されるように構成し, 1D この閉塞蓋に係止して閉塞蓋を閉塞状態に保持する係止部を,前 記容器本体の上部であって前記枢着部の反対側部に設け, 1E この係止部の閉塞蓋への係止状態を押動することで解除する解 除押動部を容器本体に設けて,この解除押動部を押動すると閉塞蓋 が自動開放起動するように構成した飲料用容器において, 1F 前記容器本体の上部に取付用凹所を設け, 1G 前記解除押動部に前記係止部を一体に形成すると共に,この解除 押動部を前記取付用凹所に配して枢着して,この解除押動部を押動 することで係止部が起動回動して前記閉塞蓋への係止状態が解除 されるように構成し, 1H 前記解除押動部に対して接離スライド移動するストッパ部を設 け, 1I このストッパ部は,前記容器本体の上下方向にスライド移動する ように構成すると共に,前記解除押動部に接近スライド移動するこ とでこの解除押動部に当接して解除押動部の押動作動を阻止する 構成とし, 1J この解除押動部とストッパ部とは前記容器本体の上部位置に設 けて,この容器本体を携帯した手の指でストッパ部をスライド操作 した後,同じ指で解除押動部を押動操作し得るように構成したこと を特徴とする飲料用容器。
(イ) 本件発明2 2A〜2G 本件発明1の構成要件1A〜1Gに同じ。
2H この解除押動部に対し前記容器本体の上下方向にスライド移動す るストッパ部を設けると共に, 2I このストッパ部は,解除押動部に対し上方へスライド移動するこ とで解除押動部の下部に接して解除押動部を押動できないように阻 止する構成とし, 2J この解除押動部とストッパ部とは,前記容器本体の上部位置に設 けて,この容器本体を携帯した手の指でストッパ部をスライド操作 した後,同じ指で解除押動部を押動操作し得るように構成したこと を特徴とする飲料用容器。
(3) 被告の行為等 ア 被告は,平成20年7月頃から,被告製品1及び2を販売している。
イ 被告製品1及び2は,いずれも飲料用容器(水筒)である。ストッパ部 を容器本体の下方へスライド移動させると,解除押動部の押動操作が可能 となって閉塞蓋を開放することができる。閉塞蓋を閉じた状態でストッパ 部を容器本体の上方へ(解除押動部に向けて)移動させると,解除押動部 の押動操作が不能となって閉塞蓋を開放することができなくなる。ストッ パ部を解除押動部に向けてスライド移動させた場合,ストッパ部は解除押 動部の裏側に配されることになるが,ストッパ部と解除押動部の間には 0.1〜0.5mm程度の隙間(クリアランス)ができる。
被告製品1と被告製品2は,容器本体の上部にある飲料の出入口部分の 形状が異なっている(別紙図面参照)。
2 争点 (1) 技術的範囲への属否 被告は,被告製品1につき後記ア〜ウの点,被告製品2につき後記イ及び ウの点を除き,いずれも本件発明1及び2の各構成要件を充足することを争 っていない。したがって,各発明の技術的範囲への属否に関する争点は次の とおりとなる。
ア 「筒状の飲口部を突設」(構成要件1A,2A)の充足性 イ 「解除押動部に対して接離スライド移動するストッパ部」(構成要件1 H)の充足性 ウ 「このストッパ部は,・・・前記解除押動部に接近スライド移動するこ とでこの解除押動部に当接して解除押動部の押動作動を阻止する構成」 (構成要件1I),「このストッパ部は,解除押動部に対し上方へスライ ド移動することで解除押動部の下部に接して解除押動部を押動できない ように阻止する構成」(構成要件2I)の充足性 (2) 本件特許の無効理由の有無 被告は,本件特許には特開2002-87447号公報(以下「乙1の2 公報」という。)に記載された発明(以下「乙1の2発明」という。)に基 づく進歩性欠如の無効理由があるから,原告は本件特許権を行使することが できない(特許法104条の3第1項)と主張している。
(3) 損害の額3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)(技術的範囲への属否)について ア 構成要件1A及び2Aの充足性 (原告の主張) 被告製品1の飲口部は大径であるが,その周壁に口を添えて飲むことが できるから,これが「筒状の飲口部」であることは明らかである。
(被告の主張) 「筒」とは「円く細長くて中空になっているもの。管。」を意味するか ら,構成要件1A及び2Aの「筒状」とはこのような形状のものをいうと 解される。被告製品1の飲口部(第2蓋本体部)は,容器本体とおおよそ 同径の突出壁,突出壁の内側で上下方向の中央に形成される底面及び飲料 取出口から構成させる。この突出壁は,ヒンジ側では低く,ロック機構側 に行くほど徐々に高くなるように形成されている。したがって,上記第2 蓋本体部は,細長くなく,中空にもなっておらず,全体の形状は筒からか け離れたものとなっているから,「筒状」を充足しない。
また,上記飲料取出口は,第2蓋本体部の底面の一部に形成された穴で しかないから「突設」したものでなく,ラッパ飲みのために唇を添える箇 所もないので,「飲口部」に相当するものでもない。上記突出壁は,飲料 が漏れることを防止する蓋にすぎないから,「飲口部」でない。
