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関連審決 無効2014-800010
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事件 平成 27年 (行ケ) 10075号 審決取消請求事件

原告株式会社シーエンジ
訴訟代理人弁護士 岩瀬吉和
同 後藤未来
同 福田一翔
訴訟復代理人弁護士 早田尚貴
訴訟代理人弁理士 小野誠
被告 株式会社エアウィーヴ
訴訟代理人弁護士 塩月秀平
同 水戸重之
同 根本浩
同 田代啓史郎
同 梨義幸
訴訟代理人弁理士 深澤拓司
同 村和宗
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/03/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2014-800010号事件について平成27年3月31 日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は,平成24年10月24日,発明の名称を「立体網状構造体,立体 網状構造体製造方法及び立体網状構造体製造装置」とする発明について特許 出願(特願2012-234690号。出願日を平成13年3月16日とす る特許出願(特願2001-76171号)(以下「原出願」という。)の 分割出願(特願2001-348871)の分割出願(特願2010-26 0658)の分割出願。)をし,平成25年8月16日,特許第53404 70号(請求項の数3。以下「本件特許」という。)として特許権の設定登 録を受けた(甲20,36)。
(2) 被告は,平成26年1月16日,本件特許に対し特許無効審判を請求した (甲21,36)。原告は,同年10月17日付けで,請求項1ないし3に つき訂正請求(以下「本件訂正」という。)をした(甲31)。
特許庁は,上記請求につき無効2014-800010号事件として審理 を行い,平成27年3月31日,「訂正請求書に添付された明細書,特許請 求の範囲又は図面のとおり訂正を認める。特許第5340470号の請求項 1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本 件審決」という。)をし,その謄本は,同年4月9日,原告に送達された。
(3) 原告は,平成27年4月27日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提 起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載は,次のとおりであ る(以下,請求項の番号に応じて,請求項1に係る発明を「本件発明1」など といい,これらを総称して「本件発明」という。また,本件特許の明細書及び図面をまとめて「本件特許明細書」という。甲20,31)。
【請求項1】 熱可塑性樹脂を原料又は主原料とする溶融した線条を複数の孔を有する口金 を先端部に有するダイスから下方へ押し出し,表面に滑り性を持たせた板材の 間を水面に向けて降下させ,水中で該降下速度より前記線条を遅く引き込むこ とにより立体網状構造体を製造する方法であって,但し,該滑り性を持たせた 板材は,下方に向かって徐々に間隔が狭くなるように傾斜することで,前記押 出された線条の集合体の幅より該板材の下方の部分の間隔が狭く設定されて前 記線条の押し出し方向と垂直な方向の断面を規定し,且つ前記線条の集合体が 該板材の傾斜面と接触することで,前記線条の押し出し方向と平行な外周の全 ての表面側の密度が,前記表面側を除く部分の密度より相対的に高くなり,こ こで前記線条の押し出し方向と平行な外周の全ての表面側の空隙率が85%よ りも小さくなるようにし,且つ立体網状構造体がクッション材であることを特 徴とする,立体網状構造体の製造方法
【請求項2】 前記水中への線条の引き込みを引取装置により行う,請求項1に記載の製造 方法。
【請求項3】 前記断面が長方形状である,請求項1又は2に記載の方法。
3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに, 本件審決は,本件訂正を認めた上で,@原告が,平成25年7月22日付け でした,本件発明1の請求項1を「前記線条の押し出し方向と平行な外周の 全ての表面側の空隙率が85%よりも小さくなるように」とする補正は,願 書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合し て判断することによって導かれる技術的事項との関係において新たな技術 的事項を導入するものではないから,特許法17条の2第3項に違反しない, A本件発明の「前記線条の押し出し方向と平行な外周の全ての表面側の空隙 率が85%よりも小さくなるようにした」との事項は,本件特許明細書の発 明の詳細な説明に記載された事項であるから,本件特許の特許請求の範囲の 記載は同法36条6項1号に違反しない,B本件発明の「滑り性を持たせた 板材」の事項及び「表面側」の部位の事項に関し,本件特許明細書の発明の 詳細な説明の記載は同条4項1号に違反せず,また,本件特許の特許請求の 範囲の記載は,同条6項2号に違反しない,C本件発明は産業上利用するこ とができない発明ではないから,本件特許は同法29条1項柱書の規定を満 たしていない特許出願に対してされたものではない,D本件発明は,米国特 許第3936337号明細書及び抄訳(甲1)に記載された発明に基づき, 当業者が容易に想到し得たものではない,E本件発明は,特開平11-24 1264号公報(甲4)に記載された発明に基づき,当業者が容易に想到し 得たものであるから,本件発明に係る本件特許は,同法29条2項の規定に 違反し,同法123条1項2号に該当するので,無効とすべきものであると いうものである。
(2) 本件審決が認定した甲4に記載された発明(以下「甲4発明」という。 , ) 本件発明1と甲4発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 甲4発明 「溶融した樹脂5の線条をダイス2の下端に設けられた複数のノズル4 から下方へ押し出し,一対が間隔を置いて対向し縦方向に配置されたベル トコンベアー1の曲面部分の間を,水面に向けて自然降下させ,水中で該 降下速度より前記線条を遅く引き込むことにより立体網状構造体3を製造 する方法であって,前記ベルトコンベアーの曲面部分は,下方に向かって 徐々に間隔が狭くなるように傾斜することで,前記押し出された線条の集 合体の幅より該ベルトコンベアーの曲面部分の下方の部分の間隔が狭く設 定されて前記線条の押し出し方向と垂直な方向の断面を規定し,且つ前記 線条の集合体が該ベルトコンベアーの曲面部分の傾斜面と接触することで, 前記線条の押し出し方向と平行な外周の2面の表面部の密度が,前記表面 部を除く部分の密度より相対的に高くなり,前記2面の表面部の空隙率が 80%以下になるようにし,且つ立体網状構造体がクッション材である, 立体網状構造体の製造方法。」イ 本件発明1と甲4発明との一致点 「熱可塑性樹脂を原料又は主原料とする溶融した線条を複数の孔を有す る口金を先端部に有するダイスから下方へ押し出し,部材の間を水面に向 けて降下させ,水中で該降下速度より前記線条を遅く引き込むことにより 立体網状構造体を製造する方法であって,但し,該部材は,下方に向かっ て徐々に間隔が狭くなるようにすることで,前記押出された線条の集合体 の幅より該部材の下方の部分の間隔が狭く設定されて前記線条の押し出し 方向と垂直な方向の断面を規定し,且つ前記線条の集合体が該部材の面と 接触することで,前記線条の押し出し方向と平行な外周の表面側の密度が, 前記表面側を除く部分の密度より相対的に高くなり,ここで前記線条の押 し出し方向と平行な外周の表面側の空隙率が85%よりも小さくなるよう にし,且つ立体網状構造体がクッション材である,立体網状構造体の製造 方法。」である点。
ウ 本件発明1と甲4発明との相違点 (ア) 相違点3 本件発明1では,ダイスから押し出した線条を「表面に滑り性を持た せた板材の間を水面に向けて降下させ」るのに対して,甲4発明では, 表面の滑り性については明らかでなく,「一対が間隔を置いて対向し縦 方向に配置されたベルトコンベアー1の曲面部分の間を水面に向けて自 然降下させ」る点。
(イ) 相違点4 本件発明1では,線条の押し出し方向と平行な外周の「全ての」表面 側の密度が前記表面側を除く部分の密度より相対的に高くなり,「全て の」表面側の空隙率が85%よりも小さくなるのに対して,甲4発明で は,線条の押し出し方向と平行な外周の「2面の」表面部の密度が,前 記表面部を除く部分の密度より相対的に高くなり,「前記2面の」表面 部の空隙率が80%以下になる点。
当事者の主張
1 原告の主張 (1) 取消事由1(相違点4に係る容易想到性の判断の誤り) 本件審決は,@甲3(特公昭52-14347号公報)には,立体網状構 造体において外周の「全ての」表面側の密度を他の部分の密度よりも相対的 に高くすること(以下,この技術を「4面成形の技術」ということがある。) が記載されており,同様に外周の「全ての」表面側の密度を高くしたものは, 例えば甲13(米国意匠特許第352630号)にも示すように広く知られ ているところ,工業製品の製造分野において,共通の製造装置から可及的に 多様な製品を製造することは当然の要請であるから,甲4発明において,外 周の「全ての」表面側の密度が他の部分よりも相対的に高くされた立体網状 構造体の製造を試みることは,当業者であれば当然に想起されることにすぎ ない,Aまた,水面に向けて降下する線条を板材と接触させて傾斜面を滑ら せつつ表面側の密度を高めることは,例えば甲12(特公平4-33906 号公報)にも記載されているとおりであり,この種の立体網状構造体の製造 方法として,溶融し降下する線条と接触させて傾斜面を滑らせる部分に板材 を用いることは周知の技術である(以下「本件審決周知技術」という。)か ら,甲4発明において外周の「全ての」表面側の密度を他の部分の密度より も相対的に高くするために,線条の押し出し方向と平行な外周のうち相対的に高密度とすることを規定していなかった方の表面側にも,立体網状構造体の製造に用いることが知られている本件審決周知技術を適用し,外周の「全ての」表面側の密度を相対的に高いものとすることは,当業者であれば格別の困難なく想到し得たものといえる,Bそして,甲4発明において,前記表面側にも本件審決周知技術を適用し,「全ての」表面側を区別なく圧縮した場合,線条に横方向への逃げ場はなくなり,巻き込まれた空気は軽いので上方向に逃げるから,圧縮率は2面のみの場合よりもむしろ高くなり,したがって,甲4発明において,圧縮を,線条の押し出し方向と平行な外周の「2面の」表面部から「全ての」表面側に変更することにより,線条の押し出し方向と平行な外周の全ての表面側の空隙率が85%よりも小さくなることは明らかである旨判断した。
周知技術の認定の誤り (ア) しかしながら,甲3には,本件審決の指摘するように「別の変型例 として,連続した高密度の平滑な表面及び低密度の内部構造を形成さす ために,環状の接触プレートで完全に取りまかれた,全体的に環状ある いはだえん状あるいは別様に閉じられた断面を有する束にフィラメント を押し出すことがある。 (4欄30〜35行) 」 との記載があるものの, 甲3の2欄の8〜12行及び4欄の20〜30行の記載に照らすと,甲 3の上記部分に記載されたように上記環状の接触プレートによりマット の表面を平らで高密度にするのは,そのような平らな表面で接着剤によ り線条同士を結合するためであるし,しかも,甲3は,環状,だえん状, あるいは,これらに準じて,角がない形で外周を取り囲むように成形さ れた立体網状構造体を開示するにすぎない。そうすると,上記環状の接 触プレートの使用は,角がない形で外周を取り囲むようにしてできた表 面層で線条同士を接着剤によって結合させるためのものであって,本件 発明のように断面が四辺形のマットにおいてまで,外周の全ての表面層 の密度を高くして,その部分での引張り強度を著しく高めることを教示 しているとはいえない。このことは,甲3の表面層は,線条の束の外側 をプレート(板材)やドラムと軽く接触させるもので,線条の頂点が潰 れる程度のものであるが,本件発明の表面層は,線条の束よりも間隔が 狭められた板材の上を滑らせるため,線条が横倒しのループになって重 なり合うものとなることからも裏付けられる。
したがって,甲3は,立体網状構造体において外周の全ての表面側の 密度を他の部分の密度よりも相対的に高くする構成を一般的に開示する ものではなく,上記の構成が広く知られていることの根拠となる文献で はない。
