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関連審決 無効2010-800162
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事件 平成 27年 (行ケ) 10127号 審決取消請求事件

原告三菱電機株式会社
同訴訟代理人弁護士 近藤惠嗣 前田将貴
同 弁理士 加藤恒 打木達也 中根孝之
被告 株式会社アマダホールディン グス
同訴訟代理人弁護士 高橋元弘 末吉亙
同 弁理士 三好秀和 豊岡静男 廣瀬文雄
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/03/23
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2010−800162号事件について平成27年5月29日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文第1項と同旨
事案の概要
1 特許庁等における手続の経緯 ? 原告は,平成7年5月24日,発明の名称を「レーザ加工装置」とする特許出願をし,平成12年12月8日,設定の登録を受けた(特許第3138613号。
請求項の数7。甲29)。以下,この特許を「本件特許」という。
? 被告は,平成22年9月14日,本件特許の特許請求の範囲請求項1に係る発明について特許無効審判を請求し,原告は,同手続において訂正請求をした。
? 特許庁は,上記審判請求を無効2010-800162号事件として審理し,平成23年4月14日,「訂正を認める。特許第3138613号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「一次審決」という。)をした。
? 原告は,一次審決の取消しを求める訴訟(平成23年(行ケ)10168号事件)を提起した。その後,本件特許の特許請求の範囲減縮等を目的とする訂正審判を請求した(乙1)。
知的財産高等裁判所は,平成23年10月7日,平成23年改正前特許法181条2項に基づき,一次審決を取り消す旨の決定をした。
? 前記?の訂正審判請求については,同訂正審判の請求書に添付された訂正した明細書,特許請求の範囲又は図面を平成23年改正前特許法134条の3第3項の規定により援用した同法134条の2第1項の訂正の請求がされたものとみなされた(同法134条の3第5項)。
特許庁は,平成24年1月24日,無効2010-800162号事件につき,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「二次審決」という。)をした。
? 原告は,二次審決の取消しを求める訴訟(平成24年(行ケ)10082号 2 事件)を提起した。
知的財産高等裁判所は,平成24年12月25日,二次審決を取り消す旨の判決をし,この判決は,確定した。
? 原告は,平成26年4月14日,特許請求の範囲減縮及び明瞭でない記載釈明を目的とする訂正請求をした(甲30,甲31。以下「本件訂正」という。。
) 特許庁は,平成27年5月29日,無効2010-800162号事件につき,「訂正を認める。特許第3138613号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同年6月8日,その謄本が原告に送達された。
? 原告は,平成27年7月3日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(甲31)。
以下,この請求項1に係る発明を「本件発明」といい,本件訂正後の明細書(甲31)を「本件明細書」という。
【請求項1】レーザ発振器から出力されるレーザビームを集光光学部材を用いて集光させ,切断・溶接等の加工を行うレーザ加工装置において,前記レーザビームの伝送路に設けられ気体圧力により弾性変形するレーザビーム反射部材と,このレーザビーム反射部材の周囲部を支持し前記レーザビーム反射部材とともにレーザビーム反射面の反対側に空間を形成する反射部材支持部と,前記反射部材支持部に設けられ,この反射部材支持部の空間に気体を供給する流体供給手段と,気体供給圧力を連続的に切り換える電空弁と,前記反射部材支持部に設けられ,前記反射部材支持部の空間から気体を排出する流体排出手段とを備え,前記空間は流体供給経路及びこの流体供給経路と別体の流体排出経路を除き密閉構造とし,さらに前記空間は前記流体供給手段及び前記流体排出手段とともに出口を有する流体動作回路を構成して,前記流体排出経路を通過した気体は前記流体排出手段 3 より外部に排出され,前記流体排出経路を前記流体供給経路よりも狭くすることにより,前記レーザビーム反射面の反対側に前記レーザビーム反射部材が弾性変形するに要する気体圧力をかけるように構成したことを特徴とするレーザ加工装置。
3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本件発明は,下記アの引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び下記イからチに記載された周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
ア 引用例:ドイツ連邦共和国実用新案第9407288号明細書(平成6年9月頒布。甲1の1) イ 周知例1:特開平1-166894号公報(甲2) ウ 周知例2:特開平1-219801号公報(甲3) エ 周知例3:特開昭61-159613号公報(甲4) オ 周知例4:社団法人日本油空圧学会編「新版 油空圧便覧」(株式会社オーム社,平成元年2月発行。甲6) カ 周知例5:特開平7-36551号公報(甲7) キ 周知例6:特開平4-356395号公報(甲8) ク 周知例7:西家正起編「日本工業規格 空気圧システム通則」(財団法人日本規格協会,昭和63年8月発行。甲18) ケ 周知例8:森田栄一著「油・空圧回路設計ハンドブック」(株式会社工業調査会,平成3年7月発行。甲19) コ 周知例9:特開平5-212060号公報(甲20) サ 周知例10:島田公雄監修,南誠著「だれにもわかる空気圧技術入門(基礎編)(株式会社オーム社,昭和51年2月発行。甲22) 」 4 シ 周知例11:特開平5-180556号公報(甲23) ス 周知例12:中西康二著「絵とき空気圧技術実務マニュアル」(株式会社オーム社,昭和61年11月発行。甲24) セ 周知例13:油空圧工業総覧1990年版(株式会社重化学工業通信社編,平成元年9月発行。甲25) ソ 周知例14:特公平3-36401号公報(甲26) タ 周知例15:実願昭55-620892号(実開昭56-122643号)のマイクロフィルム(甲27) チ 周知例16:特開昭61-149915号公報(甲28) ? 本件審決が認定した引用発明,本件発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 引用発明 レーザ発振器2から出力されるレーザ光線1を収束レンズ8を用いて集光させ,切断の加工を行うレーザ切断機において,レーザ光線1の伝送路に設けられ圧力水の圧力により弾性変形する鏡面12を有する金属円板と,この金属円板の周囲部を支持し金属円板とともに金属円板の鏡面12の反対側に空間を形成する鏡ケース13と,前記鏡ケース13に設けられ,この鏡ケース13の空間に圧力水を供給する流体管14と,圧力水の供給圧力を4段階に切り換える磁気弁20,21,22と,前記鏡ケース13に設けられ,鏡ケース13の空間から圧力水を排出する,流体管14とは別体の流体管とを備え,鏡ケース13の空間は,圧力水供給経路及びこの圧力水供給経路と別体の圧力水排出経路を除き密閉構造とし,さらに前記空間は前記流体管14と流体管14とは別体の流体管とともに流体回路を構成して,前記圧力水排出経路を通過した圧力水は前記流体管14とは別体の流体管より前記空間の外部に排出され,金属円板の鏡面12の反対側に前記金属円板が弾性変形するに要する圧力水の圧力をかけるように構成したレーザ切断機。
イ 本件発明と引用発明との一致点 5 レーザ発振器から出力されるレーザビームを集光光学部材を用いて集光させ,切断・溶接等の加工を行うレーザ加工装置において,前記レーザビームの伝送路に設けられ流体圧力により弾性変形するレーザビーム反射部材と,このレーザビーム反射部材の周囲部を支持し前記レーザビーム反射部材とともにレーザビーム反射面の反対側に空間を形成する反射部材支持部と,前記反射部材支持部に設けられ,この反射部材支持部の空間に流体を供給する流体供給手段と,流体供給圧力を切り換える弁と,前記反射部材支持部に設けられ,前記反射部材支持部の空間から流体を排出する流体排出手段とを備え,前記空間は流体供給経路及びこの流体供給経路と別体の流体排出経路を除き密閉構造とし,前記空間は前記流体供給手段及び前記流体排出手段とともに流体動作回路を構成して,前記流体排出経路を通過した流体は前記流体排出手段より外部に排出されるように構成したレーザ加工装置である点 ウ 本件発明と引用発明との相違点(ア) 相違点1 流体供給手段が反射部材支持部の空間に供給する流体や,流体排出手段が反射部材支持部の空間から排出する流体について,本件発明の流体は「気体」であるのに対して,引用発明の流体は「圧力水」である点(イ) 相違点2 流体供給圧力を切り換える弁について,本件発明の弁は,流体供給圧力を「連続的に切り換える電空弁」であるのに対して,引用発明の弁は,流体の供給圧力を「4段階に切り換える磁気弁」である点(ウ) 相違点3 本件発明の「流体動作回路」は出口を有するものであるのに対し,引用発明の「流体回路」は,出口を有するものであるか,明らかではない点(エ) 相違点4 本件発明の「流体排出経路」は,「流体供給経路」よりも狭くしたものであるのに対し,引用発明の「流体排出経路」と「流体供給経路」がそのようなものである 6 か明らかではない点 4 取消事由 本件発明の容易想到性に係る判断の誤り ? 相違点1の判断の誤り(取消事由1) ? 相違点3の判断の誤り(取消事由2) ? 相違点4の認定及び判断の誤り(取消事由3)
当事者の主張
1 取消事由1(相違点1の判断の誤り)について〔原告の主張〕 ? 引用例中の「Fluid」の意義の解釈に係る誤り 本件審決は,引用例中のドイツ語の「Fluid」を日本語の「流体」と訳し,その「流体」は液体及び気体の双方を含むという解釈を前提として,概要,「流体圧力により曲率を変化させる反射鏡において,流体として気体を採用することは従来周知の技術的事項であり,引用例には,圧力流体として気体を採用することの示唆がある」旨判断した。
しかし,以下のとおり,同判断は,その前提となる「Fluid」の意義の解釈において誤りがある。
ア ドイツ語の「Fluid」の意義について (ア) ドイツ語の「Fluid」は,英語に由来する外来語であり,日本語の「流体」に対応する単語ではない。ドイツ語の「Fluid」を日本語に訳するのであれば,外来語として日本語化した「フルード」と訳すべきである。
そして,上記「フルード」は,自動車用語として使用される「ブレーキフルード」等のように,機械を作動させるための液体を意味するものとして使用されており,同じく外来語として日本語化した「オイル」に対応する。この「オイル」は,必ずしも英語の原義である「油」を意味するものではなく,同様に,「フルード」も,気体と液体に共通する上位概念である「流体」を意味するものではない。
7 (イ) 元来,学術用語としての「流体」に対応するドイツ語の名詞は,「Fluidum」であったが,この語については,後になって,「雰囲気,ムード」等の比喩的な意味が生じた。同語に関し,我が国で発行されている独和辞典は,学習用,実用目的などといった各辞典の性格に応じて,「Fluidum」 について原義と比喩的な意味の双方を記載するとともに「Fluid」も収録するもの,「Fluid」を収録する一方で,「Fluidum」については比喩的な意味のみを記載しているものなどに分かれている。
このうち,「Fluidum」について原義を記載している独和辞典においては,「Fluid」の意義として,「流体」「液体,流動体,流体」「抵抗用流体」が記載されており, , ,「Fluidum」について比喩的な意味のみを記載し,原義を記載していない独和辞典においては,「Fluid」の意義として,「流体,油圧用液体」 「液体」 「液体,流体, , ,流動体」が記載されている。
このように,独和辞典に記載されている「Fluid」の意義は一定しておらず,これは,ドイツ語の「Fluid」が日本語の「フルード」と同様に外来語であり,文脈に応じて異なる意味で用いられていることを示している。
(ウ) 本件審決は,「Fluid」につき,「最新 科学技術用語辞典(英独和)(甲3 」5)を参照し,物理学や機械工学の分野において「流体」と翻訳することは,本件特許出願前に周知の技術的事項であった旨の判断をしている。
しかし,上記辞典は,英語の科学技術用語をドイツ語又は日本語に訳す場合の訳語候補を記載した英独和辞典であり,ドイツ語の科学技術用語の定義や意味の広がりを明らかにするものではなく,英語の「fluid」の意味を明らかにするものにすぎない。
(エ) 以上によれば,本件審決が引用例中のドイツ語「Fluid」を「流体」と解したことは,誤りである。
イ 日本語の「流体」の意義について 「流体」は,技術用語として必ずしも「液体」及び「気体」を意味するものではなく,特に機械工学の分野においては,「液体」のみを意味する用語として用いら 8 れる場合も多い(甲33,56)。よって,仮にドイツ語の「Fluid」を「流体」と訳し得るとしても,本件審決には,日本語の「流体」の意義につき,「液体」及び「気体」を意味するものという説明を機械的に採用した点において誤りがある。
? 引用発明の圧力水に代えて気体を採用することについての動機付けに関する判断の誤り 本件審決は,引用発明の圧力水に代えて気体を採用することを阻害する要因もないなどとして,当業者は上記採用を容易に想到し得た旨判断した。