以上によれば,被告製品1は構成要件1A及び2Aを充足しない。
構成要件1Hの充足性 (原告の主張) 被告製品1及び2のストッパ部はその解除押動部に対して接近方向及び 離反方向にスライド移動するから,「接離スライド移動する」ということ ができる。
(被告の主張) 「接離」とは接触したり離れたりすることをいうところ,被告製品1及 び2のストッパ部はスライド移動させても解除押動部に接触せず,ストッ パ部と解除押動部の間にはクリアランスが存在するから,構成要件1Hを 充足しない。
構成要件1I及び2Iの充足性 (原告の主張) 構成要件1I及び2Iは,その文言上,ストッパ部を解除押動部に接近 スライド移動又は上方へスライド移動させることで,解除押動部を押動作 動させようとしてもストッパ部と当接して押動作動が阻止される構成を 示すものであって,ストッパ部と解除押動部の間にクリアランスが存在す る構成は除外されていない。
(被告の主張) 構成要件1Iの「接近スライド移動することで」及び構成要件2Iの「上 方へスライド移動することで」は,ストッパ部と解除押動部の「当接」及び「接して」の条件を「解除押動部に接近スライド移動すること」及び「解除押動部に対し上方へスライド移動すること」に限定し,「当接して」及び「接して」の文言は,ストッパ部を解除押動部に当接させ,その両者の摩擦力で押動操作阻止状態を保持することを意味する。したがって,本件発明1及び2は,ストッパ部のスライド移動によって,解除押動部がそのままの状態で,ストッパ部が自ら解除押動部に当接する(接する)構成のものに限定される。
また,本件明細書には,ストッパ部自体が,接離・移動スライドすることにより解除押動部に直接に「(圧接)」「当接し(接し)」,それによって解除押動部を「押動操作不能」「押動不能」とする構成,「内側に押動できないように保持」する構成のもののみが開示されている。
さらに,原告は,本件特許の出願経過において,拒絶理由通知(乙1の1)に対して平成19年12月10日付け意見書(乙1の4)を提出し,本件発明1及び2は引用例2(乙1の3)の炊飯器のロック構造を応用したものであると主張した。このロック構造はまさにストッパ部が解除押動部に移動して自ら当接しロックする構造のものであり,クリアランスを設けるような構成は含まれていない。したがって,ストッパ部がスライドしても解除押動部に自ら接触することがない構成(クリアランスが存在する構成)は意識的に除外されているというべきである。
一方,被告製品1及び2は,クリアランスを設けることにより,ストッパ部を解除押動部に対して安定的に阻止位置に保持し,解除押動部が不用意に作動し解除しないようにすることができること,ストッパ部にクリック感を持たせることなどの本件発明1及び2が予定していない顕著な作用効果を奏する。
以上によれば,被告製品1及び2は構成要件1I及び2Iを充足しない。
(2) 争点(2)(乙1の2発明に基づく進歩性欠如)について (被告の主張) ア 本件発明1について (ア) 本件発明1と乙1の2発明の対比 乙1の2公報は本件特許1の出願前に頒布された刊行物であるとこ ろ,本件発明1と乙1の2発明を対比すると,以下の各点で相違し,そ の余の点で一致する。
a 本件発明1の解除押動部は取付用凹所に枢着して,係止部が起動回 動するのに対し,乙1の2発明の「押しボタン12」(本件発明1の 解除押動部に相当する。)は枢着,回動していない点(以下,この相 違点を「相違点1-1」という。) b 本件発明1のストッパ部はスライド移動することで解除押動部に当 接して押動作動を阻止するのに対し,乙1の2発明の「押しボタン隠 蔽体13」(本件発明1のストッパ部に相当する。)はスライド移動 することで「押しボタン12」に当接するのか明確でない点(以下, この相違点を「相違点1-2」という。) c 本件発明1は容器本体を携帯した手の指でストッパ部をスライド操 作した後,同じ指で解除押動部を押動操作し得るように構成したのに 対し,乙1の2発明はこのような操作をし得るか否か明示されていな い点(以下,この相違点を「相違点1-3」という。) (イ) 相違点の容易想到性 a 相違点1-1について 相違点1-1に係る本件発明1の構成は,本件特許1の出願前に頒 布された刊行物(乙1の3,3,5,6)に開示されている。そして, 特開2002-209764号公報(以下「乙3公報」という。)は 本件発明1と同じ携帯型の飲料用容器(水筒)に関するものであり, また,実公昭60-24246号公報(以下「乙1の3公報」という。 , ) 特開平11-137420号公報(以下「乙5公報」という。)及び 特開平10-155658号公報(以下「乙6公報」という。)は, いずれも飲料用容器と同じ日用品に属する物品の容器と蓋体のロック 構造に関するものであるから,本件発明1と,技術分野が共通し,誤 って解除押動部に触れてしまうことで閉塞蓋が不意に開放してしまう という解決課題が同一であることからすれば,これらの刊行物を乙1 の2発明に組み合わせることは容易である。
