関連審決 |
無効2014-800099 無効2013-800211 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成27ネ10080 特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成27ネ10036 特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成26ワ688 特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成27ネ10031 特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成26ワ3343 特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
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事件 |
平成
27年
(ネ)
10108号
特許権侵害差止等請求控訴事件
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控訴人 日産化学工業株式会社 同訴訟代理人弁護士 増井和夫 同 橋口尚幸 同 齋藤誠二郎 被控訴人 相模化成工業株式会社 被控訴人日医工株式会社 被控訴人壽製薬株式会社 上記3名訴訟代理人弁護士 新保克芳 同 洞敬 同 酒匂禎裕 同 西村龍一 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/03/09 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件控訴を棄却する。 - 1 -2 控訴人の当審における追加請求を棄却する。 3 当審における訴訟費用は全て控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。 2 被控訴人相模化成工業株式会社(以下「被控訴人相模化成工業」という。)は,原判決別紙物件目録1記載のピタバスタチンカルシウム原薬を製造し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。 3 被控訴人相模化成工業は,原判決別紙物件目録1記載のピタバスタチンカルシウム原薬を,その含有水分を7重量%〜13重量%に維持して保存してはならない(控訴人は,当審において,第1審で求めていた差止めを求める保存行為の含有水分の範囲「4重量%より多く,15重量%以下」からこのとおり減縮した。)。 4 被控訴人日医工株式会社(以下「被控訴人日医工」という。)は,原判決別紙物件目録1記載のピタバスタチンカルシウム原薬を使用してはならない。 5 被控訴人日医工は,原判決別紙物件目録1記載のピタバスタチンカルシウム原薬を,その含有水分を7重量%〜13重量%に維持して保存してはならない(控訴人は,当審において,第1審で求めていた差止めを求める保存行為の含有水分の範囲「4重量%より多く,15重量%以下」からこのとおり減縮した。)。 6 被控訴人日医工は,原判決別紙物件目録2記載のピタバスタチンカルシウム製剤を製造し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。 7 被控訴人壽製薬株式会社(以下「被控訴人壽製薬」という。)は,原判決別紙物件目録1記載のピタバスタチンカルシウム原薬を使用してはならない。 8 被控訴人壽製薬は,原判決別紙物件目録1記載のピタバスタチンカルシウム原薬を,その含有水分を7重量%〜13重量%に維持して保存してはならない(控訴人は,当審において,第1審で求めていた差止めを求める保存行為の含有水分の範囲「4重量%より多く,15重量%以下」からこのとおり減縮した。)。 9 被控訴人壽製薬は,別紙製剤目録記載のピタバスタチンカルシウム製剤を製造し,販売し,又は販売の申出をしてはならない(控訴人は,当審において,同目録(3)記載の製剤に係る差止請求を追加した。)。 10 仮執行宣言 |
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事案の概要
1 本件は,発明の名称を「ピタバスタチンカルシウム塩の結晶」とする発明に係る特許権及び発明の名称を「ピタバスタチンカルシウム塩の保存方法」とする発明に係る特許権を有する控訴人が,被控訴人相模化成工業が原判決別紙物件目録1記載のピタバスタチンカルシウム原薬(以下「被控訴人原薬」という。)を製造販売等する行為,被控訴人日医工及び被控訴人壽製薬が被控訴人原薬を使用する行為並びに被控訴人原薬を使用して製造された原判決別紙物件目録2及び別紙製剤目録記載のピタバスタチンカルシウム製剤(以下「被控訴人製剤」という。また,被控訴人原薬及び被控訴人製剤を併せて,「被控訴人製品」という。)をそれぞれ製造販売等する行為,被控訴人らが被控訴人原薬を保存する行為は,上記各特許権を侵害する行為であるなどと主張して,被控訴人らに対し,特許法100条1項に基づき,前記各行為の差止めを求める事案である。 2 原判決は,上記各特許権に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,控訴人は,特許法104条の3第1項により,被控訴人らに対し,上記各特許権を行使することができないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。 そこで,控訴人が,原判決を不服として控訴したものである。 3 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実。なお,特に断らない限り,証拠の枝番号の記載は省略する。以下同じ。) (1) 当事者 控訴人は,基礎化学品,医薬品の製造販売等を業とする株式会社である。 被控訴人相模化成工業は,医薬品原薬の製造販売等を業とする株式会社であり,その余の被控訴人らは,いずれも医薬品の製造販売等を業とする株式会社である。 (2) 本件特許権1 ア 控訴人は,次の特許権(以下「本件特許権1」という。)を有する。 特許番号 特許第5186108号 発明の名称 ピタバスタチンカルシウム塩の結晶 出願日 平成16年12月17日(特願2006-520594) 優先日 平成15年12月26日(特願2003-431788。 「本 以下 件優先日」という。) 優先権主張国 日本 登録日 平成25年1月25日 イ 本件特許権1に係る特許(以下「本件特許1」という。)の特許請求の範囲の請求項1(以下「本件発明1-1」という。)及び2(以下「本件発明1-2」といい,本件発明1-1と併せて「本件発明1」という。)の記載は,本件特許1に係る明細書(甲2の1。以下「本件明細書1」という。)に記載された次のとおりのものである。 (ア) 請求項1 式(1)【化1】で表される化合物であり,7〜13%の水分を含み,CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ,30.16°の回折角(2θ)に,20.68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の相対強度が25%より大きなピークを有することを特徴とするピタバスタチンカルシウム塩の結晶(但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)。 (イ) 請求項2 請求項1に記載のピタバスタチンカルシウム塩の結晶を含有することを特徴とする医薬組成物。 ウ 構成要件の分説 本件発明1を構成要件に分説すると,以下のとおりである(構成要件C1及びC2を併せて「構成要件C」ということがある。なお,式(1)の構造式【化1】は記載を省略する。以下同じ。)。 (ア) 本件発明1-1(請求項1) A 式(1)で表される化合物であり, B 7〜13%の水分を含み, C CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において, 96°, 4. 6.72°,9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ,30.16°の回折角(2θ)に,20.68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の相対強度が25%より大きなピークを有することを特徴とする D ピタバスタチンカルシウム塩の結晶 E (但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)。 (イ) 本件発明1-2(請求項2) F 請求項1に記載のピタバスタチンカルシウム塩の結晶を含有することを特徴とする G 医薬組成物。 エ 訂正請求 控訴人は,本件特許1につき訴外沢井製薬株式会社が請求した特許無効審判の手続において,平成26年8月22日付けで訂正請求(甲55。以下「本件訂正請求1」という。)をした。本件訂正請求1に係る訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を構成要件に分説すると,以下のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。 A 式(1)で表される化合物であり, B 7〜13%の水分を含み, C CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において, 96°, 4. 6.72°,9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ,30.16°の回折角(2θ)に,20.68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の相対強度が25%より大きなピークを有し, X 7〜13%の水分量において医薬品の原薬として安定性を保持することを特徴とする D’ 粉砕されたピタバスタチンカルシウム塩の結晶 E (但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)。 (3) 本件特許権2 ア 控訴人は,次の特許権(以下「本件特許権2」といい,本件特許権1と併せて「本件各特許権」という。)を有する。 特許番号 特許第5267643号 発明の名称 ピタバスタチンカルシウム塩の保存方法 出願日 平成23年11月29日(特願2011-260984) 分割の表示 特願2006-520594の分割 原出願日 平成16年12月17日 優先日 平成15年12月26日(特願2003-431788。本件優 先日) 優先権主張国 日本 登録日 平成25年5月17日 イ 本件特許権2に係る特許(以下「本件特許2」といい,本件特許1と併せて「本件各特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1(以下「本件発明2」といい,本件発明1と併せて「本件各発明」という。)の記載は,本件特許2に係る明細書(甲2の2。以下「本件明細書2」といい,本件明細書1と併せて「本件各明細書」という。)に記載された次のとおりのものである。 CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°,13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°,27.00°及び30.16°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ7重量%〜13重量%の水分を含む,式(1)で表されるピタバスタチンカルシウム塩の結晶(但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)を,その含有水分が4重量%より多く,15重量%以下の量に維持することを特徴とするピタバスタチンカルシウム塩の保存方法。 ウ 構成要件の分説 本件発明2を構成要件に分説すると,以下のとおりである(本件発明1と本件発明2において同一の符号を付された各構成要件は,厳密には記載が一致しないものも含まれるが,内容的には同一であることから,以下,各発明を区別することなく,それぞれの構成要件を「構成要件A」などという。)。 C’ CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°,13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°,27.00°及び30.16°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ B 7重量%〜13重量%の水分を含む, A 式(1)で表される D ピタバスタチンカルシウム塩の結晶 E (但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)を, H その含有水分が4重量%より多く,15重量%以下の量に維持することを特徴とする I ピタバスタチンカルシウム塩の保存方法。 エ 訂正請求 控訴人は,本件特許2につき訴外株式会社陽進堂が請求した特許無効審判の手続において,平成27年6月1日付けで訂正請求(甲89。以下「本件訂正請求2」という。)をした。本件訂正請求2に係る訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を構成要件に分説すると,以下のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。 C’ CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°,13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°,27.00°及び30.16°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ B 7重量%〜13重量%の水分を含み,該水分量において医薬品の原薬として安定性を保持することを特徴とする, A 式(1)で表される D ピタバスタチンカルシウム塩の結晶 E (但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)を, H その含有水分が7重量%〜13重量%に維持することを特徴とするI ピタバスタチンカルシウム塩の保存方法。 (4) 被控訴人らの行為ア 被控訴人相模化成工業は,被控訴人原薬を製造販売している。被控訴人原薬はピタバスタチンカルシウム塩を含有しており,被控訴人製剤は,いずれも被控訴人原薬を使用して製造されている(弁論の全趣旨)。 イ 被控訴人日医工は,原判決別紙物件目録2記載の製剤を,被控訴人壽製薬は,別紙製剤目録記載の製剤を,それぞれ製造販売している(甲11,15,29,70,92,弁論の全趣旨)。 (5) 控訴人による回折角測定控訴人は,別紙製剤目録(2)記載の製剤(ピタバスタチンカルシウム錠2mg「KO」。以下「KO錠」という。)の結晶形態の回折角パターンを測定するため,次の測定を行った。 ア 控訴人測定ア控訴人は,平成25年11月11日,公益財団法人高輝度光科学研究センターのSPring-8の産業利用ビームラインBL19B2を使用して,シンクロトロン放射光(波長0.75Å)により,KO錠の結晶形態の分析を行った(甲5)。 イ 控訴人測定イ控訴人は,平成25年11月19日,公益財団法人科学技術交流財団のあいちシンクロトロン光センターのAichiSRのビームラインBL5S2を使用して,シンクロトロン放射光(波長0.75Å)により,KO錠の結晶形態の分析を行った(甲5)。 ウ 控訴人測定ウ控訴人は,平成26年3月4日,粉末X線回折測定装置を使用して,CuKα放射線(波長1.54Å)によりKO錠の結晶形態の分析を行った(甲25)。 エ 控訴人測定エ控訴人は,平成26年4月24日,前記イのAichiSRのビームラインBL5S2を使用して,シンクロトロン放射光(波長0.75Å)により,KO錠の結晶形態の分析を行った(甲25)。 オ 控訴人測定オ控訴人は,平成26年10月14日,前記アの産業利用ビームラインBL19B2を使用して,シンクロトロン放射光(波長0.75Å)により,KO錠からの回収残渣の結晶形態の分析を行った。その方法は,ピタバスタチンカルシウム塩の飽和水溶液にKO錠を粉末化して溶解し,溶けずに残った残渣を回収して分析の試料とするものである。なお,被控訴人原薬を特定する原判決別紙物件目録1記載の回折角の数値は,この測定結果によるものである(甲63)。 4 争点(1) 充足論(本件各発明の構成要件充足性)(2) 本件特許1の無効論(3) 本件特許2の無効論 |
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争点に関する当事者の主張
