審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成28ワ24175 特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成26ワ12198 損害賠償請求事件 | 判例 | 特許 |
平成29ネ10027 特許権侵害差止請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成28ワ21346 特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成26ワ24183 損害賠償請求事件 | 判例 | 特許 |
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事件 |
平成
26年
(ワ)
20422号
特許権侵害差止等請求事件
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原告株式会社島野製作所 同訴訟代理人弁護士 溝田宗司 鮫島正洋 被告 アップルインコーポレイテッ ド 被告 AppleJapan合同 会社 上記両名訴訟代理人弁護士 長沢幸男 矢倉千栄 被告アップルインコーポレイテッド訴訟代理人弁護士兼被告A pple Japan合同会社訴訟復代理人弁護士 金子晋輔 上記両名訴訟代理人弁理士 大塚康徳 同訴訟復代理人弁護士 蔵原慎一朗 雲居寛隆 同 補佐人弁理士大塚康弘 大戸隆広 大出純哉 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2016/03/17 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告らは,別紙被告製品目録記載1及び2の各製品(以下「被告製品」と総 称する。)の使用,譲渡,輸入又は譲渡の申出をしてはならない。 2 被告らは,原告に対し,連帯して6億6888万0740円及びこれに対す る訴状送達の日の翌日(被告アップルインコーポレイテッド(以下「被告アッ プル」という。)につき平成26年10月16日,被告Apple Japa n合同会社(以下「被告アップルジャパン」という。)につき同年8月30日) から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は,原告が,発明の名称を「接触端子」とする特許権を有しており,被 告らによる被告製品の輸入及び譲渡が上記特許権を侵害する共同不法行為に当 たると主張して,被告らに対し,@特許法100条1項に基づき被告製品の使 用,譲渡等の差止めを,A民法709条,特許法102条3項に基づき損害賠 償金6億6888万0740円及びこれに対する不法行為の後の日である訴状 送達の日の翌日(被告アップルにつき平成26年10月16日,被告アップル ジャパンにつき同年8月30日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合に よる遅延損害金の連帯支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨に より容易に認められる事実) ? 当事者 ア 原告は,全長2.0〜10.0mm程度,直径0.1〜2.0mm程度 のポゴピンと呼ばれるプローブピン(以下単に「ポゴピン」という。)等 を製造販売する株式会社である。 イ 被告アップルは,アメリカ合衆国カリフォルニア州法を準拠法として設 立された法人であって,コンピュータ,家庭用電子機器,オペレーティン グシステム及びアプリケーションソフトウェアの開発及びマーケティング 等を業としている。被告アップルジャパンは,被告アップルのスマートフ ォン,コンピュータ等の輸入販売等を業とする合同会社である。 ? 本件特許権 ア 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許出願の願書 に添付された明細書及び図面を「本件明細書」という。)を有している。 原告はその出願人であり,特許公報上はX(以下「X」という。)が発明 者とされている(真の発明者については争いがある。 。 ) (甲1,2,乙1 4) 特許番号 第5449597号 発明の名称 接触端子 出願日 平成25年4月19日(特願2013-88790(特願 2011-271985(以下「原出願」という。)