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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成26ネ10124 特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成26ワ20422 特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成26ワ12198 損害賠償請求事件 判例 特許
平成26ワ24183 損害賠償請求事件 判例 特許
平成27ワ556 特許権侵害差止請求権不存在確認等請求事件 平成27ワ20109 特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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事件 平成 25年 (ワ) 6674号 特許権侵害差止等請求事件

原告 コージ産業株式会社
同訴訟代理人弁護士 鎌田邦彦
同 福本洋一
同 葉野彩子
同補佐人弁理士 西博幸
被告株式会社サカエ
同訴訟代理人弁護士 今川忠
同 白木裕一
同 山田和哉
同補佐人弁理士 酒井正美
同 稲岡耕作
同 安田昌秀
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2016/02/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,別紙物件目録1ないし3記載の製品を製造し,販売し又は販売の申出をしてはならない。
2 被告は,原告に対し,2億8121万9906円及びうち3220万円に対する平成25年7月18日から,うち2億4901万9906円に対する平成27年2月28日から,各支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,これを5分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
1事 実 及 び 理 由第1 請求1 主文第1項同旨2 被告は,前項の製品及びその半製品を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,4億6885万1002円及びうち3220万円に対する平成25年7月18日から,うち4億3665万1002円に対する平成27年2月28日から,各支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等1 事案の概要本件は,発明の名称を「棚装置」とする2つの特許(特許第4910097号,特許第4866138号,以下,前者を「本件特許1」,後者を「本件特許2」といい,両者を併せて「本件各特許」という。)に係る特許権を有する原告が,被告による後記被告製品1ないし3(その生産にのみ用いる棚板を含む。)の製造,販売等が本件特許1に係る特許権の,被告製品1(上記棚板を含む。)の製造,販売等が本件特許2に係る特許権の侵害に当たると主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づき被告製品1ないし3の製造及び販売等の差止め,同条2項に基づき被告製品1ないし3及びその半製品の廃棄を求めるとともに,平成24年2月1日から平成27年3月26日までの特許権侵害不法行為に基づく損害賠償請求として,損害金4億6885万1002円,及びうち3220万円に対する平成25年7月18日(訴状送達の日の翌日)から,うち4億3665万1002円に対する平成27年2月28日から,各支払済みまで,民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 前提事実(争いのない事実,及び後掲証拠又は弁論の全趣旨より容易に認められる事実)(1) 当事者原告は,金属製品の製造加工を業とする株式会社である。
2被告は,金属機械器具等の製造加工並びに販売を業とする株式会社である。
(2) 原告の特許権原告は,以下の本件特許1及び本件特許2に係る特許権を有している。
ア 本件特許1出願日 平成23年7月25日分割の表示 特願2006−123085の分割原出願日 平成18年4月27日登録日 平成24年1月27日イ 本件特許2出願日 平成18年4月27日(特願2006−123085)登録日 平成23年11月18日原告への権利移転日 平成24年4月25日(3) 本件特許1ア 特許請求の範囲本件特許1の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2(請求項1に係る発明を「本件発明1−1」,同2に係る発明を「本件発明1−2」といい,両者を併せて「本件発明1」という。また,本件特許1に係る明細書(甲5)を「本件明細書1」という。)の記載を分説すると,別紙「構成要件の分説1」の「本件発明1―1」欄及び「本件発明1−2」欄記載のとおりである。
イ 訂正請求原告は,本件特許1につき,被告が申し立てた特許無効審判の手続(無効2013−800216号)において,平成26年2月14日付けで訂正請求(甲14,以下「本件訂正1」という。)をした。本件訂正1に係る訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された発明(以下それぞれ「本件訂正発明1−1」,「本件訂正発明1−2」という。)を構成要件に分説すると,別紙「構成要件の分説1」の「本件訂正発明1−1」欄及び「本件訂正発明1−2」欄記載のとおりで3ある。
ウ 審決等本件特許1に関して被告が申し立てた前記イの特許無効審判請求については,平成26年10月10日,本件訂正1を認め,無効審判の請求は成り立たない旨の 審決が出された(甲22)。これに対し,被告が審決取消請求訴訟を提起し,平成27年10月28日,知的財産高等裁判所により請求棄却の判決がされた(甲48)が,同判決は確定していない。
(4) 本件特許2ア 特許請求の範囲本件特許2の特許請求の範囲の請求項1(請求項1に係る発明を「本件発明2」という。また,本件特許2に係る明細書(甲6)を「本件明細書2」という。)の記載を分説すると,別紙「構成要件の分説2」の「本件発明2」欄記載のとおりである。
イ 訂正請求及び再訂正請求原告は,本件特許2につき,被告からの特許無効審判の手続(無効2014−800035)において,平成26年5月29日付けで訂正請求(甲16,以下「本件訂正2」という。)をした。本件訂正2に係る訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件訂正発明2」という。)の分説は,別紙「構成要件の分説2」の「本件訂正発明2」欄記載のとおりである。
また,原告は,本件特許2につき,前記特許無効審判の手続において平成27年3月31日付けで審決の予告がなされたのに対し,同年5月29日付けで訂正請求を行った(甲33,以下「本件再訂正」という。)。本件再訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件再訂正発明2」という。)の構成要件の分説は,別紙「構成要件の分説2」の「本件再訂正発明2」欄記載のとおりである。
ウ 審決4本件特許2に関して被告が申し立てた特許無効審判請求については,平成27年11月27日,本件再訂正を認め,無効審判の請求は成り立たない旨の審決が出されたが,確定していない(甲50)。
(5) 被告の行為ア 被告は,遅くとも,別紙物件目録1記載の製品(以下「被告製品1」という。)については平成24年2月1日から,同目録2及び3記載の製品(以下「被告製品2」,「被告製品3」といい,被告製品1ないし3を併せて「被告各製品」という。)については同年5月から,平成27年2月末日又は同年3月26日まで(ただし一部の製品については,平成24年11月まで),業として製造,販売及び販売の申出を行った。
また,被告は,被告各製品用の別紙物件目録4記載の製品(以下「オプション棚板」という。)については,それらが対象とする被告各製品と同期間中,業として製造,販売及び販売の申出を行った。
イ 被告各製品は本件発明1−1及び本件訂正発明1−1の構成要件を,被告製品1は本件発明1−2及び本件訂正発明1−2の構成要件をそれぞれ充足する。
また,被告製品1は,本件発明2の構成要件2A,2B,2C及び2G(本件訂正発明2,本件再訂正発明2においても同一)を充足する。
(6) 本件の各発明に先立つ公知技術本件の各発明の出願日又はその原出願の出願日に先立つ公知技術が記載された刊行物として,以下の文献が存在する。
ア 実開昭55−7470号のマイクロフィルム(乙17,以下「乙17文献」といい,同文献に記載された考案を「乙17発明」という。)イ 実開昭58−102628号のマイクロフィルム(乙3,以下「乙3文献」といい,同文献に記載された考案を「乙3発明」という。)ウ 実開昭50−47722号のマイクロフィルム(乙4,以下「乙4文献」といい,同文献に記載された考案を「乙4発明」という。)5エ 特許第3437988号公報(発行日:平成15年8月18日,乙34,以下「乙34文献」といい,同文献に記載された発明を「乙34発明」という。)第3 争点1 被告製品1の本件発明2の構成要件(2D,2E,2F)の充足性(争点1)2 本件特許1は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点2)(1) 分割要件違反による出願日(平成23年7月25日)より前に頒布された本件特許2の公開特許公報による新規性又は進歩性欠如(争点2−1)(2) 本件発明1−1につき乙17発明を主引例とする,本件発明1−2につき公知文献及び技術常識に基づく,進歩性の欠如(争点2−2)(3) 乙3発明を主引例とする進歩性の欠如(争点2−3)(4) 乙4発明を主引例とする新規性欠如(本件発明1−1),進歩性欠如(本件発明1−2)(争点2−4)3 本件発明2は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点3)(1) 乙34発明を主引例とする進歩性欠如(争点3−1)(2) 乙3発明を主引例とする進歩性欠如(争点3−2)4 本件発明1についての訂正の対抗主張の成否(争点4)5 本件発明2についての訂正・再訂正の対抗主張の成否(争点5)6 オプション棚板についての間接侵害の成否(争点6)7 侵害行為のおそれ−差止請求の必要性(争点7)8 損害発生の有無及びその額(争点8)第4 争点についての当事者の主張1 争点1(被告製品1の本件発明2の構成要件(2D,2E,2F)の充足性)について【原告の主張】(1) 被告製品1の構成について被告製品1は,別紙「被告製品1説明書」記載のとおりであり,その構成は,6別紙「被告製品1の構成」の「原告の主張」欄記載のとおりである。
(2) 構成要件2Dについてア 被告製品1は,前記構成2dを備えており,本件発明2の構成要件2Dを充足する。
イ 被告の主張に対する反論被告の主張する被告製品1の特定は,「前記棚板における外壁には,ボルトの先端が挿入されるボルト取付孔が形成され,その内面には前記ボルトがねじ込まれる樹脂キャップに固定されたナットを配置しており」というものであるが,これは,「前記棚板における外壁(には,ボルトの先端が挿入されるボルト取付孔が形成され,そ)の内面には前記ボルトがねじ込まれる(樹脂キャップに固定された)ナットを配置しており」という構成を正に備えているのであるから,構成要件2Dを充足していることは明らかである。
また,被告は,単に一実施例の記載を引用しているにすぎず,被告の主張のように,ナットの配置が溶着に限定されるものではない。
(3) 構成要件2Eについてア 被告製品1は,前記2e1の構成を備えており,本件発明2の構成要件2Eを充足することは明らかである。
イ 被告の主張に対する反論外壁と内壁との間に「ナットを隠す空間が空いており」とは,外壁と内壁との間にナットが隠れる間隔の空間が空いているという意味であって,また,ナットを隠すとは,本件明細書2の【発明の効果】【0013】に「請求項1の発明ではナットは内壁と外壁との間の空間に隠れているため,体裁が良いと共にナットが物品に引っ掛かることも防止できる。」と記載されているように,ナットが外壁と内壁との間の空間にあって外部に露出していないという意味であり,ナットが外部から見えないことや内壁でナットを直接覆い隠すことは必ずしも必要ではない。実際,本件明細書2の【0023】には,内壁6に円形の窓穴14を空けた実施例図4(A)7が記載されており,ナットが外部から見えないことや内壁でナットを直接覆い隠すことは必ずしも必要とされていない。
(4) 構成要件2Fについてア 被告製品1は,前記2fの構成を備えており,本件発明2の構成要件2Fを充足する。
イ 被告の主張に対する反論(ア) 位置決め突起について@ 位置決め突起は,支柱の側板と棚板の外壁のいずれにも設置し得る形状である必要はない。特許請求の範囲や本件明細書2には,このような限定の記載はない。
A 支柱本体又は棚板本体から突出したものであればよく,突起の相対的な大きさが問題になるものではない。
B 位置決め突起は支柱と同体である必要はない。特許請求の範囲の記載にもそのような限定はない。
(イ) 位置決め穴について@ 位置決め穴は1つの外壁だけで全周が閉じられたものである必要はない。穴の字義はこのように限定されるものでなく,一般に部材の端に切欠きや切り開きで形成されたものも穴として認識されており,被告製品1の「切欠き穴」が穴を形成していることは明らかで,「突部」との嵌め合わせによりガタ付き防止の作用効果も生じる。
A 位置決め穴は複数個設けられる必要はない。特許請求の範囲の記載にも本件明細書2の記載にもそのような限定は一切ない。
(ウ) 「きっちり嵌まる」構成であること「きっちり」の字義に照らしても,本件明細書2の記載に照らしても,被告の主張するような限定解釈ができないことは明らかである。
本件発明2は,位置決め突起と位置決め穴によって,「コーナー支柱と棚板とは8位置決め突起と位置決め穴との嵌め合わせによって相対的な姿勢が保持されているため,コーナー支柱と棚板との間のガタ付きを防止できる。」(同【0011】)との作用効果を奏することで課題を解決しようとするものであり,「きっちり嵌まる」とは,ガタ付き防止に役立つものであればよく,位置決め突起と位置決め穴との間にすき間がないことを不可欠とするものではない。
【被告の主張】(1) 被告製品1の構成について被告製品1の構成は,別紙「被告製品1の構成」の「被告の主張」欄記載のとおりである。
(2) 構成要件2Dについて構成要件2Dにおける「ナットを配置しており」とは,本件明細書2の発明の詳細な説明によれば,「ナット8は棚板2における外壁5の内面に溶接によって固着している。」と説明され(【0021】),ナットと外壁の内面との間には何も存在していないものが記載されており,他には,ナットと外壁との間に何か物を介在させる構成は一切開示されていない(【0023】参照)。被告製品1の構成は,上記2dのとおりであり,外壁の内面とナットとの間には,樹脂キャップ及び樹脂キャップにより形成される空隙が介在する以上,構成要件2Dにおける不可欠の構成であるナットと外壁との間に何も存在しない構成と明らかに異なる。
よって,「ボルトがねじ込まれるナットを配置しており」という構成を充足しない。
(3) 構成要件2Eについて被告製品1の構成は,上記2e1及び2e4のとおりであり,被告製品1では,ナットは樹脂キャップに固定されており,樹脂キャップで覆われて隠されている状態であり,また,外壁と内壁との間に樹脂キャップを嵌め込むための空間が空いているが,それは,「ナットを隠すための空間が空いて」いる(2E)ということはできない。
9したがって,構成要件2Eを充足しない。
(4) 構成要件2Fについてア 被告製品1の構成は,上記2fのとおりであるところ,構成要件2Fとは,文言からして異なることは明らかであるが,以下のとおり,被告製品1は,「位置決め突起」,「位置決め穴」及び「きっちり嵌まる」の要件を具備せず,構成要件2Fを充足しない。
イ 「位置決め突起」がないこと「突起」とは,「部分的に突き出ていること。またそのもの。」という意味を有すること,及び本件明細書2の記載(段落【0018】,【0019】,【0020】,【図2】,【0024】【図4】(B)(C))によれば,「位置決め突起」の形状とは,コーナー支柱と外壁のいずれにおいても設置し得る形状であり,簡単に加工し得る,部分的に突き出て存在している形状であることが明らかである。しかし,被告製品1の突部は,「コーナー支柱における2枚の側板の交叉する角の内面に平面視で交差した鉤型」であり,コーナー支柱と外壁のいずれにおいても設置し得る形状ということはできず,また,コーナー支柱と外壁の接触部分の大部分を占めており,到底「部分的」に突出していると評価することもできない。さらに,コーナー支柱とは別体であり,簡単に加工し得るものともいえない。
したがって,被告製品1は「位置決め突起」を具備しておらず,構成要件2Fを充足しない。
ウ 「位置決め穴」に該当しないこと「穴」とは,「くぼんだ所。または,向こうまで突き抜けた所。」との意味を有すること,及び本件明細書2の記載(段落【0018】【0024】 【図4】, (B))を考慮すると,「位置決め穴」は,「直交する2つの外壁の端部に跨らず,かつ,4つの外壁のうちの一つだけで全周が閉じられたもの」を意味する。しかし,被告製品1には,「棚板における角を形成する隣接する2つの外壁の各端部に前記突部を嵌めるための切欠き凹部」(2f)が設けられており,4つの外壁のうちの一つ10だけで全周が閉じられたものではないから,「位置決め穴」に該当しない。
また,本件明細書2においては「・・・位置決め突起と位置決め穴とはコーナー支柱と棚板とが重なっている部分に複数個設けることが可能であるため,ストッパー機能を格段に高くすることが可能になるのであり・・・」(段落【0012】)との記載があることからすれば,位置決め突起と位置決め穴とは,コーナー支柱と棚板が重なっている部分に複数個設けられることができる構成であることが不可欠であるといえる。本件特許1の請求項1の各実施例における全ての図面においても2個以上の複数の位置決め穴とそれに対応する数の位置決め突起が設けられている。
しかし,被告製品1の直交する2つの切欠き凹部は,4つの外壁のうちの一つだけで全周が閉じられたものに該当しない。
エ 「きっちり嵌まる」構成ではないこと「きっちり」は,「余りのないさま。丁度であるさま。きっしり。すき間のないさま。ぴったり。」との意味を,「嵌る」とは,「ぴったり合ってはいる。ちょうどうまくはいる」との意味を有する。そして,本件明細書2には,「本願発明では,コーナー支柱と棚板とは位置決め突起と位置決め穴との嵌め合わせによって相対的な姿勢が保持されているため ,コーナー支柱と棚板との間のガタ付きを防止できる。」(【0011】)との記載がある。
これらを考慮すると,「きっちり嵌まる」とは,「コーナー支柱と棚板との相対的な姿勢が保持される態様で,位置決め突起が,隙間がなく位置決め穴に嵌まる」ことを意味すると解される。これに対し,被告製品1においては,突部の高さが切欠き凹部の高さより小さいため,突部の上端面は,切欠き凹部の上端面(切欠き凹部の内面の上辺)を下から支持する一方で,突部の下端面と切欠き凹部の下端面(切欠き凹部の内面の下辺)との間には,隙間が生じ,支柱及び棚板は上下方向に相対移動可能となっている。さらに,左右方向については,コーナー支柱が外壁の側面がない方向に自在に移動でき,外壁から自由に離隔できる状態にある。このことは,位置決め穴と位置決め突起を強く嵌合し,ストッパー機能ひいては棚装置の頑丈さ11を従来技術と比して格段に高めた本件特許2と被告製品の技術的思想が全く異なることの明確な証左である(本件明細書2段落【0012】)。
したがって,被告製品1の切欠き凹部は,被告製品1の突部が「隙間なく」嵌まるものではないし,「コーナー支柱と棚板との相対的な姿勢が保持される態様で,位置決め突起が嵌まる」ものでもない。
2−1 争点2−1(分割要件違反による出願日(平成23年7月25日)より前に頒布された本件特許2の公開特許公報による新規性又は進歩性欠如)について【被告の主張】(1) 分割要件違反1本件特許1の請求項1及び請求項2の記載は,以下のとおり,本件特許2に係る特許出願(以下「本件原出願」という。)の出願当初の明細書等(乙1,以下「本件当初明細書」という。)に記載された事項を超えるものであり,出願日の遡及効(特許法44条2項)が得られないため,本件原出願の公開特許公報(乙2)に記載された発明に基づき当業者が容易に想到し得たものであり,新規性ないしは進歩性を欠き無効である(特許法123条1項2号29条1項,2項)。
ア コーナー支柱の形状本件原出願の請求項1には,「コーナー支柱は平面視で交叉した2枚の側板を備えている」と記載され,本件当初明細書には,「平面視L形のコーナー支柱」(段落【0002】),「平面視で直交した2枚の側板1aを有する4本のコーナー支柱1」「コーナー支柱1は,帯鋼板を折り曲げて製造することもできるし,市販されているアングル材を使用することも可能である。」(段落【0015】)と記載され,図1,図2及び図4には,平面視L型のコーナー支柱が示されている。これらの記載からすれば,本件当初明細書においては,平面視で直交した2枚の側板を有するコーナー支柱(L字型)以外のコーナー支柱の形状についての開示及び示唆は全くないといえる。
これに対し,本件特許1は,コーナー支柱の形状について,「4本のコーナー支12柱」と記載するだけで,具体的な形状に関しては何ら特定していないから,本件特許1は,本件当初明細書の記載内容を超えるものである。
イ 締結方法本件当初明細書には,外壁の端部をコーナー支柱の側板に密着させてボルトで締結する棚装置以外の棚装置については,その開示も示唆もない。
これに対し,本件特許1は,外壁の端部をコーナー支柱の側板に密着させてボルトで締結することに関して何ら特定していないから,本件特許1は,締結方法に関し,本件当初明細書の記載内容を超えるものである。
ウ 原告の主張に対する反論前記のとおり,@本件原出願の発明の対象は,L字形のコーナー支柱にボルトで棚板を締結したタイプであり,かつ棚板の外壁をコーナー支柱とボルト及びナットではさみ固定する方法に限定される。また,本件当初明細書の記載(【0007】,【0008】)からすれば,A「複数本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱群で囲まれた空間に配置された金属板製の棚板とを備えており,前記コーナー支柱は,平面視で交叉した2枚の側板を備えている一方,前記棚板は,水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えており,外壁の端部をコーナー支柱の側板に密着させて両者をボルトで締結している」構成は,前提となる必要不可欠な構成である。
本件原出願当時,原告が主張するようなL字形の支柱以外の支柱を使用するものが周知であることを根拠付ける資料はないし,仮に周知であったとしても,本件原出願の発明の対象は,前記@Aの特徴を備えていることを必須の要件としており,かかる構成を具備していない被告各製品の構成が排除されていることが明らかである。
(2) 分割要件違反2本件当初明細書に開示された棚板側壁の多様な曲げ加工の例示は,以下のとおり,本件原出願の出願当時において既に当業者にとって明白な技術常識である板金加工13技術によって得られる金属板の曲げ加工形態を紹介したにすぎないものであり,技術的思想の「創作」とはいえず,特許法上の発明(同法2条1項)に当たらないといえ,本件原出願に2以上の発明を包含しているとは評価できず,本件特許1の分割出願は,特許法44条1項に違反しているため,前記(1)同様,新規性及び進歩性を欠き,無効である。
ア 本件原出願における図面(図5)に示された曲げ加工は,昭和55年3月20日及び昭和58年6月25日に発行された教科書レベルの書籍で紹介されているものであり(乙8,9),金属板を曲げ加工し,空間を空けて閉じた状態の形状を形成する「クロージング」に関する曲げ加工が示されている(乙8図13)。
イ そして,板金加工システムの設計,製造及び販売等を行っているイタリアの会社であるサルバニーニ社(以下「サルバニーニ社」という。)は,本件原出願以前に,パネル曲げ加工,金属板を折り曲げる機械,ベンディングプレス機に関する実用新案や特許を登録しており(乙10ないし12),同社が製造する板金加工機械において,前記アに紹介されているクロージングを含む種々の板金加工を可能とする機械を販売しており(乙23ないし25),これには,本件原出願において開示されていたもの(図5)と同等の形状のものも含まれており(乙13,乙31の1@Aのサンプル),これらは,2004年(平成16年)4月19日に第三者に開示されていたもの(乙13),あるいは平成16年5月10日には購入時の加工見本として提供されたもので(乙31の1),本件特許1出願時には公知の技術であった。
【原告の主張】(1) 分割要件違反1について本件当初明細書の【0001】には「本願発明は,コーナー支柱で棚板を支持している棚装置に関するものである。なお,本願発明の棚装置は定置式のものには限らず,キャスターを備えたワゴンタイプも含んでいる。」との記載があり,また,本件原出願当時,棚装置としてL形の支柱を棚板の外壁にボルトで固定したものの14ほか,パイプ状の支柱を棚板に固定するものや逆U字形の支柱を棚板に固定するものが周知であったのであるから,本件当初明細書には,「平面視で直交した2枚の側板を有するコーナー支柱」と「外壁の端部をコーナー支柱の側板に密着させて両者をボルトで締結する構成」に限られず,「4本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板」を備えた棚装置が記載されていたといえる。
よって,分割要件違反はなく,被告の主張は理由がない。
(2) 分割要件違反2について本件発明1が「発明」であることは明らかである。本件発明1の審査過程においても「発明」性は何ら問題とされていない。被告の主張は,分割出願に係る「発明」が「発明」たり得るには新規性かつ進歩性が必要と論じるものに等しく,主張自体失当というほかない。
なお,被告が挙げる乙8,9は,棚板の外壁と内壁の形状ではない関係のないもので,単なる曲げの形状としても,本件原出願(乙1)の図5と同じものはない。
また,サルバニーニ社の技術についても,翻訳のない外国公報(乙11)や出版日時の分からないもの(乙23ないし25)で,証拠価値がなく,乙13についても,撮影年月日は争い,仮に被告の主張によっても,工場内のものにすぎず,一般に知られていたものではないし,工場内の多数のサンプルから被告が指摘するものを選択して棚装置の,しかも棚板の側壁という部分に関連させる理由はない。被告は,乙31の1@Aのサンプルを平成16年に入手していた旨追加して主張するが,その入手経緯等も明らかでなく,乙31の1自体は加工を伴う写真であること,このような主張や証拠が今になって出されるという経緯自体極めて不自然であることからすれば,その証拠価値は低いと言わざるをえない。また,乙31は,乙13の場合と同様に,本件訂正発明1の進歩性をおよそ否定するものではない。
2−2 争点2−2(本件発明1−1につき乙17発明を主引例とする,本件発明1−2につき公知文献及び技術常識に基づく,進歩性の欠如)について15【被告の主張】以下のとおり,本件発明1−1は,乙17発明に,乙4発明を適用することによって,また,本件発明1−2は,前記2−1【被告の主張】(2)ア及びイ記載の公知文献及び明白な技術常識に基づいて,いずれも当業者が容易に発明することができたものであるから進歩性を欠き,無効とされるべきものである(特許法123条1項2号29条2項)。
(1) 本件発明1−1についてア 乙17発明乙17文献は,「棚板構造」という名称の考案を記載しており,「4本のコーナー支柱15と,コーナー支柱15で支持された平面視四角形で金属板製の棚板とを備えており,棚板は水平状に広がる天板1と天板1の二長辺に折り曲げ形成した側板2とを備えた棚装置」(第1図)であり,「棚板における側板2の先端は,天板1の側へ折り返された折立片3が,折立片3と側板2との間に中空部5が空くように連成部4を介して一体に形成されている構造」(第4図)を有するものを示している(乙17発明)。