b 相違点1-2について 相違点1-2に係る本件発明1の構成は,本件特許1の出願前に頒 布された刊行物(乙1の3,4〜8)に開示されている。そして,特 開2002-65478号公報(以下「乙4公報」という。)は本件 発明1と同じ携帯型の飲料用容器(水筒)に関するものであり,また, 乙1の3公報,乙5公報,乙6公報,特開2001-146866号 公報(以下「乙7公報」という。)及び実開平7-17748号公報 (以下「乙8公報」という。)は,本件発明1と技術分野が共通し, 解決課題が同一であることからすれば,これらの刊行物を乙1の2発 明に組み合わせることは容易である。
c 相違点1-3について 相違点1-3に係る本件発明1の構成は作用を特定したにすぎない ところ,乙1の2発明の「押しボタン隠蔽体13」は上下方向にスラ イド操作される構成であるから,容器本体を携帯した手の指で「押し ボタン隠蔽体13」をスライド操作した後,同じ指で「押しボタン1 2」を押動操作することができるので,乙1の2発明は相違点1-3 に係る構成と同様の作用効果を奏する。
したがって,相違点1-3に係る本件発明1の構成は実質的に乙1 の2公報に開示されているから,上記構成に至ることは容易である。
イ 本件発明2について (ア) 本件発明2と乙1の2発明の対比 本件発明2と乙1の2発明は,以下の各点で相違し,その余の点で一 致する。
a 本件発明2の解除押動部は取付用凹所に枢着して,係止部が起動回 動するのに対し,乙1の2発明の「押しボタン12」(本件発明2の 解除押動部に相当する。)は枢着,回動していない点(以下,この相 違点を「相違点2-1」という。) b 本件発明2のストッパ部は解除押動部に対し上方へスライド移動す ることで解除押動部の下部に接して解除押動部を押動できないように 阻止するのに対し,乙1の2発明の「押しボタン隠蔽体13」(本件 発明2のストッパ部に相当する。)は下方にスライド移動することで 「押しボタン12」を遮蔽し,下部に接する構成でない点(以下,こ の相違点を「相違点2-2」という。) c 本件発明2は容器本体を携帯した手の指でストッパ部をスライド操 作した後,同じ指で解除押動部を押動操作し得るように構成したのに 対し,乙1の2発明はこのような操作をし得るか否か明示されていな い点(以下,この相違点を「相違点2-3」という。) (イ) 相違点の容易想到性 a 相違点2-1について 相違点2-1は相違点1-1と同様であるから,上記ア(イ)aのと おり,相違点2-1に係る本件発明2の構成に至ることは容易である。
b 相違点2-2について 上記ア(イ)bのとおり,ストッパ部がスライド移動することで解除 押動部に接して押動作動を阻止する構成は,乙1の3,乙4〜8公報 に開示されており,これらの刊行物を乙1の2発明に組み合わせるこ とは容易である。また,ストッパ部のスライド移動の方向は,上下方 向や水平方向と種々存在しており,解除押動部の配置,形状等に依存 するものであるから,設計事項である。
以上によれば,相違点2-2に係る本件発明2の構成に至ることは 容易である。
c 相違点2-3について 相違点2-3は相違点1-3と同様であるから,上記ア(イ)cのと おり,相違点2-3に係る本件発明2の構成に至ることは容易である。
ウ 顕著な効果について 原告は,本件発明1及び2には後記(原告の主張)ア@〜Cの顕著な作 用効果があると主張する。
しかし,@については,乙1の2発明の「押しボタン隠蔽体13」より もスライドストロークを短くする構成は乙4公報等に開示されているし, そもそもスライドストロークは解除押動部やストッパ部等の部材の構成 によって調整可能なものである。Aについては,前記ア(イ)cのとおり, 乙1の2発明もストッパ部のスライド操作と解除押動部の押動操作とを 容器本体を持った手の同じ指で行うことができる。B及びCについては, 乙3公報に開示されている。したがって,これらはいずれも本件発明 1 及 び2の顕著な効果ではない。
エ まとめ 以上によれば,本件発明1及び2は,乙1の2発明及び周知技術に基づ いて容易に発明できたものであるから,いずれも進歩性を欠く。
(原告の主張)ア 本件発明1及び2は,乙1の3公報に記載されていた炊飯器の蓋ロック レバーのロック構造を水筒などの飲料用容器の解除押動部のロック構造 に応用した発明であり,@解除押動部を隠蔽することで押動できない状態 とする乙1の2発明に比し,解除押動部の切替操作に要するストッパ部の スライドストロークが短く,切替スライド操作が極めて容易な構成を簡易 に設計実現可能となること,Aストッパ部のスライド操作と解除押動部の 押動操作とを容器本体を持った手の同じ指(親指)で一連の動作で行うこ とができるなど,極めて操作性に優れ,実用的な水筒であること,B取付 用凹所に体裁良く解除押動部を配設可能であるとともに,解除押動部の押 動ストロークも十分に確保することが可能であること,C解除押動部の解 除操作に連動して,蓋体への係止状態が確実に解除される構成を容易に設 計実現可能であることといった顕著な作用効果がある。