後記1のとおり原判決を訂正し,後記2のとおり,当審における当事者の主張を補充するほかは,原判決「事実及び理由」の第3記載のとおりであるから,これを引用する。 1 原判決の訂正(1) 原判決13頁11行目の「25%となった」の後に 〔甲53〕 を加える。 「 」(2) 原判決16頁20行目の「10.3%」を「10.6%」と改める。 (3) 原判決17頁12行目の「乙3広報」を「乙3公報」と改める。 (4) 原判決17頁20行目から21行目の「特許法29条1項又は2項」を「特許法29条1項3号又は同条2項」と改める。 (5) 原判決19頁3行目から4行目の「(結晶形態A)」を「(結晶性形態A)」と改める。 (6) 原判決23頁8行目及び同頁11行目の「X線粉末回折」をそれぞれ「X線粉末解析」と改める。 2 当審における当事者の主張(1) 本件特許1の無効論について〔被控訴人らの主張〕ア 原判決における判断は正当であって,誤りはない。 イ 本件特許1は,訴外沢井製薬株式会社が請求した特許無効審判請求事件(無効2013-800211)において,無効にすべき旨の平成27年3月27日付け審決(乙19)がされた。上記審決における判断は正当であって,本件特許1は無効にされるべきものである。 〔控訴人の主張〕ア 原判決における判断について(ア) 原判決は,本件発明1-1は,乙3公報に記載されているに等しい事項というべきであるから,特許法29条1項3号により,特許を受けることができないものであり,本件発明1-2は,乙3公報に基づき容易に発明をすることができたものであるから,同条2項により,特許を受けることができない旨判断した。 しかし,被控訴人らが,乙3公報の【0136】に記載された実験の追試実験であるとする乙6報告書における追試実験(乙6追試)は,本件発明1-1の結晶形態Aが乙3公報に記載されているに等しい事項であるとする根拠とはなり得ない。 すなわち,乙3公報には,乙6追試の実験条件が開示されておらず,乙6追試における実験条件(析出条件,乾燥条件)は,当業者が試行錯誤しなければ到達できないものであり,乙3公報の記載から自明ということができるものではない。 したがって,原判決の上記判断は,いずれも誤りである。 (イ) 原判決は,本件訂正請求1における構成要件D’に係る補正(「粉砕された」を挿入する補正)は,新規事項を導入するものであって,特許法134条の2第9項の準用する同法126条5項の要件を満たさない旨判断した。 しかし,本件明細書2の記載及び当業者の原薬に関する技術常識に基づけば,本件明細書2には,ピタバスタチンカルシウムの結晶が粉砕されて原薬として使用されること,その粉砕された結晶が構成要件Cを充足する結晶形態Aであることが記載されているに等しいものであるということができる。 したがって,上記補正は,新規事項を導入するものではなく,補正の要件を満たすものである。 (ウ) 原判決は,仮に,本件訂正請求1における補正が認められるとしても,前記(ア)の無効理由は解消されない旨判断した。 しかし,仮に乙3公報の追試実験により結晶形態Aが得られたとしても,実際に安定性試験を行うことなしに,得られた結晶形態Aから,本件訂正請求1による訂正後の構成要件Xを容易に想到することはできない。 また,そもそも,乙6追試は,乙3公報の適切な追試実験であるということはできないから,乙9の安定性試験も,乙3公報の適切な追試実験により得られた結晶についての安定性試験であるということはできない。 イ 平成27年3月27日付けでされた審決(乙19)における認定判断も誤りである(甲88)。 (2) 本件特許2の無効論について〔被控訴人らの主張〕 ア 原判決における判断は正当であって,誤りはない。 イ 本件特許2は,訴外株式会社陽進堂が請求した特許無効審判請求事件(無効2014-800099)において,無効にすべき旨の平成27年3月27日付け審決の予告(乙20)がされた。上記審決の予告における判断は正当であって,本件特許2は無効にされるべきものである。 ウ 訂正の対抗主張について 本件訂正請求2に係る訂正は不適法であり,仮に訂正が認められたとしても,当該訂正によっては,被控訴人らの主張する無効理由は解消しない。 〔控訴人の主張〕ア 原判決における判断について(ア) 原判決は,本件発明2は,乙3公報に基づき容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により,特許を受けることができない旨判断した。 しかし,乙6追試は,本件発明2の結晶形態Aが乙3公報に記載されているに等しい事項であるとする根拠とはなり得ない。 さらに,化合物の保存を密栓したビンなどの容器中の気密条件下で行うという技術常識は存在しない。 したがって,原判決の上記判断は,誤りである。 (イ) 原判決は,本件特許2の出願経過においてされた,本件発明2の特許請求の範囲の請求項1について,構成要件Cの相対強度の発明特定事項を削除した補正が,新たな技術的事項を導入するものであって,特許法17条の2第3項の補正要件に違反するものである旨判断した。 しかし,原判決の上記判断は,医薬品の原薬の安定性に関する当業者の技術常識を無視した判断であって,誤りである。 構成要件Cの相対強度の発明特定事項を削除した補正は,新規事項を導入するものではないから,本件特許2には,補正要件違反も分割要件違反も存在しない。 イ 平成27年3月27日付けでされた審決の予告(乙20)において予告された無効理由は成り立たないものであるから,被控訴人らの主張は,理由がない(甲90)。 ウ 訂正の対抗主張本件訂正請求2は適法であり,本件訂正請求2により,審決の予告において予告された無効理由が解消することに加え,被控訴人製品の保存方法は,本件訂正請求2による訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明の技術的範囲に属する。 |
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当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人の本訴請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は以下のとおりである。 1 争点(1)(充足論)について 事案に鑑み,まず,争点(1)(構成要件C・C’の回折角の充足性)について判断する。 (1) 本件各明細書の記載 ア 本件発明1に係る特許請求の範囲(請求項1及び2)は,前記第2の3(2)イ記載のとおりであるところ,本件明細書1(甲2の1)の発明の詳細な説明には,おおむね,次の記載がある(下記記載中に引用する図表については,別紙本件明細書1図表目録を参照。)。 (ア) 技術分野 【0001】本発明は,HMG-CoA還元酵素阻害剤として高脂血症の治療に有用な,化学名Monocalcium bis[(3R,5S,6E)-7-(2-cyclopropyl-4-(4-fluorophenyl)-3-quinolyl)-3,5-dihydroxy-6-heptenoate]によって知られている結晶性形態のピタバスタチンカルシウム塩及びこの該化合物と医薬的に許容し得る担体を含有する医薬組成物に関するものである。 【0002】詳細には,5〜15%(W/W)の水分を含有することを特徴とし,安定性などの面から医薬品原薬として有用な結晶性形態のピタバスタチンカルシウム塩及びそれを含む医薬組成物に関する。 (イ) 背景技術 【0003】ピタバスタチンカルシウム…は抗高脂血症治療薬として上市されており,その製造法としては,光学活性α-メチルベンルアミンを用いて光学分割する製造法…が既に報告されている。 (ウ) 発明が解決しようとする課題 【0008】医薬品の原薬としては,高品質及び保存上から安定な結晶性形態を有することが望ましく,さらに大規模な製造にも耐えられることが要求される。ところが,従来のピタバスタチンカルシウムの製造法においては,水分値や結晶形に関する記載が全くない。本発明のピタバスタチンカルシウム塩の結晶(以下,結晶性形態Aともいう。 に, ) 一般的に行なわれるような乾燥を実施すると,乾燥前は,図1で示すような粉末X線回折図示したものが,水分が4%以下になったところで図2に示すようにアモルファスに近い状態まで結晶性が低下することが判明した。 さらに,アモルファス化したピタバスタチンカルシウムは表1に示す如く,保存中の安定性が極めて悪くなることも明らかとなった。 【0009】【表1】(別紙本件明細書1図表目録1記載のとおり) 本発明が解決しようとする課題は,特別な貯蔵条件でなくとも安定なピタバスタチンカルシウムの結晶性原薬を提供することであり,さらに工業的大量製造を可能にすることである。 (エ) 課題を解決するための手段 【0010】本発明者らは,水分と原薬安定性の相関について鋭意検討を行なった結果,原薬に含まれる水分量を特定の範囲にコントロールすることで,ピタバスタチンカルシウムの安定性が格段に向上することを見出した。