イ 本件発明1−1と乙17発明との対比(ア) 一致点乙17発明は,本件発明1−1の構成要件1A,1B(基板の「周囲」である点は除く。),構成要件1Cのうちの,「前記棚装置における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており,」に一致する構成を有する。
(イ) 相違点@ 本件発明1−1の構成要件1Bにおいては,基板の「周囲」に外壁を備えているのに対し,乙17発明においては,基板の「二長辺」にしか外壁が備えられていない点A 本件発明1−1の構成要件1Cにおいては,「前記内壁のうち前記16連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられている」のに対し,乙17発明においては,「折立片3」の先は側板2に向かわないで,側板2と反対側へ延びるように曲げられている点ウ 相違点に係る構成の容易想到性(ア) 乙4発明乙4文献には,第3図において,「棚板の前後左右の縁部に,断面L字形又はロ字状の下向き屈折縁9を形成し」たものが示されているところ,このうち,ロ字状は,本件発明1−1の構成要件1Cの「外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成され」,「内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられている」形状に相当する。
(イ) 乙17発明への適用乙17文献には,「棚板となる長方形天板の左右側板を折り曲げにより該部の長手方向に角形の中空部を形成し・・・薄板鋼板の補強・・・を図ったものである。」と説明されており,棚板の側壁を角形の中空部を形成するように折り曲げて丈夫な構造にするに際し,乙4発明の下向き屈折縁9を基板の周囲に採用すると,薄板鋼板を補強した強固な棚板となるから,乙17発明に乙4発明を組み合わせる動機付けがある。なお,原告は,乙17発明と乙4発明とは,組み合わせることにつきに動機付けがなく,支柱と棚板との固定方法が全く異なるため阻害要因が存在する旨主張するが,乙17発明は薄板鋼板の補強を図ったものであるところ,棚板の剛性を高めるという周知の作用効果を得るために,棚板の周囲四辺を曲げるに際し,外壁と内壁との間に間隔を空けることが有効であることは,乙17文献においても説明されているから,乙4発明の下向き屈折縁を適用することは当業者にとって容易に選択する選択事項にすぎないし,本件発明1は,支柱と棚板との固定方法を特定するものではないから,阻害要因となるものではない。
したがって,乙17発明に乙4発明を適用することにより,容易に本件発明1−171に想到することができたものである。
なお,原告は,本件特許1の出願において,「早期審査に関する事情説明書」(乙5)を提出し,乙4文献及び乙17文献を挙げ,乙4文献の記載との違いを明確にする必要があるとして,連接部の形状を限定する,自由端部の形態を限定する,自由端部が基板から離れている点を限定する,請求項2に限定するといった補正を検討しており,出願人である原告自身が,2つの文献に基づいて当業者が容易想到であったことを自認しているものである。
(2) 本件発明1−2について本件発明1−2は,本件発明1−1に構成要件1E及び1Fを付加したものである。
出願当時公知である文献(乙9)には,金属板の曲げ加工における「R曲げ」及び「V曲げ」が示されているところ(表4−2),これらは,構成要件1E及び1Fと同一であり,当業者の技術常識である公知の金属板曲げパターンを適宜選択することにより得られる金属板の形状を表現しているにすぎないから,当業者の容易になし得たことである。
また,前記2−1【被告の主張】(2)イ記載のサルバニーニ社の板金加工機械による曲げ形状に本件特許1の図面に示される金属曲げ形状(図5)と同等のものが含まれており(乙13),本件原出願(乙1)の図5(A)に示される金属曲げ形状は,クロージングと称される曲げ形状を紹介したものにすぎないことを裏付けている。
したがって,本件発明1−2についても,当業者が容易に発明できたことは明らかである。
【原告の主張】(1) 本件発明1−1についてア 乙17発明乙17発明は,特殊な構造を設けて,棚板と支柱を固定するものである。すなわ18ち,乙17発明は,棚板と支柱15を棚取付金具17で係止して固定する方法を採り,棚取付金具17による係止は,棚取付金具17の突片17aを止金具6の(コ字状の嵌入部6b)が嵌め込まれた(天板1と側板2と連成部4及び上向き折立片3とで形成される)角形の中空部5の角形孔4aに嵌挿して行なうものである。角形の中空部5は,止金具6の嵌入部6bを嵌め込むための受け部であり,天板1の左右両側の長手方向のみに設けられ,天板1の前後の短辺方向には設けられない。
短辺方向には止金具6の嵌入部6bを嵌め込む中空部5は必要ないばかりか,構造上,形成することができないものであり,したがって,中空部5は棚板の四周に設けられるものではない。
また,乙17発明は,(上向きに突出する)取付金具17の係止機能から中空部5が下向きに垂下する姿勢でのみ使用されるものであり,天板1の下面には長手方向にわたる中空のフレームが設けられており,天板1は中空部5を上向きに使用して物品を収容することはできないものであるから,本件発明1の「外壁」と異なり中空部5は物品の落下防止機能を果たす壁ではない。
イ 本件発明1−1と乙17発明との対比(ア) 一致点構成要件1A及び1Dにおいて一致する。
(イ) 相違点@ 本件発明1−1の構成要件1Bでは,前記棚板は,「水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えている」のに対して,乙17発明では,側板2は天板1の左右両側の長手方向にしか設けておらず,天板1の前後両側の短辺方向には設けられていない点 【被告の主張】( (1)イ(イ)@と同じ。)A 本件発明1−1の構成要件1Cでは,「前記棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており,前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられている」のに対し,乙17発19明ではそのような構成を有していない点ウ 相違点に係る構成の容易想到性(ア) 相違点@について前記のとおり,乙17発明において,中空部5は長手方向のみに形成され,短辺方向に形成できないもので,側板2は天板1の周囲(四周)に設けられるものではなく,「基板の周囲に折り曲げ形成」することはできない。また,天板1は中空部5を上向きの姿勢にして物品を収容することはできず,中空部5(側板2)も物品の落下防止機能を奏し得る壁ではない。
このように,乙17発明の側板2は,(基板の周囲に折り曲げ形成された棚板の)「外壁」に相当するものではない。
以上のとおりであるから,乙17発明が相違点@に係る構成を採用することはできないものである。
(イ) 相違点Aについてa 乙4発明乙4発明は,角筒状の支柱を棚板の隅角の切除部に密接させて棚板に固定する方法を採用するものであり,「切除部の直交する両縁部B」と断面L型又はロ字形の下向き屈折片9が作る面を角筒状支柱の「直交する横側面に密着させ」ることで(乙4,1〜2頁,第1図),支柱と棚板を固定しており,したがって,断面L型又はロ字形の下向き屈折片9は,支柱と棚板を固定するためのものである。
また,下向き屈折片9はその名のとおり棚板4の下向きに延びるものであり,乙4発明の棚板4は下向き屈折片9を上向きにして物品を収容することは予定しておらず,したがって,下向き屈折片9も物品落下防止機能を奏し得るものではない。
以上から,乙4発明のロ字形の下向き屈折片9は,棚板の四周に設けられる壁ではなく,本件特許1の「外壁」及び「内壁」に該当しないことから,乙4発明には,構成要件1B及び1Cの開示はない。
b 動機付けの不存在20乙4発明は,前記aのとおりであり,被告が主張するように本件特許1−1と作用効果を同じくするものではなく,また,乙17発明は,角筒状の支柱と棚板の各角の切除部とによる固定を前提とするものではないから,乙4発明を適用すべき動機付けはない。
c 阻害要因の存在乙4発明の下向き屈折片9は,角筒状の支柱を棚板の隅角の切除部に密接させて棚板に固定するためのものであるが,乙17発明は,止金具6を中空部5に嵌め込み,取付金具17を用いて支柱を棚板に固定するものであり,両者は固定方法が全く異なるのでおよそ組み合わせることはできない。
d 審査経過について「早期審査に関する事情説明書」(乙5)における陳述は,「違いを明確にする必要がある」というだけで,進歩性がないことを認めたものではない。
(2) 本件発明1−2について被告が指摘する「R曲げ」と「X曲げ」(乙9)は,棚板の外壁に関するものではないし,また,「R曲げ」と「X曲げ」は,そもそも「外壁」と「内壁」を想定するものではないし,「前記棚装置の連接部は前記基板と反対側に向いて凸の円弧状に形成されており,前記棚装置における内壁の自由端部は傾斜部になっている」という形状自体も示されていない。
また,被告が指摘する乙13,乙31の1は,前記2−1【原告の主張】(2)記載のとおりである。
2−3 争点2−3(乙3発明を主引例とする進歩性の欠如)について【被告の主張】以下のとおり,本件発明1は,乙3発明に,@乙4発明,A曲げ加工に関する周知慣用技術,Bプレス機の形状選択,C実開昭55−98808号のマイクロフィルム(乙14,以下「乙14文献」という。)に記載された考案(以下「乙14発明」という。),D特開平7−293959号公報(乙15,以下「乙15文献」21という。)に記載された発明(以下「乙15発明」という。)を,それぞれ適用することにより,いずれも当業者が容易に発明することができたものであるから(@については本件発明1−1についての主張)進歩性を欠き,無効とされるべきものである(特許法123条1項2号29条2項)。
(1) 乙3発明乙3文献の明細書(3頁)及び図(第2図)等には,「4本のコーナー支柱(支柱10)と,前記コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板(棚板12)とを備えており,前記棚板は,水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁(周縁18)とを備えている棚装置であって,前記棚板における外壁の先端(周縁18)に,基板の側に折り返された内壁が,連接部を介して一体に形成された棚装置(スチール棚)」(括弧内の記載が乙3文献の記載である。)が記載されている(乙3発明)。
(2) 本件発明1と乙3発明との対比ア 一致点本件発明1と乙3発明は,構成要件1A,1B,及び1Cのうち「前記棚板における外壁(周縁18)の先端に,基板の側に折り返された内壁が・・・連接部を介して一体に形成されて」いる点で一致する。
イ 相違点@ 本件発明1では,基板の側に折り返された内壁が,「当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように」形成されているのに対し(1C),乙3発明においては,内壁と外壁との間に空間がない点A 本件発明1では,「前記内壁のうち前記連結部と反対側の自由端部は前記外側に向かって延びるように曲げられている」(1C)のに対し,乙3発明ではそうでない点B 乙3発明は,構成要件1E及び1Fを有しない点(3) 相違点に係る構成の容易想到性22ア 乙4発明の適用(相違点@及びAについて)(ア) 乙4発明乙4文献には,物品棚装置に関する記載があり,乙4文献の明細書の記載(前記2−2【被告の主張】(1)ウ,「前記隅角形成条板2は内向きに彎曲したため極めて強固で,ねじ7を強く締めても変形する憂いがなく,棚板を確固に保持できる効果がある」(2頁8行〜11行))及び図面(第3図)によれば,「前記棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており,前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられている」形状が示されている。
(イ) 適用の容易性乙3発明は「スチール棚」,乙4発明は「物品棚装置」に関するものであり,両者は同一の技術分野に属する発明であるから,乙3発明に乙4発明を適用することには動機付けが存在し,適用する困難性もないことから,適用は容易であったといえる。原告は,乙3発明と乙4発明とは,支柱と棚板の固定方法が全く異なるから両者を適用すべき動機付けはない旨主張するが,本件発明1は支柱と棚板を特定する発明ではなく,乙3発明の棚板に代えて乙4発明の外壁と内壁との間に空間が空くような棚板を用いることは,棚板の剛性を高めるという点で動機付けがあるといえる。 原告は,また,棚板の周縁部を空間を空けた二重構造とするとボルトの締結を弱めることになるから阻害要因がある旨主張するが,通常,その空間内にナットを配置して固定することが行われるものであるから,阻害要因は存在しない。
また,乙3文献は,本件特許2に係る拒絶理由通知書(乙6)において引用文献1として挙げられていることから,「早期審査に関する事情説明書」(乙5)は,本件特許1に係る出願人が乙3文献の存在を踏まえた上で作成したものであるが,その中で,「本願の請求項1はこの文献A(乙4文献)との違いを明確化する必要があると思料する」と述べており,乙4文献が,本件発明1の特許性に影響を与え23得るものであることを認めている。
したがって,本件特許1に係る出願人は,相違点@及びAについて,当業者が乙3発明に乙4発明を適用することは容易であることを認めているというべきである。
以上のとおり,動機付けの存在,阻害要因の不存在,及び出願経過を総合すると,相違点@及びAについて,当業者が乙3発明に乙4発明を適用することは容易に想到することができたというべきであり,したがって,本件発明1−1は,乙3発明及び乙4発明から当業者が容易に想到し得たものである。
イ 曲げ加工に関する周知慣用技術の適用板金加工の分野において,安全性の向上,補強,外観の向上を目的として,鋼板の縁部を折り曲げて二重にする曲げ加工,さらに,連接部を介して接続された外壁と内壁との間に空間を設けることも周知慣用技術である(乙8,9)。鋼板を取り扱う棚装置の分野も例外でなく,連接部を介して接続された外壁と内壁との間に空間を設けることは,周知慣用技術であり(乙4,14,17,18),棚装置以外の分野でも,これらの曲げ加工が用いられている(乙15,19,20)。
前記のとおり,鋼板の縁部を折り曲げて二重にすることの作用効果の一つは,補強であるところ,本件発明1の作用効果とされる内壁の「補強機能」と一致する。
そもそも,「内壁も補強機能を果たして棚板の剛性が高くなるため棚装置全体としてより頑丈な構造にすることができる」とされる本件発明1の作用効果は,棚板の側壁を二重にすることによりもたらされるものであり,本件発明1に特有の作用効果ではない。
そうすると,乙3発明の棚板の外壁及び内壁を,互いに近接したものとするか,空間が空くように離れたものとするかは単なる設計事項である。
そして,本件特許1の作用効果が従来技術にない特有のものではないことに鑑みると,乙3発明の棚板の側壁の形状として,本件発明1−1及び1−2の形状を採用することは単なる形状選択であるといえる。
したがって,本件発明1は,当業者が乙3発明及び袋曲げ等の周知慣用技術等か24ら容易に想到し得たものである。
ウ プレス機の形状選択の適用プレス機の製造販売者及びユーザーにとって,プレス機により,形状の自由度が極めて高い条件において鋼板の縁部を折り曲げられること及び平面視四角形で金属板製の棚板を成形可能であることは,本件特許1の出願前からの技術常識であり,前記2−1【被告の主張】(2)記載のとおり,本件特許1の出願前には,プレス機による,本件発明1の棚板の側壁と実質的に同じ形状加工は公知のものであり,本件発明1に係る棚板の側壁の形状は,単なる形状選択にすぎない。
補強等を目的として棚装置の棚板の側壁に袋曲げ等の曲げ加工を適用することは前記イのとおり周知慣用技術であり,したがって,乙13,乙31の1@Aの周知の金属板の曲げ加工形態を棚板の側壁に採用する動機付けがあるといえる。
以上から,乙13ないしは乙31の1@Aの周知の金属板の曲げ加工形態を,乙3発明に適用することは容易であるというべきであり,本件発明1は,当業者が容易に想到し得たものである。
エ 乙14発明の適用乙14文献は,本件特許1の出願前に頒布された刊行物であり,整理棚における棚板の取付構造に関するものである。乙14文献の「第1図は逆U字状に折曲された鋼製パイプよりなる支柱1,1′の間に上下2段に鋼板製の棚板2,3を配し,」(3頁6行〜8行)との記載や第2図等によれば,「前記棚板(上棚板2)における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており,前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられている」棚板が開示されている(乙14発明)。
そして,乙3発明及び乙14発明は,いずれも棚装置に関する発明であり,技術分野が一致しており,適用について困難性もない。棚装置の分野において,棚板の側壁を二重にし,外壁と内壁との間に空間を設けることは,周知慣用技術であり,25板金加工の分野では,二重に折り曲げられた鋼板の縁部の形状として種々の形状が知られていることから,板金加工の分野で公知又は周知の形状を棚板の形状として採用することは,当然予想されることである。
したがって,当業者が,乙3発明の外壁及び内壁の間に空間を設け,乙3発明の連接部及び内壁の形状として乙14発明の形状を採用することは,当然予想されることであり,容易であるといえ,本件発明1は,当業者が容易に想到し得たものである。
原告は,乙14文献の第2図のカール部は,「外壁」に相当せず,棚板の四周に設けられるものではないし,上向きに物品を収容し得るものではないからカール部は単なる縁処理にすぎないと主張する。しかし,カール部は,棚板2の一辺に設けられており,本件発明1の「外壁」に対応するものであり,乙3発明において四周に適用するにつき阻害する要因はなく,また,本件発明1における壁は物の脱落防止の機能を有するものではないから,原告の主張は理由がない。
オ 乙15発明の適用乙15文献は,本件特許1の出願前に頒布された刊行物であり,レンジフードファンにおけるコーナーの補強構造に関するものである。乙15文献の記載(段落【0002】,【0010】,【0013】,図7)によれば,本件発明1に係る外壁,連結部及び内壁と同一又は類似の形状が開示されているといえる(乙15発明)。
棚装置及びレンジフードファンにおけるコーナーの補強構造は,いずれも板金加工の分野に属しており,乙15発明は棚装置の周辺分野に関する発明であるといえ,当業者が公知の周辺技術を適用することは当然に予想されることである。
そして,板金加工の分野において,補強等を目的として,鋼板の縁部を二重にし,外壁と内壁との間に空間を設けること自体は,周知慣用技術であり,当業者が,乙3発明の外壁及び内壁の間に空間を設け,乙3発明の連接部及び内壁の形状として乙15発明の形状を採用することは,当然予想されることであり,容易であるといえ,本件発明1は,当業者が容易に想到し得たものである。
26【原告の主張】(1) 乙3発明乙3発明は,周縁部18が二重構造になっているが,これは,棚板の壁を二重構造にする場合において外側部分と内側部分を密着させるべきだという前記の当業者の常識に基づくものであり,当業者は乙3発明において周縁部の外側部分と内側部分の間に空間を空けようという発想を持たない。むしろ,周縁部の外側部分と内側部分の間に空間を空けると,主として内側部分がたわみ変形することでボルトをナットに強くねじ込んでも支柱と棚板が強く締結できないことになってしまうので,当業者は空間を空けようとは考えない。
(2) 本件発明1と乙3発明との対比少なくとも以下の点で相違する。
@ 乙3発明は,本件特許1−1の構成要件1Cの構成を有さず,棚板の周縁部の外側部分と内側部分が密着していて,その間に空間が空いておらず,また,周縁部の内側部分は外側部分と平行にまっすぐ延びている点A 乙3発明は,本件特許1−2の構成要件1E及び1Fの構成を有さない点(3) 相違点に係る構成の容易想到性ア 乙4発明の適用について(ア) 乙4発明前記2−2【原告の主張】(1)ウ記載のとおり,乙4発明には,相違点@に係る構成は開示されていない。
(イ) 動機付けの不存在仮に組合せを考えるとしても,乙3発明と乙4発明は,「棚」という極めて広範で漠然とした分野を同じくするというだけあり,乙3発明と乙4発明と本件発明1は課題も作用効果も同じくしておらず,これらを組み合わせるべき動機付けは存在しない。
27殊に,乙4発明の下向き屈折片9は,角筒状の支柱を棚板の隅角の切除部に密接させて棚板に固定する方法において,「切除部の直交する両縁部B」とともに角筒状支柱の「直交する横側面に密着させ」る面を作り,支柱と棚板を固定するためのものに設けられたものであって,これとは全く異なる支柱と棚板の固定方法乙3発明に適用すべき動機付けは全くない。
(ウ) 阻害要因の存在乙3発明と乙4発明は,前記のとおり,支柱と棚板の固定方法を全く異にしており,これらを組み合わせることは不可能である。また,乙3発明においては,周縁部18の外側部分と内側部分を密着させて二重構造とした上で外側部分と内側部分を共にボルト20とナット21で強く締結しているのに,仮に乙4発明のように,周縁部18の外側部分と内側部分の間に空間を設けるとすると,ボルトの締結を弱めることになってしまうから,乙4発明を乙3発明に適用することには阻害要因がある。
イ 被告の主張する「周知慣用技術」の適用について以下のとおり,被告が主張する「板金加工の分野において,鋼板の縁部を折り曲げて二重にし,連接部を介して接続された外壁と内壁との間に空間を設けることは周知慣用技術である」との事実はない。
被告の挙げるものは,「板の端部を図10・1・1のようにカール状に折曲げる」「カーリング」(乙8,106頁1行)に関する説明,「閉じた製品形状の曲げをいう」「クロージング」(乙8,140頁)に関する説明,あるいは,単に「曲げパターン」を紹介するものであり(乙9),必ずしも(鋼板の)縁部の処理に係るものではないし,外壁や内壁や連接部を概念し得るものではない。
また,被告は,棚装置の分野においても,「連接部を介して接続された外壁と内壁との間に空間を設けることは,周知慣用技術である」と主張するが,被告の挙げる文献(乙4,14,17,18)は,それぞれ個別の技術的要請に応じて中空部等が設けられているのであり,これらから,(そういう個別の要請から離れて)連28接部を介して接続された外壁と内壁との間に空間を設けるというような技術が導き出せるものでもない。「棚装置以外の分野」として挙げる乙15についても同様であり,被告のいう周知慣用技術なるものは存在しない。
よって,本件特許1は,進歩性を有するもので,被告の主張は全く誤っている。
ウ 被告の主張する「プレス機における形状選択」の適用について被告は,特許法29条1項3号の刊行物に記載された発明として乙10ないし乙13に記載の事項を挙げるようであるが,その具体的内容は特定されておらず,被告の主張は主張として成り立っていないし,相違点に係る構成は,これらの文献には記載されておらず,被告の主張は理由がない。
エ 乙14発明の適用について(ア) 乙14発明乙14文献の第2図のカール部は,本件発明1の(基板の周囲に折り曲げ形成した)「外壁」等に相当するものではない。
乙14文献のカール部は,上棚板2の前端縁と後端縁に形成され,(上棚枠5が被せられる)左右の長手方向には形成されないから(第1図,第3図等参照),棚板の四周に設けられるものではない。また,上棚板2は,補強溝21を下向きにした状態で固定されるものであり,上向きにして物品を収容するものではないし,厚みもシャフト8が配置可能な程度の薄いものである上に,補強溝21も存在しており,上向きにして物品を収容し得るようなものではない。さらに,カール部は単なる縁処理にすぎず,壁のようなものではない。このように,カール部は物品の脱落防止の機能とは無縁のものである。
以上のとおり,乙14文献におけるカール部は,上棚板2の四周に設けられる壁ではなく,本件発明1の棚板の「外壁」や「内壁」等に相当するものではない。
(イ) 動機付けの不存在仮に組合せを考えるとしても,乙3発明と乙14発明とは,棚装置という極めて広範で漠然とした分野を同じくするだけで,乙3発明と乙14発明と本件発明1は29課題も作用効果も同じくしておらず,これらを組み合わせるべき動機付けはおよそ存在しない。また,乙14発明のカール部は縁処理にすぎず,乙3発明の周縁部に関連付ける動機付けはない。
(ウ) 阻害要因の存在乙3発明と乙14発明は,支柱と棚板の固定方法を全く異にしており,これらを組み合わせることは不可能である。また,前記のとおり,乙第3号証の発明において周縁部18の外側部分と内側部分の間に空間を設けることには阻害要因がある。
オ 乙15発明の適用について(ア) 乙15発明乙15文献は,レンジフードに関するものであり,棚装置とは全く技術分野が異なるものであるばかりか,相違点に係る構成は開示されていない。
(イ) 動機付けの不存在仮に組合せを考えるとしても,乙3発明と乙15発明とは,前記のとおり技術分野が異なり,板金加工の分野などという極めて広範で漠然とした分野を同じくするだけで,組み合わせて発明に至る動機付けとはならない。また,乙3発明と乙15発明と本件発明1は,構成の相同性もなく,課題も作用効果も同じくしておらず,これらを組み合わせるべき動機付けはおよそ存在しない。
(ウ) 阻害要因の存在前記のとおり,乙3発明において周縁部18の外側部分と内側部分の間に空間を設けることには阻害要因がある。
2−4 争点2−4(乙4発明を主引例とする新規性欠如(本件発明1−1),進歩性欠如(本件発明1−2))について【被告の主張】本件発明1−1は,本件特許1出願前に頒布された乙4文献に記載された公然知られた乙4発明と同一であることから新規性を欠き,本件発明1−2は,乙4発明に周知の金属板の曲げ加工形状を採用したにすぎないから,当業者が容易に想到し30得たものであるから進歩性を欠き,本件特許1は,特許無効審判により無効とされるべきものである(特許法123条1項2号29条1項1号,2項)。
(1) 乙4発明乙4文献は,「物品棚装置」という名称の考案であり,「棚装置」(構成要件1D)が開示されている。
乙4文献の第1図には,棚板4の1つの角部が示され,当該角部は支柱1で支持されており,「コーナー支柱と,前記コーナー支柱で支持された金属板製の棚板とを備えて」いる構成が開示されている。
また,乙4文献には「棚板の前後左右の縁部に,断面L字形又はロ字形の下向き屈折縁9を形成し」との記載,第3図には一部切り欠いた棚板の隅角部の部分斜視図が示されており,「棚板の前後左右の縁部」という記載から,棚板は平面視四角形であること,「棚板の前後左右の縁部に,屈折縁9を形成し」の記載から,棚板は,水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁(屈折縁9)とを備えることが説明されている。そして,棚板は平面視四角形であり,その隅角部をコーナー支柱で支えるのであるから,コーナー支柱1は4本であることは明らかであり,「4本のコーナー支柱1と,前記コーナー支柱1で支持された平面視四角形で金属板製の棚板4とを備えており」(構成要件1A),「前記棚板4は,水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁(屈折縁9)とを備えている棚装置であって」(構成要件1B)が教示されている。なお,棚装置において,4本のコーナー支柱と,平面視四角形で金属板製の棚板とを備える構成は周知である(乙3,33,34)。
さらに,前記2−3【被告の主張】(3)記載のとおり,「前記棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており,前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられている」(構成要件1C)形状が示されている。