しかし,以下のとおり,圧力媒体として引用発明の圧力水に代えて気体を採用することについての動機付けはなく,前記判断は,いわゆる後知恵に基づく誤った判断である。
ア 動機付けについて (ア) 引用発明は,冷却媒体として循環している圧力水を偏向鏡の曲率を変えるための圧力媒体としても使用するという動機によって発明されたものであり,流体供給経路と別体の流体排出経路が存在することは,冷却媒体の循環の必要性から生じる必然的な構成である。
循環に関し,引用例において,圧力媒体を継続的に流れさせることについて明示的に説明する記載は,「並列接続された絞り弁の1つに持続的にフルードが貫流している状態においては,冷媒として適当なフルードが使用されていることにより,偏向ミラーの鏡面の十分な冷却もまた常に保証される」及び「絞り弁16に持続的に圧力水が貫流するため,適応ミラー7及びこの適応ミラーの下流に接続された偏向ミラー6に,冷却剤の役割をする一定量の圧力水が常に供給される。」のみであり,他に,継続した流れの存在及び必要性を説明する記載はない。このことから,循環,すなわち,圧力水の還流は,冷却とのみ結び付けられているものということができる。
そうすると,圧力水を冷却能力の低い気体に代える動機はなく,また,冷却能力を捨象して圧力媒体を気体に代えるのであれば,圧力媒体を冷却するために循環さ 9 せる必要がなくなるので,流体供給経路と別体の流体排出経路を設ける理由もないことになる。
(イ) また,本件発明が,レーザ加工機において,圧縮性流体である気体を用いた場合も,レーザビーム反射部材の曲率を高速で変化させるとともに必要に応じて自由に制御することを課題としているのに対し,引用発明は,圧縮性流体を用いた曲率可変反射鏡の曲率の高速な圧力応答性を課題としていない。そして,前記?のとおり,引用例中のドイツ語の「Fluid」を日本語の「流体」と訳し,その「流体」は液体及び気体の双方を含むという本件審決の解釈は誤りであることにも鑑みれば,引用例において,圧縮性流体である気体については一切言及されておらず,圧力媒体としての「Fluid」は,専ら圧力水を意図して記述されているにすぎない。
したがって,本件特許出願当時の当業者において,圧縮性流体である気体について何ら言及していない引用発明を出発点として,圧力媒体を,非圧縮性流体である圧力水から圧縮性流体である気体にあえて置き換える必要性はなく,そのような置換をする技術上の意義も存在せず,圧力媒体として引用発明の圧力水に代えて気体を採用することについての動機付けはないものということができる。
(ウ) さらに,後記2及び3の〔原告の主張〕のとおり,相違点3及び4のいずれも,引用発明が圧力水を循環させて冷却媒体として使用していることから生じたものであるから,前記各相違点は,引用発明の圧力水に代えて気体を採用することについての阻害事由となる。
イ 本件審決の誤りについて (ア) 本件審決は,引用例につき,正しくは「並列接続された絞り弁の1つに持続的にフルードが貫流している状態においては,冷媒として適当なフルードが使用されていることにより,偏向ミラーの鏡面の十分な冷却もまた常に保証される」と訳すべきところ(甲34)を,「並列に接続された絞り弁のうちの1つに常に流体が流れていれば,冷却剤として適切な流体を利用する場合,偏向鏡の鏡面の十分な冷却が常に確保される。(甲1の2)という訳文に基づき,冷却剤として適切な流 」 10 体を利用して並列に接続された絞り弁のうちの1つに常に流体が流れているようにすることを,偏向鏡の鏡面の十分な冷却が常に確保されるという目的を達成するための単なる選択肢の1つとして解釈したものと思われる。そして,本件審決は,前記訳文に係る記載について,概要,「冷却剤として適切な流体を使用する場合,鏡面の十分な冷却が確保される旨の開示はあるが,同開示は,鏡面の十分な冷却が確保されるという二次的な作用を示すものにすぎず,鏡面の十分な冷却の確保を引用発明の課題とするものではないから,当業者が,引用例記載の流体について,冷却剤として適切な流体に限定して認識することはない」旨判断するが,前記ア(ア)に鑑みると,同判断は,引用発明において,圧力水による冷却を本質的な問題ではないと解釈した点において誤っている。
(イ) また,本来,特許発明と引用発明との相違点が複数ある場合には,それらの相違点を全体として理解する必要があり,本件においては,前記ア(ウ)のとおり,相違点3及び4は,相違点1に係る容易想到性についての判断に当たり阻害事由として検討すべきものである。
本件審決は,ドイツ語の「Fluid」の意義について誤った解釈に基づき,相違点1のみをほかの相違点から切り離して判断した上,相違点3及び4につき,相違点1がなくなったことを前提として判断した点において誤りがある。
ウ 被告の主張について 被告は,甲第14号証から甲16号証及び周知例14から16を根拠に,気体を圧力媒体として利用する場合,供給経路と排出経路を別体とすることは,本件特許出願当時において周知の技術であったことから,圧力媒体を気体に代えるのであれば,流体供給経路と別体の流体排出経路を設ける理由がなくなるという原告の主張は誤りである旨主張する。
(ア) 甲第14号証記載の技術は,流体供給経路と別体の流体排出経路が存在する点において本件発明と共通するものの,このような構成によって圧力を一定に保つ原理も目的も異なり,気体の圧力をレーザ加工装置の曲率可変反射鏡の曲率制御 11 に利用するなどの本件発明の原理,目的については,全く示唆していない。
(イ) 甲第15号証及び甲第16号証記載の技術は,いずれも圧力を一定に保つべき空間の体積が変化することを前提として,体積の変化にもかかわらず,圧力を一定に保つことを目的とするものであり,圧力を一定に保つことによって曲率可変反射鏡の曲率を一定にすることを前提とする引用発明と組み合わせる動機は存在せず,むしろ,阻害事由があるというべきである。
(ウ) 周知例14及び16に開示されている各技術は,@空気を吸引し,大気圧によって反射鏡を変形させる点及びA吸引ノズルの位置という幾何学的な配置によって反射鏡の曲率を制御している点において,本件発明とは異なる。
(エ) 周知例15に開示されている技術は,吐出側を閉じたままポンプを一定時間のみ運転して鏡板を曲面変形させ,その後に吐出側を開いて圧力を開放し,変形を取り除くものであると理解することが最も合理的であるから,本件発明とは構成を異にする。
(オ) 以上によれば,甲第14号証から甲16号証及び周知例14から16に記載されている各技術については,引用発明に適用する動機を欠き,したがって,被告の前記主張は,前提において誤りがある。
〔被告の主張〕 ? 引用例中の「Fluid」の意義の解釈に係る誤りについて ア ドイツ語の「Fluid」の意義について 引用例に係る実用新案は,優先権を主張して日本及び米国にも出願されているところ,日本出願に係る公開公報(乙2)中,【請求項3】から【請求項5】 【00 ,09】から【0011】等においては,「fluid」が「流体」と訳されており,また,米国に出願された特許明細書(乙3)においても,「fluid」と記載されており,英語の「fluid」が「流体」を意味することは,原告も争っていない。
さらに,「郁文堂 独和辞典 第二版」(乙4) 「岩波 , 独和辞典 増補版」(乙5)及び「最新 科学技術用語辞典(英独和)(甲35)に照らしても,引用例中 」 12 のドイツ語の「Fluid」は,英語の「fluid」に対応するものであり,本件審決が「流体」と訳したことに誤りはない。
イ 日本語の「流体」の意義について 「流体」とは,一般に,気体と液体の総称として用いられる名詞である(広辞苑〔第6版〕)から,本件審決が,「流体」をもって,液体及び気体の双方を含むものと解釈したことに誤りはない。
? 引用発明の圧力水に代えて気体を採用することについての動機付けに関する判断の誤りについて ア 動機付けについて (ア) 引用例の記載によれば,引用発明の課題は,作業場の条件下において,機能的で自動化された操作に適し,機能面で信頼性があり,焦点位置の光学的調節を可能にするレーザ切断機を提供することであり,この課題は,加工部材に垂直な焦点位置を不変に保つ数値制御装置が,加工部材に平行な面を移動するレーザ切断ヘッドの場所に応じて,焦点位置を調節する調節装置を制御することによって解決される。そして,引用例には,実施形態として,流体圧の制御により偏向鏡の鏡面の曲率を変化させ,レーザ光の焦点位置を調節する調節装置が記載されているところ,同装置は,圧力水の圧力の制御によって適応型鏡の鏡面の曲率を変化させ,レーザ光の焦点位置を不変とするものであるから,前記課題を解決するものである。
(イ) 前記?のとおり,引用例には,圧力媒体として「Fluid」を用いる旨が記載されているところ,「Fluid」は「流体」と訳するのが相当であり,「流体」とは,一般に,気体と液体の総称として用いられる名詞である。したがって,引用例には,圧力媒体として気体を用いることが示唆されている。
(ウ) さらに,周知例1には,ミラー背面の空洞に満たされた気体(又は液体)の圧力を変化させることにより,レーザ発振器と加工ヘッドの間のコリメーション部のコリメーション曲率を変化させるレーザ加工機が記載されており,周知例2には,圧力室の圧力を圧縮機と真空ポンプにより調節し,反射面を種々の放物線面に 13 変化させて焦点距離を変化させる可変焦点式反射鏡が記載されている。周知例3には,容器内の空間に流体(気体又は液体)を供給又は排出して可撓性の膜を湾曲させ,膜の外表面に電磁波を反射させる反射曲面鏡が記載されている。これらの記載に加え,周知例14から16の記載によっても,本件特許出願当時,気体圧力の変化によって曲率を変化させる反射鏡は周知であったということができる。また,特に,周知例1,周知例3及び周知例15の記載によれば,本件特許出願当時,圧力を発生させる流体として,気体と液体とが同等であることも周知であった。
以上によれば,引用発明において,圧力媒体を圧力水から気体に置換する動機付けはあるというべきであり,したがって,相違点1は,当業者が容易に想到し得た事項である。
イ 原告の主張について(ア) 原告は,引用発明が,冷却媒体として循環している圧力水を偏向鏡の曲率を変えるための圧力媒体としても使用するという動機によって発明されたものであることを前提に,冷却能力を捨象して圧力媒体を気体に代えるのであれば,圧力媒体を冷却するために循環させる必要がなくなるので,流体供給経路と別体の流体排出経路を設ける理由もないことになる旨主張する。
まず,引用例には,冷却媒体として適する流体を使用した場合においては,十分な冷却が常時保証される旨が記載されているにすぎず,圧力水を冷却剤として用いることが,引用発明の前提を成すものではない。すなわち,引用例の請求項中,請求項5において,流体が常に流れていることを特徴とする旨の記載はあるものの,冷却剤として適切な流体を使用することは,いずれの請求項にも記載されていない。
このような請求項の記載によっても,引用発明において,圧力水による冷却は本質的な問題ではないことが裏付けられる。したがって,引用発明は,冷却媒体である圧力水を圧力媒体としても使用するという動機によって発明されたものではなく,原告の前記主張は,前提において誤っている。
また,本件特許出願当時,@気体を単なる圧力媒体として利用する場合に,供給 14 経路と排出経路を別体とする構成(甲14〜甲16)及びA反射鏡の反射膜に閉じられた空間に気体圧力を作用させて所定の曲率とする場合に,閉じられた空間に連通する開口として気体を供給する開口と気体を排出させる開口とを設け,反射鏡面の曲率を一定に保持する構成(周知例14〜16)は,いずれも周知の構成であったから,圧力媒体を気体に代えた場合,流体供給経路と別体の流体排出経路を設ける理由がなくなるという原告の主張は誤りである。
(イ) 原告は,相違点3及び4のいずれも引用発明が圧力水を循環させて冷却媒体として使用していることから生じたものであることに鑑みると,前記各相違点は,引用発明の圧力水に代えて気体を採用することについての阻害事由となる旨主張する。
この点について,進歩性の判断に当たり,本件発明と引用発明との間に複数の相違点がある場合には,引用発明に基づいて,前記相違点に係る構成要件全てを備えた発明,すなわち,本件発明に想到することの可否を示せば足りる。その際,各相違点が関連するものである場合は,その関連性も考慮する必要がある。
本件においては,前記アのとおり,引用発明において圧力媒体を圧力水から気体に置換する動機付けの存在は肯定し得るから,引用発明の圧力水を気体に置換することは容易であり,相違点2から4に係る容易想到性の判断に当たり,前記置換を前提とすることに何ら問題はない。
以上に鑑みると,相違点3及び4は,引用発明の圧力水に代えて気体を採用することを阻害するものではなく,原告の前記主張に理由はない。
2 取消事由2(相違点3の判断の誤り)について〔原告の主張〕 ? 相違点3が実質的な相違点ではないことについて本件審決は,相違点3につき,本件発明の「出口」を「流体動作回路」から流体が排出され,そのことにより「レーザビーム反射部材が弾性変形する」流体の「圧力」がかかるようにするものであるとして,相違点3は,実質的な相違点ではない 15 旨判断したが,以下のとおり,この判断は,誤りである。
ア 本件発明の「出口を有する流体動作回路」の意義について 本件明細書の実施例におけるエアー出口18は,本件発明の「出口」に対応するものであるところ,本件明細書の【図2】においてエアー出口18に付されている矢印によれば,この出口は,反射部材支持部の空間の出口であるのみならず,流体動作回路の出口でもあることが明らかである。
また,当業者は,一般に,「空気を排出する」という表現の意義につき,大気中又は環境中に空気を排出することを指す旨理解するものであり,このような技術常識を踏まえて,本件明細書【0031】においても,「エアー15は,?エアー出口18より排出されるという流体動作回路が構成され」と記載されている。