さらに,水分が同等で結晶形が異なる形態を3種類見出し,その中で,CuKα放射線を使用して測定した粉末X線回折図によって特徴づけられる結晶(結晶性形態A)が,最も医薬品の原薬として好ましいことを見出し,本発明を完成させた。 【0011】即ち,本発明は,下記の要旨を有するものである。 【0012】1.式(1)で表される化合物であり,7〜13%の水分を含み,CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において, 96°, 72°, 4. 6.9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ,30.16°の回折角(2θ)に,20.68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の相対強度が25%より大きなピークを有することを特徴とするピタバスタチンカルシウム塩の結晶(但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)。 【0013】2.上記1に記載のピタバスタチンカルシウム塩の結晶を含有することを特徴とする医薬組成物。 【0014】結晶形態A以外の2種類を結晶形態B及び結晶形態Cと略記するが,これらはいずれも結晶形態Aに特徴的な回折角10.40°,13.20°及び30.16°のピークが存在しないことから,結晶多形であることが明らかにされる。 これらは,ろ過性が悪く,厳密な乾燥条件が必要であり(乾燥中の結晶形転移),NaClなどの無機物が混入する危険性を有し,更に結晶形制御の再現性が必ずしも得られないことが明らかであった。したがって,工業的製造法の観点からは欠点が多く,医薬品の原薬としては結晶形態Aが最も優れている。 (オ) 発明を実施するための最良の形態 【0016】結晶性形態Aのピタバスタチンカルシウムは,その粉末X線回折パターンによって特徴付けることができる。 (別紙本件明細書1図表目録2記載のとおり)装置 粉末X線回折測定装置:MXLabo(マックサイエンス製) 線源:Cu,波長:1.54056A,ゴニオメータ:縦型ゴニオメータ モノクロメータ:使用,補助装置:なし,管電圧:50.0Kv,管電流:30. 0mA測定方法: 測定前に,シリコン(標準物質)を用いてX-線管アラインメントを検査する。 試料約100mgをガラス試料板にのせ平坦にした後,以下の条件にて測定する。 データ範囲:3.0400〜40.0000deg,データ点数:925 スキャン軸:2θ/θ,θ軸角度:設定なし サンプリング間隔:0.0400deg,スキャン速度:4.800deg/ min本発明のピタバスタチンカルシウム塩の結晶は結晶性形態Aに制御するため,以下の製造法で製造される。 【0017】【化6】【0018】原料は式(2)に示すピタバスタチンのアルカリ金属塩であり,アルカリ金属としてはリチウム,ナトリウム,カリウム等を挙げることができ,ナトリウムが好ましい。カルシウム化合物としては塩化カルシウム,酢酸カルシウムなどが好ましく,使用量は式(2)の化合物に対して0.3倍モル〜3倍モル,好ましくは0.5〜2倍モルの範囲である。 【0019】式(2)のピタバスタチンのアルカリ金属塩は必ずしも単離される必要はなく,例えば式(3)の化合物などを加水分解する反応に連続してCa塩を製造することもできる。 【0020】【化7】【0021】使用する溶媒としては,水又は60%以上の水を含んだC1-4アルコールが好ましい。C1-4アルコールとしては,メチルアルコール,エチルアルコール,n-プロピルアルコール,イソプロピルアルコール,n-ブチルアルコール,イソブチルアルコール,sec-ブチルアルコール及びtert-ブチルアルコール等を挙げることができる。 【0022】溶媒の使用量は,式(2)で表される化合物の使用量に対して,5〜30質量倍の範囲である。晶析温度は特に限定されないが,-10〜70℃の範囲であり,好ましくは-5〜40℃の範囲であり,更に好ましくは0〜20℃の範囲である。晶析時間は特に限定されないが,30分〜15時間程度行えば十分である。結晶を析出させる際の方法としては,静置で行う方法,攪拌下で行う方法等が挙げられるが,攪拌下で行うのが好ましい。また,必要に応じて結晶形態Aの種晶を使用してもよい。 【0023】析出した結晶を濾過し,乾燥するが,水分の調整が本発明において極めて重要である。乾燥温度は特に限定されないが,好ましくは15〜40℃の範囲である。水分値は,最終的に7〜13%(W/W)の範囲になるよう調整されるが,好ましくは9〜13%(W/W)の範囲である。得られたピタバスタチンカルシウムは粉砕された後,医薬品用の原薬として使用される。 (カ) 実施例 【0029】次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが,本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。… 【0031】【化8】 【0032】2.71kg(6.03mol)の化合物(5)を,50kgのエタノールに攪拌しながら溶解し,均一溶液であることを確認した上で,58.5kgの水を加えた。-3〜3℃に冷却した後,2mol/リットル(L)水酸化ナトリウム水溶液の3.37Lを滴下した後,続けて同温度で3時間攪拌し,加水分解反応を完結させた。全量の水酸化ナトリウム水溶液を反応系に送り込むため,4.70kgの水を使用した。 【0033】反応混合物を減圧下に蒸留して溶媒を留去し,52.2kgのエタノール/水を除去後,内温を10〜20℃に調整した。得られた濃縮液中に,別途調製しておいた塩化カルシウム水溶液(95%CaCl2 775g/水39.3kg,6.63mol)を2時間かけて滴下した。全量の塩化カルシウム水溶液を反応系に送り込むため,4.70kgの水を使用した。滴下終了後,同温度で12時間攪拌を継続し,析出した結晶を濾取した。結晶を72.3kgの水で洗浄後,乾燥器内で減圧下40℃にて,品温に注意しながら,水分値が10%になるまで乾燥することにより,2.80kg(収率95%)のピタバスタチンカルシウムを白色の結晶として得た。粉末X線回折を測定して,この結晶が結晶形態Aであることを確認した。 (キ) 産業上の利用可能性 【0034】本発明により,安定性に優れたピタバスタチンカルシウム結晶性原薬の工業的な製造法が確立された。 (ク) 図面の簡単な説明 【0035】【図1】水分値が8.78%である結晶性形態Aの粉末X線回折図である。【図2】図1で使用した結晶を乾燥し,水分値を3.76%とした際の粉末X線回折図である。 イ 本件発明2に係る特許請求の範囲(請求項1)は,前記第2の3(3)イ記載のとおりである。本件明細書2(甲2の2)の発明の詳細な説明には,おおむね,次の記載がある(ただし,その記載の多くは,その原出願に係る本件明細書1の記載と共通するため,上記アで摘記した記載と重複しない範囲で摘記する。)。 【0001】本発明は,HMG-CoA還元酵素阻害剤として高脂血症の治療に有用な,化学名Monocalcium bis[(3R,5S,6E)-7-(2-cyclopropyl-4-(4-fluorophenyl)-3-quinolyl)-3,5-dihydroxy-6-heptenoate]によって知られている結晶性形態のピタバスタチンカルシウム塩を特別な貯蔵条件でなくとも長期間にわたって安定して保存する方法に関するものである。 【0008】医薬品の原薬としては,高品質及び保存上から安定な結晶性形態を有することが望ましく,さらに大規模な製造にも耐えられることが要求される。ところが,従来のピタバスタチンカルシウムの製造法においては,水分値や結晶形に関する記載が全くない。本発明が解決しようとする課題は,特別な貯蔵条件でなくとも,ピタバスタチンカルシウムの結晶性原薬を安定的に保存する方法を提供することにある。 【0009】本発明者らは,水分と原薬安定性の相関について鋭意検討を行なった結果,原薬に含まれる水分量を特定の範囲にコントロールすることで,ピタバスタチンカルシウムの安定性が格段に向上することを見出した。さらに,水分が同等で結晶形が異なる形態を3種類見出し,その中で,CuKα放射線を使用して測定した粉末X線回折図によって特徴づけられる結晶(結晶性形態A)が,最も医薬品の原薬として好ましいことを見出し,この結晶性原薬を安定的に保存する方法として,本発明を完成させた。 【0010】即ち,本発明は,下記の要旨を有するものである。 