イ 乙3公報には,解除押動部が押し込み回動式(枢着式)であって押すこ とで閉塞蓋が開放する構成が開示されているにすぎず,本件発明1及び2 の画期的な構成(ハンディボトルを持った手の指でストッパ部を下方へス ライドさせて,解除押動部を押動できないロック位置から押動できるロッ ク解除位置にスライド移動させ,その指で解除押動部を押して閉塞蓋を自 動開放し,そのまま容器を傾けていわゆるラッパ飲みすることができる構 成)は何ら開示されていない。また,乙4公報には,解除操作部とこの解 除操作部の操作を阻止するストッパ部が開示されているが,上記画期的構 成は開示されていない。さらに,乙5〜8公報は,上記の本件発明1及び 2の画期的な構成を開示していないし,いずれも本件発明1及び2や乙1 の2発明のような飲料用容器(水筒)と技術分野が異なるから,乙1の2 発明と組み合わせる動機付けもない。
本件発明1及び2は,解除押動部を押せる状態と押せない状態の切り替 え操作をいかに簡単にしてスピーディーに行えるかという技術課題を解 決した発明であり,この課題を上記各公知技術から想定することはできな い。
(3) 争点(3)(損額の額)について (原告の主張) 原告は,後記ア及びイのとおり,合計9900万円の損害を被った。
ア(ア) 特許法102条2項に基づく損害(主位的主張) 平成20年7月から平成27年3月までの間における被告製品1及び 2の売上額は67億5000万円,利益率は30%を下らないから,被 告は,上記期間において,合計20億2500万円の利益を得たことに なる。このうち,平成20年7月から平成26年5月7日までの利益(1 7億5200万円)はタフコの,同月8日から平成27年3月までの利 益(2億7300万円)は原告の損害とそれぞれなるところ,原告は, 平成26年5月8日にタフコから本件特許権を承継し,タフコの被告に 対する17億5200万円の損害賠償請求権を譲り受けた。
したがって,原告は,被告に対し,民法709条及び特許法102条 2項に基づき,上記損害賠償金20億2500万円の一部である900 0万円の支払を求めることができる。
(イ) 特許法102条3項に基づく損害(予備的主張) 本件発明1及び2の実施に対し受けるべき金銭の額は被告製品1及び 2の売上額の5%が相当であるところ,平成20年7月から平成27年 3月までの間におけるその額は3億3750万円となる。このうち,平 成20年7月から平成26年5月7日までに係る分(2億9200万円) はタフコの,同月8日から平成27年3月までに係る分(4550万円) は原告の損害とそれぞれなるところ,上記(ア)のとおり,原告は,タフ コの被告に対する損害賠償請求権を譲り受けた。
したがって,原告は,被告に対し,民法709条及び特許法102条 3項に基づき,上記損害賠償金3億3750万円の一部である9000 万円の支払を求めることができる。
イ 原告は,弁護士費用相当額の損害として,少なくとも900万円の損害 を被った。
(被告の主張) 争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)ア(構成要件1A及び2Aの充足性)について (1) 本件発明1及び2の飲口部は「筒状」であるとされるところ,「筒」と は「円く細長くて中空になっているもの。管」(乙14)をいうものである。
そして,本件発明1及び2の飲料用容器が飲口部にそのまま口を付けて飲む ことができるものであること(本件明細書の段落【0001】 【0010】 , ) からすれば,この飲口部は,太さや長さに格別の限定はなく,筒状の形態で あって容器本体から突き出たものをいうと解される。
(2) 被告製品1の容器本体の上部にある飲料の出入口部分の形状は別紙図面 記載1のとおりであり,容器本体とほぼ同径で,ヒンジ側とロック機構側で 高さが異なった平面視ほぼ円形の突出壁が容器本体の上部に設けられてい る。そうすると,この部分の全体的な形態は筒状であって,これが容器本体 から突き出ているとみることができるから,被告製品1においては筒状の飲 口部が突設されていると認められる。
したがって,被告製品1は構成要件1A及び2Aを充足するというべきで ある。
2 争点(1)イ(構成要件1Hの充足性)及びウ(構成要件1I及び2Iの充足性) について 前記前提事実(3)イのとおり,被告製品1及び2は,そのストッパ部を解除押 動部に向けスライド移動すると,ストッパ部と解除押動部が直ちに当接するこ となく両者の間にクリアランスができるが,解除押動部を押動するとこれがス トッパ部に当接してそれ以上の押動操作が不可能となり,閉塞蓋を開放するこ とができなくなる。
原告は,このようにクリアランスが存在する場合であっても構成要件1H,1I及び2Iを充足すると主張するのに対し,被告は,本件発明1及び2はクリアランスが存在する構成を含んでいないから被告製品1及び2は上記各構成要件を充足しないと主張するので,以下検討する。