したがって,「出口を有する流体動作回路」は,本件発明において気体が循環することなく大気中又は環境中に排出されることを明確にしたものである。
イ 引用発明について 引用例の Fig.3(【図3】別紙2参照)において,固定絞り弁23を通った圧力水は,微細メッシュフィルタ25及び圧力調節器24を経て,絞り装置15に戻っていることから,引用例の Fig.2(【図2】別紙2参照)において,流体管14と対になっている番号の付されていない流体管(流体管14とは別体の流体管)を出た圧力水は,循環して流体管14に戻ることになる。
したがって,引用発明の「流体回路」は,出口を有しないものである。
ウ 以上によれば,本件発明の「流体動作回路」が「出口」を有するものであるのに対し,引用発明の「流体回路」は「出口」を有しないものであるから,本件審決の前記判断は,誤りである。
エ 被告の主張について 被告は,本件発明の「出口を有する流体動作回路」の意義に関し,本件明細書【0034】及び【図3】に基づいて,エアー出口18から排出されたエアー15が,パージエアー供給口からレーザビーム伝送路52内へ連続的に供給される,す 16 なわち,パージエアーとして使用されることもあることを指摘する。
しかし,パージエアーは,通常は循環しないものであり,循環使用する場合には,塵埃を除去するためのフィルタを要するという技術常識を前提とすると,本件明細書【0029】の記載につき,フィルタが不要であることから,パージエアーとして使用するエアーが循環するものではないことを読み取ることができる。そもそも,本件明細書【0034】及び【図3】には,エアーを循環させて再度圧力媒体として使用することは,何ら記載されていない。
そうすると,エアー出口18から排出されたエアー15がパージエアーとして使用されることは,流体動作回路に出口が存在して気体が循環しないことを否定するものではなく,むしろ,これを明らかにするものである。
? 相違点3が存在するとしても,容易想到性が認められることについて 本件審決は,本件発明の「出口」につき,流体を「循環させないで外部(大気中又は環境中)に排出」するための「出口」と解したとしても,気体である空気の圧力を利用する機器において,空気圧力を利用後に循環させないことは,従来周知の技術事項であるとし,引用発明の流体として圧力水に代えて気体を採用するに当たり,流体の循環に要するいったん排出された流体が戻るための配管等の設備を不要とするべく,流体を循環させることなく,「流体回路」に「出口」を設けて大気中又は環境中に排出することは,当業者が容易に想到し得た事項である旨判断したが,以下のとおり誤りである。
ア 前記1〔原告の主張〕?のとおり,引用発明には,圧力水に代えて気体を採用する動機付けはなく,相違点3の存在は,そのような採用に係る発想を除外するものである。そして,引用発明においては,圧力水を循環させなければ,いわゆる垂れ流しの状態になってしまい,装置として機能しなくなることから,圧力水を流体回路外に排出することについては,明らかな阻害事由が存在するものということができる。
イ 被告の主張について 17 被告は,相違点3の容易想到性に関し,引用発明の圧力媒体が気体に置換されていることを前提として,相違点2から4に係る容易想到性をいずれも肯定することができれば,引用発明から本件発明の構成を容易に想到し得る旨主張する。
しかし,上記主張は,相違点2から4に係る容易想到性の判断のみにおいて,特許法29条2項所定の「前項各号に掲げる発明」を,引用発明ではなく,引用発明の圧力媒体が気体に置換された状態に変更するものであり,それ自体,失当である。
〔被告の主張〕 ? 相違点3が実質的な相違点ではないことについて ア 本件発明の「出口を有する流体動作回路」の意義について 本件発明の「出口」は,本件明細書【0031】の記載によれば,エアー出口18を指すものと解され,さらに,原告の訂正審判請求書(乙1)中,「流体排出手段の一例であるエアー出口」という記載に鑑みると,流体排出手段と同じものと解さざるを得ない。
そして,二次審決の取消訴訟に係る判決が判示するとおり,流体排出手段は,気体を反射部材支持部の空間の外部へ排出するものである。この点につき,気体が排出されるのは,反射部材支持部の空間の外部であり,必ずしも大気中又は環境中とは限られない。
前記のとおり,「出口」は,流体排出手段と同じものであるから,「出口を有する流体動作回路」は,気体が循環することなく大気中又は環境中に排出されるものに限定されず,気体が循環するものを含む。現に,本件明細書【0034】及び【図3】のとおり,エアー出口18から排出されたエアー15が,フローコントローラ(流量制御バルブ)50により一定流量化され,パージエアー供給口51からレーザビーム伝送路52内へ連続的に供給されることもある。
イ 引用発明について 他方,引用発明の流体管14とは別体の流体管も,圧力水を鏡ケース13の空間の外部へ排出するものであるから,引用発明の「流体回路」も,「出口を有する」 18 ものというべきである。
ウ 小括 以上によれば,相違点3は実質的な相違点ではない。
? 相違点3が存在するとしても,容易想到性が認められることについて ア 本件発明の「出口」につき,流体を「循環させないで外部(大気中又は環境中)に排出」するための「出口」と解し,相違点3が存在するとしても,圧力媒体として気体を採用した場合には,気体を循環させることなく外部(大気中又は環境中)に排出することは周知の技術であるから,相違点3に係る本件発明の構成は,当業者が容易に想到し得たものということができる。
イ 原告の主張について 原告は,引用発明には,圧力水に代えて気体を採用する動機付けはなく,相違点3の存在は,そのような採用に係る発想を阻害するものである旨主張する。
しかし,前記1〔被告の主張〕?イのとおり,引用発明の圧力媒体が気体に置換されていることを前提として相違点2から4の容易想到性を判断することに何ら問題はなく,これらの相違点に係る容易想到性をいずれも肯定することができれば,引用発明から本件発明の構成を容易に想到し得るということができる。
仮に,相違点2から4のうち,圧力媒体が液体の場合は容易に想到できるが,気体の場合は容易に想到できないものがあれば,引用発明から本件発明の構成を容易に想到し得ないことになるが,本件は,そのような事案ではない。
また,一般に,引用発明の一部の構成要件変更した場合には,その他の構成要件を不変のままにしておくと,引用発明全体として有効に機能しなくなることが多いので,通常,一部の構成要件変更した場合は,それに合わせてその他の構成要件を設計変更する。
この点に関し,本件においても,引用発明の圧力媒体である圧力水を気体に置換した場合には,圧力媒体が圧力水であることを前提とした引用発明の他の構成要件を不変のままにしておくと,圧力応答性等に支障が生じるから,前記置換に合わせ 19 て他の構成要件を設計変更しなければならない。このことに鑑みれば,相違点2から4に係る容易想到性の判断に当たり,前記置換による気体の採用を前提とし,その他の構成要件が前記置換に合わせて設計変更されることを考慮することは,当然に許される。
3 取消事由3(相違点4の認定及び判断の誤り)について〔原告の主張〕 ? 相違点4の認定の誤り ア 引用発明は,固定絞り弁23によって適応型鏡7の金属円板と鏡ケース13とで形成された空間に圧力をかけるものであり,それ以外の場所において流体抵抗を変化させる構成は存在せず,その必要性もない。
また,引用例の【図2】及び【図3】において,流体管14,流体管14とは別体の流体管,その他の配管の内径は明示されていないが,必要のない限り,配管の内径を変化させないことは技術常識に属する。
以上によれば,引用発明においては,「流体排出経路」である流体管14とは別体の流体管及びその近傍の配管が,「流体供給経路」である流体管14及びその近傍の配管よりも狭く構成されていることはなく,したがって,引用発明の「流体排出経路」が「流体供給経路」よりも狭くしたものであるか明らかではないという,相違点4に係る本件審決の認定は,誤りである。
イ 被告の主張について 被告は,引用例において,流体管14,流体管14とは別体の流体管及びその他の配管の内径は明示されておらず,したがって,「流体排出経路」の内径が「流体供給経路」の内径よりも狭いか否かは不明というよりほかはない旨主張する。
しかし,本件明細書【0031】には「エアー出口18の内径を,上記エアー入口14の内径に比べ充分小さくすることにより,少ない流量で上記曲率可変反射鏡10のレーザビーム非反射面(裏面)22に圧力を加えることができる。」との記載があり,引用発明において,上記の「エアー出口18の内径を,上記エアー入口 20 14の内径に比べ充分小さくすること」と同一の技術的意義を有するのは,適応型鏡7の金属円板と鏡ケース13とで形成された空間に圧力をかける固定絞り弁23である。
よって,被告の前記主張は,引用発明における流体管14と番号の付されていない流体管の各内径の大小を問題にしたこと自体において,誤りがある。
? 相違点4に係る容易想到性の判断の誤り ア 動機付けについて(ア) そもそも,前記?のとおり,引用発明においては,固定絞り弁23によって適応型鏡7の金属円板と鏡ケース13とで形成された空間に圧力を生じさせているのであるから,上記空間に圧力を生じさせるために流体排出経路である流体管14とは別体の流体管を流体供給経路である流体管14よりも狭くする動機は,存在しない。
(イ) 本件発明は,圧力媒体として気体を用いるレーザ加工装置において,流体排出手段を反射部材支持部に設けて曲率可変反射曲面鏡背面の空間近傍に流体供給手段と流体排出手段とを配置し,この流体排出手段を含む流体排出経路を流体供給経路よりも狭くするという構成を採用することによって,曲率可変反射曲面鏡背面に少ない流量で圧力を加え,圧力発生から圧力が曲率可変反射曲面鏡背面に作用するまでの時間を極力短くして,曲率可変反射曲面鏡の曲率変化の応答時間を短縮できるようにしたものである。
引用発明の構成から本件発明の前記構成に至るためには,引用発明において,流体管14とは別体の流体管を流体管14よりも狭くするのみならず,流体排出手段である固定絞り弁23を,流体管14とは別体の流体管に直接結合して,適応型鏡7の近傍に配置する必要がある。
しかし,引用発明においては,圧力媒体として非圧縮性の圧力水が用いられており,圧力水の圧力応答性は気体に比して高く,固定絞り弁の配置位置によって影響を受けることはほぼない。よって,引用発明において,固定絞り弁23を流体管1 21 4とは別体の流体管に直接結合する動機は,存在しない。
イ 阻害事由について 前記アのとおり,引用発明において圧力媒体として用いられている圧力水は実質的に非圧縮性であるから,圧力応答性が固定絞り弁23の配置位置によって影響を受けることはほぼなく,圧力応答性の観点からは,固定絞り弁23の配置位置は,曲率可変反射曲面鏡より下流側であれば,基本的にどの位置であってもよい。このことから,固定絞り弁23の配置位置は,レーザ加工機の安定性,安全性,保守性等を総合的に考慮して決定されることになる。
この点につき,固定絞り弁23を流体管14とは別体の流体管に直接結合すると,固定絞り弁23を曲率可変反射曲面鏡である適応型鏡7の近傍にあるレーザ切断ヘッド10内に配置することになるが,そのような構成は,固定絞り弁23自体や循環経路への接続部から水漏れが発生する可能性があり,安定性の点において好ましくなく,また,点検,調整時には,人がレーザ加工機上に乗って作業することになるので,安全性,保守性の点においても好ましくない。
他方,固定絞り弁23を循環経路の末端に設ける引用発明の配置は,安定性,安全性,保守性等の課題がなく,好ましい。また,循環水による冷却機構においては,一般的に,冷却水用のフィルタや冷却機構等が1つのユニットとして構成されるところ,引用発明においても,固定絞り弁23を通った圧力水は,微細メッシュフィルタ25及び圧力調節器24を経て,絞り装置15に戻っており,これらは近接して設けられている。
以上に鑑みると,引用発明において,圧力水が循環するための配管を維持したまま,鏡ケース13の裏側で流体管14とは別体の流体管に固定絞り弁23を直接結合させることについては,阻害事由がある。
ウ 本件審決の判断方法について 本件審決は,引用発明の流体として気体を採用することを前提として相違点4の容易想到性を判断している。すなわち,本件審決は,前記1〔原告の主張〕のとお 22 り,引用例中のドイツ語の「Fluid」の意義を誤って解釈して相違点1を消滅させ,相違点1がないことを前提として相違点3の容易想到性について判断し,その結果,黙示的に相違点3の存在を無視して,引用発明の流体管14とは別体の流体管が鏡ケース13の裏側で大気に向かって開放されていることを前提に,相違点4が容易想到である旨判断している。
しかし,本件発明は,相違点1から4に対応する各構成がそれぞれ有機的に結合することによって,その目的としている格別の効果を奏するように構成したものであるから,相違点1及び3の存在を前提として相違点4の容易想到性を判断すべきである。
前記ア(イ)のとおり,本件発明は,圧力媒体を気体として曲率可変反射曲面鏡背面の空間近傍に流体供給手段と流体排出手段とを配置し,さらに流体排出経路を流体供給経路よりも狭くするという構成を採ることによって,曲率可変反射曲面鏡背面に少ない流量で圧力を加え,圧力発生から圧力が曲率可変反射曲面鏡背面に対して作用するまでの時間を極力短くして,曲率可変反射曲面鏡の曲率変化の応答時間を短縮できるようにしたものであり,これにより,圧縮性流体である気体を圧力媒体として使用した場合であっても,レーザビーム反射部材の曲率を高速度で変化させることができるという格別な効果を奏し得る。レーザ加工機の技術分野において,前記構成により曲率可変反射曲面鏡背面近傍の気体圧力を制御して曲率の高速応答性を実現しようとした本件発明の技術思想については,甲号証のいずれにも開示されていない。