31「早期審査に関する事情説明書」(乙5)において,出願人は「他方,文献A(乙4)(特に第3図)には,外壁と内壁との間を中空に構成した棚板において,内壁の自由端部を外壁に向かって延びるように曲げることが開示されている。したがって,本願の請求項1はこの文献Aとの違いを明確化する必要があると思料する。」として,乙4文献に本件発明1−1が開示されていることを明確に述べている。
(2) 本件発明1−1が乙4発明と同一であること乙4発明には,本件発明1−1の構成要件1Aないし1Dが全て開示されており,本件発明1−1は,本件特許1の出願前に公然知られた発明と同一であるから,新規性を欠く。
(3) 本件発明1−2と乙4発明との対比本件発明1−2の構成要件1E及び1Fは,単に内壁の曲げ形状を特定したものにすぎず,当該形状は,出願日以前に周知の形状にすぎない(乙13,乙31の1@A)。乙31の1に示されるサンプルは,棚板ではないが,全体の形状が平面視四角形の金属製板であり,棚板に利用することを妨げておらず,むしろ示唆しているものであり,乙13や乙31の1@Aに開示された周知の曲げ形状を棚板の内壁に採用することは,当業者にとって容易に想到し得るものであるから,進歩性を欠く。
【原告の主張】争う。
3−1 争点3−1(乙34発明を主引例とする進歩性欠如)について【被告の主張】本件発明2は,本件特許2の出願前に頒布された乙34文献に記載の乙34発明に基づき,乙17,乙35に記載の発明等を組み合わせて適用することにより,当業者が容易に発明することができたものであるから進歩性を欠き,無効とされるべきものである(特許法123条1項2号29条2項)。
(1) 乙34発明32乙34文献には,本件発明2の構成要件2Aないし2D及び2Gに係る構成が記載されている。なお,乙34文献は,本件明細書2中で,特許文献2として挙げられているものである。
(2) 本件発明2と乙34発明との相違点乙34文献には,構成要件2E,2Fに係る構成が記載されていない点で,本件発明2と相違する。
(3) 相違点に係る構成の容易想到性乙17文献には,「棚板外壁の先端を内曲げして一体の内壁を設け,外壁と内壁との間に空間をあけた棚板」が開示されているが,支柱と棚板との固定にボルトとナットを使用しておらず,また,棚板の長手方向に延びる側壁だけを折り返し,幅方向に延びる側壁は折り返していない。しかし,乙17発明を乙34発明に適用して,棚板をボルトにより固定することにすれば,ナットは必ず外壁と内壁との間に位置することになるから,構成要件2Eは,乙17の適用により容易に想到し得る。
本件特許2の出願日前に頒布された刊行物である乙35(特開平9−238758号公報,平成9年9月16日発行,以下「乙35文献」という。)には,本件発明2の構成要件2Fが開示されている。
乙34発明の棚板の代わりに乙17文献に基づいて空間を設けた棚板を用い,乙34発明の支柱と乙17文献の棚板との間に,乙35文献に記載の係止孔と係止凸部とを付設するだけで,構成要件2Eに到達することができるもので,本件発明2は,当業者が容易に想到できたものであるといえ,阻害要因もない。
乙17発明の適用に動機付けがなく,阻害要因があることについては争い,乙35文献の発明の適用には,支柱及び棚板の位置決めを行う位置決め手段である点で一致しており,適用する動機付けも存在する。
【原告の主張】被告の主張する無効理由はない。
(1) 乙34発明33乙34文献には,「金属板を折曲して直角四辺形の浅い箱状に成形した複数枚の棚板と,金属板をアングル状に折曲して作られた4本の支柱とからなり,各棚板の四隅のかど部を支柱の内側面に当接し,ボルトにより固定して組み立てた金属板製棚において,各箱状棚板の側壁にあたる各縁片の外側に各縁片の先端部分を外側に折り返してなる金属板の小片を重ねて付設し,金属板小片の幅を縁片の幅より小さくするとともに縁片の幅の半分以上とし,各棚板のかど部では金属板小片の側面をかどから支柱の幅だけ隔たったところに位置させ,組み立て時に支柱の両側面を金属板小片の上記側面により挟むようにしたことを特徴とする,金属板製棚」が記載されている。
乙34発明は,棚板の側壁に当たる縁片(12〜15)の外面に金側板小片(折り返し片16〜19)を設けて,これを支柱の側面(端面)に当てることで傾き防止を図ったものであり,棚板の側壁を外側に折り返すことはその作用効果を奏するためには不可欠の構成であり,技術思想の中核をなすものである。
(2) 本件発明2と乙34発明との対比乙34発明は,構成要件2E及び2Fの構成を備えておらず,また,乙34発明の「外壁」は本件発明2とのそれとは異なるもので,その意味で,構成要件2Aないし2Dの構成についても有しない。
(3) 相違点に係る構成の容易想到性構成要件2Eについて乙17発明の中空部5は棚板の四周に設けられるものではなく,また,物品の落下防止機能を果たすものでもなく,およそ「前記棚板における外壁の先端には前記基板の側に折り返された内壁が一体に形成されており」との構成を備えるものではない。また,乙17発明は,取付金具17によって棚板を支柱に固定するものであり,ボルトとナットで固定するものではなく,「前記外壁と内壁との間には前記ナットを隠す空間が空いており」との構成を備えるものではない。このように,乙17発明は,構成要件2Eの構成を全く備えるものではなく,また,構成要件2Aな34いし2Dも備えていない。
構成要件2Fについて乙35文献に記載された発明は,「棚板のコーナー部分にボルト挿通用の切欠部」を設け,「支柱のコーナー部にボルト受入れ孔」を設け,「棚板のコーナー部分にネジ孔を有する固定具」を配置して,「ボルトを支柱の外側からボルトを固定具にねじ込むことで,棚板が支柱に固定する」という「アングル棚」において,「棚板の端壁に係止孔を設ける一方,係止孔に嵌まる係止凸部をアングル支柱の垂直壁の両端部に上下にわたって複数形成した」ものであり,構成要件2Fの構成を有していない。
ウ 動機付けの不存在・阻害要因の存在乙34発明に乙17発明を適用することについては,動機付けがなく,仮に組み合わせても,構成要件2Eの構成を得ることはできない。また,乙17発明は一般的に棚板の側壁の先を内曲げすることを教示していないのに対し,乙34発明は,棚板の側壁を外側に折り返すことを必須とするもので,棚板の側壁の先を内曲げすることなどできない。乙17発明は棚板と支柱の固定方法について特殊な方法を採用する発明であり,固定方法を全く異にする乙34発明に適用することはできない。
乙34発明に乙35文献記載の発明を適用することについては,動機付けがなく,仮に組み合わせたとしても構成要件2Fの構成を得ることはできない。また,乙35文献において,固定具3は棚板の側壁5の内側部分に配置されるものであるが,「(棚板の)外壁と内壁との間には(支柱の側板と棚板の外壁を締結するボルトがねじ込まれる)ナットを隠す空間が空いて」いる構成を採用すると,そのような構成をとることは不可能である。
3−2 争点3−2(乙3発明を主引例とする進歩性欠如)について【被告の主張】本件発明2は,本件特許2の出願前に頒布された乙3文献に記載の乙3発明に基づき,乙17ないし乙22に記載の発明等を組み合わせて適用することにより, 当35業者が容易に発明することができたものであるから進歩性を欠き,無効とされるべきものである(特許法123条1項2号29条2項)。
(1) 乙3発明乙3文献には,「複数本のコーナー支柱(支柱10)と,前記コーナー支柱の群で囲われた空間に配置された金属板製の棚板(棚板12)とを備えており,前記コーナー支柱は平面視で交叉した2枚の側板を備えている一方,前記棚板は,水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁(周縁18)とを備えており,前記外壁の端部を前記コーナー支柱の側板に密着させて両者をボルト(ボルト20)で締結している構成であって,前記ボルト(ボルト20)は頭がコーナー支柱(支柱10)の外側に位置するように配置されており,前記棚板(棚板12)における外壁(周縁18)の内面には前記ボルトがねじ込まれるナット(ナット21)を配置しており,前記棚板(棚板12)における外壁(周縁18)の先端には前記基板の側に折り返された内壁が一体に形成された棚装置(スチール棚)」が記載されている。
(2) 本件発明2と乙3発明との対比ア 一致点本件発明2と乙3発明とは,構成要件2Aないし2D,及び「棚板における外壁の先端には前記基板の側に折り返された内壁が一体に形成されて」いる(構成要件2Eの一部),「棚装置」(構成要件2F)の構成において一致する。
イ 相違点@ 本件発明2には,「外壁と内壁との間には前記ナットを隠す空間が空いて」いるのに対し(構成要件2Eの一部),乙3発明では,外壁と内壁との間に空間がない点A 本件発明2には,「前記コーナー支柱の側板と棚板の外壁とのうちいずれか一方には位置決め突起を,他方には前記位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴を設けている」のに対し(構成要件2F),乙3発明は,そうではない点36(3) 相違点に係る構成の容易想到性ア 相違点@について以下のとおり,本件特許2の出願前に頒布された刊行物である乙17文献,あるいは乙18ないし乙20に記載された発明(以下「乙18発明」などという。)を単独若しくは組み合わせて乙3発明に適用して相違点@に係る構成とし,相違点を解消することは,当業者が容易に想到することができたというべきである。
(ア) 乙17発明乙17文献には,「前記外壁(側板2)と内壁(折立片3)との間には前記ナット(止金具6及びねじ孔8)を隠す空間が空いている」構成が開示されている。
(イ) 乙18発明特開平7−148039号公報(乙18,以下「乙18文献」という。)には,「前記外壁(折り返し片61の外壁)と内壁(折り返し片61の内壁)との間には前記ナット(ナットn)を隠す空間が空いている」構成が開示されていると認められる(乙18発明)。
(ウ) 乙19発明特許第2630048号公報(乙19,以下「乙19文献」という。)の明細書の記載及び第6図によれば,「前記外壁(端縁1a)と内壁(補強桟部15)との間には前記ナット(ナット52)を隠す空間が空いている」構成が開示されている。
(エ) 乙20発明特開平9−299150号公報(乙20,以下「乙20文献」という。)の,机に関する記載(段落【0013】,【0047】)及び図9によれば,「前記外壁(フレーム15の外壁)と内壁(フレーム15の内壁)との間には前記ナット(ナット16)を隠す空間が空いている」構成が開示されている。
(オ) 乙3発明に乙17発明ないし乙20発明を適用することの容易性乙17発明及び乙18発明は,いずれも棚装置に関する発明であり,技術分野が乙3発明と一致していることから,これらを単独で若しくは組み合わせて乙3発明37に適用する動機付けが存在するといえ,適用する困難性もない。
また,乙19発明及び乙20発明は,その少なくとも一部が鋼板で形成された机に関する発明であり,板金加工の分野に属するものであるから棚装置の周辺分野に関する発明であるといえ,当業者が公知の周辺技術を適用することは当然に予想されることであって,適用する困難性もない。
さらに,「外壁と内壁との間にはナットを隠す空間が空いている」構成は,前記のとおり,棚装置の分野及びその周辺分野である机の分野において周知技術であることからしても,当業者が,乙17文献ないし乙20文献に記載の周知技術を乙3発明に適用して,乙3発明の外壁及び内壁の間にナットを隠す空間を空けることは,容易であるといえる。
イ 相違点Aについて以下のとおり,本件特許2の出願前に頒布された刊行物である乙21,乙22に記載された発明(以下,記載された発明を「乙21発明」などという。)を単独で若しくは組み合わせて乙3発明に適用することにより相違点Aに係る構成とし,相違点を解消することは,当業者が容易に想到することができたというべきである。
(ア) 乙21発明特開2004−84762号公報(乙21,以下「乙21文献」という。)には,ラック用連結部材に関し,位置決め手段が,位置決め突起(突出部16)と,位置決め穴(穴20)とからなる点が記載されていると認められる。
乙3発明及び乙21発明は,いずれも棚装置に関する発明で技術分野が一致しており,適用する動機付けが存在するといえ,適用する困難性もない。また,乙21文献及び乙3文献は,本件特許2に係る拒絶理由通知書(乙6)において引用文献として挙げられ,乙3文献記載の位置決め手段として,乙21文献に記載された位置決め突起と位置決め穴からなる位置決め手段を適用し,本願発明の構成とすることは当業者にとって容易であるとの特許庁審査官の意見が示されている。そうすると,当業者が,乙3発明に乙21発明を適用して,相違点Aに係る構成とすること38は,容易に想到し得たというべきである。
(イ) 乙22発明実用新案登録第3085475号公報(乙22,以下「乙22文献」という。)の,組立棚の棚取付構造に関する記載(段落【0009】,【0015】,【0020】)並びに図1及び図2から,乙22文献には,「前記コーナー支柱(支柱1)の側板には位置決め突起(係止突部13.14)を,棚板(棚板2)の外壁(側面部22)には前記位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴(係止孔23.33)を設けている」構成が開示されていると認められる。
乙3発明及び乙22発明は,いずれも棚装置に関する発明で技術分野が一致している。また,乙22発明はコーナー支柱と棚板との間のガタ付きを防止など,本件発明2と作用効果が一致しており,乙3文献には,「スチール棚の堅固な組立て」と,「棚板の位置決め」に言及する記載がある。以上からすれば,乙3発明に乙22発明を適用する動機付けが存在し,他に阻害要因がないこと,作用効果が一致すること等を併せると,相違点Aに係る構成を得るために,当業者が乙3発明に乙22発明を適用することは容易に想到することができたというべきである。
【原告の主張】(1) 乙3発明2−3【原告の主張】(1)記載のとおりである。
(2) 本件発明2と乙3発明との対比本件発明2と乙3発明とは,以下の点で相違する。
@ 本件発明2では,「前記棚板における外壁の内面には前記ボルトがねじ込まれるナットを配置しており,前記棚板における外壁の先端には前記基板の側に折り返された内壁が一体に形成されており,前記外壁と内壁との間には前記ナットを隠す空間が空いて」いる(構成要件2D,2E)のに対し,乙3発明では,周縁部18は(二重構造であるものの)外側部分と内側部分とは密着していてナットを隠す空間は空いておらず,ナット21は周縁部18の内側部分の内面に配置され39て棚板の内部に露出している点A 本件発明2では,「前記コーナー支柱の側板と棚板の外壁とのうちいずれか一方には位置決め突起を,他方には前記位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴を設けている」(構成要件2F)のに対して,乙3発明はかかる構成を全く備えていない点(3) 相違点に係る構成の容易想到性ア 相違点@について本件発明2の棚板の外壁は,構成要件2Aに規定されるように(水平状に広がる)「基板の周囲に折り曲げ形成した」ものであり,基板の「周囲」すなわち四周に設けられる(外側の)壁である。これによって,棚板の外壁が基板から上向きに立ち上がった場合は「外壁は物品の落下防止機能も果たしている」(甲6,【0010】)のである。構成要件2Eにおける「前記棚板における外壁」や「前記外壁」もこのような構成を前提とするものであり,「内壁」もかかる「外壁」に対応するものである。
また,本件発明2の「前記ナットを隠す空間」の「前記ナット」は,棚板の外壁とコーナー支柱とを締結するボルトがねじ込まれるものである。
被告が挙げる乙17文献ないし乙20文献には,(水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成された)棚板の外壁と内壁との間に棚板の外壁とコーナー支柱とを締結するボルトがねじ込まれるナットを隠す空間が空いているものは,一切なく,相違点@は記載されていない。また,以下のとおり,被告が挙げる乙17発明ないし乙20発明を乙3発明に(単独であれ重畳的であれ)組み合わせることもできない。
(ア) 乙17発明の適用a 乙17発明前記2−2【原告の主張】(1)アのとおりであり,乙17文献における側板2と折立片3は天板1の四周に設けられた壁ではなく,「外壁」や「内壁」に相当するも40のではないし,「止金具6及びねじ孔8」は本件発明2の「前記ナット」に相当するものではない。ビス10は,(側板2と折立片3からなる)中空部5と止金具6を締結するもので,天板2と支柱15の側板を締結するものではなく,天板2は取付金具17で支柱15に支持されるものであり,ボルトとナットで締結されるものではない。
本件発明2の「前記ナットを隠す空間」の「前記ナット」は,ナットである上に,棚板の外壁とコーナー支柱とを締結するボルトがねじ込まれるものであるが,乙17文献の「止金具6及びねじ孔8」はおよそ棚板の外壁とコーナー支柱とを締結するボルトがねじ込まれる「前記ナット」ではない。
以上のとおり,乙第17号証には相違点@に係る構成は開示されていない。
b 動機付けの不存在仮に組合せを考えるとしても,両発明は,棚装置という極めて広範で漠然とした分野を同じくするだけであり,乙3発明と乙17発明と本件発明2は課題も作用効果も同じくしておらず,これらを組み合わせるべき動機付けはおよそ存在しない。
殊に,乙17発明は,固定方法が異なり,取付金具17や止金具6等の部材を有しない乙3発明に適用する動機付けなど存在しない。
c 阻害要因の存在乙17発明と乙3発明は,棚板と支柱の固定方法を全く異にしており,およそこれを組み合わせることができない。また,前記のとおり,乙3発明において,周縁部18の外側部分と内側部分の間に空間を設けることはボルトの締結を弱めることになるから,中空部を設けることはできないから,乙3発明に乙17発明を適用することはできない。
(イ) 乙18発明の適用a 乙18発明乙18文献には,相違点@に係る構成は開示されていない。乙18文献では,折り返し片61は棚板6の四周に設けられる壁ではなく,本件発明2の棚板の「外壁」41や「内壁」に相当するものではない。また,折り返し片61は,その先端が上向きに延びているものの,ほんの僅かに延びているにすぎず,「前記外壁と内壁との間には前記ナットを隠す空間が空いて」いるとはいえない。さらに,ナットnは本件発明2の「前記ナット」と,その目的,配置や機能を全く異にしており,「前記ナット」に相当するものでもない。
b 動機付けの不存在仮に組合せを考えるとしても,両発明は,棚装置という極めて広範で漠然とした分野を同じくするだけで,乙3発明と乙18発明と本件発明2は課題も作用効果も同じくしておらず,これらを組み合わせるべき動機付けはおよそ存在せず,殊に,乙18発明とは固定方法が異なり,棚受け金具3等の部材を有しない乙3発明に適用する動機付けなど存在しない。
c 阻害要因の存在乙18発明と乙3発明とは,棚板と支柱の固定方法を全く異にしており,およそこれを組み合わせることができない。また,乙3発明において,周縁部18の外側部分と内側部分を略L型にすることはボルトの締結に支障を来すから,略L型にすることはできないものである。
(ウ) 乙19発明の適用a 乙19発明乙19文献には,相違点@に係る構成は開示されていない。乙19文献における端縁1aと補強桟部15は本件発明2の「外壁」や「内壁」とは,およそ種別と機能を異にするもので,これに相当するものではない。また,ナット52は本件発明2の「前記ナット」に相当するものではないし,「補強桟部15」は,天板1を補強する受桟が中空にされただけのものであり,ナットを隠すための空間を設けたものではない。
b 動機付けの不存在乙19発明と乙3発明と本件発明2は,課題や作用効果はもちろん,技術分野す42ら異にしており,およそ両者を組み合わせて本件発明2に至るべき動機付けは存在しない。
c 阻害要因の存在乙3発明においては,周縁部18の外側部分と内側部分を中空にすることはボルトの締結に支障を来すから,中空にすることはできない。
(エ) 乙20発明の適用a 乙20発明乙20文献には,相違点@に係る構成は開示されていない。乙20発明は,乙3発明と対象を異にしており,乙20文献における箱形フレーム15は,種別と機能を異にするもので,本件発明2の(棚装置の棚板の)「外壁」や「内壁」に相当するものではない。また,ナット16は本件発明2の「前記ナット」に相当するものでもない。
b 動機付けの不存在乙20発明と乙3発明と本件発明2は,課題や作用効果はもちろん,技術分野すら異にしており,およそ両者を組み合わせて本件発明2に至るべき動機付けは存在しない。
c 阻害要因の存在乙3発明においては,周縁部18の外側部分と内側部分を中空にすることはボルトの締結に支障を来すから,中空にすることはできず,乙20発明を乙3発明に適用することはできない。
イ 相違点Aに係る構成について(ア) 乙21発明の適用a 乙21発明乙21文献には,相違点Aに係る構成についての開示はない。乙21文献における16は「突片部」であって「突出部」ではない上に「位置決め突起」とは全く異なる。また,仮に相当するとの主張であったとしても,突部21は,支持部材7や43棚板部材5ではなく,これらとは別の「ラック用連結部材8」に設けられるものであり,根本的に相違している。
b 動機付けの不存在乙3発明と乙21発明は,棚装置という極めて広範で漠然とした分野を同じくするだけであり,乙21発明は,ラック連結用部材を用いて固定する技術に係るものであり,具体的な技術分野を異にするというべきである。また,乙3発明と乙21発明と本件発明2は課題も作用効果も同じくしておらず,これらを組み合わせるべき動機付けはおよそ存在しない。
(イ) 乙22発明の適用a 乙22発明乙22文献には,相違点Aに係る構成についての開示はない。乙22文献は,固定金具3を必須の構成部材とする組立棚であり,固定金具3を捨象することはできない。
b 動機付けの不存在乙3発明と乙22発明は,棚装置という極めて広範で漠然とした分野を同じくするだけで,乙22発明は,固定金具を用いて固定する技術に係るものであり,具体的な技術分野を異にするというべきである。
c 阻害要因の存在乙22発明は「L型片からなる固定金具3」を「棚板2のコーナ部に内側から当接」し,「ボルト4」を「支柱1の外側面から棚板2のコーナ部を貫通して固定金具3のねじ孔31に螺合」するものであるが,このような構造のものであれば,固定金具3(のねじ孔31又はナット)は棚板の内壁の内側に配置されることになり「(棚板の)外壁と内壁との間には(支柱の側板と棚板の外壁を締結するボルトがねじ込まれる)ナットを隠す空間が空いている」ようにすることは不可能である。
4 争点4(本件発明1についての訂正の対抗主張の成否)について【原告の主張】44(1) 訂正要件の充足ア 本件発明1−1の訂正は,設定登録時の請求項2の構成要件として記載していた「内壁の自由端部は傾斜部になっている」(1F)を加えて限定したものであり,特許請求の範囲減縮に該当するから,独立特許要件以外の訂正要件を充足する。
イ 本件訂正発明1−2の訂正は,従属形式であったものを独立形式に改めると共に(1A,1B,1C),「前記コーナー支柱は平面視L形であり,」(1H)「前記棚板の外壁が前記コーナー支柱にボルト及びナットで固定されており,, 」(1T)及び「隣り合った連接部が互いに突き合わさっている,」(1J)の3つの構成要素を付加したものであるから,特許請求の範囲減縮に該当し,構成1H,1T,1Jはいずれも本件特許1の分願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,訂正要件を充足する。
(2) 技術的範囲に属すること被告各製品は,本件訂正発明1−1の構成要件を全て充足しており,本件訂正発明1−1の技術的範囲に属する。また,被告製品1は,本件訂正発明1−2の構成要件も全て充足しているから,被告製品1は本件訂正発明1−2の技術的範囲にも属する。
(3) 無効理由の解消本件訂正発明1は,構成要件1C,1F,1E,1Jを採用することで,「内壁も補強機能を果たして棚板の剛性が高くなる棚装置全体としてより頑丈な構造にすることができる」(甲5,【0014】)という効果を奏するものであり,同時に,美感にも優れており,かつ,内壁の自由端部が外壁に向く傾斜部になっているため,人の指先が周壁の内面に触れてもエッジで傷つくようなことはなくて安全性にも優れているという効果を奏するものである。構成要件1Fは,自由端部を直角に曲げた場合に比べて外壁に当接させたときの自由端部の幅寸法が大きくなって内壁の剛性は高くなって曲げやねじりに対して強くなるため,前記の作用効果を助長するも45ので,構成要件1Jの構成も,隣り合った連接部同士が突き合わせられているため,同様に前記作用効果を助長するという技術的意義を有するものである。
そして,以下のとおり,本件訂正発明1に係る無効理由はいずれも存在しない。
ア 分割要件違反について前記2−1【原告の主張】のとおりである。
本件当初明細書には,コーナー支柱で棚板を支持している棚装置であることの記載があり(【0001】),本件出願当時L字形以外の支柱形状も周知であった 。
そして,出願当初明細書には,本件訂正発明1で特定する棚板における外壁と内壁の構成(1E,1F,1J)が記載されており(請求項2,【0009】,【0014】〜【0031】及び図1〜図5等),その単独の作用効果として,「請求項2のように構成すると,内壁も補強効果を果たして棚板の剛性が高くなるため棚装置全体としてより頑丈な構造にすることができ」ることが記載がされている。 本件当初明細書の実施例として明記された「平面視で直交した2枚の側板を有するコーナー支柱」という支柱の形状や「外壁の端部をコーナー支柱の側板に密着させて両者をボルトで締結する構成」という外壁と支柱の締結方法は,本件訂正発明1(本件発明1)において格別の意義を有するものではない。
したがって,本件当初明細書には,実施例として明記された「平面視で直交した2枚の側板を有するコーナー支柱」と「外壁の端部をコーナー支柱の側板に密着させて両者をボルトで締結する構成」に限られず,「4本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板」を備えた棚装置をも記載されていたといえることは明らかであり,本件訂正発明1−1には分割要件違反はない。
イ 乙17発明を主引例とする本件訂正発明1の進歩性欠如について(ア) 本件訂正発明1−1及び同1−2と乙17発明との対比両者は,構成要件1A及び1Dにおいて一致し,相違点は,前記2−2【原告の主張】(1)イ(イ)記載@(構成要件1B)及びA(構成要件1C)に加え,少なくと46も下記の相違点がある。
(本件訂正発明1共通の相違点について)B 本件訂正発明1では,「内壁の自由端部は傾斜部になって」いる(1F)のに対して,乙17発明では,そのような構成を有していない点(本件訂正発明1−2固有の相違点について)C 本件訂正発明1−2では,「前記棚板の外壁が前記コーナー支柱にボルト及びナットで固定されて」(1I)いるのに対し,乙17発明では,天板1の側板2等(折立片3,連成部4)は支柱15に取付金具17によって係止されている点D 本件訂正発明1−2では,「前記棚装置の連接部は前記基板と反対側に向いて凸の円弧状に形成されて」(1E)いるのに対し,乙17発明ではそのような構成を有していない点E 本件訂正発明1−2では,「隣り合った連接部が互いに突き合わさっている」(1J)のに対して,乙17発明ではそのような構成を有していない点(イ) 相違点に係る構成の容易想到性相違点@及びAについては,前記2−2【原告の主張】(1)ウ記載のとおり,容易に想到することはできなかったものである。相違点B及びDについては,前記2−1【原告の主張】(2)記載のとおり,被告の主張する技術常識など存在せず,また,単なる曲げサンプルにすぎないものを多数の中から選択して特定の部分に適用する動機付けもなく,被告の主張には理由がない。相違点Cについては,乙17発明も,乙4発明も,それぞれ棚板と支柱の特別な固定方法を採用するものであり,相違点Cに係る構成(「前記棚板の外壁が前記コーナー支柱にボルト及びナットで固定」する方法)を採ることはできないことは明らかである。相違点Eについては,乙17発明や乙4発明を含め,被告が挙げるいずれの公知文献にも相違点Eに係る構成(「隣り合った連接部が互いに突き合わさっている」)は記載も示唆もなく,相違点Eに係る構成を採用することはできないことは明らかである。
