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追加

関連審決 不服2014-8720
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事件 平成 27年 (行ケ) 10114号 審決取消請求事件

原告 株式会社ブリヂストン
同訴訟代理人弁理士 大谷保 平澤賢一 滝沢喜夫 山下耕一郎 石原俊秀 高久浩一郎
被告特許庁長官
同 指定代理人氏原康宏 出口昌哉 長馬望 根岸克弘
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/04/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2014-8720号事件について平成27年4月21日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 原告は,平成22年4月30日(優先権主張:平成21年4月30日,日本),発明の名称を「タイヤ」とする特許出願(特願2011-511476号。以下「本願」という。甲3)をしたが,平成26年3月5日付けで拒絶査定を受けた。
? そこで,原告は,平成26年5月12日,これに対する不服の審判を請求するとともに(甲5),同日付け手続補正書(甲4)により特許請求の範囲を補正した(以下「本件補正」という。。
) ? 特許庁は,上記審判請求を不服2014-8720号事件として審理を行い,平成27年4月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同年5月12日,その謄本が原告に送達された。
? 原告は,平成27年6月10日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件補正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(甲4)以下, 。
この請求項1に係る発明を「本願発明」といい,その明細書(甲3,8)を「本願明細書」という。
【請求項1】タイヤサイド部のタイヤ表面に,内周側から外周側に向かって延在される乱流発生用突起をタイヤ周方向に間隔を置いて設けた空気入りタイヤであって,前記各乱流発生用突起は,径方向断面で見たときにエッジ部を有すると共に,タイヤ表面に対して空気流が突き当たる前壁面との前壁角度が70度〜110度の範囲であり,且つ前記タイヤサイド部を構成するサイド補強ゴムに,共役ジエン系重合体の末端と第一アミノ基又は加水分解により第一アミノ基を生成し得る前駆体を有するアルコキシシラン化合物との変性反応により該末端に第一アミノ基又は加水分解により第一アミノ基を生成し得る前駆体が導入され,さらに該変性反応の途中及 び又は終了後に該変性反応系に縮合促進剤が加えられることにより得られる変性共役ジエン系重合体を10質量%以上含むゴム成分100質量部に対して,窒素吸着比表面積が20〜90m2/gであるカーボンブラックを10〜100質量部配合してなるゴム組成物を用いることを特徴とするタイヤ。
3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本願発明は,下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び下記イの引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。
ア 引用例1:特開2009-29404号公報(平成21年2月12日公開。
甲1) イ 引用例2:国際公開第2008/114668号(甲2) ? 本件審決が認定した引用発明1,本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 引用発明1(文中の「/」は,原文の改行箇所を示す。) ビードコア,カーカス層,トレッドゴム層,インナーライナー,サイド補強層及びビードフィラーを具える空気入りタイヤであって, (A)ゴム成分と,その100質量部に対し, (B)カーボンブラック55質量部以上を含み,かつ加硫ゴム物性において,100%伸張時弾性率(M100)が10MPa以上及び正接損失tanδの28℃〜150℃におけるΣ値が6.0以下であるゴム組成物を用いた空気入りタイヤであって,/前記サイド補強層に,前記ゴム組成物を用いるものであり,/前記(A)ゴム成分が,アミン変性共役ジエン系重合体を含むものであり,該アミン変性共役ジエン系重合体が,一級アミン変性共役ジエン系重合体であり,該一級アミン変性共役ジエン系重合体が,共役ジエン系重合体の活性末端に,保護化一級アミン化合物を反応させて得られたものであり,該保護化一級アミン化合物が, N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリエトキシシランであり, 前 /記(B)カーボンブラックがFEF級グレードである,空気入りタイヤ。
イ 本願発明と引用発明1との一致点 「空気入りタイヤであって,タイヤサイド部を構成するサイド補強ゴムに,共役ジエン系重合体の末端と第一アミノ基又は加水分解により第一アミノ基を生成し得る前駆体を有するアルコキシシラン化合物との変性反応により該末端に第一アミノ基又は加水分解により第一アミノ基を生成し得る前駆体が導入されることにより得られる変性共役ジエン系重合体を含むゴム成分に対して,カーボンブラックを配合してなるゴム組成物を用いるタイヤ。」である点 ウ 本願発明と引用発明1との相違点 (ア) 相違点1 空気入りタイヤについて,本願発明は, 「タイヤサイド部のタイヤ表面に,内周側から外周側に向かって延在される乱流発生用突起をタイヤ周方向に間隔を置いて設けた」ものであって, 「前記各乱流発生用突起は,径方向断面で見たときにエッジ部を有すると共に,タイヤ表面に対して空気流が突き当たる前壁面との前壁角度が70度〜110度の範囲」で構成されているのに対し,引用発明1はそのような乱流発生用突起を具備していない点 (イ) 相違点2 変性共役ジエン系重合体の変性反応に関し,本願発明は, 「さらに該変性反応の途中及び又は終了後に該変性反応系に縮合促進剤が加えられる」のに対して,引用発明1はそのように特定されていない点 (ウ) 相違点3 ゴム組成物について,本願発明は, 「変性共役ジエン系重合体を10質量%以上含むゴム成分100質量部に対して,窒素吸着比表面積が20〜90m2/gであるカーボンブラックを10〜100質量部配合してなるゴム組成物」を用いるのに対し,引用発明1は,(A)ゴム成分と,その100質量部に対し, 「 (B)カーボンブ ラック55質量部以上」を含み構成されるものであり,上記(A)ゴム成分は「アミン変性共役ジエン系重合体を含むもの」であり, 「前記(B)カーボンブラックがFEF級グレード」のものを用いる点 4 取消事由 本願発明の進歩性の判断の誤り ? 相違点1に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由1) ? 相違点2に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由2) ? 相違点3に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由3) ? 顕著な効果の看過(取消事由4)
当事者の主張
1 取消事由1(相違点1に係る容易想到性の判断の誤り)について〔原告の主張〕 本件審決は,引用発明1において,ランフラット耐久性を更に向上させることを目的として,引用発明2の乱流発生用突起に係る技術の適用を試みることは,当業者にとって格別困難なこととはいえず,その適用を試みる動機付けも十分存在する旨判断した。しかし,以下のとおり,引用発明1において引用発明2の適用を試みることは,容易とはいえない。
? 引用発明1と引用発明2の各技術的思想について 引用発明1は,サイド補強層を構成するゴム組成物の発熱を抑えることによってランフラット耐久性の向上を図るものであり,具体的には,アミン変性ジエン系重合体によるカーボンブラック分散性を高めて低発熱性のゴム成分とし,ゴム成分の改良という化学的な解決方法を採用したものである。
他方,引用発明2は,タイヤのサイド部に乱流発生用突起を設け,タイヤの回転に伴って発生する乱流によりタイヤ表面での熱交換を行い,タイヤサイド部の温度低減を図るというものであり,タイヤの構成の改良という機械的な解決方法を採用したものである。
このように,引用発明1と引用発明2の各技術的思想は,全く異なるものであり,そのような発明をする当業者の技術も当然に異なるものということができる。
? 引用発明1と引用発明2の適用箇所について 引用発明1と引用発明2は,タイヤにおいて適用される箇所も異なる。すなわち,引用発明1は,タイヤの表面に適用されるのに対し,引用発明2は,サイド補強層に適用され,しかも,乱流発生用突起は,タイヤ表面のサイドゴム層上に設けられるものであり,サイド補強層上やサイド補強層のあるタイヤの内部側に設けられるものでもない。
? 小括 このように,引用発明1と引用発明2との間に直接の関連性は認められず,したがって,これらを組み合わせることによって,相違点1に係る本願発明の構成とすることはできない。
〔被告の主張〕 ? 引用発明1と引用発明2の共通点について ア 引用発明1は,ランフラット走行時にタイヤのサイドウォール部等の変形が大きくなって発熱が進み,場合によってはタイヤ故障に至るという問題等に鑑みて,ランフラット耐久性を向上させた空気入りタイヤの提供を課題とするものである。
他方,引用発明2は,サイドウォール補強層を有するランフラットタイヤにおいて,パンク走行時にサイドウォール補強層が高温になり耐久性に多大な影響を与えるという問題等に鑑みて,効率の良い放熱により特にタイヤサイド部内の温度低減を図り,耐久性を向上させることができる空気入りタイヤの提供を課題とするものである。
このように,引用発明1と引用発明2は,空気入りタイヤという技術分野のみならず,ランフラット走行時にサイドウォール部の発熱を抑えることでランフラット耐久性を向上させるという課題も共通している。
イ さらに,引用発明2は,特にタイヤサイド部内の温度低減を図り,耐久性を 向上させることを企図した空気入りタイヤの製造技術において有用なものであることが明らかである。
? 引用発明1と引用発明2との組合せの可否について 一定の課題を解決するために関連する技術分野の技術の適用を試みることは,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないものであるところ,前記?のとおり,引用発明1と引用発明2は,技術分野のみならずその解決すべき課題も共通し,さらに,引用発明2は,引用発明1の課題解決手段として有用なものと理解することができるから,引用発明1において引用発明2の適用を試みることは,当業者にとって格別困難なことではない。
? 原告の主張について 原告は,引用発明1と引用発明2との間に直接の関連性は認められず,したがって,これらを組み合わせることによって,相違点1に係る本願発明の構成とすることはできない旨主張する。
しかし,空気入りタイヤとは,素材(原料等)と構造(タイヤの形状等)とが一そろいになった機能物として構成されるものであり,ゴム組成物という化学的な素材から製造される引用発明1の空気入りタイヤに,引用発明2に係る乱流発生用突起という「機械的」な構造を適用し得ることは,明らかである。
さらに,当業者は,引用例2(【0136】〜【0139】【図23】 , )に接すれば,空気入りタイヤに乱流発生用突起を設けることによって耐久ドラム試験の結果(耐久性の評価)が向上することを理解するのであるから,ゴム成分の改良という化学的な解決方法を採用した引用発明の空気入りタイヤにおいて,更なる耐久性の向上のために乱流発生用突起という機械的な構造を設けることを容易に着想し得るものということができる。
2 取消事由2(相違点2に係る容易想到性の判断の誤り)について〔原告の主張〕 ? 縮合促進剤を加える動機付けについて 本件審決は,引用例1には,縮合促進剤の添加が好ましい旨が記載されているから,引用発明1において,変性反応の途中及び又は終了後に縮合促進剤を変性反応系に添加することは想定されているとして,相違点2に係る本願発明の構成は,当業者が適宜なし得る程度のものである旨判断した。
しかし,引用例1には,縮合促進剤を用いることが好ましい旨の記載はあるものの,使用の実例もなく,いわゆる一行記載の域を出ず,縮合によって本願発明の課題であるランフラット耐久性の向上及び通常走行時の転がり抵抗性の低下が共に実現することを示唆するものではない。
しかも,引用例1には,縮合反応によって得られる一級アミン変性ポリブタジエンを用いたゴム成分を含有するゴム組成物により形成されたタイヤは記載されておらず,縮合反応を施したものにおいて大幅なランフラット耐久性及び通常走行時の転がり抵抗性の改善が実現することを,予測することもできない。
以上によれば,引用発明1において,ランフラット耐久性の向上及び通常走行時の転がり抵抗性の低下を共に実現するために,変性反応系に縮合促進剤を添加する動機付けがあるということはできず,したがって,当業者において相違点2に係る本願発明の構成を容易に想到することはできない。
? 被告の主張について 被告は,引用例1【0026】の記載を根拠として,縮合促進剤の添加については十分に示唆されており,また,上記記載は,ランフラット耐久性の向上に関わるものである旨主張する。