エ 被告の主張について (ア) 被告は,周知例7から9の記載に鑑みると,圧力媒体として気体を採用した場合,圧力応答性の観点から,気体を通す配管の容積を必要最小限にすべきであり,引用例【図3】に示されているような管路構成を使用することはあり得ず,引用発明においては,絞り装置15及び固定絞り弁23を反射鏡の背面空間の近傍に設けて管路を短くするなどの工夫をしなければならない旨主張する。
23 この点に関し,本件発明と引用発明との本質的な相違点は,本件発明においては,流体排出手段が反射部材支持部に設けられているのに対し,引用発明においては,固定絞り弁23が適応型鏡7よりもはるか下流に設けられていることである。すなわち,本件発明においては,圧力をかけるべき反射部材支持部とレーザビーム反射部材によってレーザビーム反射面の反対側に形成された空間に近接した場所で気体の流路が絞られている点において,引用発明と相違している。
しかし,周知例7から9は,いずれも上記本質的な相違点の内容を示すものではない。すなわち,相違点4が前記のとおりレーザビーム反射面の反対側に形成された空間(レーザービーム反射部材の背面)と流体排出手段との間隔に関するものであるのに対し,周知例7から9は,いずれも制御装置とピストン等の作動機器との間隔を問題とするものであり,上記間隔は,本件発明における電空弁とレーザビーム反射部材の背面との間隔に相当する。
以上によれば,当業者が,周知例7から9に示される技術常識を有していたとしても,引用発明において,その圧力媒体である圧力水を気体に置き換えた上で,固定絞り弁23を適応型鏡7の支持部に設けるという着想を得るはずがない。
(イ) 被告は,周知例11の記載等を挙げて,排出経路の管径の大きさは,当業者が必要に応じて適宜決定すればよいものである旨主張する。
しかし,周知例11は,「貯蔵庫内の残存ガスを貯蔵物の鮮度維持を図る修整ガスに置換する貯蔵装置に関する」【0001】 ( )ものであるところ,「置換」とは,例えば,貯蔵庫内に空気が充満している場合にその空気を排出するとともに窒素を入れること,すなわち,異なる気体の排出と供給を同時に行うことを意味する。
他方,本件発明においては,同じ気体(通常は空気)が供給,排出されるのであるから,周知例11の課題とは何ら関係がなく,したがって,周知例11の記載と本件発明の容易想到性とを結び付けることはできない。
(ウ) 被告は,引用発明の圧力水を気体に置換することは容易であり,気体に置換した上で,相違点2から4の構成を備えることも容易である旨主張する。
24 しかし,被告の前記主張は,いわゆる「容易の容易」に相当し,容易想到性を肯定する理由にならない。
〔被告の主張〕 ? 相違点4の認定の誤りについて 引用例において,流体管14,流体管14とは別体の流体管及びその他の配管の内径は明示されておらず,したがって,「流体排出経路」の内径が「流体供給経路」の内径よりも狭いか否かは不明というよりほかはなく,本件審決の認定に誤りはない。
また,仮に,引用発明においては「流体排出経路」の内径が「流体供給経路」の内径に等しいことから,この点において本件発明とは異なるものと認定したとしても,相違点4について判断すべき事項は変わらず,したがって,相違点4の認定の誤りに係る原告の主張は,本件審決の取消事由にはならない。
? 相違点4に係る容易想到性の判断の誤りについて ア 前記2〔被告の主張〕?イのとおり,相違点4に係る容易想到性の判断に当たり,引用発明の圧力媒体として圧力水の代わりに気体を採用したことを前提とすることは,当然に許される。そして,液体は実質的に非圧縮性とみなされ,気体は圧縮性であるから,液体を気体に代えれば,当然に応答性が問題になる。
この点に関し,周知例7には,空気圧システム通則として,作動機器とこれを制御する機器を接続する配管の容積が大きいと作動機器の応答性が低下するので,必要最小限としなければならない旨が記載されている。周知例8には,空圧源に関し,@油圧であれば通電した瞬間にピストンが動き出すが,空気圧であれば,油圧よりも圧縮量が極めて大きいので,ピストンの始動までの時間が大きくなる旨及びAシリンダと方向制御弁との距離が短く,その間の容積が少ないほどうまく制御することができる旨が記載されている。周知例9には,空気が圧縮性流体であることから,圧力調整弁と噴射ノズルとの間の管路が長い場合には,圧力応答性が鈍い旨が記載されている。
25 これらの記載に鑑みると,圧力媒体として気体を採用した場合には,圧力応答性の観点から,気体を通す配管の容積を必要最小限にすべきであり,引用例の【図3】に示されている管路構成を使用することはあり得ない。引用発明においては,流量断面が不変な固定絞り弁23で一定の動圧を作り出し,絞り装置15の制御によって流体管14内の圧力を調節しているから,例えば,絞り装置15及び固定絞り弁23を,反射鏡の背面空間の近傍に設けて,管路を短くするなどの工夫をしなければならない。
イ 周知例11の【0007】及び【0029】の記載によれば,貯蔵庫に一定量の空気を供給する際に,排気管の管径をより小さくすれば,排出される量が少なくなるので,貯蔵庫の圧力がより高くなる。したがって,貯蔵庫の圧力を一定の値に上げる場合に,排気管の管径をより小さくすれば,供給される量をより少なくすることができる。本件明細書【0031】にも,同様の趣旨の内容が記載されている。
他方において,圧力を下げる場合には,排気管の管径が小さければ,気体の排出に時間がかかり,圧力調整の時間が長くなることは自明である。
以上に鑑みると,排出経路の管径の大きさは,当業者が必要に応じて適宜決定すればよいものということができる。
ウ 以上のとおり,流体に気体を用いる場合,流体供給経路は,その容積を最小限にするために,管径を狭くすべきであり,他方,流体排出経路の管径の大きさは,当業者が必要に応じて適宜決定すればよいものであるから,流体供給経路と流体排出経路の広狭は,当業者が必要に応じて適宜決定すればよいものということができる。
エ 原告の主張について(ア) 原告は,本件発明は,相違点1から4に対応する各構成がそれぞれ有機的に結合することによって,その目的としている格別の効果を奏するように構成したものであるから,相違点1及び3の存在を前提として相違点4の容易想到性を判断 26 すべきである旨主張する。
しかし,前記1〔被告の主張〕のとおり,引用発明の圧力水を気体に置換することは容易であり,気体に置換した上で,相違点2から4(相違点3については仮に存在するとしても)の構成を備えることも容易である。
そして,相違点4の容易想到性の判断において,本件審決は,相違点2及び3との関連を考慮している。その結果,引用発明から到達した発明は,本件発明と同じものであり,同じ作用効果を奏する。この点に鑑みると,本件発明の作用効果も,予測できないものとまではいえない。
(イ) 原告は,レーザ加工機の技術分野において,圧力媒体を気体として曲率可変反射曲面鏡背面の空間近傍に流体供給手段と流体排出手段とを配置し,さらに流体排出経路を流体供給経路よりも狭くするという構成により曲率可変反射曲面鏡背面近傍の気体圧力を制御して曲率の高速応答性を実現しようとした本件発明の技術思想については,甲号証のいずれにも開示されていない旨主張する。
しかし,まず,曲率可変反射曲面鏡背面の空間近傍に流体供給手段と流体排出手段とを配置するという点については,引用発明の流体管14及び流体管14とは別体の流体管も,前記空間の近傍にある。また,周知例7から9の記載によれば,圧力媒体として気体を採用した場合には,圧力応答性の観点から配管の容積を必要最小限にすべきであることに鑑みても,曲率可変反射曲面鏡背面の空間近傍に流体供給手段と流体排出手段とを配置することにつき,特に困難な点はない。
次に,流体排出経路を流体供給経路よりも狭くするという点については,本件明細書【0031】記載のとおり,その効果は,エアーの少ない供給流量で曲率可変反射曲面鏡背面の空間の圧力を上げることである。
もっとも,流体排出経路を流体供給経路より狭くしても,曲率可変反射曲面鏡背面の空間の圧力を制御することは不可能である。すなわち,流体排出経路の内径は一定であり,前記圧力の制御は,制御装置及び電空弁等で行っていると解さざるを得ず,流体排出経路の内径は,制御の際のパラメータの1つにすぎない。
27 また,流体排出経路を流体供給経路よりも狭くすると,少ない供給流量で圧力が上がるから,空間の圧力を高くする際には短い時間で圧力を調整できるとしても,空間の圧力を低くする際には,エアーを排出しなければならず,流体排出経路が狭ければ,排出に時間がかかり,圧力調整の時間が長くなることは自明である。そして,圧力調整には,圧力を高くする場合と圧力を低くする場合とがあるから,流体排出経路を流体供給経路よりも狭くすることにより,必ずしも空間の圧力調整が迅速にでき,反射鏡面の曲率の高速応答性を実現することができるということはできない。前記?のとおり,排出経路の管径の大きさは,当業者が必要に応じて適宜決定すればよいものであり,特開平5-149859号公報(甲15)には,排出口4の断面積を流入口3の断面積よりも小さくしたものが開示されている。
当裁判所の判断
1 本件発明について ? 本件発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2【請求項1】のとおりであるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,おおむね,次の記載がある(甲29,31。下記記載中に引用する図面については,別紙1参照)。
ア 産業上の利用分野 この発明は,レーザ加工装置におけるレーザビームの伝送技術に係るものであり,特にレーザビーム径の制御技術に関するものである(【0001】。
) イ 従来の技術 (ア) 【図8】は,例えば特開昭61-159613号公報に示された従来の曲率可変反射曲面鏡(凹面鏡)の断面図であり,【図9】はその斜視図である。図中,1は気密性の容器,2はその上端に形成された円形の開口,3は周囲が容器1に固着される円板状膜,4は円板状膜3と容器1により形成される気密な空間である。5は,空間4内の圧力を調整する圧力調整手段であり,容器1に設けられた空気通路6,それを開閉するバルブ7及び空間4内の空気を排出するポンプ8から成る(【0002】。
) 28 (イ) この曲率可変反射曲面鏡(凹面鏡)において,バルブ7を開いてポンプ8を作動させると,空間4内の空気が空気通路6から排出され,容器1の内部の圧力が外部の圧力よりも低下し,それによって,円板状膜3の表裏に圧力差が生じ,円板状膜3は,内側にたわみ,その膜外表面の反射面3aが,ほぼ回転放物面を形成する。したがって,曲率可変反射曲面鏡は,凹面鏡となり,上方から光等の電磁波が入射すると,その電磁波は,反射面3aによってほぼ一点に集束する。
そして,反射面3aの焦点が所要の位置に達したところでバルブ7を閉じれば,容器1の内外の空気の流通が阻止され,円板状膜3の形状が一定に保たれるようになる。
また,ポンプ8によって空間4に外部から空気を供給することもできるようにしておけば,容器1内の圧力を外部よりも高くすることができ,それによって,円板状膜3を外側にたわませて,曲率可変反射曲面鏡を凸面鏡とすることができる(【0003】。
)ウ 発明が解決しようとする課題従来の曲率可変反射曲面鏡は,前記イのように構成されているので,曲率を変化させるためには,ポンプ8の作動によって容器1の内部の圧力を変化させる必要があり,所定の曲率となるまで時間を要する。このことから,例えば,加工ヘッドがX-Y平面上を移動して加工を行う光走査形のレーザ加工装置において,レーザビーム反射部材として曲率可変反射曲面鏡を使用した場合,加工ヘッドの移動に伴ってレーザビーム径を高速度で変化させ,集光光学部品に入射するレーザビーム径を一定にするよう制御することは困難であるなどの問題点があった。
この発明は,上記の問題点を解決するためのものであり,レーザビーム反射部材の曲率を高速度で変化させることができるとともに,必要に応じて自由に制御できるレーザ加工装置を得ることを目的とする(【0004】【0005】。
, )エ 課題を解決するための手段この発明に係るレーザ加工装置は,レーザ発振器から出力されるレーザビームを 29 集光光学部材を用いて集光させ,切断・溶接等の加工を行うレーザ加工装置において,@レーザビーム反射部材,A反射部材支持部,B流体供給手段,C電空弁及びD流体排出手段を備えたものである。
@レーザビーム反射部材は,レーザビームの伝送路に設けられており,気体圧力により弾性変形する。A反射部材支持部は,レーザビーム反射部材の周囲部を支持し,レーザビーム反射部材とともにレーザビーム反射面の反対側に空間を形成する。B流体供給手段は,反射部材支持部に設けられており,上記の反射部材支持部の空間に気体を供給するものである。C電空弁は,気体供給圧力を連続的に切り換えるものである。D流体排出手段は,反射部材支持部に設けられており,上記の反射部材支持部の空間から気体を排出するものである。
上記の反射部材支持部の空間は,流体供給経路及びこの流体供給経路と別体の流体排出経路を除き密閉構造とし,さらに,上記空間は,流体供給手段及び流体排出手段とともに出口を有する流体動作回路を構成して,流体排出経路を通過した気体は流体排出手段から外部に排出され,流体排出経路を流体供給経路よりも狭くすることにより,レーザビーム反射面の反対側に,レーザビーム反射部材の弾性変形に要する気体圧力をかけるように構成している(【0006】。
)オ 実施例(ア) 【図1】は,本発明における実施例に係るレーザ加工装置の光路構成,曲率可変反射鏡ホルダー構造及び配管系統等の要部構成を示す図であり,【図2】は,前記レーザ加工装置の光路構成及び配管系統の要部構成の他の例を示す図である。