【0011】CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°,13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°,27.00°及び30.16°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ7重量%〜13重量%の水分を含む,式(1)で表されるピタバスタチンカルシウム塩(但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)を,その含有水分が4重量%より多く,…15重量%以下の量に維持することを特徴とするピタバスタチンカルシウム塩の保存方法。 【0025】析出した結晶を濾過し,乾燥するが,水分の調整が本発明において極めて重要である。乾燥温度は特に限定されないが,好ましくは15〜40℃の範囲である。水分値は,最終的に5〜15%(W/W)の範囲になるよう調整されるが,好ましくは7〜15%(W/W),より好ましくは7〜13%(W/W),最も好ましくは9〜13%(W/W)の範囲である。得られたピタバスタチンカルシウムは粉砕された後,医薬品用の原薬として使用される。 【0037】本発明により,ピタバスタチンカルシウム塩を特別な貯蔵条件でなくとも長期間にわたって安定して保存する方法が提供される。 (2) ピタバスタチンカルシウム塩の結晶形態 ア ピタバスタチンは,式(1)の構造式を有する化合物であり,医薬品としては,カルシウム塩として用いられる。 ピタバスタチンカルシウム塩は,HMG-CoA還元酵素阻害剤として高脂血症の治療に有用である(甲2,弁論の全趣旨)。 イ 結晶多形とは,化合物は同じで,構造が異なる複数の結晶構造として結晶化する現象又はその結晶群をいう。多形により異なる最も典型的な物性は,密度,融点,溶解度,結晶形態などである。結晶の中で分子が取り得る分子の配列(空間群)は,規則的に配列するという制約から230種であることが証明されている。光学活性体であると,その数は65種と少なくなり,実際に頻繁に経験するという観点からは10種程度である(甲34)。 ウ ピタバスタチンカルシウム塩の結晶形態(本件において「結晶形」,「結晶多形」ともいう。なお,本件各明細書中では,「結晶性形態」と記載されることもある。)にも様々なものがあり,本件明細書1に記載された結晶形態AないしC,チバ特許明細書に記載された結晶形態AないしF以外にも存在し得る(甲2,9,弁論の全趣旨)。 本件明細書1に記載された結晶形態B及びCは,結晶形態Aとは水分が同等で結晶形態が異なる形態であり,いずれも結晶形態Aに特徴的な回折角10.40°,13.20°及び30.16°のピークが存在しない。 甲9に係る当初明細書(以下「チバ特許明細書」という。)に記載された結晶形態Aは,本件各発明の構成要件C・C’の15本のピークの回折角の数値と「±0.2°以内」で全て一致する。 エ なお,控訴人が後記(3)のとおり,本件特許1の出願経過で提出した意見書(乙4の6の1)においては,拒絶理由通知で指摘された引用文献1,3に記載されたピタバスタチンカルシウム塩に対する新規性等を主張するについて,原料化合物のナトリウム塩の溶液にカルシウム化合物溶液を添加して,カルシウム塩を生成させると同時に難溶性のカルシウム塩の結晶を析出させるという原理的,基本的な製造方法が同じであっても,「製造されるピタバスタチンカルシウム塩の結晶形態や結晶状態は,上記の原理的な製造方法における具体的な条件によって大きく左右されます。すなわち,製造されるピタバスタチンカルシウム塩の結晶形態は原理的な製造方法は同じであっても,反応・結晶析出させる溶媒の種類,原料(カルシウム化合物)の添加方法(手段,温度,時間),熟成条件(手段,温度,時間),生成結晶の乾燥条件(温度,圧力,時間)などによって大きく影響されます。」と説明している。 (3) 本件各特許の出願経過 ア 証拠(甲9,乙4)及び弁論の全趣旨によれば,本件特許1の出願経過は次のとおりであると認められる。 (ア) 本件特許1の出願当初の特許請求の範囲の請求項1の記載は,「式(1)で表される化合物であり,5〜15%の水分を含み,CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,30.16°の回折角(2θ)に,相対強度が25%より大きなピークを有することを特徴とする結晶(結晶性形態A)。」であった。 (イ) 本件特許1に係る出願(特願2006-520594号)に対し,平成23年8月24日付けで,出願に係る発明は,@引用文献1(特開平5-148237号),A引用出願2(特願2006-501997号(特表2006-518354号)。チバ特許明細書),B引用文献3(国際公開03/64392号。乙3公報)により,特許法29条1項,2項(引用文献1,3),同法29条の2(引用出願2)に違反する旨の拒絶理由通知がされた。なお,上記拒絶理由通知において,「1点のみのピーク強度(2θが30.16°)でしか特定されず,他のピークの特定がないので,引用文献1,3と本願発明の結晶が区別されているとは認められない」などと指摘された。 (ウ) 控訴人は,上記拒絶理由通知を受けて,平成23年11月29日付けの手続補正書で,特許請求の範囲の請求項1に「4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°の回折角(2θ)にピークを有し,」を挿入する補正(構成要件Cの回折角の数値を挿入する補正)を行った。控訴人は,上記手続補正書と同時に提出した意見書(乙4の6の1)において,「補正後の本願請求項1に係る発明では,X線粉末解析において相対強度が25%より大きい,回折角(2θ)が30.16°のピークに加えて,回折角(2θ)が4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°,13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°のピークをもって,本願発明の結晶を特定しましたので,もはや,1点のみのピークにより特定しているとの認定には該当しないものであります。」,「この補正は,特許請求の範囲の限定的減縮に相当することから許容されるものと思量します。」などと主張した。 他方で,上記意見書中には,本願に係る回折角の数値について一定の誤差が許容されることや15本中の一部のピークのみの対比によって発明が特定されることをうかがわせる記載は存しない。 イ 証拠(乙5)及び弁論の全趣旨によれば,本件特許2の出願経過は次のとおりであると認められる。 (ア) 控訴人は,本件特許1の特許請求の範囲の請求項1に構成要件Cの回折角の数値を挿入する前記ア(ウ)の補正を行ったのと同日である平成23年11月29日,本件特許1に係る出願を原出願とする分割出願(請求項数4)を行った。 本件特許2の出願当初の特許請求の範囲の請求項1の記載は,「式(1)で表されるピタバスタチンカルシウム塩の保存方法であり,7〜15%の水分を含み,CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°,13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ,30.16°の回折角(2θ)に,20.68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の相対強度が25%より大きなピークを有する結晶形態にて保存する方法。 であり, 」請求項2ないし4は,いずれも請求項1を引用する請求項であった。 (イ) 控訴人は,平成24年9月27日付け手続補正書により,特許請求の範囲の全文について補正を行った(請求項数13)。 上記補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,「CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,10.40°,13.20°及び30.16°の回折角(2θ)にピークを有する式(1)で表されるピタバスタチンカルシウム塩を,その含有水分が4重量%より多い量に維持することを特徴とするピタバスタチンカルシウム塩の保存方法。」というものであり(なお,請求項2ないし11は,いずれも請求項1を引用するものであるか,請求項1を引用する請求項を引用するものである。),請求項12の記載は,「ピタバスタチンカルシウム塩が,CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°,13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°,27.00°及び30.16°の回折角(2θ)にピークを有することを特徴とする,請求項1〜11の何れか1項に記載の保存方法。」