関連審決 | 無効2014-800053 |
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事件 |
平成
27年
(行ケ)
10141号
審決取消請求事件
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原告 ソウルセミコンダクタ ー カンパニー リミテッド 訴訟代理人弁護士高橋雄一郎 阿部実佑季 鈴木佑一郎 弁理士林佳輔 荒尾達也 被告株式会社エンプラス 訴訟代理人弁護士永島孝明 安國忠彦 朝吹英太 安友雄一郎 野中信宏 弁理士若山俊輔 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/04/13 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 -1-2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
特許庁が無効2014-800053号事件について平成27年3月18日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,特許無効審判請求を不成立とする審決の取消訴訟である。争点は,新規性の有無(甲1発明の認定誤り)及び進歩性の有無(一致点及び相違点の認定誤り並びに容易想到性判断の誤り)である。 1 特許庁における手続の経緯 被告は,平成16年9月27日(以下「本件出願日」という。,名称を「発光装 )置,面光源装置,表示装置及び光束制御部材」とする発明について,特許出願(特願2004-278888号)をし,平成18年11月2日,特許3875247号(請求項の数11。以下「本件特許」という。)として特許権の設定登録を受けた(甲5)。 原告は,平成26年4月2日,本件特許の請求項1,2,4〜6及び11について無効審判請求をした(無効2014-800053号。甲7)ところ,特許庁は,平成27年3月18日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月26日,原告に送達された。 2 本件発明の要旨 本件特許の特許公報(甲5)によれば,本件発明は,以下のとおりのものである(以下,同公報に記載された明細書及び図面を「本件明細書」という。以下,それぞれ,請求項の番号に対応して「本件発明1」などといい,これらを併せて「本件発明」という。。なお,以下の構成要件の分説は裁判所において付した(以下,各 )構成要件を「構成要件1A」などという。。 )【請求項1】(本件発明1)(1A) 発光素子からの光を光束制御部材を介して出射するようになっている発光装置において,(1B) 前記光束制御部材は,前記発光素子からの光が前記光束制御部材に入射する光入射面と,(1C) 前記発光素子からの光の出射を制御する光制御出射面とを備え,(1D) 前記発光装置の基準光軸に沿った方向から見た形状が略円形形状となるように形成されており,(1E) 前記光制御出射面は, 前記発光装置の基準光軸近傍で且つ前記基準光軸を中心とする所定範囲に位置する球の一部を切り取ったような凹み形状の第1の出射面と,(1F) この第1の出射面の周囲に連続して形成される第2の出射面とを有し,(1G) これら第1の出射面と第2の出射面との接続部分が変曲点となっており,(1Ha) 前記発光素子から出射した光のうち,少なくともその最大強度の光が出射される方向から出射光の強度が最大強度の半分の値となる光が出射される方向までの角度範囲内に出射される光について,前記光束制御部材に入射して前記光制御出射面に到達した前記角度範囲内の光とその到達点(Px)を通り前記発光装置の基準光軸と平行な線とのなす角度を θ1とし, 前記到達点(Px)を通り且つ前記基準光軸に直交する線(A)と前記到達点(Px)における輪郭線に対する接線(B)とのなす角度を θ3とし, 前記光制御出射面の前記到達点(Px)から出射する光の出射角を θ5とすると,(1Hb) 前記第1の出射面における前記 θ3が前記 θ1の増加とともに徐々に減少し,(1I) 前記第2の出射面における前記 θ3が前記 θ1の増加とともに徐々に増加するようになっており,(1J) 前記到達点(Px)からの出射光が,前記発光素子から出射される光のうちの前記基準光軸近傍の光を除き,θ5/θ1>1の関係を満足するとともに,(1K) この θ5/θ1の値を θ1の増加にしたがって徐々に小さくなる方向に変化させる形状に形成されている,(1L) ことを特徴とする発光装置。 【請求項2】(本件発明2)(2A) 前記光入射面は,前記発光素子の光出射面に密接している(2B) ことを特徴とする請求項1記載の発光装置。 【請求項4】(本件発明4)(4A) 前記請求項1乃至3のいずれかに記載された複数の発光装置と,(4B) これら複数の発光装置からの光を拡散・透過する光拡散部材と,を備え,(4C) 前記複数の発光装置が互いに等間隔で配置され,(4D) これら複数の発光装置のうちの隣り合う発光装置からの出射光が混ざり合う位置に前記光拡散部材が配置された,(4E) ことを特徴とする面光源装置。 【請求項5】(本件発明5)(5A) 前記請求項4に記載の面光源装置と,(5B) この面光源装置からの光を照射する被照明部材と,(5C) を備えたことを特徴とする表示装置。 【請求項6】(本件発明6)(6A) 発光素子からの光を封止部材と光束制御部材を介して出射するようになっている発光装置において,(6B) 前記光束制御部材は,前記封止部材に封止された前記発光素子からの光が前記光束制御部材に入射する光入射面と,(6C) 前記発光素子からの光の出射を制御する光制御出射面とを備え,(6D) 前記発光装置の基準光軸に沿った方向から見た形状が略円形形状となるように形成されており,(6E) 前記光制御出射面は, 前記発光装置の基準光軸近傍で且つ前記基準光軸を中心とする所定範囲に位置する球の一部を切り取ったような凹み形状の第1の出射面と,(6F) この第1の出射面の周囲に連続して形成される第2の出射面とを有し,(6G) これら第1の出射面と第2の出射面との接続部分が変曲点となっており,(6Ha) 前記発光素子から出射した光のうち,少なくともその最大強度の光が出射される方向から出射光の強度が最大強度の半分の値となる光が出射される方向までの角度範囲内に出射される光について,前記光束制御部材に入射して前記光制御出射面に到達した前記角度範囲内の光とその到達点(Px)を通り前記発光装置の基準光軸と平行な線とのなす角度を θ1とし, 前記到達点(Px)を通り且つ前記基準光軸に直交する線(A)と前記到達点(Px)における輪郭線に対する接線(B)とのなす角度を θ3とし, 前記光制御出射面の前記到達点(Px)から出射する光の出射角を θ5とすると,(6Hb) 前記第1の出射面における前記 θ3が前記 θ1の増加とともに徐々に減少し,(6I) 前記第2の出射面における前記 θ3が前記 θ1の増加とともに徐々に増加するようになっており,(6J) 前記到達点(Px)からの出射光が,前記発光素子から出射される光のうちの前記基準光軸近傍の光を除き,θ5/θ1>1の関係を満足するとともに,(6K) この θ5/θ1の値を θ1の増加にしたがって徐々に小さくなる方向に変化させる形状に形成されている,(6L) ことを特徴とする発光装置。 【請求項11】(本件発明11)(11A) 発光素子または封止部材に封止された発光素子からの光が入射する光入射面と,(11B) 前記発光素子からの光の出射を制御する光制御出射面とを備え,(11C) 前記発光素子と共に発光装置を構成するようになっており,(11D) 前記発光装置の基準光軸に沿った方向から見た形状が略円形形状となるように形成された光束制御部材であって,(11E) 前記光制御出射面は, 前記発光装置の基準光軸近傍で且つ前記基準光軸を中心とする所定範囲に位置する球の一部を切り取ったような凹み形状の第1の出射面と,(11F) この第1の出射面の周囲に連続して形成される第2の出射面とを有し,(11G) これら第1の出射面と第2の出射面との接続部分が変曲点となっており,(11Ha) 前記発光素子から出射した光のうち,少なくともその最大強度の光が出射される方向から出射光の強度が最大強度の半分の値となる光が出射される方向までの角度範囲内に出射される光について,前記光束制御部材に入射して前記光制御出射面に到達した前記角度範囲内の光とその到達点(Px)を通り前記発光装置の基準光軸と平行な線とのなす角度を θ1とし, 前記到達点(Px)を通り且つ前記基準光軸に直交する線(A)と前記到達点(Px)における輪郭線に対する接線(B)とのなす角度を θ3とし, 前記光制御出射面の前記到達点(Px)から出射する光の出射角を θ5とすると,(11Hb) 前記第1の出射面における前記 θ3が前記 θ1の増加とともに徐々に減少し,(11I)前記第2の出射面における前記 θ3が前記 θ1の増加とともに徐々に増加するようになっており,(11J) 前記到達点(Px)からの出射光が,前記発光素子から出射される光のうちの前記基準光軸近傍の光を除き,θ5/θ1>1の関係を満足するとともに,(11K) この θ5/θ1の値を θ1の増加にしたがって徐々に小さくなる方向に変化させる形状に形成されている,(11L) ことを特徴とする光束制御部材。 3 審判における請求人(原告)の主張 (1) 無効理由1(新規性欠如) 本件発明1,2,6及び11は,本件出願日前に頒布された甲1(米国特許第5577493号明細書。以下,特に断らない限り,証拠番号には枝番号を含む。)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)であり,特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないものである。 (2) 無効理由2(進歩性欠如) 本件発明4及び5は,甲1発明及び本件出願日前に頒布された甲2(特開2003-331604号公報)に記載された発明(以下「甲2発明」という。 に基づき, )当業者が容易に想到することができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。 4 審決の理由の要点 (1) 無効理由1(新規性欠如)について ア 甲1発明「小型光源とそれに関連する光偏向マッシュルームレンズとを備えた白熱ランプであって, 液晶ディスプレイなどのディスプレイに使用でき,白熱光源が均一な明るさを提供できるようにすることによって,それらの実用性を向上させ, マッシュルームレンズ39は,凸外面39bの変化する曲率よりも大きな曲率の半球状凹内面39aを備え,そのような曲率は,軸24方向の領域において減少し,中央外面39cにおいて凹形状になり, マッシュルームレンズは,関連TIRレンズの候補プロフィールに沿ったファセットごとの反復に由来し, (裁判所注:下線は,裁判所による。以下「A部分」という。)マッシュルームレンズの動径座標はRF(Θ)の関数で,マッシュルームの頭部に類似する結果プロフィールは,数式(7)によって第1次を与えられ,Θiの度重なる繰り返しによって,超高精度工学により要求される正確さの程度を提供し,その結果として生じる形状は,楕円環状体にしっかりと一致し, 拡散板60は,TIRレンズ40の出射面上に位置し,TIRレンズのファセットによって強いられる空間的構造をぼやかす傾向があり,第2の拡散板61は,空間的にこのぼやけを積分する(裁判所注:下線は,裁判所による。