【図1】において,9は曲率可変反射鏡ホルダー,10はエアー等流体圧力により曲率を可変できるレーザビーム反射部材である曲率可変反射鏡,11は曲率可変反射鏡10の周囲部分を保持する反射部材支持部の要部である円形保持板,12は曲率可変反射鏡10の周囲部分を固定する押え板,13はエアジャケット,14はエアジャケット13の中心部に設けられたエアー入口,15はエアー,16は円形保持板11に数か所等間隔に設けられたエアー通路,17はエアジャケ 30 ット13に設けられ,円形保持板11の周囲部に形成されたエアー通路,18はエアー出口,19は圧力計,20は図示しないレーザ発振器から出力されるレーザビーム,21は曲率可変反射鏡10のレーザビーム反射面,22は曲率可変反射鏡10のレーザビーム非反射面(裏面),23は固定ネジ,24aから24dは気密性を保持するためのOリング,25a,25b及び25cはエアーのON-OFFを行う電磁弁,26a,26b及び26cはエアーの圧力を設定するレギュレタ,27a,27bはレーザビーム20を反射する反射鏡,28は加工ヘッド,29は加工ヘッド28に保持される集光光学部材である加工レンズ,30は加工レンズ29を押さえる加工レンズ押え,31は加工ガス入口,32は加工ガス,24eはこの加工ガス32をシールするOリング,33は集光されたレーザビーム20が照射される被加工物,34は制御装置である。
【図2】において,35は供給するエアーの圧力を無段階的に変化させることのできる電空弁である(【0025】【0027】【0028】。
, , )(イ) 流体圧力により弾性変形可能な材質から成る曲率可変反射鏡10は,その周囲部分が円形保持板11に保持されており,また,押え板12によって円形保持板11に押さえられている。なお,押え板12は,固定ネジ23によってエアジャケット13に固定されている。
電磁弁25a,25b及び25cのいずれかを開くことによって,エアー入口14からエアー15がエアジャケット13内に供給される。これらの電磁弁25a,25b及び25cの直後には,それぞれレギュレータ26a,26b及び26cが設置されており,あらかじめ設定しておくことによって圧力を3段階に切り替えることができる。この切替えは,レーザ加工装置全体を制御する制御装置34の指令により行うものとする(【0029】。
)(ウ) 切断・溶接等のレーザ加工において,加工レンズ29等の集光光学部材に入射するレーザビーム径は,最小集光スポット径をほぼ決定するものであるから,非常に重要なファクターであり,被加工物33の種類(材質)や厚さ等により, 31 各々最適なレーザビーム径が存在する。
したがって,被加工物33の種類や厚さ等に応じて集光光学部材に入射するレーザビーム径を変化させることにより,より高品質で安定性のあるレーザ加工が可能になる(【0030】。
)(エ) エアー入口14から供給されたエアー15は,円形保持板11に等間隔に設けられている複数のエアー通路16を通り,円形保持板11の周囲部に形成されたエアー通路17へ出た後,エアジャケット13の1か所に設けられたエアー出口18から排出されるという流体動作回路が構成されている。この流体圧力によって,曲率可変反射鏡10が球面化し,球面鏡(この場合は凸面鏡)として使用することができる。
なお,エアー出口18の内径をエアー入口14の内径に比べて十分小さくすることにより,少ない流量で曲率可変反射鏡10のレーザビーム非反射面(裏面)22に圧力を加えることができる。
流体圧力が変化すれば,曲率可変反射鏡10の曲率も変化するので,制御装置34の指令により,曲率を3段階に切り替えることが可能となる。また,流体動作回路に供給される流体の供給量に連動する流体圧力により,制御装置34の指令とほぼ同時に曲率可変反射鏡10の曲率を変えることができる。なお,Oリング24a,24b,24c及び24dは,気密性を保持するためのものである(【0031】。
)(オ) レーザ発振器から出力されたレーザビーム20は,曲率可変反射鏡10が球面化している場合,これに反射することによって非点収差が生じるので,曲率可変反射鏡10に対する入射角を極力小さくして入射し,反射後,反射鏡27a及び27bにより加工ヘッド28へ伝送される。そして,レーザビーム20は,加工レンズ29により集光され,焦点位置の近傍において被加工物33に照射される。この照射の際,制御装置34の指令により,加工ヘッド28又は被加工物33が移動し,加工ガス入口31から供給される加工ガス32が,集光されたレ 32 ーザビーム20と同軸上に噴出されて,切断・溶接等の加工が行われる(【0032】。
)(カ) 【図2】に示すとおり,電空弁(電子式空気圧比例弁)35を使用することにより,供給するエアー15の圧力を無段階に変化させることができる。
したがって,制御装置34の指令により,曲率可変反射鏡10の曲率を無段階に,すなわち,連続的に変化させることができる(【0033】。
)(キ) 圧力をかける流体をエアーとしたが,特にエアーに限定するものではなく,他の気体を使用してもよい。また,気体ではなく水等の液体を使用してもよい(【0043】。
)カ 発明の効果この発明によれば,前記エの構成により,レーザビーム反射部材の曲率を速やかに変化させて,必要に応じてレーザビーム径を高速で制御するとともに,レーザビーム反射部材が供給流体により冷却され,レーザビーム照射による熱変形を防止する効果がある(【0044】。
)? 本件発明の特徴ア 前記?によれば,本件発明は,レーザ加工装置におけるレーザビームの伝送技術に係るものであり,特にレーザビーム径の制御技術に関するものである(【0001】。
)イ 従来の曲率可変反射曲面鏡は,曲率を変化させるためには,ポンプの作動によって容器内部の圧力を変化させる必要があり,所定の曲率となるまで時間を要する。このことから,例えば,加工ヘッドがX-Y平面上を移動して加工を行う光走査形のレーザ加工装置において,レーザビーム反射部材として曲率可変反射曲面鏡を使用した場合,加工ヘッドの移動に伴ってレーザビーム径を高速度で変化させ,集光光学部品に入射するレーザビーム径を一定にするよう制御することは困難であるなどの問題点があった。
本件発明は,上記の問題点を解決するためのものであり,レーザビーム反射部材 33 の曲率を高速度で変化させることができるとともに,必要に応じて自由に制御できるレーザ加工装置を得ることを目的とする(【0004】【0005】。
, )ウ 本件発明に係るレーザ加工装置は,レーザ発振器から出力されるレーザビームを集光光学部材を用いて集光させ,切断・溶接等の加工を行うレーザ加工装置において,@レーザビーム反射部材,A反射部材支持部,B気体を供給する流体供給手段,C電空弁及びD流体排出手段を備えたものである。
@レーザビーム反射部材は,レーザビームの伝送路に設けられており,気体圧力により弾性変形する。A反射部材支持部は,レーザビーム反射部材の周囲部を支持し,レーザビーム反射部材とともにレーザビーム反射面の反対側に空間を形成する。B流体供給手段は,反射部材支持部に設けられており,上記の反射部材支持部の空間に気体を供給するものである。C電空弁は,気体供給圧力を連続的に切り換えるものである。D流体排出手段は,反射部材支持部に設けられており,上記の反射部材支持部の空間から気体を排出するものである。
上記の反射部材支持部の空間は,流体供給経路及びこの流体供給経路と別体の流体排出経路を除き密閉構造とし,さらに,上記空間は,流体供給手段及び流体排出手段とともに出口を有する流体動作回路を構成して,流体排出経路を通過した気体は流体排出手段から外部に排出され,流体排出経路を流体供給経路よりも狭くすることにより,レーザビーム反射面の反対側に,レーザビーム反射部材の弾性変形に要する気体圧力をかけるように構成している(【0006】 【0025】 , ,【0027】〜【0029】 【図1】 【図2】 。流体排出経路を流体供給経路よ , , )りも狭くすることによって,少ない流量でレーザビーム反射面の反対側に圧力を加えることができる(【0031】。
)圧力をかける流体は,エアーに限定されず,他の気体を使用してもよい。また,気体ではなく,水等の液体を使用してもよい(【0043】 。
)エ 本件発明によれば,前記ウの構成により,レーザビーム反射部材の曲率を速やかに変化させて,必要に応じてレーザビーム径を高速で制御するとともに,レ 34 ーザビーム反射部材が供給流体により冷却され,レーザビーム照射による熱変形を防止する効果がある(【0044】。
) 2 引用発明について ? 引用例(甲1の1)には,おおむね,以下のとおり記載されている(下記記載中に引用する図面については,別紙2参照)。なお,訳文は,原則として甲第1号証の2によった。引用例の訳文としては,甲第34号証も提出されているが,原告指摘の点(前記第3の1〔原告の主張〕?イ(ア)等)も含め,甲第1号証の2と甲第34号証との間に,内容において大きな相違はないものということができる。
【実用新案登録請求の範囲】【請求項3】焦点位置を調節する調節装置には,レーザ光線(1)の方向で収束光学系(8)の前段に置かれる,少なくとも1つのレーザ光線(1)用の偏向鏡(7)があり,前記偏向鏡は,その鏡面(12)とは反対側の面で,可変圧力下にある流体により押されるので,適応して曲がり,偏向鏡(7)に,流体圧を変えることができる調節可能な絞り装置(15)を介して流体が加えられ,数値制御装置は,レーザ切断ヘッド(10)の把握された場所に,焦点位置を調節するための調節値として,流体圧に対する予想値を割り当て,この予想値を調節するために,調節可能な絞り装置(15)を制御することを特徴とする,請求項1又は2に記載のレーザ切断機。
【焦点位置調節装置を有するレーザ切断機】 ア 発明に関する技術分野 本発明は,レーザ発振器とレーザ切断ヘッドを有するレーザ切断機に関するものである。
レーザ切断ヘッドは,@レーザ光線用の収束光学系とAレーザ光線の焦点位置を調節する調節装置を備えている。調節装置は,レーザ切断ヘッドに対する焦点を加工部材に略垂直に移動させて前記調節を行う。
35 レーザ切断ヘッドは,数値制御装置によって制御される動力を利用して,レーザ発振器に対し,及び/又は加工部材に対して略平行な平面内で移動することができる。
イ 従来の技術(ア) いわゆる「移動式光学系」を有するレーザ切断機において,レーザ切断ヘッドは,加工の間,場所が固定される加工部材に対して移動し,レーザ光線は,レーザ切断ヘッドの絶え間のない移動に基づき,レーザ発振器からレーザ切断ヘッドが備える収束光学系まで,絶えず変化する光路長を進まなければならない。
レーザ光線の長さは,特にレーザ光線の焦点位置に左右される。そして,全加工工程にわたり,一様な切断の質等を確保するためには,レーザ切断ヘッドが移動して加工部材に垂直なレーザ光線長が変わっても,焦点位置はわずかの変化にとどまることが保証されなければならない。
(イ) 焦点位置に関し,加工部材に平行なレーザ切断ヘッドの全移動領域にわたり,加工部材に垂直な焦点位置を不変に保つために,レーザ切断ヘッド全体が,レーザ光線長に応じて上昇又は下降する。この場合,焦点位置は,レーザ切断ヘッドに対して不変のままである。
(ウ) このように,レーザ切断ヘッドに対する焦点を移動して焦点位置を調節するために,焦点位置を光学的に調節する調節装置の周知の試作構造物が操作される。その調節装置は,レーザ光線用の適応型球状偏向鏡の形態のものであり,レーザ光線の方向でレーザ切断ヘッドの収束光学系の前段に置かれるものである。
調節装置の鏡面と反対側の面に可変圧力を加えることによって,鏡面の曲率を変えることができる。鏡面の曲率が変化すると,同鏡面から収束光学系上に反射されるレーザ光線の収束又は発散が変わり,焦点距離が変わることになる。
レーザ切断ヘッドが移動し,その移動に応じて光線長が変わることによってレーザ光線の幾何学形状が変化しても,鏡面の曲率を変えれば,それにより同変化を相殺することができ,焦点の加工部品に垂直な位置は,不変のままである。
36 周知の試験装置においては,適応型鏡を利用してレーザ光線の焦点位置を光学的に調節する一般的な機能原理が表されている。
ウ 本発明の課題 (ア) 本発明の課題は,作業場の条件下において,機能的で自動化された操作に適し,機能面で信頼性があり,焦点位置の光学的調節を可能にするレーザ切断機を提供することである。
(イ) 本発明によれば,前記(ア)の課題は,加工部材に垂直な焦点位置を不変に保つ数値制御装置が,加工部材に平行なレーザ切断ヘッドの移動場所に応じて,焦点位置を調節する調節装置を制御することによって,解決される。
すなわち,数値制御装置によってレーザ切断ヘッドの場所が把握され,その各場所,各レーザ光線長に,調節装置の所定の調節値が割り当てられる。そして,数値制御装置によって,調節装置は,それぞれの予想位置に持っていかれる。
エ 本発明の実施形態 (ア) 調節装置には,レーザ光線の方向で収束光学系の前段に置かれる少なくとも1つのレーザ光線用の偏向鏡があり,この偏向鏡は,その鏡面と反対側の面が可変圧力下にある流体(Fluid)に押され,適応して曲がる。
偏向鏡には,流体圧を変化させることのできる調節可能な絞り装置を介して流体が加えられる。
数値制御装置は,把握されたレーザ切断ヘッドの場所に,焦点位置を調節するための調節値として流体圧の予想値を割り当てるものであり,この予想値を調節するために,調節可能な絞り装置を制御することを特徴としている。
調節可能な絞り装置の流量断面を制御すると,その出力側にある流体圧が制御され,これに応じて,絞り装置の下流に置かれる偏向鏡の鏡面の背面が可変圧力で押され,鏡面の曲率が変わる。
レーザ光線は,偏向鏡によって収束光学系上に反射され,加工部材上に束ねられるところ,その収束又は発散は,鏡面の曲率に依存する。
37 したがって,調節可能な絞り位置の出力側にあり,偏向鏡の鏡面の背面に作用する流体圧が変化すると,収束光学系への収束比が変化し,ひいては,加工部材に垂直なレーザ光線の焦点位置が調節される。