(1) まず,本件発明1及び2の特許請求の範囲の記載をみるに,本件発明1に ついては「ストッパ部は,・・・前記解除押動部に接近スライド移動するこ とでこの解除押動部に当接して解除押動部の押動作動を阻止する構成」(構 成要件1I),本件発明2については「ストッパ部は,解除押動部に対し上 方へスライド移動することで解除押動部の下部に接して解除押動部を押動で きないように阻止する構成」(構成要件2I)と記載されている。これらの 記載は,接近スライド移動又は上方へのスライド移動の完了と同時に当接又 は接する,すなわち,ストッパ部と解除押動部の間にクリアランスは存在し ないとも,接近スライド移動等の結果として押動作動が阻止され,閉塞蓋が 開放されない状態となれば足り,ストッパ部と解除押動部の間にクリアラン スが存在してもよいとも解釈することができる。
(2) 次に,本件明細書(甲2)の記載をみるに,その発明の詳細な説明欄には, 以下の趣旨の記載がある。
ア 従来の技術及び発明が解決しようとする課題(段落【0002】〜【0 004】) 従来から,容器本体の上部に筒状の飲口部を突設し,この飲口部を閉塞 する閉塞蓋を起伏回動開閉自在に設けるとともに,この閉塞蓋に係止して 閉塞蓋を閉塞状態に保持する係止部と,この係止部の閉塞蓋への係止状態 を解除する解除押動部を容器本体に設けて,この解除押動部を解除操作す ると係止状態が解除されて閉塞蓋が自動開放起動し,これによって露出す る飲口部にそのまま口をつけて飲むことができる飲料用容器が実施され ている。しかし,このような従来の飲料用容器には,解除押動部を操作不 能な状態に保持する機能がなかったため,携帯時に誤って解除押動部に触 れてしまうことで閉塞蓋が不意に開放してしまい,場合によっては中身 (飲料)が漏れ出てしまうことがあった。本発明は,このような従来の飲 料用容器の問題点に鑑み,これを解決するもので,解除押動部を押動操作 不能状態とするストッパ部を設けることで,誤操作を確実に防止でき,ま た,このストッパ部による解除押動部の押動可能状態と押動不能状態との 切替操作を,単に容器本体を携帯した手の指でスライド移動させるだけの 操作により容易に行うことができる実用性にすぐれた画期的な飲料容器 を提供するものである。
イ 課題を解決するための手段(段落【0006】,【0007】) 本発明は,上記課題を解決するため,特許請求の範囲に記載のとおりに 構成したことを特徴とする飲料用容器に係るものである。
ウ 発明の実施の形態(段落【0009】,【0011】,【0012】) 閉塞蓋3を容器本体1の上部に伏動させることで飲口部2を閉塞でき, この閉塞蓋3に係止部4を係止させることでこの閉塞状態を維持できる が,更にストッパ部6を解除操作部5に対し接近スライド移動させると, このストッパ部6によって解除押動部5の押動作動が阻止され,解除押動 部5に不意に触れて閉塞蓋3が開放してしまうなどの誤操作を確実に防 止できることになる。また,このストッパ部6は,単にスライドさせるだ けの容易な操作で,簡単に解除押動部5を押動可能状態と押動不能状態と に切替操作できる上,このストッパ部6は容器本体1を携帯した手の指で 操作し得る位置に設けられているため,このストッパ部6のスライド操作 を指で容易に行うことができる。したがって,ストッパ部6により解除押 動部5の誤操作を確実に防止でき,しかもこのストッパ部6は単に容器本 体1を携帯した手の指でスライド移動させるだけで解除押動部5を押動 できる状態と押動できない状態とに容易に切替操作することができるな ど,極めて操作性・実用性に秀れた画期的な飲料用容器となる。
エ 発明の効果(段落【0044】,【0045】) 本発明は上述のように構成したから,ストッパ部により解除押動部の誤 操作を確実に防止でき,また,このストッパ部は単に容器本体を携帯した 手の指でスライド移動させるだけで解除押動部を押動できる状態と押動 できない状態とに容易に切替操作することができる上,解除押動部も容器 本体を携帯した手の指で押動操作し得る位置に設けたため,解除押動部を 押動操作しやすく,特に解除押動部を開放する際には,ストッパ部を指で スライド操作した後,同じ指で解除押動部を押動操作するという一連の動 作で行うことができるなど,極めて操作性にすぐれ,実用性にすぐれた画 期的な飲料用容器となる。また,本発明においては,スライド移動により 前記解除押動部を被覆するストッパ部構造を簡易に設計実現可能となり, しかも,上下方向にスライド移動するストッパ部によれば,親指によるス ライド操作時でも手で安定的に容器本体を携帯することができ,よって片 手で容易に操作可能であるなど,一層実用性にすぐれた構成の飲料用容器 となる。