の分 割)) 原出願日 平成23年12月13日 優先日 平成23年9月5日(特願2011-192407)(以 下「本件優先日」という。) 登録日 平成26年1月10日 イ 本件特許権に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりであ る(以下,この発明を「本件発明」といい,その特許を「本件特許」とい う。。 ) 「管状の本体ケース内に収容されたプランジャーピンの該本体ケースから の突出端部を対象部位に接触させて電気的接続を得るための接触端子であ って, 前記プランジャーピンは前記突出端部を含む小径部及び前記本体ケース の管状内周面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部を有 する段付き丸棒であり,前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体 ケースから突出するように前記本体ケースの管状内部に収容したコイルバ ネで付勢し, 前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記 大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に,押付部材の球状面からなる球 状部を前記コイルバネによって押圧し,前記大径部の外側面を前記本体ケ ースの管状内周面に押し付けることを特徴とする接触端子。」 ウ 本件発明は,次の構成要件に分説される(以下,個別の構成要件をその 段落番号に従い「構成要件A」などという。。 ) A 管状の本体ケース内に収容されたプランジャーピンの該本体ケースか らの突出端部を対象部位に接触させて電気的接続を得るための接触端子 であって, B 前記プランジャーピンは前記突出端部を含む小径部及び前記本体ケー スの管状内周面に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部 を有する段付き丸棒であり, C 前記プランジャーピンの前記突出端部を前記本体ケースから突出する ように前記本体ケースの管状内部に収容したコイルバネで付勢し, D1 前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する 前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部に, D2 押付部材の球状面からなる球状部を前記コイルバネによって押圧し, D3 前記大径部の外側面を前記本体ケースの管状内周面に押し付けるこ とを特徴とする接触端子。 ? 被告アップルジャパンの行為 ア 被告アップルジャパンは,遅くとも平成26年1月10日から,被告製 品を日本に輸入して販売している(被告アップルが被告製品を日本に輸入 して販売しているか否かについては争いがある。。 ) イ 被告製品の電源アダプタの接続部分にはポゴピンが組み込まれている。 このポゴピンは,本体ケースの中にプランジャーピン,コマ(構成要件D 2の「押付部材」に相当するとされる部材)及びコイルバネが別紙被告ポ ゴピン断面図(ポゴピンの断面写真。甲4参照)のとおり組み合わされた 構造となっている。 2 争点? 被告製品における構成要件充足性(なお,被告らは後記ア〜ウ以外の構成 要件の充足性を争っていない。) ア 構成要件D1「略円錐面形状を有する傾斜凹部」の充足性 イ 構成要件D2「押付部材の球状面からなる球状部」の充足性 ウ 構成要件D2「押圧」の充足性? 本件特許についての無効理由の有無(乙21文献及び乙22文献の意義は 後記のとおりである。) ア 冒認出願 イ 共同出願違反 ウ 乙21文献による進歩性の欠如 エ 乙22文献による進歩性の欠如 オ 補正要件及び分割要件違反? 被告アップルの実施権の有無? 損害額3 争点についての当事者の主張? 争点?(被告製品における構成要件充足性)について (原告の主張) ア 構成要件D1「略円錐面形状を有する傾斜凹部」の充足性 被告製品のプランジャーピンの大径部の底部は円錐面状に傾斜してへこ んでおり,断面を見ると頂点及び2本の直線があるから,略円錐面形状を 有していることは明らかであり,構成要件D1「略円錐面形状を有する傾 斜凹部」を充足する。 