このように,調節装置は,数値制御装置を利用して,その移動面が加工部材に平行なレーザ切断ヘッドの全移動領域にわたり,レーザ光線の焦点位置が加工部材を基準として均一なものとなるように,調節値を介して制御する。
(イ) レーザ切断ヘッドの移動領域が部分領域に分割されており,この場合に好適であるのは,@レーザ発振器からレーザ切断ヘッドまでのレーザ光線長がほぼ一致している部分領域に,流体圧の一致した予想値を割り当てること及びA絞り装置として,並列に接続された絞り弁を設け,その数が流体圧の異なる予想値の数に対応していることである。
数値制御装置は,レーザ切断ヘッドが瞬時に移動する部分領域の位置に応じて,関連する領域に割り当てられた調節値に基づき,絞り装置の個別の絞り弁を制御する。すなわち,レーザ切断ヘッドがある部分領域から別の部分領域に移動すると,数値制御装置によって開口位置に切り替えられる絞り弁の数が変わる。1つ又は複数の並列に接続された絞り弁の開閉によって絞り装置の流量断面を制御することによって,その出力側にあり,偏向鏡の鏡面の曲率を定める流体圧が所望の値に調節される。
(ウ) 並列に接続された絞り弁のうちの1つに常に流体が流れていれば,冷却剤として適切な流体を利用する場合,偏向鏡の鏡面の十分な冷却が常に確保される。
好ましくは,絞り装置の残りの絞り弁が閉口位置に切り替えられ,常に開いた絞り弁のみに流体が流れている場合において,絞り装置の出力側で調節される流体圧は,レーザ切断ヘッドの移動領域の各部分領域に割り当てられた予想値に対応する。
オ 図面に基づく実施形態の説明(ア) 【図1】において,レーザ発振器2並びに偏向鏡3及び4は,レーザ切断 38 機の機械フレームに場所を固定して設置される。この機械フレームには,レーザ切断ヘッド10が移動可能に誘導されており,レーザ切断ヘッド10の外側には偏向鏡6が取り付けられ,内側には偏向鏡7,収束レンズ8及びノズル9が収容されている。偏向鏡7は,曲率を変えることができる適応型鏡とする。ノズル9は,レーザ光線1の切断軌跡に切断ガスを装入するのに用いられる。
レーザ発振器2からのレーザ光線1は,偏向鏡3から7を介して,収束レンズ8として構成される収束光学系に向けられる。収束レンズ8は,ノズル9によって,レーザ光線1を加工部材(図示されていない)上に束ねる。
(イ) 【図1】の装置は,適応型鏡7を利用して操作される。適応型鏡7は,薄い金属円板の表面によって形成される研磨された鏡面12を有する。この薄い金属円板は,その縁で鏡ケース13の取付環内に張られる。レーザ光線1は,これを加工部材表面上に束ねる収束レンズ8に反射される。
(ウ) 適応型鏡7の鏡面12とは反対側の面である金属円板に,流体管14を介して圧力水が加えられる。前記金属円板は,1.25barの圧力で平面を成すように製作されているので,1.25barの圧力の圧力水が流体管14内にあれば,鏡面12の曲線は平らになる。流体管14内の圧力が1.25bar以下に下がれば,鏡面12は,【図2】の右部分図に示されるように凹型を成し,1.25barに上げると,それに応じて鏡面12は凸型に変形する。鏡面12の凹面又は凸面の程度は,流体管14内の圧力を制御して調節することができる。【図2】の左右の図面を比較して分かるように,鏡面12の曲率が変わると,鏡面12から反射されるレーザ光線1の収束又は発散は,変化する。調節されるレーザ光線1の幾何学形状に応じて,収束レンズ8によって生じるレーザ光線1の焦点の加工部材に垂直な位置が変わる。
(エ) 流体管14内の圧力は,レーザ切断機の数値制御装置を用いて調節される。
同装置は,【図3】のとおり,絞り装置15に接続している。
絞り装置15は,圧力水の流れ方向に,適応型鏡7の前段に置かれ,4つの並列 39 に接続された絞り弁16から19を含む。絞り弁16には,圧力水が常に流れている。
絞り弁17から19を通る圧力水の流量は,制御可能な磁気弁20から22によって遮断又は開放されることができる。固定絞り弁23は,圧力水の逆流側に設けられている。圧力調節器24と微細メッシュフィルタ25は,絞り装置15の前段に配置される。
(オ) 圧力源によって準備される圧力水は,微細メッシュフィルタ25と圧力調節器24を介して絞り装置15に供給される。圧力調節器24を利用して,最大の装置圧力が設けられる。
固定絞り弁23は,流量断面が不変であるので一定の動圧を作り出すことから,適応型鏡7の流体管14内の圧力は,絞り装置15の制御によって調節できる。
絞り弁16には圧力水が常に流れているので,適応型鏡7及びこの鏡の後段に置かれる偏向鏡6に,ある程度の冷却剤の役割を果たす圧力水量が常に供給される。
図示の実施例においては,磁気弁20から22が閉じていれば,絞り装置15の出力側に,ひいては,適応型鏡7の鏡面12の背面にも,0.5barの圧力がある。
? 前記?によれば,引用例には,本件審決が認定したとおりの引用発明(前記第2の3?ア)が記載されていることが認められ,引用発明について以下の点が開示されている。
ア 引用発明の課題は,作業場の条件下において,機能的で自動化された操作に適し,機能面で信頼性があり,レーザ光線の焦点位置の光学的調節を可能にするレーザ切断機を提供することである。
そして,引用発明は,上記課題を,加工部材に垂直な焦点位置を不変に保つ数値制御装置が,加工部材に平行な面を移動するレーザ切断ヘッドの場所に応じて,焦点位置を調節する調節装置を制御することによって解決するものである。
イ 上記調節装置は,少なくとも1つのレーザ光線用の偏向鏡を備えており,そ 40 の鏡面と反対側の面に,流体圧を変化させることのできる調節可能な絞り装置を介して流体が加えられるというものである。
上記絞り装置の流量断面を制御すると,その出力側にある流体圧が制御され,これに応じて,同絞り装置の下流に置かれる上記偏向鏡は,その鏡面の背面を流体の可変圧力で押されて曲がり,鏡面の曲率が変わる。
レーザ光線は,上記偏向鏡によって収束光学系上に反射され,加工部材上に束ねられるところ,その収束又は発散は,鏡面の曲率に依存する。
したがって,上記絞り位置の出力側にあり,上記偏向鏡の鏡面の背面に作用する流体圧が変化すると,収束光学系への収束比が変化し,ひいては,加工部材に垂直なレーザ光線の焦点位置が調節される。
3 取消事由1(相違点1の判断の誤り)について ? 引用例の記載について 前記2?エ(ア)のとおり,引用例においては,レーザ光線の方向で収束光学系の前段に置かれる少なくとも1つのレーザ光線用の偏向鏡の鏡面と反対側の面を押す圧力媒体として,「Fluid」を用いる旨が記載されている。
ア ドイツ語の「Fluid」の意義について (ア) 「Fluid」の訳語として,「最新 科学技術用語辞典(英独和)」(株式会社三修社,昭和60年11月発行。甲35)には,名詞としての英語の「fluid」に対応するドイツ語の名詞は「Fluid」であり,その和訳は「流体」である旨が記載されている。また,「三省堂 独和新辞典 第3版」(昭和59年2月発行。
甲32)には「抵抗用流体」,「郁文堂 独和辞典 第二版」(平成5年2月発行。乙4)及び「岩波 独和辞典 増補版」(昭和56年2月発行。乙5)には「流体」と,それぞれ記載されている。
このように,本件特許出願当時,英独和の科学技術用語辞典及び国内のドイツ語使用者の間で一般に用いられていたものと推認できる複数の辞書において,「Fluid」の訳語として「流体」を掲載している。
41 (イ) 上記(ア)の点に,引用例に係る出願を優先権の基礎として日本に特許出願された特開平8-39281号公報(乙2)においては,前記圧力媒体として「流体」の語が用いられている(【請求項3】〜【請求項5】,【0009】〜【0011】等)ことを併せ考えると,当業者は,引用例中,「Fluid」の語につき,「流体」を意味する単語として理解するものと推認することができる。
イ 日本語の「流体」の意義について (ア) 「機械工学事典」(社団法人日本機械学会,平成9年8月発行。甲56)には,「流体」につき,「fluid 液体と気体は一定の形を持たず,外力等により容易に変形し,流動する。このような物体を総称して流体という。」と記載されている。また,「広辞苑 第五版」(株式会社岩波書店,平成10年11月発行。
甲57)には,「流体」の項目に「(fluid)気体と液体との総称。流動体。変形体。」と記載されている。
(イ) 周知例7(「日本工業規格 空気圧システム通則」昭和63年8月発行。
甲18)には,「7.1.1 空気の質 この項目はISO 4414にはないが,前述の方針からまず作動流体の質を規定する必要があるために追加した。」との記載が,周知例10(「だれにもわかる空気圧技術入門」昭和51年2月発行。甲22)には,「流体である空気圧」との記載が,周知例12(「絵とき空気圧技術実務マニュアル」昭和61年11月発行。甲24)には,「作動流体は圧縮性のある空気である」との記載が,周知例13(「油空圧工業総覧1990年版」平成元年9月発行。甲25)には,「空気圧は圧縮性流体であるため」との記載が,それぞれあり,いずれの記載も,気体である空気を流体の一種として扱っていることが明らかである。
また,後記?イのとおり,周知例3(昭和61年公開。甲4)は,引用例の適応型鏡に対応する反射曲面鏡に関する発明を記載した公開特許公報であり,「上記実施例においては,いずれも,容器1内の空間4に対して供給,排出される流体は気体としているが,これを液体とすることもできる。」と記載されており,同記 42 載においては,明らかに,「流体」が気体と液体の双方を含む語として用いられている。
(ウ) 以上のとおり,引用発明に係るレーザ切断機の技術分野に関連する文献である機械工学事典において,「流体」は,液体と気体を総称するものとして説明され,また,同じく上記技術分野に関連する日本工業規格の通則,入門書,マニュアル,総覧においては,気体である空気を流体の一種として扱っている記載がある。加えて,引用発明を構成する主要な部分の1つである適応型鏡(鏡面12)に相当する反射曲面鏡に関する発明を記載した公開特許公報においても,「流体」が気体と液体の双方を含む語として用いられている。なお,国民一般に広く使用されている代表的な辞書である広辞苑においても,同様である。
以上によれば,当業者は,引用例中の「Fluid」の訳語である日本語の「流体」の意義につき,液体のみならず気体も含むものとして理解するものと推認することができる。
ウ 小括以上に鑑みると,当業者は,引用例中,レーザ光線の方向で収束光学系の前段に置かれる少なくとも1つのレーザ光線用の偏向鏡の鏡面と反対側の面を押す圧力媒体として「Fluid」を用いる旨の記載に接すれば,その「Fluid」が日本語の「流体」を意味する語であり,その「流体」には液体のみならず気体も含まれると理解し,したがって,引用発明において,圧力媒体として気体を使用することも,選択肢の1つとしてあり得る旨を認識するものということができる。
? 周知技術についてア 周知例1(甲2)に開示されている事項(下記記載中に引用する図面は,別紙3参照)(ア) 産業上の利用分野本発明は,レーザ光線を集光して被加工物を高精度に加工するレーザ加工機に関するものである。
43 (イ) 発明が解決しようとする問題点従来のレーザ加工機においては,レーザ発振器から集光レンズまでの伝送距離を変化させながら加工するので,被加工物の加工位置によって集光レンズに入射するレーザビームの入射ビーム径が変化し,それに伴って集光されたレーザビームのビーム径であるスポット径も変化して,被加工物上におけるレーザビームのエネルギー密度も変化することから,被加工物を常に一定の状態で加工することができないという問題があった。
(ウ) 問題点を解決するための手段本発明は,この問題を解決するためになされたものであり,被加工物を常に一定のエネルギー密度で高精度に加工することのできるレーザ加工機を得ることを目的とする。
(エ) 作用本発明は,この目的を達成するために,@加工ヘッド入口の入射ビーム径を検出するビーム径検出機構と,Aレーザ発振器と加工ヘッドとの間に設けられ,前記入射ビーム径の検出信号によってコリメーション曲率を制御するコリメーション機構とを備えたレーザ加工機を提供するものである。同レーザ加工機は,ビーム径検出機構により加工ヘッド入口の入射ビーム径を検出し,光路中に設けられたコリメーション機構の曲率を制御して入射ビーム径を変化させる。
(オ) 発明の実施例第1図は,本発明の実施例を示す構成図である。(10)はレーザ発振器(1)と加工ヘッド(7)との間に設けられたコリメーション機構,(11)はコリメーション機構(10)に設けられ,曲率Rが変化するコリメーション部,(11a)は平面反射鏡,(12)はコリメーション部(11)の曲率Rを変化させるコリメーション制御部,(13)は加工ヘッド(7)の入口の入射ビーム径Dを検出するビーム径検出機構,(14) (15)は,それぞれビーム径検出機構(13)を構 ,成するセンサー部及び制御部である。
44 第2図は,第1図のコリメーション機構(10)の拡大構成図である。(16)はコリメーション部(11)の曲率を変化させるミラー,(17)はミラー(16)の背面にかかる圧力を変化させるため,ミラー(16)の背面の穴洞に満たされた気体(又は液体)である。(18)は気体(又は液体)(17)に圧力を加える圧力ポンプ,(19)は圧力ポンプ(18)で発生した圧力をコントロールする圧力制御装置,(20)はコリメーション制御部(12)から発せられた制御信号である。
ビーム径検出機構(13)のセンサー部(14)では,集光レンズ(8)に入る入射ビーム径Dが検出され,この検出信号は,制御部(15)を介してコリメーション制御部(12)に伝えられる。コリメーション制御部(12)からは制御信号(20)が発生され,コリメーション部(11)の曲率Rを制御信号(20)に対応して変化させる。これによって,集光レンズ8には,常に一定の径のレーザビームを入射させることが可能となる。