47ウ 乙3発明を主引例とする本件訂正発明1の進歩性欠如について乙3発明は前記2−3【原告の主張】(1)のとおりであり,本件訂正発明1に共通の構成要件1C及び1Fの構成を有しないほか,本件訂正発明1−2固有の構成要件1E及び1Jの構成を有しない。
被告は,乙3文献では「第3図や第7図に示されるように,隣り合った周縁(部)18が互いに突き合わされている」旨主張する。
しかし,そもそも乙3発明は,突合せの前提となる凸の円弧状の連接部を有していないし,第3図や第7図には被告のいう周縁部の突合せすら図示されていない。
また,乙3発明と被告の挙げる引用文献等を組み合わせるべき動機付けはない上に,乙3発明は,棚板の周壁を二重構造にする場合に外側部分と内側部分を密着させた方が剛性が高く,支柱を棚板の端部にボルトで締結する際に外側部分と内側部分を密着させて2枚重ねて共にボルトで締結した方が強く固定できるという要請に基づき密着した二重構造としたものであり,周縁部の外側部分と内側部分の間に空間を空ける構成することには,前記2−3【原告の主張】(3)のとおり強い阻害要因がある。
エ 乙4発明による新規性欠如(本件訂正発明1−1),同発明を主引例とする進歩性欠如(本件訂正発明1)(ア) 本件訂正発明1と乙4発明との対比a 乙4発明は,以下の点で本件訂正発明1−1と相違する。
@ 本件発明1−1は構成要件1Bを備えるのに対し,乙4発明では,断面ロ字状の下向き屈曲片を棚板4の四周に設けているとはいえない点A 本件訂正発明1−1は構成要件1Cを備えるのに対し,乙4発明では,ロ字状の下向き屈曲片の内側部分は外側部分と平行に延びたまま棚板4の底板に達しており,(底板に達するまでの)内側部分は外側部分に向かって延びてはおらず外側部分に向かって延びるように曲げられていない点B 本件訂正発明1−1は構成要件1Fを備えるのに対し,乙4発明48では,ロ字状の下向き屈曲片の内側部分は,外側部分と平行に延びたまま棚板4の底板に達している(傾斜部を設けることはできない)点したがって,本件訂正発明1−1は,新規性を有することは明らかである。
b 乙4発明は,上記@ないしBのほか,以下の点で本件訂正発明1−2と相違する。
C 本件訂正発明1−2では,構成要件1H及び1Iを備えるのに対し,乙4発明では,そのような構成を有していない点D 本件訂正発明1−2では,構成要件1Eを備えるのに対し,乙4発明ではそのような構成を有していない点E 本件訂正発明1−2では,構成要件1Jを備えるのに対し,乙4発明ではそのような構成を有していない点c そもそも乙4発明の断面ロ字形の下向き屈折片9は,角筒状の支柱を棚板の隅角の切除部に密接させて棚板に固定する方法を採用する棚板において ,角筒状支柱を受けて固定する面を作り,支柱と棚板を固定することを目的とするものであり,乙4発明は内壁も補強効果を果たして棚板の剛性を高め棚装置全体として頑丈にするという技術思想を開示するものではなく,本件訂正発明1とはおよそ異なるものである。なお,被告が2−4【被告の主張】(1)において構成要件1Cに関して指摘する「早期審査に関する事情説明書」(乙5)における出願人の陳述については,前記のとおり,審査を受ける前での陳述にすぎない上に,その後の審査においても,特許庁は,出願人の誤った陳述を採用することなく客観的に審査し特許性を認めて特許査定を下しており,仮に第三者が審査経過を見たとしても,出願人の陳述に信頼を寄せる理由はなく,したがって,原告を何ら拘束するものではない。
(イ) 相違点に係る構成の容易想到性a 本件訂正発明1−1乙31の1にも乙13にも前記相違点@ないしBに係る構成は何ら開示されてい49ない。乙31の1や乙13の写真の被写体は,棚装置の棚板の側壁に係るものではなく,本件訂正発明1−1や乙4発明と全く無縁のものであり,組み合わせるべき動機付けは何ら存しない。乙4発明の断面ロ字形の下向き屈折縁9の内側部分は外側部分と平行に延びたまま棚板4の天板に達し,天板に達した後に天板とわざわざ重合されているのであるから,これを変更して,本件訂正発明1の「前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており」(構成要件1Cの一部)という構成や,1Fの構成を採用することは容易に想到することはできない。したがって,本件訂正発明1−1は進歩性を有する。
b 本件訂正発明1−2本件訂正発明1−1に関する相違点については前記aのとおりであり,また,相違点Cについては,乙4発明は,角筒状の支柱を棚板の隅角の切除部に密接させて棚板に固定する方法を発明の本質とするものであり,構成要件1H及び1Iの「前記コーナー支柱は平面視L形であり」「前記棚板の外壁が前記コーナー支柱にボルト及びナットで固定されて」いる固定方法を採用することはできない。また,乙4発明においては,棚板の隅角は角筒状の支柱を密着するために切除されるから,相違点Eに係る構成要件1Jの「隣り合った連接部が互いに突き合わさっている」構成を採ることも不可能である。したがって,本件訂正発明1−2は進歩性を有する。
【被告の主張】本件訂正発明1は,以下のとおり,訂正要件を備えないもので違法であり,また,訂正後も無効理由を解消するものではないから無効理由を有しないとはいえない。
本件訂正発明1−1は,構成要件1Fを加えただけの訂正であり,実質的に本件発明1−1と同様であるから, 本件発明1−1と同様の無効理由(前記争点2−1ないし2−3)が存する。
したがって,原告の訂正の対抗主張は理由がないが,特に本件訂正発明1について述べると,以下のとおりである。
(1) 本件発明1の訂正が違法であること50本件訂正1は,本件発明1−2について1H及び1Iの構成要件を追加するものであるが,本件発明1−2は,棚板の外壁及び内壁の形状を特定するものであるところ,支柱と棚板の固定方法を特定する構成要件を加える訂正をすることは,特許請求の範囲の実質的な変更をもたらすものであって,許されるものではない。
(2) 本件訂正発明1の分割要件違反による無効前記争点2−1【被告の主張】(1)及び(2)記載のとおりの分割要件違反1及び2があるため,本件発明1は,遡及しない出願日において進歩性を欠く。
(3) 本件訂正発明1の乙17発明を主引例とする進歩性欠如の無効ア 乙17発明前記2−2【被告の主張】(1)ア記載のとおりである。
イ 本件訂正発明1−1について(ア) 本件訂正発明1−1と乙17発明との対比一致点は,前記2−2【被告の主張】(1)イ(ア)記載のとおりであり,相違点は,同(イ)記載の@(構成要件1B)及びA(構成要件1C)に加え,B内壁の自由端部は傾斜部になっている構成(構成要件1F)がない点である。
(イ) 相違点に係る構成の容易想到性本件発明1におけるワゴンタイプの棚で用いられる棚板は,撓み防止のために縦方向だけでなく横方向も補強するのが一般的であることから,乙17発明の棚板の構成をワゴンタイプの棚に用いるならば,棚板四辺に外壁を設けることは必然であり,相違点@は容易に解消される。また,相違点Aについても,前記2−2【被告の主張】(1)ウ記載のとおり,乙4発明の構成を適用することにより,相違点Bについては,内壁の自由端部を傾斜部にすることは周知の形状の適用にすぎず(乙13,乙31の1写真A) 周知の形状を適用することにより容易に得られる構成であるこ,とから,いずれの構成も,当業者が容易に想到し得た構成であるといえる。
ウ 本件訂正発明1−2について本件訂正発明1−2の構成要件のうち,1A,1B,1C,1F及び1Gは訂正発明511−1の構成要件であり,1H,1I及び1Jは,乙3文献に開示された公知の構成であり,構成要件1Eは,周知の曲げ加工形状である(乙13,31の1)。本件訂正発明1−2の構成は,乙17発明,乙4発明及び乙3発明を組み合わせ,それに周知の曲げ加工形状を適用することにより得られるものであり,そして,乙17発明,乙4発明及び乙3発明の組合せには積極的動機付けが存在し,かつ,それに周知の加工形状を適用する動機付けも存在するのであるから,本件訂正発明1−2は,いわゆる進歩性を欠如した発明であり,無効とされるべきものである。
(4) 本件訂正発明1−2の乙3発明を主引例とする進歩性欠如乙3発明は,本件訂正発明1−2と対比すると,構成要件1A,1B,1C,1H,1I,1J,1Gの構成において一致するが,1F及び1Eの構成を備えていない点で相違する。乙31の1は,「前記内壁の自由端部は傾斜部になっていて」,「前記連接部は前記基板と反対側に向いて凸の円弧状に形成されている」構成の記載があるところ,乙3発明はスチール棚,乙31の1は,金属板の曲げ加工の発明の記載であるから,公知の選択肢の1つである。それゆえ,乙31の1を乙3発明に組み合わせる阻害要因は存在せず,むしろ,当業者にとって単なる公知技術の選択及び適用にすぎず,動機付けが存在するといえる。
したがって,本件訂正発明1−2は,当業者が容易に想到できたもので,進歩性を欠く。
(5) 本件訂正発明1−1の乙4発明による新規性欠如,同発明を主引例とする進歩性欠如ア 新規性欠如前記2−4【被告の主張】のとおり,本件発明1−1は乙4発明と実質的に同一であり,新規性を欠く。本件訂正発明1−1は,本件発明1−1に「前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」(1F)の構成を付加したものにすぎないところ ,本件明細書1には,同構成がもたらす効果は全く記載されておらず,傾斜部の先をどこにも固定しない状態は,本件発明1の目的である強度の改善に顕著な効果をも52たらすとは考えられないから,同構成は,無意味なものであり,結局のところ,本件発明1−1と実質的に同じであるといえる。
したがって,本件発明1−1と同様,新規性を欠く。
進歩性欠如乙4発明は,本件訂正発明1−1と対比すると,構成要件1A,1B,1C及び1Dにおいて一致し,1Fの構成がない点について相違するが,1Fの構成は,乙4発明に乙31の1に開示されている公知の金属板曲げ加工を組み合わせることにより得ることができ,当業者にとって,単なる公知技術の選択及び適用にすぎず,動機付けが存在するといえるし,阻害要因もない。
したがって,本件訂正発明1−1は,当業者が容易に想到することができたもので,進歩性を欠く。
5 争点5(本件発明2についての訂正・再訂正の対抗主張の成否)について【原告の主張】(1) 本件訂正発明2に関する主張ア 訂正要件の充足本件発明2の訂正は,従前の構成要件2Fの「前記コーナー支柱の側板と棚板の外壁とのうちいずれか一方には位置決め突起を,他方には前記位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴を設けている」を,構成要件2F′の「更に,前記コーナー支柱の側板には位置決め突起を,前記棚板には前記外壁のみに前記位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴を設けている」として,位置決め突起と位置決め穴の位置を決めたもので,特許請求の範囲減縮に該当するから,訂正要件を充足する。
技術的範囲に属すること被告製品1が,本件訂正発明2の構成要件2A,2B,2C及び2Gを充足することは争いがない。構成要件2D,2E,2F′についても,前記1【原告の主張】(2)ないし(4)記載のとおりである。
したがって,被告製品1は,本件訂正発明2の構成要件を全て充足しており,本53件訂正発明2の技術的範囲に属する。
ウ 無効理由の解消(ア) 乙34発明を主引例とする進歩性の欠如乙34発明については,前記3−1【原告の主張】に記載のとおりであり,乙34発明は,少なくとも,2E及び2F′の構成を有しないし,構成要件2A又は2Dにおける「外壁」に該当するものもない点で本件訂正発明2と異なっている。 そして,被告が主張する乙17発明,乙35文献記載の発明の適用については,前記3−1【原告の主張】のとおりであり,当業者においても,本件訂正発明2の構成に容易に想到することはできないものである。また,被告は,乙31の1との組合わせに基づく主張をするが,乙31の1は,証拠価値はないが,構成要件2Eに係る構成を開示するものではなく,乙34発明に適用する動機付けがないことも同様であるから,乙31の1を適用することによっても,本件訂正発明2の構成を得ることはできない。
(イ) 乙3発明を主引例とする進歩性の欠如について本件訂正発明2と乙3発明との相違点は,以下のとおりである。
@ 本件訂正発明2には,前記外壁と内壁との間には前記ナットを隠す空間が空いて」いるのに対して(構成要件2E),乙3発明は,周縁部18は(二重構造であるものの)外側部分と内側部分とは密着していてナットを隠す空間は空いていない点A 乙3発明は,構成要件2F′を備えていない点B 本件訂正発明2では,「前記棚板における外壁の内面には前記ボルトがねじ込まれるナットを配置して」いるのに対し(構成要件2D),乙3発明では,ナット21は周縁部18の(外側部分ではなく)内側部分の内面に配置されて棚板の内部に露出している点乙17発明ないし乙20発明には,相違点@に係る構成は開示されておらず,本件訂正発明2は進歩性を有し,被告の主張する無効事由は存しない。
54(2) 本件再訂正発明2に関する主張仮に,本件訂正発明2に無効原因が存するとしても,被告製品1は,本件再訂正発明2の構成要件を充足し,本件再訂正は,位置決め突起及び位置決め穴の設置場所を限定し,内壁の形態を限定するものであるから,特許請求の範囲減縮するものとして訂正要件を充足し,また,無効理由は解消されたものである。
ア 被告製品1が本件再訂正発明2の技術的範囲に属すること(2E′,2F′)本件再訂正発明2は,本件発明の構成要件2Eから構成要件2E′へ,また,構成要件2Fから構成要件2F′にそれぞれ減縮されたが,被告製品1が構成要件2F′を充足することは前記(1)で主張するとおりである。また,被告製品1は,「前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって斜めに延びるように曲げられている傾斜部になっており,」(2e2)との構成を有するものであるから,構成要件2E′の訂正に係る「前記内壁の先端部は前記基板に至ることなく前記外壁に向かっており」との構成を満たし,結局,構成要件2E′全体を充たすことは明らかである。
イ 無効事由がないこと(ア) 乙34発明は,前記(1)ウ(ア)の相違点があり,相違点の構成を得ることはできない上に,さらに,乙34発明は,「前記内壁の先端部は前記基板に至ることなく前記外壁に向かっており」との構成を有しない点でも異なるが,乙34発明は,同構成を採ることはできないものであるから,本件再訂正発明2について乙34発明を主引例とする進歩性欠如の主張も成り立たないことは明らかである。
(イ) 本件再訂正発明2と乙3発明とは,前記(1)ウ(イ)の相違点@ABに加えて,C乙3発明が「前記内壁の先端部は前記基板に至ることなく前記外壁に向かっており」との構成を有しない点において相違する。
乙17発明は,相違点Cに係る構成は備えていないのみならず,相違点Cの構成を採ることができない。また,乙3発明において構成を変えるべき動機付けはない55上に,乙17発明と組み合わせるべき動機付けもない。
【被告の主張】(1) 本件訂正発明2についてア 被告製品1は,本件訂正発明2の構成要件2D及び2Eを充足しないほか,構成要件2F′の「位置決め突起」,「位置決め穴」及び「きっちり嵌まる」を充足しないことは,前記1【被告の主張】記載のとおりである。また,構成要件2F′については,本件訂正2により位置決め穴が支柱の側板の外壁に(のみ)設けられる形状に限定されたものだが,そもそも,被告製品1は,外壁「外」の空間に位置し,外壁により全周が囲まれていない切り欠き凹部が外壁に設けられていると解釈すること自体無理があるといわざるを得ず,構成要件2F′を充足しないことは明らかである。
イ 本件訂正発明2は,本件訂正2の後においても無効理由を有する。
前記3−1【被告の主張】記載のとおりである。
乙34発明は,構成要件2E及び2F′を備えない点で本件訂正発明2と相違する。なお,原告は,構成要件2Aないし2Dについても有していない旨主張するが,「縁片」及び「折り返し片」の両者が,構成要件2Aの「基板の周囲に折り曲げ形成した」ものに該当することは明らかであり,本件訂正発明2の「外壁」に対応する。
そして,乙17発明には,棚板構造に関し,棚板の天板の長手方向の一対の側辺を曲げて側板(外壁)を形成し,更に側板の先端を連成部を介して基板の側に折り返した折立片を設けることにより,折立片(内壁)と側板(外壁)との間に空間が空いた構成という棚板における折り曲げ構造が認められる。乙31の1には,「水平状に広がる基板の右の縁部に折り曲げ形成した外壁を設け,当該外壁の先端には基板の側に折り返された内壁が一体に形成されており,前記外壁と内壁との間には空間が空いている,金属板の曲げ加工」が開示されている。乙35発明は,「アングル棚において,アングル支柱2の側板には位置決め突起(係止突部11)を,棚板156には外壁(端壁5)に前記位置決め突起(係止突部11)がきっちり嵌まる位置決め孔(係止孔7)を設けている」構造が認められる。
乙34発明の棚の側壁を内側へ折り返す際に,乙17発明ないしは乙31の1の曲げ加工を適用することにより,構成要件2Eの構成は容易に想到し得る。また,乙35文献に記載された発明を適用することで構成要件2F′の構造にも容易に想到し得る。
乙34発明にこれらの発明を適用することは,動機付けが存在し,阻害要因はない。
(2) 本件再訂正発明2についてア 本件再訂正についての違法本件再訂正のうち,「前記内壁の先端部は前記基板に至ることなく前記外壁に向かって」いる構成は,本件明細書2に記載した事項の範囲内においてするものではなく,特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項の規定に反する違法な訂正である。
イ 本件再訂正発明2には,依然として無効理由があること本件再訂正により,本件再訂正発明2と乙3発明との相違点は,前記3−2【被告の主張】(2)イ記載の相違点@Aに加えて,本件再訂正発明2が,「前記内壁の先端部は前記基板に至ることなく前記外壁に向かっている」のに対し,乙3発明は,そのような構成を備えていない点で相違する。
しかし,この点も,乙17発明を適用することにより,相違点に係る構成に当業者が容易に想到できたものといえる。
ウ 被告製品1は,本件再訂正発明2の技術的範囲に属さないこと前記(1)ア記載のとおりである。
6 争点6(オプション棚板についての間接侵害の成否)について【原告の主張】被告各製品のオプション棚板(別紙物件目録4)は,被告各製品と同様,被告製57品1のオプション棚板が本件訂正発明1及び本件再訂正発明2の技術的範囲に属し,被告製品2及び被告製品3のオプション棚板が本件訂正発明1−1の技術的範囲に属し,いずれも,被告各製品の生産にのみ使用する専用部材として,被告が業として製造販売しているものであるから,その製造販売は,被告製品1の専用棚板については本件特許1及び本件特許2の,被告製品2及び被告製品3の専用棚板については本件特許1を侵害するものである(特許法101条1号)。
【被告の主張】争う。
7 争点7(侵害行為のおそれ−差止請求の必要性)について【原告の主張】被告は,平成27年2月末日をもって被告各製品の製造販売を中止した旨を主張するが,被告各製品が本件各特許に係る特許権を侵害することを争っており,現時点においても製造販売を再開するおそれがある。
よって,被告に対し,製造,販売及び販売の申出についての差止めの必要性は存する。
【被告の主張】被告は既に被告各製品の平成27年2月末日当時の在庫全てを,多額の費用をかけて廃棄している(乙72ないし乙74)。また,現在,被告が製造販売している商品は原告の特許権を何ら侵害するものではない上,カタログの変更も完了している(乙69)から,今さら被告各製品の製造販売をする必要性も経済的合理性も全くなく,それらの製造販売を再開することなどあり得ない。
8 争点8(損害の発生の有無及びその額)について【原告の主張】(1) 損害の発生原告も被告も金属製ワゴンを製造販売するメーカーであり,原告は本件訂正発明1及び本件再訂正発明2の実施品(を含む同種の金属製ワゴン)を(卸売業者であ58る)トラスコ中山株式会社(以下「トラスコ中山」という。)に販売して市場に出しており,他方,(卸売業者である)被告は本件各特許の侵害品を製造し販売業者等に卸売販売して市場に出しているのであるから,原告も金属製ワゴンの市場において競業関係にあり,被告製品の製造販売行為により原告の販売数が減少していることは明らかで,原告には被告による特許権侵害がなかったならば利益を得られたであろうという事情が存する。
また,被告が指摘する原告とトラスコ中山との関係を前提としても,市場において競合する被告製品によって,トラスコ中山に対する原告の製品の販売量が減少することに変わりはない。
(2) 損害額(特許法102条2項)以下のとおり,原告は,被告の特許権侵害行為により,4億2622万8184円の損害を被った(特許法102条2項)。
ア 販売金額被告は,次のとおり,被告各製品を製造販売している。
被告製品1及びそのオプション棚板 ●(中略)●販売金額合計 ●(中略))●円(平成24年2月1日から平成27年2月末日まで)A 被告製品2及びそのオプション棚板 ●(中略)●台販売金額合計 ●(中略)●円B 被告製品3及びそのオプション棚板 ●(中略)●台販売金額合計 ●(中略)●円(平成24年5月から平成27年3月26日まで)イ 利益額被告各製品及びそれらの棚板の1個当たりの被告の利益は,少なくともそれぞれの製品の販売金額から,製造販売原価として当該製品の販売金額の●(中略)●%に相当する金額を控除した金額(販売価格の●(中略)●%に相当する金額)を下59らない。
したがって,被告が被告各製品及びそれらのオプション棚板の製造販売により受けた利益は,少なくとも下記のとおりであり,被告各製品の合計4億2622万8184円を下らない。
記@ 被告製品1及びそのオプション棚板平成24年2月1日から平成27年2月末まで●(中略)●円×●(中略)●%=●(中略)●円A 被告製品2及びそのオプション棚板平成24年5月1日から平成27年3月26日まで●(中略)●円×●(中略)●%=●(中略)●円B 被告製品3及びそのオプション棚板平成24年5月1日から平成27年3月26日まで●(中略)●円×●(中略)●%=●(中略)●円ウ 製造販売原価について被告は,被告各製品の型番ごとの原価内訳ではなく,鋼製部材ごとの原価内訳を示した「部材別原価構成表」(乙76の1)を提出するが,部材が何を指しているか等については特定されておらず,「部材別原価構成表」の原価に挙げられている「材料」「部材」「パッキン(梱包) ,, , 」「塗料」「加工費」「管理費」等の各内訳の内容, ,や算定根拠の証拠は何ら提出されていないし,部材価格については不合理な記載も存する。また,被告は,原告が開示を求めた製造原価報告書等の製造販売原価を明らかにする書面は存在しないと主張して提出していないが,製造販売業者が製造販売に係る原価管理を行う際に不可欠な資料である製造販売原価を明らかにする書面が,およそ存在しないことなどあり得ないことからすれば,被告の主張は信用することができない。
被告各製品の販売金額は,前記アによれば1年当たり約●(中略)●円であると60ころ,被告の全社の売上高である約150億円(乙75の1ないし3)に占める割合は僅か●(中略)●%にすぎないことに照らすと,被告において被告各製品の製造のために新たに製造要員を雇い入れる必要があったというような事情などなく ,被告各製品の製造に要したと被告が主張する「加工費」や「管理費」といった人件費は,被告各製品の製造を行わなかったとしても発生したものであることは明らかである。
したがって,被告の主張する原価を基礎としたとしても,前記「部材別原価構成表」に計上されている各構成部材の原価については,人件費である加工費及び管理費を除き,誤っていると推測される「部材」の単価に修正を施す必要がある。
その上で,被告各製品のうち製品シリーズごとに見た場合に販売数量の多い製品を抽出して,それらの製造原価の販売価格に占める割合を算定すると,原価率の平均は●(中略)●%となる(平成27年8月20日付け原告準備書面(13)の別紙B)から,これを前記のとおり原価率とすべきである。
エ 設計変更品の追加主張の却下被告は,平成26年3月1日の時点から設計変更品を販売していたことを主張するが,これを具体的かつ客観的に示す事実を何ら主張しておらず,その根拠となる証拠の提出もしていないことから,設計変更の事実は否認する。
また,被告の同主張は,被告製品の構成ひいては構成要件該当性に関わる主張であるところ,被告において即時に主張することができた事実であるにも関わらず,侵害論の主張立証が尽くされ裁判所の心証が開示された後になって初めて主張されたもので,しかも損害論に移行してから約5か月も経過した平成27年4月20日になって初めて主張されたものであるから,もはや時機に後れた攻撃防御方法の提出として,そもそも却下されるべきものである。
よって,被告が得た利益を算定するに当たり,被告の主張する設計変更品の販売金額を控除することはできない。
オ 被告の主張するその他の変動経費61被告が主張するその他の変動経費については,その根拠として提出する資料はいずれも被告が本件訴訟において提出するために作成した文書にすぎず,裏付ける資料もないことから,そもそも記載内容の信用性を争い,また,以下のとおり主張する。
(ア) 広告費用(カタログ製作及び発送費用)そもそも商品カタログは,侵害製品の販売数量と関係なく製作されるものであり,侵害製品の販売数量の増加と直接関連して変動する経費ではない。また,被告の総合カタログに掲載された取扱アイテム数は数万点にも及んでおり,被告各製品の掲載点数は,取扱アイテム数全体からみればほんの僅かである。また,総合カタログにおいて被告各製品が掲載された頁数は,被告の主張によったとしても,全体の頁数の僅か3.8%から5.5%程度にすぎないため(乙52の1),総合カタログの製作や発送は,被告各製品の販売のためになされていたとはいえない。さらに,総合カタログの有償配布は被告の商品の1つであって,広告費用とはいえない。
(イ) 金型製品製作費用仮に金型が製作されていたとしても,設計変更後の製品の製造に流用されている可能性が高く,これらの金型を全て廃棄したことを示す客観的資料の提出がない以上,信用できない。
(ウ) 開発費@試作品の材料費及びA外注費(製図)は裏付け資料がないため信用できず,B社内の開発部門(試作担当及び設計担当)における人件費は,被告の従業員の給与等の費用であり,被告各製品の売上割合に照らすと,「侵害製品の販売数量の増加と直接関連して変動する経費」には当たらない。
(エ) 運送費用被告の主張は,被告各製品だけを運ぶことを前提に算定するなど,合理性を欠いており,仮定的な場合を想定した試算額をもって,実際に要した運送費用と推測することはできない。
62なお,別件訴訟においては,被告と同様にワゴンを販売していたトラスコ中山における運搬に要する費用として,全社における運送費用を侵害製品の販売金額が全社売上げに占める割合で按分した金額として137万円を認めている。この運送費用は,侵害製品の販売金額6892万2916円に占める割合としては1.99%である。そうすると,被告各製品の運送費用は,多くとも,被告各製品の販売金額の合計金●(中略)●円の1.99%に相当する金●(中略)●円を超えないものと推測される。
(オ) 段ボール箱及び印刷版代費用認められない。
(カ) サルバニーニ社の機械の購入費用サルバニーニ社の機械は,被告各製品の製造のためのみに使用されるものではなく,実際に他の製品の製造に使用している。また,サルバニーニ社の機械の購入費用は,一旦購入代金として支出されれば,その後に被告各製品の製造のために直接的に経費(購入費)が増加するという関係にあるわけではなく,飽くまで固定経費にすぎない。