しかし,引用例1の上記記載は,単に縮合反応の促進のために縮合促進剤を添加することを示唆するものにすぎず,本願発明の課題であるランフラット耐久性の向上や通常走行時の転がり抵抗性の低下を目指すために縮合を行うことを示唆するものではない。また,引用例1の記載全体をみても,縮合された変性共役ジエン系重合体の使用による作用効果は不明である。縮合された変性共役ジエン系重合体が,ランフラット耐久性や通常走行時の転がり抵抗性を改善することは,上記重合体を タイヤに適用して初めて判明したことである。
〔被告の主張〕 ? 縮合促進剤を加える動機付けについて 引用例1には, 「本発明では,前記した変性剤として用いる保護化一級アミノ基を有するアルコキシシラン化合物が関与する縮合反応を促進するために,縮合促進剤を用いることが好ましい。( 」【0026】)との記載がある以上,縮合促進剤の付加については,十分に示唆されているものと理解するのが自然である。また,引用発明1がランフラット耐久性を向上させた空気入りタイヤの提供を目的とするものである以上,上記記載も,ランフラット耐久性の向上に関わるものと解される。
また,タイヤの原料となるゴム組成物の製造の際に縮合反応を促進する縮合促進剤を用いることは周知技術であるから,この点からも,引用発明において縮合促進剤を用いることは,当業者にとって適宜なし得る程度のものである。
? 原告の主張について 原告は,引用例1には,縮合促進剤を用いることが好ましい旨の記載はあるものの,使用の実例もなく,いわゆる一行記載の域を出ず,縮合によって本願発明の課題であるランフラット耐久性の向上及び通常走行時の転がり抵抗性の低下が共に実現することを示唆するものではない旨主張する。
しかし,引用例1においては,@縮合促進剤の位置付け,A縮合促進剤の添加時期,B縮合促進剤の具体例,C縮合促進剤の使用量,D縮合反応の態様,E縮合反応の温度,F縮合反応の時間,圧力,G縮合反応の形式,H変性反応により得られる変性共役ジエン系重合体の物性につき,本願明細書とおおむね同様に開示されている。
引用例1にはこのように縮合促進剤の使用の態様や有用性等について詳細にわたり開示されているのであるから,当業者が引用発明1において変性反応の途中及び又は終了後に縮合促進剤を変性反応系に添加する動機付けは十分に存在する。
3 取消事由3(相違点3に係る容易想到性の判断の誤り)について 〔原告の主張〕 ? ゴム成分について 本件審決は,引用例1記載の実施例1から3に係るゴム成分は,いずれも一級アミン変性ポリブタジエンを10質量%以上含むことが明らかであるから,引用発明1において,ゴム成分として変性共役ジエン系重合体を10質量%以上含むものを用いることは想定の範囲といえる旨認定したが,以下のとおり,同認定は,誤りである。
引用例1【0010】には,ゴム成分につき,アミン変性共役ジエン系重合体を30質量%以上の範囲で用いることが記載されている。
他方,本願発明においては,変性共役ジエン系重合体のゴム成分に対する量は,10質量%以上である。この技術的意義は,本願明細書【0019】記載のとおり,変性共役ジエン系重合体の含有質量が引用例1の前記記載に係る30質量%を下回る少量であっても,低発熱性が発揮されてランフラット耐久性の向上が可能になることである。
このランフラット耐久性の向上を可能にする含有質量の相違は,相違点2に係る変性反応の際の縮合反応の有無に起因するものと考えられ,本件審決は,この点を看過して前記技術的意義を考慮することなく,前記のとおり誤った認定をしたものである。
? カーボンブラックについて 本件審決は,引用例1には,カーボンブラックの好ましい量として「50〜70質量部」で設定することが記載されており,本願発明の「10〜100質量部」の範囲を充足する範囲で設定することも記載されていることから,引用発明1において,ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを10〜100質量部配合することは,想定される実施の範囲である旨認定した。
この点に関し,引用発明1において用いられるFEF級グレードのカーボンブラックは,窒素吸着比表面積が20〜90m2 /gの範囲を充足するものであり,本 願発明において用いられる「窒素吸着比表面積が20〜90m2/gであるカーボンブラック」に相当するが,以下のとおり,各配合量については技術的観点からも大きな差異がある。
すなわち,引用発明1のゴム組成物が,ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを55質量部以上配合するものであるのに対して,本願発明のゴム組成物は,ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを10〜100質量部配合するものである。これは,本願発明においては,カーボンブラックの配合量が引用発明1における配合量よりも少ない55質量部未満の範囲であっても,ランフラット耐久性の向上について有効であることを示すものである(本願明細書【0048】参照)。
このランフラット耐久性の向上について有効である配合量の相違は,相違点2に係る変性反応の際の縮合反応の有無に起因するものと考えられ,本件審決は,この点を看過して上記配合量の相違の技術的意義を考慮することなく,前記のとおり誤った認定をしたものである。
〔被告の主張〕 ? ゴム成分について ア 引用例1【0010】の記載によれば,引用発明1においてゴム成分中に変性共役ジエン系重合体を含有させる意義は,得られるゴム組成物を低発熱化してランフラット耐久性を向上させるというものである。
変性共役ジエン系重合体の含有量について,引用例1【0010】には「30質量%以上」の割合で配合させる旨が記載されているところ,上記範囲が,本願発明における「10質量%以上」の範囲を充足することは明らかであるから,本願発明が規定するゴム成分における変性共役ジエン系重合体の配合量は,引用発明1においても想定の範囲ということができる。
また,その配合量は,得られるゴム組成物を低発熱化してランフラット耐久性を向上させるという,前述した変性共役ジエン系重合体を含有させる意義を踏まえて 設定されることが明らかである。そして,前記2〔被告の主張〕のとおり,当業者が引用発明1において変性反応の途中及び又は終了後に縮合促進剤を変性反応系に添加する動機付けは十分に存在するのであるから,縮合促進剤を添加して成る変性共役ジエン系重合体についても,前記意義を踏まえて配合量を設定することは,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎず,当業者が実験等により適宜決定し得る事項である。
イ 原告の主張について 原告は,本願発明においては,変性共役ジエン系重合体の含有質量が引用例1の前記記載に係る30質量%を下回る少量であっても,低発熱性が発揮されてランフラット耐久性の向上が可能になる旨主張する。
しかし,本願発明は,変性共役ジエン系重合体を10質量%以上含むと規定しており,これには30質量%以上の値も当然に含まれるのであるから,原告の主張には前提において誤りがある。
また,本願明細書中,ゴム成分100質量部に対する変性共役ジエン系重合体の割合を下限値である「10質量%」としたものは何ら記載されていない。そもそも本願明細書には,下限値に臨界的意義又は顕著な効果を裏付ける実施例は何ら記載されていないのであるから,30質量%を下回る少ない配合量により顕著な効果が奏されると解すべき合理性はない。そして,下限値の設定は,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎず,当業者が実験等により適宜決定し得る事項というべきである。
? カーボンブラックについて ア 引用例1【0036】の記載によれば,引用発明1においてゴム組成物中にカーボンブラックを配合させる意義は,十分な補強効果を発揮させて加硫ゴム物性を向上させるというものである。
カーボンブラックの配合量について,引用例1【0036】には「55〜70質量部」が好ましい量として記載されているが,その配合量は,通常走行時の転がり抵抗性と乗り心地を損なうことなく,ランフラット耐久性を向上させた空気入りタ イヤを提供するという引用発明1の解決課題を前提として,十分な補強効果を発揮させて加硫ゴム物性を向上させるという,前述したカーボンブラックを配合させる意義を踏まえて設定されることが明らかである。そして,前記2〔被告の主張〕のとおり,当業者が引用発明1において変性反応の途中及び又は終了後に縮合促進剤を変成反応系に添加する動機付けは十分に存在するのであるから,縮合促進剤を添加して成る変性共役ジエン系重合体についても,前記意義を踏まえてカーボンブラックの配合割合を設定することは,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎず,当業者が実験等により適宜決定し得る事項というべきである。
イ 原告の主張について 原告は,本願発明においては,カーボンブラックの配合量が引用発明1における配合量よりも少ない55質量部未満の範囲であっても,ランフラット耐久性の向上について有効である旨主張する。
しかし,本願発明は,カーボンブラックを10〜100質量部配合すると規定しており,55質量部未満の範囲と規定しているわけではないから,原告の主張には前提において誤りがある。
また,本願明細書中,ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの割合を下限値である「10質量部」としたものは何ら記載されていない。そもそも本願明細書には,下限値に臨界的意義又は顕著な効果を裏付ける実施例は何ら記載されていないのであるから,55質量部未満の範囲でも顕著な効果が奏されると解すべき合理性はない。そして,下限値の設定は,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎず,当業者が実験等により適宜決定し得る事項というべきである。
4 取消事由4(顕著な効果の看過)について〔原告の主張〕 本件審決は,本願発明が奏する作用効果は,引用例1及び2に接した当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない旨判断した。しかし,本願発明は,ランフラット耐久性の向上及び転がり抵抗性の低下という顕著な効果を奏 するものであり,上記判断には,この顕著な効果を看過した誤りがある。
? ランフラット耐久性の向上について 本願明細書の比較例1及び審判請求書記載の追加比較例aによれば,未変性の共役ジエン系重合体においては,乱流発生用突起を設けると,ランフラット耐久性指数が1.35倍に増加している。この点に関し,変性共役ジエン系重合体を用いることと引用例2に記載されている乱流発生用突起を設けることとの間に相互を関連付ける直接的な技術的関連性はなく,よって,変性共役ジエン系重合体においても,同様に,乱流発生用突起を設ければランフラット耐久性が1.35倍程度に向上するはずである。
したがって,前記審判請求書記載の追加比較例bにおいて変性共役ジエン系重合体が示したランフラット耐久性指数は85であるから,乱流発生用突起を設ければ,ランフラット耐久性指数は115(85×1.35)に増加することが見込まれるが,実際には,本願明細書の実施例1のとおり,乱流発生用突起を設けた変性共役ジエン系重合体においては,ランフラット耐久性指数が120に増加している。
ランフラット耐久性指数が115のときの走行可能距離は79kmであるが,同指数が120になると走行可能距離が83kmとなり,ランフラット(空気圧0kPa時)において時速80kmで走行したときの走行可能距離を80km以上とするランフラット時の走行距離に関するISO技術基準を満たすことになる。よって,ランフラット耐久性指数が120に増加することの技術的意義は大きいものといえるから,上記増加に係る効果は,当業者の予測を大きく上回る顕著な効果ということができる。
? 転がり抵抗性の低下について 一般に,タイヤ表面に乱流発生用突起を設けると,その突起が受ける空気抵抗によりタイヤの転がり抵抗性が上昇する。
しかし,本願発明においては,タイヤ表面に乱流発生用突起を設けているものの,アミン変性共役ジエン系重合体を組み合わせることによって,転がり抵抗性を増大 させることなく,ランフラット耐久性を向上させることができ,ランフラット耐久性の向上及び転がり抵抗性の低下を同時に実現して本願発明の課題を達成することができる。これは,予測し得ない顕著な効果というべきである。
? 被告の主張について 被告は,本願発明の効果は当業者において予測の範囲内のものである旨主張する。
しかし,本願発明は,変性共役ジエン系重合体を調製する際に縮合促進剤を添加することにより縮合した変性共役ジエン系重合体を用いることによって,縮合していない変性共役ジエン系重合体を用いた比較例2に比べてランフラット耐久性において実施例1のような顕著な効果を示すものであり,このような効果は,引用例1に記載された発明から予測できるものではない。本願発明の効果は,実際に縮合した変性共役ジエン系重合体を用いることにより,初めて判明したものである。
ここで,本願発明に係るタイヤのランフラット耐久性と転がり抵抗性に関して,以下の表を示す。
変性なし縮合なし 変性あり縮合なし 変性あり縮合あり突起なし ラ 比較例a 74 比較例d 76 比較例b 85 転 100 98 92突起あり ラ 比較例1 100 比較例2 103 実施例1 120 転 100 98 92 ラ:ランフラット走行時の耐久性 転:通常走行時の転がり抵抗性 なお,表中,比較例1,2及び実施例1は,本願明細書に記載されたもの,比較例a及びbは,前記審判請求書に記載された追加比較例a及びb,比較例dは,甲第6号証に記載された追加比較例dである。
この表から,縮合を行うことにより(実施例1,比較例b),縮合していない変性共役ジエン系重合体を用いた場合(比較例2,比較例d)に比べて,ランフラット耐久性は,乱流発生用突起がある場合に17%,乱流発生用突起がない場合に1 2%ほどそれぞれ向上していることが分かる。この縮合によりランフラット耐久性が向上するという効果は,引用発明1からは予想できない顕著な効果である。