イ 構成要件D2「押付部材の球状面からなる球状部」の充足性 「押付部材」は,特許請求の範囲の文言上「球状面からなる球状部」を 備えるという限定しかないところ,通常の用語の意義に照らすと,その一 部に球状の面があればよいと解すべきである。被告製品のポゴピンのコマ は一部に球状面があるから,構成要件D2「押付部材の球状面からなる球 状部」を充足する。 被告は,「押付部材」が「球」に限られる旨主張する。しかし,本件明 細書において「球」が開示されているから同時に「球」を構成する「球状 面」についても開示されているといえるし,本件発明はコイルバネの弾性 力の作用する方向を変更させてプランジャーピンを傾かせることに技術的 意義がある(段落【0033】)ところ,こうした技術的意義を実現する には押付部材の一部に球状の面があれば足りる。また,本件の特許出願に おける審査経過を見ても,原告は本件の特許出願に関する早期審査に関す る事情説明書(乙7)において「押付部材」が「ボール」である旨の記載 をしているが,押付部材について強調する趣旨の記載でないし,平成25 年10月25日付け拒絶理由通知(乙4)の後に「少なくとも一部に球状 面を有する押付部材」との記載を「押付部材の球状面からなる球状部」と 補正した(乙6)のは,表現を分かりやすくするためにすぎないのであっ て,「押付部材」を「球」に限定する趣旨を含んでいない。したがって, 被告の主張は失当である。 ウ 構成要件D2「押圧」の充足性 「押圧」の通常の意義は「圧して押さえつけること」である。傾斜凹部 に対し球状部を圧して押さえつければコイルバネの弾性力の作用する方向 を変えてプランジャーピンを傾かせるという本件明細書記載の本件発明の 技術的意義(段落【0033】)を達成することができるから,「押圧」の 意義は上記のとおり解すべきである。被告製品のポゴピンのコマは,コイ ルバネによってプランジャーピンの大径部の底部に圧して押さえつけられ るから,構成要件D2「押圧」を充足する。被告が主張するように従前の 発明(乙8,12等)及び本件発明の意義に照らして「押圧」の意義は押 付部材が傾斜凹部と円周状に接触して押圧されることであると解釈する必 要はない。 (被告らの主張)ア 構成要件D1「略円錐面形状を有する傾斜凹部」の充足性 構成要件D1の「円錐面形状」は本件明細書において定義されていない ところ,「円錐面」は一般的に「一つの直線の周りに,これと交わるもう 一つの直線を一回りさせたときに後者の直線が描く曲面」の形やありさま を意味するから,「略」なる語の有無にかかわらず円錐面形状の回転軸が 通る断面には頂点と2本の直線がなければならない。 ところが,被告製品のプランジャーピンには断面において頂点及び直線 を有する円錐面形状がないから,被告製品は構成要件D1を充足しない。 イ 構成要件D2「押付部材の球状面からなる球状部」の充足性 構成要件D2の「押付部材の球状面からなる球状部」について,原告は, 本件の特許出願に関する早期審査に関する事情説明書(乙7)において, 以下のとおり補正される前の「少なくとも一部に球状面を有する押付部材 の球状部」という特許請求の範囲の記載のうち「押付部材」が「ボール」 であることを認めていた。 また,平成25年10月25日付け拒絶理由通知(乙4)において,特 許請求の範囲の請求項1には「少なくとも一部に球状面を有する押付部材」 が記載されているが,原出願に「押付部材」として記載されていたのは 「絶縁球」のみであり,「少なくとも一部に球状面を有する押付部材」ま でもが原出願に記載されていないから,上記請求項1に係る発明は適法な 分割出願でないという指摘を受けたのに対し,原告は反論することなく 「少なくとも一部に球状面を有する押付部材の球状部」を「押付部材の球 状面からなる球状部」と補正した(乙6)。このことによって,原告は 「少なくとも一部に球状面を有する押付部材」の権利化を断念して放棄し たから,構成要件D2の「押付部材」は単なる「球」であると解すべきで ある。 ところが,被告製品の押付部材は,マッシュルーム形状であり,球でな いから,構成要件D2を充足しない。 ウ 構成要件D2「押圧」の充足性 原告は,前記事情説明書(乙7)において,本件発明はボールと円錐傾 斜面を用いる点で従前の発明(乙8,12等)と発明の思想の違いがある と主張している。