以下「B部分」という。, ) 白熱ランプ。」 イ 本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点【一致点】「(1A) 発光素子からの光を光束制御部材を介して出射するようになっている発光装置において,(1B) 前記光束制御部材は,前記発光素子からの光が前記光束制御部材に入射する光入射面と,(1C) 前記発光素子からの光の出射を制御する光制御出射面とを備え,(1D) 前記発光装置の基準光軸に沿った方向から見た形状が略円形形状となるように形成されており,(1E) 前記光制御出射面は, 前記発光装置の基準光軸近傍で且つ前記基準光軸を中心とする所定範囲に位置する球の一部を切り取ったような凹み形状の第1の出射面と,(1F) この第1の出射面の周囲に連続して形成される第2の出射面とを有し,(1G) これら第1の出射面と第2の出射面との接続部分が変曲点となっている,(1L) ことを特徴とする発光装置。」【相違点1】 本件発明1では, 「光制御出射面」は,(1Ha) 前記発光素子から出射した光 「のうち,少なくともその最大強度の光が出射される方向から出射光の強度が最大強度の半分の値となる光が出射される方向までの角度範囲内に出射される光について,前記光束制御部材に入射して前記光制御出射面に到達した前記角度範囲内の光とその到達点(Px)を通り前記発光装置の基準光軸と平行な線とのなす角度を θ1とし, 前記到達点(Px)を通り且つ前記基準光軸に直交する線(A)と前記到達点(Px)における輪郭線に対する接線(B)とのなす角度を θ3とし, 前記光制御出射面の前記到達点(Px)から出射する光の出射角を θ5とすると,(1Hb) 前記第1の出射面における前記 θ3が前記 θ1の増加とともに徐々に減少し,(1I) 前記第2の出射面における前記 θ3が前記 θ1の増加とともに徐々に増加するようになっており,(1J) 前記到達点(Px)からの出射光が,前記発光素子から出射される光のうちの前記基準光軸近傍の光を除き,θ5/θ1>1の関係を満足するとともに,(1K) この θ5/θ1の値を θ1の増加にしたがって徐々に小さくなる方向に変化させる形状に形成されている」のに対し, 甲1発明では,マッシュルームレンズが,そのような形状及び出射光の状態を満たすか否かが定かでない点。 ウ 相違点1についての判断(本件発明1の新規性) (ア) 「第1の出射面」の形状及び出射光について 基準光軸近傍を除いた「第1の出射面」について,甲1に記載の事項(特に図7)が,構成要件1Ha,1Hb,1J及び1Kを満たすといえる根拠はない。 (イ) 「第2の出射面」の形状及び出射光について 「詳細な横断面」とされる図7は,単なる説明図であって,実際に用いられるレンズの正確な表面形状(微小な凹凸や変曲点の位置など形状の細部)についてまで特定し得るものではない。請求人(原告)が行うように,図7の図面の一部分に補助線等の作図を用いて,レンズの正確な表面形状及び出射光の状態(多数の正確な点列データから緻密な計算によって求める必要がある表面形状及び出射光の状態)を,基準光軸近傍から半値角までの必要とする範囲に渡って,具体的に特定することができるものではない。 また,甲1発明において「マッシュルームレンズは,関連TIRレンズの候補プロフィールに沿ったファセットごとの反復に由来し,マッシュルームレンズの動径座標はRF(Θ)の関数で,マッシュルームの頭部に類似する結果プロフィールは,数式(7)によって第1次を与えられ,Θiの度重なる繰り返しによって,超高精度工学により要求される正確さの程度を提供」するものであり,甲1には,図7は, 「図8に詳述されている反射体50と図9に詳述されているTIRレンズ40と共に使用されている偏向マッシュルームレンズ39の詳細な横断面を示している。と記 」載されていることから,甲1の図7のレンズ表面の形状は,TIRレンズ形状に対応して緻密に設計されるものであって,TIRレンズ形状と無関係に単独で設計されるものではないと認められ,また,甲1発明と本件発明1とは,解決しようとする課題も異なり,技術思想は別々のものであると認められる。 さらに,甲1に記載された装置は,TIRレンズと光線偏向装置(マッシュルームレンズ)とを含む組合せで実施されるものであるので,甲1発明の目的としての「より均等に光束を分散させる」との記載は,光線偏向装置(マッシュルームレンズ)自体についていうものとは認められない。したがって,甲1に記載された装置からTIRレンズを取り除いた,図7のレンズ部分の目的や作用効果について,レンズの縁部よりもレンズ中心部において強くなる光出力を均一に分散させるという請求人(原告)の主張は,当を得ているとはいえない。 したがって,本件発明1は,甲1発明と上記相違点1(構成要件1Ha,1Hb,1I,1J及び1K)で相違するから,新規性を欠くとはいえない。 エ 本件発明2,6及び11の新規性 本件発明2は,本件発明1を引用しており,また,本件発明6の構成要件6Ha,6Hb,6I,6J及び6Kと,本件発明11の構成要件11Ha,11Hb,11I,11J及び11Kとは,それぞれ,本件発明1の構成要件1Ha,1Hb,1I,1J及び1Kと同じ構成であるから,前記ウに述べたのと同様に,新規性を欠くとはいえない。 (2) 無効理由2(進歩性欠如)について ア 本件発明4と甲1発明との一致点及び相違点【一致点】「(1A) 発光素子からの光を光束制御部材を介して出射するようになっている発光装置において,(1B) 前記光束制御部材は,前記発光素子からの光が前記光束制御部材に入射する光入射面と,(1C) 前記発光素子からの光の出射を制御する光制御出射面とを備え,(1D) 前記発光装置の基準光軸に沿った方向から見た形状が略円形形状となるように形成されており,(1E) 前記光制御出射面は, 前記発光装置の基準光軸近傍で且つ前記基準光軸を中心とする所定範囲に位置する球の一部を切り取ったような凹み形状の第1の出射面と,(1F) この第1の出射面の周囲に連続して形成される第2の出射面とを有し,(1G) これら第1の出射面と第2の出射面との接続部分が変曲点となっている,(1L) ことを特徴とする発光装置,(4A’) 前記された発光装置と,(4B’) この発光装置からの光を拡散・透過する光拡散部材と,を備え,(4C’) 前記発光装置が配置され,(4D’) 前記光拡散部材が配置された,(4E) ことを特徴とする面光源装置。」【相違点1】 本件発明4は, 「構成要件1Ha,1Hb,1I,1J及び1K」を備えているのに対して,甲1発明は,マッシュルームレンズが,そのような形状及び出射光の状態を満たすか否かが定かでない点。 【相違点2】 「発光装置」について,本件発明4は,「複数の発光装置」であり,「複数の発光装置が互いに等間隔で配置され」ているのに対して,甲1発明は,そのように特定されるものではない点。 【相違点3】「光拡散部材」について,本件発明4は, 「これら複数の発光装置のうちの隣り合う発光装置からの出射光が混ざり合う位置に光拡散部材が配置された」のに対して,甲1発明は,そのように特定されるものではない点。 イ 上記相違点についての判断 (ア) 相違点1について 相違点1に係る構成(構成要件1Ha,1Hb,1I,1J及び1K)は,前記(1)ウに述べたとおり,甲1に記載されているとすることはできない。 (イ) 相違点2及び3について 甲1の図11のマッシュルームレンズ39は,TIRレンズ40に応じて設計されるもので一体不可分であり,甲2に記載の技術的事項を甲1発明に適用することで,甲1の図11等に示される,マッシュルームレンズ39,TIRレンズ40及び第2の拡散板61(光拡散部材)を一体とした発光装置を,等間隔で複数配置し上記相違点2に係る構成を得た場合,甲1の図3,図14,図14aにあるようなTIRレンズ40で平行な光とした発光装置を,等間隔で複数配置したものとなるに留まるだけであり,出射光が混じり合う位置に第2の拡散板61(光拡散部材)を配置し得ないから,上記相違点3に係る構成が,容易になし得たとはいえない。 また,甲1発明の第2の拡散板61(光拡散部材)は,拡散板60と協働することで,TIRレンズのファセットの影響による不均一な光の状態を見えなくするために設けられているものであって,出射光が混ざり合う位置に配置するためのものとは機能が異なると考えられ,その第2の拡散板61(光拡散部材)を出射光が混ざり合う位置に配置する動機付けもない。 したがって,甲1の図11に示される発光装置を等間隔で複数配置し得たとしても,上記相違点3に係る本件発明4の構成は,容易になし得たとはいえない。 以上により,本件発明4は,甲1発明及び甲2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明できたものでない。 ウ 本件発明5の進歩性 本件発明5は,本件発明4に他の発明特定事項を直列的に付加しているものであるから,同様に,当業者が容易に発明をすることができたものでない。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(甲1発明の認定誤り) (1) 審決は,甲1発明について,前記第2,4(1)アのとおり認定したが,以下のとおり,同記載下線部(A部分及びB部分)の認定は誤りである。 ア A部分の認定の誤り 審決は, 「マッシュルームレンズは,関連TIRレンズの候補プロフィールに沿ったファセットごとの反復に由来し,(A部分)と認定したが,以下のとおり,誤り 」である。 甲1には,マッシュルームレンズは関連付けられたTIRレンズの候補プロフィールに沿ったファセットごとの反復によって得なければならない旨が記載されている。上記記載が,先にTIRレンズの形状が決まり,それに合わせて光線偏向レンズの形状が決まるような表現となっているのは,最適化計算を行う際に,TIRレンズの形状から光線偏向レンズの形状を計算する方が,計算が楽なためにすぎない。 例えば,光線偏向レンズの形状を先に決めて(すなわち,仮にr(θ),z(θ)の初期値を決めて) 最適化計算 , (モンテカルロ法)を行えば,TIRレンズの形状は,光線偏向レンズの初期の形状に由来することになる。つまり,光線偏向レンズの形状,TIRレンズの形状は,どちらかを先に決めて,他方を最適化計算で求めるという関係にあるので,上記記載は,TIRレンズの形状が光線偏向レンズの形状に由来するという意味をも含む。したがって,甲1の図7の光線偏向レンズ(マッシュルームレンズ39)表面の形状は,光線偏向レンズの形状に由来してもよいのであって,審決が,上記A部分のとおり認定して,TIRレンズがマッシュルームレンズの形状に由来することを排除している点は,誤りである。 審決の認定したA部分は,正しくは, 「マッシュルームレンズ(偏向部材)は,軸(TIRレンズの中央軸である軸24)から間隔をあけられたレンズ部分に光線を偏向させるものであり,光束の角度を変更することで光束を分散させ,光束の照度を均一化する機能を有し,マッシュルームレンズがTIRレンズの反復に由来しても,TIRレンズがマッシュルームレンズの形状に由来してもよく, と認定すべき 」である。 イ B部分の認定の誤り マッシュルームレンズ(偏向部材)は,軸(TIRレンズの中央軸である軸24)から間隔をあけられたレンズ部分に光線を偏向させるものであり,光束の角度を変更することで光束を分散させ,光束の照度を均一化する機能を有する。 