なお,転がり抵抗性は,乱流発生用突起の有無にかかわらず同一の値を示しているが,未変性,変性あり縮合なし,変性あり縮合ありの順で向上している。
〔被告の主張〕 ? 本願発明の効果は,当業者において予測可能なものであることについて ア 本願発明の効果について 本願発明の効果は,@サイド表面に乱流発生用突起を配設することによって,効率の良い放熱によりタイヤサイド部内の温度低減を確実にして耐久性を向上させること及びAサイド補強ゴムに低転がり抵抗性のゴム組成物を用いることによって,サイド補強ゴムの発熱を抑制するとともに,乱流発生用突起との組合せによりタイヤ温度を更に低減させ,ランフラット耐久性及び通常走行時の低転がり抵抗性を同時に向上させ得るタイヤを提供することである。
イ 引用発明1の効果について 引用発明1は,通常走行時の転がり抵抗性と乗り心地を損なうことなく,ランフラット耐久性を向上させるという効果,より具体的には,ゴム組成物におけるゴム成分として共役ジエン系重合体をアミン変性したアミン変性共役ジエン系重合体を用いることにより,得られるゴム組成物を低発熱化してランフラット耐久性を向上させるという効果を奏することが明らかである。
ウ 引用発明2の効果について 引用発明2は,空気入りタイヤの表面に乱流発生用突起を設けることによって,効率の良い放熱によりタイヤサイド部内の温度低減を確実に図り,耐久性を向上させるという効果,より具体的には,空気入りタイヤに乱流発生用突起を設けることにより,耐久ドラム試験の結果(耐久性評価)が3割前後向上するという効果を奏することが明らかである。
エ 本願発明の効果の予測可能性 当業者は,引用例1及び2に接すれば,乱流発生用突起が設けられていない引用発明1に,引用例2に記載された乱流発生用突起を配設することによって,効率の良い放熱によりタイヤサイド部内の温度低減を確実に図り,耐久性を向上させるという効果が得られることを理解することができる。よって,前記ア@の本願発明の効果は,当業者において予測の範囲内のものである。
さらに,当業者は,引用発明1が前記イのとおりサイド補強層にアミン変性共役ジエン系重合体を用いることにより,通常走行時の転がり抵抗性と乗り心地を損なうことなく,ゴム組成物を低発熱化してランフラット耐久性を向上させるという効果を奏することに加え,引用発明2の乱流発生用突起との組合せにより,タイヤ温度を更に低減させてランフラット耐久性と通常走行時の低転がり抵抗性とを同時に向上させることを,理解することができる。よって,前記アAの本願発明の効果も,当業者において予測の範囲内のものである。
したがって,本願発明の効果は,当業者において予測の範囲内のものであり,格別顕著な効果と解すべき理由はなく,同旨の本件審決の判断に誤りはない。
? 原告の主張について ア 原告は,ランフラット耐久性の向上の効果に関し,本願明細書の比較例1及び実施例1並びに審判請求書記載の追加比較例a及びbに,本願発明が当業者の予測を大きく上回る顕著な効果を奏することが示されている旨主張する。
しかし,上記追加比較例a及びbに係る追試の実験結果は,変性共役ジエン系重合体を60質量%含むゴム成分100質量部に対して,カーボンブラックを55質量部配合したという一素材の評価を示すものにすぎず,本願発明が規定する変性共役ジエン系重合体を10質量%以上含むゴム成分100質量部に対して,カーボンブラックを10〜100質量部配合した範囲の全ての素材についての効果を示すものではない。したがって,前記追試の実験結果から本願発明の顕著な効果を検証することはできない。
また,本願明細書の実施例1においてランフラット耐久性が向上するという効果 は,@サイド表面に乱流発生用突起を配設することによって,効率良く放熱されることによりタイヤサイド部内の温度が低減する効果及びAサイド補強ゴムに低転がり抵抗性のゴム組成物を用いることにより,サイド補強ゴムの発熱を抑制して温度が低減する効果によるものであるが,ランフラット耐久性は,温度の低減度合に応じて比例的に向上するというものではない。わずかな温度の低減であっても,同低減により引用発明1におけるサイド補強層8の強度が十分に向上すれば,ランフラット耐久性は,上記低減から比例的に求められる値以上に向上するものであり,これは,当業者に自明のことである。
加えて,原告が挙げる本願明細書の実施例1の実験結果も,ランフラット耐久性指数が予測された指数115の約1.04倍の120であったというものであり,この程度の結果をもって顕著な効果と評価することはできない。
したがって,原告が主張する効果は,当業者が引用発明1及び2から予測できる範囲内のものであり,顕著な効果といえるものではない。
イ 原告は,転がり抵抗性の低下に関し,タイヤ表面に乱流発生用突起を設けるとその突起が受ける空気抵抗によりタイヤの転がり抵抗性が上昇することを前提として,本願発明は,乱流発生用突起とアミン変性共役ジエン系重合体を組み合わせることによって,ランフラット耐久性の向上及び転がり抵抗性の低下を同時に実現して本願発明の課題を達成することができ,これは,予測し得ない顕著な効果である旨主張する。
しかし,引用発明2は,通常走行性能を悪化させることなく,効率良く放熱されるようにした発明であるから,当業者は,乱流発生用突起を設けることにより,転がり抵抗性を含む通常走行性能が問題となるほど損なわれることはない,すなわち,タイヤの転がり抵抗性が乱流発生用突起の適用を妨げるほど上昇することはない旨認識する。したがって,原告の前記主張は,その前提において誤りがある。
当裁判所の判断
1 本願発明について ? 本願発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2【請求項1】のとおりであるところ,本願明細書(甲3,8)には,おおむね,次の記載がある(下記記載中に引用する図表については,別紙1参照)。
ア 技術分野 本発明は,劣化が生じやすいサイド補強層を有するタイヤサイド部の温度低減を図ることができるランフラット性に優れたタイヤに関するものである【0001】。
( ) イ 背景技術 (ア) 空気入りタイヤの温度上昇は,材料物性の変化といった経時的変化を促進すること,高速走行時にはトレッドの破損等の原因になることから,耐久性の観点において好ましくない。特に,パンク走行時(内圧0kPa走行時)のランフラットタイヤにおいては,耐久性の向上のためにタイヤ温度を低減させることが大きな課題となっている。例えば,三日月形補強ゴムを有するランフラットタイヤにおいては,パンク走行時に径方向の変形が補強ゴムに集中して非常な高温に達し,耐久性に多大な影響を与える(【0002】。
) (イ) 空気入りタイヤのタイヤ温度を低減させる手段として,@各構成部材のゆがみを低減・抑制する補強部材を設け,タイヤのゆがみによる温度上昇を極力防止する技術及びAリムガードを備えた偏平空気入りタイヤのリムガード上に多数のリッジを配置する技術が知られている。
しかし,上記@については,従来の空気入りタイヤでは,補強部材が設けられることによって,タイヤ重量の増加や補強部材でのセパレーション(剥離)など意図しない新たな故障が発生し,操縦安定性や乗り心地等の通常走行性能を悪化させてしまうという問題があった。特に,ランフラットタイヤについては,通常内圧走行時の縦バネ(タイヤ縦方向の弾力性)が高まって通常走行性能を悪化させることが懸念され,この通常走行性能を損なわない手法が求められる。
また,上記Aの技術は,タイヤの表面積を増やして放熱を促進するものであるところ,空気入りタイヤの外周側に配置されたゴム材の熱伝導性が低いので,単にタ イヤ表面積を増加させただけでは効率良く放熱することができない 【0003】 ( 〜【0005】。
) (ウ) ゴム組成物の面から,タイヤ温度を低減させる手段として,@各種変性共役ジエン-芳香族ビニル共重合体及び耐熱向上剤等を含有するゴム組成物を,サイド補強層及びビードフィラーに用いること(WO02/02356パンフレット)並びにA特定の共役ジエン系重合体とフェノール系樹脂を含有するゴム組成物をサイド補強層及びビードフィラーに用いること(特開2004-74960号公報)が提案されている。
しかし,これらは,いずれもサイド補強層及びビードフィラーに用いるゴム組成物の弾性率を高めるとともに高温時の弾性率低下を抑えることを目的としたものであるところ,ランフラット耐久性は大幅に改良するが,通常走行時の転がり抵抗性が著しく悪化するという問題がある(【0006】【0009】。
, ) (エ) 発熱性の低いゴム組成物を得るために,@リチウム化合物を用いたアニオン重合で得られる共役ジエン系重合体の重合活性末端を,充填材と相互作用する官能基を含有するアルコキシシラン誘導体で変性する方法及びA有機金属型の活性部位を分子中に有する重合体の活性部位にヒドロカルビルオキシシラン化合物を反応させる変性反応を行い,同反応の途中及び/又は終了後に反応系に縮合促進剤を加える変性重合体の製造方法が開示されている。
しかし,これらの製造方法で得られる変性重合体を用いたゴム組成物においては,シリカ系充填材に対する低ロス効果の向上は大きいものの,カーボンブラック充填材に対する低ロス効果は十分であるとはいえない。
したがって,ランフラット走行時の耐久性を向上させるとともに通常走行時の転がり抵抗性を低下させることのできるサイド補強層やビードフィラーに好適な低発熱性に優れたゴム組成物が求められていた(【0007】【0008】。
, ) ウ 発明が解決しようとする課題 本発明は,前記イの課題を解決するために,効率の良い放熱によってタイヤサイ ド部内の温度低減を図り,ゴム組成物としてランフラット走行時の耐久性を向上させるとともに通常走行時の転がり抵抗性を低下させることのできるタイヤ耐久性を向上させ得るタイヤの提供を目的とする(【0010】。
) エ 課題を解決するための手段 本発明者らは,@タイヤサイド部のタイヤ表面に,内周側から外周側に向かって延在される特定の乱流発生用突起をタイヤ周方向に間隔を置いて設けるとともに,A有機溶媒中で重合して得られた共役ジエン系重合体の末端を特定の変性剤で変性して成る,特定の窒素吸着比表面積を有するカーボンブラックに対する相互作用に優れた変性共役ジエン系重合体を含むゴム組成物をタイヤに用いることにより,前記ウの目的を達成することを見いだした。
本発明は,このような知見に基づいて完成したものであり,特許請求の範囲請求項1記載の構成を特徴とするタイヤを提供するものである(【0011】 【001 ,2】。
) オ 発明の効果 本発明によれば,@サイド表面に乱流発生用突起を配設することにより,効率良く放熱してタイヤサイド部内の温度低減を確実に図り,耐久性を向上させる,Aサイド補強ゴムに低転がり抵抗性のゴム組成物を用いることによりサイド補強ゴムの発熱を抑制し,上記@の乱流発生用突起との組合せによってタイヤ温度を低減させることができ,ランフラット走行時の耐久性と通常走行時の低転がり抵抗性とを同時に向上させ得るタイヤを提供することができる(【0013】。
) カ 発明を実施するための形態 (ア) ランフラットタイヤの概略構成 ランフラットタイヤ1は,路面と接触するトレッド部2,タイヤ両側のタイヤサイド部3及び各タイヤサイド部3の開口縁に沿って周回するように設けられたビード部4を備えている。
ビード部4は,ビードコア6A及びビードフィラー6Bを備えており,ビードコ ア6Aにはビードワイヤー等が用いられている。
トレッド部2,一対のタイヤサイド部3及び一対のビード部4の内側には,タイヤの骨格となるカーカス層7が設けられている。タイヤサイド部3に位置するカーカス層7の内側(タイヤ幅方向内側)には,タイヤサイド部3を補強するサイド補強層8が設けられている。このサイド補強層8は,タイヤ幅方向断面において三日月形状のゴム組成物によって形成されている。サイド補強層8に本発明のカーボンブラックに対する相互作用に優れ,低転がり性の変性共役ジエン系重合体を含むゴム組成物を用いることにより,本発明のタイヤは,上述の作用効果を奏することができる。
トレッド部2とカーカス層7との間には,複数層のベルト層(スチールベルト補強層9A,9B及び周方向補強層9C)が設けられている。
各タイヤサイド部3のタイヤ表面である外側面3aには,内周側から外周側に向かって延在される乱流発生用突起10が,タイヤ周方向に等間隔で設けられている(【0016】【0017】【図1】。
, , ) (イ) 変性共役ジエン系重合体 a 第一アミノ基については,変性反応によって共役ジエン系重合体の末端に加水分解により第一アミノ基を生成し得る前駆体が,加水分解前の状態(すなわち,保護された状態)で導入され,変性反応終了後に加水分解されて第一アミノ基として生成する。
ただし,上記前駆体が加水分解されずに変性共役ジエン系重合体中に存在していても,この変性共役ジエン系重合体の混練り時に前駆体の第一アミノ基を保護していた保護基が外れて第一アミノ基が生成する。よって,前駆体は,混練り前の段階で加水分解されなくてもよい。
第一アミノ基を有しないアルコキシシラン化合物により変性された変性共役ジエン系重合体は,シリカとの相互作用は高いものの,カーボンブラックとの相互作用が低いので,カーボンブラックの補強性が低い。本発明に係る第一アミノ基を有す るアルコキシシラン化合物により変性された変性共役ジエン系重合体は,第一アミノ基とカーボンブラックとの相互作用が高いので,カーボンブラックの補強性が高い。
また,一般に,アルコキシシラン化合物により変性された変性共役ジエン系重合体は,重合体同士が反応して多量化し,未加硫ゴム組成物の粘度を高めて加工性を悪化させる。これに対し,本発明に係る第一アミノ基を有するアルコキシシラン化合物により変性された変性共役ジエン系重合体であって,変性反応の途中及び/又は終了後に変性反応系に縮合促進剤を加え,水蒸気又は水の存在下で縮合反応を進行させた変性共役ジエン系重合体は,過度の多量化を防止するので,未加硫ゴム組成物の粘度を高めて加工性を悪化させることはない(【0018】【0042】。