また,本件明細書によれば,比較的大なる電流を流し得 る接触端子を提供するという本件発明の課題(段落【0008】)を解決 するには絶縁球を円錐面の中心軸に安定して位置させることが必要であり (段落【0014】【0015】,その上で,プランジャーピンの凹穴の , ) 底部には略円錐面形状の傾斜面を有するので絶縁球は傾斜面の中心軸状に その中心を安定して位置させ得る(段落【0032】。このとおり絶縁球 ) を安定して位置させることができるのは,円錐面形状と球が円周状の線で 接することとなるからである。こうした出願経過及び本件明細書の記載を 参酌すれば,構成要件D2「押圧」は押付部材が傾斜凹部と円周状に接触 して押圧されることをいうと解すべきである。 ところが,被告製品の押付部材の先端はプランジャーピンの底面の1点 でのみ接しているから,構成要件D2を充足しない。 ? 争点?(本件特許についての無効理由の有無)について (被告らの主張) ア 冒認出願 本件発明は,被告アップルの技術者であるY氏(以下「Y」という。) が発明したものである。Yは,本件発明の特許を受ける権利を有し,これ を原告に対して譲渡していない。 また,原告と被告アップル及びアップル・セールス・インターナショナ ルの間で締結されたMaster Development and Supply Agreement(以下 「MDSA」という。)10.1条?に基づき,●(省略)● したがって,出願人を原告とする本件特許は特許を受ける権利のない出 願人による出願に係るものである(特許法123条1項6号,49条7 号)。 イ 共同出願違反 仮に本件発明に係る特許を受ける権利を被告アップルが単独で有しない としても,本件発明は原告の従業員であるXと被告アップルの従業員であ るYの共同発明であるから,本件特許は共同出願違反である(特許法12 3条1項2号,73条1項,38条)。 ウ 乙21文献による進歩性の欠如 本件優先日前の平成16年に公開された刊行物である特開2004-1 79066号公報(乙21。以下「乙21文献」という。)には,@筒状 部材内に収容された可動プランジャーの,筒状部材からの小径部の先端の 突起部を,ICパッケージの外部端子に接触させて電気的接続を得るため のコンタクトであること(構成要件Aに相当),A可動プランジャーは突 起部を含む小径部及び筒状部材の内で摺動しながらその長手方向に滑動可 能な大径部を有する段付き丸棒であること(同Bに相当),B本体ケース の管状内部に収容されたばね部材により可動プランジャーの突起部が筒状 部材から突出するように付勢されること(同Cに相当),C可動プランジ ャーの中心軸から偏心した中心軸を有する大径部の円錐形状の窪み部があ ること(同D1に相当),D可動プランジャーの大径部の円錐形状を有す る窪み部をばね部材によって直接押圧すること及びE可動プランジャーの 大径部の外側面を筒状部材に押しつけること(同D3に相当)が開示され ている。そのうちDは,構成要件D2と相違するものの,他の文献(乙2 3〜29)に照らして当業者が容易に想到し得る。 したがって,本件発明は出願前に当業者が容易に発明をすることができ たもの(特許法29条2項)である。 エ 乙22文献による進歩性の欠如 本件優先日前の平成16年に国際公開され,平成18年に国内で公表さ れた刊行物である特表2006-501475号公報(乙22。以下「乙 22文献」という。)には,@中空バレル内に収容されたプランジャーの 中空バレルから突出するプランジャーの頂部をプリント回路基板に接触さ せて電気接続を得るための電気的接触プローブであること(構成要件Aに 相当),Aプランジャーがその頂部及びバレルの空洞の内径に押し付けな がらその長手方向に沿って移動自在の端部を有する段付き丸棒であること (同Bに相当),Bプランジャーの頂部をバレルから突出するようにバレ ルの空洞に収容したスプリングでプランジャーを外方に偏倚すること(同 Cに相当),Cプランジャーの中心線と開口の中心軸線を有する開口の円 錐形状の窪みがあること,Dプランジャーの開口の円錐形状を有する窪み をスプリングによって直接押圧すること及びEプランジャーの端部の外面 をバレルの空洞の内径に押しつけること(同D3に相当)が開示されてい る。そのうち,Cは同D1と相違するものの略円錐面形状を設ける位置 (深さ)は適宜調整し得ることに照らし,Dは同D2と相違するものの他 の文献(乙23〜29)に照らし,それぞれ当業者が容易に想到し得る。 したがって,本件発明は出願前に当業者が容易に発明をすることができ たものである。 