(3) 本件明細書の上記各記載を総合すると,本件発明1及び2は,容器本体の 上部に飲口部,閉塞蓋,係止部及び解除押動部を備えた従来の飲料用容器は, 解除押動部を操作不能の状態に保持する機能を有していなかったため,誤っ て閉塞蓋が不意に開放してしまい中身が漏れ出てしまうという問題点があっ たところ(段落【0002】,【0003】),上記問題点を解決するため に,解除押動部の押動作動を阻止するストッパ部を設け,このストッパ部を スライド移動させることで解除押動部の押動可能状態と押動不能状態との切 替操作をできるようにするとともに,容器本体を携帯した手の指で容易にこ の操作を行うことができるようにした発明であって(同【0004】,【0 006】,【0007】,【0009】,【0011】,【0012】), これによって解除押動部の誤操作を確実に防止し,ストッパ部を指でスライ ド操作した後に同じ指で解除押動部を押動操作するという一連の動作で行う ことができることや片手で容易に操作可能であることといった効果を奏する (同【0044】,【0045】)と認められる。そうすると,本件発明1 及び2のストッパ部は,スライド移動することで解除押動部の押動可能状態 と押動不能状態を切り替えるものであるから,押動作動を阻止する構成とし て,ストッパ部がスライド移動することにより解除押動部に直ちに当接し, それによって解除押動部を押動不能とする構成に限定されることはなく,ス トッパ部と解除押動部との間にクリアランスが存在しても,解除押動部を押 動しようとするとこれがストッパ部に当接し,押動作動が阻止されるもので あれば,構成要件1H,1I及び2Iを充足するというべきである。
(4) そして,前記前提事実(3)イのとおり,被告製品1及び2は,ストッパ部 と解除押動部の間にクリアランスがあるものの,ストッパ部をスライド移動 することで解除押動部の押動可能状態と押動不能状態を切り替えることがで き,ストッパ部と解除押動部は当接可能な状態となっているから,上記各構 成要件を充足するものと認められる。
(5) これに対し,被告は,@本件明細書には,ストッパ部がスライド移動する ことにより解除押動部に直接当接し,それによって解除押動部を押動不能と する構成(クリアランスが存在しない構成)のみが開示されている,A原告 は,本件特許の出願経過においてクリアランスが存在する構成を意識的に除 外した,B被告製品1及び2は,本件発明1及び2が予定していない顕著な 効果を奏することからすれば,クリアランスが存在する構成は含まれないと 解すべきである旨主張するが,以下のとおり,いずれも採用することができ ない。
ア 上記@について 本件明細書の記載によればクリアランスが存在する構成も含まれると解 釈されることは上述のとおりであり,実施例(段落【0039】,【図3】 〜【図5】)がクリアランスが存在しない構成であるとしても,これをも って上記各構成要件の意義を被告主張のように解することはできない。
イ 上記Aについて 本件特許の出願経過において原告が提出した意見書(乙1の4)の説明 をみても,解除押動部を押動不能状態とする構成につき,ストッパ部と解 除押動部の間にクリアランスが存在しない構成に限定する旨の記載はな い。また,拒絶理由通知(乙1の1)で引用された公知文献においても, クリアランスが存在するかどうかは明確でない。そうすると,本件特許の 出願経過に照らしクリアランスが存在する構成が除外されたということ はできない。
ウ 上記Bについて 本件発明1及び2は,解除押動部の誤操作を確実に防止すること,片手 で容易に操作可能であることといった効果を奏するものであるところ(前 記(2)エ),被告製品1及び2についても,その構成(前記前提事実(3)イ) からすればこれらの効果を奏すると認められるから,被告製品1及び2に つき被告が主張するような効果を奏するとしても,構成要件1H,1I及 び2Iの充足性の判断を左右しない。
3 争点(2)(乙1の2発明に基づく進歩性欠如)について (1) 本件発明1について ア 本件発明1と乙1の2発明の対比 本件発明1と乙1の2発明が,@本件発明1においては,解除押動部が 取付用凹所に枢着して係止部が起動回動するのに対し,乙1の2発明にお いては,押しボタンが枢着,回動しない点(相違点1-1),A本件発明 1においては,ストッパ部がスライド移動することで解除押動部に当接し て押動作動を阻止するのに対し,乙1の2発明においては,押しボタン隠 蔽体がスライド移動することで押しボタンに当接するのか明確でない点 (相違点1-2),B本件発明1においては,容器本体を携帯した手の指 でストッパ部をスライド操作した後,同じ指で解除押動部を押動操作し得 るように構成したのに対し,乙1の2発明はこのような操作をし得るか否 か明示されていない点(相違点1-3)で相違し,その余の点で一致する ことは,被告は明らかに争っていない。そこで,本件発明1の進歩性につ いて以下検討する。
イ 相違点1-1について 乙3公報には,容器本体の上部にある支軸81に支持されたロック部材 8の係止部82が起動回動する構成が開示されているところ(段落【00 12】,【0013】,【図4】),ロック部材8は本件発明1の解除押 動部,係止部82は本件発明1の係止部にそれぞれ相当すると認められる から,乙3公報には相違点1-1に係る構成が開示されているということ ができる。