また,TIRレンズは,プリズムの一種であり,マッシュルームレンズ(偏向部材)の形状に由来し,光線偏向レンズによって分散された光束を中央軸方向に拡散させて,輝度を均一化する機能を有している。そして,拡散板60は,TIRレンズ40の出射面上に位置し,TIRレンズのファセットによって強いられる空間的構造をぼやかす傾向性質,具体的には,TIRレンズの微細構造の影響を取り去るために光束の伝搬方向をランダムに変更する性質があり,第2の拡散板61は,空間的にこのぼやけを積分するものであり,TIRレンズ40も拡散板61も,光線偏向レンズにより,均一化された光束の伝搬の主な方向を,次の光学装置の方向(光軸方向)へ向け,更に細かく均一化を図るための役目を担う部材である。 したがって,審決の認定のうち,B部分は,正しくは, 「TIRレンズは,プリズムの一種であり,マッシュルームレンズ(偏向部材)の形状に由来し,光線偏向レンズによって分散された光束を中央軸方向に拡散させて,輝度を均一化する機能を有し,拡散板60は,TIRレンズ40の出射面上に位置し,TIRレンズのファセットによって強いられる空間的構造をぼやかす性質,具体的には拡散板60はTIRレンズの微細構造の影響を取り去るために光束の伝搬方向をランダムに変更する性質があり,第2の拡散板61は,空間的にこのぼやけを積分するものであり,TIRレンズ40も拡散板61も,光線偏向レンズにより,均一化された光束の伝搬の主な方向を,次の光学装置の方向(すなわち光軸方向)へ向け,さらに細かく均一化を図るための役目を担う部材である,(下線部がB部分からの変更箇所)と 」認定すべきである。 (2)ア 審決は,「図7は,単なる説明図であって,実際に用いられるレンズの正確な表面形状(微小な凹凸や変曲点の位置など形状の細部)についてまで特定し得るものではない」旨認定する。 (ア) しかし,甲1の図7,図11,図15aには,マッシュルームレンズの正確な表面形状が開示されている。すなわち,甲1には,数式(7)の「Θiの繰り返し反復によって超精密工学が要求する正確さの程度を提供する。結果として得られる形状は楕円環状体にぴったりと一致することがわかる。現代のプロファイリング方法には少数の高次項で十分なはずである。上記フレネル偏向レンズと同様,全光学系を生成するには幾つかのマッシュルームレンズとTIRレンズの反復が必要である。図7は, ・・・TIRレンズ40と共に使用されている偏向マッシュルームレンズ39の詳細な横断面を示している。TIRレンズは,図6のプロフィール27よりも高いプロフィール41を有する。全体のシステムは図10に示されている。」とあるから,甲1の図7等は単なる説明図などではなく,詳細な形状が示された精度の高い設計図面である。 また,甲1には, 「マッシュルームレンズ39は,凸外面39bの各曲率よりも大きな曲率(例えば,より小さい半径)の半球状凹内面39aを備えている。そのような曲率は,軸24方向の領域において減少し,中央外面39cにおいて凹形状になる(縮小する)」と記載されており,甲1では,マッシュルームレンズ39(図77,図11),113(図15a)の曲率が文章でも記載されている。 (イ) さらに,以下のとおり,甲1の数式(7)と数式(6)の原理を用い,繰り返し計算法により,光束を均一化するように計算した結果によっても,甲1発明において実際に用いられるレンズの正確な形状(中央部が凹形状,周辺部が凸外面である形状及び変曲点の位置)が特定されているといえる。すなわち,甲1の数式(7)に図11の初期条件を入れて,本件出願日前から当業者において広く用いられている一般的なプログラムで自動計算すると,甲1の光線偏向レンズは下図の形状となる(Aの陳述書〈甲13の2。以下「A意見書」という。甲13の3は訳文。以下,特に断らない限り,頁数は訳文を指す。〉の10頁)。 なお,上記の初期値は,甲1の図11をA4サイズで印刷したときの寸法(cm単位)において,cmを取って2で割れば,マッシュルームレンズとTIRレンズとの距離に関する値(TL)は0.5,TIRレンズの半径に関する値(rl)は3.75,マッシュルームレンズの半径に関する値(rf)は1.0と導かれるから,これらの値は,いずれも甲1に開示されたものである。 このように甲1の数式(7)を計算すれば,甲1の光線偏向レンズは,中央部に凹形状,周辺部に凸外面を有すること及び変曲点の位置が分かる。 そして,A意見書の11頁には,上記の10頁に記載されている甲1の数式(7)を計算した結果から適合エラーを取り除いたものと,甲1の図7とを「重ね合わせると,以下に示すようなきわめてよく一致することが分かる」と記載されている。 このA意見書のとおり,甲1の数式(7)と数式(6)の原理を用い,繰り返し計算法により,光束を均一化するように計算すれば,甲1の図7に図示される形状によく一致する形状になる。 (ウ) 以上のとおり,甲1の図面及び甲1の記載,並びに数式(7)の自動計算から,甲1には,構成要件1Hbに対応する「第1の出射面が凹形状」,構成要件1Iに対応する「第2の出射面が半値角範囲まで凸形状」 構成要件1Jに対応す ,る (基準光軸近傍を除く半値角範囲において) 「 光軸から遠ざかる方向に光を屈折させることで,光束の中心ピークを下げる形状」,構成要件1Kに対応する「(基準光軸近傍を除く半値角範囲において)光軸から離れるほど屈折される程度が徐々に小さくなるようにすることにより,光軸外側への伝搬方向における光量が小さくなりすぎないようにする形状」を満たす形状が特定されたマッシュルームレンズが開示されている。 イ 審決は,甲1の図7のレンズ表面の形状は,TIRレンズ形状に対応して緻密に設計されるものであって,TIRレンズ形状と無関係に単独で設計されるものではないとする。 しかし,甲1には, 「マッシュルームレンズ39は,凸外面39bの各曲率よりも大きな曲率(例えば,より小さい半径)の半球状凹内面39aを備えている。そのような曲率は,軸24方向の領域において減少し,中央外面39cにおいて凹形状になる(縮小する)」と記載されており,甲1に記載されている光線偏向レンズは,中央部に凹形状,周辺部に凸外面を有するレンズである。これは,凸外面伝搬方向における光量が小さくなりすぎないようにしつつ,中央部の凹形状伝搬方向において周辺部の凸外面よりも光束を分散させて中心ピークを下げるレンズである。甲1には,「TIRレンズは中央軸を備えており,光源からの光はその方向に向けられ」るとあるように,TIRレンズは,光線偏向レンズによって分散された光束を中央軸方向に拡散させて,輝度を均一化する機能を有している。 このように,甲1発明は,光線偏向レンズとTIRレンズによる2度の光束の偏向と,その途中の光束の空間伝播とによって,輝度の均一化を達成しようとするものであり,光学上,必ずTIRレンズと一緒に用いなければならないものではない。 そして,前記(1)アのとおり,甲1には,TIRレンズの形状が光線偏向レンズの形状に由来するという意味も含む。 したがって,甲1では,光線偏向レンズがTIRレンズの反復に由来しても,TIRレンズが光線偏向レンズの形状に由来してもよいので,TIRレンズが光線偏向レンズの形状に対応して緻密に設計される場合を除外し,あたかも光線偏向レンズが「TIRレンズ形状に対応して緻密に設計される」場合のみしか存在しないものと認定した審決は,誤っている。 ウ 審決は,甲1発明と本件発明1とが技術思想を異にすると認定する。 しかし,甲1発明と本件発明1とは,解決しようとする課題が,均一な明るさを提供すること(すなわち,輝度を均一化すること)である点で共通する。また,甲1発明と本件発明1とは,光線偏向レンズにおいて光制御出射面中央の凹形状とその周辺の凸外面を利用して,拡散面直前での光束の照度を,より均一にし,拡散板を利用して,光線の向きを変換する点で,技術思想が共通している。したがって,審決の上記判断も誤りである。 エ 審決の「甲1に記載された装置は,TIRレンズと光線偏向装置(マッシュルームレンズ)とを含む組合せで実施されるものであるので,甲1の目的としての『より均等に光束を分散させる』との記載は,光線偏向装置(マッシュルームレンズ)自体についていうものとは認められない」とした認定は誤っている。 甲1に記載の光線偏向レンズは,単に光束の角度を変更することで光束を分散させる機能を有しているものである。よって,甲1の目的としての「より均等に光束を分散させる」との記載は,光線偏向レンズ自体について妥当する。 (3) 本件発明1と甲1発明との一致点,相違点の認定の誤り 以上に述べたとおりの正しい甲1発明を前提とすると,構成要件1Ha,1Hb,1I,1J及び1Kは,一致点と認定すべきものである。すなわち,これらの構成要件はいずれも,以下に述べるとおり,甲1の図7,図11,図15a等に開示されている以上の技術的内容を含むものではない。 ア 構成要件1Ha,1Hb及び1I 構成要件1Haの「前記発光素子から出射した光のうち,少なくともその最大強度の光が出射される方向から出射光の強度が最大強度の半分の値(半値角)となる光が出射される方向までの角度範囲内に出射される光」は,光源の性質や形状に応じて相対的に定まる要件である。構成要件1Hb「前記第1の出射面における前記θ3が前記θ1の増加とともに徐々に減少し」,及び,構成要件1I「前記第2の出射面における前記θ3が前記θ1の増加とともに徐々に増加するようになっており」は,技術的に特別な意味を有する構成要件ではなく,出射面上に平面又は凸外面を有するレンズの主要な中心部分であれば,自動的に満たされる条件である。 したがって,これらの構成要件は,甲1の図7,図11,図15a等に開示されている「第1の射面が凹形状,第2の出射面が凸形状であるレンズ」以上の技術的内容を含むものではない。 イ 構成要件1J より光束を分散させるためには,中心ピークを下げる必要があるため,θ5/θ1>1とする条件は,凸外面における光束の中心ピークを下げるために当業者が把握できる条件であって,技術的に特別な意味を有するファクターではなく,常識的な条件である。 したがって,構成要件1Jの「θ5/θ1>1の関係を満足する」という記載は,甲1の図7,図14aに開示されている以上の技術的内容を含むものではない。 ウ 構成要件1K 甲1発明は, 「液晶ディスプレイなどのディスプレイに使用でき,白色光源が均一な明るさを提供できるようにする」ことを目的としている。 甲1発明の光線偏向レンズは,光束の角度を変更することで光束を均一に分散させる機能を有している。一様で効率的な照明を提供するという目的を達成するためには,光軸外側への伝搬方向における光量が小さくなりすぎないようにする必要がある。そのためには,外周部に凸外面を設けることで,θ1の増加に伴って(外周部になるに連れて)θ5を減少させることで伝搬方向における光量が小さくなりすぎないようにするほかない。凸外面を設けると,θ1の増加に伴って(外周部になるに連れて)θ5が減少することは技術常識である。 よって,凸外面において,θ1の増加に伴いθ5/θ1が徐々に減少することは,常識的な条件である。したがって,甲1に記載されている光線偏向レンズの形状は,凸外面において,外周部になるに連れて(θ1が大きくなるに連れて),出射角(θ5)の入射角(θ1)に対する比は小さくなるレンズといえる。 他方,凹部(本件発明における第1の出射面)については,θ5/θ1の値は小さくなるという条件は,技術的に特別な意味を有するファクターではない。 