(イ) 甲13に記載されたドアマットの製法等は詳らかにされておらず, 本件審決が上記認定の根拠とした甲13のFIG.6に記載されたドア マットについても,その上面及び下面の線条はループ状になって横倒し になりつつ重なり合っているが,他方,側面(FIG.6の手前から向 かって左奥に延びている部分。)では前記上面のようなループ状の構造 が形成されておらず,それが横倒しになってもいないから,当該ドアマ ットの上下面と両側面は,全く異なる方法で形成されており,上下面と 両側面とでは密度が同一でないことは明らかである。そもそも,甲13 のFIG.6からは,少なくともその側面が線条と板材を接触させるこ とで形成されたものであるかどうかは分からず,むしろ,一旦製造した 立体網状構造体を成形用の金型に収容し,熱プレスによって圧縮して最 終製品形状に加工する方法(後仕上げ)によって両側面が形成された蓋 然性が高く,このことは,甲13に対応する特許公報(甲18)におい て,側面を形成することが記載されていないことからも裏付けられる。
そうすると,甲13からうかがわれる技術思想は,後工程での仕上げを 不要とするという本件発明の解決課題と相容れないものである。
したがって,甲13も,立体網状構造体において外周の全ての表面側 の密度を他の部分の密度よりも相対的に高くする構成を一般的に開示す るものではなく,上記構成が広く知られていることの根拠となる文献で はない。
(ウ) しかも,周知技術をわずか1,2の証拠をもって認定することはで きない。
(エ) 被告が提出する文献についても,以下のとおり,外周の全ての表面 側の密度を高くした立体網状構造体が広く知られていることを裏付ける ものではない。
a 乙1(特開2000-248455号公報)に開示されたクッショ ン体の製法は,線条の束が水面付近で水面から抵抗を受けて螺旋状に なった際に,その最外部をガイド部のローラーとわずかに触れさせる 程度のものであるから,当該表面側の密度が,必ずしも内部の密度よ りも高いとはいえないし,少なくとも,本件発明の立体網状構造体の ように,外周の全てで引張り強度を高めることを目的としていないの は明らかである。
仮に上記のようにして製造された立体網状構造体の表面側の密度が 内部の密度よりも幾分高いとしても,それが,一般的に,外周の全て の表面側の密度を高くしたものを開示しているということはできない。
b 乙2(特開平1-321965号公報)記載の発明は,「未だ固化 しないうちの線条に,回転体,往復桿,振動桿等繊細化用装置を作用 させて立体網状集合体の表層部の一部分を繊細化するようにしたもの」 (2頁右上欄9〜12行)であり,乙2の第1図において,「11」 と記された回転体と「12」と記された往復桿に線条群を触れさせる ことで,その部分から下の部分で線条の螺旋構造を繊細化するもので あって,線条群の外周面を水流で遮蔽するのは,ノズルから下向きに 噴出した線条を,上記「11」の回転体及び「12」の往復桿に接触 させるように導くためのものにすぎない。また,繊細化は,線条群が 回転体等と接触した部分でのみ生じるにすぎない。
したがって,乙2には,外周の全ての表面側の密度を高くした立体 網状構造体の記載はない。
c 乙3(特開昭48-9014号公報)記載の発明は,線条群が,「未 だ固化せざる間にこれを捲,褶曲せしめると共に振動又は静止状態で 相互に一部分を接点溶着せしめ,然る後直ちにこれを冷却液中にて冷 却固化して引取る」(3頁左上欄7〜10行)ものであり,乙3の振 動リングは,落下してきた線条群をそこで一旦受け止めて,それを振 動させることで線条同士の熱接着を促進するためのものであって,表 面側も内部も分け隔てなく,密度及び風合いを変化させるものである。
したがって,乙3には,外周の全ての表面側の密度を高くした立体 網状構造体の記載はない。
(オ) 甲3及び13に開示された立体網状構造体は,高い弾性を有するも のであり,表面部の空隙率が80%以下と高い弾性を示さない甲4発明 とは相反する特徴を有するものである。また,乙1記載のクッション体 の製法は,原料である熱可塑性樹脂からなる線条の束が水面付近で水面 から抵抗を受けて螺旋状になった際,成形のために,その最外部をガイ ド部のローラーとわずかに触れさせるという程度のものであるし,クッ ション性能ないしクッション性が重視されているから,甲4発明の立体 網状構造体と同等に表面密度を高めることが想定されていないことは明 らかである。乙2記載の技術は,立体網状態の表層部に微細な加工を行 うことを目的とするものであって,表面部に圧力を加えて密度を高める ことを特徴とする甲4発明とは正に真逆の特徴を有する。乙3記載の技 術も,振動リングにより,落下してきた線条群をそこで一旦受け止めて, それを振動させることで線条同士の熱接着を促進するのみであり,かつ, 空隙率の大きな立体網状集合体を簡易迅速に製造することに重きが置か れているものである。
したがって,上記各文献に記載された技術はいずれも本来甲4発明と 組み合わせることが困難なものであるから,これらを一括して上位概念 化して4面成形の技術を周知技術として認定することはできない。
(カ) 以上によると,甲3,13及び乙1ないし3に基づき,一般的に外 周の全ての表面側の密度を高くした立体網状構造体が周知であったいう ことはできず,これが周知であるとした本件審決の認定は誤りである。
容易想到性の判断の誤り 本件審決は,甲4発明において相違点4に係る構成を採用することの動 機付けにつき,工業製品の製造分野において,共通の製造装置から可及的 に多様な製品を製造することは当然の要請であるから,甲4発明において, 外周の「全ての」表面側の密度が他の部分よりも相対的に高くされた立体 網状構造体の製造を試みることは,当業者であれば当然に想起されること にすぎないと判断した。
(ア) しかしながら,上記の判断につき,立体網状構造又はその製造とい う場面で,上記の要請が常に当てはまることについての証拠や根拠は一 切示されていない。
これに対し,被告は,甲4に記載された2面成形の立体網状構造体の みならず,甲3,13及び乙1ないし3には外周の全ての表面側の密度 を高くした4面成形のものが記載されていることを根拠に,共通の立体 網状構造体製造装置から可及的に多様な製品を製造することも当然の要 請である旨主張する。
しかしながら,甲3及び乙1ないし3は,専ら前記ア(ア)及び(エ)の 内容の技術を開示するのみであり,一般的に外周の全ての表面側の密度 を高くした立体網状構造体を開示するものではなく,前記ア(イ)のとお り,甲13も後工程での仕上げを不要とするという本件発明の解決課題 と相容れないものである。また,上記各文献は,立体網状構造体の外周 の全ての表面側の密度を高めることにより,立体網状構造体の耐久性を 向上させることの示唆もなく,立体網状構造体の外周の全ての表面側の 密度を高めるために,両側面を上下面と同時に成形することの開示も示 唆もない。
したがって,甲3,13及び乙1ないし3を根拠として,共通の立体 網状構造体製造装置から可及的に多様な製品を製造することが当然の要 請であるということはできない。
(イ) 甲4発明において,1対のベルトコンベアーを両側面にも適用しよ うとすると,単純に両側面に1対のベルトコンベアーを追加すればよい というものではなく,上下面の1対のベルトコンベアーと両側面の1対 のベルトコンベアーを同期駆動させるための複雑な機構を設置すること が必要になるが,甲4には,立体網状構造体の耐久性を向上させるため に,その外周の全ての表面側の密度を高めることにつき開示も示唆もな い以上,当業者が,「共通の製造装置から可及的に多様な製品を製造す ることは当然の要請」というだけの理由で,上記のような複雑な機構を あえて採用し,甲4発明にもう1対の両側面用ベルトコンベアーを追加 するものとは考えられない。
本件審決は,本件特許明細書の記載から,甲4発明の「線条の幅より も間隔が狭く設定された1対のベルトコンベアー」 本件発明1の を, 「線 条の幅よりも間隔が狭く設定された1対の板材」に代えることで,いず れも表面側の密度を高くして引張強度を強めることができ,かつ,本件 発明1の板材を用いると,可動部を減少させて装置を簡略化できること が分かり,上記の複雑な同期機構などを想定する必要がないことも分か ることから,上記の判断をしたものとも考えられるが,同判断は,甲4 において,表面側の密度を高め,当該全ての表面側で引張強度を著しく 高めることは開示の示唆もされていないのに,甲4発明の上下面用の1 対のベルトコンベアーを本件発明1の1対の板材に置き換え得ることが 分かれば,そのことのみを理由にして,当該板材を両側面にも適用する ことが直ちに動機付けられると断じているにすぎないのであって,その ような理由付けが後知恵であることは明らかである。
なお,甲3は,立体網状構造体の表面側の引張強度を著しく強くする ことを一切意図しておらず,よって,甲4発明の上下面用の1対のベル トコンベアーを両側面にも追加することを示唆し得ないものであるし, 甲13は,そもそもベルトコンベアーや板材によって両側面を形成して いるようなものでないから,これらの文献に,甲4発明において外周の 「全ての」表面側の密度が他の部分よりも相対的に高くされた立体網状 構造体の製造を試みることの動機付けが開示ないし示唆されているもの でもない。
(ウ) 甲4の記載(段落【0008】,【0023】〜【0025】)に 照らすと,甲4発明によって製造される立体網状構造体は,クッション 材等として外部に作用する上下面について表面の密度を高めることによ って所望の効果を発揮するものであるから,外部に作用しない側面部分 についてまで同様の構成を採る必要はなく,そのようなことは一切示唆 されていない。したがって,後工程での仕上げを不要とし,整列度を高 め,異形形状への対応を可能とし,耐久性を向上させた立体網状構造体 の製造方法及び製造装置を提供するとの本件発明の解決課題(本件特許 明細書段落【0004】)に接しているわけではない当業者が,上下2 面の密度強化に関する技術である甲4発明に,4面成形の技術を適用す る動機付けはない。
かえって,甲4の段落【0003】の記載に照らすと,クッション材 等として外部に作用する面ではない側面についてまで密度を高める構成 を採用すれば,従来の方法で製造された立体網状構造体が有していた優 れた弾性というメリットを減殺しかねない。そうすると,甲4発明に接 した当業者は,4面成形の技術が周知であったとしても,甲4発明の効 果と無関係な側面部分についてまで4面成形の技術を適用して密度を高 めようとするはずがなく,甲4発明には,4面成形の技術との組合せを 阻害する事由がある。
(エ) しかも,4面成形の技術を認定する根拠とされる甲3,13及び乙 1ないし3記載の技術が甲4発明と組み合わせることができないもので あることは,前記ア(オ)のとおりであるから,甲4発明に4面成形の技 術を組み合わせることはできない。
(オ) 被告は,仮に,工業製品の分野において,共通の製造装置から可及 的に多様な製品を製造することが当然の要請でなかったとしても,立体 網状構造体の上下面と立体網状構造体の両側面は,ともに立体網状構造 体の一対の面である点において同じであり,また,上面,下面及び側面 の区別は,外周面が4面である立体網状構造体の周面を呼称する際の形 式的なものにすぎないのであるから,ある1面に対して適用することが 知られている成形技術を,他の1面にも用いることは,当該ある1面に 対する成形技術の適用と本質的に何ら変わりがなく,上下面の成形技術 を両側面に適用することが困難であるとする理由もなく,当業者であれ ば技術的に当然に適用を試みる範囲内の事項であるから,その動機付け も当然に存在するといえる旨主張する。
しかしながら,後工程での仕上げを不要とし,整列度を高め,異形形 状への対応を可能とし,耐久性を向上させるという本件発明の課題を解 決するために,甲4に記載の1対のベルトコンベアーを2対にする際に は,当該2対のベルトコンベアーの引取り速度を調節しなければならな いことは,甲4には記載されていない。本件発明においては,4面の全 表面で密度を高めて引張り強度を強めるために,線条の集合体の幅より も間隔を狭くした2対の引取り装置を用いる場合,1対の引取り装置の 引取り速度を適切に調整すれば,マットの上下面で綺麗なループ構造が 形成されて所望の引張り強度が得られるが,もう1対の引取り装置もそ の速度と同期させないと両側面では所望の構造が得られないとの問題に 直面して,傘歯車を用いて2対の引取り装置を同期させるという創意工 夫が必要であったのだから,上下面の成形技術を両側面に適用すること が当業者であれば技術的に当然に適用を試みる範囲内の事項だったとは いえない。
(カ) したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
そして,本件審決の,甲4発明において,表面側にも本件審決周知技 術を適用し,「全ての」表面側を区別なく圧縮した場合,線条に横方向 への逃げ場はなくなり,巻き込まれた空気は軽いので上方向に逃げるか ら,圧縮率は2面のみの場合よりもむしろ高くなる,したがって,甲4 発明において,圧縮を,線条の押し出し方向と平行な外周の「2面の」 表面部から「全ての」表面側に変更することにより,線条の押し出し方 向と平行な外周の全ての表面側の空隙率が85%よりも小さくなるとの 判断も,甲4発明の全ての表面側の密度を高めることの動機付けがない 以上,誤りである。