カ 推定覆滅事由等(ア) 本件訂正発明1との関係本件訂正発明1は「内壁も補強機能を果たして棚板の剛性が高くなるため棚装置全体としてより頑丈な構造にすることができる」(【0014】)という作用効果を奏するものであるところ(自由端部が傾斜部になっていることは作用効果を助長し ,更に副次的な効果を生むものである。 ,棚装置において「棚板の剛性」を高めるこ)とは需要者に強く訴求する重要な機能であり,本件訂正発明1の貢献度は100%であり,何ら減額されるべきでない。現に,被告は,被告各製品であるCSワゴンシリーズの総括的な紹介頁において(甲39,40),棚板の側壁(外壁と内壁)の断面図をわざわざ示した上で「棚板の立ち上げ部分は上記記載の断面図のような構造になっており,非常に堅牢です。」等と,棚板の側壁(外壁と内壁)の構造による63「堅牢」性をトップに挙げて特に強調して宣伝している。「堅牢」「安全」「美観」が宣伝されているが,これらは全て本件訂正発明1又は本件再訂正発明2を実施したことによる効果であり,被告各製品は本件訂正発明1又は本件再訂正発明2を実施したことによる効果を特に取り上げて大々的に宣伝しているのである。
被告が保有する他の実用新案及び特許を前面に出した広告と主張 するカタログ(乙59ないし61)は,被告各製品のごく一部のものにすぎない上に(乙59は被告製品2のうちのCSパールラックワゴン,乙60は被告製品2のうちのCSパールラック,乙61は被告製品3のCSワゴンヨコ型に関するものにすぎない。 ,)被告のいう「被告が保有する他の実用新案及び特許」のうち実用新案登録第2022234号は既に平成15年9月に権利消滅している陳腐化した技術であるし(甲44),特許第5369263号も旋回式のキャスターを旋回自在なフリー状態と旋回不能なロック状態に切り替えるという単なる周知の機能(甲45参照)に関わるもので,いずれも需要者に何らの訴求力も持たない。また,ABS樹脂はこの種の製品のほとんどに採用されている単なる周知技術である上に(甲46参照),カタログの記載もおよそ需要者に訴求するようなものではない。
原告の製品の売れ行きは市場における製品の訴求力によるのであり,原告とトラスコ中山とが密接な人的関係にあったとしても,それによって製品の売れ行きが左右されるものでない。また,仮に被告の新規顧客の増加数がそれほど多くなかったとしても,そのこと自体は原告に生じた損害と関係しない。原告の製品と被告各製品が市場において競合しているのであるから,被告の新規顧客のみならず従来の顧客についても原告商品と被告商品が競合していることは明らかである。
(イ) 本件再訂正発明2との関係本件再訂正発明2(本件訂正発明2も同様)は,「コーナー支柱と棚板とは位置決め突起と位置決め穴との嵌め合わせによって相対的な姿勢が保持されているため,コーナー支柱と棚板との間のガタ付きを防止できる」(【0011】),「内壁も補強機能を果たして棚板の剛性が高くなるため棚装置全体としてより頑丈な構造に64することができ,また,請求項1の発明ではナットは内壁と外壁との間の空間に隠れているため,体裁が良いと共にナットに物品が引っ掛かることも防止できる」(【0013】)等との作用効果を奏するものであるところ,棚装置において,ガタツキ防止や,体裁の良さやナットへの引っ掛かり防止は,顧客に訴求力を持つものである。被告は,2012年から2015年の被告各製品のカタログにおける総括的な紹介頁(甲39ないし42)と個々の製品の個別の紹介頁(甲7,8等)において,棚板の外壁と内壁の間にナットが隠されている断面図をわざわざ示した上で棚板の外壁と内壁の間にナットが隠されている構造による「美観」と「安全性」を特に強調して宣伝している。ここで,「美観」は本件再訂正発明2にいう体裁の良さそのものであり,また,「安全性」も「棚の内側に突起物がない」ことによるものであるから,本件再訂正発明2のナットへの引っ掛かり防止と同じものである。2014年と2015年のカタログでは,棚板の側壁の断面図が抜かれ棚板の斜視方向からの写真だけになっているが,被告各製品は2012年から継続して販売されている商品で,商品名も品番等も変わっておらず,また,棚板の内側が見える斜視方向の写真が示されているのであるから,棚板の外壁と内壁の間にナットが隠されている構造による「美観」と「安全性」の宣伝効果はこれらのカタログにおいて十分発揮されている。
2015年のカタログにおいては,従前同様に棚板の側壁(外壁と内壁)の構造による「堅牢」性を特に強調して宣伝している一方,「付き合せ内臓方式」については記載されておらず,個々の紹介頁においても「堅牢」性を特に強調して宣伝している。したがって,「付き合せ内臓方式」は顧客に何ら訴求するものではない。
また,キャスターが4輪自在にするか自在と固定が2個ずつにするかは前記のとおり周知の事項にすぎず,顧客に何ら訴求するものではない。
なお,被告が主張する,原告の製品が本件再訂正発明2を実施していないという主張は,被告の「前記外壁と内壁との間には前記ナットを隠す空間が空いており」の解釈を前提とするものであること,原告が被告製品1と競合する金属製ワゴンを65販売していることからしても,全く理由がない。
(3) 損害額(特許法102条3項)(予備的主張)仮に,原告の特許法102条2項に基づく請求について,同項の推定が認められない場合又は推定の覆滅が認められた場合は,推定が認められない部分(全部)又は推定の覆滅が認められた部分について,同条3項に基づき,本件訂正発明1−1及び1−2並びに本件再訂正発明2(本件訂正発明2)の実施料相当額が,原告が受けた損害の額として推定されるべきである。そして,実施料相当額は,販売価額の10%を下らない。
(4) 弁護士費用等被告の侵害行為による原告の損害を回復するため,弁護士及び弁理士費用として,少なくとも前記損害額の1割に相当する金4262万2818円の損害を被った。
(5) まとめ被告による侵害行為によって生じた原告の損害は,合計4億6885万1002円を下らない。
【被告の主張】(1) 損害の不発生−特許法102条2項の適用について原告は,特許法102条2項を適用して損害を主張するが,主位的主張のとおり,原告には損害が発生していないから,同項を適用する余地はない。仮に,損害が発生していたとしても,被告の利益の額は,予備的主張のとおりである。
(主位的主張)原告は,特許法102条2項適用の前提となる,被告による被告各製品の製造,販売により損害が発生したことについて一切の立証をしていない。
原告は,平成21年3月期の全社売上げ1195億0694万円,事業所数全国で105か所というトラスコ中山の営業力を背景として,トラスコ中山に原告製品の全品を確実に買い取ってもらえるという信頼の下に,当該製品の製造を行い,他方,トラスコ中山も,原告の製造した製品を独占的に買い取ることで,商品供給を66確実にするという関係にある(知財高裁平成26年12月17日判決)。したがって,原告のトラスコ中山への販売量が減少したこと,又は増加すべき販売量の増加が認められなかったことを明らかにすべきであるところ,原告において何ら立証しない。
また,特許法102条2項を適用するためには,特許権者等の実施行為と侵害者における侵害行為との間に市場における競業(需要者の競合)が必要になるところ,原告の製品の納入先は,トラスコ中山しかなく,原告自身が他のユーザーに対し,本件特許の実施品を納入できる営業力もなければ,そのような実績もないのであるから,原告が被告の顧客に対して製品を販売する蓋然性も皆無である。一方,被告は,トラスコ中山に対して被告各製品を納入した実績は全くなく,これまでの特許権訴訟等の関係からも,将来にわたり被告がトラスコ中山に被告各製品を納入する蓋然性も皆無である。したがって,原告と被告の間で,需要者の競合関係は,一切生じておらず,原告が,被告各製品の製造販売により,原告製品の取引機会を喪失したとは認められない。
よって,原告に損害が発生していないことは明らかであるから,特許法102条2項を適用することはできない。
(予備的主張)ア 利益(ア) 平成24年1月27日から平成27年2月末日までの被告各製品及び各オプション棚板の販売金額の総額は,●(中略)●円であり,被告各製品の販売原価は次のとおりの合計●(中略)●円であるから,販売金額から販売原価を差し引いた●(中略)●円が粗利となる。
@ 被告製品1 ●(中略)●円A 被告製品2 ●(中略)●円B 被告製品3 ●(中略)●円そして,下記イの変動経費●(中略)●円を除いた限界利益は,●(中略)●円67となる。
(イ) しかし,被告各製品のうち,CSパールラックとCSパールラックワゴンは,品番に変更がないものの,平成26年3月1日から設計変更を行い,本件訂正発明1の技術的範囲内にないことは明らかである。そして,同日から販売している設計変更品の販売金額は,●(中略)●円であり,これらの販売原価は,●(中略)●円であるが,いずれも販売金額の総額及び販売原価から控除すべきである。
イ 控除すべき変動経費被告が被告各製品を製造,販売するにあたり,製造原価以外に以下の変動経費(合計●(中略)●円)が必要であったもので,これらの変動経費は,被告が得た利益を算定する上で控除すべきである。
(ア) 広告費用(カタログ製作及び発送費用)●(中略)●円被告各製品の広告のためCSシリーズのカタログを別途作成し,又は他の製品と共に同シリーズの製品をカタログに掲載した。被告各製品に要した費用は,カタログ製作費用とカタログ発送費用の総額●(中略)●円から顧客からの費用(有償金額●(中略)●円)を控除しカタログごとの被告各製品の掲載比率を乗じた金額の総額である(乙52の1)。
(イ) 金型製品製作費用 ●(中略)●円被告は,被告各製品を製造するために新たに金型の製作を外注し,そのために,委託製作費が発生した(乙53)。
(ウ) 開発費 ●(中略)●円被告は,被告各製品を製造するための試作品の開発製造費用として,@試作品の材料費,A外注費(製図),B社内の開発部門(試作担当及び設計担当)における人件費として総額●(中略)●円を支出しており,そのうち,被告各製品が被告の開発製品全体に対して占める割合である●(中略)●%を乗じた額を支出した(乙54)。
68(エ) 運送費用 ●(中略)●円製品を運送するに際しての運賃は,運送距離に応じた運賃単価に応じて被告各製品を全て運んだものとして算定した最高額は,●(中略)●円であり,最低額は,●(中略)●円となる。
(オ) 段ボール箱及び印刷版代費用 ●(中略)●円被告は,販売のために被告各製品を梱包する段ボールを購入し,段ボールには品番等を印刷する必要があった(乙56の2)。
(カ) サルバニーニ社の機械の購入費用 ●(中略)●円被告は,被告各製品を製造するため,サルバニーニ社の機械を●(中略)●円で購入し,この機械の耐用年数10年のうち3年間を使用し,同機械の使用時間のうち●(中略)●%相当を利用していたことに鑑みれば(乙57の1,2),被告は,サルバニーニ社の購入費用●(中略)●円のうち,●(中略)●円相当分(●(中略)●円×3/10×●(中略)●)は,被告各製品を製造するために費やされたというべきである。
ウ 推定覆滅事由等(ア) 本件訂正発明1に関する事由(被告各製品について)本件訂正発明1は,内壁の自由端部の形状が傾斜状になっていることから特許として登録が認められたものであり,本件訂正発明1を構成する部品(内壁の自由端部)が被告製品(棚製品)全体のごく一部であり(乙58参照,重量1%未満,面積3.2%未満)(@発明の製品に占める割合の低さ),本件訂正発明1は,自由端部の形状を傾斜状態にしたのみで技術的意義に乏しい(A本件訂正発明1の技術的意義の乏しさ)。また,よく知られたクロージングによる曲げ加工の典型的な構造にすぎないため,顧客に対して一切の訴求力を有しておらず,現に,被告各製品の製品カタログから明らかなように,内壁の自由端部の形状が傾斜状であることを一切宣伝広告していないし,カタログから内壁の自由端部の形状がいかなる形状かも全く知ることもできない(乙59ないし乙61参照)(B顧客に対する訴求力の69欠如)。
むしろ,被告が保有する実用新案を実施した被告独自の「ダブルテーパー」構造(実用新案登録第2022234号,乙59及び60参照)や特許権を実施した被告独自の「直進安定金具」(特許第5369263号,乙59参照)を売りにして販売している(C被告が保有する他の実用新案及び特許を前面に出した広告効果)。
また,支柱と棚板との結合については,ABS樹脂(再生樹脂)を独自に採用することで密着強化が図られていることも大きくクローズアップされ(乙59及び60参照),本件訂正発明1と異なる構成により独自の技術的意義を有していることが大々的に宣伝されていることは明らかである(D被告特有のノウハウの活用)。
さらに,原告は,前記(1)(主位的主張)のとおりの原告とトラスコ中山との関係からすれば,原告製品の売れ行きは,原告とトラスコ中山の密接な人的関係に基づき定まるものであって,本件訂正発明1の技術的内容によって左右されない(E特許発明の内容と販売量との間の関連性の欠如)。
また,被告各製品の製造販売期間における被告の顧客数は,平成24年から平成26年までの間に微増しているものの,ほとんど顧客数は増えておらず,本件各特許に係る特許権の特許登録前からの顧客であることは明らかであり(乙62),被告による本件訂正発明1の実施の影響が新規顧客のみに限定されるものではないとしても,本件訂正発明1の実施の結果,需要者が何らかの具体的な選択をした事情も見当たらない(F新規顧客数の限定的発生)。
加えて,本件訂正発明1の実施品である原告製品(Lアングル支柱タイプの製品)は,内壁に切欠きがされ,ナットがむき出しの状態で隠れていないから,本件訂正発明2の本質的な構成要件である「前記外壁と内壁の間には前記ナットを隠す空間」が存在せず,美観と安全性という本件訂正発明2の重要な作用効果を享受できない構成となっている。よって,本件訂正発明2の構成を具備する製品を製造販売していない(G特許発明不実施)。
したがって,これら@ないしGの各事情に照らすと,被告における被告各製品の70製造販売行為は,原告の損害発生に一切寄与していない,又は,特許法102条2項の推定は,全て覆滅しているというべきである。仮に,被告における被告製品2及び被告製品3の製造販売行為が原告の損害発生に対し,一定の寄与が認められる,又は,推定の覆滅が一部に留まるとしても,その寄与率は,1%を上回るものではないというべきである。
(イ) 本件訂正発明2について本件訂正発明2は,位置決め突起と位置決め穴との嵌め合わせによってガタツキを防止し,内壁と外壁との間にナットを隠すことで美観を維持しつつ,物品にナットが引っ掛かることを防止する発明である。
そして,本件訂正発明2を構成する部品(ナット,位置決め突起及び位置決め穴)も,被告製品1(棚製品)全体のごく一部を構成しているにすぎず(@発明の製品に占める割合の低さ) 本件訂正発明2についてもその技術的意義に乏しいため, (A技術的意義の欠如) 顧客に対する訴求力に乏しい, (B顧客に対する訴求力の欠如)。
むしろ,被告製品1のカタログにおいては,被告独自の特許発明(特許第5515123号)である「突き合わせ内蔵方式」によって,棚板が堅牢な構造となっていることが全面的にアピールされている(乙64及び65)。のみならず,これらのカタログには,被告独自の特許発明である「直進安定金具」(特許第5369263号)についても大々的に宣伝されており,2輪固定による直進性を重視するか4輪自在による旋回性を重視するかを選択できることも重要なアピールポイントとなっていることが明らかである(C被告が保有する2つの特許を前面に出した広告効果及びD被告特有のノウハウの活用)。
また,本件訂正発明1と同様,原告製品の売れ行きは,原告とトラスコ中山の密接な人的関係に基づき定まるものであって本件訂正発明2の技術的内容によって左右されない(E特許発明の内容と販売量との間の関連性の欠如)。
さらに,被告製品1の購入先の顧客が原告の本件特許権2の特許登録前からの顧客であるから,本件訂正発明2の実施の結果,需要者が何らかの具体的な選択をし71た事情も見当たらない(F新規顧客数の限定的発生)。
加えて,本件訂正発明1の実施品である原告製品(Lアングル支柱タイプの製品)においては,内壁に切欠きがなされ,ナットが全く隠れておらず,むき出しの状態になっており,本件訂正発明2の本質的な構成要件である「前記外壁と内壁の間には前記ナットを隠す空間」が存在していないため(乙81の2参照),美観と安全性という本件訂正発明2の重要な作用効果を享受できない構成となっていることは,明らかである(G特許発明不実施)。美観や安全性を重視する需要者が,ナットがむき出しになっている原告製品を購入の選択肢に含めているとは想定し難い。
したがって,上記@ないしGの各事情に照らすと,被告における被告製品1の製造販売行為は,すなわち,本件訂正発明2の実施行為(とされる行為)は,原告の損害発生に一切寄与していない,又は,特許法102条2項の推定は,全て覆滅しているというべきである。
仮に,被告における被告製品1の製造販売行為が原告の損害発生に対し,一定の寄与が認められる,又は,推定の覆滅が一部に留まるとしても,その寄与率は,1%を上回るものではないというべきである。
(2) 原告の予備的主張−特許法102条3項の重畳適用についてア 特許法102条各項は,それぞれ別個の損害算定方法を定めたもので重畳適用を予定していない。また,同条2項は,侵害行為がなかったら得られたであろう逸失利益を定めているのに対し,同条3項の損害は,実施行為が適法であった場合に権利者が得られたであろう実施料相当額であり,同一の侵害行為について両立し得るものではない。重畳適用を認めると特許権者が本来請求できる逸失利益の範囲を超えて損害の填補を受けることを認めることとなり,妥当でない。
したがって,同条3項の重畳適用は,認められない。
イ 原告は,特許法102条3項の適用において10%の実施料率を主張するが,不当に高額であり相当でない。
実施料率を算定するに当たっては,業界における相場となる実施料率を基準とし72つつも,@当該特許の技術内容,A当該特許の売上に対する貢献度,B被告の利益,C被告製品の他の技術の実施,D被告の営業努力,E当該特許の実施の有無等を考慮して決定すべきである。被告各製品は金属製品であるところ,当該分野の実施料率の平均値は平成4年度から平成10年度において,3.7%に留まる以上(乙93),これを基準値とし,次の事情を考慮すれば,本件訂正発明1及び本件再訂正発明2の実施料率は,いずれも0.7%を上回るものではない。
(ア) 本件訂正発明1について@,A及びC 前記ウ(ア)に記載のとおりB 被告各製品の利益率は,約●(中略)●%にとどまり極めて低いことD 被告が被告各製品を製造,販売した期間における被告の顧客数は,平成24年から平成26年までの間に微増しているものの,ほとんど増えていないこと(乙62)(イ) 本件再訂正発明2について@及びC 前記ウ(イ)に記載のとおりA及びE 被告は,そもそも,本件訂正発明2を実施しておらず,売上に何ら貢献していないことB 被告製品1の利益率は,約●(中略)●%にとどまり極めて低いことD 被告製品1の購入先の顧客が原告の本件特許権2の特許登録前からの顧客であるから,本件訂正発明2の実施の結果,需要者が何らかの具体的な選択をした事情も見当たらないこと(乙62)ウ 寄与度を乗じるべきであること本件訂正発明1を構成する部品(内壁の自由端部)は,被告各製品(棚製品)全体のごく一部である。また,本件再訂正発明2を構成する部品(ナット,位置決め突起及び位置決め穴)も被告製品1(棚製品)全体のごく一部を構成しているにすぎない。
このように,実施品とされる被告各製品の極めてごく一部分で実施されているに73すぎない以上,3項推定の損害額を算定するに当たっては,10%の寄与率を乗じるべきである。
第5 当裁判所の判断1 争点1(被告製品1の本件発明2の構成要件(2D,2E,2F)の充足性)について(1) 本件発明2についてア 本件明細書2の記載本件明細書2には,次の記載がある(甲6)。
「【技術分野】【0001】本願発明は,コーナー支柱で棚板を支持している棚装置に関するものである。なお,本願発明の棚装置は定置式のものには限らず,キャスターを備えたワゴンタイプも含んでいる。」「【背景技術】【0002】物品を保管したり持ち運んだりするのに平面視四角形でオープン方式の棚装置(スチール棚)が多用されている。この棚装置の一種に,平面視四角形の棚板を平面視L形のコーナー支柱にボルトで締結したタイプがあり,このタイプでは,棚板の周囲には,コーナー支柱の内面に重なる外壁を折り曲げ形成している。
【0003】棚板をコーナー支柱にボルトで固定する方法としては,棚板の外壁に内側から重なる金具を使用して,コーナー支柱と金具とで棚板の外壁を挟み固定するタイプ(例えば特許文献1参照)と,棚板の外壁をボルト及びナットで直接に締結するタイプとがある。
【0004】後者の直接に締結するタイプは構造が単純である利点があるが,コーナー支柱と74棚板との間にガタ付きが生じやすい(すなわち剛性が低い)問題があった。特に,キャスターを有するワゴンタイプの棚装置は,移動させるのに際してコーナー支柱と棚板との締結箇所に慣性力が作用するため,ガタ付きの問題が顕著に現われている。この問題の解決手段として特許文献2には,棚板の外壁(公報の用語では外壁)を外側に折り返すか又は別体の金属板を外壁の外面に溶接することにより,コーナー支柱の側端面に当たる小片を外壁に重ねて設けることが記載されている。
【特許文献1】実開昭47−9722号公報【特許文献2】特許第3437988号公報」「【発明が解決しようとする課題】【0005】特許文献2の発明は,小片の端面をコーナー支柱の側端面に突き当てることによってコーナー支柱の倒れを阻止せんとしたものであり,この場合,小片を溶接によってコーナー支柱の外壁に固着した場合は,小片を外壁に強固に固着できると共に小片として厚い板を使用することができるため,倒れ防止機能(ガタ付き防止機能)は高いが,溶接に手間がかかる問題や,溶接によって塗装が剥げたりひずみが生じたりする問題がある。
【0006】他方,外壁を折り返すことによって小片を形成した場合は,溶接に起因した問題は生じないが,小片はその上端が外壁に繋がっているに過ぎないため,小片の下端に水平方向の荷重(コーナー支柱を倒すような荷重)がかかると小片が変形しやすくなり,このため,強度アップに限度があるという問題があった。また,特許文献2のものは,外壁の内面にナットが配置されるが,このナットが露出するため見栄えが悪い問題や,物品が引っ掛かることがある点も問題であった。」「【課題を解決するための手段】」「【0009】そして,請求項1の発明は,上記基本構成において,前記ボルトは頭がコーナー75支柱の外側に位置するように配置されており,前記棚板における外壁の内面には前記ボルトがねじ込まれるナットを配置しており,前記棚板における外壁の先端には前記基板の側に折り返された内壁が一体に形成されており,前記外壁と内壁との間には前記ナットを隠す空間が空いており,更に,前記コーナー支柱の側板と棚板の外壁とのうちいずれか一方には位置決め突起を,他方には前記位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴を設けている。」「【発明の効果】【0011】本願発明では,コーナー支柱と棚板とは位置決め突起と位置決め穴との嵌め合わせによって相対的な姿勢が保持されているため,コーナー支柱と棚板との間のガタ付きを防止できる。この場合,突起及び穴とも加工は簡単であるためコストが嵩むことはない。
【0012】また,位置決め突起と位置決め穴との間を相対動させるような外力が作用してもそれら位置決め突起が潰れたり位置決め穴の箇所か破断したりすることはないため,高いガタ付き防止機能(締結強度)を発揮することができる。更に,特許文献2では,小片とコーナー支柱とはその端面同士の1箇所だけで突き合わさっているに過ぎないためストッパー機能に限度があるが,本願発明では,位置決め突起と位置決め穴とはコーナー支柱と棚板とが重なっている部分に複数個設けることが可能であるため,ストッパー機能を格段に高くすることが可能になるのであり,この面でも,棚装置の頑丈さを格段にアップできる。
【0013】更に本願発明では,内壁も補強機能を果たして棚板の剛性が高くなるため棚装置全体としてより頑丈な構造にすることができ,また,請求項1の発明ではナットは内壁と外壁との間の空間に隠れているため,体裁が良いと共にナットに物品が引っ掛かることも防止できる。
76一般に,棚装置ではコーナー支柱は棚板よりも厚いため,実施形態のように押し出し加工によってコーナー支柱に位置決め突起を形成すると,棚装置の剛性を高める上で好適であると言える。」「【発明を実施するための最良の形態】」「【0019】本実施形態では,コーナー支柱1の側板1aに位置決め突起9を突設し,棚板2の外壁5に位置決め穴10を形成している。また,位置決め突起9及び位置決め穴10を外壁5の外端部寄りに設けて,ボルト7及びナット8はコーナーの側に配置しているが,ボルト7及びナット8の配置位置や個数,及び,位置決め突起9と位置決め穴10との個数及び配置位置は,それぞれ任意に設定することができる。例えば,ボルト7を囲う4箇所に位置決め突起9と位置決め穴10とを設けることも可能である。」「【0021】ナット8は棚板2における外壁5の内面に溶接によって固着している。また,図3(B)に示すように,棚板2の内壁6は外壁5から離反しており,このため,外壁5と内壁6との間にはナット8及びボルト7の端部が隠れる空間が空いている。
内壁6のうち外壁5に繋がる連接部11は本実施形態では略平坦状の姿勢になっている。他方,内壁6の下端部(自由端部)6aは,外壁5に向けて傾斜した傾斜部になっている。なお,棚の連接部11の各端部は平面視で45度カットされて傾斜しており,隣り合った連接部11が互いに突き合わさっている。」イ 本件発明2の技術的意義以上の本件明細書2の記載からすれば,本件発明2は,周囲に外壁を折り曲げ形成した平面視四角形の棚板の外壁を平面視L形のコーナー支柱の内面に重ねて,コーナー支柱の外側からボルト及びナットで直接締結するタイプの棚装置(構成要件2A,2B,2C及び2G)において,従来技術では,コーナー支柱と棚板との間にガタ付きが生じやすく,外壁の内面に配置されるナットが露出するために見栄え77が悪く,物品が引っ掛かるという課題があったことから,@棚板における外壁の先端に基板の側に折り返された内壁を一体に形成し,外壁と内壁の間にナットを隠す空間を空け(構成要件2E),その空間内の外壁の内面にナットを配置する(構成要件2D)ことにより,体裁を良くし,ナットに物品が引っ掛からないようにするとともに,内壁の補強機能により棚板の剛性を高めて棚装置をより頑丈にし,Aコーナー支柱の側板と棚板の外壁に位置決め突起と位置決め穴を設けること(構成要件F)により,それらを嵌め合わせて相対的な姿勢を保持し,コーナー支柱と棚板との間のガタ付きを防止するようにしたものであると認められる。
(2) 構成要件2Dについてア 上記(1)イの本件発明2の技術的意義@からすると,構成要件2Dの「前記棚板における外壁の内面には前記ボルトがねじ込まれるナットを配置しており」とは,ボルトをコーナー支柱の外側から締結する場合に,外壁と内壁との間に設 けた空間内にナットが配置される前提として,ナットが外壁の内側でボルトと締結されるよう配置されるとの趣旨であると解するのが相当である。
この点,被告は,本件明細書2においては,実施例に関する記載(【0021】)等,ナットと外壁の内面との間には何も存在していないものしか記載されていないとして,このような配置に限定されている旨主張する。
しかし,被告の指摘する記載は,単なる一実施例の記載にすぎず,これに限定して解する理由にはならない。
イ 被告製品1において,ナットは,樹脂キャップに固定され,覆われてはいるものの,棚板の外壁の内側でボルトと締結されるように配置されているから(平成25年10月18日付け準備書面(被告)(1)添付の図1−1,甲13),構成要件2Dを充足する。