以上より,甲1に記載されている光線偏向レンズの形状は,凸外面(本件発明1における第2の出射面)において,θ1が大きくなるに連れて,θ5/θ1の値は小さくなるレンズの形状である。また,光束を分散させるレンズにおいては,θ5/θ1の値が小さくなるという条件は,甲1に記載されているに等しい事項である。 (4) 以上によれば,本件発明1は甲1発明であるから,新規性を欠く。そうすると,本件発明2が本件発明1を引用する発明であることや,本件発明6及び本件発明11が本件発明1と同じ構成を有する発明であることを理由に,特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないものではないと認定した審決は,誤りであるから,取り消すべきものである。 2 取消事由2(本件発明4に係る一致点及び相違点の認定の誤り) (1) 相違点1について 上記1に述べたとおり,構成要件1Ha,1Hb,1I,1J及び1Kは,一致点として認定すべきであるから,これらを相違点1として認定する審決は誤りである。 (2) 相違点2について 甲1発明は,ディスプレイに使用する光源に関する技術であるところ,ディスプレイのような広い平面の光源とするために複数の光源及びレンズを使用することは,当業者の技術常識である。また,ディスプレイのような広い平面の光源とするために複数の光源及びレンズを使用する場合,均一な明るさにするためにそれらの配置を互いに等間隔にすることも,当業者の技術常識である。 したがって,甲1には,光源及びレンズが互いに等間隔で複数配列された発光装置が記載されているに等しいから,これを相違点2とした審決は,誤りである。 (3) 相違点3について マッシュルームレンズを複数配置することは,前記(2)のとおり当業者の技術常識であるところ,マッシュルームレンズを複数配置し,光源から光がマッシュルームレンズから出射すれば,出射後にマッシュルームレンズからの出射光が混ざり合う。 複数の発光装置のうちの隣り合う発光装置からの出射光が混ざり合う位置に光拡散部材が配置することは,当業者の技術常識である。 したがって,甲1には,複数の発光装置のうちの隣り合う発光装置からの出射光が混ざり合う位置に光拡散部材が配置された発光装置が記載されているに等しいから,これを相違点3とした審決は,誤りである。 3 取消事由3(本件発明4に係る相違点2及び3の容易想到性判断の誤り) 仮に,相違点2及び3が相違点となるとしても,これらの相違点に係る構成は,以下のとおり,甲1発明又は甲1発明と甲2発明に基づいて当業者が容易に想到できた事項であるから,これらを容易に想到できないとした審決の判断は誤りである。 (1) 甲1発明は,光線偏向レンズとTIRレンズによる2度の光束の偏向と,その途中の光束の空間伝播とによって,輝度の均一化を達成しようとしたものであり,甲1発明の光線偏向レンズは,TIRレンズ以外の他のプリズム,キノフォーム,又は回折光学素子(DOE)などと組み合わせることが可能であるから,光学上,必ずTIRレンズと一緒に用いなければならないものではない。 よって, 「甲1の図11のマッシュルームレンズ39は,TIRレンズ40に応じて設計されるもので一体不可分なもの」とした審決は誤りである。 また,複数の光源(マッシュルームレンズから出射する光源)を等間隔で複数配置した場合,甲1発明においてTIRレンズと光線偏向レンズ(マッシュルームレンズ)とは可分であるから,複数の光源(マッシュルームレンズから出射する光源)の出射光は混ざり合うことになる。よって, 「甲1の図3,図14,図14AにあるようなTIRレンズ40で平行な光とした発光装置を,等間隔で複数配置したものとなるに留まるだけ」とした審決の判断は,誤りである。 (2) 上記の混ざり合った出射光を更に拡散させるために,出射光が混ざり合う位置に光線を拡散させる機能を有する第2の拡散板61を設けることは,当業者が把握できる事項である。 よって,混ざり合った出射光を更に拡散させるために,出射光が混ざり合う位置に置くことのできる拡散板61は,出射光が混ざり合う位置に配置するための機能を有するし,拡散板61を出射光が混ざり合う位置に配置する動機付けがある。 (3) 以下のとおり,本件発明4は,甲1発明に甲2発明を組み合わせることで容易に想到される。 ア 課題及び作用効果の共通性 甲1発明は,液晶ディスプレイなどのディスプレイに使用でき,白色光源が均一な明るさを提供できるようにすることによって,それらの実用性を向上させることを目的としており,甲2発明の目的は, 「表示面部を背後から照明するバックライトユニット」において,「表示面部の均斉度を向上させる」ものである。「表示面部の均斉度を向上させる」とは,光源が均一な明るさを提供できるようにすること,すなわち,輝度を均一化させることであるから,甲1発明と甲2発明とは,その課題及び作用効果が,ディスプレイにおいて光源が均一な明るさを提供できるようにすること(すなわち,輝度を均一化すること)という点で,一致する。 イ 甲1における示唆 甲1発明は,ディスプレイに使用する光源に関する技術である。広い平面の光源とするために複数の光源及びレンズを使用することは,当業者にとって周知である。 したがって,ディスプレイに使用する光源及びレンズであるという点が開示されていれば,当業者に対して光源及びレンズを複数配置する示唆となる。 ウ 阻害要因のないこと 甲1発明及び甲2発明は,いずれもディスプレイの光源に関するものであり,均一な輝度を得るためのものであるから,当業者がこれらを組み合わせる阻害要因はない。 エ 本件発明4に顕著な効果が存在しない 本件発明4の光拡散部材(7)と,甲1に記載のTIRレンズ(40)及び拡散板(61)を組み合わせたものとは,光線の角度を変更するという点で作用・機能が同一である。本件発明4に関し,本件明細書には,甲1を超えるような顕著な効果は記載されていないし,存在しない。 よって,本件発明4は,甲1発明にも甲2発明にもない顕著な効果を奏するものではない。 |
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被告の反論
1 取消事由1に対し (1) 原告の主張1(1)に対し 甲1には, 「・・・マッシュルームレンズは,フレネル偏光レンズと同様に,関連TIRレンズの候補プロフィールに沿ったファセットごとの反復に由来しなければならない。」と明記されているとおり,甲1発明におけるマッシュルームレンズは,TIRレンズのプロフィールに由来しなければならない。ここで「・・・ (フレネル偏向レンズと同様に)」とあるが,フレネル偏向レンズの場合には,「・・・実際のレンズの設計では,試験プロフィールz(r)を用いて対応する偏向レンズが生成され,この偏向レンズから新しいプロフィールが生成される。次に,この新しいプロフィールの新しい偏向レンズが生成される。この反復を実行して,TIRレンズと偏向レンズとが合致するまで別のTIRレンズプロフィールが生成される。とある 」ように,TIRレンズと偏向レンズの間で反復を繰り返してプロフィールが生成されるが,最初に設計されるのは,偏向レンズではなくTIRレンズの試験プロフィールz(r)であるので,TIRレンズのプロフィール(形状)に基づいて,マッシュルームレンズ(偏向レンズ)のプロフィール(形状)が決定される。 甲1では,「・・・マッシュルームの頭部に類似する結果プロフィールは,・・・数式(7)によって第1次が与えられる。」と記載されており,マッシュルームレンズのプロフィール(形状)は数式(7)によって与えられることが明示されている。 数式(7)のRF(θi)は,角度θi におけるマッシュルームレンズ面までの距離を意味しており,マッシュルームレンズの形状を示す式である。そして,数式(7)で用いるPi-1については, 「第1次の方法は,式(2)のファセット番号iに関して得られた一連の角度θiのPiの派生値から推定することである。 (なお,こ 」の数式(2)は,数式(6)の誤りである。)とされているように,甲1の数式(6)から求めることができる。 前記数式(6)から,nの値とαの値を入力すれば,Piの値を得ることができるが,nは屈折率の値として得られるので,αの値によりPiを求めることができる。 αの値を求める式として,甲1には次の数式(5)が記載されている。 ここで, 「・・・z(θ)は,r(θ)でのTIRレンズのファセットの高さである。」と記載されているとおり,数式(5)で使用するz(θ)は,TIRレンズのプロフィール(形状)を示しており,αを求めるためには,TIRレンズのプロフィール(形状)が必要となる。 以上のように,マッシュルームレンズのプロフィール(形状)を決定するためには,数式(5)ないし数式(7)を用いることが甲1には示されているが,これらの数式によれば,TIRレンズのプロフィール(形状)が必須の要件である。 したがって,甲1には「TIRレンズがマッシュルームレンズの形状に由来してもよい」とする記載は存在せず,マッシュルームレンズの形状は,必ずTIRレンズの形状に由来して決定されることが記載されているのであり,審決による甲1発明の認定に誤りはない。 (2) 原告の主張1(2)に対し ア 原告の主張1(2)アに対し (ア) 甲1に記載されたマッシュルームレンズは,中央部に凹形状,周辺部に凸外面を有することが記載されているものの,変曲点の位置について記載はなく,これらの凹形状及び凸外面において微小な凹凸が存在しないとも記載されていない。 そもそも,甲1に記載のマッシュルームレンズは,TIRレンズのプロフィール(形状)に基づいて決定されることから,TIRレンズのプロフィール(形状)に応じて変化するものである。例えば,甲1に記載のTIRレンズには,TIRレンズ内に光を取り込むための入射面(29)と取り込んだ光をTIR面(31)で出射面(30)に向けて全反射するファセット(28)が複数形成されており,これらファセットの中央を経由する光線のみが光線偏向レンズのファセット角度Piの偏向に用いられることから,光線偏向レンズのファセット角度Piを甲1の数式(7)に外挿することで得られるマッシュルームレンズのプロフィール(形状)は,TIRレンズのファセット数に応じた数点の凸外面の位置が得られるのみである。 また,TIRレンズの中央部にはファセットが形成されておらず,マッシュルームレンズの中央部の凹形状を数式(7)から求めることはできない。 (イ) 以下に述べるとおり,A意見書の計算結果により,甲1の図7と類似する形状のマッシュルームレンズの形状が導き出されたとしても,それは,甲1の数式から必然的に導き出されたものではなく,甲1に記載のない前提条件を与えることにより,恣意的に図7と類似するように導き出されたものにすぎない。 A意見書では,候補となるTIRレンズのプロフィールに基づいて,マッシュルームレンズのプロフィール(形状)を決定している。その一方で,A意見書記載のマッシュルームレンズのプロフィールの計算においては,その根拠となる「候補となるTIRレンズのプロフィール」について,その条件,由来等が何ら記載されていない。 したがって,A意見書の計算により得られたマッシュルームレンズの形状なるものは,A意見書が提供した候補TIRレンズのプロフィールという,甲1に記載のない前提条件に基づいて導き出されたものである。A意見書が使用した候補TIRレンズのプロフィール(形状)とは異なるTIRレンズのプロフィール(形状)によれば,A意見書の計算結果とは異なるレンズの形状が計算結果として得られる。 