(2) 取消事由2(有利な効果に対する判断の誤り) 原告は,審判手続において,本件発明1の板材は,引き込み装置やローラ ーと違って,可動部分がない簡単な構造であるため,その間隔を容易に変更 でき,これにより,立体網状構造体製品の寸法等に対する多様な要求に柔軟 に対応可能とすることのほか,立体網状構造体を作製する際に,その寸法や 密度を正確に仕上げ得る効果を有する旨主張したが,本件審決は,本件特許 の請求項1には,板材の間隔を変化させることについて,何ら規定されてい ないから,上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって, 理由がない旨判断した。
しかしながら,本件特許明細書には,板材の間隔を可変とすることで,立 体網状構造体の左右前後の密度,形状等を変化させ得ることが記載されてい る。また,本件発明1の板材を引き込み装置やローラーに代えて用いること で,可動部分を省いて装置を簡単に作製することができる上,当該装置の稼 働が容易であることも,当業者であれば容易に理解できるから,たとえ請求 項1に板材の間隔が可変であることが明記されていないとしても,この点は, 板材を用いると規定していることのみから当業者が直ちに理解できる技術事 項である。
したがって,本件審決が,本件発明1の上記効果を参酌しなかったことは 誤りである。
(3) 取消事由3(本件発明2及び3の容易想到性の判断の誤り) 本件審決は,本件発明1と同様の理由により本件発明2及び3も当業者が 容易になし得たと判断した。
しかしながら,前記1及び2と同様の理由により,本件審決の上記判断は 誤りである。
2 被告の主張(1) 取消事由1に対し ア 周知技術の認定の誤りについて (ア) 甲3には,環状の接触プレートによりマットの表面を平らで高密度 にすることが記載されている。そして,甲3における接着剤の使用に関 する記載は,4欄15〜24行の記載にも照らすと,既に熱融着により 結合しているフィラメント(線条)同士を接着剤で一層強固に結合し得 る旨の説明にすぎないから,甲3には,接着剤を付ける以前において既 に,表面部分の密度がその表面部分を除く部分の密度より相対的に高く なることが明示されている。
したがって,接着剤の有無などに関係なく,甲3は,立体網状構造体 において外周の全ての表面側の密度を他の部分の密度よりも相対的に高 くする構成を一般的に開示するものである。
また,甲3には角がない形で外周を取り囲むなどという記載は一切な く,角があろうがなかろうが,立体網状構造体において外周の全ての表 面側の密度を他の部分の密度よりも相対的に高くすることが甲3に記載 されていることに何ら変わりはない。
したがって,本件審決が,甲3に,立体網状構造体において外周の全 ての表面側の密度を他の部分の密度よりも相対的に高くすることが記載 されているとした点に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
(イ) 甲13のFIG.6から,外周の全ての面の線条が面に平行な方向 に延在して高密度となり,かつ,内部の線条は乱雑に絡み合って低密度 であることがみてとれる。
そもそも,本件審決は,甲13のFIG.6より,外周の全ての面の 線条が面に平行な方向に延在して高密度となり,内部の線条は乱雑に絡 み合って低密度であることがみてとれるから,甲13には外周の全ての 表面側の密度を高くしたものが記載されていると認定しているのであっ て,原告が指摘する各点は審決の認定の誤りを指摘する根拠となるもの ではない。また,甲13のドアマットが甲18記載の製法により製造さ れたことなど,甲13にも甲18にも何ら記載されておらず,推測の域 を出ない。
さらに,外周の全ての表面側の密度を高くした立体網状構造体は,例 えば,本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である乙1ないし3に も記載されている。さらに,甲3,甲13,及び乙1ないし3のうち, 例えば甲3は,公告日が昭和52年4月21日であって,本件特許の原 出願日である平成13年3月16日より約24年も前に公開されており, また,乙3は,公開日が昭和48年2月5日であって,本件特許の原出 願日より約28年も前に公開されている。したがって,上記構造体は, 本件審決が認定したとおり,広く知られている技術(かつ周知慣用的な 技術)であったことは明らかである。
以上によると,本件審決が,外周の全ての表面側の密度を高くしたも のは,例えば甲13にも示すように広く知られていると認定したことに 誤りはなく,原告の主張は理由がない。
容易想到性の判断の誤りについて (ア) 立体網状構造体につき,甲4に記載された2面成形のもののみなら ず,甲3,13及び乙1ないし3には外周の全ての表面側の密度を高く した4面成形のものが記載されているから,立体網状構造体の多様な製 品が本件特許の原出願日前において現に存在していた。そして,共通の 製造装置から可及的に多様な製品を製造することは,装置の共用化によ る設備投資及びそのための工期や工費の削減につながるから,経済活動 や経営目標として当然の要請であるところ,現に多様な製品が存在して いる立体網状構造体の製造分野において,共通の立体網状構造体製造装 置から可及的に多様な製品を製造することも当然の要請である。
仮に甲4に本件発明1の目的の開示や示唆がないとしても,そのこと から,上記要請が立体網状構造体の製造分野において成り立たないもの とはいえない。
(イ) 本件審決が認定したとおり,水面に向けて降下する線条を板材と接 触させて傾斜面を滑らせつつ表面側の密度を高めることは,甲1,2, 6,及び12に記載されている周知技術であり,立体網状構造体の表面 を成形する手段としてベルトコンベアー及び板材のいずれを用いてもよ いことは,本件特許の原出願日前において現に知られていた技術常識で ある。
したがって,甲4の1対のベルトコンベアーを1対の板材で置き換え ることは,本件特許明細書を読まずとも当業者が容易になし得た事項で あるから,原告の主張は理由がない。
(ウ) 前記(ア)のとおり,共通の製造装置から可及的に多様な製品を製造 することは当然の要請であるとする本件審決の動機付けの認定に誤りは ない以上,甲3が本件発明1の目的を意図していないことや,甲13の 立体網状構造体を成形する手段が不明であることは,本件審決による動 機付けの認定が誤りであることの理由になり得ない。そもそも,甲3及 び13は,4面成形された立体網状構造体が本件特許の原出願日前にお いて既に広く知られているものであったことを示す書証の一つであり, 本件審決は,上記のとおり広く知られている4面成形された立体網状構 造体を製造するために,本件審決周知技術を適用することは当業者にと って容易である旨判断しているのであるから,甲3における本件発明1 の目的の記載の有無や甲13における製造方法を,甲4への周知技術の 適用性を検討する際に考慮する必要はない。
(エ) 仮に,工業製品の分野において,共通の製造装置から可及的に多様 な製品を製造することが当然の要請でなかったとしても,立体網状構造 体の上下面と立体網状構造体の両側面は,ともに立体網状構造体の一対 の面である点において同じであり,また,上面,下面及び側面とは,外 周面が4面である立体網状構造体の周面を呼称する際の形式的な区別に すぎないのであるから,ある1面に対して適用することが知られている 成形技術を,他の1面にも用いることは,当該ある1面に対する成形技 術の適用と本質的に何ら変わりがない。
したがって,上下面の成形技術を両側面に適用することが困難である とする理由もなく,当業者であれば技術的に当然に適用を試みる範囲内 の事項であるから,その動機付けも当然に存在するといえる。
ウ 原告は,本件審決の,甲4発明において,表面側にも本件審決周知技術 を適用し,全ての表面側を区別なく圧縮した場合,線条に横方向への逃げ 場はなくなり,巻き込まれた空気は軽いので上方向に逃げるから,圧縮率 は2面のみの場合よりもむしろ高くなる,したがって,甲4発明において, 圧縮を,線条の押し出し方向と平行な外周の2面の表面部から全ての表面 側に変更することにより,線条の押し出し方向と平行な外周の全ての表面 側の空隙率が85%よりも小さくなるとの判断につき,甲4発明の全ての 表面側の密度を高めることの動機付けがない以上,誤りである旨主張する が,上記動機付けがあることは前記イのとおりであるから,原告の上記主 張は理由がない。
エ 以上によると,相違点4の容易想到性に係る本件審決の判断に誤りはな く,原告の主張は理由がない。
(2) 取消事由2(有利な効果に対する判断の誤り)について 板材を固定構造にするのではなく,その間隔を可変とするためには,「往 復動駆動装置590,591(例えば,流体圧シリンダ)」(本件特許明細 書段落【0060】)のような機構を追加することが必要となるところ,本 件発明1は,板材を可変にすることに加え,上記のようなそのための駆動機 構を用いることを構成要件としてはいないから,立体網状構造体の密度や形 状を変化させ得たことは,本件発明1の技術的意義ではなく,本件発明1が 奏する効果であるということはできない。
また,本件発明1では,板材が可変である構成を用いることが必須ではな いから,本件発明1の方法の技術的範囲には,板材が固定されている構成(板 材が可変ではない構成)を用いる方法が当然に含まれる。このことは,本件 特許明細書の段落【0060】の記載からも明らかである。そして,板材が 固定されているものを用いる場合には,板材が可変であるものを用いる場合 の効果を奏し得ないから,原告の主張は理由がない。
(3) 取消事由3(本件発明2及び3の容易想到性の判断の誤り)について 本件審決の本件発明1の容易想到性の判断に誤りがない以上,本件発明1 の容易想到性の判断について誤りがあることを前提とする原告の主張には理 由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点4に係る容易想到性の判断の誤り)について (1) 本件特許明細書の記載事項等について ア 本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2のとおりである。
イ 本件特許明細書(甲20,31)の「発明の詳細な説明」には,次のよ うな記載がある(下記記載中に引用する図面のうち,図1,2(b),5, 6,9(a),(b),10,27については別紙1を参照)。
(ア) 【技術分野】 【0001】 本発明は,クッション材等に使用する立体網状構造体,立体網状構造 体製造方法及び立体網状構造体製造装置に関するものである。
(イ) 【背景技術】 【0002】 従来,空隙を有する立体網状構造体の製造方法としては特公昭50- 39185号記載の方法あるいはポリエステル繊維を接着剤で接着した 樹脂綿,例えば接着剤にゴム系を用いたものとして特開昭60-113 52号等が公知である。また,一方,無端ベルトで樹脂糸を巻き込むこ とで空隙を有する立体網状構造体を製造する方法或いは製造装置があり, 特開平11-241264号等に示す発明が挙げられる。
(ウ) 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかしながら,こうした立体網状構造体製品への要求は多様化してお り,製造工程の後工程で要求された形状に切断又は成形をして異形網状 体にいちいち仕上げをする必要があり,仕上げが非常に煩雑化する。
また,従来の方法で製造された立体網状構造体は,密度が低くことが あり,束の両面部がベルトコンベアに接するため,実質的に表面がフラ ット化されるが,束の左・右端面はランダムな螺旋形状であって,側面 は横方向に波打つように不整列になる。
また一方,無端ベルトで巻き込んでいるが,無端ベルトが熱等によっ て損傷しやすく耐久性に問題が生じるおそれがある。
そこで,本発明は,後工程での仕上げを不要とし,整列度を高め,異 形形状への対応を可能とし,耐久性を向上させた立体網状構造体の製造 方法及び製造装置を提供することを目的とする。
(エ) 【課題を解決するための手段】 【0005】 本発明の第1は,熱可塑性樹脂を原料又は主原料とする溶融した線条 を複数の孔を有する口金を先端部に有するダイスから下方へ押し出し滑 り板または引取機の間を水面に向けて降下させ,水中で該降下速度より 前記線条を遅く引き込むことにより立体網状構造体を製造する際,前記 押し出し方向と垂直な方向に,滑り板または引取機によって規定される 異型の断面が形成され,但し,押出された線条の集合体の幅より前記滑 り板または引取機の間隔が狭く設定されることで,前記押し出し方向と 平行な外周の全ての表面側の密度が,前記表面側を除く部分の密度より 相対的に高くなることを特徴とした立体網状構造体の製造方法である。
また,本発明の第2は,熱可塑性樹脂を原料又は主原料とする,押し 出された複数本の線条が螺旋状に無秩序に絡まり合い熱接着した,押し 出し方向と垂直な方向に異型の断面を有する立体網状構造体であって, 前記線条が押し出される方向の外周の全ての面が成形されることによっ て,該外周の全ての表面側の密度が,該表面側を除く部分の密度より相 対的に高いことを特徴とした立体網状構造体である。