オ 補正要件及び分割要件違反 本件特許の原出願において「押付部材」として記載されていたのは「絶 縁球」のみであり,少なくとも一部に球状面を有する押付部材までもが原 出願に含まれているとはいえないから,そのようなものが本件発明の技術 的範囲に含まれるとの原告の主張に従うとすれば,本件の特許出願は適法 な分割出願でないことになる。その結果,本件特許は原出願の公開公報 (特開2013-068593号公報)により新規性を欠く(特許法29 条1項3号)。 また,本件の特許出願が原出願の分割出願であることからすれば,平成 25年11月8日付け手続補正書(乙6)における補正後の請求項1記載 の本件発明は,原出願に記載されていなかった「少なくとも一部に球状面 を有する押付部材」を包含するものであるから,出願当初の明細書に記載 されていない事項を追加する補正であり,補正要件に違反する(同法17 条の2第3項)。 (原告の主張)ア 冒認出願 本件発明は構成要件D1〜3を特徴的部分とするものであるところ,こ の部分はXが単独で発明したもので,Yは関わっていない。原告は,Xか ら本件発明に係る特許を受ける権利を承継した。 また,作業指示書(乙2)によればMDSA10.1条?に基づき● (省略)●ところ,原告は被告アップルに本件発明に関する設計図面又は 製品を提供していない。仮に上記規定が●(省略)●であれば,上記規定 は私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律2条9項5号ロにいう 優越的地位の濫用に当たり,公序良俗に反して無効である。したがって, 本件発明に係る特許を受ける権利は被告アップルに移転しない。 イ 共同出願違反 上記アのとおり,本件発明はXが独自に発明したもので,Yは本件発明 の特徴的な部分の創作に関わっておらず,本件発明の共同発明者でない。 ウ 乙21文献による進歩性の欠如 乙21文献記載の発明にいう円錐形状を有する窪み部は,押付部材の球 状面からなる球状部がコイルバネによって押圧される(構成要件D2)も のでないから,本件発明にいう「傾斜凹部」に相当しない。また,前記他 の文献(乙23〜29)記載の周知技術は,ばね部材の弾性力の作用する 方向を凹部でなく傾斜部と球状面により変更させることでプランジャーピ ンを傾かせるものであって,乙21文献記載の発明と技術的思想が異なる から,これらを組み合わせる動機が得られない。その上,構成要件D2を も備えるものとしてプランジャーピンからの電流をより確実に本体ケース へ流すようにした本件発明の技術的思想と乙21文献記載の発明の技術的 思想は明らかに異なる。 したがって,本件発明は乙21文献及び上記周知技術から出願前に当業 者が容易に発明をすることができたものでない。 エ 乙22文献による進歩性の欠如 乙22文献記載の発明は,被告らも認めるとおり,開口の位置がプラン ジャーの大径部にないし,押付部材の球状面からなる球状部がコイルバネ によって押圧されるものでない。また,この発明は長いプランジャー行程 を確保するための発明であるから,前記ウの周知技術を適用すると同行程 が短くなってしまい,この発明の前提を欠くことになって,周知技術を適 用する動機を欠く。 したがって,本件発明は乙22文献及び上記周知技術から出願前に当業 者が容易に発明をすることができたものでない。 オ 補正要件及び分割要件違反 本件特許の原出願の明細書においては,「球」が開示されているから, 同時に「球」を構成する「球状面」についても開示されている。このこと は文献(甲40〜42,44)に照らすと押付部材に「球状面」を採用す ることが技術常識であることからも自明である。また,「少なくとも一部 に球状面を有する押付部材」は「押付部材の球状面からなる球状部」と同 義である。 したがって,本件の特許出願は分割要件に違反しないし,被告らの主張 する補正要件違反もない。 ? 争点?(被告アップルの実施権の有無)について (被告らの主張) 被告アップルは,MDSA10.2条?に基づき,●(省略)● (原告の主張) 原告が被告アップルに供給しているポゴピンに本件発明に係る技術は使用 されていないから,MDSA10.2条?に基づき●(省略)●? 争点?(損害額)について (原告の主張) ア 特許法102条3項に基づく損害 被告製品1は1か月当たり2億9783万5200円,被告製品2は1 か月当たり5億9567万0400円の各売上げがあるところ,本件特許 の実施料率は10%を下らないから,本件特許の実施料相当額は1か月当 たり8935万0560円である。そうすると,本件特許権の登録日であ る平成26年1月10日から同年8月5日までにおける原告の損害額は少 なくとも6億0807万3400円である。 イ 弁護士費用 本件訴訟追行に当たって相当な弁護士費用は6080万7340円であ る。 (被告らの主張) 否認ないし争う。 |