すなわち,計算の基礎とする候補TIRレンズのプロフィール(形状)を変更すれば,計算結果として得られるマッシュルームレンズのプロフィール(形状)を様々に変更できることが明らかである。 よって,甲1の図7は,甲1の数式に基づき導き出された精緻な形状を示すものではなく,単なる説明図にすぎないのであり,実際に用いられるレンズの正確な表面形状(微小な凹凸や変曲点の位置など形状の細部)についてまで特定し得るものではない。甲1の記載からは,マッシュルームレンズの正確な形状を特定することは不可能である。 イ 原告の主張1(2)イに対し 前記(1)において述べたとおり,甲1の数式(5)ないし数式(7)からマッシュルームレンズの形状を決定するに当たって,TIRレンズの形状が前提条件として必要不可欠であることからすれば,マッシュルームレンズの形状は,TIRレンズの形状に由来して決定されるものである。したがって,TIRレンズが存在しなければ,マッシュルームレンズも存在し得ないのであり,甲1発明の解決課題及び解決方法において,マッシュルームレンズをTIRレンズと切り離しては単独で設計することはできない。 また,甲1には,マッシュルームレンズを,TIRレンズと組み合わせず分離して使用することについて一切の記載も示唆もない。甲1発明は,TIRレンズとマッシュルームレンズとを組み合わせることによってTIRレンズの真上に均一な光束密度を生成することを技術思想とする発明であるから,マッシュルームレンズとTIRレンズとは一体不可分である。 ウ 原告の主張1(2)ウに対し 本件発明1は,LED等の各発光素子の発光色のばらつきを目立ちにくくし,輝度ムラのない均一な面状照明を可能にすることを課題とし,かかる課題を解決するために,いわゆる半値角範囲内における放射角(入射角)θ1,接線角θ3及び出射角θ5を用いて定義した,構成要件1Hbないし構成要件1Kで特徴付けられる光束制御部材を用いることにより,発光素子からの光を広範囲に滑らかに拡げ,裾野の広い照度分布の被照射領域を生成するようにしたものである。本件発明1によれば,発光素子から発せられた光の光束は,光束制御部材によって,効率的にかつ広範囲に滑らかに拡げることができるので,複数の発光素子を光源として使用する場合,各発光素子からの光が混じりやすくなり,各発光素子の発光色のばらつきが目立ちにくくなるとともに,出射光輝度も均一化し,高品質の照明が可能になるという効果を奏する。 一方,甲1発明は,光源からの光をコリメートする(平行光とする)TIRレンズが,中心部分の光束が強くなるという光の不均一性があることを解決課題とし,TIRレンズにマッシュルームレンズを組み合わせることで,光源からの光をマッシュルームレンズによってTIRレンズの各部へ向けて偏向させ,TIRレンズから均一な光束密度を生成することを技術思想とする発明である。また,甲1発明におけるマッシュルームレンズは,光源からの光をTIRレンズの各部へ向けて偏向させるものであって,複数の光源からの光を混ぜ合わせることがないことから,光源からの光を広範囲に滑らかに拡げる必要がない。 したがって,本件発明と甲1発明とは,技術思想を全く異にする。 エ 原告の主張1(2)エに対し 甲1の ・(TIRレンズの出力でより均一に光束を分散させる光線偏向装置) 「・ ・ 」との記載からも明らかなとおり, 「より均等に光束を分散させる」とは,TIRレンズから出力される光が均一に分散されることを意味している。したがって, 「より均等に光束を分散させる」との記載が,光線偏向レンズを単独で用いた場合にも妥当するとする原告の主張は明らかな誤りである。 (3) 原告の主張1(3)に対し 前記(2)アにおいて述べたとおり,甲1発明において,マッシュルーム形状であることは記載されているものの,特定の形状が導かれるものではないから,原告主張の構成要件を満たすか否かは,そもそも不明であって,原告の主張は失当である。 ア 原告の主張1(3)アに対し 甲1には,構成要件1Hbの「前記第1の出射面における前記θ3が前記θ1の増加とともに徐々に減少し」を満たすような中央部の凹形状を有するマッシュルームレンズは開示されておらず,また,位置が特定される数点の凸外面の間の領域におけるマッシュルームレンズの形状は正確に特定できないのであるから,構成要件1Iの「前記第2の出射面における前記θ3が前記θ1の増加とともに徐々に増加するようになっており」を満たすか否かは不明である。 さらに,構成要件1Haのうち「前記発光素子から出射した光のうち,少なくともその最大強度の光が出射される方向から出射光の強度が最大強度の半分の値となる光が出射される方向までの角度範囲内」(いわゆる「半値角範囲」)について,原告は,甲1発明における半値角範囲はどの範囲であるかの立証すら行っていない。 イ 原告の主張1(3)イに対し 原告は,光制御出射面の法線に対して左側から光源の光が入射することに限定する場合を前提としているが,光制御出射面の法線の右側から光が入射した場合には,θ5/θ1<1の関係が成り立ち,構成要件1Jを充足しない。甲1では,マッシュルームレンズの正確な表面形状を特定しておらず,光制御出射面の法線の左側から光が入射することも,また,右側から光が入射することも何ら特定していないのであり,両者を含むのであるから,構成要件1Jを充足しない形状のレンズ部分も当然に存在する。 ウ 原告の主張1(3)ウに対し 原告の主張をもっても,また,それが依拠するB鑑定書においても,本件出願日当時における技術常識を示す文献等の客観的証拠は一切示されておらず,凸外面においてθ1の増加に伴いθ5/θ1が徐々に減少することが本件出願日当時における技術常識という証拠は一切見当たらない。 また,B鑑定書において,θ5/θ1の値が小さくなるという条件は,特別な技術的な意味はないとしている。しかし,θ5/θ1の値が徐々に小さくならない場合には,光束制御部材から出射する光が集中する箇所が生じて輝度にばらつきが生じてしまい,発光素子から放射された光を広範囲に滑らかに拡げることができなくなるのであり,θ5/θ1の値を徐々に小さくすることは,技術的に意義のある事項である。 2 取消事由2に対し (1) 原告の主張2(1)に対し 前記1に述べたとおり,相違点1を認定した審決に誤りはない。 (2) 原告の主張2(2)に対し 甲1には,TIRレンズ及びマッシュルームレンズをディスプレイの光源として用いることが図11等に開示されているが,あくまでTIRレンズとマッシュルームレンズを一体不可分として用いるものであり,互いに等間隔に複数配置することについては一切の記載もない。 したがって,相違点2を認定した審決に誤りはない。 (3) 原告の主張2(3)に対し 甲1発明は,TIRレンズにマッシュルームレンズを一体不可分に組み合わせることによって,TIRレンズから均一な光束密度を生成することを技術思想とする発明であるから,マッシュルームレンズとTIRレンズとの間に光拡散部材を設けることはあり得ないものであり,仮に光拡散部材を設けるとしても,TIRレンズから出射した光を受ける位置に光拡散部材が設けられることになる。TIRレンズから出射する光は,甲1の図1,図3,図14,図14a等にも示されているようにTIRレンズの直上に平行に出射するため,マッシュルームレンズとTIRレンズのセットを等間隔に複数配置したとしても,TIRレンズから出射した光が光拡散部材の配置された位置で混じり合うことはない。 したがって,相違点3を認定した審決に誤りはない。 3 取消事由3に対し (1) 甲1には,マッシュルームレンズは,TIRレンズに基づいて形状が決定されることが記載されているだけであり,TIRレンズと組み合わせず分離してマッシュルームレンズを使用することについては一切の記載も示唆もない。 (2) 甲 1 発明に記載された第2の拡散板61(光拡散部材)は,拡散板60と協働することで,TIRレンズのファセットの影響による不均一な光の状態を見えなくするために設けられているものであり,出射光が混ざり合う位置に配置するためのものとは機能が異なるから,その第2の拡散板61(光拡散部材)を出射光が混ざり合う位置に配置する動機付けもない。 (3) 以下のとおり,甲1発明に甲2発明を適用することはない。 ア 甲1発明は,TIRレンズの技術的問題を解決課題とする一方,甲2発明は,TIRレンズを使用しないバックライトユニットの技術的改良を解決課題としており,両者は解決課題を全く異にしている。また,甲 1 発明は,光源からの光をマッシュルームレンズによってTIRレンズの各部へ向けて偏向させることによって,TIRレンズから均一な光束密度を生成するという作用効果を奏する一方,甲2発明では,相対的に暗くなる基板の端部付近において,発光ダイオードを密とし,大きな電流を流すことによって,均一な発光面を得るという作用効果を奏するものである。このように,甲 1 発明と甲2発明とは,解決課題を全く異にするだけでなく,作用効果も全く異なっており,両者を組み合わせる動機付けはない。 イ 甲 1 発明に記載された第2の拡散板61(光拡散部材)は,拡散板60と協働することで,TIRレンズのファセットの影響による不均一な光の状態を見えなくするために設けられているものであり,出射光が混ざり合う位置に配置するためのものとは機能が異なるから,その第2の拡散板61(光拡散部材)を,甲2発明のように出射光が混ざり合う位置に配置する動機付けも存在しない。 ウ 前記のとおり,甲1発明は,TIRレンズにマッシュルームレンズを組み合わせることにより,TIRレンズから均一な光束密度を生成することを技術思想とする発明であるから,マッシュルームレンズとTIRレンズとは一体不可分に使用されるものである。かかる事実からすれば,甲1発明と,甲2に記載された特定のピッチで配置された複数の発光ダイオードからなるバックライトユニットの技術的事項を組み合わせたとしても,マッシュルームレンズとTIRレンズのセットを等間隔に複数配置した構成となるに留まる。 エ TIRレンズから出射する光は,縁部で光束が急峻に低下する光束密度分布を有するから,隣接するTIRレンズとの間に格子模様の輝度ムラが発生することとなり,均斉度を向上させるという甲2発明の課題を解決することができなくなる。したがって,甲1発明と甲2に記載された技術的事項を組み合わせることには,阻害要因がある。 |
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当裁判所の判断