というものであった。 (ウ) 本件特許2に係る出願(特願2011-260984号)に対し,平成24年10月24日付けで,出願に係る発明は,平成24年9月27日付け手続補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから,特許法17条の2第3項に違反する旨の拒絶理由通知がされた。 (エ) その後,控訴人は,平成24年11月28日付け手続補正書による補正を行ったが,本件特許2に係る出願に対し,平成25年1月25日付けで,出願に係る発明は,@引用文献1(国際公開03/64392号。乙3公報),A引用文献2(特開平5-148237号),B引用文献3(特願2006-501997号(特表2006-518354号) チバ特許明細書) 。 により,特許法29条1項,2項(引用文献1,2),同法29条の2(引用文献3)に違反する旨等の理由により拒絶理由通知がされた。 (オ) 控訴人は,上記拒絶理由通知を受けて,平成25年3月8日付けの手続補正書により,特許請求の範囲の請求項1の「10.40°,13.20°及び30.16°の回折角(2θ)にピークを有する」を「4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°,13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°,27.00°及び30.16°の回折角(2θ)にピークを有し」に補正するとともに,補正前の請求項5ないし10,12及び13を削除する等の補正を行った。控訴人は,上記手続補正書と同時に提出した意見書(乙5の6の1)において,上記請求項1の補正について「この補正は,補正前の請求項12に記載されていた要件であるX線粉末解析における15本のピーク位置を挿入するものであり,特許請求の範囲の限定的減縮に相当することから許容されるものと思量します。」などと主張した。 他方で,上記意見書中には,本願に係る回折角の数値について一定の誤差が許容されることや15本中の一部のピークのみの対比によって発明が特定されることをうかがわせる記載は存しない。 (4) 構成要件C・C’の回折角の意義 ア 特許請求の範囲の記載 本件各発明の構成要件C・C’においては,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°の回折角(2θ)にピークを有することをもって規定されており,ピタバスタチンカルシウム塩の結晶が15本のピークの小数点以下2桁の回折角(2θ)を有することにより特定されている。 他方,本件発明1-1に係る特許請求の範囲(請求項1)及び本件発明2に係る特許請求の範囲(請求項1)には,上記回折角の数値に一定の誤差が許容される旨の記載や,上記15本のピークのうちの一部のみの対比によって特定される旨の記載はない。 イ 本件各明細書の発明の詳細な説明の記載 本件各明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,本件各発明は,HMG-CoA還元酵素阻害剤として高脂血症の治療に有用な,結晶形態のピタバスタチンカルシウム塩及びそれを含む医薬組成物に関し, 特別な貯蔵条件でなくとも安定なピタバスタチンカルシウムの結晶性原薬を提供すること,同原薬を安定的に保存する方法を提供することを課題とし,ピタバスタチンカルシウムの結晶性原薬に含まれる水分量を特定の範囲にコントロールすることでその安定性が格段に向上すること及び結晶形態AないしCの中で結晶形態Aが医薬品の原薬として最も好ましいことを見いだしたというものである(本件明細書1【0008】〜【0010】,本件明細書2【0008】,【0009】)。 そして,結晶形態AないしCの3種類の結晶形態は,水分が同等で結晶形態が異なる形態であり,このうち結晶形態Aは,「CuKα放射線を使用して測定した粉末X線回折図によって特徴づけられる結晶(結晶性形態A)」であること(本件明細書1【0010】,本件明細書2【0009】),結晶形態B及びCは,「いずれも結晶形態Aに特徴的な回折角10.40°,13.20°及び30.16°のピークが存在しないことから,結晶多形であることが明らかにされる。」(本件明細書1【0014】,本件明細書2【0015】)と記載されているように,CuKα放射線を使用して測定した粉末X線回折図において,結晶形態Aに存在する3本のピークの回折角が存在しないことによって,結晶形態Aと区別されるものであることが記載されている。 他方で,本件各明細書中には,結晶形態Aが「CuKα放射線を使用して測定した粉末X線回折図によって特徴づけられる結晶(結晶性形態A)」であること,この粉末X線回折パターンとして,別紙本件明細書1図表目録2記載のとおりの数値の記載(本件明細書1【0016】,本件明細書2【0017】),同目録3記載の【図1】(水分値が8.78%である結晶形態Aの粉末X線回折図)の記載があるのみで,結晶形態Aについてそれ以上の特定はされておらず,小数点以下2桁の数値で表される15本のピーク中3本が相違することで結晶形態Aと区別される,結晶形態B及びCに関しては,回折角(2θ)の数値,相対強度や粉末X線回折図を含めその粉末X線回折パターンについての開示は一切ない。また,本件各明細書中には,結晶形態Aに係る回折角について,その数値に一定範囲の誤差が許容されることや15本のピークのうちの一部のみによって結晶形態Aを特定することができることをうかがわせる記載は存しない。 ウ 以上によれば,特許請求の範囲の記載に加え,本件各明細書の記載を参酌したとしても,本件各発明の構成要件C・C’を充足するためには,15本のピーク全ての回折角の数値がその数値どおり一致することを要し,その全部又は一部が一致しないピタバスタチンカルシウム塩の結晶又はその保存方法は,本件各発明の技術的範囲に属するということができないものと解するのが相当である。 エ 控訴人の主張について(ア) 控訴人は,本件各発明の対象たる物は,ピタバスタチンカルシウムに複数存在する結晶形態の中の結晶形態Aであるところ,当業者は,技術常識に基づき,本件各発明の対象である結晶形態Aと同一の結晶形態か否かを,構成要件C・C’に規定された回折角の数値と「±0.2°以内」において一致し,かつ,粉末X線回折図の全体的なパターンとして同一性が認められるか否かにより認定するものであるから,構成要件C・C’の回折角を充足するには,測定対象試料から測定されたピークの回折角が,構成要件C・C’に規定された回折角の全てのピークの数値と小数点以下2桁まで一致することを要するものではない旨主張する。 しかし,本件各発明の特許請求の範囲は,前記第2の3(2)イ及び(3)イ記載のとおりであって,「結晶形態A」という記載は一切ない。特許発明の技術的範囲は,明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないのであり(特許法70条),特許請求の範囲に何ら記載のない「結晶形態A」という概念をもって本件各発明の技術的範囲の属否を判断すべきであるとする控訴人の主張は,失当である。 (イ) 控訴人は,「第十六改正日本薬局方」(甲20。以下「16局」という。)の記載から,本件優先日当時,粉末X線回折法においては,ピークの同一性は,±0.2°以内であれば同一と判断し得るというのが,当業者の技術常識であったから,本件各発明の構成要件C・C’に規定された回折角の2θ値の数値も,当業者の上記技術常識を踏まえて解釈されるべきである旨主張する。 a しかし,16局は,厚生労働大臣が医薬品の性状及び品質の適正を図るため,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律41条(平成25年法律第84号による改正前の薬事法41条も同趣旨)に基づき定める医薬品の規格基準書であり,その前書きには「…わが国の医薬品の品質を確保するために必要な公的基準を示すものであり,医薬品全般の品質を総合的に保証するための規格及び試験法の標準を示すとともに医療上重要とされた医薬品の品質等に係る判断基準を明確にする役割を有する」と記載されているように,医薬品の「品質」に関する規格,判断基準及びその試験法を定めたものである。