そして,乙3公報に記載された発明は蓋をワンタッチで開いて容器本体 内の飲料を直接飲むタイプの飲料用容器の栓体に関するものであって(乙 3公報の段落【0001】),乙1の2発明(乙1の2公報の【0001】 〜【0005】,【図1】,【図2】)や本件発明1(本件明細書の段落 【0001】)と同じタイプの飲料用容器に関するものであることからす れば,乙1の2公報に乙3公報を組み合わせることは容易であると認めら れる。
ウ 相違点1-2について 乙4公報には,係止手段21を係止解除状態にして直飲みできる状態と なるようにする直飲みキー32を有し,直飲みキー32にはこれを操作で きないようにロックするロック手段33が働かされている構成,具体的に は,ロック手段33であるロック部材57又はロック板72が水平方向に スライド移動し,直飲みキー32の下部に入り込むことで直飲みキー32 の押下げ操作を阻止する構成が開示されている(段落【0025】,【0 035】,【0041】,【0043】,【0046】,【図1】,【図 11】,【図17】,【図20】)。そして,直飲キー32は本件発明1 の解除押動部,ロック手段33は本件発明1のストッパ部にそれぞれ相当 し,直飲みキー32の押下げ操作は,ロック手段33が直飲みキー32の 下部に入り込み,これと物理的に接触することで阻止されると認められる から,乙4公報には相違点1-2に係る構成が開示されているということ ができる。
そして,乙4公報に記載された発明は直飲みできるタイプの飲料用容器 に関するものであって(乙4公報の段落【0001】),上記イのとおり, 乙1の2発明や本件発明1と同じタイプの飲料用容器に関するものであ ることからすれば,乙1の2公報に乙4公報を組み合わせることは容易で あると認められる。
エ 相違点1-3について 乙1の2公報の記載(【請求項5】,段落【0011】,【0027】, 【0037】,【0042】,【図1】〜【図3】)によれば,乙1の2 公報には,押しボタン12を隠蔽するための押しボタン隠蔽体13が蓋体 3の側面に上下スライド自在に設けられている構成が開示されていると ころ,押しボタン隠蔽体13が押しボタン12を覆い隠すように近接した 位置に配置されているという位置関係を考慮すれば,容器本体を携帯した 手の指(親指)で押しボタン隠蔽体13を上方へスライド移動した後に, 同じ指で押しボタン12を押動操作することができると認められる。した がって,相違点1-3は実質的な相違点に当たらないということができ る。
オ 本件発明1の進歩性の有無 以上のとおり,乙1の2発明との相違点1-1及び1-2に係る本件発 明1の構成を想到することは容易であり,また,相違点1-3は実質的な 相違点に当たらないということができる。これに加え,乙1の3公報は, 炊飯容器に関するものであるが,相違点1-1及び1-2に係る本件発明 1の構成,すなわち,解除押動部を取付用凹所に枢着して係止部を起動回 動させるとともに,ストッパ部がスライド移動することで解除押動部に当 接して押動作動を阻止するという構成を開示しており,これを飲料用容器 に適用することを妨げる事情は見当たらない。そうすると,本件発明1は 乙1の2発明及び上記各公知技術に基づいて容易に発明することができ たと判断することが相当である。
(2) 本件発明2について ア 本件発明2と乙1の2発明の対比 本件発明2と乙1の2発明が,@本件発明1と乙1の2発明の相違点1 -1及び1-3と同様の相違点2-1及び2-3と,A本件発明2におい ては,ストッパ部が解除押動部に対し上方へスライド移動することで解除 押動部の下部に接して解除押動部を押動できないように阻止するのに対 し,乙1の2発明においては,押しボタン隠蔽体13が下方にスライド移 動することで押しボタン12を遮蔽し,下部に接する構成でないという相 違点2-2で相違し,その余の点で一致することは,被告は明らかに争っ ていない。そこで,本件発明2の進歩性について以下検討する。
イ 相違点2-1及び2-3について 相違点2-1及び2-3は相違点1-1及び1-3と同一であるから, 前記(1)イ及びエで説示したところに照らせば,これらに係る本件発明2 の構成に至ることは容易である。
ウ 相違点2-2について 前記(1)ウで説示したとおり,乙4公報には,ストッパ部が水平方向にス ライド移動することで解除押動部に接して解除押動部の押動作動を阻止 する構成が開示されている。また,ストッパ部のスライド移動の方向及び 解除押動部との接触箇所は,両者の位置関係によって必然的に定まるもの であるから,ストッパ部を上下方向にスライド移動し,解除押動部との接 触箇所を解除押動部の下部とすることに格別の困難性はないというべき である。したがって,相違点2-2に係る本件発明2の構成に至ることは 容易であると認められる。
エ 本件発明2の進歩性の有無 以上によれば,本件発明2についても容易に発明することができたと解 することができる。