, ) b 本発明に係る前記ゴム組成物においては,ゴム成分100質量部中に,前記変性共役ジエン系重合体を10質量%以上含むことを要する。ゴム成分100質量部中の変性共役ジエン系重合体の含有量が10質量%以上であれば,ゴム組成物の低発熱性が発揮され,ランフラット走行時の耐久性及び通常走行時の転がり抵抗性が向上することとなる。ゴム組成物の低発熱性をさらに高めるためには,変性共役ジエン系重合体の含有量がゴム成分100質量部中に52質量%以上であることがさらに好ましく,55質量%以上であることが特に好ましい(【0019】。
) c 変性剤として用いる加水分解により第一アミノ基を生成し得る前駆体を有するアルコキシシラン化合物が関与する縮合反応を促進するために,特定の縮合促進剤を用いることが好ましい。
ここで用いる縮合促進剤は,前記変性反応前に添加することもできるが,変性反応の途中及び又は終了後に変性反応系に添加することが好ましい。変性反応前に添加した場合,活性末端との直接反応が起こり,活性末端に加水分解により第一アミノ基を生成し得る前駆体を有するヒドロカルビロキシ基が導入されない場合がある。
縮合促進剤の添加時期としては,通常,変性反応開始5分〜5時間後,好ましくは変性反応開始の15分〜1時間後である(【0035】。
) d 本発明における縮合反応は,上述の縮合促進剤と,水蒸気又は水の存在下で進行する。水蒸気の存在下の場合として,スチームストリッピングによる脱溶媒処理が挙げられ,スチームストリッピング中に縮合反応が進行する。
また,縮合反応を有機溶媒中に水が液滴として分散している系又は水溶液中で行ってもよく,縮合反応温度は20〜180℃が好ましく,より好ましくは30〜170℃,さらに好ましくは50〜170℃,特に好ましくは80〜150℃である。
縮合反応時の温度を前記範囲にすることによって,縮合反応を効率よく進行完結することができ,得られる変性共役ジエン系重合体の経時変化によるポリマーの老化反応等による品質の低下等を抑えることができる(【0040】。
) e 上述の縮合反応を行わないアルコキシシラン変性ブタジエン系重合体は比較的大量に揮発性有機化合物(VOC)を発生することとなる。これに対し,本発明に係る,縮合反応により得られたアルコキシシラン変性ブタジエン系重合体は,VOCの発生を低減させることができるので,押出工程でポーラスが発生しにくい等,工程作業性が良好であるのと同時に,環境への負荷が小さい(【0043】。
) f 本発明に係るゴム組成物においては,補強用充填材として,窒素吸着比表面積(N2SA)が20〜90m2/gであるカーボンブラックが用いられる。このカーボンブラックとしては,例えばGPF,FEF,SRF,HAF等が挙げられる。
カーボンブラック窒素吸着比表面積は,好ましくは25〜90m2 /gであり,特に好ましくは35〜90m2/gである。これらのカーボンブラックの配合量は,ゴム成分100質量部に対して,10〜100質量部,好ましくは30〜90質量部である。このようなカーボンブラックの量を用いることにより,諸物性の改良効果は大きくなるが,特に,耐破壊特性及び低発熱性(低燃費性)に優れるHAF及びFEFが好ましい。
通常,カーボンブラックの窒素吸着比表面積が小さくなるにしたがってその組成物は低発熱性(低燃費性)になるところ,本発明に係る活性末端に第一アミノ基を導入し,さらに変性反応の途中及び又は終了後に変性反応系に縮合促進剤を加えて 成る変性共役ジエン系重合体をカーボンブラックと組み合わせて用いることによって,未変性の共役ジエン系重合体を使用した場合に比べ,前記カーボンブラックの効果を差し引いても,窒素吸着比表面積が小さくなるにしたがって,本発明に係るゴム組成物は低発熱性(低燃費性)及び耐破壊特性に優れるという特徴を有している(【0048】。
) (ウ) 乱流発生用突起の構成 乱流発生用突起10は,延在方向の直交方向Aで切断した断面形状が左右対称形であり,径方向断面で見たときにエッジ部10Eを有し,周方向断面で見たときにエッジ部10Fを有する。乱流発生用突起10は,タイヤ表面である外側面3aに対して空気流が突き当たる前壁面10aとの前壁角度θ1が70°〜110°の範囲に設定されていることが重要である。なお,図面では,断面形状が四角形で,前壁角度が90度のものが示されている。
乱流発生用突起10は,延在方向の直交方向Aで切断した断面形状が左右対称であることから,外側面3aに対する後壁面10bの後壁角度θ2は,前壁角度θ1と同一角度に設定されることが好ましい 【0053】 ( , 【図1】, 【図4】 【図6】。
〜 ) (エ) 乱流発生用突起の作用 a ランフラットタイヤ1が回転すると, 【図4】及び【図5】に示すように,タイヤサイド部3の外側面3aに,相対的にほぼタイヤ周方向に沿って流れる空気流aが発生し,この空気流aが乱流発生用突起10により乱流となって外側面3aを流れ,外側面3aとの間で積極的な熱交換が行われる。
すなわち,空気流aは,乱流発生用突起10の位置では上昇し,乱流発生用突起10の存在しない位置では下降する上下乱流a1となる。ここで,上下乱流a1は,【図6】に示すように,乱流発生用突起10の前壁角度θ1が70°未満であると,凹部にとどめられ,上方に跳ね上げられる流れが少なく,乱流発生用突起10との剥離角度βが小さくなるので,乱流発生用突起10の下流側で緩やかな下降流しか発生しない。他方,乱流発生用突起10の前壁角度θ1が110°を超えると,上 下乱流a1と乱流発生用突起10との剥離角度β及び流速が小さくなり,上方に跳ね上げられる流速が遅くなるので,上下の熱交換を促進できず,したがって,外側面3aとの間で有効な熱交換を促進できない。
これに対し,乱流発生用突起10の前壁角度θ1が70°〜110°の範囲にあると,上下乱流a1は,乱流発生用突起10との剥離角度βがある程度大きくなることから,乱流発生用突起10の下流側で激しい下降流となって戻り,外側面3aに突き当たるので,外側面3aとの間で積極的な熱交換が行われる。このように,外側面3aに設けた乱流発生用突起10によってタイヤ温度の低減を確実に図ることができ,耐久性を向上させることができる(【0057】【0058】。
, ) b この実施の形態では,タイヤサイド部3に変性共役ジエン系重合体を含むゴム組成物を用いたサイド補強層8と乱流発生用突起10を備えたランフラットタイヤ1に適用している。サイド補強層8はランフラット走行を可能とするが,両者を適用したランフラットタイヤは,その際の故障核の温度上昇を極力低減できる。
特に,この実施の形態では,乱流発生用突起10が,径方向断面で見たときにエッジ部10Eを有するので,ランフラットタイヤ1の回転に伴い内径側から外径側に遠心力によって流れる空気流を剥離する作用があり,この剥離された空気流が下降流となってタイヤサイド部3に突き当たり,熱交換を促進させる。また,乱流発生用突起10は,周方向断面で見たときにエッジ部10Fを有するので,ランフラットタイヤ1の回転に伴い空気流が乱流発生用突起10を乗り越える際に,タイヤサイド部3から剥離されやすい。そして,タイヤサイド部3からいったん剥離された空気流は,乱流発生用突起10のタイヤ回転方向後側(下流側)で発生する負圧により急激にタイヤサイド部3に下降して衝突する乱流となり,タイヤサイド部3との間で熱交換を促進する作用を有する(【0065】【0066】。
, ) キ 実施例 (ア) 製造例1から6 a 製造例1:重合体Aの製造 窒素置換された5Lオートクレーブに,…重合体A(共役ジエン系重合体)を得た。得られた重合体Aの重合停止前に取り出した重合体の分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を測定した。その結果を【表1】及び【表2】に示す(【0081】。
b 製造例2:変性重合体Bの製造 変性前の重合体の製造は前記重合体Aと同様の方法にて行った。…加水分解により第一アミノ基を生成し得る前駆体を有するN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン1129mgを加えて,変性反応を15分間行った。縮合促進剤は加えなかった。…次いで,スチームストリッピングにより脱溶媒及び前記第一アミノ基を生成し得る前駆体の加水分解を行い,…重合体B(共役ジエン系重合体)を得た。得られた変性重合体Bの変性前の分子量(Mw),分子量分布(Mw/Mn)及び変性重合体Bの第一アミノ基含量を測定した。その結果を【表1】及び【表2】に示す(【0082】。
) c 製造例3:変性重合体Cの製造 変性前の重合体の製造は前記重合体Aと同様の方法にて行った。…加水分解により第一アミノ基を生成し得る前駆体を有するN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン1129mgを加えて,変性反応を15分間行った。この後,縮合促進剤であるテトラキス(2-エチル-1,3-ヘキサンジオラト)チタン8.11gを加え,さらに15分間かくはんした。…次いで,スチームストリッピングにより脱溶媒及び前記第一アミノ基を生成し得る前駆体の加水分解を行い,…重合体C(共役ジエン系重合体)を得た。得られた変性重合体Cの変性前の分子量(Mw),分子量分布(Mw/Mn)及び変性重合体Cの第一アミノ基含量を測定した。その結果を【表1】及び【表2】に示す(【0083】。
) d 製造例4:変性重合体Dの製造 …この重合系に,末端変性剤として四塩化スズ(1mol/Lシクロヘキサン溶液)を0.8ml加えた後,30分間変性反応を行った。…変性重合体Dを得た。
得られた変性重合体Dの変性前の分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を測定した。その結果を【表1】及び【表2】に示す(【0084】。
) e 製造例5:変性重合体Eの製造 製造例3で得られた変性重合体Cと製造例4で得られた変性重合体Dとを(変性重合体C/変性重合体D)=7/3となる質量比にて溶液混合により変性重合体Eを製造した。得られた変性重合体Eについて第一アミノ基含量を測定した。その結果を【表1】に示す(【0085】。
) (イ) 実施例1及び2並びに比較例1から3 a 製造例1で得られた未変性ポリブタジエンゴムA及び製造例2から5で得られた変性ポリブタジエンゴムBからEを用い, 【表1】に示す配合処方に従って5種類のゴム組成物を調製した。なお,カーボンブラックは,HAFを用いた, これら5種類のゴム組成物を【図1】に示すサイド補強層8に配設して,それぞれタイヤサイズ285/50R20のランフラットタイヤを常法に従って製造し,それら5種類のタイヤについてランフラット耐久性及び転がり抵抗を評価した。結果を【表1】に示す(【0087】【0088】。
, ) b ランフラット耐久性及び転がり抵抗の評価について ランフラット耐久性(指数)=(供試タイヤの走行距離/比較例1のタイヤの 走行距離)×100 指数が大きいほどランフラット耐久性が良好であることを示す。
転がり抵抗(指数)=(供試タイヤの転がり抵抗/比較例1のタイヤの転がり 抵抗)×100 指数が小さいほど転がり抵抗が小さく良好であることを示す(【0080】。
) (ウ) 実施例3から6及び比較例4から14 製造例1で得られた未変性ポリブタジエンゴムA及び製造例2から5で得られた変性ポリブタジエンゴムBからEを用い, 【表2】に示す配合処方に従って15種類のゴム組成物を調製した。なお,カーボンブラックは,比較例4から6並びに実施 例3及び4にはFEFを,比較例7から9並びに実施例5及び6にはHAFを,比較例10から14にはISAFを,それぞれ配合した。
これら15種類のゴム組成物を, 【図1】に示すサイド補強層8に配設して,それぞれタイヤサイズ285/50R20のランフラットタイヤを常法に従って製造し,各タイヤについてランフラット耐久性及び転がり抵抗を評価した。結果を【表2】に示す(【0089】【0090】。
, ) (エ) 【表1】及び【表2】から明らかなように,本発明である実施例1から6のタイヤは,使用する共役ジエン系重合体の活性末端に第一アミノ基を導入し,さらに変性反応の途中及び又は終了後に変性反応系に縮合促進剤を加えることにより,かつ,窒素吸着比表面積の小さなカーボンブラックと組み合わせることによって,比較例1から14のタイヤと対比して,ランフラット耐久性及び転がり抵抗が飛躍的に向上した。
さらに, 【表1】の製造例3で得られた変性重合体C(実施例1参照)は,製造例2で得られた変性重合体B(比較例2参照)と比較してVOCの揮発量が少ないので,工程作業性が良好であるのと同時に,環境への負荷が小さいことが明らかである(【0091】。
) (オ) 実施例7から9及び比較例15から17 【表3】に示すように,比較例15は乱流発生用突起を設けないタイヤであり,比較例16及び17並びに実施例7から9は,乱流発生用突起を設けたタイヤであって,その前壁角度を変えたものである。耐久ドラム試験の結果(耐久性評価)は,故障発生までの耐久距離を指数化したものを【表3】に示す。
なお,タイヤサイズは,285/50R20のランフラットを用い,サイド補強層8に配設するゴムとして,実施例には共役ジエン系重合体の活性末端に第一アミノ基を導入し,さらに変性反応の途中及び又は終了後に変性反応系に縮合促進剤を加えた低転がり性のゴム組成物である実施例1に記載の配合組成のものを用い,比較例には比較例1に記載の配合組成のものを用いた(【0092】。