立体網状構造体は熱可塑性樹脂を原料又は主原料とし,複数本の線条 が押し出し成形によって螺旋状に無秩序に絡まり合い部分的に熱接着し 水で冷却され,押し出し方向に対して疎密が交互に形成されたものであ る。これにより疎の部分をフックで引っ掛ける等を可能としたクッショ ン材等に適用ができる。
【0018】 立体網状構造体製造装置は,熱可塑性樹脂を原料又は主原料とする溶 融した線条を複数の孔を有するダイスから下方へ押し出し,一部水没し た,下方に向かって徐々に間隔が狭くなるように設定された表面が滑り 性の板材と,該板材の間に前記線条を自然降下させ,該降下速度より前 記線条を遅く引き込み,押出された線条の集合体の幅より前記板材の下 方の部分の間隔が狭く設定され,前記板材が水没する前後に前記線条の 集合体の少なくとも一面が前記板材に接触するものである。これにより 可動部分を減少させるか無くすことで,装置の小型化を実現できる。
【0023】 立体網状構造体の製造方法は,本発明に適用される。
(オ) 【発明の効果】 【0024】 本明細書に記載の発明によれば,後工程での仕上げを不要とし,整列 度を高め,異形形状への対応を可能とし,耐久性を向上させた立体網状 構造体の製造方法及び装置を提供でき,各種産業に与える工業的利用価 値は極めて大である。
(カ) 【発明を実施するための形態】 【0026】 以下第1実施形態の立体網状構造体1は,図1及び図2(a)の通り, 再生熱可塑性樹脂を原料又は主原料とし,複数本の線条が螺旋状に無秩 序に絡まり合い部分的に熱接着した板状の立体網状構造体であることを 特徴とした立体網状構造体であり,2つの側面,左右端面,上下端面を 備えている。前記立体網状構造体の側面のうち三面の表面側の密度が, 前記表面側を除く部分の密度より相対的に高いことが好ましい。即ち, 第1実施形態の立体網状構造体1(図2(a)参照)は,三面成形であ り,対向する他の1面から内部に向かって所定間隔の領域は密度が高く 成形されたものであり,中央部内部の領域の密度はそれよりも低く設定 され他の一面が不揃いと成っている。このため,後工程で加工すること がない利点が生じる。つまり,幅の広い一対の面及び一側面は後述の無 端コンベア等によって強制的に成形され,端縁が他の面よりもきれいに 揃えられている。
【0027】 ここでは再生熱可塑性樹脂の原料又は主原料としてPETボトルのフ レーク状又はチップ状を使用する。PETボトルをそのまま粉砕しそれ を溶融させてフレーク形状にしたものである。リサイクル促進の時代に も適合している。これが再生品ではなく,純正品であると,乾燥結晶化, 或いはごみ除去等,コスト的に1m 2あたりの製造費が倍増する。廃棄 処理コスト削減に威力を発揮できる。しかしながら,再生以外の熱可塑 性樹脂等においても適用可能である。例えば,熱可塑性樹脂としてポリ エチレン,ポリプロピレンなどのポリオレフィン,ポリエチレンテレフ タレートなどのポリエステル,ナイロン66などのポリアミド,ポリ塩化ビニル,ポリスチレン,上記樹脂をベースとし共重合したコポリマーやエラストマー,上記樹脂をブレンドしたもの等が挙げられる。更に,立体網状構造体1の用途としては,主として,クッション材,衝撃吸収材,吸湿材,吸音材(床材の下,内部,壁内材),断熱材(内断熱と外断熱),壁面,屋上緑化,コンクリートモルタル割れ防止材,自動車内装材等に適用される例が挙げられるが,二重壁体の内部に適用することもできる。
また,立体網状構造体を炭素繊維等の不織布で挟んだり添えたりするなど,立体網状構造体に難燃塗料を塗装するなど,立体網状構造体に難燃材質を混入することで,難燃性を持たせると,建築断熱材,建築吸音材等として一層好適である。
この第1実施形態は概ね内部が均一な密度に成形されたものである。
見掛密度は0.02〜0.9g/cm3(空隙率36〜98.4%に相当する)が好ましく,0.05〜0.15g/cm3が特に好ましい。立体網状構造体1は例えば幅0.1m〜2m,厚さは5mm〜200mmが好ましく,長さ方向においては無端状であり,適宜の長さ(例えば900mm)に切断するが,それらのサイズ例に限定されるわけではない。
【0028】 第2実施形態の立体網状構造体2(図2(b)参照)は,四面成形であり全ての面が揃えられており,第1実施形態の立体網状構造体1の左右側面から内部に向かって所定間隔の領域は密度が高く成形されたものであり,中央部内部の領域の密度はそれよりも低く設定されている。即ち,上面及び底面を除き,全ての面から内部に向かって所定間隔の領域は密度が高く成形されたものである。
【0032】 (立体網状構造体製造装置) 次に,立体網状構造体製造装置10を説明する。
この立体網状構造体製造装置10は,図5の通り,押出成形機11,無端部材12,13を備えた一対の無端コンベア14, (図7参照) 15 ,無端部材12,13を駆動する駆動モータ16,チェーン及び歯車から構成され無端部材12,13の移動速度を変速させる変速機17,一対の無端コンベア14,15を一部水没させる水槽18,制御装置19,その他計器類等から構成されている。
無端部材12,13は複数の金属製(ここではステンレス等)の板材21が所定の隙間22(図8(a)参照)を設けて複数(ここでは各2本)の無端チェーン12a,13a(図7(a),(b)参照)にねじ(図示略)で連結されたものである。これに代えて図8(b)の通り,隙間22を無くしたステンレスメッシュ(金網)等のベルト23でも良い。このメッシュベルトは,スパイラル(螺旋)とロッド(力骨)を組み合わせてできたものであり,この2つの要素の形状,線径,ピッチにより,様々なタイプができあがる。動きが滑らかでベルト表面を水平に保つことに優れ,高温使用に優れ,補修も簡単である。或いは,図7の点線で示す通り,ステンレスメッシュのベルト23を無端部材12,13の外周に張設したものも実施可能であり,隙間22による凹凸の形成を防止したい場合に好適である。また,板材21の断面は長方形であるが,凸形のもの24(図8(c)参照),凹形のもの25(図8(d)参照),鋸歯形のもの26(図8(e)参照),連続的に形成された凹凸形のもの27(図8(f)参照)等様々な変更形態が考えられる。
【0034】 図5の通り,押出成形機11は,コンテナ31,コンテナ31上部に設けた原料供給口32,ダイス33,ダイス33の下端部に脱着自在に 固定可能な口金34等から構成されている。押出成形機11のダイス内部の温度範囲は100〜400℃,押出量は20〜200Kg/時間,等に設定可能である。ダイス33の圧力範囲は0.2〜25MPa,例えば75mmスクリューの吐出圧である。立体網状構造体の厚さが100mmを越えるとキヤポンプ等によりダイス圧力の均一化が必要なこともある。したがって,ダイス内全域から均等に線条を吐出させるためにギヤポンプ等によりダイス内の圧力を上げることが必要となる。このとき立体網状シートの形状を形成するため,無端コンベア14,15の各面は自由に移動出来る構造とし,ダイス33の口金34の形状(孔Hの密度又は径)と無端コンベア14,15の搬送速度により所望の密度,強度をもった製品を製造することができ,製品の多様な要求を満足させることができる。
【0035】 ここで,図9(a),(b)に示す通りの四面成形機である場合の立体網状構造体製造装置50を説明する。この立体網状構造体製造装置50は,図7に示す二面成形の場合の無端コンベア14,15に対応した,回転軸54a,55aを有する無端コンベア54,55と,これらの無端コンベア54,55の長手方向端部にそれらと回転軸が直交して配置された回転可能な回転軸56a,57aを備えた一対のロール56,57が配置されている。回転軸54aにはそれぞれ傘歯車54b,54cが設けられ,回転軸56a,57aにもそれぞれ傘歯車56b,57bが設けられ,傘歯車54b,54c及び傘歯車56b,57bが歯合され,回転軸54a,55aはチェーンCを介してモータMによって同期駆動され,従って,回転軸56a,57aも同期駆動されるようになっている。回転軸56a,57aの他端部は軸受58a,58bで支持されている。
図9(c)の通り,無端コンベア54,55と同様な構造で短尺の一対の無端コンベア59a,59bを直交して配置したものでも良い。この場合,一層,成形を精密に行うことができ,寸法精度が向上する。
図9(d)の通り,四面成形を用いて製造ができる。また,図9(e)の通り,これを用いて,三面成形を行うことも出来る。即ち,立体網状構造体の種類によってはダイスを2系列設けて,平行して線条を押出すようにすれば,生産効率が2倍と成る。
【0036】 図10(a)の通り,変更形態として,前述の同期駆動に替えて,駆動源(モータ等)をそれぞれ設けて,無端コンベア64,65と,ロール66,67(無端コンベアとしても良い)とが独立駆動するような構成も可能である。即ち,三面又は四面成形の場合,回転軸64a,65aを有する無端コンベア64,65と,これらの無端コンベア64,65の長手方向端部にそれらと回転軸が直交して配置された回転可能な回転軸66a,67aを備えた一対のロール66,67が配置されている。
回転軸66a,67aにもそれぞれモータMが設けられ,独立駆動されるようになっている。回転軸66a,67aの他端部は軸受68a,68bで支持されている。
図10(b)の通り,他の変更形態として,上述例において一対のロール66,67,回転軸66a,67a,軸受68a,68b及びモータMを削除し,表面にポリテトラフルオロエチレンの加工等がなされた滑り性の曲板69a,69bをロール66,67のあった位置に設けることで,駆動機構を簡素化できる。この曲板69a,69bは側面視で,弧状であり,上部から下部にかけて徐々に間隔が狭まるように設定され,平面視で長方形状に形成されている。
【0038】 (立体網状構造体の製造方法) この立体網状構造体1は次のように製造される。まず再生PETボトルフレークを加水分解防止のため加熱し乾燥させ,これに適宜仕上がりを良好にする薬剤,又は抗菌剤等を添加することもある。口金34からフラットに線条が降下すると,無端コンベア14,15の無端部材12,13の巻き込み作用により螺旋状に巻かれる。巻いたときに無端部材12,13の面に当たったところから,巻き込んでいく。巻き込まれた部分は密度が大きく,巻き込まれない部分は密度が小さい。
【0039】 つぎに,図6の通り,溶融した熱可塑性樹脂を複数のダイス33より下方へ押出し,一部水没した1対の無端コンベア14,15の間に自然降下させ,上記の降下速度より遅く引き取ることにより立体網状構造体である立体網状構造体1を製造する際に,押出された溶融樹脂の集合体の幅より1対の無端コンベア14,15の間隔が狭く,かつ無端コンベア14,15が水没する前後に上記溶融樹脂の集合体の両面あるいは片面が無端コンベア14,15に接触するようにした。
溶融した熱可塑性樹脂の集合体の両面あるいは片面の表面部分は,無端コンベア14,15上に落下し,溶融した熱可塑性樹脂の集合体の内側へ移動し密な状態となるため,水中にそのまま落下した中央部分より空隙率が小さくなるわけである。当然ながら空隙率が低くなった表面部分は,空隙率が高い中央部分より交点の数が多くなり,引張り強度が著しく強くなる。また,空隙率が低い表面部分は空隙部の面積が小さくなり,衝撃吸収層,防音層となるわけである。
【0040】 立体網状構造体1として機能するためには,全体の空隙率は,使用する現地施工状況にもよるが,50%〜98%の空隙率の範囲が良好であ るとの結果が得られた。つまり,密度が大きいと音がブロックされると考えられる。リサイクル吸音建材,クッション材,断熱材等として十分な機能を発揮するには,空隙率は少なくとも70%以上にすると良いという結果が得られた。つまり,空隙率が70%より小さいと,衝撃吸収効果,防音効果,断熱効果,クッション性が期待したほど向上しないことがある。この空隙率については,立体網状構造体1の用途に応じて,70%〜98%の範囲で適宜設計すると良い。
吸音材とクッション材は85〜98%,床下に配置する床衝撃吸収材は40〜80%,衝突防止用の衝撃吸収材は60〜90%が好適である。用途によって空隙率の好ましい範囲は変わる。
空隙率=100-{(B÷A)×100}である。Aは樹脂比重に立体網状構造体の容積を掛けたもの,Bは立体網状構造体の重さである。
ここで使用する熱可塑性樹脂としては,PETボトルを粉砕し,フレークとしたものを原料又は主原料とする。しかし,主原料にポリプロピレン等のポリマー或は複数のポリマーをブレンドしたものなど,通常の押出成形機で加工のできる樹脂であれば問題ない。
【0043】 以上説明した立体網状構造体1及び立体網状構造体製造装置10によれば,後工程での仕上げを不要とし,整列度を高め,異形形状への対応を可能とし,耐久性を向上させることができる。
また本実施形態により現状では用途のないPETボトルに立体網状構造体としての用途ができ,PETボトルの回収率が高まると考えられる。