1 本件発明について 本件明細書(甲5)によれば,本件発明について,以下のとおり認められる。 本件発明は,発光装置,面光源装置,表示装置及び光束制御部材に関し,例えば,液晶表示パネルの背面側から面状に照明するバックライトの光源や室内の一般照明など各種照明として用いられる発光装置,これを使用し,各種照明に用いられる面光源装置,この面光源装置を照明手段として被照明部材と組み合わせて使用する表示装置,及びこれら面光源装置や表示装置を構成する光束制御部材に関するものである 【0001】。 ( ) 本件発明1, 及び6は発光装置, 2, 本件発明4は面光源装置,本件発明5は表示装置,本件発明11は光束制御部材に関する(請求項1,2,4ないし6,11)。 従来,パーソナルコンピュータやテレビジョン等に使用される液晶表示モニタの照明手段として,複数の発光ダイオード(LED)を点光源として使用した面光源装置が知られており,図15に示すように,表示装置121は,出射面122が半球状の光束制御部材123をLED124の出射面側に固着してなるLEDチップ125を複数配置し,各LEDチップ125から出射する光を光拡散部材126を透過させた後,その光拡散部材126を透過した光で被照明部材(例えば,液晶表示パネル)127を面状に照明するようになっているものがあった。しかし,表示装置121は,図10に示すように,各LED124に対応するように出現する照明光の輝度のばらつきが波形形状で大きいため(【図10】のB,D参照),各LED124間の照明光に暗部が生じ,均一な面状照明を行うことが困難であり,また,各LEDチップ125から出射した光の光量がLED124の光軸L近傍に集中する傾向があるため,隣り合う複数のLED124からの光同士が混ざり合いにくく,各LED間の発光色のばらつきが目立つという問題があった(【0002】〜【0011】。 )【図15】【図10】 そこで,本件発明は,光源として用いられる発光装置,複数のLEDを使用する面光源装置及びこの面光源装置を使用する表示装置並びに光束制御部材において,各LEDの発光色のばらつきを目立ちにくくし,輝度ムラのない均一な面状照明を可能にすることを目的とする。また,本件発明1は,1個のLEDを光源として使用するような場合でも,LEDからの光を効率よく,所望の範囲まで滑らかに拡げることができるようにすることを目的とする(【0012】。 ) 本件発明1は,発光素子からの光を光束制御部材を介して出射するようになっている発光装置において,前記光束制御部材は,前記発光素子からの光が前記光束制御部材に入射する光入射面と,前記発光素子からの光の出射を制御する光制御出射面とを備え,前記発光装置の基準光軸に沿った方向から見た形状が略円形形状となるように形成されており,前記光制御出射面は,前記発光装置の基準光軸近傍で,かつ,前記基準光軸を中心とする所定範囲に位置する球の一部を切り取ったような凹み形状の第1の出射面と,この第1の出射面の周囲に連続して形成される第2の出射面とを有し,これら第1の出射面と第2の出射面との接続部分が変曲点となっており,前記発光素子から出射した光のうち,少なくともその最大強度の光が出射される方向から出射光の強度が最大強度の半分の値となる光が出射される方向までの角度範囲内に出射される光について,前記光束制御部材に入射して前記光制御出射面に到達した前記角度範囲内の光とその到達点(Px)を通り前記発光装置の基準光軸と平行な線とのなす角度をθ1とし,前記到達点(Px)を通り,かつ,前記基準光軸に直交する線(A)と前記到達点(Px)における輪郭線に対する接線(B)とのなす角度をθ3とし,前記光制御出射面の前記到達点(Px)から出射する光と前記基準光軸とのなす角(出射角)度をθ5とすると,前記第1の出射面における前記θ3が前記θ1の増加とともに徐々に減少し,前記第2の出射面における前記θ3が前記θ1の増加とともに徐々に増加するようになっており,前記到達点(Px)からの出射光が,前記発光素子から出射される光のうちの前記基準光軸近傍の光を除き,θ5/θ1>1の関係を満足するとともに,このθ5/θ1の値をθ1の増加に従って徐々に小さくなる方向に変化させる形状に形成されるように構成したことを特徴とする(請求項1,【0013】【図2】【図3】。 , , ) このような構成によって,発光素子から発せられた光の光束は,光束制御部材の光制御出射面により,効率的に,かつ,広範囲に滑らかに拡げることができ,光束制御部材の出射面から広範囲に照明光を出射することができる。したがって,本件発明1によれば,複数の発光素子を光源として使用する場合,各発光素子からの光が混じりやすくなり,各発光素子の発光色にばらつきがあったとしても,光束制御部材を介して出射される各発光素子の発光色のばらつきが目立ちにくくなるともに,出射光輝度も均一化し,高品質の照明が可能になるとの効果を奏する 【0026】 ( ,【0064】。 ) 【図2】 【図3】 2 取消事由1(甲1発明の認定誤り)について (1) 甲1発明について ア 甲1には,以下の記載がある。 (ア) 「本発明は特に,その素子が内部全反射(TIR)を使用する透明レンズ手段を使用する装置及び方法に関する。(20頁1-3行) 」 (イ) 「TIRレンズはアスペクト比が小さいため,強いコマ,すなわち,レンズの様々なファセットの異なる光源からの異なる距離から発生する収差を示す。すなわち,レンズの中心部は光源にあまりにも近いため,その光出力はレンズの縁部から伝搬されるより広い角度発散を有する。その結果,レンズの中心の光束は光源からの距離の平方にほぼ反比例する縁部の光束よりもはるかに強くなる。したがって,レンズの中心の光束は縁部のそれと比較して5倍を超えることがある。幾つかの用途では,そのような不均一性によって,その小ささと効率にもかかわらず,TIRレンズはより望ましくないものになっている。液晶ディスプレイのバックライトは顕著な一例である。必要なものは,光源像を側方に(すなわち,TIRレンズの縁に向かって)拡大し,上方に(すなわち,TIRレンズの対称軸に沿って)縮小する方法である。従来の光学設計方法は画像形成を扱うためこの問題には適用不可能である。これに対して,TIRレンズは非結像デバイスである。 これは画像形成の問題ではなく照明の問題である。狭い円筒状の光源を用いることで不均一性は低減できるが解消はできない。(20頁4-18行) 」 (ウ) 「発明の概要本発明の主要な目的は,上記問題の解決策を提供することである。基本的に,本発明は,a)中心軸を有し,光源からの光が誘導されるTIRレンズと,b)光源とTIRレンズとの間の光の移動経路に沿って配置された光線偏向装置であって,上記軸から離間したレンズの部分へ向けて光線を偏向させ,それによりTIRレンズの出力でより均一に光束を分散させる光線偏向装置とを含む組み合わせで実施される。 偏向装置は,通常,TIRレンズへ向かってドーム形状を有する平滑な反射体レンズであるが,外側にファセットがあるフレネルレンズであってもよいことが理解されよう。本発明は,液晶ディスプレイなどのディスプレイに使用でき,白熱光源が均一な明るさを提供することを可能にすることによって,それらの実用性を向上させる。(20頁20-32 」行) (エ)「図面の説明・・・図3は,光路内の光源とTIRレンズとの間の薄い光偏向装置と組み合わせたTIRレンズのr(Θ)マッピング要件を示す断面図である。 ・・・図6は,TIRレンズ及び再結像反射体と組み合わせた光偏向装置としての図5のフレネルレンズの使用法を示す断面図である。 図7は,小型光源と,それに関連付けられた光偏向マッシュルームレンズとを備えた白熱ランプの断面図である。 ・・・図11は,拡散板を備えた図10と液晶ディスプレイとの組み合わせを示す図である。 ・・・図14は,レンズ40上部の光束密度の輪郭マップであり,図14aはこの光束密度のそれに対応する三次元図である。(21頁1-26行) 」 (オ)「詳細な説明 「図1は,等方性点光源3からの光束2をスクリーン4上にコリメートする典型的なTIRレンズ1を示す。図を見やすくするため,光源の光線の右半分だけを示している。レンズの中心から出る光線5は外縁部の光線6よりも密である。これは,縁部よりの中心部の近くで光束レベルが高いことを示す。・・・ 本発明によれば,出力での光源の角変化をTIRレンズ上の対応する場所に一致させることで単位面積当たりのこの可変の光束を緩和又は解消することができ,平坦な分散が達成されるまで頂点から発する光が事実上拡散する。(21頁30行〜22頁13行目) 」 (カ) 「図3で,TIRレンズ12のファセット11は,ドーム壁部16aが光源14を中心に半球形に延びる光源封止材16を通して径方向に通過する光源14からの未偏向光線13をコリメートする軸24に対する角度をなす表面11aを有することに留意されたい。いくらか高いプロフィール(図3には示していないが図6に詳細を示す)上の角度が付いた表面11bを備えたファセットの新しいセットが,ドーム壁部16aの外側に位置するフレネルレンズ偏向装置20(図5)によって屈折する偏向光線17をコリメートするために必要である。(23頁18-24行) 」 (キ) 「上記説明で,rは軸24からのファセットの径方向距離であり,xは空間積分の慣例的なダミー変数である。大半の光源はほぼ等方性であり,r(Θ)でのファセットへの光線のΘの偏向は屈折によって実行される。これを実行する2つの方法は,薄いレンズ又は厚いレンズの使用を含む。薄い,又はフレネル化バージョンを得ることは分析的に容易であるため,これが最初に実行される。(24頁1-5行) 」 (ク) 「光源14上に中心がある半径R Fの半球状のフレネルレンズの場合,角度θの光線を, (5)(但し,z(θ)は,r(θ)でのTIRレンズのファセットの高さである)で与えられる角度αまで偏向させなければならない。実際のレンズの設計では,試験プロフィールz(r)を用いて対応する偏向レンズが生成され,この偏向レンズから新しいプロフィールが生成される。次に,この新しいプロフィールの新しい偏向レンズが生成される。この反復を実行して,TIRレンズと偏向レンズとが合致するまで別のTIRレンズプロフィールが生成される。(24頁6-14行) 」 (ケ) 「半球状の偏向レンズ上の各フレネルファセットの必要な傾斜角 P は下式で与えられる。 (6)但し,nは,偏向レンズの材質の屈折率である。θ=0及びθ=π/2(90°)の光線はすでにその正しい半径r=0及びRLへ向かっているため,対応する傾斜角P=0である。 図5は,等方性光源14の出力をTIRレンズ出力にマッピングするフレネル偏向レンズ20のプロフィールを示す。このレンズは,軸24を中心に半球形に延びる。フレネルファセット25は軸24を中心に環状に延び,ファセット番号iの屈折面22が接線21と角度Piを形成する。(24頁20-29行) 」 (コ) 「図6は,このフレネル偏向レンズ20と,それに関連付けられたTIRレンズ26を示す。TIRレンズ26は図3のTIRレンズよりも高いプロフィール27を有し,その結果,TIR面31は図3の面11bに対応し,図3のコリメーティングTIRレンズ12のTIR面11aとは異なる角度が付いている。TIRレンズは,入口面29と(この例では)共通の平坦な出射面30とを有する多数の小さいファセット27を有することが望ましい。これは,各TIR面のミラーリング機能が各ファセット28内で強度-半径マップr(Θ)を反転するからである。小さいファセットがこの反転を局所に閉じ込めるため,Θ(r)関数への悪影響は最小限にされる。点光源14と十分に小さいフレネル偏向レンズファセット25の場合,この局所的な反転によって出射面30での出力の均一性の阻害は最小限にされる。延びた光源の場合,TIRレンズ上に小さいファセットを設け,フレネル偏向レンズ上に同数の小さいファセットを設けることが望ましい。次に,各TIRファセットの中央の光線のみが偏向レンズのファセット角度P iの偏向に用いられる。16,20,及び26の共通の中心軸24に留意されたい。フレネル偏向レンズ20の凸状の半球形ドーム上のファセット25が,TIRレンズの凹型の内部プロフィール27上のファセット28の入口面29に対向している。(25頁3-19行) 」 (サ) 「本明細書で『マッシュルームレンズ』と呼ぶ強度マッピング偏向レンズの厚型は,製造がより容易であるが,計算により労力を要する。マッシュルームレンズの動径座標は,図5の半球フレネル偏向レンズの定数というよりはむしろ,RF(Θ)の関数である。