) ク 産業上の利用可能性 本発明によれば,サイド表面に乱流発生用突起を配設することにより,効率良く放熱してタイヤサイド部内の温度低減を確実に図り,耐久性を向上させる。さらに,サイド補強ゴムに低転がり抵抗性のゴム組成物を用いることによりサイド補強ゴムの発熱を抑制し,上記乱流発生用突起との組合せによってタイヤ温度を大幅に低減することができ,ランフラット走行時の耐久性と通常走行時の低転がり抵抗性とを同時に向上させ得るタイヤを提供することができる(【0096】。
) ? 本願発明の特徴 前記?の記載によれば,本願発明の特徴は,以下のとおりである。
ア 本願発明は,劣化が生じやすいサイド補強層を有するタイヤサイド部の温度低減を図ることができるランフラット性に優れたタイヤに関するものである【00 (01】。
) イ 空気入りタイヤの温度上昇は,材料物性の変化といった経時的変化を促進すること,高速走行時にはトレッド破損等の原因になることから,耐久性の観点において好ましくない。特に,パンク走行時(内圧0kPa走行時)のランフラットタイヤにおいては,耐久性の向上のためにタイヤ温度を低減させることが大きな課題となっている(【0002】。
) 空気入りタイヤの温度を低減させるために,構造の面からは,@各構成部材のゆがみを低減・抑制する補強部材を設けてゆがみによる温度上昇を防止する技術,Aリムガードを備えた扁平空気入りのタイヤのリムガード上に多数のリッジを配置し,表面積を増やして放熱を促進する技術が提案された。ゴム組成物の面からは,B弾性率を高めるとともに高温時の弾性率低下を抑えた特定のゴム組成物をサイド補強層及びビードフィラーに用いる技術,C変性重合体から成る発熱性の低いゴム組成物を用いる技術が提案された。
しかし,上記@の技術については,タイヤ重量の増加や補強部材での剥離の発生等により,操縦安定性や乗り心地等の通常走行性能が悪化する,上記Aの技術につ いては,空気入りタイヤの外周側に配置されたゴム材の熱伝導性が低いので,タイヤの表面積を増加させただけでは,効率良く放熱することができない,上記Bの技術については,ランフラット耐久性は大幅に改良するものの,通常走行時の転がり抵抗性が著しく悪化する,上記Cの技術については,カーボンブラック充填材に対する低ロス効果が十分ではないといった問題が,それぞれあった。
したがって,ランフラット走行時の耐久性を向上させるとともに通常走行時の転がり抵抗性を低下させることのできるサイド補強層やビードフィラーに好適な低発熱性に優れたゴム組成物が求められていた(【0002】〜【0009】。
) ウ 本願発明は,前記イの課題を解決するために,効率の良い放熱によってタイヤサイド部内の温度低減を図り,ゴム組成物としてランフラット走行時の耐久性を向上させるとともに通常走行時の転がり抵抗性を低下させることのできるタイヤ耐久性を向上させ得るタイヤの提供を目的とする(【0010】。
) エ 本願発明の発明者らは,@タイヤサイド部のタイヤ表面に,内周側から外周側に向かって延在される特定の乱流発生用突起をタイヤ周方向に間隔を置いて設けるとともに,A有機溶媒中で重合して得られた共役ジエン系重合体の末端を特定の変性剤で変性して成る,特定の窒素吸着比表面積を有するカーボンブラックに対する相互作用に優れた変性共役ジエン系重合体を含むゴム組成物をタイヤに用いることにより,前記ウの目的を達成することを見いだした。
本願発明は,このような知見に基づいて完成したものであり,特許請求の範囲請求項1記載の構成を特徴とするタイヤを提供するものである 【0011】 ( , 【0012】。
) オ 本願発明は,前記エのとおり@タイヤサイド部の表面に乱流発生用突起を配設することにより,効率良く放熱してタイヤサイド部内の温度低減が確実に図られ,耐久性が向上する,Aサイド補強ゴムに,低転がり抵抗性を備えた,前記エAの特定の窒素吸着比表面積を有するカーボンブラックに対する相互作用に優れた変性共役ジエン系重合体を含むゴム組成物を用いることにより,サイド補強ゴムの発熱が 抑制され,乱流発生用突起との組合せによってタイヤ温度が低減し,ランフラット走行時の耐久性と通常走行時の低転がり抵抗性が同時に向上するという効果を奏するものである(【0013】【0096】 。
, ) 2 引用発明1について ? 引用例1(甲1)の特許請求の範囲には,以下のとおり記載されている。
【請求項1】ビードコア,カーカス層,トレッドゴム層,インナーライナー,サイド補強層及びビードフィラーを具える空気入りタイヤであって,A) ( ゴム成分と,その100質量部に対し, (B)カーボンブラック55質量部以上を含み,かつ加硫ゴム物性において,100%伸張時弾性率(M100)が10MPa以上及び正接損失tanδの28℃〜150℃におけるΣ値が6.0以下であるゴム組成物を用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】ゴム組成物において, (B)カーボンブラックが,FEF級グレード,…中から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】 (B)カーボンブラックがFEF級グレードである請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】ゴム組成物において, (A)ゴム成分が,アミン変性共役ジエン系重合体を含むものである請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】アミン変性共役ジエン系重合体が,一級アミン変性共役ジエン系重合体である請求項4又は5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】一級アミン変性共役ジエン系重合体が,共役ジエン系重合体の活性末端に,保護化一級アミン化合物を反応させて得られたものである請求項6に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】保護化一級アミン化合物が,N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリエトキシシランである請求項7〜9のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】サイド補強層に,前記ゴム組成物を用いてなる請求項1〜10の いずれかに記載の空気入りタイヤ。
? 引用例1(甲1)の発明の詳細な説明には,おおむね,以下のとおり記載されている(下記記載中に引用する図表については,別紙2参照)。
ア 技術分野 本発明は,加硫ゴム特性において,100%伸張時弾性率がある値以上であり,かつ,正接損失tanδの28℃〜150℃におけるΣ値がある値以下のゴム組成物を,特にサイド補強層及び/又はビードフィラーに用いて成る,通常走行時の転がり抵抗性と乗り心地を損なうことなく,ランフラット耐久性を向上させた空気入りタイヤに関するものである(【0001】。
) イ 背景技術 (ア) 従来,空気入りタイヤ,特にランフラットタイヤにおいて,サイドウォール部の剛性向上のために,ゴム組成物単独又はゴム組成物と繊維等の複合体によるサイド補強層が配設されている。
空気入りタイヤは,パンク等によりタイヤの内部圧力(内圧)が低下した状態での走行,いわゆるランフラット走行状態になると,タイヤのサイドウォール部やビードフィラーの変形が大きくなり,発熱が進み,場合によっては200℃以上に達する。このような状態では,サイド補強層を備えた空気入りタイヤであっても,サイド補強層やビードフィラーが破壊限界を超え,タイヤ故障に至る。
このような故障に至るまでの時間を長くする手段として,サイド補強層やビードフィラーに用いるゴム組成物に硫黄を高配合し,ゴム組成物を高弾性化することによってタイヤのサイドウォール部やビードフィラーの変形量を抑える手法があるものの,同手法については,タイヤの通常走行時の転がり抵抗が高くなり,低燃費性が低下するという問題がある(【0002】。
) (イ) @各種変性共役ジエン-芳香族ビニル共重合体及び耐熱向上剤等を含有するゴム組成物を,サイド補強層及びビードフィラーに用いること(WO02/02356パンフレット)並びにA特定の共役ジエン系重合体とフェノール系樹脂を含 有するゴム組成物を,サイド補強層及びビードフィラーに用いること(特開2004-74960号公報)が提案されている。
しかし,これらは,いずれもサイド補強層及びビードフィラーに用いるゴム組成物の弾性率を高めるとともに高温時の弾性率低下を抑えることを目的としたものであるところ,ランフラット耐久性は大幅に改良するものの,通常走行時の転がり抵抗性が著しく悪化するという問題がある(【0003】【0005】。
, ) (ウ) 一方,上記故障に至るまでの時間を稼ぐ手段として,配設サイド補強層及びビードフィラーの最大厚さを増大するなど,ゴムの体積を増大させるものがあるが,このような方法を採ると,通常走行時の乗り心地の悪化,重量の増加及び騒音レベルの増大等の好ましくない事態が発生する。
上記事態,例えば乗り心地の悪化を回避するために,配設するサイド補強層及びビードフィラーの体積を減少させると,ランフラット時の荷重を支えきれず,タイヤのサイドウォール部分の変形が非常に大きくなり,ゴム組成物の発熱増大を招き,結果としてタイヤはより早期に故障に至るという問題があった。
また,配合する材料を変えて使用するゴムをより低弾性化させた場合も,上記問題が生じるという実状があった(【0004】。
) ウ 発明が解決しようとする課題 本発明は,このような状況下において,通常走行時の転がり抵抗性と乗り心地を損なうことなく,ランフラット耐久性を向上させた空気入りタイヤを提供することを目的とする(【0006】。
) エ 課題を解決するための手段 本発明者は,加硫ゴム物性において,100%伸張時弾性率がある値以上であり,かつ,正接損失tanδの28℃〜150℃におけるΣ値がある値以下のゴム組成物を,特にサイド補強層及び/又はビードフィラーに用いて成る空気入りタイヤがその目的に適合し得ることを見いだした。本発明は,このような知見に基づいて完成したものであり,特許請求の範囲請求項1から13記載の構成を特徴とするタイ ヤを提供するものである(【0007】。
) オ 発明の効果 本発明によれば,加硫ゴム物性において,100%伸張時弾性率が10MPa以上であり,かつ,正接損失tanδの28℃〜150℃におけるΣ値が6.0以下のゴム組成物を,特にタイヤのサイド補強層及び/又はビードフィラーに用いることにより,通常走行時の転がり抵抗性と乗り心地を損なうことなく,ランフラット耐久性を向上させた空気入りタイヤを提供することができる 【0008】 ( , 【0052】。
) カ 発明を実施するための最良の形態 (ア) 空気入りタイヤ 【図1】において,本発明の空気入りタイヤの好適な実施態様は,@一対のビードコア1と1’ (1’は図示せず)間にわたってトロイド状に連なり,両端部がビードコア1にタイヤ内側から外側へ巻き上げられる,少なくとも1枚のラジアルカーカスプライから成るカーカス層2,Aカーカス層2のサイド領域のタイヤ軸方向外側に配置されて外側部を形成するサイドゴム層3,Bカーカス層2のクラウン領域のタイヤ径方向外側に配置されて接地部を形成するトレッドゴム層4,Cトレッドゴム層4とカーカス層2のクラウン領域の間に配置されて補強ベルトを形成するベルト層5,Dカーカス層2のタイヤ内方全面に配置されて気密膜を形成するインナーライナー6,Eビードコア1からビードコア1’へ延びるカーカス層2の本体部分とビードコア1に巻き上げられる部分との間に配置されるビードフィラー7,Fカーカス層2のサイド領域のビードフィラー7側部からショルダー区域10にかけて,カーカス層2とインナーライナー6との間に,タイヤ回転軸に沿った断面形状が略三日月形である,少なくとも1枚のサイド補強層8とを備える空気入りタイヤである。
この空気入りタイヤのサイド補強層8及び/又はビードフィラー7に本発明に係るゴム組成物を用いることにより,本発明の空気入りタイヤは,前記オの作用効果 を奏することができる(【0009】。
) (イ) ゴム組成物 本発明の空気入りタイヤにおいては,サイド補強層8及び/又はビードフィラー7に,(A)ゴム成分と,その100質量部に対し,(B)カーボンブラック55質量部以上を含み,かつ,加硫ゴム物性において100%伸張時弾性率(M100)が10MPa以上及び正接損失tanδの28℃〜150℃におけるΣ値が6.0以下であるゴム組成物を用いることができる。
本発明に係るゴム組成物における(A)ゴム成分としては,共役ジエン系重合体をアミン変性したアミン変性共役ジエン系重合体を含むものを好ましく用いることができ,このようなアミン変性共役ジエン系重合体を30質量%以上,好ましくは50質量%以上の割合で含むものを用いることができる。ゴム成分が上記変性共役ジエン系重合体を30質量%以上含むことにより,得られるゴム組成物は低発熱化し,ランフラット走行耐久性が向上した空気入りタイヤを与えることができる 【0 (010】。
) (ウ) 変性剤 本発明においては,活性末端を有する共役ジエン系重合体の活性末端に,変性剤として,保護化一級アミン化合物を反応させることにより,一級アミン変性共役ジエン系重合体を製造することができる。上記保護化一級アミン化合物としては,保護化一級アミノ基を有するアルコキシシラン化合物が好適である(【0023】。
) (エ) 縮合促進剤 a 本発明では,前記した変性剤として用いる保護化一級アミノ基を有するアルコキシシラン化合物が関与する縮合反応を促進するために,縮合促進剤を用いることが好ましい。
このような縮合促進剤としては,第三アミノ基を含有する化合物,…を用いることができる。さらに縮合促進剤として,チタン(Ti),…からなる群から選択される少なくとも一種以上の金属を含有する,アルコキシド,…であることが好ましい。