(3) 構成要件2Eについてア 被告製品1において,構成要件2Eのうち,「前記棚板における外壁の先端には前記基板の側に折り返された内壁が一体に形成されており,前記外壁と内78壁との間には…空間が空いており」との構成を有することについては,当事者間に争いがない。そして,上記のとおり,被告製品1では,ナットは樹脂キャップに固定され,覆われて外壁と内壁の間の空間に配置されていることから,被告は,同空間は,「前記樹脂キャップを嵌め込むための」空間であり,「ナットを隠す空間」との構成を充足しない旨主張する。
イ しかし,前記(1)イの本件発明2の技術的意義@からすると,「外壁と内壁との間にはナットを隠す空間が空いており」との趣旨は,ナットが内壁と外壁との間の空間に隠れていることから,体裁が良くなるとともに,ナットが物品に引っ掛かることも防止できるとの点にあると認められ,このことからすれば,ナットが外壁と内壁との間の空間にあって外部に露出していないことに意義があるから,外壁と内壁との間にナットが隠れる間隔の空間が空いているという意味であると解するのが相当である。
なお,本件明細書2には,内壁6に円形の窓穴14を空けた実施例図4(A)が記載されており(【0023】),ナットが外壁と内壁との間にあることにより,外部から見えないことや内壁でナットを直接覆い隠すことは必ずしも必要とされていないものといえ,樹脂キャップにより覆われていることが意味を有するものではない。
ウ したがって,被告製品1は,「前記外壁と内壁との間には前記ナットを隠す空間が空いており」との構成を有し,構成要件2Eを充足する。
(4) 構成要件2Fについてア 被告は,被告製品1は,「位置決め突起」,「位置決め穴」及び「きっちり嵌まる」との構成を具備しないと主張する。
イ この点,前記(1)イの本件発明2の技術的意義Aからすると,「位置決め突起」,「位置決め穴」及び「きっちり嵌まる」とは,コーナー支柱と棚板の相対的姿勢を保持し支柱の棚板との間のガタ付きを防止するものであれば足りると解するのが相当である。
79そして,弁論の全趣旨(特に平成25年10月18日付け準備書面(被告)(1)添付の図1−2)によれば,被告製品1は,被告の主張のとおり,「前記コーナー支柱における2枚の側板の交叉する角の内面には,平面視で交差した鉤型の突部が設けられている一方,棚板における角を形成する隣接する2つの外壁の各端部には,前記突部を嵌めるための切欠き凹部が設けられている」との構成を有すること,「突部」は「切欠き凹部」に嵌り合うが,僅かな隙間があることが認められる。このように,被告製品1の「前記コーナー支柱における2枚の側板の交叉する角の内面には,平面視で交差した鉤型の突部」は,「切欠き凹部」に嵌め合わされるものであり,嵌め合わせた際の隙間も僅かであることからすれば,コーナー支柱と棚板の相対的姿勢を保持し支柱の棚板との間のガタ付きを防止し得るものであることは明らかであり,被告製品1の「突部」は本件発明2の「位置決め突起」に該当し,「切欠き凹部」は「位置決め穴」に該当し,両者は「きっちり嵌まる」構成であると認められる。
ウ 被告は,「位置決め突起」について,側板と外壁のいずれにも設置し得る形状であり,簡単に加工し得る,部分的に突き出て存在している形状である旨主張する。
しかし,前記(1)イの本件発明2の技術的意義Aからすれば,「位置決め突起」は,側板か外壁のいずれか一方に設けられていれば足り,構成要件2Fの文言上もいずれにも設置し得る形状という限定を加えるものではないし,突起が部分的か否かといった相対的な大きさにおいて限定されているものでもない。また,本件明細書2の「突起及び穴とも加工は簡単であるためコストが嵩むことはない」 【0011】( )との記載は,幅の広い程度の問題であって,この記載から直ちに何らかの特定の程度に加工が簡単な形状という意味に限定的に解することはできない。
また,被告は,「位置決め穴」は,隣接する2つの外壁の端部にまたがらずに1つの外壁のみで全周が閉じられたものでなければならない旨主張するが,被告の指摘する本件明細書2の記載は,単なる実施例の記載にすぎず,何ら限定を加える理80由になるものではないし,「穴」ないし「孔」がくぼんだ所を意味するものであること,部材の端を切り欠いたもの等も「穴」ないし「孔」として認識されていること(甲10ないし12)からすれば,全周が閉じられたものに限定されるものではない。
さらに,被告は,「きっちり嵌まる」とは,コーナー支柱と棚板との相対的な姿勢が保持される態様で,位置決め突起が隙間なく位置決め穴に嵌まることを意味することと主張する。しかし,前記(1)イの本件発明2の技術的意義Aからすると,「位置決め突起」が「位置決め穴」に「きっちり嵌まる」とは,ガタ付き防止に役立つものであればよく,位置決め突起と位置決め穴との間に完全に隙間がないことが要件となるものではない。
エ よって,被告製品1は,構成要件2Fを充足する。
(5) 以上から,被告製品1は,本件発明2の構成要件2D,2E及び2Fを充足する。そして,被告製品1が本件発明2の他の構成要件を充足することに争いはないから,被告製品1は,本件発明2の技術的範囲に属する。
2 争点4(本件発明1についての訂正の対抗主張の成否)について事案に鑑み,次に争点4について判断する。
(1) 訂正による対抗主張の要件について本件で原告は本件訂正1をしているところ,訂正請求又は訂正審判請求がされている場合に,訂正による対抗主張が成立するためには,@当該訂正が独立特許要件以外の訂正要件を充たしていること,A当該訂正によって被告が主張している無効理由が解消されること,及びB被告製品が訂正後の特許発明技術的範囲に属することを要すると解すべきである。
前記前提事実に記載のとおり,被告各製品が本件訂正発明1−1の,被告製品1が本件訂正発明1−2の技術的範囲に属することについては,当事者間で争いがない。そこで,訂正要件を充たしていること及び無効理由が解消されるかについて,順次検討する。
81(2) 訂正要件の充足性について本件訂正発明1−1は,従前の本件発明1―1に「内壁の自由端子は傾斜部になっている」との構成要件1Fを加えて限定したものであり,その訂正は,特許請求の範囲減縮を目的とするものであるといえる。また,構成要件1Fは,従前の請求項2(本件発明1−2)に記載されていた事項の範囲内である。
また,本件訂正発明1−2は,当初の本件発明1−2が本件発明1−1の従属形式であったものを独立形式とし,1H,1I及び1Jの構成要件を付加したものである。被告は,この訂正は,内壁の形状を特定する発明の要旨に,支柱と棚板との固定方法を加える訂正であるから,実質上特許請求の範囲変更するもので違法である旨主張するが,これは,構成要件1Aのコーナー支柱による棚板の支持について,コーナー支柱と外壁との締結方法を限定するものにすぎず,本件訂正発明1−2についても,特許請求の範囲減縮に該当する。そして,構成要件1Hは,後記の本件明細書1の【0002】及び【0017】に記載された事項であり,構成要件1Iは,同【0003】及び【0020】に記載された事項であり,構成要件1Jは,同【0023】に記載された事項である。
したがって,いずれも独立特許要件以外の訂正要件を充たす。
(3) 本件訂正1により本件特許1の無効理由が解消されるかア 被告の主張する無効理由被告は,本件特許1について,次の(ア)ないし(エ)のとおり,前記争点2−1ないし2−4及び争点4に記載の無効理由を主張している。
(ア) 本件訂正発明1の分割要件違反に基づく新規性又は進歩性欠如(イ) 本件訂正発明1−1について乙17発明を主引例として,乙4発明,乙13ないしは乙31の1を,本件訂正発明1−2について乙17発明を主引例として,乙4発明,乙3発明,乙13ないしは乙31の1等を適用することによる進歩性欠如(ウ) 本件訂正発明1について乙3発明を主引例として,@乙4発明,A曲82げ加工に関する周知慣用技術(乙8,9,14,15,17ないし20),Bプレス機の形状選択(乙13,31の1等に示された周知の形状),C乙14発明,D乙15発明を,それぞれ適用することによる進歩性欠如(エ) 本件訂正発明1−1について乙4発明と実質的に同じとする新規性欠如,又は乙4発明を主引例として乙13,乙31の1に示された周知の形状を適用することによる進歩性欠如イ 本件訂正発明1―1について(ア) 本件明細書1の記載本件明細書1には,次の記載がある(甲5。図面については,別紙本件各明細書図面目録参照)。
「【技術分野】【0001】本願発明は,コーナー支柱で棚板を支持している棚装置に関するものである。・・・」「【背景技術】【0002】物品を保管したり持ち運んだりするのに平面視四角形でオープン方式の棚装置(スチール棚)が多用されている。この棚装置の一種に,平面視四角形の棚板を平面視L形のコーナー支柱にボルトで締結したタイプがあり,このタイプでは,棚板の周囲には,コーナー支柱の内面に重なる外壁を折り曲げ形成している。
【0003】棚板をコーナー支柱にボルトで固定する方法としては,棚板の外壁に内側から重なる金具を使用して,コーナー支柱と金具とで棚板の外壁をはさみ固定するタイプ(例えば特許文献1参照)と,棚板の外壁をボルト及びナットで直接に締結するタイプとがある。」「【発明が解決しようとする課題】83【0006】特許文献2の発明は,小片の端面をコーナー支柱の側端面に突き当てることによってコーナー支柱の倒れを阻止せんとしたものであり,この場合,小片を溶接によってコーナー支柱の外壁に固着した場合は,小片を外壁に強固に固着できると共に小片として厚い板を使用することができるため,倒れ防止機能(ガタ付き防止機能)は高いが,溶接に手間がかかる問題や,溶接によって塗装が剥げたりひずみが生じたりする問題がある。
【0007】他方,外壁を折り返すことによって小片を形成した場合は,溶接に起因した問題は生じないが,小片はその上端が外壁に繋がっているに過ぎないため,小片の下端に水平方向の荷重(コーナー支柱を倒すような荷重)がかかると小片が変形しやすくなり,このため,強度アップに限度があるという問題があった。
【0008】本願発明はこのような現状に鑑み成されたもので,より改善された形態の棚装置を提供することを課題とするものである。」「【課題を解決するための手段】【0009】本願発明の棚装置は,4本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板とを備えており,前記棚板は,水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えている。そして,請求項1の発明では,前記棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており,前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられている。
【0010】請求項2の発明は,請求項1において,前記棚装置の連接部は前記基板と反対側84に向いて凸の円弧状に形成されており,前記棚装置における内壁の自由端部は傾斜部になっている。」「【0014】本願発明では,内壁も補強機能を果たして棚板の剛性が高くなるため棚装置全体としてより頑丈な構造にすることができる。」「【0017】(1).第1実施形態(図1〜図3)図1〜図3では第1実施形態を示している。本実施形態はワゴンタイプの棚装置に適用しており,図1の斜視図で棚装置の概略を示している。棚装置は,平面視で直交した2枚の側板1aを有する4本のコーナー支柱1と,コーナー支柱1の群の間に配置された上中下3段の棚板2と,各コーナー支柱1の下端に取り付けたキャスター3とから成っている。コーナー支柱1は,帯鋼板を折り曲げて製造することもできるし,市販されているアングル材を使用することも可能である。」「【0020】棚板2の外壁5の端部はコーナー支柱1の側板1aの内面に重なっており,両者がボルト7及びナット8で締結されている。・・・」「【0023】・・・棚の連接部11の各端部は平面視で45度カットされて傾斜しており,隣り合った連接部11が互いに突き合わさっている。」(イ) 本件訂正発明1―1の要旨本件訂正発明1―1は,コーナー支柱で棚板を支持している棚装置に関するものであり(【0001】),従来から,物品を保管したり持ち運んだりするのに平面視四角形でオープン方式の棚装置が多用され,この棚装置の一種に,平面視四角形の棚板を平面視L形のコーナー支柱にボルトで締結したタイプがあり,このタイプでは,棚板の周囲に,コーナー支柱の内面に重なる外壁を折り曲げ形成しているが,本件発明1−1は,棚板の剛性を高くして全体としてより頑丈な構造となる,より85改善された形態の棚装置を提供することを課題とするものである(【0002】,【0008】,【0014】)。
本件訂正発明1―1は,棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,当該内壁と外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており,内壁のうち連接部と反対側の自由端部は外壁に向かって延びるように曲げられており,内壁の自由端部は傾斜部になっている,という構成により,内壁も補強機能を果たして棚板の剛性が高くなるため棚装置全体としてより頑丈な構造にすることができるという効果を奏するものである(【0009】,【0010】,【0014】)。
ウ 本件発明1の分割要件違反に基づく無効理由について(ア) 本件当初明細書の記載本件当初明細書には,次の記載がある(乙1)。
「【請求項1】複数本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱の群で囲われた空間に配置された金属板製の棚板とを備えており,前記コーナー支柱は平面視で交叉した2枚の側板を備えている一方,前記棚板は,水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えており,外壁の端部をコーナー支柱の側板に密着させて両者をボルトで締結している棚装置であって,前記コーナー支柱の側板と棚板の外壁とのうちいずれか一方には位置決め突起を,他方には前記位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴を設けている,棚装置。
【請求項2】前記ボルトは頭がコーナー支柱の外側に位置するように配置されており,棚板における外壁の内面には前記ボルトがねじ込まれるナットを配置しており,前記棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が一体に形成されており,外壁と内壁との間には前記ナットを隠す空間が空いており,更に,前記コーナー支柱の側板に位置決め突起が突き出し形成され,棚板の外壁に位置決め穴が空けられて86いる,請求項1に記載した棚装置。」「【技術分野】【0001】本願発明は,コーナー支柱で棚板を支持している棚装置に関するものである。・・・【0002】物品を保管したり持ち運んだりするのに平面視四角形でオープン方式の棚装置(スチール棚)が多用されている。この棚装置の一種に,平面視四角形の棚板を平面視L形のコーナー支柱にボルトで締結したタイプがあり,このタイプでは,棚板の周囲には,コーナー支柱の内面に重なる外壁を折り曲げ形成している。」「【0007】・・・より改善された形態の棚装置を提供することを課題とするものである。」「【0011】本願発明では,コーナー支柱と棚板とは位置決め突起と位置決め穴との嵌め合わせによって相対的な姿勢が保持されているため,コーナー支柱と棚板との間のガタ付きを防止できる。この場合,突起及び穴とも加工は簡単であるためコストが嵩むことはない。
【0012】また,位置決め突起と位置決め穴との間を相対動させるような外力が作用してもそれら位置決め突起が潰れたり位置決め穴の箇所か破断したりすることはないため,高いガタ付き防止機能(締結強度)を発揮することができる。・・・【0013】請求項2のように構成すると,内壁も補強機能を果たして棚板の剛性が高くなるため棚装置全体としてより頑丈な構造にすることができ,また,ナットは内壁と外壁との間の空間に隠れているため,体裁が良いと共にナットに物品が引っ掛かることも防止できる。また,一般に,棚装置ではコーナー支柱は棚板よりも厚いため,87押し出し加工によってコーナー支柱に高い強度の位置決め突起を形成することができ,このため,棚装置の剛性を高める上で好適であると言える。」「【0015】(1).第1実施形態(図1〜図3)図1〜図3では第1実施形態を示している。本実施形態はワゴンタイプの棚装置に適用しており,図1の斜視図で棚装置の概略を示している。棚装置は,平面視で直交した2枚の側板1aを有する4本のコーナー支柱1と,コーナー支柱1の群の間に配置座された上中下3段の棚板2と,各コーナー支柱1の下端に取り付けたキャスター3とから成っている。コーナー支柱1は,帯鋼板を折り曲げて製造することもできるし,市販されているアングル材を使用することも可能である。
【0016】棚板2は,水平状に広がる平面視四角形の基板4と,基板4の各辺から上向きに立ち上がっている外壁5と,外壁5の上端に連接した内壁6とから成っており,・・・」「【0018】棚板2の外壁5の端部はコーナー支柱1の側板1aの内面に重なっており,両者がボルト7及びナット8で締結されている。・・・」「【0021】・・・棚板2の内壁6は外壁5から離反しており,このため,外壁5と内壁6との間にはナット8及びボルト7の端部が隠れる空間が空いている。内壁6のうち外壁5に繋がる連接部11は本実施形態では略平坦状の姿勢になっている。他方,内壁6の下端部(自由端部)6aは,外壁5に向けて傾斜した傾斜部になっている。
なお,棚の連接部11の各端部は平面視で45度カットされて傾斜しており,隣り合った連接部11が互いに突き合わさっている。」「【0025】(3).他の実施形態(図5)88図5では棚板2の断面形状の別例を示している。このうち(A)に示す例では,内壁6の連接部11を上向き凸の半円状に形成している。」(イ) 分割要件違反1についてa この点,前記(ア)のとおり,本件当初明細書には,コーナー支柱で棚板を支持している棚装置に関するものであり(【0001】),より改善された形態の棚装置を提供することを課題として(【0007】),4本のコーナー支柱と,コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板とを備えており(請求項1,2,【0001】,【0015】,【0016】),棚板の剛性を高くして棚装置全体としてより頑丈な構造とするため,棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が一体に形成されており(【0013】),具体的には,棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,内壁と外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており,内壁の自由端部である下端部は外壁に向けて傾斜した傾斜部になっている(【0016】,【0021】),との構成(以下「構成1」という。)とすることを技術的特徴とする発明が記載されている。
また,コーナー支柱は平面視L形であり,棚板の外壁がコーナー支柱にボルト及びナットで固定されており,棚装置の連接部は上向き凸の半円状に形成されており,隣り合った連接部が互いに突き合わさっている(【0002】,【0015】,【0018】,【0021】,【0025】),との構成も記載されている。
そうすると,本件訂正発明1における「4本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱で支持された平面視四辺形で金属板製の棚板」との構成を含む全ての構成が本件当初明細書に記載されていると認められる。
b これに対し,被告は,本件当初明細書には,コーナー支柱の形状がL字形以外の開示がないこと,外壁の端部をコーナー支柱の側板に密着させてボルトで締結する方法の棚装置以外については開示がない旨主張する。
確かに,本件当初明細書には,コーナー支柱と棚板との間のガタ付きを改善する89ことを目的として(【0011】,【0012】),コーナー支柱は平面視で交叉した2枚の側板を備えている一方,棚板は,水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えており,外壁の端部をコーナー支柱の側板に密着させて両者をボルトで締結している棚装置であって,コーナー支柱の側板と棚板の外壁とのうちいずれか一方には位置決め突起を,他方には位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴を設けている(請求項1,2),との構成が開示されていることが認められる。そうすると,本件原出願の請求項に係る発明においては,コーナー支柱は平面視で交叉した2枚の側板を備えているものであること,外壁の端部をコーナー支柱の側板に密着させて両者をボルトで締結しているものであること,及び,コーナー支柱の側板と棚板の外壁とのうちいずれか一方には位置決め突起を,他方には位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴を設けているものであること(以下「構成2」という。)が,その必須の構成となるといい得る。
しかし,本件当初明細書には,前記aのとおり,棚板の剛性を高くして棚装置全体としてより頑丈な構造とするとの作用効果を奏する構成1が記載されているのであるから,コーナー支柱と棚板との間のガタ付きを改善するための解決手段としての構成2が本件原出願の請求項に係る発明の必須の構成であるとしても,これは,本件原出願の請求項に係る発明の技術思想についてのものにすぎない。また,構成2は,棚板の剛性を高くして棚装置全体としてより頑丈な構造とするとの作用効果を奏するために必須の構成であるとはいえず,構成1と技術的に一体不可分な関係にあるものとも認められない。
そして,本件当初明細書には,「複数本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱の群で囲われた空間に配置された金属板製の棚板とを備えており, (請求項1, ,」 2)「本願発明は,コーナー支柱で棚板を支持している棚装置に関するものである。」と記載されているとおり(【0001】),本件当初明細書に記載された発明は,コーナー支柱の形状やコーナー支柱と棚板との締結態様について特段限定のない発明であると解される。
90そうすると,本件発明が,本件原出願の請求項に係る発明(構成2)において記載されていないからといって,本件当初明細書に記載されていないということはできない。
また,本件当初明細書の記載から,「4本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱で支持された平面視四辺形で金属板製の棚板」との構成について,当業者によって発明の実施形態として想定することができないということもない。
したがって,本件当初明細書には,本件発明が記載されていると認められるから,被告の主張は採用できない。
(ウ) 分割要件違反2について被告が主張する本件当初明細書に開示された棚板側壁の曲げ加工の例示は,それぞれ自然法則を利用して棚装置を提供するものであるから,発明に該当するといえる。
したがって,この点についての被告の主張は理由がない。
(エ) 以上によれば,本件発明1に分割要件違反に基づく無効理由はない。
エ 本件発明1−1の新規性及び進歩性欠如に基づく無効理由について(ア) 乙17発明a 乙17文献の記載乙17文献には,次の記載がある(図面については,乙17文献図面目録参照)。
「2 実用新案登録請求の範囲長方形天板の左右両側の長手方向全長に,天板と側板と連成部及び折立片とで囲まれる角形の中空部を形成し,その端部口に該端部口を密閉する側蓋と中空部内へ嵌入されるコ字形の嵌入部とを一体に連成してなる止金具を嵌め,さらにその上から棚板端面全体を被包する端蓋ケースを嵌合したことを特徴とする棚板構造。 (1」頁3行目から同頁10行目)「本考案はスチール製組立棚用の棚板に関し,棚板となる長方形天板の左右側板を折り曲げにより該部の長手方向に角形の中空部を形成し,端部口に止金具及び端91蓋ケースを一体に嵌合して薄板鋼板の補強と取付強度の増大を図ったものである。」(1頁12行目から同頁16行目)「1は鋼板製の長方形天板であり,その左右両側には側板2,2が折り曲げにより一体に形成される。」(1頁18行目から19行目)「3は左右側板2,2の下縁部に連成部4を介して内方上向きに折曲した折立片であり,この折立片3の上端に折曲縁3aを内向きに設けてそれを天板内面へ溶接により接着させる。このようにすると天板1の左右両側に天板1と側板2と連成部4及び折立片3とで囲まれた角形の中空部5がその全長に形成される。」(2頁1行目から同頁7行目)「6は中空部5の端部口5aに嵌められる止金具であり,端部口5aを密閉する側蓋6aと中空部5内へ嵌入されるコ字形の嵌入部6bとを一体に有するよう鋼板にてつくられる。」(2頁7行目から同頁10行目)「7は端蓋ケースであり,前記同様鋼板にてつくられ,止金具6を嵌めた上で棚板の端部に嵌合されるものである。」(2頁11行目から同頁13行目)「角形中空部5の端部口5aに止金具6を嵌めると,ねじ孔8と透孔9が合致するからこれにビス10を挿通して螺締すれば端部口5aは側蓋6aで密閉されると共に端部口5aの奥の角形中空部5はコ字形嵌入部6bの嵌合で嵌合部が2重となって補強される。さらにその上から端蓋ケース7を嵌めて透孔13よりビス14を挿通し,ねじ孔12に螺締すれば棚板と止金具及び端蓋ケースの三者が一体化する。」(3頁7行目から同頁15行目)「従来の鋼板製棚板は側板をコ字形に曲げただけのものが一般的であったから,重量物を載せると棚板が曲がったり,撓んだりして強度的に非常に弱い欠点があり,その為これを補強する為に天板の内面にコ字形の補強材を溶接により接着することが行われているのであるが,・・・棚板を取付ける部分の強度が弱い為に・・・欠点があった。」(4頁10行目から同頁20行目)「本考案はこのような従来の欠点に鑑みこれを改良したものであって,・・・天92板の左右長手方向の全長に・・・角形の中空部を形成し,その端部口に止金具を嵌め・・・端蓋ケースを嵌合してなるものであるから棚板の曲げや撓みに対する強度は角形の中空部によって著しく高められると共に,その端部口に嵌めた止金具と端蓋ケースによって棚板が薄質でもねじ止めや締め付け並びに支柱に対する取付金具との係合を強固に行うことができ・・・る。」(5頁1行目から同頁14行目)b 乙17発明乙17文献の記載によれば,「4本の支柱15と,支柱15で支持された平面視四角形で鋼板製の棚板とを備えており,棚板は,水平状に広がる天板1と天板1の長辺側に折り曲げ形成した側板2とを備えている棚装置であって,棚板における側板2の先端は,天板1の側へ折り返された折立片3が,折立片3と側板2との間に中空部5があくように連成部4を介して一体に形成され,折立片3の先は,側板2と反対側へ延びるように曲げられ,天板内面へ溶接により接着され,中空部の端部口に該端部口を密閉する側蓋と中空部内へ嵌入されるコ字形の嵌入部とを一体に連成してなる止金具を嵌め,さらにその上から棚板端面全体を被包する端蓋ケースを嵌合した棚装置」(乙17発明)が開示されていることが認められる。
乙17発明は,側板をコ字形に曲げただけの従来の鋼板製棚板では,重量物を載せると棚板が曲がったり,撓んだりして強度的に非常に弱い欠点があり,これを補強するために天板の内面にコ字形の補強材を溶接により接着する場合,棚板を取 り付ける部分の強度が弱いために欠点があった,という従来の問題に鑑み,これを改良したものであり,棚板となる長方形天板の左右側板を折り曲げにより該部の長手方向に角形の中空部を形成し,端部口に止金具及び端蓋ケースを一体に嵌合することにより,薄板鋼板の補強と取付強度の増大を図ったものである。
したがって,天板,側板,連成部及び折立片で囲まれる角形の中空部,該中空部の端部口に嵌入される止金具及びその上から棚板端面全体を被包する端蓋ケースの三つの構成は,乙17発明において,課題を解決する手段として必須の構成であるといえる。
93(イ) 乙3発明a 乙3文献の記載乙3文献には次の記載がある(図面については,別紙乙3文献図面目録参照)。