したがって,控訴人が指摘する16局の「2.58 粉末X線回折測定法」は,医薬品の品質に関する試験法を示したものであり,そこに示された「同一結晶形の試料と基準となる物質との間の2θ回折角は,0.2°以内で一致する」との判断基準も,医薬品の品質に関する判断基準を示したものというべきである。 また,「第十三改正日本薬局方」(甲50。以下「13局」という。)に示された判断基準も,16局と同様に,医薬品の品質に関する判断基準を示したものというべきである。 そして,「JPTI日本薬局方技術情報2011」(甲21)は,16局について説明した文献であるから,甲21における判断基準も,医薬品の品質に関するものであるといえる。 そうすると,16局や13局,甲21に記載された許容誤差が「±0.2°以内」との判断基準は,医薬品の品質に関する判断基準であって,粉末X線回折測定による回折角の数値一般について妥当するものと解することはできないし,特許発明の技術的範囲を確定する場面において妥当するものということもできない。 b さらに,16局には「粉末X線回折による未知試料中の各相の同定は,通例,基準となる物質について実験的に又は計算により求められる回折パターンと,試料による回折パターンとの視覚的あるいはコンピューターによる比較に基づいて行われる。標準パターンは,理想的には特性が明確な単一相であることが確認された試料について測定されたものでなければならない。…コンピューターを用いた未知試料回折パターンと標準データとを比較する場合,…データベースに収載されている単一相試料の(d,Inorm)と比較対照することができる。CuKα線を用いた多くの有機結晶の測定では,できるだけ0°付近から少なくとも40°までの2θの範囲で回折パターンを記録するのが,通例,適切である。同一結晶形の試料と基準となる物質との間の2θ回折角は,0.2°以内で一致する。…」(甲20)と記載されている。また,「JPTI日本薬局方技術情報2011」には,「1)同定及び判定 標準品(例えば,日本薬局方標準品)が入手可能であれば,同一の装置を用いて同1条件下で測定,比較することが望ましい。…理論上,同一化合物の同一結晶形は,同一回折角度に同様の相対強度のピークを示す。ただし,回折角度は,装置の測定バラツキ,試料の充てんのバラツキ(試料面高さのバラツキ)の影響を受けることから,結晶形同定の規定として,回折角2θ値は±0.2°以内で一致と定められている。一方,回折強度に関しては,装置のバラツキに加え,試料の配向の影響を受ける。先に述べたが,配向した試料の相対強度は大きくバラツキ,バラツキの程度も試料及び配向の程度により異なる。試料の無配向化が不可能な試料もあり,ピーク強度を規定化することは不適切な場合もある。また,標準データとして,The International Center for Diffraction Data(ICDD)に登録されている回折データを用いることができる。ICDDには6万種以上の化合物のデータが審査の上,登録されている。 ただし,本データ中には,配向の影響を受けているものもあるので同定の際には注意が必要である。…通例,結晶形の同定及び判定では,結晶形に特徴的な複数のピークを選択し上記規定により行うが,本質的にはX線回折の全体的なパターンの一致が重要である。異なる結晶多形又は溶媒和結晶間のX線回折パターンの差は非常に小さいことがあるので,その判定は注意深く行わなければならない。特に結晶多形又は溶媒和結晶の少量の混入の確認及び気相の水分と平衡関係にある結晶水を持つ水和結晶の取扱いは注意が必要であり,その可能性が考えられた場合,単結晶X線解析,熱分析,微小熱量計,固体NMRなどを併用して詳細に検討することが望ましい。」(甲21)と記載されている。 これらの記載に照らせば,16局にいう「基準となる物質」は,甲21にいう,例えば日本薬局方標準品のようなものを意味するものと解されるところ,16局には「標準品は,日本薬局方に規定された試験に用いるために一定の品質に調製されたものである。」ことが記載され,それに続いて種々の標準品が列挙されている。 しかし,上記のとおり16局に列挙された標準品のうちには,ピタバスタチンカルシウム塩は含まれていないところ,本件各明細書の記載から,結晶形態Aがこれら標準品と同等の品質に調製されたものであるということはできない。 そうすると,上記観点からも,16局や甲21に記載された許容誤差が「±0.2°以内」との判断基準が,粉末X線回折測定による回折角の数値一般について妥当するものと解することはできない。 c さらに,ピタバスタチンカルシウム塩の結晶形態には,前記(2)のとおり,本件明細書1の結晶形態AないしC及びチバ特許明細書の結晶形態AないしF以外にも未知の結晶形態が存在し得るところ,粉末X線回折測定の回折角の数値により結晶形態を特定した結晶多形に係る特許出願には,その特許請求の範囲に,特定の数値のみを記載してその許容誤差の範囲を記載していないものも,許容誤差の範囲を記載しているものも存在し,後者において記載された許容誤差の範囲も±0.2°に限られず,様々である(弁論の全趣旨)。 上記事実に照らせば,本件優先日当時,粉末X線回折測定による回折角の数値であれば,特段の言及なくして「±0.2°以内」という許容誤差が当然に認められるというのが当業者の技術常識であったと認めることはできない。 粉末X線回折測定では,測定に用いる機器の測定誤差や測定試料の状態により,同じ結晶を測定した場合であっても,常に厳密にピークの回折角の数値が一致するものではないとしても,上記のとおり,特許出願の際,特許請求の範囲に記載された回折角の数値に幅を設ける範囲も一様でないことに照らせば,特許請求の範囲や明細書中に,回折角の数値に一定範囲の誤差が許容されることや許容誤差の範囲について何ら記載がない本件各発明について,測定誤差による数値バラツキを考慮することは,技術的範囲の属否が一義的に定まらないこととなり,相当でない。本件各発明の特許請求の範囲にも,本件各明細書にも,構成要件C・C’に規定する回折角の数値の許容誤差の範囲に関する記載がない以上,特許請求の範囲に記載された回折角の数値の許容誤差の範囲を一義的に定めることはできないといわざるを得ない。 d 以上によれば,控訴人の主張する技術常識は認めるに足りず,回折角の数値について±0.2°以内の誤差を認めるべきであるとする上記主張は,理由がない。 なお,被控訴人らは,ピークの回折角の数値が±0.2°の範囲にあれば,同一のピークの回折角であると判断し得る旨の控訴人の主張を争っていないが,被控訴人らの上記陳述は,主要事実の存在に係るものではない上,被控訴人製品が構成要件C・C’の回折角を充足することは否認しているから,構成要件C・C’の回折角の意義についての当裁判所の判断を拘束するものではない。 (ウ) 控訴人は,「第十六改正日本薬局方」(16局)の記載等から,本件優先日当時,粉末X線回折法においては,特徴的な10本以上のピークが確認されれば同一の結晶と判断できるというのが,当業者の技術常識であったから,本件各発明の構成要件C・C’に規定された回折角も,当業者の上記技術常識を踏まえて解釈されるべきである旨主張する。 a しかし,そもそも,X線回折測定の回折角により結晶形態を特定した発明に係る特許出願において,何本のピークを特許請求の範囲に記載するかは,出願人の判断に委ねられているのであるから,15本より少ないピークが一致すれば本件各発明の構成要件C・C’を充足する旨の控訴人の主張は,失当である。 b また,16局に記載された判断基準は,医薬品の品質に関する判断基準であって,粉末X線回折測定による回折角の数値一般について妥当するものであると解することはできないし,特許発明の技術的範囲を確定する場面において妥当するものということもできないことは,前記(イ)のとおりである。したがって,16局において,複数のピークの回折角や強度が全体的に一致しているか否かを判断することが重要であることや同一のピークと判断されるものが10本あれば十分であり,より少ないピークでも同一性が確認できることがあることが説明されているとしても,16局の上記説明を根拠に,構成要件C・C’の15本のピークのうちの一部のピークについて同一性が認定できれば充足性を肯定し得るとはいえない。 c しかも,本件各明細書には,ピタバスタチンカルシウム塩の結晶形態として,結晶形態AないしCが記載されているが,本件各発明の技術的範囲に属しない結晶形態B及びCが,CuKα放射線を使用して測定した粉末X線回折図において,結晶形態Aに存する3本のピークの回折角が存在しないことによって,結晶形態Aと区別されるものであることが記載されているのみで,結晶形態B及びCに関しては,回折角(2θ)の数値,相対強度や粉末X線回折図を含めその粉末X線回折パターンについての開示は一切ない。 