ここで用いる縮合促進剤は,前記変性反応前に添加することもできるが,変性反応の途中及び又は終了後に変性反応系に添加することが好ましい。変性反応前に添加した場合,活性末端との直接反応が起こり,活性末端に保護された第一アミノ基を有するヒドロカルビロキシ基が導入されない場合がある。
縮合促進剤の添加時期としては,通常,変性反応開始の5分〜5時間後,好ましくは,変性反応開始15分〜1時間後である(【0026】。
) b 縮合促進剤としては,具体的には,テトラメトキシチタニウム等がある(【0027】〜【0029】。
) c この縮合促進剤の使用量としては,前記化合物のモル数が,反応系内に存在するヒドロカルビロキシ基総量に対するモル比として,0.1から10となることが好ましく,…縮合促進剤の使用量を前記範囲にすることによって縮合反応が効率良く進行する(【0030】。
) d 本発明における縮合反応は,上述の縮合促進剤と,水蒸気又は水の存在下で進行する。水蒸気の存在下の場合として,スチームストリッピングによる脱溶媒処理が挙げられ,スチームストリッピング中に縮合反応が進行する。
また,縮合反応を水溶液中で行ってもよく,縮合反応温度は85°〜180℃が好ましく,さらに好ましくは100°〜170℃,特に好ましくは110°〜150℃である。
縮合反応時の温度を前記範囲にすることによって,縮合反応を効率良く進行完結することができ,得られる変性共役ジエン系重合体の経時変化によるポリマーの老化反応等による品質の低下等を抑えることができる(【0031】。
) e なお,縮合反応時間は,通常,5分〜10時間,好ましくは15分〜5時間程度である。縮合反応時間を前記範囲にすることによって縮合反応を円滑に完結することができる。
縮合反応時の反応系の圧力は,通常,0.01〜20MPa,…である(【0032】。
) (オ) カーボンブラック 本発明に係るゴム組成物においては, (B)成分としてカーボンブラックを,前述の(A)ゴム成分100質量部に対して,55質量部以上の割合で用いることを要する。カーボンブラックの量が55質量部未満では十分な補強効果が発揮されず,得られるゴム組成物の加硫ゴム物性において,100%伸張時弾性率(M100)が10MPa以上にならない場合があり,カーボンブラックの量が多すぎると,正接損失tanδの28℃〜150℃におけるΣ値が6.0以下にならない場合がある。したがって,当該カーボンブラックの好ましい量は55〜70質量部であり,より好ましくは60〜70質量部である。
得られるゴム組成物が前記(イ)の加硫ゴム物性を満たすためには,カーボンブラックとして,…特にFEF級グレードが好適である(【0036】。
) (カ) ゴム組成物の加硫ゴム物性 本発明に係るゴム組成物は,加硫ゴム物性として,100%伸張時弾性率(M100)が10MPa以上であることを要する。この弾性率(M100)が10MPa未満では,ランフラット走行時のタイヤの撓み保持が不充分となり,タイヤのランフラット走行耐久性が低下する。好ましいM100は10.5MPa以上であり,その上限は特に制限はないが,通常13MPa程度である(【0039】。
) また,上記加硫ゴム物性として,正接損失tanδの28℃〜150℃におけるΣ値[Σtanδ(28℃〜150℃)]が6.0以下であることを要する。このtanδのΣ値が6.0を超えると,ランフラット走行時のタイヤの発熱が大きく,タイヤのランフラット走行耐久性が低下する。Σtanδ(28℃〜150℃)の下限に特に制限はないが,通常5程度である(【0040】。
) キ 実施例 (ア) 実施例1から4及び比較例1から4 【第1表】に示す配合AからHの配合組成を有する8種のゴム組成物を調製し,それぞれ加硫ゴム物性,すなわちM100及びΣtanδ(28℃〜150℃)を 求めた。
次に,これらの8種のゴム組成物を, 【図1】に示すサイド補強層8及びビードフィラー7に配設し,それぞれタイヤサイズ215/45ZR17の乗用車用ラジアルタイヤを定法に従って製造し,それらのタイヤについてランフラット走行時の耐久性及び乗り心地性を評価した。それらの結果を【第1表】に示す(【0047】。
) (イ) ランフラット耐久性及び乗り心地性の評価について ランフラット耐久性(指数)=(供試タイヤの走行距離/比較例1のタイヤ の走行距離)×100 指数が大きいほどランフラット耐久性が良好である。
乗り心地性については,各供試タイヤを乗用車に装着し,専門のドライバー2名が乗り心地性のフィーリングテストを行って1-10の評点をつけ,その平均値を求めた。その値が大きいほど乗り心地性は良好である(【0044】。
) ? 引用発明1の特徴 引用例1(甲1)には,本件審決が認定したとおりの引用発明1(前記第2の3?ア)が記載されていることが認められ,この点は,当事者間に争いがない。
前記?及び?によれば,引用発明1の特徴は,以下のとおり認められる。
ア 引用発明1は,加硫ゴム特性において,100%伸張時弾性率がある値以上であり,かつ,正接損失tanδの28℃〜150℃におけるΣ値がある値以下のゴム組成物を,特にサイド補強層及び/又はビードフィラーに用いて成る,通常走行時の転がり抵抗性と乗り心地を損なうことなく,ランフラット耐久性を向上させた空気入りタイヤに関するものである(【0001】。
) イ 従来,空気入りタイヤ,特にランフラットタイヤにおいて,サイドウォール部の剛性向上のために,ゴム組成物単独又はゴム組成物と繊維等の複合体によるサイド補強層が配設されている。
空気入りタイヤは,パンク等によりタイヤの内部圧力(内圧)が低下した状態での走行,いわゆるランフラット走行状態になると,タイヤのサイドウォール部やビ ードフィラーの変形が大きくなり,発熱が進み,場合によっては200℃以上に達する。このような状態では,サイド補強層を備えた空気入りタイヤであっても,サイド補強層やビードフィラーが破壊限界を超え,タイヤ故障に至る(【0002】。
) ウ このような故障に至るまでの時間を長くする手段として,@サイド補強層やビードフィラーに用いるゴム組成物に硫黄を高配合し,ゴム組成物を高弾性化することによってタイヤのサイドウォール部やビードフィラーの変形量を抑える技術,A弾性率を高めるとともに高温時の弾性率低下を抑えた特定のゴム組成物をサイド補強層及びビードフィラーに用いる技術及びBゴムの体積を増大させる技術があった。
しかし,上記@の技術については,タイヤの通常走行時の転がり抵抗が高くなり,低燃費性が低下する,上記Aの技術については,ランフラット耐久性は大幅に改良するものの,転がり抵抗性が著しく悪化する,上記Bの技術については,通常走行時の乗り心地の悪化,重量の増加及び騒音レベルの増大等の好ましくない事態が発生する。上記Bの技術に関し,上記事態,例えば乗り心地の悪化を回避するために,配設するサイド補強層及びビードフィラーの体積を減少させた場合又は配合する材料を変えて使用するゴムをより低弾性化させた場合のいずれにおいても,ランフラット時の荷重を支えきれず,タイヤのサイドウォール部分の変形が非常に大きくなり,ゴム組成物の発熱増大を招き,結果としてタイヤはより早期に故障に至るという問題があった(【0002】〜【0004】。
) エ 引用発明1は,このような状況下において,通常走行時の転がり抵抗性と乗り心地を損なうことなく,ランフラット耐久性を向上させた空気入りタイヤを提供することを目的とする(【0006】。
) オ 引用発明1の発明者は,加硫ゴム物性において,100%伸張時弾性率がある値以上であり,かつ,正接損失tanδの28℃から150℃におけるΣ値がある値以下のゴム組成物を,特にサイド補強層及び/又はビードフィラーに用いて成る空気入りタイヤがその目的に適合し得ることを見いだした。引用発明1は,この ような知見に基づいて完成したものであり,特許請求の範囲請求項1から7,10及び11記載の構成を特徴とするタイヤを提供するものである(【0007】。
) カ 引用発明1によれば,上記オの知見に係る構成を採用することにより,通常走行時の転がり抵抗性と乗り心地を損なうことなく,ランフラット耐久性を向上させた空気入りタイヤを提供することができる(【0008】 【0052】。
, ) ? 本願発明との一致点及び相違点について 前記1及び前記2?によれば,本願発明と引用発明1との一致点は,前記第2の3?イのとおりであり,本願発明と引用発明1との相違点は,前記第2の3?ウのとおりであり,これらの点は,当事者間に争いがない。
3 取消事由1(相違点1に係る容易想到性の判断の誤り)について ? 引用発明2について ア 引用例2(甲2)には,おおむね,以下のとおり記載されている。
(ア) 技術分野 本発明は,劣化が生じやすいタイヤサイド部の温度低減を図ることができる空気入りタイヤに関するものである(【0001】。
) (イ) 背景技術 空気入りタイヤの温度上昇は,材料物性の変化等の経時的変化を促進すること,高速走行時にはトレッド部の破損等の原因になることから,耐久性の観点において好ましくない。特に,パンク走行時(内圧0kPa走行時)のランフラットタイヤにおいては,耐久性の向上のためにタイヤ温度を低減させることが大きな課題となっている(【0002】。
) 例えば,トレッド幅方向の断面形状が三日月状のサイドウォール補強層を有するランフラットタイヤにおいては,パンク走行時にタイヤ径方向の変形がサイドウォール補強層に集中して,サイドウォール補強層が非常に高温に達してしまい,耐久性に多大な影響を与えていた(【0003】。
) 本発明は,効率の良い放熱によってタイヤサイド部内の温度低減を図り,耐久性 を向上させることができる空気入りタイヤの提供を目的とする(【0008】。
) (ウ) 発明の開示 a 本発明は,次のような特徴を有している。まず,本発明の第1の特徴に係る発明は,タイヤ表面に,内周側から外周側に向かって延在される乱流発生用突起をタイヤ周方向に間隔を置いて設けた空気入りタイヤであって,乱流発生用突起が,延在方向に対する直交方向で切断した断面形状で見たときにエッジ部を有し,空気流が突き当たる乱流発生用突起の前壁面とタイヤ表面とがなす前壁角度が,70°〜110°の範囲に設定されることを要旨とする(【0009】。
) b このような特徴によれば,空気入りタイヤが回転すると,タイヤ表面に,相対的にほぼタイヤ周方向に沿って流れる空気流が発生する。この空気流は,乱流発生用突起によって乱流となってタイヤ表面を流れ,タイヤ表面と積極的な熱交換を行う(【0010】。
) すなわち,空気流は,乱流発生用突起の位置では上昇し,乱流発生用突起の存在しない位置では下降する上下乱流となる。特に,乱流発生用突起がエッジ部を有していることによって,空気入りタイヤの回転に伴い空気流が乱流発生用突起を乗り越える際に,タイヤ表面から剥離されやすい。このため,タイヤ表面からいったん剥離された空気流は,乱流発生用突起のタイヤ回転方向後側(下流側)で発生する負圧により急激にタイヤ表面に下降して衝突する乱流となり,タイヤ表面との熱交換を促進する(【0011】。
) c また,乱流発生用突起の前壁角度θ1が70°〜110°の範囲に設定されることによって,上下乱流は,エッジ部で剥離する空気の角度をある程度大きくすることができ,乱流発生用突起の下流側で激しい下降流となってタイヤ表面に突き当たるため,タイヤ表面と積極的な熱交換が行われる。これにより,タイヤ表面に設けられた乱流発生用突起によって,タイヤ温度の低減を確実に図ることができ,耐久性を向上させることができる(【0012】。
) イ 前記アによれば,引用例2には,@空気入りタイヤの表面に,内周側から外 周側に向かって延在する乱流発生用突起を,タイヤ周方向に間隔を置いて設けるとともに,Aその乱流発生用突起には,延在方向に直交する方向で切断した断面で見たときに乱流発生用突起の前壁面と上面とによって形成されるエッジ部と,トレッド幅方向(径方向)断面で見たときに乱流発生用突起内側面と上面とによって形成されるエッジ部とを設け,乱流発生用突起の前壁面とタイヤサイド部の外周面とがなす前壁角度を70°〜110°の範囲に設定するという発明(引用発明2)が記載されているものと認められ,この点は,当事者間に争いがない。
? 相違点1に係る容易想到性について ア 引用発明1と引用発明2との対比(ア) 引用発明1は,前記2?のとおり,空気入りタイヤがランフラット走行状態になると,サイドウォール部やビードフィラーの変形が大きくなり,発熱が進んで高温に達した場合,サイド補強層を配設してサイドウォール部の剛性を向上させた空気入りタイヤにおいても,サイド補強層やビードフィラーが破壊限界を超えてタイヤ故障に至るという問題があり,サイド補強層及びビードフィラーに用いるゴム組成物の配合等による高弾性化等やゴムの体積増大によってタイヤ故障に至るまでの時間を長くする従来の技術には,転がり抵抗性や乗り心地の悪化等の問題があったことから,通常走行時の転がり抵抗性と乗り心地を損なうことなく,ランフラット耐久性を向上させた空気入りタイヤの提供を目的とするものである。そして,引用発明1は,課題解決手段として,100%伸長時弾性率(M100)が10MPa以上,正接損失tanδの28℃〜150℃におけるΣ値が6.0以下という加硫ゴム特性を有するゴム組成物をサイド補強層に用いる構成を採用した。
(イ) 他方,引用発明2は,前記?のとおり,サイドウォール補強層を有する空気入りタイヤは,パンク走行時にサイドウォール補強層が非常な高温に達し,耐久性に多大な影響を与えるという状況に鑑み,効率の良い放熱によってタイヤサイド部内の温度低減を図り,耐久性を向上させることができる空気入りタイヤの提供を目的とするものである。引用発明2は,課題解決手段として,空気入りタイヤの表 面に乱流発生用突起を設け,空気入りタイヤが回転したときに発生するタイヤ周方向の空気流を乱流発生用突起でかく乱して乱流とし,タイヤ表面と積極的な熱交換を行わせる前記?イの構成を採用した。