「2,実用新案登録請求の範囲1. 各隅角部に配設した支柱(10)と,この支柱に係合する棚板(12)から成るスチ−ル棚において,各支柱の内面に上下方向に相対向する複数対の突部(14)(16)を各支柱につき同高さに設け,各対の突部間の間隔を棚板の同縁(18)の高さと同一となし各対の突部間に棚板を挿入係合させてなるスチール棚。」(1頁3行目から同頁10行目)「この考案はスチール棚の改良に関し特別な金具を用いることなくスチール棚の堅固な組立てを可能とするものである。」(1頁12行目から同頁14行目)「従来のスチール棚は・・・スチール棚全体が正確な直角六面体の形状をとりうるよう最上部の棚板(12)と最下部の棚板(12)とをアングルに取り付ける際に棚板(12)とアングル(10)との間に三角形の金具を挿入して三角形の各頂点に対応する位置においてそれぞれ3本のビスをアングル(10),金具(11),棚板(12)と挿通して固定しているものである。この場合には・・・1つのスチール棚において16枚の金具が必要であり,又,1枚の金具あて3本のビスとナットが必要であって価格構成上これら部品の占める割合が大であって異常なコスト高につながる原因となっているのみならず,アングル(10)と棚板(12)との間に金具(11)を挟みながらビスを通す必要があり特に素人にとっては組立てが困難であった。そこでこの考案者はこのような特別な金具を必要とすることなく迅速容易に組立てができてしかも正確な形状を出せるスチール棚を提供したものである。」(1頁15行目から3頁4行目)「第1図〜第3図において(10)は断面L字型の各隅角部に配するアングルであってアングル内面には上下方向に相対向する切起し等の突部(14)(16)が複数対設けられている・・・このようなスチ−ル棚を組立てるには4本のアングル94部材(10)を隅角部に配し複数の棚板を所望の間隔をもつてアングル(10)内面の一対の突部(14)(16)間に挿入係合してアングル外部よりボルト(20)を挿入しアングル(10)の長孔(24)および棚板(12)の周縁(18)に設けた長孔(26)内を挿通してナット(21)に螺合して締めつけ固定する。第3図に示すようにアングル(10)の各面において棚板(12)の互いに直角をなす周縁(18)(18)の双方を固定する。」(3頁7行目から4頁4行目)「以上のようにこの考案では支柱内面に設けた複数対の突部の間に棚板を挿入係合しビス止めすることによりスチール棚の組立てが完了するものであって棚板の位置決めと同時にスチール棚全体の正確な直角形状をなすことができる。そして従来例のように特別な金具およびこれを装着するための余分なビスを必要としないので大幅なコスト減につながる。」(6頁4行目から同頁11行目)b 乙3発明乙3文献の記載によれば,「4本の支柱10と,この支柱に係合され,ボルト及びナットで固定された棚板12とを備えており,棚板12が,水平状に広がる基板と,この基板の周囲に折り曲げ形成した周縁18とを備えているスチール棚であって,周縁18は,基板の周囲に折り曲げ形成した外壁部分と,外壁部分の先端を内曲げして内壁部分とした二重構造である,スチール棚」(乙3発明)が開示されていると認められる。
乙3発明は,従来のスチール棚では,スチール棚全体が正確な直角六面体の形状をとり得るよう最上部の棚板と最下部の棚板とをアングルに取り付ける際に棚板とアングルとの間に三角形の金具を挿入して三角形の各頂点に対応する位置においてそれぞれ3本のビスをアングル,金具,棚板と挿通して固定していたため,コスト高となるのみならず,組立てが困難であったという問題に鑑み,特別な金具を必要とすることなく迅速容易に組立てができ,しかも正確な形状を出せるスチール棚を提供することを課題としたものである。したがって,「周縁18は,基板の周囲に折り曲げ形成した外壁部分と,外壁部分の先端を内曲げして内壁部分とした二重構95造である」との構成は,乙3発明において,課題を解決する手段として必須の構成であるということはできない。
(ウ) 乙4発明a 乙4文献の記載乙4文献には,「物品棚装置」の考案として,次の記載がある(図面については,別紙乙4文献図面目録参照)。
「本案は物品棚装置の改良に関するもので,角筒状支柱1の隅角部の全長に,内向き彎曲の隅角形成条板2を設け,該条板2に螺孔又は孔3を穿つて,この孔に棚板4の隅角部内の角金具5の孔6に嵌通したねじ7を螺挿緊締し,棚板を固着したものである。
棚板4は各隅角部を切除8し,この切除部の直交する両縁部Bを,支柱の直交する横側面に密接させ,且棚板の前後左右の縁部に,断面L字形又はロ字形の下向き屈折縁9を形成し,・・・」(1頁10行目から同頁19行目)。
b 乙4発明乙4文献の記載及び第3図によれば,「4本の隅角部の支柱1と,支柱1で支えられた平面視四角形の棚板4とを備えており,棚板4は,棚板の前後左右の縁部に,断面L字形又はロ字形の下向き屈折縁9を形成している棚装置」(乙4発明)が開示されていると認められる。
(エ) 本件訂正発明1−1との対比a 本件訂正発明1−1と乙17発明との対比本件訂正発明1−1と乙17発明とは,次の2点で相違し,その余の点で一致する。
@ 外壁が,本件訂正発明1−1は,基板の「周囲」に折り曲げ形成したものであるのに対し,乙17発明は,「長辺側に折り曲げ形成した側板」である点(相違点@)A 内壁の連接部と反対側の端部が,本件訂正発明1−1は,「自由96端部」であり,「外壁に向かって延びるように」曲げられており,「傾斜部」になっているのに対し,乙17発明は,「側板2と反対側へ延びるように曲げられ,天板内面へ溶接により接着されている」点(相違点A)b 本件訂正発明1―1と乙3発明との対比本件訂正発明1−1は,棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された 内壁が,「当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており,前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており,前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」(1C,1F)のに対し,乙3発明の周縁18は,基板の周囲に折り曲げ形成した外壁部分と,外壁部分の先端を内曲げして内壁部分とした二重構造である点で相違し(相違点B),その余の点で一致する。
c 本件訂正発明1―1と乙4発明との対比本件訂正発明1−1は,内壁の連接部と反対側の端部が,「外壁に向かって延びるように」曲げられており,「傾斜部」になっているのに対し,乙4発明は,このような構成を備えず,L字型又はロ字形の屈折縁の内側部分は,外側部分と平行に延びたまま,棚板の底板に達して直角に外壁に曲げられている点で相違し(相違点C),その余の点で一致する。
この点,原告は,乙4発明ではロ字状の下向き屈折縁を周囲に備えていない旨主張しているが,乙4文献には「且棚板の前後左右の縁部に」と記載されていることから,原告の主張は採用できない。
他方,被告は,乙4文献には,内壁の自由端部を外壁に向かって延びるように曲げることが開示されている旨主張するが,乙4文献には,内壁の形状として,L字形あるいはロ字形,又は第3図が記載されているのみであり,ロ字形の屈折縁の内側部分は,棚板の底板に達しており「自由端部」とは認められないから,被告の主張は採用できない。
また,被告は,本件訂正発明1−1における内壁の「自由端部は傾斜部になって97いる」構成は,そのもたらす効果が本件明細書1に全く記載されておらず,傾斜部の先をどこにも固定しない状態は,本件訂正発明1の目的である強度の改善に顕著な効果をもたらすとは考えられないから,同構成は無意味なものであり,結局,本件訂正発明1−1と実質的に同一である旨主張する。しかし,後記(オ)のとおり,本件訂正発明1−1にとって上記構成は,課題の解決や本件発明の効果を奏するために必須のものと認められるから,被告の主張は採用できない。
(オ) 相違点に係る構成の容易想到性a 前記イ(イ)認定の本件訂正発明1−1は,棚板の剛性を高くして棚装置全体としてより頑丈な構造とするため,棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が一体に形成されており,具体的には,棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,内壁と外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており,内壁の自由端部である下端部は外壁に向けて傾斜した傾斜部になっている,との構成を採用していることが認められるのであるから,内壁の連接部と反対側の端部が「自由端部」であり,「外壁に向かって延びるように」曲げられており,「傾斜部」になっているとの各相違点に係る構成は,課題の解決や本件発明の効果を奏するために必須の構成であるということができる。
したがって,本件訂正発明1―1と乙17発明,乙4発明及び乙3発明との相違点AないしCに係る構成が当業者にとって容易想到であったというためには,少なくとも,内壁の連接部と反対側の端部が「自由端部」であり,「外壁に向かって延びるように」曲げられており,「傾斜部」になっている構成が公知文献に開示又は示唆されていなければならない。
b 乙17発明を主引例とする進歩性欠如について被告は,乙17発明を主引例として,乙4発明を適用することで,相違点に係る構成を当業者が容易に想到することができる旨主張する。
しかし,前記(ウ)で認定のとおり,乙4発明には,内壁の連接部と反対側の端部が「自由端部」であり,「外壁に向かって延びるように」曲げられており,「傾斜部」98になっている構成は開示されていないため,仮にこれらを適用する動機付けがあったとしても,相違点Aに係る構成に至ることは容易想到とはいえない。
また,乙13及び乙31の1は,別紙その他文献図面目録記載の乙13文献及び乙31文献(抜粋)の写真のとおり,曲げ加工がされたサンプル(断面形状の加工例)が撮影されている。これらの写真によれば,内壁の連接部と反対側の端部が「外壁に向かって延びるように」曲げられており,「傾斜部」になっている構成が開示されていることが認められるものの,「傾斜部」の先端から外壁に沿って延びる部分が存在し,当該部分が外壁と重なることで,内壁の連接部と反対側の端部は「自由端部」になっていないことが認められる。また,仮に,「傾斜部」の先端から外壁に沿って延びる部分が外壁と重なっていないために内壁の連接部と反対側の端部は「自由端部」であると認め得るとしても,その「自由端部」は「傾斜部」とはいえないことが認められる(なお,乙13及び乙31の1については,本件特許1に係る出願の出願日(本件原出願の出願日)における公知性ないし周知性について も当事者間に争いがある。)。そうすると,乙13,乙31の1には,相違点Aに係る構成は示されていないから,同構成に至ることは容易想到とはいえない。
c 乙3発明を主引例とする進歩性欠如について被告は,乙3発明を主引例として,@乙4発明,A曲げ加工に関する周知慣用技術(乙8,9,14,15,17ないし20),Bプレス機の形状選択(乙13,31の1等に示された周知の形状),C乙14発明,D乙15発明をそれぞれ適用することにより,相違点に係る構成に当業者が容易に想到できた旨主張する(争点2−3参照)。
乙8文献には,新しい板金加工ノウハウに関して,「板の端部を図10・1・1のようにカール状に折り曲げることをカーリングという。カーリングは,製品の外観を良くする,補強の働きをする,安全性を得る――などの利点があって,多く使われている。」「13・1 クロージング クロージングの語源は,colse(閉じる)。図13・1・1のような閉じた製品形状の曲げをいう。」との記載がある。
99乙9文献には,曲げ金型に関して,表4−2には,種々の曲げパターンが紹介されており,この中にクロージングも記載されている。
乙14文献には,整理棚における棚板の取付構造に関し,「第1図は逆U字状に折曲された鋼製パイプよりなる支柱1,1’の間に上下2段に鋼板製の棚板2,3を配し・・・。前記上下棚板2,3は側面視で第2図に示すような形状をしており・・・」との記載がある(3頁6行目から11行目)。
乙15文献には,レンジフードファンにおけるコーナーの補強構造に関する記載があり,図7には,フード体Aが,側板部1と,油受け6と,ヘミング潰し7とを含み,油受け6が,外側立面6aを有し,ヘミング潰し7が,中空部7a,折曲端7b,下側湾曲外面7a’を有することが記載されている。
しかし,これらの記載並びに別紙その他文献図面目録記載の乙8文献,乙9文献,乙14文献及び乙15文献の図のとおり,乙8文献及び乙14文献に外壁の先端が内側にカールしている構成が開示されていることが認められるが,他のいずれの文献にも,内壁の連接部と反対側の端部が「自由端部」であり,「外壁に向かって延びるように」曲げられており,「傾斜部」になっているとの構成が開示ないし示唆されているとは認められない。
乙4発明についても,前記(エ)cのとおり,乙17についても,前記(エ)aのとおり,乙18ないし乙20についても,後記3(3)ウ(イ)bないしeのとおり,乙13及び乙31の1についても,前記bのとおり,これらの構成は備えていない。なお,乙10ないし乙12は,曲げ加工装置等の機械に関する文献であり,上記構成を示すものではない(乙10ないし12)。
したがって,乙3発明の棚板の壁部の構成についての相違点Bに係る構成が,当業者にとって容易に想到できたとはいえないし,ましてや形状選択にすぎないともいえない。
d 乙4発明を主引例とする新規性欠如,進歩性欠如について被告は,乙4発明と実質的に同じである,又は乙4発明を主引例として乙13,100乙31の1により周知の形状を適用することにより相違点に係る構成に当業者が容易に想到することができる旨主張する。
しかし,乙4発明と本件訂正発明1−1が実質的に同じである旨の主張は,前記(エ)cのとおり,採用できないから,この点で新規性を欠くとは認められない。
また,乙13及び乙31の1については,前記bのとおり,いずれも,内部の連接部と反対側の端部が「自由端部」であり,「外壁に向かって延びるように」曲げられており,「傾斜部」になっている構成が開示されているとはいえず,仮に,乙4発明にこれらの形状を適用する動機があったとしても,相違点Cに係る構成に至ることは容易想到とはいえない。
(カ) 以上から,本件訂正発明1−1に新規性及び進歩性欠如に基づく無効理由はない。
オ 本件訂正発明1−2の新規性及び進歩性欠如による無効理由について本件訂正発明1−2は,本件訂正発明1−1に構成要件1H,1I,1J及び1Eを付加したものであるから,本件訂正発明1−1と同様に,新規性及び進歩性欠如による無効理由はない。
(4) 結論以上から,本件特許1について訂正請求がされ,本件訂正1は訂正要件を備えており,本件訂正1により無効理由が解消されており,被告各製品が本件訂正発明1−1の,被告製品1が本件訂正発明1−2の技術的範囲に属するのであるから,本件特許1についての訂正の再抗弁は,理由がある。
したがって,争点2−1ないし2−4について別途判断するまでもなく,被告各製品を製造販売等する行為は,本件特許1に係る特許権を侵害する。
3 争点5(本件発明2についての訂正・再訂正の対抗主張の成否)について事案に鑑み,次に争点5について判断するが,本件訂正2は本件再訂正の請求により取り下げたものとみなされる(特許法134条の2第6項)から,本件再訂正による再抗弁について判断する。
101(1) 訂正要件の充足について本件再訂正は,前提事実(4)記載のとおり,@本件発明2の構成要件2Eにつき,基板の側に折り返された内壁の形状を「前記内壁の先端部は前記基板に至ることなく前記外壁に向かっており」と限定し(構成要件2E′),A同構成要件2Fにつき,「位置決め突起」を側板に,「位置決め穴」を棚板の外壁のみに設けられる構成に限定したもの(構成要件2F′)であるから,いずれも,特許請求の範囲減縮を目的とするものに該当する。
そして,構成要件2E′及び2F′は,それぞれ前記1(1)アの本件明細書2の【0021】及び【0019】に記載された事項である。
したがって,本件再訂正は,独立特許要件以外の訂正要件を充足する。
この点,被告は,本件明細書2の図面において,内壁の先端部が外壁に到達していない構成は,一切開示がなされていないにもかかわらず,本件再訂正は,内壁の先端部が外壁に到達していない場合もあり得る構成に拡張変更するものであり,明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない旨主張する。しかし,当初の構成要件2Eでも被告の主張するような限定はなく,実施例を見ても図3や図5の(A)(別紙本件各明細書図面目録参照)等,内壁の先端部が外壁に到達していないものも記載されているから,被告の主張は採用できない。
(2) 訂正により特許の無効理由が解消されるかア 被告の主張する無効理由被告は,本件特許2について,以下のとおり,前記争点3−1及び3−2並びに争点5に記載の無効理由を主張している。
(ア) 乙34発明を主引例として,乙17発明,乙31の1の構成,乙35発明を適用することによる進歩性欠如の無効理由(イ) 乙3発明を主引例として,乙17ないし乙22発明を適用することによる進歩性欠如の無効理由イ 乙34発明を主引例とする進歩性欠如の無効理由について102(ア) 乙34文献の記載乙34文献には,次の記載がある(図面については別紙乙34文献図面目録参照)。
「【0001】【発明の属する技術分野】この発明は,金属板製棚及び金属板製ワゴンに関するものである。」「【0008】図1に示したようにして組み立てられた金属板製棚は,棚上に物を載せるとき,横方向からの力が加えられると,支柱が傾き易いという欠点があった。この欠点は支柱の下方にキャスターを付設して,金属板製棚をワゴンとして使用するときに一層顕著に現れた。すなわち,金属板製ワゴンに物品を載せて移動させようとすると,僅かな力で押しただけで支柱が傾いて,ワゴンの形が歪むという欠点があった。
【0009】そこで,図2に示したように棚板Bの内側に金属又は合成樹脂製のL型補強材Dを当接してボルトCで締めるということも試みられたが,支柱が傾くことを防ぐことができなかった。
【0010】【発明が解決しようとする課題】この発明は,上述の欠点を改良しようとするものである。すなわち,この発明は,組み立て作業を従来通りの簡単なものにしたまま,金属板製棚又は金属板製ワゴンに横方向から力を加えても,支柱が傾かないようにすることを目的とするものである。
【0011】【課題を解決するための手段】この発明者は,上述の欠点を棚板の改良によって解消しようと企てた。この発明者は,棚板が浅い箱状を呈しているので,箱の側壁にあたる先端部分を外側へ折り返し,折り返し部分を四隅のかどで切欠して,折り返し部分の切欠端が丁度支柱の側面に当たるようにしておくと,この棚板を従来通りボルトで止めるだけで,支柱の傾きを完全に防止できることを見出した。この発明103は,このような知見に基づいて完成されたものである。
【0012】この発明は金属板を折曲して直角四辺形の浅い箱状に成形した複数枚の棚板と,金属板をアングル状に折曲して作られた4本の支柱とからなり,各棚板の四隅のかど部を支柱の内側面に当接し,ボルトにより固定して組み立てた金属板製棚において,各棚板の厚み方向に延びる各縁片の外側に金属板の小片を付設し,支柱の側面を金属板小片の厚み方向の側面に密接させ,支柱の両側面を金属板小片の上記側面により挟むようにしたことを特徴とする,金属板製棚を提供するものである。」「【0016】この発明において用いられる棚板1は,図3に示した金属板を図4に示したように折曲して作られる。図4において,折り返し片16,17,18,19は平板11に対して同じ方向へ,それぞれ縁片12,13,14,15と重なるように,まず折り返される。次いで,縁片12,13,14,15は,縁片12で示されているように,それぞれ折り返し片を伴ったまま平板11に対して,起立するように折曲され,全体が浅い箱状体となる。このとき,各折り返し片16,17,18,19が何れも箱状体の外側に来るように,各縁片を折曲する。
【0017】こうして作られた浅い箱状体は,その後四隅のかど部の側壁にあたる部分に,支柱との結合用ボルト孔があけられて,この発明で用いることのできる棚板1となる。この棚板1は,四隅のかど部の構造に特徴を持つので,そのかど部を拡大して示すと図5に示したようになる。
【0018】図5に示された棚板1は平板11を底とし,縁片12,13を側壁とする浅い箱状を呈している。折り返し片16,17の幅yは縁片12,13の幅xよりも僅かに小さくされているから,縁片12,13に沿って外側へ折り返された折り返し片16,17は,縁片12,13の少なくとも上半分を覆っており,折り返し片16,17の下端は縁片12,13の下端より僅か上方に位置している。折り返し片16,17は,棚の隅のところで長さzの矩形部分だけ切欠されているから,一辺がzの矩形部分だけ縁片12,13が露出している。各露出部分の中央に,104前述のボルト孔41,42が設けられている。
【0019】他方,支柱6は,アングル状を呈し,直交する2片61,62からなり,各片61,62は等しい幅を持っている。この幅は長さzとされているから,支柱6を棚板1のかど部に当接すると,図6に示したように支柱6の側面63,64は,折り返し片16,17の切断によって生じた側面161,171にそれぞれ密接することとなる。こうして,支柱6はその両側面63と64とにおいて折り返し片16,17の間に挟まれることになる。この状態でボルト孔を合わせ,そこにボルトを通しナットを嵌めて,支柱6と棚板1とを接続する。
【0020】こうして棚板1と支柱6とをボルトで固定すると,図6に示したように,支柱6は折り返し片16,17の間に密接して挟まれることとなる。このとき,折り返し片16,17の幅が縁片12と13の幅の半分以上を覆うようにすれば,支柱6の両側面63,64は相当の長さにわたって折り返し片16,17の側面161,171に密接することとなり,従って支柱6は棚板1に対して傾く余地が全くなくなる。」(イ) 乙34発明乙34文献の記載によれば,「金属板性棚は,4本の支柱6と3枚の棚板1とをボルトで結合して組み立てられ,4本の支柱6により囲まれた空間に棚板1が配置されており,棚板1は直角四辺形の平板11の四辺に縁片12,13,14,15を付設し,さらにそれぞれの縁片に折り返し片16,17,18,19は平板11に対して同じ方向へ折り返され,縁片12,13,14,15は,起立するように折曲され,全体が浅い箱状体となり,折り返し片16,17,18,19が何れも箱状体の外側に来るように,各縁片を折曲し,平板11を底とし,縁片を側壁とするものであり,折り返し片16,17は,棚の隅のところで長さzの矩形部分だけ切欠されているから,一辺がzの矩形部分だけ縁片12,13が露出し,各露出部分の中央に,前述のボルト孔が設けられ,支柱6は,アングル状を呈し,直交する2片(1片の幅はz)からなり,ボルトは頭が支柱6の外側に位置するように配置105されており,棚板1における縁片の内面にはボルトがねじ込まれるナットを配置し,ボルトを通しナットを嵌めて,各棚板の四隅のかど部(露出した12,13)を支柱の内側面に当接し,ボルトにより固定して組み立てた金属板性棚」が開示されている。
(ウ) 本件再訂正発明2と乙34発明との対比本件再訂正発明2と乙34発明とは,次の点で相違し,その余の構成については一致する。
@ 本件再訂正発明2が,「前記棚板における外壁の先端には,前記基板の側に折り返された内壁が一体に形成されており,前記外壁と内壁との間には前記ナットを隠す空間が空いていて前記内壁の先端部は前記基板に至ることなく前記外壁に向かって」いる(2E′)のに対し,乙34発明は,棚板1の四辺に起立させた縁片(12ないし15)に,箱状体の外側に来るように折り返し片(16ないし19)が形成されている点(相違点@)A 本件再訂正発明2が,「更に,前記コーナー支柱の側板には位置決め突起を,前記棚板には前記外壁のみに前記位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴を設けている」(2F′)のに対し,乙34発明はそのような構成を具備していない点(相違点A)(エ) 相違点に係る構成の容易想到性被告は,相違点@については,乙17発明及び乙31の1の構成を適用することにより容易想到である旨主張する。
この点,前記2(3)エ(ア)のとおり,乙17発明には,「棚板における側板2の先端は,天板1の側へ折り返された折立片3が,折立片3と側板2との間に中空部5があくように連成部4を介して一体に形成され,折立片3の先は,側板2と反対側へ延びるように曲げられ,天板内面へ溶接により接着され」た構造が認められる。
乙34発明に乙17発明を適用すると,乙34発明の折り返し片は,側壁の内側に折り返すことになり,支柱の側面と当接することがなくなることとなる。
106しかし,そもそも乙34発明は,「棚板が浅い箱状を呈しているので,箱の側壁にあたる先端部分を外側へ折り返し,折り返し部分を四隅のかどで切欠して,折り返し部分の切欠端が丁度支柱の側面に当たるようにしておくと,この棚板を従来通りボルトで止めるだけで,支柱の傾きを完全に防止できることを見出した。 (【0」011】),「折り返し片16,17の幅が縁片12と13の幅の半分以上を覆うようにすれば,支柱6の両側面63,64は相当の長さにわたって折り返し片16,17の側面161,171に密接することとなり,従って支柱6は棚板1に対して傾く余地が全くなくなる。」(【0020】)との記載にもあるとおり,棚板1の四辺に立ち上げた側壁(縁片12ないし15)の外側に折り返した折り返し片(16ないし19)を設けて,その折り返し片のかど部を切り欠きした部分に,密接させた支柱6の側面(端面)を当てることで,傾き防止を図ったものであり,棚板の立ち上げた側壁の外側に折り返し片を設けることは,その作用効果を奏するために不可欠の構成であるといえる。そうすると,乙34発明に乙17発明を適用することは,乙34発明の課題に反する構成に変更することとなる。
したがって,このような適用が当業者にとって容易になし得たこととはいえず,相違点@に係る構成につき容易に想到できたとはいえない。
ウ 乙3発明を主引例とする進歩性欠如の無効理由について(ア) 本件再訂正発明2と乙3発明との対比乙3発明は,前記2(3)エ(イ)記載のとおりであるところ,本件再訂正発明2とは,次の点で相違し,その余の構成については一致する。
@ 本件再訂正発明2は,(a)「前記棚板における外壁の内面には前記ボルトがねじ込まれるナットを配置しており,」「前記外壁と内壁との間には前記ナットを隠す空間が空いていて」,(b)「前記内壁の先端部は前記基板に至ることなく前記外壁に向かって」(2D,2E′)いるのに対し,乙3発明は,折り曲げ形成した外壁とその先端を内曲げして内壁が二重構造になっているが,中に空間は空いておらず,ボルトは,外壁と反対側の内壁の表面にねじ込まれている点(相違点@)107A 本件再訂正発明2は,「前記コーナー支柱の側板には位置決め突起を,前記棚板には前記外壁のみに前記位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴を設けている」(2F′)のに対し,乙3発明は,このような構成を備えていない点(相違点A)(イ) 相違点に係る構成の容易想到性被告は,相違点@のうち,(a)については,乙17発明ないし乙20発明を単独に,又は周知技術として組み合わせて適用することにより容易想到であり,(b)については乙17発明から容易想到である旨主張する。
a 乙17発明前記2(3)エ(ア)のとおりであり,棚板の長手方向に角型の中空部5を形成する構成が認められるが,中空部5は,折立片3の先端の折曲縁3aが側板2と反対側に延びて天板1に接着されており,「内壁の先端部は前記基板に至ることなく前記外壁に向かって」いる構成の開示はない。
b 乙18文献(図面は,別紙その他文献図面目録参照)本件特許2の出願前に頒布された刊行物である乙18文献には,次の記載がある。
「【0017】また,棚板6には,その下端が内方に折曲されて補強用の折り返し片61が形成されており,その左右両端近傍には,ナットnが溶着されている(図2参照)。