マッシュルームレンズは,フレネル偏向レンズと同様に,関連TIRレンズの候補プロフィールに沿ったファセットごとの反復に由来しなければならない。第1次の方法は,式(2)のファセット番号iに関して得られた一連の角度ΘiのPiの派生値から推定することである。マッシュルームの頭部に類似する結果プロフィールは,数式(7)によって第1次が与えられる。 (7)4次ルンゲ・クッタは,Θiの繰り返し反復によって超精密工学が要求する正確さの程度を提供する。結果として得られる形状は楕円環状体にぴったりと一致することがわかる。現代のプロファイリング方法には少数の高次項で十分なはずである。上記フレネル偏向レンズと同様,全光学系を生成するには幾つかのマッシュルームレンズとTIRレンズの反復が必要である。(25頁20-33行) 」 (シ) 「図7は,図8に詳細を示す反射体50と図9に詳述されているTIRレンズ40と共に使用されている偏向マッシュルームレンズ39の詳細な横断面を示している。 TIRレンズは,図6のプロフィール27よりも高いプロフィール41を有する。全体のシステムは図10に示されている。マッシュルームレンズ39は,凸外面39bの変化する曲率よりも大きな曲率(たとえば,より小さい半径)の半球状凹内面39aを有する。 そのような曲率は,軸24の領域において減少し,中央外面において凹形状となる(縮小する)。軸24を中心に延び,以下のように動作する反射体50も参照されたい。平坦な底部39dはTIRレンズ40の最先端部及び反射体50の頂点と同一平面内にある。したがって,レンズ及び反射体のいずれとも干渉しない位置にある。(25頁34行-26頁 」9行) (ス) 「図11は,光源の役割を果たす液晶ディスプレイ62(LCD)との組み合わせによる発明を示す。ホログラフィック拡散板であってもよい微細構造の拡散板60がTIRレンズ40の出射面に位置している。この拡散板は,TIRレンズのファセットによって強いられる空間構造をぼやかす傾向がある。第2の拡散板61はこのぼやけを積分するので,TIRレンズのファセットはLCDの視聴者には見えない。(26頁15- 」20行) (セ) 「マッシュルームレンズ39は,高出力の光源が使用されるときにTIRレンズ40の熱保護を支援する。TIRレンズはプラスチックで構成されてもよい。そして滑らかなマッシュルームレンズは,高温に耐え,TIRレンズと光源との間の断熱バリアとしての働きをするガラスで作られることがある。(26頁21-24行) 」 (ソ) 「図2と同様,図14は,TIRレンズ40の真上に均一な光束密度を生成し,相対密度レベル(0.05〜1)がレンズの縁部にほぼ集中するコンピュータ化レイトレースの輪郭マップを示す。図14aは,図2bとの差をより良く示すこの光束密度の対応する三次元図を示す。中央に顕著な平坦なゾーン100があり,分散の縁部100aで単位面積当たりの光束の急峻な低下が観察される。ソーン100内の「隆起」は,ランダムに生成されるモンテカルロコンピュータレイトレースの本質的に統計的な性質によるものである」(27頁13-19行) (タ) 「発光ダイオード(LED)などの封止材がない光源は,マッシュルーム偏向レンズから恩恵を受けることができる。図15aは,典型的な電源供給ワイヤ111と平面反射体112とを備えたLED110を示す。このLEDはマッシュルームレンズ113内に埋め込まれ,TIRレンズ114が出射面115において均一な出射をするように形成される。(27頁20-24行) 」 (チ) 「以上をまとめると,マッシュルーム状の光偏向レンズはTIRレンズの出力を制御する強力な新しい方法である。ビーム全体が同じ角度拡散を有し,極めて不均一な出力を有する従来のバラボリック反射体と比較してビーム伝搬が向上する。(27頁3 」6行-28頁3行) (ツ) 「12.a)中心軸を有し,光源からの光が誘導されるTIRレンズと,b)前記光源と前記TIRレンズとの間の光の移動経路に沿って配置された光線偏向装置であって,前記軸から離間した前記レンズの部分へ向けて光線を偏向させ,それにより前記TIRレンズの出力でより均一に光束を分散させる光線偏向装置との組み合わせであって,c)前記偏向装置がマッシュルーム状のプロフィールを有する,組み合わせ。(29頁2 」0-26行) (テ) 「14.前記偏向装置が,前記マッシュルームレンズ形状を備えた外部表面と,前記外部表面によって定義される曲率よりも大きい曲率のくぼんだ内部表面とを有するレンズである,請求項12に記載の組み合わせ。(29頁29-31行) 」- 44 - イ これらの記載によれば,甲1発明は,以下のとおりと認められる。 甲1に記載された発明は,内部全反射(TIR)を使用する透明レンズ手段を使用する装置及び方法に関するものである。(ア(ア)) 従来,光源からの光をコリメートする(平行光とする)TIRレンズは,レンズの中心が光源に近いため,その中心(光軸)から出る光束が縁部から出る光束よりもはるかに強くなることから,光源像を側方に,すなわち,TIRレンズの縁に向かって拡大し,上方に,すなわち,TIRレンズの対称軸に沿って縮小することが必要である。そして,狭い円筒状の光源を用いることで光束の不均一性は低減できたが,解消はできなかった。(ア(イ)) そこで,上記問題を解決するために,甲1に記載された発明は,中心軸を有し,光源からの光が誘導されるTIRレンズと,光源とTIRレンズとの間の光の移動経路に沿って配置された光線偏向装置とを含めて組み合わせ,上記軸から離間したレンズの部分へ向けて光線を偏向させ,それによりTIRレンズの出力でより均一に光束を分散させるものとした。光線偏向装置は,通常,TIRレンズへ向かってドーム形状を有する平滑な反射体レンズであるが,外側にファセットがあるフレネルレンズであってもよく,さらに,マッシュルーム状の光偏向レンズ(マッシュルームレンズ)であってもよい。同発明は,液晶ディスプレイなどのディスプレイに使用でき,白熱光源が均一な明るさを提供することによって,それらの実用性を向上させることができる。(ア(ウ),(チ)) 甲1発明は,上記の発明のうち,光線偏向装置として,マッシュルームレンズを用いた発明である。 マッシュルームレンズは,フレネル偏向レンズと同様に,関連TIRレンズの候補プロフィールに沿ったファセットごとの反復に由来する。第1次の方法は,数式(6) (裁判所注:Piを求めるために使用する数式として前記ア(サ))に記載された「数式(2)」は,「数式(6)」の誤記であることは,当事者間に争いがない。)のファセット番号iに関して得られた一連の角度Θ iのPiの派生値から推定する。 (6)マッシュルームレンズの動径座標は,RF(Θ)の関数であり,マッシュルームの頭部に類似する結果プロフィールは,次式(以下,次式を数式(7)とする。(裁 )判所注:前記ア(サ)の数式(7)の右辺に誤記があり,甲1に記載の数式(7)の右辺に,更に「RF(Θi-1)」が加えられることは,当事者間に争いがない。)によって第1次が与えられる。 4次ルンゲ・クッタは,Θiの繰り返し反復によって超精密工学が要求する正確さの程度を提供する。上記フレネル偏向レンズと同様,全光学系を生成するには,いくつかのマッシュルームレンズとTIRレンズの反復が必要である。 (ア(ケ),(サ)) また,マッシュルームレンズは,凸外面の変化する曲率よりも大きな曲率(例えば,より小さい半径)の半球状凹内面を有する。そのような曲率は,軸の領域において減少し,中央外面において凹形状となる(縮小する)(ア(シ) 。 ) さらに,光源の役割を果たす液晶ディスプレイ(LCD)との組合せによれば,ホログラフィック拡散板であってもよい微細構造の拡散板がTIRレンズの出射面に位置しており,この拡散板は,TIRレンズのファセットによって強いられる空間構造をぼやかす傾向がある。第2の拡散板は,このぼやけを積分する。(ア(ス),図11) このように,甲1発明は,前記第2,4(1)アのとおり(ただし,式(7)については,上記の式に訂正する。)の構成をとったものである。 甲1発明により,出力での光源の角変化をTIRレンズ上の対応する場所に一致させることで,単位面積当たりのこの可変の光束を緩和又は解消することができ,平坦な分散が達成されるまで,頂点から発する光が事実上拡散することになる。したがって,TIRレンズと,光線偏向装置であるマッシュルームレンズとを含む組合せで実施された装置である甲1発明は,TIRレンズが出射面において均一な出射をするように形成され,均一な明るさを提供することを可能にした。このマッシュルーム状の光偏向レンズは,TIRレンズの出力を制御する強力な新しい方法である。(ア(ウ),(オ),(タ),(チ) ) (2) 取消事由1(甲1発明の認定誤り)について ア 原告は,マッシュルームレンズは関連付けられたTIRレンズの候補プ 「ロフィールに沿ったファセットごとの反復によって得なければならない」旨の記載は,TIRレンズの形状がマッシュルームレンズの形状に由来するという意味をも含むものであり,審決が「マッシュルームレンズは,関連TIRレンズの候補プロフィールに沿ったファセットごとの反復に由来し,(A部分)としてTIRレンズ 」がマッシュルームレンズの形状に由来することを排除している点は,誤りである旨主張する。 しかし,甲1には,前記(1)ア(サ)のとおり,「マッシュルームレンズは関連TIRレンズの候補プロフィールに沿ったファセットごとの反復に由来しなければならない」と記載されているのであり,最初にマッシュルームレンズの形状を決め,これに基づいてTIRレンズの形状を得ることについての記載も示唆もない。 また,前記(1)イのとおり,そもそも,甲1に記載された発明は,内部全反射(TIR)を使用する透明レンズ手段を使用する装置及び方法に関するものであり,TIRレンズと,光線偏向装置であるマッシュルームレンズとを含む組合せで実施された装置である甲1発明は,TIRレンズが出射面において均一な出射をするように形成され,均一な明るさを提供することを可能にするもので,新しいTIRレンズの制御方法を提供するものである。そして,甲1において,マッシュルームレンズのプロフィールを特定する数式(7)は,半球状のフレネル偏向レンズの形状を特定する数式(6)を利用し特定されるものであるところ,数式(6)は更に,TIRレンズの形状により規定される数式(5)を利用するものであることが開示されている((1)ア(ク)〜(ケ)参照) すなわち, 。 甲1のマッシュルームレンズの形状は,半球状のフレネル偏向レンズの設計に関する数式(6)により得られた一連の角度θiにおけるPiの値を用いて,数式(7)により求めることが記載されている。 この数式(6)において,半球状フレネル偏向レンズのファセットの角度Piの値を得るために,nとαの値が必要であり,nは屈折率の値,αの値は,数式(5)により得るとされている。そして,αは,光源から放射された光が,半球状フレネル偏向レンズのファセットによって偏向された光の角度であり,下図のように,光源(14)から角度θで放射された光を,TIRレンズのファセット上の半径r(θ),高さz(θ)の座標に到達させるために,半径がRFである半球状フレネル偏向レンズの表面のファセットの屈折面に角度αに偏向する。 