(ウ) したがって,引用発明1及び引用発明2は,いずれもサイド補強層が配設された空気入りタイヤにおいて,ランフラット走行状態になったとき,サイド補強層が高温に達して耐久性に悪影響を与えるという問題の解決を課題とするものということができる。
そして,上記課題の解決手段として,引用発明1は,所定の加硫ゴム特性を有するゴム組成物をサイド補強層に用いる構成を採用し,引用発明2は,空気入りタイヤの表面に乱流発生用突起を設ける構成を採用した。
容易想到性について 当業者は,引用発明1において,ランフラット走行状態になったときにサイド補強層が高温に達して耐久性に悪影響を与えるという問題の解決をより完全なものに近付けるために,同じく上記問題の解決を課題とする引用発明2の適用を試みるものということができる。
また,当業者は,引用例1の記載から,サイド補強層及びビードフィラーに用いるゴム組成物の配合等による高弾性化やゴムの体積増大によって故障に至るまでの時間を長くしようとした従来技術については,転がり抵抗性や乗り心地の悪化等の問題が生じることを理解するとともに,引用発明2は,前記アのとおり,ゴム組成物の高弾性化やゴムの体積増大などタイヤのゴム成分に変更を加えるものではなく,タイヤの表面に突起を設けるというものであるから,前記の従来技術のような問題が生じるとは考え難い旨認識するものということができる。本件証拠上,そのほか,引用発明1に引用発明2を適用することを阻害すべき要因は,見当たらない。
以上によれば,当業者は,引用発明1に引用発明2を適用し,相違点1に係る本願発明の構成とすることを容易に想到することができたものと認められる。
? 原告の主張について ア 原告は,引用発明1がゴム成分の改良という化学的な解決方法を採用したのに対し,引用発明2はタイヤの構成の改良という機械的な解決方法を採用したものであるから,両者の技術的思想は全く異なること及び両者はタイヤに適用される箇所も異なることを根拠として,両者の間に直接の関連性は認められず,これらを組み合わせることによって,相違点1に係る本願発明の構成とすることはできない旨主張する。
イ しかし,前記?のとおり,両者のいずれも,サイド補強層が配設された空気入りタイヤにおいて,ランフラット走行状態になったとき,サイド補強層が高温に達して耐久性に悪影響を与えるという問題の解決を課題としている。そして,引用発明1のみによって上記問題が完全に解消されるとは考えられず,当業者としては,上記問題の解決をより完全なものに近付けるために,同じ問題を解決し得る手段が他にあるのであれば,その採用を試みるものということができる。
しかも,引用発明2によって,引用例1記載の従来技術と同様の問題が生じることは考え難い。そして,原告主張に係る両者が採用する課題解決方法の相違及び適用箇所の相違は,引用発明1に引用発明2を適用することを妨げるものではなく,他に同適用の阻害要因となるべき事情も認められない。
? 小括 したがって,原告主張の取消事由1は,理由がない。
4 取消事由2(相違点2に係る容易想到性の判断の誤り)について ? 相違点2に係る容易想到性について 引用発明1における一級アミン変性共役ジエン系重合体は,共役ジエン系重合体の活性末端に,変性剤として保護化一級アミン化合物であるN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリエトキシシランを反応させることによって得られるものであり,上記保護化一級アミン加工物は,保護化一級アミノ基を有するアルコキシシラン化合物であるところ(【請求項7】【請求項10】【0023】,前記 , , )2?のとおり,引用例1においては,その際, 「変性剤として用いる保護化一級アミ ノ基を有するアルコキシシラン化合物が関与する縮合反応を促進するために,縮合促進剤を用いることが好ましい。…ここで用いる縮合促進剤は,前記変性反応前に添加することもできるが,変性反応の途中及び又は終了後に変性反応系に添加することが好ましい。…縮合促進剤の添加時期としては,通常,変性反応開始5分〜5時間後,好ましくは変性反応開始15分〜1時間後である。 ( 」【0026】)と明記されている。
さらに,引用例1には,縮合促進剤の具体例,そのうち好ましいもの,使用量及び縮合反応の仕組みが詳細に開示されており(【0026】〜【0032】 ,縮合が )促進されることの効果については,「縮合反応を効率良く進行完結することができ,得られる変性共役ジエン系重合体の経時変化によるポリマーの老化反応等による品質の低下等を抑えることができる。( 」【0031】)と記載されている。
当業者は,これらの記載に接すれば,引用発明1において,変性剤として用いる保護化一級アミノ基を有するアルコキシシラン化合物が関与する縮合反応を促進するために,変性共役ジエン系重合体の変性反応の途中及び又は終了後に縮合促進剤を加えることを容易に想到し,したがって,相違点2に係る本願発明の構成を容易に想到することができる。
? 原告の主張について 原告は,引用発明1において,ランフラット耐久性の向上及び転がり抵抗性の低下を共に実現するためには,変性反応系に縮合促進剤を添加する動機付けがあるということはできず,したがって,当業者において相違点2に係る本願発明の構成を容易に想到することはできない旨主張する。
しかし,本願明細書において,本願発明における縮合促進剤の添加につき,ランフラット耐久性の向上及び転がり抵抗性の低下を目的とすることは,記載も示唆もされていない。そして,前記?のとおり,引用例1に縮合促進剤の添加が明記されている以上,当業者において,相違点2に係る本願発明の構成を容易に想到するものということができる。
? 小括 したがって,原告主張の取消事由2は,理由がない。
5 取消事由3(相違点3に係る容易想到性の判断の誤り)について ? 相違点3について 本願発明と引用発明1との間の相違点3は,前記第2の3?ウ(ウ)のとおりであるところ,引用発明1のゴム成分に含まれる「アミン変性共役ジエン系重合体」は,本願発明の「変性共役ジエン系重合体」の一種であり,また,引用発明1の「FEF級グレード」のカーボンブラックが,本願発明の「窒素吸着比表面積が20〜90u/gである」カーボンブラックに相当することについては,当事者間に争いがない。
したがって,相違点3に係る実質的相違は,ゴム成分に含まれる変性共役ジエン系重合体の質量及び配合されるカーボンブラックの質量につき,本願発明においては,ゴム成分100質量部中に含まれる変性共役ジエン系重合体の質量は10質量%以上,配合されるカーボンブラックの質量は10〜100質量部と特定されているのに対し,引用発明1においては,変性共役ジエン系重合体の含有質量は特定されておらず,配合されるカーボンブラックの質量は55質量部以上と特定されているというものである。
? 引用発明1について ア 前記2?のとおり,引用発明1は,通常走行時の転がり抵抗性と乗り心地を損なうことなく,ランフラット耐久性を向上させた空気入りタイヤの提供を課題とし,同課題解決手段として,加硫ゴム物性において,100%伸張時弾性率が10MPa以上であり,かつ,正接損失tanδの28℃〜150℃におけるΣ値が6.0以下のゴム組成物を,タイヤのサイド補強層に用いるという構成を採用したことを特徴とする。
そして,前記2?のとおり,引用例1の発明の詳細な説明において,変性共役ジエン系重合体については, 「アミン変性共役ジエン系重合体を30質量%以上,好ま しくは50質量%以上の割合で含むものを用いることができる。ゴム成分が上記変性共役ジエン系重合体を30質量%以上含むことにより,得られるゴム組成物は低発熱化し,ランフラット走行耐久性が向上した空気入りタイヤを与えることができる。( 」【0010】)との記載があるところ,発熱の点に関しては, 「加硫ゴム物性として,正接損失tanδの28℃〜150℃におけるΣ値[Σtanδ(28〜150℃)]が6.0以下であることを要する。このtanδのΣ値が6.0を超えると,ランフラット走行時のタイヤの発熱が大きく,タイヤのランフラット走行耐久性が低下する。( 」【0040】)との記載がある。これらの記載から,ゴム成分中の変性共役ジエン系重合体の含有質量は,正接損失tanδの28℃〜150℃におけるΣ値と関連があるものと推認できる。
カーボンブラックについては,「本発明に係るゴム組成物においては,(B)成分としてカーボンブラックを,前述の(A)ゴム成分100質量部に対して,55質量部以上の割合で用いることを要する。カーボンブラックの量が55質量部未満では十分な補強効果が発揮されず,得られるゴム組成物の加硫ゴム物性において,100%伸張時弾性率(M100)が10MPa以上にならない場合があり,カーボンブラックの量が多すぎると,正接損失tanδの28℃〜150℃におけるΣ値が6.0以下にならない場合がある。したがって,当該カーボンブラックの好ましい量は55〜70質量部であり,より好ましくは60〜70質量部である。 【00 」 (36】)との記載がある。
イ これらの点に鑑みると,引用例1に接した当業者は,@通常走行時の転がり抵抗性と乗り心地を損なうことなく,ランフラット耐久性を向上させた空気入りタイヤの提供という課題が存在すること,A同課題を解決するためには,ゴム組成物を,加硫ゴム物性において, 「 100%伸張時弾性率が10MPa以上であり,かつ,正接損失tanδの28℃〜150℃におけるΣ値が6.0以下」とする必要があること,Bゴム成分中の変性共役ジエン系重合体の含有質量は,少なくとも上記Σ値と関連があり,カーボンブラックの配合量は,100%伸長時弾性率及び上記Σ 値の両方と関連があることを認識する。また,引用例1の【第1表】においては,加硫ゴム物性を上記の範囲内としながら,変性共役ジエン系重合体の一種である一級アミン変性ポリブタジエンの含有質量及びカーボンブラックの配合量を変え,それによって100%伸長時弾性率及び上記Σ値を変えた実施例1から3につき,乗り心地性はおおむね同程度であるものの,ランフラット耐久性については最低が165,最高が175と開きがあることが示されている。
以上の点に鑑みると,引用例1に接した当業者は,加硫ゴム物性が上記範囲内となるように変性共役ジエン系重合体の含有質量及びカーボンブラックの配合量を適宜設定し,通常走行時の転がり抵抗性と乗り心地性を損なうことなく,ランフラット耐久性をより向上させることを試みるものということができる。なお,前記アのとおり,引用例1には,カーボンブラックの配合量につき, 「ゴム成分100質量部に対して,55質量部以上の割合で用いることを要する。と記載されているものの, 」「カーボンブラックの量が55質量部未満では十分な補強効果が発揮されず,得られるゴム組成物の加硫ゴム物性において,100%伸張時弾性率(M100)が10MPa以上にならない場合があり」とも記載されていることから,当業者は,カーボンブラックの配合量を55質量部未満としても,必然的に,100%伸張時弾性率が10MPaになると断定することはできないと理解し,上記配合量を55質量部未満とすることも,完全には排除しないものと考えられる。
ウ そして, 【表1】には,ゴム成分100質量部に対する変性共役ジエン系重合体の含有質量及びカーボンブラックの配合量を,それぞれ,@70質量%,60質量部(実施例1),A70質量%,65質量部(実施例2),B50質量%,65質量部(実施例3)としたときに加硫ゴム物性が上記範囲内になっている実施例が示されているところ,上記含有質量及び配合量は,いずれも本願発明の規定する範囲内のものである。
? 本願発明について 本願明細書においては,前記1?のとおり,ゴム成分100質量部に対する変性 共役ジエン系重合体の含有質量につき,「本発明に係る前記ゴム組成物においては,ゴム成分100質量部中に,前記変性共役ジエン系重合体を10質量%以上含むことを要する。ゴム成分100質量部中の変性共役ジエン系重合体の含有量が10質量%以上であれば,ゴム組成物の低発熱性が発揮され,ランフラット走行時の耐久性及び通常走行時の転がり抵抗性が向上することとなる。ゴム組成物の低発熱性をさらに高めるためには,変性共役ジエン系重合体の含有量がゴム成分100質量部中に52質量%以上であることがさらに好ましく,55質量%以上であることが特に好ましい」との記載(【0019】)があり,また,配合されるカーボンブラックの質量につき, 「これらのカーボンブラックの配合量は,ゴム成分100質量部に対して,10〜100質量部,好ましくは30〜90質量部である。このようなカーボンブラックの量を用いることにより,諸物性の改良効果は大きくなるが,特に,耐破壊特性及び低発熱性(低燃費性)に優れるHAF及びFEFが好ましい。」との記載(【0048】)がある。
他方,本願明細書には,変性共役ジエン系重合体の含有質量及びカーボンブラックの配合量を本願発明の数値範囲外とした場合,すなわち,上記含有質量を10質量%未満とした場合及び上記配合量を10質量部未満又は100質量部を超えるものとした場合のいずれについても言及されておらず,そのような比較例,実施例も記載されていない。
以上によれば,本願発明における変性共役ジエン系重合体の含有質量及びカーボンブラックの配合量の数値範囲は,ゴム組成物としてランフラット走行時の耐久性を向上させるとともに通常走行時の転がり抵抗性を低下させることのできるタイヤ耐久性を向上させ得るタイヤの提供という本願発明の目的に照らし,必要不可欠とまではいえないものの,好ましい効果が奏される範囲を示したものと解される。
? 相違点3に係る容易想到性について 以上に鑑みると,引用例1の記載に接した当業者は,加硫ゴム物性が「100%伸張時弾性率が10MPa以上であり,かつ,正接損失tanδの28℃〜150℃ におけるΣ値が6.0以下」となるようにゴム組成物中の変性共役ジエン系重合体の含有質量及びカーボンブラックの配合量を適宜設定し,通常走行時の転がり抵抗性と乗り心地性を損なうことなく,ランフラット耐久性をより向上させることを試み,ランフラット走行時の耐久性を向上させるとともに通常走行時の転がり抵抗性を低下させるという点から好ましい上記含有質量及び配合量を見いだし,相違点3に係る本願発明の構成に容易に想到するものということができる。