【0018】したがって,棚板6を取り付けるには,一の支柱2もしくは2Aの任意の縦長孔2aを選択し,その縦長孔2aに棚受け金具3における垂直片31の係合部31aを嵌め込む。次いで,残りの3本の他の支柱2,2Aにおいて,一の支柱2もしくは2Aの選択された縦長孔2aと同一高さ位置の縦長孔2aに棚受け金具3における垂直片31の係合部31aを嵌め込む。この際,前後一対の支柱2,2間もしくは2A,2A間の棚受け金具3が内方で互いに向かい合うように取り付ける。この後,棚受け金具3の水平支持片32に棚板6を載置し,その長孔32aを通して棚板6に設けたナットnにボルト(図示せず)を螺合して固定すればよい。」108c 乙19文献(図面は,別紙その他文献図面目録参照)本件特許2の出願前に頒布された刊行物である乙19文献は,発明の名称を「デスク」とするもので,次の記載がある。
「凹形テーパ面及び凸形テーパ面の好適な一例としては,前者を天板又は剛性アームに設けた溝の内側に形成し,後者を剛性アーム又は天板に設けた突条の外側に形成することが挙げられる。」「また,鋼板11の下面を中空の補強桟材12,13,14,15により補強するようにした天板1の構造は,板金素材を用いて大量生産するのに特に適しており,その製作手法も確立されている。そのため,天板1を,プレス機や溶接機等,既存の設備を使用して効率的に製作することができるという利点もある。」「[発明の効果]本発明は,以上のような構成であるから,既存の設備を用いて効率的に製造することができ,しかも,組み立て・分解が極めて容易である上に,全体の剛性も確保できるデスクを提供できるものである。」d 乙20文献(図面は,別紙その他文献図面目録参照)本件特許2の出願前に頒布された乙20文献は,発明の名称を「机」とするもので,次の記載がある。
「【0013】天板5の左右両側には縦長の箱形フレーム15が配置され,該フレーム15の内部にナット16が溶接等で固定され,そのネジ部に連通する透孔17が上記フレーム15の底面に開口している。そして,通孔14に挿入したビスまたはボルト18を透孔17に挿入し,これをナット16にねじ込んで,脚4に天板5を固定している。ビス18の頭部は脚4の内部に位置し,また一方のビス孔14はキャップ107で施栓されている。」「【0047】次に脚4,4の架橋部4b,4b上に天板5を載せ,脚4の下方からビス18を通孔14に挿入し,かつこれを箱形フレーム枠15内に固定したナット16にねじ込んで,天板5を取付ける。この状況は図9のようである。このよ109うに本発明は支柱3,3を連結する横枠9に小脚4a,4aを固定し,その上部に位置する架橋部4b,4bに天板5を取付けているから,脚の上端に天板を固定する従来の机に比べて,構成が簡単で容易に組み立てられる。」e 乙18ないし乙20発明前記bないしdの乙18文献ないし乙20文献の記載によれば,いずれも,棚板等の対抗する二辺に外壁を折り曲げ形成し,外壁の先端には外壁と反対側に折り曲げ,更に棚板等の側に折り返された内壁が形成され,外壁と内壁の間には中空部を具備し,内壁の先端は,外壁と平行に僅かに延びたまま(乙18発明)か,又は,棚板等の内面に至り棚板等に接着され(乙19発明及び乙20発明)ており,中空部にボルトがねじ込まれるナットを配置している構成が認められる。
f 相違点に係る構成の容易想到性そこで,前記相違点@について検討すると,乙3発明は,前記2(3)エ(イ)記載のとおりであり,乙3発明において,基板の周囲に折り曲げ形成した外壁部分と外壁部分の先端を内曲げして内壁部分とした二重構造であることは,必須の構成であるとはいえないから,基板の四辺(周縁18)に,適宜の構成を適用することは可能と考えられる。
しかし,前記相違点@の(a)については,乙17発明は長辺にのみ中空部を有する構成であり,乙18発明ないし乙20発明においては,二辺に中空部を具備するが,四辺全てに中空部を具備しているか不明であることからすれば,四辺全てに中空部を具備することが一般的であるとはいえない。また,長辺側に中空部を設けた場合,更に短辺側に同様の中空部を設けることは,その形状によっては困難である。そうすると,乙3発明に乙17発明ないし乙20発明を適用することにより,棚板の周囲(四辺全て)に「外壁と内壁との間にはナットを隠す空間が空いていて」との構成に至ることが容易であるとはいえない。
また,前記相違点@の(b)については,前記1(1)アで認定した本件明細書2の記載からすると,本件再訂正発明2の構成要件2E′は,内壁の補強機能により棚板110の剛性を高めて棚装置をより頑丈にするために,棚板における外壁の先端に基板の側に折り返された内壁を一体に形成し,外壁と内壁の間にナットを隠す空間を空け ,内壁の先端部は基板に至ることなく外壁に向かっている構成を採用したものと認められるから,内壁の先端部が「基板に至ることなく」「外壁に向かって」いるとの構成は,課題の解決や本件再訂正発明2の作用効果を奏するために必須の構成であるということができる。しかるに,前記のとおり,乙17発明,乙19発明及び乙20発明では,内壁の先端は天板ないし棚板等の内面に至り,それらに接着されており,乙18発明は内壁の先端は外壁と平行に僅かに延びたままであり,上記の本件再訂正発明2の必須の構成を開示するものでも示唆するものでもない。そうすると,乙3発明に乙17発明等を適用することにより「内壁の先端部は基板に至ることなく外壁に向かって」いるとの構成に至ることが容易であるとはいえない。
よって,乙3発明を主引例とする進歩性欠如の無効理由は認められない。
(3) 技術的範囲の属否について前記1のとおり,被告製品1は当初の本件発明2の構成要件を充足するところ,別紙被告製品1説明書記載2の「図面の説明」(写真)によれば,被告製品1は,当初の構成要件2Eに追加された「前記内壁の先端部は前記基板に至ることなく前記外壁に向かっており」との構成要件2E′を充足し,当初の構成要件2Fが変更された「更に,前記コーナー支柱の側板には位置決め突起を,前記棚板には前記外壁のみに前記位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴を設けている」との構成要件2F′を充足すると認められるから,被告製品1は本件再訂正発明2の技術的範囲に属する。
(4) 結論以上から,本件特許2について訂正請求がされ,本件再訂正は訂正要件を備えており,これらの訂正により無効理由が解消されており,被告製品1が本件再訂正発明2の技術的範囲に属するのであるから,本件特許2についての訂正の再抗弁は,理由がある。
111したがって,争点3―1及び3−2について別途判断するまでもなく,被告製品1を製造販売等する行為は,本件特許2に係る特許権を侵害する。
4 争点6(オプション棚板についての間接侵害の成否)について証拠(甲7,8)によれば,オプション棚板は,被告各製品の専用のものとして販売されていることが認められるから,オプション棚板は被告各製品の生産にのみ用いられる物といえ,その製造販売も,被告製品1については本件訂正発明1及び本件再訂正発明2について,被告製品2及び3については本件訂正発明1−1についての間接侵害を構成するといえる(特許法101条1項1号)。
5 争点7(侵害行為のおそれ−差止請求の必要性)について証拠(乙71ないし74,枝番を含む。)によれば,被告は,平成27年2月末日をもって,被告各製品の販売を停止し,ウェブ販売業者に対して新商品への変更を求めたこと,被告各製品の在庫廃棄処分を行ったことが認められる。
しかし,被告が,被告各製品の本件各特許に対する侵害性を争っていることからすると,なお再び侵害行為に及ぶおそれがあることを否定できないから,差止請求は認めるのが相当である。
もっとも,前記のとおり,被告が被告各製品の在庫廃棄処分を行ったことからすれば,現時点において被告が被告各製品及びその半製品を有しているとは認められないから,それらの廃棄請求は認められない。
6 争点8(損害発生の有無及びその損害額)について(1) 損害の発生弁論の全趣旨によれば,原告も被告も金属製ワゴンを製造販売するメーカーであり,原告は本件訂正発明1及び本件再訂正発明2の実施品を含む同種の金属製ワゴンを,卸売業者であるトラスコ中山を通じて一般市場で販売しており,被告は本件訂正発明1及び本件再訂正発明2の技術的範囲に属する被告各製品を製造し,販売業者等を通じて一般市場で販売していると認められる。したがって,原告と被告とは,金属製ワゴンの市場において競業関係にあり,市場において競合する被告各製112品によって,トラスコ中山による原告の製品の販売量が減少し,それに連動して原告のトラスコ中山に対する原告の製品の販売量が減少する関係にあるといえ,原告には,被告による被告各製品の製造販売等がなければ原告の製品の販売利益を得られたであろうという事情が存するから,原告には損害が発生しているといえ,特許法102条2項を適用するための要件は充足している。
これに対し,被告は,原告の製品の納入先がトラスコ中山に限られることから,原告が被告の顧客に原告の製品を販売する蓋然性がない,原告のトラスコ中山への販売量が減少したことが立証されていないと主張するが,いずれも上記に照らして採用できない。
なお,被告は,原告が本件再訂正発明2を実施していないと主張するが,「前記外壁と内壁との間には前記ナットを隠す空間が空いていて」とは,前記1(3)のとおり,外壁と内壁との間にナットを隠す空間が空いていれば足りるのであるから,原告の製品はこの点については充足しており(乙81の2),原告は,被告各製品と競合するものを製造販売しているといえる。
(2) 損害額(特許法102条2項の利益)特許法102条2項の「利益」とは,当該特許権を侵害した製品の売上合計額から侵害製品の製造販売と直接関連して追加的に必要となった経費のみを控除したものを指すと解するのが相当である。
販売数量及び販売金額(ア) 被告が,平成24年2月1日以降,被告各製品を次のとおり製造販売したことについては,当事者間で争いがなく,その販売の終期は,証拠(乙74)によれば,平成27年2月末日であると認められる。
@ 被告製品1及びそのオプション棚板 ●(中略)●台販売金額合計 ●(中略)●円A 被告製品2及びそのオプション棚板 ●(中略)●台販売金額合計 ●(中略)●円113B 被告製品3及びそのオプション棚板 ●(中略)●台販売金額合計 ●(中略)●円(イ) 被告は,被告各製品のうち,CSパールラックとCSパールラックワゴンは,品番に変更がないものの,平成26年3月1日から設計変更を行い,本件訂正発明1の技術的範囲内にないと主張し,同日から販売している設計変更品の販売金額金●(中略)●円及び販売原価●(中略)●円を利益の算定から控除すべきである旨主張するのに対し,原告は,時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきであると主張する。
被告の上記主張は,侵害製品の製造販売をいつまで行ったかに関するものであり,これは損害賠償の対象期間の問題であるから,被告が上記の主張を,損害論の審理に入って最初に被告各製品の販売量等を明らかにした平成27年4月20日付けの準備書面(被告)(6)においてしたことが直ちに時機に後れたものということはできない。
しかし,被告は被告各製品を製造販売してきており,本件において被告各製品の侵害性を争っているのであるから,それにもかかわらず自発的に上記の製品の設計変更をして,それらの製造販売を中止したと主張するのであれば,相応の立証をすることが必要である。ところが,被告は,その立証を特段していないのであるから,被告の上記主張事実は根拠を欠き,被告は,平成27年2月末日まで上記の製品の製造販売を従来のまま継続したと認めるのが相当である。
イ 控除される経費について(ア) 被告各製品の製造原価a 材料費部材の材料費は,被告各製品の製造がなければ要しなかった費用であり,控除されるべきである。
そして,「部材別原価構成表」(乙76の1)には,被告各製品に組み合わせて用いられる各部材(被告において製造加工するもの[乙76の1の3枚目まで]と,114完成品たる部材を仕入れるもの[同4枚目以降]がある。)の原価が記載され,「製品 構成リスト」(乙76の2)には,被告各製品における上記各部材の組合せが記載されていると認められる。そうすると,部材のうち被告において製造加工するものの材料費は,別紙製造原価一覧表の「材料」 「部材, (被告) ,」 「パッキン(梱包) ,」「塗料」の各欄のとおりであり,それらの合計が同別紙の「製造原価合計」欄のとおりと認められる。また,完成品たる部材を仕入れるものについては,別紙製造原価一覧表の「仕入部材」欄以下の「製造原価合計」欄のとおりと認められる。
この点,原告は,型番の構成から推定される部材の価格に合理性がないとして,「部材別原価構成表」の信用性がない旨主張するが,原告が同表の記載につき不合理であると主張する点について,被告は,部材の構成(乙83)及び各部品の単価(乙84ないし86)の証拠を提出して説明しており,その説明は合理的である。
また,被告は,一部の被告各製品について,証拠(乙87ないし90)を提出して,上記「部材別原価構成表」及び「製品 構成リスト」と対照させて材料費を説明しており,その説明に特に不合理な点はうかがわれない。また,原告は,「製品 構成リスト」につき,妥当性が検討できない旨主張しているが,上記のとおり被告は,各製品における部材の型番や数等を明らかにしており,特に問題はうかがわれない。
以上からすると,原告の上記主張は採用できず,上記のとおり認めるのが相当である。
加工費及び管理費被告は,被告において製造加工する部材につき,「部材別原価構成表」における「加工費」及び「管理費」が製造原価であると主張し,理由として,被告が資本金5000万円,従業員総数が●(中略)●名の規模の会社であるところ,5つの生産工場に勤務する従業員●(中略)●名のうち,被告各製品の生産に携わる従業員が●(中略)●名,生産工場が3か所であるから,被告各製品の製造に従事した従業員の直接労務費である加工費や管理費を固定費の範囲内で賄うことはできないことを指摘する。
115しかし,証拠(乙90)によれば,加工費は,被告の生産拠点である工場におけるプレス等の加工,塗装及び梱包等の工程における経費を計上しているものと認められるところ,加工費は,被告各製品の製造販売のために経費が増加すると認められる場合にはこれを控除すべき経費としてみる余地はある。しかし,加工費の算定根拠は明らかにされておらず,被告各製品の年間売上高が前記アのとおり約●(中略)●円で,被告の年間売上高約145億円(乙75の1ないし3)のうち●(中略)●%強にすぎないことからすれば,工場における加工の費用が被告各製品の製造に直接関連して追加的に必要になったとは認められないから,加工費を控除することはできない。また,管理費については,そもそも何を示すものかについても明らかにされておらず,被告各製品の製造に直接関連して追加的に必要になったとも認められないことから,控除は認められない。
c 製造原価率の算定弁論の全趣旨によれば,上記各部材の原価について,別紙製造原価一覧表の「原告主張原価」欄の額(これは,被告で製造加工する部材については,「材料」 「部,材(原告) ,」 「パッキン(梱包) ,」 「塗料」の各欄の合計に相当する。)とし,被告各製品のうち製品シリーズごとに見た場合に販売数量の多い製品を抽出して,それらの製造原価の販売価格に占める割合を算定すると,製造原価率の平均は●(中略)●%となることが認められる(平成27年8月20日付け原告準備書面(13)の別紙B) この製造原価率は,。 被告各製品の一部を抽出して算定したものであるが,被告各製品のうち製品シリーズごとに見た場合に販売数量の多い製品を抽出したものであることを考慮すると,基本的に上記の算定方法をもって,被告各製品の平均的な製造原価率と認めるのが相当である。
もっとも,上記の算定では,「部材」費について原告が減額をしているが,これについては前記のとおり別紙製造原価一覧表の「部材(被告)」欄によることとするのが相当である。そうすると,製造原価率については,上記の算定結果を別紙製造原価一覧表のとおり,原告の主張する原価(全型番合計●(中略)●円)と前記認定116した原価(全型番合計●(中略)●円)との比を用いて修正して,販売金額のうち●(中略)●%と認めるのが相当である。
●(中略)●%÷●(中略)●×●(中略)●≒●(中略)●%よって,販売金額●(中略)●円(前記ア(ア)@ないしBの合計額)の●(中略)●%である,●(中略)●円を製造原価として控除するのが相当である。
なお,原告は,被告が製造原価報告書等の製造原価を明らかにする書面を提出しないとして,被告の主張は信用することができない旨主張する。しかし,損害額については,原告が立証責任を負うと解されるところ,原告は,そのための立証手段を特段講じておらず,また,前記のとおり,原告が不合理と指摘する点については,被告の提出した書証により合理的な説明がされていると認められるから,これまで述べた特に不合理と解される部分を除き,被告が提出する書証により損害を認定することとするのが相当である。
(イ) その他の経費a 広告費用(カタログ作製費用)証拠(乙52の1ないし4)によれば,被告各製品が掲載されたカタログには,各年用の総合カタログと一部製品のみのカタログ又はちらしがあり,総合カタログには無償のものと有償のものがあること,総合カタログでの被告各製品の掲載比率は3.8%から5.5%であること,一部製品用カタログ等での被告各製品の掲載比率は,50%又は100%であることが認められる。
そして,カタログ作製費用は掲載頁数によって増加するものであることからすると,上記のような掲載比率であっても,無償カタログの作製費用のうちの被告各製品相当分は経費として控除するのが相当である。他方,有償のカタログについては,カタログ自体が商品として販売されたのであるから,これを販売のための経費とみるのは相当でないというべきである。
以上によれば,カタログ作製費用としては,無償カタログについての乙52の1の「総合計」欄を合計した●(中略)●円を認めるのが相当である。
117b 金型製品製作費用証拠(乙53)によれば,平成23年6月から平成24年5月までの間に被告各製品のための金型を製作するための費用として,合計●(中略)●円が支出されたことが認められ,これは,被告各製品を製造しなければ要しなかった費用と認められるから,同額を控除するのが相当である。
この点について,原告は,それらの金型は他の製品に流用し得るものであるから控除すべきでないと主張するが,そのことを認めるに足りる証拠はない。
c 開発費被告各製品の試作のために必要な費用は,被告各製品の製造のために特に増加したと認められる場合には,控除すべきであるところ,社内の開発部門の試作担当及び設計担当の人件費は,被告各製品の製造のためだけに必要な経費ではない固定経費であり,被告各製品の製造によって追加的に必要となったとの事情も認められないから,控除対象とはならない。他方,試作のための材料費及び外注費(製図)については,被告各製品の製造がなければ要しなかった費用であるといえるから,控除するのが相当である。
証拠(乙54)によれば,被告において平成23年1月から12月までの間,試作のための@材料費●(中略)●円,A外注費(製図)として●(中略)●円の支出をしたことが認められ,この間の製品開発品数のうち,被告各製品が占める割合が●(中略)●%であったことが認められるから,@及びAの合計●(中略)●円の●(中略)●%である●(中略)●円を控除するのが相当である。
d 運送費用被告各製品の運送費用は,その販売のために増加した分については控除すべきであるが,被告の主張は,被告各製品だけを運ぶことを前提としている点で既に合理性がなく,被告の主張を採用することはできない。そこで,原告が異議を述べない販売金額の●(中略)●%相当額である●(中略)●円(●(中略)●円×●(中略)●%)を認めるのが相当である。
118e 段ボール箱の印刷版代費用証拠(乙56の1及び2)によれば,被告各製品の段ボール箱の印刷版代として,合計●(中略)●円を支出したことが認められ,同額は被告各製品の製造販売のためにのみ必要といえるから,同額を控除するのが相当である。
f サルバニーニ社の機械の購入費用サルバニーニ社の機械は,被告各製品の製造のためにのみ使用されるものではなく,実際に全使用時間の●(中略)●%は他の製品の製造に使用していることを被告も認めていることからすれば,固定経費というべきであり,購入費用を控除することはできないというべきである。
ウ 推定覆滅事由等(ア) 特許権等の侵害者が受けた利益を特許権者等の損害と推定する特許法102条2項の推定を覆滅できるか否かは,侵害行為によって生じた特許権者等の損害を適正に回復するとの観点から,侵害製品全体に対する特許発明実施部分の価値の割合のほか,市場における代替品の存在,侵害者の営業努力,広告,独自の販売形態,ブランド等といった営業的要因や侵害製品の性能,デザイン,需要者の購買に結び付く当該特許発明以外の特徴等といった侵害品自体が有する特徴などを総合的に考慮して判断すべきである。
(イ) 本件訂正発明1及び本件再訂正発明2は,コーナー支柱で棚板を支持している棚装置に関する発明であり,内壁も補強機能を果たして棚板の剛性が高くなるため棚装置全体としてより頑丈な構造にすることができるという作用効果(本件訂正発明1) コーナー支柱にある突起と棚板の外壁にある穴との嵌め合わせによ,って相対的な姿勢が保持されてガタ付きを防止する,また,内壁が補強機能を果たす,ナットが内壁と外壁との間の空間に隠れているため,体裁を良くして,物品が引っ掛からないといった作用効果(本件再訂正発明2)を奏するものであり,棚装置全体に係る発明である。したがって,本件訂正発明1ないし本件再訂正発明2は,被告各製品の特徴的機能に大きく寄与しているものと認められる。そして,実際に119も,被告の2012年(平成24年)及び2013年(平成25年)総合カタログのCSワゴンシリーズ(被告各製品の属するシリーズ)の総括的な案内頁において,「堅牢,安全,美観 三拍子揃った新しいワゴンです。」との記載があり,棚板の内側が見える斜視方向の写真と共に,「堅牢」として,外壁と内壁の構造が示された棚板断面図に加え,棚板の立ち上げ部分が断面図のような構造になっているため非常に堅牢である旨の説明がされ,「安全」 「美観」, として,外壁と内壁との間の取付ナットの位置や取付ネジの状況が分かる棚板断面図が示され,「棚板を止めるネジは棚の内側から見えない形になっている(棚の内側に突起物がない)為,美観と安全性を向上しています。」と説明されている(甲39,40)。
他方,被告各製品のうち,被告の2014年(平成26年)及び2015年(平成27年)総合カタログの被告各製品の一部には,被告が保有する,特許権(第5515123号)による「突き合わせ内蔵方式」(CSツールワゴン,CSスーパーワゴン及びCSスペシャルワゴンについて),特許権(第5369263号)による「直進安定金具」(CSスペシャルワゴン及びCSパールラックワゴンについて),が採用されていること,また,従前被告が有していた実用新案権(消滅している。)である「ダブルテーパー加工」(CSパールワゴン,CSパールラックワゴンについて)が用いられていること,「突き合わせ内蔵方式」が被告独自の堅牢構造であることが記載されている(甲41,42,乙59ないし61,64ないし66の各号,枝番を含む。 。もっとも,これらの年のカタログでも,被告各製品が属するCSワ)ゴンシリーズの総括的な案内頁には,それまでと同様,堅牢性について,棚板の内側が見える写真と共に棚板の立ち上げ部分が写真のような構造になっているために非常に堅牢である旨,ネジが棚の内側から見えない形となっているため,美観と安全性を向上している旨の記載がされていること(甲41,42)からすれば,それらによる棚板の構造が堅牢性,美観及び安全性に寄与している反面,「突き合わせ内蔵方式」の実施が製品全体の堅牢性にどの程度寄与しているのかについては必ずしも明らかではない。また,「直進安定金具」は,キャスターの回転を止める金具が付120属しているものであり,「ダブルテーパー加工」は棚板の支柱と固定する部分の加工で棚板の上下を組み替えることができるものであるところ(乙59,60),これらは,被告各製品の一部に採用されているものではあるが,使用用途により,購入者の選択の一要素となると認められる。なお,被告が指摘するABS樹脂による支柱と棚板の密着性(乙59,60)ついては,同種棚板で通常用いられているものと認められ(甲46),購入者の購買意欲に影響しているとは考えられない。
(ウ) また,被告は,原告の製品の売れ行きはトラスコ中山との密接な人的関係に基づき定まり,製品の技術的内容によって左右されない,被告に新規顧客が増加していないことから,被告各製品に本件訂正発明1及び本件再訂正発明2を実施した影響がないと主張するが,原告の製品もトラスコ中山を通じて市場で販売されるものであるから,技術的内容が販売実績を左右しないということはできず,被告の顧客が製品を選ぶ際に技術的内容を考慮していないなどということはできないし,被告に新規顧客が増加していないからといって,本件訂正発明1及び本件再訂正発明2の影響がないともいえない。なお,被告は,原告の製品が本件再訂正発明2を実施していない旨主張するが,それが認められないことは,前記(1)のとおりである。
(エ) 以上に加え,被告製品2及び3の製造販売が本件特許権1のみの侵害にとどまることを併せ考慮して総合すると,被告各製品による対象期間全体を通じた本件各特許に係る特許権の侵害について,覆滅割合としては,20%と認めるのが相当である。
エ 小括以上によれば,特許法102条2項により算定される損害額は,次のとおり2億5621万9906円である。
売上げ合計 ●(中略)●円控除する製造原価合計 ●(中略)●円(●(中略)●%相当額)控除するその他の経費合計 ●(中略)●円121控除後合計 3億2027万4883円20%覆滅後 2億5621万9906円なお,証拠(乙50及び51)に照らすと,このうち3220万円は本件訴状の送達の日である平成25年7月17日より前に生じたと認められる。
(3) 特許法102条3項の重畳適用について原告は,覆滅された部分については,特許法102条3項の重畳適用により,実施料相当額を認めるべきである旨主張する。
この点,同条2項は,侵害者が侵害製品を製造販売しなかった場合に特許権者が得られたであろう利益(逸失利益)を損害として算定するものであるのに対し,同条3項は,侵害者が侵害製品を製造販売することを前提に,それに対する実施料相当額を損害として算定するものであって,両者は,その前提を異にする別個の損害算定方法を定めたものである。そして,同条2項による損害額を算定するに当たり,推定が一部覆滅された場合でも,少なくともそれが前記(1)のような侵害者に特有の製品上の競争力があることによる場合には,損害額算定の対象とした侵害行為による特許権者の逸失利益は,一部覆滅後のものとして評価され尽くされているから,推定が一部覆滅された部分について同条3項による損害額を認めることは,同一の侵害行為について前提を異にする両立しない損害の賠償を二重に認めることとなり,法が予定するところではないと解するのが相当である。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
(4) 弁護士費用等被告の侵害行為によって本件訴訟の追行するために必要となった弁護士及び弁理士費用として,2500万円の損害を認めるのが相当である。
(5) 合計額被告による侵害行為によって生じた原告の損害は,合計2億8121万9906円である。
第6 結論122以上の次第で,原告の請求は,被告各製品の製造,販売又は販売の申出の差止め,並びに2億8121万9906円及びうち3220万円に対する平成25年7月18日から,うち2億4901万9906円に対する平成27年2月28日から,各支払済みまで,年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余については理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法64条本文,61条を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部裁 判 長 裁 判 官 松 宏 之裁 判 官田 原 美 奈 子裁 判 官林 啓 治 郎123
事実及び理由
全容