本件各明細書の上記記載に照らすと,構成要件C・C’の15本のピークのうち10本あるいはそれより少ない本数のピークの同一性が確認されただけでは,本件各発明の対象として特許請求の範囲に記載されたピタバスタチンカルシウム塩を上記結晶形態B及びCから画することができない。 d さらに,ピタバスタチンカルシウム塩の結晶形態には様々なものがあり,チバ特許明細書に記載された結晶形態AないしFが存在し,それ以外にも存在し得ることに照らすと,本件各発明の対象として特許請求の範囲に記載されたピタバスタチンカルシウム塩は,構成要件C・C’の小数点以下2桁の回折角の数値をもって特定されたピーク15本全てを有するものであると解さなければ,他の結晶形態から,本件各発明の技術的範囲に属する結晶形態を画することができない。 すなわち,例えば,チバ特許明細書に記載された結晶形態Eは,本件各発明の構成要件C・C’の15本のピークの回折角の数値と「±0.2°以内」で14本が一致するのに加え,同明細書の【図5】から,構成要件Cの相対強度を充足する(25%より大きい)ことが見て取れる(甲9,乙4の6の1)。さらに,同明細書には,上記結晶形態Eが,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものであるか否かについては開示されていない。そうすると,上記結晶形態Eを本件各発明の対象として特許請求の範囲に記載されたピタバスタチンカルシウム塩から画するには,これが構成要件C・C’に規定されたピーク15本全てを有するものであると解するほかない。 なお,仮に,上記結晶形態Eが,構成要件Cの相対強度を充足しないとしても,控訴人が結晶形態Aについて行った相対強度の比較(甲53)において,機械粉砕を施していない「未粉砕品」では相対強度25%を大きく下回る結果(13%)が出ており,また,「第十六改正日本薬局方解説書」(甲52)にも,「有機化合物に関して回折角の走査範囲を0°付近から40°とし,また,同一結晶形の相対強度の差は20%以内で同一であるとしている。一方,測定試料によっては配向,粉砕による結晶性の低下,ロット間による晶癖の違い,…などが原因となって,同一結晶間でも相対強度の差が20%より大きくなる場合がまれに生じる。 と注記 」 (注6)されていること,16局では,相対的強度は,選択配向効果(試料中の結晶粒が,選択的にある特定の方向にのみ多く配向されてしまう現象)のため,かなり変動することがあることが説明されていること(甲20,21)からすれば,相対強度は結晶粒子の大きさや形状,測定試料の配向,粉砕による結晶性の低下などの影響を受けやすいものであると考えられる(なお,相対強度が結晶粒子の大きさや形状の影響を受けやすいものであることは,控訴人自身が主張するところである。 。 )そうすると,本件発明1-1は,粉砕・未粉砕を限定していないピタバスタチンカルシウム塩の発明であることに照らし,構成要件Cの相対強度を充足するか否かの点をもって,チバ特許明細書に記載された結晶形態Eを本件発明1の技術的範囲から画することができるのか,疑問があるといわざるを得ない。 e 加えて,前記(3)のとおり,本件特許1の出願当初の特許請求の範囲の請求項1の記載は,「CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,30.16°の回折角(2θ)に,相対強度が25%より大きなピークを有することを特徴とする結晶(結晶性形態A)。」とされていたが,平成23年8月24日付けの拒絶理由通知を受け,控訴人は,構成要件Cの15本のピークの回折角の数値を挿入する補正を行い,この際,上記補正が特許請求の範囲の限定的減縮に相当するものであることを表明した。また,控訴人は,本件特許2の出願経過においても,平成25年1月25日付けの拒絶理由通知を受け,特許請求の範囲の請求項1の「10.40°,13.20°及び30.16°の回折角(2θ)にピークを有する」について,構成要件C’の15本のピークの回折角の数値を挿入する補正を行い,この際,上記補正が特許請求の範囲の限定的減縮に相当するものであることを表明した。 仮に,本件各発明の構成要件C・C’の解釈において,15本のピークの回折角の数値のうち任意の一部が一致すれば足りるとすれば,上記補正前の1本あるいは3本のピークの回折角を除く一部の回折角のみによる特定をも許容することになるから,上記各補正が,1本あるいは3本のピークの回折角をもって特定されていた特許請求の範囲を限定的に減縮するものに該当するとは,直ちにいえないことになる。 そして,控訴人は,本件特許1の出願経過における拒絶理由通知において,1本のみのピーク強度でしか特定されず,他のピークの特定がないので,公知文献に記載された結晶と出願に係る結晶が区別されているとは認められないなどと指摘されたのに対して,上記補正を行ったのであるから,15本のピークの回折角の数値をもって本件発明1の結晶を特定したというほかない。 以上のとおり,本件各特許の出願経過においてされた上記各補正は,本件各発明の技術的範囲を,回折角の数値をもって特定された15本のピーク全てを有する結晶に限定するものであると解される。これに反する控訴人の主張は,禁反言の原則に反する。 f 以上によれば,本件各発明の構成要件C・C’に規定された15本のピークのうちの一部をもって充足性を判断すれば足りる旨の控訴人の主張は,失当である。 オ 小括 以上のとおり,本件各発明の構成要件C・C’を充足するためには,15本のピーク全ての回折角の数値がその数値どおり一致することを要し,その全部又は一部が一致しないピタバスタチンカルシウム塩の結晶又はその保存方法は,本件各発明の技術的範囲に属するということができないものと解するのが相当である。 (5) 被控訴人製品及びその保存方法の構成要件C・C’の回折角の充足性 測定方法の適否はひとまず措き,控訴人が本件訴訟において提出する測定結果(甲5,25,63)によったとしても,15本全てのピークについて回折角の数値が,構成要件C・C’に規定された回折角の数値とその数値どおり一致するような測定結果は得られていない。そして,控訴人が被控訴人製品に含まれるピタバスタチンカルシウム塩における15本のピークの回折角であるとする数値は,原判決別紙物件目録1記載のとおりであり,控訴人の特定する数値によったとしても,15本の全てが構成要件C・C’の回折角の数値と相違している。 そうすると,被控訴人製品及びその保存方法が,構成要件C・C’を充足するものとはいえない。 (6) 以上のとおり,被控訴人製品及びその保存方法は,本件各発明の構成要件C・C’の回折角を充足しないから,その余の構成要件の充足性について検討するまでもなく,被控訴人製品及びその保存方法は,本件各発明の技術的範囲に属するとはいえない。 2 結論 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の本訴請求(控訴人が当審において追加した別紙製剤目録(3)記載の製剤に係る差止請求を除く。)をいずれも棄却した原判決は,結論において正当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,また,控訴人が当審において追加した別紙製剤目録(3)記載の製剤に係る差止請求も,理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
(別紙)製剤目録次の商品名のピタバスタチンカルシウム製剤(1)ピタバスタチンカルシウム錠1mg「KO」(2)ピタバスタチンカルシウム錠2mg「KO」(3)ピタバスタチンカルシウム錠4mg「KO」(別紙)本件明細書1図表目録12────────────────────────────────回折角(2θ)d-面間隔相対強度(°)(>25%)────────────────────────────────4.9617.799935.96.7213.142355.19.089.731433.310.408.499134.810.888.124827.313.206.702027.813.606.505348.813.966.338760.018.324.838656.720.684.2915100.021.524.125957.423.643.760441.324.123.686645.027.003.299628.530.162.960730.6────────────────────────────────3【図1】4【図2】 |
裁判長裁判官 | 部眞規子 |
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裁判官 | 柵木澄子 |
裁判官 | 鈴木わかな |