コリメーション部(11)のミラー(16)の曲率の変化は,第2図に示す制御信号(20)を圧力制御装置(19)に伝達することによって,行われる。この圧力制御装置(19)では,圧力ポンプ(18)で発生する圧力をコントロールして,ミラー(16)の背面に加えられる気体(又は液体)(17)の圧力を変化させる。これによって,ミラー(16)の曲率が変化し,したがって,コリメーション部(11)の曲率が変化する。
(カ) 発明の効果本発明においては,集光レンズに入射するレーザビームの径を一定に保つようにしたので,被加工物の加工位置や部分反射鏡の吸収率が変化しても,集光スポット径が変化せず,常に一定した精度の高いレーザ加工が可能である。
イ 周知例3(甲4)に開示されている事項(ア) 産業上の利用分野本発明は,光や電波等の電磁波を集束あるいは発散させるための,凹面鏡あるい 45 は凸面鏡のような反射曲面鏡に関するものである。
(イ) 問題点を解決するための手段本発明では,流体密な容器に設けられた円形の開口に可撓性の膜を張設し,その容器内の圧力を調整し得るようにしている。その膜は,電磁波を反射し得るものとされている。
(ウ) 作用このように構成することにより,容器内の圧力を外部の圧力より小さくすると,可撓性の膜が内方に撓んで湾曲し,その膜の外表面によって電磁波を反射させるようにすれば,凹面鏡を得ることができる。また,容器内の圧力を外部の圧力より大きくすれば,可撓性の膜が外方に撓んで湾曲するので,その膜の外表面によって凸面鏡が形成されるようになる。
(エ) 実施例容器1と可撓性の膜3とによって容器1の内部に気密な空間4が形成されており,その空間4内の圧力が,圧力調整手段5によって調整されるようになっている。
この圧力調整手段5は,容器1の側壁1aに設けられた空気通路6を開閉し得るバルブ7と,空間4内の空気を排出し得るポンプ8とから成るものであり,バルブ7を閉じることによって空間4内の圧力が一定に保持されるようになっている。
このように構成された反射曲面鏡において,バルブ7を開いてポンプ8を作動させると,空間4内の空気が排出されて,容器1の内部の圧力が外部の圧力より低下する。それによって,膜3の表裏に圧力差が生じ,その膜3が内側に撓む。そして,その外表面の反射面3aがほぼ回転放物面を形成するようになる。したがって,この曲面鏡に上方から光等の電磁波が入射すると,その電磁波は反射面3aによって反射されて,ほぼ一点に集束するようになる。すなわち,凹面鏡として使用することができる。
ポンプ8によって容器1内の空間4に外部から空気を供給することもできるようにしておけば,容器1内の圧力を外部より高くし,それによって,膜3を外方に 46 撓ませ,その反射面3aにより凸面鏡を形成させることができる。
したがって,容器1内の空気圧を増減するだけで,単一の反射曲面鏡を凹面鏡及び凸面鏡のいずれにも使用することができる。
なお,実施例においては,いずれも,容器1内の空間4に対して供給,排出される流体は気体としているが,これを液体とすることもできる。その場合には,全体の重量は大きなものとなるが,運搬時や組み付け時には容器1内から液体を抜いておくことによって軽量のものとすることができる。
ウ 前記ア及びイによれば,本件特許出願当時,鏡面の反対側の面に気体圧力を加え,同圧力を制御することによって前記鏡面の曲率を変化させる反射鏡は,周知の技術であったものと認められる。
特に,周知例1の技術は,引用発明と同様に,レーザ発振器とレーザ加工ヘッドを備え,レーザ光線を集光して被加工物を加工するレーザ加工装置において,レーザ発振器とレーザ加工ヘッドとの間に前記反射鏡を設け,その鏡面の曲率を適宜変化させることによって,同鏡面に反射してレーザ加工ヘッドに向かうレーザ光線を一定のものに保つ技術である。
? 相違点1の容易想到性について 前記?のとおり,当業者は,引用例中,レーザ光線の方向で収束光学系の前段に置かれる少なくとも1つのレーザ光線用の偏向鏡の鏡面と反対側の面を押す圧力媒体として「Fluid」を用いる旨の記載に接すれば,その「Fluid」が日本語の「流体」を意味する語であり,その「流体」には液体のみならず気体も含まれると理解し,したがって,引用発明において,圧力媒体として気体を使用することも,選択肢の1つとしてあり得る旨を認識するものということができる。
そして,前記?ウのとおり,本件特許出願当時,鏡面の反対側の面に気体圧力を加え,同圧力を制御することによって前記鏡面の曲率を変化させる反射鏡は,周知の技術であったものと認められ,しかも,引用発明と同様に,レーザ加工装置において,レーザ発振器とレーザ加工ヘッドとの間に前記反射鏡を設け,その鏡面の曲 47 率を適宜変化させることによって,同鏡面に反射してレーザ加工ヘッドに向かうレーザ光線を一定のものに保つ技術が,既に公知であった。
以上に鑑みると,当業者は,本件特許出願当時,引用発明において,流体供給手段が反射部材支持部の空間に供給する流体や,流体排出手段が反射部材支持部の空間から排出する流体,すなわち,前記反射鏡の鏡面の背面に圧力を加える圧力媒体として,「圧力水」に代えて「気体」を採用することに,容易に想到し得たということができる。
よって,相違点1については,容易想到性が認められる。
? 原告の主張について ア 引用例中の「Fluid」の意義の解釈について (ア) 原告は,本件審決は,ドイツ語の「Fluid」を「流体」と解した点において誤りがある旨主張する。
しかし,原告が指摘するとおり,ドイツ語の「Fluid」が液体を意味するものとして使用され,また,独和辞典において,「Fluid」の訳語として「流体」以外のものが掲げられているとしても,それは,「Fluid」が「流体」の意味を有することを否定するものではない。よって,原告指摘の点は,当業者は,引用例中,「Fluid」の語につき,「流体」を意味する単語として理解するという前記?アの認定を妨げるものとはいうことができない。
(イ) 原告は,仮に「Fluid」を「流体」と訳し得るとしても,「流体」は,技術用語として必ずしも「液体」及び「気体」を意味するものではなく,特に機械工学の分野においては,「液体」のみを意味する用語として用いられる場合も多いことを指摘し,本件審決には,「流体」の意義につき,「液体」及び「気体」を意味するものという説明を機械的に採用した点において誤りがある旨主張する。
しかし,原告指摘の点は,「流体」が「液体」及び「気体」を意味するものとして用いられることを否定するものではなく,よって,当業者は,引用例中の「Fluid」の訳語である日本語の「流体」の意義につき,液体のみならず気体も含むも 48 のとして理解するという前記?イの認定を妨げるものとまでいうことはできない。
イ 引用発明の圧力水に代えて気体を採用することについての動機付けについて (ア) 原告は,引用発明は,冷却媒体として循環している圧力水を偏向鏡の曲率を変えるための圧力媒体としても使用するという動機によって発明されたものであり,圧力媒体を気体に代えるのであれば,流体供給経路と別体の流体排出経路を設ける理由もないことになる旨主張する。
しかし,前記2?アのとおり,引用発明の課題は,作業場の条件下において,機能的で自動化された操作に適し,機能面で信頼性があり,レーザ光線の焦点位置の光学的調節を可能にするレーザ切断機を提供することである。
そして,引用発明は,少なくとも1つのレーザ光線用の偏向鏡を備えており,その鏡面と反対側の面に,流体圧を変化させることのできる調節可能な絞り装置を介して流体が加えられるというレーザ光線の焦点位置の調節装置において,上記絞り装置の流量断面の制御により,同絞り装置の出力側にあり,上記偏向鏡の背面に作用する流体圧を制御することによって,上記鏡面の曲率を変え,レーザ光線の焦点位置を調節することによって,前記課題を解決するものである。すなわち,前記課題であるレーザ光線の焦点位置の光学的調節は,圧力水等の流体の圧力を制御することによって行われるものであり,冷却とは関係しない。
引用例中,冷却に関しては,「並列に接続された絞り弁のうちの1つに常に流体が流れていれば,冷却剤として適切な流体を利用する場合,偏向鏡の鏡面の十分な冷却が常に確保される(なお,原告提出の訳文〔甲34〕では,『並列接続された絞り弁の1つに持続的にフルードが貫流している状態においては,冷媒として適当なフルードが使用されていることにより,偏向ミラーの鏡面の十分な冷却もまた常に保証される。』とされている。。
)」などの記載があるものの,調節装置に冷却水が流れていることを必須とする旨の記載や,圧力水として使用するものを冷却水に限定する旨の記載はない。
以上に鑑みると,冷却媒体は,引用発明を構成する要素ということはできない。
49 よって,引用発明は,冷却媒体として循環している圧力水を偏向鏡の曲率を変えるための圧力媒体としても使用するという動機によって発明されたものということはできず,原告の前記主張は,前提を欠く。
(イ) 原告は,本件特許出願当時の出願者において,圧縮性流体である気体について何も言及していない引用発明を出発点として,圧力媒体を,非圧縮性流体である圧力水から圧縮性流体である気体にあえて置き換える必要性はなく,そのような置換をする技術上の意義も存しない旨主張する。
しかし,前記?のとおり,当業者は,引用例中,圧力媒体として「Fluid」を用いる旨の記載に接すれば,そのドイツ語の「Fluid」が日本語の「流体」を意味する語であり,その「流体」には液体のみならず気体も含まれると理解し,したがって,引用発明において,圧力媒体として気体を使用することも,選択肢の1つとしてあり得る旨を認識するものと推認できる。よって,原告の前記主張は,前提を欠く。
(ウ) 原告は,相違点3及び4のいずれも,引用発明が圧力水を循環させて冷却媒体として使用していることから生じたものであり,これらの相違点は,引用発明の圧力水に代えて気体を採用することについての阻害事由となる旨主張する。
しかし,前記(ア)のとおり,冷却媒体は,引用発明を構成する要素ということはできないことから,相違点3及び4のいずれも,引用発明が圧力水を循環させて冷却媒体として使用していることから生じたものということはできない。
? 小括 以上によれば,相違点1の容易想到性を肯定した本件審決の判断に誤りはなく,取消事由1は,理由がない。
4 取消事由2(相違点3の判断の誤り)について ? 本件発明の「流体動作回路」について ア 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の特許請求の範囲請求項1には,「前記空間は前記流体供給手段及び 50 前記流体排出手段とともに出口を有する流体動作回路を構成」すると記載されている。そして,同請求項1の記載によれば,「前記空間」は,レーザビーム反射部材と反射部材支持部がレーザビーム反射面の反対側に形成するものであり,流体供給経路及びこの流体供給経路と別体の流体排出経路を除き,密閉構造とされている。
「流体供給手段」は,「前記空間」に気体を供給するものであり,「流体排出手段」は,反射部材支持部に設けられ,「前記空間」から気体を排出するものである。流体排出経路を通過した気体は,「流体排出手段より外部に排出され」る。
イ 本件明細書の記載 本件明細書【0031】には,「流体動作回路」に関し,「さて,上記エアー入口14より供給されたエアー15は,上記円形保持板11に複数個等間隔に設けられているエアー通路16を通り,円形保持板11の周囲部に形成されたエアー通路17へと出た後,上記エアジャケット13の1箇所に設けられたエアー出口18より排出されるという流体動作回路が構成され,この流体圧力により,曲率可変反射鏡10は球面化するため,球面鏡(この場合は凸面鏡)として使用することができる。」との記載がある。
ウ 前記ア及びイによれば,本件発明の「流体動作回路」とは,気体(エアー15に相当)が,「流体供給手段」(エアー入口14に相当)から,流体供給経路を経て,レーザビーム反射面の反対側に形成される空間に至り,流体排出経路(エアー通路16,17に相当)を通過した後,「流体排出手段」(エアー出口18に相当)から排出されるまでの経路を指し,「流体動作回路」が「出口を有する」とは,気体が「流体動作回路」の外部に排出されることを意味するものと解すべきである。
? 引用発明の「流体回路」について 前記2によれば,引用発明の「流体回路」とは,圧力水が「流体管14」から,レーザ光線を反射する鏡面12を有する金属円板とその周囲部を支持する鏡ケース13によって鏡面12の反対側に形成された空間に至り,「流体管14とは別体の流体管」から排出されるまでの経路を指すものと解される。このように,圧力水は, 51 「流体管14とは別体の流体管」から「流体回路」の外部に排出されることに鑑みると,「流体回路」も「出口」を有するものということができる。
? 原告の主張について 原告は,本件発明の「出口を有する流体動作回路」は,気体が循環することなく大気中又は環境中に排出されることを明確にしたものであり,他方,引用発明においては,圧力水が流体管14とは別体の流体管から出た後,循環して流体管14に戻っていることから,「流体回路」は,出口を有しないものである旨主張する。
しかし,本件明細書の詳細な説明中,気体が大気中又は環境中に排出されることを示す記載はない。すなわち,本件明細書中のパージエアーに関する【0034】及び【0045】の記載は,エアー15がエアー出口18から排出された後,パージエアー供給口51からレーザビーム伝送路52内に供給されるというものであり,エアー15が大気中又は環境中に放出されることには言及していない。また,【図3】においても,エアーが大気中や環境中に放出されることは,描かれていない。
前記?の点も併せ考えると,本件発明の「出口を有する流体動作回路」につき,気体が循環することなく大気中又は環境中に排出されることを明確にしたものと解することはできない。
? 小括 以上によれば,相違点3は,実質的な相違点ではない旨の本件審決の判断に誤りはなく,取消事由2は,理由がない。