? 原告の主張について 原告は,ランフラット耐久性の向上を可能とするゴム組成物中の変性共役ジエン系重合体の含有質量及びカーボンブラックの配合量について本願発明と引用発明1との間において相違点3に係る差が生じているのは,相違点2に係る変性反応の際の縮合反応の有無に起因するものであり,本件審決は,この点を看過した旨主張する。
しかし,引用例1には, 「変性剤として用いる保護化一級アミノ基を有するアルコキシシラン化合物が関与する縮合反応を促進するために,縮合促進剤を用いることが好ましい」【0026】 ( )と記載されているにすぎず,縮合促進剤の作用効果に関しても,縮合反応を効率良く進行させ, 「得られる変性共役ジエン系重合体の経時変化によるポリマーの老化反応等による品質の低下等を抑えることができる」【00 (30】【0031】 , )という記載があるにとどまり,ゴム組成物中の変性共役ジエン系重合体の含有質量及びカーボンブラックの配合量との関連を示す記載はない。なお,本願明細書中にも上記関連を示す記載はない。よって,原告の前記主張は,採用できない。
? 小括 したがって,原告主張の取消事由3は,理由がない。
6 取消事由4(顕著な効果の看過)について ? 顕著な効果と進歩性について 前記3から5のとおり,当業者は,@引用発明1に引用発明2を適用し,相違点 1に係る本願発明の構成とすること及びA引用例1の記載に接し,相違点2及び3に係る本願発明の構成とすることを,容易に想到するものと認められ,引用発明1及び2に基づいて本願発明の構成を容易に想到するものということができる。したがって,本願発明の効果が,上記容易想到に係る構成を前提としても,引用発明1に引用発明2を適用することによって生じ得る相乗効果を大きく上回るなど,当業者にとって予測し難い顕著なものである場合でない限り,本願発明の進歩性を肯定することはできない。
? 本願発明の効果について ア 前記1?エ及びオのとおり,本願発明は,@タイヤサイド部の表面に乱流発生用突起を配設することにより,効率良く放熱してタイヤサイド部内の温度低減が確実に図られ,耐久性が向上する,Aサイド補強ゴムに,低転がり抵抗性を備えた,特定の窒素吸着比表面積を有するカーボンブラックに対する相互作用に優れた変性共役ジエン系重合体を含むゴム組成物を用いることにより,サイド補強ゴムの発熱が抑制され,乱流発生用突起との組合せによってタイヤ温度が低減し,ランフラット走行時の耐久性と通常走行時の低転がり抵抗性が同時に向上するという効果を奏するものである(【0011】〜【0013】【0096】。
, ) イ そして,本願明細書には,窒素吸着比表面積77m2/gのカーボンブラックHAFを配合した上で,ゴム成分100質量部に対して共役ジエン系重合体(未変性ポリブタジエン。以下同じ。 の含有質量を60質量%とする重合体Aをサイド )補強層に配設した乱流発生用突起を有しない比較例15のランフラットタイヤのランフラット耐久性(指数)を100としたとき,上記のカーボンブラックHAFを配合した上で,ゴム成分100質量部に対して変性共役ジエン系重合体(変性ポリブタジエン。以下同じ。 の含有質量を60質量%とする縮合促進剤を加えた変性重 )合体Cをサイド補強層に配設した,乱流発生用突起を有し,かつ,前壁角度が70度から110度の範囲内にある実施例7から9のランフラットタイヤのランフラット耐久性(指数)は,それぞれ138,150,140であったことが記載されて いる(【0081】 【0083】 【0087】 【0088】 【0092】 【表1】 , , , , , ,【表3】。
) また,本願明細書の@比較例2及び実施例1,A比較例5及び実施例3並びにB比較例8及び実施例5は,いずれも変性共役ジエン系重合体を含むゴム成分をサイド補強層に配設した乱流発生用突起を有するランフラットタイヤであり,比較例は縮合促進剤を加えないもの,実施例は縮合促進剤を加えたものであるところ,上記の各実施例は,対応する比較例に比して,ランフラット耐久性(指数)が10%以上増加しており,このことから,縮合促進剤を加えること自体にランフラット走行時の耐久性を向上させる効果があるものということができる(【0081】〜【0083】【0087】〜【0090】【表1】【表2】。
, , , ) 以上によれば,本願明細書には,本願発明が,@タイヤサイド部の表面に乱流発生用突起を配設すること及びAサイド補強ゴムに,特定の窒素吸着比表面積を有するカーボンブラックに対する相互作用に優れた変性共役ジエン系重合体を含み,縮合促進剤を加えたゴム組成物を用いることにより,ランフラット走行時の耐久性をおおむね4割から5割程度向上させる効果を奏する旨が記載されているものと認められる。
ウ 本願明細書には,窒素吸着比表面積77m2/gのカーボンブラックHAFを配合した上で,ゴム成分100質量部に対して共役ジエン系重合体の含有質量を60質量%とする重合体Aをサイド補強層に配設した乱流発生用突起を有する比較例1のランフラットタイヤのランフラット耐久性(指数)及び転がり抵抗(指数)をいずれも100としたとき,変性共役ジエン系重合体を含み,縮合促進剤を加えた変性重合体C及びEを含むゴム成分をサイド補強層に配設した実施例1〜6のランフラット耐久性(指数)及び転がり抵抗(指数)は,実施例1が120,92,実施例2が117,94,実施例3が152,68,実施例4が145,75,実施例5が123,92,実施例6が115,93であったことが記載されている 【0 (080】〜【0085】【0087】〜【0090】【表1】【表2】。
, , , ) 以上によれば,本願発明は,@タイヤサイド部の表面に乱流発生用突起を配設すること及びAサイド補強ゴムに,特定の窒素吸着比表面積を有するカーボンブラックに対する相互作用に優れた変性共役ジエン系重合体を含み,縮合促進剤を加えたゴム組成物を用いることにより,かなりの程度ランフラット走行時の耐久性及び通常走行時の低転がり抵抗性を向上させるものということができる。
? 引用発明1の効果について ア 前記2及び3のとおり,引用発明1は,サイド補強層が配設された空気入りタイヤにおいて,ランフラット走行状態になったとき,サイド補強層が高温に達して耐久性に悪影響を与えるという問題の解決を課題とし,その解決手段として,所定の加硫ゴム特性を有するゴム組成物をサイド補強層に用いる構成を採用したものであり,上記構成によって,通常走行時の転がり抵抗性と乗り心地を損なうことなく,ランフラット耐久性を向上させた空気入りタイヤを提供できるという効果を奏する(【0008】【0052】。
, ) イ 引用例1には,未変性ポリブタジエンを含み,引用発明1に係る加硫ゴム特性を有しないゴム組成物をサイド補強層に配設した比較例1の空気入りタイヤのランフラット耐久性(指数)を100としたときに,一般アミン変性ポリブタジエンを含み,引用発明1に係る加硫ゴム特性を備えたゴム組成物をサイド補強層に配設した実施例1から4のランフラット耐久性(指数)は,それぞれ,165,175,170,149であったことが記載されている(【0047】【第1表】。
, ) 上記記載によれば,引用発明1により,ランフラット走行時の耐久性が約5割から7割も向上したことが認められる。
? 引用発明2の効果について 前記3のとおり,引用発明2は,サイド補強層が配設された空気入りタイヤにおいて,ランフラット走行状態になったとき,サイド補強層が高温に達して耐久性に悪影響を与えるという問題の解決を課題とし,その解決手段として,空気入りタイヤの表面に乱流発生用突起を設ける構成を採用したものであり,上記構成によって, タイヤ温度の低減を確実に図ることができ,通常走行時のランフラット耐久性を向上させるという効果を奏する(【0002】【0003】【0008】 , , ,〜【0012】。
) 引用例2には,乱流発生用突起が設けられていない比較例1のタイヤのランフラット耐久性(指数)を100としたとき,引用発明2に係る乱流発生用突起を設けた実施例1から3のランフラット耐久性(指数)がそれぞれ123,135,125であった旨が記載されている(【0138】【0139】【図23】 , , 〔別紙3〕。
) 以上によれば,引用発明2により,ランフラット走行時の耐久性が約2割から3割向上したことが認められる。
? 本願発明の効果の検討 ア ランフラット走行時の耐久性について 前記?のとおり,本願発明は,@タイヤサイド部の表面に乱流発生用突起を配設すること及びAサイド補強ゴムに,特定の窒素吸着比表面積を有するカーボンブラックに対する相互作用に優れた変性共役ジエン系重合体を含み,縮合促進剤を加えたゴム組成物を用いることにより,ランフラット走行時の耐久性をおおむね4割から5割程度向上させる効果を奏することが認められる。
しかし,前記?及び?のとおり,ランフラット走行時の耐久性は,@引用発明1により,約5割から7割向上したこと及びA引用発明2により,約2割から3割向上したことが認められ,この点に鑑みると,本願発明の前記効果は,当業者が主引例である引用発明1に副引例である引用発明2を組み合わせた構成から予測できる範囲内のものにとどまるというべきである。
イ 通常走行時の低転がり抵抗性について 前記?のとおり,本願発明は,@タイヤサイド部の表面に乱流発生用突起を配設すること及びAサイド補強ゴムに,特定の窒素吸着比表面積を有するカーボンブラックに対する相互作用に優れた変性共役ジエン系重合体を含み,縮合促進剤を加えたゴム組成物を用いることにより,通常走行時の低転がり抵抗性もかなりの程度向 上させることができる。
この点に関し,引用例1及び2のいずれにおいても,通常走行時の低転がり抵抗性については開示されておらず,本願発明の前記効果を引用発明1及び2の効果と比較することはできない。
もっとも,前記?のとおり,本願発明の実施例における転がり抵抗(指数)は,比較例の100に対し,実施例1が92,実施例2が94,実施例3が68,実施例4が75,実施例5が92,実施例6が93であり,これら6例の実施例のうち実施例1,2,5及び6の4例は,数%の減少にとどまっている。この点に鑑みると,通常走行時の低転がり抵抗性の向上についても,本願発明の効果は,さほど顕著なものとはいい難い。
ウ 以上によれば,本願発明の効果は,当業者において,引用発明1から容易に想到する本願発明の構成を前提として,予測し難い顕著なものであるとまではいうことはできず,本件審決に顕著な効果を看過して進歩性を否定した誤りはない。
? 原告の主張について ア 原告は,本願明細書の比較例1並びに審判請求書記載の追加比較例a及びbを根拠として,本願発明のランフラット耐久性増加に係る効果は,当業者の予測を大きく上回る顕著な効果である旨主張する。
しかし,前記?のとおり,本願発明につき,その効果によって進歩性が肯定され得るのは,当該効果が容易想到に係る構成を前提としても当業者にとって予測し難い顕著なものである場合に限られるところ,そのように顕著なものであるか否かを判断するに当たっては,主引例である引用発明1及び副引例である引用発明2の効果から当業者にとって予測し難いものであるか否かを比較検討すべきである。原告の主張に係る比較例及び追加比較例は,いずれも引用発明1及び2と異なるものであり,原告の主張は,引用発明1及び2の効果に関する上記比較検討を欠き,採用できない。
イ 原告は,転がり抵抗性の低下に関し,タイヤ表面に乱流発生用突起を設ける とその突起が受ける空気抵抗によりタイヤの転がり抵抗性が上昇することを前提として,本願発明は,乱流発生用突起とアミン変性共役ジエン系重合体を組み合わせることによって,ランフラット耐久性の向上及び転がり抵抗性の低下を同時に実現して本願発明の課題を達成することができ,これは,予測し得ない顕著な効果である旨主張する。
しかし,タイヤ表面に設けた乱流発生用突起が受ける空気抵抗が,タイヤの転がり抵抗性を上昇させるほどの強度になることは,本件証拠上,認めるに足りず,よって,原告の上記主張は前提を欠く。
ウ 原告は,縮合によりランフラット耐久性が向上するという効果は,引用発明1からは予測できない顕著な効果である旨主張する。
しかし,前記?アのとおり,本願発明によるランフラット走行時の耐久性の向上が,当業者において主引例である引用発明1に副引例である引用発明2を組み合わせた構成から予測できる範囲内のものにとどまる以上,たとえ本願発明の構成の一部である縮合促進剤の添加がランフラット走行時の耐久性を向上させること自体は,当業者が引用発明1及び2から予測し得ないものであったとしても,この点は,前記?ウの判断を左右するものではない(しかも,前記4のとおり,本願明細書において,本願発明における縮合促進剤の添加につき,ランフラット耐久性の向上を目的とすることは,記載も示唆もされていない。 。
) ? 小括 したがって,原告主張の取消事由4は,理由がない。
7 結論 したがって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
裁判長裁判官部眞規子裁判官鈴木わかな裁判官田中芳樹は,転補のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官部眞規子 (別紙1)本願明細書掲載の図表(甲3)【図1】本願発明の実施の形態に係るランフラットタイヤの一部切り欠きの斜視図【図4】乱流発生用突起による乱流発生状態を説明する斜視図 【図5】乱流発生用突起による乱流発生状態を説明する側面図【図6】乱流の流れを詳しく説明する側面図 【表1】 【表2】 【表3】 (別紙2)引用例1(甲1)掲載の図表【図1】本発明の空気入りタイヤの一実施態様の断面を示す模式図 -65- (別紙3)引用例2(甲2)掲載の図表【図23】