これにより,PETボトルのリサイクルが大いに促進される。
【0060】 第4実施形態の立体網状構造体製造装置510は,図27の通り,無端部材,ロールに代えて,曲板582,583で立体網状構造体501 を形成するものである。曲板582,583は紙面に対して垂直に延長 され,ポリテトラフルオロエチレンコーティング等によって表面に滑り 性を持たせている。側面視では長方形状である。曲板582,583は 上部から下部にかけて,その間隔が徐々に狭まっている構造である。曲 板582,583は固定構造でも良いし,点線で示す通り,往復動駆動 装置590,591(例えば,流体圧シリンダ)によって,その間隔を 可変とすることで,立体網状構造体の左右前後の密度,形状等を変化さ せることができる。曲板582,583の下方にも曲板584が設けら れ,立体網状構造体501を下流の引き取り機に適切に誘導する。
ウ 前記ア及びイによれば,本件特許明細書には,本件発明に関し,次のよ うな開示があることが認められる。
(ア) 本件発明は,クッション材等に使用する立体網状構造体の製造方法 に関するものである(段落【0001】)。
(イ) 従来,無端ベルトで樹脂糸を巻き込むことで空隙を有する立体網状 構造体を製造する方法が知られているが,立体網状構造体製品への要求 の多様化に対し,製造工程の後工程で要求された形状に切断又は成形を して異形網状体にいちいち仕上げをする必要があり,仕上げが非常に煩 雑化するといった問題や,従来の方法で製造された立体網状構造体は, 密度が低いことがあり,束の両面部がベルトコンベアに接するため,実 質的に表面がフラット化されるが,束の左・右端面はランダムな螺旋形 状であって,側面は横方向に波打つように不整列になるといった問題が あり,また,無端ベルトが熱等によって損傷しやすく耐久性に問題が生 じるおそれがあった(段落【0002】及び【0004】)。
(ウ) そこで,本件発明は,後工程での仕上げを不要とし,整列度を高め, 異形形状への対応を可能とし,耐久性を向上させた立体網状構造体の製 造方法を提供することを目的とするものである(段落【0004】)。
(エ) そして,この課題を解決するために,本件発明は,熱可塑性樹脂を 原料又は主原料とする溶融した線条を複数の孔を有する口金を先端部 に有するダイスから下方へ押し出し,表面に滑り性を持たせた板材の間 を水面に向けて降下させ,水中で該降下速度より前記線条を遅く引き込 むことにより立体網状構造体を製造する方法であって,ただし,該滑り 性を持たせた板材は,下方に向かって徐々に間隔が狭くなるように傾斜 することで,前記押出された線条の集合体の幅より該板材の下方の部分 の間隔が狭く設定されて前記線条の押し出し方向と垂直な方向の断面 を規定し,且つ前記線条の集合体が該板材の傾斜面と接触することで, 前記線条の押し出し方向と平行な外周の全ての表面側の密度が,前記表 面側を除く部分の密度より相対的に高くなり,ここで前記線条の押し出 し方向と平行な外周の全ての表面側の空隙率が85%よりも小さくな るようにし,且つ立体網状構造体がクッション材であることを特徴とす るものである(請求項1,段落【0005】,【0018】及び【00 23】)。
この製造方法により,後工程での仕上げを不要とし,整列度を高め, 異形形状への対応を可能とし,耐久性を向上させた立体網状構造体の製 造方法を提供でき,各種産業に与える工業的利用価値が極めて大きい (段落【0024】)。
(2) 甲4の記載事項について ア 甲4には以下の記載がある(下記記載中に引用する図面については別紙 2を参照)。
(ア) 【特許請求の範囲】 【請求項1】ランダムな螺旋形状の線状熱可塑性樹脂が点接着した平 板状の立体網状構造体において,厚さ方向に表面から,線状熱可塑性樹 脂の素線径の1倍〜3倍の距離までの両面あるいは片面表面部の空隙率 が,前記表面部を除く中央部の空隙率より低いことを特徴とした平板状 の立体網状構造体。
【請求項2】 中央部の空隙率が85%以上98%以下で,両面あるい は片面表面部の空隙率が,10%以上80%以下である請求項1記載の 立体網状構造体。
【請求項3】溶融した熱可塑性樹脂を複数のノズルより下方へ押出し, 一部水没した1対のベルトコンベアーの間に自然降下させ,前記降下速 度より遅く引き取ることにより立体網状構造体を製造する際に,押出さ れた溶融樹脂の束の巾より1対のベルトコンベアーの間隔が狭く,かつ ベルトコンベアーが水没する前に前記溶融樹脂の束の両面あるいは片面 表面部がベルトコンベアーに接触することを特徴とした立体網状構造体 の製造方法
(イ) 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,クッション部材,水処理材,フ ィルター材,暗渠排水材,法面緑化用基材などに使用する空隙を有する 立体網状構造体に関する。
(ウ) 【0002】 【従来の技術】空隙を有する立体網状構造体の製造方法としては,特 公昭50-39185記載の方法あるいは,モノフィラメントを捲縮加 工し,接着剤を塗布して交点を接着して立体網状構造体を製造する方法 などが公知である。
【0003】従来の方法で製造された立体網状構造体は,その構造か ら圧縮特性としては,優れた弾性を示すが,構成している骨格が螺旋状 で,その交点が接着あるいは溶着された構造であるが為に,引張応力や 曲げ応力が働くと,比較的簡単に交点部が剥がれて,立体網状構造体と して十分に機能しなくなるという欠点があった。
(エ) 【0006】 【発明が解決しようとする課題】本発明では上記問題を解決すべく, 引張りや曲げ破壊しにくいクッション材や水処理材やフィルター材,十 分な流水量を確保し内部に土粒子が入りにくい暗渠排水材,吹き付け材 料が絡みやすく破壊しにくい法面緑化用基材としての立体網状構造体を 合理的かつ経済的に提供しようとするものである。
(オ) 【0007】 【課題を解決するための手段】本発明者の研究によれば,ランダムな 螺旋形状の線状熱可塑性樹脂が点接着した平板状の立体網状構造体にお いて,厚さ方向に表面から,線状熱可塑性樹脂の素線径の1倍〜3倍の 距離までの両面あるいは片面表面部の空隙率が,前記表面部を除く中央 部の空隙率より低い平板状の立体網状構造体を提供することが合理的で あると考えた。
【0008】本発明の立体網状構造体を得る方法の一つとしては,溶 融した熱可塑性樹脂を複数のノズルより下方へ押出し,一部水没した1 対のベルトコンベアーの間に自然降下させ,上記の降下速度より遅く引 き取ることにより立体網状構造体を製造する際に,押出された溶融樹脂 の束の巾より1対のベルトコンベアーの間隔が狭く,かつベルトコンベ アーが水没する前に上記溶融樹脂の束の両面あるいは片面がベルトコン ベアーに接触するようにした。
【0009】つまり,溶融した熱可塑性樹脂の束の両面あるいは片面 の表面部分は,ベルトコンベアー上に落下し,溶融した熱可塑性樹脂の 束の内側へ移動し密な状態となるため,水中にそのまま落下した中央部 分より空隙率が小さくなるわけである。当然ながら空隙率が低くなった 表面部分は,空隙率が高い中央部分より交点の数が多くなり,引張り強 度が著しく強くなる。また,空隙率が低い表面部分は空隙部の面積が小 さくなり,細かいフィルター層となるわけである。
【0011】また,産業用資材として十分な引張り強度を発揮するに は,使用する樹脂にもよるが,表面の空隙率は少なくとも80%以下に すると良いという結果が得られた。つまり,表面部の空隙率が80%よ り大きいと,引張り強度が期待したほど向上せず,1〜3割程度しか向 上しなかった。この表面部の空隙率については,立体網状構造体の用途 に応じて,10%以上80%以下の範囲で適宜設計すると良い。
【0012】さらに,立体網状構造体をクッション材,水処理材,法 面緑化用基材などに使用する時,中央部の空隙率が98%を超えると空 隙ばかりで構造体として成形することが困難で,85%に満たないとク ッション性,通水性,通気性などの立体網状構造体としての機能を十分 に発揮することが困難である。
【0013】ここでいう表面部とは,表面から,素線径の1倍〜3倍 までの距離の部分である。本発明の立体網状構造体の構造上,その表面 部は素線が密になっていて,素線どうしが重なり合っている部分もあり, 空隙率が10%以上80%以下の範囲では,素線が3本程度まで重なり 合っている部分が確認できた。また素線径とは立体網状構造体を構成し ている素線の断面形状が円形の場合は,その直径のことであり,断面形 状が角形など円形でない場合は,断面が円形であると仮定してその断面 積から求めた直径のことである。
(カ) 【0016】 【発明の実施の形態】図1は本発明の代表的な立体網状構造体の製造 装置の断面図である。また,以下の実施例に基いて,本発明の実施の形 態を説明する。
【0017】 【実施例】実施例1として,スクリューの直径が90mmの単軸押出し機に,1.0m×50mmの面積に直径0.8mmのノズル4が,ほぼ等間隔で約800あるダイス2を取り付けた。ノズル4の下約120mmの位置に水位がある冷却水槽6を設置し,巾1.2mのベルトコンベアー1を25mmの間隔をあけて1対,ベルトコンベアー1の上部が40mm程度水面から出るようにほぼ垂直に設置した。
【0018】この装置で,EVA樹脂を熱を加えて可塑化しながら樹脂温度が240℃になるように,ダイス2の温度をコントロールして,1時間当たり120kgの押出し量でノズル4から出た溶融樹脂の束5の両面がベルトコンベアー1上に落ちるように1対のベルトコンベアー1の間に押出した。この時のベルトコンベアー1の引取速度は0.7m/分とした。ベルトコンベアー1に挟まれて下方へ移動した成形物は,冷却水槽6の下部で向きを変え,押出し機とは反対の側から水面へと移動し,冷却水槽6から出た時点で圧縮エアーで水分を吹き飛ばした。
【0019】このようにして得られた立体網状構造体3は,巾1.0m,厚さ25mmで,素線径は1.0mm,中央部の空隙率は96%程度,表面から2.0mmまでの両面表面部の空隙率は70%程度であった。
【0020】実施例2として,スクリューの直径が90mmの単軸押出し機に,1.0m×30mmの面積に直径0.5mmのノズルがほぼ等間隔で,約500あるダイスを取り付けた。ノズルの下約150mmの位置に水位がある水槽を設置し,巾1.2mのベルトコンベアーを20mmの間隔で1対,ベルトコンベアーの上部が30mm程度水面から出るようにほぼ垂直に設置した。
【0021】ポリプロピレン樹脂を熱を加えて可塑化しながら,樹脂温度が260℃になるようにダイスの温度をコントロールして,時間当 たり100kgの押出し量で,ベルトコンベアーの位置をずらしてノズ ルから出た樹脂の束の片面のみがベルトコンベアー上に落ちるように1 対のベルトコンベアーの間に押出した。この時のベルトコンベアーの引 取速度は1.0m/分とした。ベルトコンベアーに挟まれて下方へ移動 した成形物は,水槽の下部で向きを変え,押出し機とは反対の側から水 面へと移動し,水槽から出た時点で真空ポンプで水分を取り除いた。
【0022】このようにして得られた立体網状構造体3は,巾1.0 m,厚さ20mmで,素線径は0.7mmで,中央部の空隙率は94% 前後,密度が高い方の表面から1.5mmまでの片面表面部の空隙率は 50%前後であった。
(キ) 【0023】 【発明の効果】実施例1で得られた立体網状構造体を,擁壁の裏面排 水材として使用したところ,表面の密度が高いので,土粒子が内部に入 りにくく,かつ中央部の空隙率が高いので,排水材に集められた水はス ムーズに内部を流れ,良好な排水機能を発揮することが確認できた。
【0024】また,実施例2で得られた立体網状構造体は,法面緑化 用の基材として使用した。まず,緑化すべき法面に立体網状構造体を空 隙率の低い面を法面側になるようにピンで固定し,その上から土,水, 肥料,種子,団粒剤などを混合し,スラリー状としたものを立体網状構 造体の厚さの分だけ吹き付けた。
【0025】立体網状構造体の吹き付けた面の空隙率が高いので,吹 き付けた混合物は容易に立体網状構造体の内部に入り込み,絡み付いて, 流れ落ちることはなかった。また,立体網状構造体の空隙率が低く密度 の高い面は,ピンで法面に固定されており,密度が高く引張り強度が強 いので,吹き付けた土砂の荷重で立体網状構造体が破損することも無か った。
イ 前記アによれば,甲4には,前記第2の3(2)アの甲4発明が記載されて いるものと認められる。
(3) 周知技術の認定について 原告は,甲3,13及び乙1ないし3に基づき,一般的に外周の全ての表 面側の密度を高くした立体網状構造体が周知であったということはできず, これが広く知られているとした本件審決の認定は誤りである旨主張する。
そこで,以下,立体網状構造体において外周の全ての表面側の密度を他の 部分よりも相対的に高くすることが,原出願日当時広く知られていたといえ るかどうか検討する。
ア 甲3の記載事項 (ア) 本件特許の原出願日前である昭和52年4月21日に公告された刊 行物である甲3には,以下の記載がある(下記記載中に引用する図面に ついては別紙3を参照)。