したがって,半球状フレネル偏向レンズの偏向角度αを定めるには,TIRレンズのファセットの角度θにおけるTIRレンズの半径r(θ)及び高さz(θ)の情報が必要となり,これにより求められたαに基づいて,マッシュルームレンズの角度θiにおけるPiの値を用いてマッシュルームレンズの形状が定まることになる,すなわち,マッシュルームレンズの形状は,最初に与えられるTIRレンズの形状に基づいて決定されることが開示されている。 よって,審決が,甲1発明について, 「マッシュルームレンズは,関連TIRレンズの候補プロフィールに沿ったファセットごとの反復に由来し,(A部分)とした 」ことに誤りはない。 イ 原告は,審決の「拡散板60は,TIRレンズ40の出射面上に位置し,TIRレンズのファセットによって強いられる空間的構造をぼやかす傾向があり,第2の拡散板61は,空間的にこのぼやけを積分する」B部分) ( との認定について,誤りであり,原告主張のとおりに認定されるべきであると主張する。 しかし,本件発明1は,上記B部分に対応する構成を持たず,甲1発明と本件発明1との対比判断において上記の認定部分は必要がない。原告は,上記B部分の認定内容が誤りであると主張するものではなく,これに加えて原告主張部分を付加しなかったことが誤りであると主張するものであるところ,原告主張部分は,本件発明4の「光拡散部材」との対比の前提として必要となる部分であるから,本件発明1との対比の前提として認定すべき甲1発明に誤りがあるとはいえない。 (3) 原告の主張について ア 原告は,甲1において「図7は, ・・・TIRレンズ40と共に使用されている偏向マッシュルームレンズ39の詳細な横断面を示している。としているこ 」と等から,図7は,単なる説明図ではなく,詳細な形状が示された精度の高い設計図面であり,マッシュルームレンズの正確な表面形状が開示されている旨主張する。 しかし,甲1におけるマッシュルームレンズの設計については,前記(2)アにおいて述べたとおりであり,特定のTIRレンズの形状を前提に,反復計算によって導かれるものである。したがって,当業者は,甲1には,マッシュルームレンズの形状を導くための数式が示されているにすぎず,特定の形状を示すものとは考えないから,同図面について,単なる説明図にすぎないものと理解する。 また,甲1において「図7は, ・・・TIRレンズ40と共に使用されている偏向マッシュルームレンズ39の詳細な横断面を示している。」とした後に,「全体のシステムは図10に示されている。 ・・・図10は, ・・・詳細図・・・」とし,また,図面の説明について, 「図10は,マッシュルームレンズ,半球状の再結像リフレクタ,及び改造コリメーティングTIRレンズの組み合わせの断面図」であり, 「図11は,拡散板を備えた図10と液晶ディスプレイとの組み合わせを示す図」であるとされており,図7,10,11では,同じTIRレンズと組み合わせて用いられるマッシュルームレンズが開示されていると解されるところ,これらのマッシュルーレンズは,形状も異なり,縦横比も異なるものである上,寸法,曲率等は一切示されておらず,詳細な設計図面であるなどとは到底解することができない。 イ 原告は,甲1には, 「マッシュルームレンズ39は,凸外面39bの各曲率よりも大きな曲率(例えば,より小さい半径)の半球状凹内面39aを備えている。そのような曲率は,軸24方向の領域において減少し,中央外面39cにおいて凹形状になる(縮小する)」と記載されており,甲1では,マッシュルームレンズ39(図7,図11),113(図15a)の曲率が文章でも記載されている旨主張する。 しかし,上記の記載から,特定の変曲点や曲率が導かれるものではなく,上記の記載は,単に曲率の大きい凸外面と曲率の小さい半球状凹内面を持つマッシュルーム形状を表現したにすぎないものである。そして,この記載だけで,構成要件1Kを満たさないことは,原告自身が,口頭審理陳述要領書(甲11)において,マッシュルーム形状というだけで構成要件1Kが導かれると主張するものでなく,甲1の図7に具現されたマッシュルームレンズの形状が,1Kを満たすと主張した旨述べているとおりである。 したがって,同記載によっても,本件発明1と甲1発明が同一であることを示すことにはならない。 ウ さらに,原告は,A意見書(甲13)が示すように,甲1の数式(7)に図11の初期条件を入れて,本件出願日前から当業者において広く用いられている一般的なプログラムで自動計算すると,甲1の光線偏向レンズは特定の形状となる旨主張する。 しかし,A意見書における自動計算は,甲1の図11をA4サイズで印刷したときの寸法(cm単位)を実測し,cmを取って2で除した場合に,マッシュルームレンズとTIRレンズとの距離に関する値(TL)は0.5,TIRレンズの半径に関する値(rl)は3.75,マッシュルームレンズの半径に関する値(rf)は1.0であることから,これを初期値として入力したというものである(甲17)。 しかし,前記のとおり,図11は,詳細な設計図といえるものではなく,当該図面から,TIRレンズとの距離に関する値(TL)や,TIRレンズの半径に関する値(rl)を実測して導くことができるものではない。しかも,この値自体を適宜変更した場合には,甲1に定める「マッシュルームレンズ39は,凸外面39bの各曲率よりも大きな曲率(例えば,より小さい半径)の半球状凹内面39aを備えている。そのような曲率は,軸24方向の領域において減少し,中央外面39cにおいて凹形状になる(縮小する)」との条件を満たすものであっても,本件発明1の構成要件1J や1K を当然に満たすものではない。 したがって,このような自動計算を根拠に,前記の図7と重ね合わせ,原告主張の特定のマッシュルーム形状が開示されているということはできない。 エ 原告は,甲1発明と本件発明1とは,解決しようとする課題が均一な明るさを提供すること(すなわち,輝度を均一化すること)である点で共通しており,しかも,光線偏向レンズにおいて光制御出射面中央の凹形状とその周辺の凸外面を利用して,拡散面直前での光束の照度を,より均一にし,拡散板を利用して,光線の向きを変換する点で,技術思想も共通する旨主張する。また,原告は,甲1に記載された装置は,必ずしもTIRレンズと光線偏向レンズ(マッシュルームレンズ)とを含む組合せで実施されるものではなく,甲1の目的としての「より均等に光束を分散させる」との記載は,光線偏向レンズ自体について妥当するものであるから,本件発明1と甲1のマッシュルームレンズは同一である旨主張する。 確かに,甲1発明と本件発明1とは,解決しようとする課題をより抽象化すれば,均一な明るさを提供すること(すなわち,輝度を均一化すること)である。 しかし,両者は,以下のとおり, 「均一な明るさ」を達成する対象を異にしており,技術思想を異にする。 すなわち,本件発明は,光源として用いられる発光装置,複数のLEDを使用する面光源装置及びこの面光源装置を使用する表示装置等において,各LEDの発光色のばらつきを目立ちにくくし,輝度ムラのない均一な面状照明を可能にすることを目的とするものである。そして,本件発明1は,1個のLEDを光源として使用するような場合に,LEDからの光を効率よく,所望の範囲まで滑らかに拡げることを目的とするとともに,複数の発光素子を光源として使用する場合には,各発光素子からの光が混じりやすくなり,各発光素子の発光色にばらつきがあったとしても,光束制御部材を介して出射される各発光素子の発光色のばらつきが目立ちにくくなるとともに,出射光輝度も均一化するというものである。つまり,本件発明1は,発光装置の直上における光線の均一化だけではなく,隣接する発光装置から出る光線と混じり合わせることができるよう,滑らかに拡げるという技術思想をもつ。 一方,甲1発明は,中心軸を有し,光源からの光を平行光とするTIRレンズにおいて,レンズの中心から出る光束が縁部から出る光束よりもはるかに強くなることから,TIRレンズの縁に向かって光源像を拡大し,光軸に沿って光源像を縮小して光束を均一化することを目的とし,TIRレンズと,光源とTIRレンズとの間の光の移動経路に沿って配置された光線偏向装置(マッシュルームレンズ)を含む組合せで実施される発光装置によって,光軸から離間したTIRレンズの部分へ向けて光線を偏向させ,それによりTIRレンズの出力でより均一に光束を分散させることを目的とするものであり,甲1発明の構成により,TIRレンズの出力を制御し,TIRレンズが出射面において均一な出射をするように形成され,均一な明るさを提供することができるというものである。すなわち,甲1発明では,TIRレンズ出射面の直上から出る光線を均一化するとの技術思想をもつものであり,この制御のためにマッシュルームレンズが用いられている。 そうすると,本件発明1と甲1発明とは,光線を偏向して均一な明るさを提供する点で共通するとしても,基本的な技術思想を異にするものであるといえる。そして,前記のとおり,甲1には,マッシュルームレンズを単体で使用する旨の記載も示唆もなく,あくまで,甲1のTIRレンズの制御として用いられるものである。 甲1における「光源とTIRレンズとの間の光の移動経路に沿って配置された光線偏向装置であって,上記軸から離間したレンズの部分へ向けて光線を偏向させ,それによりTIRレンズの出力でより均等に光束を分散させる」との記載は,図14aの記載内容も勘案すると,光源から光線偏向レンズ(マッシュルームレンズ),TIRレンズを経て,TIRレンズから出射される光束が均等に分散されることを開示したものと解されるから,甲1のマッシュルームレンズのみを取り出して,本件発明1と同一であると認めることはできない。 (4) 以上によれば,審決のした甲1発明の認定に誤りはなく,原告が前記に主張するような特定の形状を有するマッシュルームレンズが甲1に開示されているということはできない。そうすると,原告が主張する,本件発明1及び甲1発明との一致点及び相違点の認定誤りは,甲1に形状が特定されたマッシュルームレンズが開示されていることを前提とするものであるから,いずれも理由がない。 (5) 小括 以上のとおり,本件発明1が,相違点1(構成要件1Ha,1Hb,1I,1J及び1K)において,甲1発明と相違し,新規性を欠くとはいえないとした審決の判断に誤りはない。 そして,本件発明2は,本件発明1を引用しており,本件発明6の構成要件6Ha,6Hb,6I,6J及び6Kと,本件発明11の構成要件11Ha,11Hb,11I,11J及び11Kとは,それぞれ,本件発明1の構成要件1Ha,1Hb,1I,1J及び1Kと同じ構成であるから,本件発明2,本件発明6及び本件発明11は,同様に新規性を欠くとはいえない。 したがって,取消事由1には理由がない。 3 取消事由2(本件発明4に係る一致点及び相違点の認定の誤り)及び3(本件発明4に係る相違点2及び3の容易想到性判断の誤り)について 本件発明4は,本件発明1をその構成に含むものであるところ,取消事由2及び取消事由3は,いずれも,相違点1が一致点となることを前提とする取消事由であり,上記のとおり,相違点1の認定に誤りがない以上,その余の点について判断するまでもなく,取消事由2及び取消事由3には理由がない。 |
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結論
よって,原告の取消事由1ないし3には理由がないから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 清水節 |
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裁判官 | 中村恭 |
裁判官 | 中武由紀 |