5 取消事由3(相違点4の認定及び判断の誤り)について ? 相違点4の認定について ア 本件発明について 前記1によれば,本件発明においては,流体排出経路を流体供給経路よりも狭くしていることが認められる。
この点に関し,本件明細書【0031】においては,「エアー出口18の内径を,上記エアー入口14の内径に比べて充分小さくすることにより,少ない流量で上記 52 曲率可変反射鏡10のレーザビーム非反射面(裏面)22に圧力を加えることができる」と記載されている。なお,エアー出口18は,流体排出手段に相当するものであるが,エアー出口18の内径は,エアー出口18からエアー通路17までの流体排出経路の径に等しく,また,エアー入口14は,流体供給手段に相当するものであるが,エアー入口14の内径は,エアー入口14からレーザービーム非反射面(裏面)側に形成される空間までの流体供給経路の径に等しい(別紙1【図1】参照)。したがって,本件明細書【0031】の「エアー出口18の内径を,上記エアー入口14の内径に比べて充分小さくすること」とは,流体排出経路の内径を流体供給経路の内径に比べて小さくすること,すなわち,流体排出経路を流体供給経路よりも狭くすることにほかならない。
イ 引用発明について 前記2のとおり,引用例には,流体供給経路に相当する「流体管14」及び流体排出経路に相当する「流体管14とは別体の流体管」のいずれについても,その管の広さ(径の大きさ)に関する記載は,一切ない。
したがって,引用発明においては,流体排出経路と流体供給経路との間における広さ(径の大きさ)の差異の存否自体,不明というべきである。
ウ 相違点4の認定 以上によれば,本件発明と引用発明との間には,本件審決が認定したとおり,本件発明の「流体排出経路」は,「流体供給経路」よりも狭くしたものであるのに対し,引用発明の「流体排出経路」と「流体供給経路」がそのようなものであるか明らかではないという相違点(前記第2の3?ウ(エ))が存在するものと認められる。
? 相違点4の判断について ア 引用例の記載について 前記?イのとおり,引用例には,流体供給経路に相当する「流体管14」及び流体排出経路に相当する「流体管14とは別体の流体管」のいずれについても,その管の広さ(径の大きさ)に関する記載は,一切ない。
53 また,【請求項1】及び本件明細書【0031】の記載によれば,本件発明において,流体排出経路を流体供給経路よりも狭くしたのは,少ない流量の気体でレーザビーム反射面の反対側に,レーザビーム反射部材が弾性変形をするのに要する気体圧力をかけるためのものと認められるところ,引用例中には,少ない流量の流体でレーザビーム反射面である鏡面12の反対側に,レーザビーム反射部材に相当する金属円板が弾性変形するに要する圧力をかけることに関する記載も示唆もない。
周知技術について (ア) 本件審決は,気体が排出する経路と流入する経路を有する空間において,気体が排出する経路(周知例10記載の「絞り」,周知例11記載の「排気管」)を狭くすることで,当該空間の圧力を上昇させることは,従来周知の技術事項であるとし,これを前提として,相違点4に係る構成は,当業者が容易に採用し得る設計上の事項である旨判断した。
(イ) 周知例10について 周知例10には,空気圧配管において「絞り」は,圧力損失をもたらし,管内の空気圧の流れの速度を制限する速度制御弁の役割を果たすことなどが記載されているにとどまり,「気体が排出する経路」と「気体が流入する経路」とで各経路の広さ(径)を変えることについては,何ら触れられていない(甲22)。
(ウ) 周知例11について a 周知例11には,以下の記載がある(甲23)。
(a) 産業上の利用分野 本発明は貯蔵装置に係り,特に貯蔵庫内の残存ガスを貯蔵物の鮮度維持を図る修整ガスに置換する貯蔵装置に関する(【0001】。
) ? 発明が解決しようとする課題 又,庫内のガスを外部に排気する排気管は,その管路断面積即ち,排気管の内径が経験的に決められており,庫内の圧力上昇を防止するため大径にすると排気効率が上がる反面,庫内に供給された修整ガスも排気されてしまうため,洩れと同じ現 54 象となり,庫内の気体濃度が所定濃度になるのにかなりの時間がかかるといった課題が生ずる。又,排気管が小さい場合には庫内の圧力が修整ガス供給により上昇してしまう(【0007】。
) ? 課題を解決するための手段 本発明は,貯蔵物が貯蔵される貯蔵庫内に修整ガス供給ユニットにより生成された修整ガスを供給するとともに排気管を介して庫内の残存ガスを排出し,庫内の気体濃度が所定濃度を保つように残存ガスを置換する貯蔵装置において,前記貯蔵庫内の容積Vに対して1秒間当り1.0〜2.8V×10 ー3 の修整ガスを前記貯蔵庫へ供給するガス供給手段を備え,前記排気管内の管路総面積が前記貯蔵庫内の容積Vに対して0.7〜1.6V×10 ー3 となるように前記排出管の内径を形成してなる(【0009】。
) ? 実施例 上記構成になる貯蔵装置において,?排気管11の管路断面積と置換時間及び庫内との関係は図3(排気管断面積比率と置換時間比率及び貯蔵庫内圧力との関係を示す図)で示すようになる( 【0021】。
) 例えば修整ガス供給ユニット6からの供給圧力が常に一定に保持される構成である場合修整ガス供給管路7の管路内径を選定して供給流量が1.0〜2.8V×10-3(リットル/秒)となるようにしても良い(【0027】 。
) 図3に示す実験結果により排気管断面積比が0.7×10 -3 以下では貯蔵庫1内の圧力が上昇するとともに置換時間比率が増加してしまい,排気管断面積比率が1.6V×10 ー3 以上になると置換時間比率が増加することがわかる(【0029】。
) そのため,貯蔵庫1内のガスを効率良く排気させるため,排気量11の管路断面積が貯蔵庫1の容積Vに対して0.7〜1.6V×10 -3(m2)となるように選定されている。これにより,貯蔵庫1内の圧力を上昇させずに最短時間で庫内の残存ガスを排気することができる(【0030】。
) 55 尚,上記実施例では1本の排気管11により庫内のガスを排出させる構成としたが,排気管11は1本だけでなく2本あるいはそれ以上の複数本を貯蔵庫1に設けても良い。その場合,複数本の排気管の総断面積が0.7〜1.6V×10 - 3(m 2 )となるように各排気管の管路断面積即ち管路内径を選定する(【0031】。
) (e) 発明の効果 上述の如く,本発明になる貯蔵装置は,貯蔵庫への修整ガス供給流量を貯蔵庫の容積Vに対して1.0〜2.8V×10 -3 とするとともに排気管の管路総断面積が貯蔵庫の容積Vに対して0.7〜1.6V×10 -3 となるように排気管の内径を選定することにより,庫内の圧力を上昇させることなく修整ガスを庫内に供給することができるとともに庫内の残存ガスを効率良く排気させることができ,最短時間で庫内の残存ガスを修整ガスに置換することができる(【0033】。
) b 周知例11は,前記a(a)のとおり,「貯蔵装置に係り,特に貯蔵庫内の残存ガスを貯蔵物の鮮度維持を図る修整ガスに置換する貯蔵装置に関する」発明の公開特許公報であり,引用発明とは明らかに技術分野を異にする。
そして,周知例11には,前記a?のとおり,発明が解決しようとする課題の1つとして,排気管が小さければ庫内の圧力が上昇する旨記載されているが,前記a?から(e)のとおり,課題を解決する手段,実施例及び発明の効果において,「気体が排出する経路」に相当する排気管の内径(管路断面積)に関しては,上記の貯蔵庫内の容積Vに対する比率の範囲,管路断面積比率と置換時間比率及び貯蔵庫内圧力との関係等が示されており,「気体が流入する経路」に相当する修整ガスを前記貯蔵庫へ供給する手段である修整ガス供給管路7の内径(管路断面積)に関しては,その供給流量が一定の範囲内となるように管路内径を選定してもよい旨が記載されているが,排気管と修整ガス供給管路の各径の対比に言及する記載はない。よって,周知例11において,「気体が排出する経路」を「気体が流入する経路」よりも狭くすることは,開示も示唆もされていないというべきである。
56 ウ 相違点4の容易想到性について(ア) 前記アのとおり,引用例には,流体供給経路及び流体排出経路のいずれについても,その管の広さ(径の大きさ)に関する記載は,一切ない。また,少ない流量の流体でレーザビーム反射面である鏡面12の反対側に,レーザビーム反射部材に相当する金属円板が弾性変形するに要する圧力をかけることに関する記載も示唆もない。
(イ) 前記イのとおり,周知例10においては,「気体が排出する経路」と「気体が流入する経路」とで各経路の広さ(径)を変えることについては,何ら触れられていない。
周知例11は,引用発明とは技術分野を異にすることから,引用発明の技術分野の当業者にとっての周知技術を示すものとは直ちにいい難い上,「気体が排出する経路」を「気体が流入する経路」よりも狭くすることは,開示も示唆もされていない。
(ウ) 以上に鑑みると,本件特許出願時において,引用例に接した当業者が,流体排出経路を流体供給経路よりも狭いものにしようとする動機付けがあるということはできず,引用発明から,相違点4に係る本件発明を容易に想到することはできない。
? 被告の主張について ア 周知例7から9について (ア) 被告は,周知例7から9の記載に鑑みると,圧力媒体として気体を採用した場合,圧力応答性の観点から,気体を通す配管の容積を必要最小限にすべきであり,引用発明においては,絞り装置15及び固定絞り弁23を反射鏡の背面空間の近傍に設けて管路を短くするなどの工夫をしなければならないから,流体供給経路と流体排出経路の広狭は,当業者が必要に応じて適宜決定すればよい旨主張する。
(イ) 周知例7には,JISの「空気圧システム通則」として,「作動機器とこれを制御する機器を接続する配管は,作動機器に設定した動作に必要な空気流量を 57 供給するのに十分な口径であって,必要最短の長さであればよい。また,この容積が大きいと作動機器の応答性が低下するので,必要最小限としなければならない。」と記載されている(甲18)。
周知例8の「油・空圧回路設計ハンドブック」においては,主供給回路から分岐配管を通じて圧縮空気を必要な個所に供給する空気圧装置につき,配管抵抗によって送気量に応じた圧力低下が起きることを指摘し,@空気圧は,油圧よりも応答時間が長く,電磁弁からシリンダに至る配管内を含めたゾーンに相当する部分の容積が大きくなるほど,電磁弁切換えからピストン始動までの時間が長くなること,Aシリンダと方向制御弁との距離が短く,その間の容積が少ないほどうまく制御できることが記載されている(甲19)。
周知例9の公開特許公報には,歯牙研削用のエアタービン型ハンドピースは,そのヘッド部に備えたタービン翼を圧空噴射エネルギーにより回転させ,タービン翼を含むロータに接続した切削工具を高速回転させる方式のものであるところ,その回転数を制御する従来技術としては,ロータ回転数とあらかじめ入力された設定回転数とを比較し,その比較信号をもって加圧空気管の圧力調整弁を調整して圧空噴射エネルギーを調整する空気圧制御方式が知られているが,空気が圧縮性流体であるため,圧力調整弁と噴射ノズルとの間の管路が長い場合には,圧力応答性が鈍くなる旨(【0002】【0004】【0005】 , , )が記載されている(甲20)。
(ウ) 以上のとおり,周知例7から9によれば,本件特許出願当時,空気を圧力媒体とする場合は,空気が圧縮性流体であるために,その供給経路の容積が大きくなると圧力応答性が小さくなるので,同容積を小さくすることが望ましいことは,周知の事項であったものと認められ,同事項から,空気の供給経路,すなわち,空気が流入する経路を短くし,また,その経路の径を狭くすることは,導かれる。
しかし,周知例7から9には,空気が流入する経路と空気を排出する経路とで径の広狭に差を設けることについては,記載も示唆もされていない。
イ 周知例11について 58 (ア) 被告は,周知例11及び本件明細書【0031】には,排気管の管径を小さくすれば,排出される量が少なくなるので,より少ない供給量で内部の圧力を高めることができることが記載されており,その反面,気体の排出に時間がかかり,圧力調整の時間が長くなることは自明であるから,排出経路の管径の大きさは,当業者が必要に応じて適宜決定すればよいものであるとして,流体に気体を用いる場合,流体供給経路は,その容積を最小限にするために,管径を狭くすべきであり,他方,流体排出経路の管径の大きさは,当業者が必要に応じて適宜決定すればよいから,流体供給経路と流体排出経路の広狭は,当業者が必要に応じて適宜決定すればよいということができる旨主張する。
(イ) しかし,周知例11は,前記?ウのとおり,引用発明とは技術分野を異にすることから,引用発明に係る当業者にとっての周知技術を示すものとは直ちにいい難い上,「気体が排出する経路」を「気体が流入する経路」よりも狭くすることは,開示も示唆もされていない。
(ウ) また,調整の対象となる圧力は,排出経路の管径の大小のみによって決まるものではなく,供給経路の管径の大小及び両経路の管径の差などの要素にも影響されるものであるから,排出経路の管径の大きさは,上記の要素も勘案して決定すべきものであり,当業者が必要に応じて適宜決定するものということはできない。
ウ したがって,流体供給経路と流体排出経路の広狭は,当業者が必要に応じて適宜決定すればよい旨の被告の前記主張は,採用できない。
? 小括 以上によれば,相違点4の容易想到性を肯定した本件審決の判断には誤りがあり,取消事由3は,理由がある。
6 結論 したがって,本件審決の容易想到性に関する判断には誤りがあり,本件審決は取消しを免れない。
よって,原告の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。
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裁判長裁判官 部眞規子
裁判官 田中芳樹
裁判官 鈴木わかな
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