a 本発明はフィラメント状ウエッブ材料の製造方法に関する。更に具 体的には,本発明は,内部でからみあい,不規則にコイルするか屈曲 し,そして高いデニールを有するモノフィラメントの,スプリング状 ないしは弾性である破砕抵抗性の開放性マットの製造方法に関する。
そのマットの少なくともひとつの主要な表面は平滑で,マットの内部 より密度が大きく,かくして,生成物の元来の集合体としての構造が 改良され,さもないと達成されえぬような厚み及び表面の平滑さにお ける均一性が可能となっている(1欄27行〜末行)。
b このマットを製造するには,融解した重合体を自由流動性の太いフ ィラメントの形に押出し,これを平滑なプレートあるいはロールと軽 く接触させながら下方に移動させて冷却浴中に導く(2欄末行〜3欄 3行)。
c 第1図において液体溶融重合体を,有孔ノズルあるいはスピンナレ ットヘッド10よりばらばらの流れ,すなわちフィラメント11とし て,冷却浴13に入るまでの短かい距離を自由流下させる。フィラメ ントが冷却浴に入ると冷えて固化し,その結果,溶融物の流れの流下 に対しある程度の抵抗を示し,その結果として,浴表面の丁度上の所 で振動がおこる。その結果としての波状の運動から,流れのあいだに 不規則な周期性で接触がおこり,それらの接触点での融着をおこす, 外側(ドラム側)のフィラメントの若干は更に又ドラム12の平らな 表面と接触し,従って,その向きにおける振動は妨げられる。ドラム 12はあらかじめ定められた表面速度で廻転するが,その速度は,フ ィラメントの押し出し速度より実質的に低い。フィラメントの束は冷 却浴中ですみやかに冷却し固化させ一体化マット14とし,次に浴よ り引き出し貯蔵用ロール15に巻き取る(3欄12〜29行)。
d 上記記載の技術で製造されうるマットの巾及び厚さは,たとえば, 押出し機の大きさ及びオリフィスの数で限定される。たとえば,代表 的なマットとして,全体で260フィラメント数で巾8インチで厚さ 3/4インチ(1.9cm)のものがある。幸いにも,このようなウ エッブの縁あるいは面は,全く効果的な様式で相后に結合された任意 の巾のウエッブとなしうることが分った。相接する面に沿って,それ に平行に伸びているコイル及びループは,最小量の硬化しうる液体接 着剤で更に処理した時に驚くべく有効な結合を与えるのに十分な程度 に,相互に絡みあうようになる(4欄8〜19行)。
e マットの平滑な表面部分は,その構造の残りの部分よりもより高い 濃度あるいは密度でフィラメントを含有し,反対側の平らでない表面 よりもより広い接触域を与える。その結果,接着剤は,平らな表面と 強い結合を形成しうる(4欄20〜24行)。
f 望むならば,押しだした軟らかいフィラメントのウエッブのもう一 方の表面に,第2の平滑な表面のプレートあるいはドラムを軽く接触 させるだけで,両面を平らにすることもできる。しかも,その際に, ウエッブの中心部全体を通じて開放性の低密度構造が保たれる(4欄 24〜30行)。
g 第4図は,2個の相対する平らな表面を有するマットの側方から見 た断面図である(3欄10〜11行)。
h 別の変型例として,連続した高密度の平滑な表面及び低密度の内部 構造を形成さすために,環状の接触プレートで完全に取りまかれた, 全体的に環状あるいはだえん状あるいは別様に閉じられた断面を有す る束にフィラメントを押し出すことがある(4欄30〜35行)。
i 重合体材料としては,ポリカーボネート,ポリアルキレン,ポリエ ステル,ポリビニル,ポリアミド,イオノマー及び他の樹脂といった, 高温でやわらかくたわみ性の連続フィラメントに押し出し可能で,低 温では所望の堅さ,強さ及び他の必要な物理的及び化学的性質を有す る樹脂を用いうる(5欄7〜13行)。
j 熱いフィラメント形成性の押出可能の熱可塑性重合体物質を,相互 の間隔は狭いが別々に離れた粗い連続フィラメント束の形で押出し, 前記フィラメント束を,液体冷却浴の表面に向かってその自重によっ て落下させ,その際,この冷却浴上に前記フィラメント束の外側のフ ィラメントの少なくとも1部を単に軽く接触し,かつ,前記フィラメ ント束の残りのフィラメント部分が前記浴表面に直接落下するような 位置に平滑な接触表面を配置して,フィラメント束を前記冷却浴中に 落下させ,前記冷却浴内でこのフィラメント束を前記フィラメントの 押出し速度より実質的に小さい線速度で進行させ,それによって,前 記フィラメントと隣接フィラメントとを接触点で一諸に密着させて, 曲りくねりと相互のからみあいを生じさせ,前記接触面との前記軽い 接触によって与えられた平滑な主要表面を有する軽く一体化されたマ ットを形成させると共に,その接触によって,マットの前記接触部分 ではフィラメントの濃密化を,マットのその他の残余部分では低いフ ィラメント密度となるようにすることを特徴とする,連続的の差別冷 却による連続的に曲りくねった粗状のフィラメントの平滑表面を有す る開放状多孔性一体化マットの製造方法(10〜12欄の特許請求の 範囲)。
(イ) 前記(ア)によれば,甲3には,溶融した熱可塑性樹脂を有孔ノズル から下方へ押し出してフィラメント束を液体冷却浴の表面に向けて降下 させ,フィラメント束の外側のフィラメントの少なくとも一部は冷却浴 上でプレート又はロールと接触させるようにし,冷却浴に降下したフィ ラメント束を冷却浴内でフィラメント束の降下速度より遅く進行させる ことにより,少なくとも一つの主要な表面において平滑で内部よりも密 度が高い表面を有する開放状多孔性マットの製造方法が記載されている ものと認められる。
そして,上記開放状多孔性マットの製造方法として,@押し出された フィラメント束の厚み方向の片側をプレート等と接触させることによ り,厚み方向の片側の表面が平滑で内部よりも密度が高い表面となる開 放多孔性マットを製造する方法(前記(ア)b,c,e),A押し出され たフィラメント束の厚み方向の両側をプレート等と接触させることによ り,厚み方向の両側の表面が平滑で内部よりも密度が高い表面となる開 放多孔性マットを製造する方法(前記(ア)f,g)が記載された上で, さらに,B変型例として,連続した高密度の平滑な表面及び低密度の内 部構造を形成するために,環状の接触プレートで完全に取りまかれた, 全体に環状,だえん状又は別様に閉じられた断面を有する束にフィラメ ントを押し出す方法(前記(ア)h)が記載されていることから,上記の 変型例は,フィラメント束の厚み方向の両側に,幅方向の両側を加え, フィラメントの束の押し出し方向と平行な外周を接触プレートと接触さ せる態様を含むものと解される。
以上によると,甲3には,押し出されたフィラメント束の押し出し方 向と平行な外周をプレート等と接触させることにより,押し出し方向の 両端を除く外周の全ての表面が平滑で内部よりも密度が高い表面となる 開放状多孔性マットを製造する方法が記載されているものと認められ る。
(ウ) これに対し,原告は,甲3において環状の接触プレートによりマッ トの表面を平らで高密度にするのは,そのような平らな表面で接着剤に より線条同士を結合するためであるし,しかも,甲3は,環状,だえん 状,又は,これらに準じて,角がない形で外周を取り囲むように成形さ れた立体網状構造体を開示するにすぎないから,本件発明のように断面 が四辺形のマットにおいてまで,外周の全ての表面層の密度を高くして, その部分での引張り強度を著しく高めることを教示しているとはいえず, このことは,甲3の表面層は,線条の束の外側をプレート(板材)やド ラムと軽く接触させるもので,線条の頂点が潰れる程度のものであるが, 本件発明の表面層は,線条の束よりも間隔が狭められた板材の上を滑ら せるため,線条が横倒しのループになって重なり合うものとなることか らも裏付けられるから,甲3は,立体網状構造体において外周の全ての 表面側の密度を他の部分の密度よりも相対的に高くする構成を,一般的 に開示するものではない旨主張する。
しかしながら,甲3には「接着剤で更に処理した時に驚くべく有効な 結合を与えるのに十分な程度に,相互に絡みあうようになる。 前記(ア) ( 」 d),及び,「マットの平滑な表面部分は,その構造の残りの部分より もより高い濃度あるいは密度でフィラメントを含有し,反対側の平らで ない表面よりもより広い接触域を与える。その結果,接着剤は,平らな表面と強い結合を形成しうる。」(前記(ア)e)の記載があることに照らすと,甲3における上記の接着剤の使用に関する記載は,既に熱融着により結合しているフィラメント同士を接着剤で一層強固に結合し得る旨の説明にすぎず,甲3には,接着剤をつける以前において既に,表面部分の密度がその表面部分を除く部分の密度より相対的に高くなることが明示されているものと認められる。
また,甲3において別の変型例として記載された,連続した高密度の平滑な表面及び低密度の内部構造を形成するために,環状の接触プレートで完全に取りまかれた,全体的に環状,だえん状又は別様に閉じられた断面を有する束にフィラメントを押し出すこと(前記(ア)h)についても,前記(イ)のとおり,押し出されたフィラメント束の厚み方向の片側又は両側をプレート等と接触させることにより,厚み方向の片側又は両側の表面が平滑で内部よりも密度が高い表面となる開放状多孔性マットを製造する方法の別の変型例として示されていることからすれば,変型例の中には,上記の厚み方向の両側の表面に加え,幅方向の両側の表面も平滑で内部よりも密度が高い表面とするような四辺形の断面形状も当然に想定されているものと考えられる上に,「全体的に環状あるいはだえん状あるいは別様に閉じられた断面を有する」と規定されているように,その文言上も角がない形で外周を取り囲むもののみに限定する趣旨とは解されない。
なお,原告は,甲3には表面層の密度を高くしてその部分での引張り強度を著しく高めるとの本件発明の構成が開示されていない旨主張するが,上記の点の開示の有無にかかわらず,甲3には,押し出されたフィラメント束の押し出し方向と平行な外周をプレート等と接触させることにより,押し出し方向の両端を除く外周の全ての表面が平滑で内部より も密度が高い表面となる開放状多孔性マットを製造する方法が記載され ているものと認められることは前記(イ)のとおりである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
イ 乙1の記載事項 (ア) 本件特許の原出願日前である平成12年9月12日に公開された刊 行物である乙1には,以下の記載がある(下記記載中に引用する図面に ついては別紙4を参照)。
a 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,車両や船舶,航空機等の乗り 物に装備される座席,あるいはソファやベッド等の家具類などに好適 なクッション体とその製造方法および製造装置に関する。
b 【0002】 【従来の技術】例えば車両の座席等に使われるクッション体として, 従来よりウレタンフォーム等の合成樹脂発泡体が多く用いられてきた が,通気性を良くするため,あるいは再溶融によるリサイクル使用の 観点から,例えば米国特許明細書(USP)第5,639,543号 明細書に開示されているような熱可塑性樹脂を用いた立体網目構造の クッション体も提案されている。
【0003】前記網目構造のクッション体は,溶融した熱可塑性樹 脂を多数のノズルから吐出させることによって得られる多数本の連続 ファイバを,左右一対の平坦なコンベア間を通しながら冷却槽に導く ことにより,連続ファイバをループ状に曲がりくねらせかつ各々のル ープの互いの接触部を融着させることにより直方体形状のクッション 体(網状ブロック)を得ている。
【0004】前記網状ブロックを所望のクッション体形状にするた めに,従来は成形用の金型に網状ブロックを収容しかつ熱プレスによ って網状ブロックを体積2分の1程度となるように圧縮して所望の形 状に成形するなどして,クッション体としての最終製品形状を得るよ うにしている。
c 【0005】 【発明が解決しようとする課題】前記網状ブロックを熱プレスによ り圧縮成形する場合は,見掛け上の密度(重量)が必要以上に大きく なるという問題がある。しかもこうしたブロック工法により成形する 場合には多くの工数と作業時間が必要となるため,コストが高くなる。
従って本発明の目的は,所望形状の立体網目構造のクッション体を能 率良く製造でき,圧縮量も少なくてすむようなクッション体とその製 造方法および製造装置を提供することにある。
d 【0006】 【課題を解決するための手段】前述の目的を果たすための本発明の クッション体は,熱可塑性樹脂からなる繊度300〜100000デ ニールの複数本の連続線状体を各々ループ状に曲がりくねらせかつ互 いの接触部を融着させた見掛け密度が0.005〜0.20g/cm3 の立体的な網状構造体からなり,前記連続線状体がループ状に形成さ れる際にこれら連続線状体を成形すべきクッション体の製品形状に応 じて厚み方向両面および両サイド方向から内側に寄せて硬化させたも のである。