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当裁判所の判断
1 争点?イ(構成要件D2「押付部材の球状面からなる球状部」の充足性)に ついて 事案に鑑み,争点?イから判断する。 本件発明の「押付部材」に対応する被告製品中の「コマ」は,別紙被告ポゴ ピン断面図のとおり,球形ではなく,一部に球状の面を有するにとどまる。被 告が押付部材は球に限られるので被告製品は構成要件D2を充足しない旨主張 するのに対し,原告は押付部材の一部(プランジャーピンの傾斜凹部に押圧さ れる部分)が球状の面であれば足りる旨主張するので,以下,検討する。 ? まず,特許請求の範囲の記載をみるに,本件発明は,コイルバネで付勢し てプランジャーピンを突出させる接触端子に関するものであり(構成要件A 〜C),コイルバネがプランジャーピンを直接押圧するのではなく,コイル バネとプランジャーピンの間に「押付部材」が介在し,これがコイルバネか ら付勢を受けて,その「球状面からなる球状部」がプランジャーピンの傾斜 凹部を押圧することに特徴がある(構成要件D1〜3)。 この「押付部材」という語は当該部材が果たす機能をそのまま記述したも のであるところ,その形状に関しては,プランジャーピンの傾斜凹部に押圧 される部分が「球状面からなる球状部」であるとされるのみであり,それ以 外の部分(コイルバネから付勢される部分,コイルバネ側とプランジャーピ ン側の中間部分)の形状については特許請求の範囲に何ら記載がない。そう すると,上記押圧される部分が球状に丸くなっていればそれ以外の部分はい かなる形状でもよいと解する余地がある。他方,押付部材の形状は,上記機 能を果たし得るものに限定されると考えられる上,同機能を果たすものであ ればいかなる形状の部材でも本件発明の技術的範囲に含まれるとすることは, 現に発明をして明細書に開示した範囲で保護を与えるという特許制度の趣旨 に反しかねない。そこで,特許請求の範囲に記載された「押付部材」の語の 意義を解釈するため,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明の記載及び図 面を考慮することとする。 ? 本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみると,「押付部材」との語は一 切用いられていない。本件発明の接触端子においてプランジャーピンとコイ ルバネの間に介在する部材として開示されているのは「絶縁球」のみであり, 図面に示されたのも球のみである。 すなわち,本件発明は,背景技術として,コイルバネが直接プランジャー ピンに触れるとコイルバネに電流が流れて焼き切れてしまうので,プランジ ャーピンとコイルバネの間に絶縁球を介在させた接触端子が存在したことを 前提に(段落【0002】〜【0004】,比較的大きな電流を流し得る接 ) 触端子を提供することを目的として(同【0008】,プランジャーピンの ) 大径部(コイルバネ側)の端部を切削して袋孔を形成し,その底部を円錐面 とするとともに,円錐の中心軸とプランジャーピンの中心軸をオフセットさ せることによって,プランジャーピンの大径部の外側面を本体ケースの内周 面に強く押し付け,確実に電流を流すことができるようにしたものである (同【0009】【0013】〜【0015】。そして,実施例及び参考例 , ) をみても,押付部材に相当する部材としては「絶縁球」のみが記載されてい る(同【0024】〜【0030】【0032】【0036】【0039】 , , , 〜【0042】【図2】【図4】【図6】。 , , , ) 以上のとおり,押付部材として本件明細書に開示されているのは球のみで あり,これと異なる形状の押付部材があり得ることを示唆する記載は見当た らない。そうすると,本件明細書の記載を考慮すると,本件発明における押 付部材の形状は球に限られると解するのが相当である。 ? さらに,本件特許の出願経過についてみるに,後掲の証拠及び弁論の全趣 旨によれば,@本件特許は,特願2011-192407号を優先権の基礎 とする特願2011-271985号(原出願)から分割出願されたものであること(甲2),A上記優先権の基礎とされた出願及び原出願は,いずれも名称を「接触端子」とする発明に関するものであり,特許請求の範囲,発明の詳細な説明及び図面を通じ,プランジャーピンとコイルバネの間に介在する部材として記載されているのは「絶縁球」のみであること(乙13,14),B本件特許は平成25年4月19日に分割出願されたものであり,その特許請求の範囲に,プランジャーピンとコイルバネの間に「押付部材」を介在させる旨記載されたこと(乙15),C原告は,同年10月11日,押付部材に係る特許請求の範囲の記載を「少なくとも一部に球状面を有する押付部材の球状部」と補正したこと(乙17),Dこれに対し,同月25日,特許法36条6項1号違反を理由1(発明の詳細な説明には押圧部材に絶縁球を用いることが記載される一方,請求項1には絶縁性を有しない押圧部材が記載されていること),同法29条1項3号及び2項の違反を理由2及び3(原出願に「押付部材」として記載されていたのは「絶縁球」のみであり,これを「少なくとも一部に球状面を有する押付部材」とすることは適法な分割出願でないので,請求項1記載の発明は原出願の公開特許公報により新規性又は進歩性を欠くこと)とする拒絶理由通知が発せられたこと(乙4),E原告は,同年11月8日,上記Cの補正後の特許請求の範囲の記載を「押付部材の球状面からなる球状部」と補正する旨の手続補正書と,絶縁性を有しない押付部材でも本件発明の効果を奏するので,発明の詳細な説明に記載されたものといえる旨の意見書を提出したこと(乙5,6),F同月27日に特許査定がされたこと(乙19),以上の事実が認められる。 上記事実関係によれば,本件発明の「押付部材」は,少なくとも一部に球状面を有するものでは足りず,その全体が球であるものに限られるということができる(仮に,一部にのみ球状面を有するものが含まれるとすれば,本件特許は違法な分割出願によるものとして新規性欠如の無効理由を有することが明らかである。。 )? 以上によれば,構成要件D2の「押付部材」は「球」に限定されると解す べきものであって,別紙被告ポゴピン断面図記載の「コマ」がこれに当たる とは認められないから,被告製品は本件発明の技術的範囲に属しないと判断 するのが相当である。 ? これに対し,原告は,@「押付部材」については,特許請求の範囲の文言 上,「球状面からなる球状部」を備えるという限定しかない,A本件明細書 には「球」が開示されているから,「球状面」も開示されている,Bコイル バネの弾性力の作用する方向を変更させてプランジャーピンを傾かせるとい う本件発明の技術的意義を実現するには,押付部材の一部に球状面があれば 足りる,C前記?Eの補正は,表現を分かりやすくするためであり,「押付 部材」を「球」に限定するものでない旨主張する。 そこで判断するに,上記@の主張は前記?及び?で説示したところに照ら し失当である。上記Aの主張につき,本件明細書が開示するのが球のみであ ることは前記?のとおりであり,表面の一部に球状の部分がありさえすれば 他の部分はいかなる形状であってもよい旨の開示があるとは解し得ない。上 記Bの主張につき,技術的意義について原告主張のように考えられるとして も,本件明細書には一部に球状面があれば足りることをうかがわせる記載は なく,原告の主張は本件明細書の記載を離れたものというほかない。上記C につき,原告主張のように一部が球状面であればよいというのであれば補正 前の「少なくとも一部に球状面を有する押付部材」との記載のままで十分明 確であり,原告がこれを「押付部材の球状面からなる球状部」と補正したの は,「少なくとも一部」と記載したのでは分割要件違反により新規性又は進 歩性を欠く旨の拒絶理由を回避するためであったとみるのが合理的である。 したがって,原告の主張はいずれも採用できない。 2 結論 以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 長谷川浩二 |
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裁判官 | 萩原孝基 |
裁判官 | 中嶋邦人 |