(3) 顕著な効果について 上記(1)及び(2)に対し,原告は,乙1の2発明にみられない本件発明1及 び2の顕著な作用効果として,@解除押動部の切替操作に要するストッパ部 のスライドストロークが短く,切替スライド操作が極めて容易な構成を簡易 に設計実現可能となること,Aストッパ部のスライド操作と解除押動部の押 動操作とを容器本体を持った手の同じ指(親指)で一連の動作で行うことが できるなど,極めて操作性に優れ,実用的な水筒であること,B取付用凹所 に体裁良く解除押動部を配設可能であるとともに,解除押動部の押動ストロ ークも十分に確保することが可能であること,C解除押動部の解除操作に連 動して,蓋体への係止状態が確実に解除される構成を容易に設計実現可能で あることから,本件発明1及び2の進歩性が否定されない旨主張する。
そこで判断するに,@については,乙1の2発明のように押しボタンと押 しボタン隠蔽体で構成した場合であっても,スライドストロークの長短はこ れら部材の設計により定めることができるから,本件発明1及び2において スライドストロークが短いという効果を奏していたとしても,それが顕著な ものであるとは認め難い。
Aについては,前記(1)エで説示したとおり,乙1の2公報に記載された 発明においても,容器本体を携帯した手の指で押しボタン隠蔽体を上方へス ライド移動した後に,同じ指で押しボタンを押動操作することは容易に行う ことができたことからすれば,本件発明1及び2に顕著な効果があるとは認 められない。
B及びCについては,前記(1)イで説示したとおり,乙3公報には,本件 発明1及び2の解除押動部及び係止部に相当する構成が開示されているか ら,この点も本件発明1及び2の顕著な効果ということはできない。
4 結論 以上によれば,本件発明1及び2はいずれも進歩性を欠き,本件特許は無効 にされるべきものであるから,原告は被告に対して本件特許権を行使すること ができない。したがって,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求はい ずれも理由がない。
追加
別紙被告製品目録11商品名「ワンタッチマグボトル」(1)品番「LBOB350」カラーレッド,ブルー,ブラック,ピンク,シルバー,イエロー(2)品番「LBOB500」カラーレッド,ブルー,ブラック,ピンク,シルバー,イエロー2商品名「ワンタッチマグボトル480ml」カラーピンク,オレンジ,パープル3商品名「ワンタッチマグボトル」(1)品番「CBOB350」カラーブラック,ピンク,スノーホワイト,ベビーピンク,ターコイズブルー(2)品番「CBOB500」カラーブラック,ホワイト,ピンク,ブルー,グリーン,スノーホワイト,ベビーピンク,ターコイズブルー(3)品番「CDBOB500」カラードットキャット,ドットバード,ドットベア,ボーダー,チェック,フラワー,リーフ(4)品番「HGBOB500」カラークラシックPK,クラシックBL,マークRE,マークPU,ボーダーマリン,ボーダーPK,チョコレートピンク,ディープピンク,スポーティーブルー,スポーティーグレー (5)品番「CBOB600」カラーホワイト,ピンク,ブルー,グリーン(6)品番「HGBOB600」カラーボーダーマリン,ボーダーピンク,ボーダーブルー,ドットホワイト,ドットネイビー,ミックスドットWH,ミックスドットNV4商品名「スリムワンタッチマグボトル」(1)品番「CBOS300」カラーホワイト,ピンク,ブルー,グリーン(2)品番「CBOS400」カラーホワイト,ピンク,ブルー,グリーン,スノーホワイト,ベビーピンク,ターコイズブルー(3)品番「CDBOS400」カラードットキャット,ドットバード,ドットベア(4)品番「HGBOS400」カラードットWH,ドットNV,マークレッド,マークパープル,ロゴピンク,ロゴブルー,ロゴグリーン,フレッシュネイビー,フレッシュホワイト,ジャーニーホワイト5商品名「ワンタッチマグボトルDOAR、DOAA」(1)品番「DOAR-350」カラーピンク,ブルー,グリーン,ホワイト,レッド,オレンジ,ブラウン(2)品番「DOAR-480」カラーピンク,ブルー,グリーン,ホワイト,レッド,オレンジ,ブラウン (3)品番「DOAA-350」カラーレッド,ピンク,グリーン,ブルー(4)品番「DOAA-480」カラーレッド,ピンク,グリーン,ブルー6商品名「スリムワンタッチマグボトルDSOA」品番「DSOA-300」カラーピンク,オレンジ,ホワイト,ブラック7商品名「もしもしカワイイワンタッチ500ml」品番「MKOB500」カラーホワイト,ライトピンク,ネイビー 別紙被告製品目録21商品名「イトーヨーカ堂オリジナル2WAYボトル」(1)品番「LBKB600」カラーピンク,ブルー(2)品番「LBKB800」カラーピンク,ブラック2商品名「2WAYキッズボトル」(1)品番「DBKB600」カラーシロクマ,キリン,パンダ,のぞみ,ハヤブサ,スーパーこまち(2)品番「HGBKB1.0」カラードットホワイト,ドットネイビー3商品名「スポーツボトル」品番「HGBOD1.0」カラーアクティブBL,アクティブWH,アクティブPK 別紙図面1被告製品1(閉じた状態)(開いた状態)2被告製品2(閉じた状態)(開いた状態)
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官 藤原典子
裁判官 中嶋邦人