【0008】また本発明の製造方法は,軟化させた熱可塑性樹脂を 複数のノズルから吐出させることにより複数本の連続線状体を各々ル ープ状に曲がりくねらせかつ互いの接触部を融着させるとともに,前 記連続線状体がループ状に形成される際に,成形すべきクッション体 の断面形状の輪郭に応じた整形案内面を有するガイド手段によってク ッション体の厚み方向両面および両サイド方向から内側に寄せた状態 (幅寄せした状態)で硬化させることを特徴とする。この製造方法は, クッション体を最終製品形状にするために圧縮等を行なう後工程(二 次成形)を軽減あるいは省略することを可能ならしめる。
e 【0017】図2に示すクッション体1は,主として熱可塑性弾性 樹脂からなる300デニール以上の連続線状体2を,ランダムなルー プ状に曲がりくねらせかつ各々のループの互いの接触部を融着させた 立体的な網状構造体3からなり,見掛け密度が0.005〜0.20 g/cm3の範囲にある。
【0018】後述するようにこのクッション体1は,前記ループが 形成される際に,クッション体1の断面形状に応じて連続線状体2を 厚み方向両面1a,1b側と両サイド1c,1d側から内側に寄せて, すなわち幅寄せした状態で硬化させたものである。このクッション体 1を車両等の座席に用いる場合には,厚み方向の平坦な面(上面)1 aが主として着座荷重の加わる座部として使われ,両サイド1c,1 dの盛り上がった部分がいわゆるサイドサポート部として機能する。
【0023】上記クッション体1は,図3に概念的に示したクッシ ョン体製造装置10によって製造される。クッション体製造装置10 の一例は,押出機15とノズル部16を備えている。押出機15は, 材料供給口17から投入された熱可塑性弾性樹脂原料をその融点より 10℃ないし80℃高い温度(例えば40℃高い温度)に加熱しつつ, ノズル部16に向って押出す。
【0026】ノズル部16の下方には,ノズル部16から例えば5 0cmほど離れて,この発明でいう冷却手段として機能する水等の冷 却液30の液面30aが位置している。この冷却液30は,例えば7 0℃前後の温度に加熱されている。ノズル部16の下方にガイド手段 40が設けられている。図1に示すようにガイド手段40は,成形す べき前記クッション体(例えば図2に示すクッション体1)の厚み方向両面1a,1bに対向するように設けた一対の第1のガイド部41,42と,前記クッション体1の両サイド1c,1dに対向するように設けた一対の第2のガイド部43,44とを含んでいる。
【0031】次に上記製造装置10によってクッション体1を製造する工程について説明する。熱可塑弾性樹脂原料を押出機15に供給し,樹脂原料の軟化温度よりも40℃程度高い温度に加熱し軟化させる。そして溶融状態の熱可塑性弾性樹脂原料をノズル部16の各ノズル16aから吐出させ,ベルト54,55,64,65の間に自然落下させる。
【0032】溶融した熱可塑性弾性樹脂がベルト54,55,64,65の間に落ちることにより,ノズル16aの数に応じた本数の連続線状体2が形成されつつ,ベルト54,55,64,65の間に挟まれかつ停留することで曲がりくねりながらランダムなループが発生する。すなわちこれらの連続線状体2は,それぞれ途切れることなく曲がりくねりながらも図3中の矢印A方向に連続しつつ,A方向と交差する方向(例えば矢印B方向)にループを形成する。
【0034】ループが融着した網状構造体3は,厚み方向両面が第1のガイド部41,42の整形案内面に56,57によって規制されつつ,両サイドが第2のガイド部43,44の整形案内面に66,67によって内側に幅寄せされながら,冷却液30に毎分約1mの速度で引き込まれ,冷却液30の中で硬化するとともに,各ループの融着部が固定されることにより,クッション体1の最終製品の幅方向断面に近い断面形状を有する網状構造体3が連続的に製造される。このように,連続線状体2がループを形成する際に,ガイド部43,44によって網状構造体3が連続的に幅寄せされることにより,クッション 体1の両サイド1c,1d間においてクッション体1の厚み方向にル ープが立つようになり,着座荷重等に対して良好なクッション性が発 揮されるようになる。
【0035】なお,ガイド手段40によって連続線状体2を内側に 寄せる際に,第1のガイド部41,42によって厚み方向に寄せる距 離よりも,第2のガイド部43,44によって幅寄せする距離の方を 大きくするとよい。こうすることにより,クッション体1の両サイド 1c,1d間において連続線状体2の各ループがクッション体1の厚 み方向に立つようになるため,厚み方向のクッション性能がさらに良 くなる。
【0050】なお,本発明におけるガイド手段としては,前述のベ ルト機構を用いたガイド手段40以外に,例えばクッション体の断面 形状の輪郭に応じた曲面(整形案内面)を有するガイド板などの固定 式のガイド部材を,下方にゆくほど内側に寄るように傾斜して設けて もよく,あるいはこのガイド板とベルト機構を組合わせたものなどで もよい。また,クッション体の断面形状の輪郭に応じた外周面を有す るローラなどの回転式のガイド部材を用いてもよい。
(イ) 前記(ア)によれば,乙1には,溶融した熱可塑性樹脂をノズル部か ら下方へ押し出して連続線状体を冷却液の液面に向けて降下させ,連続 線状体の押し出し方向と平行な外周の全面をガイド板と接触させるよう にし,そして,冷却液に降下した連続線状体を冷却液中で連続線状体の 降下速度より遅く引き込むことにより,押し出し方向の両端を除く外周 の全ての表面が平滑な表面となるクッション体の製造方法が記載されて いるものと認められる。
そして,水面に向けて降下する連続線状体の外側の線状体をガイド板 と接触させて傾斜面を滑らせれば,これによって形成される網状構造体 の表面側の密度が高まることは技術常識であると認められるところ(甲 1(1欄31〜47行,5欄46〜57行,6欄5〜16行及びFIG. 2) 甲2 , (1頁90行〜2頁4行,2頁40〜44行,49〜85行), 甲3(前記ア(ア)b,d,e),甲12(7欄37行〜8欄4行,9欄 15〜41行,第1図,第2図及び第4図(ロ)〜(ニ)),乙1にお いて,連続線状体の外側の線状体は,ガイド板等のガイド手段によって 厚み方向及び両サイド方向(幅方向)で内側に寄せられるのであるから (段落【0008】,【0018】,【0035】),これによって形 成される連続線状体(クッション体)の押し出し方向と平行な外周の全 ての表面側の密度が内部よりも高まっていることは明らかである。
(ウ) これに対し,原告は,乙1に開示されたクッション体の製法は,線 条の束が水面付近で水面から抵抗を受けて螺旋状になった際に,その最 外部をガイド部のローラーとわずかに触れさせる程度のものであるから, 当該表面側の密度が,必ずしも内部の密度よりも高いとはいえないし, 少なくとも,本件発明の立体網状構造体のように外周の全てで引張り強 度を高めることを目的としていないのは明らかであるから,仮に上記の ようにして製造された立体網状構造体の表面側の密度が内部の密度より も幾分高いとしても,それが,一般的に,外周の全ての表面側の密度を 高くしたものを開示しているということはできない旨主張する。
しかしながら,乙1に押し出し方向の両端を除く外周の全ての表面が 平滑で内部よりも密度が高い表面となるクッション体の製造方法が記載 されているものと認められることは前記(イ)のとおりであり,このこと は,乙1記載の技術の目的によって左右されるものではない。
よって,原告の上記主張は理由がない。
ウ 乙3の記載事項 (ア) 本件特許の原出願日前である昭和48年2月5日に公開された刊行 物である乙3には,以下の記載がある(図面については別紙5を参照)。
a 即ち本発明は叙上の如く熱可塑性合成樹脂繊維の多数条を下方向き のノズルより紡糸すると共に下記冷却水に向って下降せしめ其の未だ 固化せざる間にこれを捲,摺曲せしめると共に振動又は静止状態で相 互に一部分を接点溶着せしめ,然る後直ちにこれを冷却液中にて冷却 固化して引取ることを特徴とするので,紡出溶融状態の繊維は勿論, 冷却水に浸漬して冷却固化するが其の冷却水中に於ける引取速度を繊 維の紡出速度より低くすると既に冷却水に入って固化した繊維の上に 流動溶融状の紡出下降繊維がとぐろ状に摺って捲曲,摺曲等すると共 にこれ等が相互に隣接する繊維と接点溶着するに至るものであって, これ等繊維は前記固化繊維の引取りに伴って引続き冷却液中に沈行し 各接点溶着の状態のまゝ順次冷却固化し仍って空隙率の大なる合成繊 維の立体網状集合体が連続的に製作されるものである(2欄3行〜3 欄5行)。
b 尚,冷却液の液面近くに振動リングを上記の紡出下降繊維のとぐろ 状溜り部を囲繞する如く配置し,これを上下又は横方向に振動せしめ るときには其の振幅及び速度等によって各紡出下降繊維の捲曲,摺曲 及び隣接する各繊維間の点接溶着に変化が生じ,密度及び風合の異な った製品を得ることができ,また繊維の各紡出速度及び固化繊維の引 取速度を相対的に変化せしめても同様に製品の密度及び風合に変化を 与え得るは勿論である(3欄6〜15行)。
c 図面の簡単な説明 図は本発明合成繊維の立体網状集合体の連続製造方法実施例を示 す側面略図であって,図中の符号(1)は紡出口金,(2)は紡出された溶 融繊維,(3)は振動リング,(4)は冷却水,(5)は引取ロール,(6)は製 品を示す(6欄5〜10行)。
(イ) 前記(ア)によれば,乙3には,溶融した熱可塑性樹脂繊維をノズル から下方へ押し出して多数条を冷却液の液面に向けて降下させ,多数条 の押し出し方向と平行な外周を振動リングと接触させるようにし,そし て,冷却液に降下した多数条を冷却液中で多数条の降下速度より遅く引 き取ることにより,押し出し方向の両端を除く外周の全ての表面が内部 よりも密度が高い表面となる立体網状集合体の製造方法が記載されてい るものと認められる。
(ウ) これに対し,原告は,乙3の振動リングは,落下してきた線条群を そこで一旦受け止めて,それを振動させることで線条同士の熱接着を促 進するためのものであって,表面側も内部も分け隔てなく,密度及び風 合いを変化させるものであるから,乙3には,外周の全ての表面側の密 度を高くした立体網状構造体の記載はない旨主張する。
しかしながら,乙3において,振動リングを上下に振動させた場合に は,立体網状集合体の表面の密度が内部の密度よりも高くなるものと解 されるし,振動リングを横に振動させた場合には,これにより立体網状 集合体の内部の密度が高まる効果があるとしても,振動リングと直接接 する部分である表面側の方がより密度が高くなるものと解される。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
周知技術の認定 (ア) 前記アないしウによれば,甲3,乙1及び乙3には,立体網状構造 体の製造方法において,押し出し方向の両端を除く線条の押し出し方向 と平行な外周の全ての表面側の密度が表面側を除く部分の密度より相対 的に高くなるようにすることが記載されているものと認められる。そし て,甲3は,本件特許の原出願日より約24年前に公開されたものであ り,乙3は本件特許の原出願日より約28年前に公開されたものである ことも併せ考えると,上記技術は,本件特許の原出願日当時,周知技術 であったと認められる(以下「本件周知技術」という。)。
(イ) これに対し,原告は,@甲3に開示された立体網状構造体は,高い 弾性を有するものであって,表面部の空隙率が80%以下と高い弾性を 示さない甲4発明とは相反する特徴を有するものであり,A乙1記載の クッション体の製法は,原料である熱可塑性樹脂からなる線条の束が水 面付近で水面から抵抗を受けて螺旋状になった際,成形のために,その 最外部をガイド部のローラーとわずかに触れさせるという程度のもので あるし,クッション性能ないしクッション性が重視されているから,甲 4発明の立体網状構造体と同等に表面密度を高めることが想定されてい ないことは明らかであり,B乙3記載の技術も,振動リングにより,落 下してきた線条群をそこで一旦受け止めて,それを振動させることで線 条同士の熱接着を促進するのみであり,かつ,空隙率の大きな立体網状 集合体を簡易迅速に製造することに重きが置かれているものであるから, いずれも甲4発明と組み合わせることができないものであり,上記各文 献から本件周知技術を認定することはできない旨主張する。
しかしながら,甲3,乙1及び乙3に記載された具体的な技術の内容 につき,甲4との間にあるいは相互に異なる点があったとしても,本件 周知技術として認定される技術は,あくまでも,立体網状構造体の製造 方法において,押し出し方向の両端を除く線条の押し出し方向と平行な 外周の全ての表面側の密度が表面側を除く部分の密度より相対的に高く なるようにするというものであり,これが甲3,乙1及び乙3に記載さ れていることは,前記アないしウのとおりである。
よって,原告の上記主張は理由がない。
オ 小括 したがって,本件周知技術が広く知られているとした本件審決の認定に 誤りはなく,原告の主張は理由がない。
(4) 容易想到性の判断の誤りについて 原告は,本件審決は,甲4発明において相違点4に係る構成を採用するこ との動機付けにつき,工業製品の製造分野において,共通の製造装置から可 及的に多様な製品を製造することは当然の要請であると判断しているが,誤 りであり,また,甲4発明に本件周知技術を適用する動機付けはないから, 相違点4につき容易想到であるとした本件審決の判断は誤りである旨主張す るので,以下検討する。
ア 甲4には,@押し出された線条の束の厚み方向の両側を一対のベルトコ ンベアーと接触させることにより,線条の押し出し方向と平行な外周の表 面側である厚み方向の両側の表面部(表面から素線径の1倍〜3倍までの 距離の部分とされている(段落【0013】)。)が平滑で中央部よりも 密度が高い表面となる立体網状構造体を製造する方法(甲4の【特許請求 の範囲】 段落 , 【0007】及び【0017】〜【0019】(実施例1)) と,A押し出された線条の束の厚み方向の片側を一方のベルトコンベアー と接触させることにより,厚み方向の片側の表面部が平滑で中央部よりも 密度が高い表面となる立体網状構造体を製造する方法(甲4の【特許請求 の範囲】 段落 , 【0007】及び【0020】〜【0022】(実施例2)) が選択的に示されている(前記(2)ア(ア),(オ),(カ))。
そして,溶融した熱可塑性樹脂の束の両面又は片面の表面部分は,ベル トコンベアー上に落下し,溶融した熱可塑性樹脂の束の内側へ移動し密な 状態となり,水中にそのまま落下した中央部分より空隙率が小さくなるた め,空隙率が高い中央部分より交点の数が多くなり,引張り強度が著しく 強くなるところ,表面部の空隙率が80%より大きいと引張り強度が期待 したほど向上しないため,産業用資材として十分な引張り強度を発揮する には,使用する樹脂にもよるが,表面部の空隙率を立体網状構造体の用途 に応じて,10%以上80%以下の範囲で適宜設計すると良いこと(段落 【0009】,【0011】),他方で,立体網状構造体をクッション材 等に使用する時,中央部の空隙率が98%を超えると空隙ばかりで構造体 として成形することが困難で,85%に満たないとクッション性,通水性, 通気性などの立体網状構造体としての機能を十分に発揮することが困難で あること(段落【0012】 がそれぞれ開示されている ) (前記(2)ア(オ))。
そうすると,甲4は,必要とされる引張り強度又はクッション性,通水 性及び通気性等の機能に応じて,線条の押し出し方向と平行な外周につき, 密度の高い表面部分を片側又は両側に適宜形成することを開示するものと いえる。
イ 甲3(前述のとおり,甲3が公開されたのは,本件特許の原出願日の約 24年前である)においても,線条の押し出し方向と平行な外周の表面側 であるマットの片側の表面部分を高密度化した立体網状構造体を製造する 方法のほかに,両面を高密度化した立体網状構造体を製造する方法及び連 続した高密度の平滑な表面を形成するために,環状の接触プレートで完全 に取りまかれた,全体的に環状,だえん状又は別様に閉じられた断面を有 する束にフィラメントを押し出す方法,すなわち,外周の全ての表面が平 滑で内部よりも密度が高い表面となる立体網状構造体を製造する方法も選 択的に示されていることから(前記(3)ア(ア)e〜h),線条の押し出し方 向と平行な外周の表面側につき,必要に応じて高密度化した部分を適宜形 成することが開示されているものといえる。
ウ 前記ア及びイによると,立体網状構造体の製造方法の技術分野において, 線条の押し出し方向と平行な外周の表面側につき,立体網状構造体の用途 等に応じて適宜選択した上で,必要な部分の密度を高くすることが行われ ているものと認められる。
そうすると,4面成形をした立体網状構造体を必要とする当業者が,甲 4発明に本件周知技術を適用しようとする動機は十分にあり得たものであ り,その場合,甲4発明の,線条の押し出し方向と平行な外周の2面の表 面側の密度がこの2面の表面側を除く部分の密度より相対的に高くなり, この2面の表面側の空隙率が80%以下になるという構成を残りの表面側 にも適用して,外周の全ての表面側の密度が表面側を除く部分の密度より 相対的に高くなり,この全ての表面側の空隙率が80%以下になるように すること,すなわち,相違点4に係る本件発明1の構成とすることは,容 易に想到し得たものと認められる。
エ(ア) これに対し,原告は,甲4発明において,1対のベルトコンベアー を両側面にも適用しようとすると,単純に両側面に1対のベルトコンベ アーを追加すればよいというものではなく,上下面の1対のベルトコン ベアーと両側面の1対のベルトコンベアーを同期駆動させるための複雑 な機構を設置することも必要になるが,甲4には,立体網状構造体の耐 久性を向上させるために,その外周の全ての表面側の密度を高めること につき開示も示唆もない以上,当業者が,上記のような複雑な機構をあ えて採用し,甲4発明にもう1対の両側面用ベルトコンベアーを追加す るものとは考えられないし,仮に本件審決が,当業者において,甲4発 明の「線条の幅よりも間隔が狭く設定された1対のベルトコンベアー」 を,本件発明1の「線条の幅よりも間隔が狭く設定された1対の板材」 に置き換えることを思い付けば,複雑な機構を採用することなく外周の 全ての表面側の密度を高めることを容易に想到できたはずであると判断 していたのだとしても,そのような判断は,甲4発明の上下面用の1対 のベルトコンベアーを本件発明1の1対の板材に置き換え得ることが分 かれば,そのことのみを理由として,当該板材を両側面にも適用するこ とが直ちに動機付けられるとするものであり,具体的な根拠に基づかな い後知恵であることは明らかである旨主張する。
しかしながら,本件審決は,甲4発明の一対のベルトコンベアーに代 えて,本件発明1の一対の板材の構成を採用することは当業者であれば 容易に想到し得た旨判断しており,これについては原告も争っていない のであるから,相違点4の容易想到性を判断するにつき,甲4発明にも う1対の両側面用ベルトコンベアーを追加するかどうかを問題とする必 要はない。
また,甲4発明の一対のベルトコンベアーを一対の板材に置き換えた ものを前提とした場合に,甲4発明に本件周知技術を適用することは当 業者において容易になし得たものであると認められることは前記ウのと おりである。
よって,原告の上記主張は理由がない。
(イ) 原告は,甲4発明によって製造される立体網状構造体は,クッショ ン材等として外部に作用する上下面について表面の密度を高めることに よって所望の効果を発揮するものであり(甲4の段落【0008】,【0 023】〜【0025】),外部に作用しない側面部分についてまで同 様の構成を採る必要はなく,そのようなことは一切示唆されていないか ら,本件発明の解決課題に接しているわけではない当業者が,上下2面 の密度強化に関する技術である甲4発明に4面成形の技術を適用する動 機付けはなく,かえって,甲4発明において,クッション材等として外 部に作用する面ではない側面についてまで密度を高める構成を採用すれ ば,従来の方法で製造された立体網状構造体が有していた優れた弾性(甲 4の段落【0003】)というメリットを減殺しかねないから,甲4発 明には4面成形の技術との組合せを阻害する事由がある旨主張する。
しかしながら,立体網状構造体の製造方法の技術分野において,線条 の押し出し方向と平行な外周の表面側につき,どの部分の密度を高くす るかは,立体網状構造体の用途等に応じて適宜選択されているものと認 められ,そうすると,4面成形の技術を適用した立体網状構造体を必要 とした場合には,甲4発明において,線条の押し出し方向と平行な外周 の2面の表面側の密度がこの2面の表面側を除く部分の密度より相対的 に高くなり,この2面の表面側の空隙率が80%以下になるようにして いたのを,残りの表面側にも適用して,外周の全ての表面側の密度が表 面側を除く部分の密度より相対的に高くなり,この全ての表面側の空隙 率が80%以下になるようにすること,すなわち,相違点4に係る本件 発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得るものと認められ ることは前記ウのとおりである。
そして,甲4記載の発明は,クッション部材,水処理材,フィルター 材,暗渠排水材,法面緑化用基材等に使用されるものとされている上に (甲4の段落【0001】),立体網状構造体をクッション材,水処理 材,法面緑化用基材などに使用する時,中央部の空隙率が98%を超え ると空隙ばかりで構造体として成形することが困難で,85%に満たな いとクッション性,通水性,通気性などの立体網状構造体としての機能 を十分に発揮することが困難である旨の記載がある(甲4の段落【00 12】 にもかかわらず, ) 甲4発明における立体網状構造体においては, 優れた弾性以外に着目すべき機能がないかのような主張をするのは,そ の前提において失当というべきであって,原告の主張は,この点からも 採用することはできない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(ウ) 原告は,甲3,乙1及び乙3に開示された技術を甲4発明に組み合 わせることができない以上,本件周知技術を甲4発明と組み合わせるこ とについては阻害事由がある旨主張する。
しかしながら,本件周知技術として認定される技術は,あくまで,立 体網状構造体の製造方法において,押し出し方向の両端を除く線条の押 し出し方向と平行な外周の全ての表面側の密度が表面側を除く部分の密 度より相対的に高くなるようにすることであり,これを甲4発明と組み 合わせることができることは前記ウのとおりである。
よって,原告の上記主張は理由がない。
? 小括 以上によると,相違点4の容易想到性に係る審決の判断の結論に誤りはな く,原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(有利な効果に対する判断の誤り)について 原告は,原告が,本件発明1の板材は,引き込み装置やローラーと違って, 可動部分がない簡単な構造であるため,その間隔を容易に変更でき,これによ り,立体網状構造体製品の寸法等に対する多様な要求に柔軟に対応可能とする ことのほか,立体網状構造体を作製する際に,その寸法や密度を正確に仕上げ 得る効果を有すると主張したのに対し,本件審決は,本件特許の請求項1には, 板材の間隔を変化させることについて,何ら規定されていないから,上記主張 は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であるとしたが,本件特許明細書 には,板材の間隔を可変とすることで,立体網状構造体の左右前後の密度,形 状等を変化させ得ることが記載されているし,また,本件発明1の板材を引き 込み装置やローラーに代えて用いることで,可動部分を省いて装置を簡単に作 製することができ,当該装置の稼働が容易であることも,当業者であれば容易 に理解できるから,たとえ請求項1に板材の間隔が可変であることが明記され ていないとしても,このことは,板材を用いると規定していることのみから当 業者が直ちに理解できる技術事項であるから,本件審決の上記判断は誤りであ る旨主張する。
しかしながら,本件特許の請求項1(本件発明1)には,板材に関し,下方 に向かって徐々に間隔が狭くなるように傾斜することで,押し出された線条の 集合体の幅より板材の下方の部分の間隔が狭く設定されていることは規定され ているものの,その板材の間隔を可変とする構成に限定する趣旨の記載はない。
本件特許明細書の記載を見ても,段落【0060】には,板材である曲板5 82,583が固定構造でも良いし,往復動駆動装置590,591によって, その間隔を可変とすることで,立体網状構造体の左右前後の密度,形状等を変 化させることができるとの記載があることに照らすと,本件特許明細書は,本 件発明1につき,その板材の間隔を可変とする構成に限定していないことは明 らかである。
そうすると,本件発明1の板材は,その間隔を変更し得るものに限定される ものということはできないから,原告の上記主張は,本件特許の特許請求の範 囲の記載に基づかないものである。
したがって,原告の上記主張は理由がなく,原告主張の取消事由2は理由が ない。
3 取消事由3(本件発明2及び3の容易想到性の判断の誤り) 原告は,本件審決の本件発明1の容易想到性の判断に誤りがある以上,その 判断を前提とする本件審決の本件発明2及び3の容易想到性にも誤りがある旨 主張する。
しかしながら,本件審決の本件発明1の容易想到性の判断に誤りがないのは 前記1及び2のとおりであるから,原告の上記主張はその前提を欠き理由がな い。
したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。
4 結論 以上の次第であるから,原告主張の取消事由1ないし3はいずれも理由がな いから,本件特許を無効とすべきものとした本件審決の判断の結論に誤りはな く,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。
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